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わたしが、しにます。

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 先月は、三軒先のおばあさんだった。

 目と足を患っていて、「すまないね」が口癖だった。
 手伝いに行く度に「すまないね」「すまないね」と言う姿が、痛ましくも篤実な印象で、私は内心密かに親しみのようなものを感じていた。
「いいのよ、お互い様じゃない」
 と、孤児院の先輩が言っても、いつもいつも、祈りの言葉のように同じことを言っていた。

 先輩がいなくなって、私がおばあさんのお世話をしたときも、やはりおばあさんは「すまないね」と言った。
「いいのよ」
 私は先輩の真似をして言ってから、少し考えた。それから、
「おばあさんのこと、好きだもの。私」
 と続けた。本心だった。
 おばあさんは一度、声を喉に引っ掛けたようなような音を出して……私が聞く内で初めて、「ありがとう」と呟いた。
 「どういたしまして」と答えて、私はおばあさんの家をできるだけぴかぴかに磨き、整えた。

 ああ。
 私は本当に、あのおばあさんが嫌いではなかった。

 おばあさんが“消える”三日前のことだった――。


 29.53日。
 新月の晩。
 およそひと月に一度、この町からは一人が消える。
 ……正確に言えば“消える”のではない、“差し出される”のだ。
 だが、誰もそうとは言わない。自分たちの手で誰かを消しているのだと認めるのが怖い。
 だから誰も言わない。言わないままに従う。

 町の人たち、みんなが、全員が、誰もが私をじっと見ていた。
 みんなの顔がどんな表情を浮かべていたか、覚えていない。ただ、どの瞳も、疲れと絶望で重く淀んでいた。
 人間はどうしようもない状況だと、逆に笑ってしまうものなのだと知った。
「わ、わたひっ、わたし がっ」
 落ち着いて答えたい。
 なのに、どうしても顎が言う事を聞かず、歯と歯がガチガチとぶつかって音を立てた。視界の半分には黒い靄、もう半分は白い火花が散っている。
 ただただ、気持ちが悪い。
 耳元で何重もの葬送の鐘を大音量で流し込まれているような。
 氷漬けになった体を無理やり棺に押し込み、馬で引きずられているような。
 体中のありとあらゆる場所が、拒絶反応を起こしていた。本当に気持ちが悪い。
 嫌だと泣き叫んで、蹲って、それでみんなが諦めて、そっとしておいてくれたらいいのに。
 でも、それは許されない。知っている。分かってる。私が断ったら、消えるのは一人では済まないのだ。

 先輩も、おばあさんも、こんな気持ちだったのだろうか――。

 粗末な服を握りしめ、歪な笑顔で、私は言った。

「わたしが、しにます」


 グリモアベースで、依頼に向かってくれる猟兵を待つ天之涯・夕凪(動かない振子・f06065)の表情は暗かった。
 ダークセイヴァー世界、生贄の救出と敵の殲滅。
 依頼の内容としては――言い方は悪いが――、至極単純である。ダークセイヴァー世界にありふれた内容でもある。
 無辜の民が虐げられることが常の世界で……、だからと言って、その一々に心を痛めてはいけないという法はない。
 少なくともこのグリモア猟兵は、自らが予知してしまったばかりに自身では直接助けに赴けなくなった事実……そのことに、酷く歯痒さを感じているようだった。
「私も行けたら良かったのですが……何せ、皆さんを転送するゲートの維持で手いっぱいでして」
 彼の顔を困ったような表情に見せる一番の原因である八の字眉。
 その眉尻を、一層落としながら青年は苦笑した。それからすぐに口元にキュッと力を込めて引き締める。
「……生贄に捧げられる予定の少女は……いえ、少女だけではなく、町の方は皆、“誰かが死ななければ全員殺される”のだと思っています。強迫観念と言っても良いでしょう。町民たちは嫌でも少女を殺さなければならないと思っていますし、少女本人も自分が死ななければならない。逃げるなど許されない、と強く信じ込んでいます」
 集団催眠に掛かったようなその状態を解くには、根気強い訴え掛けが必要だろう。
 町の者達に害を与えず、何らかの手段で実力を見せることも信用を勝ち取るための手立てかも知れない。
 グリモア猟兵は言葉を重ね、
「どうぞ私の分も……宜しくお願いします」
 丁寧に頭を下げた。
 青年の周囲に浮く時計を模したグリモアの針がカチカチと音を立て、どこからかボーン、ボーンと、物悲しげな音が響いた。途端、グリモアベースと異世界を繋ぐ道が開かれる。

 下げられた頭は、深く、深く……皆の背が見えなくなるまでそのままだった。


夜一
 お世話になっております。夜一です。
 今宵、新月。
 夕凪に素敵な立ち絵が完成しましたので、お披露目を兼ねたシナリオを出させていただきます。
 第一章のプレイングは、追加OP(生贄になる女の子の状況や今回の生贄の儀式に関する簡単な説明等)公開後からの募集とさせていただきます。
 また、少し色々と試みをしてみたいなあと思いますので、宜しければマスターページもご覧ください。
 (見なくても参加には全く支障ありません)

●ご注意
 ・マスターの執筆傾向。
 アドリブ色が強めです。
 参加PCさんに他の参加者の方と行動を連携させるリプレイが多いです。
 ご参加いただいた方のキャライメージを損なわないことを最優先でリプレイを作成しておりますが、ご了承の上ご参加いただけると幸いです。
 アドリブ不可や単独描写希望の方は、ステータスシートにその旨を記載いただけると助かります。

●その他
 本シナリオは
 第1章 冒険パート
 第2章 集団戦
 第3章 ボス戦
 という構成になっております。

 今回につきましては、冒険パートで町民みんなを気絶させるといったような、パワー is 全てを凌駕する、的な内容はお控え頂けると助かります。

 それでは、皆様の個性あふれるプレイングを楽しみにしております。
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第1章 冒険 『贄の祭』

POW   :    贄となる人間を周りの村民から身を呈して守る

SPD   :    処刑から贄を連れて逃げ回る、背後などを取って気絶させる

WIZ   :    言葉巧みにこの行いをやめるよう説得

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 パヴラ・モルナール、17歳。
 赤毛と欠けた前歯が特徴的な少女。
 父を早くに亡くし、4歳の時に母も流行り病でこの世を去る。
 後、クシェネク修道院に付属する孤児院にて育つ。
 やや気が強く頑なな面はあるが、敬虔で朴訥。
 よく笑い、よく働く、実直な人柄。
 数か月前から、笑うことがめっきり少なくなった。

 ――彼女もまた、流行り病の兆候あり。


 転送先は、クシェネク修道院の入口正面であった。
 時刻は夕方頃であろうか。
 薄曇りで判別しにくいが、少なくとも太陽は沈みかけているらしかった。
 家路に急ぐ者が行きかっていておかしくない時刻……であるにも関わらず、町はしんと静まり返っている。
 町民もいることはいる。けれど、誰しも人と顔を合せないよう、俯き、口を閉ざし、道の端に避けながら逃げ帰っていく。
 その光景は、凡そ正常な町とは、とても言い難かった。

 出立前の話によると、儀式が行われるのは夜である。
 顔を隠した複数の町民たちで、生贄となる人物を墓地へと連行する。
 墓地の奥には磔台があり、生贄はそこに縛り付けられて……、
 そして彼らは、自分たちを守るために、自分たちの手で生贄に手を掛けるのだ。
 粗末な作りの木の槍で、
 刺す。
 刺す。
 死ぬまで、刺す。
 何度も、何度も、何度も、何度も。

 自分たちが助かるために、自分たちが見知った顔を犠牲にする。

 昨日あいさつを交わしたあの子を。
 自分が乳飲み子の時に面倒を見てくれた隣人を。
 自分と同じ敬虔な信徒である彼女を。
 だが、彼らだってそれが正しいとは思っていない。ちっとも。
 悪いことだと分かっているからこそ、顔を隠すのだ。顔を晒してなど、できるわけもない。当然だ。こんなことは狂っていると、皆が知っている。
 だからと言って、非力な民に何が出来ようか。蝋燭の火を吹き消すように、吐息ひとつで消し飛ばされる軽い命で――。

 数時間。
 猟兵たちに許された時間は少ない。
 余所者であるあなた方が彼女たちの心を揺り動かすのは容易ではない。恐らく、拒絶に近い言葉を受けることだろう。

 それでも、あなたが束の間だけ灯った蝋燭の炎を守りたいと思うのならば……、
 さぁ、進め。
 その足を、前へ。
バル・マスケレード
……パヴラとかいうガキに、言いてェことがある。

死が怖い?結構。
だが本当に〝死ぬ〟って感覚を知らねェから、震えながらもソレを選べるんだ。
――だから、直接教えてやらァ。

俺はかつて一度、死の淵にまで至った身だ。
俺自身を……仮面をパヴラに被せ、その記憶を直接流し込んでやる。

自分を構成する全てが溶け落ちて、虚無に還る。
世界から置き去りにされる、その感覚を。

「死ぬってェのは、こういうコトだ」
「テメエ、コレが良いのか。コレで良いのか」
「みっともなく、生き汚く泣き叫んで、助けでも求めてみろや」
「それでも、〝コレ〟よりはよっぽどマシだろうがよ」

希望を与えるつもりはねェさ。
だが。
絶望を絶望で塗り潰すなら、本分だ。


フィオリーナ・フォルトナータ
誰かが死ななければ生きられない
誰かが生きるために誰かを殺すという矛盾からも
目を背けなければならない程に追い詰められているのですね
そうして成り立ってきた在り方を変えることは
容易ではないと理解しています
それでも…わたくし達の力で、変えられる何かがあるはずです

旅人を装い修道院へ
今夜の宿を頂けないか交渉を
叶いましたらパヴラ様に一目お逢いしたく

…パヴラ様
貴女は本当に、自ら命を差し出すことを望んでおられますか
もしも、ほんの少しでも、貴女が『生きたい』と望んで下さったなら
…この夜を超え、明日を迎えたいと思って下さったなら
わたくしも、ここにおられる皆様も
貴女のためにこの剣を、力を、振るうことを約束致しましょう



● 黄昏 其の一
 クシェネク修道院の扉が叩かれた。
 定刻にはまだ早い時間だ……恐る恐る扉を開き、顔を覗かせた修道女の目にまず映ったのは一足早い春を告げるかのような落ち着きのある女性だった。
「日暮れ前に申し訳ありません。わたくしたちは訳あって旅をしている者。どうか一晩の宿を頂けないでしょうか?」
 フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)が祈りのポーズと共に頭を下げる。
 “わたくしたち”という言葉に、彼女の後ろを見ると、なるほど、同伴者が立っていた。
「今夜は少々立て込みますので、お構いはできませんが……」
「構いません。寝る場所をお借りできればそれで充分です」
 一行が女性ばかりということもあり、それならばと修道女は二人を中へと促す。
 ありがとうございますと礼を言い、フィオリーナも後へと続いた。

 案内される途中、外に見える小さな別棟の建物を見つけたフィオリーナが、先頭を歩く修道女へと問いかける。
「あの建物は?」
「あれは身寄りのない子たちの住む家です」
「所謂、孤児院ですか。何人ぐらいの子を引き取っていらっしゃるのですか?」
「十……いえ、八人です。ええ、八人」
 フィオリーナの空色の瞳が、幽かに曇った。
 もしかしたら儀式のせいではないかも知れない。
 けれど、少なくとも二人は、何かしらの理由で既にいなくなってしまったのだ。
 女は痛む心を隠しながら、それを気取らせない声で再び尋ねる。
「まぁ、大勢の子がいるのですね。この時間だと会うのは難しいでしょうか」
「ええ、夕餉は済ませてしまいましたから、今日はもうこちらへは来ないように言いつけております」
 子どもたちに会えなくて残念ですと言うフィオリーナの視界。
 赤がちらりと映り込む。
 夕焼け? いや、あれは人だ。赤毛の少女。ということは彼女は――、
「パヴラ・モルナール。そこで何をしているのです」
 フィオリーナの思考に応えるように、修道女が彼女の名を呼ぶ。
 はっとした顔で、孤児院の方を見ていた少女は振り返り、ばつが悪そうに首を竦めた。
「言ったはずです。今日は部屋から出るなと。戻りなさい」
 はい、と答える声は力なく。
 少女は修道女に一度と、彼女の後ろにいる客人二人にもう一度頭を下げると回廊の先の部屋へと入り、扉を閉めた。
「彼女は?」
 すかさず、フィオリーナが尋ねる。
 修道女は小さく溜息を吐いて、二人を見返る。
 その目に、哀しみと罪悪感が滲んでいる。
「ここで引き取っている孤児の子です。ですが……」

「どうかお気になさらず」

 その声は、「触れるな」と言っているように聞こえた。


 少女の部屋が、コンコンとノックされる。
 修道女が先ほどの件で小言を言いに来たのかと、思って。
 日頃あまり叱られることは多くはなかった。真面目に、神様の教えに従って生きてきた。
 小言はもちろん好きとは言えないが、これで聞き納めかと思えば聞いておこうと思えた。
 少女は無警戒に扉を開く。

 一瞬、真っ黒な壁が聳え立っているのかと思って、パヴラはぎょっとして一歩後ずさった。
「よォ。〝終焉〟を〝終焉〟させに来たぜ」
 壁は、奇妙な仮面をつけていた。


「少しお邪魔致しますね」
 不躾な言葉と裏腹に丁寧にお辞儀して中へ入った長身と、華やかな見目の女性。まるで貴族様のようだと、少女は一瞬、ぽうっとした表情を浮かべた。
 が、すぐにそんな場合ではないと思い出す。
 圧倒されてついつい道を譲ってしまったが、少女は慌てて声を潜め、
「お、お客さん、ここに来ちゃだめよ……! 私、今日は人に会っちゃいけないのよ……!!」
 二人に部屋から出てもらおうと、扉を指した。
「なぜですか?」
 フィオリーナの問いかけに、少女は一瞬、いつかの老婆のように言葉を詰まらせる。
「……それは、……私、流行り病だから。お客さんに移しちゃいけないし……」
 空色に射抜かれるようだ。居心地の悪さに顔を背けて、包帯が撒かれた腕を、ぐっと握りしめた。
「いけない、“し”?」
 女は、柔和ながらも強い意志を秘めた声で、その先に続く言葉を問う。
 答えられるわけがない。
「これから死ぬから、ってか?」
 その言葉に、少女は目を見開き、声を発した人物……バル・マスケレード(エンドブリンガー・f10010)を見る。
「どこでそれを……」
「どこでだって関係ねェだろ。重要なのは、俺達がその未来をブッ壊しに来たっつーコトだ」
 バルの言葉にパヴラは首を振り、一気に警戒の色を見せる。
「無理よ。そんなことは」
「……パヴラ様」
 労りを込めた目が細められる。
 少女の前にしゃがみ込み、見上げるようにして手にそっと触れ、フィオリーナが声を掛けた。
「貴女は本当に、自ら命を差し出すことを望んでおられますか?」
 ぐっと、唇が噛み締められたのが見えて。
 答えを聞く前に、人形は言葉を続ける。
「もしも、ほんの少しでも、貴女が『生きたい』と望んで下さったなら……この夜を超え、明日を迎えたいと思って下さったなら、わたくしも、ここにおられる皆様も貴女のためにこの剣を、力を、振るうことを約束致しましょう」
 触れた手から、少女の手の振動が伝わる。
「貴方の本当の心を教えてくださいませんか……?」
「何を、」

「何を言ってるのか、ぜんぜん、分からないわ」

 わなわなと震える唇。歪な笑み。
 少女は溢れ出しそうなものを必死に堪えながら、首を振った。
 頑なだ……けれど、想定どおりの反応でもある。
 手が勢いよく振り払われた。
「おい、ガキ」
 昂った感情は勢いづいたまま、ガキ呼ばわりした相手へと向けられる。
 振り返り様に睨みつけられて。だが、仮面はそんなことで動じはしない。
「俺はテメェに言いてェことがあんだ」
「……何よ」
「テメェ、死ぬのは怖ェかよ」
「は?」
「死ぬのは怖ェかって聞いてんだ」
 突然の質問を理解できず固まる少女に再び同じ問いを投げかけて、バルはゆっくりと少女に近づく。
 不吉さの伴うその姿は、少女には『死』そのものに見えた。じりと、後ずさる。
「結構。答えなくてイイ。顔見りゃ分かる」
 それより早く、仮面の人物は距離を詰め、少女の方を強く掴んだ。
「だが本当に“死ぬ”って感覚を知らねェから、震えながらもソレを選べるんだ」
 当然だ。死ぬ感覚など、通常の生き方で知りようはずもない。
 少女の混乱は高まる。
「離し「――だから、直接教えてやらァ」
 言うなり、少女が叫ぶ前にバルが本体を離れ、パヴラへと乗り移る!
 思いがけない行動に、抵抗する間もなく少女は動きを止め……。
 がくりと、膝から力が抜け落ちた。
 だらりと、両腕が垂れ下がる。

 * * *

 そこには、何もなかった。
 神様は自分を迎えてはくれず、輝かしい天国への門は影も形もなく。
 かといって、亡者たちの列に並び、責め苦を味わうこともなく。
 痛みもない。喜びもない。
 自分自身すらない。
 寄る辺のない魂は、やがて崩れ自分自身すら――、

 * * *

 そこで、意識が戻ってくる。バルがパヴラから身を離したのだ。
 死を知る終焉は、元の主人の体へと戻ってパヴラを見下ろして言った。
「死ぬってェのは、こういうコトだ」

「テメエ、コレが良いのか。コレで良いのか」

 震える少女の背をフィオリーナが支える。
 震えだけではない、滝のように汗が流れていた。けれど、流れる汗があって、そうなる体があって良かったと、そう思ってしまうほどの衝撃に、少女はまだ声を発することもできずにいて。
「みっともなく、生き汚く泣き叫んで、助けでも求めてみろや」
 バルがしゃがみ込んだ。
「それでも、“コレ”よりはよっぽどマシだろうがよ」

 そう言われて暫し、彼女が声を出せるようになるまで静かに待つ。
 漸く喉から押し出した声に、猟兵二人は耳を傾けた。
「……のよ」

「何なの、あなたたち……! 知らない人が口を出さないで!!」

 少女は叫んで、手足を振り回し始めた。取り押さえるのは訳ないが――、
「出てってよ!! 出てって!! シスター!! 早く来て、この人たちおかしいわ!!」
「チッ、まだ暴れる元気があんのかよ」
 舌打ちをしながらも、バルは人の集まり来る気配を素早く察していた。
 それはフィオリーナも同様で、バルの肩を叩き、素早く立ち上がる。
「バル様、人が集まってきます。ここは一度退きましょう」
 再び舌打ちをしたバルもその提案に乗って、二人は素早く闇の気配が濃くなり始めた外へと気配を消した。
「パヴラ! どうしました、パヴラ!」
 集まってきた修道女たちが、彼らの消えた方向を眺め放心している少女に、何が起きたのか尋ねかける。
「いいえ……」
 少女は未だ混乱の最中、ゆっくりと首を振った。
「さっきの旅の人たちが押しかけてきて……でも、もう逃げていきました」
 今経験したことを、話しても信じてもらえるとは思えなかった。
 だって、自分自身ですら、まだ信じられていないのだから……。

 * * *

「ったく、強情なガキだぜ」
「先ほどは、パヴラ様に何を見せたのですか?」
 薄暗い道を駆けながら、フィオリーナがバルに問いかける。
 バルはつれなく仮面を反らして、行く先へと視線を向けながら、
「……語るほどのコトじゃねェ」
 とだけ答えた。それから、話を切り替える。
「で、どうする。さすがにもう直接接触できそうにはねェぞ」
 バルの言葉に、フィオリーナは神妙な顔で頷いた。
 夜闇の中でも、空色は未来を見据え。
「儀式の場……墓地へ参りましょう。まだ、わたくしたちにできることがあるはずです」


 おかしな人たち!
 おかしな人たち!
 おかしな人たち!
 一体、何だっていうの!?
 あの人に見せられたあれは一体――。

 震えが止まらない。止まれ。止まれ。止まれ。
 止まって。
 もう、儀式は止まらないんだから。

 ―― 貴女は本当に、自ら命を差し出すことを望んでおられますか? ――
 ―― テメエ、コレが良いのか。コレで良いのか。 ――

 頭の中でリフレインする声を拒むように、両耳を塞ぐ。
 音は余計にひどくなるばかりだった。

「いいわけ、ないじゃない……っ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
そかそか、その子が、しんでしまうの
――そしたら次の月は、どなただろう
毎月毎月差し出して、お次はどなたの、番だろな
くるり見渡して数を数えてみましょうか

そんなら来月、二人に増えたら?
満月の日とそれぞれに増えたら
いいえ、それとも、それすら、飽いたなら
ご機嫌取りの続く保証はないものだと見まわして
……非難する気は、ないのだけど

今なら僕らが、翻してさしあげられる
どうせ、死ぬなら
――その命を賭けてみる気はないかしら
なんなら、そうな
今宵代わりに差し出されても、良いよと笑って
証左が欲しいなら僕の手立てを一つ示そう
リザレクト・オブリビオンでお招きして
どちらが喰われるか、ためしてみよか


三寸釘・スズロク
◆WIZ

人身供犠…どこの世界も通る道なのかねえ。

町酒場とかあれば行ってみるか
「処刑人」の中には酒でも入れなきゃやってられねーってのも居るかもなって
ついでに俺も一杯、なんて

余所者が差し出がましいようですケド。
今日の夜の事、アンタら、本当にやるの?
…それで、本当に助かるつもりでいる?
呪いってのは根が深いもんで、ずっと続くんだ。所謂末代までってな。
一時凌ぎが、後々取り返しのつかない厄を生む事になるぜ…

此処(の世界)には人形の技術があるよな。
不安ならああいうモノで代用したっていい。アレには俺も助けられてんだ。
そういう知恵でヒトは進んできた。
アンタらに負の連鎖を断ち切る勇気があるなら…
俺らも手を貸すぜ。



● 黄昏 其の二
「お、ビンゴっぽいなありゃ」
 処刑人が気を紛らわすためにいるのではないかと、酒場へやってきた三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)が、見渡してアタリをつけたのは、浮かない顔で酒を煽る中年の男だった。
 机の上には空になったグラスが何杯かおかれているが、ちっとも酔えていないようだ。
 グラス片手に飄々とした足取りで相手に近づき、正面の席に腰かける。
 あ? という声と共に、向けられる怪訝な視線に、へらりと笑い、どーもどーもと手を振る。
「ちっす。相席頼んます」
「……他当たりな。そういう気分じゃねぇ」
 そりゃもう顔見りゃ分かりまスと内心で呟きながら、立つ気配を見せずにスズロクはグラスを傾けた。
「ぐっえ、マズ……!」
 口にしてすぐ、顔を顰めて咽る。
 どうやら目の前に来たこの青年は席を離れる気はなさそうだ。
 追い払うのにも気力と体力がいる。生憎とそれらを持ち合わせていない疲れた男は、溜息を吐いてスズロクに問いかけた。
「……ロクな酒もねぇ町で悪かったな。……アンタ、余所者か?」
「ああ……まぁ、そっすね」
「やっぱりか。アンタも運がねぇヤツだな。何もこんな日に来ちまうなんて」
「それって」
 どういう意味かとスズロクが聞こうとすると、男は首と手を振ってそれを遮る。
「いや、何でもねぇ。気にしないでくれ」
 元々、儀式のことに表立って触れないようにして生きて来た町だ。余所者に対しては尚のことだろう。
(こりゃ踏み込まなきゃ、これ以上は当たり障りなく躱されて終わりっぽいな)
 仕方がない。カマかけてみるか。
「余所者が差し出がましいようですケド」
 残すのも気が引けるしという貧乏性に従って、スズロクはまずい酒を一気に煽り飲みむと、勢いよくグラスを机へと置いた。グラスの水滴が机に散る。
 高い音が重たい酒場の空気を割って。
「今日の夜の事、アンタら、本当にやるの?」
 ギクリ。
 目に見えて、男が体を硬直させた。
「……それで、本当に助かるつもりでいる?」
 男が口を挟む前に、更に詰める。
 じっと見る青年の目に、いつもの気安さは薄く……その口元も固く一文字に引き結ばれていた。
 俄かに、男の体が震え始める。
「あ、アンタ一体……」
 ガタリ。椅子が引かれる。
「責めてるわけじゃねーんだ。頼む、聞いてくれ」
 立ち上がり、逃げようと男に、スズロクは声の調子を変わらずに言う。
 そもそも好きでやっている事ではない。男は苦り切った顔をしながらも、再び、ゆっくりと椅子に座り直した。
 だが、聞いてくれてアリガトよと言った青年の言葉には応えずに。
 聞いてくれるだけで御の字だと、スズロクは説得の言葉を紡ぐ。
「イイか? アンタたちのやってる事はさ、こー言っちゃなんだが、一時凌ぎなんだぜ」
 青年は、机に散った水滴の一つに、ぴたりと指をつけた。
 返事はない。だが、男の視線は青年の動きを気にかけているのは明白だ。
 言葉を続ける。
「今はイイだろうさ。だがな、呪いってのは根が深いもんで、ずっと続くんだ。所謂末代までってヤツだ」
 つーっと指を机上に滑らせると、指の下に水滴がどんどん集まっていく。
 小さな一滴が引き寄せられるように雫を呼び、やがて大きな塊となった。
「こんな事続けてりゃ、後々取り返しのつかない厄を生む事になるぜ……」
 男は大きくなった水溜まりに何かを想像し、ぞっとしたようだった。
「だ、だが、んな事言ったってもう遅い。もうパヴラは……」
「パヴラ」
 突如、隣に現れた小柄な青年に、男は椅子から転げ落ちかけた。
 スズロクも驚いた顔を向けていた。
 そんな二人の驚きに、青年――イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は、くすりくすりと仄かな笑いを浮かべて。
「そかそか、その子が、しんでしまうの」
 “死ぬ”。
 突きつけられたその事実に、男は床にへたり込んで動けなくなる。
 イアは気にせず、夜に似た藍色の瞳を細くする。月の、欠けるようだった。

「――そしたら次の月は、どなただろう」

「毎月毎月差し出して、お次はどなたの、番だろな」

 ひぃ、ふぅ、みぃ。
 酒場をくるりと見渡すに連れて、衣装の裾が広がり、揺れる。
 唱える言葉は、まるで唄うようですらあり。
 夕刻にも関わらず人の少ない酒場は、数えるに両手の指では余るほどだ。余った指を、折り曲げて見せる。
「この町の……人間は、そんなこた百も承知だ……!」
「そうなあ。知っておろうなぁ。でも、そんなら来月、二人に増えたら?」
 男が辛うじて返せた言葉は、いとも儚くイアの言葉で罅割れた。
「満月の日とそれぞれに増えたら?」
 砕けていく。
「いいえ、それとも、それすら、飽いたなら」
 バラバラと。

 想像を促す彼の言葉に、男は察する。彼の言わんとすることを。
 自分だけではない。この町すべてが……所詮、気まぐれに生かされている命であることを。
 愕然とする男に、イアはぱたぱたと生気の薄い手を振った。
「僕も、非難する気も、追い立てる気も、ないのだけど」
 目の前の男は、少なくとも町長ではあるまい。そんな彼ばかりに言い募っても仕方がないという部分もあるし、また、彼らにも立ち行かぬ事情があるということも分かっている。
 イアは、男の目の前にちょこんとしゃがみ込んだ。
「だけど、今なら僕らが、翻してさしあげられる」
 囁くように言う声は、妙な引力を孕んでいた。
「今日にでも、明日にでも、消えるとも知れないその命」
 青年は、細い指で、男の胸の真ん中。心臓の位置を指さして、
「どうせ、死ぬなら――賭けてみる気はないかしら」
 トン、と突く。
 衝撃と言えるほどのものではない。だが、その所作は酷く鋭く男を貫いた。
「なんなら、そうな。今宵、僕が代わりに差し出されても、良いよ」
 笑う青年は、違和感がなく見える。見えるが、男はどこかで思う。これは自分達とは異質な存在であると。
「イア、程々にしてやれよ」
「ああ、怖がらせてしまったかな。ごめんね。そういう心算じゃなかったのだけど」
「俺らが身代わりになる……ってわけじゃねーけどさ、此処には人形の技術があるだろ。不安ならああいうモノで代用したっていい。アレには俺も助けられてんだ」
 スズロクが手を差し伸べ、男を立ち上がらせる。呆然とする男の意識をノックする代わりに、自身のトランクケースを軽く小突きながら。
「そういう知恵でヒトは進んできたと俺は思うからさ。アンタらに負の連鎖を断ち切る勇気があるなら……俺らも手を貸すぜ」
 そう言ってトランクケースを持つと、もう一人の青年に行こうと促した。
「おや、もういいの」
 青い青年はきょととそれを見るや、断るでもなくその後に続き。途中で振り返り。
「他の方にも伝えておいて。あなた達を助けに来た者がいるよと」
「悪かったな、酒マズくしちまってよ」
 ま、考えといてくれ。言って二人、手をひらひらと揺らしながら去るその背に、

「……ちくしょう。元から美味くなんてねぇよ」
 男は吐き捨てるように言った。
 

 町の集会所。数名の男。ざわつき。
「どうも、今夜のことについて聞き回ってる余所者がいるらしいな」
「そいつら、儀式を止めさせようとしてるのは本当なのか?」
「ああ、如何にも只ならぬ雰囲気の男二人連れだってよ。トマーシュが会ったってよ」
「何でも、俺達を助けに来たとか言ってたらしいが……」
「助ける? そんなのできるはずねぇだろ!」
「俺に怒鳴るなよ」
「トマーシュのヤツ、すっかり怖気づいちまって……もう俺は手伝いたくねぇなんて言いやがる」
「……そんなこと言うなら、俺だってもうやりたかねぇよ」
「言うな。それを」

「余所者といや、パヴラのところにもおかしな旅人が現れたらしいな」
「パヴラのところは物取りだと聞いたぞ。盗る前に逃げたそうだが」
「そうなのか?」
「ああ。だが、どちらにせよ今日はおかしなことが多いみたいだな。まったく……ただでさえ気が重いっていうのに……」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レガルタ・シャトーモーグ
誰かを犠牲にして生き永らえる
クソみたいに、よくある話だ
まったく、気分が悪い…

少女の拘束を解くのは簡単だろう
心が拘束されては逃げる事もままならない
チッ、厄介な…

まずは【迷彩】で姿を隠し村人の状況を少し離れた所から偵察
墓地へ先回りして【罠使い】で足元に細いワイヤーの罠を仕掛けておく
村人が通りかかったら罠を起動
足並みが乱れたらその隙に少女を連れて逃走
説得するにしろ、落ち着いた状況が必要だ
鳩尾に一撃は…最終手段

建物の影など隠れ場所に逃げ込み
可能なら説得

あんたが犠牲になったところで、根本は何も変わらない
次は別の奴が死ぬだけだ
それでいいのか?
俺が嘲笑ってる奴らを殺してやる
だからそれまで隠れていろ
いいな


アルトリウス・セレスタイト
まずは探りを入れてみるか

村内に潜んで窺う。主に村人の様子
具体的には支配するオブリビオンが儀式を眺めに来ていたりはしないか
概ね暗く落ちているであろう表情や態度と、他の猟兵の活動による状況変化への対応でそれがどの様に変化するか
無気力なはずの村人が猟兵を強硬に邪魔したり、儀式より猟兵の方により興味を惹かれる様子があれば怪しいと見なせるか

そういった者があれば動きを確認
見咎められそうな時は適宜透化でやり過ごす

並行して生贄予定の者が救出されるか注意
墓地の磔台にまで連行されるようなら隠密を解除し介入
回廊で転移して奪い取る
その際、周囲に邪魔してくる村人があれば魔眼・封絶で縛る


鹿忍・由紀
オブリビオンにとってこの儀式は何か得することがあるのかな。
指示してやらせてることなら、儀式を邪魔されるのを良くは思わないだろう。
…儀式自体は別にどうでもいいんだけど。

説得とか、苦手なんだよなぁ。
とにかく儀式を行えないようにしてしまえば良いんだよね。
女の子と町の人達の間に割り込み、「殺気」「恐怖を与える」で威圧、足止めする。
それぞれへの対処は他の猟兵に目配せして協力しよう。
生贄はどういう基準で選ばれてるんだろ。
女の子が駄目なら他の者、ってならないように気をつけなくちゃね。

(女の子が騒ぐようなら)
煩いなぁ。無理やり自分で納得してるつもりで、出来てないくせに。
これで良かった、なんて顔してないじゃん。



● 定刻 其の一
 陽が落ち切る直前。
 町から墓地へと続く道に潜んで時を待つ三人の猟兵たち。
 その近くの茂みがガサガサと揺れたかと思うと、瞬時に一人の少年が姿を見せる。
 アルトリウス・セレスタイト(原理の刻印・f01410)だ。
 ユーベルコード《透化》で姿を隠し、町内、そして住民たちの様子を探って来た彼は、その場にいる三人と状況を共有する。
「町の様子を探ってきたが、オブリビオンらしき者はいなかった」
「そうか。現れるとしたら、やはり墓地か」
 アルトリウスの言葉に、レガルタ・シャトーモーグ(屍魂の亡影・f04534)が頷く。
「罠は?」
「抜かりない。既に仕掛けた」
 アルトリウスが茂みの隙間から、レガルタの指さす先を覗き目を凝らす。
 よく見なければ分からないが、道を横切るようにワイヤーが渡されているのが分かった。
 自分でもそうなのだ。夜道、更に相手が一般人ならば、事前に気付くことはほぼ不可能だろう。
「オブリビオンにとってこの儀式は何か得することがあるのかな」
 ぽつと呟いたのは、鹿忍・由紀(余計者・f05760)だ。罠には興味がない様子で、遠くを見るように白い顔を宙へ向けている。
「さぁな。オブリビオンが生贄を欲するというのは、クソみたいに、よくある話だが……まったく、気分が悪い……」
 少年は腕を組み、嫌悪の色を隠さぬ声で言う。
「ああ、本当に……何たる所業……!」
 自身の両腕を掻き抱いて胡・翠蘭(鏡花水月・f00676)も同意を示す。続け、
「早く元凶のオブリビオンを嬲り殺して差し上げたくて堪りませんわね……!」
 言うその言葉に、レガルタが幼い顔立ちの中心にある眉と眉、その間に皺を寄せた。
 そんな彼の様子を見て、翠蘭は艶のある唇を弛ませて。
「……ふふ。そんなお顔をなさらないで、シャトーモーグ様。綺麗なお顔が台無しですわ? 今はまず、現状への対処を優先いたしますので」
 にっこりと笑う。
 この女の本気は計りかねる……と、少年は首を振った。
「アンタ、儀式に興味があるのか?」
 再び話を戻し、アルトリウスが由紀へと問う。
「いや、全然。儀式自体は別にどうでもいいんだけど」
 青年はしれっとした声でその問いに否定を返し、少し間を置く。
「指示してやらせてることなら、儀式を邪魔されるのを良くは思わないだろうと思って」
「ふむ。儀式の理由は分からんが、恐らく何処かで様子を覗っているはずだ。妨害が入れば、十中八九姿を現すだろう」
 叩くならそこだとアルトリウスは頷く。
「オブリビオンの中には、損や得は関係なく、ただ、愉悦のために殺しているという奴もいるしな」
 そういう奴を見た事があるとレガルタは言う。
 今回の場合は、自ら手を下しているのでないのなら、町民同士が殺し合う姿を見て喜んでいると思った方がいいのだろう。
 自分で言って余計に胸がむかつくようで、少年はますます顔を顰めた。
「そういう相手ほど踏み躙るのが楽しくなるものですわ」
 少年と裏腹、くすくすと笑う女を、ちらりと横目で見遣り、
「なるほどね」
 これまた二人と対照的に表情の薄い青年は言葉だけでそう言うのだった。
 そんな折、

「静かに」
 アルトリウスが場の会話を手で制した。

「来たぞ」

 ぞろりぞろりと、重たい足取りの集団が道を来ていた。


「合図する。行くぞ」
 アルトリウスがハンドサインでカウントする。
 彼の指が1を示し、飛び出す合図を出した瞬間、「うわ、何だ!?」という男の驚く声と、何人かが倒れる音がした。
 ワイヤートラップに足を取られた男が二人、地面に転がっている。
 特別、兵としての訓練も受けていない一般的な町民ばかりだ。急なアクシデントが起これば動揺し、咄嗟の判断ができなくなる。
 男たちの中心。囲まれるようにして、少女もまた戸惑っていた。
 猟兵たちは素早く人々の前へと姿を現し、それぞれが事前に決めていた通りの行動を行う。
 連携の取れたその動きに、一般人がどうして対応できようか。
 突然現れた四人の人物に怯んだこともあるだろう。
 何重も後手になった反応は、身軽なレガルタが彼らの中に飛び込み、少女を奪い取るには十分な隙だった。
「きゃっ!?」
 少女が悲鳴を上げる。
「!! 待て!!」
 彼らの狙いを気づいたとしても、既に遅く。
 慌てて、仮面を被った男たちは少女へと手を伸ばし追いかけようとするが――、
「動くな」
「ひっ」
 間に割って入った青年の強い殺気に足が竦んで動けなくなる。
 もう町の者たちは追い付けないだろうと言うほどの距離を稼いだことを確認すると、由紀もまた踵を返した。
「アルトリウス、よろしく」
「ああ、先に行け」
 由紀が足止めした町民たちがすぐに追ってこないようにと。
 念のためにアルトリウスが更にユーベルコードで縛り、一時的に行動を封じ……猟兵、そして少女パヴラはその場から姿を消した。


「ちょっと! 放してよ!! 人攫い!! 放してってば!!」
 少女の声が手足をばたつかせながら、高く喚き立てる。
 初めはレガルタが手を引いていたが、振りほどこうともがくので、今は力に自信があるアルトリウスが肩に担いでいるのだった。
「煩いなぁ……」
 由紀がげんなりとした声で言う。
「煩いのが嫌なら下ろしてよ! 私には役目が」
「無理やり自分で納得してるつもりで、出来てないくせに」
 パヴラが、唇を噛んだ。ぐっと、言葉に詰まる。
 その様子を、横目で見て、また視線を前へと戻しながら、由紀は言う。
「これで良かった、なんて顔してないじゃん」
 独り言のような声は、だから余計に彼が本心からそう思っていると示しているようで。
 だから余計に、図星を突かれた気持ちになって。
 少女は、暴れるのを止めた。代わりに、絞り出すように小さな声が漏れ出し始める。

「……あなたたち、綺麗な服着て、裕福そうじゃない……っ」

 なぜ、邪魔をされなければならないのだ。
 今まで、何人もが通って来た道だ。
 苦しく喘ぎながらも営むこの生活を守るために、苦渋の決断として取らざるを得なかった選択だ。
 苦しくとも、みんなが“生きる残るために”そうしてきたのに、どうして。 ……どうして!

「そんな人たちに、この町のみんなの気持ちなんか分かりっこないわ……!」

 少女の悲鳴じみた声を、静かに聞いて、由紀は徐に口を開いた。
「今はそうだけどね」
 あくまで淡々と。その心は、声からも表情からも読み取ることはできない。
「でも、俺も孤児だよ」
「!! ……うそ……」
「嘘つく必要ないでしょ。まぁ、確かに今は前より落ち着いて暮らせてるけどさ」
 青年は事実を告げただけのようだった。
 「だから気持ちが分かる」等とは、ひとつも言わなかった。
 代わりに、レガルタが白に浮かぶような赤をパヴラへ向けて言葉を繋げる。
「俺も境遇は違うが、この世界の酷さはよく知っている」
 強者がのさばり、弱者が搾取される厳しく、醜い世界。
 ――少年が、幼いながらに、この大人顔負けの物腰を身に着けるには、一体どんな生き方をしてきたのか……少女には想像も及ばない。
「だから、俺達はここへ来たんだ」
「俺はその二人とは違うがな」
 アルトリウスは……情熱を持つことができない青年は、正直に言えば、「この町あるいは娘を救う」という確固たる意志で此処へと来たわけではない。
 一般的な倫理観に照らし合わせ、この胸糞悪い仕掛けを弄したオブリビオンを許せないと思う感情はあっても、それを原動力とすることは彼にはできないのだ。それは、彼自身すらも知覚し得ぬことであるが……。
「だが、気まぐれに殺す者がいるのなら、気まぐれに助けに来る者がいても良いだろう」
 有り得ない。そんな物好きな者が本当にいるのだろうか。この世界に。
 少女はそれきり、言葉を失ったように静かになった。

 墓地からそれなりの距離がある町外れに、壊れた小屋を見つけた四人は、慎重に最近人が使った形跡がないことを確認すると、漸くパヴラを下ろした。
 少女の正面に立ち、目を真っすぐに見ながら、少年は少女に語り掛ける。
「いいか、あんたが犠牲になったところで、根本は何も変わらない。次は別の奴が死ぬだけだ」

「それでいいのか?」
「良くは……」
 ないわよ。少女は、首を振る。
 だからと言って、どうすればいいのか分からない。頭が働かない。
 茫然自失状態の少女だったが、「良くない」というその言葉さえ聞ければそれで良かった。
 レガルタは立ち上がる。
「俺が嘲笑ってる奴らを殺してやる。だからそれまで隠れていろ。いいな」
「待って!」
 小屋から出て行こうとする小さな背に、少女は手を伸ばした。
 振り返る赤い眼に委縮するように、手をのろのろと下ろし、俯く。

「……、儀式、は……」

「今日と決められているの。私がいなくても誰かが死ななくちゃならない。きっと、誰かが代わりに殺されるわ……」
 ぽた。埃の積もった床に、雫が落ちて色を変える。
「もし、あなたたちが止めに来たって言うんなら」

「お願い。誰も殺させないで」

「ああ、やっぱりそうなるんだ」
「言われるまでもない」
 二人の青年がそれぞれにその訴えに頷きを返し、少年を加えて三人、女二人を置いて出て行く。
 アルトリウスが振り返り、猟兵の女へと声を掛ける。
「翠蘭、後は」
「ええ、任されましたわ」
 嫋やかに笑む女に、少女を預け。
「おい、墓地に向かうぞ」
「……今回の仕事は忙しないなぁ」
 まぁ、仕事なんてどれもそうだけどね。と言う青年は、けれど、いつものように「めんどう」とは言わなかった。


 神様。
 私、もう、分からないわ。
 
 彼らこそ、あなたの遣わした救い手なのでしょうか――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リカルド・マスケラス
連携・アドリブ歓迎
SPD判定 村人はみんながなんとかしてくれると信じて

「女の子がそんな顔していちゃ台無しっすよ」
そんな感じでパヴラに声をかけよう
「自分は魔法の仮面っすよ」
「君が死を望むなら、村人がためらわないよう、その顔を隠してあげるっす」
「でも、君が逃げたいのであれば、逃げるための活力を授けられるっす」
「そして、敵を討ちたいのであれば、その為の手段も与えられるっす」
そんな感じで自分を受け入れてもらうよう語りかける

受け入れてくれたなら
「来るのが遅くなって本当にすまないっす」
と、謝っておく

自分をつけてもらえば、自分(リカルド)の身体能力がついて逃げやすくなるし、髪の色も変わって気づかれにくくなる



● 定刻 其の二
 時刻も分からないような狭い小屋の中では、一秒が十秒にも感じられるようで、ただただ、焦れる一方だ。
「ちっす。パヴラ、調子はどうっすか?」
 落ち着かない様子の少女の元に、ふと明るい声が降ってきた。……文字通り、小屋の天井近くの亀裂から、すとんと。
 現れたのは、リカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・F12160)だった。
 一般人は、基本的に猟兵たちの姿に違和感は覚えないとはいっても、さすがに現れた場所が場所で、少女は面食らった。
 リカルドが落ちたところはパヴラの手元ドンピシャで、わたわたと慌てながらも、少女は仮面を受け止める。
 お、ナイスキャッチっすね! 等と囃す声も軽妙に。
「初めまして、パヴラ! 自分は魔法の仮面っすよ!」
 魔法の、仮面。
 思い出すのは、修道院の部屋で出会ったあの乱暴な仮面だ。
 否応なしに警戒してしまう。
 少女の疑わし気な視線と、やや自分を遠ざける仕草を見て、仮面の青年は声を上げた。
「あれ!? 何か警戒してるっすね!?」
「……ちょっと……仮面に良い想い出がないの」
 ごめんなさい。というパヴラに不思議そうな顔(仮面比)をしつつ、まぁいいやと気を取り直してリカルドは向き直る。
 こほんと、マスクには必要のない咳払いひとつ。彼女へと語り掛けて。
「自分は、君を助ける手助けをしに来たんすよ」
「手助け?」
 少女はやはり怪訝な顔で繰り返した。
「そうっす! 君が、もし死を望むなら、村人がためらわないよう、その顔を隠してあげるっす」
 死を望むなら……言われて、少女は考える。
 けれど、今は前ほどその言葉から生じる心の靄は少ない。
「でも、君が逃げたいのであれば、逃げるための活力を授けられるっす」
「どうやって?」
「自分をつけてもらえば、パヴラに一時的に自分の力を貸してあげられるっすよ!」
 足も速くなるし、並みの大人たちでは手も足も出ないほどの力だって得られる。
 先の彼らの立ち回りを見ている少女には、超常的であるその説明もすんなりと理解できた。
 リカルドは一拍間を開けて、もうひとつ、提案を加える。

「そして、敵を討ちたいのであれば、その為の手段も与えられるっす」

 それから、三つの選択肢を掲げ、再び尋ねた。
「パヴラは、どうしたいっすか?」
「……。分からないの……分からなくなってしまったの」
 敵とは、誰だろう。
 この事件の裏側に、一体何が潜んでいるのかを少女は知らない。
 死ぬつもりだったのは嘘ではない。本当だ。覚悟だってしたつもりだった。
 ただ、それをしなくていいと現れた人々に言われ、その選択肢がなくなったことで、どうすればいいのか分からなくなってしまった。
 平穏に暮らしていければそれ以上のことはないと思う。思うのだけれど――、

「逃げれば、安全っすよ?」
 迷う様子を見かねて、リカルドは彼なりの思い遣りでそう提案する。
 だが、少女は首を振る。赤毛が降り乱れるほど強く。
「だめ。逃げるのだけは、だめよ」
 言葉を掛けようとしたリカルドは、彼女の唇がまだ動こうとしているのを見て、自分の声を止める。
 彼女が言いたいこと、その気持ちを待った。
「このままじゃ嫌なの」

「あなたたちが何をしようとしてるのか知らないけど、私の事助けようとしてくれてるのは分かるわ。信用する……とは言い切れないけど、」
 パヴラ・モルナールは、両手でしっかりとリカルドを持ち、縋るように訴えかける。
「町のみんなだけ危ない場所に置いて一人だけ逃げるなんてできない……それをやったら、私はきっと、死んだと同じぐらい後悔するわ」

「魔法の仮面さん、お願い。……私を墓地へ連れてって」
「オーライ。分かったっす。君の願いは、この魔法の仮面が承ったっすよ」
 最早、恐れはなかった。
 少女は、狐の面を頭に結わえる。
「来るのが遅くなって本当にすまないっす」
「いいえ、ありがとう。力を貸してくれて」

 赤毛が藍色へとじわじわと染まっていく。
「ちなみにパヴラ、君に危険が迫ったら、避難してもいいっすか?」
 体の主導権は彼にある。念のために、ヒーローマスクの青年は尋ねた。
「いいえ、できれば……」

 危険でも、見届けさせて。
 最後まで。

 少女は立ち上がり、仮面と共に闇へ飛び出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

シホ・エーデルワイス
【生贄が死なない】奇跡を起こす

事前に私の意図を仲間へ伝える

私は町の人々全員を助けたい
だから私達にその力があるか試してみませんか?
私を生贄にして下さい

胸元をはだけ『聖痕』を人々に見せ
聖痕の意味と必要な時に生贄となる使命を負った聖者の使命を
<コミュ力、礼儀作法>で説明

皆さんはいつも行っている通りに私を生贄にして下さい
これで私が死んでも皆さんは助かります
でも
もし奇跡を望むのなら祈って下さい

処刑中、私は無抵抗の振りをしますが【贖罪】
本当は怖いけど<勇気、覚悟>で耐える
私はまだ死んでいませんよ?何度でもどうぞ

頃合いを見て再説得

もう気づいているのでは?
皆さんが待ち望んだ
生贄を捧げなくても助かる時が来た事に



● 定刻過ぎ 墓地 其の一
「どうする」
「どうするもこうするも……誰かが代わるしかねぇだろ」
「誰が」
「だから今それを話し合ってんじゃねぇか!!」
「畜生、パヴラが攫われさえしなければ……!!」
 予定されていた生贄を失った男たちの言い争いは、墓地の外にまで響いていた。
 収まる場所がない。
 お前が悪い、誰が死ねと責任と犠牲を押し付け合う様は、延々と平行線を辿っている。
 皆、完全に頭に血が上っており冷静ではない。おまけに、このままでは何れ殴り合い……最悪、槍での殺傷沙汰に発展することは容易に予想できる状況であった。

 そんな彼らの元を一人訪れたのは、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)。
 布地を贅沢に使った衣服の小柄な少女の登場に、町民たちは一度彼女へと注意を引かれる。
「こんばんは、皆さん」
 少女は丁寧に礼をした。
 墓地に、この時間、見慣れぬ少女……男たちが、槍を握り直す。
「あなた方が、生贄の儀式のために来た方々ですね?」
 少女の問いかけにも無反応で。彼らは少女の様子を覗っていつのが分かった。
 彼らがまだ交流の意志がないことを悟ったシホは、ただただ、相手の心に届くことを願いながら発信を続ける。
「私は、この町の人々を助けに来ました」
 やはり、という空気が言外に流れる。
 やはり、この女もあいつらの仲間だ、という言外に向けられる憎悪。
「言葉だけでは信じられないと思います……だから私達にその力があるか試してみませんか?」

「私を生贄にして下さい」

 言って、少女はフリルで飾られた衣服のボタンをはずし始める。
 男たちが悪露時、ざわつく。
 少女が示したのは、胸元の聖なる傷痕、『アセビの聖痕』だった。
 シホは懇切丁寧にその意味とその痕が示す使命について語る。
 一通り説明が終わると、少女は微笑んだ。
「皆さんはいつも行っている通りに私を生贄にして下さい。これで私が死んでも皆さんは助かります」

「でも、もし奇跡を望むのなら祈って下さい」

 それは願ってもない申し出だ。
 自分たちの中からは犠牲を出す事はなく、また、先ほどまで積もっていた儀式の邪魔をされた恨みを、邪魔した者達の仲間らしき者に返す事ができるのだから。
 見知った顔を貫くよりも、罪悪感も薄いような気がした。
 とはいえ、男たちにも自ら進んで磔台へと上るシホへの困惑がなかったわけではないが、目下大事なことは、この儀式を遂行して皆殺しを免れることだ。
 括りつけられたシホに、単純に削いで尖らせただけの槍先が当てられる。
「ほ、本当にいいんだな……!?」
「ええ、構いません。どうぞ」
 本当は、とても怖い。
 シホは天への祈りを込めて、目を閉じる。
「化けて出るんじゃねぇぞ!!」
 男たちの雄叫びが上がり、十数本の槍が一度にシホの皮膚を貫き千切る。
 シホが密かに発動していたユーベルコードの力に寄り、その体に出血はなく、走るはずの痛みも生じない。
 引き抜かれた槍には、新しい血の色は残っておらず。
 薄っすら目を開けて、シホは言う。
「私は……」
 肺が貫かれたのだろうか。少し話しづらい。
「まだ死んでいませんよ? 何度でもどうぞ」

「ヒッ……ば、化け物……!」
 貫かれても喋る人間。
 その存在の誇示は、二度目を必要とはしなかった。
 化け物と言う言葉に、少女の胸がきゅぅと痛む。
 一瞬、悲しげな表情を湛えながら、自ら縄を解き、シホは再び男たちに願うように説得の言葉を投げる。
「もう気づいているのではありませんか? 皆さんが待ち望んだ、生贄を捧げなくても助かる時が来た事に」

「今が、その時なのですよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

大豪傑・麗刃
よかろう。
わたしが闇の中にともる明かりとなってみせよう。
この身を挺して!

そんなわけで生贄の儀式に乱入するのだ。
そしてこんな殺しをする必要がない事を……

解いても無駄であろうなあ。
だから。

この人たちにこんなむごいことをさせる連中がいる!
それに苦しんでいる人たちがいる!

わたしは怒ったのだー!!

はあああああああああ

(スーパー変態人発動)

見るのだこの光を!
この光にかけてわたしは約束するのだ!
わたしがこの闇の世界を照らすことを!
この光が、きみたちを照らす光、希望の光をなることを!
悪しきものを倒してみんなが明るく笑える日が必ず来ることを!

……
じょ、状況だから仕方ないとはいえまじめな事を言うと頭痛が痛いのだ。


仁上・獅郎
最早止まる事が許されない悪循環、か。
……理解できるからこそ、止めねばなりません。
目を背けた真実で突き刺し、心を抉ろうとも。

町民の前に立ち塞がり、問う事から始めます。
これが正しいと思っているのですか、と。

……ええ、答えずとも知っています。
間違いだと気づいてはいる、と。
されど、一人死ねば済むのならと目を瞑る。
故に老人を差し出す。次は女を。子供を。男を。
そして最後の一人になって、漸く過ちを認める。

それでいいのですか?非力だから仕方ないと?
冗談じゃない。
諦めた生に意味はない。同じ生なら抗うべきだ。
力がないなら貸しましょう。怪しむなら槍で僕を刺せばいい。
この光が、力ある者の証明です。
……いかがでしょう?


アルジャンテ・レラ
館では誰も、……誰一人、救えなかった。
が、今回はまだ間に合う。
終わらせますよ。このような、狂った連鎖など。

遮られようと説得は緩めません。

何度目の殺人ですか?
少女を身代わりにした貴方は生き長らえるのでしょうね。ひとまずは。
ですが、終止符は打たれていない。
遅かれ早かれ順番が回ってくるのは明白ですよ。
いずれ町から人が激減する頃には、顔を隠すなど何の意味も持たなくなるでしょう。

何か行動を起こすのが怖いんですか?
待ち受ける未来は絶望的です。
これ以上恐れることなど、どこにあるというのか。
私には理解できません。
……行動を起こすのならば、力を貸します。
余所者だからこそ奮える力もあると思いますから。


鼠ヶ山・イル
月にひとり
自分の日常に馴染んだ顔を、自分で砕く
そして、来月は自分こそが砕かれるのかもしれない
みんな大事なものを砕かれたくないから
……そんなの、気が狂いそうだよな

生贄が殺されるときに、身を呈して庇う
痛いのは正直苦手なんだけど、まあ【激痛耐性】でちったあマシにならねーか?
効かないなら効かないでしょうがねぇ
こういうのは目の前で血を流してナンボだ

オレたちは部外者だ
だからこそ、アンタらの今までの決断を称える
そしてこれまでに死んできた人たちも
よくぞこれまで生きてきた、そうだろ?
でも、いつかはこんなこと止めたいって思ってたろ
それがいまなんだよ
オレたちにはそれだけの力がある
なあ、ちょっと話していかないか?



● 定刻過ぎ 墓地 其の二(Aルート)
 少女の起した奇跡は、“効果覿面過ぎた”と言えよう。
 殺せない者は生贄にもしようがない。つまり、彼女を生贄にしても今夜の儀式は達成しえない。
 人々は恐慌状態に陥り、混乱状態のまま、儀式をどうすべきか・目の前の埒外の存在をどう扱えばいいのか、口々に怒鳴り合いを始めた。

「ううむ、あの状態ではこんな殺しをする必要がない事を……解いても無駄であろうなあ」
 いつものオチャラケ控えめに、大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)が腕組みしてぼやく。
 その声に覇気がないのは、恐らく、シチュエーションのせいだろう。ゆっくり、やれやれと首を振った。
(やはり、こうなってしまいますか……)
 首から下げた懐中時計の鎖が鳴る。
 仁上・獅郎(片青眼の小夜啼鳥・f03866)は、短く息を吐いた。
 ニュートンの揺り籠のように、一度生じた“死”というエネルギーは最早抜け出す場所を見つけることができず、最終的には限界を迎えた内部からの瓦解が始まる。
(……理解できるからこそ、止めねばなりません)
 例え痛みを伴おうとも、糸を切り落とさなければならない。
 そして、それが出来るのは恐らく、外の者である自分達だけなのだ。
 アルジャンテ・レラ(風耀・f00799)は、静かに以前に引き受けた仕事の結末を思い返す。
(館では誰も、……誰一人、救えなかった)
 覚えたての後悔の念が胸を締め付ける……けれど、今回は違う。まだ間に合う。
「……気が狂いそうだよな」
「お! イルちゃんも頭痛が痛いのだ?」
 嬉々として尋ねる麗刃をちらりと一瞥した後、どういう意味だよと小声でツッコミを入れながら、鼠ヶ山・イル(アヴァリティアの淵・f00273)は、冷たい色の、熱のない瞳を諍いの輪へと向ける。
 町民たちからは、まだ幾分距離がある。
 “気が狂う”と言われると、別のことが思いつく獅郎が、イルを見る。
 イルは視線を動かさない。この場にいる猟兵たちに語っている訳ではない様子で。
「……自分の日常に馴染んだ顔を、自分達で砕いて、そんで、来月は自分こそが砕かれるのかもしれない」
 “誰かが大切にしているものが欲しくなる”故に、“大切なもの”に対して強い感受性を持つ彼女だから、分かる。
 誰かの大事を奪わなければいけない罪悪と、誰かに大事を奪われてしまう恐怖。
「家族とか、自分とか、命って大事なモンを守るために必死なんだよな」
 ハ、と、笑う。
「すごいよな。すごいよ。欲しくなっちまいそうだ」
 いけないなぁ。言いながら、軽く背筋を伸ばして歩き始める。

「まぁ何にせよ、やることやらなくちゃだな」
「ええ、終わらせましょう。このような、狂った連鎖など」
「任せるのだ! 何せわたしは空気を(ブレイクする意味で)変える男と言われているからな! 今回もいい風吹かすのだ!」
「……あはは、麗刃さんは、どうぞ御手柔らかに」


「皆さん、聞いてください」
 町民たちへと近づいた獅郎が声を掛ける。
 途端、全員が一斉に猟兵たちの方を向いた。仮面の奥、見えている目が血走っている。
「お、おお、お前らもそこの化け物の仲間だな!?」
 男の一人がシホを指さし半狂乱で言う。
(……化け物ですか。まぁ、否定はしきれませんが)
 心の中ではそう思いながらも、その問いかけには答えずに青年は更に問いかけた。
「皆さんは、これが正しいと思っているのですか」
「うるせぇ!! こうしねぇと俺達は皆殺しだ!!」
「元はと言えば、テメエらが邪魔さえしなければ!!」
 この激昂状態は厄介だ。そもそも、話し合おうと言う気がない。獅郎の眉間に幽かに皺が浮かぶ。
「……これで、何度目の殺人ですか?」
 アルジャンテが、常ならざるやや強い語調で言う。この惨劇を止めるために、彼らの怒声に一歩も譲る気はない。
「誰かを身代わりにした貴方がたは生き長らえるのでしょうね。ひとまずは」
 もう、何度、そうやって「ひとまず」を繰り返してきたのかは分からない。
 ひとまず、ひとまず、と言って、この人たちは永劫、そこから先に進むことはしないのだろう。だから、誰かが指摘する必要がある。
「ですが、終止符は打たれていない。遅かれ早かれ順番が回ってくるのは明白ですよ。いずれ町から人が激減する頃には、顔を隠すなど何の意味も持たなくなるでしょう」
 ……どんな時も正論ならば人は納得するというわけではない。
 むしろ、正論だからこそ反論の言葉を奪い、言葉以外のものに頼らざるを得ない状況を作り出す事もある。
 まさに、今アルジャンテの言葉で打ち負かされた町民がそうであった。
「きぃ……貴様ぁ~!!!」
 先ほど少女を貫いたばかりの槍を振りかざし、アルジャンテへと掴みかかろうと駆け寄っていく。
 突き刺そうとしないのは、彼にもまだ「生贄でない者にやってはいけない」と歯止めをかける理性がどこかにあったのだろう。人間の、心の弱さの現れにも見えた。
 槍の柄を棍棒のようにして、その憤りを叩きつけるかのように、上から下へと振り下ろす!
 咄嗟、槍とアルジャンテの間に割って入ったのは、イルだった。
 頭を強く打つ。
 使われてきた日は長くはないが、元々の耐久性がなかったのだろう。粗末で脆い木の槍は、その拍子にバキと乾いた音を立てて派手に折れる。
 木くずと、赤が散った。
「イルさん!」
 木の折れた先が横切ったのだろう、額から血が流れ出す。
 赤があふれ出すのを見て、殴った当の男は、動揺しているようだった。槍だったものが手から落ちる。
「大丈夫ですか……!」
 医学の心得がある獅郎が駆け寄り、様子を見る。
「大丈夫。掠っただけだって」
 呻くほどの痛みはない。我慢できる。場所が場所だけに、多少派手に見えるだけだ。
 相手のために体を張ると、行動で示すには返って丁度いいぐらいだとも思える。
「……、貴方がたが、自分たちの行いが間違いだと気づいてはいる、ということは知っています」
 感情を押し留めたような声で、青年は語り掛ける。
 男たちに背を向けたまま。
「されど、一人死ねば済むのならと目を瞑る。故に老人を差し出す。次は女を。子供を。男を。……そして最後の一人になって、漸く過ちを認める」
 力のない者、先の短い者、立場の弱い者から先に殺されていく。
 けれど、その行き着く先はどのルートを辿っても同様。滅亡だけだ。
「それでいいのですか? 非力だから仕方ないと?」

「冗談じゃない」
 言葉は強く。言い捨てられた。

「諦めた生に意味はない。同じ生なら抗うべきだ」
 青年の手から淡い、優しい光が発せられる。ユーベルコード《生まれながらの光》が、イルの傷を見る見る内に癒していく。
「力がないなら貸しましょう。見なさい。この光が、力ある者の証明です」
 超常的な力を示せば、彼らもきっと納得するだろうと、敢えて見せた力の片鱗が――、

「や、やっぱり、お前ら、死なねぇんだな……!?」
 男たちの声がわなわなと震える。
(しまったか……!)
 ここまでの流れの影響――今は裏目に出たかと、獅郎は身構える。
 彼らにとって、先ほどまでの流れで自分たちは異端の存在と見られてしまっていたのだ。
(手荒な真似はしたくなかったのですが――)
 糸で動きを封じるかと、青年が手元に武器を出そうとした、
 その時、
「む、むううううう」
 男の、力むような声が響く。と、同時に、
「わーたーしーはぁぁぁぁぁ……怒ったのだー!! はあああああああああ」
 叫び。そして、周囲はフラッシュバンも斯くやとばかりの閃光が迸った!
 光が収束したその根源には、全身金色に染まった麗刃がシュオンシュオンと謎の音を発しながら立っていた。
 彼が狙ってやったかどうかは分からないが、強烈な光は男たちの動きを止め。場は、一時的に静まり返る。
 その中で、武人は、ぽつりとつぶやいた。
「わたしは……悲しいのだ」

「この人たちにこんなむごいことをさせる連中がいる!」
 1カメ。
「それに苦しんでいる人たちがいる! 見るのだこの光を!」
 2カメ。
「この光にかけてわたしは約束するのだ!」
 3カメ。
「わたしがこの闇の世界を照らすことを! この光が、きみたちを照らす光、希望の光をなることを! 悪しきものを倒してみんなが明るく笑える日が必ず来ることを!」

 麗刃の圧倒的演説に、町民たちは何を言っていいかも分からず、ぽかんとした空気が流れる。
 強制的なリセット。一時の空白。
 彼らに声を掛けるなら、今しかない。
「オレたちは、」
 イルが語り掛ける。

「死ななくはないけど、アンタらに使えないような力がある」
 落ち着いた声で、誠実に。
「そして、オレたちは部外者だからこそ、アンタらの今までの決断を称える」
 誰かを守るために、誰かを切り捨てる。
 その判断を、良しと言ったのは、町民すべてを含めても、きっと初めてだったろう。
「今生きてるアンタらだけじゃない。これまでに死んできた人たちもよくぞこれまで生きてきた、そうだろ?」
 納得して、あるいは、本当のところ、納得した者などいなかったろうが……死を受け入れていった魂が、その言葉で赦される。
「でも、いつかはこんなこと止めたいって思ってたろ」
 思っていた。そう思い疲れるほどに。
 疲れて、そう思っていたことを忘れるほどに。

「それがいまなんだよ」

「オレたちにはそれだけの力がある」
 イルが、手を差し伸べた。
「なあ、ちょっと話していかないか?」
 差し出されたその手が握り返されたのを見て、アルジャンテもまた、声を掛ける。
 感情や人間的な面は学習途上の彼だ。強い言葉になってしまうこともあるが、今はイルの話し方と和らいだ町民たちの空気に影響されたのかもしれない。幾分、語調を弱めながら。
「このままでは、待ち受ける未来は絶望的です……皆さんが矢面に立って行動できないと言うのなら、私たち余所者だからこそ奮える力もあると思います」
 マゼンタとバイオレット。二色の目が、男たちを見渡す。
「行動を起こすのならば、力を貸します」
 斯くて、町民たちの手は、しかと繋がれ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​


● 定刻過ぎ 墓地 其の二(Aルートおまけ)
 思ったよりも、随分時間が掛かった。
 もう誰かが犠牲になっていたりなんてしないかと、息を切らして墓地へと駆け付けた少女が見たのは、堅く繋がれた町民と猟兵たちの手と手だった。

 ほっとして、胸を撫でおろす。

 良かった。
 皆が傷つかなくて。
 彼らが傷つかなくて。
 彼らが信用できる人たちで。

 少女はその輪の中に駆け寄って行く。
 町の者達にこれまでの事情を説明しようと。
 その時突然、

「っ!?」

 少女の足元に、異変が生じた――。
栗花落・澪
人々を責める気はない、けど…

少女が既に囚われているのなら
可能なら★清鎌曼珠沙華で拘束を解き
少女を抱えて【飛行戦】で空へ
非力な僕には辛いよ
協力者が居なければ
精々槍が届かない高度で粘るので精一杯

それでも
少女が暴れても
この腕を犠牲にしても
離してなんてやるもんか

無理でも盾に
落ち着かせるためにUC

僕は…元奴隷だ
生きてて良かったと今でも思う
だけどそれは孤独だからだ
僕のせいで誰かが傷付く可能性を考えなくていいからだ

殺さなければ生きられないなら
僕は自ら死を選ぶ

だって
命を犠牲に得た幸せなんて
後悔しか無い人生なんて
生き地獄じゃんか

それでも殺すと言うなら
先に僕を殺せ
救える命を目の前にして諦める程
僕は自分を捨ててない


月舘・夜彦
オブリビオンでも無いというのに、同じ人を……
いえ、この状況を作ったのは間違い無く奴等
まずは彼等を止めに行かねばなりません

パヴラ殿を守りながら村人は傷付けず、武器落としで払う
攻撃は武器受けで防ぎ、逃げ道を塞ぐならば灰燼拳
防ぎ切れないものは庇って我が身を、刃を向けるならばその刃を握って抑える
元より全て受けるつもり、自分ならば痛みも毒も耐えられよう
貴方達の痛みに比べれば、大したものではないのだから

今生きる者はまた次の背負う、今死ぬ者は嘗て与えた痛みを背負う
その繰り返される運命の、貴女の悲しみが私達を呼んだ
私達には抗う術がある、貴方達の痛みを終わらせられる
どうか、どうか……武器をお収めください


冴木・蜜
馬鹿げてる
凡そ論理的ではない
そんな理不尽許されない
許してなるものか

他の猟兵達と共に少女の元へ

村人との間に割って入りつつ
少女に改めて問いましょう
死は惨いものだ
あの槍に貫かれれば
想像を絶する痛みが貴方を襲いましょう
死んだら何もできない
それで終わりです

そうすべき、だとかは捨てなさい
もう一度、貴女の頭で考えなさい
貴女はそれでも死にたいのですか?

そして皆さんは
死を望まぬ少女をそこまでして殺したいのですか?

訊く耳を持たず
少女に武器を奮う者が居れば
身を挺して庇いましょう

安心なさい
私は死にません
貴女も死なせません
そして、この村の住人も皆
理不尽には殺させません、絶対に

だから…だから
今すぐこの行いを止めなさい!


護堂・結城
【POW】
外道以外にこう言う手はあんま使いたくねぇが、殺させるわけにはいかねぇしな

『雪見九尾の闘気の尾』で土でできた闘気の巨人を召喚して威圧し【恐怖を与える】
木の槍を【見切り】、【念動力】で浮かせた大罪の尾の刀と手に持った氷牙の十手で【武器受け】
それでも退かないなら闘気の巨人で庇うように【オーラ防御】

殺すしか助かる道がないと思っているだけなら止まってくれ、したくてやる事と、しなきゃいけない事は全く違う
力がある者が止めてもなお殺すというのなら、この力を人を護る為ではなく殺す為に振るう事になるぞ

次は自分の番か、と怯え続ける夜は、俺達が止めてやる


向坂・要
仕方ない、ってのは、便利なもんですからねぇ
ま、所詮余所者のオレがどうこう言えた義理じゃありませんがね

大地と共にありしもの
で身の丈はあろう巨大な白狼の姿で贄との間に割って入りますぜ

傷跡で潰れた右目と無事な左目
流石に両方とも傷物にされちゃ困りますがまぁ、本体が無事ならどうとでもなるのがヤドリガミってもんで

村人さんにも贄のお嬢さんにも怪我させねぇように
刺すのは構いませんが勢い余って怪我なんてしねぇでくだせぇよ
なんて思いつつ敢えて無言で

自分で自分を責めてるお人に何を言えってんでさ

代わりに村人の様子やそれ以外、周囲の様子を精霊の助けも借りて探りますぜ

この効率の悪さも奴さんの演出かねぇ



● 定刻過ぎ 墓地 其の二(Bルート)
 少女の起した奇跡は、“効果覿面過ぎた”と言えよう。
 殺せない者は生贄にもしようがない。つまり、彼女を生贄にしても今夜の儀式は達成しえない。
 人々は恐慌状態に陥り、混乱状態のまま、儀式をどうすべきか・目の前の埒外の存在をどう扱えばいいのか、口々に怒鳴り合いを始めた。

「オブリビオンでも無いというのに、同じ人を……」
 本人から説明があったとは言え、少女が貫かれる様子を見守らなければならなかったのは、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)にとっては本当に苦しいことだった。
 痛みや出血がないと言われても、人が人を貫く様は、信じ難い状況だ。眉根を寄せる。
「……馬鹿げてる……!」
 同様に、怒りを顕わにしているのは冴木・蜜(天賦の薬・f15222)だ。
「こんなこと……到底、論理的ではない……!」
 もしブラックタールの彼に、歯というものが存在したのならば、それは。きつくきつく、砕けそうなほど力一杯に噛み締められていただろう。
 毒の身である自分ですら、誰かを救えると信じているのに、毒を持たない人間たちすらあの有様とは!
「まぁま、そんなに力みなさんなよ。仕方ない、ってのは、便利なもんですからねぇ」
「うん、僕には人々を責める気はない、けど……」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が、幾分陰の落ちた表情で頷き、向坂・要(黄昏刻・f08973)が蜜の背を叩こうとして、「おっと、お前さん触られんのいやでしたっけね」とその手を離す。
 蜜もばつが悪そうにそっと身を引いた。
「ま、所詮余所者のオレたちがどうこう言えた義理じゃありませんが」
「いや、余所者だからこそ見えることも、言えることも、あると思うぜ? 俺は」
 護堂・結城(雪見九尾・f00944)が先端の毛の色が異なる、変わった九つの尾を揺らして言うと、そんなもんですかぃ、要は頬を掻いた。

「まぁ、何れにせよ知った以上は見捨ててはおけませんやな」
「おう、目に入った以上はな。そろそろ割り込まねぇとキナ臭くなってきやがった」
「参りましょう。まずは彼等を止めに」
 蜜は今は未だかと、勇み立ちあがり、その様子に皆も続く。
「うん、行こう」

 この人たちを、地獄から救うために。


 堂々巡りを繰り返し、着地点を失った町民たちの怒りの矛先が、より弱い立ち位置の者へと向かったのは必然だったろう。
 誰とはなしに、一人の男を振り返る。
 息荒く、その者を詰り付ける。
「トマーシュ……そうだ。そうだ、トマーシュ!! お前も悪いんだ!! あんな奴らに良いように言いくるめられやがって!!」
「ま、待て!! 急に何で俺に」
「お前が“手引き”したんだろう!! こいつらを!!」
 このままでは、哀れなトマーシュが槍の餌食となる。
 と、そこへ――、
「待って! みんな!!」
 飛び込んできたのは藍色の髪の少女だ。
 この世界では馴染みがない形の仮面を被った少女が、仮面を外すと、藍色は見る見る内に赤へと変じる。
「おいおいおい、なぁんで隠れてるはずの本人が来ちゃいますかね……!」
 要がひくりと口の端を引きつらせる。
 間違いない。パヴラ・モルナール本人だ。

 猟兵たちは、一気に駆け寄る速度を上げる。
「みんな、お願い。話を聞いて……あの人たちは――「パヴラ!! お前よくも今頃……!!」
 語り掛けようとする少女へと、幾本もの怒りで形作られた腕が伸び、少女の髪を、衣服を、掴んで引き摺る。
「っ!! お願い、違うの。私、逃げたんじゃ」
「うるさい!! 黙れ!!」
 怒りが頂点に達した町民たちに、少女の声は届かない。
 それもそのはずだ。彼らからすれば、少女こそ今回儀式がイレギュラーに塗れた元凶と見えているのだから。
 槍が、振りかざされる。
「悪ぃ、ちょいとお先に行きますよ……!」
 要が《大地と共にありしもの(シュンカ・マニトゥ・ウゼン)》を発動し、瞬時に白銀の大狼の姿に変じると、槍とパヴラの間に鼻っ面を突っ込む。
「ッグゥゥ……!!」
 毛と皮膚に阻まれ刺さり方は浅いとはいえ、多少の痛みはある。幽かに呻いた……が、
(ま、目を突かれなかっただけラッキーってとこですかね)
 自分の事でありながら、どこか第三者的にそんな感想を抱きながら、要はパヴラを肩で押し、自分の後ろに回らせる。
 突如割り込んできた狼に怯え、男の一人は後ろにひっくり返った。
 だが、他の者達はそうではない。
 「やはり」と思う。
 「やはり、パヴラは命惜しさに町を裏切り、化け物と手を組んだ」のだと。
 生贄に向けるよりも強い殺意が、少女へと集中する。
「パヴラ殿、此方へ。町の皆様は、今は冷静ではありません。前に出ては危ない」
 夜彦が少女の腕を引く。少女は苦い表情で、けれど、自分の腕を引いた男に頷き、静かに後ろへ下がった。
 要が、皆を傷つけないよう気遣いながら、少女に詰め寄ろうとする町人たちを威嚇し、吼え、追い払う。
 しかし、これがまたなかなか厄介だ。やや数が多いこともあるが、何より、彼らの怒りを発散させる場所がないせいでキリがない。
 やがて、どうやらこの狼は自分たちを傷つけないと察した人々が、要の威嚇にも怯まず、強引に詰め寄ろうとし始める。
「待てよ。それ以上は取り返しが付かなくなるぞ」
 結城が要をすり抜けた町民たちにの行く手を阻むように飛び降りると、同じ動きをする巨大な土の巨人が地響き立ててその隣に降り立つ。
 音と、衝撃。
 町民たちの意識を引き付けるには十分すぎるそれは、同時に威圧感と恐怖を植え付けた。彼らの動きが一時的に止まる。
(外道以外にこう言う手はあんま使いたくねぇが、殺させるわけにはいかねぇしな)
 例え彼らが既に人を手に掛けていようと。
 したくてやった事ではないのだ。今も、頭に血が上っているだけだ。
 結城も彼らの事を外道だとは思えない。どうしても。
 だから、得手ではない言葉かけも、なるべく穏便に済ませるために、努めて冷静にと心がけて。
「殺すしか助かる道がないと思っているだけなら止まってくれ、したくてやる事と、しなきゃいけない事は全く違う」
「俺たちが……俺たちが、やりたくてこんな事やってると言いたいのか!!」
「違う! お前らがやらなきゃいけない事は、これじゃないって話だ!!」
 つい相手の怒りに引き摺られそうになる。負の感情は、負の感情を引き起こしやすい。
 苦々しく、結城のオッドアイの目が細まった。

 パヴラの元へと、ブラックタールの青年が、ぺちゃぺちゃ、液体の音を立てて歩み寄る。
 本来、ブラックタールの彼には必要のない動作ではあるが、少女と目線を合せるようにして屈みながら、話しかける。
「……キミ」
「……、はい」
 何だろうかと、少女は身を固くする。
 この人たちと共にいる人なのだから、きっと、害を加えようと言うのではないのだろうけれど。
 少女の様子に、ぐと、喉元に込み上げてきたタールを何とか押し留めながら、蜜は紡ぐ。
「死は惨いものだ」
「……?」
 彼女に言いたかったことを。そして、聞きたかったことを。
「あの槍に貫かれれば、想像を絶する痛みが貴方を襲いましょう。死んだら何もできない。それで終わりです」
 その言葉に、少女も、彼が言いたい事が分かった。
 今日、度々尋ねられたことを、彼もまた尋ねようとしているのだと。
「そうすべき、だとかは捨てなさい」
 青年の言い方は優しく、
「もう一度、貴女の頭で考えなさい」
 また、諭すようだった。

「貴女はそれでも死にたいのですか?」
「……、死にたいわけじゃないわ」

「ただ、私がそうして、皆が生きられるなら、それでいいと思ったの」

「生きたいのですね?」
 青年が改めて尋ね、
「できるなら。皆で」
 少女は、この日初めて、はっきりと、そう口にした。

 ありがとうと礼を述べ、全身を毒、あるいは薬で満たした青年は、町民たちの方へと向かう。
 結城の土の巨人を、数を利として幾人かがすり抜けてきている。彼らの怒りはまだ冷めない。
「だめよ、危ないわ!」
「蜜殿!」
 夜彦も呼びかけるが、青年は、首を模したその箇所をゆっくり左右に振って、見返り。
「安心なさい。私は死にません。貴女も死なせません。……そして、この村の住人も皆、理不尽には殺させません」
 皆で生きたいと言った少女の言葉を準えるようにそう言って、
「絶対に」
 人の視線に恐怖する、異形の青年は声を張り上げた。

「皆さんは……死を望まぬ少女をそこまでして殺したいのですか?」

「だから…だから、今すぐこの行いを止めなさい!」


「もう少し、下がらなければ」
 ついに、夜彦の元まで町の人々の槍先は届き始めた。
 迂闊に力を使い過ぎれば、怪我をさせてしまうという猟兵たちの優しさが今は枷となる。
 怪我をさせて鎮めるよりも、怪我をさせずに事を収める方が難しいとはよく言ったものだ。
 男は、人々の槍の先をあるいは弾き、あるいはかわしながら少女を守り抜こうとする。
 と、ある男が突き出した槍の先が、前に立つ男にぶつかった拍子に軌道が反れ、運悪く夜彦の肩に刺さった。
 素人故の偶然。夜彦は呻き声すら我慢して、槍を掴んで引き抜き、そのままぐるりと捻って奪い取ると、遠くへ投げ捨てる。
(此れしきの痛み……此の方達の痛みに比べれば……)
 だが……彼らの怒りをも受け止めようとする彼の慈しみの心があるからこそ、こうしてジリジリと押されていることに違いはなかった。
「……! テメェら……いい加減にしろよ……」
 仲間の怪我を目に止めて、結城の耳と尾の毛がざわりと逆立つ。
「力がある者が止めてもなお殺すというのなら、この力を人を護る為ではなく殺す為に振るう事になるぞ」
 ぐっと、結城が拳を握りしめ、倣って巨人も指を固める。さながら巨大なハンマーのようなその拳は、振り下ろせば人間など容易く粉微塵にしてしまえるだろう。
(ちょっとちょっと、お前さんが生贄出してどうすんのっ)
 多少手荒に町人たちを押さえつけ、弾き飛ばした要が、結城の前を陣取った。
 口で加えて、人々をあちこちへと放り投げる。
「ちっ……」
 要の視線に、彼の言わんとすることを察した結城は、一先ずその矛を抜くのを喰い留まり。

「夜彦さん、その子をこっちへ!」
 少年の声に、ヤドリガミは空を振り仰ぐ。
「澪殿、忝い!!」
 言って、一気に槍を振り払い、隙を作ると、
「パヴラ殿、失礼を」
 言って、少女を抱え上げてふわりと浮かせる。
 少女を引き受けたのは、空へ避難できる澪だ。
 彼なら、誰にも邪魔されることなく、槍の届かない位置まで逃げることが出来る。
 ……とは言え、自分一人だけなら自由自在に飛び回ることができる彼も、人ひとりを抱えては槍の先が寸でで届かない位置で浮かんでいるのがやっとで。
 時間も、長くは持たないかもしれない。それでも、
(絶対に……絶対に、離したりするもんか……!)
 ぎゅぅっと、彼女の胴を渡して繫ぐ自分の手と手を、爪が食い込むほど握りしめる。

 澪は思う。
 自分の今までの生い立ちを。
 父母の記憶はなく、元は虐げられるだけの立場だった自分のことを。
 彼が今ここにあるのは、彼が孤独だったからで、もし自分が彼女と、彼らと同じ立場だったなら、きっと耐えられなかっただろう。
 淡い光が、二人を包む。
 けれどこの時、心が平静でいられなかったのは、きっと彼の方だ。

「僕のせいで誰かが傷付く可能性があるなら……」

「殺さなければ生きていられないというのなら」

「僕は自ら死を選ぶ」

 それは、押し付けられた死を受け入れた少女ともまた異なる選択だ。
 あまりにも高潔で、苦しすぎる選択。

「だって、命を犠牲に得た幸せなんて後悔しか無い人生なんて、生き地獄じゃんか」
 彼の言葉は、涙の雫のように零れ落ちる。
 澪は琥珀色を下にいる男たちに向けた。
 きっと、強く見据えて。
「それでも殺すと言うなら先に僕を殺せ」

「救える命を目の前にして諦める程、僕は自分を捨ててない」

 場が、静まり返る。
 誰しも、槍を突き上げることを忘れて、彼から目を逸らすように地面を向いた。
「……今生きる者はまた次を背負い、今死ぬ者は嘗て与えた痛みを背負う」
 ぽつと語られるその声の、安心を与える深い声は、小さくてもそんな場所によく通り。
「その繰り返される運命の、彼女の悲しみが私達を呼んだ」
 夜彦が、空を見上げる。
 そうして、人々を見る。彼らの顔には、もう、敵意はない。
「私達には抗う術がある、貴方達の痛みを終わらせられる」

「どうか、どうか……武器をお収めください」
 男が深く頭を垂れる。けれど、無抵抗な彼らを傷つけようと思う者は誰もいなかった。

「アンタらの不安な気持ちはよく分かる……安心しろ。次は自分の番か、と怯え続ける夜は、俺達が止めてやる」
 漸く落ち着いた争いに、結城が誓って引き受ければ、要は変身を解除してやれやれと肩を回した。
 落ちた槍を見て、ひとり思う。

(この効率の悪さも奴さんの演出かねぇ)

 随分と趣味の悪い……などと考えていれば、
「?」
 要の嗅覚が、何か嫌なものを捉えた気がした――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

桜雨・カイ
アドリブ・連携歓迎
まずはパヴラさんを町民から引き離します
人形をつかって町民の武器を破壊します(怪我させないように)
もしかして病ですか?…【聖痕】で苦しみを和らげます

怖かったでしょう?
助けに来たと言っても感情は落ち着かないでしょう
いいですよ、その感情ぶつけても良いです
だから一人で抱え込まないで下さい。優しく笑いながら言います

人の苦しみを受け止めて、少しでも人に寄り添うために
私(人形)はここに在るんです。

そして私は現在猟兵でもあります。
パヴラさんを殺れさずみんなも助ける方法を探します
誰も望まないことを望まずにすむように。だから何か分かることがあれば教えて下さい


皐月・灯
わかるよ。オレも……この世界の出身だからな。
連中を説得するぜ。

だって、オレに……こいつらは殴れねーから。

……オレは、別にアンタらのことを責めようとは思わねー。
そうするしかねーんだもんな。
この胸糞悪い儀式をやめたら、アンタらは殺される。
……ああ、これをやらせてるヤツならそうするぜ。
オレにはわかる。

……でもな。アンタらだって解ってるだろ。
殺される前に、心がもう死にかかってるって。
自分で命を絶つヤツだっているんじゃねーのか。

止めちまえ、もう。止めさせてやる。

次に死ぬのはパヴラじゃねー。この儀式を考えたクソ野郎だ。
……オレ達がソイツをブチ砕く。

上手くいかなきゃ、その時は――オレが代わりに死んでやるよ。


ジェイ・バグショット
説得
生きるってのは、大変だよな。
それはこの世界においてはなお困難なことなのだと、よく知っている。
持病持ち故に生きる苦しさも分かる

けど死を選ぶってことも、俺は大変だと思うがな。
この死がもたらす苦しみが、殺される女はもちろん村人たちの心も苛んでいるのは目に見える。
人の為に生きることを諦めたあの女はスゲーよ。

俺には出来ねぇなと思う。
俺は自分の為に生きているから。

後ろめたさ全開の村人達を軽蔑しようとも思わない。生きたいという気持ちは誰もが持っていいものだ。
こんなことはもう辞めたいんだろ。出来ることなら。
もしアンタらが明日を笑って生きたいなら、決断が必要だ。
恐怖に勝って、この女を殺さない。って決断がな。


終夜・凛是
しにます、と言ったから
そう、しねばいいとは、ちょっと思わない
ひとりがしんで、他が救われるなんて、そんな事
あっていいわけがない、あるわけがない
全部たすかるか、全部ほろべと、俺は思う
ひとりが、っていうの。ほんと、気に入らない

きっと、やさしいやつが声かけて説得するだろうから俺は墓地へ
儀式、する場所なければできない
だから磔台をどうにかできれば……命は長引く、かもしれない
時間稼ぎにはなるはずだから、壊せるなら壊す

それに、言葉かける時間もできるかもしれない
言葉をかけるのは苦手、だけど……聞きたい、赤毛の子に
ほんとうに、これでいいのかって
死にたくないなら、手伝ってくれるやつ、今いっぱいいる
それが伝わると良い


明日知・理
お前が死ぬ必要は、ない。


【POW】
身体を滑り込ませ、パヴラを庇う。
ただし町民たちを傷付ける意図はないため、木の槍は、納刀したまま出来る限り武器受けしそのまま受け流す。
尚も抵抗するようならば、パヴラを背に庇ったまま殺気を放って威嚇でもしようか。

死にたくないのか。
なら、生きろ。
その手伝いくらいはしてやる。


アドリブ歓迎


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

他人の犠牲の上で生きていく…この世界は変わりませんね。
似たようなことを私もしていたので、みなさんを責めるつもりはありません。
しかし、そうやって生きることに後悔はないのでしょうか?
後悔がないのなら…それはきっと俺よりも滑稽な人形だな。

町民たちから少女を【かばう】
強行してくる町民には【気絶攻撃】。ただし必要最低限に。
かばったことを少女に拒絶されたら説得を試みます。
彼女が死んでも、次の犠牲者がでるだけ。同じことを繰り返すだけ。
「……貴女は、町の方々を人を殺す人形にしたいのですか?」
今ここで流れを変えないといけないんです。

それでも死にたいと望むなら……。
「今ここで、貴女の首をはねようか」



● 定刻過ぎ 墓地 其の二(Cルート)
 少女の起した奇跡は、“効果覿面過ぎた”と言えよう。
 殺せない者は生贄にもしようがない。つまり、彼女を生贄にしても今夜の儀式は達成しえない。
 人々は恐慌状態に陥り、混乱状態のまま、儀式をどうすべきか・目の前の埒外の存在をどう扱えばいいのか、口々に怒鳴り合いを始めた。

「なに、あれ」
 終夜・凛是(無二・f10319)が、露骨に顔を顰める。
 唯一絶対のものを心臓の中心に据える彼にとって、それ以外のもの……特に見知らぬ人間のあれこれ等と言うのは関心の外のことだ。
 けれど、それでも、ああいうのは見たくない。むねが、むかむかする。
 凛是は自分でも知らずの内に、唇を尖らせていた。
 人々の様子を見ていた有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)もまた、嘆息する。
「他人の犠牲の上で生きていく……この世界は変わりませんね」
 どこの世界でも、大なり小なり、犠牲を強いられるものはあろうが、この世界では特にそれが顕著だ。他の世界を渡り歩く猟兵となってからは、一層そう思える。
「生きるってのは、大変だよな。この世界だとなお困難な」
 仕事前の最後の一服を終えて、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)が煙草の火を消しながら言う。
 オブリビオンに支配され、人類がただただ苦汁をなめて生きて行かなければならない世界。それがここ、ダークセイヴァーなのだ。
「でも、きっとあるはずですよ。パヴラさんも殺れさず、他の人も助けられる方法が」
 桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)が、穏やかに、けれど芯の強さを込めた声音で、そう言い切った。
 ダンピールの少年、明日知・理(花影・f13813)も彼の言葉に頷く。
「ああ、その為に来たんだからな」
「そのためにも、まずは、説得して皆さんに私達のことを受け入れてもらわないといけませんね。行きましょう」
 それぞれが町民たちの元へと向かう後から、一人の少年がもう一度、言い争う人々に視線を向ける。
 愚かだ。人間の醜悪さを形にしたような光景だ。

「ああ、でも」
 その場にいる猟兵たちの耳にも届かぬほどに、幽か。
「わかるよ。オレも……この世界の出身だからな」
 皐月・灯(喪失のヴァナルガンド・f00069)が、どこか別の場所を眺めるような目で、そう呟いた。


 堂々巡りを繰り返し、着地点を失った町民たちの怒りの矛先が、より弱い立ち位置の者へと向かったのは必然だったろう。
 誰とはなしに、一人の男を振り返る。
 息荒く、その者を詰り付ける。
「トマーシュ……そうだ。そうだ、トマーシュ!! お前も悪いんだ!! あんな奴らに良いように言いくるめられやがって!!」
「ま、待て!! 急に何で俺に」
「お前が“手引き”したんだろう!! こいつらを!!」
 このままでは、哀れなトマーシュが槍の餌食となる。
 と、そこへ――、
「待って! みんな!!」
 飛び込んできたのは藍色の髪の少女だ。
 この世界では馴染みがない形の仮面を被った少女が、仮面を外すと、藍色は見る見る内に赤へと変じる。

 ヒーローマスクの助けを借り、この場へと駆けつけたパヴラ・モルナールその人だ。

「みんな、お願い。話を聞いて……あの人たちは――「パヴラ!! お前よくも今頃……!!」 語り掛けようとする少女へと、幾本もの怒りで形作られた腕が伸び、少女の髪を、衣服を、掴んで引き摺る。
 マスクを外した今、単なる少女へと戻った彼女に守り手はいない。「っ!! お願い、違うの。私、逃げたんじゃ」「うるさい!! 黙れ!!」 怒りが頂点に達した町民たちに、少女の声は届かない。 それもそのはずだ。彼らからすれば、少女こそ今回儀式がイレギュラーに塗れた元凶と見えているのだから。
 少女は磔台の上へと引き上げられていく。

「……」
 凛是が、駆ける速度を上げた。
 誰より速く、疾く、疾く。
 少女の片腕が固定され、もう片腕も固定される間際に、低く姿勢を落として民衆の足元を掻い潜り飛び込む。
 そして、大連珠を巻き付けた拳を、力いっぱい磔台の根元へと打ち込む。
 轟音が響き、丸太の罅割れる音がした。
 元々、やせ細った木で造られた磔台。しかも、古いとは言えずともそれなりの月日を雨風に晒されてきた代物だ。
 猟兵が休むことなく数発撃ち込めば、いとも容易く折れて倒れ始める。
「うわぁ!!」
 パヴラを縛ろうとしていた町民の一人が悲鳴を上げて落ちた。
「ほんと、気に入らない」
 少年は、吐き捨てるように言った。
 縛られて受け身も取れないパヴラ自身は、次いで追い付いた理が柱ごと受け止めた。
「まったく……無茶苦茶するな」
 肝が冷えると言う理の言葉に、「だって、走って来る速さ的に、間に合うと思ったし」とは言わずに。
 ただ、顔をふいと反らした。

 猟兵たちの突然の行動に混乱する男たちだったが、いつまでもそうしているわけではない。
 遅れに遅れた儀式を、今こそ予定に沿った形で執り行わなければならない。
 男たちは、理によって縄を解かれようとしているパヴラの元へ、槍を振りかざしながら駆け寄る!
 思わず目を瞑った少女に理が告げる。

「お前が死ぬ必要は、ない」

「え」
 少女が問い返そうにも、今は余裕のない状況。
 少年は、パヴラを貫こうと突き出された槍を刀の鞘で受け流し、パヴラを目指す軌道から逸らす。
 代わりに彼自身は僅か、槍先が掠ったが大したことはない。
 とは言え数が多い。その上、低い位置で縄が解けきれなくて動くことができないパヴラを庇っての応戦である。
 相手は手練れでない分、数を捌くことはそれなりにはできるが、四方八方から来られると厄介だ……と思考を巡らせれば、
「理さん、加勢します」
 カイが人形と共に現れる。
 理の隣にからくり人形を配置すると、《オペラツィオン・マカブル》のための虚脱状態にし、カイ自身はパヴラの拘束を手早く外し助け起こした。
「悪い。助かる」
 随分動きやすくなったと、理がアイコンタクトを取ってカイに頷いた。カイも頷き返し、糸の届く限界まで、パヴラを連れて、より後ろへと退がる。
「怖かったでしょう? もう少しだけでも早く割り込めていたら……ごめんなさい」
「いいえ、……助けてくれてありがとう」
 色んな人に助けてもらいながら、結果ここに戻って来て、更には縛られてしまった気まずさが少女の顔には表れていた。
 ふと見れば、彼女の腕に撒かれた包帯が、先ほどのショックだろうか、外れかけている。
「パヴラさん、包帯が……」
 気づいた少女が、パッと腕を後ろに回して隠した。
「ああ、ごめんなさい。何でもないの。これは……平気よ」
「もしかして病ですか?」
「……ええ、そう」
「大丈夫。私は人形なので……見せてください」
 カイは少女の腕を取り、様子を見た。まだ症状は軽いようだが、赤く水ぶくれのようになっている。
 青年は一瞬、悲しげに眉尻を落として、それから自身の聖痕を翳した。
 病こそ治りはしないが、そこから生じる痛みや痒みといった症状は随分と和らいだ。
「……大変でしたね。この儀式も、病のことも」
「いえ、私は!」
「いいんですよ。一人で抱え込まないで下さい」
 カイは微笑む。少女の心を溶かすように温かな声で。
「人の苦しみを受け止めて、少しでも人に寄り添うために私はここに在るんです。貴女の苦しみも、私に預けてください」
 こんな争いの最中なのに、その人形はまるで日向にでもいるかのように言うものだから。
 だから、少女の目からは、少しだけ涙が流れた。


「なぜ邪魔をする!!」
「町の者全ての命が掛かっているんだぞ!?」
 猟兵たちの妨害に苛立つ町民たちの叫びに、凛是は、ただ一度、頷いた。
 突き出された槍を、拳で折って無効化する。
「そう。しねばいい」
「っ!?」
「ひとりがしんで、救われるような奴らなら、いっそしんだほうがいい」
 きっぱりと言い放つ少年に、後方でのらりくらりと直接的な交戦を避けていたジェイがヒュゥと口笛鳴らした。
 音は上手く鳴らず、代わりに咽て咳込んでしまったけれど。
「いや、過激派だなお前」
 くつくつ笑う男に不機嫌な顔向けて凛是は口を噤む。
「私は、似たようなことをしていたこともあるので、みなさんを責めるつもりはありませんよ」
 彼らの行動の仕方なさをある程度は認めつつも……夏介は、そこで止めない。
「しかし、そうやって生きることに後悔はないのでしょうか?」
「どういうことだ……」
 仮面の中の表情は、見るまでもない、怒りだ。
 それだけではない、後悔、罪悪感。それら全てを隠すため、その為の仮面なのだ。
「いえ、後悔があってなお、ない振りをしているのなら……それはきっと俺よりも滑稽な人形だなと思いまして」
 言うなり夏介は処刑服の裾を翻し、彼女、パヴラ・モルナールの元へと向かう。
 カチャリと、剣の柄を確かめながら。

「答えは、出ましたか?」
「答え……」
 少女が繰り返す。何の、と説明されなくてももう分かる。
 今日、何度も尋ねられたことに対する答えだ。
「ええ、貴女が今死んでも、この町はまた次の月には同じことを繰り返すでしょう」
「知ってるわ」
 少女は男の目を見据え、はっきりと答えた。
「……貴女は、町の方々を人を殺す人形にしたいですか? いえ、もっとはっきり聞きましょう」

「それでも、死にたいですか?」

 彼女にこの負の連鎖を断ち切ろうという意思がないのなら。
「今ここで、貴女の首をはねようか」

 すらりと抜かれた処刑人の剣が、パヴラの首の横に水平に並べられた。
 こくり。
 細い喉が鳴る。
 その刃の鋭さは、素人目にも見て分かる。軽く引いただけで、刃は簡単に、骨まで達するだろう。

 処刑人である彼が、自分だけの感情で罪なき者を処すること等ない。
 かなり手荒だが、これは彼なりの荒療治だ。
 死を間近に突きつけられれば、大抵の者は「生きたい」という自身の願望に気付くはずだ。
 装う殺意は真に迫っている。けれど、猟兵たちは皆、彼の真意に気付いていた。
 そう。
 気づいてはいた、が――、

「悪い、有栖川。止めてやってくれ」

 止めたのは、灯だった。


 夏介の刃が、それ以上動かないように己の手で止めて、灯はそう頼んだ。
 普通の刃は、引かねば斬れない。
 けれど夏介の持つ、切断することに特化した剣は、引かなくてもある程度は斬れる。
 ぽた、ぽたと、灯の黒いグローブを裂いて、その下の肉から溢れ出す紅は、じわりと地面にしみ込んで飲み込まれる。
「……皐月さん、貴方」
「分かってる。分かってんだ。アンタの考えてること」
 だが、その上で、

「でも、頼む。これ以上、こいつらを責めねーでやってくれ」

 再び、灯は繰り返した。
 夏介の刃がそれ以上灯の細い指を切り落とさないよう丁寧に離され、収められる。
 ありがとなと小さく礼を言い、男たちの方へと歩いて行く。
「聞きたかねーかも知れないが、聞いてくれ。……オレは、別にアンタらのことを責めようとは思ってねーんだ」
 少年に、槍が向けられる。だが、彼は構わずに彼らに近づく。
「そうするしかねーんだもんな。この胸糞悪い儀式をやめたら、アンタらは殺される……ああ、これをやらせてるヤツならそうするぜ。オレにはわかる」
 同じ世界を故郷に持つ者として、この世界を支配している者たちの残虐性は嫌と言うほど知っている。
 それに覚える恐怖すら。灯は、今しがたできたばかりの手の傷痕を見る。
 赤。血。連想するものは……握りしめて、拳をつくった。
「……でもな。アンタらだって解ってるだろ。殺される前に、心がもう死にかかってるって」
 少年が顔を上げれば、橙と薄青、二色の瞳に立ち竦む男達が映る。皆、灯の言葉の持つ力に、ただただ、動けずにいた。

「自分で命を絶つヤツだっているんじゃねーのか」
 心当たりがあったのだろう。はっとして、何人かの男が顔を伏せる。
 それほどに至るまで、この町が見過ごされてしまった事。猟兵は予知の範囲でしか動けない。
 支配が常のこの世界で、猟兵たちが関ることすらできずに終わった事件が、どれほどあるだろうか。

「止めちまえ、もう。止めさせてやる」

「次に死ぬのはパヴラじゃねー。アンタらでもねー」
「この儀式を考えたクソ野郎だ」

「……オレ達がソイツをブチ砕く」
 握った拳を胸の前に掲げ、少年は真っすぐ、今は未だ影も見えないソイツを睨みつけ言った。

「上手くいかなきゃ、その時は――オレが代わりに死んでやるよ」

 薄く、鋭利な氷のように冷え冷えとしたその声は、彼の覚悟の重さを否応無しに悟らせた。


 灯が町民たちに訴えかける中、凛是はパヴラに向き合い、声を掛けた。
「ねえ、あんた」
 振り返った少女は、ほんの少し、警戒している。
 今しがたの夏介の件があったので、已む無いことだろう。
 凛是も、別に近づいく必要のあることをしに来たのではない。
 位置を変えずに、その場所から尋ねる。
「……ほんとうは、どうしたいの」
 少女が、驚いたような目を相手に向ける。
 少年は、表情も声も変えないままに。
「こうしたいって、希望があるなら、言えばいいと思う」
 優しいやつがたくさんいるから、きっと、助けてくれるから。
 少女が、徐に口を開いた。
「私は――」


 パチンと、手を叩く音が響いた。
 灯の説得に引き込まれていた皆の意識が引き戻され、戻った先にいたのは、不健康な顔色の男だった。
 最早、互いに掴みかかり合う心配がなくなった今、漸く前に出て来た男は切り出した。
「こっちの目的は分かっただろ? 俺達はアンタらを邪魔しに来たんじゃねーんだ」
 武器、置いてくれよと言うジェイの言葉に促され、カラカラと乾いた棒切れが転がる音が鳴る。
「生きるってのは、大変だが、死を選ぶってことも、俺は大変だと思うぜ」
 何せ俺には出来ねぇ。自分の為に生きているからと、青年は恥じることなく言ってのけ。
「人の為に生きることを諦めたあの女はスゲーよ。裏切ったやつがそんなこと出来るわけねーだろ」
 男の親指が後方へと指示される。
 立っていた赤毛の少女は、急に言われて、僅かに身じろぎした。
「アンタらが、この積み重ねられてきた死に苛まれてるのは外から来た俺にも分かる。本当は、こんなことはもう辞めたいんだろ。出来ることなら」
 誰も言葉にする者はいないが……それでも、その空気は、その問いかけへの肯定を感じさせるものだった。
 だから、ジェイは……黒づくめの不吉な男は、「死にたくない」ではなく、「生きたい」という希望を彼らに提案する。
「もしアンタらが明日を笑って生きたいなら、決断が必要だ」

「恐怖に勝って、この女を殺さない。って決断がな」

「で、ちなみに、アンタはどうなんだ?」
 ジェイが軽く見返って、パヴラへと投げかける。
 少女の表情に、もう、迷いはない。
 先ほど、妖狐の少年に問われたときに応えた言葉を、はっきりと、臆さずに言える。
「生きたい。町の皆も、一緒に。だから……助けてほしいの」

「だとよ」
 ジェイが、町民たちへニッコリ笑った。
「ああ、助ける相手が一人でも百人でもやることが同じなら、手伝いくらいはしてやる」
「ええ、誰も望まないことを望まずにすむように。だから皆さん、何か分かることがあれば教えて下さい」
 空気も和らぎ、やがて、一人が猟兵たちへと頭を下げたことを皮切りに、一人、また一人と仮面を剥がし、謝罪とせめてもの詫びにと自身の知る情報を話し始める。
 そんな中、
「……?」
 くんくんと、凛是が、空気の匂いを確かめる。
「夜終さん、どうかしましたか?」
 様子に気付いた夏介が尋ねると、凛是は苦虫を噛み潰したような顔をして、ぽつりと言った。

「すごく、嫌な臭いがする」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『堕ちた死体』

POW   :    噛み付き攻撃
【歯】を向けた対象に、【噛み付くこと】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    一度噛まれると群れる
【他の堕ちた死体の攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【追撃噛み付き攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    仲間を増やす
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【堕ちた死体】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【2章の募集開始日時は後日、追加OPと共に記載致します。
 募集開始までは少し間が開くかと思いますので、お手数ですが、また後日ご確認頂ければ幸いです。】

『何の茶番だ? くだらんな……実にくだらん』

 異臭。
 地面の微細な振動。
 そして突如として闇に響いた声。

 人々が感じ取ったそれらの異変が、今、姿を現す!
 この磔台は、ちょうど墓地の中心に設けられている。
 自分たちが手にかけた骸をすぐに屠れるようにと、必然的にそうなったのであるが――不幸にもそれが今、災いとなって形を成した。

 地面から這い出る数多の腕。
 窪んだ眼窩。開いた口。土に塗れた衣服と、温度を失い土気色になった肌。
 悲鳴を上げたのは、町の男たちの一人だった。
「ひっ!!」
「あ、あれは……っ!!」
 最も新しい遺体と見えるそれは、足を引きずった老婆であった。
 少女が口元を押さえて声を失う。

 あの顔も、あの顔も、あの顔も、私たちは“知っている”――!!

 この町を生き延びさせるために死んだ者達も、この町に生きて暮らし生を全うした者達も、墓地に眠る者は皆等しく町を滅ぼすために死後の安息すら奪われるという無道……。
 だが、それより先に考えるべきは、このままでは身を護る術の少ない町の者達は、さほどの時間も掛けずに“彼ら”の仲間入りするだろうという事実。

 声は笑った。
 笑って、言った。

『興覚めだな。最早、皆死ね』

 * * * * *

【※ 第2章受付について
 お待たせしております。第2章についてご案内致します。
 少し長くなりますが、ご確認いただければ幸いです。

 第1章の状況から、通常スケジュールでは三日で第1章の人数を描写することは不可能だと判断しました。
 ですが、可能な限り皆様を描ききりたい気持ちがとても強く。
 つきましては、★を拘束し大変申し訳ありませんが、以下の日程でプレイングを受付したいと思います。

◆プレイング仮受付期間 :13日(水)~17日(土)
◆プレイング返却期間  :17日(土)~21日(水)
◆プレイング正式受付期間:22日(金)8時30分以降、受付開始
 (※ 25日プレイング受付締め予定)

 仮受付期間は、あくまでご厚意をいただけるのなら……という期間です。
 この期間にプレイングを頂かなくても、正式受付期間に頂いたプレイングは可能な範囲で執筆したいと思っております。
 また、正式受付のプレイングは、仮受付の時のプレイングから多少変更して頂いても大丈夫です。
 ★とお手間を頂く分、クオリティに変えてお返しできればと思います。
 御面倒をおかけし恐縮ですが、ご協力の程、何卒よろしくお願い致します。】

 * * * * *
※ 追記 ※
17日は土曜日ではないし、21日は水曜日でもない。
日付が正しいです。曜日は無視してください。お目汚し失礼致しました。

 * * * * *
仁上・獅郎
この雰囲気に冷や水とは、中々無粋ですね。
町民の皆さん、お下がりください。
猟兵達が引き止めた命、無為に散らすのは余りに惜しい。

さて、防戦にして殲滅戦、下手な大技は危険、となると。
[医術]と【生まれながらの光】で他の猟兵さんの治療をしつつ、
寄らば妖刀、寄らねば鋼糸と拳銃で処理。
攻撃は死体の動きを[見切り]回避を、
無理なら[早業]と妖刀での[武器受け]で防御を。

……ああ、失礼。
残念ながら、僕は亡骸よりも生者を優先しますので。
その首を、手を足を、胴を斬り落としてでも阻ませていただきます。
それでも止まらないなら――刀で貫き、溢れる炎で焼いてしまおう。
外も中も黒焦げになれば、動くことはないでしょう?


リカルド・マスケラス
「くっ、そう来たっすか!敵さんもなかなかにエグい手を」
何でもできる魔法の仮面と言ってしまったけれど、さすがに死者を生き返らせることはできないっすからね。

パヴラの体を借りるにしても、単独で戦うにしても、やることは決まっている
「来るっすよ!アルタイル!」
宇宙バイクを装備ともども呼び寄せ、【騎乗】。パヴラや他の村人が狙われないよう牽制し、鎖鎌の【ロープワーク】で動きを阻害し、バイクのボディで攻撃を【かばう】

村の知り合いの顔がある以上、堕ちた死体への攻撃は最小限にしておきたいが、どうして倒さないといけない場合や、パヴラの覚悟が見て取れた場合
「村の今を守るため、すまないっす」
と、鎖鎌で【なぎ払い】をする


鹿忍・由紀
ああ、賑やかにしすぎて起こしちゃったか。
囲まれてるのはちょっと面倒だなぁ。
正義のヒーローじゃないから、人々を守るっていうのはあんまり得意じゃないんだよね。

町の人たちに近い場所にいる死体から順番に『絶影』で対処。
噛みつけないように首を狙って破魔を込めた斬撃を。
身を呈して庇ったりとかではなく、あくまで目の前の仕事を淡々とこなすだけ。

(町の人へ)
目、閉じといた方が良いよ。
走れって言ったらそのまま走って逃げて。
知ってる人の首が落ちるとこなんて見たくないでしょ。
いくら自分たちが手にかけた相手だろうとね。

そっちこそこういう趣味の悪い茶番はいいからさ、どこに隠れているのかな。
見てるんだろ。


アルトリウス・セレスタイト
大人しく引っ込んでいれば良いものを
ともあれ始末するか

臘月で分体を出し数に対抗
まずは数を減らし圧を落とす

それぞれ四体ほどに魔眼・封絶と魔眼・停滞で敵勢の阻害に当たらせ、自身は状況把握と分体の補充に回る

残る個体は破天で掃討
高速詠唱・全力魔法・2回攻撃・範囲攻撃・鎧無視攻撃など駆使した爆ぜる魔弾の嵐による面制圧飽和攻撃
接近も回避も行う余地を残さない密度と物量で正面から押し止める

爆発範囲は猟兵と村人に当てない程度に絞る


気の毒ではあるが討つに躊躇はなく
再度正しく眠らせるのみ
生きている者なら生かそうとはする程度
感情が混じること無く駆動する残骸


冴木・蜜
できるなら皆で生きたい
確かに聞きました
ならば私はそれに応えるだけのこと

仲間を増やさせるわけにはいかない
それ以上に……彼女らに貴方達を殺させるわけにはいかない

安全な場所へ村人たちを誘導しつつ
保護に徹します

村人に襲い掛かる死体の間に
身を捻じ込み
捨て身で庇います
私の身がどうなろうと構いません

庇い切れない者へは
向かっていく死体に向かって『咎力封じ』
封じた死体を引き摺り倒し時間を稼ぎます

言ったでしょう
この村の住人は理不尽には殺させないと
死にたくなければ
私達の後ろに隠れなさい


三寸釘・スズロク
あの酒場のおっちゃんにはちと気の毒なコトしちまったかなあ。
皆が収めてくれて助かった。
って悠長に安心してる間もねえ!
約束通り、手を貸す番だな。

とにかく町民が逃げる隙を作る。
生きてるヒトは巻き込まないように【氷海に棲む蛇の牙】
もう少し優しく眠らせてやりたいんだケド、悪いね力不足で。

気をしっかり持ってくれよ。
アンタら、あのヒトらの分まで生きなきゃなんねーんだから。
動けないとか万一の時はひっ抱えて逃げるのもやむなし。

俺が危惧していた「厄」よりは、ちょっとだけ救いがあるかもな。
だってあのヒトらを動かしてんのは、あのヒトら自身の呪いじゃなくて
下衆で外道な黒幕1人だけってことだ。
いや、まあ、わかんねーけど…


フィオリーナ・フォルトナータ
この屍人達が、贄となった村人達なら
出来ればパヴラ様や村の方達にお見せしたくは…いえ
…見て頂くべきなのでしょうか
皆様の手で殺められた亡者が
皆様を亡き者にしようとしている現実を
その上で伝えましょう
皆様もこの村も、わたくし達がお守りしますと

他の猟兵の皆様と協力して
トリニティ・エンハンスで防御力を重視して強化し
破魔の力を纏う剣で
屍人の攻撃から村人達と、共に戦う皆様を庇うように立ち回ります
寄ってくる屍人は纏めてなぎ払い、吹き飛ばして村人達に近づけないように
お辛いでしょうが、ごめんなさい
わたくし達は彼らの命を再び取り戻す術を持たないのです

その言葉、お返ししましょう
あなたの存在こそが茶番ですよ、オブリビオン


栗花落・澪
皆一箇所に固まって
必ず守るから

パヴラさん
反対側見ててくれる?
何かあれば声をあげて

出来ればでいい
無理はしなくていい
ただ、守りたい意思があるなら
一緒に護ろう

【破魔】を宿した光の【全力魔法】や
【催眠】効果のある【歌唱】での【範囲攻撃】による
サポート主体に村人の護衛重視
囲まれたら一旦村人の中心まで飛び範囲を調整
【オーラ防御】を兼ねた【祈り、優しさ】のUCで
周辺一斉攻撃+防御

痛みで苦しめたくはない
ただどうか…安らかに

万一の時は敵に飛び付き村人を庇う
自身の痛みは気にしない
一時的に【生まれながらの光】で死者達にも癒しを与え
戸惑いでも見せてくれたなら抱き締めながら
光を指定UCに変換、浄化

ごめんね
おやすみなさい


レガルタ・シャトーモーグ
ふん、これが罪の暴露ってやつか
他人を犠牲に目を瞑ってきた奴らには相応の報いだろうが
あからさまに嘲笑ってる奴がいるのは気に入らない

村人に近付こうとする骸には「鈴蘭の嵐」
墓地からの退路確保を優先して村人を逃がす
逃がそうとして無残に殺される、というのが黒幕の好みだろうから
殺させないのが一番の意趣返しになるだろう
鈴蘭の嵐で足りない所は飛針とワイヤーで牽制し【2回攻撃】と【暗殺】で仕留めていく
倒した端から戦力増やさせられたら埒が明かないからな
骸は首か四肢を斬り飛ばして再利用できないようにしてやる

興覚めなのはこっちだ…
コソコソ隠れてないで、さっさと出てこい


イア・エエングラ
やあほんとうに、悪趣味ねぇ
起されてしまってかわいそに
お顔の見えないのも、気に入らないこと

ひとを、守るのを一番に動きましょうな
儀式を止めたとて皆しんでしまってはね
逃げ出すよりは、お傍にいてな
どこから這い出てくるか分からないもの
滄喪でもって、狙うのは人に伸びるのを最優先に
裾翻して駆け抜けるのはその身を守るために
討つのが間に合わないなら代わり庇ってでも

つめたい火は、お嫌いかしら
仕留められずとも足元を腕を狙って
一時その動きを鈍らせるだけでも
退避の術をお持ちの方がいるんなら
そちらへ下がってもらえる時間を稼ぎに

起している悪い子が、いらっしゃるのはどちらかな
墓をひっくり返しているのでは埒もあかない、でしょう


バル・マスケレード
狙われている村人がいれば、その眼前に割り込み、攻撃を受ける。
……ああ、全く。
お優しい宿主サマだ。
一人の村人も「見捨てられない」たァな。

で。
こんな攻撃で〝俺達〟を殺そうってか?
そりゃあ……
「――何の茶番だ?」

狙われた村人は宿主の意思に任せ、必ず庇う
その度、ジャスティス・ペインによる強化
攻撃はトリニティ・ソードに炎を纏わせて【属性攻撃】
増大した身体能力なら一瞬での【2回攻撃】ぐらい容易だろ?
土から蘇えンなら、今度は火葬だ
機動力は【ロープワーク】で確保
敵や地形に久遠の《棘》を伸ばして巻きつけ、引き戻すことで戦場を駆け巡る

死ぬほど不本意だが、教えてやるよ。
「ヒーローマスク」
それが、俺ら種族の名だ。


シホ・エーデルワイス
味方との連携重視

ごめんなさい

儀式を失敗させる事で
生贄以外の事を考える切欠になればと思ったのですが
裏目に出るなんて…

そしてフォローをありがとうございます

私の全員を助ける覚悟
証明します


人々の安全確保を最優先
<鼓舞し手をつなぐで【救園】による救助活動>

皆さん!
今迄犠牲になって命を繋いでくれた人達の為にも生き残って!

敵に囲まれ孤立した人は<勇気と覚悟>を決めて
【翔銃】で上空から急降下し救助
私の袖に掴まって!

身の危険を顧みず<オーラ防御、武器受け、激痛耐性で人々をかばう>
負傷者は積極的に【祝音】で回復

掴まれて動けないなら【贖罪】

攻撃は【鈴蘭の嵐】で顎か歯を狙い
<スナイパー、誘導弾、鎧無視攻撃で2回攻撃>


明日知・理
(アドリブ歓迎)

…お前らに、復讐する権利はあるんだろう。
だがそれを受け入れるわけにはいかない。
それは猟兵の仕事だからで、
…いや、
――きっと、俺のエゴだ。

▼戦闘
村人を最優先にかばう。
…攻撃は甘んじて受けよう。
(それは無念の内に死んでいったのであろう、彼らをまた殺すという無意識下の罪の意識ゆえ。)
捨て身の一撃としてユーベルコード『氷雨』を彼らに見舞う。
範囲攻撃や暗殺も併用し、
この一刀を、彼らの葬送の一助とする。


桜雨・カイ
死にません、皆助けます。

大丈夫ですか?皆さん知り合いのようですね…
(町の人達へ)怖いですよね?でも大丈夫です、必ず助けます。
パニックにならないよう、確実に助かると告げて落ち着かせます
できるだけ一カ所に固まって、少しだけ我慢して下さいね。

錬成カミヤドリ発動。半数を町の人を守るように囲み、残りを攻撃へ。

無理矢理墓から起こされて嫌ですよね。パヴラさん達にショックを与えないように、できるだけ遺体を傷づけないように倒します
蘇った人も人間なんです…これ以上望まない人殺しはさせません

今までの人達は間に合いませんでした…でもパヴラさん達はこれからこんな辛い思いをしなくていいよう、必ず助けます(もう一度力強く)


護堂・結城
手荒い対応することは多いけど俺好きなんだよ
こんな世界で怯えながらも懸命に生きる人の輝きが

だから、手の届く人は助けるし、外道は殺す

【POW】

もうこれは生前とは違うモノ…なんて、割り切れるわけねぇよな
だから、見たくないなら目をつぶってろ、その間に終わらせる

『雪見九尾の落涙葬送』を発動
月の尾、紫電の双牙、氷牙の封印を解き無数の雷槍に変化
念動力で操りながら村人に近づく死体を最優先で狙う
破魔・衝撃波・属性攻撃・マヒ攻撃・範囲攻撃を載せて投擲

自分を狙う死体は怪力のグラップルでカウンターの吹き飛ばし

死は君の名を呼んでいる。だからどうか、どうか…安らかに
二度と利用されないように祈る


向坂・要
茶番、ですかぃ?
こんな筋書きよりゃマシだと思いますがね

村人を庇いつつ呼び出すは炎の雪崩を宿す鹿の群れ
【エレメンタル・ファンタジア】

火葬も兼ねての葬いの炎
かいくぐってくる相手には炎と風のルーンを宿したtoguz tailsによる属性攻撃、なぎ払い、衝撃波
念のため守りの力を宿した分体達に村人の警護を任せますぜ

基本、常に全体を俯瞰で把握するよう心がけ何かあれば声かけ

toguz tailsで届かなけりゃFarbeも使って
クィックドロウ

絡み、アドリブ歓迎


ジェイ・バグショット
既に死んだ人間に向ける慈悲は持ち合わせていない
感傷もなく敵として処理する
生きてる人間と死んだ人間、どっちに価値があるか聞かなくても分かるだろ

多数相手は得意なんだ。
輪に棘がぐるっと刺さっている拷問器具『荊棘の王』
自動で敵を追尾し、捕らえると同時に棘が突き刺さりダメージを与える。
自動追尾を解除し自分で操ることで【早業】により速度アップ
多方面から輪を強襲させる

殺したヤツらに襲われるとは、村人にとっちゃ悪夢だなぁ。
どこか面白がってる様子
責める気持ちはないが

このくらいの罰はあってもいいんじゃねーか。
死んでいったヤツらと違って、アイツらはまだ生きれるんだからな。

荊棘の王で村人の避難もさり気なくバックアップ


鼠ヶ山・イル
墓地からすべて掘り起こして来たってのか
……悪ぃが、あんたらは余所者のオレ達が殺すぜ
悔恨も悲嘆もなく、淡々と殺してやる

燐寸のような細っこい炎でも、数があれば事足りる
【2回攻撃】でいくらでも狼を喚べるぜ?
アンタの髪に、服の端に、爪先に火を灯し、そして炎で包んでやろう
さあ灰となってくれよ
そして、もう眠ろう

汚辱を引き受けながらなんとか命を繋いできたのを
茶番なんて笑うなよ、冷たい奴だな
誰かの犠牲の上に成り立ち続けた命に正しさなんてない
それを悔やみ償う時間を、これからこの街の連中に与えてやるんだ
そのために、死すべき者は死ぬ
過去は過去に還帰る
オレは余所者だからな。無責任になんでも殺せるんだよ
覚悟しろよ?


皐月・灯
向こうから仕掛けてきやがったか。
……安心したぜ。
一切合切容赦なく、ブッ飛ばしてよさそうなヤツの声だった!

ここは村人たちをなるべく中心に居させて、そこを守るしかねーだろ。
敵が近づく前に、《焼尽ス炎舌》だ。
噛みつきを【見切り】つつ、【全力魔法】の【カウンター】で塵にしてやる。

……敵、か。
この死体の中に、望んでこうなったヤツなんかいねーよな。
ああ、そうだ。ただの一人だっていなかった。
村人たちの顔を見りゃわかる。
後悔と驚愕と、悲嘆と絶望……納得なんてあるはずがねー。

焼き払うぞ。容赦はしねー。
怨みたきゃ存分に怨めよ。
アンタらの怨念も拳に込めて、野郎の顔面ブチ砕いてやるからよ。


大豪傑・麗刃
おまえが誰だかは全くわからないのだ!
でもまあ、なんだか国語の試験が苦手だったわたしの語彙力では到底表現できないぐらい質量ともに悪い事をしている事ぐらいはわたしでもわかるのだ!!

わたしは超怒ったのだ~!!

(スーパー変態人再発動)

わたしはこの光にかけてなんか誓ってしまったのだ!
だったらその言葉にかけて、ここに集まった人々誰も傷つけないのだ!

そんなわけで。
幸いにもわたしはここの村人に知り合いはおらず、生ける屍を葬る事にはなんの躊躇もなし。
右手に刀と脇差(と呼ぶには大きすぎる剣)!左手には斧!これをもって近寄る敵をただひたすらに切り伏せ、血路を切り開き、村民全員を無事に脱出させるのだ!


月舘・夜彦
死してなお、まだ生かされている
いえ、利用されているというのが正しいのでしょう
……心さえ、弄ぶというのか

速やかに接近し、先制攻撃
抜刀術『風斬』にて回数重視併せ2回攻撃
攻撃は基本残像、見切りより躱してカウンター
町の人が狙われた時には庇い、武器受け
彼等には声を掛けて逃げるように伝えましょう
逃げられないなら、この場から動かさず凌ぎます

今動いている者達は貴方達が手を掛けた者達
ですが本物に非ず、利用されているに過ぎない
生きる者は同じ場所の者を殺め、次は己と日々恐れ
死した者は安らかに眠る事も叶わず、そして我々によって再び死を迎える
……理屈では分かろうとも、傷付けてしまうのは心苦しいですが
彼等を生かさなければ


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

生贄として死んだ人々は、この町の安寧を願っていたはず。
それなのに、その彼らの思いを踏みにじったな。
……塵は塵に。
死者はあるべきところに還りなさい。

処刑人の剣を振るい、堕ちた死体を屠っていく。
四肢を奪えば動きを止められるでしょうか。

町の人々が襲われないように、間に立ち、不意打ちをされないように、常に背後を意識しておきます。
攻撃を受けそうな人がいれば駆けつけて【かばう】
離れた敵にはトランプを掲げ、UC【執行者たるトランプ兵】で攻撃。

「……サヨナラ」
おやすみなさい。次は目覚めぬ良い夢を。


ビスマス・テルマール
事の事情を情報収集で聞き
大体の事は……己の手勢を増やす為に、胸糞悪いやり方で村人達を脅迫したと言う事ですか

犠牲者である死体に
刃を向けるのは忍びないですが

●POW
トリニティ・チルドナメロウを攻撃力重視で発動

仲間と連携し先陣を切り
冷やし孫茶バリアをオーラ防御と属性攻撃(浄化)で強化し範囲攻撃で範囲を広げ展開し突撃

バリアに噛み付かせ
冷凍クロマグロソードに属性攻撃(聖)と鎧防御無視を込め
マグロの鎮静効果を高め、範囲攻撃で複数一思いに一閃し浄化を

せめて、なるべく苦しまず……安らかに。

犠牲者の死体のユーベルコード以外の攻撃は手持ちの武装をオーラ防御で覆い盾受けと武器受けで対応します

※アドリブ掛け合い大歓迎


終夜・凛是
ああ、これは。
ここで死んでったひとたち、なんだ。
そっか。眠りを起こされて、そりゃあ、不機嫌だよな。
されたことも思い出せば、なんて言ってそれを受けたとしても……うん。
まぁ、そのへんを思うのは、考えるのは。俺のするべきことじゃないか。
俺ができるのは、もう一度ちゃんと眠れって、いってやるだけだ。

なんか、ほんと。
やったほうのやつらが悲鳴あげるの、不愉快。やってきたことを棚上げで。
でも生きてるなら、守る。多分、それが正しい。にぃちゃんはそうする。
だから、俺もそうする。
村人に攻撃いかないように動く様に心がける。

狐火で向かってくる相手は燃やして、それでもなお、歩み続けるなら拳で。
灰燼拳でトドメを。




「この雰囲気に冷や水とは、中々無粋ですね」
 ひやりと、獅郎の目が細められる。声はすれど姿は見えず。巡らす視線の糸に、声の主の影は映らない。
 先ほどの声・言葉からも獅郎が感じたのは、慎重というより傲慢。
 “まだ自分が動くには値しない”とこちらを見縊っているのだろう。
(……どうやら、引き摺り出す以外にないようですね)
 力尽くで。本体が出て来ざるを得ない状況にする他ない。
 動く屍共の数は多い。
 最初こそ目についたのは町人たちが反応を見せていた贄となった者たちだが、見渡せばどうもそれだけではないようだ。老若男女、地面を這い摺る赤子。刺殺の痕跡がない者。
 生贄として死んだ者だけではない。命を徒に散らされた者も、この世界で幸運にも寿命を全うできた者も、区別なく……これまで町で死んだ者たち、この町の背負う過去の全てが、眷属へと変えられ、繰られ、襲い掛かって来ているらしい。
 動きは鈍く、攻撃も単調。
 猟兵たちなら苦も無く倒せようが、町の者たちにとってはそうはいかない。

「死にません、皆助けます」
 カイは、人のために生み出された人形は、決して揺るがぬ声で見えない者にそう宣言し、行動を始める。
 助ける……それには、まず住民たちを護り易い場所へ集めなければ、と。
 一方で、ここで被害が増えれば、敵の勢力が増えるのではないか――ということを、獅郎の嗅覚は捉えていた。
「町民の皆さん、お下がりください。ここで引き止めた命、無為に散らすのは余りに惜しい」

 幸いにも今しがた猟兵たちとの立ち廻りを終えたばかりの町の者は、比較的近くに集まっていた。
 とはいえ、どこから四方八方のみならず、地中からでさえも伸びて来る死者の腕は――、
「うわぁっ!!」
 油断ならない。男の悲鳴が上がる。
 見れば、地面から出された骸の腕がその足をしっかりと掴んでいた。
 足を取られた男は転び、反対にその足元は、地面の中から土の上へと這い出ようするもののために、地面が盛り上がり始める。
「ひっ!! 離せ!! 離してくれ!!」
 何とかその腕を引き剥がそうともがいても、幽鬼と化し痛みを失った者にとっては蚊に刺されたようなものだ。指一本、開くことはない。
「一瞬だけストーップ! なのだ!」
 唐突なその声に、男の注意はほんの瞬間だけそちらへと反れる。動きが緩んだその瞬間、
「ふんぬ!!」
 その腕を骨ごと断ち切ったのは、巨大な斧だった。
 自分の足についたまま先がなくなった死体の腕と、わずかに斬り裂かれた自身のズボンを見て、男の顔からさぁっと血の気が引く。
 この斧なら、一歩間違えば、自分の脚ごと――、
「うむ、間に合って良かったのだ!」
 ここかな? と、尚も這い出ようとする死体の、恐らく頭があるであろう場所に、脇差代わりのバスタードソードを突き刺して、麗刃がからりと笑った。
 躊躇の欠片一片も見せずに処理を済ませると、武人は虚空に向けて声を上げる。
「おまえが誰だか、わたしには全くわからないのだ!」
 返事はない。
「でもまあ、なんだか国語の試験が苦手だったわたしの語彙力では到底表現できないぐらい質量ともに悪い事をしている事ぐらいはわたしでもわかるのだ!!」
 言うや、再び怒りをエネルギーの源として全身に気合を漲らせる。
 金に輝く剣豪の思考はシンプル過ぎるほどシンプルだ。
 悪いから倒す。誓ったから守る。そして――、

 続き近寄る死体を一閃。胴体ずぱりと真っ二つ。
 腐った黒い血を、エンガチョと言いながら避ける。

 知らぬから、斬る。
 ただそれだけだ。

 黒い染みが地面を蝕むように広がり、染み込んでいく。
 夜に包まれた世界で、足元の微細な変化が見えるわけではないが、地面に液体が染みていくつぷりつぷりとした感触だけは、草鞋を隔てた足にも伝わるようが気がして。
 金に照らされ地面に転がり落ちた死体に、もう一人の剣豪……夜彦は目を伏せた。
(……心さえ、弄ぶというのか)
 
 人に人を殺めさせるという状況。そのことですら痛む彼の胸は、この、“殺された者たちが生者を殺すために弄ばれる”所業を前に、益々痛みを強くする。
 愛刀【夜禱】の柄に手を掛け、握る。いつでも抜刀できるように。いつでも、彼等を葬れるように。
 そう、今すべきは……、

「なるほど、大体の事は把握しました」
 応援に駆け付けたビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)が、墓地へと来る道すがら得た情報と場の様子。そして先ほど響いた声から、状況を察し理解する。
「己の手勢を増やす為に、胸糞悪いやり方で村人達を脅迫したと言う事ですか……許せません」
 なめろう猟兵としても、人としても。
 その人々の心を踏みにじる行いは、彼女の正義感からは到底、見逃す事ができない。
 冷製なめろう料理が描かれたカードをホルダーから素早く取り出し、翳す。
『Namerou Hearts Chilled!』と唱える機械音に続けて、ビスマスが「冷製なめろう武装転送っ!」と言えば、一瞬にして、マゼンタ色の鎧は冷製なめろう水餃子を模した鎧へと姿を変えた。
「行きましょう! わたしが切り込みます!」
 蒼鉛の少女が守りのオーラを展開し、集い始めた死体たちをまとめて押し返そうと突撃を開始する。
 同時、別方向へと夜彦が刃を閃かせ、瞬きの間に複数体を斬り倒す。
「ビスマス殿。此方は私が切り開きます。其方は御任せします」
「! ありがとうございます。心強いです!」

 数こそ多いが、骸は骸。知性や統率の取れた戦略など持ち合わせない傀儡。
 これが常ならば猟兵たちなら、時間と手間はかかるだろうが少数でも全て討ち果たすことができるだろう。
 だが、今は守るべき存在がいる。
 それはどれほど凄腕の猟兵であっても、この数を前にしては、一人で成すことは容易ではない。
 しかし、幸い哉。隣を、背を、任す事ができる者たちがこの場には集っている。

 彼等を生かさなければ。

 正義の徒の刃を、常闇の世に灯る微かな光が、駆け抜けた。


「やあほんとうに、悪趣味ねぇ」
 無理やりに目覚めを与えられ、喉から呻きともつかない声を漏らしながら彷徨う骸たちを目にして、イアが呟いた。
「起されてしまってかわいそに」
 お顔の見えないのも、気に入らないこと、と、冷ややかな視線を虚空に向ける。
「敵の正体は分かりませんが、私たちは優先すべきことをしましょう」
 蜜の心の中にあるのは、少女が言った言葉と、ならばそれに応えるだけだという信念だ。
 イアの瞳が、蜜の方へと動く。
「ええ、そう。ひとを、守るのを一番に」
 ここで皆しんでしまっては元も子もないものね、そう言って宝石種の青年は後ろに控える町民たちへと見返り、声を掛ける。
「逃げ出すよりは、お傍にいてな」
 既に、地面のあちこち、足の踏み場もないほどに地面には大きな畝に似た隆起が生じている。
「でないと、捕まってパクリと呑まれてしまうよ」
 脅すわけでもないけれど。言うイアの周りに、陽炎のように碧が揺らぐ。
「ええ、それに……彼女らに貴方達を殺させるわけにはいかない」
 それは、自身の誓いのためでもあり、また、不条理の連鎖を見過ごせない彼自身の正義感のためでもある。
 海のように底の知れない青年は言葉に頷いて。
 さて、どう動くかと視線を一巡させれば、途端、蜜が駆け出した。
 ブラックタールの青年は、まだ離れた場所にいる町民と骸の間に毒の体を滑り込ませ、その噛撃を自らの体で受け止めた。

「つめたい火は、お嫌いかしら」

 蜜に組み付く骸の背後から、イアの声が波のように忍び寄る。
 炎が骸に燃え移り、包み込む……けれど、後に残ったのは氷の彫像へと化した亡骸だった。
 イアが蜜に近づき、ほんの僅か、呆れたような声を出した。
「随分な無茶をなさる方」
 もしもの時は自分もそうしようとしていた等とはおくびにも出さず、青年は相手をそう評し。
「言ったでしょう。この村の住人は理不尽には殺させないと」
 そのためには、この程度何という事もないと青年は首を振り。
 固まった亡者の口から、形を変じて自分の体を抜き取ると、蜜は今しがた庇った町の者へと声を掛ける。

「さぁ、死にたくなければ、私達の後ろについてきなさい」


「汚辱を引き受けながらなんとか命を繋いできたのを茶番なんて笑うなよ、冷たい奴だな」
 冷たい奴だと批難する声にも、温度は灯っていなかった。
 細く、長い三つ編みが揺れる。
 指で触れ、先ほど切った額が完全に癒えたことを確認してから、その指でそのまま眼鏡を押し上げ、肩からずり落ちた黒いジャケットを適当に引き上げた。
 またずり落ちる。それはもう、そのまま戻さずに。
「墓地の奴ら全員叩き起こして来たってのか、ご苦労なこった」
 イルの華奢な指が、朱色のブックカバーに包まれた文庫本を取り出す。
 焼けて褪せた色味と挟み込まれた幾つもの栞は、年季と愛着の年輪めいて層を成す。
「……悪ぃが、あんたらは余所者のオレ達が殺すぜ」
 かつてはあったはずの、彼女の欲する輝きは、今、この骸たちにはない。
「悔恨も悲嘆もなく、淡々と殺してやる」
 女の歩みに合わせ、ベルトについた銀のチェーンが音を立てた。
 何度も捲った文庫本は、目当てのページがすなりと開き、シュッと、燐寸を擦るような音と共に、イルの周囲に銀朱色の炎でできた小さな狼の群れが生じる。
 主の命を待つ獣たちに、イルは静かに命じた。
 狼たちが亡者たちへと駆け、その全身を炎で貪り始める。
「さあ灰となってくれよ。そして、もう眠ろう」
 塵となった骸に視線を落とし、その灰の最後の一欠片が飛んでいくのを見送って。
 イルは再び、どこかにいるであろう事件の黒幕へと言葉を向ける。
「誰かの犠牲の上に成り立ち続けた命に正しさなんてない。それを悔やみ償う時間を、これからこの街の連中に与えてやるんだ。そのために、死すべき者は死ぬ。過去は過去に還帰る」
 聞いているかなど、知ったことか。
 そんなことは関係ない。
「オレは余所者だからな。無責任になんでも殺せるんだよ」

「覚悟しろよ?」
 これは通告ではない。宣言なのだ。



「茶番、ですかぃ? こんな筋書きよりゃマシだと思いますがね」
 要の皮肉めいた言葉も、事の首謀者に届いている様子はない。
 つれないねぇと口の中でぼやいて、要は周囲を見渡す。墓地のど真ん中で高台が無い。おまけに周囲は敵の波が引くことなく寄せるばかり。
 純粋な物量で圧され数の処理を迫られれると、見通しの悪さもあり、どうしても視界が狭まりがちだ。
 だから、青年は一歩下がる。
 前に出て戦う猟兵たち各個の戦いの輪と輪の後ろから、全体の配置を見て、必要な行動を取る。
 見れば、死者に掴みかかられそうになっている男が一人。
 急いで駆け寄り、骸には胴体に蹴りを一撃、男の襟首をひっつかんで後方へと引き離す。
「っとと、危ねぇ。大人しく後ろに下がってて下さいよ。“お仲間入り”は、まだしたかねぇでしょう」
 要がしっしっと追い払うが早いか否か、礼も手短に逃げる町民の背を見つめ、こりゃ気が抜けねぇなと気を引き締め直して。
 分体を召喚すると、町の人々の警護に残し、青年は状況を把握するために移動を始めた。


「生贄として死んだ人々は、この町の安寧を願っていたはず……」
 ぽつりと零される青年の声。
 その身へと、最早悍ましく姿を変えた元町民たちの手が伸ばされる。

「それなのに、その彼らの思いを踏みにじったな」

 昔からの習慣。仕事の際の私情の封印は……けれど、今この瞬間だけ、鳴りを潜めていた。
 夏介の血に似た赤い瞳が、静かに燃えるように揺れ。
 先の事態から仕舞わずにおいた処刑人の剣の柄を、強く握り、青年は刃を振り上げた。
 助けを求めるように伸ばされていた骸の手足がすぱりと断たれる。
 その体が倒れる前に、振り上げた剣を、今度は両手で掴み、しっかりと踏み込みながら下へと斬り裂く。
 いとも簡単にもう片側の手足も落とされ、身動きが取れなくなった骸は地面に転がる。
 そんな有様になってもまだ、何かに噛みつこうとガチガチと不揃いな歯を鳴らす死体を見下ろして――、
「……塵は塵に。死者はあるべきところに還りなさい」
 夏介は、静かに、その首を落とした。
 亡者の口が動きを止める。

 それは同時に、彼は己が仕事を遂行すべく再び動き出すトリガーでもあった。


「ごめんなさい……儀式を失敗させる事で考え方を変える切欠になればと思ったのですが裏目に出るなんて……」
 そんな場合ではないと知りつつも、一言謝らずにはいられなかったシホの肩を、スズロクが軽く叩く。
「ま、そんな事もあるわな。俺も酒場のおっちゃんには気の毒なコトしちまったし。って、俺が言ってイイのか分かんねーけど。それより今は……」
「はい、私の全員を助ける覚悟、今度こそ証明します!」
 フォローありがとうございます、と一礼も早々に人々を救いに踵を返す少女に、多少呆気に取られながらも、
「いっけね。俺もやるコトやらなきゃな」
 スズロクもまた、人々の保護へと足を速めた。

「皆様! 早くこちらへ!」
「こっちっすよ! バラけちゃ守れないっす!」
 フィオリーナ、リカルドを始め、まずは一般の人々の安全確保を優先した猟兵たちは少なくない。突然の事態に、そして自分たちの罪に直面し恐慌状態に陥りかけた人々は、有無を言わさず墓地の中心へと集められる。
 特別な力を持たず、猟兵たちの戦いを見守るしかない人々の間に、緊張感と不安感が満ちる。しかし、まだ人々は、この受け止め難い現実を理解しきれていないのだろう……あるいは、心のどこかで理解を拒んでいるのかも知れない。“不安”で済んでいるのは、そのためだと見えた。
 けれど、一たび、彼らがこの状況を正面から受け止めたなら――……不安は恐怖へと姿を変え、一気に彼らの心を押し潰してしまうだろうことは、明白だった。そうなっては手が付けられない。
 それに真っ先に気付き、声を掛けたのはカイだった。
 人のことを第一に考える人形は、場の空気には場違いとも言えるほどに優しく、人々へと言葉を向ける。
「怖いですよね? でも大丈夫です、必ず助けます」
 青年の言葉に、住民たちは顔を見合わせてざわつく。
 一言二言、内内での相談を済ませると、恐る恐るにカイへと言う。
「……助けるったって……あんな数じゃあ」
「不安になるのは分かります。でもどうか、私たちを信じてください」
 力は先ほど、皆さんに見せたとおりですと言ってカイは確かに頷いてみせる。
 彼も確証があって言っているわけではない。しかし、今、彼らを安心させる必要があるということは確信していた。
 呼応するかのように、強い瞳で、澪が住民へと語り掛ける。
「皆一箇所に固まって。必ず守るから」
 その声の芯の強さ。
 小柄で華奢なはずの少年の、翼を広げたその背は頼もしく見えて。
 カイは再び、柔和な笑みを浮かべ、
「少しの間だけ我慢して下さいね」
 そう言い終えたと同時、青年に瓜二つの人形が次々に現れる。
 半数を住民たちの守護にと、ぐるり囲うように配置させると、カイは住民たちの顔を一つ一つ、振り返った。
「今までの人達は間に合いませんでした……」
 声の音が、自然と低くなる……が、すぐに強い力を込めた瞳で前を向き、
「でもパヴラさん達はこれからこんな辛い思いをしなくていいよう、必ず助けます」
 人形のもう半数を率いて、人形遣いの青年は長い黒髪を棚引かせながら、戦いへと赴いた。

 動き出したおばあさんの骸、そして、ちらりと見えたあの服、あの背格好は先輩ではなかったか。
 パヴラの表情には翳りがあった。
 考えると悪い思考は止まらなくなって――、
「おい、ガキ」
 その呼び掛けが、自分に向けたものだと理解するのに時間が掛かった。
「……っえ、あ、あ、何?」
 呼びかけた主には見覚えがある。忘れられるはずもないだろう。
 修道院で出会い自分に不思議なものを見せたあの黒い人――バルだ。
 仮面は自分を呆然と見上げる少女に舌打ちして、背を向ける。
「あの……」
 何のために自分を呼んだのだろう。尋ねようとした声は、彼の言葉に遮られた。
「イイか、一度しか言わねェ」
 よく聞きやがれと仮面は言う。
「ヒーローマスクだ」

「ヒーロー……マスク?」
 何の言葉だろう。とりあえず復唱すると、先ほどよりは幾分満足げな声が返ってくる。
「そうだ。それが、俺ら種族の名だ」
 そう言い置くと、仮面とその宿主は、腕に巻き付いた紫色の茨を伸ばし去ってしまった。
「ヒーローマスク……」
 少女は、そのヒーローらしからぬヒーローが向かった方角を見て、もう一度、その言葉を繰り返した。


「向こうから仕掛けてきやがったか。……安心したぜ」
 あんな儀式をさせるヤツは、“そう”に違いないと思っていた。
 だが、それを裏付けるようなあの声で、少年の中の憂いは欠片もなくなった。
 やっぱりな……、やっぱり事件の首謀者は、“クソ野郎”だ!

「一切合切容赦なく、ブッ飛ばしてよさそうなヤツでよ!」
 灯が拳を握れば、その相棒【ヴァナルガンド・デルタ】が応じるように音を立て、幽かに光が灯った。


 死んだはずの者たちが動くのを見て、青年は常同様、何ら平静を崩すことなく「ああ」と零した。
「賑やかにしすぎて起こしちゃったか」
 囲まれてるのはちょっと面倒だなぁ。言って、気怠げに周囲を見渡す。
「人々を守るっていうのはあんまり得意じゃないんだよなぁ」
 ま、いつも通り、敵を倒せばいいかと由紀がダガーを手にすれば、横から声が掛かった。
「俺は得意だぜ」
 首を動かしもせず、視線だけでそちらを向けば、不吉な黒い男――ジェイの姿があった。
「人を守るのが?」
 そうは見えないけど。
 口には出さないが、そう思ったのは相手の言動もそうだが、どことなく感覚的に自分と通じるところがあるせいだろう。
「いや、多数相手ってやつの話だ」
 言うや、既に放たれていた自動追尾型の拷問器具【荊棘の王】が骸を捕らえ、その乾いた体を棘で貫く。
 仕事を終えた武器を手元に戻し、腕に引っ掛けてぐるぐると回して遊ばせる男の様子は、どうにも愉快そうだ。
「ま、話は戻るが、守るとか何とかは得意なヤツらに任せりゃいいんじゃねぇか?」
 得意なヤツ、多そうだしとジェイが親指で指す先には、あちこちを自在に駆けまわる黒い影があった。


「……ああ、全く」
 髑髏にも似た仮面から、自嘲めいた笑いが漏れる。
 尤も、彼の向けた笑いの矛先は仮面自身ではなく、
「お優しい宿主サマだ。一人の村人も「見捨てられない」たァな」
 彼を身に着ける主――宿主の女に対してだったが。
 仮面の下、彼女が一体どんな表情をしているかは分からない。しかし、攻撃から人々を庇い、立ちはだかる身体から迸る気迫は、「絶対に人々に手は出させない」と、何より雄弁に語っていた。
 そして、人々の盾となる度に、彼らの動きは速度と精細さを増す。
 【トリニティソード】に炎の属性を宿らせた斬撃は、徐々に目で捉えることは困難になり、とうとう、通常の一撃の間に、目にも止まらぬ二度目の刃を繰り出す域に達する。
「土から蘇えったってンなら、今度は火葬だ」
 声が敵に届くよりも、その剣閃の方が早い。
 目の前に魔力の茨が割り込んだかと思えば、敵は燃え、再び二人は別の場所へと現れる。
 正しく縦横無尽の立ち廻り。
 そして、我が身を顧みずにあちこちを駆け巡る様は、どこか鬼気迫るものがあった。
 とはいえ、そんな無理をしていては、いくら猟兵とはいえダメージは蓄積されていく。
 着地の足が踏みとどまれず、がくりと膝をつきかけると、そこへ温かな光が二人を包み込んだ。
 身体に付与された力はそのままに、傷だけが薄らいでいって。
「状況が状況なので仕方ありませんが……無茶をする方が多いですね」
 獅郎が短く息を吐きながら言う。
「うちの宿主が手間掛けたな」
「いえ、お気になさらず。お互い様ですから」
 捨て身は何もバルたちに限った事ではない。視線を動かした先、ブラックタールの青年とオラトリオの少年少女、グールドライバーを身に宿したダンピールの青年が映る。
 そちらの方も治療が必要そうだと、獅郎が方向を変えれば、骸の一体が彼に襲い掛かってくる。
「……ああ、失礼」
 断り一言。
 獅郎の妖刀【Corvas】が亡者の体を貫き、禍々しき炎で燃やし尽くす。
 数秒と掛からず黒い塊となった骸を冷えた視線で見下ろして、
「残念ながら、僕は亡骸よりも生者を優先するんですよ」
 最早動かなくなった亡骸にそう告げると、近づいて来た屍は刀で、そうでないものは鋼糸と拳銃で、一体一体屠りながら生者を救いに向かった。


(ああ、これは、)
 凛是は、どこかぼんやりとした気持ちで、地面から次々に現れる彼らを眺める。
 ここで死んでいった人々。
 犠牲にされ、孤独に打ち捨てられていった人々。
 漸く得た安息ですら、こんな風に邪魔されて。
(そりゃあ、不機嫌だよな)
 彼らがこちらへ……生者へと群がり来るのは、操られているからと考えるのが自然なのかも知れない。
 だが、凛是には少なからず亡者たち自身の恨みが形になったようにも思えて、
(されたことも思い出せば、なんて言ってそれを受けたとしても……)
 これも、当然の報いなのではないか……と、思わずにはいられない。
 思わずにはいられない、が、凛是は首を小さく横に振る。
(……違う。それは、俺のするべきことじゃない)
 それを思わなければいけないのは……ちらりと、横目でその集団を見る。
 やはり、胸がむかつくような感覚が生じて、凛是は真逆へと顔を逃がす。
「俺ができるのは、」
 凛是の周囲に、ぽつ、ぽつ、と狐火が生じる。
 墓場に舞う炎は人魂のようだ。
 少年の目線が、歩み来る複数の屍を流し見る。その視線が撫でた順に焔は飛んで、死体を包み込んだ。
 多くはそこで歩みを止め、倒れ落ちる。ぶすぶすと焦げる音と匂い。
 しかし、他の屍が前にいたせいか、狐火がうまく当たらなかったのだろう。一体はそれでもなお前へと進んでくる。
 硬く、大連珠を握りしめる。
 “あの人”に比べたら、まだ小さく、ヤワな拳。
(にぃちゃんはそうする)
 生きているなら、守る。
(だから、俺もそうする)
 そうと決めれば、迷いはない。
 凛是は、亡者の顔目掛けて、強烈な一撃を振り抜き。
 黒い血が飛んだ。

(この人たちに、もう一度ちゃんと眠れって、いってやるだけだ)


「ふん、これが罪の暴露ってやつか。他人を犠牲に目を瞑ってきた奴らには相応の報いだろうが……」
 レガルタが周囲を見渡す。
 どこかからこの惨状を見ているはずであろう首魁、その影は未だ見えない。
(あからさまに嘲笑ってる奴がいるのは気に入らないな)
 ちっと舌を鳴らす。
 小柄な体格を活かし、骸の群れの隙間も難なく擦り抜けながら、戦場の状況を確認する。
 と、少年の眉がぴくりと動く。
(あいつ……)
 その視線の先にいたのは、理だった。

 前線に出て死体たちと攻防を繰り広げている理は、一見するとおかしなところはない。
 しかし、素人目には分からなくとも、殺し殺される世界の事情をよく知るレガルタの目からすれば一目瞭然であった。
 彼は――、

「ぐっ……」
 理が微かに呻いた。
 屍の鋭い爪が、理の肩を捉えた。……とはいえ、剣を振るえないほど致命的な傷というわけではない。
 “そうならないよう”、避けたのだ。当然である。
「……お前らに、復讐する権利はあるんだろう」
 目の前の、返事もない傀儡に、青年は話しかける。
「だがそれを受け入れるわけにはいかない。それは猟兵の仕事だからで――」
 言葉にすればそれは、己の耳にも白々しい。
「……いや、」
 理由をつけたいだけだ。
 “彼らを二度殺す”ための。

「――きっと、俺のエゴだ」
 そうしなければならないと、思いこむための。
 けれど、そう思い込むには、青年は誠実すぎた。
 その理由を自身で否定してしまうほどに。

 【花驟雨】の鯉口を切る。
「悪い。眠ってくれ」
 瞬間、骸たちは理の姿を見失う。
 彼の気配が失せると同時、音もなく、離れた場所に理が再び現れた。
 瞬間移動と見紛うほどの気配遮断と高速移動。剣が鞘に納められ、再び鯉口が鳴ると同時、彼の移動線上にいた骸たちはバラバラと形を失い地面に落ちる。
 青年は、手にかけた彼らを思い、無意識に一瞬目を伏せようとした――が、
 突然、地面から腕が突き出る。
 移動した先にもまだ屍がいたとは――、理が足を捕らわれるのを覚悟したその時、鈴蘭の花弁が、その腕を切り刻んだ。
 花弁は再び集い、小さな手の上でシャドウクリスタルの形へと変わった。
 レガルタの緋色が、理を睨みつける。
「あんた、さっきからわざと攻撃を受けているな」
「……」
 無言は、時に肯定にもなる。
 特にこの青年のように不器用な性質の者には。
「こいつらは生き返ったわけじゃない。死体が動いてるだけだ」
「……」
 言うレガルタも、死体を再び手にかける事に抵抗がないわけではない。少なからず不快感はある。ただ、理よりは慣れているだけだ。不愉快なことに。
 少年はその不愉快さを表現するかのように、鼻を鳴らした。
「ふん、まぁいい。俺もそんなことを言いに来たんじゃない」
「他に何かあるのか?」
 少年の様子から、何か自分に用があるらしいと察した理が尋ねる。レガルタは、ああ、と言って頷いた。
「手を貸せ。あんたの今の技、退路を確保するのに役立ちそうだ。一時的に退路をつくってもすぐに骸が群がってきて、一人二人では埒が明かん」
 
「どうせ傷つくなら、死者のためじゃなく生者のために傷ついた方がよっぽど健康的だとは思わないか?」

 不健康なほど白い少年が問う。
 見上げられた青年は、一瞬、虚を突かれたように目を見開き、
「……、ああ、いや」
 フードを引き下ろす。

「全くだ」


 屍が大きく口を開き、猟兵に襲い掛かる。
 鈍い動き、予備動作を隠す事もないその攻撃を見切る事は、灯には容易い。
 最小限の動きでその攻撃を避け、代わりに相手の胴体目掛けて鋭い反撃を撃ち込む。
 強烈な拳撃は腐った肉を打ち破り、背にまで到達する。
 拳を媒介とした炎の術式は渦を巻き、一瞬で骸の体内を埋め尽くし、行き場を失くして溢れ出す。
 言葉通りの一撃必殺。
 墨と灰に変わった屍から腕を引き抜き、灯は骸の接近を許すまいと次々にその拳で敵を打ち抜いていく。その中で、
「……敵、か」
 槍で刺し貫かれた者たちを見分けることは簡単だ。
 その胸を拳で打って穿ちやすいヤツ。
 灯が殴る前から胸に穴が空いた者たちがそれだ。
 目の前の敵を見る。自分よりも幼い子ども。同じぐらいの年頃の少年。腰の折れ曲がった老人。
 皆、一様に腐り落ちた空虚な眼窩で灯を見ている。
(この死体の中に、望んでこうなったヤツなんかいねーよな)
 自問自答のような胸中の呟き。だが、灯の心には既に答えが出ていた。
 間違いない。ただの一人だっていなかった。
 死体が動き出したあの瞬間のあの表情……そこに浮かんだ死者に対する後悔と驚愕、色濃く滲んだ悲嘆と絶望を、灯の色違いの両の目は、見逃しはしなかった。
(納得なんて、……んなもん、あるはずがねー)
 あっていいはずもない。
 胸に込み上げる苦い気持ちに比例して、拳に流し込む魔力は増大する。

「焼き払うぞ」
 嫌だ嫌だと顔を歪めながら、苦しみ抜いて選んだ過去を。彼ら諸共に。

「容赦はしねー。怨みたきゃ存分に怨めよ」
 拳を振り被る。

「アンタらの怨念も拳に込めて、野郎の顔面ブチ砕いてやるからよ」
 紅蓮。
 それが少年から死して尚弄ばれた者たちへ贈ることができる、せめてもの餞だった。


「大人しく引っ込んでいれば良いものを」

 その青年の心は揺るがない。
 始末するか、と、冷静に呟いた。

「写せ」

 唱えると、アルトリウスと同じ姿をした霊が29体現れる。
 今しがた、アルトリウス本体を狙おうとしていた骸が、急に方向を変えて霊の一体に襲い掛かった。霊に備わった、攻撃を誘引する効果である。
 攻撃をされた霊は、それを苦もなく処理する。
 その間にも、アルトリウスは霊に指示を出すと、素早くそれぞれの持ち場へと散開した。

 アルトリウス自身は、ユーベルコードを発動し、290もの魔弾を設置していく。
 存在そのものを破壊する青の魔弾は放たれ着弾と同時に次々に炸裂し、弾幕を張る。
 猟兵たちと町民たちに当たらぬようにと威力や場所の調整はしてはいたが、多少規模を落としても、多数の屍たちを葬るには十分すぎる数と範囲だった。
 町民たちの周辺で守りを固めざるを得ない猟兵たちにとっては、自分たちの射程外にいる位置の敵が減った事は随分と助けになったと言えるだろう。

 アルトリウスは、状況把握に走る足を一瞬止めた。
 足元に倒れている骸を見る。
 彼らの状況が、一般的な常識から照らし合わせて「気の毒だ」という認識はできるが、その実感は彼の胸中には存在しない。
 可哀相だとか、同情心だとか、彼らのためにこうしなければならないという強い衝動も湧き上がることはない。

 ただ、再び「気の毒な骸たち」を眠らせることができたという事実だけが、そこにあった。


「パヴラさん、反対側見ててくれる?」
 一か所に集められた町人たちの中、ただ見守るしかできなかった少女に声を掛けたのは、澪だった。
 何かあれば声をあげてと言う彼に、赤毛の少女は、真っすぐ目を見返しながら頷く。
「出来ればでいい。無理はしなくていい。ただ、守りたい意思があるなら一緒に護ろう」
 手をこまねいて見ているだけというのが焦れったかったというのもあるだろう。猟兵たちの声かけで、幾分冷静と度胸を取り戻したとはいえ、何もせずにいると悪いことばかり考えてしまう。
 だから、ただ、見張り役としてだけでも役目があるというのはとても有難かった。

 澪の歌声が闇の中、響き渡る。町民からすれば、それはただ美しいだけの歌声だが、敵にとってはそうではない。催眠の効果を織り交ぜた広範囲攻撃なのだ。
 しかし、今回の相手は体を繰られているだけの存在だ。
(……催眠はあんまり効果がないのかな)
 効果が薄いと見るや、即座に澪は破魔の力を宿した光の魔法を放つ。
 そちらは十分に手応えがあった。
(うん。こっちを主体にした方が良さそう)
 そう思っていれば、
「こ、こっち! 近くまで来てる!!」
 パヴラが叫んだ。
 澪は即座に振り返り、「ごめんね!」と言って集まった町民たちの真ん中に躍り出ると、ユーベルコードを発動させる。
 澪の全身から溢れ出る光は、周囲32mを包み込む聖なる盾にもなって、人々を魔の手から守る。
 それだけではない、その光に踏み入れた骸は、まるで糸が切れた人形のように、次々のその場に倒れていく。
(これで痛みはないはず。ただどうか……安らかに)
 光に込める破魔の力と優しさの量を微細に調整することで、痛みを与えることなく敵を浄化できるこの技は、闇に閉ざされた世界では、あまりに眩しく、優しかった。

 祈るような姿勢で、澪は唱える。
「ごめんね。おやすみなさい」


 三種の魔力がフィオリーナの身体を包み込み守護し始める。
 まだ整わぬ陣形の合間を縫って近づいてきた敵と、町民たちとの間に割って入り、攻撃を剣で受け止めて。
「くっ……!」
 ドールの白く美しい顔に、険しさが滲んだ。
 魔を退ける力を込めたルーンソード【Sincerely】が、淡い光を纏うと、骸はその光を厭い、怯んだように後ろへ離れた。
 その隙を逃さず、フィオリーナは剣を大きく横薙ぎに振るった。斬るよりも、押し離す方を主の目的に。
 よく手入れされた刃は、前面にいた骸たちを切り裂く。切り裂かれた骸は、衝撃で後ろへとよろめいて、他の骸の進行を阻害する。
 倒れてくる仲間を避けようともせず、倒れ込んだ仲間を無造作に踏み潰して押し寄せてくる屍たちに、女の表情はますます頑なになっていく。
「くっ、こう来るとは……敵さんもなかなかにエグい手を考えるもんっすね!」
 リカルドもまた、仮面の身故にその表情こそ読み取れないが、声は苦々しさがありありと浮かんでいた。
「出し惜しみはなしっす! 来るっすよ! アルタイル!」
 仮面のヒーローは、星の名を冠する宇宙バイクを召喚し騎乗する。
 バイクの車体が屍たちの進路と攻撃を阻む。加えて、リカルドの鎖鎌も加われば、屍たちも容易には身動きが取れず。
 ……しかし、攻撃に非積極的な二人の周囲は、敵の数の減りが遅い。

 フィオリーナが背後をちらりと横目で確認する。
 人々は、この状況を徐々に受け止め始めているのだろう。パニックにこそ陥らなかったのは、先の声かけの成果であることは間違いないが……皆、切り結ぶ音や、何かが倒れる音が響く度に身を震わせ、すすり泣きの声が増す。
「お辛いでしょうが、ごめんなさい……ですが、わたくし達には彼らの命を再び取り戻す術は……」
「……さすがに死者を生き返らせることはできないっすからね」
 例え超人的な猟兵たちの力をもってしても。
「今動いている者達は貴方達が手を掛けた者達。ですが本物に非ず、利用されているに過ぎない」
 夜彦の言葉は、状況を再確認するかのように紡がれる。
 先ほどまでの、生きる者が同じ場所の者を殺め、次は自分の番だと日々恐れを抱いていく悪循環。そして今度は、安らかに眠る事も叶わず、そして自分達の手によって再び死を迎えなければならない死した者たちへの不条理。
 本物ではない。利用されているだけだと自身に、民に言い聞かせても、心がそうと納得してくれるとは限らない。
「……理屈では分かろうとも、傷付けてしまうのは心苦しいですが」

「目、閉じといた方が良いよ」

 いつの間にか、町民たちの近くへと来ていた由紀が、彼等へと告げる。
 一瞬、自分にも言われたのかと思い、夜彦は由紀をじっと見てしまった。そんな視線に気づいているのかいないのか、由紀は視線をくれもせず。
「逃げる準備ができたら、そのまま逃げて」
 知ってる人の首が落ちるとこなんて見たくないでしょ。いくら自分たちが手にかけた相手だろうとね。
 言いながらも、彼の振るうダガーは的確に死体の首を刎ね落とす。斬ると声を掛けるような配慮をするほど、情があるわけではない。ただ、仕事をこなしているだけだ。
 彼の言葉につられてか、咄嗟の防衛反応か、住民がその光景に目を伏せた。

「ああ、もうこれは生前とは違うモノ……なんて、割り切れるわけねぇよな」

 そういうもんだ。人ってのは。
 結城は理解し、落ちた首を隠すかのように、九つの尾を下向きに広げた。
「見たくないなら目をつぶってろ、その間に終わらせる」
 言って、ユーベルコードを発動させる。
「俺もさ、手荒い対応することは多いけど好きなんだよ。こんな世界で怯えながらも懸命に生きる人の輝きが」
 パチ、と冷えた空気の中、何かが爆ぜる音がした。結城の九つの尾の内、三つがその姿を無数の雷の槍へと変じ、それに合わせて空気中で弾ける音はあっという間に勢いを増し、轟音と言って良いほどの音量となった。
 妖狐の指示の言葉なく、けれど主の考えた通りに槍は動く。
 動き、飛び回って、視界に入る骸たちを、片っ端から、跡形もなく消し去って行く。
「だから、手の届く人は助けるし、こんなことをさせやがった外道は殺す」
 死んで尚、土に還る事すら奪い去った者への、強い怒りが声に滲んでいた。
 近くの骸たちを倒し終え、一変、彼の声が静寂を取り戻す。

「死は君の名を呼んでいる。だからどうか、どうか……安らかに」
 赤と緑の目が、暫時、瞼に隠されて。
「二度と利用されないように祈る」

 二人の言葉を受けて、けれど、と、フィオリーナは再び顔を上げる。青空映す瞳をしっかりと見開いて。
「ですが、とても辛いとは思います。……この光景を直視できないとしても、この状況からは、どうか目を逸らさないでください」

 フィオリーナの言葉は、彼らにとってはある種、酷な言葉であったろうが、彼らにとって必要な言葉でもあった。

 生じた困難を、「見知らぬ者たちが助けてくれた」だけで終わらせてはならないから。
 この事態が一体、――オブリビオンの支配にあったことを差し引いても――何に因って引き起こされたのか。
 その責任を自覚させることは、彼らの今後の在り様を問うことでもある。

「俺達は……戦うべきだったのか……?」
 男の一人が尋ねた。
 ドールは静かに首を振る。
「その答えは皆様が出すもの。わたくし達には答えられません。これから、残された皆様が背負い、考えていくべきことでしょう」

「ですが、その答えを出すためにも……皆様もこの町も、わたくし達が守ります」

「まぁ、殺したヤツらに襲われるとは、殺した側にとっちゃ悪夢だよなぁ」
 揶揄するような音で、不吉な声が続く。キッと自分を見るフィオリーナの視線に両手を上げて、責める気持ちはねぇぜと言いながらも、やはりジェイの様子は面白がってる気配が滲み出ている。
「このくらいの罰はあってもいいんじゃねーか。死んでいったヤツらと違って、ソイツらはまだ生きれるんだからな」
 どんなに反省したって、死んでったヤツらは戻って来ねぇし、ヤッちまった事は取り返せない。
 ならば、多少なりと罰と引け目を背負って生きるべきだろう。
 命ってのも、生きるってのも、軽いもんじゃねぇんだから。


「おーおー、ド派手だなぁ。そろそろ頃合いかねっと」
 場の緊張感を幾分緩める飄々とした声の主はスズロクだった。
 守る町民たちの中に酒場で見かけた顔――トマーシュと呼ばれていた男を見ると、スズロクは詫び代わりに軽く手を上げた。
 トマーシュも、ばつが悪そうな面持ちで頭を下げる。
「約束通り、手を貸す番だな」
 スズロクがカンプピストル型のガジェットを取り出し、弾を込める。
 予備の弾丸をすぐに取り出せるようホルダーに押し込み、これで準備完了とガジェットを構えた。
「いいか。俺らが必ず逃げるための道を作る。だから、気をしっかり持ってくれよ。アンタら、あのヒトらの分まで生きなきゃなんねーんだから」
 彼の言葉に、人々の顔が、きゅっと引き締まる。
 それを見届けると、男は、村人たちが集っている場所から、墓地の入口への最短距離を計算する。
(9発じゃちと足りねーかもな)
 自分だけでどうにかする気はさらさらないが、出来る限りは他の面々の負担を軽くしたいのも本音だ。
 ともあれ、今自分の目的は殲滅ではない。とにかく町民が逃げる隙を作る。それに注力するのだと心で一度唱えて、スズロクが集団から飛び出す。
 なるべく、複数体を巻き込むように、想定する道の両脇に凍らせた骸が壁のように来るように、タイミングを見極めて引き金を引く。
 最後の九発目を装填し、大急ぎで狙った個体、狙った場所へと弾丸を撃ち込む。
「っ、ふー……間に合ったか」
 最短距離の直線状進路に乗られる寸でで凍り付かせることができた屍に、あぶねーと掻いていない汗拭う仕草をしてから。
「もう少し優しく眠らせてやりたいんだケド、悪いね力不足で」

 道はできた。
 まだ蠢いている亡者たちは、他の仲間も処理を手助けしてくれるだろう。

(しかし、俺が危惧していた「厄」よりは、ちょっとだけ救いがあるかもな)
 つかの間、スズロクは凍り付いた骸を横目で眺めて思う。
(あのヒトらを動かしてんのは、あのヒトら自身の呪いじゃなくて、下衆で外道な黒幕1人だけってことだ)
 人の恨み辛みが呪いとなり、際限なく膨れ上がるよりはまだ黒幕一匹が裏で糸引いてた方が……と取り留めもなく考えた末、

「いや、まあ、わかんねーけど……」

 青年はそう呟きを残し、また別の仲間を手伝いに向かった。


 町の人々が、次々にシホの十字架のペンダントへと吸い込まれていく。
 シホが自分の持つユーベルコードの説明を行い、町の人々に一時その中に避難してもらい、その状態で墓地の外へと避難させることを提案したのだ。
 これなら大勢を護衛するよりも、双方ともにずっと負担が少ない。
 相手も知性を失った亡者ばかりだ。町の人々に特別執着しているわけではないならば、シホだけを狙って来るような可能性も低い。
 少女は、町の人々へと言った。
「皆さんは今迄犠牲になって命を繋いでくれた人達の為にも、生き残らなくてはなりません」
 その言葉に背を押され、尚且つ、全員が生き残る確率を高められる作戦があるというのなら、町の者たちに反対する者はいなかった。
「さぁ、皆さん。このペンダントに手を。私が解除するまで、絶対に外に出ようとはしないで下さいね」
 中に入った者が出ようと思えば、たちどころに出られてしまうだけに、唯一の不安要素であるその注意を、シホは一人一人に念押ししてから≪救いが必要な人の迷い家≫へと招き入れる。
 避難の準備は着実に進み、とうとう、残りは一人のみとなった。
 シホが声をその少女に掛ける。
「パヴラさんも」
「私……」
 赤毛の少女は、迷いながらも、首を左右に揺らした。
「私、ここに残る……!」
「そんな……此処は危険です! 私たち猟兵でなければ……」
 彼女の言葉に、シホも困惑して説得しようと言葉を掛ける。
 続く言葉は、少女本人にも分かっていた。
「分かってる……戦えるなんて思ってるわけじゃないわ」
「それでは、」
 なぜ、と聞こうとしたシホに、少女は叫んだ。
「私はこの町の人間なの!!」

「今まで皆、ずっと、安全な場所で目を閉じて祈ってた。祈るだけだったわ……でも、」
 何も変わりはしなかった。これまでは。
 少女の握った拳が震える。声も震えていた。
「それを変えるのなら、きっと、貴方たちが来てくれた今日が、最後のチャンスなの」
 ここで救ってくれる誰かに任せて、背を向けてしまうのは簡単だろう。
 そして、それを許容してくれる人もいるはずだ。例えば、目の前の彼女のような……でも。
「救われた命だもの……」

「私、もう、生きる事に手を抜きたくないの」

「……分かりました」
 覚悟したその目は、シホの目の輝きと似た光を宿していた。
 これ以上説得しても彼女の心を変えることは難しいと察した少女が神妙な面持ちで頷く。
「では、絶対に私から離れないでください。絶対に助けますから」
 シホの『全員を助ける覚悟』、その中には勿論パヴラも含まれている。
 彼女が残ると言うのなら、シホもまた、その覚悟を問われるということだ。
 シホが新たに覚悟を決めたところで、
「パヴラを守るなら、もっとお手軽な方法があるっすよ」
 軽い調子の声が掛かった。

「ヘイ、彼女。自分とドライブでもどうっすか?」
 そこには、宇宙バイクにちょんと乗っかる、リカルドの姿があった。


 ビスマスの聖なる力を込めた冷凍クロマグロソードの一撃が、広範囲を一気に薙いだ。
 光のような剣筋が走り、一度に4体の骸が倒れ込む。
「犠牲者に刃を向けるのは忍びないですが……これも世界を守るため。せめて、なるべく苦しまず……安らかに」
 黙祷もそこそこに、続く敵の攻撃を冷やし孫茶バリアで受け流しながら。

「わたしはこの光にかけてなんか誓ってしまったのだ! その言葉にかけて、ここに集まった人々誰も傷つけないのだ!」
 左右の手に持った刀とバスタードソード、そして斧を豪快に振るって敵を一刀のもとに切り伏せながら、麗刃がずんずんとルート上にやってくる屍たちを排除していく。
 豪快過ぎて、スズロクが凍結させた骸たちも叩き割っていたが、本人は気にすることもなく。

 夏介もまた、処刑人の剣で亡者の四肢を落とし機動力を奪い、距離が離れている者には、スペードのエースのトランプを掲げ、天から降り注ぐ光で射抜き仕留めていく。
 地面に倒れてもまだ蠢いていた彼らが、動かなくなったのを見届けると、漸く、青年は弔いの言葉を口にする。
「……サヨナラ」
 そして、おやすみなさい。
 もう、彼らの眠りが妨げられることなく、良い夢を見られるようにと願って。

「いよいよ大詰めですかねっと」
 要がシホの横に来ると、準備はいいかと目で尋ねる。
 シホがペンダントを抱いて頷くのを見届けると、ヤドリガミの青年は、エレメンタル・ファンタジアで炎の雪崩を引き連れた鹿の群れを発動させる。
 進路上が綺麗に一掃されたのを確認して、シホは墓地の入口へと向かって走り出す。
「ちっ、まだいるのか」
 彼女の露払いとして後ろを走っていたレガルタが、忌々しげに顔を顰め。
 近づいて来そうな骸に、先手を打ってワイヤーで足止めし、鈴蘭の刃で止めを刺していく。
 それでも足りなければ、理が先を切り開き、後方から、ジェイが絶妙にアシストする……。
 そう長くもないはずの道のりは、妙に長く感じられて。

 けれど、ついにゴールが見える。

 墓地と郊外の道との境界となる柵を越え、そこに骸がいないことを確認したシホは、ユーベルコードを解除して町の人々を外へと出すと、早急に町へ戻るように言った。
 彼らが大急ぎで去るのを確認し、人々の避難が終了したことを知らせに、再び仲間たちの元へと戻るのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【3章の受付ご案内は、2章締めと追加OP記載と合わせて後日掲載させて頂きます。暫しお待ちください。】

 人々の避難が終わり、枷がなくなってから掃討が終わるまでは、速やかだった。
 墓地が、そうあるべき静寂を取り戻してまず最初に虚空へと声を投げたのは、バルだった。

「で」

 ソードについた血を振り払い、背を伸ばして虚空へと問う。
「こんな攻撃で〝俺達〟を殺そうってか? そりゃあ……“――何の茶番だ?”」
 煽るが、闇は、まだ沈黙を貫き――、

「こういう趣味の悪い茶番はいいからさ、見てるんだろ」
 また別の方向へと視線を向けて、由紀も続く。
 このまま消えてくれれば話は楽だが、決してそうはならないだろう以上、このまま隠れられていることが、一番“めんどくさい”。
「……コソコソ隠れてないで、さっさと出てこい」
 レガルタが言えば、次第、闇が濃くなり始めた。
 猟兵たちの誰もが、その気配を察していた。
「墓荒らしの悪い子が、いらっしゃるのはどちらかな。墓をひっくり返しているのでは埒もあかない、でしょう」
 イアの声が闇に溶け混じる。
『ああ、全くだ。木偶では埒が明かん』
 闇が一点に収束し、形作られたそれは、銀髪に紅の翼、口元に隠せない牙、そしてブラッドアイ――ダークセイヴァーの支配種族、ヴァンパイアであった。
 フィオリーナが空色の視線をヴァンパイアへと向ける。
 碧と紅が交錯した。
「先の言葉、お返ししましょう」
 輝く剣の切っ先をその男へ向け、女はハッキリと告げる。

「……あなたの存在こそが茶番ですよ、オブリビオン」
「その瞳――虫唾が走る。甚だ不愉快だ。ならば、貴様等も、あの町も、諸共過去の芥と化すが良い」

 * * * * *

【※ 第3章受付について
 お待たせしております。第3章の受付についてご案内です。
 再び長くなりますが、ご確認お願いいたします。

◆プレイング仮受付期間 :30日(土)~4月3日(水)
◆プレイング返却期間  :3日(土)~6日(土)
◆プレイング正式受付期間:6日(土)8時30分以降、受付開始
 (※ 8日プレイング受付締め予定)

 当方の都合により、追加OP公開が後ろにズレてしまったため、スケジュールがタイトで本当に申し訳ありません。
 仮受付期間にプレイングを頂かなくても、正式受付期間に頂いたプレイングは可能な範囲で執筆いたします。
 また、正式受付のプレイングは、仮受付の時のプレイングから多少変更して頂いても大丈夫です。
 ★とお手間を頂き恐縮ですが、ご協力頂ければ幸いです。

※ NPCについて ※
 展開の都合上、NPCが戦場に残っておりますが、リプレイ本文に記載した通り、彼女は基本的に決着まで喋ったり、能動的に動いたりはしません。
 彼女のことは気にかけず、皆様らしく行動して頂ければと思います。
(こちらは、「NPCを気遣う」というPCの行動を制限する趣旨の発言ではありません。
 それがそのPCさんらしい行動であれば、もちろんプレイングに出していただいて構いません。
 その場合、必要な応答はいたします)

 それでは、何卒よろしくお願い致します。】
シホ・エーデルワイス
アドリブ&味方と連携希望


内心パヴラさんは残ると思っていましたが
覚悟と勇気の籠ったとても良い目をしていました
とても頼もしく想います

一緒に戦うのでしたら
戦友として支援し頼ります


【祝音】で味方の治療を優先

敵の攻撃は<第六感、見切り>で避け
<オーラ防御、武器受け>で防御


敵が弱ってきた頃
敵の視界を遮る様に【鈴蘭の嵐】を放ち
それに隠れて<目立たない、忍び足、迷彩、ダッシュ、捨て身の一撃>
で背後から近づいて組み付き
真の姿(首と手首足首に枷が付き
罪悪感を具現化した鎖が敵に絡みつく)
を開放して【餐架】を使用


戦後

仲間の手当てだけでなく
パヴラさんの病も【祝音】と<医術>で治療

あなたの覚悟と勇気に
ささやかですが祝福を


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

とうとう姿を現しましたか。
人の命を弄んだお前を、私は…俺は許すことなどできない。
「覚悟は…いいですか?」
処刑人の剣を構えて敵に駆け寄り、即座に剣を振るう。【先制攻撃】

行動を制限してくる技は厄介ですが、ダメージを負おうともルールには従いません。
町の人々が受けた仕打ちに比べれば、多少のダメージなど【激痛耐性】で耐えられるかと。こちらの覚悟をみくびらないでいただきたい。

敵の攻撃を【武器受け】し、【怪力】でおしかえす【カウンター】攻撃
敵が怯んだら、静かに睨みつけて【恐怖を与える】
「恐怖するのはお前のほうだ」
【黄泉へと誘う紅の乙女】を発動し、敵を刈り取る


アルトリウス・セレスタイト
お帰りは骸の海だろう
出口はあちらだ

破天で爆撃
各種技能を駆使し、目標周辺を纏めて、爆ぜる魔弾の嵐で蹂躙する面制圧飽和攻撃
周囲を巻き込む攻撃の範囲で回避の余地を与えず、自身へ対する行動も攻撃の密度、速度、頻度で叩き潰す

肉薄する者への支援になるよう敢えて正面に身を晒す
姿を隠さず正面から、物量で圧殺
他の猟兵の動きを見切り、迫る者が向かう箇所を意図的に薄めの弾幕にして目標を誘導するなど、動きやすくなるように


惨状の元凶へも然程向ける感情は変わらず
忘却に還るべきという程度

他の猟兵とは可能な限り協働する


フィオリーナ・フォルトナータ
…本当に、趣味の悪い方
罪なき人々の心を、命を弄んで、あまつさえ木偶などと
元より純然たるオブリビオンに手心を加えるつもりなどありませんけれど
――倒し甲斐が、ありそうですね

トリニティ・エンハンスで攻撃力を重視しての強化を
共に戦う皆様に背は任せ、この身を剣とし、盾として
積極的に前に出て戦います

ご気分は如何ですか?
興醒めだと言うのならそれも結構
あなたを楽しませるつもりなどこれっぽっちもありませんので

力を溜めながら隙を見て懐に
聖煌ノ剣で捨て身の一撃を
わたくし、生憎と良い子ではありませんから、誓約書のルールなど守りません
例えどれほどの痛みに蝕まれようとも決してこの剣を手放すことなく
最後まで戦い抜きましょう


仁上・獅郎
いいえ。
これ以上、誰一人として犠牲は出させません。
そのために僕達猟兵が立っているのですからね。

攻撃は[見切り]、[第六感]を働かせ、[戦闘知識]を動員し回避。
避け切れない物は[激痛耐性]で突破し、接近しましょう。
他の方へ向かう攻撃や蝙蝠は、[クイックドロウ]で落としつつ。

十分に近寄れたならば、鋼糸の[早業]での捕縛。
同時に[高速詠唱]、【白熱縛鎖】――幾条もの鎖と激痛での制止。
二重の拘束は、この拳銃で確実に撃ち込むために。

銃弾と共に頭蓋に刻み込め。
死に疎き永劫ならざる者よ――「死を想え」。

……これで多少は、村を想い散った魂に報いれたでしょうか。
儚く生きる人々の力になれたならば、良いのですがね。


冴木・蜜
……ああやっと
出会えましたね、悪趣味で無粋なひと
貴方の舞台は終わりました
早々に退場して頂きます

体内の毒を限界まで濃縮
攻撃力重視の捨て身の『毒血』
私の毒で跡形もなく融けて消えて頂きます
その腕を融かしてしまえば
文字を認めることもできないでしょう

人々の避難も終わったのなら
もう加減もいらないでしょう?

それでもどうにかして誓約書を飛ばしてくるようなら
身体を液状化させて躱しましょう

そんなに私の毒が怖かったのですか、吸血鬼様
毒でない痛みが御所望なようでしたら
毒で融けた部位に医療器具を捻じ込んで
傷口を抉ってやります

私、見た目通りの薬師です故に
ヒトの形をしている物の効果的な『壊し方』も
心得ておりますよ


皐月・灯
なあ、てめーさっき『興覚め』っつったろ?
……どうせてめーにゃ、全部退屈凌ぎの余興みてーなもんだったんだよな。
理不尽な死が支配するあの村を、欠伸でもしながら見てたんだろ?

喜べよ、王サマ気取りのクソ野郎。もう二度と退屈なんてせずに済むぜ。
――骸の海までブッ飛ばしてやる!

【全力魔法】を発動。
【スライディング】で蝙蝠の群れをかいくぐり、距離を詰める。
致命傷は【見切り】で回避するが、こいつは【捨て身の一撃】だ。
多少の負傷は気にしねー。
間合いに入りさえすりゃ、ヤツの攻撃に【カウンター】を合わせて、
渾身の《猛ル一角》を叩き込む!

ブチ砕け、オレのアザレア・プロトコル。
村の連中との約束だ。この一撃を、届かせろ!


鹿忍・由紀
町の人達にまどろっこしいことさせて何が楽しかったの?
まあ、別にどうでもいいんだけど
暇な奴の退屈しのぎに付き合わされてるだけなのに躍起になってる姿は確かに滑稽かもね

魔力の補助による高速移動、残像に質量を持たせる『影朧』
敵を観察、一気に距離をつめて見切りで攻撃を避けカウンターでその隙を狙う
避けきれない場合は激痛耐性で怯まずに
ダガーで斬り裂き、追従する残像で抉る

無力な人達を守らなくちゃとか、そういう気持ちが強くあるわけじゃない
でも、辛気臭いことを見せられ続けるのも俺も退屈だからね
見世物もそろそろ飽きてたんじゃない?
邪魔しちゃったから見納めさせてあげられなかったけど、もう終わりにしようか

絡みアドリブ可


向坂・要
おやおや
てっきり茶番やらなんやらお好きなもんとばっかり

こりゃすいませんねぇ
とんだ茶番を企画してたみてぇなんでてっきり、ね
なんて嘯き

五感を共有するってんなら好都合ですぜ

視覚だけに頼らず【第六感】や精霊の助けを借り
エレメンタル・ファンタジアで呼び出すは真空を纏うシマフクロウ
羽ばたきが生む真空で相手の感覚を乱すと同時に【毒使い】【属性攻撃】によるイチイのルーンによる【毒/マヒ攻撃】

常に戦場全体を俯瞰で見るように心がけ何かあれば声掛け
連携アドリブ歓迎


バル・マスケレード
墓石なぞ【地形を利用】しつつ、暗闇に紛れて身を隠す。
狙うのは一瞬の隙。
俺が敵の注意から外れた瞬間……宿主に「俺を投擲させる」。
無論、影の蝙蝠の追跡を簡単に撒けるとは思えねェ。
だから【ロープワーク】だ。
宿主に棘を使わせ、ブン投げた俺に巻きつけておくことで
無理やり投擲の軌道を操り、敵に取り付く。

要はあのガキ……パヴラにやったのと似たこと。
たった数秒でいい、神経を乗っ取りゃ、他の連中がドデカい一撃を入れるチャンスが生まれる。
思い知らせてやるよ。
「望んだ通りに生きられない」のが、どれだけムカッ腹の立つことかをな……!

這い出すこともなく、安心して終われや。
テメエの墓なぞ、どうせ誰も作りゃしねェからな。


栗花落・澪
パヴラさんに万一が無いよう常に彼女の位置や行動を
気配で気にかけながらも敵と対峙

亡くなるまでがどういう経緯であれ
それまでの時間を懸命に生きた人々の命を弄ぶ行為
絶対に許せない

直接手を下せる力が僕に無いのが悔しいけど
せめて支援特化な僕の能力を活かせるよう援護するよ

遠距離から【破魔】を宿した光の【全力魔法】で攻撃
視線を引いたうえで【誘惑】により狙いを集め
他の味方が攻撃に集中しやすくなるように

僕への攻撃は可能な限り
【オーラ防御】と【空中戦】で回避
味方やパヴラさんを狙った攻撃も極力庇い
【催眠歌唱】を伴う【指定UC】の【範囲攻撃】で
敵の発動UCの相殺+花弁の斬撃による攻撃と合わせ
催眠による弱体化狙い


終夜・凛是
吸血鬼。
やっぱり、そうだよ、な。
そういうのが、いないと――あんなことは、できない。
己から喜んで、あんなことをやってたなら、それこそ、こんなところ。
果てるべき。
ちょっとだけ、安心した。
あれを倒せば……平和、かどうかはわかんないけど。
誰かを殺さなくて、よくなる、かな。
そうなればいい。だから、ここでお前は終わると良い。

他の猟兵と協力できるならする。
俺が叩き込めるのは、拳だけ。
懐に入って、全部叩きつけるくらいの気持ち。

その誓約書は、守る必要ない。
痛みがどれほどであっても。だってこの痛みより、俺の抱えてた鬱屈の方が痛い。
ここに生きる人の今までのほうが、痛い。


三寸釘・スズロク
この町の人達は良い人達だな。
あの人らの目を見たら大丈夫そうだって思った。
おっちゃんには後でマズイ酒でも奢ったげたい。

だからシンプルに、アレが居なくなってくれりゃオッケー。
遠慮のいらない相手で助かるぜ。
ワイヤースイッチオン、バーゲスト…
いや、やめた。

剣や蝙蝠、掻い潜って近づけるか?
障害物使って避けつつ多少の被弾は覚悟で
奴の死角に回り込めたら【人形師の手繰る糸】
そんな小さな釘で殺れるつもりはねーケド、呪いってのは返すのが基本。
…電脳展開。脳から喉へ、口へ、強制的に信号を送ってやる。
そうだ。言うんだよ、アンタも。
「わたしが、しにます」って。
嫌だろうけどな。
大丈夫、ちゃんと皆がその通りにしてくれるぜ。


イア・エエングラ
おや、尻尾まかずに出ていらしたねえ
お人形遊びも、飽きたのかしら

随分お手間のかかること
多数で手向かうなら連携していきましょ
逃れられないよに自由の利かないように
そっと立ち位置は追い込めるよに気を払おうな
今更お逃げには、ならないだろうけども
ユールの火をそっと抱いたら
冷たい炎を抱いた花弁に変えましょう
硝皚でもって見えない子も剣もすべて
諸共弾いて墜として、お前を裂きに

何がそんなにお気に召さなかったのだろ
人同士でころさせて、楽しかったかしら
――骸の海の方へ尋ねたところで分からないだろうけども

そうして夜が明けたんなら
もう彼らは互いに視線を逸らさず、生きていけるかしら
為したことは消えないけどもそれでも、きっと


レガルタ・シャトーモーグ
勿体ぶった登場の割に、捻りの無い奴だな…
まあいい
お前を殺せば全て解決だ、そうだろう?

正面から突貫するのは趣味じゃない
暗殺者らしく絡め手でいく

敵と一定の距離を取りながら飛針を投げて牽制し、相手の出方を伺う
奴の飛ばす蝙蝠や剣も飛針で打ち落としておく
同じ場所に留まらない様、常に動き敵の攻撃は【見切り】
蝙蝠を撃ち落とす飛針と見せかけて、ダガーを奴の顔面目掛けて放つ
ダガーが弾かれた隙に【2回攻撃】で敵の背後から「背面強襲」を【鎧貫通攻撃】に乗せて放つ
ダガーには【毒使い】の腐食の毒も塗ってある
掠っただけでも、じわじわ機動を落とすハメになる

この世界に貴様の居場所は無い
骸の海へ消えろ


護堂・結城
本当にこの世界は毎度変わらぬ外道ばかり、だから俺が言う言葉も変わらない
外道殺すべし、慈悲はない

過去の芥?過去が染み出したモノが笑わせるなよ

【POW】

『雪見九尾の氷結鳳装』を発動して巨大な氷鳳に変身
氷牙は氷鳳の嘴に変化させて攻撃力を上げるぜ

吸血鬼の誓約書は鳳の氷翼で風を起こし吹き飛ばして対応

「夜薙ぎ翔けよ、氷色の鳳よ。我らの月はまだ墜ちぬ」

大空から急降下して加速しながら吹雪を纏う属性攻撃
更に氷の重量と怪力を込めて突進する捨て身の一撃だ
ついでに殺気も載せて恐怖を与えてやる

「吼えよ、咆えよ、氷色の鳳よ!!」
「…自分のしてきた事を欠片でも思い知って骸の海に還りやがれ」


大豪傑・麗刃
いかにも悪そうな奴なのだ!
お前みたいな奴がいるからわたしは安心してネタにも走れないのだ!
さらにわたしが呼んでも出ないのに他の人が呼んだら出てきたのだ!

わたしは超激怒ったのだ~~!!

(スーパー変態人2発動)

とりあえずこの猟兵の数の前にひとりで出てきた事だけは褒めてやるのだ!
昔のえらい人も言ったのだ「戦いは数だよ兄貴」って!
まあつい先刻数の差覆しといてこういう事言うのも何なんだけど。

ともあれ!
右手に刀2本左手に斧持って全力で斬るのみ!
誓約書とやらとか蝙蝠や刀剣が飛んできても見切って切り払うのみ!

最後は武器3つ束ねて両手で持って力溜めた捨て身の一撃をずどどどどっくぁーんなのだ!!


明日知・理
…お前の趣味に付き合う義理は、俺たちにも彼らにもない。
――眠れ。

▼戦闘
NPCを筆頭とする非戦闘員を最優先に庇いながら戦う。
激痛耐性はある故、少しくらい無茶をしても問題はない。
出来る限り刀で攻撃を受け流し直撃を避け、更に可能ならカウンターを試みる。

此方が発動するユーベルコードは『buddy』。
死角からの捨て身の一撃と暗殺を駆使する。
赤い眼の大きな黒犬を模したUDC が俺の体を覆って一つになり、
この犬の大きな口で葬送の一助とする。

アドリブ歓迎


ビスマス・テルマール
貴方が村人に、脅迫を持って死を強要した諸悪の根元ですか?

手駒を増やすその為だけに
……貴方だけはこの手で破壊しますっ!

●POW
誓約書に注意を払い
見切りと第六感でタイミングを
見計らい、残像をオーラ防御で覆った『実体のある残像』を作りソレや、武装を駆使し受け流し回避&ダッシュで翻弄

仲間と連携し

属性攻撃(聖)と誘導弾と鎧無視攻撃と念動力を合わせ生成した追尾聖光弾を、クイックドロウ・2回攻撃・早業を併用し一斉発射で援護

隙を見て

サンガヤキバーガー・マインブレイドを早業で発動し、山河焼きバーガー型爆弾剣に誘導弾と鎧無視攻撃と属性攻撃(聖)を込め、念動力を込め投擲&クイックドロウ。

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


月舘・夜彦
奴がこの町に死の連鎖を与えた者、命を弄ぶ者
やるべき事はただ一つ、奴を倒すのみ

亡くなった彼等は戻りません
ですが、この町で生きる者が怯える事無く生きられるのならば意味はある
過去の罪があろうとも、それを抱えながらも生きるのが人間です

基本は2回攻撃による手数重視
敵からの攻撃は残像・見切りより躱し、カウンター
複製された刀剣は武器で受けて狙いを逸らし、武器落としにて斬り払い
蝙蝠は第六感による気配と聞き耳による翼の音より位置を把握して一掃
敵の攻撃後のタイミングに合わせて駆け足で接近し抜刀術『静風』
間合いさえ詰めれば隙は一瞬で構わない
居合は刹那、刀一振りなれど込める力は全てを断つ


ジェイ・バグショット
黒幕のお出ましか。
めんどくせーが、丁重にもてなしてやろうじゃん。
咎人殺しのやり方でな。

黒剣『絶叫のザラド』による【先制攻撃】
攻撃と防御どちらにも使う
ブラッドガイスト使用後は殺戮捕食形態=カースブレイド
剣の切っ先から裂け、牙の覗く異形の捕食剣へ
剣が絶叫し衝撃波を生み出す。
ギィイイ"ェエ"!だとギィイ"ヤァ"ア"!だの

ザラドの絶叫に気を取られている敵に『テフルネプ』を操り複数の縄状の影で敵を捕縛する

余所見は厳禁だ

拷問器具『荊棘の王』を使用。自動で敵を追尾し、捕らえると同時に棘が突き刺さりダメージを与える。動きを鈍らせるためさりげなく足を狙う

【咎力封じ】は効果を最大限発揮させる為タイミングを見計らう


リカルド・マスケラス
「ヘイ、彼女。自分とドライブでもどうっすか?」
パヴラに関しては自分がなんとしても守る
彼女には仮面をかぶってもらい、自分のブラックコートも羽織ってもらう

攻撃のチャンスがあれば、【正義代行】でパヴラの、村の人々の想いを力に変えて攻撃
「これが、さんざん人の気持ちを弄んだ報いっすよ」
この攻撃がうまく行けば、想いの力を貸してくれた人達の気持ちを互いに繋げることができる。今回の事件の気まずさ解消に役立てばいいっすけどね。
あと治療系ユーベルコードの使い手に頼んでパヴラ達の流行病が治療できないか試したいっす

去り際に一瞬だけ真の姿(仮面をつけた青年)になって
「何かあったらまた駆けつけるっすよ」
って伝えて去るっす


桜雨・カイ
大丈夫ですかパヴラさん?(敵の姿が見えないように彼女の前に立つ)
これが最後です、私達がここで悲しい儀式は断ち切ります。
その後は村の皆さんと一緒に、亡くなった人達を改めて弔ってあげてください、今度こそ安らかに眠れる様に。それは亡くなった方達との思い出をもつパヴラさん達にしかできません、よろしくお願いしますね。

ここにいる皆さんも、あの町も、これから未来があるんです。
刀剣の複製ですか…ではこちらも複製でお相手します
【錬成カミヤドリ】【2回攻撃】で錬成体を作成、相手の動きにあわせてこちらもバラバラに動き、刀剣を破壊します。
破壊できなければ【盾受け】で受けます。誰も傷付けさせません



 

「過去の芥? 過去が染み出したモノが笑わせるなよ」
 パチパチと、雷の余韻で空気が爆ぜる中、結城が鼻で笑う。
 見飽きたような代わり映えのないド外道の登場、まったくもって予想の通りだ。
 初めての対峙でも分かる……染み付いたと言うには余りにも濃い、血と瘴気をぐちゃぐちゃに煮詰めて形作ったような吐き気を催すような醜悪な臭い。鼻がひん曲がりそうだと、鼻筋に軽く皺が浮かぶ。
「勿体ぶった登場の割に、捻りの無い奴だな……」
 貴様のような奴なら、いくらでも見た事があるぞ。
 レガルタは言って、片目を細めた。
「おや、尻尾まかずに出ていらしたねえ。お人形遊びも、飽きたのかしら」
 イアが言えば、ようやく、ヴァンパイアは血の気の感じられない唇を動かし始めた。
「貴様らこそ、しつこさで言えば畜生に勝るぞ。……尤も人の玩具を壊す躾の悪さは駄犬以下と言えようが」
 くつ、と耳に残る笑い後にすら、悪の気配が強く滲む。
 その気配に耐えかねた者、ふたり。
「その言いよう、貴方が町の人たちに、脅迫を持って死を強要した諸悪の根元ですね?」
「いかにも悪そうな奴なのだ! お前みたいな奴がいるからわたしは安心してネタにも走れないのだ!」
 ビスマスと麗刃がそれぞれ、オブリビオンを指で、あるいは切っ先で指して問い質す。
「さらにわたしが呼んでも出ないのに他の人が呼んだら出てきたのだ!」
 麗刃の怒りは留まるところを知らない。
「わたしは超激怒ったのだ~~!!」
 怒りの咆哮と共に、バシュウ!と何かが弾ける音に合わせ、彼の纏う輝きが一層強くなったのは……もしかしたら錯覚かも知れない。
 そんな麗刃を後ろに、ヴァンパイアの前に歩み出る青年がいた。
「とうとう姿を現しましたか」
 処刑人の青年は、近づきながら、ちらりと自身の足元を見る。
 死屍累々との言葉の通り、無惨に倒れ積み重なった人々の骸は、彼の吸血鬼に弄ばれた魂とこの町の姿そのものだ。哀れみよりも、哀しみよりも、今はただ、目の前の相手への怒りが勝るのは彼とて同じことで。
「不本意ながらな」
 ヴァンパイアは地に降り立った。
 足元にあった、ひとつの頭蓋を踏み砕く。視線一つくれることなく。
 その態度に、夏介の表情がさらに険しさを増す。
「……ああやっと」
 蜜もまた、一歩前へと進み出て。
「出会えましたね、悪趣味で無粋なひと」
「無粋」
 失笑、という言葉どおりの笑いを浮かべ、ヴァンパイアは鼻を鳴らす。
「貴様らがそれを言うのか。こちらの余興を邪魔する無粋をしたのは何方だ」
 チリチリと、空気が冷えていく。その空気の中、飄々とした声がヴァンパイアの声の余韻を遮った。
「おやおや。てっきり茶番やら無粋やらお好きなもんとばっかり」

「こりゃすいませんねぇ。とんだ無粋な茶番を企画してたみてぇなんでてっきり、ね」
 にっと笑う要の、けれど片方だけ表された瞳には、はっきりとした敵対の意が宿っていた。
「町の人達にまどろっこしいことさせて何が楽しかったの? ……まあ、別にどうでもいいんだけど」
 片手、くるくると掌から手の甲へダガーを回して遊ばせ。
 手遊びを見ていた無気力な白群色が矛先を変える。パシと乾いた音。ダガーを握り直せば。
「暇なやつの退屈しのぎに付き合わされてるだけなのに躍起になってる姿は確かに滑稽かもね」
「ああ、てめー、さっき『興覚め』っつってたもんな? ……いい、わかるぜ。てめーにゃ、全部退屈凌ぎの余興みてーなもんだったんだよな」

「どうせ理不尽な死が支配するあの村を、欠伸しながら見てたんだろ」
「猟兵にしては、貴様ら、“よく分かっている”ではないか」
 分かりたくて分かってるわけじゃねー。
 そう言う代わりに、灯は拳に力を込めた。
 そんな彼の胸中も知らず、ヴァンパイアはこれみよがしに浅く息を吐いた。

「絶対的な力を持っている――というのは詰まらんものだ」
 
「こちらにその気が無くとも、人間共は息を吹けば消し飛び、何かをやらせようとしても魯鈍で無能。ならばせめて、――自分たちの塵屑にも等しい命と悲鳴で主を慰める事は、仕える側として当然の義務ではないか?」
「……本当に、趣味の悪い方」
 決して手放さないと誓った……フィオリーナの剣を持つ手が一層固く握られる。
「罪なき人々の心を、命を弄んで、あまつさえ木偶などと呼ばわったばかりか……元より純然たるオブリビオンに手心を加えるつもりなどありませんけれど――貴方は特に、倒し甲斐が、ありそうですね」
「ほざけ。貴様らなど――」
「なぁ、ヴァンパイア」
 鬼の言葉を、男の声が遮った。
 吸血鬼は、不快な面持ちで声の方を見遣る。
「町の……あの人らの目、アンタ見たことねぇだろ」
 当然だ。なぜそんなことをしなければならない。
 ヴァンパイアは、その言葉の意図を察せぬ面持ちのまま、男――スズロクを見ていて。
「あの人たちは、アンタなんかよりずっと強いぜ。だから、後はアンタが居なくなってくれりゃ万事オッケーってわけだ」
 ピンと弾くように耳にかけた【モノレンズグラス】を目の前へと下ろす。
「遠慮のいらない相手で助かるぜ」
「ハッ。手心だの、遠慮だのと、随分と自惚れが過ぎると見える。二度言わせるな。貴様らも、あの町も、今日この夜に闇に沈むのだ」
「いいえ。これ以上、誰一人として犠牲は出させません」
 その青年の気配は闇に近しい。けれど今この場にいるのは、生者を闇に引き込むためではない。
「そのために僕達猟兵が立っているのですからね」
 闇から救うためにいるのだ。
 にっこりと微笑みを浮かべながらも、その佇まいに隙はなく。


「お前を殺せば全て解決だ、そうだろう?」
 レガルタ、
「貴方の舞台は終わりました。早々に退場して頂きます」
 蜜、
「外道殺すべし、慈悲はない」
 結城が、それぞれ戦闘態勢へと移る。
「良かったじゃねーか。もう二度と退屈なんてせずに済むぜ」
 灯が拳と拳を打ち鳴らす。高く、遠く、その音に込められた怒りが鼓膜に伝わる。
「村の連中に約束したんでな。――次に死ぬのはてめーだってよ!」

 凛是もまた、ヴァンパイアと仲間たちとの遣り取りを聞きながら、そっと思う。
 不思議にも、事件の黒幕を前にして尚その心の中は先ほどまでよりもずっと柔らかく、穏やかで……。
(やっぱり、そうだよ、な)
(そういうのが、いないと――あんなことは、できない)
 先ほどの町の人々を思い出す。仮面で隠された表情が、笑みでないことを確信して湧き上がるこれは――そう、安堵だ。
 その感情が一時落ち着いた後、代わりに湧き上がるのは……、
(あれを倒せば……誰かを殺さなくて、よくなる、かな)
 そうなればいい。
 いや、そうなるべきだろう。
 だから、
「ここでお前は終わると良い」
 だから、この湧き上がる静かな決意は、きっと闘志と言うのだろう。

「……お前の趣味に付き合う義理は、俺たちにも彼らにもない」
 理が刃を構えると同時、夜彦もまた、無言の内に、ただ奴を倒すという覚悟を抱いて刀の柄に手を添える。

「わざわざお出まししてくれたんだ。めんどくせーが、丁重にもてなしてやろうじゃん」
 ジェイが掴みどころのなく、ふらふらと歩いて出る。その手に握られた黒い刀身の剣から立ち上る禍々しさが徐々にその存在感を増して。

(私は……“俺”は、許すことなどできない)
 オブリビオンだという以前に、この存在それ自体を。
 夏介もまた、処刑人の剣を構え、間合いを図り――、 

「ただし、咎人殺しのやり方でな!」
「覚悟は……いいですか?」

【絶叫のザラド】と【処刑人の剣】。
 死を司る二振りが、ヴァンパイアに斬りかかった!!

 * * * * *


「ノるって言っていいのか、乗られるって言った方がいいのか分からないけど――」
 少女は、渋い顔をしていた。

『ヘイ、彼女。自分とドライブでもどうっすか?』

 お助けヒーローを名乗る彼にそう声を掛けられ、ありがたくその申し出に乗ったものの……。
「あ。パヴラ、何かその発言ちょっといやらしいっすよ」
 リカルドがケラケラと笑う。
「ちょっと! おかしなこと言わないでっ」
「ハハハ、ちょっとしたジョークっすよ。ジョーク……――いいっすか、パヴラ」
 狐面のヒーローの声が、幾分低く、重く変じた。
「自分を外さないこと」
「はい」
「コートを脱がないこと」
「はい」
「パヴラのことは、自分がなんとしても守るっすから、安心していいっすよ」
「ありがとう。頼りにするわ」
 それだけ約束を交わすと、少女は自分の顔を保護するために、リカルドを付けようとした、その直前、
「大丈夫ですか、パヴラさん?」
 彼女を庇うように、ヴァンパイアとの間に立っていたカイが見返り、声を掛ける。
「ええ、大丈夫。色々と気にかけてくれて、ありがとう」
 落ち着いた返答に、カイは一瞬、口元を緩ませた。
 続けて、また再び、戦いの最中の、人形の色合いが強い頑なな表情を浮かべ、
「これが最後です」

「私達がここで悲しい儀式は断ち切ります」
 少女は、疑わぬ顔で頷く。青年もゆっくり頷き返した。
「その後は村の皆さんと一緒に、亡くなった人達を改めて弔ってあげてください、今度こそ安らかに眠れる様に。それは亡くなった方達との思い出をもつパヴラさん達にしかできません」
「……ええ、約束するわ。例え他の人たちが良く思わなくても、私ひとりでも、絶対にそうするって、誓います」
「よろしくお願いしますね」
 力強い返答に青年は嬉しそうに再び頷き、前へ――ヴァンパイアへと立ち向かって行く。
 続けて、リカルドが少女の顔を覆った。
 そこへ、シホがパヴラへと歩み寄る。
「あなたは……きっと、残るんじゃないかと、思っていました」
 自身の身を案じ、引き留めてくれた少女を前に、パヴラの声に申し訳なさが滲む。
「ごめんなさい。わがままを言って」
「いえ、あなたの目は、もう死に怯えていた時とは違います。今は……とても頼もしく想います」
 顔を守るリカルドから、唯一覗く少女の目をしっかりと見つめ、シホは応じた。
「ありがとう。でも、貴方たちのお陰よ」
「行きましょう。戦友として、支援します」

「さ、フィナーレってやつっす。いっちょ、ガツンとやり返してやるっすよ」

 * * * * *


「とりあえずこの猟兵の数の前にひとりで出てきた事だけは褒めてやるのだ! 昔のえらい人も言ったのだ『戦いは数だよ兄貴』って!」
 夏介・ジェイの攻撃に続き、麗刃が斬りかかる。
「まあつい先刻数の差覆しといてこういう事言うのも何なんだけど……っと、おっとっと」
 激しい風斬り音を立て迫る刃。その威力は受けずとも察せよう。
 真正面から受け止めるのは危険と察したヴァンパイアは、その攻撃の軌道上から身を引いた。
「む、避けるとは卑怯なのだ!」
 麗刃が叫ぶも、その胸中、改めて認識する。
(やーっぱりネタの通じない相手なのだ。ギャグノリはもうちょっとお預けか……残念なのだ)
「なるほど。伊達に勿体ぶっていたわけではなさそうですね……ですが、自分の愉悦その為だけに町の人達を苦しめた。貴方だけはこの手で破壊しますっ!」
「目障りだ。“去れ”」
 虚空より出現した羊皮紙に、赤が一瞬にして文字を刻んだ。
 闇の誓約書として成立したそれが、ビスマスへと飛ぶ。
「そうはいきません!!」
 一直線、タイミングを見計らっていたとはいえ、予想よりもその飛来は速く。ビスマスは寸でのところで跳び退く。
 生み出した『実態のある残像』へと張り付いたそれは、『去る』ことのない残像を吹き飛ばした。
「くっ……!!」
 衝撃に、ビスマスは顔を顰める。
(単純な命令ほど威力は高いユーベルコードとは知っていましたが、これは……!)
 足を止めたら格好の餌食だ。ビスマスは敵の攪乱も狙い、駆け出す。
「見世物もそろそろ飽きてたんじゃない? もう終わりにしようか」
 入れ替わるように、由紀が素早く間合いに潜り込む。
 自身へと向け飛ばされた誓約書を、全身に行き渡らせた移動速度を高める魔力でブーストし、一気に加速する。
「アンタの余興、見てるの退屈なんだよね」
 呟く由紀のダガーが、ヴァンパイアの肩を斬り裂き、間髪入れずに質量を持つ残像が反対の腕を斬り裂く。
 そのまま駆け抜け、また距離を離し、再び攻撃の機を窺う。
 決して浅からぬ二撃、しかし、まだオブリビオンには笑みを浮かべるだけの油断が見られた。
「ほう。逃げ足は速いと見える」
「どこを見ているのです!」
 未来を切り開くための剣が振り下ろされる。艶やかなドレスの裾を翻し、フィオリーナは踊るように斬りつけた。金属同士の衝突音。瞬時、火花が闇に散る。
 刃で受けられ、いなされてもフィオリーナは攻撃の手を止めない。
 もう一振りを腰からすらりと抜き、くるりと回転しながら逆手の一撃を繰り出す。
 翼でいなされる。
「まだ!」
 更にもう一転。今度は地面を蹴り、斜め上からの袈裟懸けを。
「無駄だ」
 ヴァンパイアは身を引き一閃をかわすと、地面に着地したばかりのフィオリーナの細い腰目掛けて膝を撃ち込もうと――、
「させるか!」
 体長5mを超す巨大な氷の鳳が、激しい氷雪を巻き起こす。結城が《雪見九尾の氷結鳳装》により招来した式の一。
 その暴風に、さしものヴァンパイアもぐらりと傾ぐ。フィオリーナがその隙に距離を置く。結城の補助と同時、風に混じり、きらりと輝くものがヴァンパイアへと放たれる。
「小細工を」
 暗殺用の針。暴風に乗せながらも正確に目を狙われたそれを指先で挟んで止めて、ヴァンパイアが吐き捨てた。
 ちらりと血色の目が死角を狙うもう一人の血色を見る。
「ち、そう上手くはいかんか」
 元暗殺者の少年が舌打ちをした。
「ちょこまかと鬱陶しい奴らよ」
 ヴァンパイアがその掌を横に滑らせる。軌道に沿って、ずらりと誓約書が現れた。背後、全方位に向けて闇から生み出されたのは真っ黒な刀身の剣、そして暗闇の中赤い眼を光らせる影の蝙蝠。
「群れるしか能がない木端共め……“止まれ”」
 一瞬にして命令が全ての誓約書に刻まれる。
 続けて、ヴァンパイアが指先を一つくいと曲げると同時、それらの全てが猟兵たちへと一斉に放たれる!
「させるか」
 アルトリウスが即座に≪破天≫を発動させ、広範囲の爆撃と攻撃阻害で応じる。――が、
((この物量は……!))
 獅郎と夜彦が同時に、くと、口の端に力を込めた。
 アルトリウスの存在根源を砕く弾丸に打ち消されて尚、その隙間から残って降り注ぐのは刀剣の雨と称して余りある――自身に向かう分を撃ち落とすことは可能だが、仲間へのサポートまでは厳しい。
 銃で、あるいは刀で切り払い、雨の行き過ぎるまで耐える。
「パヴラさん!!」
 澪がオーラのベールを身にまとい、パヴラの盾になろうと彼女の前に身を晒す。
 澪だけで庇えぬ隙間、迫る凶刃を、リカルドが頭突きで叩き落とした。
「っの……パヴラの髪の毛一本も、斬らせはしないっすよ!」
 攻撃は火勢のようだが、皆、戦いに秀でた猟兵たちだ。各人が自身への攻撃を受け捌けば恐らく大事には至らぬはず。剣や蝙蝠、誓約書を弾き飛ばし、払いのけ、身をかわす音が隙間なく響く。
 ようやく攻撃が止み、仲間へと視線を向ける余裕が生まれた瞬間、
「皆さん!!」
 シホの叫び声が響いた。
 そのシホの前に、腹部に刀剣による傷を負った理が立ち、地面には――、
「!!」
 横たわる、夏介、フィオリーナ、凛是の姿。
「避ける事すら放棄したか。愚鈍な。それとも、諦めか」
 尤も近くにいた夏介を見下ろし、ヴァンパイアが蔑みの目を向ける。

 こふ、と、息を吐く音がした。
 ざり、と、地面を掴む音がした。

 示し合わせたわけでもないのに、よろめきながら、三人が立ち上がる。
「……わたくし、生憎と良い子ではありませんから」
「こんなのより……俺の鬱屈と、ここに生きる人たちの痛みの方が、よっぽど、痛い」
「こちらの覚悟を、みくびらないでいただきたい」
「ハハハハハ!」
 闇を裂くような高らかな笑い声が響く。
「まさか、自分の覚悟とやらを示すために攻撃を受けたとでも言うのか?」

「正気とは思えんな」
「アンタがそれを言うの?」
 ヴァンパイアが。オブリビオンが。
 由紀の目が幽か、怪訝に細められる。
 鬼は、一笑に付した。
「ならば、好きなだけ示すがいい。そして堕ちろ。貴様らの“覚悟”、まだ半分と終わっていないぞ」
 再び、闇より刀剣が生み出されていく――。
(まずい、また来る……!)
 リカルドにパヴラを任せ、澪はバサリと翼を鳴らして上空へと舞い上がる。
 彼に任せておけばパヴラは問題ないだろう。庇うべき相手の下へ真っすぐに向かえるようにと、舞い上がった澪の瞳の端に何かがちらと映り込んだ。
(あれは――)


「ここにいる皆さんも、あの町も、これから未来があるんです」
 再びの一斉攻撃に、カイも錬成体を作成して応戦に備える。
「その未来を、貴方に踏み躙らせるわけにはいきません」
 一人二体を割り当てても十分に庇いきれるはず。誰も傷つけさせまいと、散開させたところで、彼もまた気づく。
(……人数が……?)
 自分の記憶するこの場に集まったはずの猟兵たちの人数と、余った人形たちの数が合わない。
 ということは……、
(今、『お二人』がどこにいるのか分かりませんが……悟らせない方が良さそうですね)
 視線を彷徨わせるのを止めて、カイは前を見据える。

「さぁ、次も耐えられるか試してみるがいい」
 生成された闇の眷属と刃、そして誓約書が並ぶ。主人のオーダーと共に、
「“平伏せ”」
「平伏すのは、お前だ!」
 魔を打ち破る力を織り込んだ光が、ヴァンパイアへと降り注ぐ。
 吹き飛ばされた誓約書に舌打ちをし、向けた視線の先、澪がキッとヴァンパイアを睨みつけた。
「小蠅が……!」
「お前だけは絶対に許せない……さぁ、できるものなら、僕を撃ち落としてみろ!」
「ならば、望みどおり羽根を捥いで無様に墜としてやろう!」
 二の撃が放たれる。その多くは澪の狙い通り、彼へと照準が定められ。
(くっ、流石にちょっと厳しいかな……!)
 心の中で苦しさに耐えながら、澪は空中を自在に駆け剣の追撃を回避する。
 その時、澪を追う剣が一薙ぎに吹き飛ばされた。激しい冷気が澪の髪を乱す。
「大丈夫か? 悪いな、カバーが遅れた」
 結城が氷鳳に指示し、残る剣を嘴で受け止め、割り砕く。
「ありがとう。ごめんね?」
「気にすんな。だが、あんまり無茶は――」
「うん。あのね、結城さん、実は……」
 澪が視線をとある方向へと動かした。結城もそれに続いて視線を滑らせる。
 ああ、なるほど。
 妖狐は顔に出さずに、得心した様子で少年からふいと離れる。
「分かった。“アイツら”が何する気かは知らないが、フォローするぜ」
 ふいと向きを変えると、結城はヴァンパイアに向かって急降下を開始する。
「夜薙ぎ翔けよ、氷色の鳳よ。我らの月はまだ墜ちぬ」
 冷たい空気が直下にいる敵へと降り注ぐ。
 空気中の水分が氷結し、雹のように降り注ぎ、同時にその翼も氷を次第に纏って重さを増していく。
「吼えよ、咆えよ、氷色の鳳よ!!」
 この時、ヴァンパイアはこの戦いで初めて、ゾクリと背筋に走るものを感じた。
 咄嗟に跳び退くも、巨大な鳥の翼に轢かれ、大きく後ろへとよろめく。
「どうした、クソ野郎。足元が覚束いてないぞ」
「くっ」
 苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるオブリビオンに、巨鳥がその嘴で、爪で、翼で、追撃を繰り出す。
 生み出される吹雪が、まるで壁のようにその周囲を囲んで……が、数名の猟兵が、ふと違和感に気付く。
 敵の逃げ道を失わせるように位置取りを考え動いていたイアもまたその一人だ。
(まるで、道みたい)
 吸血鬼は眼前の相手を捌くのに気を取られ気づいていないが、一部風雪の障壁が手薄な個所がある。
(ああ、そう。そういうこと)
 手元の【ユールの火】をついとひと撫で。星の煌めきへと変じれば。
(それじゃあ、僕も、少しばかりのお手伝い)
 星屑、細かな光の花弁は散り散りに砕かれた硝子のように。
 美しくも鋭く冷たく、ヴァンパイアの闇の中、チカチカと輝きながら取り囲む。
 理が踏み込み、ヴァンパイアの懐に飛び込んだ。
「!」
 瞬間、ヴァンパイアの表情に驚愕が浮かんだ。
 振り抜かれる刃を、翼で受ける。
 赤を裂いて、瘴気に濁った黒い血が散る。
 だが、致命傷とは言えない。
「ハッ……千載一遇のチャンスを逃したようだな」
 吸血鬼は勝ち誇ったように再び笑みを湛え、血紅の腕を理に伸ばす。
 その後ろ、“彼”は既に射程圏内へと飛び迫っていた。
「残念だったな。“そっち”じゃねェよ」
 声に、ヴァンパイアは振り返る。
 お誂え向きに正面に向き直った顔に、バルが張り付いた!
「な、何……これは!?」
 仮面についた紫色の棘……その先としっかり繋がっているのは、バルと常に共に在る宿主たる人物だ。
 墓石に身を隠し、今この瞬間まで息を潜めて機をうかがっていた二人は、理が踏み込んだ瞬間、宿主の顔を覆っていたバルを外し、棘でつないで吸血鬼目掛けて投擲させた。
 吸血鬼の周囲にいる蝙蝠たちに捕捉されぬよう、ヴァンパイアに対し一直線に投げることはせず、方向をずらして投擲した後、棘を繰ってその“軌道を修正”した。仲間のサポートがあったとはいえ、並みの技術ではない。
 そもそも、その“機”が訪れるとも限らないギャンブルとも言えただろう。だが、二人は間違いなくその機は訪れると確信していた。そして見事に、この賭けに勝利したのだ。
「テメェにはとくと思い知らせてやる」
 バルの体から命令が発せられる。
 ヴァンパイアの腕は理に伸ばされたままで、しかし、彼を傷つけることはない。
「“望んだ通りに生きられない”のが、どれだけムカッ腹の立つことかをな……!」
「ぐっ、が……!!」
 抗うこともできない強制的な行動停止。
 僅か数秒。しかし、この数秒が全ての運命を変える空白。

 音もなく、影もなく。
 猟兵たちの動体視力をもってさえ、見逃してしまうほど静かな一撃が闇を両断する。
 納刀の音がまず聞こえ、それから数秒遅れて、物の落下音。
 斬られた本人ですら、斬られたと知覚するまでに時間が掛かった。
 ヴァンパイアの左腕が、血の一滴も流さずに地面に転がっていて。
「な……何だと……!?」
 切り口の方角、見れば立つのは一人の男。
 夜彦が、まだ刀に手を添えて立っており。

「そちらの手も、もういらないでしょう?」
 ひたり。気を取られていた鬼の腕に不健康に白い手が伸びて、触れる。
 その瞬間、ヴァンパイアの腕が異臭を放ちながら、触れられた箇所から泥のように融けて地面へと滴り始めた。
「グアアアァァァ!!!!」
 腐り、爛れて落ちた肉のついた地面が、どす黒く色を変えた。
 皮を、筋を、骨を、凄まじい勢いで浸食し、ヴァンパイアのもう片腕もぼとりと地面に転がった。
 幾分毒に耐性があるはずの白衣すら、極限まで濃縮された蜜の毒に耐えきれず、所々ぶすぶすと焦げ。
「これでもう、文字は認められませんね。そんなに私の毒が怖かったのですか、吸血鬼様」
 蜜が追撃とばかりに、先を失った腕へと、自身の体から取り出した黒く錆びた医療器具の数々を抉るように捻じ込んだ。
「貴様ッ……貴様貴様貴様ァ!!!!!」
「おっと、怖い怖い。私、見た目通りの薬師です故にヒトの形をしている物の効果的な『壊し方』も心得ておりますよ」
 ヴァンパイアを蔑むように見る蜜の冷静さと対照的に、血走った目で睨む吸血鬼には、最早、それまでにあった余裕は残っていなかった。


 後ずさろうとするヴァンパイアを、イアが阻む。
「まさか、今更お逃げには、ならないだろうね?」
 全方向へと攻撃を展開しなければならないということは、全方位を猟兵に囲まれているということだ。
 ヴァンパイアの顔に、屈辱と苦痛が幾重にも重ねられ。
「腕程度で勝ったと思うな、有象無象どもめぇ!!」
 例え誓約書を書けなくなったとしても!! 剣と蝙蝠の召喚は未だ可能なのだと、牙を見せて鬼が吼える。
 その言葉通り、ヴァンパイアは残る力の全てを込め、眷属たちを駆け巡らせ始めた。
「まだこんな余力が……ですが、敵ももう後がないようです! ここが正念場ですね!」
 ビスマスが、簡略化した掛け声と共に鎧のフォルムチェンジをし、装備のひとつである山河焼きバーガー型爆弾剣を構えると、念動力で投擲したそれを操り、蝙蝠たちを次々に爆破していく。
 爆発の隙間を縫って、リカルドが鎖分銅で蝙蝠たちを散らし、鎖鎌をヴァンパイアへと投げつける。
「これが、さんざん人の気持ちを弄んだ報いっすよ」
 体を貸している少女の想いが爆発となって弾けた。と、同時に、胸の奥、確かに町のみんなとの繋がりが強まった心強さが少女を満たす。これは、少女と町の人々にしか分からぬことだったが。

「最後の悪足掻きってか……しっかり足掻けよ、悔いの残らねーようにな」
 言うや、灯もヴァンパイアに向かって走り出す。
 最早、無軌道に狂い飛ぶ蝙蝠と剣は、軌道を読もうとしても無駄だ。
(アイツはもう、何も見えちゃいねー)
 視界に入るものを形振り構わず排除しようとしている、ただの獣のようなものだ。
 少年は、タイミングを計るとユーベルコードの群れにぶつかる直前で身を低くし、地面を滑り、攻撃を掻い潜る。
 蝙蝠の翼についた爪が、灯の頬に紅の線を残す。が、眉一つ動かすことなく。
 正面に振り下ろされた刃を、少年の拳は易々と打ち砕く。
 接近し、現れた姿を認めたヴァンパイアが態勢を整える前に灯に斬りかかろうと念動力で剣を操る。
 けれど、スライディングから無駄のない動作で起立した灯は、その剣が振り下ろされる前に迎撃態勢を整えており――、
「ブチ砕け、オレのアザレア・プロトコル――この一撃を届かせろ!」
 振り下ろされるに合わせて、自身の拳を、その胸部へと強かに撃ち込む!
 一角馬の角のような、鋭く穿つ一撃が、杭の代わりにヴァンパイアの胸に穴を開ける。
「私の渾身の一撃も喰らうのだ!! ずどどどどっくぁーんなのだ!!」
 麗刃が肉薄する。
 まるででたらめな、だがそのでたらめを力に変えたような強烈な一撃を、今度こそは避けることができない。
 両手でまとめて持たれた三種の武器。見様によっては雑な一撃と言えるそれは、麗刃の力によって、致命の斬打撃とも言うべき一撃となる。
 斬り圧し潰された痛みに、ヴァンパイアが仰け反る。
「ぐァアァ――ッ!!」
 しかし、呻きながらも、敵は自身を守るべく蝙蝠たちを盾の如く、自身の周囲へ展開させ始める。これ以上のダメージを受けてはまずいと。
「芸の無いヤツだ」
 飛針で蝙蝠を撃ち落としながら、レガルタは紛れ込ませたヴァンパイア本体狙いのダガーを放った。
 片腕と冷静さを失った鬼は、それをもう片手で弾いて。
 その隙に、素早さを活かし、敵の背後に死角から回り込んだ元暗殺者の少年は、別のダガーを抜き、首を裂いた。
「この世界に貴様の居場所は無い。骸の海へ消えろ」
「がハ……っ!!」
 ぼたぼたと血が零れる。苛立たしげに振り払ったときには、既にレガルタは距離を置いていた。
「五感を共有するってんなら好都合ですぜ」
 召喚された蝙蝠の一体に、敢えて自分の追跡を許し、ヴァンパイアに自分の五感を共有させた要は、真空を纏うシマフクロウを召喚する。鳥の羽ばたきが真空を巻き起こし、ヴァンパイアの感覚を乱していく。それだけではない。レガルタ同様、要も抜かりなく攻撃に毒と相手の体を痺れさせるルーンを仕込ませ、二重三重にその動きを絡めとっていき。
 澪の清浄な歌声が響き渡る。
 微睡みを誘う歌声は、平時であれば心地好く、いざ戦いの場では敵の動きを鈍らせる効果を持つ。
 歌に合わせて、無数の花びらが舞い踊り、ヴァンパイアの体に細かく裂傷を刻み付けて。
『キ゛イ゛イィェエ゛ェ゛エ゛エァア゛!!!!!』
 突如、劈くような絶叫が響き渡る。
 澪の催眠で鈍った思考力で、吸血鬼は視線をそちらへ向ける。
「余所見は厳禁だ」
 ジェイの黒剣【絶叫のザラド】の悲鳴を陽動に、陰気な青年の足元がヴァンパイアの足元へと伸び、地面から縄のような触手が生じ、ヴァンパイアの足を絡めとる。そして再び【荊棘の王】がその足を捕らえる。
「許さん……許さん、許さん、許さん……許さんぞ、貴様らァ!!!!」
 毒で、痺れで、催眠で、刻印で。
 幾重も雁字搦めにされながら、よろよろとながら、まだ動く事ができるのは支配種族故の意地なのか――怒りに歪んだ形相で、猟兵たちを睨みつける。
 その視界を、花弁が遮った。
 シホが鈴蘭の花びらを舞わせ、ヴァンパイアに接近する。
 最早、避ける事も叶わない足は、少女の捕縛を容易く許してしまい。
 シホの姿が、変化を始める。
 首、手首、足首に頑丈な枷が現れ、その鎖がまるで意思を持つかのように、ヴァンパイアの体へと巻き付き、自由を奪った。
「ッ何だと!?」
「みなさん! 今の内に、私ごと!!」
 シホのユーベルコード≪この身を捧げし聖餐≫が発動し、自身諸共ヴァンパイアの動きを完全に封じ込める。
「貴様……放せ!! 放せェ!!!」
「サンキュー、シホちゃん。これで一矢報いれるぜ」
 隠れて接近していたもう一人――スズロクが、悠々と歩み寄る。
 尤も、隠れて尚あちこち傷を拵えた姿は、決して悠々とは言えないが。
 多重人格者の青年は、常ならば戦闘時、攻撃的な人格に切り替えて戦うことが多いが、今日は違う。スズロクそのままだ。……と言うより、今日は、やめたのだ。
「呪いってのは返すのが基本だ」
 スズロクが手にしたネイルガンを吸血鬼に押し当て、釘を撃ち込む。
 スズロクの頭に簪代わりに刺している釘と然程も変わらぬ大きさの釘。
 もちろん、これで殺せる等とは、彼も露ほども考えてはいない。
「……電脳展開」
 目的は別にある。
 スズロクが釘を介して、ヴァンパイアの能信号を強制ジャックする。
 呻きと怨嗟に溢れていたヴァンパイアの口から、別の言葉が紡がれ始める。
『わ』
(そうだ。言うんだよ、アンタも) 
 彼女が言わなければならなくなった、あの言葉を。
『たし』
(嫌だろうけどな)
『が、』
 ゆっくりと紡がれたその言葉は、確かに、こう言っていた。

『わたしが、しにます』

 接続を解除する。
「大丈夫、ちゃんと皆がその通りにしてくれるぜ」

「ええ、その誓約なら」
「うん、望むところ」
 目も眩むような輝きが走ったかと思えば、フィオリーナの剣閃がオブリビオンの体を一瞬の内に切り裂き、続き、鉄槌のように固く握りしめられた凛是の拳が、最大の威力をもって叩きつけられる。
「ガァァッ!!」
 ヴァンパイアが、がくりと地に膝をついた。
 その目に、数多の骸が映り込む。滅びの淵に立たされ、去来するのは――、
「そろそろ、認識してきましたか?」
 静かに、獅郎が問う。
 ひたり、ひたりと、歩み寄る音がする。
「っ、ひ……!!」
 まるで“人間”のように後ずさるヴァンパイアの背が、何かにぶつかる。
 見上げると、無表情の青年。アルトリウスが告げる。
「お帰りは骸の海だろう、出口はあちらだ」
 あちら……その方角には――!!
「逃げんなよ。死にたくねぇのは分かるが、お前は元々、生きちゃいねぇんだ」
 ダメ押しに、ジェイが咎力封じで力と身動きを奪う。
「ようやく理解したようだな。……恐怖するのはお前のほうだ」
 夏介の隣に、いつの間にか真っ赤なドレスを纏った少女が現れる。少女はにっこり無邪気に微笑むと、ドレスをちょいちょいと揺らした。
 可愛らしいその仕草とは裏腹、ドレスから飛び出した大鎌がヴァンパイアの体を斬り裂いた。
 悲鳴を上げる事も叶わず、苦悶の表情を浮かべるその額に、冷たい銃口が突きつけられる。
「死に疎き永劫ならざる者よ――『死を想え』」
 引き金が引かれ、後ろに倒れていく最中、
「――眠れ」
 静かな声が響いて。
 新月色の巨大な怪狗が、ばくりとオブリビオンを一飲みにした。
 悲鳴もなく。
 犬の牙の隙間から、煙のような塵が立ち上り……この町で残虐の限りを尽くしたヴァンパイアは、骨も残さず、骸の海へと還される。

「這い出すこともなく、安心して終われや……テメエの墓なぞ、どうせ誰も作りゃしねェからな」
 バルが彼の腕が落ちていた場所を眺めながら呟き、イアもまた、
「何がそんなにお気に召さなかったのだろ。人同士でころさせて、楽しかったかしら――骸の海の方へ尋ねたところで分からないだろうけども」
 と誰にとはなく、零したが……墓地はただただ、ようやく迎えた安息に浸っていた。


「おーおー。随分といい御身分だな、アンタら。人が散々働いて来たってのによ」
 酒場へ入って来た結城がじとりと目を細め、幾人かの猟兵たちをねめつける。
「げっ。ち、違うんだよこれはその」
「ワハハハ! 固いことは言いっこなしなのだ! 皆も座ってマッズイ酒飲むのだ!」
 狼狽えるスズロクの隣、上機嫌な麗刃が酒の入ったグラスを掲げて皆を呼ぶ。
「そんなに飲んでないはずなのに、なーんでもう出来上がっちゃってますかね。この人」
 そんな麗刃の様子を眺めながら、やや呆れた口調で要が一杯分だけ空になったグラスを揺らした。
 リカルドの提案、それに元々人々の心配事の一つである流行り病を何とかしたいと考えていた幾人かの猟兵たちは、医術や人を癒す力に長けた、獅郎・シホ・澪・カイ、それから医術の知識があるということで蜜や夏介・フィオリーナ・灯を中心に人々の医療活動を行っていたのだった。
 見様見真似でなら簡単な手当ができそうだと言うことで、結城と由紀も――由紀は半ば無理やりだったが――駆り出されていた。ちなみにジェイと要はのらりくらりと逃れた。
「いやあ、だってほら、俺医学の知識ねーし、足引っ張っても悪いかなーって」
「そんなことありません!」
 仕事後でも疲れを見せない張った声で遮ったのはビスマスだ。
「私や夜彦さん、それから理さん、バルさん、リカルドさんにアルトリウスさんは、物資の運搬なんかで応援していたんですから!」
 えっへんとマゼンタカラーの鎧に包まれた胸を張る。
 「俺じゃねェ。俺の宿主だ」とややげんなりした声でどこかの仮面から声が聞こえたが、その体(宿主)はふんすふんすとまだやる気満々アピールしているので聞こえなかったことにしても問題はなさそうだ。

「残念です……スズロクさん」
「……そんな人だとは思いませんでした」
「僕たち……町のために頑張ってきたのに……」
「まったくだ。反省した方がいいぞ」
「何で俺ばっかり!? っていうか、レガルタ、アンタも一緒にここにいたよな!?」
 シホとフィオリーナ、澪が悲しげな声で言いながら瞳を潤ませた。
 三人に続いてなぜか自分に追い打ちをかけたレガルタを見れば、両手でミルクの入ったグラスを持ちながら、ふふんと口の端を上げている。
 もちろん、皆本心から責めているのではない。
 事件が収束した気安さからの冗談。安心感が場に満ちていた。

「まあまあ、そうお責めにならないであげて」
 イアがころころと笑い声と共に、手をひらり、ひらりと振った。
「お酒を呑み交わすのは、お誘いもあってのことだもの」
 言った彼の後ろに、町の男たち――主に墓地にいた者達だろう――が数人、ばつが悪そうに立っていた。
「……アンタたちには感謝してるよ。本当に」
「俺たちを救ってくれて……それから、止めてくれて、ありがとう」
「どうか、頭を上げて下さい。あれは、貴方方が好んでやったのではない。させられていたのですから」
 机に額をつくほど頭を下げられ、夜彦は首を振る。
 ゆっくりと上半身をあげながらも、男は口惜しそうに顔を歪める。
「だが、拒めなかったのもまた、俺たちだ」
「それはそうだよね」
 由紀が遠慮なく肯定した。諫めるように、夜彦が視線を向ける。それを受けても、由紀は特に気にした様子はなく。
「でも、それはそれとして、これからどうするかじゃない?」
「これから……か」
「ええ、それは」
 カイが、パヴラに伝えた事を再び言おうかと口を開きかけるも、視線をパヴラに向け、口を閉じた。
 それはきっと、この場で、町を救った者がこうしろと言うのではなく、町の者たちが話し合って納得していくことなのだろう。

 静かにミルクを飲んでいた凛是の下へ、一人の男が訪れる。
 男はここいいか?と尋ね、凛是が頷いたのを見て向いに腰かけた。
「悪かったな」
「……なにが?」
「アンタの言う事が正しかったよ。俺たちは、あんな道を選ぶべきじゃなかった」
 グラスをことりとテーブルに置き、視線を向ける。
「俺も……きついこと、言った……かも。ごめん」
 この人たちだって、痛かったのにと。振り返ってみれば、そう思えて。
「いや、ハッキリと言ってくれたから目が覚めたんだ。ありがとよ」
「そう。それなら……」
 よかったのかな。
 うん、よかったのかもしれない。これで、少しはにぃちゃんに誇れるだろうか――。

「現金なものだな」
 壁に寄りかかって場を眺めていたアルトリウスが独り言ちる。
 元々は、仕事を終えてまで残る理由はなかった。ただ、一人で先んじて帰る必要もなかった。だから残ったまでだ。
「いいんじゃねぇか?」
 灯がその隣に寄りかかって腕を組んだ。
「コイツらがこうして騒げる日なんて多くねぇんだ。今日ぐらいは」
 
「……そういうものか」
「そういうもんだ」
 反省したり、笑ったり、この世界でこうして過ごせる時間を取り戻せた。
 過去は時に重荷にもなるが、希望にもなる。
 今日こうして騒いだ時間が、いつか彼らが再び迷ってしまった時、灯火になってくれればいい。


 一晩の騒ぎが終わり、猟兵たちは帰路へとつく。
 修道院の前で、少女が見送りに来ていた。
「それじゃあ、皆さん、元気でね」
「何かあったらまた駆けつけるっすよ」
 リカルドが最後に真の姿を取ると、そもそも違和感なく感じていたはずの青年の顔が、急にはっきりと見えた気がして。
 少女は目を丸くし、ぱちぱちと瞬かせる。
「リカルド……貴方、気付かなかったけど綺麗な顔してたのね」
 少し軽薄そうだけど。言えば、軽薄は余計っすよと青年は笑い。
「ありがとう。でも、そうじゃなくても、もしまた近くに来ることがあったら、きっと立ち寄っていって」

「その時には、胸を張ってあなたたちを歓迎できる町になっているから!」
 少女の顔が、火を灯したように輝いた。
 覗いた口元、欠けた歯が特徴的な、素朴で愛嬌のある笑顔だった。

「……これで多少は、村を想い散った魂に報いれたでしょうか」
 獅郎の言葉に、イアが何の気なしに空を仰ぐ。
 ――月は、新月とほとんど変わりないように見えたが……それでももう、完全な闇ではない。
 暗闇を薄く剃ったように、仄かな光が覗く。
「どうかな。生きている彼らも、もう互いに視線を逸らさず、生きていけるかしら」
 夜彦が真っすぐ前を向いたまま、ぽつりと零す。
「亡くなった彼等は戻りません」

「ですが、この町ではもう、怯える事無く生きていける……過去の罪があろうとも、それを抱えながらも生きるのが人間です」
「ああ、そうな」

「人間の底というのは、ええ、強いものなあ」
 為したことは消えないけどもそれでも、きっと……。

「儚く生きる人々の力になれたならば、良いのですがね」
 振り返った町の灯りは、暗闇でこそ一層美しく見えた。

 * * * * *

●エピローグ ~或いは届かない手紙~

『拝啓、私達を救ってくれた皆さんへ』

『お元気ですか? 私は元気です。
 皆さんに助けてもらってから、一度目の新月が来ました。
 もう誰も消えなくていい事実に、改めてほっとしています。

 そうそう。町の皆で話合って、新月は慰霊の日にすることにしました。
 私たちが手にかけてしまった人たちの事を忘れないように。
 私たちが皆さんに救われた事を忘れないように。
 私たちが、もう二度と道を間違ってしまわないように。
 今日は、磔台を取り除いた場所に、簡単ですが慰霊碑を立てて、皆の冥福を祈りました。
 これで許してもらえるとは思わないけど……これからも、皆で背負っていくつもりです。

 皆さんは元気でしょうか? 元気だといいな。
 また私や、この町みたいな、苦しみに陥ってる人たちを助けているのでしょうか?
 きっと、そうなんだと信じています。
 大変だと思いますが、怪我はしないように気をつけてくださいね。
 皆さんのことだから大丈夫だとは思いますが、どうか自分たちのことも大事にしてください。
 遠くから願っています。
 愛を込めて パヴラ・モルナール』

「パーヴーラ。……おい、パヴラってば。夕餉の準備。呼ばれてるよ」
「、ヘドヴィカ。ごめん、もうそんな時間?」
「まーた“お手紙”? 毎日よくやるよ。手紙ってか、もう日記だなこりゃ」
 ブルネットの少女が赤毛の少女の手紙を覗き込もうとして笑う。
 やめてよと隠された手紙に、はいはいと肩を竦めながら。
「いつかあの時計、アンタの手紙で止まっちまうんじゃないの? ってか、宛先不明の手紙なんて何で時計に貯めておくのさ。郵便屋でもあるまいし」
「もー、うるさいなぁ……きーもーちーの問題っ。それに……」
 少女は手紙を見下ろして、仄かに笑んだ。
「あそこに入れていたら、いつか届きそうな気がするから」

「パヴラ・モルナール! ヘドヴィカ・ニクル!! 速やかに夕餉の支度をなさい!! でないと夕飯は抜きですよ!!」

「いっけね。パヴラまだ? ……アタシ先行くからね」
 ばたばたと片方の少女が飛び出していく。
 少女はいつもの締めの一文を、焦らず丁寧に書き添え、封筒に入れると部屋を出た。
 食堂へと向かう途中、ホールにある大きな柱時計に、その手紙をそっと挿し入れる。
 パタリと柱時計の扉を閉めて、微笑むと、
「パヴラー! 後十秒だって!! 十、九、八……」
「今行くー!!」
 ようやく、駆け出す。
 ホールには、柱時計だけが残った。

『追伸

 私達、今日も生きてます。』

 直後、柱時計の針が進み……弾むように鐘を五つ鳴らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月10日


挿絵イラスト