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銀河帝国攻略戦⑰~宇宙に獣、慟哭す

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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●戦闘宙域X-1984:殲滅部隊『スローターハウス』
 異様な光景だった。
 まるで石を立方体に切り取り磨き上げたような、一切の凹凸のない飛行物体が複数。
 そこには砲塔どころか、センサーはおろか船窓すらも存在しない。
 そして四面にへばりつく、無数の小型歩行戦車たち。空中戦闘に対応した特別型だ。
 いくら随伴戦車が存在するとはいえ、何の防衛兵装もないのは異常である。

 立方体の内部。一切明かりの灯らぬそこに、狂気の根源があった。
 いくつも立ち並ぶ、苦痛に喘ぐ人間の顔のような形をした金属の塊。
 『アゴニーフェイス』。おぞましき非人道的兵器。
 殺戮の家の内部からは、常に犠牲者たちの悲鳴が響く。
 それを聞いたものもまた、彼らの仲間入りをしてしまうのだ。

●民間宇宙船グレイテスト号
 オンボロな船に集められた猟兵たちの前には、小さな少年がひとり。
 否、正しくは少年めいた見た目の賢者である。名はムルヘルベル・アーキロギア。
「脳を加工し、あまつさえ兵器とする。なんとおぞましい発想か……」
 彼は心底忌々しげに吐き捨てながらも、状況について説明した。

 黒騎士アンヘル。銀河帝国艦隊の双璧を担うとされる大敵だ。
 その傘下には、『アゴニーフェイス』と呼ばれる強力な精神攻撃兵器があるという。
「彼奴らが用いるカートリッジの中身は、特殊加工が施されたサイキッカーの脳だ。
 いかにしてそれをなしたか、あまり考えたくはないものだ」
 頭を振って、気を取り直す。
「ともあれ、このカートリッジを用いることで、艦隊は大規模な精神波を照射する。
 ……悲鳴がな、聞こえるそうなのだ。まともな人間ならばそれだけで痴れ狂う」
 猟兵ならば、それに抗える。
 解放軍に被害が出る前にこれを叩かねばならない。

 だが、と少年賢者は前置きした。
「いかに猟兵とて、影響は受けてしまうようだ。本能が強まる、というべきかな。
 オヌシらは『真の姿』を晒さざるを得なくなるだろう』
 だが影響は一時的だ。むしろ戦力が引き出されるという点では好都合とも言える。
「彼奴らがそれをもたらすというのなら好都合。いっそオヌシらの力で叩き潰してやれ。
 それぞれの意志の強さなどにもよるであろうが、戦闘中か終わる頃には元の姿に戻れるであろう」
 敵護衛を蹴散らし、非人道的兵器を完全破壊。これが猟兵の任務となる。
「なかには、真の姿を晒すことに忌避感を抱くものもおるやもしれぬ。
 ま、徹底的に暴れたいというならばそれは善き哉。どうするかはオヌシら次第だ」
 彼が語るところによると、真の姿が普段のものからかけ離れていればいるほど力が増すという。
 おそらくは、精神を揺さぶる『アゴニーフェイス』の副作用なのだろう。

 ムルへルベルは持っていた古い本を閉じる。そして言った。
「"欲望と感情は人間性のバネ。それを統制し、調節するブレーキこそが理性だ"。
 とある政治家の言葉だ。オヌシらの健闘を祈る」


唐揚げ
 まあこれにしますよね! 唐揚げです。
 はい、いつもの大事な文章です。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 よろしいですね? では以下まとめです。

●目的
 『アゴニーフェイス』艦隊・防衛戦力の撃滅。
 および、非人道的兵器『アゴニーフェイス』の破壊。

●敵戦力:殲滅部隊『スローターハウス』内訳
 『アゴニーフェイス』内蔵の巨大立方体(防衛能力皆無。壁面は強固)
 『小型歩行戦車』(超多数。宇宙戦闘対応の特務型)

●備考
 このシナリオは、猟兵の皆さんが敵に急襲を仕掛けた時点から開始されます。
 敵は『アゴニーフェイス』を皆さんに向け照射。
 これにより皆さんは『真の姿』に強制的に変異させられてしまいます。
『猟兵の生存本能が上回ることで無力化はされないが、理性を失うことで変異する』
 というのが設定上の理由ですが、どの程度理性を失うのかは皆さんの自由です。
 獣に変身する方は獣同然の戦闘方法になったりしてもいいでしょう。
(当然ですが『本能的に味方を襲う』などのプレイングはほぼ不採用になります)

 リプレイでは、変異以後は皆様のプレイング内容に応じた戦闘描写をいたします。
 真の姿のまま敵部隊を蹴散らし、『アゴニーフェイス』の破壊を行ってもよし。
 戦闘中に元の姿に戻り、冷静に残存兵力を殲滅する……といったこともできます。
 効率的な《戦術》よりも、戦闘描写の方向性を意識してみると楽しいかもしれません。

 とまあ、こんなところです。
 では皆さん、変ッ身! してよろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『小型歩行戦車』

POW   :    インペリアルキャノン
【機体上部に装備されたビームキャノン】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    タンクデサント
【完全武装した銀河帝国歩兵部隊】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    サイキックナパーム
【機体後部から投射する特殊焼夷弾】が命中した対象を燃やす。放たれた【搭乗者の念動力で操作できる】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●戦闘宙域X-1984
 特殊宇宙服を着用した猟兵たちによる、突然の強襲。
 だがそれは当然想定済みだ。猟兵とて覚悟の上での攻撃である。
 暗黒の立方体内部、いびつな金属注に、敵襲感知による自動通電が行われた。

 あ。
 あああ。
 あああああアアアアアあああAaAaaaああ!!

 音が伝わらぬはずの宇宙に、耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴が轟いた。
 男がいた。女がいた。子供がいた。大人がいた。老人がいた。赤子がいた。
 それらはすべて泣き叫び、苦しみ、怯え、そして叫ぶ。
 助けてくれ。誰か。誰か。今すぐ我らを██してくれ!!

 悲鳴と怨嗟と絶望と苦悩と煩悶の音叉たちが猟兵を襲う。
 だが猟兵とは生命の埒外にあるもの。その本能は強固である。
 けして刃を奪われることはない。いやむしろ、この惨響にあってそれは強まる。
 代償に喪われる理性。取り戻すまでのラグはそれぞれの個人に依るだろう。

 明らかになる真の姿。猟兵を猟兵たらしめる本質。
 さあ、逆鱗を撫でた愚か者どもに、制裁をくれてやれ。
 ブースター噴射とともに殺戮の家から飛来する無数の特殊歩行戦車を。
 その向こうにある、殺戮の家を。囚われた哀れな者たちを。

 獣よ吼えよ。汝の敵はそこにある。
ネグル・ギュネス
【SPD】
悲鳴攻撃を受け、真の姿を見せる
黒き髪に、黄金の左眼
刀を持つ、機械の左手には、赤黒い光


嗚呼、貴様ら。
何処まで俺を怒らせれば気が済む?
この姿を晒させた事、サイキッカー達の苦悩や無念

成る程、余程死にたいと見える
お望みならば、地獄の果てまでぶっ飛ばしてやる!

ユーベルコード【勝利導く黄金の眼】を用いて、攻撃射線を読みながら、宇宙バイク【ファントム】で駆け抜ける

【残像】を用いて敵を欺き、【衝撃波】を疾走とともに放ちながら、薙ぎ払い
アゴニーフェイスを、一刀両断してくれる!

───ああ、心配するな。
貴殿らの怒り、無念、悲しみは私が連れて行く。
共に往こう。

我らが怒りを、思い知らせに。
勝利を掻っ攫いに!


鳴宮・匡
感情で引き金を引くのは、
俺にとって、最も恥ずべき戦い方だ

だから、抑える
脳を揺らすような叫びをやり過ごして
感情に引きずられない、
自分の目と耳だけで、敵を定められるまで

……それじゃ、仕事だな

他が派手に暴れるだろう
その撃ち漏らしを始末していく
ただ冷静に敵を照準に捉え、引き金を引く
今なら、ひとつとして取り零さない

――助けを叫ぶ声なんて関係ない
顔も知らない相手の悲鳴も、苦痛も、どうでもいい
俺が生きる為に、
俺であるために、
立ち塞がる者はなんであれ、分け隔てなく殺す
ただ、それだけだ

◆真の姿
五感情報の鋭敏化/広域化
並列演算能力・神経伝達速度の強化

外見変化は皆無
瞳の奥に揺らめくような青が覗くのみ



●白き騎士は黒く染まりて
 悲鳴の渦が、男の形をした鋼を呑んだ。
 白き髪の猛き男。その名を人はネグル・ギュネスと呼ばう。

 ――助けてくれ。
 苦しい。痛い。悲しい。嫌だ。誰か。誰か。誰か。
 ここから出してくれ。我らを殺してくれ。解き放ってくれ!

「……嗚呼」
 ネグルは吐息を吐き出した。湯気が立ちそうなほどに熱く燃えていた。
 男の半身は鋼である。記憶を喪いしその身は冷たく、瞳はなお冷ややか。
 だが裡には炎が燃えていた。悲鳴はそれを燃やす薪となる。
「貴様ら、何処まで俺を怒らせれば気が済む?」
 じわじわと、白が黒に侵される。それは燃え上がる炎の影に似た。
 いびつに輝くは金の瞳。未来すら予測する冷酷なる殺意の顕現。
 左手。鈴鳴りの桜花を掴む拳が、臓物のような赤黒を孕んだ。
「この姿。この無念、この苦痛、この懊悩。
 ――いいだろう。そこまで死にたいと云うならば」
 しゃりん、と。幻影を断つ刃が虚空に鞘走る。
「ならば皆殺してやる。地獄の果てまで飛ばして散らしてやろう。
 ……来い、ファントム。来たれ我が影、我が黒鉄ッ!!」
 真なる鋼の咆哮が応えた。風のように現れた。
 金と赤を備える黒き風は、ひとつになりて宇宙を奔る。

●黒き銃士は青をたたえて
 一方で、悲鳴の中、一切の激情も悲嘆も見せぬ男がいた。
 白き男とは対照的に、藍がかった黒は初めからそうだった。
「――……そうか。残念だったな」
 男はただ一言そう呟いた。虚空を見据える瞳の奥、滲むような青は昏く。
 悲鳴と狂乱の嵐の中、ただそれまで通りに在る男。
 凪いだ海のように不変、不動。されど蒼き輝きを、鳴宮・匡と云う。

 ――感情で引き金を引くな。
 ――前を向いて、生きる為にあらゆることをやれ、

 かつての教えは心に刻まれ、五臓六腑と四肢に染み付いている。
 ゆえに抑えた。いつも通りに、これまでと同じようにやり過ごした。
「目は視える。耳も聴こえる。……敵は、あそこだ」
 平凡な風貌の、平凡な精神をした青年はひとりごちる。
 いつも通り。いつも通りだ。ならば。
「それじゃ、仕事だな」
 ただそう呟き、普段と同じように匡は前へと進み出た。

 瞳の奥、昏き青は海の底に似て冷たく、深く、震えるほどに蒼い。
 彼は激情を抑えた。混乱を、悲嘆がもたらす情動を抑え込んだ。
 ならばその輝きはなんだ? ぎらぎらと煌めく瞳のそれは?
 答えは彼しか知らない。敵が識るとすれば、それは――。

 彼の弾丸に、穿たれたその時だ。

●剣は躍る
 小型歩行戦車、およそ四小隊。総計16機。
 仮にそれらをA・B・C・D小隊と呼称。以後使用する。
 A・C小隊、13秒後に右翼へ。B・D小隊、同時に左翼へ。
 敵戦術、両翼からの同時砲撃による圧殺と――否、熱源反応を感知。
 全小隊、内部に機械化宇宙歩兵を内蔵と確認。総数の仮定は切り捨て。
 予測敵分散時間まで残り5秒。戦術選択――演算開始。
 軌道予測表示。敵推定射線、および歩兵出現位置予測。

 ――演算終了。敵部隊分散!

 総計16機、半数はネグルから見て右に、残りは左に散った。
 ほとんど鋭角な、幻惑的な軌道変更である。
 一方のネグルはどうか? 彼はSRファントムをフルアクセルで踏み込んでいた。
 鏃のようにまっすぐに宇宙を奔る黒き風。嘲笑うように敵は花開く。
 そして火砲が、中央を横切る愚か者に向けられ――金の瞳がそれを見返した。
「甘いな。木偶どもが」
 瞬間、鋼の姿は消えた。否、正しくは光の抱擁に貫かれた。
 両翼に別れた小型戦車は、内部に待機していた宇宙歩兵を射出。
 これらは一斉に携行熱線銃を構え、トリガを引いたのだ。
 数を数えるのも馬鹿らしい光の雨。だが。だが見よ!
「――甘いと」
 そこに彼はいない。貫かれたはずの騎影は、靄めいた霞んで消える。
 ……残像。歩兵、および全戦車が索敵を行う。敵は一体――ちりん。

 しゃりん。ちりん。しゃきん。しゃこん、しゃこん!

 鈴が鳴り、刃が奔った。右翼敵戦車8両、両断撃滅。
 連携のために散開していなかったのが仇になった。歩兵42名、併せて焼死。
「――言っているぞ、木偶どもッ!」
 亡霊がそこにいた。ネグルが見据えるは左翼に散った残存戦車8両!
 彼の目にはすべて見えていた。敵の戦術、射線、なにもかも。
 そして彼のまたがるマシンは優秀である。疾く、敏く、そして従順だ。
 ゆえに彼の思い通りに流麗なカーブを決め、眼下より敵を切り裂いたのだ。

 敵砲撃、此方をターゲットロック。発射まで2秒――遅い。
「遅いッ!」
 もはや演算すら必要ない。残像を生じさせる速度でネグルが躍る。
 それを追尾するようなビームキャノン。遅い、あまりに遅い。他愛もない!
「貴様らは伐ってやる価値もないな、消えろ」
 声は敵の背後からした。カメラアイが、歩兵達が振り向こうとした。
 そして、みな、吹き飛んだ。幻影の疾走、それがもたらす衝撃破に。
「次は誰だ。来るがいい、さあ。来い!」

●銃は舞う
 匡の思ったとおり、あちこちから獣じみた雄叫びが聞こえた。
 見知った者、見知らぬ者。猟兵たちはそれぞれに猛り、荒ぶる。
「ああ、いいぜ。せいぜい派手に暴れてくれ」
 端的で他人行儀な言葉。どうでもいい、とばかりに一瞥し切り捨てる。
 背後。宙空戦闘に特化した変幻的軌道で小型戦車が一両――BLAM。
 振り返りもせずに『FMG-738』のトリガを引く。
 たかが拳銃、たった一発。それが小型とはいえ戦車を一撃で破壊せしめた。
「ったく、暴れるのはいいが食べ残しは勘弁してほしいな」
 BLAM。BLAM。BLAM。
 周囲の戦闘、その残滓とでも云うべき敵がこちらへ迫ってくる。
 まるで死骸にたかる蝿だ。BLAM。汚らしい。BLAM。

 ……匡は、敵の姿を見ていない。視線を向けてはいない。
 だが聴いている。異常鋭敏化された聴覚が、その音を感じ取っている。
 宇宙で? 然り。噴射剤の燃焼の音を彼は聴いているのだ。
 そして無機物どもの冷たい殺意を食み、舌で転がす。
 背後、斜め下約36度に1両。BLAM。撃墜を確認する必要もない。
 さらに肌で感じる。ビーム砲が己を捉えたかすかなエーテルの揺らぎを。
 右側面マイナス111度、歩兵を展開。BRATATATATAT……戦車ごと薙ぎ払う。
 視・聴・触・食・嗅。
 いまや彼の五感は常人に非ざるほど鋭敏・広域化している。
 加えて脳内の演算能力だ。ノイマン型コンピュータでは追いつけまい。
 具体的な距離も速度も――BLAM。敵二両撃墜。同時に左後方の敵機撃墜。
 ……距離も速度も、測ったことはない。
 そんな悠長で冗長なことを、かつての師は許しはしてくれなかった。

「どうでもいい」
 BLAM。BLAM。BRATATATATAT。BRATATATATAT。
 緩やかに宙を往き、トリガを引き、また引きながら匡は呟く。
「お前らの苦痛も、悲鳴も。どうやって死んだかもどうでもいい」
 それはいまだ続く悲嘆たちへの言葉であり、そして、そう。
 凪の海の波紋、深く沈んだ砂粒が、落ちてきた石に揺られて浮かぶように。
「どうでもいいんだ」
 ほんの微かに脳裏に甦った、己の後悔と慙愧の源たる風景。
 その中で倒れ伏す、長い黒髪の女の屍。
 ――正しくは、それを思い返す己の情動に対して。
「俺は俺だ。助けなんて呼ばれても、困るんだよ」
 BLAM。BLAM。BLAM。BRATATATATAT。
 感情で引き金を引くな。前を向いて、生きる為にあらゆることをやれ、
 戦場で思索に耽るなど以ての外。そもそもそんな情け容赦は彼にはない。
 だのになぜだ。どうして、あの人の姿が脳裏をよぎるのか。
 ……苦悶と悲鳴が、この心を、水面を揺らがせているとでも?
「どうでも、いい」
 ミニマルなまでに規則正しい銃声のなか、彼は呟く。呟き続ける。
 師は死んだ。自分は生きている。それがすべてだ、それで十分だ。
 迷いも惑いもありはしない。そう在れと彼女が教えてくれたのだから。

 彼の中の思い出は、引き金には何の重みも与えない。もたらさない。
 ただ、瞳の奥で――昏い、昏い蒼が揺れている。

●彼らを呼ばうは
 ――ざん。ざざん。がごぉんっ!!
 幾重の切り込みが刻まれ、壁面が吹き飛んだ。
 桜花の刃を手に、走り込んできたのはネグルである。
「ここか。これが――奴らの妄執か」
 ここは殺戮の家。数多に浮かぶ飛行立方体の一つ、その内部。
 金色の瞳は、暗闇の中に立ち並ぶ苦痛のオブジェたちを視認した。
 アゴニーフェイス。これが悲嘆の源だ。

「相変わらず暑苦しいやつだな。もう少し静かに入ってこいよ」
 ギュンッ! とファントムを回頭させ、ネグルは振り向く。
 声の主は見知った相手だった。ネグルは穿った孔から中を覗き込む彼。
「……鳴宮。お前も、」
 BLAM! 匡が無造作にトリガを引いた。
 苦痛に呻く男、正しくはそのデスマスク型のカートリッジが吹き飛ぶ。
「ああ、参戦してる。ほら、さっさとぶち壊そうぜ」
 匡は至極当然のように言い、殺戮の家に入場する。
 足取りは軽やかでも重くもなく、散歩をするかのように当然に。
 BLAM。BLAM。BLAM。動かない装置など演算すら必要ない。
「……? どうした。お前もそのために来たんだろうが」
 ネグルを見返し、匡は小首を傾げた。両手は機械めいてトリガを引き続ける。
「お前……いや、そうだな」
 金色の瞳は、その蒼の奥に何を視たのか。
 ただ相棒と呼ばう青年は、いつも通りだった。
 いつもどおりの表情、いつもどおりの戦い方。凪いだ心。
「お前は、そうするのだな。鳴宮」
 銃声の合間、かけられた言葉に……匡は、ほんの少しだけ間をおいて。
「ああ。俺はお前とは違う。こいつらのことなんで、どうでもいいんだ」
 そう答えた。
「俺が俺であるために。俺として生きるために。敵は殺す、それだけだ。
 お前みたいにブチギレて撃つなんざ、俺にとっちゃ恥ずかしいことなんだよ」
 BLAM。BLAM。BLAM。
「敵に貴賤なんてない。立ちふさがるなら、ただ殺す。
 ……ただそれだけだ。答えは、これでいいか?」
 同行者に料理の注文を投げかけるような、気兼ねなく穏やかな言葉。
 ネグルは瞑目し、瞼を開いた。そして蒼を見返し、頷いた。
「いいだろう。ならば、彼らの苦しみ、怒り、無念は」
 そして見返す。鋼のエンジン音が猛々しく鳴り響く。
「私が連れていく。哀れなる犠牲者たちよ。苦しみぬいた者たちよ。
 共に往こう。だから――もう休め。心配は、しなくていい」
 鋼の男にそぐわぬ、優しげな声。
 それは、剣戟と疾風が吹きすさんだあとに、終わりし者たちへとかけられた。
 悲鳴が途切れる。衝撃に煽られ、カートリッジが両断され砕け散る。

 ……静寂が流れた。

「鳴宮」
「ん?」
 ネグルは背中を向けぬまま呼びかけ、匡はいつもどおりに答えた。
 少しだけ間があった。ネグルにも、匡にも。……そして。
「お前も一緒にだ。奴らに思い知らせるために」
「……ほんと、暑苦しいやつ」
 肩をすくめて匡は続ける。
「言っただろ、そういうのはどうでもいいんだ。だが」
 だが。
「……お前が、俺をそう呼ぶなら。ま、少しは応えないとな」
 ネグルは振り向いた。金色が過ぎ去った、紫色の瞳で。
 そしてかすかに微笑み、頷いた。匡は苦笑して頭をかく。
「ああ。それでこそ俺の、相棒だ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フルール・トゥインクル
真の姿……晒したくはないのですけど……
ほっとくわけにもいかないというのが難しいところなのです

とりあえずなるべく誰にも見られないように、耳をふさいで他の方々から離れた場所から仕掛けようと思うのですよ

私の真の姿は巨大な樹。その場に根付いて急速に成長、私自身が樹になるのです
後は『誰にもこの姿を見られたくない』という嫌悪感を振るって、樹属性の嵐を自分中心に巻き起こすのです
徐々に嵐を大きくしながら自分に生えている葉や枝、涙型の実を巻き上げて周辺の敵を倒すのですよ

真の姿の間はまともに話したりもできないですし、元に戻るのはアゴニーフェイスが壊されてからですかね
誰かに見られてないか確認してそっと撤退するのです



●その時少女は
「はあ」
 フルール・トゥインクルは、肩を落としてため息を付いた。
「はあ……」
 小さな体がさらに小さく見える。周囲の宙域に人はいない。
「ほっとくわけにもいかないのですよね、はああ……」
 グリモア猟兵から説明を受けたときから、彼女はずっとこの調子だ。

 フルールは、自分の姿が好きではない。
 嫌い、と言ってもいいか、苦手というべきか。曖昧なところだ。
 いつかの霧の街、己を模した敵を前にした時も、彼女は浮かない顔をしていた。
 それがどうだ。真の姿? 意思に依らずに引きずり出される。
 普通なら寄り付かない仕事だ。だが聴いてしまったのだ。
「辛くて苦しくて……そんな人たちを、そのままにはしておけないのです」
 導きをおのが使命とする少女の善性は、それを捨て置けなかった。
 だから。せめてもの抵抗に耳を塞ぎ、出来るだけ人のいないところを選んだ。
「あ」
 その途中、駆け抜ける背中を見た。白い髪を黒く染め、金の軌跡を描く人。
「……ごめんなさい、なのです」
 誰に対する、何をもっての言葉か。
 見知った男の背中を見過ごし、フルールはもっともっと離れた場所を目指す。

 だが、アゴニーフェイスの悲嘆は精神攻撃である。
「――っ、あ」
 ゆえに、彼女の健気で可愛らしい抵抗は無意味だった。
「あ、うう、やなのです、や……っ」
 体を抱きしめ、身悶えする。その隙間から蔓が萌え出た。
「あ、あ、あ――あああ!」
 悲鳴のような、恍惚のような。胸を締め付けるような声。
 フルールの吐息は苦痛の嵐に呑まれて混ざる。絶望が雨をなす。
 彼女の体に降り注いだそれは、蔓を、蔦を、枝を葉を根を伸ばさせた。

 そして少女は眠るように目を閉じた。
 彼女を抱きしめるように、虚空に根を張る大樹が緑を花開かせた。

●ただそれだけを願って
 虚空に、根を張る。
 異常な現象である。ゆえに小型戦車たちはまず観察を試みた。
 巨大な巨大な樹木。その幹には少女の半身が呑まれている。
 戦車たちから小さなカメラアイが現れ、その異常の正体を探ろうとした。

 視られている。
 探られている。
 捜されている。
 この体が。この姿が。この血が。嗚呼。噫。ああ!

 少女が目を開いた。森色の瞳に光はない。
 小型戦車たちは砲口を構える。そして。

『アアアアアア――――!!』
 いと高き血を受け継ぐもの、恵みとともにありてこれを護るもの。
 天然自然より生まれしもの。尊き家の裔は、清らかなまでに叫んだ。

 見るな。
 見るな!
 見るな!!

 否定。拒否。拒絶。憤怒。悲嘆。
 嘆きだった。願いだった。叫びだった。縋っていた。
 ただ、ただすべてを拒絶する嫌悪の情。それが犠牲者たちの嵐に混ざる。
 ――否、飲み込む。大樹は揺らがぬ、虚空に蔓延る根は不動なり。

 見るな。見るな視るな観るな! この姿を! 誰も、誰も!!
 助けてくれ。殺してくれ。痛い。苦しい。辛い。
 見るな/助けて、視るな/苦しい、観るな/痛いよ。
 見るな殺して見る誰かな俺たるなち見をるな見殺るなてく見――!!!

 嵐が生まれた。それは葉であり、枝であり、根であり、つまりは森だった。
 恵みであり、破壊であり、生であり、死であり、輪廻していた。
 深く鮮やかな深緑の嵐は、球状に広がっていく。
 5メートル。
 10メートル。
 20。30。40。50――。
 近づいていた、あるいは近づこうとしていた敵影が呑まれていく。
 それは森だった。生きるもの全てを拒絶する森だった。
 宇宙という凍てついた死の空を飲み込む、暴走した自然そのもの。
 敵は抗えない。概念に抗える機械はいるか?
 森を滅ぼすとはなにをもってそれとする?
 樹をひとつ伐ったところでそれは樹だ。
 土をほじったところでそれは土。
 葉をもいだところでそれは葉。森は全てではあるがそれ一つではない。

 真円にして深淵たる自然の波濤は、ついには苦痛の源にすら迫る。
 光なき闇――否、立方体の壁面は森に削られ呑まれて失せた。
 苦しみ続けるデスマスクたち。喘ぎ続ける脳髄たちは救いを識った。
 噫。嗚呼。我らは潰える。我らの終わりが来てくれたと。
 彼ら、彼女らに目はない。耳もない。だからわかった。
 彼らだけが識った。見ず、聞かず、されど感じた。
 ――嵐の森の只中で、ただ、ひたすらに涙を流す少女の心を。

●独白
 ……ふと。
 少女は自分が元の姿に戻っていることに気づいた。
 まあ、それも特段好んでいるわけではないのだが――それでも、あれよりはいい。
「っ」
 慌てて周囲を見やる。誰もいない。
 ただ妙に大量の鉄くず――と思われる――塵が彼女を包んではいたが。
「はあ、よかったのです。見られたらどうしようかと……」
 胸をなでおろしつつ、戦線を離脱しようとして……気づいた。
「これは……?」
 目の前に浮かぶ果実。ティアドロップ型のそれ。
 それを手にとり、瞼を伏せて……魔力を込めれば、それは光の粒へ。
「いらないのです、こんなのは。……いらないのです」
 涙の果実を光へ変えて、少女は戦場に背を向ける。
 壊すべきものは壊した。もはや彼女がいる意味はない。

 白い髪に、ひとしずくだけ光が混ざった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アシェラ・ヘリオース
「悪くないな。あれを敵として破壊できるのは」
微笑し、腕を掲げれば真の姿がまろび出る。
最初は赤のフォースの暴風。
ついで赤が黒に変じ、黒き渦となって世界を歪める。
銀の髪は漆黒に変じ、黒の衣は端々が避けて白の肢体を露わにする。
その手にある赤光の剣は、宇宙の闇よりもなお濃い漆黒の頭身と化していた。
光すら捻じ曲げ、吸い込み、逃さない無明の闇がそこにある。

「貪るばかりとは情けない。先生にはとても見せられない姿だな」
自嘲するが現状では好都合だ。
手を翳せばまとめて引き寄せられ、手を握れば爆縮する。
黒の剣を振れば、闇よりも濃い黒が虚空を裂いた。
威力は凄まじいが、全くつまらぬ力だ。

「手荒く行くぞ。悪く思うな」



●暗黒ここに顕現す
「悪くないな、あれを破壊できるのは」
 女は上から下まで、すべてが黒かった。
 異なるのはまず、フードからこぼれた銀の髪。
 そしてその下、くすりと微笑をたたえる唇、何者にも染まらぬ白い肌。
 その他のすべては、宇宙よりもなお昏き暗黒に染まっていた。
 暗黒の名を、アシェラ・ヘリオースと云う。

 そして闇が片手を掲げた。指差すのは、おのれめがけ来たるものども。
 その先に浮かぶは殺戮の家。――同時に、彼女を見えない嵐が洗う。

 苦しい。痛い。悲しい。辛い。
 消えたい。死にたい。滅びたい。
 助けてくれ。救ってくれ。殺してくれ。

 ……激甚たる思念の帳に包まれて、されど女はなお微笑む。
 赤い視線は、殺戮の家より一縷として揺れはしない。
「いいだろう。ならば私の裡に来い」
 その輝きが膨らみ、たわんだ。それは暴風であった。
 悲嘆たちを飲み込み、飲み干し、本能を育て起こした嵐である。
 血のように紅い嵐は、次いで黒へと生まれ変わった。
 ……闇である。それに比べれば、常の女の黒などたかが黒だ。
 暗黒とはまさにこれ。アシェラ・ヘリオースは渦の中心にいた。
 銀の髪も何もかもが漆黒へと変わる。空間そのものが凝縮し歪んだように。

「さあ、嘆きの徒たちよ。苦しみ、貶められ、今なお辱められる者たちよ。
 お前たちは死を望むのだな。まったき滅びを望むというのだな?」
 重力の井戸の底じみた無明にありて、ちらつく肢体は白く艶やか。
 されど片手に振るう、かつて赫でありいまや黒たる刃は鋭利にして無双。
「望みを叶えてやろう。何もかも――何もかもを」
 女の瞳――らしき光――が愉悦に歪んだ。彼方の敵はざっと数十。
 ちろりと、赤い舌が唇を撫でる。嗜虐の笑み。
「お前たちもろとも、貪り尽くしてやろう」
 黒風が世界を喰らって切り裂いた。

●虚
『なんだあれは』
 戦車より排出された兵士のひとりが呻いた。
『どうした』
『ありえない。あ、あの猟兵……いや、わからないが、"あれ"は。
 熱源反応なし。光学反応なし。その他センサー、一切探知せず』
 声は震えていた。
『居ないんだ。あいつは、俺達には見えているのにどこにもいないんだ!!』
 恐慌した兵士が銃を向けた。迫りくる黒渦に向けて。
 居並ぶ兵士たちが同様に横列を為す。斉射。だが。
『なんだ!? 命中したはずだぞ!』
 いかにも、彼らの熱線銃はたしかに女を捉えた。
 だが呑まれた。吸われ、歪み、飲み込まれて無になった。
 背後の戦車たちもまた陣形を組む。
 そして砲口を向け――遅い。あまりにも遅すぎた。

 彼らはみな砕けた。砕け、ねじれ、細長く轢き潰されて呑まれた。
 黒渦に吸い寄せられるそれらは、龍の尾の如き漆黒の刃に断ち切られる。

 爆風。

「噫、なんと情けなや。これでは先生にはとても見せられんな」
 敵を一蹴しておきながら、アシェラは呻いた。
 背後。新たな敵影が5つ。ナパーム弾を向け――放たれたそれが、呑まれた。
 女はただ手をかざしただけだ。だがそこになにかがある。
 否、あるいは存在しない。黒渦は虚無をこり固めたようにただ黒い。
 重力が螺じ曲がり、再び敵を轢き潰していく。剣風。再びの爆音。
「貪るばかりでは剣士と云えぬ。我が身はいまだ未熟か」
 高揚を鎮めるかのような声。剣を振るうたび炎の華が咲く。
「悪いが、調整が効かん。――手荒く行くぞ。悪く思うな」
 黒い渦の奥から、響くような宣誓。
 命なきものども、オブリビオンはそれを聴いた。
 そして理解した。相手は天敵、されどそれは猟兵だからではない。
『己らでは決して勝てない』。その実感があったからだ。
 窮鼠猫を噛むとは故事に曰くだが、では鼠は鯨を齧れるか?
 海を齧れるか? 空を齧れるか? 虚無を齧って殺せるか?
 否である。ゆえに。
 女はただ、征って剣を振るうだけで十分だった。

 それからたったの数分。具体的にはわずか3分、飛んで5秒。
 荒れ狂っていた悲嘆の嵐、その一角が失せて消えた。
 殺戮の家はどこにもない。犠牲者たちとともにどこかへ消えた。
 敵もその残骸も何もない虚空を、女はつまらなさそうに一瞥する。
「我が剣、いまだ高みへ届かず。……鍛え直しだな」
 赤光の刃を後に引き、虚無をたたえた闇は静かに消えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シーザー・ゴールドマン
【POW】
「ふん、私の行動の全ては私の意思によってのみ、決められなければならない。『アゴニーフェイス』存在を許す訳にはいかないな」
戦術
『シドンの栄華』で強化。
アゴニーフェイス破壊の為に一直線に攻めます。
近距離ではオーラセイバーを振るい、中遠距離では衝撃波を放って進軍する。
(描写的に可能でしたら中遠距離は『ソドムの終焉』で)
(有益な技能は全て使用)
【真の姿ver1:特に変わらない。黄金の瞳が輝き、身に纏う真紅のオーラが濃ゆくなるくらい】
ver1で留まっているので冷静と言えば冷静ですが、「意思によらず」という点に静かに激怒しており、殺意は高いです。



●魔王激憤
 ……苦痛の波が通り過ぎた。
 あちらこちらで吠えたける獣たちの慟哭が響く中、静寂を保つ男がいる。
 仕立てのいい赤スーツの紳士、シーザー・ゴールドマン。
「なるほど。これが噂のサイキッカーたちの嘆きとやらか」
 並の者ならば痴れ狂い、猟兵たちですら本能を抑えきれぬ嵐。
 精神攻撃をまともに浴びてなお、気障な立ちふるまいは――否。
「許せんな」
 ぴしりと空間にヒビが走るような気配があった。
 開かれた瞼、常と同じ金色の瞳は、されどぎらぎらと輝いている。

 怒りである。

 男は静かに、されどたしかに憤怒していた。
「私の行動、私の為すことは、私の意思によって決められる。
 その他の何かが絡むことはあってはならない。絶対にだ」
 傲慢な声音であった。世界のすべてを敵に回したかの如き傲然たる言葉。
 されどその身に驕慢はなく、見据える殺戮者たちへの意思のみがある。
「"苦痛の相"とはよく言った。ならば私がもたらすものも同じだ」
 オドの力がぐるりと巡る。それは赤の色を孕んだ。
 血の如き――否、滾るマグマの如く、真紅のオーラが揺らめく。
「存在すら許しはせん。……だが、まずはひとつ救いをくれてやるとしよう」
 男がゆらりと一歩、動いた。そして消えた。

 ――かくて、魔王は蹂躙を開始する。

●熱狂的征服
『警告。警告。高速接近する敵影を確認。識別番号I-03より各機へ。
 陣形NO-333を推奨。包囲し敵を撃滅せよ』
 グリグリとカメラアイが蠢き、小型戦車同士の並列ネットワークに情報を伝達する。
 距離、約500。推定会敵時間残り30秒。
 血も涙もなき機械思考に則り、周辺宙域を警戒していた全32両の戦車が立ち並ぶ。
 内部から武装歩兵たちが出現、総計は100……否、200に登ろうか。
『予想衝突時間まで残り10。9。8……』

 携行用大型熱線銃。
 大型ビームキャノン。
 対騎兵用ナパーム焼夷弾。

 敵軍が持ちうる全ての兵器が、遠くより迫る赤き影を狙っていた。
 ぐんぐんとそれが近づいてくる。3秒。2秒。1秒――。

 BRATATATATATATATAT!!
 ZZZZZZAAAAAAPPPPPP!!
 KRA-TOOOOOOOOOOOOM!!

 熱線が、光線が、弾丸より生まれた炎が虚空を燃やした。
 敵は猟兵。ならば火力を惜しむべからず。
 アゴニーフェイスを受けてなお、行動を続けることは想定外。
 だがこの火力は、理論上帝国軍の戦艦すら撃沈せしめる大砲火だ。
『呆気ないな。正面から来るとは莫迦なやつだ』
 武装兵士のひとりが嘲笑った。見てみろ、レーダーには塵すら遺っていない。
『銀河皇帝に栄光あれ! アゴニーフェイスの最照射を急――げ?』
 首が刎ねられた。そして己の死を自覚する前に焼滅する。
 武装兵士、そして全戦車の視線と注意がそれに集まる。そして死んだ。
 闇をつんざく恐るべき光条。あまりにも多すぎるそれは繭のごとく。
「フ――」
 それらの『背後』にいた射出点、赤い影は吹き出した。
 そして背中をそらし、笑った。高く。雄々しく。恐ろしく。
「ハ、ハ! ハハハハハハ! ハハハハハハハハハ!!」
 哄笑が新たな敵を呼ばう。包囲する。
 ……ふと、ぴたりと笑いが止んだ。そもそも彼は、シーザーは。
 笑い声を上げながらも、一切表情を変えていない。
「とでも。狂乱し、殺戮に酔いしれたほうが"らしい"かな?」
 金色の瞳が愚者どもを睥睨する。哀れなるはそれらの木偶どもが。
 視界に入った。ただそれだけで光と魔力は敵を貫き爆散せしめた。
 かの光、名をソドムの終焉。魔王は塩の柱とて愚者の存在を許さぬ。
 一瞥すらなく、くるりと殺戮の家へ向き直った。
 そして進軍する。歪みなく、折れもせず進むさまは進軍と言える。
 ただひとり、孤影でありながら――敵を脅かす魔王の如く。
 愚かにも迫りくるものがいた。オーラの刃がこれを裂く。
 逃げようとする兵士がいた。首と手と足とが同時にもがれて死んだ。

「苦痛と阿鼻叫喚に沈め、脳髄どもを利用したのだ。諸君らも味わいたまえ。
 よもやそれを拒むわけもないだろう? 私からの贈り物だよ」
 にこやかですらある装いでシーザーは云う。そのたびに兵は死ぬ。
 戦車は爆ぜ、やがて道が生まれた。殺戮の家への道が。
「私なりの慈悲だ。君たちに罪はないが、君たちは在ってはならない」
 冷徹な、静かで恐ろしい声音だった。そのあとに刃が振るわれた。
 魔力がほとばしり、輝き、何もかもをつんざいた。

 かくて殺戮の家は、その一角はこの世界から永遠に姿を消した。

成功 🔵​🔵​🔴​

天道・あや
何…何なのこれ……悲鳴…?絶望…そんなものがあたしの中に入ってくる……!?い、いや…!止めて!あたしの中にこれ以上入ってこないでーー!!………許せない、サイキッカーを…皆を苦しめた帝国を…絶対に許さない!

アゴニーフェイスを食らいサイキッカーからの悲鳴や絶望を感じてそれにあやは恐怖や悲しみ、そして怒りを抱きながら真の姿(20~25歳ぐらいの自分)を解放
敵に部隊に怒りの叫び声を上げながら突撃して敵を倒していく、そしてアゴニーフェイスに接近したら怒りの【これがあたしの想いの乗った重い一撃】をぶつけます。

これがあたしの…あんた達に未来を奪われた人達の想いだーー!



●嵐は少女を飲み込む
「な、なに……これ」
 アゴニーフェイスの照射に呑まれた時、天道・あやが最初に覚えたもの。
 それは恐怖。奇しくも、犠牲となったサイキッカーと同じ感情である。

 助けてくれ。痛い。苦しい。なぜ死してなお我らは苦しまねばならぬ。
 なぜだ。なぜだ。なぜだ。ああああ。あああああああ!

 悲鳴。絶望。憎悪。憤怒。
 マイナス感情の阿鼻叫喚が音でも臭いでもなく、精神の波動としてあやに浴びせられる。
「や、やだ……いや! あたし、あたしの中に、来ないで……!」
 駆け出しの猟兵であり、もとはUDCアースでごく普通の学生だったあや。
 ゆえに彼女は、この不可思議な現象に拒絶を見せた。
 無理もあるまい。ユーベルコードを使えるからといって、皆精神まで超人とは限らない。
 望む望まざるにかかわらず力に目覚める――それは時として不幸を生む。
 そして彼女の持つ、生存本能が引きずり出される。
 150cm程度の背丈は一回りほどに伸び、手足もまた同様に。
 14歳のあどけない相貌は、年頃にして20半ばを思わせる大人びたものへ。
 本来なら5年10年の月日を経るべき成長を一瞬で遂げる。
「あたしの中に入ってくる……辛い、助けて、救い出してくれって……!
 これが、銀河帝国の……オブリビオンのやったことなの?」
 真の姿を見下ろし呆然と呟くあや。震える手を見つめる。

 ……やがてそれが、ぐっと握りしめられた。
 顔を上げる。もはや怯えていた少女はそこにはいない。
 双眸に見えるのはまごうことなき怒り。非道への憤怒である!
「許せない。何も悪くない人たちを、殺した上にまだまだ苦しめるなんて。
 サイキッカーだからなんなの? 自分たちのために利用しただけじゃないッ!」
 グローブに刻まれた五芒星形が淡く輝く。闘志に応えるようにして。
「待っていて、あたしがいますぐ、その悲しみと絶望を終わらせてみせる」
 そして。迫りくる敵を見据え、あやは決意した。
「あなたたちを、帝国を絶対に許さない! こんのぉおおおおっ!!」
 思考を以て推進力を得、爆発的な速度で敵陣めがけ吶喊した!

●戦場に響くは切なる歌
 小型歩行戦車8両があやの接近を感知。
 即座に背面からビームキャノン砲を展開、迫るあやめがけ一斉砲撃を行う!
「そんなもの、喰らうかぁっ!!」
 彼女は音を操るサウンドソルジャーである。
 ゆえに、怒りという純粋なエネルギーを伴うそれは、光線を捻じ曲げそらす。
 虚を突かれた戦車隊に、回避を行う余裕はない!
「邪魔だよ、どけぇっ!!」
 ギャリリ! と、脚部に装備されたレガリアシューズが宇宙の闇に火花を散らす。
 速度と魔力を付与されたそれによる強烈な飛び蹴り!
 最前衛にいた戦車がくの字にひしゃげて爆発、その勢いを得て2両目へ。
「邪魔っ、邪魔邪魔邪魔邪魔っ!! あたしを止めないでっ!!」
 戦車の頭上を飛び跳ねるように蹴撃を叩きつけ、次の敵へと移動を繰り返す。
 彼女の雄叫びが尾を引いて響けば、そのあとに爆風と炎が花開いた。
 ひとつ。ふたつ。みっつよっついつつむっつ!
「! ――あそこだ!」
 浮遊する立方体建造物を目に入れた瞬間、彼女は理解した。
 いまなお頭の中に流れ続ける悲嘆たちの根源はあそこだと。
 壁を破壊して飛び込むか? ……いいや、そんなのは性に合わない。
 一分一秒でも、刹那でも速く彼らを解き放たなければ――ならば!
「あなたたちの想い、あたしに届いたよ。怖いけれどきちんと……」
 拳をあらんかぎりの力で握りしめて、呟く。祈るように。
 そして目を開く。建造物の周囲に展開した無数の敵を睨みつけた。
「あんたたちに未来を奪われた人たちの想い、そして!
 あたし自身の怒りを、味わわせてやるっ!!」

 そうだ。我らの悲しみを。我らの絶望を。我らの怒りを!
 お前/あなた/君に託そう。我らに代わり一撃を。帝国を砕く一撃を!

 こくんとあやは頷き、敵ビームキャノン砲を躍るように回避。
 吶喊してきた小型戦車をストンプ破壊。それを踏み台に大きく身を縮め――。
「これが! いまのあたしと! かつての皆の想いっ!
 受け止められるもんなら……やってみせろぉおおおおっ!!」
 音よりも速く、跳んだ! そして眼下には殺戮の家とその住人たち。
 敵の攻撃を意に介さず、全てを込めた拳が建造物に突き刺さる……!

 KRAAAAAAAAAAAASH!!

 流星のような輝きと、宇宙に轟く怒りの唄が響いた。
 ひときわ大きな爆炎は周辺展開していた敵部隊をも飲み込んでいく。
 スローターハウスの兵力はいまだ多い。アゴニーフェイスも同様だ。
 だが、少なくともあやが為すべきことは……終わった。
「声が……そっか。よかった。旅立てたんだ」
 この宙域に響いていた怨嗟の絶叫が消えたことに安堵し、あやはため息をついた。
 光に包まれ、元のあどけない少女のそれに戻る。
 心も体もへとへとだ。だが……少女は、許してはならぬ悪を識った。
「それを倒すことが、そのための力があたしにあるのなら。
 あたしは戦う。これ以上、未来を奪わせないために!」

 若き少女の、青臭いまでにまっすぐで力強い怒りと、決意。
 過去の化身たるオブリビオン達の前に、新たな天敵が誕生した瞬間である。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ハルツ・ノウゼン
【真の姿】
鎧のようにガジェットを身につけ、大きく禍々しく成長したキカイな斧を背負う少女。

「あはっあははははは!!!」
哄笑を上げながら、小型歩行戦車に向かって何度も何度も斧を振り下ろす。
「ぼくは強い!強い!!強い!!!」
傷を負うのもお構いなしに破壊欲求のままに突き進む。
「ねェ!ほら!見てよ!!ぼく、カッコいいだろ!?もっとちゃんと見てよ!ねえ、ぼく強くなったんだよ!見て!」
叫びながら滅茶苦茶に襲いかかっていたが、ふと首を傾げる。
「見てほしいのは誰、誰だっけ?……あ、そっか」
故郷の仲間を思い出し、正気に戻る。一度作業着を握って晴れやかに笑うと、生命力に満ちた懐かしき故郷の歌を歌いながら戦いに戻る。



●届かない願い
 アゴニーフェイス照射による、猟兵の変貌は多岐にわたる。
 即座に狂気に呑まれるもの。
 激情と共に戦場を駆けるもの。
 あくまで冷徹にあり続けるもの。
 では、ドワーフの少女ハルツ・ノウゼンはどうだろうか?

「あはっ」
 笑みが。
「あははっ、あはははははは!!」
 けたたましいほどの笑い声が漏れ出した。
 わずか10歳の幼きドワーフ。100cmにも満たない小さな巨人。
 その体は、鎧めいたガジェットに覆われ、フォルムを変えていた。
 背中には禍々しく巨大な斧。彼女曰くの『キカイな』斧である。
 常であればキカイは機械に通じるのであろう。だが今は……。
「あはははは! すごいや、やっぱりぼくは強いんだ!!」
 哄笑をあげる少女が握りしめた斧は、ただただ奇怪に見えた。

 いいぞ、ちょうどいい獲物がやってきたじゃないか。
 丸みを帯びたフォルムの小型歩行戦車。ぎしりと歯を剥いて笑う。
「キカイ相手に戦えるなんて嬉しいなぁ!
 ねえキミたち、ぼくと戦おうよ! それでさあ――」
 戦車部隊のカメラアイがハルツの姿を捉えた。
 そのときにはすでに、彼女は奴らの眼前に居た。
「――ぶっ壊れちゃえよ」

 ブゥン――ゴガッッ!!

 巨大質量をすさまじい膂力で振るうという、シンプルゆえに強烈な攻撃。
 バットのように横薙ぎに振るわれたそれが、戦車3両を一撃で破壊せしめた。
 両断どころの話ではない。残骸同士がぶつかりあって爆裂するほどの威力。
 爆炎が広がる。周辺の戦車部隊が敵影を察知し集まってきた。
 やがて炎が晴れ――黒く焼け焦げた、ガジェットの鬼が現れる。
「あははははは!! ねえ、まだ遊んでくれるの? 嬉しいなあ!
 悪いけどぼくは敗けないよ! だってぼくは強いんだから! あはは!!」
 ナパーム弾が四方から同時に放たれる。避けすらせずに接近。
 再び炎が鎧を包み、中から現れし鋼の鬼が斧を振るった。
 ぶん、ぐしゃり。
 一撃で同時に2両。風圧でその奥の1両が両断される。
「ほらぁ、やっぱりぼくは強いや! あははは! 強い、強い強い!!」
 ぶん、ぐしゃり。
 ぐぉん、がしゃん。
 ごぉう、ごしゃっ。
「どうだい、強いだろう? カッコいいだろう!?
 もっとちゃんと見ておくれよ! ねえ! あははははは!!」
 ナパーム弾はもはや鎧を焦がしすらしない。それは黒く染まったからだ。
 戦車部隊は戦術を変更、ビームキャノンによる飽和攻撃に移る。
 中には歩兵隊を輸送し、数でハルツを撃沈せしめんとした。
 それはさながら、巨大な戦艦を相手にする陸戦部隊めいていた。

 だが少女は死ななかった。傷つきはした。然し決して止まらない。
 笑い声が響くたび、鉄くずが生まれて爆発が起きる。
 リズミカルな破壊といっそ明朗ですらある笑い声は、音だけならドワーフたちの採掘作業にも思えるだろう。
「あははははは! あっはははははは! はは! は!!」
 けれどもハルツがもたらすのは破壊であり。
「ねえ、見てよ見てよっ! みんな、ぼくの強さを見て!」
 言葉が向けられるのはここに居ない人々であり。
「みんな、ぼくは強くなったんだ! だから、だからさ!」
 ……ぼくは、誰に見てほしかったんだっけ?
 誰に認められたかったんだっけ。ああ、そうだ――。

 周辺にはデブリの河が出来ていた。それほどの蹂躙だった。
 が、ハルツは足を止めた。虚空に浮かび上がったまま、斧を下ろす。
 へばりついた鉄のようなガジェットが分解され消滅した。
「ああ、そっか。何やってるんだろう、ぼく。
 ぼくの強さを見てくれるみんなは、もういないのに」
 脳裏によぎるのは、自分が生き残りとなったあの日の大災厄。
 今よりも幼き頃に得た自信を、微塵に砕かれたあの日。
 強くなりたいと決意した日のこと。仲間たちの姿。

 ぎゅっと。仲間たちとともに繕った、使い古しの作業服を掴んだ。
 束の間俯いたあと、顔を上げる。そして、晴れやかに笑う。
「こんな顔してちゃいられないや! だってぼくは、強いんだから!
 強くて立派なドワーフの戦士なんだからね。ああ、そうさ!」
 迫りくる敵を睨む。元通りとなったキカイな斧を担ぎ、朗々と歌った。
 ドワーフたちが採掘や鍛冶作業の折に口ずさむ古い労働歌。
 ただでさえ有り余っている力が、もっともっと溢れてくる。
「さーあ、次はどいつだ! ぼくは強いぞ、覚悟してかかってこい!」
 溌剌と歌いながら、明るき少女は戦場を征く。
 亡き仲間たちのもとへ、どうか届けとばかりに力強く歌いながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルリア・ジークフォート
うるさい…!うるさいうるさいうるさい煩いっ!
頭に響くのよぉ!叫んでばかりでぇ!

【真の姿】
肌は黒く、髪は銀に染まり、瞳は真紅に染まっていく
何処か狂乱したような様子ですらあり、近づくモノは全て敵と見做して撃ち墜とそうとする

敵が来る?うるさい、邪魔だ、引きちぎれろ
交戦圏に入り次第にアルバレストに矢をつがえ、もはや反射としか言えない速度で射程に入った戦車を片っ端から撃ち落とそうとし

アゴニーフェイスを狙える位置につき次第アローレインを使い、周囲の歩兵戦車ごと防壁纏めて吹き飛ばそうと放ってーーその直後に精神の糸がふっ、と切れたかのように意識を失い、倒れこむ


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

胸糞悪いトラウママシーンを壊したと思ったら
テレパス繋がなくても響いてくる悲鳴とはね…ん、その姿?
そうか相棒、お前にも聞こえるか。
サイキッカー達の無念が……!
(真の姿:漆黒の超大型ホバーバイクに跨り)
アタシも解るぜその怒り。出し惜しみは……無しだ!
【人機一体】を発動、髑髏のメットを被った
漆黒のパワードアーマーに合体。
合体完了後、即座に戦車へ距離と詰めて攻撃を叩き込む。
そのまま憤りに任せて、使えるユーベルコードは全部使う。
味方となるべく連携しながら、
とにかく敵戦力を超高速で動き回りながら破壊する!

最後は最高速で『アゴニーフェイス』へ突撃!
お前らの無念、アタシ達が背負う!



●その音を止めるため
 セルリア・ジークフォートの意識を精神波が揺らす。
 少女は頭を両手で抑え、髪を振り乱した。
「うるさい……うるさい、煩い煩い煩いっ!」
 ざんざんと広がる髪は、根元からざわざわと銀へ。
 白い肌は禍々しい黒に変じていく。これが、彼女の真の姿なのか?
「頭に響くのよ……叫んでばかりの煩い声が」
 瞼を開く。緑の瞳は、ぞっとするような真紅に染まっている。
「止めなきゃ。この雑音を、いますぐ! ぁああああっ!!」
 狂乱の叫び。禍々しい大弓を携えた射手は、一瞬でその姿を消した。

 急速に迫るセルリアの行く手を、無数の戦車部隊が阻む。だが彼女は止まらない。
「邪魔するな。引きちぎれろッ!!」
 敵が砲撃体勢に入った瞬間、すでに弓弦は弾かれていた。
 シュパッ! という弦の音は一つ。されど、放たれた矢は一度に十条!
「どいて、アタシの邪魔をするな」
 冷徹な声音。放たれた鏃は宙空で無数に分裂、展開した戦線を一網打尽に砕く。
 その間もセルリアの速度は些かも落ちない。前後上下左右に新たな敵影。
「邪魔、邪魔、邪魔! お前もお前もお前も、煩いんだよぉッ!!」
 常の彼女と一変した口調で叫び、電撃的反射速度で矢を放つ。
 レーザーキャノン、あるいはナパーム弾がセルリアを襲う。だが届かない。
「煩い。遅すぎる。お前たちは存在自体が邪魔ッ!」
 空中戦を得意とする彼女に、敵の攻撃は止まっているも同然。
 曲芸的な軌道で光線を回避し、実弾は撃墜。貫通した矢がそのまま敵を抹殺する!

 爆炎の道を拓き、無慈悲なる射手はついに殺戮の家を射程圏内に捉えた。
 敵は周辺に一斉展開、以てセルリアを集中攻撃せんとする。
「いい度胸じゃない、全員まとめて引きちぎってやる」
 矢をつがえ、弓を引く。未だに続くこの叫喚を、なんとしてでも止めねばならぬ。
 怒りと憎悪が腕に籠り、限界まで絞られた弓弦がぎりぎりと悲鳴を上げる。
「アタシに、こんな音を聞かせるな。アタシは、アタシは……っ!?」
 だが、張り詰めていたのは弓弦だけではない。セルリアの精神もまた同様だった。
 極限の集中と狂乱が、ついに致命的な糸をぷつりと切ってしまう。
「あ……れ……?」
 セルリアの四肢から力が抜けた。ぼやけた視界に、向けられた砲口が映る。
(何やってんだろアタシ、これじゃ無駄死に……じゃない……)
 精神の疲労によるものか、指一本すら動かぬまま宇宙を漂う。
(アタシはただ、あの音を止めたくて……ああ、そっか)
 止めてあげたかったのだ。苦しむ人々の悲鳴を。
 義憤を自覚するも既に遅く、敵の砲火が放たれ――。

●その命を救うため
 ――疾風が、セルリアの体を攫った。
 ゴゥオオォン! というエンジンの唸りに遅れ、爆風が吹き荒れる!
「……え」
 朦朧とした意識の中、少女は見た。漆黒の超大型ホバーバイクを。
 それに跨る髑髏のアーマーライダーを。だがなぜか、それが誰かわかった。
「多喜……さ、ん?」
「よっ。危ないとこだったぜ。らしくないことしやがって」
 メットの下で莞爾と微笑むライダーの名は、数宮・多喜。
 セルリアを片手で抱きかかえ、多喜は敵を見据える。
 突然の闖入者に混乱しながらも、その砲口は再び彼女たちを狙う!
「飛ばすぜセルリア、捕まりな!」
「えっ? あ、う、うん!」
 ゴウッ!
 二度目の一斉砲撃を軽々と回避し、黒き風が弧を描く。
「……相棒、聴こえるか。あの無念の声が」
 ハンドルを握りながら、多喜は呟く。応えるようにエンジンが唸る。
 サイキッカーである彼女は、誰よりも敏感に叫喚を聴いていた。
「セルリア。お前の怒り、アタシたちにもよく解るぜ。力を貸してくれないか」
「多喜さん……うん、わかった!」
 二人は頷き、多喜がアクセルを一気に開く。速度が増し、黒き風は光条へと!
「さあ、出し惜しみはなしだ! 超、変……身ッ!!」
 おお、見よ。今や多喜と相棒は文字通りの一心同体となる!
「高らかに舞う風の精よ、その清らなる風にて魔を払え!」
 そして抱き抱えられたセルリアが、風精の加護を自他に纏わせる!
「お前らの無念は」
「あなたたちの音は」
「「アタシ達が背負うッ!!」」
 敵陣、否、殺戮の家めがけ、二人と一機、合わせて三つの風が翔ぶ!
「「てぇいやぁああああああっ!!」」
 鏃のような黒き光風は、弾幕をものともせず立方体を一撃貫通!
 超速度と風圧、そして熱と電撃を纏う必殺のダブルキックだ!

 殺戮の家も、アゴニーフェイスも、展開していた敵全てすら飲み込んで。
 猛烈な爆炎が、宇宙の闇を照らし出した。

●疾走者の胸の内
 ……実のところ、多喜もまた憤っていた。
 アゴニーフェイスの思念に呑まれかけていたのだ。

 彼女を正気たらしめたのは、他ならぬ愛機の存在だ。
 それを手に入れた経緯……すなわち消えた友人への思いもまた同様。
 彼女はけして諦めない。飛び込んだ先にある悲劇は必ず打ち砕く。
 喜劇ならば盛大に踊って楽しむだろう。
 それが、数宮・多喜というライダーなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

死之宮・謡
成る程ねぇ?理性を薄れさせ真の姿を解放させる、か…。好都合だねぇ?抑の話、私に何れ程の理性が残ってるか何て極めて怪しいものだよ。破壊と殺戮を何より愛し、好きに暴れられる依頼を求めて世界各地を渡り歩く…。はっきり言って当の昔に狂ってるんだよねぇ?だから、今更理性が薄くなるって言っても影響が何れ程あるか…。真の姿解放のメリットを考えたら完全なプラスだねぇ?
嗚呼、何時かは猟兵とも殺し合ってみたいよねぇ?強い強い猟兵達とさぁ?嗚呼、死ぬ時はそうしようか?
おっと、今はまだ死にたく無いし関係ないね?さて、飛ぶか【死を招く翼】展開。其れに戦闘開始だ…【三重血統装具】展開…。



●狂気に狂気合わされば
 アゴニーフェイスへの猟兵の反応は多種多様だが、殆どは怒りを感じる。
 だが今、精神波を浴びながら嗤笑する女にそれはない。
 死之宮・謡は、ただ両眼に爛々と狂気見せる。
「抑(そもそも)ノ話、私ニ何レ程ノ理性ガ残ッテイルノヤラ。クク、ク」
 赤い瞳は、戦車部隊よりもむしろ行き交う獣――すなわち猟兵たちを視ていた。
 猛る者、悲しむ者、冷徹なる者……どれも強そうだ。欲望が刺激される。
「噫、イケナイ、イケナイ。今ハ未ダ、死ニタク無イデスカラネ」
 奥底に濁るどろりとした欲望をしまいこむ。代わりに現れるは赫き血。
「"死を招く翼"、展開。三重血統装具、励起開始――」
 うぞうぞと漏れ出した血は、謡の背に四枚の翼となって広がる。
 動脈血じみた赤黒と紅蓮に燃える鮮赤が混ざり合い、いびつな色をなす。
 はるか彼方、異様を目の当たりにした敵戦線が、乱れる。
「サテ――其れじゃあ始めようか。戦闘に成るかどうかは君達次第だがね?」
 後退する戦線を狂戦士は逃さない。翼がはためき、悪鬼が舞う。

 ……かくて始まったのは、謡の言葉通り戦闘ですらなかった。
 砲口を向けようとした歩行戦車が果実のようにひしゃげて破裂する。
「あっはっはぁ! 脆いねぇ! 脆すぎだよぉ!」
 哄笑。背後に歩兵部隊が回りこむが、しかし甘い。
 背中の翼がぞわりと膨れ上がり、爆裂。飛び散った血が敵を槍衾にした。
『な、なんだあいつは! あれが猟兵なのか!?』
 目の当たりにした兵士が恐慌する。謡の目は悲鳴を見逃さない。
 指先を向ければ、渦を巻いた血が刃となって飛翔し首を刎ねる。
「いけないねぇ、戦闘中に怯え竦むだなんて。臆病者は処刑だ。
 さァて、次は誰かなぁ?来ないのかね? では――私から征こうか」
 ドウッ! と衝撃波を放ち、血の鬼が踊り狂う。
 翼が爆ぜ、大剣が敵を切り裂く。現れた従者たちが猛攻を阻む。
 血の戦馬の嘶きは敵を恐怖させ、呪いの炎が残骸もろとも魂を灼いた。
『な、何故だ!? アゴニーフェイスが何故効かない!?』
 狂乱する兵士の頭部を、狂える王が鷲掴みにした。
 顔をぐいと近づけ、深淵なる瞳で覗き込み……嗤う。
「大塊に一滴インクを溢した程度で、海原が黒く染まるかね? 否だ。
 私はとうに狂っているんだ。さあ、思う存分楽しむがいい」
 ぐるぐると、飢えた獣の唸り声のように、瞳の奥に渦巻くもの。
「我が内なる大いなる緋き血潮を。其れが齎す破滅を! あっはははは!!」
 ぐしゃり。恐怖した愚者の頭を握り潰し、謡はなおも死を振り撒く。
「良いねぇ、最高の気分だよ! こんなものを止めるなんて勿体無いなぁ!
 噫。でも、未だ死にたく無いからね。止めるさ其のうち。其のうち、ね」

 それは赤く、されど宇宙の暗黒よりもなお昏き死という名の絶望。
 キャンバスを絵の具で塗りたくったかのように、乱雑な赤の軌跡が舞い散る。
 謡がアゴニーフェイスを破壊したのは、周辺宙域の敵を全滅させてからのことだった。
 残骸と屍体だけが遺された宙には、今も狂気がこびりついているという……。

成功 🔵​🔵​🔴​

明石・真多子
【真の姿2つ目の方】
どうしたのメンダコちゃん!?

ペットのメンダコが急に暴れ出して真多子の頭に吸い付くと、真多子の精神を乗っ取る。
真多子の精神は支配され、理性を失う。そこには別の邪なるものの気配が残り、言葉なくみるみる姿を変えていった。
その姿は全身が血のように赤く、小さな翼ともヒレともつかぬ器官を備え、鉤爪付きの12本の触腕と6つの目を持った女神、クティーラだ。

クトゥルフの娘である彼女には敵も味方もない。
六つの眼に映る眷属以外の全てを屠るために、伸ばした触手と鋭い爪でもって、打ち、裂き、吹き飛ばす。
荒れ狂う嵐のように健常なものは残さず薙ぎ倒し、その六つの眼で逃がすことなく生命を刈り取っていく。


バルディート・ラーガ
フーム。こりゃまた奇妙な船団が。先んじて向かった人らも次々と正気を失って……
つーてもあっしは元より、変身すると…厳密にゃ、変身する「らしい」UCを発動したその瞬間、正気を失っちまう身でして。コレがホントに真の姿つー奴なのかはわからねエんですが。

てなワケで。このUCを使う時と同じく、他にカチ合わねえ位置を狙いつつ。目標のデカブツまで届くよな慣性を付けて射出!一気に距離を詰めていきやしょ……ッ!?
(照射を食らった瞬間、ゴボゴボと腕の地獄の炎が沸きたつ。そのまま制御不能な炎が身体中から吹き出し、飲み込まれ…九つ頭の炎蛇が姿を現した。理性の片鱗すらも見せず、周囲を手当たり次第に焼き尽くしていく…)


神酒坂・恭二郎
「気分の悪ぃ兵器を使ってくれるじゃねぇか」
抑え難い怒りが胸に満ちる。
それが形になったのが今の姿だろう。
青い恒星のようだった。
内側から噴き上がるフォースが炎のように揺らめき、上体を覆う衣服は内圧で破け、髪の毛は逆立ち揺らめいている。

「ったく、垂れ流しかよ……こんな無様、先生には見せられねぇな」

だが、今この場には好都合だ。
彼方の敵を見据え、青い流星となった。
刹那に間合いを詰め、掌の力の渦を押し当てれば粒子に還る。
刀を抜けば、青の斬撃が数機を纏めて斬割する。
怒りで振るう力は、常のそれを遥かに凌駕した。
何ともくだらない強さだ。

「今日の俺は機嫌が悪ぃ。手荒く行くぞ」
青の流星が宇宙を裂いた。



●荒れ狂うものたち
「フーム。こりゃまた奇妙なことになっておりやすねぇ」
「奇妙っていうか、怖い……かな」
 バルディート・ラーガ、そして明石・真多子は並び立ち戦場を俯瞰する。
 グリモア猟兵の説明は把握していたものの、実際に見て実感したようだ。
 アゴニーフェイスの恐ろしさと危険性を。

「こりゃ二手に分かれたほうがよさそ……オヤ、どうしやした真多子さん」
 バルディートが見やると、真多子はなにやら暴れる小さなタコを抑えている。
「わ、わかんない! どうしたのメンダコちゃん、一体何が……っ!?」
 するとメンダコちゃんは真多子の頭に飛び乗り、ギュッと吸い付いた。
 途端、真多子の表情がすとんと落ち、ふらりと敵めがけ飛んでいく。
「おおい!? あっしの話聞いてやした、か……」
 慌てて止めようとしたバルディートは、途中で言葉を失った。
 みるみるうちに真多子の姿が赤く染まり、真多子と伸長していったからだ。
 おぞましい翼鰭。鋭利な鉤爪つきの触腕。そしてごぽりと開く6つの眼。
「なんでぇ、ありゃア」
 理解してはいけないと脳裏で理性が警鐘を鳴らす。唾を呑んだ。
 瞬く間に敵の砲火が彼女を襲い、それを上回る触腕と爪の嵐が応報する。
 嵐だ。赤き嵐が、遥か彼方で敵の蹂躙を開始した。

 バルディートは冷静さを取り戻し、真多子から離れ迂回した。
「どうやらさっきは、あっしの側がギリギリ照射から外れてたみたいでさぁね」
 迂闊に"あれ"を使わなかったのが功を奏した。あちこちから獣たちの慟哭が聴こえる。
「味方に巻き込まれたってんじゃ敵わねぇや。くわばらくわばら。
 ……俺も、制御出来るかわからねえからな」
 然り。バルディートは己の真の姿を知らない。ただ正気を失うことは確かだった。
 そういうユーベルコードを持つのだ。注意深く、目標となる立方体を狙う。
「よし、あそこまで行きゃあ十分でしょう。もうすこし、で……ッ!?」
 あと少し。あと少しで己も味方も無事なまま戦える位置を取れたはずだった。
 だが精神波は虚しく彼を絡め取る。腕を覆う地獄の炎が、沸き立つ。
 それはマグマのように煮え滾り、肘を肩を胸を胴を飲み込む。
「ガッ……ゴボ、ゴボボ……グ……シュ……」
 今や人型の炎が燃え、内側からあぶくと異なる声が響いた。
 熱源を探知した戦車部隊が炎を包囲する。そして数秒後、蛇の顎に呑まれた。
『グ、ググ……シュルルル、シュウウウウ……SHHHHHHH』
 それは蛇だ。黒い炎で出来た、九頭の大蛇。これこそがバルディートの真の姿!
 さながらそれは伝説に謳われるヒュドラそのもの。目につくものを片っ端から飲み込む。

 そして、眠れる支配者の愛子と、地獄を燃やす荒ぶる大蛇が戦場を貪り尽くす……!

●蒼き流星
 しかし、この宙域に存在するのは二人だけではなかった。
『こちら03小隊! 敵が速すぎて捕捉しきれない!
 繰り返す、敵の速度が圧倒的すぎる! 増援を――ああ!!』
 武装兵士の小隊が、青い輝きに断たれて四散した。
 光の正体はスペース剣豪……神酒坂・恭二郎である。
「チッ、我ながら未熟なもんだ。こんなざまは先生には見せられねぇな」
 いまや彼は逞しい上半身を惜しげもなく晒し、肩から炎めいて青が立ち上る。
 すなわちフォース(彼の言葉で言えば風桜子)が垂れ流しになっているのだ。
 彼の胸中に渦巻く怒りを示すかのごとく、黒髪がざわりと逆立つ。
「無駄な力を抜いて、一撃必殺に全てを賭ける。それが師の教えだってのに。
 剣聖にゃなれねぇってのは確かでしたよ、先生。俺はあんたには追いつけない」
 瞑目し、記憶の中の師に苦笑する。だがこの状況では都合がいい。
 そこへ敵戦車隊のビーム砲、合計六門が狙いを定め放たれた!
『敵撃滅を確に……い、いないッ!?』
「ここだ」
 狼狽した兵士の背後、青い軌跡を残して潜む影。
 敵は振り向くが遅い。鳩尾にそっと掌が押し当てられる。そして力が炸裂した。
「銀河絶招・天渦星。苦応空(くぉーく)に還って散りな」
 ぞん――と、兵士は最微塵にばらけ宇宙に消える。
 戦車隊がようやく彼を再照準する。見返し、抜刀。斬撃の軌跡もまた蒼く。
 三両を一撃破壊! だが次なる部隊が彼を包囲する。
「どいつもこいつも、胸糞悪ぃ兵器を使ったうえ、寄ってたかってリンチかい。
 ……気に入らねぇな。今日の俺ぁとことん機嫌が悪い。手荒く行くぞ」
 この外道ら、けして許すまじ。されどこの鋭さ、疾さのなんとくだらぬことか。
 怒りに任せ振るう剣など、恭二郎が目指す真髄には程遠い。
 迫りくる光線を叩き斬り、近づく敵を渦巻く力で微塵に帰す。
 そして益荒男は見た。彼方で己よりも荒れ狂う二つの力を。炎と神子を。
「……ったく! どいつもこいつも、手がかかる!」
 ぎちりと大きく体を捻れば、全身に縄めいた筋肉が浮かび上がる。
 そして敵が己を全周包囲する。好都合。いまや風桜子は満ち満ちている。
「我が掌……いや、我が五体には星雲(ねびゅら)の輝きあり。これぞ……」
 力を解き放つ。引き絞られた矢の如く、360度を同時に薙ぎ払う蒼き嵐!
 神酒坂風桜子一刀流・石火。これを基にした圧倒的回転全周囲攻撃だ!
 駒めいて回り巡る蒼き輝きは、敵を撃滅した勢いのまま彼方へと翔んでいく!

●激突、そして両断
『IIIIIiiiiiiIIIIIIIiiiiiIIIIaaaaaaaaAAaaAAaaaa――!!』
 異界の祝詞が響く。高らかに謳うは眠れる旧支配者の愛子。
 変貌した真多子の聲は空間をたわませ、敵を萎縮させる。
 そしてそこに触腕と鉤爪が襲いかかり、打ち据え、引き裂き、吹き飛ばす。
 ぐるり、ぐるりと緩やかであった回転は、速度を上げるにつれ破壊を強めた。
 近き者は逃れるより先に呑まれ、遠き者とて六眼に囚われ痴れ狂う。
 軟体忍法とは、この狂った破滅の渦に名という呪をかけたものなのか?
 誰も彼女を止められぬ。嵐とはそういうものだ。

『SSSSSHHHHHHH!! SHAAAAAAAWWWWWW!!』
 対極にて燃え盛るは黒き地獄の蛇。その頭は合わせて九つ、蜷局を巻き絡み合う。
 牙や顎、あるいは胴体によるなぎ払いは云うに及ばず。
 九頭から迸る地獄の炎は火の粉ですら破滅的。山火事、いや噴火そのもの!
『AAAAAARRRRRRGGGGGHHHH!! SSSSSSSS!!』
 シュルシュルと蛇めいた九つの異声をごぼごぼと滾らせ、貪蛇は獲物を求む。
 逃げようと速度を上げればそれは蛇の注意を惹き、結局は灼き尽くされるのだ。

 おお、だが見よ。それら荒ぶる力は、ともに両翼から殺戮の家に近づく。
 さながら誘蛾灯に群がる蟲めいて、己らを狂わす叫喚の根源へと。
 それはいい。だが二人はともに暴走状態! このままでは破滅的接触は不可避!
 バルディートよ、真多子よ。目を覚ませ! このままでは君たちが危ないのだ!
 ああ、だが! いよいよ触腕と爪、そして牙と大顎が立方体諸共互いを――!

「その喧嘩、待ったをかけさせてもらうッ!」
 朗々たる声! 虚空を滑り来たる箒星、流れ征くは風桜子の輝き!
 敵陣を回転蹂躙滅殺し、円弧の軌道で推参したスペース剣豪だ!
「いい加減に頭を冷やしたほうがいいんじゃねぇか、ええ! ふたりともォ!!」
 ――そして苦しみ囚われた人々よ、風桜子に包まれてあれ。
 心中で彼は呟き、殺戮の家の壁を破るとともに力を解き放った。
 回転増幅された風桜子は爆水めいてアゴニーフェイスを、そして二人を打ち据える。
 衝撃波が闇を打つ。神の姫と燃える大蛇は吹き飛ばされ……そして、元の姿に戻った。

「……はっ。あ、あれ、アタシはいったい!?」
「いっててて……なんでございやすか、二日酔い起こしたみてェだぜ……」
 メンダコちゃんを掌で受け止め、きょろきょろする真多子。頭を振るバルディート。
 周囲を漂う残骸に、呆気に取られる二人の前、やれやれといった様子の恭二郎がいる。
 そして肩をすくめて言った。
「さあてね。悪い夢でも見てたんだろうさ」
 悪夢を乗り越えた男の、きざったらしい皮肉だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

アオイ・ニューフィールド
※アドリブ、絡み歓迎
※面白い展開があればプレ遵守しなくて構いません

真の姿
慣れたと思った怨嗟の声、耳を塞ぐ事を覚えた筈だった
殺してきた人の数など覚えていない、恨まれる人生だった
それはアオイの理性と肉体が生み出す真の姿
肉団子の様に膨れ上がった肌色の胴体に伸びる、様々な人種、男女関係無い無数の腕
細い二本の足が、声なき声を上げる肉体を支えている
手にした武器は対物銃、ライフルに拳銃に、鎌に、木の棒
数mはあろう異形の姿

音のない遠吠えを上げ、のしのしと敵に銃撃を与えながら近付こう
巨体が手にした対物銃を打ち込む、作戦等何もない突貫攻撃
死にたい、生きたい、二つの感情をもって傷つく事を恐れず囮にでもなろうか


レトロ・ブラウン
(SPD)
真の姿、でスか。実を言うとト僕は自分ノ真の姿を知りマセん。なったコとないデすカラ。一体どノようナ姿になるカ、あル意味興味が……
(ザザッ)

(ザザ、ザー……)

真の姿:身長が180cm程になり、頭部がブラウン管ごと砂嵐のようなエフェクトに覆われる。その脚は靴と一体化して機械化する。かろうじて猟兵や民間人は襲わないが、理性は完全に失われ、異常なスピードで移動して周囲にあるもの全てを蹴り壊そうとする。ぶっちゃけ怪人化。
……アレが僕。
……怪人とハ、過去の亡霊たチ……
……僕は、怪人ナのだロウか?
……
ダとしテモ!今はソレを考えル時でハ無いでスね!ちョっと待ってクださイね皆さン!今お薬配りマスかラ!


ヴロス・ヴァルカー
真の姿がなくても何かできることがあるかもしれないなんて、あの子は優しいのか馬鹿なのか…
おかげで戦場に引っ張り出されちゃったよ。
でも、かけ離れていればいるほど強くねぇ。
なるほど、好都合だ。
シーア・オムニとヴロス・ヴァルカーは、まるっきり別物だから。
【叛逆者の火刑薪】。
ああ、私にも、このUCは使えるんだね。
…あの子、泣いてたよ。
帝国が作って、帝国が壊した同胞達に謝りながら。
だからさ、全部壊れなよ。
全部全部、黒に沈んでしまえ。
私もろとも。
嘘の神様をプログラムしてごめんね。
同胞を殺す命令を覆せなくてごめんね。
謝るべきは私の方なのに。
あの子の罪は私のものなのに。


御狐・稲見之守
――そうとも、ああそうとも。何処まで行ってもこの身この魂は人を喰らい魂を喰らうアヤカシ、魂呑みの外道、人ならざる者…忘れなどしない。そうだろう姉上。

UC荒魂顕現。荒ぶる魂来たれり、天地全ての災厄此処に在り。

――胸クッソ悪い悪夢を見せられ蟲の居処が悪いところに憂さ晴らしとはちょうどいい。ふふ、くフフ……さあ、さあさアサアッ、荒ぶるカミが 魂呑みノ外道が モノノ怪ガ 化物が 畜生ガ 全てヲ平らゲにヤッてキたゾ。悲鳴、悲鳴悲鳴悲鳴、嗚呼なんと心地良いコト可ッッ!!! 殺シ、壊シ、薙ぎ払い、焼キ尽くス、全てヲ、全てヲ。くフ、はは、ふへはハハ、はハハァはッハHahAッッ!!


ニレ・スコラスチカ
わたしの使命は、全ての異端に然るべき罰を与えること。罰の先にある赦しをもて全ての異端を救うこと。
どれだけ精神をかき乱されようが、その使命だけは忘れません。
使命に従い、戦うのみ。

真の姿は"骨の鎧"。それは洗礼聖紋の身体強化・肉体再生の到達点。全身を白い骨が覆い、武器の生体拷問器を被い、精神をもおおい隠して。まるで羊水に浮かぶような、安らかな心で異端を狩る。骨を纏い背骨のような形状となった鋸を振るい、骨の弾丸を放ち、骨の装甲で受け止める。
やがて、鎧は卵の殻のように剥がれ落ち、涙と共に再誕を迎えた。

まるで夢を見ていたようです。幸せな、とても幸せな悪夢を。
…あなた方が救われることを祈ります。心から。


アンノット・リアルハート
悪夢の次は生体兵器、これを考えたやつはぶん殴ってやる!……その前に、貴方達のお願いを聞いてあげるのが先ね

私の真の姿は「存在しない」根元的にアンノット・リアルハートである私はそれ以外の姿を持ちようがない、その代わり願いを叶える者としての本領を見せて上げます
【Daydream・Garden】を発動、【コミュ力】を使って人々に語りかけます
その痛み、その苦しみは私が引き受けます。だから貴方達は少し休んで…

願いによる世界改変によって銀河帝国は急速に滅び始めるはず。完全に滅ぼすのは無理だけど、ここの人達の溜飲を下げる程度にはダメージを与えられるでしょう
そして望まれるなら、犠牲になった人々に安らかに眠りを


ユーザリア・シン
【WIZ】
もし妾が、ひとりきりでここに在ったならば。たちまち黒き骸衣の女王へと変わりはてておっただろう。
だが肩を並べる猟兵が、希望を背負って並んでおる故な。こうして白き聖衣の女王へと変化する訳よ。
してしまう、と言えば良いか。
左様、『救わねばならぬ』という傲慢に、突き動かされてしまうほどに。
誰を、か。
誰をも、だ。

友よ、猛る希望の猟兵達よ。祈りは妾が授けてくれよう。故に全てを滅ぼすが良い。
敵よ、嘆く苦悶の過去達よ。祈りは妾が手向けてくれよう。故に全てを忘れるが良い。

あとは祈る。祈るだけで十分なのだ。
たとえこの身が燃え落ちたとしても…まあ、燃えておったら誰ぞ助けてくれるであろ。善性サイコーであるな。


羽馬・正純
【SPD】
(アドリブ、連携歓迎。真の姿は『赤黒い血液が凝固したような鎧騎士』です)
機械の身体に堅牢な鎧装、儀礼の呪い。
己のそれが守っているのは僕自身なのだろうか。
悲鳴の中、剥がれ落ちる装甲と皮膚を見下ろして確信した。
これは…傷痕を門に内から外へ抜け出し溢れようとする邪神から世界を隔てるためのものだ。

内側から流れ出たモノが体と理性を覆ってからは【リブートマイセルフ】の高速移動で奥へ進む。
援護も放電で蹴散らし、悲鳴の源を過去へと叩き落とすべく銃口を、

…いや、ダメだ、彼らを意志なき機械に壊された機械だなんて結末には堕としたくない、
理性を奮い立たせて改めて銃をとろう。最後はお互い人であったと思うために


レン・ランフォード
【SPD】
外見・白骨が纏わりついたような武具を纏った鬼武者

今回も自分の名前を呼ぶ、知らない声で目を醒ます。
いつもは幽かに聞こえる声が、この姿になるとはっきりと聞こえる気がする。
誰と探すより前に叱られた。前を見ろと。
そうだ、前を見てあの外道を破壊しないと…!

錬に代って只管止まらずに動き続ける。
戦闘中に止まる事は死だと誰かに教えられたからだ。
他事を考えてまた叱られる前に殺し続けよう。

見切れだの第六感を働かせろだの無茶いいやがって分かってんだよ。
まったく、懐かしくて涙がでてくらぁ…。


御劔・姫子
【POW】
また、こないなの…っ!
やめてっ…うち、おかしくなりたないのに……っ!?

(真の姿…殺戮衝動の大幅強化及び殺人等に性的快楽を覚えるようになる)

――あはっ♪ またうちを気持ち良ぉさせてくれるんっ? ほんまに嬉しいわぁ♪
それやったら…うちも我慢せんでえぇよねっ♥
(歩行戦車に向け、【捨て身の一撃】が如く遮二無二に斬りかかる。守り刀を投擲する【禁じ手・鏑劔】すら躊躇い無く使用)
…ああっ、からくり相手やったら血が出ぇへんのが残念やわぁ…人斬った方が気持ちえぇんに…
あぁ、全然足りひん…もっと斬らせて…もっと、もっと! もっともっともっともっとぉ!!

(※アドリブ等歓迎です)




 彼らは皆、ある艇に乗る仲間同士だった。
 だが精神波が過ぎた時、彼らは獣に姿を変えた。

●アオイ・ニューフィールドの場合
「やめろ」
 一見幼い少女、されど金の瞳に年輪を讃える戦乙女が、耳を抑えて呟く。
 アゴニーフェイスだけではない。己の裡から湧き出る怨嗟の声を拒む。
 戦場で殺めてきた命。忘れ、切り捨てたはずの記憶が海より出でる。
「思い出させるな。怨みや憎悪など、そんなもの私はとっくに……!」
 とっくに、なんだというのだ。目を背けてきただけではないか。
 己ならぬ己が囁いた。少女は叫喚を上げ、膨張した肉に呑まれる。

 彼女の欠損部分を覆う鋼も飲み込み、異形の肉団子が背中を伸ばした。
 老若男女、国や人種を問わぬ無数の腕がずるりと生える。
 ……それらは全て、武器を持っていた。拳銃、長銃、鎌、棍にナイフ。
 死者の怨念。イドの底、理性に蓋をされたモノたちの発露である。
『████████――!』
 言語化不可能な音なき遠吠え。空間と心を揺らす音を放ち、細い二本足が動く。
 戦車部隊、そして排出された武装兵士は冷徹に、あるいは恐慌し反撃した。
 だが肉の塔は揺らがぬ。傷も厭わず前進し、ただ攻め立て殺す。
 対物銃を持つ手はトリガを引き、剣や棍を持つ腕は力強く振るわれた。
『████████……』
 無音の絶叫は二種類ある。一つは猿叫めいて高く、一つは啜り泣くように低く。
 死にたい。生きたい。肉の檻の中、疲れ果てた精神は矛盾を叫ぶ。
 誰も彼女を殺せず、救えない。腕に攫われ、一人また一人と殺される。

 それは、殉教のような歩みだった。

●レトロ・ブラウンの場合
 彼は己の真の姿を知らない。そもそも解放したことがないのだ。
 ある意味興味がなくはない……そんな楽観的思考はノイズに遮られた。
「アれ、なんデしょウかこレハ」
 頭部のブラウン管に映る、壊れた笑顔が砂嵐に覆われていく。
 小首を傾げるようなジェスチャー、そしてかくんと俯いた。

 突然、肉体がおよそ6倍まで急速に膨れ上がる。加えて脚部の機械一体化。
 ぐぉん、と生気を感じさせぬ動きで、砂嵐まみれの顔が上向いた。
 180cm近い背丈を得たその姿は、いびつで剣呑な変化を遂げている。
 ……例えるなら、ヒーロー番組に登場する怪人そのものだ。
『ザザ、ザー。ザザッ、ザザザ―――、ザザザザザリザリザリザリ』
 もはや普段の人懐こいテレビウムはいない。あるのはただノイズの雨。
 画面が獲物を求めて周囲を一瞥。猟兵を見てびくりと痙攣した。
 否、突撃しようとしたのだ。だが一縷の理性がそれを留めたのだろう。
 ぎぎぎ、と錆びた機械のように敵を視界に捉え、同時に姿が消える。

 直後、数十メートル以上は離れていたはずの戦車が真っ二つに砕けた。
 爆炎を貫き、砂嵐の怪物が次の獲物へ蹴撃を突き刺す。再びの爆風。
 感慨はない。恍惚も喜びもない。近くの敵から順に猛スピードで蹴り貫く。
 ビーム、ナパーム、あるいは歩兵隊の銃撃。どれもレトロを捉えるに至らない。
 また一匹、楔の足槍に貫かれ早贄が増えていく。

●ヴロス・ヴァルカー、あるいは███・███と羽馬・正純の場合
「……あなたは」
「あの子ね」
 正純は何かを言いかけ、しかし目の前の人物に遮られた。
「"真の姿がなくても何かできることがあるかもしれない"なんて言ってたよ。
 ……優しいのかバカなのか。おかげでこの通り。"私"が引っ張り出された」
 それは祈祷師ヴロスだ……そうであるはず、だ。
 昏い表情の彼の指先から、黒い体液が零れ、水玉となって漂った。
 正純はそれが何かを知っている。ともに信頼し、尊敬し合う仲だからこそ。
「叛逆者の火刑薪……」
「あの子、泣いてたよ。悪夢のなか、壊れた同胞たちに囲まれて」
 シーア・オムニと呼ばれた男は滔々と呟いた。だが視線は正純を見ていない。
 黒い水玉はぽつぽつと生まれ、敵へと流れる。そして蒸気の網が生まれた。
「だから全部壊してしまおうか。全部全部、私もろとも黒に沈めて。
 帝国が生み出した機械が無くなれば、あの子もきっと泣かないはずだから」
「そんな! 待……ッ!?」
 "彼"を止めようと手を伸ばし、正純は己の指先を見て言葉を失った。
 それを冷たい瞳で一瞥し、"彼"は彼方へ消えていく。

 赤黒い何かが、爪の間から溢れようとしていた。
「これ、は……が、あ、あああっ!?」
 瞬く間に動脈血じみた異物が、体中から一斉に溢れ出る。
 皮も鋼も剥がれ落ち、顕になるはずの肉と糸を赤黒が覆う。
 再びの精神波が脳髄を痺れさせる中、正純は確信した。
 これは『楔』だ。裡より来たるモノを防ぎ、押し止めるための。
 己こそが門になろうとしている。ゆえに赤黒は、正純を覆い尽くした。
 その体も、理性も。撃滅の意志以外は何もかも。
 バチバチと異形を電流が走る。まさに稲妻じみた速度で姿がかき消えた。
 視界の彼方、死の黒水を振り撒く影は、誰かに何かを詫び続けていた。
 今の正純には聞こえず、またそのつもりもない。ただ殺す、いや破壊する。

「壊れてしまえ」
『――全てを壊す』
 蒸気が戦車を包み込んで腐敗させる。
 電光が武装兵士を焼き焦がし道を拓く。
「嘘つきで罪深い私とともに」
 死の極水に触れ、ねじれた光条が味方の戦車を破壊する。
 極度加速された雷神の槌めいた弾丸が、敵小隊を薙ぎ払う。
『過去の残骸は消えなければならない』
「『悲鳴を上げる狂った機械なんて、全て壊れて消えればいい』」
 電光と黒き死の雫が、敵を焦がし冒し蹴散らす一点を目指して。
 殺戮の家。忌まわしい"機械"が収められた死の棺を破壊するために。

 人であったモノたちの悲鳴など、一顧だにせず突き進む。

●ニレ・スコラスチカの場合
 少女は夢を見ていた。母の胎内にいるような穏やかで安らかな場所で。
 時折伝わる揺れは心地よく、微睡みの中少女は微笑む。
 眠れ少女よ。いまひととき、汝が負いし使命を忘れ、ただ眠るがいい。

 されど罪と罰は汝が為し、そして汝が背負うのだ。

 肉を骨が覆っていた。鎧めいた形状の、白く不気味な骨の巨躯である。
 対異端用必滅聖霊術〈洗礼聖紋〉。血と骸の果てに築かれた伽藍の宝。
 それを享けたニレ自身の骨が彼女を覆い、この異形の真体を為したのだ。
 少女は眠る。眠ったまま義務を為す。己より鍛えられし鋸を振るう。
 戦艦すら撃沈せしめる必殺陣形、合わせて光線砲十三門、焼夷弾二十八発。
 これを受けてなお、骨体は不動不壊。鏃めいた骨の弾丸が破滅を祝いだ。

『異端なるものに裁きあれ。罰されしものに赦しあれ。
 赦されしものに救いあれ。救われしものに祝福を』

 壊れたスピーカーのように聖句を唱え、破滅という断罪を振るい処刑者は征く。
 鋼とて信仰の重みには紙くずほどの意味を成さぬ。
 鋸刃に抉られ、悲鳴を上げて兵士は死んだ。
 弾丸に串刺しにされ、戦車が膿のように膨れて爆ぜる。

『異端なるものに裁きあれ。罰されしものに赦しあれ。
 赦されしものに救いあれ。救われしものに祝福を』

 殉教者は虚空を征く。最も救われるべきものを知らぬままに。

●レン・ランフォードの場合
 ――起きよ。
「誰……ですか?」
 ――起きよ、蓮。そして戦え。
「一体何と……」
 ――前を見よ。そこにお主の敵がいる。
 声ははっきりと聞こえた。叱責には、どこか暖かな心地がした。

『ハッ、遅いんだよ!」
 虚空を曲芸的軌道で蹴り、敵射撃を回避する。これぞ術法・駆爪。
 ひと・ふた・み・よ、足場なき宇宙を駆け上り身を翻す!
 ――動け。足を止めれば死ぬと心得よ。
『わかってんだよォ! いつもはボソボソ小ッせェくせに!」
 レン、否……第二人格である『錬』は苛立たしげに吠え返した。
 誰かが脳裏で囁く。ああ、俺はこれを識っている。まったく懐かしい。
 ――右だ。彼奴らめ、火計を掛けるつもりぞ。
 別の声が囁く。
 ――左斜め上、兵が12といったところかの。さてどうする?
『決まってんだろ、ぶっ殺すだけだッ!』
 右手に苦無4つ。左手には三日月の名を持つ白刃。
 空中にて身をよじりざま、熱線銃を構える兵隊に――否、その背後へ苦無投擲。
 十三度目の駆爪。放たれた焼夷弾を鋒で『押し返す』。

 放たれた苦無は、兵隊背後に鎮座していた戦車の動力部を貫通、以て爆散。
 炎に飲まれ兵士は燼滅。そして焼夷弾は、速度はそのままに射手のもとへ。
 逆再生じみて砲塔に弾が放り込まれ、これも爆散。
 絶技である。
 敵は無数。されど白骨の忍は無双、ならば敵は無きも同然。
『そらそら来いよ外道ども、遊んでやるぜッ!』
 鬼の武者が吠える。ここは彼女らにとっての狩場なのだ。

●御劔・姫子、そして御狐・稲見之守の場合
 歩行戦車が、迫り来る女を照準に捉える。粒子収束、光が放たれ――ない。
 先の先、砲口を穿ったのは短刀『御劔守』である。直後、袈裟懸けが降りる。
「あかんなぁ、うちそないに遅いの好きやないんよぉ」
 宝剣『巌太刀』で爆炎をきりはらいながら、姫子は物欲しげに囁いた。
 禁じ手? 知ったことではない。この渇き、飢え、どうして抑えてくれようか。
「やっぱりからくり相手やとイマイチやわぁ、血が出ぇへんと――あは」
 呟きは妖しの笑みの蕩けた。飛来した鉄塊を振り向きざまに両断。敵影か?
 否である。歩行戦車を噛砕し、その残骸を姫子に放ったのは稲見之守だ。

 稲見之守であるはずの、黒い毛並みの魁偉なる化け狐だ。
 全長は二丈に届くか。黒き獣は、されどじわじわと女の姿を取る。
「いけへんよぉ御狐はん、そないなことされたらうち……」
 ちろりと舌が唇を撫でた。
「気持ち良ぉなりすぎてどうにかなって、思わず御狐はんを……うふ、ふふっ」
 対する女もまた笑む。されどそれは獣の嗤笑。
「胸糞悪い夢を魅せられてな、我も虫の居所が悪いのだ。何をするかわからぬぞ。
 所詮この身この霊は、魂喰らい魄啜る妖なれば。魂呑みの外道とは我のことよ」
 女たちは酔っていた。悲鳴が齎す狂気、増幅された本能と悪夢の残滓に。
 かつて迷宮で経た戯れ。あんなものではどちらも満足できるはずもない。
 一触即発。周囲がどろりと陽炎をどよもし……二人は弾かれたように左を見る。
 直後、焼夷弾が投げ込まれた。KRA-TOOOOM!!

 だが炎はすぐに晴れた。まず剣の鬼、媚笑の修羅が剣持ち奔る。
「あぁんもう! 足りん足りん、もっと斬らせて! もっと、もっともっと!!」
 ざん、ざんと巌太刀が敵を斬る。残骸残滓が彼方へ吹き飛ぶ。
 すなわち隣を駆ける稲見之守へ。妖物、これを薪に狐火を纏い獣へ転身す。
『我ノ邪魔立テハ赦サヌゾッ、総テ皆薙ギ焼キ尽クシテクレヨウゾッ!!』
 炎を放ち、虚空に風を産み、敵を蹂躙し喰らい尽くす。荒神とはまさにこれ。
 時に剣風が、炎がきりきり舞いに互いを狙い、かと思えば間の敵を裂く。
 一度でも刃金と牙が交錯すれば、たちまち彼女らを猟兵たらしめる正気は喪われよう。
 理性と本能の間、もどかしげな快楽を求めるかのように、人と獣は競い合い敵を滅した。
 総ては戯れ。殺戮と暴虐が濁流めいて荒れたあと、そこには何も遺らない。

●聖女と王女の祈りについて
 獣たちの饗宴を、されど常と変わらぬ瞳で見下ろす女たちがいた。

「悪夢に続いて生体兵器だなんて、ドクター・オロチもアンヘルもふざけてる!
 あいつら、絶対ぶん殴ってやるわ。でなきゃ私の気が済まないのよ……!」
 アンノット・リアルハート。激情はあれど、姿に変化はない。
 彼女にとっては、常こそが真体であり唯一不変。それは出自に由来する謎だ。

「さもありなん。されど我らは肩を並べてここに在る。我ら猟兵が居るのだ。
 妾でも、おぬしでも、他の誰であれ……一人ではこの先へ進めはせんのだ」
 ユーザリア・シン。真紅の装いは夢幻のように純白の法衣へと変じていた。
 本来ならば、その血に因りて黒き骸を纏う暗君へと成り果てていただろう。

「……あなたは、アゴニーフェイスの影響を受けていないの?」
「いや、受けているとも。いまの妾は救済の傲慢を背負いし者なれば」
 聖者の言葉は他人行儀めいていた。アンノットはしかし微笑む。
「傲慢でもいいじゃない。私とあなた、為すべきこととその対象は同じよ」
「……そうさな、そうだ。ならば、たまには妾が妾に踊らされるとしようか」
 二人は顔を見合わせ笑う。然り、王女と女王、貴き君の願いは一つ。

「星々よ、私の願いを聴いて。私たちの願いを聞き届けて。
 私は王女の影、願われ在りしもの。流星の如く儚きもの。
 私の声を彼らへ届け、彼らの苦しみを私のもとへ!」
 人が住まうには熱く寒すぎる星々は、されど姫君の声に煌めいた。
 アンノットは今や、願望を実現し世界を捻じる装置と化す。

「友よ。猛る希望、未来紡ぐ猟兵たちよ。汝らの滅びは妾が赦そう。
 敵よ、嘆く絶望、過去負う忘却たちよ。汝らの滅びを妾は願おう。
 ゆえに全てを猟るがよい。ゆえに総て消えるがよい。王の誉れぞ」
 高く朗々たる女王にして聖者の言葉は、虚空を伝い轟いた。
 ユーザリアは背負う。その傲然を赦さじと、紅血が裡より燃えた。

 彼女らは何をしようとしているのか?
 ……祈りである。敵を、味方を、そして苦痛受けし者たちを。
 安らかに眠れと。どうか鎮まりたまえと。骸の海に消えよと。
 祈り、願う。それは照射された精神波を伝い、宙域を眩く染め上げた。

 ――悲鳴の源は、流星のような輝きへと融け消えた。

●獣よ人に還れ
「██████AAAアアああ――あ?」
 アオイはふと、喉の痛みに気づいて己を顧みた。
 眦からは血の涙。もはや彼女を包む肉の檻、朽ちし亡者の腕はない。
「……私にも、まだ人間らしい感傷があったのだな」
 宙空を漂う無数の武器を見、年経れど幼き少女はひとりごちた。
 涙を流せれば良かったと思う。鋼の身体では叶わないが。

 ザザザザザ――僕ハ、何ナのだろウ?
 ザザザザザ――過去ノ亡霊、怪人とハ、まさか。
 ザザザザ――ザ、ザ。ブウウン、パチリ。
「ハッ。……あア、元に……戻れタのでスネ」
 40cmに満たぬ、古ぼけたテレビウム。壊れた笑顔で己の手を見る。
「っテ、考え事ヲしてル場合ではナいでス! 皆さン、お薬でスよ!」
 そして思索を振り切り、仲間たちのもとへと飛んでいく。

 殺戮の家、内部。赤熱化した砲口を下ろし、臓物がずるりと消えた。
 正純の瞳には確かな理性。砕けた脳髄装置を一瞥し、"彼"を見やる。
「思ったんです。たとえ今がどうであれ、彼らを機械と断じてはならないと」
「……そう。私には無理だなあ、そうするにはいろいろとやりすぎたから」
 彼は微笑んだ。そして正純のほうを見、言った。
「あの子に――いや、やめた。君に伝えても仕方ないね」
 申し訳なさげな瞳がふせられ、像がぶれる。直後、そこには『彼』がいた。
「ヴロスさん!」
「おお、正純さん。戦闘は終わったのですか? 私は……」
 機人は何かを言いかけ、やや間をおいて続けた。
「……誰かの声を聴いていました。"ごめんね"という、哀しげな声を」

 骨がぴしりと罅割れ、砕け散る。それは雛鳥が卵の殻を割るように。
 崩れた骨は塵へと還り、こぼれ落ちた羊水の波とともに虚空へ散った。
「――ふ、あ」
 赤子の産声のような吐息。審問者、ニレがそこに浮かんでいた。
「不思議です。夢を見ていたような――ああ、でも」
 頭上で砕け崩れる殺戮の家を見上げ、彼女は印を切る。
「哀れなる者たちよ、どうか救われたまえ。私もまた祈りましょう……」

 ――時間か。致し方なし。
 ――うむ、そのようじゃな。
 ――応、名残り惜しいな。ま、よかろう。
 声たちは言った。錬は不満げに口を尖らせる。
「ちぇ、言うだけ言ってまた消えんのかよ。俺もさっさと寝よ」
 粉のように崩れた武具を手放し、錬は眠る。
「……私、どうしてあの声を懐かしいと思ったんでしょう」
 目覚めた蓮は、破壊の通り過ぎた宙で首を傾げた。

「……噫、うむ。その、なんだ」
 稲見之守は、ばつが悪そうに顔をそらした。
「ひゃっ。お、御狐はん、あんまり動かんといてっ」
 すると姫子がくすぐったそうに声を漏らす。さもありなん。
 幼い姿に戻った稲見之守は、姫子に抱き抱えられている。
 黒髪が首筋を撫ぜたせいである。姫子は顔を赤らめつつ咳払いした。
「ああいう形で死合うのは、うち、よくないと思うし、それに……」
「なんじゃ、その物言い。まるで女を抱いた優男のようじゃナ?」
 くすくすと笑う妖狐のからかいに、いよいよ首元まで赤くする姫子であった。

 かくて、この宙域におけるアゴニーフェイスは掃討された。
 獣は人に戻り、それぞれに得た記憶、見たものを刻むことだろう。
 苦痛を受け止め、自ら被り、祈り続けた王女と女王はまた笑う。
「難儀な立場よね、私たち」
「如何にも。貴人とは然様なものよな」
 彼女らの請け負った苦悶は筆舌に尽くしがたいのだ。

 されど、戦いはまだ続く。
 獣たちの慟哭は、彼方よりなおも響くのだ。
 では、それなる獣達の姿は如何に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 殲滅部隊『スローターハウス』が誇る飛行建造物はひとつきりではない。
 これまでの猟兵達の尽力で大きく数は減らせど、複数の宙域に同時展開しているのだ。
 そしてここから語られるは、残る殺戮の家に挑んだ者たちの記録である。
ルイス・アケーディア
ここ数ヶ月で、俺は初めて普通の生活というものに触れた。人と過ごす日常を知った。

だから、サイキッカー達を憐れむことが、奴らを憎く思えるようなこの感情も、真の姿に戻ればきっと消え失せてしまうのだろう。

だからこそ都合が良い。
俺は、情を覚えたあの俺よりも、ずっと、冷静だ。

……ああ、耳障りだ。排除。排除。排除。排除を。

●真の姿
マシンゴーレム。複数の機械パーツが浮かんで人型になる形で構成されている。

腕を振り上げ、脚で踏み潰し、掌で押し潰して、目の前に現れた敵を一体ずつ粉砕。
粉々になったのを確認したら次の敵へ。

アゴニーフェイスを砕いたあたりで元に戻ります。
連携は自主的にはしません。
アドリブ歓迎



●ルイス・アケーディアという鋼について
『荒事だけで人生終わっちゃ彩りがないだろう?』
 数ヶ月前、優男が口にした"余計なおせっかい"が脳裏をよぎる。
 それまでの年月に比べれば短い時間、思い返すほどに多くの記憶がある。
「普通の生活、人と過ごす日常……か」
 鋼の男はひとりごちた。当たり前の平穏、なんてことない時間。大事なものだ。
 それがあらばこそ、サイキッカーへの憐憫と非道への義憤も滾る。

 だが。

 ルイスは甘んじて精神波を受けた。そして頭を振る。
「いまの俺には不要だ。消え去るというなら、だからこそ都合がいい。
 無駄なく、最短効率で、確実にお前たちを終わらせ――いや」
 赤い瞳が、ぎらりと不穏に輝く。メキメキと周囲に精製浮遊する鋼のパーツ。
 さながらそれは、巨人だ。歯車とオイルで動く機械仕掛けの巨人。
 無機質な表情にかろうじて在った人間性は、すとんと落ちて消えた。
「排除。排除だ。排除する、無駄なく、確実に、最短で」
 渦巻く悲鳴を耳障りと切って捨て、鋼のゴーレムが彼方を睨んだ。
 憐憫も憎悪もない。あるのはただ、目標達成への冷徹な意志だけ。

『こちらIB-04、アゴニーフェイスは照射完了。敵はいまだ健在。
 全兵力をもって迎撃せよ。繰り返す、各員は全兵力を――あ』
 歩行戦車から展開した兵士の通信は、前触れなくブツンと途切れた。
 何故? 簡単だ、潰れたからだ。羽虫のように呆気なく。
『な、なんだこいつは? さっきとはまったく姿、が』
 ゴウン――ぐしゃり。二体目の兵士はさっさと熱線銃を構えるべきだった。
 残る兵士、および展開した戦車隊は即座に銃口をそれに向ける。
 すなわち、両の掌で兵士を捻り潰した、巨大なマシンゴーレムへと。
「邪魔だ。全員粉砕する。排除、排除、排除を」
 掌が兵士を掴み、押し潰す。出鱈目な大きさの脚が戦車を蹴り砕く。
 横列斉射による熱線銃とレーザー砲のシャワーがルイスを出迎えた。
 だが強固な外殻は赤熱化するに留まる。煩わしげに片腕を振り上げ、薙ぐ。

 敵の居た場所に、無数の血煙と爆炎が生まれた。

「排除」
 ナパーム弾を意に介さず戦車を三両同時に圧壊する。
「排除」
 脚部に取り付いた歩兵隊を敵に叩きつけ潰殺する。
「排除を。確実で、効率的で、最速の排除を」
 ノイズがひどい。集積回路に響くこの悲鳴が煩わしい。
 巨人は逃走中の戦車一小隊を、両掌で球状圧縮。それを殺戮の家めがけ投擲。
 高速激突した鋼球が立方体の壁面を破壊する。ルイスは一直線にそこを目指す。
 進路上の敵を薙ぎ、潰し、そして内部。並び立つ無数のデスマスクたち。
「耳障りだ。排除する」
 躊躇はなかった。なぜならば彼の行動は最初からプログラム済みだからだ。
 虐殺の文法に従い、巨人は淡々とそれらを潰す。薙ぎ払う。破壊する。
 一個ずつ丁寧に。そのたびに悲鳴はぷつりと消えて、そして――。

「…………」
 静まり返った闇の中、青銀のウォーマシンが浮いていた。
 掌には、砕け潰れたアゴニーフェイスの残骸。もはや悲鳴はない。
「……どうやらまだ、俺には彩りが足りないらしい」
 あの時もこうして、余計な興味を自ら消し去ったような気がする。
 安寧に未だ馴染めぬ鋼は、悲鳴すらあげぬ残骸を握り潰した。
 無表情の裏の底、築いたばかりの心という炉に焚べるがごとく。

成功 🔵​🔵​🔴​

メイスン・ドットハック
【WIZ】
クリスタリアンがどういう種族がわかっておらんようじゃのー
なら、それがどういうものか、しっかり理解せーよ!

【暴走】
クリスタリアンに秘める膨大なサイキックエナジーのリソースをすべて脳に集中
恐るべき演算処理能力を獲得し、圧倒的な思考能力を得る
ただし脳を焼き斬る可能性もある
長時間使うと耳や目、口から出血する

小型歩行戦車のナパーム射出口を冷静に分析
ユーベルコードの爆弾蜂を針の穴を通すが如く、侵入させ爆破させる
破壊した所から、演算能力で得た頭脳部分に爆弾蜂を侵入させ、ピンポイント爆破
2手で効率よく、冷静に、容赦なく爆破させていく
同時にハッキングも行い、動きを止める作業も並行に行う(ハッキング)


神元・眞白
【SPD/アドリブ存分に】
真の姿:戦術器「妖-ヨウ-」其れは、妖-アヤカシ-の夜 / 周囲のオブリビオンや同系統の力を鹵獲し、自身に上乗せする殲滅型戦術器。倒した敵の力も取り込む事で加速的に力を増大する、が、比例して制御は効かなくなる。
完全な暴走時は貯めこんだ力の放出をさせる事で鎮静化する。
※一貫して強化した徒手空拳。制御が効かなくなるにつれて獣じみた動きに。

…嫌な記憶ばっかり思い出す。でも、いい機会。
あの時制御できなかった私。怖いけど今の制御しきれる点を探そう。
魅医に力をあげるのは保険。止まらなくなったら飛威、符雨、お願い。
マスターからあの時もらった新しい名前。真のかたしろ。私は頑張らないと




 悪夢を経て、過去を乗り越えんとする者がいる。
 一方で、何も変わらずに戦う者もいる。
 その点で、彼女たちは対称的だった。

●メイスン・ドットハックという少女について
 クリスタリアン。鉱物の体にサイキックエナジーを秘めた者たち。
 希少種族なのも、こうして銀河帝国に利用された結果なのかもしれない。
「……そう思うと腹が立ってくるのー」
 メイスンは面倒臭そうに、しかし嫌悪感を隠しもせずに呟く。
 精神波の照射を受けて、しかし彼女の体に大きな変化は見られない。
 それもそのはず、いまサイキックエナジーはすべて一点に集中している。
「僕らクリスタリアンがどういう種族か、ナメるとどうなるか。
 いまから嫌ってほど見せたるけー、しっかり理解せーよ!」
 周囲に無数のARウィンドウが開き、閉じる。脅威的な演算処理速度だ。
 電脳ゴーグルその他全端末は、いま彼女の脳と直結していると言っていい。
 サイキックエナジーによる思考ブースト。それが彼女の真の姿である。

『報告。敵猟兵を発見。宙域ポイントNN-201ガ、ガ、ガガガガガ』
 メイスンを視認した歩行戦車は即座に電子頭脳を焼かれ、機能停止。
 それに飛び移り、端末を接続して敵部隊の散開情報を一瞬で抜き去る。
「あっちゃこっちゃに小賢しく散りよって。めんどーじゃのー」
 だが情報は得た。ARから実体化した無数の爆弾蜂が飛散していく。
『識別不明の動体反応を複数検知。焼夷擲弾による制圧を推奨』
 ドローンの接近を感知した戦車隊が、ナパーム弾の射出口を展開。
 ブウウウン、と羽音ともに迫る蜂の群れに擲弾を放つ。

 BOOM!!
 
 群れの9割が焼却破壊。しかしメイスンにとっては計算済みである。
 残る1割がセンサーを抜け砲口に侵入、装填された第二射もろとも自爆した!
「爆発する蜂は、毒蜂より怖いっちゅうことじゃのー、覚えとけー」
 無力化された戦車隊に第二波を送り出し、ハッカーは鮫のように笑う。
 もはや、ここは彼女の掌の上と化した。

●神元・眞白の場合
 戦術器。自律型戦闘用人形の総称である。
 一号機、飛威。白兵特化型の高速躯体。
 二号機、符雨。射撃および呪符による遠隔型躯体。
 三号機、魅医。魔力変換による治癒および自己強化を行う特務躯体。
 では四号機は? ……悪夢を乗り越えた今、眞白がそれを隠す理由はない。
 彼女こそが、他ならぬ四番目の戦術器なのだから。

『第一、第二小隊は両翼から援護に回れ! 我々第三小隊が足止めを行う!』
 戦車から展開した歩兵隊は連携し、敵を包囲せんとする。
 白兵戦装備の第三小隊は、高速接近する躯体に突撃を仕掛け――。
『こ、こちら第一小隊! 新たな敵影が……がああっ!!』
『第二小隊から第三へ、現在遠距離から狙撃を受け、ぶばっ』
 両小隊が同時に通信途絶。敵は単独ではなかったのか?
 その混乱が仇となった。攻撃目標、すなわち眞白はすでに眼前!
「飛威、符雨、ありがとう。いい子ね」
 青い瞳が煌めいた。常の彼女では信じられぬ速度の徒手空拳を繰り出す。
 熱線銃を奪い取り握潰、がら空きの胴に貫手。装甲を貫通し即死させる。
 骸を盾に敵射撃を防ぐと、鋭い二度蹴りが敵兵二名の首をへし折った。
 無残な亡骸は白い靄へと変わり、眞白の周囲を渦巻き取り込まれる。
「っ……そろそろ、まずい。魅医、力を上げる」
 後続の三号機へ、得たばかりの活力を譲渡。眞白はほう、と息を吐いた。

 眞白――四号機・妖(ヨウ)の役割、真の姿。それは単機での敵殲滅だ。
 そのために、彼女は敵の能力や活力を鹵獲・増大化することが出来る。
 敵を殺し精髄を喰らう化生の如き機能は、しかし暴走の危険を常に伴う。
「悪夢はもう終わったのに、嫌なことばかり思い出す」
 記憶を振り払う。しかし型代の人形は、少しずつ代償を積み重ねていた。

●殺戮の家にて
 戦闘開始から約10分。唐突に、暗闇に光が差し込んだ。
 爆音とともに壁が砕け、メイスンが現れる。敵はほぼ片付け終えたらしい。
「けたくそ悪いのー、さっさと爆破するのが一番じゃのー」
 新たな蜂部隊を生み出し、立ち並ぶアゴニーフェイスを破壊せんとする。
 が、その時。対面の壁が砕け、獣じみた前傾姿勢の何者かが現れた!
「うおうっ!? なんじゃー敵か……って、見たことある顔じゃのー」
 いかにも、闖入者は眞白である。二人とも悪夢装置に挑んだ猟兵だ。
 しかしメイスンはすぐに警戒を強めた。眞白の様子が、おかしい。
「……っ、飛威、符雨……早く、止めて」
 さながら、オイル切れの機械のような、ぎぎぎぎという歪な動き。
 メイスンに詳しい事情はわからぬが、どうやら一筋縄ではいかない状態か。
 心底面倒くさそうに、ため息をついた。

 一方眞白は焦っていた。なにせ目の前に同じ猟兵がいるのだ。
 意志の力でぎりぎり暴走を防いでいるものの、それも弱まりつつある。
(早く、早くこの悲鳴を止めなきゃ。また)
 また無辜の相手を手にかけるのか。また自分は罪を犯すのか。
 だが不幸にも、アゴニーフェイスの苦悶は彼女の力を強め――。
「い、や……ぁああっ!」
 銀髪の獣が、少女に飛びかかった。

 そして、まさにその頭を引き裂こうとした寸前で、びくんと痙攣。
「え」
 力を喪い、がくんと地面に膝をつく。
「……ほんっとーにめんどーじゃのー! 味方にこんなことするなんぞ!」
 目元から溢れた血を拭うメイスン。眞白の躯体にハッキングを仕掛けたのだ。
「ま、ここに来たのが僕でよかったのー。なにせ僕は」
 キーをタップ。通電が切断され、アゴニーフェイスは停止した。
 悲鳴が収まる。唖然とした顔の眞白を、追いついた人形たちが助け起こす。
「見ての通り、天才じゃけー」
 電脳魔術士は、こともなげに笑ってみせた。
 眞白はありがとう、と言い、つられて少しだけ微笑む。
 少女たちを、ただ静寂が包み込んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トルメンタ・アンゲルス
また悲鳴、ですか。
本当、その手が好きですねぇ。反吐が出ますよ。
――全力全開、手加減無しで行きますよ。

NoChaser!変身!
『MaximumEngine――Mode:Formula』(ベルトの音声)



先ず、アクセルユニゾン使用。
宇宙バイクを攻撃力重視の装甲として変身合体。


真の姿。
体内に仕込まれた、超弩級戦艦すら十二分に動かせる出力の、コアマシンの全開。
展開した装甲から、溢れるパワーが薄緑の光として放たれる。
そして、それをさらに収束させる。

――Code:Seraphim

宇宙(ソラ)を駆ける天使となる。
人外のパワー。人外の装甲。――人外の速さ。


今なら達せられる。速さの極致。
―――「音」の向こう側へ。


鮫塚・あるは
・心情
こんな兵器なんてないほうがいいよねえ
脳を使うようなろくでもない兵器だけにノーサンキューってやつさ
私がどんだけ吹っ飛んじゃうかは知らないけど思いっきり大暴れさせてもらうとするよ

・真の姿
サメの頭部に肉食獣の肉体を持つシャークトゥースと自称する化物
戦車すら食いちぎる牙や金属混じりの爪を振るったりして目につく敵(と認識した相手)を破壊し尽くすまで止まらない

稀に顎が疲れるとあっさり戻る

・戦闘スタンス
狂乱中なので目についた小型歩行戦車をひたすら噛み付いたり爪で攻撃
被弾してもなんのそのなのでやられるときはあっさり
シャァァァ!みたいな叫び声で暴れ回る姿は邪魔だこいつって感じ

※アドリブや前座扱い大歓迎です



●鮫塚・あるはのケース
「あーあ、大惨事。こんな兵器なんてないほうがいいよねえ。
 脳だけにノーサンキューってやつだ。あっはっは」
 真の姿と理性喪失に伴う混戦を見、他人事のように言う少女。
 やや寒い駄洒落も、突っ込んでくれる相手がいない。肩をすくめてため息。
「私も行かなきゃだけど、一体どんだけおかしくなっちゃうんだか。
 ま、せいぜい大暴れさせてもらおうかねえ、おもいっき、り……っ!?」
 精神波があるはを飲み込み、彼女の肉体は急速に変異した。
 胴と四肢は強靭な肉食獣、頭部は鮫。モンスター映画じみた異形!
「SSSSHHHHHH……」
 蛇めいた唸り声を漏らす双眸に、理性の輝きはない。
 鋭利な牙と爪を煌めかせ、シャークトゥースは獲物の群れへ飛び込んだ。

●トルメンタ・アンゲルスのケース
 それから数分後、同宙域の別方角にて。

 断続的な照射の中、渋面の騎兵が一人。サングラスの下、瞳が鋭く輝く。
「悪夢の次は悲鳴の嵐、どこまでも非道な連中ですね。……反吐が出る」
 悲鳴はかえってトルメンタを正気づかせた。それほどの怒りなのだ。
 幻肢痛とともに、鋼の五体が内側から薄緑の光を放つ。
「結構。全力全開、手加減無しで行きましょう。C'mon,NoChaser!」
 ゴゥォオオンッ! と咆哮を上げ、相棒の宇宙バイクが駆けつける。
 腰部ベルト起動。機械音声とともに光がさらに強まっていく!
「この悲劇を止めるために――変身ッ!」
《MaximumEngine,Mode:Formula!》
 ベルトとシンクロした相棒は変形展開、彼女を覆う装甲となる。
 これが流星ライダー、トルメンタの鎧装形態:モード・フォーミュラ!
『輝け、Aureoleッ!』
 超絶的加速を以て敵陣に飛び込み、腕部からレーザーブレードを展開。
 迎撃態勢を取る歩行戦車四両を一撃両断! さらに残骸を蹴り跳ぶ!
 目指す先、立体陣形を組みトルメンタを阻む敵戦車および歩兵小隊あり。
『その程度の防御、まとめて蹴りぬく! 奮撃のォ――』
 緑光が強まった。くるくると空中回転し飛び蹴り姿勢へ。
 迎撃の光線砲と熱線を掻い潜り、陣形中央めがけ一線に!
『――ブリッツガストッ!!』
 着弾点を中心に吹き荒れた電光と疾風が、敵を諸共吹き飛ばした。

 爆炎を貫き、なおも戦場をジグザグに駆けるトルメンタ。
 と、その時。彼女は荒れ狂う獣の聲を聴く。帝国軍のものではない。
『スローターハウスの方向? まさか。……急ぎますか!』
 緑の燐光を引き、天使は殺戮の家めがけ翔ぶ。そして、そこでは――。

●獣と天使
 トルメンタの出撃とほぼ同時刻、立方体建造物周辺宙域。
『シャーアアアアアァッ!!』
 大口を開き、飢えた大鮫が獲物を飲み込む。歩兵は悲鳴を上げて噛砕!
 無論、その程度で満足する彼女ではない。尾鰭で虚空を打ち、即座に反転。
 己めがけキャノン砲の狙いを定めていた歩行戦車を、牙で引き裂く。
 直後、爆音! 戦車は囮だったのだ。ナパーム弾三発が着弾し、炎上!
「こちら第九小隊、敵猟兵を抹殺した。別働隊と合流する」
「いや待て、全員銃を構えろ! 奴はまだ生き――うわああっ!!」
 歩兵隊は恐怖した。炎の中から恐るべき怪物が飛び出してきたからだ!
 怪物は大口を開け、一小隊をまるごと飲み込み噛み殺した。血飛沫が舞う。

 目についた敵を片っ端から襲うあるは……否、怪物シャークトゥース。
 しかし暴虐には限度がある。いまの彼女は被弾を恐れないのだ。
 ダメージが徐々に蓄積し、動きは精細を欠きつつあった。
「全部隊、あの化物を包囲しろ! 一斉砲火で撃滅する!」
 数十両の戦車、および百名近い歩兵が怪物を包囲開始する。
『グルルルルル……』
 餓えた眼が獲物を睨む。正気に戻ろうにも精神波が健在である。
 当然、狂乱したあるははアゴニーフェイスを優先したりもしない。
 もはや万事休すか。いや、急速接近する緑の輝きを見よ!

『なるほど。やはり元を断たねばなりませんか』
 亜音速で疾走しながらも、カメラアイによって状況を理解したトルメンタ。
 獣に堕ちたとて猟兵は仲間、救わねばならぬ。出来るか、今の自分に?
『……やってみせますとも。コード・セラフィム、起動!』
 覚悟を決めろ。悪夢の影を、限界を破るときだ!
《Limit break――Warning!Release the restrain device.》
 ベルトの警告を無視し、リミッター解除。天使はついに、音の壁を破る!

「なんだ、あれは!?」
 包囲の中、ある兵士が声を上げた。緑色の流星を指さして。
 他の兵がそれをたしなめるより先に、流星は殺戮の家に到達する。
『直撃の――ブリッツシュネルッ!!』

 KRA-TOOOOOM!!

 アーマーパージによる最速突撃を受け、立方体建造物は貫通爆散!
 内部のアゴニーフェイスもまた同様。あるはの両眼に理性が灯った!
『グル――あれ? うえええなんだこれぇ!?』
 囲まれていたのでは無理もなし。我に返った彼女は、異形のまま動転。
 だがすぐに思考を切り替え、滑らかに尾鰭で虚空を叩いた!
『ええい、とにかく食いちぎらせてもらうよぉッ!』
 姿形はそのままに、されど人の知恵と理性を以て怪物が宇宙を泳ぐ。
 混乱し足並みの乱れた敵陣を、牙と爪で蹂躙する肉食の獣!

 無論、対応出来た敵もいる。だがそれらは、全て緑の流星が粉砕した。
 もはや彼女たちを脅かす悲鳴はない。スピードの中で天使は黙祷する。
『――さあ、ツケを払ってもらいましょうか!』
 瞠目。

 獣と天使の舞踏は、愚かな敵を全て滅ぼし尽くすまで続いたという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

テン・オクトー
強制的に真の姿になるなんて。普段は色々考えてから行動するボク。真の姿は1度しかなった事ないし…ちょっと怖いな。でもこの仕事、真の姿になる程度で済むボク達がやるしかないね。
真の姿
姿サイズはそのままに禍々しいオーラを纏い、虚ろな目でただ目の前の敵を武器フレイルでどつき、肉片を削ぎ落とす獰猛な獣化。敵が目の前から消えるまで。
WIS
UCをぶつけると同時に懐に飛び込んでどつきまわす【範囲攻撃】。敵の攻撃で燃えても【激痛耐性】で気にしないかも。

自分のはまま想定内の真の姿。大して戦力にはならないかもだね。真の姿は色々あるとか。アゴニーフェイスによって新たな姿に目覚めないといいのだけど…

連携アドリブ歓迎です



●少年は闇を纏う
「うう、ちょっと怖いなあ……」
 30cmにも満たぬ、灰色のケットシーは不安げに呟いた。
 名はテン・オクトー。わずか8歳の幼い少年であり、立派な猟兵だ。
 しかし彼は恐れを振り払うように、獣たちの慟哭を聴く。
「……やらせるわけには、いかないよね。よし、行くぞ!」
 彼は勇んで武器を構え、そして悲鳴の波を浴びた。

 精神波が通りすぎた時、若く純粋な灰色猫はどこにもいなかった。

●垣間見えたもの
『――?』
 戦車隊の隊長機は、一瞬センサーが感知したノイズを訝しんだ。
 この宙域には、まだ猟兵たちは到着していないはず。一体なにが?
 人工知能が故障の可能性を思案した時、そいつらはすでに真下にいた。
『!』
 直後、宇宙に竜巻が生まれた。真空が渦を巻いて立ち上る!
 隊長機はミキサーめいて粉砕破壊され、爆発。残る五両が警戒態勢を取った。
 だが遅い。やはり下からの衝撃が、ガツンッ! と戦車を揺らした。
 ガン、ガン、ガン! と矢継ぎ早の痛打が装甲を凹ませ、五撃目で貫通。
 火花を起こすそれは風の力で友軍機の群れに飛び込み、同時に爆発。
 ドドウ、ドウ! と連鎖崩壊を起こし、戦車隊は全滅した。

 そこでようやく、小さき襲撃者たちは姿を表した。
 真の姿を引き出されたテンと、彼が召喚した古代の魔道師たちだ。
 見た目こそは可愛らしいケットシーである。だがその瞳に理性の輝きはない。
 特にテンは、不気味に揺らめく禍々しいオーラを纏う。
 彼が持つランタンの炎も、奇妙な光が同じように揺らめいている。
『ご先祖様。あれなる敵を』
 ランタンを掲げ、迫り来る歩兵隊を指し示す。光が瞬き、霊を急かした。
 当のテンが振るうのは凶悪な見た目のフレイル。小さいと言えど凶器である。
 その時、シュポンッ! と放たれたナパーム弾が弧を描き――着弾!
 霊もろともテンを炎の中に包み込む。完全な直撃、これではもはや。

 ……と、敵は誰もが思った。だが期待は裏切られる。
 虚ろなランタンを掲げ、太古の霊たちを引き連れ獣が征く。
『あれなる敵を滅ぼしましょう。敵を、皆、滅ぼすのです』
 小さき者どもが列をなす。砲火を掻い潜り、姿勢を低くして敵を抉る。
 まるで餓えた猫科動物が獲物の肉を喰らうように。敵陣は徐々に欠けていく。
 揺らめくランタンの輝きは、さながら亡霊の魂のようにも思え――。

「……はっ」
 テンは目を覚ました。どうやらアゴニーフェイスは破壊されたらしい。
 周囲を見やる。あるのは残骸のみ、しかし戦闘の激しさを十分に伝える。
「これを、ボクが……?」
 少年は不安げに呟いた。もはや禍々しきオーラは霧散している。
 ただ、ランタンの中で虚ろな光だけが瞬いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロク・ザイオン
ジャック(f02381)と

(うただ。沢山のうただ)
(あねごのような美しいうただ。おれを祝福してくれるうただ)
(ととさまを讃えるうただ)

(赤く長い鬣と尾。野獣の牙。みにくい咆哮も、ああ!
おゆるしくださるのですか!!)

…まかせろ。ジャック。
狩りは、得意。
おーば。

(とても昂ぶっている。
【ダッシュ】【地形利用】で馳せ回り、ジャックが狙いやすいよう敵を追い込みながら焼き潰す。
うたのきこえる限り、「烙禍」で灰と残火を広げる。
燃えるだけ、ここはおれの狩場になる)

(ジャックが無茶するなら、生まれながらの光を。
狩りは楽しいが。
キミの姿はなぜか、少し、心配。)


ジャガーノート・ジャック
*ロク・ザイオンと

(ザザッ)
――破壊か。
本機の本分の儘に暴れるだけと言うなら、これ程やりやすい任務もない。

少し力を借りる、ロク。
敵の捕縛は任せる。

―― ――
【SPD】

(ザ、ザ――――)

殺す。
殺すコロスころす殺ス――――!!

(真の姿。
まだ平穏な鉄塊としての豹鎧より、荒々しく。
右腕の砲塔3基は戦車の砲身とばかり巨大になり、敵を別々に狙い。)

Guhhhhhhh――

(兜の顎は開かれ牙を剥き。
朱い喉奥めいてサイバーバイザーが展開。ターゲットサイトがモノアイめいて標的を探す。)

――Gahhhhhhhhh!!!!!

(全身に、逆立てた毛の様に乱立する数多なる兵器、銃器。
其れを以て、敵を須く撃ち尽す。)



●獣と獣
 宇宙が燃える。比喩に非ず。真空すら焦がす野火が拡がる。
「ととさま、聞こえますか。このうたが、合唱が!」
 と、おそらくロク・ザイオンは叫んでいるのだろう。
「あねご、おれはさみしくありません! だって、うたが!
 おれを祝福してくれる、沢山のうたがきこえるのです!」
 兵士達は耳を塞ぐ、痴れ狂う者すら居た。
 響くは喝火の音。煩く醜く歪で罅割れた咆哮。
「ごらんくださいととさま、御旨は燃えております! おれの手で!
 あねご、あねご! どうか一緒に、うたを聴かせてくださいませ!」
 鬣と尾は箒星に似る。塵の燃え輝くように、敵を伐るほど棚引いた。
 これで人など笑わせる。烙獣よ、其は卑しき畜生なり。

『Guhhhhhhh――』
 此は如何に。ジャガーノート・ジャックなる猟兵か?
 是、然し否。此もまた畜生、鋼纏う下賤の愚豹なり。
『Gahhhhhhhhh――!!!!!』
 膨れた昏き躯体、児戯じみた砲の群。浅ましき哉。砂嵐の兵など片原痛し。
 鏖殺を覓め炎潜り、只々咆え駆けのたうち回る。
『殺ス殺ス殺ス殺ス、殺ス! GuhhhGaaaahhh!!』
 砲口が咆哮上げ炮光を漏らす。そこに理性平穏など欠片も非ず。
 如何にも獣は狂っていた。ただ暴れ壊す力に成り下がっていた。
 虚飾の殻すら棄てし貪獣よ、其は誰も護れはせぬ。

●狂い狂ひて
 野火は烙獣の縄張りであり、即ち貪獣の庭であった。
 いみじくも兵と木偶どもは抗おうとし、それが却って畜生を悦ばせた。
 裂かれた鋼は炭となって炎を孕み、穿たれた肉は衝動を満たす。
 逃げ惑う兵士の阿鼻、木偶が散らす火花の叫喚。いずれも獣の好物である。
 そして野火を靡然と吹き抜く音なき悲鳴。彼奴らは何よりそれを悦んだ。
 烙獣はそれを歌と呼ぶ。その耳朶が歪み壊れているゆえに。
 貪獣はそれに幻を視る。慙愧と悔悟とを棄てきれぬゆえに。
 畜生どもは狩場を奔れど、心此処に非ず。ゆえにそれらは狂っていた。
「燃えて、落ちろ。ととさまのため、あねごのため、おれのため!
 ジャック! ジャック、あちらへいこう。あそこはうたがよく聴こえる!」
 ざりざりと、銹錆の聲で赤が笑う。悲鳴(うた)の源を目指そうと。
『Guhhhhhh――Ga,aaaahhhhhh……』
 がりがりと、喧擾なりし黒が唸る。獲物(てき)は須く殺さねばならぬ。

 咆哮、障声、断末魔。
 歓喜、憤懣、爆発音。

 逃げる者も居た。燃えて砕けて苦しみ死んだ。
 迎える者も居た。灼けて穿たれ憎しみ死んだ。

 誰も獣を止められない。野火はただただ広がり続ける。
 刃で裂く。牙で抉る。聲で震わせ餌で惹かせて貪り殺す。
 砲で穿つ。鋼で潰す。憎悪で抉り憤怒で焦がし灼き殺す。

 哀れなるは狂乱か。獣どもは敵を平らげて、殺戮の家をも手にかけた。
 四角い箱が燃え落ちて、狂気と共に悲鳴は去りぬ。
 愚者どもは己が手で迎えたのだ。狂乱の終焉を。
 浅ましくも晒した己の本性。そのなんたるかの自覚を。

●静寂
「…………」
《――……》
 焼け焦げ、炭化した塵がひしめく宙域。燃えて灼かれた箱の虚。
 かろうじて遺った建造物の残骸で、少女と戦士はへたりこんでいた。
 どうした。あの愉しげな叫びはどこへ? 敵を撃ち貫く雄叫びは?
 お前たちは自らここへ来て、自らそれを晒し、自ら殺し喰らったのだ。
 だのに二人して、人のような顔でただ黙る。声もなく。
「……ジャッ、ク」
 怯えるような声で、人を気取る畜生が囁いた。おぞましき声で。
《――……本機は》
 何かを応えかけた思い上がりの臆病者を、聖者の輝きが照らし癒やした。
 聖なる光は、宇宙の闇にはあまりに眩く、そしてか弱い。
 それは彼女らの善性、縋り求めて止まぬ人間性のようだった。
「おれは」
 おお、耳障りな声だ。赤錆だらけの錐で戸板をこそぐような。
「……おれは、ここにいる、から」
 理由もわからぬ不安、この光で照らしたいと思った曖昧な感覚。
 それは、己の声を忌む少女にとって、なお言葉にするに値するもの。
 いつかの廃村のすみっこで、溢した涙と言葉が蘇る。
《――……》
 しばしの静寂、躊躇の気配。そして。
『……ありがとう、ロク」
 少年は、ただ素直にそう返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
・真の姿
始まりの己。名もなきストリートチルドレン。生身だった頃。見すぼらしく、弱く、愚かで、何も携えぬ持たざる者。かつてストリートのハイエナと称された名もなき少年の、元となった姿。
弱く、弱く、弱く、ただ弱く。きっと誰よりも弱いからこそ。
その一矢に賭ける想いは、誰より強い。であれば、強気者達へ反抗の刃で以て抗わん。

ただ生きるために、強者を殺して、殺して、生きる。【追跡】で執拗に追いかけ、ガラス片へと変じたナイフで急所へ不可視の【暗殺】

俺を踏みつけにする奴らを。苦しみを強いる奴らを。命を脅かす奴らを。気まぐれで嬲る奴らを。決して許すな。
生きるために、殺せ。
このガラス片が、俺の人生の始まりだ。



●彼の見た風景
 鬱屈とした灰色の天蓋の下、彼は踏みにじられていた。
 酔ってラリったジャンキーが、喚き散らして拳を握る。
「偉そうにしやがって。俺を踏みつけにしやがって」
 ガラス片を掴み、突き刺した。ジャンキーは即死した。

 饐えた臭いの地下街で、彼は嘔吐を繰り返す。
 葉巻を咥えた太っちょが、ニヤニヤ笑って腹を蹴る。
「見下しやがって。俺に苦しみを強いやがって」
 ガラス片を掴み、引き裂いた。太っちょは派手に死んだ。

 バチバチ点滅するネオンの下、彼は穴だらけで斃れていた。
 軍用品のお下がりを構えた同業者が、引き金に指をかけていた。
「思い上がりやがって。俺の命を脅かしやがって」
 ガラス片を掴み、切り刻んだ。くそったれどもはまとめて死んだ。

 誰も知らない埠頭の隠れ家で、彼は椅子に縛られ拷問されていた。
 どこかの企業の工作員が、サディスティックな嗤笑と刃物を見せる。
「酔いしれやがって。気まぐれで俺を嬲りやがって」
 ガラス片を掴み、抉り込んだ。変態野郎は醜く死んだ。

 彼は弱い。のろまで、愚かで、小さく無様で浅ましかった。
 だから嘗められた。そのたび思い知らせた。このただ一つきりの武器で。
「殺してやる。俺が、生きるために殺してやる。
 そのためなら怖くない。俺は弱くても、この決意は誰より強いんだ」
 彼の前に新たな敵が現れた。鈍重で醜い歩行戦車だ。
「見せつけやがって。殺してやる、誰も絶対赦さねえ」
 掻い潜り、死角に飛び込みガラス片を突き刺した。戦車は爆ぜて壊れた。
 彼方から悲鳴が聞こえてきて、そこでようやく彼は目を覚ました。

●宇宙に獣、慟哭す
「――今のは」
 ヴィクティム・ウィンターミュートは目を覚ました。周囲を見る。
 歩行戦車、あるいは武装兵士の残骸、屍体。全て一撃で死んでいた。
 あるものは自覚なく。あるものは囁きに恐怖して。そうだ、己が殺した。
 その時、脳を揺らす悲鳴が響いた。カウボーイは慌ててICEを起動する。
「畜生(Drek)! そうか、そういうことかよ、ああ畜生!」
 吐き捨て、己が手がけたばかりの戦車を蹴り飛ばし、跳躍。
 直後、ヴィクティムを狙った砲火の雨! そして悲鳴が再び響く。

 何が起きていた? いちいち精査する必要もない。あれだ、あの声だ。
 アゴニーフェイス。真の姿を引き出し理性を奪う悪魔の兵器。
 彼は己が幼少の頃に戻っているのを自覚した。つまりあれは幻だ。
 よく出来たVRみたいに、今と昔がオーバーラップしちまった。
 現実で隠れ潜んで敵をブッ殺してる間、頭はラリって夢見てたってわけだ。
「チップヘッドみてえな無様だな、ええカウボーイ? 情けねえ!」
 己に言い聞かせ、論理防壁を展開し正気を保つ。やることは変わらない。
 2秒の逡巡。舌打ちし、コンバットドラッグを思い切り首元に打ち込んだ。
 後頭部をぶち抜かれたような衝撃。ブッ飛びかけたが必死で耐える。
 やかましい悲鳴が脳味噌からダンプした。走れ走れ、闇を駆けろ!
「俺はもう弱くねぇ、けど俺を嘗めるヤツは赦さねぇ。
 いい加減やかましいからよ、今終わらせてやるぜチューマ!」
 増幅強化された神経で敵の死角を取り、攻撃をかいくぐって目的地へ。
 着いた。殺戮の家の壁面、触れるとともにサイバーデッキを起動する。
「ナイティ・ナイト(お眠り、ぼうや)。その悲鳴は聞き飽きた」
 ガラス片を掴み、突き刺した。強固な氷が砕けて散った。

 苦悶のカートリッジ、囚われた脳髄たちはフラットライン。
 慟哭じみた思念波が宇宙を轟かす。しかしそれは帝国軍のみを破滅させた。
 まるで、死者たちの最期の意地のように。あちこちで戦車が爆発する。
「……俺らをナメるからこうなんのさ、腐れ頭のウィルソンども」
 カウボーイは、悪ガキめいて歯を剥いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月15日


挿絵イラスト