シトルイユ・ヴェリテの可惜夜
●秋色の御祭り
夏の緑から秋の赤へ。
葉の色が移り変わりし街に夜が訪れる頃。人々は祝いの準備を進める。
肌を撫でる風は少し冷たくて、冬の足音が聞こえ始めているけれど。
数多の実りに満ちるこの日に、感謝を込めて――。
木々の間に釣るのは南瓜のランタン。ゆらゆらと隙間から零れる炎の光が幻想的に世界を照らせば、此の場はすっかりお祭り色。
――ほんの一匙の悪戯を仕込んだのは内緒だよ?
●甘い御話
「どこの世界でもハロウィン一色ですけど、勿論アックス&ウィザーズでもです!」
楽しそうに声を弾ませて、ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は猟兵へと告げた。世界によってハロウィンの意味合いは少し違うだろうけれど、アックス&ウィザーズでは収穫祭と云う意味合いが強いようだ。
冬が近づく今時分。色付く木々に、数多の実りに、感謝を捧げつつ楽しく過ごす――それは、自然と神と共に暮らすこの世界らしい催し。
「けれど、『オバケカボチャ』っていうモンスターが現れたみたいなんです。それは独自では動けずに、他のモンスターに寄生するみたいで……」
その南瓜に寄生されたモンスターは身体能力が強化され、凶暴さが増してしまうらしい。そんな敵が街に訪れれば一般人などひとたまりも無いだろう。
だから、そうなる前に猟兵達に赴き倒してきて欲しいのだとラナは語る。
寄生されたのは、アルラウネと云う植物型のモンスター。その身にオバケカボチャを携えた彼女は、凶暴さが増したせいかその金切り声は遠く遠く響くのだ。
だから、攻撃されないようにすることが大事なのだが――。
「彼女、見た目通り幼いみたいで。楽しいお話が大好きなんです」
それは寄生されても根強く残る、モンスター自身の特性なのだろう。猟兵達がこれ、という己の楽しい話――冒険の記憶や、思い出の景色、甘くとろける恋のお話などを紡げば、きっと油断を誘えるはず。
その隙に彼女を攻撃するか、仲良くなればオバケカボチャはぽろりと取れてしまうので、それを回収すれば任務は完了だ。
●一匙の悪戯
無事に終わった頃には夜も訪れ、街では収穫祭が始まっているだろう。
街中に広がる大きな樹の枝の葉は赤く色付き、その赤を染め上げるのはジャック・オ・ランタンの灯り。ゆらゆらと風に揺れ、照らす光が揺らめく様はどこか幻想的で、妖しくもあるから不思議なもの。
収穫祭と云う名の通り、主に広がるのは飲食物の露店。南瓜を使ったマフィンやスープ、栗を用いたパウンドケーキ。秋と云えば葡萄や林檎もあるだろう。この季節ならではの品々は、どれも数多の恵みを受け美味しい一品に仕上がっている。
先の戦いで『オバケカボチャ』を手に入れた者には、特別な南瓜のタルトを用意してくれるようだ。普通のものよりも滑らかで、甘いけれど後にしつこく残らない絶品。
「あと、ですね。このお祭りの隅っこにある小さなお店。そこではドリンクがあるんですけど……」
店主の女性は年齢不詳。いつからこの露店を出し始めたのかも分からない。
新鮮な果物のジュースや、スパイスを煮詰めた甘くも刺激的なチャイなど。様々な凝ったドリンクがある中、人気なのは色が綺麗なオリジナルドリンク。――その中でも、赤と青の二層のドリンクには秘密がある。
「甘酸っぱい不思議な味なんですけど……これを飲むと、『真実を一言』零してしまうみたいです」
キラキラ星が踊る不思議色。そのドリンクを傾けた後、零れる言葉は真実のみ。
混ぜてはいけない。混ぜては真実を飲み込んでしまい、効果が出なくなってしまう。――逆に、これ以上はと思った時には混ぜてしまえば普通のドリンクになるのだ。
これは、このお祭りの日にほんの少しだけ混ぜた悪戯心。――そう、それは小匙一杯程度の、ほんの少しだけ。
その悪戯を知っていて、手にするかどうかもアナタ次第。折角だから、真実を聴いてみるのもまた、今日と云う特別な日に相応しいかもしれない。
「真実ってちょっとドキドキしませんか? あ、ドリンクはお酒でもジュースでも出してくれるみたいです。……勿論、未成年のお酒はダメですよ?」
そっと一言注意を添えて、ラナは楽しそうに微笑む。
寒い寒い冬が訪れる前に、目一杯楽しくて、愉快な日を過ごそうか。
ゆらり、ゆらり。
悪戯ランプが照らすのは、不思議な不思議な世界の一幕。
普段と違う装いをすれば、全てを覆い隠してくれるのかもしれない。
公塚杏
こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
『アックス&ウィザーズ』でのお話をお届け致します。
●シナリオの流れ
・1章 集団戦(アルラウネ)
・2章 日常(森のお茶会)
●1章について
元から植物系ですが、頭や腕などどこかに『オバケカボチャ』が着いています。
元のアルラウネの特性なのか、楽しいお話が大好きです。
彼女の為に楽しいお話を聞かせてあげると、カボチャを弱体化出来、無傷で譲ってくれます。
楽しいお話は個体により違っていて、冒険譚、恋愛、好きな事等々。大体何でも大丈夫です。
南瓜は1体につき1つ。お喋りしなくても敵を倒せば手に入ります。
●2章について
時刻は夜。森の中にある街での収穫祭。
ジャック・オ・ランタンの灯りが揺れる大きな赤い葉っぱの樹の下で、並ぶ店は美味しそうなものやハロウィンっぽい小物を用意しています。
オバケカボチャを渡した人にだけ特別なパンプキンタルトを用意してくれます。ジャック・オ・ランタン型のチョコプレートが乗ったハロウィン感満載です。
青と赤の二層に、キラキラと星粒が瞬く特別なドリンク。
一言だけ『真実』を零してしまう。そんな悪戯が用意されています。
お声掛け頂いた場合のみ、ラナがご一緒させて頂きます。
●仮装について
特に指定が無ければ言及は致しません。
仮装をする場合はお好きな仮装をご指定下さい。南瓜行列の装いでも大丈夫です。
【何年の南瓜行列で、何の仮装】かをご記載下さい。(リプレイ返却までステータスで該当イラストを活性化しておいて頂けますと、探しやすくて助かります)
●その他
・全体的にお遊びです。
・どちらかだけのご参加も大丈夫です。
・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。
以上。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『アルラウネ』
|
POW : ルナティック・クライ
【聞く者を狂わせるおぞましい叫び声 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : スクリーミング・レギオン
レベル×5体の、小型の戦闘用【マンドレイク(アルラウネの幼生) 】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ : リパルシブ・シャウト
対象のユーベルコードに対し【それを吹き飛ばす程の大音声 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:エル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●秋空のお喋り
陽が暮れるのが早くなった秋の頃。
肌を撫で、髪を揺らす風は冷たさを帯び。冬へと一歩一歩近づく僅かな狭間特有の過ごし易い空気。風に揺れる、赤や黄に色付いた葉もどこか心地良さそうに見えた。
此処はアックス&ウィザーズに広がる森の中。
葉の間に見える空の色は秋特有の高く高く見える空だけれど、その色は僅かに赤く染まっているようで、夜の帳が下りるのも迫っていることが分かる。
色付く葉のように、秋桜咲き乱れるここら一体も朱色に染まっていくのだろう。そんな景色も美しいのだろうが――静かに眺めるには、邪魔な存在が居る。
『ひまだわ』
『おしゃべりしましょ』
『あなたのおしゃべりたのしくないのよ』
足元の根が足のようにうねる少女達は、集いながらひそひそお喋り。けれど森の中で暮らす彼女達には楽しいお話など出来るはずも無く。直ぐにつまらなそうに頬を膨らませて、花畑の中に転がった。
その時、一人の少女が大きな瞳を輝かせる。
『しってる? この森のさきにはおいしいものがあるのよ』
『なにそれ!』
花の蜜や果実を主に食す彼女達だが、新たなものには興味津々。気になってしまえば直ぐに行動に移してしまうのは、その見た目通りの幼い子のよう。
一人が森を抜けようと動き出せば、他の子達も後を追い。気付けばそれなりの数が森の先――人々の住まう街へと向かっていく。
彼女達はアルラウネ。
さほど強くは無い植物型のモンスターの為、駆け出しの冒険者でも対策さえすれば苦労すること無く倒せる存在。
けれども、本来ならば無い筈の怪しい顔をした南瓜が。彼女達を彩っていた。
ヴァルダ・イシルドゥア
ディフさん(f05200)と
おしゃべりは今もあまり得意ではなくて
語り部のようにうまく紡げるか不安で
ああ、でも。木々に近しい彼女らであるならば
……がんばります!
こつこつ、萠ゆる草花をノックする仕草
顔を出した樹木の精たちに、今日は戒めのすべを強請らずに
花弁舞わせ、雪花と共に
みなさん、おうたはお好き?
これより語るは母なる大樹より出でしもの
雪の末姫のものがたり
われらが姫君のものがたり!
これは|あなた《ネージュ》のものがたり
青い瞳の王子さま、その手に委ねられた冒険譚
さあさ、ディフさん
どうぞ舞台へ、あなたがこの舞台の王子さま
アナリオンもお手伝い、麗しのヴィランのご登場
巡り巡るは――『めでたし、めでたし』!
ディフ・クライン
ヴァルダ(f00048)と
まずは貴女の手伝いを
花弁に合わせ雪花を舞わせ
語りを聞いていたら
なるほど、そういう意図
突然の指名にオレもネージュも驚いたけど
貴女が呼ぶなら
舞台に上がるのは得意じゃないが頑張ってみよう
張り切るネージュと共に
彼女はネージュ
大樹から生まれた冬の末姫
真っ黒な服を着た人形と友達になった雪姫は、母の許しを貰って冬の森を出た
その日から、姫の毎日は色んな冒険で溢れている
雪山に住む竜と隠れんぼしながらの宝探し
海の底の国の大冒険
跳ねまわるネージュに合わせ
氷で舞台を作り、時に竜や鯨を作り出し
どれも楽しく賑やかに
さあ、物語はこれにて終幕
楽しんで頂けたのなら、お代はそのおばけ南瓜を頂戴しても?
●
――おしゃべりしましょ。
紡がれる少女達の甘い声に、ぴくりと長い耳を反応させて。ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)は胸元で両手を握り締めた。
引っ込み思案である彼女は、数多の出逢いの果てでもおしゃべりはまだ得意では無い。だから、語り部のようにうまく紡げるかは不安だが。
(「ああ、でも。木々に近しい彼女らであるならば」)
自然と共に生きた彼女は、人間よりも植物に近しい彼女達のほうが少しだけ歩み寄りやすい。それは、今まで触れてきた経験値の差なのだろう。だから――頑張ろうと意志を固めて、さくりと葉を踏みしめる音を立てて。彼女は辺りに萌ゆる草花へと拳を向けた。
それは、ノックをする仕草。
ノックとは程遠いかさりとした音が響いたけれど、呼び出された樹木の精達へヴァルダが花弁を舞わせることをお願いすれば、少し後ろで様子を見守っていたディフ・クライン(雪月夜・f05200)は声が掛からずともそうっと雪花を添えた。
華やかな花弁と、温かく冷たい雪花を傍に。
優しく背中を押された感覚にひとつふたつと深呼吸をして、ヴァルダは唇を開く。
「みなさん、おうたはお好き?」
ふわりと笑みを浮かべ、問い掛ければ。こちらに向けていた紅い瞳の少女達は互いに顔を見合わせると、思い思いに言葉を零す。
『すきよ』
『おうたをうたうとたのしくなるの』
『ちがうわ、お花がきれいにさくのよ』
子供らしい無邪気な答えに微笑んで、それならと彼女は微笑むと。
「これより語るは母なる大樹より出でしもの。雪の末姫のものがたり。われらが姫君のものがたり! これは――ネージュのものがたり」
甘く語られる言葉の最後は、くるりとディフを振り返り。微笑み手を差し伸べて、ヴァルダはディフへ「どうぞ舞台へ」と紡いだ。
突然の指名に、ただ見守っていようと思っていたディフとネージュは瞳を見開き瞬いていたけれど。彼女が呼んだなら応えなければいけない。舞台に上がるのは得意では無いけれど、頑張ろうと想えるのも彼女のお陰。
肩に乗る雪精のネージュも張り切っているようだし、一歩二歩と優雅に歩み出れば彼へと瞳が注がれる番。敵なのにじいっと静かに見つめる視線にディフは小さく笑むと、そっと肩の雪精を撫でながら台詞を紡ぐ。
「彼女はネージュ。大樹から生まれた冬の末姫」
真っ黒な服を着た人形と友達になった雪姫は、母の許しを貰って冬の森を出た。その日からの、溢れる程の姫の冒険譚の御話。
雪山に住む竜とかくれんぼしながらの宝探し。
海の底の国の大冒険。
次々と語られる言葉は即興劇とは思えぬ程夢と冒険に溢れていて。主役らしく飛び回るネージュに合わせ、ディフは氷で舞台を作り、竜や鯨を作り出し。華やかに、楽しく賑やかに物語が語られる。
氷で出来た故に、色は無いけれど神秘的で幻想的な世界にアルラウネ達はすっかり虜。花々に満ちた森の世界しか知らないからこそ、透き通った氷世界が珍しいのだ。
大冒険の果ては――やはりヴィランの登場。
ヴァルダがそっとアナリオンを呼べば、ネージュの傍へと飛んでいった彼も愛らしいヴィランとして混ざりまた舞台が華やかになる。くわぁ、と小さな身体で牙を向いて、懸命にヴィランを務めようとするアナリオンもまた愛らしく。そんな彼へと対峙する冬の姫の勇気で、この物語は終焉。
「巡り巡るは――『めでたし、めでたし』!」
虜になったのはアルラウネだけではない。ディフから紡がれる物語と、懸命に演じるネージュの姿にすっかりヴァルダも楽しんでしまったけれど。ヴィランを倒したところで現実を思い出し終幕の合図を言葉にする。
彼女の言葉にぺこりとお辞儀をするネージュとディフ。倣うようにアナリオンもお辞儀をすれば、生ける植物たちから湧き上がるのは拍手の音色。
その心地良い音色を胸に満たしながら――。
「楽しんで頂けたのなら、お代はそのおばけ南瓜を頂戴しても?」
少し顔を上げたディフが優雅に微笑めば、幼い無垢な眼差しを向けた少女達は彼等の前へと数多の悪戯南瓜を積み上げていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御簾森・藍夜
【朱雨】
黒狼の耳と尻尾+猟師の衣装で手に梟葬の狼猟師仮装
……興味深い生き物だ
が、今日はそういうことをしに来た訳ではない
話……話か、ふむ
深海の話をしよう
そこの君、少し俺の話を聞かないか
|異国《キマイラフューチャー》の話だが、
海という深く大きな水溜まりを模した遊び場の深海……そうだな、深く暗い、
僅かばかりの明かりだけで生きる水に包まれた遊び場に大切な人と行ったんだ
そこは光るクラゲや魚が悠然と泳ぎ、マリンスノーという海中雪を見たり、
鯨という――そうだな、酷く大きく雄大な生き物を見たり
見たことの無い世界は中々面白いぞ
陸に無い海の話、気に入ってくれるだろうか?
暁は水花星の話?俺はこの間の深海の話をな
楊・暁
【朱雨】
狐耳付赤頭巾+葡萄酒とパン入りの籠持ち
赤ずきんの仮装
驚かせねぇ距離から藍夜と声かけ
…楽しい話、好きなんだろ?
少し前なら話せる事なんて多くはなかった
けど今ならみんなとの色んな想い出がある
語るのは藍夜と行った惑星の話
水の中に花畑があって、すげぇ綺麗なんだ
青空の代わりに、青く澄んだ水と|泡沫《あわ》…
色んな色の花が柔らかく揺れるたびに
光を反射してきらきら煌めいて
…本当に、夢みてぇな場所だった
藍夜の"大切な人"のフレーズには
こそばゆくて視線逸らして耳ぴぴぴと動かし
最後まで聞き
…深海も、綺麗だったよな
気恥ずかしい事もさらりと言う様に苦笑滲ませ
…話、気に入ってくれたか?
南瓜貰えたら「ありがとう」と
●
花々と共に在る、生ける植物の幼き少女。
「……興味深い生き物だ」
彼女達が囀る姿に、御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)は瞳を細めぽつりと零す。興味深いが、今日はそういうことをしに来たのではないと。改めて目的を確認すると彼は小さく首を振れば、合わせるように黒狼の耳が揺れている。
「……楽しい話、好きなんだろ?」
自分と同じように耳が揺れる様が少し嬉しいのか、ふわふわの尾を緩やかに揺らしながら楊・暁(うたかたの花・f36185)はそっと藍夜へと声を掛ける。彼の言葉に視線を向けると、藍夜は暫し考えるように顎に手を当て。
「話……話か、ふむ」
頭に巡るは様々な景色。そんな彼の横顔を見上げた時、気配に気付いたアルラウネ達の眼差しが一斉に暁に向けられ彼は一歩後ずさった。
初手を間違えれば戦いになってしまう。
だから――暁は慌てた様子で唇を開き、彼自身の冒険譚を語り出す。
「――これは、藍夜と行った惑星の話」
水の中に在るのは花畑。とても綺麗で、幻想的なその世界は、青空の代わりに青く澄んだ水に泡沫の泡がぷくりと浮かぶ。
色んな色の花が水中故の風とは違う揺れ方をする度に、注ぐ陽射しを反射してきらきらと煌めいていて――。
「……本当に、夢みてぇな場所だった」
大きな瞳を細め、あの日の景色を思い出し暁は紡ぐ。
とても楽しかった記憶が蘇り、ぴこりと赤頭巾の下の狐耳を揺らしてしまったのは無意識に。葡萄酒とパンの入った籠もまた、揺れる姿はご機嫌に見える。
――少し前ならば、話せることは多くは無かった。
けれど今の暁は、多くの人と縁を紡ぎ、狭く強制された世界では無く広い世界へと羽ばたき数多の経験と思い出を紡いでいる。
そのひとつを少女へと紡げば、彼女達はキラキラと瞳を輝かせ未知の世界を夢想する。
そんな嬉しそうな彼の姿と、その紡いだ物語に。藍夜も耳を傾けていたけれど、彼が紡ぐ話もまた己の冒険譚。
「そこの君、少し俺の話を聞かないか」
ごろりと横たわりひらひら舞う蝶へと手を伸ばしていたアルラウネへと声を掛ければ、彼女はゆるりとこちらを見て耳を傾ける。今はまだ興味を持たないその様子に小さく笑みを零した後、彼が零すのは異国の――此処とはまるで違うイカした未来の世界の話。
「……そうだな、深く暗い、僅かばかりの明かりだけで生きる水に包まれた遊び場に大切な人と行ったんだ」
森の中しか知らない彼女達でも分かるようにと、言葉を変えて藍夜は紡ぐ。
海は大きな水溜まり。
深海は深くて暗い世界。
そんな彼の優しさと、『大切な人』と云うフレーズに暁は顔を上げぴぴぴ、と耳を動かし反応する。こそばゆい気持ちが隠せなくて、大きな瞳は落ち着きなく揺れてしまう。
そんな暁の様子に気付いているのかいないのか。口許に笑みを浮かべたまま、あの日の景色を思い出し藍夜は言葉を続けていく。
光るクラゲや魚が悠然と泳ぎ、マリンスノーと云う海中雪を見たり。鯨――酷く大きく雄大な生き物を見たりしたのだと。
『おおきいってどのくらい?』
『このくらいかしら?』
――最初は興味もそこまでなさそうだったアルラウネは身体を起こし、前のめりで藍夜の話を聞いている。暁の話が終わったことにより他の少女も集い、見たことも聞いたことも無い生き物の話に無邪気に瞳を輝かせ、大きさを競うように身体で表現する様子に藍夜は「もっとだ」と語った。
「見たことの無い世界は中々面白いぞ」
狭い世界しか知らない彼女達へと、楽しさを分けるように紡げば――。
「……深海も、綺麗だったよな」
同じように狭い世界しか知らなかった暁が、あの日を思い出し微笑みながら零す。藍夜の紡いだ言葉には気恥ずかしさが拭えないけれど、あの日の記憶が輝いているのが同じだと分かれば嬉しさも感じる。
陸に無い海の御話。
水花星の御話。
幻想的で、緑とは違う青の世界は少女達には新鮮だっただろう。
気に入ってくれたかと問い掛ければ、すぐに彼女達は喜びを表現するようにオバケカボチャを差し出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラヴィ・ルージュブランシュ
この世界にも不思議な植物さんがいるのね?
みんなとーっても可愛い声をしているわ!
悲しい叫び声を上げるより、ラヴィと一緒にお話ししましょ?
ラヴィはね、薔薇だから
昔はお花畑から出られなかったの
背筋をしゃんと伸ばして綺麗に咲くだけのお仕事は
本当にたいくつだったわ!
そんな時は白燐蟲さんとお話しするかご本を読んでいたの
蟲さんは分けてはあげられないけど、ご本はいかがかしら?
お友達と感想を話し合うのって、きっと楽しいわ!
この子たちが字を読めるか分からないから
絵がいっぱいの可愛いご本
だって誰かが来てる時しか退屈を紛らわせないなんて悲しいもの
…ん?読んで欲しいの?
いいわ、だって夜までたっぷり時間があるものね!
●
揺れる秋桜の中、こそこそお喋りする緑の人々。
「この世界にも不思議な植物さんがいるのね? みんなとーっても可愛い声をしているわ!」
そんな彼女達の姿を見て、かさりと草花を優しくかき分ける音色を奏でながらラヴィ・ルージュブランシュ(甘惑プロロンジェ・f35723)は甘い声を上げる。
愛らしい彼女達には、悲しい叫び声は似合わない。だから、ラヴィと一緒にお話ししましょうと語り掛ければ、彼女達は喜びラヴィの周りへと集っていく。
さわさわと秋風に吹かれれば、アルラウネ達の緑の葉も。ラヴィの薔薇も揺れ動く。
「ラヴィはね、薔薇だから。昔はお花畑から出られなかったの」
それは甘くも残酷な童話の世界。アリスラビリンスのとある小国にて、庭園で最も美しく最も気高い薔薇の花。その化身こそがラヴィなのだ。
一番の美しさには訳がある。きちんとラヴィが、背筋をしゃんと伸ばして綺麗に咲こうと努力をして仕事をこなしていたから。
でもね、そんな日々は――。
「本当にたいくつだったわ!」
ぼふっとスカートを叩いてラヴィは声を上げる。それはまるで、あの日の退屈を今、発散するかのように。
『わたしたちはうごけるわ』
『でもしゃんとのばして、きれいに咲くのはいっしょね』
こそこそお喋りするアルラウネ。同じ植物のヒトであると云うことで仲間意識が芽生えたのだろうか。先程よりも近い距離で、ラヴィの語りを待っている。
大きな赤い瞳が向けられれば、ラヴィもにっこり笑みを零して。そんな退屈な時は、白燐蟲とお喋りをするか本を読んでいたのだと。
「蟲さんは分けてはあげられないけど、ご本はいかがかしら? お友達と感想を話し合うのって、きっと楽しいわ!」
彼女の内に潜む蟲は彼女だけのもの。けれど一緒に本を読んで語り合う瞬間はきっと時間も忘れてしまうくらい楽しいひと時だから――ラヴィは用意してきた可愛らしい絵が沢山載ったカラフルな絵本を手にすれば、アルラウネ達は瞳を輝かせ本を凝視する。
彼女達が字を読めるかは分からなかったからこの本を選んだのだけれど、その考えは当たっていたようで文字では無く絵を眺めている。
『きれいね』
『お花がいっぱい咲いているみたいよ』
けれど、色に溢れる本の世界をすっかり気に入ったようで。覗き込みながら優雅に頁を捲る仕草は楽しそう。そんな彼女達の姿に、ラヴィは嬉しそうに微笑んだ。
『これはわたしのいろよ』
『じゃあこっちのいろはあなたのいろね』
緑の葉を指差して、自分達の色だと零せば。今度は赤の花を指差して、ラヴィを見つめてアルラウネは言葉を紡ぐ。その言葉にラヴィは「まあ……!」と声を上げると、くすくす甘い笑い声を零していく。
この色の世界はどんなだろう。気になる眼差しを受け止めれば、ラヴィは最初の頁を開き花弁のような唇から物語を紡ぎ出す。
――誰かが来ている時にしか、退屈を紛らわせない。
――そんな彼女達に向けられた、温かな時間。
大成功
🔵🔵🔵
バンリ・ガリャンテ
【トリ・ステ】で参加、アドリブ◎
ハロウィン衣裳:ホラーなダイナーガール
おうとも。俺たち元より『楽しいこと』が大好きだ。
アルラウネさんと仲良くなってオバケな南瓜をお譲り頂こうぜ。
お二人に続いてウェイトレス姿でご挨拶するよ。血糊のついたエプロン姿にスケート靴なんて履いてんの、面白いだろう?俺はバンリってんだ。
ご披露するお話は…
青空柄の傘をさし雨降るお空を散歩した、メノンさんとのサクラミラージュ。
赤白の花咲く海中で妖怪花火が閃いた、エルザさんとのカクリヨファンタズム。
此方とは違う世界での大切な思い出話。
勿論アルラウネさん。
あなた方との一時も、忘れられない大切な『楽しいこと』なんだ。
エルザ・メレディウス
【トリ・ステ】で参加、アドリブ◎
ハロウィン衣裳:お菓子屋さんなバニーガール
二人と共に、アルウラネの元へと。彼女たちに楽しいお話を聞かせ、無傷でオバケカボチャを譲っていただくことを心掛けます
ねぇ、よろしければ私達のお話を聞いていって?
私達三人のお話の輪にアルウラネ達も招き、手にしたプレートからお菓子や紅茶をみんなに配り、談話会を盛り上げます。
私がお話するのは、群竜大陸について。帝竜との戦いの冒険譚を皮切りに、花々が咲き誇り陽光が色彩鮮やかに降り注ぐ現在の様子を語ります。
ねぇ、ほかに聞いてみたい事なにかあるかしら? なんでも答えさせて? 皆さまにもっと私やバンリ、メノンの事を知って頂きたいからー。
メノン・メルヴォルド
【トリ・ステ】で参加
アドリブ◎
ハロウィン衣裳:クラシカルなメイドさん
もちろん、ワタシも同じ気持ちなの
楽しいお喋りの時間、美味しいお菓子と紅茶を楽しむ時間、何もかもがステキな事
初めまして、メノンです
一緒に不思議な夜を過ごしましょう?
エルザさんのお話は冒険譚のようでワクワクするの
バンリちゃんのお話に思い出を振り返りながら相槌を返し
ワタシは…どんなお話がいい、かしら
言いつつも内容は決まっているの
今、この瞬間のお話
未来では、この瞬間が想い出となって心に残るのが嬉しい
アルラウネのアナタ方と、大好きな人達と…
皆の顔を愛しげに見回して
もし可能なら、オバケカボチャにもそっと触れ
出会ってくれて、ありがとうなのよ
●
秋空染まる秋桜の花畑にて。
楽しそうに戯れる緑人を見つければ、三人の少女達は顔を見合わせくすくすと花の囁きのような愛らしい笑い声を零した。
今目の前に居る存在はモンスター。けれども、彼女達はその身体で揺れるオバケカボチャにただ支配されているだけだと聞いたから。心優しい彼女達は、無傷でアルラウネ達を支配から救い、更に美味しい南瓜を頂こうと考えているのだ。
そう、だって――彼女達は元より、『楽しいこと』が大好きだから。無邪気にお喋りをする彼女達と、きっと分かり合える筈。
秋桜畑に足を踏み入れて、まず広げるのは温かな紅茶にお菓子。、バニーガールのお菓子屋さんなエルザ・メレディウス(復讐者・f19492)は、率先してトレーの上に乗せたお菓子を配っていく。
温かなカップを手にするのがお似合いなメノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)は長いスカートがクラシカルなメイドさん。そっとカップで柔らかな手を温めながら、楽しいお喋りの時間も、美味しいお菓子と紅茶を楽しむ時間も。何もかもがステキなことだとワクワクが隠せず笑みに零れていた。
「ねぇ、よろしければ私達のお話を聞いていって?」
準備が整えば、ちらちらとこちらの様子を伺がっていたアルラウネ達に向けエルザが声を掛けてみれば、彼女達は小さく『きゃぁ……!』と驚いたような悲鳴をあげた。
「初めまして、メノンです。一緒に不思議な夜を過ごしましょう?」
「血糊のついたエプロン姿にスケート靴なんて履いてんの、面白いだろう? 俺はバンリってんだ」
優しい笑みを零しメノンが自己紹介と共に彼女達を手招きすれば、バンリ・ガリャンテ(Remember Me・f10655)はその場で軽快にくるり回って血糊の着いたエプロンをアピールする。短くボリュームたっぷりなスカートがふわふわ揺れる姿と、怪しげな血糊のアンマッチさがどこか不気味で愛らしい。
優しく微笑み、温かな眼差しを向ける少女達のその姿に。アルラウネ達は顔を見合わせると、彼女達の輪に加わる。いらっしゃいと招き入れる言葉と共に、お菓子と紅茶を配れば見たことも無いものにアルラウネ達は不思議そうに小首を傾げる。
こうするだと、バンリがエルザから貰った南瓜のクッキーをパキリと音を立て食べてみれば、アルラウネ達も小さな口に含み。その広がる甘さとほろほろ砕ける心地に嬉しそうに頬に手を当て瞳を輝かせる。
そんな姿は緑人などでは無く、年相応の幼い女の子のようで。エルザは自分のお菓子を気に入ってくれたことに嬉しそうに笑みを浮かべると――紅茶を飲んで一心地。
さあ、何を御話しようか。
最初に唇を開いたのは誰だろう。ちらりと三人は視線を交わし、誰から紡ぐか瞳で語る。その中で、最初に紡ぎ出したのはエルザだった。
唇を開く彼女の姿を、ワクワクと期待の眼差しでアルラウネが見ている。その視線にどこかくすぐったく感じながら、彼女が語るのは群竜大陸――此の世界だけれど、どこか遠い場所の御話。
訪れたのは伝承に聞いていた帝竜との戦いの時。ワクワクするような冒険譚を語りつつ、花々が咲き誇り陽光が色鮮やかに降り注ぐ、美しき現在の様子を語り出す。
『ここではないどこか?』
『とおいけどちかい?』
エルザの御話は身近だけれど遠い御話に、アルラウネ達は興味津々。狭いこの森しかしらない彼女達にとっては、小さな変化も大きな冒険の御話となる。
かさかさ揺れる、彼女達の身体に飾られたオバケカボチャ。けれど攻撃はしてこないほど、話に夢中になっている彼女達に微笑むと――今度はバンリが語る番。
彼女が語るは、青空柄の傘を差して、雨降る空をメノンと共に散歩した永久の桜咲く世界の御話。赤白の花咲く海中で、妖怪花火が閃いた懐旧漂うエルザとのひと時。
そう、それは此処では無い違う世界での、大切な思い出話だ。
『そらをあるくの?』
『うみ? はなび??』
聞いたことの無い言葉。見たことの無い世界。それもまた、アルラウネ達は興味津々で、思い出を語りながら質問を受ければ、丁寧に説明を混ぜながらバンリは語る。
そんなバンリの御話に、メノンは静かに瞳を閉じるとあの日を思い返しながら相槌を返していた。エルザのワクワクする冒険譚も素敵だったし、それならワタシは――。
そう思った時、バンリの話が終わり一斉にメノンへと視線が向けられる。その視線にほんの少しだけ頬を染めながら、「どんなお話がいい、かしら」と彼女は紡いだ。
けれども、そう紡ぎながらも決まっている。
メノンが語るのは――。
「今、この瞬間のお話。未来では、この瞬間が想い出となって心に残るのが嬉しい」
アルラウネ。エルザ。バンリ。
一人一人の顔をしっかりと見るメノンの眼差しはとても愛おしげで柔らかく、紡がれる言葉もどこか甘い。そう、大好きな人達との時間は何時までも思い出となり輝くのだ。
そしてそれは、他の二人だって同じ。
「勿論アルラウネさん。あなた方との一時も、忘れられない大切な『楽しいこと』なんだ」
「出会ってくれて、ありがとうなのよ」
そっとバンリがメノンの言葉を掬うように言葉を繋げれば、こくりと頷きメノンは笑顔と共にお礼を述べる。彼女達の温かな言葉に、その眼差しに――嬉しそうに笑うアルラウネの身体からは、いつの間にかオバケカボチャは取れその場にころり転がっていた。
これで任務は完了。けれど――。
「ねぇ、ほかに聞いてみたい事なにかあるかしら? なんでも答えさせて?」
もっと知って頂きたいから、とエルザが紡げば。アルラウネ達は興奮気味に瞳を輝かせ言葉を零す。この森の外の景色に外の世界、彼女達の興味はどこまでも尽きないから。
まだまだ陽が暮れるには時間がある。
あの空が闇に染まり、星が瞬くその時まで――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
詩条・美春
【七秋】
仮装
ロココ調の蒼ドレスでお姫様
アラウルネさん
恋が実ると愛になり
永遠に添い遂げると誓うんですよ
兄様は七ノ香姉様と恋をされました
見守る日々はわくわくしました
幸四郎さんはいかがでしたか?
姉様から来て下さって
兄様も「明日は七ノ香さんに逢える」とそわそわされたり
最初は父様と母様にも内緒でした
美味しいお菓子を作っていただけるのは姉様のお陰なのですね
伴侶を誓う儀式が結婚式です
四人で沢山準備をしました
人生を半ばで絶たれたお二人の“これから”を願えるのが嬉しいと幸四郎さんが仰って
わたしも嬉しくて
幸せな泣き化粧のお見送りでした
わたし
恋が愛へと咲くのを沢山見送りたい
もう一度夢を追いたいです
南瓜を1つ頂きます
御鏡・幸四郎
【七秋】
仮装:タキシード姿の怪盗紳士
美春ちゃんがアルラウネに語るお話を
少しくすぐったい思いで聞いています。
知性無きはずの使役ゴースト、スケルトンの姉が
同じスケルトンの一秋さんに恋慕を抱いたことに
気づいた時の驚きと喜びは今でも忘れられません。
「ええ、私も同じです」
二人の結婚式のウェディングケーキは私が作りました。
当時の全霊を込めた一品です。
……子供の頃、姉と一緒にケーキを作ったら
姉より上手に作れてしまいまして。
「幸ちゃんは将来絶対ケーキ屋さんだよ。私、毎日食べに行くから!」
と満面の笑みで宣言されまして。
その笑顔に、人を幸せにするお菓子を作りたい、と思ったのが始まりでした。
南瓜、いただきますね。
●
蒼のドレスの裾を揺らして、詩条・美春(兄様といっしょ・f35394)は緑人を呼ぶ。
「恋が実ると愛になり、永遠に添い遂げると誓うんですよ」
名を呼ばれた彼女達が美春へと視線を向ければ、彼女は柔らかな笑みと共に言葉を紡いだ。胸元に手を当てて、想うは過去のこと。
兄様――いつも一緒だった亡き兄のスケルトン。彼は亡き後に、想い人に出逢うことが出来たのだ。その相手が御鏡・幸四郎(菓子職人は推理する・f35892)の亡き姉である七ノ香。同じスケルトンと云うのもまた運命のよう。
七ノ香のほうから来てくれたことがきっかけ。いつの間にか兄も「明日は七ノ香さんに逢える」とそわそわしていて、父と母には内緒だったけれどそんな彼の傍に居られる美春は何時もとは違う温かさに満ちていた。
大好きな人が、幸せの道を歩む。
そんな彼等を見守る日々は毎日が幸せで、ワクワクして。あの日を想えば美春はどこか遠くを見るように漆黒の瞳を細めて――そのまま、彼女の言葉に静かに耳を傾けていた幸四郎へと視線を向ける。
「幸四郎さんはいかがでしたか?」
彼女の問いに、顔を上げる幸四郎。
紡ぐ言葉に、思い出に。少しくすぐったく想ったけれど、重なる想いは同じ。
「ええ、私も同じです」
だから幸四郎は、怪盗紳士はこくりと頷きを返す。
彼にとっても姉であるスケルトンは既に亡き大切な人だ。使役ゴーストと云う特性上、人間としての知性など無くただ主である能力者との絆のみで生きる筈。それなのに、姉の七ノ香は同じスケルトンである美春の兄、一秋へと恋慕を抱いた。そのことに気付いた時の驚きと喜びは、今も幸四郎の心に強く残っている。
そんな姉と、その恋のお相手を祝福したくて――。
「二人の結婚式のウェディングケーキは私が作りました。当時の全霊を込めた一品です」
まだ見ぬ未来も含めて、人生で一番の大仕事かもしれない。大切な人の大切な式、と云うだけでない。幸四郎にとっては、『姉』の結婚式と云うことが一番大事なのだ。
昔々、まだ幸四郎の幼い頃。姉と一緒にケーキを作ったら、姉よりも上手に作れてしまった。そんな彼の腕前と、その味に「幸ちゃんは将来絶対ケーキ屋さんだよ。私、毎日食べに行くから!」と、姉は満面の笑顔で宣言をした。
あの笑顔に、その言葉に――。
「人を幸せにするお菓子を作りたい、と思ったのが始まりでした」
懐かしむように瞳を細め、語る彼の想いは昔々の愛おしい記憶。少し涙の滲んだ彼の言葉に、美春は今初めて知った。
「美味しいお菓子を作っていただけるのは姉様のお陰なのですね」
彼の美味しいお菓子は幾度と食べてきたけれど、そのきっかけが今や美春にとっても大切な人となっている、義の姉のお陰だと思えば更に嬉しくなる。
そう、あのウェディングケーキも素晴らしかった。
大好きな兄と姉の――伴侶を誓う儀式である結婚式。
四人で沢山沢山準備をしたあの儀式は、ただの結婚式とは少し違う。
スケルトンである彼等は、リビングデッド。人生を半ばで絶たれた二人の、『これから』を願えることが嬉しいと、幸四郎は語っていた。
そして、それは美春も同じで――骨である彼等の表情こそ見えないけれど、確かに彼等は幸せそうに微笑んでいるように見えて。あの日の美春は幸せな泣き化粧で見送ったのが、今目の前のことのように思い出せる。
震える心は今も此処に。そっと胸を抑えて語る思い出は、今にも溢れ出しそう。
植物である彼女達には、イマイチ一秋と七ノ香の恋の道行は理解出来ないかもしれない。それは、彼女達が『恋』に疎いだけではない、『死』と云う概念が人とは違うから。
けれど――美春と、幸四郎の言葉に。彼女達の熱い想いに。確かに心は震え、不思議そうに顔を見合わせるその瞳には、涙さえ滲んでいた。
震える心に応えるように、ぽろりと落ちるは悪戯な顔を浮かべたオバケカボチャ。その南瓜を拾い上げて、美春と幸四郎は静かに微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・ユェー
【月光】
オバケカボチャ
なるほど、そんなカボチャがあるのですねぇ
植物の女性にくっついてるのがそのカボチャですね
えぇ、楽しい話をしたら取れるそうですよ
ルーシーちゃんの話をにこにこ笑顔で聴いている
えぇ、沢山お出かけしましたね
おやおや、貴女の前で泣いてしまったのは恥ずいですねと少し照れながら
沢山色んな風景を見れてとても綺麗で楽しかったですね
僕の好きをここまで喜んでくれて、ありがとうねぇ
お出かけもそうですが、僕の最大の楽しみは
この子の成長でしょうか
初めて出逢った時は、とても可愛らしい姿ですが何処か大人びていて危うい雰囲気にとても気になりました
でも一緒に過ごしているうちに
この子の中にある沢山のモノがあるのに気づき
それを少しでも無くなればと思って
お出かけしたり教えたりして
楽しそうにする姿や僕の為に頑張って覚えようする姿に僕の方が楽しんでしまいました
だんだん大きくなる娘は父親として一番嬉しい事ですからね
それに僕の『好き』はルーシーちゃんもですよ
えぇ、僕も大好きですよ
ルーシー・ブルーベル
【月光】
わあ、本当に植物の女の子たちだわ
お話して仲良くできたらカボチャさんは取れるのよね?
じゃ、沢山お話しましょう!
楽しかったこと、と言えば
やっぱりゆぇパパとたくさんお出かけしたことかしら
不思議の水鏡の空間でお互いのナイショの姿を明かしたり
……初めてパパの涙をみたり
わ、わたしも泣いちゃったし!オタガイサマ、というものよ
それに、パパの新しい一面が見れてうれしかった、よ
ブルーベリーやスズランのお花がどんなに可愛らしいか、
抹茶の点て方も教えて下さったっけ
今年もイースターやアジサイを見に行けたし
海に遊びにも行ったわ
ルーシーはね、パパとのお出かけが大好きよ!
もちろん、いっしょにお出かけするのが楽しいのもあるけど
そうして色々なことをしているとね
昔は好きなものが分からないって言ってたパパの、
『好き』を見つける時があるの
コーヒーでしょ、苺でしょ、あと梅のおにぎり!
その瞬間が宝探しみたいでうれしいの
パパのお話を聞いてると
な、なんだか照れてしまう
でもパパも楽しかったって知れてよかった
……!わたしもだいすき!
●
秋風に揺れる、色とりどりの秋桜の中。
くすくすと楽しそうな笑い声を零しながら、おしゃべりするのは緑人。
「わあ、本当に植物の女の子たちだわ」
そんな彼女達へ、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は少し驚いたように声を上げた。
無邪気に語り合う様子に、悪い気配はない。けれど、そんな彼女達の髪や腕等、身体のどこかで揺れるのは、悪戯笑顔の南瓜。
その南瓜を月色の瞳で捉えると、あれがオバケカボチャなのかと朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は少し驚いたように口許から吐息を零す。
その瞬間、くいっと繋いだ手を引く感覚にユェーが視線を下ろせば、ルーシーの大きな青い左目と視線が交わった。
「お話して仲良くできたらカボチャさんは取れるのよね?」
「えぇ、楽しい話をしたら取れるそうですよ」
少女の問い掛けにこくりと頷きを返せば、ほんの少し頬を染めて笑みを零す。興奮気味な様子で、ルーシーはおしゃべりを楽しむアルラウネへと挨拶を。こちらを見る赤い眼差しは幼さが残り、顔立ちはルーシーと同じ年頃かそれより小さいよう。
じっと見つめる数多の瞳に、ルーシーはほんの少しだけ緊張しながら――。
「沢山お話しましょう!」
ひとつ声を掛ければ、彼女達は嬉しそうに笑顔を零す。
『おしゃべりかしら?』
『たのしいおはなし? どんなおはなし?』
聞きたい聞きたいと言いたげに、器用に根を動かしルーシーへと近付いて、今か今かと待つその眼差しはキラキラと輝いていて。敵意など感じない彼女達とは対照的に、カタカタと威嚇するように揺れるオバケカボチャの姿にユェーは気付くと、何時何が起きても大丈夫なようにほんの少し意識を向ける。
それはもしも、愛しい子に何かあったら危ないから。
けれど今は楽しい時間。娘と、そして対話する小さな緑人との時間を邪魔するつもりは無い。だから敵意を向ける南瓜へと意識を向けるだけで、静かに彼は見守っている。
そんなユェーの様子には気付かずに、ルーシーは何を話そうかと考えて。いきついた楽しいことは、やっぱり大好きなゆぇパパとの沢山のお出掛けの日々。
ブルーベリーやスズランの花がどんなに可愛らしいか教えてくれたし、和の世界らしい抹茶の点て方は新たな刺激だった。沢山の彩に溢れたイースターや、しとしと雨降る紫陽花情景は今年も一緒に見に行けたし、夏光に輝く海の時間も積み重ねた分だけ毎年違う。
そして――不思議な水鏡の空間で、お互いのナイショの姿を明かしたことが今年の初めの頃の記憶は、まだしっかりと胸に熱さが残っている。
「……初めてパパの涙をみたり」
ぽつり、零れた言葉は先程までの跳ねるような声とは違う声色。
熱い、熱い涙を見た。
触れた熱は何時もの温もりだった。
あの時のことは鮮明に残っている。――そして、それはユェーも同じ。
「おやおや、貴女の前で泣いてしまったのは恥ずいですね」
二人で紡いだ日々の記憶はどれも大切で、アルバムへと閉じてあるけれど。あの日のことはやはり少し特別で、けれど初めて魅せてしまった姿と心にほんの少し照れてしまう。
そんな彼の言葉に、くるりとルーシーは振り向くと。
「わ、わたしも泣いちゃったし! オタガイサマ、というものよ」
ほんのりと、けれどユェーよりも頬を桜色に染めながら紡ぐ言葉はどこか背伸びをしたような言葉選びで、大好きなユェーを気遣うような言葉。――そのまま彼女は、きゅっと繋いだ手を握ると。視線を逸らし俯きながら、唇を開く。
「それに、パパの新しい一面が見れてうれしかった、よ」
小さく小さく零されたのは、彼女の心からの声。
いつでも余裕のある、大好きなパパ。そんな頼もしい姿も素敵だけれど、ルーシーの前では素の姿だって見せて欲しいから。あの姿を見れたことは、もっと彼へと近付けた気がして嬉しいのだ。
――それは、お出掛けの度にそう。だからルーシーは、ユェーとのお出掛けが大好き。
「沢山色んな風景を見れてとても綺麗で楽しかったですね」
彼女の真っ直ぐな言葉に、柔らかく笑みを浮かべユェーは頷きを返す。
少女の紡ぐ思い出話はどれも輝いていて、彼女の心に楽しい記憶として残っていると改めて知ることが嬉しいから。ふんわり広がる心の温かさに、自然と笑みも零れてしまう。
「もちろん、いっしょにお出かけするのが楽しいのもあるけど」
彼の言葉にぱちぱちと瞳を瞬いて、それだけで終わらせずにルーシーはユェーを見る。交わる瞳に不思議そうにユェーは小首を傾げると、彼女は真っ直ぐに彼を見てこう語る。
「そうして色々なことをしているとね。昔は好きなものが分からないって言ってたパパの、『好き』を見つける時があるの」
珈琲、苺、梅のおにぎり――指折り数えた彼の好きな物。そのひとつひとつが嬉しくて、幸せで、知れた瞬間が宝探しみたいなのだと。紡ぐ彼女の笑顔はキラキラと輝くように眩しくて。まるで向日葵のような温かさに、ユェーは笑みを零す。
「僕の好きをここまで喜んでくれて、ありがとうねぇ」
身体を屈ませ、顔を寄せて。
喜びを伝えれば互いに幸せな笑み零れる親子の姿。
そんな彼等の姿も、ルーシーの唇から零れる御話も。それはアルラウネ達にとっては未知の世界の話であり、ルーシーの『楽しい』を目一杯に詰め込んだ御話故に聞いているだけでワクワクが伝わってくるよう。だから、彼女達の眼差しはじいっとルーシーから離れず、すっかり夢中になっている様子。
まだ威嚇するように揺れるオバケカボチャの姿は変わらないけれど、危険も無さそうだとユェーはひそり息を零しそのまま唇を開く。
「お出かけもそうですが、僕の最大の楽しみは――この子の成長でしょうか」
ぽんっと空いた手でルーシーの頭へと手を置けば、大きな温もりにルーシーは笑う。
初めて出逢った時は、とても可愛らしい姿だけれど何処か大人びて危うい雰囲気にとても気になっていた。けれど、こうして一緒に数多の世界を渡り経験を重ねていくうちに、少女の中に沢山のモノがあることに気付いた。
それが、少しでも無くなればと思いお出掛けしたり、数多のことを教えたりした。
けれど――。
「楽しそうにする姿や僕の為に頑張って覚えようする姿に僕の方が楽しんでしまいました」
彼女を想えば、零れる笑みは自然と柔らかくなる。
こんなにも心に溢れるこの気持ちは、彼女と出逢い、そして父となるまで知らなかった。そう、だって――。
「だんだん大きくなる娘は父親として一番嬉しい事ですからね」
そう語るユェーの眼差しには迷いなど無く、一人の娘を持つ父そのもの。真っ直ぐに語る彼の言葉がくすぐったくて、けれど嬉しくて。徐々に染まる頬の熱を抑えるかのように、ルーシーは頬に手を当てている。
けれど、ルーシーだけじゃなく。パパも楽しかったと知れて嬉しかったから――頬の熱はそのままに、心に満ちる嬉しさは溢れる程に広がっていく。
ふんわり零れる愛しい子の笑顔。
その姿を見れば――溢れる温かさは、ユェーだって同じ。
自分のことだけじゃない、父の『好き』を喜んでくれることが嬉しいけれど――。
「それに僕の『好き』はルーシーちゃんもですよ」
大切なことをしっかり伝えようと、彼女へと語ればルーシーは瞳をきらりと星の瞬きのように輝かせる。そこに宿るのは嬉しさで、溢れる程の熱を帯びている。
「……! わたしもだいすき!」
「えぇ、僕も大好きですよ」
改めて好きを語れば、繋ぐ絆は更に強くなる。
愛おしい家族の絆は、植物であるアルラウネ達にとっては未知の感覚なのかもしれないけれど――二人の熱い言葉の数々に、しっかりと心は震えていて。何時の間にやら揺れていたオバケカボチャは、秋桜の上へとぽとり落ちていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『森のお茶会』
|
POW : 紅茶や珈琲といった飲み物を楽しむ。
SPD : お茶菓子を楽しむ。
WIZ : 動物達と触れ合う。
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ハロウィンの宴
空の色が青から朱へ染まり、紫帯びれば気付けば世界は闇色に。
浮かぶ月は煌々と世界を照らし、瞬く星々はまるで囁くように美しい。そんな秋の夜長に相応しく、天を彩るは赤く染まった葉っぱたち。寒暖差によりしっかりと染まったその赤は冷たい夜風の中温もりを感じさせ、その葉を染め上げる橙色のジャック・オ・ランタンの灯りもどこか心地良く、そして不気味に映るのだ。
闇の中に揺れる、橙色の灯りの中。
何時もとは違う装いで、迷い込めばもう誰にも分らない。
あちらこちらから漂う鼻をくすぐる美味しそうな香りに導かれ、手招きする魔女に手招かれ。口にして、手にして――秋の収穫の日を楽しもうでは無いか。
不思議なオバケカボチャを手にした人は、とびきり特別なスイーツだって貰える筈。
今夜ばかりは自分では無い『誰か』にだってなれるし、知らない『誰か』がもしかしたら一緒しているかもしれないけれど。
それも全て、不思議な不思議なランタンの導きだろうから。
嗚呼、ほんの少しの悪戯を忍ばせてあるからお気をつけて。
大丈夫大丈夫、命を奪ったりなんてしないよ。
メノン・メルヴォルド
トリ・ステで
アド◎
淡い灯りに照らされて
しっとりとした時間
揺らめく笑顔が、とても柔らかいの
特別なタルトも味わってみたいのよ
エルザさんの歌声を聴き、目を瞑りながら身を委ねるように
紡がれるメロディに心まで包まれるよう
バンリちゃんは来年…一足先に、おねえさん、ね?
眩しく思いながら見つめる
カクテルが飲めるようになったら、お二人はぜひ付き合って欲しいのよ
せっかくの夜だから
ワタシも赤と青のドリンクを
溢れる真実は…
エルザさんとバンリちゃんが大好き
ある時は、心を支えてくれた
またある時は、楽しい想いをくれた
涙が零れてしまいそう
全部、ワタシの宝物
あの、ね
マイペースでいいの
だから…どうか、これからも3人で一緒にいたい
バンリ・ガリャンテ
トリ・ステで。アド◎
灯が照らし出すあなた方の横顔。
心なしか秘密めいて、胸が騒ぐよ。
このお祭りも賑やかでいてミステリアス。
常より甘い南瓜のタルトを一切れ…ああもう少し頂こうか。口にすればするほど、高鳴るばかりなのだけど。
赤と青のお飲み物を手に取る。来年の今頃だったなら俺もカクテルを選んでいたね。
来年の、今頃。
そう。未来のお話を語るとき俺はいつだって臆病だ。
だからこいつの力を借りて、今だけは溢れさせて。
行かないで。此処にいて。
今この時を永遠にしたいの。
幸せなのに、おかしいね。
俺は堪らずグラスかき混ぜ飲み干した。
続いて伝えたのは、やっぱり心からの──
エルザ。メノン。
ありがとう、ずうと大好きだよ。
エルザ・メレディウス
トリ・ステで。アド◎
暮れ色の中、ジャック・オ・ランタンから零れる燈火の下で
やわらかな橙色の光の中、まるで秋の木漏れ日の中にその身を置き、溌溂と高鳴っているのは、二人の存在がそこにあるから。この宵闇の中でも、きっとこの場所は真昼のように輝いている――。
赤と青のカクテルを呷り、そうして、この満天の星空をステージに私は二人に唄うの。もしも、私の中に別の『誰か』が潜むのならば、それは私の内なる声の表出なのかしら?
バンリ、メノン……。あなた達二人と、この日まで積み重ねてきた日々がキラキラと輝いているの。
光の様な希望の軌跡が、私の全身をゆったりと覆ってくれている。
アルウラネ達とお話していた時から二人にお話したいことがあったの。聞いてくださる?
バンリ、メノン――。私と出会ってくれて……ここまで共に歩んでくださって、ありがとう。。。
●
闇に染まる夜空の下、真っ赤に染まる枝葉の中にゆらゆら揺れる悪戯笑顔のジャック・オ・ランタン。その優しくもどこか怪しい光の中、エルザ・メレディウスはまるで秋の木漏れ日のようだとその光を見上げる。
そんな、見上げる彼女の横顔を見て。
とくん、とバンリ・ガリャンテの胸が鳴り。彼女はその音色を確かめるように自身の胸元へと手を当てる。――エルザの、そしてメノン・メルヴォルドの横顔がどこか秘密めいて見えたから、胸が騒いでしまうのだろう。
「常より甘い南瓜のタルトを一切れ……ああもう少し頂こうか」
バンリの言葉と共に嬉しそうに笑みを交わし合い、彼女達が手にしたのはオバケカボチャで作られた特別なタルト。鮮やかな黄色が橙色に染められれば、温かな色で。添えられた生クリームはふわふわで、ちょこんと乗るジャック・オ・ランタンの絵が描かれたチョコプレートはこっそり表情が違う辺り手が込んでいる。
三人の娘を照らす、淡い淡い優しい光。
ゆらりゆらりと光が揺らめく中、そっと静かにメノンは微笑んだ。――彼女達と、こうして一緒の時間が嬉しいと想い。自然と何時もよりも柔らかな笑みを浮かべてしまうのは、言葉にせずとも三人とも同じなのだろう。
ひとつ、ふたつとフォークを落としタルトを口にすれば、高鳴るばかりだとバンリは感じる。それはタルトが特別美味しいからでもあるけれど、それだけでは無いのだろう。
流れる空気は甘やかで、心地良く。
そっと二人の姿を緑の瞳に映してエルザは想う。
(「この宵闇の中でも、きっとこの場所は真昼のように輝いている――」)
そっと天の星瞬く空を見上げて、温かな灯りを見て、微笑む少女達を見れば胸に宿る温かさにまた、とくんと胸が高鳴った。
鮮やかなタルトと共に。三人が手にしたグラスに揺らめくのは赤と青、そしてお星様がキラキラと泳ぐ悪戯色。その中身を――この中で一人だけお酒の入った悪戯を勢いよく飲み干して、そのままエルザは満天の星空をステージに唄を紡ぎ出す。
(「もしも、私の中に別の『誰か』が潜むのならば、それは私の内なる声の表出なのかしら?」)
『本音』の言葉を唄に隠し、紡がれる歌詞の裏で彼女は想う。――そんな、揺れる彼女の想いとはまた違い、耳に届く音色の心地良さにそっとバンリとメノンは瞳を閉じた。
自然と身を委ねてしまうのは、その歌声が心地良いから。
温かく、優しいメロディにまるで身も心も包まれるような心地で、ふわりと身体が浮上したような不思議な心地にメノンが浸っていれば。
「赤と青のお飲み物を手に取る。来年の今頃だったなら俺もカクテルを選んでいたね」
不意に聴こえたバンリの声に、瞳を開きぱちぱちと瞬くとメノンは笑う。
「バンリちゃんは来年……一足先に、おねえさん、ね?」
同じ年頃であっても、一つの違いはこういった節目の時に大きく感じる。その言葉に微笑んで、来年の今頃を想えばバンリの心はざわついた。
そう、未来を語る時のバンリはいつだって臆病なのだ。だからこそ、言葉には出来ないから――今日ばかりはこの手元の悪戯の力を借りて、溢れさせてしまおう。
「行かないで。此処にいて。今この時を永遠にしたいの」
――零れたその言葉は、夜風の中でもしっかりと聴こえる程に響いていて。
なかなか露わに出来ない自身の言葉が、しっかりと音となり世界に零れたことがどこか気恥ずかしくて。バンリは「幸せなのに、おかしいね」と少し笑みを零しながら、手元のグラスをくるりとかき混ぜる。
赤と青、それが混じれば染まる色は紫――まるで夜空のように深い色に染まる中、キラキラと輝くお星様を一緒に飲み干して、そのまま彼女は唇を開く。
「エルザ。メノン。ありがとう、ずうと大好きだよ。」
今度ばかりは悪戯の力は借りずに出た言葉。
その言葉に、エルザは唄を止め。メノンは大きな瞳を揺らめかせた。
「カクテルが飲めるようになったら、お二人はぜひ付き合って欲しいのよ」
そっと自身のグラスを瞳と同じように微かに揺らめかせ、そのままメノンはぐいっと一気に煽ってみせる。口に広がる甘酸っぱさをこくりと飲み干して、次の零れるのは――。
「エルザさんとバンリちゃんが大好き」
溢れる程の、愛の言葉。
ある時は、心を支えてくれた。またある時は、楽しい想いをくれた。
そんな彼女達が大好きで宝物なのだと、零す彼女の新緑の瞳は潤んでいて。微かに俯きながら、彼女は『真実』とは違う言葉を続けていく。
「あの、ね。マイペースでいいの。だから……どうか、これからも3人で一緒にいたい」
その願いは『真実』では無い。けれど、メノンの心からの願い。
少しだけ恥ずかしそうに頬を染め、紡ぐ彼女の言葉に笑むのはバンリも、エルザも同じだった。――そう、だって三人の想いは重なっているのだから。
「バンリ、メノン……。あなた達二人と、この日まで積み重ねてきた日々がキラキラと輝いているの」
三人で重ねた日々を思い返し、唄では無く言葉でしっかりとエルザは語る。
そう、彼女達と過ごす時間は。光のような希望の軌跡が、エルザの全身をゆったりと覆ってくれるのだ。だから今、『真実』を零してくれた彼女達に重ねるように、エルザもしっかりと己の心を零したいと思う。
愛らしき緑人のアルラウネ達とお喋りしていた時から、二人に話したいと思っていたのだ。その想いは――。
「バンリ、メノン――。私と出会ってくれて……ここまで共に歩んでくださって、ありがとう」
零れる言葉は先程飲んだ『真実』とはまた違うのだろう。
だって力を借りずとも、この想いは溢れる程だから。
零れる笑みは橙色。
優しく世界を包む温かな色のひと時は、重なるように共にある。
きっと冬も、春も、夏も。――そして一年後の秋の日にだって。
三人一緒の思い出を、刻み続けていけるのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
五条・巴
長閑(f01437)
橙色の灯りにつられて僕らも明るい所へ
寒いしとりあえず、露店でチャイを飲もうかな
ケーキやマフィンも美味しそう
南瓜やさつまいもとか見てるとお腹すいてくるよね
本当だ、美味しそうな満月
これも買って食べようよ
あの二層のドリンク、ねえ長閑
あれも飲んでみない?
暖かくて楽しいこの時間、忘れないで欲しいな
ああ、そんな深刻なことでもなくて、ええと
長閑と過ごす時間は楽しいから秒速で過ぎていってしまう気がして
握られた手の暖かさが嬉しい
そうだ長閑、写真撮ろう
何回も見返して、楽しかった記憶を取っておきたい
携帯でぶれないように写真を撮って
大事に保存
長閑の口から出た楽しいの言葉に、また1番の笑顔を送るよ
憂世・長閑
巴(f02927)
不思議な雰囲気が楽しくて
久々の巴とのお出かけも嬉しくて
弾むような気持ちで歩く
あったかいの、いいな
オレも巴と一緒のにする
何か食べる?
ね、これ、お月さまに見えるよ
まぁるい南瓜マフィンは満月みたいで
買って空に掲げれば、ほらと笑顔が溢れる
真実を話しちゃうドリンク、不思議
きれいな2色のドリンクを見つめて
不思議そうに見つめる
すれば溢れる言葉にぽかんと…
それから当たり前のように笑って
ふふ、忘れないよ
約束
さみしんぼな巴の手をぎゅっと握る
いいよと頷いて思い出を残してから
思い出したように手元のドリンクを口にした
それはぐるりと混ざって
オレには何が本当かは分からなかったけれど
楽しいね、巴
●
星灯りの美しい夜空の下、紅い葉の中ゆらゆらと揺らめく橙色の灯り。
その温かな色に心和ませながら、どこか不思議な雰囲気が楽しくて。憂世・長閑(愛し秉燭・f01437)が軽やかなリズムで歩めば、五条・巴(月光ランウェイ・f02927)も笑みを浮かべる。そんな彼の笑みが橙色の灯りに照らされる様に、長閑は今日の日のお出掛けが嬉しいと云う気持ちがまた湧いてくる。
「寒いしとりあえず、露店でチャイを飲もうかな」
「あったかいの、いいな。オレも巴と一緒のにする」
温かなチャイ片手に、辺りに並ぶ店の品々を藍色の瞳に映せば、空腹感についお腹を抑えて。何にしようかと店を覗き手に取るのは南瓜やさつまいものの食べ物たち。すると不意に、長閑の瞳にまん丸が映る。
「ね、これ、お月さまに見えるよ」
彼が指差したそれは、まあるい黄色が満月のよう。南瓜のマフィンだと教えて貰えば秋の実りが嬉しくて、すぐに二人は手に取った。――夜空に掲げてみれば、本物お月様と一緒に浮かぶ月に彼等は視線を交わし笑みを零し合う。
その時、直ぐ横を通り過ぎて行く人が手にしていたグラスの赤と青が眩しくて。巴は月から視線を落とすとついつい追ってしまう。真実を告げると云う二層の不思議な飲み物。ほんの小匙一杯の悪戯心を込めたそのドリンクが、気にならないと言ったら嘘になる。
「ねえ長閑。あれも飲んでみない?」
だから、巴が問い掛ければ。その想いは長閑も同じだったようで、頷き彼等は街の端へと急ぎ足に歩み出した。
ひっそりと建つのにどこか惹き込まれる店でドリンクを手にすれば、小さなグラスの中に美しく広がる色の世界に長閑はピンク色の瞳を輝かせる。
「暖かくて楽しいこの時間、忘れないで欲しいな」
――見惚れるように長閑がドリンクを見つめていれば、不意に零れた隣からの言葉。その音に、長閑はくるり顔の向きを変えると、瞳を瞬き、少し間抜けな表情をしてしまう。
そんな彼の顔に微笑んで、己から零れた『真実』を拭うことはせずに巴は少し考える。
「ああ、そんな深刻なことでもなくて、ええと――長閑と過ごす時間は楽しいから秒速で過ぎていってしまう気がして」
闇に染まる夜が何時の間にやら明けるように、楽しい時間は過ぎ去るのが早いから。真実の一言では足りない言葉を補足するように彼が添えれば、長閑はくすくすと笑ってそうっと彼の大きな手を優しく握った。
「ふふ、忘れないよ」
約束だ、と。
言葉と共にその手の温もりが繋がれば、想いも伝わってくるようで。言葉と温もりに自然と巴は嬉しそうな笑みを零していた。
「そうだ長閑、写真撮ろう」
橙色に染まる中、笑う長閑の姿を見てふと巴は思い出す。現代人らしい携帯を手に掲げれば、勿論長閑は頷いて。そっと身体を寄せ合って――シャッターの音が響き渡れば、そこに映るのは橙色のジャック・オ・ランタンが揺れる中、微笑み合う二人の姿。
画面を覗き込み、映りを確認して。
此処に残る大切な思い出にまた微笑み合うと、そっと巴は保存のボタンを押す。
心だけで無く。こうして絵に残すことでまた、今日の日を鮮明に思い出すことが出来るから。この灯りの心地良さも、ドリンクの鮮やかさも――そして、長閑の温もりも。
微笑む巴の姿を見て、笑みを零す長閑。
その時、彼は手にしていた二層のドリンクがまだ手付かずだったと思い出す。美しく分かれていたそれは、橙色の下少し違う色になっているような気がするけれど――灯り故なのか、本当に混ざってしまったのか分からないまま、くいっと長閑が喉を潤すように傾ければ、こくりと音が鳴る。
長閑には何が本当かは分からないけれど――。
「楽しいね、巴」
その言葉は、その想いは確かだから。
微笑み、唇から零れるその言葉に。巴は画面から顔を上げると、一番の笑顔を送った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラヴィ・ルージュブランシュ
南瓜SD2022の格好(狼×赤ずきん)
可愛いお喋りちゃんがくれたカボチャをタルトにして貰うのだわ!
よかったらラナも一緒にどう?
この南瓜から作れるタルト、ラヴィ一人じゃ食べきれそうにないし
何よりこんな素敵なイベントを教えてくれたお礼がしたいもの!
それに…ラナのお洋服もとっても可愛いのね!
お洒落に使ってもらったお花も喜んでいるみたいだわ
ぴりぴりチャイと一緒に食べるタルトは
可愛くて美味しくて夢見心地
折角だからマフィンとスープも頂こうかしら
ラナも遠慮しないでいっぱい食べてね!
あれこれ気にして楽しめないのはお茶会のマナー違反よ!
この世界に来たのは初めてだけど
大好きになっちゃった
素敵な思い出をありがとう!
●
秋桜畑で、楽しくお喋りをした緑人から貰った悪戯お化けの南瓜を差し出せば、とびきり素敵なタルトにしてくれるのだという。
「よかったらラナも一緒にどう?」
ふわふわ柔らかな桜色を揺らす少女を見つけ、ラヴィ・ルージュブランシュが一人じゃ食べ切れそうに無いと声を掛ければ。ラナは嬉しそうに笑みを零した。
「どんなお味か気になっていたので嬉しいです!」
食いしん坊みたいで恥ずかしいのか、照れたように頬を染めて紡ぐ彼女が纏う花妖精の姿を紅い瞳に映せば、ラヴィは可愛いと褒めてくれる。
「お洒落に使ってもらったお花も喜んでいるみたいだわ」
「ラヴィさんも可愛らしいです。狼頭巾さん、ふわふわですね」
くすくす嬉しそうな笑い声と共に零れる言葉と共に、苺色の瞳にラヴィの姿を映して少女は語る。動く度に揺れる狼頭巾が愛らしく、赤を纏うラヴィによく似合う。ふわふわレースのスカートも、首元の薔薇飾りも、可憐な装いは狼耳との対比が可愛らしい。
彼女の言葉にラヴィが嬉しそうに笑った時、手渡された皿に乗るのは鮮やかな黄色が美しい南瓜のタルト。ちょこんと乗ったクリームとジャック・オ・ランタンのチョコプレートが愛らしい品にラヴィは瞳を輝かせると、そっとフォークを落とす。
滑らかな舌触りで口に広がる甘い南瓜の味わいは極上で、一緒にスパイスたっぷりのチャイと楽しめば少し大人のお味。
美味しい味わいに頬を抑え綻んだ後。折角だからマフィンとスープも――と辺りを見回した時、大事にタルトを味わうラナの姿に瞳を瞬いて。
「ラナも遠慮しないでいっぱい食べてね! あれこれ気にして楽しめないのはお茶会のマナー違反よ!」
「……はい、お言葉に甘えて頂いちゃいます!」
驚いたように瞳を瞬いた後、大きな瞳を交わし合った乙女達は小さく笑い声を零し合う。折角の収穫祭。秋の恵みを楽しまないのは、罰が当たるだろうから――焼き立てマフィンはほっくり温かくも優しい味わい、スープは少しとろりとしているが、口に含めば滑らかな舌触りと深い南瓜の甘味が広がる。
それは、自然溢れる魔法の世界ならではの味わいで。二人で一緒に楽しむから尚美味しく感じるのだろう。
「この世界に来たのは初めてだけど、大好きになっちゃった」
素敵な思い出をありがとう! ――頬を薔薇色に染めて、満開に咲く花のように美しい笑みを零すラヴィ。その言葉にラナは、嬉しそうに笑みを返す。
自身の世界を気に入ってくれた。それはとても、嬉しいことだから。
だから少女は、彼女の瞳をしっかりと見てこう零す。
「今度はラヴィさんのお勧めも教えてくださいね」
それは貴女を知りたいと云う、意志を込めた言葉。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァルダ・イシルドゥア
ディフさん(f05200)と
あかく照らされた街並みは夢と現のさかいめをなくしたよう
ふふ!
であれば、先ほどのお代をタルトに
ディフさんに食べていただきたいものはたくさんありますが……
おなじものを分かち合うよろこびを一緒に知っていきたくて
まあ、これが
きれいな色。星が瞬いているみたい
折角のお祭りなんですもの
ひと匙のいたずらを味わうのも楽しいんじゃないかしら
うふふ。ヴァルダはいつもほんとうのことしか口にしていませんから
あまりおもしろくないかも?
口当たりの滑らかなタルトは軽くて、いくらでも食べられてしまいそう
とっても美味しいです
そうそう、『いたずらごころ』も!
『――こんなにも近くにいるのに遠く感じる瞬間がある』
?
もうひとくち
『あなたに、わたしの心を隙間なく埋めてほしい』
え、えっと……もう、ひとくち
『きっと。あなたを欲しがりすぎているせい――』
あっ
わあ、ちょっと、あの、いえ、
胸の奥底に仕舞い込んでいた私のわがまま
あなたから零れ落ちた真実があんまりにも甘過ぎて、息が止まった
……さらって、くれるんですか?
ディフ・クライン
ヴァルダ(f00048)と
妖しくも不思議な収穫祭
紛れ込めば幻想の夜に飛び込んだようで
どこからもいい香り
ヴァルダ、なにが食べたい?
栗のパウンドケーキも美味しそうだけれど
オレは……ヴァルダはオレに何を食べさせたい?
なんて聞いてみたりして
ふふ、いいね、そうしようか
先のお代を特別なタルトに変えたなら
例のドリンクの店へ
ね、せっかくだもの
この二層のドリンク、飲んでみない?
オレはお酒の方でもらえたら
どんな『真実』が零れだすのか
気にならない?
それを言ったらオレもだけどねえ
二人だけの場所、ランプの下で
南瓜のタルトに舌鼓、貴女と分かち合う味に頬も綻ぶ
貴女から零れた真実に
驚きながらも頬がほんのりと染まる
ヴァルダ。それ、あとで詳しく聞かせてくれる?
どうしたら貴女の隙間を埋められるか、教えて
なんて笑み咲かせ
星踊るドリンクを口にし
甘酸っぱさにほうと息を吐いたなら
貴女に顔を寄せ
――ねえ。帰したくない
こくり
もう一口で唇潤わせ
『今度はちゃんと、この唇で、』
続きを紡ぐ前に
混ぜたカクテルを飲み干した
君が望むのなら、いつだって
●
星の瞬く夜の世界。赤々と咲く葉の中、揺らめく橙色は悪戯顔。
妖しくも不思議な収穫祭は、夢と現の境目を失くしたかのようで――その身を紛れ込ませてみれば、幻想の夜に飛び込んだかのよう。
「どこからもいい香り。ヴァルダ、なにが食べたい?」
不思議な街並みに瞳を細め、ディフ・クラインは問い掛ける。
すぐ傍に並ぶ栗がたっぷり混ぜ込まれたパウンドケーキも美味しそうだと思うけれど、彼の希望は己が食べたい物ではない。――ヴァルダはオレに何を食べさせたい?
問いと共に交わる青とオレンジ色。煌めく瞳を瞬いて、ヴァルダ・イシルドゥアは小さく笑い声を零しながら唇を開く。
「ふふ! であれば、先ほどのお代をタルトに」
二人の手には収穫したばかりの立派な悪戯南瓜がある。それと交換で貰えると云うタルトは特別な品。――勿論、ヴァルダがディフに食べて欲しいと思う物は沢山ある。栗のパウンドケーキも勿論だけれど、林檎のパイやブドウのジュレと秋の実りは様々で。色鮮やかなそれらは心惹かれる。
けれど――。
「おなじものを分かち合うよろこびを一緒に知っていきたくて」
視線を逸らし、少しだけ俯き気味に。けれどしっかりと言葉を唇から零す彼女は、かつての引っ込み思案な姿から前進したよう。その言葉に、ディフは笑みと共に頷きを返す。
二人の手に輝くのは鮮やかな黄色が心地良い絶品タルト。にこやかな笑顔とケタケタと笑いそうな笑顔と、違う表情のジャック・オ・ランタンのチョコプレートが添えられていることに、二人が指差して語っていれば。何時の間にやら辿り着いていたのは、こじんまりとしているけれど妙に惹きつけられる小さなお店。
その店から出てきた人々の手にあるのは――鮮やかな、赤と青。
「ね、せっかくだもの。この二層のドリンク、飲んでみない?」
それがこのお祭り限定の、一匙だけの悪戯だと気付いたディフは好奇心を抑えきれずに問い掛ける。移ろう色も、キラキラ輝くお星様も魅力的だけれど、秘められた悪戯にはヴァルダも興味がある。――だって、折角の機会なのだから。
ディフはお酒入りを。ヴァルダはジュースのグラスを片手に、乾杯をして微笑み合う。
「うふふ。ヴァルダはいつもほんとうのことしか口にしていませんから、あまりおもしろくないかも?」
「それを言ったらオレもだけどねえ」
口に付ける前に言葉を零し、迷うことなく口にしたそのお味は酸味と甘みが絶妙なバランスで、しつこくは無いが妙に口に残る不思議な不思議なお味で。南瓜のタルトの滑らかな甘さとの組み合わせも心地良い。
いくらでも食べられてしまう――そうヴァルダは想ったのだけれど、彼女の唇から零れた言葉は、それでは無い。
「――こんなにも近くにいるのに遠く感じる瞬間がある」
不意に零れた言葉に、ぱちぱちとオレンジ色の瞳を瞬くヴァルダ。
軽く小首を傾げて、そのままもう一口と悪戯心を口にする。
「あなたに、わたしの心を隙間なく埋めてほしい」
零れる言葉は意図せず漏れる。甘い甘い、彼女の心。恐る恐るとまた一口の悪戯を。
「きっと。あなたを欲しがりすぎているせい――あっ。わあ、ちょっと、あの、いえ、」
二人を照らす温かな橙色のランプの下でも、分かるくらいに染まりゆくヴァルダの頬。グラスを持たぬ片手で頬を抑え、慌てる姿は夜に映える程に愛らしい。
――『真実』を零すと云うその悪戯は、彼女の胸の奥底に仕舞い込んでいた我儘すらも吐露させる。その小さな小さな悪戯の言葉を耳にして、ディフは驚きに口許を抑えている。白い頬はほんのりと薔薇色に染まるけれど、胸が震えるのは嬉しさから。
「ヴァルダ。それ、あとで詳しく聞かせてくれる?」
聴こえた『真実』は消す事は出来ない。ならば――もっともっと詳しく、知りたいのだ。どうしたら、貴女の隙間を埋められるのか、教えて欲しい。
そっと柔らかな笑みを浮かべ、そのまま彼は悪戯を口にする。こくり、喉が鳴れば星が身体へと落ちていき、包み込む甘酸っぱさに心も身体も浮かぶよう。
その心地に浸ったからか、不意にディフはヴァルダへと顔を寄せた。
近付く距離にヴァルダは小さく肩を揺らすけれど、逃げること無く彼の瞳をじっと見る。交わる双眸がオレンジ色の光に照らされる中――そっとディフは、彼女の長い耳元で甘い言葉を呟いた。
――ねえ。帰したくない。
その言葉にヴァルダは小さく小さく声を上げる。その愛らしい声をすぐ傍で聞きながら、ディフはまた一口喉と唇を潤して。
「今度はちゃんと、この唇で、」
すぐ傍に咲く薔薇色の蕾。触れることはせずにただ柔かな花弁を見て――そのままディフは続きを紡ぐ前に、ぐるりと混ぜて夜色に星が踊るカクテルを飲み干した。
こくり、こくりと音が鳴る中。彼の言葉にヴァルダはますます頬を染めている。――ディフの唇から零れた真実が、あんまりにも甘過ぎて。息が止まってしまうから。
けれど、その甘さはなんと心地良いことだろう。
顔を見られずに俯いて。けれどそうっと彼の袖を摘まんで。
「……さらって、くれるんですか?」
震える声で紡ぐのは、小さな小さなヴァルダの心の声。
その声を聞き逃さなかったディフは、そっと彼女の手に自身の手を添え笑みを零す。
「君が望むのなら、いつだって」
――それは、悪戯添えた甘い甘いハロウィンの魔法。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・ユェー
【月光】
月がとても綺麗ですね
ランタンの光はとても美しい
ルーシーちゃんの手を握り
足元は気をつけてください
折角ですから南瓜のマフィンやスープなど食事をしましょうか
オリジナルドリンク?
赤と青の二層なのんて珍しい
そのまま飲む
赤いパプリカがあります
前、ピーマンと形が似てるけど違うモノでピーマンよりも甘いですと頑張って食べれるようになりましたよね
赤いパプリカの肉詰めを出して食べて下さって嬉しかったです
実は…アレは赤ピーマンと言って緑ピーマンと同じモノです
…おや?つい言って
衝撃を受けてる娘に、申し訳無そうに
赤ピーマンは緑ピーマンが甘く熟したモノなので大丈夫だったでしょ?とにっこり笑って頭を撫でる
おや、それは嬉しいです
また作りましょうね
機嫌を治してください
オバケカボチャで作った特別タルト美味しいですよ
わかりました、ブルベリータルトですね
いつの間にか彼女を挟んで一緒に食べてる、同じ歳くらいの女の子と男の子
誰でしょうか?
女の子に蒼いうさぎの耳がぴょこり、男の子はぴぃと鳴いて
おやおや、可愛らしい悪戯ですねぇ
ルーシー・ブルーベル
【月光】
今年の仮装、アリスの格好で!
わあわあ、とってもステキな場所ね!
赤いお化粧の葉っぱにランタンの灯りが照ってキレイ
はあい、ゆぇパパ
ぎゅっと手をにぎって
ええ!ルーシー、少しお腹が空いてしまったかも
マフィンもスープも大好きよ!
オリジナルドリンク……赤と青の二色がキレイね
こちらも頂いてみましょう
先に一口含むパパの様子を見守ると
う、うん
この前のご飯に出てきた赤いパプリカね?
それがどうかしたの?
……!!
!?!?!?
後ろに稲妻が走ったような錯覚を覚える程の衝撃事実
ぱ、パパ!ひどいわ、ウソをついたの!?
プンスカとしても
パパは笑顔で撫でてくる
もう!本当に怒ってるのに!
むうう、とうなって
自分も赤青ドリンクを混ぜずにくいっと飲み干す
……正直なことを言うと
ルーシー、あの赤パプリカのお料理……
おいしくて大好きかも!です!!
でもまだ許してません
帰ったらブルーベリータルトも作ってもらいますから!
今はこの特別タルトで休戦としましょう
う?誰かいるの?
周りを見回すと何処か見覚えのある二人
ララと、黒ヒナさんが人の姿に?
●
「わあわあ、とってもステキな場所ね!」
世界の煌めきにルーシー・ブルーベルは、橙色の灯りに照らされた青い瞳をキラキラと輝かせながら興奮気味に声を上げる。
すっかり色付いた葉はお化粧をしているようで、瞬く星々と共に浮かぶお月様は煌々とどこか神秘的で妖しくも輝いている。
道筋照らすのは悪戯笑顔の南瓜達。そんな夜の光に照らされるルーシーの姿を見下ろせば、朧・ユェーは幸せそうな笑みを浮かべそっと彼女の小さな手を握る。
「足元は気をつけてください」
「はあい、ゆぇパパ」
ちょっぴり過保護な大好きな人に笑顔で頷いて、彼の大きな手をきゅっと握り返す。そこそこにヒトは多いけれど、世界故か先が見えない程ではない。けれども、小さな娘が心配なことに変わりは無いから、繋いだ手は離さないようにと注意をしながらぐるりと辺りを見渡せば、並ぶ店から美味しそうな香りが漂ってくる。
「折角ですから南瓜のマフィンやスープなど食事をしましょうか」
「ええ! ルーシー、少しお腹が空いてしまったかも」
小さく鳴ったお腹の音。その音に気付いたのかユェーが提案すれば、頬を染めながらルーシーは大きく頷く。跳ねるように歩めば長い金の髪がひらひら泳ぐ。――普段は二つに結った髪が兎のように跳ねるのだが、下ろした髪は彼女をほんの少し大人に魅せる。
鮮やかな青が眩しいエプロンドレスをひらめかせ、弾む足取りで手にするのは温かな南瓜のマフィンと南瓜のスープ。
黄色が鮮やかなそれらを口にしてお腹が満たされた時、ふと顔を上げれば視線が吸い寄せられる小さなお店。こじんまりとしたその扉から出てきた人の持つ、キラキラ輝く赤と青のドリンクを見れば、あれが噂に聞く悪戯心を潜めたお店なのだと二人は気付く。
折角のハロウィンの夜。美味しかった秋の恵みにご馳走様を告げた後、二人の手には星が泳ぐ赤と青のグラスが握られる。キラキラ輝くそのお星様を――迷うことなく、ユェーは口にするとこくりと喉を鳴らした。
「赤いパプリカがあります。前、ピーマンと形が似てるけど違うモノでピーマンよりも甘いですと頑張って食べれるようになりましたよね」
じっと彼が飲む様子を眺めていたルーシーは、彼の突然の言葉に少し小首を傾げながら頷きを返す。緑色ピーマンの変わりに、赤いパプリカで作った肉詰め。見た目はそっくりだけれど違うから、ルーシーは食べられた。それが嬉しかったのだと告げるユェーの姿が不思議で、ルーシーは更に首を傾げてしまう。
「それがどうかしたの?」
「実は……アレは赤ピーマンと言って緑ピーマンと同じモノです」
「……!! !?!?!?」
父の口から零れた言葉を聞いて、ルーシーに稲妻が走ったような錯覚が覚える程の衝撃が走る。瞳を見開き、口許を抑え。あの日口に広がった味を思い出す。
「……おや? つい言って」
ひそりと心に秘めておくつもりだったのだろう。魔女の悪戯によりうっかり零してしまい、ユェーも己の口許を抑えている。そんな彼をじいっと涙目で見つめて、ふるふる震えるルーシーは頬を膨らませ怒りを露わにしている。
「ぱ、パパ! ひどいわ、ウソをついたの!?」
ぷうっと愛らしく怒る娘の姿に申し訳無く想いつつも、つい彼女の頭を撫でてしまうユェー。赤ピーマンは緑ピーマンが甘く熟したモノ。同じでも苦味が無いから大丈夫だっただろうと優しい笑みで返されれば、怒っているのにその手を払う事など出来ない。
だから、だろうか。ルーシーは手付かずだった悪戯ドリンクを二層のまま、くいっと一気に飲み干すと――。
「……正直なことを言うと。ルーシー、あの赤パプリカのお料理……、おいしくて大好きかも! です!!」
ぎゅうっとグラスを小さな手で握り締めて、『真実』を口にする小さな少女。苦手なモノのひとつとして挙げるピーマンに、ほんの少し近付いてくれた少女の成長が嬉しくて。ついついユェーは幸せそうに笑みを零すと、また作りましょうと紡いだ。
けれども、まだまだ彼女は頬を膨らませたまま。
「機嫌を治してください。オバケカボチャで作った特別タルト美味しいですよ」
どうしようかと考えて、特別なご褒美であるタルトのお店が見えたからお皿をそっと差し出せば、ルーシーは恐る恐る受け取った。
「でもまだ許してません。帰ったらブルーベリータルトも作ってもらいますから!」
許していないアピールに、ぷいっと顔を背けるルーシー。けれども、今日のところは未来の美味しさの約束と、今日だけの特別なご褒美で手を打とう。
正直、ワクワクしてしまうのはどうしてだろう。――きっと、パパの作ったお菓子はみんなみんな美味しいから。けれど『真実』は言葉にしない。だって、もうドリンクは飲み干してしまったから。
そのままベンチへ腰掛けて、フォークを手に取ればいつの間にやらルーシーの両隣には同じ年頃の男の子と女の子が。不思議そうに小首傾げれば、女の子は蒼い兎の耳がぴょこりと揺れ、男の子からは『ぴぃ』とどこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「え?」
「おやおや、可愛らしい悪戯ですねぇ」
紡いだ言葉は、夜へと溶けて消えていく。
――これは、どこかの誰かの一夜限りの悪戯かもしれない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御簾森・藍夜
【朱雨】
暁!
…ふふ、大量だな
(楽しそうな暁に顔が緩む
さてどれに…あっこの林檎結構小ぶりだが―(一口齧って
!爽やかだが後味が甘くて…ん?あ(迷いなく口を開け
うん、葡萄も美味しい
ふむ…タルトは南瓜から違うのか?(一口
…うん、悔しいが美味いな
な、これ…星が浮いて凄いよな
真実を溢す…はは、俺の真実って何だろう?
反対色を一つになんて―(ドリンクを一口
―隠し事?
あぁ俺―…月に2回の“一週間ソロキャン”行くだろ?あれ実はGT籠って寝ずにぶっ倒れる直前まで鍛錬を―…!
(慌てて口を押え
え
なんで
うそ
(秘密ってこういう
…ま、まぁ大した話でも―う゛っ
あたたたた、すまん―…!
(夜と朝の境ような美しい目と見つめ合い
あ、その…ごめん、なさい…
え…俺が、お前の?大切?
(ああもう顔が熱い
そ…そうか、ふふ…ありがとう
奪わない。俺は強く在るよ…心音と俺の約束、な?
俺はお前の本当の名前が呼べて嬉しい。な、心音
で…暁、俺に隠し事は?
…それ狡いだろ
(暁の頬に手を添え額を付け見つめ
狡い…俺だって、お前に誇れる俺で居たいからしてるのに
楊・暁
【朱雨】
藍夜ー!大量ー!
焼菓子や果物詰めた持参の籠を手に
隣に座り尻尾揺らし
どれから食う?
勿論、南瓜のタルトもあるぞ
俺は…葡萄!
ん…!瑞々しくて美味ぇ
藍夜も(口元へ一粒差し出し
美味ぇだろ?
マフィンもしっとりしてるし
パウンドケーキの栗感すげぇ…!
タルトぱくり
…!藍夜、やっぱこれが一番美味ぇ…!
藍夜が買ってきてくれた飲み物眺め
…はー…すげぇ綺麗だな…
赤と青…ふふ、なんだか俺たちみてぇだ
じゃあ、藍夜から
"俺になんか隠し事してねぇか?"
…へぇ…ぶっ倒れる直前まで…
…十分大した話だろうがよ…!(笑顔で怒り
言わなきゃ分かんねぇのかこの頭は飾りか?なんのためについてんだ?
藍夜の蟀谷を拳でぐりぐり
額と額くっつけ静かに
…心配させんな
一人の時になんかあったらどうすんだ
…俺の"一番の大切"を、他の誰でもねぇお前が奪うのか?
当たり前だ
ん。じゃあ、約束な
…っ、ここで…その名前出すとか…
不意打ちで顔赤らめ
俺の秘密?
首傾げつつ飲み
ねぇな
…っふふ、あはは
俺が隠し事できねぇの知ってるだろ?
見つめ返し笑って
…十分、誇らしいぞ
●
「藍夜ー! 大量ー!」
赤に色付く葉っぱと共に、ゆらゆら揺れる橙色のランタンに照らされる中。ベンチに腰掛け一息吐いていた御簾森・藍夜の元へと、籠一杯に焼き菓子や果物を詰め込んだ楊・暁が現れれば藍夜は思わず頬が緩んでしまう。
「……ふふ、大量だな」
尾を揺らしながら隣に座り、どれからと問い掛ける姿はまるで見目相応の少年のよう。
お菓子から漂う甘い香りも、果物の瑞々しさもどちらも魅力的。秋の味覚たっぷりの籠の中から、暁が手を伸ばすのは濃い紫色が美しい葡萄だった。そして藍夜が手に取ったのは小振りだけれど鮮やかな赤が美しい林檎。
「ん……! 瑞々しくて美味ぇ」
「! 爽やかだが後味が甘くて……ん?」
同時に上がる声。この感情を共有したくて、暁が藍夜の口許へと葡萄を差し出せば、彼は迷うことなく口を開けた。
転がる果肉はしっかりしているが、一口噛めば溢れる程の果汁と甘み。そしていっぱいに広がる葡萄の香りがなんとも濃くて、藍夜は思わず口許を抑える。
「うん、葡萄も美味しい」
こくりと頷きを返す藍夜。そんな彼の些細な行動が嬉しくて、ふわりと暁の心に溢れるのは今までは知らなかった温かさ。そのまま彼は、籠の中を漁ると次々と焼き菓子を手に取っていく。しっとりマフィンに栗たっぷりのパウンドケーキも美味しいけれど――気になるのは特別な南瓜で作られたタルト。
鮮やかな黄色も、ちょこんと乗った生クリームとケタケタ笑顔のジャック・オ・ランタンのチョコプレートも美しいそれに、暁はフォークを落とし口に入れる。
「……! 藍夜、やっぱこれが一番美味ぇ……!」
キラリ煌めく瞳。先程よりも揺れる尾と共に、傍らの藍夜へと興奮を伝えれば。彼もまた南瓜のタルトを一口。
「……うん、悔しいが美味いな」
瞬間広がる南瓜の自然な甘みと、滑らかな舌触り。生クリームとの相性も抜群で自然の恵みがたっぷり。味わうように口許を動かしながら零れた彼の言葉に、暁は「だろ!?」とどこかご機嫌に紡いだ。
――そんな、収穫沢山の暁へのお礼は。藍夜が別行動で手にしていたドリンクで。
赤と青の二層に踊るは煌めくお星様。橙色の灯りに照らされキラキラと輝く様は美しくも幻想的で、思わず暁はグラスをランタンに掲げながら見惚れてしまう。
「……は…ー…すげぇ綺麗だな……」
零れる溜息と共に、その二層の鮮やかさが瞳に焼き付くよう。――そう、この色はまるで自分達みたいだと、そう思うから。
「な、これ……星が浮いて凄いよな」
そんな彼の姿に笑みを零し、そっと藍夜もグラスを灯りへと翳し見つめる。――これは、『真実』を零す悪戯だと聞いたけれど。
「……はは、俺の真実って何だろう?」
反対色を一つになんて――自分でも分からないそれに、藍夜は笑い飛ばすように。こくり、喉を鳴らし口にする彼の姿を見守って、飲み込んだところで暁は問う。
「じゃあ、藍夜から。『俺になんか隠し事してねぇか?』」
じっと真剣に向けられる赤い瞳。
その瞳を見返して、藍夜は一瞬だけ考えるが――。
「あぁ俺――……月に2回の『1週間ソロキャン』行くだろ? あれ実はGT籠って寝ずにぶっ倒れる直前まで鍛錬を――……!」
零れる吐息と共に、告げられるのは『真実』だけ。慌てて藍夜は口許を抑えて、己が零した言葉を反芻する。心は乱れているけれど、何事も無かったかのように笑顔で。
「……ま、まぁ大した話でも――」
「……十分大した話だろうがよ……! 言わなきゃ分かんねぇのかこの頭は飾りか? なんのためについてんだ?」
誤魔化そうとしたところで、笑顔の暁の言葉に黙り、そのままこめかみへの拳を大人しく受け入れてしまう。――そのまま暁は、自身の顔を寄せ額を合わせた。
「……心配させんな。一人の時になんかあったらどうすんだ」
ただの散歩とは違う、危険な場である。そんな場所へ訪れていると知れば心配になるのは当然のこと。――暁の『一番の大切』であるのなら、尚のこと。
「あ、その……ごめん、なさい……。え……俺が、お前の? 大切?」
その大切な存在を、他の誰でも無い藍夜が奪うのかと息を荒らげれば、真っ直ぐに暁の瞳を見返していた藍夜が、彼の言葉に驚いたように瞳を瞬いた。
みるみる顔が熱くなるのが、触れなくても分かる。――それと同時に、この満ちる心地は何だろう。じわりと広がる心地良さに、自然と笑いが零れてしまう。
「そ……そうか、ふふ……ありがとう。奪わない。俺は強く在るよ……心音と俺の約束、な?」
そっと紡がれるのは約束と、そして彼の『真実』の名。
その約束に嬉しく想いながら、暁は普段は聞くことの無い名前にむず痒そうに耳を揺らし、頬を赤らめながら顔を背けた。此処でその名前を出すのは恥ずかしいのだけれど、本当の名を呼べて嬉しいと藍夜に言われれば悪い気はしない。
「で……暁、俺に隠し事は?」
そんな彼の姿を見つめて、藍夜は問い掛ける。自分だけが秘密を教えたのでは、不公平だから。――けれど暁は、首を傾げた後悪戯心を一口飲み。
「ねぇな」
真っ直ぐな瞳で、『真実』を紡いだ。
「……それ狡いだろ」
眉を寄せ、不満そうな言葉を零す藍夜。そんな彼の姿に、暁は思わず笑いつつも自分が隠し事が出来ないのは知っているだろうと彼へと逆に問うのだ。
そう、それは知っている。
それでも、それでも――。
「狡い……俺だって、お前に誇れる俺で居たいからしてるのに」
柔い少年の頬に手を添えて、再び額に熱を触れさせ紡ぐ藍夜。その眼差しを見返して、優しい温もりを感じて。そっと暁は笑みを零す。
「……十分、誇らしいぞ」
それは悪戯な『真実』よりも。ずっとずっと真っ直ぐな『真実』な一言。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵