4
銀河帝国攻略戦⑬~悪夢の海を超えて

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#スペースシップワールド
🔒
#戦争
🔒
#銀河帝国攻略戦


0




 そこは暗闇であった。
 そこは血の匂いに満ちていた。
 そこはかつて自分が晒された、理不尽の気配に満ちていた。
 スペースシップワールド、その音も無き宇宙のどこかにある艦。
 その場に足を踏み入れた猟兵たちは皆膝をつき、足を止めざるを得なかった。
 かつて乗り越えたはずの傷が、かつて脱したはずの窮地が、形なき靄となって彼らの足を止める。
 猟兵たちの心は強制的に哀しみと苦しみによって満たされていた。
 一体なぜこうなったのか? ……彼らは、ここに至るまでの薄れかけた記憶の糸を手繰った。 

「みんな、お疲れ様。戦争もまだまだ長いね……体調管理とかには気をつけてね」
 スペースシップワールドにて始まった戦争。そこから一時的にグリモアベースに撤退してきていた猟兵たちに、学生服の少女白神・杏華が声をかけた。
「さて、今回また新たな敵の兵器が発見されたんだ。拠点の場所を割り出させないためのジャミング装置らしいんだけど」
 それらのジャミング装置は戦争地帯全域に散らばっており、それらを破壊しきらないことには敵の執政官「ドクター・オロチ」の居場所は割り出せない。
「ジャミング装置の防御力自体は大したことはないんだ。だから近付いて壊せればそれでいいんだけど……それが放ってる電波がクセモノでね」
 なんでも、それらのジャミング装置に近付くと、近づいた者に強烈な過去のトラウマを見せるらしい。
 トラウマは心を打ちのめし、足を止めさせる。強い精神によってそれに抗い、トラウマを乗り越えなければ前に進めず、ジャミング装置を破壊することはできないようだ。
「猟兵の皆は、やっぱり過去に色々あった人が多いよね……? だから気を付けて。そして無事に帰ってきてね!」
 杏華は申し訳なさげに頭を下げ、猟兵たちをジャミング装置付近へと送り出した。


玄野久三郎
=============================
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 このシナリオでは、ドクター・オロチの精神攻撃を乗り越えて、ジャミング装置を破壊します。
 ⑪を制圧する前に、充分な数のジャミング装置を破壊できなかった場合、この戦争で『⑬⑱⑲㉒㉖』を制圧する事が不可能になります。
 プレイングでは『克服すべき過去』を説明した上で、それをどのように乗り越えるかを明記してください。
『克服すべき過去』の内容が、ドクター・オロチの精神攻撃に相応しい詳細で悪辣な内容である程、採用されやすくなります。
 勿論、乗り越える事が出来なければ失敗判定になるので、バランス良く配分してください。

 このシナリオには連携要素は無く、個別のリプレイとして返却されます(1人につき、ジャミング装置を1つ破壊できます)。
 『克服すべき過去』が共通する(兄弟姉妹恋人その他)場合に関しては、プレイング次第で、同時解決も可能かもしれません。
=========================

 オープニングをご覧いただきありがとうございます。玄野久三郎と申します。
 今回のシナリオはやや特殊で、皆様には過去のトラウマとそれに対する向き合い方、克服法、あるいは逃走方法をプレイングしていただきます。
 それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております。
107




第1章 冒険 『ジャミング装置を破壊せよ』

POW   :    強い意志で、精神攻撃に耐えきって、ジャミング装置を破壊する

SPD   :    精神攻撃から逃げきって脱出、ジャミング装置を破壊する

WIZ   :    精神攻撃に対する解決策を思いつき、ジャミング装置を破壊する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

弥久・銀花
【POW】

私のトラウマだった物は左目を抉り取られた苦い敗北の記憶です。

ですが既に克服しています、そうでないと戦場へ立てません。


今更、その時の事を思い出させられたとしても、通じませんよ!

ジャミング装置に近付いたら鋭刃線閃で真っ二つにします。




(アドリブOKです)



「くっ……強い……」
 弥久・銀花(隻眼の人狼少女剣士・f00983)は獣の姿をしたオブリビオンと戦っていた。暫しに渡る交戦により体は傷だらけで、訓練のとおりに体を動かすことができない。
 平凡な街に突如舞い降りた災厄。戦える者は少なく、援護は期待できなかった。いま自分がこれを止めなければ、被害が非戦闘員に被害が及ぶことも間違いない。
 彼女はちらりと後ろを見た。民間人が走っていく。避難はまだ終わっていないようだ。
 再び意識を目の前のオブリビオンに向けると、それはすでに目と鼻の先に迫っていた。
「えっ……!?」
 一瞬、確かに意識を逸らした。だが、まさかここまでの接近を許すとは。それは油断。それは経験不足。オブリビオンとの初戦闘で、銀花は多大なミスを犯したのだ。
 戦いの様子は一瞬ごとに切り替わりゆく。次の一瞬で彼女は視界を失った。
「えっ……」
 遅れて、目を灼かれるような熱さが左の眼窩に満ちる。脳まで焼けた鉄の棒を押し込まれたような、鈍く、莫大な痛み。
「う……あああああああああ!」
 痛みで思考が消えかける中、ともかく彼女は左目を押さえた。流れる液体の感覚が背筋を凍らせる。
 痛みもさることながら、問題なのは視界が失われたという点だ。普段両目で戦っている者が突然片方の視界を失えば、これまで通りに戦えるはずもない。
 だが……。銀花は左目を瞑り、刀を構える。
(どうして……? 視界の補い方がわかる……)
 彼女の体はそれを覚えていた。左目がなくとも、戦場において敵を把握する術を。足運び、聴覚、嗅覚による索敵。これが彼女にとって初戦闘で、左目を失ったのは今のはずなのに。
 まるで何度も反復練習したように。オブリビオンとの戦いを、実戦で繰り返してきたかのように……。
「あぁ……そうでしたね」
 いつの間にやら、痛みは消えていた。銀花の口元には笑みが浮かび、先程まで出血していたはずの左目の傷は乾き、古傷のように変わっている。
「こんな傷ぐらい……もう克服しています。そうでないと戦場に立てませんから」
 目の前の獣のオブリビオンは狼狽えている。銀花は刀を構え、真っ直ぐにオブリビオンに突っ込んでいく。
 それを迎撃しようと、敵は爪を振るった。しかしその爪は彼女の体に触れると同時に、靄のように霞んで消えていく。
 周囲の光景が一気に無機質な機械室に変わる。彼女の前にあるのは獣のオブリビオンではなく、ガラス管の中に人間の脳にアンテナを何本も刺したような奇妙ものが入った装置だ。
「研ぎ澄まされた刃に斬れぬ物無し! 鋭刃線閃!」
 ガラスが砕け、脳が割れる。偽りのトラウマとともに、ジャミング装置は砕け散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アトシュ・スカーレット
【POW】
んー…ま、なんとかするしかないんだけどねー…

【過去】
はっきりとした印象がないが、『自分の死が望まれていた』ことだけは薄ぼんやりと覚えている

周りのヒトは自分を見てなかった…気がする
自分越しに誰かを見てた…気がする
誰も、何も教えてくれない、与えられるものに心満たされることすらなかった…気がする
本当に欲しいものすら、何もわからなかった…確信は、ある、と思う

しかし、その後に誰かが自分を拾って、救って、育ててくれたことをぼんやりと覚えている

「…だから、悪りぃな。オレはその誰かを探してんだ。ここで立ち止まるわけにはいかねぇんだよ!」

剣を抜き、UCで破壊する

アドリブ大歓迎



「なぜこんな事に……」
「失敗したのか? 成功したのか? こいつは何なんだ」
 多大な毒気を孕んだ声を投げかけられ、アトシュ・スカーレット(銀目の放浪者・f00811)は目を覚ました。
 記憶喪失者である彼は明確なストーリー記憶がない。そこから再生されるトラウマも、形のない曖昧なもののようだ。薄暗い闇の中で、黒い霧のような大小様々な人型がアトシュを囲み込む。
「ここはどこなんだ? オレのことを知ってるのか?」
 人型の頭の部分に、嫌に目立つ「目」が浮かび上がった。それぞれが彼に視線を向け、ヒソヒソと呟く。
「お前じゃない……」
「我々が求めている神は……神の依代は……」
 人型たちはアトシュに殺意を向けながらも、決して近づこうとはして来なかった。
 かつての彼であれば。何を望むこともなく自我も薄かった彼であれば、この状況も善いとも悪いとも思わなかっただろう。故に行動も起こさなかった。……だが、今は違う。
 アトシュは立ち上がり、剣を抜いた。影たちがざわめき、後ずさる。
「オレ自身の過去に興味がないわけじゃない。けど、これはあんまりアテにならなそうだな」
 彼はこのトラウマの記憶から自らの過去を探れないものかとしばし様子を見ていた。しかし、結論は決まった。
「悪りぃな。オレは、オレを拾って救って育ててくれた誰かを探してんだ。ここで立ち止まるわけにはいかねぇんだよ!」
 元より彼への拘束は強いものではない。アトシュが剣を振るうと空間に亀裂が走り、暗闇が吸い込まれていく。
「ちょっと期待したんだけどな。ま、地道に自分で探すしかないか」
 そして現れたジャミング装置の本体も同じく両断すると、アトシュはやれやれと溜め息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戎崎・蒼
ジャミング装置が放つ電波………トラウマを去来させるだなんて大分曲者みたいだね?兎に角気をつけて進むよ。

『克服すべき過去』
それは咎人殺しとしてあってはならない………自身が咎人になってしまった事。断罪人である自分の師を殺してしまった事。
……咎人殺しから足を洗って戦場傭兵をしてからは暫く己の罪を忘れてたよ。
……そうだ、僕は師と仰いでいたその人と口論になった挙句、殺してしまったんだ。僕は…なんて、事を…………。
……いや僕はもう過去を振り返らない。師の教えを、せめてもの救いとして護ると誓ったから。…過去に縛られるのはもう終わりにしよう。

【POW】
強い意志で耐えた後、UCでジャミング装置を破壊する。



「蒼」
 どことも分からぬ暗闇を進む戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)に、背後から話しかける声がした。
 その声は老いており、叱責の色を滲ませている。懐かしいはずのその声に、うんざりした様子で彼は振り返る。
「なんだよ……師匠」
 蒼が振り向くと、辺りはすでに暗闇ではなくどこかの建物の中だ。師である人物の顔も次第にハッキリとしてくる。
「聞いたぞ。また依頼人と揉めたそうだな」
「あいつらは……僕ら咎人殺しを軽く見過ぎていたんだ。今回の依頼対象は咎人でも何でもないじゃないか」
 実際にこのような会話が過去に行われたかは定かではない。しかしいずれにせよ、ジャミング装置の見せる幻は蒼に背景記憶を植え付け、彼が戦場傭兵となる前の状況に近い舞台を生み出していた。
「それが何であれ、我らのやるべきことは変わらない。力を持たぬ者の代わりに殺す。それが咎人殺しだ。正義の味方ではない」
 若き日の蒼は怒りに満ちていた。無論、それを再現させられている現在の彼も、形容しがたい理不尽への怒りに燃えている。
「悪人を殺したとて善人を殺したとて、人殺しに変わりはない。自分が――何者かということを知るがいい」
 雷鳴が鳴り響く。窓から差し込む光によって屋内が明滅する。
 その部屋の中心で、蒼は跪いていた。目の前には師の死体がある。彼が殺したのだ。その瞬間の記憶は抜け落ち、起きた事を推理する他ないが……その状況は、すでに一つの答えを出していた。
「これでお前も完全に咎人だ……」
 黒い靄のような人型が彼の傍らに現れ、ニヤニヤとした口元から言葉を発する。
「……そうだ。確かに僕は師をこの手で殺した」
 役目を終えた師に変わり蒼のトラウマを抉ろうと、人型の物体は彼の傍らを歩きまわるとその耳元に頭を近付ける。
「咎人殺しとしてあってはならないことだ……」
「だけど、僕はもう過去を振り返らない」
 蒼は立ち上がった。彼自身の姿が過去のものから現在のものへと変わっていく。その武装も、咎人殺しとしてのものよりも戦場傭兵のものが中心になる。
「師の教えを守ることが、せめてもの救いだ」
 彼はマスケット銃を構え、目の前に向けた。それはただの本棚のように見えたが、しばらく見つめるとそのテクスチャが薄れ、ただの黒い壁に変じる。
 彼の周囲は既に部屋ではなく、暗闇に戻っていた。その暗闇のさらに奥には現実の視界がある。狙うはジャミング装置の本体。蒼はゆっくりと引き金を引いた。
 ガラスの砕ける音とともに、周囲の風景が掻き消えていく。後にはただ、何かの液体を漏れ出させ続ける壊れたジャミング装置だけがあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九重・十右衛門
【SPD】

■克服すべき過去
幼い頃から邪教団に洗脳を受けて罪のない人々の殺害や誘拐等を行っていた。許されない罪とどう向き合うか。

■心境
我ながらバカすぎて嫌になるのう。どうして疑わなかったんじゃろうか。
もっと早くに行動していれば救えた者もおったのにのぉ。償いの為に猟兵など始めても本人達はもうこの世におらんのにな…

■解決方法
本人達に償いをすることが出来なくても、せめてその人達が大切にしていた人達の明日を守るために最後まで戦い続けることを改めて覚悟して、乗り越えようとします。



 ジャミング装置を探し歩いていた九重・十右衛門(全身兵器・f05916)は、近くに誰かがいるのを感じていた。
 彼の死角になる位置から足音が近付いてくる。ひたひたと、苦しげな吐息と共に。
「さっきからずっと付いてきとるのう。誰じゃ?」
 その気配からは敵意を感じるが、脅威は感じない。オブリビオンでも猟兵でもない。暗闇から現れたそれは、上顎から上のないスーツ姿の成人男性だ。
「助けてくれ……僕の頭がないんだ……」
「な――」
 十右衛門は絶句した。その動揺と呼応するかのように、ひたひたという足音が一気に増える。それは彼を中心にしてどんどん近付いてきた。
 老若男女、様々な人間が集まってくる。共通しているのは、そのどれもが致命傷を受けており、かつ服装がUDCアースのものだということだ。
「あぁ……オマエ……オマエ……」
「俺のことを覚えてるか……お前のせいで、俺は邪神のエサになった……」
 ある一人の男が十右衛門の前に立ち塞がる。その胸には穴が空き、そこから流れた血がそのシャツを赤黒く染めていた。
「この傷はお前がやったものだ……」
 その言葉で、十右衛門は全てに気付いた。彼らは、十右衛門がかつて邪教団に洗脳されていた頃に彼が手にかけた無辜の人々なのだと。
「あぁ、そうじゃな……思い出したわ」
 十右衛門は右手で頭を押さえた。平衡感覚が失われた気がして、足に力を込める。
「我ながらバカすぎて嫌になるのう」
 自分を囲み込む死体の数が自分が殺めた人間の数だ。もっと早くに行動していれば、この数は減っていたかもしれない。こんな場に怨念のように呼び出されることもなく、普通に平和な日常を過ごしていたのかもしれない。
「俺には……ゴボッ。妻も、息子も……いたのに……」
 首が折れた男が白目を剥いて十右衛門に掴みかかった。かつての自分が何も知らなったとしても、幾多の家庭を壊し、苦しみと悲しみを振りまいてきた事に間違いはない。
 だが、だからこそ。十右衛門は男を逆に掴み返し、投げ飛ばした。
「だからこそ、わいは……お前さんが残した家族が少しでもまた笑えるように。その明日を守るために、戦うんじゃ。最後までは」
 覚悟とともに宣言すると、彼の周りから死者が引いていく。彼が再び歩き始めると、やがてジャミング装置を発見することができた。
 十右衛門はそれを無言で叩き壊す。トラウマを呼び起こす残骸は潰れ、二度と動くことはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

出水宮・カガリ
…この音を知っている
砲撃が黄金の城壁を穿ち、城門が破られ、城壁の内から老若男女の悲鳴が響く
…この臭いを知っている
硝煙と、城や街が焼け落ちる臭い、敵味方の区別もつかぬ血の臭い
破られた城門であるカガリは、もう何もできない
…この景色を、忘れない
ヤドリガミとしてカガリが生まれた日
城門であるカガリが守れなかった、名もなき兵士達がカガリを守ってくれていた、ただ豊かで平穏だった都の終焉の日だ

この日の悔恨が、慟哭を産声として生じたカガリの根源
【鉄門扉の盾】とこの顔に残った、【不落の傷跡】がその証
この消えない傷があるからこそ、カガリは、お前達が現では無いとわかる
愛しい形をしたものよ、どうか静かに――【追想城壁】



 大気を震わせ伝わる砲撃音。風を切る砲弾が降り来て、城壁を破壊する。
 出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)は城壁の上でそれを見ていた。防衛部隊が周囲を駆け回るが、彼に気付く様子はない。忙しなく城壁上の大砲などを動かしている。
「くそ、バケモノ共め……!」
 彼らは必死に、城に押し寄せるオブリビオンに対処しようとしている。しかし、敵は数も質もこちらを超えている。防衛戦の有利があるとはいえ、城が落ちるのはもはや明白だった。
 カガリは在りし日の自分である城門を一瞥した。数度の砲撃によってもはや壊れかけている。彼は歯噛みし、再びの砲撃によって破壊された己の姿を見た。
「城門が破られたぞ! 奴らが入ってくる……!」
 地上で待機していた兵士たちとオブリビオンの戦いが始まった。金属と金属のぶつかり合いが幾度も繰り返され、その度に死体が増えていく。
 無数の兵士と住人の死体。そして僅かなオブリビオンの死体を残し、敵は進撃する。悲鳴が遠ざかっていく。カガリが守った都はこの日、終焉を迎えた。
「……これは、カガリの根源だ」
 彼は城壁から降りると、破壊された城門に歩み寄った。その傷跡を撫ぜた後、自らの顔の傷に触れる。
「この日の無念が、この日の傷があるからこそカガリはここにいるのだ」
 自分がヤドリガミとして存在することと都の滅びは切り離せない因果関係だ。自分がここに人の形をとっている以上、目の前の光景は現実ではない。
 その自覚が彼を目覚めさせた。カガリは気付けばかつての城ではなく、スペースシップワールドの一宇宙船の中にいる。
 数歩進めば、そこにはジャミング装置があった。彼は一息でそれを破壊し、現場を後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルティ・アルディリア
精神攻撃:他の人が次々と壊しては先に進んでいき、どんどん遠くに消えて行く。そんな他の猟兵のつらさを超えた強さを見続けて、自分は弱く足手まといになり続けているという想い

●普通だからこそ
いつまでも追いつけない…みんな、すごくつらい事を乗り越えてきて。だから、そんなの無い、何事も無く暮らして来たあたしにはやっぱり、無理なのかな。歌う事だけが取り柄のあたしじゃ……
(♪進んでぶつかって 倒れくじけて それでも道が見えるなら♪)
あたしの好きな歌…そうだ…それでも道が見えるなら
「♪涙を流してでも 進み続けるよ♪」
……あきらめたらそこでおしまい!まだ弱いけれど、それでもあたしは追いかける事を諦めたくないんだ!



 フォルティ・アルディリア(ヴァリアブル☆シンフォニッカー・f05860)は宇宙船内を駆けていた。彼女が走る先には数人の猟兵がいる。
 彼らは道中でジャミング装置を発見すると、驚くべき速さでそれを破壊していく。フォルティは未だ一つもジャミング装置を壊しておらず、遅れて彼らについていくだけだ。
「足手まといだね」
「!?」
 何処かからか発されたそんな言葉が彼女の足を止めた。その一瞬で、周りにいた猟兵たちは彼女と距離を引き離していく。
「あ、待っ――」
 口から出かけた言葉をフォルティは自ら止めた。彼らを呼び止めてどうするというのだろう? ただでさえ自分は今、足手まといになっているというのに。
(いつまでも追いつけない……みんな、すごくつらい事を乗り越えてきて。だから、そんなの無い、何事も無く暮らして来たあたしにはやっぱり、無理なのかな。歌う事だけが取り柄のあたしじゃ……)
『あたしは、猟兵の皆のようにはなれない』
 フォルティの声が誰もいなくなった廊下内に響く。彼女の背後に黒いシルエット状の人型が現れ、彼女と同じ声で囁いた。
『あたしは足手まといだ……』
 口を閉じても聞こえてくる自分の声に彼女は頭を抱えた。……そんな静寂に包まれた空間の中に、何かの歌が聞こえ始める。

 ♪進んでぶつかって 倒れくじけて それでも道が見えるなら♪

 それが何らかの外部環境より発された音であったのか、或いはフォルティ自身が思い浮かべただけのものだったのか。
 いずれにせよ、それは彼女が好きな歌だった。続きのフレーズを彼女は口ずさむ。
「♪涙を流してでも 進み続けるよ♪」
 歌はいつも彼女を鼓舞したものだった。落ち込んだ時、辛く苦しい時。精神を持ち直す力を歌は持つ。
「……あきらめたらそこでおしまい! まだ弱いけれど、それでもあたしは追いかける事を諦めたくないんだ!」
 持ち前の明るさを取り戻したフォルティは再び走り出した。すると、どこまでも長く続くようだった廊下が行き止まりに達する。
「え、あれ? 先に行った皆は……」
 先を走っていた猟兵たちとすれ違ってはいない。だが目の前は行き止まりであり、ジャミング装置らしきものが置かれているだけだ。
「どこからどこまでが夢だったんだろう……?」
 釈然としないものを抱えてはいるが、とにかくフォルティは目的のものに辿り着いた。光のリングでそれを破壊すると、彼女は一旦帰還することにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

モモイ・ヴァライス
●WIZ
これは私の潔癖さの問題で、まだ戦の匂いの残る時代において仕方がないと理解はしている。

精気を限界まで抜かれた喰いのこしみたいな、名も知らぬ男がフラフラ歩いていてな。
そのくせ妖狐に、私の母や姉たちにベッタリ依存してしまってついに眼の前で死んだのだ。
私が六つの時の、物心ついた頃の思い出。「家」の原風景はそれだ。
つまるとこ、この世の何もかもが知ってか知らずか悪辣な何かにがんじがらめにされて逃げ切れないし自分もそこに加担する悪党だ。

しかし、肉親は戦時としては正しいことをし、男は末法の世に尽くし尽くされる喜びによって死んだのだからそれでいいのだ。
と、自分を【言いくるめ】る。
あとは装置を灼くだけだ。



 痩せこけた一人の男がふらふらと歩いていた。スペースシップワールドに似つかわしくないボロの和服姿の男の姿に、モモイ・ヴァライス(日曜日よりの使者・f04217)は足を止める。
「あなたは……」
 彼女はその姿を覚えていた。彼女が未だ子供だった頃の「家」の原風景において、強く印象付けられた男だ。妖弧である母や姉たちに精気を吸い尽くされて死んだ男だ。
「ウゥ……騙した、な……悪党……騙し……」
 喉も潰れかけたような声で男は嘆く。彼の言葉は、モモイ自身がかつて考えたことに他ならない。この世の何もかもが、知ってか知らずか悪辣な何かにがんじがらめにされて逃げ切れない。そして自分もそこに加担する悪党だ。
 それは仕方のないことで、妖弧にとっての食事のようなもの。自然の摂理に過ぎないのだとわかっていても、男の干からびた死体が彼女の脳裏を刺激する。
「……勝手なことを。君だって喜んでただろう?」
 なおも近づいてくる男を突き飛ばして倒す。モモイは深く呼吸し、目を瞑った。
「アレは所詮仕方のない話だ。食物連鎖みたいなもの……それを今更どうこう言ったって仕方ない」
 彼女は自分にそう言い聞かせると、目を開かないままフォックスファイアを飛ばした。僅かに感じる邪な気配を頼りにそれを灼き払う。
 再びモモイが目を開くと、そこには破壊されたジャミング装置の欠片が散らばっていた。男の死体の姿は、再びただ彼女の脳裏だけに焼き付き、現実から姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
脳裏に浮かぶのは幼い頃の記憶。

最愛の妹の6歳の誕生日、精霊と心を通わす力があると発覚したあの日。
妹が、オブリビオンに攫われた。
その場に居合わせて立ち向かった私は……なにもできなかった。
助けを求め、数日後に妹は帰ってきたけれど。
その時の戦いで、祖父が帰らぬ人となり。
さらにその数日後、妹は【神隠し】という形で異世界へ避難させられた……

次は誰が死ぬ?
誰がいなくなる?
母か?父か?それとも、弱かった『私』自身かな……?

……うるっさい!!!
(自分で自分を殴る)
だからこそ私は、強くなるために鍛えた!
あの子を護るために、もう何も失わないためにッ!

悪夢に怯える情けない姿は、あの子に見せられないのよ!
(拳で攻撃)



「お姉ちゃん……!」
 荒谷・つかさ(焼き肉担当・f02032)は妹の声で意識を呼び戻された。頭がぐらぐらと揺れ、今にも再び気を失いそうだ。
 目の前には自らの身の丈の数倍はあろうという巨大な鬼のオブリビオンが立っている。そしてその脇に抱えられているのは彼女の妹だ。
 このままでは妹が攫われてしまう。つかさは無我夢中で突撃した。
「うわああぁぁぁ!」
 再び強い衝撃が頭に走り、視界が回転する。今度こそ意識を保っていられず、つかさは目を閉じた。
 彼女にとって初めてであるはずのこの出来事に、今は強い既視感を覚えている。この後、たしかに妹は帰ってくる。しかしその為の戦いで祖父が命を落とすのだ。そして妹は異世界に避難させられ、つかさと離れ離れになる……。
 力がなかったから、みな死んでいった。皆いなくなった。次は誰がいなくなる? 父か、母か、それとも自分自身だろうか?
「……うるっさい!!!」
 つかさは倒れたまま、自らの拳で自らの頬を殴りつけた。その威力は、つい先ほど目の前の鬼から受けたものよりも遥かに強烈。しかし、意識は薄れるどころかよりはっきりしていった。
 その手は十三歳の少女のものではない。十九の……修羅場を潜ってきた猟兵のものだった。
「だからこそ私は、強くなるために鍛えた! あの子を護るために、もう何も失わないためにッ!」
 その拳は彼女の中で制限されていた記憶の枷をも取り払っていた。鍛錬の記憶が、実戦の記憶が、彼女の中に蘇る。
「悪夢に怯える情けない姿は、あの子に見せられないのよ!」
 鬼は突撃するつかさを再び叩き潰そうと腕を振るう。だが今回はそう簡単には行かない。つかさは敵の攻撃を躱すと、その腕を伝って鬼の額まで肉薄した。
「消えなさい!」
 額めがけて、彼女は渾身の正拳突きを放つ。すると鬼の額に亀裂が入った。その亀裂は徐々に大きくなると、ガラスが割れるような硬質な音を立てて破裂する。
 破裂したのは鬼の額だけでなく、それを取り巻くすべての光景、すべての音や匂いまでもが消え去っていた。そして目の前には、脳にアンテナが数本突き刺さった装置の残骸が残った。
「まったく。嫌なものを見せてくれたわね」
 そう言いつつも、彼女の表情はどこか晴れやかであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四軒屋・綴
……悪趣味、だな。

《トラウマ》「骸骨のような装甲服を纏った少年が人々を襲う場面」
『少年』は武器を持たず、言葉を発さず、ひたすら人々に走り寄っては素手で引き裂いていく。


《POW:トラウマへの対抗》「『少年』を止める。」
ユーベルコードを発動、防御力を高めた上で【一本発射】と共に【ダッシュ】、敵の攻撃をいなしつつ徒手空拳の間合いに持ち込み射撃装備を解除、【グラップリング】【怪力】【生命力吸収】で動きを止めて、【捨て身の一撃】、右手で相打ち覚悟の貫手を放ち『少年』の胸を貫く。

「名乗りは省略だな、ここには俺1人だ。」
「……その為にこの体を得た、その為だけに。」



「わぁ! な、何だあいつは……!」
「こ、こっちに来ないで!」
 キマイラフューチャーの一区画。通常の怪人とはやや毛色の違う、奇妙な少年が人々を襲っていた。
「Grrr――!」
 骸骨のような装甲服を身に纏った少年は、武器も持たずに素手で彼らを襲う。その膂力は凄まじく、瞬く間に彼らは引き裂かれていった。
「……名乗りは省略だな、ここには俺一人だ」
 四軒屋・綴(大騒動蒸煙活劇・f08164)はユーベルコードによって自らの肉体を構築すると、両腕にマウントされた銃口から石炭型高熱弾を乱射する。
「アア……アアア……」
 謎の少年はそれらの弾丸を自らの腕だけで弾いていく。本来ならば触れるだけでもダメージのある弾丸だが、あまりの速度に腕を焼くよりも速く叩き落とされていくのだ。
 乱射しつつ走りこんでいた綴は弾丸を撃ち尽くすと、射撃武器をその場に落とす。軽くなった体をさらに加速させ、少年にタックルした。
「Gu――」
 だが、少年は倒れない。しっかりと地面に足を固定したうえで、綴の背に肘を打ち下ろす。
「ぐぁっ、がふっ……」
 この攻撃で綴が倒れないとわかると、次に少年は左手で彼の本体――ヒーローマスクを握りこんだ。万力のような力を前に、マスクにヒビが入り始める。
「……その為にこの体を得た、その為だけに」
 今の彼には体がある。誰を傷つけることもなく、マスクである己を守る力を持つユーベルコード製の肉体が。
 少年の左手は未だ彼の頭を潰そうとしている。綴は己の右手を鋭く手刀状に構えると、少年の体を貫いた。
「――――」
「消えろ、幻。決着はまた付けてやる」
 惨劇の光景が消えていく。同時に、彼に付けられた傷もまた消える。綴の目の前には、彼の手刀により貫かれたジャミング装置の残骸が残されていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月11日


挿絵イラスト