犬と呼びたいなら好きにしろドブネズミども
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──スラム街と属される都市郊外にある|区画《エリア》『アラナワ地区』でそれは起きる。
暗い空。
有毒物質の混ざった雨が地を濡らして安価な義体に嫌な臭いをつける最中、旧医療施設と称される小さな病院で声が上がった。
「超能力……それもこれは、ワールドハッカーに手が届く電算機器への干渉に長けた物か!」
「それはすごいの? ドクター」
「凄いに決まっている! この力を磨けば、ゆくゆくは企業に雇われるかも知れん……能力の事を隠せばだが」
薄汚れた白衣を着た初老の男はそう言って診察室をウロウロと歩き回る。
きょとんと見上げているのは数人のやせ細った少年たちだ。彼等はドクターと呼ばれている医者に定期的に健康診断を受けている、スラム街の子供たちだ。
そんなドクターと子供たちを診察室の入口近くの壁際に背を預けて見守っているのは、白髪の少年である。
「……僕と同じか。制御出来るようになるまでは車両とか機材には近寄らせない方が良いだろうね」
「シャシー! 何を言うんだね、こういうのはドンドン近づけてどんどん腕を上げた方が良いに決まってるだろう!? 壊し、潜り込んで……もっと世界に溶けて行かなくてはならないよ!」
ドクターが黄ばみ濁った眼を見開いて近づく。
白髪の薄汚れた少年『錆色のシャシー』は彼から距離を取りつつ「いいから他の子も見てあげなよ」と手を払った。
引き下がったドクターは舌なめずりしながら次の少年、少女達を特殊な医療用の器具で診ていく。その一方で、赤髪の少女が錆色のシャシーに歩み寄って顔を上げる。
「ねぇねぇ、シャシーは何が出来るの?」
「ハッキングや……サイバースペースから高速でデータを抜き出せるんだ。でもそれは違法だし、制御を失うとセキュリティに発見されて殺されかねない。絶対にやってはいけないし試すのもおすすめしない」
錆色のシャシーはふと、数週間前に出会った強い連中を思い出す。
あれらは何かを探し、何かを頼りに自分に行き着いたと言っていた気がした。それが何だったのか話を聞きそびれてしまったが、もしかするとあれも超能力の類なのかもしれないと思った。
いつかまた会えるのだろうか。
「んん……こめかみの、このインプラントはどこで手に入れた?」
「え? 知らないよ、俺は神経系はいじってないから痛いの苦手だし……」
ドクターが素っ頓狂な声を上げて診ていた少年の方を揺らした。
何事かと錆色のシャシーが気になり、彼等に近付いて行く。
────カシャーンッ! というガラス窓が割れる音。
咄嗟に身を低くさせたドクターを錆色のシャシーが見下ろした直後、焦りの色と何かを高速で叫ぶ彼の表情を間の抜けた顔で見ていた彼の胸元を何かが破いた。
視界が真っ赤に染まる。
スラムの子供たち。シャシー含めた12人全員が無数の小型鉄球に体をズタズタに引き裂かれて散った。
窓から次々に投げ込まれる投擲弾が診察室や他の病室、病棟を滅茶苦茶にする一方。アラナワ地区のあちこちで銃撃や戦闘が開始されていくのだった。
●サイコ・スイーパー
白衣を着た少女、グリモア猟兵のレイン・アメジストがカルテのように持った指令書を読み上げた。
「スラムの子供たちを救ってあげて……猟兵さん。
現場はサイバーザナドゥの都市郊外にあるスラム街、『アラナワ地区』と呼ばれているようね。ここで|巨大企業群《メガコーポ》の命を受けて大規模な超能力者狩りが行われるわ。
知ってる猟兵さんは知ってるでしょうけど、メガコーポの行うこの超能力狩りは都市の上流階級へのパフォーマンスの面が強いの。子供を殺すだけじゃなく、カメラの前で処刑や胸糞悪いショーの演出を重視する事もある……オブリビオンを運用する連中の凶行を見過ごすべきじゃないわ」
予知で見たレインは病院の様な施設すらも企業からの『不穏分子を製造するマッドサイエンティストの隠れ家』と称して、執拗な攻撃を受けていたとも語った。
何より、今回はアラナワ地区を襲った超能力者狩りの部隊構成の質が悪い。
「メガコーポ『アブソリュートロータス製薬』が私兵として抱えている、元都市警察の特殊機動部隊のエリートを集めた小隊──通称『サイコ・スイーパー』は今も公的には警察上層の息が掛かった“犬”でもある。
彼等は元エリートだけあって実力もあって、企業からの薬物投与でオブリビオン化もしている。当該地区の警察や医療施設のサイボーグでは太刀打ちできないと思っていいわ。
狙われている超能力者……サイコブレイカーの素質を持った子供や市民は正直、区別がつかないわねあれは。敵を探し出して迅速に撃破ないしは始末した方が被害を抑えられるはずよ。
転移先は狩りが実行される前。猟兵さん達には襲われている人々を救う為にサイコ・スイーパーを迎え撃って貰った後──件のメガコーポからの超能力者狩りを指示した際の中継セクションとなる、データベースを破壊に向かって貰うわ。
少し長い一日になってしまうだろうけど、お願いね。猟兵さん」
チクワブレード
はじめまして、チクワブレードと申します。
よろしくお願いします。
依頼概要はこちら。
第一章『集団戦─特別機動警備隊【SAPD】』
今回のロケーションはサイバーザナドゥの荒廃したスラム街地区、アラナワ地区となります。
超能力者狩りとして敵集団となるメガコーポ私兵『サイコ・スイーパー』はいずれも武装警察の特徴を備えた動きと共に、スポンサー企業からのチップや盛り上げるための支援によって猟兵に応じた武装を召喚して来る可能性があります。
アラナワ地区の超能力者となった子供たちや、それに気づいていない無力な市民を彼等は半ば無差別に襲撃して暴虐と殺戮を展開するつもりです。見つけ次第撃破してください。
Tips【アラナワ地区】。
この地区には警察署があるものの、彼等の中にもサイコブレイカーに後天的ながら目覚めてしまった者がいるらしく、署内は猟兵の転移直後の時点でも戦闘状態になっています。救援に向かうも向かわないも、どちらにしても彼等は猟兵の支援に参戦出来ないようです。
スラムの子供たちはいずれも非力であり、大人も例外ではありません。
第二章『日常─超能力に目覚めた彼等の行先』
サイコ・スイーパーを退けた後はメガコーポからの指令や殺害対象となってしまった者達のデータを抹消しに行きます……が、その前に一度彼等の機械化義体のメンテナンスが必要なようです。
なぜか猟兵の参上と共に彼等を診る人間がいなくなってしまったらしく、ここでは皆様の知り合いの店や技師、何らかの伝手でスラムから出て来たサイコブレイカーたちのメンテナンスや治療の面倒を見てあげて下さい。
※そういうの難しそうな猟兵さん(脳筋or無口系などなど)はプレイングに【ドクターを見つけ出して言うことを聞かせる】やちょっと日常ではない内容でも送っていただいてOKです。最後にメンテすればいいのです多分。
第三章『ボス戦─ケラウノス』
メガコーポの管理するセクション、サイバースペース『ブルーロータス研』にて管理人格と戦闘になります。
データベースを破壊すればスラムの人々に関するデータはなくなり、追撃の懸念が消え安心して暮らせるようになるのです。
管理人格はどうやらサイコブレイカーでもあるようです。
詳しくは章開始時に。
本シナリオに登場する企業はCEOの存在以外は好きに共有、使用されても構いません。
以上、よろしくお願いします。
第1章 集団戦
『特別機動警備隊『SAPD』』
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POW : 特別警備隊24時
戦闘力のない【監視用ドローン】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【スポンサーからの追加資金】によって武器や防具がパワーアップする。
SPD : 実験教導部隊
いま戦っている対象に有効な【メガコーポの新型試作兵装】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : 強化スタンバトン
【特殊警棒】で触れた敵に、【常人なら即死する高圧電流】による内部破壊ダメージを与える。
イラスト:もりさわともひろ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ルーン・エルウィンド(サポート)
人狼の翔剣士 × マジックナイト、20歳の男です。
普段の口調は「丁寧(私、相手の名前、です、ます、でしょう、でしょうか?)」、敵には「無感情…のはず(私、お前、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?)」です。
本人は気付きませんが、尻尾に感情がもろに反映されます。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
厳・範(サポート)
長年の修行で誘惑に強いお爺です。
食べ物に制限はありません。
話し方は古風です。
亡き親友との約束(世界を守る)で、封神武侠界のみで活動していましたが、『仁獣』性質と親友の幻影の後押しで決意し、他世界でも活動し始めました。
「放っておけぬのよ」
動きとしては、主にサポートに回ります。
【使令法:~】では、麻雀牌を利用して、対象生物を呼び出します。
【豹貓】は睡魔を呼ぶ、【胡蜂】は恨みの毒(理由は秘密の設定にて)という感じです。
また、半人半獣もしくは本性の麒麟形態だと、背に人を乗せることがあります。
なお、武侠の血が騒ぐと足技が出ます。
依頼達成のためとはいえ公序良俗に反する行為はしません。
あとはお任せします。
燈夜・偽葉(サポート)
★これはお任せプレイングです★
『ぶった斬ってあげます!』
妖狐の剣豪 × スカイダンサー
年齢 13歳 女
外見 黄昏色の瞳 白い髪
特徴 長髪 とんでもない甘党 柔和な表情 いつも笑顔 胸が大きい
口調 元気な少女妖狐(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)
性格:
天真爛漫年下系ムードメーカー(あざとい)
武器:
刀9本
黄昏の太刀(サムライブレイド)を手に持ち
場合によっては念動力で残り8本を同時に操る
ユーベルコードはどれでもいい感じで使います
敵の動きは見切りや第六感を生かして回避
避けられなければ武器受けで対処します
多彩な技能を持っていて、問題に対していい感じで組み合わせて対処します
仲佐・衣吹(サポート)
オルタナティブ・ダブル発動!
それじゃ行ってみよー!
分身は僕ことベスト
ルーンソードやカルテを使って精霊属性の連携技で戦うのが好きだよ
僕が先に水属性で戦場をずぶ濡れにしていくから
続けて氷属性でガッチリ固めて動けなくしちゃうってのはどうかな?
愉快な敵だともっと楽しいよね
遊んでるように見える?
僕が一番本気が出せるのは、楽しくて夢中な時だよ!
足ひっぱんなよ!
本体はオレことサーベル
まぁ悪かねぇな
それでも逃げるやっかいなヤツは、ハサミ撃ちで即ぶった斬ってやろうぜ
んくらい根性あるヤツがいなきゃ、オレも楽しめねぇからな
使う精霊属性は敵に合わせて変更可
使うアイテム技能も好きに選んで下さい
●
冷たく降り注ぐ雨の中、アラナワ地区の一画で小規模の爆発と銃撃が続いた。
都市郊外に位置するスラム街でしかないアラナワ地区において治安維持はストリートのギャングか、警察によって為されている。通常ならば抗争を黙って見ている筈はない。だが、襲撃者側がもしも巨大企業群の一党によるものならばどうか。
アラナワ地区を牛耳っていたストリートギャングたちは静観し、他所から来ていたヤクザの類は一様に退散。そして肝心のアラナワ地区警察は管轄署を今まさに襲撃されていたのだった。
「ここにいるサイコブレイカーってのはどんなものなんだ」
「たった四人。しかも後天的に目覚めたばかりの雛さ、スポンサーからのお達しはこう……『狩りをするならば大いに騒げ』だってな」
薄汚れた雨粒を弾いて警察署の壁面を駆け上がっていく二人の黒服。
光学迷彩で装備の殆どを透明化する事でスマートに見える彼等は特殊機動警察の元エリートだった経歴を余す事無く見せつけるように、戦闘用義体と薬物で強化した生体換装筋肉によって半ば獣の様な軽業を披露しながら署内屋上へと飛び乗って行く。
外装アーマー・ヘッドギアから蒸気が噴き出す。
「今回のスポンサーは乱暴だな、巨大企業様にしちゃクールさってのを欠いてる」
「マイクをオフにしてるが仕事中にそう言うのは止せ。アブソリュートロータス製薬だ……最近は敵対企業の事業や工場をよくわからん連中に襲撃されていただろ? あれを笑っていた矢先に新規の傘下企業が二つも立て続けに潰された挙句、自分のとこの研究室主任が新型インプラントのサンプルを盗み出してどこかのスラムに隠れたらしい。気が立ってるんだ」
「おいおい……機嫌悪いお貴族様のご機嫌取りに雨の中走らされてんのかよ俺達は」
男達は互いに目配せしてから屋上のドアを蹴破って内部へ突入しようとする。
しかし、そこで動きが止まる。
「──どうした? 行くんじゃねぇのか」
振り向き様に発射される杭のような弾丸、微かに遅れて雨の下響き渡る空気が弾ける音。次ぐ火花。
メガコーポからの支給された新型試作兵装の使い勝手の良し悪しはともかく、『特別機動警備隊【SAPD】』とも呼称される男達はほぼ同時に舌打ちをした。ボルト弾が全て弾き返されたのだ。
「狩りがどうとか言ってたな、面白ぇじゃねーか」
「奇遇だね──僕たちも狩りに来たんだ」
振り抜かれた軍刀が雨を切る。
分かたれた影から立ち上がった分身、仲佐・衣吹(多重人格者のマジックナイト・f02831)が本体『サーベル』へと豹変した彼の隣に並び立つは無骨に構える自身とは正反対の好青年の佇まい。ルーンソードを抜く『ベスト』が首を傾けて超能力者狩りを相手に半身を引いた。
オルタナティブ・ダブル。
衣吹のユーベルコードで二人に成った彼等が一挙に前へ出て行く。
「コード:1803……!」
承認。機械音声が超能力者狩り部隊『サイコ・スイーパー』のヘッドギア内で響いた直後にガトリング砲がその手に握られる。
署内階下で爆発音が鳴り響く最中、屋上で無数の弾幕が張られ。飛沫と衝撃波と共にサーベルが軍刀を縦横無尽に振るって弾丸を切り払って行く。火花が乱れ散る向こうから身を低くして飛び込んで来たベストがルーンソードを閃く一方、サイコ・スイーパーの一人がガスナイフを両手から撃ってカウンターを狙った。
射出された刃がベストに届く事は無く。炎の精霊属性を宿したルーンカルテがヘッドギアと胸部の中心に突き立てられて吹き飛ぶ。
ガトリングの砲身を切り飛ばしたサーベルが軍刀を突き立ててサイコ・スイーパーの一人をベストに続いて切り伏せる。
「次は下かぁ!」
「いや、まだ来てるみたいだ……僕たちはこのまま上を守ろう。下は仲間に任せる!」
──銃弾、ボルト、焼夷榴弾。あらゆる武装から放たれた弾幕がアラナワ地区警察署内を破壊していく。
「ここから! ここまで! 通さないですよー!」
安価な旧コンクリート壁が崩れる横で弧を描く黄昏の刃。
負傷した警官達や保護されている民間人を背にしてサイコ・スイーパーを相手に立ち塞がる燈夜・偽葉(黄昏は偽らない・f01006)はふわりと白毛立てた狐耳を揺らし、右に掲げた黄昏の太刀で刻む境界線。背に浮かべる念動操作による八刀の刀剣をそれぞれ空中に配置して言葉のままに圧を掛ける。
元特別機動警備隊のサイコ・スイーパーはいずれも意に介さず、偽葉に向けて銃撃を再度行う。
その足取り、連携は奇しくも偽葉の刻みつけた境界線よりも引いた距離で敷かれている。彼女を上位のサイコブレイカーと見た彼等はそれ以上近づくという選択肢を選べないのだ。
「来ないなら……撃ち抜きます!」
その理由は単純だ。サイコ・スイーパーの武装はスポンサーの気分次第、所詮は現場に立たぬ者達が面白半分でカタログスペックのみでチョイスした武器で最適解を選び出せるはずもない。
弾幕が降り注いでは黄昏の刃が弾丸を切り払い、火花を散らしながら偽葉が相手を見据え。ユーベルコードを放つ。
宙を泳いでいた太刀が光を帯びて形を変えた瞬間にサイコ・スイーパーの面々が防御姿勢を取る。貫かれるバリア。防護服さえも射貫いたのは偽葉が自らの黄昏の太刀を全て拳銃に変えて一斉射した弾幕だ。
見かけよりも威力のある弾丸の豪雨にサイコ・スイーパーが一蹴される。
「うぅ……ッ」
「しっかりしろ、貴殿の仲間はまだ屈してはおらん。呼吸を緩やかに保つのだ」
偽葉が廊下を駆け抜け敵を蹴散らしては警官達を庇う一方、厳・範(老當益壮・f32809)は重傷を負った警官達を取調室の一部屋に集めていた。
時折、窓の外から放たれた弾丸が|範《ファン》の背中を打って揺れるものの。しかし彼は意にも介さず。事実その身に纏う鎧にも目立った傷はなく、彼が静かに語り掛ける者達への声は確かに紡がれていた。
老年にして強かなその様に、負傷したアラナワ地区の警官達が首を振る。
「ここはいい……例えここで死のうと正義の志は失われない! ぐっ、仲間の所へ行ってくれ……」
「死にはせんよ。だが傷を癒すにも個々の魂の強さが必要となるのだ、この老獪の言葉を後に回してくれるな」
「……?」
癒せると、そう言われた警官が汗の粒を額に浮かべたまま|範《ファン》を見上げた。
──黒き雷がアラナワ警察署に落ちる。
響き渡る轟雷。次いで襲撃によって半壊していた警察署内全体を走るのは凛とした音。サイバーザナドゥではとうの昔に消えた幻獣がひとつ、その嘶きによる福音だった。
「……これは、|厳《イェン》のユーベルコード──」
狭い室内で積み上がった特殊機動警備隊の崩れた義体の山を背に、ルーン・エルウィンド(風の翔剣士・f10456)が廊下に出る。
天井部は既に無く。曇天から降り注ぐ雨ばかりが頭上を満たしていた。
微かに聴こえる通信の音。
雨風が耳元を撫でて気流から生んだ音を届ける最中、ルーンが腰から取り回した青き刀身を走らせる。雨粒が切り払われるのに次いで両断されたのはロケット弾に類する特殊弾頭。切り飛ばしたルーンの後方で弾頭が紅蓮をドーム状に瞬かせる一方、人狼の剣士が一人、廊下を滑るように駆ける。
光学迷彩で姿を隠していたサイコ・スイーパーが後退しながら弾幕を張る。
切り裂く風。鎌鼬がルーンの前後で薙いで弾丸を弾いた直後、虚空から突如突き出された特殊警棒をルーンが『風斬』による一閃で粉々に打ち砕いてから伏兵を三人ほどまとめて切り倒した。
「──私が、お前たちの相手だ」
静かに透き通るような刃を構えたルーンは、子供たちの下へは行かせないと告げる。
騒乱は拡がる一方の状況。だが、そこには必ず彼等猟兵の姿が在る。
「行くぞ」
悪鬼そのものに等しいサイコ・スイーパーを前に、人狼の剣士が竜巻を放ち襲い掛かるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
新田・にこたま
いつものこととはいえ、人の心がない輩たちによる倫理観の欠如した事件で嫌になりますね…。
まあ、そういう敵が相手であれば私も遠慮せずに済むので助かりますが。
では、いつものやつといきますか―――行け!|廃物《スクラップ》ども!あなたたちの新しい仲間を増やしてやりなさい!
UCで召喚したサイボーグ軍団を戦場全体…地区中に展開し敵集団の撃滅と市民の救助、治療をオーダーします。警察署や医療施設にも向かわせます。
サイボーグ軍団はそれぞれ小隊を組ませ、常に相互回復させることで不死身の軍団とします。武装の追加でどうにかできると思わないでください。
悪党が暴れて唯一助かることは私の軍団の素材を補充できることですね。
リアラ・アリルアンナ
噂の超能力者狩りですか…
治安維持だともっともらしいお題目を掲げていますが、やっている事はただの虐殺ショーにすぎません!
あなた方こそが市民の幸福を脅かす反逆者であると知りなさい!
超能力者狩りを発見次第『反逆者への通告』を行い、反逆的行為を禁止します
(ここで言う「反逆的行為」とは、猟兵や子供達、一般市民に危害を加える行為と定義します)
そうして行動を制限している間に装備品にハッキングを掛ければ、スポンサーが用意したであろう高価な装備もガラクタに早変わりです!
無力化した反逆者はZAPガンで撃ち抜いて処罰完了!
この調子で敵を掃討し、市民を守りましょう!
●
────カシャーンッ! というガラス窓が割れる音。
咄嗟に身を低くさせながら床に手を突き立てて割り砕いたドクターが『錆色のシャシー』の視界から消えたのと入れ替わりに、少年の前に誰かが割り込んだ。
吹き荒れる暴風。
耳をつんざくような衝撃音は手投げ式の地雷だと錆色のシャシーには想像もつかず、何より診察室にいた12人の子供たちは皆訳も分からぬうちに何かに覆い被さられて這いつくばる格好になっていた。
血生臭い。
何が起きたのかよく分からない少年は、自分に被さっているそれをどかそうとするとくぐもった呻きが聞こえて固まった。
「ウヴぅぅ……ふしゅるるるる……」
「ひぃえ!? いっつぁもんすたぁ──!!?」
錆色のシャシーが叫んだ直後、眼前の顔色の悪いサイボーグが拘束具めいた防護服の内から少年と触れている箇所を通してローカル通信による伝導音声が流れる。
それは、彼を驚かせるには十分すぎる相手からの通信だった。
「以前のビズではどうも──そのサイボーグは一時的にあなた方を守る命令が下されています、こちらの味方が到着するまではその診察室に籠っていて下さい」
「……っ、その声。Pメン!?」
──装甲車をアラナワ地区の月極駐車場めいた場所に適当に停めて来た彼女は、特に感慨無く通信を切った。
それから、胡乱げな眼差しで周囲を見渡した。
『こちらは企業派遣医療部隊です。これは都市の発展と安寧の為に行われている治療であり浄化作業です、当該スタッフからの問診等指示あるいは治療行為に抵抗の意思を見せた場合はアラナワ地区内での住民権をはく奪すると共にサイバースペースでの奉仕事業への強制加入とみなし────』
市内放送局は既に制圧されているらしい。アラナワ地区の各所に置かれたデータ転送端末を介した拡張音声が至る所から再生され、理不尽かつ極めて暴力的な言葉がさも正当な公営かのように扱われている旨を指している内容が垂れ流されていた。
そこかしこを走り回る装甲車や輸送車は今回の超能力者狩りを買って出ているアブソリュートロータス製薬のものだろう。
古式タイプの警官制服を身に纏った新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)は雨の降りしきる町をサイバーアイでマッピングした、仮想ロケーションリンクによるリアルタイムデータで俯瞰しながらため息を吐いた。
「いつものこととはいえ、人の心がない輩たちによる倫理観の欠如した事件で嫌になりますね……まあ、そういう敵が相手であれば私も遠慮せずに済むので助かりますが」
にこたまはそう呟いてから、足元をトンとつま先で叩いた。
湿った地面から返る音と同時に鳴り響くはユーベルコードによって抉じ開けられたサイバースペースの展開音。
「では、いつものやつといきますか―――行け! |廃物《スクラップ》ども! あなたたちの新しい仲間を増やしてやりなさい!」
ジリジリと光を瞬かせ開いた亀裂から無数のサイボーグが召喚されていく。
雨の音がザァと風に揺れて鳴る一方で、拡がる電子と現実の境を曖昧にする亀裂は大きく広く展開していく。アラナワ地区の町中に召喚されにこたまによる命令を受けたサイボーグ軍団は静かに武装を構え、或いは市民の退避に向けて駆け出す。
「なんだ……!? サイバースペースが開いているだと……ッ」
「どこから湧きやがった──!」
スラム街の民家に押し入ろうとしていたサイコ・スイーパーの背後から銃撃が襲い、路上で女子供に銃を突き付けていた男達に猛然と襲い掛かって半壊した騎士型装備のサイボーグが民間人を救い出し。医療キットを携行した別のサイボーグ達が負傷者や非力な者達を連れ出して退避する。
メガコーポ主導による作戦が内部から漏れていたとは考えにくい。一貫して改修めいた義体や生体改造の痕跡が見受けられるサイボーグから、サイコ・スイーパーは敵部隊が何らかの企業所属部隊であると仮定した。
「はっ、ドブネズミが湧いてきやがったか──スポンサーも沸いてるぜ? ぶっ潰せ!!」
元エリートだからか、あるいは自らの実力を過信したものか。いずれにせよサイコ・スイーパーの士気はスポンサー企業から追加で支給されたゴツイ携行粒子砲を手にした事で昂っていた。
連携で勝るサイコ・スイーパーが次々にサイボーグと交戦しながら迎撃、追撃する事で一体、また一体と撃墜していく。
しかし、数が多い。
小隊規模で投入されたサイボーグ達は市民の退避を終えた端から戦場に参入され、負傷したサイボーグ達も気付けば衛生兵めいた装備のサイボーグに手当てを受けた事で復帰して来ていたのだ。
「悪党……コロス……」
「むしろコロシテ……コロシテ……」
何か聴こえてはいけない声が聞こえたサイコ・スイーパーが悲鳴を上げる。
「おいなんかコイツらおかしいぞ──!? 不死身か、クソォッ!?」
連携力を上回るは恐怖心を越えた死への誘い、つまりはゾンビアタックである。
当然、そんな敵が登場するなど何の報告も無かった元特殊機動警備隊の面々はついに混乱。にこたまの指揮する『正義の再利用』による悪人再利用サイボーグ軍団の登場によって大いに作戦に乱れが生じる事となった。
町の至る所で銃撃戦が巻き起こる。
だがそこに悲鳴はなく、サイコ・スイーパーのスポンサー企業への悪態と理不尽な数の暴力に上がる怒号ばかりとなっていった。
各所、サイボーグの小隊規模での投入を終えた事でユーベルコード展開していたサイバースペースが縮小される最中、にこたまが特殊警棒を抜きながら腰に手を伸ばす。
「コード:654202……!! 吹っ飛ばしてやる!」
スポンサーからの武装支援。新たな兵器を手にしたサイコ・スイーパーが家屋の上から跳躍しながら襲撃して来る。
何の追加武装かはともかく、頭上から襲い来る敵に向けにこたまの周囲からサイボーグが飛び出すのと同時。彼女自身も警察手帳を掲げようとした。
「ホールド・ア──」
「──|幸福維持法第二条《オベイ・ミー》! |反逆的意図を持った行動を禁止します《この義務に従う事こそ幸福なのです》!」
電子の翼が散る最中にこたまの横から突き出された『幸福』の刻印捺された手帳が輝く。
にこたまの指揮するサイボーグ達が通って来ていたサイバースペース内から突如飛び出して来た薄緑色の光球、その隙間から射し込んだ玉虫色のライトアップがサイコ・スイーパーを包み込んだ。
正義の威光が眩い光ならばこちらは新緑の木漏れ日に近い。
優しく、そして瞳に焼き付ける様な『幸福』の煌めきと共に射し込んだ光はユーベルコード【|反逆者への通告《オベイ・ミー》】──リアラ・アリルアンナ(リアライズユアハピネス・f36743)によるものだった。
「……ッ、は……──!?」
中空で意識を微かに遠退かせたサイコ・スイーパーは武装を手にしたまま顔面から地面を滑り、泥を啜って驚き起き上がった瞬間に頭を撃ち抜かれて黒い水溜まりに沈んだ。
一瞬遅れて響き渡る光線照射による大気燃焼音がジュウ、と鳴った後。ほんの少し浮遊感を感じさせる挙動で着地しながらリアラがにこたまの傍で赤く熱を帯びていた『ZAPガン』の銃口を軽く振って見せた。
「反逆者の処罰、完了です☆ ……と、市民にこたまに怪我はありませんか?」
「ええ、おかげさまで無傷ですとも。リアラさんが“そこ”から飛び出して来たのは少し驚きましたが」
「驚かせてしまいましたね! 市民にこたまが広範囲にサイバースペースを介したユーベルコードを展開していた様なので、それにリアラも相乗りする形でリージョンジャックしまして! 医療施設と警察署を軽く見てからこちらにアクセスしたのです!」
見知った顔。今回は偶然にもビズが同じになり、共に|悪党抹殺《反逆者抹殺》に乗り出す事にした仲間だった。
彼女たちは大まかにアラナワ地区内の状況とデータの共有を済ませる。
雨に揺れる玉虫色とピンク色が瞬く、ゆるサイケ髪がひゅるんと宙を流れて光を散らす。リアラがにこたまに手を振りながらスラム街の中心へと向かう。
「それでは市民にこたまには広域でのサポートをお願いしますね! リアラもこの調子で敵を掃討し、市民を守ります!」
「そちらは任せました。雨の中駆り出された分、悪党を耕してやりましょう!」
「了解です☆」
小さな敬礼を交わしたリアラがホログラムの混じった電子の翼を広げて飛び立つ。
その姿を見送ったにこたまは、召喚した|再利用品《サイボーグ》達の追加を行いながら自らもサイバー軽機関銃をもう一丁装甲車から取り出して『悪』を屠りに向かうのだった。
──スラム街を逃げ惑う女性が息を切らして物陰に隠れる。
機械化義体も満足にメンテナンスされていない上に安価なパーツのためか、彼女は黒い雨によって有害物質の影響による炎症を肌に浮かべて辛そうな表情で汗を流している。
彼女が抱きかかえているのは、我が子だ。
血は繋がっていない。スラムを彷徨っていたような孤児を面倒見ているうちに情が湧いて、母として接する様になっただけの話。どこの世界にもよくある話だった。
「はぁ……ッ、はぁ……ッ」
震える手で幼い我が子を抱き寄せて息を殺す彼女は、サイコ・スイーパーの追っ手が自分達を見つけない事を祈るばかりだった。
だが、そんな様子さえもネット上の配信スペースで公開されていた。
スポンサーからの要望で極力怯えさせながら、最後は一思いに逝かせてやれという慈悲があるんだか無いんだか分からない内容を元エリート達は叶えてやっていた。
味方からの救援要請を無視しているのは、たとえ身内だろうと企業こそが最優先事項であり。その要望を叶えられないという返答をすれば結局は破滅するからだ。
(訳のわからんサイボーグどもの対処など、後からどうとでもなる……今必要なのはエンタメなんだよ!)
ある程度の視聴率とスポンサーからの歓喜の声が届けば、それでいい。
転送されてきた単発式のカートリッジ光線銃を手にした元特殊機動警備隊の男はヘッドギアの下で暗い笑みを浮かべ、拡張視界に捉えた母子へ向かい建物越しに銃口を構えた。
「幸福維持法第二条」
「ッ!?」
一瞬のサイケ光。硬直と同時にハッキングプログラムが流し込まれ、注がれる粘着性のジャミングにスポンサーへの追加通信は阻まれ、光学迷彩含めた全武装がハッキングによるエラーコードで一時不能となる。
ゴリ、と勢いよくこめかみにめり込むディスクガン。半ばぶん殴るようにしてヘッドギアに叩きつけられたサイコ・スイーパーの男は喉から何かを声に出そうとして、清廉なる処罰の執行によって骸の海に還る事と成った。
光線照射の残滓が雨に掻き消され。
次いで新たに雨粒を弾く音。
バチバチと光学迷彩を解いて現れたのはリアラが撃ち抜いた者とは別行動を取りながら様子を見ていた者達らしい。早い話が援軍だろう。
「これが噂の超能力者狩りですか……治安維持だともっともらしいお題目を掲げていますが、やっている事はただの虐殺ショーにすぎません!」
分かり易く殺気立てて展開している超能力者狩りの面々を見渡しながら、リアラが情報検索で物陰に隠れていた市民がにこたまのサイボーグによって回収される様を見遣る。
敵は冷静だ、混乱している最中でもリアラを包囲して安全な間合いと武装取捨によってあくまでも『狩る』つもりでいるのだから。
その根底にあるのはひたすらに、自分達こそが絶対の側にいるという優位性によるもの。敵対者を反逆者とする事で虐殺を正当化する者どもだ。
リアラの声が複数の拡張音声スピーカーシステムによってエコーとボリュームが増して響かせる。
「幸福維持法第二条! エージェント・リアラは相手を反逆者と認定した場合、自らの判断でこれを処罰することが出来る──!
────あなた方こそが市民の幸福を脅かす反逆者であると知りなさい!」
リアラから放たれるハッキングプログラムによって近隣の家屋のドアがロックされ、次いで力強く掲げながら視覚のみならず拡張現実においても物々しい電子手帳から燐光が奔る。
義体含めた生体情報に叩きつけられる『幸福』の刻印。
リアラが定めた“親愛なる友人”にして“市民”とする者達へ危害を加える行為の禁止、その命令がサイコ・スイーパーに企業命令との齟齬を内部で生み出して硬直させていた。
そこへ刺さるのが予め敷いていたハッキングプログラムである。硬直の隙を衝いたハッキングは支給された敵の武装にロックを掛けたり認証エラーを吐かせて行動不能となる時間を延ばすのだ。
あとは──。
「リアラは愛すべき市民の幸福を守るため! あなた方を赦しません! 幸福テリーヌにします!!」
──抵抗を封じた彼女が驚くほどアグレッシブに襲い掛かる。
片手にZAPガン構えトリガーを引き、片手は拳を作り指向性の斥力を以てサイコ・スイーパーの頭部を彼岸花みたくして吹っ飛ばすべく殴り掛かって行くのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロウガ・イスルギ
アドリブ・連携歓迎
尻尾の振り先を間違えた犬共は哀れだねえ
|傭兵稼業《おまえら》も似たようなモンだ、と言いたいだろうが悪いな、俺は飼い主《クライアント》と牙の剝け先位は選んでたぜ?
UC不空羂索使用、複製増殖させたグレイプニルにてSAPDの拘束・捕縛狙い
投降の意思あらばよし、攻撃の意志あるならばガンディーヴァにて応戦
【誘導弾】【鎧無視攻撃】【早業】【カウンター】はフル使用
「どいつもこいつも個性のねえ|装備《カッコ》しやがって!|認識《ロックオン》が捗るってモンだ!!」
「ちょいと頭使えばわかるだろ?警察が戦場で兵隊に勝てる訳ねえだろうが。なあ『元』エリートさん……ああ、もう聴こえちゃいねえか」
●
アラナワ地区を中心とした巨大企業『アブソリュートロータス製薬』による超能力者狩り。
その状況はメガコーポでさえも予期できない程の混乱によってサイコ・スイーパーのゲリラ戦となってしまっていた。
巨大企業群がスポンサーとなっているサイコ・スイーパーこと『特別機動警備隊ZAP』のメンバーは失敗が許されないのだ。後に引けないならば、最早仲間など捨て駒にしてでもスポンサーからの評価を得て命を繋ぐしかない。散り散りになってもデータにある治療対象を一人でも狩れば帰還後の命乞いに多少は役立つだろうと考えたのが企業の犬だった。
「──尻尾の振り先を間違えた犬共は哀れだねえ」
味方が召喚していたサイボーグを過剰なまでに撃ちまくって撃破したサイコ・スイーパーが民家に押し入ろうとしていたのを、ロウガ・イスルギ(白朧|牙《我》虎・f00846)が見下ろして言った。
息を切らしていたサイコ・スイーパー達が振り仰ぐのと入れ替わり、雨の雫が落ちるそれと変わらぬ静けさで地に降りたロウガから揺らぐ一筋の尾が立つ。
獣の眼光。
「貴様はオリファンのデータベースに載っていた──!?」
白と黒、見慣れぬ獣人の風貌を見た数人の男達が一斉に砲口を彼に向けて引き金を引き絞った。
「|傭兵稼業《おまえら》も似たようなモンだ、と言いたいだろうが悪いな、俺は|飼い主《クライアント》と牙の剝け先位は選んでたぜ?」
瞬く火花と共に黒い飛沫が地を翔ける。
マズルフラッシュが薄暗いスラム街の路地で閃く数に比例してロウガが残像を伴い、素早い身のこなしで弾丸を至近で躱した直後に場へ降り注ぐ無数のワイヤー。
キリキリと鳴るは鉄筋めいた特殊鋼糸。蛇よりも火矢に近い放物線の軌道を描いてサイコ・スイーパーに襲い掛かったそれは、多少の銃撃に弾かれても踊る様に振り回してフック状の先端が足を払い。次いで鉤縄めいたワイヤーが彼等のヘッドギアに突き刺さっては防護服や装備に至るまでを捕えて縛り付けていく。
「ば、馬鹿な……ッ」
サイコブレイカーという情報は知らなかった彼等にして見れば完全に不意を打たれた衝撃だった。
接触時の反応から、どうにも顔を知られている気がしたロウガが首を傾げながら捕縛したうちの一人を背中からブーツで踏みつけ抑えて言う。
「……何処かで会ったことあったか?」
「────殺せ」
踏みつけている男が罅割れたヘッドギアの内から絞り出すように返した。
他のサイコ・スイーパー達が何を言っている、ふざけるな、と喚くが。ロウガはそちらを念力で『ドローミ』で強めに縛り上げて黙らせると足をどけた。
「アラナワ地区に来ている連中の規模を言え。投降しろ──そこまで覚悟を決めてるなら、『逆』もあっていいだろう」
「企業の犬に成り下がった俺達は、敗北すれば終わる。だが……その終わり方にも種類がある……家族を餌にされるか、されないかだ」
「……とことん間違えちまったんだな、お前等」
ロウガが目を細めて声を漏らす。
顔の見えないこの男は、身動ぎもせずに死を受け入れようとしている。そうする事で救える者がいると、そう告げていた。
馬鹿な男だが後ろで命乞いをしているサイコ・スイーパー達よりはまともだ。他者を食い物にする覚悟が決まっているという意味で、だが。
「分かった、一瞬だけ我慢しろ」
「──恩に着る」
──幾重にもワイヤーが絡んだ直後、ゴキッと首を粉砕され男が逝く。
機械化義体の性能次第だとは考えていたロウガだったが、男はそれで死んだ。神経系など弄ってるだろう連中だ。痛みや苦しみは無かったに等しい。
だが、それはそれ。
背後から降り注いだ弾幕を横薙ぎに払った『グレイプニル』が切り裂く様に弾いた。
負傷したサイコ・スイーパー達が仲間の反応と、まだ存命している事から『自分達でも倒せるかもしれない』という判断から集まって来ていたのだ。
ゴキブリ、あるいはハゲタカにも劣るようなザナドゥにおける元エリート達を前にしてロウガが息を深々と吐いて身を低くさせた。
「……どいつもこいつも個性のねえ装備カッコしやがって! |認識《ロックオン》が捗るってモンだ!!」
バシャッ、と水溜まりを蹴りつけて跳んだロウガに次いで無数のワイヤーが背から伸びて眼下の敵に降り注いだ。
弾丸が撒き散らされる。風を、雨粒を切って薙ぎ払われた鋼縄が火花を散らして銃撃を防ぎ。叩きつけられたフックが悲鳴を上げさせる。
白黒の縞模様が駆ける残像が映ってはサイコ・スイーパーの認識外から放たれるスマートガンによる追尾弾。対物衝撃に備えたプロテクトアーマーを着込んだ男が胸部に強烈な衝撃を受けて吹き飛び、『ガンディーヴァ』を撃ち込まれた敵には必ず複数本のワイヤーが殺到して絡め捕って行く。
生け捕れば、敵が集まる。
銃撃は鳴り止まず。サイコ・スイーパーが地を蹴り駆け寄って来るのが水の飛沫と共に伝わり、ロウガもまた敵の意思を見て今度は迷わず相手次第で瞬殺していった。
──薄汚れた路地を十数人の男達が繋ぎ合わせに捕縛されている傍で、また一人倒れる。
「ちょいと頭使えばわかるだろ? 警察が戦場で兵隊に勝てる訳ねえだろうが。なあ『元』エリートさん」
どれだけの敵を相手にしているかもわからず、それでいて杜撰にも突っ込んで来る。ロウガにして見れば恐ろしく馬鹿な連中だと思えた。
だがそれだけの裏付けがあるのだ。『驕り』が犬にも劣る愚物を生み出し、それらが更に他者を破滅に引きずり込んでいる。
救えない連中だが、救いがない訳でもない。
ガンディーヴァを撃ち込まれて暫くは銃を手に膝を着いていた男が、揺れる。
「……ああ、もう聴こえちゃいねえか」
倒れ伏せる敵を前に、ロウガが一際強めのワイヤーを使って投降した男達をひとまとめにしながら路地の端に転がして置く。
呻いたり叫んだりしているサイコ・スイーパーを傍目にしながら、彼は雨の降りしきるアラナワ地区を見た。
「今日は随分と汚え雨が降るもんだな」
ロウガは医療施設に向かい走り出しながら、ぽつりとそう呟くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
悪七守・あきら
※アドリブ、連携歡迎
今回は隠密性と継戦能力を鑑みて人型の方の義体『白雷』で登場。
参考https://tw6.jp/gallery/?id=17434
やれやれ、スラムというのどこも変わらんのう。
思わず自身が盗電で食いつないでいた頃を思い出す。
さて、やることは一つだ。
子供を狙うやつは全て斬る。
人だろうが、警官だろうが、サイボーグだろうが寸刻みにしてやる。
反撃に対しては【瞬間思考力】でかわし、避けられないものは【激痛耐性】で耐える。
さあ、ゲリラライブ開始じゃ。
血のように真っ赤な刀身をした高周波ブレード【虎徹・改】を引っ提げ、白いサイボーグが雨をゆく。
●
雨の中を疾走する白い稲妻。
有害物質を含む雨水だからだろう。『それ』が通る度、飛沫を上げて地を蹴る毎に軌跡を残すかのような白雷が瞬いていた。
いくつかの家屋を跳躍で乗り越えて壁を駆け上がり、廃れたオフィスビルの屋上にまで飛び上がる。
暗い雫で満たされた街並みを一望しながら義体の調子を確かめるように首をコキリと鳴らす彼女は、眼下の景色に懐かしい思いを懐く。
「やれやれ、スラムというのはどこも変わらんのう」
──微かに巡る記憶。
猟兵が参上するようになった今よりも企業間での抗争やザナドゥの治安が荒んでいた頃、どこかの商工会が開発計画の為に労働者を大移動させた為にゴーストタウン化が進んでいた町があった。
冷たい雨風が吹き荒ぶ中、辛うじて残っていた電機店から盗電しながら食い繋いでいた日々に見ていた景色。それが悪七守・あきら(サイボーグ剣豪アイドル・f37336)にとってのスラムで見ていたモノだ。
こうした小さな世界は腐敗ではない。ましてや庭に茂った雑草のような刈り取るべき物でもない。
あくまでも誰かが遺し、残された物が寄り集まって出来る世界だ。腐っているのは人であり環境は付随するモノだと彼女はそれとなく巡らせた思い出の端で考える。
「ふむん。変わったのは『立ち位置』ばかりで、腹が減るのは今も昔も違いないかのう──なぁ?」
響き渡るサイコ・スイーパーの流す放送に耳障りだとばかりに左手を一閃させ、近場に立っていたスピーカーを破壊する。
あきらの赤い瞳が真っ直ぐに見通した先。
猟兵達も含めたサイボーグが医療施設に集中した為か、必然的にサイコ・スイーパーも地区中にあった戦力を固めて包囲網を敷こうとしている。武装の追加による電子的ノイズがあちこちから生じているのを機器から見取ったあきらは、敵も相応に本気で交戦の準備を整えたと考える。
奴等は、超能力者狩りは、上層の連中含めた権力者というのはいつも下層の人間をゴミの様に扱う。切り捨てる事で、あるいは消費する事で自らの糧にしかならないと本気で考えている。そんな物を認める訳には行かないと『誰か』が言っていたのをまた思い出した。
だがそんな『誰か』も世界の隅々まで見えているのかは怪しいものだ。
かつて──自分が盗電しているのを知ってか知らずか。咎めはしても命を取るような真似はしなかった住人達のように。見えている者にしか分からない救いや慈悲がある。
「さて」
サイコ・スイーパーの包囲網の一画で猟兵の少女達が交戦を始めたのを見て、他の箇所でも続くのをあきらは見据える。軽い先読み、何手か読み取った彼女は敵が最も嫌がりそうな位置を見つけた。
「……子供を狙うやつは全て斬る。人だろうが、警官だろうが、サイボーグだろうが寸刻みにしてやる」
──雨が風に揺れて白い波がスラム街に流れた直後、それを一直線に白い雷が切り裂いて奔った先で稲光の如く電磁抜刀を白いサイボーグが抜き放つ。
音を置き去りに真っ二つに両断された特別機動警備隊服を纏う男が絶命する。
切り離された義体の中心に浮かぶ換装された循環器、心臓部とも言える部位を手に掴み潰して外皮アーマーを介して電解質を吸収しながら振り抜かれる真っ赤な刃。血飛沫と蛍光色混じる換装体液が撒き散らされて死体が崩れ落ちたのと同時、周囲に散開していたサイコ・スイーパーの面々が一斉に銃口をあきらに向ける。
「さあ、ゲリラライブ開始じゃ」
切先が見えない。
残像の軌跡を描くように伸びる赤い眼光。その延長線のように鋭く跳ねた紅い刀身が上空に伸びたかと思えば、それを目で追っていたサイコ・スイーパーの一人がヘッドギアごと頭部を斜めに切り落とされてから地に叩きつけられ。バウンドした遺体を切り刻んだ赤い剣閃を目掛け銃撃が四方八方から瞬けば同時、味方が悲鳴を上げて散開していた男達が集まって来る。
(白いサイボーグ……?)
データに無い白い義体か機体か、どちらにせよあきらを見た男達が殆ど同時に思考を巡らせる。
というのも、見覚えがあるのだ。
「あれは匂坂重工と園蔵重工の────」
スポンサーから次々に送り込まれて来る武装に混乱するサイコ・スイーパー。その中で一人、企業要人警護の任に就いた際に見た事があるフレームギアを見つけた男が追加転送されてきた武装を手に飛び退く。記憶を手繰り寄せる寸前、その意識はフォトンセイバーを振り抜いた直後に指先から肩の辺りまで輪切りにされて吹き飛んだ。
吹き荒れる衝撃波が医療施設の裏手で巻き起こり、超高速で振るわれるあきらの『高周波ブレード【虎徹・改】』が敵を刻んでは千切り飛ばして血の雨を降らせる。
次第に赤く染まって行く白いサイボーグの姿を見た男達が慄く最中、彼等に緊急通信が近くで待機している中継車からローカルで繋がれた。
「『そいつを殺せ……! 反メガコーポ団体でも活動が確認されているデスブリンガーだ、配信サイトでお前たちも映されてる。そのまま生きて帰せば俺達は終わりだ! ……聞いてるか? 返事をしろ!!』」
宙を舞ったインカム内臓のヘッドギアが地面に転がる。
降りしきる雨の中で連続する銃撃は少しずつ数を減らし、自らのカラダが欲する渇きのままに深紅の刀身を振るあきらが戦闘用義体の調子を確かめるついでに『ぱふぉーまんす』のつもりで、しなやかな肢体と義体のラインを見せつけるようにスラム街の窓に映る自分を見る。
視聴者数が爆上がりしたのを満足げに視界拡張で確認してから、彼女は視点を首を傾げる。
「なんじゃなんじゃ、久しぶりに好調じゃのう」
市民の敵、悪党を主観で刻むのはやはり気分が良いものか。そんなズレた感想を持ちながら、あきらがセンサーに反応のあった場所を見つめて野太刀を納刀する。
あきらの見つめる先にあるのは、アブソリュートロータス製薬の所有する中継車だ。
どうせスポンサーも見てるのだろう。丁度良いとばかりに彼女は濡れた白髪を揺らし煽るように顎を上げて見せた。
「出て来んのか?」
装甲車の扉がほぼ同時に開かれ、中からガトリング砲がフル回転しながら閃光を奔らせる。
あきらが納刀した太刀の柄を握る手がギシリと音を立て、活性化する神経系を通し雨粒の形状から眼前にまで迫って来ていた弾丸の回転する様まで視えるようになる。義体が躍動し、居合の構えで添えていた手が鞘を後ろへ引きながら抜刀された虎徹・改が深紅の一閃と共に正中線上の弾幕を弾き。次いで足先だけで滑るように距離を詰めた彼女が振り上げた刃を返して上段から一撃を叩きつけた。
装甲車を真っ二つにしながらも衝撃波で吹き飛ばした轟音が鳴り響き。血煙に消えたサイコ・スイーパーの男達から落ちたヘッドギアや腕がバラバラとあきらの周囲に降り注いだ。
揺れる白い残像。
建物の陰に隠れて様子を伺っていたサイコ・スイーパーの男が息を飲んだ直後、その眼前にはあきらが立っていた。
「次はヌシじゃな」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『メンテナンス・タイム!』
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POW : 気合で力強くメンテナンスする・される!
SPD : 素早く丁寧にメンテナンスする・される!
WIZ : 賢く冷静にメンテナンスする・される!
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●──惨劇を防いだ後
「ありがとう……強いな、凄い……その、前見た時より数が多くてびっくりした」
サイコ・スイーパーによる超能力者狩りを猟兵達が撃滅した後。弾痕痛ましい医療施設の外に出て来た少年『錆色のシャシー』が頭を下げた。
周囲には猟兵によって助け出された市民やアラナワ地区の警官達も集まっており、治療や防衛線を敷く者達で溢れかえっていた。
次の襲撃がいつになるかは分からないが、今回はスポンサー企業への中継がリアルタイムで行われていたのだ。怒りを買う可能性は大いにあった。
彼等を目下の危機から遠ざける為にも猟兵達には次なる仕事が待っている。
「あの、待って欲しいんだ!
さっきも二人組のお姉ちゃんたちに言ったけど、僕やスラムの仲間にはメンテナンスが必要なんだ。ここではダストエリアから持ち込んだ廃棄物から収集した循環器や義体の子供が結構いて……これまではドクターに診て貰ってたんだけど、さっきの襲撃で逃げちゃったみたいで……。
もしこの後も面倒見てくれるなら、可能なら何人か見てあげてくれないかな?
依頼したいけどお金があまりない。都市に迂闊に近付けば超能力者狩りの関係者やヤクザに何をされるか分からないし……お願いだ、僕らを助けて欲しい」
しかし、錆色のシャシーはそれを呼び止めた。
彼と11人の子供たちはどうやら数か月前からスラム街で生まれた弊害からか義体の調子が悪かったようだ。
直近では流れの医者『ドクター』に彼の持ち込んだインプラントや義体パーツを使ってメンテナンスをして貰っていたようだが、それもこの状況でサイコブレイカーやハッキングの技能に目覚めた事で難しくなってしまっている。
猟兵達は顔を見合わせり、或いは即決で何かを思いついたり、どこかへ連絡を取りながら思案する。
ひとまず、アラナワ地区に関するデータベースの破壊に向かうより先に彼等の義体メンテの手伝いを猟兵はする事にした。
【ちくわマスターから】
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
サイコ・スイーパーを退けた後はメガコーポからの指令や殺害対象となってしまった者達のデータを抹消しに行きます……が、その前に一度彼等の機械化義体のメンテナンスが必要なようです。
なぜか猟兵の参上と共に彼等を診る人間がいなくなってしまったらしく、ここでは皆様の知り合いの店や技師、何らかの伝手でスラムから出て来たサイコブレイカーたちのメンテナンスや治療の面倒を見てあげて下さい。
※そういうの難しそうな猟兵さん(脳筋or無口系などなど)はプレイングに【ドクターを見つけ出して言うことを聞かせる】やちょっと日常ではない内容でも送っていただいてOKです。最後にメンテすればいいのです多分。
リアラ・アリルアンナ
…ふむ?
保護者でありながら、あなた方を見捨てて逃げたというのですか、そのドクターという方は?
まあ、その事は今は置いておきましょう
困っている市民の助けになる事こそ、リアラの責務であり幸福なのですから!
…と、言ってもリアラはサイバーザナドゥの修理に関しては専門家ではありません
機械的な事については情報検索してわかる範囲かつ、ここの設備でも可能な基本的な工作になる事をご容赦ください
ハッキングは得意分野ですので、ソフト面でのトラブルであればある程度対処できるかと思います
作業が一段落ついたら、ドクターを探す猟兵の為に彼の行方に繋がりそうな情報を調べてみるとしましょう
新田・にこたま
喫緊の危機を片付ける方があなたたちの助けになりそうなものですが…循環器系が今にもイカれてしまいそうだと言うなら確かに応急メンテは必要ですか。
ドローンを【医術】技能に特化させ召喚。
子どもたちの健康状況、目覚めた能力、義体の状況を診察し、類似症例のデータに合わせてインプラントや義体の調整をします。※【メカニック】
足りないパーツがあっても、さっきの敵集団がメガコーポからの手厚いサポートを受けていたこともあってスクラップは潤沢ですからどうとでもなるはずです。
さて、錆色のシャシー。対価を請求します。
あなたが知る限りのドクターとやらの情報を吐きなさい。
善意の人であれば良し。しかし、どうにも怪しすぎますね。
ロウガ・イスルギ
【メカニック】の覚えはあるが物資が足りねえと来た
どうせならこの騒ぎの張本人にケツ持って貰おうぜ
斃したサイコ・スイーパーの死体から武装や使えるパーツの剥ぎ取り敢行
死んじまった後位他人様の役に立つんだな
ドローンやら警棒やら分解して使えるモンは部品にして、と
人を|殺傷《ころ》すモノで人を|救済《すく》うってのは
皮肉なモンだ
応急処置だがまあ3日は持つだろ、えーいうるさいわかったわかった
|殴り込み《カチコミ》ついでにパーツぶんどってきてやるよ……
それが済んだらお前さん達は大手を振って歩けるようになってるさ
約束、じゃない、あくまで契約だ。俺は傭兵だから、な
●
「喫緊の危機を片付ける方があなたたちの助けになりそうなものですが…循環器系が今にもイカれてしまいそうだと言うなら確かに応急メンテは必要ですか」
申し訳なさそうに告げられた新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)が金色の瞳を瞬きさせ、サイバーアイで少年『錆色のシャシー』を見遣る。
以前の邂逅時には特質診断めいた行為はしなかったのだが、確かに彼を始めとした少年たちには軽度の循環器や神経系の不調が症状として表れているようだった。
そこまでギリギリのメンテナンスを要されてしまうのは、ひとえにここがスラム街だからだろう。
彼等も金が無い以上は誰かの善意で生かされるしかない。行方をくらませたというドクターが最悪のタイミングで抜けた事により、子供たちは窮地に立たされてしまったというわけだ。
錆色のシャシーから話を聞いた猟兵達が一様に悩み、或いは思いつきを表情に出す一方。
彼の話を聞いたリアラ・アリルアンナ(リアライズユアハピネス・f36743)が錆色のシャシーの義体腕部に取りつけられた端末に『❓』のメッセージを大量に送りつけていた。
「……ふむ? あなた方の面倒を見ていたと言うのに、それを見捨てて逃げたというのですか、そのドクターという方は?」
「え、うん……ドクターは会った時から挙動不審だったから特別そんなに悪い奴じゃないとは思うんだけどね」
白髪の少年の言葉にリアラが不審に思いつつも、周りやにこたまの姿を見てコクリと頷いた。
「まあ、その事は今は置いておきましょう。困っている市民の助けになる事こそ、リアラの責務ですから!」
くるんと彼等の前で一回りしてエメラルドグリーンの羽根を散らして子供たちを沸かせるリアラ。
──そこで彼女が浮遊感のある姿勢のまま停止する。
「……と、言ってもリアラはサイバーザナドゥの修理に関しては専門家ではありません」
雨は降り続いている。
手を広げて表情と共に頭の上にポップな曇り空のイメージを映像で出しながら、リアラがにこたまや仲間に視線を向けた。
「機械的な事については情報検索してわかる範囲かつ、ここの設備でも可能な基本的な工作になる事をご容赦ください。ハッキングは得意分野ですので、ソフト面でのトラブルであればある程度対処できるかと思います!」
にこたまが手をパン、と一度だけ打って鳴らす。
医療施設の傍にある駐車場に停めて置いた装甲車『ミニパト』から数基のドローンが飛び立ち、施設前に集まった一同の頭上にまで来る。
子供たちが不思議そうに見上げるそれを、にこたまが平然と「安心して下さい」と声をかけ。
「私の『翁丸』があなた達の健康状況、目覚めた能力、義体の状況を診察し、類似症例のデータに合わせてインプラントや義体の調整をします。足りないパーツがあっても、さっきの敵集団がメガコーポからの手厚いサポートを受けていたこともあってスクラップは潤沢ですから……どうとでもなるはずです」
ドローンがそれぞれ子供たちの周囲にセンサーライトを張り巡らせて分析診断を行う中、にこたまはそう言って周囲の残骸に目を向ける。
味方との戦闘で散らばったパーツから流用すればある程度は賄えるだろう。だが一部の敵は投降していたらしい、確実なのはそちらからもぎ取る事だが──。
──雨の中、医療施設前の広場に集められ並べられているのは投降したサイコ・スイーパー達だ。
彼等を拘束しているのは数本のワイヤーだが、いずれも通信端末を破壊された上でリアラやにこたまの電子的妨害に曝されている状態である。何も出来ず、彼等は無防備に転がされているしかない。
とはいえ投降はした身。
彼等自身、仮に命乞いする相手をどうしていたかの是非を問うのはひとまず忘れてやり。ロウガ・イスルギ(白朧牙我虎・f00846)が悪戯っぽく獰猛にも見える笑みで彼等の顔を覗き込んで言った。
「俺も|義体弄り《メカニック》の覚えはあるが物資が足りねえと来た。どうせならこの騒ぎの張本人にケツ持って貰おう」
バラバラと拘束しているサイコ・スイーパーの上にばら撒いたのは彼等が所有していたIDカードや端末認証チップを収めた物だ。
それを見た男達が口々に喚き始める。
「嘘だろ……ッ、てめぇそれで何するつもりだ!」
「や、やめろぉおお!? やめてくれぇッ!」
「待て待て待て!! 何でも協力する! するから! 違うだろやめろそれはウワーッ!!」
そんな命乞いの仕方ある? と若干楽しくなってきたロウガが軽度のハッキングで携行端末からサイコ・スイーパーの上層、『アブソリュートロータス製薬』の営業部に繋がる。
不思議と、社内のデータベースにアクセスが完了した途端にサイコ・スイーパー達が静かになる。ロウガが軽く訝しげにそちらを見遣れば男の一人が必死に口元に噛ませていたワイヤー越しに何かを訴えていた。
(……なんか言ってるな)
ロウガが社内にハッキングをかけて突破する際に使用したIDは彼の持つ『|インビテーション・オブ・マスカレイド《仮面舞踏会への招待状》』によって偽造したコードだ。途中までの命乞いといい、責任問題以前の何かを感じる。
「待って下さい、市民イスルギの端末がハッキングされてます」
「まずいか?」
「支配権のジャックではなく、音声認識への干渉ですね。端末が壊れてしまいますがノイズキャンセリングだけ保護して我々の音声を拾われないようにしておきます」
横から顔を出して来たリアラがロウガの前でパリパリと薄緑色の光球を瞬かせ、揺れる半電子体の髪から伸びた有線ジャックが|彼《ロウガ》の持っていた端末に溶け込んでは内部でデータの書き換えが行われる。
暫しの間。
リアラの書き換えが終わるのと、背後でにこたまの翁丸ドローンが子供たちの診断を終えたのに加え、ロウガの端末から通話モードを立ち上げてもいないのに声が響いたのがそれぞれ同時だった。
その声は僅かに高く、若い男の様だった。
「────如何されましたか、営業部員『イサヲ・キバ』サン」
対してロウガの足元でサイコ・スイーパー達が微かに震える。
(アブソリュートロータス製薬の……営業部じゃねえなコレ)
野生の勘。あるいは状況的な経験則。
これは、傭兵の中でも稀に見る徹底された上下関係のそれだった。
つまり繋がっている相手は『そういう相手』だ、まさかバレたか──そう思いつつもロウガが眉を少し持ち上げた。
「スポンサーからのクレームが直接来ていまして、あちらは『あの醜態はなんだ』と言っている始末で……どうされますかね?」
物は試しである。言ってみるだけ言ってみる事にした。
端末越しに会話が続く。
「──何故それをあなたに?」
「今ならどこにかけても同じだろう、との事で」
「──……なるほど、対応しましょう。どの企業からです?」
ロウガの視線が一瞬だけ彷徨う。
「『園蔵重工』と言って下さい」
にこたまの声が装甲車の方から聞こえて来る。
チラとロウガの視線が向けば、どうにもそちらはそちらで何か問題が起きているのか──にこたまがドローンに混ざって何か作業しているようだった。
色々と混沌としてきた状況だが是非もない。
「園蔵重工からです。社名だけで担当者は名乗らなかったようで……」
「──……曹彰会の一件で気が立ってるか。たかが鉄工所風情が……ン、ん。承りました、既にそちらが営業部に提出しようとしていたリストには目を通してあります。義体パーツで希望の規格はありませんが、まぁ近い物で向こうも目を瞑るでしょう。物品はそちらの座標を適当に指定して置いて下さい、サイバースペース経由でどこにいようが転送させますので。
──ふむ……イサヲサンにはこれからサイコ・スイーパー達の一人が都市の入口で救援信号を出しているのを始末して貰います。元SAPD一匹なら八つ裂きにできるでしょう、園蔵重工製の車にでも臓物をぶちまけて置いてやりなさい」
「…………了解」
端末の画面が異様なノイズを走らせ、応答が無くなる。どうやら向こうが接続を切ったらしい。
ロウガの足元で震えるサイコ・スイーパー達の一人が目を合わせて来たので、彼は故障した端末を仕舞い込みながら小首を傾げて見せた。
「柔軟な対応なこって。今のが誰だったか言えるなら逃がしてやるぞ」
「アブソリュートロータス製薬の幹部……研究部門統括補佐の、『オリバー・ミカヅキ』……俺達の雇い主だ……チクショウ、いっそ殺してくれ!」
「おいおい、ご愁傷様だな」
つまり今の会話が嘘だと後から分かればどう足掻いても粛清の矛先はサイコ・スイーパーの生き残りに向くのだろう。
しかも現場から逃げ出した人員の抹殺まで命じている。やれなくはないがやる意味と理由は殆どない。
(どっちも放置してやろう、どっちにもイイ嫌がらせにはなるだろ……あとついでに)
──間もなくして、スラム街から少し離れた指定した荒野へ本当に物資が転送されてきた。
それも、二つ。
最低限の医薬品に並び義体パーツが入っている小型コンテナはアブソリュートロータス製薬の物。その少し離れた位置には、医療用キットと外皮換装部品や各義体補助部品等が詰め込まれた大型のジュラルミンケースがドローンによって運ばれて来た。
ドローンが飛び去って行く様を見送るのは先ほどまでアブソリュートロータス製薬の幹部と通信していたロウガではない。
「……も、問題ない。発信機の類があるだけだ」
「問題あるじゃねえか、いやここじゃそんなモンか?」
インカム越しに響く声──離れた位置で隠れ潜みながらサイコ・スイーパーに指示を出しているのはロウガの声である。
雨の中、投降したサイコ・スイーパーを物資の回収に向かわせているのは勿論アブソリュートロータス製薬やサイコ・スイーパーの上層にあたる『特別機動警備隊』の本部にも先程同様、ロウガが“臨時総指揮隊長イサヲ・キバ”として支援要請を行った事での警戒を恐れての事だ。
ヘッドギアを装着した投降したサイコ・スイーパーの男は物資の確認や盗聴機器、発信機の全てに偽装を施したり破壊措置を行いながら冷や汗を流し続けている。
冷たい雨に混じる嫌な汗が背中を濡らす。
「──……指示通りにすりゃ解放してやらあ。首輪ワイヤー付いてるのを忘れんなよ? 『命あっての物種』ってな」
「わかっている……!」
インカムからの返答にロウガが眉を顰める。
最早殺せとばかりに志願する者もいる中、分かり易く命乞いや逃走の機会を図っている者がいたのでそちらを採用したのだが。思いのほか元気そうだった。
(さて……モノはだいぶ潤沢になったな。あっちはどうなってるかねえ)
荒野をコンテナとケース両方抱えて戻って来るサイコ・スイーパーの男を見遣りながら、ロウガは仲間のいるアラナワ地区の方へ尻尾を揺らすのだった。
●
少女の脊椎接続部からホログラムの蝶で覆い隠した端子が抜け落ちた後、煌めく衣装を翻してリアラが強く頷いた。
「これでソフトの強化はバッチリです! 痛いのを我慢した市民には幸福センベイを贈呈しましょう」
「わぁ、ありがとうお姉ちゃん!」
ニコニコと差し出された幸福パウダーまみれな素敵お菓子を受け取る少女がリアラにお礼を言うと白髪の少年や他の少年少女たちの下へと走って行く。
彼等のうち数人は猟兵の一人が信頼できる場所へ連れて行ったようだ。今は半数ほどの七人が残り、腹部や脊椎の端子や外皮の繋ぎ目などに管を通して医療施設のエントランスで座っていた。
リアラもそちらへ寄って行く。
「電子ウイルスに循環器が侵されてるのはびっくりしましたね、市民にこたまが診ていなければ大事になっていたのではないでしょうか」
「私というか、翁丸ドローンが診断したおかげで見つかりはしましたね。ただその後の処置はリアラさんの手を借りなければまた大変だったでしょうが……とにかく、お疲れ様でした」
「はい! お疲れ様です!」
にこたまに倣いリアラも小さく敬礼をする。そうして二人が笑った後、彼女達の視線は横合いへ。
白髪の少年、錆色のシャシーがその視線に逸早く気づく。
「さて、錆色のシャシー。対価を請求します」
「あぁ……だよね。なんでも言っていいよ」
来たかといった表情で錆色のシャシーは他の子供たちに目配せして距離を取って貰ってから話の続きをにこたまに促した。
「あなたが知る限りのドクターとやらの情報を吐きなさい。善人ならば良し、ですがどうにも怪し過ぎます」
「ええっ、そんなにあやしいかな……変なクスリを売りつけに来る連中よりはイイ奴だと僕らは思ってたけど」
にこたまから要求された対価の内容に錆色のシャシーが驚いた顔をするものの、すぐに観念したらしく「うーん」と唸って考え込む仕草を見せた。
情報、といっても彼等の知る限りでは語る事の出来る話が少ない。何か思い出せやしないかと、彼は思ったのだが。
「……ドクターはここの手術室をひとつ、自室に使ってたみたいなんだけど。そこから何か分からないかな?」
「手術室ですか」
「うん。緊急用のオペルームなんだけど昔あった落雷で電気系統が壊れて使われてなかったんだ、ドクターはここに来てからそこを改造して使えるようにして占領してたとか……不在中でもドアがロックされてるから追い出す事も出来ないって病院の管理委員会が愚痴ってたんだよね」
錆色のシャシーの話を聞いたにこたまが目を細める。
「めちゃくちゃあやしいですね」
「何がかは分かりませんがクロだとリアラも思います」
二人は錆色のシャシーにその手術室へ案内を頼んだ。
ちょうど、それと同時にロウガから通信が入る──待たせている少年少女たちの中に必要なパーツや器材が届いたようだった。彼女達はドクターの件を彼の到着を待つ間調べているとだけ伝えて、医療施設の上階へ向かった。
──リアラとにこたまがハッキングを掛けて『ER』と記されたドアの電子ロックを解除して開いた。
「……これは?」
「なるほど、そういうことでしたか」
内部は荒れ果てていた。
散乱した紙や破壊された端末類の中から、にこたまが一枚だけ手に取って何かの資料らしいそれに目を通した。
その傍ではリアラが壁一面に並んだ棚の中に飾られた円筒を覗き込んでいる。内部を満たしているのはザナドゥにおいて生体部分を保管するために使われる生理食塩水と培養液の混合水だった。
いずれも円筒は空っぽだったが、問題なのは──それら容器の下に貼り付けられたラベルだ。
「──『シビル』『クレア』『ノイル・ドレット』『アザレア・ベケット』『パティー』『シシャ・ミュール』……『シャシー・ブロンズ』」
リアラの声が最後だけ僅かに低くなる。途中で円筒が何のために用意された物か、彼女は気づいた。
円筒は僅かに大きい。
その対応内容量はリアラの目測からなる計算ではおよそ1700立方センチメートル。円筒の上下には何らかの配管機構が見られることから逆算すれば精密機器と併せて保管する事も可能だろう、その場合は1600程度。
つまり、これらは人の脳を納めるための物。
「ドクターは子供たちやスラム街で覚醒したサイコブレイカー達の脳を蒐集する事が目的だった様ですね」
にこたまの声に振り返ったリアラが眉を顰めてから、落ち着いた様子で小首を傾げる。
「何故そんな事を?」
「イカレた悪党だからでしょう」
にこたまの差し出した資料の断片をリアラが目を通す。
そこには『アブソリュートロータス製薬』と書かれた研究資料の一端が書かれていた。
「……この件が終わった後、いずれ彼も始末しなくてはなりませんね」
資料の最後には承認サインらしき物がある。その傍には同じ筆跡のものが、そして部屋に残されたラベルにも同様に。
つまり、サインされた名の人物がドクターなのだろう。
(アブソリュートロータス製薬の研究部門統括……『レイモンド・バダンテール』、メガコーポの幹部がこんな所で何をしていたんだか)
●──【契約】
暫くして医療施設内のエントランスにリアラ達が下りて来てみると、今度はロウガがエントランス付近の治療室の一室で作業をしている様だった。
全身機械化義体の者の中でも、頭脳戦車等の大型機体の患者に使う部屋だ。
にこたまがそこを覗いて見れば、捕えたサイコ・スイーパーを拘束しているワイヤーが外に伸びている以外にも見慣れぬ人物達がいた。
「荒野からこっちに戻る途中で負傷者を見つけて来たんでな、ちょいと|入用《いりよう》だ。足りない分のパーツを剥ぎ取ってる」
そう背中で告げるロウガは治療台の上に乗せたサイコ・スイーパーの死体に電気メスやボルトキャンセルといった機具を入れ、バラバラにしたり必要な関節部や外皮下の循環器と繋ぐ血管類をかき集めていた。
彼のそばに集まっている子供たちは錆色のシャシー達に比べれば少し歳が上の様だ。だが──酷く薄汚れている。
「ふむ……」
「?」
にこたまが彼等を見て何かを思う姿にリアラが首を傾げる。
と、そこへ今度は錆色のシャシーが近づいて来た。
「あれ、お前たちは……」
「うッ! シャシー……!?」
「縄張りを出て行ったんじゃなかったのか? ノイルの店から二カ月分の売上金を奪って他所の町に高飛びしていた筈だろ、今さらノコノコと!」
「う、うるせえ! 隣のシメナワ区に行って都市で仕事を斡旋してくれるって言った警官達に金を渡したら、あいつら……俺達の身ぐるみを剥いで行ったんだ! 何週間か前にどこかと抗争になるまではずっと牢に入れられてて、警察署でおかしなバケモノの餌にいつされるかって……生きた心地がしなかったんだ!」
呆れた顔をしたシャシーが少年たちを見回す。
「お前の妹はどうしたんだ」
「捕まったその日の間にヤクザに売られた」
「……うるせえぞお前等。作業の邪魔だ、悪いが出て行ってくれ」
猛烈に嫌な顔をするリアラとシャシーが少年たちを見ていたが、にこたまがロウガの言葉に頷いて一同を退室させる。
置き土産だろう。彼女の翁丸ドローンとやらがロウガの傍に追随して作業の手伝いに来る。
──治療室の中を少年たちから漏れ出た気まずい空気が漂う。
(……仲間を裏切って自立しようと旅立った矢先に、因果が巡って来たわけか。ガキの落とし前にしてはキツイな)
体調不良を訴え、あるいは負傷して動けなくなっていた少年たちをロウガが特殊警棒を解体しながら見遣る。
ザナドゥのスラム街はある程度過酷なのは知っているし、住人である彼等も相応に理解しているだろう。だがそこに、理解度の差がないとまでは言い切れない。
錆色のシャシーとの会話から察せられるのは元より彼等は対立していたのだろうということ、アラナワ地区に戻って来たというのにシャシーが彼等の顔を見た事がなかったというのも恐らくは……少年たちはなるべく顔を合わせないように過ごしていたというわけだ。
それを、ロウガは律儀にも馬鹿正直にも思えた。
不義を承知だったという事である。そして少年たちは数少ないこの医療施設にも足を運ばないでいた結果──逃げ場の少ないこのスラム街でサイコ・スイーパーの襲撃に巻き込まれた。
「……人を|殺傷《ころ》すモノで人を|救済《すく》うってのは皮肉なモンだ」
「え?」
少年たちが顔を見上げて来る。
ロウガはそれに背を向け。白と黒の縞模様を覗かせる尾を揺らし、続けた。
「仲間のドローンの解析結果を見た感じ、お前等の何人かはすぐには治せねえ。さすがにシャシー達に渡した様な物資の補給は『二度目』は使えない手だったんでな、応急処置と体内の汚染除去やソフトのアップデートくらいが精々……三日保たせるのが関の山。それ以上は“またせる”事になるな」
翁丸ドローンがロウガの端末に送った診断結果を見ながらそう言うと、ロウガの手元にワイヤーが引き戻される。治療台に固定していた義体の骸が転がり落ちる一方、それを見下ろしながら彼は少年たちの顔を覗き込むように屈んだ。
水晶のように透き通った青い瞳の奥で、鋭い輝きが少年を睨みつけた。
「……っ」
「|殴り込み《カチコミ》ついでにパーツをぶんどってきてやるよ……それが済んだら、お前さん達は大手を振って歩けるようになってるさ」
ロウガから目を逸らそうとした少年は、いつの間にか自分の視線が離せなくなってる事に気付いた。逃げ出したいのに、何故か逃げられなくなっていた。
──硬直する彼にロウガの低い声が強かに響く。
「覚えておけ……これは約束、じゃない。あくまで契約だ。
俺は────傭兵だから、な」
その声。その言葉は。
少年たちに何かを|標《しるべ》として示す様に、重く圧し掛かり残るのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
悪七守・あきら
※アドリブ・連携歡迎
わしの馴染みの義体屋は少々遠いな…。
街角にある公共端末を義体と優先で繋ぎ、このあたりでメンテナンスを請け負ってくれそうで、なおかつそれを内密にしてくれそうな闇医者を検索する。
このあたりが良さそうじゃな。
接続にプロキシを噛ませて逆探を防ぎつつ、メッセージを送る。
急ぎで子供12人分のメンテを依頼したい。そちらがこちらの事情を詮索しなければ、こちらもそちらが違法電子ドラッグやパーツの横流しで儲けていることは他言しない。
と、【コミュ力】【悪のカリスマ】【人命救助】で説得する。
なんなら、わしのライブチケットも進呈するぞ。
と、使用UCで心を奪いつつ取り引きを持ちかける。
●
──『錆色のシャシー』を含む半数ほどの子供達を除き、悪七守・あきら(サイボーグ剣豪アイドル・f37336)が数人の少年少女を連れてアラナワ地区の街角にまで来る。
彼女が手を伸ばしたのは公共端末。
向かう先はサイバースペースだ。
「どれ、馴染みの義体屋は少々遠いのでな……近場で良い所がないか探してみよう」
白い機械化義体の関節部から伸ばした有線で繋いだ彼女が半実体のままサイバースペースに入る。
電気信号的時間加速──刹那の一時にあきらがダイブした先で無数の地区情報に無断でアクセスすれば、|電子の海《データ》の中から幼い少女の姿をしたアバターが手にひとすくいする。
巨大企業名目でのクライアントアクセス扱いで、あきらは『メンテナンス請負い、情報秘匿対応に属した闇医者』のサーチに成功した。
視界が明滅した後、サイバースペースから一瞬で帰還した彼女は拡張視界にそのサーチした情報を展開しながら赤い瞳をパチリと瞬きさせる。
「ふむ──……このあたりが良さそうじゃな。どれどれ、んー……一応プロキシ噛ませてっと」
なにをしているのかよく分かっていない子供たちがあきらの様子に首を傾げる。
宙を泳ぐ指先を目で追い、それらがキーを打つ仕草を一瞬見せた後。白髪の彼女は手招きをひとつ残しながら子供たちに言った。
「うむ。予約が取れたぞ、わしについてこい」
「ねぇ、どこに行くの?」
「少し離れるがまぁ……近い方じゃな。わしから離れないようにな、闇医者“兼業”というだけで、あまり安全とは言い難いからのう」
そう告げたあきらは義体の腰部に携え納刀したままの高周波ブレードの柄をコツン、と指先で突いて示した。
「ヤクザの事務所じゃからの」
●──『曹彰会管理・医療出張所【錦夢】』──
あきらと子供たちが向かった先は都市の検問所そばにある、古い繫華街だった。
アラナワ地区とは違う都市部近い街並みは少し緊張感を覚えるのか、子供たちは一様にあきらの傍を離れないようにまとまりながらストリートを歩いて行く。
錆色のシャシー達の診断から、少し時間が掛かると仲間の猟兵達から受けた連絡にあきらが「了解」と花火とお茶の絵文字をふんだんに使ったメールを返す。
そうする間に目的地に着いたのか、子供たちを一列に並べて細い路地に入って行った彼女は看板も何も置かれていない黒い木扉を前に立ち止まる。
「おうい、わしじゃよー」
扉が内から蹴り開かれる。
「てめえが──……っひ!?」
「おーおー、随分殺気立っとるなぁ。こっちは患者連れの客じゃぞう?」
開いた扉の隙間から突き出された散弾銃の銃身を左手で素早く掴み、握り潰したあきらが悠然と身を寄せる。
戦闘用義体、それも見るからに血を浴びたばかりと分かる痕跡をサイバーアイで見て取ったヤクザの下っ端らしい男が観念したように散弾銃から手を離して後退りする。
「……ら、ライブの映像サンプル見た限りじゃ偽物かと思ったんだ。あんたは……もっと幼い『なり』だと聞いてたからな」
「新調したんじゃよ。アイドルというのもたまには新衣装とか新アバターをお披露目するもんじゃろ? ほれ、見ろこれ。イイじゃろー」
ギュイン、キュイン、と身振り手振りしながら肢体の関節周りやボディラインを細長い指先でなぞって見せるあきら。
見せつけられたヤクザの下っ端は包帯を巻いた頭部に手を添えて掻く仕草で誤魔化しながら、「それより本題に移ろう」と濁した。
「うむうむ、そうじゃな! 急ぎで子供12人分のメンテを依頼したい。費用はわしが持とう──そちらが此方の事情を詮索しなければ、違法電子ドラッグやパーツの横流しで儲けていることは他言せんよ。何かと『忙しい』のじゃろう?」
幼さを残した表情と潤んだ赤い瞳が、ヤクザの下っ端の男に近付いて囁く。
包帯を頭部に巻いた男はその要求に深く息を吐いてから、やはり観念した様子をお手上げのジェスチャーひとつ見せる事で了承した。
「反巨大企業の神輿担ぎを買って出てるような厄ネタに俺が選ばれたのは……運が無いとしか言いようがないな。いいぜ、詮索はなしだ」
──事務所の中に招き入れられた子供たちと共に、あきらが治療室へと案内される。
不安げに辺りを見回す子供たちの視線を時折「わしのケツを見ておけ」と遮り、なるべく事務所内の様子を見せないように努めながら。下っ端の男が何処かへ通信を行う。
「俺です、金田です……ええ、6番に来客です。俺が対応しますので問題ありません。相手は六人くらいですかね、時間は12分ほど……回収班は不要です」
あきらと視線を合わせたまま男が何度か頷き、暫しの間をおいて通信を切ったらしい。金田と名乗った男は右上腕の義体からメスやソナー等の機具を出しながら頭を振った。
「『親父』だよ。悪いがあんたらは死んだことにした」
「死体がひとつでも増えないようにな」
「……俺の見立てじゃ道連れに二人殺るのが限界だ、まだ組には恩義もあるんだ。妙な考えは起こさねえよ」
「強気じゃのー、『|曹彰会《そうしょうかい》』の若手は。なんなら、わしのライブチケットも進呈するぞ」
あきらの左手が刀の柄に添えられる。
曹彰会の戦闘員、金田は診察台に座らせた子供たちの診断を行う一方で苦笑いをして見せた。
「どうせならここで歌ってくれ。ライブに行く暇が無いんだ──……若手、だからよ」
胸元にエコー機器を当てられていた少女があきらの方を向く。キラキラとした目だ。
「お姉ちゃん、歌が歌えるの?」
「そうじゃよ! ふふん、どれ今度デビューする反体制のアイドル曲の新作を少し聞くか?」
「メールと送られて来たサンプルのやつか。演奏部分だけ抜き出して部屋に流してやるから歌ってくれよ姐さん」
立体型現実拡張のモニターを壁際に展開させる金田が診断結果を逐一書き起こして簡易的なカルテを作っていく最中、あきらが戦闘用義体のまま慣れた様子で歌を唄い始める。
──【Show Must Go On】。
薄暗い空、冷たい雨の降りしきるサイバーザナドゥの都市の中、気紛れに始まったそれは途切れずに紡がれる。
小さなヤクザ事務所奥で可憐な歌声と子供たちの歓声が沸き上がり、それを聞いた者たちが心奪われる時を過ごす。
子供たちの治療が終わるまでそれは続き──最後の一人が終わった頃には不安もなくなったのか、少年少女達には笑顔が残っていた。
さて、と。
子供たちを残して行くわけにもいかない。あきらは彼等を連れ、金田に電子チケットを渡した。
「おぬしは腕がいい、忙しくても来い。それがわしからのプレゼントじゃ」
事務所を後にする彼女を見送りながら、治療器具を仕舞い込んでいた金田は満足気に頷いて応えるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ケラウノス』
|
POW : 雷霆万鈞
自身の【装備する槍】に【迸る電撃】を宿し、攻撃力と吹き飛ばし力を最大9倍まで強化する(敗北や死の危機に比例する)。
SPD : 付和雷同
【迸る電撃】によって、自身の装備する【槍】を高速飛翔させ、槍独自の判断で【軌道】を遠隔操作(限界距離はレベルの二乗m)しながら、自身も行動できる。
WIZ : 雷轟電撃
自身が装備する【槍】から【自由自在に迸る電撃】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【サイバースペースへのハッキング】と【感電】の状態異常を与える。
イラスト:雲間陽子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ラスク・パークス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
────【ここから先 関係者以外 立ち入り禁止 DEATH】────
アラナワ地区の子供たちのメンテナンスを問題無い程度にまで面倒を見た猟兵達は、次の目的となる『超能力者狩り』の指定データを破壊する為に動き出した。
向かう先、サイバースペースから入場出来る其処は『アブソリュートロータス製薬』の管理課である。
その名も『ブルーロータス研』。
超能力者狩りの背景には上流階級、各企業上層の者達の娯楽を満たす為というのが通例であり分かり易い側面を持っているが、その実本来の意は“不穏分子の抹殺と自社の後始末”でもある。
アラナワ地区で生まれた四名のサイコブレイカー、そしてそれ以外にも抹殺対象とされた住民や警官達の共通点は、アブソリュートロータス製薬から脱走したとある研究員の持ち込んだインプラントの被検体にされた可能性があるかららしい。
医者の面を被り、言葉巧みにスラム街で暗躍していた巨大企業の飼っていたマッドサイエンティストは今は行方知らず。逆に言えば、そう──被検体が在る限り戻って来る可能性が高い。
──そこまでを猟兵達のいずれかはブルーロータス研のデータベース内で知る事が出来た。
データの複製は未だされていないらしい。サイコ・スイーパーが撃破されたのを中継で知られていた筈なのに対応が遅いのは、或いは巨大企業であるが故なのかもしれない。
猟兵達がデータベースの納められたエリアそのものに破壊活動を行えば、複製も復元もどちらも叶わなくなるはずだった。
しかし、|アブソリュートロータス製薬《ALPC》の指令が下されるにあたり、それら被検体のデータや脱走者である【研究部門統括『レイモンド・バダンテール』】の痕跡収集データが収められているのが中継セクションであるこのブルーロータス研だ。
猟兵達がそれぞれサイバースペースに辿り着く一方、武装した部外者の存在にいち早く気づいたのは管理者であるのは至極当然。
再三の警告。
鳴り響くアラート音。
サイバースペース内の様子が一変し、まるで侵入者を逃がすまいとするかのように広大な空間を青い隔壁がスイレンの花の如くせり上がって猟兵達ごと囲んでしまう。
サイバースペースの外へ脱しようとすれば弾かれようという状況に閉ざされた直後、猟兵の前に現れたのは管理人格であるオブリビオン『ケラウノス─|ブルーロータス研責任者《特命社員・ジスカード》─』だった。
「──……データの無断閲覧。不法侵入及び企業への反体制を謳う活動に加え、超能力者狩りの妨害。警告無視。なんという『悪』……度し難い」
爆ぜる雷撃。
サイバースペース内に吹き荒れる雷は純粋なる超能力によるもの。強力なサイコブレイカーらしい管理人格は怒りを露わにしながら猟兵達へと襲い掛かるのだった。
新田・にこたま
電撃は速い。しかし、電撃の起点はあくまでも槍。攻撃の出処自体は分かりやすい。
敵自身は戦闘スタイルの特性上、行動速度も反応速度も速い部類。しかし、敵自身の速度が電撃ほどに速いわけではないし、思考速度もおそらくは私が理解できる範囲内。
つまり…強敵ですが、対処は可能です。
敵と槍の動きを見切れば電撃のタイミングを見切り回避することは可能。
私が敵ならどのタイミングでどこを攻撃するかを読み、更には攻撃の前兆の気配を感知すれば死ぬような被弾をすることはないでしょう。※【見切り】【瞬間思考力】【気配感知】
あとは攻防の中で隙を突き一瞬だけUCを発動。切断。
雷切の逸話なんて珍しくもありません。
さっさと消えなさい。
リアラ・アリルアンナ
度し難い?それはこちらの台詞です
非道な人体実験の数々に、超能力者狩りなどと称した虐殺……
罪状を挙げればキリがありませんが、何より市民を庇護すべき立場にありながら、彼らの幸福を脅かす行為こそ許されざる悪!
裁かれるべき反逆者はあなた方なのです!
…と、啖呵を切っている間にも反逆者の電脳および、施設のデータベースにハッキング☆
対象の【行動傾向分析】を行います
メガコーポの犬である以上個人情報はばっちり登録されていますし、
超能力であっても制御の為に体は何らかの信号を発します
それらを分析して行動の傾向を把握する事で、高度な連携であっても予測し回避する事が可能!
逆に正義のプラズマ警棒を叩き込んでやります!
●
──戦闘に少しでも適した形態へと変化したサイバースペースの中で、紫電が放出される。
強力な電圧、電流を纏った放射線が奔る。轟雷唸るその最中を薄緑色の光球が瞬き、ぱんっ! と弾けてホログラムの実体化したドレスがマントの如く拡がって電撃の軌道を不自然に捻じ曲げて見せた。
ホロドレスを翻し、宙を滑りながら投擲された身の丈三メートルはあろうジャベリンランスをプラズマ化した刀身伸びる警棒で迎え打つのはリアラ・アリルアンナ(リアライズユアハピネス・f36743)だ。
「……度し難い? それはこちらの台詞です。非道な人体実験の数々に、超能力者狩りなどと称した虐殺──……罪状を挙げればキリがありませんが、何より市民を庇護すべき立場にありながら、彼らの幸福を脅かす行為こそ許されざる悪!」
フォトンセイバーを横薙ぎに奮い弾き返しながらリアラが空間上を転移して、敵の飛翔する槍に続いて殺到して来る電撃を躱してオブリビオン『ケラウノス』へと迫る。
眩い閃光と電流が奔り、サイバースペース内に展開された青き拘束隔壁『シャッタード・ロータス』の内側を無数の側撃雷が襲う。飛翔していた槍がリアラの眼前に突き立ち『プラズマ警棒』を受け止めたのと同時にケラウノス自身が彼女を槍ごと蹴り飛ばしたのだ。
なれど衝撃と電流が突き抜けるばかりで吹き飛ばなかったリアラが光球とサイケノイズを伴い姿をブレさせた直後、ケラウノスの首元をプラズマ警棒の刀身が閃いた。
「……!」
「裁かれるべき反逆者は──あなた方なのです!」
背を反らして仰向けに倒れ込みながらリアラの一撃を躱したケラウノスが電撃と成って飛翔、音を置き去りにしながら距離を取りその手に槍を掴んで身構えた。
その姿にリアラが内心、微笑みを零す。
(──電撃は速い。しかし、電撃の起点はあくまでも槍。攻撃の出処自体は分かりやすい。敵自身は戦闘スタイルの特性上、行動速度も反応速度も速い部類)
リアラが先陣を切った直後から各々が立ち位置を把握しつつ構え始めた猟兵達。
その中で一人、慎重に身構える者がリアラの戦いぶりを深く観察する。
サイバーアイでの分析もそうだが、しかし今はその視界に収められているのは|彼女《リアラ》の『主観映像』だ。
それ以外にも猟兵達に通信で共有されていくのはリアラから送られて来る情報の数々。新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)はそれらを並列処理して統合しながら、特命社員『ジスカード』のデータを読み取る。
「しかし、敵自身の速度が電撃ほどに速いわけではないし、思考速度もおそらくは私が理解できる範囲内──」
にこたまが思うに、ケラウノスの思考速度はリアラに劣る程度のものだ。
それでも複数の猟兵を相手取りながら捌くその動きに迷いがない事から、長くサイバースペース内に身を置いた事で環境上の補正が掛かっているのではないかとも推測できる。
或いは、アブソリュートロータス製薬の内部情報に記されていた特記項か。
「サイコブレイカー。ユーベルコードによらない超能力者……つまり強敵ですが、対処は可能です」
金色の瞳の奥でサイバーアイが瞬く。
──一方で特命社員のジスカードはリアラからの電脳へのハッキングに気付いていた。
けれどそこに対処を割けない。
念動力以外にもサイコブレイカーとしても長い間企業の犬となっていた彼にとって、電子戦における攻防にも長けている自負があった。脳波による操作と電気信号のパターン変化を駆使して可能となる超高度なカウンタープログラムをもってすれば、リアラのように半実体の電子のゴーストを相手にしても真っ向から勝つ自信があった。
(ですがそちらへ集中し過ぎれば目の前の作業が疎かになります──……ふん、私は他の社員や研究員とはワケが違う。例え死が迫るようなワンオペの環境だろうが回して次の者へ無事にパスする事こそプロの仕事、企業の一員として我が心臓を歯車に捧げるこの至福の時を誇りに思わなければ、何が特命社員なものですか)
異形化した義体の内側でデータフラッシュバックして思い起こされるのは、アブソリュートロータス製薬の傘下企業どもの姿だ。
サイバーザナドゥ、巨大企業群、メガコーポ、企業統治。
今の世を作るのに必要なのは献身であると|ケラウノス《ジスカード》は考える。技術はまだ進化の予兆を見せている、人類はもっと先へ行ける、そう信じそのように教え込まれ、そして命を金と換えて企業に売り渡したのだ。
今さら後に引けないし、退く気も無かった。
「フッ……反逆者ですって? この私を相手に、よくもそんな事が言える──ッ!!」
データ汚染を起点にファイヤーウォールを突破しようとして来たリアラの電子攻撃を超能力で一時弾き返したケラウノスが、一気に距離を詰めに行く。
詰めに来た。
だが、そこへ割り込む形でサイバー軽機関銃による銃撃がケラウノスの側面を叩いた。
「……!」
走る視線。
「【|行動傾向分析《トレータラス・プロファイリング》】────対象に関連する情報を検索、分析の迅速化……!」
リアラも、にこたまも、既にケラウノスの戦闘傾向を一部暴いていた。
敵の戦闘能力はサイコブレイカーという特徴や能力も相まって隙が無い。しかし強力だがその反面、それらを維持するにあたって発生する思考面──即ちソフトのセキュリティ面での負荷が大きい点。
そこを一瞬で突く事に成功した。
ホロドレスが揺れ広がってケラウノスの周囲を覆った直後、内部で増殖した薄緑色の鱗粉めいた粒子がリアラから噴出して渦を巻いたのだ。
それが電子的に致命的な被害を及ぼすと見たケラウノスが槍を手にして足元を落雷で爆ぜる。側撃雷も併発させて全方位を薙ぎ払ったが、それでも彼の前に立っていたリアラは無傷のまま軽快なステップで後退して回避して見せていた。
「……っ? 今のは──!」
「御自身の電脳を覗かれた気分はどうですか? 反逆者ジスカード・ヴァレンタイン、|殺陣《タテ》役者を演じる間にあなたの情報を施設データとアブソリュートロータス製薬の『浅層』からサルベージさせて戴きました……つまるところ、ハッキング完了です☆」
ケラウノス。
ジスカード・ヴァレンタインと呼ばれた男が戦闘用義体の内側で抑制剤を打たれた。精神的な動揺と混乱から精神的な負荷を検出した為だろう。その事実が、より彼を深い怒りに滾らせた。
「やってくれたな……ッ、貴様らァ……!」
『会社側』にしてみればブルーロータス研のサイバースペース内における守護者はケラウノス自身である。
そのデータが敵の手に渡ったなど、アブソリュートロータス製薬の上層からすればケラウノスこそ明らかな離反行為を犯したと見做されるのだ。
「油断しましたね。メガコーポの犬ならもっと自分が『守られていない』事に目を向けないといけません。自分の身は自分で守る──あなたも本来は“市民”だったのですから」
「ほざけネズミども──ッ!!」
怒りのボルテージが上がりやすい。
勿論、こういった傾向も分析済みだった。短期決戦を好む傾向にある事、そのサイコブレイカーとして覚醒した力は元スラム出身であるが為に攻撃性の高い電子能力であった事、ゆえにその能力の使用時はサイバースペース外での行使を固く禁じられていた事。
特殊な脳波による電気信号はその特異性から発見がしやすい。リアラはそこから更にプロファイリングしたデータを彼の激昂する間にもまとめ上げ、それらを全て猟兵達に同接リンクで共有した。
それが合図となる。
それまで遠巻きながら様子を伺うように立ち回っていた猟兵達が一斉に闘気を剥き出しに、ユーベルコードの気配がサイバースペース内で連続する。
彼等も怒りによって荒ぶるケラウノスの超能力によって揺らぐ波長や前兆がよく見えるようになっているだろう、リアラによるデータ収集拡散は彼女が討たれない限り続くのだ。
絶対に、逃さないとばかりにリアラがプラズマブレードを片手に回して構える。
「反逆者ジスカード、あなたはここで抹殺します!」
「手こずらせてくれた分──ただの執行妨害で済むとは思わない事です」
にこたまが正義の特殊警棒を手にリアラと並び立つ。
爆ぜる稲妻を前に一対のフォトンセイバーが空を切り、彼女達が先陣を切って行く。
●
──ケラウノスの手から離れた槍の動きはリアラの分析データを基に追跡がされている。
駆けるにこたまの傍ら、他の猟兵達が一挙に詰めて掛かる一方。特殊機構から成るフォトンセイバーを背に振り被った彼女が不意に身を捻りながら前へ跳ぶ。
バヂヂッ! と床面を奔った電撃。
槍とケラウノスの動きは連動している。強化電圧を用いた特殊装備はアブソリュートロータス製薬の兵装としても珍しくない義体武装であり、にこたまも『その気になれば』使う手だ。
(こうした武装は単騎での制圧を主目的とするガーディアンならよくある物。如何な強力な武装だろうと、見切れれば脅威には値しません──)
瞬間的な思考。
右腕部がギャリリ、と地面を滑ってから指先だけで跳躍したにこたまがフォトンセイバーを横薙ぎに払った先に突如現れたケラウノスが手刀で太刀打ちする。
サイバーアイ同士が刹那の睨み合いをした後、爆ぜる電撃がにこたまの側面を打つ。
だが小柄な婦警の装備を僅かに焦がしただけ。
「小癪な……っ」
「正義ですよ!」
にこたまの足元に投げ打たれたプラズマ化した刀身の警棒が電撃を逸らしていた。
それに気づいたケラウノスが見上げたのと同時、リアラが虚空から転移して来て両の手に握った正義の特殊警棒が頭上から叩きつけられる。飛翔して来た槍を掴み取ったケラウノスが彼女と鍔迫り合いになり、一瞬火花を散らしてから互いに蹴りを打ち合って吹き飛び距離を取る。
滑るリアラの背に左手を添えるように受け止めたにこたまが地面に刺さっていた警棒を抜いて、踊るように回転して四方から奔った電撃を躱してから疾走する。
「動きが読まれている……!? クッ、ゥゥウ──ッ!!」
飛翔する槍を起点に、自らを中継に、変則的にして強力な電撃の武装と連携をにこたま達が見切っているのを見たケラウノスが内心目を剥く。
金色の稲妻が落雷を奔らせる。
大気中で音速を越えた電撃が彼女達を捉えたと思った次の瞬間には、ケラウノスをにこたまの義体腕が右ストレートで殴り飛ばしていた。
雷よりも速く動けるはずなどあるワケがない、そう動揺する彼の前で熱反応が急激な上昇値を示す。
「雷切の逸話なんて珍しくもありません──……さっさと消えなさい」
(この反応、炉心の限界値を……!?)
ケラウノス、特命社員ジスカードがにこたまの心臓部がただの循環器ではない事に気付いて慄いた。
僅かな隙を晒した近距離。ケラウノスの脳波が警鐘をかき鳴らした事で飛翔して他の猟兵達へ牽制を繰り返していたジャベリンランスが舞い戻って来る。
音速の数倍にまで至る速度で帰還したその槍を掴み取ろうとしたケラウノスが、寸前で目を見開いた。
横合いから飛び込んで来たリアラが最悪にして最善のタイミングで槍と電撃をプラズマ化した刀身で受け止め、弾き飛ばしたのだ。
「貴様ッ……!」
「【|正義の限界突破《リミッター解除》】──ッ!」
サイバースペース内に震動が奔る。
足裏の接地面に強烈なノイズと破砕音を響かせてにこたまが電撃を纏ったケラウノスごと一直線にデータベース区画を封鎖した花弁──シャッタード・ロータスの壁面に突っ込んで亀裂を走らせた。
衝撃波と電流の嵐が巻き起こり、その奥からにこたまが飛び退いて脱する。
「……サイコブレイカーとしての能力はそれほど強くないと踏んでいましたが」
焦げ付いた右手袋を機械腕から剥がしたにこたまが正面を睨む。
視線の先、ケラウノスは──まだ生きていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
※トミーウォーカーからのお知らせ
ここからはトミーウォーカーの「猫目みなも」が代筆します。完成までハイペースで執筆しますので、どうぞご参加をお願いします!
マヤ・ウェストウッド(サポート)
「アタシの助けが必要かい?」
◆口調
・一人称はアタシ、二人称はアンタ
・いかなる絶望的状況におちいろうとも希望と軽口をたたくことを忘れない。だけどちょっとキザすぎるのが玉にキズ
◆癖・習性
・獣人特有の鋭い野生の勘で、危機を察知できる
・紅茶中毒
◆行動傾向
・おとぼけな言動や態度とは裏腹に、困っている人を放っておけず、たとえ秩序や慣習に背こうとも、自身の正義を貫こうとする
・弱者の盾になることに存在意義を見出しており、戦場では最前線で豪放に戦う。その形相は、まさに地獄の番犬
・医学に心得があり、人体の構造を知悉している。言い換えれば、人を効率よく「壊す」方法の専門家でもある
・パンジャンドラムは淑女の嗜み
「ハ――流石は管理者サマってわけかい。ちょっとは骨もあるようじゃないか!」
電撃を纏う幽鬼のようにして、男は猟兵を睨みつけたまま立っていた。その様に舌先で軽く唇をなぞり、マヤ・ウェストウッド(フューリアス・ヒーラー・f03710)は挑発するような笑みを一瞬だけ浮かべ――そして次の瞬間には、同じ笑みの中に凄絶な怒りの色を露わにしてみせた。
「――だけどね。アンタらのやり口は、アタシを怒らせるのに充分すぎたよ。きっちり『治療』してやるから、せいぜい覚悟しな……!」
男は答えない。ただ、荒い呼吸に似た駆動音と排熱音だけが、空間にやけにうるさく響いていた。その手に握られた槍に絡みつく電撃は、バチバチと耳障りな破裂音を上げながら巨大な茨の如く成長を続けている。使い手の敗北や死の危機に比して威力を増すという雷は、猟兵の猛撃によって今や文字通りの必殺兵器の域にまで育とうというのか。
けれどその槍が繰り出される瞬間を、マヤは不思議と見切っていた。計算によるものではない。駆け引きで作り出したものでもない。ただ純粋な獣の勘を以てそれを成し遂げた彼女は、義眼から撃ち出した重力子で強引に敵の攻撃ベクトルを捻じ曲げ、敵の握ったその槍で逆に敵の動きを縫い留めてみせ、そして。
「機械化義体であろうと、基礎構造に変わりはないみたいじゃないか! ――そら、そこだ!」
繰り出された獣牙の如き超獣戯拳が機械装甲の腹部を容赦なく穿ち、そうしてオブリビオンの義体が宙へと吹き飛んだ。
成功
🔵🔵🔴
ロウガ・イスルギ
サイバースペースだろうとそこが「戦場」なら傭兵は負けられない、さ
アドリブ・連携歓迎
飼主いなけりゃ飢えて死ぬ犬と、手前の頭で食い扶持探すドブネズミ。
果たしてどっちがマシなのか、ねえ
ケラウノスと対峙したら挑発混じりに煽り判断や思考、演算を阻害
|管理者を気取《イキが》るなよ、中間管理職!ゲームはあんまり
やらねえがこういうのってお前さんを倒せばステージクリア、だろ?
そうそう言い忘れるトコだった
イサヲ・キバ、本日この場を持って御社を退職致します、てな!
退職金はツケにしとくぜ!
フック付きワイヤーグレイプニルを避雷針として使用
【ロープワーク】で電撃を受け流し【武器落とし】による
槍の奪取または破壊を狙う
成功したらUCにて攻撃
槍さえなけりゃこっちのモンだ!ただの防御や捕縛用と思ったか?
|貪る者《グレイプニル》の名が伊達か、篤とその身で味わいな!
断片化してやるよ、デフラグ不能なくらいにな!
戦後処理も忘れずに、と
そうだ、パーツ探して持って行かねえと。
……ま、契約もあるし生きて帰れた証に良さげなの貰っていこう
「飼主いなけりゃ飢えて死ぬ犬と、手前の頭で食い扶持探すドブネズミ。果たしてどっちがマシなのか、ねえ」
スラム街の光景を思い返すように目を細め、次いで眼前の敵を射抜くように見据えて、ロウガ・イスルギ
(|白朧牙虎《 我 》・f00846)は肩をすくめる。それを正しく挑発と理解したのだろう、したたかに床に背を打ち付けた筈の敵もその場に槍を突いて立ち上がり、機械装甲越しにロウガをじっと見つめた。
「黙れ。身の程を知れ、ケダモノ風情が」
「|管理者を気取《イキが》るなよ、中間管理職! ゲームはあんまりやらねえが、こういうのってお前さんを倒せばステージクリア、だろ?」
「舐めた口を聞くなと言っている、地底のクズどもめ……!」
「熱くなるのは図星だからだろ? この程度でカッカしてちゃあ、上等な義体もあっという間にオーバーヒートでお陀仏だな」
言い終えるより早く男が槍を手に床を蹴るのを、無論ロウガは見逃していなかった。牽制気味に敵の足元へ弾丸を連続して叩き込み、その移動経路を絞っていきながら、彼は冷静に己に課すものを確かめる。
ここは戦場だ。であるなら、傭兵の成すべきことは――戦い、勝つことのみ。
膨れ上がった雷電を纏い、神速の槍が白虎を穿たんと唸りを上げる。けれどその雷がロウガの心臓を捉えることは遂になかった。まるで綱を渡したように空中を鎖のように雷が走り、輝きを失った槍の穂先はそのまま見えざる力に――否、空間に紛れるように打ち出されていたワイヤーにすんでのところで絡め取られる。ロウガが軽く指先を引けば、高速で巻き取られたワイヤーは敵の手から強引に槍を引き寄せんと張り詰めて――そしてここまでの戦闘で疲弊した敵には、それを握力ひとつで止めるだけの駆動力は既に残されていなかった。
「槍さえなけりゃこっちのモンだ! ただの防御や捕縛用と思ったか?」
無防備な敵の義体を、放たれたワイヤーが十重二十重に絡め取る。その鋼線の名は、|貪る者《グレイプニル》。その名に違わぬ威力でサイバースぺースの番人たる男を締め上げながら、ロウガは獰猛に牙を見せて言い放つ。
「断片化してやるよ、デフラグ不能なくらいにな!」
雷が爆ぜる。或いはそれは、黄金の機械化義体の断末魔だったのかもしれない。管理者の最期と同時に蓮の花の隔壁が砕けて消えるのを確認し、ロウガは呟く。
「イサヲ・キバ、本日この場を持って御社を退職致します――つっても、もう聞こえちゃいねえか」
ならば、後は行うべき処理を行い、帰還するだけだ。ほどなくして、この場に収められていたデータは保管スペースもろとも破壊され――そして、電脳空間から帰還した猟兵の足音が、ひとつのフリーポータル前に低く響いた。
大成功
🔵🔵🔵