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アポカリプス・ランページ⑪〜かみさまの殺しかた

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●かみさまの殺しかた
 それはいつだってざわめきであったし、たまに細波の時もあれば、大抵は嵐のように吹き荒れる。
 がんがんと脳を駆け巡る声の群れはいつだって絶え間なく響いていた。
 ただの音ならばまだしも、彼には確かにそれが言葉として理解できてしまったから。

『たすけてください』
『どうか私をお裁きください』
『オレを、赦して』

「煩い……煩い……煩い……!」

 もう延々と続く地獄であったから、いつから始まったかも覚えていない。
 偽物の神にできることなんてたかが知れている。けれど無辜の祈りは、いつだって彼の頭に届いてしまっていた。

「黙れ……黙れ……黙れ……! 俺に、お前達を救う力など無い……!」

 身体の半分を硬い外殻に覆われた異形は、歯を食いしばって顔も知らぬ誰かに唸る。
 助けてなんてやれないのだから、これ以上煩くするなら。

「祈りの声が聞こえなくなるまで、俺がお前達を殺し尽くしてやる」

 彼の声はいつだって、誰にも聞き届けられない。

「あるいは、俺を殺してくれ……!!」

 ――だって誰もが自分勝手で、神様を救わないのだ。

●にせものの救いかた
「フィールド・オブ・ナインを、殺してください」
 そう告げた無間・わだち(泥犂・f24410)のふたつの瞳は、どこか穏やかなものだった。
「相手は、最強のストームブレイドとして生み出されたフラスコチャイルド、無敵の偽神『デミウルゴス』です。無敵、という言葉の意味は簡単です。彼は、偽神細胞を持たない存在からの攻撃を完全無効化します」
 ほんのわずかな動揺が静かに伝わるのをそっと見つめて、継ぎ接ぎは説明を続ける。
「偽神細胞を持つストームブレイドの猟兵なら、問題なく戦えるでしょう。それ以外の皆さんは、ソルトレークシティで手に入れた偽神細胞液を体内に注射して、一時的に『偽神化』する必要があります」
 青年の手には、何の変哲もないアタッシュケース。この中に、件のアンプルと注射器が入っているという。
「接種しなければ、デミウルゴスには傷ひとつ与えられない。けれど、接種すれば激しい拒絶反応が皆さんを襲います。人によっては、言葉通り死にかけるかもしれません」
 拒絶反応は外見の変化、激痛、幻聴などの様々な苦痛をもたらす。ストームブレイドならば、大抵の者がある程度は経験しているかもしれないそれ。
「俺は、無理に打たなくてもいいと思います。だって、痛くてつらいですから。わざわざ苦しんでまで、彼を殺しにいかなくたって。共闘する誰かのサポートに徹する方法もあります」
 ふわり、青年は笑む。ようく知っている、という顔をして。
「それでも、彼は殺されたがってます。偽物の神として生まれてから、ずっと、ずっと。うんざりしてるんでしょうね」
 ――顔も知らない誰かの、救いを求める声の嵐に飲まれ続ける日々に。
「終わらせてあげられる人が居るなら、お願いします。俺は、あなた達にそう願って、彼の元に連れていくことしかできないから」
 かちり、歯車が噛み合う。神様が、救いを求めている。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●注意事項
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「アポカリプス・ランページ」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 プレイングボーナス……「偽神化」し、デミウルゴスを攻撃する。

 拒絶反応に関する苦痛の表現に指定があれば、ご指定ください。
 外見の変化、流血、痛み、幻聴など、なるべくご希望に沿えるよう努めます。

 「ストームブレイド、または偽神細胞を接種した味方」のサポートに徹するプレイングも歓迎です。

 ※遅咲がワクチン接種を挟むため、プレイング受付は一週間ほど先になります。
 お手数ですが、受付開始は雑記かタグをご確認ください。
 受付前に送信して頂いた場合も、受付開始後の再送は歓迎しております。
 オーバーロード使用の場合は日時を問いません。

 人数次第で、恐らく再送のお手間をおかけします。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 ボス戦 『デミウルゴス』

POW   :    デミウルゴス・セル
自身の【偽神細胞でできた、変化する肉体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[偽神細胞でできた、変化する肉体]から何度でも発動できる。
SPD   :    偽神断罪剣
装備中のアイテム「【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ   :    デミウルゴス・ヴァイオレーション
自身が装備する【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】から【強毒化した偽神細胞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【死に至る拒絶反応】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シャオ・フィルナート
痛みには、興味ない
死ぬほどの痛みなんて、何度も経験した

だからどんなに流血しても
それに伴う死にそうなほどの痛みにも
表情一つ変える事なく【激痛耐性】
接近戦による【暗殺】特化の★罪咎の剣(2対)と
遠距離向けの★氷麗ノ剣で操る氷、水の【属性攻撃】を
状況に応じて切り替えながら攻撃
背には★氷の翼を生成しておき
万一の場合には防御にも転換できるように

強毒化した偽神細胞?
撃ちたいなら撃てばいい
ほんの一瞬、耐えればいいだけだ【毒耐性】

【蒼魔結界】を発動
体内を蝕む毒を全て自らの魔力に変化させる事で
自身の状態異常を回復させつつ攻撃力を上昇

どんなに強くとも…俺の氷は、防げない
凍結による【範囲攻撃】でデミウルゴスに攻撃



 翼を模した異形の外殻の男が、頭を抱えて唸っていた。頭の中で喚く誰かの群れに苛まれる彼を前に、ふわり、黒青の影が降り立つ。
「痛い……?」
 そう問うたシャオ・フィルナートの声は淡々としていて、偽神のぶれる金の眼が少年を捉える。答えが返ってくることを期待もしていなかったから、シャオは同じモノになる為の支度を始めた。
 太腿に突き刺す針は一度きり。一気に注入された細胞が、ダンピールに混ざっていく。こぷりと口から流れた血が、つう、と中性的な甘い貌を赤く彩る。
 ――痛みには、興味がない。死ぬほどの痛みなんて、何度も経験しているから。
 全身を巡る激痛にも、まるで何もないかのようなすまし顔。乾ききった荒野の中で、凛とした氷剣がシャオの掌に形づくられる。合図もなしに放った流氷の群れを、偽神は咄嗟に大剣で斬り結ぶ。わずかにこぼれた氷の礫に、偽神は少年へ言葉を向けた。
「……お前。俺と同じ、細胞を持って」
「違う。細胞は入れたけど……同じじゃない」
 すぐさま返答して、氷の翼を羽ばたかせる。宙には舞わぬ翼の推進力で一気に駆けて、氷の弾丸を勢いよくぶちまける。弾丸の全てを大剣のひと薙ぎで落とした偽神の足元に、いつの間にか小柄な青薔薇が瞬いていた。
 蝙蝠と薔薇の刃が二振り、銀彩を氷に反射させてきらめく。動くたびに流れる血は、どうやら口だけでなく鼻からも出ているのはわかった。
(それがなんだ)
 きぃん、と刃が重なり合うのを聴きながら、シャオの瞳はただ偽神を視ている。痛みに慣れきったこの身体のことなんて、誰も心配なんかしちゃいない。それは勿論、自分自身だって。価値のないいのちなど、どうでもいいと思っている。そうして少年は黙々と仕事に打ち込むのみで、時折何者かの声に耳を傾けては、顔を歪める偽神とは相反していた。
 偽神は後退すると、断罪の大剣を振るう。黒と赤の毒素が刃から吹きこぼれ、少年へと降り注ぐ。撃ちたいなら撃てばいい、と、シャオはぽつり呟いて。
「――ほんの一瞬、耐えればいいだけだ」
 青薔薇が毒に穢された瞬間、藍の右眼が真っ赤に染まる。ちいさな身体を蝕む毒が、全て少年の魔力に変換される蒼魔の結界術は間に合っている。無理矢理高めた自己治癒力に細胞の汚濁を任せて、冷気を纏う。
「どんなに強くとも……俺の氷は、防げない」
 ひゅう、と吹雪いた氷嵐が、偽神を一気に凍てつかせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
痛みは別に、構わないんだけど
攻守共に、僕じゃ役不足だろうから
その分仲間の強化と囮、するね【指定UC】

奏でる【歌唱】には【誘惑】と【催眠術】を乗せ
デミウルゴスさんの視線が自然と僕に惹きつけられるように
同時に【空中戦】で飛び回り通常攻撃は回避専念

願われ続けるのも辛いよね
人間はいつだって身勝手なものだ
それは僕も同じだと思うけど
互いが互いを心から理解する事なんて出来ない
だから僕に出来るのは
せめて貴方の心が救われるよう、【祈る】事だけ

毒はせめて【激痛耐性】を乗せた【オーラ防御】と
自身にかける【浄化】の力で耐え
目眩しと、僕から出来る最大限の贈り物を兼ねて
【高速詠唱】で植物魔法
花嵐を生み出す【属性攻撃】


水衛・巽
アドリブ・負傷可、拒絶反応おまかせ

偽神細胞ね 別に構いませんよ
死ぬ前に討伐してしまえば良いだけです
偽物とは言え神を討つ所業なのに
ノーリスクで挑むことこそ不敬というものでしょう

偽神細胞を摂取のうえ
前もって勾陳を降ろし結界術で防壁を築きます
拒絶反応は覚悟で呑み込むしか策はありませんが
本来の神殺しならこの程度では済まされないので

偽神断罪剣は限界突破させた第六感で軌道を予測、
射程外に退くメリットもないので自分の間合いを保ちます

速攻で片をつけたい所ですが
御当人が望むならつきあいますよ
貴方が壊れるのが先か私が自壊するのが先か
勝負と参りましょう
ノーリターンの酔狂は猟兵の専売特許なのでね



「偽神細胞ね、別に構いませんよ。死ぬ前に討伐してしまえば良いだけです」
 注射器を指先で手繰って、青年は涼やかな声色でこともなげに語る。偽物とはいえ、これは神を討つ所業。
「ノーリスクで挑むことこそ不敬というものでしょう」
 水衛・巽の言葉に、そうだね、と栗花落・澪が返す。少女めいた愛らしい見目の少年の手に、注射器は無い。別に、痛みは構わないのだけれど。攻守共に今の自分では力が足りないから。
「強化と囮は、任せて。貴方が彼に集中できるようにする」
「では、お願いします」
 巽が会釈を返した直後、偽神が二人へと眼を向けた。瞬間、澪のおさない唇から詞が流れる。天使の翼の施された拡声マイクは、少年の歌声を偽神の耳へと確実に届けていく。おまじないよりもきよらかなそれに、偽神が自然と惹きつけられたのを見計らい、澪は地を蹴り空を飛ぶ。
 仲間が囮として空を駆けたと同時、巽が短く指で印を切る。
「――依り憑け、勾陳」
 金の大蛇の影が青年の身に纏わりついて、ぞるりと彼のナカでとぐろを巻く。すぐさま注射器を腕に突き刺し押し込めば、一瞬目の前がぐるりと反転する。ぐわんぐわんと揺れる脳内に、なるほどこういう感覚か、と、どこか他人事のように思いながら再び印を切った。五行の布陣があわく輝いて、身の回りに結界防壁を張る。
 全身を巡る異常な熱と吐き気を呑み込んで、澄んだ藍の眼は前を向く。本来の神殺しなら、この程度では済まされないのだから。
 巽が身体を慣らしている間、偽神の意識が彼に向かぬよう。ふわりと軽やかに飛び回る澪が、不意に歌をとめて、ねぇ、と呼びかける。
「願われ続けるのも、辛いよね。人間はいつだって身勝手なものだ」
「知ったような、口を……ッ! 利くな……ッ!」
 振るわれる大剣をひらり躱して、抗えぬ魅了と無辜の声を耐える偽神へ、少年は寂しそうに微笑む。身勝手なのは、僕も同じだと思うけど。偽神が抱えるそれがどんなに苦しいことかを、澪はよく知っている。
「互いが互いを心から理解する事なんて出来ない」
 だから、僕にできるのは。
「せめて貴方の心が救われるように、祈る事だけ」
「祈る!? ふざ、けるな……思い上がるなァッ!!」
 断罪の大剣がひと薙ぎされる。赫黒の毒素が飛沫をあげて周辺にぶちまけられると、露彩のオーラが澪の身体に掛かる前に毒素を弾く。けれど、ほのかに薄紅に色づいた翼がぽつぽつと穢され、じゅわりと音を立てて染み込むそれに、少年は顔を歪めた。ぎゅ、と瞳を閉じて、裡から溢れる浄化の力を翼へまわす。
 偽神が更に大剣を振るう寸前、刃と刃のかち合う音が戦場に響く。お待たせしました、と笑った巽の首筋は、ひどく汗ばんでいる。本来なら立つのもままならぬ状態で、息を荒げることもなく、青年は太刀をしっかりと握りしめ断罪の大剣を弾き返す。
「お前も、俺に祈りにでも来たのか……!?」
 雑多な前髪から覗く憎悪の眼に、まさか、と巽は吐き棄てる。
「其方のお望み通り、殺しに来たに決まってるじゃないですか」
 ざん、と身体を断たんとする断罪剣の軌道を、限界を超えて研ぎ澄まされた感覚が予測する。太刀では受け流しきれぬ刃の重みで、結界にぱきりと罅が入る。三倍にも伸びた射程外に退いたとて、どうせメリットのひとつもない。
 己の間合いを保ったまま、くらくらする眩暈と吐き気を無理矢理無視して、端正な貌は涼しげな形をつくり続けて挑発してみせる。
「貴方が壊れるのが先か私が自壊するのが先か――勝負と参りましょう」
 ノーリターンの酔狂は、猟兵の専売特許なのでね。
 きんいろを見開いた偽神が断罪を遂行しようとした矢先、愛らしい声が叫ぶ。
「自壊なんて、させない……!」
 色鮮やかな花弁が踊る花嵐が吹雪いて、青年の歪んだ視界を正しいものへと補強する。その逆に、視界を美しい彩で覆われた偽神は花の群れを、忌々しげに剣で毟り取る。
 宙に踊るオラトリオは、若き陰陽師へつよい意思を秘めた眼差しを送って、懸命に言葉を捧ぐ。
「だって、僕が貴方を支えてみせるから」
「これは失礼しました、頼もしい限りです」
 で、あれば。彼が壊れるまで、追い立ててみせましょう。一気に距離を詰めたと同時、憑いた大蛇が牙を剥く。体内を喰らい尽くす細胞の群れよりも、偽物の神よりも速く。巽の太刀は凄まじい勢いで偽神の外殻を斬り裂いていく。
 速攻で片をつけたい所だけれど、当人が望むのならつきあおう。
「たかだか一度きりのこれっぽっちじゃ、貴方を殺せやしないんでしょう?」
 花吹雪が舞う中で、無数の斬撃が飛び交う。狂気すら孕む酔狂ならば、こちらの勝ち。それを青年から感じ取った澪は、再びうたう。
 この戦場に居るすべてのいのちが、報われるために。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

菊・菊
針から伝う激痛が
はやくしろって叫んでる

うるせえな

こみ上げてくるままに吐き出した
血と何か
目の端が真っ赤だ
はやくしろって叫んでる

わかってる

クソ女を降ろすためだけに造られた
勝手に

弄られんのも痛えのも慣れてる
けどよ、ずっとクソムカついてんの

だから、てめえの願い、聞いてやる気になった
さっさと殺してやるから大人しくしてろよ

なあ、生きてえの?

『衝動』

腕に滑らせた刃が血を吸って
クソ女の嘲笑が聞こえたら、合図だ

俺の中、ぐっちゃぐちゃだ

でもこれで動ける
いてぇ、くるしい

でも動ける

使えねえ弱っちい身体でも
無理にでも動きゃいい

はやくしろって叫んでる


そうしないと
大好きな、あいつの所に帰れないなら


カミサマだって殺してやる



 頸筋に、一気に押し込んだ注射針。細胞液を注入すれば、すぐさま伝う激痛が少年を急き立てる。
 ――はやく、はやく。
「うるせえな」
 途端に喉元までこみ上げてきた衝動のままに吐きだしたのは、赤い液体となんだかよくわからない吐瀉物。此処に来る前に、大切な人と食べた昼食の残骸だろうか。あるいは、削れた内側のナニカかもしれなくて。
 視界の端が真っ赤に染まって、ぐるぐると眩暈がする。身体のナカをのたうち回る痛みはひくことなく、もう一度噴き出そうな吐き気をなんとか抑え込む。
 ――はやく、はやく、はやく。
「わかってる」
 菊・菊の睨みつけた先、造られた偽神は此方を見ていない。この場に存在しない救済の声の群れにでも襲われているのだろう。それすらも、わかってる、ともう一度呟いて。
 大嫌いな、くそみたいな悪霊女を降ろす為だけに造られたこの身は、偽神の哀しみなんて知らない。けれど、その痛みだけは、少年もようく知っていた。
 身体を弄りまわされるのも、泣きだすことすら忘れるほどの痛みにも慣れている。
「けどよ、ずっとクソムカついてんの」
 弱いこどもが嫌い、奪うおとなが嫌い。ならば偽神は、菊にとってなんなのか。それを知るのは、彼自身だけ。ようやっと少年の言葉が届いたようで、偽神が苦しげに視線を寄こしたのを受け止めて呼びかける。
「なあ、生きてえの?」
 は、と乾いた笑いが返される。それが答えだと思った。男の願いを聞いてやる気になったから、腕にさぁっと刃を滑らせる。
「さっさと殺してやるから大人しくしてろよ」
 ――はやく、はやく、はやくはやくはやく!!
 きゃらきゃらとした女の嗤い声が、激痛巡る菊の脳内に響き渡る。零れそうな一滴すら全て残さず飲み干して、刃はあかあかと染まりゆく。
「……おえ」
 視界は既にどこまでも赤く、その鮮やかさがおぞましい。女妖と異物が混ざりあって、人ならざるものへ変わった中身はぐちゃぐちゃになっているけれど――これで、動ける。
 三倍もの射程を手にした断罪の剣が振るわれたと同時、少年は数メートルもの高さを跳躍。刃を飛び越え瓦礫に着地すると、ぐらりと足が揺れる。
 痛みと苦しみが延々と続くようで、もうやめてしまいたくて――でも、動ける。弱いこどもの身体が、無理にでも動けばそれでいい。
 ――はやく。
 叫んでいたのは女じゃない。ぐ、と力を込めて地を蹴ると、大剣の合間をすり抜けるように突っ込む。はやくしないと、大好きなあいつの所に帰れないなら。
「カミサマだって殺してやる」
 妖刀の稲光が無数に瞬いて、幼子の金の瞳は、偽神の眼よりも鮮やかに咲いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

唐桃・リコ
アドリブ・マスタリングは大歓迎だ

心の中で「杏」が止めてるのが分かる
…大丈夫、まだ大丈夫だ
オレはオレだよ
注射器を突き立てる

痛みも苦しいのも大丈夫だ、慣れてる。
耳元で煩く人狼が話しかけてくる。てめえは黙ってろ。
オレの大切な人の声が聞こえる。オレに「助けて」って言ってる。
いや、これは幻だ。アイツがこんなとこにいるわけがねえ。
今日も家でオレのために飯、作ってくれてるはずだ。

なあ、アンタ
誰に話しかけられてんの
オレと同じじゃん
なあ、救いばっかり求めてくる、そんな奴らどうでもいいだろ
やろうぜ、楽しい殺し合いだ
お前を倒して、オレはそれも力にするぜ
お前にオレが殺し尽くせるか、やってみろよ!!
【Howling】!



 手にした注射器の針が膚に触れる寸前、不安そうな少女の声が心の中で首を振る。
 ――それは、だめよ。
「大丈夫、まだ大丈夫だ」
 オレはオレだよ、と花姫にわらって、頸筋に針を突き刺す。注入したよからぬ異物が、少年の身体にとくとくと巡る。途端、奔った激痛と、言いようのない息苦しさに一瞬溺れかけたものの、そんなものにはとっくに慣れている。
 ――なんだよ、姫君やオレ以外とも混ざる気か?
「てめえは黙ってろ」
 姫とは明らかに違う獣性が耳元で煩くはしゃぐのを、唐桃・リコはぴしゃりと鋭く切り捨てる。ぐわんぐわんと脳が揺れるほどの激痛と同時に、今度はすこしだけあたたかな言葉が囁いてきた。
 ――リコ、
 ようく聞き慣れたその声は、こどもっぽくてどこか寂しげ。迷子が誰かを探しているような色をしていて、少年は今すぐにでもその手を取ってやりたくなった。
 ――リコ、たすけて。
「違う」
 こんなものは幻だ、アイツがこんなとこにいるわけがねえ。きっと今日も家で、オレの為においしい食事を作ってくれているはずだから。此処に来る前に二人で食べた、昼食の味が何故だか思い出せないけれど。
 なあ、アンタ、と偽神に呼びかける少年の声色は淡々としていて、薄紅の双眸と金の眼がぶつかり合う。そのきんいろが昏い彩をしていて、リコは覚えのある眼差しだと思った。
「誰に話しかけられてんの」
「はは……お前、には……聴こえないんだろう? ぐ、救済を求める呼び声が……ッ」
 かわいた笑いと共に呻いた偽神に、なんだ、と少年は肩をすくめる。
「オレと同じじゃん」
「同じ? そんな訳が、ないだろう……ッ!!」
 断罪の剣のひと薙ぎに、ほそい身体が風圧だけで吹き飛ばされる。瓦礫にぶつかった衝撃でまた脳が揺れて、それでも人狼はその場でなんとか体勢を立て直す。胸をかきむしりたくなる苦しさを無視して、杏色の瞳が大きく見開かれた。
「なあ、救いばっかり求めてくる、そんな奴らどうでもいいだろ」
 ましろの毛並みが流した血であかく染まって、光に反射する度にどこか煌いてさえいた。
「やろうぜ、楽しい殺し合いだ」
 大切な人を守るためならば。偽物の神を倒して、少年はそれすら力にしてみせる。いまだ聴こえる幻聴のさざめきと、交わした小指の約束が妬けるようにあつい。
「お前、ごときが……俺を、殺せるとでも?」
「無理だと思うなら、お前にオレが殺し尽くせるか、やってみろよ!!」
 獣になる支度はできている。誰にも言ったことのない代償を抱えて、あらん限り息を吸う。偽神が断罪の剣を振るうと同時、その咆哮は戦場を覆い尽くした。
 奪われないための力が、罪の在処を奪う。

成功 🔵​🔵​🔴​

薬師神・悟郎
【湯縁】

デミウルゴス…話には聞いていたが、なるほどこれは強敵だ
クロウが一緒でなければ対峙することすら避けたかった相手だ

クロウの覚悟に勿論だと頷き偽神細胞を摂取
痛いのは嫌いだが避けられないのなら早く終わらせるべきだ
俺も技を出し惜しみするつもりはない
短期決戦を狙い攻めていく

初手UC使用、使える技能は全て利用すら
いつもはクロウの立ち回りを考え射るが、今回は積極的に敵本体を狙う
想像以上の痛みだが、前衛で攻撃を受けてくれるクロウの負担を考えれば弱音など吐いていられない

痛みに耐えながら、最後まで彼と共に戦うつもりだ
これはもう意地だ。膝をつくなど情けない姿を晒してたまるか


杜鬼・クロウ
【湯縁】

私利私欲の為に狂人共に創られて崇められた憐れな虚像(かみ)か
人々の祈りは呪詛に
願いは枷に
死は、解放じゃねェが…俺達の往く途を阻むお前をのさばらしてはおけねェ
その命、絶つ

よもや人の器を得たヤドリガミの俺が偽神に堕ちる日が来るたァ…致し方ねェが
悟郎、偽神になる覚悟は出来たか?(ニィ
短期決戦、同感だ(拳こつん

偽神細胞を接種
血反吐吐き体に異常きたす
鏡に罅が入る幻聴が聞こえる

手袋代償にUC使用
形状を螺旋剣に
盾役として敵の剣戟に己の剣で応対
低姿勢で回避し異形化した腕刎ねる
敵の攻撃は剣で跳ね返しカウンター
悟郎が攻撃しやすいよう足止めし隙作る

意思を力に
黒焔を剣に宿し悟郎の攻撃に重ね貫く

勝つのは俺達だ



 神として無辜のいのちに捧げられた男は、視えぬ救済に苦しもうとも強者の圧を漂わせている。彼の膚に傷をつけたいのなら、彼と同じにならなくてはならない。話には聞いていたものの、薬師神・悟郎は偽神の業圧になるほど、と納得する。
「これは強敵だ」
 兄貴分と一緒でなければ、対峙することすら避けたかもしれない。けれど悟郎は立ち向かうことを選び、傍らには同じく、偽神を討つことを選んだ杜鬼・クロウが並んでいた。
「よもや人の器を得たヤドリガミの俺が偽神に堕ちる日が来るたァ……致し方ねェが」
 悟郎、と呼びかけて、ニィとわらって肩を並べる仲間に拳を見せる。
「偽神になる覚悟は出来たか?」
「勿論だ」
 ただでさえ痛いのは嫌いな己に、これから降りかかる激痛は並大抵のものではないとしても。避けられないのなら、悟郎だって覚悟はとっくにできている。こつんとぶつけ合った拳は、互いに軽く重たい。
「出し惜しみするつもりはない。短期決戦だ」
「同感だ」
 離れた拳が手にした注射器の針が、それぞれ自分の膚に突き刺さる。細胞液が注入された途端、ごぷりと派手に鮮やかな赤を吐いたクロウは、その身に何が起きたのか一瞬わからなかった。がんがんと痛む頭の中で、疵ひとつない黄金の鏡に罅が入る。きぃんと鳴り響く鏡の割れる音の群れは繰り返し続いて、カミたるこの身ですらこのざまかと、口元に垂れた血反吐を拭う。
 悟郎にも異変は起きていた。視界をぐわんぐわんと揺るがす眩暈と共に、全身を蟲が食い破るような激痛が巡っていく。つ、と首筋に生温かいものが感じられて、それが耳から流れた自身の血であることが察せられた。想像以上の痛みに、偽神の抱いた苦痛をほんの少しだけ想う。
「――は、支度は出来てんだ。始めようぜ」
 クロウが黒の手袋を口で食んで脱ぎ捨てれば、手袋は無彩の黒剣としてかたちを変える。ドリルと呼ぶには細く長いそれは、無数の螺旋が連なる刃をしていた。呻く偽神の視線が二人を捉えたと同時、ヤドリガミは螺旋の剣で偽神に斬りかかる。すぐさま断罪の剣で受け止めた偽神の足元を、距離を保った悟郎が漆黒の弓で射る。
「よぉ、安心しろ。きっちり殺しに来たぜ」
 互いに剣と呼ぶには異質な刃同士、ぶつかり合う音は甲高くはなかった。すべては私利私欲の為、狂人共によってつくられ崇められた憐れな虚像(かみ)は、祈りという名の呪詛につつまれ、願いという名の枷に縛られ続けている。
 クロウはそれがあわれだと思いはすれど、死を解放だとも思えない。ただ、往く途の先を阻むのならば、のさばらせておくことはできなかった。
「――その命、絶つ」
「お前達に、出来るものか……ッ!!」
 細胞によって異常発達した外殻の腕が振るわれた。クロウの腹部を狙った打撃は、彼が瞬時に身を屈めることで回避される。直後、螺旋剣で外殻の翼めいた部位を刎ねたと同時、闇彩の矢群が偽神のまだひとらしい片腕を穿つ。
「ぐああッ!」
 三倍もの威力と効果、射程を得た弓矢は脅威的で、矢尻にどろりと塗られた麻痺毒が効いていけば、偽神の身体を断続的に痛めつける。ぜいぜいと吐く自分の吐息が荒くとも、痛みで痺れる足がふらついていても、ダンピールはひとつも諦める気にはならなかった。自信の無さはフードに隠して、敵の隙を全て見つける。前衛で盾として立ち回るクロウの負担を思えば、弱音なんて吐いてはいられなくて。
 いつもなら自分の援護にまわって動く悟郎に、今はクロウが足止め役として支えになってやる。この戦場に来ると決めた時から、偽神の意識を此方に惹くのが最も勝ち筋が見えていた。勿論、ただ囮にばかりなるつもりもない。
 繰り広げられる剣戟の先で、偽神に疲労が少しでも見えたなら。神というより竜に似た手首の先、鋭い爪をたたっ斬る。噴き出した血の彩は赤く、やはり彼もヒトなのだろうとヤドリガミは思った。
 偽神の昏い金の眼が大きく開き、瞳孔が縮む。断罪の剣で力任せに薙ぎ払い、クロウの身体を弾き飛ばす。
「クロウ!!」
 思わず叫んだ悟郎の声に反応するように、偽神の剛腕はダンピールへと襲いかかった。避けきれないと判断して、ダンピールはまっすぐに矢を射る体勢をつくる。拒絶反応による激痛で、それが間に合わなかろうが、無抵抗になどならない。
 ――これはもう、意地だ。膝をつくなど、情けない姿を晒してたまるか。
「させるかァ!!」
 激しい咆哮と共に、クロウが上空から偽神の背後に斬りかかる。意思はもうもうと、ごうごうと、黒焔として螺旋の剣に宿る。
 最後まで共に戦う、そう誓った悟郎がぐっと強く引き絞った黒弓が風を切った。二人の攻撃はまったく同じに重なって、偽神の前後を貫き通す。風穴の空いた身体の向こう側に、互いの顔が見えたから。二人、言葉なく覚悟を確かめ合う。
「勝つのは、俺達だ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サクラ・メント
アドリブ連携歓迎

何が神よ、何が救済よ
そんなの……ただの生贄じゃない
偽神覚醒――三種の神器の力を開放し戦場へ
プレッジに搭乗し巨大化したコヴェナントを振るう
PSAB最大出力、限界突破で正面からぶつかって攻撃を集中させるわ

私はストームブレイド……この時の為に生まれた様な物だから
偽神細胞でダメージを受ける仲間の援護を最優先
全力のプレッジなら何とか耐えられるはず
斬撃の衝撃波で牽制しつつ
天候操作で落雷を起こして奴の自由を封じるわ
念動力で奴の偽神細胞の飛散を防ぎ
プレッジに持たせたコヴェナントで真っ向から斬りかかる!

私達は助け合ってここまで来た
だから神様、もう大丈夫よ
その力でせめて、自分自身を救いなさい……!


月凪・ハルマ
まぁ……そうだな。自身への救いを願う事は
決して悪い事じゃない

やってやるよ。俺に出来る範囲で、だけどな

◆SPD

偽神細胞は戦場突入前に注入済み
お陰で体中に激痛が走ってるわ流血が止まらないわでかなりキツい
【激痛耐性】【毒耐性】【狂気耐性】がなければ
恐らくもっと酷かったか

流石にこの状態では時間は掛けられない

距離があれば【武器改造】で爆破機能を付与した手裏剣を投擲
向こうの攻撃は【見切り】【残像】【武器受け】【第六感】で回避

向こうが偽神断罪剣を強化してくるのなら
こちらは天墜のエンジンを起動後【破天剛砕錨】を発動
正直痛みのお陰でいつもより回避が辛い部分もあるので
【捨て身の一撃】で真っ向からの打ち合いを挑む



 風穴空いた身体は、まだ崩れ落ちる素振りを見せない。異常な進化を遂げた細胞のみでできた神様の男は、いくらか折れた爪を引き摺っている。
「何が神よ、何が救済よ」
 サクラ・メントは、彼をこのような容にした者達に嫌悪感を露わにする。だってそんなのは、
「……ただの生贄じゃない」
 屍人の少女の吐き棄てたような呟きに、少年は帽子をかぶり直す。朝も夜も、いつまでも誰かのSOSが鳴りやまない世界は、ひどく苦しいものだろうから。
「まぁ……そうだな。自身への救いを願う事は、決して悪い事じゃない」
 それが自らのいのちが断たれるのを望んでいても、それ以外の方法がないのであれば。
「やってやるよ」
 俺に出来る範囲で、だけどな。そうこぼしている間も、四肢が千切れるような痛みに冷静な顔がわずかに歪む。口の中で鉄の味がしたのは、鼻から血が垂れているからで。突入前に注入した細胞の拒絶反応が、しっかりとハルマを殺そうと動いている。幾分かもっていた耐性のお陰で、まだましなのだろうけど。
 死すら望みかける拒絶反応をようく知っているサクラは、なら私が彼らにできることを、と、ましろの嵐と共に旧文明に連なる三種の神器を開放する。
「――偽神覚醒、コヴェナント!」
 ひとつ、宙に放り投げた青電の輝きを放つうつくしき太刀はみるみるうちに巨大化し。
「プレッジ!」
 ふたつ、その名を呼べば虚空から黒き巨兵が舞い降り、少女はピット内へ飛び乗る。
「PSAB、最大出力――ッ!!」
 みっつ、攻防一体の最終兵器は、ばちばちと巨兵を覆う雷として戦場の空気を一気に痺れさせた。
 少女はストームブレイド、この時の為に生まれたようなもの。骸の海殺しとして勇士の死体が継ぎ接ぎになってできている身体は、苦痛に慣れぬ仲間の援護にはちょうどいい。黒の人型兵器が素早く刀を振るい、偽神の断罪の剣と正面からぶつかると、偽神もその体格差をものともしない。
 互角の勝負に感心しながら、ハルマも一気に戦場を駆け抜け、使い慣れた手裏剣を鋭く投擲。サクラを巻き込まぬ位置から飛ばされたそれは、偽神に触れた瞬間、派手な音を伴に爆発する。煙と粉塵が撒き散らされる中から、異形は俊敏な動きで後ろへ飛び退く。
「やっぱり一発では仕留めきれないか」
 こぷり、喉から強い吐き気がしてべしゃりと血を吐く。それなりに気に入っている蒼の羽織りが汚れたものの、洗濯については後回し。偽神がサクラから標的を此方へと変え、三倍の射程を得た断罪の刃が斬撃を放った。五感の向こうのむっつめで見切れば、すんでのところで残像だけが斬り裂かれる。ハルマの逃げ道をつくるように、巨兵が太刀をぶわりと振るった。斬撃による衝撃波が、あらゆる瓦礫が吹き飛んで偽神の目を眩ませる。
「そっちがその気なら……ッ」
 少年は、天すら墜とすと名を抱いた、鎖錨のエンジンの火を噴かせる。振り回すには大きすぎるそれを、ほそい腕はいとも簡単に投げ飛ばす。偽神めがけて殺傷能力の高まった鈍器が風を切ると、足場を粉々に破壊してみせる。正直言って痛みがひどいものだから、彼らしい速度に特化した戦いは望めない。
 ――ああもう、これどうしたらいいんだ。前が見え辛くて仕方がない。真っ赤な視界は血にまみれて、片目はもうろくに使えない。
「痛けりゃ痛いって言えればいいんだろうけど」
 彼は、言える相手が居ないのだ。ハルマがそう想ったと同時、巨兵から少女の声が聞こえる。
「あなた、この手の乗り物に乗ったことはある!?」
「バスなら慣れてますけど!」
 十分、とサクラが応じて、巨兵の片手がハルマへと伸びる。意味を理解した少年は地を蹴って人型兵器の掌に飛び乗ると、一気に肩まで駆けた。
「救済なんて必要ない。そんなことされなくたって、私達は生き延びてこれた」
 ピット内でそう語る少女の焦茶の髪色が、抜け落ちていくように蒼銀に染まる。雷雲が轟いて、明々と世界をひからせる。墜ちなさい、と呟くや否や、凄まじい雷撃の群れが偽神に襲いかかった。
 その場から動けぬ偽神が振るった、断罪の剣から零れる黒赫の毒素が、愛機の肩に乗るハルマに飛散せぬよう強く念じて弾き飛ばす。
「私達は助け合ってここまで来た――だから神様、もう大丈夫よ」
 サクラのやわらかな眼差しは、どれだけ遠くとも確かに偽神のきんいろと交差した。だん、と距離を詰めた巨兵は、青電の刃で断罪の剣に大きな罅を入れる。
「その力でせめて、自分自身を救いなさい……!」
「何!?」
 あきらかな動揺を見せた偽神に追い打ちをかけるように、ハルマが巨兵から飛び降りた。落下速度とエンジンブースト、それら全てを託して、歯を食いしばって叩き落した錨が、折れた外殻を更に破壊する。
 ぶれる意識の果てで、少年の身体は巨兵の掌にそっと抱かれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルファ・ルイエ
神様だからって、人の願いに応えなきゃいけないだなんて思いません。
ただ……、どんなひとが、どんな祈りを抱えていたのかわたしに知ることは出来ませんけど。
知らない神様に祈る声も、殺してほしいと願うこの人の声も、同じ色をしているんじゃないか、って、少し思ったんです。

それでも、ずっと声が聞こえてばかりなのは逃げ場がないですもの。
死んでしまうのは困りますから迷いましたけど、注射、打ちますね。
痛みも苦痛も飲み込んで、あなたに歌を。
祈る声も一時忘れさせるくらいに。
拒絶反応を治癒で誤魔化して、意識が続く限りは歌います。

祈られてばかりだった、あなたの声に応えましょう。
今度は音のない眠りに付けるように。



 戦場に舞い降りた天使の娘は、猟兵達の猛攻によって少しずつ癒えぬ傷を増やし始めた偽神の姿より、その内面こそ痛ましいと思った。神様だからって、人の願いに応えなきゃいけないだなんて思わない。ただ、どんなひとが、どんな祈りを抱えていたのかまでは、シャルファ・ルイエにも知ることはできなくて。
 少しだけ思ったのは――知らない神様に祈る声も、殺してほしいと願う彼の声も、同じ色をしているんじゃないか。
「それでも、ずっと声が聞こえてばかりなのは逃げ場がないですもの」
 空瑞彩の瞳は覚悟を決めて、注射器の針を腕に触れさせる。死んでしまうのは困るから、ちょっぴり迷ったけれど。
 翼で飛んでいた身体が、突然の激痛によってバランスを崩し地に墜ちる。細胞が体内に巡ったのはすぐに察せられて、ふらつく足でなんとか地面に着地した。じくじくと喉が灼けるように痛んで、息を吸うと余計に苦しさが募る。それでも、偽神へと呼びかけずにはいられなかった。
「あなた、歌はすきですか」
「何を、するつもりか……知らないがッ! 俺を殺さない天の御使いなど、不要だ……ッ!!」
 苦悶の表情を浮かべたまま、偽神は罅割れた断罪の剣を構える。黒赫の毒素が血飛沫のように撒き散らされて、少女が無理矢理羽ばたいたことで直撃は避けられたものの、純白の翼をわずかに穢した。
 だんだんと足の感覚がなくなっているから、細胞毒を回避するには飛行以外ありえない。霞草を散らした髪がゆらゆら揺れて、シャルファの意識を痛みが摩耗させていく。ぐ、と裡に溢れる治癒の力を無理矢理引き出して、拒絶反応を誤魔化し続ける。
「あなたを、殺せるとは思ってないけれど……! 眠りへ誘うことなら、出来ます!」
 すう、と吸った息が喉を融かす。熱さで涙が零れるのも無視して、少女は唇に歌をのせる。冬の夜空よりも澄んだきよらかな彩の音色が、偽神の耳にやさしく流れ込む。呻いた偽神が剣を振るうのをやめたなら、真昼の空から遠く、ひかりが墜ちてきた。
 それが無数の流星群だと気付いた時には、既に星々は偽神の頭上に隕石として落下していく。苛烈な星の輝きは、どれも一等級。雨のように降りしきる光景は幻想的ですらあって。
「あ、んぐ、はぁ……ッ」
 シャルファは歌い続けているうちに、声が枯れ始めていることに気付いた。あと少しで、この戦場では使い物にならなくなる。なら、せめて最後まで、彼のために使いきってしまいたい。少女の想いを知ってか知らずか、攻撃の意思を奪われた偽神は成すすべもなく星の雨を浴びている。
 祈られてばかりだった、あなたの声に応えましょう。
「今度は……! 音のっない、眠りに……つけ、る、ように……」
 祈りの声なんて、忘れてしまえばいい。

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
必要と有らば使うまで――だが、己が身を賭す等と云う気は無い
討たねば成らぬものが在るならば、往かぬ選択なぞ無いだけの事

内から身を裂かんばかりの激痛と、呪詛にも似た腐敗の浸食感
痛苦の狭間、唯1つに集中し意識を保つ
成すべきを為し、生きて帰る為に在る――其の証明、意志の刃

――伐斬鎧征、血符にて為さん
得うる五感での情報に第六感加えて戦闘知識で図り
致命と行動阻害に至る攻撃さえ躱せれば些少の傷なぞ構わん
囲い飛ばす衝撃波での牽制に乗じ、最短距離を全力で走破
怪力乗せた斬撃を叩き込んで呉れる

望まず神と在る呪い、叶える事なぞ出来ぬ願いの数々
偽りの神などでは無く、お前は唯の犠牲者に過ぎん
死は此処に在る――疾く、潰えろ



 注入すれば死が身近に迫る異常細胞が、男の手元にある。注射器にとぷりと入った液体はこの上なくおぞましいものに見えたけれど。
 その程度で、鷲生・嵯泉は退く男ではなかったから。必要と有らば使うまで――とはいえ、己が身を賭ける、という気もさらさらない。
「討たねば成らぬものが在るならば、往かぬ選択なぞ無いだけの事」
 一気に太腿に突き刺せば、すぐさま毒は体内に巡る。内側からナニカが食い破るような、身をぐちゃぐちゃに裂く激痛が嵯泉を襲った。同時に、呪詛の香りによく似た腐敗の浸食感が、男の背筋に冷ややかな汗を浮かばせる。
 星々の雨から抜け出した偽神の姿を隻眼が見遣る。向こうも此方に気付いたようで、穴の開いた身体や爪を亡くした部位から、ぼたぼたと赤色を垂れ流していた。嵯泉は痛みと苦しみで奪われていく意識を、たったひとつに集中させる。
 成すべきを為し、生きて帰る為に在る――これはその証明、と、意思の刃を胸中に突き刺す。
 真っ黒に塗りつぶされた紙片の束を、好都合とばかりに口から伝う血で濡らす。一瞬にして赤い焔が燃えあがり、男の身体に血彩のオーラが纏わりついた。その様を昏いきんいろが見て、ああ、と声をもらす。
「お前は……俺を、殺しに来たな……ッ!」
「如何にも」
 ぶおんと風を切る音と共に、三倍の射程と威力を持つ断罪の剣が嵯泉を狙う。得られる五感の全情報に重ねるように、向こう側にある第六感を研ぎ澄ます。刀で威力をいなしながらも、斬撃全てを避けることは叶わない。けれどこの男も、致命傷さえ躱し四肢が動けば、多少の傷は何の問題にもしていなかった。
 端正な貌の頬を裂いた赤はうつくしく、つぅ、と唇にまた彩をつける。身体のあちこちに裂傷が現れようとも、あかく咲く血氣を全て解放すれば、瓦礫すら吹き飛ぶ衝撃波が偽神を襲う。波動の牽制に断罪の剣で受け止めようと動く隙を突いて、全力で疾駆する。狙うのは最短距離、瓦礫も踏みつけ走破した先にある敵手。
 魂の腐るようなひたひたとした感覚も、むしゃりと肉を喰い続ける異物による激痛も、今は意識の遥かかなたに置いて。
 望んでもいない神として在る呪いと、叶えることも永遠にできない願いの数々に埋もれた地獄。
「偽りの神などでは無く、お前は唯の犠牲者に過ぎん」
 肉薄した男の声が、偽神に届く。金の眼が開かれ、剣が応戦するより速く、尋常ならざる怪力を乗せた斬撃が狂信によって生まれた犠牲者に一閃を浴びせる。
「ぐああああああッ!!」
 噴き出る血で真っ赤に染まったのは、むしろ剣豪のほうで。元から黒い軍装は濃い葬送の染みを深める。
「死は此処に在る――疾く、潰えろ」

成功 🔵​🔵​🔴​

エンティ・シェア
ペペル嬢(f26758)と
彼はただ聞こえるだけで、本当は孤独なのかもしれないね
独りで抱えるには、祈りは、重すぎる

ペペル嬢の手を握って、君の雨が齎す闇に浸ろう
大丈夫。私はここに居るよ
君がこうして手を繋いでいてくれるから
私も、痛いのくらい耐えられるさ

華断で橘を舞わせて
闇に満たされる前に、彼を見つけて纏わりついて
あるいは見つけられなくたって
こちらへ向かう彼から守ってくれるはずさ

繋ぐ対の手にはspiceを握って備えよう
大丈夫
君が、そんな痛みに耐える必要はないんだ
痛みを追いやるやさしいくすりを、繋ぐ君の手に握らせて
私は、見守るよ
大丈夫。もう少し、一緒に頑張ろう
繰り返す言葉が、手のひらから伝わりますように


ペペル・トーン
エンティちゃん(f00526)と
誰かと一緒にいたい私には不思議な願い事よ
…声が聞こえるだけなのは寂しいわね

お話に疲れてしまった貴方
私の海はとても静かで
大丈夫、貴方しかいないわ
望みの先に、安らげるお話がありますように

何もない闇の中は私を不安に浸すも
繋いだ手が、貴方がいると教えてくれる
その中で響く痛みは夢をかき消す程鮮烈で
薄らと滲む視界が揺れたと思えば、膝をついたのは私のよう
大丈夫と答えるように握り返すも
弱まる雨は違う答えを囁くの

渡されたやさしさに頼ってしまえば
緩やかに痛みは解けるも
貴方と対等でいられないのが少し寂しい
でも、見守ってくれているのを知っているから
私は答えたいの
もう少しだけ、頑張らせて



 ざわざわと、ごうごうと、ひそひそと、誰かの声がずっと聞こえる。ひとりぼっちになりたいという偽神の望みに、ペペル・トーンは小首を傾げた。
「誰かと一緒にいたい私には不思議な願い事よ」
 きょとりとした少女の隣で、エンティ・シェアはやわらかくペペルに言葉を返す。
「彼はただ聞こえるだけで、本当は孤独なのかもしれないね」
 ――独りで抱えるには、祈りは、重すぎる。
 ほんとうは、とっくにひとりぼっち。エンティの優しい笑みの意味することに、ペペルはふたいろの瞳を少しだけ伏せる。
「……声が聞こえるだけなのは、寂しいわね」
 荒んだ戦場に降り立った二人を捉えたきんいろの眼は昏く、その身は随分とずたずたになっている。それでも、その眼に宿った殺意と憎悪が尽きた様子はない。けれどエンティとペペルには、その眼差しがこわいとは思わなかった。
「お話に疲れてしまった貴方、私の海はとても静かよ」
 少女がしゅわりと甘いソーダのような声を出す。儚さを含んだそれを睨みつけて、偽神は言葉では返さず断罪の剣を振るう。黒赫の毒素がこぷりと溢れて放たれる寸前、青年はましろの本の頁を捲る。溢れた橘の花弁が二人を覆って、細胞毒からの壁をつくる。それでも隙間から漏れでた毒がわずかに散って、クリームソーダとガーネットをぽつぽつと穢した。
「大丈夫、貴方しかいないわ」
 ――望みの先に、和らげるお話がありますように。
 砂糖水の吐息がこぼれて、荒れ放題の戦場にぽつぽつと雨が降り始める。それはひと粒ぽちゃんと落ちる度、光を吸って世界を闇彩に染めていく。
 不安に満ちていくペペルの手を、エンティがそっと繋ぐ。互いに打ち合った注射器の中身は体内を巡って、心までもが震えるほどの激痛となって踊っている。
「大丈夫、私はここに居るよ」
 とぷりと闇に浸りきる直前、青年は少女にそう微笑んだ。だって、彼女がこうして手を繋いでいてくれるから。
「私も、痛いのくらい耐えられるさ」
 ほわりと笑みを返したペペルの顔が見えなくなるまで、確かにエンティは緑の眼で彼女を視ていた。
「……ッ!」
 偽神が気付いた時にはもう、そこは真っ暗でなにも見えなかった。敵影を探して駆けようにも、物音ひとつ聴こえない。
「何処だ……ッ! 何処に隠れて……」
 ふと、彼は更なる異常を知る。それまでずうっと聴こえていた無辜の声が、ぱったりと止んでいる。生まれた時から共に在った疎ましいそれから、初めて解放された瞬間だった。
 なんにもない闇の海、それはペペルもおんなじで。ただ、繋いだ手だけが彼を教えてくれる。今すぐ悲鳴をあげて、融けてなくなってしまいたいような痛みは、あわい少女の夢すらかき消す鮮烈さ。
 涙の膜で滲む視界が揺れて、ぐらりと地面に膝をつく。そっと支える手を握り返して、大丈夫、と応えようとしても、少女の力にあわせてだんだんと雨は弱まっていく。
 握り返してきた手の力と雨が弱まるのを感じて、エンティはまほうのくすりを握らせる。いたいのいたいのとんでいけ、それは苦痛を和らげるための合言葉。
 ――君が、そんな痛みに耐える必要はないんだ。
 悪霊の身でも、焼けつくような激痛ははっきりと知覚している。けれどどうかなにより、君のこころが痛まぬよう。
 青年の想いが届いたのか、少女の胸にやさしさが沁みて苦しみがほどけていく。それが彼と対等でいられない事実のようで、少し寂しくなった。
 弱まる雨の中、足音が聴こえる。此方まで疾駆する偽神は、膝をついた少女の音を捉えたのだろう。それを迎え撃つ花弁の群れは偽神に纏わりついて、追憶の刃として全身を捕らえていく。彼女を見守ると決めたから、エンティとて倒れる訳にはいかない。
「大丈夫。もう少し、一緒に頑張ろう」
 その言葉は聞こえなくても、掌から伝わる温度が確かに在る。見守ってくれているのを知っているから、答えたい、応えたい。
「もう少しだけ、頑張らせて」
 雨の勢いが増す。ざあざあと、さめざめと。土砂降りよりもやわらかなそれが偽神の身を濡らして、花弁と共に見えない彩を飾りつける。何も聴こえぬ見えない世界で、ふいに立ち尽くした彼の頬を濡らす、雨のひとしずく。
「大丈夫」
 そこにいるのは、あなただけよ。
 せめてひと時だけでも、祈りばかりの寂しさから抜け出せますように。彼の願いに、こたえられますように。
「あ、ああ……」
 少女の微笑は見えず、その言葉も聴こえない。けれど震える偽神の身を、華の群れが舞う。守るための刃は、どこまでもやさしく、ほのかに白く。
 ――花雨が、止む。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

殺さない。

助ける。


偽神細胞を躊躇なく打つ
俺の考えが、心が『偽善者』だと、『綺麗事』だと散々罵られても構わない
俺は猟兵だ、けれど刑事だ
殺すよりも「助けたい」と思う
必死で手を差し出したいと思う
その心に嘘は吐けない、吐きたくない
いつだって俺たちは、誰かを護ることが使命の筈だから

生まれつき感覚全てが鋭敏な為に、拒絶反応が痛みを中心に惨く苛む
然し一欠片ともその苦痛を表に出さない

デミウルゴスも、彼に祈る人々も、助けたい
だからこそ"切り離す"
その方法が骸の海へ眠らせる事しか出来ない己の無力さに憎悪しながら
抜くは我が一刀
込める願いは安息

ダンピールの備えし力は──



 雨が止んで、花が散る。瓦礫だらけの無惨な世界に戻った戦場で、偽神は頭を抱えて呻いた。自我を取り込まれそうな呼び声が脳内に帰ってきて、あらん限りの拒絶を口走る。
「煩い、煩い……! どうして放ってくれない!? どうして勝手に死んでくれないんだ!!」
 その叫びが聞こえていたから、丸越・梓は躊躇なく注射針を太腿に突き刺した。細胞液を注入した途端、ぐるりと世界が反転する感覚に襲われる。そうしてすぐに、内側から無数の針で刺されるような痛みが全身を覆う。
 一瞬落ちかけた意識と身体は、愛刀を支えにする。その眼はまっすぐに偽神を見据え、口の中に広がる鉄の味を軽く吐き棄てた。体勢を整えた青年の姿を見て、刀とその覇気に惹かれたように、偽神がゆらりと歩き始める。
「お前は……俺を、殺しに来たな……ああそうだ、そうだろう……?」
「殺さない」
 はっきりと告げる梓の返答に、ひくりと偽神の口の端が歪む。なに、と呟いた彼に、猟兵はもう一度答えた。
「殺さない――助ける」
 偽神の動きは俊敏だった。一気に距離を詰め、ぼろぼろの外装に包まれた異形の腕が梓の首を狙う。すんでのところで躱した青年が真横に跳んで、迫る剛腕を刀で薙ぐ。普通なら断ち切れているはずの腕は外装によっていまだ硬く覆われ、既に断たれた爪部分の出血は止まっている。
「驕るのも大概にしろ……ッ! 殺さずに、助ける? 俺を救うことなど、出来るものかァッ!!」
 いくら歴戦の猟兵といえど、万全の身ではない梓にも、異腕による無数の連撃を避け続けるのは限界があった。頭めがけて繰り出された拳の一打をもろに食らえば、激しい衝撃のあとに視界の端が赤く染まっていた。
 ただでさえ生まれつき鋭敏な感覚が、拒絶反応を明確に知らせていた。全身から噴き出す汗が血と混じる。けれどその表情はいたって静かで、ただ淡々と偽神の攻撃を回避し防ぐことに集中している。
「何故斬らない!? その刀は飾りか!! 俺を助けたいのなら――殺せェッ!!!」
 剛腕が奔った。きっと次の一発はもう避けられない。だから避けない。梓の心は、最初から偽物の彼を救うと決めていた。
 その考えが偽善だと、綺麗事だと罵られようとも。丸越・梓は猟兵であり、刑事である。誰かを殺すよりも、誰かを助けたいと思うただの警察官だ。最後まで手を差し伸ばしたいという心に嘘はつけず、つきたくもなかった。
 ――いつだって俺たちは、誰かを護ることが使命の筈だから。
「お前も、お前に祈る人々も助けたい」
 そう語った青年は、初めて偽神に刃を向ける。救済の方法はただひとつ、骸の海へ沈めるのみ。ああ、なんて無力さだろうと、自分自身を憎悪して。
 刃は剛腕をすり抜けて、偽神の胸の奥を貫いた。ダンピールの備えし力は、偽神を偽神たらしめる根源への攻撃。つよく込めた願いごとはひとつだけ。
「――おやすみ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
■心情
何がなんでも戦い続けてやる。壊れても戦い続けてやる。
この悲しい存在に、生れた瞬間から存在を否定され続けた者を、終わらせてやるまで!死んでなるものか、否、死んでも戦い続けろ!!

■戦闘
偽神細胞液を接種後即デミウルゴスへ走る。
同時に【戦塵の悪霊】拒絶反応含め身体に過負荷を掛けて自身を強化。

ああああ、壊れろォオッッ!!

UCの肉体への過負荷に拒絶反応の出血と激痛、そのどちらも闘争心でねじ伏せ、走り、デミウルゴスへ怪力で騎兵刀を叩きつける!!
崩壊霊物質で刀をオーラ防御、刀を食われないよう、崩壊霊物質の刀身で敵を解体切断する。

刻一刻と体への負荷が加速する。継戦能力、念動力で身体を動かす。例え食われても、時間と拒絶反応の分、代償の高さはこっちが上を行く!そも敵がほぼ自滅UCなこれを使うかどうかは分からない。
自分はただ、

『壊れるまで、戦い続けろ!!』

召喚したRX-A竜骨爪を念動力で操縦、デミウルゴスへ重量攻撃。
早業で、竜骨爪を避けるかどうかした敵へ接近し刀を突き刺して、崩壊霊物質の呪詛を流しつける!



 ぐらりと大きく体勢を崩しながらも、偽神は断罪の剣を支えに立ち上がる。殺してくれと願った男は、それでも何かに執着しているようだった。何故だかそれが無性に悲しく思えて、少女は細胞液の入った注射器をぶすりと自分の膚に勢いよく突き刺す。
 何がなんでも、壊れても戦い続けてやる。いやそうしなければいけないと、朱鷺透・小枝子は思わずにはいられなかった。
「ァアアア!!」
 小柄な姿には似つかわしい咆哮が響き渡った。すぐにどくどくとエクトプラズムの心臓が早鐘を打ち始めたのに、更なる過負荷を掛けて肉体強化を図る。即座に偽神へと駆けだした小枝子を捉えて、偽神はかわいた笑いをもらす。
「は、は……なんだ、そのザマは……ッ! 俺と、同じだと言いに来たか……?」
 だらりと鼻から赤を垂れ流し、充血した瞳からは涙の代わりに同じ彩が流れ出る。ぶちぶちと血管が切れていく痛みは苛烈で、それら全てをぐらぐらと煮え滾る闘争心がねじ伏せ誤魔化す。お手軽ぽんこつな頭の中は、ただ目の前の悲しい存在を壊して終わらせてしまうことでいっぱいになっていた。
「壊れろォオッッ!!」
 少女の身には大きな騎兵刀を、凡その人間には到底及ばぬ腕力で叩きつける。受け止めた断罪の刃が、突然ぐぱんと口を開けた。小枝子の選んだ力を喰らうように、封じられていた翼がぎちぎちと花ひらく。
「その力、寄こせ……!」
 異常発達した剛腕が少女の刀をへし折ろうとしても、禍々しい血蝕のオーラが刀を覆って防いでいる。悪霊の身でこそ操れる霊障が具現化した刃が、剛腕に斬撃を振るった。偽神の絶叫と共にぼろぼろと崩壊を始めた外殻は、ただ惨たらしく大量の血飛沫と肉をぶちまける。それらを全身に浴びようと、小枝子が止まることはない。
 だって、生まれた瞬間から存在を否定され続けた哀れな者を、この戦場で終わらせてやるまでは。
(死んでなるものか――否、死んでも戦い続けろ!!)
 そこまで彼を終わらせることに執着する理由を、馬鹿な頭は理解していない。ただとても悲しくて、からだではないどこかが痛くて仕方がなくて、けれどこれが、慈悲や優しさという感情でもないのだけはわかっていた。
「あ、がっ」
 耐えきれない激痛と嘔吐感が喉を昇ってきて、ごぷりと衝動のままに真っ赤な血だけがびちゃびちゃと噴き出る。刻一刻と少女の肉体への負荷は加速して、意志と念動力で無理矢理四肢を動かす。無様な姿はどちらも同じで、代償の高さで言えば小枝子のほうが圧倒的に自身の身を滅ぼしていた。
 昏い笑みを浮かべたまま、よろける身体で偽神は少女を嗤った。
「聴こえるか、救済を求める愚かで身勝手な者どもの声が……聴こえていたとしても……ッ! もう、お前には何も、聴こえていないんだろうな……ッ」
 うらやましい――偽神の唇が確かにそう動いた気がして、闘争という名の熱とは違う熱いものが脳に巡る。
 頭の悪い馬鹿な自分は、言葉などで彼を救えやしない。国と兄弟を喪くした一介の下っ端兵士にできることなんて、今も昔も変わりゃしない。
 ただ、それでも、頭のナカと何処かに忘れたこころが叫ぶのは、ああ、そうだ。
『壊れるまで、戦い続けろ!!』
「ァァアアアアアア!!!」
 少女の瞳孔が大きく開いて、再びあげた咆哮に喚ばれるように、人型巨人兵器の武装籠手が現れた。ふぅふぅと獣じみた呼吸で偽神を睨んだまま、限界まで高めた念動力が籠手をめちゃくちゃに操縦する。鋼すら紙のように裂いてしまう爪を、偽神の身体が避けた。
 瞬間、悪霊の娘は疾駆して、血濡れの刀を男の腹部に突き立てる。
「これでッ! 終われェエッ!!」
 流れ込む呪詛は一瞬で偽神の全身を襲い、それは彼が初めて断罪の剣を手放した瞬間だった。
 ――そこまでで、ぶつりと小枝子の意識は遮断された。

大成功 🔵​🔵​🔵​

子犬丸・陽菜
産まれは自由に選べないとはいえ…可愛そうな気もするね
死によって開放されるのであれば、それを望むのであれば…手を貸してあげる
貴方だけを苦しませるようなことはしない
心の痛みは分かってあげられないかもしれないけれど、一緒に苦しんであげる

体内に細胞液を投与

うっ…ぐぶ!?
宝珠を起動している訳でもないのに無数の手で臓物をぐちゃぐちゃにされてるみたい
あ、うあ、ああああ!?

身体を丸めて腹を抑えて崩れ落ちる
激痛耐性はあえて無し、腸を絡め取られて握りつぶされる臓器の苦しみ
口の中に広がる血の味

他人の痛みを知らずして傷つけることは許されない、あたしの中ではね

ある意味苦痛よりも辛いかもね…
神に心がなんてことはない

そっか、分かってくれる人、歩んでくれる人がいなかったのかな
せめげ寄り添ってくれる人がいたら

短い間かも知れないけど、そばにいてあげるよ
頑張ったね、辛かったね

お腹を押えた手が血で真っ赤、内側から裂けてる
溢れ出そうなはらわたが見え…

ここまで来れば枷の威力は絶大
下手に苦しませないために一撃のみ

あたしの意識は闇に…



 どさりとその場に倒れた偽神を、次に戦場に降りた少女はすこしばかり離れた距離で見つめていた。
「産まれは自由に選べないとはいえ……可哀想な気もするね」
 その後の人生の岐路は自分で決められる。苦しむ彼を見てそう言いきるほど、子犬丸・陽菜は勝手な娘ではなかった。むしろ少女は、その逆であって。此方が届ける死によって彼が解放されるのであれば、それを彼が望むのであれば。
「手を貸してあげる」
「……何、を、言って」
 偽神の元へと数歩だけ歩いて、陽菜はそう告げた。意味を理解できずに言葉を返した偽神にちいさく微笑んで、しろくうすい腹に針を刺して異物を投与する。一瞬くらりと眩暈がしたかと思えば、とっくに慣れたはずの激痛が小柄な身を襲う。
「うっ、ぐぶ」
 拷問具の動力源となる依代を起動していないのに、ぐちゃぐちゃと無数の手が内臓をかき回すようなあの感覚。身体を丸めてその場に崩れ落ちた少女は、ただその痛みに腹を抑えて悲鳴をあげる。
「あ、うあ、ああああ!?」
 痛い痛い痛い、覚悟はしていたのに。無邪気な悪戯っ子が臓物を引っ張り合うかの如く、それでいて蟲が肉を食い破るかのようで。何者かがけらけらとわらっている気がして、ひどく耳の奥がきぃんと鳴っている。
 苦痛を和らげるための策は持ってはこなかった。無策だったのではなく、彼女の信条が絶対に赦さなかったから。
「耐えきれない痛みの前で……俺に、どう手を貸す……つもりだ……!」
 断罪の刃を手にとって、偽神はいつの間にかゆっくりと立ち上がろうとしていた。それを黒の瞳は見上げて、口に広がる鉄彩の液体を溢しながら無理に喋る。
「他人の、痛みを、知らず……して。傷つける、こと、は……許、されない。あたし、の、中では。ね」
 ぐずぐずと痛みは続いていて、それでも少女は更に己に痛みを重ねる。仕舞っていた宝珠の力を起動すれば、臓物を千切られる感触はどんどん増していく。わぁわぁと泣き叫んでもいいけれど、それをあたしがしたって彼が救われたりはしない。
「貴方だけを、ぐ、苦しま、せる……ような、こと、は……しない……ッ」
 心の痛みはわかってあげられなくても、一緒に苦しんであげる。涙を流してひくりとわらう陽菜を見て、きんいろの眼がぶるりと震えた。
「驕るな! 俺を、憐れむな! お前に俺の苦しみがわかる訳もないのに、共に苦しんでやる!? 笑わせるな!!」
 激昂した偽神の振るう断罪の刃によって、黒赫の毒素がうずくまる少女の頭上に降り落ちる。ぼたぼたと粘つくそれが膚のあちこちを焼いて、内側へと染みゆくほどに陽菜は痛みにあえぐ。ああ、だけど――もっと、もっと、彼を知るために。
 男は、ある意味苦痛より辛かったのかもしれない。『神に心がない』なんてことは、ない。そっか、と何か納得したように呟いて、ひずむ聖女はやさしく語りかける。
「分かってくれる、人……一緒、に、歩んで……くれる、人、が。いなかったの、かな」
「……やめろ」
「せめ、て、寄り添って、くれる、人が……いた、ら」
「黙れ、」
 あたたかな眼差しを寄こしてばかりいるちいさな娘に、偽神は後ずさる。どくどくと溢れる血は止まらず、腹を抑えた手はあかい。裂けた腹から見える少女の中身が、すこしだけ顔を覗かせて。
 ――ここまで痛みが重なれば、もう十分。
「だいじょうぶ。もう、いいんだよ」
 穏やかな視線に纏わりつくようなイメージが、ぞうぞうと偽神の視覚から痛覚へと移動する。たった一撃に籠められた苦痛の枷は、偽神に肉体を真っ二つに割られるような衝撃を送り込んだ。ああもう駄目だと思ったのは、まぎれもなく陽菜のほう。
(貴方の最期まで、一緒に居てあげられなくてごめんね)
 朦朧としていた少女の意識はついに手放されて、こぷりと闇に沈む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

にゅああああああ
めっちゃ効く~~~っ
これは…ストロベリーパフェ味!
でも偽神化するっておかしくない?ボク神さま?なんだけど!

●戦闘
なるほどね!つまり攻撃を受けなければいいんだね!
勘【第六感】で機を読み回避し、カウンターでUC『神撃』をドーーンッ!!

●オーバーロード
うー死ぬ死ぬきっついこれ…うにゅ~~……
(ばたんきゅー)
……あちょっとちょっと!帰って!呼んでないからね!空とかパーッと光らせて天使くんたちなんかよこしても行かないから!
――――またケツに稲妻を喰らわされたい訳?…そう!わかればいいよ!

ふぅ…
はろーはろー?デミウルゴスくん?まだボクの声は聞こえてる?
んもー
そんなの一々真に受けなくていいんだよ?
ただ聞いて、受け止めてあげればいい
それだけだよ
彼らを救うのも、赦すのも、彼ら自身がやることだよ!
耐えられない?無責任?
アハハハ!キミ、ボクよりよっぽど神さまの才能があるねえ!
と真面目な彼にせめて神さまなんてもっと気楽にやっていいんだよって教えてあげよう
あ~疲れたぁ~~



 びしゃびしゃと、派手に赤彩を口から吐き出す。四肢の全てに伝わる激痛から、偽神は呻いた。終わりを求めているはずの男は、それでもどうしてだか立ち上がる。だって目の前に、新たな敵が立ち塞がろうとしているから。
「にゅあああああ、めっちゃ効く~~~ッ」
 甘い髪を揺らして、ロニ・グィーは注射針をぽいっと地面に投げ捨てた。ぐるぐると回転反転逆転する視界と共に、刺激がぐちゃぐちゃと身体をかき乱す。うぅんと喉に粘つくようにくっつく味を確かめて、
「これは……ストロベリーパフェ味!」
 舌まで痺れる吐き気を催すほどの甘さを呑み込んで、ふと疑問符を浮かべる。でも偽神化っておかしくない? ボク神さま? なんだけど!
 少年の正体を知る由もない偽神の瞳は、罅割れ裂けた外殻の腕と断罪の刃を手に殺意を宿したまま。
「何人来ようと、同じだ……俺を、殺せるのは……ッ! 存在しえぬ、神だけ……!!」
 一気に距離を詰めてロニへと接近して、烈しく剛腕が殴りつける。拳を喪い裂けた肉からぐぱりと真っ赤な口が開く。軽やかに避けた少年は、なるほどね、といつものように無邪気に笑う。
「つまり攻撃を受けなければいいんだね!」
 それなら簡単、と瓦礫まで駆け上がったと同時、巨大な刃がロニの足場を叩き割る。焦ることなくひらりと躱した姿は、どこかの世界の昔話にある、僧兵を相手取る牛若丸にも似ていた。
 遊園地のコーヒーカップを高速回転で遊び過ぎた直後のような、捻じれたジェットコースターを休みなく五回連続で乗車し続けたような、常人なら気絶しかねない感覚がロニのバランスを崩す。けれどその身軽さは変わらない。
「潰れろ……!!!」
 もう一度、振るった剛腕が禍々しい口を開けながら少年に叩きつけられる。五感の遠く、むっつめの知覚が察知したなら、大振りな動きの真下の空間に飛び込み回避。小柄な身がすぐさま真横に跳んで、ちいさな拳がグーの形をつくった。
「な、」
 昏いきんいろの眼に映ったそれは神々しく、幼い彼から発せられているとは思えぬほど、眩い光があふれていて。
「まさか、そんな、馬鹿な……お前は、」
「そうだよ」
 ――ボクは、キミが信じない神様だ。
 轟音と共にひしゃげた腕は耐えきれず、今度こそ滅茶苦茶に吹き飛ぶ。ボクひとりの一撃じゃ、此処まではちょっと難しかったかな、とロニは思う。片腕を亡くした偽神と、神様が地面に倒れたのは二人同時だった。
「うー死ぬ死ぬきっついこれ……うにゅ~~」
 ばたんきゅう、そんな効果音と共に倒れる少年の耳に聴こえたのは、懐かしい聖なる合唱と壮大な音色。うわ嫌な予感、と目を開ければ、天から差す光と共にラッパを手にした無垢な天使達。
「……あちょっとちょっと! 帰って! 呼んでないからね!?」
 そんなの寄こしても行かないから! と慌ててじたばた四肢を動かす。めちゃくちゃ痛い。だから明るいきんいろの眼を鋭くして、
「――またケツに稲妻を喰らわされたい訳?」
 天使も光も天へ帰っていった。わかればいいよ、と手をしっしと追い払うように示して、ひと息つく。
「はろーはろー? デミウルゴスくん? まだボクの声は聞こえてる?」
 呻き苦しむ偽神の様子は、此方の声よりもうるさいそれに耳を傾けているのがわかった。
「んもー。そんなの一々真に受けなくていいんだよ? ただ聞いて、受け止めてあげればいい」
 それだけだよ、とアドバイスしてやれば、馬鹿な、と呟きが返される。
「だって彼らを救うのも、赦すのも、彼ら自身がやることだよ!」
「……俺には、耐えられん」
「聞こえてるのに助けてあげないのは、無責任?」
 アハハハ、と嘲笑ではない笑い声をあげる。
「キミ、ボクよりよっぽど神さまの才能があるねえ!」
 真面目な彼に、せめてかみさまなんてもっと気楽にやればいいと教えてやって。
「あ~疲れたあ~~」
 殺し損ねてしまったけれど、続きはやさしい誰かに任せよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
考えたことなかった
かみさまが救いの手を伸ばしているなんて
例えそれが偽物でも

注射してから全身が熱い
力も気持ちも溢れ出て止まらなくて天に向かって叫びたい、そんな気持ち
むず痒い感覚に手を見れば、歪な形をした羽根が肌から生えている
わたし醜い姿をした鳥のかみさまになっちゃうのかな

彼の攻撃の勢いを≪咎人の鎖≫で[受け流し]、時にはその剣、その身体を[捕縛]しながら≪パニッシャー≫で攻撃します
鎖で往なせなかった彼の攻撃を[オーラで防御]すればするほど、銃に魔力を込めれば込めるほど捻じれ捩れた羽根が生えてきても

強毒化した偽神細胞は[浄化]の力を身体の内側から呼び起こし中和を
今のわたしなら出来る――新たな羽根が生えるんだろうな

何時だって聞こえる祈りの声
わたしだってそんな状況になったら「もうほっといて」って言っちゃうかも
だから彼の望みをわたしは叶えたい
UCを発動します

彼を取り巻く全ての音を消し去り与えるのは静寂と安寧
パニッシャーでしっかり狙って

大丈夫、どんなに身体が痛くても
わたし今は神様だから――外さない



 少年と入れ替わるように転移したオラトリオは、隻腕となったぼろぼろの偽神の姿に後ずさる。こわくて、かなしくて、ショックだったのは、その惨たらしい姿ではなくて。
 ――考えたことなかった、かみさまが救いの手を伸ばしているなんて。
 たとえそれが偽物だとしても、確かな信仰の元に生きるハルア・ガーラントには言葉にできない衝撃だった。
 戦場に降り立つ前に細胞液を接種してから、ずっと身体が不思議な熱を宿している。わきでる力もこみあげる気持ちも溢れでて、光降らぬ天へと胎の奥から叫びだしたくなる衝動に囚われる。ぞわぞわとしたむず痒さに、掌を見た。
「あ……」
 しろい指先に、いびつなましろの羽根がぽつぽつと生え始めている。中途半端に羽毛を持たずに生まれてしまった雛のような、それよりも醜悪な見目。悲しいとは思わなかったし、おぞましいとも思えなかった。
「わたし、醜い姿をした鳥のかみさまになっちゃうのかな」
 ぽつりと溢した呟きを、偽神が嘲笑う。片腕をもがれそんな力も残ってやしないだろうに、強者の威圧はごうごうと娘を襲う。
「ひどい、有様だな……得体の知れない、何者かに……なって……無意味に、死ぬつもりか?」
 問いかけへの答えを待たずに偽神は疾駆。残る右腕が断罪の大剣でハルアの身体をひと薙ぎしようとしたが、娘の翼に絡みつく鎖によって刃を縛りつけられる。威力を殺しきれないと悟って、ハルアは自身にひかりを与えた。聖なる加護が剣と娘の間に膜を張り、ぎゃりぎゃりとうすい防御を破ろうとする。バックステップで距離を置き、宙へと羽ばたきながら扱い慣れた狙撃銃に魔力を籠める。連射される魔弾を弾かれようと、狙いはずうっとかみさまに。
 くらくらとゆだるような熱は冷めてくれない。聖なる加護を借りれば借りるほど、銃に籠めれば籠めるほど、天獄の力を扱うごとに娘の腕は異様な翼に変貌していく。ねじれてよじれた無数の羽根が生えても、熱にうなされたせいか痛みはかすか。
「は、ぁ……ふぅ……ッ」
 うっすらと浮き出る汗の粒も、どんどん増える羽根に沁みて消えていく。このまま彼岸の力を降ろし続ければ、どうなるか。
 わずかに脳裏に過ぎった結果に気を取られた娘を見て、一瞬の隙を突いた偽神が大剣を天へと振るう。上空を舞うハルアめがけて黒赫の毒素は飛沫をあげて、ましろのうつくしい翼を穢す。再び娘はその身に宿した光を浄化の力へと変換。内側から呼び起こされる力は、彼女をどんどん異形へと変えていった。
「今のわたしなら、あなたの強すぎる毒だって中和出来る」
 墜落するのを地上から狙う偽神にそう言い放つ。――ああ、でも。また新たな羽根が生えるんだろうな。
「ぐ、ぅうう……やめろ、黙れ、いつまでも、どうしてこんなに煩い……!」
 見えない誰かに怒鳴る昏いきんいろは、ハルアのよく知る瞳の彩とは随分違っていた。いつだって聞こえる祈りの声は、どんなに耐えがたいだろう。
(わたしだって、そんな状況になったら「もうほっといて」って言っちゃうかも)
 だから、娘は彼の望みを叶えたい。唇がうごいて、うたが流れた時。苦悶の表情を浮かべていた偽神の目が見開かれた。
「あ、ああ……」
 なんの音にもならない聖歌が戦場の全ての音を消し去り、光の雨があふれてやまない。芽吹くいのちは何処にもないのに、光降る風景は何もかもを赦したようだった。あたたかな眼差しで謳い続ける娘の両腕は、綺麗なモノではなかったけれど。
 無音の世界に連れてこられた偽神が立ち尽くしているのを、狙撃銃が狙う。身体はあつくて、痛みもだんだん強くなってきて、だけど大丈夫。
 わたし今は神様だから――外さない。
 最大限の魔力と想いをあらん限りに籠めた、たった一発。偽神の右眼を撃ちぬいて、血飛沫がとぶ。
 かみさまだって、血は赤いんだ。天から取りこぼされたように、娘は地に墜ちていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
救いを求める声が聴こえたとして
手を伸ばしても届かないなら
それはただ苦しいだけだ

だから昔の俺は全部を切り捨てた
怨嗟も、悲鳴も、救いを求める声も
すべて殺してしまえばいいって

そうして、何の音もなくなって
いつか、何も感じられなくなって

それでも
苦しいのは、止まらなかった

偽神化して戦うよ
激痛に漏れそうな悲鳴は噛み殺す
耳に届く幻聴が救いを求めようが呪いを喚こうが
“今”の俺はもう揺らぎもしない

全て切り捨てたからじゃなく
為すべきことを知っているから

動きをしっかりと視て戦うよ
基本の骨格がヒトである以上
慣れ親しんできた戦場での戦いと変わらない
培ってきた戦闘知識は助けになるだろう
目線、体の動き、武具の撓る音、得物の大きさ
全ての情報から相手の動きを見切り
こちらの射撃をしっかりと当てていく

救ってやる、なんて言えない
終わることが救いかどうかなんて、俺にはわからない

それでも
似ているようで、だけど自分とは違う
そういう、あんたの苦しみを
止めてやることはできて
忘れないでいると決めたから

静寂の涯てまで、送ってやるよ
もう、眠りな



 これはたとえばの話。もし自分の耳にいつも休みなく、救いを求める声が聴こえたとして。その声はどこの誰かもわからず、どうしてやれば助けてやれるのかもわからず、手を伸ばしても届かないなら。――それは、ただ苦しいだけだ。
 これは決して遠くはない昔の話。だから鳴宮・匡という男は、全部を切り捨てて生き延びた。憎しみばかりの怨嗟も、嘆いてばかりの悲鳴も、痛くてたまらない救いの声も、すべてすべて殺して生きた。そうして気付けば、彼の耳にはなんの音も聴こえなくなって、いつしか心にはなんにも感じられなくなって。凪いだ海はうつくしくさえあったかもしれない。それでも、
(苦しいのは、止まらなかった)
 片腕をもがれ、前髪が覆う右眼は抉られ、腹にはぽっかりと穴が開いている。全身には凍傷、弾痕、刀傷、衝撃波の名残、無数の魔力の残滓。神様と呼ぶにはあまりにもひどい惨状を晒して、偽神はぜいぜいと息を荒げてまだ立っている。
 殺してくれと願っていた筈の彼は、それでもやっぱり生きていたいのだろうか。それとも、何かを諦めきれずにいるのだろうか。匡には偽神の意思を読み取れはしなかったけれど、遺った左眼が苦痛の彩をしていることだけは確かで。
 少しばかり袖を捲った二の腕に、注射針を突き立てる。巡る新たな異細胞は、匡をかたちづくる六十兆もの細胞達とすぐさま烈しい喧嘩になった。内側でぶちぶちと血管が千切れる音がして、いくつもの戦場で痛みに慣れたはずの身体が悲鳴をあげる。崩れ落ちそうな足を踏ん張って、叫びだしたい衝動を噛み殺す。両腕が軋んで、死神の眼を持つ視界がやたらとぶれる。
「……ッ」
 青年を襲うのは激痛だけではない。あの頃見て見ぬふりをした『たすけて』が、ゆるさないと呪う怨念が、脳内をぐちゃぐちゃにかき乱す。噛んだ唇は鉄の味が滲む、ひっきりなしに心を墜とそうと声が唸る。だけど、“今の”俺はもう揺らぎもしない。
「全て切り捨てたからじゃなく、為すべきことを知っているから」
「何を……言っている……!」
「なんでもないよ。ただあんたを、殺しに来たんだ」
 青年が告げた途端、三倍の射程を得ている断罪の大剣が彼を薙ぎ払わんと風を切る。ぐらつく視界の中で、無理矢理偽神の動きを見定め刃を躱す。神だろうが、基本の骨格はヒト。慣れ親しんだ戦場での戦いとは何ひとつ変わらない。
 敵の目線、身体の動き、刃を撓らせる音、得物の大きさ、此方との距離。すべて幼い頃からの戦いの経験が、知識と成って匡に染みついている。
 必要なのは拳銃ひとつ。一発撃てば遮蔽物で身を隠し、また飛び出しては次を一発。素早く駆け抜け刃を回避。その繰り返しで、少しずつ、確実に神様を殺していく。
 ふいに隠れた瓦礫が叩き割られて、視界に大きな体躯が目の前に在る。いつのまに、と考えるよりも先に足が動いて後退しようとした時、一気に距離を詰めた偽神が匡の左腕を斬る。すんでのところで直撃を避けたものの、威力の上昇している刃の傷は深く。黒いジャケットに染みが広がったのを見て、偽神が嗤った。
「やはりそうだ……誰も……誰もを俺を、」
「――ああ、そうだな。救ってやる、なんて言えない」
 ぱん、と銃声が響く。偽神の胸を弾丸が穿つ。呻く彼に青年がそう返せば、細胞同士が噛みついてこぷりと口から血が漏れ出る。終わることが救いかどうかなんて、自分にはわからないから。それでも、
「似ているようで、だけど自分とは違う。そういう、あんたの苦しみを、」
 止めてやることはできて、忘れないでいると決めたから。
 断罪の刃が真上に落ちてくる。その瞬間の、たった一度がラストチャンス。左腕がイカれても、右腕は使える。痛みで震えが止まらなくても、引き金を引くだけの力は残っている。死神の眼は、まだ視えている。
 全身全霊の力を込めた斬撃を乗せて、偽神が再び咆える。青年は過去を縒り、これまでの猟兵達のすべてを織りあげて、破滅の因果を引き寄せる。
「静寂の涯てまで、送ってやるよ」
 ――もう、眠りな。
 闇彩をした影の魔弾が、一発だけ。刃が落ちるよりも速く、偽神の脳天を貫いた。


 それはいつだってざわめきであったし、たまに細波の時もあれば、大抵は嵐のように吹き荒れていた。
 なのにあんなにうるさかった声が、今はなんにも聴こえない。

「……すまない」

 ぽつりと呟いた言葉を、本当はずっとずうっと、言いたかったのだ。
 言っていたけど、気付いてはもらえなかったのかもしれない。

「お前達を、救ってやれなくて、」

 自分だけが、こうして救われてしまった。けれど、心がこんなに穏やかなのは初めてで。

「やっと、眠れそうだ」

 目を閉じても、なにも聴こえない。

 ――神様は、もう居ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月03日


挿絵イラスト