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Το αγόρι παίρνει ένα Ἅιδης

#クロムキャバリア #グリモアエフェクト

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#クロムキャバリア
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#グリモアエフェクト


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●Τιποτα δεν παραμενει σε, σε αγόρι
 ――その日、少年は全てを喪った。

 少年はとある町の貧しい家の子であった。
 両親は共働きの中事故に巻き込まれ既に還らぬ人となり。
 唯一残った妹は生まれつき重い病を患っており、治療費を稼ぐ為に少年はとある少国家の商家へと丁稚奉公せざるを得なかった。

 ある日、それを可哀想に思ったのか。
 商家の主人は少年の仕事熱心な姿勢を評価し、少年と妹に二人で暮らせる部屋と、妹の治療費の建て替えを条件に専属の召使いとして正式に雇用を申し立てた。

 ――ああ、これでもう妹に無理も、寂しい想いもさせずに済む!

 喜びを胸に、少年は故郷に妹を迎えに走る。

 ……そして。

 眼前で爆風に飲まれる故郷の姿を、目の当たりにしたのである。

 きっとこれは夢だ。

 そうだ、そうに違いない。

 そう自分に言い聞かせながら炎に呑まれた町の中を駆け回る。
 漂う焼けた肉の臭いに噎せ返りながら、妹の名を呼びながら我が家へと向かうその途中。
 何かにつまずいた感覚と共に、焼かれた熱の残る地面に叩きつけられる。
 その時の柔らかい感触に背筋を寒気が走って。恐る恐る起き上がって振り向いた、その先には。

「――エレナ」

 何よりも大事な、たった一人の肉親――その変わり果てた姿が、そこにあった。

「あ、ああ……エレ、ナ」

 震える手でその焼け焦げた姿の妹を抱き上げる。
 ぼろりと少女の身体の一部だったものが崩れるように落ち。

「あ、あぁ……ああああぁぁあああぁぁぁああああああああッ!!!!!」

 炎の中心で響く慟哭。
 何で、どうしてこんなことに。
 妹が、俺が何をしたというんだ。
 ただ俺たちは、普通に暮らしていたかっただけなのに。

 何で?
 何で?
 何で、何で、何で何で何で何で何で何で――――――!!!

「――許さない」

 絶望と哀しみが憎悪に変わったその時、少年の前にその神機は現れた。

●Και έγινε Θάνατος
「そして少年……名前をアレクセイって言うんだが。
 そいつは目の前に現れた機体に乗って復讐しようとして――殺される」

 苦虫を噛み潰したような顔をして、地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)は予知の内容を集まった皆に伝えていく。
 事の発端は簡単だ。
 少年アレクセイの住む町は、単なる兵器の実験台に使われたのである。
 自分の住む少国家が、戦争に確実に勝つ為の兵器を作り上げる為の実験に。

「ただでさえ両親がいない上に、妹も置き去りにしてでねえと妹を生かす為の薬代すら稼げなかった子供にゃあまりにも酷すぎる仕打ちだと思わねえか?
 俺はアレクセイの気持ちが痛いぐらいにわかる――わかりすぎて辛ェよ。何でこんな時に限って俺が予知しちまうかなあ……」

 凌牙もまた、理不尽に家族を奪われた身である。
 そしてそれもよりによって出稼ぎに出ていた矢先の出来事だったという。
 予知した光景の中の少年は、もしかしたらあり得たかもしれない自分の姿なのだろうと思うと、自分が何とかしてやりたくてたまらない。
 だが、予知を行ったグリモア猟兵が赴くことは、許されない。

「復讐は遂げさせてやりてえ、でもこのままだと感情のままに軍事演習中の部隊の中に突っ込んでそのまま殺されちまう。
 それは絶対にダメだ。本人は今にも辛くて死にたいのかもしれねえけど、ここで死んじまったら本当にあいつの今まで生きてきた人生が何だったんだって話になる。
 妹の為に誰よりも頑張ってた兄貴が報われずに終わるなんて話はあっちゃいけねえんだ!」

 だから頼む、と凌牙は深く頭を下げる。

「アレクセイを止めてくれ。今はあいつが振り上げた復讐の矛を下ろさせるんだ。
 あいつが復讐するべき時は今じゃねえから……!」


御巫咲絢
 先に申し上げておきます。
 MSのロボ知識はせいぜい蒼●のファ●ナーのEXO●USまでとスパ●ボOGぐらい程度です。
 ロボ系わかんないけどって人もお気軽にどうぞ。何故ならMSが一番ふんわりしてるから!!!

 というワケでちょこっとぶりですMSの御巫咲絢です。
 シナリオ閲覧ありがとうございます!御巫のMSが初めてだよって方はお手数ですがMSページの方もご覧頂けますと幸いです。

 ティン!ときてしまったのでついに出してしまいましたクロムキャバリアシナリオ。
 復讐の為に死を司る神機に乗ってしまった少年・アレクセイの死の運命を猟兵の皆様方で変えてください。
 クロムキャバリアの性質上、キャバリアを持っていなくてもキャバリアを借りて乗ることができます。
 また、空を自由に飛ぶことは不可能です。殲禍炎剣の餌食になっちゃいますからね。

●NPCについて
 名前はアレクセイ。凡そ13歳程の少年です。
 唯一の家族であった妹エレナを殺された復讐心からオブリビオンマシンに乗り込み単騎特攻を仕掛けようとしています。
 まだ幼い上何もかもを喪ってしまった為非常に精神が不安定ですが、キャバリアパイロットとしての才能は本物で、磨けば光り輝くものがあります。
 尚完全に復讐心に呑まれている為戦闘中の説得は不可能な為、ボスを撃破して以降の説得になります。ご了承下さい。

●シナリオ解説
 第一章:冥導神機『モルス』との戦闘です。
 死を司るキャバリアであり、アレクセイの復讐心からなる殺意を死を齎す狂気によって増大させています。
 UCの効果の都合、WIZで参戦される方は特にキャバリア搭乗推奨です。

 第二章:アレクセイを救出直後、丁度哨戒中の軍が近づいてくるので何とか上手く巻いて撤退してください。

 第三章:逃げ切った後に立ち寄った街で偶然慰霊祭が行われています。
 アレクセイと似た目に遭った人たちもいるようなので、その人たちも交えつつ彼が少なくともこの先絶望で身を投げるようなことがならないようにしてあげてください。

●プレイング受付について
 断章投下後に受付開始予定です。
 仕事の都合上土日の間にお返しするのがメインになるので、それに合わせてくださるとたいへん助かります。
 のんびりゆったり進行で参ります。

 では、皆様のプレイングをお待ち致しております!
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第1章 ボス戦 『冥導神機『モルス』』

POW   :    RXキャバリアソード『死の運命』
攻撃が命中した対象に【命中箇所から広がり続ける死の呪い】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【生命力・エネルギー枯渇による衰弱の呪い】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    対生物戦殲滅機構『死の眠りの神』
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【機体全身】から【生命力やエネルギーを奪う死の閃光】を放つ。
WIZ   :    有機生命根絶機構『冥界への導き』
自身の【機体全身】から【死滅の波動】を放出し、戦場内全ての【キャバリアに乗らぬ有機生命の生命活動】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。

イラスト:柿坂八鹿

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は槐・白羅です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Μην ξεκινήσετε Δράμα εκδίκησης
 俺の中の絶望が、悲しみが、全て憎悪と殺意に変わった時――それは突然目の前に現れた。

「……キャバリア……?」

 音もなく現れた蒼黒のキャバリア。
 こんなキャバリアは見たことがない。少なくとも俺は初めて見た。
 けれどこいつはまるで、俺に乗れって言っているかのように語りかけてくる。

『――』

 頭の中で声がする。これはキャバリアが俺に語りかけているのか。

『――――』

「…………何言ってるかわかんねえよ。――でも、乗っていいってことなんだな」


 故郷に戻る前、ニュースで聞いた軍の演習。
 それは丁度故郷を少し過ぎた先で行われるとか、そんなことを言っていた。

 きっと最初からそうだったんだ。
 軍事演習という建前で、最初からあそこを実験台にするつもりだったんだと……直感的に悟った。
 軍の連中が妹を殺したんだと。
 元々情勢が良くなかったのは知っていた。どこかに戦争を仕掛けようとも企てていたのもニュースで聞いていた。
 戦争なんてものの為に妹は殺されたんだと。

 町の外れにある小さな湖。
 妹が大好きだったそこに、妹の亡骸を連れて行く。

「……最期まで、何もしてやれなくて、ごめん」

 深い深い湖の底に、妹を静かに沈めて。

「俺はお前と同じところには行けないから……あっちで、父さんと母さんと仲良く過ごしてな」

 もう何も残るものなんてない。
 元から俺には妹しか残されていなかったから。

 だから、これで死んだって別にいい。
 この怒りをぶつけられるなら、どうなったって構わない。
 俺の後ろで静かに水葬を見守っている蒼黒のキャバリアを見上げて。

「力を貸してくれ。妹を……エレナを殺した奴らを全員殺してやるんだ!!」


 ――かくして、少年アレクセイは死を司る神機を駆る。
 冥導神機『モルス』……そのキャバリアには意志があり、死を齎す狂気に満ちているという。
 そしてその狂気はパイロットをも飲み込むことすらあるそうだ。
 あまねく生命に死を齎す為の神機は少年の復讐心からなる殺意を著しく増幅させ、このままでは諸共に滅ぶまで暴れ続けるだろう。
 グリモア猟兵の転移陣は彼が目的としている軍事演習の予定地、その道の途中に猟兵諸君を転送した。
 彼が死地に赴く前に迎え撃つ形となるようだ。

 願わくば、憎悪のあまり死に捕らわれかけている少年の生命を、猟兵諸君が救ってくれんことを祈る。
エリカ・タイラー
復讐のために剣を求めた……いえ、剣が躙り寄って来たのですね。
彼の運命は私にも有り得たのでしょう。剣に呑まれようとしているのなら止めなければ。

しかし、私の技量で彼の才を超えるには……!

「RXキャバリアソード『死の運命』」に対し、ユーベルコード「キャバリア・ドール・エクシーダー」。
キャバリアの操縦能力を上げ、RXサーフブレイドで斬り結びます。
ただし『死の運命』はサーフブレイドに括り付けたからくり人形・ビルトで受け、呪詛耐性で呪いを吸着させます。
そのためにキャバリアを繊細かつ正確に操縦する必要がある。

最大の目的は戦闘を勝利に導くことです。
その為ならある程度のダメージはやむを得ません。



●Το μέλλον των πιθανών δυνατοτήτων
 転移された先のクロムキャバリアの荒野。
 何もない静かなそこに聞こえ来るキャバリアの飛翔音。
 まだ遠くだが、例の少年の駆る神機であろう影が見える――それを捉えたエリカ・タイラー(騎士遣い・f25110)の心中は少しばかり複雑な感情が交錯する。

「(復讐の為に剣を求めた……いえ、剣が躙り寄ってきたのですね)」

 エリカには少年アレクセイの境遇、肉親を喪った経緯……それら全てがとても他人事には思えなかった。
 少年に降り掛かった運命は、少しだけでも歯車がかけ違ったら自らに降りかかることが十二分に有り得ただろうと確信している。
 彼女自身も吸血鬼によって理不尽に肉親と引き離された身であるが故に、尚更のことアレクセイを止めなければと決意する。
 その復讐の念に寄ってきた神機という剣に呑まれる前に。
 そう思考していれば、アレクセイ駆るモルスはエリカの眼と鼻の先にまで迫っていた。

「キャバリア……!?何でこんなとこに」

 急ブレーキをかけ、アレクセイ駆るモルスは剣を構える。

「誰だか知らないがそこをどいてくれ。俺は行かなきゃならないんだ」
「……それはできません」
「何で!……――ああ、そうか。お前も軍の連中だな?なら手間が省けた……!」

 死の運命纏う蒼の剣、その刀身がエリカ駆る『シュヴェールト』に向けられて。

「妹の仇……!!全員、全員ぶっ殺してやる!!」

 剣を構えたモルスが一歩踏み込んだその刹那、まるで高速移動が行われたかのように接近してくる。
 文字通りのゼロ距離。エリカはすぐさまRXサーフブレイドで迎撃し斬り結ぶ。

「(速い……!何て速度。神機とはいえ、ほとんど経験を積んでいない状態でこれだけの高速移動だなんて……)」

かろうじて一撃を喰らうのは避けつつも、その動きに驚きを隠しきれない。
恐らくほとんど乗ったことのないであろうキャバリアで、神機という特に特別な機体に乗っているとは言え、最早縮地とも違わぬ先ほどの動きはアレクセイという少年の持つキャバリアパイロットとしての才能の片鱗を早くも見せつけていた。

「(私の技量で彼の才を越えるには……!)」

 エリカは、元よりキャバリアパイロットとしての適正は高いワケではない。
 当然これまでの経験と技量においては彼女の方が圧倒的に上であるが、天性の才能というものはその長年培った努力の結晶というものを簡単に凌駕してしまえるもの。

 だが、長年培った努力が必ずしも才能の前に敗れ裏切るとも当然限らない。
 エリカはコクピット内の受光機を起動する。
 スーツに内蔵されているユニットによって彼女の十指全てをレーザー光線でコクピットと結びつけ、人形遣いとして人形を操るのと同じ感覚で操作を可能にするユーベルコード【キャバリア・ドール・エクシーダー】。
 決してキャバリアパイロットとしての適正が高いワケではない彼女が、技量を以て才能を越える為の手段。
 一本の矢は折れても、その一本の矢をあらゆる技術を以て補強すれば三本の矢と同じように折れることはない。
 エリカが指を動かせば、まるで人のそれと変わらぬ動きでシュヴェールトはもう一度RXサーフブレイドを構える。

「何だ……!?いきなり動きがリアルになった、ような……いや、関係ない!どうせ全員倒すんだ……!」

 再び剣を構え、アレクセイが一気にモルスで踏み込む。
 その刃をエリカがシュヴェールトで押し止め、踏み止まる。
 死の運命とサーフブレイドが切り結ぶ。何度も、何度も。
 サーフブレイドにくくりつけたからくり人形・ビルトが刀身を受け止めることで剣に纏われた生命を蝕む死の呪いを肩代わりさせ。
 非常に荒削りながらも的確に急所を突かんと才能と機体の力だけで押し通ろうとする剣を、積み重ねた技量の刃で迎え撃つ。
 持てる技術の全てをつぎ込み、繊細かつ正確に操作するシュヴェールトの挙動をモルスは止められない。

「くそっ……全然通らない……っ、このォ!!」

 焦りがさらにアレクセイから思考を奪ったからか、それとも既に身を投げるつもりでいるから防御という発想がないのか。
 無理やりにでも押し通ろうと強引に踏み込み、剣を突き立てようとして――

「ううっ……!?」

――弾かれた。
 シュヴェールトの左肩部をかすめたところをすかさず切り上げるように振るったRXサーフブレイドの一撃が、モルスの剣を持つ手を破壊したのだ。
 だが、冥導神機モルスの持つ死を司る力は、かすめた傷口からであろうとエリカから生命力を奪う。

「これが限界……ですか……!」

 今はまだ呪いの侵蝕がわずかではあるが、このまま継続して戦闘すれば確実に致命傷となるだろう。
 ここは一度下がり、他の猟兵に任せることにした。
 逃げるのか、と叫ぶ少年の声を敢えて聞かぬ振りをして。

「(色々と思うところはありますが……今は私の声など届かないでしょうから)」

 ――それは同じ運命を味わうことになっていたかもしれない者であるが故の思考か。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロラン・ヒュッテンブレナー
○アドリブ絡みOK

とても悲しいことなの…
まだ、何も失ってないぼくじゃ、キミの事を理解してあげられないけど、
せめて、生きて欲しい
ぼくは、それだけ…
だから、止めるの!

非武装のアルターギアに乗って、
殲禍炎剣の範囲ギリギリを真っ直ぐ高速で飛んで接近なの

会敵したら、
白亜の機体にレイラインを輝かせて舞い降り、
生きて欲しいって気持ちを、詠い上げるよ

アルターギア、祭壇モード
ぼくの魔力と詩、演算能力を【限界突破】して増幅
死の閃光を【浄化】する封印【結界術】で、その機体ごと抑え込むの

そこじゃ、お話なんてできないから
だから、出てきて話をしよ?
キミの為に【祈る】よ


ジェイ・ランス
【WIZ】※アドリブ、連携歓迎
■心情
いやまあ、つっちー弟に言われちゃ断れねーつうか、まあ何とかするっつうのは吝かじゃないんだが。
これまた胡散臭っせえキャバリアだな~、いたいけな子供を利用するなんてよくないと思うねオレぁ

てことで……幕引きさせて頂きます。

―――Operation:Dreizehn_Schwarz_Löwe Lauf.

■行動("レーヴェンツァーンTypeⅡ"に搭乗)
"慣性制御術式"、”重力制御術式”によって自機を飛ばし、敵機が視認できる状況でUCを起動します。
その間に、”事象観測術式”から【世界知識】に【ハッキング】。アレクセイの個人情報を知った上で彼の説得を試みます。



●Χαμογελάει ο Θεός σε αυτούς που δεν αγωνίζονται;
「うっわ~、これまたうっさんくっせえキャバリアだな~」

 先の猟兵が撤退した後、入れ替わるようにしてアレクセイの前に姿を現したのはジェイ・ランス(電脳の黒獅子・f24255)。
 まるでその場に湧いて出たかのように突然の出現でアレクセイは思わず驚いて目を見開いた。

「な、何だ!?また邪魔する奴……う、うさぎ……!?」

 なんだかんだで少年か、まずその独特のキャバリアの外観に目が行くようで。
 ジェイの駆るキャバリア、多次元偵察電子機体”レーヴェンツァーンTypeⅡ”はうさぎのような愛らしい見た目をしており、見てわかる通り武装のぶの字もない。
 ――あくまで"キャバリアに一切武装はない"というだけだが。

「な、何だよ。何しにきたんだよ……!」
「いやあ、いたいけな子供を利用するなんてよくないと思うねオレぁ。あー勘違いしないで、キャバリアの方ね」
「な、何ワケのわからないこと言って……邪魔するつもりなのかそうじゃないのかどっちだよ!?」
「その回答で言うなら前者かな。ちょっとお宅を止めないといけない名分があるもんだから」

 知人の頼みとあらば断れないし、何とかしようとするのも吝かではない。
 そう考えてジェイはこうして下り立ったワケであるが――眼の前の蒼黒のキャバリアが復讐の念に燃える少年に近づき、彼を主とするかのように振る舞っているのが気に食わなかった。
 死を齎す狂気がその死を齎す為に必要な素材を集めようとしたかのようで。

「何でさっきから俺を止めようとしたり邪魔する奴ばかりなんだよ……!?俺のことは関係ないだろ!!」
「だからって放っておけないの!」

 上空から響く幼い少年の声。
 それは殲禍炎剣の射程範囲外ギリギリを高速で飛び、二人の間に割って入るように、レイラインを輝かせながら降り立った。
 ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)はコクピットハッチを開け、自らの顔が相手に見えるようにして口を開く。

「あのね、アレクセイさん。お話しよ?」
「何で俺の名前……話って何のだよ。話すことなんか何もないよ、もう何もなくなったんだから……!」
「……」
「いきなりやってきて誰だか知らないけど、そこどけよ。俺はあいつらを殺さなきゃいけないんだ」
「でも軍の人たちは強いから、今のままじゃ殺されちゃう。だからぼくたちは止めにきたの」
「死んだって構うもんかよ……俺には妹しかいなかったんだから……」

 最後のその一言に込められた絶望と悲しみは、ロランには到底測ろうとしても図りきれないものだった。
 ロランは人狼病に罹患こそすれど、家族といった親しい人間を喪った経験はない。
 故に、どれだけ言っても言葉は届かないのだろうと直感的に悟った。
 喪失の経験がない故に、喪失を味わった側の気持ちを理解しきるのは、あまりにも難しいことだ。

「……そんなのは嫌なの。ぼくはキミに生きていて欲しいの。ただ、それだけ……」
「……いきなりやってきてそんなこと言われたって……!」

 アレクセイの感情に呼応するかのようにモルスの眼光が鋭く光る。
 最早寒気なんて可愛いものではない程のものを背に感じ、ロランは一端コクピットのハッチを閉じる。
 モルスのその躯体から禍々しいオーラが溢れ、辺り一体に拡散する。
 それに触れた荒野にわずかに咲いていた花が一瞬にして枯れ果てては風に攫われて。
 少年の嘆きと悲しみに呼応した死滅の波動がモルスの全身から放たれては広がり、このままでは生命すら芽生えぬ死の大地と化してしまうだろう。

「アレクセイさん……!」
「何も知らない奴がいきなりやってきてああだこうだ言うな……!!!俺の何がわかるっていうんだ!!」
「それは……」
「わからない癖に、口を出さないでくれ……!!」

 死滅の波動を放ちながら再び死の運命を手に、モルスはロランの操るアルター・ギアへと接近し、斬りつけようとする。
 ――が、それはジェイによって止められた。

「全く。ホント真っ直ぐな子供を利用してそういうことさせんの、よくないってさっきからオレ言ってるだろ?」

 そう言う彼の背後に姿を現すのは、ユーベルコードによりその場で13基に複製された破断の概念兵装"ツェアライセン"。
 破断の概念によって紡ぎ出された電脳結界が瞬く間にモルスの放つ死滅の波動を抑え込み、かつ重力制御の術式を応用して動きを止めたのだ。

「俺は利用されてなんて……!」
「オブリビオンマシンに乗ってる奴はみんな口を揃えてそう言うんだよなあ~。
 まあちょっと一端落ち着いてくれよ。えーっとアレクセイだっけ?」

 そのままふわふわと慣性制御と重力制御の術式を組み合わせて飛翔しながら、レーヴェンツァーンTypeⅡから事象観測術式を行使。
 目の前の天涯孤独となった少年についての情報を世界知識から抜き出し、目を通す。

「別に復讐するのを止めるつもりはないけどさ、何も今すぐでなくたってよくない?」
「何……?」
「キャバリア乗るのだってこれが初めてなんだろ?そんな状態で突撃したって、どんなに機体の性能が良くても返り討ち。復讐する為に牙を砥ぐのも大事なんじゃないかなー」
「……」
「妹さんの仇――取りたいんだろ?」

 復讐するは彼に在り。止める権利もないし、仮にジェイでなくとも猟兵たちは妹の仇を取るという名分そのものを否定しているワケではないしするつもりはないだろう。
 ただ、それで衝動的に立ち向かって返り討ちに遭うなどという展開は忌避すべきもの。
 全く話を聞き入れてくれる状態ではないとは聞いているが、それでも伝えることを放棄するのは話が別故に。
 ジェイの主張を聞いたアレクセイはしばらくの間何も言わなかった。
それは葛藤をしているのか否か……
 少なくとも、彼のユーベルコードによる電脳結界のリミットが近づくまでは何も答えなかった、のだが。

「……じゃあ次はいつになるんだよ」

 ぽつりと呟いた。
 刹那、電脳結界が薄れると同時にジェイ目掛けて閃光が放たれる。

「うおっと!?」

 半ば不意打ちに近いタイミングでの攻撃。何とか紙一重で躱したが、わずかにかすった位置から生命エネルギーが削られ、それに伴う気だるさがジェイを襲う。
 動けなくなる程ではないが……

「今は我慢しろって言ったって、じゃあ次はいつになるんだよ!!
 明日か!?明後日か!?それとも何年も後か!?!?

 ――それじゃあ遅いんだよッ!!!」

 アレクセイの感情の動きに呼応して、モルスが殲禍炎剣の射程圏外近くを飛び回りながら、死の閃光を放つ。
 それはまるで癇癪を起こした子供のように、手当り次第所構わず攻撃してはその場の大地に根ざす生命たちを根こそぎ殺していく。

「その時がくるまで、妹が死んでしまったことをずっと抱えて独りで生きていけってか!?ふざけんな!!!
 ずっといなくなった悲しみを、心に穴が空いたようなこの感覚をじゃあお前らが何とかしてくれんのかよ!!!!」

 そう叫ぶアレクセイの声は今にも泣きそうな子供のそれだ。
 コクピットに隠れている顔は見えないけれど、ただただ子供がどうしようもない感情を抱えて泣き叫んでいるかのような、そんな風にしか見えない。
 感情のままに手当り次第最早無差別に死の閃光が放たれていく。

「……確かに、まだ何も喪ってないぼくじゃ、キミのことを理解してあげられない」

 だが、それをロランが止めた。
 アルターギアの持つ祭壇としての機能を全稼働させ、浄化の魔力を限界を越えて高めて放った波長がそれを抑え込んでいく。

「でも、でも!理解してあげられないけど、だからって死ぬかもしれないのはぼくは嫌なの。
 せめて、せめてキミには生きて欲しい!だから止めるの!」

 ロランの願いを詩として、魔力を込めて紡がれた結界がモルスごと死の閃光を抑え込む。
 それは風を越え、森の彼方までも届く優しさの具現の形。

「だからね、ぼくはキミとお話がしたいの。
 コクピット(そこ)じゃお話なんてできないから、出てきてお話しよ……?」

 再びコクピットのハッチを開き、手を伸ばして訴える。
 アレクセイは何も言わない。
 それは言葉を決めあぐねているのか、それとも話す余地はないと拒絶してのことか。
 しばらくの間無言の空間が流れて――モルスのコクピットハッチが開く。

「!」

 気持ちが伝わったのだろうかとその時は思った。
 姿を現したのは、ハッチは開けながらも決してそのハンドルからは手を離そうとはしない少年の姿。
 その精神的ショック故か、人智を越える神機を使った代償か。生気が抜けていくかのように色素も抜け落ちつつある、瞳から光を無くした少年アレクセイがそこにいた。

「……頼むから、邪魔をしないでくれ……!!もう俺は生きてたって何もないんだよ……!!」

 だが、放たれた言葉は拒絶のそれであった。
 やはり唯一の肉親を喪った悲しみを抑え込めるだけの心というものは今はないのだろう。

「やっぱり、今はお話してくれないんだね」
「……」
「……じゃあ、ぼくは何度でもお話しにいくの」

 当然、ロランはそれで諦めるつもりはない。
 伸ばしたこの手を取ってくれる時がくるまで、何度でもこうして話をする、と。
 二人の会話は今は少年を止めきるには値しなかったが、確かに何かしらの影響を与えたことは間違いない。
 こうして今、どんな表情をしているのかを見せてくれたことがその証明。
 少しでも心に揺らぎが生まれたのは、確かだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

六識・戦
……俺は外の世界を知らないが。
この世界も『俺の世界』と変わらないと、言える。
弱者が理不尽に晒されて、生き方を『歪められる』世界なんだと。

――俺はこういう経験は無かったんだが。使えるなら使おう。
『陸識』に接続、搭乗。
この感覚が身体の延長だというなら、【域識】も問題無く使える筈だ。

キャバリアも『機械』だというのは識っている。
【データ攻撃】【ハッキング】の波状攻撃を【早業】で仕掛けながら
【空中機動】で素早く距離を詰め、
キャバリア用の『裁識』(巨大版)で【鎧無視攻撃】を仕掛ける。
――流石に急所は外すが。

俺は適切な答えは持ち合わせていない。けれどこれだけは言える。
『お前は俺のように兵器になる必要はない』



●Μπουμπούκια, βρεγμένα από θλίψη, ακόμα μη ανοιχτά
 六識・戦(殲術兵器六式EXA・f36627)は外の世界を知らない。
 故にある意味で無垢である。
 あらゆる世界の物事も事象も、ほとんどフィルタなく目にし、解釈してはその概念を咀嚼する。
 そんな彼の目に映るクロムキャバリアという世界は。

「(この世界も『俺の世界』と変わらないと、言える)」

 弱者が理不尽に晒され、生き方を『歪められる』――そんな世界だった。
 この世界は空を飛ぶことはできないが、骸の海に侵されることはない。
 機械化義体に換装しなければ生きていけないなどと言うこともない。
 けれど弱者に襲い来る理不尽というものは一切変わらないのだと、当事者の少年の話を聞いて半ば確信に近い感情を抱いた。

「(――こういう経験はなかったんだが)」

 使えるならば使うまで。
 どこから持ってきたのか、保護者に渡されたジャイアントキャバリア『陸識』に自らを接続して搭乗。
 手を握っては開いて、自らの感覚の延長であることを認識して。

「何で、さっきからどいつもこいつも……!!」

 いざ向かえば挨拶代わりと言わんばかりにアレクセイはモルスを飛翔させ死の閃光を放ってくる。
 高速で移動しながら降り注ぐ生命を奪う光。躱すことが可能な範囲だが、確かに初めて乗っているにしては精度は高い。
 かく言う戦自身もキャバリアに乗るのは初めてだが、元より兵器として調整された彼自身に刻み込まれた戦闘知識から凡その推測は立てられる。

「何で、どうしてみんなして俺なんかのことを止めにくるんだ……!?全くの赤の他人じゃないか……!」
「――俺は、それに対する適切な答えは持ち合わせていない」
「答えられないのに止めにくるのかよ!!」
「それが今俺のするべきことだからだ」
「何だよそれ……っ!?」

 その時、アレクセイの耳に入るのはサイレンのような音。

「な、何だ……!?エラー……?何で、そんなっ」
「……キャバリアも『機械』だというのは識っている」

 機械であるならば、プログラムそのものに干渉してしまえば動きを封じるのは容易い。
 このクロムキャバリアという世界においてもハッキングによるスパム攻撃というものは非常に相性が良い。
 例えそれが神機と言われる常軌を逸脱したものであろうとも、同じく上記を逸脱した存在、生命の埒外にある猟兵なればハッキングという干渉方法で封じることは難しくはない。
 モルスの出力はたちまち低下し、アレクセイがいくら動かそうとしてもびくともしない。
 そもそも、プログラムに対するハッキング攻撃への対策などキャバリアに今まで乗ったことのない少年――ましてや殺意で視野が狭くなっている状態であるなら尚更思い至るハズもなく。

「――っ!!!」

 高速空中機動であっという間に距離を詰められた『陸識』の巨大な大鎌――彼の愛用武器である『裁識』、そのキャバリア用――により装甲ごと切り刻まれたのであった。
 モルスの片腕が宙を舞い、荒野に突き刺さる。
 だが急所を外した一撃故に、一応動くことのできる余裕は残されていた……あくまでモルスが動く余裕であって、アレクセイ本人の精神的な余裕は別であるが。

「……適切な答えは持ち合わせてはいない、けれどこれだけは言える。
 
 ――『お前は、俺のように兵器になる必要はない』」

 少年の生き方は妹の死で完全に歪められてしまった。
 だが、だからといって人間であることをやめる必要も、生命を投げ捨てる必要もない。
 ただの一『商品』に過ぎなかった自分が、こうして自我を手にして自分自身を探すことができているように、アレクセイ自身も他の道を見つけられるハズだ、と。
 歪められた人生に元の『普通』の色を取り戻すことは、今からだって間に合うだろう。
 もちろん今はそんなことを言っても届かないのだろうが、だからといって言わないよりはよっぽど良い――そう信じて。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジン・マキハラ
唯一の肉親を殺されたその怒りは最もだ。だがだからと言って命を無駄にする様な行為を認める訳にはいかないな。

俺個人の判断など君からすればどうでも良い事だろうがそれでも俺は全力で君を止めさせて貰うぞ。

俺とキャバリアとじゃ体格が違いすぎるだろうがこちらとて永久機関を搭載したサイボーグだ。

ただでは負けんよ、寧ろ体格差を利用してキャバリアの攻撃を掻い潜り、内蔵兵装の滑空砲やレーザーなどで関節部やスラスターなどに攻撃を加え全力で撹乱を行う。

その剣の力は周りにとって脅威だ。だから折らせてもらう。よしんば折れずともその死の呪いは断ち切らせて貰う!

キャバリアの体勢が崩れたらUCを発動しキャバリアソードの腹に永久機関のエネルギーを込めた全力の一撃を叩き込む

ここで君を死なせる訳にはいかない、何が何でもその機体から出て貰うぞ!


カシム・ディーン
「ご主人サマ!モルちゃんだよ!」
…胸糞わりーな
モルスの奴も同情でもしたか?

ぶっちゃけあの機体なら普通に軍を壊滅させるのはいけると思うがな…?
技量の問題か

【戦闘知識・情報収集・視力】
モルスの動きと攻撃の癖の把握
更に機体の状態と無力化と「モルス自体」の狂気の根源を捕捉
死の閃光の方向性も分析


さて…今迄成功した試しはねーし自信はねーですが…やってやる

UC発動
【念動力・空中戦・武器受け・属性攻撃】
念動障壁に生命属性を付与して死の閃光への相殺手段とする

よぅ…僕には家族も兄弟姉妹もいねーからお前の気持ちはわかりません
だが推測はできる
今のお前では復讐も果たせず死ぬってな
命を捨てて復讐してーなら成功させやがれ

まぁ聞かねーですよね

【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み・浄化】
鎌剣で襲い掛かり切り刻みつつ何より武器を強奪

やれやれモルス…おめーは白髪幼女になれる愉快機体だろ?本来の自分を思い出しやがれ

更に狂気の根源でありオブビリオンマシン化の元凶部分を鎌剣で切り裂き
同時に浄化してモルスと少年の狂気の祓いを狙う



●Το στολίδι της ζωής που άρπαξα για να μην ξεχειλίσει από την παλάμη μου
「くそっ!やっと動いた……!」

 強力なSPAM攻撃によって麻痺していたモルスを再び動かすことに成功したアレクセイ。
 機体の損傷は大分重なってきていた。何よりも先程の一撃によって片腕を削がれたことは何よりも大きな痛手だろう。

「腕……くっつけるのは無理、だよな……」

 流石に神機と言えど、その機体の損傷を修復する機能がついているワケではない。このまま片腕で行くしかないだろう。
 尤も、この神機が死を司ると言われるだけの所以を、僅かな戦いの間でもアレクセイは身に沁みて実感していた。
 だからこそ一矢報いることはできるだろうと確信――という名の思い込み――をしている。
 それが自らの視野が狭くなったが故の妄想で、このまま向かっても訪れるのは自らの死ひとつのみであることを、当然当事者が知る由もない故に。

 "せめて、せめてキミには生きて欲しい!だから止めるの!"
 "復讐する為に牙を砥ぐのも大事なんじゃないかなー。妹さんの仇――取りたいんだろ?"
 "『お前は、俺のように兵器になる必要はない』"

「……っ!!」

 脳裏に反響する言葉を振り払うように頭を振る。
 どうしてこうも邪魔をされるのか。
 少年の心に生まれた揺らぎは、大きくなりつつあった。
 だが、それでも止まらない理由は明白だ。
 クロムキャバリアの子供たちもまた、毎日を生きるのすら必死にならざるを得ない。
 目的があるならば尚更――そして、アレクセイにとってそれは妹の病を治療し、楽に生活させてやりたいというたったひとつだけだったのだ。
 それすら奪われれば、自暴自棄になるのも当然の帰結であれば、生きることを諦めるのも至極当然の思考パターンなのである。
 そして、踏み止まるという発想そのものを捨て去ることも。
 アレクセイがコクピットのハンドルを再び握り、モルスを動かし歩を進め始める。


「――いたいた!ご主人サマ!モルちゃんだよ!」
「そんな騒がなくても聞こえてるっつーの」

 が、アレクセイの意志に反してまたしても立ちはだかる者がいた。
 可愛らしい少女とそれに悪態を着く少年の声が響いたと思いきや、モルスがまるで共鳴するかのように唸りを上げる。
 現れたのはカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)、モルスと同じ神機の一つ、メルシーこと『メルクリウス』のパイロットとして選ばれた天才魔術盗賊である。

「な、何だ!?キャバリアが喋った!?」
「初めまして!メルシーって呼んでね☆」
「いやそこで気さくに挨拶するタイミングじゃねーだろ今」
「だってモルちゃんが気にかけてる子だもん~」
「まあそりゃ、モルスの奴も同情でもしたんだろうよ」

 カシムもメルシーも、アレクセイの受けた仕打ちはあまりにも胸糞が悪いと思わずにはいられない。
 そして二人はモルスという神機の本来の人格を知っている。
 死を司るが故に無垢とも言える神機は、きっと少年に救いの手を差し伸べたかったのかもしれない。
 ただそれが、少しばかり死の狂気に呑まれて歪んでしまったというだけで。

 しかしそれはそれとして、アレクセイはいきなりの展開に完全に思考が停止して固まっていた。

「ほら!!おめーのせいで完全に固まってんじゃねーか!!!」
「ええ――!?挨拶しただけじゃん!メルシー悪くなくない!?」
「……む?もう解決した……のか?」

 そこに遅れて駆けつけたジン・マキハラ(ブレイズ・オブ・マキナ・f36251)は首を傾げる。
 何せ話に聞いていたよりも大分、そう、だ――――――いぶゆるっとした空気が漂っているのだから。

「いや全然解決してません!!そっちも止めにきたんならそんまま加勢してくれた方がめちゃくちゃ助かります!!」
「状況が全く飲み込めないが、止めなければならないのは変わらないようだな。了解した」
「……はっ!?また増えた!?何でこうも次々やってくるんだよ!?」

 立ちはだかる影が二人から三人――正確には二人と一機、と表した方が正しいだろうが――になってアレクセイも我に返り、警戒するように死の運命纏う剣を構えて距離を取る。

「……何だよ。お前たちも死ににいくなとかそういうこと言うのかよ。放っとけってさっきから言ってんだろ……!」
「唯一の肉親を殺されたその怒りは尤もだ。……が、だからといって生命を無駄にするような行為を認めるワケにはいかないな」
「ああもうどいつもこいつも!!俺にはもう何も残されてないのに、全部奪われたのに選ぶことすら奪おうってのかよ!!」

 問われればジンが答えをを返す。
 だがどう返しても火に油を注ぐ行為と変わりない状況だ。
 ただでさえ極限の精神状態、そこに水を差す行為をしているようなもの故に猟兵たちが敵に見えるのは当然のことだろう。
 どの道穏便に終わらせるのは現時点では難しいが……そこで敢えてカシムが油の代わりに爆弾を落とす。

「もっとはっきり言ってやろうか。お前の気持ちはわかりません、だが推測はできる。

 ――今のお前では復讐も果たせず死ぬってな」

 煽り焚き付けるにはあまりにも的確すぎる一言。
 刹那、モルスの残した片腕が再び握った剣の切っ先がカシムに向けられた。

「やってみなきゃ、わかんないだろ……!」
「まあぶっちゃけその機体なら普通に軍を壊滅させる自体はできますよ。"パイロットが優秀なら"ね」

 敢えてアレクセイの怒りをさらに煽っていくカシム。
 実際問題、指摘としては尤もではある。
 モルス自体の秘めるポテンシャルはとてつもないもので、クロムキャバリアの少国家の一軍隊を壊滅など赤子の手をひねるように容易い。
 ……だが、どんなに力を持ったキャバリアであろうとパイロットの技量次第で玉があっという間に石になる。

「お前に何がわかるんだよ!」
「さっき言ったでしょうが、分かりませんよお前の気持ちなんか。僕には家族も兄弟姉妹もいねーもんですから?
 ただな――生命を捨てて復讐してーなら成功させやがれってんだよ」

 『メルクリウス』から力の奔流が迸る。
 その圧倒的なエネルギー量と"圧"が、今までロクな戦闘経験すらなかったアレクセイですらこの相手が絶対に一筋縄ではいかないことを嫌でも理解させる。
 だがだからとて後には引けない。

「……っ、そんなに言うならやってやるよ……お前らをぶっ倒してからな!!」

 片腕がもげていようとそこまで言われたならやってやると、アレクセイの怒りの炎が復讐とは別の方向へも燃え始めた。
 憎悪のぶつける先を変えたとも解釈できるだろうか。

「まあ聞かねーですよね」

 知ってた、とため息を着くカシムだが、敢えてそうしてぶつける先を変えることこそ彼の意図なのだろう。
 少なくとも隣で会話の応酬を聞いていたジンにはそういう解釈にしか聞こえなかった。 

「肉体言語でなければ今は聞きやしないからとはいえ、露骨に煽りすぎじゃないか?」
「いいんですよこんぐらいしときゃ。下手に燻るよかマシですよ、どうせ止めたら止めたで生きる希望無くした状態から始まるんですしね」
「――確かに、怒りの感情ぐらいは吐き出せる方が健全か」
「まあ、僕は先にちょいと分析入るんですぐには動けませんけど……」
「ならその間の時間は俺が作ろう。何、体格が違いすぎるだろうがこちらとて永久機関を搭載したサイボーグだ。ただでは負けんよ」
「頼もし~!ありがとジンくん、しばらくよろしくねっ!」

 メルクリウスの姿がまるでその場に溶けるかのように消えていく。
 どこに消えた、とアレクセイ駆るモルスが追いかけようとする前に一人立ちはだかるは少年から見ればただの人間――に、しか見えないサイボーグ一人。

「そこどけよ!キャバリアにただの人間が勝てるワケないだろ!」
「残念ながら、俺はただの人間じゃない。尤も、俺個人の判断など君からすればどうでも良いことだろうが……それでも、全力で君を止めさせてもらうぞ」

 蒼き炎の形をした覇気が、胸に埋め込まれた永久機関から溢れ出す。
 それは神機から迸る力の奔流にも決して劣ることのない終焉の炎獄が生み出す力。
 先程のメルクリウスに感じたのと同じ寒気がアレクセイの背を駆け巡る。

「っ……この、命知らずッ!!」

 あまりにも矛盾を孕んだ叫びと共に、ジンの3倍近くはある神機モルスの死の運命纏う剣が振りかぶられ……大地を砕く。

「躱した……!?どこに……っうわ!!」

 不意を打つように撃たれたレーザーがモルスの肩部をかすめる。
 大きく振り被られた剣が大地を抉るよりも速くジンが踏み込み、体格差を利用してキャバリアの足元から後ろに回り込みレーザーによる牽制射撃を放ったのである。
 続けてジンは自らに内包された滑空砲を取り出し弾幕を作る勢いで連射する。
 剣を盾にするだけでは受けきれない程の量の弾丸、だがそれらは全てコクピット部に飛ぶことはなく、モルスのスラスター部や関節部を狙って飛んでいく。
 キャバリアに限らずウォーマシンなどでもそうだが、関節部は大きな弱点であり、たった一箇所壊れただけであっという間にその部位へと至る操作信号を繋げるコードが全て千切られてしまう。
 逆に言えば、そうして行動不能にさえしてしまえば後はコクピットから出すだけで良い。
 あらゆる機体の弱点とも言える場所を狙う攻撃は、ある意味でキャバリア戦において相手を"生かす"戦いに特効とも言える性能を誇っているのだ。
 何とか躱すものの、スラスター部は半分負傷し、左脚部がショートして動きが鈍り始めた。

「っ、この……ならっ!」

 だがその半分性能が死んだスラスターを使い、モルスが殲禍炎剣の射程圏外ギリギリのラインを飛翔する。
 接近されて射撃されては間違いなく勝ち目がないと踏んだのだろう、自らも射撃戦に切り替えたのだ。
 半分死んでいるとはいえ常人からしたら目にも留まらぬ速さで飛び、死を齎す光を放つモルス。
 あらゆる生命を枯らす閃光が雨のようになってジンへと襲いかかるが、彼はそれをも軽々と躱していくどころかむしろ滑空砲から放つレーザーをブースター代わりにして同じように飛び上がり肉薄すらやってのける!

「なっ……!?」
「今の閃光もだが――その剣の力は周りにとって脅威だ。だから折らせてもらう――よしんば折れずとも、その死の呪いは断ち切らせてもらう!」
「んなの、知ったこっちゃないッ!!」

 ただ飛び上がっただけならと普段の半分しか出力のないスラスターを使い壊す気でアレクセイはモルスを動かして距離を取り、再び死の閃光を放つ。
 だが、逆に飛び上がっただけであるが故に真っ直ぐに放ったところで当たりはしない。
 下手な鉄砲数撃ちゃ何とやら――それでもアレクセイは何度も何度もモルスから死の閃光を放ち、ジンはそれを掻い潜って再び接近するタイミングを伺う。

 ……そして、その間に迷彩で姿を隠したカシムはメルシーと共にモルスの分析を続ける。
 メルクリウスに搭載されたあらゆる機能とこれまでの知識、そしてカシムの盗賊としての優れた視力を以てその性能を丸裸にする勢いでデータを収集していく。

「ジンくん凄いね……!」
「それに何とか抵抗してるあいつも中々だな……さっきああは言ったけど戦いながら成長してないかあいつ……?
 いや、んなこと言ってねーで手ェ動かせよ!」
「動かしてるよ~~!モルちゃんの狂気の根源の位置は凡そ割れました!だいたいの閃光の方向性もわかってきたよ!」
「ならよし。……さて。今まで成功した試しはねーし自信はねーですが……やってやる。

 ――加速装置起動……メルクリウス……お前の力を見せてみろ……!!」

 【『速足で駆ける者』(ブーツオブヘルメース)】。
 かの盗賊の守護神と称される神の名を戴くに相応しい高速――否、神速を以て、カシムは死の閃光降り注ぐ戦場の真っ只中に突っ込む!

「なっ……」

 今までどこにも姿を見せなかったメルクリウスが突然突っ込んできたことによりアレクセイは驚き、反射的に死の閃光を放つ。
 だがメルクリウスを覆う念動障壁に付与された生命の力が死を齎す呪詛を阻んで相殺。
 その一撃に怯むことなく鎌剣を手にさらにカシムは踏み込んでいく。
 接近戦に対抗すべく、アレクセイもまたモルスの握る剣を構えるが、当然時速12100km/hの速度、それをさらに三倍にまで引き上げる一撃に抵抗できるハズもない。
 直感的に急所となりうる場所だけはその剣で受け止めているという、逆にとんでもない技をやってのけるとかいうことをするものだから思わず「はあ?」とカシムは声を上げた。

「どういう勘の良さしてんだお前!さっきの言葉訂正してやりますよ、直感だけで何発か防ぎやがるなんざ熟練パイロットだって簡単にできやしねー!」
「は、速……動きが見えな……うわっ!」

 モルスの背後からレーザーがぶつかり、スラスター部が爆発!
 カシムの攻撃に防戦一方になっている間に再びジンが回り込みレーザーを一撃見舞ったのだ。
 飛翔機能を喪失したモルスはギリギリのラインから真下へと、重力の補正に抗えず一直線に落ちていく。
 このまま墜落すればアレクセイも流石にただでは済まないだろう――だがそれを看過する為にジンはモルスを攻撃したワケではない。
 そしてカシムもこれを好機と浄化の力を鎌剣に纏わせ、最後の一撃を振るう!

「モルス!おめーは白髪幼女になれる愉快機体だろ?本来の自分を思い出しやがれ!!」

 浄化の一撃がモルスの首――狂気の根源を直接叩く。
 響き渡るこの世のものとは思えない、悲鳴にも似たエラー音。
 瞬間、狂気の根源が死の運命纏う剣をメルクリウスに突き立てようとアレクセイの意を無視してモルスを突き動かすが――その一撃をジンが永久機関の力を限界まで凝縮させ纏った拳をぶつけ、狙いを逸らす!

「"罪深き者よ――汝、虚無の果てに堕ちるべし"!!」

 【アクティブヴォイド・ゼロドライブ】の一撃が死の運命ごと剣を叩き折る。
 死の狂気の抵抗は虚しく終わり、カシムによる浄化の一撃によって、おぞましいエラー音を立てながらモルスから謎の黒いエネルギーが放出されて空に消える。
 これによって狂気は取り除かれた。後は中にいるアレクセイを救出するだけ。
 地にモルスが堕ちるまで、あと数秒――

「ここで君を死なせるワケにはいかない……何が何でも!」

 だがその数秒で、永久機関の力を最大出力したジンがモルスのコクピットハッチを無理やりに剥がし、その中からアレクセイを引っ張り出す!
 そしてカシムがアレクセイごとジンをメルクリウスの手で受け止めて即座に距離を放し――

 その時はきた。
 地面に叩きつけられた神機の躯体。
 派手に鳴り響く爆音。
 灼熱とすら錯覚する程の熱風が、その日荒野を駆け抜けた――。
 
 メルクリウスの念動障壁により、カシムもジンも、そしてアレクセイもその影響を受けることはない。
 爆風が収まった後、カシムはコクピットのハッチを開けてジンに声をかける。

「生きてますよね?」
「ああ、脈はあるし呼吸もしている。気を失っているだけだ」
「よかったあ……!」
「ああ、本当によかった」
「やれやれ……」

 メルシーが心からの安堵の息を漏らし、カシムはふう、と疲れたかのように息を吐いてコクピットの椅子に背を預ける。
 メルクリウスの手の中でジンに抱きかかえられた少年は、すっかりその髪から色素というものが消えてしまったが、その生命の鼓動は決して潰えることなく鳴り響く。
 それは少年の死の運命を回避したという事実の、何よりの証明に他ならなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『警戒網突破』

POW   :    仲間を安全に行動させる為、敢えて自分が派手に動く

SPD   :    周囲の地形を把握し、死角を利用しながら行動する

WIZ   :    レーダー装置やカメラを破壊し、敵の索敵を妨害する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Απόδραση χωρίς ανάπαυση

 ――かくして、少年の死の未来は回避された。
 アレクセイは見たところ生命に別状はないが、慣れないキャバリアを動かしたことによる疲労も相まってか当分目を覚ます気配はない。
 こんなところに置いておくワケには当然いかないので、どこかしら休める場所で休ませてやる必要があるだろう。

 ……だが。
 まだ終わりではない。
 当然の話だが、無人だからとて荒野でドンパチなんぞやって派手にキャバリアが爆発なぞ起こせばある程度の距離までは人に感づかれるワケで。

『爆心地と思しき区域に複数の怪しい人物とキャバリアを発見!識別コード不明!』
『敵国の侵略の可能性有り!包囲して迎撃せよ!』

 やってきたのは恐らく哨戒中と思われる量産型キャバリアが数機程。
 遠くからキャバリアの駆動音も聞こえてきている辺り、まだまだ数が増えそうな気配である。
 それもそうだろう、何せこのままだと軍事演習中の軍隊の中に突っ込むことになっていたのだから。

 猟兵たちは直感的に思った。
 ――この軍は話を聞いてくれる気がしない、と。
 軍事強化の為に自国の町を平気で兵器の実験台にするような国だ、末端はどうであれど大半は聞く耳を持たないのがよくあるセオリーである。

 少年を連れてどう脱出するか、諸君らの機転が今問われている――……
ジェイ・ランス
【SPD】※アドリブ、連携歓迎
■心情
アレクセイちゃんは無事かー、よかった。
んじゃ、一先ずズラかるとしましょうかねえ。

―――Ubel:Code Löwe_Illusion Dame.

じゃ、いきますか。

■行動
”事象観測術式”による【世界知識】より周辺情報(空気感、匂いなどに至るまで)全てを【情報収集】し、UCを展開。アレクセイや、オブリビオンマシンの痕跡全てを【目立たない】ように【ジャミング/迷彩】します。
自身も熱光学【迷彩】を展開して隠れ(地形の利用)、敵機をやり過ごします。

やれやれ、こっからどうすっかねえ?



●πηγαίνω κάπου?
「アレクセイちゃんは無事かー、よかったよかった」

 ジェイ・ランス(電脳の黒獅子・f24255)はひとまず一難が去ったことに安堵する。
 疲れはあるが脈拍は正常、呼吸もしているなら回復するのに時間はかからないだろう。
 それよりもまずは迫りくるまた一難の対処が求められている。

「ズラかるとしましょうかねえ……とは思うけど、色々やりたいことありそうな感じっぽいね」

 ここまでにこの事態を何とかする為に駆けつけた猟兵たちと、先程までアレクセイが搭乗していたモルスだったキャバリアの残骸を眺めて。
 立つ鳥跡を濁さず――ただ逃げるにしてもこのキャバリアの残骸をこのまま捨て置くワケには当然いかない。
 何せこのキャバリアは死という概念を司る冥導の神機、自国の町を平気で実験台にするような国に捨て置けばどうなるかは考えなくともわかる。
間違いなく最悪な方向に向かうに違いなく、それはジェイ自らの持つ役割としても望ましいことではない。
 この国に生きる人々により良い未来に向かうには、ここでただ逃げるだけで終わってはならないだろう。
 なら、まずは逃亡の準備を整え終える為の時間が必要だ。
 まだ敵軍が完全にこちらとエンゲージするまで時間はあり、それが確保できるならジェイにとってこの事態をうまく誤魔化すなど造作もない。
 "事象観測術式”を展開し、ジェイは自らの頭に現在自分たちがいる周辺の情報をとにかくかき集める。
 その時の気温、地形、天気、空気感、漂う匂い、そこに根ざす植物――今自分たちがいる場を構成する”要素”全てをデータとして集積し、ユーベルコードを起動する。

「―――Ubel:Code Löwe_Illusion Dame.」

 プログラム起動のシステムメッセージのような起動詠唱句を以て紡がれるは【獅子の幻影(ローヴェンイルジオン)】。
 凡そ114㎥までの規模であればそれらを模倣したモノを造り上げるユーベルコード。
 ジェイはこれを使って自分たちがいる周辺の環境を残像として作り上げ、自分たちの上に”乗せた”。
 この手の創造系のユーベルコードは術者によって得意とする物が違い、ジェイが得意とするのは"自らで集めた情報を元にした"残像である。
 世界のあらゆる事象を観測する術式を以て集めたあらゆるデータから構築された残像は極めて精巧な造りをしており、一目で残像だと見抜くのは――猟兵や幹部級のオブリビオンであれば可能かもしれないが――一国の軍隊程度のキャバリアパイロットではまず、不可能だろう。
 さらにそこにキャバリアの放つ電磁波等のキャッチを阻害する為のジャミング用電波を拵えて展開しておけば……

『あ、あれ!?さっきまであそこに何かいたハズなのに!』
『そんなバカな!いったいどこに消えた!?敵の妨害か!?』

 ……と、あっという間に混乱に陥ってしまうワケだ。
 仮に仕組みに気づかれても良いように自らにも熱工学の迷彩を重ねがけし、ジェイは引き続き妨害電波を放ち軍隊のレーダーを阻害しつつ。

「やれやれ、こっからどうすっかねえ?」

 キャバリアは仲間たちが何とかしてくれるとして、問題は"逃げ先”だ。
 アレクセイを休ませてやることができて、その上いきなり戦乱に巻き込まれることのない穏やかな地が良いだろう。
 心身ともに疲れ切っている状態なのだから、戦いとは少なくとも無縁な地で休ませるべきである故に。
 キャバリアの残骸の処理が終わり逃げる準備が整うまで、ジェイは観測術式を展開して戦火から遠い地を見繕うことにしたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロラン・ヒュッテンブレナー
○アドリブ絡みOK

さすがに動きが速いの
殲禍炎剣の射程ギリギリまで飛び上がって、魔力感知(【第六感】)を機体のAIと魔導回路で増幅して【情報収集】、
他の猟兵のみんなと情報交換するの

ここから離脱するのは難しくないけど、アレクセイさんを連れ出すなら…、
足止めがいるよね?

【オーラ防御】の【結界術】を広域展開してアレクセイさんやみんなを守りながら、
撃破された相手キャバリアに【ハッキング】、プログラムコードなどを読み取るの
分析して、対抗できるプログラムを満月の魔力と咆哮に乗せて放つよ
戦場に響け、狼の慟哭!
UC発動『うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!』
プログラムバグを起こして足止めなの

今のうちに行って!


カシム・ディーン
取り合えずだ…
此奴等容赦なく蹴散らすのも悪くねーが
「解決するわけじゃないもんねー?」(鶏立体映像
つーわけで

【戦闘知識・情報収集・視力】
敵軍の陣形と脱出ルート
効率的に迎撃し無力化させるのに足る此方の陣形を分析
UC発動

105体
【属性攻撃・捕食・二回攻撃・切断】
一体のキャバリアに数体で襲い掛かり四肢に食らい付いて切断
無力化させる
一応搭乗者などの不殺徹底

残りは己達の護衛
【念動力・弾幕・属性攻撃】
念動障壁を展開しつつ凍結レーザーで凍らせての無力化を狙

モルスの回収を行う

オブビリオン化の影響は払った
後は…此奴次第だな
白羅も確か壊れたモルスを修復して乗ったらしいしな?
「どうするのー?」
ああ…彼奴にやりますよ



●Ο λύκος και ο δράκος ουρλιάζουν στην πανσέληνο πριν τρέξουν
 ジェイのユーベルコードによって貼られた残像の規模、凡そ114㎥。
 つまり、そこまでの範囲は覆い隠すことが可能なワケである。
 そしてそのラインを越えさえしなければ索敵だろうが何をしようが有りなのだ。

「さすがに動きが速いの……」

 殲禍炎剣の射程圏外ギリギリまで飛び上がり、生来の魔力感知能力を機体のAIと魔導回路で増幅させるロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)。
 敵軍は姿を消したこちらに戸惑ってはいるようだが、方向を変えることは決してなく。
 おかげで感知によって相手の凡その情報を読み取れるワケだが……

「普通のクロムキャバリアの国の軍隊さん、って感じなの」
「まーそうでしょうね。とはいえ、此奴ら容赦なく蹴散らすのも悪くねーが……」
「解決するワケじゃないもんねー?」

 ロランからの情報を聞きながらボロボロになったモルスの回収を行うカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)。
 回収の手筈を整えながら、頭に乗っている鶏の姿をしたメルシーがちゃきちゃきと脱出ルートの算出や敵陣の陣形や戦術などの凡その分析を行っている様はまさに器用の一言である。

「よし、これでオブリビオン化の影響は払えたな。あとは……」

 此奴次第だな――と、呟いてカシムはコクピット内で眠っている少年を一瞥する。
 モルスのコクピットから救出した時に丁度メルシーことメルクリウスの掌に乗っていた状態だったので、そのまま流れでメルクリウスのコクピット内に寝かせることになったのだ。
 流石に寝かせるには狭めだったので念動力でいい感じに身体に負担のない状態にしているという形ではあるが、気絶している子供をそのままキャバリアの手に乗せて行くワケにもいくまい。

「(白羅も確か壊れたモルスを修復して乗ったらしいしな)」

 カシムの脳裏に過るはこの神機と同じ型の神機を操る一人の猟兵の姿。
 少なくとも今眠っているこの少年はキャバリア乗りとしての才能は間違いなくある。
 きっかけが同情であったにしろ何にしろ、モルスが手を差し伸べたということは、彼女――恐らく、白髪幼女になれるということらしいので人格的には女性であろうと仮定し彼女と表記することにする――は、と考えるとこの神機を託す相手は……

「どうするのー?」
「ああ……彼奴にやりますよ。つーワケで回収終わりましたんでそろそろずらかりましょうや」
「離脱するのは難しくないけど、アレクセイさんを連れ出すなら……足止めがいるよね?」
「まあそうですね、流石に病人じみた状態の子供乗せた状態で派手な動きはしづらいですし」
「じゃあぼくが足止めするから、その間にカシムさんは離脱して欲しいの」
「んじゃ、最低限支援はしつつお言葉に甘えますかね」

 分析した敵陣のデータと脱出ルートを転送した後、カシムは『帝竜眼』の魔力を解き放つ。

「”万物の根源よ……帝竜眼よ……文明を構成せしめし竜の力を示せ”……!」

 帝竜戦役にて猟兵たちを苦しめた数々の帝竜の魔力が、詠唱によって形作られ具現化する。
 ――それはかつて帝竜戦役にで猟兵たちを苦しめた帝竜の一匹、ダイウルゴス……を、小型した存在。

「いいか、絶対にパイロットは殺すなよ!行け!」

 眼にでかでかと「Ⅰ」の文字が刻まれるミニダイウルゴス、その数凡そ123体のうち105体にカシムが命じ、残像の内側から敵軍のキャバリアへ突撃させる!

『う、うわあああああ!?』
『な、何だ!?こんな怪物見たことない!?』
『脚部破損!ブースターユニットも機能停止!動けませんっ!!』

 パイロットを殺さぬように徹底的に言い聞かされた小さいダイウルゴスの群れが次々と敵軍のキャバリアの脚部関節パーツを食い千切り機能不全に陥れる。

『う、撃て!奴も生物であるならば重火器は効くハズだ!撃てーッ!!』

 しかしそこは流石軍人といったところか、混乱に陥りながらも指揮官が指示をすれば即座に各々の武装を一斉射撃してくる。
 が、それは残る18体のミニダイウルゴスとメルシーの能力による念動障壁、そしてロランの結界術とオーラの防護膜が綺麗さっぱり弾く。
 残像は未だ溶けず、まるで弾が空間に溶けて消えたかのように錯覚する光景が広がりますます兵士たちは困惑する一方だ。
 ついでに凍結レーザーで足元や重火器そのものを凍らせてロクに機能させなくしてやる徹底ぶりである。
 いよいよもってただの怪奇現象じみてきた中、ロランはカシムが機能不全に陥れたキャバリアに対してハッキングを仕掛けてプログラムコードを読み取っていく。

「んっと、このコードは……なる程、じゃあこれを、こうして……」

 流石古来より続く魔術師の家系であるヒュッテンブレナー家の長男である。
クロムキャバリアで使われるプログラムも自らの電脳魔術による術式になぞらえて分解・分析して当て嵌めて、あっという間に対抗プログラムを組み上げてみせた。
 齢若干13歳にして天才魔術師と呼ばれる所以は伊達ではない。
 早速その対抗プログラム――否、最早ウィルスと言った方が正しいかもしれない――を敵機に感染させるべく、ロランは再び殲禍炎剣の射程圏外ギリギリまで飛翔、機体を経由して満月の魔力をその身にかき集める。
 魔術刻印の隈取が浮かび、段々と狼の姿に変貌し、そして――

――うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!

 響き渡る小さな狼の咆哮が、その音波と溜め込んだ満月の魔力に乗せてキャバリアのプログラムに干渉する。

『な、何だ!?システムエラー!?』
『だ、ダメです!全く動きません!』

 ただでさえカシムの彼曰く”最低限の支援”――というにはあまりにも的確で強力な支援であったが――で混乱している中にさらにロランによるプログラムバグ攻撃が畳み掛けられ、敵軍は完全に機能不全に陥る。

「今のうちに行って!」
「後でちゃんと合流してくださいよ!」
「ロランくんも無理しないでねー!」

 今ならある程度スピードを落とした『メルクリウス』でも十二分に離脱できるだろうと、カシムとメルシーはアレクセイを連れてその場を離脱。
 その姿が完全に見えなくなるのを確認し、ロランはほっと息をつく。

「(これでアレクセイさんは大丈夫だね……あとはみんな全員逃げ切るまで頑張るの!」」

 全員生きて帰れてこそ。
 ロランは全員が逃げ切るまでの時間を稼ぐ為、引き続きバグ感染を引き起こしていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

六識・戦
……まぁ、アレだけ派手なことをしたならば誤解されるだろう。
だが此方とて交戦を望む訳ではないし、穏当に済ませたい所だが。
向こうにはきっと『情報』がない。
ならば『なんだったんだアレは』で終わらせて貰うまで。

さて――何処まで時間を稼げるか。
『陸識』の力も借りて俺の領域を『限界ギリギリまで広げる』。
【ワールドハッキングプログラム】を展開。
同時に【ハッキング】【データ攻撃】にて各種索敵装置を『掌握』する。
味方含め彼が離脱出来る限界まで時間を稼ぐ。

……俺にはきっとコレしか出来ない。
だが、彼には、兵器であること以外のことが出来るだろう。

……俺は、信じたい。最後まで。

※アドリブ歓迎



●Αυτή η μέτρια ελπίδα συγχωρείται
「(……まぁ、アレだけ派手なことをしたならば誤解されるだろう)」

 ……と、思っていた六識・戦(殲術兵器六式EXA・f36627)であったが。

「(……誤解されるどころの話ではない気がしてきたな)」

 精巧に作られてて消えない残像。そしてどこからともなく響く狼の遠吠えにどこからともなく現れたミニ帝竜、それらに翻弄される国のキャバリア軍隊。
 まあ、誤解以前にそもそもクロムキャバリアでは絶対に見れないであろう要素も入って最早怪奇現象で軍隊のSAN値チェックが始まっていそうな有様が目の前に広がっていた。

「(だが、こちらとて抗戦を望むワケではないし穏当に済ませたい所だが、向こうにはきっと――いや、間違いなく『情報』がない)」

 むしろアックス&ウィザーズの帝竜なんてどうやってクロムキャバリアで情報を手に入れるんだという話になってくる。
 足止めを買って出てくれた仲間たちのおかげで肝心の少年アレクセイは無事避難したし、このまま滞りなく脱出できそうではあるが……万一ということもある。

「……ならば、『なんだったんだアレは』で終わらせて貰うまで」

 むしろそれしか言いようのない展開ではあるが、この手の軍隊というものは何かしらの仕掛けがあるとわかれば徹底的に解明しにくる連中である。
 それを放置して別の国に難癖をつけ始め戦火が広がるなんてことになったら本末転倒も良いところだ。
 戦のキャバリア、『陸識』は自らの身体の延長線でもある――故にその力も借りて自らの固有領域を、"限界ギリギリ"まで広げ行うのは――

『システムダウン!?今度は何だ!?』
『ダメです、レーダーが完全に機能不全を起こしています!』
『それどころかメインカメラすら機能していないぞ!?何なんだこれは!』

 ……自らの都合の良い世界に『書き換える』こと。
 【ワールドハッキングプログラム】は現実(リアル)に文字通り仮想(バーチャル)を持ち込むことのできるハッキング攻撃の最上位たるユーベルコード。
 現実を電脳そのもので書き換えるという神業とも荒業とも取れる力。
 それを以て戦は敵軍のありとあらゆる索敵機能をその手に『掌握』してみせる。
 先程から混乱の渦にあった軍隊は尚更混乱を極めていくその間に、戦は残る仲間たちに離脱を促し離脱させる。
 合流予定の座標データを去り際に受け取って、仲間が全員離脱するまで自らの固有領域を限界まで広げていく戦。

「(……俺には、きっとコレしかできない)」

 所詮、どこまで行っても兵器であり、未だそれからの脱却を果たせていないが故に。
 兵器以外のことを自分ができるようになる日がくるかも定かではないし、正直に言うならその日が来るとは今の自分では思えない。

「(だが、彼には)」

 仲間が全員離脱したのを確認してから、戦もまた離脱を完了するまではと領域を展開したまま動き始める。
 脳裏に浮かぶはかの少年。
 理不尽に晒されて生き方を歪められてしまった彼だけど。

「(彼には、兵器であること以外のことができるだろう)」

 大事なモノの喪失というものは非常に大きく、簡単に癒せるものではないだろう。
 ましてや、未だ一『兵器』に過ぎないと言っても決して過言ではない自分がそれを慮ろうとしたところで理解等できはしないだろう。
 だが、その『痛み』を知るが故にできることは、きっとたくさんあるハズだ。

「(……俺は、信じたい。最後まで)」

 その願いは届くのか、果たして。
 周辺区域からの離脱を果たした戦はプログラムを停止し、仲間たちのいる座標へと一直線に向かった――。

 ……後に。
 この騒動をきっかけに、先程の交戦地域では亡霊が出るだの竜の化け物が出るだの、ある種のホラースポットのような噂がまことしやかに広がった結果当分の間立入禁止区域となるのだが、それはまた別の話である。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『慰霊祭』

POW   :    死者を悼み、祈りを捧げる

SPD   :    かつて失った人に想いを馳せる

WIZ   :    死者への未練を断ち切る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Γιορτή τεχνητών λουλουδιών για προσευχή
 ――そう、これはきっと夢だ。
 何もかも夢だったんだ。

 きっと目が覚めれば、目にはいつもの屋敷の離れ小屋の天井が目に映って。
 支度を済ませて庭の掃除、昼前になったら食事があって。
 何事もなく仕事を終わらせて、妹に手紙を書いて寝る。
 そんな毎日が再びやってくるんだ。

「……」

 微睡みの淵から浮き上がり、少年アレクセイの眼前に映ったのは見知らぬ天井。
 ああ、さっき思っていたことの方が夢だったのか……現実を理解するのは存外早く。
 虚ろな目のまま静かに起き上がれば、どこかの宿屋のような空間。
 すぐ近くで安堵の息が聞こえたと思えば、猟兵がほっとした顔を浮かべている。
 さらに部屋のドアを開ける音がして振り向けば、見知らぬ女性が安堵したような顔で声をかけてきた。

「目が覚めたのね?よかったわあ、ひどく顔色悪かったから心配だったんだよ?」
「……ここは?」

 尋ねれば女性は気さくに答えてくれた。
 ここはクロムキャバリアのとある少国家の小さな町。
 少なくとも、アレクセイの住んでいた国からは大分離れた遠い場所。
 そして今自分がいるのは宿屋で、目の前にいる女性はそこの女将さんである。

「事情は知らないけど、猟兵さんがあんたを助けてくれたみたいだよ?」

 曰く、子供を休ませてやれる場所を探していたので自分から買って出たとのこと。
 最後の戦いから全く記憶がないが、つまるところ自分は結局猟兵たちに手も足も出ることなく負けて、
 負けておきながら生きながらえた……と、いうことになるようだ。

「……助けなくってもよかったのに」

 どうせ自分には何も残されていないのに。何故自分だけが助かったのか。
 そう思いながらアレクセイが窓の外を除くと、行き交う人々が皆花を手に携えて歩いている。

「……花?」
「ああ、うちの国は死んだ人にはフリージアの造花を必ず手向けるんだ」

 この町もかつては、昔から戦争の耐えない地域だったという。
 数年前に終結し、今は平和を取り戻しているのだがそれはそれは大きな戦争だったそうだ。
 今日は偶然にも終戦を迎えた日。町では慰霊祭が執り行われているらしい。

「この町の人じゃなくって造花を供えに行くのは自由だし、大したもんじゃないけど催しもやってるんだ。
 元気になったなら外の空気を吸うがてら見に行ってみるといいよ」
「……」

 アレクセイはそれから俯いて何も言わなくなった。
 ただ、何か色々と思うところはあるようだ。
 彼の悲しみを癒してやる方法はそう簡単には見つからないだろうが、この先の人生を投げ出さぬように何かしてやれることはあるハズだ。
ロラン・ヒュッテンブレナー
アドリブ○
絡み×

会場で献花をしてから、アレクセイさんを探そうかな

アレクセイさん、また、お話しに来たよ?
どこかベンチにでも座って、お話しよ?

「生きて欲しい」って言ったよね?
今も、死にたいって思ってる?
まずはお話を聞くね

ぼくはあなたと逆
生きたくても、ぼくには時間制限があるんだ
でもね、それはどうにかするの

生きて欲しい理由は、あなたが死んでしまったら、あなたの大事な人たちは、誰が覚えてあげれるの?
あの慰霊する人たちを、見て
死者を悼むのは、生きていた事を覚えてて上げる為だと思うの
誰も思い出す人が居なくなった時が、本当の死だって…

死者を悼みながら、死者の為に、あなたにできる事が、きっとあるの
だからーー



●Ένα λουλούδι που μπορεί να θρέψει ακόμα και τη θλίψη
 アレクセイは街道の上に立っていた。
 別に死ぬ為にこっそり抜け出したワケではない。
 何となく外の空気が吸いたいと、そう思ったから。
 町の人々は皆フリージアの造花を手に町の中央へ行き、手ぶらで帰る途中で近くの屋台に寄っては何かを買って帰っていく。
 死者を一時の間悼んで、それから何事もなかったかのように生活する人々の光景が、やけに自分のいる場所よりも遥か遠くにあるように感じながら、何となく慰霊祭の会場に向かう。

「……あ」

 慰霊碑前の献花台に次々と街の人達が造花を供えていく中、その子はいた。
 狼の耳をした、多分自分とそう変わらない少年が献花と共に静かに祈りを捧げている。
 確か、自分と話がしたい――そう言っていたのを覚えている。

「……あ。アレクセイさん」

 アレクセイの視線に気づき、少年――ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は振り向いて柔らかく微笑んだ。

「元気になったの?」
「……元気かどうかは知らないけど、外には出れるぐらいには」
「よかったあ!ね、お話しよ?どこかベンチにでも座って」
「……いいよ。別に用もへったくれもないし」

 アレクセイがそう答えた瞬間、ロランの耳がぴこぴこと「やったー!」と言いたげに動いたのを彼は見逃さなかった。

「(……飾りじゃないのか……)」

 何故か何となく気になりながらも口にはせず、適当に開けた場所で人気の少ないベンチに二人腰掛ける。

「あのね。ぼく、「生きて欲しい」って言ったよね?」
「……うん。覚えてる」

"理解してあげられないけど、だからって死ぬかもしれないのはぼくは嫌なの。
 せめて、せめてキミには生きて欲しい!だから止めるの!"

 あの時ロランが言った言葉は強く耳に残っている。
 それは森の彼方へと吹き抜け遥か先へ行く暖かな風のように、アレクセイの心に響くものがあったから。
 ユーベルコードによる力だけではない何か。
 けれど、あの時の自分は何も考える余裕がなかったから――そう、当時の自分をまるで他人のように俯瞰しながら思い返す。

「……今も、死にたいって、思ってる?」
「…………」

 死にたいのだろうかと考えれば、違う。
 かといって生きたいと思っているかと問えばそれも違う。

「…………わからない。
 もう妹はいないし、俺が何かを一生懸命にやり遂げる意味はなくなったけど。死にたいかと言われると、違う気がする――けど、だからって生きたいかと言われる、と」
「そっか……」
「ただ、さ。そんなんで生きる意味って、あるのかな」
 
 唐突に妹を殺され、感情のままにキャバリアに乗って暴れるところを諌められた――それはある意味ではアレクセイという少年の感情の行き場を塞ぐのと同義にも等しい行為だっただろう。
 妹を殺された怒りをぶつけることもできず、だからといって悲しみを未だ吐き出せずにいる。
 死に急がせぬ選択としては最善手であったことは間違いないが、その分精神的な疲弊がより強く出た結果、わからなくなってしまっているのではとロランは考えた。
 だが、それを自分が癒してあげることはきっとできないだろう――ロランは未だ、"喪失"の傷の痛みを知らない。
 人狼病に罹患し、余命を告げられるという経験はしても、自分にとって親しい人を亡くすという経験は未だにないのだから。

 けど、ただ一つ確実に言えることはある。

「あるよ」

 彼が生きる意味は確かにあるということを。
 ロランは一切の迷いなく、目を見てはっきりと告げた。

「だって……あなたが死んでしまったら。

 ――あなたの大事な人たちは、誰が覚えてあげられるの?」

「――!!」

 アレクセイは貧しい家の子であった。
 両親は共働きの中事故に巻き込まれ既に還らぬ人となり。
 唯一残った妹は生まれつき重い病を患っており、終ぞ満足に家の外に出ることができぬまま無惨に生を終えた。
 故郷諸共に焼き尽くされ、思い出の場所も思い出の品も何もかも喪った――そしてそれは、それらを知る者がアレクセイたった一人だけになってしまったことも意味する。

「……あの慰霊する人たちを、見て」

 そっとロランが指差した先は献花台。
 老若男女問わず多くの人が今も絶え間なく造花と共に祈りを捧げる鎮魂の列。
 きっと父親を亡くしたであろう母子連れ、子供か孫を亡くしたであろう老夫婦、両親を亡くしたであろう、自分と歳の変わらない兄弟と思しき子供……
 皆が一様に亡くした人たちを想い、祈って。
 また戻った日常の中へと戻っていく。

「死者を悼むのは、生きていたことを覚えててあげる為だと思うの」
「生きていたことを、覚えておく……」
「誰も思い出す人が居なくなった時が、本当の死だって……」
「……」

 かつての町の光景も、そこにいた人々も。最早知っている人が一人になってしまったとしても。
 自分が生きている限り、それを伝え残すことはできる。
 それすらする人がいなくなったその時こそ、存在が真に死に至ることだと、ロランは言う。
 例え一人だけだとしても、覚えている人がいるならば、確かにそこに在ったという何よりの証明になるのだと。

「死者を悼みながら、死者の為に……あなたにできる事が、きっとあるの。だから――」

 生きて欲しいと、ロランは願いを口にする。

「……俺にできること、か……」

 アレクセイは空を見上げる。
 何があるだろうか、なんて考えられる余裕はないだろう。
 だが、確かにロランの言葉はアレクセイの心に何かしら響くものがあったことは確かだっただろう。
 空を見上げる彼の目は、僅かに――そう、ほんの僅かにでも、光が再び差し込んだのが見えたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイ・ランス
【POW】※アドリブ、連携歓迎
■心情
お、起きたかー、元気か?OKOK、見りゃ分かるぜ。
いやはや、それにしてもアレクセイちゃん、良いもの持ってんじゃん?
キャバリアの操縦技術よ。磨けば光るぜ?それこそ、復讐だってできるんじゃないか?
そうそう。人を殺すってどういう感触か知りたい?もし知りたいなら

……俺を撃ってみなよ。

■行動
彼に気さくに話しかけつつ、復讐の本気さを確かめます。
それが一時の感情でないなら復讐を勧め、人殺しの練習と称して自分を撃たせるべく"爪"を渡します。
自身はUCを始動。もし撃たれても大丈夫なようにしておきます。

その感触が嫌だったら、復讐はやめときな。こういう場所が増えていくだけだぜ。



●Έχεις το θάρρος να πάρεις ένα σπαθί;
 先程かけられた言葉を脳内で反芻しながらアレクセイは街道を歩く。
 時間は昼から段々と傾き始めてくる頃で、あちこちの家々で食事を作っている様子が窓から伺えた。

「……そういや、何も食べてないな……」

 ひとりごちて腹に手を当てるが、空腹という感覚はしない。
 何か食べたい、という気持ちもまだあまり沸かない。ただ、喉の乾きは覚えた。
 どこか水を飲めるところはないかと考えて、自分が先程まで寝ていた宿屋のことを思い出して踵を返し――

「お?アレクセイちゃんじゃん。起きたかー。元気か?」

 そこでもう一人の猟兵と遭遇する。
 ジェイ・ランス(電脳の黒獅子・f24255)は親しい友であるかのように話しかけ、肩をぽんぽんと叩く。

「OKOK、見りゃわかるぜ」
「じゃあなんで聞いたんだ……」
「そりゃ聞くっしょ。意識なくしてたんだから。あ、水飲む?」
「……」

 こくりと頷けば、ジェイは近くのカウンターからお冷をさっと分けてもらってアレクセイに手渡した。
 それを口にして冷たい水が喉を通る感覚にふう、と息をつく。

「いやはや、それにしてもアレクセイちゃん良いもの持ってんじゃん」
「……良いもの?」
「キャバリアの操縦技術よ」

 感情のままにキャバリアを動かしていたこととオブリビオンマシンに乗っていたことの2点を踏まえても、アレクセイのキャバリア操作技術は目を見張るものがあった。
 ユーベルコードを発動し、最早肉眼で捉えることが不可能な攻撃を直感のみでとはいえ何回か防いだ上、状況によっては押してすら見せる等、天性の才能なしに経験の少ない間からできる芸当では当然ない。
 確かに彼はキャバリアパイロットとして非常に高い適正と才能を供えている。

「磨けば光るぜ?それこそ……復讐だってできるんじゃないか?」
「!」

 アレクセイの目の色が変わる。
 ジェイ自身としては別に復讐を否定するつもりは何らない。
 家族の敵討ちでオブリビオンを戦う猟兵だってごまんといて、結果としてそれを手伝うことも何度もあった。
 なのに復讐するな等と言うのは話が違うだろうとジェイは思う。
 だが、今までアレクセイが血なまぐさい環境に今まで身を置いていなかったのも事実であるし、何より無駄死にするとわかっているものを止めない者はいない。

 ――とはいえ、一時の感情のままに動いてしまっただけという場合もある。
 だが、アレクセイは本気だろう。

「……今この時は耐え忍べば、仇は取れるってこと、だよな?」

 そう問いかける彼の姿は、それこそ肌で感じるぐらいに纏う空気が変わったのだ。
 それはジェイが今まで見てきた、様々な理由で復讐を誓う猟兵たちの纏うそれと似通っていて。
 ならば、あとは。

「まあそういうことになるね。ちょっとこっからは場所変えて話しようか」


 ――そして、町外れの人気のない辺りにて。

「……こんなところで何をするんだ?」
「ん?そんな難しいことじゃないって。でもアレクセイちゃんはさ。"今まで人を殺したことがない"だろ?」
「……」

 無言の肯定で答えが返ってくる。
 死を導く神機に見初められたとは言えど、アレクセイ本人は過去に殺しをしたワケではない。
 それは『事象観測術式』で読み取った彼の情報からも明らかだ。

「人を殺すって、どういう感触か。知りたいならさ。

 ……俺を撃ってみなよ」

 ジェイは懐から銃を取り出し、アレクセイに手渡す。
 サイズにして凡そ長財布程のマシンピストルで、ジェイが愛用する獅子の"爪"。
 重さとしてはごく普通のマシンピストルとそう変わらないだろうが、その言葉と共に渡されたこれは、実際の重量よりも遥かに重く感じられる。

「……簡単に言うけど、それであんたが死んで責任取れる状態じゃないと思うが」
「ああそこは問題ないよ。仕込みはしてるから。撃ってみな」

 とんとん、と自らの心臓の辺りを叩いてみせるジェイ。
 もちろん自殺志願などではないし、猟兵はそういったことを受けてもなお立ち上がれる生命の埒外的存在だからこそできる芸当とも言えるだろう。
 ごくりとアレクセイは唾を飲む。
 これから先復讐をするに当たって知らなければならない感触だが、実際に突きつけられてみると感じるものに違いがある。
 少なくともキャバリアに乗っていた時よりは大分頭が冷えている状態だからこそ、言われていることの重さをより強く感じずにはいられない。
 だが、それでも。

「……わかった」

 それだけは知らなければならないことだと、アレクセイは銃口をジェイに向け……引鉄を引く、のだが。

「う、わっ!?」

 引いた瞬間反動で自分が後ろに吹っ飛んだ。
 そう、銃というものは使うに辺り結構な筋力を必要とするものである!
 勢いよく発砲した反動で踏みとどまれないと今のように後ろに吹っ飛んでしまって狙いを定めたとしても大いに外れるのだ!
 そしてアレクセイは残念ながら銃を撃っても踏みとどまれる程の身体能力がなく、さらに今に至っては体力もまだ完全に回復していない状態だったので、当然ながら吹っ飛んだ。
 めちゃくちゃ吹き飛ばされる程ではないが。

「いった……――……っ」

 だが、狙いは確かに当たった。
 眼の前で自らを撃つように促したジェイは血を流してその場に倒れ込んでいる。
 それを目の当たりにした瞬間、アレクセイは胃の中が暴れるような感覚と同時に既視感のようなものを覚えた。
 自分が人を撃った――その感覚は確かだ。
 そして自分が撃っても人はこうなると、改めて自覚した途端吐き気がするが、吐く程ではなかった――吐く程胃に何かを入れてはいなかったとも言うが――。

「意外と肝据わってんじゃん」
「!?!?!?」

 しかしジェイは何事もなかったかのようにむくりと起き上がったので逆にアレクセイはびっくりして腰を抜かした。

「うーん腰抜かすところ違う気がするなー?」
「だ、だってそりゃ、撃って倒れてる人がいきなり普通に起き上がったらびっくりするだろ!?」
「いやまあそうなんだけど」

 実際狙いはかなり良かったと、ジェイは撃たれて思った。
 ユーベルコードを発動していなければ死んでいてもおかしくはない位置を狙って、反動で吹き飛ばされたとは言え当ててみせたのだから。

「(これもあのキャバリアに乗った影響かね?)」

 冥導神機"モルス"――死を司るキャバリアに見初められたことが現在のアレクセイの反応になる一番の原因だろう。
 恐らく復讐をやめることになろうとならまいと、死を導くキャバリアに選ばれた以上彼はこの先戦禍からは逃げることができないのかもしれない。
 だが、伝えるべきものは伝えなければならない。

「ま、とりあえず。今感じたその感触が嫌だったら復讐はやめときな。……こういう場所が増えていくだけだぜ」
「……」

 アレクセイは俯き考える。
 ゆっくりと、今の自分を俯瞰して伝えられるように。

「……嫌かと言われると違う、でも喜んでやるつもりはない、かな」
「……そ。ならまあ、大丈夫なんじゃない?」

 ジェイが思っているよりも存外冷静になっているようだ。
 なら、後は本人がどう決断するかだろう。
 病み上がりには中々酷なことをした自覚はあるし、"爪"を返してもらって懐に仕舞い、宿屋に戻ることにした。

「復讐ってのはねー難しいんだよ。感情のままにやっちまって後戻りできなくなる奴もたくさんいるから」
「……」
「復讐した後、そのままたくさん人を殺しまくる化け物になるか。それともこれ以上自分のような奴を増やさない為に"護る為の戦い"をするか。常にこの二択だ。
 どっちがいいかはよーく考えときな。一生をかけてでもいいから考え続けるんだ。"生命を奪う"ってのはそういうことだからな」
「…………」

 アレクセイは答えなかった。
 それは無言の肯定にジェイには思えた。
 今かけられた言葉をゆっくりと咀嚼して飲み込もうとして、考えているのだろうから。

「(ま、ちゃんと考える気があるんなら大丈夫でしょ)」

 ここで考えることを放棄して復讐に走るならそれは止めなければいけないが、今こうして考えようとしている様子から少なくとも道を踏み外す確率は低そうだ。
 なら、あとは見守る側に回るとしよう。
 少なくとも、ジェイがこれ以上干渉せずともアレクセイは答えを自分で出していけるだろうし、彼に色々伝えたい猟兵たちもまだまだいるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六識・戦
――全てを忘れて生きるのは、自由だ。
けれど、俺は最初からそんな選択肢も無かった。

『覚えている』からこそ、出来ることもある。
前を向くために忘れたいと願うならそうすればいいし。
今に至る原因に憎悪を燃やして『そういう道』を選ぶのもいい。
それが『覚えている』人間の特権だと、思う。

……俺は、本当に何もなかった。誰かの歯車で、道具でしかなかった。
だから、自分の足で進むことを、止めることだけは――
(最後まで、言葉が出ないで)
(俺に、そんな資格はあったろうか?)

(けれど、誰かの死を悼む権利ぐらいは、俺にも、あって良い筈だ)
……俺は、お前に、『同じ様になって欲しくない』から。

※アドリブ歓迎



●Τι να πολεμήσετε, τι να προστατέψετε, τι να ψάξετε
 それからというもの、疲れたのかすぐに眠りこけたアレクセイを迎えたのは、窓の向こうに広がる同じように慰霊に向かう人の群れだった。
 この町をかつて襲っていた戦禍は非常に大きく、想像もできない程たくさんの人が死んだらしい。
 故に、2日かけて慰霊祭は執り行われるということだそうで。

「死者を悼む……か」

 そんな気分には未だなれずにいる自分がいた。
 未だにあの時の変わり果てた妹に触れた感触が信じられなくて。
 忘れられないその感触を思い出す度に、夢であることを願ってしまう。
 そんな自分が本当に妹の死を悼むことはできるのだろうか。

「……死者を悼むということは、その人の"死"を"受け入れる"ことと同義だと言う」

 窓からそれを眺めるアレクセイの後ろから青年の声が響く。
 六識・戦(殲術兵器六式EXA・f36627)は壁にもたれかかりながら続けて口を開く。

「迷っているのか?」
「……わかんない」

 アレクセイはふるふると首を横に振る。
 復讐したいという想いは未だ根強い。だが、かといって妹の死を悼むということは未だできそうもない。

「けど、今も妹を抱き上げた時の感触は手に残ってるんだ」

 無惨な姿に変わり果て、抱きかかえた途端にぼろりと崩れた妹の姿がどうしても頭に浮かんでしまう。

「……何となく、あんたたちの話を聞いて。ゆっくりでもいいから受け入れることが大事なのかもしれない……ぐらいは、思った、けど」
「そうだろうか」
「え?」
「――全てを忘れて生きるのは、自由だ。俺はそう思う」

 昨日までにかけられた言葉とは、全く違う方向性でアレクセイは目を少し丸くする。

「けれど、俺は最初からそんな選択肢もなかった」

 戦は『兵器』である。
 例え自我が芽生えようと、自らを商品として取り扱ったメガコーポから逃げても、その事実からは逃げられない。
 そして”『兵器』ではない自分という存在の記憶がない故に、兵器としての自分以外がわからない。

「忘れられないことは罪じゃない。けど同時に、忘れることも罪じゃない。……『覚えている』からこそ、できることもある。
 前を向く為に忘れたいと願うなら、そうすればいいし。
 忘れるという選択肢を捨てて、今に至る原因に憎悪を燃やして『そういう道』を選ぶのもいい」

 それが、『覚えている』人間の特権だと、思う――そう戦は言う。
 同時にそれを語りながらもアレクセイに向ける目は、羨望の眼差しも入っているようにも思えたのは、気の所為だろうか。

「……あんたは、他の人たちとは違うことを言うんだな」
「選択肢は一つじゃない。それを今は"識っている"から」

 アレクセイの目の前には無数の選択肢が広がっている。
 決して復讐に身を焦がすか、忘れて安穏と暮らすかの二択だけではない。
 ただ彼の関心が恐らく今一番向けられ、尚悩ませるのがこの二択であるだろうと推測したに過ぎない。
 故に、仮にアレクセイがどちらでもない道を選んでも誰も怒らないし咎めない――もちろん、常識をあまりにも逸脱しすぎない範囲で、の話だが――と。

「……俺は、本当に何もなかった。誰かの歯車で、道具でしかなかった。だから、自分の足で進むことを、止めることだけは――」

 言葉が唐突に詰まる。
 確かに伝えたいことではある。だけど。

 ――俺に、そんな資格はあったろうか?

 そんな思考が頭を過り、それ以上を口から紡がせない。

「……大丈夫か?」
「……いや、何でも無い」

 アレクセイの言葉で現実に引き戻される。
 確かに自分は兵器で、誰かの道具でしかなくて。商品として売りに出されようとした前から、調整と称しての人殺しを繰り返した。
 けれど。

「(誰かの死を悼む権利ぐらいは。俺にも、あって良いハズだ)」

 生命を奪った存在が、死を悼んではならないなど誰も決めてはいない。誰にも決めることはできない。
 そして何より、奪った側であるが故に。
 今残っている生命を、心を尊び、護るべきものであることを忘れないように。
 目の前にいる少年は、今ゆっくりと心が死に向かっていっているところを踏みとどまっているようなものなのだ。
 そして一歩かけ違えるだけで、自分と同じ道へ、坂道を転がるように堕ちていくだろう。

「……俺は、お前に、『同じようになって欲しくない』から」

 自分で選び、進むことを止めることだけはしないで欲しい……そう願う。

「……」

 アレクセイは再び俯いた。

「死者を悼みながら、死者の為にできることがあるハズで。復讐をしてもいいけど、その後をよく考えろって言われて、
 そんで今度は忘れてもいいしって言われて……意見、分かれすぎだろ」
「皆、別に急かしているつもりはないさ。お前が仮にそれで決められずにいたとしても誰も咎めはしない。俺が咎めさせない。考える為の時間はあって然るべきだから」
「……」
「ただ、それぐらいお前のことを気にかけているということなのだろう」
「……そっか」

 少し、アレクセイは心が楽になった気がした。
 別に今まで声をかけてきた人たちが選択肢を狭めようとしているワケでも何でもないことはわかっている。
 けど、今の自分では"そうしなきゃいけないのか"とどうしても思ってしまって。
 そんな白か黒かの思考に陥っている彼の心に、間(グレー)を挟んでも良いと言ってもらえているという自覚ができた。

「……まだ頭の整理がつかないから。ゆっくり片付けてから考える、ことにする」
「――そうか」

 少年の心に、希望の灯は着実に灯りつつある――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリカ・タイラー
慰霊祭の意味も分からないほどの幼子をあやす、流しの人形師を演じつつアレクセイを待ちます。

復讐を妨げたことを謝ります。
私達猟兵はあなたのキャバリアを止めなければなりませんでした。
私の人形術もキャバリアも復讐のためだというのに。
(キャバリアとスーツを封じたイグニッションカードを提示する)

あなたのキャバリアの才能は本物でしょう。復讐も為し得るはずです。
ただし、その過程であの慰霊碑も戦火という過去に焼け落ちるでしょう。
肉親を殺したキャバリアを討つため剣を取る者も現れるでしょう。

私にはあなたの復讐を止める資格はないですが、復讐の虚しさと復讐のための力に別の使い道があることは復讐の先達としてお伝えします。



●Έννοια της εκδίκησης
 アレクセイは再び外に出た。
 少しだけ心が楽になったおかげなのか、景色は先日出たのとはまた違うように感じる。
 しかし、外に出たとて行き先に宛があるワケでもない。
 何をしよう、そう考えた時ふと、自分に最初に手を差し伸べた存在を思い出す。

「(――そういやあのキャバリア、どうなったんだろう)」

 どこかにキャバリアの収納や回収を行っている場所があるだろうと思い、足を踏み出した。
 町は今も献花に向かう人で賑わっているが、昨日よりは静かな印象だ。
 そんな中、ふと子供の笑い声が聞こえてくる。
 慰霊祭の会場の近くで、数人の子供たちが人形劇を見ているようだ。
 今行われている祭りの意味すらわからない、それこそ生まれて間もないか1,2歳程の子供たちが親に抱かれながらきゃっきゃと人形劇を楽しんでいる。
 人形劇をする人形師の語り口はとても穏やかだが、その声調に覚えがあり、アレクセイもその人形劇を見る輪の中に静かに加わる。
 まるで生きた人間のように振る舞う人形の姿にも既視感があった。
 そしてこの生きている人のように人形を操る人形師――エリカ・タイラー(騎士遣い・f25110)と視線が交わる。

「(無事回復しているようですね。よかった)」

 元気な――実際定かではないが、少なくとも外に出られる程には回復した――姿であることを安堵しつつ、最後まで人形劇を演じ切る。
 拍手喝采の中劇の幕は閉じられ、集まっていた人々は各々行くべき、帰るべきところへと踵を返して向かう中、アレクセイは一人その場に留まった。
 実際にこうして顔を合わせるのは初めてだけど、きっと彼女はキャバリアに乗ってから最初に戦った猟兵だと、直感的に理解した故に。

「あんた……あの時、最初にキャバリアに乗ってた」
「ええ……復讐を妨げたことを謝ります」

 エリカは深く頭を下げ、顔を上げて一つのカードを取り出す。
 彼女の駆るキャバリア『シュヴェールト』……そしてシュヴェールトを駆る為のアンサーウェア『ドールマスター』を収納したイグニッションカード。
 まるでいきなり生きた人間のように動きが靭やかになったのは、ドールマスターの機能を使って、先程の人形劇と同じように糸で絡繰れるようにしたが故。

「私たち猟兵は、あなたのキャバリアを止めなければなりませんでした。
 ――私の人形術も、キャバリアも復讐の為だと言うのに」

 皮肉ですね、とエリカは苦笑する。

「……あんたも復讐を?」
「私も理不尽な蹂躙により大事な家族を……双子の妹を奪われました。だから、貴方の気持ちは痛い程に理解ができる。
 故に、あなたの復讐を止める資格はないのです」

 今までのどの猟兵の言葉よりも、エリカの言葉はアレクセイの腑にすとんと落ちていく。
 復讐を決意した存在でありながら、他者の復讐を妨げねばならない矛盾。その心境は如何許かなど決して推し量ることはできないだろう。
 だが、近い境遇故に何を思って自分を止めようとしたのかという気持ちが、言葉の端々から伝わってくる。
 そしてここで本当の意味で、今まで猟兵たちがアレクセイにかけた言葉を、彼は理解できたような気がした。

「あなたのキャバリアの才能は本物でしょう。
 今でこそ、私がこの『ドールマスター』の機能を十全に発揮することで貴方を止めることができますが、それもいつしか不可能になる程の力を、貴方は身につけることができましょう。
 復讐もなし得るハズです。

 ――ただし、その過程で。あの慰霊碑も戦火という過去に焼け落ちるでしょう」

 そっと慰霊碑へと視線を向け、エリカは続ける。

「そして、貴方が復讐をなし得ることで。肉親を殺したキャバリアを討つ為に剣を取る者も……必ず、現れるでしょう」
「……」

 その言葉は、少し前のアレクセイだったら受け入れられなかったかもしれない。
 けれど、今はその意味の重さを、嫌という程理解できる。
 人の殺し方を教えられ、死者の為にできることを諭され、忘れるという選択肢も赦されて。
 あらゆる可能性を教えられたアレクセイは、他の誰でもない似た境遇のエリカの言葉によって、自らがしようとしていたことの重さを真に理解したのである。

「私にはあなたの復讐を止める資格はないですが、復讐の虚しさ……そして、復讐の為の力に"別の使い道"があることは、先達としてお伝えします」

"死者を悼みながら、死者の為に……あなたにできる事が、きっとあるの"
"復讐した後、そのままたくさん人を殺しまくる化け物になるか。それともこれ以上自分のような奴を増やさない為に"護る為の戦い"をするか。常にこの二択だ。
 どっちがいいかはよーく考えときな。一生をかけてでもいいから考え続けるんだ"
"俺は、お前に、『同じようになって欲しくない』から"

 皆にかけられた言葉がリフレインする。
 その言葉の意味、一つ一つを噛みしめるような空白の後、アレクセイはこくりと頷く。

「……妹の仇が取れればいいやって思ってた。死んでも構わないって。何もないって。でも」

 それではいけなかったのだと、ついに確信した。
 自分がすることは、自暴自棄になって生命を投げ出してでも仇を討つことではなかったのだと。

「……ありがとう。あんたの話を聞けたおかげで、何かわかった気がする」
「そう言って頂けると、私の気も楽になります。あなたに恨まれてもおかしくないことをしていましたから」
「恨まないよ。そうしたってただの逆恨みだってわかったから」
「……そうですか」

 もう少年の目に絶望の色はほとんど消え失せているのがわかる。
 少なくともまたすぐに道を踏み外しはしないだろうと確信が持てて、エリカもまた安堵した。

「……じゃあ、俺はこれで。人形劇、凄かった」
「ありがとうございます。どうぞ気をつけて」

 エリカに見送られながら、アレクセイは先程よりも軽くかつ強く足を踏みしめて向かう。
 あの自らに最初に手を差し伸べた、冥府へと導く神機の下へ――……

大成功 🔵​🔵​🔵​

槐・白羅
神機
UC初手発動中
移動力強化
攻撃半減
「うおおぉ…!なんだかとても悲しい気持ちになるぞ我ぇ!」(ボロボロモルスの前で号泣白髪幼女ことモルス

おおもう一人のモルスよ!随分とやられてしまったようだな!
「ええい白羅よ!何とか修復できぬのか!?」
はっはっはっ!己自身には慈悲深いではないかモルスよ
良かろう…!我が妃候補の願いとあれば聞き届けるとしようか!
「お前まだ諦めてなかったのか!と言うか我、男神だというのに…(しくしくしく)おのれ武闘派ファームめ…!」(某旅団の面白実験で覚醒したUCらしい
【メカニック】
何とか修理して見せよう
そして我が嫁候補として
「やめんか!此の我が選んだのはアレクセイという少年だろうが!」
はっはっはっ!冗談だ!焼餅とは可愛いなモルスよ!
「違うわー!」
全力修理開始だ!

アレクセイへ
うむ
モルスに選ばれた少年よ!
やれる限りの事はしたぞ
そして…一時お前のモルスを借り受けても良いか?
了承を得れば一時己の所有としてUC起動
アレクセイのモルスを幼女化
伝えたい事があれば伝えるがいい

そして少年に譲渡


カシム・ディーン
神機
さぁって…ぶっちゃけ今迄何度かロクシアスとかでためしたが奪う前にぶっ壊れたからな
「メルシー的には良かったと思ってるけどね☆」

【情報収集・視力・戦闘知識】
回収したモルスの状態を徹底調査
機体損傷と直すべき部分
それらを須らく把握して白羅と情報共有

UC発動
機体の傷…そしてモルス自体に宿りし魂と意志の修復を行う
「これで直るのモルス君的には色々複雑かもしれないけどね☆まぁ我慢我慢☆」
ああ…死の神だったっけこいつ…
取り合えず僕もくまなく観察しますか
こんこん叩ければ何か復活機能とかでねーかな…


よぅアレクセイ
元気かどうか知らねーが生きていて何よりだ
復讐をするのも新しい生活を目指すも…
その力を更に高みを目指すのも自由だ
死ぬのは…あまりお勧めしねーな
おめーが死ねば…もうお前の妹を知る奴も
そいつの為に花を贈る奴もいなくなるだろーな

後は…一応壊したお詫びだ

此奴とどうするかは自由だ
無駄に何も果たせぬ無謀な復讐突撃かますか

それともこいつと共に自分を高めるか

ああ
模擬戦や修練は少しなら付き合います
UCは禁止ですよ?



●Η σημασία του να οδηγείς στο θάνατο, η ιστορία της ζωής στο μέλλον
 ――時は若干遡り、アレクセイがキャバリアの元へ向かう日の前日夜。

「……お、きたな」

 諸々の修理道具を揃えて適当なコンテナに腰掛けていたカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)の前に一人の青年と幼女がやってくる。
 その青年こそカシムの知る『もう一人のモルスのパイロット』、槐・白羅(白雷・f30750)、そしてその傍らの幼女こそ他でもない、彼の駆る冥導神機『モルス』その者だ。

「壮健そうだなカシム。そして……おお、もう一人のモルスよ!随分とやられてしまったようだな!」

 早速変わり果てたモルスの姿を目の当たりにして仰々しい口調で語りかける。
 傍らの幼女の方のモルスはそのボロボロになった機体にひしっ!としがみついてぼろぼろと泣き始めた。

「うっうっ……うおおぁ……!!なんだかとても悲しい気持ちになるぞ我ぇ……!!」
「よしよしモルちゃん。よしよし」

 涙を滝のように流しながら号泣する幼女モルスにメルシーがひしっと抱きついてよしよししてあげようとするが、途端に我に返るかのように「わ゛―――!!」と言ってメルシーを引き剥がす。

「やめろメルクリウス!我の顔を貴様の胸に押し付けようとするでない!!」
「えー!?ハグはストレス吹っ飛ぶんだよ!それに女の子同士だからセーフだよセーフ!」
「我は男神だッ!!!おのれ武闘派ファームめ、このようなユーベルコードを造りおって……!!!!」

 男神なのに何故幼女の姿をしているのかと問われると、とある農園にて面白実験が行われた結果、白羅がモルスを幼女化させるユーベルコードを会得したからである。
 男神を幼女化させて侍らせるというのは中々に業が深い。

「ええいそんなことはどうでもいい!白羅よ!何とか修復できぬのか!?」
「はっはっはっ!己自身には慈悲深いではないかモルスよ。良かろう……我が妃候補の願いとあれば聞き届けるとしようか!!」
「お前まだ諦めてなかったのか!!!!我は男神だと言うのに……っっ」

 男神を幼女化させてさらに将来娶るつもりとか業が深すぎる。もちろん褒める方向の意味合いです。

「まあ乗り気になるならないにしろ、そのつもりで僕は呼びましたからね」
「だろうな。でなければ用意周到に必要な器具は揃っているまいよ。お前のことだ、もう既に凡その状態もわかっているんだろう?」
「白羅がくるまでの間に徹底的に調査してましたからね――」

 モルスの損傷状態は機体の傷のみにとどまらない。
 神機としてのモルスの意志、根幹を司るコア部分も致命的とまではいかないが破損していた。
 これは機体に憑依していた死の狂気を払う為の必要経費ではあったが、結果現在モルスはどこを弄ってもぴくりとも動かない状態。
 物理的な修復だけでは決して動きはしないだろう。
 一応、カシムにはそれを何とかする為の心当たりはある。だがしかし制限時間がある上、コアの修復にそれの大半を費やさねばならないだろう。
 故に物理的に修復可能な箇所の大半は白羅に任せ、自分はコア部分の修復に力を注ぎたい考えであった。

「多少の細かな傷は僕がまとめて直しますんで、物理的にでかい損傷部は任せますよ」
「うむ、なんとか修理して見せよう。そして我が嫁候補として」
「やめんか!!!」

 すかさずモルスが白羅の頭にげんこつをかます。
 幼女化しているとはいえ中々痛そうだが、ユーベルコードの効果の代償としてモルスの元々持ち得る攻撃能力は半分に低下している為、せいぜいたんこぶ程度で済んだ。

「此の我が選んだのはアレクセイという少年だろうが!」
「はっはっはっ!冗談だ!焼餅とは可愛いなモルスよ!」
「違うわー!!さっさと修理せんか馬鹿者が!!」
「言われずとも。全力修理開始だ!」

 早速白羅が工具を手にモルスの修復に取り掛かる。
 その間にカシムはメルシーと共にコクピット内に入り、内部システム――コアの修復に。

「さぁって……ぶっちゃけ、今まで何度かロクシアスとかで試したが奪う前にぶっ壊れたからな……」
「メルシー的にはよかったと思ってるけどね☆」
「さいですか……まあそれは置いといて、こっちも始めるとしますか。

 ……”アポロンソウル、リンク開始"」

 アポロンソウルとは、メルシーやモルスと同じ神機の一機である輝光神機『ロクシアス』に搭載されていたナノマシン制御AIである。
 ロクシアスは光と疫病を司る神機であり、アポロンソウルが制御するナノマシンも凡そ疫病に関係するものが主だ。
 当然、疫病について全智にも等しい程の情報量が備わっているならば、それを逆に利用して治療することなど造作もない。
 そんなアポロンソウルを使って編み出したユーベルコード【対病根絶機構『医術の神の子』(システム・アスクレピオース)】は非常に強力なユーベルコードだ。
 物理的な損傷にとどまらず、精神的な損傷――魂魄等といった概念すらも治療してみせるのである。
 もちろんそれ故に代償も大きく、カシムのような歴戦の猟兵であっても1日に使用できるのは123秒程。それ以上は術者自身の生命力そのものが保たないのだ。
 故に予め対象の損傷具合の把握と、なるべく内部の損傷の治療に時間を費やせるようにメカニック技術を持つ誰かが必要だったというワケである。

「これで直るの、モルス君的には色々複雑かもしれないけどね☆まあ我慢我慢☆」
「ああ……死の神だったっけこいつ……」

 光とは総じて生ある世界の象徴であり、疫病もまた死と繋がりがあるとはいえ生命の象徴。
 死を司り冥府に導く神機としては確かに複雑かもしれない。

「治療は順調だけど、さらにくまなく観察しますか。こんこん叩ければ何か復活機能とかでねーかな……」

 と思い適当なところをこんこんと叩いてみるが、当然反応はなし。ですよねーと言いながらカシムは治療を続けた。



 ――そして、時間は戻り現在。

「え……えっ!?」

 キャバリアドックを訪れたアレクセイは驚きのあまり目を丸くした。
 そこにあったのは寸分違いなく、初めて自分の前に姿を現した時のモルスそのものだったのだ。
 腕を千切られた記憶があるが、そこも全く何事もなかったかのように修復され繋がっている。

「よぅアレクセイ。きたか」

 そこに軽く背伸びをしながらカシムがやってくる。

「元気かどうか知らねーが生きていて何よりだ」
「え、あ……う、うん……」
「あの時はご主人サマが酷いこと言ってごめんねー、邪魔しちゃうからせめて怒りだけはばーって出せるようにしてあげたかったんだって☆」
「メルシーおめーは余計なこと言うんじゃねーよ」
「え~?だってご主人サマ誤解されっぱなのメルシー的にはあんまりなんだもーん」

 ぷくーっと頬を膨らませるメルシー。
 キャバリアとは思えない程ころころと表情を変える姿にアレクセイは思わずくすりと笑う。
 するとメルシーはまたぱーっと目をきらきらさせる。

「アレクセイ君笑った!?笑えるぐらい元気出たのかな?もしそうだったら嬉しいなっ☆」
「あ、うん……元気出たかと言われるとわかんないけど……あと、もう俺怒ってないから。大丈夫」
「そうですか」

 ふっと笑ってカシムがアレクセイの肩に手を置く。

「お前は今何を選ぶのも自由だ。復讐をするのも、新しい生活を目指すも……その力の更に高みを目指すのも。何もかもが自由だ。
 でも死ぬのは……あまりお勧めしねーな。おめーが死ねば、お前の妹を知る奴もそいつの為に花を贈る奴もいなくなるだろーからな」
「うん。もう死ぬつもりは……今のとこはないかな」
「ん、ならいいか。後は……一応壊したお詫びだ」

 視線が修復されたモルスへと向けられる。

「お詫び?だから修理してくれたのか」
「まあそれもあるけど、おめーがこいつに選ばれたからってのもありますね。
 こいつとどうするかも当然自由だ。無駄に何も果たせぬ無謀な復讐突撃かますか、それともこいつと共に自分を高めるか。
 ま、前者はもうやる気なさそうだから選択肢から外していいでしょう」
「えっと……この機体、このまま俺が使っていいってこと?」
「そ。だからその為に呼んできた奴がいるんですね。――おい白羅、もう細かい調節は終わったろ?このモルスのパイロットがきましたよ」
「うむ、たった今終わったところだ!」

 コクピットハッチが開き、内部の調節を行っていた白羅が白髪の幼女モルスと共に降りてくる。

「モルスに選ばれた少年よ!やれる限りのことはしたぞ」
「うむ、この我は無事元通りだ。能力の行使にも支障はない、お前が望めばお前の剣となり盾となり、共に戦うであろう」
「えっと……ありがとう?ちょっと状況がよくわかってないけど……」
「あーっと、モルスはこいつだけじゃなくって、このモルスじゃねーモルスが選んだモルスのパイロットがこの白羅って奴……いやこれだとわからねーな。
 えーとだな、いわゆる兄弟機って奴ですよ。同型機とかたくさんあるだろそういう奴」
「な、なる程?」

 まだ混乱が抜けきれてはいないようだが、何となく理解はできたようだ。
 そのタイミングで白羅が再び口を開く。

「少年よ……一時お前のモルスを借り受けても良いか?」
「え?あ、うん……」
「感謝するぞ。では――モルスよ、"対人モードで往く"ぞ」

 白羅の発動したユーベルコードにより、モルスがまたたく間に姿を変える。
 彼の隣にいる少女と瓜二つの白い髪に褐色の肌をした幼い少女の姿になったモルスは、ゆっくりとその目を開けた。

「え、え……キャバリアが人に……!?」
「うむ。これでお前とモルスは人語を介して対話ができるぞ。モルスよ、伝えたいことがあれば伝えるがいい」
「……男神である我がこのような姿になったのは非常に遺憾であるが、感謝しよう。別の我が見初めし者よ。
 我はずっとこの少年と話をしたかったのでな」

 つかつかと幼女の姿になったモルスがアレクセイの元へと歩み寄り、手を握る。

「(暖かい)」

 元は死を司るキャバリアらしいが、それとは似ても似つかぬ暖かさをモルスの手から感じる。
 いや、もしかしたら常人と比べたら冷たいのかもしれない。だが、アレクセイには確かに"生命の暖かさ"が感じられたのだ。

「アレクセイよ……我はお前に詫びねばならん。
 狂気に呑まれ、我本来の意志を伝えることもままならぬまま、お前を諸共に死に導いてしまうところであった。
 我は生命を死に導く神機……だが、死とは無闇に齎すものではない。狂気に呑まれた我はそのことを忘れてしまっていたのだ」

 死とは従来、その生命が自らの人生を"生き切った"ことを"祝福"し、安らかな眠りを約束する為にあるもの――そうモルスは語る。
 仮にその生命が生き切ることができず共、どうしても終わりを迎えねばならなくなった場合は、これ以上の苦痛を与えず、次に生まれ変わるまで誰にも邪魔されず休めるように導き。
 死を以てでなければ断罪できぬ者には苦悶に呻き、許しを乞う程の痛みを以て裁く。
 それが、このモルスにとっての死というものの価値観。彼は死に導く神機であることを誇りに思っているのである。
 故に、アレクセイの妹を始め、まだ死に至るには早すぎる生命たちが理不尽で傲慢な理由により国に殺されてしまったことに怒りを覚えたモルスは、その怒りでより狂気に呑まれ、アレクセイを唆してしまった、と謝罪する。

「メルクリウスが選びし者を始め、猟兵たちがいなければどうなっていたか……――本当に、すまなかった」
「……いいや」

 アレクセイはゆっくりと首を横に振る。

「俺、勉強もあまりできてないからそんなに頭良くなくて。お前の言ってること全部理解できてないかもなんだけどさ。
 ……あの時はこっちも頭に血が登ってたから、お互い様じゃダメかな?」
「……お前がそれで良いのならば、そうしよう」
「うん、そうして欲しい。……頑張ってお前を乗りこなせるようになるから」
「……ああ。期待しているぞ」

 その言葉を最後に、モルスの姿は再び機体に戻る。
 キャバリアというものに普通、表情というものはない――もちろん、意志を持つスーパーロボットなど例外もあるが――。
 だが、何となく。今目の前にいるモルスは、こちらを見て微笑んでいるような気がした。

「……模擬戦や修練なら、少しは付き合いますよ?もちろんUCは禁止で」
「うん、ありがとう。まだ基礎的な操作も全部わかってないから、まずはそこから……かな」
「あんな才能なきゃできねーこと見せといてよく言うな……ま、基礎は何よりも大事なのでむしろ賛成ですけど」
「うむ。俺からも教えられることがあれば教えよう。同じ機体を駆る先達としてな」
「じゃあ……また人の姿にするにはどうしたらいいんだ?」
「ふむ、これは俺が会得したユーベルコードによるものだからな……再び対人モードにしたくばお前もユーベルコードを会得する必要があるだろう。
 それまでは、会話がしたくなった時に俺に声をかけるといい」
「そっか……わかった。ありがとう」

 会話を交わすアレクセイの瞳に、もう絶望の色はない。
 モルスという心強い味方を得たことは特に大きかったのだろう。
 それからというもの、カシムたちが帰路につく前まで彼らからキャバリアの知識についてとことん教えを乞い、貪欲に知識を取り込んでいった。
 もうこの少年は大丈夫だろうと、猟兵たち全員が帰路に着く頃にはそう確信を持てる程に雰囲気が見違えるようになっていたぐらいに前を向いて進む姿を見せたのである。

「ありがとう。いつかまた会った時、絶対にこの恩を返すから」

 そう告げて、猟兵たちが往くのを見送る少年の表情は。
 どんな苦難があれども前に進む意志を、確かに感じさせるものだった。


 ――今回の件は一人の少年の進む道を決めた以外にも大きな意味を持つ。
 一つはグリモアエフェクトが告げた"大いなる危機"、それが現実のものとなる前に阻止したこと。
 もう一つは決して遠くない未来にくるであろう、大きな戦いにおいて猟兵たちの力となる仲間を得たことである。
 冥府へ導く神機に選ばれし少年は、きっといつしか猟兵諸君の力になる為、同じ戦線に並び立つことだろう――

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年04月17日


挿絵イラスト