●願い星
さらさらと流れる小川に流れていくのは色付く葉。
夏の夜風が肌を撫でれば、さわさわと笹の音が囁くような音色を奏でていく。
ふわふわと舞う蛍の光が明滅すれば、まるで星が瞬いているかのようで。それは天の川の中へと身を委ねているような浮遊感。
天に瞬く星々も、地に瞬く光も。
全てが、この想いを届けてくれる存在なのだろう。
●色付く
夏を迎えたサムライエンパイア。――その夏の始まりには伝統的な行事がある。
「七夕、と云う行事を皆様はご存知でしょうか? 星へと願い、想う行事ですわ」
何時もと変わらぬ優雅な笑みと共に、杠葉・花凛(華蝶・f14592)はそう紡いだ。
織姫と彦星による伝承が有名だが、地によりその行事のかたちは少し変わる。けれど、美しき星々へと想いを込めると云うことはほぼ共通。
そして、今回案内するのも己の心と向き合う行事だ。
案内するのは七夕を祝う行事中のとある村。
空に瞬く数多の星の中には、まるで星粒の川のような見事な天の川。人工的な灯りの無いサムライエンパイアからは、他世界では見ることが出来ないような見事な光が見える。
七夕の日に相応しき笹の葉が揺れる中で、さらさらと流れるのは澄んだ小川。指先で触れればまだ冷たさを感じるけれど、仄かに温もり帯びた水温は夏の入り口を感じさせる。
美しき水故か辺りには蛍が瞬き、夜の世界を幻想的に染め上げている。
「その美しき場で行われるのは、己の願いを込める、又は己の語れぬ想いを伝えるお祭りですわ。……皆様、静かに自身と対話をする場となります」
七夕らしく、短冊に願いや決意を記し笹の葉へと飾れば、瞬く星々が願いを叶えてくれると云う。短冊は普通の細長いものの他、星の形のものがある。その他大判の紙を好きな形に切り抜くことも可能なので、色も形も様々な物を選ぶことが出来るだろう。だが筆記具に関しては、墨と筆しか用意が無いので注意が必要だ。
そしてもうひとつは――辺りの笹を用いること。
この一帯の笹は少し変わった種類らしく、その葉を手に取り想いを込めると――その想いに呼応し色が変わると云う。その特性から、この日は人には言えない、記せない想いをそっと葉へと乗せ、川へと流す習わしがあるようだ。
それは、川が代わりに人へと伝えてくれることを願っているのか。
はたまた、もう忘れたいと想ってのことなのか。
その行動に正解は無い。己が、心と向き合い。移した行動こそが正しいことだ。
「勿論、想いを灯しながら敢えて言葉にすることも間違いではございません。このお祭りで大切なことは、自身と向き合うことですから」
全ての行動に正解も間違いも無い。
明かすも隠すも、偽るのも。自身がそうしたいと想ったのならば、それが正解になる。
「お祭りの後には敵が現れます。……ええ、勿論今回ご案内する本題はこちらですわ」
猟兵としての仕事の依頼なのだから、それは当然だ。今回彼女が視たのは、星影の乙女。まるで織姫のような美しき女性は、人々を星の世界へと送り、そして安楽な夢へと閉じ込めるのだという。
「彼女に悪意は感じられません。……ですが、このままですと数多の人が永久に目覚めに眠りへと落ちてしまいますの」
だから、しっかりと退治をお願い致しますと。真剣な眼差しで花凛は語ると、すぐに彼女は笑みを浮かべ手にしていた扇で口許を隠す。
「空を眺めていれば、流れ星を見つけることも出来るかもしれませんわ。夜空と地の光に包まれた一夜、皆様が自身の心と改めて向き合う機会になるかと思います」
勿論、敵の退治は猟兵としては大切なことだけれど。その前のひと時だって、心に残る時間にしなければ勿体無い。
星と蛍と共に過ごす一夜の出来事。
それはこの夏の日の始まりに相応しい、素敵な時間になる筈だから。
公塚杏
こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
『サムライエンパイア』でのお話をお届け致します。
●シナリオの流れ
・1章 日常(しのぶれど、)
・2章 集団戦(星影の乙女)
●1章について
天の川の綺麗な一夜。
蛍の舞う中、笹の葉立ち並ぶ小川でのひと時。
言えない想いを言葉にする、星に願いを掛ける、そんなお祭りです。
・星に願いを。
短冊に願いや決意を書いて笹の葉へ飾れます。
普通の七夕っぽく楽しんで頂ければ大丈夫です。
・言えない想いを言葉にする。
辺りの笹の葉をひとつ手に、言葉を想い流れる小川へと流します。
葉を手に取り、想うことによって葉の色が変わります。
恋愛は赤、友情は黄、仕事や勉学は青に基本的には変わります。ですが、その他お好きな色を指定して頂いても、2色3色と色付いても大丈夫です。
●2章について
夢の中に人を閉じ込めるオブリビオン。
戦いが始まると、辺りは天の川の夜空の中へと変わります。
夜空の中をただ揺蕩い遊んだり。
夢の中に居たいと強く思う程心地良い夢の中へと閉じ込められたりします。
夢は同行者と共通でも、別々でも構いません。
●その他
・全体的に心情よりでの描写予定です。
・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。
以上。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 日常
『しのぶれど、』
|
POW : あえて隠さず「想い」を口にする
SPD : 誰にも見られぬように工夫して折り畳む
WIZ : 魔力を籠めて祈りの力を高める
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●蛍夜
瞬く星々の輝きは、夏の夜空らしい強い輝きを抱いている。
星々が囁くかのように瞬けば、その光に応えるように地上の光も明滅を繰り返す。
ふわり、ふわりと地上を舞うその光は数多の蛍。
星々に照らし尽くせない闇を、彼等はまるで代わりに照らしてくれているかのようで。幻想的なその景色の中、さわさわと奏でるのは葉の音色。
それは願いを送り届ける葉で。または願いを代わりに受け止める葉でもある。
天と、地と。
ふたつの光の中、アナタの心に灯る想いは何ですか?
ロズ・アンライプ
【廃霊】
アドリブ歓迎。お嬢様に対しても敬語口調。
付き従うようにお嬢様の側で控える。
…壮観ですね。空気が澄んでいます。此処には血の臭いも戦場の気配もない。
星が煌々と輝く様子はお嬢様の黄金色の瞳を思わせる…など勿論、口にはしませんが。
短冊にお書きになるのですか?お任せ下さい。
私自身は書かない。願い事は…儚い物ですから。
言葉にしなくても願えるという笹の葉流しは私もお付き合いします。
主を支え、永劫を護り抜く。主が想いを寄せる人が出来るまで。
青い笹の葉が少しづつ流れて行く。
――私が主に寄せる想いなど…消えてしまっても構わない。お嬢様が幸せであるならば。
色は少しだけ赤へと変わる。きっと気付かれないだろう
カフィル・エデラウト
【廃霊】
アドリブ歓迎。
大切な執事、ロズと一緒。
目立ちたくないから、上から下まである紺のローブを羽織るわ。
わぁ……素敵な星空♪
今この時だけは、高貴なる者ではなく……一人の女の子として楽しむのよ。
七夕と言えば願い事、でも両方するわ!
まずは短冊に文字を……あら? 羽根ペンは無いの?
筆は、書きにくい……うぅ、難しいわね。
ロズ、お願いできるの?
なら、『幸せな日々を歩めますように』と書いて欲しいわ。
笹の葉を流すのは……
ロズと、ずっと一緒に居たい。大切で、愛おしいとも思えるわたしの執事。
でも、彼とわたしは主従関係。まだ、愛おしい気持ちは言葉にしない。
透き通る青に、星のような黄色が混ざりあった色が流れていく。
●
瞬く星々はまるで囁くように美しく、舞い踊る蛍の光が優しく世界を照らす中。夏の空気の中に仄かな冷たさを帯びた夜風に吹かれ、舞い踊る紺色のローブを握りながら。
「わぁ……素敵な星空♪」
カフィル・エデラウト(金蘭の揺籃・f37572)はその美しき景色に、星に負けぬ程金色の瞳を輝かせながらそう紡いでいた。
今此処は、彼女が生まれ育った世界では無い。彼女を知る者は誰もいない。
だから――今この時だけは、高貴なる者ではなく一人の女の子として楽しみたい。そう想う心を表すかのように、ローブへ添えた胸元の手を無意識に強く握り締めていた。
「……壮観ですね。空気が澄んでいます」
そんな彼女の声に、姿に――ひとつ息を吐くと、ロズ・アンライプ(獣性を持つ者・f37573)は静かに紡ぐ。あの空の星々の瞬きはまるで――その想いを胸に秘め、ちらりと傍らの彼女を見れば。彼女は早速短冊を一枚手に取っていた。
「……あら? 羽根ペンは無いの?」
けれど差し出された筆記具は筆と墨のみ。使い慣れた文具では無いことに戸惑いの色を隠せぬまま、それでも短冊へと文字をしたためようとするがどうしても上手くいかない。うろうろと筆を動かして、新たな短冊を貰ってまた書いて。四苦八苦する彼女の姿を暫く見守っていたけれど、そろそろ……と想いロズは唇を開く。
「短冊にお書きになるのですか? お任せ下さい」
「ロズ、お願いできるの? なら、『幸せな日々を歩めますように』と書いて欲しいわ」
胸元に手を当てて、優雅な所作で申し出れば。カフィルは素直に彼へと願いを告げ、その筆を差し出した。一瞬触れる指の体温をじわり感じながら、ロズは迷い無い動きで短冊と云う小さな紙へと主人の願いをしたためる。
出来上がる短冊は、一枚だけ。
――だって、ロズは願い事は儚い物だと分かっているから。
わざわざ言葉にすることは躊躇われたのだ。けれど、言葉にせずとも想いを葉に乗せることは、共に出来る。楽しげに一枚の葉を手に取り、金色の瞳を瞼で隠しきゅっと握り締める彼女に倣うように、ロズは手にした葉を丁寧に包み込む。
(「主を支え、永劫を護り抜く。主が想いを寄せる人が出来るまで」)
言葉には出来ない。しない。けれど胸の奥に宿るその想いは誓いのようなもの。強く強く想いを寄せれば、緑だった葉は段々と青へと色付き、まるでロズの瞳の色のよう。
その鮮やかさに、カフィルはほうっと溜息を零す。
彼の色が、美しいと思ったから。その色を確かに瞳に焼き付けた後、彼女はロズと並び小川へと近付き、そっと二人同時に川へと葉を流す。
さらさらと流れる小川に乗るのは、ロズの鮮やかな葉。そして、カフィルの透き通る青に、星のような黄色が混ざり合った美しい葉。
(「ロズと、ずっと一緒に居たい。大切で、愛おしいとも思えるわたしの執事」)
その葉を見送りながら、カフィルは先程葉に寄せた想いを再び胸に宿す。
それは確かな彼女の想い。けれど、ロズとカフィルは主従関係だ。この言葉を、この愛おしい気持ちを、言葉には出来ない。まだ、しない。
だから静かに、今この瞬間の想いは川へと流すのだ。
優しい蛍の光に染まる、その耽る横顔を静かに見つめ。きゅっとロズは唇を結んだ。
(「――私が主に寄せる想いなど……消えてしまっても構わない。お嬢様が幸せであるならば」)
それは常に抱く想い。けれど、執事として隠し続けている想い。言葉には出来ない、甘い感覚。だからこそ、こうして葉に乗せたのだ。誓いとは別の、融ける想いを。
――さらさらと流れる二つの青。
――瞬く星とは別の葉に、ほんのりと赤色が混じっていたのは気付かれただろうか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
波瀬・深尋
キトリ(f02354)と
思い出すのは、あの日の出会い
どこかの世界、
光の合間を楽しげに飛ぶキトリ
振り返った君に目を奪われた
覚えているのは、それしかないけど
今日の夜みたいに
キトリがきらきらして見えたな
ちゃんと、覚えてるよ
視線を交わして優しく笑った
辺りの笹の葉を手に取って
くるくると回して見る
こういうの初めてだけど
色が変わるなんて不思議だな
何色に変わるかなんて
分かりきっているくらいに
キトリへの好きは確かなもので
言えない想いもないけど
こうして形に見えるの、なんだか良いな
互いに赤く染まった笹を見て
とても幸せそうに微笑んだ
恥ずかしそうにしてる彼女へ
いつも通りに掌を差し出し
ほら、キトリ、一緒に流しに行こうか
キトリ・フローエ
深尋(f27306)と
…深尋、覚えてる?
あなたと初めて逢った時も、こんな夜だったのよ
夜空の星と地上の蛍
鏤められたたくさんの煌めきと、あなたを見上げて笑う
短冊に願いを記す代わりに笹の葉を手に取って
込める想いはたぶん、考えなくたって決まってるわ
別に言えないことでも記せないことでもないはずだけれど
ちょっぴり気恥ずかしいのは気のせいじゃない
だって赤く染まった笹の葉を見れば
あなたには言わなくたってきっと伝わってしまう
(深尋、あなたもそう?)
なんて聞かなくても
あなたの手の中で揺れる葉の色を見ればわかるから
擽ったくて笑みが零れてしまう
ええ、行きましょう
あなたへの想いと一緒に
いつもみたいに差し出された掌の上へ
●
ふわり、ふわり――世界を舞いちかちかと瞬く温かな光を見れば、あの日を思い出す。
どこかの世界。
光の合間を楽しげに飛ぶ一人のフェアリー。
振り返った君に、目を奪われた。
それが波瀬・深尋(Lost・f27306)の微かに残った記憶の欠片。
「……深尋、覚えてる? あなたと初めて逢った時も、こんな夜だったのよ」
光の中、くるりと振り返り見上げた彼女――キトリ・フローエ(星導・f02354)の姿はあの日の再現のようで。思わず深尋は目を擦り、そのまま優しく笑みを零す。
「ちゃんと、覚えてるよ」
――今日の夜みたいに、彼女がきらきらして見えたこと。
しっかりと交わるアイオライトと藍色の瞳。頷く彼とその笑顔が嬉しくて、キトリは思わず頬を仄かに染め、嬉しそうに綻んでいた。
夜風に奏でられる葉の音色。その小さな音が心地良く、キトリは惹かれるように深尋の傍から離れると、翅を羽ばたかせ笹の葉を手に取った。
一枚は自分が。もう一枚は深尋が想いを灯す為に。
小さな彼女とは同じくらいの大きさの葉を手に。少女が込める想いなどとうに決まっている。それは当たり前のように、考えるまでも無く溢れる想い。言えないことでも記せないことでも無い筈なのだけれど、気恥ずかしさに彼女の鼓動が早まる。
だってその色は――キトリの想いをしっかり映すかのように、あまりにも鮮やかな赤に染まっていたから。彼には、言わなくたってきっと伝わってしまう。
(「深尋、あなたもそう?」)
想いが重なるか、確かめるかのようにちらりと視線を向ければ。そこには葉をくるくると回している深尋の姿があった。
「色が変わるなんて不思議だな」
手元の葉を見て、どこか感心したように紡ぐ彼。――その手元はキトリと同じように鮮やかな濃い赤へと染まっているけれど、その色自体に驚いたりはしない。
だって、深尋のキトリへの想いなんて分かり切っているのだから。この溢れる程の想いを表すのならば、この色しか無いと云うことも。
言葉に出来ない訳では無い。
いつだって、君に伝えたい甘い想いを言葉に出来る。
けれど――。
「こうして形に見えるの、なんだか良いな」
キトリの抱く揃いの色を瞳に映し、深尋の顔に浮かぶのは幸せそうな笑み。その微笑みを見れば、思わずキトリも擽ったく感じつつも笑みが零れてしまう。
とくん、と鳴るこの鼓動は彼の前でだけの特別なもの。
そしてそれは――彼女の満開の花のような笑みを前にした深尋も、同じように高鳴る。
己の鼓動を感じながら、けれど笑み零す彼女に確かな愛おしさを感じながら。何時ものように、深尋は小さな彼女へと掌を差し伸べる。
「ほら、キトリ、一緒に流しに行こうか」
「ええ、行きましょう」
こくりと頷き、ちょこんと彼の掌に乗るのもすっかり馴染みになっていて。その唯一の温もりが心地良くて、嬉しくて。キトリはきゅうっと赤い葉を抱き締めた。
――あなたへの、想いと一緒に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月詠・黎
【天満月】
去年は揃いのカクテルを手に海の上で願ったのだったか
七夕も又、毎年巡るものなのだと実感させられる様じゃて
もう、ひととせになるか
人に合わせると時は長く感じる物なのじゃな
今年は、そうじゃのう…
去年は、お主の倖を願った
では一歩だけ進んで
友との樂しい日々が傍で続く様にと
微かな歩みじゃが…人としての一歩を踏み出してみようかの
未だ叶える神の身に己の願いは馴染まぬ
だが少しずつでもと思うのじゃ
優しく細めた望月の眸を友へ向け
のう、ユエは何を願う?
我としてはな、ユエには自身の為に願って欲しいと云ってみたい
聞いて呉れるかのう?
狡いと識っていて
酷だと知っていて
其れでも希う
彼女に自分自身への望みをと
ふふ、此れこそ
我の真の願いなのかもしれぬ
なに、其れで驚愕する星も笹も此処にはおらぬよ
…ユエ、願いには罪など無い
佳いのじゃ、人の仔は赦されておる
何の話かは告げずに紡ぐ
我は神、我は月
何処にも行かぬ、手も放さぬとの響は真
神は約束を違えぬ
友と約束を結んで之こう
此れからも
さて、共に笹を流そう
彩は何色にだったのかは果てさて
月守・ユエ
【天満月】
去年の夏も、こんな風にお願い事したよね
あの時も、七夕の時だった
季節巡り
また彼と願いを紡ぐ夏を巡る
去年
彼や大切な人達の幸せを願う詩を紡いだ
今年は…どんなお願いごとしよっか?
ゆるりと首傾げ
隣合う彼を見る
今年は何か一つでも…彼はお願い事を見つけられたかな?
返るは優しい望月の眸
自分の為にと言葉紡ぐ友に月眸を瞬かす
勿論と反射的の様に頷く
紡がれる彼自身の望み
それは本当に――噫、狡い人だ
くすりと鈴を転がすように笑む
…”わたし”のお願い事、2倍で流す事になっちゃうよ
星も笹も吃驚するんだよ?
けれど、若しも彼への望みを紡ぐのならば
(ずっとこんな風に
一緒に笑える日々を過ごしていきたいだなんて)
そんな人並みの幸せ願う事
今の自分には過ぎた願い…罪だと知りながら
あなたと共に歩む時間が心地良くて願わずにいられない
…わたしを此の世界で独りにしないでほしいと、いつか彼に願った想いを
じゃあ、さーっと笹の葉に乗せちゃうよ?
とびきり我儘な願い事、小川に攫ってもらうの
彼と共に流す笹は何色に映るだろう?
●
さわさわと奏でるは葉の擦れる音。
淡く耳に届くその音色へと耳を澄ませながら、夏の夜風に揺れる漆黒の髪を押さえ。月守・ユエ(皓月・f05601)は口許に笑みを浮かべると、ゆるりと唇を開く。
「去年の夏も、こんな風にお願い事したよね」
思い描くは、昨年のこと。
一年前の七夕の夜。彼と共に過ごした記憶はまだ鮮明だけれど。季節は等しく巡り一年の歳月が経ち、変わらず彼と願いを紡ぐ夏を巡ることが出来た。
その事実が嬉しくて、ついユエは満月色の瞳を細めてこの空気に浸ってしまう。そんな彼女を見て――瞬く夜空を見て、ふうっと月詠・黎(月華夜噺・f30331)は息を零す。
「去年は揃いのカクテルを手に海の上で願ったのだったか」
彼女と共に過ごしたあの日の記憶は、黎だって色濃く残っている。夏の始まりである七夕と云う行事、それもまた毎年巡るものなのだと実感させられるようで――。
「――もう、ひととせになるか」
人に合わせると時は長く感じるものなのだと、気付いた事実に彼は深い深い息の後言葉にしていた。神である黎にとって、刻む時は人間とは違っていたけれど。こうして人と共に、同じ時間を共有すれば初めて人の時間を自身の中に刻むようだった。
そんな彼の言葉に、横顔に。ユエは音に出来ない息を零すと。
「今年は……どんなお願いごとしよっか?」
小首を傾げながら、一つ問い掛ける。
――去年は、彼や大切な人達の幸せを願う詩を紡いだけれど。それなら今隣に居る彼は、今年は何か一つでもお願い事を見つけられたのだろうか。
彼女の言葉に、その眼差しに。一度瞳を瞬いて、考えるように優雅に口許へと指先を添える黎。煌々と注ぐ月の光が彼の瞳と漆黒の髪を照らす中、思考を巡らせる。
昨年は、ユエの倖を願った。
それならば今年は――一歩だけ進んで、友との樂しい日々が傍で続く様にと。
「微かな歩みじゃが……人としての一歩を踏み出してみようかの」
照らす月を見上げていた満つる瞳をユエへと向けると、二つの月がしっかりと交わり互いに笑みを零し合う。その言葉の裏にあるのは、叶える神であるにも関わらず己の願いを紡ぐことへの不慣れな感情。けれども、少しずつでもと想うから。
「のう、ユエは何を願う? 我としてはな、ユエには自身の為に願って欲しい」
その一歩進んだ言葉の後、続く問いにユエは大きな瞳を瞬いた。真っ直ぐに向けられる優しい眼差しからは逸らせない。――聞いて呉れるかと、紡ぐ彼のその奥の想いから。
黎は分狡いと識っていて、酷だと知っていて。それでも、希んでしまうのだ。――彼女に、自分自身への望みを、と。
「ふふ、此れこそ。我の真の願いなのかもしれぬ」
真っ直ぐに瞳を向けたまま、柔らかく笑んで紡ぐ黎の言葉に、ユエは大きな瞳を瞬いた。けれど言葉よりも先に頷いていたのは、反射的のようなもの。
「それは本当に――」
噫、狡い人だ。
言葉の後半は音にはならず、ただ口から零れるのは吐息のみ。
飲み込んだ訳では無い。ただ、音にならなかっただけ。ユエのその途中で途切れた言葉に、黎は真っ直ぐに言葉を待つように瞳を向けている。その優しい満ちる瞳を見つめて、ユエから零れるのはくすりと鈴を転がすような微笑み。
「……“わたし”のお願い事、2倍で流す事になっちゃうよ。星も笹も吃驚するんだよ?」
零す言葉と共に、胸に宿るは彼女の願い。もしも、もしも彼への望みを紡ぐのならば。
(「ずっとこんな風に、一緒に笑える日々を過ごしていきたいだなんて」)
それは音には出来ない、人並みの幸せ。
今の自分には過ぎた願いで、罪だと知りながら。あなたと、黎と共に歩む時間があまりにも心地良くて、そう願わずにはいられなかった。
そう、それは――わたしを此の世界で独りにしないでほしいと、いつか彼に願った想いなのだ。その想いは、今も変わらずユエの胸に宿り続ける。
そんな、音に出来ず心で想いを繰り返していれば。先のユエの言葉に黎は微笑んだ。
「なに、其れで驚愕する星も笹も此処にはおらぬよ」
重なる想いは、数多の人の想いを受け止めた彼等ならばきっと自然と受け入れてくれると、黎は静かに言葉にする。そのまま彼は柔く笑んだ眼差しで、口許で、真っ直ぐにユエを見つめながら、彼女の心へと語り掛ける。
「……ユエ、願いには罪など無い。佳いのじゃ、人の仔は赦されておる」
何の話かと、具体的には語らずただそれだけを紡ぐ。
紡がなくても、彼女ならば分かると信じているから――黎は神、黎は月。何処にも行かない、手も放さないとの響は真のこと。
「神は約束を違えぬ。友と約束を結んで之こう」
此れからも――と、彼女の細い手を取って。そっとその満月瞳を覗き込むように見つめれば、交わる金色は微かに潤みキラキラと輝いている。
音にせずとも、伝わっていた。
彼に願わずとも、叶えてくれた。
その優しさが、温かさが――心が震えるようで、ついユエは喉をきゅっと締めて漏れる音を堪えてしまう。ひとつ、ふたつと息をして。呼吸を整えて。そのまま繋いだ手を握り返すと、俯いていた顔を上げ彼女は。
「じゃあ、さーっと笹の葉に乗せちゃうよ?」
そう零した言葉は、震えてなどいないいつもの調子で。瞬く星を見て、辺りを揺蕩う蛍の光を見て、想いを乗せる小川を見て――そして最後に黎へと視線を戻しユエは語る。
とびきり我儘な願い事、小川に攫って貰いたいから。
早く、と言いたげに手を引いて。立ち上がれば黎も微笑み頷いた。共に歩み、共に想いを表せるこの一瞬を愛おしいと想うのは多分二人とも重なっているから。
互いの掌の中の笹の葉は――ほら、月の光のように温かな色に輝いている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・ユェー
【月光】
さらさらと音色、美しいですねぇ
おや?蛍が…
えぇ、とても優しい光ですね
笹の葉に願い事
おや?多分そうですね
言えない想い
この子が大きくなるのをずっと見守ると決めている
だけどこの子は誰よりも責任感が強い子
もしかしたら何かあった時に一人で抱え込むじゃないかと心配になる
少しでも頼って下さると嬉しいのですが
笹の葉の色を見れば紫色へと染まる
おや?ブルーベリー色ですね
僕たち親子の色の様ですね
願い事?ふふっナイショです
ルーシーちゃんの葉の色はとても素敵ですねぇ
美味しそうですか?
じゃブルーベリーのお菓子でも作りましょうね
彼女が嬉しそうにしてるのを見て微笑む
この子はきっと僕の為に祈ってくれてくるだろう
誰よりも優しい子
しかし
君を傷つける者が現れたら僕は制御出来るだろうか
例えそれが君にとって大切な人だったとしても
君の言葉を聴けないかもしれない
ドス黒い心の闇
本当の優しい父親になれるだろうか
川に笹の葉を流す
本当の黒い自分と一緒に流して
ルーシー・ブルーベル
【月光】
さらさらって音は川から?笹の音?
あ!ゆぇパパ
今そこ、ぴかぴかした!
ホタルの光って優しくて好きよ
笹の葉にお願いごとをしましょうか
変わった笹さんってコレかな?パパ
言えない想い
…ゆぇパパとはたくさん一緒にお出かけして
遊んで、食べてってしているけれど
その中でパパは好きなものに会えてるかな
以前は好きなお料理も分からないって言ってたパパ
好きなモノ……見つけていて欲しい、なあ
あ!色が変わった(笹の色お任せ
パパの葉っぱは何色?キレイな色!
ふたりの色……ふふ、そうね
それにちょっと美味しそう、なんて
ルーシーの願いもナイショ!
さ、流しに行きましょうか
手をつないで小川へ
願いは口にしない
だってパパは優しいから
「一緒なら何でも好き」とか言っちゃいそうだもの
ルーシー自身の望みは十分願いが叶っているし
これ以上望んだら罰が当たるわ
でもパパには幸せと好きが増えて欲しいし
悩みや苦しい事は減って欲しい
そのお手伝いもしたい
小川へ流れる笹を眺めて
……あれ?これ
結局わたし自身の願いじゃ?
「本当のパパをもっと見たい」っていう
●
さらさらと、耳に届く音色は傍を流れる澄んだ小川か。それとも夏の夜風に揺れる緑濃い笹の葉か。はたまたその両方が奏でる幻想的な音色なのかもしれない。
心地良い音色に耳を澄ませながら――ふわりと舞い、葉へと止まり明滅する光を見て。
「あ! ゆぇパパ。今そこ、ぴかぴかした!」
ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は繋いだ手をきゅっと握り、見て見てと言いたげに光を指差す。その正体は夏にのみ見ることの出来る幻想的な蛍の光。少女の指先に添い朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)も視線を動かすと、その光に瞳を細める。
「ホタルの光って優しくて好きよ」
「えぇ、とても優しい光ですね」
繋いだ手の温もりの先、少女の姿は暗がりでよく見えなくとも、嬉しそうに微笑んでいることは分かる。――耳に届くその声が、とても柔らかく温かかったから。
だからユェーはこくりと頷いて、改めて世界を照らす優しい光へと視線を向ける。その光の先、風に揺れる笹の葉は普通と変わらぬ形をしているけれど。
「変わった笹さんってコレかな? パパ」
それは話に聞いていた、想いを受け止める不思議な葉。少女の問い掛けに頷けば、ユェーは小さな彼女の代わりに一枚葉を取ってやり、屈みながら差し出した。ありがとうと素直に感謝を述べ、きゅうっと大切そうに葉を手にするルーシー。
この葉には、言葉に出来ない想いを宿すと云う。
小さな少女の心に浮かぶのは、やっぱり大好きな父のこと。
今までも沢山一緒にお出掛けをして、遊んで、食べてと思い出を紡いできたけれど。ひとつ、気になっていることがあるのだ。
――その中でパパは好きなものに会えてるかな。
以前は好きな料理も分からないと言っていた大好きな父。ルーシーの大好きと云う言葉には微笑んでくれたけれど、自身のことは随分と無関心だった。
だからこそ、沢山の経験の中で――。
(「好きなモノ……見つけていて欲しい、なあ」)
「あ! 色が変わった。パパの葉っぱは何色? キレイな色!」
瞳を細め、耽った時。まるでインクに染まるかのようにじわりと染まった葉は、月のような優しい黄色。――葉の隅のほうが、焦げたように黒いのは闇の中では分からない。
自身の手の中の葉をユェーへと差し出しながら、彼の手元を背伸びして覗き込めば。彼の葉は鮮やかなブルーベリーの色に染まっていた。
「僕たち親子の色の様ですね」
その色を見つめ、楽しそうに瞳を輝かす少女を見て。くすりと笑みを零すと、ユェーは手元で葉をくるくると回しながら穏やかにそう語る。――此の葉に込めた想いは、勿論愛しい娘に向けて。目の前のこの子が大きくなるのを、ずっと見守ると決めているけれど。この子は誰よりも責任感が強い子だ。もしかしたら何かあった時に、一人で抱え込むのでは無いかと心配だから。
(「少しでも頼って下さると嬉しいのですが」)
葉に込めたのと同じ思いを、ルーシーの笑顔を見て改めて胸に宿すユェー。そんな彼の願いは知らないまま、ルーシーは何時ものようにただ無邪気に微笑んで。
「ふたりの色……ふふ、そうね。それにちょっと美味しそう、なんて」
口許に手を当てて、くすくすと楽しそうに笑い声を零している。そんな、何時もの愛らしい姿を見られることが嬉しくて、ついユェーの口許は綻んでしまうのだ。
願い事は共に内緒だけれど――素敵に色付く葉の色は、その奥の温かさを感じられる。
「美味しそうですか? じゃブルーベリーのお菓子でも作りましょうね」
だからユェーは穏やかに笑って、今後の予定を言葉にする。彼女が喜ぶのなら、何時ものように腕を振るおうと想えるのだ。
彼の言葉に嬉しそうに小さく跳ねて、そのままルーシーは腕を引いて小川へと近付いた。蛍と月明かりがあるとはいえ、暗いから十分気を付けてと。手が離れないようにと確認するユェーの優しさが温かい。
きゅっと結んだ唇。
互いに願いは言葉にはしない。それは葉へと込めただけでなく――。
(「だってパパは優しいから、『一緒なら何でも好き』とか言っちゃいそうだもの」)
勿論その言葉は嬉しいけれど、やっぱり彼自身の一番が知りたいのだ。だから、今は言葉にしない。だって、ルーシー自身の望みは十分叶っているから、これ以上望んだら罰が当たってしまう。
でも、ユェーには幸せと好きが増えて欲しい。悩みや苦しいことは減って欲しい。そして、そのお手伝いを自分がしたいのだと、強く強く想うから――繋いだ手の先、天に輝く月の瞳をちらり見上げれば、優しくルーシーを見守る眼差しと視線が合った。
真剣で優しい少女の姿を、ユェーが愛おしいと思ったのはいつからだろう。
それはきっと、ユェーの為に祈ってくれているだろう、誰よりも優しい子だから。
しかし、同時に己の醜さを感じることもある。
(「君を傷つける者が現れたら僕は制御出来るだろうか」)
胸に湧き上がるどす黒い闇。例えその相手が少女にとって大切な人だったとしても、彼女の言葉を聴くことは出来ないかもしれない。
胸に湧き上がる感覚を振り払うことが出来ない。この闇を払うその日が来るのかは分からない。けれど、だからこそユェーは胸に手を当て心に想う。
(「本当の優しい父親になれるだろうか」)
それは星に願うように、誓うように。
己の未来の姿を夢見て、本当の黒い自分を流す為にも――手にした鮮やかな笹の葉を、そっと川へと落とせば。ルーシーも一緒に月色の葉を川へと落とす。
さらさらと聞こえるの穏やかなせせらぎ。流れてゆく葉を、彼等は静かに見送った。
その瞬間、ルーシーは心に引っ掛かりを覚え瞳を瞬く。
(「…………あれ? これ。結局わたし自身の願いじゃ?」)
――「本当のパパをもっと見たい」っていう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『星影の乙女』
|
POW : 夜の帳の中で
【相手の意識を奪う星光】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【周辺は星夜に包まれたような景色となり】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : おやすみなさい
【深い眠りへと誘う声】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ : まほろばの夢に抱かれながら
【心惹かれる夢の世界】を披露した指定の全対象に【このまま夢の中に居たいと思う強い】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:米島シン
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●星包の揺蕩い
蛍の光が灯る中、突如現れたのは美しき女人。
天女のような羽衣を纏い、夜空のような髪を靡かせ。月と星を纏う彼女は、どこか寂しげに微笑んでいた。
そんな彼女に気付き、構えたところでもう遅い。
『――おやすみなさい』
零れる言葉は鈴が鳴るように心地良く。紡ぐと共に辺りは闇に包まれた。先程まで耳に届いていた川のせせらぎも、視界を覆っていた温かな蛍の光も見えない。けれども、そこは純粋な闇では無く、瞬く星々がある夜空の中だった。
知らぬ間に足元は地では無くなり、ふわふわと身体が舞う浮遊感が包み込む。このまま夜空を泳ぐことも出来るだろうし、横になればゆらゆらと揺られながら眠りにつくことも出来るだろう。オブリビオンによる亜空間なのだろうが、その主たる彼女はただ穏やかに笑みを浮かべ猟兵達を見守っている。
そう、それはまるで全てを愛しむ母のように。
恐らく、こちらから手を出さない限りは彼女は何もしないのであろう。
星を愛する彼女は、ただ穏やかなひと時を人々へと与えたいだけ。――特に、疲れたり傷付いた者に対してはその想いが強くなるようだ。
だからこの夜空の中、星の海と共に暫しの揺蕩う時間を過ごしても良いのではないか。
勿論、この星世界から抜け出す為に。
最後は猟兵としての仕事を果たす必要はあるけれど。
波瀬・深尋
キトリ(f02354)と
夢の中なら、君を忘れない
そんなふうに考えたこともきっとあった
けど、今の俺は──、
君とふたりで夜空を揺蕩って
この浮遊感がキトリが味わってるものなんだな
ふよふよと浮かぶのには、まだ慣れない
なあ、キトリが行きたいほうへ
俺も一緒に連れて行ってくれるか?
手を引かれなくても
君の存在が俺には道標だから
隣で寄り添いあって星空を泳ぐ
なんだか本当に夢物語だな
こんなに星が、きらきらしてて
見惚れそうになるけど
彼女の言葉に擽ったげに笑って
たくさんの世界の景色か
良いな、それも楽しそうだ
俺は忘れてしまうかもしれないけど
夢の中に囚われるよりも
キトリとの日々を過ごしたいから
一緒に、この夢から覚めようか
キトリ・フローエ
深尋(f27306)と
手を伸ばせば届きそうな星空は
翅がなくても飛べるみたい
振り返れば慣れない様子で揺蕩うあなたに
そうよ、とちょっぴり笑って
一緒に空を飛べるのは嬉しいけれど
その大きな手を引くにはあたしは小さいから
隣に沿うように飛んで
ゆっくりとあてもないまま煌めく空を泳ぐ
そうね、本当に夢物語のよう
いつにもましてお星さまがきらきらして見えるのは
ここが夢の世界だから?
…それとも、あなたと一緒だからかしら
…あたし、あなたと一緒に色々な景色を見たいわ
こんな素敵な星空もそう
でも、それだけじゃなくて
たくさんの世界の、色々な景色を一緒に見たい
それでね、その全部を覚えておくわ
そのためにも、この夢からは覚めなくちゃ
●
キラキラと輝く星々に囲まれた空間で、ふわりと漂う心地。
その不思議さに、波瀬・深尋は藍色の瞳を瞬いた。此処は、夢の世界。甘く包み込むこの心地は現実では無いと、不思議なことに瞬時に判断出来た。
夢の中なら、君を忘れない。
そんなふうに考えたことも、きっとあった。
(「けど、今の俺は──、」)
きゅっと胸元を掴み、自身の心と向き合っていれば。星々へと手を伸ばしていたキトリ・フローエは後ろを振り返りそんな彼を見て淡い笑みを浮かべた。
その視線に気付き、深尋は顔を上げる。目の前には美しい星々の中佇む愛しい彼女。自身を包み込む慣れない心地は、きっと――。
「この浮遊感がキトリが味わってるものなんだな」
「そうよ」
初めての感覚にそっと言葉を零せば、小さく笑みを浮かべたキトリが深尋の元へと近付いた。ふわりと優雅に舞う彼女と違って、深尋はまだこの心地には慣れないけれど。この感覚を共有出来ることに嬉しさが満ちていた。
「なあ、キトリが行きたいほうへ。俺も一緒に連れて行ってくれるか?」
この心地を更に共有出来るようにと告げれば。キトリはアイオライトの瞳を細め微笑み頷いた。小さな彼女では彼の大きな手を引くことは難しけれど――ふわりと煌めきの軌跡を描きながら深尋の隣へと並べば、こっちだとキトリは指差し飛び出した。
彼女の煌めきに続くように、深尋も方向を変え泳ぎ出す。――夢の中だからか、望んだ方向へ飛ぶのはさほど難しくはなく。二人は暫し煌めく星空の空中散歩を楽しむ。
手を引かれ無くとも離れない、見失わない。
だって――君の存在が、俺には道標だから。
瞬く星々よりも美しく煌めく君。その輝きが一等強く感じるようになったのは何時からだろう。そんな疑問を浮かべながらも、深尋は初めての感覚へとその身を委ねる。
この美しき世界も。君と共に揺蕩うことも。
「なんだか本当に夢物語だな」
ぽつり、零れる言葉は無意識だっただろうか。その言葉へキトリは微笑むと、笑みを浮かべ頷いた。そう、本当に夢物語のよう。
いつにもましてお星さまがキラキラして見えるのは、此処が夢の世界だからか。
「……それとも、あなたと一緒だからかしら」
辺りを見て、隣の彼を見つめて。白い頬を薔薇色に染めそう告げれば、その言葉に深尋はひとつ瞳を瞬いて、直ぐにくすぐったそうに笑みを零した。
その笑みへと触れれば、キトリの胸がとくんと鳴る。満ちるこの温かさは初めてのもので、唯一のもの。この温もりへと触れれば、つい彼女は一つの望みを唇から零していた。
「……あたし、あなたと一緒に色々な景色を見たいわ」
こんな素敵な星空もそう。けれど、それだけでは無くて。もっと沢山の世界の、色々な景色を一緒に見たい。
そんな、共に歩む未来を望む願いを。
「たくさんの世界の景色か。良いな、それも楽しそうだ」
彼女の言葉に、深尋から返る言葉には迷う間も無い。――だって、その想いは重なっていたから。共に見た景色を忘れてしまうかもしれないと、少し申し訳なさそうに深尋は続けたけれど。キトリは大丈夫だと首を振った。
――だって、キトリがその景色を、共に過ごした瞬間を、全て覚えておくから。
彼女の温かさに触れれば、深尋は淡く笑む。懸念が彼女の温かさにより溶けていけば、残る想いはひとつだけ。――夢の中に囚われるよりも、キトリとの日々を過ごしたい。
だから――次に重なる想いは、この甘い夢から覚めること。
だって、この世界に閉じこもっていては見れない更なる甘い世界がある筈だから。
「一緒に、この夢から覚めようか」
深尋がそう紡げば、彼の伸ばした指先へとキトリは己の小さな手を重ねた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】
……パパ?
鈴の音がなる
ホタルの光が遠のいて
金の両目を開く
大きくはないけれどあたたかくて大切な家
そう、生まれた時からパパと過ごしてきた家だわ
見上げるとパパがぼんやり
どうしたの?
裾を引くと笑って頭を撫でてくれる
多分、物心つく前から繰り返された仕草だけど
わたしは大好き
ママはいないけどパパが居るから寂しくない
あれ?ママ、どんな人だった……?
――あ、うん!ご飯作る!
今日は二人が好きなもの作ろうよ
パパは毎日忙しいのに
ご飯は一緒に食べてくれる
美味しいご飯を食べ、今日の出来事を話す
あのね、黒い雛鳥さんと仲良しになったの!
パパは微笑みながら聞いてくれる
優しい金の瞳
パパとお揃いの自分の目の色が、実は密かな自慢
どうしたの?ヘンな質問して
もちろん!例え血が繋がってなくても
ずっとわたしの大好きなパパよ!
――ああ、そうだ
蒼の左目を開き
青花が舞う
『ゆぇパパ』
パパと思うと決めた時
考えた呼び方
世界中でゆぇパパは唯ひとり
血なんて関係なしに!
ええ帰りましょう
……えと、でもね
もう一度呼んで下さる?
「ルーシー」って
うん!
朧・ユェー
【月光】
蛍の光を眺めてると
美しい女性が現れてこちらを見て優しい微笑みを向ける
暖かいと感じたと同時に何か違和感を感じる
ルーシーちゃん、彼女を見ては…
彼女の言葉と同時に深い闇が包む
目を開けると
家の中?
ここは僕の家?
くぃくぃと服の裾を引く子
その子を見ると小さな女の子
ルーシー、ちゃん?
僕の娘?本当の僕の…
どうしたの?と不思議そうに見上げる娘に
何でもありませんよと微笑み頭を撫でる
僕と愛した人の…
愛した人?それは誰?
それはどうでもいい
君が娘が一緒なら
一緒にご飯を作りましょうか?
仕事が忙しくなかなか娘と一緒に居る時間が取れない
一緒にご飯を食べ、笑い話す
本当の親子の様だ
まるで違う親子
いや、そんな事は無い
今まで一緒に居た時間はかけがえのないモノ
それは本当の親子にも負けない
ルーシー、ルーシーちゃん
僕が本当のパパじゃなくてもパパと思ってくれますか?
この子はどう応えるだろう
やはり君は僕の娘だ
嘘喰
夢の嘘は喰べて
さぁ、戻りましょう
彼女の言葉にパチパチと瞳を瞬きした後、ふふっと笑って
家に帰りましょうか、ルーシー
●
輝く光の中、佇む女性はただ穏やかに微笑むだけ。
そんな彼女の姿が、笑みが。温かいと感じたのは何故だろう。不思議さと、胸に引っ掛かる微かな違和感に朧・ユェーはひとつ息を飲むと。
「ルーシーちゃん、彼女を見ては……」
傍らの愛し子の手を強く握り、彼女の大きな瞳が捉える対象を自身へ向けようとする。
「…………パパ?」
けれど、もう遅い。
笑みと共に包む光は温かく。ふわふわと揺蕩う心地は何だろう。
――遠い遠いところで、鈴の音が鳴った。
ゆるゆるとルーシー・ブルーベルが両の目を開けば、その金色の瞳に映る景色は見慣れた室内だった。大きくは無いけれど、温かくて大切な家。
――見慣れた?
――うん、見慣れた世界。
(「そう、生まれた時からパパと過ごしてきた家だわ」)
とくん、とくん。自身の心臓の音を確かめるかのように、胸元に手を当てるルーシー。何もおかしくない。何時もの風景、何時もの時間。そして、何時ものように大好きな人。
何時も座るソファーの上。すぐ隣に座る大好きな人はどこかぼんやりとしていた。くぃっと控えめに、けれど心配そうに彼の服の裾を引っ張れば、その眼鏡の奥の金色の瞳に光が宿りルーシーを見る。
「ルーシー、ちゃん?」
「どうしたの?」
瞳を瞬き、どこかぼんやりとした意識のまま名前を呼ばれれば。ルーシーは不思議そうに小首を傾げじいっと彼を見つめる。――交わる金の瞳はお揃いで。四つの金が浮かんでいる。大好きな人が紡ぐ自分の名前は、心に沁みる程温かい。
そのままユェーは再び視線を上げ、部屋を見回した後――再びルーシーへ視線を戻す。
(「家の中? ここは僕の家? 僕の娘? 本当の僕の……」)
思考がこんがらがるような感覚。整理するように単語を浮かべ、この景色を見て、けれど傍らの温もりは馴染む程に心地良くて。そのまま彼は笑みを零すと、そっと少女の小さな頭へと自身の手を置き優しく撫でた。
「何でもありませんよ」
包み込まれるような手の大きさも、その温かさも心地良くて。ルーシーは自然と瞳を細めその温もりに身を委ねる。――これは多分、物心つく前から繰り返された仕草。ずっとずっと昔からだけれど、大好きな人からのその仕草は大好きで。
(「ママはいないけどパパが居るから寂しくない。あれ? ママ、どんな人だった…………?」)
(「僕と愛した人の……愛した人? それは誰?」)
お互いに馴染む温もりなのに、心に引っ掛かる想いは重なって。けれど言葉にはしないから、互いの疑問が一緒だとは気付けずに。――ただ、この温もりへと身を委ねる安心感が勝ってしまう。そう、浮かんだ疑問など些細なもの。
――君が、娘が一緒なら。
「一緒にご飯を作りましょうか?」
そうっと優しく頭を撫でながら、問い掛けるユェー。何時も仕事が忙しく、なかなか娘と一緒に居る時間が取れない。だからこそ、今一緒に出来る時間を大切にしたいのだ。
「――あ、うん! ご飯作る! 今日は二人が好きなもの作ろうよ」
彼の言葉に、その温もりに。少しぼんやりとしていたルーシーは瞳に星を宿し、嬉しそうに笑みを零した。――忙しくても毎日ご飯を一緒に食べてくれる大好きなパパ。
一緒にご飯を作って。
一緒に温かいご飯を食べて。
「あのね、黒い雛鳥さんと仲良しになったの!」
他愛の無い会話。日常の報告。嬉しそうに笑みを浮かべて、美味しそうにご飯を口に運んで、無邪気に語る愛おしい子。
そんな二人の時間は、ただ甘く愛おしく、笑みが零れ続ける幸せなひと時。
――それは、本当の親子のような時間。
微笑みながら頷いてくれるユェーの姿が嬉しい。優しいお月さまのように緩く弧を描く、彼の眼鏡の奥の瞳の輝きが心地良い。――そっと自身の目許へと、ルーシーは指先で触れた。パパとお揃いの自分の目の色が、実は密かな自慢だったから。
そんな彼女の微笑みが、跳ねる声が、心地良くて。嬉しくて。つい浸って頷いてしまうけれど――まるで違う親子。いや、そんな事は無い。
ユェーの胸にひっかかる想い。ちくりと痛むこの感覚は何だろう。
(「今まで一緒に居た時間はかけがえのないモノ」)
そう、その時間は本当の親子にも負けない。尊くて、強い絆が結ばれている。
「ルーシー、ルーシーちゃん。僕が本当のパパじゃなくてもパパと思ってくれますか?」
不意に手にしたフォークを皿の上へと置き、顔を上げるとユェーは真剣な眼差しでそう問い掛けた。小さな、彼女はどう応えるだろう。
愛しい愛しい我が娘だけれど、彼女とは、本当は――。
「どうしたの? ヘンな質問して」
倣うようにフォークを置き、ぱちぱちと不思議そうに金色の双眸を瞬くルーシー。そのままくすりと微笑むと、彼女は頬を染め嬉しそうに唇を開く。
「もちろん! 例え血が繋がってなくても、ずっとわたしの大好きなパパよ!」
零れる言葉に迷いは無い。
浮かぶ表情は晴れやかで、真っ直ぐで。
その眼差しと、笑顔と、言葉に――ユェーは嗚呼、と口の中で吐息を零した。
「やはり君は僕の娘だ」
甘い甘い言葉と、純粋な笑みが零れ落ちる。
それは紛れも無い事実なのだ。
そして言葉を紡いで、違和感を感じたのはルーシーも同じだった。ずきりと痛む左目を覆い隠し、そっとその手を開いてみればそこに咲くのは蒼い瞳。
――ああ、そうだ。
小さな唇から零れる吐息。
思い出した。全てを、思い出した。
揃いの両目などでは無い。大好きなあの人とは、血が繋がってもいないし、生まれた時から一緒に過ごしてきたわけでもない。
「ゆぇパパ……」
不意に零れたその呼び名は、目の前の彼をパパと思うと決めた時、考えた呼び方だ。
そう、世界中でゆぇパパは唯一人だけ。その事実には血の繋がりなど関係無い。
この甘い世界も幸せだけれど、彼等の歩んだ時間はずっとずっと愛おしいものだから。現実を、過去を無かったことには出来ないから。
「夢の嘘は喰べて。さぁ、戻りましょう」
ユェーが呪文を唱えれば、嘘を貪る力でこの世界を壊していく。ただの愛しく甘い夢だけれど、だからこそ覚めなければ現実へと戻れないから。
「ええ帰りましょう」
椅子から下り、力を扱うユェーの傍へと近付いて。頷きを返しつつルーシーはそっと、彼の大きな手を取った。その温かさも、優しさもずっとずっと変わらない。それは夢が覚めても、変わらないのだと確信があるから、怖くは無い。
きゅっと手を握り、背の高い彼を見上げながら。ルーシーはいつの間にか何時もの花咲く眼帯に覆われた瞳を向け願いを言葉にする。
「……えと、でもね。もう一度呼んで下さる?」
――『ルーシー』って。
彼女のその願いに、ユェーは金色の瞳をパチパチと幾度か瞬いた。少しだけ意外なお願い。だけれど、何故だろう。くすぐったくも温かい心地がするのは。
愛しい彼女のお願い、それは勿論――。
「家に帰りましょうか、ルーシー」
「うん!」
甘く、優しく交わされる言葉は何度だって重なっていく。
それは夢でも現実でも変わらぬ、二人の強い絆。
――ほら、夢が覚めればそこは何時もの夏星が広がっている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵