その愛と遺志を継ぐ、灯桜祭の名の下で
●
――帝都桜學府の一角。
……あの方は、己が意志を貫くために、最期まで誇り高く戦った。
……あの人もまた、あの子を守る為に、若い命を無為に散らした。
……そしてあの子は、あの人を黄泉還らせる事を、最後の最後で否定した。
……如何して、なの?
私達は、死してしまえばもう二度と、同じ人と出会うことは出来ないのに。
それが出来る機会を与えられたことを、如何してあの子は否定したの?
それは、その娘の胸中で痼りの様に残り続ける、そんな疑問。
其の疑問に気がついているのだろう。
その日、娘が逢瀬を重ねた『彼女』もまた、そうですね、と微笑んだ。
『大丈夫ですよ、貴女様。貴女様達は、何1つ間違っておりません。人の死を悼み、悲しむだけでは、人間は前に進むことは出来ません。前に進むために、皆様に本当に必要なのは、記憶の蓄積。今を愛する人々と共に未来永劫居る事の出来る世界。其の為に必要な事それが……』
「ええ……そうね。其の為に私達が行うべき事。それこそがこの世界の有り様を終わらせる、鉄血の革命。……あの方が進み、打ち砕かれた覇道です」
分かっている、と娘が仲間達と共に頷くのに、白い髪の女もまた、しかと首肯する。
『大丈夫です。貴女方が全てを取り戻すためならば私は協力を決して惜しみません』
――そう。
私も同じ、だから。
永遠に、只一緒にいたかった、それだけなのに。
それなのに……私は、奪われた。
『だから奪われたものを奪い返すのです。それが、私が今、為すべき事なのですから』
――この娘達に『革命』を起こさせて。
私は、私の復讐を果たす。
――彼女達が、あの男の遺志を継ぐのと同様に。
●
――グリモアベースの片隅で。
「……っ!」
閉ざされた双眸の奥でチカチカと瞬く様な光が弾ける様な感覚を覚えた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)がそっと其の双眸を開く。
開かれた蒼穹に光輝く双眸で目前にいた猟兵達を見回して、皆、と静かに囁き掛けた。
「グリモアエフェクトに纏わる事件が1つ視えたよ」
そう呟く優希斗の目の下は、まるで疲労が重なっているかの様に黒く濃くなっている。
「どうやら、帝都桜學府内のエリート學生達の一部で、幻朧戦線の思想、『大正の世は終わらせるべきである』と言う思考が広まってきているらしい。今回俺が視たのは、この大正の、平和の世を終わらせる為の手段の1つとして、黄泉還りを支持する一派……『白紅党』と呼ばれる一派の決起集会について、だ」
『白紅党』は、どうやら猟兵達と関わったとある人物の関係者が中心にいる一派の様だ。
「最も、詳しい事情までは完全には俺にも分からないけれどもね。帝都桜學府諜報部からも連絡が来ていない。只、俺が視たこの決起を行おうとしている一派の党首は、『菖蒲』さんも何らかの関わりがある可能性があると言う事だ」
『菖蒲』
それは嘗て反魂ナイフで自らの婚約者であった『椿』を黄泉還らせた少女の事。
「とは言え菖蒲さんに話を聞けばこの事件は解決できる程、甘くは無い。今回の事件の首謀者と思われる『白紅党』の背後には、影朧がいる可能性もある。影朧が相手となれば、そう簡単に接触することは出来ないだろう」
では、如何したら良いのか?
と物問いたげな眼差しを向ける猟兵達に、優希斗が思わず微苦笑を零した。
「『白紅党』は今度帝都桜學府の外れで開催される灯桜祭で決起集会を開くらしい。其の決起集会に潜入して『白紅党』の思想の根幹を聞いてみる。その上で、党首、或いは集会の皆が協力しているのであろう影朧と接触する機会を探る、と言うのが定石だろうね」
因みに灯桜祭には、1人1つの『かんてら』を持ち歩く事になる。
夜の訪れた桜降る其の街角で『かんてら』を持ち歩き、良縁を求めて祭を楽しむ人々。
その『かんてら』の光で決起集会の面子を見分けることが出来る可能性もある。
「多分、菖蒲さんもその祭に参加しているだろう。彼女を経由して会う事の出来る人も居るかも知れないから其方の筋から情報を得ると言う手もありかも知れない。他にも色々な手があるだろうから皆で其々工夫して、『白紅党』の決起を止めて欲しい。恐らく皆になら可能な筈だ」
そう静かに頷いて。
「情報戦としては、かなり厳しいかも知れないが……どうか皆、宜しく頼む」
呟いた優希斗の言葉に押される様に。
蒼穹の風が吹き荒れてグリモアベースの猟兵達を包み込み、猟兵達が姿を消した。
長野聖夜
――其の遺志に、意味を持たせてあげて。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜と申します。
サクラミラージュのシナリオをお送り致します。
このシナリオは、下記タグの拙著シリーズと設定を多少リンクしております。
最も、旧作の設定はオープニング上である程度説明しておりますので、旧作未参加者でも、参加は歓迎致します。
参考タグシリーズ:桜シリーズ。
第1章では夜の灯桜祭に参加している學生達や、関係者などの話を通じて、『白紅党』の秘密集会に参加したり、その主催者についての情報を集めて貰います。
また、『白紅党』は秘密結社に近い扱いなので、一般人達は其の名前すら知りませんのでその点はプレイングの際、ご注意下さい。
尚、1章の段階で宣言のみで会う事が出来るNPCがおります。
接触可能人物:『菖蒲』
桜シリーズ前作、『あの時、此処に咲いた桜庭のその下で』で初登場。反魂ナイフを使って、一度自分の恋人であった『椿』を黄泉還らせようとしましたが、猟兵達と知り合いの説得を受けて最終的に其の死を受け入れました。
尚、猟兵達には非友好的ではありませんが複雑な感情を抱いてもいます。
プレイング受付期間、及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
プレイング受付:3月18日(金)8:31分以降~3月20日(日)9時30分頃迄。
リプレイ執筆期間:3月20日(日)10:00頃~3月21日(月)一杯迄。
変更がございましたらマスターページ及びタグにてお知らせ致します。
――其れでは、良き物語を。
第1章 日常
『灯桜浪漫譚』
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POW : 狭い裏路地へ
SPD : 川にかかる橋へ
WIZ : 桜咲く公園へ
👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
館野・敬輔
単独希望(指定UCの都合)
アドリブ歓迎
人目につかない所に身を隠し指定UC発動
魂たちに灯桜祭会場の調査を頼もう(世界知識、視力、暗視、失せ物探し)
調査が終わったら他猟兵に連絡し情報共有
探してほしいものはふたつ
ひとつは会場内にある「かんてら」の光の種類
最低でも白か赤の光のかんてらがあるかどうかは特定したい
決起集会の面子の目印になっているかもしれないから
もうひとつは憎悪や復讐等、強い負の感情の持ち主
菖蒲さんの関係者とやらも何かを失ったのならば
負の感情を抱いているだろうから
…僕が憎悪のままに斬った紫陽花さんは
革命の先にあるものまで見据えた上で
強い覚悟を以て革命を求めた
さて、白紅党とやらにその覚悟は…?
●
――帝都桜學府、灯桜祭。
祭の開催されている、幻朧桜の咲き乱れる公園の人の目につかぬその場所で。
「……皆。僕の代わりに探して欲しい物がある。……頼んだ」
腰に帯びた黒剣を抜剣し、自らと水平になる様に構えた上で赤と青のヘテロクロミアを静かに閉ざす青年が1人。
館野・敬輔というその青年は自らの黒剣の中の魂達に、そう静かに囁き掛けた。
其の敬輔の願いに応える様に。
夜の灯桜祭を『かんてら』を持ち歩く人々と、周囲の風景に溶け込む宵を思わせる色と化した魂達が、会場へと足を踏み入れる。
(「……君達にお願いしたいことは、2つ」)
暗闇の中に溶け込む様に消える魂達に静かに呼びかける敬輔。
意識は魂達との接続もあり消失しているが、敬輔という『個』は存在していた。
(「1つは……会場内にある『かんてら』の種類、だ」)
ポウ……ポウと灯る『かんてら』の光。
夜景に溶け込む黒き色をした魂達が見つめるその『かんてら』に灯された光には、実に多種多様な色がある。
中でも目立つのは、橙の様な暖色系の灯の色。
――そして……。
(「……赤は勿論、白い光を灯すかんてらもあるか」)
宵闇の中に灯る白き光は、咲き乱れる幻朧桜の事も有り、自然、一際強く輝いている様に見えた。
只……白い灯を灯した『かんてら』を持つ者達の中には、何となく無言で目配せをしあっている様な學徒達も混ざっている様に感じられる。
(「……やはり、白い灯が『鍵』、なのか?」)
偶々目礼している可能性もあるが故に、そうだと断定する事は出来ないけれども。
其れが、『白紅党』の者達が決起集会を開く合図である可能性は、留意しておくべきだろうと敬輔は思った。
『彼女』達から伝わる情報を脳裏に書き留めながら。
(「皆にお願いしたい、もう一つの事。それは、憎悪や復讐等、強い負の感情の持ち主がいるかどうか、だ」)
それを『彼女』達の魂と共有し確認を取ろうとするが、それには『彼女』達は軽く頭を横に振った。
――御免。皆を観察しているだけじゃ、そこまでは分からないよ、お兄ちゃん。
『少女』達にそう告げられて。
「確かに其れもそうだな。其れを知りたければ直接会って聞いてみるなりなんなりしないと分からないか……。ありがとう」
小さく礼を述べて敬輔が『彼女』達に黒剣の中に戻る様、意志を伝え双眸を開く。
泡沫の夢の様に、消失させていた意識を現実に浮かび上がらせ、サバイバル仕様スマートフォンを懐から取り出す敬輔。
それから恐らく他に来ているであろう他の猟兵達宛のメールを作成、送信しながら、ふと思った。
「……菖蒲さんの関係者も、何かを失ったのだろうか?」
――もし、そうならば。
そうであれば……其の人物も恐らく負の感情を抱いているのだろう。
ふと、脳裏を『彼』の事が過ぎる。
幻朧戦線の人間として、黄泉還りを肯定し、自分達の前に立ちはだかった紫陽花という名の帝都桜學府の将校の事が。
「……紫陽花さんを僕は、憎悪の儘に斬った」
他の猟兵達と協力して、斬った。
けれども、あの将校は……。
「……革命の先にあるものまで見据えた上で、強い覚悟を以て革命を求めていた」
――では。
「……白紅党とやらに、彼程の覚悟は、果たしてあるのかな……?」
誰に共無く呟いた独白は、桜吹雪と宵闇に紛れて消えていった。
成功
🔵🔵🔴
藤崎・美雪
アドリブ連携大歓迎
え?
今回、諜報部からの連絡がない?
しかもグリモア猟兵が妙に疲れている?
嫌な予感がするので
灯桜祭に向かう前に竜胆さんに確かめてみよう
以前から使っている連絡手段で竜胆さんに連絡
連絡が取れれば面会は不要だ
…なんせ今回は桜學府内
接触した時点で良からぬ事態を引き起こしそうで
連絡が取れたら
『白紅党』なる存在が灯桜祭で決起集会を開くこと
そして白紅党の背後に影朧がいる可能性が高いことを伝え
白紅党の思想と関係者について知る限りで教えてもらう
…まあ、紫陽花さんの一派と推測しているが
情報が手に入ったら他猟兵と共有
もし竜胆さんと連絡が取れなかったら
指定UCの影もふもふさんに居場所を捜索させよう
●
「え? 今回、諜報部からの連絡が無い?」
蒼穹の風に飲み込まれ。
帝都桜學府、灯桜祭会場に転送された藤崎・美雪が反射的に空を仰いでそう呟く。
(「しかもグリモア猟兵が妙に疲れている、だと?」)
この場所に転送したグリモア猟兵の目の下のクマを思いだし美雪の背筋に思わず冷たい汗が滴り落ちた。
緊張と不安からであろう、胸と胃がキリキリと締め付けられる様な痛みと共に。
●
キリキリと胃を痛めている美雪を気遣うかの様に。
「もし、もし……」
1人の女がそっと此方へ駆け寄る様に美雪の方に近付いてくる。
何処か高貴さを感じさせる芳醇な香水の匂いが、美雪の鼻腔を擽っていく。
と……其の時だった。
「……?!」
自分へと声を掛けてきた女の横顔を見て、美雪が思わず大きく目を見開いたのは。
理由は簡単だ。
自分に声を掛けてきた相手の人形の様に整った美しい横顔に見覚えがあったから。
「あなたは……!」
美雪が思わず其の名を口に出そうとした瞬間。
其の美貌の女は、そっとそんな美雪の唇の上に人差し指を1本優しく当てて、静かに、と頷いて。
「この灯桜祭の空気に当てられて体調を崩されたでありんすか? 向こうに丁度休める椅子があるでありんすよ。少し彼方で風に当たっては如何でありんすか?」
そう告げると共に。
美雪の体を支える様にしつつ人気の無いベンチへと移動する其の女に、美雪は動揺を抑えきれぬ儘に従うことしか出来なかった。
●
其の灯桜祭の開催されている場所の外れ……人気の無いベンチの片隅で。
「どうでありんすか? 少しは気持ちが落ち着いたでありんすか?」
着物の裾から雅な仕草で取り出した扇を広げ、パタパタと風を送る彼女に、美雪が動揺を抑えきれないままにかくかくと首肯する。
「し、しかし何故、あなたが……? あなたは確か、亜米利加のスパヰでは……?」
風に仰がれつつも、額に滲んだ冷汗を軽く拭いながら問う美雪の其れに、まあまあ、と窘める様な口調で女が笑う。
「竜胆と言ったでありんすか? 貴奴にあの情報を渡した以上、わっしは国から狙われる身となったでありんすよ」
彼女の、其の言の葉に。
嘗て水の都についての情報を持ち出された時の事を思い出し、美雪の引いた筈の汗が再び滲み出す。
「亜米利加のスパヰでありながら、仏蘭西の情勢について竜胆さんに情報を提供した時の事か……」
もう一度滲んだ汗を拭おうとする美雪に対して、懐から手拭いを取り出し手渡しながら、そうでありんす、と小さく頷く彼女。
「あの直前、わっしは紫蘭に何時かまた、琴を教える事を約束したでありんす。とは言え、わっしも何の後ろ盾も無く生きていられると思う程、慢心もしておらぬ。其処で竜胆に情報を提供する代わりに、わっしの身の安全の保証を求めたのでありんす。結果『女郎花』は経歴上は完全に死亡。今は只の白蘭として、内偵の手伝いをする羽目になった訳でありんすな。……まあ、お主から流された『白紅党』なる組織の思想の根幹は、わっしとも無関係とも言えないでありんすし」
簡単に事情を説明する女、『白蘭』の話を聞いて、美雪は開いた口が塞がらなくなり、同時に深い溜息を1つ吐いた。
(「ま……まさか、『白蘭』さんが諜報部に協力しているとは……」)
あまりにも想定外の事象が起きすぎていて、物申す事も出来ない美雪の其れに、カラコロ、と口元を扇で覆い、雅に笑う白蘭。
「しかし、貴奴は本当に人間でありんすか? わっしもユーベルコヲド使いではありんすが……対策をしてからわっしに会う輩など、早々にいないでありんすが……」
ふうむ、と形の整った眉を顰めて首を傾げる白蘭の其れに、美雪が思わず鋼鉄製ハリセンを取り出し突っ込みを入れそうになるが……。
(「い……いやいや! 今回はそう言うミッションじゃ無いから! 取り敢えず突っ込みは後回しに……! と言うか、白蘭さんに対抗できるって……竜胆さんは白蘭さんに会う時、サングラスでもしているのか……?!」)
そんな竜胆の空恐ろしい才能に内心で戦慄する美雪にちらりと横目をやりながら、さて、と笑いを消す白蘭。
「この場なら、お主が竜胆に求めた話についてをしても貴奴等には気付かれぬでありんすね。そう……『白紅党』についての事でありんすよ」
その白蘭の言の葉に。
美雪が軽く咳払いをして、表情を改めて、其れで、と問いかけた。
「あなた達は、『白紅党』について私が情報を伝えるまで知らなかったのか?」
「そうでありんす、とも言えるし、そうでないでありんす、とも言えるでありんすな。元々、太平の世を終わらせる過激思想……『幻朧戦線』の者達は、わっしにとっても他人事では無いでありんす。である以上、その手の過激思想を持つ者達については、わっしらも目を適度に光らせているのでありんす」
その白蘭の呟きに。
「と言う事は、白紅党についても……?」
美雪が軽く首を傾げて先を促すと、そうでありんすな、と白蘭が首肯を1つ。
「白紅党自体は以前から存在していたでありんすが、其処まで過激な一派では無かったでありんす。精々が紫陽花様を処分し、その存在を抹消した諜報部……竜胆への不満を持った一派にしか過ぎなかったでありんす。竜胆は立場上、こう言った怨みが自分に向けられることは当然だと思っている節があるでありんす。其れが大きな騒ぎを起こさないのであれば、目を瞑るのもやぶさかではない。帝都桜學府の秩序が損なわれないのであればそれで良し、としていたのでありんす。不満を蓄えた者達が、其の愚痴を吐き出す場所も必要である、と言う訳でありんすね。大規模な粛清をすれば、組織に残る傷も大きいでありんすし」
「では、『白紅党』の背後に影朧達がいる可能性が高いと言う情報については?」
そう続きを促す美雪の其れに、それでありんす、と白蘭が溜息を1つ吐いた。
「決起集会を開く様になったと言う事は、恐らく最近になって影朧と関わりを持つようになったのでありんしょう。其れも深い『私情』と共に、でありんしょうな」
「……私達が嘘を言っている可能性は信じないのか?」
そうあっさりと頷いてみせる白蘭の其れに、訝しみを覚えて問いかける美雪に、からころ、と鈴の鳴る様な声で笑う白蘭。
「今更お主等超弩級戦力を疑う理由があると思うでありんすか? 竜胆はお主等の事を高く評価しているでありんすよ? ……ましてや、あまり注意を払っていなかったとは言え、わっしも掴んでいた『白紅党』の話が出た訳でありんすからな」
「……待て。白蘭さん。あなたは、まさか……」
思わず、と言った様に身構え問いかける美雪に、軽く頭を横に振る白蘭。
「残念ながらでありんすが、わっしもスパヰ活動中に関わりを持った事はあるでありんすが、所属はしていないでありんすよ。只……わっしが見る限り、此度お主らが竜胆に情報を提供した『白紅党』を動かしているのは、信念、ではなく……『敵討ち』であろうとは思うでありんすが」
その白蘭の言葉に、微かな共感めいた響きが在るのを感じ、思わず身構える美雪。
だが白蘭はそんな美雪を一瞥し、軽く頭を横に振った。
「わっしは嘗て、紫陽花様の遺志を、想いを継ぐべくお主等と戦った。じゃが、わっしはお主等に負け、紫蘭に琴を何時かまた教える道を選んだでありんす。故に貴奴等の考えや気持ちの一端は分かるでありんすが、協力しようとまでは流石に思えないでありんすな。……と言うより、そうであればわざわざ竜胆にお主が齎した情報に対して有益な情報を渡すために、お主の前に現れようとも思えないでありんすね」
軽く肩を竦め、扇を弄ぶ様に仰ぐ白蘭に対して美雪が小さく息を漏らし。
「……竜胆さんは今、如何しているのだ?」
そう問いかけると、竜胆は、と白蘭が軽く頭を横に振った。
「『以前、あなた方が戦った者達の本命の居場所を探しております』との事でありんす。其方の調査に時間を取られている以上、流石に今回の件については一番分かりそうなわっしに依頼を回したと言った所でありんすな」
少なくとも竜胆の身は無事なのだと分かり、そうか、と胸を撫で下ろす美雪。
そんな美雪に口元を覆い隠す様に扇を当てて優雅に微笑みつつ、左手で白蘭が自らの懐を探り、一枚の蝋で封をされた紙を渡した。
「……此は?」
手渡された紙に美雪が怪訝そうに問うと、白蘭がそれは、とたおやかに微笑んだ。
「竜胆からお主に渡す様に頼まれた書類でありんすよ。もし、この灯桜祭で何かがあれば、速やかに人々の避難等を可能にする全権を一時的に超弩級戦力に委譲する事を約束した書類でありんすな。もし、必要とあればお使い下さいと言うのが、竜胆からの伝言でありんす」
「……分かった。有り難く頂いておこう」
そっと懐に其れをしまう美雪に静かに頷き、ゆっくりとベンチを立つ白蘭。
「さて、わっしの仕事は此処まででありんすな。お主等の幸運と早期の事件解決を祈らせて頂くでありんすよ」
そう告げて。
立ち去る白蘭を見送った美雪は他の猟兵達との情報共有の為に、もふもふ小動物さん達を呼び出し灯桜祭会場へと走らせた。
成功
🔵🔵🔴
ウィリアム・バークリー
天下泰平は、いわば永遠の停滞と同じ。皮肉にもオブリビオン――影朧に最も優しい世界で、その泰平を覆そうとするなんてね。革命組織の連中はそんなことも分かっていないのか。
『かんてら』を片手に灯桜祭に参加しましょう。決起集会を桜學府の中で開くなんて、不用心というか、相手を舐めてる。
まずは菖蒲さんにお話を伺いましょう。
『白紅党』というものをご存じですか? 彼らに仲間だと思わせられる印などありましたら教えてください。
椿さんは残念でした。彼はもう転生したけれど、いつかまたの出会いがあればいいと願っていますよ。
さて、人が集まってるところを重点的に見回ってみますかね。菖蒲さんからの情報があればもっと狭められる。
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で連携
まずはお祭り客を装い、ミハイルさんと連携し
菖蒲さんと護衛にあたる局長の周囲を、
距離を開けた上で監視し警戒(目立たない・情報収集)
同時に自身の周囲も警戒し主に若者を対象にして
『かんてら』に同じ特徴があるような集団や
人目をはばかっていそうな動きを見せた集団が居る場合は、
即時に仲間へ報告の上、指定UCで同じ特徴のカンテラを偽造し接触
学友から、もし亡くなった兄の事で辛い気持ちが続くなら、
助けになってくれる人が居ると聞いたんですが…とグループに潜り込み、
必要な場合は学生証を見せるフリをしてアイテムのbadge of Troyで仲間と思い込ませ集会場所を探ります(催眠術)
アドリブ歓迎
天星・暁音
白紅党ねぇ
気持ちは分かるよ
大切な人を亡くすのは辛くて悲しいものだ
でも、過去に縋り続けるのは、そもそも生きるモノとしても間違ってるものなんだよ
勿論、そうしなければならない弱い人がいることも承知だけど、それでも尚、間違ってるとそう思うよ
出会いと別れは繰り返すものなんだよ
クレインを展開し、五感の共有をフル活用して、白紅党や、集会場の情報を集めます
人々の話を聞き情報を集め、視界で怪しい動き、或いは人とは違う動きをしている人を追跡、菖蒲にも監視はつけます
情報整理は船に共有し装備である精霊や船のスタッフの魔導人形にも協力させ視界から得た映像は念の為に船にも保存します
スキルUCアイテムご自由に
アドリブ歓迎
白夜・紅閻
銀紗
POW
わかった、路地裏に行けばいいんだな?
その菖蒲とやらは俺は知らないから接触は無理そうだが
他の猟兵の行動でも見ていれば分かるかな…?
そうだな…近隣・近辺の動物たちに呼びかけて
『灯桜祭』が行われている周辺を見張ってもらい、情報収集をする
まぁ、俺と同じように路地裏を調査している猟兵が居たのなら
協力も惜しまないぞ。カミサマへの連絡は俺を通せばいいしな
あとは…白梟を飛ばして空から観察してもらうつもりだ
アドリブ、連携お任せ
吉柳・祥華
・銀紗
・WIZ
路地裏は白夜に任せて
妾は…そうじゃな『空中浮遊』でまずは“公園が見渡せる高い場所”に行って、UC『天ノ瞳斗地獄耳』を使い周囲の情報取集じゃな
初めての試みじゃしのう…上手くいくかは、わからんがのう…
その為の、識と式なのじゃがな
あと…保険で動物たちの協力を得られればよいのう
動物達には…特に怪しそうな場所を見つけて貰えればと思うのじゃ…
ついでに神凪を上空で待機させて識神を放っておくのじゃ
それと護鬼丸と冥風雪華も人混みに紛れ込ませて怪しい者を見つけたら追跡してもらおうかのう
あと、他の猟兵とも極力接触を避けるのじゃ
出遭っても素知らぬ顔をするかのう
アドリブ連携はご自由に
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
白紅党ですか…話を聞いている限りでは、このまま放置するとカルトやテロ集団になる危険性がありますね。禍根は早めに芽を摘むべきです。
菖蒲さんの尾行・監視を行います。最初から接触するのもいいですが、あえて泳がせて目的や誰と接触するか監視。同時にUCの夜鬼を上空に放ち周囲の動きを警戒。場合によっては、怪しい人物に対し夜鬼での尾行を試みます。無論、その間仲間と常に連絡を取り合います。
特に問題なかったら、頃合いを見計らって(あまり刺激しない様に注意を払いつつ)菖蒲さんとの会話を試みます。会話内容如何によっては、竜胆さんに一報入れておく必要があるかもしれませんね。
アドリブ歓迎
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
アドリブ・他者との絡み歓迎
まったく、これだから感情的な人間の集団ってのは嫌なんだ。現実が気に食わないからって喚き散らす輩共。こーゆー連中は、まず何も知らない若者を騙しにかかるからな。
さて、白紅党だったっけか?恐らく、エリート學生共を煽動しているヤツがいるハズ。多分そいつが首謀者、もしくはその関係者だろうな。そいつに関する情報を集めてみる。勿論、わかったコトは局長達に伝えないとな。
適当な白紅党らしき學生に接触、話を合わせつつ、首謀者に繋がる話を聞き出す。適当に白紅党や黄泉還りに賛同する振りしてやれば、話を聞けるだろう。大抵、學生には口の軽いヤツが1人か2人はいるモンだぜ?
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
そういう思想が広がるのは、止めませんとー。長年の平和はよいことであるのに。
さて、私は怪しい学生を探しますかー。
この場合、『かんてら』の色も注視しましょうか。ああいうの、何かしら『共通の色』とか『光量』とかありますからね…白紅から連想できるようなのとか。
わかったら、『かんてら』を結界術などで偽装して接触。
ああ、仙術利用して見た目年齢も誤魔化し、読心術で読みつつ話し合わせてますよー。
例えば『詳しい思想』とかね。
ちょっとしたきっかけ(幻朧戦線+墓地荒らしを許さない)で関わるようになりましたが…ここまでとはねー。
彩瑠・姫桜
菖蒲さんと接触しつつ灯桜祭に参加
必要に応じて護衛もするわね
優希斗さんの話から、菖蒲さんは普通に灯桜祭に参加するだけ…ではないのかしら
『白紅党』との関わりの詳細とか気になることもたくさんあるから
情報収集は大切なのだけど…
でも、今回はそれ以上に
個人的に菖蒲さんに付き添っていたいのよね
灯桜祭について細かい内容はよくわかってはいないけれど
もし定期開催されているのなら、
このお祭りには椿さんとの思い出もありそうな気がしたから
…先日の出来事からそんなに時間も経っていないのに
一人でお祭りに参加したら、楽しかった思い出も涙に濡れてしまうかもしれないじゃない
もちろん、そんなことを思うのは私の勝手な感情よ
そんな想いを抱いていないならそれにこしたことないし
でももし万が一そうなら
私だったら、一人でいるより誰かと居た方が心紛れるから
とはいえ、あんまり気の利いた言葉は言えないから
本当に護衛がてら付き添うだけになりそうなんだけど
…もし椿さんが嫌でないなら
椿さんとの思い出話とか、お祭りの楽しみ方とか聞いてみようかしらね
森宮・陽太
アドリブ連携大歓迎
幻朧戦線の思想は桜學府内にも深く侵蝕しているようだな
…まあ、紫陽花の事を考えればわからなくもねえが
俺はあえて決起集会に潜り込んでみるか
穏便に潜入するためには「かんてら」の光の法則を見破りてぇ
会場を散策がてらかんてらの光の種類や人の流れを観察し
法則が特定出来たら俺が持つかんてらの光を調整
集会参加者に声かけて一緒に会場へ向かうぜ
『白紅』党なら、赤か白の光とは思うんだが…
もし特定失敗した場合は「闇に紛れる、忍び足」で潜入だ
決起集会の内容は「瞬間記憶」で覚えておくぜ
できれば録音もしておきてぇが
(無意識に冷酷な声で小さく呟く)…変革を求める者、死すべし
(はっとなって)…今、俺は何と?
●
「白紅党……ですか」
現れたもふもふとした小動物に括り付けられた手紙に軽く目を流して一読し。
内容を暗記した上で『かんてら』に火を入れるついでに手紙を焼いて証拠を隠滅しながら、ネリッサ・ハーディが小さく呟く。
「……元々は不満を持っていた者達の捌け口だった様ですが、このまま放置するとカルトやテロ集団になる危険性はありますね」
「……だな。と言うか、幻朧戦線の思想が帝都桜學府内にも深く侵食しているって一点だけでも、かなり危険な気がするんだが」
ネリッサの独り言に同じく手紙を読んで今の『白紅党』の前身についてを諒解した森宮・陽太もまた、軽く米神を解して溜息を1つ。
「まったくよぉ、これだから感情的な人間の集団ってのは嫌なんだ。現実が気に食わないからって喚き散らす輩共。こーゆー連中ってのは、先ず何も知らない若者を騙しに掛かる。しかも、餓鬼ってのはこう言う煽動に乗りやすいと来たもんだ。……本当に面倒な話だぜ」
やれやれ、と言う様に両手を頭の後ろで組んで煙草を吹かすミハイル・グレヴィッチの其れに、まあ、と天星・暁音が溜息を1つ。
「俺は、気持ちは分からないわけでは無いけれどね。大切な人を亡くすのは、辛くて悲しいものだって理解っているから」
其の体に刻み込まれた共苦の痛みに針でその身を刺し貫く様な痛みと、灼熱感を与えられながらの暁音の呟き。
ミハイルが其れに軽く肩を竦め、幻朧桜の花弁に煙草の灰が落ちない様に、携帯灰皿に灰を落とす。
「おいおい、天星。んなこと言って他人の命にばかり気を向けた所で、気が滅入って何時か自分が壊れるだけだぜ? ある程度の割り切りは必要だろう?」
「……そうかも知れないけれどね。俺には、俺の考えがあるから」
呟きそっと絶えず痛みを与え続けてくる共苦の痛みをなぞる様にする暁音。
「どう取り繕おうと、天下泰平は、いわば永遠の停滞と同じです。皮肉な話かも知れませんが、其れは本当なら、オブリビオン――影朧に最も優しい世界でしょう。でも、影朧にとっても最も優しい世界を、『白紅党』の革命志願者達を動かして変えようとする……どういうつもりなんでしょうね」
暁音とミハイルのやり取りを横耳にしつつ『かんてら』に火を点けながら軽く頭を横に振ったのは、ウィリアム・バークリー。
「そうですねー。そもそも、長年の平和は良い事です。其れを停滞と断じて斬り捨ててしまいそうな危険な思想が広がるのは、止めないと行けませんよねー」
そんなウィリアムにのほほんとした温和な笑顔を浮かべ相槌を打ったのは、馬県・義透……四悪霊が1人、『疾き者』、外邨・義紘。
「局長。あれは……?」
そんな義透達の会話を軽く聞き流す様にしながら。
よりお祭り客に見える様に、着物に着替え、眼鏡をくい、とあげた灯璃・ファルシュピーゲルが指を差す。
灯璃が指を差した先にいたのは、肩まで届くセミロングの黒髪をした少女の傍にいる、腰まで届く程の金髪の娘の姿。
ベレー帽を被り、暗闇の中でも一際輝いて見える銀の腕輪を嵌めた其の娘の姿は、ウィリアム達にも馴染み深い。
「あの金髪の女性は姫桜さんでしょうね。となると、隣にいる人はやはり菖蒲さん、でしょうか?」
確認する様に軽く首を傾げるウィリアムの其れに、恐らくそうでしょう、と灯璃が軽く頷いた。
「局長」
促す様にこの後について尋ねる灯璃の其れに、ネリッサが小さく首肯で返す。
「一先ず暫くは様子を見ていましょう。彩瑠さんが傍にいるのであれば、早々おかしな事は起きないとは思いますが、他に誰かと接触する可能性もありますから。灯璃さんとミハイルさんは……」
「まっ……大体こう言う事件にゃ必ずエリート學生共を煽動している奴がいるだろうからな。そっちから対象を炙りだしてやるよ」
「私も同様です。特に今回は白灯を灯した『かんてら』を持つ學生達が一番怪しいと言う情報も共有されていますからね。それを持った若者達を中心に洗い出します」
ミハイルと灯璃、其々の言葉に、頼みます、とネリッサが静かに頷くその間に。
「……ふーむ。彼女……菖蒲さんの持っている『かんてら』から零れている灯の色は、どうやら橙のようですねー。となると、少なくとも菖蒲さんは直接『白紅党』とは関係が無いと言うことなのでしょうかー?」
義透が考える様に裾から『かんてら』を取り出し其処に白色の灯を灯していた。
「まあ、こういう時は直接話を聞いてしまった方が早そうです」
告げてウィリアムが菖蒲と、彩瑠・姫桜の方へと軽い足取りで向かって行くのを見送ってネリッサが小さく指を鳴らす。
其の音に応じて姿を現したのは、宵闇の中に紛れた影の様な存在『夜鬼』
それが上空へと向かい、暁音が空中にステルス機能を使って隠していた星の船と合流するのを見届けて。
「それでは行きましょうか、皆さん」
天からの目で、人々の動きや無数の『かんてら』とそこに点けられた火の色を見ながら、ネリッサが小さく呟いた。
●
「……そうか。あれが菖蒲という娘なのか」
そのネリッサ達の動きを、上空に飛ばした白梟と五感を共有して確認しながら。
誰に共無く小さく呟き、其れまで奏でていた獣奏器から白夜・紅閻が唇を放す。
紅閻が訪れようとしていた、狭い裏路地に向かう途中の水路……川に掛かっている橋を渡りながらの紅閻の其れに。
「その様でありんすな、白夜」
――ふわり、と。
彩天綾を翻す様にして空中に浮かび上がった𠮷柳・祥華がカラコロ、と鈴の鳴る様な声で笑いながら同意の相槌を打っていた。
「……で、カミサマは今回、他の者達と極力連絡を取らない、と」
其の手に嵌めた色褪せてしまった指輪をそっと撫でる様にしながらの紅閻の確認に、うむ、と祥華が頷きを1つ。
「まあ、此度行うのは初めての試みじゃしな。其れに、あまり妾達が集団で行動していたら、妾達に疑いの目が向く可能性も否定できぬしのぅ。なればある程度単独で行動をした方が良いでありんすよ。……必要とあらば、白夜。おぬしから連絡をして貰う方が妾にとっても都合が良いでありんすしな。白夜、おぬしが呼んだ動物たちの力も借りるぞえ?」
そう呟き、神凪によって増幅された思考波を使い、多目的戦闘用ドローン、識神を空中に展開する祥華。
自分自身も浮遊しながら、灯桜祭の会場の1つとなっている公園へと飛び去っていく祥華を見送って。
「では、俺もやるか」
呟きと共に。
橋を渡りきった紅閻もまた、会場から少し離れている様にも見える、裏路地へと足を踏み入れたのだった。
●
「まさか、1人で灯桜祭にあなたが参加しているとは思わなかったわよ、菖蒲さん」
ネリッサが息を殺す様にして身を潜めて様子を伺っているのに気がついているのか、いないのか。
宵闇の中で頼りなく光る『かんてら』の灯だけでは窺い知ることの出来ない表情を浮かべた姫桜がそう小さく呻く様に囁いている。
彼女の手にある『かんてら』に、灯る灯りの色は暖かさを感じさせる、橙色。
『かんてら』の中で、陽炎の様に頼りなく儚く揺れるそれを横目の端で捉えながらの姫桜の其れに。
「……わたしも、また、あなたと会う事になるとは思っていなかったよ」
照れ臭そうにも、戸惑っている様にも思える表情を浮かべた菖蒲の其れにそうね、と姫桜が相槌を打った。
(「……優希斗さんの話からすると、菖蒲さんは普通に灯桜祭に参加するだけ……では無いのかしら?」)
最初の説明の中でグリモア猟兵に語られた其れを思い出しながら、姫桜が内心で小首を傾げる。
(「『白紅党』自体が、元々、反対勢力と言うより、紫陽花さんの死等に不満を抱える人達の集会だったことは分かっている。その党首と菖蒲さんが何らかの関係で関わりがあるのならば、情報収集は大切なのだけれども……」)
――けれども。
その事を調べたいと思い、菖蒲を探していたつもりはない。
自分の胸中に育まれている其れを現すかの様に右腕の桜鏡に嵌め込まれた玻璃鏡の鏡面が荒ぶる波の様に漣だっている。
だって……。
「ねえ、菖蒲さん。聞いても良いかしら」
「何?」
橙色の灯火を灯した『かんてら』をくゆらせながら、菖蒲が小首を傾げるのに。
「私はこの灯桜祭について詳しくないのだけれども……このお祭りって定期的に開催されているのかしら?」
姫桜は、そう問いかけたかったから。
其の姫桜の問いかけに。
「……不定期ではあるけれど、沢山の思い出を作れるもの、ではあるよ」
何処か呼吸困難にでも陥ったかの様な、か細い口調で。
そう応える菖蒲の其れに、姫桜が内心でやっぱりね、と軽く頭を横に振った。
(「となると……菖蒲さんがこのお祭りに参加した理由って……」)
「本当は、影送りが開かれていたら参加していたんだけれどもね。此処最近、影送りが開かれる様子は無かったから……。だから、せめて忘れない様にって……」
訥々と、言の葉を紡ぐ菖蒲。
其の菖蒲の横顔に、儚く、けれども透き通る様な美しさを思わせる憂いが纏われていて、姫桜は胸が締め付けられる。
「忘れない様に、ね……」
二の句を直ぐには告げず、姫桜と菖蒲の間を、天使が通り過ぎていく。
上手く口に出すことの出来ない、お世辞にも居心地の良いとは言え無い空気を肌で感じ、玻璃鏡の鏡面がざわつくのを鎮める様に。
「でもそれなら、1人じゃなくて、誰かと一緒に来て、其の痛みを分かち合える様にした方が良かったんじゃ無いかしら? ……先日の出来事からそんなに時間も経っていないのだから、誰かを誘えば、きっと……」
そう何気なく姫桜が呟くと、唇に微かな笑窪を菖蒲が刻んだ。
「本当だったら、水仙と一緒に来るつもりだったんだけれど、水仙、最近忙しいらしくって」
寂しげな微笑と共に、流れる水の様な調子で語る菖蒲。
――けれども。
(「……水仙?」)
聞き慣れぬ単語を耳に留めた姫桜が其れについて聞き返そうとした、丁度其の時。
「こんばんは、菖蒲さん」
『かんてら』を手に持ち正面から堂々と近付いてきたウィリアムが軽く菖蒲に手を振りながら挨拶を交してきた。
急に目前に現れたウィリアムに、微かな戸惑いと警戒の表情を一瞬浮かべた菖蒲が軽く目礼する。
其の目礼に静かに頷き、菖蒲さん、とウィリアムが呼びかけた。
「不躾ですが、少し質問をさせて貰っても宜しいでしょうか?」
周囲をさりげなく見回し、自分達に視線を向けている者達がいないかどうかを確認しながらの、ウィリアムの問い。
その様子を、上空からネリッサの『夜鬼』や、祥華の『識神』、暁音の『星の船の船員』が見下ろしていた。
『かんてら』を持ち歩く多くの人々は、特段ウィリアム達を気にした様子もなく、其の隣を過ぎ去って行っている。
喧嘩等の騒ぎであれば気に留めたかも知れないが、殊更にそんな様な事が起きる雰囲気、と言う訳でもないからであろう。
「何でしょうか?」
殊更事務的な口調でウィリアムが聞いたからか、菖蒲の語調はやや固い。
その様子をネリッサは淡々と幻朧桜の影から見つめ、姫桜は僅かに表情を強張らせるが、ウィリアムは気にせず話を続けた。
「『白紅党』というものをご存知ですか?」
そのウィリアムの問いかけに、茫洋とした表情で、目を瞬かせる菖蒲。
その、全く知らないと言った表情になった菖蒲の様子に内心でウィリアムが思わず舌を打つ。
(「……この様子だと、『白紅党』についてはご存知では無さそうですね」)
飛んだ肩透かしを食らった気分になるウィリアムではあったが、姫桜が幾分慌てた口調でそう言えば、と独り言の様に呟く。
「さっき、水仙さんって人と一緒に来る予定だったって言っていたわね。その人はどんな方なのかしら?」
何気ない姫桜の呼びかけに、それまで茫洋とウィリアムを見つめていた菖蒲がそっと肩の荷を下ろした表情になる。
「……うん。水仙は、わたしの幼馴染みよ。今日、灯桜祭が行われる事を、教えてくれたのも水仙だった」
「そうですか。では、水仙さんは今、どちらにいらっしゃるか分かりますか?」
続けられたウィリアムの問いかけに、戸惑う様な表情を見せる菖蒲。
「……此処で待ち合わせをしていたのだけれども、未だ来ていない……元々、少し時間にルーズな子だから、もしかしたら遅刻しているだけかも知れないけれど」
それでも何か思う所があったのだろう。
静々とそう答える菖蒲の其れに、そうですか、と軽く礼を述べるウィリアム。
「それでは、ぼくが少しこの辺りに水仙さんがいないかどうか、探してきますよ。菖蒲さんは、姫桜さんと一緒に此処でお待ち下さい」
そう告げて、一度その場をウィリアムが立ち去ろうとした所で。
「……椿さんの事は、残念でした。彼はもう転生してしまいましたけれども、いつか、またの出会いがあれば良いと願っています」
そう軽く後ろ手に手を振り立ち去るウィリアムの其れに、表情を強張らせる菖蒲。
目に白い滴を溜め始めた菖蒲に、姫桜が慌てて菖蒲に自らが羽織っていたKirschbaumを被せ、其の背を優しく擦っていると。
「情報を得るためとは言え、あまりにも直球過ぎましたね」
その場で顔を青ざめさせたのを、夜鬼の目を通して認めたネリッサが姿を現して。
「その……大丈夫ですか?」
そう優しく問いかけながら、右隣で、不器用に其の背を擦る姫桜の反対側に立って軽くその肩を包み込む様に叩いている。
無表情でこそあるが、特に気取った様子もなく、自然と励ます様にネリッサに肩を叩かれた菖蒲が溜めていた涙を地面へと滴らせた。
「彩瑠さん。宜しければ、菖蒲さんを彼方の木陰で少しお休みさせては如何でしょうか? 彼女が落ち着くまで、です。此処では流石に思う様に泣くことも出来ないでしょうから」
「えっ、ええ……そうね。……菖蒲さん、歩ける?」
ネリッサの其の提案に、戸惑いつつもその通りだと思ったか頷いた姫桜が、菖蒲に静かに問いかけると。
「……椿」
ポツリ、と大切な人の名を零しつつも、姫桜に手を引かれる様にして、菖蒲が公園の木陰の方へと移動した。
ネリッサが軽くその様子を見送る様にして、周囲に他に集まってきている人影がいないかどうかを確認し、そっと溜息を漏らす。
「……出来ることならば水仙さんについて、もう少し話を聞きたい所ですが……もう少し菖蒲さんが落ち着いてからの方が良さそうですね。必要とあれば、竜胆氏に連絡を取ることも辞さぬ様にせねば。いや……それとも白蘭さんに、でしょうか?」
(「ともあれ、多少は情報が手に入りました。灯璃さん、ミハイルさん、『白紅党』の決起集会の現場の特定は、お任せ致しますよ」)
そう無線に囁き掛ける様にして。
『夜鬼』との意識の共有を強くしたネリッサが、警戒ラインを一段階引き上げた。
●
(「水仙さん……ですか」)
JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP RadioのPDA端末を経由して、ネリッサから距離を取っていた灯璃が其の情報を受け取り、小さく息を1つ吐く。
「そいつが未だ来ていないって事は、そいつが首謀者って事かねぇ?」
誰に共無く呟くミハイルの其れに、そうでしょうね、と灯璃が頷きを返す。
そんな灯璃とミハイルの姿を、上空の白梟の目で捉え、気になったのであろう。
「……お前達は、確か、灯璃とミハイルだったな」
何処か淡々とした声音でそう呼びかけられて、灯璃とミハイルが咄嗟に身構えるが……現れた銀髪の男の姿に微かに目を眇めた。
「あなたは白夜さんでしたね? あなたも、この事件の調査に来ていたのですか?」
灯璃がさりげなくそう問いかけると、ああ、と紅閻が1つ頷き、獣奏器の1つである、オルゴールを鳴らす。
鳴らされた音色に従う様に姿を現した動物達が紅閻の其れに従う様にピクピクと耳や唇を動かしていた。
「ふむ……そうか。白い灯の灯った『かんてら』を持つ者達が数人、裏路地の方に集まっていた、か。ありがとう」
と動物達に紅閻が礼を述べると、動物達は蜘蛛の子を散らす様に去って行った。
その様子を目の端で捉えながら、灯璃がもしかして、と紅閻に問いかける。
「その方達が、『白紅党』なのでしょうか? ともあれ、確認が必要そうですが」
其の灯璃の言葉に、そうだな、とあまり気乗りしないと言った様子を見せつつミハイルが相槌を1つ打つ。
「まあ、何の情報も無いよりはマシだな。其処に水仙って奴がいれば尚更ラッキー。確認のためにも、情報収集は必要だろうな」
「……ならば、僕も同道しよう。雲を掴む様な状況よりは幾分かマシだからな」
ミハイルの其れに同意した紅閻がそう告げて、白梟へと意識を繋ぐ。
(「白梟……もし何か変化があれば、俺に必ず伝えるんだ。良いな?」)
それに天から状況を見ていた白梟が軽い嘶きで返してきた事に頷き、紅閻が灯璃、ミハイルと共に、裏路地の奥へと歩を進めていく。
「そう言えば君達は、菖蒲という人物の事は知っているのか?」
「ええ、知っていますね。最も菖蒲さんについては、局長……ネリッサさんと彩瑠さんに任せておりますが」
何気なく問いかける紅閻の其れに灯璃がそう返し、簡単に嘗ての事件について紅閻に説明していると。
「……お前達は何者だ?」
裏路地の奥でたむろしていた数人の學生達が、何処か低い声音で呼びかけてきた。
其の手に、白い灯を灯した『かんてら』を掲げた者達が。
と……此処で。
「いや、ちょっと待て。もしかしてお前達も同志なのか?」
集まっていた學生達の1人が灯璃が手に持つ偽の白火を灯した『かんてら』を持っているのを見て問いかけると。
「ああ、そうだ。つっても俺達は、俺達の集会に参加したいって言っているこいつを案内してきただけだがな」
同様に白光の灯された『かんてら』を持っているのに気がついたミハイルがそう頷き、灯璃の脇腹を軽く肘で突いた。
「まあ、聞くだけでも、涙ぐましい話でな。協力してやらなきゃ男が廃るってもんだと思ってよ」
ミハイルの其の言の葉に、ふむ、と學生達の1人が頷き両腕を組んで不躾な視線を灯璃に向けた。
「我等と共に歩みたいと。一体君の身に何があったんだ?」
そう問いかけた學生に、小さく頷き、目尻をそっと手で拭う泣き真似をする灯璃。
「もし亡くなった兄の事で辛い気持ちが続くなら、助けになってくれる人が居ると、学友のミハイルさんから聞きまして」
そのままその場に跪いてヨヨヨと泣き崩れた真似をする灯璃の様子に、心底同情した表情を見せて、學生達が近付いてきた。
「そうか……。そう言う事ならば、大歓迎だ。私達には、未だその力は無いが、党首ならきっと、貴女の力になってくれるさ」
「……そうなのか? 僕は、最近会合に出ていなかったから、黄泉還りがもう、実現できる様になっているなんて思っていなかったが」
紅閻が微かに驚いた表情を装ってそう問いかけると、そうさ! と學生の1人が力強く頷いた。
「ちゃんと死んだ人は、黄泉還って来る事が出来る。その頃の記憶を残してな。現につい最近、そう言った朗報が既に俺達には一度齎されているんだぜ? ……今は消息が分からなくなっちまったが……」
「……ああ。そういや、そうだったな。椿の奴は、確かに黄泉還ったな」
憂いと哀しみを帯びた眼差しを向け、微かに顔を俯けて紅閻に応える學生にミハイルがさりげなく水を向けると。
「ああ、その通りだ! ……俺達の憧れで、水仙様のライバルでもあった椿さんだ! あの人は誰よりも努力家で、ずっと影朧を救済し続けてきた俺達若手の憧れだった! そんなあの人の命が無為に散らされて良い筈がない! だからあの人は、俺達の前にいつもの笑顔と一緒に還ってきてくれたんだ!」
そう力強く學生の1人が頷くのに、そうだよな、とミハイルが相槌を打つ。
――其の脳裏に、赤い警告灯が灯るのを感じながら。
(「って事は、もしかしてこいつらの党首……水仙の背後にいる影朧が椿の奴を黄泉還らせったってのか? ……やれやれ。こいつはまた、面倒な話になりそうだぜ」)
「……還って来てくれた……か。それは、知らなかったな……」
独り言の様にポソリ、と呟く紅閻に仕方のない奴だなぁ、と何処か呆れた表情を浮かべる學生。
その學生の様子を見ながら、では……と灯璃が問いかける。
「その方……水仙さんの力を借りれば、私の兄も黄泉還らせることが出来ると言うのですか……!?」
そう眼鏡の奥の藍色の瞳に希望が差したかの如く、目を輝かせる灯璃の其れに、そうだな、と學徒がしっかと頷くのに。
「で、今日の集会には、水仙様も来るんだろ? だったら、きちんとこいつを面通ししておきたいんだが、構わないか?」
そうミハイルが問いかけると。
「ああ、勿論だ! 丁度公園の方で、そろそろ始まるだろうからな。我々もそろそろ向かうとしようか」
別の學徒が爽やかな笑みを浮かべてミハイルに答えるのに、そうだな、とミハイルと紅閻が静かに頷いた。
●
「……成程ね。今日の集会は、公園で開催されるのか」
『星の船』の船員達の目と、五感を共有したクレイン達の『目』を通して。
それまで公園の一角に佇み、話を聞いていた暁音がそっと溜息を1つ漏らす。
(「……それはさておき。彼等は、椿さんの事を知っているのか……。死してなお、一度黄泉還り、俺達が再び転生させた、あの人の事を……事の経緯の全てを知っているわけではなさそうだけれども」)
その事実が、共苦の痛みが与えてくる灼熱感を一際強くする。
彼等の思想の根幹に根付いている、『黄泉還り』と言う思想。
其れは同時に、有能でありながら先に死んでいった者達と言う『過去』に縋り続ける事と同義ともいえる。
「でも……そんなことは、そもそも生きるモノとしても間違っている」
無論、そういった過去に縋らなければ、歩き続けることが出来ない者達がいることも分かっている。
それでも出会いと別れは繰り返され、その先に新しい絆の形が生まれてくるのだ。
「だから……君達は間違っていると、俺は思う」
ポツリ、と小声で囁きかける様にしながら。
暁音がクレイン達を通して自らの力を解放し……ミハイル達が得た情報を、公園の方に向かった陽太達に伝達した。
●
――その一方で。
「ふむ……どうやら、あの場所で集会とやらが行われることになりそうじゃのう」
公園を見渡すことの出来る高い場所へと彩天綾の力を借りて辿り着き。
そこから神凪を飛ばして増強した識神の目で、白光を持った数十人の學徒達が公園のある場所に集うのを認めた祥華が呟く。
「……護鬼丸、冥風雪華。あの白光を持つ學徒達を追跡するのじゃ」
そうして、ひっそりと公園の中に放っていた2体の人型をした鬼神、護鬼丸と冥風雪華に呼び掛ける祥華。
公園の人ごみに紛れていた護鬼丸と冥風雪華がその祥華の思念を受けて、白光を持った學徒達の後ろをひっそりと追跡していく。
(「さて……集会の現場を抑えることが出来た様じゃが、果たしてどの様にこれが転がるかのう?」)
そう内心で思い、カラコロと微かに鈴の鳴る様な声で笑いながら、祥華は再び、今、正に始まろうとしている決起集会へとその意識を集中させた。
●
「なるほどー。此が例の噂話の根拠だったのですね-」
のほほん、と言った様子で。
20代前半の若い青年将校の様な姿に仙術を以て変装した義透がほうほう、と感心した様子で頷いている。
祥華が放った識神からも、今の義透は年若き學生達と殆ど変わらない様に見えた。
それこそ、隣にいる陽太と然程変わらない年頃の様に。
「仙術で此処まで姿を変えることが出来るものなのかよ……。いや、まあ、別に良いんだが」
自分の隣で親しげにポンポンと肩を叩いてくる若き義透の姿に、陽太がなんとも言えぬ感心の声を上げた。
(「まあ……多分これだったら、俺達猟兵か、或いは影朧でも無いと義透の正体を見破られる……って事は無さそうだな」)
そう思いつつ、改めて辺り一帯を見回す陽太。
此処に潜り込むまでに共有されていた情報……白光を放つ『かんてら』は、既に陽太の手元にある。
それは『白紅党』の党員と接触した灯璃達の情報を基に入手する事の出来た物だ。
本来であれば、入手するためにも多少手間が掛かる代物の筈だが……。
(「まっ……そこは未来予知のヴァサゴの権能の御陰だよな」)
髭を豊に蓄えた老人の姿をした悪魔、『ヴァサゴ』
其の『ヴァサゴ』が、『白紅党』の面々が何処でこの『かんてら』を入手するのかその光景を自らの目に映し出した。
其の手順に従って、手元に『かんてら』を入手したが、其れは逆に言えば……。
(「……それだけ、幻朧戦線の思想が帝都桜學府内にも浸透し始めているって事なんだよな。……紫陽花のことを考えれば、分からなくもないが」)
彼の思想を継いだとして、戦ったテロル組織達の事を思い出し、げんなりとした表情を浮かべる陽太。
一方、そんな陽太達と合流したウィリアムは決起集会に集まる學生達の姿を見て、軽く舌を1つ打っていた。
「……決起集会を桜學府の中で開くなんて、不用心というか、相手を舐めていますね。彼等は如何してそんな行動を平然と取ることが出来たのでしょうか……?」
そんなウィリアムの呟きに。
「まあ、私達が誘き出されたという可能性は否定できませんがねー。其の辺りのお話しは、張本人である皆様の声を聞かせて頂いた方が宜しいのではないでしょうか-」
と他の學徒達に聞こえない様にウィリアムの耳元で囁く義透に、そうだな、と陽太が軽く首肯する。
と、此処で。
陽太の目に反対側から入ってきた灯璃達の姿が目に入り、灯璃が手信号で、ソロソロ始まりそうですよ、と合図を下してきた。
その灯璃の手信号を、まるで予期していたかの様に。
「今日は、新しい同志が多く集う日ね。これもあの御方の人徳、と言った所かしら」
その声と、共に。
マントに身を包み、軍服の様な帝都桜學府の制服を纏った娘が姿を現した。
其のマントの留め金に刻まれた黒い鉄の首輪の紋様を見て、陽太は思わず眉を顰め、義透の目が鋭く細まる。
(「……あの墓場での幻朧戦線との戦いというちょっとした切っ掛けで関わる様になりましたが……まさか、此処までとはねー」)
どう言葉で表現して良いのか分からない奇妙な感慨が、潮の様に胸に満ちるのを感じながら、胸中で呟く義透。
その義透の胸中など、露と気付いていなのであろう。
娘が集まった學生達に向けて丁寧なカーテシーを1つするとほぼ同時に。
『皆の者! 此度はよくぞこの地に集まってくれた! 今宵私達は、あの方達の遺志を継ぎ、帝都桜學府を本来在るべき形にする為の切っ掛けとして、この祭を足掛かりにしたいと思う!』
そう勇ましく宣言をするや否や。
集まった若者達の中で歓声が沸き、其の熱狂に合わせる様にミハイルや灯璃が声を張り上げる。
勿論其れは、上辺だけのものだ。
だが、娘は革命のための歓声を上げる仲間達の声が収まるのを暫く待つ様に無言で彼等を見つめている。
――まるで、此処に集った1人、1人の存在を確認するかの様に。
その様子をクレインを通して見つめていた暁音は、微かに金の瞳を鋭く細めた。
共苦の痛みが発していた凄まじい灼熱感の中に、微かに凍傷の様に冷たく鋭い貫く様な痛みが綯い交ぜになった感じがしたから。
(「此は……この冷たさは……まるで、何か……いや、誰かがいないことに対する寂しさみたいだ」)
ふと、そんな思考が思い浮かんだ暁音の脳裏を過ぎったのは、今、姫桜とネリッサと共にいる、菖蒲の姿。
何の脈絡もない繋がりの様に思えたが……元々、この『白紅党』の党首である水仙は、菖蒲との関連が示唆されていた。
だとしたら、彼女を求めている可能性も、無きにしも非ずと言った所だろうか。
(「いや……求めている、と言うよりも……?」)
そんな暁音の思考を途切れさせる様に。
『今回の戦いは、私達が奪われた、全ての大切な者達に報いる為の革命である! 力なき自分達の事を棚に上げ、救済という美名の下、優秀な者達を戦場に送り込み、其の命を無為に死なせた者達への復讐である! そうして貴重な命を費やさせ、自分達はのうのうと安全な場所から高見の見物をしている者達への、正当なる報復を与えるための聖戦である!』
其の党首と思しき娘の煽動に、若者達は熱狂的なまでに歓喜の声を上げている。
そんな『白紅党』の者達に対して、娘はだが! と大きく声を張り上げた。
『例え私達の命がこの革命のために費やされたとしても! 私達は再び同じ人として、この大地を踏むことが出来る、選ばれた者達なのだ! 皆、死を恐れるな! 私達には、私達が今までに刻んできた時を……生命を維持するための術を持つ深き想いを共有できる者が同志としてついているのだから!』
其の娘の言の葉が、『白紅党』の党員達に爆発的な迄の歓喜を呼び起こす。
その姿に満足げに頷き、娘は皆の者! と三度、声を張り上げた。
『本日、私達はこの灯桜祭を足掛かりに帝都桜學府に向けて正義の鉄槌を下す! 機は満ちたのだ! あの御方が殺され、多くの革命が超弩級戦力と諜報部によって踏み潰されてきた! だが、あの御方達が求めた理想……黄泉還りの法は、私の友の黄泉還りによって可能で在る事が証明された! もう、私達に何も恐れることはない! 私達は、自由と進化に満ちた新たなる時代を作り上げる礎にして、進化の体現者となる! それこそが『救済』という大義名分の為に、踏み躙られてきた多くの生命達への贖罪ともなりうるであろう! 今日という日は、其の歴史的転換を迎える記念日となろう! 私達は、その歴史的転換を永久に人々に伝え繋いでいく進化した人類となるのだ!』
――ヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!
娘の呼びかけに熱狂し、革命の為に熱く燃え上がる『白紅党』の党員達。
(「こいつはもう、決起集会……と言うより革命前夜って感じだな、こりゃ」)
其の娘の声を録音しながら、陽太が内心で大きく舌を1つ打った、正にその時。
「……変革を求める者、死すべし」
冷たく冷酷な呟きをポツリ、と陽太が漏らした。
その陽太の微かな呟きを聞いた義透が、反射的に陽太殿、と呼びかける。
「如何しましたかなー? 何やら顔色が優れませぬがー」
其の義透の呼びかけに。
はっ、と陽太が我に返った表情に戻り、歓声と喧噪に巻き込まれ、聞き取ることも難しい声でポツリ、と小さく呟いた。
「……今、俺は何か言っていたのか?」
その陽太の問いかけに、義透がそうですねー、と孫を見る祖父の様な穏やかな眼差しを陽太に向けて軽く頭を縦に振る。
「詳しくは聞いていませんがー。陽太殿が何かを言っていたのは確かですよー。どうかご自愛下さいねー」
義透が労る様に告げるのに機械的に陽太が頷くその間に、娘が熱狂する學徒達に背を向ける様に踵を返して姿を眩ます。
その娘の行先を追跡するべく、素早く灯璃達が學生達の輪を抜けて、彼女の後を追おうとするが。
今にも噴火しそうな活火山の様に煮え滾る熱意と狂気に浮かされた學生達の輪を抜けるのに、思ったよりも時間が掛かるのだった。
●
「……どう? 少しは落ち着いたかしら?」
灯桜祭と、決起集会の行われた公園の一角で。
少し落ち着かせようと、人混みから離れた近くのベンチに菖蒲を座らせた姫桜の呼びかけに菖蒲がありがとう、と小さく頷く。
「まだ、気分が完全に優れてはいないようですので、此方をお飲み下さい」
ネリッサが気遣う様に懐から水筒を取り出し水を差し出すと、菖蒲は有り難そうに其れを受け取り、喉を鳴らして水を飲む。
そうして、菖蒲が少し落ち着いたところで。
「……局長」
喧噪と騒音に紛れてやや電波が乱れているのか、灯璃のノイズの走った声が、ネリッサの無線に届いた。
「如何しましたか、灯璃さん」
「申し訳ございません、局長。この騒ぎで……分かるかと、思います、が……本日……大きな、事件が……。しかも、党首が……姿を……」
途切れ途切れの灯璃のその声にネリッサが静かに頷き、空に飛ばしていた『夜鬼』の知覚を利用して大地を見下ろす。
「ふむ。恐らく此奴じゃろうな。白夜とも連絡が取れぬのでは、やむを得ぬか」
同様に高い丘から公園を見下ろしていた祥華が小さく呟き、近くの誰かに伝わる様に、識神を通して自らの思念を飛ばす。
その思念がまるで電波の様に菖蒲の傍の姫桜に届き、彩瑠、と祥華が涼やかな声で呼びかけた。
「! その声……あなた、確か祥華さん……?」
「そうでありんす。本来は極力接触するつもりもなかったでありんすが……白夜も人々の群から抜け出すのに苦労しているので忠告させて頂くでありんす。彩瑠。おぬしらの方に向かって、『白紅党』なる党の党首と思しき娘が今向かっているでありんすよ。十分、注意するでありんす。では……」
伝えるべき事を一方的に姫桜に伝え、そのまま念動を切る祥華。
その祥華の言葉を裏付ける様に、ネリッサの『夜鬼』もまた、自分達の側に近付く娘の姿を天から捉えていた。
腰に帯びたG19C Gen.5を抜き、其の娘が来る方向に銃口を向けるネリッサの様子に気がつき、菖蒲を庇う様に前に立つ姫桜。
けれども自らに向けられた銃口を気にした様子もなく、娘は静かに姿を現した。
「……菖蒲」
そう涼やかな声で、呼びかけながら。
菖蒲が『彼女』の姿を認めるや否や、思わず、と言った様子で息を呑む気配が伝わり、それに姫桜はその身を反射的に強張らせる。
「……水仙」
菖蒲の口から紡がれた其れに、其の娘……水仙が静かに頷いた。
「御免。少し用事があって遅くなっちゃった。一緒に灯桜祭、見に行こうよ、菖蒲」
その水仙の呼びかけに、微かに躊躇う様な表情を見せる菖蒲。
そんな菖蒲の様子をクレインで捉え。
『君の言う用事……それは、『白紅党』を焚き付けることかい?』
そう問いかけて、星の船の転送装置を利用して、姫桜の隣に現れたのは……。
「……天星さん、ですか」
呟くネリッサの其れに暁音が頷き、金の目を細めて水仙を睨み付けるのに、重い溜息を1つ吐き出す水仙。
『……超弩級戦力、か。何故貴方達は、私達から、何もかもを奪おうとするの?』
「奪う……ですか?」
棘を含んだ水仙の問いかけに、G19C Gen.5を構え、撃鉄を起こしたネリッサが静かにそう問いかける。
そのネリッサの質問に、そうよ、と水仙は頷いた。
『そうでしょう? あなた達は、私達から、黄泉還った私達の大切な人……椿を奪った。そして次は、私から菖蒲を奪おうとしている。……それだけじゃない。あなた達は、私達が敬愛していたあの方の命をも奪ったわ』
まるで鋭利に研ぎ澄まされた氷柱の槍の様に。
冷たく突き放す様な、酷薄な口調で告げられた水仙の其れに、姫桜の玻璃鏡の鏡面が震え、反射的に身震いを1つ。
背筋を走っていった悪寒が、何となく誰の事なのかを予感させやや震える声音で、姫桜が其の名を口に出した。
「紫陽花さん……の事かしら」
『そうよ、超弩級戦力達。最もあなた達が奪ったのは、それだけではないけれども』
尚も酷薄な口調で告げる、水仙の其れに。
「……水仙? 姫桜さん達が奪ったって……何を……?」
震える声音で問いかける菖蒲を、何処か憐れむ様な視線で見つめる水仙。
『御免ね、菖蒲。……本当だったら、あなたを今日、此処に連れてきたくはなかった。でも私は……私達は、椿さんの死を受け入れ、普通の生活に戻ろうとしている貴女を許すわけには行かないの。……貴女が受け入れたことは、私を……私達の思想を否定すること、そのものだから』
「……水、仙……?」
まるで、此処ではない何処か……虚空を見つめる様にして。
淡々と言の葉を紡ぐその口調の中に含まれるぞっとする様な何かを感じ取り、震えた声音で、菖蒲が水仙の名前を呼ぶ。
――親友の、其の名を呼ぶ。
『しかも、貴女は超弩級戦力達と共にいる。ならば私は、あの方達の遺志を、想いを受け継ぐ為にも、彼女と共に、鉄血の道を進まなければ行けないの。其の為に……貴女を殺さなければいけないの。大丈夫……『彼女』は、過ちに絡め取られたあなたの事を、必ず救ってくれるから』
その水仙の言の葉と共に。
微かに差し込む月光に照らし出された水仙の影の上で桜吹雪が舞い……其れが程なくして、1人の女の姿を形作った。
『……私から、姉を奪った超弩級戦力達。只、私が一緒にいたかったあの方を奪った簒奪者達。……今、漸く其の復讐の時が来たのです』
その女の言葉をまるで、合図としたかの様に。
――ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!
『白紅党』の党員達の一斉蜂起の声が、会場全体に轟いた。
成功
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第2章 ボス戦
『『妹桜』白桜華』
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POW : 白桜浄化
予め【対象の罪や後悔を自身に取り込む 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 白桜吹雪
【触れた者の意識を奪う白桜の桜吹雪 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ : 相枝相遭
【対象の後悔を吸い開花する白桜の枝 】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【後悔の念】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
イラスト:葛飾ぱち
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠幻武・極」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!
雄叫びの様に灯桜祭会場全体に響き渡る『白紅党』党員達の其れ。
「今こそ、我等の革命を果たす時だ!」
「救済という欺瞞の名の下に、失われた者達の命を無駄にせぬ為に! 我等は、世界に蔓延する停滞を破壊する!」
公園の一角から溢れる様に湧き出してきた数十人のエリート學生達。
其の手に刀や軽機関銃等の武装を持ち、革命を成し遂げるために決起する。
其れに飲まれて会場が阿鼻叫喚に包まれる其の中で。
響き渡る雄叫びを背に受けながら、水仙と、彼女を庇う様にその姿を現した妹桜が、憎悪の滾る声で呻いた。
『漸く……漸くこの時が参りました。この世界に変革を齎し、私が果たすべき事を果たせるこの時が』
「……水仙……この影朧は……? 革命って……?!」
掠れた声で呻く様に声を張り上げる菖蒲を、何処か悲しげな光を宿した瞳で見つめながら水仙が軽く頭を横に振った。
『そうね。あなたは何も知らない、起きている全ての事象から目を背けている。そして……世界の今の在り方を正しいと錯覚してしまっている』
救済という大義名分の名の下に、失われてしまった無垢なる命達。
其の大義のために、どれだけの若き同胞達が、喪われてしまった事だろう。
『そう……平和という停滞に過ぎない仮初めの怠惰を自分達が享受する為に、有能な者達を踏み台にしていることに愚かな人々は気がついていない。自分達の手は汚すことなく若い命を戦場に送り、其の命を散らせてしまっている其の事実に。勿論、気がついている人達もいたわ。けれども、今の世界の在り方こそ正しいと言う超弩級戦力と、帝都桜學府によってその方達は謀殺されてしまった』
――この停滞する世界に戦いの風を吹き込んで、世界の真の救済を望む人々は。
『死した者達の魂は転生されると言うけれど、其れによる記憶の断絶という悲劇は繰り返される。其の繰り返される悲劇を回避する為に、必要な事……黄泉還りでさえも、禁忌と見做され人の手で闇に葬られた。……その闇に葬られた者達の、痛みや悲しみから目を背けて』
その水仙の呟きに。
その通りですわ、と妹桜が静かに呟きそれから悲しげに軽く頭を横に振った。
『我が愛しき姉桜もまた、古き思想に囚われたあなた達の刃に掛かり、『救済』と言う大義の前に殺されました。如何して、あなた達はいつも私の大切なモノを奪い続けるのですか? 影朧と呼ばれる私達もまた、この世界に生きる命。何故、同じ命である私達が大切にしているモノを奪う権利があなた方にあるのですか? それは、あまりにも身勝手な所業ではありませんか?』
何処か切々とした、そんな口調で。
強き怨みの籠められた其れを、姉桜を殺められた妹桜が容赦なく叩き付ける。
『無慈悲に奪われる命達。私達は、無為で怠惰な平和の為に、若き命達が散らされていくのを見過ごすことは出来ません。多くの命達を殺めてきた其の罪を、自らの手であなた達が償わぬその限り』
そこまで告げたところで、妹桜は大丈夫です、と微かに柔和な笑みを浮かべた。
『私は、あなた達を倒します。姉の命を無闇に奪った其の罪を、あなた達の体で償って頂きます。ですが其れはあなた方を殺すことと、同義ではありません。何故なら仮にこの戦いであなた達が死しても尚、私はあなた方に再び命を与えることが出来るのですから』
――喪われても尚、黄泉還る。
黄泉還らせる、其の命を。
それが……『私』に出来る、精一杯の事だから。
「分からない……分からないよ……」
其の言の葉の意味を理解出来ずに軽く頭を横に振る菖蒲。
そのまま後ずさる菖蒲を見て、悲しいね、と水仙が呟き、腰の刀の濃口を切った。
『私達は、あの方……紫陽花閣下や、輩である椿さん達の遺志を継ぎ、この世界に真の平和を……鉄血の革命を引き起こす。欺瞞に満ちた偽りの平和を破壊し、その先にある未来を掴み取る其の為に、私達の思想を否定する者達を一度浄化する』
――でも、大丈夫。
『壊れたとしてもこの方がいる限り、再び人々は黄泉還る事が出来るから。其の力で、新たな世界の理を紡ぎ、其れを連綿と受け継ぐ世界を作ることが出来るから』
――その私達の革命を……鉄血の道を邪魔するのであれば。
『お手向かいさせて頂きますよ、超弩級戦力達。其れもまた、私の復讐ですから』
――全ては、世界に還らされた者達の遺志を継ぐ其の為に。
妹桜のその言の葉に籠められたそれは……まるで革命と復讐の前奏曲(プレリュード)の様だった。
*第2章は下記ルールとなります。
1.決起集会を通して自分達の士気を上げた『白紅党』の党員達は、水仙の煽動に従い、帝都桜學府の革命のために蜂起しました。人数は全部で数十人程。武装は刀や軽機関銃など様々です。
放置すれば、この祭に参加していた一般人に多大な犠牲が出る事でしょう。其の為、蜂起した彼等を無力化する必要がございます。
『白紅党』の党員達の生死は第3章の判定にも影響を及ぼします。また、あくまでも煽動されているだけですので、改心の余地はあります。
『白紅党』の党員はエリート學徒兵です。其の為、武器の扱いには習熟しています。
2.この章で水仙を殺害することは出来ません。水仙は自分達の思想の邪魔となる菖蒲を殺害しようとしています。殺害した後でも、黄泉還らせる事が妹桜の力で可能と思っています。
そうすることで、自分達の進んだ道の正しさを確認しようとしております。
水仙はユーベルコヲド使いです。使用するユーベルコヲドのデータは下記となります。対策を講じて下さい。
UC名:桜花風斬波
【刀】を巨大化し、自身から半径100m内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
*水仙は敵味方の区別はします。其の為、『白紅党』の党員達及び『妹桜』には被害が及びません。
3.現在、水仙と『白紅党』の人々がいるのは『公園』です。彼等は『公園』の一般人達を殺害しつつ、幾つかある橋を渡って、祭の会場にいる人々を旧思想に囚われた者達として断罪します。
4.一般人達ですが竜胆から許可を得ているので、避難場所などを指定すれば人々は指示に従ってくれます。其の為、人々に被害が出ない様守るのは不可能ではありません。尚、会場全体で200名程の参加者が居り、内100名程は公園にいます。避難場所として指定できるのは、裏路地、帝都桜學府校舎内等です(他に何か良い場所があればプレイングして下さい)
5.菖蒲の扱いは下記となります。
a.撤退できません。
b.護衛が無ければ、水仙に殺害されます。
c.猟兵達の指示には従ってくれます。
d.菖蒲の生き延びた場合、3章で力を貸してくれる可能性がございます。
6.『妹桜』は、超弩級戦力達を優先的に狙います。但しそのユーベルコヲドや攻撃で一般人や菖蒲を巻き込むことを厭うことはありません。
――それでは、最善の選択を。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
アドリブ・他者との絡み歓迎
おーおー、連中すっかり盛り上がっちまって。殺る気満々だな。
で、一般人の避難が終わるまで時間を稼げって?ふん、こりゃ報酬上乗せして貰わないとな。
高所に占位して白紅党共に対しUCで狙撃を行う。
狙うのは連中の手足だ。こういう場合、1人殺せばそれまでだが、負傷させれば応急処置や搬送で同時にもう1人か2人は足止めできる。連中、扇動はされているが、洗脳や催眠は受けてないらしいからな。傷ついた仲間を見殺しにはできまい。遅滞防御戦術の基本だ。そして戦術ってのは、人道から最も遠くに位置する純粋思考だ。殺さないのは、別に博愛主義に目覚めた、ってワケじゃないんだぜ?
ウィリアム・バークリー
『正義の戦争』と『不正義の平和』ですか? この世界のほとんどの人々が、この天下泰平を受け入れているんです。あなた方行動は、その最低限の『平和』さえ壊しかねない。
ぼくは『白紅党』員の制圧へ回ります。
「高速詠唱」「範囲攻撃」で、公園内に無数の岩石の腕を顕現。その腕で不穏分子を捕らえて拘束し無力化します。
一部の腕は、その手のひらで銃弾を「盾受け」させて、流れ弾による被害を防ぎます。
避難誘導、よろしくお願いします! 避難の方も全力で仕事を果たしておらる以上、むやみな関舘は失礼です。ぼくは背後の皆さんを信じるのみ。
自分自身は「オーラ防御」を使って身を守ります。
『白紅党』、あとどこにどれだけ残ってますか?
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で連携
操り人形になって、守るべき人達に銃を向けても平気なほど自分が狂ってしまってる事にも気づけないあたり…本当に、オブリビオンのテロ屋にとっては新兵以下の良いカモですね
先ずは以前依頼で開いた直通回線を利用し竜胆氏へ通報。桜學府・軍より防疫衛生部門と一般人保護の増援を急派してくれるよう支援要請。
その後仲間達が遅滞戦闘で注意を引いてくれる間に、指定UCでハロタン・笑気混合系の無力化ガスを充填したガス弾を装填済みの、擲弾発射機を搭載した無人戦闘車両を複数台作成。動き回らせつつ局長の弾着観測も利用し、学徒の集中部分及び機関銃兵等を優先して狙って撃ち込み、なるべく非殺傷制圧を図ります(誘導弾・制圧射撃)
同時にUC:Wild Jagdを使用し無力化済みの学徒を狼兵にし、一般人及び他の学徒の學府校舎への避難収容させつつ撤退させ。寺内さんの救護活動に必要な場合は指示に従い動くよう命令し。自分自身は可能な限り水仙の刀を持つ手を集中狙撃、攻撃を妨害し仲間を支援します(スナイパー)
アドリブ歓迎
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
灯璃さんに竜胆さんへ緊急の要請連絡はお願いしましたから、一般人の避難及び治安部隊の到着まで、白紅党を足止めして時間を稼ぎます。とはいえ、恐らく私は菖蒲さんを守るのに手一杯でしょうね。
UCで妹桜を攪乱・牽制しつつ菖蒲さんをガード。水仙さんのUCに対しては、刀が振り下ろされる寸前にG19C Gen.5の射撃で切っ先を弾いて狙いを逸らさせます。とはいえ、そう何度も使える手ではないですが…
人には、程度の差こそあれ寿命があります。そして様々な理由で、若くして亡くなる方もいます。それは非常に残念で悲しい事です。ですが、そういった寿命という制限時間があるからこそ、精一杯生き、努力し、様々なものを築き上げてきました。ですが、黄泉還りによってその制限時間が取り払われたならば…果たして、人は努力するのでしょうか?恐らくそれは、進歩や発展自体が殆ど止まってしまう事になる…それこそ停滞なのでは?
そして復讐は、何も生みません。復讐程高価で不毛なものはありませんから。
アドリブ歓迎
吉柳・祥華
先制攻撃で『神凪』を敵の頭上に出現させ
その際には存在感×殺気×恐怖を与える
これで怯むとは思わぬがの…
かと言って殺すワケにも行くまいて
それではなんの解決にもならん
捕縛などで無力化出来ればよいの
拠点防御を展開
ここでの拠点は菖蒲
『護鬼丸と冥風雪華』は召喚術×式神使いで
菖蒲を護衛するように指示をだす
護鬼丸
かばう×重量攻撃×衝撃波orなぎ払いでとにかく敵を近づけさせない
冥風雪華
氷のブレス攻撃で敵の足元を捕縛じゃろうか
とりあえず皆が辿り着くまでは防御に徹するのじゃ
対:妹桜
『風華月』での投擲×範囲攻撃分回し×衝撃波
二回攻撃もしくはカウンター等で
『白刃刀』での功夫×軽業×なぎ払い×乱れ撃ち等
『妹桜』白桜華よ
貴様の力で『姉桜』紅桜華を黄泉還らせればよいじゃろ?
出来ないのかえ?
なら貴様の力もたかが知れておるのう
姉桜は、貴様を切り倒した者どもを激しく憎んで恨んでおったが…
何故に貴様はこの場におるのじゃ?
何故、あの時…姉桜の前に還ってこなかったのじゃ?
アドリブ連携お任せ
技能等も指定以外での使用もお任せします
真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
優希斗から厄介事が起きていると聞いてね。決起とかいう暴動が起きそうというじゃないか。厄介な事が起きそうだね。(ガスマスク装置)まあ、暴動の鎮圧にありがちじゃないかね。・・・薬物の使用とかね。
水仙、確かに學部は多くの犠牲を出して来たかもしれないね。でも革命とやらに無辜の民を巻き込むことは許さない。
そしてその黄泉還りが元のように生き返る保証はない、と言ってもアンタはやるつもりかい?実際アタシ達はそれを見てる。
まずは妹桜、アンタを止めないとね。間違った黄泉還りを齎すアンタを。アタシの罪や後悔なんていくらでも吸い込むといい。安易な方法に頼るアンタには決して屈しない。【オーラ防御】【第六感】【見切り】で攻撃に耐え抜き、【気合い】【怪力】を込めた炎の拳で一撃。【追撃】で【頭突き】→【足払い】→【踏みつけ】で攻撃。
アンタ達の言い分は黄泉還りが出来るから幾ら殺してもいいってことだろ?そんな理不尽な理論、認める訳ないだろ!!
真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
革命の為の決起、穏やかではありませんね。私達猟兵に刃を向ける理由は理解できますが、大量の一般人の人達を巻き込むのはいかがなものかと。母さんに言われてガスマスクを装着、と。
まず暴動に巻き込まれないように一般人の方を避難誘導させる必要がありますね。決起会場と公園、手が回らない方に行きましょう。
勿論、避難誘導中に攻撃が飛んでくる可能性もあり得ますので、トリニティ・エンハンスで防御力を高め、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】で防御を固め、いつでも攻撃から【かばう】ことができるように。
誘導場所は帝都桜學府校舎内がいいですかね。學府の方に後を頼んで急ぎ戦場に戻ります。
私は防御を固めたままで水仙さんの抑えをしますね。私一人では防戦一方でしょうが、【怪力】【シールドバッシュ】で牽制はしておきます。
黄泉還りをすれば新しい生活ができると言いますが、元の人に黄泉還るとは限らないとしても、貴女はそのまま進むつもりですか?
天星・暁音
身勝手な所業…言いたいことは分かるよ
俺らが身勝手なのも、変革の為なら何をしてもいい君も変わりはしない
求めるモノが違うだけ
そして、生き返るのだからいいなんて
馬鹿な話は寝言は寝て言えって思うだ
意志を継ぐ…言葉だけならいい言葉だけどね
菖蒲さん
君が良い感情を持ってないのは分かるけど
結局、黄泉還りとはこういう話になるんだよ
生き返るから誰かを傷つける事に罪の意識もなくなる
君はそんな世界はどう思う?
空に昇り戦場を監視し
一般人避難と菖蒲の護衛を障壁援護
白紅党、水仙は状況により四肢を分解してでも止めます
死なないよう痛みを止め自爆自殺、或いは外部からの殺害の阻止
UC分解回復で戦闘援護
優先は避難と護衛
ガスマスク持参
神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
確かに今の世界のシステムに不満を持つ人がいるとは理解してます。でも無辜の人々を多く犠牲にする革命では絶対世の中は変えられない。残るのは深い悲しみと更なる憎しみの連鎖です。なんとかせねば。(響の言いつけでガスマスクを装着)
革命という殺戮で人が死んだとしても黄泉還りで全て元通り・・・とか思ってるみたいですが、その黄泉還りが元通りの人に戻せる保証はどこにもありません。僕らは椿さんの例を見てます。無差別殺戮の正当化にはなりませんね。
まずは妹桜、貴女を何とかしませんとね。確かにお姉さまを倒したのは僕達猟兵です。でもその恨みを一般の人達にも向けるのは理不尽でしょう。
【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【部位破壊】【目潰し】を併せた【結界術】を敵に向かって展開、【追撃】で月蝕の呪いを仕掛け、【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】【魔力溜め】で【電撃】で攻撃。
後悔なんていくらでもしてます。【オーラ防御】【第六感】で耐えます。この革命という無差別殺戮を防げず、後悔するよりマシです。
馬県・義透
『疾き者』にて
陰海月を呼び出し、それに乗って上より菖蒲殿の元へ急行。一緒に行く方がいれば、同乗可能
到着次第、牽制のために漆黒風を投擲。以後は菖蒲殿護衛へと、陰海月と共に立ち回る
近接ならば、四天刀鍵で斬ることも考える
攻撃は風結界で弾き…足らなければ、広げた四天霊障での押し返しも加えましょう
無抵抗の一般人を殺めるの、『虐殺』っていいませんかね?
黄泉還り…できるというのならば、してみなさいな
『私たち』は悪霊。つまりは既に死んでいるのですけどね?
はは、『私たち』は己の意思にて還った者なれば。覚悟はとうにできている
※
陰海月史上、最大速度空中機動。人数分だけ一時的に大きくなる
護衛のため、海属性結界頑張る
寺内・美月
SIRD指揮下・猟兵間通信網緊急構築
アドリブ・連携歓迎
・先発したSIRD主力に合流、治療活動を優先しつつ前衛として行動
※別命ある場合はこれに限らず
・味方がガス弾の投射及び着弾観測を行っている間は一般人への被害抑制を優先(特に流れたガスに注意)
・学生制圧及び一般人離脱を確認次第、救護対象を猟兵に切り替え近接戦闘
・白桜の枝は双刀および拳銃で撃ち落とす
・水仙の【桜花風斬波】に対し【剣霊覚醒】で刀を破壊できるなら実施
・質問できるなら水仙に一つだけしてみる
「一つだけ質問したい。転生の概念が存在し、停滞とはいわれても表面上は大戦争がないこの世界において、その礎石となる事にそこまで不満がお有りで?」
文月・ネコ吉
統哉に呼ばれ応援に
姫桜や美雪達もいるようで頼もしい
連携出来ると有難い
瞬間思考力で素早く状況を見切り
冷静に柔軟に行動し最善策を模索する
事態は急を要するか
場を納めるには党員達の無力化は不可欠だ
小さな体を生かして素早く移動
集会会場の中心から『遣らずの雨』を降らせ
党員達を眠らせて武力蜂起を無力化する
必要なら庇う
誰も殺させないし死なせない
先ずは眠って頭を冷やせ、話はそれからだ
演説の熱に浮かされて
革命だなんだと声高に叫んではいるが
決起したばかりの彼らに
本気で命を賭ける覚悟がどれ程あるというのだろう
だが一般人でも党員でも
死者が出てしまえば話は変わる
死に意味を持たせる為の最後の覚悟
その流れだけは絶対に止めたい
白夜・紅閻
とりあえず、自分の現状を把握
現在位置、路地裏
現状、恐らく人波に呑まれて公園に流れていると思われる
此処を脱け出すには…
白梟に上空へと連れ出して貰う
もしくは…動物達に抜け道に案内して貰う
臥を召喚術→騎乗・地形の利用×悪路走破で壁でも伝って
建物の屋上とか其処を目指して
あとは一直線に屋上から菖蒲達の下へジャンプし滑空+落下委耐性に備えついでに着陸の際には衝撃波で吹き飛ばし
イザークとレーヴァテインを構えて二回攻撃
斬撃波+貫通撃+切断、重量攻撃+傷口をえぐる+爆撃等で
白梟は俺たち、もしくは先に戦っている奴のサポート
援護射撃・威嚇射撃・ブレス攻撃等
アドリブ連携お任せ
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
…始まってしまったか!
公園へ急行しながら指定UC発動
分身を10体生成し「ダッシュ」で先行させる
分身たちは一般人を「かばう、オーラ防御」で守りつつ橋の向こう側へ避難するよう呼びかけながら
党員の武器を「武器落とし」した上で黒剣で首筋を峰打ちし気絶させる
負傷は「激痛耐性」で無理やり押さえ込む
今は一刻も早く一般人を避難させるのが先
俺への被ダメージが激増するのは覚悟の上だ
姉桜とは面識がないので妹桜は倒すのみ
「闇に紛れる、忍び足」で妹桜の背後を取り
「不意討ち、2回攻撃、衝撃波」で斬りかかる
白桜吹雪は衝撃波で散らしつつ負傷の痛みと眠らぬ覚悟で耐える
避難完了したら分身たちも合流させ
全員で断続的に妹桜に斬りかかろう
もし水仙が妨害するようなら
「怪力、グラップル」で首筋を強打し気絶させよう
水仙、妹桜
貴様らの寝言には何一つ感銘を受けないがあえて聞こう
貴様らにはこの革命の先が見えているのか?
…紫陽花さんはその先まで見据えた上で決起したが
貴様らは革命そのものが終着点としか見えないぞ?
彩瑠・姫桜
菖蒲さんの護衛メイン
公園の一般人達は、あおと皆に任せる
[封印を解き]真の姿解放し
[かばう、武器受け]駆使して[覚悟]をもって挑む
可能なら水仙さんのユーベルコヲド封じるため
UC使用してみるわ
水仙さんの想いも色々あることはわかったわ
紫陽花さんへの想いも、椿さんへ抱く想いも
でも、菖蒲さんを殺させたりはしない
今の感情に振り回されて、菖蒲さんを手にかけたら
水仙さんは本当の意味で戻れなくなる
今はそれでもいいと思うのでしょう
でも
未来の貴女が今と同じ思いでいるなんてわからないじゃない
だから、私は未来の水仙さんを守るためにも
今の貴女を止めてみせるわ
それに、菖蒲さんが生きることは、椿さんの望みでもあるのよ
生きることはある意味では死ぬよりも苦しいことよ
でも、菖蒲さんはそうすることを選んでくれたの
何より苦しい道を選ぶことを決めてくれたの
椿さんは還ってくるわ
転生して、記憶を失い、その姿や名前は変わるのかもしれない
でも、魂の形は同じ、椿さんとして絶対に戻ってくる
その時に、ちゃんと椿さんに菖蒲さんを会わせるんだから!
榎木・葵桜
一般人の避難と護衛最優先
必要に応じて『白紅党』の党員達の無力化を試みる
同じように一般人の避難させる仲間と連携して行動
姫ちゃんとの合流は遅れちゃったけど、やるべきことって意味では間に合ったって感じ?
てなわけで、今の私にできること、やりきってみせるよ!
一般人の避難先は、
案がある仲間の指示に従うけど
特になさそうなら、帝都桜學府校舎内へ避難させるように動くね
一般人が攻撃されそうなら、前に出て[かばう]
胡蝶楽刀使用して[武器受け]したりするね
『白紅党』の党員さんは、
なるべく殺さないように
手刀とか使って気絶させられるようにできたらいいかな
可能なら水仙さんのユーベルコヲド対策もする
私のUCの対象を水仙さんに合わせてみるね
水仙さんも『白紅党』の党員さん達も色々熱いのはいいことだけど
思い込みに走りすぎちゃってない?
何より、自分たちの思想にそぐわない者は排除するって考え方、それこそ流行らない考え方だと思うんだよね!
世界の変え方は革命だけじゃないでしょ
もうちょっと頭を冷やして、視野を広げて色々考え直してみなよ
森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
復讐心だけで世界に革命を齎そうとするなら
てめえらは既に世界の「敵」だ
真の姿解放し「暗殺者」に
本来なら変革者には死あるのみ
だが「陽太」の意は妹桜以外非殺だ
…なら、その意に従おう
「高速詠唱、魔力溜め」+指定UCでスパーダ召喚
スパーダの短剣全てに「属性攻撃(雷)、浄化」を纏わせ射出
党員達と水仙、妹桜に電気ショックを与え行動阻害しつつ
二槍伸長「ランスチャージ、串刺し」で妹桜を貫くのみ
相枝相遭の白桜の枝と水仙の巨大刀は
「第六感」で察した上で「見切り」回避
とはいえ、白桜の枝は刺さっても「暗殺者」ならば後悔の念はない
…「陽太」が受けていたら拙かったが
そもそも「陽太」が椿(影朧)や菖蒲に紅茶と珈琲を差し出した時
椿(影朧)が選んだのは好きな紅茶じゃなく珈琲
瞳の色も赤に変わっていたはずだ
完全な黄泉還りなら嗜好も同じだし外観の変化もないはずだが
貴様らはこの齟齬をどう説明する?
もう一つ事実を
人としての椿を殺したのは
闇の天秤に属する影朧だと聞く
…そこの妹桜と同じと思えるが?
文月・統哉
俺も参戦を
仲間と連携して誰も死なせない
オーラ防御展開し
攻撃見切り武器受け
水仙に説明しながら
宵を手に白桜と対峙する
白桜もまた救うべき影朧なのだから
水仙、君は黄泉還った椿さんに違和感を感じなかったかい
彼の意識はジャックに、別の影朧に乗っ取られ
救済とは程遠い状態だった
でも黒幕が白桜なら納得だ
彼女の目的は救済ではなく
人への復讐なのだから
紅桜と白桜、双子の桜の精の話を知ってるかい?
幻朧桜も妹桜も人の手で刈り取られ
姉妹は分かたれてしまった
白桜、君はその悲しみと苦しみを
今もずっと抱えているんだね
紅桜もそうだった
過去に囚われたまま破滅の道を辿る
それが影朧という存在
引き裂いたのは人の罪
だからこそ、その苦しみから君を解放させて欲しいんだ
出会って別れて再び出会う
その繋がりの輪があるからこそ姉妹は出会えた
桜の精である君は、誰よりそれを知ってる筈
復讐ではなく、未来の紅桜に会いに行くんだ
例え記憶は途切れても
紡いだ縁は繋がっている
紫蘭と雅人の様に
祈りの刃で白桜を斬る
転生したその先で
姉妹が新たな思い出を紡げる事を祈って
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
ああもう!
どの世界でもどうして狂信者は事を急くのか!!
UDCアースでよく似た事例を知る身としては頭が痛いわ
全猟兵に緊急連絡
竜胆さんから既に全権を託されている旨伝える
ついでに可能な限り全員にガスマスクも配布し無力化ガス対策
竜胆さんと白蘭さんにも一報は入れるが…間に合わぬだろう
決起した党員が公園内にのみいるのを目視確認し
無力化ガスが発射されると同時に
主に公園外の一般人へ避難を呼びかけ帝都桜學府の校舎内に誘導
公園内は…他猟兵に託すしかあるまい
避難完了後遅滞なく橋を封鎖し水仙と妹桜のもとへ
菖蒲さんの護衛につきつつ
「歌唱、優しさ、鼓舞」+指定UCで回復と再行動を図ろう
相枝相遭と巨大刀は気合で回避するしかあるまい
確かに戦乱は世界そのものの変革…ブレイクスルーを齎すことがある
UDCアース出身者として、それは否定できぬ
だが
記憶を、記録を連綿と繋げ
未来に行かすのは常に生者の仕事
黄泉還った人々でも影朧でもない
そもそも
椿さんは黄泉還りを望んでいたのかな?
私にはそうは見えなかったぞ?
●
――ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!
公園の決起集会場で木霊する雄叫びと共に、怒濤の如く雪崩れ込む様な形で公園に手に手に武器を持ち走り出す白紅党の党員達。
その雄叫びを公園外れの街道で聞いた藤崎・美雪がああ、もう! とむしゃくしゃした様に頭を掻いている。
「どの世界でも如何して狂信者は事を急ぐのか!? UDCアースでよく似た事例を知る身としては頭が痛いわ……!」
「いずれにせよ、緊急通信網の構築を早急に行う必要がありますね。SIRD及び、猟兵間緊急通信網の作成は可能ですか?」
自らの特殊自動通信機の周波数を素早く専用チャンネルに切り替えながら、蒼穹の風をその身に纏い。
美雪の隣に現れた寺月・美月の問いかけに、美雪が微かに驚いた様に目を見開く。
「うわ、驚いた! あなたは確か……美月さんか。取り敢えずもふもふさんと無線で取り急ぎ情報の共有は可能だと思うが……」
と美雪が美月の問いかけに目を瞬かせつつ、慌てて懐から無線を取り出し、緊急で連絡を取ろうとした、正にその時。
「……此方、SIRD局員、灯璃・ファルシュピーゲル……応答……願い……ます」
白紅党の者達の喧噪に紛れ込んでいるのであろう。
やや雑音交じりに聞こえてくる灯璃の声に、小型情報端末MPDA・MkⅢを無線としていたネリッサ・ハーディが其れに応えた。
「聞こえています、灯璃さん。状況が大きく急変しました。私は護衛対象(オブジェクト)の菖蒲さん、及び彩瑠さん、天星さんと共に、目標(ターゲット)に接触中です。状況は諒解していますので、一先ず竜胆さんへ緊急の応援要請連絡を……」
「Yes……局長……」
素早く口を挟むネリッサの其れを聞き、いや、と美雪が軽く頭を振る。
「……竜胆さん達は私達猟兵に今回の事件の全権を託した。其の為の書類も用意されている。逆に言えば恐らくこの状況になった時、自分達に何らかの圧力が掛かり動けなくなる可能性を想定しているのだろう。其れよりも速やかな白紅党員達の鎮圧と、一般人の避難・救助、そして水仙さん及び妹桜の制圧を」
「……了解……です……」
そのまま波に飲まれる様に灯璃達の連絡が途絶えた時。
「……美雪さん、美月さん! ……始まってしまったのか!?」
幾分か表情に焦りを浮かべながら美雪達の方へと駆けてくる館野・敬輔の呼びかけに、美雪がああ、と軽く頷いている。
既に額に汗が滲んでおり、表情には微かな焦燥が伺えた。
「その様だ。……くっ、このままだと人手が足りなくなって死者が……!」
「一先ず、私は先行したSIRD部隊……灯璃様達と急ぎ合流、被害を最小限に食い止めに向かいます」
美雪の其れに冷静に美月が軽く応え、灯璃及びネリッサにその旨を報告後、公園内……銃撃の音の鳴る戦場に向かって駆け出していく。
突然の銃声にパニックになる一般人達を見て、美雪が思わず目を眇め。
敬輔は咄嗟に10体のその左肩から首の付け根にかけての傷痕が白化した自らの分身を召喚し、美月と共に決起集会場へと走らせる。
――と、此処で。
「美雪、随分と事態は切迫しているみたいだね」
不意に美雪の背後に声が掛かった。
掛けられた馴染み深い声に微かに息を呑みながら素早く後ろを美雪が振り返ると。
「……響さん、奏さん、瞬さん……来ていたのか」
「勿論です。それにしても、革命の為の決起とは、心穏やかな話ではありませんね」
美雪の其れにそう軽く頷き返したのは、真宮・奏。
「……もう事件は起きかけている以上、厄介なのは間違いないだろうね。取り敢えず、奏、瞬。美雪に敬輔も、此を装備しておきな。こう言う暴動の鎮圧を何とかするための手段として……薬物の使用はお約束、だからね」
懐から5つのガスマスク装置を取り出して、自らの顔に装着しつつ、其れを奏達に手渡す真宮・響。
響の其れに、その声を背後に聞いていた美月が心持ち小さく首肯して駆けていく姿を見て取った神城・瞬がそうですね、と頷いた。
「確かに死者を出さないと言う点であれば、鎮圧ガスは定石にもなり得ます」
響の其れに納得して頷き同様にガスマスクを身に付ける瞬。
「先ずは、一般人の皆さんの避難が先です。母さん、兄さん、私は……」
瞬がガスマスクを付けるのを心持ち不安げに見やりながらの奏の提案に、そうだね、と響が軽く頷く。
「守るのは奏、アンタの役割だ。そっちは任せたよ。アタシと瞬は……」
――パァン!
少し離れたところから聞こえてくる銃声音。
其れは最初に聞こえた乱射される銃声とは別にある、一発の音。
恐らくネリッサが愛銃G19C Gen.5で接敵した妹桜に発砲した音だろう。
だが、同時に巨大な漆黒の剣閃が走る音と、其れを拘束しようと銀製のロープが投擲され、風を切る音が瞬達の耳朶を叩く。
「……妹桜達を先に止めに行く。奏は後からアタシ達に合流して」
「分かりました、母さん。……兄さん、母さんもどうかご無事で……!」
「私も避難に回ろう。権限は私達全員に委任されている様だが、それだけで人々が避難誘導に従ってくれるとは限らないからな……!」
告げて美月と敬輔の分身達を追って、公園内の決起集会場の方へと駆けていく奏と、その後を追う様に美雪がその場を立ち去る。
其の美雪達の様子を上空から見下ろしながら。
「……そういうことでありんすなら、真宮、神城。おぬしらは、そこから東の方へ向かうでありんす。妾も急ぎ其方に合流するでありんすので」
(「白夜は、白夜で森宮達と共にどうにかするであろう。なれば援軍が合流するまでは、妾達で妹桜達に対応せねばならぬな」)
ふわり、と彩天綾を翻す様にして空中から天女の様に舞い降りた𠮷柳・祥華の呼びかけに、分かったよ、と響が軽く頷き返した。
「兎に角、其々が其々の役割を迅速に且つ確実に果たす必要がありそうだ。敬輔、避難は美雪達とアンタの分身に任せてアンタは……」
「ああ、分かっている。急ぐぞ!」
その響の言葉に勇ましく頷いて。
其の体に鉛弾を食らったかの様な痛みを覚えながら、敬輔は祥華達と共に妹桜と水仙のいる場所に向けて駆け出した。
――祥華が天空に走らせている『識神』の目で正確に捉えた情報を頼りにして。
と……其の時。
「此は……?」
周囲にクレインを展開していた天星・暁音が、決起集会場の上空に突如として浮いた巨大なクラゲ状の生き物に思わず目を瞬かせた。
●
「ふう……助かったぜ、馬県」
「いえいえー。群衆の群の中に飲み込まれていては何も出来ませんからねー。一先ず態勢を整えるべく一度空に逃げるのは当然ですよー」
ふわふわと空中に浮かぶ、史上最大級に巨大化した陰海月の、その上で。
愉快そうに鼻を鳴らしつつ、軽く額に浮いた汗を拭うミハイル・グレヴィッチの其れに、馬県・義透がおっとりと答える。
疾き者……外邨・義紘として、閉ざされた双眸の奥で何かを貫く眼光を輝かせて。
「ぷぎゅっ!」
何時になく気合いの入った調子で活を入れる様に叫ぶ陰海月を白夜・紅閻がふむ、と其の赤い瞳で見つめていた。
――自らと感覚を共有していた『白梟』の目で、真下で蠢く白紅党の党員達……暴徒達を見つめながら。
「くっ……Stone Hand!」
眼下では人混みに同様に飲み込まれて地面に倒れた、ウィリアム・バークリーが大地に自らの手を叩き付けている姿が見える。
それが、人々に向けて機関銃の引金を引こうとしていた者の立つ地面から無数の岩の腕をぬっ、と突き出させていた。
(「『正義の戦争』と『不正義の平和』? この世界の殆どの人々が、この天下泰平の世の中を受け入れているというのに……!」)
突如として生えてきた大地の精霊の腕に、照準を狂わされ空中に向かって薬莢を飛ばしながら機関銃を誤射する白紅党党員。
其の銃弾が散開してそのまま地面に落ちていけば事だと判断した紅閻が。
「……白梟」
自らが足を掴む巨大な白き怪鳥に命じるや否や口腔内から白梟が白炎のブレスを吐き出しそれらの銃弾を焼き尽くす。
だが……。
「怯むな、進めーっ! 全ては、世界のあるべき本当の姿を作る其の為に! あの御方の死を犬死にせぬ其の為にも!!!!!」
党員の1人が興奮を抑えきれぬ様に叫ぶのに、白紅党党員達の1小隊が更なる歓声を上げて岩石の腕を破壊せんと刀を振るう。
「……復讐心だけで世界に革命を齎すつもりかよ」
激情の儘に発憤し、雄叫びと共に、ウィリアムとその背後の一般人達に武器を向ける党員達を森宮・陽太がそう毒づく。
『陰海月』の上に半ば担ぎ上げられる様な形でへばりつく様にしていた陽太の声に灯る其れに義透が微かに目を細めた。
「陽太殿……」
その義透の微かな制止の声に止まる様子もなく。
「……ならばてめぇらは、既に世界の『敵』だ」
そう陽太が告げた、其の刹那。
陽太の全身が漆黒のスーツに包み込まれ、同時に其の顔に白い能面の様なマスケラが被せられる。
そのマスケラの窪んだ穴から翡翠の双眸を鋭く輝かせ、陽太……『無面目の暗殺者』が小さく呟く。
「本来なら、変革者は、死、あるのみ、だが……」
(「それじゃ駄目だぜ……『オレ』。『俺』は、アイツらを許すことは出来ねぇが、殺したい訳じゃないんだ」)
白いマスケラとブラックスーツの其の奥から聞こえてくる陽太の声。
その陽太の言の葉に。
「良いだろう、『陽太』。……俺は其の意に従おう。スパーダ。奴等の動きを封じよ」
陽太が短い首肯と共に、空中にダイモン・デバイスの銃口を掲げ、引金を引く。
籠められた一発の弾丸から飛び出す様に姿を現したのは、捻れたふたつの角を持つ漆黒と紅の、其の手に紅き短剣を持つ悪魔。
其の悪魔……スパーダの周囲には、全部で1150本の幾何学紋様の描かれた刃にバチリ、バチリと閃光の如き光を纏う短剣達。
其の一部……全部で650本程の短剣が、其の先端を白紅党に向けて突き出され、激しい雷光を迸らせた。
『! 各隊、散開しろ!』
上空から突如として降り注いできた雷に気がついたか、熱狂していた党員の1人が反射的に声を上げる。
すると、訓練された軍隊の様に統一された動きで数十人の党員達が幾つかの小隊に分かれて散開し、短剣から迸る雷撃を躱す。
それと同時に、小隊の一派が熱に浮かされた様な哄笑を挙げて、其の手のアサルトライフルの引金を引こうとするのを見て。
「操り人形になって、守るべき人達に銃を向けても平気な位、自分達に酔っている程なのに……この練度は厄介ですね」
(「此は本当にオブリビオンのテロ屋にとっては新兵以下の良いカモですね……」)
胸中で呟きながら、JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioで情報を共有しようとした灯璃が思わず溜息を吐いた其の時。
「おーおー、連中すっかり盛り上がっちまっているなー、ヲイ。まっ、殺す気満々で頭に血が上っている様じゃ戦場では死ぬだけだが……今回は、洗脳や催眠されていないのが分かるだけマシってもんだな」
――ズドォォォォォォォーン!
口元にヤレヤレ、と呆れた笑みを浮かべて。
『陰海月』の頭に乗ったままだったミハイルが、愛銃、SV-98Mのスコープを覗き込みながら躊躇いなく其の引金を引いた。
引金と共に発射された一発の弾丸が吸い込まれる様に灯璃を狙って突撃した白紅党党員の足を撃ち抜き、党員が無様に転倒する。
周囲の小隊を組んでいた同僚達が、足を貫かれ呻きを上げる党員の様子に泡を食って手当をするべくずるずると後退。
その様子を空中から見ながら、ミハイルが軽く肩を竦める。
「ったく、この調子で一般人の避難が終わるまで時間を稼げってんだからよ。相変わらず無茶振りも良いところだぜ……。こりゃ、報酬上乗せして貰わねぇとな」
ぼやきながら軽く周囲を見回し、紅閻が足を掴む白梟に目を留めるミハイル。
「おい、白夜」
「如何した、ミハイル?」
ミハイルの呼びかけに微かに怪訝そうな表情を浮かべた紅閻にまあ、そんな硬い顔すんなよ、と言う様にミハイルが笑いかけた。
「テメェが今掴まっている、白梟だっけか? そいつを借りれねぇか? こりゃ、空からの狙撃が一番手っ取り早そうだ。こっちの算段は纏まっていてな。もうすぐ寺内も来るだろうから、其れがありゃ此方はケリを付けられる」
「……分かった。此処はお前達に任せよう。……篁臥」
ミハイルの勝算が見え隠れする笑みに紅閻が頷いて。
パッ、と白梟の足から手を放し、そのまま脱いだ外套を地面へと落としながら落下していく紅閻。
その足下に姿を現した漆黒の獣……『篁臥』が咆哮と共に紅閻を其の背に着地させ、くるりと白紅党員達へと背を向け、大地を蹴る。
ウィリアムの岩石の腕で隆起した大地から土煙を起こしつつ、その場を漆黒の風の如く離脱する紅閻。
「では私達も。ミハイル殿、此方はあなた達にお任せしますよー。では……陽太殿?」
「……了解だ。……行くぞ」
その紅閻と篁臥に続く様に、陽太と義透を同乗させた『陰海月』が其の後を追う様にその場を立ち去る。
義透達を見送り、ミハイルが1つふん、と鼻を鳴らすとほぼ同時に。
――ズドォォォォォォォーン!
SV98-Mで再び白紅党党員達の足下を狙い撃ち、その進軍を遅らせ始めた。
●
――だが、数の暴力は恐ろしい。
白梟に跨がったミハイルの上空からの遅滞射撃でその動きを阻害されても尚、殺戮と攻撃を止めない白紅党党員達。
その1人が突き出した銃剣が擲弾発射機を搭載した無人戦闘車両を手早く召喚しようとしていた灯璃を牽制。
更にその小隊で後方についていた党員の女性がその手に持つ軽機関銃の引金を引き、公園の人々に向けて、フルオートで射撃を開始。
――それが、パニックになって逃げようとする人々を撃ち抜こうとした、刹那。
「駄目だよ! そんな事やらせないんだから! 姫ちゃんとの合流は遅れちゃうけれど、誰かが無闇に傷つけられるよりはマシっ!」
――チリン、チリン。
その柄に取り付けられた、魔除けの鈴を鳴らしながら。
胡蝶楽刀を振るいつつ舞われた其れによって無数の桜の花弁が吹雪と化して銃弾を吹き飛ばす。
そうして姿を現したのは、口元から血を滴らせつつ、八重歯が光る様なにっこり笑顔を浮かべる、榎木・葵桜。
右手に構えた胡蝶楽刀を今度は横薙ぎに降るって波立たせる様に桜吹雪を舞わせながら、ばさり、と桜舞花を広げ口元を隠す。
「まあ、やるべき事の為には間に合ったって感じだから、今の私に出来ること、やりきってみせるよ! 皆は、私達の仲間がもうすぐ来るから、其の人達の指示に従って帝都桜學府學舎内に避難して!」
背に庇う様にした一般人達に向けて溌剌とした様子で告げる葵桜の其れに、一般人は顔を青ざめさせている。
「だ、だけど、アンタ達がいないと流れ弾に撃たれる可能性が……」
「なんで、なんでこんな事に……?!」
そうヒステリックな声を上げる、戦いという名の暴力とは無縁だった普通の人々。
その人達を守る為にも、と気合いを入れ直して、藍色の瞳に真剣な光を宿し、桜舞花と胡蝶楽刀を構え直した葵桜の前に。
「……全くだな、普通はこんな事になるなんて、誰も思わない」
――するり、と。
猫の様にしなやかな動きで前傾姿勢になって一般人達の脇を通り抜け、白紅党党員達の輪に突っ込んでいく灰色の影が1つ。
何が起きたのか分からない、と人々が一瞬呆気にとられた時。
「皆様、避難先は此方です。橋を渡って直ちに帝都桜學府の學舎に避難して下さい」
そう優しく励ます様に冷静な表情で告げる美月が現れ。
「大丈夫です。あなた達の事は私達が必ず守りきって見せます。其の為に此処に来たんですから……!」
不安を口に出した男を安心させる様にきっぱりとした声音でエレメンタル・シールドを構えた奏が仁王立ちになり。
更に、その左肩の傷痕を白く濁らせた10人程の敬輔が腰を抜かし、動揺する人々を守る様に姿を現すとほぼ同時に。
「頼む、ネコ吉さん……!」
腰を抜かした人を助け起こしながらグリモア・ムジカを展開、鋭い音色を奏でながら叫んだ美雪の声を聞いて。
「ああ、分かっている。誰も殺させないし、死なせない。兎に角、お前達は先ずは頭を冷やせ」
白紅党党員達の周囲を覆う様に穏やかな雨雲の幻が浮かび……そこから幻想的な煌めきを伴う雨が降り注いだ。
降り注いだ雨を先程ミハイルに無力化された党員達や、灯璃を撃ち殺そうとした党員が浴びてそのまま丸くなって眠るのを一瞥し。
「……まだ全然、だな」
美雪から預かったガスマスクを被った文月・ネコ吉の呟きが、党員達との戦いと一般人の避難に掛かる時間の長さを予感させた。
●
一方、その頃。
『お手向かいさせて頂きますよ、超弩級戦力達。其れもまた、私の復讐ですから』
優美で優雅であると同時に、抑えきれぬ程に深き大地に根付いた巨木の様に。
深く突き立てられる様な鋭い痛みと鈍器で殴られた様な痛みを伴う妹桜のその声に、暁音が其の金の双眸を鋭く細めた。
意識の半分は戦場全体に展開したクレインへと向けてあるが、そこに籠められた怨嗟に共苦の痛みが過剰な痛みを放つ。
(「……成程。この復讐に対する強い想い。此は……」)
「……俺達の身勝手な所業、か。……まあ、言いたいことは分かるよ」
よく火で炙り、同時に研がれた針で貫かれる様な痛みと溶鉱炉に飛び込んだかの様な灼熱感に暁音が小さく溜息を漏らす。
妹桜の言う自分達が如何に身勝手な存在と言うのは、彼女の境遇を追って考えていけば、成程、1つの道理であろう。
「ですが復讐は、何も生みません。復讐程、高価で不毛なものはありませんから」
沈思黙考する様に重く息をつく暁音とは対照的に、G19C Gen.5の銃口を妹桜に向けたまま、ネリッサが言葉を選びつつ諭す。
其れを聞いているのか、いないのか。
『私達の革命を……鉄血の道を邪魔するのであれば、例え其の相手が菖蒲でも、私は……私達は、容赦はしない』
淡々と呟き、濃口を切った刀をすらりと抜刀する水仙の様子にぺたん、と思わず尻餅をついて恐怖からか、大きく目を見開く菖蒲。
「……水……仙……?」
呆けた様に問いかける菖蒲のその声を気にした様子もなく、自らの気を練り込む様にして、両手遣いに構えた刀を巨大化させる水仙。
茫然自失した儘に口をパクパクさせ、喘ぐ様に呼吸をする菖蒲を守る様に、平然とその身を刃に晒すのは、彩瑠・姫桜。
其の手には何時の間にか漆黒と白に塗り固められた二槍……schwarzとWeißを構え、夜風に腰まで届く金髪を靡かせる。
先程、会話をしていた時と異なる空気を纏い、何処か静謐なる気配を纏う姫桜の様子に、思わず瞬きをする菖蒲。
『如何しても、私達の邪魔をするというのね。ならばあなた達にも、私達の革命の……あの御方の遺志を見せてあげるわ……!』
咆哮する様なそれと共に。
巨大化した刀で公園を薙ぎ払う一閃で公園全体を斬り裂き、人々と菖蒲達を纏めて屠ろうとする水仙。
其の後ろにはまるで影の様に寄り添い、何かに祈りを手向ける様に毬を両手で包み込む様にする妹桜の姿。
「……そうね。水仙さんの想いも、色々あることは分かったわ」
白と黒の二槍……Weißとschwarzに薄らと赤い光を纏わせながら、風車の様に其れを回転させてその刃を受ける姫桜。
姫桜の華奢な其の体を、Kirschblüteごと斬り裂き、姫桜の色白の肌から鮮血が飛び散るがそれでも姫桜は止まらない。
「そう……あなたがどれ程、紫陽花さんを想い、椿さんを想っていたのかは」
その言の葉と共に。
腰にベルトの様に帯びていた拘束ロープを抜き打ちで投擲し、自らの体を切り裂いた刀の刀身を姫桜が絡め取る。
其れは、自らを守る為ではなく。
「……菖蒲さんを殺させたりなんかしないんだからっ!」
紐に取り付けた猿轡を嵌め込まんと投射する姫桜。
猿轡はまるで意志を持った生き物の様に蠢き、水仙の口に無理矢理自らを嚙ませようとするが……。
「させません! その様な技で、私達の復讐を止めさせなんてしませんから!」
瞬間的な叫びと共に、激しい白桜の桜吹雪を周囲に吹き荒れさせる白桜。
更にその頭部の白桜の枝を鋭槍の様に撃ち出して、姫桜と菖蒲を貫こうとするが。
「フォーマルハウトに住みし荒れ狂う火炎の王、其の使いたる炎の精を我に与えよ」
ネリッサが咄嗟に左手を天に向けて掲げ涼やかに詠唱を完成させる。
其のネリッサの呼びかけに呼応する様にネリッサの周囲に111体の炎の精達が踊る様に姿を現し、白桜の枝に取り憑き炎を吹き付ける。
だが……水仙の巨大な刃は止まらない。
其の残酷にして無慈悲なる革命の刃が、姫桜と菖蒲、未だ周囲にいる人々を纏めて薙ぎ払おうとした、其の刹那。
「水仙、止めろ! そんな事をしても、誰も救えないし、救われないんだ! 君も……! 白桜も……!」
――ヒュン!
鋭く風を切る様な音と共に、クロネコ刺繍入りの深紅の光が戦場を奔る。
宵闇の中で輝くルビーの煌めきを伴う一閃が、巨大化した水仙の刀の勢いを削ぎ。
「……今ですね」
勢いを削がれ、一瞬刃の動きを止めた水仙の刀に向けて、ネリッサがG19C Gen.5から掩護の射撃を放つ。
放たれた弾丸が、薙ぎ払われようとしていた刀の軌道を狂わせ、今にも全てを斬り刻まんとしていた暴風の勢いを弱めた。
「くっ……。流石に簡単にやらせてはくれないわね……!」
「……っ。其方も簡単に私達に止めさせてくれない、と言う事ですか」
水仙が一度刀を引き構え直す仕草に合わせて、ネリッサもG19C Gen.5のグリップを、血の滲む勢いで握りしめる。
白桜の桜吹雪から舞い散る花粉と花弁が、強い眠気を引き起こさせるから。
(「今、此処で私達が眠ってしまえば、菖蒲さんも、人々も守る事が出来ず、何もなすこと無く終わってしまいますね」)
――そんな結果は。
SIRD――Specialservice Information Research Departmentの誇りに賭けても許せない。
それに……。
「此処で私達が倒れてしまえば、この限りある生の中で私達が築き上げてきたものが否定されてしまいます。そんな結末を私達は望みません。そうですよね、文月さん」
「ああ……そうだ。俺は、俺達は、此処で立ち止まるわけには行かないんだ」
――今までに重ねてきた想いを、真実を伝え、妹桜も水仙も救う其の為には。
クロネコ刺繍入りの深紅の結界を張り巡らし、妹桜の解き放った桜吹雪を浴びて感じる眠気に耐えながら、文月・統哉が胸中で呟く。
背後から、逞しい四肢で大地を蹴って此方へと風の如く迫る獣と、上空を覆い隠す様に現れる『陰海月』
そして、敬輔や響、瞬……頼れる仲間達が、此方へと近付いてくる足音を、其の耳でしっかと捉えながら。
●
――上空から降り注ぐ様な凄まじき威圧感。
常人であれば圧迫死しかねない異様な存在感が上空から隕石の様に落ちてくるのに応じる様に、上空へと刀を一閃する水仙。
鋭い斬撃によって斬り裂かれた大気が鎌鼬と化して、その威圧感の主……『神凪』にのし掛かり、『神凪』が僅かに揺らぐのに。
「ふむ……やはり、この程度で怯むとはいかないのう……ともあれ、白桜華はともかく、水仙を殺すわけにはいかぬが」
ぶつぶつと状況を確認する様に呟きを発した祥華が、倶利伽羅に籠められた『炎』の呪力を練り上げる。
練り上げられた複数の炎の線が編み込まれた鎖の様な形を象って、菖蒲と姫桜を守る結界の様に展開。
その間に、妹桜の側面から一体の剛腕持つ鬼神が拳を振り上げて正拳突きを、妹桜に向けて叩き込んだ。
『……側面ですか』
呻く様に呟くと同時に、屈強な肉体を持つ護鬼丸の拳に向けて、頭部の白桜の枝を射出する妹桜。
枝の根が護鬼丸に突き立ち、まるで養分を吸い上げるかの様に何かを吸い上げていく事実に祥華もまた、微かに表情を青ざめさせた。
(「……我が式神から、我が禁忌の記憶を吸い取るか……!」)
「『妹桜』白桜華……この無礼者が!」
雄叫びと共に、両掌に握り込んでいた液状の粘着性の高い鳥黐を投擲する祥華。
放たれた白い鳥黐がべったりと貼り付いて妹桜の動きを牽制するが。
『……邪魔をするな! 私達若者の夢を、理想を、希望を否定する旧き思想に囚われた者達よ!』
咆哮と共に巨大化した刀を一閃し、戦場全体に暴風を巻き起こす水仙。
巻き起こされた暴風が、祥華の炎の結界を放逐し、その刃が菖蒲を斬り刻もうとした、其の刹那。
「ぷぎゅっ!」
超巨大化したクラゲ状の生物……陰海月が大きな嘶きを上げて、菖蒲の側面に立ちはだかり。
「無抵抗の一般人を殺めるのは『虐殺』というのでは言いませんかね? 其れが自らの大義を、革命を果たすために必要な犠牲だと言い切ってしまって、本当に良いんでしょうかね?」
陰海月の上からヒラリと着物を風に靡かせながら、義透が裾に隠していた漆黒の棒手裏剣を水仙に向けて投擲する。
微かに緑色にも見える『漆黒風』が、目にも留まらぬ速さで解き放たれ水仙の右手の甲に突き立った。
『……っ!』
すかさず『漆黒風』を抜き、ポタリ、ポタリと手の甲から滴る血にも構わず刀を普通サイズに戻して撥ね上げる水仙。
撥ね上げられた刀が大気を割って放った斬撃の波に応じる様に。
「……水仙、確かに學府は多くの犠牲を出してきたかも知れないね。でも……だからと言って、アンタの言う革命とやらに無辜の民を巻き込むことは許さないよ」
告げながら青白い光を纏った槍、ブレイズブルーを突き出して、大地を震撼させる衝撃の波で其の波を響が相殺し。
「そうです。無辜の人々を多く犠牲にする革命では、絶対に世の中を変えることは出来ません。その先に残されるものは……深い悲しみと憎しみの連鎖なのですから」
其の呟きと、共に。
幻朧桜の花々の隙間から差し込む月光を浴び、月色の輝きを放つ月虹の杖を構えた瞬が、先端を水仙と妹桜に向けて突きつける。
先端から放出された月光の輝きを伴う結界が、妹桜と水仙を分断せんと、其の影の間に割り込む様に入り、妹桜を閉じ込める檻と化し。
そこに鋭い雷光の刃を瞬が撃ち込む様に叩き付けると、妹桜が其れに応じる様に全身から白桜の桜吹雪を吹き荒れさせた。
放たれた桜吹雪の甘く馨しい香りが、ガスマスクを貫通して瞬を襲い、強烈な眠気に襲われ、思わず月虹の杖を地面に突き立てた時。
「……今だな。イザーク、食らい、破壊しろ!」
其の命令に応じる様に。
影が瞬と響の頭上を覆い、滑空する様に漆黒の獣『篁臥』が、妹桜に肉薄し。
その背に跨がった紅閻が、ハロウィンのカボチャの様な笑みを浮かべた終焉の炎の名を抱く其れを陰の暗刃と化し、袈裟に放ち。
逆手にある魔法使いの様な帽子を除けばレーヴァテインと類似した姿をしたイザークを陽の光刃と化して、逆袈裟に振り下ろした。
凄まじい漆黒色の重力加速を得た袈裟と逆袈裟の斬撃が妹桜に降り注ぎ、其の体に大きな傷痕を作り出すが。
『ですが……私の目的はあなた方超弩級戦力達への復讐。……嘗て私から姉桜を奪った其の罪を償いなさい!』
咆哮と、共に。
白い手毬を紅閻に向けて投擲する妹桜。
投擲された其の手毬が紅閻の体を打ち据えた、其の刹那。
「……がっ」
――あの時……俺は、守れなかった。
今でも其の顔を見ることの出来ないあの人を……僕は……俺は、守れなかった。
其れは、色褪せた指輪……己が本体に刻み込まれた『俺』の記憶。
一度は乗り越え、掴み取る寸前まで行った其の記憶を――罪を、後悔を食らい。
『成程……それがあなたの記憶の欠片、ですか』
口元に会心の笑みを浮かべ、左手をゆっくりと持ち上げる妹桜。
其の手に溜め込まれた巨大な魔力の塊が、紅閻に向けて叩き付けられた。
「がっ……!」
突然叩き込まれた激しい衝撃に篁臥の背から吹き飛ばされ、喀血しながら近くの幻朧桜の樹に叩き付けられる紅閻。
『此で、1人……!』
と桜吹雪を暴風の如く撒き散らしながら、会心の笑みを浮かべて白桜が左手を振り上げ魔力弾を叩き付けようとした、その瞬間。
「……スパーダ」
陰海月の上から無機質さを感じさせる声が響くとほぼ同時に、500本の雷光を纏った刀身に幾何学紋様の刻み込まれた紅の短剣が降り注ぐ。
『……新手?!』
咄嗟に巨大化させた刀でそれらの短剣を薙ぎ払う水仙だが、雷撃が刀を伝って水仙の体を蝕み、思わぬ感電に微かに後退する水仙。
妹桜はそれらの雷光秘めた短剣を白桜の桜吹雪で吹き散らす様にしていなしつつ、陰海月から飛び降りる影に向けて白桜の枝を放つ。
放たれた白桜の枝を大地に着地した漆黒の影……陽太が淡紅と濃紺の輝き伴う二槍を回転させて叩き落としゆっくりと深呼吸を1つ。
「……生憎だが、『暗殺者』の俺に、後悔という念はない。まあ……『陽太』であれば、こうはいかなかっただろうがな」
「……陽太さん」
淡々と『暗殺者』として語る陽太の其れに、暁音が小さく頭を横に振る。
その体に刻まれた共苦の痛みが何かを訴えかけるかの様に、猫が爪を研ぐかの様な痛みを与えるが、今は其れを気にする時ではない。
自らの星の船と感覚を共有し、天から水仙の放つ巨大刀の斬撃が一般人に及ばぬ様、クレインに展開させた魔導障壁で攻撃をいなしつつ。
「……結局の所、俺達が身勝手なのも、変革のためなら何をしても良いと言う君達とは変わりはしないよね。只、求めるモノが違うだけで」
淡々と事実を突きつける暁音の其れに、思わず額に冷汗を滲ませる水仙。
『……其れは違うわ! あなた達は、私達から大切なモノを奪い、しかも其の事実をこの世から抹消しようとした! そんな風に大切なモノを停滞のために隠さなければいけないこの世界は、其の軛から解放されるべき時なのよ!』
何かを振り払う様に、涙を滲ませる勢いで悲痛な声を張り上げる水仙の其れに、ネリッサが藍色の瞳を軽く細めた。
「……成程。確かに私達は、今まで帝都桜學府諜報部と協力して、解決してきた事件について、当事者以外に知られない様、事件を公開しない様、情報を統制してきていますね。この世界を守り、人々が穏やかな生活に戻ることが出来る様に」
今までに起きてきた事件の事後処理を任せてきた竜胆のことをちらりと脳裏に過ぎらせながら、確認する様に呟くネリッサ。
其のネリッサの記憶の思い起こしに、その通りです、と妹桜が小さく首肯する。
『その結果として、真実を知るべき人達が、真実を知ることは出来なくなりました。だから私達には、決して消えることのない、憎悪と後悔と罪悪の念だけが残されました。このやり場のない感情を停滞したこの世界は、解放することを許さなかった。世界が私達に与えた残酷な真実とその罪は深く重いものです。そんな狂った停滞を、いつまでも許しておくわけにはいかないのです』
妹桜が締めくくると同時に、桜吹雪の花弁を固めてしなやかな鞭を作り上げてそれを解き放ち、ネリッサを打擲する。
突然の攻撃の切り替えにネリッサは炎の精達で桜花の鞭を焼き払わんと命じるが、それだけでは全てを抑えきれない。
桜の鞭が、鋭く空を切る音と共に、姫桜とネリッサを打とうとした、その刹那。
「……そうだよな、白桜。君の目的は、救済ではなく、人への復讐なんだよな」
クロネコ刺繡入りの深紅の結界を張り巡らした統哉が姫桜とネリッサを庇う様に漆黒の大鎌でそれらの鞭を受け止めた時。
「……世界の罪? それを許さない? 水仙、妹桜……貴様らは何を見て、そんな寝言を言っている?」
冷たく切り捨てる様なそんな声音で。
何時の間にか体の彼方此方に銃創や切傷を作り、血を滴らせていた敬輔が妹桜の背後から姿を現し、黒剣を横薙に一閃。
赤黒く光り輝く刀身が妹桜の背中に横一文字の傷跡を作り、思わぬ衝撃に妹桜がかっ、と目を見開く。
滴り落ちた樹液を思わせる液体が敬輔の足元を濡らすが、構わず敬輔が続けざまに縦一文字に刃を振り下ろそうとしたその時。
『寝言だと……! 私達の想いを、紫陽花様や椿さん達……死した者達の尊厳を守るための戦いを侮辱するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
激昂の声と共に妹桜と入れ替わる様に、巨大化した水仙の刀身が、敬輔を切り裂かんと襲い掛かる。
白桜の桜吹雪を纏ったその斬撃を受けきれないと判断し、やむを得ず、バックステップで後退し、体勢を立て直す敬輔。
がっ! とその巨大な刃を受け止めた黒剣から伝わってくる衝撃が、重い。
「死した者達、ですか。……確かに様々な理由で、若くして亡くなる方もいます。或いは、己が矜持を守るために、自ら死ぬことを選ぶ人達もいます。そうして命が失われていく事は、非常に残念で悲しいことです」
その斬撃の余波を陰海月の張り巡らした海色の結界に受け流して貰いつつ。
何かを悟ったかの様に頭を振り、G19C Gen.5の引金を引くネリッサ。
銃口から放たれた銃弾が、水仙の刀の軌道を狂わせようとするが、その銃弾は妹桜が放った手毬が吸収する。
(「既に対応力を身に着けてきましたか。ですが、此方も戦力は倍以上。まだ時間が必要なのであれば、十分稼ぐことは可能ですね」)
内心で状況を冷静に判断しつつ。
ですが、と何か温かさを感じさせる声音でネリッサが静かに言葉を紡いだ。
「そう言った寿命と言う制限時間があるからこそ、努力し、様々なものを築き上げ……その自らが築き上げてきたものの為に、彼等は自分達の生を満たしてきたのです。ですが黄泉還りによって、その制限時間が取り払われたならば……果たして、人は努力するのでしょうか? 何かを築き上げようとするのでしょうか?」
禅問答の様なネリッサの其れに。
水仙が微かに怯んだ表情を見せ、妹桜がその整った愛らしい顔を、憎々し気に歪めていく。
「……生き返るのだから良いだなんて、馬鹿な話だ。そもそも、誰かの遺志を継ぐ……言葉だけは美しい其れを君達の行動は、黄泉還りは台無しにしてしまう。だってその人が黄泉還るのならば、そもそも他の誰かがその遺志を継ぐなんてことをする必要だってなくなるのだから。それは歪んだ『生』だ。違うのか?」
ネリッサの言葉を継いだ暁音の残酷な問いかけに、水仙は何も応えない。
只、其の刀を握る動揺からか震えるその両手に姫桜が前傾姿勢になって肉薄し、手枷を嵌めたことにも気がつく様子を見せなかった。
●
「皆さん、此方……此方です!」
其の背に人々を庇う様にエレメンタル・シールドを構えながら。
風の妖精、シルフィードの如き風の魔力を全身に張り巡らせた奏が、パニック状態になっていた人々に呼びかける。
奏達の誘導や敬輔の10体の分身……左肩が白く染まった敬輔達……が、銃剣の壁になる間に人々は橋を渡り、或いは河を泳いでいた。
「皆さん、焦らないで。今、他の者達がこのパニックの元凶の鎮圧を順調に進めている。あなた方は誰も死なせないから、どうか落ち着いて避難してくれ。私達帝都桜學府は、あなた方を保護する用意がある!」
懐から帝都桜學府の確かな証明の入った書類を翳す様にしながらそう叫ぶ美雪。
灯璃達の竜胆達に対する根回しも、功を奏しているのだろうか。
帝都桜學府は、祭会場から方々の体で逃げ出してきた人々を直ぐに學舎内へと誘導し、彼等を保護する様、警備員を増員していた。
無論、美月や灯璃の計らいも在り、衛生兵達も學舎内に待機していたらしく、人々の体や心の傷のケアを早急に施している。
そして、白紅党党員達は。
――ズドォォォォォォォーン!
『白梟』の背に跨がり、SV-98Mのスコープから戦場を覗いて頃合いを見計らって打ち込むミハイル達に翻弄されていた。
「さ~て、そろそろ準備は出来ただろ、灯璃?」
何処か楽しそうに、冗談めかした様子で鼻を鳴らしたミハイルの何気ない独り言が呼び水となったのだろうか。
「……kann noch werden!」
叫びと共に、パチン、と奏や美月達の到着と掩護により、漸く人心地ついて準備を整える時間を作った灯璃が指を鳴らす。
その灯璃の指パッチンと、共に。
数台の擲弾発射機を搭載した戦闘車両と思しき機体が、灯璃の背後に姿を現した。
背後でゴロゴロと地均しをする様なタイヤの回転音を耳にしたネコ吉が何かに気がついたかの様に息を呑む。
「……俺の雨だけじゃどうしようもなかったが……漸く本命が来たって所か。でも、灯璃、誰1人死なせるなよ」
すっ、と党員達の間隙を擦り抜けて、銃創を作りながらも尚、雨の幻を降らし続けていたネコ吉の其れに。
「可能な限り、と言う条件付きにはなってしまいますが、そのつもりです。此処で、殲滅なんてしてしまえば、帝都桜學府内に大きな瑕疵を作ってしまうことになるでしょうから。……Gehen!」
ネコ吉の声に頷きつつ、ビシリ、と手を挙げて自らの背後に用意した複数台の擲弾発射機装備車両に灯璃が号令を下す。
車両が其の灯璃の呼びかけに応じる様に装備した擲弾発射機を構え、オートで其処に籠められた弾を撃ち出した。
――そう。ハロタン・笑気混合系の無力化ガスを充填した擲弾を。
「うおおおおおおおっ!」
ミハイルの狙撃で数人が足下を撃ち抜かれ、その看護のために小隊員が残り、全部で10人程が無力化された党員達が肉薄してくる。
最前列に並ぶ様にして姿を現したのは、銃剣や刀を構えて整列した党員達。
白兵部隊の後ろには、彼等を掩護し、一般人を纏めて屠るために軽機関銃を初めとする銃器・火器を中心とした隊員達が並んでいる。
その滾る情熱の儘に突進してくる白紅党党員達の中央へと、放物線を描いて擲弾が着弾し、大量のガスを放出した。
「全車両、白紅党鎮圧迄、砲撃と移動を止めないで下さい。今の内に次のシークエンスを行います」
キビキビと自らが作成した自動車両に対してJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP RadioのPDA端末で指示を下す灯璃。
其の指示に応じて移動しながら擲弾を発射する車両が出している其の戦果を最大限に生かそうと次の準備に灯璃が移る。
その間に、美雪から預かったガスマスクを装備した美月が避難中の一般人達がガスを吸わぬ様、其の背に人々を庇う様にする。
「皆様、もしお持ちでしたら口元をハンカチやスカーフなどで覆って下さい。また真宮様や藤崎様の指示に落ち着いて従い、速やかな避難を続けて下さい」
冷静に美月が呼びかけながら、腰に収めていた二刀を抜刀。
その内の一刀……多知『繊月』の白鞘にあしらわれた蒼き宝玉から黒闇を斬り裂く白光の如きレーザーが放たれる。
迸ったホーミングレーザーが流れ弾で足を撃ち抜かれた人の傷を即座に癒してこの場から逃げ続ける事を可能にした、其の時だった。
――水仙の剣閃の余波が、此方に流れ込む様に解き放たれたのは。
「……っ! いけない!」
Stone Handで笑い、或いは眠りに落ちそうになりながらも、手向かう党員達の足下を捕らえたウィリアムの警告に其の背を押され。
「駄目だよ、水仙さん! 無関係な人達を巻き込む様なこんな事をしてたら駄目なんだよっ!」
この場にはいない水仙に向けて言葉を叩き付けながら、葵桜が其れに気がつき咄嗟に漆黒の剣閃の前に飛び出した。
舞を奉じる様に舞いながら、桜舞花を翻すと同時に風が吹き荒れて、周囲の幻朧桜の花弁がハラハラと地面に舞い落ちる。
それは、葵桜の舞に従う様な竜巻の様な桜吹雪を生み出して、其の剣閃を剛に対する柔の如く柔らかく受け止め、流していた。
「さあっ、皆、桜學府學舎内に行って! 大丈夫、皆は絶対助かるからねっ!」
葵桜が寿命を削る代償であろう、肺が軋み、血に満たされていく嫌な苦痛を覚えながらも、笑顔でそう叫ぶ。
人々が其れに従って、何とか帝都桜學府學舎内へと見届けるのを尻目に、ぺっ、と見えないところに肺に溜まった血を吐き捨てた。
その間にも灯璃の放った擲弾から溢れる無力化ガスによって、党員達が眠り、或いはその場でヒステリックな笑いを上げている。
最初の熱狂と共に整えられた隊列は、今となっては見るも無残な程に散り散りになり、或いは押しくら饅頭状態となっていた。
「演説の熱に浮かされて、革命だ何だと声高に叫んでいるが……」
その昏睡している白紅党党員達の中にネコ吉が入り込む様にして飛び込んで。
「……決起したばかりのお前達に、本気で命を賭ける覚悟がどれ程あるんだろうな」
呟き、笑い上戸と化した党員達へと優しく穏やかな雨の幻を降り注がせるネコ吉。
其れは、笑い続ける事で自分達に向けられている敵意や攻撃に対して抵抗力を大きく削がれた党員達を眠りの淵へと容赦なく落としていく。
そうして、眠り、昏睡した白紅党党員達に向けて。
『Achtung!《傾注!》……Widme ein Gebrüll!weiter Vorwaerts!《咆哮を捧げ!続いて進め!》 武装解除をして、直ちに學舎に避難と撤退を』
灯璃が鋭い号令を下すや否や。
眠り、無力化された党員達が人狼兵と化して、帝都桜學府の方へと追い立てられる様に一般人達の後に続いていこうとした其の時。
「って……人狼兵になった人達を、一般人と同じ場所に入れたら、其のユーベルコードが解除されたら、暴徒と化してしまうのではありませんか!?」
流石にその様子を認めたウィリアムが微かに泡を食った表情でそう告げると、灯璃がそうですね、と静かに頷く。
では、如何するかと思案する表情に灯璃がなった、丁度其の時。
「おい、灯璃。取り敢えず裏路地の方にこの人狼兵共を移動させた方が良いんじゃねぇか? 今の所、あそこには誰もいねぇし、場所が分かってりゃ何かあれば直ぐに対応も出来るぜ?」
白梟の上に跨がり、SV-98Mのスコープ越しに空中から地上の様子を覗き込んでいたミハイルがそう助け船を出すと。
「ふむ……では妾の『識神』にその人狼兵達は見張らせて貰うでありんすよ。此ならもし何かがあっても、妾の目を通して直ぐに状況を掴むことが出来るでありんす」
妹桜たちと対峙しながら、此方の状況を『識神』でも確認していたのであろう祥華の其の提案に。
「……だとよ。どうする、灯璃? 本当なら、局長に指示を仰ぎてぇ所だが……連絡が取れないって事は、それだけ足止めで精一杯って事なんだろう」
白梟の背の上で軽く肩を竦めて問いかけるミハイルのそれに頷いて、灯璃が其の指示を実行した。
無力化した人狼兵と化した党員達が、帝都桜學府の方に向かう道に背を向けて、裏路地へと向かう様子を見て美雪がほっ、と安堵の息を漏らす。
「取り敢えず公園の人々の避難は完了出来たか。全部で200名程の参加者を帝都桜學府學舎内で保護するのは此で完了か……?」
確認の様に小さく言の葉を紡ぐ美雪の其れに、そうですね、と軽く首肯する美月。
「美雪様の仰るとおりです。一先ず帝都桜學府衛生部の方達に人々を預けることも出来ましたし、傷の処置が必要な方々には其々に処置を施しました。後はミハイル様によって無力化された党員を保護していた10人程の党員ですが……」
思い当たった様に美月がそう呟いた、丁度其の時。
その党員達の傍に白梟を移動させ、ミハイルがSV98-Mの銃口を突きつけた。
同様にそんな彼等を包囲する様に灯璃が戦闘車両を移動させて退路を断ち、其の手にHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"を構えて銃口を突きつける。
「これ以上の戦いは無益です。流石に皆さんも頭が冷えてきたことでしょう。投降して貰えませんか? 帝都桜學府でも優秀なあなた達ならば、この状況で抵抗することが如何に無益なのかは理解出来る筈です」
その灯璃の言の葉に、ネコ吉が小さく頷いた。
「そうだ。これ以上の戦いは、流血は無益。この場で矛を収めてくれれば、お前達の命と安全は保証しよう」
『くっ……!』
水を浴びせる様なネコ吉の其れに、未だ自分達の敗北を認めきれないか、學徒兵の1人が、腰に帯びた刀を抜刀。
ネコ吉に向かって鍛え抜かれたその刃を振り下ろそうとするが、その瞬間には、其の學徒の手からは、刀が弾かれていた。
「今ので分かっただろう? もうこれ以上、お前等が抵抗することは無意味なんだよ。何だったら……次はその頭、ぶち抜いてやっても良いんだぜ?」
何処か肉食獣を思わせる笑みを浮かべて銃口から白煙を立ち上らせるSV-98Mをこれ見よがしに見せつけるミハイルの其れに。
『分かった……貴殿等に降伏する』
刀を銃弾で弾き飛ばされ、手から血を滴らせる學徒兵を守る様に別の党員が前に立ち、溜息をつきながら諸手を挙げる。
傷ついた党員に白鞘に取り付けられた蒼い宝玉から青いホーミングレーザーを撃ち出し、外傷を癒してやる美月。
ウィリアムがその10名程が集まる大地に向けて両手を突き出し、其の地面から岩石で出来た腕を伸ばして彼等を一括で拘束し。
そこにネコ吉が雨の幻を降り注がせて、その党員達を静かな眠りに陥としていく。
そんな党員達の様子を確認しつつ、ミハイルの背中を見つめたウィリアムが思わず、と言った様に溜息を漏らした。
「……意外ですね。あなたが相手を殺すのではなく、無力化を優先するなんて」
そのウィリアムの問いかけに、一段落と言う様に白梟に搭乗したまま、ミハイルが一本煙草を取り出し一服する。
「……何。戦術ってのは、人道から最も遠くに位置する純粋思考だ。如何に効率よく相手を無力化するかって状況で今の最善手は、殺さないことだったってだけだ。別に博愛主義に目覚めたワケじゃないんだぜ?」
「そうですね。兎に角此処での戦いは終わりました。局長達に合流しましょう」
そうミハイルが鼻を鳴らすのを横目にしつつ、灯璃が首肯して、一般人の保護と避難に回っていた美雪と奏と葵桜に連絡を取る。
「いや~、ビックリしちゃいましたよ! 完全武装の人狼兵達が避難民達の後ろから来ようとした其の時は!」
そう言って、軽く手を振って駆け寄ってくる葵桜の言葉に、美雪が小さく頷いた。
「流石に完全武装した人狼兵達迄入れたら、帝都桜學府内と言えども大騒ぎになっただろうな。まあ、彼等は今、祥華さんが監視しているから大丈夫だとは思うが……」
額に滲んだ冷汗を拭いながら溜息を漏らす美雪の其れに奏が取り敢えず、と軽く頭を横に振る。
「學府及び軍の衛生部門の人達と護衛部隊には、くれぐれも宜しくお願いします、と伝えておきました。私達は戻りましょう。母さん達が戦っている、私達の戦場へ」
奏の其の提案に。
「いや、さっきの人狼兵達の事も有る。念のため、俺はこっちに残るぜ。……統哉からも、頼まれているからな」
冷静な表情で告げるネコ吉のそれに、そうだな、と美雪が軽く頷いた。
「確かに誰かが直ぐに動ける様に監視として残っておいた方がより良いだろう。祥華さんの『識神』だけで十分かも知れないが、念には念を入れて……な」
「ああ、そう言うことだ。だから美雪、統哉や姫桜のことは任せたぜ」
ネコ吉の其の言の葉に、分かった、と小さく首肯する美雪。
そして、美月達と共にネリッサ達の戦う戦場へと駆け出していくウィリアム達の背を見送りながら、ネコ吉が小さく頭を横に振った。
「死に意味を持たせる為の、最後の覚悟。其の流れだけは、絶対に止めないとな」
そしてネコ吉は、深い眠りについている10人の党員達を運んで、灯璃が人狼兵と化させた党員達のいる裏路地へと足を運ぶ。
――誰も殺させないし、死なせない。
友……統哉への誓いを果たす、其の為に。
●
「……菖蒲。超弩級戦力達……これ以上、私の心を乱すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――其れは悔恨と罪悪感に塗れた悲痛な叫び。
其れに呼応する様に、姫桜に嵌められた手枷が軋む様な嫌な音を立てる。
両手は満足に自由に動かせず、更に刀身には締め上げる様に拘束ロープを巻き付けられて。
それでも自らの根源に潜む其れを全開にして、我武者羅に巨大化した刀を唐竹割りに振り下ろす水仙。
其の一太刀は、確実に菖蒲と、菖蒲の前に立ちはだかる姫桜を狙っていたが……。
「……っ?!」
肩に鋭い痛みが走り、思わず苦痛の呻きを上げる水仙。
其の左肩に突き立っているのは、漆黒の棒手裏剣。
「……黄泉還りに傾倒しているのか、それとも復讐に囚われ眼前の状況が見えていないのか分かりませんが……いずれにせよ、冷静さを欠いた段階で貴女には何も出来ませんよ? あなたを殺すつもりはありませんが……だからといって、人々を虐殺しようとしたあなたを、見過ごすわけにもいきません」
『漆黒風』を再び抜き打ちで投擲し、その肩を貫いた義透が何処か冷めた表情で水仙を見つめ、小さく呟く。
『水仙様。私達の大切な者を奪った得手勝手な方々の話に耳を貸す必要などございません』
刀先の迷いを見て取ったか、宥める様に粛々と言の葉を紡ぎ、幾度目かの白桜の桜吹雪を解放する妹桜。
更に続けざまに白桜の枝を上空の祥華に向けて投擲する妹桜に、祥華が静かに目を眇めた。
「先程は取り乱したが……何度も同じ手を見せられれば、妾とて対応策も浮かぶというものでありんすよ」
その祥華の言の葉と、共に。
――轟!
妹桜の足下に向けて、強烈な吹雪が吹き付けられた。
冥風雪華によって吹き付けられた氷のブレスが、ビキビキと音を立てて、妹桜の足下の大地を固めていく。
妹桜が微かに動揺した表情になって咄嗟に後退しながら手毬を地面に落とし、力任せに其れを蹴り上げた。
蹴り上げられ豪速で自らに迫る手毬の一撃を、祥華は風華月を振り回していなす。
細長い布の先に取り付けられた半月形状の錘が、手毬を叩き落とすのを見ながらふわりと、彩天綾を翻して滑空。
その間に懐に忍ばせていた白刃刀を抜き放ち、白く輝く雷紋を纏わせた其れを突き出して、軽い斬撃を妹桜に何発も加えていく。
「『妹桜』白桜華よ。何故、貴様は、貴様の力で『姉桜』紅桜華を黄泉還らせないのかぇ? 貴様の力が本物であれば出来るであろう?」
其の祥華の問いかけに、妹桜の口元が醜悪に歪んでいく。
『あなた達があの娘の力で既に私の姉を転生させてしまった……! 魂が既に幻朧桜を通して転生させられている。それは、つまり魂がその時の記憶を奪われてしまっている事と同義です……! そんな存在を如何やって黄泉還らせろと言うのですか?』
お返しとばかりに祥華の胸に其の手を突きつけてエネルギー弾を叩き付ける妹桜。
思わぬ奇襲に仰け反った祥華を庇う様に飛び出した統哉が、『宵』で追撃を受け止めながら、粛々と其の事実を口にする。
「確かにあの時、俺達は紫蘭の力を借りて、君の双子の姉……姉桜を転生させて救済させたな」
『くっ……何が救済よ! 其れは救済なんかじゃない! 全てを忘れさせ続けて、悲劇という名の輪廻の輪を繰り返させる……! そんな世界が正しいとは私にも思えない! 若くして、沢山の夢を抱いたままに死んでいった人達は……やはり同じ人としてきちんと生を全うするべく黄泉還りの機会を与えられるべきなのよ!』
嘆きの様に我武者羅な叫びを上げて、手枷を嵌められながらも尚、体を独楽の様に回転させて纏めて戦場を薙ぎ払おうとする水仙。
其の水仙の凶刃の前に斬り裂かれようとしていた菖蒲の前に姫桜が立ち、再び其の手の二槍で攻撃を受け止める。
「駄目よ……駄目よ、水仙さん! 今の感情に振り回されて、菖蒲さんを其の手に掛けてしまったら、あなたは本当の意味で戻れなくなるわ! 菖蒲さんだけじゃない! 誰かを其の手に掛けてしまえば……あなたは……!」
『煩い! 煩い! 煩い!』
姫桜の制止の声も聞かず、手枷で上手く動かない手で重くなった刀を辛うじて持ち上げ袈裟に振り下ろす水仙。
其の水仙の前に立ちはだかった統哉が、じっ、と水仙の瞳を見つめ静かに尋ねた。
「水仙、君は黄泉還った椿さんに、違和感を感じなかったのかい? 彼が黄泉還った事を知っていると言う事は、君も黄泉還った後の椿さんと出会っているんだろう?」
其の統哉の呼びかけに。
『……っ!』
まるで痛いものに触れられたかの様に、ビクリ、と身震いを1つする水仙。
――其の表情と心を浸食しようとしてくるおぞましい其れから目を背ける様に。
『水仙様……! 騙されてはなりません! 超弩級戦力達は言葉を弄し、正しき道を歩もうとするあなたを懐柔し、服従させようとしているのです! あなたは、あなたに正直でありなさい。其れこそが……!』
そう諭す妹桜に向けて。
「おっと、本当にあの子を騙そうとしているのは果たしてアタシ達とアンタ、どっちなんだろうね?」
その真正面に肉薄した響が、燃える様に赤熱した拳を深く腰を落として真っ直ぐに突き出していた。
突き出された炎を纏った拳の一撃を咄嗟にバックステップして躱しつつその瞳を光らせて響の罪や後悔を取り込もうとする妹桜だが。
「如何した? 怯えているのか? 貴様達には、革命の先が見えているんだろう?」
何処か皮肉げな口調で告げた敬輔が、此方に戻ってきた10人の分身達と共に全方向から黒剣を袈裟に振るう。
四面楚歌の状況で振り下ろされるその刃から、自らの身を守るべく白き結界を張り巡らしその攻撃を辛うじて防御する妹桜。
だが……此処で。
「御免、姫ちゃん! すっかり遅くなっちゃった!」
――チリン、チリン。
魔除け鈴を鳴り響かせながら、大地を断ち切る衝撃の波が敬輔の分身達の間隙を拭う様に解き放たれる。
放たれた衝撃波に其の結界に罅を入れられ、微かに表情を変える妹桜に向けて。
「黄泉還りをすれば新しい生活が出来ると言いますが、黄泉還って来た人が、本当にその人とは限らないと……あなたは分かっているのでしょう!?」
其の衝撃の背後から、飛び出す様に翡翠色に輝くエレメンタル・シールドでバッシュを放つ奏。
奏の盾による苛烈な殴打が決まり、妹桜の結界に更なる罅を入れたところで。
「今だ、白梟」
吹き飛ばされ幻朧桜に背中を強打した紅閻が、平然とした表情で命令を下しつつ。
再び両手に陰陽の剣を握りしめ、篁臥を口笛で呼び戻し、彼に跨がり上空に飛び上がって双剣を振り下ろした。
「イザーク、レーヴァテイン……叩き斬るぞ!」
白梟が主の命令に応える様に白炎のブレスを吹き出して、更に白梟に搭乗していたミハイルがSV-98Mの引金を引く。
白梟のブレスが、罅の入った妹桜の結界を打ち破り、続けざまにイザークとレーヴァテインで繰り出された紅閻の斬撃が妹桜の傷を抉った。
傷を抉られ大量の血飛沫を撒き散らす妹桜の足を、ミハイルの銃弾が撃ち抜いた。
「まっ、出血大サービスって奴だな。其の分、報酬はつり上げさせて貰うぜ……!」
口元に肉食獣の笑みを浮かべるミハイルを見上げ、ネリッサがミハイルさん、と呼びかける。
「局長、遅くなり申し訳ございません。ですが、党員達の拘束及び、一般人の避難は、無事完了致しました」
素早く敬礼をし、ネリッサの隣に駆けつけた灯璃がそう告げると、ご苦労様です、とネリッサが労う。
一方、妹桜は自らの体を切り裂き、蹂躙する様に其の傷口を抉った紅閻を見つめ、其の目を白黒させていた。
『あなたは、先程確かに仕留めたはず……! それが、何故……?!』
「……治療完了。如何にあなたの力が強大であったとしても、紅閻様が受けた位の傷でしたら、私にも治療は可能です」
妹桜の驚愕に淡々と其の事実を説明するのは美月。
腰に帯びた白鞘に取り付けられた蒼い宝玉が、美月の言葉を肯定するかの様に淡く光るが、美月の顔色も宝玉と同じ色になり始めている。
(「かなり連射をしていますからね。……私が疲労するのも当然ですか」)
其の疲労を押し殺す様に淡々とした表情で統哉と姫桜の呼びかけに動揺して其の手を一時的に止めていた水仙へと一瞥をくれ。
「……一つだけ質問したい。転生の概念が存在し、停滞とは言われても、表面上は大戦争がないこの世界において、其の礎石となる事に、あなたは本当に其処まで不満がお有りなのですか?」
その美月の問いかけに、水仙は自らの全身から血の気が引く様な幻聴を耳にした。
「そもそも、自分達の思想にそぐわない者は排除するって考え方、それこそもう流行らない考え方だと思うんだよね! 思い込みに走り過ぎちゃっているのか、それとも誰かの口車に乗せられて、熱くなっちゃっているのかは分からないけれどもさ!」
畳みかける様に葵桜が胡蝶楽刀を構え直しながら、首を傾げて肩を竦めてみせる。
更に其処に、追い打ちを掛ける様に。
「そもそもだ。貴様は統哉の言う様に黄泉還りをした椿に会っている。其の時、椿は瞳の色が赤く変わり、嗜好も好きな紅茶ではなく、珈琲を選んでいた。……もし本当に椿が椿の儘黄泉還ったのであれば、その様な変化は起きないだろう。……貴様等はこの齟齬をどう説明する?」
淡紅と濃紺の螺旋の軌跡を描かせながら、アリスランスとアリスグレイブを伸長し、妹桜に突き立てつつ陽太がそう問いかけ。
「如何した? 答えられないか? では、紫陽花さんが革命という名の叛逆をした事は知っているか? その上で、彼は決起のその先まで見据えていた事実は知っていたか? 其れを分かった上で、貴様等はこの革命を、決起を起こしたのか? 革命そのものが目的となっているのではないか!?」
陽太と敬輔の其の問いに、水仙は何も答えず、只大きく目を見開くばかり。
――否。
答えられない、のだろうか。
と、此処で。
「――確かに、だ」
グリモア・ムジカを譜面の様に展開しながら。
葵桜達の後ろから姿を現した美雪が軽く頭を横に振っている。
「戦乱は、世界そのものの変革……ブレイクスルーを齎す事がある。残念ながら、UDCアース……異世界出身者としては、如何してもこの点だけは否定できない」
『そうよ! その通り! 停滞し続ければ、人々は何時迄も新たな進化……成長をすることが出来ないわ! 戦乱が……争いがない平和とは、永遠の停滞とでも呼ぶべき忌むべきもの! 其れなのに……何故!?』
美雪が突きつけた現実に色めき立ち、全てをかなぐり捨てる様に叫ぶ水仙。
そんな水仙を何処か憐れむ様な眼差しで見つめながら……だが、と極光に包まれしトッカータの前奏曲を流しながら美雪が続ける。
「記憶を、記録を連綿と繋げ、未来に生かすのは常に生者の仕事なのだ。黄泉還った人々でもなければ……言わんや影朧ですらない」
――前奏が半分程、掻き鳴らされ終わる。
愈々歌に入る直前にそもそもだ……と美雪が何処か平坦な口調でこう尋ねた。
「椿さんは、本当に黄泉還りを望んでいたのかな? 私には、そうは見えなかった」
断言する様に紡がれた其れを『歌』の合図とするかの様に。
不意に美雪の背後から轟、と温かな七色のオーロラ風が吹き荒れた。
それは、暖かく優しく猟兵達を包み込む追風の歌。
其の追風に背を押される様にして、敬輔が10体の分身と共に、再び妹桜に一斉に逆袈裟に刃を振るう。
『くっ……! 私が、この程度で……!』
全身を微塵切りにされながらも尚、決して揺るぐ事も無く。
自らの全身を形作る白桜の花弁を散らさせて吹雪を撒き散らし、敬輔達を一斉に眠らせようとする妹桜。
更に戦場全体に向けて白桜の枝を放出し、其の後悔の念を吸い上げ自らの力を蓄えようと……。
「出来ると……思っているのか?」
冷静に粛々と呟いて。
特殊電子単眼鏡の奥で煌めく漆黒の眼光で射貫く様に見つめた美月が八相に構えた双刀を残像を残さんばかりの勢いで振るう。
振るわれた多知『繊月』の白き斬光と、多知『司霊』の黒き斬光が宵闇の中で煌めいて、瞬く間に白桜の枝を斬り捨てた。
「そうですね。妹桜。貴女を何とかしなければ、僕達の声は、これ以上水仙さんにも届かない。そして、確かに僕達は、貴女に恨まれる正当な理由があります。ですがその恨みを人の手で、他の人々罪なき一般人にも向けさせるのは、理不尽でしょう」
美月によって斬り裂かれた後悔を吸い取る枝を見つめる様にして。
瞬が小さく呟くと同時に敬輔や紅閻、祥華が斬り刻み、幾重にも重ねた妹桜の傷痕に向けて、月虹の杖の先端を突きつけた。
突きつけられた杖の先端から満ち欠けする月を思わせる、癒えない傷痕が迸りそれらの瑕疵を固定して、同時に雷撃の槍を叩き付ける。
妹桜のみを貫く雷槍に、思わず喘ぐ様にがぼっ、と喀血する妹桜。
その妹桜を守らんと動揺を隠せぬままに、尚、満足に動かない体を動かして巨大化した刀を水仙が振るうが。
「既に傷だらけの貴女には、其の刀はもう使いこなせませんよ」
殊更に事務的な口調で告げた灯璃が、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金を引く。
サイレントセンサーのついたスナイパーライフルから放たれた一発の弾丸が、傷だらけの水仙の刀を横から撃ち抜き。
――パキィィィィィィン!
と甲高い音を立てて、その刀身が真っ二つに折れた。
『くっ……そんな……!』
それでも半分になった刀身だけを巨大させ、尚、斬撃を繰り出そうとする水仙に。
「Stone Hand! あなたが白紅党最後の党員にして党首であるならば……此処で貴女を取り押さえれば、ぼく達の勝ちですね! 多くの人々が受け入れている天下泰平……最低限の『平和』を壊しかねないあなた達を、僕達は許しません!」
咆哮と共に、拳で大地を殴りつけるウィリアム。
ウィリアムの叩き付けられた拳から、大地に伝播した魔力の塊が水仙の足下の地面を黄色に染め上げて、精霊の腕が突き出される。
突き出された大地の精霊の腕に掴み取られ、身動きの取れなくなった水仙の刀身を半分失った刀に肉薄し、美月が双刀を走らせた。
「……繊月と司霊、両刀の第一次封印を解除。其の刀……破壊する!」
其の呟きと共に、刀身が白い極光に包み込まれた繊月が刃の横腹から振り抜かれ、水仙の刀に罅を入れ。
其処に黒き極光に刀身が包み込まれた司霊の刺突が走り、その刀を粉微塵に打ち砕いた。
『あっ……!』
完全に武器として使い物にならなくなった刀を見て、思わず悲鳴を上げる水仙。
『だが……私は、私達の大義は……革命は……あなた達には止められない! 死を恐れるあなた達に、高き志を持つ私達が敗れる筈がない!』
その水仙の言の葉に。
「水……仙……!」
哀しみを称えた光の灯る眼差しを向ける、菖蒲。
同情、憐憫、悲哀、絶望、驚愕……。
様々な感情が複雑に織り込まれ誰にも口を挟む余地のないえもいわれぬ空気を醸し出す菖蒲に菖蒲さんと、静かに暁音が囁いた。
共苦の痛みが伝える針鼠が自分の針で何度も自分を突き刺す様な痛みが、まるで菖蒲の心を映し出す鏡の様だ、と思いながら。
「……君が俺達に良い感情を持っていないのは分かるけれども、結局、黄泉還りとはこう言う話しになるんだよ」
――生き返るから、誰かを傷つけることに、罪の意識が無くなる世界。
そして誰も命を尊ぶこともなく、ネリッサの言う様に生き続けることが出来るから……努力する事すらも放棄する、そんな世界。
「そんな世界が訪れたとしたら、其の時、君は、どう思う?」
その暁音の問いかけに。
「私には……そんな……世界は……」
――受け入れ、られない。
ぎゅっ、と食い入る様に目前で起きる光景を見つめ、きつく唇を噛み締める菖蒲。
其の菖蒲の気配を背後に感じ取った姫桜の右腕の桜鏡に張られた玻璃鏡の鏡面が澄んだ悲しみを表わすかの様に、淡く煌めく。
「水仙さん。菖蒲さんを殺す事が出来て、其れをして今の道を……鉄血の道を進むというのなら、今はそれでもいいと思うでしょう」
――けれども。
「それでも……未来の貴女が今と同じ思いの儘にいるのかなんて、分からないじゃない。そして……何よりも、菖蒲さんが生きることは、椿さんの望みでもあるのよ」
その、姫桜の呼びかけに。
『……っ!』
思わず、と言った様に息を飲む水仙に姫桜がだから、と諭し続けた。
「愛する人を失って、それでも尚、生き続けることは、ある意味では死ぬよりも苦しい事よ。でも、菖蒲さんはそうすることを選んでくれたの。他の誰でもない、椿さんのために、何よりも苦しい道を選んでくれたのよ。そんな菖蒲さんを……あなたの大切な『友達』を、貴女が今此処で殺すのは、間違っているわ」
『黙れ……! 黙れ……! 私は……私達の、願いは……!』
呻く様な水仙の其れに。
『そうです。私達の願いはこの世界への復讐です。革命という名の、血の粛清。それ以外に私達が望むものなんて……何もないのですよ』
分かっている、と言わんばかりに。
水仙の罪の意識を自らの体に再び吸収し、更に一際強い白い輝きを解放する妹桜。
手毬を失い、全身を切り刻まれながらも、尚残る生命力と魔力の残滓を両掌に籠めて、其の力を解き放つ。
放たれた莫大な白い魔力の塊が、その場にいるネリッサ達を1人残らず焼き尽くそうとするが。
「それは無理じゃよ、妹桜。『姉桜』紅桜華を魂が転生したが故に黄泉還られないと嘆く貴様には、これ以上の戦いは無理じゃ」
その言葉と共に。
祥華が呼び出した護鬼丸と奏が仁王立ちになり、魔力の波動の暴走を食い止めた。
その様子を緑の瞳に映し出し、小さく1つ頷きながら。
「……おぬしの言う姉桜は、貴様を切り倒した者共を、激しく憎んで恨んでおった」
何処か、悲しげにポツリ、ポツリと。
ゆっくりとその時の事を思い起こすかの様に緑の瞳を微かに眇める祥華の其れに、妹桜の動きが一瞬鈍る。
「それはあまりにも悲しい話だ。姉桜と白桜、双子の桜の精は、幻朧桜も妹桜も俺達人の手で刈り取られ、姉妹は分かたれてしまった」
統哉が諳んじる様に其の歴史を淡々と述べる、じゃが、と祥華が妹桜に問う。
「じゃが……貴様は今、この地に居る。嘗て姉桜が居たこの場所に……帝都桜學府に存在して居る。その黄泉還りの力からしても、恐らく貴様はあの頃から既に居ったのじゃろうが……何故、あの時……姉桜の前に還ってこなかったのじゃ?」
『……姉桜がこの地にいたのを知ったのは極最近の事でした。別たれた魂は、其の土地に縛り付けられ、永久に出会わせて貰うことがありません。それ程までの力をあの時は、私も蓄えていなかった。だから……!』
――其の恨みを、憎しみを。
姉桜が殺された其の悲しみを糧に、漸くこの地に降り立つことが出来た。
そして……自分とよく似た想いを、悲しみを背負う人を見つけた。
だから漸く手に入れたこの復讐の機会を、見逃すわけには、いかなかった。
「……すまないな、白桜」
その妹桜の想いを読み取って。
『宵』の刃先に星屑の煌めきの如き輝きを纏わせながら統哉が静かに言の葉を紡ぐ。
「君は、其の悲しみと苦しみを、今もずっと抱えているんだね。姉桜を……俺達人によって奪われたその傷みを今も尚……」
――そして、それは。
「紅桜も……そうだった。だが、其の過去に囚われた儘であれば、何れ破滅の道を辿ると分かっていた」
――存在するだけで、其の意志を問わず不幸を撒き散らす、不安定で、悲しい、死したモノやヒトの痼りが残した闇。
其の不安定な思いを抱いた儘に停滞する泰平の世界を歩むモノ。
「それが……影朧。そして君達を生み出したのは、間違いなく俺達人の罪だ」
『ならば……私の復讐を果たさせてください。其れこそが、私の魂を慰める最善の手段。なのに何故、あなた達は私達から一方的に其の幸せを奪い続けるのですか!?』
半ば、涙交じりの悲哀に満ち満ちた其の呼びかけに。
統哉がだからこそだ、と『宵』に星彩の力を蓄えつつ、そっと言葉を紡ぎ続ける。
「出会って、別れて、再び出会う。其の繋がりの輪が……輪廻転生の輪があるからこそ、君達は何時か、姉妹として再び出会えるんだ。確かに記憶は途切れているかも知れない。けれども、紡がれた縁は繋がっている。その事は……嘗て桜の精であった君であれば、誰よりも知っている筈だ」
――不安定に揺らぐその心。
けれども、その不安定な心を静め、輪廻転生の輪に戻し、新たな命を紡ぎ出し、未来の物語を描く生を再び世界に回帰させていく。
其の癒しを与えることが出来るものこそ……。
『……あなたはっ! 何を、世迷い言を!』
金切り声を上げる妹桜にそれでも、と統哉が言葉を叩き付ける。
「復讐……過去に囚われ続けていては、また、姉桜に会う事なんて、永遠に出来ない。だから君は、其のしがらみから一度抜け出して……未来の姉桜……『紅桜』に会いに行くんだ」
其の統哉の呟きに重ね合わせるかの様に。
「転生して、記憶を失い、その姿や名前は変わるかも知れない」
澄んだ真っ直ぐな輝きを鏡面で放つ玻璃鏡を撫でながら、姫桜が軽く頭を振った。
「でも、椿さんはきっとその縁を基に、転生してまた菖蒲さんや水仙さん達の所に還ってこられる。魂の形は同じ、椿さんとして絶対に戻ってくる。だから……!」
「そう――だから、君も一度、還るんだ。今度こそ……姉桜と再会し、転生したその先で……新たな思い出を紡ぐことが出来る様に」
姫桜の誓いを受け止めて。
漆黒の大鎌『宵』に深き願いと想い……そして祈りを籠めた一閃を星彩の輝きに変換して、横薙ぎに解き放つ統哉。
――其の脳裏に、紫蘭と雅人……嘗て転生し、また会えた2人の事を描きながら。
脳裏に描き出された紫蘭と雅人、其処に籠められているモノを解放した漆黒の大鎌の一撃は『妹桜』白桜華の澱んだ魂を斬り裂いた。
――その憎悪という名の邪心に満ちた、妹桜の魂を。
そして妹桜は、風に泳いだ桜吹雪に包まれて、肉体を風に巻かれて消えていった。
●
「此で終わり……ですね」
風に巻かれて消えていった妹桜の肉体を見送りながら、ウィリアムがそっと溜息を1つ吐く。
『そんな……お前達は、彼女すらも奪うのか……! 私に、私達に希望をくれた、あの方すらも……!』
深き憎悪と、其れと相反する酷い空虚感。
ぶつかり、弾け合う2つの心を鏡に映し出す様にしながら、呪詛の呻きを上げる水仙の其れに。
「……そうか。貴様は知らないのか。この1つの事実を」
無面目の暗殺者の仮面を被った陽太が、無機質に紡ぐ其れに、何を、と言う様に眉を吊り上げる水仙。
「ならば教えてやろう。『人』としての椿を殺したのは、あの妹桜と同じ存在……闇の天秤に属する影朧だと言われている」
その陽太の呟きに。
『何……何を言っている……闇の天秤……? 何だ其れは? そんなモノがこの世界に在るとでも言うのか!?』
かっ、と驚愕に目を見開く水仙の其の言葉に、成程、と陽太が頷き1つ。
(「そうか。あの話はそもそも諜報部でも極一部の者しか知らない機密。この娘は、あの話を知らないと言う事か」)
其の事実に思い当たり、では次に如何するかと思考を進める無面目の暗殺者。
そんな陽太の方をちらりと見やりながら、義透がですが、と小さく溜息を漏らす。
「……あなた達は、黄泉還りが出来ると言っていた。ですが、其れを何の覚悟も無くした者がどうなるのか……其れを考えたことはあるのですか? 『私たち』……『我等』の様な、悪霊として黄泉還ることもまた在る事を」
其の義透の呼びかけに。
『悪霊……だと……?』
ゴクリと唾を飲む水仙にそうだ、と底冷えする様な低い声で義透が話を続けた。
「それは永遠に死の時の苦しみを、其の記憶を残し続け、常に己が身を過去が苛むむものだ。その苦しみや痛みは、『覚悟』無き者に耐えることは決して出来ぬ。まあ私たち……我等は己の意志で還ってきた者。故に、其の『覚悟』はとうにできているがな」
「……馬県さん」
怨霊達を思わせる気配を纏った義透を窘める様にネリッサが静かに其の名を呼ぶ。
その様子をスコープ越しに覗き続けていたミハイルが、ヤレヤレという様に軽く溜息を漏らし、灯璃が軍帽を無意識に深く頭直し。
美月は双刀を納刀し両腕を組んで義透達と水仙の話に、静かに耳を傾けていた。
『……』
何処か殺気を漂わせる剣呑な視線で射貫く様に義透を睨み付ける水仙。
だが程なくして限界が来たか、姫桜に嵌められた手枷に縛られた両手をだらりと下ろし、それから失望の溜息をつく。
『……私達の希望は、この戦いで失われてしまった。もう、この地で生き続ける意味も、価値も私達にはない。……紫陽花様の遺志を継ぎ、椿さん達を黄泉還らせ、戦いによる更なる進化を促す私達の革命の道は……断たれて、しまったのだ』
失意を隠せぬままに項垂れる水仙の其れに、そうですね、と瞬が静かに頷く。
「革命という殺戮で死んだとしても、黄泉還りで全て元通り……と言う訳には行かなくなりったから、ですか。最も、椿さんの例が正しくそうなのですが、その黄泉還りで元通りの人に戻せる保証は、何処にもありません。あなた達がしようとした無差別殺戮の正当化のために、黄泉還りは、元々無かった逃げ道なのです」
「世界の変え方は革命だけじゃないでしょ! もう一寸視野を広げて、色々考え直す時だって必要だよ!」
その瞬の言葉に、ハキハキと頷きながら。
体内に籠った血をそっと唇から滴らせながら、葵桜が真っ直ぐに藍色の瞳で水仙を見つめてそう呟く。
――だが。
『……もう私に出来る償いは……此しかない……な』
何処か力なく呟いて。
折れた刀の刀身を拾い上げ、自らの体に水仙が突き立てようとしたその刹那。
――ヒュン。
「……悪いな。頭が冷えるまで、アンタには暫く眠っていて貰う」
其の背後に忍び寄る様に肉薄した敬輔が首筋に手刀を叩き付け、其の場で水仙の意識を暗闇の中に放り込んだ。
「……此で、革命は阻止できた……そう言うことで良いのか?」
その様子を見ていた紅閻の呟きにそうじゃのう、と祥華がカラコロと鈴の鳴る様な声で笑い声を上げた。
「取り敢えず、革命の阻止は成功したと考えるべきでありんすな。じゃが、妾達には未だすべき事があるのじゃろう?」
誰に共なく祥華が呟いた其れに。
「……後は全部帝都桜學府の人々に任せるという選択肢もあったけれど……そう言うわけには、行かなそうだね」
先程から続く針山に刺し貫かれているかの様な其の痛み。
其の痛みを押さえる為の答えに至り、仕方が無い、と言う様に溜息をつき軽く頭を横に振る暁音。
その暁音の金の瞳は、敬輔の腕の中で眠る様に意識を失っている水仙を労る様に駆け寄った菖蒲へと向けられている。
「……確かに、色々とケアが必要そうな状況だな」
諦めた様に美雪がそう溜息をつくと。
「水仙も、白紅党の皆もきっと、あの日……椿さんが居なくなってしまった時の私と同じ様な気持ちになっている」
菖蒲がポツリとそう呟いて小さく溜息を1つ吐いて。
それからちらりと不安げに姫桜達の方を振り向いて。
「だから……お願い。白紅党の皆のことも、水仙のことも……最後まで見届けてくれませんか?」
そう菖蒲が静かに問いかけるのに。
「どちらにせよ、会場の被害状況や、あの人狼兵にした白紅党の党員達の様子も確認しないと行けませんからね」
「ええ、そうですね、灯璃さん。此処まで来たら、最後まで私達にはこの事件を見届けるべき義務がありますね」
灯璃の諦めた様な呟きにネリッサが静かにそう頷いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『帝都を遊ぶ』
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POW : とにかく全力で楽しむ
SPD : 得た情報を基に楽しむ
WIZ : 効率よく楽しむ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――東から、薄明るい光が昇り始めた宵明の頃。
宵が空ける其の時に、『彼女』はゆっくりと双眸を開いた。
『わたしは……負けた……のか』
彼女……『水仙』が途切れ途切れに紡ぐ言葉を聞いて、其の傍に寄り添っていた菖蒲がそっと安堵の息をつく。
「良かった、水仙……目が覚めて」
その菖蒲の呟きに、水仙が血の気を無くした其の顔で、無表情に彼女を見つめる。
生気が完全に失われ、光の消えた、その瞳で。
『何で、私は生きているの……? 誰の遺志も、想いも受け継げなかった私が……』
――私が信じたかったものは皆、皆、居なくなってしまった。
私には、もう、何も残されていない。
そう、思考を進めたところで。
(「……違う」)
体調を気遣う菖蒲を余所に、水仙は無意識にイヤイヤをする様に頭を横に振るう。
――私が、誰かを。
――何かを信じて進む度、いつも誰かに過ちだと諭される。
……そんな、私。
誰かのためになる事も出来ず、いつも誰かを傷つけてしまう私は……。
『……何の為に、生きているの?』
それは、本当にくぐもった独り言で。
けれども、其の独り言を呟く水仙の唇の動きを読み取ってしまった菖蒲は、はっ、と一瞬心臓が止まったかの様な感覚を覚える。
そんな菖蒲の様子にも気がつかずに、水仙が淡々と思考を進めていく。
私は、なんのために生きればいい?
あの御方の遺志を継ぐ事も、死なせてしまった罪を償うことも出来ない私が。
自らの進む道に陽を差してくれた私を慕う皆のことを、救うことも、守ることも出来なかった私は……。
胸が息苦しくなる苦しさに覆い尽くされ、きゅっ、と心臓を抑え込む様に其の手を握りしめる水仙。
その水仙の瞳から零れ落ちる白い滴を見て、菖蒲がそっと彼女の背を擦りながら。
(「わたしに、今、出来ることは、何?」)
そう自問自答する菖蒲が、苦し紛れに紡いだ提案は。
「ねぇ、水仙。少し、少しだけで良い。一緒にこの帝都の中を、久し振りに歩いてみない?」
――只、それだけ、だった。
その菖蒲の提案に。
まるで機械の様な能面を浮かべて、無意識に水仙が首肯した。
●
一方その頃、裏路地では……。
『こっ、此処、は……?』
闘争による革命……鉄血の道を進んだ白紅党党員達が漸く目を覚ましていた。
其れまでは人狼兵の姿と化していた彼等が、まるで其の戦いの終結を告げるかの様に、見る見るうちに人の姿へと戻っていく。
其の手には、決起の折に構えていた武器は、もう存在していない。
『な……何だ……っ? 我等の身に、何が……?』
党員の1人が訳が分からぬ、と言う様に瞬きをした、丁度其の時。
――しゃなり、しゃなり。
何処か気品を感じさせる優美な足取りで笠を被った1人の女が彼等の前に姿を現し、軽く流し目を送る。
ぞくりと男女問わず背筋に電流が走るその視線に震えた党員達が女を見つめると、女は、カラコロと、鈴の鳴る様な笑い声を上げた。
「漸く目が覚めた様でありんすのう、主等。妾の名は白蘭。此度は、主等に伝えるべき伝言がありまして、此処に伺わせて頂いたでありんすよ」
その白蘭の言の葉に。
先程とは違う悪寒が党員達を襲うが、気にする事無く、お主等、と白蘭がゆっくりと真実を告げた。
「此度のお主等の革命……否、叛乱は、首謀者『妹桜』白桜華の死により、全てが終わったでありんすよ。お主等の野望は、此処に潰えたでありんす」
『嘘だ!』
白蘭の其れに、反射的に金切り声をあげる革命党員の1人。
けれども白蘭は其れにやれやれ、と軽く頭を横に振り、衣の裾に隠した一本の桜の枝を取り出した。
――取り出された其の枝は……。
「嘘では無いでありんす。お主等、この枝に見覚えがないとは言わせませんぞえ?」
白桜華の額に生えていた、白桜の枝。
かの存在が消滅した折に、たった1つだけ残された、唯一無二の証拠品。
其の証拠品を見て、革命党員達は絶句する。
――その枝が何であるのかを知らない者は此処には誰1人としていなかったから。
『で、では、あの御方は……。水仙様と共に、我等を導いてくれたあの御方は……』
表情から血の気が一切失せた党員の1人の、縋る様な其の問いかけに、白蘭は無慈悲にそうでありんす、と首肯で返す。
「……そう。お主等が希望として敬い、崇めていたあの者は、己の手で否定していた、輪廻の輪の中に溶け込んでいったでありんす。もう此で……お主等がこの革命をこれ以上続ける理由は無くなったでありんすな。もう、お主等を導いた影朧はいないでありんすから」
――其れは無慈悲にして、残酷なる現実。
其れを突きつけられ……党員達の表情に浮かぶは負の想い。
失望、絶望、悲嘆、哀切……そんな負の感情。
その感情に押し潰され、虚ろな眼差しと途方に暮れた表情を浮かべる白紅党党員達にまあ、と白蘭が咳払いを1つ。
「まあお主等は加害者であり、罪人ではあるでありんすが……幸いにも、お主等の鉄血で死した者はおらんかった。全ては、超弩級戦力達の手によってでありんすがな」
されども其れは、あくまでも死者は出なかった、と言う事。
祭を楽しみに来ていた者達の中に、峠こそ越えたが、重傷を負った者もごく少数出てしまった事実は覆せない。
「お主らは、妾と同じ罪人じゃ。守るべき者を傷つけ、その者達にとって大切な者から其の者達を奪おうとした加害者でありんす。それ以上でもそれ以下でも無いでありんす。妾は、其の事実を伝える伝令に過ぎないでありんす故」
白蘭に突きつけられたその事実を振り切る様に。
『で、では……わたし達はこれから、如何したら良いと言うの?』
必死に頭を横に振りつつ問いかける党員の1人でる娘に、さて、と皮肉げな笑みと冷たい一瞥をくれる白蘭。
気まずい静謐と共に、悪戯な天使が白蘭と白紅党党員達の間を擦り抜けていった。
……と、其の沈黙を、打ち破るかの様に。
「まあこれから先、お主等が如何するのかは、お主等とこの者達次第でありんすな」
そう告げて。
白蘭が裏路地に白紅党党員達の様子を見に来ていた超弩級戦力……猟兵達と党員達を交互に見やり、溜息を吐いた。
「もう1つ、不幸中の幸いがあったでありんすな。水仙……お主等を導いたあの娘もまた、存命でありんす。それはお主等にとっては、あれと同じでありんすだろうな」
粛々とそう呟きつつ、白蘭がちらりと見やったのは、東から昇り始めた日の姿。
――それは、黄昏と宵闇の先に見える、微かな夜明けの照光。
その照光に照らし出される……夜明け時の、帝都の姿。
「さて、超弩級戦力達よ。お主達は、此から如何するでありんすか? この者達と共に在る事を望むも良し。お主等の望みの儘に、お主等が守りし帝都の幸福な一時を楽しむも良し。全ては……お主等の御心のままに、でありんす」
そう締めくくる様に呟いて、粛々と一礼し、その場を立ち去る白蘭。
その白蘭の問いかけに、超弩級戦力……猟兵達が、出した答えは……。
*第3章のルールは下記となります。
1.フラグメント通りの行動が可能です。因みに夜明け時ですが、祭の後と言う事もあり、普通に開いている店があります。
ですので飲酒や喫煙、飲み会を楽しむ事も可能です。
但し、未成年のPCの飲酒・喫煙描写等、公序良俗に反する描写は致しません。
2.フラグメントの行動に水仙及び、白紅党党員達を同行させることが可能です。
この場合、彼等の心のケアをしつつ、帝都を楽しむ事が可能になります。
フラグメント通り帝都に繰出さず、会話のみでの対応も可能です。
水仙、或いは白紅党党員達との交流をご希望の場合、プレイングにご記入下さい。
3.水仙と話をする際、菖蒲の協力を得られます。菖蒲の扱いは下記となります。
a.特にプレイングが無い限り、菖蒲は登場致しません。
b.菖蒲とも会話をしたい場合は、『菖蒲同行希望』或いは、『a』とプレイングにご記入下さい。
c.菖蒲は水仙の心の瑕疵に極力寄り添いたいと思っています。もし、水仙の心のケアをするのであれば、快く手伝ってくれることでしょう。
4.帝都桜學府諜報部の竜胆は事後処理に奔走しているため、面会の時間を作る余裕はありません。
――其れでは、最善の結末を。
吉柳・祥華
のお、妹桜よ
妾の禁忌に触れて、貴様は堪えられたのかえ?
自らが生み出した者たちに裏切られ刃を向けられ、そして壊された…
まぁ…妾は死ぬことは無いが、その痛みは…如何ほどのモノか主には想像出来るかえ?
貴様はまだましじゃ…
姉桜は貴様を思っての所業じゃからのう
(偶然という流れで妹桜が消えた周辺で幻朧桜の枝を見つけ)
白楼や、お前に妹を作ろうかのう…
(神の盃から湧いて出た清水(せいすい)をその拾った枝に振りかけて
仙術の応用とUCを使い、白桜によく似た妖精を創りだして…)
そうじゃな…『紅桜』と名付けようかのう…
(そのあとは再度空中浮遊でその場から離れ最初に居た場所から地上を見下ろす形で酒を片手に一杯しておるよ
●
――ソヨリ、ソヨリ。
夜明け時の、太陽が昇るか昇らないか。
そんな涼しさと此から暖かくなってくるであろう心地よさを想起せられる頃の、幻朧桜の木々を微風が浚っていく。
其の微風に身を委ね彩天綾を風に泳がせながら、𠮷柳・祥華が静かに目を細めた。
祥華の目前には、先に対峙した妹桜『白桜華』を浄化するべく桜吹雪を吹き散らし短命の宿命を果たし桜を枯らせた幻朧桜。
(「ふむ……花の命は儚く切ないモノじゃな」)
超然たる神としての風格の中に、そんな一抹の感傷を心に泳がせ、その幻朧桜に背を預け、軽く目を瞑る。
双眸を閉ざした先の暗闇の向こうに見えたのは、先に対峙した、妹桜『白桜華』
そして、あの戦いの中で自らの記憶……祥華の後悔の痕として吸収された……。
「……のお、妹桜よ」
まるで、今背を預けている其れが、妹桜であるかの様に。
後始末の喧噪を右から左に聞き流しながら、誰に共なく囁き掛ける。
「妾の禁忌に触れて、貴様は、堪えられたのかえ?」
――自らが生み出した者達に裏切られ、刃を向けられ、殺された……其の禁忌に。
その時の事を思い出し、不意に紅を差した唇に、ふっ、と艶美な笑みを浮かべる。
「まぁ……妾は死ぬ事は無いが、その痛みは……如何ほどのモノか、主には想像出来るかえ?」
――其の笑みは、妹桜への哄笑か、それとも自嘲であろうか。
「まあ、貴様は未だましじゃ……。姉桜は、貴様を思っての所業じゃったからのう」
――そう。
あの『姉桜』紅桜華もまた、『妹桜』白桜華を奪われた復讐の為に、柊に黄泉還りの技を与え、自分達と戦った。
(「双子の姉と妹か……。やはり考えることは似る、と言う事なのかのう……」)
自分にそんなモノがいたら、今の自分はあったのだろうか。
そんな思考が、微かに脳裏を過ぎる。
――と。
「……おや? これは……」
そっと瞑っていた双眸を開き、何とはなしに地面を見下ろすと、何か1本の枝が控え目に足下に転がっているのが見えた。
或いは其れはこの幻朧桜が力を使い果たした時、偶々転がり落ちた枝であろうか。
「……ふむ」
何となく気になって、祥華はそっと指先を其の枝に突きつける。
指先から放出された念動に包まれて、幻朧桜の枝が祥華の目線迄浮かんだ。
其れをしなやかな色白の手で、優しく包み込む様に手に取る祥華。
その様子を、嘗て別の幻朧桜の枝で作り出した妖精『白桜』が祥華の肩に寄り添うように止まって興味深そうに見つめていた。
自らの肩に止まっている白桜の様子に、唇の笑みを、柔らかいモノへと変えて。
「白桜や。折角の縁じゃ。お前に妹を作ろうかのう……」
そう小さく言の葉を紡ぐと共に。
左の着物の裾にそっと目立たぬ様しまっていた青い神ノ盃を取り出し、歌を諳んじる様に呪を紡ぐ。
紡がれた呪に誘われる様にして、神泉の如く滾々と神ノ盃に湧き出した清水を静かに枝に振りかけて、神仙の方術を続けて唱えた。
「麗かなる香り。清浄なる謳、苛烈なる、燃ゆる想いよ。静謐なる静寂の詔を以て、かの枝に命の息吹を与え給え」
――それは、自らの創造物に命を与える方術にして、仙術。
神としてこの世界に生まれ落ちた時、自らに刻まれたユーベルコード。
その術は、確かに偶然拾った右手の幻朧桜の枝に生命を与え。
そして……見る見るうちに『白桜』とよく似た新たな妖精を作り上げる。
祥華が創造した命の姿を見て、嬉しそうに『白桜』が目を輝かせ、祥華が其れにやんわりと微笑んで。
「そうじゃな……おぬしには、『紅桜』と、名付けるとしようかのう……」
そう新しく吹き込まれた命に囁き掛けると。
『紅桜』と名付けられし新たなる妖精は頷き、祥華の左肩に止まる様に乗る。
祥華は其れに粛然とした面持ちで頷き、微かに桜花を想起させる匂いをその場に残して、彩天綾を翻した。
虹色の光彩を帯びた其れが、風を孕んで祥華を浮かび上がらせ、帝都を見下ろすことの出来る高見へと上昇させる。
そのまま空中散歩を楽しむかの様に、優雅で淑女然とした足取りで空を歩き、よく地上を見下ろせる場所に佇んで。
「さて、此度の仕事は仕舞じゃ。一献と行くかのう……」
誰に共なくそう呟いて、左手にあった神ノ盃を右手に持ち替え、並々と酒を湧かさせてそれをゆっくりと飲み干していく。
――東から夜明けの兆し……朝焼けの太陽が昇り、陽気な暖かさで帝都を照らすその様を、満足げに見やりながら。
大成功
🔵🔵🔵
白夜・紅閻
封印を解いた状態の『篁臥』に『ルカ』と『ガイ』を跨らせ一緒に楽しむよ。
まぁ、この子らが何か食べたられる仕様なのかは知らん。
そうだね、可能なら…甘いものでも買ってあげようかな
あとは…ちょっとしたお土産のようなモノもの…
ルカには髪飾りとかちょっとお洒落なものかな、ルカはおませさんだからね?
ガイは…そうだね、玩具というよりは…お守りとかぬいぐるみ?キーホルダとかかな…?名前の割に…おとなしい子だからね。
ああ、『白梟』は封印の前の大型インコの姿だよ
篁臥と白梟や、協力してくれた動物たちにも
ちょっと高めのおやつでもあげるよ
●
――空に昇る陽の光に照らされて、次第に賑わいを見せ始めた帝都の中を。
「さて……この子達にも帝都の中を楽しんで貰わないとね」
自らの外套……篁臥を漆黒の巨大な豹の様な獣に変えたままに。
帝都の中へと繰り出した白夜・紅閻が、微かに愉快そうに口元を綻ばせる。
『篁臥』の背には、紅閻と其の手の色褪せてしまった指輪……白銀の双翼と金剛石の月華……を想起させる凱と瑠華も跨がっていた。
『篁臥』の上に跨がった月聖霊と、銀双翼の双子の子供達の様な聖霊が、興味津々に其の風景に目を輝かせている。
「ふふ……『ルカ』と『ガイ』も、楽しそうだね」
封印を解かれた聖霊達を振り返り、紅閻が満足げに頷きを1つ。
宵が明け始め、早々と店を開き始めているお菓子の店があり、其処に並べられている甘い和菓子に紅閻が何気なく目を留めた。
「店員さん、此を貰うよ」
そう告げて、サアビスチケットを手渡して、出されていた和菓子と交換する紅閻。
手に入れた和菓子をルカとガイに差し出すと、2体は嬉しそうに其れを手に取って舌鼓を打ちながらリスの様に其れを頬張る。
口元に食べかすを残しながらも美味しそうにお菓子を食べるルカとガイに微笑みを浮かべつつ、紅閻は内心で微かに首を傾げた。
(「聖霊の筈のこの子達が、何でこれらを食べれる仕様なのか、そう言えば知らないな。まあ、些末なことか」)
そう胸中で結論付け、紅閻が篁臥にも偶々見つけたおやつを与えてやると、微かに抗議をする様に白梟が嘶きを上げる。
今は普段の大型インコの姿に戻っている白梟の抗議に、分かっている、分かっていると微笑して、インコ用のおやつを買い与えた。
ついでに同じ店で動物達用のおやつを大量に紙袋に入れて貰い、アニマルフードに詰め込む紅閻。
(「後で、協力してくれたあの子達にも、お礼も兼ねてあげないとね」)
そう内心で呟きつつ、ゆっくりと通りを歩く『篁臥』の背に跨がる紅閻を。
「もしもし、そこのお兄さん……」
露天商と思しき若者が呼び止めらると、紅閻はふと、其方を見やった。
「もし宜しければ、其方のお嬢さんに此方など如何ですかな?」
そう愉快そうに物申して。
洒落た髪飾りや愛らしい簪、大正ではハイカラな首飾り等を熱心に勧めてくる。
その勧められたアクセサリーの幾つかを、瑠華が興味深そうに目を輝かせて見つめているのを見て、紅閻がそっと微笑んで。
「この髪飾りを貰おうか。ふふ……ルカは、おませさんだものね?」
と悪戯っぽく言ってお金を払い、紅閻が夜に咲く美しい花を彩る月の様な綺麗な髪飾りをルカにプレゼントした。
嬉しそうに瑠華が髪飾りを身に付けるのに微笑み、それからその男にそう言えば、と囁き掛ける。
「君は、玩具というか……御守りとかぬいぐるみ? 或いはキーホルダーの様な物は取り扱っているかい?」
髪飾りを買って貰ってご機嫌な瑠華の後ろで、指を咥えて羨ましそうに其れを見ている凱を目の端に捉えつつ問いかける紅閻。
「御守りとキーホルダーなら取り扱っていますぜ」
そう言ってそれらの商品を見せてくる露天商にそれじゃあ、と1つのお守りと、キーホルダーを取り、其れをガイに手渡す紅閻。
両手で大事そうに其れを受け取り、じっ、と其れを見つめるガイにふふっ、と紅閻が微笑した。
「凱は名前の割に……大人しい子、だからね。これは僕から君達への感謝の印だよ」
そうして一通り満足のいく買物と、帝都観光を堪能した紅閻達は。
この事件の解決に協力してくれた動物達にお礼の少し高いおやつを与えるべく、帝都の外れへと獣奏器を片手に去って行った。
――颯爽と、そして久し振りの休暇を満喫しながら。
大成功
🔵🔵🔵
文月・ネコ吉
※アドリブ歓迎
やれやれ何とか収束したな
このまま帰…る訳にもいかないか(眉間に皺寄せ溜息
目覚めた党員達と話でも
気分はどうだ、和菓子でも食うか?
傷は雨で回復もしてる、まあ大丈夫だろう
一つ言っておくが
反魂ナイフ、黄泉還りの業は
死者が生前のまま蘇る訳じゃない
融合した影朧に意思も行動も歪められ
全てを破滅へと導く
遺志も想いもお構いなしに
仮にお前達の蜂起が成功しても
奪った人々の幸せは取り戻せない
死してなおその魂を踏み躙る
そんな事を望む訳じゃないんだろう?
方法を考え直してみるんだな
もっと他に出来る事がある筈だ
寄り添うべき想いがあると
気付いたお前達なら、きっと
やるべき事なら山程あるさ
先ずはこの…公園の修復とかな
●
――薄明るい光が昇り始めた宵明の時。
「やれやれ、何とか収束したな」
言いたいことを言って、自分の方を横目で見やった白蘭の其れに、軽く首肯した文月・ネコ吉がそっと安堵の息を吐く。
ともあれ、普通に皆が楽しむ筈のお祭りで起きてしまったこの悲劇。
それを完全に収束するために白蘭が一礼しこの場を立ち去り、公園の方へと向かって行くのを軽く目の端に止めながら。
「よう、気分はどうだ? 和菓子でも食うか?」
そうネコ吉が問いかけながら、目覚めて人の姿に戻った白紅党党員達にお煎餅の詰まった箱を差し出す。
唐突に差し出された和菓子を見て、戸惑いの表情を隠せぬ党員達。
「お、お前は……?」
恐る恐る様子を伺う様に聞いてくる党員の1人におっ、とネコ吉が微かに笑う。
「喋れる様にはなったか。傷は痛んだりしないか?」
「い……いや。特には……」
ネコ吉の問いに、何処か落ち着かない様子で体を触って確認する党員達。
装備していた武装が無い事を除けば、体に殆ど異常が無い事を確認し、ざわめく彼等にネコ吉が腕を組んで首肯する。
「俺の雨でお前達の傷はお前達が寝ている間に大体回復させた。取り敢えず余程の事が無い限り、異常は無い筈だぜ?」
――その心の瑕疵までは、癒えているのかどうかは分からないけれども。
胸中で呟くネコ吉に、相変わらず訳が分からないという表情を浮かべる党員達。
先程の白蘭の説明を受け、そして傷が癒えていることを確認したが、其の分却って頭の中が混乱している様子の彼等を見て。
「1つ、言っておくぜ」
ネコ吉が、何処か剣呑さを帯びた口調でそう告げると。
「な……何……ですか……?」
女党員の1人が、恐る恐ると言う様に問い返してきた。
其の問いにネコ吉は軽く頷き、妹桜は、と静かに話を続けている。
「あいつが黄泉還らせる事が出来るって言っていたのは、多分、反魂ナイフって言う道具によるものだと思うぜ。俺も実物は直接見たことはねぇが、話は他の奴等から聞いている」
ネコ吉のその言葉に。
「反魂ナイフ? それが、あの御方が我等に道を示して下さった理由なのか?」
何処か横柄な態度の党員が問いかけると、そうだ、とネコ吉が首肯して見せた。
「だが、妹桜の反魂ナイフ、黄泉還りの業は、死者が生前の儘蘇る何て都合の良い道具じゃない。……元々、影朧と人の魂を融合させるナイフらしいからな」
ネコ吉による衝撃的な告白に。
「な……何……?!」
別の党員が、思わず、と言った様子で息を呑む姿を見て、やはり知らなかったのか、と彼等の事情を悟るネコ吉。
(「……だとしたら、妹桜に利用される理由も納得出来る。と言うより、反魂ナイフの存在自体、あまり知られていない可能性もあるか」)
その可能性を、内心で想定しつつ。
「どちらにせよだ。反魂ナイフによって影朧と融合させることによって黄泉還らせられた魂は、その意志も、行動も歪められ、全てを破滅に導いていく。皆も、影朧がどう言う存在なのかはそれこそ身に染みる程分かっている筈だ」
影朧は、例え本人が望まずとも、世界に何らかの不幸を齎してしまう、悲しく不安定な存在である事を。
言葉の裏に籠められた其れに、言葉もなくネコ吉を見つめる党員達。
そんな党員達に、憐れむ様な、同情する様な眼差しを向け、ネコ吉は続ける。
「だから、仮にお前達の蜂起が成功し、其れで犠牲になった人々を黄泉還らせたとしても、それはもう、嘗てのその人達じゃない。彼等が掲げていた遺志も、想いもお構いなしの存在にその人達を作り替えてしまうことになる。つまり……お前達が奪った人達の幸せは、妹桜の黄泉還りでは、決して取り戻せないものだったんだ」
「そ、そんな……!」
其の残酷な現実に、党員の1人が両手を自らの頬に当て息を呑む。
「ばっ、馬鹿な! 何処に其の根拠がある!? 黄泉還ってきた椿様だって……!」
別の党員がそう食ってかかるが、ネコ吉は其れに、軽く目を瞬いた。
「俺は、椿って奴のことは知らない。だがその椿って奴は、本当にお前達の知っていた椿って奴そのままだったのか? 本当に? 良く考え、思い出してくれないか?」
ネコ吉の問いかけに心当たりがある者もいたのだろう。
何も言い返すことが出来ずに震える様に拳を握ったり、肩を震わせる者達の姿を見て、やはりな、とネコ吉が呟いた。
――だって、其れを否定できないから。
嘗ての椿を知り、黄泉還った椿と再会した者は、死んだ後に再会した椿に微かな疑念を抱かなかった訳では無かったのだろうから。
「……どうやら、心当たりのある奴もいるみたいだな。だったら分かる筈だ。妹桜がお前達に与えてくれた黄泉還りという希望は、希望ではなく死して尚その魂を踏み躙る事だったんだって。……お前達は、そんな事を望んでいた訳じゃないんだろう?」
ネコ吉の其の問いかけに。
『……』
途方に暮れていた者達の表情に様々な感情が渦巻き、其々に違う表情を浮かべ、考えあぐねる様子を見せていた。
そんな多種多様な党員達の反応を見つめ。
「悩むなら、方法を考え直してみるといい。もっと、他に出来ることがある筈だ」
溜息をつきながら、そう呼びかけたネコ吉に。
「……私達に、もっと他に出来ること、ですか?」
党員の1人がそう問いかけると、そうだ、とネコ吉がキッパリと頷いた。
「既に寄り添うべき想いがあるんだと気付いて、死した人々の遺志や想いを継ぐ道を選ぼうとしたお前達になら、きっと。まあお前達全員が、今すぐに簡単に気持ちが切り替えられると迄は思えないが」
――けれども。
「それでもやるべき事なら、山ほどあるんだ。例えば、先ずは……」
――と。
ちらりと裏路地の方を振り返るネコ吉。
ネコ吉の視線のその先には、戦いに疲れ果て、傷ついた公園と幻朧桜達。
「……この公園の修復、とかな。俺は白蘭達のしている事を手伝ってくるぜ」
そうネコ吉が締め括り。
一緒に行くことを求めるでも無く、踵を返して公園に向かって立ち去っていくその姿を、党員達の一部が追いかけていった。
――例え、党員達の全てが納得出来ていなくとも。
今、納得出来ない何かに向き合う為に出来ることは、確かに目前にあるのだから。
大成功
🔵🔵🔵
館野・敬輔
【闇黒】【a】
アドリブ大歓迎
紫陽花さんの話を出した以上
不得手だけど水仙さんのケアに回るか
場所は陽太さん提案のかふぇーで
紅茶を注文
初めて飲むけど香草茶とは違うんだよな?(※知識不足なド天然)
飲みながら話を
僕は君たちの理想を寝言と断じた
なぜなら、紫陽花さんや椿さんの意を継ぐと言いながらその意を理解せず
妹桜に煽られるままに決起したのだろうから
だけど
紫陽花さんや椿さんの遺志を継ぐという想いは
間違いなく水仙さん自身の想いだろ?
ただ、煽られ急いたから道を違えただけで
紫陽花さんは
僕ら超弩級戦力と問答しながら戦った
ただ憎悪や熱量に突き動かされるのではなく
冷静に、僕らに諭し伝えながら…正々堂々とな
おそらく、紫陽花さんは
決起し革命を求めた先の結末を見せて
自分のようになるな、と諭したかったのかもしれない
…武人らしい不器用な見せ方だけど
今からでも遅くない
紫陽花さんが何を遺したかったか
ゆっくり考えてもいいんじゃないかな
(陽太さんの小声に一瞬息を呑む)
…「彼」は陽太さんの意に従っていた
今はこれだけ、伝えておく
森宮・陽太
【闇黒】【a】
アドリブ大歓迎
いったん真の姿は解除するが
記憶が酷く曖昧だ
非殺を求めた事だけは覚えているが…
なあ…終わった、よな?
とりあえず、水仙と菖蒲を近場のカフェーに誘おう
紅茶か珈琲で心を落ち着かせながら話すのも悪くねえだろ
俺自身は珈琲にするが、ふたりは好きな飲み物を頼みな
ここは俺が奢るぜ
まずは水仙と菖蒲に
椿の任務中の死の真相を伝え
妹桜と椿を殺めた輩が繋がっている可能性を示唆
ああ、椿の黄泉還りは不完全だった
妹桜は水仙たち白紅党員に偽りの希望を与えるために
椿を利用したってこったな
(突然真の姿に変貌「暗殺者」に)
復讐に駆られ戦乱に変革を求めた場合
その果てに待つのは
終わりのない闘争と軍拡、そして憎悪の連鎖
その行きつく果ては世界の進化ではなく滅亡
二人はその未来を望むか?
変革の先に待つのは絶滅だ
覚えておけ
(再び真の姿解除)
…俺、一体何を…
ふたりとも、怯えちまったらすまねえ
(小声で敬輔に)
何だ、今のは…
「暗殺者」が俺の意を無視して出やすくなってるのか?
万が一の時は…あんたの手で俺に引導を渡してくれ
●
――一方、その頃。
「……っ」
森宮・陽太は無意識に白のマスケラを外し、同時に全身を覆っていたブラックスーツを解除していた。
それにより『無面目の暗殺者』としての力は自らの胸の内へと収まっていき、同時に自分が外気に当たっていると直観するが。
(「……俺、何時から此処に居たんだっけか?」)
まるで記憶に靄が掛かっているかの様な感触を覚え、何をしていたのかが酷く曖昧になっていり。
只、靄を打ち破る太陽の様に燦然と記憶の中に輝くのは、『非殺』を求めた事。
だが、それ以外の記憶は相変わらず曖昧模糊とした儘だった。
自らの記憶の欠如に混乱し、額を抑え、膝をつく陽太の後ろから。
「如何した、陽太?」
何処か、気掛かりそうな様子で館野・敬輔がそう呼びかけたのは必然であろう。
「……敬輔か?」
敬輔の声に後ろを振り返り首を傾げる陽太。
そんな陽太に、怪訝そうな表情を浮かべつつ律儀に敬輔が頷きを1つ。
「僕じゃなかったら、誰なんだ陽太」
「いや、それは……」
生真面目にそう返されてばつが悪そうな表情を浮かべる陽太。
陽太の顔色が瞬く間に青ざめていくのに、敬輔が思わず目を眇める。
「如何した?」
「いや……何でも……あるな。なぁ、敬輔」
他の猟兵達が既に周囲から姿を消しているのを認めてから。
軽く溜息をついて顔を拭う陽太に敬輔が黙って続きを促す。
「……終わった、んだよな。戦い……」
その陽太の問いかけに。
一瞬訳が分からないと顔を顰めつつ、ああ、と敬輔が首肯する。
「終わったよ。皆も、菖蒲さんも、水仙さんも無事だ。妹桜は転生され、後始末は、竜胆さん達、帝都桜學府諜報部が対応している。それで水仙さんも目覚めたらしいと聞いたから、取り敢えず僕はこれから彼女に会いに行くつもりだが」
其の敬輔の回答に、そっと安堵の息を吐く陽太。
それから顎に手を置く様にして束の間考える表情になったが、直ぐに気を取り直してじゃあ、と敬輔に呼びかけた。
「だったら、俺も一緒に行くぜ。このまま放っておくのは正直、落ち着かねぇ」
「……そうか。ならば僕と一緒に行こう」
呟き、陽太の前に立ち帝都桜學府へと足を向ける敬輔。
其の後を追う様に慌てて走り出す陽太を見やり、そっと敬輔が内心で息をつく。
(「……陽太さん。無理するなよ……」)
――と。
●
――帝都桜學府内部。
水仙との面会を求めた敬輔と陽太は、見方によっては独房の様にも見える、ある小部屋を訪れていた。
そんな敬輔と陽太を迎え入れたのは……。
「貴方達……」
「今晩は、菖蒲さん」
菖蒲とベッドに横たわった儘、茫洋とした表情で、白い天井を眺める水仙。
「そっちが、水仙だったな。……敬輔から聞いたが、無事に目を覚ましたらしいな」
『……』
気楽な調子で軽く手を振る陽太の其れを目の端に捉えたか、奇妙に鋭く突き刺さる様な視線で射貫く様に睨み付ける水仙。
其の水仙の刺々しい視線に、何となく針の筵に貫かれ続けているかの様な錯覚を覚える陽太。
因みに水仙の視線は、敬輔に対しては刺々しいどころか、完全に冷たく一瞥する様な視線と化している。
(「……まあ、当然と言えば、当然か」)
水仙の言葉を寝言と戦いの中で断言した敬輔に対して、水仙が冷たい反応になるのは、自明の理であろう。
なので其の視線を受けても特に気にした風を見せるでもなく、敬輔が水仙を一瞥、菖蒲へと問いかけた。
「もう、水仙さんは動いても大丈夫なのか?」
その敬輔の問いかけに菖蒲が曖昧な表情を浮かべ、水仙を見ると。
『……わたしは、もう……』
不意に激しい自己嫌悪に囚われたかの様に顔をくしゃくしゃに歪めて俯く水仙。
其の水仙の様子を見て、陽太が、なあ、と怖ず怖ずと言った様子で手を挙げた。
「……折角だ。近場のカフェーにでも行って、少し落ち着かないか?」
「そうしたいけれど……その」
その陽太の提案に、僅かに申し訳なさそうな表情を浮かべて、水仙を気遣わしげに見やる菖蒲。
水仙はギュッ、と被っている布団を握りしめプルプルと体を震わせていた。
「その様子だと、水仙さんを連れて、かふぇーとやらに行くのは難しそうだな……」
「うん……」
やや気落ちした様子で告げる菖蒲にそうだよな、と溜息を吐く敬輔。
陽太も軽く頭を掻き、4人の間にやや気まずい空気が流れ始めた時。
「あっ……でも、何か好きな飲物とかがあれば、私が頼んで、帝都桜學府の人に貰ってこれるよ? 此処でなら、その位のお茶会は出来るから……」
その菖蒲の提案に、咳払いをして気を取り直した陽太がじゃあ、と話続けた。
「俺は珈琲が良いな。敬輔、お前は?」
「僕は……紅茶、とやらを」
陽太に水を向けられ、応えた敬輔に、良し、と小さくガッツポーズをする陽太。
「それじゃあ、俺が奢ってやるから、何でも好きな物貰って来いよ。……因みに水仙は何が好きなんだ?」
陽太のさりげない問いかけが呼び水となったか。
『……紅茶』
やや気が進まない様子ながらも、飲みたい物を口に出した水仙に、ぱっ、と菖蒲が表情を明るくさせる。
「うん、分かった。其れじゃあ、貰ってくるね。紅茶3つと、珈琲ね」
そう告げて。
少し元気を取り戻してパタパタと部屋を出て行く菖蒲。
(「菖蒲の奴、少し元気になったみたいだな。まあ、何かを飲む気分でもなかっただろうから、当然か」)
そんな事を、ちらりと陽太が考えているその間に。
瞬く間に、お盆に其々が注文した飲物を乗せて戻ってきた菖蒲を見て、水仙が僅かに頬を和んだ様に緩ませた。
「ごめん……お待たせ……!」
そう呟いて近くにあったテーブルを寄せて、其々の眼前に手慣れた様子で飲物を配る菖蒲を見て敬輔がほう、と息をつく。
「菖蒲さん、こう言うの慣れているんだね」
「えっ? ……うん。何かこうしていると、椿と水仙と一緒にお茶をした頃のこと、思い出せるから」
それは懐かしそうな……けれども、微かな痛みを伴った、そんな声。
其の声調に水仙が一瞬、ハッ、とした表情になるが、菖蒲は慌てて頭を横に振る。
「でも、あの頃よりも人が居て、賑やかだよね」
何かを吹っ切るかの様に微笑んで飲物を配り終え、紅茶の香りを楽しむ菖蒲。
そんな菖蒲の様子を見て、同様に紅茶を頼んだ敬輔も紅茶の香りを楽しもうとしたところで、ふと何かに思い至ったか小首を傾げた。
「僕、実は紅茶は初めて飲むんだけれど……香草茶とは、違うんだよな?」
真顔で聞いてくる敬輔の其れに、思わずぷっ、と吹き出す菖蒲。
「違うよ。ハーブティーと紅茶じゃ、味も葉もね」
ニコニコと楽しそうに振る舞う菖蒲の其れに、水仙も毒気を少し抜かれたか。
ガクリ、と肩を落としつつ、菖蒲に差し出された紅茶に口を付けると……。
『……あちっ』
と、ビクリと肩を振るわせたのに、陽太が珈琲を啜りながら思わず苦笑を零した。
そうして束の間、其々に想いを馳せながら一口、それらの飲物に口を付け。
漸く人心地つき、やや弛緩した空気の中で、陽太がガシガシと頭を掻く。
「まあ、こんな状況で正直、少し言いにくいんだが……」
その陽太の呟きに。
『……何?』
と無気力ながらも軽く目を細める水仙を見て、陽太がちらりと敬輔に目配せする。
敬輔が其れに軽く頷いたのを確認し、陽太が、菖蒲、水仙、と改めて彼女達に呼びかけた。
「多分、きちんとしておかなきゃ行けない事だと思うから。お前達には知る権利があると思うから、伝えようと思う」
「えっ?」
『わたし……達が、知る、権利?』
菖蒲が思わずと言った様に目を瞬き、水仙が鷹の様に鋭い眼差しで射貫く様に陽太を見つめる。
水仙の紅茶のカップを握る手が震えているのを理解しつつ、陽太は改めて其の話を切り出した。
即ち……。
「……椿が死んだ、本当の理由だ。俺達もあくまでも聞かされているだけなんだが、あいつは、対影朧対策の任務中に、切り裂きジャックという影朧に殺害された」
――椿の死の、真相を。
「切り裂きジャック。それって……」
その陽太の言の葉に、菖蒲がひゅっ、と息を呑む。
肩は小刻みに震え、背中には冷たい汗が滴り落ちた。
そんな菖蒲の様子を気の毒そうな表情で見ながら、出来る限り落ち着いた口調でああ、と陽太が首肯する。
「共同墓地で、菖蒲は襲われたな。そうだ、椿と反魂ナイフによってその魂を融合された影朧、切り裂きジャックによって、椿は殺された。菖蒲が反魂ナイフで黄泉還らせたのは、其の時だ。此は俺の勝手な推測だが……多分、切り裂きジャックは、椿と融合して自分の肉体を強くする為だけに、椿を殺したんだろう。……で、妹桜がそのジャックと椿を融合させるために、菖蒲に反魂ナイフを寄越したんだ」
(「本当は闇の天秤ってのが関わってくるんだが……流石にアレについては説明できねぇな」)
元々『闇の天秤』……概念の様なそれが『何』であるのか実は判然としていない。
紫蘭を『光の少女』と姉桜が呼び、其の天秤を崩せるだけの少女と称した事からも、何となく想像はつきそうだが、確証は無い。
けれどもそれ以上を陽太が告げずとも、菖蒲には十分意味が分かった様だ。
「……あのナイフを……」
そう肩を振るわせながら頷く菖蒲を横目にしながら陽太がそして、と話を続ける。
「その切り裂きジャックは、水仙。今回、お前と手を取り合った影朧、妹桜と繋がっている可能性が高いんだ」
その陽太の言の葉に。
『なん……だと……?!』
水仙が、不意に首を絞められたかの様な急激な圧迫感を覚え、何処か戦慄染みた声を張り上げる。
そんな水仙の様子を見て、菖蒲が胸を手で押さえながら囁く様に呟いた。
「……椿を黄泉還らせるために、私達は、影朧に利用されたの……?」
その苦しげな菖蒲の問いかけに。
「……そうだね。でも、僕達が出会った椿さんが、本当の椿さんじゃない……あの時、心の何処かで菖蒲さんは分かっていた。……そうじゃなかったか?」
そう敬輔が聞き返すと、渇いた唇を湿らせる様に紅茶を一口飲んでから、コクリ、と菖蒲が小さく頷いた。
其の菖蒲の肯定に、水仙が大きく目を見開く。
『菖蒲……あなたも……?』
ポツリ、ポツリ、と問いかける水仙の其れに、再び首を小さく、けれどもはっきりと菖蒲が縦に振る。
「本当はそうじゃないかな、と分かっていた……。でも、わたしは、それを……」
――信じたくなかったのだ、あの時は。
その言葉は、胸の内に秘めてしまったけれども。
でも……そんな菖蒲の気持ちは、痛い程に水仙には理解出来る。
――出来て、しまう。
何処か、凍り付く様な風が部屋の中を駆けていく様な錯覚を覚える。
3杯の紅茶と1杯の珈琲の香りが部屋に色濃く漂い、其れが何となく鼻についた。
と……此処で。
「でもね、水仙さん」
その空気を断ち切るかの様に。
紅茶を一口飲み、思い切った様子で口を開いたのは、敬輔。
「僕は、本当は、君が紫陽花さんや、椿さんの意を継ぐと言う想い迄が間違っていたとは思わない」
敬輔のその言葉が意外だったのであろうか。
『……えっ?』
何処か呆けた様に応えを返した水仙にまあ、と陽太が申し訳なさそうに息を吐く。
「水仙。お前や、白紅党党員達へと黄泉還りという偽りの希望を与えるために、妹桜が椿を利用したのも事実だ。それにまんまとお前等が乗せられちまったのも」
陽太の捕捉にそうだ、と敬輔が静かに相槌を打つ。
「だから僕は水仙さん。妹桜の思想に染まって、彼女に煽られる儘に決起してしまった君達の言葉を寝言として否定した。でも、それはあくまでも君達が煽られて急いてしまったから道を違えてしまっただけだとも思っている」
『……』
敬輔のその言葉に、黙々と紅茶を啜る水仙。
菖蒲がそんな水仙を気遣わしげに見やるが、敬輔は大丈夫と軽く頷き話を続けた。
「……少なくとも、紫陽花さんは、僕等超弩級戦力と問答しながら戦ったよ。そして、自分の進んだ道が間違いだと言われて、そうだろうとも肯定していた。でも、彼が決起したのは、何も憎悪や熱意に突き動かされたからじゃなかったんだ。それどころか、自分が如何してその道を選んだのか冷静に、僕達に諭し、伝えながら戦った。……正々堂々と、何よりも自分自身の意志だけでね」
其の戦いの時の事を思い出す様に。
静かに双眸を瞑り、冷静に淡々とその時の事を語る敬輔の言葉に。
『……っ!』
水仙の表情が大きく強張り、息を飲み、敬輔の話に吸い込まれていくかの様に耳を傾けている。
(「やはり、相当色んな奴等に慕われていたんだよな、紫陽花はよ」)
その水仙の反応を見て、陽太はふと思い、ある事に思い至った。
「……そう言えば、紫陽花に従っていた奴等に、少年少女はいなかったな。皆、既に其れなりに経験を積み、年を経た熟練の兵士ばかりだった。あいつ自身は、彼等の事を『戦友』と呼んでいたな……」
誰に共なくその時の事を振り返り呟く陽太にそうだ、と敬輔が頷いた。
――そう。
もし、あの時本気で革命を完遂させるつもりだったのであれば、水仙の様な者を、巻き込むことも出来た筈。
そうなっていれば……あの戦いの規模は更に大きなものとなり、少なからぬ損害を帝都桜學府は被っていただろう。
「でも、そうはならなかった。或いは、紫陽花さんはそうしようとしなかったという方が正しいかも知れない」
――其の意味するところ。それは……。
「……多分、紫陽花さんは、決起し革命を求めた先の結末を見せて、『自分の様になるな』と、水仙さん。君の様な、若くて未来ある學徒兵達に諭したかったのかも知れないと、僕は今、そう思っている」
『……っ!!』
敬輔の其れに、凍り付いた様に目を見開く水仙。
其の水仙の姿を見て取って、敬輔が紫陽花さんは、と重い溜息を1つ吐いた。
「正直、武人らしい不器用な見せ方だったと思う。けれども、今からでも遅くはないんだ。紫陽花さんが本当は『何』を遺したかったのか、ゆっくり考えても良いんじゃ無いかな。……君には菖蒲さんとも、皆とも触れ合える『時間』があるから……」
――と、此処で。
不意に陽太の顔が白のマスケラに覆われる。
同時に彼の全身をブラックスーツが覆っていった。
「あなた……?」
突然の陽太の変異に戸惑いを隠せずに問いかける菖蒲。
けれども陽太……否、『無面目の暗殺者』は其れに応えず、淡々と無機質に言葉を叩き付けた。
「もしお前達が、今後復讐に駆られ、戦乱に変革を求めた場合。其の果てに待つのは、終わりのない闘争と軍拡、そして憎悪の連鎖だろう。そして其の行き着く果てにあるのは、世界の進化ではなく滅亡だ」
――それでも。
「お前達は其の未来を望むのか? だが……忘れるな。もし其の望みを叶え、変革が為された時、その先に待つのは絶滅だと言う事を」
『……なっ……何……!?』
「……?!」
能面の儘に淡々と紡がれた陽太の……『無面目の暗殺者』のその言葉。
其処に籠められている深き闇を感じ取り、水仙と菖蒲が思わず同時に息を飲んだ、其の刹那。
――カラン。
乾いた音と共に、白のマスケラが地面に落ち、元の服装に戻った陽太が真っ青に顔を青ざめさせ、瞬きをした。
その目はカサカサに乾ききった自らの手と……其の下に落ちている白のマスケラに向けられている。
「……俺は、今、一体、何を……すまねぇ、2人とも」
その陽太の変貌と青ざめた表情を見て。
「ごめんな、水仙さん、菖蒲さん。僕達は此で失礼するよ。でも……さっき僕が言ったこと、少しでも考えて貰えると嬉しいよ」
そう言って、深く頭を下げて謝罪をし、幾らかの金子を置いて陽太を伴い、部屋を出る敬輔。
それから帝都桜學府の外に出て……冷たい外気の風に触れた所で、陽太がまだ顔を青ざめさせたまま詰めた息をそっと吐いた。
(「今、俺は……俺の中の『暗殺者』が、俺の意を無視して、出やすくなっているのか? 俺は……」)
「これから……どう、なるん、だ……?」
唖然とした表情で歯の根が合わず、カチカチ鳴らしつつ言葉を漏らした陽太へと。
「……陽太さん」
そう敬輔が、呼びかけた時。
陽太は一瞬肩を振るわせたが……程なくして掠れた声で敬輔、と其の名を呼んだ。
「万が一の時は……あんたの手で俺に引導を渡してくれ」
その陽太の懇願する様な其れに。
敬輔は無言で東の空を見上げ。
「……『彼』は、陽太さんの意に従っていた。今はこれだけ、伝えておく」
そう告げて。
帝都桜學府を立ち去る敬輔の後を、ノロノロとした足取りで陽太が追い、その場を後にするのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天星・暁音
さて…と…舞うかな
弔いとは、そこに魂がなくとも…行うものだ
転生が事実なこの世界では意味はないと断じる人も多いのだろうけど
a
菖蒲さんも気が向いたのなら、彼の為に祈ってあげるといいよ
弔いは残されたものへの慰めでもあるのだから
水仙さん、さっきの補足ね
俺は別に意志を継ぐことを否定はしない
でも継ぐのと、それに縋るのは別の話だよ
そして死しても生き返るのは、いつか死への恐れも、生への想いも失ってしまうと俺は思う
だからこそ共に居る時間は尊い物なんだよ
菖蒲さんや水仙さん、白紅党の人たちの大切な誰かを弔う為に舞います
広い場所が借りられるならコンツェルトで舞台も作ります
余興として見に来るのなら、それも受け入れます
彩瑠・姫桜
水仙さんと話をするわ
あお(f06218)と、菖蒲さん同行希望
水仙さん
貴女が今回やろうとしていたことは止めさせてもらったけれど
でも、貴女が紫陽花さんや椿さん、妹桜を慕った想いすべてが間違っていたわけじゃない
生きてる意味、ね
私も自分の存在意義は未だにわからない
でも、私は関わった人達にはできる限り生きて…幸せであって欲しいって思ってる
水仙さんもだし、菖蒲さんもだし…そ、そうね、あおもね(最後は視線逸らすもこほんとし)
だから意味とか抜きにして必要なら戦うの
紫陽花さんや椿さんも、私と同じ感じだったのかもしれないわね
紫陽花さんは娘さんのことを特に気にかけていたけれど、部下や仲間を大切にしていたわ
椿さんの一番は菖蒲さんだったけれど、親しい友人や仲間を大切に想っていなかったわけじゃない
それは、貴女が一番知っているんじゃないかしら
水仙さん、お花見しましょうよ
大切な人達を忘れないように
そして私達がこれから、前を向けるように
少しでも幸せを感じられるように
肩の力を抜いて、花を愛でて…他愛のない話をしましょう?
榎木・葵桜
水仙さんとお話する
姫ちゃん(f04489)と菖蒲さんと
できるなら白紅党党員さん達も巻き込んじゃうよ
温かい飲み物とか手に入るなら皆で飲みながら話をするよ
UCの歌も歌おうかな
水仙さんも、みんなも、物事を難しく考えすぎだよ
…でも、大切に想っていた人達が次々いなくなっちゃうと弱くなっちゃうし
思考も狭まっちゃうよね
水仙さんも、みんなも
大切な人たちを失くした時
悲しむことが足りなかったのかもしれないね
いっぱい泣いて、話をして、たくさん眠って…心を休めてたら、
もっと違うことを考えられたかもしれない
だから、今泣こうよ、今話をしよ?
超弩級戦力ばーか、とか、憎いとか
そういう感情もひっくるめて今吐き出しちゃおうよ?
だいじょーぶ、泣いても怒ってもいいよ
私も、姫ちゃんも、菖蒲さんも
一緒に話聞くからさ
あ、でもグーで殴るとかは私だけにでよろしく☆
生きてる「意味」なんて多分ないと思うよ
貴女にも、私にもね
「生かされてる」事実があるだけ
だからその生かされてることに感謝しつつ
できる精一杯で幸せになればいいんじゃないかな
文月・統哉
水仙と菖蒲に同行
護られた平穏、護るべき平穏
共に帝都の様子を眺めながら話をしたい
誰かの遺志、それは本当に君自身の答えなのかな
穏やかに暮らす人々の幸せを殺戮によって奪い去る
それが君の願いだと?
俺にはそうは思えない
水仙、聞かせて貰ってもいいかな
君はどうして學徒兵になったのか
何を目指したのか、その最初の心を
誰かの心に寄り添いたい、力になりたい
そんな君の願いは
とても尊いものだと俺は思う
でもだからこそ
誰かの遺志に頼ってばかりでいいのかい?
影朧の救済に誇りを持って戦った椿さん
若者を死地へ送る事に自責の念を募らせた紫陽花さん
何が正しいかなんて誰にもわからない
だからこそ自分自身で考えて
一つ一つを見極めていく必要がある
世界を知ろう、自分を知ろう
俺達は未成年、まだ20年も生きちゃいない
人の紡いできた歴史に比べればちっぽけなものさ
でもだからこそ新しい風にもなれる
間違っていると思ったら堂々と声を上げればいい
先ずは言葉で
変革の手段は何も武力だけじゃない
この世界を未来へと繋ぐ事が出来るのは
今を生きる俺達だけなのだから
●
『……』
居心地の悪い沈黙が、その場を包み込んでいる。
彼等の言いたい事は何となく分かるが、それでも与えられた情報が多すぎて、理解が未だ追いついていない。
そんな様子で強く布団を握りしめて震える水仙の姿を見つめ、菖蒲の胸が軋む様な、確かな痛みを覚えた。
と……其の時。
――トン、トン。
何処か控えめに扉がノックされる音を聞き、其れに我に返った菖蒲が、どうぞ、と呼びかけると。
「お邪魔するわね、菖蒲さん、水仙さん」
そう姿を現したのは、腰まで届く金髪の少女、彩瑠・姫桜を初めとする、3人の超弩級戦力達。
「あ、姫桜さん……」
菖蒲が最初に顔を覗かせた姫桜を見てそう問いかけるのに、覚えてくれたのね、と姫桜が微かに頬を赤らめる。
その腕の『桜鏡』に嵌め込まれた玻璃鏡が、照れているかの様に波立つその様に。
「あはは、姫ちゃん、照れてる、照れてる」
にっこり笑顔でからかいながら、榎木・葵桜がひょっこり顔を出した。
「て、照れてなんか無いわよ! た、只、名前覚えてくれていたんだって、その、一寸思っただけなんだから!」
頬を赤らめ必死になって反論する姫桜を見て、ニャハハ、と文月・統哉が思わず吹き出して。
「……少しは、落ち着いたみたいだね」
其の体に共苦の痛みが与えていた灼熱感が、氷嚢で冷やされるかの様に徐々に、徐々に鎮むのを感じた天星・暁音が呟きを漏らした。
暁音には直接答えず、やや落ち着いた光を宿した眼差しで、暁音を見つめる水仙。
けれども其処には、虚無の怒りが籠められている様に感じられて、そうだよね、と暁音がそっと溜息を零した。
「其れで皆も、水仙のお見舞いに?」
このままでは埒があかない、と判断したのだろう。
続きを促す様に菖蒲がそう問うと、我に返った姫桜が軽く頭を横に振り、窓の外の、薄明るい光が昇り始めた宵明の外を示した。
「丁度朝焼けが近くて、普段とは違う幻朧桜の姿を見ることが出来そうだから、お花見でもしにいかない? って、誘いにね」
其の姫桜の提案に、思わず、と言った様に顔を見合わせる菖蒲と水仙。
どうしようか、と迷っている様にも見受けられる2人の内、水仙へと暁音が近づき、ざっと外から其の体を検分する。
「傷は癒えている様だから、此処を出て幻朧桜をお花見する位は出来る筈だよ」
「それに、何時迄も此処に閉じ籠ってても、きっと頭の中で悪い考えが回り続けるだけだと思うよ? 外の空気を吸って気分を変えるのも良いんじゃ無い?」
追い打ちの様に、葵桜にそう畳みかけられて。
『……分かったわ。じゃあ、お花見についていく』
「ニャハハ。そうこなくっちゃね」
諦めた様に頷く水仙に、統哉が笑みを浮かべてそう返した。
●
――そよそよ、そよそよ。
昇り始めた日の光に照らされて、その日を一杯に吸い込んで、何処か灯火の様な温かな輝きを示す幻朧桜。
その桜が花開くその場所に、頭に被ったクロネコ・マジカルハットから、統哉が敷居シートを取り出して広げ、簡素な花見会場を作る。
やや広めに取られたその場所を見て、暁音もまた静かに首肯を1つ。
「……さて……と……。この位の広さなら、落ち着いて舞えるかな」
そう誰に共なく呟いて、神に捧げる神楽を舞う、儀式場に向かうかの様な荘厳な足取りで、歩いて其方に向かう暁音。
それから星麗扇を右手に、神祭具を左手に構えて粛然とした面持ちでその場に立ち、静かに気息を整えると。
『あの……何を?』
「ああ。俺は、舞を魂達に捧げるんだよ。今は亡き人々の魂達への弔いも籠めてね」
問いかけてきた水仙に静かに暁音がそう応え、神祭具の神楽鈴を鳴らす。
バサリと開いた星麗扇についた長い飾り紐に描かれた夜空と、其処に輝く星彩が、宵明け時のこの場所を淡く照らす様に蠢いていた。
『それって……魂鎮メ歌劇ノ儀、みたいなもの?』
そんな水仙の問いかけに、成程、と暁音が1人呟いた。
「そう言う儀式もある話は、聞いたことがあるね。そうか。転生が常識のこの世界では、俺の鎮魂の舞は意味が無いと断じる人も多いと思ったけれども……そうとも限らないのかも知れないね」
そう告げて。
バサリと星麗扇を翻し、静々と舞を舞う暁音に合わせる様に、其れまでは紅茶等を用意していた葵桜が静かに歌を歌い始める。
――それは、母から譲り受けられた誰かを願い、祈る歌。
あなたへと繋がる『奇跡』を、いつか、其処に辿り着く未来を願う其の歌に、菖蒲と水仙は口を挟むでも無く聞き惚れる。
葵桜の歌に聞き惚れて、強張っていた肩の力を抜き、側に置かれた紅茶を手に取り、一口其れを含む水仙に。
「ねえ、水仙さん」
と同じく葵桜が用意した紅茶を飲んでいた姫桜が囁き駆ける様に声を掛けた。
『……何?』
少し落ち着いた様子で問い返す水仙に、姫桜がそっと息をつく。
「貴女が今回やろうとしていたことについて、少し話をしたくてね。うん……今回は止めさせて貰ったその事だけれど」
その姫桜の言葉をゆっくりと選びながらの問いかけに。
『……』
息を呑み、耳を傾ける姿勢を見せる水仙に、統哉が少し意外そうな表情になる。
(「少し、話を聞いてくれる姿勢を見せているな」)
その様子を気にしつつ、葵桜の歌に耳を傾け、暁音の無数の煌めく光の粒が迸る舞を眺める統哉。
「……護られた平穏。護るべき平穏。これも、そんな景色の一部なんだよな」
何となくしんみりとした様子で呟く統哉の其れに、菖蒲がふと統哉を見やり、水仙もまた何かを想ったか、統哉の其れを耳に留めた。
統哉の呟きを引き取る様に、姫桜が腕組みをして、考え、考え、言葉を続ける。
「……私は、貴女が紫陽花さんや椿さん、それから妹桜さんを慕った想い全てが間違っていたとは思わないの。只、其のやり方に疑問を持ったのよ」
『私のやり方が、間違っていると?』
悩みながらも思った事実を伝える姫桜の其れに、水仙の口調が硬くなる。
「……そうだね。穏やかに暮らす人々の幸せを、鉄血……殺戮によって奪い去るのが、正しいとは俺にも流石に思えない。特に其れが、君の願いとは」
姫桜の言葉を捕捉する様に告げる統哉の其れに、感情的に頬を紅潮させる水仙。
『私は……! 多くの私達と同い年位の年若い同志達が、無残に死なされていくのが耐えきれなかった……! だって、皆は生きている! その先には、未来が、命があったのに……! でも、其れを知ろうとしない人達が……』
激昂してそこまで叫んだところで。
不意に嫌気が差したかの様に脱力し、ぐったりと俯き加減になる水仙。
『ただ……許せなかった、だけなのよ……』
――でも。
『もう、その想いを抱き続けるのも終わり。私は、失敗した。失敗した私には、もうするべき事も、生きる意味も、何もないわ……』
「水仙……」
無気力な表情で苦しげに言葉を紡ぐ水仙を労る様に其の背を菖蒲が優しく擦る。
菖蒲の慰めを受け入れる水仙を見つめ、そうね、と姫桜が寂しげに首肯した。
「生きてる意味、ね……。でもそれは、正直、私にも、私の生きてる意味は分からない儘だわ」
その微かに自嘲めいた言の葉に。
玻璃鏡の鏡面が儚げな光を放ったのは、偶然か、それとも必然か。
「でもね。私は、関わった人達には出来る限り生きて……幸せであって欲しいって、何時も思っているのよ」
『……生きて、幸せ? ……護るべき想いも、継ぐべき大切な何かも無くなってしまった私が、如何やって、幸せになれると?』
何処か、糾弾する様な水仙の言葉。
その言葉に、顔を悲しげに歪める菖蒲の姿を横目に捉え。
葵桜が願い歌を歌うのを一度止め、ちらりと舞い続ける暁音へと視線を向ける。
其の視線を目の端に捉えた暁音が気にするな、と神楽鈴を鳴らすのに一礼し、葵桜は水仙に近付き、これ見よがしに溜息をついた。
「ちょっと、水仙さん。それは言い過ぎじゃない? と言うか、水仙さんも、みんなも、物事を少し難しく考え過ぎだよって、私思うんだけれども?」
葵桜の何処か呆れた様なその言葉に。
水仙がギロリと葵桜を睨み付けるが、まあ、と葵桜が軽く頭を横に振る。
「……大切に想っていた人達が次々いなくなっちゃったんだから、心も弱くなっちゃうし、思考も狭まっちゃうのは分かるんだけれどね。水仙さんも、水仙さんと一緒に革命を起こそうとしたみんなもね」
党員達を巻き込めなかったのを少し残念に思いつつ言葉を続ける、葵桜。
(「そう言えば、党員のみんなは、今頃如何しているんだろう?」)
そんな思いが脳裏を過ぎるが、菖蒲と水仙を優先した以上、流石に直ぐに其れを確認しに行くのは、今は未だ、難しそうだ。
『……思考が狭まる、ね……』
その葵桜の言葉に、思い当たる節でもあったのだろうか。
紡がれた其れを繰り返す様に漏らしている水仙にじゃあ、と統哉が提案を1つ。
「葵桜が言う、狭まった思考を少し広げるために、俺が君に聞いてみたいことがあるんだけれど……良いかな?」
「良い話だと思う。ねぇ、水仙はどうかしら?」
統哉の其れを後押しする様に其の提案を快諾する菖蒲。
其の菖蒲に促されては、水仙とて抗することは出来ぬ。
キラリと光差すかの様に煌めいた暁音の星彩に、一瞬目を奪われながら、そうね、と水仙が頷いた。
『私の本当の名前はね、風桜(かざくら)・水仙って言うの』
「風桜?」
水仙に告げられたその名前に首を傾げる統哉。
今までに聞いたことのない名前を告げられて困惑する統哉の其れに、そうなるわよね、と水仙が淡く微笑む。
「普通は知らないわよね。まあ、帝都桜學府では本当は、結構有名なんだけれど。自分で言うのもあれだけれど、風桜家は、代々優秀な學徒兵を輩出してきた家柄として、帝都桜學府では有名なのよ」
その水仙の淡々とした言の葉に。
「それじゃあ、君は……」
統哉が確認する様に問いかけると、そうね、と水仙が頷いた。
『私にとって、帝都桜學府に入學して、ユーベルコヲド使いとして戦うのは義務でしかなかったわ。少なくとも、椿さんの様に、影朧を救済すると言う理念に共感して、とかそんな事は無いの。ただ、其れしか私には『道』が無かっただけの事なのよ』
「……つまり帝都桜學府に入る事、それ自体が目的だったのか」
統哉の確認に、そうね、と自嘲気味に水仙が笑う。
『そうすることが私にとっては、当然だった。だから、誰かを助ける事、影朧を救済することも、義務だとしか思っていなかったわ。でも、そんな何処か虚ろな私を、あの方も、椿さんも認めてくれたわ。私の実力と、何よりも私という存在を。君は立派なノーブレス・オブリージュだってね』
そう呟く水仙の口調は、何処か寂しげで。
けれどもそれ故に、自分にとっての当たり前に意味を与えてくれた人達を想う心を如実に表しているのは間違いなくて。
「……そっか。それじゃあ、水仙さんにとっては、特別に大事な人たちだったんだね。紫陽花さんも、椿さんも……。白紅党のみんなにとっても」
しみじみとした口調で呟く葵桜の其れに、その通りよ、と水仙が葵桜を鋭く睨む。
(「……でも、そんな風に自分を律してそれが当たり前だと思って頑張ってきちゃったんならば……大切な人を失った時に……」)
一杯泣いて、話をして、たくさん眠って……そうして心を休める事が果たして本当に出来ただろうか。
大切な人を失い傷ついた人達が、それを癒す為に普通にする事を、してはいけないと、自ら戒めてしまうのではないだろうか。
胸中の葵桜の言葉に気が付いているのか、いないのか。
淡々と述懐を続ける水仙の其れに、統哉がそっと溜息をつく。
「……そうやって、誰かの力になりたい、認めてくれた人達に報いたい。そんな君の願いは、とても尊いものだと俺は思う」
――でも……だからこそ。
「今は亡き、誰かの遺志に頼ってばかりで君は本当に良いのかな? それは、紫陽花さんや椿さんの想いを裏切ることになるんじゃないのかな?」
――影朧の救済に『誇り』を持って、戦った椿。
――若者を死地へ送る事に、自責の念を募らせた紫陽花。
その2人に共通しているのは、誰かを守り救う事に深き『誇り』を持っていた事。
彼等の中では、決して揺らぐことのなかった『信念』そのもの。
『それは……! でも、椿さんも、紫陽花様も、貴方達に殺された! その誇りを否定され、そして散っていったのは変わらない……! だったら、私があの人達の想いを継がなきゃ……!』
ギリリ、と。
きつく唇を噛みしめ乍ら叫ぶ水仙の其れに、其れ迄、魂鎮めの舞を舞い続けていた暁音が舞を止めることなく、水仙さん、と呼びかけた。
「俺も姫桜さんと同じ。君が誰かの遺志を継ぐことを否定はしない。でもね、水仙さん。誰かの遺志を継ぐことと、其れに縋る事は別の話だ。あなたが妹桜に埋めがたい穴……その違いに気づけなかった弱みに付け込まれてしまったのは、それをきちんと認識していなかったから。多分、あなたは菖蒲さんの様に、受け入れられなかったんだろう」
――紫陽花と椿。
水仙が言われるがままに歩いてきたその道に、光を差してくれた大切な恩人である彼等の死を。
その死を齎したのが、暁音達、超弩級戦力……影朧の救済に手を貸してくれる『人』であったその事実を。
「そうだね。私達は、きっと水仙さんにとって、とても悪い奴等なんだと思う。だって、どんなに理由をつけても、私達が紫陽花さんや椿さんを奪った事は変わらないことだもの」
例え最初に椿を殺したのは、影朧だったにせよ。
その後引導を渡したのは自分達であるのだから、水仙にとっては、妹桜と同様に、自分達は憎むべき相手であろう。
――ならば。
「今、泣こうよ、今、話をしようよ? 超弩級戦力ばーか、とか、憎いとか、そういう感情ひっくるめて全部今、吐き出しちゃおうよ?」
その葵桜の呟きに。
「そうだな。何が正しいかなんてわからない。だからこそ自分自身で考えて1つ、1つを見極めていく必要があるけれども。そもそも、その前に吐き出せるものを全部吐き出して空っぽにしないと、この先の事なんて何も考えられないか」
統哉が相槌を打つのに、姫桜がそうね、と頷いた。
「それで、水仙さんが少しでも幸せになれるなら、私はそれも良いと思う」
首肯する姫桜の其れに、早々! と笑顔で葵桜が頷き返した。
「私も、姫ちゃんも、菖蒲さんも、一緒に話を聞けるからさ。あっ、統哉くんと、暁音くんは……」
と葵桜が微かに心配そうに問いかけた時。
「ニャハハ。俺も其れは大丈夫だよ。世界を知り、自分を知る。俺や菖蒲さん、水仙さんは未成年、まだ20年も生きていない。だったら自分を知るために、自分の思うがままに発散することだって、必要な事だからね」
その統哉の言の葉に。
「そうだね。俺も、受け止める位は問題ないよ。そもそも、こうして死した魂達にこの神楽を捧げる事。それ自体が、その人達の死を、受け止める事だからね」
神楽を舞い続けながら暁音が首肯して、そもそも、と軽く咳ばらいを1つ。
「死しても生き返ると言う事は、死への虞も、生への想いも失ってしまう事だと俺は思っている。そう……その人と共に居たという事実とその尊ささえも失わせてしまう様な、そんな事だと」
――それでは、人は受け止められない。
何かを受け止める機会を失った結果、誰かを当り前の様に思いやったりする心を忘れてしまう。
「だから……今、其れが必要であれば俺達もそれを受け止める。それがきっと、俺達に出来る事だと思うから」
「あっ、でも、グーで殴るとかは私だけに、で宜しくね☆ やっぱり姫ちゃんとかが殴られるのはちょっと嫌だし、菖蒲さんを殴るのは水仙さんとしても嫌でしょう?」
暁音の其れに頷いて。
ぱちりと大きな藍色の瞳でウインクをする葵桜の其れに水仙が血が滲まんばかりの勢いで唇を噛みしめて。
『う……うぁぁぁぁぁぁー!』
喉もかれよとばかりに、泣き叫び、獣じみた声で大粒の涙を零しだした。
其れは、彼女の魂の咆哮。
傷だらけになった自らの心と向き合って、剥き出しにしたその想い。
まるで生まれたての赤ん坊の様な泣き声を上げ、葵桜の胸にぽかぽかと叩きつける様に拳を振り下ろす。
そんな水仙にされるがままにしている葵桜を姫桜は止めようとしても止めることが出来ず、只、泣き続ける水仙に話かけた。
「……紫陽花さんは、娘さんの事を特に気に掛けていたけれど、部下や仲間を大切にしていた。椿さんの一番は菖蒲さんだったけれど、親しい友人や仲間を大切に思っていなかったわけじゃなかったわ。だから水仙さん、あおの言う通り、今は肩の力を抜いて、沢山泣いて……傷だらけになった心を、悲しみを目一杯吐き出して良いの」
――それは、理屈でも何でもない。
ましてや、無意味では決してない。
「そうやって死んだ人達の事を受け止めて、そのやり場のない痛みと悲しみを吐き出すのも、必要な戦いなの。きっと……紫陽花さんや、椿さんも、私と同じ様に思っている筈だから。あなたが泣くことを、許してくれる筈だから」
姫桜の述懐を耳にしながら、ひたすらに水仙は泣き叫ぶ。
その涙を、失われた大切な人達を想う、哀切を転生されたであろう魂達への弔いとして捧げるために暁音は粛々と神楽を舞い続けた。
そんな暁音と水仙の様子を見ながら、統哉が今は届くか分からないけれども、と小さく囁き、それから静かに言の葉を紡ぐ。
「俺達の歴史何て、人の紡いできてくれた歴史に比べれば、ちっぽけだ。でも、だからこそ、新しい風にもなれる」
だから……。
「間違っていると思ったら、堂々と声を上げればいい。武力に頼るのではなく、先ずは言葉でそれを示せばいいんだ。だって、この世界を未来へと繋ぐことは出来るのは、あの日の光が、夜明け時を俺達に教えてくれるのと同じ様に」
……今を生き、これからを生きていく事の出来る、自分達だけなのだから……。
――その願いと、誓いの言の葉を。
大成功
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真宮・響
【真宮家】で参加
『菖蒲同行』
今回の事件を体験して思ったが、學徒兵はいつも戦地にいてあんまり帝都の普段通りの様子を知らないんじゃないかね。日常を見てみれば分かることもある。
なので、菖蒲と水仙を帝都観光に連れ出す!!
まず年頃の女子にはおしゃれが必要だという事で化粧品店に。名家の生まれだから化粧品の知識はある。落ち込んだ顔もメイクをすれば少しマシになる。
次はカフェーに。軍にいるとケーキとかは中々手が届かないんじゃないかい?帝都の人達はここで美味しいものを食べて英気を養うんだよ。
水仙は真っ直ぐで意思が強い。間違ってしまったのもその真っ直ぐさ故。どうも放って置けなくてね。老婆心故と思ってくれ。
真宮・奏
【真宮家】で参加
とりあえず、革命は阻止、出来ましたか。
今回の事件を体験して思ったのですが、いつも影朧との戦闘で命を掛けて、戦死者も出る状況に身を置いていては、心が荒むのもしょうがないと思うのです。
なので、白紅党の方を二人ほどお借りして食べ歩きを楽しむ!!落ち込んだ時は美味しいものを食べるのが一番です!!はい、奢りです!!財布は兄さん持ちです!!
まずおすすめは食べ歩きのメンチカツです!!とっても美味しいですよ!!私、美味しい甘味屋を知ってるんです。口が蕩けるような口当たりです。時間あれば夜ご飯も一緒に。
どうですか?これが帝都の日常です。一般の方はこの何気無い幸せを、何よりも大切にしてるんです。
神城・瞬
【真宮家】で参加
とりあえず、騒動はひと段落、ですか。でもまだやるべき事があるようです。
母さんも奏も感じているようですが、彼ら學徒兵は常に命を掛けた戦場に身を投じている訳ですから、帝都の日常を良く知らないと思うのです。
なので、白紅党の方を二人程お借りして、食べ歩きに連れ出します。ええ、奢りです。食べ歩きはメンチカツの他に中華まんもおすすめです。そうですね、ベーカリーでパンをいただいても。奏の言う通り美味しいタルト屋さんがあるんです。出来れば夜ご飯も。
許された時間で、帝都の皆さんの日常を見てほしい。守るべきなのはこの何気ない日常だと思います。そう思いませんか?
馬県・義透
『a』
あー、帝都の中を歩くのなら、私も逸書に行っていいですかねー。あまりよく知らないもので。
あと、この陰海月にも帝都をゆっくり見せてあげたいのでー
若い頃から、いろいろな考えに触れるのは良いことですよ。『自分の中の本棚に本が増える』みたいなものですからー
ねえ、水仙殿。何の為に生きるのか、は長く追い求めることになるかもですよー?私だってそうでしたから(一時期『何の為に外邨に生まれ、生きてるのか』わからなくなってた人)
菖蒲殿の言葉…嘘偽りはないですよねー。ほら、『生きていて良かった』との
それだけでもいいのではないでしょうかねー
※
通常サイズに戻った陰海月、踊るように動いている。桜の花きれい。ぷきゅ
●
――その幻朧桜の木々の下の光景を見つめ。
「……今回の事件を体験して思ったが、學徒兵はあんまり帝都の普段通りの様子を知らないんじゃないかね」
少し、心が落ち着いた様に見える水仙を遠巻きに眺めていた真宮・響の呟きにそうですね、と真宮・奏が左人差し指を唇に当てる。
「実際は、どうなのでしょう? そんな事は無いとも思えますが。……でも、いつも影朧との戦闘で命を賭けて、戦死者も出る可能性が状況に身を置いていては、心が荒むのはしょうがない、とは思いますね。
そう奏が納得した様に呟いていると。
「……どうして私達が此処に連れてこられているんですか?」
その奏に引っ張られて来た、白紅党の党員の1人が抗議の声を上げる。
彼は他の猟兵の説得を受けたが、行動に移すことが出来なかった党員達の1人。
「あなた方が起こした騒動は一段落しましたが……実際の所、皆さんはどうだったのです? 帝都内に遊びに出掛ける事は実はあまりないのではありませんか? だから、帝都の人々の日常を、よく知らないのではありませんか?」
同じく別の党員を連れてきていた神城・瞬の問いかけに、瞬に連れられていた党員がなんとも言えない表情を浮かべて押し黙る。
むっつりと押し黙った空気を感じ取った瞬がちらりと後ろを振り返ると、其の党員は黙然としていた。
(「人によって個人差はありそうですね。となると……当たらずとも遠からず、と言う事でしょうか」)
「ですが、あなた方が命を賭けた戦場に身を投じている事は変わらないのですよね」
――そう。
影朧を転生させるべく救済の戦いに赴いた時。
そこにはかなりの確率で命のやり取りが発生する。
少なくとも、學徒兵として出陣した彼等にとっては、命が奪われる可能性が常にあると言う事は否定できない現実の一面であろう。
「それが……如何した?」
何処か尊大そうに告げる其の白紅党党員。
けれどもその尊大さの奥に見え隠れする見栄を感じられて、ですので、と奏と瞬が声を揃えて言った。
『日も昇り始めましたし此なら店も開き始めています。だからあなた方々にはぼく(私)達と一緒に、帝都内での食べ歩きを楽しんで貰います(!)』
その瞬と奏の言葉を引き取る様に。
泣いて疲れ果てたか別の猟兵達の傍を離れた水仙と、彼女を支える菖蒲を見て。
「って訳でだ、菖蒲、水仙。アンタ達も一緒に来て貰うよ」
と響が半ば強引にそう告げると。
「……気分転換にも丁度良いと思うし。良いと思うけれど、水仙」
そう菖蒲が水仙の背を押し、水仙が真っ赤に腫れた目を瞬かせていると。
「あー、そう言うことでしたら、私も一緒に行って良いですかー?」
何処か間延びした声が、菖蒲の左横から不意に掛かった。
菖蒲が驚いて其方を振り返れば、其処にはニコニコと穏やかな微笑を浮かべた馬県・義透――『疾き者』、外邨・義紘の姿。
義透の其の隣には、1680万色のゲーミングかき氷色にキラキラと輝く陰海月の姿。
いつもどおり、ぷぎゅっ! と愛らしく鳴きながら、ゆらゆらと踊る様に動いているその様は、何とはなしに毒気を抜かれるものである。
『……分かったわ。正直、少し吐き出しすぎた様な気もするものね』
目を赤く腫らした水仙が気を取り直す様に告げる其れには気がつかぬ振りを装い、義透がありがとうございますーと穏やかに一礼を1つ。
「じゃあ、早速帝都観光と行こうか! 気晴らしにも丁度良いだろうしね!」
そう張り切る響に背を押され、菖蒲と水仙と2人の白紅党党員は、明け方の帝都に半ば引っ張られる形で連れ出されたのだった。
●
――朝焼けを背に受けて、焼かれる食べ物の馨しい匂いが帝都を彩る。
早朝に総菜やパンを焼き、早速屋台に乗せて出てきた店や、様々な料理店などが看板を外に出し、客引きをしている。
忙しなく職場に向かう人がいる一方で、料理店でゆっくりと朝食を取る人等、其々に朝を謳歌する様を見て、菖蒲が口元を綻ばせた。
「落ち込んだ時は先ず美味しいものを食べるのが一番です!! 今日は兄さんの奢りですから、一杯美味しいものを食べましょう!! 良いですよね、兄さん!!」
「ええ、勿論ですよ奏。なので、お2人も、菖蒲さんも水仙さんも遠慮しないで好きな様に食べて下さいね」
ワクワクと目を輝かせる奏と対照的に穏やかな微笑と共に頷く瞬。
其の瞬達の落ち着きに党員の2人は戸惑いを隠せぬままだったが。
『……此処まで好意を受けているのよ。受けない方が失礼になるわ、あなた達』
顔を合わせずに党首らしい口調で諭す水仙に、覚悟を決めた様に2人の党員が敬礼せんばかりの勢いで力強く頷いた。
「奏殿―。何かオススメはありませんかー?」
孫を見る祖父の様な穏やかな微笑みを浮かべた義透の呼びかけにはい! と目を輝かせたまま首肯し、ある店を指差す奏。
奏が指差した先の屋台では油が跳ね、ジューシーな肉の馨しい香りが漂っていた。
「先ずはメンチカツですよ、メンチカツ!! とっても美味しくて口の中に広がる肉感たっぷりの味が堪らないのです!!」
「他にも中華まんなどもオススメですが、先ずは奏の言うメンチカツを試してみて良いでしょう。僕も1つ頂きますよ」
そう告げて。
早速屋台に足を運び、メンチカツを注文する瞬と奏。
それに何処か緊張した足取りでついていき、同じメンチカツを注文する党員達の姿を見て、水仙が軽く自らの頭を抱えていた。
『……まさか、こんな形で超弩級戦力と朝食を一緒にする羽目になるとは思っていなかったわ……』
「まあ、そう言いなさんなよ、水仙。そもそもアンタだって未だ學徒……って言うか、未成年だろ? なら、青春の1つや2つは楽しまないとね」
そう言って軽く片目を瞑る響の其れに、何となく渋面になる水仙に。
「こら、水仙。折角だからわたし達も一緒に食べよ?」
其の背を突いて瞬達と一緒の朝食を促す菖蒲に従い、同じ物を注文する水仙。
ハフハフと冷ましながら口に入れた揚げたてのメンチカツは、ジューシーな旨味を口腔内に広げていき、彼等の腹を見る見る満たす。
「こうしている様子を見ていると、昨晩戦った彼女達とは別人の様にも見えますねー。別人というよりは、水仙殿が素を出そうとしているというかー」
帝都内に咲き広がる幻朧桜の美しさに目を奪われ、『ぷぎゅ! ぷぎゅ!』と歓喜の声を上げる輝ける陰海月を愛でながら呟く義透。
「そうだね。……まあ、いつも戦いばっかりじゃ、思い詰めちまう。そうやって張り詰めた弦は何時かぷっつりと折れちまうもんだ。少しは骨休めをさせないとね」
そんな義透の何処か実感のこもった言葉に、響が同感とばかりに頷き、菖蒲と水仙の名前を呼んだ。
「菖蒲! 水仙! 次は、化粧品店に行くよ!」
響の叫びに菖蒲と水仙が顔を見合わせ、響の後に続いて化粧品店へと足を運ぶ。
因みにもう党員達は、奏にスイーツの店に誘われて、菖蒲と水仙の化粧の後、一緒にスイーツ店に行く段取りになっていた。
「いやはや、若いって言うのは良いですね-」
どうにも年寄り染みたことを言ってしまっているな、と微苦笑を綻ばせながら好々爺然とした笑みを浮かべて義透は、響達についていった。
●
「目が赤く腫れる位泣いて、落ち込んだりした後にはね。こうやってメイクでもすれば、少しはマシになるもんさ」
そう告げて、少し高価な化粧水や口紅、マニキュアや香水、白粉、アイシャドー等をせっせと選び始める響。
手慣れた様子で選ぶ響の意外な一面に、奏や瞬が少し驚いた様に目を瞬き、党員達も、ポカン、と唖然とした様子で口を開けている。
『……むっ。その香水は……』
響が選んだ香水の中に、ややランクの高い物があったからだろう。
流石にその様なものは頂けぬ、と言う様に躊躇いがちに口を開き響を制しようとする水仙だったが、そんな水仙に響がニヤリと笑う。
「なぁに。アタシ達は超弩級戦力だ。其れがどう言う意味か、アンタには良く分かっているだろう?」
そう言って、化粧品の入った籠を軽々と片手で担ぎながら空いた片手で懐を探り、一枚の紙を取り出す響。
化粧品購入し放題、と書かれたサアビスチケットを見て、諦めた様に頭を横に振る水仙に菖蒲がクスクスと微笑を零す。
「でも、失礼かも知れませんが、意外ですねー。響殿が化粧品に詳しいとは知りませんでしたからー」
そう義透がのほほんと言うと、気にした風でもなくまあね、と軽くポン、と自らの胸を叩く響。
「こう見えて、アタシも名家の生まれだからね。化粧品の知識位ならあるもんさ」
『そうか……。あなたは名家の出か……』
何処か共感めいた響きの籠った水仙の其れに、おや、と言った表情を浮かべる奏。
(「目を赤く腫らしていた事と、何か関係があるのでしょうか……?」)
けれども、の疑問は、早速テキパキと化粧を菖蒲と水仙に始める響の様子に搔き消され、奏は瞬と顔を合わせて首を縦に振る。
(「母さんが、こんな良い店を菖蒲さんと水仙さんに紹介したんです。私達も良いスイーツの店を紹介できるよう精進せねば……!」)
その奏の胸中の決意を汲み取ったのだろう。
「お化粧が終わったら、今度は奏が一番よく知っている美味しいタルト屋さんに行きましょう。きっと満足して頂ける筈ですから」
そう瞬が提案すると、党員達が敬礼せんばかりの勢いで頷いた。
(「嗚呼、未だ緊張が解けていないのですね。まあ、無理もありませんが……」)
其の頭の固さに、瞬はそっと内心で嘆息した。
●
――タルト店で口が蕩ける様な口当たりのあるタルトを堪能し。
どうにかこうにか人心地ついて店を出たところで。
「ご馳走様でした! 美味しかったです」
そう眩しい笑顔で告げる党員達の様子を見て、良かったです、と奏が微笑む。
「軍に居ると、ケーキみたいな甘味は中々手に届かないだろう? こう言う美味しいものを食べて偶には英気を養うことは必要だよ、アンタ達。少なくとも帝都の民達はそうやって自分を許して自らを律する手綱を緩めている」
「……うん、そうね」
その響の言の葉に、相槌を打ったのは菖蒲。
(「ああー、そうですよねー。菖蒲殿は、竜胆殿と血の繋がりはありますが、帝都桜學府に所属しているわけではないですからね-」)
それ故の響への共感だろう、と義透が納得するその間にも、奏がどうですか? と上目遣いに党員達を見上げている。
「此が、帝都の人々の日常です。一般の方はこの何気ない幸せを、何よりも大切にしています。こんな風に、他愛もない日々をです」
その奏の呼びかけに。
「ええ……こんな気分になったのは、久し振りな気がしますね」
党員の1人がそう静かに頷くその様子に、うんうん、と満足げに頷く奏。
「そして、こんな何気ない1日を人々が営むことが出来るのは、何よりも皆さんが影朧を救済するべく戦っているからです。人々の日常を護るのは、それだけ大切なことなのですよ」
奏の頷きを捕捉する様にしみじみとそう告げるのは、瞬。
告げられたその言葉に、微かに党員達が複雑そうな表情を浮かべ、水仙が、でも、と言葉を紡ぐ。
『護られている日常の影で、死んでいく人達がいる其の事実は……』
「ええー、そうですねー。其の事実が消えることは、残念ながらありませんねー。ですが、こうして時に、若い頃から、色々な考えに触れるのは良い事なのですよー。『自分の中の本棚に本が増える』みたいなものですから-」
そう穏やかな口調で諭す様に告げる義透に、そうね、と菖蒲が首肯で返す。
「そんな大切を忘れて、1日、1日を大事に生きて行く事が出来なければ……私は私達を護ってくれていた椿に顔向けできないよね」
「そうですね。大事なのは、其の気持ちを守りたいと思えること。革命によって世界を壊すと言う事は、こんな美味しいタルトの味の様な、日常の、幸せの味を否定する事になってしまいます。それでは、あまりにも救われない。守られている人達も、守っている人達も。……そうは思いませんか、皆さん?」
その瞬の問いかけに。
連れ出された2人の党員は顔を見合わせて困惑した表情を浮かべ、水仙は深く懊悩する表情を見せた。
――この世界を、守りたい。
その想いはきっと、その通り大事なものなのだろうけれども。
『でも……其れを守る為に自分の大切な者を奪われた人々は、何処に怒りの矛先を向け、何のために生きれば良いのかしら……?』
その水仙の呟きに。
義透がそうですねー、と優しく微笑んだ。
「水仙殿。それは今すぐに出せる答えではないですよー。何のために生きるのか、それは、長く追い求めることになるかも知れない位、大切な想いですよー。私だって齢50を越えますが、ずっとそうでしたからねー」
如何して、何のために自分は、外邨に生まれ、生きているのか、分からなくなっていた時があった義透。
結局の所それは、自分で悩み、苦しんだ其の果てに、折り合いを付けねばならないことでもあるが……其れが、中々に難しい。
――けれども。
「でもねぇ、水仙殿。貴女には、菖蒲殿がいらっしゃるではないですか。そうでしょう、菖蒲殿―?」
「えっ……?」
思わぬ水の向けられ方に、一瞬何を言われているのか分からない、と言う様に目を瞬かせる菖蒲。
そんな菖蒲に忍び笑いを堪える様にしながら、あなたは、と義透が続けた。
「前に言っていたではありませんかー。ほら、『生きていて良かった』と。その言葉に、嘘偽りはないですよねー?」
その義透の、穏やかながらも鋭い問いかけに。
「うん。私は、水仙が生きていただけでも良かったと、本当に思う。だから……」
菖蒲がキッパリと首を縦に振るのを見て、満足げに頷く義透。
「そう言うことですよー、水仙殿。貴殿が生きているだけでも良かったと言ってくれる人がいるのですよー。でも、もしあなた達がそう言ってくれる人々を革命の名の元に殺してしまえば、より多くの人が悲しみを抱えてしまうのですよー。だから、今は只、自分が生きていてくれて良かった、とそう言ってくれる人が居るだけでも、良いのでは無いでしょうかねー?」
其の義透の問いかけに。
『そうかも知れない、わね……』
化粧で其の顔を飾られ、美味しいものを食べ、満たされて、帝都の日常の温かみについて実感させられた水仙。
そんな水仙と党員達の様子を見ながら、あの、と奏が呼びかける。
「もし皆さんが宜しければ、今日は、夜ご飯もご一緒しませんか?」
その奏の呼びかけに。
『いや、他の党員達の事も気になるから遠慮しておくわ。それじゃあ、失礼するわ』
そう言って。
そのままクルリと響達に背を向けてその場を立ち去ろうとする水仙。
其の背を慌てて菖蒲が追いかけ小走りに駆け出した其の後ろ姿に向けて。
「水仙! アンタは真っ直ぐで、意思が強い。今回、その道を選んでしまったのも其の真っ直ぐさ故だ。だからもう少しだけでいい。色んな事に興味を持って御覧! それがきっと、アンタの幸福にも繋がる筈だからね!」
そう激励の言葉を投げて、水仙と菖蒲の背が消えるまでずっと彼女達を見送る響。
其の響に対して。
「響殿。如何して貴殿は今、水仙殿にその様な事を申し上げたのですかー?」
と、半ば答えが分かっているかの様に、確認する様に義透が問いかけると。
「何……ああいう真っ直ぐな子は、危ういところがあるからね。ちょっとした老婆心故だよ」
そう響が答えるのに、そうですねーと義透がのほほんとした笑顔の儘に頷いた。
大成功
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ウィリアム・バークリー
元・白紅党の方々、お怪我はありませんか? 念のため生まれながらの光で、彼らの身体の傷を治します。
「礼儀作法」と「優しさ」で対話。
さて、帝都桜學府の諜報部はこの件の事後処理で手一杯です。それが終わるまで――この帝都を案内してもらえますか?
いつも事件現場に呼び出されては、解決するとすぐ呼び戻されますからね。ろくに名所も分からない。
そんな大げさでなくていいです。皆さんの普段歩く通りとか、ちょっとしたお気に入りの場所とか、そんな身近な風景を見たい。
本来彼らが守るべきはこの平和な日常。親子連れがいれば、黄泉還りがある世界で家族がどうなるか尋ねたり。
これで帝都桜學府に入学した時の初心を思い出してくれれば。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
アドリブ・他者との絡み歓迎
あー、終わった終わった。そんじゃ、パーッと飲みにでも行こうぜ。
適当に飲み相手、それこそ白紅党員でも誰でもいいから、つき合わせる。何、終わっちまえば敵も味方も関係ねぇよ。
(グラス片手に煙草吸いつつ)そりゃ、俺だって軍に入隊したばかりのピカピカの新兵だった頃は、祖国と正義の為にこの身を尽くすと意気込んでたさ。だが、凄残で悲惨な戦場、保身の為なら平気で俺らを切り捨てる上層部、そんな現実に意気込みはあっけなく打ち砕かれた。それが嫌になって、除隊してフリーの傭兵になった。結局、俺は戦う事しか能がなかったからな。だが、そこでも現実は大して変わらねぇ。皆自分達にこそ正義があると喚き散らし、自分達と違うというガキじみた理由だけで女子供も容赦なく虐殺する。
そんな悪意と皮肉に満ちた現実を嫌になる程見せられた結果が、今の俺さ。理想主義者の成れの果て、ひねた現実主義者のできあがりだ。ま、今はオブリビオン共のケツ蹴っ飛ばしてればいいんだから、多少はマシだがな。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
白紅党は無事鎮圧できましたが、まだ背後関係が掴めていませんね。今後の事を考えて、その辺りの情報収集をしておきたい所です。とはいえ、恐らく白紅党の面々は、有益な情報を持っている可能性は低いですから…後は、水仙さんから聞き出すしかありませんね。とはいえ、今の水仙さんの状態では、下手に聞くのは逆効果でしょうから、菖蒲さんに協力して貰い、まずは冷静さを取り戻して貰い、その後(水仙さんを刺激しない様注意を払いつつ)知っている事を聞き出すしかありませんね。
何もかも失うという事は、裏を返せば全てのしがらみから解放された、という事です。
アドリブ及び他者との絡み歓迎
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で参加
●白紅党員と交流
裏路地にすし詰めも後々疲れるでしょうから、
特に暴れそうな様子も無さそうなら、多少は落ち着けましたかね?と広い方へ促して、少し休めるよう桜を見ながらちょっと話してみます
学んで、鍛錬してやれる事が多くなると自信も溢れてきますよね。ただの学生ならそれは本当に喜ばしい事です…でも貴方々は公的機関員として、武力を持つことを許された人間です
それはただ持っているのでは無く、人々からの信頼と共に託された物。同時に影朧を救済という形で止め、人々を守ってきた先達の意思を継ぐ表明でもあるはずです。武力を持つ人間にはその意味をしっかりと受け止める責任があり…そして真に意味を理解しているなら、誰が相手であろうと過激な思想に、待ったの一言を上げられる強さと慎重さが持てたはずですよ
真摯に受け止めて考えてくれているようなら、後は學府に任せ、
ミハイルさん達に合流。話がしたいと望む学徒が居れば、一緒に少し飲みながらケアになるかは分かりませんが話しを聴いてあげたいと思います
アドリブ歓迎
寺内・美月
SIRD共同参加
アドリブ・連携歓迎
「朝焼けに輝く桜もいいものですね。撮影っと」
・誘われたら赴くが、それ以外は夜桜でも見ながら散策。朝焼けの桜は見てみたい。
・ブロズ(馬)に乗って市街散策、どうせ酒は飲めないから甘酒で我慢する。
・露店があれば片手でつまめるものを買ったりするのも良し。
・水仙や白紅党党員、菖蒲とは特に関わる予定は無し。
・さすがに居ないとは思うが、混乱に乗じて狼藉を働く無法者は秘密裏に処理する。
藤崎・美雪
他者絡みアドリブ大歓迎
悩むところだが白紅党員と接触しよう
数名程度に声をかけ
カフェーへの案内を頼み同行してもらう
何、私自身の趣味と実益も兼ねてだな(本職カフェオーナー)
皆でくつろぎつつ会話を
水仙さんには伝えたのだが
私自身は戦乱が世界そのものの変革…ブレイクスルーを齎す可能性を否定できない
私の住まう世界(UDCアース)は
そのような歴史を辿って発展してきたのでな
だが、一方で
戦乱と進化の繰り返しで齎されるものは際限ない軍事力の拡張
それはやがて、ヒトを感化し純粋な想いすら力に呑み込んで
…人類ごと世界を滅ぼす牙と化すのだ
そうならぬよう歯止めをかけるのは
桜學府等が持つ力だけではない
生者が紡ぐヒトの記憶と記録…歴史そのものだ
貴殿らは永遠の停滞や平和を憂いているようだが
なぜ700年も大正の世が、平和が続いているのか
1度膨大な歴史を当たってみるとよいかもしれん
…まあ、生者の紡ぐ歴史は強者の歴史でもあるけど(ぽつり
終わったら竜胆さんとグリモア猟兵に連絡
今回、心労が嵩んでいることだろう
肩の荷を降ろしてやらねばな
●
――時は、東から、薄明るい光が昇り始めた宵明の頃迄遡る。
「……俺達は」
猟兵についていくこと気になれなかった白紅党党員達。
だからと言って他の何かをする気力も湧かず、何となく動く気にもなれず、只、宵が空ける姿を呆けて見つめていた党員達に。
「此処は……今晩は。それとも、おはようございますとでも言うべきでしょうか。初めまして、元・白紅党の方々」
不意に、裏路地に差した青年の影が、そう呼びかける。
其の青年……ウィリアム・バークリーが尋ねながら其の手に聖なる光を集めている姿を認め、反射的に身構える白紅党党員達に。
「ああ、良かった。特に怪我人はいなさそうですね。それでは、この光は収めます」
そう呟いて、両手に集めていた生まれつきの光を収めたウィリアムに、党員達の1人が淡々と呼びかけた。
「あ、アンタは……?」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。ぼくの名前はウィリアムと言います。まあ、皆さんになら分かると思いますが、超弩級戦力です」
特に隠す必要も無い、と言う様子であっさりと名乗りを上げるウィリアムに、一瞬怯んだ様子を見せる党員達。
そのウィリアムの後ろから。
「裏路地にすし詰めの儘に皆さんがなった儘でしたら、窮屈で疲れるだろうと思っていましたが……誰かに連れられて結構な人数の方が居なくなっている状態ですか?」
確認するかの様な口調でそう問いかける灯璃・ファルシュピーゲルに、其の隣に居た藤崎・美雪が、そうだな、と1つ頷いた。
「全部で10人程か。他の党員達の皆さんは何処に行ったのかな?」
灯璃と共に入ってきた美雪が、何気ない調子で党員の1人に確認を取ると。
「他の超弩級戦力と一緒に、公園の復興作業の手伝いをしている筈だが……?」
怪訝そうに小首を傾げる党員の其れに頷き、灯璃をちらりと見やる美雪。
心得ている、と言わんばかりにに灯璃が頷き、JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioを用意、其処からPDA端末を取り出し連絡を入れる。
其の連絡先は……。
「此方、SIRD所属、寺内・美月……灯璃様、急な通信どうか致しましたか?」
無事に繋がった美月に、灯璃が寺内さん、と呼びかけた。
「至急確認して頂きたい事があります。寺内さんは今、公園を散策していますね?」
「はい、その通りですが」
灯璃の問いかけに、静かに首肯する美月。
通信器越しの息遣いから伝わる美月の緊張を悟り、灯璃が静かに言葉を紡ぐ。
「今、裏路地にすし詰め状態になっていた、人狼兵化の解除された白紅党党員達と接触しました。其れで人数が減っていたので事情を聞いたところ、どうやら公園の修復作業に従事している様なのですが、何か怪しい動きなどはありませんか?」
報告を兼ねた灯璃の確認に、自らの身長の2倍の馬の姿に変化した霊兵統帥旗(旗竿)に跨がり、周囲を伺う美月。
周囲を見てみれば、成程、帝都桜學府の制服と思しき物を来た大人や學徒兵達が総出で復興と事後処理に奔走している様だが……。
「そうですね。特に混乱に乗じて狼藉を働いている者の姿は見受けられません。寧ろ、先程他の猟兵に連れられて公園入りし、作業に従事している学生が大きく増えた様子すらありますよ、灯璃様」
「Yes.Sir。ありがとうございます、寺内さん」
周辺を索敵し、確かに大丈夫と太鼓判を押した美月に礼を述べ、通信を切る灯璃。
手慣れた様子で連絡を取る灯璃の姿を見て党員の1人が軽く肩を竦めて見せた。
「……信じて貰えましたか?」
其の党員の質問には。
「そうですね。此処はあなた方を信じない理由もないでしょう」
昇り始めている日の逆光からか、党員達がそこに居るのに気付くのに遅れたネリッサ・ハーディが姿を現し、そう冷静に応えを返す。
(「取り敢えず、白紅党は党首である水仙さんも、そして妹桜と言う旗頭も失っている以上、既に先程までの士気を完全に砕かれている……そう考えるべきでしょうね。まあ、何はともあれどうにか無事に鎮圧は完了した、と言った所でしょうか」)
胸中でそう判断し、自分達の作戦の成功に無意識に詰めていた息を吐くネリッサ。
そんなネリッサに軽く目配せを送る灯璃に、ネリッサが任せます、と首肯すると。
「皆さん、多少は落ち着いている様ですね。でしたら、此処でじっとしているのも少々不都合ですし、移動しませんか?」
灯璃がそう告げて、党員達の移動を促すべく、彼等へと背を向けると。
「そうですね。少し幾つかお聞きさせて頂きたいこともあります。ぼくも移動した方が良いのでは無いかと思いますよ?」
灯璃に相槌を打ったウィリアムが、一緒に行きましょう、と丁寧に一礼し、其の手を差し伸べるのに、党員達も好感を抱いたのだろう。
取り敢えずウィリアムや灯璃に従う様に、裏路地から移動を始めるのを確認しながら、美雪がそっと息をついた。
「取り敢えず、これ以上大きな騒ぎにはならなくて済みそうなのは僥倖だが……此は先ずは、カフェーに案内して貰うよりもお茶会を開いた方が良いかもな」
等と、喫茶店店主の意地を賭けた発言を、誰に共なく零しながら。
●
「くぁぁぁぁ……」
昇りつつある、日の光が少し眩しくて。
サングラスでカットしているにも関わらず、目に染みる太陽光に、ミハイル・グレヴィッチが大仰に欠伸をしながら目を細める。
取り敢えず軽く肩を回すと、首の辺りがポキポキといい音を立てた。
「あー、やっと終わったぜ。思ったよりも肩が凝るとは思わなかったが」
そんな自分の発言に思わず肉食獣の笑みを浮かべて。
取り敢えず懐から取り出した煙草を咥え早速火を点けて一服するミハイルの方にぞろぞろと十数人の人がやってきた。
「ミハイルさん」
灯璃がやれやれ、と言った口調で窘めるのに、ミハイルが懐から取り出した携帯灰皿に煙草の灰を落としてニヤリと笑う。
「大丈夫、大丈夫。灰を別に地面に落として大火事にするとか、んなこと一切考えてねぇからよ。只、漸く終わったんだ、煙草の一本位は許してくれや」
「まあ、うっかり灰を落として其れで大火事にさせたりするのは勘弁してくれよ? 竜胆さん達に顔向けできなくなるからな」
「あー、わーってる、わーってる。ったく……藤崎も心配性だな」
心持ち声を低くして窘める美雪をパタパタと手を振って適当にあしらうミハイル。
そんな他愛もないやり取りを、党員達がやたら意外そうな表情で見つめていた。
「……どうか致しましたか、皆さん?」
ウィリアムがそんな表情を浮かべた党員に呼びかけると、意外そうな表情を浮かべた党員がいや、と慌てて頭を横に振った。
「何というか……あまりにも普通な感じに、どうも違和感がな……」
「あっ? 何だそりゃ」
モゴモゴと囁き掛ける様に呟く党員の其れに、ミハイルが怪訝な声を上げる。
ともあれ、その声の中には半ばそんな反応を予期していた様な響きもあったが。
――そよそよ……そよそよ……。
緩やかで生暖かい春風が幻朧桜の間を泳ぎ、煙草の煙が風に靡いて浚われていく。
その様子に、灯璃がもう一度軽く咎める様にミハイルを見つめると、ミハイルが諦めた様に携帯灰皿に煙草を片付ける。
その様子を確認しながら、美雪が取り敢えずカフェーの店主として(!?)常日頃から携帯しているティーセットを何故か取り出し。
「取り敢えず、少し此処でお花見でもして一休みするのははどうだろうか?」
そう誘いを掛けると、そうですね、と灯璃が同意した。
「おい、藤崎。酒は無いか?」
冗談とも本気ともつかないミハイルの質問に、美雪が思わず苦笑を漏らした。
「流石に其れはないな。只、この時間帯なら未だやっている酒場は帝都にならあるのではないかな? まあ……夜の街もある様な場所だしな」
そう控えめに提案をすると、それもそうだな、とミハイルが頷きそれから党員達の方をちらりと見やった。
「って訳で、どうせだし俺は一足先にパーッと飲みにでも行こうと思うんだが。お前等、どうせだったら一緒に行かねぇか?」
まるで食後の軽い散歩に誘うかの様に気安い調子で党員達に誘いを掛けるミハイルに、動揺する党員達。
「な、何故だ? 我々は、先程までお前達と……?」
「何、任務はもう終わっているんだよ。傭兵なんて稼業をやってりゃ敵も味方も関係ねぇ。その日に敵対した奴と戦いが終わってお役目御免って事でその日の夜には一緒に酒を酌み交わすなんて、割とよくある話だぜ?」
あっけらかんとそう言い切るミハイルに釣られたか、何人かの成人した党員達が、ミハイルと共に明け方の帝都へ繰り出していく。
その様子をちらりと目の端に捉えながら、ネリッサがさて、と美雪が何時の間にか淹れた紅茶を飲みつつ、幻朧桜の傍に腰掛けた。
ミハイルに釣られることなくその場に留まってしまった党員達も、威風堂々としているネリッサ達に気圧されたのか。
率直に従う様に幻朧桜並木に腰掛けて、美雪が取り出したフルーツ盛り合わせに手を伸ばす。
そうしてフルーツに舌鼓を打つ党員達に向け灯璃がコホン、と軽く咳払いを1つ。
「少し、皆さんにお話ししたいことがあるのですが、宜しいですか?」
きちんと足を揃えて正座をして、眼鏡の奥の藍色の瞳で党員達を見つめる灯璃の其れに、フルーツに手を伸ばしていた党員達も居住まいを正す。
ウィリアムもまた、美雪が淹れた紅茶を一口飲み、続けてフルーツを一摘まみしながら、居住まいを正した灯璃の言葉に耳を傾けた。
――パカラ、パカラ……。
遠くから美月が竜の描かれた旗竿を馬の姿に変形させたブロズで此方に近付く足音が聞こえてくる。
公園でブロズに跨がり、夜桜を見つつ散策する、美月の足音を聞きながら。
「……わたし達に話したいこと? それは……?」
と微かに息を詰めた様子で恐る恐る問いかける党員に、灯璃が紅茶のカップを一度地面におろしながらゆっくりと口を開いた。
「学んで、鍛錬して、やれることが多くなると自信も溢れてくるのはあなた達個人としては、大変嬉しいことですよね。それは、今まで出来なかったことがやれる様になると言う事なのですから」
その灯璃の呟きに。
その通りだ、と言わんばかりに誇らしげに相好を崩す白紅党党員。
エリート學生として、元々周囲に期待されている事もそうだが、何よりも自身の意識自体も高いのだろう。
其の高い意識……向上心を確認して1つ頷き、灯璃が言葉を静かに続けた。
「それが只の学生であれば、本当に喜ばしいことでしょう。ですが……あなた方は、學徒生……只の学生達とは、少し異なります」
灯璃の窘める様なその言葉に。
党員達が、当然だろうと言った表情を浮かべたのに、灯璃は微かに目を細めた。
「本当に、其の意味が分かっていますか? ……あなた方は、この世界の帝都桜學府の學徒兵。……つまり国家の公的機関員として、武力を持つことを許された人間で在る事の意味をです」
其れは、単純な小言ではなく。
国家に公認される資格を与えられた者としての自負や責任を促すもの。
その、意味するところは。
「そう。あなた方は、やれることが多くなり、それに対して、只、自信を持てば良いのではありません。あなた方の肩書き、帝都桜學府學徒兵と言う身分は、只与えられるものでは無く、国が受けた人々からの信頼と共に、あなた方に託された大切な物なのです。あなた方が軽はずみな行動を取れば、人々からの信頼を失い、其の権威は失墜してしまうでしょう。其の意味の恐ろしさが、皆さんには分かっておりますか?」
其の灯璃の糾弾に。
「国と、人々の信頼……。与えられた責任を果たす事の意味……其れを破った時に、私達が失うもの……」
指折り数える様に言葉を紡ぐ党員達の姿を見て、灯璃が軽い頭痛を堪える様な表情になりながら、溜息を漏らした。
「長い年月の間に、帝都桜學府が国と共に積み上げてきた、人々の信頼。帝都桜學府は、影朧の救済という形で理念として受け止め其れを実戦、そうして実績を育んできました。その學徒達が受け止めてきたそれを受け止め、人々を守り続けて行く事こそ、あなた方が先達の意思を継ぐ本来の表明である筈です。武力を持つと言う事は……いえ、武力を持っている人間であるからこそ、尚更其の意味を本当はしっかりと受け止める責任があり、其れを果たす義務がありました。その武力を持つ者としての責任無き武力は、其れこそ只の暴力にしかなりません」
其処まで一気に話をして。
人心地つく様に紅茶で喉を湿らせてもし、と灯璃が話を続けた。
「もし、あなた達が其の意味を真に理解していたのであれば、誰が相手であろうと、其の過激な思想に、待ったの一言を上げられる強さと慎重さを持てた筈ですよ」
その灯璃の言の葉に。
「……私達は、未だ未熟だった。力を持つことの其の意味を、きちんと理解出来ていなかった……そう言うこと、なのでしょうね」
そう呟き項垂れる様子を見せる党員の1人にそうですね、と灯璃が軽く首肯する。
「そう思って下さる方が居るだけでも、この話をした甲斐があるというものです。恐らく今回の件に関してきちんと反省をし、もう一度真摯に向き合えれば、帝都桜學府もあなた方に厳しい措置は取らないでしょう」
そう灯璃が確と保証も兼ねて頷くとほぼ同時に。
昇りつつある日が上がるや否や鶏の鳴き声が響き、空中を鳩が飛んでいた。
その昇っていく朝焼けに照らし出された美しい桜並木を。
――パシャリッ!
とブロズに乗っていた美月が撮影して写真に収め、満足げに頷きを1つ。
「朝焼けに輝く桜もいいものですね」
其れは、最も暗かった白紅党党員達の新たな時代を、道を照らし出すかの様に暖かく穏やかな朝焼け。
灯璃の説得に力強く頷いた人々の新たな心持ちを象徴するかの様な、そんな存在。
と……此処で。
「さて、私の話は此処で終わりです。私はミハイルさんのところに合流する予定ですが、皆さんは此から如何するのですか?」
朝焼けに其の横顔を照らし出されながら、小首を傾げる灯璃。
其の灯璃の問いかけに、ウィリアムが朝焼けに照らし出された幻朧桜を見つめる党員達の何人かに呼びかけた。
「丁度良いです。帝都桜學府の諜報部は、この件の事後処理で手一杯のようですし……もし良ければ、元・白紅党の皆さん。ぼくにこの帝都を案内して貰えませんか? ……なんせいつも事件現場に呼び出されては、解決すると直ぐに呼び戻されてしまいますので、ろくに名前も分かっていないのです」
「そ……そうなのですか?」
其のウィリアムの呟きに、微かに戸惑う様な表情を浮かべる党員達。
党員達の憐れむ様な表情に、そうなんですよ、とウィリアムが大仰に溜息をつく。
「偶には、もう少しゆっくりする時間があると良いのですが。あっ、大袈裟で何か無くて良いです。其れこそ皆さんの普段歩く通りとか、ちょっとしたお気に入りの場所とか、そんな身近な風景で良いですから」
「そうだな。私もあなた達が知っているお気に入りのカフェなどを教えて貰えると嬉しいな」
ウィリアムにそう迎合したのは、簡易お花見舞台を今、この場に用意した美雪。
先程まで硬くなっていた表情をやや和らげ、御覧の通り、と言葉を続けた。
「本職はこれでもカフェオーナーだからな。そう言う店を教えて貰えると、それだけでも私自身の趣味と実益になるんだよ。例えば、ウィリアムさんが言う何気ない場所にある喫茶店とか、そういうものでも、勿論構わないのだが」
そう美雪が微苦笑を漏らして、お願いベースで其れを促すと。
「……そう言う事だったらあの店が良いと思うな。あそこなら24時間やっているし」
と白紅党員の1人がある場所を思い出して呟くのに、ほう、と美雪が興味深そうに眉を動かし、同時にちょっぴり背筋に寒気が走る。
(「悪い場所では無さそうだが、そこはかとなくなんとも言えない予感が……」)
そんな美雪の懸念とは裏腹に、他の党員もまた、そうね、と小さく相槌を打った。
「確かにあそこなら、この辺りの名物、幻朧桜通りもあるものね。喫茶店だから、色々な飲物や食べ物もあるし」
「……そう言えば、水仙さん達は如何しているのでしょうか?」
盛り上がる党員達を見て、ネリッサが、ふと、情報収集の為に会いに行く予定だった水仙の事を脳裏に浮かべ、思わず口を挟む。
そのネリッサの呟きに党員達が何処か、ハッ、とした表情を浮かべていた。
「そう言えば、党首様は無事目を覚まされたのですか? 先程わたし達に伝言をしにやってきた白蘭様という方は、その点、何も言及しておられませんでしたが」
その党員の心配そうな表情を見て。
ネリッサが深く話さない程度にはい、と小さく首肯すると、党員達の顔にぱっ、と照光が差す様な明るさが浮かび上がった。
「……良かった。党首様が無事だっただけでも……」
「だとしたら、もしかしたら党首様もあそこに来るかも知れませんね。党首様も、あそこは好きだと仰っていましたから」
安堵に胸を撫で下ろす党員の其れに別の党員がそう明るい表情を浮かべて希望的観測を述べる。
(「……ふむ。帝都桜學府に直接向かい、水仙さんにこの事件の背後関係について尋ねてみようと思っておりましたが……既に回復して居る可能性も0ではないですか。となると、此処は……」)
「局長。恐らく皆さんが行っている場所へ足を運んだ方が、水仙さんからも情報を収集できる可能性が高くなるのではないでしょうか? その様に、私には思えます」
そう灯璃がネリッサの背を押す様に言の葉を紡ぐと。
ネリッサがそうですね、と同意をし、それから偶然この近くでブロズの足を止め、朝焼けに照らし出されていた桜を撮影する美月を見つけた。
「寺内さん」
そうネリッサが美月に呼びかけると。
「これはネリッサ様。如何致しましたか?」
ネリッサの呼びかけに気がついた美月がブロズから降りて敬礼し、ネリッサに話の続きを促した。
「此から、白紅党の皆さんと一緒にある喫茶店に行く予定です。もしお時間があるようでしたら、寺内さんも一緒に行きませんか?」
「分かりました、ネリッサ様。其れでは私もネリッサ様達のお供をさせて頂きます」
そう告げて敬礼をする美月にネリッサが頷いて、ちらりと灯璃を振り返る。
灯璃がそれに頷き、それでは、と美雪にその場所を紹介していた党員達を促し、ウィリアムと美雪も加えて其の喫茶店へと足を運んだ。
●
――カフェーから聞こえた喧噪は、明け方のものとは思えない程に賑やかだった。
「おい! 次の一杯をくれ!」
そして其の店の中から聞こえてくる喧噪の中に聞き慣れた声があるのに気がつき、ネリッサと灯璃と美月が思わず顔を見合わせる。
「……どうやらミハイルさんはこの店を選んだ様ですね」
カフェー……と言うよりお洒落なバーの様な形式の整えられた其の店を見つめて成程、と呟くネリッサ。
「夜はバーですが、昼間はカフェーをやっているんですよ。だから、我々白紅党の者達には馴染み深い場所なんです。勿論、一般の人々にもですが」
「そうなんですね」
何処か誇らしげにそう語る白紅党党員の其れに、ウィリアムが相槌を打つ。
堂々とBARと看板を掲げた其の店は、人々が通る幻朧桜通りに開かれていて、未だ朝が早くて眠そうな人々がその前を過ぎ去っている。
其れは正しく、風景に溶け込んでいる、としか言い様の無い光景で、BARにはテラスも用意されていた。
「……成程。この幻朧桜通りに建てられたBARで、昼にはカフェーも経営しているから幻朧桜の風景も楽しめる、と言う訳か。まあ、それならば納得出来なくも無いが」
(「しかし夜はBARである以上、日によっては、1日お酒を提供していそうな店舗でもありそうだな……。アイリッシュコーヒーとか置いてありそうだ」)
等と微妙に経営者目線で、そのカフェー兼BARの立地、及びメニューとラインナップを想像する美雪。
――閑話休題。
「さて、其れじゃあ入ってみましょうか」
ウィリアムがそう促し、自分はカフェー兼BARのテラスの方に席を取り、其処に未成年の党員達が数人集まる。
そんな党員達にウィリアムがこのBARから見える景色や何気ないお気に入りのスポットを教わる間に、灯璃が店内に足を踏み入れると。
「おう、灯璃! 局長! 寺内に藤崎も一緒か。折角だ、一杯と行こうぜ?」
党員達と共にグラスに注がれたウォッカを呷り、煙草を吸うミハイルの姿。
彼の鯨飲っぷりに、党員達が感嘆の声を上げるのを見て、胸焼けしそうになった美雪がそっとハンカチで自らの口元を覆った。
かと言って全く無視をするのも忍びなく、取り敢えずカウンターに、最初にこの店を教えてくれた党員と並んで座る。
美雪の左隣には、ちょこん、と未成年の美月が座り。
「マスター……すみませんが、私には甘酒をお願い出来ますか?」
そう告げると、店主と思しき其の男がちらりと美月の姿を見て、成程、と全てを心得たかの如くすっ、と甘酒を美月に差し出した。
「て、手慣れているな……」
そのあまりにも卓越したマスターの技量に多少の戦慄を禁じ得ず思わず美雪がそう呟くと、マスターは軽く眉を上げて微笑する。
(「な、何だこのマスター……只者でない謎の風格が漂っているのだが……それともこれがベテランのマスターの為せる技だというのか……?!」)
と、少々違う意味でのカルチャーギャップを感じつつ、美雪は紅茶とサンドイッチを注文した。
美雪の隣に着席した党員も、美雪と同様のメニューを注文するその間に、ネリッサと灯璃はミハイルの前の席に座っている。
「ミハイルさん、此処でずっと飲んでいたんですか?」
灯璃が何気なく問いかけると、ああ、と全く悪びれる様子もなくミハイルが笑う。
「中々良い店だぜ、此処は。仕事が終わって、ウォッカも置いてあるってなりゃ、そりゃ一杯、もう一杯といきたくなるってものだろう」
「まあ、其れは否定しませんが……私も一杯何か頂くつもりでしたしね」
そう呟いて。
灯璃がメニューに素早く目を走らせ、そしてあら、と微かに驚いた声を上げた。
「イェーガーマイスターなんて置いてあるのですね……ではマスター。私にはこの、イェーガーマイスター・ジンジャーを」
「私には紅茶をお願いします」
灯璃がカウンターの向こうにいるマスターに注文するのに続けて、ネリッサもまた同様に注文を選ぶ。
マスターは、畏まりましたと応えるや否や、目にも留まらぬ速さでイェーガーマイスター・ジンジャーを用意し、紅茶を蒸らした。
「い……いや、本当か!? 何という早業なんだ……?!」
其の目にも留まらない速さで用意された紅茶とお酒をネリッサと灯璃に提供するのに驚愕する美雪。
気がつけば自分の目前にも、先程注文した紅茶とサンドイッチが置かれている。
(「こ、この店主、一体何者なのだ……?!」)
そんな突っ込み衝動に一瞬駆られる美雪だったが、そのまま勧められるが儘に紅茶を一口含んでみる。
其の味は……。
「……うん。美味いな。何というか、此処、何でも注文すれば出てきそうな恐ろしさはあるが……そんな不安を吹き飛ばしてしまう位、美味い」
ほう、と思わず溜息をつく美雪の其れに、そうでしょう? と党員の1人が誇らしげに笑う。
美月も甘酒が気に入ったか、お代りを注文し、更に露天などで片手で摘まむことが出来そうなフランクフルトを注文して食べていた。
「……美味しいですね、此処の料理は」
「ええ、そうですね。紅茶も良く蒸らされており、良い味が出ております」
美月の呟きに、淹れられた紅茶に口を付けたネリッサが相槌を打つ。
灯璃も頼んだイェーガーマイスター・ジンジャーを一飲みして、満足げに頷きミハイルは机の上のウォッカをロックで飲んでいた。
そして、左手で煙草を取り出し、其れを口に咥えたところで。
「折角ですし、お点けしましょうか?」
「おっ、悪いな、灯璃」
そう言って懐から取り出したライターで火を灯した灯璃の其れにミハイルが軽く礼を述べて、煙草に火を点けて貰う。
そうして紫煙をくゆらせて、美味そうに一服していると……ふと、脳裏に過去の事が思い浮かんだ。
少し顔を酒精で赤らめつつも、歴戦の傭兵としての勘を鈍らせることなく、一緒にこの店に入ってきた隣に座る党員を盗み見る。
そこには何か思い詰めた、張り詰めた空気がある様に見えて、なんとなくミハイルはふっ、と口元にほろ苦い笑みを浮かべた。
ポロリ、と零れ落ちた灰を灰皿が受け、カラン、とロックアイスとグラスがぶつかり合い、弾ける様な、澄んだ音を立てている。
「そりゃ、俺だって軍に入隊してピカピカの新兵だった頃は、祖国と正義のために此の身を尽くすと意気込んでいたさ」
不意に紡がれたミハイルの其れ。
そのミハイルの言の葉に、党員や灯璃達が耳を欹てる。
(「確かにミハイルさんが歴戦の傭兵なのはよく知っていますが……」)
こうして、何かに取り憑かれたかの様に過去の話を思い出して、懐旧を語ることはあまりなかったではないだろうか。
そんな灯璃やネリッサの瞳に宿る微かな好奇に気付いているのか居ないのか。
ミハイルは軽く肩を竦めてサングラスを外し、何処か遠くを見る様に目を細めた。
「だが、凄惨で悲惨な戦場、保身のためなら平気で俺等を切り捨てる上層部……そんな現実に意気込みは、呆気なく打ち砕かれたもんだぜ。組織ってのは、如何してもそう言うものだ。大を救うために小を犠牲にする、自らが得た権力を守る為なら形振り構わなくなる。……まあ、お前等が抱いた様な不満は俺だって抱いたことも当然あるぜ。お前等と違ったのは、俺の場合、其れが嫌で除隊して、フリーの傭兵になった事だろうな」
何処か、遠くを見る様な表情で韜晦する様に自らの過去を語るミハイル。
他人事の様に淡々とした口調で語られる其れが、寧ろ一層の真実味を帯びさせて、相手を務めていた党員が息を飲んだ。
其の話を聞きながら、確かに、と静かに溜息を美雪が漏らす。
「そう言う上層部の話は、私の住まう世界では幾らでも歴史の中に刻み込まれている。其の戦乱の中で、世界そのものの変革……ブレイクスルーを齎す可能性がある事実もまた歴史の中に刻まれているし、其の可能性も否定できない。そして、其のブレイクスルーの原因が、皮肉にもミハイルさんの言う権力者達が自らの権益を守るための障害を取り除くために行われることがあることもな」
嘗て学校で学んだ歴史を思い起こしながら述懐する様にそう呟き、サンドイッチを口に運ぶ美雪。
美雪の其れに、ふん、と軽く鼻を1つ鳴らして皮肉げに同意しながらミハイルはガブリ、とグラスに入ったウォッカを呷った。
「まっ、現実ってのは糞みたいなもんだよな。フリーの傭兵と言えば、少しは見栄えは良くなるかも知れんが、やることは結局人殺し。元々、戦うことしか俺自身能が無かったからな。俺が殺し合った奴等も、皆、自分達にこそ正義があると喚き散らす様な奴等だった。しかも自分達と違うなんてガキじみた理由だけで女子供も容赦なく平然と虐殺出来る様なそんな奴等だ。だが……其れが如何した? 向かってくるんなら殺さなきゃ、今度は俺が殺される。正義なんてのは、人を殺すための建前のための道具に過ぎねえって、肌身に染みる程に叩き込まれたぜ」
ミハイルの痛烈な皮肉のスパイスの効いたその言葉に。
「……」
何も言い返すことが出来ず、目前の酒をガブリと一口呷る、党員。
もし鉄血の革命を為していれば、自分達がミハイルの言う女子供でも、誰でも殺すことの出来る鬼となった事だろう。
それは酷く現実離れした、妄想染みたものに思えたが……。
あの時の想いを思い出せば、『正義』としか説明のしようが無い感情に振り回されていたのだと、そう思える程度には、自らの行為が、身に染みている。
党員が顔を青ざめさせる様を見て、ふん、と鼻を鳴らすミハイル。
「まあ、そんな悪意と皮肉に満ちた現実を嫌になる程見せられた結果が、今の俺さ。理想主義者の成れの果て、ひねた現実主義者って訳だ。まあ、今はオブリビオン共のケツ蹴っ飛ばしていれば良いんだから、人殺しよりは多少はマシだがな」
「それが……僕達の先に待つ未来だった……」
重苦しい口調で呟く白紅党の党員にそう言うことだ、とミハイルが笑う。
美雪がそっと重苦しい溜息をつき、そんなミハイルの言葉を補足する様に淡々と言葉を紡いだ。
「ミハイルさんの言う、殺し合いの行われる戦乱と進化の繰り返しが齎したもの、それは際限ない軍事力の拡張だった。それはやがてヒトを看過し、純粋な想いすら力に呑み込んで……人類ごと滅ぼす牙と化した」
――そしてその脅威は、今も尚、存在し続けている。
自らの生み出した兵器によって自らを滅ぼす牙。
その様な物が進化の果てに作られるのだとすれば……そんな物にどれ程の意味があると言うのだろう。
「……最もそうはならぬ様、歯止めを掛ける事が私達には必要だ。そして其の為には帝都桜學府等が持つ力だけではなく、生者が紡ぐヒトの記憶と歴史……記録そのものが必要だろう」
――其れがなければ、ヒトは、同じ過ちを繰り返す。
其れが何時か、取り返しのつかない過ちになる前に、自らを滅ぼす牙を持つ事の重さを理解してくれることを美雪は願ってやまない。
淡々と紡がれた美雪の言の葉に、隣に座っていた党員が息を呑むのに、美雪がそっと溜息を吐いた。
「貴殿等は永遠の停滞や平和を憂いている様だが、何故700年も大正の世が、平和が続いているのか、1度膨大な歴史を当たってみると良いかも知れん。そうする事で、この停滞と平和のありがたさを、深く理解することが出来るかも知れないからな」
(「最も……生者の紡ぐ歴史は、強者の歴史である以上、必ずしも正しく記録が残されているとは限らないが……」)
その言葉は、流石に口に出すことが出来なかったけれども。
――と、此処で。
「……おや、いらっしゃい」
マスターが入ってきた2人の人影を認めて穏やかな笑みを湛え、其の娘達を見る。
ミハイル達の話を聞いていたネリッサが、BARの入口に立つ、2人の姿を認めた時。
「……水仙さん、菖蒲さん。またお会いできて何よりです」
そう告げて水仙と菖蒲の方を見つめると、菖蒲は丁寧にペコリと頭を下げ、水仙は無言で首肯した。
●
「党首様! ご無事で何よりでした!」
BARの中に、歓声が響き渡る。
其の歓声を受けて、ありがとう、と一礼する何だか色々と化粧をされている水仙と菖蒲の姿にネリッサは軽く眉を顰めた。
見たところ水仙は、最初に状態を報告された頃よりもずっと落ち着いた状態を保っている様に見える。
(「此は……他の猟兵達と交流して、大分気持ちが落ち着いた様ですね」)
そう内心で呟くその間に、ネリッサと灯璃、ミハイル達が座る座席の前のカウンターに腰を落ち着ける水仙と菖蒲。
灯璃とミハイル、ミハイルの隣の党員に会釈をして席を離れ、紅茶のカップを持って水仙の隣に移動するネリッサ。
「すみません、水仙さん。お隣、宜しいでしょうか?」
そのネリッサの問いかけに。
『ええ……どうぞ』
そう水仙が頷き隣の席を勧めるのにネリッサはやはりと1つの確信を得る。
「ネリッサ様」
ネリッサと同じ事に何とはなしに気がついたのだろう。
結果としてネリッサの右隣に腰を落ち着けることになった美月からの囁きに、無言でネリッサが頷いた。
「水仙さん。少しお伺いしたいことがあるのですが、宜しいですか?」
そのネリッサの問いかけに、何を、と上目遣いに問いかけてくる水仙だったが。
「別に良いよね、水仙。だってもう、あなたは……」
恐らく何かを見てきたのであろう菖蒲のその言葉に、そうね、と静かに頷く水仙。
『それで……何を聞きたいのかしら?』
紅茶を注文し、其れに口を付けながらの水仙の問いに、ネリッサはそうですね、と軽く頷いた。
「……あなた達白紅党と協力していたあの影朧……妹桜について、お伺いさせて頂きたいのです。無論、無理にとは申しませんが……」
躊躇いながらも問いかけるネリッサの其れに、ハッ、と思わず目を開く水仙。
しかし既にある程度の事情を聞き及んでいた水仙にはネリッサが、如何してそれに興味を持つのかの、見当がある程度ついていた。
「あの影朧……妹桜が私に接触してきたのは、大体1ヶ月半位前……そう。椿さんが黄泉還って来た時の事よ」
――其れは、グリモア猟兵があの事件を予知し、其の情報を収集した時のこと。
即ち椿が正しく黄泉還り、間もない時の事だった。
その時期の一致に菖蒲もまた思い当たり、思わずそれって、と声を上げている。
「わたしが、椿を黄泉還らせた時の事……?」
『うん、その通りだね。あの時、私は紫陽花様の時の事もそうだけれど、椿さんの事にも死の責任を感じていたから……』
そう呟いて。
当時のことを振り返る様に瞑目する水仙を見て、ネリッサがカチャリ、と紅茶のティーカップを音を立ててお皿に戻した。
「どう言うことですか? 彼が死んだのは、様々な不幸な偶然が重なった結果だと教えられておりますが」
『うん、そうだね。それはそうかも知れない。でも、もし私が、同學級生として出撃命令を出されて、椿さんと一緒に出撃していたら、椿さんを救えたかも知れない、と思うとね……』
その水仙の言の葉に。
「それは……」
それができない理由に心当たりがあったネリッサは二の句を告げず、黙してコクリと紅茶を一口飲んだ。
(「諜報部のエリートであった椿さんが、バディとして一緒に出撃することが出来るとすれば、それは恐らく同じ諜報部の人間だけでしょう。彼が出撃することになった場所は、諜報部と私達猟兵達にしか知らされていない場所の様ですし……」)
要するに水仙は諜報部の所属ではなく、普通の學徒兵だったのだ。
故に帝都桜學府諜報部が極秘裏に処理せねばならない案件だったが為に、其の生徒達には連絡が行かなかった。
(「諜報部が機密レベルの高い案件を抱えているが故に起きてしまった悲劇、と言う事ですか。そして其の悲劇を利用したのは、恐らくあの切り裂きジャックの仲間だったと思われる妹桜。……妹桜も、切り裂きジャックも恐らくグルだったのは間違いないですね。そして其れをリークできるだけの力を持つ者が、彼女達の背後にいる」)
恐らく其れは、幻朧戦線の中でも紫陽花に関わる一派や、其の分派共繋がりがあるのだろう。
結局の所、大本に繋がる情報は、直ぐには出てきそうにない。
(「しかし、帝都桜學府諜報部も今回の件の事後処理に、時間を取られてしまっている。此は妹桜達の裏で手を引いている誰かの策謀と考えるべきでしょうか?」)
そう内心で、ネリッサが思考を進めていた時。
『……でも、私というパイプラインが切れた以上、紫陽花様の遺志を継ぐ為に分派した者達は、帝都桜學府内では暗躍することは出来ない筈よ』
何処か、確固たる答えを持っているかの様に。
そう告げる水仙の言葉に、ネリッサが思わず息を呑んだ。
「……何故、そう言い切れるのですか?」
其のネリッサの問いかけに、そうね、と水仙が小さく溜息を漏らす。
『私の様に、紫陽花様の遺志を継ぎ革命を齎す事を望んだ者達を、私が妹桜が齎した黄泉還り、と言う希望で大体集めたから。だからこそ、次にもし何かがあるとしたら内側からじゃなくて、外側からになる筈よ。少なくとも白紅党は……もう、帝都桜學府から解散し、消えて無くなったのだから』
そう、何処か寂しげに呟く水仙の其れに。
「……ご助言、ありがとうございます」
そう小さく告げて一礼するネリッサに、いいえ、と水仙が軽く頭を横に振った。
●
「……此が、あなた方が本来守るべき平和な日常です」
店内でのそんなやり取りを耳を欹てて聞きながら。
色々なスポットや、人々が当たり前の様に歩くそれを見つめながらのウィリアムの呟きに、元・党員達が静かに頷く。
「皆、当たり前の日々が続いて欲しいと願っている。その願いを叶え、そして影朧達の魂をそんな当たり前の日常へと転生させて回帰させること。それがあなた達が初めて望み、そして帝都桜學府に入学した初心だったとぼくは思っています。ですから、灯璃さんも言っていた様に願わくば……」
――願わくば、『力』を持つ者として、『力』を持たぬ者の幸せを望み、其れを守る事に誇りを抱き、其れを成り立たせることを。
そう祈りの言葉を手向けるウィリアムに、元・党員達が、静かに頷くのを美雪がちらりと目の端に捉えながら。
(「後で、この任務が無事に終わった事、そして未だ何かがある可能性があることも含めて、竜胆さんと優希斗さんに伝えておくか」)
そう思い、紅茶を口に含み思考を続ける美雪。
彼等もこの事件については、正直、心労が嵩んでいた事だろう。
更に気の滅入る話を送ることになると言えばなるかも知れないが……一方で、それについて調査を行っていた竜胆の手助けにはなる筈だ。
だから……。
(「少なくともこの事件についてだけでも、肩の荷を降ろさせてやらねばな」)
そう内心で呟いて。
紅茶を飲み干し、サンドイッチを食べきった美雪がグリモア・ムジカをワープロ型に変形させて手紙を諜報部の暗号で綴り始めた。
この事件が解決したと言う報告を。
――かくて、帝都桜學府内で起きた内乱は一先ずの終結の時を迎えた。
何時かまた起こるであろう、新たなる戦いの足音を、確と鳴り響かせながら。
大成功
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