物語の風景の果てに(作者 常闇ノ海月
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#ダークセイヴァー  #闇の救済者  #宿敵撃破  #聖女殺し 


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●『わたし』はここでうまれた
「夜と闇におおわれた世界、残酷な大地に芽吹いた希望の種……」

 永遠の夜へかすかな明かりを灯す彼ら彼女らは次第にひかれあい、少しずつ大きな光となって、闇に惑うだれかをそっと照らしてはまた新たな灯を点し――束ね、重ねていく。

 たとえどこかで悪意に吹き消され、輝きがはかなく散ってしまったとしても。
 残された者たちは脆い心を軋ませながら、一歩、また一歩……と、果てなき暗闇の世界――道なき荒野を切り開き、止まらずに歩み続けていた。

「闇の救済者――支配者に抗うレジスタンス。かの世界の人々にとっては、私たち猟兵や『希望』そのものを指し示すことばでもあるそうですが……その拠点の一つが、とても強力な吸血鬼に狙われているようなのです」

 リアからの依頼は、現状の『闇の救済者』たちでは抗しえないこの強力な吸血鬼――『禿鷹の眼の紋章』を持つオブリビオンの迎撃と討伐。

「その方は本来は残虐で短絡的な、狂人のような吸血鬼だったようですが、近頃では禁欲的に過ごしていたそうです。それが紋章を得たためか、それとも何か切っ掛けがあったのか……わたしには分かりませんけれど」

 ええと、とだれかの言葉をしたためたメモ書きを取り出して読み上げる。

「『いっぱい我慢したあとの方がきもちいいことに気付いたんだ。油断するな、奴はただの変態じゃねえ。SATORIを経て賢者になった真のHENTAIだ!』だ、そうですけど……ええと、おなかが空いていた方がごはんがおいしい、みたいな感覚でしょうか?」

 意味がよく分からず教えてほしそうに見てくる少女だが、答えてはいけない(戒め)。

「むぅ……。……それで、吸血鬼のねらいは『雨降りの聖女』さんのようです」

 残酷な世界で魂を磨かれ、ユーベルコードに覚醒しつつある、才ある者の一人。
 ある時から過去を失くした――覚えていない、プリュイという名の人狼の少女。
 彼女が降らせる雨は戦士たちや救いを待つ人々を癒し、オーロラの輝きは魔を退けた。

 どこか陰気な外見と人を怖れる性格で当初は『魔女』と蔑まれることもあった少女は、苦難の中でうずくまる人々にそっと寄り添い、不器用だけど分け隔てないやさしさを見せ――いつしか『聖女』と呼ばれ、闇の救済者たちの心をあたためる『希望』になっていたのだという。

「吸血鬼はそんな風な……『聖女』を苦しめて、泣き叫ぶ姿をながめながら吸血したいという衝動を持っていたようで、まずは拠点に『捨てられた子どもたちの霊』を差し向けてきます。まるで、どう対応するかを試すように……聖女であることを確かめるように」

 口減らしなどで村から捨てられ、餓死したこども。
 行くあてなくさまよい魔獣に喰い殺されたこども。
 支配者や異端の神に捧げられたイケニエのこども。

 それは戦闘力こそ決して強力ではないが、ひとりぼっちの心細さを、親に捨てられ殺された辛さを、耐え難い空腹感を訴え、助けを乞うてくる子どもたちの霊――残留思念。
 聖女という『ご馳走』を彩り引き立てるためのソースのように、吸血鬼はその死者たちの悲哀さえも利用しようとしているのだ。恐らくは、理想の『聖女』を痛めつけ喰らいたいという、己の欲を満たすためだけに……。

「皆さんはこの吸血鬼の動きに先んじて拠点に向かい、できたらプリュイさんや闇の救済者の皆さんに何かお話しをしてあげてください。娯楽も少なくて連絡も乏しい世界ですから、皆さんの体験したことや……知っている情報、創作した物語、笑い話。それから、それから――恋の話。……色々なお話しを、きっと喜んで聞いてくれると思います」

 或いは、邪悪な吸血鬼の侵攻を前にそんな悠長なことを……と思うかもしれないが。

「雨降りの聖女――プリュイさんは、きっとお話を聞きたがるでしょうから。彼女はだれかを……ずっと、何かを探しているから」

 リアは何かを伝えるべきか迷いながら、少しうるんだ瞳であなたたちを見上げて、

「もしも………きっと、あまり気持ちの良いモノではありませんけれど。それでも、もしも彼女の心を救ってあげたいと思うなら……どうか」

(心を閉ざさず、受け入れて……)

 ――声が、どこか遠くから聞こえた。
 そうして少女の精神感応に応じた『こころ』へ、だれかの『記憶』が流れ込んで。

●その日、ソレは『聖女の種』をまいた
 馬車に積まれた硬く冷たい檻の中、横たわるソレはひたすらに願っていた。

 たすけて。ころして。
 いたいのはもういや。はやくころして。
 おねがいだから。
 だれか、わたしをころして。
 はやく。はやく。はやくころして。

 久しく感じることも無かった感情を抱くのは、馬車が何者かに襲われていたから。
 聞こえてくる男たちの怒号が悲鳴に変わり、やがて命乞いに変わって。
 ――けれど、その襲撃者は変わらず死を与えてくれていたようだから。
 わたしにもそうしてくれるのではないか、と淡い期待を抱いたのだ。

「ふむ? なんだこれ……まぁいい」

 耳障りな音がして檻が壊れ、そのだれかは近くに来てくれた。
 気付いてくれたことが嬉しくて、つい尻尾が揺れてしまう。

 わたしをころしてくれるかもしれない人。

「なぁ、お前は『聖女』か?」

 たずねられた意味は分からないけど、こんな時にどう答えるべきかはおぼえていた。

「わんっ」

 それは大人たちに嫌というほど教えてもらったこと。
 わたしは人ではないから、人の言葉をしゃべってはいけない。そうしないと舌を引っこ抜かれてしまうから。わたしは人じゃなく『犬』だから、手足だってこんなに短くされたんだ。わたしが『なまいき』だったから、この目もかたっぽなくなっちゃったんだ。

 だけど、どうしてだろうか?
 それがとてもいたいのだ。
 だから……いたいのはもういや。
 はやくころして。

(でも、どうやっておねがいしよう……)

 困ってしまったわたしを見下ろし、銀の髪に紅い目をしたその人は。

「なんだ犬か……まぁいい! お前も! 俺様好みの聖女にしてやろう!!!」

 黒い装束を纏って大きな鎌を担いだその人は、大きな鷲のような翼を背にそう言って。

 ――その日、わたしをずっと鳴りやまない痛みから救ってくれた。
 半分だった光を取り戻し、ひとの手をくれて、もう一度走れるようにしてくれて。
 わたしを傷つけいじめて笑う人しかいない地獄から、わたしを連れ出してくれたのだ。

 だからわたしは、あの方の……お師匠さまの話す『聖女』に少しでも近づきたくて。
 わたしを置いていなくなってしまったお師匠さまを探しながら、か弱き人々を助け、傷ついた人々がいれば癒し、理不尽な悪に怯えずに戦い続けてきた。
 いつかこの恩をお返しできるように……少しでもお師匠さまの役に立てるように。そう思えばどんな困難な場面でも力が湧いて来た、乗り越えることが出来たから。

 そしてまた出会えたなら、その時はありったけの感謝と共にこの想いを伝えるのだ。

 そうすれば、きっと――。

 それがわたしの――『雨降りの聖女』プリュイの、生まれなおした『いのち』の原点。


常闇ノ海月
 犬派……に見せかけて猫にも兎にも優しい常闇ノ海月です。
 動物好きを訴求することによりマーケティング効果を期待しています。くぅ~ん……。

 さて、今回のシナリオですが……どう足搔いてもハッピーにはならないッピ!
 何パターンか想定していますが、酷い結末になる可能性の方が圧倒的に高い(7〜8割くらい)と思われますので、その辺りを承知の上で参加をご検討ください。

●拠点
 闇の救済者に協力的な辺境の村です。
 各地を転戦してるプリュイ達が立ち寄り、この地方を解放する為の策源地の一つとする予定でしたが、『禿鷹の眼』に見抜かれ強襲されてしまいます。

●プリュイ
 雨降りの聖女と呼ばれる人狼の少女。
 ヘヴンリィ・シルバー・ストーム相当のユーベルコードに覚醒しています。
 非道な人間に捕まり見世物として虐待されていましたが、聖女殺しの吸血鬼の気まぐれ(人狼病の呪いの影響か、理想の聖女っぽくならなかったので食べなかった)で救われた形となり、大きな恩義と密かな慕情を感じているようです。

 青みがかった黒髪に一房の銀が垂れ、耳も狼っぽくない垂れ耳ですが、いつもはフードを被って隠しています。
 理想の聖女になるために『都合の悪い記憶』を封印していますが……。

●一章
 ことば。
 お話しをしてください。
 お話しがハッピーを生むんだっピ! と聞いたので……ただしどう足搔(略)

●二章
 おこない。
 捨てられた子どもたちの霊(残留思念)の大群が村を襲います。闇の救済者たちと協力して応戦してください。
 どのような振る舞いをするかが結末に影響する、割と重要なパートになります。

●三章
 かりとるもの。
 敵群の中から『聖女殺し』がプリュイや猟兵の前に姿を現します。
 紋章の力を得、さらに禁欲の果てに高まった欲望は、一撃で村を滅ぼし尽くす事も可能なほど強力に成長しています。
 被害を抑えて討伐しようとするだけでもかなり厄介な相手ですが……。

●プレイング受付
 先行しているシナリオの完結の目途が立ってから募集の予定です。
 各章断章公開後にタグやマスターページ等でご案内させていただきます。

 ではでは、スローペースになるとも思いますが、痛い目にあっても泣かない、もしくは泣いてもいいやという覚悟がある方おられましたら、参加をお待ちしてます。
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第1章 日常 『猟兵、語り部になる』

POW懇々と語る
SPD朗々と語る
WIZ粛々と語る
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●それぞれの物語
 見知らぬ人たちが村へやってきた。
 このタイミングで……と、はじめは警戒したけれど、仲間の何人かがその人たちの存在を知っていて、どうやらわたしたちを助けに来た『猟兵』という方たちだったらしい。

 常闇に訪れた光、闇の救済者。数多の支配者を打ち破り、葬ってきたつわものたち。たくさんの人たちのいのちを救って来た、強くてやさしい……きっと、正しい人たち。
 そうして救われた者たちにとっては神さまのような存在なのだろう。それなら、わたしにとってのお師匠さまみたいなものだ……そう考えるとなんだか親しみがわいてくる。
 ――知らない人たちと会うのは、本当は少しだけ怖いけど。

「こ、こんにちは! ええと……」

 そうだ、おなかは空いていませんか? さむく、ありませんか? 夜はちゃんと眠れていますか? ほんとうは痛いところがあるのに、だまっていたりはしませんか……?

「落ち着きなさい」

 緊張して、埒もなく矢継ぎ早に質問してしまうわたしを仲間の老兵さんがたしなめる。
 仲間――わたしの仲間にはいろんな人が居る。ヴァンパイアの先兵だったという老兵さん、ぶっきらぼうな傭兵さん、正義感の強い青年剣士さん、子どもたちを奪われたダンピールさん……。
 みんな戦う理由も様々だった。つぐない、復讐、何かを守るため、取り戻すために。
 そしてわたしは――……。

(……お師匠さま)

 戦いはいつ終わるのか。この戦いに意味はあるのか。わたしたちは勝てるのか。死んでしまった仲間たちはどこへ行ったのか。わたしたちのその死に意味はあるのか――あったのか……? わたしたちが歩くこの道の先には何があるのか。どうすれば望む場所へとたどり着けるのか――みんな、見つからない答えを探している。全ての疑問に用意された『正しい答え』があるならば、わたしたちは何も悩まず、世界にはきっと祈りも歌も生まれなかっただろうけど。

「あの。もし良かったら、ですけど……」

 きっと必要以上に背負わせないためにと、あまり深く関わろうとしない人たちもいる。終わった思い出として話すには、まだ辛すぎる記憶を持つ人もいる。
 それでも、わたしはわたし自身の目指す場所のために、この世界のことをもっと知りたいから……もしもそれが叶うなら。

 ――あなたのお話を、聴かせてはくれませんか?
ブラミエ・トゥカーズ
余が御伽噺をしてやろう

千年の争いの末、敗北した吸血鬼の話
経験談を物語風に
妖怪の趣味として怖がらせることは忘れない

吸血鬼の領地(感染地域)を滅ぼすために無事な者ごと焼き尽くした騎士達
己の命を顧みず正体(ウイルス)を見つけた似非錬金術師
風聞、悪意に負けず魔除け(ワクチン)を作った三流学者
眷属を人に戻し(特効薬開発)吸血鬼を閉じ込め(隔離地域)滅ぼした過去の英雄達の意志を継ぐ医学者達
十年前幼い勇気を奮って吸血鬼を退治した少年(御伽噺的退治譚)
忌々しそうに自慢げに彼等を語る

余は人の生死など共感できぬが、継ぐことの恐ろしさは知っておる。
子を孫を、未来に続く者を作り残す事がいつか来る勝利の階であろうよ。


●御伽噺
「どれ。では余が御伽噺をしてやろう」
「おとぎ話、ですか?」
「そうだ、……もしかして真実(ほんとう)でなければ不満か?」

 そのどこかとらえどころのない女性、男装の麗人は思わせぶりな微笑を湛えて言った。極端に白い肌を、まるで『貴族』たちの纏うような黒く上等な装束に身を包んで。
 プリュイから見たその姿は、そんな筈はないのに、ああでもやっぱり……まるで……。

「ん、おやおや……どうやら子犬を怖がらせてしまったか。だが、御話にも雰囲気づくりというものがあるのでね」
「い、いいえ。ごめんなさい。だいじょうぶですから! 怖くは、ないですから……っ」

 ごくりと喉を鳴らして老兵の背中に隠れてしまった子犬は、まだ何の話とも示していない女の――ブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)の語ろうとするソレを『恐怖』と見定めたようだ。

「ふむ。そうか?」
「ひゃ、ひゃい!」
「ならば良し。では、これより余が語るは」

 ――千年の争いの末、敗北した。
 ――『吸血鬼』の話だ。

「……」

 目を見開き、思わずぶるりと身を震わせるプリュイ。そうして良い反応をしてくれるのは妖怪冥利に尽きるが、少々心配にもなる。
『吸血鬼』と聞いて全く動揺を見せなかったのは、かつてはそれの側に居たこともあるという老兵くらいで、傭兵は滲む苦い感情を、青年剣士は憤りを、ダンピールは哀しみと複雑な想いを抱いて何かしらの反応を示す。
 そんな彼ら彼女らの様子を確かめながら、ブラミエは言の葉を紡いでいく。

「……そう。先ず、吸血鬼に立ち向かったのは騎士たちだった」

 勇猛果敢な騎士たちは吸血鬼の領地(感染地域)を滅ぼすために無事な者ごと焼き尽くしたのだ。それは『正義』の名の下に行われた断罪であり虐殺。大義の名のもとに何ら疚しさを抱くことなく、同類にさえ無意味な死を強いる、人の悍ましい一面でもあった。

「なんてことを……」
「仕方がない、当然のことさ」

 雨降りの子犬は表情を曇らせ、剣士は憎き敵への戦果に意気をあげる。反応が違えば、いかにも人とはそういうものであったと唇を吊り上げながら、吸血鬼は御伽噺を続ける。

「だが、騎士たちはそれでも吸血鬼を滅ぼすことは出来なかったのだ。そこで……」

 己の命を顧みず正体(ウイルス)を見つけたのは『似非錬金術師』と嗤われていた男。自ら吸血鬼に近づき、人々の罵声と敵意に焼かれてもなお死地に留まり真理を求めた彼の辿った運命は、語るまでもないだろう。
 そして敵の正体が見えたとて変わらず無力だった人々を吸血鬼の魔の手から守護ったのは、三流学者と蔑まれていた老人。彼はその生涯を懸けて吹き荒れる風聞、悪意に負けず魔除け(ワクチン)を作りだしたのだ。

「彼奴等の人生は吸血鬼に血潮を捧げるようなものだった。生きている間は、決して報われることのなかった者どもよ。だが……」

 そんな過去の英雄らの意志を継ぐ医学者たちは眷属を人に戻し(特効薬開発)吸血鬼を閉じ込め(隔離地域)、長い戦いの末――ついに、吸血鬼を滅ぼすことに成功したのだ。

「……」
「そして、……およそ十年前のことか」

 甦った吸血鬼を、とある少年が幼い勇気を奮って退治した(御伽噺的退治譚)という。

「口惜しや。上手くすれば、畏れを忘れた人間共を再び恐怖に叩き落とせたものを……」

 そんな物語を彩る彼等を、忌々しそうに……どこか自慢げに、女は語って聞かせた。

 さもありなん、そこに語られるはとある致死性伝染病の病魔たる彼女自身の経験を解き、御伽噺へと織り直した実話(ほんとう)の登場人物。かつて同じ時代を生きた人間――宿敵にして好敵手たちだったのだから。

「示唆に富む御話でしたな」
「……余は人の生死など共感できぬが、継ぐことの恐ろしさは知っておる」

 子を孫を、未来に続く者を作り残す事がいつか来る勝利の階であろうよ、と。敢闘する人類の戦士たちへと先達の助言を贈れば、

「お、おもしろかったです。それに、怖くありませんでした! ……ちょっとだけしか」

 雨降りのお気にも召したようで、藍を混ぜた黒い毛色の尻尾がパタパタと揺れていた。
 いつの間にずいぶんと詰められた距離に、長い牙を覗かせながら微笑んで見せるも、もう怖がる素振りは無い。どうやら怖くないというのは真意(ほんとう)の様であるが。

(……彼奴等は『自ら』を救うことは出来なかった。それでも)

 人類は存続し、未来は広がっていった。彼等は自らの死にさえ頓着していなかった。意思を継ぐものが現れることを、子孫らがいつか勝利することを識っているわけもなかっただろう。全くの無駄骨になるかもしれないことを理解しながら、だけどそんな小賢しい損得勘定が彼等の『意志』までもを折ってしまうことは、決して無かったのだ。

(さて、悲運の子犬よ。短命を約束され、支配者共に狙われ……ひとつ望みを抱く者よ)

 英雄と成るには幼すぎる『聖女』の辿る路は、何れのものとなるだろうか。
 ――雨降りの気配漂うその物語にしばし付き合ってみるのも、また一興か。
大成功 🔵🔵🔵

御園・桜花
「お話をするなら、甘いものが必要ですね。女の子は砂糖と素敵なもので出来ているそうですから」
UC「花見御膳」
精神安定効果の付与されたジンジャーブレッドを村人と救済者達に配る
プリュイにも渡し自分も口にする

「プリュイさん、私は貴方をハグしてみたいと思うけれど…貴女は私に触れられても平気ですか?」

「貴女が聖女と呼ばれるのは、貴女がそうあろうと努めてきたからです。それはとても素晴らしい事です。ただ頑張らなかったとしても、今此処に生きているだけで、充分素晴らしいという事も知っておいていただければと思うのです」
「命は何時か必ず尽きるのです。叶わぬ願いも有るけれど、生きていればまた新たな願いを持てますから」


鳴上・冬季
仙術+功夫で聖女や周辺の人間の口の中に仙丹を指弾
聖女に隣に座るよう促し話し始める


私は千年以上昔の豊葦原に一尾の野狐として生を受けました
それから仙骨を育て七度の転生を経て
今生は師を得て昇仙しました
仙は不老不死ですが
死なぬわけではありません
肉体が衰えずとも心が衰えれば滅びます
ゆえに師弟の関係を大事にして己の望みに邁進する
但しその望みが大きく正道から外れれば他の仙に討たれて封神されます
ゆえに我らは正道を尊ぶ

仙に至った今の私の望みは強い宝貝を作ること
異界の正道を歩まぬものを封神すること

努力し聖女に至った貴女は
今後何を目指しますか
望みは立つ場所で変わっていくでしょう
貴女の次の望みが何となるか
楽しみです


●成分
「お話をするなら、甘いものが必要ですね」

 お話と聞いて御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が先ず思いついたのは、それだった。

「えっ。……そ、そうなんですか?」
「ええ、女の子は砂糖と素敵なもので出来ているそうですから」
「お、おさとう」
「大丈夫ですよ、こちらで用意しますから」

 甘いもの……どうしよう、と慌てだした人狼少女を落ち着かせ、桜花がユーベルコード≪花見御膳(ハナミゴゼン)≫を起動すると、まるで手品みたいにわずかな時間で料理が出来上がる。今回桜花が作ったのは生姜の香りがピリッと効いたジンジャーブレッドだ。

「ふむ、甘味ですか。では、此方もどうぞ」

 鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)も自作の仙丹を提供する。激甘党の青年が作った激甘の逸品だ。

「たくさん作りましたので、良ければ村の皆さんにも配って差し上げてください」

 桜花はそれらを村人と闇の救済者に配る。
 ちなみにその過程で分かったのだが、村に滞在中の闇の救済者たちは仲間全体から精鋭を抽出した100名弱のようで、特に上位4名は領主級を相手取るにふさわしい実力者のようだということ。
 プリュイは人狼のすぐれた身体能力を持つが、未だ幼く経験も不足している。そしてそのユーベルコードの特性故に多数同士がぶつかる戦場で対群の切り札という扱いらしい。
 血を洗い視界に煙る『雨』の掩護のもと、前線を戦士たちが支え、時に切り開き――多くの場合は少数精鋭で迂回し敵の指揮系統を破壊する、というのが彼らの勝利のパターンだったようだ。

(犠牲も大きな戦い方をしているようですが……士気はとても高いみたいですね)

 現在は彼らの仲間は近隣の村々にも散っていて、まだ潜伏中であり――とある悪逆の伯爵を攻略すべく機を窺っていたのだという。
 吸血鬼との実力差を、流れる血と戦意で埋めて食らいつき戦ってきたのだろう。その原動力は積み上げた勝利の数であり、『ここで死ぬとしてもそれは無駄にはならない』と戦士たちに信じさせる実績にほかならない。
 そして――

「ケ、ケーキだ。すごい……」

 そしてその勝利を支えているのも、きっとこの小さな『聖女』さまなのだ。……あまりそうはみえないが。

「ジンジャーブレッド、というんですよ」
「ありがとうございます。きっと、みんなもよろこびます!」
「……お茶くらいは用意してくるわ」

 そうして桜花と冬季が提供したお菓子と、渇きを癒すためのハーブティーがダンピールの手で用意され卓の上に並んだ。
 猟兵であればいつでも手に入るものだが、こういった世界で甘味はやはり貴重。大変喜ばれるものだった。嬉しそうに味わう子犬を眺めながら、桜花自身もそれを楽しんだ。

「わたしも女の子だから、実はおさとうで出来ていて……たべると、おいしい?」
「……比喩ですからね」

 クンクンと手のひらの匂いをたしかめるプリュイに、つっこんでおくことも忘れずに。

●転生者
「此方へどうぞ」

 鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は案内された村の集会所で腰を落ち着け、プリュイに隣に座るように促す。そうして呼ばれた子犬がやってきて、お茶や菓子などの準備が整うと口を開いた。

「私は千年以上昔の豊葦原に一尾の野狐として生を受けました」
「きつねさん、ですか?」

 不思議そうに首を傾げるプリュイ。目の前の存在はどうみても人間に見えた。

「ええ。それから仙骨を育て七度の転生を経て、今生は師を得て昇仙しました」
「転生……」

 それは彼自身が、長い長い時間と繰り返す生死の果てに仙人の境地に辿り着く物語。

「仙は不老不死ですが。死なぬわけではありません」
「不死なのにですか?」
「ええ、たとえ肉体が衰えずとも、心が衰えれば滅びます。ゆえに師弟の関係を大事にして己の望みに邁進する」
「あ、お師匠さまを大事にするっていうのは分かります!」

 あまり賢くはなさそうな子犬の相づちに頷き、冬季は滔々と語り続ける。

「但しその望みが大きく正道から外れれば。他の仙に討たれて封神されます」

 ゆえに我らは正道を尊ぶのだ、と。

「仙に至った今の私の望みは強い宝貝を作ること。それから――異界の正道を歩まぬものを封神すること」
「悪いことをすれば、せんにんさまでも罰せられるということですね。では、封神というのは……されたら、どうなるんですか?」
「さあ。仙人であれば封神台に封じられるとも聞きますが」

 三十六あると言われている世界の法則は各々で異なっている部分も多いため、猟兵とて把握していない事柄は多い。

「そうですか……。ありがとうございます! とっても勉強になりました」
「いえいえ」

 そうしてぺこりとお辞儀するプリュイに、己の物語を語り終えた仙人は問いかけた。

「努力し聖女に至った貴女は、今後何を目指しますか」

 望みというものは、その者の立つ場所で変わっていくだろうから、と。仙人になった己が更なる道を歩もうとしているように、『雨降りの聖女』もまた何処かを目指すのか。

「貴女の次の望みが何となるか楽しみです」
「次……? えと、望みは何かというなら、それはお師匠さまがいてくれることです」

 けれど、プリュイにとっては聖女と呼ばれるようになったことは、どうやら望みを叶えるための途中――手段でしかないようで。

「わたしの力は、あの方を想えば湧いてきて……どんなに苦しくても、何度でも立ちあがれることだから」
「……ふむ」

 物怖じせずに淀みなく湧き出る言葉は、心からそう思っている故のものだろう。

「わたしの一番の望みはずぅっとそれだけ。聖女と呼ばれるようになっても……どんな風に呼ばれても、わたし自身が何か変わったわけではないですから」
「あら。それじゃ、また『泣き虫の魔女』って呼んであげようかしら?」
「あ……、お客さんの前で………ム~ッ!」

 ダンピールがからかい、子犬がむくれる。
 そんな、一見して平和な光景を何とも言えずに眺める冬季。師に寄せる敬愛の感情は、彼とて覚えのあるものだったが。

(これで、その師匠とやらがオブリビオン――聖女殺しの吸血鬼でなければ、美談になったかもしれないんですがねぇ)

 グリモア猟兵の精神感応に心を預けたのなら、猟兵たちは既に知っていたはずだ。
 彼女の願いはきっと世界――猟兵の存在意義にとっても、闇の救済者にとっても『正しくなどない』ものだった。

●ハグ
「プリュイさん、私は貴方をハグしてみたいと思うけれど……貴女は私に触れられても平気ですか?」

 桜花はお話が一区切りついたところで、プリュイにそう尋ねてみた。

「えっ。ええと……」
「あっ。お嫌でしたら」
「ううん。嫌ではないです」

 突然の申し出に、理由もわからず困惑していたプリュイだが、首を振って

「……そうやってたずねてくれるってことは、きっとわたしの気持ちも大事にしようとしてくれてるってことだって思いますから……けど」
「うん?」
「……わたしにあまり近づきすぎると、犬みたいになってしまう病気がうつっちゃうかもしれませんし……汚いかもしれないから」
「そんな……そんなことはありませんよ」

 そうして、桜花はそっと『雨降りの聖女』を抱き寄せてハグをした。

「貴女が聖女と呼ばれるのは、貴女がそうあろうと努めてきたからです。それはとても素晴らしい事です」
「……」
「ただ頑張らなかったとしても、今此処に生きているだけで、充分素晴らしいという事も知っておいていただければと思うのです」
「そう、なのかな? でも、そう言ってもらえると、うれしいです」

 ――わたしがそんな風になれたのも、今こうして生きていることだって。ぜんぶぜんぶあの方がわたしにくれたものだから。

「お師匠さまがほめられているみたいで、うれしいです」

 そんな風にパタパタと尻尾を揺らす少女に、桜花はただ言葉を伝える。きっとこれから傷つくことになる少女を気遣っての言葉。
『雨降らし』でも『雨呼び』でもなく『雨降り』と呼ばれるようになった聖女のための。

「……命は何時か必ず尽きるのです。叶わぬ願いも有るけれど、生きていればまた新たな願いを持てますから」
「ええと……桜花さんがどうしてわたしにそんなことをいうのか、良く分からないけど……覚えておきますね」

 きっと、大事なことなんだろうから。
 そう言って真剣な顔で頷く少女は、まるで犬のように一途で――一生懸命だった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

狐裘・爛
《狐御縁》
ちょ、ちょりーっすー!
……この挨拶、もう少しなんとかならないかしら。あっ気に入ってる挨拶なの? あーなるほどね……?

ふんふん。みんな色んなお話の引き出しがあるのね。あっ、いや私は、一番新顔だから。でも思い返してみればステキな思い出いっぱいあったあ……
それに私自身、みんなに何度も何度も助けてもらってるし。マザー・コンピュータとか渾沌氏『鴻鈞道人』とか。助けてくれたみんなの姿、優しくてカッコよくて、とても綺麗なのよ!

だからいつでも助けてって言ってね。ううん。言わなくてもゼッタイ! 力になるから


テフラ・カルデラ
《狐御縁》

皆さんに倣って体験してきたお話…って、皆さんと一緒に冒険してきてまともな事したことありましたっけ?
と…とりあえず一番インパクトのあるお話を…

とある島での戦いなのですが…大きな二枚貝のモンスターとの戦い、そのモンスターは人を丸呑みして真珠に変えてしまう危険な敵…
それに呑み込まれてしまったわたしも…そんな中、燦さんが助けてくれたのですが…
何故か真珠と大理石と黒曜石が入り混じった像になってまして…さらに動く石像となって大暴れしたとか…
燦さんから聞いたお話なので事実かどうかはわかりませんが、詳しいことはご本人に聞いてくださいませっ!(顔伏せ

こうして話していると色々思い出してくるのですよっ!


ルルチェリア・グレイブキーパー
≪狐御縁≫

プリュイさんや闇の救済者さんと楽しくお話しするわ!

私達は猟兵として色んな事をして来たわ

大きな竜と戦ったり
魔女と疑われた女性を手品で助けたり…

マザーって名前のとても強い女性に勝つために
皆で大きな倉庫で情報を集めたりもしたわ
私が幽霊の子たちを連れていっぱい情報を集めたのよ

それでもマザーは強くて、爛さんが狙われてピンチになったんだけど
普段は誰にでも優しいシホが怒ってドーン!ってやったり
テフラさんが凍り付きながら凍り付かせたり
燦さんが炎でボーッ!ってやって倒したのよ!

そうそう!燦さんとは空飛ぶ箒に乗って競争した事も有ったわね!
妨害アリの大波乱なレースだったのよ?


●あいさつ
「こ、こんにちは! ええと……」
「ちょりーっす!」
「ちょ、ちょりーっすー!」

 緊張気味に猟兵たちを出迎えた人狼の少女へ、二人の妖狐娘たちがお揃いで挨拶を返す。四王天・燦(月夜の翼・f04448)と、それを真似する狐裘・爛(榾火・f33271)だ。
 いい挨拶をする娘だな、とプリュイに好印象を抱いた燦は上機嫌で元気よく。だけどそれに続いてちょりーっすーを返す爛は、少し恥ずかしそうに。

「……この挨拶、もう少しなんとかならないかしら」
「えっ。なんでだ?」

 こてんと首を傾げる燦は、ちょりーっすに何の違和感も感じていない模様。

「ちょりーっす! な? いい感じだろ?」
「……あっ気に入ってる挨拶なの? あーなるほどね……?」

 あんまり使いどころがなさそうな燦知識を一つ増やして、こくりと納得する爛。だけど例え何でも知りたい相手だとしても、何でもマネはしなくても良いと思います、うん。

 ――ほんとうは痛いところがあるのに、だまっていたりはしませんか……?

「……っ」

 一方で、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)はプリュイの矢継ぎ早の質問の一つに内心を見透かされたような――まるで『聖痕』の疼きを当てられた気がして、思わず動揺してしまっていた。
 ……だから、その時すぐには気付かなかったのだ。シホを一目見た子犬の方がよほど動揺して、それを老兵にたしなめられる程度には、挙動不審になってしまっていたことを。

「あの。もし良かったら、ですけど……」
「ん。お話かい?」

 それから、猟兵にお話をせがむプリュイの願いを快諾し、村の集会所へと足を運んで。

「お話の前に……皆さん、おなかは空いていませんか?」
「え? えと」

 シホが食事作りを提案すると、傭兵が頷くのを確認してから、ダンピールが応じた。

「ええ、もちろん。台所にあるものは好きに使ってもらって構わないわよ。……あまり良い食材は残ってなかったと思うけど」
「ありがとう。それなら、材料はありますので施設だけお借りしますね」

 一礼して、プリュイの方へと向き直る。落ち着きを取り戻して眺めれば、この幼い少女がシホの内心をあの一瞬で見透かすほどの洞察力など備えていないだろうことは、一目瞭然だった。
 だとすれば、無意識に出た言葉はもしかしたら、この少女がだれかに――だから。

「プリュイさん。温かく美味しいご飯は心を癒す力もあります。……良ければ一緒に作りませんか?」
「ひゅっ!? ひゃ、ひゃいぃ」

 作り方も教えますよ、とのお誘いに、上手に吠えれないわんこみたいな情けない返事。前向きながらもどうしてかガチガチに緊張してしまっているプリュイだったが。

「お料理か? アタシも手伝うぜー」
「あ。えと。……ちょりぃすさん?」
「ちょりーっす! ……じゃなくて」

 燦だ。あ き ら!
 と、手伝いにやってきた狐娘が加わって自慢話などもし始めると、プリュイも次第に落ち着いて会話が出来るようになっていった。

「ほわ……お二人は、なかよしなんですね」
「ああ。シホとは強さも弱さも見せあった仲なんだ。実はな、もう婚約してるんだぜ♪」
「……もう。燦ったら」

 初対面のプリュイにもやたらオープンな姿勢で、婚約者だと紹介されたシホはちょっと恥ずかしそうに呟く。
 そうしてシホたちは『聖鞄』にある食材を使い、ユーベルコードで比類なき料理上手となった腕を存分に振るって、ロシアやウクライナなど寒い地域の伝統料理――赤い色が特徴的なボルシチを完成させたのだった。

●鼠少女のお話
 集会所の大部屋は薄暗く、灯されたランプの明りもどこか頼りなく揺らぐ。
 そんな中で、体の芯まであったまるような具だくさんのスープをつつきながら、同じ食卓を囲んで猟兵たちのお話が始まった。

「私達は猟兵として色んな事をして来たわ」

 口火を切ったのはルルチェリア・グレイブキーパー(墓守のルル・f09202)――ねずみのような耳と尻尾を持つキマイラの少女。

「たとえば、大きな竜と戦ったり。魔女と疑われた女性を手品で助けたり……」
「あの時は確かルルが人々を鼓舞し勇気を奮い立たせて、手品を成功させたっけ」

 その場に共に在ったのだろうシホが相槌を打つと、ルルはにっこりと笑って頷き。
 シホの手料理おいしいのよーと、ときどき食い気に走りながらもお話を続けていく。

「マザーって名前のとても強い女性に勝つために、皆で大きな倉庫で情報を集めたりもしたわ」
「データ回収の時か」
「燦が遊んでてシホに怒られてたやつね」
「うん。それでね。私が幽霊の子たちを連れていっぱい情報を集めたのよ」

 アポカリプスヘルの決戦に向けた、仲間たちとのどたばたデータ回収の一幕を思い出しながら、話している内にだんだんと饒舌になっていくルルチェリア。

「それでもマザーは強くて、爛さんが狙われてピンチになったんだけど、普段は誰にでも優しいシホが怒ってドーン! ってやったり、テフラさんが凍り付きながら凍り付かせたり、燦さんが炎でボーッ! ってやって倒したのよ!」

 それはモノトーンの幼げな少女が擬音に身振り手振りを交えつつ話す物語。
 実際以上に年下に見られがちな外見もあいまって、なんだか小さな女の子が一生懸命お話するのに耳を傾けるような、ほのぼのした空気感がただよう。

「そうそう! 燦さんとは空飛ぶ箒に乗って競争した事も有ったわね! 妨害アリの大波乱なレースだったのよ?」
「ルルとの魔女の箒レースはアタシだけ脱落した……一着獲りたかったな!」
「ふふ。ルルチェリアさんたちは、とっても仲良しなんですね」

 そうして仲間たちとの思い出を楽し気に語るルルチェリアに、プリュイも顔をほころばせて聞き入っていた。

「たくさん思い出があって……いいなぁ」
「私は『幽霊の子たち』っていうのが気になるわね……」
「あ、それはね。この子たちみたいな幽霊さんたちに手伝ってもらったのよ!」

 ダンピールがぽつりと吐いた言葉に、ルルチェリアがユーベルコードを起動すれば、メイ、マイ、タクロウの三体のお子様幽霊たちが召喚されて。

『ルル よんだ~?』『あ~ シホだー』『どこここー?』

 きょろきょろと様子をうかがっていたが、やがてシホに突撃してじゃれてみたり、老兵の周りをぐるぐる回って不思議そうにしていたり、プリュイの頭の上に乗ってお耳をいじり始めたり……。

「ひゃ、ひゃああ!?」
「……大変なのよ」
「そ、そうなのね」

 割とフリーダムなお子様幽霊たちに、呼び出しておきながら遠い目をしてしまうルル。
 普段の苦労がしのばれるその姿にダンピールはちょっと同情しながら、お子様幽霊に触れようとして近づいてみるが。

『いってきま~す』『あそんでくるねー』『ボールあるかなぁ?』
「あ……ああっ……」

 マイペースなお子様幽霊たちは特にルルチェリアから何の指示もないので遊んでいいものと勘違いしたのか、壁をすり抜けていずこかへと消えてしまうのだった。

●うさぎの体験
「それでは、ルルさんに倣って体験してきたお話……って、皆さんと一緒に冒険してきてまともな事したことありましたっけ?」
「……?」

 見た目はとても可愛らしく、一見すれば礼儀正しいうさ耳の女の子。テフラ・カルデラ(特殊系ドMウサギキマイラ・f03212)が悩まし気に眉を寄せる。
 すっかり聞く態勢に入っていたプリュイがどうしたのかな、と首を傾げ他の者を見ても、生温かい目をして見守っていたり、スッと目を逸らされたり。……どうしてだろう。

「ううんんん……。と、とりあえず一番インパクトのあるお話を……」

 業の深い(HENTAI)系の話は戒められていたようですし、と。やがて妥当なものが見つかったのかテフラが語り始めれば、プリュイも疑問を棚上げして耳を傾ける。

「とある島での戦いなのですが……」

 それは島にて遭遇した、大きな二枚貝のモンスターとの戦いの記憶。

「そのモンスターは人を丸呑みして真珠に変えてしまう危険な敵でした……」
「ひ、人がまるのみ………真珠にかえる」
「そうなのです。そして、それに呑み込まれてしまったわたしも……」

 愛らしいうさぎの女の子の口から語られるのは、その外見からは想像もつかないようなハードな体験談。そのギャップに、プリュイは思わず言葉を失う。

「そんな中、燦さんが助けてくれたのですが……」
「ああ、そんなこともあったなぁ」
「私は何故か真珠と大理石と黒曜石が入り混じった像になってまして……さらに動く石像となって大暴れしたとか……」

 当時を回顧しながら、恐怖が甦ったのかぷるぷると小刻みに震えだすうさぎ。プリュイはその様子を見て大いに慌ててしまう。

「あ、あの。つらい話だったら無理に話さなくても!」
「はい……燦さんから聞いたお話なので事実かどうかはわかりませんが、詳しいことはご本人に聞いてくださいませっ!」
「テフラさん、だいじょうぶですから。もう、お話しなくてだいじょうぶですから!」

 きっと、よほどつらい目に遭ったのだろうと勘違いした子犬があわあわと慌てながら猟兵たちをうかがうのだけれど、テフラの普段を知っている燦たちとしては、そんな反応をされると逆に戸惑ってしまうわけで。

「ああ……! こうして話していると色々思い出してくるのですよっ!」
「だいじょうぶですから。ここには、テフラさんをいじめる相手はいませんから……っ」

 トラウマに耐えきれずとうとう顔を伏せてしまった……かに見えるテフラを、必死で慰めようとするプリュイ。その今にも泣きだしそうな顔を見ていると「テフラを動く石像にした話は傑作だったね」なんて言えなくて、

「あの後、アタシまで石化したんだっけ」

 どこか達観しながら振り返る燦だった。
 そして、羞恥を感じているのは確かかもしれないが、それで気持ちよくなっている可能性も捨てきれない兎さんは、実は男の娘だったりHENTAIだったりするわけで……。

「はあぁ……どんなに抵抗しても、いやがっても、体が石に変えられて……どんどん動けなくなっていって……はぁはぁ……」
「うぅ……っ……うあ……」
「ちょ、ちょっと!?」
「わぁー! て、テフラ、ストーップ!」
「……へ?」

 石化していく感触を思い出してはぁはぁしていたテフラだが、それが思わぬ流れ弾になったようで、わんわんと泣き出してしまう子犬。慌てて燦が止めるもすでに手遅れで、

「ふぐぅっ……つらかったですよね……こわかった……ですよね? ……うああぁん!」
(ごめんなさいー! 全然辛くないんです、実はきもちよかったんですぅうう!!)

 テフラの手を握って離そうとせず、なかなか泣き止まない子犬に、むしろ今のほうが罪悪感で心が痛いうさぎさんだったという。

「そういえば、爛もテフラさんも結構体を張っていますよね……」
「うっ、ごめんなさい。そう言われればたしかにそうかもしれないんだけど」

 ぽつりとつぶやいた言葉に即座に爛から異を唱えられ、きょとん、と瞬きするシホ。
 爛は困り顔で此方を見てくる兎を一瞥し、

「何となく、テフラと同列にされたくない気がしてしまうわ……」
「爛さん、ひどい!」

 テフラとて変態的な仕打ちなら何でも気持ち良くなるわけではないのだが、それは非変態にはなかなか理解され難い部分だった。
 その在り様はまるで、荒野を彷徨う孤高なる探究者。『高度に発達した変態は求道者と区別がつかない』と言われる所以である。

 つまり、古来より変態とは道を切り開く者――可能性の獣だったのだ……知らんけど。

●狐の約束
「す、すみません……。なんだか、きゅうに、かなしく、なってしまって……うぅ」
「プリュイさん、だいじょうぶなのよ。また楽しくお話するのよ!」

 ちょっとしたハプニングはあったものの、気を取り直して再開される猟兵たちの物語。

「ふんふん。みんな色んなお話の引き出しがあるのね」
「あら。テフラさんとは一味違う、爛さんの番かしら?」
「あっ、いや私は、一番新顔だから」

 ルルチェリアから水を向けられ、だけど心の準備が出来ていなかったのか、慌てて体の前で両手を振る爛だったが。

 ――でも、と。
 ふと胸に手を当てたずねたのなら。

(あ………そっか。そうなんだ)

 ああ、思い返してみればそこには。

(ステキな思い出いっぱいあったあ……)

 記憶を手繰れば燦然と輝くキラキラした思い出に、爛の口元がほころぶ。それはきっといつかの『私』が夢に見た風景。ずっと欲しかった、たからもののような、憧憬の――

「……」

 思い出を抱きしめ、やわらかく微笑む爛。その見惚れるような綺麗な表情が、彼女の想いをどんな言葉よりも雄弁に物語っていた。

「……爛さんは、きっと皆さんのことが大好きなんですね。大切なひとがいるんですね」
「ええ。もちろんよ! それに――」

 爛自身、すでにみんなに何度も何度も助けてもらっているのだ。大切にされているという自覚も、またあった。

「ルルの話にもあったマザー……マザー・コンピュータとか渾沌氏『鴻鈞道人』とかね」
「マザーも渾沌戦も爛にはヒヤヒヤしたぜ」

 燦がいつになく真剣な表情で、仲間たちに謝意を告げる。

「皆が力を貸してくれて連れて帰れたと思ってる……改めてありがとうな」
「えっと……燦?」
「爛は、自身を大事にしてよ」

 少しだけ、咎めるような口調。
 ……綺麗に燃えてきらめくそのいのちを、例えばガラスケースに閉じ込めておくことが大事にするということでは無いだろうけど。

(……アタシだって、こわいんだよ)

 彼女が傷ついた姿を見るたび心が痛くて、血が凍るような思いをしてしまうから。
 もしも、もしもいつか本当に――

「えへへ。心配してくれて、ありがとね?」

 わかっているのかいないのか、照れくさそうに笑う爛は『その時』が来てしまったとしても、きっと恨み言の一つも言わないだろうけど。どんなに強がってみせたって、

(きっと、また泣いてしまうんだろ……?)

 そんな燦の内心など知らず、爛は得意顔でプリュイへと語りかける。

「ねえ。助けてくれたみんなの姿、優しくてカッコよくて、とても綺麗なのよ!」
「うん。分かります……とても、とーってもよく分かりますよ、爛さん」

 たからものを自慢する子どもみたいな爛の言葉に、プリュイは深く共感したようだ。それはきっと、同じ気持ちを覚えているから。
 爛はただ、頷いてくれたことが嬉しくて、

「だからいつでも助けてって言ってね」

 そんな言葉を子犬にかけてあげたのだ。

「ううん。言わなくてもゼッタイ!」
「ふぇ。ぜ、ゼッタイ? え……えと」
「そう、ゼッタイ! 力になるから!」

 力強く宣言する爛に、プリュイは遠慮がちに「ありがとう」といって微笑んだ。

 ……けれど、その言葉は真実(ほんとう)に成るのだろうか? 少女が泣き叫び助けを乞うた時、猟兵たちの選択は……果たして。
 ――現在(いま)はまだ、その答えを知る者は、この世界の何処にも居なかった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

四王天・燦
《狐御縁》

ちょりーっす!
いい挨拶するプリュイの第一印象は最高だ

シホの聖痕の痛みを察せば肩を抱く
それを刻んだ禁獣は必ず討つ
一人で抱え込まないでよ
ボルシチ作りを手伝うぜー

お話かい?

シホとは強さも弱さも見せあった仲なんだ
婚約してるんだぜ♪

マザーも渾沌戦も爛にヒヤヒヤしたものさ
皆が力貸してくれて連れて帰れたと思ってる…改めてありがとうな
爛は自身を大事にしてよ

テフラを動く石像にした話は傑作だね
あの後、アタシまで石化したんだっけ

ルルとの魔女の箒レースはアタシだけ脱落した…一着獲りたかったな!

アタシ自身は剣客だと言っておく
我流なれど死合ってきた剣士から沢山学んできた
言わば彼らを師だと思ってる
そして弟子は師を越えてより良きものを生み出すのが仕事だ
アタシだと四王活殺剣の完成が目標だね
シホも剣の師匠がいるし聞いてみると良いよと話を振るぜ

プリュイの話も聞きたいな
彼女の肩を抱き寄せるぜ
下心はないとシホにウインクし、密かにフォックスファイア・零式の炎を流し込む
人狼病で早死にしないよう命を少し分けるよ
情が移ったんだ


シホ・エーデルワイス
《狐御縁》

内心
(半年程前
この世界で悪寒がする視線を感じた

後に私を狙う吸血鬼と知り…何となく避けていた

けど
今回は芽吹き始めた希望を守る為
覚悟を決める)


プリュイさんの気遣いは微笑ましく思うも
「痛いところ~黙って」は『聖痕』の疼きを当てられた気がして内心動揺

『聖鞄』にある食材でボルシチを【供宴】で料理し振舞う

プリュイさん
良ければ一緒に作りませんか?
温かく美味しいご飯は心を癒す力もあります
作り方も教えますよ


私の物語…
依頼<黒く燃ゆるは偽りのRaison d'être>二章で知った
前世の死後
禁獣に聖痕を刻まれた事
不死の体になった事
皆に助けてもらった事を話す

師匠からは戦い方だけでなく志も学びました

どんなに苦しくても
生きて行くしかない

そう言っていましたが
今思うと死へ逃げるなという事でしょう


あの時は確かルルが人々を鼓舞し勇気を奮い立たせて
手品を成功させたっけ


爛もテフラさんも結構体を張っていますよね


頃合いを見て襲撃がある事を恐慌が起きない様
第六感で注意しつつコミュ力と心配りで伝え
非戦闘員は『聖鞄』へ匿う


●六尾の剣と白翼の宿命
「こいつを見ればわかると思うが」
「……剣、ですか?」

 プリュイが燦の持つ刀を物珍しげに見た。
 刀剣の質に於いてもこの世界の技術がそれほど発展していることはなく、その分を質量で補うような剣が多い中、それらに比べればずいぶん頼りなく見えたのかもしれない。

「そう、アタシ自身は剣客だ」

 そうして、闇の救済者の『剣士』もどこか値踏みするような視線を向ける中、仲間たちの話に合いの手を入れていた燦が自分のことを語りはじめた。

「我流なれど死合ってきた剣士から沢山学んできた。言わば彼らを師だと思ってる」
「戦ってきた剣士さんが、ですか……」

 敵対者からでさえ学ぶ姿勢は、単なる憎しみや征服欲を満たすためではなく、道をたがえた敵同士といえど、一定の敬意を示してきた証左だろうか。

「ああ。そして弟子は師を越えてより良きものを生み出すのが仕事だ」
「そ、そうなんですか!?」
「継いだものを無駄にしないなら、自然とそうなるだろ? ……アタシだと四王活殺剣の完成が目標だね」

 活殺とは字義通り活かすことと殺すこと。活殺自在に至れば他者を生かすも殺すも思いのままになる。『殺人刀活人剣』の禅語が示唆する通り、殺すことと活かすことは対極にあるようでいて補完し合う関係でもあり。
 燦の目標とするその剣は森羅万象の理すら断ってみせる『断理の剣』だった。

「うぅ。む、むずかしいです……」
「ははっ。シホも剣の師匠がいるし聞いてみると良いよ」

 燦自身も未だ目指す剣は道の半ば、未熟であることを自覚している。スケールの大きな話に目を回しそうになっている子犬への訓示はシホへと引き継いだ。

「そうですね……私は、師匠からは戦い方だけでなく志も学びました」
「シホさんにもお師匠さまがいたんですね」
「はい。師匠は『どんなに苦しくても生きて行くしかない』と、そう言っていましたが」

 一度言葉を切って、目を瞑る。
 生き別れ、死した先に再会を果たし――悪意によって歪められた、数奇な運命の記憶が脳裏によみがえる。

「……それは、今思うと、『死へ逃げるな』という事だったのでしょう」
「………」
「きびしい言葉だと思いますか?」

 押し黙る子犬に白翼の少女が問いかけた。

 例えば『転んでも泣くな』と言われた所で、痛みが消えてなくなるわけではない。幼い子どもなどであれば、泣き止むことも難しいだろう。泣いたところでだれも助けてはくれなかったとして、ただ痛い、悲しいという感情が溢れて自然とそうさせるのだから。
 雨降りは理屈ではなく『こころ』でそれを識っていたから、簡単に頷くことは出来なかったようだけど。

「はい。だけど、シホさんのお師匠さまはきっとシホさんに生きていてほしかったからそう言ったのだってことも、分かります」
「そうですね……『どんな時も諦めるな』と、きびしくとも私の背を支え歩みを後押してくれた、やさしい方です」

 ネガティブな感情に蓋をして押さえつけたとしても、いつか必死に抑えていたそれが溢れ出した時、制御不可能になった『こころ』はより悲惨な結末を招きかねなかった。
 心そのものが成長していなければ、或いは支えてくれる者と巡りあわなければ。ひとは案外もろいものだから。

 だが、生きていくことは成長するということでもあり――大切なひとからの言葉であれば尚更、そこに託された願いや祈りは、困難の中で前に進む力にもなりえるのだろう。

「……けれど、前世の私は結局、託されたその願いを、叶えることはできませんでした」
「前世? それは、どういう……」

 それからシホが語ったのは、彼女自身の――ひとつの死を経て蘇った猟兵の物語。

「私はかつて、瘴気の汚染拡大を阻止する為に大勢の人々を殺めたことがあるのです」
「……ぇ」
「失われたいのち、嘆きと怒りに支配された民たちにその罪を問われたとき、私は抵抗することなく処刑され……命を落としました」

 或いはそうされることが相応しいと思えるほど、心は弱り果てていたのだろうか。シホは『憎むべき敵』を求めてやまない哀れな民衆によって、その怒りの矛先をぶつけるための『生贄』と成ったのだ。
 抵抗することもなく――それどころか罪の意識に苦しむ少女は、民にとってリスクなく安全に復讐心を満たし正義感に酔える、格好の餌食だったろう。

「それから……それから、私はある場所で目を覚ましました。そこには『禁獣』と呼ばれる魔物が居て……」

 歪んだ形で願いを叶えるそれによって『生贄』として捧げられる宿命を背負った『聖痕』を刻まれたのだという。

「それでも、ある事情から不死となった私は死ぬことも無く、今こうしています。……師匠の、『生きていくしかないと』いう言葉はそのまま現実になってしまったのですね」
「そんな。シホさんは、それで……」
「……きっと、体は不死になったとしても、心が壊れてしまったなら、もっと辛い思いをしていたかもしれませんね」

 だけど、と。
 控えめにそっと微笑むシホ。

「私も爛と同じ……皆が助けてくれたから」
「当たり前だろ。一人で抱え込まないでよ」

 その傷の痛みに寄り添うように、燦が細い肩を抱きよせていた。それを刻んだ禁獣は必ず討ってみせるから。
 ――どうか大切なひとが、一人で重荷を抱え込んでしまわないように、と。

●子犬の夢
「みなさん、たくさんのお話をしてくれて、ありがとうございます。ごはんやお菓子までいただいてしまって……いいのかな?」
「ご厚意に感謝せねばな」
「はい!」

 老兵に頭を撫でられ、嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振る子犬。だけどどこか落ち着かないそわそわとした様子の彼女の肩を、燦が抱き寄せて。

「せっかくだ、プリュイの話も聞きたいな」
「……っはわ!?」
「あ、燦さんがまた女の子に手を……」
「おい、テフラ」

 なんてことを言うんだこのドМうさぎは。とんだ濡れ衣だ……と燦が思っていると、

「そのうち刺されても知らないわよ」
「……」

 別方向からも心なしか冷たい視線が飛んでいる気がした。今ひとつ表情の読めないシホの目も、ちょっと温度が冷たい気も。

(あれは――マザーごっこで遊んでた時と同じ目だ。……で、でも下心はないのさ!)

 とシホにウインクして以心伝心(?)。
 そうこうしながら、密かにフォックスファイア・零式の炎をプリュイに流し込む。燦の目的は『人狼病』に蝕まれるその身が夭逝してしまわないように、と。自らの『いのち』を炎として分け与えることにあったのだ。

「もう……」

 小さな呟きが聞こえる。情が移ってしまったのだろう燦、仕方のないひと。重い荷物を背負い込んでしまわなければいいのだけど。そんなことを慮るような、小さなこえ。

「燦さんは、あったかいんですね……」

 プリュイはそこに居ないだれかを――体温の無い冷たいだれかさんを思い出しながら、燦の腕の中で身を寄せそっと唇を震わせた。
 あたたかい場所に居て、あたたかい食べものを食べて、体は全然寒くなんかないのに。どうしてか急にさみしくて、人肌が恋しくなってしまっていたのだ。

「わたしは、ひどい怪我をしていたところをお師匠さまに助けられて、それより前のことはあまり覚えてなくて……」
「……記憶がないのね」
「はい。それで、短い間だったけど一緒に旅をして。そのとき、あの方は『聖女さま』のお話をたくさんしてくれました」

 そう語る『雨降りの聖女』を聖女たらしめる要素は、師匠から伝授され共に磨きぬいた『真の聖女論』から来ているのだという。

「わたしは外見がこうだし、まだ全然なんですけど。……あ、そういえばシホさんはお師匠さまが言っていた聖女さまにピッタリのお姿で、最初に見た時おどろきました!」
「……そう」

 シホは内心の動揺を隠しながら頷く。

 彼女は以前、この世界で悪寒がする変態的な視線を感じたことがあったのだ。

(後にその視線の原因が私を狙う吸血鬼と知り……何となく避けていたけれど)

 今回は芽吹き始めた希望を守る為、対峙する覚悟を決めたのだ――その……変態と。

「うぅ……」
「? どうかしましたか、シホさん?」
「い、いえ。大丈夫です」
「具合が悪かったら、言ってくださいね」

 心配する子犬も、まさか自身の敬愛する師が原因などとは思いもしないのだろうが。

「だけどある時、わたしが……えっと、びょうきで倒れてしまって。目をさましたときには、お師匠さまは、何も言わずにわたしを置いていなくなっちゃってて……」

 かなしそうな声でその顛末を話しながら、雨降りは無意識に包帯が巻かれた首筋の左側にそっと触れていた。

「……それで、お師匠さまは聖女さまを探しているようだったから、わたしもそういう風になれればもしかしたらまた会えるかもしれない、お役に立てるかもしれない、って」

 それが、『雨降りの聖女』プリュイが旅を続ける理由であり、探し求める場所だった。

「だから、本当はわたしに聖女なんて呼ばれる資格はないです。全部全部、自分のためにしてることだから……」

 そう言って俯く少女に、ため息が届く。

「……そんなことじゃ困るな。そんな正体も良く分からない胡散臭い男に靡くなんて」


 と、面白くなさそうに語るのは青年剣士。

「あら。でも、もしもこの子の言う『お師匠さま』が味方になってくれれば、きっと心強いわ。聞いた話では無茶苦茶な強さみたいだし……流石に話の通りとは思わないけど」

 ねえ、とダンピールが傭兵に意見を求め。

「ん。まぁ……そう、かもな……」

 傭兵は言葉少なく結論を濁した。
 老兵は何も言わずに、そんな仲間たちを見守っていた。

「………」

 けれど、猟兵たちは識っていた。
 かの者が忌むべき世界の敵――オブリビオンとしてこの世に蘇った『聖女殺し』の吸血鬼であることを。
 だから、師を慕い共に歩むことを願う少女の物語には、幸福な結末はおとずれない。

 そして今、猟兵たちに出来ることは、せめてこれから起きる悲劇が、少しでも傷が浅いもので済むように備えること。吸血鬼は聖女を試すように大群を村へ差し向けるのだ。

「プリュイさん、皆さんも、落ち着いて聞いてください……」

 シホは頃合いと見て、襲撃がある事を闇の救済者たちへと伝えた。
 恐慌が起きない様に配慮しつつ、戦えない者や希望者は『聖鞄』へと匿っていく。

 だが、村は悪逆の伯爵と戦う決意を固めた者が多く、逃げたり隠れたりしようとする者は驚くほど少なかった。

「死ぬ気は無い。だが、我々もただ必要だと思うことをやる……やらせて欲しい」

 深い皺の刻まれた老人――村長がそう言って猟兵と闇の救済者たちに首を垂れる。

(ああ、この方たちも……)

 シホはその目に見おぼえがあった。
 それは、罪を冒し苦悩した者が、後悔を抱え再び歩くことを決意した者が見せる、淀みのない意思の光だった。
 ならば、猟兵たちは守るべきなのだろう。

 ――底なしの夜に灯る火を。
 ――果てなき闇に向け放たれた嚆矢を。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第2章 集団戦 『捨てられた子どもたち』

POW ●お腹すいた……
自身の身体部位ひとつを【自身 】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD ●助けて、誰か!
【心細い、子供の声 】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ ●誰も、助けてくれなかった……
自身が戦闘で瀕死になると【自身を喰い殺した魔獣、もしくは異端の神 】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●進むもの
「たくさんお話しできて良かったわね」
「はい!」

 そこはとてもあたたかい場所だった。わたしが訳もなく怖がったり、急にさびしくなって泣いてしまっても、老兵さんやダンピールさん……いつもだれかが気にかけてくれる。

「皆さん、りっぱな目標や、いろいろな思い出がたくさんあって……」

 獣みたいに人目を忍んで、危ない場所まで食べものを探しに行かなくても良いし、寒い日にも集めていたたきぎがだれかに盗まれたり、取り上げられる心配もしなくていい。

「やさしくて」

 びょうきはあっち行けって石を投げてくる子どもたちも、わたしに『ばつ』をあたえてくる大人たちもいないから、いつも生傷だらけで痛い思いをしなくてもいい。

「たいせつなひとが、いて……」
「……プリュイ?」

 魔獣におそわれた時に逃げずにちゃんと食べられるようにって足のけんを切られたりもしないし、わたしに首輪をつけて鎖でひきずって行く、あのこわい大人たちもいない。
 たすけてってさけんだときに、わらいながら見ているおかあさんだって……いない。

「ちょっと!? 顔色が真っ青よ……とっ、ととと、とにかく、横になりなさい……!」
「あれ? えっと……?」



 ………。
 ……。
 …



「……」

 ……何をしていたんだっけ。
 まるでもやがかかったように思い出せなくて、気が付けばベッドに寝かされていて。
 枕元ではダンピールさんがきれいな赤色の瞳で、心配そうにわたしを見てくれていた。

「まだ寝ていなさい。大丈夫よ、今は猟兵たちもいるし、何も心配はいらないから……」

 そうだ、敵の襲撃があるんだ。それで、少し緊張してしまっていたのかもしれない。
 だけど、もう大丈夫だから。

「わたしも戦います」
「だめよ」
「だめって言っても。わた……わひゃあ!」

 弱点をすっかり知られているわたしのお耳をぐにぐにと蹂躙してくるダンピールさん。
 みみはやめ……あっ、そこもだめぇ……!

「……ふぅ。どう、これでもまだ言う?」
「ふ、ふゃあぁ……」

 ぐにゃぐにゃに力がぬけてしまったわたしを見下ろし、ダンピールさんが勝ち誇る。……こんな風に、ひとの手がこわいだけのものじゃないって知ったのはいつだったろう。

 ――犬みみにこのしっぽ。……子犬、お前はどうしても中々聖女っぽくならないなぁ。

「……お師匠さま」
「………」
「ごめんなさい。わたしは、それでも……」

 わたし自身の大切なもののために、進むと決めたから。何もないわたしでも、汚れた躰さえ貰ったものだけど、この想いだけは。

「分かったわよ、もう。……だけど、あまり無理だけはしないでね」

 ダンピールさんは、そう言ってわたしを解放してくれた。私がお師匠さまの名前を出したときは、決して折れないことを知っているから……。

「はい! だいじょうぶですよ……きっと」

 とても、とてもつらそうな顔でわたしを――わたしを通してだれかのことを想うダンピールさんに、そう言って笑って見せる。
 ……胸が、チクチクと痛んだ。

●願うもの
 さぁ、もう行け。

『いくと、どうなるの?』

 消える。それだけだ。

『うん……。わかった……』

 悔しいか?

『ううん。ただ、すこしだけかなしい』

 そうか……だが、誇るが良いぞ。

 なぜならお前たちは!
 最後にはこの俺様の、崇高な――



 ………。
 ……。
 …



『なんか よばれてた~?』
『う~ん? わかんなーい』
『どこここー?』

 その大群とはじめに遭遇したのは、三人のお子様幽霊たちだった。

『お腹すいた……』

 薄暗闇の中をとぼとぼ歩く、『捨てられた子どもたち』の群れ。その体の所々が透けて見えるのは、彼ら彼女らがすでにこの世のものではないから。

『だいじょうぶ~?』
『あ……うん、だいじょうぶ』

 幼い幽霊の声に、少年が足を止めた。華奢な……というにも痩せすぎた躰。利発そうな目をした、従順で面倒見の良い子ども。

『じゃあ~ あそぶ?』
『ごめんね。もう、いかなきゃだから……』
『ボールあそびは~?』

 困ったように笑いながらお子様幽霊たちと話していた少年が、急に顔色を変えた。

『ボール遊びは、やだな……やだよ』
『……?』
『だって……ボールじゃないよ。やめて、やめて! しんじゃうから、もうやめて!!』

 急に蹲って悲鳴を上げ始めた少年に、どうしていいか分からず右往左往するお子様幽霊たちの目の前で、やがて少年は仰向けにひっくり返ってしまった。
 体を丸め、顔をかばおうとする細い腕は、何かにねじり上げられるように外されて。

『ごめんなさい、ごめんなさい! さからって、ごめんなさい! もう、いわないから。いい子にしてるから。ぶたないで……!』

 生前の出来事をなぞるように。少年の愛らしい顔が無残に歪み、腫れあがっていく。

『う、ぁ……うあぁああああん……!!』

 その悲鳴に感化された子どもたちは、震えて耳をふさぎながら、進む足を速めていく。

『やだ、やだぁあああ!!!』
『たすけて。たすけて!!』
『……助けて、誰か!』

 そのいのちをうばった傷を――おそろしい記憶(トラウマ)を抱え、もう決して救われることのない過去の残滓は進んでいく。

 心細くて、辛くて、おなかが空いて、かなしくて――そんな苦しみを訴え、助けを乞うたとて、最早どうにもならないというのに。

『誰も、助けてくれなかった……』

 無価値な残骸は、再び世界に否定され――消えるために存在する、オブリビオン故に。

 だって仕方ない。本当に必要なその時、彼ら、彼女らの前には、パンくずの道もお菓子の家も存在しなかったのだ。
 ……闇に鎖された世界にはヒーローも居なければ――誰かのように頭のおかしな吸血鬼と巡り合うことさえも、無かったのだから。






====================
●マスターより
 ダークサイドに墜ちた常闇ノ海月です。いっしょに骸ノ月に……イコォ……ヨ!

 二章は心情中心のような気がしてます。

●捨てられた子どもたち
 闇の救済者たちや、村人でもほぼ同数なら対抗可能な程度の強さです。

 わらわら数で攻めてくるというより、幽霊っぽいあらわれ方をするかもしれません。

 このシナリオではある程度のやり取りは可能としますが、本質は思念体なので理性的な対応は望めません。生きもの以上に。
 また、パニック状態にありますので、基本的には話を聞かないものと思ってください。
 
 一応書いておくと、ゲスト的に登場させた幽霊さんたちがトリガーを引いたように見えますが、遅かれ早かれでマシなルートです。

●闇の救済者たち
 村に居るのは精鋭の戦士100名程度。
 老兵以外の上位3人がそれぞれ30名の部隊を取りまとめています。他はプリュイの親衛隊が10名。実質的な統括は傭兵です。
 
 提案等があれば、それが『彼らにとって』妥当なものであれば協力します。

●どうでも良いかもしれない情報
 上位4名のモチーフは土竜、蝙蝠、鴉、蛇。
 黒猫がおらんやんけ! というクレームは受け付けますん。

●プレイング受付
 随時受け付けますが、執筆はスローペースになる可能性が高いです。
 期限切れとなった場合は、再送いただければお返しできる可能性があります。
 👑達成の目途が立ちましたら、受付の締め切り日時を告知いたします。

 この章のみの参加も歓迎いたします。

 では、皆さんの参加をお待ちしてます。
ブラミエ・トゥカーズ
さて、これから害悪ではあるが罪のない幼子を殺しに行くが共をする者はいるか?

とは言った物の余は亡霊相手は専門外であるのでな、代理に任せるとしよう。

騎士団を【浄化】属性で召喚
子供の亡霊には比較的穏便な浄化を与える
害悪であっても罪なき者を嬲る趣味は彼等には無い

魔獣や異端の神が召喚されたらそちらを優先
本性を表し、己の命も消耗品とした異端狩りを開始する
肉体を持つ相手に対してはブラミエも参戦
病の力は使わず武装で相対する
防御はせず不死性、耐久性に飽かせた力技
正体ばれは気にしない

なお、騎士団は敵を誘導しブラミエも攻撃に巻き込む
共闘者に良い笑顔で参加を促す

死して支配されても矜持は歪まない
多少愉快な意趣返し


●愛しき無知
「さて、これから害悪ではあるが罪のない幼子を殺しに行くが」

 ――共をする者はいるか?

 そう問いかけたブラミエ・トゥカーズに、即座に応じられる者は極僅かだった。
 それもその筈。仲間の猟兵が連れていたお子様幽霊たちからの情報はグリモア猟兵から聞いた話と違わず、村を目指して進んでくるのは『捨てられた子どもたちの霊』。

 それは口減らしなどで村から捨てられ。
 行くあてなくさまよい魔獣に喰い殺され。
 支配者や異端の神に生贄として捧げられ。
 或いは、大人たちの……人の悪意と暴力に晒され、非業の死を迎えた子どもたち。
 ひとりぼっちの心細さを、親に捨てられ殺された辛さを、耐え難い空腹感を訴え、助けを乞うてくる子どもたちの霊――残留思念。

 ブラミエが述べた通り害悪(オブリビオン)であるとて、生前の彼ら彼女らに瑕疵があった訳でないのだ。救けを乞うて彷徨う幼子をもう一度地獄へ叩き落とすというのは、それが過去の残骸に過ぎないと知っている猟兵にとっても、気分の良いものではない。

「いいだろう。敵に降り敵に与するならば、それこそが万死に値する罪なのだから」

 そうだろう? と疑いなく応じたのは『闇の救済者』の幹部たる青年剣士。若き正義漢の振りかざす『正しさ』が如何にもブラミエの知る人間らしくて、

(……恐るべき人よ。愛しき無知よ。己の善にて邪を蹂躙する正しき者よ)

 思わず、笑みが零れる。
 そうだ。これも人間だ。よくよく見ておくが良い……そして、思い出すが良い。

「なるほど? では行くとするか……」

 とは言ったものの、ブラミエ自身は亡霊相手は専門外であった。故に――彼女はそれを『代理』に任せることとした。

 薄暗闇に煌々と連なるは松明の炎。浄化の火を手に手に集うは精強なる騎士たち。≪歪曲伝承・魔女狩りの灯(セイギトキョウフノナノモトニ)≫のユーベルコードによって召喚された騎士たちは馬上にあって整然と轡を並べ、宿敵の下知を待つ。

「――怨敵共よ、亡霊狩りを始めるが良い」

 すると雄叫びが上がり、鐙を蹴って促すに従い、馬たちが走り出した。

『オォォオオオォオオオオ……!!!』
「……っ。これが猟兵の……奇跡の力か! 続け! 我らとて後れを取るな……!」

 かくして魔女狩りの騎士団と闇の救済者の剣士率いる戦士たちは、眩き光となって駆け巡り、蟠るこの世の闇を切り裂いていく。
 ――穢れを打ち払い、正義を為すために。

●敵は何処
「……ふむ。害悪であっても罪なき者を嬲る趣味は彼等には無い、とは言ったものの」

 蹄の音が大地を揺らし、武装した大勢の騎士たちが押し寄せると、子どもたちの霊は姿を潜めてその捜索こそが難航していた。

「見つけたぞ! 逃すな!!」

 独特の鋭い感覚(センス)でも持っているのか、小回りの効く青年剣士の方がまだ亡霊たちを良く見つけ追い詰めていたのだ。

『ひっ……こ、こないで……』

 老木の木のうろに身を潜め、息を殺していた少女が細い悲鳴を上げて逃げようとした。けれどそのよたよたとした頼りない足取りでは、戦士はおろか村の大人たちにさえ敵わなかっただろうから。
 やせ細った体はすぐに転んでしまい、『闇の救済者』たちがそれを取り囲む。

『たす、たすけて。しにたくないよぉ……』

 逃げられぬことを悟った少女は、現れたのが彼女を喰らった魔獣ではなく人間であったことに一かけらの希望を抱いて、震えて泣きながら懇願する。

「黙れ! 吸血鬼の手先が、惑わすな!」

 青年剣士が剣を横薙ぎに振るえば、咄嗟に顔の前で庇おうとした両腕ごと、その細い首が斬り飛ばされる。

「こいつらは危険だ……士気に関わることになる前に、我々が片付けてしまわねば」
『あ、ぁ………て……』

 忌々し気に独白する青年剣士。コロコロと転がった小さな首が、涙を零しながら最後に何かを呟こうとして……けれど、その声を聴く者はこの世の何処にもいなかった。

(そう。彼奴等は止まらぬ。世界の為に無力な人々の為に邪悪を討滅する――その真実を知らずに、の)

 少女の目から光が消え、その姿も闇に溶け消え去っていく。ブラミエはそれを見送ってからひとつため息を零し、彼女の見ていた目線の先へと振り返る。

「化け物だ! 魔獣が現れたぞぉ!!」

 闇の救済者たちが叫ぶ。そこに居たのは大蛇の魔獣。人や馬すらを丸のみにして有り余るほどの巨体が低く地面を這って、餌に過ぎない小さき者どもを喰らおうと狙っていた。

『怨敵の到来だ! 恐れるな! 今こそ我らの勇を見せようぞ!』

 魔女狩りの騎士団たちが命を顧みずに突撃し、己の命さえ消耗品とした異端狩りを開始した。蛇の飛ばす毒液に騎士たちがバタバタと倒れ、怯まずに打ち返す火矢が蛇の鱗を穿ち、森を焼いていく……。

「ち。任せてはおけぬか」

 青年剣士は一度兵を引いて見に回ることにしたようだ。彼らや騎士団に任せていても討伐は可能かもしれなかったが、その被害を考えるとブラミエ自身も動かざるを得ない。

「恐怖する者もおらぬ。つまらん戦場よ」

 吸血鬼の形を持つ病魔の化身は、その病の力ではなく吸血鬼たる不死性と耐久力で以て防御もせずに毒液を耐え、鎌首もたげる魔獣へと剣を向けた。
 規格外の巨大な魔獣とて猟兵を脅かすほどのものではなかったのか、魔女狩りの聖剣――と信じられた、只の人殺しの剣がその首を切り落とす。
 けれど大蛇は動きを止めず、首だけになっても、或いは胴だけになってものたうち回って周囲を破壊していった。

「神経節が独立しているのだったか……」

 さて、と止めを刺すべく剣を構えたブラミエの背中に、トン、と衝撃が走った。背中には火矢が突き立ち、溜息を吐いて振り返るブラミエの目に映ったのは、矛を揃えて騎馬突撃を敢行する魔女狩りの騎士団たちだった。

「全く……愉快なものだよ。てめぇらは」

 死して支配されても尚、彼らにとってブラミエは怨敵――倒すべき悪のまま。
 召喚者を突撃の勢いに巻き込み蹄にかけ踏み砕きながら前進した彼らは、屍の山を築きながらもやがて大蛇を屠り切ったのだった。
成功 🔵🔵🔴

鳴上・冬季
「確かに私の術や宝貝は、あまり鬼向きではないですね」
嗤う

「であれば、貴方達向けの宝貝を作りましょう…響け、鬼滅八音琴」
風火輪で空中を飛行しながら対幽霊専用の宝貝を創造
大きさは片手に乗る小さな自鳴琴で1度捻子を巻くと対幽霊専用の破邪と浄化の音色をその場にいる幽霊が全て消滅するまで勝手に大音声で流し続ける
但し曲自体は優しい童謡調

「自分の思いに囚われ続けるから、何度も死ぬまでの道程を繰り返す。一時でも思いから離れるよう彼らを仕向け、そのまま浄化する…これこそ最上でしょう?」
「最強ゆえに目立つのは仕方ありません。庇え、黄巾力士」
敵の攻撃は飛来椅で飛ぶ黄巾力士に庇わせる

「私の宝貝は最強ですから」
嗤う


●最上の解
「確かに私の術や宝貝は、あまり鬼(幽霊)向きではないですね」

 攻撃的なものに偏重しがちな己のユーベルコードや宝貝のバリエーションを反芻して、鳴上・冬季が嗤い。

「であれば、貴方達向けの宝貝を作りましょう……響け、鬼滅八音琴」

 所持していないのならば創り出せばいいとばかりに、≪簡易宝貝の創造(カンイパオペイノソウゾウ)≫にて対幽霊専用の宝貝を創造する。
 それは、大きさは片手に乗る小さな自鳴琴(オルゴール)で1度捻子(ねじ)を巻くと対幽霊専用の破邪と浄化の音色を流し続ける宝貝。それも、その場にいる幽霊が全て消滅するまで自動的に大音声を流し続けるという代物だった。
 ただ、素材がなくともそうして想像力と仙術で一時しのぎの宝貝は作れるが。

「存在と消費がとんでもなく非効率なので、あまりやりたくないんですがね……」

 そうぼやきながら、風火輪で空中を飛行しメロディーを降らせていく妖仙。しかし程なくして宝貝を使った除霊の欠点に気付く。

「ふむ……居るのか居ないのか。効いているのかも。これではちっとも分かりませんね」

 幽霊たちは大挙して押し寄せるというより、ふと気付けばそこに佇んでいるような現れ方をするようだった。上空からならば広範囲が見渡せるとはいえ、ものかげに潜まれればその限りではない。

「待ちますか……ですが、なんて地味な」

 いやいや、そんな筈はない。何故なら私の宝貝は最強なのだから――そんなちょっとした懊悩を抱えながら、待つことしばし。

「効いているようですね。やはり最強……」

 或いは、流れる曲自体は優しい童謡調のものとしたのが幸いしたのかもしれない。煙に燻された羽虫のように、弱り切った亡霊がふらふらと進み出て姿を見せた。

「自分の思いに囚われ続けるから、何度も死ぬまでの道程を繰り返す。一時でも思いから離れるよう彼らを仕向け、そのまま浄化する……これこそ最上でしょう?」

 自画自賛する冬季の眼下で、亡霊は跪いて祈るような姿勢で何ごとかを呟いていた。

「………」

 飛行型宝貝『飛来椅』で飛ぶ人型戦車『黄巾力士』に己を守らせる冬季。しかし何の抵抗もなく、その霊もとうとう倒れて地べたに力なく横たわる。
 あまりに退屈な時間。ほんの気まぐれに地に降り立ち、その亡霊の傍へと近づく。

『……かみさま?』
「神ではなく、仙人ですよ」

 痩せこけた子どもは冬季に気付くと、蚊の鳴くような声で囁いた。

『かみさま。かみ……さま……』
「………話は通じない、か」
『いいこにするから。どうか……』

 うわ言のように、救わなかった神へと祈り続ける。その言葉も存在も、至近距離から流れ出る音によって急速に薄れていきながら。

「どうか……なんだというのです?」
『おねがいです。……どう、か……』
「……そういえば飢えているのだったか?」

 少し待っていなさい、と。言葉の続きを聞き出すために、己の所持品から仙桃を取り出し与えようとした冬季だったが。

「………」

 ほんの一瞬目を離し、再びその場所を見たときにはもう、亡霊は消えてしまっていた。

●消えるだけ
「まぁ、最強にして、最上ですからね……」

 言葉は、異様に寒々しく響いた。
 疑いを持てば能力を減ずるユーベルコードから生まれた宝貝故に、一見して過剰なまでに称える言葉を重ねる冬季だったが……。

『おなかすいた……』

 琴の音はもうずいぶん小さく、弱くしか鳴ってはいなかった。それでも繊細な音に惹かれ、先ほどまでより亡霊は集まってくる。
 
「……食べますか?」
『いいの?』

 差し出された桃を取ることを躊躇うその子どもに、一つ頷く。

『あ……、ありがとう!』
「……いえ」

 花が咲いたような笑顔を見せ、桃にかぶりついたその子どもは泣きながら貪り喰らい、あっという間に食べ尽くして……消えた。

『たべもの……』

 何処に隠れていたのか。
 それからは、子どもたちは次々と姿を見せては何かを言い残し、そして消えていった。

『おうちにかえりたい……』
『さむいの。さむくて、こわくて』
『どうして? どうしてわたしをすてたの? わたしは、いらない子だったの……?』

 それ以上は何もない。
 ほとんどの子どもが泣きながら、空腹を、心細さを、捨てられた辛さを訴えて。

 ――本当に、ただ、消えるだけだった。

 最強であることも、最上というお題目も、今この場所では何の役にも立たなかった。
 ただ飢えて、捨てられて――だれにも助けて貰えずに死んでいった子どもたちの願いは、ほんのささやかなものに過ぎなかったのだ。それをどうして囚われなどと思ったのか……七度の転生を経て仙に至り、不死を手にした冬季でさえ、ほんの一時甘味を断たれただけで怒りを覚えていたというのに。

「百年はおろか十数年も生きていない幼子が捨てられ嘆き悲しむのは、自然の理か……」

 冬季に出来るのは土に膝をつけ塵で汚しながら、よろよろと集まってくる子どもたちに食べものを分け与え、その嘆きに耳を貸すことだけだった。
 そうして――。

『おいしいねぇ』
『きれい、ね……』

 感謝ですらない、飾らない感想を呟いて、子どもたちはただ、消えていくのだった。
成功 🔵🔵🔴

御園・桜花
「村の方や貴方達が亡くなっては本末転倒ですから。どうか村人を守った自衛を優先して下さい。彼等は幽霊ですから、壁を突き抜け急に家の中に現れるかもしれません。広場等見晴らしの良い場所に皆を集めて下さい。其れと全員に花吹雪に動揺しないよう伝えて下さい」
自分も村人達を守れる場所に待機
戦闘開始したらUC「侵食・サクラミラージュ」
メイン戦闘は救済者達に任せ
制圧射撃で子供達の行動阻害しながら転生するよう一生懸命説得
「お願い、此の儘骸の海に還らないで。貴方達は死んでしまった、生きていた頃の貴方達は助けられなかったけれど、今の死んだ貴方達なら助けられます」

「死ぬ前に貴方達を苛めていた人もご飯をくれなかった人も此処には居ないでしょう?足を止めて、周りを見て!その時こんな花は咲いていた?桜吹雪は起きていた?お願い、足を止めて回りを見て!此処はサクラミラージュ、貴方達死者の願いが叶う場所。もう誰も貴方を苛めない、ご飯を普通に食べられる場所に転生…生まれ変われるの。強く願えば必ず叶う!だから転生を願って下さい!」


●理由
「村の方や貴方達が亡くなっては本末転倒ですから。どうか村人を守った自衛を優先して下さい」
「……何が本末転倒なのか、分かりかねる」

 御園・桜花の言葉に、傭兵は胡乱な目を向けすげない答えを返した。

「これは元々俺たちの戦いだ」
「ですが、それで命を落としては……」
「無駄死にだとでも? ああ、そう思うならそれでも構わない。だが皆、覚悟の上だ」

 そうでない者は、すでに避難した。
 そう言って突っぱねる『闇の救済者』の実質的リーダーは、その点について譲る気配は無いようだった。
 格上の敵にすら犠牲を払いながらも渡り合ってきたのだ。今更、たまたま猟兵が居るからとおんぶに抱っこで守られるようでは、今後に与える悪影響の方が大きいと判断したのだろう。

「……分かりました。ではこれ以上は言いません」

 猟兵の過保護が士気を挫き闇の救済者たちを弱くすると言うなら、それ以上言えることは無かった。彼らの命の責任は、彼ら自身にしか負えないものだから。

「けれど、彼等は幽霊ですから、壁を突き抜け急に家の中に現れるかもしれません」

 桜花は彼らに広場等見晴らしの良い場所に陣取るようにアドバイスする。

「広場、ね。……まぁ、考えておこう」
「其れと、全員に花吹雪に動揺しないよう伝えて下さい」
「分かった。花吹雪……それがアンタのユーベルコードってヤツか?」

 プリュイから『ぶっきらぼう』と評される傭兵がにわかに興味を示した。

「ええ。幻朧桜という、花の咲き誇る世界を現出させる御業です」
「花か」
「お好きなんですか?」

 あまり似合わない気がするけれど、と。
 ちょっと失礼なことを内心で考え首を傾げる桜花に、傭兵は苦笑し。

「いいや。全然だ。……昔の仲間がやたらと自慢していたのを思い出しただけだ」
「まぁ! その方は花好きなのですね。今はどちらに?」

 思わぬところで話の切掛ができて喜ぶ桜花へ、傭兵は苦い顔で答えた。

「死んだ。やつのご自慢の花も、何もかもが故郷ごと燃えて……全部灰になっちまった」
「え、あー……」
「……すまん」

 ただ覚えておいてほしい、と。
 騎士くずれの、黒を纏う傭兵は言った。

 吸血鬼へ――『支配者』への反逆は、彼らとて“そうなる”リスクを承知で身を投じた戦いなのだ。この村だって、もし『闇の救済者』たちが破れれば、報復や見せしめとして現状(いま)よりも遥かに悲惨な運命を辿ることになるだろう。
 女も子どもも例外無く、鏖(みなごろし)にされたとして何ら不思議ではないのだ。

「俺たちが取るに足らない弱者であろうと、逃げ隠れする『言い訳』にはならん。相応の『理由』が無ければ、俺たちは例え『神』の命令だろうが唯々諾々と従いはしない」

 それが、積み上げられた死体の上で勝利を掴みとってきた傭兵の譲れない一線だった。

●前向きに生きることほど
 結局のところ、傭兵の下した決断はただ待つのではなく、広範囲に兵を分けて亡霊たちを迅速に排除する事だった。
 別の猟兵から符を貰い受けたことで比較的穏当に還す手段も出来たようだ。戦士たちがそれぞれ散って、亡霊たちの捜索に向かう。
 その中のある一班、戦闘経験の少ない村人たちの集団に桜花は同行していた。

「戦闘になった場合は、お任せしますね」
「あ。あぁ……」

 捜索範囲の後方――村の内側に割り当てられたその班には老兵も同行しており、比較的安全が保証された編成となっていたが。

 ――コトリ、と小さな物音がだれも居ないはずの家屋から聞こえた。

「……」
「……」

 顔を見合わせ、内部を確認しようとしたところで、先頭に居た男が悲鳴を上げた。

「うわぁっ!?」
「ま、まてっ……!!」

 突き飛ばすように小さな影が飛び出し、何かを抱えて逃げ去っていく。それを追おうとした村人へ、また別の小さな影が襲い掛かるのが見えて。

「――動かないで!!」

 軽機関銃が軽い動作音を立て、弾幕を吐き出す。亡霊を狙ったものではない。弾丸は確かに地面を穿って土煙をあげた。

『ひぃいぁ……』
『にげて。はやくにげて』

 風景には、美しい桜の花びらが舞っていた。≪侵食・サクラミラージュ(シンショク・サクラミラージュ)≫のユーベルコードによって現出した、幻朧桜が咲き誇るサクラミラージュのような美しい世界。
 桜花が声を張り上げ亡霊へと呼びかける。

「お願い、此の儘骸の海に還らないで。貴方達は死んでしまった、生きていた頃の貴方達は助けられなかったけれど、今の死んだ貴方達なら助けられます」

 兄妹だったのだろうか。蹲って頭を抑える女の子と、ひっくり返って苦し気に呻く男の子。二人ともボロボロの布を纏って裸足で、女の子の近くには盗んだと思しき食べものが転がっていた。

「死ぬ前に貴方達を苛めていた人もご飯をくれなかった人も此処には居ないでしょう? 足を止めて、周りを見て!」

 弾は掠ってもいないはずなのに、女の子は何故か頭から血を流し、体を丸めてガタガタと震えていた。

「ねえ、その時こんな花は咲いていた? 桜吹雪は起きていた? お願い、足を止めて回りを見て! 此処はサクラミラージュ、貴方達死者の願いが叶う場所なの! 強く願えば必ず叶う! だから、転生……を……」

 まるで、過去の出来事をなぞり何度も何度も石をぶつけられているように女の子が悲鳴を上げて、その度に傷が増えていく。
 亡霊たちには美しい風景に目をやる余裕もなければ、桜花の言葉も届いていなかった。いや、正確には『大人が大声で何か叫んでいる』としか、認識できていなかったのだ。

『ごめんなさい、ごめんなさい! おなかがへっていたの! おなかがへっていたの!』
『ゆるしてください。ゆるしてください! なんでもきくから。いうこときくから……』

 見えない何者かにずるずると引きずられ、押さえつけられた男の子が、手首を切断されて絶叫を上げた。もう泥棒など出来ないように、正しく『ばつ』を与えられたのだろう。

「……貴方がたの常識では、説得とは銃口を向け弾丸で威嚇し行うものなのですかな?」
「あ……あぁ……」

 老兵がぽつりと零す。
 亡霊たちが影朧と同じ、過去に虐げられ傷(トラウマ)を抱えた想念(オブリビオン)であることは分かっていた。
 彼ら彼女らが『現在(いま)』何を切望し、何を怖れているのかも、猟兵たちは知ろうと思えば知ることが出来た。理を以って話すことが難しいだろうことも。
 亡霊たちは現在(いま)ある痛みを無かったことにして、ただ前向きに幸福な世界で生き直すことなど想像できなかった。それがどんなに素晴らしく正しい道だったとしても。

 ――だから、桜花の言葉は彼女の願望でしかなく、亡霊たちに届くことは無かった。

「ま、ままま、魔獣だぁっ」

 やがてぐったりと動かなくなった子どもたちを貪るべく、魔獣の群れが現われた。老兵や村人たちと協力しそれを打ち払った後、

「……わ、私はただ、もう誰もあの子たちを苛めない、ご飯を普通に食べられる場所に転生できれば……生まれ変われれば……と」
「……素晴らしいことですな。あの子たちが自身の意志でそう願い、叶うのならば」

 老兵は両手の暗器で兄妹に止めを刺した。
 彼の言葉は淡々として、桜花を咎める色は無かった。村人を守るべく取った行動は間違いなく『正しい』行いだったのだから。
 ただ、その行いが敵を説得したいという想いと矛盾していただけのこと。

 ――ただ、それだけのことだった。
成功 🔵🔵🔴

テフラ・カルデラ
《狐御縁》

ひゃわわわ…こういうガチシリアスなのはわたし向けじゃないですよぉ~!?
とはいえ、わたしのできること…うーんうーんと悩んだ結果…【癒しの鳴き声】でプリュイさんや他の方々を癒してあげましょう!
プリュイさんのトラウマを引き起こす可能性もあります…UCでできるだけそれを軽減できれば…
あとは周囲を【野生の勘】によって警戒しておかなければなのです…!

もう既に助けられない存在ですが…皆さんの手で弔ってあげているのでわたしはわたしのやるべきことをやり切ります!


狐裘・爛
《狐御縁》
燦もシホもルルもやりたいことがあるのね。テフラはどう? きっとイバラの道よ
愚問だったわね。みんなで踏み越えましょ。私は周囲を警戒するわ

あら燦……ふふっ、コツがいるのよ、神降ろし。自分の中身を無理やり押し広げて空っぽにするの

しあわせな夢に癒し、安らぎは任せた! 私は、盾になって癒しが行き渡るまでの時間を稼ぐよ。乖炎戯・魂魄凍結離で鎧を纏い噛みつきを抱き止める。頭も口調も動きも鈍るけど、集中する味方を攻撃なんてさせないし、プリュイさんに辛い思いはさせたくないわ
季節外れの氷菓、たんと味わいなさい


●resonance(共鳴)
『え~ん』『シホ~』
「あなたたち、どうしたの!」
『ル……シホ~』

 ルルチェリア・グレイブキーパーの召喚したお子様幽霊たちが、戻ってくるなりシホ・エーデルワイスに泣きついていた。
 ……声をかけると一瞬だけ振り向きかけたものの、ルルチェリアをスルーして。

『いたいよぅ』
「よしよし、どうしたの?」
『おなかすいたぁ……』『うぇえ~ん』

 どうやらシホが良いらしい。
 仕方ないわね、とため息をつき見守るルルチェリア。悲しい時はだれだってそうする。ルルチェリアだってそうする。……たぶん。

 そして、やがてメイ、マイ、タクローの三人が落ち着きを取り戻してから話を聞けば、

「……どうやらお友達を連れて来たのね」
「吸血鬼の差し向けた子どもたちの霊、ね」

 お子様幽霊たちが出会ったのは『捨てられた子どもたち』。どうやらメイたちはその亡霊の想念(おもい)に感化されてしまっていたようだった。
 慰めと庇護を求め、シホにすがるお子様幽霊たちの姿は、子どもにとって最も安心できるこころの安全基地――母親を求める幼子のようで。

『たすけてって』『いってた』『でも……!』
「そう……よしよし。怖かったねぇ……」
「分かったのよ。それじゃ、お友達を助けてあげないとね」
「そうだな。それじゃ、メイちゃんたちにも手伝ってもらうぜ」

 やさしげな声。どうやら『捨てられた子どもたち』と向かい合おうとしているシホやルル、四王天・燦らを見て目を細め、狐裘・爛はこの場に集ったもう一人の仲間に問う。

「燦もシホもルルもやりたいことがあるのね。テフラはどう?」

 きっとイバラの道よ、と。
 そうして水を向けられた、どう見ても女の子にしか見えないが列記とした――この場で唯一の男の子、テフラ・カルデラは、

「ひゃわわわ……こういうガチシリアスなのはわたし向けじゃないですよぉ~!?」

 パニクっていた。……何かダメそうだ!

「……」

 爛はふっとクールな笑みを浮かべ、

「……愚問だったわね。さぁ、みんなで踏み越えましょ」

 綺麗にまとめようとする。
 さては見なかったことにする気か。

「ええ、爛。皆と一緒なら越えられます」

 シホが素で真剣な顔をして頷いた。
 そんなシリアスさんたちを尻目に、

「とはいえ、わたしのできること……うーんうーん。か、固めてあげるとか……?」

 あああっ、でもそれで喜ぶのは特殊な人だけでしょうし……と、悩み続けるうさぎさんがいたとか。
 そう、何度だっていうが、HENTAIは非変態の中にあってはきっと理解されない、孤独な変態(なまもの)なのだ。

 けれど負けるなテフラ、がんばれテフラ!
 真にHENATIに変態力で打ち勝てるのは、他の誰でもなくHENTAIだけなのだから……。

●闇の救済者
「今回の……亡霊たちの相手さ、暴力で解決しようとしないで欲しいんだ」

 燦たちは闇の救済者の『傭兵』と話すため、その幕屋を訪れていた。迎撃のために慌ただしく準備が進められる陣内では、猟兵たちはあまり歓迎されていないようだったが。

「何故だ? 今は大人しくとも、吸血鬼が何を考えているか分からない以上、強引だろうがさっさと片付けるべきだろう」

 人の優しさや同情心に付けこみ、弄ぶような敵も数いる世界だ。油断させておき、突如として牙をむく可能性は否定できなかった。

「……プリュイさんが、調子を崩されていると聞きました」
「ああ。だが、それが何の関係がある?」

 不吉な胸騒ぎを覚えるシホには、今回の『敵』がどういった存在なのか、おぼろげに見えつつあった。
 だからシホは傭兵に亡霊たちの特性――それが『虐待され』『捨てられた子どもたち』であることを伝え、徒に苦しめたりトラウマを喚起すれば『魔獣』や『異端の神』などの危険な存在を具現化しかねないと警告した。

「ですから、なるべく苦しませないように注意してほしいと思います。それは、プリュイさんにも悪影響を与えかねませんから」

 亡霊たちは――『捨てられた子どもたち』は、まるで、過去のプリュイのようだった。

 人に虐げられ、吸血鬼に救われ――人のそばに在るために忌まわしき記憶に蓋をした、人狼の少女。
 今この場に集って来ている想念(オブリビオン)は、その傷(トラウマ)の蓋を引っかき、こじ開けようとしているかのようだ。
 もしも闇の救済者や猟兵が彼ら彼女らを力で追い立て、罰を与え、意のままに従わせようとするなら。それは過去の――絶望の中で死(救い)を願っていたプリュイを、人の手でもう一度地獄へ叩き落とすことと同じ意味を持つのかもしれない。
 彼女も過去(かつて)は大人に虐げられ、『捨てられた子どもたち』だったのだから。

「……分かった。そういうことならば」
「皆にも伝えてくるわ!」

 彼らも亡霊相手とはいえ、子どもを傷つけることには気乗りしなかったのだろう。
 ダンピールが露骨に嬉しそうな顔をして走り出そうとする。と、

「とと、ちょっとだけ待ってくれ」

 燦がそれを引き留め、『四王稲荷符』を御守りに渡す。

「仲間たちにも配ってやってくれ。幽霊達の痛苦を和らげ落ち着いて貰えるはずだ」
「ありがとう! ……私はもう行かなきゃだけど、あの子のことお願いするわね!!」

 そうして遊撃と思しき兵たちを率いてダンピールが出立していく。それを見送る猟兵たちに、傭兵が胡乱な目で問いかけた。

「なぁ、アンタたちは何故あの娘の過去の……そんな話まで知っている?」
「あ。それはグリモアといって、予知のような力で過去を視ることもあったりするの」

 自らもグリモアを使う爛がそう答えると、傭兵は得心がいったのか短く頷いた。

「そうか」
「……?」
「いや。それよりもアンタ方にも展開を頼めるか? プリュイと共に後方で構わない」
「応。了解だぜ!」

 そうしてかすかな違和感を覚えながらも、猟兵たちはその場を後にしたのだった。

●子犬の傷
「あ、皆さん!」

 パタパタと尻尾を揺らしながら猟兵たちに駆け寄ってくるその少女は、一時倒れたと聞いたが、今は別状なく健康そうに見えた。

(病気……人狼病ではありますけど。倒れたのは恐らく心理的なものなのでしょうね)

 シホはそう診断を下しながら、プリュイへと歩みより、そっと腕を回して彼女を抱く。

「わわっ? シ、シホさん?」
「倒れたと聞いて、心配しましたよ……痛いところはもうありませんか?」
「あ……」
「もしもまた具合が悪くなったら、すぐに言ってくださいね」

 温もりを伝える様に優しく抱きしめ、≪苦難を乗り越えて響く福音(シュクイン・クナンヲノリコエテヒビクゴスペル)≫のユーベルコードを起動する。
 シホの体から力が抜け、体が重く倦怠感を感じ始めるが、プリュイの肉体的な不調に関してはおそらくこれで万全となっただろう。

「ふふ。やっぱり聖女様みたい……」

 光に抱かれ、目を細める子犬。
 シホはその首に巻かれた包帯を見つめ、軽くひと撫でした。

「ひゃぁ!? んん……んっ……」
「あっ。シホばっかりずるいのよ! わたしもモフモフするのよー!」

 くすぐったそうにびくりと跳ねる体。そんな二人の様子を見ていたルルチェリアまでもがプリュイに駆け寄ると、ソフトタッチでやさしく子犬のお耳や尻尾を撫で始めて。

「!? ルルさ……っ……ふ、ふゃあぁあ! ……みみは、みみはやぁ……あぁっ……」
「モフモフ……やっぱり気持ちいいのよ~♪」

 弱点らしき箇所を蹂躙されてぐにゃぐにゃに脱力していくプリュイ。一方でルルチェリアはご満悦といった様子だが。

「ひゃわわわ……だ、大丈夫なんでしょうか、アレ? な、なんか……気持ちよくなっちゃってる声が出てるような……!?」
「いいえ。まだ変態が登場を控えているこの後の展開を考えると……何も問題ないわ!」

 ゴクリ、と喉を鳴らすテフラに爛が解説してくれた。……そういうことだ! たぶん!

「もう、ルルったら……」

 シホはシホで相変わらず子犬の喉下をくすぐりながら――敏感な部分を刺激され悶えるプリュイが前後不覚に陥るその隙に、確りと包帯の下を確認していた。

(……やっぱり)

 そこにあったのは、吸血鬼によってつけられたと思しき――恐らくは『聖女殺し』によって牙を突き立てられ生血を吸われたのだろう、古い傷痕だった。

●背信
「……御守りのお札なのよ」
「あ、ああ。……ありがとう?」

 ルルチェリアが、村内を回って村人たちに燦の作った『四王稲荷符』を渡していた。見知らぬ相手だからか微妙に固い態度だ。

「メイちゃんたちも頼むぞー」
『まかせて』『おー』『がんばる』

 燦はお子様幽霊たちにも手伝ってもらい、村内をくまなく網羅して符を展開していく。
 そうして移動している間にも、猟兵たちは警戒は怠らずに気を張り巡らせていた。
 ルルチェリアもシホも緊張した面持ちで周囲を警戒していたが……。

「そう気を張らなくても大丈夫よ。テフラもいるし、私たちで周囲を警戒しておくわ」
「ええ、こんな時こそうさぎ耳の出番なのです! 捕食者の気配は聞き逃しませんよ!」

 爛がそう請け負えば、テフラもフラグっぽいセリフを吐きながら可愛らしいうさぎ耳を揺らしてアピールする。

「やりたい事があるんでしょ? こっちは任せて! やりたいことに集中すればいいわ」
「爛……ありがとう」
「有難う爛さん、頼りにさせてもらうわ!」

 そうしてゆとりをもって周囲を眺めれば、ルルチェリアはプリュイがまたどこか不安げな様子でいることに気付いた。思えば、猟兵や『闇の救済者』の仲間たちの前では露出していた耳や尻尾を隠すようにフードを深くかぶって、村人の視線を気にして歩いている。

(まだ知らない人たちが、怖いのね……)

 それはルルチェリアにも分かる感情。

「あれが……雨降りの……」
「聖女様? でも、なんであんな……」

 かすかに村人のささやき声が聞こえた。
 自らの中にある理想(虚像)の聖女としてしか少女を知らない人たちの声。

「ねえ、燦」

 そしてシホは、プリュイたちから少しだけ距離を取ってから恋人へと尋ねる。

「もしも子どもが、だれかから受けた傷を隠して、誤魔化そうとして嘘をつくなら……」

 それはどうしてだと思う? と。
 プリュイが聖女殺しと別れることになった理由。『びょうきで倒れてしまって』と猟兵たちに吐いた嘘の、その理由(わけ)を。

「……悪いことだと知ってて、庇おうとしてるってのか? でも、それじゃまるで――」
「うん……。プリュイさんは、たぶん、全部わかってるんじゃないかなと思います……」
「………」

 それは人類、そして『闇の救済者』への。また猟兵たち、正しき世界への背信だった。
 プリュイは――『雨降りの聖女』は、自らの『お師匠さま』が人類の仇敵たる『ヴァンパイア』であることを理解していながら、かの者に想いを寄せていたのだろうから。

 彼女はそれが許されざる『罪』であることを知りながら誰にも話さず心に秘め――そうしていずれは、憎き人々を手ひどく裏切り、世界に復讐しようとしているのだろうか。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

シホ・エーデルワイス
《狐御縁》

病気…首筋の包帯…具合の悪さ…

胸騒ぎを感じ急ぎプリュイさんの容態を
第六感と聞き耳で見切り診て
温もりを伝える様に優しく抱きしめ【祝音】

聖女と呼ばれる資格はないですか…
私もよく聖女と呼ばれるけど…
大勢を救う為
人々を殺めた私が聖女とは思えません
私はただ…助けたいという自分の気持ちに従っているだけです

だから私は…
聖女と呼ばれるのは有難い評価だと受止め
それに驕らない様
心に秘めています

プリュイさんは皆さんを助けて何を感じますか?
心地良さはありませんか?


メイさん達の話を聞き
第六感と聞き耳に『聖瞳』の赤外線暗視機能で奇襲されない様
周囲を警戒

味方に敵UCの特徴を伝え
なるべく苦しませない様頼む
特に敵が苦しむ様をプリュイさんが見てトラウマを刺激しない様
注意して欲しい


【祝音】で回復支援を優先しつつ
ルルとテフラさんの後に
浄化と破魔の祈りによる霊魂吸収属性の光で範囲攻撃

助けられなくてごめんなさい
ルルの夢で安らかな眠りを…

ええ

皆と一緒なら越えられます

テフラさんの鳴き声は相変わらず可愛いです♪

!燦!大丈夫?


四王天・燦
《狐御縁》

砦の皆様に御守として四王稲荷符を差し上げよう
全域に散った符を媒体に慰め×浄化×結界術で鎮魂の領域を展開するぜ
幽霊達の痛苦を和らげ落ち着いて貰う為にね
救済者には暴力で解決しないでと言っておくよ
ルルお憑きの幽霊も符を撒いてくれー

にゃーん
徐にテフラの鳴き真似
緊張をほぐしながらプリュイを抱くぜ
温もりは師だけでないと伝わって欲しい
何を視た?
何が怖い?

プリュイは空っぽじゃないよ
聖女願望は切欠
今のお前さんは独りぼっちかい?

独りで抱え込むなとコミュ力で踏み込む
世間に仕返ししても良いんじゃね?
聖女である以前に普通に女の子なんだから
そも聖女って何ぞや?

お話に区切りがついたら幽霊達をどうするか問う
優しく弔いたいなら【万色の稲妻】に慈悲を込めてアレンジしてみな
自信を持て、今のプリュイは過去より心も強い
ユーベルコードに想いを乗せるんだ

心を空にして神様を呼ぶんだよな?
爛にイロハを確認し巫術[狐の神降ろし]
精気を九割方捧げた御業でプリュイの奇跡や行動を手伝うぜ

倒れそうでもシホに支えてもらう
んふー、温かい♪


ルルチェリア・グレイブキーパー
≪狐御縁≫

幽霊の子、メイたちがシホに泣き付いてるわ
どうやらお友達を連れて来たのね

【第六感】で周囲を警戒、捨てられた子どもたちが現れたら皆に報告

燦さんの御守りをお供の幽霊たちと一緒に皆に配るわ
配りながらプリュイさんを励ますのよ
彼女を落ち着かせる為に優しく犬耳や尻尾をモフモフ
やっぱり気持ちいいのよ~♪
こんな世界でもあなたが心から望んだ事が有るでしょう?
それをするだけで良いのよ
難しいことは考えないの!あなたなら出来るわ!


UC【楽符】で捨てられた子どもたちを眠らせて
楽しい想い出の夢を見せるわ
皆よりも先に動いて眠らせるわ
召喚された魔獣等は【浄化】の力を込めた飴玉鉄砲アムリタで撃ち抜く
辛かったでしょう、苦しかったでしょう
もうお休みなさい
……後はお願いね、シホ

有難う爛さん、頼りになる冷気の鎧ね!守りはお願いするわ
にゃ~ん♪……ハッ、ついテフラさんの真似をしちゃったわ


●にゃ~ん♪
「居ないわね、幽霊」

 むむ、と困ったように眉をひそめる爛。
 前線の方でおおむね阻止できているのか、後方となる村内では警戒してはいるものの亡霊たちは発見できず、これではそもそも侵入されて居るかさえ良く分からなかった。
 この場の猟兵たちは与り知らぬことだったが、亡霊たちも先行した猟兵の呼び出した騎士団の威容や、闇の救済者の『剣士』らの対応から恐怖・警戒心を強め、特に複数の人前には容易に姿を見せなくなっていたようだ。

「うーん。見つかりませんね」

 ちら、と仲間の様子を窺いテフラが唸る。
 プリュイは何だか周囲の目を気にして元気無く、ルルチェリアもそんな彼女の様子に戸惑っているようで。先ほどまで何事か話していた燦とシホの様子も少しおかしい。

(よし。こんな場合は……わたしが!)

 そんな時だった。
 シリアスがすぎれば展開次第で変態の存在感が消える。極限まで張りつめた(?)空気の中でテフラが選択した答えは――

「にゃ~ん♪」

 ネコチャンの声真似をすることだった。
 同じ傷を持つ想念(オブリビオン)が押し寄せプリュイのトラウマ(過去)を想起しかねない環境で、テフラはユーベルコード≪癒しの鳴き声(カワイイネコサンイヤサレル)≫を使い癒すことで、或いはそれを軽減できればと願ったのだ……にゃ~ん♪

「にゃ~ん♪ ……ハッ」
「ふふっ。相変わらず可愛い鳴き声です♪」

 無意識にテフラを真似して『にゃ〜ん♪』を返すルルチェリア。二人の可愛らしい鳴き声に、シホもにっこりとご満悦の表情だった。

「? 皆さんが猫さんに……?」
「にゃーん」
「わぅん?」

 不思議そうな顔をするプリュイ。重ねるように鳴き真似をする燦が、その肩を抱いた。

「わ、……燦さん?」
「どした。疲れちゃったか?」

 特に親しげな様子だった老兵やダンピールが居ないからか、猟兵たち相手にも少し緊張した様子が窺える子犬。そんな少女を落ち着かせるよう、温もりを伝えるように。

(師匠は……冷たいんだったか。代わりってわけじゃないけどさ。どうしてかな……)

 自らのいのちを炎に変えて分け与えた少女を放っておけずに、こうしてしまうのは。

「なぁ、プリュイは……何を視た? 何が怖いんだ?」
「………っ」

 隠し事を咎められたように。びくりと肩を跳ねさせるプリュイを抱き寄せ、

「大丈夫。……なぁ、怖がらないでくれよ。アタシはただ、お前の力になりたいんだ」

 そう、ゆっくりと囁く。
 何千と繰り返し繰り返す日々の、ほんの一時を共にしただけの相手だ。プリュイは――人に虐げられていた子犬は、本当は猟兵たちのことだってまだ怖いのかもしれない。
 けれど今こうしておかなければ、彼女はどこか遠い場所へと行ってしまう気がした。
 だから、燦は子犬の頭を撫でながら「独りで抱え込むな」と、言葉を投げかけ続けた。

「もしもプリュイがそうしたいならさ。世間に『仕返し』しても良いんじゃね? 聖女である以前に普通に女の子なんだから」
「そんなこと。わ、わたしはただ……」

 何かを言いかけ、けれど結局は言葉を飲み込んでしまう少女。
 燦はそれを咎めるでもなく。

「そもそも、聖女ってなんだろうな……」

 彼女自身の目的のために聖女であろうとしながら、その一方で聖女と呼ばれる資格はないと思っていると、そう語っていたプリュイへと問いかけた。
 プリュイは――『雨降りの聖女』は、そんな問いにやがて彼女の出した答えを返す。

●聖女とは
「……それは人の中に生まれ、人にそう呼ばわれる者。人々の希望のしるし……そして」

 ――それは暗黒に鎖された世界で道を失い惑う者にとって、唯一の『聖なる存在』。

 それは嘆くばかりの無為ではなく。
 上辺を繕うばかりの偽善でもなく。
 己が手を汚さず人を操る扇動者でもない。

 天上より憐みを垂れる『神が如き者』でもなければ、惑う者と共に地獄の中に在って藻掻き傷つき。
 そうして血と泥にまみれても、尚輝きを失わぬ者――褪せぬ光を放つ者。
 その存在を懸けて、ただそこに在るだけで人々を癒し導く、生まれながらの光。

 そして、その光は――

「わたしとお師匠さまは、たくさん考えて、そんな風に理想の聖女を決めていきました」

 聖女について滔々と語るプリュイは、その過ぎ去った日を慈しむように微笑んでいた。

「だけど、わたしを聖女と……『雨降りの聖女』と呼んでくれる人たちは」

 きっと居てほしい聖女の『虚像』を見ているだけで、わたしを知らない。見ていない。
 だって、本当のわたしは……
 知られてしまえば、きっとわたしは。

「………」

 抱き寄せた燦の腕の中でかすかに震えるその訳は、恐怖か罪悪感か。あるいはその両方なのかもしれない。

「プリュイさん。私もよく聖女と呼ばれるけど……大勢を救う為人々を殺めた私が聖女とは思えません」

 ――私はただ……助けたいという自分の気持ちに従っているだけです。

 自身もそう呼ばれるが、やはり自分で自分を聖女などとは思えないのだと、そう告げたのはシホだった。
 己の裡から湧き出す感情に従い人々を救うのであれば、それはプリュイが告げた『生まれながらの光』そのものなのかもしれなかったが。だからこそ、

「聖女と呼ばれるのは有難い評価だと受止め、それに驕らない様心に秘めています」

 そう告げるシホにプリュイは、

「……やっぱり。聖女さまだったんだぁ」

 眩しいものを見るように目を細め、ぱたぱたとどこか力なく尻尾を揺らす。

「プリュイさんは皆さんを助けて何を感じますか? 心地良さはありませんか?」
「だれかが喜んでくれると、うれしいです。こんなわたしでも、力になれたなら……」

 けれど同時に、こわさも生まれるのだ。

「なぁ。プリュイは空っぽじゃないよ」

 燦がそう言って尋ねる。例え初めは聖女になろうとしたことが切欠だったとしても。

「今のお前さんは独りぼっちかい?」
「それ、は……」

 大切なものはできた。できてしまった。だからこそ罪悪感が押し寄せる。
 大切にしてくれる人たちがいる。だからこそ、きっといつかその人たちから向けられることになるだろう失望が、敵意が……恐ろしくて仕方なかった。

 ――それでも、どれだけ利己的で自分勝手といわれても、揺らぐことはないけれど。

「でも。だからわたしは『ばつ』を受けて。すてられて。それが正しいの。あの人たちは正しくて。いうとおりだったの。……あのひとたちってだれ? わ、わたしは……うぅ」
「……っ!」

 プリュイが蒼白となった顔で小刻みに震え、浅い呼吸を繰り返す。燦が慌てて屈みこみ覗き込んだ瞳は瞳孔が開いて、内側に巻いた尻尾の毛もすっかり逆立っていた。

「プリュイ、大丈夫だ。落ち着け」
「いや。いたいのは、もういやぁ……」

 何度も何度も。
 無力であることを思い知らされ、その度に痛めつけられてきた小さな躰は、燦の腕の中で何ら抵抗を示すことなく。ただ小さく震えて、弱々しい声と大粒の涙を零し続ける。

「プリュイさん……」
「どこかで休ませましょう」

 そうして亡霊の捜索どころではなくなった猟兵たちは、自由に使用しても良いと村からの許可を得ていた集会所――それぞれの物語を語った場所へと再び足を向けたのだった。

●捨てられた子どもたち
「……何もこんな時に」

 先行し警戒を続けていた爛が呟く。
 集会所には、亡霊たちの気配があった。正確に言えばその台所に入り込んだ『捨てられた子どもたち』は、恐らくは食べものの残りを漁ろうとしているようだった。

『う、うわあああ……っ!!』

 そして猟兵たちがその存在に気付くと同時に、残飯に群がる子どもたちもこちらに気付いて逃げようとする。捕まれば殺されるとでも思っているのか、怯えながらも必死で。

「くっ、まずいですね。こうなったら!」

 ――にゃ~ん♪

 テフラが再び「にゃ〜ん♪」と鳴いた。これでパニックをなだめることが出来れば、と。

(もう既に助けられない存在ですが……皆さんの手で弔ってあげますので。わたしは)

 わたしのやるべきことをやり切ります!
 そんな、決意の「にゃ〜ん♪」が響いて。

『……ねこさん~?』
『なんだ、ねこかぁ』

 子どもたちは一時、その甘えるような可愛らしい鳴き声に意識を奪われたようだった。

「ええぇ……」
「い、いけました! さすがはネコチャンカワイイヤッター!」

 腑に落ちない顔をする爛と、えへ顔でピースするテフラ。しかし、かのうさぎはまだ知らなかった。その鳴き声が恐ろしい事態への引き金を引いてしまっていたことを。

『ねこぉ……ねこは』
『……たべられる?』
「!? ひぇっ……」
『ねこさん、おいしいの……?』

 現代日本ではとても考えられないようなことだが、相手は餓死したような子どもたち。

『ねこさん……こわくないよ』
『あれれ? ねこいない……』
『ねこじゃない……うさぎ?』
『うさぎ! ごちそう……!』
「いや、ごちそうじゃないですからね!?」

 子どもたちの目は、今や捕食者のそれと化していた。テフラへとにじり寄り、今にも飛び掛かりそうな彼ら彼女らの前に、

「はいはい、ちょっと待ってね」

 爛が立ちふさがり、テフラを庇う。

「ひゃわわわ……!」
『にげちゃだめ。おにく~!』

 とうとう襲い掛かってきた子どもたちを抱きとめる。≪乖炎戯・魂魄凍結離(カイエンギ・コンパクトウケツリ)≫で生み出した冷気の鎧を纏う躰は、こゆるぎもしなかった。

「時間は私が稼ぐから、その間に!」
「冷気の鎧ね! 守りはお願いするわ!」

 ルルチェリアがその声に応じて、自らのユーベルコードを起動させていく。

「季節外れの氷菓、たんと味わいなさい」

 それまでの間、ガジガジと齧ってくる子どもにさせるままの爛。この状態では頭も口調も動きも鈍るけれど、

(集中する味方を攻撃なんてさせないし、プリュイさんに辛い思いはさせたくないわ)

 そうしていると、ややあって不思議そうな声がぽつりと小さく零れた。

『おかしいな……』
『おねえちゃんは、つめたいね』
『だけど、どうして』

 ――わたしをなぐらないの?

「……なぐらないわよ」
『へんだな……へんだよ? おかしいよ?』
『おとなたちは、ぼくたちをみつけたら』
『ちかづくなってけとばして』
『大きなこえでどなるんだよ』
『それから。それからね――』

 そんな彼ら彼女らにとっての『当たり前』を、猟兵たちは静かに聞いていた。
 黙らせることはいつでも、やろうと思えばいとも簡単に出来たけれど。

「なんてことを……」
『でもしかたないんだ、だって』
『だってぼくたちには価値がないから』
『みちばたに落ちている糞にもおとる』
『やくにたたない、きたないいきもの』
『めざわりで』
『いなくなってもだれもかなしまない』

 だから、生みの親にさえ見捨てられ。

『だから……』

 亡霊たちが、一斉に大声で喚きだす。

 ――だれも、だれもだれもだれも、だれもだれもだれもだれも!! だれひとりも!!

『たすけてくれなかった……』

 そうして、そのかなしさをこらえきれない子どもたちの、悲痛な泣き声が響いた。

●幸福な日々を夢に見て
 どうしていつも、こうしてだれかが……何かが、もう手遅れになってしまうのだろう?

「うぁ、うあぁあああん!!」

 燦に抱かれていたプリュイはその腕の中で堪えきれない嗚咽を漏らし、しゃくりあげながら、それでもぼやけた視界に『捨てられた子どもたち』を映し――目を離さずにいた。

「……大丈夫。大丈夫よ。私の仲間はね」

 冷たい氷の殻に鎧われた妖狐が囁く。
 細い腕から、足からも。自身の頭部を生えさせ食らいつく顎を受け止めて。
 その真の姿たる魔性の唇から、どこまでもやわらかな音(こえ)が溢れでる。

 私を助けてくれたみんなの姿はね、

「優しくて。カッコよくて……」

 ――とても、とても綺麗なのよ?

 だから……爛は、とうの昔に知っていた。
 助けを求めて泣きじゃくる幼子たちを前にして、彼女たちがどうするかなんて。

(しあわせな夢を、癒しを、安らぎを)

 この子たちに。
 そう願う爛の腕の中で、冷たい氷の体に抱き留められていた子どもたちの幽体(からだ)から、徐々に力が抜けていく。ずるずると崩れ落ちていく躰を妖狐が抱きかかえ。

『あ……うぅ……ぅ?』
「辛かったでしょう、苦しかったでしょう」

 ルルチェリアのユーベルコード≪【楽符】過ぎ去りし幸福な日々を夢見る護符の光(ラクフ・ロストメモリーヲユメミルゴフノヒカリ)≫が子どもたちを眠りに誘う。
 そうして、記憶の中に在るいつかの『想い出』を見る夢の中に甦らせていく。
 閉じられた瞼の裏でどんな夢を見ているのかは、少女にも分からないけれど。

「……後はお願いね、シホ」

 悲しみに歪んでいた表情からこわばりが解けて、あどけない寝顔へと変わっていく。

「ええ。……助けられなくてごめんなさい」

 シホが浄化と破魔の祈りを捧げ、広がっていく光がやがて子どもたちを包み込んだ。
 想念(かなしみ)がほどけ――オブリビオン(過去の記憶)が光の中へ溶けていく。

「どうか、ルルの夢で安らかな眠りを……」

 そうして、彼女たちはただ一つを願う。
 救われなかった『いのち』だったものへ。
 せめて、どうか。

 ――最後は、幸福(しあわせ)な記憶を。

「……おやすみなさい」

 ルルチェリアが、小さく別れを告げた。
 楽しい想い出の夢を見ながら眠る子どもたち。そこに魔獣が現われることは無かった。
 ただ安心しきった穏やかな寝顔で。花のつぼみのような小さな唇がゆるく弧を描いて。

『おかあさん』
『だいすき……』

 子どもたちは、消えて、消えて消えて消えて消えて……骸の海へと還っていった。
 ――ただ消えてしまうその最後の時には、小さく微笑みを浮かべ、涙を零しながら。

●賭けるもの
「ご注進ー! 猟兵殿にご注進ー!」

 集会所の子どもたちを眠らせた猟兵たちの下へ、騎馬に跨った『闇の救済者』の伝令兵が駆けこんで来た。見るからに吉報ではないのだろう、慌てた様子。

「どうした?」
「は! 前線で少々問題が発生しまして」

 聞けば、彼らの統率者である『傭兵』がそちらへ出向く必要が発生したとのこと。

「つきましては、猟兵の皆様へ『留守中には村の守りを宜しく頼みたい』と……」
「要望は分かったが、何が起きた? それが分からないと此方も判断できないぞ」
「そ、それは……」

 口を濁す伝令兵に、未だに零れ続ける涙を拭いながら、プリュイが尋ねた。

「もしかして、また……けんか、ですか」
「……聖女殿!」

 どうやら察するに、青年剣士とダンピールが亡霊たちへの対処を巡って衝突してしまっているようだ。伝令兵や傭兵は出来れば内輪の恥を隠したかったのだろうが。

「わたしも、行って、せっとくします」
「ですが、それでは村の守りが手薄になりましょう。村はお見捨てになられるので?」
「………」

 亡霊たちの潜在的脅威は未だ去ったとは言いがたい状況。それは同時に助けを求め彷徨う幼子が数多く存在するという事でもあり。
 そう言われてしまえばもう何も返せなくなってしまうプリュイに、燦が尋ねた。

「なぁ、プリュイは幽霊達をどうしたい?」

 人に生まれ、人に愛してもらえず、人を怖れ……なのに、こうして再び人の住む村を訪れ、人の愛を欲し探し求める迷子たちを。

「もしも優しく弔いたいなら、破魔の力に慈悲を込めてアレンジしてみな」
「わたしは……でも、よわくて」
「自信を持て、今のプリュイは過去より心も強い。ユーベルコードに想いを乗せるんだ」

 そう告げて、燦は今度は爛へと確かめる。
 彼女は、今ここで村とその周辺の亡霊たちの決着をつけるつもりでいた。

「爛、心を空にして神様を呼ぶんだよな?」
「あら燦……ふふっ、コツがいるのよ、神降ろし。自分の中身を無理やり押し広げて空っぽにするの」
「なるほど……やってみるぜ」

 炎帝狐の巫女たる爛にもイロハを確認し、≪巫術[狐の神降ろし](パワー・オブ・フォックス・ディーヴァ)≫のユーベルコードを起動する。
 それは燦自身の精気を代償に捧げ、『稲荷神の御業』を顕現させる術。失った精気は燦自身の自然回復に任せるしかなく、それには十分な休息が必要になるだろう。
 未だ邪悪な吸血鬼『聖女殺し』の来襲が後に控えている現状、非常にリスキーな選択。しかも燦は精気を九割方捧げた御業でプリュイの『奇跡』を後押ししようとしていた。

 ――御狐・燦が稲荷神様に願い奉る。この身を代価にその御業の一端を降ろし給え!

 神が如き力を操る猟兵の、己が身さえ捧げた力の行使。未だ指向性を持たない『稲荷神の御業』が『雨降りの聖女』へと流れ込み、解放されるその時を待つ――。

●オーロラ(極光)の導き
『ルル~……』

 お子様幽霊たちの泣きそうな声。しばらく姿の見えなかった三人は、どうやらルルたちの下まで『お友達』を連れてきたようで。

『いたいの』『たすけてあげて』
「………あなたたち、その子は……」

 所在なさげにぽつんと佇むその亡霊は、何かを大事そうに抱きかかえていた。ルルチェリアたちが気付くと、少しずつ足を引きずるようにして近づいてくる。

『ねえ。どうしよう。どうしたらいいの?』

 それは腫れ上がった顔で、彼方此方が青あざだらけで。大事そうに抱えていたものを此方に見せながら、疲れ果てた、感情の死んだような声で尋ねてくる。

『ねえ。どうしたらいいの? もう、うごかないんだ。つめたくなっちゃったんだ……』

 弟か、妹か。小さな小さな骸を抱え、自分も傷だらけで。まだ幼すぎて。どうしていいか分からず途方に暮れる少年がそこに居た。

 それだけではない。
 道端にうずくまってすすり泣く子どもの声がする。建物の影で膝を抱え、カチカチと歯を鳴らしながら震えるしかできない子どもたちが居る。か細い声で「たすけて」と、精一杯のSOSを叫ぶ子どもたちが居る――。

「………」
「ねえ、プリュイさん。こんな世界でも」

 その『雨降り』に、励ますように言葉を投げかけたのは死霊と親しむ鼠の少女だった。

「……こんな世界でも、きっとあなたが心から望んだ事が有るでしょう?」
「ルル、さん……」

 どうしようもなく残酷な世界。運命の気まぐれが生き延びさせたプリュイと、『捨てられた子どもたち』の間に、どれほどの違いがあっただろう。
 そんな世界でも、生きて――一つ望みを抱いて歩み続ける者へと、エールを送る。

「それをするだけで良いのよ。難しいことは考えないの! あなたなら出来るわ!」
「わたしは。わたし……は……」

 涙でゆがむ視界の向こうでは、皆がどんな顔をしているかも分からない。
 ただ、指先にそっとあたたかい熱が触れて、手を握ってくれているのだと分かった。

「あなたの……プリュイさんと師匠の目指す聖女は、無為ではないのでしょう?」

 シホの声。望むものがあるならば、時には断固として戦わねばならないことを、運命に翻弄され抗い続ける少女は知っていた。

「わたしは――」

 ぐいぐいと涙をぬぐい、プリュイが『捨てられた子どもたち』に語りかけはじめた。

「……ねえ。おなかが空いているんだよね。さむくて、さみしかったんだよね……」

 もしもおなかが減っているのなら。
 さむくて、さみしくて、震えているなら。

「きぜつするみたいにしか、ねむれなくて。痛くて、痛くて……どうにもならなくて」

 心細くて、こわくて、眠れない夜を過ごしているなら。その痛みを押し殺して、平気なふりをしようとしているのなら。

 ――だけど。

「……ごめんね。気付いてあげられなくて」

 本当に必要な時、それは誰にも与えられなかったから。

「もう、何もしてあげられなくて。自分のために、泣くことしか、できなくて……」

 銀色の雨が、しとしとと降り注いでいた。

『………』

 子どもたちが空を見上げると、鎖された夜を煽り、光のカーテンが揺れていた。
 それはゆらゆら揺れながら絶えず形を変えて、ある時は炎のように燃え上がり、明滅を繰り返し、またがらりと模様を変えていく。

「……なるほど。オーロラ(極光)かぁ」

 ぐったりと脱力した体で恋人に凭れ支えられながら、燦が天を仰いで呟いた。

「燦……大丈夫?」
「だーめっぽい……きゅぅ」
「!? 燦……っ!?」
「……んふー、温かい♪」

 力が抜けた躰を恋人に凭れかけ、いたずらっぽく笑う燦。疲れ切った、弱り果てた躰を眠りへと誘うような心地よさ。まだ眠る訳にはいかないのが少し残念だったけれど。

「何とか、なったかな……」

 輝くオーロラのカーテンの下では、燦が託し戦場の全域に散った符を媒体に、結界術で鎮魂の領域が展開されていた。
 慰めと癒しを必要とする傷ついた魂の欠片たちが、空を彩る光彩の爆発を呆然と見上げていた。極光の中心から放射状に間断なく、光の矢があらゆる空間に降り注ぐ。
 否、光の矢は地上に近づけばその姿を隠し、誰を貫くことも無かったが、それを見る者たちは神秘が注がれる感覚を覚えていた。

『わあぁ……かわいい、ねぇ』

 闇夜を撫で踊る光のカーテンに包まれた世界で、少年が小さな歓声をあげる。彼の目には、母の腕に抱かれて眠る小さないのちが、たしかに見えていたから。

 ――苦痛を和らげ、幸福な記憶(ゆめ)へと導くオーロラ(極光)。

 それはルルチェリアのユーベルコードが放つ光にも似て、ゆっくりと少しずつ亡霊たちの心へと染み入り、その過去(オブリビオン)の現世との因果を解いていくのだった。

 ……けれど、その光を目にした猟兵たちは気づいただろう。なぜ『雨』と『オーロラ』の二つの側面を持つプリュイが、『極光の聖女』とは呼ばれなかったのか。
 その夜空を彩るオーロラは、まるで血のような――紅い、赤い光を放ち輝いていた。

 夜空に踊る赤の光を浴びて、吸血鬼に魅入られた少女が猟兵たちに振り返る。

「ねえ。わたしは……わたしが今こうして生きていることは、本当に良いことかな?」

 ――もしも、この『いのち』が今ここに在ることが、良いことだと思ってくれるなら。

 星屑の海に隠した秘密を打ち明けるように、少女は言った。

「……どうか、少しでも良いから、信じてくれませんか。これからわたしの選ぶ道もきっと良いものだって……信じてくれませんか」

 溢れて零れ落ちそうな涙をこらえ、決意を込めた瞳が、猟兵たちを見据えて。

「わたしのお師匠さまは。実は、バ……」

 プリュイは猟兵たちへと告げた。
 ずっと胸の奥に秘めていた言葉を。
 その、衝撃的な告白を。

「お師匠さまは。実は……バカなんです」
「バカなんです」

 思わず、だれかが復唱した。

 ……そう。彼女の師匠は実はバカ(変態)であり、バカ(狂人)だったのだ。
 いや、言われなくても知ってたけど!?

「……」
「……」
「あ、あわわわわ……えと、ええと……?」
「……すごくすごーく、バカな方なんです」

 何とも言えない空気に泡を喰ううさぎさんを尻目に、子犬は真剣な顔で告白していた。

「ちゅ、注進! 猟兵殿ーッ!」

 その時だった。先ほどとは比較にならないほど慌てた様子の伝令兵が、馬が泡を吹かせるのも構わず足を急がせ駆けこんで来た。

「ヴァ、ヴァンパイアが出現しました! 前線にヴァンパイアの来襲あり!! 現在団長たちが交戦中も敗色濃厚。至急、猟兵殿らの来援を乞うとのことです……!」

 そうして、もはや詳しい話を聞き出す暇もなく、事態は風雲急を告げたのだった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第3章 ボス戦 『聖女殺し』

POW ●「俺様の崇高な食事を邪魔する奴は皆殺しだ!!!」
【聖女の泣き叫ぶ顔を見ながら吸血したい欲望】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD ●「俺様からは逃げられないんだよーーー!!!」
肉体の一部もしくは全部を【熱源を感知でき、触れた者の血を吸血する霧】に変異させ、熱源を感知でき、触れた者の血を吸血する霧の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
WIZ ●「お前も!俺様好みの聖女にしてやろう!!!」
【召喚した、対象に死の誘惑を感じさせる磔台】から【対象を捕縛し引き寄せ、磔台に括り付ける鎖】を放ち、【外見を術者好みの聖女(美少女)に変える事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はシホ・エーデルワイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●犠牲者
 プリュイの――『雨降りの聖女』のユーベルコードが赤いオーロラで空を彩っていた。
 人狼の優れた素養と、猟兵たちに学び後押しを受けた想いはユーベルコードのオーロラに籠められ『捨てられた子どもたち』自身の想念とも『共鳴』し、その力を増幅させた。
 そして、何より稲荷神の巫女たる猟兵が自らの精気の大半を代償に捧げたことで、暗夜を覆う光は『捨てられた子どもたち』を余さず骸の海へと還していった。

 その後、前線に展開していた『闇の救済者』たちがヴァンパイアによって襲撃を受けたとの一報を受け、猟兵たちは急ぎ現場へと向かった。

「此方です! 此方へ!」

 近づいてくる猟兵たちに気付き、闇の救済者の戦士たちが叫ぶ。
 ヴァンパイアの襲撃直後に命を受け、後退していたようだ。それは、領主級以上のヴァンパイアと戦う際の彼らの取り決めだった。
 彼らは戦士足りえる人類の中でも更に上澄みの上位2~3%に相当する精鋭だったが、あまりに強力な『個』を相手取るには、それでも不足するのだ。
 成長の余地を残す貴重な人材を無為には使い潰さず、何らかの対抗手段を持つ者たちだけが強力な個体との戦闘にあたるのが、『傭兵』指揮下の闇の救済者の基本原則だった。
 現在、現場に残っているのは傭兵や青年剣士、ダンピールを含めても十数名らしい。

「団長は、『時間を稼ぐ』……と!」

 勝算が無いと理解しているが故の言葉。堪えきれぬ悔しさを滲ませた戦士たちが指し示す方角へと急ぐ。雑木林の小路を縫って走り、開けた場所へと辿り着き――

「あ、ああああ……た、たすけっ」
「この! 偽物めえがぁああああ!!!」

 長身痩躯の黒衣を纏った青年が、すでにズタボロにされた――それでもなお美しいと分かる銀髪の少女へと大鎌を振るい、その首を刎ねる場面を目撃したのだった。

「………」

 戦闘は、もうすでに決着していた。

 視線を巡らせれば、磔台に鎖で繋がれ気を失った銀髪の美少女。それは『ダンピール』の面影があり――彼女も『聖女殺し』好みの『聖女』に姿を変えられてしまっていた。
 もう少し到着が遅れていれば、或いは彼女が次の『犠牲者』となったのかもしれない。

 また、地面には甚振り殺されたと思しき損壊の激しい屍たちが死屍累々と転がっていて、その中には『青年剣士』の姿もあった。
 両腕を捥がれ仰向けに転がる彼は、口を半開きにして、濁った目を見開いて、もうピクリとも動かない。

 そして、彼らを率いていた『闇の救済者』の統率者――『傭兵』は、吸血されたのだろうか。首から血を流し瀕死になっているようだが、此方はまだ息があるように見えた。

●喰らい尽くす触手と絡めとる鎖
 プリュイは即座にユーベルコードを起動し『雨』を降らせて、まだかすかに息がある者たちを癒そうとした。

 だが――。

「ぬぅっ?」
「きゃああ……っ!?」

 ユーベルコードの発動に反応し、『聖女殺し』の背に刻まれた『禿鷹の眼の紋章』から『屍肉を縒り合わせたような触手』が何本も伸びて、彼女の肉体をそのユーベルコードごと喰らわんと蠢き迫った。
 猟兵たちの迎撃でその攻撃は事なきを得たが、治癒もまた中断されてしまっていた。

「ち。また勝手に動きやがるか。まぁいい……やっぱよくねえええうおおおああああ゛あ゛あ゛クソッタレええええ!!!」
「……お、お師匠さま……?」
「はぁ、はぁ。ん、んんー?」

 振り向いた青年の姿を認め、子犬が目を見開く。そこに立つ、この惨状を招いた原因――邪悪なヴァンパイアこそが、彼女が探し求めていた『恩人』だった。

「む。お前は……子犬……か。ヤァ、こんな所で出会うとは、奇遇だなァー!!!」
「……お師匠さま、ふざけないでっ!」

 プリュイは、怒っていた。混乱していた。もしも再会できたなら……伝えたいことが、たくさんたくさんあったはずなのに。

 ……そう、例えば。
 もしも、大事な大事な恩人が――

「ねえ。お師匠さま……わたしは、」
「ち。……ああもう! だまってろ!!!」

 口を開いた子犬がその言葉を言い終わる前に、現われた磔台から鎖が放たれプリュイを絡めとる。鎖は少女を引き寄せ磔台に括りつけ、更に雁字搦めに縛っていった。

「お、お師匠さま! おねがい、聞いて! わたしから、逃げようとしないで……っ」
「うるさい。うるさい!!!」

 鎖は十重二十重に子犬を縛り上げ、その全身をぐるぐると巻いて覆い隠していった。
 その視界までもが完全に鎖に塞がれてしまう直前、プリュイの目にはヴァンパイアに向け武器を構える猟兵たちの姿が見えて。

「だめ……やめて! ちがうの! ちがうんです。お師匠さまは、ちがうのぉ……っ!」

 ――ううん。何も違わないのだとしても。
 半狂乱になりながら、『雨降り』は必死で叫び続けていた。

「おねがいします! なんでもするから! おねがいだから、お師匠さまを――」

 どうか、どうか。
 犯した罪への罰を受けるべきというなら、わたしが代わりに受けるから。

 どうか、わたしのお師匠さまを――。

●聖女殺し
「ふぅ。……出来損ないが俺様に意見しようなどと、主に全身が大激痛だ!」

 片腹痛いどころではないようだ。
 そうして、酷薄な薄笑いを浮かべた『聖女殺し』は先ほど刎ねた『聖女』の首を足蹴にし、無造作に踏み砕く。

「こんな偽物や出来損ないどもが蔓延る腐った世界、俺様が糺さねば……!!!」

 聖女殺しが猟兵たちに向き直る。
 大きな鷲の翼を背に、大鎌を持つその姿は、死を司る堕天使か死神のようにも見えた。そうして死を与えられた『いのち』は、『禿鷹』によって食い尽くされるのだ。

「なぁ、お前たちは『聖女』か?」

 光宿さぬ昏い瞳が、猟兵たちを品定めするように舐め付ける。

「聖女以外どもに大して用は無いが……まぁいい、俺様がじきじきに見てやろう!」

 やたらと尊大な態度の俺様ヴァンパイアは、猟兵たちに告げる。

「喜ぶがいい! 俺様の崇高な『理想』の礎と成れることを!!!」

 そうして『聖女殺し』は昏い情念が渦巻く瞳で猟兵たちを射抜き、舌なめずりをして、

「聖女……そう、聖女だ。その侵してはならない聖なるものが! 光を湛えて輝くいのちだったものが! 俺様に抱かれ、弱々しい抵抗の甲斐なく捻じ伏せられ!」

 甘美な『食事』にありつくその瞬間を夢想しては、抑えがたい興奮に身を震わせる。

「白き柔肌を牙に貫かれ、溢れる生き血を傷口ごと舌で舐られ、気を失うまで延々と嫐られて! やがて心が折れ、涙と鼻水でグチャグチャになった顔で情けなく許しを乞うて泣き叫び、命乞いをするっ!!!!!!」

 そこに居たのは、まごうことなき変態。
 もし仮に、彼の好みに該当する『銀髪、蒼眼、白翼、儚げな少女』で聖女な猟兵などが居合わせてしまったなら、何かがいろいろと大変なことになりかねないHENTAIだった。

「ああああ滾る……っ!! だが、まだまだそれで終わりではないぞぉおお!!!」

 そう、それはほんの始まり(序章)に過ぎないのだ――って、これまだ続くんかい。

(……お師匠さまは、ばかなんです。
 時と場合があんまりわからない、ちょっとだけ残念な人なんです……)

 ――どこからか、今は鎖で巻かれて話せないはずの子犬の恥ずかしそうな声(おもい)が聞こえた気がした。






====================
●マスターより
 バカって先に言った方がバカだからプリュイの方がバカ。はい論破。常闇ノ海月です。

 三章はんにゃぴ……よく分かりません。
 SATORIクラスのHENTAIを扱うのはマスターも初めてなので。なるようになるさ。
 変態とは言いつつ、あまりエッチな描写とかは投げられてもしませんのであしからず。

●聖女殺し
 プリュイの命の恩人であり、猟兵にとっては討伐対象です。
 話している内にヒートアップしていってるのと、予想される参加者的には身を守るためにも戦闘は不可避と思われます。(そうじゃないととんでもないことになりそう……)

 背に『禿鷹の目の紋章』が刻まれており、そこを起点に大きな鷲の翼が生えてます。
 その結果、無駄にスタイリッシュな堕天使みたいな外見になっています。

 ユーベルコードは多用してきませんが、紋章が強力かつ、蓄えた欲望の力もあり素で身体能力が化け物じみたことになっています。プレイング次第では、猟兵でも割と一方的にボコボコにされると思ってください。

 ただ、基本的にバカ(変態)です。

●禿鷹の目の紋章
 この紋章を与えられた吸血鬼は『ユーベルコードに目覚めつつある闇の救済者』を刈り取り、『希望の芽』を摘む使命を与えられているようです。

 自動でユーベルコードへのカウンター『対象の肉体ごとユーベルコードを捕食する攻撃』が発動します。
 このシナリオでは『屍肉を縒り合わせたような触手』がユーベルコードの発動を阻害してきます。
 何らかの対処法が無ければ『コードの成功率を著しく減少』させて判定します。

●プリュイ
 磔台に鎖でぐるぐる巻きにされています。
 一応、こっそりと老兵が救出に向かっているので、放置しておいても(時間はかかりますが)脱出してきます。

●倒れた闇の救済者たち
 死亡者、重傷者多数。
 ある一名を除いては意識不明ですが……。

 また、仮に『傭兵』が死亡した場合はこの地方の人類勢力に割と深刻なダメージが発生しますので、ご参考までに。

●プレイング受付
 タグ等でお知らせします。執筆はスローペースになる可能性が非常に高いです。
 期限切れとなった場合は、再送いただければお返しできる可能性があります。
 👑達成の目途が立ちましたら、受付の締め切り日時を告知いたします。締切が提示されてない場合は送付頂いて構いません。

 また、この章のみのご参加も歓迎します。

 ではでは。
 おもい、ことば、おこない。
 後悔の無いような答えが出せたのならば、皆さまのプレイングにてお知らせください。
アリステル・ブルー(サポート)
この状況、さてどうしたもんかな
僕は、周囲をよく見て状況を判断して行動するよ
もし保護が必要な人や死守しなくてはいけないものがあるならそれを優先的に守るよ
他の人がやってくれるなら僕は戦闘かな!

基本的に黒剣を細身の剣にして戦うけど状況に合わせるよ
戦闘でも味方の支援でも僕にまかせて!
UCは攻撃/回復問わずその場で一番有効そうなものを使うね
状況の好転等有益だと判断すれば多少の怪我は厭わず積極的に行動するよ

もしも連携してくれる猟兵さんがいたり味方が指示を出してくれるなら、僕はそれが有益である限り従います

(記載に関わらず、不足している役割等MS様のご都合に合わせてご自由に利用してください)


●ダンピール
 悲劇もたらす吸血鬼の領主――悪逆の伯爵へと立ち向かうことを決意した領民たち。
 永久の闇夜に光灯すことをを望んだ人々の生死を賭した『覚悟』に応え、『傭兵』――支配者へと不吉をもたらす『鴉』の率いる『闇の救済者』たちが立ち上がり……。

 これは、そういう『物語』でもあった。

 けれど、彼ら彼女らは吸血鬼の凶刃に斃れ――今、その命脈は途絶えようとしていた。

(この状況、さてどうしたもんかな)

 彼らの一員、『雨降りの聖女』――アリステル・ブルーにとっては同族でもある『人狼病』に冒された少女は、『聖女殺し』の鎖で雁字搦めに縛られ、身動きはおろか声を発することも出来ず、姿は厳重に隠されていた。
 闇の救済者の幹部の一人、かつては支配者たちの先兵でもあったという『老兵』が彼女の救出に向かう姿が見える。

(なら、僕は――)

 もう一人、磔台に鎖で繋がれる『闇の救済者』の幹部『ダンピール』の下へと向かう。
 磔台で気を失っている銀髪の少女は、猟兵と吸血鬼の戦闘に巻き込まれればどうなるか分からない。『闇の救済者』たちの再起の為にも早急に保護が必要な相手だった。

「ユール、頼むよ。僕の代わりにあの吸血鬼を見張っていてくれ」

 その間、無防備な背中を晒すことにならないように。『青い鳥の使い魔』ユールは主人の願いに快く答え、小さくピィと鳴いた。

 そして件の吸血鬼、『聖女殺し』は、

「いいか、俺様の吸血は人間にとっては快楽――快感を与えるのだ。すると……どうなると思う? ……そう! あの人々が憧れ希望を重ねた聖女が! 汚れを知らぬ清らかで貞淑なま白き乙女が! 快楽に溺れ、人に見せられないようなだらしない顔で! 蕩けた目でよだれを垂らしながら媚びを売って、もっと吸って欲しいと懇願しだすのだぁ!!!」

 何かヤバい感じで語り続けており、今のところはある意味無害(?)だったが。
 よほど強い聖女への吸血衝動(渇望)を抱えているようだから、いつそれが彼女――『ダンピール』にも牙を剥くか分かったものではない……のか?
 一見、あまり興味なさげにも見えるが。
 ともあれ、アリステルは急ぎ彼女の下へと向かい、その様子を確かめた。

「良かった。ひどい怪我をしているのかと思ったけど……」

 白く細い手足を露出し、ボロボロに裂かれた衣服は血みどろで、吸血鬼との激戦があったことを思わせたが、現在では身体には傷ついている様子などは確認できなかった。

 ユーベルコードの発動は『禿鷹の目の紋章』の攻撃を誘発し周囲に被害をもたらす可能性もあったから、治癒を与えるのも簡単ではない現状では、それは嬉しい誤算だった。

「待っててね」

 黒剣を斧へと変化させ、ダンピールを縛る鎖へと振り下ろす。それは想像以上に高い強度を誇ったが、猟兵がその武器で集中して取り組めば解けないほどではない。
 アリステルは程なくしてダンピールを鎖から解き放ち、彼女を抱えて吸血鬼から距離を取った。大量に失血した為か意識を取り戻す気配は無いが、命に別状はなさそうだ。

●全ての『いのち』が一つの物語なら
「ああ、ああ。お前達の言いたいことは分かる。もちろんだ、ミスター。もちろんそうでない聖女もいるとも……」
「……ミスターってだれだよ」

 ダンピールの安全を確保しながら、共有する使い魔の視聴覚に聞こえる声。
 どこか好きなものを語る時の変態(紳士)にも似た『聖女殺し』の熱い聖女語りに思わずツッコミが零れる。

「だがそれは悲しいことじゃないんだ。考えてみろ。息もたえだえになりながら必死に快感を押し殺し、震えながら『もうやめて。もうゆるして……』と涙ながらにお願いしてくる聖女を弄び、俺様の色に染めていく、この征服感! 分かるか? 上気した顔で荒い息をつく聖女をわざと逃がし、安堵しながらも残念さを隠しきれない聖女を言葉で責めながら、徐々に追い詰めていく愉しさが!! そうして束の間の希望を見せ、再び絶望に叩き落としてから一層容赦なく蹂躙しはじめた時の、恐怖と期待とが綯い交ぜになった聖女の表情といったら……」

 セリフが長いよ! へんたいがいるよ!
 うっとりとした恍惚の表情で、妄想の中で盛大に聖女を甚振り弄んでいるらしい聖女殺しは、別の意味で大変恐ろしいモンスター(変態)だったようだ。
 それに対峙している猟兵たちの顔色も心なしか悪いように見えたが……無理もない。

「嗚呼……。そうしてついには何をしても無駄だと悟って、抵抗をあきらめ快楽に身を委ねながらも、捨てきれぬ罪悪感にすすり泣く聖女もまた、いとをかし……」

 ついに『いとをかし』とか言い始めた。
 そうして、まるで悟りを開いたような表情で、その変態は猟兵たちに叫ぶのだ。

「そう。俺様は聖女を愛して、愛して愛して愛して……食べてしまいたいほど愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛しているんだぁああああ!!!!!!」
「ひぇっ」

 思わず変な声が出る。
 その吸血鬼はどう見ても、どう考えても、もはや正気(まとも)ではなかった。
 まぁ、オブリビオン(過去)とは元来そういう存在(狂気)ではあるのだが……。

 けれど、そんな狂気の中の狂気がアリステルの同族であり、人間の手で虐げられていた人狼の少女『プリュイ』を救ったというのだから、運命というのは皮肉が効いている。

(オブリビオンに救われた少女、か……)

 脳裏をよぎる黒翼が、鷲の翼を背に持つ死神のような『聖女殺し』と一瞬だけ重なる。
 その時、抱きかかえていたダンピールが僅かに身じろぎし、魘されながら夢現に小さな小さなつぶやきを零した。

「どう……して……とう、さま……」
「……大丈夫。きっと、大丈夫だよ」

 零れた涙をぬぐい、優しい声が響く。

 人と吸血鬼との間に生まれた半魔半人。
 生まれながらに神(親)殺しの力を持つ、人ではなく吸血鬼でもない『いのち』。

 生きとし生けるものが――否、こころ持つすべてのものが。歩み続ける道の果てに何かの『答え』を探し求めているのだとしたら、

「皆が幸せになれる可能性を……僕は」

 信じて、アリステルと『青い鳥』は見届けようとしていた。
成功 🔵🔵🔴

ブラミエ・トゥカーズ
騎士団に踏み潰されて吸血鬼の殻が砕けた
戦闘不能者救援のための時間稼ぎをする
こっそりUCにて貧血、飢餓感の増加させ敵の品性をさらに落とす

真の姿:
赤い霧を纏った手枷足枷がされたブラミエ似の村娘
先天的な赤死病免疫保持者
魔女として殺された聖女なれたかもしれない只の人間の似姿
意志を持つ病の触れる事すらできない天敵への畏敬の象徴
真の姿のため磔台効果あり
ガラス製ならさらに効果大(ウイルスのため)

てめぇの趣味なんざ、わしにはどうでもいいがな?
この姿を弄ったのは愉快な話じゃねぇんだよ。
てめぇ風に言えばこうか?
わしの聖女に気安く触れるんじゃねぇよ。
てめぇの趣味は理解できねぇし、そんな物見飽きてるんでな。
まぁ、若造にはお似合いか?
彼の望む姿のまま、粗野に嗤い煽り時間を稼ぐ

ある程度時間を稼げば吸血鬼に戻る
先程までの自身を棚に上げてさらに煽る

そもそも、貴公の下品な様は夜の貴族としてもどうかと余は思うぞ?

聖女殺しとは趣味が合わない
人を苛む所は理解できるが、
それでもと挑む人と相対し、殺される事すら愛でる敗北者《変態》


●死者と生者
 戦馬に跨った騎士たちが戦列を整え、槍を立て加速していく。人に仇なす憎き『怪物』を屠る為に、仲間はおろか自らの犠牲すら厭わずに。

 ――その『正義』を為すために。

 称揚されるべき『英雄』的行動の前には、道に転がる『塵芥』の存在や痛みなど、顧みられるべくもなく。

「……やれやれ」

 そうして騎士団の突撃によって仮初(吸血鬼)の姿を散々に踏み砕かれたブラミエ・トゥカーズは殻(ニセモノ)の砕けたその躰を赤い霧に変じ、霧はやがてひと(ほんとう)の姿へと収束していった。

 顕現したのは赤い霧(本性)を仄かに纏う、ブラミエに似た人間の娘。
 貴族然とした男装ではなく、素朴な民族衣装のような衣服が、『彼女』がただの村娘であったことを示唆していた。
 美しき娘の伏せられた瞳には透徹の輝きが湛えられていたが、その姿は不潔に穢され、元より細かった躰も顔も一層不健康にやつれてしまっていて。
 そうして何より、その今にも折れそうな白い手足に嵌められた枷が、彼女が赦されざる咎人(魔女)であったことを物語っていた。

 彼女は先天的な(生まれついての)赤死病免疫保持者(悪魔と親しむ者)だったのだ。
 その価値を測れる智者と出会えたならば『聖女』として称えられる道もあったのかもしれない娘は、やがて人(無知)の手で『魔女』として処断され、短い生涯を閉じた。

 人類にとってはもはや路傍の石ころほどの価値もない彼女を憶えているのは、きっとブラミエ(致死性伝染病の化身)のみ。
 けれどその只の人間に過ぎない村娘の似姿こそがブラミエの『真の姿』であり、意志を持つ病たる己が触れる事すらできなかった『天敵』への畏敬の象徴でもあったのだ。

 ――そして、現在(いま)。

「……これは手酷くやられたのう」

 その村娘の姿を取るブラミエの眼前には、先刻まで行動を共にした『青年剣士』とその配下の手練れたちが無残な姿を晒していた。
 血だまりに沈む彼らは、元より最前線を好む消耗の激しい部隊だったそうだから、遅かれ早かれいつかはこうなる宿命だったのかもしれないが。

(まだ息がある者もおるか。そして――なるほど? それが貴公の『戦い方』か)

 その者の持つ『蛇のような』しぶとさと執念深さ、狡猾さに俄かに畏れを抱きながら。
 ブラミエは己の目的を彼ら『戦闘不能者』――若干一名を除いて――の救援の為、時間稼ぎをすることと定めたのだった。

●魔女と聖女殺し
 ただの村娘(人間)の姿をしたブラミエを見て、ヴァンパイア(夜の支配者)たる『聖女殺し』が警戒などするはずもない。その口から出てきたのは率直な感想だった。

「ふむ? 随分と痩せて汚い形(なり)だ」
「煩い」

 畏敬の対象を貶され、ムッとするブラミエが『聖剣』と呼ばれた『ただの人殺しの剣』を構える。手枷足枷に縛られたこの姿では満足に振るうことも出来ないだろうが……。

「ハッ! 存外、活きの良い娘だ。先ずはお前から『確かめて』やろう!」
「……ッ!!」

 言葉を告げ終わると同時に、弾丸のような黒が弾け跳んで、ブラミエの目前で既に大鎌を振りかぶっていた。

「動くなよ。怪我をするぞ?」
「戯言を!」

 それは余裕の表れか。
 振るわれた聖女殺しの刃は手枷足枷を断ち村娘(ブラミエ)を縛りから解き放つ。
 ブラミエは自由になった両手で、剣先に体重を預けるように『聖剣』を突き込む。
 不死(既死)の肉体を持つ吸血鬼はそれを避けることも防ぐことさえもしなかったが、単純な存在強度(レベル)の厚みが鋼の切っ先を拒み押し返した。

「黒髪か……悪くは無いが、矢張り白い存在(もの)を穢す方が俺様好みだな。悪くは無いが……まぁ、そもそも」

 既に死した者、死者の王は不死者特有の傲慢さでブラミエの攻撃を一顧だにしない。
 けれどそれは無知(愚か)な選択。例え乾いた器が一滴の血すら流さずとも、攻撃が命中すればそれでブラミエ(赤死病)は目的を達することが出来るのだから。

「残念だ。お前は『聖女』ではないようだ」
「ケ、こちとら『魔女』で悪かったのぅ!」

 そうしてブラミエのユーベルコード≪災厄流行・赤死病(パンデミック・テンイセイケツエキシュヨウウィルス)≫が発動し――

「お、おおっ!?」
「〜~……ッ!!」

 至近距離から『禿鷹の目の紋章』の『屍肉を縒り合わせたような触手』が襲い来ると、四肢を頸を腸(はらわた)を抉り、肉体をそのユーベルコードごと喰らいつくしていく。

「……か、はっ――」

 人の姿を保てずに暗転する視界。
 ユーベルコードによる攻撃を受けていたことに気付いたからか、聖女殺しが憤怒の雄叫びをあげ――鎖が伸びる音がして、壊れかけた肉体を浮遊感が包む。

「はぁ、はぁ……。クソッタレの紋章めが、勝手に俺様の家畜どもを喰おうとするんじゃねえ……!」

 微妙に息切れを起こしながら、吐き捨てる聖女殺し。その周囲には切り捨てられた触手の残骸が蠢き、やがて塵へと還っていく。

「だが、不幸中の幸いか? こうして見ると中々にイイではないか!」
「………」

 ブラミエは、磔台へ縛り付けられていた。
 破損した肉体は聖女殺しの『理想』の姿へ強制的に変えられ、肉体が抱く痛みは消え失せていたが、

「……てめぇの趣味なんざ、わしにはどうでもいいがな?」

 額から垂れる髪の色が銀へと変じていることに気付いたブラミエが、下手人を睨みつけた。この姿(畏敬の対象)を好きに弄られたことに、腑の底より不快感がこみ上げる。

「てめぇ風に言えばこうか? わしの聖女に気安く触れるんじゃねぇよ」
「ふは。口の悪い魔女(聖女候補)だ! それでは生きるにも難儀するだろう。なぁ、」

 聖女殺しが笑いながら近づいてくる。
 辛うじて発動した手ごたえがあったユーベルコードの効果――『死に至る貧血、飢餓感』は、何故か不思議と聖女殺しにその効力を発揮しているようには見えなかった。
 至近距離から此方を覗き込む瞳には、熾火のように燻る昏い情念が渦巻いており、ソレはきっと『泣き叫ぶ聖女を喰らいたい』という欲望に他ならないのだろうが……。

「てめぇの趣味は理解できねぇし、そんな物見飽きてるんでな。
 まぁ、若造にはお似合いか?」

 ブラミエの煽り倒そうとする言葉にも、聖女殺しは大して気を留めていないようだ。
 ただ、

「……痩せて、いるな」

 銀髪蒼瞳と化した村娘(ブラミエ)の姿をじっくりと検分し、そう短く呟くのみ。
 また、ブラミエのユーベルコードの残りの効果である『幻覚、喘息』は機能しているのか、聖女殺しは呼気を乱しながら胡乱な目で訳の分からない言葉を紡ぎ出す。

「なぁ、ジジイ。何故こいつはこんな場所で寝てやがる? ……空腹で倒れた、だと?」
「? 何を言ってやがる」
「……そうか。家畜共も、エサを食わせてやらねば死んでしまうのか。……ハァ、何と忌々しい、面倒な奴だ……」
「……正気か? そんなことさえも知らなかったのか?」

 幻覚に見るのはかつての追憶か。
 大バカ(無知)と思しき聖女殺しを嘲り、ブラミエは吸血鬼(仮初)の姿へと戻る。
 縛をすり抜けた両手で呆として立つ聖女殺しを掴み、負傷者たちから引き離そうと考えたのだ。

(今のところは、全く興味なさそうなのが却って不気味じゃが……)

 狂った吸血鬼がいつ止めを刺そうとするか分かったものではなく、また『禿鷹の目の紋章』の攻撃に巻き添えになるだけでも脅威。
 引き離すことが可能であれば早い段階でそうするべきであり、聖女殺しが比較的大人しくしている今ならば――と考えたのだ。

●大変態(バカ)
「そもそも、貴公の下品な様は夜の貴族としてもどうかと余は思うぞ?」

 ……そうやって、行儀の悪い言葉も発していた先程までの自身を棚に上げ、さらに煽ろうとしたことが悪かったのだろうか?
 どこか意識が薄弱になりかけて見えた聖女殺しの瞳に、再び昏い焔が燃え上がり。

「んん、貴族だと? ……お、お前はッ!」
「……な、何!?」

 聖女殺しの反応は劇的で、先ほどまでが嘘のような殺意と敵意が奔流となって、ブラミエの総身を粟立たせる。

「くたばれ! 俺様の世界から消え失せろ! この害獣めがあッ!!!」
「!? 貴公は……ぐぅ、こ、この……っ! 大馬鹿者がぁああああああッ!!!」

 人を苛むことこそ理解できるが――
 と、聖女殺しとは趣味が合わないと思っていたブラミエだったが、やはり理解し難い相手(大変態)だったのかもしれない。
 それでもと挑む人と相対し、殺される事すら愛でる敗北者(変態)は、突如として激怒した聖女殺しに首を刎ねられ心臓を穿たれ。

(これは、油断、か? く、そ。無知というものは……やはり、)

 ほんの少し、己(吸血鬼)の姿を見ても怖れず懐くそぶりを見せた『子犬』と『大変態(種をまいた者)』の関係性(ほんとう)を垣間見た《妖怪》ヴァンパイアは。
 不本意なことに、暴虐の王と化した『ヴァンパイア(本物)』の手によって一時的にその戦闘能力を喪失してしまったのだった。
成功 🔵🔵🔴

御園・桜花
プリュイの方を眺め
「もしも、彼を助けたかったのなら。貴女は捕まってはいけなかった。全てを殺しても、自分が殺されても、彼を生かしたかったなら。貴女は何としても私達の前に立たなければいけなかった。選択する前に選択肢すら奪われて…お可哀想に」

聖女殺しに笑い
「有り難うございます。貴方のお蔭で、数多の選択肢の中の2つが潰れました。プリュイさんが何方も選べず自死する道。貴方の為に全てを殺戮し貴方に喰われる道」
「私は世界と人を護りたい。貴方は聖女を喰らいたい。私達は共存出来ません…さあ、存分に殺し合いましょうか」

高速・多重詠唱で破魔と浄化の属性を銃弾に与え制圧射撃
敵と磔台からの攻撃を阻害
第六感と見切りで敵の攻撃躱しながらUC使う隙探る
他の猟兵の攻撃も視野に入れUCを通せると第六感で判断した瞬間に敵の攻撃避けながらUC「幻朧桜召喚・桜朧」使用
最高速度で空中飛行し制圧射撃の行動阻害も継続しながら倒れている味方全ての回復(及びUC複数使用の活性化)を行う

「これ以上彼等を傷付けも死なせもさせません」


●選んだモノ、選ばれなかったモノ
『残虐で短絡的な、狂人のような吸血鬼』

 そんな『モノ』に救われ、いのちをつないだ――或いは、生まれ直した少女。

 彼女が生まれ育った『ひと』の世界には、人狼病に冒された少女が安らかでいられる居場所などなかったから、そんなまがい物との一時ですら輝く宝物になり得たのだろうか。
 彼女が――『雨降りの聖女』とも呼ばれる少女プリュイが『お師匠さま』のことを語る時、そこには深い敬愛と信頼、いっそ依存や執着めいた慕情までが見え隠れしていた。

 けれど、『ソレ』は猟兵(世界の守護者)たる御園・桜花にとっては単なる討伐対象に過ぎないモノ。彼(聖女殺し)が彼(オブリビオン)である以上、存在は許されない。

 だから、もしも――

「もしも、彼を助けたかったのなら」

 桜花は磔台にて鎖に――いっそ過剰なほど厳重に覆われたプリュイへと視線を向け、

「貴女は捕まってはいけなかった。全てを殺しても、自分が殺されても、彼を生かしたかったなら」

 呟く。
 ただ『彼』がいて(存在)くれることが望みだと語った、一途な少女へと。
 届かない言葉は憐みの色を帯びて、夜に覆われた世界の大気へむなしく溶けていく。

「貴女は何としても私達の前に立たなければいけなかった。選択する前に選択肢すら奪われて……お可哀想に」

 血だまりに沈む『闇の救済者』たちにすら劣る戦闘力の彼女が立ちはだかったとて、結果は明白だっただろうけど。
 彼女は混乱していた。彼の襲撃を知る猟兵と比べても、心構えが出来ていなかった。その結果、何もできず何も伝えられず、隔絶された鎖の中に今も捕らわれているのだ。

 ……それでも。

 一つだけ言うならば、彼女は『ちがう』と言っていた。『お師匠さまは、ちがう』と。
 それをどう取るかは、聞いた者(猟兵)次第――そして『桜花は選んだ』のだ。
 愚かな世迷言を切り捨て、少女の願いを切り捨てて、『正しい道』へと進むことを。

 そんな猟兵に対して何するでもなく首を傾げる聖女殺しへ、桜花は笑いかけた。

「有り難うございます。貴方のお蔭で、数多の選択肢の中の2つが潰れました」
「そうか? ふはは、さすがは俺様だな!」

 褒められたとでも勘違いしたのか、機嫌よさげに応じる聖女殺し。
 何を考えてそうしたのかは分からないが、彼が何かを言いかけたプリュイを黙らせ閉じ込めてくれたお陰で、その『道』が鎖され憂いなく戦えることを桜花は寿ぐ。

「プリュイさんが何方も選べず自死する道。貴方の為に全てを殺戮し貴方に喰われる道」
「えっ?」
「えっ?」
「……こ、子犬めぇ! そんな恐ろしいことを考えていたのかーッ!?」
「アッ、ごめんなさい。その辺は私の想像ですので、プリュイさんがそう仰った訳では」

 『全てを殺戮』の辺りで驚愕していた聖女殺しに、プリュイの名誉と風評の為にも一応お詫びと訂正を入れる桜花。
 プリュイが食べられたそうにしていること自体は気にしていなさそうな辺り、恐らく聖女殺しも既知なのだろうが。

(自分の味とかまで気にしてましたし、あからさまでしたもんね……)

 そんな彼女だからこそ、案外聖女殺しの傍にあっても『解釈違い』で食べられずに済んでいたのかもしれないが。
 ともあれ、桜花は変な空気になったのを誤魔化すように咳ばらいを一つ、

「私は世界と人を護りたい。貴方は聖女を喰らいたい。私達は共存出来ません……さあ、存分に殺し合いましょうか」

 聖女殺しへと宣戦を叩きつけたのだった。

●raison d'être(存在理由)
(何だか調子が狂う相手ですが……)

 見た目以上にバカ(無知)でバカ(純粋)そうな聖女殺しだが、その『極限まで高まった欲望』に裏打ちされた戦闘能力は本物。
 その上『禿鷹の目の紋章』までをも備えているのだ。少しでも油断すれば、狩られるのはむしろ猟兵の側になるだろう。

「お前も『聖女』ではないな……。それにしても好戦的な奴だ」
「……あなたがそれを言いますか!」

 きっと散々に『闇の救済者』たちを甚振り殺しておきながら、そんなことを宣う吸血鬼に、頭にカッと血が上る。
 軽機関銃の照準を向け、引き金を引けば軽快な動作音と共に弾丸が吐き出される。高速・多重詠唱により『破魔と浄化』の属性を付与された銃弾は、数秒で弾倉を空にし集弾力も高くは無いが『制圧』には適していた。

 ――相手が尋常の存在(オブリビオン)であったならば。

「フン。豆鉄砲に過ぎん……が、鬱陶しい」

 初め避けもせず被弾していた聖女殺しは、顔をしかめると射線を回避する。
 ただそれだけで、その速度を捉え射撃を浴びせ続けることは難しく――無理をすれば『闇の救済者』たちをも巻き込んでしまいかねなかった。

(ユーベルコードさえ発動できれば……敵も今の所は此方に使ってこないようですが)

 聖女殺しは桜花を侮っているのか、攻撃やユーベルコードの使用を積極的に行う様子は見えなかった。それどころか、よく見れば息を切らしどこか調子が悪そうにも見える。

(使うまでも無いと思っている? それとも、使いたくない『理由』があるの……?)

 桜花の第六感が何かに気付き囁きかけていたが、それは意味ある形になることは無く消えてしまった。ただ、違和感だけが残る。
 聖女殺しの振る舞いには『残虐で短絡的な狂人』らしからぬ慎重さが同居しており、けれどそれが今のところ猟兵にとってマイナスとなっている様子は見えなかったから。

「その玩具(おもちゃ)は不快だな」
「……くぅッ」

 戦場を弾丸以上の速度で跳ねるように駆け巡る聖女殺しが、大鎌を一閃する。咄嗟にバックステップで回避する桜花の手の中で、盾となった軽機関銃が二つに割れた。

「おい、『道』がどうとか言っていたな?」
「な、何を藪から棒に……」

 予備武装である、桜の刻印が施された鉄扇を構え距離を取る桜花。敵対者のそんな動作を気にもかけず、どこまでも昏い、虚ろに灯る赤い瞳が問いかける。

「どうせ、聖女でないお前如きに聞いたとて、意味などないのだろうが……」
(……どうにかして隙を見つけないと)

 他の猟兵たちの動きも視野に入れ、何とかユーベルコード起動の機を窺う桜花をよそに、聖女殺しは言葉を続けた。

「俺様は何処から来て、何処へ行く? 底の無い虚ろに堕ち続ける――この虚無はどうすれば埋められる? 聖女か? だから俺様は聖女を求め……こうも執着しているのか?」
「そ、そんなことは……」

 わからない。わかるはずもなかった。
 唐突に求道者のような問いを投げかける残骸(オブリビオン)に、『正しい解』を教えられる者は、恐らく世界の何処にも居ない。

「何故、俺様は大事なことを何一つ思い出せない? 戦ったはずだ……そして『破れた』はずだ。なのに、何故それを忘れている?」
「………」

 ギラギラした『渇望』を宿す瞳。それをどこかで見た憶えがある桜花だったが、記憶の断片は聖女殺しの放つ異様な気配に呑まれてすぐに消えてしまった。

 ただ、現在(いま)まさに傷つき消えようとしている『いのち』を前に、『桜の精』たる己のやるべきことだけは良く分かる。
 第六感は状況の不利を伝え続けているが、これ以上手をこまねいていては、手遅れになってしまうかもしれなかったから。

(幻朧桜よ、我が母よ。どうか、どうか)

 桜花の――『桜の精』の『願い』に応え、母なる癒しの桜はその御身の一端を光なき常闇の世界へと顕現させようとしていた。
 ユーベルコード≪幻朧桜召喚・桜朧(ゲンロウザクラショウカン・オウロウ)≫が起動し始めると同時、『屍肉を縒り合わせたような触手』が幾筋も聖女殺しの背から伸び、

「ち。懲りない奴らめ!」
「……これ以上、彼等を」

 桜色の手袋から生まれた力場が、鉄扇が、迫りくる触手を払う。踊るように舞い、複数の効果を併せ持つ強力な奇跡(ユーベルコード)の発動を待つ桜花の身を、それでも防ぎきれない『紋章(オブリビオン)』の触手が穿ち喰らっていく。
 耐え難い激痛が全身を襲うが、集中を乱すわけにはいかなかった。

(これ以上は、彼等を傷付けも死なせもさせません……!!!)

 悲劇もたらす『支配者』への反逆を誓い、命を賭して戦っただろう戦士たち。
 それはこの世界に芽生え始めた『希望』そのものでもあるのだから。

「あああもおおおおお!!! クソッタレめェエエがあああーーッ!!!!!!!」

 絶叫する聖女殺しの声と同時、桜花の身を喰らいつくそうとしていた触手がほどけ。

(どうか。どうか、いのちをつないで……)

 桜色の花びらがふわりと舞い上がり、そして傷ついた戦士たちへと舞い落ちていく。

 その場にいる猟兵たちにも余さず降り注ぐ花吹雪は『生命力』と『複数のユーベルコード』を賦活化し、今にも消えかけていた灯火を小さく、けれどたしかに輝かせていた。

「………」

 桜花はそれだけを見届けると、触手によって存分に喰われズタズタに引き裂かれた躰を支えきれず、崩れ落ちていく。

(? ……………な、に?)

 昏い昏い場所へと意識が落ちていく直前、桜花が聞いたのは鎖の走る音と――

 ピシリ、ピシリと。

 ついに何かが罅割れて砕けようとしているような、不吉な予感(おと)だった。
苦戦 🔵🔴🔴

狐裘・爛
《狐御縁》
普段なら仲間に手を出したヤツ許さない! って感じだけどこの場で我儘な振る舞いは綺麗じゃないわね

救いを求める人の助けになりたいという想いを原動力にして奮起…私の憧れの人にこの技で少しでも近づいてみせる
負傷者の傷や精神的外傷を【青喚】符術『薄雪草の大親友』で幻影へ移す
燦、符術の合わせ技よ、心を重ねて。ここが踏ん張りどころ。ルル! 手分けして治療しましょ。ルルのケアが要になるわ!

この符にはシホの力、聖痕の加護が込められてる。シホにはもちろんテフラにも届くはずよ。巫力全開!
聖女って全員救う、一番我儘な人のことなのかもね

プリュイさん。言葉って凄いのよ。えっと、何か声をかけてちょうだい。お願いよ


ルルチェリア・グレイブキーパー
≪狐御縁≫

あれが噂のバカ(変態)
じゃなくてプリュイさんのお師匠さんなのね
彼女には悪いけど、やっつけるしかないわ

シホが囮になってる間に
急いで負傷者の救出と手当てよ

皆のUCを妨害する紋章の触手は【飴玉鉄砲】で浄化攻撃!

UC【生ける者全てが孫】でお婆ちゃんの霊達を召喚
しょうがないねぇ
と言いながらお婆ちゃん達が手伝ってくれるわ
【魔法の簡易救急キット】を使用し
医術による支援で負傷者の手当てするのよ

任せて爛さん!奇跡と医術のコラボレーション!
超スピードで治療を完了させて
援護に向かうのよ!

お供の幽霊の子マイを燦さんのお手伝いに行かせるわ
燦さんの循環符をシホに届けさせるのよ
ちゃんと言う事聞くのよー?

コラー変態ー!
シホに手を出すんじゃないわよー!
ああっ、テフラさんが聖女っぽくなってるー!


テフラ・カルデラ
《狐御縁》
※女体化禁止(重要)

ひえっ…身体中がぶわぁ…と鳥肌が…確信しました!ヤバいですこの人…!!

飛んでいるシホさんを追っていきます!あんな変態に捕まったら何されるか…
追っているうちに落ちていくのを急いで駆けつけて捕まりそうなところに割り込んで代わりに捕まります!
磔台に括り付けられて…あとこのまま石化されれば…ってそんなこと言ってる場合じゃありません…!
髪とか肌とか変わって兎の聖女(性別はそのまま)に…!

え…えぇっと…機嫌が良いところ悪いのですが…わたし…男ですよ…?
と言ったら怒り狂って暴れだしましたぁー!?言わなきゃよかったぁー!!
UCでケモショタに変身!脱兎のごとく逃げまーす!


●咎人は何処
 血と、肉と。
 先刻(さっき)まで人間(いのち)だったものが、無造作に地面へ散らばっていた。
 乾いた砂が血を吸って黒く変色し、噎せ返るような血と臓物の匂いが漂っていた。

「……私の……」

 壊れた人形のようにもう動かない彼ら。
 そこにはこの短い間ではあったけれど、互いに言葉を交わした者たちだっていた。
 彼らがどんな人物であったかを猟兵は知らない。ただ、この絶望に支配された世界で立ち上がり、希望を灯すことに命を懸けた者たちであったことだけは、識っていた。

「私の……せいだ……」

 そしてこの惨事を為したと思しき『彼』が、己と何らかの因果で結ばれた『宿敵』であることは、感覚的に分かっていた。
 ――なのに。

「私が、討伐を躊躇ったから……」

 シホ・エーデルワイスの心を後悔が苛む。野放しにしてしまった。逃げてしまった。
 だから。だから……。

『そうだ』『いつだってそうだった』
『お前だ。お前のせいで』
『――また、人が死んだな?』

 胸元に刻まれたアセビの聖痕(スティグマ)が疼く。犠牲と献身の象徴であり、生贄となることを宿命(さだめ)られた、呪い。
 罪悪感と、押し殺そうとしても溢れて止まぬ自身への怒りが胸を焦がし、塞がったかに思える心の傷(トラウマ)から血がにじむ。

「シホのせいじゃない」

 その胸中を映して小さく震える肩を、強張った白い翼ごと背中から抱きしめる。
 そうしてゆっくりと、噛んで含めるように言い聞かせたのは、四王天・燦だった。

「彼らは戦士だった……そう、望んだんだ。その命の責任は、彼ら自身にしか持てない」

 猟兵から見れば、取るに足らない名もなき雑兵だったとしても。
 彼らには彼らの人生があって、ただ一つの物語があったのだ。その死を悼むことはあっても、『自分のせいで』なんて罪の意識を感じることなど、彼らも決して望まない。

「それに……ぅ……っ」
「燦!? 大丈夫……!?」

 何かを言いかけ、ふらついた燦をシホが支えた。いつもであれば快活な妖狐の顔色は随分と悪く、いっそ死者のようでさえあった。

「わりぃ。はは、9割はあげすぎたかな……」

 そう笑って誤魔化す燦は、本来ならば早々に安全な場所で安静にして、十分な休息を取るべき状態にあった。精気の大半をプリュイへと移譲したため、その『いのち』を維持する存在の根源(エネルギー)が枯渇しかけていたのだから。
 ただ、

(何かがおかしいのは、確かなんだ……)

 その、精気を分け与えたプリュイの発した言葉について考えていた燦は、眼前に広がる戦場の有様にどこか違和感を感じていた。
 頭がクラクラしているためか、その違和感の正体が何なのかまでは分からないけれど。

 その一方で、

「あれが噂のバカ(変態)……じゃなくてプリュイさんのお師匠さんなのね」

 一人妄想にふけり盛り上がっていた『聖女殺し』を見たルルチェリア・グレイブキーパーの、率直な感想。それはどうみても変態にしか見えなかった。変態みが強すぎた。

「彼女には悪いけど」

 だから……プリュイが彼にどのような感情を抱いているのかは承知の上で。
 それでも、ルルチェリアは自らが進むべき道を、自らの意志で選び取ろうとしていた。

「やっつけるしかないわね」

 何かを手に入れるため、何かを守るため、捨てるのだ――揺らいだ天秤が掲げた方を。

「ひえっ……身体中がぶわぁ……と鳥肌が」

 そしてテフラ・カルデラは、自身も変態ではあったが、『聖女殺し』の変態性を垣間見ただけでその危険性を察知したようだ。変態番付で後塵を拝したと思しき彼も警告する。

「……確信しました! ヤバいですこの人、ヤバい変態です……!!」

 変態をも畏れさせる変態、それが聖女殺し――プリュイの『お師匠さま』だった。

●尊き犠牲(イケニエ)
 仲間たちを一瞥し、他の猟兵たちが戦って気を引いている間にと、シホが提案する。

「ここに敵がいたら救助は困難です」

 顔を上げ、戦場を見渡せば、かすかに息のある者たちがいて。そのいのちの炎はきっと今にも消えかけようとしていたけれど。
 猟兵たちのユーベルコードが引き起こす奇跡的な治療があれば、助かるかもしれない。そのためにはユーベルコードの発動を阻害してくる『禿鷹の目の紋章』が邪魔だから。

「なら、私が囮となり敵を誘惑し負傷者達から引き離します」

 救助しながら、彼らを背に庇いながらでは満足な戦闘行動はとれないだろう。
 自動発動と思われる『屍肉を縒り合わせたような触手』一つでさえ、同僚たちは手を焼いている様子だったから、下手を打てば助けるつもりで止めを刺してしまいかねない。
 彼らを助けるつもりなら、広範囲攻撃等も巻き添えが発生する可能性が高く使えない。
 結果、猟兵たちがとり得る選択肢は限られており、シホは自らを危険な囮に使うことでその問題を解決しようとしていた。

「普段なら仲間に手を出したヤツ許さない! って感じだけど、この場で我儘な振る舞いは綺麗じゃないわね」

 燻る感情を抑えながら狐裘・爛が言う。
 大切な親友を危険に晒すのは業腹だけれど、彼女の願いを叶えるためには今何が必要なのかもまた、理解できていたから。

「いいわ。治療は任せて」
「そうね。私と欄さんで超スピードで治療を完了させて援護に向かうのよ!」

 ルルチェリアもそう請け負い、気合を入れる。せめて、シホが危険にさらされる時間が少しでも短くなるように、と。

「わ、わたしはシホさんについて行きます」

 掩護を名乗り出たのはテフラだ。
 あんな変態にシホが捕まったら、何をされるか分かったものではない。
 一応、この場で唯一の男の子としても、放っておけない事案だった。

 そして――。

「燦、行ってくるね」
「………」

 状況的には隔絶した身体能力を持つ『聖女殺し』には、『技術』で対抗しうる白兵戦可能な猟兵が適していただろうけど、剣客たる燦も今はマトモに動けそうもない。
 危地へと向かう恋人を見送ることしかできない己の不甲斐なさ、危険から遠ざけ『閉じ込めておきたい』感情を抑え、送り出す。

「オーラ防御の符だよ。……どうか無事で」
「うん。ありがとう」

 安心させるように微笑んだシホが、やや冷たくなった燦の体を軽く抱いて、離れる。
 遠ざかっていく温もりに手を伸ばしたくなるのを堪え、燦は飛び立つ翼を見送った。

「聖女殺しのヴァンパイア!」
「んん? お、おおお……っ!!!」

 猟兵と連戦し少々疲れた様子が見えた聖女殺しが、シホの声に振り向き目を見張る。
 そこに居たのは、美しい銀の髪を靡かせ、星屑を散らしたような深い蒼の瞳でこちらを睨みつける美少女だった。その背には真白の翼を背負い、誘うようにはばたかせている。

「私を捕まえたら好きな事をさせてあげる! できたらですけどね!」
「な、なん……だと!? それは、お前を捕まえたら、あんなことやそんなことをしてもOKってことかーッ!!!!!!」

 どうやら首尾よく――良すぎるくらいに釣れたようだ。離れていくシホを嬉々として追いかける聖女殺し。
 牽制にと放たれる聖銃からの誘導弾をものともせず、どこか狩りを愉しむようにして、二人して雑木林の奥へと消えていく。

(皆、手当てを頼みます)

 シホからの念話が律儀に届くが……

「な、なんでもは許しませんからねーっ!」
「……と、とにかく! 急ぎましょ!!!」

 離脱際のやり取りに、それどころでは無くめちゃくちゃ心配になる燦たちだった。

●救われるべき者
(もしも神降ろしの御業がまだ有効なら、と思ったけど……そう甘くはないか)

 ルルチェリアの使役するお子様幽霊に支えられ、改めて死傷者たちに目を落とす燦。
 四肢が捥がれるなどして損壊の激しい遺体は、すでに完全に絶命しているようだ。
 ただ恐怖でもなく絶望でもなく、支配者への激しい怒りをその顔に残した戦士たちは、新たな戦場(第三層)へと向かうのだろう。

 誰も哀しまないように、と思った。
 けれど、少なくともこの場所では哀しみの無い、犠牲の無い戦いなど無かった。
 勇敢だった者たちを悼みながら、疲労困憊の妖狐はもう一人の妖狐へと声をかける。

「負傷者保護の結界術を頼む。個ではなく場に防壁を張りな」
「分かった。でも強力なものは無理よ?」

 手ほどきを受けた爛の手で簡易な結界が場を覆うが、侵入を阻むというよりは感知する程度が精一杯かもしれない。
 それでも、『禿鷹の目の紋章』の射程が定かではない以上、対策は必要だった。猟兵のユーベルコードでも、数十キロメートル以上の射程を持つモノも珍しくないのだから。

「シホが囮になってる間に、急いで負傷者の救出と手当てするのよー!」

 親友のためにと奮起するルルチェリアに、爛も「ここが踏ん張りどころね」と応え。

「ルル! 手分けして治療しましょ。ルルのケアが要になるわ!」
「任せて爛さん! 奇跡と医術のコラボレーション! なのよー!!!」

 そうして先ずはルルチェリアがユーベルコードを起動させた。
 ≪生ける者全てが孫(グランマ・テンパメント)≫と銘打たれたそれは、戦闘力のない『世話好きお婆ちゃんの霊達』を召喚する、死霊術士の御業。

「お願いお婆ちゃん! 手伝っ……てえええええっ!?」

 霊達が呼びかけに応えて少しずつ姿を現しはじめる中、不気味な屍肉の触手たちがルルチェリアをそのユーベルコードごと喰らわんと迫っていた。
 距離が開いた分、多少の猶予は出来たようだが、妨害そのものは健在のようだ。

「あ、あっち行けなのよー!!」

 結界をほとんど一瞬で貫き、襲い来る触手に飴玉鉄砲『アムリタ』を向け放つが、到底すべては防ぎきれずに触手の先端がルルチェリアに食らいついた。

「きゃぁあああっ!」
「ああっ」「ルルっ!? クソッ……!」

 既に死に体の燦と、自らもユーベルコードの起動のために集中を始めていた爛ではその防護まで手は回らなかった。
 数体の霊が顕現した時点でコードは中断され、それでもその肉体を貪り喰らう触手は止まらない。激痛に身をよじるモノトーンの少女の躰から、鮮やかな赤が溢れ出る。

「………ちっ!」
「!?」

 その時、上段からの剣が一閃し、蠢いていた触手が切り落とされた。援護は猟兵たちの意識の外、意外な場所からもたらされた。

「あ、あなたは――」
「……ヴァンパイアがこの場を離れたなら、このまま寝ていてもしようがない」

 それは、失くした両腕に代わり蒼い炎を噴出し剣を取る戦士――死んだと思われていた闇の救済者の『青年剣士』だった。
 不死者の如き振る舞いを見せる剣士は、仄かに赤光を帯びて、常人の範疇を超えた――まるで、猟兵にも近しい剣の冴えを見せる。

(こ、こいつっ。今の今まで『死んだふり』してやがったのか!?)

 単純に驚いて青年剣士を見る燦たちに、彼は血反吐を吐いて地面に膝をつきながら、さも面白くなさそうに吐き捨てる。

「……言っておくが、俺は勝てた。アイツの余計な横槍さえなければ……万全で戦えた」

 どうやら『ダンピール』の所為で消耗していたからこの有様だと言いたいらしい。
 実質全滅し自身も死にかけておいての負け惜しみはいっそ滑稽じみていたが、ともあれ助かったことに違いはなく。

「あ、ありがとう……うぅっ!」
『おやおや。まぁ、大丈夫かい? 酷いことをするもんだねぇ……』

 ルルチェリアの召喚した『お婆ちゃん』たちが彼女自身を含めた負傷者たちの手当へと向かう。その数は最大数の1割、十数人程度だったが、この場ではそれでも十分だった。
 彼女たちは『魔法の簡易救急キット』を手に手に、まだ息のある者たちへ応急処置を施していく。
 気道を確保し止血を試みる。傷口を清潔に保ち異物を取り除く。折れた骨は可能な限り正常な位置に戻し、固定する。
 それらはユーベルコードでの治癒の効率を高めるだけでなく、術者と負傷者双方の負担を減らし予後にも良い影響を及ぼすだろう。

「爛さん、あとはお願い……」
「ええ、分かったわ! すぐにその傷も癒してあげるからね」

 負傷しながらもアムリタを構えて備えるルルチェリアに、爛が大きく頷き、深呼吸。

(救いを求める人の助けになりたいという『想い』を原動力にして――)

 傷ついた友のため、友の『願い』のために。重ねた想いに榾火(ほたび)はより大きな炎となって燃え盛る。

「……私の憧れの人に、この技で少しでも近づいてみせる!」

 そうして起動したユーベルコード≪【青喚】符術『薄雪草の大親友』(セイカン・フジュツ・エーデルワイスノダイシンユウ)≫によって光が溢れ。やがてその光の中から顕現したのは白き翼をもつ蒼眼の『聖女』――シホ・エーデルワイスの幻影だった。

 しかし、そのユーベルコードを術者の肉体ごと喰らう触手が、彼方より押し寄せる。

「あっち行け! なのよー!!」

 援護に専念するルルチェリアが浄化し、青年剣士の剣が切り払ったが、全てを防ぐことは出来ずに何本かは爛の下へと向かう。
 攻防と広範囲に及ぶ複数の効果を兼ね備えた強力なユーベルコードは、その御業を成就させ重傷者たちの傷を癒すには、今しばらくの時を必要としていたが……。

「燦ッ!?」
「……集中、してな」

 ゆらゆらと朧に揺れる幽鬼のような燦の背中が、その前に滑り込んで。溢れる光の中を藻掻きながら進んでくる触手を、風を纏った短剣が正面から切り裂いた。
 けれど数多襲い来る触手のその勢いまでは殺しきれず、躰は鈍い音を残して地面を転がっていった。

「こ、のぉおおおォオオオ……ッ!!!」

 ――そして光(奇跡)は訪れて。

 眩いそれが邪な紋章の触手を灼き溶かしていく。地に横たわる戦士たちの傷が癒えていく――代わりに、幻影は赤に塗れ、蒼い衣が裂け、翼は千切れ落ちていった。
 負傷者の傷や精神的外傷を幻影に移すユーベルコードは正しく機能し、シホの幻影は地に堕ちて四肢を捥がれ、首から血を流し――それでも、薄く微笑んでいた。

(……っ)

 幻影であってもあまり見たくない光景。
 例え親友の似姿が、この結果に満足げな慈愛の笑みを浮かべていようとも。

 だけど、それでも。今はこの救いの力を必要としている人たちが居るから。

「巫力……全開!」

 どうか、私の本当に大切な人たちにまでこの救いが、加護が届きますように、と。
 爛はそう、強く強く願うのだった。

●吸血鬼(捕食者)と聖女(獲物)
「ハーハッハッハァ! 楽しいなぁ!? 俺様の聖女よ!!!」
「~っ!! 誰が『貴方』のですかっ!」

 聖女殺しは、宿縁のようなものを感じているのか初めからシホを『聖女』扱いし、その変態的妄想にあったように簡単には捕まえず愉しみながら追い詰めようとしていた。

「ククク……そろそろ疲れたのではないか? 一休みしてはどうだ? どうしてもというなら、少しだけ待ってやっても良いぞ?」

 背後のすぐ傍……耳元で囁くような声。
 悪寒がゾクゾクと背筋を這う。

「余計な! お世話ですっ……!!」

 第六感も聴覚での警戒も、聖女殺しの圧倒的な身体能力の前にはほとんど無力だった。ただただ、敵が自分を脅威とも見做しておらず、弄んでいることだけが良く分かる。

 シホがこれまで何とか逃げおおせていたのは、聖女殺しが本気を出していないから。
 また、背から触手が伸びる度に態々自分で切り落とすため足を止めていたからだった。

「離れなさい!」
「おっと。お転婆な聖女だ……くくくっ、これは躾けのしがいがありそうだナァ!!!」

 残像を残すほどの動きでステップを刻み、追ってくる聖女殺しへ蹴りを放つ。その足を捕まえふわりと受け流しながら、聖女殺しはシホの細い足を撫でさすった。

「可愛らしいナァ? まだ自分の抵抗に意味があると信じている……か弱き聖女よ」
「ひっ」

 聖女殺しがシホの腕を引き、後ろから抱きすくめる。振りほどこうと全力を込めても、聖女殺しの骨ばった細い躰は意外なほどに力強く、まるでびくともしなかった。

「だが、お転婆もほどほどにせねば、怪我をしてしまうぞ?」
「や、やぁっ! はなして……っ」

 シホはもう、悟っていた。このヴァンパイア(変態)からは逃げられない。その力関係は彼が猛禽でも最大級の大鷲だとすれば、シホは小鳥(カナリヤ)のようなもの。

「おや? 捕まえたら何でも好きにさせる、と聞いたはずだがナァ?」
「こ、このくらいで捕まえた気にならな……ひぃいっ! ああ、あ……っ」

 首筋に冷たい呼気が当たり、直後に不快な感触。聖女殺しが舌を這わせ、シホの首を舐めたのだ。牙を突き立てる場所を吟味するように、ゆっくりと滑らかな肌を舐っていく。

(……っ)

 薄い皮膚の下に脈打つ血の流れを、確かめられている。どこに牙を突き立てるべきかを、じっくりと探られている。
 まるで剥き出しの心臓を鷲掴みにされたように恐ろしかった。シホの『いのち』は今、この狂った吸血鬼――『聖女殺し』の手に握られてしまっているのだ。
 ……なのに、どうしてだろう。恐怖以外の未知の感覚が、シホの躰を疼かせるのは。

「た、たとえ血を吸われても! 私はあなたの思い通りになんて……なりませんから!」
「うんうん、そうだナァ? わからせ甲斐のありそうな聖女で、俺様も嬉しいゾォ……」

 勇気を振り絞り、気丈に振舞うシホ。
 せめてもの抵抗にオーラを纏い無防備な柔肌を守ろうとして――その守りを貫いた硬いナニカが肌に触れ甘く噛みつくと、抑えきれない悲鳴のような声が漏れた。

「あ……? ひぃ、ア、アアア……ッ!」

 牙は肌を貫いてはいない。なのに、泣き出したくなるほどこわくて――それと同時に、今まで味わったことのない甘美な感覚が少女を堕落へと誘惑していた。
 聖女殺しの唾液に妙な効果でもあるのだろうか? 違う。これは……呪いだ。吸血鬼の持つ宿命(呪い)が、シホの祝福(呪い)を上回り、塗りつぶそうとしている。

(ああ、だけど)

 舐められ、甘噛みされただけでこうなら……もしも吸血されたら、どんなに……。
 そんな想像が頭をよぎり――まるで自分が自分ではない別の何かに書き換えられていくような恐怖で、シホは思わず『聖女殺し』へと懇願していた。

「だ、だめ……おねがい。はなして……」
「聖女からの頼みだ。もちろん良いとも!」
「あっ……」

 聖女殺しの束縛から解放され、一瞬呆気にとられたシホはすぐさま距離を取ろうとしたが……なぜか、もう体に力が入らなかった。

 ――その、光を湛えていた筈の魂が。
 捕食されるだけの『獲物』になり下がりかけているのだ。このままでは……いけない。
 逃げないと……すぐに、少しでも遠くに。

●うさぎは見た!
「ひゃわわわわわわ……!」

 その翼で上空を飛ぶ二人を、木々を縫いながら追いかけていたテフラは、目の前の光景に泡を喰って慌てていた。
 ちょっと様子を見守ってしまったことは秘密だが、これ以上放っておけばいよいよマズいことになりそうだった。

「あ……ああっ、テフラさん、来てはだめ! 逃げっ………んんぅっ……!」

 などと言っているシホは地面に組み伏せられ、所々引き裂かれた衣服が非常に艶めかしいことになってしまっている。
 そうして露出した柔肌を嬲るように聖女殺しが舌を這わせ、甘噛みする度、何だかイケナイ感じの声が漏れてしまっているのだ。

(こ、このままでは、信じて送り出したシホさんが……みたいなことにっ!?)

 そんなことになれば、血涙を流してどうにかなってしまうだろう狐さんの顔を想像し。
 テフラは破れかぶれで『聖女殺し』とシホの間に割り込むように飛び込んでいった。

「わたしをかわりに食べなさーい!」
「な、何だこのうさぎ! 変態か……?」
「へ、変態に変態って言われました!?」

 ぐいぐいと二人の間に体を割り込ませるテフラへ、聖女殺しが渋面で告げる。

「悪いが、聖女以外どもには用はないんだ。邪魔しないでくれるか!? 今、俺様は俺様の聖女と『愛の営み』で忙しいんだ!!!」
「い、言い方……! 言い方には気を付けてくださいねっ!」
「はわわわ……シホさんにこんな大きな声を出させて……こんなに乱れさせるなんて」
「テフラさんもっ! 言い方っ……!!!」

 案外丁寧なお断りを入れる聖女殺し。どうやらうさぎと言えど聖女以外はお気に召さないらしい。そしてそんな間にもシホを翻弄する彼は、やはり恐ろしいHENTAIといえた。

「だいたい、お前は男だろうが。俺様の鼻は誤魔化せないぞ。聖女はこう、甘い匂いがするんだ……そして、興奮するとその匂いが強くなる! そう、こんな風にナァ!!!」

 そう言うと、シホの首筋に顔をうずめて匂いを嗅ぎ始める聖女殺し。

「ひっ、いいかげんに……んんんっ……!」

 シホは羞恥で顔を真っ赤にしながら、必死で身をよじるも逃げられずにいた。

「え……えぇっと……この人すごい力だし、シホさんは何かちょっと楽しんでる感じd」
「たのしんでませんっ!」
「クククッ! 本当かナァ? また甘い匂いが強くなったぞぉ!」
「ひゃわわわわわ! ご、ごめんなさい! でも、これ、わたし……どうすればっ!?」

 助けに来たつもりの相手(シホ)からも若干怒られ、テフラはパニックになってユーベルコードを発動させた。もう、脱兎の如くに逃げてしまいたい気分だったから。

「あっ。バカ」
「ま、またバカ(変態)にバカって言わてしまいました……って、ひえええええっ!?」
「テフラさんっ!?」

 テフラのユーベルコード≪もふもふ☆ケモショタチェンジ!(モフモフケモショタカワイイ)≫の起動に反応し、『屍肉を縒り合わせたような触手』が即座に伸びてうさぎを捕えようとした。
 もふもふうさぎのケモショタ形態への変身は完了していたが、何の備えも心構えも無かったテフラはそれを躱しきれず、触手がうさぎの肉を存分に食い荒らす。

「こ、こんなところで食べられフラグ回収なんて……かふっ……」
「ちぃっ……!!」

 聖女殺しが大鎌を振るい、まとわりついていた触手を切り払う。そうして、実は洒落にならない深手を負ってしまったテフラを、今度は磔台から伸びた鎖が捕らえるのだった。

「あ。これは……磔台に括り付けられて……髪とか肌とか変わって兎の聖女に……!」
「このうさぎめ、何でちょっと嬉しそうなんだよ……変態か! 変態なのかっ!」
「ふふっ、あとこのまま石化されれば……」
「変態め! この変態うさぎめがぁ!!!」

 そんなことを言っている場合では無いのだが、思わず本音と趣味が出てしまうテフラ。そしてそんな彼を変態と罵る聖女殺し。
 シホは、そんな二人を見て思うのだ。

(二人とも、変態です……)

 大体、思っていたのと何だか違う聖女殺しの挙動。調子を狂わされながらも、テフラのおかげで少し余裕ができたのは事実だった。

「いや? だが、うさぎの聖女か……これはこれで? 見た目は悪くないかもな?」
「ひぇっ……た、食べないでくださいね?」
「ふん。聖女以外どもに用はないと言っただろう……だが、お前たちにも使い道はある」

 聖女殺しがテフラに何かを耳打ちすると、テフラがひゃわわと慌てて、

「そ、そんな! そんなことはまだわたしたちには早いですよー!?」
「クックック……」

 と邪悪に笑う聖女殺しはテフラに危害を加えそうな気配もなかったので、シホは一旦コッソリ逃げ……離脱しようとした、が。

「どこへ行こうというのかね! 俺様の聖女!!」
「………えっと……」
「知らなかったのか? 俺様からは逃げられないんだよーーー!!!」

 あえなく見つかり、再び捕らえられた。
 じゃらりじゃらり、と鎖が伸びて細い手足に絡みついていく。

「う、うぅぅ……っ」
「……! やはり! やはりやはりやはり! イイではないか!!!」

 死の誘惑を感じさせる磔台に括られ、シホはこれから己を待つ運命に身を震わせた。
 それでも、少女は『凜紅』の名を与えられた炎の薔薇――指輪を通して状況を伝え。
 変態たちの精神を削る行為に健気に耐えながら、仲間の来援を待ち続けるのだった。
成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴

四王天・燦
《狐御縁》

シホのせいじゃない
シホにオーラ防御の符を預ける
念話の度に血が凍る想いだ

神降ろしの御業がまだ有効なら、生命活動が停止した被害者が蘇生できるよう肉体から魂が抜けないよう願うぜ
誰も哀しまないようにね

疲労困憊なので負傷者保護の結界術を爛に即興伝授だ
個ではなく場に防壁を張りな

プリュイの縛を解く
何でもするなら宿命に決着をつけて生還しろ
精気循環符で100Lv預ける
この力と零式の『いのち』が彼女を支えますよう

ルルお憑きのマイちゃんに支えられ決戦につけば残るLv分の循環符をシホに届けてもらう
摘まみ食いはだーめ

吸血鬼に大声をかける
プリュイの目を見ろ、情が移ってんだろバカップルってな
攻撃されても愛と気合で生にしがみ付くぜ
真の姿で慈悲と赦しの稲荷巫女となり静謐に、皆の勝利とプリュイの想いの成就、そして業に振り回される聖女殺しの安寧を祈るよ
どうか安らかな眠りを―

敵も味方も弔う
プリュイは師から継いだものを昇華しな
テフラの聖女姿…普段と同じじゃね?

落ち着けばシホに甘々な吸血プレイをねだるよ
聖女殺しへの嫉妬さ


シホ・エーデルワイス
《狐御縁》

…私の…せいだ…
私が討伐を躊躇ったからあのストーカーは…

自身への罪悪感と静かな怒で聖痕が疼く


ここに敵がいたら救助は困難
なら
囮となり敵を誘惑し負傷者達から引き離す

私を捕まえたら好きな事をさせてあげる!
できたらですけどね!

敵は私に突っ込むはず故
対空中戦闘で聖銃の誘導弾により距離を取りながら牽制し
高速飛行で村から離れる様
外れへ誘き寄せる

(皆
手当てを頼みます)

近づかれても第六感と聞き耳による読心術で見切り
ダンスの様な動きで残像回避しながら
功夫のカウンターで蹴り飛ばす

テフラさん逃げて!

『聖血』を吸血されても
勇気と覚悟で敵好みに振舞
各種耐性のオーラと継戦能力で健気に防御
哭かせたいと夢中にさせ皆が来るまで時間稼ぎ

状況は燦と『凜紅』を介した念動力の念話で伝える

来たら

私を聖女と呼ぶな!

を合図に真の姿化し【感往】で奪取して回復
発動元の血は敵の体内故
触手は敵も攻撃するはず
私に来ても枷の鎖が自動で迎撃

プリュイさんの話が済んでから
紋章を貫通攻撃


戦後

生存者で手足等の欠損や大きな傷を負った人を【復世】で治癒


●惨状の真相(こたえ)
「燦! あきら、大丈夫っ!!?」
「ぐ、ぅ……」

 爛のユーベルコードによって外傷は癒えども重く気怠い体を、無理矢理に叩き起こす。
 聖痕の加護が降りた肉体から、代わりに何かがすぅと離れていく感覚。無骨な剣を携え、淡い赤光を纏うナニカ。

「……なんだ、アンタら。まだ『こっち』に居たのかよ……」
『………』

 それは『闇の救済者』の戦士たちの死霊だった。通常、死後短期間でそうなることは滅多にない筈だから、恐らくはオブリビオン(過去の残骸)ではないのだろうが。

「……どうせなら、もうちょい頑張って自分の体にしがみついてりゃ良かったのに」

 哀しげに軽口を叩いて、力なく笑う。
 離れた場所では青年剣士が崩れ落ちて気を失っていた。彼もこの不可思議な力に支えられ、剣を取ることが出来ていたのだろうか。
 しかし死霊たちはもはやその役目を終えたかのように、消え去ろうとしていた。

『……われらが聖女の『願い』は、未だ成就していないようだ……』
『すまないが……あとを……頼む……』

 それだけを言い残して。
 燦が『雨降りの聖女』に託した『稲荷神の御業』はその役割を終えて消えていった。

 その一方で。

『あらぁ! まぁ、いい男じゃないかい』
「お、お婆ちゃん……」

 闇の救済者の実質的指導者『傭兵』を診ていたお婆ちゃんの声に、ルルチェリアがジト目を向ける。
 けれどそれを意にも介さず、鷹揚なグランマたちはお喋りを続けていた。

『吸血鬼――あの惨めな不死者どもの仕業かい。命があっただけでも運が良かったねぇ』

 吸血鬼に吸血されたと思しき『傭兵』だが、意識は無く絶対安静が必要なものの、何とか一命は取り留められそうだった。
 本来奴らは人間(家畜)に一切遠慮などしないから、多くの場合『吸血』されるということは衝動のままに際限なく貪られること――すなわち『死』を意味しているのだが。

「……運が、良かった?」

 燦はよろよろと引き寄せられるように『傭兵』の下へ向かった。
 ふと思いついて念のためその胸に手を当ててみるが、『実は女性』ということもない。見たところジョブでいっても『聖者』とは思えず、恐らくは『黒騎士』あたりだろう。

(やっぱりおかしい。どうして――)

 何故、極限まで欲望を抑えていたハズの聖女殺しは極上の『聖女(ご馳走)』を目前にして、態々好みでもない男の――『傭兵』の血を啜ったのだろう……?
 聖女以外でも良かったのならば、見た目は遥かにそれらしい『ダンピール』や、あの『銀髪の少女』だって居ただろうに。

(そういえば、あの『少女』は何処に?)

 聖女殺しに『偽物』と呼ばれ首を刎ねられ、頭部を踏み砕かれていた銀髪の少女。
 実力者揃いの幹部『傭兵』『ダンピール』『青年剣士』さえ脱落する中、最後まで生き残って抵抗を続けていたとすれば、きっと彼等に並ぶ強者だったはずだが……。

「………………まさ、か」

 いつの間に消えてしまったのだろうか。
 その死体はどこにも残っていなかった。

 それはまるで――まるで、滅びたオブリビオン(過去の残骸)が、跡形もなく消滅してしまったかのように……。

 ――その方は『本来』は残虐で短絡的な、狂人のような吸血鬼だったようですが……。
 ――近頃では『禁欲的』に過ごして……。

「ああ……くそっ、マジで違ったのか?」

 猟兵たちはその状況を一目見た瞬間から、『闇の救済者』たちを襲い嬲り殺した『吸血鬼』は『聖女殺し』だと判断していた。
 それも当然だ。『闇の救済者』を狙う『禿鷹の目の紋章』の使命を帯びた吸血鬼が居て、傷ついた彼らが居て、少女の形を殺した吸血鬼は見るからに変態だったのだから。

 けれど、真実(ほんとう)はそうではなく。
 その殺戮劇の中心に居たのは――

「あれが、もしかして『伯爵』とやらの手勢の方だったのか……!?」
『あきら~?』

 幽霊のマイに支えられ、ただでさえ定まらない視界をくらくらとさせながら、稲荷神の巫女はこの場に残る磔台へと向かい。

「治療の手が空いたら、手伝ってくれ。プリュイを、出してやらねえと……」

 爛とルルチェリアにもそう呼びかけた。

「……よくもまぁ、雁字搦めにしやがって」
「そうですな……」

 プリュイが捕らわれている磔台。
 適当な武装が無く解放に手間取っていた老兵が無表情に首肯する。

 理由はわからないが、結果として何故か闇の救済者たちを『救った』のかもしれない吸血鬼。彼にとってはこれが『ガラスケース』の代わりだったのだろうか。
 その何十と重なる鎖の裡へと厳重に閉じ込められた少女は、きっと識っていたのだ。
 興味を持って尋ねれば、子犬はその旅の様子だって教えてくれたのかもしれない。プリュイと仲良くしていた『ダンピール』は、そんな話も聞いていたのだろう。

 ――もしもこの子の言う『お師匠さま』が味方になってくれれば、きっと心強いわ。
 ――聞いた話では『無茶苦茶な強さ』みたいだし……

 狂った吸血鬼は、プリュイの前で幾度と無く戦い、屠っていたのだ。『闇の救済者』の精鋭中の精鋭をして『心強い』と言わせるほどの敵を――吸血鬼(同族)たちを。

●別離(わかれ)の記憶
 例えば、どんなにおなかが空いていても。
 そんなことを言えば飛んでくるのはげんこつや足――暴力と、罵声。
 お前なんかに。役立たずが。図々しい。
 それは仕方のないことだった。だって、わたしは『呪われた子』なのだから。

 だけど、その人(吸血鬼)はわたしがびょうき(人狼病)でもまるで関係ないみたいに、わたしのことを『仲間外れ』にはしなかった。

「面倒だがしょうがない! 聖女になる(俺様に食われる)まではエサの面倒も見てやろう! サァ、存分に喰らうが良いゾッ!」

 どれだけ具合が悪くて死にそうでも、心配してくれる人や頼れる人なんていなかった。
 それどころか、見つかれば水をかけられたり、『悪魔を追い払うため』って言って棒で叩かれたりするから。

「おい、ジジイ。コイツ(聖女候補)は何でまだ起きられない? 薬とやらはもう飲ませたのだろう? 何? そんなにすぐには効かないだと?」

 わたしはいつも誰も来ない場所に隠れて、ひとりで震えながらじっと耐えるのだ。
 誰の邪魔にもならないように。
 棺桶の中の死人みたいに、もう目覚めることは無いのかもしれないと思いながら。

 ――そのはずなのに。

「ちっ……弱っちいやつめ」

 あのときそうしてわたしに触れてくれた、ひんやりとした、体温の無い手が。
 どれだけわたしのこころをあたためてくれたか、きっとほかのだれにも分からない。

 どんなに「たすけて」と泣き叫んでも、薄笑いを浮かべて見ているだけの人たち。
 わたしは普通の子ではないから。びょうき(人狼病)だったから、大人はどんなにひどいことをしても正しいし、ゆるされた。

「聖女? ……いや違う! ちがわない?」

 ……だからそんな顔をしないで。『これ』はわたし自身の望みでもあるの。
 何もないわたしでも、汚れた躰さえ貰ったものだけど。少しでも何か返せるのなら、役に立てるなら、それがいちばんうれしいの。

「チガウ! そうだ……そうだ、理想の聖女でなければ、意味がない……」

 ――ねえ、どうかわたしを怖がらないで。
 あなたになら、食べられたって良いの。

「ぐ、うぅ……思いあがるな、お前ごときが俺様の理想の聖女であるわけがない!!!」

 力がぬけて、指先までしびれたように、もう体を動かせないわたしを見下ろして。
 あの時のお師匠さまは――

 ……全身を縛っていた鎖が、解けていく。
 薄暗い世界の光が、視界へと射す。

「プリュイ、大丈夫か!」
「あきら、さん……」

 ……ああ、あの時のお師匠さまも、こんな風に血の気のないひどい顔をしていたっけ。
 後悔なんて、する必要ないのに。

 あなたがこの世界にいて(存在)くれるなら、もう、ほかになにもいらないのに。
 ただそれだけで、わたしは、どんな場所でも喜んで生きて(死んで)いけるのに。

 ――けれど、そんな少女のたったひとつの『願い』を、世界(運命)は赦さないから。

「……行こう。お前の師匠のとこへ」

 燦はそう言って、泣き腫らした顔で震えている子犬の手を取り、≪符術“精気循環”(レベル・サーキュレーター)≫にて自らの力(レベル)を分け与えた。
 どうか、この力と零式の炎が分け与えた『いのち』が彼女を支えますように、と。

「わ、わたしは……でも、お師匠さまは」
「プリュイ。大丈夫、大丈夫だ」

 宿命に決着を、とは言わない。目を伏せて俯き、その予感にひどくおびえている少女は、彼女の師が彼女の言葉を拒んだときにはもう気づいていたのかも知れないが……。

 シホからの状況を知らせる念話のたびに血が凍るような想いをしていたけれど。
 いま(現在)、そのシホから送られてくる念話は、今まで以上に切実で――ひどく狼狽え混乱している気配が感じられたから。

「お前の師匠は『まだ』ちゃんといる(存在)から……会いに行こう。伝えたいこと、あったんだろ」

 彼(過去)が彼(現世)でいられる時間が、きっとそう長くは残されていなくとも。

●辿るべき道(滅び)
「ばかっ! この…………ばか……っ!」
「ハッハッハ! いいぞいいぞォ! そうして俺様を罵り興奮する聖女もまた、いとつきづきし……癖になってしまいそうだッ!」

 若干語彙を失い気味の少女が、変態をなじっていた。変態はそれすら悦んでいたが。

「何をっ! 考えているんですかっ!?」
「勿論、お前(聖女)との未来サ……」

 追い詰められたことで真の姿(咎人)を解放したシホは、今は手足と首に枷を嵌められ鎖につながれた簡素な白衣姿になっていた。
 自身の『罪悪感』が具現化したその『鎖』はいつになく強固で、それを断ち切ろうとした聖女殺しの刃を弾き、今や逆に彼を捕らえてしまってさえいたが。

「ふざけないでっ! ふざけ、ないで……」

 危機を切り抜けたことで心が晴れたかといえば、そんなことは無かった。
 思わず、相手がオブリビオン(討伐対象)であることも忘れ、叱りつける。
 何故なら、このバカ(変態)は。

「いつからですか。一体、いつから――」

 聖女殺しが鎖に捕らわれたのは、『真の姿』が強力だったからだけではなかった。
 戦う度に――聖女殺しがユーベルコードを使い、紋章が触手を伸ばし、それを切り落とす度に、彼は急速に弱っていっていたのだ。

「いつから…………血を吸っていないの?」

 そして、聖女殺しは結局、シホから吸血することも無かった。その機会は幾度と無くあったはずなのに。本能に根ざした狂おしいほどの渇望を抱えているはずなのに。

「………何のことだか」
「こんなにも痩せこけて……それに、」

 シホがとぼける聖女殺しの姿を間近で見れば、首元まで根のように這う血管のようなモノが浮き出て、不気味に脈動していた。
 聖女殺しの黒衣をはだけさせてみると、それが背中に植え付けられた寄生型オブリビオン――『禿鷹の目の紋章』から全身を浸食するように伸びて行っている様子が窺えた。
 『養分』を与えられず飢餓状態に陥った紋章が、宿主を喰い尽くそうとしているのだ。

「あ、ああ……」

 その底知れぬ闇を抱えた奈落はとうの昔に空(から)となり、乾ききった器は罅割れ、すでに砕けかけていた。
 ……そう、猟兵たちと戦う以前に、すでに『聖女殺し』は衰弱しきっていて、今にも『餓死』しようとしていたのだ。

 ヴァンパイアは強力無比な怪物だが、伝承によれば弱点も多い種族。その最大の脅威である日光がない世界でも、吸血鬼は人間の血を吸わねば生きていけないはずだった。
 それこそが人が家畜のようになってでも生かされている理由なのかもしれないが、彼らは血を通して人の『いのち』を奪い、存在(不死)を維持しているのだ。
 それはまさに『吸血』鬼が吸血鬼と呼ばれる由縁であり、宿業(呪い)でもあった。

 ――だというのに、この吸血鬼(バカ)は。

「……なぁ、俺様の聖女よ――」
「私を、聖女と呼ぶな。……呼ばないで」

 妄執、或いは心残り。
 違う理(ことわり)を持つ、生きものですらないナニカの呼びかけを、シホは今にも泣きだしてしまいそうな、力ない声で拒んだ。
 だって、彼と彼女のいう『聖女』は、

 ――それは暗黒に鎖された世界で道を失い惑う者にとって、唯一の『聖なる存在』。
 ――天上より憐みを垂れる『神が如き者』でもなければ、『惑う者』と共に地獄の中に在って藻掻き傷つき。

 そして、その光は――

「……私は、聖女なんかじゃ……ないです」

 だからプリュイは――『雨降りの聖女』は『世界』を知ろうとしていたのだろう。
 生まれついた場所で『人狼』として迫害されていた少女は、恩人がただ『ヴァンパイア』だからといってそれを忌避することは無く、共に歩める道を探そうとしていたのだ。
 オブリビオン(世界の敵)のことを識らず、自身も『他の皆と違う』ことで虐げられ続けていた少女にとって、変わり者の吸血鬼は『救われるべき』存在だったのだ。

「だって……貴方は……」

 彼は宿命(のろい)に抗っていた。紋章と共に刻まれた宿業(運命)と戦っていた。
 光なき世界で光を探し、道なき道を切り開こうとしている、求道者だった。
 その道の果てに何かの『答え』を探し求める旅人は、彼自身の妄執(願い)の下、オブリビオン(世界の敵)でありながら猟兵たちを敵とも見做していなかったのに。

『あーあ、残酷なことをするもんだ……』
『だけど、お前は何も間違っていない!』
『オブリビオン(世界の敵)は須らく滅せられるべきなのだから、なぁ?』
『一つの例外だって赦されるものか。例え、そこにどんな理由(願い)があろうとも!』

 ……聖痕(呪い)が、ひどく疼いた。

●理想郷
 戦場跡をお婆ちゃんの霊と『老兵』たちに任せ、猟兵たちは聖女殺しへの囮となったシホとテフラに合流しようと急いでいた。

「いい? 着いたら燦さんの循環符をシホに届けるのよ。ちゃんと言う事聞くのよー?」
『わかったー』

 ルルチェリアがマイに言い聞かせる。

「頼んだよ。つまみ食いはだーめ、だぜ」

 そのマイに体を支えられ移動する燦は、元々精気が枯渇寸前の体でユーベルコードを起動し残る力(レベル)さえもプリュイに譲り与えたため、更に衰弱していた。
 シホから伝わる念話では、『聖女殺し』は既にほぼ無力化されているようだが……。

 ルルチェリアなどは半信半疑。

(油断は禁物なのよ。相手は変態なのよ)

 そう……変態の神髄は武力に非ず!
 変態はその肉体ではなく、精神にこそ宿るのだから。表面から観測できる変態性など所詮は氷山の一角に過ぎないのだ。

「コラー変態ー!」

 というわけで、鼠の少女はシホたちの姿が見えるなり、変態を牽制して駆け寄る。

「シホに手を出すんじゃないわよー!」
「クックック……少し遅かったなァ?」
「んなっ!?」

 聖女殺しは余裕ぶった笑みを浮かべ、なんとシホの膝を借り枕にして寝転がっていた。
 洗脳でもされたか、シホはそんな彼を見下ろし、ただ、じっとうつむいたままでいて。

「聖女は既に俺様がおいしくいただいた!」
「!? な、なんてことなの……シホが変態につまみぐいされちゃったのよーっ!」
「こら」

 ショックのあまりよろよろとよろける少女を、燦がちょっと真顔で注意する。

「……た、たすけてくださーい」

 ――そんな時、『救いを求めるだれかの声』が小さく響いた。

「その声は……ああっ、テフラさんが聖女っぽくなってるー!」

 そう、それは今の今までじーっと息を殺して、シリアスがちょっとゆるむタイミングを見計らっていたテフラだ。
 磔台に括られたまま、シホと聖女殺しがシリアスっぽいシーンに突入してしまったため、放置プレイ状態になっていたのだ。

「テフラの聖女姿か……」

 そんなテフラに、むちゃくちゃ具合が悪いハズの燦までちょっと興味を示すが。

「……普段と同じじゃね?」

 テフラは乳白色の髪色は白銀に、紅かった瞳が蒼く変じていたが、口を開けばテフラなので「ああ、テフラだな……」という感じしかしなかったようだ。
 無論、男の娘のままなので平坦であり、その平坦さは一服の清涼感を感じさせてくれるもの。髪や目の変色もそのうち戻ることだろう……猟兵(理の埒外の存在)だし。

「大丈夫? 変なことされなかった? 怪我は……無いみたいね」
「ううっ。せ、聖女殺しに……」

 爛がその束縛を解いてやりながら確かめるも、縛られていた部分が多少赤くなっている程度で他に怪我などはないようだ。
 しかし、何かよほどつらい辱めを受けたのか、テフラはつっかえつっかえ訴える。

「せっ、聖女以外どもは子を作って、いっぱい増えろって言われちゃいましたぁ……!」
「???」
「そ、そんなことっ! わ、わたしたちにはまだ早いですよ~っ!?」
「……あーね。子ども(聖女候補)増やせってことかしらね……そういう方針なのね」

 恥ずかしがってくねくねしだすうさぎを氷みたいな冷たい目で見ながら、爛が呟いた。
 オブリビオン(邪悪な吸血鬼)が善意で動くことなど考えにくいが、それがその妄執――『泣き叫ぶ聖女を喰らいたい欲望』につながる行動であれば話は違ってくる。
 聖女殺しは自らの欲望のために、自分の獲物に手を出す害獣(他の吸血鬼)を殺し回り、人類(聖女を生む土壌)に利するような行動すら取っていたのかもしれない。

「フハハハ! 俺様はねんがんのせいじょを、てにいれたぞ!」

 けれど、『本末転倒』とは誰が言ったか。
 聖女殺しは彼の理想郷――聖女(食事)に事欠かないの世界のため、自らもこの世界から消えようとしているのだった。

●寂滅(旅立ち)の空
「お師匠さま……お師匠さま?」
「……そういうわけでな。子犬、お前などにもはや用はない!」

 プリュイはハイライトの消えた目で、想い人がシホを聖女と呼びデレデレしている光景を見ていたが、やがて聖女殺しがそんな彼女に向けて面倒くさそうに言った。

「目障りだから消えろ、出来損ない」
「………」

 プリュイの目から涙がつうと零れ落ちる。そばに行くことも出来ず、立ちすくむ。

「ち……プリュイの目を見ろ、情が移ってんだろバカップル!」

 そんな聖女殺しを燦が大きな声で咎めた。
 例えプリュイの望みが叶わぬものだとしても、あまりに酷い終わり方をすれば。
 その『いのちの原点』を失くした少女は、きっともう『過去』の重さに耐えられないだろうから。……あと人の恋人返せ!

「情だと? 御目出度い勘違いをしているようだな。そいつは聖女に育ったらあわよくば喰おうと思っていた、キープに過ぎない!」
「……キ、キープ」
「ひゃわわわ……」
「さ、最低なのよー!!!」
「ククク……ヴァンパイアとは冷酷無道な夜の怪物。そういうもの! なのです!!!」

 と、ドン引きする狐さんやうさぎさん、ねずみさんに力説するヴァンパイアは、どちらかというと面白(ネタ)枠な気もするが。

「……ねえ、あの、『捨てられた子どもたち』の霊を向かわせたのは……そうやって、プリュイさんを脱落させたかったの? 戦いから、遠ざけてしまいたかったの……?」

 ずっとうつむいていたシホが沈黙を破って、哀しげな、消え入りそうな声で尋ねた。

 グリモア猟兵は『聖女であることを確かめるように』と言っていたが、それには『聖女では無いことを確かめる』側面もあり――
 猟兵たちの協力が無ければ、彼女はきっとそこで折れてしまっていただろうから。

「もしかして。私たちさえ来なければ――」
「それは違うぞ、俺様の聖女!」

 シホの震える声を遮って、聖女殺しが慌てて弁解しはじめる。

「少々計画が狂ったのは確かだが、クソッタレな『紋章の使命』に抗い続けるのもそろそろ限界が近かったのでな……良いタイミングで来てくれた! さすがは俺様の聖女だ!」

 そうして、うっかりと自白するヴァンパイアに生暖かい目が集まる。

「あー……ああ、なるほどね」
「だから全然攻撃的じゃなくて、やられるために出てきたような子たちだったのね……」
「……結局、甘々なんじゃねえかよ」
「わ、わたしは食べられそうでしたよ!?」
「!??? ……な、何だお前らァ!?」

 本人はバカなので自分が何を言ったか気付いていないようだったが。

「プリュイさん、あなたのお師匠さまも、プリュイさんに生きていてほしいから……」

 そう言ったのだと、シホが暗に伝える。
 例えそれが人の理とは違った『理由』によるものだとしても、それで救われる者が居る――居たことも、確かなのだ。

「………おししょうさまぁ……」
「ええい、クソ! なんだというのだ……何故そこで泣く……ぐぅぅ……っ!」

 ぽろぽろと雨(涙)を零しながら、プリュイがその傍まで歩み寄ると、聖女殺しの取り澄ましていた表情が苦悶に歪む。

「あ、ああ……っ」

 希望の芽を摘む『禿鷹の目の紋章』がその『使命』を果たすべく、とうとう宿主を喰らいつくそうとし始めていたのだ。

「……シホ」
「………」

 燦の問いに、シホは悲し気に首を振った。
 シホの『聖血』を与えれば一時的に延命できる可能性はあったが、『聖女殺し』自身が既にここで終焉(おわり)を迎えることを望んでいた。

 彼自身の『崇高な理想』のために。
 ただ――『消える。それだけだ』と。

「……プリュイさん。言葉って凄いのよ」
「爛さん……」

 大切なひとが苦しむ姿に、何もできずに固まるプリュイへ、爛が呼びかける。

「何か声をかけてあげてちょうだい」
「ずっと、会いたかったんだろう。後悔を残すなよ。……アタシも手伝ってやるから」

 聖女殺しにその気は無くとも、禿鷹の目の紋章の触手はどう動くかは分からない。
 非常にリスキーな場面で、燦は『真の姿』である『慈悲と赦しの稲荷巫女』と成って祈りを捧げはじめた。
 たとえ攻撃されたとしても、愛と気合で生にしがみ付き、最後まで生き足搔くのだ。

 そうして静謐に己が神へと祈り、願う。
 いま(現在)を生きる少女の、たった一つの想いが――切なる願いが届くことを。
 そして業に縛られ、されど業に抗い続けた聖女殺し(オブリビオン)の、安寧を。

(……聖女って全員救う、一番我儘な人のことなのかもね)

 より遠くまでその救いの手を伸ばそうとする姿を、爛は目を細めて見つめる。

 尊いものとそうでないものは、だれが決めるのだろう。
 選ばれなかった者のことなど、価値のない過去(願い)など顧みず――踏みにじったところで、だれも気に留めないはずなのに。

「……ねえ、おししょうさま」

 そうして猟兵たちが見守る中、『雨降りの聖女』が――吸血鬼に救われた少女が想い人に伝えたのは、とても素朴で飾らない言葉。

「おなかは空いていませんか?」
「……俺様の聖女から、たっぷりいただいたばかりだ。間に合っている」

 大切なひとがもしもおなかを空かせているなら、その飢えを癒してあげたかった。

「さむく、ありませんか?」
「聖女の膝の上はあったかくて、やわらかくて、最高だぞォ!」

 冷たい永遠の夜を孤独に彷徨う死者を、一時でもそばであたためてあげたかった。

「夜は、ちゃんと眠れていますか?」
「……ようやく、眠れそうなところだ。お前の心配するようなことは、何もない」

 死の安らぎすら奪い去られた不死者にいつの日か安息が訪れることを願っていた。

「……ほんとうは痛いところがあるのに、だまっていたりはしませんか……?」
「フハハハ! 聖女パゥアーの摂取により、主に全身が絶好調だ……!!!」

 紋章(支配)に抗い苦しんでいることを、打ち明けて欲しかった。

「……うそばっかり。だけど、うそだけじゃなくて……良かった」

 その『痛み』を少しでも拭い去ることができるなら。

 ――たとえ、この身を差し出してでも叶えたかった願い。
 けれど『彼』がそれ(犠牲)を望まないというのなら。

「ねえ、おししょうさま。あなたは――」

 雨降りの聖女が、天へ向け手を伸ばす。
 託された『奇跡』は、もうないけれど。

「おししょうさまは……幸せでしたか?」

 ――空に、極光(オーロラ)が溢れ出る。
 至近距離でのユーベルコードの発動に、既に痛い目をみていた猟兵に緊張が走るが、

「俺様の『理想の聖女』と出会えたのだ、悪くはない。……そうだな、お前が切っ掛けで聖女と会えたのなら、少しは褒めてやろう」

 不思議と『屍肉の触手』が子犬を襲うことは無く、聖女殺しはプリュイを見上げ、穏やかな口調でそう答えた。
 
「ああ、そいつを守ってくれた聖女以外どもにも、礼を言わねばな……ありがとう」

 見上げる夜を彩るのは、薄暗い光を惜しむ月ではなく、全てが青く輝く光の帯。

 ――苦痛を和らげ、幸福な記憶(ゆめ)へと導くオーロラ(極光)は、聖女殺しの好きだった『蒼』の光を降らし続ける。
 光の矢はただ一人の『世界の敵』のために蒼の涙のように注がれ、神秘を映していく。

「ねえ、すごいでしょう? お師匠さま。これは、わたしだけの力ではないけれど……」

 プリュイは止まないなみだを零し、微笑みながら、師のそばにひざまずいて。
 聖女殺しの手を両手で大事そうに包んで、その冷たい手に柔らかなほほをすり寄せた。

「わたしは、あなたにあえて幸せでした。大好きです、お師匠さま。大好き……だから、これからもがんばって、もっともっと、お師匠さま好みの聖女になりますから……」

 ――わたしが立派な聖女になれた時には、また、会いに来てくださいね。

 泰然自若として消滅(ほろび)を受け入れる聖女殺しは、そんな言葉はもう聞こえていないのだろう、答えることは無かった。けれど、彼はどこまでも穏やかな表情を湛えて、

「……子犬よ。お前は、なかなか聖女っぽくならないなぁ……」

 彼は最期に、風変わりな『子犬』と過ごしたその日々(記憶)を思い出していた。

「これじゃぁ……いつまでたっても……食べられないじゃねえか……」

 そう悪態をつきながらも、口元に笑みを浮かべ、蒼い光の粒子となって消えていく。

 宿縁の聖女に看取られ、骸の海に沈む躰も、その穢れた魂さえも解けさせながら。
 世界を崩壊に導く因果から解放されて、二度とは歪んだカタチで蘇らないように……。

(――どうか安らかな眠りを)

 ――慈悲と赦しの稲荷巫女が祈りを捧げ。
 再び目を開いた時にはもう、その姿は消えてしまっていた。

 そうして猟兵たちは、空にはためく蒼の光(オーロラ)に導かれるように、銀の灯を身に纏う何者かが、背に大きな翼を羽ばたかせ――天に上っていく姿を見送ったのだった。

●屍肉を貪る紋章(オブリビオン)
 聖女殺しが消えた大地には、彼のいた(存在)ことを示す証は何一つ残されることは無かった。まるで初めから居なかったように。

 ――なぁ、聖女よ。さっき何でもと言っていただろう? ん?

 否、そこにはただ一つ、『禿鷹の目の紋章』が、触手の集合体のようなオブリビオンが残され蠢いていた。

 ――世話ばかりかけるが、一つ頼めるか。

「……ええ、約束ですから」

 聖痕がいまだ疼いて止まないのは、紋章の生贄に捧げられた者たちの嘆き(怨念)故か。

「シホ、大丈夫……?」
「うん……皆は、手を出さないで」

 そうしてユーベルコード≪【感往】血液を介した魂魄干渉(カンオウ・ブラッドソウルインターフィアレンス)≫を起動させた咎人に、紋章の触手が鋭く伸びて襲い掛かる。
 咎人の鎖がそれを自動的に阻むも、全ては捌けず喰われながら、シホは前へと進んだ。

「私が、やるから」

 ――タスケテ。コロシテ。
 ――ハヤク。ハヤク。ハヤクコロシテ。

 摂取することでその意志を伝えあうことが可能になるシホの血液。伝わってくるのは紋章に魂を縛られた者たちの苦しみ――絶望と悲嘆、そして狂おしいほどの飢餓感だった。

「……っ! どうして、こんなことが……」

 おびただしい数の『いのち』を素材にして造られた、呪わしい紋章(オブリビオン)。
 そこには人間だけではなく、下級ヴァンパイアたちまでもが惜しげもなく大量に生贄に使われ、高級素材――恐らくは『人狼』もが混ぜ込まれているようだった。

「いま――すぐに、楽にしてあげますっ!」

 その身を喰われながら強引に接近し『聖剣』パッシモンで紋章の中心を貫き通す。
 同時に紋章が体内に取り込んだ『聖血』を介してその生命力(存在)を奪い返す。

 ―――ギィ、イイイ……ッ!!!

 紋章は軋むような音を上げ出鱈目に藻掻いていたが、やがて動きを止めるとその肉体(かたち)を徐々に崩壊させていった。
 そうして、その頸木を破壊され解放された者たちもまた、再び眠りにつくのだろう。

(――アァ……アリガトウ……コレデ……)

 白い翼も赤く汚れた、血塗られた聖女へ。

 ――世界の、他のだれに聞くことも出来ない、密やかな感謝の想念(こえ)を残して。

●epilogue(希望と欲望)
 後退していた『闇の救済者』たちが合流し、負傷者が搬送されその後死者たちの弔いまでが終わった後。

「プリュイ」
「……燦さん」

 燦は呆然自失としてうずくまる子犬に声をかけた。短期間であまりに多くのことがあり過ぎて、少女はその感情を処理しきれず、一時的に麻痺してしまっているように見えた。

「お前は……生きろよ。そんでもって、師から継いだものを昇華しな」
「おししょうさまから、ついだもの……?」
「そうだ」

 師を越えてより良きものを生み出すのだ、と叱咤する燦に、プリュイは考え込む。
 お師匠さまは聖女のことばかり考えていたけれど、聖女になりたかったわけではない。理想の聖女になる努力は続けていくとして――他は、……あった。

 そうして、見つけた答えに一つ頷いて。
 『雨降りの聖女』は未来を生きていくための『機会』をくれたその猟兵に告げた。

「聖女はーれむ……」
「……なんて???」
「聖女はーれむを……つくらないと」

 大真面目な顔で決意する少女に、燦は何だかとてつもない間違いを犯してしまったような気になってしまう。

「おししょうさまの、ゆめでしたから」
「お、おう」

 こんな時、どんな顔をして何を言えばいいのだろう? 分からない、わからない……。

「でも、無理はするなよ? もし他にやりたいこと出来たら、それでも良いんだからな」
「あっ……。んぅー……はぁい……」

 分からなかったので、頭と耳(弱点)を撫でて誤魔化し。気持ちよさそうに目を細める子犬に一応そう言い聞かせておく燦。
 聖女殺しからその変態性を一部受け継いでしまっている……かもしれないプリュイが、聖女を育てようとして「お姉さま」などと呼ばれる日もいつか来るのかもしれないが。

(いばらの道……いや、百合の道か?)

 何にせよ、死してなお影響を残す恐ろしいやつ(変態)だった……と、遠い目になりながら、そんなことを思うのだった。

 一方で『闇の救済者』は今回の敗北を故意に広め、これ以上『支配者』たちを刺激しないように、当面はその活動を目立たない影の部分に移す予定のようだ。

 連戦連勝を誇った『傭兵』はついに敗北し、九死一生の所を『猟兵』に救われた。
 その『事実』を以て、『無謀』な反抗作戦を抑止し。また支配者に対抗するための情報収集(根回し)や訓練、解放地域の地盤固めなどに注力するとのこと。

 この世界の空は相も変わらず暗いまま。
 永き夜が明ける気配は未だになかったが、それでも人々はその『夜』に一つ闇を照らす火(希望)を灯して歩むことを選択し――。
 いずれは目に見えぬ地平すら超えて広がっていくのだろうその炎は、護られたのだ。

「と、いうわけでさ」
「……なにが、『というわけ』なの?」

 そこには荒い息をハァハァさせながら、シホを壁際に追い詰める変態狐さんが居た。

「いいだろ……聖女殺しには、色々ペロペロさせてたって聞いたぞ。テフラに」
「………それは、何でも好きなことをさせるって、約束してしまってたから……」

 自分が全くペロペロされなかったからって人に言うなんて、困ったうさぎだ。
 そして、この困ったきつねさんをどうするべきか……血を分け与えるのはいいとして、時と場合というものはある。
 ペロペロされたりチュウチュウされれば、シホだって恥ずかしいのだから。

「ここか、ここをぺろぺろされたのか?」
「………んっ! ……ちょ、ちょっと……」
「またない」

 信じて送り出した彼女が何か敏感になっている気がする件について――そんな議題がきつねさんの脳内で上りかけたが、全然落ち着いてない燦は一先ずそれを棚に上げて。

「……聖女殺しへの嫉妬、というわけさ」
「燦……」

 好き勝手に生きて夜を騒がせた聖女殺し(変態)へのやきもちを焼いてしまい、甘々な吸血プレイをねだる燦(変態)に、押し切られそうになるシホだったという。

 ――おしまい。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2022年05月25日
宿敵 『聖女殺し』を撃破!
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴