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放浪と天上の輪の果てに

#ダークセイヴァー #常闇の燎原 #復讐譚

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#ダークセイヴァー
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#常闇の燎原
#復讐譚


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 ――ヒュー、ヒュー。
 辺り一面が暗闇に満ちたその場所に。
 風が、吹き荒れている。
 冷たい、風が。
 そこは、楽園。
 彼女の、天国。
「やっと、やっと見つけたよ、お兄ちゃん」
 ――あたしが見付けた、あたしが幸せになれるこの場所を。
 此処ならあたしは幸せになれる。
 沢山のお兄ちゃん達に囲まれて、あたしは幸せに暮らせるんだ。
 中でもあの双子のお兄ちゃん達は、あたしにとってのお気に入り。
「まあ……もう、壊れちゃったけれど。2人のお兄ちゃんはあたしのために躍り続けてくれるから」
 ――だから、幸せ。
 皆とずっと一緒にいられるから。
 ――でも。
 あたし心の欠片は埋まりきらない。
 何かが足りない、そんなどうしようもない想いがあるの。
 放浪の果てに辿り着いたこの場所で。
「……お兄ちゃん、あそぼ」
 あたしは、あたしの天国で遊んでいる。
 あたしの大切な……『お兄ちゃん』達と共に。


「……此は夢、いや、現実か?」
 グリモアベースの片隅で。
 双眸を閉ざしてその光景を視た北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が誰に共無くそう呟き、そっと瞼を開いている。
 開かれた蒼穹の光を宿す双眸で何時の間にか集まっていた猟兵達を見て、皆、と静かに問いかけた。
「第五の貴族との戦いを通じて、今、皆が認識しているダークセイヴァーの地上部分が、本当は地下第4層と呼ばれる場所で在る事は聞いた事があると思う」
 ――そう。
 元々、ダークセイヴァーの人々が住んでいる層、それが第4層と呼ばれる場所だった。
 つまり……。
「当然、ダークセイヴァー世界には、上層と呼ばれる場所が在るのだろう、と予測されている。まだ未開拓の領域が」
 其処を探ることで、上層……第3層に向うことが出来ると現在、推測されている。
 そして、其処は……。
「辺境に住むダークセイヴァーの人類にとっては居住区域の完全なる外側とされる場所になる。其の名を、『常闇の燎原』と言う」
 ――そこは、完全な闇に覆われた、大凡生物の生存を許さない区域。
 だが、それ故に其処を進むことが出来れば、第4層の人類を支配するヴァンパイアにすら、知られていない何かが隠されている可能性は、十分あり得た。
「……前人未踏、とは言ってもその先に未知のオブリビオンがいる可能性は十分ある。其れを承知した上で、皆にはこの『常闇の燎原』を目指してとある辺境地帯に向かって欲しいんだ。その先に誰が……何が待ち受けているのかは、分からないけれども」
 或いは其れは、多くの猟兵達にとってすら、長く苦しい戦いの始まりにしか過ぎなくなるかも知れない。
 いずれにせよ、今回優希斗が視た辺境地帯には道標と思しき存在がいる。
「狂えるオブリビオン。理性を失った双子のオブリビオン。この存在が、俺には視えた。そして、彼等を倒したその先に何かが待ち受けているであろう可能性も」
 ――だから。
「其の何かを見つけ出すためにも。皆には死力を尽くして貰いたい。険しい道程になると思うが……どうか皆、宜しく頼む」
 優希斗の、その言の葉と共に。
 蒼穹の風が吹き荒れて……猟兵達は、グリモアベースから姿を消していた。
 ――深淵の大地広がる、辺境の果てに飛ばされて。


長野聖夜
 ――楽園を目指した其の果てに。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 今回は、ダークセイヴァー世界のシナリオを1本お送り致します。
 尚、今回のシナリオは拙著下記シリーズと一部設定を共有しております。
 共有シナリオ、タグ:#復讐譚。
 無論、他シリーズ未読、このシナリオ初参加でも、全く問題ございません。
 尚、最初の戦場は広々とした夜に包まれた荒野の様な空間のイメージです。
 それ以降の描写につきましては、各シナリオ冒頭で断章を投稿致します。
 第1章のみ、断章はありません。
 このシナリオのプレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記となります。
 プレイング受付期間:10月8日(金)8:31以降~10月9日(土)13:00頃迄。
 リプレイ執筆期間:10月9日(土)14:00以降~10月11日(月)一杯迄。
 変更などがございましたら、マスターページ及びタグにてお知らせ致しますので、ご確認下さいませ。

 ――其れでは、良き物語を。
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第1章 ボス戦 『エボニー・アイボリー』

POW   :    黒鍵の天使
【アイボリーを求めること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【36の音の斬撃】で攻撃する。
SPD   :    白鍵の悪魔
【エボニーを求めること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【52の音の衝撃】で攻撃する。
WIZ   :    黒檀と象牙の調和
戦場全体に、【空間転移すら妨害】する【ピアノの鍵盤】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はウラン・ラジオアイソトープです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ウィリアム・バークリー
この風の響きは、周囲に何もない? 『常闇の燎原』とは、よく言ったものです。
帰り道は――ああ、グリモアで回収してもらえますよね。

黒天使と白悪魔ですか。銀河帝国攻略戦を思い出して身構えちゃいます。もちろん、彼らに及ぶものではないでしょうが。

もはや理性も無しと。討滅する以外に通り抜ける方法はない。じゃあ、ちょっと頑張りますか。

「全力魔法」でActive Ice Wall展開。「オーラ防御」を乗せて、音波攻撃を「盾受け」します。
迷路が厄介ですね。光の「属性攻撃」で光球を飛ばして照らしてみましょうか。
双子と遭遇したら、氷塊で防御しつつ氷塊を砲弾として飛ばしましょう。
氷塊の制御権が必要な方はご自由に。


白石・明日香
狂っているのならさっさとやるか!
煙幕弾をバラまいて辺りを煙で視界を隠す。
音の斬撃とやらも物理的な現象である以上これで軌道は分かるはず。
その軌道を見切って躱し残像で撹乱しながらダッシュで接近。躱しきれなかった奴は武器受けとオーラ防御で凌ぎ間合いに入ったら怪力、属性攻撃(炎)、2回攻撃、鎧無視攻撃で叩き切る!
さて、この先には何があるかね・・・・


天星・暁音
地下に地上ね…
ま、船が動けるなら戦闘には問題はないか
それはそれとして…双子か、じゃあ、なるべく広範囲をサポートしないとね
一度捕らえれば、逃がしはしないよ
糸の先も全てお見通しってね

音か…ならこちらも…祓え。弓鳴り!
ま、弓じゃないけどね

戦場より広く虚の糸を張り巡らせ、相手の意図を読み
先回りし必要に応じて実に切り替えて、味方の行動を手助けしたり、敵の攻撃を妨害し、音の斬撃や衝撃を相殺するように糸を弾き
鳴弦に近い形の魔を祓う音と衝撃を放ち
被害を減らせるように対抗します
迷路を作りだすなら糸で迷路内を把握し出口まで導きます
糸の斬撃や捕縛で隙を見て攻撃をしかけると臨機応変に

スキルUCアイテムご自由に
共闘歓迎


アリス・トゥジュルクラルテ
(ここがアリスの片思いの人の故郷。第3層に行ければ、この世界を救う方法も見つかるかもしれない。頑張らないと…!)
ロクローくんに、夜道を、照らして、もらい、ながら、進む、です。

双子の、オブリビオン、には、無敵の、ロクローくんに、戦って、もらう、です。
後で、いっぱい、お肉、あげる、から、頑張って、ロクローくん!
アリスは、浄化の、結界を、自分の、周りに、張って、防御。
防ぐ、できない、攻撃は、飛んで、避ける、です。
宝石花、から、浄化の、魔力弾を、放って、援護射撃、する、です。
怪我人が、いたら、医療用具箱を、使って、医術で、治療、です。

狂う、して、しまった、彼らが、安らかに、眠る、できる、ように…!


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

まさかダークセイヴァーが地下世界だったとはね・・・先に進むのはこの辛気臭い場所を突破しなければならないね。まあ、この世界ではいつもの事だが、嫌になるね、全く。

視認されなければいい訳だ。真紅の騎士団に前からの進軍を頼み、【忍び足】【目立たない】でアイボリーの背を取り、【不意討ち】【串刺し】【重量攻撃】で一気に槍で貫く。更に【怪力】【グラップル】で正拳→【頭突き】→【踏みつけ】。相棒を気にしてる暇がない程絶え間なく攻撃する。あ、攻撃は【オーラ防御】【見切り】【残像】で凌ぐ。

先は長いからねえ。こんな所で足踏みしている訳にはいかないんだ!!どきな!!


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

ダークセイヴァーが地下世界である事にはびっくりしましたが、上の層がどうなってるか怖くもありますね。まずは常闇の燎原とやらを突破してから、ですか。

トリニティ・エンハンスで防御力を上げ、エボニーの前に立ちます。【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で斬撃に耐えながら、【怪力】【シールドバッシュ】でエボニーを攻撃し、アイボリーの事を気にしてる余裕がない程注意を私の方に引き付けます。【態勢を崩す】で斬撃の邪魔もしてみます。

これで前哨戦というのが恐ろしいですね・・・道を空けて貰いましょうか!!


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

謎だらけだったダークセイヴァーもようやく少しずつ仕組みが分かってきましたね。まさか地下世界だったとは。それ以上の謎に迫るには、この難所の突破が必須ですね。

まず【オーラ防御】を展開。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【継続ダメージ】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して展開。出来ればエイボリーとアボニー、両方を巻き込みたいですね。更に【追撃】で裂帛の束縛をアイボリーに狙いを絞って展開。ダメ押しで【誘導弾】で追撃。

ここで手こずる訳には行きませんので・・・全力で突破させて貰いますよ!!


クラウン・アンダーウッド
ダークセイヴァーって地下世界だったんだね。元々下に潜ってばかりいたから、更に上のことなんて気にしたことがなかったなぁ。(自身の過去を思い出ししみじみする)

やぁやぁ、ご機嫌いかがかな♪狂ってもなお互いを認識しているのは絆の強さかな?愛の深さかな?知らない人にも同じように出来るか検証しようか♪おいで、δ!

双子のオブリビオンを対象に互いの記憶を忘却させる樹海の迷路を、ピアノの鍵盤の迷路と重なるように展開させる。

さぁ、お互いの舞台が重なるこの場所で踊り明かそうじゃないか♪

迷路の壁を遮蔽物に移動しつつ投げナイフを投擲して相手を翻弄しながらヒットアンドアウェイで、どこまでも陰湿で嫌がらせめいた攻撃を行う。


司・千尋
連携、アドリブ可

前人未踏って何かワクワクするよな
第3層って事はまだ上があるんだろ?
まだ先の話だけど
どんな感じなのか楽しみだよな


基本的に攻防ともに『錬成カミヤドリ』で全方位から攻撃
複数の紐を網状にしたり引っ掻けたり
絡めてたりして行動の阻害や捕縛を狙う
装備武器や早業、範囲攻撃、2回攻撃、乱れ撃ちなど手数で補う

視認で攻撃してくるなら直線攻撃か?
一挙一動を観察し行動を見切りや第六感で先読み
隙をついて紐で目隠ししてみよう


敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
オーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
盾受けや武器受けも使い回避や防御する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用


森宮・陽太
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

まさかここが地下世界だったとは、なあ…
…ま、今は手掛かりを少しずつ探すだけだな

双子のお互いを求める心は妨げようがねえが
視認されなきゃどうにでもなる
「地形の利用、闇に紛れる」で双子の視界から外れるような位置取りを心掛けつつ「高速詠唱、蹂躙」+指定UC発動
ブネ本体と精霊・悪霊たちを大量に群がらせて斬撃・衝撃そのものを封じてやらあ

しかし、壊れながらもお互いを求めるとは、なぁ…
…いや、壊れたからこそ何かに縋って自分を繋ぎとめてえのか?

てめえらは誰の為に踊っている?
誰の為にお互いを求め、踊り狂っている?

ここでしっかり吐いてもらうぜ
…誰かさんが必要としている覚悟のためによ


パラス・アテナ
常闇の燎原ね
本当に一寸先は闇だよ

ここは階層世界
それを認識しているのなら
そのことを知る手立てが何らかあるということさ
この闇を祓えば何か分かるかも知れないね

情報収集と暗視、第六感で敵の居所を察知
味方が何か視界確保の手立てがあるなら有り難く使わせてもらい
敵の動きを牽制して味方に有利になるように誘導
2回攻撃、援護射撃、鎧無視攻撃で攻撃
頃合いを見て命中重視の一斉射撃
敵の攻撃は第六感と見切りで回避
ダメージは激痛耐性でしのいで継戦能力で戦闘続行
敵UCを察知したら闇の中へ退避
視認できなければ攻撃は届かないさ

ここはオブリビオンを狂わせる磁場でもあるのかね
何にせよ憐れな双子には引導を渡してやるよ
骸の海へお還り


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

この世界が地下第4層だという話は
俺も第五の貴族から聞いていた
…まさか、この世界が地下世界だったとは

辺境地帯の先に何があるのか
常闇の燎原とは何なのか
…直接行って確かめるしかないな

そのための危険は全て排除する
今はそれだけだ
…たとえ、狂えるオブリビオンでも

指定UC発動後「視力、暗視」で双子の位置を常に把握
視界に入らない様「地形の利用、ダッシュ」+高速移動で走り回り
死角から「2回攻撃、衝撃波」で確実に叩き潰していこう
もし視認されたら「第六感、見切り」で斬撃衝撃の軌道を見極め回避だ

双子が理性を失くしたのはおそらく異端の神々のせいだろう
…なら、この双子は誰のために踊っている?


フォルク・リア
「今までにないものを求めるなら
未踏破地域を探るのも道理。
しかし、帰れなければ意味もない。慎重に行くとしよう。」

敵を発見したら
「……二人。あれが狂えるオブリビオンか。」
様子見とばかりに呪装銃「カオスエンペラー」で攻撃。

迷宮に捉えられたら鍵盤をカオスエンペラーで攻撃し
性質を【見切り】
ディメンションカリバーを発動。
魔石をカオスエンペラーに搭載して
【全力魔法】の魔力を込めた死霊の弾丸を
鍵盤に向けて放つ。
「転移をも妨害するなら
迷宮自体を断ち切るのみ。」

脱出に成功したら再び捕らわれる前に敵に接近。
今度は魔石をフレイムテイルに搭載し
炎の斬撃で攻撃。
「今度捕まえるのはこっちの方だ。
このまま焼き切らせて貰う。」


文月・統哉
待ち受ける誰か
それはきっと敬輔の…
俺も行くよ、全てを見届ける為に

調和する白と黒の音
理性を失いながらも
いや、迷いがないからこそ
彼らの音はとても純粋に聞こえて
それは彼らにとって幸せなのか苦しみなのか

戦いたい訳じゃない
それでも
この先へ進む為に君達を倒すよ

仲間と連携
素早く【情報収集】
敵の攻撃【見切る】

視認した敵のみを攻撃する音の斬撃
音の波の干渉により特定位置の威力を増強しているのだとすれば
弱点は視界の不良と、意図しない音の欠損や追加

衝撃波で音の一部を相殺し
更に歌を重ねて干渉を乱しつつ接敵
【破魔・浄化】の力持つスカーフで視界を奪う
歌、あまり上手くなくてごめんな(苦笑

証明によりUC封じ
仲間の攻撃へ繋げたい




 ――ヒュー、ヒュー……。
 木枯らしの様に冷たい風が吹き荒れる、漆黒の闇に覆われた場所。
 辺り一面の闇の中に吹き荒れた蒼穹の風から姿を現して。
「……この風の響きは、周囲に何も無い? と言う事なのでしょうか」
 其の風の音に耳を澄ませていたウィリアム・バークリーの独り言の様な呟きに。
「ああ、そうだね。此が常闇の燎原か。一寸先は闇だとはよく言ったものだね」
 相槌を打つ様にパラス・アテナが応えながら、EK-I357N6『ニケ』とIGSーP221A5『アイギス』の弾倉と残弾を確認する。
「しかし、驚いた話だね。まさか、ダークセイヴァーが地下世界だったなんてさ」
「ああ……全くだな、クラウン。此処が地下世界だったなんて、誰が考えられたんだろうなぁ」
 クラウン・アンダーテッドが愉快そうに肩を竦めてクスクスと道化師の笑みを浮かべるのに頭を縦に振るのは、森宮・陽太。
 軽く頭を掻きつつ溜息を吐く陽太の其れに、そうだね、と真宮・響が相槌を打つ。
「正直此処が地下世界だったなんて、アタシと奏が想像するのは難しいかったね。瞬……アンタはどうだったんだい?」
「そうですね、母さん。僕もこの世界に故郷がありますが……故郷を覆う闇の向こうにこんなものがあるとは思ったことがありませんでした」
 響の其れに頷き返しつつ、熟々と言った様子で答えたのは神城・瞬。
 そんな瞬の呟きに。
「確かに私もびっくりしましたが、上の層ってどうなっているんでしょうね? 初めて行く場所になりますから、正直、とても怖いです」
 真宮・奏が首肯しての其れにへぇ、と意外そうに眉を吊り上げるのは司・千尋。
「意外だな。俺は、前人未踏って言うと、結構ワクワクするんだがな。しかも辿り着いたとしてもそれは第3層。後2層は未だ上があるって事でもあるだろ?」
「其れを知るためにも、俺達は前に進むべきなのだろう、千尋」
 口元に研究者らしい好奇の微笑を浮かべながら、フォルク・リアがそう答えるのに、そうかもね、と天星・暁音が溜息を1つ。
(「地下に地上ね……。何だか引っ掛かりを覚えるけれども」)
 そんな暁音の思いに何かを訴えかけるかの様に。
 世界や人の感じる痛みを直に伝える共苦の痛みが、此の濃紺なる闇に何かを突きつける様な痛みを発した。
(「これは……世界の絶望か? いや……」)
「何だよ、暁音。びびっているのか?」
 そっと共苦の痛みの刻まれた箇所を押さえ、考え込む様な表情になる暁音に、からかう様に白石・明日香が呼びかけると。
「ま……船が動けるわけだから、戦闘には問題ない話かな」
 一先ず思考を放棄する様に軽く頭を振って追及をかわす暁音にふん、とつまらなそうに明日香が鼻を鳴らすその間に。
「お願い、ロクローくん……」
 傍に控える体長3m程のアルビノの鰐にアリス・トゥジュルクラルテが掠れ声で呼びかけていた。
(「此処が、アリスの片思いの人の故郷。第3層に行ければ、この世界を救う方法も見つかるかも知れない。頑張らないと……!」)
 其の胸中に誓いの様に暖かな希望の灯を抱きながら。
 そのアリスの呼びかけに応じる様に、ロクローくんが紅の瞳孔をアリスへと向けて頷き、全身から白い光を発し始めた。
 白と紅の輝きが深淵の闇を照らす一筋の光となり、この常闇の燎原をか細く照らし出している。
 その白と紅の輝きに薄らとまるで影の様に照らし出されたのは……。
「待ち受ける誰か、それは、きっと……」
 ロクローくんの光と同じ深紅の瞳に思慮と憂慮の光を称えた、文月・統哉。
 其の統哉の視線のその先には。
「この世界が地下第4層だという話は、俺も第五の貴族から聞いていたが……改めて口にしてみるとまさか、と言う思いが先立つな」
「ええそうですね、敬輔さん」
 統哉の視線に気がついていないのか、当たり障り無い言葉を瞬に返す館野・敬輔。
 特に乱れた様子も無い敬輔の後ろ姿に、統哉が静かに頭を横に振っている。
(「多分、この先で待っているのは……」)
「如何した、統哉?」
 統哉の不審げな気配に気がついたのか。
 千尋が統哉の方を振り返りつつからかう様に口元を綻ばせるのに、統哉が静かに千尋を見上げた。
「いや……ちょっと、な。千尋はどう思う?」
 統哉の、其の問いかけに。
「何がだ?」
 愉快そうな笑みを浮かべて問い返す千尋の其れに、いや、と統哉が逡巡する様な表情を浮かべた。
「いや……この先で何が待ち受けているのかな、ってね」
「其れを知りたいから俺達は此処にいる。そう言うことだろ?」
「その通りだ。今までにないものを求めるなら、未踏破地域を探るのもまた道理。最も、帰れなければ意味も無い。だから俺達は慎重に行くことが求められている。統哉、そう言うことだろう?」
 千尋に相槌を打つ様にフォルクがそう続けると。
「それもそうだな。そもそもまだ此は、憶測……いや、直感にしか、過ぎないんだ」
 統哉が其れに一先ず頷いて気持ちを切り替えようとしたところで。
「さて、お喋りは其処までだよ、アンタ達」
 アリスのロクローくんが出した灯を頼りに、『ニケ』と『アイギス』を構えたパラスが警戒する様にそう呼びかけた時。
 ――♪ ♪
 音が、響いた。
 踊るのに合わせて奏でられるBGMの様な、そんな音が。
「歌、だと、思って、いた、です。でも、これ、音、なん、です、ね……」
 其の音色を兎の耳で聞いたアリスが辿々しく、緊張した声で呟くと。
「アハッ、そうみたいだね♪ こんな歌や音が、上の方でも広まっているなんて全く思ってもいなかったよ。まあ、いっつも下に潜ってばかりいて、更に上なんて気にしたことも無かったからねぇ」
 パチリ、とアリスに対してウインクをしてみせるクラウン。
 其の道化師の様な仕草の中に、何処か、しみじみとした感情が含まれている様に思えたのは、陽太の気のせいであろうか。
「ま、此処の世界の出身者には、第4層が地上なのが常識だったんだろうからな。普通は上層があるなんて思わねぇよな」
「そう言うことだね、陽太」
 呟きながらダイモンデバイスを構える陽太に同意した、響が赤熱した槍を気を引き締め直す様に構えている。
「取り敢えず帰りはグリモアで転移して貰えるのでしょうから……今は、今出来ることをするのみ、ですね」
 臨戦態勢に入った響やパラスをちらりと横目で見やり頷きながら、人差し指でチョイチョイと空中に魔法陣を描き始めるウィリアム。
 魔力の一部を裂いて光球を生み出し、即興の灯にする様にしながら。
 そのウィリアムの光球とロクローくんの紅と白の光を頼りにして。
 パラス達がゆっくりと深淵の中を奥へ、奥へと進んでいく。
 歌と音が、鳴り響く其方に向かって。


「あの2人……君達が狂えるオブリビオンか」
 歌声と踊りの音が強くなっていくにつれて。
 ウィリアムの光球によって闇の向こうの人影を捉えたフォルクが問いかけるが、其れに応える様子は無く。
 黒天使の少年と白悪魔の少年が手に手を取り合い狂った様にワルツを踊る。
 双子の少年達の狂った様に踊り続ける間に荘厳なピアノが戦場全体に響き渡り。
 見る見るうちに戦場全体にピアノの鍵盤で出来た巨大な迷路が生み出されていくその姿にウィリアムが思わず眉を顰めた。
(「黒天使に白悪魔……まるで銀河帝国攻略戦の未来と過去を其々に見る騎士達の様ですね……」)
 彼等の悪夢を思い出し、思わずびくりと肩を竦ませて。
 目前に複数の青と枯葉色の混ざり合った魔法陣を描いていたウィリアムの指先が一瞬止まる。
「ウィリアム、アンタは自分の仕事に集中しな」
 ピリリと神経を尖らせたウィリアムの様子に気がついたパラスが、さりげなくフォローするその間に。
 フォルクが外套の裾から取り出した一丁の銃をその手に握り、その引金を躊躇う様子もなく引いた。
 数多の死霊達が籠められたそれが真直ぐに双子に向かうが、瞬間、迷宮の鍵盤が壁の様に顕現、死霊達を取り込み。
 そのまま自らの内壁へと呪詛と怨嗟の念と死霊達を囚える様子に、敬輔が思わず赤と青の双眸を見開いた。
(「この迷宮……死霊達だけを取り込むことができるのか……?!」)
 それがどれ程危険な迷宮であるのかを、理解できない敬輔ではない。
 フォルクの取り込まれた死霊達の、とりわけ美少年達が何かに震える。
 その少年達の姿が、暁音に刻み込まれた共苦の痛みに喘ぐ様な激しい痛みを発し、暁音が一瞬表情を強張らせていた。
(「この迷宮に取り込まれれば……」)
 ヒトは、その魂達はこのピアノの鍵盤の迷宮とそこから鳴り響く永久のメロディ……鎮魂曲(レクイエム)に飲み込まれ。
「……永遠に休まることのない時を過ごすことになる、か。とんでもない双子だね」
 そう呟きながら。
 聖なる銀糸を迷宮内に張り巡らせる様に展開する暁音。
 星神の気の籠められし糸が戦場の振動音を突き崩す音波を発し、迷宮を砕こうとするが、その程度では迷宮は小動する様子も見せない。
 と、その瞬間。
 ――ロォォォォォン!
 迷宮の鍵盤が鋭く切り裂く様な音を立てた。
 鋭い音の斬撃が、鍵盤の迷宮の向こうから……。
「迷宮に遮られている筈だが、俺達の事はどうやら視認出来るらしいな」
 気が付いた千尋が、咄嗟に無数の焦茶色の結界を張った鳥威を戦場全体に展開し、迷宮の何処かから放たれたそれを素早く防御。
 52の音による斬撃が瞬く間に焦茶色の鳥威を斬り捨て、波と化して迫るのに……。
「させません!」
 奏がエレメンタル・シールドを翳して前に飛び出し、翡翠色の結界を纏ったそれで辛うじて其れを受け止める。
「ちっ、こいつら何処から攻撃してきた……?!」
 奏がエレメンタル・シールドから押し出す様に張り巡らした風の結界の影から飛び出した明日香が思わず舌打ちを一つ。
(「あっちにはオレ達が視えていて、オレ達には相手が視えていない……。この状況じゃあ、煙幕弾をばら撒いても……」)
 恐らくその衝撃の軌道を読み切ることは出来ない。
 この迷宮に取り込まれているその事実を、先ずは何とかしない限り。
 明日香が思わず歯軋りをするその間に。
 統哉は漆黒の大鎌『宵』を肩に乗せる様にして構えつつ、その斬撃と共に発される『音』に耳を澄ませていた。
「……調和する白と黒の音。この音の斬撃に籠められたその思いは……」
 ――理性を失いながらも迷いがなく、あまりにも純粋な音色。
「だが、この攻撃の意味を、理由を解明するためには、パズルのピースが足りないし、何よりも……」
 ――迷宮に遮られているにも関わらず、尚、此方を見ることの出来る双子のアドバンテージをせめて互角迄持ち込まねば。
 その為に、どうするべきなのか。
 そう統哉が自問自答を繰り返していた、その時。
「やぁやぁ、キミ達ご機嫌いかがかな♪」
 まるで陽気な歌を口ずさむかの様な、そんな口調で。
 焦茶色の結界を張り巡らした鳥威から顔を覗かせたクラウンが軽薄に尋ねている。
 声はピアノの鍵盤の迷宮の闇に飲まれて消えた様に思えるが、クラウンは全く気にしていない。
 そんなクラウンの挑発に刺激されたか。
 今度は36の音による漆黒の斬撃波が袈裟にクラウンを切ろうとするが……。
「後で、いっぱい、お肉、あげる、から、頑張って、ロクローくん!」
 自らの周囲に桃と白色の浄化の結界を張り巡らし、斬撃に備えたアリスがか細く一所懸命に応援を投げかける。
 アリスに応える様にロクロ―くんがクラウンを庇って漆黒の斬撃を逸らすのに目を細めつつ、クラウンはフフフと笑いかける。
 ロクロ―くんの赤と白の灯火の向こうで、ユラリと陽炎の様に蠢く2つの影に。
「成程。あれがこの迷宮の主……双子のオブリビオンって訳か」
 呟きながら、『ニケ』と『アイギス』の引き金を引いたのは、パラス。
 作り上げられた迷宮の壁と壁の隙間から微かに覗き込む様に此方を見る双子達に向けて無数の銃弾が散らばった。
 雷の様に轟く銃声音がピアノの音を歪め、双子達の動きを微かに鈍らせる様に見えたが、実際の効果の程は定かではない。
「まあ、アタシの役割は牽制だ。とはいえ、此処はあいつらの領域でもある。正直これだけじゃ、決め手に欠けるね」
「ああ、そうだねパラス。視認されなければいいとは分かっているんだが……何処から見ているのかが把握し切れていないこれじゃあ……」
(「騎士団を今召喚しても、蹂躙されるだけだね。さて、どうやってこの迷宮と言う不利な状況をイーブンにするか」)
 パラスに同意しつつ、響が内心で呟くその間に。
「大丈夫だ。状況の好転は近い」
『カオスエンペラー』に籠められた弾丸のシリンダーを抜き取り、そこに宝石の様な何かを装填するフォルク。
 クラウンがその懸念に気が付いているのか、いないのかは推し量ることは出来ないが、口元の道化の様な笑みは益々深まっていた。
「へぇ、我等に策ありって感じだな。ならお前らに乗せて貰おうか。ウィリアム!」
 続けて迫りくる純白の52の音の衝撃の波を受け止める様に千尋が再び鳥威を展開。
 衝撃の勢いを剛に対する柔の如く受け止め次々に消失していく鳥威のその影で。
「この迷宮内でどこまで役に立つかは分かりませんが……Active Ice wall!」
 詠唱を完成させたウィリアムが、鍵盤内に無数に貼り付く霜の如き氷塊の波を生み出し、それを戦場全体に展開。
 無数の氷塊が千尋の鳥威によって緩和された衝撃の前に立ち塞がり、ぶつかる度に破砕して消えていく。
 全ての氷塊が消えた後には、無造作に放たれた衝撃が氷霧と共に消え去っていた。
「あの、ありがとう、です。ウィリアムさん、千尋さん、けがは、大丈夫、です、か。傷が、あれば、アリスが、手当、でき、ます」
 自分の間近に迫っていた衝撃波が雲散霧消したのに辿々しく礼を述べるアリスに、大丈夫です、とウィリアムが返す。
「アリスさんは怪我をした人に気が付いたら、その人の手当てをお願いします。いつ何処から攻撃が来ても、未だおかしくない状況ですから」
「……そうだな」
 ウィリアムの其れに目を細めた敬輔が静かに頷き、先程一瞬見えた敵の軌跡を追おうとするが……。
(「例え、狂えるオブリビオンであろうとも、ピアノの鍵盤の迷宮の主である以上、俺達の視界から逃れるのは容易いか。俺達を何処からか視認することも。……これでは、陽太が動くのは厳しそうだな」)
 胸中でそう結論付け、注意深く様子を見ている敬輔。
 ウィリアムの呼び出した氷塊の影に隠れて息を殺す陽太もまた、忌々しげに舌打ちを打っている。
 ――しかし。
「おやおや理性を失っているのに、ボク達が何処にいるのか分かるのは凄いねぇ、キミ達。しかも狂っても尚、互いを認識できている。その理由は、絆の強さかな? それとも、愛の深さかなぁ?」
 敵の斬撃も、衝撃も気にした風もなく飄々と。
 衰えるどころか、より一層高らかに響き渡るクラウンの挑発が、迷宮を震わせる。
 ――プップカプー、プッププ、プップカプー!
 彼の挑発を煽る様に、彼が糸で操る9体の人形楽団が一斉に喇叭を吹き鳴らした。
 それはピアノの荘厳な鎮魂曲に彩りを添えるのではなく、其れをからかうかの様な陽気な曲だ。
 その曲を掻き消そうとする様に、クラウンと人形楽団に降り注ぐ52の音の衝撃波。
 戦場全体を震撼させ、全員を纏めて打ちのめすその衝撃波を収束させてクラウンに向けて解き放つのに。
「好きにさせるわけには行きませんね」
 かん、と大地を六花の杖で叩きながら瞬が告げる。
 その言葉と共に地面に描き出された月読みの紋章が月光の如き燐光を伴ったオーラの結界としてクラウンを覆い。
「状況が改善できる其れまでは……わたし達がクラウンさんを守ります!」
 更に全身に翡翠色の光を纏った奏が風の精霊の様に軽やかな足取りでウィリアムの氷塊を蹴って空中から飛来する衝撃を受け止めた。
 ズシン、と重い衝撃と共に地面に叩き付けられそうになる奏を、暁音が銀糸を即興の蜘蛛の巣状に練り上げて其の体を受け止める。
「アリスさん、奏さんを頼むよ」
「か、奏さん、だ、大丈夫、です?!」
 やや慌てた様子で救急箱を片手に奏に近寄りアリスが手当てをするその間に。
 ――ビィィィィィィン!
 と蜘蛛の巣状の銀糸のもつれを解いた暁音が張り詰めた弓の弦を鳴らすが如き鋭い音を立てた。
 それは、銀の音の衝撃波。
 銀の音が白鍵の悪魔の放つ音と衝突し、やや耳障りの悪い音を上げてクラウンを襲うが、瞬の月光の結界が彼に傷を負わせない。
 けれどもその攻撃と防御の余波が地面に落ちた奏と奏に近づくアリスを巻き込み傷を負わせようとした、その時。
「ロクローくん! お願い、頑張って!」
 ワタワタと奏に近付きながら、アリスがロクローくんに呼び掛けた。
 その呼びかけに応じたロクローくんがアリスと奏の盾になる。
 ロクロ―くんとウィリアムの氷塊の影に奏を運び込み、アリスが手当を開始。
 其の間にクラウンは大仰に両手を振り上げてさぁさぁ、とサーカスの劇団長の様に飄々とした声を張り上げ。
「おお、なんと見事な愛の深さ! それとも絆の強さだろうね! でも、それが果たして知らない人にも同じ様に出来るのかな!?」
 ――パチン。
 指を鳴らすのに合わせる様にして、フォルクが魔石を籠めたカオスエンペラーに死霊達の力を再び収束。
 その銃口に不気味に紅に輝く光を見ると、暁音の共苦の痛みが、訴えかけるかの様な締め付ける様な痛みを与えてきた。
(「そうか。それが君達の意志なんだね」)
 銀糸と共苦の痛みを通じて思念の想いを知った暁音がフォルクに向けて。
「フォルクさん。狙うべき箇所は……」
「ああ、分かったよ、暁音。感謝する」
 呼びかけ錫杖形態の星杖シュテルシアを鍵盤の1点へと突き付けた暁音にフォルクが頷き引金を引いた、その刹那。
「さぁ、キミ達に関する検証の開始だよ♪ おいで、δ!」
 指を鳴らし切ったクラウンの呼びかけに応じる様に、カバン型移動工房の中から一体のからくり人形が姿を現した。
 最後の1本の糸に繋がったからくり人形……個体名δが、そんなクラウンの呼びかけに応じて、くるくると宙を舞い。
 それとほぼ同時に、鍵盤の一箇所に巨大な袈裟の切傷が浮かび上がる。
 ――ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!
 身の毛もよだつ様な雄叫びと共に、その切口から大量の死霊が迷宮の壁に吸い込まれそこに大きな亀裂を走らせた。
「転移をも妨害するというのならば、迷宮自体を断ち切るのみだ」
 そのフォルクの断言とほぼ同時に。
 戦場全体が見る見るうちに、樹海の様な迷宮へと覆い尽くされていく。
「よしよし、良い感じ、良い感じ♪ 見事ですねぇ、フォルクさん。お陰様でボクも検証がしやすくなりましたよ♪」
「何、研究の結果を立証するために実験はつきものだ。同じ研究者として、当然の手伝いをしたまでのこと」
 口笛を吹くクラウンにフードの下で微かな笑みを浮かべて頷くフォルク。
 その時には、クラウンがδによって作り出した迷宮が、戦場を覆い尽くしている。
 ――そう。
 双子の互いの記憶を忘却させる、樹海の迷路を。
『……っ?!』
『アアッ……!?』
 理性を失い、獣と化していた狂える双子のオブリビオンから、悲鳴が上がる。
 それはまるで、当然の様に肌に感じていた、半身を突如として失った様な、そんな空虚感に等しいもの。
 同時にその動揺が、フォルクの放った死霊達の弾丸によって崩壊が加速した双子が生み出した迷宮を粉微塵に砕いていく。
 漸く重ねる様に作り上げることの出来た猟兵達にとって都合の良い迷宮が完成したところで、クラウンが笑う。
「さぁ、ゲームスタートだ♪ お互いの舞台が重なるこの場所で、皆で一緒に踊り明かそうじゃないか♪」
 口元の其れは、舞台に立つ役者の様な愉悦と、舞台を用意出来た事に歓喜する支配人の様な、満足げなものだった。


(「……よし、今がチャンスだな」)
 クラウンによって戦局が大きく動いたその瞬間。
 双子が互いを求め合うその心を忘却させられたかの様に動揺するのを肌で感じた陽太がふっ、とクラウンの生んだ迷宮の中に潜む。
 ウィリアムが陽太のその動きに気がつき、素早く氷塊を壁の方に向けて展開。
 展開された氷塊の影に隠れる様にして、陽太が周囲の壁に溶け込む様にその姿を搔き消すその間に。
「さぁ、アンタ達、頼んだよ」
 響がトン、と素早く自分の胸を叩いた。
 其の響の胸の叩きに応じる様に。
 ――ワァァァァァァァァァァッ!
 歓声が、迷宮全体に響き渡った。
 ウィリアムの氷塊から氷塊の裏を渡り歩く様にしている響から注意を逸らすかの如く現れたのは、114体の真紅の鎧の騎士。
 その胸に【1】 と描かれ、其の手に剣と槍を其々に構える騎士達が、雄叫びと共に双子のオブリビオンに迫る。
 フォルクの死霊達に籠めた魔力の塊に迷宮を崩され、更にクラウンの迷宮を重ねがけされた双子の姿は丸わかりだった。
『コオオオオオオッ!』
 本能の命ずるままに其の手を隣の何か……それが誰なのかは分からない……に手を差し出した黒天使の手が白悪魔にそっと触れる。
 其の力によって生み出された36音を奏でながら放たれた漆黒の大気を斬り裂く刃が、騎士団を纏めて斬り倒そうと迫るが。
「……成程。迷宮の重ね合わせで漸く何処にいるのかが分かったって事か」
 黒にゃんこ携帯でその斬撃波の動きを読み取った統哉がそう口に出すと。
「ですが、其れでしたら守る事は比較的容易くなります……!」
「まあ、そうだな」
 ウィリアムが氷塊の塊を撃ちだし氷盾と化させてその攻撃を受け止め、千尋の無数の鳥威が音を消す様に斬撃を包み込み。
 其の勢いを弱め、無力化する。
 けれども続けざまに襲い来るのは、52の巨大な音の浸透。
 白光を纏っている様にも見える波を認めた敬輔が、黒剣を掲げ祈る様に目を瞑る。
 すると黒剣が赤黒く光り輝く刀身に変わり、全身に白い靄が纏われ始めた。
「……辺境地帯の先に何があるのか、この常闇の燎原とは何なのか。其の真実を知るために俺達はお前達の様な危険の全てを排除する。……例え、もし歯車が異なれば、違う形で会えたかもしれない、狂えるオブリビオンと化したあなた達であってもね」
 呟き、爆発的な速度を纏い、戦場を疾駆しながら黒剣を大地に擦過させる敬輔。
 自分達に都合が良い様に作り替えられたこの迷宮と氷塊の間隙を拭う様にジグザグに走り抜けながら、其の黒剣を跳ね上げる。
 その動きに合わせて解き放たれたのは、白き剣閃とも呼べる斬撃の波。
 三日月型を伴った斬月が、36音に続け放たれた振動波とぶつかり合い、白き輝きと共に激しく振動した。
 振動の余波に反射的に其の顔を手で覆う様にした双子……その黒天使の死角から。
「さ~て、踊るよ、ダンス・マカブルを♪」
 踊るような足捌きを取りながら飛び出したクラウンが、其の手の投げナイフを放射線状に投擲した。
 黒天使の死角……背後から投擲されたナイフが黒天使の双翼の付根に突き立ち、びしゃっ、と激しい血飛沫を撒き散らす。
 返り血を浴びたクラウンが鼻歌を歌いながらタン、とバックステップと共に壁の後ろに隠れようとしたその時。
『グルルルルルルルルッ!』
 餌を求める獣の如き唸りを上げた白悪魔が傷ついた黒天使……何者かは分からぬが……の血を浴びた手を振るった。
 黒天使が其の手に浴びた白悪魔の血飛沫が大気を振るわせ、52の音を奏でる波と化し、クラウンを襲おうとしたその時に。
「おっと、アンタ達の好きにはさせないよ」
 パラスがすかさず『ニケ』と『アイギス』の引金を引き牽制の一斉掃射。
「ロクローくん、お願い、頑張って!」
 奏を治療しつつアリスがロクローくんを嗾け、宝石花『クリスタルクロッカス』を突き出すと。
 水晶の中に白いクロッカスの花が咲くその宝石花から、白き花弁が花吹雪の如く解き放たれ。
「良し、これなら行けるかな。祓え……!」
 暁音が叫びと共にクラウンの迷宮に張り巡らした聖なる銀糸を巻き付かせた星具シュテルシアを扇形態にして振るった。
 ――轟!
 星々の煌めきの如く儚く淡い、泡沫の夢の如き風が戦場を揺るがし、其れに煽られた白き花吹雪が双子の視界を奪い。
 そこに『ニケ』から機関銃の如く吐き出された銃弾が矢の様に空を走り、更に上空から電磁網が落ちてくる。
 上空からの電磁網に黒天使が其の体を絡め取られ、全身に痺れが走るところに容赦なく迫る無数の銃弾。
 銃弾に体の彼方此方を射貫かれて傷口から溢れ出した血で地面を濡らす黒天使。
 ――ピチャン、ピチャン。
 地面に落ちては跳ねる止まることの無い血の音が無常に戦場に響き渡り、その音を聞いた白悪魔がその血を足で蹴り上げる。
 蹴り上げられた黒天使の血そのものがまるで弦であるかの様にピン、と張り詰めた戦場の空気を震わせた。
 其れが新たなる音色を作り、新たなる斬撃を生じさせようとするが……。
「互いに互いの全てを忘れたとしても、互いを繋ぐ何か……求める其れがあれば、音を生み出すことが出来るのか。だが、其の血飛沫は俺達を視認する事への妨げにもなり、それは視界不良という弱点を招く。そして……」
 血液が赤い音と化し、戦場を濡らす様を見つめ、統哉がその理論を読み上げると。
 其れに呼応する様に『宵』の刃先が淡い星彩の輝きを発した。
 其れに1つ頷いた統哉が『宵』を一閃し。
「……音の波の干渉により特定位置の威力を増強しているのだとすれば、意図しない音の欠損や追加でこの攻撃を封殺することは可能な筈だ!」
 ――轟!
 と大気を切り裂き轟風とでも呼ぶべき衝撃の波を生み出して、血色をした斬撃の波とぶつけて爆ぜさせる。
 ――ラッ、ララー、ラララララー。
 そんな歌声と、共に。
「……あの人が聞いたら、駄目だししそうな歌声ですね」
 そのお世辞にも上手とは言い辛い統哉の其れに、やや控え目に瞬が告げながら、其の手の六花の杖から月読みの紋章を描き出した結界を展開。
 展開した巨大なドーム状の結界を、双子を封じ込めるために解き放ちながらの瞬の其れに統哉が苦笑で返した。
「まあ、お世辞にもあんまり上手くないのは自覚があるよ。ごめん、ごめん」
「いえ、別に統哉さんが謝ることでは無いと思いますが……」
 軽く手を合わせる統哉の其れを目一杯フォローする様に、アリスに傷を癒された奏が呟きと共にシルフィードセイバーを一閃。
 生み出された風刃の一撃が、統哉の歌と衝撃波でその音を食い止められ、瞬の結界に包まれた白悪魔を切り裂きよろけさせて。
 そこに……。
「まっ……その通りなら、オレの此も正解って事になるけれどな!」
 肉薄しながら懐から煙幕弾を取り出した明日香が、素早くそれを双子の目線に向かって放り投げると。
「なんだい、そう言うことならアタシも協力してやるよ」
 パラスが『ニケ』に一発の弾丸をクイックリロード、それを明日香の放った煙幕弾に向けて撃ち出した。
 銃弾が煙幕弾を撃ち抜き爆ぜさせ、クラウンの迷宮内に煙を充満させる。
 充満する煙に目をやられたか、涙を零し、それを洗い流す白悪魔に向けて。
「さてと……アンタの相手はこっちだよ!」
 勢いを付けて響が飛び出し、赤熱したブレイズランスを白悪魔に突き出した。
 熱した槍から発された炎が其の体を焼き尽くそうとするのに気が付き、反射的にターンを決めてその刺突を躱す白悪魔。
 だが……その時には。
「ブネ……頼んだぜ!」
 陽太がダイモンデバイスの銃口に描き出された魔法陣を潜り抜かせ、小竜姿の悪魔『ブネ』を召喚していた。
『ブネ』と其の配下たる精霊・悪霊達は大地を掘り起こす様にして潜伏し。
 そうして、華麗なターンで響の攻撃を躱した白悪魔の両足に一斉に取り憑いた。
『!!!!!』
 藻掻く様にしてブネと悪霊・精霊達の拘束を逃れようとする白悪魔。
 そんな白悪魔に雄叫びを上げた真紅の騎士団達が一斉に剣や槍を打ち鳴らして次なる攻撃を阻害しつつ。
 その体を槍と剣で串刺しにして全身を朱に染め上げている。
 愛する双子の事などすっかり忘れた黒天使は大量に流れた白悪魔の血を手に浴びて、それを振るい新たな音を練り上げようとするが。
「……そんな事はさせないよ」
 その時には暁音が左手に巻き取った聖なる銀糸をすかさず投射し、更に。
「糸、か。そいつは俺の十八番だぜ、暁音?」
 冗談めかした口調で軽口を叩きながら千尋が105の結詞を展開していた。
 目的は、暁音の斬撃の為に鋼鉄化させた銀糸の強度を跳ね上げる事。
 行け、と横薙ぎに千尋が手を振るうや否や、まるで命を与えられたかの様に105の結詞が蠢き出す。
 動き出したそれらの糸が、暁音の銀糸と螺旋状に複雑に絡み合い、其の強度と威力を上昇させ、其れが容赦なく黒天使を切り刻む。
『っ!!!!!!!』
 体中を締め上げられ、銀に蝕まれ、大量の血を流し其の目を大きく見開く黒天使。
 自らの血に塗れた白悪魔は、大量にばら撒かれた黒天使の血を使い、戦場を震撼させる音を練ろうとするも。
「今度、お前を捕らえたのは俺達だ」
 休む隙を作る事無く、クラウンの迷路の壁の向こうから飛び出す様に姿を現したフォルクが音を練ろうとする白悪魔に肉薄。
 ブネと部下である精霊・悪霊達に両足を縛られた白悪魔にそれを避ける術は無い。
「今だやっちまえ、……え~と、灰色の髪のにーちゃん!」
 其れを見て取った陽太が名前を思い出せずに、そうフォルクに呼びかけると。
「ああ、そうだな」
 気を悪くした風でも無く頷いたフォルクが白悪魔の懐に飛び込み、フレイムテイルで覆った手を突き出した。
 炎のラミアを封じた魔本を素材とした其の手袋の掌の上に乗せられた宝石が生き物の様に蠢く炎の如き輝きを発する。
 ――その魔石は、先程、双子の迷路を崩落に至らしめた斬撃を放ちしもの。
「さて……このまま一気に焼き切らせて貰おう」
 其の呟きと共に。
 放たれた獄炎の炎を帯びた袈裟の一撃が、響の真紅の騎士団によって其の体を深く切り刻まれていた白悪魔を切り刻み。
 その体内から真紅の焔が噴き出し、白悪魔の体を微塵も残さず焼き尽くしていく。
『ガァァァァァァァァァッ!』
 灼熱にその身を焼かれ絶命していく白悪魔を、フォルクは淡々と見つめていた。


 その一方で。
 黒天使もまた、今、最期の時を迎えようとしていた。
 暁音と千尋の拘束を強引に解いた黒天使。
 その黒天使が反撃に転じようとした、その直前、不意に黒天使の前に影が差す。
 その影の正体は……。
「鹿撃ち帽、被った、う、兎、の、着ぐるみ、です……!?」
 そのアリスの冷めやらぬ驚愕と興奮を皮切りにしたかの様に。
 この戦場に決して似合わぬ鹿撃ち帽の巨大兎型着ぐるみに抱き着かれ、まるで金縛りにあったかの様に身動きできなくなる黒天使。
 統哉の呼び出した其れに視界を完全に遮られて藻掻く黒天使。
 そのバタつく黒天使の右腕目掛けて、ロクローくんが其の顎を開いて肉薄し……。
 その片腕を嚙み千切った。
『っ?!?!?!?!?!?!?』
 ロクローくんに右腕を噛み千切られ、腕の付根から大量に流血、血の海を作りながら、黒天使が兎型着ぐるみを引き剝がしたその瞬間。
「……終われっ!」
 肉薄した敬輔が赤黒く光り輝く黒剣を唐竹割に振り下ろして其の体を白き斬撃の衝撃波と共に斬り裂こうとする。
『ガァァァァァァァァァァァァッ!』
 舐めるな、とばかりに黒天使がヒトのものとは思えぬ咆哮を上げ、ヒトではありえない反射神経でその体を捩じって斬撃を躱す。
 その体使いと足捌きは、まるで何かに対して捧げる神楽舞の如く軽やかで、一定の型に沿った、そんな体捌き。
 そのまま右足を軸にタン、と地面を蹴って空中でバク転を決めながら華麗に地面に着地しようとしたその瞬間。
「逃がしませんよ……!」
 瞬が六花の杖を突き出し、其の先端からアイヴィーとヤドリギの枝を解き放ち。
 その2本の枝で、着地した足を縫い留める様に、その両足を串刺しにした。
『……!!』
 悲鳴を押し殺し息を詰めた黒天使に向けて、瞬が、左手に構えた月虹の杖をその足元に突き出すと。
 黒天使の足元に描かれた月読みの紋章から、聳え立つ様に藤の蔓が突き出して。
『?!』
 黒天使の両足を完全に絡め取り、その動きを完全に拘束した、その瞬間を狙って。
「……虚無に……」
 全てを食らうクルースニクを大上段に構えた明日香が踏み込み、至近に迫る。
 同時に、反対の腕に構えていた呪剣ルーンブレイドの柄に嵌め込まれた三ツ目の様な宝玉が血色の輝きを齎した。
 その血色の輝きが全てを食らうクルースニクに降り注ぎ、紅蓮の焔を纏った刀閃が深々と黒天使の体を斬り裂く。
 それは、あらゆる魔法や精神的な守りを破る斬撃。
 蹈鞴を踏むことすら赦されぬ其の強烈な一撃を躱しきること能わず、黒天使が其の両目を大きく見開き。
「――還るが良い!」
 その瞬間を理解していたかの様に。
 口元に肉食獣の笑みを浮かべた明日香が、血色の炎を帯びた呪剣ルーンブレイドを横薙ぎに一閃。
 血の閃光の如き横一文字の一撃が、黒天使の体を叩き斬り、其の上半身と下半身を綺麗に泣き別れにした。
 それでも尚、上半身だけで両手を振り下ろし明日香を捕らえて最期の足掻きを見舞おうとする黒天使に向けて。
「最早理性も無し。討滅する以外に通り抜ける方法が無いと言うのでしたら……これで、終わりです!」
 ウィリアムが叫びと共に周囲の氷塊を散弾の様に連射して、白天使の両腕を凍てつかせそのまま吹き飛ばす。
 万策尽きて地面に崩れた黒天使の上半身が血焔に焼かれながらヒュー、ヒュー、と言う血泡を噴き音を聞きつつも。
「てめぇらは誰の為に踊っていた? 誰の為にお互いを求め、踊り狂っていた?」
 そう陽太が問いかけるが。
 黒天使は応えを出さずに白悪魔の後を追って命の灯火を燃やし尽くしたのだった。


 フォルクの獄炎と、明日香の血焔に焼き尽くされて。
 討滅された双子のオブリビオンの灰が風に乗って何処かへと浚われていく様子を見送りながら。
「ちっ。理性を失っているだけあって、何も答える事は無かったか」
 何ともやりきれない表情で陽太が舌打ちを1つ。
(「出来ることなら、誰のために踊っているのかを聞き出したかったが……」)
 そんな陽太の心の奥底を見透かした様に、パラスが静かに溜息を吐いた。
「此処にはオブリビオンを狂わせる磁場か何かでもあったのかも知れないね。とは言え、あの双子は幾らオブリビオンと言っても、憐れではあったが」
「珍しいね。パラスがオブリビオンを憐憫するなんて」
 パラスの言の葉に、ブレイズランスを納めた響が意外そうな表情で問いかけると。
「まあ……一寸した思い出ってやつさ」
 胸に掛けていたロケットをそっと持ち上げ、その中に収められた写真を脳裏に思い浮かべながらパラスが呻く。
 それで何かを察したのだろう、響はそれ以上の追及をせずに双子達の灰が流れ去っていった方角を見つめていた。
「風の流れは、どうやら奥の方に続いている様だな」
 其の風が向かう先をちらりと見やった明日香が誰に共無く呟くと。
「ああ、そうみたいだねぇ♪ ボクの作った迷宮のゴールも、どうやら其方に向かって風が流れている事を教えてくれているみたいだしねぇ♪」
 飄々と肩を竦めるクラウンの其れに、そうですね、と瞬が静かに頷いている。
「此処は余り時間を掛けずに済みましたが……此処から先には果たして何が待ち受けているのでしょうね?」
「さあな。まあ、そう言う所に行ってみるからこそ、楽しいんじゃねぇの?」
 考え込む様な瞬に千尋が口元に皮肉げな笑みを浮かべて肩を竦めてみせると。
 フォルクがそうだなと静かに首肯し、一方で、でも、と奏が小さく身震いを1つ。
「これが前哨戦と言うのが恐ろしいですね……この先に待ち受けているものが何かも分からない状況ですし」
「だが、こんな所で足踏みをしているわけにも行かない。其れは確かだろ、奏」
 呟く奏に響がそう促すと、そうですね、母さんと短く首肯を奏が返していた。
 其の一方で。
「狂う、して、しまった、彼等が、安らかに、眠る、できます、ように……」
 戻ってきたロクローくんにそっと肉を一欠片あげた後、静かに両手を組んで祈りの言の葉をアリスが紡いでいる。
 そんなアリスの様子を暁音がちらりと見やった時。
 ――ズキリ。
 その体に刻み込まれた共苦の痛みが、まるで何かを訴えかけるかの様な鋭い痛みを発し、暁音が思わず息を呑んだ。
(「凍てついた槍で貫かれる様な、この痛み……。これは、多分……」)
 ――この先に待ち受けているであろう何か――誰か? 達からダイレクトに伝わってくる、そんな痛み。
 其の痛みに軽く頭を横に振る暁音をちらりと敬輔が一瞥する。
 と、ほぼ同時に。
 敬輔の全身を、怖気の走る様な冷たい何かが刺し貫いた。
(「双子が理性を失くしたのは、恐らく異端の神々の仕業の筈だ」)
 そうであれば、目前の敵を只倒せればそれでいい。
 その筈なのに、何故だろう。
 酷く、左肩から首の付け根にかけてついている吸血鬼マリーの噛み傷が奇妙に疼く様な感覚を覚えるのは。
「あの双子が踊っていたのは、異端の神々のためでは無い? では、誰の……?」
 独りごちる様に頭を横に振って口の中でモゴモゴと呟く敬輔に。
「敬輔、行こう」
 まるで、この先に待ち受けているのが誰なのかを薄々感じ取っているかの様に。
 統哉が粛然と言葉を紡ぐのを聞き、敬輔が無意識にマリーの噛み傷を撫でている。
「統哉……俺は……」
 上手く言いたい事を唇に乗せられぬ敬輔に。
「まだ、この先に何が……誰が待ち受けているのかは分からねぇ。けれども、この先に待ち受けている真実を受け止める覚悟は必要なんじゃないのか、敬輔?」
 その陽太の問いに、敬輔が陽太の翡翠色の瞳を見つめ静かに首肯を返していた。
「敬輔さん、なにを、話して、いる、です、か?」
 言葉の意味を上手く捉えきることが出来なかったのだろう。
 アリスが敬輔の方を見て問いかけると、敬輔は何でも無い、と小さく頭を振った。
「いずれにせよ、あの子達は骸の海へ還ったんだ。アタシ達は先に進むとしよう」
 パラスがさりげなく促すと敬輔達は其々の表情でそれに頷き、クラウンの作り出した迷路を抜けて、常闇の燎原の奥へと進む。
 ――その先に待ち受ける試練へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『彷徨う魂』

POW   :    持ち前のタフネスや生命力で呪詛に耐え、命の力を見せつける。

SPD   :    魂を縛り付けている何かを見つけ出し、それを示したり破壊することで魂を解き放つ。

WIZ   :    魂の精神に寄り添い、祈りや聖句などで浄化する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ――サラサラサラサラ……。
 風に浚われる様にして、双子の遺灰が、常闇の燎原の先へと舞っていく。
 灰になったそれらを見つめて、暗闇の中で少女はあれ? と首を傾げた。
『お兄ちゃん達、灰になっちゃったんだ。ええ~……』
 無邪気に幸せそうな表情をしていた青髪の少女が、不満そうに頬を膨らませ。
 其の暗闇の中で蠢く何かで、一瞬で灰を蒸発させた。
『まあ、いっか。お兄ちゃん達が灰になっちゃったって事は、新しいお兄ちゃんが来てくれたのかも知れないしね』
 そう軽く頭を横に振って。
 少女は灰の燃えかすにふっ、と息を吹きかける。
 息を吹きかけられた其の灰が。
 逆風に巻き取られて、少女の『天国』の外へと向かっていく。
 美少年を中心にした、老若男女の魂を、自らの欠片で形作りながら。


 闇黒の中にあった迷宮を抜けると。
 猟兵達は、周囲を仄暗い白い靄に照らし出された、常闇の空間へと辿りついた。
 まるで幽鬼の様に、沢山の白い靄の様な少年達に傅かれて座る、青髪、赤目の少女の幻がいるその場所に。
『あれ? この天国にお客様?』
 その幻の言の葉に。
 傅いていた美少年達が咎める様な眼差しを、招かれざる来訪者へと向けて来る。
 何れの少年達も、何処か薄らとした幻の様。
 けれども彼等から放たれるそれは、明らかな敵意と殺意に満ち満ちていた。
『お兄ちゃん達も、一緒に遊びたいの?』
 其の少女の呼びかけと共に。
 周囲全体を包み込む常闇から、不意に全てを圧迫する様な無数の霊圧が姿を晒す。
「如何して、私を助けてくれなかったの?」
「何故、俺達が、理不尽に殺されなければならなかったんだ?」
「痛いよう……苦しいよう……」
 無念、憎悪、悲哀、苦痛、失望、絶望……etc。
 其れは目前の亡者と呼ぶべき少年達に傅かれる少女が、此処に至るまでに撒き散らしてきた『災厄』と『闇』の象徴。
 少女が弄び、無闇に撒き散らした……数多の人々の負の感情。
 其の負の感情に縛り付けられた魂達が、自らが受けた理不尽の全てを叩き付ける様に迫ってくる。
 彼女が殺した者達のみならず、猟兵達が嘗て出会った数多の亡者の形をも象って。
 その魂達を解放する為、猟兵達は、生あるモノを憎む、憐れなる魂達と対峙する。
 この先の深淵に待ち受ける、この地を支配した本物の『彼女』を見つける為に。

 第2章のルールは下記となります。
 1.戦場は宵闇に包まれた幽霊屋敷の様な場所です。
 2.少年に傅かれる『少女』の幻は、特別な行動はしてきません。
 3.襲い掛かってくる魂達は、何処か薄らと透けています。
 4.もしお望みならば、自らの過去に絡めた姿を持った魂と対峙しても構いません。
 この場合、描写して欲しい魂の容姿と性格、対策をプレイングに記入して下さい。
 5.特別な指定が無い場合は、美少年を中心とした老若男女の魂が襲ってくると判定します。
 6.この魂達を素通りすることは、例えユーベルコードを使用しても不可能です。

 ――それでは、良き邂逅を。
白石・明日香
(かつて倒した十字皇とその使い達が現れて)
・・・なんだお前達は?何を言っている?
闇のない世界?光あふれる生命?そのために一つに結集??
訳が分からん。オレが継承するだと???知ったことか!
オレはどこまでもオレだ。そんな事よりもこの先に何があるかの方が重要なんだよ!!
というわけでさっさと消えろ!
骸の海から亡霊が出るなんて笑えねえ。先に行かせてもらうぜ!




 ――宵闇の中、魂達の無念が集まるその場所で。
「……何だお前達は? 何を言っている……?」
 深淵の闇に分断され唐突に孤独となった白石・明日香が、戸惑いの表情を浮かべて彼女達を見る。
 明日香の目前に現れたのは、数多の世界を戦い渡り歩く中で、自ら其の手に掛けた『娘』達。
 自らを『十字皇』と、其の従者……御使い名乗り立ちはだかった娘達。
 其々に身に纏う鎧、武装等は異なれど、最も多いのは双剣を携えた者。
 ……明日香とよく似た、双刃を操る戦士達。
『我等と共にあれ、継承者。闇無き世界、光溢れる生命達の世界の為に、汝、我等と1つになれ……。全ては、我等を殺したモノ達への報復と救済のその為に』
 吸血鬼への深き憎悪と怨嗟の念。
 其の念が1つの……同時に数多の『十字皇』の姿を象り、語りかけてくるそれに、明日香が疑惑の眼差しを向けていた。
「……闇無き世界? 光り溢れる世界? 継承者? 1つになれ? 何を訳の分からない事を言っている?! お前等の戯言なんぞ、オレの知ったことじゃねぇ!」
 内側から無意識に沸き上がってくる『何か』を搔き消す様に。
 叩き付ける様な怒声を上げながら、血の様に紅い刀身の全てを食らうクルースニクと、呪剣ルーンブレイドを抜刀する明日香。
 呪剣の柄に嵌め込まれた不気味な三ツ目がギョロリと生き物の様に蠢くと共に、双刀の刀身に血の様に赤い焔を纏わせた。
『何をしている? 其の力こそ、汝が我等の『世界』と『生命』の『継承者』の何よりの証。さあ、汝よ。汝にして我等たるものよ。今こそ我等と共にゆこうぞ』
 甘く耳を揺るがす蠱惑的な声が明日香の鼓膜を、そして嘗ての戦いで滅した十字皇達から奪った『欠片』を揺るがすが。
「煩い! 煩い! 煩い! オレは、何処までもオレだ! この先に何があるかの方が重要なんだよ! ……だから!」
 自らの動揺をも揺るがす咆哮を上げ、一気に『継承者』と呼ぶ『十字皇』達を象った魂達に肉薄し。
「とっとと……!」
 血焔纏いし全てを食らうクルースニクを、大上段から唐竹割りに振り下ろす。
 それは呼びかけを続ける魂達の中で、自らに手を差し伸べていた『十字皇』の少女を斬り裂く。
 其の少女が纏う漆黒のドレスに刻み込まれた……真紅の十字架と同じ色の血焔で。
 銀の長剣で其れを受け流そうとした彼女はその一撃を受け止めきれず、其の斬撃に刃を叩き落とされる。
 其れに躊躇う様子も見せず。
「……消えろ!」
 明日香が、自らの目前に現れた嘗て亡ぼした『十字皇』を名乗るモノ達を纏めて焔纏うルーンブレイドで横薙ぎに払った。
 血焔による横一文字の一閃は、彼女達を纏めて焼き尽くし、其の体を永遠の『死』へと送り返していく。
『何故……何故あなたは……私達を殺すのですか?』
『何故我等が、汝に焼き尽くされなければならないのか?』
『いいや、それで良い。それでこその……継……承……』
 そのまま灰一つ残さず消えていく自らが亡ぼした十字皇と御使い達を象った魂達を一瞥し、明日香は更なる深淵の奥へと進む。
「骸の海からの亡霊に足元掬われるなんて笑えねぇ。先に行かせて貰う為にもな!」
 焼き尽くした亡者達の灰を、唾棄すべきモノと見做した様な想いを投げつけて。

成功 🔵​🔵​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)


アタシの前に表れる魂は12年前にアタシと奏を庇って命を落とした夫の律。律は逞しく、優れた剣の使い手だった。不愛想でぶっきらぼうだが、その背中で、家族への愛を示してくれていた。ああ、あの時に死ぬことは律の本意ではなかったろうし、無念極まりなかったろう。アタシが怪我で動けない事態になってなければ。

でも、律、アンタが命を賭してアタシと奏を護ってくれたおかげで今まで戦い抜く事が出来ている。奏もアンタと似て大事な人を護る術に長けた子に育った。だから、律の死は決して無駄ではなかった。安心して眠って欲しい。再びの天への旅路に、赫灼のグロリアを送るよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

私の目の前に現れる魂は・・・やはりですか。黒のスーツを着こなす麗人風のヴァンパイア、ブリジット。その振る舞いは凛々しく、優雅だが、自分の使役する獣で人を嬲り殺すことを至上とする。お父さんを無残にも殺した魔獣は奴が使役していました。

ええ、まだまだ生きたかったでしょうね。もっと多くの人を殺したかったでしょうね。父さんが殺された時のトラウマはまだ残っていますし。

でも私は大切な人を護る為、生き抜かなければいけないんです。死の象徴に負ける訳にはいきません!!【オーラ防御】【呪詛耐性】【狂気耐性】で呪詛に耐え、信念の一撃でブリジットの魂を斬り裂きます!!


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

無念の魂が彷徨う場所ですか・・・僕が思いつくのはやはり・・・

目の前に現れるのは12年前、突然の襲撃と蹂躙で命を落とした僕の生まれ故郷の人達。戦える戦えない関係なく理不尽に殺された無念、苦痛、悲哀・・一人だけ生き残った僕に恨みを抱くのも当然です。

僕は生まれ故郷の皆さんの無念を背負って生きています。皆さんの生きた軌跡を消さない為に。皆さんが愛してくれたからこそ、僕は今まで生きていけている。だから、安らかに眠っていてください。矢車菊の癒しで葬送の花吹雪を舞わせながら、【破魔】【祈り】【浄化】で故郷の皆さんの魂を浄化します。


ウィリアム・バークリー
過去の敵:紫陽花 詳細お任せ

ぼくの未練はあなたに繋がっていましたか、元帝都桜學府将校、紫陽花さん。
そうですね。ぼくはあんな影朧兵器の力を借りたあなたでなく、本当のあなた自身と接してみたかった。それがたとえ、ぼくらの傲慢だとしても。

事ここに至っては、帝都の平穏も影朧の救済もないでしょう。ここはもはや、世界の埒外。語る詞は刃のみ。
ウィリアム・バークリー、参ります!

細剣型ルーンソード『スプラッシュ』を抜刀し構え、フェイントを混ぜた鋭い突き込みの連撃で、紫陽花さんの魂を切り裂きます。
最後はAstral Freezeで。

紫陽花さん……どうあっても、ぼくらの間には刃以外で語れる世界は無かったんでしょうか。




 ――無念の想いが漂うその場所は、時に境界を越え、彼等の前に姿を現す。
 ――同時に其れは類同たる者達の魂を時に象り、彼等を砕く牙となる。
「……無念の魂が彷徨う場所ですか……。其の無念と言われて、僕が思いつくことが出来るのは……」
 自らの一語一句を取り間違えない様に。
 静かにそう言の葉を紡いだのは、神城・瞬。
「瞬兄さんにとって、無念と言われて思いつく方達は、やはり……?」
 心細げに気遣う様な口調で瞬に問いかけた真宮・奏のそれに呼応する様に。
 瞬の前に現れたのは、沢山の戦士の姿をした老若男女様々な人間達。
 まるで1つの集落を築き上げていたかの様に現れた彼等の姿を認めた瞬が、やはりですか、と諦めた様に頭を横に振る。
「12年前……戦える戦えないに関係なく、ノエルに理不尽に殺されていった皆……」
「……ノエル? ……そう言えばいましたね、ウルカ、とでしょうか? あの吸血鬼と同盟を結んでいた『闘将』と名乗ったオブリビオンが」
 それは既に、1年近く前にある場所で行われた、そう言う戦い。
 共に其の戦いに参戦していたウィリアム・バークリーの呟きに、そうです、と瞬が静かに頷いた。
「その上で。私の前に現れる魂が象るのは……あなた、なんですね」
 瞬の集落の人々を率いる様に。
 現れた3つの人影の中央にいる、黒のスーツを着こなす麗人風のヴァンパイアを紫の眼差しで静かに見つめる奏。
 麗人風のヴァンパイア……ブリジットは、獣の調教用であろう鞭を形作り、其れを鋭く打ち鳴らす様に地面を叩いた。
 ルージュを引いた其の口元に浮かた笑みは、明らかに歪んだ愉悦に満ちている。
 その彼女の笑みに胸中から沸き上がってくる胸を焦がす様な激しい憎悪を確とその胸の中にしまい込みながら。
 奏の母にして、瞬の義母たる真宮・響は、ブリジットの後ろにいる2人の男……その内の片方から、凝視する目を離せずにいた。
 逞しい自らの背格好で、自らと同程度に長大な、機能美に優れた両手剣を構えた其の男に。
「そうか……そうだよね。アタシの前に現れるのは当然アンタだよね……律」
 無愛想で、ぶっきらぼうだった。
 けれども其の背で家族への愛を示してくれていた、最愛の『男』
『そうだな。俺には此処が何処なのかは見当も付かないが……だが無念を、未練を抱いたままに死んでしまったその想いは、俺の胸の中に確かにあるよ、響』
「ああ、あの時に死ぬ事はアンタの本意では無かっただろうし、さぞや無念だっただろうからね」
 響のその言の葉を肯定する様に、両手剣を構える律を象った魂の亡霊に。
『そうか。だからこそお前は私と共にこの地に姿を現したのか。貴殿は、さぞ名のある武人であったのだろうな』
 律の隣で刀の濃口を切った其の男の囁きに。
「……そうか。そう言うこと、なんですね。あなたはあの時、確かにぼく達が倒しました。ですが、あなたも此処に現れた。つまり此処は、ぼく達が抱いた未練ですら引き寄せてしまう力を持っているのですね。……元帝都桜學府将校、紫陽花さん」
 ほぅ、と小さく息をつき、ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣するウィリアムの呼びかけに。
『私はあの時、其方の律殿、と言う男に『似ている』とお前達に言われている。其の縁故に……お前達の前に再びこの姿を現す事になったのだろうな』
「確かにアタシはアンタに言ったね。アンタはアタシの旦那……そこに居る『律』に似ているって。『武』でしか自らの信念を示せない……そう言う男だ……と」
 呻く様に呟き、静かにブレイズブルーを構える響の其れに。
 軍服姿の紫陽花が静かに頷き、そのままゆっくりと『静』なる鞘に納められた刀を引き抜き、八相に構える。
 常闇を斬り裂かんばかりの銀の剣と刀の閃きが、酷く眩く輝いていた。
 一方、鞭を構えた麗人……ブリジットは笑う。
 嘲る様に、囀る様に、大きな嘲笑を放っている。
『アハハハハハハハハハッ! あたしが殺した男が、あの時守り通そうとしたお前達の魂を、この沼に引き摺り込むことが出来るんだね! 最高だよ! あたし達が背負ってきた無限の憎しみと怒り……無念をあんた達に徹底的に教え込んで、此方側に引き込んでやる!』
 嘲笑と共に鞭を打ち鳴らしたブリジットの号令に合わせる様に。
 律と紫陽花、そして彼等に率いられた理不尽に殺された瞬の故郷の民を象った魂達が、怨嗟の声と共に、一斉に襲い掛かってきた。


 群を率いるブリジットと律、そして紫陽花……その頭に立つブリジットの様子を紫の眼差しで見つめながら。
「ええ、そうですね。お父さんを無残に殺した魔獣を使役していたあなたもまた、まだまだ生きていたかったでしょうね」
 ブリジットは、自らの使役する獣によって人を嬲り殺すことに快感を覚える存在。
 サディスティックな歪んだ欲望にその身を支配される者は、虐げることは好きだが、自らが虐げられることを嫌う。
 彼女もまた、そう言う存在なのだろう。
 何故、自身が殺されなければならなかったのかという理不尽な思いばかりが先立つ、そんな吸血鬼故に。
 だが……。
「私は大切なヒトを護るため、生き抜かなければいけないんです! あなたの様な私と母さんから父さんを奪った死の象徴……そんな相手に膝を屈するわけには行かないんです!」
 血の滲みそうな程に深い想いを言の葉に乗せて、叩き付ける様に叫ぶと同時に、エレメンタル・シールドに翡翠の結界を張り巡らす奏。
 それがブリジットの叫びと共に、振り下ろされた調教鞭を受け止め、鋭く鈍い衝撃が、ズシリ、と奏の体にのし掛かるのに。
『死ね! 死ね! 死ね! 生者共! お前達もまた、俺達が受けた理不尽を、その身を以て受け止め、裁かれる立場に在る事を忘れるな!』
 怨嗟と呪詛を籠めた声を後方の瞬の里の人々が一斉に奏に叩き付ける。
 呪いの言葉の矢と化したそれが、奏の結界を突き破る様に一斉にその身に突き立とうとした、その時。
「奏は……妹は、例え皆さんの想いが相手でもやらせはしません! 皆さんの生きた其の軌跡を、僕達が残し伝えていくその為にも……!」
 瞬が月虹の杖を振り翳すとほぼ同時に、青き矢車菊の花吹雪が奏の翡翠の風に乗って花吹雪と化して吹き荒れた。
 吹き荒れた其の風を浴びた故郷の人々の体に刻み込まれるのは、瞬の隠れ里にのみ伝わる月読みの紋章。
 光り差す力と化した花吹雪を受けた故郷の人々が其の体の動きを止める。
「皆さんの仇を取った僕は、生まれ故郷の皆さんの無念を背負って生きていくことを決めました。そして母さんと奏……何よりも皆さんが僕を愛してくれた其の事実がある限り、僕は僕として生き続けられる……!」
 瞬のその言葉を遮る様に。
『愛を受けたが故に生きていける……か。成程、人は確かに誰かより無償の愛を受けているが故に生きることが出来るだろう。だが、其の愛故に、人は他者を憎み、そして時に己が道を過つ。其の事実からお前は目を背けているのでは無いか?』
 紫陽花が八相に構えた刀で瞬が月虹の杖を以て空中に描いた月読みの紋章を一閃。
 其の結界の拘束を断ち切られた律が戦場を駆け抜け、大上段に構えていた両手剣を響へと振り下ろす。
「やっぱりアンタの剣技の冴えは……例えその魂を象っただけに過ぎなくても、衰えることが無いんだね……」
 呻く様に呟き、響が律の目にも留まらぬ早さで振り下ろされた両手剣の一撃を、辛うじてブレイズブルーで受け止める。
 その瞬間を狙って、紫陽花がその刀を横薙ぎに振り払おうとするのに対して……。
「紫陽花さん! あなたの相手はこのぼくです! あんな影朧兵器の力を借りたあなたでなく、本当のあなた自身と接したかった未練であなたを引き寄せたぼくが!」
 割り込む様に『スプラッシュ』に氷の精霊達を纏わせて、鋭い刺突の一撃を放つウィリアム。
 其のウィリアムの一突きに気がついた紫陽花がすっ、と軽く身を引きながら、『スプラッシュ』の刺突を刀の背に絡めて受け流し。
『そうであったな。今の私はもう何も残されていない『武』に此の身を捧げた者。なれば言葉では無く、剣で語るのみか!』
 咆哮し『スプラッシュ』を巻き取る様にして肉薄、ウィリアムの鳩尾に拳を叩き込もうとする紫陽花。
 だが……。
「もう、誰も傷つけさせません! 私が皆さんを守り切って見せます!」
 その紫陽花の拳の一撃に割り込む様にシルフィード・セイバーを投擲する奏。
 クルクルと風車の様な回転を伴ったそれが風の刃を纏って翡翠色の輝きを発し、紫陽花の殴打を食い止めようとする。
『……成程、大した連携だな!』
 其の気配に気がついた紫陽花が素早く拳を引っ込めて攻撃を躱した瞬間を狙って、ウィリアムが『スプラッシュ』を下段から突き出した。
 狙いは目。
 鋭い其の目を貫き穿つことで其の機動力を封じようとするウィリアムの動きを看守したか、紫陽花が素早く体を引くとほぼ同時に。
『……っ!』
 無音の気迫と共に律が、響に両手剣を大上段から振り下ろすのに、響がブレイズブルーで其れを切り払おうとするが……。
『さあ、あたし達と一緒に行きましょう! 永遠の其の世界に!』
 ブリジットが振るった鞭が響のブレイズブルーを絡め取り、律の斬撃が響の体を断ち切ろうとしたその時。
「言った筈です! 死の象徴にしか過ぎないあなたに、私は絶対に負けませんと!」
 誓いの言葉を奏が叫び、エレメンタル・シールドをブリジットの体に叩き付けた。
『ガアッ?!』
 側面からの強烈なシールドバッシュに、ブリジットが激しく痙攣する。
 律や紫陽花の様に武に長けているわけでは無いブリジットには、到底耐える事の出来無い程の、其の衝撃。
『お……お前達! あたしを守りなさい!』
 ブリジットが叱咤をする様に鞭を振り上げ、周囲の他の亡霊達に命令するが、律も、紫陽花も其の命令を聞く素振りを見せない。
 一方瞬の故郷の人々の無念と怨嗟の魂は瞬が再び放った矢車菊の葬送の桜吹雪と。
「分かるだろう、律? 奏は……アンタが命を賭して守ってくれたアタシと、アタシ達の娘は……」
 自分を護る様に割り込んだ奏の姿を、誇らしげに見つめながらの響の其れに。
『……ああ、どうやらその様だな』
 律がそれ以上を語ること無く静かに頷き、そのままそっと両手剣を引き。
「アンタが守ってくれた御陰でアンタによく似た大事な人を護る術に長けた子供に育ってくれたあの子の為にも。そして何よりもアンタが、アンタの死を決して無駄にしないためにも。安心して……眠ってな」
 律への手向けの想いを込めて。
 響が自らの熱い心を現すかの如く歌った赫灼のグロリアの旋律が重なって。
 瞬の故郷の人々を、纏めて浄化されていた。
『な……何故?! 何故、お前達はあたしを護らないの!? お前達は、あたしの奴隷! あたしを守り、この生ある者共をあたし達の列に加えるために……!』
 狼狽の極みといった様子で金切り声を上げるブリジットに、奏がブレイズセイバーを突きつける。
「お父さんが託してくれたこの想いを……信念を貫くために! 私は、あなたの魂を、此処で断ち切ります!」
 奏が手に構えたブレイズセイバーを袈裟に一閃、狼狽のあまりに腰を抜かしてその場に頽れたブリジットの体を叩き斬る。
 奏の熱を……護ると言う熱い信念の証の籠められたその一撃が、浄化の炎と化してブリジットの魂を焼き払った。
『な……ぜ……? あた……しを……』
 呪詛の籠った眼差しをブリジットが叩き付けたのは、ウィリアムの未練がこの地に呼び寄せた紫陽花の魂。
 律は奏の信念の一撃と、響の奏でる赫灼のグロリアに導かれ、骸の海……再びの天への旅路に向けて既にその姿を薄れさせていた。
『何故? 当然であろう。お前の様な者に私には傅く謂れは無い。私は、私の信じた道を、其れに付き合った者達の想いを背負ったままに此処にいる。何よりも……』
 消えていったブリジットを一瞥した紫陽花が鋭い剣閃と共に、ウィリアムを袈裟に斬り裂こうとする。
 ウィリアムは『スプラッシュ』で受けると見せかけて、前に頽れる様に倒れ込みながら『スプラッシュ』を紫陽花の足に突き出した。
 それに片足を貫かれつつ、それでも紫陽花は、口元に猛々しい笑みを浮かべた。
 戦士として鍛え抜かれた、猛獣の如き其の笑みを。
『自らの信念を貫き通すことを選んだ者達の刃が、私の前にはあるのだからな』
 1人の修羅としてその地に現れた男の其れに、ウィリアムが何も言わずに立ち上がり、『スプラッシュ』を両手遣いに構え直した。


「事ここに至っては、帝都の平穏も、影朧の救済もありません。此処は最早世界の埒外。故にぼくもまた、この刃でぼくの道を示すのみ!」
 鋭く自らを叱咤する様な言葉と共に。
 灰色の瞳に微かな何かを称えながら両手使いに構え直した『スプラッシュ』を、今度はその胸に向けて突き出すウィリアム。
 紫陽花は、ウィリアムのそれがフェイントだと見切り、敢えて真正面から其れに踏み込み、強烈な頭突きを叩き付けようとした時。
「ウィリアム、流石に紫陽花は、アンタだけじゃ勝てないよ!」
 叫びと共に側面から響が振り上げたブレイズブルーを振り下ろした。
 側面からの響の不意打ちに、何処か感心した様に鼻を鳴らした紫陽花が踏み込みを中断、その場から一歩後退した其の刹那。
「あなたには、僕達は何処か近しいものを感じていました。だからこそ……此処であなたにも魂の安らぎを……」
 小さく諭す様に瞬が月虹の杖に籠めた魔力を解放、矢車菊の花吹雪を操り紫陽花の視界を遮って。
「私達が、与えて見せます! どうか安らかに眠りにつける事を願って!」
 誓いの籠めた声を張り上げた奏が地面に突き立ったシルフィード・セイバーをエレメンタル・シールドを棄てて引き抜き、一閃。
 風の精霊の力を籠めた緑風の刃と、自らの信念の炎を纏ったブレイズセイバーを全力で振るい、紫陽花の太刀筋を狂わせた。
『ぐうっ……?!』
 響達の思わぬ奇襲に、咄嗟に紫陽花がその動きを止めたその瞬間。
「今しかありませんか……! ウィリアム・バークリー、参ります!」
 叫びと共に『スプラッシュ』に籠めた氷の精霊達の魔力でその刀身を凍てつかせ、走りながら『スプラッシュ』を擦過させ……。
「Astral Freeze!」
 ウィリアムが、『スプラッシュ』の刀身を摩擦熱と共に撥ね上げて、紫陽花の左脇腹から頭頂部にかけてを斬り上げる。
 凍てついた『スプラッシュ』に籠められた精霊達の霊力が、その肉体を傷つけず『修羅』として姿を現した紫陽花の魂を斬り裂いた。
『……そうだ、それで良い。私が私の信念を、最期のその時まで貫いたのと同じ様に。お前達は、お前達の選んだ道を……私に示した『希望』の道を進むのだ……。それが、『生』あるお前達の――』
 まるで全てが分かっていたかの様にそう告げて。
 その場で自らの愛刀を取り落とし魂が浄化され、その肉体毎消え去る紫陽花を見送る様に凝視して。
「紫陽花さん……。どうあっても、ぼくらの間には、刃以外で語れる世界は無かったんでしょうか……?」
 誰に共無く独り言を呟き。
 ウィリアムがその場に何故か残った刀を静かに拾い上げるのを、響達は、粛然とした表情で見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パラス・アテナ
闇の中で浮かび上がったのは一人の少女
学校の制服をきちんと着こなして立っている
死んだ孫娘のセレネだ
立ち竦むアタシにセレネが手を差し伸べる

『さあ参りましょう。お友達をご紹介させてくださいませ』

そこに立つセレネに小さく首を振り
アンタのところには行けないよ
少なくとも今はまだね
アタシの答えにセレネの姿が死に際の無残を晒す

『私を守ってくださると仰ったのは嘘、なのですか?』

嘘じゃないさ
アタシは本来のアンタを思い出したからね
例えどんな姿になっていても見つけ出して
苦しみから救い出してやるよ
だからそれまではそっちで待ってな

セレネの姿がゆらり歪む
滲んだ人影に銃を向け
見知らぬアンタももう苦しまなくていい
骸の海へお還り




「……成程。アタシもこの闇の中に取り込まれちまったって訳だ」
 あの少女の幻に幻惑され、誘導されたかの様に。
 闇黒の中を1人流離うパラス・アテナは、周囲の闇から呼び出された数多の魂達の中で、一際強く輝く其れを見つけていた。
 ポウ……ポウ……と。
 まるで蛍火の様に美しく儚い光を伴った其の魂が、程なくして、1人の少女の姿を象り始める。
(「他の奴等も、異世界で失った其れとも、出会ったりしているのかね?」)
 そんな益体もない考えが、パラスの脳裏を掠めた丁度その時。
 魂が象り終えたのは、学校の制服姿を着こなした、柔和な微笑みを浮かべた少女。
 其の制服も、飾られたマスコットにも、嫌という程、見覚えがある。
 ――そう、彼女は……。
「……セレネ」
 再び現れた生者としての最期の邂逅の時の姿の彼女から目を離すことが出来ず、思わず生唾を飲み下す。
 今、もしも誰かに背中から刺されそうになっても、恐らく反応は出来ないだろう。
 そう見えるパラスの……祖母の姿を見て、セレネが満面の笑顔を浮かべて。
『さあ参りましょう、お婆ちゃん。私にお友達をご紹介させて下さいませ』
 優しく手を差し伸べた、セレネの甘い誘い。
 それは純真な少女の想いを内包した魂が象った、孫の祖母への1つの愛のカタチ。
 其の甘美な囁きに連れられて其方側へと行ければ、どれ程幸福な事で有ろう。
 其れがまた、『少女』の求めた楽園……天国の在るべき姿、であるのならば……。
 ――けれども。
「アタシは、アンタのところには行けないよ」
 都市防衛の死神……多数の生あるモノを守る、矛盾を孕んだ『死神』には。
「少なくとも、今はまだ、ね」
 この生命が続いている今の……大切な誰かが生者の内にあるアタシには。
 優しくあやす様に、けれどもはっきりと否定を口にした今の『パラス』の目前で。
 不意にセレネの胸のマスコットが壊れ、制服が千々に千切れ、或いは弾け。
 血塗れになっている箇所が無いのを探す方が難しく、腕足が吹き飛び内臓をはみ出した無残な死に際の姿にグズグズと変わるセレネ。
 数多の死を見てきた歴戦のパラスでさえも思わず息を呑んでしまう無惨な死体と化した彼女が崩れた顔に笑顔を貼り付けて。
『私を、守って下さると仰ったのは、嘘、なのですか?』
 咎める様に口を尖らせて尋ねてくるのに。
「――いいや。嘘じゃないさ」
 もしかしたら、現実に見た時よりも無惨な死体を晒して笑うセレネに、パラスはそっと頭を横に振る。
 胃から込み上げてくる酸っぱいものを、必死に飲み下しながら。
『では何故ですか、お婆ちゃん。如何して、私と一緒に、来て頂けないのですか?』
 歪な方向に捻じ曲がった首の上の頭をパラスに向けて。
 セレネの死体……過去の残照の象徴に向けてパラスは其れはね、と囁いた。
「アタシは、本来のアンタを思い出したからね」
 ――在りし日の綺麗な自分の姿の儘で、覚えていて欲しいよ。
 そこには、憎悪も憤怒も無い。
 ただ純真にそう願い、まぼろし橋の彼方を渡っていった、心優しいセレネ。
 それがあの橋を渡っていく孫を見て、見出した本当の彼女。
 そんな気遣いが出来る彼女こそ、パラスの知っている孫のセレネなのだ。
 ――だからこそ。
「例え、どんな姿になっていても」
 一語、一語を噛み締める様に。
「アタシが見つけ出して、苦しみからアンタを救い出してやるよ」
 詰めた息を吐き出す様にそう諭し、腰に帯びたEK-I357N6『ニケ』を引き抜く。
 いつもは自分の手に馴染む長年連れ添った相棒が、やけに重い。
『お婆ちゃん……』
『ニケ』の黒光りする銃口を向けられて。
 硬くなった笑みを浮かべて祖母を呼ぶセレネに、パラスが微かに寂しげに笑む。
 ――失われた孫への哀惜と、惜しみなき愛情と共に。
「だから其れまでは、そっちで待っていな。其の苦しみから解き放たれるその時迄」
 その誓いの言の葉を聞いて。
 笑顔をくしゃくしゃにしたセレネの姿が、ゆらりと歪む。
 陽炎の様に揺らぎその姿を消していく『セレネ』を象った魂に向けて、パラスが『ニケ』の重く感じる引金を引くと。
 ――パーン!
 と一発の銃声が鳴り響き、『セレネ』の姿をした少女の揺らぐ体を撃ち抜いた。
 消え逝く『セレネ』を象った魂を見つめながら、銃口から上る白煙を見つめ。
「見知らぬアンタ……。アンタも、もう、苦しまなくて良い。だから……」
 ――骸の海へ、お還り。
 ふっ、と『ニケ』の銃口の白煙に息を掛けて、吹き消して。
『ニケ』をホルスターに差したパラスは闇黒の更なる先に、其の歩みを刻み始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

森宮・陽太
アドリブ他者絡み大歓迎
指定UCは演出

少女の幻…そーいうことか
そりゃ、少年たちが傅くはずだ
…一体、どれだけ人々を弄んできたんだ

先に負の感情に縛られた魂たちをどうにかしねえといけねぇが
よく見ると『暗殺者』が殺した人々に似ている気がする
…まぼろし橋や銀雨降る中で見た、犠牲者たちに

いくら謝罪しても、負の感情に縛られている魂たちには届かない
怨嗟の声に打ちのめされ膝をつき
為す術なく魂たちに捕らえられたところで
脳裏に「奴らを滅せ」と声が響いて指定UCが勝手に発動
真の姿に変貌し狂おしいほどの多幸感に浸りながら『暗殺者』と化し
「なぎ払い、浄化、蹂躙」で冷酷に魂たちを滅して行く

ただし、得物は二槍ではなくお守り刀
…『暗殺者』が使うはずがない武器だ
※実際は『暗殺者』が『陽太』を少しずつ理解し始めているため
『陽太』の行動原理をトレースし浄化を選択している

ある程度退けたら真の姿解除
『陽太』に戻り手にした得物を見て茫然とする
なんで『暗殺者』がこの刀を使ってるんだ
奴なら二槍で魂すら蹂躙するはずだぜ?
…理解できねぇよ


クラウン・アンダーウッド
感情的な彼らにはこちらも強い感情をもってお答えしよう。

さて、どのような感情が望ましいかな?
実験のし甲斐がありそうな亡者との出会いに喜ぶべきかな。いいや、研究対象はあくまでオブリビオンだ。
殺意を向けてくる者たちに怒るべきかな。いいや、怒るべきは彼らを亡者にした者たちだ。
救いがなかった者たちを悲しむべきかな。いいや、安易にされる同情ほど不愉快なものはない筈だ。
ならば...そう、この状況を楽しもう♪

やぁやぁ、皆さん元気が宜しいようで。何かいいことでもあったのかな♪
観客がこんなに居るなんて道化師冥利に尽きるね!さぁ、大道芸の始まりさ♪

様々な形に変化する癒やしの業火で、亡者たちの心身を癒やし楽しませる。




 ――如何して? 如何して? 如何して?
 ――痛いよう……。苦しいよう……。
 無念、憎悪、悲哀、苦痛、失望、絶望……etc。
 其れは今、目前にいる青い髪と赤目の少女の幻が、この地に辿り着くその時迄に撒き散らしてきた『災厄』達。
 其れに巻き込まれ、理不尽に踏み躙った其の少女の幻が、美少年達の幻に傅かれて幸福そうに微笑んでいる。
 其れはまるで天国に辿り着くことの出来た殉教者の様な至高の喜びに満ちた表情。
 其の表情をした少女の幻を見て。
「……そーいうことか。そりゃ、少年達が傅く筈だ」
 其の少女の幻の姿に、森宮・陽太は見覚えがあった。
(「オブリビオン名は『カヤ』。美少年達を傀儡にし弄び、殺していた存在……」)
 あの時は、番犬の紋章を持つ本体の偽装個体として姿を現した少女だったが……。
(「コイツは……この『カヤ』は、きっと……」)
 その推測を脇に置いて。
 胸を焼き焦がす様な想像を絶する憤怒の炎を、周囲に現れた無数の魂を操る少女の幻に向ける様に陽太が鋭く彼女を睨む。
「……一体、テメーは、どれだけの人々を弄んできたんだ……!」
 憤怒に滾った鋭く低い声で唸り声を上げる陽太と対照的に、クラウン・アンダーテッドは愉快そうに、楽しそうにクスクス笑った。
 道化の様な、研究者の様な笑みを浮かべ、サーカスの団長の如く大仰に両手を広げて見せながら。
「やぁやぁ、亡者達の皆さんお元気が宜しい様で。何か良い事でも有ったのかな♪」
 ――パンパカパーン、パンパンパン、パンパカパーン。
 クラウンのからかう様な口調に合わせて。
 クラウンの両指から伸びた糸に繋がれた人形楽団達が一斉に喇叭を吹き鳴らす。
 大仰な喇叭のファンファーレに対して、憤怒と殺意の感情を増幅し、より固まった魂達が一斉に殺気をクラウンへと突きつけた。
「クラウン、お前……!」
 そんな亡者達を見て、愉快そうなクラウンを、其の翡翠色の瞳で睨み付ける陽太。
 けれどもクラウンは特に意に介した様子も無く、糸で人形楽団を操りながら軽薄にポンポン、と陽太の肩を叩いた。
「焦らない、焦らない♪ 陽太さん、キミは今、とても感情的になっているだろ? その怒りに飲まれれば、彼等の強い感情に飲み込まれてしまいますよ?」
 冗談めかした口調で肩を竦めて宥めるクラウンの其れに、陽太の怒りに沸騰していた頭が微かに冷える。
 そして妙に冷え渡った頭の中の一部分が、彼の脳裏に警鐘を鳴らしていた。
 其れは、負の感情に縛られた魂達の姿に対しての警鐘。
 改めて彼等をよく見てみると……。
「……似ている気がしてくるな。『暗殺者』の俺が、理不尽に奪った……」
 ――まぼろし橋や、銀雨の中で見た、あの、『無面目の暗殺者』の犠牲者達に。
 心の裡から囁きかけてくる様なその声に、思わず其の翡翠の瞳を細める陽太の様子をクラウンはふぅん、と興味深げに眺めている。
「ほらほら、今にも襲い掛かって来るばかりの雰囲気ですよ? きちんと彼等の事を見ていないと、何時彼等に引き摺り込まれるやも知れませんよ?」
 人形楽団達にファンファーレを続けさせながらさりげなく諭すクラウンの其れに、そうだな、と陽太が溜息を漏らす。
「何よりも俺は、あいつらには、幾ら謝罪をしても償いきれない。今の俺の声は、アイツらには、きっと……」
 ――届かない。
 そう自分の中の『誰か』が囁き掛けるのに陽太が思わず頭を抱えて膝をつく。
 そうして隙を見せた陽太に向けて。
『如何して、私を助けてくれなかったの?』
『何故、僕達を理不尽に殺したの?』
『何で、儂等は殺されなければならなかったのじゃ……!』
 轟く様に響き渡る怨嗟の声。
 その声を塞ぐ様に両手で耳を押さえる陽太を守る様に人形楽団で其の周りを囲みながらクラウンが口の端に笑みを刻み。
「いやはや、見事だねぇ。観客の皆様がこれ程いらっしゃるこの状況。それでこそボクも、道化師冥利に尽きるというものだよ♪ さぁ♪ 大道芸の始まりさ♪」
 クラウンが宣言と共にクラウンハットを手に取り、一礼をするのとほぼ同時に。
 人形楽団達が喇叭によるファンファーレを鳴らし、105個の神々しい光を放ち激しく燃え盛る炎がクラウンの周りを踊り始めた。


「さぁ! It’s Show Time♪」
 何処までも巫山戯た調子で笑いながら。
 クラウンが105の炎を散開させる様に踊り狂わせる。
 全てを焼き払う地獄の炎が、自分達に憤怒と怨嗟を初めとした、激しい負の感情を清めようとするかの如く其々の魂に着火。
 そのまま獄炎の世界に住む鬼が束の間見せた優しさの如き清浄な慈愛に満ちた炎が焼ける鉄の様な魂達の感情を包み込んでいる。
「……クラウン……此は……この炎は……?」
 自分の体に凄まじい程の負荷を与えてきた魂達の怨嗟の声が僅かに遠ざかり、掠れた声を出せる様になった陽太の問い。
 道化の笑みを崩さぬ儘に炎達を、道化師の笛を吹き鳴らして操るクラウンが人形楽団に庇わせている陽太をちらりと見やり。
「これはね、ボクなりの彼等の強い感情へのお返しだよ♪ ねぇ、陽太さん。キミは、この哀しくもボクが楽しみ、そして観客である彼等も楽しむために、望ましい感情は何だと思う?」
 飄々として掴み所の無い底の知れない笑みを浮かべたクラウンからの問いかけに、陽太が翡翠の瞳を見開いた。
「……アンタが楽しみ、観客である彼等も楽しむ……?」
「その通りですよ、陽太さん♪ だって、中々こんな機会なんてないじゃない♪ 其れこそ実験のしがいがありそうな亡者達……じゃないや、こんな亡霊達を生み出したオブリビオンの研究が出来るなんてさ♪」
 何処まで本気なのか判断のつかない狂気めいた様子で軽薄に言の葉を紡ぐクラウンに、陽太がぶるり、と軽く肩を震わせる。
「研究、対象……?」
「おおう、怖い、怖い♪ そんな怒った顔しないで下さいよ」
 きっ、と睨み付けてきた陽太の其れにクラウンがわざとらしく肩を竦め頭を振る。
「気を悪くしたら、謝るけれどね。でも、向こうがこんな強い負の感情を向けてきているんだよ? なら其れに真正面からお答えしてあげるのが道化師たるボクのお仕事でもあるわけで♪ 沢山の観客が此処にいて、色々な思いを叩き付けてくるならば、ボクは其れに向きあって楽しませる必要があるんだよ♪ 其れがボクの道化師冥利」
 そう告げて。
 人形楽団達に、喇叭によるファンファーレから陽気な夏を想起させるメロディーを生み出す合奏を奏でさせるクラウン。
 そのクラウンの説明と音楽が、負の感情に縛られた者達の声に打ちのめされていた陽太の心の中の『其れ』を揺り動かす。
 クラウンの炎が其の殺意や憎しみを受け止めて、彼等が求めるモノ……彼等の心の裡に巣くう感情を生み出した元凶に形を変え。
 そうして自ら焼身して、象った姿形を自壊させるその姿に、魂達が溜飲を下げて、其の勢いを弱めるのを見つめながら。
「殺意を向けてくる者達にボク達は怒るべきだと思うかい? いいや、ボク達が怒るべきは、彼等を亡者にした元凶達にだ」
 そのクラウンの言葉に合わせる様に。
 今度は陽太が見たことがある姿によく似ていた者達……特に、女子供の前で、ある女の形を炎が取った。
 其の成人した女の顔も着ている服も、仮初めの物にしか過ぎないが……其の実体を得た炎がまた、自らの意志で自壊する。
 それを女子供の魂が惚けた様に見つめ、拍子抜けして消えたのもまた分かった。
「じゃあ、キミに殺意を向けてくる者達に怒るべきかな? いいや、怒られるべきは彼等を亡者にした者達……彼女達が、そうされることを望んだ者達だ」
 其れは正しく道化の様に。
 告げるクラウンの地獄の炎が続けて救われたかったと願い、生者を死者の側に取り込もうとする魂達に接近し。
「では、救いが無かった、キミが救おうとしなかった者達を悲しむべきかな。いいや、そう言った者達に安易にされる同情程、不愉快なものは無い筈だ」
 クラウンが辿り着いた其の応えを受け止めるかの様に。
 救われたかったと願った魂達に掛けられた軛を断ち切る様に、獄炎が彼等の鎖を断ち切刃と化して閃き。
 ――ガシャン!
 と何かが打ち砕かれるかの様な音が陽太が覆っていた耳の中で聞こえた気がした。
「つまりボク達は、彼等の感情を受け止め、それに答えるために、行動する必要があるんだよ♪ さて、今の『キミ』に、果たして其れが出来るのかな?」
 そうクラウンがクラウンハットを陽太に突きつけて小首を傾げた其の刹那。
 ――奴等を滅せ。
 不意に『誰か』の声が、陽太の脳裏に響いた。
 その声を聞くや否や、陽太の全身を漆黒のブラックスーツが覆い尽くし、同時に其の顔が白一色のマスケラに覆われていく。
 同時にその全身を包み込むのは狂おしい程の多幸感。
 ――陽太の中の、命令される事に至上の幸福を得る『暗殺者』がゆっくりと其の鎌首を擡げ始めた。


「死は幸いなり。想いと共に安らかな眠りにつくことこそ、あなた達の幸福なり」
 ややメタリックに輝く白いマスケラの、奥の翡翠色の瞳を鋭く淡々と輝かせ。
 懐に納まった透き通る水晶の刀身を持つ短刀を引き抜き、クラウンの105の炎に癒やされること無く揺蕩う魂達に肉薄する陽太。
 その陽太の様子を見て、ふぅん、とクラウンが1つ鼻を鳴らしている。
「これは、これは……どうやら、ボクが彼の心の焚火に薪をくべたみたいだねぇ♪」
 愉快そうに肩を竦めて砕けた笑みを浮かべ、人形楽団達に、荘厳なる鎮魂曲(レクイエム)を奏でさせるクラウン。
 自ら進んで道化師の笛を鳴らし、其れに合わせて喇叭から弦楽器に持ち替えた人形楽団達がセッションを開始させる。
 道化の音色と謹厳たる鎮魂曲が鳴り響く其の闇の中で。
『暗殺者』へと変貌を遂げた陽太が、怨嗟の念を叩き付けてくる魂達に水晶の刀閃を奔らせた。
 氷の様に透き通った美しく輝く水晶の短刀の一閃……『森宮』の両親が授けた豊かな愛情が、光と化して魂達を浄化させていく。
「……1、2、3……目標を浄化、蹂躙する」
「ヒュゥ♪ でしたらボクももう少しお手伝いをさせて貰いますよ、陽太さん」
 無機質な暗殺者の声で呟く陽太の其れに口笛で応じたクラウンが人形楽団を操る右手を振り上げる。
 振り上げられた其の右手に応じる様に105の獄炎達が、陽太が浄化をしようとしない、怨嗟以外に囚われた魂達に迫り。
 炎舞の様に円陣を敷いて囲み込み、ユラリ、ユラリと蝋燭の火の如く揺らいでその魂達を纏めて鎮めるのに。
「……感謝する」
 多幸感に満ち満ちた反動か、それとも『暗殺者』が『陽太』を学んだか。
 陽太がクラウンに細やかな礼の言葉を漏らし、目前の自らに怨嗟を叩き付ける魂達を再び一閃。
 その魂達を捕らえ、軛から解き放つ一瞬、一瞬が、水晶の刃を通して直に伝わり、其れが胸中を満たす多幸感を加速させていく。
 それから束の間の時が流れ……。
 陽太とクラウンの周囲を取り囲む様に漆黒の帳から姿を現した魂達は、何時の間にかなりを潜めていた。


 ――ガチャリ。
「……っ?!」
 不意に鳴り響いた音と共に、其の顔に被っていた白いマスケラが陽太の顔から外れ、そのまま大地にコトリと落ちる。
 無機質に白いマスケラが地面を叩く音を合図としたかの様に陽太の姿が元に戻り、気付けば、陽太はその場に膝をついていた。
「おや? どうやらボク達の周りに集まってきたお客様は皆、無事にお帰りになりあそばれましたようですね♪」
 膝をついた陽太を何とはなしに見下ろす様な態勢を取りながら。
 召喚した105の獄炎の炎の内、104を自らの意志で搔き消し、最後の1つを陽太の背に放ってやりながらクラウンが軽く頷いている。
 陽太の背にクラウンの炎が灯り、其れが陽太の乱れた心と体を癒やす清爽さを注ぎ込むのに。
 我に返った陽太が何時の間にか詰めていた息をそっと吐いて人心地つき、漸く落ち着いて辺りを見回していた。
「終わったのか? 俺達の戦いは……」
「まあ、少なくともボク達の周りの魂達は皆楽しんで安らかに逝ったか、或いは陽太さんに力尽くで浄化されたようですね♪」
 クラウンが自らの操る人形楽団達の演奏を止めさせ、肩で息を切らしつつも落ち着きを見せる陽太にそう告げると。
「……そうか。何が起こったのか正直良く思い出せないんだが……一先ずこの先に進むことは出来る様になったって事か」
「まあ、そう言うことですね、陽太さん♪」
 茶化す様なクラウンの其れに振り返って陽太が思わず微苦笑を零す。
 それから少し与太つく自らの体を支える様にゆっくりと立ち上がり……其の手の水晶の短刀を見て、息を呑んだ。
「……て、おい、こいつは、俺の……」
 それは、血の繋がらぬ『森宮』の両親がくれた、大切なお守り刀。
 何時の間にか握りしめていた透き通る様な水晶の刀身を持つ得物を改めて見つめた陽太の表情から血の気が引いていく。
 それから青ざめた表情でクラウンの方を振り返り……。
「なぁ、クラウン。『暗殺者』の俺は、この短刀で、魂達を浄化したのか?」
「ええ、そうですよ。今の魂達との戦いで、陽太さん、確かにキミは、その刀を使って感情に満ちた魂達を浄化していました」
 問いかける陽太の其れに、その通りだと首肯しながらそう答えるクラウン。
 その解で、あの命令を聞くや否や『暗殺者』となった陽太がこのお守り刀であの魂達を浄化したという確証は得られたが……。
「……なんで『暗殺者』の俺が、この刀を使ってあいつらを浄化したんだ? 奴なら……二槍で魂すら蹂躙する筈だぜ? ……理解出来ねぇよ」
 怪訝そうに独りごちる陽太の其れに、クラウンがやれやれと言う様に道化の笑みを口元に浮かべ。
「分からないことを今考える必要はありませんよ? 先ずはこの先にいるオブリビオン……亡者達をこんな感情に縛り付けた者を倒すのが先決でしょう?」
 と、まるで散歩に出掛けるかの様な軽い口調で促すのに。
「あっ、ああ、そうだな。……サンキュ、クラウン」
 先程、クラウンが操った炎が再び陽太の体内を駆け巡り其の顔に血色と冷静に状況を分析する心を取り戻された陽太がそう礼を述べ。
 そして水晶の短刀……『森宮』の両親からのお守り刀を懐の鞘に納め、更なる深淵の先へと向かって行く。
(「この先に待ち受けるのは……きっとあいつの――」)
 胸に抱いた其の確信に耳を当て、無意識に張り詰めた息を漏らして、自らの胸に、先程の出来事をしまいこみながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
アドリブ他者絡み大歓迎
指定UCは演出

青髪赤眼の少女の幻を目にし
噛み傷が派手に疼き大きく目を見開く
以前、予知で目にした少女と…同じ

…間違いない
ようやく、ようやく見つけたよ…加耶

向かう前に、目の前に立ちはだかる大量の魂たちと対峙
おそらく少女に弄ばれた人々が多いだろうが
マリーやロイ、ウルカ等…俺に縁ある吸血鬼に殺された人々もいそうだ
ひょっとしたら、俺の故郷の人間もいるかもしれない

皆、生ある者を憎んでいるだろうが
それ以上に吸血鬼を憎んでいるはず
だから俺は、魂たちの攻撃を凌ぎながら語り掛ける

皆、吸血鬼が憎いか
理不尽な死が憎いか
心を弄ばれたのが憎いか

俺も憎い
吸血鬼は俺の妹を、両親を、故郷を奪ったからな
だが、今から妹の魂を取り戻すつもりだ
一緒に来てくれないか?

了承した魂のみ「浄化」の意を籠めた黒剣で「2回攻撃、薙ぎ払い、範囲攻撃」し吸収
即座にUC効果で身に纏い感情を受け止める
…ああ、俺と同じだな


…加耶
君が本当に求めているのは、僕なんだろう?

なら、今から僕もそちらに行く
ふたりの放浪の旅を…終わらせよう


司・千尋
連携、アドリブ可

面倒そうな相手だな
壊れたくて壊れるモノなんてないだろ
世の中不平等だし理不尽なんだよ

…まぁ『ヒト』じゃない俺には関係無いけど


攻防は基本的に『子虚烏有』を使う
範囲外なら位置調整
近接・投擲等の武器も使い
早業や範囲攻撃、2回攻撃など手数で補う
敵に押され気味なら防御優先

俺は優しくないからな
問答無用で消失させてやるぜ
話を聞いて欲しい・成仏させて欲しい奴は他の猟兵に相手してもらえよ


敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防御
オーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
迎撃や回避、防御する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用




『ヒト』は色々大変だな
見てる分には面白いけど


アリス・トゥジュルクラルテ
…そう、ですね。
アリスと、お姉ちゃんも、助けてって、言っても、誰も、助ける、ない、だった、です。
皆、お父さんは、いい、お医者さんで、学者さん、だと、今でも、信じてる、です、から。
暴力や、実験に、使う、された、なんて、信じる、ない、です。

死ぬ、前に、助ける、できないで、死後も、助ける、できないで、ごめんなさい。
でも、もう、大丈夫、です。
痛みも、苦しみも、憎しみも、ぜんぶ、アリスが、受け取る、です。
だから、もう、眠って、大丈夫、です。

ロクローくんに、守って、もらい、ながら、次に、生まれる、時は、最期、まで、幸せに、生きる、できる、ように、祈りを、こめて、浄化の、愛聖歌を、優しく、歌唱、する、です。


天星・暁音
うん…好きなだけ叩きつけるといいよ
全部全部…受け止めてあげるから、だからどうか…貴方達に安らぎが訪れますように…
(共苦で負う怪我は、腕が落ちても足が落ちても…直ぐに治るけど、舞えなくなるのは困るから、そこは気をつけないとね…)



嘆きも苦しみも痛みも受け止めて、舞います
共苦の力を解放して、より深く強く
感情を知り読み取り、受け止めた大きな痛みは実際に傷となり血を流しては直ぐに治ります
痛みは自分の物として感じますが、傷も痛みも、根本は他人のものなので、傷が刻まれ治っては、また痛みと共に傷が刻まれます
血塗れになろうとも舞うのは止めませんし
受け止めるのも辞めません


共闘アドリブ歓迎
スキルUCアイテムご自由に


文月・統哉
やはりあれは…
見覚えある少女の幻に
敬輔の様子を確認する
周囲に満ちる憎しみの声が彼女の重ねた罪の重さを示しているのなら
彼もまた目を逸らせずにいるだろうか

襲い来る幾つもの魂達
敢えて逃げる事無く向き合って
目を閉じ声に耳を傾ける
流れ込んでくるのは沢山の負の感情

恨みが怒りが憎しみが
悲しみが苦しみが絶望が
今も尚彼らを捕らえて離さない

そうだね、世界は理不尽に溢れてる
肉体を失くし魂のみになっても尚苦しみ続ける彼らの事を
彼らに災厄を齎した彼女もまた犠牲者の一人であった事を
理不尽と言わずして何と言うのか

彼らの心に寄り添って
苦しみからの解放を願う
【破魔】の【祈り】で彼らの魂を【浄化】したい

どうか安らかに

アドリブ歓迎




 青髪と赤い瞳……白のワンピースを纏い、少年達に傅かれる少女の幻を見て。
「やはり、あれは……」
 文月・統哉が先日ある祭壇で戦ったカヤ……自らの隣に立つ青年の妹の事を思い出し、ちらりと気遣う様に彼を見る。
 彼……館野・敬輔は、目前に現れた少女の姿を見て、その瞳を大きく見開いた。
 其の左肩から首の付根に掛けてについた吸血鬼マリーの噛み傷が熱を持った様に激しく疼くのを押さえながら。
「ふん……面倒そうな相手だな」
 そう司・千尋が軽く舌を打ったのは、敬輔や統哉から発されている空気故か。
 それとも今、目前に迫る……。
『如何して、わたしを助けてくれなかったの?』
『何でオレ達が殺されるのを見逃したんだ』
『……痛いよう……熱いよぉ……』
 幻の少女『カヤ』によって理不尽な『死』を強要された者達の魂の悲痛な叫び故、であろうか。
 けれども敬輔は、その魂達に、その目を直ぐに向けることが出来なかった。
 彼の赤と青のヘテロクロミアは、その魂の向こう……幻影の少年達に傅かれる少女だけを捕らえている。
「あれは……以前、予知で目にした少女と……同じ……」
「ああ、そうだよな、敬輔。あの時敬輔が予知した彼女には、俺も直接会っているよ。だから間違いない。あの子は……」
 ――加耶。
 敬輔の実の妹にして、吸血鬼ロイによってヴァンパイアにされた、世界の犠牲者。
 其の犠牲者だった筈の彼女が、今は……。
「……そう、ですね」
 魂達の怨嗟の声を、静かに受け止める様にして。
 アルビノの大鰐、ロクローくんを傍に控えさせたアリス・トゥジュルクラルテが祈る様に胸元で両手を重ね合わせている。
 それともその両手の重ね方は、謝罪だろうか。
「アリスと、お姉ちゃんも、助けてって、言っても、誰も、助ける、ない、だった、です」
 乞われた祈りが届くこと無く。
 そして理不尽に命を弄ばれ……奪われた。
 そんな彼等への贖罪の為の。
「……そうだね。俺達は、君達を助けられなかった」
 灼熱と、鋭い氷の針で貫かれる様な熱し冷まされる常人であれば耐え難き痛み。
 魂達の深い、深い絶望を感じ取った天星・暁音の共苦の痛みが絶えず与えてくる業火の様に激しい其れを暁音は粛々と受け止めて。
「だから……其の痛みも、苦しみも、好きなだけ俺達に叩き付けてくれば良いよ」
 告げる暁音の其の手には、何時の間にか開かれた星麗扇が握りしめられている。
 長い飾り紐に描かれた夜空が、開かれた星麗扇の軌道に合わせる様に優美な川の流れの様な星空に満ちた夜を描き出していた。
「そう、です。痛みも、苦しみも、憎しみも、ぜんぶ、アリスが、暁音さんが、受け取る、です」
 その暁音に、静かに同意する様に。
 辿々しいながらも、そう自らの想いを伝えるアリスの其れに、千尋が口元に皮肉げな笑みを浮かべていた。
「そこまでして受け止めてやる必要があるのかね。どんな奴だって、誰だって、壊れたくて壊れるモノじゃないだろ。元々世の中なんて不平等で理不尽なものなのによ」
 肩を竦めて無数の鳥威を展開し、茫然自失と言った様子でカヤの幻を見つめる敬輔を守る千尋の其れに。
「そう、です、千尋さん。アリスと、お姉ちゃんも、そう、です。助けてって、言っても、誰も、助ける、ない、だった、です。アリスと、お姉ちゃんの、お父さんは……」
 それ以上を、言おうとしたその瞬間。
 その時の記憶がアリスの胸に競り上がって深く深く圧迫し、息苦しい想いに捕らわれたか不意に話を途切れさせた。
 アリスの様子を、千尋が翡翠色の瞳を細めて捉え、まあ、と溜息を漏らしている。
「『ヒト』じゃない、『モノ』である俺には、あまり関係の無い話だが。そんなわけで、さっさと此処を通り抜けさせて貰うぜ、お前達」
 押し殺した様に淡々とそう告げて。
 千尋が左手で鳥威を操り守りを固めつつ、自らの右腕を持ち上げて。
 その右手首の周りに1050本の刀身に複雑な幾何学紋様の描き出された光剣を生み出し、魂達に向けて解き放った。


『なっ……?!』
 何の前触れも、躊躇いも無く解き放たれた幾何学紋様の描き出された其の光剣。
 放たれたそれが、カヤの幻を見て呆然とする敬輔に自らの悲哀を叩き付けようとしていた魂を貫き問答無用で消失させる。
「……千尋?!」
 先手必勝の千尋の攻撃に自らに近付いてきていた魂が消失するのを見届けた敬輔が思わず息を飲み、咄嗟に千尋を振り返ると。
「敬輔。何をぼーっとしてやがる。今は目前の敵に集中しろ。アレがお前の妹が吸血鬼化した姿なのかどうかは知らないが、先ずはコイツらを何とかするのが先だぜ」
 特に感慨を受けた風でも無くそう告げて、千尋が戦場全体に展開した鳥威で次々に迫り来る魂達の肉薄を妨げる。
 その間にも1050本のあらゆるモノを周りの空間ごと抉り取り消失させるとする光剣は、生き物の様に蠢き、次の敵を求めて飛翔した。
「お前等もだ。俺は暁音達と違って優しくないからな。消失させられたくないなら、さっさとアリス達にでも相手して貰えよ」
「そうだね。俺達は君達の事を受け止めると言った。幾らでも受け止めてあげると。だから……受け止めて欲しい君達は、俺達の所においで」
 千尋の鳥威の影から飛び出す様に、鮮やかに身を翻した暁音が星麗扇を一閃する。
 取り付けられた飾り紐が、有終の美を想起させる暁音の舞に彩りを添える様に星空の光を伴った優美な夜空を描き出しながら。
 夜空に煌めく星々の様な無数の金色色の光の粒を、全身から発しつつ。
 星浄なる舞と共に、暁音が自らに刻み込まれた共苦の痛みの力を解放。
 同時に熱された灼熱感と、氷柱の槍に貫かれる様な鋭い痛みが更なる重さを伴って、暁音の体を侵食していく。
 それは火傷や凍傷だけで無く、内出血による紫痣が出来てしまいそうな程の切々とした、深い痛み。
「暁音さん、傷、深い、深くなる、です!?」
 内包された星々の力と共に己が共苦を解放し、更に体の所々に自傷の如き深い傷を負う暁音を見て、アリスが思わず息を呑む。
 そんなアリスと暁音に向かって、まるで蝗の大群の様に一気に襲い掛かってくる負の感情に縛られた魂達。
 その魂達から滲み出す昏い闇の底を左目を瞑って捕らえた統哉が、締め付けられる様な胸の痛みを深く覚えた。
(「此が……彼等の痛みなのか。これが彼等から滝壺に向かって行くかの様な、深い負の感情なのか」)
 そして、『楽園』と『彼女』が名付けたこの場所に辿り着く迄に、重ねてきた罪の重さと深さなのか。
 片目を瞑るだけでも留まること無く溢れ出す其の負の感情と、圧しかかる其の圧力に統哉が辛うじて瞑らずにいた右目で敬輔を見る。
 敬輔は自らの体に取り憑き自分達と同じ『楽園』に引き摺り込まんと迫ってくる魂達を、改めて静かに見つめていた。
(「……漸く、漸く見つけることが出来た、加耶……。僕の復讐の旅を終わらせるための、最後の欠片」)
 けれどもその加耶が自らの楽園……『天国』に至る迄に、その手をどれ程の血に染め上げたのか。
 其の途上で失われた数多の命達の何と多く、儚きことか。
 無論、その中には……。
(「其の少女……カヤだけじゃない。マリーやロイ、ウルカ等……俺に縁ある吸血鬼に殺された人々もいるかも知れないが……」)
 それは絶望と復讐に囚われた青年にとって、たった1つの希望であろう。
 これだけ多くの人々の未来を目前の幻の少女……カヤが全て奪ったとは思いたくない、そんな敬輔の心の断片の。
 その敬輔の計り知れない胸中を裏付けるかの様に。
 魂の幾つかが鍬を、動物を捕らえるための罠を持ち、躍りかかってくるのを見て敬輔は思わず瞳孔を見開いた。
 ――何故なら。
「里の……皆……!」
 トラバサミを投擲したり、鍬を振り上げて襲ってきた者達が、嘗て敬輔が屠った吸血鬼化した里の者に、あまりにもよく似ていたから。
「敬輔……!」
 右目を瞑り、振り上げられた鍬と投擲されたトラバサミから、目を離せぬ敬輔に統哉が呼びかけ『宵』を構える。
 唐竹割りに振り下ろされた鍬を『宵』で受け止めると、『宵』を持つ統哉の右腕をトラバサミが噛み砕こうと……。
「この状況で、こいつらの想いを全て救おうとすれば、死ぬぜ統哉」
 言いながら展開した鳥威を結詞で数珠の様に結んで網状の結界を作り出し、統哉と敬輔を守る結界を張る千尋。
 トラバサミが焦茶色のオーラを纏った鳥威の盾に受け止められ、其の歯が砕け散るのを見て、男は千尋を憎々しげに睨み付けるが。
「俺の方を向いたのが、運の尽きだぜ」
 呟きと同時に男の頭上へと飛んだ光剣の1本が落雷の様に落ちてきて、其の男の存在を周囲の空間ごと消失させる。
 悲鳴を上げる暇も無く消失した男の穢れた魂が最期に浴びた其の傷が暁音の共苦の痛みを通じて其の体を貫いた。
「……ゲホッ」
(「……内臓を貫かれる様な痛み、か。でも其の痛みを俺に浴びせることで、あなたが其の最期を受け止めることが出来るのならば……」)
 口からゴボリッ、と血泡を吹きながら、暁音は星空から降り注ぐ雨を思わせる其の弔い舞を止めることはない。
 口から零れた血が自らの衣装を穢しても、自らが発する夜空に輝く煌めく星の光の粒が……その魂が穢れることは無かったから。
「暁音さん、痛い、ない、です!?」
 アリスが思わず気遣いの声を上げるが、暁音はアリスの其れに心配しないで、と言う様に柔らかく微笑みを向け。
「大丈夫。この程度で俺が舞を止めることは絶対に無い。だからアリスさん、アリスさんは、自分のすべきことに集中して」
 告げながらリン! と神祭具の神楽鈴を鳴らす暁音の其れに、アリスが怖ず怖ずと頷き、自らに迫る魂達に向けて両手を広げた。
「アリスと、お姉ちゃんの、お父さんは、皆には、いい、お医者さんで、学者さん、だと、今でも、信じてる、です、から。アリスや、お姉ちゃんが、暴力や、実験に、使う、された、なんて、信じる、ない、です」
 ――其れはアリスが受けた理不尽であり、身勝手。
 この魂達が、少女……カヤによって齎されたそれと、同じモノ。
「だから、アリスは、分かる、です。でも、死ぬ、前に、助ける、できないで、死後も、助ける、アリスは、できない、です、ごめんなさい」
 ……それでも、そんなアリスでも。
 暁音とは異なるカタチを以て、受け取ることが出来るものがある。
「それは、痛みも、苦しみも、憎しみも、ぜんぶ、です。アリスが、受け取る、できる、です」
 そのアリスの呼びかけに。
 ヒトを……生あるモノ達を怨み、妬む呪詛を唱える魂達が、アリスの体を蝕まんと襲ってくるのを、ロクローくんが尻尾で振り祓う。
 清めるかの如く放たれた其の尻尾の一撃を受けた魂達が、アリスとロクローくんの魂を呪わんと恨み言を述べるその間に。
「嗚呼 愛しき女神……」
 アリスが両手を胸の前で重ね合わせながら、その祈りを愛の女神へと届ける愛聖歌を歌い始めた。
 聖歌……神の無償の愛を称賛し、賛美する其の聖歌の1節、1節が歌われる度に、アリスを中心に聖なる魔力の渦が巻き始め。
 其の愛の賛美歌を止めさせようとするかの様に。
「ダメ! あたしと、あたしのお兄ちゃん達の楽園を……天国を壊さないで!」
 カヤの幻の悲痛な叫びに傅いていた美少年達が応じ、アリスの動きを止めんと、敢然とアリスとロクローくんに向かって走り出すと。
「駄目だ! そんな事をしても……お前達は救われない! お前達は、お前達をこの様な姿にした吸血鬼が憎くないのか!? 理不尽な死が、心を弄ばれたことが憎くないのか?!」
 その美少年達の前に、ばっ、と両手を広げて敬輔が仁王立ちになった。
 その敬輔の体には、腰に帯びた黒剣から放たれる白き靄と。
 紅と蒼の光が混ざり合い、高貴なる者を意味する不可思議なオーラが敬輔の身に纏われている。
(「あの紅と、蒼い光……其れが組み合わさった紫の光輝の光。あれは……」)
 魂達の恨み、怒り、憎しみ、悲しみ、苦しみ……そして絶望。
 左目を瞑っただけでまざまざと感じた其の負の感情を、より強く、深く受け止めるために『宵』を地面に突き立てて。
 ずっと敬輔を追う様に開けていた右目も瞑り、閉ざされた闇の世界に身を浸す様にしていた統哉が、其の光に在る暖かさを感じ取る。
(「……そうか。あの人達も、やはり加耶を……」)
 取り戻したいと、願っているのか。
 潮の様に統哉の胸を浸すのは、只只管の、『納得』の念。
(「そうだ。当然だよな……」)
 あの人達が……嘗て敬輔が解放したミユキとモトキ……彼等の両親が、妹であるカヤの救済を願わない道理は無い。
 その統哉の想いを裏付けるかの様に。
 敬輔の怒号の様な呼びかけに、少年達の動きが一瞬、止まる、その間に。
「我等の想いを夢見た彼の者に……」
 アリスの儚く透き通った歌声が、戦場に響く。
 其のアリスを中心に生み出される聖なる波動と、暁音の舞によって生み出された煌めく星彩の如き浄化の輝きを背にしながら。
 敬輔が続けて彼等に問いかけた。
「俺は……生あるものとして、吸血鬼が憎い。あなた達と同様に、理不尽に俺から妹を、両親を、故郷を奪った仇が憎い。それは……わたし達も、同じなの」
 まるで声変わりの様に甲高くなる敬輔の声。
 それは、紅と蒼の混ざり合った紫の光輝に包み込まれた『彼女』達の慚愧の想い。
 この地に彷徨う負の感情に縛られた魂達の類同にして、理解者たりうる彼女達の。
「だからわたし達は、この命持つ『お兄ちゃん』と一緒に旅を続けているの。此処に閉じ籠もっていたら、知ることなんか出来なかった楽しみをも知りながら」
 厳密に言えば、其れは敬輔が『彼女』達に与えたものではない。
 けれども『彼女』達は知っている。
 死した今でも尚、一つ処に留まり続けていては……怒と哀の想いしか、知ることが出来ない其の事実を。
「だから……俺の為にも、皆の為にも、今から俺は妹の魂を取り戻す。その為に俺は、此処に来たんだ。お前達は、理不尽に奪われるだけの其の在り方に、何時迄もしがみついていれば、それで良いのか……?!」
 何処か、凄みの混ざった敬輔の気迫の込められた叫び。
 其の叫びにこの地に囚われ続ける魂達の一部が微かに怯む様に勢いを弱めるが。
『生きる者が、何を言っているの!? 何も与えられることも無く大切な人をあの子に奪われてしまった私の絶望が、どれ程に深いものか本当に分かっているの!?』
 悲嘆に暮れたカヤに大切な少年を籠絡され、奪われた少女の魂が其の理不尽の嘆きを、敬輔と『彼女』達に叩き付けると。
「ああ、そうだね。敬輔さんだけでは、其の痛みは分からない。だから……俺が此処に居るんだよ」
 穏やかで、静かな呼びかけと共に。
 星空の雨を思わせる舞を舞いながら、暁音が其の痛みを受け取らんと自らに刻まれた共苦の痛みの力を更に解放。
 与えあい、想い合っていた真実の其れを、半身だったそれを、理不尽に奪われた少女の絶望が暁音の全身を凄まじい暴力で張り倒す。
 彼女の一方的に奪われる、痛みと恐怖を共苦の痛みを通して感じた其れは、暁音の体内から血飛沫を舞わせるに十分だった。
「……ちっ」
 千尋が其の痛みを暁音に与えた少女の魂に向けて光剣を解放し、彼女の痛みと絶望を、其の存在毎消失させようとするが。
「千尋、頼む! 其れは堪えて……堪えてくれ……!」
「届け給え 愛に飢えた子どもに 千尋さん、アリスも、お願い、です。どうか、あの子が、生きる、できる、ように、する、ため、にも、です……!」
 キツく両目を瞑り唇を血が滴る程に噛み締めた統哉と、女神の無償の愛……アガペーを乞う聖歌を歌うアリスの必死の静止。
 統哉とアリスの静止を受けた千尋がヤレヤレと呆れた様子で溜息を吐きながら、1050本の光剣を手元に呼び戻す。
 その間に暁音が体内から吐き出された血は渇き、また、其の勢いも止まっていた。
(「まあ、腕も足も落ちなかっただけマシだよね。そんな事になったら、あの子達の心を受け止め鎮めるこの舞を、踊れなくなってしまうから」)
 共苦から齎された今まで以上に強烈な苦痛すらも意に介さず、暁音は少女の理不尽な八つ当たりを受け止め舞い続ける。
 死者達の魂を癒やし慰め、導くことの出来る星光を思わせる金色の粒子を其の体から放ちながら。
「君達の想いも、気持ちも良く分かる。君達が彼女に……カヤに理不尽に奪われた事を憎み、その苦しみを俺達にぶつけること、それは正当な行為だろう」
 彼等の其の負の感情を両目を瞑って全身で感じ取りながら。
 刃物の様に突きつけられている其の感情を受け止めて心に罅が入りそうな痛みを覚えつつ統哉がでも、と小さく呟く。
「それでも、一つだけ覚えていて欲しい事があるんだ。君達に危害を加え、理不尽に其の命を奪い、この地に君達を繋ぎ止めた彼女もまた……元々は犠牲者の1人だった事を。其の理不尽に奪われたことに囚われ続けていれば……被害者である君達もまた、容易に加害者へとすり替わってしまうというその事実を」
 1つの理不尽が、また新たな理不尽を生み出す。
 憎しみが、新たな憎しみを呼ぶ、負の連鎖を生み出すのと同様に。
 自らへの理不尽に怒り、其の理不尽を他者にぶつけることもまた、消える事なき負の連鎖を数珠の様に繋げてしまう其の事実。
「其れはきっと、誰にも幸せを齎す事は無いだろう。それは誰よりも其の理不尽を受けた君達がきっと理解出来ると俺は信じている。だから……」
 統哉の理解と寄り添う共感、そして其れに伴う1つの解に応える様に。
「無償の愛を 愛を知らぬ我等に女神の愛を……Amen」
 アリスの聖歌が完成し、無償の愛……アガペーを与える愛の女神の聖なる魔力が波動と化して、戦場全体に波の様に広がっていく。
 囚われた魂達に優しく寄り添い、共に在る為の、無償の愛が。
 其れは、死者達の魂に安らぎを与える祈りを籠めた、暁音の舞の夜空に輝く星彩の力をも増幅して。
 この戦場に存在する、負の感情に囚われた魂達を、優しく包み込んでいく。
「……へぇ、こいつは……」
 不意に自らに魂達が掛けてきていた圧力が抜けていくのを感じ取り。
 千尋が意外そうな表情になりながら、この戦いの結末を見届けるかの様に皮肉げな笑みを浮かべて、その光景を見つめている。
 アリスの愛の女神の聖歌と、暁音の死者に捧げる、星の力を借りた弔い舞。
 女神の愛と星光の優しさに包み込まれたこの場所で、統哉が魂達が苦しみから解放されることを願う祈りを籠めて十字を切った。
 祈りを籠めて切られた十字が、敬輔の纏う『彼女』達と、両親の想いに共鳴して、その場にいる魂達に敬輔の叫びを届けていく。
 それは……。
「……俺は、君達の魂を解放するその為にも、そして、俺のこの憎悪と絶望に終止符を打つためにも。お前達と共に、お前達から幸せを奪った理不尽と戦いたい。だから……一緒に来てくれないか?」
 その敬輔の呼びかけを切っ掛けに。
 その場に鎮まっていた魂達が其々の意志に呼応して、其々の行動を起こし始めた。
 ――ある者は、アリスと統哉の捧げた愛に身を委ね、其の忌まわしき楔から逃れ。
 ――ある者は、暁音の星光の導きに従い、静かに天……骸の海に召されていき。
 ――そしてある者は、敬輔に同意して、共に歩むべく自らに黒剣の刃を受けた。
 そうして次々に消え逝く魂達の中で……。
『あたしの求めたお兄ちゃんのいる天国を……』
『カヤ様の楽園を……奪うなぁっ!』
 カヤの幻と、カヤに傅いた少年の中でその場に留まった最後の1人が、奪われ浄化される魂を引き戻すべく敬輔に向けて漆黒の波動を解き放った。
「しまっ……!」
 自らと共に征く事を決めた魂達を黒剣に吸収させ、気を緩めていた敬輔を其の波動が焼き払わんとした刹那。
 詞の先端に取り付けられた双睛……懐鏡が音を立てて開いて其の衝撃を吸収し。
「言っただろう。俺は、こいつらみたいに優しくないってな」
 唖然とするカヤと最後までカヤと共にいた少年の幻に、複雑な幾何学紋様が刀身に刻み込まれた光剣が突き立って。
 カヤと少年の幻を、跡形もなく消失させた。
 その様子を皮肉げな笑みを口元に刻んで、眉1つ動かさず見つめながら。
「『ヒト』ってのは色々大変だな。決してわかり合えない相手がいたとしても、それでもわかり合うことを求めて戦うんだからな」
 口元の笑みを苦笑に変えて呟く千尋の其れに。
「そうだな。それでも俺は……俺が俺である事を……敬輔が加耶を、妹を救える其の可能性を、諦めないと決めているんだ」
 双眸を開いて粛々と統哉が応えるのに。
「……まあ、別に良いぜ。見ている分には面白いし、飽きないからな」
 軽く肩を竦めて返す千尋に、ありがとう、と統哉が静かに首肯した。


「……敬輔さん」
 少女……カヤの幻すらも消えていったその場所で。
 血染めになった神気戦闘服の端を絞りながらの暁音の呼びかけに。
「……ああ、分かっているよ、暁音さん。この先にきっと……加耶はいる」
 敬輔がさりげなくそう返して頷くのに、暁音が思わず金色の両目を瞬かせる。
「暁音さん、なにか、あった、あり、ました、です?」
 驚いた様に瞬きを繰り返す暁音の様子が気になったか、アリスがさりげなくそう問いかけるが、暁音は其れには答えない。
 ただ……先程まで解放していた共苦の痛みの出力を元に戻したにも関わらず、疼く様な其の体を掻き毟られる様な痛みを感じていた。
(「暁音さん、か……。敬輔さんは、今、昔に戻りつつあるのかも知れないな」)
 復讐鬼として、吸血鬼達を追いかけ続けるよりも以前の、温和な彼に。
 恐らく其の理由は、終焉が近いからなのだろう。
「……父さん、母さん。加耶は……あの子はやっぱり……」
 黒剣の中のモトキとミユキ……両親の魂に語りかける敬輔の其れに応える様に。
 鞘に納めた黒剣の柄に紅と蒼の光が灯るのに、敬輔が静かに首肯した。
「あの子は……加耶は……俺……僕と同じ。本当にあの子が求めているのは……きっと、僕なんだろう?」
 ――あたしの求めたお兄ちゃんのいる天国を……!
 憎悪と共に放たれたあの波動。
 あの波動は、意図してか自分の急所を確実に狙っていた。
 つまりそれは、彼女が……カヤの幻が本当に求めていたのは……。
「……大丈夫。今から僕も、家族と共に君の所に行くと決めたから。だから、終わらせよう……僕達の、放浪の旅を」
 誰に共無く誓いを立てる敬輔のそれに。
「敬輔。お前1人じゃ俺は行かせないからな」
 ――ポン、と。
 不意に肩を叩かれて、敬輔が驚き其方を見れば、統哉がそんな敬輔に向かって強い意志の籠った紅の双眸を向けている。
 射貫く様な、確固たる信念の込められた、光の灯った眼差しを。
(「……やっぱり統哉さんにも、叶いそうに無いな」)
 自分がどう言う決意を以て、この先の加耶に向き合おうとしているのか、それが統哉には多分分かっている。
 まあ、他にも分かっていそうな者はいるが……其れが誰かは言わぬが花だろう。
 ――だから。
「うん、そうだね。一緒に行こう、統哉さん」
 赤と青の双眸で統哉の目を見つめて小さく頷き、敬輔がカヤの幻によって隠されていたその道を歩き出す。
 ――その先に待つ、『彼女』との戦いのその時を疼く噛み傷と共に確信しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『兄を探し求める吸血鬼『カヤ』』

POW   :    お兄ちゃん、あたしと一緒に行こう?
【紅い瞳による魅了】【優しき抱擁】【吸血の為の首筋への噛みつき】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    お兄ちゃん、助けて!
【「お兄ちゃん」からの助言を受けたように】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    お兄ちゃんとはいつも一緒だよ?
【かつて自身が篭絡した若い少年の吸血鬼】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[かつて自身が篭絡した若い少年の吸血鬼]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠館野・敬輔です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ――ヒュー、ヒュー。
 風が、吹いている。
 冷たくその身を凍てつかせてしまう様な、悠久の風が。
 風に煽られ、虚の様な暗闇に包み込まれたその場所に、少女が静かに座っている。
 そんなカヤの頬を風が打った。
「……えっ? あたしのお気に入りのお兄ちゃんだけじゃなくて、皆も……天国で笑っていたお兄ちゃん達もいなくなっちゃったの!?」
 頬を叩く風から感じ取られた自分の『楽園』が、無残にも踏み躙られた。
 此処に辿り着いて漸く作ることが出来た『天国』の舞台が……。
「悪い奴等に、壊されちゃったんだ……」
 そう呟いた、カヤの紅の双眸に。
 獲物に飢えた獣の様な、闇を称えた炎が走っている。
 地獄の熱を思わせるそんな炎に、カヤの双眸が、彩られている。
 ――許さない。
 あたしは、絶対に許さない。
 漸く見つけたあたしの楽園を踏み躙り、滅茶苦茶にした悪い奴等を許さない。
 あたしの前に其の悪い奴等がやって来たら、全てあたしのモノにしてやろう。
 そいつらを纏めて焼き払って、あたしの新しいお兄ちゃん達になって貰おう。
「……そうじゃないと」
 ――あたしの心にぽっかりと空いたこの穴を、埋めることなんて出来ないから。


 闇黒を潜り抜けた最奥部。
 暗闇と死と血の臭いに、その場所は彩られていた。
 この常闇の燎原を包み込む深闇が晴れたとしたら、そこに見えるのは地獄絵図。
 直感的にそう思わせる、お人形屋敷の様なその場所で。
「……あなた達だね。あたしのお兄ちゃん達を虐めて壊しちゃった悪者達は」
 仄暗い灯に照らされた其の椅子の上に、ちょこんと座る少女がそう呟いた。
 左右の灯で朧気に見えるその髪と瞳の色は、先の幻の少女と同じもの。
 其の姿形もまた、同じだ。
「あたしは、貴方達を絶対に許さない。長い長い旅の果てに、漸く見つけたあたしの楽園を、滅茶苦茶にした貴方達を」
 怨嗟と憤怒に塗れた声を上げて。
 椅子から降りた少女の全身を包み込む様に『黒い炎』が噴出する。
 其の体を燃やし尽くす筈の黒焔に、傷1つ付けられること様子も無く。
「あたしは、貴方達を許さない。あたしから全てを奪った生者である貴方達を」
 だから、この炎で焼き尽くす。
 あたしの周りに未だ微かに残っているお兄ちゃん達の残滓と共に。
「貴方達を1人残らず焼き尽くす。そう、あたしから全てを奪った貴方達から今度はあたしが全てを奪ってあげる。貴方達から奪った命であたしの天国を取り戻す為に」
 そう……それだけが。
「あたしの此の胸にあってやまない、何かが足りないその想いを」
 埋めることが、出来るのだから。
 それが少女……カヤに残されたたった1つの道。
 ――天国と言う名の『獄』に繋がれた吸血鬼の少女に、唯一残された希望だった。

*第3章は下記ルールが適用されます。
 1.戦場は暗闇に包まれた小さい屋敷です。しかし戦うのには支障がありません。
 2.カヤは、ユーベルコードの他に、全身に纏った黒い炎を下記ルールで操ります。
 a.この黒い炎に覆われたカヤは、同族殺しや紋章持ちにも匹敵する力を持ちます。
 また『あらゆる防護を侵食し、黒炎に変えて吸収する能力』を取得します。
 b.カヤの黒い炎は、受けること無く見切って回避しない限り、攻撃を受けた防具・服・肉体を黒い炎に変えてしまいます。
 c.この防具・服・肉体と化した黒い炎は、カヤの体力を回復させます。
 d.この黒い炎に対処することは、プレイングボーナスです。
 e.黒い炎の効果で防具や服肉体が黒炎化しても、18禁に抵触する描写はしません。
 f.但し、負傷等の暴力寄りの描写はする可能性がございます、予めご了承下さい。

 ――それでは、最善の結末を。
クラウン・アンダーウッド
なる程、お話は出来るけど会話が成立しないタイプのようだね♪
あくまで被害者として自己の行いの正当性を主張するか。こちらから言わせれば只の加害者だから、見解の相違って奴かな?

さて、久しぶりに全力でいこうか。目標はアレを泣かせること!
器物(懐中時計)を側に控えさせていたからくり人形に持たせて退避させる。

フフ、アハハッ、アヒャヒャヒャヒャヒャッッ!
嗤っているとクラウンの顔の一部がボロボロと崩れ落ち、顔から覗く虚ろな空間からは肉体が内包していた地獄の炎が激しく放出される。右目に宿るは凶気の光、炎を纏うは両手のガントレット。相手をグチャグチャにしてしまいたい欲求に支配されたクラウンは獲物に突貫する。

炎には炎を衝突させて相殺、防ぎ切れなかった部位は自ら剥ぎ取り、絶えず嗤い顔を湛えながら攻撃

ある程度消耗すると理性が戻り一芝居思いつく。
敵UCを受けた振りをして万力の如く相手を抱き締めてお兄ちゃんを演じ、耳元で「おかえり、カヤ」と言って自身ごと一緒に燃える。

しれっと器物から復活して一言
あぁ~、楽しかった♪




「おやおや、ボクが一番手になるとはね♪」
 暗闇と血と死の臭いに仮初めの肉体の嗅覚を強く刺激されながら。
 歌う様に軽薄に小首を傾げるクラウン・アンダーテッドの様子を見て、カヤの双眸に昏い怨嗟と憤怒の光が宿っている。
『絶対に許さない……あたしから全てを奪った貴方を……貴方達を……!』
「……ボク達、ね。まあ、他の人達も後から来るんだろうなとは思うけれども♪ いずれにせよキミはお話しは出来るけれど、会話が成立しないタイプの様だね♪」
 口元に刻み込まれたからかいの笑み。
 頭に被ったクラウンハットを右手で握り道化の様に一礼したクラウンに、カヤが怒髪天をつく様に、短髪を風に逆立てさせた。
『違うよ。貴方達があたしから全てを奪ったんだよ。あたしがやっとの思いで手に入れたこの世界を……この楽園を! 埋まらない其れを埋める為のあたしの楽園を!』
「成程、成程。あくまでキミは被害者でボク達が加害者って訳か。そう言うことで、自己の行いを正当化する、と。……やれやれ。これだけの生者の命を奪った加害者がよくもまあ、いけしゃあしゃあとそんな事言えたものだねぇ♪」
 呆れた様に、感心した様に。
 これ見よがしに溜息をつくクラウンの其れに、カヤはワンピースの裾を風に靡かせ、轟、と言う鋭い音と共に全身に黒炎を纏わせる。
 その様を見て、クラウンが諦めた様に肩を竦めた。
「まっ、よく考えてみれば、確かにボク達はキミの楽園を壊した加害者か。でも、キミはボクから言わせれば沢山のヒトを殺してきた只の加害者。まあ、其々の立場も異なるわけだから見解の相違って奴かねぇ?」
 それ以上をクラウンに問答させることも無く。
 カヤが黒炎に蛇を象らせてクラウンに齧り付けとばかりに解き放った。
 放たれた生き物の様に蠢く黒炎を、ブリッジの如く身を仰け反らせて躱しながら、クラウンが嗤う。
 煤けて動けなくなった懐中時計……ヤドリガミである自らの本体であるそれを傍に控えさせていたからくり人形に手渡しながら。
「まあ、それならお仕置きも兼ねて、久し振りに全力で行こうか! It’s Crazy Time!」
 笑……否、その嗤いと共に、
 自らの顔の皮膚がボロボロと土砂の様に崩れ落ちていき。
 能面……否、『無』と化したその罅割れた顔から覗く虚ろな空間から、自らの肉体が内包していた獄炎が激しく放射され始めた。


「フフ、アハハッ、アヒャヒャヒャヒャヒャッッ!」
 其の青き双眸の右目に宿るは、狂気。
 哄笑と共に顔の左半分が割れ砕け虚無と化した其の空間から、獄炎の炎が台風の様に荒れ狂う。
 空っぽの左半面から溢れ出す炎に呼応する様に、両腕の白磁の様に白く滑らかなガントレットが紅蓮の焔に包み込まれた。
 欠けた左半分の顔から湧き出す無限の獄炎に、対抗する様に放たれたカヤの黒炎がぶつかり合い、爆ぜる。
 蛇と蛇が睨み合い、絡み合い、互いの尾を噛み千切る毒牙を閃かせるその間に。
 双腕のガントレットに纏った獄炎と共に、クラウンがカヤに向かって突進。
「アハハッ! アヒャヒャヒャヒャヒャッ!」
 激しい哄笑と共に噴き出されるガントレットに纏われた獄炎が、カヤを薙ぎ払わんと荒れ狂うが。
『この……あたしの楽園を奪った悪者め!』
 憤怒と共に全身を覆う黒炎を散弾の様に撒き散らしながら、傷1つ無い病的なまでに白い肌の両腕を突き上げて。
『あたしの楽園を……返せ~!!!!!』
 怒号と共に開いた両掌から、無限にも等しい闇の散弾を解き放つカヤ。
 黒炎を纏った闇を凝固した散弾が、突貫してくるクラウンの肩を、足を抉る様に撃ち抜き、更に狂気を宿した右目を貫く。
「アハハッ! ヒャハハハハハハハハッ!」
 人間であれば致命傷であっただろう。
 血の様に右目から滴り落ちる地獄の炎を、今度は螺旋状に練り上げた竜巻に変化させ解き放つクラウン。
 その紅蓮の地獄の焔を、カヤの黒炎を真っ向から否定する様に弾けさせるその間に自らカヤの懐に飛び込んで。
 双腕に纏った紅蓮の獄炎を放出してカヤの全身を焼き切ろうとした、その時。
『あたしと一緒に行こう。お兄ちゃん♪』
 不意に猫なで声で、囁き掛ける様にカヤがそう呟いた。
 同時に其の紅の瞳から、幼い少女には似つかわしくない妖艶な光がクラウンに向けて放たれる。
 特別な魅惑を纏った紅の瞳に、全身を弄られる様な感触をクラウンが覚えた刹那。
 哄笑がピタリと止まり、割れて無くなっていた左半分の顔が取り戻され、その青い瞳に微かな理性が灯る。
 口元に、歪な笑みを湛えた儘に。
 それはまるで、悪戯を思いついた小悪魔の様な、そんな笑み。
 クラウンの口元に閃いた笑みに頷いて、カヤがクラウンを優しく抱擁する。
『さあ、お兄ちゃん。あたしと一緒に行こう。それこそが、あたし達の望んだ天国への近道だから……』
「ああ、そうだね。……只今。ボクの妹、カヤ」
 カヤの優しき抱擁と、紅の瞳に称えられた光に魅入られたかの様に。
 囁き掛ける様に其の耳元で囁きかけたクラウン。
 そして双腕に嵌め込まれた獄炎を纏ったガントレットでカヤの体を強く、強く抱きしめ其の体を燃やし尽くそうとした刹那。
『うん……お帰り、お兄ちゃん♪』
 ――ガブリ。
「……っ?!」
 クラウンの首筋に噛まれた痛みが鋭く走った。
 瞬間、カヤを焼き尽くそうとた紅蓮の獄炎が、急速に其の勢いを萎ませていく。
(「あの紅の瞳に魅了された振りをしていたつもりだけれど……」)
『あたしのお兄ちゃんが、あたしの炎を拒む筈なんてあるわけないんだよ!!』
 其の絶叫と共に。
 カヤの全身から放たれた黒炎が、クラウンの紅蓮の獄炎をクラウンの体事焼き付くさんと飲み込んでいく。
 思わぬ不意打ちに灰1つ残さず、クラウンの肉体が焼き尽くされていった。
『あ~あ! 折角新しいお兄ちゃんと一緒に居られると思ったのに……』
 そう口を尖らせる、カヤの目前に。
「あぁ~、危なかった♪」
 からくり人形に持たせていた懐中時計……自らの本体から肉体を再構成したクラウンが姿を現し、ピュイ、と口笛を1つ鳴らした。
(「流石に引っ掛からなかったか~。まあ、多少は傷を与えた筈だけれどね♪」)
 失われた肉体を惜しむ事無く、再構築した新しい肉体に肩を竦ませて、クラウンが欠けたからだから再び獄炎を解き放つ。
 ――黒炎と獄炎の乱舞……カヤと猟兵達の戦いは、まだ始まったばかりだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

確かに今の状態のアンタではこの場所は天国なんだろうね。カヤ・・・加耶。ようやく会えたよ。長かった。アンタの本当の居場所はここではない。アンタの本来居る場所は別にある。

兄妹を実際育ててる身としては兄を求める妹の気持ちは良く分かる。血の繋がってない兄妹でもあんなに仲が良いんだ。血縁のある兄なら尚更だろう。でも、止めねば更に犠牲が多くなる。悪いね。

この黒い炎に当たると不味いね・・・【忍び足】【目立たない】で背後をとり、相手の視線が通らない背後から【不意討ち】【気合い】で飛竜閃を使う。回避しようとしたら【頭突き】で阻止。【スライディング】で体勢を崩す。

ヴァンパイア化としたとは言え、敬輔の妹だ。余り乱暴な真似はしたくないが、暴れて味方に被害が及ぶようなら【踏みつけ】で止める。

帰っておいで。加耶。アンタの居るべき場所は・・・兄と両親が待つ所だ。家族は一緒に居た方がいいんだよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

カヤ・・・加耶さん、やっとお会い出来ました・・敬輔さんの旅路の目標である事はもちろんですが、他人のような気がしなくて。お兄様が大好きで、お兄様を求める気持ちは痛い程良く分かりますから。

瞬兄さんと私は血の繋がりがありません。それでも兄さんがいなくなると私はどうなるか分かりませんから、血縁のあるお兄様を持つ加耶さんの心の空白はいか程のものでしょうか。察するに余りあります。だからこそ、貴女と正面から全力で向き合いたい。

私は受けるのは得意ですが、回避は得手ではないんですよね・・・回避は絶望の福音に頼りましょう。ダメージは【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】で軽減。

もし黒炎を受けて武器や防具や四肢が削れても、片手で剣が握れればなんとかなりますから、【属性攻撃】で【衝撃波】を【二回攻撃】で何度も飛ばします。

もっと早く出会えていたら友達になれたかもしれませんね。旅路は終わりです。お休みなさい、加耶さん・・・


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

ここが敬輔さんの旅路の終着点・・・最後まで支えると約束したから。

加耶さん、今の貴女の目の前にいるのは天国を奪った悪者に見えるかもしれない。でも僕らは貴女を迎えに来た。本当の兄の敬輔さんと共に。

僕も兄だから、兄を求める気持ちは良くわかる。だからこそ、帰って貰わなければ。本当の兄の傍に。

敬輔さんを加耶さんの元へ届けるには、配下がどうしても邪魔になる。【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】【魔力溜め】で大出力の氷晶の矢を放って一掃。打ち損じた分は【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を併せた【結界術】で拘束。

黒炎は【第六感】で回避するか【衝撃波】で吹き飛ばす。でも杖を持つ片手さえ残れば問題ない。

敬輔さんが加耶さんの元へ辿り付いたら2人の周囲に【祈り】【破魔】【浄化】を併せた【結界術】を。気休めだけど、もし加耶さんがひと時でも記憶を取り戻したら。

敬輔さん。君に取っての旅路がこれで終わりでも、君の人生は終わりではない。僕らが支えになる。約束するよ。


フォルク・リア
「楽園だ何だと言っているが。
妄執に囚われた姿は正に呪いだな。」

敵達の行動を【見切り】つつ
グラビティテンペストを発動。
重力を操り速度を増すと同時に
天井、壁面も足場として利用し敵の攻撃を回避。
回避を続けながら少年の吸血鬼の数や配置、
個体差を見極め力の劣るものへ向けて
重力を集中し圧殺。
少年の吸血鬼の数を減らす事で能力強化を低下させる。

体力を回復されても影響が少ない様にカヤへの攻撃は
後回しとして。
炎で攻撃された場合は回避するか
重力を用いて身代わりに少年の吸血鬼を
炎にぶつけて逃れる。
「これで楽園の崩壊にまた一歩近づいたな。
この分だと此方から手を下さなくても
終わってくれそうか。」
とわざと【挑発】して冷静さを乱して攻撃を単調化させる。

少年の吸血鬼がいなくなるか十分数が減ったら
炎での攻撃、回復をさせる隙を与えない様に
【全力魔法】でグラビティテンペストで
絶え間なく四方八方に吹き荒れる重力嵐を引き起こし攻撃。
「俺にはお前を放置する事も
その胸の空白を埋める事もできない。
出来るのはこの煉獄を止める事だけだ。」


館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎

里が壊滅したあの日
加耶がロイに魅了された後
俺自身も…マリーに噛まれて魅了されかけた
それ以来、家族は離れ離れになってしまった

復讐と解放のために世界を放浪して
辺境の果てまで足を運ぶことになったけど
ようやく見つけたよ…加耶

指定UC発動し吸血鬼化
さらに演出で【魂魄解放】発動し魂たちを呼び出し
お兄ちゃん達の残滓を黒剣で払いながらカヤに近づく

カヤに近づいたら
加耶の魂を救う「覚悟」を胸に
黒い炎に侵蝕されることも厭わずカヤに抱き着く
防具や肉体は全て黒い炎で焼かれるだろうし
至近距離から魅了や吸血されるかもしれないが、それでも構わない
焼かれる苦痛と魂の叫びを受け止めながら語り掛ける

カヤ
君に足りない想いは、兄からの「愛情」だろう
それは力づくでは手に入らないよ

もう、お兄ちゃんを求めなくても大丈夫
君の求めているお兄ちゃんは、ここにいる

ほら、両親もここにいる
加耶…一緒に帰ろう


最後は心臓を一突きし魂を吸収後
首筋に噛みつき吸血
噛み傷の呪詛が解ける


…終わったな
俺…僕たちの放浪の旅が

さあ、帰ろう


アリス・トゥジュルクラルテ
カヤさんは、敬輔さんの、大切な、人、なの、ですね。
アリスは、お二人が、後悔の、ない、ように、援護、する、です。

ロクローくんに、照らす、して、もらい、ながら、自分と、ロクローくんの、周りに、浄化の、結界を、張って、攻撃を、防ぐ、です。
防ぐ、できない、時は、視力で、よく、見て、見切って、浮遊、して、回避、です。
敬輔さんの、邪魔に、なる、黒炎は、浄化の、魔力弾で、援護射撃。
UCを、歌唱、して、怪我や、状態異常の、人を、治す、です。

カヤさんの、楽園は、そこ、では、ない、です。
あなたを、心の、底、から、想ってる、人は、目の、前に、いる、ですよ?
この、祈りが、どうか、カヤさんに、届き、ます、ように……。


天星・暁音
はあ…少しやり過ぎたか…
まあ辞める気はないんだけど、その痛みを受け止めて、眠らせてあげる為にも…
黒い炎か…嫌な感じだし回避を優先かな…ものには寄るけど、浄化系の力なら、弱らせることも出来るかも…無駄かもしれないけど試してはおくか

敬輔さんが気になるから、少し見てよう…本当はこういう術で心を支えるものではないんだけど…必要なら今は仕方ないね



最優先は回復、黒い炎の回避や妨害も優先的に行います
神祭具の弓の鳴弦や、神楽鈴等の浄化の音で妨害可能なら味方への攻撃の妨害を、ダメなら空を駆けるなりなんなりで回避をしつつ回復を


可能なら戦闘後に加耶や犠牲者たちに舞を捧げます

スキルUCアイテムご自由に
共闘アドリブ歓迎


ウィリアム・バークリー
なるほど、敬輔さんの? じゃあ、ぼくは脇役に徹しましょう。

トリニティ・エンハンスで防御力強化。
風の「属性攻撃」「全力魔法」「オーラ防御」で、風の防壁を作り黒い炎を吹き散らします。
黒い炎が空気を燃やしていない以上、風を使えば対抗出来ると踏みました。
これをいつもの氷塊の代わりに、皆さんを守ってみせます。

風は実体がない分制御が難しいですね。周囲の気流を全て把握して、仲間のための防壁にするには、他のことをする余力は無さそうです。
すみません。皆さん、攻撃をお任せします。
吹き散らした黒い炎に当たらないよう、気をつけてくださいね。

ぼくは、防御担当だと気付かれないよう「目立たない」ように振る舞います。


白石・明日香
何もかも吹き飛ばしてやるよ!
キャバリアに乗って戦闘、キャバリア自体は部位破壊で屋根をぶち破って来てもらう。
集結するお兄ちゃんに触れないように見切って薙ぎ払いながらキャバリアと合流、搭乗。
カヤに触れないように屋敷を破壊しながら空中戦で仕掛ける。カヤの攻撃が届くとは思わんがダッシュで飛び回り残像で撹乱しながら挙動を見切って回避。
敵の情報を集めながら可能なら先制攻撃を仕掛けて相手が行動する前に範囲攻撃、鎧無視攻撃、2回攻撃で縦横無尽に攻撃しお兄ちゃんが集結する前に纏めて吹き飛ばす!
天国?天の獄の間違いじゃないかな?


森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

…やっぱりてめぇだったか、カヤ

回復させねぇためには攻撃を完全回避か
「高速詠唱」+指定UCでスパーダ召喚
「属性攻撃(光)、浄化、優しさ」で短剣全てに眩い浄化の光を纏わせる
短剣の半数は照明代わりに天井に浮かべ
残り半分を「制圧射撃、蹂躙」でカヤとお兄ちゃんたちの上空から光の豪雨として降らせてやらぁ
もし俺が狙われたら正面から短剣で迎撃して相殺だ

カヤは俺らがお兄ちゃんを奪ったから怒っている
亡者たちはカヤに家族や恋人を奪われたから怒っている
…怨嗟の連鎖が続いている

だが、もしカヤが
実の兄…敬輔への愛情をオブリビオン化で歪められた存在なら
足りない想いは「実の兄への愛情」しかねぇ

敬輔…抱き着くなんて無茶だろ!!
だが、愛情を示すには早いのかもしれねぇ
スパーダ送還後「高速詠唱」+【悪魔召喚「フェネクス」】でフェネクスを召喚し癒しの炎で敬輔を回復
俺も「浄化」の魔力を籠めたお守り刀で黒い炎を払うぜ
フェネクス! 絶対敬輔を連れて行かせるな!
敬輔、奪い愛の連鎖を断ち、全てを終わらせやがれ!


文月・統哉
白い肌に青い髪…敬輔と本当によく似てる
彼女の探し求める者はすぐ目の前に居るのに
気づいていないのは、怨嗟と憤怒の念の所為だろう
ならばその念を『祈りの刃』で削ぎ落とす
二人が本当の意味で再会を果たせるように
互いを探し求める放浪の旅を終わらせて
その魂を救うために

カヤの動きを観察し【情報取集】
攻撃を【見切り】
【残像】による【フェイント】で回避
【カウンター】の『祈りの刃』で怨嗟の念を断つ

勿論心中なんてさせないよ
旅の終わりは新たな希望の始まりに
敬輔の思い描いてる里の復興もその一つ
君がびっくりするぐらい賑やかで豊かで
笑顔溢れる里にきっとなるから

全てを終えた敬輔の様子を確認
優しい笑顔が見られたなら
俺もまた笑顔に


司・千尋
連携、アドリブ可

どんな結末になるか
楽しみだな


今回は援護や防御優先

攻防は基本的に『子虚烏有』を使う
範囲外なら位置調整
近接や投擲等の武器も使い
早業、範囲攻撃、2回攻撃乱れ撃ちなど手数を増やす
集まってきた吸血鬼から倒す


敵の攻撃は基本的に回避
一挙一動を観察し行動を見切りや第六感で先読み
無理なら細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
結界術やオーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
回避や迎撃する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用

黒炎は受けずに回避
余裕をもって回避できるよう身体から少し離して展開する

あらゆる防護を侵食して吸収とか
厄介すぎるだろ
鳥威も吸収されるだろうが時間稼ぎだから問題なし


パラス・アテナ
敬輔
あの子はアンタの妹なんだろう?
例えどんな姿になったって
あの子の本質はアンタが一番知ってる筈だよ
迎えに行っておやり
手を差し伸べておやり
どんな結末でもアンタはアタシ達が支えてやるよ
心のままに存分におやり

カヤに遠距離攻撃の手段は無い筈
纏う黒炎は見切りと第六感で回避し指定UC
底上げした各能力を駆使して攻撃を避け2回攻撃
マヒ攻撃で動きを止め鎧無視攻撃を叩き込み
少年達を各個撃破しつつ味方の援護中心に
露払いしながらカヤにも攻撃

カヤ
アンタの楽園はここには無い
偽りの家族をいくら侍らせても心の虚ろは埋められやしないよ
目を開いてよく見てみな
そこにいるのは誰だい?

皆アンタを…タテノ・カヤを待ってるんだ
帰っておいで




 黒炎が迸り、紅蓮の獄炎が狂った様に舞う其の屋敷に足を踏み入れながら。
「……楽園だ何だと言っているが、妄執に囚われた姿は、正に呪い、だな」
 炎で焼けた肉の様な臭いを敏感に感じ取りつつ、黒炎の向こうのカヤにフォルク・リアが静かに呟く。
『次は貴方達なの!? あたしの楽園を滅茶苦茶にする悪い奴等が一杯で……!』
 地獄の炎が黒炎に食らわれて消える。
 其れをまた燃やして、自らの体を修復させながらのカヤの、問いかけに。
「……やっぱりてめぇだったか、カヤ」
 一歩、一歩を踏みしめるかの様に。
 近付いてきた其の周囲の焼け焦げた肉の臭いに顔を顰める森宮・陽太の呟きに、カヤが其の双眸を鋭く細めた。
『……あたしから全てを奪った貴方達。あたしの天国を奪った貴方達が、何であたしをわざわざ呼ぶの?!』
 金切り声の様な憤怒に満ちたカヤの叫びを耳にして。
「確かに今のアンタでは、この場所は天国なんだろうね、カヤ……いや、加耶、か」
「やっとお会いできましたね……カヤ……加耶さん」
 粛然とした、深き実感の籠められた、そんな口調で。
 真宮・響がカヤに問いかけるのに、真宮・奏が静かに相槌を打ちその姿を現した。
『……カヤ……加耶?』
 響と奏が何気なく籠めたニュアンスの違いに引っ掛かりを覚えたのだろうか。
 微かに怪訝そうに紅の双眸を細め、青髪を風に泳がせるカヤのその姿に。
「白い肌に青い髪……カヤ……いや、加耶。君は本当に敬輔とよく似ているんだね」
 紅の双眸に、カヤの容姿を映し出しながら。
 ゆっくりと姿を現した文月・統哉の呟きに、其の隣を何処か上の空といった様で歩いていた館野・敬輔が反射的に首肯する。
『けい……すけ……? 加……耶……? 貴方達、一体何を……!』
「思えば、長い道程だったよな、加耶」
 ――あの日。
 故郷が、里が壊滅させられ、加耶もまた、ロイと言う名の吸血鬼に魅了された日。
 敬輔自身も里を襲った3人の吸血鬼の1人……マリーに魅了されかけたあの日から。
 数多の時を重ねて……漸くの思いで、彼女に出会えた。
 そう、彼女……カヤ……加耶は。
「カヤさんは、敬輔さんの、大切な、人、なの、ですね」
「ああ、そうだね。あの子……カヤは敬輔の妹だった筈さ」
 アリス・トゥジュルクラルテのロクローくんに肉を与えて元気づけながらの確認に、パラス・アテナが首肯する。
「……なるほど。では、あの吸血鬼カヤは、本当は敬輔さんの妹なのですね」
 問いかけるウィリアム・バークリーの其れに、軽くパラスが敬輔に目配せ。
「だからこそ……此処が敬輔さんの旅路の1つの終着点でもあります」
 その事実を認識して欲しいと言う願いを籠めて、そう呟いたのは、神城・瞬。
 その手の水晶の様に透き通った六花の杖が青水晶色の鮮烈な輝きを放ち、周囲を青く照らし出している。
(「……最後まで支えると、約束しましたから」)
 例え、この手を拒まれようとも。
 例え、その先の未来が不確定であったのだとしても。
 同類として、復讐者として……何よりも友として、彼の事を支えると胸中の誓いを瞬が確認するその間に。
「……さっきは少しやり過ぎた……か」
 体中の紫痣と血の滲んだ神気戦闘服を見下ろしながら、星具シュテルシアを構えて天星・暁音が溜息を漏らす。
「暁音、動けるのか?」
 司・千尋の其の呼びかけに、暁音がまあね、と小さく微苦笑を零して頷いた。
「少なくとも千尋さん。俺は止める気は無いよ。彼女の痛みを受け止めて、眠らせてあげるつもりで此処に来ているから。だから……」
「ああ、任せとけ! 何もかもオレが吹き飛ばしてやるよ!」
 ――パチン。
 暁音の呟きに同意する様に、不意に炸裂する指鳴音。
 同時に人形屋敷の天井が天空から突き破られて……。
「来―い! クロウビゾーン!!!!」
 白石・明日香の慟哭の様な雄叫びと共に、巨大な漆黒と白に装飾された1体のキャバリアがその地に降り立つ。
 黒いホール砲とか、色々と歪曲しそうなエンジンを搭載しているんじゃ無いかと思うキャバリアに明日香が堂々と乗り込むと。
 ――バサリ。
 背面の5対10枚の銀翼の如きバックパックから漆黒の光輝を発して空中に浮かぶ。
 ぶち破られた天井から吹き付けてくる強い風に、微苦笑を漏らしながら。
「さて……どんな結末になるのか、楽しませて貰おうか」
 其の右腕周りに1050本の平に複雑な幾何学紋様の描かれた光剣を出現させた千尋の涼やかな声が、戦いの始まりを告げた。


 ――ガラガラガラガラガラ……!
 クロウビゾンが空中で戦場を疾駆する音と共に建物の一部が砕け、パラパラと瓦礫が戦場に降り注ぐ。
 その雨を掻い潜る様に。
『目障りな貴方達……あたしが、あたしの楽園を得るために。このあたしの心の隙間を埋めるその邪魔をしないで!』
 怒号を叩きつける様にして、全身に纏っていた黒炎を竜巻の渦の様に螺旋状に回転させながら、明日香のクロウビゾンを襲う。
「ちっ……! この炎、空中まで届くのかよ!?」
 先陣を切って放たれた黒炎に触れたクロウビゾンの装甲が溶解し、機体のレッドアラートが鳴るのに明日香が舌打ちを1つ。
 続けて戦場全体に放射線状に黒炎が迸り、その合間に吹く風に漂う死臭が動き出すのに、陽太が思わず顏を顰めた。
「ちっ……この暗闇の中でもう動き出しやがったのか! ……どう考えてもこの腐臭を撒き散らす奴らは……!」
 嘗て、カヤが篭絡した若い少年の吸血鬼の残滓達。
 そう胸中で結論して苦虫を噛み潰した表情になりながら、陽太が左手に握ったダイモンデバイスの引金を引いて。
「スパーダ! 戦場の浄化と灯の確保を……!」
 銃口の先の魔法陣の中央にある捩じれた2つの角を持つ漆黒と紅の悪魔を呼び出し、1100本の紅の短剣を浮遊させた悪魔を召喚。
 召喚主の命に応じる様に悪魔……スパーダが咆哮し、空中の短剣に白金の光を纏わせて、そのうちの半分で戦場を照らし。
「ロクロ―くんも、照らす、して、もらう、お願い、です」
 祈る様に両手を組み、隣に控えていたアルビノの大鰐に静かに頼み込むアリス。
 愛と生命の神の聖印がアリスの祈りに応える様に白き輝きを発した結界を展開、ロクロ―くんが結界に照らされた全身から光を放射。
 光がクロウビゾンの回避で零れる瓦礫の破片と深闇に包まれたこの闇を照らし出し、その光景に暁音が思わず眉を顰めた。
 共苦の痛みが、無念と怨嗟……そして、文字通り天にも昇る恍惚とした表情の屍山に刻まれた思念を拾い、鋭い痛みを発している。
 溶鉱炉の中に頭から突っ込んだかの様な獄炎の灼熱感と、そこに突き立つ凍てついた氷柱にその身を貫かれるかの様なその痛みを。
(「これが彼女……カヤさんが犠牲にしてきた人々の最期の姿と想い……か」)
 カヤから轟風の如き勢いで叩きつけられる黒焔を転がって躱す様にしながら、視認した光景に優しく星具シュテルシアを握る暁音。
 暁音が星具シュテルシアを握り、自らの周囲に煌めく星の輪を展開するその間に。
「漸く見つけたよ、加耶。……一緒に、帰ろう」
 粛然たる様子でそう呟いた敬輔が、赤と青の双眸を真紅の双眸へと変化させ。
 更に自らの全身に白い靄を纏う様にして赤黒く光り輝く黒剣を握り、疾風の如く。
『来るな……! あたしを知らない名前で呼ぶ、この悪者め!』
 肉薄しようとする敬輔に怒声を叩きつけて黒炎を手に這わせて手を一閃するカヤ。
 一閃と共に解き放たれた黒炎の弾丸を弾幕の様に拡散させてばらまこうとするが。
「させるかよ! スパーダ!」
 陽太の叫びに応じたスパーダが咆哮と共に275本の白光纏った紅の短剣を光の豪雨の如く降り注がせ。
「敬輔。どんな結末でも、アンタはアタシ達が支えてやる。だから……心の儘に、存分におやり」
 パラスが優しくその背を押す様に静かに告げ、EK-I357N6『ニケ』とIGSーP221A5『アイギス』の引金を同時に引いた。
 『ニケ』と『アイギス』の先端から撃ち出された弾丸が、黒炎の弾幕の前にばらまかれ互いに互いを撃ち抜いて。
 そのまま張られた弾幕を片端から吸収した黒炎が新たな黒炎を増殖し、より広範囲に巨大な炎竜を生み出して咢を開いて迫るのに。
「ならば……これならどうですか?」
 明日香が切り崩し、抉れて剝き出しになった床板の裏に隠れる様にして。
 自らに火・水・風の精霊達の力を纏い赤・青・緑と身に纏ったオーラの色が常に変わるウィリアムが指をその影から突き出した。
 人差し指の先端で空中に描き出したのは、緑と枯葉色の混ざり合った魔法陣。
 魔法陣から解き放たれた風の魔法陣が、今、正に敬輔達を食らわんとしていた竜を象った黒炎とぶつかり、その勢いを削ぐ。
(「くっ……これは、普段の氷塊の盾と違って、制御が難しいですね……」)
 元々使い慣れていないと言うのもあるが、それ以上に風にはそもそも実体が無い。
 故に普段よりも何倍もの神経を制御にも気を払わざるをえなかった。
(「だとしたら……」)
「良いだろう。それならば攻撃は俺達が任されよう」
 まるで、そのウィリアムの漏らした溜息を聞き取ったかの様に。
 回避運動を続けつつ砕かれた柱の一部の破片や、その痕を踏みつける様にして黒炎をやり過ごしていたフォルクが呟き。
「押し潰せ、引き千切れ、黒砂の陣風を以て」
 スカイロッドを具現化し、重ね合わせる様に風圧を与えてウィリアムの操る風の結界を強化しながら。
 デモニックロッドをロクロ―くんとスパーダの短剣に煌々と照らし出された死体の山や壊れた建築物に突き付けた。
 瞬間、戦場全体を圧迫する程の重力と斥力を操る微粒子の群れが戦場を包み込む。
 同時に微粒子から放たれる重力を利用して、フォルク自身の速度もまた加速。
 黒炎の渦を躱す様に月光のローブを翻して天井に立ち、カヤとその周囲に集まる吸血鬼の亡骸を見下ろすと。
 次々に死体達の山から吸血鬼と化し、朽ちてた少年達が、幽鬼の様に立ち上がりカヤを守る様に陣を組む姿が見えた。
「……100、200では下らない、か。街の1つや2つ位は作れるだけの人数はいるかも知れないな」
『うるさい! これがあたしがやっとの思いで手に入れたお兄ちゃん達! 貴方達にあたしのお兄ちゃん達を奪わせるなんて、させないんだから!』
 咆哮と共に、お兄ちゃん達の肉壁の向こうから黒炎を生き物の如く蠢かせるカヤ。
 続けて紅の両目を光らせ黒い熱波を撒き散らすのに、統哉が思わず目を眇めた。
(「彼女は、敬輔に気が付いていない? 彼女が……加耶が探し求める者がすぐ目の前にいるというのに」)
 そこまで思索を進めたところで。
 統哉がいや、と言う様に軽く頭を横に振り、漆黒の大鎌『宵』を両手遣いに構え。
「きっと……それだけの俺達への怨嗟と憤怒の念に塗り潰されている、と言う事なんだろうな。ならば俺達に出来ることは……」
 大地に『宵』を突き立て、肉薄する様に戦場を疾駆しつつ。
 『宵』を跳ね上げる様にして、星彩の輝きを伴った衝撃波を撃ち出して、ウィリアムに勢いを弱められた黒炎に叩きつけた。
 叩きつけられた衝撃波で宙を自由に舞う黒炎の一部を吹き飛ばし、空間の一部を統哉が強引にこじ開けたところに。
「此処は、アンタの本当の居場所じゃない。加耶……アンタが本来居るべき場所が別にある事……それを伝えることだね」
「ええ、そうですね、母さん。お兄様が大好きで、お兄様を求める気持ちの強い、加耶ちゃんを……!」
 響と奏が同時に疾風の如く切り開かれた空間に入り込み、そのままカヤを守る様に立つ少年吸血鬼達に接近。
 少年吸血鬼達は真紅の瞳に異様な輝きを発させ、一斉に鋭い血色の光矢を放った。
(「正直、私は受けるのは得意なのですが、回避は得手ではありません。ですが……この攻撃なら!」)
 黒炎をフェイントとして放たれた真紅の光矢を、奏がエレメンタル・シールドに風の精霊を纏わせて受け止め。
 同時に黒炎の軌道をその紫の瞳に映し出し、その軌跡を算出しようと見つめると。
「鳥威は当然、この黒炎に食われるだろうが……こいつはどうかな?」
 口元にどこか不遜にもとれる皮肉気な笑みを浮かべた千尋が興味深げな口調で問いかけ、自らの右手首を回る光剣を射出した。
 放たれた1050本の触れたモノの存在を拒否し消失させる光剣が黒炎に着弾、光の粒子と化して黒炎を消失させ。
「敬輔さんの道をこじ開けます……行け!」
 針の穴の様に漸く少しだけ開いた黒炎の障壁を突破するべく、瞬が六花の杖を突き出し、月読の魔法陣を描き出す。
 描き出された水晶の如く美しく輝く一族に伝わる紋章を模した魔法陣から、解き放たれたのは565本の氷晶の矢。
 地面と水平に撃ち出された氷晶の矢が、無限にも等しく湧いて出てくる少年吸血鬼達を串刺しにするその間に。
「テメェら纏めてぶっ潰してやる!」
 コクピット内のレッドアラート音に、鼓膜を叩かれ軽い頭痛を覚えながら、明日香がレバーを押し込み、フットペダルを蹴る。
 装甲を黒炎に焼かれ、その表皮が剥げて融解し、地面に鉛となって滴り落としながら、クロウビゾンが其れに反応し。
 突然の重量の変化にぎこちない動きを行いつつ、瞬の氷晶の矢に続く様にその背の双翼に搭載された其れを解き放った。
 ――Bram! Bram!
 其れは、クロウビゾンの両腕に搭載されていた重火器。
 其の重火器が轟音と共に弾幕を張り巡らせて、少年吸血鬼達の一部を吹き飛ばし。
 続けざまに放たれた幾何学文様が描き出されたビット状の遠隔操作兵器の先端からビーム剣が抜かれそのまま横薙ぎに少年達を一閃。
 崩れ落ちていた肉塊を継ぎ接ぎして作られた少年吸血鬼達の一部が薙がれ、撃ち抜かれて再び肉塊と化し消失すると。
『よくも……よくもお兄ちゃん達を!』
 憤怒に満ちた罵声を叩きつけ、上空のクロウビゾンへと肉塊を蹴り上げるカヤ。
 ビチャリ、と肉が飛ぶ音と共にそれが新たな力を得たかの様に黒焔と化して、クロウビゾンを覆い、跡形もなく消失させようと……。
「一度下がれ、明日香」
 千尋が指示を出しながら、クロウビゾンの前に無数の鳥威が展開。
 焦げ茶色の結界を纏った其れが、片端から黒炎に吸収されるその間に。
「くそっ! 了か……いや、こいつならどうだ!?」
 舌打ちと共に、何かを閃いた顔付きになって。
 明日香がバーニアを吹かして後退し、機体を壁に叩きつける。
 クロウビゾンが起こした震動と共に、土砂の様に零れた屋敷の破片に、フォルクがすかさず微粒子を放つ。
 重力を与えた瓦礫が雨となりて吸血鬼達へと降り注ぎ、死体の山から力尽きてはまた蘇る少年吸血鬼達を纏めて潰していた。
「……カヤはまだ見えないか。長い戦いになりそうだな」
 上空から降り注いだ瓦礫の雨に応戦する様に放たれた黒炎の欠片を、身を翻して避けて地面に降り立ったフォルクの独り言に。
「そうだね、フォルク。だが、アタシ達には、為すべきことがある。あの子の……カヤの心に空いている穴を埋め尽る為に、すべきことがね」
 それは、この偽りの楽園を否定し、長きにわたる1つの戦いに終止符を打つ事。
 その願いを籠めたパラスの言の葉に、何かを察したのであろう。
「そうか。分かった」
 と、フォルクが静かに首肯した。


『お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん……皆を……よくも皆をぉ!!!!!!』
 次々に倒れ逝く自らの周りに集まってきてくれていた『お兄ちゃん』達。
 大切な玩具であり、この天国に住まう天使達でも在ったお兄ちゃん達を闇雲に奪われていくこの理不尽。
 其の理不尽の全てを怨嗟と憤怒に変えて、自らの前身に纏った黒炎の勢いをより一層強めるカヤ。
 千尋の鳥威を食らい、ウィリアムの風の結界と陽太のスパーダの浄化の短剣に弱められていた勢いを取り戻し、其れを解放。
 自らの全身を覆い尽くす様に纏われていた黒炎が狂った人形の様に蠢き、吸血鬼達を突破しようとしていた奏に迫る。
「くっ……!」
 其の紫の瞳で、黒炎が迫り来るであろう未来を読み取っていたかの様に。
 その場でエレメンタル・シールドを投げ捨てて身軽になり、炎を辛うじて体を横に傾けて躱す奏の胸元を黒炎が掠めていく。
 エレメンタル・シールドは黒炎に飲み込まれて一瞬で焼き尽くされてそのまま新たな黒炎と化してより一層激化して。
 更に白銀の鎧の胸甲を削いでドロドロに溶かして、其処から薄らとさらしが剥き出しになる。
「くっ……ですが……!」
 漆黒の炎の熱波に炙られて、顔に強い火傷の痕を残しながら、奏がシルフィード・セイバーを大地に突き立て。
「奏!」
 瞬が気遣いつつ、六花の杖の先端で空中に描き出した月読の紋章を明滅させ、月光の雨の様に黒炎に降り注がせた。
 注ぎ込まれた月光の雨の如き氷属性の矢の連射に、黒炎の勢いが微かに弱まったその隙を突いて。
「大丈夫です、瞬兄さん! これも彼女を……加耶さんを受け止めるため……!」
 剥き出しになった皮膚が水膨れの様になっている事に苦痛を覚えながら、奏がシルフィード・セイバーを撥ね上げると。
 風の精霊の力を浴びた衝撃波がフォルクの重力、瞬の月光と重なり合って激しい振動を巻き起こし、黒炎の勢いを大きく弱め。
「ったく、この黒炎厄介すぎだろ。まあ、乗り越えなきゃ結末を見届けることも出来ないんだ」
 そこに口元に皮肉げな笑みを浮かべた千尋が、その黒炎に向けて光剣を解き放つ。
 四方八方から出鱈目に空中を踊りそのまま黒炎に向けて天雷の如く落ちてきた光剣が黒炎と言うモノを消失させるが。
『カヤちゃん! お前達をカヤちゃんの元に行かせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 死体の中から起き上がってきた少年吸血鬼達が合唱の様に轟く叫び声を上げ、今度は血色の斬撃の波を解き放つ。
 放たれたそれに、敬輔が自らの身に纏った白い靄から生み出された斬撃の衝撃波とぶつけ爆ぜさせるが。
「くっ……加耶……!」
 白と赤の濛々と舞う煙に真紅の双眸の視界を遮られ、思わず呻いた。
 そこに少年吸血鬼達の一部が陣形を組んで、一斉に血色の光矢を掃射する。
 更に立て続けの……。
『あたしを……惑わせるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 絶叫と共に両掌から解き放ったカヤの闇色の弾丸が、敬輔を撃ち抜こうとした時。
(「くっ……。その闇は、受け流して見せますよ……!」)
 遮蔽物の影からそれを見て取ったウィリアムが、内心で呟きながら突風を闇の弾丸に叩き付けた。
 吹き荒れた風が弾丸の軌道を強引に逸らして敬輔の至近に着弾、事なきを得る。
 その様子をロクローくんに少年達の攻撃から守って貰いつつ、浄化の結界で辛うじて黒炎を受け流していたアリスは見つめていた。
 赤い瞳に、深き憂いと哀しみを称えながら。
(「このままじゃ、敬輔さんが、カヤさんと、お話し、出来る、ない、です……。アリスは、そんな、後悔、残す、さない、せたく、無い、です……!」)
 ――だから。
「楽園の華 咲き乱れて 君をただ癒やしたい」
 アリスは歌う。
 傷ついた奏達を、敬輔を先に進ませるために、死力を尽くす仲間達の傷を癒やし、守る為に、歌う。
 それは、敬輔をカヤ……否、加耶の元に辿り着かせたいと願う奏やパラス、統哉達の心に深く響き奏達の傷を瞬く間に癒していく。
『ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 見る見るうちに火傷を治していく奏の姿に更なる怒りを掻き立てられたか紅の双眸に危険な憤怒の光を纏わせるカヤ。
 其の憤怒が、楽園を奪われることに対する絶望が、研ぎ澄まされた槍の如く鋭利さを以て、暁音の共苦の痛みを貫いていく。
 その共苦の痛みから発される激しい刺し貫かれた様な痛みにも動じる様子もなく、暁音が両手で星具シュテルシアを構え。
「……命の新星を持ちて、立ち向かう者達に闇祓う祝福の抱擁を……!」
 呪を紡ぎ上げた。
 完成を待ちかねたかの様に、彼の周囲の星の輪が星色の輝きを示し。
 星浄なる光を放出すると。
 其の神聖なる浄化の星光が、幾重にもカヤが召喚、自在に操る黒炎を貫く一本の光線と化して其れを射貫いた。
『ぐっ……?!』
 自らを守り、そして攻撃の為に自在に操っていた黒炎の揺らぎ。
 その瞬間を狙い、遮蔽物の影から響がカヤの背後に飛び出した。
『カ……!』
 ――グシャリ。
 響に気がつき、死体の影から飛び出そうとした少年吸血鬼の残骸の1人の体が人では有り得ない方向にねじ曲がる。
 そのまま継ぎ接ぎに組み上げられた背骨を叩き折られると同時に、首が異様な方向へと折れまがり、彼は何も言うこと無く絶命。
「……どうだ? これでまた、楽園の崩壊にまた一歩近付いたぞ、カヤ」
 それは重力を凝縮した微粒子の魔弾で少年を撃ち抜いた、フォルクの挑発。
『なにを……!』
 憤怒からフォルクの方へと視線を転じ、全身に鎧の様に纏われた黒炎を手槍にしてフォルクに投擲しようとしたその時。
「……悪いね!」
 ――バシャリ!
 不意にカヤの背中に鋭い斬撃の衝撃が走り、其の背から大量の血飛沫が舞った。
 突然の衝撃に目を見開いたカヤが反射的に背後を振り返れば、其処にはブレイズフレイムを唐竹割りに振り下ろした響の姿。
「お兄ちゃん……兄を求めて、世界を彷徨うアンタの気持ちは良く分かる。アタシだって、兄妹を実際に育てている身の上だからね」
「……そうだね、響。アンタはそう言う奴だ」
 その響の言の葉に。
 孫娘……セレネを失ったパラスが深い共感と感傷の籠めた言葉で静かに頷き、『アイギス』の引金を引く。
 電磁加速して放たれた一発の弾丸が螺旋状の軌道を描いて真っ直ぐにカヤを撃ち抜かんとしたその時。
『カヤちゃんを虐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ! この悪者共めぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
 肉壁として蘇生されたか、敬輔の前に立ち塞がる様にしていた継ぎ接ぎの少年吸血鬼達がカヤを庇う様に仁王立ち。
 その瞬間を狙って、パラスが狙点を定めた『ニケ』で電磁加速して撃ち出した『アイギス』の電磁弾を撃ち抜く。
 速度も火力も出力も、普段よりも遙かに撥ね上げた出力で撃ち出した其の一発。
 其れに撃ち抜かれた電磁弾は、普段の3倍以上の大きさに広げられた電磁網を作り上げ、その少年達を纏めて締め上げた。
『アアアアアアアアアアアアッ!』
 電磁網から放たれた眩く激しい雷撃が、少年吸血鬼達の継ぎ接ぎの肉体を感電させ、更にミディアムレアの挽肉に変える。
 濛々と舞い上がってくる雷で焼け焦げた元人肉の異臭に思わずアリスやウィリアムが嘔吐きそうになるが。
「楽園の華 舞い散って……あなた達が、カヤさんに、作る、場所は、カヤさんの、楽園、では、ない、です。天国、でも、ない、です。カヤさんの、楽園、別に、ある、です……!」
 喉元に込み上げてきた其れを辛うじて飲み込み、祈りを籠めて、アリスが歌い。
「……歌を届けるならば、これで……!」
 鼻腔を痛めつける肉の焼臭に、ウィリアムが微かに目に涙を滲ませながら、自らの目前に描いた魔法陣に新たな術式を組み込んだ。
 その術式が風の結界を練り上げる気流をアリスの歌声を誘導する様に蠢かせ、戦場全体に其の歌を染み渡らせていく。
『こんな歌……! あたしの楽園の華が舞い散る筈が無い! あたしは、あたしの望む楽園を、天国を漸くこの手で掴み取ったんだから!』
 絶叫と共に黒炎に自らの怨嗟と憤懣を乗せて更に拡大し、全てを流す巨大な川の如き焔を生み出すカヤ。
 防具も、そして全ての『生』あるモノをも飲み干すべく解き放たれた巨大な黒炎の蛇が顎を開いて戦場を飲み込もうとしたその時。
「こんな場所が天国? 何言ってやがる、此処は、天の『獄』の間違いだろうが!」
 明日香が黒竜と化した黒炎を掻い潜る様に着陸、溶解していたクロウビゾンを疾駆させ、その胸から漆黒の砲弾を撃ち出した。
 圧縮されたエネルギーの塊と化した漆黒の闇の砲撃が、複雑な幾何学紋様と共に撃ち出され、980発の砲弾に変わり。
『ガァァァァァァァァァァァッ!』
 カヤを守る様に立ち塞がった少年吸血鬼達を闇の彼方へと纏めて屠り、其の存在を永遠の彼方に放逐し。
「……そうだな。お前のこの世界は天の『獄』……煉獄と呼ばれる場所だ。死者の魂を弄び、何時迄も天に昇らせる事の出来るお前を、俺には放置することは出来ぬ」
 空いた其の空間に滑り込ませる様に。
 フォルクが数発の重力弾を解き放ち、パチン、とその指を鳴らした。
 フォルクの合図に合わせる様に、カヤの周囲に荒れ狂う重力の嵐が呼び起こされその全身を炎ごと纏めて拉げさせる。
『アガァァァァァァァァァッ! アアアアアアアアアアッ!』
 体中の骨が軋み、歪む音がカヤの全身を弄る様に襲い、この世のモノとは思えぬ絶叫を上げるカヤ。
「カヤ……加耶!」
 敬輔が思わずカヤの……『加耶』の名を呼ぶその声を耳にしながら、フォルクは軽く頭を横に振った。
「……お前のその胸の空白を埋めることもな。それが出来るとすれば、それは……」
 フォルクの束の間の、逡巡。
 重力の嵐の勢いが僅かに弱まり、カヤが肩で息をつきながら、其の紅の瞳で射貫く様にフォルクを睨み付けたその瞬間。
「其の憤怒と怨嗟の念……この手で断つ! カヤ……否、加耶! 君に、敬輔の言葉も聞いて貰うその為にも!」
 統哉が漆黒の大鎌『宵』の刃先に星々の煌めきを伴うと。
 何かに導かれるかの様に敬輔の周りを漂っていた白い靄達の間から、一筋の紫の光が、統哉の『宵』を包みこんだ。
(「……そうか、この気配……!」)
 その正体を直感的に理解した統哉が、紫と星の混ざり合った『宵』を一閃。
 放たれたそれがカヤに吸い込まれる様に入り込み、その心に救う怨嗟と憤怒……『邪心』のみに強かな一撃を加える。
『う……ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ! この……悪者達めぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
 響の一撃から始まった間断無き攻撃に憤懣やるかたないと言う悲鳴を上げるカヤ。
 カヤの怒りに呼応して、戦場を飲み込まんとする黒炎の勢いが更に一際強くなる。
「くそっ! このまま只殴り合っているだけじゃ駄目だ!」
 黒炎に向けてスパーダの浄化の短剣の内275本を消費し、其の炎の勢いを弱めた陽太が舌打ちする。
「……そうだね。このままじゃ、埒があかないか」
 星具シュテルシアを弓形態に変形させ、其処に弦として聖なる銀糸を張り、仮初めの神祭具の弓とした暁音が頷き弓弦を弾く。
 その腰に括り付ける様に身に付けた、神楽鈴をリン、リン、と鳴らしながら。
 神楽を神に捧げる際に使われるそれらの神祭具から迸る浄化の音色が、暁音の生み出した星浄にして神聖なる光を強化した。
「どう言うことだい、アンタ達」
 陽太と暁音の其の呟きに。
 『ニケ』と『アイギス』による双銃の一撃で牽制しながらのパラスの問いかけに、暁音が軽く眉を顰め、陽太が重い溜息をつく。
 共苦の痛みが訴えてくる突き刺す様な鋭い痛みは収まらない。
(「この痛みの根源、それは……」)
 先程、統哉が一撃を加えて少しは薄れさせてくれたけれども。
 でも……その本質は。
「カヤは俺等がお兄ちゃんを奪ったから怒っている。だが……亡者達は、カヤに家族や恋人達を奪われたから怒っている」
「……怨嗟が、新たな怨嗟を呼ぶ負の連鎖……か。まあ、じゃあアタシ達が力で返そうとするのは無謀な話だね」
 その陽太の説明に。
 小さく首肯し、『ニケ』のシリンダーに新しい弾をクイックドロウするパラスに、だが、と陽太が静かに呟く。
「もし、カヤが、実の兄……敬輔への愛情をオブリビオン化で歪められた存在なら、足りないピースを埋めるために必要なモノが在る筈なんだ……」
 ――そしてそれは、きっと……。
 其の続きの言の葉を、陽太が紡ごうとした其の刹那。
「カヤ! もう止めるんだ! 加耶……! 俺は……『お兄ちゃん』は此処に居るから!」
 アリスの浄化の魔弾とウィリアムの風に、吹き飛ばされた黒炎の向こうから。
 現れた白い靄を纏う吸血鬼形態の敬輔がカヤ……加耶に連なる道を駆け抜けた。


 圧迫する様に喉を支配し続ける血への欲求。
 本来であれば、ヴァンパイア化した状態を解除した時の代償である筈の『飢餓』の衝動が、強く敬輔の体を襲う其の理由は……。
(「それだけ消耗が激しいと言う事か……。だが……!」)
「加耶! 加耶ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 それは、復讐の旅の中でずっと探し続けてきた最後の断片。
 ロイに魅了され、吸血鬼と化した実の妹。
 吸血鬼としてオブリビオン化したカヤ……加耶に向けて、真紅の瞳に懇願の光を宿しながら敬輔が叫ぶ。
 そんな敬輔のそれを無慈悲に断ち切らんとするものは。
『来るな、悪者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 貴方があたしのお兄ちゃんだと言うならば、あたしを守ってよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
 悲嘆に暮れる様な絶叫と共に、その全身から黒炎を迸らせ、敬輔を其の防具ごと食らわんとするカヤ。
 ――だが。
「敬輔さんの、邪魔に、なる、なります、それは、アリスが、止める、です……!」
 静かな覚悟を、その声に秘めて。
 『楽園』に咲き誇り、散っていく『華』の可憐にして、儚き人の夢を想わせる祈りを籠めた歌を歌っていたアリスが囁くと。
 それに応える様にロクローくんの顎が開いて白き浄化の光弾が放たれ、敬輔の目前の黒炎に炸裂。
 白と桃色……愛に飢え、愛の女神と愛を識った少女の祈りと共に放たれた弾丸が、黒炎の勢いを大きく揺らがせる。
『こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! あたしの楽園を……あたしの幸せを……奪うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 激情の儘に黒炎の力を更に一段階引き上げ、何もかもを焼き付くさんと其の力を発動させようとするカヤ。
 その瞬間、背中に刻み込まれた切り傷が鋭い悲鳴の様にカヤの体を鞭打ち、同時にブォン、と言う鈍い音がカヤの後ろで鳴る。
『……っ?!』
「本当はこんな手荒い真似をしたくないんだけれどね。でも……敬輔の……アンタの本当の兄の声を聞かせるためには……これしかない!」
 ――ゴチンッ!
 拳骨の様に生々しく重い音が、カヤの後頭部で鳴り響く。
 それは、響が全身全霊を籠めて叩き込んだ頭突き。
 それは、剣でも、槍でも、超常の力、ユーベルコードでも無い。
 只、純粋な、子を持つ親の、子への愛を籠めた必殺の一撃。
『くっ、このオバ……!』
 叩き付けられた予想外の一撃に、純粋な怒気を発したカヤが振り返り、其方へと紅の瞳による光を叩き付けようとするが。
「ははっ。まさか此処でこんな隙が生じるとはな」
 そう悪戯めいた調子で微苦笑を零した千尋が呟き、結詞を蜘蛛の糸状に広げて戦場に張り巡らし。
「おい、瞬」
「ええ……敬輔さんや皆の声を……カヤさんを想うその心を届ける為の隙を……此処で作り上げて見せます……!」
 瞬が頷くと同時に、月虹の杖を抜き、月読の紋章を逆さに描き出し。
 その逆位置の月読の紋章で、千尋の蜘蛛の巣状の糸と絡み合う様に閃光の如き輝きを齎す結界を生み出して、カヤの体を締め上げた。
『……っ?!』
 月光の輝きを伴う結界にその身を締め上げられて低い呻き声を上げるカヤ。
 其のカヤ……否、加耶に向かって敬輔が突進し……。
「加耶……加耶ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 加耶の体を覆う、黒炎を意にも介さず、彼女の懐に飛び込んで。
「敬輔……無茶だ、おい!」
 続けて敬輔が取った行動に陽太が思わず目を剥き、ダイモンデバイスからフェネクスを召喚。
 炎の鳥の姿をした悪魔が真紅の双翼を羽ばたかせカヤに抱きついた敬輔の体に炎を灯らせ、その傷を癒す。
 フェネクスの炎に包まれた温かく優しい、敬輔の手の温もりを感じ取り。
 カヤの口元に、密かに懐かしげな笑みが浮かぶ。
 ――ああ、これは……この、暖かさは……。
 きっと――それは。
 それは、まやかし。
 これは、『あたし』の天国への道じゃ無い。
 そう、体に染み渡る温もりをまるで否定するかの様な、歪な笑みを口元に浮かべ。
『お兄ちゃん……アタシを助けて……助けてよぅ……』
 紅の双眸から蠱惑的な光を発し、猫なで声で甘える様に敬輔の耳元に囁き掛けた。
 黒炎の残り火が敬輔と、彼女の中に微かに刻まれた希望を焼くのを厭うこと無く。
「ちっ……フェネクスの回復じゃ間に合わねぇ?!」
 凄まじい速さで溶解する敬輔の漆黒の全身鎧を見て陽太が息を呑むその間に。
「敬輔さん、危ない、です、そのまま、だと、燃える、です……!」
 溶解された鎧を貫通した黒炎が彼の体内をも浸食していこうとするのに気がついたアリスが思わず悲鳴を上げた。
 それでも、アリスの歌は止まらない。
 止まらないが故に……その肉体の免疫力と自己再生力を爆発的に上げる其の歌が、敬輔の胸中と深く共感する。
 ――そう。
 体中を焼き尽くされる様な痛みに水を浴びせかけて冷やす、再生の連鎖と共に。
 莫大な痛みと、其れを瞬時に再生する回復力。
 苦痛と、其処からの回復の連鎖……それは、『人』にとっては地獄の連鎖。
(「カヤ……ううん、加耶。これが、君が抱いていた寂しさなんだね」)
 其の体を黒炎に焼き尽くされ、直ぐに肉体の再生力で癒やされながら。
 カヤに……吸血鬼化した妹に、優しく微笑みかける敬輔を見て。
「敬輔、お前……心中する気か!? 馬鹿野郎! そんな事させられるかよ!」
 陽太が怒声を張り上げ懐の水晶の刀身持つ刀を抜いてカヤの黒炎の残滓に肉薄し。
「どんなにカヤと一緒に居たいくても、絶対にそんな事はさせないからな!」
 統哉が紫星の光を刃先に伴う『宵』を弧を描く様にカヤに向かって振り切った。
 敬輔を焼き尽くそうとしたカヤの体の黒炎が、陽太のお守り刀をまるで自動防御装置の様に絡め取ろうとするが。
 その時には、炎を飛翔する様に飛び越えた統哉が『宵』をカヤに一閃、再びその怨嗟と憤怒の心を削いでいた。
『……っ!?』
 統哉の紫星の閃刃がカヤの負の感情を斬り、胸中に宿る怨嗟と憤怒を大きく削ぐ。
 其の両手は愛おしいと言える程に、優しく敬輔を抱擁する様に回されていて。
 黒炎の力が負の感情が和らぐと同時に弱まったのを、雪の様に白い肌を通して敬輔が受け取るや否や。
「加耶……! 加耶! ごめんな……ごめんな……! ずっと、ずっと1人にして……! 大丈夫、君に……加耶に足りない想いは、もう君の目の前にあるから……!」
 必死になって呼びかけた、その刹那。
 ――ガブリ。
 と伸長されたカヤの犬歯が敬輔の首筋……其処に見えるマリーの噛み傷を貫いた。
 激しい呪詛の様な其れが、マリーの噛み傷を通して敬輔の全身に染み渡り、其の体からごっそり生命力を削り取る。
 ――ゴボリ。
 アリスの歌による再生でも、陽太のフェネクスの炎の癒しでも追いつかない程の速度で自らの体を破壊する呪詛を取り込まされ。
 ヴァンパイアと化した自分の力が根こそぎ剥がされ、元の姿へと強制的に戻されそうになる敬輔。
 その敬輔の喉元を激しい吸血衝動が覆い尽くすが。
(「敬輔さん、今は駄目だ……!」)
 共苦の痛みを通じて、敬輔に逆流する呪いが伝えてくる激しい痛みに気付いた暁音が、血の混じった唾を吐き捨てながら。
「清浄なる癒しの光を……!」
 弓形態にしていた星具シュテルシアを錫杖形態に戻し、其の先端から癒しの星光を撃ち出した。
 星浄なる星光が、全身を襲う吸血衝動の赴くままに、人に戻り、カヤに牙を突き立てようとする敬輔を癒やす。
 その涼しくも温かく、眩い星の煌めきに支えられ。
 薄れゆく真紅の瞳を鋭く細め、必死に自らの理性の手綱を手繰り寄せて繋ぎ止めた敬輔が肩で荒く息をついて。
 辛うじて理性を取り戻し、再び優しく目前の少女の吸血鬼へと語りかけた。
「加耶。君が本当に求めているモノは……欠けた想いはきっと、お兄ちゃん……『兄』からの愛情だったんだろう。でもそれは、力尽くで手に入るものじゃないよ」
『嘘……嘘……お兄ちゃんはいつもあたしの傍にいてくれる……! あたしは、あたしを幸せにしてくれるお兄ちゃんの楽園を……天国を……!』
 悲痛にも取れるカヤの身の毛もよだつ様な魂の咆哮。
 それを敬輔が全身に受け止める様子を見て、パラスがカヤ、と静かに呼びかけた。
「アンタの楽園は此処には無い。今、アンタが天国だ、楽園だと言っているのは、アンタにとっての偽りの家族に過ぎないよ。そんな存在を幾ら侍らせても、アンタの心の虚ろは埋められやしない」
『ババァ……何を……!』
 冷たく突きつける様なパラスのそれに、紅の瞳に怒りを称え、そのままチャームの魔力を黒炎と共に暴発させようとするカヤ。
 其の背から浮かび上がる様に現れた黒炎が自らの在り方を否定しようとするパラスを飲み込もうとするが。
「おいおい、お前はこっちに意識を向けている余裕があるのかよ? そんな事をしていたら、お前の本物のお兄ちゃんとやらがいなくなっちまうぜ?」
 皮肉げで、同時に微かな嘲弄を交えた呟きと共に、千尋が1050本の光剣をパラスに向けた黒炎に向けて連射する。
 放たれた光剣が、黒炎が存在する空間に突き立つと同時に爆ぜ、その場から跡形もなく存在を消失させた。
『ど……如何して?! 如何してあたしの力がこれ程までに弱って……?!』
 動揺を隠せず真っ白な其の肌を青ざめさせるカヤにそれは、と奏が静かに囁いた。
「あなたが抱きしめ、抱きしめられているその人が、あなたにとって本物のお兄様……その空白の本当の意味を知る人だからです、加耶さん」
『そ……そんな……?! あたしにはお兄ちゃんが沢山居る! 此処に……この、アタシの楽園に! 其れを壊した悪者達に、如何してそんな事が分かるというの!?』
 カヤが助けを求める様に、縋る様に、周囲の死体の山へと目を向けて。
 悲痛な助けの声を上げるたのだが。
 もう、そこに居た『お兄ちゃん』達は、もう起き上がってこない。
 起き上がることが出来ない程に浄化されるか、明日香達に滅されてしまったから。
「そう……私も、瞬兄さんと直接の血の繋がりはありません。でも、兄さんがいなくなったら、私は、私がどうなるのか分かりません。こんな私でもそれだけの悲痛な思いを胸に抱いている位です。ならば……貴女の、血の繋がった実の兄の愛情を理不尽に奪われた貴女の心の空白が如何なものなのか。それは……察するに余りありますから」
 奏の静かな其れに、思わず怯んだ表情を見せるカヤ。
 脳裏を過ぎるのは、瞬と千尋の月光の結界に絡め取られた時に感じたあの温もり。
 カヤが……加耶が求め続けたモノ。
 黒炎を切り払ったお守り刀の水晶の刀身を愛おしげに見つめながら、そうだよな、と陽太が静かに首肯する。
「そうだ。お前が……カヤが歪み、足りないと感じている其れを埋めるために必要なものは、たった1つだけなんだ。それは……」
 兄の――生ある『家族』の愛情。
 家族への愛に飢え、吸血鬼として世界を放浪し、数多の生命を奪っても、奪っても尚、永遠に取り戻せぬ事の出来ない絆。
 それこそが……。
「加耶。アンタが居るべき場所……兄と両親の待つところに、帰ってくるべき所なんだよ。『家族』の絆が……今、アンタの目前にいる敬輔の所がね。家族は一緒に居た方が良いんだ」
 そう響が告げるのに合わせる様に。
 敬輔の黒剣から紅と蒼の光が迸って鎖の様に絡み合い、敬輔の黒剣を包み込む。
「もう、お兄ちゃんを求めなくても大丈夫。君の求めているお兄ちゃんは……お兄ちゃん、だけじゃない。父さんも、母さんも、此処に居るから」
 傷だらけの其の体で、紅と蒼の光を灯した黒剣の柄を見せて。
 白き靄の『彼女』達を黒剣に帰還させ、優しくあやす様な敬輔の其れに。
「お兄……ちゃん……。それじゃああたし達は何処までも……何時迄も一緒に――」
「ああ――そうだな。一緒に……」
 ――いよう。
 その言の葉と共に。
 優しく抱きしめる様に回していた両腕を解いた敬輔が、黒剣を右手で抜剣し。
 カヤの黒炎が敬輔の体を跡形もなく残さないとばかりに焼き付くさんと燃え盛る。
 ――刹那。
「心中なんて、させないよ」
 統哉が紫星の燐光を纏った『宵』を黒炎を象るカヤの邪心に三度振り下ろした。
 其の統哉の一閃と、ほぼ同時に。
「出来ることなら加耶さん。貴女とは生きている内にお会いしたかったです……!」
 風の精霊を纏わせたシルフィード・セイバーを統哉に続いて奏が一閃。
 放たれた翡翠色の剣閃が、ウィリアムの風の結界と共鳴して暴風と化して、其の黒炎を断ち切って。
「此で本当に終わりの様だな」
 事を見届けて頷いたフォルクが圧縮させる重力で、残り火たる黒炎を押し潰し。
「カヤさん。あなたを、心の、底、から、想ってる、目の、前の、人の、ところに、帰る、ですよ?」
「カヤさん。君の旅は此で終わりだ。だからもう、其の炎……妄執に囚われ続ける必要は君には無いんだよ」
 黒炎の最後の猛威を食い止めるべく破邪の魔弾をアリスが射出し、暁音が祈る様に星具シュテルシアにつけた神楽鈴を鳴らす。
 鈴の音と共に放たれた清浄なる星々の光に押された破邪の魔弾に黒炎の残り火の一部を放り上げ。
「……皆アンタを……タテノ・カヤを待っているんだ。帰っておいで……加耶」
 それでも尚のたうつ黒炎に、パラスが『アイギス』から電磁弾を撃ち出し、その黒炎の残り火を絡め取ると。
「終わったな」
 千尋が最後の光剣を解き放ち、黒炎を完全に消失させた。
 自らの黒炎が刈り取られ、消え逝く様を何処か他人事の様にカヤが見つめながら。
『お兄ちゃん……』
 紅の瞳を、静かに敬輔に向けるのに。
「……ああ、加耶。……一緒に、帰ろう」
 頷いた敬輔が、黒剣を加耶の心臓に突き立てた。
 心臓に突き立てられた赤黒く光り輝く刀身が紅と蒼の光に包み込まれてその魂を食らう様に取り込むその間に。
 ずっと堪えてきた吸血衝動……血に飢えたその喉を潤すべく、魂の抜けた肉塊と化した加耶の首筋に自らの犬歯を突き立てた。
 ――ゴクリ、ゴクリ。
 啜り泣く様な声を上げ、首筋から肉塊の中に残った血を啜り嚥下する度に。
 一度は呪詛が逆流してきたマリーの噛み傷が消え失せていく。
 まるで儀式の様な束の間の静寂を経て。
 敬輔の左肩から首の付け根にかけてについたマリーの噛み傷から呪詛が解けた時。
 ――復讐の旅の終わりの鐘の音が、静かに鳴り響いたのだった。


「……終わったな」
 ――とさり、と。
 そのまま崩れ落ちる様に地面に倒れ光と化して消えていくミイラ化した妹の亡骸を遠くを見る様に見つめながら、敬輔が呟く。
 紅と蒼の光を纏った黒剣の中に、寄り添う様に静かに吸い込まれていく白光。
 それが加耶の魂で在る事は、黒剣から感じられる温もりの御陰で理解出来た。
(「父さんは蒼。母さんは紅。加耶は白、か。それじゃあもし僕が皆と一緒にこの中に入った時の僕の色は……」)
 恐らく黒、なのだろうか。
 この剣や真の姿になった時と同じ……何者にも染まらない色。
 何時かそんな魂の形になって、また家族と会える日が訪れるのだろうか。
 徒然も無くそんな事を考え、同時に長き放浪の旅の目的が終わり、頭の中が真っ白になる敬輔。
 次は、如何すればいい?
 何を目標に、僕は生きていけば良い?
 止め止めも無い思考が、敬輔の頭の中を堂々巡りになった、その時。
「敬輔さん」
 月読の結界で敬輔と加耶を包み込んだ瞬が微かに目を眇めて敬輔を見つめて来た。
(「加耶さんは……」)
 実の兄のことを、思い出していたのだろうか。
 共に帰ることが出来る其の事実を、受け入れることが、出来たのであろうか。
 ……分からない。
 けれども、今は。
 今、必要な事は……。
「瞬さん、僕は……」
 懇願する様な光を称えた赤と青の色彩異なる双眸で見つめてくる敬輔を赤と金のヘテロクロミアで見つめ返した瞬が頷く。
「家族を皆連れ戻し、復讐を果たすことが出来た。そう言う意味では敬輔さん。君の旅路は此で終わりなのかも知れない」
 ――でも。
「君の人生は終わりでは無い。寧ろ、これからが……」
 その、瞬の言の葉を引き取る様に。
「……新たな旅の始まりなんだよ、敬輔」
 赤き双眸と穏やかな表情を浮かべた統哉が諭す様に静かに敬輔に呼びかけた。
「……僕の新たな旅の始まり?」
 その敬輔の、問いかけに。
「例えば、君の里の復興。これもまた、新たな旅……敬輔の希望の始まりだろ?」
 ……そう。
 何時か本当の意味で死ぬその時まで、旅が終わる事は無い。
 人は生き、後に様々なモノを残して、それから死んで、次の世代へと未来を託す。
 其れは人が人として生きる限り、紡がれていく当たり前の様で、難しい物語。
「多分俺達の人生は、其れが終わるその時までずっと『旅』を続けていくものなんだ。その為の1つとして、敬輔の場合には、里の復興がある」
 そこは、彼自身も悟りえぬぐらい賑やかで豊かで。
 笑顔が溢れる……。
「そんな里に、君ならきっと出来る。加耶達の魂が眠る場所には、そういう所の方が相応しいだろ?」
「そんな里を敬輔さん、君が作りたいと願うのならば、僕が……僕らが、君の支えになる。それだけは、必ず約束しよう」
 其の統哉と瞬の出迎えに。
「……そうだな。そう言う意味ではまだ僕にはやることがあるか。ありがとう、統哉さん、瞬さん」
 そう告げて。
 大切な宝物を愛おしむかの様に両親と妹の魂の眠る黒剣の柄を撫でてはにかむ敬輔に、瞬と統哉が微笑み、頷きかけた。


「……此で、敬輔の復讐の物語は終わりか。あの子がどんな選択をしようとそれをアタシは尊重するつもりだったが……まあ、其の手で自らに終止符を打つ様な、そんな最期にならずにすんで良かったよ」
 軽く溜息を1つ漏らして。
 微苦笑と共に肩の荷が下りたかの様に軽く肩を解すパラスの其れに、クロウビゾンから下りた明日香がつまらなそうに溜息をつく。
「何だよ、随分あっさり終わっちまうもんなんだな。呆気ない話だぜ」
 ぼやく明日香に、ウィリアムが微かに咎める様な眼差しを向けるその間に。
「……此がお前の結末か。復讐の果てに、大切な誰かを最終的に取り戻すことの出来たそんな結末……そいつを得る事が出来たのは、ヒトにとっては幸福なんだろうな」
 千尋が飄々と肩を竦めて呟くのに、そうだよ、とパラスが静かに首肯した。
(「アタシは失って、失って、失い続けて……思い出はさておき、あの子達の平穏を取り戻してやることは出来なかったが」)
 其れを取り戻すことが出来た若者達を、見届けらる事は出来た。
 きっとそれ自体が、幸福な事なのであろう。
 そうパラスが胸中で結論づけた丁度その時。
「敬輔さん、良かった、です。加耶さん、魂、助ける、できる、出来ました、です」
 辿々しく呟き胸を撫で下ろし、両手を胸の前で組んで祈りの言葉を捧げるアリス。
 其のアリスの祈りの声を聞きながら。
「……アリスさん。1つだけ手伝って欲しいことがあるんだ」
 そうアリスに訴えたのは、共苦の痛みが未だ、鋭い針の様に突き刺す様な痛みを与え続けられている暁音。
「暁音さん、アリス、お手伝い、する、出来る、こと、ある、です?」
 そのアリスの問いかけに。
 暁音が静かに頷きながら、そっと星麗扇を取り出した。
 夜空が描き出された飾り紐の中に星々が瞬き、正しく夜空を象徴する、其の扇を。
 更に星具シュテルシアを神祭具に変形させて、其の先端に神楽鈴を付けながら暁音が続けた。
「……君には歌って欲しいんだ。あの聖歌を。此処に至る前に歌ってくれた愛の女神を称える賛美歌を。そうして、此処に残る魂達の浄化を……」
「分かる、ます、ました、です、暁音さん。アリス、歌う、なら、出来る、ます、です」
 ――それが死した魂達への手向けと……死後の世界への道標になるのならば。
 暁音の言外に含まれた意味を無意識に捕らえたアリスが、愛と生命の神の聖印を掲げて静々と愛と生命の神への賛美を歌い。
 暁音がシャラン、と神楽鈴を鳴らし、星麗扇を翻しながら、厳粛な表情で加耶や其の犠牲者達を鎮める舞を舞う。
 ――静けさに籠められた厳かな鎮魂曲(レクイエム)が、神楽舞と共に捧げられ。
 星神に捧げる神楽舞と、愛の女神に捧げられる聖歌が進む度。
 まるで舞と歌に導かれていくかの様に、共苦の痛みから与えられる傷がゆっくりと、ゆっくりと沈静化していく。
(「此で……此処に眠る魂達も安らかに眠ることが出来るのかな」)
 舞と歌が終わり、自らの体を蝕む共苦の痛みが鎮まった暁音が、胸中で呟いた時。
 世界に蒼穹の風が灯り、猟兵達をグリモアベースへと帰還させる。
(「俺、僕達の放浪の旅は、此で終わり。さあ、帰ろう……加耶」)
 敬輔の其れに籠められた希望と言う名のその祈りが。
 ――この地に芽吹いてくれる事を、願いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月25日
宿敵 『兄を探し求める吸血鬼『カヤ』』 を撃破!


挿絵イラスト