●それはむかしのおはなし
あられをひろってくれたご主人は、とっても本が好きなひとだった。
あられに色々なおはなし、読みきかせてくれた。
でも、ご主人。だんだんお布団から出なくなって、動かなくなった。
そうしたら、知らないひとたちがご主人を連れてっちゃって。お部屋の本も持ってっちゃった。
ご主人、どこに連れてかれたんだろう?
本は、どこに行っちゃったんだろう?
あられが、ご主人と本を探さなきゃ。
●本は誰かの手から誰かへと廻る
「お集まりいただき感謝だよ。さて、随分前に大祓百鬼夜行が終わったが、カクリヨは相変わらず危機みたいでね。今回もその例に漏れずさ」
グリモアベースの片隅で。肩を竦めてみせながら、空目・キサラ(時雨夜想・f22432)は口を開く。
「だが君たちが何度もその『危機』を救ったためか、稀にだが事前に『世界の崩壊するしるし』を感じ取れるようになったようだ」
そのしるしとは、幽世蝶の群生だそうだ。この不思議な霊力を放つ幽世蝶が、グリモア猟兵の予知よりも早く。世界のほころびを感じ取れるようになったという。
「つまりその幽世蝶を追って、起きようとしている『世界の崩壊』を防いできて欲しいのだよ」
幽世蝶が導く場所では、古本市が開かれているという。
さまざまな出店者が寄り集まり開催されるこの古本市は、屋内でなく屋外で行われるため、とても開放的だそうだ。
「一度にたくさんの小さな本屋を巡れるし、本好きなら楽しめると思うよ。もしかしたら希少本とも出合えるかもしれないしね……おっと、本題に戻ろう」
本筋から話が逸れたところで、キサラは説明に戻る。
「幽世蝶はオブリビオン化した妖怪の周囲をひらりひらりと舞っているから、発見は容易だよ」
しかし様々な妖怪たちが集まっている中で仕掛けるのは、古本市に水を差すことと同じ。加えて他の妖怪たちを戦いに巻き込みかねないため、避けるべきだろう。
「どうやら妖怪を飲み込んだ骸魂は、オブリビオンであるとバレてないと思っているみたいだからね。一緒に古本市を楽しみつつ、少しずつ古本市から遠ざけるといいんじゃないかな。少し離れたところに神社があるから、そこに誘導すると良いだろう」
そこで古本市から引き離されたとオブリビオンが気付いたなら、猟兵たちに戦いを仕掛けてくる。そこを迎え撃つことになるとキサラは語る。
「さて、今回のオブリビオン……つまり骸魂のことなのだが。どうやら過去、本好きの主人の命を知らずに奪ってしまった化猫みたいだ」
骸魂は主人の死を理解していない。もしかすると主人の姿を求め、古本市に足を運んだのかもしれない。
「少し戦い辛い相手かもしれないが……君たちなら上手くやってくれるだろうと信じているからね。それじゃ、行ってきなよ」
キサラは笑って、猟兵達を送り出した。
●ふるほんまつり
古本市では、古本たちが棚や机の上に並び。誰かの手に取られるのを待っていた。
童話、小説、詩集……そのジャンルは多岐に渡っていて、思わず目移りしてしまうだろう。
何処かで聞いた名の作家の本もあれば、全く知らぬ名の作家の本もある。
探す楽しみ、悩む楽しみ。
そうした中で、求めていた本を見つけられた際の喜びは一入だ。
本を求めるもの達が行き交う中。
その中で。骸魂は『探して』いた。
雪月キリカ
お目にとめていただき有難うございます。はじめまして、もしくはまたお会いしました。雪月です。
古本屋巡りで見かけた田舎教師(復刻版)はもはや鈍器だなぁと。昔の本って結構大きいですね。
一章は日常です。古本市を楽しんでいただきます。
楽しみつつ、幽世蝶が周囲を舞うオブリビオンを見つけたなら。古本市から自然に引き離してください。
出店者に本の逸話を聞けば、何か情報があるかもしれません。
二章はボス戦です。
古本市から引き離されたと理解した『彷徨う白猫『あられ』』と戦っていただきます。
戦場となる神社は狛犬や鳥居、お社のある普通の神社です。
戦場が猟兵に不利に働くようなことはありません。
一章は2月1日の8時31分から受付ます。締切はタグに記載しますが、少なくとも丸一日は受け付けます。
再送が必要になった場合はタグに再送日時を記載します。
第1章 日常
『カクリヨ古本まつり』
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POW : 端から端までローラー作戦して気に入る本を探す
SPD : 装丁が綺麗な本を手に取る
WIZ : 直感的に惹かれた本を手に取る
イラスト:礎たちつ
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
グローリアス・アリスタルコス
アドリブ・連携歓迎
古本市!なんて素敵な楽園だろう!
本たちが私を呼んでいる!!
おっと、本に夢中になる前に仕事だ。
まずは幽世蝶を探さないとね。
《情報収集》をしながら探せば…そうら、見いつけた。
そうしたらUCを使って、オブリビオンを追跡し観察してみよう。
ふうむ…何か特定の本を探しているのかな。
骸魂の、本好きの主人が愛した本とか。
ならば、可愛そうだがオブリビオンが興味を示した本を、こちらが先に買い付けてしまおうか。
「この本を是非とも私の蔵書に加えたいんだがね、何か面白い逸話とかあるのかい。本には"物語"がつきものだろう?」
それから何食わぬ顔で、外れの神社へ行けば…本につられて付いてくるんじゃないかね?
●ビブリオマニアの魔術師
「古本市! なんて素敵な楽園だろう! 本たちが私を呼んでいる!!」
数多の本たちを前にして溌剌とし、瞳を輝かせるのはグローリアス・アリスタルコス(眠れる大図書館・f35990)だ。
グローリアスには並ぶ本たちが、手に取って貰えるのを今か今かと待っているのが肌で分かる。
(「おっと、本に夢中になる前に仕事だ」)
出来るならば古本市を存分に堪能したいところだが、猟兵としての責務を果たすためにこの場所を訪れたのだと思い出すグローリアス。
さて、まずは幽世蝶を探さねばならない。となれば目撃情報を得ることが近道か。
道行くものに声を掛け、幽世蝶が飛んでいなかったか聞き込めば。その情報はすぐにもたらされた。
●憑き物の正体
(「そうら、見いつけた」)
得られた情報の糸を手繰れば、そこには二股尻尾の白猫が居た。その周囲を幽世蝶が飛んでいることから、件のオブリビオンであることは間違いない。
「さあ行っておいで、私の可愛い本」
ひらりと蝶のように舞う、極めて小さく優美な豆本をグローリアスは喚ぶと。白猫へと向かわせる。
豆本を通し、グローリアスは白猫の動向を探る。どうやら白猫は、本を眺めては他の店に移るという行動を繰り返していた。
(「ふうむ……何か特定の本を探しているのかな」)
――例えば骸魂の、本好きであった主人が愛した本。
そう思い至った時。とある店の前で、白猫がその場を離れなくなった。白猫の目線の先には、1冊の本があった。
白猫が興味を示した本は、きっとかつての主人と関係ある本だろうとグローリアスは推察する。
可哀そうではあるが、先に買い付けてしまおうと決めると。グローリアスはその本を自然に取り、軽く立ち読みをしてみる。月夜に針仕事をする老婆の元に、眼鏡売りの男がやってきて……といったあらすじの童話だった。
「この本を是非とも私の蔵書に加えたいんだがね、何か面白い逸話とかあるのかい。本には"物語"がつきものだろう?」
「あらあなた、それを手に取ったのね……それならお話してあげましょうか」
話し掛けられた店主の魔女は、グローリアスが手にした本にまつわる話を語りだした。
その本は、短い期間で持ち主を転々としていること。
手に入れたものは皆「毎晩何かがうろついている」と言い、体調が優れなくなっていくこと。
本を手に入れてからそうなってることから、きっとこの本のせいだと手放していくこと。
「……何で私がこの話を知っているかって? だって売ったら、その話をして返してくるのだもの」
もしかしたら本に何かが「憑いて」いるのかもねと、魔女は妖しく笑ってみせた。
「成る程。そのような話がね……」
おそらくは、白猫が買い付けた主の後をついているのだろうと。そして白猫が主の家に潜り込み、生命力を少しずつ奪ったのだろうとグローリアスは予想を立てた。
グローリアスは代金を払うと。その本を手に、何食わぬ顔で店を後にする。
白猫はその背を見つめていたかと思えば。静かに後を追い始めた。
成功
🔵🔵🔴
パティ・チャン
■SPD
これがオブリビオン探しじゃなかったら最高なんですけども、そうも言ってられませんね。
【UC】発動させて、人間サイズ(160cm弱)まで身体を大きくしてから古本市へ
本の虫の面目躍如状態と化し、装丁に眼を走らせ、ページに指を滑らせ、それでもなんとか[落ち着き、情報収集]使って、幽世蝶を探しだします。
首尾良く見付けられたら[誘惑、学習力、コミュ力、情報収集]使って、興味のある本を聞き出します。
※未入手の場合は店主さんに聞きこみしつつ探しだし、可能なら店主さんにいわれを伺う
※入手済なら「私も本を入手したの。どうしてその本を欲しかったのか聞かせて」と、古本市から離れた所へ誘導
■連携・アドリブ共歓迎
●小さな読書家
「これがオブリビオン探しじゃなかったら最高なんですけども、そうも言ってられませんね」
独り言ちるパティ・チャン(月下の妖精騎士・f12424)はフェアリーだ。だが今はその体躯を、人間と同程度の大きさへと変えている。
一歩、パティが古本市へと足を踏み入れれば。そこに広がるのは人と、本。道を行き交うものは1、2冊の本を抱えているものもいれば。台車に沢山の本を乗せ、引いているものもいる。ここは本好きたちが本を巡らせる場所なのだ。
だからだろう。パティの内の中に住む本の虫が、思わず顔を覗かせて。並ぶ本の装丁に眼を走らせ、手に取り、ページに指を滑らせる。その動きはとても俊敏だった。
そのまま夢中になってしまいそうになったが、パティの理性がブレーキをかける。今は古本市よりも、猟兵としての仕事が優先なのだ。
「古本市は逃げない。逃げないから落ち着け私……」
名残惜しみながらパティは本を閉じると、行き交うものたちに幽世蝶を見なかったかと聞き込みをする。
●白猫かく語りき
幽世蝶はこの世界では珍しい存在ではないが、記憶に残らないほどにありふれた存在でもない。目撃情報はすぐ手に入り、パティは幽世蝶を見つけ出した。
(「あれは幽世蝶……! そしてあの白猫がオブリビオン」)
蝶は、白猫の周囲をひらりひらりと飛んでいた。しかし白猫は、特段それを気に留めている様子は無かった。
パティは自然を装い、白猫へと近付く。様子を窺えば、どうやら何かを探しているみたいだった。
「なにか、お好みに合いそうな本をお探しで? 良ければお手伝いしましょうか?」
古本市で探すものと言ったら、本しかない。丁寧にパティが訊ねれば、白猫は目を見開いて。パティを見定めるように見つめた後、口を開いた。
「あられね、ご主人とご主人の本をさがしてるの。このお祭りでやっと見つけたのに、別のひとが先に買ってっちゃった」
白猫はしゅんとした様子を見せる。白猫の言う『別のひと』とは、もしかすると他の猟兵だろうか。
「でも、きっとここにはご主人の本が他にもあると思うの。だからあられ、がんばって探してるの」
また主人に会えた時、本を持ってたらきっと喜ぶと。白猫――あられは顔を上げる。
「そう……じゃあ私も探してみます」
どのような内容の本だったのかとパティが問えば、あられは「夜に散歩する電信柱と男の人の話」だと答えた。
その情報をもとにして、パティは並ぶ本屋の店主に聞き込んで歩く。そうしてある店で、実物は無いがその話を知っているという店主と出会えた。
「アア、その話はアレだね。UDCアースではそれなりに名の知れた作者の話だヨ」
根気よく探し回れば、その話が収録される全集が見つかるかもしれないネと。店主は笑う。
残念ながら本を見つけることが出来なかったが、他の猟兵が本を手に入れているという情報が白猫から得られたこと。そして作者はUDCアースでは名があると知ることが出来たのは収穫だった。
成功
🔵🔵🔴
ディフ・クライン
リュカf02586と
本の虫にはとても幸せな場所だ
確かに、本棚を持って旅するわけにもいかないものね
オレはこんな感じ
そう言って、大きな鞄を見せて
夜を過ごす友にと、勉強にね
出来るだけたくさん
欲しいジャンルは決めているけれど
どれを買うかはその場で決めよう
リュカがじっくり選ぶなら付き合うよ
大丈夫、オレもこれ読んでたから
声をかけられたら笑って手にした小説を見せ
面白かったからこれも買おう
オレはね
医学と薬学の本に西洋魔術師が書いた魔導書
それから目を惹いた小説がこのくらいと
なんていつの間にか鞄いっぱいの本
うん、全部読むよ
これでも足りないくらいかな
勿論。じゃあリュカの読み終えた本と交換でどう?
いいよ、それも買おう
リュカ・エンキアンサス
ディフお兄さんf05200と
俺は旅人だから、あんまり荷物を持てないんだよね
だからよくて一冊か二冊かな…
お兄さんはどんな感じ?
おっきな袋持ってきたねえ…
(そういうわけでじっくり気になる本を選びます。タイトルを真剣に比べたり、立ち読みしたり結構長居するタイプ)
…あ。ごめんお兄さん待たせた
暇じゃなかった?
…そう
俺はこれにする
(天体・医術・料理・龍に関係する何かでお任せ)
お兄さんはどれにする?
…お兄さんはたくさん選ぶね
それ全部読むの?
なるほど。お兄さんは本が好きなんだね
読み終わったら、貸してくれる?
ありがとう
…じゃあ、これも買わない?
(自分が迷って結局買わなかった方を示したりもした
●Reader's paradise
「本の虫にはとても幸せな場所だ」
古書独特の香りを感じながら、ディフ・クライン(雪月夜・f05200)は嬉しそうに口許をほころばせる。
古本市、それは未だ見ぬ本と出合える場所。古本と言いつつも、新しい世界がそこにはあるのだ。
「俺は旅人だから、あんまり荷物を持てないんだよね。だからよくて1冊か2冊かな……」
身軽な方が移動は楽だし、余計な心配も無いと。リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は購入数を最初から制限していた。
「お兄さんはどんな感じ?」
「確かに、本棚を持って旅するわけにもいかないものね。オレはこんな感じ」
どれくらい買うのかとリュカが問えば、ディフは何十冊も入りそうな大きな鞄を見せる。
「おっきな袋持ってきたねえ……」
「夜を過ごす友にと、勉強にね」
その為に、出来るだけ沢山の本を手に入れたいのだとディフは言う。目当てのジャンルは決めているが、どれを買うかはその場で決めるとのことだった。
「リュカがじっくり選ぶなら付き合うよ」
ではお言葉に甘えて、と。リュカは気になる本をじっくりと選びはじめた。
●Books around
タイトルを真剣に比べ、これが良いかと手に取り立ち読みをすれば、知らず知らずのうちに結構長居をしているもので。
「……あ。ごめんお兄さん待たせた」
「大丈夫、オレもこれ読んでたから」
本選びに夢中になっていたリュカが、暇ではなかったかとディフに聞けば。そんなことはなかったようだ。
手にする本をディフは軽く掲げる。それは『Murmure de neige』という小説で、彼も同じく文字の海に沈んでいたのだ。
「そう……俺はこれにする」
面白かったからこの小説も買おう決めたディフに、リュカは手に持った本を見せる。
それは『危機すらアイディアの種! これぞカクリヨ飯!!」という本だった。
危機の中で浮かんだアイディアを元にしたレシピ本だが、危機の中で悠長にアイディアを練っている場合かと、ツッコミたくなりそうなタイトルである。
その点とレシピのアイディアとなった前座話をのぞけば、書いてある内容は意外にもまともだった。
「お兄さんはどれにする?」
「オレはね……」
するとディフはリュカに、持参した鞄の中を見せる。
医学、薬学、西洋魔術師が著作した魔導書等……加えディフの目を惹いた小説多数。隙間が無い程に本が詰められていた。
「……お兄さんはたくさん選ぶね。それ全部読むの?」
「うん、全部読むよ。これでも足りないくらいかな」
ディフの答えに、リュカは目を見張る。鞄の中に詰まる本だけでも結構な冊数だというのに、それでも足りないとは。
「なるほど。お兄さんは本が好きなんだね。読み終わったら、貸してくれる?」
沢山持ち歩けなくとも、貸し借りで循環させることは出来る。そうすれば荷物が増えることもないと、リュカは考えたのだ。
「勿論。じゃあリュカの読み終えた本と交換でどう?」
リュカの持ち掛けに、ディフは快く応じる。この方法で貸し借りすれば、リュカにもディフにも得がある。
「ありがとう……じゃあ、これも買わない?」
手を迷わせることなく、リュカは1冊の本を手に取る。『星をつくった龍』というタイトルだった。夜色の表紙に、螺鈿のように輝く淡い青で星と龍が描かれている。
「いいよ、それも買おう」
その本はリュカが購入するか迷った末に、結局そうしなかった本だ。
ディフの蔵書も増え、リュカは貸し借りの中で諦めた本が読める。ディフはリュカに悟られぬよう、心の中で「抜け目が無いな」と笑んだのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
茜崎・トヲル
【モノクロブラザーズ】
新刊はもちろん買う!でも古本も買うー!
こーゆーところでしか買えないもの、たくさんあるんだよねえ
個人で出したやつとかー、村とかから流れてきたやつとかね
本すきだよー!兄ちゃんとスーさんはどーゆーのがこのみ?
おれはねえ、絵本とかー、民話!
そのちほーの習慣とか事件とかが、絵本になってたりするんだぜ
面白そーな本があったら買いたいねえ ほかにほしそーひとが居たらゆずるけど……
あ、こんな本どこで手に入れたんですかーって聞いてみたりしてね
肉体改造技能で目をすごく良くして、ちょくちょく周囲を見渡すよ
飛んでる蝶が目に入るかもだからね
だれも悪い人はいないんだね
さびしいね、スーさん、兄ちゃん
雨野・雲珠
【モノクロブラザーズ】
作者さんを応援したいならば新刊を…
とはわかっていますが、古本は古本で別腹。
いざ、すてきな出会いを求めて!
おふたりは、本はお好きですか?
俺はね、推理小説とか物語とか、
綺麗な絵のついた図鑑とか…
二人で絵本を!?き、気になる
個人的に気になった本を手に取りながらも、
蝶々の舞う妖怪さんを探しましょう
…あ、あそこ!
気になさってる本に目星をつけて、
一瞬先に、あくまでさりげなーく手にとります。
気になさるご様子だったら快くお渡しして、
好きな作家さんなんですか?などと
聞いてみたいです。
取り付かれた妖怪さんはもちろん化け猫さんも、
出来ればむやみに心を傷つけることなく
還してあげたいものですが…
スキアファール・イリャルギ
【モノクロブラザーズ】
古本市に来るのは実は初めてで……
なるほど、書店に無い本を探すにはうってつけなんですね
本はね、随筆ばかり選ぶ癖が抜けないんです
文字を目で追って、口で音読する――
"人間"を思い出す・忘れない為のリハビリをずっとやっていたからかも
あ、でもね
最近は色んな絵本を探すようになったんです
トーさんと絵本作りをしたからでしょうか
おふたりのお薦めの本の話に興味が膨らんでいく
今度読んでみようかな……
表紙を見て気になった本を手に取りつつ
本が辿った経緯を訊いてみましょうか
こっそり躰の一部分を怪奇に変えて蝶を探しておきましょう
……えぇ、辛い戦いになりそうですね
せめて苦しませずに、とは思いますが……
●絶版本を見つけた時の喜びは一入です
本の作者を応援したいならば、新刊で買うのが一番であるというのは本好きのものならばご存じのことだろう。
「作者さんを応援したいならば新刊を……! とはわかっていますが、古本は古本で別腹」
「新刊はもちろん買う! でも古本も買うー!」
雨野・雲珠(慚愧・f22865)も勿論知っている。しかし、古本市には古本市の良さがあるのだ。
「こーゆーところでしか買えないもの、たくさんあるんだよねえ」
特に絶版になってしまった本は、市場に出回らなくなってしまう。雲珠に同意する茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)は、それを理解していた。そのような本と出合えるかもしれないのが、古本市だ。
「いざ、すてきな出会いを求めて!」
数多の本に瞳を輝かせる雲珠とは反対に。物珍しそうに、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は並ぶ本屋を見回す。見たことも無い本が沢山目に入り、少しばかり圧倒されていた。
「古本市に来るのは実は初めてで……」
そんなスキアファールにトヲルは、古本市は通常の書店と違い、個人で出した本や、村から流れてきた本が並びやすい場所だと軽く説明をする。
「なるほど、書店に無い本を探すにはうってつけなんですね」
ぽんと手を打ったスキアファールに、トヲルは笑顔を見せた。
●本は資料にも娯楽にもなる
「おふたりは、本はお好きですか?」
雲珠の言葉に、トヲルとスキアファールは頷く。
「本すきだよー! 兄ちゃんとスーさんはどーゆーのがこのみ?」
好きなジャンルは何かとトヲルが訊ねれば。まずスキアファールが口を開いた。
「本はね、随筆ばかり選ぶ癖が抜けないんです」
並ぶ文字を目で追い、口を動かし音読する――。"人間"を思い出す、忘れない為のリハビリをずっとやっていたからかもと、思い返すようにスキアファールは語る。
随筆は、筆者の見聞きを自由な形式で書いたものだ。それを読むということは、書いた人間をなぞることにも繋がるだろう。
「俺はね、推理小説とか物語とか、綺麗な絵のついた図鑑とか……」
続いて雲珠の挙げる推理小説の醍醐味は、何といっても謎解きだ。あのパズルが解けたような爽快感は何とも言えない。逆に騙されてしまっても、作者に拍手を送りたくなるもの。
そして図鑑。美しい図の描かれたそれは知見を深めるだけでなく、広げることもできる優れた本で。眺めているだけでも飽きが来ない。
「おれはねえ、絵本とかー、民話! そのちほーの習慣とか事件とかが、絵本になってたりするんだぜ」
トヲルが好きな民話は単なる昔ばなし、と侮るなかれ。当時の生活の最中で生まれ、今に伝えられるそれはその地方の民俗資料にもなるものだ。絵本の題材となる童話も、それに連なる。
「あ、でもね。最近は色んな絵本を探すようになったんです。トーさんと絵本作りをしたからでしょうか」
「2人で絵本を!? き、気になる」
スキアファールが雲珠とトヲルから聞いた本の話に興味が膨らみ、「今度読んでみようかな……」と思う一方で。雲珠はスキアファールとトヲルが作った絵本が、どのようなものなのかと。とても気になって仕方なかった。
●透明に滲む
3人は表紙やタイトルが気になった本を手に取り、時には悩み、時には即決しつつ、古本市を楽しむ。
古本として流れてくる経緯を店主に聞けば。カクリヨで書かれたものは勿論だが、UDCアースから流れてきたものも多数あるという話だった。やはり、世界的に近いからなのか。
勿論、件のオブリビオン探しをすることを忘れてはいない。
幽世蝶が飛んでいないか、トヲルが強化した視力でちょくちょく周囲を見渡したり。スキアファールが躰の一部を怪奇に変えて影を放ち、捜索を行っている。
「……あ、あそこ!」
不意に雲珠が声をあげた。視線の先には、人の影に紛れて幽世蝶が舞っていた。
幽世蝶は、二股尻尾の白猫を追うようにして飛んでいる。白猫が件のオブリビオンであるのは間違いなかった。
それとなく白猫の後をつければ、白猫は本を見て歩いている様子だった。やがてある店の前で、はたと足を止める。
雲珠は白猫の視線から。気になっているのであろう本を白猫よりも先に、あくまでさりげなく手に取る。
白猫の瞳は雲珠の取った本を追う。当たりだ。
本を開き、軽く本文に目を通してみる。国境を警備する老人と青年の話だった。代金を支払い購入した後、雲珠は白猫の視線に気付いたフリをした。
「好きな作家さんなんですか?」
なぜ、この本が気になるのか。その理由を知るために雲珠は白猫に訊ねる。白猫はすぐさま答えた。
「あのね、それ、あられのご主人が好きな作家さんなの。もしよければその本、あられに譲ってほしいの」
懸命に訴える白猫――あられに、雲珠は「どうぞ」と快く本を譲る。あられの顔は花が咲いたように明るくなった。
「ありがとうなの! あられがご主人を見つけた時、本も見せればきっとご主人びっくりするの!」
二股尻尾を駆使して背に本を括りつけ、何度も礼を言いながら。あられはその場を後にした。
あられと別れた雲珠は、トヲルとスキアファールのもとへと戻る。
「だれも悪い人はいないんだね。さびしいね、スーさん、兄ちゃん」
あられと雲珠のやりとりを見聞きしていたトヲルは。胸が締めつけられる感覚がしていた。この感覚は、さびしさだ。
「出来ればむやみに心を傷つけることなく、還してあげたいものですが……」
「……えぇ、辛い戦いになりそうですね」
取り憑かれた妖怪はもちろん、骸魂の化け猫も。何もかもが丸く収まれば理想的なのだ。だが、時に世界は残酷で。だからこそせめて苦しませずにと、スキアファールは思い、願うのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱酉・逢真
【逢魔ヶ時】
心情)カクリヨに行くたび、やべぇモン買って帰ってる俺だよ。集まりやすいンだろォな。今回もそォいうのン探すよ。異類婚姻譚ってなァ、たいていヤバい自然現象と、それに捧げられた人柱が元ネタなのよな…と思いつつ言わずにおこう。
行動)やべェ本探してのんびり歩こう。そォ言うない旦那、あァいう彼岸のモンがヒトの手に渡っとロクなことがない。そォなる前に回収してるンだぜ? ひひ、本に目だなンて…気のせいじゃないかい?(黯(*かげ)に沈めて収納しながら) アアあの革表紙の…どこで手に入れたか聞いとくか。妖しいのンは、ぜェんぶ買ってくさァ。蝶見つけたってェ? なら、幻覚毒で道を間違わせよう。サ・追うぜ。
深山・鴇
【逢魔ヶ時】
古本市か、前に行ったのはアルダワだったがカクリヨはまた違う本が見つかりそうだ
俺が探すのは伝奇浪漫物や妖怪と人の話かな
ああ、異類婚姻譚なんかも面白そうだ…何か言いたげな目だな?ここにある本なら実話かもしれんぜ
あとは…鉱石の本なんかもいいね、綺麗なものを眺めるのは好きだよ
逢真君は…またヤバい本を探してるのかい?
まぁその辺の人の手に渡るより君んとこにあった方が平和かもだが…今その本、目があったぞ
(文字通り目が合った、すぐに閉じてしまったが見逃すものでもない)
あっちの本は見ただけでヤバいとわかるんだが、というかヤバい本多すぎじゃないか?
ついでに幽世蝶も見つけたんだがね、どうしようか?
●ところ変われば集まる本変われり
「古本市か」
以前古本市に行った世界はアルダワだったが、カクリヨだとアルダワとはまた違った本が見つかりそうだと。深山・鴇(黒花鳥・f22925)は並ぶ本へ、しみ込ませるように視線を送る。
童話から果ては怪しげな魔術書まで並び、表紙やタイトルを見ているだけでも飽きることは無さそうだ。
「旦那はどんな本をお探しでェ?」
口を弧にして笑いながら、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はじっくりと本を探す鴇に訊ねる。
ちなみに逢真はカクリヨを訪れる度に、所謂『やべぇモン』の類を買って帰っている。
世界の性質上、そういうものが集まりやすいのだろう。逢真は今回、本でその類のものを探していた。
「伝奇浪漫物や妖怪と人の話かな。ああ、異類婚姻譚なんかも面白そうだ」
(「異類婚姻譚ってなァ、たいていヤバい自然現象と、それに捧げられた人柱が元ネタなのよな……」)
――例えば、大規模な洪水が起きた時。
水の神の怒りを鎮めるために、人柱に水の神と結ばれてくれと言い、無理矢理に納得させたということが無かったわけではない。
都合よく脚色、美化されたものなのだと。逢真は言わず、心の内に留めておいた。
「……何か言いたげな目だな? ここにある本なら実話かもしれんぜ」
なんとなくだが、鴇は逢真の言いたいことが予想できた。逢真は神なのだ。本の元になった話と、その真実をいくつか知っていてもおかしくない。
「あとは……鉱石の本なんかもいいね、綺麗なものを眺めるのは好きだよ」
鴇はたまたま目に付いた鉱石図鑑を手に取ると、そのページを捲ってみる。UDCアースでも見る鉱石が並んでいたが、それらに混ざり見たことの無い鉱石も載っていた。それらに「追憶水晶」、「蜂蜜琥珀」、「流動瑪瑙」といった名前が付いていることから。おそらくカクリヨの鉱石なのだろう。
中々面白そうだったので、鴇は図鑑を購入することにした。
●つまりこまめに正気度チェック入ります
2人はのんびりと、古本市を見て歩く。
「逢真君は……またヤバい本を探してるのかい?」
「そォ言うない旦那、あァいう彼岸のモンがヒトの手に渡っとロクなことがない」
「まぁその辺の人の手に渡るより君んとこにあった方が平和かもだが……」
神が探し求めるモノが、ヒトの手になど扱えようか。1人の破滅で済むならまだマシだが、大体は周囲を巻き込んで『とんでもないこと』になるのだ。
「そォなる前に回収してるンだぜ?」
愉快そうに逢真は笑うと、ほんの少しだけ早く歩いた。
速足するだけでも息切れてしまうので、見るものが見たら、少し早く歩いているなと分かる程度である。
逢真はある店の前で足を止めると。迷うことなく1冊の本を手にし、直ぐ代金を支払った。そしてその場でぱらりと本を開く。
どのような本なのかと、鴇が本を覗き込めば。開かれたページにはやけにリアルな、随分と立体的に見える『目』があった。
目はぎょろりと動き、鴇とバッチリ視線が合った。その瞬間、音を立て本は閉じられる。
「……今その本、目があったぞ」
その言葉通りの意味だった。目が合ったのだ。見逃しもしなければ、見間違いでもない。
「ひひ、本に目だなンて……気のせいじゃないかい?」
手に入れた本を黯に沈め収納しながら、誤魔化すように逢真は笑う。さっきの本はもう無いですよと言わんばかりに、手をひらりとしてみせた。
「あっちの本は見ただけでヤバいとわかるんだが、というかヤバい本多すぎじゃないか?」
鴇が視線で示す先には、歪に縫い合わされた革表紙の本がある。
一体何の革を使っているのだろうか。近付いたらいけないと、鴇の第六感は警告を発していた。
どうやら、『ヤバい本』が集まる区画に足を踏み入れたようだった。心なしか空気が異質に感じる。
それに店主たちは黄色い襤褸布を纏っていたり、浅黒い肌をした神父だったりしているのだ。勘の良い方ならお気づきかもしれないが、そういう区画だった。
「アアあの革表紙の……どこで手に入れたか聞いとくか。妖しいのンは、ぜェんぶ買ってくさァ」
至極嬉しそうに、逢真は次の目当てを定める。この区画は逢真にとって、収穫の予感がする場所だった。
●ねこを追う
「ついでに幽世蝶も見つけたんだがね、どうしようか?」
「蝶見つけたってェ?」
購入した本を次々と黯に沈めていたら、鴇にそう言われ逢真は辺りを見回す。幽世蝶――正確には幽世蝶が周囲を舞う、二股尻尾を持つ白猫の存在が視界に入った。件のオブリビオンだ。
逢真は思惟すると。白猫に幻覚毒を放って、道を間違わせ神社へと誘導することにした。
「サ、追うぜ」
いくらか白猫から距離を取りつつ、2人はその後を追う。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鍋方・帆立
人の世で忘れ去られた書籍も、カクリョでは現役ね。
と、いっても本は重ばるから、立ち読みして回るだけだけど。
『古き書の匂いは変わらぬな。(青木まりこ現象破れたり!がっつぽーず!)』
ちびも本は好き?旅に出る前はよく読んでた記憶があるけど。
ほら、こっちに食べ物の本があるわ。スターゲイジーパイ?魔除けみたいなイラストが載ってるけど、どうやって食べるのかしら?
ちびなら喜んで食べそうだけど。
『猫ではないのですから、流石にイワシ頭だけもらっても喜びませんよ?(にゃ~ん❤)』
足元で幽世蝶と戯れるちび。
あら、どうやら私の探しもの(幽世蝶)は見つかったみたいだけど。ついでだし彼の猫さんの失せ物探しでも手伝いながら市の外側へと。
思い出の品なのだから、見つけられるだけ見つけておきたい所だけど。
猫さん文字は読めるのかしら?絵や匂いや感触。
竜脈使いの応用で本の気の流れを読んで、お目当ての本脈を探し当てるわ。
本棚を行ったり来たり。遠くの本の背表紙を読んだり。本を運んだり。
何冊か見つかれば、本の傾向に添って誘導するわね。
●ほしをみるさかな
「人の世で忘れ去られた書籍も、カクリヨでは現役ね」
紙の書籍が現役であった頃。どれくらいの数の書籍が刷られ、そして消えていったのろうか。
だがおそらくは。消えていった書籍の一部はこのカクリヨに流れ、この古本市に並んでいるだろうと。鍋方・帆立(食う寝る遊ぶ狙撃のキョンシー・f31271)は古本市を歩きながら考えていた。
気になった本を見つけては。帆立はそこで足を止め、軽く立ち読みをして古本市を回る。
『古き書の匂いは変わらぬな』
帆立の足元で、彼女の連れる黒い子狐の「ちび」が『青木まりこ現象破れたり!』とガッツポーズを取っていた。青木まりこ現象とは書店などで発生する現象のことを言うが、詳しい説明は各自検索されたり。
「ちびも本は好き? 旅に出る前はよく読んでた記憶があるけど」
こっちに食べ物の本があると言って、帆立はちびに1冊の本を開いて見せる。
「スターゲイジーパイ? 魔除けみたいなイラストが載ってるけど、どうやって食べるのかしら?」
そこには虚ろな目をして、文字通りパイに「埋め立て」られた魚が描かれていた。帆立が魔除けみたいと表現したのも頷ける。
「ちびなら喜んで食べそうだけど……」
『猫ではないのですから、流石にイワシ頭だけもらっても喜びませんよ?』
そう言いながらちびは「にゃ~ん」とほわほわ楽し気に、幽世蝶と戯れていた。一体何処で見つけてきたのか。
「あら、どうやら私の探しものは見つかったみたい」
幽世蝶が見つかれば、そのすぐ側にオブリビオンが存在する。帆立が軽く幽世蝶を目で追えば、蝶は二股尻尾の白猫の後について舞っていた。
●さがしもの
白猫の動きを観察してみれば、どうやら何か探しものをしている様子だった。
「猫さん、何か探してる本でもあるのかしら?」
白猫――いや、白猫に憑く骸魂が何を探しているのかと。帆立は探りを入れる為に声を掛ける。白猫の背には、1冊の本が括りつけられていた。
「そうなの。あのね、あられね。ご主人が好きな作家さんの本、さがしてるの」
背中の本は、その作家の本の1冊だと白猫――あられは語る。
帆立は古本市を回るついでだからと理由をつけて、あられに本探しの手伝いを申し出れば。あられは「お手伝いしてくれるなら嬉しいの!」と喜んだ。
本が多量に並ぶ故に、特定の本をすぐに見つけ出すのは難しい。しかし帆立は、気の流れを読むことが出来る。
幸運にも、探す作家の本をあられは持っていた。その本に籠もる気を読み、それと同じ気を放つ本を探し出せばいいのだ。
出来るなら、見つけられるだけ見つけておきたい。
帆立は気を追いかけ、様々な本屋を行ったり来たりしながら。遠くにある本の背表紙を読んだり、高く積まれた本を積み直しながら探すなどして、求める本を見つけ出した。軽く流し読みしてみれば、それは人間に預けられた人魚の話だった。
「それ、探してる本なの!」
本を見つけることが出来て、あられは喜ぶ。そして本の気は、古本市から離れた場所からも感じることが出来ていた。それは他の猟兵が確保した、あられの求める作者の本から発せられるものだ。
「あっちの方からも、探してる本の気を感じるわ」
神社の方を指差して、それとなく行き先を帆立は誘導する。
「あられ行ってみるの! じゃあ、ありがとうなの!」
あられは礼を言うと、神社の方へ駆けて行った。その背を見送りながら、帆立は心の中で謝罪する。
(「嘘は言ってないけど、ゴメンね」)
大成功
🔵🔵🔵
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
周囲に賑やかな子がいる所為か読んでいなかったな。
丁度いい。一人で古本市へ…と考えていたのだが…。
「…露。邪魔だから背中からどいてくれないか?」
祭の一区画。少々年季が入っている表紙が気になった。
目を惹いた本たちを手に取ろうと屈んだのがいけなかった。
私の腐れ縁の子は『ん♪』と空返事を返すのみ。やれやれ。
丁寧に表紙を捲り冒頭を少し読んで興味を惹かれたら買う。
一冊一冊丁寧に扱うのは本への礼儀というものだろう。
「…ふむ。これとこれと…これを貰おう。幾らだろうか?」
本音を言うと全て欲しかったがそれは控えておこう。
今の住処に新たに棚を置くスペースはなかったはずだから。
さて。次は…む!この区画も中々いいな。
カクリヨの術…例えば妖術に関する書物が手に入れば御の字だ。
新しい術を組み立てる際の発想のキッカケになるかもしれない。
まあ。購入し手元にある本達は別ジャンルなんだが…。
両手に持ち切れない私を見兼ねたのか老人が大きい紙袋をくれた。
「すまない。…なら、この本も購入できるだろうか?」
満足だ。
神坂・露
レーちゃん(f14377)
いいタイミングでどこかへ行くところで着いてくわ♪
場所は古本市で見るからにレーちゃんが好きそうで。
あたしは後ろについていく。雰囲気が凄く素敵よね♪
…あ!屈んだわ!抱きしめちゃえ♪レーちゃん♪
背中を包むように抱きしめて…むぎゅーってするわ。
『邪魔だ』って言われるけど抱きしめ続けてぎゅぅー♪
…。
背中から覗いてみるけどレーちゃんって本当に好きよね。
本だけがぎっしり詰まった広めの部屋があるのに…。
まだ買うつもりなのかしら?どこに置くのかしら…?
なんだか住処の地下に広い部屋作っちゃいそうな勢いよね。
…。
こーゆー時のレーちゃんって瞳に生気が宿った感じで凄いわ。
なんだか子供みたいに瞳をキラキラさせて悩んでるんだもん。
普段と全く違った可愛い一面を見れてあたしは楽しいわ♪
…。
あ。おじいさんから大きい紙袋貰って本を入れてる♪
レーちゃんって時々だけど抜けてるところあるのよね。
今だって普段なら事前にちゃんと用意するはずだし。
満足そうな顔に可愛いわってさらに抱きつくわ。
怪訝な表情されたわ。
●楽しい買い回り
(「周囲に賑やかな子がいる所為か、読んでいなかったな」)
落ち着いて本探しをするのに丁度いいと。シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は1人で古本市へ……と考えていた。
……のだが。向かう途中で神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)に見つかり、露も古本市について来た。
(「いかにもレーちゃんが好きそうなところね♪」)
はぐれない様、露はシビラの後ろをついて歩いていた。沢山の本と、本好きたち。この場所は本を中心に回っている。
「雰囲気が凄く素敵よね♪ ……って、あら?」
露は同意を求めようとしたのだが、突然シビラは居なくなった。
いや、正確にはシビラ居なくなったのではない。目を惹いた本を手に取ろうと、店の前で急に屈んだのだ。故に露の目には消えたように映ったのだ。
シビラが反応したのは、年季の入った表紙をした薬草学の本だ。本文にはどのようなことが書いてあるのか気になり、軽く読んでみようと本を手に取る。
それを見逃さなかった露は、背中を包むようにしてむぎゅりとシビラを抱き締めた。
「……露。邪魔だから背中からどいてくれないか?」
屈んだのがいけなかったか。いつものことながら、いきなり抱き着いてくるのだなとシビラは思う。
「ん♪」
しかしシビラがそう言っても、露は空返事をして離れることをしない。これもいつも通りだ。
やれやれと内心首を振りながら、露は手に取った本を丁寧に捲る。軽く目を通せば、薬草の種類から効能、育成方法まで事細かに書いてあった。
それに加え、薬草同士の効果の相性についても書いてある。打ち消す効果、増幅させる効果を知ることが出来るのは、有り難い。
「……ふむ」
これは役に立つと考えたシビラは、すぐに購入を決めた。
「……」
露はシビラを抱き締めながら、シビラの読む本をじっと覗き見る。
(「レーちゃんって本当に好きよね」)
本がぎっしりと詰まった広い書斎があるというのに、それでも足りないのだろうか。
「……ふむ。これとこれと……これを貰おう。幾らだろうか?」
(「まだ買うつもりなのかしら? どこに置くのかしら……?」)
シビラの傍らには、購入予定の本が重なっていた。しかしこれでもシビラは本を厳選しているのだ。本音を言うなら、並ぶすべての本を端から端まで欲しい。
欲しいが、現在の住居に新たに棚を置けるスペースが無い。となれば、厳選するしかない。
「なんだか住処の地下に広い部屋作っちゃいそうな勢いよね」
本当にスペースが無くなってしまったら。無ければ作ればいいと、新たに書斎を作ってしまうのではないかと。露はうーんと唸るのだった。
●大体購入数は予定オーバーする
「さて。次は……む! この区画も中々いいな」
本を抱えたシビラが次に反応したのは、カクリヨの術式について記載された本の集まる区画だった。妖術に関する書物が手に入れば御の字だと、シビラはタイトルで気になった本を手に取る。
新しい術を組み立てる際、発想の切欠となるかもしれない。現在手元にある本達は別ジャンルだが、それはそれだ。
(「こーゆー時のレーちゃんって、瞳に生気が宿った感じで凄いわ」)
子供の様に瞳をきらきらと輝かせ、あれもいい、これもいいと。けれども全ては買えないと悩む姿を見ながら、露は微笑む。普段と全く違った親友の可愛らしい一面を見ることが出来て、とても楽しいのだ。
さて。厳選したとて、それぞれの区画で厳選していれば、本は増えてしまうワケで。つまりシビラの購入した本の数は、結構な冊数になっていた。
「……」
「……」
両手では持ち切れないほどになった冊数に、シビラはどうするかと無言で途方に暮れ、露は相変わらずずっとシビラにくっついたままだった。
「お嬢さん、そのままじゃ全部持ちきれまいよ。この紙袋をお使いなさい」
見かねたのか店主の老人が、大きな紙袋をシビラに渡す。老人の背からは狸の尻尾が見え隠れしていたことから、ヒトなのではなくカクリヨの妖怪であるのは間違いない。
「すまない、礼を言う」
有り難くシビラは紙袋を受け取り、1冊1冊を丁寧に紙袋に入れる。丁寧に扱うのは、本への礼儀というものなのだ。
(「レーちゃんって時々だけど抜けてるところあるのよね」)
普段なら事前に、購入したものを入れる為の袋を用意するはずなのだ。なのに時々こういうことが起きる。もしかすると、好きなものに対しては体の方が先に動くのだろうか。
「……なら、この本も購入できるだろうか?」
袋を手に入れたことにより、もう少し購入しても大丈夫だと。シビラは追加でもう1冊購入する。
もうちょっと入ると思ったら、それを理由に追加で買ってしまうのが心理……なのかもしれない。
(「満足だ……」)
会計を済ませ随分と満足した顔で、シビラは本の詰まる紙袋を持つ。露はほこほこ顔のシビラがとても可愛くて仕方なくて、頬を摺り寄せさらに抱き着いた。
「レーちゃん可愛いわ♪」
シビラは眉根を寄せ、露に「何故だ」と言わんばかりの怪訝な表情を見せる。
何が可愛いのかは、そう思っている本人がわかっていれば、それでよいのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイラ・ピスキウム
古本市……!
どうしてこんなにも楽しい催しを、今まで僕は知らなかったのでしょう……
まあ、理由は一つしかないです
旅に出る前は、父の書斎で本を読んで引き籠るばかりだったから
人の思い出が、また人の思い出となって巡っていく
素敵ですね
……うん。古い本の、この甘い香り
やはり良いですね。心が落ち着きます
気になる本は正直ありすぎるくらい
きっとここには、僕が知っている本は一握りもないと思うから
……ああ、こんな物もあるんですね、『和綴じ本』
上品な花紺青色の表紙。年季も入ってますね。長く愛されているのも伝わってきます
初めてみたので嬉しくて……。手に取ってみても良いですか?
この本は……小説でしょうか
初めて目にする物語。これが日記だと言われても信じてしまいます
この本の事、何か知っていたら教えていただけませんか?
――今、視界の端を、蝶を纏った猫が
あまり長居は出来ないかもしれないね?
さて、どう誘導したものか
猫の相手は慣れていないものですから……
おやつなんて持っていないし
捕まえようにも憚られます
……もしかして、この本……
●巡る思い
古本市――様々な場所、時代の本が集まり巡る場所。とても有名な作家の希少本もあれば、個人製作の本もある。
「古本市……!」
初めて訪れた催しに、レイラ・ピスキウム(あの星の名で・f35748)は子供の様に目を輝かせる。
沢山の本を抱えるもの、店の前で交渉するもの、道行きながら文学論を交わすもの。この催しに参加する全てのものたちは、本を愛しているのが伝わってくる。
(「どうしてこんなにも楽しい催しを、今まで僕は知らなかったのでしょう……」)
レイラが思い当たる理由はひとつしかない。
外の世界へ旅に出る以前は。父の書斎にある本を読み、引き籠るばかりだった。故に、こうして本が巡り回ることも知らなかった。
市の中へと踏み込めば。童話から魔術所まで、様々な本が並んでいるのが目に入る。
本とは、誰かに伝えたいことがあるから書かれるもの。それは知識であったり、思いであったりと様々だ。
「人の思い出が、また人の思い出となって巡っていく。素敵ですね」
古本市の中を見て回りながら、レイラは心が落ち着くのを感じていた。
(「……うん。古い本の、この甘い香り」)
インクと紙が馴染み合い生まれる、古書の香りはやはり良いものだと。レイラは頬を緩ませる。
●残したかった思い
気になる本が沢山あり過ぎて、レイラの興味は尽きなかった。
きっとここには、知っている本は一握りもないだろう。しかしここにある本も、世界にある膨大な本のまた一握りでしかない。
こうして見て歩いている内にも、何処かでは本が書かれているのだろうとレイラは考える。
「……ああ、こんな物もあるんですね」
なんとなしに視線を向けた本の中に、レイラの目を惹く本があった。『和綴じ本』だ。
上品な花紺青色の表紙に、金色蝶が1頭舞っていた。随分年季が入っているが、丁寧に扱われ、長く愛されていたのも伝わってきた。
思わず目を奪われていたら、狐面をつけた店主に声をかけられる。
「おや、お兄さん。その本が気になるようで?」
「初めてみたので嬉しくて……手に取ってみても良いですか?」
「最近じゃあ洋装の本が主流だから、珍しく見えたんだね。いいよ。本は手に取られてこそさ」
礼を言うとレイラは和綴じ本を手に取り、丁寧に表紙を開く。
(「この本は……小説でしょうか」)
不思議な猫との出会いと、その猫と共に過ごす日々が一人称で書かれていた。それは今までに読んだことがなく、初めて目にする物語で。もしこれが日記だと言われたら、信じてしまうだろう。
「この本の事、何か知っていたら教えていただけませんか?」
「うーん、確かそれはUDCアースからの流れモノで……ああ、沢山の童話の中に混ざってたなあ」
しかも皆同じ作家の童話だったねと、店主が言ったその時。レイラの視界の端に、幽世蝶を纏った白猫の姿が映った。あの白猫は、話で聞いたオブリビオンであることに間違いない。
(「……あまり長居は出来ないかもしれないね?」)
今はまだ近くを歩いているが、いつ視界から消えるか分からない。しかしどう誘導するか。
猫の相手は慣れていない上に、気の利いたおやつなども持っていない。ならば捕らえてしまおうかとも一瞬過ぎったが、それは良心的に躊躇われた。
だが、実に不思議なことが起こった。白猫の方から、レイラに近付いて来ている。
白猫は信じられないものでも見たように目を見開いていた。その視線は、和綴じ本に向いている。
「もしかして、この本……」
まさかとも思ったが、ここは賭けるしかないと。レイラは和綴じ本を購入し、それを手に神社へと向かう。
白猫は「あっ!」と小さく声をあげると、レイラの背を追ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『彷徨う白猫『あられ』』
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POW : ずっといっしょに
【理想の世界に対象を閉じ込める肉球】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD : あなたのいのちをちょうだい
対象への質問と共に、【対象の記憶】から【大事な人】を召喚する。満足な答えを得るまで、大事な人は対象を【命を奪い魂を誰かに与えられるようになるま】で攻撃する。
WIZ : このいのちをあげる
【死者を生前の姿で蘇生できる魂】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
イラスト:おいた
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠香神乃・饗」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●死を知らねば他者の死どころか己の死すら解せぬ
賑やかさはもう遠く。風と木の葉の擦れ合う音だけが響く。
白猫は思い出していた。何時のことだったかすらあやふやな、過去を。
――じゃあ、今日はこれを読んであげよう。
あられ、ご主人が読んで聞かせてくれるおはなし、好き。
――この作家は、小さい頃から好きな作家なんだ。短い童話ばかりだけれども、それが私には丁度いいから。
ご主人が好きな作家さんは、あられも好きな作家さんなの。
――ああ、これは……この本はダメだよ。まだ終わってないから。
じゃあいつか、その本のおはなし、聞かせてね?
――……最近は思うように本を読んであげられなくて、ごめんね。
んーん、あられ、気にしないの。ご主人がお布団から出られる時で、大丈夫なの。
――……。
ねぇご主人、なんで、何も喋ってくれないの?
*******************************************
ここ(神社)でならば、あられから過去の話を掘り下げて聞くことが出来ます。
その上で、かつての主人の死を諭すことが出来ます。
……が、あられから反発を受けるのは必至です。
(反発を受け戦闘、という流れになるかなと)
※あられは骸魂であり、『現状維持』はカタストロフを先延ばしにするだけです。平和的解決は難しいかもと考えてください。
リュカ・エンキアンサス
ディフお兄さんf05200と
…死は死だから
これから死ぬものに大事な人の死を理解させる必要ってある?
どうせ死ぬなら一緒でしょう
問答無用で撃つ
死者とかかずらうと碌なことにならない
手早く終わらせたい
睡眠にかかりかけたら自分の足でも撃って目を覚まさせる
ついでにお兄さんも撃つよ
人体に危険がなさそうな個所を狙って撃つ
…これぐらいで起きると思うんだけど
起きなければ起きるまで撃…
……おはよう
優しく起こしたよ。俺なりに
いや、痛いけど(自分にも撃ったし)、これが一番手っ取り早いでしょう
とりあえず倒そう。また寝る前に、急いで(若干視線を泳がしながら
勿論フォローはするよ。また寝たら、(同じように)ちゃんと起こすから
ディフ・クライン
リュカf02586と
…知らせる必要はないと思うよ
それを知って絶望と後悔に堕ちるよりならば
知らぬまま骸の海へおかえり
向こうに彼女が居るかもしれないよと
その魂が彼女かい
静かに目を細めその姿眺め
襲う眠気に顔を覆い
眠りたくはないな…嫌なものを見てしまう
そう思った途端痛みで目が覚めた
平然と撃ったリュカを見る目は若干複雑そうな顔
…おはよう
もうちょっと優しく起こせなかったのかい…
いくら人形のオレでもね
撃たれると痛いんだけど
いやもうちょっと安全策があったと思うよ…
じーっとリュカを見つめ
…ちょっと動きづらいな
フォローしてくれる?
おいで、ネージュ
氷柱の矢を番え
大丈夫、オレもう寝ないから
次はオレがリュカを起こすよ
●まことは時に残酷で
「……これから死ぬものに、大事な人の死を理解させる必要ってある?」
死は死であり、それ以上でもそれ以下でもない。
どうせ死ぬなら一緒でしょうと。リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は事も無げに口にする。
「……知らせる必要はないと思うよ」
そっと、ディフ・クライン(雪月夜・f05200)は目を伏せる。
――知らない幸福、知る不幸。
知ってしまい絶望と後悔の海に墜ちてしまうより、知らぬままに骸の海へと還ったほうが幸福かもしれない。
向こう側には白猫の求める、彼女の姿が在るかもしれないのだから。
●跫
乾いた銃声が響いた。
石畳を駆ける白猫が、赤を散らせ、鞠のように飛んで転がった。白猫の身体が痛みに、頭の中は疑問で支配されてゆく。
木陰に潜んでいたリュカが。射程範囲内に白猫が踏み込むなり『灯り木』のトリガーを引き、銃弾を放ったからだった。
死者と関わると碌なことにならない。そう、白猫に憑く骸魂は既に一度死んでいるのだ。故に情けは無用。手早く終わらせることこそが、最も冴えたやり方。
――なんで? いたい、いたい! ご主人!!
無意識に白猫は自身の傍に、かつての主人の姿を具現化させる。
「その魂が彼女かい」
ディフは静かに目を細め、薄らと透き通るその姿を眺める。着物姿をした、若い女性だった。
女性を眺めていたら、段々と微睡みの足音がディフに近付いて来て。意識がゆっくりと沈み始める。
重くのしかかる眠気に、ディフは片手で顔を覆った。何か音が聞こえた気がするが、それが何の音だったのか確認することすらままならない。
(「眠りたくはないな……嫌なものを見てしまう」)
そう思った時、ディフの左足に熱が走った。
●ふたつのいたみ
少しだけ時は遡る。
ディフが眠気に襲われていた時。リュカも眠気に襲われていた。このままだと意識が落ちると判断したリュカは、『うたいの鼠』で躊躇なく自身の足を撃ち抜いた。
痛みが眠気を上書きしてゆく。しばらくは、眠ることの方が難しいだろう。
リュカがディフを見れば。ディフは手で顔を覆っていて、今にも眠りに落ちてしまいそうだった。
だから。リュカは生命に危険が及ばぬよう配慮した上で、ディフの左足に弾丸を撃ち込んだ。
「……これぐらいで起きると思うんだけど」
起きなければ起きるまで撃……とまで考えたところで。リュカはディフが自身を若干複雑そうに見ていることに気付いた。
撃ったことを誤魔化すように、リュカは「……おはよう」と挨拶する。
「……おはよう。もうちょっと優しく起こせなかったのかい……」
「優しく起こしたよ。俺なりに」
眉間に皺をよせながら問うディフに、リュカはしれっと答える。これで優しくと言うのだから、手荒だとどうなってしまうのか。
「いくら人形のオレでもね、撃たれると痛いんだけど……」
「いや、痛いけど、これが一番手っ取り早いでしょう」
リュカは視線を、赤が滲む自身の足に向けた。眠気覚ましに自分にも撃ったとアピールしているのだ。
それを見たディフは、眠気に襲われている時に聞こえた音は、発砲音だったのかと気付く。
「いやもうちょっと安全策があったと思うよ……」
深いため息を吐き、ディフはじぃーっとリュカを見つめる。無言の圧力に居た堪れなくなったのか、リュカの視線が若干泳ぐ。
「とりあえず倒そう。また寝る前に、急いで」
リュカは白猫へと視線を移す。逃げたなとディフは思ったが、今はリュカの言葉の通りにすべきだ。
「……ちょっと動きづらいな。フォローしてくれる?」
「勿論フォローはするよ」
白猫がゆっくりと身を起こし始めたのを捉えて。リュカはすかさず逃げ道を塞ぐように狙撃する。
狙撃しながら、また寝たらちゃんと起こすからと言うリュカに。二度目は遠慮したいかなと、ディフは苦笑いを浮かべた。
「大丈夫、オレもう寝ないから。次はオレがリュカを起こすよ」
けれど苦笑いを見せたのはほんの僅かな間で。直ぐにディフは、白猫を射抜くように見据える。
「おいで、ネージュ。氷柱の矢を番え」
一気に、息も凍りそうなくらいに気温が下がる。
中空に数多の氷柱の矢が現われ、白猫へと一斉に放たれた。氷柱の矢は白猫の身体に、いくつもの傷を付けてゆく。
白猫は何故こんなに痛い目に遭うのかは分からなかった。しかしこの場に留まり続けたら、危険だというのは分かった。
「……うにゃっ!」
力を脚に籠め、白猫は茂みに飛び込む。追おうと思えば追えたが、2人はそれをしなかった。
「逃げちゃったね、お兄さん」
「……そうだね。でも、無理して追わなくても大丈夫だと思うよ」
他の猟兵たちも白猫を追っている。必要以上に自分たちが追う必要も無いだろう。
「足、まだ痛いからね」
ディフの言葉が刺さったリュカは、視線をあさっての方へ向けた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
今回は『あられ』を満足させ還すことは困難だろうな。
露は諭すような選択を選ぶだろうがそれも難しいだろう。
ふむ。まあ。苦しまずに倒し還すのが最良…になるのか。
露の納得がいく行動を待ってはやれないな。これは。
迷ってどちらも選択できなくなるかもしれんな。
「…全く。やれやれ、だ」
一息に凍結させる方が楽だろう。私も『あられ』も。
パフォーマンスで身体機能を上昇させ自身の封印を解こう。
そして限界突破し全力魔法の属性攻撃を高速詠唱する。
行使する魔術は【氷凍蔦】だ。
主人の元へ逝け。…恨むなら私だけだ。露は違う。
幾つもの蔦を一つに束ねるようにアレンジし『あられ』へ。
『あられ』の攻撃は私にはさほど効果がないかもしれない。
何せ理想の世界も大事な存在も…ん?何故露が現れる?
答だと?私の愛しく慕う者は誰?そんな者はいない!
現れた露の攻撃は見切りと第六感と野生の勘で極力回避。
もし本物と同等の実力だった場合は厄介だ。
回避しながらも『あられ』に魔術を行使。
露は…やはり迷うか。予測はしていたが。やれやれ。
神坂・露
レーちゃん(f14377)
そう。そんなことが。寂しいのね。あられちゃん。
あたしはあられちゃんを説得してみよーと思うわ。
攻撃なんてあたしにはできないもの。うん!
って考えたけど…え?え?レーちゃんは攻撃態勢?
武器を構えろって促すけど…誰に?何処にもいないわ。
レーちゃんは魔法をあられちゃんに放って……。
戦いながらレーちゃんを説得しよーとするけどダメで。
逆にレーちゃんから。
『このままだと、あられが苦しむことになるぞ!』って。
骸魂を吐き出させればって提案するけど反論されて。
うーん。うーん。あたしは…どうしたら…。あたしは。
『…露。あの子を主人の元へ送ってやるぞ』
ってレーちゃんの言葉でやっと決心がついたわ。
【幾望の太刀】であられちゃんを送るわ。
レーちゃんの魔法を追うようにあられちゃんへ。
間合いを詰めてから斬るわ。
白猫さんの最後はせめて。せめて温かい場所で。
優しく包むようにきゅぅうって抱きしめてあげるわね。
それから頬擦りで小さい躰が消えるまで抱っこするわ。
「…ごめんね。苦しませちゃって。ごめんなさい」
●納得することは難しい
神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)とシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は、茂みから白猫が飛び出したところに出くわした。
何があったのかは傷だらけの姿を見れば察することが出来る。しかしそれには触れず、白猫がかつて何を見たのか、何故本を探していたのかを訊ねる。
白猫は――『あられ』は2人に、よく本を読み聞かせてくれた主人が動かなくなり、何処かへ連れて行かれてしまったこと。同時に主人が所持していた本も何処かへ運ばれてしまったことを話した。
「そう。そんなことが。寂しいのね。あられちゃん」
あられ自身は理解していないが、2人はあられの主人がどうなってしまったのか理解出来た。
あられの主人は現世にも、ひいてはこのカクリヨにも居ない。つまり既に死んでしまっている。
(「今回はあられを満足させ還すことは困難だろうな」)
しかし露の方は白猫を諭すことを選択するだろうと、だがそれは難しいだろうと。シビラは考えていた。
となれば、苦しませずに倒すのが最良か。つまり、露の納得のいく結末へと持って行く時間を取ることは出来ない。
迷っていたら、どちらも選択出来なくなるかもしれないから。
「……全く。やれやれ、だ」
シビラはため息を吐く。一息に終わらせてしまった方が、きっと楽だ。
自身にとっても、あられにとっても。
「露、武器を構えろ」
「え? え? 誰に……? 敵なんて何処にも居ないわ」
直感的にあられは自身の危機を察知したのか、2人から距離を取った。
シビラの言葉に露は戸惑う。何故シビラは攻撃態勢を取っているのだろう。そう思う間に、シビラの足元からあられへと真直ぐに。いくつもの氷の蔦が這い進む。
「あたしはあられちゃんを説得したいと思うの!」
あられを攻撃するなんて、露にはとても出来なかったのだ。出来るならば話し合いで解決したい。
露はシビラを説得しようとするが、親友は聞く耳を持たなかった。
「主人の元へ逝け……恨むなら私だけだ。露は違う」
幾つもの氷の蔦はあられへ向かうまでに収束してゆき、段々と強大になってゆく。
「レーちゃん! 骸魂を吐き出させればっ……!」
「このままだと、あられが苦しむことになるぞ!」
知らないことは罪ではない。けれど無いものを追いかけ続けるのは、堂々巡りで終わりが無い。
終わりが無いのは辛く苦しい。
それは露だってわかっている。わかっているが――。
(「うーん。うーん。あたしは……どうしたら……あたしは」)
露は思い煩う。一体、どうすることが正しいのか。
●何方も無意識
「あなたたちもさっきのひとたちと同じ……!」
あられは迫る氷の蔦を見て。無意識にシビラの記憶から、シビラの『大事な人』を喚び出す。
おそらく、全てが無意識の産物なのだ。主人の生命を奪い続け、その結末に至らしめたのも。
(「まあ、私にはさほど効果は無いだろう。何せ理想の世界も大事な存在も……」)
そのような存在が居ないのだから、姿を形取れる訳がないとシビラは読んでいた。読んでいたのだが。
(「……ん? 何故露が現れる?」)
喚び出されたそれは、露の姿を形取った。もしかすると。最も顔を見る存在を、大事な存在の代替で喚び出したのかとシビラは予想した。それなら納得が出来る。
「ね、あなたの愛しく慕うひとは誰?」
「そんな者はいない!」
露もどきの問いを、シビラはばっさりと切り捨てる。
答えを聞いた露もどきは、不満げな顔で『グランドリオン』を手にすると。いきなりシビラに斬りかかって来た。
シビラは斬撃を軽々と回避する。どうやら露もどきの実力は、本物には及ばないようだった。
まだ続く斬撃を避けながらシビラは、ちらりと本物の露へと視線を向けた。
(「……やはり迷うか。予測はしていたが。やれやれ」)
根を張ったように動けないでいる本物の露へと、シビラは言葉を投げる。
「……露。あの子を主人の元へ送ってやるぞ」
●結末は枝分かれする
その言葉で、露はやっと決心がついた。『クレスケンスルーナ』を手にすると、露は氷の蔦を追うようにしてあられへと迫る。
「……ごめんね。ごめんなさい」
あられとの間合いを詰めながら、謝罪の言葉を口にして。身を強張らせるあられへと、露は刃を振るう。
1回、2回。青白い月の光が瞬いて、赤い小花が飛ぶ。
(「でも……あっ……」)
「迷うな露!」
3回目は迷いで手元が狂い、攻撃は外れてしまった。今にも泣きそうな顔で、露は白猫を見据える。次は外さない。
「痛くしてごめんなさい。苦しませちゃって、ごめんなさい」
氷の蔦があられの身体を打つと同時に、青白い光が一際大きく瞬いた。
その光が収まった時、白猫の姿は2人の前から消えていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
グローリアス・アリスタルコス
アドリブ・連携歓迎
●行動指針
- 1章で購入した本をあられに返す
- あられから過去の話を聞き、主人とあられの死を認識させる
- 攻撃してきた場合、UCで動きを牽制する
●心境
先程は君の大切な本を先に買ってしまって悪かったね。
この本を返すから、辛いかもしれないがどうか私の話を聞いておくれ。
今君のご主人はどんな状態だい?
そう…動かなくなって、知らない人たちが連れて行ってしまったと。
それはね、本のページがおしまいを告げるように、ご主人の命が終わりを迎えたんだ…君と同じようにね。
苦しい、寂しい、悲しい。その気持ちはもっともだ。
おいで。その感情、受け止めよう。
でもね最後には認めてあげなくちゃあならないよ…。
●オモイ
白猫は駆ける。どれだけ身体が赤く汚れても。
ただ、主人の本を集めたかった。何処に主人が連れて行かれてしまったのかは、わからない。けれどまた会えると信じていた。
その時、本を見せればきっと主人は喜ぶ顔を見せる。その顔を見たいという思いだけが、白猫の身体を動かしていた。
●信じていると認めたくないは似ている
もう動きたくない。でも、この場から離れなければと。ふらつきながらも白猫は足を動かす。
見る側が辛くなるような白猫の姿を、グローリアス・アリスタルコス(眠れる大図書館・f35990)は見つけると。静かに近付きその前で屈んだ。
白猫はグローリアスを警戒し、毛を逆立てるも。差し出されたものを見て、目を見開いた。
「先程は君の大切な本を先に買ってしまって悪かったね」
グローリアスが白猫へと差し出したのは、古本市で白猫よりも先に手に入れた本だった。
「この本を返すから、辛いかもしれないがどうか私の話を聞いておくれ」
求めていた本を前にしてそう言われ、白猫は警戒心を緩める。しかし、緩めただけで完全に心を許してはいないと、グローリアスから見て明らかだった。
「君のご主人はどんな状態だい?」
「……ご主人は……お布団の中で動かなくなったの。それから少しして、知らない人たちが連れていっちゃった」
白猫の口から、かつての主人がどのような状態で、どうなったのかをグローリアスは語らせる。
「そう……動かなくなって、知らない人たちが連れて行ってしまったと」
「うん。あられ、それを隠れて見てたの」
その後、また知らない人たちが主人の部屋にやって来て。今度は部屋の中を『綺麗』にしてしまったのだと。それで沢山あった本も、何処かへと運ばれてしまったのだと白猫は――あられは語った。
それがどういうことなのか、あられは理解できていなかったけれども。グローリアスには理解出来ていた。あられの主人は、既に亡くなってしまっているのだ。
「それはね、本のページがおしまいを告げるように、ご主人の命が終わりを迎えたんだ……君と同じようにね」
諭すようにグローリアスは語る。あられはそれを聞いて首を傾げた。
「同じように……?」
同じように、終わり……? けれども自分は、こうして生きているではないか。
「そんなことないの! だってあられ、あなたの前に立ってるじゃない!」
あられ自身は既に一度死に、骸魂となっている。こうして身体を得ているのは、身体の元となっている妖怪を飲み込んだからである。
だが他の妖怪を飲み込んだことすらも、あられは理解できていなかった。
「ご主人は動かなくなっただけなの! 待っていればきっと、またおはなしを聞かせてくれたはずなの……!」
ぎゅっと締め付けられるように、あられは心が痛かった。この心を、今すぐにでも投げ捨ててしまいたいと思う程に。
「苦しい、寂しい、悲しい。その気持ちはもっともだ」
――その感情、受け止めよう。
あられの心の痛みを、グローリアスは感じ取って。おいで、と手を差し伸べる。
じっと、あられはその手を見つめていた。しかしあられは手を取らなかった。
「本のことはかんしゃするの。でもあられ、またご主人に会えるってしんじているから……」
あられは二股尻尾を使い、器用に本を背に括って、グローリアスの横を通り過ぎる。
感情の整理には時間が掛かる。それを無理に強いる必要は無い。
(「でもね、最後には認めてあげなくちゃあならないよ……」)
グローリアスは黙って、あられの後ろ姿を見送った。
成功
🔵🔵🔴
鍋方・帆立
たとえ動きだしても、死んだ人は過去の人よ。
最初の数年は喪失感を感じるけど、割り切れないものじゃないわ。
帰ろうかって、あなたは知らないのね…。
私の答えは、そうね…、昔の私がしたのと同じかな。さよなら、私のいちばん大切な人。あなたの一番が私じゃなかったのが今でも悔しいけど。あなたが愛した子はとても可愛いのは認めるわ。
ちびの方は、幻朧桜の桜餅を大切な人に渡す。それが答えだったみたい。
ちびにはちびの思いがあって、それはちびが言いたく成る時まで聞けないけれど。
ちびは、私の足元まで来る。
これが最後になるかもしれないけど、一緒に行かなくていいの?
『ホタテは、わかってないかもしれないけど、毎日夢で会ってるので、同行するメリットが無いです。(おむかえ、いらないよー)』
あら、そうだったの?
『化けて出たって言うことはいつもと同じですよ。(またねー)』
猫さんの質問にも答えるわ。
その上で言うわ。
たぶん猫さんの思いはすでに、ご主人さんに伝わっていたはずよ。
本に残る、気の流れを見ればわかるもの。
猫さんと過ごした毎日が
●過ぎたものを振り返らない強さ
鍋方・帆立(食う寝る遊ぶ狙撃のキョンシー・f31271)の目の前に、見覚えのある猫が現れた。それは古本市で会った、あの白猫だった。
「猫さん……」
帆立は傷だらけの白猫に、手を伸ばして触れようとする。
その時だ。白猫の背後に、帆立が思ってもみなかった存在が姿を現した。それは既に、亡くなってしまった帆立の大切なひとだった。
白猫に記憶を読まれ、召喚されてしまったのだなと帆立は思う。
「たとえ動きだしても、死んだ人は過去の人よ。最初の数年は喪失感を感じるけど、割り切れないものじゃないわ」
帆立は目の前に立つ『過去』へと、そう言い切る。けれどもその過去は、「帰ろうか」と帆立に手を差し伸べた。
「帰ろうかって、あなたは知らないのね……」
――私の思いを。ならば、あなたが納得するまで答えてあげる。
「さよなら、私のいちばん大切な人」
あなたは既に過去の人。だから、お別れしなきゃ。何度だってお別れするわ。
「あなたの一番が私じゃなかったのが今でも悔しいけど。あなたが愛した子はとても可愛いのは認めるわ」
――これが私の答えなのよ。あなたは私の一番で、けれど私はあなたの一番では無かった。でも、もう割り切っているの。
黒い子狐の「ちび」は、幻朧桜の葉で包まれた桜餅を大切なひとへと渡した。ちびの方は、それが答えだったのだ。
ちびにはちびの思いがあり、それはちびが言いたくなる時まで、聞くことは出来ないだろう。
だが、それでもいいのだ。
「これが最後になるかもしれないけど、一緒に行かなくていいの?」
桜餅を渡し終え、足元まで戻って来たちびに帆立は尋ねる。
「ホタテは、わかってないかもしれないけど。毎日夢で会ってるので、同行するメリットが無いです」
だから、お迎えはいらない。また夢見の時に会うのだから。
「あら、そうだったの?」
「化けて出たって言うことはいつもと同じですよ」
ちびがまたねーと、別れを告げれば。桜吹雪が舞い、帆立とちびの大切なひとを隠す。
それが晴れた時、そこに居たのは白猫だけだった。
「たぶん猫さんの思いはすでに、ご主人さんに伝わっていたはずよ」
言い聞かせるようにして、帆立は語る。
「本に残る気の流れを見ればわかるもの。猫さんと過ごした毎日が」
帆立は白猫の背の本へと視線を向ける。白猫は黙って、帆立の言葉を聞いていた。
白猫は猟兵たちの言葉の意味を、薄らと理解し始めてはいた。
けれど理解したくなかった。全て理解したその瞬間、何もかもが意味を失ってしまいそうだったから。
大成功
🔵🔵🔵
レイラ・ピスキウム
やはりあの本、買ってみて正解でした
あなたの事
ご主人の事
聞かせてもらってもいい?
――なるほどね。そんな事が……
あのね。よく聞いて
人にも物にも
いつかは必ず“最期”が訪れます
皆はそれを『死』と呼んでいてね
……良くも悪くも尊いもの
いつかは訪れる瞬間を恐れ、共に過ごす時間を幸せだと心に刻むんです
ご主人が動かなくなってから、どれだけの時間が経ったのか
僕には計り知れない
その最期を見届けてから、幸せだったと思うことが出来れば
きっと飲み込めると思うのですが
――聞き入れていただけないようなら仕方ありません
骸魂といえど見た目は動物
少々気乗りはしませんが
……猫は、人の前では“最期”を見せないと聞きました
僕から”最後”の贈り物です
この毒が効いてくる頃には、幸せな眠りにつけているといいのだけれど
せめてあなたの望む場所で
ご主人に会いに行けますように
――さて
少し、後味が悪くなるかも知れません
あの子とご主人は再会できたのでしょうか
でも、それは彼らにしかわからない事
……僕はそんな想像掻き立てられる『本』の最後も好きですから
●金色蝶の導き
「あっ、あなた、待ってなの!」
白猫はレイラ・ピスキウム(あの星の名で・f35748)の背中を見つけて、力を振り絞り呼び止める。
(「やはりあの本、買ってみて正解でした」)
確信を得たレイラは振り返る。白猫の体は傷だらけで、その姿は見ていて痛々しく思う。
白猫はレイラの手にある。花紺青の和綴じ本を真っ直ぐ見つめていた。
「あなたの事、ご主人の事。聞かせてもらってもいい?」
●過ぎ去りし最良の日々
白猫はぽつぽつと、昔語りを始める。
自分は怪我をして動けずに居た所を拾われたこと。そして『あられ』と名付けられ、共に暮らし始めたことを。
「ご主人は本が好きでね、あられによくおはなしを読みきかせてくれたの」
しかし共に暮らすうちに、主人は床に伏せるようになり。その内に全く動かなくなってしまったという。
「そしたら、知らない人たちが来てね。ご主人をどこかへ連れてっちゃった。その後また知らない人たちが来て、今度はおへやをきれいに片付けちゃったの」
その時に、主人の所持していた本も何処かへと持ち去られてしまったのだと。白猫――あられは言う。
「なるほどね。そんな事が……」
「でね、あなたの持っているその本。それはご主人が毎日書いてて、でも『終わってないから』って言って読みきかせてくれなかった本なの」
暗い青色は在り来たりだとしても。その金色の蝶は、主人が描いた印だから見間違える筈が無いと。あられは強く言い切った。
レイラは手の中の本の内容を思い出す。不思議な猫との出会いと、その猫と共に過ごす日々が書かれていたが――それは途中から白紙になっていた。
途中から白紙であったことが意味するのは、作者が筆を止めたことに他ならない。あられの話から主人が筆を止めた理由は、亡くなってしまったからだとレイラには推測出来た。
あられは、主人の死を理解出来ていないのだ。
「あのね。よく聞いて」
言い聞かせるように、レイラは口を開く。
「人にも物にも。いつかは必ず"最期"が訪れます」
――皆はそれを『死』と呼んでいてね。
あられの主人が動かなくなってから、どれだけの月日が経ったのか、レイラには計り知れない。けれど、伝えておきたかった。
「……良くも悪くも尊いもの。いつかは訪れる瞬間を恐れ、共に過ごす時間を幸せだと心に刻むんです」
「なんで、なんでみんな『さいご』とか、『おわり』とか言うの?! あられはまだおわりたくないのに!!」
引き絞るような声で、あられは反発する。
あられは終わりたくなかったのだ。会える筈無い主人と、また会える時が来ると信じているが故に。頑なに本が閉じられるのを拒絶する。
●溢れた水は戻らない
「聞き入れていただけないようなら仕方ありません」
主人の最期を見届け、あられが幸せだったと思うことが出来れば。きっと飲み込めたのだろう。
いくら骸魂といえど。その見た目は猫だから、あまり気乗りはしなかった。だが拒絶されてしまったなら、為すべきことを為さねばならない。
――猫は、人前では“最期”を見せないと聞く。
「これは僕から”最後”の贈り物です」
レイラが『Noxtrem』の表紙を開けば。あられは身を強張らせた。けれども、コルチカムの花吹雪が舞ってきただけで。あられは拍子抜けしてしまう。
「この本は、お返ししますね」
あられの背に、レイラは和綴じ本をくくりつけると。「お行き」とあられを解放した。
不思議そうな顔をして礼を述べると、あられはレイラに背を向ける。
(「毒が効いてくる頃には、幸せな眠りにつけているといいのだけれど」)
それを見送りながら、レイラは胸中で独り言ちる。花吹雪に乗せ、あられに毒を放っていたのだ。
「せめてあなたの望む場所で、ご主人に会いに行けますように」
それは此処ではない何処かだろう。主人はこのカクリヨには存在しないのだから。
●第四の壁
「……さて」
レイラは空を仰ぐ。もしかしたら、少し後味が悪くなるかも知れない。
――あの子とご主人は再会できたのでしょうか。
しかしそれは、彼らにしかわからないこと。
未だ捲られぬ頁の先。そこには何て書いてあるのだろう。
「……僕はそんな、想像掻き立てられる『本』の最後も好きですから」
あられがどのような結末を迎えるかは、レイラには知り得ない。
ざあっ、と。風が木の葉を巻き上げた。
――けれど、これから語られることは。それは『読者の目』でなら、知り得ることが出来る。
大成功
🔵🔵🔵
茜崎・トヲル
【モノクロブラザーズ】
兄ちゃんの意見にさんせーのおれです。
かわいそうってのはあるよ
でも、それ以上に
言ってもどーしよーもねーからさあ
あられちゃんは償えない。ずっとも居られない
何もできねーんだ。言って変わることもねーし
だったら言うひつよーないじゃんねって、おれは思う
だからおれは、兄ちゃんの策に乗っかる!
あーさんはどーする?
やほやほー、あられちゃん!
いーかんじの本は見つかった?よかったねえ!
ゴシュジンさんもきっと喜ぶねー!
ね、届けに行くのはどーお?
きっとはやく読みてーと思うから!
『会いに行く』を後押し!
笑顔はね。得意だから。
バトルになったら、俺がハンマーで倒す
二人に、この感触を味わわせたくないからね
雨野・雲珠
【モノクロブラザーズ】
かわいくて、健気で、今でもご主人が大好きで…
取りこまれた妖怪さんもいる以上
見逃すことはできませんが、
何もかもを話す必要はない…と、俺は思ってます
こんにちは、またお会いしましたね。
本は集まりました?
皆で御主人との思い出話を聞きましょう。
俺もね、大切な方がいるんですけど…
会えなくなっても、
一緒に過ごした時間がなくなるわけではないし。
でもさみしいから、いなくなっちゃったら
いそうなところへ探しに行こうって思うんです。
あられさんも、そうしませんか。
UCはあられさんが激してしまった時の沈静に、
スーくんを補助する形でだけ使います
俺たちだって、
トヲルくんにそんなことさせたくないんです
スキアファール・イリャルギ
【モノクロブラザーズ】
……えぇ、ふたりの言う通りです
無理に知る必要は、納得させる必要は無いと思うんです
取り乱したりしていて話が出来そうにない時は
まずUCで一旦眠らせて落ち着かせてみましょう
辛い思いをさせたくないのは私だって同じです
こんにちは、えっと……
私はスキアファールといいます
あなたのお名前は?
ひとりで沢山本を集めたのですね、とても偉いです
じゃあ今度はご主人捜しだ
……ご主人は、ようやく躰の調子がよくなって
あなたにまた本の読み聞かせをしたいと待っている筈
あ、でも何処から探せばいいのか、ですよね
きっとここには居ないから、
空の向こうに行ってみたり――"かみさま"に頼るのもアリじゃないかなって
●終わる筈だった、その先の
「何もかもを話す必要はない……と、俺は思ってます」
雨野・雲珠(慚愧・f22865)はあられを探しながら、ぽつと零す。日は西に傾き、空は茜色に焼けていた。
あられは可愛く、健気で、今でも主人が大好きで。そして幽世に災禍をもたらす存在だった。取りこまれた妖怪もいる以上、このまま見逃すことは出来ない。
「兄ちゃんの意見にさんせーのおれです」
雲珠の言葉に軽く手を上げ、茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)は同意を示す。
可哀想だから、というのはある。けれどそれ以上に、言葉にしてもどうしようもないことだってある。
「何もできねーんだ。言って変わることもねーし。だったら言うひつよーないじゃんねって、おれは思う」
あられは償えない。かと言って、災禍をもたらす以上は存在するのを許されるわけでもない。
「だからおれは、兄ちゃんの策に乗っかる! あーさんはどーする?」
「……えぇ、ふたりの言う通りです」
トヲルに訊ねられ、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は頷く。
無理に知る必要も、納得させる必要も無いとスキアファールは思うのだ。
「あっ、あの石灯籠のところ……」
スキアファールは神社の石灯籠のひとつを指差す。そこには寄りかかるようにして、白猫がうずくまっていた。
●思い出は万華鏡のようで
駆け付けた3人は。あられが傷だらけの姿であることから、もうそんなに長くないだろうということが見て取れた。
「こんにちは、またお会いしましたね。本は集まりました?」
警戒させぬよう、雲珠は優しく声を掛ける。このまま放っておいても、骸魂は剥がれるだろう。けれどそれでは、寂しい。
「あなたはおひるの時の……」
雲珠の声に、あられは顔を上げる。ただ、トヲルとスキアファールはあられからすれば初めての存在で。小さな瞳に警戒の色が宿った。
すかさず雲珠が「このお二方は俺の知り合いで」と、無害であるというフォローを入れる。
「こんにちは、えっと……私はスキアファールといいます」
おずおずと名乗るスキアファールと、無邪気な笑みを咲かせるトヲル。あられはじぃっと2人を見定めて、何もしてこないと判断すると警戒を解いた。
「あなたのお名前は?」
「あられは、あられっていうの」
スキアファールが名を訊ねれば、子供のように可愛らしくあられは名乗る。
「やほやほー、あられちゃん! いーかんじの本は見つかった?」
「うん、何冊かは見つかったの!」
トヲルの問いに、あられは背の本を見せる。雲珠が譲ったもの以外にも、何冊か増えていた。
「ひとりで沢山本を集めたのですね、とても偉いです」
「よかったねえ! ゴシュジンさんもきっと喜ぶねー!」
2人に褒められて、あられはどこか鼻高々そうな表情を見せる。
「そうなの。ご主人、きっと喜んでくれるの!」
かつての主人がどんな人だったのかと、雲珠があられに聞いてみれば。あられは嬉々と主人との思い出話を始める。
怪我をしていたところを拾われ、それから一緒に過ごし始めたこと。
本棚を眺めていたら、読み聞かせてくれて。そこから毎日のように読み聞かせをしてくれたこと。
それはあたたかな記憶で。過ぎ去って、もう戻れない場所だった。
「でもね、ご主人。段々と布団から出られなくなって……動かなくなっちゃって……」
そうして知らぬ人たちに、主人は何処かへと連れて行かれ。部屋も綺麗に片付けられてしまったのだとあられは語る。
「だからあられ。本をさがしていたの。またご主人に会えた時、ご主人に笑ってほしいから」
●合縁奇縁
「俺もね、大切な方がいるんですけど……会えなくなっても、一緒に過ごした時間がなくなるわけではないし」
あられが語り終えたところで、雲珠が口を開いた。主人の死を諭すのではなく、別の選択肢を見せよう。
「でもさみしいから、いなくなっちゃったら。いそうなところへ探しに行こうって思うんです」
――あられさんも、そうしませんか。
必要なのは背中を押すことだと、雲珠は思ったのだ。
「ね、届けに行くのはどーお? きっとはやく読みてーと思うから!」
「届ける……?」
にこりと笑んで、トヲルもあられの背を後押しする。もう少し、もう少しであられは違う道を踏み出せる。そこにそっと、スキアファールが一押しを加えた。
「……ご主人は、ようやく躰の調子がよくなって、あなたにまた本の読み聞かせをしたいと待っている筈」
その言葉を聞いたあられは、瞳に光を灯す。主人がそう思っていると考えたら、居てもたってもいられなくなったのだろう。
「あられ、ご主人に本を届けたい……! けど何処にご主人がいるのか、わからないの……」
「あ、何処から探せばいいのか、ですよね」
主人が何処にいるのか、探し出さねばならない。居場所がわからなければ、届けることが出来ないのだから。
この幽世に主人は居ない。それは分かりきっている。ならば――。
「空の向こうに行ってみたり――"かみさま"に頼るのもアリじゃないかなって」
「かみさま……?」
あられはこてんと、首を傾げた。
何の因果か、此処は神社。そして神社には『かみさま』が来ていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱酉・逢真
【逢魔ヶ時】
心情)赤子と言うには賢いが、死をわきまえるには幼いタマシイよな。だからどうたる事もなし、旦那がイヤなら俺がやるだけさ。話すならいいとも、俺は待とう。黙って見守り、ハナシを振られ。いいとも、信徒の望みとあらば"届けよう"。
行動)神隠しの本領お見せしよう。彼岸(*あの世)のご主人サマのもとへ、小路よ開け。ホラちびすけ、見えるかい。偽モンじゃアないぜ、ちゃアんと死んだご主人だ。オオット飛び込む前にひとつ聞きな、ここをくぐったらもう戻ってこられンぜ。ソレでも良けりゃアお逝き、ちびすけ。本を忘れるなよゥ。
深山・鴇
【逢魔ヶ時】
猫、猫か……できるだけ斬りたくはないんだが
(猫好き)
まずは話をしてみようか
やあ、君の名前は?あられっていうのか
本を集めて?そうか、ご主人様の好きだった本をね
なら、それを持ってご主人様が待つ場所にいくといい
…うん、ここにはいないからね
俺達なら送ってあげられると思うよ
俺の隣の彼はかみさまだから、ご主人様にも会わせてくれるさ
(なぁ? と逢真君を見遣って)
お逝き、ほらご主人が待ってるよ
やむを得ず戦闘になれば仕方ない、気乗りはしないがきっちりと片を付けよう
強制的に送ることになるが、このまま放置しておくわけにもいかないからね!
肉球は魅力的だが、俺にも最愛の猫がいるものでね
ご遠慮させていただくよ
●えにしが結ばれた先
「猫、猫か……できるだけ斬りたくはないんだが」
先に白猫と接触し会話する猟兵たちの声を、社の影に隠れて聞きながら。深山・鴇(黒花鳥・f22925)は腕を組んだ。
猫は好きだ。連れて来ていないが、御影という黒くてものすごく伸びる猫だっている。
「赤子と言うには賢いが、死をわきまえるには幼いタマシイよな」
段階を経て死を理解することが出来れば、それを受け入れられる。けれどその段階を経ることが出来なかったのだろうと。朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は推測した。
「だからどうたる事もなし、旦那がイヤなら俺がやるだけさ」
あっけらかんと逢真が言ったのを聞いた鴇は、まずは話をさせてくれと頼む。
出来るならば、猫を斬らずに終わらせたい。
「話すならいいとも」
その間は待とうと、逢真が首を縦に振ったところで。どうやら出番が来たようだった。
●新しい道
藍色に染まりゆく空の下、鴇と逢真は白猫へと歩み寄る。
「やあ、君の名前は?」
鴇が白猫へと名を訊ねれば。白猫は鴇をじっと見つめた後に名乗り始めた。
「……あられは、あられなの。あなたはかみさまなの?」
「あられっていうのか。いや、俺はかみさまじゃないよ」
白猫――あられは、先の話で聞いた『かみさま』が、鴇なのではないかと思ったのだ。
しかし首を振って否定する鴇に、あられはしゅんとして瞳を伏せた。
「あのね、あられ。ご主人のために本をあつめてたの」
そして集めた本を主人に届けたいけれども、居場所が分からないのだとあられは語る。
「本を集めて? ……そうか、ご主人様の好きだった本をね」
「あなたがかみさまなら、もしかして……って思ったの」
2人はあられの主人が居る場所の予想は出来ている。その場所は、あられだけでは向かうことのできない場所。でも、「ゆきたい」と望むならば。
「なら、それを持ってご主人様が待つ場所にいくといい」
その為の小路を拓こう。此処には本物の『かみさま』が居るから、力を借りればいい。
「ご主人、ここにはいないの?」
「……うん、ここにはいないからね」
あられの問いに、鴇は視線を逸らして答える。あられの主人が居るのは、此処とは違う幽世だ。
でもそれを、あられに理解させる必要は無かった。
「俺達なら送ってあげられると思うよ。俺の隣の彼はかみさまだから、ご主人様にも会わせてくれるさ」
「そっちのひとが、かみさまだったの?」
なぁ? と鴇は隣の逢真を見遣る。それまで黙って見守っていた逢真は、あられにわかるように頷いて見せた。
「いいとも、信徒の望みとあらば"届けよう"」
●ここから先一方通行につき
「彼岸のご主人サマのもとへ、小路よ開け」
今こそ神隠しの本領を発揮する時。
逢真がぱん、と。手を叩く。すると社の扉が勢いよく横に動いた。此処とは違う世界へと繋がる入り口が開いたのだ。
「ホラちびすけ、見えるかい。偽モンじゃアないぜ、ちゃアんと死んだご主人だ」
「わ、わ……!」
あられは驚き目を見開く。開いた道の先に、かつての主人の姿が見えたからだ。
見間違える筈の無い、求め続けていた姿。
今にも飛び出して行ってしまいそうなあられを、鴇がそっと制した時。あられの身体から抜け出るように、透き通る猫が現われた。
それこそが、本当のあられだった。
あられが飲み込んだ妖怪の身体は、あられが宿り続けるには限界を迎えていた。元の妖怪である白猫又は気を失っているが、命に別状は無い。
「オオット飛び込む前にひとつ聞きな、ここをくぐったらもう戻ってこられンぜ」
一歩でも足を踏み出したなら、もう此方には戻れないと。逢真はあられに忠告をする。
その隙に鴇は白猫又をあられの視界から隠し、背中に括りつけられていた本を素早く外した。
「ソレでも良けりゃアお逝き、ちびすけ。本を忘れるなよゥ」
本を忘れるなと言われ、あられは自身の背を確認する。あったはずの本が無かった。
「あれ……? あられ、本を背中にのせてたと思ったのに」
なんでとだろうと首を傾げたあられに、鴇が先刻外した本を括りつける。もしかしたら実体が無くなっているのではと心配したが、それは杞憂だった。
「お逝き、ほらご主人が待ってるよ」
鴇が促せば、あられは社の階段を駆け上がる。そのまま世界の境界を越えようとする前に、あられはくるりと振り返った。
「ありがとうなの。またご主人と会うことができて、本を届けることができて。あられ嬉しいの」
嬉しそうに目を細くして、あられは礼を述べると。一気に境界を飛び越えて行った。
タン、と扉が閉まり、沈黙して。それきり動くことは無かった。
すでに日は落ちていて。空では月に見守られる中、星たちが瞬いていた。
●End And
あられの旅は、終わりを迎えた。
扉を潜った先で、あられが主人とどのように過ごしているかは誰にも分からない。
でも。新しい話が書き綴られているのは、間違いない。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2022年02月20日
宿敵
『彷徨う白猫『あられ』』
を撃破!
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