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殲神封神大戦⑰〜この身が壊れど歌う

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑰ #渾沌氏『鴻鈞道人』

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#渾沌氏『鴻鈞道人』


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●こんな未来(せかい)と嘆く誰かの
 ――少し先が見える。何となく予知だな、と感じる。

 暗い、暗い世界だ。
 そこが一瞬で黄金に輝いて、更に炎に包まれる。
 周りには、自分の他にも誰かいるようだ。
 予知の中に猟兵が映り込んでいるとは珍しい。さては、こちらの攻撃よりも先に動く手合いか。
 ――何となくそう感じたところで、体が勝手に動いた。
 何を、何をしているのだろう。
 どうして仲間に触手など、……触手?
 触手? 翼? 刃? どうしてそのようなものが己から生えて。

 ……嫌、だな。

●どんな未来(せかい)も
 グリモア猟兵の出水宮・カガリは、集まった猟兵達を前にしばらくうーんと唸った後、うん、と独り何かに納得して話し始めた。
「封神武侠界の、戦争な。皆の頑張りで、仙界の最深に到達できたようだ」
 形の定まらぬ「渾沌(こんとん)の地」なる領域に、今回の予知対象である鴻鈞(こうきん)道人がいるらしい。猟兵の目的は彼の撃破になるが、彼に関しては不穏な予兆を視た者も少なくないだろう。
 情報の提供を促せば、カガリは続きを語る。
「ああ、うん。どうも、彼の地へ行くとな。グリモア猟兵であるカガリが、鴻鈞道人に乗っ取られてしまうらしい。ユーベルコードで異形と化して、皆を傷つけてしまうようだ。先に、謝っておくな。すまない」
 この『異形』によるユーベルコードは、そういう『理』によって必ず猟兵のユーベルコードに先手を打つものなので、他の術でどうにか対処してほしいとのことだった。
 しかし、対処とは何なのか。乗っ取られるのなら、鴻鈞道人への対処の対象となるのはカガリになるのではないか。
 尋ねる者がいたなら、彼は穏やかに頷くだろう。
「流石の格、と言うべきか。カガリをそのままに、鴻鈞道人だけを引き剥がす、ということもできないようでなぁ。
 カガリごと、壊してもらうしかない。手加減をすれば、あれも生き残るだけだからな」
 彼は城門のヤドリガミだ。肉体を『殺し』ても本体の器物が無事であれば、致命傷には至らない。
 だが、彼は今『壊せ』と言った。ヤドリガミとして、命を絶てと。
「まあ、カガリとて一度は落城した城門だ。本音を言えば痛いのは嫌だし、再び壊されるのも嫌ではあるのだが。
 ……壊されることで、守れるものがあるのなら。吝かではないとも」
 それもまた、境界たる門の務めなのやもしれない。
 そう結論付けて苦笑すると、カガリは己の器物である『鉄門扉の盾』を改めて地に打ち立てる。
「守りには、些か自信があるからな。本気で、砕くつもりで来てくれ。
 それから……敢えて肉体を狙うなら。この眼か、髪を壊せ。心臓よりも、そちらの方がきっと効く」
 懇切丁寧に、弱点と思しき箇所まで教えて。
 猟兵達の準備が整ったのを確認すると、彼は黄金の門のグリモアを展開した。

「帰りのことなら、心配するな。壊れても、それくらいはどうにかするとも。
 カガリは皆を、信じたい。皆も、カガリを信じてくれると。ちょっと嬉しいぞ」


旭吉
 旭吉(あさきち)です。
 ヤドリガミ猟兵は本体アタックが効くのでは……? 等と考えましたがどうですかね!
 渾沌氏『鴻鈞道人』戦をお送りします。

●状況
 前後左右も判別がつかないほど真っ暗な「渾沌の地」へ放り出されてほどなく、焼け落ちる黄金都市へと景色が変わります。
 (サクラミラージュ風の都市。演出程度の描写ですので、行動の成否に影響はありません)
 その頃にはカガリの中身は鴻鈞道人となっています。突然異形化して襲ってきますので、撃破してください。

  リプレイ中カガリは話せず、問いかけに応じるのは鴻鈞道人の思念となります。
  それでも何かお話があればどうぞ(必ず返事があるとは限りません)

 どなたかとご一緒に参加される場合、お相手のIDか【】で括ったチーム名をお願いします。特殊な呼び名などあれば書いて頂けると助かります。

●プレイング受付
 公開され次第受付となります(断章の追加はありません)
 キャパ的事情により、問題が無いプレイングでも流してしまうことがあります。

●オーバーロード
 必要でしたらご利用ください(採用・不採用には無関係です)
 失効日の関係上、通常プレイングを先に反映することがあります。
 トドメ狙いの場合はご留意を。

●プレイングボーナス
 グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する。
 グリモア猟兵の出水宮・カガリとの面識の有無はお気になさらず(あっても意味がないです)
 一切の遠慮無く壊しに来てください。堅さが取り柄の城門ですので、運が良ければ本人も生き残っているでしょう。
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

徳川・家光
友を、仲間を斬る事は、何物にも代え難き苦痛。
ならばその責務、僕が少しでも背負わねば……!

鴻鈞道人は、カガリさんの肉体を代償に攻撃する外道。
しかしそれは、鴻鈞道人自身の戦闘力低下にも繋がります。
何故それに無頓着なのか。敵の弱点は、その「今現在を軽視する姿勢」にあると見ました!

カガリさんの部位を変異して放つ攻撃を、可能な限りギリギリでかわします。重い一撃を喰らっても構いません。

「カガリさんの覚悟と、戦闘後の治癒を信じ……斬ります!」
僕の柳生新陰流活人剣は、四肢切断により敵の戦闘能力を削ぐ技。
ユーベルコード「剣刃一閃」! カガリさんの異形化した部位を切断します。これを、僕が力尽きるまで繰り返します。



●せめてその魁に
 光のない渾沌の地に、一条の光が落ちる。
 光は、炎であった。炎は一瞬にして空間を満たし、燃え落ちる黄金都市を『景色』として固定した。
 徳川・家光(f04430)はサムライエンパイアを統治する江戸幕府の長にして、世界を股にかける猟兵であり、グリモアで未来の予知を可能とするグリモア猟兵でもある。それら全ての立場を身を以て理解するがゆえに、家光は苦悩するのだ。少し前まで予知について話していた、目の前のグリモア猟兵ーー出水宮・カガリの左目が、目に見えて変化していることに。
 これから彼の命を削らねばならない、彼の仲間が在ることに。
(友を、仲間を斬る事は、何物にも代え難き苦痛……ならばその責務、僕が少しでも背負わねば……!)
 他のどの傷より、最初の一太刀を仲間に浴びせるのもまた、苦しいだろうと感じたのだ。
 それがどうあっても避けられないものならば、せめて。
 彼をそのように駆り立てたのは、世界ひとつを背負う将軍としての強い責任感もあったのかもしれない。

 カガリの左目からひび割れるように亀裂が走った瞬間、家光は大天狗正宗を抜刀し青眼に構える。紫の瞳を喰らい潰して現れた何かは、目にも止まらぬ速さで家光の胸に突き刺さろうとする。
「せいっ!!」
 刀の鍔元でこれを弾き、次に備える。次は二つの何かが同時に襲ってきたので、刀の腹と鍔元で受ける。襲い来る何かは更に数を増やし続け、五か所を同時に狙われた時は鞘まで使って応戦したものの、肩と脛を深く抉られてしまった。
「これは……ようやく見えました。爪を飛ばす手の異形ですか」
 瞳があった眼窩からは異形の手が生えており、その掌に血走った眼が埋まっている。他の箇所もひび割れ始めており、いつ異形化を始めてもおかしくない。
 しかし、ここでふと家光は気付く。
(鴻鈞道人は、カガリさんの肉体を代償に攻撃する外道ではありますが。それは、鴻鈞道人自身の戦闘力低下にも繋がるのでは?)
 乗っ取った相手の肉体を代償にせねば、攻撃できないならば。代償にできる肉体を使い尽くした時、鴻鈞道人もまた戦闘不能になってしまうはずだ。
 それに気付いていないのだろうか。それとも、知っていて放置しているのか。「そこまで行く前に片付けられる」と。
「『骸の海』であるあなたには、『現在』など取るに足らないものなのかもしれませんね。しかしーー」
 狙うは一点、渾沌の手。地を踏みしめれば脛の傷が開き、刀の柄尻を握り締めれば肩の傷に響く。
「その『今現在を軽視する姿勢』……それがあなたの弱点です!」
 一足で踏み込み、大天狗正宗を一閃する。根本から断ち斬られた渾沌の手は、凶悪な爪と共に地に落ちた。
「まだ終わりませんよ。カガリさんの覚悟と、戦闘後の治癒を信じ……斬ります!」
 家光の柳生新陰流活人剣の活人剣たる所以は、直接命を奪わず四肢切断により戦闘能力を削ぐ技にある。
 過去が現在を軽んじるというのなら、その力を限界まで削ぎ落とすまで――!

成功 🔵​🔵​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加

カガリ、久しぶりだね。2年振りかい?アンタとは随分依頼で一緒になった。アンタの無骨な真っすぐさは案外気に入ってたんだよ。

そんなアンタに余計な物が入り込んでると。ちょっと手荒になるが、叩き出してやるよ。

まず先制攻撃を凌がないとか。攻撃の軌道を【戦闘知識】で読み、【オーラ防御】【見切り】【残像】で凌ぎ、【追撃】で【ダッシュ】。接近したら【気合い】を入れた炎の拳を叩き込む。これでも足りないようなら【怪力】【グラップル】で思い切り蹴とばした後、【頭突き】をする。

他人の体で好き勝手やってんじゃないよ!!さあ、カガリを解放して貰おうか!!


真宮・奏
【真宮家】で参加

カガリさん、お久しぶりです。こんな形で貴方に相対するのは思ってませんでしたが・・・護る事を信条とする私にとって、カガリさんは憧れです。背を追うものとして、貴方を助けてみせます!!

まずは先制攻撃を凌がねばなりませんが、私は愚直に受け止める事しか出来ません。【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】で攻撃に耐えきります。重いですね・・でも踏ん張って見せます!!

凌ぎきれたら牽制に【電撃】を放ってから、シールドを構えて突進。【怪力】【シールドバッシュ】で押し返した後、眩耀の一撃でカガリさんの中に巣食う闇だけを斬ります!!

さあ、カガリさんを返してください!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

カガリさん、サクラミラージュでご一緒した以来ですね。それ以外にもカガリさんの姿はお見掛けしてました。壁として大切な人達を護るカガリさんの背中が眩しくみえたものです。僕も、こうでありたいと。

カガリさん、絶対貴方を助けて見せます。

まず先制攻撃に対して【高速詠唱】で【結界術】を展開して仲間を防護。僕も【オーラ防御】【第六感】を使用。

【追撃】で【マヒ攻撃】【武器落とし】【吹き飛ばし】を併せた【誘導弾】を撃った後、【全力魔法】【多重詠唱】【魔力溜め】を込めた一つにした巨大な凍てつく炎を放ちます。

カガリさんにはこれからも強く立っていて欲しいから!!さあ、カガリさんを解放して下さい!!



●必ず返す
 『出水宮・カガリ』とは、何であったろうか。

 真宮・響(f00434)の記憶では、武骨な直向きさを持つ人だ。
 真宮・奏(f03210)にとっては、護り手としての憧れだ。
 神城・瞬(f06558)もまた、幾度となく見かけたその背を眩しく思ったものだ。

 最後に彼を戦場で見たのは、二年ほど前のサクラミラージュ。この形定まらぬ渾沌の地で、今まさに『舞台』として定められ焼け落ちている都は、あの日に見た黄金都市と瓜二つであった。
「あの時は焼けてなくて、割と綺麗な場所だった気がするんだけどねえ」
「久し振りの再会が、このような形になってしまうとは思いませんでしたが……」
 響と奏、そして瞬の目にはもうひとつ、同じものが映っていた。左目を始めとして、肉体の各所がひび割れて孔を空けているカガリの姿である。
「貴方には、これからも強く立っていてほしいから。絶対に助けますよ」
「ちょっと手荒になるが、余計なやつには出てって貰おうじゃないか!」
 瞬や響の言葉は、カガリ本人に届いているだろうか。届いていたならきっと、大きな励みになったであろう。
 しかし、例え届いていたとしても、圧倒的な『渾沌の諸相』で全て塗り潰してしまうのが鴻鈞道人という超越者であった。
 新たにひび割れ、盾を掴む腕の片方が肘から変質する。脚の片方の刀傷からは血が変質したものが溢れ、みるみる内に滴り落ちて行く。
「まず僕が防ぐ! 二人も念のため防御してください」
 瞬が響と奏の前へ出て、一瞬で結界を張り巡らせる。滴り落ちたものは液体でありながら意思を持つように、蛇のように地面を這い寄ってくると、結界ごと齧り出すではないか。
 液体が齧った痕を、腕から変じた刃や触手が貫こうと群がる。結界自体は簡単には崩壊しないものの、数で群がってこられると結界の外が完全に見えなくなりそうだった。
「これは……立ち止まってる間に物量で押し潰されるか、打って出てもやっぱり物量でやられるか、って所だろうね。シンプルな攻撃ほど、時に厄介なのさ」
「それだけは何としても防ぎます! それに、これ以上は……これがカガリさんの血なら、長くはもたないのでは……?」
 冷静に分析する響に思わず声をあげる奏。このままでは自分達も、カガリの身ももたない。打って出たところで勝算がない。

 ――否。
 そんなものは、そもそも勝手に転がってくるようなものではない。

「そろそろ打って出るよ。奏! 瞬! 用意はいいかい!」
 勝算とは、そのきっかけは自ら切り開くものだ。
 響がガントレットを嵌め直し、燃えるようなオーラを纏う。それに呼応するように、奏と瞬のオーラも猛った。
「まずはこの異形を吹き飛ばす!」
 瞬の六花の杖から放たれた誘導の魔法弾が、異形の群れに風穴を開ける。触れたものは体の自由を奪われ、そうでないものも囮として引き付けた後、全ての魔力を込めた青白の凍てつく炎を全弾放った。
 瞬が作った穴から、響と奏が飛び出す。瞬の誘導弾に引かれていった個体もいるが、まだ残っていた異形が容赦なく襲いかかる。
「いかせませんよ!」
 奏が電撃を放ち、盾で弾き飛ばす。本体の鴻鈞道人ではないのに、かなりの重量を感じた。
「奏、行くよ!」
「はい!」
 響に声をかけられ、すぐに体勢を整える。目標はこの異形達ではない。血を流し、異形を生み出す肉体となっても立ち続ける出水宮カガリの、その内側に巣食う鴻鈞道人だ。
 やがて響が肉薄する。目に見えるほどの炎の気迫が渦巻いた拳を握ると、異形が生まれる腕の付け根、肩へととっておきを叩き込んだ。
「どうだい! まだ立ち上がれるかい?」
 すぐにでも追撃の蹴りを見舞える位置取りを保ちながら尋ねる。しかし、しばらく待っても立ち上がる様子はなく、元のカガリに戻る様子もない。
「カガリさんを、返してください!」
 とどめのように、奏がブレイズセイバーでカガリの肉体を貫く。ユーベルコードとして使われたその刃は肉体を傷つけるものではなく、貫いた相手の邪心のみを貫くものだ。
(これなら……カガリさんを傷付けずに、鴻鈞道人だけを……!)

(邪心とは、何をもって邪心とする)

(……!!)
 音ではない『声』が、奏の頭に突然響く。
 『知らない声』だが、記憶にはある。予兆で聞いた、あの声だ。
(私はオブリビオンではない。骸の海である。お前達がその足に踏みしめるものは、邪なものか)
 骸の海とは何か。過去とは何か。踏みしめたものは邪なのか。
 奏が一人で答えるには、その問いはあまりに宛てもなく、果てもない渾沌のごときもの。
 しかし――今、この場に限っては。
「いいから、カガリを……解放するんだよ!!」
 耐えかねたように、響が恐るべき脚力で鴻鈞道人(の入ったカガリ)を蹴り飛ばす。更に強烈な頭突きを喰らわせれば、それ以上奏に何かの声が響くことはなかった。

「カガリさんはどうなりましたか」
 結界に群がっていた異形を片付けた瞬が、後から合流する。少し……否、そこそこに痛い目には遭わせてしまったが、命に別状はないだろう。
 腕が変質した時に落とされた大きな盾には、本来の傷以外破損は無いようだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ルパート・ブラックスミス
【覇気】を込め黄金魔剣で地面に【斬撃波】、
土砂を巻き上げ【目潰し】による先制攻撃妨害、【地形破壊】でカガリ殿の防御【体勢を崩す】
敵UCが繰り出されるなら【カウンター】で黄金魔剣を【串刺し】押し返す

いつぞやもあらゆる攻撃を凌いだその鉄壁、地崩しだけは対処できていなかった。
そして、指し示されたとて行儀よく門を叩くとは限らんぞ、出水宮・カガリ!

UC【神・黒風鎧装】展開、漆黒の旋風で上空へ【吹き飛ばし】同時に超音速【空中機動】で接敵し【グラップル】!
都市一つ持ち上げるとはいかんが、人体を羽交い絞めするのは容易い!
カガリ殿を掴んだまま【ぶん回し】、錐揉み回転しながら髪と眼、つまり頭から地面に叩きつける!


禍神塚・鏡吾
技能
捨て身の一撃、斬撃波、激痛耐性、言いくるめ

壊されることで守れるもの、ですか
私はそこまで覚悟を決められません
だから出水宮さんは最小の被害で助けますよ
自分ができない事を人に求めるつもりはありません

自分の手首を切って出血し、先制攻撃の威力を削ぎます
仮初めの肉体のダメージなので問題はありません
攻撃自体はミラーシェイダーを装甲にして防ぎます

UCを使用しつつ渾沌氏に呼びかけます
失血で体は動きませんが、喋るのは本体の能力ですので
「全ての過去を内包する貴方は、全ての美しさを持っています
疑うのならこの鏡を御覧なさい」

動きを止めた隙にハングドマン・イン・ザ・ミラーで斬ります
出水宮さんの本体は意地でも狙いません



●カミ宿る器・前
 倒れていた人形(ひとがた)がゆらりと起き上がる。
 頭ひとつ、腕ふたつ、脚がふたつに胴があって、二足歩行ができそうな形なら、それは恐らく人形と呼べるものだろう。
 その五体から左目と、左腕の肘から先が損なわれ、右脚は付け根から衣服を赤黒く染めていたとしても。
「壊されることで守れるもの、ですか……。生憎と、私はそこまで覚悟を決められません」
 痛々しい姿を前に、禍神塚・鏡吾(f04789)がため息をこぼす。
「自慢の鉄壁もその状態では……、……いや?」
 かつて力試しに出水宮・カガリと技をぶつけ合った事もあるルパート・ブラックスミス(f10937)も、盾を持つ腕すら損なわれているようでは――と思い至ったところでひとつ気付いた。
 腕では持てなくとも、白い鉄門扉の盾がそこに浮いていた。本体である盾は元々の傷以外は無傷だ。
 そのことに、鏡吾も気付く。
「……ブラックスミスさん。出水宮さんの本体を狙うご予定は?」
「フッ、指し示されたとて行儀よく門を叩くつもりは最初からない!」
「それは良かった。私も、自分ができない事を人に求めるつもりはなかったので」
 本人に頼まれたとしても、本体の破壊はしない。友として、同胞として、それだけは譲れない一線であった。
 仲間も同じ意思であったと知った鏡吾は、安堵してナイフを取り出す。そして一切の躊躇いなく、その切っ先で手首を掻き切った。
「鏡吾殿!?」
「流血の量で勝っていれば……先制攻撃の威力を削れるはず。しかし、これでは足りないでしょうね」
 一目で重傷とわかる程度の流血でなければ、この自傷に意味はない。本体にダメージがないとは言え、流石に自分で首や腕を断ち落とすことは鏡吾にも躊躇われた。
 だから、彼はもう片方の腕も手首を切った。流れる血は、肘を伝って服に。あるいは指先から伝い落ちて足元を濡らす。
「流石に、傷が小さいですか。これ以上は肉体を動かすのに支障が出そうですが」
「先制攻撃の威力を落とせればいいのだろう。肉体がカガリ殿であるなら……手はある!」
 急速な貧血に膝をつく鏡吾に、ルパートが力強く声をかける。
 眼前では、カガリの全身がひび割れ始めている。特に失われた左目からの亀裂が進行しており、髪の一部が白く変色していた。
「その壁、地崩しだけは対応できていなかった。ならばこれはどうだ、出水宮・カガリ!」
 諸手で振り上げた黄金魔剣ルパートを、全霊を込めて地へ突き刺す。斬撃波は大地を砕きながら進み、土煙の向こうにある目標へと向かう。
 少しの間の後、土煙の一部が払われると同時に来襲するものが複数あった。いくらかはルパートが黄金魔剣で串刺して押し返すも、彼を素通りして鏡吾の元へ至った個体がある。
「鏡吾殿!」
 ルパートが振り返った先では、無数の金属片が集まって鏡吾を覆い、守っていた。
 二人を襲ったのは、カガリの髪の一部が異形化した爪持つ蛇だった。鏡吾はその蛇に爪を立てられながらも、既に動けないほどに流した血が功を奏して致命傷には至らなかった。
「……渾沌氏、ですね。私は魔法の鏡。美しいものを映す鏡です」
 浮かび上がった本体の鏡は、その面に異形の蛇と、後方のカガリを映し出す。
『全ての過去を内包する貴方は、全ての美しさを持っています。疑うのならこの鏡を御覧なさい』
 美しいものの名を答える魔法の鏡は、ユーベルコードによって神話の名を冠する呪いの鏡と化す。その面に映し取られたものは、それがどれほど醜くとも美しいとしか思えない。肉体も思考も捕えた呪いの鏡が最後にもたらすのは、鏡の中の怪人(ハングドマン)。
 鏡の中で怪人の刃に断末魔の声が上がった。

『我が魂にもはや栄光なく』
 一方、ルパートは漆黒の旋風を纏うとその半径を更に広げていく。猛る暴風は容易くカガリを巻き込み、鏡像でも斬られたその肉体を空へ巻き上げた。
『されど……されど! 未だ闇夜に灯り続ける!』
 更に自らも真の姿を現すと、巻き上げたカガリの元へ音の速さで移動する。移動というより転移に近いそれは、相手の抵抗を許さない。
「そちらも城門姿であればこうはいかなかったが、人体ならば容易い!」
 背後からカガリを羽交い締めにしたルパート。
 あとはこのまま回転を加えながら地に叩きつけるだけ――その一瞬の思考に、強烈な念が割り込む。
(良いのだな、それで。本体を害することなく、徒に肉体を傷付けるだけで)
 やはり本体を砕かねば、彼の内にいる鴻鈞道人を退けたことにならないのでは――
「――等と、迷うと思ったか! 見くびるなよ骸の海が――!!」
 一瞬止まった降下を、すぐに再開する。旋回しながら移動した時と同じ速さで落下すれば、間違いなくカガリは頭から全身を地に打ち付けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

桜雨・カイ
☆◎
…そういえば、カガリさんとはかつて模擬戦で戦った事もありますね
あの時はあっけなく負けてしまいましたが。
今回はそうはいきません。

まずは初手の一撃を躱さないと
乗っ取った相手がカガリさんなら、本人は守り重視で動かずに触手や刃を伸ばしてくると予測
瞬時に【天狗靴】で間合いから離れできるだけ攻撃を【受け流す】
躱しきれないダメージは【糸編符】【オーラ防御】で相殺

位置を素早く変えて攻撃。
あなた(鴻鈞道人)にとっては縁など意味が無いかもしれない
しかし私の場合は大事な意味があるんです
ここはあえての【想撚糸】で攻撃から身を守る

本職の城門のヤドリガミの守りには叶わないかもしれない
しかし私の糸の結界がカガリさんと異なる点があるとすれば
私の「結界」は自由自在にに形を変えられるんです
そして思い出の数だけ糸を伸ばせる--結界を広げられるんです!

結界を広げ網の様に盾ごとカガリさん(と触手)の動きを封じた後は【属性攻撃】を乗せた【四色精扇】でカガリさんの髪を狙います!


吉備・狐珀
…引き離すことができないなら鴻鈞道人に痛手を負わせる手段はカガリ殿に攻撃を仕掛けるしかないのかもしれません、が
果たして命尽きるまで融合しているのでしょうか

私はカガリ殿を信じることはできても、鴻鈞道人を信じることはできない
鴻鈞道人が最後までカガリ殿と共にあろうとするとは思えませんから

カガリ殿が容易に近づけないようにウケの結界で身を守り、且つ、兄様の操る炎をウカの衝撃波で舞い上がらせ炎を壁を作る
カガリ殿の攻撃を防いでいる間に私は破浄の明弓をかまえ矢を放つ

此度の目的は命中させることではなく、カガリ殿の周囲に矢があること
もちろん血をあまり流させないようにするためでもありますが、大切なのは矢が至る所にあるということ―

UC【天鼓雷音】使用
放った矢を避雷針代わりに雷を落とす。
カガリ殿なら雷を避けることくらいわけないでしょう
ですがその雷、落ちて終わりではありませんし、そもそも真っ直ぐ落ちてはきませんよ?

眼や髪を狙わなくとも、壊さなくとも鴻鈞道人が命の危険を感じて融合を解くくらいまで追い込んでみせます!


月水・輝命
○☆
本体五鈴鏡を使用。
今までの過去を少し乗り越えた、もう一つの真の姿。姫巫女様の姿にて。

ここは……いつかの時に見た景色、だった気がしますわね……。
カガリさん……わたくしはあなたを助け出してみせますわ。例えわたくしや、わたくしの器物が破損しようとも。
覚悟を持って立ち向かいましょう。

先制攻撃には、こちらから攻撃するとフェイントをかけつつ、第六感や残像を置きつつ見切り、
難しい時はオーラ防御で対処。

カガリさんは守りがとても強くて、いつもわたくしは助けられていました。
今度はわたくしが助ける番ですのよ。

UC発動。うつしうつすものとしての本領発揮です。
呪怨が暴れてわたくしを蝕もうとも、捉えるべき存在や事象をうつし、破魔をもって浄化します!
全ては難しいなら、カガリさんと融合する鴻鈞道人の一部でも、この鏡にうつせたら!
なるべく、カガリさん自身には傷ついて欲しくはありませんが、倒さなければならない……

姫巫女様、どうかお力をお貸し下さい。
カガリさん、どうか、諦めないで下さいませ! わたくしも諦めませんから!



●カミ宿る器・後
「ここは……いつかの時に見た景色、だった気がしますわね……」
 燃え落ちる都市の景色に、月水・輝命(f26153)は覚えがあった。出水宮カガリがユーベルコードとして展開していたものによく似ていたからだ。
 技を競いあった当時と違うのは、それが内にいるものを傷つけないこと。これらはあくまで『背景』に過ぎない。
「……そういえば、カガリさんとはかつて模擬戦で戦った事もありますね」
 輝命と同じく、桜雨・カイ(f05712)もカガリと技を競ったことがあった。もう随分と前のことだ。
 再戦がこのような形になろうとは予想だにしなかっただろうが。
「あの時はあっけなく負けてしまいましたが。今回はそうはいきません」
「今のカガリ殿は、鴻鈞道人と完全に融合してしまっているのですよね」
 カイと共に吉備・狐珀(f17210)が前を見据えると、輝命も彼らと同じものを見る。

 視線の先。人形(ひとがた)は、まだ立ち上がった。
 本来人の身を守るための盾には元からある傷以外に損傷が無いのに比べ、その盾の主であるカガリは満身創痍であった。
 その傷は、斬りつけられたり、打ち据えられたりといった外的要因であろうものも少なくはなかったが、最も広範囲に及んでいたのは『内から喰い破られた』ような形状のものだ。
 本体が人体にないヤドリガミでなければ、到底生命の維持が不可能なような。それほどの非常識な形に成り果てていた。

「引き離すことができないなら……鴻鈞道人に痛手を負わせる手段は、カガリ殿に攻撃を仕掛けるしかないのかもしれません、が。
 私はカガリ殿を信じることはできても、鴻鈞道人を信じることはできない」
 狐珀は思うのだ。もはや満足に動くはずもない肉体に、鴻鈞道人が固執する理由はないのではと。
 カガリが求めた通り急所や本体の器物を壊したところで、たかが猟兵一人の命の終わりまで律儀に付き合う理由は鴻鈞道人にはないはずなのだ。
 自滅を望んでいるのでなければ。
「確かに……鴻鈞道人にとって一番都合がいいのは、彼を倒すためにカガリさんを攻撃した結果、カガリさんだけが倒れることですわ」
「つまり、カガリさんの動きを封じられれば被害は少なく……!」
 輝命とカイが思い至ったと同時、視界の端で動きがあった。脚が、胸が、人形の肉が有り得ない形に隆起して更に人の形を失おうとしている。
 人形というより、異形が人形の襤褸を引っ掻けているような。肉体を食い破ったどす黒い液体に塗れた触手達は、いよいよ彼の全身を喰い尽くそうとしていた。
「このままではカガリ殿の肉体が無くなってしまいます! そうなれば鴻鈞道人を逃がしてしまうでしょう、その前に!」
 絶対に彼を助ける。
 強く誓った狐珀は、白狐の姿をした保食神ウケと黒狐の姿の倉稲魂命ウカを傍らに呼ぶ。ウケは狐珀を守る結界を張り、ウカは彼女の兄が宿るからくり人形の傍に控えた。
(姫巫女様……どうかお力をお貸しください)
 五鈴鏡に祈る輝命。複製ではない本物の鏡は、輝命の覚悟の証。その覚悟は、彼女の姿を黒髪の巫女──最初の主である姫巫女の在りし日の形へと変じさせた。
(例えわたくしや、わたくしの器物が破損しようとも……!)
 狐珀とは対照的に、輝命は前へ出る。鏡の面(おもて)を翳せば、小さな鏡を叩き割るように容赦なく触手が振り下ろされる。
 残像を残して回避した先には、車輪のようにいくつもの刃を備えた触手。先端に大きな口が開いている触手。他にもありとあらゆるものが輝命を責め苛む中、触手は他へも狙いを向け始めた。

「輝命さん!」
 初手では天狗靴で飛ぶように距離を取っていたカイは、すぐに輝命の守りに向かおうとして触手に阻まれていた。カイの念糸は形も場所も選ばない。しかし今は、彼女を守るためにもまず自分の身を優先させねばならなかったからだ。
「兄様、押し返しますよ!」
 守りに徹していた狐珀が攻勢に出る。彼女の呼び掛けに応じた『兄』が炎を喚ぶと、傍らのウカが衝撃波で幾重もの『壁』として押し出したのだ。
 炎の壁越しに矢が飛んでいく。破浄の明弓――霊力で編まれた狐珀の矢はしかし、触手に命中することはなく風切り音を立てて飛んでいくばかりだ。
「当たらないですね……やはり強化されているのでしょうか」
「いいえ、当てる必要はないのですカイ殿。むしろ今は……これ以上当ててはいけません」
 カイに答える狐珀の懸念は、カガリの流血量。これまでの戦いに加え、今も多くの触手に喰われている。流した血の量だけこの触手が強化されることを思えば、もう血を流させてはいけなかったのだ。
 もっとも、それがこの矢の狙い全てではないが。

 襲い来る触手をオーラで弾きながら、輝命はその向こうにある人形を見ていた。
(カガリさんは守りがとても強くて、いつもわたくしは助けられていました。
 今度はわたくしが助ける番ですのよ)
 人形と触手がなるべく隅まで映るように、輝命は五鈴鏡を両手で掲げユーベルコードを解放する。
『鏡にうつるもの、うつすもの、鏡にうつし、禍を断たん。鏡はうつしうつすものなり』
 それは鏡の本質。鏡の面に写るもの、映しとったものを、鏡に移すことで浄化する力。
 更にこのユーベルコードに限ってその対象は『骸の海に纏わるもの』となる。オブリビオンでなくとも、『骸の海そのもの』である鴻鈞道人だけに届けられる。
 カガリの肉体をこれ以上傷つけることなく――
「く……ううぅ……っ!!」
 だが、相手は『骸の海』だ。猟兵一人で負い切れるものではなく、本来はカガリのように肉体や器物を喰い破られてもおかしくはない。この姿でいることで解放している自身の『呪怨』もまた、彼女を蝕みつつあった。
「カガリさん、どうか、諦めないで下さいませ!
 わたくしも……諦めませんから……!」
「彼は諦めませんよ、きっと。もちろん私も」
 輝命の後ろから『糸』が伸びる。『糸』はどこまでも伸びると篭目のように編まれて『壁』となり、『壁』は更に広がってカガリや触手達を囲って『結界』を形作っていく。
 『想い』を撚り合わせたカイの念糸――ユーベルコード『想撚糸』だ。
 自分の動きが封じられることを察したのか、ここに来て始めて触手がカガリの盾を取り、『糸の結界』を破ろうとぶつけ始めた。
「……その盾を越えることは難しいかもしれない。カガリさんの盾は、守ることが本職の城門ですから」
 しかし、カイも以前カガリに敗れたままの彼ではない。幾度もその足で戦場を駆け抜け、死線を潜り抜けてきた。カイなりの強さというものを、見出だしてきたのだ。
 ぶつけていた盾が強引に『糸の結界』の一点を破るが、直ぐに糸同士が撚り合わさって篭目を編む。更には、破られた場所の目を細かくして堅さまで変えていった。
「私の『結界』は自由自在に形を変えられるんです。そして思い出の数だけ糸を伸ばせる――結界を広げられるんです!」
(ならば術者を餐(の)むまでのこと)
 突如、カイの精神に割り込んでくる声。計り知れない深淵と死を感じさせるそれは、今カガリにいる鴻鈞道人のものだろうか。自らの精神力を代償に繰っている『撚糸』は、その精神自体を捕まれるとどうしても弱い。
「カイ、さん……!」
 輝命の声もどこか遠い。意識が薄れて結界の結い目が緩みそうになった時、カイの目を醒ますような龍の咆哮と鉾鈴の音が響く。それを合図とするかのように、カガリの周囲に稲妻が乱れ飛んだ。
 稲妻が飛ぶのは、外れた矢が落ちた範囲内――狐珀の狙いは、初めからこれだったのだ。
「その出血量でも、不意打ちで回避は難しいでしょう。そもそも雷はまっすぐ落ちませんし、落ちて終わりでもありません」
 あくまで、カガリの器物も急所も傷つけることなく、最適なタイミングと加減で以て肉体を限界まで追い詰めることに狐珀は拘っていた。それが難しいことは承知の上だが、この状況ならば――むしろ、ここで駄目なら。
「さあ、死にたくなければカガリ殿を返すのです!」
(死とは過去……過去とは骸。骸とは即ち私である)
 炎と霹靂で更に攻め立て狐珀が凄む。しかし、意識に直接呼び掛ける声は弱まる気配がない。
 肉体はもう動けないのに、鴻鈞道人であるその精神は元のままだ。己は初めから骸だったのだから死ぬことはない、と。
「なら、ば……あるべき姿に、戻ってください……っ、骸の海へ!!」
「カガリさんを、道連れにはさせませんのよ……!!」
 侵されそうになる己の精神を、尊い想いと記憶達を撚り合わせて保つカイ。
 呪いに蝕まれながらでも輝命が浄化の光を強めると、彼は振り払うように精霊の宿る扇を広げた。
「狐珀さん、……いい、ですか」
 最後にカイが確認する。彼女がどれほど策を重ねて加減に気を配っていたか知っているからだ。
「……」
 狐珀は、先程聞こえた声を考えていた。「死にたくなければカガリを返せ」という要求に対して勿体ぶったことを答えていたが、要は死を何とも思っていないのだ、この『骸の海』は。
 ならば、カイ達の言うあるべき姿、即ち骸の海へ還すことこそが、カガリと彼を分ける唯一なのかもしれない。
 本当に――それしかない、ならば。
「……わかりました」
 それだけ答えた。仲間を信じるがゆえに。
 狐珀が稲妻の乱舞を一層強めて触手の自由を奪うと、輝命の光に照らされているカガリに向けてカイは扇を振り抜いた。
 弧を描いた炎の波動は、雷を潜って彼の髪へ纏わり付く。本来の金色がほとんど褪せてしまった長髪は、炎に焼かれて焼け落ちて。

 触手が形を無くしたその場所に残されたのは、彼の顔面と同じ一筋の傷が特徴的な鉄門扉。
 来た時と同じくグリモアの門が残っていたことが、心許なくも彼の生存を示す証となっていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2022年03月10日


挿絵イラスト