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星綴りのルリユール~世界に一冊だけの本を(作者 夜行薫
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#サクラミラージュ  #2章受付期間:5/25(水)8:31~5/28(土)17時  #プレイング受付中 


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#サクラミラージュ
#2章受付期間:5/25(水)8:31~5/28(土)17時
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●製本書店『彗星屋』
 ――世界に一冊だけの本を創り出すのならば、この『彗星屋』にお任せを。

 日常のちょっとした物事を書き留める相棒に。
 手帳、メモ帳、日記帳、エトセトラ。
 日々の記憶を書き留める、普段使いの小さな味方。
 厚く、薄く、大きく、小さく。既製品ならままならない対応も、ルリユールでは思いのまま。
 自分の手で創り上げたのなら、一等愛着も増すことでしょう。

 一度頁を開けば、物語の世界へご招待!
 恋人、孫に子供に、或いはご両親に。贈り物にも最適な飛び出す絵本も大人気。
 お気に入りの童話を元に絵本を作り上げるも、オリジナルの物語を描き上げるも、写真や挿絵と共に当人だけの想い出を絵本に閉じ込めるも、思いのままに。

 「恐れ入りますが、当店では取り扱いしておりません」
 ユーベルコヲド使いとして、書籍や本を武器に用いる皆様ならば、度々耳にしたことのあるこの台詞。
 武器を新調したくとも、特殊な紙や本を素材に用いるあまり、一般には取り扱っていない店や工房の多いこと!
 しかし、その様な台詞は時代遅れ。
 当店ではユーベルコヲド使いの皆様でもお使い頂ける、特殊な紙や本もお取り扱い。
 悪魔を始めとする契約相手を呼び出す召喚器としても。摩訶不思議な事象を引き起こす魔導書にだって。
 個別に応じたオーダーメイドも受け入れております。

 唯一無二の、世界で一つだけの本を創りたい?
 そのような願い事も、『彗星屋』にお任せを。
 アコーディオン式、箔押し、アルバム、楽譜帳、個人の趣味嗜好に合わせて編纂した時祷書に。無論、長年愛用した本の修復作業も。
 皆様の製本体験を全力でお手伝いさせていただきます。

 絵本、豆本、ユーベルコヲド使いの皆様が武器として愛用している、一風変わった本でも。何でもござれ。
 勿論、一般的な各種書籍の取り扱いも致しております。
 製本書店『彗星屋』は、皆様のご来店とご依頼を心よりお待ちしております。

 ――とある大学の掲示板に張られた広告より抜粋。

●Relieur
「皆様は、『ルリユール』という言葉をご存知でしょうか?」
 日に日に夏本番へと駆け足で向かっていく、真夏も間近に迫ったとある日のこと。
 グリモアベースに集った猟兵達に向かって、そう語り掛けたのは曙・聖(言ノ葉綴り・f02659)だった。
 何やら文具好きとしてのスイッチが入ってしまったらしい目の前のグリモア猟兵は、周囲の反応を待たずして――常よりも早口でやや駆け足気味に、「ルリユールとは何たるか」について語り始める。
「『ルリユール』とは、ヨーロッパ圏の――主に、フランスで製本や装幀を一つ一つ手作業で行う職人を指す言葉でして。職人のこととは別に、手作業で製本や装幀を行う作業そのものを『ルリユール』と称す場合もあるのですが」
 その「ルリユール」と今回の依頼。それがどう繋がるのかと問われてみれば。
「実は、とある古書店街で何やら不可思議な現象が、頻発している様でして……。
 影朧の仕業かも知れないと、帝都桜學府に在籍する有志の學徒兵達達がパトロヲルして回っているのです。
 ですが、學徒兵だけで見回るには少々大きすぎる古書店街であるようで。皆様には、この見回りに協力していただきたいのです」
 今回猟兵達に赴いて欲しい場所は、数校の大学が中心になって発展を遂げてきた、歴史ある学園都市だと言う。
 煉瓦造りの街並みが観光名所でもあるこの学園都市には、世界的に有名な大学の他にも聖堂や図書館、博物館等があるようで。
 見回り対象となっているのは、そんな街中の一角、大学近隣に位置する古書店街だ。
 近隣に位置する大学と共に発展を遂げてきたこの古書店街は、全てを回ろうとすると半日は掛かるくらいに大きい。
 普段は観光客や学生で賑わう、普通の古書店街なのだが――何故だか、今月に入って説明不可能な怪奇現象が古書店街のあちこちで頻発しているとの話で。
 曰く、突然古書が発火したり。また曰く、数秒の間だったが、当然店内が無重力状態に陥ってしまったり。
 幸い、人的被害は出ていないそうだが……これでは、重大事件が引き起こってしまうのも時間の問題だ。
 説明不可能な怪奇現象の頻発に、「影朧の仕業ではないか?」と推測を立てた學徒兵達が見回りをしており。今回は、この見回りに同行して欲しいと聖は告げる。
「怪奇現象自体は古書店街全体で発生しているようですが……中でも飛びぬけて怪奇現象が目撃されている場所が、この製本書店『彗星屋』でして」
 製本書店『彗星屋』は、古書店街の中でも有数の歴史ある書店だ。
 本好きと星好きが高じて自ら製本に携わり、書店を立ち上げるにまで至った初代店主を筆頭に、十三代目である現店主まで脈絡と受け継がれてきている製本技術がウリらしい。
 この製本技術――「ルリユール」は、書店で教室も開かれているそうで。見回りの傍ら、参加してみるのも面白いかもしれない。
「初代店主ですが、星好きのなかなかに突飛なお方だったというお話です。
 何でも、当時のユーベルコヲド使いに悪魔召喚の方法をしつこく取材したり。嘘か誠かも不明な、世界各国のお呪いの術式をかき集めたり」
 世界は丸い。故に、居る場所によって頭上に広がる星空も異なっている。
 しかし――贅沢にも、一度に世界中の星空を見たいと願った、大層な大馬鹿者が存在したそうな。
 大層な大馬鹿こと、初代店主の行動理論は、「世界中の星空がいっぺんに見られたら楽しいじゃないか!」ただこの一言に尽きた。
 その為に、古今東西の星図や星の神話、悪魔召喚や、何やら怪しげな呪い等をかき集め、それを自作の本に書き綴っていたそうだが――終ぞ、世界中の星空を一度に見られる方法を見つけることなく、その生涯を終えてしまった。
 初代店主が無くなり、早百年以上。
 自作のインクまで用いていたせいで、初代店主が製本し書き綴った本達はすっかり腐食してしまい、書店の書架に並べられている現存する当時の本達は、軒並み穴だらけの状態であるらしいが。
「怪奇現象が認められない様でしたら、見回りながら自由に古書店街を楽しんで頂いても構いませんよ」
 初代店主のせいである意味名物の、製本書店『彗星屋』を始め、古書店街には様々な見所がある。
 古書や書籍を扱う古書店や書店は勿論、本を読みながら、ゆったりとした一時を過ごせるブックカフェーに。
 他にも、街を散策してみれば、思ってもいなかったお店や出来事に出逢えるかもしれない。
 聖は「よろしくお願いいたしますね」と、一礼して。笑顔で猟兵達を送り出すのだった。





第2章 冒険 『書架に残り香』

POW手当たり次第に探す
SPD分類、記録を重視して調査
WIZ勘で見当を付けて調査
👑7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●言葉に宿るもの
「パトロヲルの結果、影朧は見当たりませんでしたが……。代わりに、最後のページに怪しげな――呪文? 図形? が書かれた本を幾つか回収しました」
 見回りを終えた學徒兵達達が、製本書店「彗星屋」に戻ってきた。
 街を隅々まで見回りしたが――影朧の姿は見つからず。學徒兵達が皆一様に口にする調査結果は、全くの白。
 しかし、何か情報が得られないかと、説明不可能な怪奇現象の被害に遭った書店や家々を順番に尋ねてみたところ、その全てに共通して、最後のページに怪しげな紋様が刻まれた本が見つかったという。
 と、それと時を同じくして。
「何かあるかもって、日記帳を、解読……していたのですが……っ!」
 勢い良く開けた扉が壁に当たり、跳ね返ってしまうくらいに。ドタドタと盛大な足音を立てて、「彗星屋」の店内に入ってきたのは――現在の店主である、十三代目店主であった。
 息せき切って駆けてきた彼女の手には、何やら、すっかり色褪せてボロボロになった本がある。
 どうやら、初代店主が生命の終わりを迎えるその日まで綴っていた、日記帳の最後のものらしい。
『……――闇の海に浮かぶ星の光を集めることも、終ぞ叶わなかった! 先日呼び出した悪魔は、簡単な事象すら起こせぬ程程不出来な輩であった!
 嗚呼。本の内容を具現化できるというあの呪い(まじない)が本物であれば、世界中の星空を一度に臨めたかもしれないのに。
 私が聞いた手法は、間違いであったのか。それとも、私の考え自体が間違いであったのか?
 言葉には、文字には、声には、魂や命、感情、心が宿る。私はそれを信じている。
 千宙。私があの日、君が書いた物語の中に広がる星空の美しさに、すっかり魅了されてしまったように。
 呪いを施した『試作』達。それらを長年見守ってきていたが……。毎日どれほど想いを籠めて文字を読み上げても、今まで、ただの一つも反応することは無かった。

 最後の策も尽きた。他の方法はもう、思いつかない。
 もう一度だけで良い。もう一度だけで良かった。君が記した星空を、』
 初代店主が書き残した日記帳の最後は、その言葉で終わっている。
 それから先は、長い年月を経て色褪せ、黄ばんだ白紙のページが延々と連なるばかりで、再び初代店主の神経質な文字列が姿を見せることは無い。
「で、その『呪いを施した試作』と言うのが、」
 チラ、と。十三代目店主の視線が、學徒兵達が回収してきた怪しげな紋様の刻まれた本に注がれる。
 悪魔召喚の術や、世界中の呪いを集めていたという初代店主。恐らく、彼が集め、試していた呪いのうちの一つが「当たり」であったらしい。
 百年以上という長い時を経て、紙やインクがすっかり腐食した影響か。どうやら、呪いに綻びが生じ――その結果、今回の怪奇現象が引き起こされたらしかった。
「日記帳によると、初代店主は『本に書いてある、文字の内容を具現化させる呪い』とやらを、自身が製本した本や、日記帳。売り物にならない落丁本に、気の向くままに試していたみたいでして……」
 『試作』が成功したのを確認してから、本命である星座や星図の具現化に取り掛かるつもりであったのだろう。
 基本は、書店にある初代店主自らが製本した趣味の品や、売り物にならない乱丁本、落丁本を『試作』としていた様だが。
 その一部が何かの拍子で流通してしまい、怪奇現象が古書店街全域にバラまかれる事の運びとなった様だ。
 裏を返せば。
「……あの書架こそが、全ての元凶ってこと、ですよね……」
 ――十三代目店主の視線の先には、「彗星屋」が擁する大きな書架の姿があった。
 さすがに、客が立ち入るスペースはきっちりと整えられているが……。
 今まで売れ残った品や、売り物にならなくなった品の大半は、店の奥にある無駄に広い書架に押し込められている。
「でも、在庫として売れ残った白紙の手帳にも呪いがあるっスよ? これはどうすれば、」
「何か書き込んで、それを読み上げる……とか?」
「じゃあ、『ウサギ可愛い』っと……」
 手が届く範囲で調べてみると、ページの最後に特徴的な紋様が刻まれた手帳が見つかった。
 學徒兵の一人がすっかりカサカサになった、売れ残りの手帳に文字列を書き、それを読み上げれば――途端、澄んだ水色の光が周囲に満ち溢れたかと思うと、数匹のウサギが手帳から飛び出した!
 星光のような水色の光を纏う数匹のウサギは、害を齎すこともなく……ただ、気ままに店内を跳ね回っている。この呪いは本当に、『本に書いてある文字の内容を具現化させる』だけにあるのだろう……暴走さえ、しなければ。
「マジかよ!? めっちゃかわい、」
 學徒兵が嬉々として具現化したウサギに迫り、触れようとするが――ウサギに触れるはずだったその手は、ふわりとウサギの身体をすり抜けてしまたった。どうやら、具現化した本の内容には触れられないらしい。
 具現化しても所詮、それは空想の産物であるからか。
「でも、あんまり時間は残っていないでしょうね。いつ呪いが暴走しても、おかしくないでしょう」
「呪いが施された本の中には、古書店街に流通している品もあるでしょうし……。あ、そちらの回収は私達にお任せを」
 學徒兵達が気を引き締めて見つめる先には、大きな書架が。
 古書店街で多発している怪奇現象から推測するに、恐らく、呪いのタイムリミットは目前に迫っている。
 経年劣化によって綻び、限界を迎えた呪いが暴走し、好き勝手に文字の内容を具現化させてしまう前に――正規の手順で、呪いを解き放たなければならない。

 「彗星屋」が所持する、大きな書架。
 そこには、乱丁や落丁で売り物にならない本や、売れ残った日記帳や手帳の数々が、雑多に押し込められている。一応、最低限の分類はされている様だが……。

「――てか、日記には『宿る』って書いてあるっスけど。言葉に『宿る』んじゃなくて、言葉に何かを『宿す』のが正しいんじゃないんスかね?」
「ですが、言葉に何かが『宿る』こともあるでしょう?」
 言葉に何かを宿すも、言葉に宿る何かを感じ、それを解き放つも。それは、猟兵達の選択次第。
 文字は、本の内容は。込められた想いと声に反応して、自由自在にその姿を変え。鮮明に、或いは弱弱しく。込められた想いのまま、具現化するに違いない。
 そして、「もう一度だけ」という日記の通りならば――奇跡が起きるのは、「一度だけ」だ。
 その「一度だけ」が過ぎれば、呪いの施された本は、「ただの本」に戻る。
 先程、學徒兵が具現化させたウサギの様子を見るに――時間の経過と共に「具現化した文字の内容」は徐々にその色彩が薄れ、夜が訪れれば、その奇跡は跡形もなく、ふわりと消え去ってしまうことだろう。
 言葉に、文字に、声に、想いを籠めて。そうして引き起こす一度だけの奇跡に、君は何を託す?
 感情、魂、心、理想、夢。文字の並びに、君は何を宿す?

 ===

 2章、書架の調査です。
 書庫を調査し、呪いの施された本を発見し、呪いを正規の手順(本に記された文字を、声に出して読み上げること)で解き放ってください。
 呪いの施された本の種類や「具現化させる本の内容」については、お好みで(プレイング内に記載お願いします)。
 呪いが施された本は、星の神話や星座、世界各地の星空について記された本が多いようですが……。星や天体とは全く無関係な本や、売れ残った白紙の手帳類に施されていることもあります。
 白紙の手帳類を発見した場合、具現化させたい内容を文字として手帳類に記し、それを声にして読み上げることによって、お好みの内容を具現化させることもできます。
 「具現化した本の内容」が、纏う光は様々です。「具現化した本の内容」の姿も、やたら存在感があったり、逆に弱弱しかったりと、その姿形は籠められた想いや声に依存します。
 「世界中の星空を一度に」等、現実では不可能な光景を齎すも。
 「オリオンと彼を追いかけるサソリ」等、神話や物語の内容を具現化させるも。
 「ウサギ可愛い」等、白紙の手帳類に記して自らの欲望に忠実になるも、ご自由に――ただし、良識はお守りください。
 それでは、空想と現実が曖昧になる不確かで不思議な時間を、お楽しみくださいませ。

 ===
ミア・アーベライン

星と魔術は相性がよいと思うんですのよ
こちらの店主様は星がお好きだったから呪いも引き寄せたのでしょうか

何はともあれ、本を探しませんと
強い魔力を感じる本は…これでしょうか
藍色の表紙、銀の箔押し、ああ、星空の本ですわね
中を開けば、詩がひとひら
『故郷の星は 今も変わらず輝いているだろうか』

わたくしの故郷は遠い異国の地
街灯などもほとんどなく、夜になれば月と星だけの世界
ああ、満天の星空が書庫に見えますわ
…懐かしい光
呪いだとしても心が救われるようです

星が消えてしまえば、この本の呪いも解けたということですわよね
こちらの本、いただけないかしら
あとで今の店主様にご相談してみましょうか



 魔術、呪術、占星術、未来予知や神々からの神託。
 遥か昔の時代より、人々は夜空に浮かぶ星々に不思議な力を感じてきていた。
 その力を利用し、或いは天体の動きを読み取ることによって。自らの生活の役立ててきている歴史があるのだ。
 だからこそ。
「星と魔術は相性がよいと思うんですのよ」
 何千年という歴史の上に積み重ねられてきた、人々と星の関わりがそれを物語っている。
 星と魔術は、一等相性が良い。それこそ、今の時代にも占星術といった存在が根強く息づいているくらいには。
「こちらの店主様は星がお好きだったから呪いも引き寄せたのでしょうか」
 宇宙の闇を集めてそのまま布にしたかのような、落ち着いた黒宿るゴシック調の衣装の裾を翻しながら。
 ミア・アーベラインは、書架に並べられた本の背表紙に触れていた。
 袖先から覗く華奢な指先が本の表紙ごとに異なる触り心地を拾い上げていく、その感触を楽しみながら。想いを馳せるのは、初代店主のこと。
 古今東西に伝わる呪いは、それこそ星の数ほど多くあるが。その殆どが、眉唾物だ。
 その中から初代店主が「当たり」を引き当てられたのは――ひょっとしたら、彼の星好きが呪いを呼び寄せたから、なのかもしれない。
「何はともあれ、本を探しませんと」
 歴史ある古書特有の、豪奢で煌びやかな装丁は魅力的だが、今は目的がある。
 背表紙を撫ぜる感触を楽しむのも程々に、ミアは己の魔力を働かせて強い魔力を宿す本を探っていった。
「強い魔力を感じる本は……これでしょうか」
 何十列にも渡って存在している書架の列。
 その間に張り巡らされた、糸のような魔力の残滓。呪いが施された本一冊一冊から発せられる魔力の存在が、複雑に絡まり合ってひっそりと書架の周囲を漂っている。
 周囲を漂うそれらのうちの一つを辿って目的の品を探せば、ミアは自ずと「正解」に辿り着いた。
 誘われるように、目的の本に手を伸ばす。
 隙間なく詰められた本の群れ。引き出すのは容易ではない様に思えた。
 しかし、予想とは反対に――ミアが背表紙に手を掛けると、スッと軽くその存在を書架の中から引き抜くことが出来て。目的の本は意外なほど簡単に、ミアの手の中に収まった。
 表に返し、表紙を眺める。夜空の様な藍色を抱き、煌めく星々に交じって銀の箔押しで題名が刻まれていた。
「ああ、星空の本ですわね」
 そっとページの端に手を添えて。
 導かれるようにして本を開けば、そこには詩がひとひら。
「『故郷の星は 今も変わらず輝いているだろうか』」
 ミアがそのひとひらだけの詩を紡ぎ終えると――途端、ふっと周囲に夜が降りてくる。
 それから。ページから次々に浮かび上がって飛び出てくるのは、直視できないくらいに眩い、星々の瞬き。
 赤に、橙、白銀に黄金。その身に様々な光を宿す、数えきれないくらいの星明かりの奔流は、飛び交い、絡み合い――何処かで見た覚えがあるような形を取って、書庫の天井へと昇って行き。
 ミアの頭上に、一つの星空を創り出していった。
「ああ、満天の星空が書庫に見えますわ」
 頭上に生まれた一つの星空の存在。それは、ミアにとって酷く懐かしい、遠い異国の地にある故郷で見た星空の姿で。
 故郷で見た星空の光景は、今でも鮮明に憶えている。ミアの記憶の中から、そのままそっくり飛び出してきたかのような光景で。
 あの日から何一つ変わらないまま、頭上でミアのことを優しく見守ってくれている。
「街灯などもほとんどなく、夜になれば月と星だけの世界……懐かしい光」
 星明かりを妨げる街灯といった人工的な強い光が無いからこそ、星々は夜空の端へと追いやられることもなく、各々の持つ本来の輝きを放つことが出来たのだ。
「呪いだとしても心が救われるようです」
 ミアの心に、先程の詩の存在が浮かび上がる。
 故郷を離れてそれなりに時間が経つが、あの時見た星空は、今でも変わることなく夜空を照らしているのだろうか。
 どうか、そうであって欲しいと強く願う。
 星と月の楽園は、人の手が入らぬままに。あの頃から変わらぬまま、今でも故郷の夜を彩っていて欲しいと、切に。
「星が消えてしまえば、この本の呪いも解けたということですわよね」
 ゆったりと時間の経過とともにその姿を少しずつ、少しずつ変えていく故郷の星々。
 天上で眩く光を放っている星々が去れば、この本は普通の本に戻る。
「こちらの本、いただけないかしら。あとで今の店主様にご相談してみましょうか」
 そっと口元に微笑を湛えて。ミアは大切に手元に抱いた本に視線を落とす。
 あの詩を口にする度、何度でも故郷の星空に出逢える気がしたから。例え――遠く離れていても。
成功 🔵🔵🔴

ガルレア・アーカーシャ
【虚無の埋め方】
手分けをして
見つけたものは呪いがかりのピアノスコア
譜面を目で追いながら、それが名曲である事を理解する
ピアノは邸だが、手にしている杖『障翳・黒夜』であれば、記されている通りの音は、読み上げるよりもその再現に近しいであろうと思い
しかし、己のそれが何かを『宿す』と言われるのであれば。それはただ一つであろう
(音を奏でれば、浮かび上がるのは弟の歌声。しかしそれは薄く、儚く、直ぐ消えて)

俯き、呟く
「万一これを手放したら…心は…この渇望は、一体何で埋めよと云うのか…」
あまりにも恐ろしかった
だが、それを親友で埋める真似だけは、絶対にあってはならない気がしたのだ

…親友には、幸せになって欲しかった


ラルス・エア
【虚無の埋め方】
効率優先し、親友とは離れ呪いの本を探し
探しながらも先からの考えは止まらない―
鍵付きの日記に既に在りそうな内容や、親友の弟について

思えば、どれもが曖昧だった
―思う。親友を取り巻く状況を、己は知っているようで
実は『何も知らないのではないか』と。
そこまで思った際に手にしたものは、白紙に刻まれた呪いの本の一冊
何かを書けと言われたら。そもそも自分には、何が書ける?

己の生き様は、幼い時分より親友を中心に回っていた
友の為ならば、何でも出来ると思っていた――だが、
…白紙の本に認めた文字は『親友の心』
浮かび上がるものは揺らぎ、即消える

何よりも知るべきものを知らなかった
己を…自分は今何よりも悔いた



 薄っすらと積もった埃。書架と書架が重なり合い、生み出される薄灰色の陰。
 静と無音に満たされたこの空間の中で。ただ一つだけ、動く存在があった。一際濃く、黒く、大きな影が。
 まるで闇夜から抜け出してきたかのような、人型の影の持ち主は――ガルレア・アーカーシャだ。
(「これは……ピアノスコア、か。目的の品である、呪いがかりの」)
 ふと目に留まったのは、分厚い専門誌の間に隠れるようにして挟まれていた、薄い冊子。どうやら、年代物のピアノスコアのようだ。
 年代物特有の紙が立てる、カサカサという不快な摩擦音に眉をひそめながら、手にしたピアノスコアのページを開く。
 擦れて読めなくなった曲名に、幾つもの音楽記号。遥か昔から使い古されて久しいくらいの、古典的な形式を持つ楽曲だった。
 音の連なりと曲の構成から、この世界の流行に詳しくは無くとも、今しがた手にしたこれが「名曲」と呼ばれる類ものであることは理解できる。
(「ピアノは邸だが、『障翳・黒夜』であれば、記されている通りの音は、読み上げるよりもその再現に近しいであろう」)
 『障翳・黒夜』を用いれば、この譜面の楽曲を再現することなど、そう難しいことでは無い。
 だが、ガルレアにとっては、それは何処までいっても未完成の楽曲に過ぎない。曲を構成するのに欠かすことのできない――未だって致命的に欠けている――存在が居るのだから。
(「しかし、己のそれが何かを『宿す』と言われるのであれば――それは、ただ一つだろうな」)
 ――ガルレアの奏でる楽曲は、ガルレアが思う完璧な演奏は。弟の歌声があってこそ、初めて「完成」したと呼べるのだ。
 譜面に視線を落とす。
 意識せずとも、思考は動く。
 譜面の音符の並びに幾つかの音を足す。ペダルを踏み込む瞬間を少しだけ遅らせる。
 どのようなアレンジを重ねたのなら、より弟の歌声の魅力を引き出せるか。
 ただ、その一点に対して。ガルレアの思考は恐ろしいほど早く、「弟の為の楽曲」を導き出していく。
 だからこそ、音を奏でる前から解った。己のそれが「宿す」のは、他ならぬ弟の歌声なのだと。
「……やはり、な」
 杖を翳す。何処か寂しげで排他的でゆったりとした旋律が、室内に反響して消えていく。
 弟なら、この夜抱く寂寞の旋律の中にひっそりと隠された静かな美しさすらも、一瞬で見つけ出し、歌声に乗せて掬い上げてしまうことだろう。
 「兄様」と。そう、聲が聴こえた気がした。
 嘗てを経て、今へと辿り着くように。記憶の根底に今も強く根付く、何処か舌足らずなボーイソプラノから始まった歌声は、いつの間にかすっかり大人になった弟のそれに代わり。
 寄せては返す、漣のように。
 小さなピアノの音色に寄り添うだけの、細やかな歌声。ただ、兄である己の為だけに捧げられていた、純粋なる歌声。
 それから。今もガルレアの魂を捕えて止まない、最も愛しき存在。
 耳を澄ませば聞こえぬ程に小さなそれは、細やかで、薄く、儚く、すぐに消えてしまい。
 周囲には再び、静寂が舞い戻るばかり。
「万一これを手放したら……心は……この渇望は、一体何で埋めよと云うのか……」
 俯き、呟く。
 力無く握り締めた手元から、ピアノスコアが零れ落ちる。カサリと僅かばかりの音を立てて落ちたそれは、緩やかに埃の積もる床を滑っていく。
 酷く目眩がした。
 全てが自分の手中にあるように思えて、その実全てが自分の外にあったことを、まざまざと突き付けられたかのようだった。
 悪魔召喚術に手を伸ばしたのだって、猟兵になった理由だってそうだ。この身を構成するのは、殆ど全て弟のことばかりで、万一それが喪われる様なことがあれば――……。
 がらんどうのこの身が残るばかりなのではないか?
(「……ラスには、幸せになって欲しかった」)
 ラスは、ラスだ。
 弟の代わりにはならない。なるはずも無ければ、なってはいけない!
 この心に開いた空虚な穴を、満ちることを知らない渇望を。魂にまで刻まれた妄執を。弟の不在を、親友で埋めてはならない。
 それで、一時ばかりの安息を得るなど。
 そんなこと、あってはいけない。そう、例え他にどんな間違いを犯そうとも――それだけは、絶対に。
 ラスには散々世話になった。
 ただでさえ短き人狼の命に、恐らくロクな死に方をしない自分。その最期にまで親友を付き合わせる訳にはいかない。
 ラスには、幸せになって欲しかったのだから。
 だが、その「幸せ」は――ガルレアが決めることでは無い。
 ラス自身が決めることだ。ガルレア自身の価値観を押し付けたところで、恐らく、ラスは幸せにならない。
 だからこそ、解らなかった。あいつがどうしたら、「幸せ」になるのか。


 手分けして探した方が効率は良いから、親友と別れて調査に臨んだ。
 言ってしまえばそれだけのことだったが、ラルス・エアはそれだけではないことに気が付いていた。
 どちらからともなく「効率」を言い訳に二手に分かれたのは、各々思うことがあったからだろう。
(「思えば、どれもが曖昧だった」)
 ラルスの脳が思考の海に溺れている間も、身体は考えるまでもなく、また一冊、怪しげな本を手に取っている。
 呪いの本を探しながらも、先程からの考えは止まる気配をみせなかった。
 こうしている間にも自動的・反射的に動いてしまう身体に甘えながら、自らの思考を手繰り寄せる。
 鍵付きの日記帳。ガルレアはそこに、いったい何を認めるのか。やはり、弟の事か?
 今も忘れられぬ幼少期の出来事や、鮮明に憶えている記憶。それとも、ピアノスコアに関することだろうか。
 己の様に日常の些細な事象を認める性格にはみられないから、恐らく、日記帳に認められるそのどれもがレアにとってとびきり大切で、忘れ難い物事であるに違いない。
(「俺は……レアを取り巻く状況を、知っているようで、実は『何も知らないのではないか』?」)
 ――己は、「ガルレア・アーカーシャ」という人物のことを、果たしてどれほど識っているのか。
 冷静沈着だが傲慢。だが、それを隠すだけの器量の良さは持ち合わせている。
 時折、気紛れのままに「興味」や「酔狂」を働かせることもあった。己がそれに振り回されたことも、一度や二度の話ではない。
 それから。あの「化生」――弟に執着して止まない。
 だが、何故それほどまでに弟を追い求める? レアは俺に、何を求めている?
 好みや嗜好については、詳しく把握しているが。それ以外のことは? あいつの行動の根源となっている考えや、信条、何を感じ、どう考えているのか。
 何故、あいつは幼少の頃の人らしさを失った? 「歌声と存在に惚れ込んだ」だけで、あそこまで弟を追い求めるものだろうか?
 考えれば考える程、「ガルレア」という人物の詳細に靄が掛かり、人となりが掴めなくなってしまいそうだ。
 あいつは偽るのが上手い。純粋たる真実など、何処にも存在しないのかもしれない。
 もし、あいつが自身の本心すらも偽ってしまっているのなら。あいつ自身が、それに気づいていないのなら。
 いったい、あいつの本心は何処に存在しているのか? 何処にも存在していないのではないか?
(「何かを書けと言われたら。そもそも自分には、何が書ける?」)
 ――気が付けば、ラルスの右手には白紙の手帳が握られていた。
 奇妙な紋様をジッと見つめながら、ラルスは無意識のうちに「そのこと」を書き綴っていた。
(「己の生き様は、幼い時分より親友を中心に回っていた。友の為ならば、何でも出来ると思っていた――だが、」)
 今なら解る。
 あいつの為だからこそ、出来ぬこともあるのだと。
『最期はお前の手で殺されることも、きっと悪くはない』
 脳裏に思い浮かぶのは、いつかの微笑。少なくともラルスにとっては残酷な告白となる本音をレアが告げた時の、心底穏やかな表情で。
 記憶の中のレアは、ただ、穏やかに微笑っていた。
 思えば、あいつが「終わり」に対して何らかの考えや物事を口にするときは、決まってあのような表情をしていた気がする。ある種の癖の様なものだろうか。
 同時に、思う。
 レアに本気でそんなことを言われた日には、恥も外聞もかなぐり捨てて縋り付くだろう、ことも――「頼むから、生きてくれ」と。
「『親友の心』、か」
 白紙の手帳の最後のページ。黄ばんだページに、ただそれだけを。
 躊躇いがちに吐き出された擦れた声が、文字の列をなぞる。声として生み出されたそれは、周囲の空間を微かに震わせただけで、静かに消えていく。
 蛍の様にひっそりと浮かび上がった仄かな光の球達は、何らかの形を宿そうとし、しかし――何らかの形になりきる前に、光の靄となり霧散してしまった。
 己が言葉に託したそれは、己が言葉に宿したこの想いは。
 相手に届くことすらなく、消えてくのか。それとも、何らかの形を持つ存在へと変化している途中なのか。
 己と親友が辿る道程。その先に待ち侘びている存在が、いったい何なのかすらも。
 今のラルスには、それすらも判断がつかない。
 光の靄となって消えていったそれは、己とレアの曖昧な関係を示しているかのようで。
(「何よりも知るべきものを知らなかった。己を……俺は今何よりも悔いた」)
 どうにも、胸騒ぎがして落ち着かなかった。
 どうしたら、あいつを生かす理由になれる?
 どうしたら、俺はあいつの本心に触れられる?
 解らないことは多いが。一つだけ、確かなことがある。
 このまま。知るべきものを知らぬまま。曖昧なままでは、終わらせたくなかった。絶対に。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴