●ある日、突然のこと
野村・茂とハルの夫婦と言えば、近所でも有名なおしどり夫婦。
子宝にこそ恵まれなかったものの、その仲睦まじさは誰もが認めるところ。
茂は商社勤めで稼ぎはそれなり、ハルは主婦として家を守る日々。
もうすぐ連れ添って二十年になろうという二人は、お祝いにどこか旅行にでも行こうかねえ、なんて話もしていたという。
――ハル?
冬ももうすぐ終わろうかという或る日、いつもの時間に帰宅した茂は、異変を感じる。
常ならばハルが玄関先で出迎えてくれるはずなのに、家に人の気配が『しない』。
ふと、気付く。
荒れた玄関、廊下から奥の間へ続く血痕、そして――。
――ハル!!
居間で、変わり果てた妻を発見した。
何度も何度も刺されたか、見慣れた着物が血に染まっていた。
既に、息はなかった。
何度も何度も呼びかけても、身体を揺すっても、どうにもならなかった。
医者を呼んで、首を横に振られて、ようやく現実を思い知らされた気分だった。
用意されていた夕餉はひっくり返り、室内もかなり荒れており、ハルは殺害される前に抵抗したのだろうと警察は告げた。
このような卑劣な犯行は決して許しません、どうか我々にお任せを――そう力強く語る警官の言葉を、茂はどこか遠い出来事のように聞いていた。
それからは、あっという間だった。
喪主を務めるというのは存外大変で、悲しんでいる暇などなかった。
あれよあれよと話が進み、気付けば手元には抱えられる程度の骨壺だけが残された。
警察から、犯人と思しき若い男を逮捕したとの報せが、あったような気がする。
惨劇の舞台となった居間はすっかり綺麗になって、まるで何事もなかったかのよう。
「……ハル」
骨壺が入った綺麗な袋に向かって、茂は声をかけてみる。
何度それを繰り返しても、返事が返ってくることは、なかった。
ある日、茂のもとに差出人不明の荷物が届いた。
不審に思う思考すら摩耗していたのか、茂は躊躇なく包みを開く。
『愛しき人の遺骨に突き立てよ』
中身の正体は、かの忌まわしき影朧兵器がひとつ『反魂ナイフ』!
けれど、茂には、そんなことはどうでもよかった。
――会いたい。
――死んでしまったなんて信じられないよ、ハル。もう一度、会いたい。
封を決して開けてはいけない袋を開けて、中の骨壺の蓋を迷わず開く。
「ハル――」
思いを込めて、力いっぱい、茂は『反魂ナイフ』を遺骨へと突き立てた。
●ある日、いつもの光景
「……こうして、ハルさんは『本当に蘇った』のよ」
グリモアベースの一角で、ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)が淡々と告げる。
「知識も、記憶も、感情も、生前そっくりそのまんま! 奇跡のような話よね」
そこだけ聞けば喜ばしいはずの話なのに、ミネルバの表情は冴えない。
「茂さんは、ハルさんが黄泉がえったなんてさすがに言えないから、今度こそ誰にも害されないようにって、箱根の温泉街に普通の夫婦を装って宿泊してるみたい」
結婚記念日には、旅行に行きたいねえ。
そんな話をしていたからだろうか、家には居づらかったのだろうか。
「これだけなら、わたしだってそっとしておきたかったわよ。でもね、黄泉がえったハルさんは『反魂者』――影朧が関わってる存在なのよ」
影朧兵器『反魂ナイフ』で蘇ったハルは、どこかしら不穏な気配を漂わせている。
蘇らせた茂自身が、誰よりもそれを感じ取っていた。
「こういうのって、理屈じゃないのよね。愛する人なのは間違いないのに、『昔のあの人とは違う』って、『何らかの凶行を為そうとしている』って、分かっちゃうのよね」
だが、分かったところでどうなるというのか。
一般人たる茂にはどうにもできないし、何よりハルが愛おしくて、どうにもできない。
「だから、わたしたちの出番」
ミネルバは夫婦が宿泊する温泉旅館の近くに、低級の影朧たちが集まりつつあることを告げる。
「ハルさん――影朧の気配に惹かれて、雑魚共が集まってきてる。まずはこれを掃除して頂戴。そいつらが囲んでる旅館こそが、二人の居場所でもあるから」
低級の影朧を排除したら、反魂者を蘇らせた『野村・茂』との接触が叶う。
心のどこかで『このままではいけない』と思っている茂を説得する好機である。
「茂さんの納得なしに『反魂者』を倒すこともできなくはないけど、やっぱり後味は悪いと思うから。みんなにはどうか、上手いこと説得してもらいたいの」
ここでのやり取り次第で、最後の戦闘の難易度が色々な意味で変わると思うわ、と。
こおりのむすめは、大きく息を吐く。
「みんなは、好きな人に死なれたとして、もう一度会いたいと思う?」
それがたとえ、理を歪めることだとしても。
「茂さんの気持ちに寄り添って、最善を尽くしてきてね――どうか、お願い」
六花のグリモアが輝き、雪残るサクラミラージュの箱根へと道が開く。
「無事に帰ってきてね、いい報せを待ってるわ」
かやぬま
影朧兵器の新作『反魂ナイフ』の登場です。
もたらす事件は当然、ろくでもないもの。
幸せな結末をもたらして下さい、よろしくお願いします。
●野村・茂とハルについて
経歴はオープニングに記した通りです。四十代の夫婦です。
ハルが『反魂者』になってからは、惨劇となった自宅から離れることと、人目を極力避けるために、いつか行きたいねと言っていた箱根のとある旅館に宿泊しています。
茂は頭が良く穏やかな性格で、それ故に『反魂者』ハルの異変にいち早く気付きました。
けれども『ハルがいるだけで幸せ』という愛情故に、手をこまねいている状況です。
ハルは絵に描いたような良妻でしたし、『反魂者』になってからもそれは変わりません。
ただ、抑えようのない殺気を時折発し、特に自分を殺した相手への復讐を謳います。
●お話の流れ
第1章:集団戦。
野村夫婦の宿泊する旅館近くの開けた野原が戦場となります。
影朧の中でも特に弱く、数だけが多いので、一気に制圧してしまいましょう。
第2章:日常。
ハルの存在をひた隠しにする、茂との対話ができます。場所は旅館のロビーです。
最初は頑なに蘇生の事実を隠し、ハルを守ろうとしますが、内心ではハルの異変に対して誰にも言えない不安を抱えています。
ここでの説得の成否によって、第3章の戦闘の難易度と後味が大きく変わります。
詳細は断章にて。
第3章:ボス戦。
第2章での説得の成否で、影朧の強さと『反魂者』の扱いが変わります。
詳細は断章にて。
●プレイングの受付について
全章、断章投稿後に受付期間を設けて承ります。
MSページとタグでご案内しますので、都度ご確認をよろしくお願いします。
また、プレイングを送って下さる前に、MSページもご一読下さいませ。
それでは、良い結末を目指して、頑張りましょう!
第1章 集団戦
『煙魔エグゾヲスト』
|
POW : ヴェノムスモッグ
肉体の一部もしくは全部を【様々な疫病を含んだ猛毒の瘴気】に変異させ、様々な疫病を含んだ猛毒の瘴気の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
SPD : 煙魔轟身
自身と仲間達の【身体】が合体する。[身体]の大きさは合体数×1倍となり、全員の合計レベルに応じた強化を得る。
WIZ : 忍び寄る煙の魔刃
【闇煙の暗殺者(ハイドスモーカー)】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
イラスト:V-7
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●迫る、煙魔
いつまでこうしていられるかは、分からない。
けれど、真っ先に叶えたい願いでもあったから。
傍目に見ればごくごく普通の人間である妻を連れ、憧れの温泉旅館へ。
けれど――妻は時折、怖気のすることを口走るのだ。
――嗚呼、私、あの日家にやって来た名も知らぬあの人に、お礼をしなくちゃ。
ただならぬ気配を、帝都桜學府の人間でも、ましてや超弩級戦力でもない自分が感じる。
これは、とんでもないことに違いない――そう、頭では分かっていたけれど。
「? あなた、どうなさったの?」
「ああ――いや、何でもないよ」
姿も、声も、性格も、何もかも、ハルそのもの。
けれども、どこか齟齬がある。
全てを振り払って逃げるように旅に出たけれど、これから、どうしたらいい?
『――』
温泉旅館の外に広がる野原に、影朧の気配あり。
その肉体の大半が闇の意志を持った、煙の集合体たる『煙魔エグゾヲスト』。
実体を持たない煙であるがゆえに、物理的な攻撃があまり有効ではないという。
まずは、これらが『反魂者』に接触する前に、撃滅せしめる必要がある――。
御桜・八重
◎
ごくごく普通の幸せなご夫婦を襲った悲劇、か。
突然全てを奪われた悲嘆は、想像するに余りあるね…
そしてどんな形でも愛する人が帰って来てくれたのなら
その手を取ってしまうのは、わかる。
わかる、けど。
…ダメ、なんだ。
野原に駆け込み、自分を囲ませるように煙魔を誘導。
逃げ場を失ったと思わせ、敵が瘴気に変異して
一斉に襲い掛かってきたところに【花旋風】発動!
強烈な回転で二刀を振り抜き、巻き起こす烈風で
瘴気を吹き散らす!
さらに二刀に纏わせたオーラで瘴気を浄化。
他に被害を及ぼさないようにする。
胸が痛んで俯きそうになるけれど、
顔を挙げ、胸を張り、全力で駆ける。
きっと二人の手は助けを求めてる。
行かなくちゃ、あそこへ!
●桜巫女、舞う
(「ごくごく普通の幸せなご夫婦を襲った悲劇、か」)
最初の戦場と指定された野原に降り立った御桜・八重(桜巫女・f23090)は、確かに煙状の影朧の姿を認めながら、考える。
(「突然全てを奪われた悲嘆は、想像に余りあるね……」)
それが『あまりにも出来すぎた話』だとしても、手を出してしまうのも無理はない。
(「そして、どんな形でも愛する人が帰って来てくれたのなら、その手を取ってしまうのは、わかる」)
八重は思う――自分でも、そうしてしまうかも知れないと。
だが。
「わかる、けど」
ぐ、と身を低くして、駆け出す構えを取る。
「……ダメ、なんだ」
そして地を蹴って、煙魔が群がる野原へと駆け込んでいった。
『――』
煙魔エグゾヲストは、影朧としては低級である。
一度敵を認識すれば、ただ標的目掛けて移動するばかり。
八重はそこを突いて、敢えて自らが煙魔に包囲されるように位置取りをしたのだ。
『――、――』
四方八方敵だらけ、身を潜めていても逃げ場のない殺気を感じながら、八重はその時を待った――煙魔が何も知らず己の優位を疑いもせず、様々な疫病を含んだ猛毒の瘴気と化して、己をなぶり殺しに来る、その時を。
「……今だっ、いざ吹き散らさん【花旋風(ハナツムジ)】!」
完全に包囲されたということは、完全に攻撃の射程に入れたということ。
強烈な身体の回転の勢いを乗せて二刀を振り抜き、巻き起こす烈風で瘴気と化した煙魔をことごとく吹き散らす!
「まだ、だよっ!」
散り散りになって一度後退しようとする煙魔たち目掛けて、八重の二刀が桜色のオーラを纏う。
このままこの地に留まられて、他に被害を及ぼしてはならないと、もう一度舞を舞うように一回転し、オーラを振りまき瘴気を浄化していった。
目に見える範囲では、煙魔を退治できた。
まだまだ湧いてくるではあろうけれど、それは後続の超弩級戦力たちに任せよう。
「……」
八重はきゅっと唇を噛み、胸のあたりをぎゅっと押さえる。
胸が、痛い。
これからのことを思うと、俯いてしまいそうになる。
けれども、八重はキッと顔を上げ、胸を張り、全力で駆け出した。
(「きっと二人の手は、助けを求めてる」)
――行かなくちゃ、あそこへ!
目指す先には、暖かい光を灯す温泉旅館がたたずんでいた。
成功
🔵🔵🔴
神臣・薙人
好きな人に、もう一度会えるなら…
…いえ、言葉は茂さんとお話する時に取っておきましょう
まずは、影朧をどうにかしなくては
エグゾヲストを確認次第、白燐桜花合奏を使用
敵には攻撃を、こちらには白燐蟲の回復を
物理的な攻撃が通じづらいようですが
桜の吹雪はどうでしょうか
可能な限り多くの敵を巻き込めるよう
立ち位置には気を配ります
背後は取られないよう留意
なるべく蟲笛の演奏を途切れさせない事を優先しますが
攻撃の予兆等があれば回避行動を取ります
演奏が途切れた際はすぐに再開
ハイドスモーカー出現時には
周囲に注意を払いつつ
蟲笛の演奏を継続します
攻撃は仕掛けられるでしょうが
こちらの範囲攻撃に巻き込めるのなら
それを狙いましょう
●優雅なる戦い
野原に跋扈する煙魔たちは、まだこちらに気付いていない。
転移を受けて静かに舞い降りた神臣・薙人(落花幻夢・f35429)は、遠目に見える温泉旅館で幸せなひと時を過ごしているであろう野村夫妻のことを思う。
「好きな人に、もう一度会えるなら……」
無意識にそう呟いて、すぐにかぶりを振る薙人。
「……いえ、言葉は茂さんとお話する時に取っておきましょう」
そう、今はまず、眼前に群がる影朧たちをどうにかしなければ。
幸い、イニシアチブは完全に薙人の側にあった。
故に、先手を打ってユーベルコヲドを発動させることも可能であった。
初心者用に改良された蟲笛を手に取り、奏でるは【白燐桜花合奏(ビャクリンオウカガッソウ)】――半径百メートル近くの広範囲、実質ほぼ全ての煙魔エグゾヲストを対象に、桜の花吹雪による一方的な攻撃を行える超常だ。
(「物理的な攻撃が通じづらいようですが、桜の吹雪はどうでしょうか」)
蟲笛の演奏を続けながら、チラと影朧たちの様子を見る薙人。
『――』
煙魔たちは、花弁に引き裂かれるようにその姿を徐々に崩していく。効いている!
(「……良かった」)
ならばと薙人は、より効率良く煙魔たちを巻き込み、かつ己の背後を取られぬようにと位置取りを工夫するように歩を進めた。
時折根性のある個体が散り際に薙人の身体を掠めて浅い傷をつけていくけれど、その程度の傷ならばと、白燐蟲「残花」がすぐに治癒してくれる。
薙人は攻撃の起点となる『蟲笛の演奏』を続行させることを第一としていたが、敵も黙ってやられてばかりはおるまいと、攻撃の予兆にも気を配っていた。
「……!」
先程とは比べものにならない、複数個体による突進。
これはさすがに蟲笛から唇を離して、側転による回避を取らざるを得ない。
『――、――』
華麗な回避にも怯まず、煙魔が何やら怪しい動きをする。
視認が非常に難しい『何か』を召喚したことだけは把握できたが、それだけで十分だった。何しろ、こちらにはグリモアの予知というアドバンテージがあるのだから。
(「あれが『闇煙の暗殺者(ハイドストーカー)』ですね」)
薙人は冷静に、蟲笛による演奏を再開した。再び舞い踊る桜の花吹雪。
(「来るなら、どうぞ」)
薙人を中心として、桜吹雪がますます激しく渦を巻く。
それは、あまりにも儚く、美しい光景であった。
『――』
攻撃を仕掛けてくるなら、好きにすればいい。
その手が届く前に、此方が何もかもを切り裂いてしまうまで。
蟲笛の音色が止んで、桜の花吹雪が止んだあと。
野原に立ち尽くすのは、薙人ひとりであったという。
成功
🔵🔵🔴
六道銭・千里
◎【六道凛女】
あぁ、そりゃアカンわ…古今東西黄泉返りなんて碌なもんちゃう
まぁ、本人も内心では理解っとるようやったら後は後押しすれば良い
悟すんは坊主の務めってな
まずは集まってきとるのを片付けようか
煙魔の相手、閻魔の代理人が仕る!
おう!任された!
風月の答えに答え、後方から冥銭を指弾で『投擲』
風月から遠かったり死角の煙魔を祓っていこうか【浄化】
相手のUC、合体して強くなろうとする煙魔に
悪いな、そいつは防がせてもらうわと
六道銭流結界術『縛緊』でUCを封じさせてもらう
ほんなら、これで決めようか
風月の剣と合わせて『結界術』、『縛緊』を圧縮し斬りやすいよう、そんでそのまま圧潰してトドメってな
雪華・風月
◎【六道凛女】
わたしには大切な人を亡くしたという経験はありません…
故に本当の意味で野村・茂さんと寄り添えるとは思いませんが
ですが、それは…
……まずは、低級の影朧たちを片付けましょう
この雪解雫にて煙魔を断つ!
わたしが前衛を!千里さんは後方支援をお願いします!
雪解雫に『浄化』の力を纏って『切り込み』!
四刃相応、青龍の型!手数と連撃重視で数を減らしていきます
むっ、相手の様子が…合体していく煙魔
そして千里さんが防いだ様子を見て、はい、ありがとうございます!
そのまま駆け、結界の中の煙魔達に威力重視、朱雀の型で結界ごと『切断』を!
終わりましたね、では旅館へ向かいましょう
●魔を祓い、邪を断つ
帝都桜學府所属の期待のエースこと雪華・風月(若輩侍少女・f22820)は、今回六道銭・千里(あの世への水先案内人・f05038)を同伴者に選んでいた。
「あぁ、そりゃアカンわ……古今東西、黄泉返りなんて碌なもんちゃう」
何故なら、こと『こういう』分野において、千里は本職とも言える存在であったから。
「千里さんが一緒に来てくれて助かります、わたしには大切な人を亡くしたという経験がありませんので……」
故に、本当の意味で今回の事件の当事者『野村・茂』に寄り添えるか、不安だったのだ。
風月の言葉を聞いた千里は、一瞬キョトンとした後、すぐにいつもの飄々とした表情に戻った。
「まぁ、本人も内心では理解っとるようやったら、後は後押しすれば良い」
「……ですが、それは……」
千里の言う通りになったとして、その結末は、つまり。
それを思うと、風月はどうしても言葉の歯切れが悪くなる。
千里はいざとなれば汚れ役も引き受ける覚悟で、しかしあくまで口調は軽く。
「悟すんは、坊主の務めってな」
「……わかりました」
ひとまず迷いを振り切った風月が「雪解雫」の柄に手をかけ、千里が冥銭を指で弾く。
「まずは、集まってきとるのを片付けようか」
「ええ、低級の影朧たちを片付けましょう!」
野原にたむろする煙魔たちは、二人の気配に気付いて既に動き出していた。
「この「雪解雫」にて、煙魔を断つ!」
「煙魔の相手、閻魔の代理人が仕る!」
対するように、風月と千里も臨戦態勢に突入した。
「わたしが前衛を! 千里さんは後方支援をお願いします!」
「おう! 任された!」
即座に作戦を決め、風月が愛刀「雪解雫」を抜き放つ。
だが、煙魔たちには物理攻撃が通じづらいという前情報がある。大丈夫だろうか?
「【四刃相応(シジンソウオウ)】、青龍の型! 浄化の刃なら――!」
――斬っ!
実体を持たない煙魔の身体が、刃に通された『不浄を浄化する力』によって両断されたのだ。
そして「青龍の型」とは手数と連携を重視した剣術の型である。
後方から狙いを定めて飛来する、同じく『浄化』の力を纏った冥銭がいい支援をする。
風月の間合いの外から狙おうとする輩や、死角になっている輩を次々と祓っていく。
そうして順調に煙魔たちの数を減らしていたところに、異変は起きた。
「むっ、相手の様子が……」
個体と個体が重なり合って、煙魔たちの数が減る代わりに個体が大きくなっていく。
「悪いな、そいつは防がせてもらうわ」
千里が特別に力を込めた硬貨を手の中で遊ばせながら、鋭く煙魔を睨みつけた。
「【六道銭流結界術『縛緊』(ケッカイジュツ・バッキン)】!」
『――っ』
狙った相手を閉じ込め、弱体化させる結界を作り出す硬貨。
それは巨大化して格好の的となった煙魔に全弾命中し、それ以上の合体を阻止したのだ。
「千里さん……ありがとうございます!」
「まだや風月、ほんならこれで決めようか」
「! ……はいっ」
巨大化したまま、身動きが取れずに身悶える煙魔を、千里が更に結界術による緊縛でぎちぎちに圧縮していく。
その煙魔目掛けて疾走する風月は、威力重視の剣術の型「朱雀の型」で斬りかかる!
「やあああああ……っ!!!」
「終わりや、圧潰せえ!」
――ざぁっ……。
二人の猛攻によって、煙魔たちはひとまず片付けられた。
「終わりましたね、では旅館へ向かいましょう」
そう告げる風月の面持ちは、いまだ緊張したままであったという。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
疾風・テディ
✤アドリブ・連携歓迎。WIZ
大切だった人が死んで、更に蘇ったなんて、茂さんの気持ち、分かるな……。離れたくないよね……。
とにかく先ずは周りの邪魔なのやっつけるよ!
煙なら、風には弱いよね!よーし、【だいふく】!一緒に行くよ!
UC発動!【だいふく】と一緒に私も【風属性攻撃】で周りの煙魔たちを吹き飛ばすよ!
攻撃を避けられたり、敵が気づかないように近づいてきても大丈夫!
私たちに有利な上昇気流で、上側に吹っ飛ばす!そこに【風属性攻撃】で追撃!
あの夫婦のところには絶対行かせないんだから!
●小さな助け船
びっくりするほどもっふもふな白い鳩……鳩ですよね? うん、鳩に乗って、疾風・テディ(マイペースぐだフェアリー・f36106)はやって来た。
(「大切だった人が死んで、更に蘇ったなんて」)
野原を蠢く煙魔たちからすれば、鳩が飛んでいる程度にしか思われないのだろうか。失礼な話だが、フェアリーたるテディにとっては有利に働くことだってたくさんある。
(「茂さんの気持ち、分かるな……。離れたくないよね……」)
白鳩「だいふく」の上で、ちょっぴり感傷的になるテディ。
けれどすぐに気を取り直して、だいふくの首元を撫でながら凜と告げた。
「とにかく、先ずは周りの邪魔なのやっつけるよ!」
そうと決まれば、テディはだいふくを駆って、ばびゅーんと飛んでいった。
(「煙なら、風には弱いよね!」)
閃いたテディが、だいふくの上で小さな拳を振り上げる。
「よーし、だいふく! 一緒に行くよ!」
『――』
ようやく敵対者の気配に気付いたか、煙魔たちがいっせいにだいふくとテディを見る。
一瞬怖気がしたけれど、テディは負けない。
「風が吹き抜けるよ! どいてどいてー!!」
テディが風属性の魔法で、だいふくが凜々しい羽ばたきで、大風を巻き起こす!
『――ッ』
勢い良く巻き込まれた煙魔たちが、文字通り雲散霧消していく。こうかはばつぐんだ!
だが、当然討ち漏らしは出る。しかし、テディはそれさえも織り込み済みだった。
ユーベルコヲド【フェアリーは風の子(フェアリーハルイチバン)】の効果には、ただ突風を巻き起こすだけでなく、自身に有利な気流を生み出すというものも含まれる。
『――!!』
不可視の気流にまんまと巻き込まれた煙魔たちが、次々と上空へと吹っ飛ばされる。
そこにテディが十八番の風の属性魔法を叩きつけて追撃する! つよい!
「あの夫婦のところには、絶対行かせないんだから!」
小さな妖精もまた、野村夫妻の未来のために、奮闘していた。
成功
🔵🔵🔴
朱酉・逢真
【白蛇衆】
心情)サクミラなァ。俺自身は関わり大してないが、住民とは縁深いンよなァ。ふしぎふしぎ。サテそれは置いておいて。好きな人が死んだら会いたいか、ねェ。坊・旦那はどォ思うね? 俺ァ理解できねェからさ。共感もできん。ダチが死ぬことを悲しいとは思わンし、死んで俺の庭に来ることを嬉しいとも思わん。すべてのいのちが存在し、とどまらず流れていくならばそれでいいじゃねェか…ってな。
行動)眷属ども。虫に獣に鳥どもよ。病毒を運べ、腐敗で満たせ。デカくなったなら群れで迎えな。任せな旦那、こちとら病毒は専門家だぜ。効くと思うなよ。坊・旦那には届かせもしないさ。おや坊、転生かい? 余計な穢れは掃っとくよ。
深山・鴇
【白蛇衆】
友達の友達は友達になってた、みたいなもんだよ
そもそも雲珠君からの縁だろう
そうさな、俺なら死んだに限らず
心底愛した相手に会えなくなったなら
会える手段を探して実行するよ
彼は納得のいく別れができれば違ってただろうけどね
それはかみさまと人の尺の違いさ、逢真君にはちと難しい話だな
何せ生きるいのち死んだら全部君の処だからね
ま、反魂は生き返った相手が中身が違ってたり、もう愛した相手の心ではなくなってたりってのは良くある話だ
毒だって、逢真君
あの程度の毒なら可愛いもんだな
逢真君と雲珠君を守る立ち位置でUCを放つ
視認できるものなら距離も規模も関係ない
一網打尽ってやつさ
雲珠君の言葉も届き易くなるだろう
雨野・雲珠
【白蛇衆】
ふふふ、光栄なことです!
わ、深山さんが思いのほか情熱的…
かみさまにとっては死んでようが生きてようが
『いのち』に変わりはないということでしょうか
…俺はどうでしょう
死んで好きが薄れるわけでなし、
全員看取る気構えですが…
でも。
今回のようなことが大切な方の身に起きたら、
俺だってきっと、なんだってしてしまう…
そして、過ちだったと気づいても手を離せないでしょう
だから、今回は俺たちがやらなくては
ご主人はもちろん、奥方もお慰めできればよいのですが…
◆
言葉を交わせぬ異形とはいえ、彼らもまた影朧
もろもろと崩され、切り伏せられた相手を桜で囲いましょう
あなたたちが望むなら次の生へ
あるいは海へ
…おやすみなさい
●神と、人と、桜の精と
影朧集うと言われし野原を目指し、三人の猟兵たちが歩を進めながら語る。
「サクミラなァ。俺自身は関わり大してないが、住民とは縁深いンよなァ。ふしぎふしぎ」
朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)がからからと笑いながらそう言えば、深山・鴇(黒花鳥・f22925)もまた眼鏡の奥の瞳を細め、穏やかに返す。
「『友達の友達は友達になってた』、みたいなもんだよ。そもそも雲珠君からの縁だろう」
「ふふふ、光栄なことです!」
嬉しい話で名前を出されて、雨野・雲珠(慚愧・f22865)は両手を合わせて一礼した。
さくり、さくり。
野原を進むにつれて、良からぬものの気配が色濃くなっていくのが分かった。
それでも、三人の話は尽きない。
「サテそれは置いておいて。『好きな人が死んだら会いたいか』、ねェ」
グリモアベースで投げかけられた、答えなき問いに逢真が言及する。
「坊と旦那はどォ思うね?」
「そうさな、俺なら死んだに限らず、心底愛した相手に会えなくなったなら、会える手段を探して実行するよ」
鴇が迷いなく朗々と答えれば、隣で雲珠が口元に手を当てて「わあ」という顔をした。
「わ、深山さんが思いのほか情熱的……」
「『彼』は、納得のいく別れができれば違ってただろうけどね」
みんながみんなそうではないよ、と言わんばかりに言い添えるのはきっと、今回『反魂ナイフ』を使ってしまった野村氏のことを考慮してのことか。
「俺は理解できねェからさ、共感もできん」
逢真は視線を遠くにやりながら、淡々と告げる。
「ダチが死ぬことを悲しいとは思わンし、死んで俺の庭に来ることを嬉しいとも思わん」
目線が、違うのだ。
ニンゲンとかみさまとでは、そもそも価値観が異なって当然というもの。
「すべてのいのちが存在し、とどまらず流れていくならば、それでいいじゃねェか……ってな」
鴇はそのことを十分に理解していたから、一度瞼を伏せたのち、こう返す。
「それは、かみさまと人の『尺の違い』さ、逢真君にはちと難しい話だな」
――何せ、生きるいのち死んだら全部君の処だからね。
「かみさまにとっては、死んでようが生きてようが、『いのち』に変わりはないということでしょうか」
雲珠も、自分なりに逢真の思想のありようを理解しようと頭を回転させる。
そういうモンかねェ、と両腕を後頭部に回す逢真に、鴇は穏やかな笑みを向けた。
「ま、反魂は『生き返った相手の中身が違ってたり』、『もう愛した相手の心ではなくなってたり』ってのは、良くある話だ」
どちらにせよ、そうそう上手い話はない。
今回だって、超弩級戦力が召集される案件となってしまったのだから。
「……俺は、どうでしょう」
雲珠が、目線を落としたまま呟いた。
「死んで『好き』が薄れるわけでなし、全員看取る気構えですが……」
今度は逢真と鴇が、同時に雲珠を見た。
こちらはこちらで、すごい気構えであったものだから。
「でも」
何故自分に視線が集まっているかも知らず、雲珠は思いの丈をぽつりと零す。
「今回のようなことが大切な方の身に起きたら、俺だってきっと、なんだってしてしまう……」
両手を見る。
その手に、反魂ナイフが置かれる幻を視た。
「そして、過ちだったと気づいても、手を離せないでしょう」
そう言って、雲珠が握ったのは、ただの拳。
「だから、今回は俺たちがやらなくては」
立ち塞がる障害を蹴散らし、救えるものは救えるだけ救うために。
(「ご主人はもちろん、奥方もお慰めできればよいのですが……」)
『――、――』
声にならない声がする。
煙魔たちが、威嚇をしているようにも聞こえる。
「毒だって、逢真君」
「あァ、任せな旦那。こちとら病毒は専門家だぜ、効くと思うなよ」
『――!』
「あの程度の毒なら、可愛いもんだな」
それは信頼の証に他ならず、なればこそ逢真と雲珠を守るような立ち位置で、鴇はユーベルコヲド【空間の加護(イットウリョウダン)】を放つ!
(「視認できるものなら、距離も規模も関係ない」)
そう、全ての物理さえも無視して斬れる超常は、煙魔エグゾヲストを形取る煙さえも散らしてみせる。
「言葉を交わせぬ異形とはいえ、彼らもまた影朧」
そして、雲珠はそれを癒やす桜の精。
ならば、鴇はその手助けをしようと決めた。
(「『一網打尽』ってやつさ、雲珠君の言葉も届きやすくなるだろう」)
もろもろと崩され、斬り伏せられた相手を超常【花吹雪(サクラ)】で囲う。
『――』
黒い煙を、白い桜吹雪が覆い隠していく。
「あなたたちが望なら次の生へ、あるいは海へ」
――おやすみなさい。
それでも抵抗する悪い子は、神様からの罰が当たる。
「眷属ども。虫に獣に鳥どもよ」
煙魔たちのそれとは、比べものにならないほどの強い毒。
「病毒を運べ、腐敗で満たせ。デカくなったら群れで迎えな」
坊と、旦那と呼ぶ『ともがら』へは、届かせもしないとも。
「おや坊、転生かい? 余計な穢れは掃っとくよ」
「ありがとうございます! おかげですごく順調です」
きらきら、きらり。
煙は光へと昇華していく。
――まずは、ひとつ解決。
さあ、いよいよ問答と行こうか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大町・詩乃
◎
【旅神】
(少し沈思し)これまで神としての生の中で多くの親しい人々を見送ってきました、親友といえる人も。
そして、いずれは愛する人を見送る事になる。
だから茂さんの気持ちは判る気がします。
でもこのままでは起こってしまう悲劇を見過ごせません。
犠牲者だけでなく茂さんとハルさんをも深く傷つけるだろうから…。
立ち向かう意思を固めて、嵐さんと一緒に煙魔に対峙。
前衛に立ち、結界術・破魔・浄化・毒耐性・高速詠唱による対毒瘴気結界を周囲に形成してヴェノムスモッグを中和。
更に炎のオーラ防御を纏った天耀鏡で周囲を旋回させて疫病消毒です。
響月で楽器演奏し、UC:帰幽奉告&音の属性攻撃で煙魔の魂と精神に直接攻撃しますよ。
鏡島・嵐
◎
【旅神】
愛する人を生き返らせたら、とんでもない落とし穴がありました、と。世の中うまい話は無えもんだ。
気持ちはわかってやりてえけど、放ってもおけないか。なんとかしねーとな。
まったく、雑魚相手でも戦うんは怖ぇのに……とっとと片付けねえと。
恐怖を押し殺しながら、《笛吹き男の凱歌》起動。詩乃とおれ、二人の能力をブースト。
大半は前に出る詩乃が抑えてくれるだろうから、おれは後方から、撃ち漏らした敵を〈破魔〉の力を込めた〈鎧無視攻撃〉で〈スナイパー〉ばりに狙撃したり、詩乃の動きに合わせて〈援護射撃〉を撃ってサポートしたり。
敵の攻勢が激しいなら〈マヒ攻撃〉や〈目潰し〉を仕掛けて妨害して、何とか凌ぐ。
●おくるもの、おくられるもの
大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)は、転送を受けてのちしばし沈思していた。
(「これまでも、神としての生の中で、多くの親しい人々を見送ってきました」)
神名、アシカビヒメ――詩乃は常に『見送る側』の存在だった。
中には、親友といえる人だっていた。
そして、これからは『愛する人』を見送る事になる――覚悟は、出来ていた。
けれど、だからこそ。
(「……茂さんの気持ちは、判る気がします」)
――でも。
「このままでは、起こってしまう悲劇を見過ごせません」
詩乃は前を見据えて、まるで未来を見通したかのように呟いた。
「犠牲者だけでなく、茂さんとハルさんをも、深く傷つけるだろうから……」
さくり、と音がして、詩乃の隣に鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)が並び立つ。
「愛する人を生き返らせたら、とんでもない落とし穴がありました、と」
詩乃をひとりでは行かせない――ちょっぴり、怖いけど。
「世の中、うまい話は無えもんだ」
ともすれば震えそうになる手を握り込んで堪え、詩乃と同じ方を向く。
「気持ちはわかってやりてえけど、放ってもおけないか。なんとかしねーとな」
「嵐さん……」
二人は顔を見合わせると、ひとつ頷き合って、戦う意思をしかと固めた。
「行きますっ!」
(「まったく、雑魚相手でも戦うんは怖ぇのに……とっとと片付けねえと」)
あらん限りの勇気を振り絞る嵐は後衛で待機、詩乃は前衛へと躍り出て布陣する。
(「高速詠唱で、破魔・浄化・毒耐性を持つ結界術を展開します」)
詩乃は己の持てる力を総動員して、対毒瘴気結界を周囲に形成して、煙の姿を猛毒の瘴気と化して襲いかかってくる煙魔たちを次々と中和・無力化していく。
『――、――』
「……くっ!」
だが、数が多い。
徐々に結界ごと覆われてしまいそうな詩乃を援護すべく、嵐が動いた。
「怖くねぇつってんだろ! 【笛吹き男の凱歌(ラッテンフェンガー・パラード)】!!」
誰ともなしにキレながら、嵐が発動させたユーベルコヲドにより、召喚された道化師は可愛いウクレレを手に激しいフラメンコの旋律を奏でる。
ありえない武器でありえないジャンルもノリノリで弾けるニクい奴なのだ。
「嵐さん、何だかテンションが上がる曲ですね!」
「お、おう! そう言ってもらえっとうれしいぜ」
詩乃が、再び煙魔たちをググッと押し返す。嵐は、詩乃が撃ち漏らした個体を相手取る。
お手製のスリングショットを手に取り、手近な小石にちょいと破魔の力を込め、鎧われたものをも無視する一撃で狙い撃ち!
援護を頼もしく思いながら、詩乃が炎のオーラ防御を纏ったヒヒイロカネ製の神鏡で周囲を旋回させて、疫病を消毒していく。
それからも逃れようとする輩がいれば、後方に控える嵐がそれを見逃さない。
詩乃の死角から迫る煙魔たちを援護射撃で事前に消滅させ、嵐自身が狙われればこっちくんなの精神で弾丸に目潰しやマヒ攻撃を仕込んで死に物狂いで追い払う。
頃合いか、と見た詩乃が、「響月」なる龍笛を取り出す。
「この曲は貴方達の葬送の奏で、音に包まれて安らかに眠りなさい」
――そのユーベルコヲドの名は【帰幽奉告(キユウホウコク)】!
『――!!!』
残った煙魔たちが、いっせいに苦悶の様相を呈する。
響月から響く音色が、そして超常の力が、煙魔たちの魂と精神に直接効いているのだ。
(「よし、いいぞ詩乃! さすが!」)
後方でそっとガッツポーズを取る嵐。
でも、嵐さん自身も十分頑張っていましたよ。お二人の勝利です!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
桜雨・カイ
◎
帰宅すると大切な家族が失われていた。
同じ悲しみを、見た事がある(主である弥彦のこと)。
声を上げて泣く姿は辛くて…あんな悲しみは独りで背負えるものではない
あの時自分は人形だった、でも人の身を得た今 自分ができる事があるならば…
まずは茂さんの元へ行かないと
見つけづらいですが何かの気配は感じます
【属性攻撃】で風の力を借りて周囲に風を吹かせます。
「何か」があるのなら、煙や風の流れに違和感があるはずです
場所の目処がつけばそちらの方向へ「巫覡載霊の舞」で「浄化」の力を乗せた衝撃波を放ちます
彼らも影朧ならば、せめて次の転生につながりますように
影朧たちがいなくなれば急いで先へすすみます。
●重なる景色
――帰宅すると、大切な家族が失われていた。
桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、同じ悲しみを、見た事がある。
声を上げて泣く姿は、目を背けたくなるほどに辛くて。
あんな悲しみは、到底独りで背負えるものではないと、知っていた。
(「あの時自分は、人形だった」)
カイは振り返る。まだ、ヒトとしての身を顕現させる前のことだった。
(「でも、人の身を得た今、自分ができる事があるならば……」)
カイを突き動かす思いは、それに尽きた。
「まずは、茂さんの元へ行かないと」
野原で影朧と遭遇する、という漠然とした情報だけを頼りに、五感を研ぎ澄ませる。
(「……見つけづらいですが、何かの気配は感じます」)
影朧は、煙の姿をしていると聞いた。
ならば、風を操る属性の力を行使すれば、どうだろう。
「……」
ざああ、ざああ、と、野原が音を立ててざわめく。
「……?」
野原の合間に、黒い影のようなものが見えた気がした。
風になびく草木とは、明らかに異質な煙の気配だ。
「そこ、です……!」
場所の目処はついた、ならば攻勢に転じるまで。
カイはユーベルコヲド【巫覡載霊の舞】で己の身を神霊体に変えつつ、手にしたなぎなたに浄化の力を込めて、衝撃波を放つ!
『――ッ』
煙魔たちは次々と、声もなく断ち斬られていく。
ただの衝撃波であればすぐ元の姿に戻っていただろう、浄化の力を乗せたのは正解であったと言えるだろう。
(「彼らも影朧ならば、せめて次の転生につながりますように」)
幸い、この地に集った猟兵たちの中には桜の精もいる。カイの願いはきっと叶うことだろう。
(「先を、急がなければ」)
そう、これはほんの序章に過ぎず。
反魂ナイフを振るってしまった男と対峙することこそが、目的なのだから。
大成功
🔵🔵🔵
ムゲン・ワールド
【莉出瑠/f36382】◎
(愛する人にもう一度会えたら、か)
そのキーワードに反応してムゲンが思い付くのは彼がナイトメア適合者に目覚めたきっかけでもある、悪夢の中で出会って恋をした少女、夕蝶(シーディエ)。
ナイトメアはムゲンが夕蝶と一度幸せにさせた上で彼女を殺す事でその悪夢を実現させた。
最終的に激昂したムゲンによってそのナイトメアは調伏され、今に至るわけだが。
(そりゃ、叶うなら会いたい、な)
例え夢の中の架空の人物だとしても茂さんの想いは理解出来た。
(とりあえず、彼の束の間の幸せを守ろう)
最終的に倒すことになるとしても
前衛は莉出瑠に任せ、ムゲンは悪夢クラスターをばら撒き敵を眠らせていく
有栖川・莉出瑠
【ムゲン(アナタ呼び)/f36307】◎
(愛する、二人、引き裂く、許せない)
まず莉出瑠の怒りはそもそもの殺人事件に向く。
(もし、アナタ、死んだら、ワタシ、何、しても、蘇らせる)
莉出瑠はハルと茂の関係を自分とムゲンのそれに投影して感情移入している。(なおムゲン本人は莉出瑠を恋人とは認識していない)
(束の間、でも、平穏、苦しめる、許せない)
だから、目前の影朧は倒す。
ムゲンが眠らせた敵に対して、コスチュームプレイでビキニアーマーを見に纏い、アリスランスを構えて【ランスチャージ】
実体がなかろうと眠っていれば、コアに当たる部分を一撃で仕留めて回る事は可能なはず。
余裕があれば少し精気も頂こう。
●強く、優しく
(「愛する人にもう一度会えたら、か」)
ムゲン・ワールド(愛に生きたナイトメア適合者・f36307)は、グリモアベースで聞いた言葉を反芻する。
そうして真っ先に思い付くのは、己がナイトメア適合者として覚醒したきっかけでもある、とある少女。
悪夢の中で出逢って、恋に落ちたことを、今でもはっきりと覚えている。
夕蝶と書いて、シーディエと読む、美しいひとだった。
幸せだった。それは間違いない。
そしてそれこそが、ナイトメアの狙いでもあった。
――幸福の絶頂で、夕蝶を殺すことで、夢を悪夢に塗り替えた。
(「あの時は、本気で激昂してそのナイトメアを屠ってしまいましたが」)
失われたものは、二度と戻って来ない――そういうものだと、思っていたから。
(「そりゃ、叶うなら会いたい、な」)
自分の場合は、夢の中の架空の人物ではあったけれど。
今回の、野村・茂の想いは我がことのように理解できるつもりだった。
だから、最終的には『倒す』ことになるとしても。
(「とりあえず、彼の束の間の幸せを守ろう」)
ムゲンはそう心に誓い、共にやって来た有栖川・莉出瑠(サキュバス・キュアのパーラーメイド・f36382)の方を見た。
(「愛する、二人、引き裂く、許せない」)
幼さの残る愛らしい表情に、それと分かる怒りを湛え、莉出瑠はちいさな拳を握る。
そもそも、ハルが強盗目的で押し入ってきた男に殺されさえしなければ、こんなことにはならなかったのだ。
それは正しい怒りであるが、犯人を裁くのは他ならぬ法であり、猟兵ではない。
(「もし、アナタ、死んだら、ワタシ、何、しても、蘇らせる」)
莉出瑠が呼ぶ『アナタ』とは、他ならぬムゲンのこと。
ハルと茂の関係を、自分とムゲンのそれに投影し、感情移入しているのだ。
たとえ実際の関係性が『主と元サーヴァント』に収まっているとしても。
(「束の間、でも、平穏、苦しめる、許せない」)
ムゲンが見守る前で、少女は眼前の影朧へと明確な敵意を向けた。
「行けるかい、莉出瑠」
「――ハイ!」
野原に蔓延る煙魔たちに対峙する二人。
先に動いたのはムゲンだった。両手からこれでもかと黒い拡散弾を放ち、次々と煙魔たちのただ中で炸裂させ、悪夢へと誘う。
『――』
見るからに動きが鈍くなった煙魔たちを前に、莉出瑠はとある姿の自分を想像する――最強無敵なビキニアーマーの自分を創造する!
「……っ!」
アリスランスを凜々しく構え、突き立てるのは煙魔たちの胸元にあるコアの部分。
ここを一撃で仕留めて回れば、煙魔たちとてひとたまりもないだろう。
余裕があれば、少し精気も頂こう――なんて。
試してみたけれど、毒気ばかりでとても残念な結果になったそうな。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リュカ・エンキアンサス
ディフお兄さんf05200と
いつも通り。とりあえず倒せばいい
灯り木で順番に攻撃。数が多いらしいので手近にある敵から一掃していく
お兄さんの調子が悪そうだから、なるべく気を配っていこう
大丈夫、この程度なら俺一人でもなんとかなるでしょう
…
まあ、いいんじゃない
もう一度会いたい死者がいるなら、それは真っ当な反応だよ
愚かだと思っていてもそれをせずにはいられないときがある。それが人間だから
勿論、それを思いとどまるのも人間の生き方だけど
俺には会いたい死者なんていないからね
気持ちが囚われることはないでしょう
任せて。お兄さんのことは気を配っておくよ
いざとなったら撃つから、安心して
誰をって。そりゃ…まあ、内緒だよ
ディフ・クライン
リュカf02586と
反魂ナイフなんて
遺骨から死者を蘇生することが出来る道具をも作れているのか
オレは影朧兵器というものが末怖ろしいよ、リュカ
それが影朧を作るものだったとしても
オレは、もしも自分に届いてしまったら
使わないと言える自信がないんだ
それが人間…なら人形も、同じ?
…言っている場合じゃないか
おいで、ムース
森の主を呼び
大角に纏う風にオレの破魔の力乗せ
リュカの動きに合わせて
吹き飛ばしてしまおうか
…どうにも集中しきれない
ナイフの存在が意識にこびり付く
忍び寄る魔刃に気付くのもギリギリで
リュカ、頼みがあるんだ
オレを、見張っていてくれないか
…馬鹿なことを考えないように
…撃つって誰を?
少しだけ眉下げ笑った
●揺らぐもの、揺らがぬもの
ざああ、ざああ。
野原が、音を立てる。
美しい景色にはおよそ似つかわしくない煙魔たちがゆらゆらと、揺れている。
――ぱぁん!
乾いた銃声が響く。リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)の一撃だ。「灯り木」の銘持つ良く手に馴染むアサルトライフルは、狙い違わず煙魔の胸元に見えるコアの中心を撃ち抜いていく。
(「いつも通り。とりあえず、倒せばいい」)
まるで、近未来世界の模擬戦闘シミュレーターで対多数戦の訓練でもしているかのよう。
リュカにとっては、それだけ『いつも通り』の戦いであったのだ。
だが、そうではない者もいる。
戦わねばと、頭では分かっているのに、巡る思考に囚われ頭を垂れてしまう者がいる。
「……反魂ナイフなんて、遺骨から死者を蘇生することが出来る道具をも作れているのか」
己の両の掌を見つめながら、ディフ・クライン(雪月夜・f05200)は声を震わせた。
「オレは影朧兵器というものが末恐ろしいよ、リュカ」
「……」
その手に、反魂の力持つナイフが置かれる幻覚が見えた、気がした。
「それが、影朧を作るものだったとしても」
その事実を知らなくても、知っていても。
「オレは、もしも自分に届いてしまったら、使わないと言える自信がないんだ」
ディフの両手が、目に見えて震えていた。これでは、戦えそうにない。
だからリュカは、ディフの調子を気遣って、なるべく気を配ろうと決めた。
(「大丈夫」)
夜明けに星が揺れるように、マズルフラッシュが瞬き、煙魔たちが霧散する。
(「この程度なら、俺一人でもなんとかなるでしょう」)
侮るなよ。
数多の敵を、悲劇を、乗り越えるための弾丸だ。
リュカは表情こそ変えないものの、戦う者の矜持を胸に、銃撃を続けた。
「……、まあ、いいんじゃない」
ひと段落したところで、リュカがぽつりと言った。ディフが、弾かれたように顔を上げた。
「もう一度会いたい死者がいるなら、それは真っ当な反応だよ」
ディフの懼れを、否定はすまい。
ひととひととの関わりを知る者ならば、誰もが持ちうる感情だと、知っているから。
「愚かだと思っていても、それをせずにはいられないときがある。それが、人間だから」
――勿論、それを思いとどまるのも、人間の生き方だけど。
そう、言外に含めつつ、リュカはディフをじっと見る。
見つめられたディフは、気持ちに区切りをつけようと、口を開く。
「それが人間……」
屁理屈ではないけれど、人ならざる身ならば、どうか。
「なら『人形』も、同じ?」
自分で言ってみて、詮なきことだと自嘲気味に薄く笑んだ。
「……言っている場合じゃないか」
そう言って、ディフは遂に立ち上がる。
従えるは、『森の主』たる巨大なヘラジカ――名を、ムースと言った。
「おいで、ムース」
巨大な角は風を纏い、ディフによって破魔の力を付与され、いまだ残る煙魔の残滓めがけて突撃すれば、あっという間に霧散せしめる。
「……」
立ち向かう意思を見せたディフを見守るのは、リュカ。
(「俺には会いたい死者なんていないからね、気持ちが囚われることはないでしょう」)
だが、ディフはどうか。
どこか、心ここにあらずという風に見える。
(「……どうにも、集中しきれない」)
案の定と言うべきか、ディフの脳裏には、かの禁断のナイフの影がちらついていた。
煙魔は、ハイドスモーカーという視認が非常に難しい存在を召喚してけしかけてくる。その凶刃がディフの喉元にまで迫ろうかという時に初めて、リュカに腕を引かれて辛うじて回避することができた。
そうしてひと仕事終えた森の主が、ディフを気遣うように戻ってくる。
ありがとう、と声をかけ、森の王ムースをあるべき場所へと帰還させるディフ。
「リュカ、頼みがあるんだ」
覇気の戻らぬ声で、ディフがそう言うものだから、リュカが少しだけ目を細める。
「オレを、見張っていてくれないか。……馬鹿なことを考えないように」
細めた目が、今度はまあるく見開かれた。
自分にしては忙しいことだと思いつつ、リュカは声音を変えずに答えた。
「任せて。お兄さんのことは、気を配っておくよ」
言いつつ、指で鉄砲の形を作り、ほんの少しだけ笑った。
「いざとなったら撃つから、安心して」
「……撃つって、誰を?」
「誰をって。そりゃ……まあ、内緒だよ」
ディフの問いをはぐらかし、リュカは鉄砲の形を解いて、手をひらひらさせた。
ひとのこころはむずかしい。
きっと、この煙魔たちとの戦闘より、ずっと大変に違いないのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
夜刀神・鏡介
理に反したとしても、大切な人ともう一度逢えるなら……か
その誘惑を完全に跳ね除けられる人は少なくないだろうな
浄化と破魔の力を秘めた神刀を引き抜く。これなら煙魔に対しても有効打を与えられるだろう
神気を纏って毒煙、瘴気から身を守りつつ、手近な敵に切り込んでいく
数の優位で囲んでくるならば、澪式・肆の型【玉輪】
素早く身体を回転させつつ神刀を振るい、周囲の敵を切り崩す
敵が合体したなら、注意を割くべき相手が減る分やりやすい
どれだけ強化されたか、警戒は必要だが……落ち着いて攻撃を見極めて回避、受け流してカウンターで端から切り倒していこう
――俺も、仮に自分が猟兵でなければ。それに手を伸ばしたかもしれないものな
●甘き誘いの刃
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は、最初の事件の現場となる野原へと転送を受けて、油断なく周囲を見回しながら考える。
(「理に反したとしても、大切な人ともう一度逢えるなら……か」)
しかもそれが、満足の行く別れが叶わなかった間柄だとしたら、どうだろう。
(「その誘惑を、完全にはね除けられる人は、少なくないだろうな」)
理解は、する。
許容は、また別の話。
故に、鏡介は通常の刀では斬れない相手を斬るために、神刀【無仭】を引き抜く。
(「これなら、煙魔に対しても有効打を与えられるだろう」)
鏡介の読みは実際正しく、既に破魔や浄化の力で対抗する猟兵たちも多かった。
神刀から放たれる神気を鏡介自身も身に纏い、煙魔たちの毒煙や瘴気から身を守りつつ、与しやすい場所にいる個体から切り込んでいく!
話に聞いていた通り、一体一体は一撃で屠れる程に弱い。
だが、いかんせん数が多い。
「……くっ」
斬れども斬れども、徐々に退路を塞がれていくことが分かる。
このままでは劣勢に――そう易々とはならないのが、鏡介の研ぎ澄まされた実力だった。
「崩れろ――【澪式・肆の型【玉輪】(レイシキ・シノカタ・ギョクリン)】」
自身の身体を軸にして、素早く回転しながら神刀を振るえば、周囲の敵は文字通り雲散霧消していく。
『――、――』
残された煙魔たちが劣勢を悟ったか、個体同士の身を寄せ合い徐々に合体巨大化していくのが見て取れた。
(「構わない、注意を割くべき相手が減る分、やりやすい」)
鏡介はどこまでも冷静に、もくもくとその身を大きくしていく煙魔を観察する。
巨大化により攻撃力が強まっている可能性はあるが、当たらなければどうということはない。攻撃のモーションも予想通り大雑把になっており、見切りやすいというもの。
「――参る!」
薙ぎ払うように振るわれた巨腕を神刀で受け流し、返す刀で思い切り斬り付けた。
黒雲が晴れるように、煙魔たちが消えていく。
神刀を鞘に収めしばし瞑目した後、鏡介は呟いた。
「――俺も、仮に自分が猟兵でなければ」
誰にも、聞かれてはならない一言を。
「それに、手を伸ばしたかもしれないな」
大成功
🔵🔵🔵
ジェイクス・ライアー
同情の余地はあれど、
彼は踏み入ってはならない一線を越えた。
過去は過去。…どれだけ願おうとな。
オブリビオンと成り果てたのならば適切に〝処理〟をする。
それが私のルールだ。
【WIS】
散弾銃掃射は空へ消え、仕込み刃での斬り付けも霞を切るよう。
前情報通り、物理的な攻撃では決め手に欠ける。
弱点に対策を。
暗殺に静けさを。
[空中戦]は得意でね。
空を駆け、複数敵を包囲する。
鋼糸を巡らせ面を作ることで初めて、[結界]は発動する。
本来は盾となるものだが、箱を作るにも最適だ。
タイピンを折り、中へと放れば炎球が放たれる。
塵も熱も音も通さない。
●冷厳なる紳士
その男は、誰もが認めるところの、紳士であった。
誇り高く、揺るぎなく、己の信念を貫く――まさに、紳士。
故に彼は――ジェイクス・ライアー(驟雨・f00584)は、革靴で野原に踏み入りながら、決然と前を向いていた。
(「同情の余地はあれど、彼は踏み入ってはならない一線を越えた」)
ジェイクスが目を向けるのは、ただ、事実のみ。
(「過去は過去。……どれだけ願おうとな」)
いちど、しんだ、にんげんは、にどと、かえってこない。
還ってくるものがあるとすればそれは――猟兵たちの敵、その名も。
(「オブリビオンと成り果てたのならば、適切に『処理』をする」)
ざああ、ざああ。
野原が風を受けて音を立てる。
不穏な気配が見え隠れする。
まずは、露払いからと行こうか。
「それが、私のルールだ」
煙魔エグゾヲスト、立ちはだかる靄のような影朧たちはそう呼ばれていた。
彼奴等に関する事前情報はジェイクスも知る所ではあったけれど。
さも当然のように身体の一部のごとく右手に握られていた黒い傘の先端が、突如火を噴いた。誰がそれを散弾銃だと見破ることが出来ただろうか?
『――』
しかし、煙魔たちは嘲笑うような顔で、散弾銃掃射をことごとく素通りさせる。
「――」
紳士の次の一手は、突進からの回し蹴り――に見せかけた、爪先から飛び出した仕込み刃による斬り付けだった。
しかし、それもまた霞を切るような浅い手応えであった。
(「前情報通り、物理的な攻撃では決め手に欠ける」)
まるで武器など携行していないように見えて、かの紳士は、全身これ武器庫の如し。
まだ、見せた手札は氷山の一角に過ぎないと知るがいい。
「弱点に対策を、暗殺に静けさを」
言うなり、ジェイクスは跳んだ。
宙に足場があるがごとく、時には煙魔の頭部さえ踏み台にして、蝶が舞うようにジェイクスは空を駆ける。
『――』
紳士を捕らえようと躍起になった煙魔たちが、単純にその軌道を追いかけるものだから、自然とある一ヶ所へと集められていく。
自然と?
――否!
ジェイクスはただ戯れに宙を駆けていた訳ではない。
移動と同時に、鋼糸を巡らせ、『面』を作る。全ては計算された動きだったのだ。
「本来は盾となるものだが、箱を作るにも最適だ」
これは、結界。
まんまと中に封じ込められた影朧の行く末は――知れたこと。
――ぴぃ、ん。
ジェイクスがタイピンを折り、結界の中へと放れば炎球が放たれる。
無論、逃げ場など存在しない。
塵も、熱も、音も、通さない。
どこまでもスマートに、適切な処理は行われた。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・つかさ
◎
幸福な日々を無残に、理不尽に奪われる。
夫婦共に、さぞや無念だったことでしょう。
影朧兵器を使ってしまったという行いそのものは過ちではあるけれど、責める気にはなれないわ。
敵に対しては【破邪入魂拳】を発動
これは「悪いモノ」のみを打ち砕く浄化の拳であり、疾病や猛毒の類は悉く浄化対象
そして瘴気を浄化すれば、それは清浄な空気となり、無害化できるはず
(もしかしたら「癒し」を与えたように転生できるかもという狙いもある)
自分の調子が悪くなってきたら自分で自分を殴って回復する
ハルさんをこのままにしておくわけにはいかない。
けれどせめて、できるだけ心残りの無い別れになるようにしないといけないわね。
●なんでも解決する拳
一通りの情報を得て、グリモアベースからの転送を受ける。
降り立った野原で、荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)は思いを馳せた。
(「幸福な日々を無残に、理不尽に奪われる」)
ずっと続くと思っていた『当たり前』が、突然終わりを告げる。
(「夫婦共に、さぞや無念だったことでしょう」)
それは、己に勝る益荒男にいまだ巡り会えずにいるつかさであっても、想像にあまりあるというもの。
だから、思うのだ。
「影朧兵器を使ってしまったという行いそのものは過ちではあるけれど」
その結果として、野原にうごめく煙魔たちを睨みつけて。
「――責める気には、なれないわ」
『――、――』
煙魔たちは、拳ひとつで殴りかかってくる猟兵を見て、やれるもんならやってみろと言わんばかりの顔をしてみせた。
直後、その顔が苦悶の表情に歪むさまを、誰が想像しただろうか?
「一拳入魂……我が拳に、殴れぬものなしッ!」
――ユーベルコヲド【破邪入魂拳(イノセント・フィスト)】なり!
どうして、という風に煙魔たちが次々とつかさの『拳』によって浄化されていく。
その様子に、つかさは絶え間なく拳を振るいながら、口を開く。
「教えてあげるわ。これは『悪いモノ』のみを打ち砕く浄化の拳」
『――』
ならば、煙魔エグゾヲストのような、疾病や猛毒の類はことごとく浄化の対象である。
「ねえ、あなたたち、もしかしたら転生さえも叶うかも知れないわね」
一体一体、ある意味心を込めてぶん殴りながら、つかさは情けさえ見せてみせた。
この別名『痛いの飛んでけパンチ』によって、瘴気さえも浄化され、周囲の空気はこの野原がもともとそうであったかのように無害化されたのである。
(「……ちょっと、肺に入ったかしら」)
最後に残った足のよろめきは、煙魔たちの最後の悪あがきか。
「……ふんッ!!」
ならば、それさえも浄化しよう――つかさは、歯を食いしばって己の鳩尾を殴った。
これで、『転生者』に引き寄せられた低級の影朧はあらかた駆逐できたであろうか。
つかさは、遠目に見える旅館へと向かいながら、決意を新たにした。
「ハルさんを、このままにしておくわけにはいかない」
ここは、サクラミラージュ。
影朧が転生を許される、優しい世界。
「けれどせめて、できるだけ心残りの無い別れになるようにしないといけないわね」
――その時は、刻一刻と迫っていた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『あなたのことを教えて』
|
POW : 積極的に話しかける。
SPD : 関心を持たれそうな話題を提供する。
WIZ : 場を和ませるように、笑顔で接する。
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●本当に欲しかったものは
「いいお湯だったわね、あなた」
「……ああ、そうだね」
浴衣に丹前姿の夫婦が、こぢんまりとした和室でくつろいでいた。
「お食事もとても美味しくて、あっという間に食べ終わってしまったわ」
「……それは、良かった」
ころころと花のように笑いながら喜びを語る妻に対して、夫の反応はどこか上の空。
これは、確かに望んだ未来のはずだ。
けれど、言い知れぬ不安が夫――野村・茂の心を蝕むのだ。
こんこん。
部屋の扉が叩かれ、茂が応対に出ると、廊下に宿の女将が一礼してこう言った。
「野村様に、お客様でございます。よろしければ、ロビーにお通し致しますか?」
「……! あ、ああ、そうしておくれ」
かしこまりました、と一礼して去って行く女将を見送る茂。
「――あなた?」
いつまでも入口に立ち尽くす茂に、ハルが声をかける。
「この近くに、古い友人が住んでいてね。訪ねてきてくれたようだから、少し顔を出してくるよ」
嘘を吐くのは、心苦しかった。
けれども、これ以上ひとりで抱え込むのは、もっと苦しかった。
だから、ハルに「一緒に行こう」とか「紹介するよ」だなんて、とても言えなかった。
ハルはハルで、自ら人前に出るのは必要最低限にしているので、その点は問題なく。
「ふふ、茂さんは人気者ね――楽しんでいらして」
――ぞくり。
何気ない一言のはずが、茂にどうしようもない怖気をもたらした。
「……ありがとう、そう遅くならないようにするから」
そう言うのが精一杯で、茂は部屋を後にした。
自分を訪ねてきたものに、心当たりは正直なかった。
けれども、ハルの反魂を知った帝都桜學府や超弩級戦力が、いよいよ己を糺しにやって来たということは容易に想像出来た。
そうであって欲しいような、欲しくないような。
自分で自分が分からない。
今のハルをハルと呼んでいいのかどうかさえ、分からない。
(「……ハル、僕は君を、どうすべきだったんだ……」)
ロビーに向かう足は、枷を嵌められたかの如く重い。
理不尽に奪われた命なのだから、理不尽を以て取り戻されたっていい。
最初はそう思っていたのに、還ってきたハルを、前と同じように愛せない。
何故? どうして?
やはり、理に背く行いには相応の報いが与えられるというのか?
「……お待たせしました。僕が『野村・茂』です」
自分を訪ねてきたという者たちに、友人知人は誰一人としていない。
けれど、予感がした。
彼らとの対話が、状況の打破につながるのではないか、と。
●補足
今回はメタ情報(PL情報)を開示します。プレイヤー様は知らない情報なので、プレイングへの活かし方にはご注意下さい。
・現在のハル=反魂者は、『反魂ナイフ』によって「己の魂」と「強力な影朧」のふたつが融合されたことで生まれた怪物です。
・説得を成功させて、茂に「反魂者を倒すこと」を納得させられれば、「影朧から魂が分離した状態」で、ハルの魂と茂の両方から応援されつつ影朧と戦えます。
・説得が叶わなかった時は、影朧はハルだけでなく茂まで体内に取り込んで、超パワーアップした状態で襲いかかってきます。
・いずれの場合も、影朧を倒せばハルの魂は成仏します。
・戦闘は第3章で行われます。この章では説得に専念して下さい。
神臣・薙人
×
武装はイグニッションカードに収納
茂さんに対しては
年長者に対する礼儀を忘れないよう心掛けます
まず初めに挨拶と名乗りを
初めまして
猟兵の神臣薙人と申します
ハルさんの件で参りました
少しお話をさせて下さい
何処か人目の少ない所に座りましょう
私は茂さんのなさった事を
責めるつもりはありません
好きな人にもう一度会えるなら
私もきっと、同じ事をしてしまう
でも茂さんはお気付きなのですよね
今のハルさんは
貴方の愛したハルさんではないと
ハルさんに会わせて頂けませんか
私は終わらせたいのです
貴方の中のハルさんが
ハルさんであるうちに
ハルさんでなくなってしまう前に
どうぞ憎んで下さい
恨んで下さい
それでも私は
貴方のハルさんを守りたい
●名残りの雪
どんなに素っ頓狂な格好をしていようが、一般人からは何一つ訝しがられない。
そんな、猟兵が持つ『世界の加護』があるとしても、神臣・薙人が一品もののイグニッションカードに全ての武装を収納してから、その上で野村・茂氏を訪ねたのは、ある種の儀礼めいた側面を持ち、また薙人の茂への敬意の表れでもあったろう。
事実、ロビーで初めて顔を見合わせた時にはどこか警戒心を顕わにしていた茂が、薙人の深々とした一礼からの一連の礼儀正しい所作に、自然と本来の人の好さを表情に取り戻したのだから、薙人のアプローチは完璧と言っても良いだろう。
「初めまして」
礼を失しない程度の視線で茂を見据え、薙人は名乗る。
「猟兵の、神臣・薙人と申します」
「……猟、兵」
ああ、そうか。
やはり、そうか。
そう、言いたげな声だった。
「ハルさんの件で参りました、少しお話をさせて下さい」
変に隠し立てをするでもなく、逆に威圧的になるでもなく、絶妙なバランス。
誠実さこそが、こういった場面でものを言うのかも知れない。
「……分かりました」
何処か、人目の少ない所に座りましょうと、薙人はロビーに置かれたダルマストーブから敢えて離れた隅の方へ茂を導くように歩いていく。
まだ雪残る、寒い夜だった。
だからロビーに集う他の宿泊客は、皆してダルマストーブに夢中だった。
「……お気付き、でしたか」
白を切ることも考えられたが、茂は素直にハルの件を認めた。
「私は茂さんのなさった事を、責めるつもりはありません」
薙人が、努めて穏やかな口調で一句一句を紡ぐ。
「好きな人にもう一度会えるなら、私もきっと、同じ事をしてしまう」
「……!」
てっきり糾弾を受けるものかと覚悟していたのだろうか、茂は薙人の言葉に驚く。
理解を得られたことの喜びが勝りそうになり、しかし、茂はすぐに俯いた。
「……優しいのですね、ありがとうございます」
膝の上で両の拳を握り、そう、絞り出すような声で茂が言った。
俯いてしまったものだから、目を合わせることはできないけれど。
「でも、茂さんはお気付きなのですよね」
「……」
丁寧に、一枚一枚、ヴェールを上げていくように。
「今のハルさんは、貴方の愛したハルさんではないと」
「……神臣さん、でしたか」
薙人の言葉に、茂が返す。
「あなたは先程、僕に理解を示してくれた。けれど――」
おそろしいことを、してしまった。
俯いたままの茂に、優しく語りかける薙人。
「ハルさんに、会わせて頂けませんか」
「……それ、は」
茂が、顔を上げた。
随分と、顔色が悪い。
「私は、終わらせたいのです。貴方の中のハルさんが、ハルさんであるうちに」
それは、核心を突く言葉。
茂を憔悴へと責め立てる、愛する妻であるはずの存在。
「――ハルさんで、なくなってしまう前に」
「神臣さん、それは……つまり」
もはや、疑いようもないことだった。
有り得べからざる奇跡は、過ちであったのだと。
「どうぞ、憎んで下さい。恨んで下さい」
「……どうしても、そうなって、しまいますか……」
名残惜しさの声音が、薙人の胸を締め付けるよう。
「それでも私は、貴方のハルさんを、守りたい」
けれども、薙人は思いの丈をしっかりと伝えた。
悪いようにはしない。
だからどうか、理解って欲しい。
猟兵たちの思いが、これから、次々と届けられていく――。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
世に納得できる別れなど滅多にないだろうが。それが殺人事件によるものならば尚更だ
だから、蘇生に手を伸ばした事は責めない
彼も察しているようだから、此方がある程度の事情を知っている事ともう一つ
そして、逆効果の可能性もあるが。黙っているのは公平じゃないだろうから
あなたが納得できなくとも、俺はハルさんを――蘇った者を殺す。と
ああ、はっきり殺すと言おう
共感も同情もする。だが、どこまでいっても蘇生は世界の理に反している
何の代償もなく維持し続ける事が出来る筈もない
そう遠くないうちに致命的な破滅が訪れるだろう
どうあっても、彼女を助ける事はできない
だから、せめて穏やかに終わらせたい。それがお互いの為だと思うから
●優しい刃
ロビーの隅に佇む茂のもとに、夜刀神・鏡介がやって来た。
「こちら、座っても?」
「……ええ、どうぞ」
窓を背にした長椅子席の反対側、一人掛けのソファーに鏡介が腰をかける。
「……」
「……」
しばし、沈黙。
その間に数度、茂の方から何かを言おうとしては口を噤むのが、繰り返された。
「世に納得できる別れなど滅多にないだろうが」
言わねばならぬと意を決し、鏡介が先に切り出した。
「それが殺人事件によるものならば、尚更だ」
「……」
当時のことを想起させるのは申し訳なく思うが、避けては通れぬ道でもある。
「だから、蘇生に手を伸ばした事は、責めない」
「……」
理解を示してもらえるのは、正直に言って嬉しい。
けれど、最終的な結論に至るのが、怖かった。
だから茂は、なかなか口を開けずにいた。
(「彼も、察しているようだから」)
鏡介は、自分たちが茂とハルを追ってここまで来たこととその理由を簡潔に語る。
愛妻の突然の死。何者かが届けてきた反魂ナイフ。妻の蘇生。そして――違和感。
「……夜刀神さんの、仰る通りです……」
茂自身、誰かに助けを請いたかったのかも知れない。
事情をだいたい把握してくれているならば、信じるに値する相手だと。
――だが。
(「逆効果の可能性もあるが、黙っているのは公平じゃないだろうから」)
「難しいかも知れないが、落ち着いて聞いて欲しい」
鏡介は、茂を見据えて、一言一言を冷静に告げた。
「あなたが納得できなくとも、俺はハルさんを――蘇った者を、殺す」
「!」
強い言葉に、茂が目を見開いた。
ああ、言うとも。
どんなに残酷なことでも、避けられぬ事態ならば、告げておかねば。
「共感も同情もする。だが、どこまでいっても蘇生は世界の理に反している」
「……ええ……」
してはならないことを、してしまった。
だから、今の息苦しさがあるのだと、茂は必死に理解しようとする。
「何の代償もなく維持し続ける事が、出来る筈もない。そう遠くないうちに、致命的な破滅が訪れるだろう」
鏡介が、淡々と事実を述べる。
当然のことながら、茂やハルが憎いだとか許せないだとかでは、決してない。
起こってしまった出来事への、せめてもの最良の選択肢を、提示しているのだ。
「どうあっても、彼女を助ける事は、できない」
これからも末永く、夫婦仲良く暮らしましたとさ――とは、どうしても行かない。
「だから、せめて穏やかに終わらせたい」
茂が、縋るような目で鏡介を見て、言った。
「……どうしても、ハルは死ななければ、なりませんか」
「……それが、お互いの為だと思うから」
理解って欲しい。
それだけが、猟兵たちの願い。
大成功
🔵🔵🔵
ディフ・クライン
リュカf02586と
オレは貴方の気持ちが判らないでもない
理不尽に奪われた大切な人を取り戻したいと…オレも考えていたから
それがいけないことだというのも判っていてね
今もナイフの存在がちらつくよ
でも、ナイフを使われた彼女は影朧になる
その既に片鱗はあるんじゃないのかい
代償無く死者を蘇らせることが出来るなんて都合のいい話はないんだ
…貴方は何がしたかったんだい
突然の理不尽な別れに耐えられなくてナイフを使い
心残りを拭って
きちんと、別れを言いに来たんじゃないのかい
…ほとんど自分に言い聞かせているようなものだ
願いは、重いか
本当だね、潰されそうだ
でも、リュカの前で馬鹿な事はしたくないから
まだ立ててるのかもしれない
リュカ・エンキアンサス
ディフお兄さんf05200と
説得とかそういう物腰やわらかなことは(面倒なので)お兄さんに任せることにする
その人の様子でものんびり観察するかな
俺はさ、別に人間はやりたいことすればいいと思うんだよね
別にそれで誰が死のうと、不幸になろうと、それはその人の運が悪かっただけの話
そして、そのやりたいことする人が目に余れば、やっぱり誰かがあなたを退治したいと思う。そして戦って勝った方の願いが残る。それだけの話
…ただ
あなたはだれを不幸にしても自分たちだけが幸せならそれでいい、って人には見えないけれどね
いや
あなたが選んだ道ならば、もうちょっと自信もって幸せそうにしてた方がいいって話だよ
願いってものは、重いんだよ
●抱く思いの重さ
「説得とかそういう物腰やわらかなことは、ディフお兄さんに任せることにするから」
そう言って、リュカ・エンキアンサスはディフ・クラインに先導を頼む。
決して面倒だからとかそういうことは――あるのだが、人には得意不得意がある。
ディフもリュカの性分を良く分かっていたから、素直に承諾して、先を行った。
野村・茂は、ロビーの隅の席に座って、ただじっとしていた。
そこに静かに近づいたディフが「こんばんは」と声をかけ、一礼する。
「……ああ、こんばんは」
憔悴に近い声音で、ぎこちない挨拶が返ってきたのを確認して、ディフは向かいに座る。
そんな二人の様子を、隣の席に腰掛けたリュカがのんびりと観察していた。
猟兵が告げることは、おおむねひとつ。
『今のハルはハルではない、影朧となってしまったから、還さなければならない』
頭ではそれが正しいことだと、茂はとうに理解していた。
けれど、いざ蘇ったハルを前にすると、あまりにもあの日の面影そのままなものだから、一度あんな惨たらしい死に方をしたハルを再び殺すのか、と躊躇してしまうのだ。
テーブルの上で、ぎゅっと両手を組み合わせる茂。
ディフが、柔らかい口調で、そんな茂に話しかけた。
「オレは、貴方の気持ちが判らないでもない」
「……」
多分、理解は誰からも示されたのだろう。その言葉だけでは手応えがない。
「理不尽に奪われた大切な人を取り戻したいと……オレも考えていたから」
ほんの少し、茂の肩が震えたような気がした。
「それが、いけないことだというのも判っていてね」
「……あなたも、誰かを……亡くしたのですか……」
茂の問いに、さみしそうに笑むだけで返すディフ。
「今も、ナイフの存在がちらつくよ」
差出人不明の、今にして思えば怪しいことこの上なかった――『反魂ナイフ』。
その正体をよく知るディフでさえ、今なお心が揺らぐ、まさに禁断の影朧兵器。
誘惑を自ら振り払うように、ディフは声音に少し力を込めて、告げた。
「でも、ナイフを使われた彼女は、影朧になる」
――影朧になる。
茂にとって、心当たりしかない言葉だった。
「既に、その片鱗はあるんじゃないのかい」
花のように笑いながら、隠し持った棘で無体を働いてしまいそうな危うさよ。
それを知るからこそ、猟兵たちは口を揃えて『対処』を訴えるのだ。
「代償無く死者を蘇らせることが出来るなんて、都合のいい話はないんだ」
「……っ」
茂が、ディフの言葉に耐えきれず俯いた。まるで、涙をこらえるように。
しばしの沈黙がロビーの一角を支配して――それを、リュカが破った。
「俺はさ、別に人間はやりたいことすればいいと思うんだよね」
あくまで個人の見解です、という顔で。
「別にそれで誰が死のうと、不幸になろうと、それはその人の運が悪かっただけの話」
「……それは」
茂が、絞り出すような声を上げた。
「ハルが、あんな死に方をしたのも……運が悪かった、と」
その問いにリュカは否定も肯定もせず、ただ淡々と言葉を紡ぐ。
「そして、そのやりたいことする人が目に余れば、やっぱり誰かがあなたを退治したいと思う」
――あなたの奥さんを殺した犯人は、ちゃんと逮捕されて法で裁かれるんだろう?
――それと、同じ。
「……」
「そして、戦って勝った方の『願い』が残る。それだけの話」
そう言ってリュカは、とうとう茂の顔を見ることなく、再び口を閉じた。
苦しい。
正しい言葉こそが救いをもたらすと知っていてなお、苦しい。
歯を、食いしばる。
ハルを守るにせよ、還すにせよ、自分がしっかりしなければならないのだから。
そう葛藤する茂に、ディフが尋ねた。
「……貴方は、何がしたかったんだい」
「……僕、は……」
「突然の理不尽な別れに耐えられなくてナイフを使い、心残りを拭って」
光が、射すような錯覚を覚えた。
「きちんと、別れを言いに来たんじゃないのかい」
心の凝った部分を照らして、溶かしていくような、光。
ハルをどうすべきかは――理解していた。
それを決断して行動に移すには――まだ、背中を押す力が足りない。
(「ほとんど、自分に言い聞かせているようなものだ」)
ディフは瞑目し、リュカが本当に何気なく呟いた。
「……ただ、あなたは『だれを不幸にしても自分たちだけが幸せならそれでいい』、って人には見えないけれどね」
「……え」
苦しかった。
ハルが蘇って嬉しかったはずなのに、ずっとどこか苦しかった。
禁忌に触れてしまった罪悪感。
ハルがハルでないような不安。
それが、一言で理解されたような気がして、茂はハッと顔を上げた。
リュカから見て、それはもう酷い顔をしていたものだから。
「いや、あなたが選んだ道ならば、もうちょっと自信もって幸せそうにしてた方がいい、って話だよ」
どうしてこんなに苦しいのか。
リュカが、明快な答えを出した。
「『願い』ってのは、重いんだよ」
(「願いは、重いか」)
ディフは、鼻の奥がつんとするような感覚を覚える。
(「本当だね、潰されそうだ」)
――でも、リュカの前で馬鹿な事はしたくないから、まだ立てているのかも知れない。
「僕が、選んだ……」
茂は、反魂ナイフを振り下ろした時、どんな願いを抱えていたのか。
こうなった今、どんな願いを抱くのか。
その答えは、多分きっと、今夜中には出るのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雪華・風月
◎【六道凛女】
千里さんの紹介に、雪華・風月ですと頭を下げ挨拶
それにしても直球すぎでは?と非難の視線を送りつつ
低級の影朧の話には千里さん!とそこまで話す必要はあるのかと批判を
わたしは未だに恋の経験はありませんが
愛する人を亡くし蘇ってもらいたい…気持ちは理解できます
されど、今のハルさんは影朧兵器によって歪んでしまった存在です
茂さんも理解してるのでは無いですか?どこか生前の彼女と違う…と
いずれその不安が大きな亀裂になるやもしれません…
反転、彼女に恐怖や嫌悪等を抱いてしまう可能性
何より、茂さん
彼女を手に掛けたとは言え、その男性に仕返し…
愛する人が手を血に染める…そんな光景見たいでしょうか?
六道銭・千里
◎【六道凛女】
野村・茂さんやな。
単刀直入に言うわ、俺は陰陽師、こっち(風月)は帝都桜學府。んで、話はハルさんの件言ったら後は分かるよな?
と、まぁ今更隠すとは思わんけど押し問答とか面倒いしな
愛する人、急な別れや。魔が差すんも分かる
けれど生者と死者でやっぱ理が違う
黄泉比良坂のイザナミ、イザナギの例えをだし
実際ハルさんの気配に惹かれて低級の影朧が集まってたことも
影朧によっておこる悲劇、この世界のあんたのほうがよう知っとるやろ?
このまま放っといたら嫁さんの影響で無関係の周囲の人にも、そんであんたにも災を及ぼす可能性がある
今度は別れの言葉を交わすことが出来る
そう思ってハルさんを桜の輪廻に返したらんか?
●桜の輪廻へ
ハルは、今頃どうしているだろうか。
僕の帰りが遅いから、心配して見に来てしまいやしないだろうか。
それとも、もう一度お湯をいただいているかも知れない。
どのみち、残された時間は――。
「野村・茂さんやな」
次に向かいの席に座った六道銭・千里は、雪華・風月と共に茂を見た。
「俺は陰陽師、こっちは帝都桜學府」
「雪華・風月です、よろしくお願いします」
千里の紹介を受けた風月は、ぺこりと頭を下げて茂に挨拶をする。
「んで、話はハルさんの件言ったら、後は分かるよな?」
「……はい」
茂の顔色が相当悪いのを見て、風月が慌てて「直球すぎでは?」と千里をつつく。
風月からの非難の視線も何のその、千里はどっしりと構えてそれを受け流す。
「と、まぁ今更隠すとは思わんけど、押し問答とか面倒いしな」
「……そう、ですね」
半ば諦念が混じる声音で、茂が千里の言葉に同調した。
ただ、千里とて地獄の獄卒ではあっても鬼ではない。
できるだけ禍根を残さぬように尽力するつもりでやって来たのだ。
「愛する人、急な別れや。魔が差すんも分かる」
誰もが思う――せめてもっと、違う形での別れであったならと。
「けれど、生者と死者で、やっぱ理が違う」
「……」
似て非なるものと化したハルに対して、相当葛藤を抱えていたのだろう。
茂は、黙って千里の話を聞いていた。
「黄泉比良坂の、イザナギとイザナミの話は知っとうか」
国造りの夫婦神、その妻が亡くなったことを嘆いた夫が、冥界まで妻を求めて会いに行くものの、最終的には離別をせざるを得なかった神話。
「……通説程度ですが、おおまかには知っているつもりです」
「イザナミはヨモツシコメを使ってイザナギを追った、それを思い出したわ」
気づいていただろうか。
きっと、気づいていないに違いない。
だから、千里が告げるのだ。
「実際、ハルさんの気配に惹かれて、低級の影朧が外の野原に集まっとった」
「千里さん……!」
驚きを隠せない茂と、そこまで言う必要はあるのかと咎める風月。
しかし、事態はそれだけ切迫しつつあるのも、また事実。
ますます顔色を悪くした茂をフォローすべく、今度は風月が語り出した。
「わたしは未だに恋の経験はありませんが、愛する人を亡くし、蘇ってもらいたい……気持ちは理解できます」
真摯な姿勢で茂と向き合う風月に、茂はなんとか微笑んでみせる。
「……ありがとう、お嬢さん。その気持ちだけでも、嬉しいよ」
ああ、この野村・茂という男は――怒りや悲しみを外に向けられないのだ。
すべて内に内にと内包していき、誰を憎んだりすることも滅多にない。
故に、妻を殺された怒りよりも、妻が還ってきた喜びの方が勝ったのだ。
――そんな人から、最愛の人と、二度も別れさせるのか。
風月の胸は痛んだが、それでも『そうしないと起きる悲劇』の方がより大きいと知っていたから、頑張って言葉を紡ぐことができた。
「されど、今のハルさんは影朧兵器によって歪んでしまった存在です」
そう言われてみれば、そうなのかも知れない。
茂には、心当たりがたくさんあった。
「茂さんも理解してるのでは無いですか? どこか、生前の彼女と違う……と」
沈黙からの、一度の頷き。
ハルは良く出来た女であったが、物騒なことなど微塵も考えない才女だった。
「いずれ、その不安が大きな亀裂になるやもしれません……」
愛しているからこその、反転が起きた時に、恐怖や嫌悪感を抱いてしまう可能性。
思えば、酷い話だった。
突然最愛の人を奪われ、取り戻すことができると囁かれ、いざ蘇らせてみれば何かが違う。自分が何をしたというのか、今までの人生で何か不出来なことがあったか。
「……っ」
茂が、テーブルに肘をついて、頭を抱えた。
だが、ここで退くわけには行かない。
「影朧によって起こる悲劇、この世界のあんたの方がよう知っとるやろ?」
時に痛ましく、時に残酷に、影朧は弱々しくても確実に世界を終わりに向かわせる。
「このまま放っといたら、嫁さんの影響で無関係の周囲の人にも、そんであんたにも災を及ぼす可能性がある」
「ハルが……そんな……」
呻く茂に、風月も訴える。
「何より、茂さん。彼女を手に掛けたとは言え、その犯人の男性に仕返し……愛する人が手を血に染める……そんな光景、見たいでしょうか?」
首を強く振る茂は、これ以上ないほど、酷い顔をしていた。
せめてもの救いをと、千里が告げる。
「今度は、別れの言葉を交わすことが出来る」
「……本当、ですか」
「ああ、約束や。そう思って、ハルさんを桜の輪廻に返したらんか?」
サクラミラージュであるからこそ許される、輪廻転生。
すべてのものを、本来あるべき姿に戻すために、二人は茂の背中を押した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大町・詩乃
◎
【旅神】
「(嵐さんをチラリと見て)愛する人といつまでも一緒にいたい。
そのお気持ちは判る様な気がしますし、判りたいと思います。
影朧といっても、実は様々な影朧さんがいます。
愛する人に一目会いたいと戻ってきて、人に仇なす事もなく本懐を遂げて転生された影朧さんの手助けをした事もあります。
ですが”今の”ハルさんは…。」と悲しそうに目を伏せる。
嵐さんと茂さんの話を聞き、その上で「立場上、言ってはダメでしょうが…
今なら犠牲を出さずに終わらせられます。そして茂さんがハルさんに生前言えなかった別れの言葉を告げる事も。だから茂さんが『反魂ナイフ』を使って良かったのだと個人的に思っています。」と優しく微笑みます。
鏡島・嵐
◎
【旅神】
(詩乃の視線を受け止めて)
……そうだな。大切に想ってる人と一緒に居たいって思うんは、当たり前のことだ。
だけど、ずっと一緒には居られねえ。生きてりゃいつかは別れが来る。
儘ならねえんは、いつその時が来るんか自由に選べないってトコか。
祖母ちゃんが前に言ってた。『病める貝にのみ真珠は宿る』――おれにはまだイマイチピンと来ねーけど、茂サン、アンタにはわからねえか?
奥さんの生がどう輝いていたか……その真価を本当の意味で理解できるんは、それを失ったアンタだけなんだ。
それを一時の気の迷い、得手勝手で簡単に歪めていいモンなのか。かけがえのない思い出を自分の手で壊して、アンタは本当に後悔しねえんか?
●間違いでは、なかったと
旅館のロビーから、徐々に人が去っていく。
まだ冷え残る室内を、ダルマストーブが優しく暖めてくれている。
そんな中、ロビーの片隅の席に、野村・茂は静かに佇んでいた。
猟兵たちの言葉のひとつひとつが、突き刺さり、染み渡る。
反魂という禁忌を咎めることはなく、しかし決着はつけなければならないと言う。
――正論だ。
あとは、自分がハルとの二度目の別れを、受け入れられるかどうか。
「こんばんは、野村……茂さん」
「ちょっと、いいか」
大町・詩乃と鏡島・嵐の二人が、一礼してから茂の前に立つ。
「……どうぞ、お掛けになって下さい」
顔を上げてそう言った茂の表情には覇気がなく、ひどく弱々しかった。
それを痛ましく思いながら、二人は勧められるままに向かいの席に座る。
まずは詩乃が嵐の方をチラリと見てから、口を開いた。
「『愛する人といつまでも一緒にいたい』。そのお気持ちは判る様な気がしますし、判りたいと思います」
詩乃の視線を受けた嵐も、その藍色をしっかりと受け止めて、言葉を紡ぐ。
「……そうだな。大切に想ってる人と一緒に居たいって思うんは、当たり前のことだ」
茂は、二人の話を、じっと聞いている。
「だけど、ずっと一緒には居られねえ。生きてりゃいつかは、別れが来る」
「……」
茂の場合は、あまりにも不幸が過ぎた。
だからこそ、誰も彼を咎めない。
「儘ならねえんは、『いつその時が来るんか自由に選べない』ってトコか」
「……ええ」
急なこと過ぎたし、残酷が過ぎた。
心の整理がつかぬまま、禁忌に手を出したことを、誰が責められようか。
それを知るからこそ、猟兵たちは、慎重に茂の心に寄り添っていくのだ。
詩乃は思う。
自分たちは猟兵で、そもそもそう簡単には死んだりしないだろう。
ましてや自分は古来より奉られてきた神そのものであり、命の時間の違いによる別れも、戦による別れも、数え切れないほど経験してきた。
だからこそ、一度きりの人生での出会いと別れは、良きものであって欲しい――。
そして、胸に抱く想いが、願わくば良き形で終の時を迎えられれば良いと。
「影朧といっても、実は様々な影朧さんがいます」
詩乃は、影朧という存在の意外なほどの脆さに触れる。
「愛する人に人目会いたいと戻ってきて、人に仇なす事もなく、本懐を遂げて転生された影朧さんの手助けをしたこともあります」
傷つき虐げられた者達の『過去』から生まれた、不安定なオブリビオン。
荒ぶる魂と肉体を鎮めたのち、桜の精と呼ばれる存在の癒やしを受けることで、『転生』が叶う――救いある存在。
「ですが、『今の』ハルさんは……」
殺意を隠すことが、出来なくなっている。
人に仇なすことを、躊躇わなくなってきている。
故に詩乃は、悲しげに瞼を伏せた。
言葉を切った詩乃と入れ替わりになるよう、嵐が茂を見て、口を開く。
「祖母ちゃんが前に言ってた。『病める貝にのみ真珠は宿る』って」
嵐の琥珀の瞳が、顔を上げた茂を映す。
「――おれにはまだイマイチピンと来ねーけど、茂サン、アンタにはわからねえか?」
「……すべてが完全だということはなく、悪いところが必ずあるもの、ですね」
真珠を生み出すアコヤガイは、異物に侵入されると、本当は除去したいのだがそれができないので、異物を膜で巻いてしまう――そうしてできるのが、人工真珠。
「奥さんの生がどう輝いていたか……その真価を本当の意味で理解できるんは、それを失ったアンタだけなんだ」
その言葉に、茂の目に、僅かに光が宿ったような気がした。
「ハルは」
掠れた声で、茂は言った。
「僕にはもったいないほど、いい女だったんです」
猟兵たちにとって今のハルは許されざる存在かも知れないけれど、少なくとも、茂が知るハルは――。
「なら、それを一時の気の迷い、得手勝手で簡単に歪めていいモンなのか」
「……!」
あの得体の知れないナイフを突き立てた時から、すべては変わってしまった。
「かけがえのない思い出を自分の手で壊して、アンタは本当に後悔しねえんか?」
後悔。
あの日、ナイフを突き立てた日の喜びからの、後悔。
独りでは抱えきれない感情を――そう呼べば良いのか。
「あの」
詩乃が、そっと割り入るように声を掛けた。
「立場上、言ってはダメでしょうが……今なら、犠牲を出さずに終わらせられます」
「え……?」
そのために、超弩級戦力たちが来たのだと。
目を見開く茂に、詩乃は包み隠さず、事実を告げる。
「そして茂さんがハルさんに生前言えなかった別れの言葉を告げる事も」
「……それは、本当……なんですか」
詩乃が、そして隣で見守る嵐が、強く頷く。
「だから、茂さんが『反魂ナイフ』を使って良かったのだと、個人的に思っています」
内緒ですよ、と。
巫女神は優しく微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御桜・八重
◎
愛する人に会いたいと思うことも、
愛する人と共にいたいと思うことも、
間違ってなんか、いない。
間違っているのは、反魂ナイフだけ。
初めまして、とキチンと挨拶。
これから色々大変な話をするのだから、ちゃんとしないとね。
「ハルさん、奥様のことを聞かせてもらえませんか」
人柄、日々の暮らし、思い出、出会い……
事件とは関係なく、彼女への愛情溢れる話、
良い思い出を引き出していく。
茂さんは聡明な人だ。
だからきっと気づいてくれる。
今のハルさんは違うってこと。
本当のハルさんが願うこと。
ハルさんを、このままにはしておけないこと……
「後は、任せて!」
感情が昂ってつい涙が溢れそうになるけれど、我慢我慢。
……グスッ。
●おはなしを聞かせて
御桜・八重は宿の女将に、桜茶をひとつだけ淹れてもらい、それを盆に乗せて野村・茂が座るロビーの片隅の席へと向かう。
(「愛する人に会いたいと思うことも、愛する人と共にいたいと思うことも」)
湯の中でゆらゆら揺れる桜の塩漬けを見つめて、八重は思う。
(「間違ってなんか、いない。間違っているのは、反魂ナイフだけ」)
そうして茂の座る席の前に立ち、ことりと湯呑みを置いて、一礼した。
「初めまして――どうぞ」
「あ、ああ……ありがとう」
きっと、他の猟兵たちとの会話で、疲れているだろうという労いもある。
それに、これから色々大変な話をするのだから、きちんとしなければ。
「ここ、座りますね」
茂の向かいの席の椅子を引いてちょんと腰掛けると、八重はしばし様子を見る。
「ああ……桜茶だね、ありがたく頂くよ」
常に敬語の茂の口調が、眼前の少女の陽の気にあてられてか、自然柔らかくなる。
「君の分は?」
「ああ、わたしは平気です! 気にしないで下さい」
両手を振って、自分のことは気にせずリラックスして欲しいと訴える八重。
――ほんのりとした塩味は、流したくても流せない涙のような味がした。
「ハルさん……奥様のことを、聞かせてもらえませんか」
八重の言葉に、茂は一瞬怪訝な顔をした。
おおかた、ハルの処遇について単刀直入に切り出されると思っていたから。
「どんなことでもいいです――ううん、楽しかった思い出だけでいいです」
「……」
茂は、少しばかり逡巡した後、ゆっくりと口を開いた。
「ハルとは、いわゆる職場結婚というやつでね」
ぽつり、と。
思い出話が、始まった。
「仕事の方は、ハルの方が僕よりずっと優秀だったんじゃないかな……それなのに、家庭に入ることを選んでくれて」
子宝に恵まれることこそ、残念ながらなかったけれど。
それでも二人、幸せに一日一日を過ごしていた。
「ハルが一緒に居てくれることが、当たり前すぎてね。まさか、あんなことになるなんて、今でも信じられないくらいなんだ」
良くある話だと言えば、それまでかも知れない。
いつものように「行ってきます」と家を出た子供が、事件や事故に巻き込まれて、変わり果てた姿で帰ってくるとか。
それは毎日のように、新聞の一記事として記されて終わる。
「ハルはね……違うんだ……」
茂の声が、震えた。
八重は、それをじっと見守っていた。
(「茂さんは聡明な人だ、だからきっと気づいてくれる」)
負の感情を内に向け、決して他者を傷付けず、正しく在ろうとする。
そんな人間性を、八重は正しく見抜いていた。
――次は茂さんが狙われるかも知れないから、あの人を殺してしまいましょう。
「あんな恐ろしいことを、笑いながら言えるような女じゃないんだ……」
「……!」
今のハルは『違う』ということに。
本当のハルが『願う』ことに。
きっと、自分の力で気付いてくれると、八重は信じていた。
「……ハルさんを、このままにはしておけない……」
「……ああ、君の言う通りだ……」
八重は、テーブルの上で組まれて震えていた茂の手を己の手で優しく包み込む。
「後は、任せて!」
感情が昂ぶって、ちょっぴり涙声だった。
けれど、涙はぐっと堪えた。
喉の奥で、飲んでもいないはずの桜茶の味がしたような気がした。
大成功
🔵🔵🔵
疾風・テディ
✿連携・アドリブ歓迎。
「こんにちは、茂さん。私は疾風テディです。まずは何か飲んで落ち着きましょうか?」
宿の仲居さんにお茶をお願いするよ。出来れば気持ちが落ち着くやつがいいかな。
お茶をもらったら、飲みながらゆっくりお話。私は【だいふく】に座って、だいふくがロビーの机の上にちょこんと座ってるよ。
「私にとってはね、この鳩、だいふくはとっても大切な存在なんだ。茂さんもそういう人が居るんだよね?」
だいふくを撫でながら話を続けるよ。
「茂さんの奥さん、その……死んじゃって、生き返ったんだよね?私ももしだいふくが死んじゃったら、どうやってでも生き返らせちゃうかもしれない。」
……でも。
「もし、だいふくが誰かを傷つけようとしているなら、私は止める。大切な存在にそんなことして欲しくないから。……ねぇ、茂さんはどう思う?」
ゆっくり、彼の答えを待つよ。
「私は、猟兵として貴方の奥さんを止めにきたの。もし、茂さんも奥さんに誰かを傷つけて欲しくないって思うなら……協力して欲しい。」
●ちいさきもの、その決意
随分と慌ただしい少女が立ち去った後、入れ替わりにやって来たのは疾風・テディ。
「こんばんは、茂さん。私は疾風・テディです」
「あ、ああ……こんばんは……」
これまた随分と小柄な少女だなあ、程度にしか思われないのが世界の加護の力だ。
フェアリーのテディは、宿の仲居さんに緑茶を運んでもらうようにお願いしていた。
桜茶の後だから、きっと程良い渋みが心を落ち着かせてくれるに違いない。
「お待たせ致しました、ごゆっくりどうぞ」
盆を抱えて、仲居が一礼してその場を立ち去っていく。
茂が座る席の机に、もふもふ鳩の「だいふく」がちょこんと座り、さらにその上にテディが座るという構図になっている。何だか、それだけで微笑ましい光景だった。
「お嬢さん、その、鳩は……」
茂がだいふくに興味を持ったのか、掠れた声でテディに訊ねる。
「私にとってはね、この鳩、だいふくはとっても大切な存在なんだ」
テディは茂を見上げて、まっすぐに瞳を見つめて、返した。
「茂さんも、そういう人が居るんだよね?」
「……ああ、いるよ」
もはや、隠すこともなく。
茂は、ハルの存在を明らかにした。
それを聞いたテディは、だいふくのもふ毛を撫でながら話を続ける。
「茂さんの奥さん、その……死んじゃって、生き返ったんだよね?」
ロビーにはもう茂とテディ、そしてだいふくしか居ないけれど。
極力、声音を抑えて配慮しつつ。
「私も、もしだいふくが死んじゃったら、どうやってでも生き返らせちゃうかもしれない」
「お嬢さん……」
こんなに小さな少女までもが、想いを募らせるのだ。
少なくとも、あの時の自分は、間違っていなかったのだと気持ちが紛れる心地だった。
「……でも」
テディは、そんな茂に、言わなければならなかった。
「もし、だいふくが誰かを傷つけようとしているなら、私は止める」
「!」
もしもの話だとしても、心がちくちくする。
ましてや、現実問題として突きつけられている茂の胸中たるや、どうだ。
「大切な存在にそんなことして欲しくないから」
「……」
「……ねぇ、茂さんはどう思う?」
しばし、沈黙がロビーを支配した。
テディとだいふくは、茂の答えをゆっくりと待った。
「……ハルの……あの手を……汚させるわけには……」
その答えを聞いて、テディはだいふくの上でひとつ頷いた。
「私は、猟兵として貴方の奥さんを止めにきたの。もし、茂さんも奥さんに誰かを傷つけて欲しくないって思うなら……協力して欲しい」
「……そう、だね……」
――決断の時は、近いのかも知れない。
大成功
🔵🔵🔵
荒谷・つかさ
こんにちは、野村さん。
私は荒谷・つかさ、帝都桜學府の超弩級戦力よ。
……ああ、安心して頂戴。
私は貴方を罰するために来た訳ではないわ。
今は貴方の奥様……ハルさんのお話を、聞かせてもらえないかしら。
彼にハルさんの思い出話を語ってもらい、抱えた感情も吐き出させる
(葬式などで故人を偲んで話をすることで心の整理をつけるようなイメージ)
同時にその思い出と「反魂者のハルさん」を比較させることで、今居る彼女が生前の彼女とは別物であると理解してもらう
それでも「間違いなく彼女でもある」との答えが来れば「魂が影朧に取り込まれている、或いは歪められている」と推測し伝える
放置すれば魂を完全に喰われるか、歪み果てて新たな影朧と化す恐れがある、とも伝え
その上で、最終的にどうしたいかは彼自身に選ばせる(倒す選択の強要はしない)
何にせよ倒す事に変わりはないけれど……彼自身が納得できなければ、間違いなく後に禍根を残すものね
●食の好みは
夜ももうすぐ更けようという頃合いに、また一人、茂に来客が訪れた。
「こんばんは、野村さん」
小柄ながら、威風堂々たる佇まいが遠くからでも伝わってくる。
「私は荒谷・つかさ。帝都桜學府の超弩級戦力よ」
「……!」
思わず身構えてしまう茂に、つかさは努めて冷静に語りかけた。
「……ああ、安心して頂戴。私は貴方を罰するために来た訳ではないわ」
「……では?」
本気で警戒されていたことにほんのり衝撃を受けながら、その胸中はおくびにも出さずつかさはゆっくりとした動作で茂の向かいの席に腰掛けた。
「今は、貴方の奥様……ハルさんのお話を、聞かせてもらえないかしら」
「ハルの、話……ですか」
きょとんとした顔をする茂に、首肯して「何でも構わないわ」と微笑むつかさ。
先に茂にハルの話をさせることで、心の整理をつけさせようという狙いがあった。
「……何でも、構いませんか?」
「勿論、どんな他愛ない話でも歓迎よ」
そう言ったものの、すぐには言語化するのが難しいのか、茂は少しばかり思案する。
「ゆっくりで構わないから、何でも聞かせて欲しいの」
「ありがとう、ございます……どうも、『寿司を食べに行くとシメサバばかり食べていたなあ、なんて話ばかりが出て来てしまって」
本当に他愛ない話をひとつ漏らして、ようやく茂は笑顔を見せた。
「僕はその度に言ったものです。折角色んな魚が食べられるのだから、たまには他のものも食べたらどうだい、って。そうしたら、何て言ったと思います?」
「……何て?」
「『だって、シメサバが間違いなく美味しいんですもの。これさえあれば、私は十分よ?』などと言うんです。いい大人が、笑ってしまうでしょう」
「いえ、何となく分かります(特化型の意見)」
あまりにも理解のありすぎる相手の相槌に、茂はやつれた顔で、それでも笑う。
「もっとね、色んな魚の美味しさを知ってもらいたかったんですけれど……」
そこまで言って、茂はハッと何かに気付いた顔をした。
「……いや、まさか……」
「どうしました?」
つかさが異変に気付き、身を乗り出して茂の顔を覗き込む。
「あの日から、初めて食事に魚が出ました。旅館の夕餉のお造りです」
当然、マグロやイカなどのオーソドックスな魚だっただろう。
「他の魚が嫌いだった訳ではないんです、けれど――お造りを、それはもう美味しそうに、躊躇なく食べていた姿には、違和感がありました……」
(「そこ!?」)
そうツッコみたくなるのを必死に堪えつつ、それでもつかさは『反魂者のハル』が生前のハルとは似て非なる存在であると理解してもらえたことに安堵する。
「……荒谷さん、どうなんでしょう……」
まさかシメサバの件で愛妻を疑うのもどうかと茂自身も思ったのか、首を捻った。
「それでも、ハルはどう見ても間違いなくハルなものですから……」
問われたならば答えねばならぬと、つかさは口を開く。
「魂が影朧に取り込まれているか、或いは歪められている――と、推測するわね」
「影朧……」
「放置すれば魂を完全に喰われるか、歪み果てて新たな影朧と化すおそれがある」
脅す訳ではないけれど――事実よ。
そう、淡々と告げて。
「その上で、最終的にどうしたいかは――貴方に任せるわ」
「……」
何にせよ、倒すことに変わりはなくとも。
もしもここで、茂自身に選択を強要したならば、間違いなく後味は悪くなる。
(「彼自身が納得できなければ、間違いなく後に禍根を残すものね」)
意外なところからハルへの疑いを膨らませる茂に、つかさは少しばかり申し訳ない気持ちになったとかならなかったとか。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
【白蛇衆】
心情)ヒトじゃねェ俺は、ヒトに共感できねェ。こォいうときツレが居てよかったと思うね。説得っつゥか、思考とかの誘導が苦手なンだ。ここは坊と旦那におまかせするよゥ。
行動)後ろに引っ込ンでサポートしよう。うっすらわずかに睡眠毒、空気に滲ませ準備完了。坊の視線に片目をつむって、さァ夢を見せよう。何ンの効果もない白昼夢だ。立ったまま、生前のハル嬢を視るといい。そうすりゃわかる。気づけるはずだ…。いかにいまの嬢ちゃんが"違う"かってことにな。それでも守りたいなら、俺はそれを尊重したいと思う。だから黙ろう。坊と旦那に任せよう。ヒトの行く末は、ヒトが決めるべきだ。
深山・鴇
【白蛇衆】
説得は雲珠君をメインに進める
人に寄り添おうとする優しい子だからね
雲珠君に合わせ、自分達は猟兵であること
このままでは恐らく罪なき人まで巻き込んで、影朧となった奥方は誰かを殺めるだろうことを伝える
野村さんだったか、正直なところ君が拒んだとしても俺達は違う何かになってしまった奥方を止めねばならない
その時に後悔しない為にも、どうか俺達が奥方を倒すことを許してほしい
ただね、君がそれを拒んだとしてもそれを許す存在はいるよ(ちらりと逢真君を見遣り)
悔いのないようにするといい
…理不尽な蛮行すら反魂ナイフを送ってきた何者かの仕業かもしれないが
今度こそ、納得のいく別れをしてほしいと思うのは俺の感傷かね
雨野・雲珠
【白蛇衆】
茂さまですね。はじめまして
愛情深く、同時においたわしいほど理性的なご様子
出来る限り真摯に誠実にお話してみようと思います
自分は桜の精で、
影朧の慰撫や転生へ導くことがつとめであること
外法の手段で蘇った奥方の魂が心配であること
茂さまに手段を与えた何者かがいること
俺たちが出来るのは、
お二人の絆を侮辱する輩の目論見をここで止めることです
それから、(佇むかみさまに目線をそっと流し)
…お別れを言える時間も、作れるかも…
二度もお別れを強いることを申し訳なく思っています
けれど、どうかお力を貸していただけませんか
ハルさまに届く言葉を持っているのは、
本当の意味でハルさまをお慰めできるのは茂さまだけなんです
●終わりの、始まり
旅館に足を踏み入れる直前、朱酉・逢真は改めて深山・鴇と雨野・雲珠に対して確認をしていた。
「ヒトじゃねェ俺は、ヒトに共感できねェ」
こういうときツレが居て良かったと思うね、と言い添えて。
かの神は説得というか、思考などの誘導を不得手とする。
「だから、ここは坊と旦那におまかせするよゥ」
鴇と雲珠は同時に頷き、温泉旅館の入口に立つ。
「説得は雲珠君をメインに進める」
人に寄り添おうとする、優しい子だからね。
そう言って雲珠の背をそっと押し、入口の引き戸を開ける。
出迎えた女将が、すぐに何かを察したように一礼して、三人を茂のもとへ案内した。
「茂さまですね、はじめまして」
一見すれば年端も行かぬ童子に見えて、実に礼儀正しい雲珠の所作に、茂も思わず席を立って「どうも」と一礼してしまう。
(「愛情深く、同時においたわしいほど理性的なご様子」)
雲珠は、野村・茂という男の本質を一目で見抜く。
(「出来る限り、真摯に誠実にお話してみようと思います」)
むん、と小さく気合いを入れて、雲珠は隣に立つ鴇と背後に控える逢真を頼もしく感じながら、話すべきことをひとつひとつ頭の中で順序立てて整理する。
その間に、一見我関せずに見える逢真もまた支援に動いていた。
夢か現か、現が夢か。
茂の背後の窓から射す月光に、見えざる神の力が満ちる。
うっすらわずかに睡眠毒、空気に滲ませ準備は完了。
一瞬振り向いた雲珠の視線に、逢真は片目をつむって合図を送る――準備完了、と。
さァ、夢を見せよう。
何ンの効果もない、白昼夢だ。
「……、失礼」
ふらり、と。
茂が、何かに当てられたように一瞬姿勢を崩しながら詫びの言葉を口にする。
そこへすかさず鴇が支えに入り、「お気になさらず」とフォローする。
逢真の超常は確実に『効いている』。それを確かめて、雲珠が口を開いた。
「俺は桜の精で、影朧の慰撫や転生へ導くことをつとめとしています」
雲珠の頭部の冬桜が、その言葉を証明していた。
茂は随分とやつれた顔で、雲珠の言葉をただ聞いていた。
「『反魂ナイフ』は外法の手段、それで蘇った奥方さまの魂が、心配でなりません」
ナイフの単語にぴくりと反応した茂が、弱々しく呟く。
「……やはり、あのナイフは……『いけないもの』だったのですね……」
無言で頷くことを返事と為し、雲珠は訴える。
「茂さまに、手段を与えた何者かが背後に居るのも捨て置けません」
そこで雲珠が鴇を見て、見られた鴇が言葉を引き継ぐ。
「もう気付いているやも知れないが、今まで君が話をしてきたのは、俺達を含め全員が猟兵――超弩級戦力だ」
帝都桜學府どころの騒ぎではない。
つまりは――そういうことだった。
「単刀直入に言おうか。このままでは、恐らく罪なき人まで巻き込んで、影朧となった奥方は誰かを殺めるだろう」
「……!」
今なら、視える気がした。
今度は着物を他人の返り血で濡らし、この世の者とは思えぬ艶やかさで笑うハルが。
思わず縋るように鴇を見た茂に、猟奇探偵の男は眼鏡越しに視線を返す。
「野村さん、だったか」
一言一言、諭すような口調で。
「正直なところ、君が拒んだとしても、俺達は違う『何か』になってしまった奥方を止めねばならない」
「……そう、ですか……」
とめてほしい。
やめてほしい。
僕は――どうして欲しい?
脂汗さえ浮かぶ茂を慮るように、鴇が言葉を続ける。
「その時に後悔しない為にも、どうか俺達が奥方を倒すことを許して欲しい――でもね」
諭すような声に、まぼろしを視たような気がした。
宿からロビーに繋がる出入口に、ハルが立っていた気がした――いや、居る!
「……ハル!」
思わずがたりと長椅子から立ち上がって、ハルの方へ向かおうとして、茂は目を見開く。
「……違、う」
ふふ。
うふふ。
どうしたの――あなた?
(「すぐに気付けるはずだ、いかに今のハル嬢が『違う』かってことにな」)
神の毒、白昼夢。
間違いようがない在りし日を明確に思い出せるからこそ、違いに気付けたのだ。
次の瞬間には、もう出入口には人の姿はなく、茂はすとんと腰を下ろしてしまう。
「君が『それ』を拒んだとしても、それを許す存在はいるよ」
そう言って鴇が逢真に視線を送れば、かみさまはただ黙ってそこに立っていた。
(「それでも『守りたい』なら、俺はそれを尊重したいと思う」)
――ヒトの行く末は、ヒトが決めるべきだから。
「悔いのないようにするといい」
机の上に灰皿を認め、鴇は紙煙草を一本取りだして火を着け、煙を肺に吸い込んだ。
「俺たちが出来るのは、お二人の絆を侮辱する輩の目論見を、ここで止めることです」
雲珠が茂をしっかりと見据え、誠実に訴える。
「それから……」
佇む『かみさま』に目線をそっと流し。
「……お別れを言える時間も、作れるかも……」
茂にとっては、賭けを強いているにも等しいのかも知れない。
成敗してしまえば、それでお終いという可能性だって否定は出来ない。
今のハルが本来のハルとは異質なるものと理解した今、なお――。
「……皆さんが、嘘を吐いているとは、思いません」
茂が、ぽつりと呟いた。
そうして、雲珠の真摯な目線を受け止める。
「僕が、それでもハルを渡さないと言っても、許してくれると言ってくれた」
「……はい」
雲珠は、思い切って切り出した。
「二度もお別れを強いることを、申し訳なく思っています」
そう言う雲珠の表情は、本当に悔しそうだった。
「けれど、どうかお力を貸していただけませんか」
ならば――出来うる限りの、幸せなお別れを。
「ハルさまに届く言葉を持っているのは、本当の意味でハルさまをお慰めできるのは、茂さまだけなんです」
その一言が、最後のひと押しとなった。
茂が、すっくと立ち上がったのだ。
「茂さ……」
「妻を……呼ばせます」
「!!」
旅館の中では、色々と大変だから。
夜桜の下、決着をつけよう。
野村・茂は――心を決めた。
鴇は肺の煙をふぅと吐き出して、思案する。
(「……理不尽な蛮行すら、反魂ナイフを送ってきた何者かも仕業かもしれないが」)
驚くほど、思考が冴えていた。
まるで、超常の力が宿っているかのごとく。
(「今度こそ、納得のいく別れをしてほしいと思うのは、俺の感傷かね」)
――やがて。
「お待たせしました――あなた」
野村・ハルの姿をした『何か』が、ロビーに下りてきた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『辻斬り少女』
|
POW : 【先制攻撃型UC】血桜開花~満開~
【対象のあらゆる行動より早く急接近し、斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 【先制攻撃型UC】絶対殺人刀
【対象のあらゆる行動より早く急接近し、殺意】を籠めた【斬撃】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【急所、又はそれに類する部位】のみを攻撃する。
WIZ : 【先制攻撃型UC】ガール・ザ・リッパー
【対象のあらゆる行動より早く急接近し、斬撃】が命中した対象を切断する。
イラスト:久蒼穹
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●あなたと、わたし
『……行ってしまうのね』
「ええ、ごめんなさいね――やっぱり私、あの人の悲しむ顔は見たくない」
『理不尽に殺された者同士、仲良くやっていけると思ったのに、残念だわ』
「あなたの気持ちも良く分かるわ、でも……やっぱり人を憎むのは苦しい」
『お人好しなのね、あなたも、旦那さまも』
「ありがとう、生きていた頃も良く言われたの」
『さあ、もう行って。わたしはせいぜい、憎まれ役を果たして散るわ』
「そんなさみしいことを言って……もしかしたら、あなただって」
『気休めは止して、……じゃあね』
私の意識は、そこで途切れた。
●おかえり、そして
姿を現したハルは、猟兵も、茂さえも無視して、宿の外へと出て行く。
「ハル……!」
慌てて席を立った茂が後を追うと、そこにはハルと、年若き乙女の二人が立っていた。
『奥様を、あなたに返すわ』
「ごめんなさい、茂さん――心配をかけて」
影朧の乙女に促され、茂の方に一歩踏み出したハル。
「ハル!!」
まろびながら茂がハルの方へ駆けていく。抱きしめようとして、その腕が空を切る。
「……っ」
「ごめんなさい、茂さん――私、こんなになってしまって」
ハルはもはや魂のみの存在であり、視認できていることが奇跡に近い。
反魂ナイフを使ったことを、良かったことではないかと言った猟兵がいた。
諸々の結果、魂だけとはいえ本来のハルを取り戻せた現状を思えば、その言葉はあながち間違いではないのかも知れない。
『超弩級戦力が居るのね――いいわ、相手をしてあげる』
影朧の乙女は、すらりと腰に佩いた刀を抜く。
かつて、ハルと同じように帝都で殺人事件の犠牲となった少女。
今は、復讐心を依代にして影朧として蘇った存在。
今は亡き己を殺した者を誅さんと帝都を彷徨う、哀れな通り魔。
神速の刃を凌いで、茂とハルの最期のひと時を守るのだ。
猟兵たちも、余裕さえあればその話の輪に加わって励ましても良い。
――どうか、良き死出の旅路を。
夜刀神・鏡介
分かってもらえてよかった……等と、そんな簡単に片付けられる筈もない
それでも、この道を選んでくれたのなら。その想いに応えて、終わらせよう
まさか刀を抜く事はおろか、碌に反応できずに斬り込まれるとは思わなかったが、狙いが正確すぎた
半歩だけ動いて急所を外す……ダメージは少なくないが、戦闘を続けられるなら上等だろう
初撃を凌いだら利剣を抜きつつ少しだけ距離を取る
動きは速いが、狙いが読めればどうにか凌げる。刀で受け止め、受け流しつつ気を窺おう
澪式・参の型【双影】――相手の刀をすり抜けるように軌跡を変えて、一撃を叩き込む
……さようなら。或いはおやすみ、かな?ああ、ハルさんだけじゃなく、影朧の君にもだ
●桜舞う、鮮血散る
宿の外には、誰よりも先に戦闘になることを見越した夜刀神・鏡介が立っていた。
(「分かってもらえてよかった……等と、そんな簡単に片付けられる筈もない」)
まだ冷え残る夜空に舞う幻朧桜は、どこまでも白く美しい。
(「それでも、この道を選んでくれたのなら」)
その想いに応えて、終わらせよう。
そう思って、破魔の力を宿した淡紅色の刀に手を掛けようとした――その時だった。
「……っ!!」
鏡介の傍を、殺意が駆け抜けた。
後を追うように、脇腹からの出血。
『わたしの殺意を、受け止められるかしら』
「……まさか刀を抜く事はおろか、碌に反応できずに斬り込まれるとは思わなかったが」
傷口を押さえながら、鏡介は辻斬り少女の言葉に返す。
(「狙いが、正確すぎた」)
超人的な反応で、半歩だけ動いて急所を外す。
ダメージは少なくないが、戦闘を続けられるなら上等だろうと、鏡介は前を向く。
『まだ生きているの、なら次ね』
淡々と、しかしぎらぎらとした刃を振って、少女が言った。
「……」
初撃は凌いだ。今度こそ「利剣【清祓】」を抜きつつ、少しだけ距離を取る。
(「……来る」)
――が、きいぃぃん!!
なるほど確かに動きは速い、だが、狙いが読めればどうにか凌げると確信した。
己の刀を止められたという事実に、少女の表情がほんの僅か揺らぐ。
その一瞬の隙を突いて、鏡介は少女の刀を受け流しながら、機を窺う。
『……あなたの評価を、見直す必要がありそうです』
年頃の乙女にはおおよそ似つかわしくない殺意に満ちた眼で、少女が構えた。
「ありがとう――褒め言葉として受け取っておくよ」
互いに構える。
真っ直ぐに突っ込んで来る少女に対し、鏡介は真っ向勝負で刀を突き出し――、
た、かのように見えた。
『……っ!!?』
「【澪式・参の型【双影】(レイシキ・サンノカタ・フタエ)】、ここに」
鏡介の刃は激突の寸前、相手の刀をすり抜けるように軌跡を変えて、一撃を叩き込む。
少女の二の腕から、鮮血の花が咲いた。
「……さようなら。或いはおやすみ、かな?」
『ッ……ま、だ……』
当然、儚い影朧とはいえ、この一撃で決着が着くとは鏡介も思ってはいない。
「ああ、ハルさんだけじゃなく、影朧の君にもだ」
だから、もうしばし後に訪れる別れの時の言葉を、先に届けておいたのだ。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
【白蛇衆】◎
心情)信徒に"助力を請われた(*祈られた)"ンなら、できるかぎりのことはしよう。かみさまだからな。生者と死者に適切な別れを・やけンなった影朧には呪縛のほどきを。ああ、ならコレだ。
行動)眷属の〈獣〉から大型動物…そォさな、サイあたりを出して先制斬撃を受けさせよう。ふたりにゃ傷もつけやしないさ、かわいい信徒らにゃギッチリ結界張ってるよ。初撃以降は旦那にお任せするがね。おお、鍔迫り合い。迫力あンなァ。そォさな、麻痺ならイイんでないかね? 坊の説得に乗っかるカタチで発動だ。輪廻へ還るわずかな合間だが、言葉を交わすくらいできるだろう。なにせ、死(*俺)が赦してっからな。
深山・鴇
【白蛇衆】◎
その役目、引き受けるとしようか
雲珠君と逢真君に攻撃がいかないように立ち回る
雲珠君に迫る刃をこちらで受けよう
受けた後に毒刃一閃、浸す毒は麻痺毒辺りかね、逢真君
お嬢さんの気が済むまで斬り合いといこう
力を削ぐ位の塩梅で対峙
疲れと麻痺で動く気力をなくしてくれるのが一番助かるんだがな
雲珠君の言葉を聞く度に彼女の刃の威力が落ちている気がするしね
望んで持った刀には見えないが、納めてはくれないかい?
俺には君がもうそんなに恨みを持っているようには見えないのだがね
図星かい?なら、ほら――桜の彼の言葉を受け容れてやっちゃくれないか
君とハルさんはいい友人になれたと思うんだよ
転生した先で再び会えるといいね
雨野・雲珠
【白蛇衆】◎
取りこむでもなく、利用するでもなく
意思を尊重して解放してくださった…
可能性を信じます
深山さん、かみさま、どうぞご助力を!
は、速っ…あっ、かみさまのサイが!
距離を取るのも難しい速さ
お二人を頼って呼びかけに専念します
あなたにお礼を言いたいんです!
想像を絶する恐怖の後に蘇って、
さぞ混乱しただろうハルさんが落ち着いていたのは、
あなたが寄り添っていてくれたからではありませんか?
許せないものを、許せなんて言えません
でも理不尽な惨い目にあって、
それでどこへも行けないなんてあんまりです
あなたも行きませんか
ハルさんと一緒に
叶うならご夫妻のお別れの後
【花吹雪】でご婦人方を送りましょう
寂しくないように
●甘き死よ、来たれ
宿の外から、剣戟がほとばしる音が聞こえた。
真っ先に雨野・雲珠がとてとてと、それを追うように深山・鴇がかつかつと、最後に鷹揚な足取りで朱酉・逢真が宿から出て、辻斬り少女と向かい合った。
「取り込むでもなく、利用するでもなく、意思を尊重して解放してくださった……」
冬桜の枝もろとも、雲珠は一度、強く頷く。
「可能性を信じます――深山さん、かみさま、どうぞご助力を!」
そう告げて振り向いて、請い願えば二人の男は口角を上げて首肯した。
「その役目、引き受けるとしようか」
凜とした佇まいで応える鴇の頼もしさよ。
「信徒に『助力を請われた』ンなら、できるかぎりのことはしよう」
飄々と笑みながら指を鳴らす逢真の神々しさよ。
神は祈りに応えるものであり、信徒はその恩恵を受ける権利がある。
「『かみさま』だからな。生者と死者に適切な別れを」
少女は、まだ構えていない。
「やけンなった影朧には、呪縛のほどきを」
いや、構えていないように見えただけ。
「ああ、なら『コレ』だ」
『――!!』
神をも殺す急所狙いの刃が放たれたのを、間一髪、逢真の眷属――大型動物たるサイをぶっつけて受け止めさせたのには、さすがの少女も瞠目する。
「は、速っ……あっ、かみさまのサイが!」
雲珠には状況を把握するのが精一杯で、事実上盾となったサイを案ずるばかり。
そんな雲珠の前に、鴇は愛用の太刀「美濃・真打」の柄に手を掛けながら立つ。
(「雲珠君と逢真君に攻撃が行かないように、立ち回るとしようか」)
『あり得ない、わたしの刃を受けるなんて』
少女はぎらりとした殺意を乗せて、今度は雲珠たちの方を向く。
だが、こちらのあらゆる行動よりも先手を取って攻撃してくることが『明らか』というのは、ある意味対策のしようもあるのだ。
『殺す、殺すわ――それが、わたしの在り方だから』
「そうかい」
激しい金属音が響き渡った。
雲珠を狙った低めの斬撃を、鴇が下から振り上げた太刀で完璧に受けきる!
「ふたりにゃ傷もつけやしないさ、かわいい信徒らにゃギッチリ結界張ってるよ」
やや後方で、逢真が嗤う。
結界の力もさることながら、今の鴇の迎撃は完璧と言っても良かった。
とかく初撃で決めることが信条の少女は、次、どう打って出るか。
――いや、それを考えさせる暇を与えてはならない。
「お嬢さん、ひとつ手合わせを願おうか」
鴇の太刀に、逢真――かみさまの加護という名の毒が宿る。
「浸す毒は麻痺毒あたりかね、逢真君?」
「そォさな、麻痺ならイイんでないかね?」
そこへ、初撃ほどの威力は孕まぬ二撃目が飛んできた。
当然、受けるのは容易い――再び、金属音が響いた。
『く……っ!?』
「お嬢さん、気が済むまで斬り合いといこう」
鴇には覚悟があった。
この哀れな影朧がその刀を手放すまで、何度でも、何度でも刃を交える覚悟が。
かみさまの助力。
桜の精の呼びかけ。
そこに、己の剣舞が揃って、初めてこの『たたかい』は成立するのだから。
互いの刃は、魂にも等しい。
仕掛けた麻痺毒は、確実に少女の全身を蝕んでいく。
(「疲れと麻痺で、動く気力をなくしてくれるのが一番助かるんだがな」)
『おの、れ……!』
少女の力を削ぐ位の、絶妙な塩梅で鴇は立ち回る。
ちら、と後方を見遣れば、両手を握りしめた雲珠が視界に入った。
逢真と鴇、二人の活躍で少女が足止めを受けている。
今こそ、好機。雲珠は、叫んだ。
「あなたに、あなたにお礼を言いたいんです!」
――きぃん!
返るのは、刃が交わる音ばかり。
「想像を絶する恐怖の後に蘇って、さぞ混乱しただろうハルさんが落ち着いていたのは、あなたが寄り添っていてくれたからではありませんか!?」
――がき、ん!
(「……刃の威力が、落ちた」)
間近で刃を交える鴇が、誰よりもそれを痛感していた。
(「雲珠君の、言葉の力かな」)
ならばと、弾き飛ばしてしまわぬように、力加減に気を付けながら、もう一合。
その間にも、桜の精の少年は訴える。
「許せないものを、許せなんて言えません」
帝都で、理不尽に殺されたもの同士。
きっと、そういう奇縁に導かれたのだろう。
「でも、理不尽な惨い目にあって、それでどこへも行けないなんてあんまりです」
『……うる、さいっ……』
「おっ、と」
少女の太刀筋に一瞬力が戻ったものだから、鴇は慌てて力を込め直す。
その間、逢真はといえば、迫力満点の鍔迫り合いを眺めながら、すいと指先を少女へと向けた。
「――【十六の一番】、甘くしてやったぜ」
『……、っ』
完全に眼前の鴇との打ち合いに集中していた少女は、逢真の一撃を躱せなかった。
がくんと膝の力が抜け落ち、姿勢を崩す。
そこに鴇は――斬りかかりはしなかった。
「望んで持った刀には見えないが、納めてはくれないかい?」
『……』
「俺には、君がもうそんなに恨みを持っているようには見えないのだがね」
『……っ』
少女は、最後の矜持が如く、刀を地面に突き刺して辛うじて立っていた。
麻痺毒。誠実な言葉。そして――神の権能。
それらに抗うのは、さぞや難しかろう。刃を握る手が震えるのを見て、鴇が言う。
「図星かい? なら、ほら――桜の彼の言葉を受け容れてやっちゃくれないか」
半身を引いて、雲珠の姿を見せる。
「あなたも行きませんか、ハルさんと一緒に」
ずっと、ずっと、ずっと、恨み続けてきた。
殺すべき相手が見つからないモノだから、誰彼構わず殺してきた。
そんな罪深い自分が、ただ殺されただけのハルと同じ輪廻に乗れるものか。
そう、思うはずだった。
けれど、どこか心が、眼前の超弩級戦力たちの言葉を信じたいと願うのだ。
それは、かみさまのお力をはじめ、三人の尽力あってこそなのだが――。
「君とハルさんは、いい友人になれたと思うんだよ」
一番、少女に近い場所にいる鴇が、代表してそう言った。
「転生した先で、再び会えるといいね」
そう言って、鴇は刃を納める。
はらはらと、花吹雪が舞い踊る。
『わた、しは』
震える唇で、何かを言おうとした少女を、女の声が遮った。
「お嬢さん!」
ハルだった。
遠目から超弩級戦力たちの戦いを見守りながら、ようやく声を上げられたのだ。
「お願い、その人たちの言う通りだわ――一緒に行きましょう?」
『……ハル』
「殺されるだなんて、あんなに辛いことはないわ。でも、それを私たちはお互い知ってる。きっと――生まれ変わったら、私たち、いいお友達になれるわ」
だから――。
ありえべからざる、影朧と死者の魂の会話。
それを赦すのは、死を司るかみさま。
赦されよ。
その場の誰もが、そう祈った。
あとは、少女次第。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
雪華・風月
◎【六道凛女】
千里さん!?動き、敵の攻撃からかばう千里さんに驚きの声を
神速の刃、見切れなかったとは…不覚!
ですが!受けたのならお返しを…刃邪剣正、影朧となり歪んでしまった心を断つ!
突然の死、復讐心を抱いてしまうのは仕方ないかもしれません
恨みや辛みを抱いてしまうのも当然と言えるでしょう
ですが、今を生きる者を亡くなってしまった貴方達の代わりに動く者の心を蔑ろにしないでください
きっと貴女にも貴女の死を悲しみ怒ってくださった方がいます
今の貴女の振るう刃はその方達にどう見えるでしょうか…
ハルさんと影朧の彼女、二人に良き来世が訪れますように
六道銭・千里
◎【六道凛女】
さて、説法は終了…後は…っ!?
閻魔さんから授かった千里眼で相手の心を『読心術』。動きの起こりを読んで『瞬間思考力』にて
自身を風月の盾としつつ『結界術』で『盾受け』し防ぐ、もしくは『受け流し』
宿の外、さっき(1章)煙魔とやりあった時冥銭をばら撒いとったんが功を奏したわ
裁くのは今を生きる人の司法、んで閻魔さんの仕事
そうやって悪行を重ねるより安らかに輪廻に返った方がええと思うで
陰陽『道術』、可能なら茂さんに霊力を込めた御縁玉を渡して最期の一時せめて二人が触れ合えるようにってな
ハルさんにも、んで素直にハルさん返したあの人のいい影朧にも良き輪廻を願って
●それぞれの役割
はらはらと、幻朧桜は舞い続ける。
しばし立ち尽くしていた辻斬り少女は、まるで迷いを振り払うように頭を振った。
同時に、宿から様子を伺っていた六道銭・千里と雪華・風月が、タイミングを見計らって外に出る。
猟兵だけでなく、ハルも説得に加わる様子が見えた。
ならば、ハルだけでなくこの影朧をも桜の輪廻に還せるのではないかと踏んだのだ。
「さて、説法は終了……後は……っ!?」
『――』
千里に宿る、閻魔さんから授かった千里眼。
瞬きする間に間近に迫った少女から感じ取った殺気はあまりにも凄まじく――。
「……っ!!」
踏み込みからの、ここに至るまでの軌道。事の起こりを、読む。
そこから導き出される『結論』は、霊符による結界を張って己を風月の盾と為し、凶刃を可能な限り受け流すという行動であった。
『……さすがは超弩級戦力、一筋縄では行きませんね』
「……さっき、煙魔とやりあった時冥銭をばら撒いとったんが功を奏したわ」
残留効果、というべきか。
冥銭は野原、つまり屋外に留まり続け、千里の次の行動の成功率を底上げしたのだ。
そうは言いつつも、激しい衝撃は確かに伝わってくる。
千里が一歩よろめくと、風月が痛ましい声を上げた。
「千里さん!?」
心配も勿論あるが、あの恐るべき絶対先制の刃をいなしたという事実に、ただ驚く。
(「神速の刃、見切れなかったとは……不覚!」)
風月もひとかどの剣士なれば、悔しく思う気持ちもあろう。
「ですが! 受けたのならばお返しを……!」
それが、剣士の礼儀というものだと、愛刀「雪解雫」を抜き放つ。
『……ふぅん』
そんな風月を一瞥する少女が、風月の気配の変化に表情を変えた。
「参ります! 正義の一閃にて……悪しき心を、断つ!」
刀の柄を強く握りしめ、風月は少女をしっかと見据える。
そして、地面を強く蹴って、上段から斬りかかる!
――その剣技の名は、【刃邪剣正(ハジャケンショウ)】。
少女の刃に受け止められたと思った風月の刀は、ぶつかり合う瞬間霊体化し、清き刃は少女の身体を通り抜け、影朧となり歪んでしまった心のみを断つ!
『……く、う』
身体に痛みはない。けれど胸が痛いのは、間違いなく風月が放った超常の効果だ。
今度は少女がよろめくのを見て、風月は凜と告げた。
「突然の死、復讐心を抱いてしまうのは仕方ないかもしれません。恨みや辛みを抱いてしまうのも当然と言えるでしょう」
生きている以上、理不尽が身に掛かる可能性はどうしても否定できない。
それを甘んじて受け容れろと、誰が言えようか。
「ですが、今を生きる者を、亡くなってしまった貴方達の代わりに動く者の心を、蔑ろにしないでください」
それでも、風月は敢えて言う。
正しい輪廻に、戻って欲しいから。
「きっと……貴女にも、貴女の死を悲しみ、怒ってくださった方がいます……」
堪えていても、自然と涙声になってしまうのを、それでも堪えて、
「今の貴女の振るう刃は、その方達に、どう見えるでしょうか……」
『わたし、を……?』
失念していた。
あるいは、骸の海から蘇った時に、置いてきてしまったのか。
自分を思う誰かのことなど、まったく頭の中になかったものだから。
ぴぃん、と冥銭を弾きながら、千里が言葉を継いだ。
「裁くのは今を生きる人の司法、んで閻魔さんの仕事」
『……ハルと、同じことを言うのね』
少女の言葉に千里が振り向くと、茂に寄り添うハルが少しばかりはにかんでいた。
「せやろ? そうやって悪行を重ねるより、安らかに輪廻に還った方がええと思うで」
そう言うと千里は、今度は茂とハルの方へと進み出た。
「茂さん、これを」
「これは……五円玉、ですか?」
茂の手のひらに落とされたのは、見た目は何のことはない五円玉だった。
「『御縁玉』や、それなりに霊力が篭もっとる」
陰陽の「道術」による霊力は、御縁玉にしっかり篭められていた。
「試しに、ハルさんに『触って』みい」
千里に促され、茂はおずおずと、先程通り抜けてしまったハルの肩に手を置こうと――。
「え……? あ……!」
「茂さん……!」
ハルの肩に、茂の手がしっかりと乗っていた。
(「最期の一時、せめて二人が触れ合えるように、ってな」)
「茂さん、私……」
「ハル、触れられる……君に……!」
互いに手を取る野村夫婦を見て、そして少女の方を見る千里。
(「ハルさんにも、んで素直にハルさん返した、あの人の好い影朧にも」)
良き、輪廻を願って――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リュカ・エンキアンサス
ディフお兄さんf05200と
うん。いいんじゃない?
いいこともあれば、悪いこともある
結局のところ、道具は使い手次第ってことなんだろう
この物語が幸せに完結するなら、それは喜ばしいことでしょう
まあ、それはそれとして倒すものは倒すけど
…別に、悩んだり迷ったりするのは人間の特権だと思うから
構わないし手間とか思ってないけど
勿論、それはそれとしてお兄さんがそういうならきちっと働いてもらうよ
そういうわけで灯り木で後ろから攻撃
盾してくれるならありがたく、ひたすら弾丸を叩き込む
そうはいっても、あなた(敵)も辛いだろう。なるべく手早く制圧しよう
……そう?
けれど、軽いよりはいいでしょう
折角手に入れたものなんだから
ディフ・クライン
リュカf02586と
ナイフの存在やナイフを使ったことを良いとも悪いとも、オレは言えない
オレの答えはオレの中で出すべきで
その切っ掛けは、もう貰ったから
だから貴方たちはどうか
最期に伝えるべき言葉を伝えて
…リュカ、ありがとう
リュカが居てくれて助かった
もう迷わないよ、オレも
手間をかけた分はここできっちり働こう
ネージュの氷結のオーラを纏い
厚く重ねてリュカの楯となろう
この身で先制攻撃を防いでみせる
すぐに氷を編み、狙い澄まし穿つブライニクルの槍
貴女ももう桜の輪廻にお還り
この世界の魂は巡るのだろう
一つ分かったことがある
ヒトらしくあるとか、心を持つとか
それがこんなにも苦しくて重いとは思わなかった
…それも、そうか
●ひとの、こころ
ディフ・クライン、曰く。
「ナイフの存在や、ナイフを使ったことを良いとも悪いとも、オレは言えない」
さもあらん、反魂ナイフの是非については各々主観でしか語れないだろうし、そもそもが結果論ですらある。
反魂ナイフが影朧兵器である以上、その存在は許されざるものであるのだから。
「オレの答えはオレの中で出すべきで、その切っ掛けはは、もう貰ったから」
奇跡的に、魂だけの存在であるハルと触れ合えるようになった茂に向けて、笑う。
「貴方たちはどうか、最期に伝えるべき言葉を伝えて」
「! ありがとうございます……!」
ただ、二人またこうして会えて、幸せそうな顔をしているものだから。
ディフもまた、微笑みをこぼしてしまうのだ。
リュカ・エンキアンサス、曰く。
「うん。いいんじゃない?」
彼らしくどこまでも淡々としていて、絶えず舞い散る幻朧桜のように。
「いいこともあれば、悪いこともある。結局のところ、道具は使い手次第ってことなんだろう」
反魂ナイフはきっとこれからも、かつてサクラミラージュを脅かした他の影朧兵器のように、人知れず被害を起こしては超弩級戦力たちに鎮圧されるのだろう。
それは、そんな物語のうちのひとつ。
「この物語が幸せに完結するなら、それは喜ばしいことでしょう」
まあ、それはそれとして。
倒すものは倒すけど、と。
アサルトライフルを慣れた手つきで操作する。
「……リュカ、ありがとう。リュカが居てくれて助かった」
「……別に、悩んだり迷ったりするのは人間の特権だと思うから構わないし」
「もう迷わないよ、オレも。手間をかけた分は、ここできっちり働こう」
「手間とか思ってないけど、……勿論、それはそれとしてお兄さんがそういうなら」
きちっと、働いてもらうよ。
今、二人が対峙すべきは――いまだ燻る殺気を隠さない、辻斬り少女。
『お話は終わり?』
辻斬りが空気を読むだなんて、その時点で毒気が抜かれているようにも思えるが。
事実、少女はディフとリュカをいつでも襲えたのに、そうしなかったという事は。
「ネージュ……!」
その太刀筋、まさに神速。
世のため人のために活かせぬのが、まことに惜しい。
ディフは厳冬の雪精の力を借り受け、氷結のオーラを身に纏ってリュカの盾となる。
幾重にも厚く重ねた氷の盾が、あっという間にばきばきと割られていくのを感じて、ディフは表情にこそ出さねど内心で肝を冷やす。
『……く』
紙一重で、凶刃は止まる。
氷の盾は、あと二、三枚程度しか残っていなかった。
そこへ、リュカの「灯り木」による掃射が飛ぶ。
(「盾してくれるならありがたく」)
遠慮なく防御をディフに委ね、ひたすら弾丸を叩き込むリュカ。
「そうはいっても、『あなた』も辛いだろう」
斬撃から、刺突へと構えを切り替えた少女の手元を狙い、リュカは告げる。
「なるべく手早く制圧しよう」
相槌の代わりに、ディフが氷を編んだ。
考えることは同じだった、狙い澄まして穿つのはブライニクルの槍――死のつらら。
「貴女も、もう桜の輪廻にお還り。この世界の魂は巡るのだろう」
――どうっ。
万難を排して生きるための弾丸と、触れたものすべてを凍らせる氷柱が少女を貫く。
『か……はっ』
血の華が咲き、少女が腹を押さえて膝を突いた。
「お嬢さん、もう……」
驚いたことに、茂が説得に加わった。
ハルと二人、手を取りあって。
「超弩級戦力の皆さんの言う通りだ、これも何かの縁……君だって救われていい筈だ」
「そうよ、わたしはもう満足したわ――どうか、あなたも」
『……っ』
凝り固まった思考やそもそもの在りようを、簡単に変えることはできない。
それでも、声を掛けずには居られなかった。
その様子を見て、ディフはぽつり、呟いた。
「一つ、分かったことがある」
「……何?」
「ヒトらしくあるとか、心を持つとか、それがこんなに苦しくて重いとは思わなかった」
「……そう?」
胸の辺りをぎゅっと押さえるディフに対して、リュカはあくまでも飄々としていた。
――の、だが。
「けれど、軽いよりはいいでしょう? 折角手に入れたものなんだから」
かける言葉は、願いを識った友への、思いやりにあふれたものだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大町・詩乃
◎
【旅神】
影朧さんに「自分を殺した相手を許せないのは理解できます。」と法的に裁けないか話し、殺人犯が死亡した事を知って「仕方ないですね、私が貴女の鬱憤晴らしのお相手を務めましょう。」と申し出。
(嵐さんには援護お願いしますねとウインク)
先制攻撃は第六感・見切りで読み、煌月を手放し、カウンターでこちらからも接近。
剣の間合いの内側で密着して組み合う事で斬撃を封じ、太極拳の発勁(功夫・衝撃波・貫通攻撃)を打つ。
UC発動
UC・第六感・見切り・功夫・ダンスで舞うように斬撃を躱して時々反撃。影朧さんが鬱憤晴らすまで相手になり、桜の精の猟兵さんに後をお任せ。
最後はハルさん・茂さん・影朧さんの幸せを祈りますよ。
鏡島・嵐
◎
【旅神】
やれやれ、やりにくいったらねえなあ。
取り戻したいから取り戻す、やられたからやり返す……皆、当たり前のことをしようとしてるだけなのにさ。
ホントは怖ぇけど、詩乃が鬱憤晴らしに付き合うって言ってるんだし、おれもやるか。
茂さんとハルさんが選んだ道を、いい結果にするって決めたもんな。
(ウインクを寄越した詩乃に困ったような笑みを返し)
最初の一撃がおれに来るか、詩乃に行くか。〈第六感〉で読みつつ〈オーラ防御〉で耐える心づもりだけはしておく。
あとは《大海の姫の恋歌》を起動して、受けたダメージを治癒しながら〈武器落とし〉や〈マヒ攻撃〉を狙ったり、詩乃の攻撃タイミングに合わせて〈援護射撃〉したり。
●神威と愛情
反魂ナイフでハルの魂に結びついた辻斬り少女との縁は、恐らく殺害された際の境遇の近さに拠るものだろう。
『……それ、でも……』
影朧ではない、純然たる魂であるハルとは違い、少女は骸の海より出でしもの。
異世界と比べて弱く儚いものが多いとはいえ、オブリビオンには変わりがない。
『……殺さ、なきゃ……』
超弩級戦力の言葉が癒しを、攻撃がダメージを着実に与えているものの、少女のこれまでの全てがそう簡単に桜の輪廻に還ることをよしとはしないのだ。
「自分を殺した相手を許せないのは、理解できます」
そう言って一歩前に踏み出した大町・詩乃は、少女に話しかける。
「皆さんがおっしゃる通り、人の罪は法で裁かれるべきです――理解ってくれますか?」
『わたしを殺した相手が、見つからないのよ』
血に染まった姿で、ゆらりと立つ少女の気配に殺気が宿る。
『生きているのか、死んでいるのかも分からない。なら、みんな殺すしかないじゃない』
少女は、知らないのだ。
自分を殺した犯人が、既にこの世には存在しないことを。
なればこその、無差別殺人。
「……仕方ないですね」
詩乃は一瞬後方を振り返り、鏡島・嵐に向けてウインクひとつ。
「私が貴女の鬱憤晴らしのお相手を務めましょう」
――援護、お願いしますね。
詩乃の目線に込められた意図を察し、嵐は小さく肩を竦め、困ったような笑みを返した。
(「ホントは怖ぇけど、詩乃が鬱憤晴らしに付き合うって言ってるんだし」)
おれもやるか、と、嵐もまた身構える。
(「茂さんとハルさんが選んだ道を、いい結果にするって決めたもんな」)
風が吹き抜ける。
幻朧桜が舞い上がる。
戦いが――始まった。
『なら、遠慮なく行くわ』
言葉と同時、少女は地を蹴って神速の刃による斬撃を詩乃目掛けて放つ。
「おお、怖い」
『……っ!?』
詩乃は、その斬撃を完全に見切り、躱してみせた。
どれだけ速く先手を取ろうとも、その攻撃が命中しなければ意味がない。
その点、詩乃の先を見通す技能は抜きん出て優れていたのだ。
もちろん、攻撃を避けただけでは終わらない。愛用の薙刀「煌月」を手放し、カウンターの要領で少女へと接近する詩乃。
同時に、嵐も動いていた。初撃が己か詩乃かどちらに来るかで行動を変えようと身構えていた嵐だったが、標的が詩乃となった今は心おきなく援護に回れる。
「詩乃!」
「参ります!」
存分に戦え、と言わんばかりにその名を呼べば、信頼に感謝する声が返る。
『くっ、間合いに!?』
詩乃はぐっと踏み込んで、少女の太刀筋の間合いに入り込み、密着して組み合うことで一時的に斬撃を封じ込める。
「神の威を、此処に知らしめましょう」
『!!』
耳元で、まごうかたなき神が囁く。
――【神威発出(シンイハッシュツ)】!
太極拳の発勁と共に放たれたユーベルコヲドに、少女が大きくよろめいた。
その様子を、いつでも援護に入れるように見守っていた嵐が思う。
(「やれやれ、やりにくいったらねえなあ」)
取り戻したいから取り戻す。
やられたからやり返す……みんな、当たり前のことをしようとしているだけなのに。
どうしてこんなにこじれるのだろう。
今回の件はだいたい幻朧戦線が悪いとしても、それにしたってやり切れない。
『まだ、っ……!』
再び間合いが生じたことで、少女が刀を振るう。
だが、神たる力を存分に発揮する詩乃を捕らえることができない。
それは桜吹雪の中、舞い踊る巫女神そのもの。少女の刀は、空を切り続ける。
万が一詩乃が負傷したら即座に癒しの力持つ人魚を召喚してフォローしようと構えていた嵐が、あれこれもしかしてその必要なくね? という顔になっていく。
本音を言えば、戦うことは怖いから、この状況は有難いといえば有難い。
『……くっ、この!』
半ば自棄になって刀を振るう少女を、余裕の足取りで翻弄する詩乃。
しかしそれも、さすがに何か一手でも、と思った嵐のスリングショットの狙い澄ました一撃により、刀を握った手を撃たれて取り落としてしまう。命中率がすごい。
気は済みましたか? と荒い息を吐く少女に声をかける詩乃。
少女は、悔しさと息苦しさで返事もままならない。
詩乃はそれを見て、踵を返す。嵐の方へと歩み寄る。
「あとは、桜の精の猟兵さんにお任せしましょう」
「お、おう……もういいのか?」
ええ、と言いながら詩乃は嵐の手を取った。
「!」
「ハルさん、茂さん――それから、あなたも」
ただ、幸せになることを祈って。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御桜・八重
よかった。
茂さんの様子を見ればわかる。あれが本来のハルさんなんだね。
後は悪い影朧をやっつけて、ってあれ?
影朧を見るハルさんの顔が、なにか気遣わし気……
「ハルさん!」
影朧のことを聞く。
ふむふむ、あの人そんなことを……
速い。
刀の振りが圧倒的に速い。
斬撃が息もつかせず襲ってくる。
二刀を以っても凌ぐのが精一杯。
だけど……
迷いの無い太刀筋が綺麗。
無駄の無い体捌きが綺麗。
剣を握る表情が綺麗。
一振り一振り、一挙手一投足を一つも見逃さない様に凝視。
姿を、心を、その剣を目に焼き付ける。
ハルさんの言う通りなら彼女は悪い影朧じゃない。
オブリビオンがあんな風に仕向けているだけだ。
「つかんだ!」
一つだけタイミングを計れた斬撃。
この一撃に合わせ【花嵐】に賭ける。
彼女の速度を超える神速の八連撃に!
彼女に手を伸ばす。
後はわたしたちに任せてくれないかな。
あなたの無念はきっと晴らすから。
自分が誰かも知らないくせに?
大丈夫。
あなたのことは全部覚えたよ。
姿も、心も、その剣も。
だから、後は任せて。
さて、北大路さん。忙しくなるよ!
●君のことを知りたい
とある猟兵の粋な計らいで、触れあうことが叶った茂とハル。
二人は、もうそれだけで十分とばかりに、猟兵たちの立ち回りを見守っていた。
そんな夫婦の姿を見て、御桜・八重は安堵する。
(「よかった」)
夜明け前の空に、幻朧桜が舞い踊る。
(「茂さんの様子を見ればわかる、あれが本来のハルさんなんだね」)
あとは悪い影朧をやっつけて、めでたしめでたしと思いきや。
(「影朧を見るハルさんの顔が、なにか気遣わしげ……」)
普通に考えれば、ハルはまず茂に対し意識を向けるはずなのに、何故か茂と共に影朧――辻斬り少女に視線を向けているのだ。
「ハルさん!」
たまらず、八重がハルに呼びかける。
「どうしたんですか? あの影朧に、何か……」
ハッとなって八重の方を向くハルは、気まずそうに俯くも、すぐに話し出す。
「あのお嬢さんも、私と同じで、帝都で殺人事件に巻き込まれたんですって」
だからこその縁か、だからこその顕現か。
「私の中で、ずっと囁いていたの。自分の仇は自分で取りましょう、って……それに私も自然と毒されてしまったんだと思うと、他人のように思えなくて……」
それを聞いた八重は、野暮とは思いつつ、念の為確認する。
「ハルさん自身には、復讐とか、そういう気持ちは……」
「いいえ……あの時のことを思い出すと今でも震えてしまうけれど、最期にこうしてもう一度茂さんに会えて、もうすっかり」
「ハル、お前……」
再びいい感じになる野村夫妻にほっこりしつつも、八重は落ちていた刀を拾い上げた影朧の少女の姿を、見逃さなかった。
『あ、あああああっ!』
「――速い!!」
ぎぃん、と激しい金属音が響いた。
八重ほどの使い手でも、神速を何とか凌ぐのが精一杯だ。
まるで、本当に自棄になってしまったかのような激しい斬撃は、八重の二刀でもいつまで凌ぎきれるかどうか。
何合、打ち合っただろうか。
ほんの僅か、余裕が出来た。
――迷いの無い太刀筋が綺麗。
――無駄の無い体捌きが綺麗。
――剣を握るその表情が綺麗。
少女の一振り一振り、一挙手一投足を、一つも見逃さないように、凝視する八重。
姿を。
心を。
その剣を、空色の瞳に焼き付ける。
(「ハルさんの言う通りなら、彼女は悪い影朧じゃない」)
骸の海より出でしオブリビオンであるという出自が、あんな風に仕向けているだけだ。
互いの眼光が稲妻のように軌道を残す。
「つかんだ!!」
もはや数え切れないほどの打ち合いの中で、唯一タイミングを計れた斬撃があった。
「いざ、吹き荒れん――」
がっき、と音がして、少女の刃を八重の陽刀が受け止める。
それが、合図だった。
「【花嵐】!」
神速は、辻斬り少女だけの専売特許ではない。
陽刀と闇刀、二刀による神速の――八連撃!
『うそ……っ!?』
がん! がきん! きぃん!!
「やあああああっ!!」
がきん――!
少女の刃が、宙を舞ったのち、近くの地面に突き刺さった。
八重はすかさず、空いた少女の手を強く握りしめた。
「後は、わたしたちに任せてくれないかな。あなたの無念は、きっと晴らすから」
『……何を言うの。わたしが誰かも、知らないくせに』
「大丈夫。あなたのことは全部覚えたよ」
姿も、心も、剣も、その太刀筋も、何もかも。
「――だから、後は任せて」
帝都桜學府の情報管理部門的な部署に、心当たりがあった。
彼に頼めば、きっと過去の事件も洗い出すことが出来るだろう。
握った手は振りほどかれてしまったけれど、いつか、きっと、またどこかで――。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・つかさ
◎
(茂とハルに)
お二人の状況を「良かった」と表現していいものか迷うけれど。
それでも、そうね……ここで改めて「穏やかな離別」を迎えられるのであれば、悪い事ではないのかも。
(ハルは後に影朧化してもおかしくない最期を迎えたので、それを防ぐ機会が得られたと考えているため)
……これも、幻朧桜の導きなのかしら?
さて、貴女も悪い娘ではないようなのだけれど。
斬らずには終われないって言うのなら……やってみなさいな。
敵の先制は甘んじて受ける
ただし、刀が私の身体を切り裂くと同時に全身の筋肉に力を入れ、刃を「怪力」で挟み込んで止める(動かなくする)
そのまま彼女を力ずくで抱き寄せ拘束しつつ【超硬再生・仁王降臨】発動
超回復で傷を癒し、抱き寄せたまま硬化した肉体をそのまま枷として、彼女の事件の話をするよう促す
この時、復讐心・怒り・憎しみといった負の感情を否定せず、思う事全てを吐き出させ、ひたすら頷いて聞き役に徹する
(要はカウンセリングを行い僅かでも癒すのが目的)
……その想いは、正当なものよ。
全部、私が聞いてあげる。
●傷だらけの抱擁
荒谷・つかさは、自分たち超弩級戦力をただひたすら見守ってくれている野村夫妻を見た。超常で触れ合えるようになった二人は、しっかり手と手を取りあっていた。
(「お二人の状況を『良かった』と表現していいものか迷うけれど」)
そもそも凄惨な殺人事件など起きなければ良かったのだから、無理もない。
「それでも、そうね……」
茂も、ハルも、しっかりと目の前で起きている事実を受け容れているように見える。
「ここで改めて『穏やかな離別』を迎えられるのであれば、悪い事ではないのかも」
生前のハルの最期を思えば、今まさに猟兵たちが相手どっている辻斬り少女のように影朧として骸の海から蘇ってしまってもおかしくない。
それを防ぐ機会が得られたと思えば、確かに『悪くない』かも知れない。
(「……これも、幻朧桜の導きなのかしら?」)
見上げた空に舞う幻朧桜は、何も答えない。
燻る殺気は、いまだ消えず。
取り落とした刀を震える手で拾い上げる少女に、つかさは振り返った。
「さて、貴女も悪い娘ではないようなのだけれど」
『……さあ、どうかしらね……』
影朧――オブリビオンである以上、世界を破滅に導いてしまうのは必定。
だが、サクラミラージュという世界でのオブリビオンには、救済の余地がある。
この少女はどうか。
見極める時が来た。
「斬らずには終われない、って言うのなら……やってみなさいな」
『……』
少女の姿が、つかさの眼前から、消えた。
「つっ……!」
痛覚で、少女から何をされたかに気付く――それ程に、速かった。
肉体に食い込む刃は、容赦なくつかさの身体を引き裂いていく。
だが、それで終わるつかさではなかった。
『なっ……刀が!?』
「つ か ま え た」
切り裂かれた姿のまま、つかさが固まり、少女もまた固まった。
何が起きたのか? 信じられないことだが、つかさが全身の筋肉に力を入れて、身に食い込んだ刃を超人的な怪力で挟み込み、抜けなくしてしまったのだ。
『やだ……嘘でしょう?』
「嘘じゃないわ――筋肉は裏切らないもの」
あまりのことに、刀を手放すという選択肢を取れなかった少女を、そのまま力尽くで抱き寄せるつかさ。
身を切られたままなので当然身体に痛みは走るが、構わなかった。
すぅ、と息を吸い、ユーベルコヲド【超硬再生・仁王降臨(ニオウ・アーマー)】を発動させるつかさ。
これにより、気功術による全身のさらなる硬化と超回復状態を得ることができるのだ。
『いや……離し、て……っ』
「駄目よ、大人しくなさい」
一瞬だけ器用に力を抜いて凶刃のみを地面に落とすと、切り裂かれた肉体がみるみるうちに回復していく。
血に染まり、引き裂かれた巫女服こそそのままだが、つかさは実質受けたダメージを無効化してしまった。
『な……何なのよ……っ』
「これが、超弩級戦力よ」
少女を抱き寄せたまま、硬化した肉体をそのまま枷として、つかさは囁いた。
「ねえ、貴女の話を聞かせて」
『……え?』
「どんな事件で、影朧になったのか」
『……っ』
幻朧桜舞う――なんて言っても、この世界では年中舞い散っているものだから時期を語るには相応しくない。
少女は、女學生生活を満喫する何の変哲もない存在だった。
親から貰った大切な名前も、かつてはちゃんとあったことだろう。
だが――ずっと続くと思われた幸せは、突然終わりを告げた。
帰りが遅くなってしまったある日、少しでも家路を急ごうと普段は通らない裏路地に足を踏み入れたのが運の尽き、当時帝都を騒がしていた連続殺人犯の犠牲となったのだ。
それらの事情を訥々と語り、少女はぎり、と歯を食いしばる。
『……ああ、思い出すだけで悔しい』
「……ええ、そうでしょうね」
『何でわたし、殺されなければいけなかったの』
「貴女は悪くないわ、それは間違いない」
『ハルと出会った時、運命かと思った――復讐のチャンスをもらえたんだ、って』
「……」
怒り。憎しみ。復讐心。
影朧たる少女を組み上げる要素。
それら全てを、つかさは否定せず、ただ頷いて聞き役に徹した。
「……その想いは、正当なものよ」
『でも、ハルは……わたしは……』
「大丈夫。全部、私が聞いてあげる」
ハルを道連れにさせる訳には、どうしてもいかなかった。
だから、つかさは代わりに少女の全てを受け容れようと決めた。
自分は桜の精ではないけれど、少しでも少女の癒しになればと願って――。
大成功
🔵🔵🔵
神臣・薙人
×
【真の姿】
10歳程度の子供
外見年齢以外に変化は無し
貴方も犠牲者だったのですね
ならばその痛みも恨みも
私は引き受けましょう
だからどうか
ハルさんと茂さんの最後の時を
静かに過ごさせてあげて下さい
きちんとお別れが出来なかったが故の悲しみは
私も知っているのです
先制攻撃を避ける術が無いのであれば
敢えて受け止めましょう
一撃の重さは、抱いた憎しみの重さでしょうか
負傷は桜灯籠で治療
治療の必要が無い場合は
蟲笛を用いて白燐蟲で攻撃
攻撃の手を抜くつもりはありませんが
その荒ぶる魂だけを鎮めたいと
願う事は許されるでしょうか
ねえ
私を傷付ける事で、貴方の心は少しは晴れますか
もしそうならば、何度でもどうぞ
貴方の猛る心が鎮まるまで
私は倒れたりしませんから
曲がりなりにも超弩級戦力なのですよ
遠慮などいりません
負傷や疲労が蓄積したら真の姿に変化
小さくなるので
あまり好きではないのですけどね、この姿
戦い方は変えず
影朧の魂を鎮める事を願います
もし、叶うのなら
私にその力があるのなら
影朧の転生を
私は、貴方を許します
次の生では、どうか幸せに
●癒しを、どうか
抜け出せないほどに力強い抱擁を受け、半ば強制的にではあったが胸に凝っていた想いを全部吐き出し、解放された影朧――辻斬り少女。
最後に少女の前に踏み出したのは、神臣・薙人だった。
「貴方も、犠牲者だったのですね」
『……だから、どうだっていうの』
「ならば、その痛みも恨みも、私は引き受けましょう」
薙人はあくまでも穏やかにそう告げて、少女に向けて頭を下げた。桜の枝が揺れた。
「だからどうか、ハルさんと茂さんの最後の時を、静かに過ごさせてあげて下さい」
『……』
「きちんとお別れが出来なかったが故の悲しみは、私も知っているのです」
『……』
薙人の言葉に、しばし少女は押し黙り――そして、唐突に声を上げた。
『ハル!』
「はい……っ!?」
『あなたさっきから旦那と二人してわたしのことばかり見て! 人の心配してる場合じゃないでしょう!? この超弩級戦力の言う通りよ、ちゃんと自分のお別れを済ませてよ!』
「え、あっ……それは……」
「ハル、……お言葉に甘えようか」
茂とハルは、薙人に深々と頭を下げて、やや気恥ずかしげに向かい合った。
『じゃあ、行くわ――せいぜい、最期まで悪役を務めてみせる』
「私は言いました――『引き受けましょう』と」
一方で少女は傷だらけの姿で、最後の斬撃を繰り出す。
血の華が咲き、薙人が一、二歩よろめく気配に野村夫婦がハッとなるも、薙人の微かな笑みに再び最期の言葉を交わしに戻る。
(「一撃が、重い」)
胸元をざっくりと切り裂かれたのを手で押さえながら、薙人は攻撃に反応して動き出した白燐蟲が作り上げた吊り灯籠からはらはら零れる桜の花びらを浴びる。
すると、受けた傷があっという間に塞がっていく。
痛みこそ残るが、それでいい。この痛みは、忘れてはならない気がしたから。
(「抱いた憎しみの、重さでしょうか」)
薙人を癒やした白燐蟲は、そのまま少女目がけて突撃していき、まとわりついてその動きを封じようとしていた。
「……攻撃の手を抜くつもりはありませんが」
白い羽織を鮮血に染めて、薙人は再び少女に向かい合う。
「その荒ぶる魂だけを鎮めたいと願う事は、許されるでしょうか」
――ざん、っ!!
言葉の代わりに、斬撃が薙人の肩口を切り裂いた。
『……う、ううっ……』
少女は、泣いていた。
どうして。
ハルを誑かしてその人格を歪めようとしたのに、どうして、超弩級戦力たちは。
「ねえ」
白い羽織が赤く染まっていくままに、薙人は穏やかに問いかけた。
「私を傷付ける事で、貴方の心は少しは晴れますか」
『うる、さい……!』
少女はぼろぼろと涙をこぼしながら、霞む視界で、必死に薙人を捉えようとする。
「もしそうならば、何度でもどうぞ。貴方の猛る心が静まるまで、私は倒れたりしませんから」
『何で、なんで……!!』
少女の斬撃が、初めて空を切った。
わざとなのか、狙いが外れたのか、どちらかは分からない。
「曲がりなりにも『超弩級戦力』なのですよ、遠慮などいりません」
『あ、あ……ああ……』
震える声、震える手。
少女は、遂に刀を自ら取り落とした。
そうは言っても、やはり負傷や疲労は蓄積する。
やむを得ないと、薙人は一度目を閉じる。
「――」
目を開けると、景色がやや低くなっていた。
気のせいではなく、本当の話だ。
『……童子?』
「……あまり好きではないのですけどね、この姿」
薙人の姿は、十歳程度の子供の外見になっていた――真の姿だ。
『馬鹿にしてる……って、訳じゃないわね……それ』
涙目で、それでも今の薙人の姿を見た少女は、思わず口元に笑みを零す。
薙人としては些か不本意ではあったが、愛らしい笑顔だと思った。
「もし、叶うのなら。私に、その力があるのなら」
小さな歩幅で、しかししっかりとした足取りで、薙人は少女へと近づく。
そして、少女の血にまみれた傷だらけの手を取った。
「影朧の転生を――私は、貴方を許します」
『……馬鹿ね、みんな……本当に……馬鹿』
触れた手の指先から、影朧の少女の姿が舞い散る幻朧桜と化していく。
「次の生では、どうか幸せに」
はらはらと、その姿が全部幻朧桜に溶け込んで消えてしまうまで。
薙人は、そして全ての超弩級戦力たちは、ずっと見送っていた。
●おしまいの時間
「――有難うございました」
野村・茂が、深々と猟兵たちに頭を下げた。
もう良いのかと問われると、茂は黙って首肯する。
「皆様のおかげで、今度こそハルときちんとお別れが出来ます」
茂の隣で、ハルもまたその身を幻朧桜に変えながら、猟兵たちに向けて笑った。
「本当に、有難うございました。出来ればどうか……これからも、茂さんのこと、よろしくお願いしますね」
「ハル、何を言って……子供じゃあないんだぞ」
「ふふ……だって茂さん、いつだって自分を抑えてしまうから」
はらはらと、ハルが夜明けの空に幻朧桜となって、溶け込んでいく。
「茂さん、あなたに会えて、愛してもらえて、わたし――幸せだったわ」
――ざああ。
夜が明けて、宿の外には茂と超弩級戦力たちだけが残された。
呆然と立ち尽くす茂に、誰も、かける言葉を持たなかった。
「……ハルも、転生してしまうのでしょうか」
ぽつりと、茂が呟いた。
桜の輪廻がどう動くかは、流石の桜の精でも分からない。
「出来れば……少しばかり、待っていて欲しいものです」
茂は猟兵たちに背を向けたまま、そう言った。
「僕は、まだハルの所へは行けません」
――与えられた生を、全うするまでは。
――ハルが生きた証として、精一杯生きていかねば。
けれど。
「あ、ああ……」
夜明け空を見上げて、茂は落涙する。
「あああああ、ああ……!!!」
愛する妻には、最後まで見せなかった涙だったという。
大成功
🔵🔵🔵