黄泉還りし土蜘蛛の女王
「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「かつてシルバーレインで大きな事件を引き起こした『土蜘蛛の女王』国見・眞由璃が、オブリビオンとして蘇ったようです」
この世界には人間の他に「来訪者」と呼ばれる異種族が多数存在し、種の生存を賭けて人類と争ってきた歴史がある。眞由璃はそんな来訪者の一種「土蜘蛛」を率いる女王として、かつての銀誓館学園の能力者達と戦ったという。
「土蜘蛛の女王との戦いは、銀誓館の方々が始めて経験する『戦争』になったそうです」
最終的に銀誓館は勝利し、戦いを生き延びた土蜘蛛達は学園の生徒として編入された。
これには敗北を悟った女王が死の間際、我が子でもある土蜘蛛達の助命を嘆願した事も影響しているらしい。現在の銀誓館にも当時の女王を知る者はいるだろう。
「ですがオブリビオンと化した眞由璃は種の本能に従い、人類の捕食者として新たな子を育て、かつてのように土蜘蛛の支配領域を広げるつもりのようです」
それが人類の脅威になると重々承知した上で、彼女は一切の迷いなく行動する。それが仮初めのものとはいえ再び生を受けた「土蜘蛛の女王」としての使命だと信ずるが故に。
「復活した眞由璃は奈良県・法隆寺に大規模な『土蜘蛛の檻』を構築しています」
法隆寺と言えば日本初の世界遺産にも指定され、文化的・歴史的にも貴重な建造物が数多く存在する寺院である。「土蜘蛛の檻」はこの法隆寺の敷地全域を覆い、外部との交流を完全に遮断している。
「本来ならば大事件ですが、世界結界の影響により『檻』の外の人達は内部やそこにいる人の事を完全に忘れています。そして内部の人も檻から決して出られないにも関わらず、違和感を覚えないように強力な記憶操作の下にあるようです」
例えば一般の参拝者や観光客であれば、何回参拝や見学を繰り返してもその都度記憶を操作され「初めて(あるいは久しぶりに)ここに来た」と認識させられている。そして、寺から帰ったつもりでも実際には『檻』から出ることはできず、外にいるはずの時間帯や夜間はずっと『蜘蛛糸の繭』の中で眠らされているが、その事にも気付いていない。
「法隆寺の人々は偽りの日常生活を送りながら少しずつ生気を奪われています。いずれは彼らを喰らい、配下の『土蜘蛛オブリビオン』を増殖させるのが眞由璃の目的です」
このままでは法隆寺にいる僧たちや多くの一般人が犠牲となり、眞由璃の配下は際限なく増殖していくだろう。そうなる前に『檻』に突入し、事態を収拾しなければならない。
「『土蜘蛛の檻』内部への転移はグリモアであれば可能です。まずは観光客などを装って檻の中の日常に溶け込みつつ、捕らわれている人達に接触してください」
記憶操作にかかったままでは人々を解放するのもままならない。まずは何気ない会話や交流を通じて少しずつ違和感を増大させ、現状の環境に疑問を持たせるのが良いだろう。
深く操作されている場合は『蜘蛛糸の繭』で眠っている時間を狙って、彼らを繭の中から無理やり引きずり出し、強引に現実を見せることも有効だ。
「自身の『土蜘蛛の檻』に猟兵という異物が侵入すれば眞由璃もいずれは気付き、配下のオブリビオン軍団を送り込んでくるでしょう」
眞由璃の配下はいずれも「土蜘蛛化オブリビオン」となっており、蜘蛛の脚や蜘蛛糸を放つ腹等の「蜘蛛の部位」が追加されている。本来の武装やユーベルコードに加えて攻撃の手段が多彩になっているため、何らかの対策を立てておいたほうが良いだろう。
「配下の力で猟兵を排除できなければ、次は眞由璃本人が出てくるはずです」
土蜘蛛の女王として一族を率いた実力はオブリビオンと化した今でも健在で、強敵であることは間違いない。彼女の行動原理は女王として我が子達を繁栄させる事に集約されており、ここまで広げた巣を脅かす者には容赦しないだろう。
「一族の繁栄を第一とする眞由璃は、場合によっては猟兵に交渉を持ちかけてくる可能性も考えられます。ですがオブリビオンである彼女との対話は慎重に行うべきでしょう」
戦闘以外の手段で事態を収める選択肢を否定はしないが、落とし所は注意して見極めるべきだとリミティアは語る。現在の眞由璃は現在進行系で多くの人を危険に晒している、紛れもなく危険なオブリビオンなのだから。
「リムが予知した限りでは、彼女は一度交わした約定を軽々しく違える人物ではありません。しかし誇り高い人物であるが故に、女王としての使命を放棄する事もないでしょう」
今度こそ使命を果たし生き延びる。それがオブリビオンと化した眞由璃の全てである。
悲願潰えた敗北の過去を仮初めの命で覆すために、彼女はいかなる手段をも厭わない。
「話し合いによる和平は、戦いによる決着よりもずっとリスクは高まります。それでも、という方がおられましたら、あとは皆様の思うようにお任せします」
現場で戦う者達に選択を委ねると、リミティアは手のひらの上にグリモアを浮かべる。
向かうは奈良・法隆寺の『土蜘蛛の檻』。現代に蘇りし土蜘蛛の女王が支配せし領土。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
今回はシルバーレインにて復活した土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』との決戦シナリオになります。
1章では『土蜘蛛の檻』に閉じ込められた法隆寺の人々と接触します。
檻の中にいる僧や参拝者や観光客などの一般人は、何日も閉じ込められいてもその事実に気付かないよう記憶を操作されており、寺にいないはずの時間帯は「蜘蛛糸の繭」の中で眠らされています。
寺院の観光を楽しむふりをしつつ彼らに話しかけたり、眠っている最中に「繭」から引きずり出すなどして、偽りの日常に疑問を持たせて下さい。
2章では眞由璃の配下の「土蜘蛛化オブリビオン」との戦闘です。
本来の姿に蜘蛛の身体特徴を追加されており、戦闘では通常のユーベルコードに加えて蜘蛛部位を利用した攻撃を行ってきます。これに上手く対処することができればプレイングボーナスが付きます。
3章は土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』との決戦です。
詳細についてはオープニングの方を御覧下さい。
この決戦シナリオでの皆様の選択によっては、今後私が運営するシルバーレインのシナリオの状況に変化が現れます。おのおので悔いのない行動を考えていただければ幸いです。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『世界遺産の観光』
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POW : できるだけ多くの見所を巡る
SPD : ガイドに案内してもらい、効率的に見て回る
WIZ : 自分でプランを計画し、楽しむ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
カビパン・カピパン
一応教皇であるカビパンはここ法隆寺にお呼ばれし人々へ説法をしていた。その心に響く説法は古代北海道シュークリームへの熱い想い。
しかし、その次の日に異変に気づく。
教えを説いた人々全員があの素晴らしい内容を忘れている。最初に話かけた時の対応がまるで同じ。
「なんでやねんー!」
カビパンは思わず最初に出会った僧にハリセンでツッコミをいれた。スパーンと響く快音。するとしばいた僧が急に困惑し始めた。
(強力な記憶操作から解呪)
その僧から「どうかハリセンで僧や参拝者達をしばいてください!」と突然ドM丸出しなお願いをされ正直引いたカビパンであったが座禅の警覚策励の如くあらゆる人々をしばき、目を覚まさせるのであった。
「南無~妙~宗倶利異夢~華経~」
奈良県・法隆寺。日本でも屈指の歴史を誇り、現在は土蜘蛛の女王「国見・眞由璃」に支配されたこの寺院は、今も仮初めの日常を保っている。そこで修行に励む僧に紛れて、珍妙な念仏を唱えるカビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)がいた。
「本日はこちらの教皇様から、特別にありがたい教えを頂けるとのことです」
一応教皇であるカビパンは立場をうまいこと利用してここ法隆寺にお呼ばれし、人々に説法をしていた。別に教皇といっても彼女は仏教徒ではないのだが、その辺りは世界結界か記憶操作の影響か、あるいは彼女自身が持つギャグ補正の仕業だろう。
「皆さんはご存知でしょうか。かつて北海道に存在したシュークリーム文明のことを」
カビパンが人々に説くのは古代北海道シュークリームへの熱い想い。現代の北海道にて販売されている物とは違う、元祖にして真実の偉大なるシュークリームについてである。
「いや知らんかった」「凄いんだなシュークリームって」
下手なコントにしか思えないような内容でも、法隆寺という伝統ある舞台とカビパンの謎のカリスマ性が組み合わされば、なんとなく有り難い話に聞こえてくる。どこまで心に響いたかは定かでないが、説法を終えた後には大勢の聴衆から拍手が送られたのだった。
――しかし、その次の日にカビパンは異変に気づく。
「なんで誰も覚えてないのよ!」
教えを説いた人々全員があの素晴らしい内容を忘れている。もう一度説法を行っても、最初に話しかけた時の対応がまるで同じ。時間がループしているのかと錯覚するほどに、デジャブを感じる返事しかしない。
「いや知らんかった」「凄いんだなシュークリームって」
聴衆からの大きな拍手も二度目となると虚しく聞こえる。これが女王にかけられた記憶操作の影響か。恐らくはここに居る一般人の誰も『檻』の中で起こる変化を認識できず、いつもと同じような日常をただ繰り返しているのだ。
「カビパン殿、見事な説法でし――」
「なんでやねんー!」
カビパンは思わず最初に出会った僧侶にハリセンでツッコミをいれた。ツルツルの頭にスパーンと響く快音。すると彼は大きく仰け反った後、夢から覚めたように目を瞬いた。
「……はっ。私は一体?!」
あらゆる奇跡を霧散霧消させるという「女神のハリセン」の力が、眞由璃の記憶操作を解呪したらしい。何が起きたか分からず困惑する僧侶だったが、どうやら自分がここ暫く正気を失っていた事、そして他の僧たちや参拝者らも同じ状態にあることを悟る。
「お願いです。どうかハリセンで僧や参拝者達をしばいてください!」
「はぁ?」
その僧から突然そのようなお願いをされたカビパンは正直に引いた。自分が何をしたか分かっていない彼女には、この依頼はただのドM丸出し発言としか思えなかったようだ。
それでも何度も懸命に真剣にお願いされてしまうと、断りきれず仕方なく快諾する。
「はい、一列に並んで、姿勢を崩さない」
そんなわけでカビパンは座禅の警覚策励の如く、法隆寺の『檻』にいるあらゆる人々を【HARI☆SEN】でしばきまくり、目を覚まさせるのであった。絵面はヒドイが、彼女の行動が眞由璃の計画を歪ませる一因となったことは間違いない――。
大成功
🔵🔵🔵
神臣・薙人
国見眞由璃…
私は記録でしか知らない相手ですが
人に仇なす存在であれば
見過ごす訳には行きませんね
檻の中に入った時点で周囲を警戒
観光客を装いつつ
人が眠らされている繭を捜索します
大勢の人が集められそうな場所を重点的に
見付ければ一人ずつ繭から引きずり出します
負傷者がいれば桜の癒しを使用
他の一般人に出会った際は
法隆寺の景観を賛美し
「ところで今日は何日でしょうか」と
尋ねてみます
具体的な日付が出た際は
「おかしいですね
先程カレンダーを見たら
何日だったのですが」と
わざと大幅にずれた日付を口にします
勘違いかもしれないと言われれば
「でもここまでずれるのは
やはりおかしくありませんか?」と
相手の認識を揺さぶるようにします
「国見眞由璃……私は記録でしか知らない相手ですが」
かの『土蜘蛛の女王』との戦いは、銀誓館学園の歩みの中でも初期に記録されている。
かつて運命予報士として能力者の戦いをサポートしていた神臣・薙人(落花幻夢・f35429)だが、その頃の記憶は曖昧で、当時学園に在籍していたかも覚えてはいない。
「人に仇なす存在であれば見過ごす訳には行きませんね」
ただ今は能力者にして猟兵の1人として、現在を脅かすオブリビオンを討ち倒すのみ。
決して油断はすまいと気を引き締め、法隆寺に構築された『土蜘蛛の檻』へ突入する。
「……流石に白昼堂々と敵が闊歩してはいませんか」
表向きは平穏を保っている法隆寺だが、薙人は檻の中に入った時点で周囲を警戒する。
観光客を装いつつも視線は油断なく辺りを見回し、どこかにあるはずの「蜘蛛糸の繭」を捜索にかかる。
(これだけ人が多ければ、寝床を隠しておくにも限界があるはず)
大勢の人が集められそうな場所はどこかと考えれば、怪しいのは寺や蔵などだろうか。
歴史的価値のある文化財や宝物を収めた蔵や、大小様々な仏堂や院が法隆寺にはある。その中で人があまり来ないような場所を絞り込み、重点的に調べていく。
「何かお探しですか?」
「ああ、いえ。少し景色を見て回っていました。どこも素晴らしい景観でしたので」
薙人が捜索のために境内を歩いていると、僧服に身を包んだ一般人が声をかけてきた。
怪しまれたわけではなく親切で話しかけられたようだ。この僧も女王の記憶操作により違和感を抱いていない。檻に囲われた現状をいつもどおりだと思いこんでいる。
「ところで今日は何日でしょうか」
「はて? 確か12月の10日でしたかな」
少し揺さぶりをかけてみようかと、薙人は日付を尋ねてみる。僧は首を傾げながらも、すぐに具体的な日付を口にする。が、それは今日とはまったく違う日付だった。
「おかしいですね。先程カレンダーを見たら20日だったのですが」
「ええ?」
薙人はそこでわざと大幅にずれた日付を口にする。すると僧は困惑した顔で頭を抱え、記憶を辿るように視線を彷徨わせる。どうして間違えたのか自分でも不思議なようだ。
「あ……私の勘違いだったかもしれません……」
「でもここまでずれるのは、やはりおかしくありませんか?」
なおも問いかけて相手の認識をゆさぶる薙人。僧自身も何かおかしいと感じ始めているようだ。記憶操作は簡単には解けないが、現状に疑問を抱く切っ掛けにはなっただろう。
「ふぅむ……一体なぜ……」
ぶつぶつと呟きながら去っていく一般人を見送って、薙人は「繭」の捜索を再開する。
それから暫くして彼が発見したのは、とある仏堂の内部に張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣と、その中で繭に包まれて眠る人々だった。
「見付けました」
薙人はすぐさま白燐蟲の群れを操り、眠っている人達を1人ずつ繭から引きずり出す。
肌をよく確認すれば生気を吸われた跡と思しき傷が残っている。【桜の癒やし】でそれを治療すると、彼らの寝顔は幾分か安らかになった。
「後は目が覚めれば、異常に気が付くでしょう」
今は桜の癒やしの副作用で眠っているが、目の前にある壊れた蜘蛛糸の繭は、誤魔化しようのない明らかな異常である。荒療治とはなるがこれで記憶操作も解除されるだろう。
無理には叩き起こさず自然に目を覚ますのを見守りながら、薙人はまだ捕らわれている大勢の人々を順番に繭から解放していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
土蜘蛛の女王…
嘗てこの世界で戦いそして敗れ去ったという…
彼女がどのような存在だったのか私は知らない…
だが…亡霊と化した女王を今一度屠るのが我が使命也…!
さぁ行くぞ…私は処刑人だ…!
イグニッションカードで武装を[詰め込み物を隠し]
ぐりもあで[流行・世界知識]を得て法隆寺の観光をして
日が暮れるまで[情報収集]しよう
夜深くなれば
[闇に紛れつ目立たぬように暗視で]檻の内部を動き回り
蜘蛛糸の繭を見つけ出そう
【剣刃一閃】で妖刀振るい繭を[鎧砕きで切断]し囚われ人を救出
救出したら[礼儀作法で優しく]介抱しながら現状を教えよう…
「土蜘蛛の女王……嘗てこの世界で戦いそして敗れ去ったという……」
この『土蜘蛛の檻』を張ったオブリビオンに思いを馳せながら、仇死原・アンナ(処刑人 魔女 或いは焔の花嫁・f09978)は法隆寺の前に佇む。この世界の出身ではない彼女が知るのは、あくまで記録として残された国見・眞由璃の経歴だけだ。
「彼女がどのような存在だったのか私は知らない……だが……亡霊と化した女王を今一度屠るのが我が使命也……!」
過去がどうであれ現在の彼女がオブリビオンと成り果てた以上、為すべき事は明白だ。
一族より受け継いだ技と、この身の裡で滾る地獄の業火は、そのために在るのだから。
「さぁ行くぞ……私は処刑人だ……!」
武装一式をイグニッションカードに収納し、ガイドブック『ぐりもあ』で現地の知識や流行を学んで、準備は万全。一般人に扮したアンナは堂々と正門から『檻』の中に入る。
「こんにちは。観光ですか?」
「ええ……ここに来るのは初めてで……」
やって来た名目は観光。とはいえ丸きり嘘という訳でもなく、日中の間は普通に法隆寺を観光するつもりだ。歴史を感じさせる雅な建造物を見て回りながら、他の観光客や寺院につとめる僧達と話をして、情報を収集するのも忘れない。
「そろそろ……日が暮れてきたな……」
やがて太陽が山に沈んでいくと、昼間はあれだけ大勢いた来訪者の姿もまばらになる。
だが彼らは家路についたのではなく、そう思わされながら『檻』のどこかで眠らされている。そして今日の記憶を操作され、翌朝にはまた寺院を訪れるのだろう。
「ここからが本番だ……」
闇に紛れて目立たぬように行動するのは、ダークセイヴァー出身者の得意分野である。
夜深まった『檻』の内部をアンナは密やかに動き回り、人々が眠っている場所を探す。
(確か……この辺りはあまり観光客も訪れない穴場だと聞いたな……)
記憶操作に影響が出かねないような目立つ場所には、土蜘蛛も寝床を用意しないはず。
そう考えたアンナは昼間の観光で調べた情報を元に、なおかつ立ち入りを禁止されていた場所に踏み込む。その読みが正しいことはすぐに証明された。
「ここが……」
建物の中に張り巡らされた大きな蜘蛛の巣に、鈴なりになって眠る大勢の人々がいる。
これが眞由璃の作り上げた「蜘蛛糸の繭」。彼らはここで自覚のないままに、夜な夜な生気を奪われ続けていたのだ。
「すぐに解放する……!」
アンナはイグニッションカードの中から妖刀「アサエモン・サーベル」を取り出すと、【剣刃一閃】で繭を切断する。強靭な蜘蛛糸も妖刀の切れ味には敵わず、ばっさりと切り開かれた繭の中から囚われ人がどさりと落下する。
「うっ……ここは? うわっ、なにこれ?!」
「落ち着いて……もう大丈夫……」
衝撃で目を覚ました人々は、すぐ目の前にある非日常的な光景に思わず悲鳴を上げる。
そんな彼らをアンナは優しく介抱し、礼儀正しい態度で現状起こっている事を教える。
「つまり……その、土蜘蛛の女王って奴に、私達は食べられかけてたってこと……?」
世界結界の庇護下にあった一般人が、いきなり超常事件を理解する事は難しいだろう。
それでも常識外れの「何か」に自分達が巻き込まれた事は、彼らも理解できたようだ。何しろ動かぬ証拠がすぐそこにあるのだから。
「この檻は私達が解放する……それまで暫くは身を潜めていてくれ……」
「わ、わかりました」
恩人であるアンナの言いつけにこくこくと頷いて、彼らは物陰に身を縮こまらせる。
よしと頷いた彼女は、まだ別の「繭」に囚われているであろう人達も救出するために、再び夜の法隆寺を駆けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
種の生存が第一なら、共存だって立派な道なのに…。
この世界には銀誓館で今も猟兵として活動してくれたり、協力してくれる土蜘蛛の人達もいる…。
その平和をどうして…。
自身も観光客を装って観光客や参拝客、僧等の一般人と接触…。
日常的な会話を行いつつ、「昨日」や「前日」等をキーワードに催眠術式【催眠術、呪詛】を掛け、わたしと会話した記憶を深層心理下に封印…。
翌日に再度人々と接触し、記憶がリセットされた状態で封印された記憶を解放…。
現在の認識(初めて/久しぶりに来た)と「前日にわたしとここで会話した」という記憶の齟齬を引き出し、現在の状況に疑問を持ってもらい、解放するよ…。
「種の生存が第一なら、共存だって立派な道なのに……」
なぜ対立する道を選んでしまったのかと、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)の胸中には悲しみがあった。新たな子を増やすため人々を『檻』に捕らえるという手段に訴えた国見・眞由璃――その行動はあまりに強硬すぎるように感じられた。
「この世界には銀誓館で今も猟兵として活動してくれたり、協力してくれる土蜘蛛の人達もいる……。その平和をどうして……」
オブリビオンと化したことで、平和や共存を認める心すら失ってしまったのだろうか。
この『土蜘蛛の檻』を攻略し、直接本人に会わなければ答えが出ることは無いだろう。
「中はまだ平穏に見えるけど……」
閉鎖された法隆寺の境内は、住民への記憶操作により平時と変わらぬ姿を保っている。
璃奈は自身も観光客を装って、一般人の観光客や参拝者、僧らと接触を図る事にした。
「はじめまして……今日はいい天気だね……」
「おや、はじめまして。ええ、良い日和です」
話しかけられた人達の対応におかしな点は見当たらない。それが逆に不自然でもある。
境内全体が蜘蛛の檻に封鎖されているのに、彼らはその事に一切気づかぬまま日常を過ごしているのだ。
「昨日は雨だったけど、今日は晴れてよかった……」
「そうですね。おかげで参拝に来る人も多いようです」
璃奈は出逢った人と暫く日常的な会話を行い、そのまま何事も無かったように別れる。
一見とりとめのない普通のやり取りだが、実はその会話中に彼女は催眠術式を使っており、自分と会話した記憶を深層心理下に封印するように暗示を掛けていた。
「立派なお寺だね……」
「ええ、本当に。東京から見に来た甲斐があったわ」
彼女は境内を歩き回ってなるべく多くの人々と会話をして、同様の催眠を掛けていく。
影響はすぐには現れないが、これは布石のようなもの。彼女には人々を女王の支配から解放する作戦があった。
「こんにちは……」
翌日。璃奈は前日に催眠をかけた人々を境内で探しだすと、再度接触して話しかける。
一夜過ぎたことで彼らの記憶はリセットされた状態にあり、璃奈と会ったことも覚えていない。ゆえに返ってきた反応は初対面の時と変わらぬもの。
「おや、はじめまして――」
「ううん、初めてじゃない……昨日もわたしとここで話をしたよ……」
そこで前日の催眠の効果が現れる。封印された記憶を解放するキーワードは「昨日」。
その瞬間、彼の脳内は忘れていた昨日の記憶が一気に蘇る。流石に深層心理の奥までは記憶操作も及んでいなかったようだ。
「……そうでした。貴女とは昨日も……いえ、ですが私は昨日ここには……」
ここに来たのは久しぶりだという現在の認識と、前日に璃奈とここで会話した記憶との齟齬に思い悩む一般人。それは現状に対する疑問へと変わり、異常な真実と直面させる。
「わ……私は、一体いつからここに……?」
「気が付いたみたいだね……」
土蜘蛛の記憶操作の解けた彼に、璃奈は改めて状況を説明し、身を隠すように伝える。
こうして彼女は往く先々で人々にかけた記憶の封印を解いていき、『檻』の支配から人々を解放していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
わたしは当時の女王を知らないけど…。
女王として一族を第一に思うなら、今回の行いは愚行としか言い様が無いわ。
折角、人に受け入れられて生きる現在の土蜘蛛達の事をまるで考えていない。
昼間は敷地内を歩き回って探索し、敵が潜んでそうな場所や戦闘に適した地形等、観光客のフリをしつつ敷地内を探索して情報収集。
夜には【創造支配の紅い霧】を発動。
夜間に人々が繭に包まれる前に人々を霧の魔力で包み込み、繭及び人々に施される記憶操作を逆に『支配』。
記憶操作を無効にして繭から解放する事で、人々に現在の状況を認識して貰うわ。
再び得た生はあくまで「仮初」であるというのに…残された一族を忘れた(あるいは切り捨てる)行為よ…。
「わたしは当時の女王を知らないけど……。女王として一族を第一に思うなら、今回の行いは愚行としか言い様が無いわ」
自身も眷属の上に立つ者として、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は此度の『土蜘蛛の女王』の所業をそう断じる。一族の復興と繁栄を望んでの行いであるように見えて、逆に一族を追い詰めかねない行為だと。
「折角、人に受け入れられて生きる現在の土蜘蛛達の事をまるで考えていない」
この事件を切っ掛けに彼らまで排斥されるような事態になったらどうするのか。或いは袂を分かった同胞達はもうどうでもいいと言うのか。何れにせよ認めがたい愚挙だった。
「この中で戦うことになるなら、今のうちに調べておいたほうがいいわね」
法隆寺の『土蜘蛛の檻』内部に潜入したフレミアは、観光客のふりをしつつ敷地内を歩き回り、敵が潜んでいそうな場所や戦闘に適した地形を探索する。表向きは平和な観光地の体裁を保っていても、既に女王をはじめ多くのオブリビオンが潜んでいる筈だ。
(向こうにとっても大事な食糧なら、無闇に戦いに巻き込む事はないと思うけど……)
万が一の事も考えて人気の少ない場所、周囲を巻き込みにくい開けた地形等を見つけ、記憶に留めておく。いつ敵の襲撃が始まったとしても、ここなら十分対応できるだろう。
「あら、もうこんな時間ね」
フレミアが情報収集に専念している内に、空はもう日が暮れはじめていた。昼間は境内にいた一般人達がおのおのの寝床に帰っていく――檻の中に用意された「繭」の元へと。
そこで眠りについて一夜明ければ、彼らは前日の記憶を全て忘れ、同じ日常を繰り返すのだろう。檻の支配者たる土蜘蛛の女王に、知らぬまま生気を献上しながら。
「全てを満たせ、紅い霧……夢も現実も、全てはわたしの思うまま」
この閉じられたループを打破するために、フレミアは【創造支配の紅い霧】を発動。
人々が蜘蛛糸の繭に包まれる前に『土蜘蛛の檻』の内部を魔力の霧で満たしていく。
「わたしがその支配を上書きしてあげるわ」
女王の支配下にあるこの領域で、フレミアは霧に包み込んだ人々の支配権を奪い取る。
施された記憶操作を逆支配することで無効にし、さらに蜘蛛糸の繭にも干渉することで眠っている人達を解放させる。
「ふわぁ……あ、あれ、ここはどこ?」
「私、自分の部屋で寝てたはずなのに……?」
目を覚ました人々が見たのは、寺院に立ち込める紅い霧と、身体に絡まった蜘蛛の糸。
同時に『土蜘蛛の檻』に囚われていた最近の記憶が、一気に頭の中に流れ込んできた。
「え、えっ……何やってたの、私……」「なんで今まで気付かなかったんだ……?」
現在の状況を正しく認識した人々は、恐怖心と共に『檻』に対する強い疑念を抱いた。
この疑念がより多くの一般人に広がっていけば、敵も対応せざるを得なくなる。その時こそ土蜘蛛の女王を討つ好機になるだろう。
「再び得た生はあくまで『仮初』であるというのに……これは残された一族を忘れた、あるいは切り捨てる行為よ……」
霧を通して『土蜘蛛の檻』の中の異常性を改めて感じながら、フレミアは独りごちる。
真に守るべきものを見失ってしまったのならば、せめてこれ以上の愚行を重ねる前に、その仮初めの生を終わらせてやるのも情けだろうか――。
大成功
🔵🔵🔵
鏡島・嵐
奈良か。歴史のある街ってトコはおれの故郷も一緒だけど、やっぱこっちは栄えてんなあ。
……依頼じゃなけりゃあちこち名所観光と洒落込みたかったけど、そうはいかねーか。
とりあえず、囚われてる人を何とかしねーとな。
普通にはいる分には多分何も問題ないだろうから、拝観客として寺に行く。
適当に年齢の近そうな若い修行僧とか観光客とかに話しかけて、それとなく寺院内の様子が変じゃねえかなって気ィするって言ってみる。〈第六感〉の知らせとか、長くここにいると気分が悪くなるとか、そんな感じで。
何か有力な情報を聞き出せたらそれを仲間と共有。
……それにしてもさ。
やっぱちょっとくらい旅行者として雰囲気は味わいてえなあ……。
「奈良か。歴史のある街ってトコはおれの故郷も一緒だけど、やっぱこっちは栄えてんなあ」
そびえ立つ五重塔や金堂など、数々の歴史的な建造物が並ぶ法隆寺の境内を見回して、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は感心しつつ呟いた。世界遺産にも認定された由緒ある寺院の格は伊達ではなく、この日も大勢の観光客や参拝者で賑わっていた。
「……依頼じゃなけりゃあちこち名所観光と洒落込みたかったけど、そうはいかねーか」
その境内を丸ごと囲った巨大な『土蜘蛛の檻』を見上げて、彼ははあとため息をつく。
一見平和に見えるこの光景の裏でも、人々の生命は危険に晒されている。残念ながらゆっくりと観光を楽しんでいる余裕はないようだ。
「とりあえず、囚われてる人を何とかしねーとな」
普通に入る分には多分何も問題ないだろうからと、嵐はまず拝観客として寺に行く。
寺の中には古くから伝えられてきたのであろう立派な仏像が置かれ、それを拝む観光客や修行に励む僧たちの姿もそこかしこに見える。
「こんにちは。あんたもここには観光で?」
「ん? ああ、そうだけど」
その中から適当に年齢の近そうな若者に話しかけると、相手は急に声をかけられた事には少し驚いたようだが、それ以外は特におかしな反応は見せずに普通に返事をする。外に出られないという異常事態にはまるで気付いていない――気付かされていない様子だ。
「おれはここに来たのは初めてなんだけど……なんか様子が変じゃねえかな」
嵐は当たり障りのない会話をしながら、それとなく寺院内の異常について聞いてみる。
相手の若者はきょとんとした顔で首を傾げ、心当たりがないような顔をする。違和感を覚えないように記憶を操作されているのなら、これも当然の反応か。
「変って言われても……具体的にはどんな風に?」
「いや、そんな気ィするってだけなんだけどさ。虫の知らせとか、長くここにいると気分が悪くなるとか、そんな感じで」
だが、これほど大規模な異常が起きていながら、何も感じないという事はないはずだ。
嵐が粘り強く違和感を訴え続けると、それを聞く相手の表情もだんだん変わってきた。
「あんたもそういうの、感じたりしてないか?」
「俺は……いや、そう言われてみれば……」
観光客の若者は視線を彷徨わせた後、お寺の奥のほうをじっと見た。そこには関係者以外の立入を禁止する標識とロープがかけられているが、なぜかその先が気になる様子だ。
「俺もここに来るのは初めてなんだけど……なんか、初めてって感じがしないんだよな。何回も来たことがあるみたいな……いや、きっと気のせいなんだろうけど」
「そうか。悪い、変なこと聞いちまったな」
相手が疑問を感じだせば今は十分だろうと、嵐はそこでの会話を終えて若者と別れる。
そして若者が視線を向けた先――寺の奥には何かあるのかもしれない。この情報は他の仲間とも共有しておいたほうが良いだろう。
「……それにしてもさ。やっぱちょっとくらい旅行者として雰囲気は味わいてえなあ……」
情報共有のために他の猟兵を探しながら、嵐はまだちょっと未練のある様子でぼやく。
あくまで調査の一環ということなら、少しくらい観光しても問題はないだろうか。境内の隅々まで探索すれば、また新たな発見があるかもしれない。
「……また来ることがあったら、次はこんな言い訳なしで楽しみてえけどな」
雅な建築物の数々が作り上げる、清廉で美しい景観を見てまわる嵐。『土蜘蛛の檻』に囲われてなお、千年を超える歴史と文化を刻んだ名所には心を打つ存在感があった――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
「来訪者」と呼ばれる異種族、更に『世界を過去に沈める』衝動持つオブリビオンと化した存在
個人レベルでは兎も角、種族単位での共存の道は無いように…
(モンスターがオブリビオンのA&WやBアルカディア、Sミラージュの影朧の転生が電脳を過り)
…飽くまで“可能性”です
騎士として為すべきを違える事は許されません
寺から出ず寝泊まりしている僧侶は『繭』に入るタイミングも限られています、正気を取り戻させる方が良いでしょう
御免ください、実は順路から外れて迷ってしまいました
頭をぶつけぬ通路を探す内にこの有様で…
ところで
私と同じような身長の者を案内した覚えはありますか?
ええ、思い出してください
繰り返していた今日一日を
「『来訪者』と呼ばれる異種族、更に『世界を過去に沈める』衝動持つオブリビオンと化した存在……」
復活した『土蜘蛛の女王』国見・眞由璃との交渉の余地はあるかどうかを考慮する時、その2つの壁が大きな障害となって立ちはだかるだろうと、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は考えていた。
「個人レベルでは兎も角、種族単位での共存の道は無いように……」
かつての戦いの遺恨を捨て、人種間より更に大きな隔たりを埋めるのは極めて難しい。
だが同時にオブリビオンがモンスターとして認知されているアックス&ウィザーズやブルーアルカディア、サクラミラージュにおける影朧の転生等の事例が彼の電脳を過ぎる。
「……飽くまで"可能性"です。騎士として為すべきを違える事は許されません」
希望的観測に期待するよりも、人命を守るために今できる事を遂行する。現実的思考に従いトリテレイアは『土蜘蛛の檻』に潜入し、囚われた人々を解放すべく活動を始める。
(寺から出ず寝泊まりしている僧侶は『繭』に入るタイミングも限られています、正気を取り戻させる方が良いでしょう)
限られた就寝時間を見計らって「蜘蛛糸の繭」から引きずり出すのも無理ではないが、寝込みを襲うのは騎士としても躊躇う。まずは正攻法にて敵の記憶操作の盲点を突こう。
「御免ください、実は順路から外れて迷ってしまいました」
「おや、それは大変ですな。どちらにお向かいで?」
境内にあるとある寺で、トリテレイアは掃き掃除をしていた1人の僧侶に声をかける。
穏やかな雰囲気のあるその僧侶は、彼の困った様子を見ると丁寧に対応し、元の道まで案内する。
「頭をぶつけぬ通路を探す内にこの有様で……」
「それは大変でしたな。それだけ背が高いと苦労される事もあるでしょう」
285cmの巨体を誇るトリテレイアの隣に並ぶと、平均的な身長の僧侶も子供のようだ。
世界の加護により一般人がそれに違和感を覚えることはなく、彼らは和やかに世間話をしながら境内を歩いていく。
「ここまで来れば道は分かりますかな」
「ええ。感謝いたします」
僧侶の案内で観光用の順路まで戻ってきたトリテレイアは、お礼とともに頭を下げる。
いえいえと穏やかにお辞儀を返した僧侶は、仕事に戻るため立ち去ろうとするが――。
「ところで、私と同じような身長の者を案内した覚えはありますか?」
トリテレイアの声のトーンが変わる。問いかけられた僧侶は「はて?」と立ち止まり、記憶を振り返ろうとする。頭の中に蜘蛛の巣が張ったような、妙な違和感を覚えながら。
「貴方ほど背の高い方にお会いすれば、そうそう忘れる事はないと思いますが……」
ウォーマシンと同等の背丈の人間など、シルバーレインの地球には殆どいないはずだ。
だが僧侶は「覚えがない」となぜか断言することができなかった。彼とここで出会うのは"間違いなく初めてのはず"なのに――。
「ええ、思い出してください。繰り返していた今日一日を」
そう。トリテレイアがこの僧侶と会うのは今日が初めてではない。昨日も同じやり取りを交わしたのを相手が忘れていただけだ。一度違和感を抱けば記憶操作の影響はボロボロと剥がれ落ちていき、虚ろげだった僧侶の瞳にはっと光が戻った。
「わ……私は一体、どうして……」
「正気に戻られたようですね」
なぜ今まで気付かなかったのかと困惑する僧侶を、トリテレイアは穏やかになだめる。
これでこの者は『土蜘蛛の檻』の支配を脱した。彼は同様の措置を他の僧侶にも行い、少しずつ正気に返る人間を増やしつつあった。
「不安を感じられるのは当然でしょう。後は私達にお任せください」
女王の支配に綻びを作り上げた騎士は、僧侶にそう請け負うと活動を続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
大神・零児
【レイジ】
大生守・令二(黒狼剣士・f35765)と
SPD
寺務所か案内所かで、ガイドブックかパンフレットかはもらえるだろうか?
もらえるのならそれをもらって、寺の人にの順番で見てまわれば最も効果的か聞こう
で、コミュ力で今日はどれくらいの観光客や参拝者がいるのかを聞いて、見てまわりながら、参拝者や団体行動してる観光客の行動や挙動を観察し、聞き耳等で不自然な点を情報収集し
違和感なく場所を尋ねる演技で接触
世間話等で表情や言動等から読心術で心理を読み取り、瞬間思考力で言葉を選びながら言いくるめ、不自然な点や言動の違和感を指摘
ダメ押しに「現在日時と訪れた日時の不一致」を指摘
観光客なら尚更不自然
アドリブ共闘可
大生守・令二
【レイジ】
大神・零児(魂から別れたもう一人の令二・f01283)と
SPD
一緒にガイドブックかパンフレットをもらい関係者から説明を受け
零児の話がひと段落したら
地元、白川郷の観光業の参考にとコミュ力と瞬間思考力で言いくるめ、団体観光客の申し込み等の管理方法を当たり障りのない範囲で教えてもらう
その時に聞き耳を立てながら違和感を与えぬよう心配りし団体客の予定と自分のスマホの日時を確認
ほんの少し大声で聞き取りやすいよう
スマホの日時を読み上げ
違和感に気が付いたら時計と関係者達のスマホの時計や電波状況を確認
混乱する場合はコミュ力と心配りの言いくるめで
「今気が付けたのは幸運ですよ」
と落ち着かせる
アドリブ共闘可
「寺務所か案内所かで、ガイドブックかパンフレットかはもらえるだろうか?」
「あそこで配っているようだぞ」
復活した『土蜘蛛の女王』の事件を解決すべく、法隆寺を訪れた大神・零児(魂から別れたもう一人の令二・f01283)と大生守・令二(黒狼剣士・f35765)。彼らはまず人々と話をする取っ掛かりとして、観光客向けの案内所へと足を運んだ。
「いらっしゃいませ。ご参拝の方ですね」
案内所にいた職員はにこやかに微笑みながら、慣れた様子でパンフレットを差し出す。
すぐ近くには外界と境内を隔てる『土蜘蛛の檻』があるというのに、まるで見えてない様子で日常的な対応を取るその様子は、逆に異常であった。
「助かる。ついでにどの順番で見て回れば最も効率的か聞いてもいいか?」
「そうですね。人気のある所を抑えて回るのでしたら、まずはここから……」
パンフレットの地図を広げながら零児が尋ねると、寺の職員は丁寧に対応してくれる。
金堂や五重塔といった有名スポットをひと巡りしつつ、なるべく多くの名所を無理なく回れれば、それだけ多くの一般人と接触する機会を作れるだろう。
「今日はどれくらいの観光客や参拝者がいるだろうか」
「年の瀬だからですかね、ここ最近は人も多いですよ」
この職員も正確な人数を把握している訳ではないが、法隆寺の観光客数は年間数十万に上る。1日でも数百人から千人以上が訪れている計算であり、即ちそれは『土蜘蛛の檻』に現在囚われている人間の数でもあった。
「俺からも少し聞いていいですか?」
「ええ、なんでしょう」
零児の話がひと段落すると、今度は令二が職員に話しかける。銀誓館学園のOBでもある彼の地元は白川郷の近くで、法隆寺とは観光地にして世界遺産という共通点があった。
「地元の観光業の参考にしたくてな。当たり障りのない範囲で教えてもらいたいんだが」
団体観光客の申し込み等の管理方法など、観光地としてのノウハウについて尋ねると、職員は予想外の質問に戸惑いつつも「私の答えられる範囲内であれば」と教えてくれる。その内容自体も興味深くあったが、令二が気にしていたのは実のところ別にあった。
「直近の団体様のご予定ですと……」
詳細をぼやかしながら予定表を読む職員。その内容に聞き耳を立てながら自分のスマホの日時を確認し、違和感を与えぬよう心配りしつつもほんの少し大きな声で読み上げる。
「ふむ。今日は12月17日か」
「えっ?」
それを聞いた職員が困惑の表情を浮かべる。なぜならその日付は彼の記憶にあった今日の記憶と違うから。今予定表にある団体客達が来るはずの日付をとうに過ぎ去っている。
「あれ、おかしいな。この予定表古いやつだったかな……」
慌てて確認する職員だが、予定表は間違いなく最新のものだ。『土蜘蛛の檻』に囚われて以来更新が一切されていない点を除けばだが。違和感に気付いた彼に追撃するように、令二はさらに質問を重ねる。
「スマホの時計や電波状況はどうですか?」
「あ……」
記憶は操作されていても機械は正常である。職員のスマホには"正しい"今日の日時が表示されている。今までは認識できなかった現実との乖離が、次々と明らかになっていく。
「わ、私は……どうして……」
「今気が付けたのは幸運ですよ」
記憶の錯綜により混乱する職員を、令二は持ち前のコミュ力と心配りで落ち着かせる。
ここで騒ぎになると面倒な事になりかねない。今は違和感を与えられただけで十分だ。一度気が付いてしまえば、もう二度と土蜘蛛の記憶操作は受け付けないだろう。
「そろそろ先に行くぞ」
「ああ」
パンフレット片手に待っていた零児に呼びかけられて、令二は案内所をあとにする。
まずは1人目。この調子で次は境内にいる観光客にかけられた洗脳を解いていこう。
(よくよく気を配れば妙な点ばかりだな)
教わった順路に沿って法隆寺を見てまわりながら、零児は参拝者や団体行動をしている観光客の行動や挙動を観察し、聞き耳を立てて不自然な点を調査する。一般人はみな普通に過ごしているつもりだが、同じ日の繰り返しによる齟齬がそこかしこに生じていた。
「すまない、場所を尋ねたいのだが」
「うん、どこですか?」
違和感のない演技で団体のひとつと接触した零児は、表向きはごく自然な世間話を交わしつつ、裏では慎重に言葉を選び、相手の表情や言動から心理状態を読み取ろうとする。
(やはり、話をすればするほど違和感が増すな)
日時のズレや行動と記憶の齟齬など、自分で言っていて変だと思いそうなものなのに、彼らは気付いていない。誰かに指摘されるまで自覚できないように記憶操作されていると考えるべきか。
「さっきから気になっているんだが……」
「なんです?」
ならば気付かせてやろうと、零児は彼らの不自然な点や言動の違和感を指摘していく。
最初は「ああ、そういえば」「気のせいじゃないですか?」と軽く捉えていた人々も、幾つも重ねられるうちに表情が曇りはじめた。
「さっき、ここを訪れたのは午後2時頃だと言っていたな」
「え、ええ……そうですが」
「俺の時計だと、時刻はまだ正午になったばかりだが」
ダメ押しにと「現在日時と訪れた日時の不一致」を指摘すれば、彼らが感じつつあった違和感はついに決定的になった。職員相手に令二がやったのと同じ手法だが、観光客なら尚更不自然だろう。
「もしかして……俺達……」「一体、いつからここにいるんだ……?」
一旦疑いだせばもはやキリがないほどに、違和感は彼らの頭の中で膨れ上がっていく。
強力過ぎる記憶操作によって無理やり異常から目をそらさせていた反動が、ここに来て一気に押し寄せたのだ。
「どうやら気付いたようだな」
「手遅れになる前で良かった」
困惑し混乱する観光客たちを、零児と令二は2人がかりで言いくるめ、落ち着かせる。
この『土蜘蛛の檻』を解放するまでの今しばしの間、彼らには大人しくしていて貰ったほうが安全だろう。
「この作戦で問題はなさそうだ」
「なら、このまま回っていくか」
令二と零児――魂を分けた分身とでも言うべき彼らは、互いに以心伝心の様子で作戦を続行する。彼らが観光ルートをひと巡りする内には、相当数の一般人が『檻』の違和感に気づくだろう。それはやがて『土蜘蛛の女王』の支配を揺るがす布石になるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大町・詩乃
アドリブ・連携歓迎
観光客を装って訪問します。
法隆寺は古くからある建物もですが、宝物も沢山あって観光には丁度良いですよね~♪
と、ほんわかした雰囲気でお坊さんや一般の方々に物怖じせずに話しかけます。
最初は法隆寺の話題から始め、お坊さんには「日々の勤行から私の様な観光客相手まで日々のお仕事大変ですよね~。ご自宅ではゆっくり休まれてますか?」等とお寺以外の話題を振り、観光客には「私、この後に東大寺や春日大社にも行きますけれど、もう行かれました?」と法隆寺以外の観光について話題を振り、『この寺以外の行動ができていない』事に気付いてもらい、違和感を抱くように誘導しますよ。
夜には繭の中から人々を救出します。
「法隆寺は古くからある建物もですが、宝物も沢山あって観光には丁度良いですよね~♪」
観光客を装って法隆寺を訪問した大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)は、ほんわかした雰囲気で境内にいる僧や一般の人達に話しかけていた。敵地に潜入中の緊張感はおくびにも出さず、初対面の相手にもまるで物怖じしない。
「そうですね。ここに来るのは久しぶりですが、来るたびに新しい発見があります」
その朗らかな態度は相手にも印象が良いようで、話しかけられたほうも笑顔で応じる。
ここが『土蜘蛛の檻』である事から目を背ければ、至極和やかな談笑の風景であった。
「お好きな場所はありますか?」
「私はやっぱり五重塔が……」
法隆寺に関する話題でしばし盛り上がる詩乃と観光客。傍目にはおかしなところの無い会話だが、「おかしくない」事自体が記憶操作を受けている証拠と言ってもいい。相手の様子を探りながら、詩乃はそれとなく自然な流れで話を広げていく。
「私、この後に東大寺や春日大社にも行きますけれど、もう行かれました?」
「…………あ、いえ。機会があれば訪れたいとは思っていましたが」
法隆寺以外の観光について話題を振られると、相手は一瞬戸惑うような表情を見せた。
奈良にはここ以外にも歴史ある神社仏閣が数多くある。だのにその反応は、今の今まで他の観光地のことが頭から抜け落ちていたように見えた。
「よろしければご一緒にいかがですか? 春日大社は私のおすすめですよ♪」
「そう……ですね……ぜひ……」
詩乃の話題に相槌を打ちながらも、相手はどこか上の空で別の事を考えているようだ。
自分が『この寺以外の行動ができていない』事に、そろそろ気付いたのかもしれない。『檻』に閉じ込められている故の違和感を抱くように、誘導するのが彼女の狙いだった。
「どうかされましたかな?」
「あっ、いえ何でも。ご苦労様です~」
なにか揉め事かと思われたのか、寺でおつとめをしていた僧が様子を見にやって来た。
詩乃はにこやかな態度で誤解を解くと、彼にかけられた記憶操作にも綻びを作るため、積極的に話しかけていく。
「日々の勤行から私の様な観光客相手まで日々のお仕事大変ですよね~。ご自宅ではゆっくり休まれてますか?」
「え? ええ。家ではきちんと休むようにしています……よ?」
寺院以外の話題を振られると、その僧も明らかに動揺していた。『土蜘蛛の檻』の中に閉じ込められている間、一度も家に帰れていない違和感に気付いたようだ。今までは記憶操作により目を逸らされていた異常が、詩乃という来訪者との対話で明らかされていく。
「う~ん……」「なにかおかしい気が……」
一度抱いた違和感は晴れぬまま、観光客も僧も怪訝そうに首を傾げながら去っていく。
ここまで気付いたのなら彼らはもう大丈夫だろうと、詩乃はその背を静かに見送った。
――そして夜。人々が寝静まる時間になっても、詩乃の仕事は終わらない。
「ここですね。皆さん、今お助けします」
他の猟兵から提供された情報を元に発見した「蜘蛛糸の繭」。そこで寝息すら立てずに深い眠りについている一般人たちを見つけた彼女は、繭を破壊して人々を救出していく。
「……はっ。ここどこ?!」「なんで私、こんな所で寝てたの……?」
眠りから覚まして異常な光景に直面させる事でも、一般人の記憶操作は解けるだろう。
昼は会話で、夜は実力で。たゆまぬ詩乃の活動は『檻』の綻びを着実に広げていた。
大成功
🔵🔵🔵
瞳ヶ丘・だたら
黄泉川(f29475)と。WIZで挑戦、アドリブ等歓迎だ。
逸る気持ちは分かるが飛び出すなよ、黄泉川。
急いては事を仕損じる、というやつだ。
交渉ごとはあたし向きではないのでな、愛想のいい黄泉川に任せるぞ。とはいえ理詰めに困った際には助力をしよう。〈落ち着き〉払って対応するくらいのことはできる。
その片手間、UCで鼠大の機械動物を生産し、こっそりと寺中に忍ばせて〈撮影〉を行わせる。蜘蛛糸の繭、とやらの位置を〈情報収集〉だ。
土台、これだけの規模の寺では話せる相手の数も限られる。最終的にはきみの腕力に頼ることになるだろう。
……寺で腕尽くとは不逞かもしれんが、まあこれも人助けだ。御仏も許してくれるだろうさ。
黄泉川・宿儺
POWで挑むでござる ※アドリブ等歓迎です
瞳ヶ丘・だたら殿(f28543)との連携プレイでござる
一刻も早く檻に囚われた人々を救出せねば!
交渉ごとは小生にお任せあれ!
土蜘蛛の檻に観光客を装って潜入
・何日もここに閉じ込められている
・国見・眞由璃に生気を吸い取られている
以上の点から
・衣服の汚れ・体臭
・現在の体調
を日常会話を踏まえながら指摘させていただくでござる
会話内容に困ったらだたら殿に遠慮なく相談させてもらうでござるよ
これで違和感を抱き、目を覚ませば良し。
それ以外の人々は小生の<怪力>で
繭を強引に破壊させていただくでござる
だたら殿が調査した情報のおかげで迅速に破壊出来たでござる
ありがとうでござるよ
「これほど大勢の者が事件に巻き込まれているとは……」
法隆寺を覆う『土蜘蛛の檻』に潜入した黄泉川・宿儺(両面宿儺・f29475)は、そこにいる観光客や参拝者、寺院に属する僧達の多さに目を見開いた。一見すれば平穏な光景だが、その裏で彼らは土蜘蛛に生気を奪われ続けているのだ。
「一刻も早く檻に囚われた人々を救出せねば!」
「逸る気持ちは分かるが飛び出すなよ、黄泉川」
このままでは生命に関わると、焦りかける彼女を宥めたのは瞳ヶ丘・だたら(ギークでフリークな単眼少女・f28543)。重大な事件だからこそ冷静さを欠いてはならないと、普段と変わらぬマイペースで落ち着いた雰囲気で語る。
「急いては事を仕損じる、というやつだ」
「承知しているでござる、だたら殿」
落ち着きを取り戻した宿儺はだたらに礼を言うと、改めて『檻』での潜入活動を開始。
表向きは2人で観光客を装って境内を歩き回り、目についた一般人に声をかけていく。
「失礼。道をお尋ねしたいのでござるが」
「おや。どちらへ行かれるおつもりで?」
話しかけられた相手はにこやかな態度で、一見しては特に違和感のない対応をみせる。
宿儺はパンフレットの地図を片手に道を尋ね、この法隆寺の事や何気ない日常会話へと話を広げていく。
(交渉ごとはあたし向きではないのでな、愛想のいい黄泉川に任せるぞ)
(小生にお任せあれ!)
それぞれの得意分野に合わせて、2人は事前に役割分担していた。だたらが後ろで端末をいじっている間、宿儺は人当たりのいい笑顔で楽しげに一般人との会話を続けている。
「ところで顔色があまり良くないように見えますが、具合でも悪いのでござるか?」
「はい? いえ特には……でも、そう言われてみると少し身体がだるいような……?」
その中で彼女がそれとない流れで指摘したのは、相手の体調について。本人は記憶していなくても、何日もここに閉じ込められて眞由璃に生気を吸い取られているのは事実だ。むしろ無自覚だからこそ隠す気もない異常が、観察すれば如実に現れている。
「その履き物、濡れておるようですが、雨に打たれたので?」
「いえ、今日は晴れてますから……雨なんて……」
衣服の汚れや体臭、現在の体調といった点を、角が立たないように指摘していく宿儺。
まるで何日も着の身着のままだったような格好に、本人は今までずっと不自然さを覚えていなかったのだろう。尋ねられるたびに相手の表情は困惑に変わっていく。
「お、おかしいですね……」
指摘をきっかけに一般人の脳内に浮かび上がる疑問。自分の記憶と事実との齟齬に気付いたようだ。これで違和感を抱かせて人々の目を覚まさせるのが、宿儺の作戦であった。
「もし、そこのお方!」
宿儺はその調子で法隆寺にいる一般人に次々と声をかけ、洗脳を解くために奔走する。
ただ、毎回すんなりといく訳ではなく、相手から逆に尋ね返されると会話の内容に困ることもあった。
「あなた、ここにはよく来るの? 好きな場所とかある?」
「え? えぇと、それはでござるな……」
「来るのは初めてだ。普段は見られない古い仏像が、今だけ特別公開されていると話題になっていたからな。興味があって来た」
そんな時に宿儺がちらりと後ろに視線を送ると、理詰めに強いだたらが助け船を出す。
堅苦しい口調も相まって見た目よりも大人びて見える彼女は、さも想定内のような落ち着き払った対応で場を乗り切ってみせた。
「あら、そうだったのね。仏像に興味があるの?」
「多少はな。あたしの本業とは違うが、昔の職人達の繊細な技術には敬意を抱く」
「そ、そうそう。この仏様が展示されているお寺を探しているのでござるが……」
うまく話のペースを取り戻し、流れをまた日常会話から違和感の指摘に切り替えていくだたらと宿儺。終わってみれば危うげなく、また1人一般人の目を覚ますことができた。
「ふう。いい調子でござるな」
「ああ。こちらの調査も順調だ」
小休憩を取りつつここまでの成果を確認すると、だたらが宿儺に端末の画面を見せる。
そこには仏堂の中に張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣と、そこで繭状の糸に包まれて眠る人々の姿が映っていた。
「土台、これだけの規模の寺では話せる相手の数も限られる。最終的にはきみの腕力に頼ることになるだろう」
宿儺に交渉事のメインを任せる間、だたらは鼠大の【蹈鞴印の蒸機愛玩獣】を生産し、こっそりと寺中に忍ばせていたのだ。目的は「蜘蛛糸の繭」とやらの位置を発見する事。この画像は彼らが情報収集の成果として撮影したものである。
「……寺で腕尽くとは不逞かもしれんが、まあこれも人助けだ。御仏も許してくれるだろうさ」
「承知したでござる!」
かくしてだららと宿儺は小さな機械動物の案内に従って「繭」のある場所に急行する。
人々を眠らせている現場さえ特定すれば、あとは宿儺の腕力がものを言う。666の怪異を宿したその身は鬼神の如き怪力を発揮し、蜘蛛糸を強引に引きちぎった。
「う、うぅん……あれ、ここは?」「うわ、何この糸、ベタベタする!」
繭の中から解放された人々は目を覚まし、そして目の前にある異常な光景に仰天する。
少々荒療治にはなるが、これで彼らも現状のおかしさに気付いただろう。このまま記憶を操られて生気を吸われ続けるよりはずっといい。
「だたら殿が調査した情報のおかげで迅速に破壊出来たでござる。ありがとうでござるよ」
「適材適所というやつだ。礼を言われるほどじゃない」
封紙で顔を覆っただたらの表情は読み辛いが、口ぶりほど悪い気はしていないようだ。
礼を言った宿儺は晴れやかな顔で残っている繭も次々に壊し、人々を救出していった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
土蜘蛛達の太母、そして銀誓館学園との因縁…
奴への興味は尽きんが、まずは囚われた人々を救わねばな
法隆寺内を散策しながら囚われた人々と接触する
こんにちは、法隆寺は初めてですか?
私は何度か来たことがあるんですけど…ここの薬師如来様は何度見ても立派ですねぇ
と何気なく会話を振りながら法隆寺に来たのは何月何日か、久しぶりではなく短い間隔で何度も寺院内を見たような気がするのではないか…等々
違和感を浮き彫りにするように会話を続けよう
辛そうですね…そうだ!このメダルを額に貼り付けてください
フフッ、おまじないみたいなものですよ
相手が違和感を覚えだしたらUCを発動
大蝦蟇のメダルを額に貼り着けさせて記憶操作を解除させる
あらゆる難病に聞く妙薬だ、催眠からの覚醒もお手の物さ
夕刻になったら帰路に就く人々を探す
操られている彼らが帰る場所に繭があるはず
パーソナルディフレクターを発動させ迷彩で身を隠しながら追跡
繭の場所に到着したらナガクニで繭を切り裂いて助け出す
神聖な寺院で、これ以上の狼藉を許すつもりはない
「土蜘蛛達の太母、そして銀誓館学園との因縁……」
この世界でかつて起こった来訪者『土蜘蛛』との戦争。そこで討たれたはずの女王が、再び現世に蘇るという今回の事件。キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は根深い因業がそこにあるのを感じた。
「奴への興味は尽きんが、まずは囚われた人々を救わねばな」
今はまだ生気を奪われる程度で済んでいるが、放置すれば遠からず死者が出るだろう。
法隆寺に構築された『土蜘蛛の檻』に突入すると、戦場傭兵は即座に行動を開始する。
「こんにちは、法隆寺は初めてですか?」
「え? ええ、そうなんです」
キリカは観光客に扮して法隆寺内を散策しながら、『檻』に囚われた人々と接触する。
話しかけられた一般人は一瞬きょとんとした顔を浮かべてから、すぐに笑顔で応じる。自分がここに閉じ込められているという自覚はなく、まだ異変に気付いていない様子だ。
「私は何度か来たことがあるんですけど……ここの薬師如来様は何度見ても立派ですねぇ」
「本当にそうですね。心が洗われるようで、敬う気持ちが自然と湧いてきます」
2人は寺院に安置された仏像などを眺めながら、しばらく何気ないやり取りを交わす。
一見特筆することもないような会話風景だが、その中でキリカは少しずつ相手の記憶を呼び覚ますべく探りを入れていた。
「こちらに来られたのは何月何日のいつ頃ですか?」
「えっと、それって今日の日付ですよね? たしか12月の14日……だったかと」
まずはここに来た日付について。一般人の答えには実際の今日と大きなずれがあった。
記憶を消されて何度も同じ"今日"を繰り返している彼女はそれに気付けない。キリカは携帯端末にカレンダーを表示させて見せる。
「おかしいですね。私の時計だとこうなっているのですが」
「え? あれ……ほんとだ。私の勘違いだったみたいです」
齟齬を突きつけられた一般人はきょとんとした顔をするが、すぐに気のせいだったと誤魔化す。だが少しでも自分の記憶に疑問を抱いたのなら、土蜘蛛の支配も完璧ではないということだ。
「もしかしてここに来たのも初めてではなく、短い間隔で何度も寺院内を見たような気がするのではありませんか……?」
「そんなことは……いえ、ちょっとあるかも? うっ、頭が……」
キリカが巧みに会話を誘導することで、徐々に記憶の違和感が浮き彫りになっていく。
勘違いやうっかりという一言では片付けられない疑念が積み重なってくると、一般人は頭痛を堪えるように顔をしかめだした。
「辛そうですね……そうだ! このメダルを額に貼り付けてください」
「え……なんです、これ? カエルの絵が描いてありますけど……」
「フフッ、おまじないみたいなものですよ」
そこでキリカは【秘薬・大蝦蟇之油】を使い、大蝦蟇のメダルを額に貼り着けさせる。
このメダルはあらゆる傷病を治癒すると謳われた、秘伝の妙薬と同じ効果をもたらす。催眠からの覚醒もお手の物だろう。
「……はっ?! わ、私は今まで何を……」
額からぺらりとメダルが剥がれるのと同時に、その一般人は正気を取り戻したようだ。
『土蜘蛛の檻』に閉じ込められていたここ暫くの記憶がどっと押し寄せてきて、自らの行動の異常さに青ざめている。
「目が覚めたようですね。大丈夫、助けに来ました」
パニックを起こさないようにキリカは優しく声をかけ、しばらく身を隠すよう伝える。
正気に戻ったのを敵に知られればまた記憶を操作されるかもしれない。猟兵達が事態を収拾するまでは目立たないようにして貰ったほうが良いだろう。
「そろそろ夕刻か」
同じように数名の一般人と話をしている内に、気付けば日が暮れる時間になっていた。
境内にいた人々はおのおの帰路に就くが、外に出られるわけがない。「家に帰った」という記憶だけを操作され、実際は「蜘蛛糸の繭」の中で眠りに就くのだ。
(操られている彼らが帰る場所に繭があるはず)
そう考えたキリカは「パーソナルディフレクター」を起動させ、可視光を歪めるエネルギーシールドを纏う事で身を隠すと、去っていく一般人達の後をひっそりと追い始めた。
「……ここか」
追跡のすえにキリカが発見したのは、小さな御堂に張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣と、繭に包まれて眠る人々の姿だった。ここで土蜘蛛の女王は夜な夜な一般人の生気を奪い、新たな子を生むための糧にしてきたのか。
「神聖な寺院で、これ以上の狼藉を許すつもりはない」
キリカは静かな怒りと共にシールドの透明化を解除し、すぐさま人々の救出にあたる。
黒革拵えの短刀「ナガクニ」を片手に、繭を切り裂いて中の人を助け出す。「うぅっ」と小さく呻いて目を覚ました彼らは、目の前の異常に思わず声を上げた。
「うわっ?! なにこれ?」
「気が付いたか。無事で良かった」
昼間よりもやつれているように見えるが、この様子ならまだ生命に別状はないらしい。
キリカは安堵の息を吐きつつ、ここにある蜘蛛糸の繭を残らず破壊していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『死兵』
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POW : ラスト・スタンド
【肉体のあらゆる損壊を無視した状態で攻撃】を放ち、命中した敵を【自身が死亡しても消えない呪詛】に包み継続ダメージを与える。自身が【致命傷を受けた状態で戦闘を継続】していると威力アップ。
SPD : ラスト・アタック
自身が戦闘不能となる事で、【直前に自身を攻撃した】敵1体に大ダメージを与える。【仲間】に【敵の情報】を語ると更にダメージ増。
WIZ : ラスト・コマンド
自身が戦闘で瀕死になると【体内】から【生者を呪い殺す怨念】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
イラスト:雲間陽子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
法隆寺を封鎖する『土蜘蛛の檻』の中で、多くの人々を記憶操作から解放した猟兵達。
だが、この地を支配する『土蜘蛛の女王』が、いつまでも侵入者を放置する訳がない。異物の存在に気が付いた彼女は、直ちに排除のための兵を差し向けてきた。
「女王の命により、貴様達を抹殺する」
人の行き来もまばらになった深夜、猟兵達の前に姿を現したのは蜘蛛人間の兵士達。
土蜘蛛の女王、眞由璃の影響を受けて変異した『土蜘蛛化オブリビオン』である。
蜘蛛脚や糸による追加の攻撃手段と、女王に対する絶対の忠誠心を持つ厄介な敵だ。
「眞由璃様の御為ならば、再び得たこの命も惜しくはない」
「全てを賭して敵を討つのだ。それが我らの使命なれば」
彼らはかつて死が訪れる最期の瞬間まで抗い、戦い続けた勇敢なる兵士の成れの果て。
今は戦い続けるという目的のみが肉体に残っており、死して尚止まることなく、永遠に戦い続けるだけの存在。まさに文字通りの『死兵』である。
檻の衛兵である彼らを撃退しなければ、主である眞由璃は姿を現すまい。
土蜘蛛の女王を舞台に引きずり出すため、猟兵達は戦闘態勢を取った。
アリス・フォーサイス
過去のシルバーレインは知らないけど、過去の土蜘蛛と仲間になれたのなら、土蜘蛛の女王とも仲間になれるんじゃないかな。
オブリビオンだから難しいかもしれないけど、もし、そうできたら、美味しそうだしね。
この死兵も女王の子どもみたいなものなんだよね?それなら、なるべく殺さずに無力化したいな。
エレクトロレギオン!囮の戦闘機械に気を取られたところを死角から電気ショックで無力化していくよ。
「過去のシルバーレインは知らないけど、過去の土蜘蛛と仲間になれたのなら、土蜘蛛の女王とも仲間になれるんじゃないかな」
種族繁栄の使命に執着する『土蜘蛛の女王』との和解の可能性に興味を持って、法隆寺にやって来たのはアリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)。困難だということは話に聞いているが、それは彼女にとって諦める理由にはならない。
「オブリビオンだから難しいかもしれないけど、もし、そうできたら、美味しそうだしね」
滅多な事では有り得ない敵対者との和解は、きっと珍しくて面白い物語になるだろう。
そんな美味しい"お話"を味わうのが、情報妖精であるアリスの1番の行動原理なのだ。
「この死兵も女王の子どもみたいなものなんだよね? それなら、なるべく殺さずに無力化したいな」
交渉を成功させたいと思うなら、戦闘の被害は少ないほうが女王の心象も良いだろう。
アリスの考えは間違いではなかったが、しかしその発言は既に命を捨てる覚悟の死兵達にとっては侮辱と捉えられたようだ。
「舐められたものだな!」「総員、戦闘開始!」
守りを考えぬ捨て身の構えで、アリスに襲い掛かる死兵の軍団。死してなお戦うという意志に衝き動かされたゴーストである彼らは、手足がもげようが瀕死になろうが敵を抹殺せんとする。下手に追い詰めれば逆に厄介な相手とも言えよう。
「みんな、よろしくね!」
対するアリスは580体の【エレクトロレギオン】を召喚。物言わぬ機械兵器に陣形を組ませ、攻め寄せる土蜘蛛軍を正面から迎撃させる。命を賭すような感情は持ち得ぬが、主の命令に忠実という意味では似たもの同士の激突となった。
「機械如きに負けるものか!」
死兵達は目についた機械に片端から銃撃を浴びせ、近付いて来れば蜘蛛脚でなぎ倒し、さらには蜘蛛糸で動きを封じる。女王の影響で土蜘蛛化した彼らの攻め手は多彩であり、強度面に不足のあるエレクトロレギオンは次々に破壊されていく。
「隙ありだよ」
「なっ?!」
だが、召喚された戦闘機械は最初から囮。敵がそちらに気を取られている隙に、死角に回ったアリスが電気ショックを放つ。通常のスタンガンを強力にしたようなその一撃は、敵の意識を一瞬でスパークさせた。
「がッ!!」「ぐあッ!?」
バチッと爆ぜる稲光とともに悲鳴を上げ、地に倒れ伏す兵士達。気を失ってはいるが、死んではいない。ダメージの度合いとしても小さい以上【ラスト・コマンド】を発動する条件も満たせないだろう。
「しばらく眠っていてもらうね」
小柄さを活かしてレギオンに紛れ、電気ショックの不意打ちで敵を無力化するアリス。
その戦法は突撃一辺倒の死兵を見事翻弄することに成功し、兵力を削ぎ落としていく。
深夜の法隆寺に電光が輝くたび、女王の子らは1人また1人と気絶していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
死してなおも戦い続ける死兵の群れか…厄介なものだ
だがまぁ、それは私が退くべき理由にはならんな
シガールQ1210をフルオートで乱れ撃ち
さらにオーヴァル・レイとデゼス・ポアでも攻撃を行い、敵集団を殲滅する
私にも使命があってな…
悪いが、その為に使えるモノは何でも使わせてもらう
UCを発動
致命傷を受けても止まらずにむしろ攻撃の威力があがる、更に死亡しても消えない呪詛での攻撃…
2~3体を操り糸で乗っ取れば、数多くの敵を巻き込めるな
操っている死兵が戦闘不能になると同時に爆破すれば、より被害は甚大になるだろう
此処は御仏の教えが古代から連綿と紡がれる聖域だ
…血腥い兵士が踏み荒らす事は許されまいよ
「死してなおも戦い続ける死兵の群れか……厄介なものだ」
傭兵として多くの戦場を経験してきたキリカは、死を恐れぬ兵士の危険を知っている。命令に忠実であり、己の命を顧みず、撤退を知らぬ――こうした輩は時として単純な実力では測れない脅威となる。
「だがまぁ、それは私が退くべき理由にはならんな」
あちらが女王の命令なら、こちらは多くの一般人の命運を背負ってここに立っている。
厄介ではあれど恐れを抱くことはなく、迫る死兵軍団に彼女は真っ向から戦いを挑む。
「行くぞデゼス・ポア。殲滅だ」
強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"をフルオートで発砲し、秘術で強化された弾丸を乱れ撃つキリカ。さらに呪いの人形「デゼス・ポア」と浮遊砲台「オーヴァル・レイ」にも攻撃を行わせ、数的不利による手数の差を補う。
「キャハハハハハハ!」
「ぐあッ!」「がはッ!」
人形は不気味に笑いながら敵軍の間を飛び回って刃で切り刻み、卵型の浮遊砲台からは強烈な粒子ビームが発射される。超常とテクノロジーを組み合わせた攻勢はたった1人で一軍にも匹敵する戦闘力を発揮し、敵兵に次々と致命傷を与えていった。
「止まるな……!」「我らが女王の為に、進め!」
だが、たとえ全身を銃弾やビームに撃ち抜かれようとも、死兵は戦いを止めはしない。
折れたはずの脚で立ち上がり、千切れたはずの腕で銃を構える。その状態から放たれる【ラスト・スタンド】の一撃は、執念という名の呪詛を纏っていた。
(致命傷を受けても止まらずにむしろ攻撃の威力があがる、更に死亡しても消えない呪詛での攻撃……)
流石にこの攻撃は食らうとただでは済まないだろう。だがキリカは好機を感じていた。
負傷が戦闘能力の低下に繋がらない死兵を無力化するには相当の攻撃力がいる。彼らのユーベルコードはその威力を満たしていた。
「私にも使命があってな……悪いが、その為に使えるモノは何でも使わせてもらう」
敵兵が【ラスト・スタンド】を仕掛ける寸前、キリカは【La marionnette】を発動。
指先から不可視の操り糸を放ち、今まさにトリガーを引こうとする連中を絡め取った。
(2~3体を操り糸で乗っ取れば、数多くの敵を巻き込めるな)
「なっ?! 体が、勝手に……!」「おい、どうし……ぐわッ?!!」
敵兵の神経系にまで絡みついた糸は肉体を強制的に操り、同胞に銃口を向けさせる。
深夜の境内に鳴り響く発砲音。女王の敵を排除するはずだった呪詛の銃弾は、無惨なる同士討ちを引き起こした。
「その身体が軋み潰れるまで、踊り狂え」
「くっ……やめ、ろ……ぐあぁぁぁっ!」
敵は必死にキリカの糸に抵抗しようとするが、その行為は耐え難いほどの苦痛を伴う。
操り糸を通じて流し込まれた呪詛毒が、彼らの肉体を蝕んでいるのだ。味方同士による撃ち合いや激痛の悲鳴により、戦場はたちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
「此処は御仏の教えが古代から連綿と紡がれる聖域だ……血腥い兵士が踏み荒らす事は許されまいよ」
神聖なる寺院を占拠した土蜘蛛勢にそう宣告すると、キリカは糸をぐっと引き寄せる。
すると操っている敵兵の体内で呪詛毒が炸裂し、味方を巻き込んで大爆発を起こした。
「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」」
いかな死兵といえど肉体をバラバラになるほど破壊されれば、もはや戦えはすまい。
一連のキリカの作戦により土蜘蛛勢が受けた被害は甚大であり、爆心地の跡には手足の吹き飛んだ兵士達の亡骸がただ散らばるのみであった――。
大成功
🔵🔵🔵
神臣・薙人
死してなお戦い続ける
それが忠誠ですか
これが貴方の望んだ世界ですか…!
蟲笛で白燐蟲を呼び出し
戦場の光量を確保
戦闘に支障が出ない程度の光量になれば
桜の嵐で範囲内の敵を攻撃
集中攻撃を受けないよう
敵からは一定の距離を保つようにします
敵からの攻撃時は動きをよく観察し
蜘蛛糸・蜘蛛脚が動く前兆が無いか警戒
前兆があれば動く前に距離を取ります
周囲で共に戦う人がいれば声を上げ注意喚起
退避が間に合わずとも
蟲笛で受け流せれば良いのですが
糸を受けた場合はすぐに取り払います
ラスト・コマンド発動時は
怨念を死兵もろとも桜の嵐で攻撃
その際も囲まれない事を第一に動きます
攻撃中に余裕があれば
白燐蟲を増やして光量の継続確保に努めます
「死してなお戦い続ける、それが忠誠ですか」
命を賭して女王の敵を排除せんとする『死兵』を見て、薙人はぐっと拳を握りしめる。
この怒りは目の前の相手に対してだけではない。彼らにそれを命じた『土蜘蛛の女王』国見・眞由璃への怒りでもある。
「これが貴方の望んだ世界ですか……!」
全ての者が女王、ひいては土蜘蛛という種の繁栄の為に死をも厭わず奉仕する。それが彼女の思い描く理想郷だというなら、自分は絶対に認められないだろう。1人1人が己の意志で、全てを諦めずに掴み取ってきた銀誓館学園の生徒ならば。
「蟲達よ、力を貸してください」
薙人が蟲笛をそっと吹き鳴らすと、呼び出された白燐蟲の群れが蛍のように光を放つ。
戦場の光量はこれで確保できた。蟲と月の明かりに照らされて、こちらに向かってくる敵の姿がはっきりと見える。
「女王の敵は殲滅するのみ」
「そう簡単には、やられませんよ」
薙人の力を抑えていた「咎人の枷」が無数の桜の花びらとなり、【桜の嵐】を起こす。
ただ綺麗なだけではない、魔を打ち払う霊威を宿した花吹雪が、敵軍を吹き飛ばした。
(集中攻撃を受けないように気をつけませんと)
敵から一定の距離を保つようにしつつ、桜の嵐を操る薙人。折悪しく周囲に味方の姿はないが、多勢に無勢と諦めるほど分が悪くもない。冷静に敵の動きをよく観察し、蜘蛛糸や蜘蛛脚が動く前兆がないか警戒する。
「くっ……怯むな!」「奴を捕らえろ!」
土蜘蛛化の象徴である蜘蛛の部位を用いて、死兵は標的を捕縛しようとする。しかし、その前兆を見ていた薙人は敵に動かれる前に距離を取る。吹き荒れる桜吹雪の中を自由に移動できる彼と、距離を詰めるのは容易なことではなかった。
「貴方達の覚悟は強い。ですが私も負けられないので」
「抜かせぇ……ッ!」
無理やり近付いてきた敵兵の攻撃も、薙人は蟲笛でさっと受け流す。その際に付着した蜘蛛糸もすぐに取り払って、反撃の桜吹雪を放つ。その一連の所作は冷静で淀みがない。
「ぐぅっ……無念……」
一撃も浴びせられぬまま桜の嵐に力尽き、次々と膝を屈していく兵士達。だが、彼らが本当に恐ろしいのはここからである。瀕死になった死兵の体内からは生者を呪い殺す怨念があふれ出し、本体にかわって戦いを継続する。
「……妄執ですね」
相手が兵士から怨念にかわっても、薙人の動きは基本的に変わらない。囲まれない事を第一に動き、桜の嵐で敵を打ち払う。その際に召喚主の死兵をもろともに巻き込めれば、より効果的な痛手を与えられるだろう。
『オォォォォ……!!』「ぐあぁッ!?」
白燐蟲に照らされてひらりひらりと夜を舞う桜吹雪は、思わず見惚れるほどに美しい。
されど敵対者に対しては容赦のない死嵐となり、死兵と怨念を骸の海に還すのだった。
「最初の一陣は凌げましたか」
付近の敵を一掃したのを確認すると、薙人は白燐蟲を増やし光量の継続確保に努める。
尖兵を凌いだとて戦いはまだ終わりではない。この後には彼らを支配する土蜘蛛の女王との対峙が待っているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
来たか…土蜘蛛の兵士共め…
邪魔をするなよ…女王を討つ為に先へと進ませて貰うぞ…
行くぞ…我は処刑人也…!
妖刀を振るい土蜘蛛化した部位を[切断し部位破壊]
蜘蛛糸を地獄の炎の[範囲攻撃で焼却]しよう
[情報収集]で得た建物内の構造を思い出しつつ
[地形を利用し闇に紛れつ目立たぬ]よう
敵の隙を[見切り]つ【暗殺剣「墓場鳥」】で[不意打ち]
口封じの為に敵の首を[吹き飛ばし暗殺]してゆき
敵を次々に屠ってゆこう…
土蜘蛛の女王め…どこにいる…姿を見せろ…!!
「来たか……土蜘蛛の兵士共め……」
夜の暗がりから姿を現した『死兵』の集団を見て、アンナは即座に武装の収納を解く。
イグニッションカードから取り出した妖刀を構え、処刑人の証たる帽子を目深に被り。その瞳は冷徹に敵を見据える。
「邪魔をするなよ……女王を討つ為に先へと進ませて貰うぞ……」
「行かせる訳にはいかぬ」「女王を死守する事が我らの使命」
彼女の鋭い殺気にも怯むことなく、土蜘蛛の兵士は八本の蜘蛛脚を広げた構えを取る。
互いに退くつもりは毛頭なし。ならば死闘を以て雌雄を決し、己の道を切り開くのみ。
「行くぞ……我は処刑人也……!」
アンナは裂帛の気迫と共に敵陣に踏み込み、妖刀「アサエモン・サーベル」を振るう。
伝説の処刑人の名を冠した妖刀の切れ味は凄まじく、一閃で四本の蜘蛛脚を切断する。
だが一瞬で脚の半分を喪っても死兵は微塵も動じず、土蜘蛛化した腹部に力を入れる。
「捕らえたぞッ」
蜘蛛腹の先端から放たれる粘着質の糸。これで獲物を絡め、動きを止めてから仕留めるのが蜘蛛の狩りだ。だが今夜の相手は無力な虫けらではない――捕らわれる前にアンナは全身から地獄の炎を解き放ち、蜘蛛の糸を焼き払った。
「うおッ!」「何だッ!?」
闇夜に燃え上がる蒼き炎。その光と熱に死兵の目は釘付けとなり、僅かにたじろいだ。
その一瞬のうちにアンナは闇に紛れ、建物の物陰に隠れて敵兵の視界から姿を消した。
(昼間の情報収集が役に立ったな……)
この辺りの建物内の構造は頭に入っている。自陣での戦いだと油断して、策に嵌まったのは敵兵のほうだ。密かに息を潜めつつ、闇を味方に敵を討つ。そんな暗殺者さながらの戦い方も彼女は心得ている。
「どこへ行った!」「探せ!」
標的を見失った死兵達は手分けして周囲の寺や建物の捜索を始める。女王の元に行かれるかもしれないという焦りがあったのだろうが、ここで兵力を分散したのは迂闊だった。
孤立した兵士の死角へとアンナは音もなく忍び寄ると、隙をみて不意打ちを仕掛ける。【暗殺剣「墓場鳥」】による一撃は、過たず敵の首を吹き飛ばした。
「静かに速やかに眠るがいい……」
「――……!!」
断末魔の悲鳴さえ上げさせぬ、口封じを兼ねた斬首。無音のまま息絶えた敵兵の亡骸は骸の海へと還っていく。その様子を一瞥すらせずに、処刑人は次の標的の元へと向かう。
「おい、どうした? 誰か報告を……――」
1人、また1人と次々に建物の中で味方が消えていく。その異常に気付いた時にはもう手遅れであり、処刑人の剣は穏やかな死をもたらす。彼らに【ラスト・アタック】の機会は与えられず、情報を仲間に伝えることもできなかった。
「土蜘蛛の女王め……どこにいる……姿を見せろ……!!」
敵が屠り尽くされた戦場に、アンナの声が夜の静寂に響く。この『檻』の支配者である土蜘蛛の女王はまだ現れないが、今もどこかで戦いを見ているであろう事は予想がつく。
次は貴様の番だと語気を強めながら、獄炎の処刑人は再び闇の中へと姿を消した――。
大成功
🔵🔵🔵
大神・零児
【レイジ】
大生守・令二(黒狼剣士・f35765)と
文化財と一般人への被害を軽減する
UCで敵陣を召喚したゴーストタウンに閉じ込める
内部のUCで召喚されたゴーストに俺の鮮血の氣を纏わせ、その氣を介して催眠術で操り、瞬間思考力と戦闘知識、世界知識を用いて指揮し戦わせる
敵の怨念には呪詛耐性と氣によるオーラ防御で耐えつつ、自分が操作しているゴーストを竜脈使いによる魔力溜めと力溜めの武器改造と防具改造で強化
団体行動による集団戦術で怨念諸共物量で押し潰す
ゴーストの数が減らされても、令二のUCによる支援と、竜脈使いで竜脈からエネルギー充填し、その力をもとにUCのゴーストを発生させ再度操る
アドリブ共闘可
大生守・令二
【レイジ】
大神・零児(魂から別れたもう一人の令二・f01283)と
零児が召喚したゴーストタウンに一緒に入り、零児のそばで即座にイグニッションしてリミッター解除し、同時にUC発動
武器全ては、脱着式回転動力炉を取り付けて武器改造で強化した状態で取り出す
拠点防御を意識しつつ聞き耳、心配りによる警戒をし、こちらに近づかれる前にKatar-Gun「Diabolus」と詠唱ライフルの砲撃を浴びせ牽制しつつ、動力炉による無酸素詠唱、高速詠唱で威力を上げ、除霊の祈りを込めた詠唱銀塊を混ぜ込んだ呪殺弾を砲撃で敵陣に撃ち、詠唱銀塊を核とした結界術で閉じ込めて足止め
敵の攻撃にはジャストガードで耐える
アドリブ共闘可
「このまま戦えば文化財と一般人に被害が出そうだな」
「同感だ」
土蜘蛛の女王に遣わされた死兵と対峙しながら、零児と令二は周囲に視線を巡らせる。
敵も率先して自らの拠点を壊しはしないだろうが、流れ弾に配慮して攻撃の手を緩める輩にも見えない。たとえ敵を倒せたとしても被害が甚大になればここに来た意味がない。
「まずは奴らを俺達の戦場に引きずり込むぞ」
そう言って零児は徐ろに【悪夢召喚「ゴーストタウン・アミーゴ横須賀」】を発動し、法隆寺の境内に巨大な廃ショッピングモールを作り出すと、敵をその内部に閉じ込めた。
かつての銀誓館学園の能力者も攻略に苦戦したという、常識の及ばぬゴーストの巣窟。その脅威が今、復活せし土蜘蛛のオブリビオンにも牙を剥く――。
「起動(イグニッション)!」
零児と一緒にゴーストタウンに入った令二は、イグニッションカードから装備を取り出し、能力のリミッターを解除する。同時に発動するのは【諏訪湖の御神渡り】。モールの地面が鏡のような氷で覆われ、その隆起による亀裂から冷気と生命の力が噴き出す。
「なんだ、ここは!」「奴らはどこに?!」
その一方、突如として得体の知れない空間に閉じ込められた敵軍の動揺は大きかった。
互いの死角を埋め合うような密集陣形を取り、まずは状況判断に努めようとするが――そんな暇もなく、ドタドタと足音を立ててゴーストの群れがこちらに走ってくる。
「敵だ!」「撃て!」
猛ダッシュで突っ込んでくるゴーストを、蜘蛛脚と銃撃による連携で迎え撃つ死兵達。
この「アミーゴ横須賀」にいるゴースト達は現在、零児の「鮮血の氣」を介した催眠状態にあり、彼の指揮下で操られている。一個体としてはさほど強力ではないが、とにかくそこら中にいるため数では敵を上回っている。
「お前らは逃げ切れるか?」
豊富な戦闘・戦術知識と瞬間的な判断力に優れる零児の指揮の下、有象無象のゴーストは一つの軍団となる。仲間を倒されても足を止めず、屍を踏み越え敵に襲い掛かる様は、命知らずという点で敵兵とまったく同じであった。
「くっ……キリがないぞ!」「指揮官だ! あの狼男を狙え!」
「やらせるか」
劣勢になった敵は零児を倒すことで戦況の打開を図るが、そうはさせじと令二が動く。
脱着式回転動力炉を取り付けたKatar-Gun「Diabolus」の刀身が開き、中から現れた銃口が火を噴く。放たれたのは除霊の祈りを込めた詠唱銀塊を混ぜ込んだ特製呪殺弾だ。
「ぐはぁッ!!?」
動力炉による無酸素高速詠唱により威力を増した砲撃だ。直撃を受けた敵兵は即座に四散する。さらに令二は詠唱ライフルに装備を持ち替え、同様の攻撃を浴びせ続けることで敵をこちらに近付けさせない。拠点防御を意識した彼の警戒網は万全だ。
「くそっ、近付けん!」「この寒ささえなければ……!」
ゴーストの突撃と詠唱砲撃により足止めを喰らった敵兵から、【諏訪湖の御神渡り】の氷と冷気が体力を奪っていく。二人の猟兵だけでなく、このゴーストタウンの環境全てが彼らを追い詰めつつあった。
「このまま……やられるわけには……」「まだだ……まだ我らは……!」
だが逆に瀕死状態まで追い詰められた事で、死兵の【ラスト・コマンド】が発動する。
肉体という蛹から羽化するように、現れるのは生者を呪い殺す怨念のカタマリ。それはおぞましい咆哮を上げ、本体を上回る戦闘力で周囲のゴーストを次々に蹴散らし始めた。
「向こうも本気になったか」
零児は氣のオーラを纏いながら指揮を続けるが、彼自身は呪詛に耐えられてもゴースト達のほうが保たない。「死してなお戦う」という意志が具現化した怨念の勢いは留まることを知らず、一気に戦線を突破して指揮官を討ち取ろうと――。
「令二、今だ」
「任せろ」
その時、突如として戦場に銀色に輝く結界が出現し、死兵と怨念を内部に閉じ込めた。
結界の核となっているのは、令二の砲撃によって撃ち込まれた詠唱銀塊。彼はここまで敵の反撃を予測した上で、予め布石を打っていたのだ。
「今のうちに立て直すぞ」
「こちらのエネルギーも使え」
敵が結界で足止めを食らっている間に、零児はこの地の竜脈を操ることでエネルギーを充填し、減らされたゴーストを再発生させる。令二も御神渡りの亀裂から放たれる生命の根源の力をそこに送り込むことで彼を支援する。
『ウオオォォォォォォッ!』
復活したゴースト達は竜脈の魔力で攻防ともに強化されており、怨念の呪いにも耐えて再攻勢を仕掛ける。質量ともに前回より増したそれに耐える術は、もはや敵軍にはない。ゴーストタウン化したショッピングモール内には出口も見当たらず、退路すら不明だ。
「口惜しや……」「眞由璃様、申し訳ありません……」
圧倒的なゴースト軍団の物量に押し潰され、無念と共に消滅していく土蜘蛛の死兵達。
それを見届けた零児と令二はユーベルコードを解除すると、互いの健闘を称えるように拳の甲を打ち合わせた。
大成功
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カビパン・カピパン
「貴様達を抹殺する」
「でもあたくしもう死んでますよ」
「我らの使命なれば」
「使命果たしたようなものじゃない。そろそろ年末だし、忘年会でもしましょ」
生者を呪い殺す怨念もカビパンには効かなかった。
「さぁシュークリーム忘年会よ。カレーうどんなんてもう時代遅れ」
「ふむ確かに年末くらいは…ってふざっ、ふざけるなあ!」
ノリツッコミをしながら死兵叫びながら突っ込んでいく。見ると、周りの猟兵達もうんうんと頷いていた。我に返ったらしい死兵が後に続けと言わんばかりにカビパンに殺到。
カビパンは土下座して謝罪した。彼女は悪いことをしたと思ったら素直に謝れるいい悪霊である。
だがそれはもうカオスで凄い酷い光景だったという。
「女王に仇なす者よ」「貴様達を抹殺する」
「でもあたくしもう死んでますよ」
シリアスな調子で蜘蛛脚を蠢かせる死兵達に、気の抜けたツッコミをカビパンが返す。
彼女は現世をさまよい歩く悪霊。既に死者ではあるが、エクトプラズムの肉体を破壊して滅ぼすことは不可能ではないため、当然ながら標的外としては扱われない。
「我らの使命なれば」
「使命果たしたようなものじゃない」
だがカビパンはどれだけ敵兵から殺意をぶつけられようとマイペースに、戦る気皆無な態度を取る。銃口を突きつけられてもその態度が取れるのは大物と言うべきだろうか。
「我らの覚悟をバカにしているのか?」「ならば思い知れ!」
怒った死兵は自らを撃って【ラスト・コマンド】を発動し、体内から怨念を召喚する。
が、元から死者であるカビパンには生者を呪い殺す怨念も効かない。殺意満々の呪いを浴びせられても平然とした顔でぱたぱたと手を振っている。
「バカなッ?!」
「そろそろ年末だし、忘年会でもしましょ」
切り札をぶつけたにも関わらず無傷の彼女を見て、敵兵の間には大きな動揺が起こる。
普通に銃で撃ってたら効いたのに――そんな事は誰も気付かないまま、カビパンは地面にレジャーシートを敷き、紙皿とコップとシュークリームを用意する。
「さぁシュークリーム忘年会よ。カレーうどんなんてもう時代遅れ」
かつては「悩み聞くカレー屋」店主として各世界に支店を開き、まずいカレーうどんを食わせては地獄絵図を作り上げていたカビパンだが、今はシュークリームに夢中だった。
夜の法隆寺にずらーっと並んだシュークリーム。あまりにシュールな光景を前にして、死兵達の常識がだんだん揺らいでくる。
「ふむ確かに年末くらいは……ってふざっ、ふざけるなあ!」
しかし別の場所で戦っている友軍と猟兵の喧騒が、彼らをギリギリで現実に引き戻す。
我に返った死兵はノリツッコミをしながら叫び、後に続けと言わんばかりに突撃する。皿に手を伸ばしかけていた他の兵士達も、慌ててカビパンに殺到しはじめた。
「ごめんなさい!!!!!」
冗談のつもりが敵兵の不興を買ってしまったカビパンは、即座に土下座して謝罪した。
彼女は悪いことをしたと思ったら素直に謝れるいい悪霊である。地面に額を擦り付けて【どうかお助け下さい!】と謝る姿は、それはそれは無様であったが。
「他の人はどうなってもいい! 私だけは助けて!!」
「な……なんだこの女は……」「みっともなさ過ぎる……」
恥も外聞も風評もプライドも捨てたカビパンの命乞いに、死兵達はドン引きしていた。
命惜しまず戦うのが信条の彼らに、命乞いする者の気持ちは絶対に分からないだろう。汚い人間の深淵に触れてしまった影響で、兵士達の精神は強いショックを受けていた。
「本当にごめんなさい! もうしません!」
「ええい、わかった! もういい!」
それはもうカオスで凄い酷い光景に結局やる気を削がれてしまった敵兵は、これ以上は見たくもないという様子でカビパンの元を去り、とっとと他の戦場に向かうのであった。
時間と気力を無駄に浪費させたぶん、総合的には彼女の勝利と言える、だろうか――?
大成功
🔵🔵🔵
黄泉川・宿儺
SPDで挑むでござる ※アドリブ等歓迎です
瞳ヶ丘・だたら殿(f28543)との連携プレイでござる
主の為、全てを賭してこちらを足止めする、その心意気
小生、嫌いじゃないでござる。
だけど、用があるのはお主らじゃない。そこを退くでござるよ!
後ろからの援護射撃、頼んだでござるよ、だたら殿。
【UC:封絶拳撃】を使用
敵の攻撃を<暗視>+<第六感>で<見切る>、もしくは<受け流し>つつ、
迫りくる敵を<怪力>による<カウンター>+<範囲攻撃>で<なぎ払って>いくでござる
加えて敵の得物を<吹き飛ばし>つつ、手足の関節部を<部位破壊>し、無力化
自爆する暇なんて与えないでござるよ。
……許してくれるといいでござるね。
瞳ヶ丘・だたら
黄泉川(f29475)と。アドリブ等歓迎だ。
兵隊蟻に忠義の心は無い。そのように見えるのはただの習性だ。
彼らもまた同じこと、加減は不要だぞ黄泉川。
UCで大量の蒸機兵を動員し、敵兵の足止めと蜘蛛糸の破壊を中心にサポートをさせていく。質より量、だな。死を厭わぬ兵なのはこちらも同じ、捨て身には捨て身で対応しよう。
あたしは戦車の足を止めぬよう駆けずり回りつつ、折を見て〈砲撃〉を撃ち込んでいく。蜘蛛糸でべたついた地形も〈悪路走破〉だ。
足止めと撹乱でお膳立てをしてやれば、あとは黄泉川に〈蹂躙〉させるのみ。存分に薙ぎ払ってやるといい。
ああ、寺は傷付けんようにしないとな。
ま、仏は三度まで許してくれるそうだがね。
「主の為、全てを賭してこちらを足止めする、その心意気。小生、嫌いじゃないでござる」
立ちはだかる死兵の集団に身構えながらも、宿儺はそう語った。死してオブリビオンと成り果ててなお誰かの為に死地に臨む、その行いはたとえ猟兵でも容易くはないだろう。
「だけど、用があるのはお主らじゃない。そこを退くでござるよ!」
退けない理由ならこちらにもある。今も『土蜘蛛の檻』に囚われている人々を救う為、彼女はぎゅっと拳を握りしめて構えを取る。言って聞くような相手ではないのも承知の上――ここは武を以って押し通るのみだ。
「兵隊蟻に忠義の心は無い。そのように見えるのはただの習性だ。彼らもまた同じこと」
気炎を上げる宿儺とは対照的に、だたらは落ち着いた態度のまま語る。彼女の言葉にも道理はあり、あの兵士達は「戦い続ける」という生前の未練に衝き動かされているだけの存在とも言える。生者のように心変わりする余地を、最初から持ち合わせていないのだ。
「加減は不要だぞ黄泉川」
「承知。後ろからの援護射撃、頼んだでござるよ、だたら殿」
あまり絆されるなという戒めに宿儺はこくりと頷き、だたらに背中を任せて前に出る。
その忠義がただの習性かどうかなど、本人達にとってはどうでも良い事だろう。死兵の軍団はただ目の前にいる敵を討ち果たさんと、保身なき特攻を仕掛けてきた。
「女王の御為に!」「死ねいッ!」
背中から生えた八本の蜘蛛脚を振り上げ、標的を引き裂かんと迫りくる死兵達。対する宿儺は【封絶拳撃】の構えをもって敵の攻撃を受け流し、強烈なカウンターを叩き込む。
「見えているでござる」
闇夜を見通す彼女の視力と第六感は、八本脚による複雑な動きも見切り、的確な対応を可能とする。射撃の構えを取る者がいれば覇気を放って銃を吹き飛ばし、白兵戦では手足の関節を砕いて無力化。怪異の力と人の武術がひとつになれば、まさに一騎当千である。
「そら行け進め、踏み潰せ」
前線で無双する宿儺の後方では、四脚戦車に乗っただたらが【蹈鞴印の蒸機兵軍団】の指揮を執る。鍛冶妖怪の手で造られた蒸気機械式兵士の軍団は、モノアイを光らせながら敵兵の前に立ち塞がって足止めをする。
「質より量、だな。死を厭わぬ兵なのはこちらも同じ、捨て身には捨て身で対応しよう」
撃たれようが殴られようが機械は痛みを感じない。捨て駒の扱いにも文句一つ言わず、蒸機兵軍団は敵の進撃を食い止める。物量と頑丈さという単純な強みだからこそ、敵兵にとってもそれは容易に突破できない壁であった。
「くっ、おのれ」「ならばこれはどうだ!」
武力では劣勢を覆せぬとみた敵は、蜘蛛の腹から粘着質の糸を放つ。まずは獲物の動きを止めようという算段か。前線で戦う宿儺をかばって、何体かの蒸機兵が網にかかった。
「だたら殿!」
「ああ、問題はないとも」
しかし、だたらの戦車の足は止まらない。走破性に優れた四脚は、蜘蛛糸でべたついた地形を物ともせずに駆けずり回る。重くて硬くて速くて強いを標語に、この戦車には異形の改造が施されている。シンプルな性能差の前では下手な小細工など通用しないのだ。
「お前達は邪魔な蜘蛛糸を破壊しろ。あたしもそろそろ仕掛けるとするか」
だたらは蒸機兵に新たな指示を飛ばしつつ、敵陣目掛けて砲撃を撃ち込む。四脚戦車の前面に搭載された二連主砲が火を噴き、着弾地点にいた敵兵が地形ごと吹っ飛ばされた。
「ぐわぁッ?!」「おのれっ!!」
敵も反撃しようと銃を構えるが、着弾時に舞い上がった土煙が彼らの視界を撹乱する。
そして彼らには遠くの砲手よりもっと近くに警戒すべき相手がいた。だたらの砲撃も、蒸機兵のサポートも、全ては"彼女"のためのお膳立てに過ぎない。
「存分に薙ぎ払ってやるといい」
「承知でござる!」
土煙に紛れて飛び掛かったのは666の怪異を宿す魔人――宿儺の拳は鉄槌の如く重く、回し蹴りは竜巻となって敵陣をなぎ払う。不意を突かれた敵兵は防御する暇もなく、全員が地を這わされた。
「ぐはぁッ!!?」「お、おのれ……まだだッ」
深手を負った死兵達は、せめて一矢報いようと【ラスト・アタック】の構えを取るが、身体に力が湧いてこない。宿儺の【封絶拳撃】は攻防一体の絶技であると同時に、対象のユーベルコードを封じる効果もあったのだ。
「自爆する暇なんて与えないでござるよ」
悪足掻きを封じた上で敵を叩きのめしていく宿儺。もはや蹂躙とすら言える戦いに華を添えるように、後方からだたらの砲撃が追い打ちをかける。奴らに降伏という思考が存在しない以上、一兵たりとも見逃すわけにはいかなかった。
「ああ、寺は傷付けんようにしないとな。ま、仏は三度まで許してくれるそうだがね」
「……許してくれるといいでござるね」
そんな冗談を言いあえる余裕があるくらい、戦いの趨勢は決していた。宿儺とだたらの連携の前に屈した死兵達は今度こそ戦いの因業から外れ、骸の海で眠りにつくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鏡島・嵐
【旅神】
アンタらに用は無えから退け!……なんて言って聞いてくれる相手じゃねえよな。
いつもの如く怖えけど、ここはなんとか切り抜けねえと……!
詩乃が前に出てくれるから、後ろから動きに合わせて〈援護射撃〉で支援したり、攻撃されそうなタイミングを読んで〈武器落とし〉や〈目潰し〉を仕掛けて守ったりする。
瀕死になったら怨念を呼ぶんか。上手く《逆転結界・魔鏡幻像》で打ち消せればいいけど、最初の一回は我慢してやり過ごすしかねえかも。
自分が攻撃されそうになったら〈逃げ足〉活かして間合いを取ったり、〈オーラ防御〉〈呪詛耐性〉や〈敵を盾にする〉位置取りをしてダメージを最小限に抑えるように動く。
大町・詩乃
【旅神】
女王への忠誠は見事ですが、此処に囚われた皆さんを助ける為、倒させて頂きますよ。
UC:神力発現を使用し、観光客の服装から戦巫女の姿に変身。
相手は多数ですが、嵐さんが後方から援護してくれるので、後顧の憂いなく戦えます♪
相手の銃弾などの攻撃は第六感と見切りで状況把握し、結界術による防御壁とオーラ防御を籠めた天耀鏡の盾受けで対応して、嵐さんも自分も護ります。
攻撃では法隆寺を壊す訳には行きませんから、広範囲に影響が及ぶ術は使わない様にして煌月を振るって頑張ります!
UCによる飛行効果・空中戦で相手に素早く詰め寄り、UCで強化した煌月に光の属性攻撃を宿しての鎧無視攻撃・なぎ払いで斬っていきますよ。
「アンタらに用は無えから退け! ……なんて言って聞いてくれる相手じゃねえよな」
試しに嵐が呼びかけてみても、立ちはだかる『死兵』の殺気は微塵も変わらなかった。
彼らにあるのは土蜘蛛の女王の命令のままに戦い続けるという目的意識のみ。女王の敵は尽く討ち果たすのが使命であり、撤退など考えすらしないだろう。
「いつもの如く怖えけど、ここはなんとか切り抜けねえと……!」
「女王への忠誠は見事ですが、此処に囚われた皆さんを助ける為、倒させて頂きますよ」
怖気づきそうになる足で懸命に踏み留まる彼の前に、薙刀を構えた詩乃がすっと出る。
【神力発現】を発動し、観光客の服装から戦巫女の姿に変身した彼女の体には、溢れんばかりの神気が漲っていた。
「総員突撃!」「女王の敵を討て!」
銃と蜘蛛脚を武器として、一斉に攻め掛かる死兵の軍団。対する詩乃は空中に浮かべた神鏡「天耀鏡」にオーラを纏わせて銃弾を弾き、神気の結界を張って突撃を防ぎ止める。
「世の為、人の為、これより祓い清め致します!」
「なんの、この程度……ぐわッ?!」
敵兵はさらに追撃を仕掛けて一気に防御を突き崩そうとするが、ふいに詩乃の後ろから石礫の弾丸が飛んできて彼らの目や武器に当たる。後方に陣取った嵐からの援護射撃だ。
「詩乃が前に出てくれるから、おれは後ろから支援するさ」
お手製のスリングショットに弾丸をセットし、次々と撃ち出す嵐。単純な威力では刀や銃に劣るが、タイミングを読むことで的確に攻撃の出掛かりを妨害する。敵兵からすれば鬱陶しい事この上ないだろう。
「相手は多数ですが、嵐さんが後方から援護してくれるので、後顧の憂いなく戦えます♪」
相手がペースを乱されている隙に詩乃は神力による飛行能力で素早く相手に詰め寄り、薙刀「煌月」で斬りつける。ユーベルコードで強化された神具の刃は光を宿し、敵の防具を布切れ同然に切り裂いた。真っ赤な血飛沫が法隆寺の大地を濡らす。
「ぐぅっ……おのれ……!」
詩乃に斬り伏せられ瀕死の重傷を負った兵士は、【ラスト・コマンド】を発動させる。
すると倒れ込んだ彼の体内から凄まじい怨念が溢れ、生者を呪い殺さんと暴れだした。
「瀕死になったら怨念を呼ぶんか。すまん、最初の一回は我慢してやり過ごしてくれ」
「平気です。このくらいの怨念に負けたりしません!」
嵐は逃げ足を活かして怨念から間合いを取ると、オーラを身に纏って呪詛に耐える。
より近くにいた詩乃は逃げられないと判断し、結界と天耀鏡に籠めた神力で呪いを祓いのけながら怨念と斬り結ぶ。
「法隆寺を壊す訳には行きませんから、広範囲に影響が及ぶ術は使えませんね」
集団戦においては術による範囲攻撃が有効なのだが、詩乃は文化財への被害に配慮して薙刀のみで立ち回る。嵐の援護射撃があるとはいえ、多勢相手に遅れを取らないのは見事な技量だが、斬り倒すたびに怨念を呼ばれてしまうのは厄介だ。
「たとえこの身が力尽きようとも……我らの無念は戦い続ける……!」
死してなお戦いに取り憑かれた恐るべき執念が、また新たな怨念を召喚しようとする。
だが、その時。敵がユーベルコードを使うタイミングを後方から見計らっていた嵐が、【逆転結界・魔鏡幻像】を発動する。
「鏡の彼方の庭園、白と赤の王国、映る容はもう一つの世界。彼方と此方は触れ合うこと能わず。……幻遊びはお終いだ」
詠唱とともに召喚された魔鏡は怨念の姿を映し出し、それと相反する正の思念を放つ。
すると正反対のユーベルコードをぶつけられた怨念は相殺され、【ラスト・スタンド】は不発に終わる。それを見た敵兵は驚愕に目を見開いた。
「馬鹿なっ……?!」
「一度目は見過ごしたけど、二度目はやらせねーよ」
最初の発動時にタイミングを見切りさえすれば、死兵のユーベルコードを打ち消すのは彼にとって難しい事ではなかった。瀕死や致命傷になっても何か仕掛けてくるのが連中の厄介なところだが、その強みはこれで半ば失われたわけだ。
「おのれッ」
「っとと、危ねっ」
怒れる敵兵に銃口を向けられると、嵐は慌てて他の敵兵が射線に被るように移動する。
詩乃の天耀鏡も一枚は彼の護りについており、怨念封じの要である彼に生半可な攻撃が届く事はないだろう。
「もう新しい怨念が出てこないのなら、遠慮なく斬り伏せられますね」
憂いのなくなった詩乃はこれまで以上に攻勢を強め、夜の法隆寺を飛び回りながら敵をなぎ払っていく。彼女の薙刀はその名の通り月光の如く煌き、敵兵の血で刃を濡らした。
嵐からの援護射撃も、彼女の動きに合わせて小さな隙を敵に作らせ、攻撃を支援する。
「くっ……ここまで、なのか……」「眞由璃様、申し訳ありませぬ……」
怨念ごと祓い清める神威の斬撃を受け、倒れた兵士達は無念の言葉を遺して消滅する。
土蜘蛛の女王からの刺客を退けた二人はほっと息を吐くと、互いに笑顔を見せあった。
「やりましたね♪」
「ああ。でもまだだ」
ひとまずは切り抜けたが警戒はまだ解いていない。本命たる女王との戦いはこの先だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
蜘蛛童や鋏角衆…純粋な土蜘蛛ではない様ですね
(銀誓館学園のデータベースを粗方調べて来た模様)
オブリビオンを『女王』の力で“改造”したか、“生み出した”のか…
後者であれば尚、厄介です
嘗ての東北の土蜘蛛『朝比奈・瑞貴』もそうでしたが、『女王』は『子』に仇成した相手に容赦などしないのですから
ですが、為すべきは変わりません
人々を解放する為、押し通らせて頂きます
その執念に付き合う暇はありません
この小さな翅は、蝶の様な只の獲物ではありませんよ
妖精の鱗粉を戦場に散布
妖精狙う蜘蛛糸放つ前に格納銃器のスナイパー射撃で発射口潰し
蜘蛛脚どころか引き金を弾く指すら動かせぬ程に骨抜きに
一人一人確実に斬り捨て女王の元へ
「蜘蛛童や鋏角衆……純粋な土蜘蛛ではない様ですね」
銀誓館学園のデータベースにあった情報を元に、現れた敵兵を観察するトリテレイア。どうやら『土蜘蛛の檻』に突入する前に、過去の土蜘蛛の情報は粗方調べてきた模様だ。
土蜘蛛化オブリビオンという呼称が示す通り、連中は純粋な土蜘蛛では無いのだろう。
「オブリビオンを『女王』の力で"改造"したか、"生み出した"のか……後者であれば尚、厄介です」
自らの力で配下を生産できるという意味でも脅威だが、彼が口にした意図は別にある。
土蜘蛛は同族の仲間意識が強い来訪者種族だ。特に一族の頂点に立つ『土蜘蛛の女王』が我が子らにかける情は、人間の親子のそれとは一線を画する。
(嘗ての東北の土蜘蛛『朝比奈・瑞貴』もそうでしたが、『女王』は『子』に仇成した相手に容赦などしないのですから)
ここで土蜘蛛化オブリビオン達を手にかければ、女王の不興を買うことになるだろう。
過去のデータを参照しても、怒れる土蜘蛛の女王は現在の猟兵にとっても強敵である。
「ですが、為すべきは変わりません。人々を解放する為、押し通らせて頂きます」
「行かせるものか!」「女王は我らが護る!」
断固たる決意で女王の元へと向かおうとするトリテレイアに、立ちはだかる死兵集団。
恐怖や撤退という言葉を知らぬ彼らは死をも厭わぬ覚悟で、保身なき特攻を敢行する。
「その執念に付き合う暇はありません」
トリテレイアは格納スペースから妖精型の小型マシンを発進させ、特殊な鱗粉を戦場に散布する。すると周囲にいた敵兵が足をもつれさせ、銃を持つ手や蜘蛛脚が震えだした。
「な、なんだ?」「身体がおかしい……!」
機械の妖精が降らせる鱗粉は、触れた敵から身体や機械、能力の制御を強奪する。この【鋼の妖精圏】で自由に行動できるのは機械騎士ただ一人。損傷や致命傷を受けた訳ではないため【ラスト・スタンド】を発動することもできない。
「この小さな翅は、蝶の様な只の獲物ではありませんよ」
「くっ。あの妖精の仕業か……!」
原因に気付いた死兵はまだ動く腹に力を込め、飛び交う妖精に蜘蛛糸を放とうとする。
しかしトリテレイアはその前に機体内部の格納銃器を展開、針に糸を通すような正確なスナイピングで糸の発射口を潰す。
「させません」
「ぐぁッ!」
妖精を狙った攻撃を的確に封じつつ、鱗粉の散布量をさらに増やす。妖精圏に囚われた兵士達はやがて蜘蛛脚どころか引き金を弾く指すら動かせぬ程、完全に骨抜きにされた。
もはや彼らに許された抵抗は、怒りと殺意の籠もった眼差しで敵を見上げるだけ――。
「致命傷を受けても戦闘を継続するのであれば、こうする他にはありませんでした」
トリテレイアは敵の無力化を確認すると、鱗粉の効果が切れる前に剣を抜き、一人一人確実に斬り捨てていく。断末魔も上げずに即死した死兵の魂は、骸の海へと還っていく。
消滅する屍を後にして、機械騎士は血塗れの剣を片手に女王の元へと向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
随分と忠誠心の厚い事ね…。
貴方達が勇敢で忠誠が厚い者達だというのはよく分かるわ。でも…。
時に主君が誤っていればそれを諫めるのも臣下の務めだという事をよく覚えておきなさい!
【ブラッディ・フォール】で「誇り高き狂気」の「ヴラド・レイブラッド」の力を使用(マントに魔剣を携えた姿)。
【平伏す大地の重圧】による超重力で地面へ押さえつけて武器と行動を封じ、凍結・雷撃の魔力弾【属性攻撃、高速・多重詠唱、誘導弾】で凍結・感電させる事で蜘蛛足等による脱出を封じて完全に行動不能に追い込むわ
肉体の損傷は無視できても、肉体が物理的に動かなければ攻撃できないでしょう?
ついでに行動不能であっても瀕死でも致命傷でも無いしね
「随分と忠誠心の厚い事ね……」
己の生命すら顧みずに女王の敵を討たんとする『死兵』達に、フレミアは感嘆を抱く。
それと同時に残念にも思う。彼らは確かに兵士としては傑出した者達だが、真の忠臣と呼ぶにはあるものが欠けている。
「貴方達が勇敢で忠誠が厚い者達だというのはよく分かるわ。でも……」
「でも、何だ?」
八本の蜘蛛脚を不気味に蠢かせ、銃を構える兵士達。数十人から一斉に殺意を向けられながらも、フレミアは怯みもせずに【ブラッディ・フォール】を発動――漆黒のマントを翻しながら朗々と告げる。
「時に主君が誤っていれば、それを諫めるのも臣下の務めだという事をよく覚えておきなさい!」
諫言する意志を持たず、ただ盲目的に従うだけでは、臣下ではなくただの人形と同じ。
闇の世界の大領主にして父である『吸血大公』ヴラド・レイブラッドの力を降臨させたフレミアは、父の愛剣であった鮮血魔剣・ブラッドオーガを手に敵兵を睨みつける。
「我らが女王に誤りなどない!」「女王が命じれば、我らは従うのみ!」
対する兵士達が返したのは怒号。土蜘蛛という種族にとって女王の存在は絶対であり、逆らう事など普通は考えもしないのだろう――それでも、絶対に誤らない者などいない。彼らの行動はただの思考停止だ。
「言っても無駄のようね……なら、平伏しなさい」
「誰が……ッ?!」
フレミアが瞳に魔力を込めて敵陣を睥睨すると、視界に捉えられた兵達が地に伏せる。
視認した対象を超重力によって押し潰す【平伏す大地の重圧】。かつて父ヴラドが使用したユーベルコードのひとつだ。
「くっ、動けぬ?!」「身体が、重い……!」
平時の何十倍もの重力を押し付けられた兵士達は、武器を落として地面にへばりつく。
その格好はまさに巨大な蜘蛛そのもので、ゆっくりと地を這うだけで精一杯のようだ。
「こ、これしきのことで……!」
それでも兵士達は蜘蛛の脚で身体を支え、どうにか超重力の領域から逃れようとする。
だが、のろのろと脱出を図る敵をただ見ている理由などフレミアにはない。視線に力を込めたまま呪文を唱え、氷と雷の魔力弾を放つ。
「逃さないわよ」
「ぐぁッ?!」「ぎゃぁッ!!」
氷弾による凍結と雷撃による感電は、敵兵の必死の足掻きを無に帰すのに十分だった。
バランスを崩した彼らはまたも超重力に押し潰され、今度こそ完全に行動不能となる。
「肉体の損傷は無視できても、肉体が物理的に動かなければ攻撃できないでしょう?」
ついでに行動不能であっても瀕死でも致命傷でも無いしね、と微笑むフレミア。死兵が下手に追い込むほど危険性の増す相手であると理解していた彼女は、ダメージを最小限にしつつ行動不能に追い込む作戦をとったのだ。
「こうも感嘆に我々が……」「これでは眞由璃様に面目が立たぬ……!」
自害さえ封じられた兵士達はただ無念を口にすることしかできない。あとは気絶させるなりトドメを刺すなり、全ては彼女の思いのまま。あっさりと敵を無力化した吸血姫は、悠々と次の戦場に向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
知ってるなら、一つ、教えて…。
土蜘蛛の女王はかつて、残された一族の助命を願い、それは受け入れられた…。
今も土蜘蛛の人達はこの世界で共存している…。
なのに、それを翻して何故女王は再び戦いを始めたの…?
凶太刀の力で高速で接近し、銃器を凶太刀と神太刀で斬り捨てて武器破壊…。
武器を失ったところで呪力の縛鎖【呪詛、高速詠唱】で拘束…。
死して尚止まらないのであれば、その身を突き動かす力の源を断てば良い…。
【ソウル・リベリオン】で呪詛・怨念を喰らい、【神滅】でその身を突き動かす力の核を破壊する…。
わたしは女王を止めるよ…。
一度成し遂げた「共存」による平和…。
再び繋げる為に…。
「知ってるなら、一つ、教えて……」
目前に立ちはだかる『死兵』の集団に、璃奈は構えを取りながらも質問を投げかける。
この『土蜘蛛の檻』の中で女王に最も近い彼らならば、あるいは情報を持っているかもしれないと考えて。
「土蜘蛛の女王はかつて、残された一族の助命を願い、それは受け入れられた……。今も土蜘蛛の人達はこの世界で共存している……。なのに、それを翻して何故女王は再び戦いを始めたの……?」
まるで過去の歴史を繰り返すかのような、国見・眞由璃の不審な行動。オブリビオン化により生前とは人格が変わってしまった可能性もあるが、或いは他にも理由があるのかもしれない。真剣な眼差しで璃奈が問うと、死兵達はやがて口を開いた。
「我らが女王は申された。土蜘蛛は人類の捕食者なり、と」
「女王の望みは新たな"仔"を育てること――だが、現在の不完全な『檻』では、仔を育むためにより多くの糧がいる」
仔らを育てるために糧――すなわち人間を犠牲にする事になっても、女王は迷わない。
言い換えるならば現在の眞由璃はそれだけ切実に人間の生気を必要としており、それが現在の強硬手段に繋がっているようだ。
「女王の御心は我らには計り知れぬ。我らはただ女王の望みを叶えるのみ」
「貴様達はここで死に、そして女王の糧となれ」
これ以上の問答は無用だと死兵が銃を向けると、璃奈も二振りの妖刀を左右に構える。
十分な答えを得られたとは言い難いが――あとは女王に直接問い質すしかなさそうだ。
「女王に会うために、ここを通してもらうよ……」
妖刀・九尾乃凶太刀の呪力を身に纏い、音速を超えるスピードで接近する璃奈。撃たれるよりも速く敵兵の懐に飛び込み、妖刀の二刀流で銃器を斬り捨てる。真っ二つにされた銃身がカランと乾いた音を立てて地面に落ちた。
「ッ……行かせるものか!」
武器を失った兵士達は蜘蛛脚を振りかざして反撃しようとするが、その前に璃奈は縛鎖の呪文を詠唱。呪力により紡がれた鎖が敵の手足や胴体に絡みつき、動きを封じ込めた。
「死して尚止まらないのであれば、その身を突き動かす力の源を断てば良い……」
敵の拘束に成功すると、璃奈は呪詛喰らいの魔剣【ソウル・リベリオン】を召喚する。
たとえ致命傷を受けても執念が尽きぬ限り、死兵は戦い続けるだろう。故に断つべきは肉体ではなく精神。だからこそ呪詛や怨念を糧にする魔剣の力が必要なのだ。
「呪詛喰らいの魔剣よ……彼の者を縛る呪いを喰らい、正しき姿、正しき魂へ戻せ……。彼の魂に救済を……!」
璃奈はソウル・リベリオンから【妖刀魔剣術・神滅】を放ち、敵の怨念や呪詛を喰らうと同時に力の核を破壊する。飛躍的に強化された身体能力と呪力から繰り出される一閃は見惚れるほどに美しく――それを受けた兵士達は声もなく倒れ伏した。
「わたしは女王を止めるよ……」
気絶した土蜘蛛の兵士達、その全員に傷一つない事を確認してから、璃奈は先に進む。
手には魔剣をしっかりと握りしめて、足取りに迷いはなく、瞳には決意の輝きが宿る。
「一度成し遂げた『共存』による平和……。再び繋げる為に……」
かつての『銀の雨が降る時代』のような、争いと動乱の時代には二度と戻させない。
それは過去の能力者達にかわって現在の世界を護る、猟兵としての使命でもあった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』』
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POW : 眞由璃紅蓮撃
【右腕に装備した「赤手」】が命中した部位に【凝縮した精気】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD : 疑似式「無限繁栄」
自身の【精気】を代償に、1〜12体の【土蜘蛛化オブリビオン】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ : 土蜘蛛禁縛陣
【指先から放つ強靭な蜘蛛糸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:柊暁生
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「……葛城山の戦いを思い出しますね」
土蜘蛛化した『死兵』の軍団を退けて間もなく、猟兵達の前に1人の女性が姿を現す。
どこか古風で浮世離れした美しさを持つ、セーラー服を纏った黒髪の少女だ。「赤手」と呼ばれる赤い武者鎧の如き詠唱兵器で右腕を覆い、凛とした眼差しで猟兵達を見る。
彼女こそオブリビオンとして現世に蘇った『土蜘蛛の女王』、国見・眞由璃である。
「私の精鋭達を退けたのは見事。その力、かつて戦った銀誓館の方々と同じ……いいえ、それ以上でしょう」
女王の名にふさわしい威厳ある態度で、眞由璃はまず猟兵達の戦いぶりを称えた。
自身の『檻』に外敵の侵入を許し、配下を撃退された危機的状況だと言うのに、表情に焦りは微塵も見られない。かつて、葛城山で生前の彼女が討ち取られた時と同じように。
「……私は土蜘蛛の女王として、貴方達に停戦と同盟を求めます」
その口から次に発せられたのは、予測されていたとはいえ、やはり意外な言葉だった。
これまで多くの戦いを経験してきた猟兵でも、オブリビオンから「交渉」を持ちかけられるのは稀有な事例だろう。
「私達土蜘蛛は増殖や成長のために人間の生命力を必要とします。ですがそれは、私達が組織としてまだ未熟な段階にあるためです」
ある程度規模の大きい集団に所属すれば、土蜘蛛は人を襲わなくても成長できる。
これは土蜘蛛戦争を経て銀誓館学園が入手した知識とも一致し、事実だという裏付けは学園に転属した土蜘蛛達の様子からも分かっている。
「ですので、この『檻』を更に大規模化して内部の住民を増やせば、住民を捕食して命を奪う必要はなくなります。現状の混乱は言うなれば、成長の過渡期によるものです」
復活した眞由璃率いる「新生土蜘蛛」の組織レベルが一定の段階に達するまで、『檻』への攻撃を控えてほしい。それが眞由璃から猟兵達に持ちかけられた停戦交渉だった。
「この停戦に応じて下さるのでしたら、私達は以後貴方達の盟友として助力いたします。依頼されればいつ何処なりと向かい、共に戦いましょう」
眞由璃の目的はあくまで一族の繁栄であり、そこに土蜘蛛化した者以外のオブリビオンは含まれていない。必要とあらば猟兵に協力して同類と戦うのも厭わないということか。
猟兵がこの条件に納得すればこの場での戦いは回避され、眞由璃とは同盟関係になる。
今後も激化が予想されるシルバーレインでの戦いにおいて、新生土蜘蛛という協力者の存在が役立つこともあるだろう。
無論、同盟に応じたとしても懸念すべき点は幾つもある。
『檻』の拡張が完了するまでの人々の被害はどう防ぐのか。
拡大した『檻』そのものが与える周辺都市や住民への影響。
状況の変化や眞由璃の心変わりにより、同盟が破棄される可能性。
そしてオブリビオンの存在自体を放置することで、世界に与える影響も未知数だ。
「……土蜘蛛が健在である事は知っています。しかし私は、紛い物であれ、いまひとたびの生を得ました。ならば土蜘蛛の女王として、私は『新たな子供達』を育てます」
見た所、眞由璃は理性的な人物だ。対話や交渉を詰める余地はまだあるように見える。
だが、どこまで譲歩を引き出せるかは分からない。一族を再び繁栄させるという使命において彼女は頑なであり、女王として仔を見捨てることも決してない。
「……葛城山の決戦において、私は一度和睦の使者を送りました。それは既に遅すぎた使者であり、乱戦の中で届くことはありませんでしたが……今ならば、あるいは違う結果があるのでしょうか」
――土蜘蛛を人類の捕食者と認める彼女が、それでもなお提案を持ちかけてきたのは、一族を滅ぼしたかつての自分の選択を悔いる気持ちが僅かにでも残っていたのだろうか。
「もちろん応じられないと言うのであれば是非もなく。ここで再び雌雄を決しましょう」
そして交渉を持ちかけたからといって、眞由璃に戦って負ける気は微塵もないようだ。
かつては多勢の能力者相手に戦場で大立ち回りを演じた土蜘蛛の女王。オブリビオンとなった今、その実力がどうなっているかは想像もつかない。
戦いによる決着か、話し合いによる和平か。
全ては、この場にいる猟兵達の決断に委ねられた。
トリテレイア・ゼロナイン
交渉の機会
誠に感謝いたします、土蜘蛛の女王
…提案は大半の猟兵にとって難しいのが実情です
在り方が異なる…来訪者とオブリビオン
懸念材料抱えての戦の危険性はご理解頂けるかと
『檻』の人々の即時解放
指定の場所に御身を移し
猟兵の支援を以て『檻』を可及的速やかに完成させ
精気提供は志願した能力者中心に
仮に提案を受け入れる場合、これが最低条件かと
此方からも一つ提案を
人類の捕食者たる種族の女王に対し
人類の業たる戦闘兵器から申し上げる不遜な悪魔の提案です
嘗ての末期の言葉
貴女の心残り…血を継ぐ“次代の女王”を産む気は御座いますか?
現在、土蜘蛛の女王は空位
種族として弱体化しております
ダンピール始め“過去”が“過去”を生むとは限りません
土蜘蛛は種族の再興を
銀誓館は新たな女王と結びつきを得
貴女は己が子に託す形で女王の使命を全うする
檻の機能の転用、女王の権能、猟兵の助力
仮に再びの死の間際
最期の選択肢として可能と思われますか
そして可能でも、強制はせぬとお誓いします
ご回答を
返答に感謝を
拳か、握手か…
また後程
お会いしましょう
「交渉の機会、誠に感謝いたします、土蜘蛛の女王」
停戦と同盟を求める国見・眞由璃の提案に、トリテレイアはまず丁寧に礼を述べる。
対話のテーブルにつくならそれは自然な事だ。剣を鞘に納め、ひとまずは戦闘の意志が無い事を明確にした後、彼は猟兵の一人としての回答を告げた。
「……提案は大半の猟兵にとって難しいのが実情です」
「…………」
それを聞いた眞由璃は驚きも「なぜ?」と問いかけもしなかった。先程まで争ってきた者同士が急に手を結ぼうという提案の難しさ、そして己が人類と世界にとっての「敵」である自覚は彼女にもある。
「在り方が異なる……来訪者とオブリビオン。懸念材料抱えての戦の危険性はご理解頂けるかと」
「ええ。その通りでしょう」
かつての土蜘蛛はまさにそれで滅亡の瀬戸際まで追い詰められたのだから。女王は静かに頷き、話の先を促す。そこでトリテレイアは己が考える現状の妥協点を一気に述べた。
「『檻』の人々の即時解放。指定の場所に御身を移し、猟兵の支援を以て『檻』を可及的速やかに完成させ、精気提供は志願した能力者中心に。仮に提案を受け入れる場合、これが最低条件かと」
たとえ人間を食わなくなったとしても、現状の『土蜘蛛の檻』には問題点が多すぎる。
このまま法隆寺に巣を構えて居座られるのは、人間社会に対する悪影響が大きすぎる。影響を最小限に留めようと思うならば、この位はしてもらうのが"最低限"だ。
「……それは難しいですね。現在の『檻』とて一朝一夕に作り上げた物ではないのです」
多少の思案の後に眞由璃は答えた。突きつけられた条件に道理を認めつつも、そのまま承服することは困難だと言う。騎士に人々を守る責務があるように、彼女にも女王として民を庇護する義務がある。
「今『檻』から人間を解放すれば、残っている仔らを養えなくなります。新しい『檻』が完成するまで人を喰うなと命じるのは難しい。また精気提供を外部の者に依存するのは、生命線を握られているのと同じであり、十分な志願者が集まる保障もないのでしょう」
人間にとって不都合なものでも、今ここを手放せば眞由璃達は生存の基盤を喪失する。
再建には協力すると言っても、いつまで野晒しで耐えろというのか? 確実な保障がない限りは呑める条件でない、というのが女王の意見だ。
「それに『檻』とはあくまで国土の境界に過ぎません。国の本質とは民である……騎士よ、貴方にもそれは分かるでしょう」
『檻』の規模だけ大きくしても、内部の住民が増えなければ組織レベルは向上しない。
以前の土蜘蛛組織には「土蜘蛛の巫女」という、土蜘蛛に仕える人間の能力者がいた。それと同じで、組織としての「新生土蜘蛛」に所属する者が増えなければ、人を襲わなくてはならない現状は変えられない。これは外部の協力者だけでは解決できない問題だ。
「貴方達猟兵や能力者が、数百人から数千人単位で新しい『檻』に移住してくれると言うなら、話は別ですが」
「……それは、流石に難しいでしょうね」
それだけ多くの人間をすぐに動かせる人脈はトリテレイアにもない。こちれにとっては最低限でも、やはり女王には呑み難い条件だったようだ。ある程度は予想していたのか、声に落胆の色は薄い。
「では、此方からも一つ提案を。人類の捕食者たる種族の女王に対し、人類の業たる戦闘兵器から申し上げる不遜な悪魔の提案です」
「提案、ですか?」
不穏なほどに自らを卑下した発言に、眞由璃は思わず眉をひそめた。どのような物騒な提案をされるのかと身構えるが――トリテレイアが口にしたのは予想外の内容であった。
「嘗ての末期の言葉。貴女の心残り……血を継ぐ"次代の女王"を産む気は御座いますか?」
「………!」
銀誓館学園に殲滅された当時の土蜘蛛には、眞由璃にかわる新たな女王がいなかった。
それゆえ、眞由璃亡きあとに組織としての再起はかなわず、銀誓館に取り込まれる形となったわけだが――。
「現在、土蜘蛛の女王は空位。種族として弱体化しております」
ダンピール始め"過去"が"過去"を生むとは限りません――と、トリテレイアは語った。
土蜘蛛は種族の再興を。銀誓館は新たな女王と結びつきを得、眞由璃は己が子に託す形で女王の使命を全うする。それが彼からの提案だった。
「檻の機能の転用、女王の権能、猟兵の助力。仮に再びの死の間際、最期の選択肢として可能と思われますか」
これは現在の交渉が完全に決裂した場合の保険でもあった。『檻』が破壊され、眞由璃が死んだとしても、再興の可能性を未来に遺せる。代案として一考の余地はあるだろう。
「そして可能でも、強制はせぬとお誓いします。ご回答を」
「……私にまだ次代の女王が産めるかどうかは、自分でもわかりません。もし仮にできたとしても、以前とは異質なものだと思われますが」
オブリビオンとなった眞由璃の能力は、厳密には純粋な土蜘蛛ではない『土蜘蛛化オブリビオン』を殖やす能力だ。生態としての変異が起こっている以上、次代の女王もどんな存在になるかは分からない。ただ、個人的にはその提案に惹かれるものがあったようだ。
「……もし、生まれてきたモノがどのような存在であっても、守ってくださると言うのであれば。考えないでもありません」
「返答に感謝を」
女王からの答えを聞いたトリテレイアは、恭しく一礼してからすっと後ろに下がる。
拳か、握手か――現状ではまだなんとも言えない所だろう。故にここは他の猟兵達の対応も見届けたうえで、改めて対峙するつもりのようだ。
「また後程、お会いしましょう」
「はい。……それと、ひとつだけ。貴方は現在の土蜘蛛が弱体化したと仰られましたが」
踵を返したトリテレイアの背に、眞由璃は静かに声をかけた。今の自分に言う資格はないのでしょうと前置きながらも、その言葉と眼差しには射抜くような意志が宿っている。
「彼らの助命を嘆願したのは私ですが、それから人間との共存を選択したのは彼ら自身の意志です。今の彼らは"女王"など必要とせず、人と交わることで自らの未来を切り開いてゆけるでしょう。それを種としての弱体化などと軽々に口になさらぬよう」
巣立つ我が子を見るような寂しさと、それ以上の誇らしさを滲ませながら彼女は言う。
それは、かつて多くの土蜘蛛からの信奉を集めた女王としての、生前の名残であった。
※トミーウォーカーより……戦闘と区別をつけるため、眞由璃の交渉に応じた場合は、結果を失敗でカウントしています。シナリオ失敗すると、眞由璃の檻はそのまま残ります。
※マスターより……今回のプレイングは判断が難しかったですが、ひとまず「交渉に応じた」ものとしてカウントさせて頂きました。このような特殊な形式のシナリオになりますので、場合によっては全てのプレイングを採用できない可能性があることを、どうかご了承下さい。
失敗
🔴🔴🔴
アリス・フォーサイス
オブリビオンとの交渉は危険かもしれないけど、もし、協力できる条件があるなら、探したいな。
【交渉】
『檻』は世界結界の影響で時が進まない状態になってる。ぼくとしてはお話が生まれないこの環境は受け入れられないよ。
銀誓館学園に所属すれば住民を捕食する必要がないことはわかってるんだ。銀誓館学園に所属してもらうってわけにはいかないかな。
【戦闘】
『檻』を維持する条件を撤回しないなら、ぼくは戦うしかないよ。
ウィザードミサイルで蜘蛛糸を燃やしながら、乱れうちだよ。
キミみたいなのがいた方がお話は美味しくなるんだけど、しかたないね。全部、燃やさせてもらうよ。
「オブリビオンとの交渉は危険かもしれないけど、もし、協力できる条件があるなら、探したいな」
危険を冒すだけの意義はあると考えたのか、アリスも眞由璃との交渉に前向きだった。
しかし同時に、猟兵としても個人としても譲れない部分はある。特に『土蜘蛛の檻』をこのまま維持される事には彼女は反対だった。
「『檻』は世界結界の影響で時が進まない状態になってる。ぼくとしてはお話が生まれないこの環境は受け入れられないよ」
何事もない「日常」が続いているように住人に思わせ、同じ日々をループさせる現在の『檻』の状態は歪だ。このままではいずれ大きな問題が起こるのは明らかだし、生まれるはずだった多くの「物語」を塗り潰している現状は看過できない。
「銀誓館学園に所属すれば住民を捕食する必要がないことはわかってるんだ。銀誓館学園に所属してもらうってわけにはいかないかな」
『檻』にかわる手段として、アリスは過去の土蜘蛛のように学園への転属を提案する。
現在でも多くの土蜘蛛が所属している点から考えても、それが最も現実的な案のように思われる。提案を聞いた眞由璃はしばし考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「……かつての私達を殲滅した頃の銀誓館であれば、それも良かったでしょう。ですが、現在の彼らは力を大きく損なっています」
オブリビオンの発生に伴い修復された世界結界により、能力者の殆どは弱体化した。
結界の影響を受けない超常の存在は、現在確認されている範囲では猟兵とオブリビオンのみ。銀誓館優勢だった以前とはパワーバランスが大きく変化しているのだ。
「現在の銀誓館学園は転属先としても同盟相手としても頼りなく感じます。貴方達のように"力"ある者だからこそ、私はこうして同盟を持ちかけているのですから」
最悪のケースを想定すれば、眞由璃率いる土蜘蛛化オブリビオンに銀誓館が乗っ取られる可能性もある。もちろん能力者達も無力ではないのでそう上手くはいかないだろうが、力関係が対等でない外部勢力が加わるのには、そうした危惧も増えるということだ。
「住民に対する記憶操作の内容を変更することで、現状の環境は多少改善できるかと思います。それでは不足でしょうか」
「『檻』を維持する条件を撤回しないなら、ぼくは戦うしかないよ」
眞由璃も代案を提示はするが、多くの「お話」が紡がれずに閉じ込められている現状を問題視するアリスもそれだけでは納得しない。両者の会話は次第に次第に緊迫感を孕んだものになっていく。
「では、致し方ありませんね」
「そうだね。残念だよ」
眞由璃がすっと左手を上げたのと、アリスが魔王笏を構えたのはまったく同時だった。
一切の鉾を交えずに無血で戦いを回避できるとは、あちらも思ってなかったのだろう。
「同盟できぬと言うならば、貴方にも私の糧となって頂きます」
指先から蜘蛛糸を放ち、アリスを絡め取ろうとする眞由璃。死兵達が使ってきた物より遥かに強靭な【土蜘蛛禁縛陣】は、ひとたび捕まればユーベルコードの使用まで封じる。
「キミみたいなのがいた方がお話は美味しくなるんだけど、しかたないね」
対するアリスは【ウィザード・ミサイル】を乱れ撃ち、飛んでくる蜘蛛糸を片っ端から焼き払う。いかに強靭だろうとそれが生物由来の繊維であることに変わりはなく、魔力を込めた炎の矢が触れるたび、盛大に燃え上がって灰になっていく。
「全部、燃やさせてもらうよ」
選択したユーベルコードの相性が悪い。数百発に及ぶ魔法の矢の連射で、土蜘蛛禁縛陣は焼き尽くされる。火の勢いは眞由璃の元にまで到達し、セーラー服に焦げ跡をつけた。
「……流石ですね。一筋縄ではいきませんか」
矢傷と火傷を負った女王は凛としたかんばせを歪め、追撃を避けるように後退する。
実際にアリスの力を身体で感じた事で、猟兵に対する評価と警戒を改めたようだ――。
大成功
🔵🔵🔵
――かくして猟兵と土蜘蛛の女王の戦いの火蓋は切られた。
だが対話の道が断たれたわけでもない。同時に、このまま戦いによる決着の可能性も。
土蜘蛛の女王は戦いの構えを取ったまま、猟兵達の動きをじっと見ている。結末の天秤はまだどちらにも傾いてはいない――。
神臣・薙人
…国見眞由璃さん
私は貴方と語る言葉を持ちません
何故でしょうね
記録でしか知らない貴方の方が
今の貴方より女王として気高く思えるのです
白燐蟲による光量確保を継続
相手から一定の距離を保ちつつ
リアライズ・バロックを使用
臆する気持ちはありますが
それを力に変えられるのなら
指先の動きに注意を払い
蜘蛛糸を放つ前兆があれば
すぐに回避行動を取ります
周囲に同じく戦う人がいれば
声を上げて注意喚起
糸を受けた際は
蟲笛で白燐蟲による攻撃を行います
長引けば、辛いのは貴方ではないですか?
糸が解除されれば
リアライズ・バロックでの攻撃を再開
私一人では勝てる見込みは到底ありませんが
戦いを選んだ方のために
少しでも体力を奪っておきましょう
「……国見眞由璃さん。私は貴方と語る言葉を持ちません」
眞由璃から交渉を持ちかけられても応じず、あくまで戦いの道を選択する猟兵もいた。
かつて運命予報士として銀誓館学園に属していた薙人は、静かな、されど鋭い眼差しで土蜘蛛の女王を見据える。
「何故でしょうね。記録でしか知らない貴方の方が、今の貴方より女王として気高く思えるのです」
それは一度きりの命を生き抜いた者と、かりそめの命を得て蘇った者の違いだろうか。
理論よりも深い場所で、彼の心はオブリビオンと化した現在の眞由璃を否定する。そして眞由璃自身もそれを否定することはなく、静かに戦いに応じる構えを取った。
「何と仰られようと構いません。誇りを捨て見苦しく生き恥を晒す事になったとしても、私は再び使命を果たしてみせましょう」
女王であると同時に一人の土蜘蛛として、生き延びる為に捕食者の爪を振るう眞由璃。
巨大な「赤手」を振りかざして迫ってくる彼女に対し、薙人は一定の距離を保つようにバックステップで後退。白燐蟲による光量の確保も継続しており、夜戦の準備は万全だ。
(臆する気持ちはありますが、それを力に変えられるのなら)
強大なる女王への恐れを呼び水として、彼が使用するのは【リアライズ・バロック】。
闇の中より姿を現すおぞましき怪物の群れ――バロックレギオンを女王に差し向ける。
「恐怖の怪物……ゴーストに似ていますね」
薙人が喚んだ怪物達が不気味な咆哮を上げて襲い掛かってくるのを見て、眞由璃は左手の指先より蜘蛛糸を放つ。網状に展開された【土蜘蛛禁縛陣】はたちまち怪物を捕らえ、身動きを封じた。
「これで倒しきれるとは思いませんでしたが」
なるほど予想以上の力だと認め、薙人は相手の指先の動きに注意を払う。今度はこちらに蜘蛛糸を放ってくる前兆があれば、すぐに回避行動を取って後退し、反撃の隙を窺う。
「どうしました? この程度では私を討つ事はできませんよ」
赤手と蜘蛛糸を自在に操り、薙人とレギオン相手に互角以上の立ち回りを示す眞由璃。
その戦いぶりはかつての土蜘蛛戦争を思わせるものであり。そしてついに、一筋の糸が薙人の足に絡みつく。これでもう逃げ回ることはできない。
「長引けば、辛いのは貴方ではないですか?」
「…………っ」
しかし薙人は落ち着いた様子で蟲笛を吹き、怪物から白燐蟲に攻撃手段を切り替える。
群れなす無数の白き燐光を、眞由璃は赤手で払い落とすが――その額にはひと筋の汗が伝っていた。たとえ無双の力を持つ女王とて、戦いの疲労とは無縁ではいられない。
「私一人では勝てる見込みは到底ありませんが、それでも出来る事はあります」
敵が僅かに怯んだ隙に、薙人は白燐蟲に糸を切らせて自由を取り戻すと【リアライズ・バロック】での攻撃を再開する。恐れより生まれた恐れを知らぬ怪物は、同族が捕まろうと引き裂かれようと臆することなく、女王を執拗に追跡して攻撃を続ける。
「戦いを選んだ方のために、少しでも体力を奪っておきましょう」
「仲間の勝利の為に挑みますか……大した覚悟です」
個人ではなく大局的な勝利を見据えて、圧されつつも粘り強く食い下がり続ける薙人。
その揺るぎのない覚悟にやがて眞由璃の方が焦りを見せるようになり、戦いの趨勢は少しずつ変わり始めていた――。
大成功
🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
いい歳してセーラー服を纏った女にいちゃモンをつけられた。めんどいから議論が得意そうな人とバトンタッチしよう。
カビパンはUDCアースでも有名なあの論破王を降霊。
KABINA バラエティ【公式】
チャンネル登録者数 0人
【論破王VS眞由璃討論対決】停戦同盟はアリ?ナシ?
『カッビマックスTV』毎週☆曜日 KABINAで配信中!
ディベートバトル!今回は土蜘蛛の女王が登場し、舌戦を繰り広げる!
「それってあなたの感想ですよね?」
「なんだろう、ウソつくのやめてもらっていいですか」
「はいかいいえで答えてください」
「檻の影響とかキチンとデータとってるんすか?」
「あなたが心変わりしないってエビデンスあります?」
(いい歳してセーラー服を纏った女にいちゃモンをつけられた)
眞由璃から交渉を持ちかけられたカビパンは、至極めんどくさそうな顔で独りごちた。
めんどいから議論が得意そうな人とバトンタッチしよう。そう考えた彼女は【黒柳カビパンの部屋】を発動し、UDCアースでも有名なあの論破王を降霊させる。
「ハロー。今日もKABINA バラエティのお時間がやって来ました」
「……何をしているのです?」
急に口調も雰囲気も変わって、番組の司会者のように話しだしたカビパンに、眞由璃も困惑の表情。交渉を望んだのは確かに彼女だがなぜだろう、話が通じる気がしなかった。
「今回の企画はこちら! 【論破王VS眞由璃討論対決】停戦同盟はアリ? ナシ?」
どんどんぱふぱふ、と何処からともなく響くSE。今日のカビパンは配信者のつもりのようだ。ネットの動画配信サイトには『KABINA バラエティ【公式】』というチャンネルがいつの間にか開設されている。もちろんチャンネル登録者数は0人だったが。
「ディベートバトル! 今回は土蜘蛛の女王が登場し、舌戦を繰り広げる!」
「……見世物にされているようで不快ですが、交渉に応じる気はあるという事ですか」
ざっと10年以上も過去の人物である眞由璃には、現代のネット配信者のノリは伝わりづらい。だが一応は話し合うつもりならばと戦いの構えを解いた。己が望む「話し合い」とは、だいぶ流れが違うことに気付かぬまま。
「……土蜘蛛が健在である事は知っています。しかし私は、紛い物であれ……」
「それってあなたの感想ですよね?」
ディベートが始まり、改めて自らの意見を表明しようとする眞由璃。だがカビパン――正確にはカビパンに取り憑いた霊が鋭いツッコミを入れる。議論用に降霊されたこの霊は相手を論破するのに長けた圧倒的トーク力を持っていた。
「なんだろう、ウソつくのやめてもらっていいですか」
「な……私は嘘などついていません」
若干イラッとくる口調に不躾な物言いに眞由璃はペースを乱される。それこそが術中にハマっているのだが、こうした形式の討論に慣れていない彼女は畳み掛けるような相手のトーク力に翻弄されるばかりだ。
「檻の影響とかキチンとデータとってるんすか?」
「それは……状況と体感に基づいた経験則的なものですが……」
相手の心を折るような強烈なプレッシャーを放ちながら、カビパンは質問をぶつける。
眞由璃もなんとか反論するものの、彼女の問いかけはどれも痛い所ばかり突いてくる。
「あなたが心変わりしないってエビデンスあります?」
「私からは信用して下さいと申し上げる事しか……」
「はいかいいえで答えてください」
相手の意見を徹底的に叩き潰し、反論を許さず論破する。今行われているのは落とし所を探る話し合いではなく、言葉を武器にした「舌戦」であった。アリかナシかを問いかけている時点でカビパンはナシ側として、アリ側の女王に勝つつもり満々だったようだ。
「……頭が痛くなってきました」
ディベートにかこつけた精神攻撃のラッシュを浴び続けた眞由璃は、頭を押さえながらふらりとよろめく。物理的には一度も刃を交わしていないのに、本気の殺し合いにも匹敵する疲労感、そして聞くんじゃなかったという徒労感が押し寄せる。
「どうやら貴女とは話し合っても無意味なようです」
「おっと、では今日の配信はここまで。ご視聴ありがとうございました!」
キレ気味の眞由璃を見るとカビパンは即座に舌戦を打ち切り、脱兎の勢いで撤収する。
残念ながら今回の配信は登録者数の増加には繋がらなかったが、強大な土蜘蛛の女王に一矢報いるという意味では貢献した――のかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵
大神・零児
【レイジ】
銀誓館所属案も否
彼女の願いを丸々飲むのも否
●交渉又は確認
1つ・猟兵に属すことができれば人を喰わずにいられるのか
2つ・自身又は仔がオブリビオンのままでなければならないのか
3つ・土地、食料が何かしらの形で保障されていれば猟兵の案を吞んでもいいのか
●決裂又は時間不足と判断なら戦闘
レベル×5の水火闇光樹雷土の各属性計7種のオロチ
各種計565体
合計3995体のオロチを竜脈使いの全力魔法でぶっ放す
樹と土のオロチの力で樹木や岩石等の壁等を発生させ拠点防御のように文化財と一般人への被害を軽減
糸は火と雷のオロチの力で焼き切り
闇と光のオロチの力で目潰し
水のオロチの力で妨害しつつ総攻撃
アドリブ共闘可
大生守・令二
【レイジ】
イグニッション継続
●確認又は提案
眞由璃がオブリビオンじゃなくなった場合、眞由璃の提案とこちらの提案、交渉は無効と判断するのか
眞由璃が生み育てる土蜘蛛にオブリビオンでない者がいた場合どうするのか
オブリビオンでなくなっても良いなら少なくとも猟兵が手伝えることは伝えておく
●決裂か時間不足なら戦闘
戦闘と判断した瞬間に零児と共にUC発動
オロチと零児、自分に回復を掛けつつ全員にエネルギー充填
UCで敵全体に攻撃
拠点防御を意識しつつ、動力炉による無酸素詠唱、高速詠唱で威力を上げ、除霊の祈りを込めた詠唱銀塊を混ぜ込んだ呪殺弾を砲撃で敵陣に撃ち、詠唱銀塊を核とした結界術で閉じ込めて足止め
アドリブ共闘可
「銀誓館所属案も否。彼女の願いを丸々飲むのも否か」
猟兵と土蜘蛛の女王の交渉の流れを見ていた零児は、改めてその難しさを感じていた。
双方共に譲れない使命があり、互いに妥協できるラインの見極めが難しい。事前に入念な準備や下調べがあった訳ではない、突発的な交渉であるため当然とも言えるのだが。
「幾つか交渉、いや確認したい点がある。宜しいか、土蜘蛛の女王よ」
「私に答えられる事でしたら、何なりと」
眞由璃が鷹揚な態度で応じるのを見た零児は、隣りにいる令二と顔を見合わせて、何を話すのかを手短に纏める。もし、これでも妥協点が探れなければ、交渉は完全に決裂――その場合は戦闘も辞さない決意を固めて。
「1つ。猟兵に属すことができれば人を喰わずにいられるのか」
ある程度の大規模な集団に所属すれば、土蜘蛛は自然に成長できると眞由璃は語った。
その「集団」に猟兵は果たして含まれるのかという零児の問いに、彼女はやや困惑した様子で答えた。
「それは貴方達の組織体制について知識のない私には答えかねる質問です」
生まれも育ちも種族も出身世界すらも違う「猟兵」という集団がどうやって連携を取り合っているのか、当然ながら眞由璃には知る由もない。果たしてそれが「組織」と呼べるものなのか、所属する事が可能なのか、知識がなければ判断する事もできない。
「貴方達が十分な組織力を有していると仮定した上で、オブリビオンである私が所属条件を満たせるのであれば……人を喰う必要はなくなるでしょう。それだけは言えます」
「結構だ。では次の質問に移る」
引き出せた回答を吟味しつつも零児は2つめの確認を行う。彼と令二が用意した提案はある意味ここからが本番と言っても良いだろう。それは非常に大胆とも言える案だった。
「2つ。自身又は仔がオブリビオンのままでなければならないのか」
「……? それは、一体どういう……」
「オブリビオンでなくなっても良いなら、少なくとも猟兵が手伝える」
問いかけを補足するように令二が伝えたのは、眞由璃を驚かせるに十分な発言だった。
オブリビオンである事を捨て、別の存在へと生まれ変わる。そんな事がもし可能であるのならば、双方の間にある問題は大きく改善に向かうだろう。
「俺からも聞いておきたい。眞由璃がオブリビオンじゃなくなった場合、眞由璃の提案とこちらの提案、交渉は無効と判断するのか」
前提が変わった瞬間に盟約を反故にされては困ると、令二は念を押すように質問する。
眞由璃は予想外の提案にやや動揺している様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻すと返答する。
「我が子の生存が保障されるのであれば、オブリビオンであることに拘る気はありません。その場合も停戦状態を維持するため、こちらから同盟を破る理由はないでしょう」
オブリビオンとして蘇ったからと言って、そうあり続ける理由は彼女にはないようだ。
種の繁栄と存続を第一に考えれば、種を脅かしうる力を持った猟兵との同盟には意義がある。ゆえに一度結ばれれた盟約を軽んじるつもりはないとも語った。
「眞由璃が生み育てる土蜘蛛に、オブリビオンでない者がいた場合どうするのか?」
「我が子であるのならオブリビオンか否かであるなど些細なことです。私が庇護し育てるべき者に違いはありません」
令二からのさらなる問いに、眞由璃は自分がオブリビオンではなくなっても、オブリビオンでない土蜘蛛が生まれてきたとしても、扱いは変える気はないとはっきりと答えた。
同族でないなら同胞と見做さず殺す等という、苛烈な排斥を行うつもりはないようだ。
「信用して頂けないのは当然でしょうが、土蜘蛛の女王の名にかけてお約束致します」
女王の誇りにかけての言葉となれば、これ以上は追求したとて他の回答はないだろう。
少なくとも今までの猟兵側の提案の中では、最も前向きな返答が得られたように思う。
「では最後に3つ。土地、食料が何かしらの形で保障されていれば猟兵の案を吞んでもいいのか」
「……その保障が最も難しいからこそ、お互いに案を呑めずにいるのだと思いますが」
現在の眞由璃並びに土蜘蛛化オブリビオンは人間を食料とし、世界遺産である法隆寺を領土として占拠している。転居や転属、志願者からの生気供給などの代案も出されたが、彼女を納得させるには今ひとつ至っていない。
「その2点が確実に保障されるのであれば、他の提案においては譲歩できますが……」
「今は種の存続のための基盤作りが第一ということか」
土地と食料の確保に必要だと言われれば妥協もする。問題はその確保の手段であるが。
人食いの性とそれを抑えるための組織力の強化が、どうしても摩擦を生みがちである。
「だが落とし所は見えてきた。引き続き交渉を続けたい」
「俺もだ。さっきも言ったように、猟兵からも手伝えることはある」
対話のための時間はまだあると零児と令二は判断した。もし彼らでなくとも、他の猟兵の知恵と力を集めれば良い案が出てくるかもしれない。眞由璃もそれに応じて首肯する。
「依存ありません……貴方達と戦うのは骨が折れそうですので」
そう言って女王はじいと二人を見る。この対話の間も彼らは気を緩めてはいなかった。
令二はイグニッション状態を継続しており、いつでも【諏訪湖の御神渡り】を発動できるよう詠唱兵器を構えている。さらに零児の背後には水火闇光樹雷土の7属性のオロチがとぐろを巻き、しゅうしゅうと舌を鳴らしながら女王を睨みつけていた。
「戦闘にならずに済むなら越したことはない」
「その場合は全力で仕留めるつもりだったがな」
いざ戦いとなれば零児の召喚したオロチは数千体に増え、【悪夢再現『大蛇大乱』】を引き起こすだろう。龍脈の力の化身であるオロチを、令二が御神渡りによる生命の根源力で強化しつつ、除霊砲撃や結界術でサポートすれば絶大な戦力となっていたはずだ。
「……やはり、猟兵の力は侮れませんね」
ゆめゆめ敗北するつもりは無いとはいえ、戦いとなれば分が悪いだろうと眞由璃も感じ始めていた。この事が両者の関係にどう影響するか――不穏をはらんだまま交渉は続く。
失敗
🔴🔴🔴🔴🔴🔴
仇死原・アンナ
アドリブ共闘歓迎
※対話や交渉を希望する者あれば彼等の交渉後に行動する
ついに姿を見せたか…土蜘蛛の女王…
我が名はアンナ…処刑人が娘…!
亡霊と化した貴方を今一度屠る為にここへ来た…
行くぞ…我は処刑人也…!
鉄塊剣を振り回し敵を攻撃
赤手による攻撃を[見切り武器受けのジャストガード]で受け止め
凝縮された精気を[生命力吸収]して[破魔とカウンター]で
敵を[なぎ払い吹き飛ばそう]
仮面を被り真の姿の[封印を解き]
鉄塊剣で敵を[貫通攻撃で串刺し]貫き【聖処女殺し】を発動
[怪力と鎧無視攻撃]で地獄の炎纏う刀身で[傷口をえぐり]
その身に深く突き刺してやろう
そうして地獄の炎による[継続ダメージ]で敵を焼き尽し屠ろう
女王の亡霊よ…地獄の炎に焼かれ闇へと帰れ……
そして眠れ……もう二度と目覚めぬように……
目を瞑り静かに[祈り]を捧げよう……
雛菊・璃奈
わたしは貴女の同盟に応じる…。
勿論、色々と約束事や解決しないといけない点はあるけど…。
みんな、わたしの家族で、元オブリビオン…。
わたしには人との共存を可能に適応化させるUCがある…。
このUCは敵意がある者には使えない…。
決して強制する力ではなく、貴女達の力を奪ったり、害を与えたりする事はない…。
共存を願う者に奇跡を与えるUC…。
多分、精気の接種量を適量化または代替化したりとか、オブリビオンになった事による世界への影響を抑えるとか、そういった形になる…。
もし、貴女達がわたし達を信じてくれるなら、このUCを受けてほしい…。
檻拡張までの間の被害等の問題も解決するし、貴女達も精気の接種で問題を抱え難くなるはず…。
共に歩むハードルは低くなる…。
ラン達や蝶子さん(演劇少女)等を呼び寄せ、自身の能力について説明…。
実際、UCを受けてるラン達がUCやブレス等の固有能力を使うのを見せ、能力を失ったり害を与えるモノでは無い事を説明し、説得するよ…。
救える命は救いたい…それがわたしの想いであり、信念だから…。
フレミア・レイブラッド
はじめまして、土蜘蛛の女王。
フレミア・レイブラッドよ。
わたしは貴女の提案に応じても構わないと思ってる。
理性的な相手には誠意を以て応じさせて貰うわ。
提案として、檻を銀誓館学園付近に移設できないかしら?
能力者や猟兵なら、多少精気を奪われても問題にならないし、今も旧来の土蜘蛛の人達が通い、檻拡大までという期限が決まっていて、(人を襲う必要が無くなる)前例もある事から理解も得られやすいと思うのだけど、どうかしら?
同盟として相互協力も行いやすいし…あまり不快に思って欲しくはないけど、立場的に相互監視もしやすいでしょう?
そもそも、過去に編入した土蜘蛛達は銀誓館に所属する事で組織レベルを達成したのよね?
なら、同じ方法で銀誓館や猟兵に所属すれば一気に達成できないかしら?
貴女にとって一番重要なのは一族の生存・繁栄でしょう?
元より難しい点があると解っての提案ですもの。
そちらも多少は問題解決に尽力して貰わないと交渉にならないわ。
※【魔城】を繋げてお付きで雪花やメイド隊を呼び、簡易的に会談の場を作って交渉
キリカ・リクサール
フン…停戦に同盟か
オブリビオンからそんな言葉を聞くとはな
とは言え、ここは仏が御座す聖域だ
一旦は矛を収めよう
…本来は私も、此処には相応しくない血塗れの兵士だからな
一応、お前の置かれてる状況は理解した
こちらからの要求はただ一つ「人間を殺すな」だ
喰わなければ生きていけない事は私にも理解できる
そして、その為に他者の生命力が必要な事もな
しかしだ、自分が生きるために今此処にいる人達を殺すと言うのなら、私は全力でお前に抗う
故に、妥協案だ
お前達が生き永らえるために人間から生命力を吸収するのはわかった
ならば、それを死なない程度…体調が悪くなる程度にまでは抑えられるか?
それが出来るなら、こちらも協力は出来る
此処は多様な知的生命体が存在する場所だ…命を奪わない程度の一時的なリスクであれば理解も得られるだろうよ
逆に、人々の命を奪う程の脅威は誰の理解も得られんだろう
今のお前達が私達に全力で抗おうとしてるようにな
交渉が決裂したら即座にUC発動
呪詛の獣へと変身して一気に切り込み、召喚された土蜘蛛と女王を鉤爪で蹴散らす
鏡島・嵐
なんだよそれ……力の強い弱いで相手を選んだり裏切ったりを決めるんか!
それは間違ってる! ……上手く言えねーけど、なんか違うだろ……!
真の姿解放。まあ目力が上がるだけで、見た目は大して変わんねえけど。
険しい表情は向けるけど、積極的に攻撃はしねえ。
女王の……土蜘蛛って種族の価値観。力の強弱で正義を決めるんか、話し合いで互いの幸せを模索するんか、そこを確かめねえと迂闊に動けねえから。
人間って生き物は、自分たちと“違う”奴と共存するのが下手糞なんだ。価値観を共有できねえとわかってて、そんな奴とよろしくやっていけるなんて、軽々しくは言えねえ。
……たとえ、アンタらがオブリビオンじゃなかったとしても、だ。
アンタらが本気で同盟を結びてえって言うんなら、まずその認識から改めてくれ。単に弱ぇからって相手を軽く見るんは、現在の人間の流儀に反するんだよ……!
これ以上言っても理解してもらえねえなら、力ずくだ。
待機させてたクゥと協力して、出来る限りの抵抗を試みる。
大町・詩乃
【騎神】
オーバーロードにて真の姿に
「眞由璃さんに譲れない理由がある事も、誇り高い方である事も判りました。ですが別世界とはいえ人に祀られ人と交わる神として、人々を餌にはできません。故に全力でお相手致します。」と礼儀正しく一礼。
眞由璃さんが放つ蜘蛛糸は衝撃波で散らし、念動力で逆に眞由璃さんを捉えるように操作する。
また結界術・高速詠唱で自分達の周囲に防御結界を形成し、更に内側には炎のオーラ防御を纏った天耀鏡を滞空させての盾受けで蜘蛛糸を焼き切るという、何重もの態勢で対応する。
その上で天候操作で雨を降らせて条件を満たし、神域創造を発動。
トリテレイアさん同意の元、彼を一時的に神使にして詩乃の神力を注ぎ込んで彼の能力を引き上げ、更に空間の絶対支配権により彼の行動成功率を大幅に上昇させます。
必要に応じて雷の属性攻撃・神罰・全力魔法・高速詠唱・スナイパーによる雷撃で眞由璃さんを撃って援護します。
私は人々と世界を護りたい。ですから眞由璃さんの後継者が人々と本当の意味で共存できるのなら私も力を貸しましょう。
トリテレイア・ゼロナイン
【騎神】
先ずは
謝罪いたします
土蜘蛛という種族とその歩みを軽んじる言動でした
人が『檻』に囚われ自由と意志を奪われ続ける事を
私は最後まで許容出来ませんでした
討たせて頂きます、土蜘蛛の女王!
命奪いし鋼の兵器の身なれど、今一時は命育む御身の使途とならん
どうか我が身にアシカビヒメの加護を!
UCで詩乃様と接続し二重強化で対抗
蜘蛛糸を掻い潜って接近し肉薄
剣で致命傷狙う一撃放ち
ケーブルを女王に放ち延命
親の顔を知らぬ子を生み出す事に正義などある筈も無し
ですが、人類の捕食者が対話を望んだ事に
これ以外に報いる術を私は見出せませんでした…!
嘗ての貴女の無念…
男女か卵か
騎士として貴女の仔を護ると誓い、そして母の仇という責務を負いましょう
私を“餌”として貪りなさい!
女王の繁殖の権能を己は精気…エネルギー供給強化
同時に電脳剣の電脳魔術で権能に干渉
尋常の土蜘蛛としての生誕を試行
葛城・未緒を始め銀誓館の土蜘蛛の巫女達いる限り
仔が冷遇される事は無し
後は、貴女だけです
誇り高き方だったと…伝えます
消耗厭わず稼働し、責務の一撃を
瞳ヶ丘・だたら
黄泉川(f29475)と。アドリブ等歓迎だ。
個人的にはオブリビオンと交渉などナンセンスだと思うが。
きみが矛を収めるのならばそれを尊重しよう。
ま、大した助言ができるわけではないがね。
まずは彼らがオブリビオンを栄養源にできるか否か確認。可能ならば、グリモア猟兵の予知を彼らにも伝える連絡網を作ることで戦闘に加勢してもらい、その生命力によって檻を維持してもらえばいい。Win-Winの関係という奴だ。
今より栄養効率は落ちるかもしれんが……その程度の妥協はしてもらわねばな。
無論、この案が否定され、代替案も無いようなら交渉も終わりだ。
こういう時の為に自動操縦機能がある。どんな相手にでも引き金を引けるように。
黄泉川・宿儺
POWで挑むでござる。※アドリブ等歓迎です
瞳ヶ丘・だたら殿(f28543)との連携プレイ
「猟兵」として、無辜の人々を犠牲にするような真似、
絶対に許さないでござる
……だけど、ここで拳を振るって、
同じことを繰り返すのが正しいことであると、小生には思えない
……【UC:変異・人間道】を使用
<瞬間思考力>を強化し、思考を重ねる
人間の生命力の代わりにオブリビオンのそれを使える可能性を思索
実現性を持たせるため、だたら殿に相談してみるでござる
……オブリビオンを土蜘蛛の糧として提供する為、
土蜘蛛と猟兵との同盟関係を結ぶためにはどうすればいいでござるか?
交渉に失敗したなら、そのときは……
覚悟はできてるでござるよ
「少し場所を変えないかしら?」
対話か闘争かで状況が揺れ動く中、猟兵と眞由璃にそう提案したのはフレミアだった。
彼女は異空間にある【魔城スカーレット】からお付きの眷属らやメイド隊を呼び寄せ、簡易的に会談の場を作っていた。
「まだ時間はあるんだもの。立ったままも何だし、腰を据えて話をしましょう」
「……良いでしょう」
まずは女王がこくりと頷き、用意された席に座る。それを見た猟兵の中からも、対話の意思がある者はおのおの席に付いて――『土蜘蛛の檻』を巡る交渉は改めて再開される。
「はじめまして、土蜘蛛の女王。フレミア・レイブラッドよ」
眷属達に用意させた紅茶のカップを傾けつつ、まずはフレミアが改めて自己紹介する。
こうして会談の場まで用意した事からも分かるように、彼女は今回の交渉に意欲的だ。
「わたしは貴女の提案に応じても構わないと思ってる。理性的な相手には誠意を以て応じさせて貰うわ」
「わたしも貴女の同盟に応じる……。勿論、色々と約束事や解決しないといけない点はあるけど……」
続いて賛成意見を表明するのは璃奈。現状のままでは問題も多々ある事を理解しつつ、それでも自らの信念に基づいて、できる限り多くの者を救おうとする姿勢は彼女らしい。
「『猟兵』として、無辜の人々を犠牲にするような真似、絶対に許さないでござる」
その一方、今にも殴りつけそうなほど拳を強く握って、眞由璃を睨みつける者もいる。
彼女――宿儺はかつて冷たい牢獄の中で幼少期を過ごしていた。人間を『檻』に閉じ込めて食い物にする女王に怒りを覚えるのは当然の事だろう。
「……だけど、ここで拳を振るって、同じことを繰り返すのが正しいことであると、小生には思えない」
「個人的にはオブリビオンと交渉などナンセンスだと思うが。きみが矛を収めるのならばそれを尊重しよう」
彼女が感情をぐっと抑えて会談の席につくと、その相方であるだたらも隣の席に座る。
だたら自身はあまり交渉に積極的でない口ぶりだったが、宿儺がそれを望むのであれば友として助言を惜しむつもりはない。
「フン……停戦に同盟か。オブリビオンからそんな言葉を聞くとはな」
そしてキリカは土蜘蛛の女王を睨めつけたまま鼻で笑う。吸血鬼の領主や邪神教団などに同じことを求められれば戯れ言だと切って捨てただろう。人類に仇なすオブリビオンは直ちに排除するのが自分の仕事だ。
「とは言え、ここは仏が御座す聖域だ。一旦は矛を収めよう……本来は私も、此処には相応しくない血塗れの兵士だからな」
あくまで仏の顔に免じてという形で、彼女はトリガーを引くのを保留して席についた。
これで会談の場に参加する猟兵は5名。この交渉で恐らく最終的な結論が出るだろう。
「一応、お前の置かれてる状況は理解した。こちらからの要求はただ一つ『人間を殺すな』だ」
最初にキリカが口にしたそれは、全ての猟兵にとって譲れない根本的な問題であった。
眞由璃と土蜘蛛化オブリビオンが人を捕食する危険性がある限り、彼女達はそれを放置することはできない。
「喰わなければ生きていけない事は私にも理解できる。そして、その為に他者の生命力が必要な事もな。しかしだ、自分が生きるために今此処にいる人達を殺すと言うのなら、私は全力でお前に抗う」
彼女のスタンスは明確であり、会談の場にいる猟兵にも、そして眞由璃にも理解できるものだった。猟兵とオブリビオン、あるいは人間と土蜘蛛の関係性を踏まえれば、それが自然な事とも言えただろう。
「故に、妥協案だ。お前達が生き永らえるために人間から生命力を吸収するのはわかった。ならば、それを死なない程度……体調が悪くなる程度にまでは抑えられるか?」
「生育に必要な最低限度の吸生に留め、殺生を避けよという事ですか」
キリカから提示された案が意味するところを、眞由璃はすぐに理解した。死者が出ない範疇であれば土蜘蛛化オブリビオンが人を食うのを許容する――確かにそれは妥協できるギリギリのラインだろう。
「それが出来るなら、こちらも協力は出来る。此処は多様な知的生命体が存在する場所だ……命を奪わない程度の一時的なリスクであれば理解も得られるだろうよ」
猟兵はもちろん、銀誓館学園も来訪者という多種多彩な異種族を迎え入れることで規模を拡大してきた組織だ。殺人を行わないという言質を得られれば、必要な生気の確保などに協力しても良いという者もいるだろう。
「逆に、人々の命を奪う程の脅威は誰の理解も得られんだろう。今のお前達が私達に全力で抗おうとしてるようにな」
「……妥当な提案だと思います。そして結論から申し上げれば、生気の吸収を人間が死なない程度に抑えることは可能です」
キリカからの最後通牒に対して、眞由璃は明瞭な口調で答えた。事実、彼女の『檻』に囚われた人間達にまだ死者は出ていない。一気に喰らうよりも時間をかけて生気を吸ったほうが効率が良いからだが、生気吸収のペースや頻度はある程度制御できるという事だ。
「しかし我々が人を喰らうのは生きる為の本能に根ざしたものです。理性で抑え込む事はできますが、全ての我が子がそれを徹底できるかは……軽々しく可能だと申し上げるのは逆に不誠実でしょう」
摂食が長期に渡れば、やがて箍が外れて暴食に走る者が出るかもしれないという事だ。
無論、極力人を喰わないように指導することはできる。だが全ての土蜘蛛が女王の命令に絶対服従する訳ではない――潜在的なリスクは残り続けると彼女は語った。
「確実に人を喰わない保障を求められるのなら、『檻』を拡大して組織の規模を強化し、人を襲う必要がそもそも無いようにするのが最良だと考えます。それまでの期間中ならば私の命令で配下を抑えておくこともできるでしょう」
「なら提案として、檻を銀誓館学園付近に移設できないかしら?」
交渉が進んだところで次の提案を出したのはフレミアだ。社会的な影響の大きい現在の法隆寺ではなく、銀誓館学園の目の届く所に『土蜘蛛の檻』を移設させるプランである。
「能力者や猟兵なら、多少精気を奪われても問題にならないし、今も旧来の土蜘蛛の人達が通い、檻拡大までという期限が決まっていて、前例もある事から理解も得られやすいと思うのだけど、どうかしら?」
過去の前例を何もかも否定する必要はない。組織として壊滅した土蜘蛛が種族としての命脈を保ったのは銀誓館の寛容さがあったからだ。この世界で能力者や来訪者が生きる基盤を築きたいのならば、彼らと協力するのが最も現実的だろう。
「同盟として相互協力も行いやすいし……あまり不快に思って欲しくはないけど、立場的に相互監視もしやすいでしょう?」
お互いにまだ全幅の信頼をおける関係性では無いのは眞由璃とて承知しているだろう。
ゆえにこの世界の他組織との同盟関係を結び、常に動向が目に届く状態においておく。それを抑止力とするのがフレミアの立てたプランだった。
「そもそも、過去に編入した土蜘蛛達は銀誓館に所属する事で組織レベルを達成したのよね? なら、同じ方法で銀誓館や猟兵に所属すれば一気に達成できないかしら?」
「……不可能ではないでしょう。しかし今の銀誓館の者達は同盟相手としては心許ない」
一度類似の提案をされた時と同じ回答を眞由璃は返した。世界結界の修復により弱体化した現在の銀誓館の能力者では、自分達に対する抑止力として弱いと考えているようだ。
猟兵の実力を認めるまでは姿すら現さなかった事からしても、彼女は"力"なき者を軽視する傾向がある。恐らくは動乱の時代を生きた来訪者としての閑静なのだろう。
「なんだよそれ……力の強い弱いで相手を選んだり裏切ったりを決めるんか!」
その態度に真っ向から異議を唱える者がいた。これまでは会談の席につかず、離れて様子を見守っていた猟兵の1人――嵐だ。真の姿を解放した彼は険しい表情を女王に向け、この時ばかりは恐怖心すらも忘れて叫ぶ。
「それは間違ってる! ……上手く言えねーけど、なんか違うだろ……!」
元々人間である嵐の見た目は真の姿になっても大して変わらず、目力が上がる程度だ。
しかし燃えるような激情を宿した彼の眼差しには、土蜘蛛の女王すら威圧し、黙らせるほどの気迫があった。
「人間って生き物は、自分たちと"違う"奴と共存するのが下手糞なんだ。価値観を共有できねえとわかってて、そんな奴とよろしくやっていけるなんて、軽々しくは言えねえ」
――たとえ、アンタらがオブリビオンじゃなかったとしても、だ。と嵐は土蜘蛛の女王に人間の価値観を説く。歴史を紐解いてみてもそれは明らかだろう。世界結界が完成し、神秘の記憶が抹消されるまで、この世界の人類と来訪者は相容れることはできなかった。
「アンタらが本気で同盟を結びてえって言うんなら、まずその認識から改めてくれ。単に弱ぇからって相手を軽く見るんは、現在の人間の流儀に反するんだよ……!」
今はもう『銀の雨の降る時代』ではない。人間、来訪者、ゴーストによる争いの時代は終わり、平和と共存の時代が訪れた。力のみが絶対の指標とされ、強き者が全てを統べるような過去のやり方を改めないのであれば、どの道明日はないだろうと青年は語った。
「……確かに。私が"死んでいた"十数年の間にも、世界は大きく変化したようです」
嵐の訴えを受け止めて、眞由璃は静かに目を閉じる。彼女はまだ復活して間もないが、世情の変化は薄々感じていた。未だ問題は多いながらも、人間達は争うのではなく平和な道を模索している。その流れの中にはかつてのわが子である土蜘蛛達もいた。
「ゴーストの元凶すら滅ぼしたという銀誓館学園なら、そのまま世界を支配する事も可能だったはず……ですが彼らはそうしなかった。武力のみに頼る征服を良しとしなかった」
前時代の敗者としての戦法に拘り続けるか、今の時代を築いた勝者のやり方に倣うか。
土蜘蛛の女王は黙考のすえ、穏やかな表情で目を開き――そして嵐の前で頭を下げた。
「無礼を侘びます。私はこの時代の人間達を侮りすぎていたようです」
この謝罪は、実際に眞由璃がこの時代の者達と矛を交え、その信念を体感したからこそ出てきた言葉でもあった。力なき者が相手でも時には妥協し、柔軟な視点と対応力を持つことの大事さを、彼女も理解してきたようだ。
「貴女にとって一番重要なのは一族の生存・繁栄でしょう? 元より難しい点があると解っての提案ですもの。そちらも多少は問題解決に尽力して貰わないと交渉にならないわ」
「仰る通りです。すぐに銀誓館に所属する事は難しいですが、『檻』の移設については同意しましょう」
フレミアからも妥協を促されれば、ようやく眞由璃は首を縦に振った。銀誓館学園には鎌倉の本拠地の他にも世界各地に傘下の能力者組織が存在し、それらの目が届く場所で、なおかつ社会的影響がなるべく小さい土地に『檻』を移すと彼女は答えた。
「土地の選定や『檻』の完成までに必要な生気の確保には、もう少し協議する必要があるでしょうが……」
「それなら小生からひとつ提案があるでござる」
残された問題に対して、徐ろにすっと手を挙げたのは宿儺。これまで議論に参加せず、【変異・人間道】を使用してひたすら思考を重ねてきた彼女は、数千倍に加速した思考力と相方との相談により、ひとつの可能性を導き出していた。
「こちらの意見を話す前にまず確認しておきたい。きみ達はオブリビオンを栄養源にできるか否かだ」
「……今、なんと仰られましたか?」
一緒に立ち上がっただたらからの質問に、眞由璃は意表を突かれた顔で目を丸くする。
オブリビオンがオブリビオンを栄養源に――それは当人には思いつけない盲点だった。
「土蜘蛛と猟兵との同盟関係を結ぶために、オブリビオンを土蜘蛛の糧として提供する。それが小生とだたら殿の考えでござるよ」
土蜘蛛の生育に必要となる餌を人間以外のもので賄うことで、互いの軋轢を回避する。
そのために人類と世界の敵であるオブリビオンを"使う"のは一石二鳥の妙案であった。
「可能ならば、グリモア猟兵の予知を彼らにも伝える連絡網を作ることで戦闘に加勢してもらい、その生命力によって檻を維持してもらえばいい。Win-Winの関係という奴だ」
具体的な内容をだたらが説明する。相談中は「ま、大した助言ができるわけではないがね」などと謙遜していた彼女だが、宿儺の考えを形にするために知恵を絞ったのだろう。猟兵は情報を提供し、土蜘蛛は戦力を提供する、相互協力の対オブリビオン同盟案だ。
「今より栄養効率は落ちるかもしれんが……その程度の妥協はしてもらわねばな」
「なるほど……生命としての実体を得たオブリビオンであれば、原理的に不可能ではないと思います」
眞由璃にオブリビオンへの仲間意識はない。彼女が同族として認めるのは我が子である土蜘蛛化オブリビオンだけだ。ゆえに彼奴らが人間にかわる捕食対象になり得るのなら、躊躇する理由はないようだ。
「ただ、実際に試したことはないので、本当に可能かどうかここで証明する事は……」
「それなら、わたしの力が役に立つと思う……」
眞由璃と新生土蜘蛛が、他のオブリビオンを食らって生きる事は果たして可能なのか。
それを実現するために声を上げたのは璃奈だ。彼女はまっすぐな眼差しで眞由璃を見つめながら、6人のメイド人形と3匹の仔竜、そして学生服を着た少女らを呼び寄せる。
「この子達はみんな、わたしの家族で、元オブリビオン……わたしには人との共存を可能に適応化させるユーベルコードがある……」
「そんな力が……?!」
これには眞由璃も驚きを隠せなかったようだ。嘘ではないと証明する為に呼んだ家族の前で、璃奈は【共に歩む奇跡】を発動する為の小さな呪符を取り出して、説明を続ける。
「この力は敵意がある者には使えない……決して強制する力ではなく、貴女達の力を奪ったり、害を与えたりする事はない……共存を願う者に奇跡を与えるユーベルコード……」
説明に合わせてメイドや仔竜達が剣技やブレス等の固有能力を披露し、能力を失ったり害を与えるモノでは無い事を示す。璃奈の提案に応じても土蜘蛛が土蜘蛛でなくなったりはしないという事だ。
「多分、精気の接種量を適量化または代替化したりとか、オブリビオンになった事による世界への影響を抑えるとか、そういった形になる……」
精気摂取の代替化。それは、まさに宿儺とだたらが提示した同盟の提案とも合致する。
世界の敵を"捕食"する者として人類との共存の道を歩む。それは対話の末に生まれた、誰もが当初は予想しえなかった結論だった。
「もし、貴女達がわたし達を信じてくれるなら、このユーベルコードを受けてほしい……檻拡張までの間の被害等の問題も解決するし、貴女達も精気の接種で問題を抱え難くなるはず……。共に歩むハードルは低くなる……」
「……では、まずは確かめさせて頂きます」
眞由璃は配下の土蜘蛛化オブリビオンを召喚し、璃奈の差し出した呪符に触れさせる。
すると彼の体は符の中に吸い込まれていき――ほどなくして戻ってきた。外見上は何ら変わらないように見えるが、雰囲気が幾分か大人しくなったように感じる。
「確かに、この者は先程までとは違う……本質は変わらぬまま、性質が若干変化したのが分かります。貴女の能力に偽りはないようです」
女王として配下の変化を鋭敏に感じ取った眞由璃は【共に歩む奇跡】の効果を認める。
この力で全ての土蜘蛛化オブリビオンを最適化すれば、同盟締結における最大の問題は改善する。
「無論、この案が否定され、代替案も無いようなら交渉も終わりだ」
「そのときは……覚悟はできてるでござるよ」
これ以上の条件はおそらく提示できまいと、だたらと宿儺が語気を強めて返答を促す。
会談の場にいる他の猟兵からの注目も集まる中で、ついに土蜘蛛の女王は決断した。
「……現在ここにいる全ての我が子を"適応化"した後、銀誓館の監視の届く場所に『檻』を移設。以後は要請に応じてオブリビオンとの戦いに協力し、それを捕食する事で『檻』の拡張が完成するまでの糧を得る……以上の条件で、私は猟兵との同盟を求めます」
会談の席についた猟兵の中で、この同盟案に異議を唱える者はいなかった。交渉が決裂した時に備え、引き金を引く覚悟を決めていた者達も、ほっとしたように闘志を緩める。
ここに、過去の記録を紐解いても稀に見る、猟兵とオブリビオンの同盟が締結された。
「本来ならば滅ぼすべき存在であるはずの私達への厚情に、心より感謝いたします」
「救える命は救いたい……それがわたしの想いであり、信念だから……」
敵対者から同盟者となった猟兵に、眞由璃は深く頭を下げる。それに応じる璃奈の表情はどこか嬉しそうに見えた。彼女だけでなく多くの猟兵が各々の信念に従ったからこそ、この結論は出来上がったのだろう。
「それじゃあ、貴女にも奇跡を……」
「いえ、私は最後で構いません。残っている我が子達の"適応化"を先に頼みます」
そう言って彼女は会談の席を立つ。何処へと問いかけられると「皆を集めてきます」と答える。これまでの余裕のない様子と比べて、今の彼女は穏やかな雰囲気を纏っていた。
「……"私の子供達"を、どうかよろしくお願いいたします」
威厳ある女王ではなく「母」としての表情で、優しくにこりと微笑む眞由璃。
そこにある種の「覚悟」を感じ取れる猟兵はいたが、引き止められる者はいなかった。
彼女の姿は真夜中の境内へと消えて――そして、二度と会談の場に戻る事はなかった。
●
「話は終わったか……土蜘蛛の女王……」
「ええ。お待たせしました」
独りになった土蜘蛛の女王に、暗闇の中から黒衣の処刑人――アンナが声をかける。
対話や交渉の場には参加せずに様子を見ていたが、その殺気は彼方からでも女王の元に届いていた。業火を纏う鉄塊剣「錆色の乙女」を突きつけて、彼女は名乗りを上げた。
「我が名はアンナ……処刑人が娘……! 亡霊と化した貴方を今一度屠る為にここへ来た……」
あくまで対話を希望する者がいたように、あくまで女王との戦いを選択した者もいる。
種族繁栄の為に他者を喰らうオブリビオン、その危険性を重く受け止めた者達である。
「……亡霊とは確かにその通りです。あの者達と話をする事ではっきりと分かりました。私はもはやこの時代から取り残された、過去の亡霊なのだと」
自らの赤手をじっと見つめながら眞由璃は語る。動乱の時代に生まれ落ちた彼女には、武力を前提として種を永らえさせる選択しかできない。或いはオブリビオンと化した事で思考が固定されてしまったのかもしれないが、それは他種族との軋轢を生じさせる。
「恐らく私には【共に歩む奇跡】とやらも効かない。無闇に増殖する人類の『捕食者』……それが本来の土蜘蛛の使命だという思想が、私の中には刷り込まれています」
新生土蜘蛛と猟兵の同盟における、最大の不穏分子は自分だった。今はこれが種の存続において最善だと判断しても、状況が変化すればまた自分は人類の捕食者に戻るだろう。
種の垣根を越えて、真剣に和平と共存を望んで対話に応じてきた彼らとの、根本的な所での価値観の違いを眞由璃は悟っていた。
「私は国見・眞由璃の『過去』であり、土蜘蛛という種族の『過去』でもあるのかもしれません。新しい時代を生きる我が子らの為、かつての遺恨と古き価値観は消え去るべき」
既に覚悟を決めた様子で、眞由璃は戦いの構えを取る。無論ながらタダで討ち取られてくれるつもりはなく、土蜘蛛の女王の矜持にかけて最期まで抗い抜くつもりのようだ。
「何より私は、この事件を引き起こした責を取らねばなりません。さあ、貴方達も」
彼女が視線を動かした先には、機械仕掛けの騎士と、女神の姿を顕した戦巫女がいた。
トリテレイアと詩乃。この二人も同盟を真剣に協議した末に、戦う道を選んだ猟兵だ。
「先ずは謝罪いたします。土蜘蛛という種族とその歩みを軽んじる言動でした」
先程の対峙においての自らの発言を謝った後、トリテレイアは静かに剣を抜き放った。
理想に焦がれながら合理を重視する彼は、無辜の民に対するリスクを決して許せない。
「人が『檻』に囚われ自由と意志を奪われ続ける事を、私は最後まで許容出来ませんでした」
たとえ吸精の問題が改善されても、『檻』を拡張し組織力を維持する過程では相当数の人間が巻き込まれるだろう。それが人命を直接的に脅かす事は無いとしても、女王という強大な存在が生殺与奪の権を握るのは潜在的な脅威を孕み続ける。
「眞由璃さんに譲れない理由がある事も、誇り高い方である事も判りました。ですが別世界とはいえ人に祀られ人と交わる神として、人々を餌にはできません」
真の姿となった詩乃――女神アシカビヒメもまた、機械騎士と共に戦いの舞台に立つ。
眞由璃に女王としての使命があるように、彼女にも神としての使命がある。普段はおおらかな巫女も今は女神としての厳格な一面を見せ、人に仇なす化生の者と対峙する。
「故に全力でお相手致します」
「討たせて頂きます、土蜘蛛の女王!」
「行くぞ……我は処刑人也……!」
礼儀正しく一礼し、得物を構える詩乃とトリテレイア。そこにアンナを加えた三名が、この事件に決着を付ける。対する眞由璃は小さく笑みを浮かべ――すぐに冷徹なる女王の表情となって、彼らを迎え撃った。
「さあ、その命をもって女王の黄泉路に華を添えなさい、猟兵達よ」
「断る……これから死ぬのは貴方だけだ……土蜘蛛の女王……」
【眞由璃紅蓮撃】の構えを取り、悠然と仕掛けてきた眞由璃に対し、真っ向から応じるはアンナ。赤手による攻撃を鉄塊剣で受け止め、そこに凝縮された精気を逆に吸収する。
「吹き飛べ……!」
そのまま刀身に破魔の力を込めてカウンター。膂力と重量を活かした押し返しにより、眞由璃の身体が宙に浮く。自ら跳ぶことでダメージを軽減したか――しかし距離が開けば隙が生まれる。その間にアンナは懐からペストマスク風の黒色の仮面を取り出した。
「命奪いし鋼の兵器の身なれど、今一時は命育む御身の使途とならん」
時を同じくして、トリテレイアは詩乃と自身の身体をケーブルで繋ぎ、【電脳禁忌剣・特殊駆動機構:『騎士の誓約』】を発動していた。この接続が断たれない限り、両者の力は飛躍的に向上する。禁忌剣アレクシアに秘められた超技術のひとつだ。
「どうか我が身にアシカビヒメの加護を!」
「承知致しました。干天の慈雨を以って私はこの地を治めましょう」
更に力を希う騎士に応じて、詩乃が『土蜘蛛の檻』内部の天候を操り、雨を降らせる。
植物を潤す慈雨が降り注ぐ中で、彼女は【神域創造】を発動。戦場の支配権を掌握した上で、増大した神気をトリテレイアに流し込んでいく。
「何のつもりかは分かりませんが……」
儀式めいた二人の行動に脅威を感じた眞由璃は、それを阻止せんと蜘蛛糸の束を放つ。
しかし詩乃がさっと手を振ると、二人の周囲に防御結界が形成され【土蜘蛛禁縛陣】を弾く。更に炎のオーラを纏った「天耀鏡」を滞空させ、結界の内側に入ってきた蜘蛛糸を焼き切るという念の入れようだ。
「硬い。ならばこの手で直接……」
「そうは行くものか……!」
赤手を握り接近戦の構えをみせた女王の元に、猛然と挑み掛かったのはアンナだった。
処刑人の仮面を被り、真の姿の封印を解いた彼女の髪は朱く染まり、全身から地獄の炎が轟々と燃え盛っていた。
「我が炎と剣で貴方を焼き尽くそう……」
「地に還すつもりもないとは、周到な事です」
獄炎を纏った鉄塊剣と、赤手の巨大な鉤爪が、激しく打ち合い爆炎を散らす。技においてはアンナが、力においては眞由璃が僅かに優勢か。互いに必殺の一撃を放ち続けながら巨大な得物を防御にも利用して、決定打を絶妙に回避している。
(あと一手が遠い……)
超克(オーバーロード)に至った真なる処刑人の力を以ってしても互角とは。亡霊なれど、或いは亡霊であるが故の凄まじい気迫で、土蜘蛛の女王は獲物の命に肉薄してくる。
「お行き下さい、トリテレイアさん……いえ、我が神使よ」
「了解。発進します!」
この拮抗を打破すべく立ち上がったのは、詩乃との契約儀式を終えたトリテレイアだ。
同意の元で女神の神使となった彼は、与えられた神気と神域化した空間の相乗効果で、大幅に能力を引き上げた。地面をひと蹴りするだけでその巨体は砲弾のように飛び出し、目標との間合いを一気に詰めていく。
「この力……神々さえも敵に回りますか。相手にとって不足はありません」
眞由璃は右腕の赤手でアンナと打ち合ったまま、トリテレイアに左手の指先を向ける。
接近される前に【土蜘蛛禁縛陣】で動きを封じる腹積もりか――しかし、放たれた糸は空中で不自然に軌道を変化させ、逆に眞由璃自身に襲い掛かった。
「従う者には恵みを、抗う者には滅びを、それがこの地の定めとなる」
この空間の支配権は今、女神アシカビヒメの掌中にある。その神力を以ってすれば糸を衝撃波で散らし、念動力で操作する事も可能。自らの蜘蛛糸に左手を絡め取られた眞由璃の動きは僅かに鈍り――直後に狙い澄ました神罰の雷撃に射抜かれ、身体が痺れる。
「お覚悟を!」
その間隙を縫うように肉薄したトリテレイアが、電脳禁忌剣による渾身の一撃を放つ。
詩乃より授かった加護も込めた、確実に致命傷となりうる斬撃。眞由璃は辛うじて身を躱したものの――無防備となる直後の隙を、処刑人は見逃さない。
「捉えたぞ……!」
地獄の炎纏う「聖処女殺し」が眞由璃を貫くと同時、アンナは【聖処女殺し】を発動。
まるで花開くように刀身が四方に展開し、傷口を抉るようにその身に深く突き刺さる。
「――……ッ!!!」
身体を熱し貫く痛みに、眞由璃は悲鳴を押し殺す。本来なら地べたをのたうち回ってもおかしくない激痛のはずだ。燃える刀身を赤手で掴んでも、変形したそれは引き抜けず、むしろ動かせば余計に肉に食い込んでダメージを与える。
「ここまで、ですか……」
腹を剣で串刺しにされ、獄炎にその身を焼かれながら、眞由璃はがくりと膝をついた。
勝敗は決した。流石の土蜘蛛の女王とて、ここから逆転する策や力は持ち合わせない。あとは炎に焼かれて散り逝くのみ――そんな彼女の前に、トリテレイアが静かに立つ。
「……ああ。まだ貴方からの"提案"がありましたね」
「はい。もし貴女にまだ心変わりが無いようでしたら」
詩乃と結んだのと同じケーブルを眞由璃にも繋ぎ、自身と生命を共有させて延命する。
これはあくまで一時的な措置だ。彼女が次代の"土蜘蛛の女王"を産み落とすまでの。
「親の顔を知らぬ子を生み出す事に正義などある筈も無し。ですが、人類の捕食者が対話を望んだ事に、これ以外に報いる術を私は見出せませんでした……!」
「……謝罪の必要はありません。跡継ぎを遺せるのならば、私にもう未練はありません」
悔悟の声で語るトリテレイアに、眞由璃は穏やかに言う。自分という旧き女王が死に、新たな女王が我が子らを率いていくのなら、組織としての一族は保たれ、猟兵との同盟も引き継がれる。願わくば、新たな女王が共存の意義と和の尊さを知る者であれば幸いだ。
「嘗ての貴女の無念……男女か卵か。騎士として貴女の仔を護ると誓い、そして母の仇という責務を負いましょう」
女王の答えを聞いた騎士は、誓いの言葉とともに電脳剣を起動させる。土蜘蛛の女王が持つ繁殖の権能に電脳魔術で干渉し、同時に生誕に必要なエネルギーを供給するために。
「私を"餌"として貪りなさい!」
膨大な量のエネルギーがトリテレイアの体から吸い出されていく。無尽の動力炉であるコアユニットとて、一度にこれだけ消費すれば不調をきたすほどの。しかし彼は迷いなく全エネルギーを明け渡す覚悟であった。
「私は人々と世界を護りたい。ですから眞由璃さんの後継者が人々と本当の意味で共存できるのなら私も力を貸しましょう」
一時的なものとはいえ自らの神使たっての望みを叶えるべく、詩乃も神域で支援する。
すると、大量の精気を得た眞由璃の身体から無数の蜘蛛糸があふれ、空中で渦を巻き、絡み合い――ちょうど人間が一人収まるサイズの繭を作り上げた。
「……感じます。この繭の中で眠る"我が子"はオブリビオンではない……私の力と知識を受け継いでいますが、尋常の土蜘蛛です」
繭を見上げながら眞由璃が口にした言葉は、トリテレイアが求めた通りの結果だった。
銀誓館学園の土蜘蛛の巫女達がいる限り、この仔が冷遇される事は無いだろう。また、学園には降伏してきた来訪者達に現代の知識や倫理観を教えるための教育制度もあった。
人類との共存を学んだ仔が新生土蜘蛛の女王となれば、軋轢や被害も抑えられる筈だ。
「後は、貴女だけです。誇り高き方だったと……伝えます」
「宜しく頼みます」
今も獄炎に焼かれ続けているのに、眞由璃は最期まで誇り高い態度で居住まいを正す。
刑の執行を待つ武士のような佇まいの前で、トリテレイアはエネルギーの消耗も厭わず身体を稼働させ――責務の一撃を振り下ろした。
「此度も生き延びる事は叶いませんでしたが……新たな子供達よ、貴方達は……」
祈るような囁きを残して、土蜘蛛の女王は事切れた。その遺体は炎に包まれ灰と化す。
「女王の亡霊よ……地獄の炎に焼かれ闇へと帰れ……そして眠れ……もう二度と目覚めぬように……」
遺灰よりたなびく煙が夜空に消えていくのを見上げると、アンナは目を瞑り静かに祈りを捧げる。女王としての使命に取り憑かれた御霊が、今度こそ安らぎを得られるように。
――かくして、現代に蘇った土蜘蛛の女王、国見・眞由璃による騒乱は終結する。
事件の首謀者である眞由璃は、その責を取る形で戦死。女王の座は彼女が残した"仔"に引き継がれ、『土蜘蛛の檻』は法隆寺とは別の場所に移設した上で存続する事となった。
以後、この檻に属する土蜘蛛化オブリビオンは猟兵の同盟者として共存の道を進む。
この関係性がいつまで維持できるかは定かではないが――それが稀に見る事例であり、互いにとって大きな最初の一歩である事は確かだった。
失敗
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