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貴方の目に映る世界は

#アポカリプスヘル #【Q】 #戦後 #ベース・コンストラクション #ワトソンビル #フリーダム

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#アポカリプスヘル
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#【Q】
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#戦後
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●ひとひらの自由
 アメリカ合衆国、カリフォルニア州中部。
 キャラバンの車列が連なり、砂塵を巻き上げ荒野の道を突き進む。
 アポカリプスヘルという危険に事欠かない世界で流通を担う彼らが運んでいるのは、常であれば貴重な物資のハズなのだが、今回荷台に乗っているのはある意味それよりも貴重なモノ――人間だった。
 といっても別に奴隷を運んでいるわけではない。いや、奴隷であったがつい最近自由になった人たちがそこに乗って居た。

「やぁ、そろそろ見えてきたぞ!」
 廃墟と化した都市と、その周辺に広がるかつての大規模農場の跡を視界に入れる頃。一時休憩のために車列が足を止めると、荷台に乗っていた人々が景色と新鮮な空気を求め降りてくる。
「ありがとうございます。ようやく……ようやく帰って来られました」
 人の手による灌漑設備も長い間稼働せず、オブリビオン・ストームやレイダーに蹂躙されるばかりだった農場。そこにかつての緑はなく、枯れ果てて地肌を晒していて。
「これでようやく……ようやく私は……」
 肩の荷が一つ降りてほっとしたような、無惨に朽ちた故郷を見て気落ちしているような、そして何かに納得してしまったような、形容しがたい表情で一人の女が呟いた。
「自由になれる」
「そうだな。なんたってここは一応、自由の国アメリカだ!」
 気の良さそうな案内役のおじさんが朗らかに笑うが、明るい顔を見せる者は少ない。
「ねぇママ、じゆうってなぁに?」
 右目に眼帯をしている幼い男の子が彼女――母親を見上げて尋ねた。男の子からは逆光で母親の表情が良く見えなかったが、なんだか話しかけずにはいられなかったから。
「……自由っていうのはね。もう何も縛るものが無くて、好きにしても良いってこと」
「そうなんだ」
 男の子はうなずきながら考える。
(じゆうってこわいことなのかな? もしそうなら、ぼくがまもってあげたいけれど)
 居なくなったパパに比べてこの腕はまだ細すぎて頼りない。それに、この手にはもっと細く頼りない手が繋がれていて……少しだけママを怖がっているから、ぼくがしてあげられることはとても少ないのだ。
「坊主は偉いな。何か困ったことがあったら、いつでもおじさんたちに言っていいんだからな」
 男の子が手をつないであげている女の子は旅の途中も一言も喋らず、両の目に目隠しをしていた。親切そうなおじさんに気にかけてもらいながら、男の子は何だか申し訳なくなった。
 知らない人がやさしくしてくれても、怖いと思ってしまうし、戸惑ってしまうから。
「ありがとう。おじさん」
「ああ! 遠慮すんじゃねえぞ!!」
 人さらいかもしれない、よそのヴォーテックスの奴隷狩りかもしれない。もっと悪ければ肉屋に捕まるかもしれない。そんな風に身を守るために教えられた疑うことが消せないのだ。信じられるのはパパと……いや、パパはもう居ないから今はママだけ。もっと小さい妹にとってはぼくだけなのかもしれない。
「もしかしたら全部が悪い夢で。いつか目が覚めたら全部が……」
 でも、遠くを見るママの悲しそうな声を聴くと考えてしまうのだ。
 もしかしたらぼくたちは。
(いないほうが、いいのかな……)
 ママを怖がっている、しゃべらない妹の、なにもうつさない洞から涙がポロポロと零れはじめた。男の子は自分の不安が伝わってしまったことを後悔しながら、よしよしと妹の頭をなでてなぐさめる。
「だいじょうぶだよ。じゆうになって、すきなことをしていいなら」
 ぼくは――。

●拠点を造ろう!
「ここがグリモアベース……」
 その日、貴方が依頼を確認しにグリモアベースを訪れると、おのぼりさんのようにキョロキョロしている幼女を見かけた。あまり見かけない顔だが、こちらに気づくと慣れた動きで敬礼を送ってくる。
 話を聞くと彼女はどうやらなりたてのグリモア猟兵らしい。彼女が造られた故郷でもあるアメリカの戦後処理に関して手伝ってくれる人を探しに来たようだ。
「任務……いえ、相談です。何せわたしも、そして彼らも、対価として支払えるだけのモノを持っていませんので」
 手に入るモノがあるとすれば、人類の栄光を取り戻すために働いた、そのささやかな名誉ぐらいだと彼女――リア・アストロロジー(良き報せ・f35069)は言う。
 その内容は、新たな拠点を築き人々の生活基盤を整える手助け。
「西海岸、カリフォルニアの農場の一つに移住してもらう計画が進められています」
 かつての大農業地帯を復興させるための拠点作り、とまではいかないにしても足掛かりとして。そして冬を迎える前に温暖な土地で過ごせる環境を整えようとしていると。
「入植者となるのはヴォーテックスシティから解放された者や、クソババ……失礼、ブラッドルビー・ヴォーテックスの奴隷だった人たちなどです。拠点候補地は元の故郷に近い者もそれなりにいるようですが、ここが新天地となる者の方が多いでしょうね」
 奴隷から解放された中には一人で自立できる逞しい人間たちばかりではなく、放置すればまた誰かの食い物にされかねないであろう人たちも居る。各拠点も一気に大勢を受け入れるのは保安上リスクが高く、そもそも余裕もあまりない。
 だが、そういった人々を生かすのであれば冬が来る前に備えなければならない。そこでいくつかのキャラバンと拠点が協力して、冬季でも比較的温暖な土地への難民の移住を支援しようとしているそうだ。
「解決がむずかしい問題がいくつかあります。奴隷として長年痛めつけられてきた人たちは明らかにまだ我々を信用をしていませんし、こちらとしても信用できない部分は多々残っています」
 リアが言うには場合によっては裏切りや物資の略奪などを目的とした、二心を抱く者も恐らく混じっているだろう、ということ。
「人はいくらでも残酷になれる。なんの意味もなく衝動に任せて……強いて言えば退屈したからとかそう言った理由で人を痛めつけて笑えるし、知恵と悪意で武装した狡猾で醜悪な獣になれることを、彼らは身を以て知っています」
 人の善意を無邪気に信じられる者は既におらず、だから今もひどく緊張した状態が続いているのだと。
 そんな中、早々に裏切りやほころびが出れば辛うじて保たれている秩序は崩壊してしまいかねず――かすかな期待を抱いてしまった分、心を閉ざしてしまうだろうことも想像に難くない。そうなれば新しい拠点の運営は困難を極めることとなってしまうだろう。
 では、裏切る可能性のある者を見つけ出し、秘密裏に始末すればいいのかというと。
「はい、いいえ。出来るならば誰一人として裏切らないように抑止して欲しいのです」
 そんな必要が無いことさえ分かれば自然と集団に貢献しようとするような者たちを選んでいるし、共に新しい拠点を築き上げる労働の中で連帯感を高めて欲しいという。
「我儘の多いことをお許しください。それでも、わたしはわたしの妹たちに世界は美しかったと語りたいのです――いつかわたしが骸の海に沈む日に、この世界に生まれてきたことを誇りながら」
 グリモアベースのゆらぎ移り変わっていく風景の中で、いかにも感情の乏しい風なフラスコチャイルドの青い目が、じっと貴方を見つめていた。


常闇ノ海月
 頼れる仲間はみんな目が死んで……ない!
 常闇ノ海月(とこやみのくらげ)です。
 オープニングをご覧いただきありがとうございます。

 今回のシナリオは拠点作りへの協力です。
 2章ではオブリビオンの襲撃(?)があることが予見されていますので後にそちらの対応も必要になってきますが、詳細は1章終了後の断章にて公開いたします。

●目標
 移住者がなるべく快適安全に過ごせるよう拠点の構築を支援すること。

 サバイバルの原則に則るなら 環境・安全>水>食料 な優先順位ですが、今回は心理的な面も関わってくるので一概に何がベストとは言い切れないかもしれません。
 食料・物資についてはある程度は拠点やキャラバンの方から支援があるようです。

●場所
 中部カリフォルニアのどこかにある農場。北より想定ですが詳細な位置は割愛。
 かつてはイチゴやリンゴ、ベリー系の産地だったようです。
 元は農地価格も馬鹿高い好条件な場所なので、キャラバンや拠点の人たちも投資する価値を感じているようです。
 平地が多いので、川と平地の見晴らしの良さを生かして居住施設、防衛設備等を整備していきます。
 フラグメントを参考にしつつ、ある程度拡大解釈していただいてもOKです。
 施設や設備の機能に関する作業はWIZかなと思いますが、それ以外でもヨシ!

●登場人物
 OP冒頭に登場する母子はクソババ……ーン!! ブラッドルビーの被害者です。
 イッツェルさん(20代前半)……若いお母さん。実家はイチゴ農家だった。
 サジルくん(6歳)……頑張ってる男の子。
 サレニちゃん(4歳)……トラウマてんこもり。
 気のいいおっちゃん(中年)……キャラバンの偉い人。普通にいい人。

 裏切りそうというか要注意なのはヴォーテックスシティからの移住・帰還組です。
 スリや盗みは挨拶がわり。
 間抜けや弱い奴が奪われるのは当たり前。
 ヤラれる前にヤレの精神。
 旧文明時代のモラルや常識は壊れてます。ある種の悪党だらけ。
 他、リアの知己の拠点から人員が駆り出されており闇医者等が参加しています。
 猟兵として協力を依頼すれば、内容によって聞いてくれたりくれなかったり…?

 リスクや制限が発生する可能性もありますが、交流を優先する場合は変装や演技に自信があれば元奴隷や悪党として振舞うのもアリかもしれませんね。
 あまり結果に拘らず、やりたいようにやってみて下さい。

 では、願わくばよい旅を。
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第1章 冒険 『明日を掴む為に』

POW   :    井戸を掘る、用水路を作る等水回りを整える

SPD   :    食料を探す、または食料生産ラインを構築する

WIZ   :    廃墟を漁り、利用できそうな物を探してくる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●自由への招待
 真っ暗だったトラックの荷台のドアが開いて、眩い光が差し込む。
「おはよう諸君! 良く眠れたようで何より!」
「……」
 大物軍人然とした風格を漂わせる闇医者――俺を薬か何かで眠らせ、ここまで拉致してきたイカレ野郎がいけしゃあしゃあと挨拶して来て殺意が湧くが、感情任せに手を出すわけにもいかない。あの状況から命があっただけ丸儲けだ。
「突然こうして集められて戸惑う者もいることだろうが、諸君らは選ばれたのだ。まずはおめでとう!」
 くたばれ、クレイジーサイコ野郎。
 内心で毒づきながらも早速逃げる隙を窺う者、先ずは一旦服従するべきかと思案している者――奴らも感じているのだろう。コイツは自分以上にロクでもない悪党だと。
「我々はこれからここに新しい拠点(ベース)を造ろうとしている。君たちに期待する役割は三つだ。まずは拠点の自衛のための戦力として戦って欲しい。それから、皆で生きるための労働力として働き給え!」
 戦え、働け。シンプルな要求。その為の準備を今から始める、ということらしい。
「そして三つめだが……『汝の欲することをなせ』。ベースが性に合わないというなら他所に行っても構わんし、多少であれば援助もしよう……以上だ!」
 臓器を提供しろだの実験体になれだの言われなかったことに戸惑いつつ、俺はこう思ったね。周囲のならず者たちも、恐らく同じ気持ちだったんじゃないか。

(じゃぁ拉致すんじゃねーよ……)





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●マスターより
 ご覧くださりありがとうございます。
 ヴォーテクッスシティ周辺組も到着したようです、ということでぼちぼちプレイング募集をかけたいと思います。

●プレイング送信とリプレイ執筆について
 筆が遅いので、プレイングは出来れば再送前提でお願いしたいと思います。
 それでもOKやで! という方は、ゆっくりしていってね!

 1度目のプレイングはいつでも構いません。再送時の内容変更もOKです。
 再送プレイングは、リプレイを10/21~24に集中的に仕上げに入る予定ですので、10/22~23までに再送して頂ければリプレイに反映出来る可能性が高いです。
 変更等があった場合、タグとマスターページにてご案内しますので、お手数ですがご確認いただけると幸いです。

●他
 書き忘れてましたが、町からは海も近く海岸まで2~3kmの位置です。
 断章にあるように拉致られてきたのは一部のみで全員ではありません。

 行動に関しては、大きく分けて
 ・POW 水回り(農業・生活用水などの整備)
 ・SPD 食料関係(農業生産・周辺の捜索、廃墟等から調達)
 ・WIZ その他物品、機械など(捜索、周辺の捜索、廃墟等から調達、修理)

 ・防衛に関すること
 ・交流に関すること

 などがあると思います。
 できれば完全一点集中より、さらっとでも2つ目の要素に触れて置いて頂けた方が、登場シーンに厚みが出しやすいかもしれません。

 ではでは、皆様のプレイングお待ちしてますー。
ルドラ・ヴォルテクス(サポート)
それは亡霊。
オブリビオンを狩りに現れ、狩が終わると忽然と姿を消してしまい、捉える事はできない。
もう肉体的な終焉は迎えた筈だが、その意志が、平穏な世界を破壊する者に終わりを告げに再臨させているのだと言う。

戦闘は嵐のように激しく、されど、無言のまま、生前のものと思しき武器やUCが振るわれる。

復興の妨げになるものがあると、力を振るい障害を破壊するが、たちまちの内に砂塵の向こうに消え、言葉を発する事はない。

主な武器は生前所持していた武器類、ユーベルコードは制限なく使用可能。

※ 他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。



●這夜禍神
 真っ暗闇でどこまでも落ちていきそうな空に、真っ赤な月が二つ浮かんでいた。
 気味が悪くて、逃げようとしてもどこまでもどこまでもついて来る二つの目玉。
「オニイチャン」
 妹の声。
 ……ああ、これは夢だ。夢の中では妹はこうしてしゃべってくれるけど、ぼくはいつもそのことをほとんど覚えていない。ただ、いつも何か危険が迫っているときに、ぼくをたすけるために何かを伝えに来てくれているのだと、夢の中でならわかるのだけど。
「トモダチニ、ナル?」
 たくさんの目玉たちが笑った。
 アヒョヒョアヒョア。
 空に浮かぶ、星のような数の目玉がじっとこちらを見ていた。ぼくは頭が痛くなってうずくまった。ひどい吐き気がした。
 妹は血の涙を流していた。
 友だちになりたいの?
「ワカンナイ」
 友だちになったらぼくはぼくでなくなるだろう。
 だけど世界にはああいったモノたちが潜んでいて、ともだちになろうよ。あたまがいたい。みんないっしょだよ。くるよ。
 沼からくる空からくるくるまにのってやってくるう。
「オニイチャン」
 妹が血の涙を流していた。ぼくがまもらないと。
 アヒョヒョアヒョア。
 だめだよともだちだからむりだむりむりむりむりむりむり――
 右目が笑っていた。ぼくのともだちだ。やったね! どんどんともだちをふやそう!
「タスケテ」
 いもうとが血の涙を流している。
 どこも見えていない。何をミているの。ともだちになろうよ。
「オニイチャンヲ、タスケテ」
 目玉たちは大騒ぎをしはじめた。
 あーあ。ともだちがぁー。
 不気味な星たちが消えていく。バチバチ、と花火が弾けるように。
「きれい」
 妹がうれしそうに言った。ぼくはとてもおどろいた。
 だってそんな風に話してくれたことなんて一度だってないのに。
 何がそんなに嬉しいのだろう。
「かみさま」
 妹がぼくの手をつないで、ぴったりとほっぺたをくっつける。

 世界の有り様が一変する。
 蟠る夜の影に蠢くモノどもと、何かが戦っていた。

●嵐闘雷武
 それは激しく荒れ狂う嵐のようであり。
 眩い輝きを放つ流星のようでもあった。
 それは深淵から無限に染み出す、無数のおぞましい異形と戦っていた。

 ほんの一月ほど前、この世界が滅ぶかどうかの運命を定める戦いがあったことを、子どもたちは知らない。
 六柱の邪神が破滅を齎すべく蠢いていたことを知らなければ、世界の守護者たる猟兵と呼ばれる者たちがそれと激しく戦い勝利をつかみ取ったことも知らない。
 ましてや、ルドラ・ヴォルテクス(終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181)と言う名の造られた生命が邪神との戦いの果てにその命を燃やし尽くし――成すべきことを成し遂げ永い眠りについたことなど、知る由もなかった。

 それでも。
 音のない稲妻がまばゆく空を染め上げ、明滅の果てに静かな夜が帰ってくる。
 夜を引き裂いた暴風は凪ぎ、ふうわりと長い銀色の髪が揺れる。
 既にこの世界にはない目がいずこかへと還っていくその背中を映しだした刹那。
 悪しき夢は解け、子どもたちは安心したように再び深い眠りへと落ちていった。

 かつて光を奪われた日のように、むさぼり喰らう者たちはそこかしこにいて、まだ細いこの腕では何かを守ることはとてもむずかしいけれど。
 悪しきモノから守ろうと輝く光があることも、確かに知ることが出来たから――。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
…名誉とやらに興味は無いんだが。――世界は美しかったと語りたい、か。
ハッ、悪くない文句だ。良いぜ、ボランティアもたまには悪くない。

盗みは挨拶代わり。弱い奴が奪われるのは当たり前、か。
移住、帰還組を集めて…【悪目立ち】。そうだな。まずは力を見せつけようか。連中は銃でも剣でも好きな得物を使えば良いさ。
言葉で説得するよりこういう世界で生きてたんだ。力を見せた方が納得できるだろ?ああ、勿論、俺は素手だ。
防衛の事もある。怪我はさせないつもりだ。ま、擦り傷ぐらいで止めておく。
もう一つ理由がある。今後の防衛組のリーダーの選定さ。強さと同時に、クレバーで芯は熱い男が良い。全体の動きを見れるヤツ。注文が多過ぎるか?

弱い奴が虐げられるってんなら、連中は俺に従うのがルールだ。
従って貰うぜ。全員、準備しろ。今から食料確保の為に釣りに行く。…言われただろ?働けってよ。
農場。地肌は見えてるが、多少なりとも土が残ってればミミズや虫、つまり魚の餌には困らないんじゃねぇかって。それを確保して、いざ、釣り大会ってわけさ。


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

~~♪♪~~~♪
[ラジオ]からさっきの戦争で聞いて以来すっかりお気に入りになったソーシャルディーヴァの放送を流しながら

おっはよ~!みんなよく眠れたようで何よりだね~!
ほらそこ!置き引きしようとしない~!
と【第六感】で注意したりしながら拉致組の彼らが用水路作るために鍬を振るっていくのを監督しよう!

はーい偉いね~よくできたね~!と褒めてあげて(褒める教育!)ご飯の他に[ポケット]からお菓子を出しておやつを食べさせてあげよう!
あ、もちろんボクも手伝う!この岩盤を割ればいいのかな?とUCでドーーンッ!!
彼らにはまっとうに頑張れば、まっとうに報われることもあるって知ってほしいね


鳴上・冬季
「どこにいても食い物にされる人間は食い物にされるままだと思いますし、自分に利することを最優先する人間は裏切りやすいままだと思いますがね」
グリモア猟兵見て


「この拠点のリーダーは誰です?まず拠点計画の話をしましょう」
「出でよ、黄巾力士木行軍」
希望する防衛用の築陣の位置と範囲確認
リーダー多数で決まらない場合は拠点戦闘員の数確認して大体の防衛構想提示
それに沿って塹壕、退避壕、トーチカ、逆茂木等黄巾力士に設置させていく

「分けるパイが潤沢であれば騒動の種は減りますが…あり得ないですからね」
働けない傷病者は隔離監視し他は一定の労働と引き換えでの食料配布を提案
「貢献意識なくば拠点への忠誠もないでしょう?」


御園・桜花
「なんであの方、偽悪的なんでしょう…良い事をしてらっしゃるのに、ちっともそう見えません」
闇医者眺め

UC「ノームの召喚」
農場予定地を種蒔きしやすいようふっかふかになるまで掘り起こし大岩等も撤去して貰う
農作業や季節に関する明るめの小学校唱歌歌いながら自分も作業

「生きる自由を得たと言うことは、死ぬ自由も得たと言うことです。奴隷は他者の持ち物として、選択の自由なく苦役を与えられます。人は自分自身を主として、自分の生き方を決められます。今は選択肢が少なくても、皆で手を取り合えば出来る事は増えていくでしょう。此から何がしたいか、一緒に考えませんか」
1日中歌いながら、なるべく多くの人と会話する
夜は子守唄歌う



●歌う者
 天気は快晴、絶好の引っ越し日和。
 携帯ラジオ――どんな環境でも電波を拾いソーシャル・ネットワークにも接続できる特製のラジオから、アメリカの古い映画の主題歌が流れていた。

「~~♪♪~~~♪」

 何もかもうまくいかない気がする――降りかかる憂鬱な出来事を止まない雨の雨粒に例えて、さぼっているお日さまに文句を言ってみたり――そんな歌。
 幼い歌姫の声はその歌詞に篭められた前向きなメッセージを懸命に歌い上げる。

 But there's one thing I know……♪
(だけど、一つだけわかっていることがあるよ)

 それは憂鬱が降り続いても決して負けたりしないこと。
 もうすぐ幸せがやってくること。 
 わたしの目は涙で赤くならないこと。
 だって――

「……そう、心配ないよ。だって、ボクたちもいるからね!」
 先の戦争で聞いて以来お気に入りなソーシャルディーヴァの放送に耳を傾け、鼻歌を合わせていたロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)はそう請け負って。
「おっはよ~! みんなよく眠れたようで何よりだね~!」
 無邪気に元気よく呼びかけた先は、汚れた顔に凶相を浮かべる人々の群れ。
 ヴォーテクッスシティ付近から拉致……もとい招待されてきた移住者たちだ。
「ああ。おかげさまで体中が痛ぇよ」
「クソっ、煽りやがって……」
 大きな声ではないが、ぽつぽつと愚痴が漏れ聞こえる。面と向かって歯向かわないのはこの場での力関係を理解しているからだろうが、隠しきれない敵意も見え隠れしていて。
(油断すると物資を奪って逃げちゃいそうなヒトも多いね~)
 飢えた獣のようなギラついた目。弱肉強食こそが彼らの理だったなら無理もないが。

(盗みは挨拶代わり。弱い奴が奪われるのは当たり前、か)
 それを許しては、集団の秩序はあっという間に崩壊し維持できなくなるだろう。
 ならば、とカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は彼らの前に進み出て。
「そうだな。まずは力を見せつけようか」
「ああン?」
 自信に溢れた青年が浮かべる挑発的な笑みに、狼狽えながらも虚勢を張る者は僅か。
「勝負だ、勝負! 俺と勝負する度胸のあるヤツは居るかい?」
 それもカイムの提案を聞けば顔を引きつらせる。彼らもそれなりの修羅場を潜り抜けここまで生き抜いた者たち、その目は決して節穴ではない。
「言葉で説得するよりこういう世界で生きてたんだ。あんたらも力を見せた方が納得できるだろ?」
 更に言い募る青年に誰かがヒューと口笛を吹いてはやし立てる。拠点側の闇医者などは実に楽しそうにニヤニヤとした笑みを浮かべならず者たちを眺めていて。
「言っておくが、猟兵の旦那らは俺たちより強いぞ」
 その隣にいた仏頂面のストームブレイドが低い声で忠告などするものだから、ならず者たちもますます顔色を悪くしていた。
「だ、だが……俺たちゃ」
「ああ、勿論俺は素手だが、そっちは銃でも剣でも好きな得物を使えば良いさ」
 カイムは自分は丸腰で武装した者を相手にするといったハンデを宣言。ユーベルコードで強化された話術と、元より得意な挑発の効果を存分に発揮する。
「……んん? まさか丸腰相手でもブルってんのか? ああ……すまん、銃の撃ち方もロクに知らないチキンどもには荷が重かったよな?」
 ならず者たちの大半は挑発されても目を逸らした。勝てる勝負ならば、弱い相手ならば粋がれても、長いモノには巻かれたいらしい。勝てないと知って噛みつく者は大方死にたがりかただの馬鹿なのだろうが。
「……大人しくしてやってりゃ舐めやがって。畜生が……!!」
 一人の銃手らしき青年が怒りを顕わに吠える。
 ――さて、コイツはどちらだろうか?
 余裕と興味から浮かべる笑みの裏で、カイムは彼を観察し始めた。
「やってやらぁ!! テメェも銃持ってんなら早撃ちで勝負しやがれ!」
「……へぇ?」
 態々ハンデを蹴りつつ、条件を出してくる青年にカイムは目を細める。面子を取りつつも勝ちを諦めているわけでも無いらしいが……どうやら運はなさそうだ。
 ――早撃ちもまた、二丁の拳銃を使いこなすカイムの得意とする技術の一つだった。

●見定める者
 突然に始まった決闘騒ぎ。
「ああ、一応お願いしておくけど――」
「防衛の事もある。怪我はさせないつもりだ。ま、擦り傷ぐらいで止めておくさ」
「ふっ……手足に風穴開けるくらいだったら、私の方で治すから大丈夫だけどね」
 カイムと闇医者の物騒な会話に、決闘の相手であるヒスパニック系のガンナーの青年――デイビッドが顔をしかめる。
 彼は周囲からは既に「オイオイ死んだわアイツ……」みたいな扱いを受けていたが。

「コイツでそのスカした面の風通しを良くしてやるぜ!」
 リボルバー拳銃をくるくると回転させホルスターに納めるデイビッド。
 彼が猛禽のような目で油断なくカイムの全身を注視するのに対し、カイムは自然体で対峙する。
 カイムがジャケットを払い、腰回りに装着したダブルホルスターと銃が見えれば、デイビッドは内心でほくそ笑んでいた。彼自身が用いる短銃身のリボルバーに比べて、カイムのソレは早撃ちに向いているようには到底見えなかったからだ。
「さて、それじゃ行くぞ」
 仏頂面のストームブレイドが宣言し。
 一枚のコインが二人の中間地点で投じられ、地面についた瞬間。

 ――二つの銃声がほぼ同時に響いた。

 腰元で銃を撃った姿勢のまま、デイビッドは固まっていた。
 一方でカイムは余裕の笑みを崩さぬまま。
 右手の銃は腰元で構え、左手だけを前に向けて『双魔銃オルトロス』の片割れを撃ち続ける。発砲音が鳴るたびに地面に落ちたコインが空中を泳いで、やがてペチっとデイビッドの胸元に当たるとそのポケットに滑り込んだ。

「取っておきな。敢闘賞だ」
「……………ま、参った」

 勝負はついたようだが、互いに傷はない。何が起こったか分からなかった周囲がざわつく中、冷や汗を流し「化け物かよ」と呟くデイビッド。
 そこに初撃で気付いただけでも大したモンだ、とカイムは薄く笑う。おかげでこちらから相手の銃を弾くような手間も省けた。
 カイムがやったことは単純に、相手の目線と銃口の向きを見切って射線を予測し――事前の宣言とは裏腹に此方の右手を狙って放たれた銃弾を、素早く抜いたオルトロスの銃身で弾いただけだ。……本音を言うと手はほんの少しだけしびれたが。
 そのまま左でコインを撃ちながら、右はデイビッドのリボルバーを撃とうとしたが、その前に相手が負けを悟っていたのが勝負の顛末だった。

「さ、他に文句がある奴ぁさっさと前に出な! それさえもビビッて出来ねぇなら、黙って俺に従って貰うぜ?」
 異論は出なかった。
 デイビッドの腕はそこそこ強力なレイダーと比較しても遜色なく、集団の中では頭一つは抜けている。見た所、集団には他にも慎重に様子を見守る有望そうな者も居そうだが。
(やや捨て鉢に見えるが筋は悪くないな。さて……)
 カイムが実力を試すような真似をしたもう一つの理由は、今後の防衛組のリーダーの選定のためでもあった。強さと同時に、クレバーで芯は熱い男。そして全体の動きを見れる者。という条件は「注文が多すぎるか?」と思わないでもないが……理想は高く持つとして、完全ではなくとも他で補えれば御の字といった所か。
 ――などと考えている最中。

「あっ! ほらそこ! 置き引きしようとしない~!」
 どさくさ紛れの窃盗。手癖の悪い者を目ざとく見つけたロニの警告の声が響いて。
 盗られそうになった男はそれに気づくと激高して掴みかかり、地面に引きずり倒した相手に馬乗りになって激しく殴りつける。
「ぶっ殺してやる!」
「ぶっ殺さないの! これから仲間としてやってくんだからね~!」
 刃物でも持っていれば躊躇なく使っていただろう男をロニが引き離してポイと投げ、叱ってみせるも迫力は無い。無いが……見かけにそぐわない怪力ぶりにならず者たちも戦慄しているようだ。
「こりゃ、先が思いやられるな……」
 悪徳の都の常識に染まった者たちを迎え秩序だった集団として暮らしをさせるには、相当な忍耐が必要に思えるカイムだった。

●ブリーフィング
 それから猟兵たちは先ず、現地の協力者との顔合わせと簡単な打ち合わせを行った。
「この拠点のリーダーは誰です?」
「ふっ、それは私だ! ……まぁ、落ち着くまでの暫定、代理だがね」
 円滑な意思決定を行うためにといの一番に確認する鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)に応えたのは強者の風格漂う闇医者で、マシューという名の初老の男。
 既存拠点からはマシューが、キャラバン側は皆からマンソンさんと呼ばれる小太りの男性が代表となるとのこと。
 ただしキャラバンは今後の物資輸送計画もあり長期滞在は難しいので、基本的に物資輸送以外のことはマシューが統括しつつ、猟兵の助けに期待しているのだという。

「あれ? ひょっとしてヤブ医者さんですか」
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はそんなマシューとも面識があったようで、目を丸くして驚いていた。
「おお、君か。やぁやぁ、その節は世話になったね」
 彼は桜花が参加したロンメル・ヴォ―テックスとの戦いで、大物っぽい風格を漂わせつつも「戦いは得意じゃぁない」などと言って実は何の役にも立たなかった人だった。
「あなたが、暫定りーだー……?」
「ふっ。君が何を考えているか分かるぞ? だが……だいじょうぶだ、問題ない!」
 とは言うが、なんとなく急に不安になってくる桜花である。
「私は生身の人間相手ならそこそこ強いからね。腕自慢の荒くれ者もちょいと撫でてあげれば、皆いい子でおねむりさ……」
 箱形のスティック――恐らく針の無い注射器を自分の首元に当ててニヤリと笑う。鼻っ柱が強そうな面々はそうやって眠らせて連れてきたのだろう。
「む~……先刻と言い、なんでわざわざ偽悪的なんでしょう? 良い事をしてらっしゃる筈なのに、ちっともそう見えません」
「良い事をしていてもそう見えない。……それは単純に悪人だからなのでは?」
 本人の前でしれっと言い放つ冬季。アポカリプスヘルの医者や研究者と言えば大体が禁忌に手を染め、結果狂気に取り付かれたような者ばかりなのだから間違いない。
「ううん。そんなことない気がするんですけど……」
 だけど桜花の第六感はけっこう高い――ということでいっそ本人に尋ねてみれば。
「それには深い理由があるのさ。ワカバキャベツヤシの実よりも深い理由がね……」
「アサイーですね。それで、その理由とは?」
「…………それは自分で考えてみよう!」
 と、どこまで本気なのか良く分からない人だった。

「まぁいいです。そんなことよりもまず拠点計画の話をしましょう」
 冬季はユーベルコードによる大規模な労働力の供出が可能であることを告げ、希望する防衛用の築陣の位置と範囲を確認する。
 現状は居住区を中心に内側から優先的に防衛線を構築していく予定となっていた。
「当面は戦えない者たちは一か所に集まって暮らしてもらうよ。安全を優先だ」
「居住区の中心は生き残っていた廃校舎……エレメンタリースクールですか」
 町の西側にある学校と集合住宅のある一帯が居住区となる。西側を湿地帯に囲まれ、陸上からの侵入経路はかなり限定できるため、守りやすいと考えているようだ。
「まぁ、空を飛んだりする敵相手だと意味が無いんだけどね。逆に逃げ辛いまである」
「ふむ。基本戦車やレイダーを想定しての防備ということですか。避難は退避壕へ?」
「そうなるね。核シェルターでまだ使えるものも探せば残ってるんじゃないかな、と」
 他拠点などへの避難が難しい以上、非戦闘員は有事の際には頑丈な地下シェルターなどに避難することになる予定だそうで。
「地上の戦力が敵の撃退に失敗した場合は詰む可能性もあるがね……」
「現状では万全を期する事は出来ない。無いものねだりをするよりは、少しでもマシな選択肢を積み上げて生存率を上げていくしかない……ということですか」
「ご賢察の通りさ。穴があるのは承知の上だけど、どこの拠点もそんなもんだろう?」
 防衛戦力は腕利きのストームブレイドと戦車乗りが1名ずつ。他にも10数名程度が同道しているが、基本的には移住組に働いてもらわないと頭数が足りない状況だそうだ。
「なるほど。では……」
 冬季は人材の運用について腹案を提示する。
 それは働けない傷病者は隔離監視し、他は一定の労働と引き換えでの食料配布するというもの。
「分けるパイが潤沢であれば騒動の種は減りますが……あり得ないですからね」
「みんな腹ペコだからねぇ。飢えてると確かに喧嘩もしやすいよ」
 それはありていに言えば生存に不可欠な食料を握って言うことを聞かせてしまおうということだったが、逆に言えば言うことさえ聞くなら食事は保証するということで。
「貢献意識なくば拠点への忠誠もないでしょう?」
「信賞必罰だね。見返りが不当に低いと思われれば逃げられそうだが、働いてくれる者になら当面の食い扶持くらいは何とかしてみせるさ。……マンソンさんが」
「……意外と気前がいいですね。どこにそんな物資が?」
「君たちがあっちこちで牛耳ってた最大勢力をまとめて潰してくれたからねぇ。ヴォーテックス麾下に限らずレイダー共も大分大人しくなってるようだよ。下手をすれば今度は奴らが狩られる番だからね」
 マシューが愉快そうに笑いながら説明する。
 要するに、猟兵たちが打倒したヴォーテックス一族麾下の勢力はそれだけ大きかったということのようだ。マシューらには勝ち馬に乗ってその辺りから略奪……もとい回収した物資があるから、武器と食料に関しては当面は援助を続けられる予定だという。
「キング・オブ・キングス――レイダー・キング達を支配した一族の遺産、か」
 猟兵はかつてヴォーテックス一族の勢力を削るべく、彼らの支配地へ攻撃を繰り返していた。そこで見た贅を尽くす者たちと、羽根のように軽く扱われる奴隷たちの命を思い出し、カイムが呟けば。
「善意や正義のために殺される無垢な生命もあれば、こうして悪意と暴力がかき集めた物資のお陰で食事にありつけ生き延びたりもする。因果なことだよ、全く」
 自称ヤブ医者のマシューはそう言って皮肉気に肩をすくめた。
「そうだね。ヒトはその辺大変そうだねぇ……」
 ロニはうんうんと頷きながら、桜花から見て彼が偽悪的に振舞っているように感じるなら、それは彼の言う『殺してしまった無垢な生命たち』への罪悪感からなんだろうな……と、その鋭すぎる直感で何とはなしに気付くのだった。

●農地の整備
 カリフォルニアの大規模農地は日本のそれと比べてとにかく広かった。
 一農家単位の耕作面積が東京ドーム数十個分となったりするのだから果てしない。ここに手を付けるなら大型のトラクターなどを調達・修理しなければならないだろう。
 そこでまずは町の内側の空地を利用した実験的な栽培から始める計画となっていた。
「それではノームさんたち、よろしくお願いしますね」
 桜花のユーベルコードによる召喚に応じた陽気な土小人たちが元気よく返事して、三々五々に散っていく。
 トンネル掘りが得意な大地の精霊でもある彼らに任せておけば、農場予定地を種蒔きしやすいようふっかふかになるまで掘り起こして置いてくれることだろう。
「流石に元は何万人も住んでた町ですし、土地はあまりまくってますね……」
 人口密度からして数百分の一以下になるのだからさもありなん。当面は主にトウモロコシや麦、芋など主食となりえる作物の栽培が予定されていた。
 海流の影響で冬季でも温暖な気候が予想されるため、そうして整えた耕作地には早速種がまかれることになっている。

 ――マクドナルドおじいさんの イーアイ イーアイオー♪

 そうして童謡を歌いながら自らも作業する桜花の周囲には、自然とちびっこ――移住者の連れてきた子どもたちも集まってきて、少しばかりまだ距離はあるものの一緒に歌を歌ってお手伝いをしてくれたりし始める。
「ぼくじょうにはひよこがいてね あっちでぴよ こっちでぴよぴよ……♪」
「おねえちゃん……ひよこってなぁに?」
 すると、不思議そうな顔でそんな疑問が飛んできて。
「ひよこはにわとりの……とりさんのヒナ、赤ちゃんですね」
「とりさんのあかちゃん……」
「ふわっふわでとても可愛いんですよ」
 黙示録の黄昏――文明の崩壊前にはまだ生まれていなかったか、物心付く前だったのだろう。子どもたちはちょっとしたことにも興味を示し、新しいモノを知りたがった。
「ひよこ、たべるとおいしい?」
「う。それはどうでしょう……あんまり食べるところないような」
「それじゃ、この子はおいしいひよこ?」
「…………それはノームさんです。食べられませんからね?」
「ちぇー」
 そこには子どもらに両手を繋がれグレイみたいな格好で連れてこられたノームの姿。陽気に笑っているが、捕食対象と見られていたのに気付いているのかいないのか……。
「放してあげてくださいね。ノームさんお仕事しなきゃなので」
「ええー?」
「ええーじゃなくて。……ああっ、更に連れてこないの!」
 そんなこんなで。あまり素直でもなければ、何をしでかすかも分からないお子さまたちを相手に翻弄され、農作業以上に草臥れる桜花であったという。

●水の巡り
 一方でその農地への水路の整備に取り掛かったのはロニだ。
 町の北側から流れる川は東へと迂回し、南側では西の海側へと向かっていた。
「水道は流石にもう死んでます。揚水設備も駄目みたいだな……」
「へー、そうなんだ?」
「修理ではなく、ほとんどゼロから作り直しになるでしょうな!」
 荒っぽいのの大半をカイムが連れて行ったため、水路の修復や整備に当たるのは意外とマトモそうというか、比較的頭の良さそうな技術者系の人材が多く残ったようだ。
「作り直し、出来そう?」
「簡単な水車程度なら。動力付きのポンプも追々必要になってくるでしょうが、そちらは時間がかかりましょう。とりあえずは上流から直接引いた方が手っ取り早いですな」
 カリフォルニア州内でも水源に近い北側の地域なため、水を引く難易度は比較的マシらしい。地図を睨みながらあーでもないこうでもないと意見を交わす大人たちに疑問をぶつけながら、手持無沙汰になったロニはその周りをうろちょろしていたが。
「あれ? おかしいな。もっとこうなんていうか、ボクは神様なのにこれじゃ威厳が…………まぁ、それはどうでもいいや!」
 突然飽きてしまうと、お昼寝をするべくその場でころりと寝転がった。

 そうしてくぅくぅと平和な寝息を立てていると、やがて足音を殺して忍び寄る気配。すぐそばまで来るとポケットの中をまさぐって。
「こらー。勝手に取ろうとしない!」
「わぁっ!?」
 ガバーっと起き上がって捕まえると犯人はまだ幼い男の子だった。ロニとは逆の右眼に眼帯をしたその子はじたばた暴れて逃げようとするが、痩せた子どもの力で猟兵に敵う筈もなく。
「や、やべーです。ジルのバカがつかまったです!!」
「にげろー!!」
 ロニがさぁどうしてやろうかと考える間もなく、叫び声が上がりわらわらと逃げ散っていく少年少女たち。どうやら年上から言われて様子見として行かされたのだろう男の子は、あっさりと置いて行かれてしまい絶望顔で震えていた。
「ありゃ。みんなひどいねー」
 残ったのはロニに捕まった男の子と、逃げる子にぶつかったのか転んで泣いている小さな女の子が一人。それから、叫び声を聞きつけてやって来たロニより少し年上の――中学生くらいに見える少女が青い顔でこちらを見ていた。
「な、何かしたんですか、その子?」
「ドロボーだよ! ボクのお菓子を盗ろうとしたの」
 少女の明るい茶色の瞳の中、瞳孔が大きく開いた。
「あ、あはは……そうなんですね。あの、でもごめんなさい。その子、もしできたら放してあげて欲しいなーなんて……思ったりして? ほんとにごめんなさい!」
「ん。別にいいよ!」
「なんていうかその子もたぶんそんなに悪気はなかったっていうか、きっとちょっとした出来心だし腕ちょん切ったり目玉取っちゃったりはどうか勘弁してあげて欲しくて、アタシからも出来るだけお詫びさせていただくので、あの、せめて半殺しくらいで!」
「べ・つ・に! い・い・よ! 許してあげる!」
 その傍まで寄ってにっこり笑いながら、はい! と男の子の背中を押して行かせる。ついでに泣いていた女の子も助け起こしてあげると、両の目を覆う目隠しをしていて少しだけ驚いたが、男の子の妹なのだろうその子も少女の方へ連れていく。
「あ、ありがとう! ……あー……ビックリしたぁ~」
「ねぇ、おねーさんはなんでこの子を助けてあげたいの?」
 見たところ血縁でもなければ、それほど親しそうな関係にも見えないのに。
 異常とも言える怖がり様だった少女が取った行動に、ロニが素朴な疑問を投げれば、少女はその場にへたり込み二人を抱きしめながら言った。
「ええと……あはは、何ででしょうね? ただ、アタシにも昔これくらいの弟がいて、ですね……」
「そーなんだ。弟がいたんだね」
 誤魔化すように笑い語る少女に目線を合わせ、うんうんと頷くロニ。それで、君の弟はその時どうなったの? ――聞かずとも分かるそんな当たり前のことは尋ねずに。
「それと、あなたはそんなにおっかない人じゃないかもって気がして。当たってて良かったです。あはは……」
 少女は少し落ち着いたのか、栗毛の長い髪を揺らしながら頼りなく笑った。
 ロニはポケットからお菓子を出すと、にっこり笑って差し出す。
「ちゃんとごめんなさい出来て、小さい子の面倒を見てあげたご褒美だよ~!」
「え? え? お菓子……!?」
 食料自体が貴重な世界では甘味を味わう機会もほとんどないのだろう。ぱあっと目を輝かせ喜びを表現する少女に、泣きながらしがみついていた二人の幼子も泣き止むと、不思議そうな顔をするのだった。

●アポカリプス拠点ツクール
 冬季は町の居住区付近で、主要な道路等に目星をつけ防衛拠点を構築し始めていた。
 拠点が稼働を始めれば更なる増員も見込めるが、現状では広い縄張りをとっても防衛に手が回らず。更に今後襲来が予想されるオブリビオンに対しても戦力の分散は悪手となる可能性が高いとのことで、外周は後回しだ。
「出でよ、黄巾力士木行軍」
 戦車こそまだ持ってこれてないが、戦闘用の装甲車両があった。それらの配置や人員拡充後も見越して塹壕、トーチカ、逆茂木等を黄巾力士に設置させていく。
 十分な時間があれば街を築き上げることも可能な、疲れ知らずの労働力だ。
「これは……楽だね!」
 途中で確認に来たマシューは、振り分ける人員に余裕が出来ると喜んでいた。農地への手入れも桜花のノームが働いており、余った人員を探索等に向かわせるらしい。
「分散は悪手といいながら探索には散らせるつもりですか?」
「ま、まぁそうなんだけど。どっかで眠ってる農業機械なんかがあれば今の内に集めておきたいんだよね……」
「ふむ……。まぁ良いでしょう」
 彼は人員に犠牲が出ても止む無しと考えている節があったが、冬季としてはどっちでも良い事だった。恐らく農業機械の価値の方が人の犠牲よりも勝るのだろう、と。

「水路はサイホンの原理を使って引いてこれそうですが、保安も考慮すると露出ではなく地中にパイプラインを埋設して持ってきたいですね。取水側は隠蔽したものを複数用意しておくべきかと」
「そこまでできるなら助かるね。……まぁ、もっと適当でも良いんだよ?」
「手間ではありますが、今回に限って言えば地中の穴掘りや障害となりそうな岩盤の破壊も可能なようなのでね」
 ということで、地中工事に強いノームや、地形破壊に優れたロニの協力も得て町のインフラ構築は順調に進められていった。

 そして数日が経って。
「この岩盤を割ればいいのかな?」
「遠慮なくどうぞ」
「わかった! ドーーンッ!!」
 ロニのユーベルコード『神撃』――単純にして重い一撃が地中を隔てる巨岩を穿つ。
 信心無き者にも神々しさを感じさせる拳の一振りに、泥にまみれて作業していた者たちが歓声を上げた。
 土気を剋する木気の人型戦車――黄巾力士木行軍が昼夜を問わずノンストップで瓦礫や土砂の撤去を行い。成形した地下空間はノームの掘ったトンネルとつながって、そこにパイプラインが通されていく。

 そして。

「「水だあああああああああ!!!!」」

 地下をくぐって溢れ出した水の流れに、大の大人が雄たけびを上げていた。
 人の手で微調整され細かく張り巡らされた用水路に満ちていく水を追っかけて、子どもも大人も一緒になって走り出す。

「まさか、本当に……本当にまた畑が作れるの……?」

 誰かが呆然とつぶやいた。
 大農場の復活――そんな口上で誘われてはいたが誰もが心から信じていた訳ではなく、むしろ行く当てもないから、ただ流されるままにこの場所に辿り着いた者も多い。
 どうせ死ぬなら故郷に近い場所で……と移住への参加を選んだ者も居ただろう。
 けれど歓声と共に駆けていく水は、小さな一歩だとしても目に見える確かな結果で。
 諦めることに慣れた人々の胸に、微かな希望が息吹き始めていた。

●懐かしむ者
「全員、準備しろ。今から食料確保の為に釣りに行く」
 弱い者が虐げられて当然というのなら、カイムより弱い者は彼に従うのがルール。
 彼に否やを突き付けられる者はおらず、内心はどうあれ唯々諾々と従うのみ。そしてカイムが選んだのは海への食料調達だった。
「クソっ。気は乗らねぇが……仕方ねぇ!」
「はは、言われただろ? 飯にありつきたきゃ働けってよ」
 堂々と悪態を吐くのはデイビッドだが、口で言うほど嫌というわけでもなさそうで。
「魚の餌は……ミミズや虫は手に入りそうか?」
 地肌は見えていても、多少なりとも土が残ってれば餌になるモノにも困らないのではと考えたカイムが尋ねれば。
「海で釣りをするなら海の近くで手に入れる方が良いと思うが。せっかくだ、湿地帯の様子でも見に行くか?」
 と、デイビッドが案内を買って出る。町の西側に広がる湿地帯には緑も比較的多く残っており期待が出来た。
 だが、行ってみるとそこも生き物の気配は乏しく。人類文明が衰えても自然が貧しいままなのは、オブリビオンの徘徊など……何か他の理由もあるのかもしれない。
「前には野生動物の保護区があって、色んな生き物が見られたんだがな……」
 謎の虫の幼虫をつまみ上げながら、デイビッドがぽつりと零す。
「ん、お前ここの出身だったのか?」
「故郷なんかねぇよ。俺ぁ季節労働者のガキで、あちこち転々としてたからな」
 そっけなく返す言葉と裏腹に、どこか懐かしむような、戻らぬものを悔やむような目で景色を眺める青年。
「ただ。不法移民の小汚いガキにも、ここの雇い主一家は割と良くしてくれたんだ」
 それで他所よりは覚えてることが少しばかり多いのだと、彼はそう言って長いため息を吐き出した。

「そりゃそうと、海行くならまっすぐビーチに向かうより南へ下ってみないか?」
 デイビッドによればこの辺の海は基本的に浅瀬のビーチが続くが、南へ15キロ程度の距離まで足を延ばせば好ポイントがあるという。
 河口があり、消波ブロックが沖合まで伸びているのでそこで陸から釣っても良いし、上手くすればまだ船体が生き残っている船もあるかもしれない、と。
「小舟を含めりゃ百は下らない数の船が係留されていた筈だからな」
「……よし、案内してくれ」

 そうして拠点から借りた車両で約20分ほど進めば、河口付近が大きな入り江になっていて、係留されている船舶の残骸が幾つも見つかった。
 長年の風雨に晒された船の多くはすでにボロボロに痛んでいたが、探せばマシな状態の物も見つかりそうだ。
「全部見る時間はねぇかな。明日来た時にでも倉庫あたりから調べるか?」
「それならば手分けしよう。私らはこのまま使えそうな船を探してみるよ」
「……おう。それじゃ後でな」
 別行動を申し出る者に、カイムはあえて何も言わず泳がせてみた。見つけた成果を正直に報告するかは怪しいが、少なくとも現時点では逃亡の可能性も低いだろう。
 そうしていざ釣り大会と洒落こむべく海岸へと向かうと――。

「何かいるな。アレは……アザラシ?」
「アザラシだな。ありゃ確か食えるぞ!」

 そこにはアザラシと思しき生物が寝転がっていた。
 カイムとデイビッドは二人思わず顔を見合わせ、頷くと銃を抜いて。
「とりあえず確保しとくか」
「そうそう。アシカもアザラシもラッコもいる海だったな、ここは……!」
 銃声が幾たびか響くと、新鮮なたんぱく源を確保することに成功したのだった。
 海の中まではオブリビオン・ストームも影響を及ぼしにくいのか、その後日にされた釣りの釣果も悪くなく、海は食糧の自給手段として有力な一つになりそうだった。

●何世代も前からヒトは
 そしてその日も、思った以上の成果と共に探索へと向かった面々が帰還し、夕餉を共にしたあとは眠りにつくまでしばしの時間を思い思いに過ごす。
「猟兵がまた裏切り者を始末して、死体を持って帰ってきたって言われてましたよ」
「はっ。ただのアザラシなんだがなぁ……」
 桜花の報告にカイムが苦笑する。食卓に上った海の恵みは、猟兵から見て他の世界の上等な食事に比べれば好んで食べたいと思うようなモノではなかったが、この世界の人たちにはかなりの好評だ。
「ふむ。アザラシなんかがいるってことは、海中の資源も期待が出来そうですか」
「ああ、この辺の海は100年ほど前にはイワシが掃いて捨てるほどとれていたそうだ」
 冬季が確認すれば、マシューから伝え聞いた話を説明するカイム。 
 豊かな海洋環境は乱獲により人類が一度は駄目にしてしまったものだが、船を出せれば大規模な漁が出来る可能性もある。
「そしてその船も、倉庫で眠っていた状態の良いモノが見つかったぜ」
「順調だね~」
 ロニが眠そうに船をこぎながら呟いて。
「でもこれだけ条件が良い土地なのに、なんで人や動物が殆どいないんだろね~?」
「それは……」
 新しい土地で、微かな希望と大きな不安を抱いて眠りに就こうとする人々の下へ。
 狂気を孕んだ夜は、ヒッソリと、いつの間にか、ヒトの気付かぬ内に忍び寄るのだ。

 だから、というわけでも無いだろうが。

「生きる自由を得たと言うことは、死ぬ自由も得たと言うことです。奴隷は他者の持ち物として、選択の自由なく苦役を与えられます。人は自分自身を主として、自分の生き方を決められます」
 桜花は出来るだけ多くの人と関わり言葉を交わし、夜は子守唄を歌って彼らが眠りにつくまでその傍にいた。
「自分の、生き方……」
「今は選択肢が少なくても、皆で手を取り合えば出来る事は増えていくでしょう」
 少しずつではあるが息を吹き返していく小さな農場の様子に、戸惑う女が居た。
「……私は、これから先、あの子たちがこんな世界でずっと苦しむだけならばと」
 悪夢のような支配から解放されて。初めに心に浮かんだ衝動は、冷たくて苦くて苦しい記憶に変わった。細い細い首に食い込む指先――くるしい、やめてと泣いていて。
 それは永遠に戻らず、許されることのない過去なのだろうけど。
「此から何がしたいか、一緒に考えませんか?」
 穏やかな声は、久しく忘れていた安らぎを与えてくれて。過去の夢を繰り返し見ては思い出す記憶の欠片たち。
「……イチゴのタルトは、食べ飽きるくらいたくさん食べてたから、本当のこと言えばそんなに好きじゃなかったけれど……」
 だから雇い人の子どもにあげることも多かった、甘くて、酸っぱいお菓子。
 あの子たちにもいつか食べさせてあげたい――と、彼女はそう言って微笑んだ。


「ジル……サジル! この前は置いて逃げて悪かったのです。今はとても反省しているのです……だから、コゼットにもそれを寄越しやがれです!」
「……べ~っ!!」
 赤毛の女の子が元気よく叫び、ロニからお菓子をもらった男の子を追っかけていた。
 ロニはおやつが無限に湧き出るポケットを持っていて、甘味の暴力で子どもと言わず大人も含めて支配してしまえそうな勢いだ。
「はーい偉いね~よくできたね~!」
 と、見た目幼い少年に良い年した大人もが褒められる光景は中々シュールだが……。
 まっとうに頑張れば、まっとうに報われることもあると知ってほしい――と。
 それでご褒美目当てに張りが出て作業の能率が上がる者も居るのだから、ロニの褒める教育(?)は間違ってなかったのだろう。
 そうして、作業も捗り良い結果が目に見えてついてくれば、人とは現金なものでより協力的な姿勢を見せるようになっていって。

「……名誉とやらに興味は無いが――世界は美しかったと語りたい、か」
 カイムは依頼を受けた切っ掛けでもある幼い少女の言葉を思い出し、生まれたての拠点が一時の安息と充足に酔いしれるその光景を眺めていた。
「ハッ、悪くない文句だ。それに……ボランティアもたまには悪くない」
 栄養のある食事を満足に食べられて、夜は寒さに震えず、誰にも脅かされずに眠れて――当たり前のそれだけで、元気を取り戻した子どもたちがパタパタと駆けていく。
「あっ、カイム! 明日なんだけどよ、郡都の方まで行ってみねぇか? お宝が眠ってっかも知れねえし、そんな遠くもねえんだよ……!」
 背後から話しかけてくるそんな声に、いつものように余裕たっぷりに笑みを浮かべて振り返る。そこには少年のような目をして明日を語る、若くしなやかな『人間』がいた。

「……どこにいても食い物にされる人間は食い物にされるままだと思いますし、自分に利することを最優先する人間は裏切りやすいままだと思いますがね」
 一方で冬季はシニカルな態度を崩さず。繕ったような無表情で懸命さを押し隠す、未熟なフラスコチャイルドの吐いた奇麗ごとに、否定的な見解を呟いて。
「だとしても、あまり後悔はしないでしょう、と……馬鹿馬鹿しい」
 ここに来る前に少しばかり言葉を交わした彼女のそれは、どうやら『人類』への信仰に近いようで、人によって人のために造られた生命としての歪みを孕んだモノだった。
 そして問題はそれ以上に――
「この世界はそうではないと、分かってて言ってるようだから始末に負えませんね」
 フィールド・オブ・ナインの大半が討たれても、アポカリプスヘルは今日もまだまだ元気に地獄のままのようだ。





 ゆりかごの ゆめに
 きいろい月が かかるよ……♪





 子守歌が響く。
 夜が静かに更けていく。




 だけどふと。
 騒がしい星空を見上げれば、そこには――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『禍神さん家のギョロちゃん』

POW   :    ちみたちー!こっちきてー!
【ギョロちゃんを助けて! 】という願いを【洗脳中の生物や機械】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
SPD   :    ちみ、戦うのたのしんでるでしょ!
質問と共に【洗脳、拘束能力のある寄生型の瞳 】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
WIZ   :    なんでギョロちゃんの友達を殺すの?
対象への質問と共に、【ギョロちゃんの口 】から【小さなギョロちゃん(敵のレベル×1体)】を召喚する。満足な答えを得るまで、小さなギョロちゃん(敵のレベル×1体)は対象を【瞳から出すビーム】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●居住区
 真夜中、寝静まっていた拠点の建物に次々と明かりがともる。
「サジル、起きなさい」
「……ママ」
 切羽詰まったような声と体の揺れに意識が浮上する。
 蒼白な顔で覗き込む母親の顔が見えた。
 寝静まっていた拠点で、やさしかった大人たちの怒鳴り声が響いている。
 何かは分からないけれど、良くないことが起きたのだという事だけは分かった。
「すぐに避難するの。急いで」
 立ち上がり幼い妹を抱えると、懐中電灯を片手に持ってサジルを促す。周りの家族たちと一緒に、これからシェルターに避難するらしい。
「おい、急げよ!」
「すみません。すみません。今行きますので」
 焦り、苛立ちピリピリとした空気。サジルは母親がこれ以上責められないよう、慌てて立ち上がろうとして――体が上手く動かせなくなっていることに気づいた。
(…………あ…れ?)
 意識ははっきりしているのに、全身に力が入らず倒れてしまう。柔らかいマットの上で良かった。なんて考えてる場合じゃない、起きないと……。
 それなのに、酷い吐き気がして世界がぐるぐる回りだす。
 妹のサレニが身をよじって母親の腕から逃れ、倒れたサジルに覆いかぶさった。
「ン……」
「サレニ……何を!?」
 小さな手のひらが迷わず伸ばされ、顔の右側に触れる。右の眼窩に鋭い痛みが走る。
 それから、妹は何かを投げ捨てた。不思議と吐き気が収まり、起き上がる事が出来るようになった体でそちらに目を向ける。
「……目玉だ! 寄生されていやがった!!」
「ほんとうだー。ともだちダ!」
 大人たちが悲鳴を上げて、不安が伝わった子どもたちの泣き声が響き渡る。
 視線の先には潰れたボールのような何かが転がっている。生臭い、海の生き物が腐ったかのような匂い。その匂いを嗅ぐとまた吐き気がこみ上げた。
「に、逃げろ! そいつらももう、化け物の仲間なんだ!!」
「こっちだヨー!」
 パニックになりかけた人々が先導する声に引かれて進み始める。
「ま、待ってください。私たちは――きゃぁっ」
「そ、それ以上、近寄るんじゃねぇ!!」
 取りすがろうとした母親、イッツエルは乱暴に突き飛ばされて床に倒れる。
 一瞬目が合うと気まずそうな顔をして、突き飛ばした男は踵を返し去っていった。――目の見えない子を抱え、父親の居ない一家をその場に取り残して。

●防衛拠点(湿地側)
 居住区の西側では、湿地帯を超えて侵入を果たそうとした敵オブリビオンと、他拠点からの戦力が対峙し戦闘を開始していた。
「ちみ、戦うのたのしんでるでしょ!」
「ああ、最高だね! 特に君たちのような趣味の合うフレンズと触れ合い切り刻むのは気分がいい。これが『たーのーしー!』ってことなんだろうね!」
「……最低だな!」
「ふっ。それほどでもない」
 取り付いた目玉が沈黙した隙に切り刻み、神経を浸食すべく根を張りかけたそれを切除する。オブリビオンの体液と血でどろどろに汚れた闇医者は、それにも拘わらず生き生きと笑っていた。
「そう何度も何度も、関わった拠点をヤらせるかよ」
 仏頂面のストームブレイド、ポールが四足の奇妙な獣に斬りかかる。短足の四足獣は素早くひらりと躱すと、大きな口から新しい目玉を次々と生み出して飛ばしていた。
 踏み込もうとするポールの行く手を野生のアシカや鳥類らが阻む。中には泥で汚れた馬や牛もいた。それらが身を挺してオブリビオンを庇うため、致命打を与えられず。
「くそったれええええ! こんなの俺たちだけじゃ無理だろおおおおお!!!!」
 叫びながら、戦闘車両に乗り込んだ戦車兵、ビリーが宙から迫るそれらを必死で撃ち落としていた。照明弾が眩く夜空を照らし、曳光弾の軌跡とで花火のように賑やかだ。

 彼らは善戦していた。
 けれど奇妙な紋様を体に持つ獣にその刃は届かず、オブリビオンは余裕綽々に彼らを煽り続ける。言葉の刃はだんだんと核心に近づいていくだろう。
「あらら。ちみ、ひょっとしてさぁ……?」

 拠点の統括者であり、医者という替えの効かない立場を笠に着て自儘に振舞うマシューは、特にヴォーテックスシティからの移住組に相応の恨みも買っていた。
 どうやらすでに寄生、洗脳されたならず者たちもその場所を目指しているようだ。
 それは、拠点のリーダーを潰すと同時に『友達』となった者たちのうっ憤を晴らす、一石二鳥の行動となるだろうから。

●避難所への道
 発電機につながれた照明と、灯された火が地上の闇を払い浮かぶ姿。
 不安に怯える者たちがそこに向かっていた。

(……どうなるんだろう)

 遠くでタタタタ! と銃撃の音。
 敵が攻めてきたらしきことは分かるが、それだけだ。
 刻まれた悪夢のような記憶は、束の間の安息と希望を抱いてしまった分だけ、とっくに麻痺していた痛みを思い出させ、心を千々にかき乱す。

「邪魔だ! ぼさっとすんな」
「あ、あははは。ごめんなさい」
 邪魔そうな顔をして通り過ぎていく人に、道を譲るように脇に避け曖昧に笑う。
 栗色の長い髪を揺らす少女、シャロンはその場から動けずにいた。
 先に逃げて来た人から、ここに来てから出会った、最近仲良くしていた少年が化け物に寄生されてその仲間になったと聞いたのだ。
(そうだとしても眠らせておけば、マシューさんが後で何とかしてくれる……よね?)
 彼に付いて傷病者の手当てを手伝っていたシャロンは、その際にこっそりくすね――拝借しておいたポケットに入った箱型のスティックを確かめると、人の流れに逆行して走り出した。

「む? あの女は……何してやがるのです?」
「きっとちみの手柄を横取りする気なのです! 燃やしちゃおう、です!」
「うるせえー!! コゼットに指図すんな、ですっ!!」
「ぎゃああああああ……!!?」

 激しく燃え上がる火柱で周囲が明るく照らされると、黒焦げになった獣が横たわる。
「見てやがれ。手柄は、手柄は全部、コゼットのものです」

●防衛拠点(平野側)
 重苦しい車両のエンジン音が東の道路側から近づいてくる。
 これを迎え撃つためにマンソン一家の車両が続々と発進していった。
 敵はどうやら、オブリビオンとその端末に寄生された戦闘車両や建設用の重機のようなものが多いようだ。他にも陸生の動物が数えるのも億劫なほど随伴している。
「よくもまあ集めたもんだぜ」
 オブリビオンはどうやら北西にある郡都の方に潜んでいたらしい。既に数多くの機械や人間、動物に寄生・洗脳済みで一大勢力となっていた。
「痴れ者どもメ! この地をどなたのモノと心得ル!!」
「あれは……助けられそうもないな。撃て」
 正気を失って久しいのだろう、口角から泡を飛ばしがくがくと痙攣しながら叫ぶ軍人らしき男が先陣を切って、血煙に変えられた。
「ひひひ、人殺しぃ!」
「同族殺しだ。酷いやつらだねー」
 敵陣側で金切り声と、嗤うような声。
「やめてくれ! 撃たないでくれ。助けてくれ!」
「体が、体が勝手に動くんだ!!」 
 助けを求める声を上げながら、じりじりと近づいてくる武装した者たち。
「親父、まずいぞ。アイツらやけにゆっくり来ると思ったら砲を準備してやがる」
「曲射砲か、嫌らしいぜ。……避難は順調か?」
「目玉付きが混じってるようで混乱が起こってる。まだ掛かりそうだ」
 陣地構築が予定より捗ったこともあり、防衛線はそう簡単には突破されないだろう。だがその頭上を飛び越し構造物を薙ぎ払う砲弾までは防げない。
 かと言って守るべき者を守るために飛び出せば、敵の思う壺なのだろうから……。
「人間の武器が、人間を殺すよね!」
「そんなばかなことはもうやめて、みんな仲良く友だちになろうよー」
「あひょひょひょ!」
 ジレンマに陥る者たちを、禍神のペットである『ギョロちゃん』たちが嗤う。

●岐路
 戦場にて、あなたはグリモア猟兵の言葉を思い出していた。

「禍神――邪神の眷属。その目的は主の為に勢力を拡大すること」

 寄生された生物は早い内に寄生体である目玉を駆除できれば助かるが、放置すればやがて正気を失っていき、一旦そうなってしまえば、
「寄生体を駆除しても、二度と元には戻らない廃人になるでしょう」
 そのうえ駆除しようにも、機械ならともかく、強引な手段では脆い人間の体の方が深いダメージを負ってしまう。
 もし寄生された人間や生物を助けたいなら、方法は考える必要があるとのこと。

 つまり――状況に加えて敵自体も非常に面倒くさい類のモノだった。
 苦労する割に得られるものは非常に少ないと、彼女が念を押すだけのことはある。

 たくさんの者を洗脳しつづけた結果、人の性向を把握したオブリビオン。
 それは人間の嫌な部分を的確に指摘してくるようで、人間は汚い本性やエゴを捨て、禍神の元で一つになることがさも正しい事のように誘導してきたりもするようだ。

「自分より下のやつを痛めつけるの、楽しいでしょ?」
「全部全部、燃やしてしまいたいと思ってるでしょ?」
「ほら、ヤられるヤるんだよ!!」
「……ちみには失望したよ」

 争いを愉しむ本性を、欲を、怖れを――感情に翻弄される心を、弄び、嘲笑うのだ。
====================
●マスターより
 ご覧くださりありがとうございます。
 さて、二章では可愛いギョロちゃんがお相手です。

●目的
 拠点の被害を抑え、オブリビオンを撃退すること。

●状況
 ギョロちゃんに夜襲を仕掛けられました。
 大筋は断章に書いた通りですが、補足として。

 寄生体の目玉はギョロちゃんがある程度近くにいれば空から随時降ってきます。
 一般人は抵抗出来ないので地下シェルターへ避難させ隔離する必要があります。
 そろそろ迫撃砲もドンドコ降ってきそうです。

●禍々さん家のギョロちゃん
 ご主人の為にせっせと勢力拡大中の忠犬(?)オブリビオン。
 前々からこの辺りを根城にしていたようで、賢く、勢力も強力になってます。
 あまり追い詰めると逃げしまう可能性もありますが、撃退でも成功になります。
 尚、本体を倒せば寄生体は無力化できるようです。

 目玉に寄生された人間は一目でそうと分かるとは限りません。
 ただ、会話や態度は不自然になりがちのようです。

●プレイングについて
 出来そうなことは何でも自由に書いてください。
 活動場所はどこを優先するか書いて頂けると助かります。

 a.避難所
 b.居住区
 c.防衛拠点(湿地側)
 d.防衛拠点(平野側)

 敵陣の奥に突撃したい場合は『d』を選択してください。

●他
 断章に登場していないNPC戦力(主にヴォーテックスシティ組)は猟兵が指示を出すことが可能です。特になければ、おおむね有利そうな場所に流れて適当に戦います。
 拠点が不利になったら……人による?

●執筆について
 プレイングは一旦11/6(土)の午前までをめどにお願いします。
 その後、場合によっては再送をお願いすることもあると思いますが、宜しければご協力ください。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしてます。
御園・桜花
b→c

「此処を貴方達の好き勝手にはさせない。其だけです」

「此の拠点は貴方達のものです!貴方達が守ろうとしなくてどうします!」
「子供の手を。貴女は私が支えますから、一緒に避難所へ行きましょう」

UC「桜吹雪」
匂いと言動で憑依者判断し眠らせる
医術で目を抉り取った方が良いと判断したら躊躇なく抉り潰し浄化しながらUC重ね掛け

パニック中の集団に遭遇したら高速・多重詠唱で水の精霊召喚
上空に向け弱いウォーターボールの属性攻撃依頼
皆にびしゃっと水掛ける
「頭が冷えましたか?落ち着いて避難所に向かいますよ」
無事な人に寝ている人を背負わせ避難所へ
自分も子供背負い左手で他の人の手を引く

避難所到着後
救護の手伝い募り其以外の人をUCで眠らせる
「傷は此で治ります。マシューさんの治療が必要な人憑依された人を選別します。避難所でトリアージ出来る人が、今後此の避難所に必要です」
手遅れな人の命を絶つ、目を抉る等必要なら怖じる事なく行う
ハグや手を握る等皆を励まし微笑む

戦闘後マシュー手伝い
全てが終わったら鎮魂歌と子守唄を捧げる


カイム・クローバー
d

ハッ、頭が回るじゃねぇか。脳みそなんざ入ってなさそうな面の割には。
魔剣を顕現。俺の開始位置は居住区。敵陣に踏み込むつもりだが…まずはやる事がある。

UCを【範囲攻撃】で発動させる。居住区全域、もしくはもうちょい広げられるか?寄生された目玉や周辺に存在する目玉のみを焼き払う。
少しは救えるハズだ。
後はデイビッドに頼むぜ。寄生体を焼き払った。人員の居住区への護衛と疑心暗鬼になってる奴への説得だ。――俺はちょっと仕事に行ってくる。死ぬつもりはねぇさ。明日はお宝の発掘が待ってるんだからよ?

敵陣中央で【悪目立ち】。邪神の眷属か。思わず笑っちまう。邪神狩りは何時もの事だが、まさか眷属とはね。これも便利屋としての仕事だ。
美しい世界にゴミは必要無いだろ?俺は便利屋だからな。ゴミ掃除も仕事の内さ。
二丁銃で【クイックドロウ】。紫雷の【属性攻撃】を付与した銃弾で【範囲攻撃】。
洗脳中の生物や機械には魔剣でUCを振るう。
……言っとくが。俺は連中を全滅させる気だ。此処は人間の拠点だ。
ゴミが蔓延るには過ぎた世界なのさ。


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

フンフンフン、なるほどなるほど…
つまりボスを見つければそれとなくうまく収められるってことだね!
それじゃあ
よーしみんな、ボスはあっちだよ!と教えてあげよう
なんで知ってるのかって?神さまは何でも知ってるのさ!
●UC『歪神』を使用して
ならもっとちゃんとしろって?やだよ!何でもかんでも覚えてたらボクのちっちゃい脳みそがパンクしちゃうじゃん!
ボクも【第六感】に任せて攻撃を避けつつ彼の逃げ道を塞いでかかろう
どうしても逃げようとしてるなら[餓鬼球]くんにパックリしてもらおう!

後は、彼らに任せることになるんだけれど…(だよね?)
ならちょっとくらいはいいよね!

緑を芽吹かせ麦を実らせ、それが風にそよぐ様を彼らに見せてあげよう!
もちろんこれは有り得る未来の一つを一瞬垣間見せただけだけれど…
でも、そこまでの距離が分からなくても、どんな困難が待ち受けているか分からなくても…
知る事ができれば、方位が分かれば人は進める
危険な荒野を進んでいくことができる
だからがんばって!がっかりさせないでよ?


鳴上・冬季
メインc
一部d

「この拠点には貴方とマンソンさんの両輪が必要です。半年後以降ならマンソンさんの重要度が大きく勝りますが、今だけなら貴方の重要度の方が高いので」
「人と拠点と、どちらかを選ばなければならないとしたら。貴方は、拠点を選ぶでしょう?」
嗤う

「出でよ、黄巾力士火行軍。3隊はマンソン氏の元へ全速。マンソン氏を害する敵を蹂躙・制圧する隊とマンソン氏を庇う隊に分かれよ。漸減時は常時数を組み替え全滅するまでマンソン氏を守れ。残る1隊は此処で敵を殲滅せよ。…お前もマシュー氏を庇え」
黄巾力士を10体8組9体4組に編成
・砲頭から制圧射撃で行動阻害
・砲頭から焼夷弾で鎧無視・無差別攻撃
・上記2組をオーラ防御で庇う
の3組1隊として4隊編成
3隊を(制圧・蹂躙・マンソン護衛)としてマンソン氏に向かわせ残り1隊は自分で指示

常在の黄巾力士1体はマシューをオーラ防御で庇わせる
残した1隊は命令を上空蹂躙・地上制圧・地上蹂躙へ変更

自分は功夫+仙術で縮地や指弾しながら雷公鞭振り回し敵と憑依された人間を打ち倒す



●未来を視る
「うん、いい天気――……」
 初夏の日差しの下、潮の香りをのせて届く風に黄金色の麦穂がそよいでいた。
 そんな風景を見下ろす小高い丘の上、杖を手に襤褸をまとう瘦せた女が、ぼさぼさに伸びた前髪から覗く口元に微笑みを浮かべていた。
「ようやく、ようやく実ったよ、みんな。……これで、ようやく」
 オブリビオンという病魔に蝕まれ滅びゆく世界、荒廃した大地。
 それでも生きていくための糧を与えてくれたのだ。例えそれが僅かな成果だったとしても。食料を得るということはまだ生きていける――生きていても良いのだと、大地に認めてもらえたように思えて。
「……うれしいね。ありがたいよね」
 透き通った微笑みを湛えながら独白する。周囲には他に人影もなく、代わりに無数の墓標が立ち並び影を伸ばす。ポカポカとした陽気に当てられ行儀悪くもそんな墓標の一つに背中を預け座り込む。
「ふぅ……」
 気まぐれな西風がその頬を撫でるように吹き抜けていく。ロクに手入れされていないくすんだ銀色の髪が風にそよいで、幽鬼のような女の貌――その両目を覆う黒いアイマスクが露わになった。薄汚れていて顔色も悪いが、そこにあったのはまだ幼さの残るあどけない少女の顔。
 彼女は墓標にもたれかかり、まるで懐かしい知人にそうするような声で風に向け語りかけた。
「……かつてわたしの世界は、あの悪魔たちの巣の中だった。わたしたちは痛みと恐怖で支配され、人の皮を被ったケダモノどもに搾取されるだけの家畜に過ぎなかった。そこでは死こそただ一つの救い――それを自ら選び取ることだけが、無力な奴隷が為せる唯一の……地獄から逃れる術だった……」
 あたたかな光を浴びながら、穏やかな口調で語る口元は笑みを湛えたまま。
「だけど……わたしたちは故郷を得た。海の波音と川のせせらぎ……海を染め上げる夕焼けは見えずとも、仲間たちのはしゃぐ声を聞けばわたしもその輝きを感じられた。そう、仲間……あの子たちもわたしと同じだった。疑り深く、自分勝手で……銃を携え、奪い合って、殺し、殺されて……」
 懐かしむような口調は老いた老人のようであり、うっとりとした表情は夢見る少女のようでもあり。
「傷ついていて、助け合って、生き延びて……自分の居場所が欲しかっただけの、迷い子たち……そんな仲間……兄弟姉妹たちと出会えて……」
 とんだ馬鹿者ばかりだったけれど、と少しだけ拗ねたように呟き、何か思い出してはまた笑って。
「そう、皆がいてくれて……こんなにもあたたかい場所で……故郷で……」
 そうしている内に心地よい陽気に眠気を誘われたか、やがて言葉は途切れ途切れになっていった。
「わたしは………満足……」
 墓標に身をもたれかけ、少女は穏やかな微笑みを浮かべて浅い息を吐く。
 西から吹く風がさわさわと麦畑を揺らし、子守歌のように響かせた。
「……あり……が……と…………ぅ」
 その言葉を最後に強い風が吹き上げ、天に昇っていった。
 その風はどこまでもどこまでも高く、星の海にさえ届くほど高く、やがて―― 



 ………
 ……
 …



「と、いうわけだった……ぽい?」
 世界すらを滅びへと誘う怪異――オブリビオンによる夜間襲撃の報を受け、慌ただしく動き始めた拠点の一角。防衛戦力の中で遊撃を期待される猟兵たちは、出撃前に簡単な打ち合わせを行っていた。
 ちょっと未来の可能性を覗いてきたと仰るのはロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)。見た目ちんまい少年の姿をしたこの神様の言葉を信じるならば、本拠点の予後はあまり思わしくないようだ。
 この新たな拠点へと人々を導いた者たち――マシューらの計画した食料生産拠点の再興は頓挫し、後年に若き指導者らの成長を待ち数多の犠牲を積み上げた果てに得られたものも、ほんの僅かな実りでしかない。緩慢な、けれどひたひたと迫りくる滅びに抗って荒野を駆けずり。銃と剣を手に戦い血に塗れ足搔いたとても、皆に希望を灯す炎さえいずれ無情な嵐に呑まれ消えていった。
「ボクが見てきたのはそんな世界。……せめて銃を取って戦うための時間を、大地を耕し種をまくために使えれば良かったんだろうけど」
「ふむ……やはり、今回の襲撃の影響が?」
 戦わなければ生きられず、けれど戦う度に死が近づく生き方しか選べない者たち。ロニがユーベルコード『歪神』にて得たそんな見識に鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)が思案気に問えば。
「うん。細かいことはあまり覚えてないけど、マ……マ、なんとかおじさんが殺られちゃうっぽい?」
「マ……ああ、マシュー……いや、それマンソンさんも該当するんじゃねえか?」
「忘れた! けっきょく何だかんだあって両方いなくなってた気もする?」
「そ、そうか……。それでも拠点を維持出来てたのなら、逆にすごい気もするが」
 ロニの曖昧な記憶、不確かな未来にもしぶとく生きた者たち。カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の感心したような呟きに、ロニもうんうんと頷く。
「すっごくがんばってたみたいだし……そうなら、ちょっとは助けてあげないとね」
「……あぁ。その未来ってのは俺らが居なかった場合……なんだろう?」
 ロニが見てきた未来は猟兵という可能性が除かれていたもの。神たる者であっても、猟兵という存在の与える影響やその未来までを覗き見ることは難しかったようだ。
「だったら話は簡単だ。あのお嬢ちゃんに請負った仕事……ゴミ掃除と洒落こんでくるぜ」
 それは自信の表れか、UDCの便利屋が口の端を吊り上げニィと笑う。
「ならば、私の方でマンソンさんらには手勢を割いて付けて置きましょう……しかし、獣型のオブリビオンが統率者をピンポイントで狙ってきたということですか……それは」
「ハッ。確かに、脳みそなんざ入ってなさそうな面の割には頭が回る相手のようだな?」
 冬季が顎に手を当て思考を口に出せば、カイムも敵の手管の周到さに同意する。
 敵は現代兵器を用い、部隊を分けて運用しているとの情報もある。それは即ち敵がある程度高い知性を持ち、戦術を用いて戦っていることを示唆していた。
「あー。うろ覚えだけど……敵の方も、がんばっちゃったんだねぇ」
「?」
 ロニの眉が気持ち憂いを帯びて垂れ下がる。何処か彼らしくない煮え切らない態度に、カイムは不思議そうに首を傾げ。
「なるほど……ゴミ掃除、でしたか。では、私も奴らを奇麗さっぱり燃やして差し上げましょう」
 慇懃な言葉を紡ぎながら、冬季はほのかに邪悪な気配を漂わせ嗤うのだった。

●避難所にて
 一方で御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は敵襲の第一報を受けてより、避難する非戦闘員の傍について手伝っていたのだが。
「こ、こらっ! 非常事態なんだから、言うことを聞きなさい!」
「やだぁー!」
「にげるんだYOー!」
 なんとか避難する集団を引率しシェルターへたどり着いたは良いものの、何故か脱走しようとしはじめるクソガk……もといやんちゃなお子さまたちに翻弄され、その対応にまで手を焼かされていた。
 親の居る子どもはまだ良いが、どうやらヴォーテックスシティ周辺のスラムで育った孤児などが混ざっていて、大人の言うことだからと諾々とは従わない気風が生まれているようだ。
(それは搾取されないよう喰われないようにと覚えた、身を守る術なのでしょうけど)
 少しは心を開いてくれたと思っていた相手が、命を守るための行動にさえ背く。そのことに一抹の寂しさを覚え、確かに信じられるものが何も無い――そんな風に世界が背負わせた業の深さに嘆息し。
「わかりました。言うことを聞かないなら」
「!! や、やぁ……っ」
 桜花のかざした鉄扇を中心に桜の花吹雪が乱舞する。それは眠りへと誘うユーベルコードの生み出した花びらで、巻き取られた人影が糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。
 逃げ惑っていた子どもらは涙目の奥に恐怖を浮かべ――あっ、と驚きの声があがる。桜花のユーベルコードが強制的に眠らせたのは言うことを聞かない子どもたちではなく、幾人かの大人たちだった。
「こ、これは、一体……?」
「そこの貴方、手伝ってください。今倒れた人たちを縛って隔離しておいて……そう、敵の化け物に憑依されていたようですが、眠らせた今なら危険は無いですから」
「は、はぁ…………あ、ひぃいっ!?」
 腐臭交じりの海のような独特の生臭い匂いが漂っていた。倒れた者たちの服の下に隠された目玉を見つけて悲鳴が上がる。
 そんな人々の反応も見ながら、桜花は潜り込んでいた敵の傀儡を特定し無力化を繰り返していった。
(かく乱するつもりか。何をしようと仕込んでいたのか……随分と嫌らしい、可愛くない敵ですね)
 そうして内部に潜り込んだ不穏分子への対応が一段落してから、安心させるように微笑む桜花。
「きっと、これが怖かったんですよね? もう大丈夫だから……」
「だがことわるぅううっ!!」
「……そろそろ怒りますよ?」
「ひぇっ」
 けれどお子さまの中にはまだ不満がある者が多いようだった。
 桜花が若干こめかみをぴくぴくさせつつ笑顔でやさしく訳を聞き出すと、
「う、うー……。でも、コゼットのバカは逃げたまま! ずるい!」
「サレニちゃんとサジルくん来てないよ?」
「シャロンねえちゃんもいないよぅ……」
「……本当だ。っていうか明らかに人数が足りないです?!」
 落ち着いて確認してみれば、どうやら一部で避難が完了しておらずどこかで滞っているようだった。それは彼ら彼女らの無秩序さ故か、敵がこちらの内部をかく乱している故か……分からないが。
「ああ、もう。それじゃ私が全員連れてきますから、良い子にして待っててください……!」
「おう、かんがえてやるよ!」
「……言うこと聞かなかった子は、後でごはん抜きにしますからね」
「おねえさんゆるしてぇ!」「ぼくはいきませぇん!」「あなたがっすきだからぁ!」
「…………はぁ」
 そんな感じで調子が良いというか、この事態に至っても案外元気そうな子どもらに脱力しながら。
 扉を潜り地上へと戻れば、夜の闇を切り裂くように砲火が行き交い、砲声が轟いていた。それをものともせず、淡い桜色した妖精が躍り出る。眩い光が、鋼鉄と火薬が死と破壊をまき散らす――戦場へ。

●黒銀の炎
 闇夜に眩い光球が漂う。敵味方何れが打ち上げたモノか、照明弾の灯りだ。
 そうして小さな太陽じみた輝きが照らし出したのは空を行き交う目玉の群れ。
 赤、青、黄に紫の不気味な瞳の群れは、光の揺らぎを映し星のように瞬いては、眼下の愚かなる者共に向けて降り注ぎ、導きを与えるべく根を張った。

 ――全てを捧げ、委ねよ。真の安息を与えよう。
 時の終わり、我が主が楽園へと至り導くその日まで――。

 それらは地べたを這い逃げ惑う者、身を隠し息を潜め震える者たちを遍く導こうと目を光らせ徘徊する。そうして目玉の視界に映った者は寄生され操られ、身中に侵入した毒虫の如く蠢くのだ。

「こんな場所にまで入って来てやがるとはな」
 居住区の空までを漂う不気味な瞳の群れ。その一部が光を失い地へ堕ちていく。
 口元に獰猛な笑みを浮かべた青年――カイムの銀の髪の狭間から覗く紫の瞳が、斬り伏せた四足の獣を冷ややかに見下した。
 短足の犬とも鰐ともつかぬソレは、飛び交う目玉のユーベルコード――生物や機械に寄生する分体を大きな顎から生み出し続ける本体たるオブリビオンの死体。
 本体が死ねば分体の目玉も無力化できるようだが、その矮躯はこの夜の闇に良く溶けこんでいた。灯りで照らそうにも、暗がりに潜み、巧妙に隠れられれば発見も容易ではない。
「憑依して操作する系の化け物か。本体は大して強くはねぇみてえだが……目玉が鬱陶しくてどうしたもんかね。いっそ火炎放射器でもありゃ良かったのによ」
 厄介な敵の能力に、苦虫を嚙み潰した様な表情でデイビッドが呟く。その場にはカイムが従わせていたアウトロー達が他にも20名近く屯していた。十分な武装が与えられていても相手がオブリビオンの群れともなれば苦戦必至なのだが、それでも戦意は旺盛のようで、彼らは鎖につながれた猟犬のように前線へ参戦するその時を待ちわびて居た。
「ちまちまと面倒くせぇ奴らだが、逆に言やぁ所詮は寄生ありきなんだろ。行って、ご自慢の軍隊を蹴散らしてやろうぜ!」
「そうだな。だが……まずはやる事がある」
 全体の状況としては、主戦場となる平野側は陣地に拠って戦うマンソン一家の防衛線は冬季の黄巾力士軍の加勢もあって強固に敵の侵攻を撥ね退けていた。
 西側の湿地帯から搦め手を攻める動きにはマシューの部隊が対応に向かい、これに冬季も付いているのだから心配はないだろう。

 だから現状で大きな問題は2点。
 既に居住区の内部まで侵入していたオブリビオンによって混乱が生じ、非戦闘員の避難も一部滞っているらしいこと。
 また、敵が迫撃砲陣地の敷設を行い、強行突破ではなく遠距離からの曲射火力で優位に立とうとしていることがあった。一般的に迫撃砲は命中精度こそ高くはないものの、場合によっては前線の陣地だけでなく居住区までを射程に収め、一方的に頭上から爆弾の雨を降らせられることになる。

「あまり時間はかけてられそうにねぇが……」
 黒く幅広の刃に朱色のルーンが刻まれた銀の魔剣、黒銀の炎を従え、かつての学び舎へ。
 人々が一先ず腰を落ち着け生活を始めた場所。仮初の住居は今は悍ましく嫌悪感を抱く気配に蝕まれ、混沌が支配し、怒りと嘆きが在った。
「俺は見たぞ、化け物の仲間ダ!」
「やめろ、やめてくれ! 違う……ぐ、がぁっ……」
 誰も信じられず隠れ潜んでいた男が、未だ避難していない集団に引きずり出され暴行を受けていた。
 煽られる恐怖の最中、何ら根拠のない証言であっても、理由さえ与えられれば隣人に躊躇なく暴力を振るう者達。不気味な薄笑いを浮かべ、拳を振り上げる男の貌こそ、狂気に彩られていた。
「やめなイ! 皆もこうなりたくないなら、助かりたいのなラ……友達になろウ!!」
「…………醜いな」
 そんな光景を目の当たりにしたカイムが構える魔剣の裡、噴出す黒銀の炎は勢いを加速させていく。
 そして一閃。薙ぎ払う刃は膨大な炎を纏い、眼前の集団を吞み込んだ。
「う、ぎぃやああぁぁァアアア……!!!」
「な、なんだ!? 熱く……ない、炎?」
 苦悶の声を上げ体の一部――寄生部位を抑え悶え苦しむ者たちがやがて倒れ伏していく。
(まだだ。もっと広く、遠くまで――)
 黒銀の炎は勢いをさらに増し、居住区の建物を覆い尽くし、火柱が天を衝く。夜闇に蠢く不気味な瞳の輝きを黒へと塗りつぶし、遠い星々のそのささやかな輝きだけが残された。
 カイムのユーベルコード『必滅の刃』がオブリビオンが放ったユーベルコード、寄生する目玉の分体のみを焼き払ったのだ。
「……これで、少しは救えるハズだ」
「お、おお……何か奥の方からすげー悲鳴が聞こえた気がするが……ちっ、逃げ遅れかよ」
 迫りくる謎の炎は正気を残す者にとっても相当なスリルがあったようだが、それでも言い争う声は途絶え、倒れ伏した者たちとそれに戸惑う人々を残す。
「デイビッド、ここは任せた。後は頼むぞ。――俺はちょっと仕事に行ってくる」
「なんだと? カイムてめぇ、独り占めする気か? 俺だって行くに決まってんだろうが」
 デイビッドを含めたアウトローたちの装備は、アサルトライフルをはじめショットガンや軽機関銃にグレネードなども携行しているとはいえ、重火器や戦闘車両は持たず、集団としての練度もマンソン一家やマシューの部隊よりは数段劣る。彼らもカイムの意図――敵陣只中への衝撃と粉砕――を察しておりそこに同道するつもりだったようだが、それは玉砕することと同義でもあった。
「まだ逃げ遅れがいる。そいつらの居住区への護衛と疑心暗鬼になってる奴への説得が必要だ。……分かるだろう?」
「それは……そうかもしれないがよ。勝手に足引っ張りやがる連中をそこまで面倒見る義理はねえよ。オレは、そんな奴らがどうなろうがどうだって良いんだよ!」
「……」
 聞き入れないデイビッド。彼は悪徳の町で悪党どもの下っ端をやっていたケチな男に過ぎなかったが、レイダーの親玉が猟兵達によって駆逐され、マシューらのような現地勢力によって悪党どもが壊滅の憂き目にあっても、そこで殺されることはなく拉致のような形で連れてこられた人間だった。
 その経緯をデイビッドは意地でも語りたがらず、彼が恨み言を漏らすマシューもその件については尋ねても笑って誤魔化すのみだが、何らかの基準を以て選別が行われたのであろう。
「……逃げ遅れにはまだ小さいガキどもも居るんだとよ。なぁ、デイビッド。お前は……」
「……ちっ。親は何やって……親がいるなんて贅沢もそうねえか。クソッタレ!」
 マシューが何を思ってそうしたのかは分からないが、農地の開拓を名目とする新拠点にはそれに相応しい能力を持った者ばかりではなく、孤児などの年少グループも連れてこられていた。デイビッドは当初、彼ら彼女らをやたらと疑り深く警戒していたが、恐らくその選別の際に何かあったのだろう。
「くそ。忌々しい、クソガキどもが。いや、アイツらの見た目に騙されるな。騙されるとなぁ……」
「デイビッド、落ち着け。……頼めるな?」
 カイムは葛藤する青年の肩を叩く。
 例えば、悪逆非道こそを是とする世界で、情を捨てきれずに騙し打ちを喰らうような間抜けだと彼が自分自身を罵ったとしても、だからこそ必要とされる場所があり、その助けを欲する者達も居るのだ。
「だけどなぁ、それじゃてめぇは……」
「ふ、そう心配すんな。死ぬつもりはねぇさ。明日は『お宝』の発掘が待ってるんだからよ?」
 カイムは相変わらずの余裕を湛えた笑みのままそう言って、アウトロー達に背を向けた。
「ま、あんたらも気をつけな。無事戻ったら祝勝会でも開くか? レーションなら奢るぜ」
「う。贅沢言ってるとは思うけどよ。そいつはあの胡散臭い自称ヤブ医者にでも食わせとけよ……」
「ああ、アイツ味覚がぶっ壊れてんだよな。平気な顔して平らげやがる」
 デイビッドとアウトロー達が顔をしかめて言い合った。
 レーションは所謂かつての米軍のモノで、マシューらの勢力が大量に保持していたものだが……賞味期限? 知らない子ですね……なソレは飢えたアウトロー達にさえ散々な評判だったのだ。

●湿地(西)側にて
 生きることは選択の連続だ。
 アポカリプスヘルに住まう者たちも様々なモノを天秤にかけ、片方を選び取ったならその代わりにもう片方を切り捨ててきた。どちらを選んだとしても失うばかりで、選んだことに意味などなかったとしても――それでも何かを選んで来たのだ。
 だから……というわけでもないだろうが、冬季はこの拠点の暫定指導者である初老の男に確かめるように尋ねた。
 例えば人と拠点と、どちらかを選ばなければならないとしたら――
「貴方は、拠点と言う形が残ることを選ぶでしょう?」
「私はただのヤブ医者だよ。それでも医者である以上、本分は人を生かすことなんだけどね。『医者を必要とするのは丈夫な人ではなく病人である。私が求めるのは慈しみであって生け贄ではない』――主もかのように仰ったそうだ」
 殊更に酷薄げな笑みを浮かべる冬季に、マシューが苦笑交じりの答えを返す。
「そうですか? では、拠点を失うことになっても人を選ぶと?」
「そうだとも……と言いきれないのが辛いところではあるが。拠点の開拓も人類の生存圏の拡大……安全や食料の確保のための手段に過ぎない。二つを切り離して考えられるものではないよ。私なりの価値基準はあったとしてもね」
「ふっ、全体の為であれば大を生かして小を殺す、ですか? それは同じことでしょうに」
「……合理的な判断が裏目に出たことも、無意味だったことも嫌というほど経験した今となっては、結局の所、何が正しいのやら分からないんだよね。死ぬべき人間が死ねば誰かを生かせるというなら、この老いぼれから真っ先に死ぬべきだろうとは常々思っているが」
「ふむ……ですが、いずれにせよここが拠点という体裁を調えるには、当面貴方とマンソンさんの両輪が必要です」
 敵はその一部を割いて湿地を渡り、拠点の陣地内奥深くまで浸透しようとしていた。その手当てに向かう部隊を直接指揮するマシューに加勢する冬季は、拠点にとっての重要人物の保護が念頭にあった。
「……半年後以降ならマンソンさんの重要度が大きく勝りますが、今だけなら貴方の重要度の方が高いので」
「ふ、人の命の目方を堂々と計ってくれるね。……ただ、この拠点から見れば今だけはそうかもしれないけれど、キャラバン隊になにかあれば影響範囲が大きいんだよね……」
「まぁ……不安は残りますが、手は打っていますよ」
 冬季は120体近い人型自律思考戦車を編成し、東西の戦場へと展開させていた。
 10体程の集まりが12組となり、更に3組を1隊として隊の中で役割を分担させる格好だ。こうして編成した4隊のうち3隊が東側のマンソン一家の援軍に向かっていた。残された1隊はというと、
「此処で敵を殲滅せよ。……お前もマシュー氏を護れ」
 その命に応じ、侵攻する敵影を捉えた人型戦車が砲撃を開始する。
 30両の人型戦車から放たれる弾幕が夜空を彩り、敵――主に寄生された動物群を制圧し血煙と挽肉に変えていく。
 極めつけは焼夷弾による攻撃で、超高熱で容易に消えない炎は生物主体の敵に対し効果覿面だった。直撃した者は断末魔をあげる暇すら与えられずあっという間に死に絶えていく。それでも、炎を全身にまとわせ呼吸も出来ず激痛の中でのたうち回り焼け死んでいくよりは幸運だったろう。
「……なんていうか君たちのその……ユーベルコードっていうのは、反則だよねぇ」
 そんな、現出した地獄じみた光景を眺めどこか遠い目になるマシュー。
 燃え盛る焔は場所が場所なら無慈悲な自然破壊となりそうなものだが、既に豊かだった自然環境も崩壊し生き物の気配も乏しかった土地だ、今更ではあった。
「こんなものですか? これではわざわざ赴いた甲斐が無い」
 くつくつと嗤う妖仙。
 ゆっくりと後退してきた戦闘車両から顔を出し、戦車兵のビリーが慄く。
「むしろ俺たち要らんかったかな……そして本音を言うぞ。……この人、何か怖ぇよ!」
「……うむぅ」
 ストームブレイドの兵士ポールも今はマシューの傍まで下がっており、複雑そうな顔で唸る。
 オブリビオンの目玉に寄生され操られていた生物群はそのほとんどが壊滅し、彼らの焼け焦げた匂いが鼻腔を突いた。それらを燃やし尽くしても尚未だ燃え盛る炎と煙の合間からオブリビオンの矮躯が数体、ノロノロと姿を見せた。
『よくも……よくもあわれなギョロちゃんの友達を殺したなー!』
「だから? 何だというのです? 畜生風情が」
 オブリビオンは息も絶え絶えに抗議する。その目玉を内包した顎ごと頭部を踏み砕き、冬季が嗤う。
「脆い、脆すぎる」
『ひ、ひどいよー。どうしてギョロちゃんたちをいじめるの? どうして……』
 どこか気の抜ける口調で生き残りのオブリビオンが、その口から小さな獣の群れを召喚した。その何百体もの顎の隙間から覗く目玉から、マシューへ向けレーザーが照射された。
「……君たちが邪魔だからだねぇ」
 それはあまり威力の高くない攻撃ではあったが、複数のオブリビオンから放たれたそれら分体は数も多く処理に時間を要した。
『邪魔だったら殺すの? それは正しいことなの?』
「……それが正しい目的のためであろうと、正しい手段を選べることばかりではないんだよ」
 困ったように笑いながら、手を休めることもなくオブリビオンをあしらうマシュー。
 敵はどこから知りえたのか彼を積極的に狙っていたが、マシューもそれを承知していたようで、冬季の助勢により十分な戦力が用意されたこともあってオブリビオンの群れもまた溶けるように消えていった。
『ギョ、ギョロちゃんは、友達を増やしたかっただけなのにぃ……』
「ゴミと仲良くする趣味は無いのでね」
 拠点の人員と物資の吸収による勢力拡大が目的だったのだろう、オブリビオンは血だまりに沈み投げ出した四足をぴくぴくと痙攣させながら哀れっぽい声で泣いた。
『どうして……? ギョロちゃんの足はみじかいの……どうして……』
「……」
 それに冬季が無言でとどめを刺すも、どこから湧いてくるのかオブリビオンにはまだ後続があるようだった。
 だが比較的鈍足で個体としての戦闘力自体はそれほど高くないオブリビオンは、燃え盛る焔と人型戦車から吐き出される鋼鉄の雨に晒され、まるで無為な死の行進を続けるのみだった。
(こんなものですか? 想像した通りなら敵には……)
『……もぅ、まぢ無理……目玉焼きにされタ』
『ギョロちゃんは、洗ってない犬の匂いなんだっテ……』
『支援要請しヨ……。あんこくしんさまーたすけてぷりぃーズ!』
 砲声の絶えぬ戦場、抜けてくる僅かな生き残りが漏らす芝居がかった嘆きの声。
 そして遠方より響く空気を切り裂く音。
 ――瞳を凝らしても見通せぬ闇の奥から、幾筋もの光が急速接近していた。
「……ちぃぃっ。庇え、黄巾力士!」
「お? おおっ……!?」
 人体に向かって放つには明らかに過剰な破壊力を備えたミサイルが、オブリビオンから生じた小型個体の放つレーザー光によってマークされた標的、マシューへと殺到した。

●渇望する者
「……フンフンフン、なるほどなるほど……軍用ヘリね。完全に思い出した。……なるほど?」
 桃髪に金の瞳、左目を眼帯で覆う少年――ロニは状況を紐解いて何か納得したようだったが……それからさてどうしよう、と首をひねった。
 網膜を焼くような閃光と爆音に爆風、地を揺るがすような衝撃。
 敵味方が放つ砲火の応酬に辟易としながら、けれど事態の解決には結局のところ暴力が必要なのだとも理解しており。
(ボス……あのオブリビオン達の統率者。ボクが手を下すのは簡単かもしれないけど)
 ロニとしては叶うなら彼ら自身の手で為せることを為して欲しかった。そうでなければ人が成長する機会を奪いかねず……かと言って、この世界の状況では見守るだけでは育つ前に朽ちてしまうだろう。
「成長するための時間を稼いであげる事と……手助けはするけど、出来ることは自分たちでもやって貰う感じでいいかな?」
 そう方針を決定し、なるようになるだろうということでテクテクと戦場を闊歩するロニ。目標は平野側に寄せている敵集団の奥深く、今は戦闘指揮車の中に居るはずだった。
(チョコレートを狙うネズミ――軍用ヘリがもう出たのなら、マンソンさんが上手くやるかもだけど)
 拠点防御の構えを見せるマンソン一家だが、本来の彼らは荒野を縦横無尽に駆ける機動的な戦闘を得意とする武力集団だった。その天敵となり得る航空兵力が既に吐き出されたのなら、独力で勝利する可能性も見えるかもしれないが……例えそうなったとしても大きな被害は避けられない。
 そして物流やオブリビオンストームの抑止を担うキャラバン隊の損害は、将来に暗い影を落とすことになっていく。
 そんな風にちっちゃい脳みそを悩ませていた時だった。
「お、おお……お菓子の神様、です?」
 ロニよりもまだ幼く見える少女――コゼットがロニを認め駆け寄ってくる。赤い髪を肩の辺りで切り揃えケープ付きの白いコートを着た、火の灯る蠟燭に似たシルエットが現在はやたら煤けていた。
「そう、ボクは神さまだよ! お菓子のじゃないけど……」
「お菓子の神様ぁ、ギブミーチョコレート! ギブミーキャンディ―、ですぅ!」
「だめだね、皆を心配させる悪い子にはあげられないよ! あとボクはお菓子の神さまじゃない……」
 戦場に似つかわしくない能天気な会話を繰り広げる二人。
 どうやらコゼット曰く、手柄を立てたくて大人たちには捕まらないように隠れつつオブリビオンを退治していたらしいのだが……。
「あいつら燃やしたら証拠まで消し炭になってしまったのです……。でもコゼットはちゃんとやったのです! トラストミー、です!」
 かつてヴォーテックスの支配する町、妖怪のような老婆の下で故買屋――盗品の売買を行っていた彼女は、スラムに屯し引ったくりやスリを行う悪童たちの用心棒的な立場でもあったという。火炎を操るユーベルコードを使えるらしく、幼い見た目にそぐわず修羅場も経験済みのようだった。
「う~ん……コゼットは手柄? を立てたいんだよね?」
「そ、その通りです。コゼットには、野望があるのですから……!」
 そう言ってこくこくと頷く少女の眼は何かを渇望してギラギラと輝いていた。少なくとも復讐や憎しみといった動機ではなく、何かを望み戦火へと身を投じたのだろうが……。
「よーし、それじゃあ今からボスを倒しに行こう!」
「お? おおー! やってやるです!!」
 そんな風に緊張感のまるで無い軽いノリとその場の勢いで、戦闘の結末を決定づける戦い――一柱と一人の決死行は始まってしまったのだった。

●砲弾の雨
 エレメンタリースクール――小学校だった建物を利用した住空間。大きな中庭と、逆Lの字型に配置された校舎。その一室で取り残された女――イッツエルは二人の子供を抱き寄せ途方に暮れていた。
「こんなことじゃ、だめ。なのに」
「なかないで、ママ。だいじょうぶだから」
「……ごめんね。ごめん、ね」
 慰めるように身を寄せる小さな体のぬくもり。
 その幼き身にすら気遣いさせてしまう己の弱さに、なおさら嫌気がさす。こんな荒れ果てた世界に産み落してしまったことか。それとも、生きていく力を――光を奪われたあの日、守ってあげられなかったことだろうか。
 何に謝っているのかも分からないまま、涙と謝罪だけが零れた。
(いっそここで終わるなら、その方が良いのかもしれない……)
 それがどんなに無意味で報われぬ死であったとしても、少なくとももうそれ以上、苦しむことはなくなるのだから。
 奴隷狩りに捕まり奴隷として飼われはじめてからは、容姿に優れていたイッツエルは下働きの他にも拳闘士の賭け試合での景品として扱われていた。
 痩せた体を汚れた布きれで隠し、略奪者たちに殺さないでと役に立つからと媚びへつらう日々。
 暴力に酔いしれる男たちは乱暴で、誰かが玩具のように壊され殺される事も珍しくはなかった。先刻まで隣りにいた仲間の悲鳴に耳を塞いで、助けを呼ぶ声が段々と細く途切れていずれ聞こえなくなっていく。
 子どもとて望んで授かった訳ではない。望みが叶ったことなど、あの日以来ほとんど何もなかった。
 それでもこの手に生まれた命を抱いたとき、孤独と不安で狂いそうな日に一片の温もりを感じ、それを大切に想ったことも確かだったのに。
 今ではその命を守るよりも、一緒にこの世界から連れ去ってしまう方がこの子たちの為ではないかと考えてしまう。
「ああっ、見ーつけた!」
「……っだれ!?」
 開けっ放しの扉から駆けこんで来た人影にイッツエルは身を強張らせた。
 頼りないランプの明かりに浮かんだ姿は、長い栗色の髪を揺らし息を切らせる少女シャロン。
「イッツエルさん達、遅いんで探しに来ちゃいました。……大丈夫ですか?」
「あ……目玉が、化け物が、子どもに。だから……」
 見知った顔からの心配そうな声に、応える声は少し震えていたが。
「サジルくん? 具合悪そうだけど、あたしのこと分かる?」
「シャロンおねえちゃん……」
「うん、お名前言えたからヨシ! サジルくんは、大丈夫ですよ。あたしには分かるんです」
 シャロンが簡単な受け答えとボディチェックで確認すると、安堵の息が漏れた。
「シェルターへは歩いてもたったの5分ちょっとです。爆弾が降ってくるかもしれないそうなので……一緒に逃げましょう?」
「……良い、のでしょうか?」
 差し伸べられた手に、女は躊躇し消え入りそうな声で尋ねた。
 ここにやって来てから、そうして暖かな手が差し伸べられる度。もしかしたら、もう一度……と期待してしまうのは、愚かなことなのかもしれないけれど。
「当ったり前じゃないですか!」
 シャロンの力強く答える声に導かれ。
「……はい」
 願わくばその先に待つものが、少しでも良き未来であることを願いながら。
 イッツエルは手を伸ばし――そして、地面が小さく揺れた。
「!? ……伏せっ……――!!」
 中庭に面した窓側から網膜を焼くほど眩い光が溢れ出すのが見えた。
 放物線を描いて飛来し、校舎の至近に着弾した榴弾の爆圧は校舎の壁を薙ぎ倒した。構造物の内部では爆風と爆炎が荒れ狂い、屋根を粉砕して噴き上げ広範囲に飛散物をぶちまけていった。

 ついに発射体制を整えた敵の迫撃砲陣地から、120mm榴弾の雨が拠点へと降り注ぎ始めたのだ。 

●生と死
「ウンディーネ。清らかな水の精霊よ、焼き焦がす炎を鎮める慈雨を降らせておくれ」
 黒い煙を吐いて激しく燃え盛る炎。桜花は召喚した水の精霊で消火を行いながら、半壊した校舎の一室へと踏み込んだ。精霊たちの導きと桜花自身の直感が指し示した先には逃げ遅れた者たちがいた。
「あ。火が、消えた……?」
「っ……大丈夫ですか?!」
 二人の子供を守るように抱きかかえ部屋の隅に蹲る少女が、桜花の姿を認め安堵に表情を緩める。
「ん? あー……ごめんなさい。聞こえないや、あはは……」
「耳が……」
 少女――シャロンは爆発の影響で鼓膜を損傷したのだろう、音を失くしているようだった。その腕に抱かれたサジルは眠っているようだった。女の子、サレニが抑揚のない声でぽつりと呟いた。
「ママが……」
 目が見えないはずの女の子が向ける視線を辿り目をやれば、イッツエルがそこに倒れていた。飛散した瓦礫にやられたのか、その場所はとめどなく溢れ出る血で赤く濡れていた。
「あ……あたしとこの子たちを庇おうとして、それで……。サジルくんが離れようとしないから、無理やりに眠らせて。……逃げないと、ですから」
 出血と傷の深さは致命傷で、既にこと切れていてもおかしくない状態。桜花が駆け寄りその死人のような顔色を覗き込む確かめると、まだ微かに呼吸をしてはいたが……。
「……」
 そのとき閉じられていた瞼がゆっくりと開いて、焦点の合わない目が彷徨い揺れ動く。大正の女給のような、柔らかな花の色をした和服にエプロン姿。短い間にもよく見知った相手の姿がその目に映る。
 すると今にも死にゆくその人間は安心したように微笑んで、唇がかすかに震え――しかし声は言葉にならず、小さな咳と生温い赤がこぼれ出た。
「っ……無理に喋らないでください。大丈夫、今に楽になりますからね」
「……」
「……ええ。貴女も、一緒に」
 眠る子をあやすように。冷えた手を握り囁くような声で子守歌を歌う。
 桜の花びらがはらはらと儚く舞い、踊る。
 それは眠りへと誘う桜花のユーベルコードだった。闇に覆われ地の底へと沈んでいく意識の中、女は夢を見ていた。金色の――そよぐ風に揺れる、麦畑の風景。
「……行きましょう」
 今は遠く遠くに霞む幻。
 そんな場所を目指し歩き始めたばかりの拠点を。地獄から解放され希望を抱いたのも束の間、嘲笑うかのように痛め付けられる人々を、桜の花は悼むように慰め共に在った。

『天罰、天罰ダー!!』
『ヒューヒュー♪』
 外ではオブリビオンの群れがいまや堂々と姿を見せ、そこに居る人間たちを教唆していた。犬とも鰐ともつかぬ珍奇な生物が逃げようとする人々の行く手を遮っている。
『友達じゃなければ、みんなみんな、死ぬんだヨ?』
『だから、友達になる必要があったんですネ!』
「な、なるっ。友達にでもなんでもなるから助けてくれぇ!!」
『いいヨー! それじゃ、友達ならギョロちゃんに意地悪するやつらをやっつけよウ!』
「――っ~!! 馬鹿どもが……」
「もう駄目だ! この拠点はもうおしまいなんだぁ!」
 デイビッドら元ならず者たちがオブリビオンを抑えようとするが、敵側についた者たちがそれを邪魔し始める。
 降り注ぐ榴弾、死への恐怖にパニックに陥った者たちが悪魔の手にさえ縋ろうとする。そしてオブリビオンの尖兵と化した人々へ、冷たい銃口が向けられた。
「……しょうがねえ。やるぞ」
『アヒョヒョヒョ! 人殺しダ! なかまわレ……ぎゃァアアっ!!?』
 銃弾の雨が降るその前に。圧縮された水流がオブリビオンの躰に穴を穿ち、それに従う人々の頭上には水球が降り注いで弾けた。
「……此の拠点は貴方達のものです! 貴方達が守ろうとしなくてどうします!」
「あ、あんたは……」
「頭が冷えましたか? 落ち着いて避難所に向かいますよ」
 血に塗れた着物姿。桜花の冷え冷えとした声音に振り返った者たちが息をのんだ。彼らが知っている朗らかに笑う人の好い娘の表情は、今は……。
「……人手がいります。怪我人を運ぶのを手伝ってください」
「ああ。……そいつは……死んでるのか?」
 駆け寄ってきた男たちが、ふらふらで今にも倒れそうなシャロンや子どもたちを支える。
 デイビッドは桜花が運んできた女に目をやった。包んだ毛布越しにも滴る血に塗れた彼女は死人にしか見えない。
「とても疲れて……眠っています。どうか、起こさないようにそうっと運んであげてください」
「……分かった」
 桜花は首を横に振り、ピクリとも動かないその躰を預けた。それから歩を進める先には、カイムの黒銀の炎で寄生体が破壊されるも、後遺症の為かぐったりと倒れる人々が転がっていた。
「迫撃砲も止んでるだろ。カイムが……猟兵が助けてくれてるんだ。手伝えよな……お前らも」
 榴弾の雨はその第一射以降まばらとなり、今では殆ど鳴りやんでいた。
 暗闇に慣れた目に映るのは猟兵――数日前に出会ったばかりのただの他人でしかなく、けれど化け物に取り付かれていた人間でさえ躊躇わず救おうとする、血と泥で汚れた娘の姿。
「あ……う……俺たちは、ただ死にたくなくて……」
「……」
 奴隷の日々を生き延びた者たちが動けない者に肩を貸し、引きちぎったカーテンや戸板を持って来ては担架代わりにして重傷者を運び始めた。
 そうして桜花たちがシェルターへ歩み始めた時、微かに息があったオブリビオンが声を上げた。
『どうして? どうしてギョロちゃんたちは殺されたの……死ななければいけなかったノ?』
 その顎から覗く大きな目玉は濡れているようにも見えた。
「此処を……貴方達の好き勝手にはさせない。其だけです」
 死にゆく過去の化身へと返された言葉は、怒りではなく何処か憐みの色を含んで響いた。

●殲滅
 時はしばし遡り、敵陣奥地に並べられた迫撃砲が火を噴き始めたころ。
 カイムは銃火が交錯し血肉が弾け飛ぶ中、敵陣を突っ切っていく。
「……猟兵か! すまん! 頼む!」
 塹壕線に拠って防戦の構えを見せていたマンソン一家は既に少なくない損害を被ってしまっていた。
 想定以上に精密な爆撃――敵の砲撃には誘導弾が用いられていたらしい。
 煙で燻りだされた獣のように逆襲に打って出、冬季が配置した人型戦車が前進するも敵勢の抵抗も激しく突破できずにいる。
「ハッ! ボランティアにしちゃ働きすぎだが……任された!」
 火薬が歌い死神が微笑む死地を単身で疾駆し、斬り込んだのは再度発射の態勢にある砲陣地だった。機関銃の弾幕が雨あられと降り注ぎ、アサルトライフルやグレネードを装備した歩兵たちが迎撃に出てくる。
「入って来ているぞ、単独のようだが……速い、油断するなよ!」
『ゆだん、ダメ、ゼッタイ!』
「了解。念入りにミンチにしてやるぜ」
『はんばーぐにしよウ!』
「兵士……人間か」
 カイムはオブリビオンに従う兵士達へ向け黒銀の炎を差し向けその洗脳を破ろうとした。苦悶の声を上げ蹲る者が居て、けれど驚きこそすれダメージが無いことに気付き激しく抗戦する者達が居た。
「怯むな。炎はまやかしだ! 相手はたった一人、何としてでも仕留めるのだ」
「ハッ、お前ら……化け物に進んで飼われてやがんのかよ」
 射線を見切り弾丸の雨を回避しながら、カイムは呆れたように笑っていた。敵の兵士たちはその全てがオブリビオンに寄生され洗脳されているわけではなく、自らの意志で協力しているようだった。呪わしいほどの敵意が全身に突き刺さる感覚。
「お前達が攻めてんのは人間の拠点だぜ」
「だからどうだというのだ。貴様こそ化け物ではないか!」
 歩兵達は残った火力を総動員してもカイムを捉えきれず、苛立っているようだった。しかしカイムの方も心中穏やかではない。そうしている間にも彼らが防御していた陣地から破裂音が連続し迫撃砲の発射煙が立ち上っていた。
「話にならねえな。死にたくなけりゃどけ」
「行かせるものかよォ!」
 足を止めぬまま二丁銃の早撃ちで反撃し強引に突破。紫電を纏う銃弾を連続して展開中の迫撃砲へと撃ち込む。
 手榴弾のピンを抜きながら肉薄してきた兵士は目的を果たせず、自らの行いで爆発に呑まれ散っていった。

『そろーり……』『こっしょり逃げるんだヨー』
 迫撃砲陣地はその弾薬の一部が紫雷に当てられ誘爆し、猛烈な黒煙で覆われていた。既に無事な人員は居らず、息がある者も地べたを転がって呻き声をあげるばかりだった。
 そんな惨状を呈する場所から、オブリビオンがひっそりと脱出しようとしていた。小さな動物に似た躰、短足を必死に動かして走る――がその歩みは動物基準で見てもあまり速くは無い。
「邪神の眷属、か」
 邪神狩り。それはUDCの依頼では日常的に請け負う仕事だったが、まさかこんな場所でその眷属汲んだりと出くわすとは……カイムは思わず笑ってしまった。2丁の銃口が逃亡を図る眷属らをピタリと照準し、よどみない動きで引き金を絞る。
「ま、これも便利屋としての仕事だ」
『ギョ、ギョロちゃんを助けてプリーズ!』
『まだ死にたくナーイ!』
「此処は人間の拠点だ。ゴミが蔓延るには過ぎた世界なのさ」
 銃弾と共に放たれた紫雷がオブリビオンを貫き弾けた。
 それはカイムの内なる邪神の持つ異能の一つ。禍々しい力の発現が異なる邪神の眷属を蹂躙し灰燼へと帰す。
『ギョロちゃんたちの方が、先に居たのニィ……』
 最後の一体が恨み言を残しその場に居たオブリビオンが全滅したころ、軽い銃声が幾つか響いた。幾ばくか生き残っていた兵士が自らを断った際に残した音。
「……こいつら、郡都の方から来たんだったか。宝探し、か……」
 振り返れば既に戦場の趨勢は逆転し、一部では掃討戦に移行しつつあった。
 オブリビオンが逃走を図る一方で敵の重機や戦闘車両は最後まで抵抗を続けたが、軍用ヘリによる支援もない地上は冬季の人型戦車が支配し、それによって余力が出来たマンソン一家の戦力は迂回して進出つつオブリビオンの逃走を阻んでいた。
「ゴミか、宝か……」
 殲滅戦の様相を呈し始めた戦場で、未だ激しく抵抗を続ける敵の部隊へ向け、カイムは再び走り始めた。

●利用する者、される者
 一方、冬季やマシューらが加わる湿地側の防衛戦も決着の時を迎えていた。
「ゴホ、ゴホッ…………ヘ、ヘルファイアかな? 良いもの持ってるねぇ……」
 射線を遮る人型戦車に光の尾を引いて突き刺さったミサイルは、次の瞬間には爆発し鋼鉄さえ木端微塵に引き裂く。耳を聾する轟音が一帯を激しく震わせ、飛散物を孕んだ爆風と衝撃が駆け抜けた。
 オーラ防御に専念する人型戦車が幾ばくかその余波を遮り戦力を保全したが、各隊はかなりの被害を出してしまっていた。
 ……とはいえ、人型戦車群には被害も出ていたが、逆に言えばそれだけだった。
「それなりの準備はしていたつもりだったけど、危うく死ぬところだったよ」
「ふ、ふ……」
 九死一生だった身の上を悟り、煤けた顔で一層遠い目になるマシュー。
 冬季は何処か引き攣った笑みを浮かべていた。
「舐めた真似を。塵が」
『どうだ、参ったカ―』
『あやまったってもうゆるさないゾ!』
 調子づき挑発的な言葉を投げるオブリビオン。
 ミサイルを撃ち尽くしたか遠くの空から接近してくる軍用ヘリのローター音。
「迎え撃て、黄巾力士火行軍」
 人型戦車が宝貝・飛来椅の能力により浮遊し飛行を開始すると、やがて急激な加速と共にソニックブームを発生させ空気がビリビリと震えた。
 マッハコーンを従え地上から打ち上げられた彗星のように迫る兵器に軍用ヘリが慌てて回頭を始めるが、音速を超える人型戦車の群れから逃げおおせる道理などある筈もない。
「ターゲットを仕留め損ねた。失敗だ、敵には化け物が付いてやがる!!」
 冬季自身も縮地を用いて中空を駆けヘリに取り付くと、パイロット達が絶叫しどこかと通信を行っているようだった。
「作戦は失敗だ! 俺たちもとうとう終わりだ!」
「撤退は不可能だ。ギョロも全部やられた。みんなみんな死んじまった。敵には化け物が居たんだ」
「――俺たちは死ぬ」
 さらばだ、と別れの言葉を口にするその前に。
「こんばんは。そして、さようなら」
 彼らにとっての死神はすぐ傍で嗤いながら、塵を払うように静かにその手を下したのだった。



 ………
 ……
 …



 死屍累々、肉が焼け焦げ強い臭気の漂う戦場跡にて。
「機体はなるべく傷つけずに鹵獲しています。中身は掃除しておきましたが――その方が都合が良いのでしょう?」
「ふっ、そうだねぇ。『目玉の化け物に汚染された機体』を人類の手に取り返してくれて、有難う」
 鹵獲した軍用ヘリの中身を未だ燃え盛る炎にくべて、その燃えるさまを眺めながら。
「傷病者、寡婦、孤児……新しい拠点を立ち上げるにしてはお荷物が随分と多いように見えましたが、彼らは餌でしたか?」
「……逆境に塗れた生を生き抜く糧。暖かな記憶というものが人間には必要だと思わないかい? そうでもなければ、この世界を人間として生きていくことは、とても難しいだろう」
「実に人道的でお優しいお考えですね」
 オブリビオンの目的は彼らの拠点の自衛と寄生能力を用いた勢力の拡大。その勢力下に楔を打つように人類の拠点を造ろうとするならば、衝突は必然だった。
 冬季は起こるべくして起きた戦いの発端を、こうなるであろうことを理解していただろうマシューへと尋ね、その答えを鼻で笑ってみせた。
 彼は行く当ての無い者を保護し、食事を与え、希望を与え、久しく縁の無かった安らぎさえ与えたかもしれないが、その裏ではオブリビオン――人類の敵との戦いに巻き込み利用していたのだ。
「ですが、放って置いても死ぬ、死んでも誰も困らない連中の再利用方法としては良いのでは?」
「差し出された手にはしがみつかなければ、未来を切り拓くことなどままならぬ。こんな世の中が憎いねぇ……私たちには、選択肢などはじめからそう与えられていないのさ」
 滅びに瀕した時に差し伸べられた救いの手、例えそれが悪魔の手であったとしても取るだろう。破滅につながると分かっていても、喉の渇きに耐えかねた者が毒水を啜らずにはいられないように。
「まぁ、ここで貴方が死んでしまえば有耶無耶に出来たことかもしれませんが……生き延びた以上は精々しっかりと責任を果たすことです」
「ふ、そうだね。君たちには感謝してるよ……精々、切ったり繋げたり頑張ってみるとしよう」
 人類の存続と再興という観点で言えば有能な男が、疲れ切った表情を歪め苦笑するのを眺め。
 冬季は口の端を吊り上げどこか楽しそうに嗤うのだった。
 
●人類の敵
 今回のオブリビオン勢力との戦いは、猟兵が参戦した時点で勝敗は覆りようが無いものだった。後は彼我の損害と其処に至る過程で彼ら――現地の民が何を得るかの違いでしかない。
 そうして戦いの結果の一つとしてロニは炎を操る孤児の少女コゼットを連れ、敵軍の喉元を食い破り、終に統率者へとその刃を突き付けていた。
「ふふん。楽勝だったのです! さぁ、大人しくコゼットの野望の礎となるのデス!」
 銃弾飛び交う中、マンソン一家を囮に目立たず進んだ二人だったが、ロニはともかくコゼットの方は流石に死にそうな目にもあっていたため、大分テンションが高く興奮した状態になっていた。彼女を取り巻く高熱の炎で空気が蜃気楼のように揺らぐ。
「これで終わり……カ」
 その炎の発する超高熱によって一部融解し大破した指揮車両から、炎に包まれ降り立つ者が居た。
「げ。な、なんで生きてやがるですか……!?」
「宇宙服……? さてはキミ……宇宙人だね!」
「……コレは、戦闘用のパワードスーツ、ダ……」
 棒キャンディをぺろぺろと舐めながらカッと目を見開くロニ。
 対峙するのは機械で鎧われた人間で、ずんぐりとしたシルエットから無機質でくぐもった声を発していた。
「観念するのです宇宙人! ささ、神さまやっちゃって下さい、です!」
「えっ。後はコゼットに任せるつもりだったんだけど……?」
「……神さま、神さまここまで来たなら最後までしっかり面倒見るのです!」
「やだよ! 何でもかんでもボクに頼られたら、ボクのちっちゃい脳みそがパンクしちゃうじゃん!」
「でもでも、ぶっちゃけるとコゼットは人型をそのまま燃やすのは……ちょっと苦手なのです。やるなら乗り物ごとか建物ごととかじゃないと無理なのです……!」
「それもどうかと、思うゾ……いたずらに被害を広げてしまうだろウ」
 敵然でぎゃあぎゃあと言い争いを始めた緊張感の無い少年少女に向け、統率者はおもむろに両腕で抱えたガトリングの砲口を向けると無造作に引き金を引いた。
「……!? うきゃぁあああああーー!!」
 秒間50発を超える砲弾が鈍く重い振動を伴って空気を切り裂き大地を抉り爆ぜさせていく。この至近距離では戦車の装甲すら貫くだろう過剰な火力の猛威に情けない悲鳴がかき消され、
「効かぬカ……なるほド。確かに化け物であるようダ……」
「これくらい、ちょっとくらいはいいよね!」
 6本の砲身を焼きながら吐き出された殺戮の雨は、宙に浮かぶ球体の群れが受け止め弾き逸らしていた。僅かな間に弾を撃ち尽くし灼熱の鈍器と化したガトリング砲に、更に鋭い牙を並べた球体が襲い掛かり齧りつく。金属が拉げる耳障りな音が響いて、数秒後にはそこには何も残されていなかった。
「かかか、神さまぁ……なぜ、なぜコゼットを連れてきたのです? もう無理です、もうおうち帰りたい……!」
「キミが手柄が欲しいって言ったからだよ……?」
「こんなつもりじゃなかったのです! コゼットはだまされたのです……たばかられたのです……!」
 しかし頭を抱えて地面に伏せ情けなくプルプル震える少女はすっかり戦意喪失しているようだ。ロニの防御で実質何の被害も被っていないのだが……強者と対峙した経験はあまり無かったのか、それとも単純な幼さゆえか、避けようのない死を目前に突き付けられ完全に怯えてしまっていた。
「そ、そうです。コゼットは本当はやりたくなかったのです! そっちの悪魔にそそのかされて無理矢理やらされただけなのです。だだ、だからたすけて殺さないでぇー! うぐっうぅぅっ……」
「……こんなこと言ってるけど、どう思う?」
「わたしはもう、腕が捥げそう、ダ……貴殿らの勝ちダ。手柄が欲しければ……立って、来るが良イ」
 ガトリング砲の反動で潰れかけ、各部から煙を吐いて機能不全に陥ったパワードスーツ。その中から、どこか苦し気な声が漏れる。
「そうじゃなくてさ。騙されたとか、無理やりやらされたとか……だったら、もしかしたら、本当に仕方なかったかもしれないじゃない?」
「…………」
 統率者はしばらく無言だった。
 明らかに理性と感情を残していて、それでも人類の敵にまつろい、命をなげうってまで邪神の眷属と共に――人類の敵として戦う者。
「……GYOROは、禍神という……邪神に仕えているのだそうダ。その目的ハ、彼の神の助けとなるべく力を蓄えることダ」
「うん」
「人の形をしテ……同族を、戯れに虐げることは無イ。己の欲のために他者を陥れることモ、無イ。同胞を殺し合わせテ、笑ったりもしなイ……」
 訥々と語り始めたその声は相も変わらず無機質なようで、隠しきれない怒りと失望が滲んでいた。
「ただ己のためでなく。GYOROハ、主に尽くそうとしているだけダ。人の形をしただけの……醜い欲望に塗れたケダモノどもよりも、ずっと愛らしい存在ダ」
 そうして、統率者は千切れそうな腕に一抱えの戦斧を携え、思い出したようにまた動き始めた。
「そして、ワタシたちを救ってくれタ……」
「そっか」
「……ワタシは、GYOROを裏切らなイ。それなら……お前タチが、仲間にならないカ?」
「ならないよ」
「…………そう、カ」
 かくして決別の言葉が交わされ、統率者は地に蹲り震える少女の傍へ行くと戦斧を振り上げた。
 ロニは何もかも分かっているような顔で、金色の右眼でその様子を静かに見守っていた。
「ならば、従わないのならバ……殺ス。弱い者から、殺ス。女、子供、戦えない者だとて容赦なく、お前のような強者からは隠れテ……殺して、殺して、殺しテ…………そうすれバ」
「ふぎゃっ!? ひぃぁ……ったたたたすけて、かみさまぁ……!」
 煙を上げ不協和音を奏でる機械鎧の接近にコゼットが逃げようとするが、腰が抜けたのか上手くいかず、高速で手のひらを返しながらロニに助けを求める。
 ロニはそんな少女ににっこり笑って、
「うーん。でもボク、神さまじゃなくて悪魔らしいし」
「!? ……あ゛やまるがらぁ! だずげでぇ……!」
「………」
 顔面をぐしゃぐしゃに歪めて許しを乞う少女と、緊張感のないやり取りを続けるロニ。そんな二人を尻目に、統率者は静かに戦斧を振り下ろした。
 すると遠くで銃声が一つ響いて、統率者はゆっくりと膝を付き、それから体を投げ出すように地面に横たわった。
「たたた、たすかっ………た、のです……?」
「オイ、大丈夫か? そっちはロニか……ってか、何でこんな所にまで子どもが来てんだよ?」
 戦斧は辛うじてコゼットを避け、その数センチ傍の地面をたたき割り突き刺さっていた。銃声に続いて現れたカイムが奇妙な光景に首を傾げ、銀の銃弾を撃ち込んだ相手へと視線を移す。
「そっちの、そいつは……」
 倒れ伏した統率者のパワードスーツからは赤黒い液体が染み出し、機能を果たさない機械の鎧の内部からは、焦げ臭さと混じった肉の焼ける嫌な匂いが漏れ出していた。
 カイムの銃弾は急所を外して撃たれていたが、それでもすでに助からない重傷であろうことは明白だった。
「……時の終わりヲ、共に見ることは叶わなかったカ。無念……ダ」
「そう? 終わらなくても、もっと良い未来だってあり得るかもしれないよ。例えばさ……」
 統率者の今わの際に、ロニは数言だけ言葉を交わした。
 統率者はへたり込む赤毛の少女の方を一度見やって、それから小さく頷いて――それきり、もう二度と何かを語ることも無く息を引き取った。

 その後、統率者が討たれた敵はもはや組織的な行動が行えず一方的に殲滅されていった。
 紫雷と黒銀の炎が迸り、銃声が響くたびに邪神の眷属どもは生還の道を断たれ地に伏せていく。
 人型戦車の群れがオブリビオンの捨て石となって足止めを図る敵部隊を容赦なく蹂躙していく。

 やがて空が白み始める頃には銃火は止み。
 運良く生き延びた生者の前には、惨憺たる戦場とそこに横たわる屍の群ればかりが残されていたのだった。

●戦後
 日が昇り、拠点の被害とその惨状が詳らかに晒されていた。
 戦闘の爪痕もまだ生々しく、まともな人間であれば顔を曇らせるだろう景色。
「~~♪」
 死地を乗り越え野望を成就したコゼットは、ロニからせしめたキャンディを口の中で転がし上機嫌で散歩していた。
 文明が崩壊し生存すらままならぬ世界、限られたリソースを美食に回す余裕など微塵もない世界では、ましてや子どもらにとって甘味の誘惑は抗いがたいものがあったのだろう。
「こんな素晴らしいキャンディーをもらえるコゼットは、きっと特別な存在なのです……」
 信賞必罰というか、褒めて伸ばす教育の成果というべきか、食べ物で釣る方針は一寸想定外なほどの効果も発揮しているようだった。
 そんなコゼットが得意げに自らの戦果を大げさに喧伝し徘徊を続けていると、傷病者たちが集められ治療が行われている部屋の前に座りこむサジル、サレニの兄妹と出くわした。
「……」
 サレニは兄に寄りかかって寝ているようだが、サジル少年が暗い目で見上げてくる。
 コゼットは浮かれていた気持ちに冷や水を浴びせられたような感覚がして、荒み切ったその目に恐怖を感じた。
「げ、元気出せです。そのうちいいことあるのです……多分?」
「ないよ。いいことなんて、ない。じゆうなんて、ない。ぼくはのぞみがかなうなら、てきを殺して。ぼくたちをいじめたやつらをみんな殺して。にどとないたりわらったりできなくしてやりたかった」
 口をつく適当な慰めに、少年は吐き捨てるような呪詛を吐く。
「んぅ……ちっ。仕方ねえやつです……!」
 コゼットは神さまからせしめたキャンディを一粒、断腸の思いで分けてあげた。
「ほら、これでいい事あったのです!」
「………ばかは、おきらくでいいね」
 帰ってきたのは虫でも見るような目と冷たい反応で、コゼットは泣きそうになった。
 そのとき部屋の扉が開いて、ヘロヘロになったマシューが出てくる。
「さ、さすがに疲れた……」
「……!」
 サジルが勢いよく立ち上がり駆け寄ると、その後ろから治療を手伝っていた桜花がやってきてサジルに告げた。
「お母さんは、もう大丈夫ですよ」
「…………」
「ほ、ほら。ちゃんといいことあったのです!」
 その報せを聞いて、ずっと何かに耐えるようにこぶしを握り締めていたサジル少年は、とうとう堪えきれなくなって大きな声で泣き始めるのだった。
 泣くだけ泣いて、やがて糸が切れた人形のように眠ってしまう少年を、大人たちが何も言わず優しく見守って。
「良かったねサジル君。……あっ。マシューさんはまだ寝たら駄目ですよ! まだまだ治療が必要な人、一杯いるんですから」
「いや。君も私もどちらかというと怪我人で本来は安静にして置いた方が良いというか……」
「そうですね。ですが、お医者さんはそう簡単に代わりができないですから」
 桜花と共にマシューを手伝っていたシャロンが、殺人現場に倒れる被害者のような格好のマシューを引きずり起こして立たせる。本当は休ませてあげたいところだけど、と桜花が苦笑して。
「何言ってるんですか? 怪我は桜花さんが治してくれたじゃないですか」
「そうだけど、そうじゃないんだ。寝ないと治らないんだ、寝ないと……」
「もう少しだけ、頑張りましょう。……今後の避難所のことも考えないとですね」
 年齢による体力の違いか、まだ元気そうなシャロンに死にそうになっているマシュー。
 桜花が励ますように微笑んで。

 その後、寄生されていた人々への治療――体内に残る残留物の除去や浄化は、マシューが元気になる薬を繰り返し打たされ終には気絶するまで続けられたという。

●未来への鍵
 敵軍にて寄生されていた重機や戦闘車両などの一部は比較的少ない損傷で拠点に回収されていた。カイムのユーベルコード【必滅の刃】が、纏う黒銀の炎で寄生体である目玉だけを無力化したからだ。
 そして早速とそれらの車両に乗り込み、北西に向かう一団があった。
 カイムとそれに従うデイビッドら、ならず者だった者たちのグループだ。
 彼らの目的は郡都への調査と資源の回収――そして、オブリビオンの根拠地となっていたとされるその場所に敵が残っていた場合の、いわゆる後始末。

「さ。それじゃ宝さがしと洒落こむか」
 戦いに利用できる資源はあらかた先の戦いに注ぎ込まれたのだろう、武器などで目ぼしい物は中々見つからなかったが、直前まで暮らしていただろう人間の生活の痕跡がいたるところで見かけられた。
「食い物がありゃいいが。あの犬もどきの肉はさすがに腹壊しそうだしな……」
「違いねえ。だが一応、ヤブ医者に毒見させて確かめようぜ」
 呑気な感想を言いながら物色するデイビッドたちはほんの小さな物音に気付いた。
「……」
 集合をかけ態勢を整え慎重に調べていくと、鍵がかかった建物の中で何者かが息を潜める気配。
 配置につき、ショットガンで鍵を破壊したドアを蹴破り素早く侵入する。
 小さな影がバールのような鈍器で殴り掛かってくると、カイムはそれを容易く取り押さえ大人しくさせた。
「はっ、やっぱり居やがった……か」
 そこに隠れて居たのは、未だ年端もいかない少年少女たちだった。
 カイムどころか、デイビッドただ一人だったとしても戦いになるはずもない、非力な人間の幼体たち。
「くっ……ころせ!」
「……おまちください!」 
 親の仇でも見るようにギリリと睨みつけるその子の後から出てきた別の子が、真剣な表情で言った。
「……ころすとくさりやすくなるので、食べるちょくぜんにしめることをおすすめします」
「ふ、ふつうに殺さないでほしい……」
 また別の子が涙目で震えながら、蚊の鳴くような声でぼそぼそと呟いた。
「カイム……お前、そいつら喰っちまうのか……?」
「喰わねえよ、馬鹿。しかし、お宝には違いないだろうが……」
 オブリビオンの根拠地で暮らしていた者たちの生き残り。
 まだ幼い者ばかりとはいえ、敵対した関係にある相手の縁者は拠点にとっては厄介ごとの種になりそうだったが、
「……郡都で暮らしていたのなら情報面でも利用価値はあるだろ」
「良し。聞いたなガキども? 美味いレーション喰わせてやるから、言うこと聞くんだぞ!!」
「さては、ふとらせてから食べるプラン……」
「こ、ころせぇぇえ……!」 
 かくして無骨な悪党面に囲まれ震えあがる子羊たちは、絶望の表情で哀れ捕らわれの身となったのだった。

●蘇生
 強い勢力を持ったオブリビオンを駆逐したことで、周辺の安全は当面確保されたと見て良いだろう。
 しかし外敵への備えはいくら念入りに行ったとしても万全と言えないのが、アポカリプスヘルという世界の宿命だった。
「完全に壊される可能性前提で造らせていたんですかね……」
 冬季は破壊された設備の修繕に駆り出されていた。実作業に当たる黄巾力士自体は疲れ知らずで休みなく働くため冬季自身に疲労感はさほどないが、作業量は膨大で終わりが見えづらかった。
 防衛に関する設備だけでなく、医療設備、研究用途に用いる冷蔵、冷凍設備の敷設――。
 奪還した都市から移設されたそれらは、マシューの専門である遺伝子工学の研究を進めるために利用されるそうだ。
「またぞろフラスコの中に都合の良い命でもデザインしようというのでしょうかね?」
「ふ……それは流石にもう懲りたよ」
 その声に冬季が振り返ると、ここ数日でよほど消耗したのか、よれよれのヨボヨボになってしまったマシューが苦笑を浮かべていた。
「ふむ……懲りましたか」
「ああ。私は何も分かっていなかった」
 かつて狂人たちが生み出してしまった偽の神は、世界を滅びへと導く邪神と化した。それを知ってか知らずかは分からないが、マシューという男もまた過去に犯した罪を悔いているようだった。
「そこにあったのは命だった。道具などではない……生きた命がそこにいた」
「………」
「開発の過程で幾多の生命がフラスコの中で生まれ、培養槽の中で促成されていく。もう取り返しはつかなかった。そこで私は命を見てしまった。知ってしまった。……そしてそれらを無為に消費した」
「……なぜその話を私に?」
 訝しむ冬季にマシューは肩をすくめて告げた。
「君にとっては、他人の命など……恐らく大した価値もない話だろうと思ったからさ」
「失敬な。人を何だと思ってるんです?」
「……私はかつては神を信じていたし、もちろん今だって信じているが……一つ気付いたことがあるんだよ。我々がかつて信じていた神というのは、実のところ大した悪党なんだろうってね。翻って君は善人ではなさそうだが、それよりはマシかな……と思うよ」
「それは……なんとも、世知辛いことですね」
 二人はそんな風に益体もない言葉を交わし、新しい拠点の設備が整っていく様を眺めるのだった。

●『いつか』を夢見て
 鎮魂の歌、子守唄がシンと静まる夜に流れていた。
 疲れ果て、泥のように眠る者たちを包むように。傷ついた人々を優しくいつくしむように。
「どうか、安らかに……」
 少なくない犠牲があった。その悲しみに暮れる暇もなく、藻掻くように日々を過ごす人々。
 彼ら彼女らと別れる最後の夜に、桜花はオブリビオン側の死者をも悼み祈りを捧げた。
「――それが人類のためでも、たとえ邪神のためでも、それとも自分のためだけであっても」
 命が必死に生きようとしたことそれ自体は、間違ってなどいないはずなのだから。
「んぅ……」
 ひそやかに響く、すぅすぅと穏やかな寝息。
 敵の拠点に残されていた子どもたちは保護という名のもと隔離され、軟禁状態だった。
「やだ。やだ。おいてかないで……」
 悪い夢でも見ているのか、うなされて泣きながら目覚める子どもがいた。桜花がその涙をぬぐい安心させるように抱きしめていると、表情が和らぎ再び夢の世界へと滑り落ちていく。
「……おかぁ……さん……」
「大丈夫。きっと、ずっとそばで見守っていてくれていますから」
 この世界に生まれ落ちたその時から、逆境に塗れた生を義務付けられた幼き者たち。
 その未来が、いつか辿り着いた先が報われるものであることを、幸せであることを願いながら、桜花はいつまでも歌い続けていた。



 ………
 ……
 …

 その翌朝、拠点では不思議な夢を見たという者たちが居た。
 土の下で眠る種たちが緑に芽吹き、豊かな実りを迎え――やがて金色に輝く麦畑が風にそよぐ風景。

「そこまでの距離が分からなくても、どんな困難が待ち受けているか分からなくても……」

 ほとんどが同じ内容の夢を見たことを訝しる人々に、ロニは言った。

「知る事ができれば、方位が分かれば人は進める。危険な荒野を進んでいくことができるでしょ?」

 ――だからがんばって! がっかりさせないでよ?
 
 あまり威厳の無い小さな神さまはそう言って、良く晴れた青空を見上げにっこりと笑っていた。



 ………
 ……
 …



 豊かな実りを迎えた麦畑が風に揺られ歌っていた。
 麦畑を見下ろす丘の上にはのんびりすやすやと眠る少女が居て、やがてその傍に肩を怒らせ赤毛の娘がやってくると少女を揺すって起こし、叱りはじめた。
「コラぁ、こんなとこでさぼってんじゃねーです!」
「…………煩いのが来たね……サボってたわけじゃない。墓参り」
 目元をこすり、大あくびと伸びをしてからいけしゃしゃあとそんなことを宣う。
「そ、そうなのですか?」
「そう。大事な報告。とても高度な意識の交感……馬鹿には寝てるように見える」
「馬鹿っていう方が馬鹿なのです!!」
 顔を赤く染めて怒る娘の肩に、まぁまぁと宥めるように精悍な青年が手を置いた。
「あまりからかってやるな。……お前もそう怒るな。体に障る」
「うるせー! だいたいお前の妹の性格悪いのが悪いのです! 何とかしろ! です!」
「それは……Lの墓か。何かあったのか?」
「無視すんな! ……こら、撫でるな! 撫でて誤魔化すな、です……!」
 人の目には見えない物を視る不思議な力を持つ妹に、兄が赤毛の娘の頭を撫でながら問いかけた。
「Lって人と、神さまが来てた」
 少女の言葉に、一瞬だけ青年が眉をひそめた。L――それはかつてこの拠点を襲った化け物たちに与する、人間でありながら人類の敵となった者が、その仲間たちから呼ばれていた名前。
「……私たちはただの可能性。現ではない、胡蝶の見る夢にすぎないのかもしれない。だけどそれでも良い。例え道はたがえても……夢は現と、未来は過去と、確かにつながっているのだから」
「?? 何言ってるですか。相変わらず変なことばかり言うヤツです…...」
「ふふ……そうだね。それじゃ帰ろうか。ケーキ焼けたから、探しに来てくれたんだよね?」
「なな、なぜそれを!? ……いや、別にそういうわけじゃないのですけど!?」
「……神さまは何でも知ってるのさ、だって」
 言って、銀色の髪、空の色を映したような青い瞳の少女は青く澄んだ空を見上げた。
 丘を下り始めた赤毛の娘と、それに寄り添う青年――若き指導者候補の瞳は優しく細められていた。
 風はどこまでも優しく、穏やかに吹いて、そこに生きる者たちを撫でていた。
 切り分けられたケーキを、何故か零れる原因不明の涙を流しながら頬張る少年が居て。
 栗色の髪を揺らしながら、給仕の格好をした娘が尋ねる。
「どうしたの。ひょ、ひょっとして美味しくなかったですか!?」
「いえ。ただ、ふと……なんだかとても懐かしい気配がしたような気がして……」
 それは悲しいから流すのではない、あたたかな涙。
 ただ一日を生き延びるために血で血を洗うのではなく、未来へと命を繋ぎ――新しい命を育む者たちがそこに居た。

 祝福するように、歓喜の歌を歌うように。
 風は高く高く天へと上り――無限に輝く星々が一面に散りばめられた、星の海へと帰っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月11日


挿絵イラスト