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アポカリプス・ランページ⑪〜届かぬ声

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#(色んな方面へ)精神攻撃は基本


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●不完全
「デミウルゴスか……だぁいぶ情緒不安定なおっさんのようだな」
 第一声が、それか……。

 偽神・デミウルゴス。
 猟兵たちが討伐すべき者の名。

 グノーシス主義が定めた道理では、生まれることこそが魂を牢獄に入れる悪であり。
 邪神デミウルゴスこそがその元凶と見做されていた。

 反出生――生まれて来ることは、この世は苦しみのための場所だから。
 命を創造することこそが最悪の愚行なのだ、と。

「不完全な神。だから苦しみを生む。そんな生命など初めから作らなければ、居なければよかった……こういう理屈だな」

 グリモア猟兵のジミー・モーヴ(人間の脇役の泥棒・f34571)は、敵の攻略に役立つでもない蘊蓄を語りつつ、猟兵たちに問いかける。

「苦しむこともない、完全な世界。完璧で全能なお偉い神さまがぜーんぶやってくれる、ただ生きてりゃ幸せになれる世界……さて、アンタらはどう思う? 俺は反吐が出るけどな。だから、まぁ」

 狂人どもに造られた神がその不完全さ故に苦んでいるというなら。
 全ての破滅か、己が死を望んでいるというのなら。

「アンタらの思う通りにしてやればいい。ただ、それだけで良いさ」

 そうして、男は偽神を討つために必要な情報を語り始めた。
 体内に偽神細胞を持たない存在からの攻撃を「完全無効化」する、無敵の偽神。
 それを討つ術とは――。

●咎人たち
「お前達までが! 俺に!!」

 罪に慄く者たちが偽りの神に縋りつく。

「赦してください」
「どうか……どうか裁いてください。私を」
「殺してください。とても、苦しいのです」

 そこに居たのは、『拠点破壊部隊』のオブリビオンたち。

「皆、皆死んだ。死なせてしまった」
「守れなかった。何一つ」
「生まれてきた意味は、何もなかった」

 拠点を破壊するに優れた――かつてはそれを護っていた者たちの、成れの果て。
 偽神細胞を取り込み、己の命を愛する者を守るために捧げた者たちが居た。
 戦うために作られ、居場所すら無い未来のために使い捨てられ散った者たちが居た。

 そうして、結果として彼らの死は何の意味もなかった。
 何一つとして、守り通すことは出来なかった。

「もういやだ。もう、たくさんだ」

 あらゆる禁忌に手を染め、道理を捻じ曲げ命を造り、殺し、歪め、殺して来た者が。

「駄目だ……赦すものか! お前達と同じ苦しみを生ある者どもに与えてやれ……!」

 縋りつく者を振り払い、頭を抱えて首を振る者を引きずり起こし。
 すすり泣く者たちを容赦なく蹴り飛ばしながら。
 偽神は半狂乱になって叫ぶ。

「皆、苦しめ……! 俺と同じ苦しみを……楽になど……!! ぐ、うううう……っ」

●穢れた魂
「……大体の状況は分かったか? あちらさんも拠点破壊部隊の用意がまだ十全じゃないようだな。オブリビオン病の散布やら危険な作戦も練られていたようだが……」
 拠点を破壊するために用意されていた、偽神細胞を有する非常に強力な部隊の一つ。
 かつて人類の重要拠点を守護していたと目される、ストームブレイドやフラスコチャイルドたちからなるオブリビオンの部隊。彼らを作り出したのであろう、闇医者。
「一言でいえばヤバい奴らだな。猟兵が全力を出したとして、どうなるか……ましてや拠点を守りながら戦うことになっていれば、切り捨てる決断も必要になったかもしれない」

 だが、予知によれば彼らは未だにその主との意思の統一が不完全であるようで。

「洗脳、恫喝、説得、強制、何でもいい。奴らをデミウルゴスに嗾け、仲間割れを誘え。一撃出来れば御の字、意に背いたオブリビオンは耐えられず消滅するだろうが……デミウルゴスが死ぬまでそれを繰り返せば良いって寸法だ」

 使い捨てられた者たちを、命をなげうった者たちを、咎人たちを。
 無意味で無価値だった者たちを、もう一度利用し殺し合わせるのだ、と男は告げた。


常闇ノ海月
 よーく考えよう。いのちはだいじだよ~!
 ということで、あえて薬なしルートのデミウルゴス討伐シナリオ。
 しかし大人気だなこの男……うらやましい。

●判定について
 やや難ということで、判定結果はそれなりにシビアになる可能性も高いです。
 純戦闘というよりは、煽動や甘言でオブリビオンをそそのかす(?)ような行動の方がボーナスが付きやすい、かも?

●注意!!
 デミウルゴスは。
「体内に偽神細胞を持たない存在からの攻撃を「完全無効化」します」
「偽神細胞を有するオブリビオンを自在に操る事ができます」
「猟兵でもストームブレイドであれば、ダメージを与えることが可能です」

●拠点破壊部隊
 ストームブレイドだった者たち。
 フラスコチャイルドだった者たち。
 彼ら彼女らを造ってしまった闇医者だった者。

 等が居ます(他にもプレイングでアイデアがあれば居てもいいです)。

 全員が偽神細胞を有しておりデミウルゴスに対しては逆らえないはずですが、デミウルゴス自身が不安定なこともあり支配は完全ではない部分もあるようです。

●プレイングボーナス
「拠点破壊部隊」を利用し、デミウルゴスを攻撃する。

 では、願わくばどうぞ良い旅を。
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第1章 ボス戦 『デミウルゴス』

POW   :    デミウルゴス・セル
自身の【偽神細胞でできた、変化する肉体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[偽神細胞でできた、変化する肉体]から何度でも発動できる。
SPD   :    偽神断罪剣
装備中のアイテム「【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ   :    デミウルゴス・ヴァイオレーション
自身が装備する【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】から【強毒化した偽神細胞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【死に至る拒絶反応】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 予知――観測可能な未来の一端。
 けれど『時間は質量を持った物質』というのなら、『観測された』予知は本当に『未来』なのだろうか?
 その『未来』自体が或いは『猟兵の現在』に対する『過去』であり、世界の理では排出出来なかった骸の海の浸食だと仮定したなら、我々は世界にとって不都合な過去も未来も排撃しうる、反則じみた抗体のような存在なのかもしれないが。

 生命の埒外にあるもの、界を渡るもの、世界の加護を受けしもの。
 その存在に与えられた権能は、世界に何を残しうるのだろうか?
 いずれにせよ、我々は我々の生きる『現在』を、持てる全ての力で切り開いて行くしかできないのだが……。

●届かぬコエ
 夜の闇に紛れ『私達』は走り続けた。

「駄目だよ。来ちゃダメ。もう、自分を抑えられないの」
「だいじょーぶ! 絶対に何とかするから! その為に私は強くなったんだ!」
 
 名前も知らない拠点の、最期の夜。
 そこにどんな人が暮らしていたんだろう。
 そこでどんな夢が生まれて、育まれていたのだろう。

「味方が化け物に! ここはもう駄目です!! 撤退を……うわああああああっ」
「終わり、か。最後の最後まで、不甲斐ないものだな」

 赦してくれ。助けてくれ。殺してくれ。
 怒りと嘆きと後悔とが溢れ、我が主の苦しむ気配が強くなっていくのを感じる。
 ……早く、早く終わらせないと。

「ちっ。こうも容易く……!! 良いか、時間を稼げ! 一秒でも長く、だ!」
「拠点放棄っすね、OKー! さぁて、うまいこと逃げてくれると良いっすが……」

 儚き抵抗を、生きとし生けるものの全てを、黒い炎が焼き尽くしていく。
 何かを誰かを守ろうとする者たち――その動きは手に取るようにわかる。
 命を投げ出してさえ、行かせたくないであろう場所も、分かってしまう。

「きっといつかは。こうなる運命だったんですね……」
『貴方で、最後』

 頭が割れるように痛い……我が主が苦しんでいる。
 最後に残った命も、呆気なく終わらせて。

『!? ……???????????』

 我が主の困惑と動揺が伝わる。
 拒絶ではない、意味不明の受け取れない想い。
 終わりを迎えた少女が今際の際に抱いた感情が、祈りが、ただただ理解不能で。

『ううう……。ぐぅ、ぅうううううう………っ!!!』

 銃が手から滑り落ちる。視界が歪む。
 力が抜けて、もう立っていることさえできずに蹲り。理由もわからずに懺悔する。

 ……赦して、殺して、助けて……。

 我が主の苦しみは、未だに止まない――。
アネット・レインフォール
▼静
成る程…無敵効果か。
有効打を与えられない、というのは存外厄介なものだな。

――偽神とは言え…腐っても神、と言った所か。

今回は運良く傷を与えられれば良いと見るべきだろう。

幸い精神は不安定と来ている。
ならば…安定させないよう動くべきだな。

▼動
予め刀剣を念動力で周囲に展開。
主に防御と弾く用途に使用を。

敵部隊を確認したらダメ元で説得。

協力の成否に関わらず、自身に攻撃を放って貰うよう
挑発・指示し、高速移動しつつパリィで偽神へ弾き返す。

必要なら敵ストームブレイドから武器を拝借し
UCで偽神の足止めを狙う。

余裕があれば弾く際に一点集中や、傷がある箇所を狙い
偽神にも揺さぶりを掛ける事も検討

連携、アドリブ歓迎



●人形
「成る程……無敵効果か」
 フィールド・オブ・ナインの第8席にしてヒトに造られし偽りの神「デミウルゴス」――屠るべき強敵。それを阻む難解な条件を認識し、黒ずくめの武人が独白する。
 剣士たるアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)の強みは、武器としての剣の特性と同じくその汎用性の高さ。単体としての戦闘力、状況への対応能力の高さ――それを支えるべく、たゆまぬ努力の末に鍛え抜かれた技術と精神力だったが。
「今回は運良く傷を与えられれば良いと見るべきだろう」
 彼我のアドバンテージを比較した場合、優勢とはいいがたいと判断していた。だが、ある側面に目を向ければそれは逆転の目を十分に孕んでいるとの情報もあり。
(幸い精神は不安定と来ている。ならば……安定させないよう動くべきだな)
 その発想は軍事でいうところの攻撃ではなく妨害(ハラスメント)行動に近い。劣勢であっても、ほころびがあるのならば徹底的にそこを突き、傷口を広げるのだ。

 そうしてグリモア猟兵に送られ敵の基地に転移し、アネットは侵入を果たす。
 正面にはその扉から明かりが漏れる、コンクリート打ち放しの格納庫。中を覗けば歩兵戦闘車の傍らに蹲るようにして、双子のように同じ顔のフラスコチャイルドと思しき少女兵士が二人、何もせずじっとしていた。
「誰ですか?」
 真っ赤な目。虹彩も血のように赤い目だ。その視線が同時にアネットに集まる。
 強い警戒心を感じるも、即座に攻撃されることはない様子。ダメ元で説得を試みようとするが……しかし何を語るべきか。
 かつての自分ならばもう少し言いくるめや説得も得意としていた気がするが、悠久に流れる時間は己を変質させるにも十分だったということか。
「……デミウルゴスを殺したい」
 だから、男はただストレートに目的を告げた。協力してくれ、と。
「それは命令ですか?」
「あなたは、命令をくれる人?」
 見知らぬ男への戸惑いと、かすかな期待を孕んだ声。
「だけど命令ならば、我が主が出している」
「ああ……そうだった。そうだ殺さないと」
 少女たちは語らい、気付き、虚ろな目で立ち上がる。
 そうして、アネットへとグレネードランチャーが装備された無骨な自動小銃を構え。
「あなたは」「拠点の人?」
「……違う」
 そう否定すると、彼女らはあっさりと銃を下した。
「では、命令されてないから……」「殺さなくて、良い」
「……」
 無防備な姿をさらすオブリビオン――この距離ならば、アネットが二人の首を刎ねるのに必要な時間は瞬きほどでも十分だというのに。
 グリモア猟兵がそう呼ばわった、無価値で無意味な者たち。
 彼女たちは己の意志では何も決められず、何も為せないのだろうか……。
「デミウルゴスを殺せ。彼もそれを望んでいる」
「あなたは何だかイヤな感じがするけれど」
「命令してくれるならば」
 何ひとつ為しえなかった出来損ないでも。それでも主が命じてくれるのならば。
 生まれたときから義務付けられた、誰かのために戦うさだめ。それだけしか持ちえなかった、使い捨ての、人の手によって造られた――いつかの生命だった者たちは応え。
「デミウルゴスの下へ案内しろ……奴を殺すんだ」
 幼く、感情の失せた声が重なる。
「「任務、了解しました」」

●不死なる偽神
 元は米軍の基地だったのだろうか、その敷地内にある教会。
 デミウルゴスはその礼拝堂に居て、傍には砕かれたマリア像の首が転がっていた。
「煩い……煩い煩い!! 静かにしろ……死に絶えろ……早く俺を……解放しろ!!」
 救いを、赦しを、裁きを求める人間たちから届く祈りの声。その声の多さに苛まれ苦しみ悶えているだろう姿は、少なくとも精神的には余裕が無いように映る。
「偽の神が告解でもしていたか? 十字架に磔にでもして欲しいのか?」
 音もなく歩み寄るのは黒一色の剣士。
 その動きは一見して無造作にも見えて、だが一部の隙も無いことが分かる。
 焔、銀翼、菫、翼、紫水晶、狐、盾、花、星、そして聖女――美しい刀剣が念動力で操られ、守護するように中空を踊る。
「……猟兵か。埒外の者ども……安楽の未来を阻む者。徒に生の苦しみを長引かせる、偽善者どもめ……!!」
 荒い呼吸、乱れた呼吸。されど左半身の異形と右腕に携えた偽神細胞製の大剣を構える姿から発する圧力は、尋常のモノではない。せめて己も得意とする剣技で尋常に戦えていればと思うが、それも叶わぬ以上は。
「殺してやる……! さもなくば……俺を殺してみせろ!!」
「……行くぞ」
 剣士が仕掛け、それを上回る速度と膂力で赤黒い大剣――偽神断罪剣が迫る。霽刀【月祈滄溟】――湖底を思わせる青の漣が受け、流すことが出来たのはアネットの剣がその速さと精密さを突き詰めたモノだったからだろう。崩れた重心、流れる体に異形の左腕が振るわれ、念動力の刀剣が受け――切れず。
「ぐぅ……っ!」
 鋼糸を間に挟み幾ばくかの衝撃を殺しながら、弾き飛ばされる。
 ――やはり、強い。
 世界を滅ぼしうるオブリビオン・フォーミュラの一柱は猟兵単独の手には余る。全力で立ち向かわねば死はすぐ其処にあり、余裕などないが。
「話にならぬ……小細工など……!」
 菫が刻まれた鋼糸にて幾ばくかでもと動きを牽制すれば、デミウルゴスは苛立ち振り払った――瞬間、アネットが叫ぶ。
「今だ。俺をめがけて撃て!」
 高速で移動し、吹き飛ばされた場所より、デミウルゴスを挟んで対角線。
 その位置から自動小銃の銃撃音が重なる。
「何を……お前達? 裏切り……だと!?」
「デミウルゴス。貴様自身の望みだろうに」
 配下の者に背中を撃たれ、偽神が目を見開く。弾痕が硬い表皮に繰り返し刻まれ、終には血を噴出した。けれど――悲鳴をあげて倒れたのは、偽神ではなく。
「あガが、が……ぐぅっ」「ひっ!? ……ひぃィっ……!」
「お前達、簡単には殺してやりはせぬ……苦しめ! 苦しめ! もっと苦しめえ!!」
 偽神細胞が暴走し強毒化しているのだろう。やがて全身が崩壊し、想像しえない激痛の果てに苦しみ抜いて死ぬだろう、フラスコチャイルドのオブリビオンが2体。
「ちぃ……悪趣味な真似を」
 潮時だ。アネットは使い捨てた協力者に、せめて止めを刺してやろうと駆け寄り。
 全身から血を噴出し、痙攣させながらも、此方を見つめてくる赤い目と目が合って。
 ……ゃ……くっ……。
 彼女らの、何かを伝えようと動く唇は、それを言葉にすることは出来なかったが――痛みより、壊れていく体よりも、恐ろしいことがあると怯えた目が物語っていたから。
「……ああ。良くやった」
 ……。
 虚ろな目。
 荒んだ目に微かに浮かぶ安堵――見届けて、とどめを刺し楽にしてやる。

 ふと胸に去来するのは、まだ教師をしていた頃の自分。無邪気に遊び、学び、泣き、笑う子どもたちの姿。
 この世に生を受けてどんなに長くとも10年を数えることもなく死んだだろう過去の残骸は、それに似た姿で――何もかもがかけ離れた姿でもあった。
 悠久の果て。遠い遠い日に立てた誓いが胸をよぎる。
 ――ひとつ、自らの民を守り、助ける為の努力を怠らない事。
(利用した俺が言える義理ではないが……生まれた場所が違えば、命はこうも軽んじられるのか)
 ――ひとつ、自らの力を高めるべく努力する事。
 たゆまぬ努力ならば、万年と続けてきたものだ、が――この偽神は殺せない。
「……有効打を与えられない、というのは存外厄介なものだな」
「そうか? では、死ね……!!」
 降ってくる破壊を転がって回避し、振り向きざまにフラスコチャイルドが残したアサルトライフルを撃つ……が、ダメージが入っている様子はない。
(やはり、死を賭して偽神細胞を取り入れていなければ無理か)
『偽神細胞を体内に取り込んだ――偽神と一体化した存在による攻撃』という概念自体が、デミウルゴスの無敵を突破しうる条件なのかもしれない。その場合は、極論を言えば偽神細胞を取り込んだ存在が使うならばそのあたりに転がる石ころでさえ武器として有効になるだろうが。
「――偽神とは言え…腐っても神、と言った所か」
 現状では打てる手はない……。
 背を向け、離脱していくアネットにデミウルゴスが失望の声をあげる。
「いったい俺が何をした……!? このような形に産んだのは、苦しみを義務付けたのは誰だ? 誰も俺を滅ぼせない……ならばその苦しみの元に滅びを与えるしかないではないか……!」
 それは、世界の破滅を良しとせず立ちはだかる猟兵たちへの怨嗟の声。
「それを……偽善者どもめ……! お前達さえ、いなければ……」
 虚ろな目、荒んだ目をした偽神。
 滅びゆく世界、絶望に染まる人々に祈られるモノ。

 ならば、その声を聞く者は何処――。

成功 🔵​🔵​🔴​

栗花落・澪
※連携歓迎

デミウルゴスさん
僕とはある意味対照的だね

彼に叶えられない望みなら
僕が代わりに叶えてあげる
僕の命は、貴方達の為に

お仕事だよ
一緒に行こう

出来るだけオブリビオン達を説得
命令は不得意なんだけれど
貴方達がそれを望むなら

僕の攻撃は届かない
それならせめて【指定UC】発動
皆の攻撃力を強化しつつ【誘惑】で囮に
自らを【オーラ防御】で守り
わざと目立つように【空中戦】
【聞き耳】で音を聞き分け動きを読み
回避重視で被害を最小限に

けれどもし
オブリビオンに被害が行ってしまったら
約束だから
【祈り】を込めた鎮魂曲を【歌唱】しながら
足場に【破魔】の★花園を広げ
風魔法の【属性攻撃】で花弁を舞いあげ美しく花葬
せめて、安らかに



●飴玉の契約
 人々の願いと祈りを束ね、零れゆく命、壊れゆく世界に救いを齎すべく造られた偽りの神・デミウルゴス。
 けれど、彼は神と呼ぶにはあまりにも不完全に過ぎた。今となっては救いを求める声は届けど、それを叶える権能も無く――世界中の人々が発する叶わぬ祈りはもはや呪いとして降り積もり、たった一人の偽神を苛み続けている。だから、彼は。
「デミウルゴスさん……僕とはある意味対照的だね」
 華奢な体、愛らしい顔、少女と見まごう姿のオラトリオ――栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は偽神の在り様に思いをはせる。
 かつて幼き頃に奴隷として搾取され、弄ばれ……未だ消えぬ罪悪感を抱きながらも澪がこうして危険な戦場に赴く理由は、ひとりでも多くの心を救うため。
 そんな自分と、呪いと破壊をまき散らすようになってしまったデミウルゴスは。
(何が違ったんだろうね……)
 生まれた疑問を一つ抱いて、天使の似姿はグリモア猟兵の手で戦地へと送り込まれ。

「……ぇ」
 視界が変わると同時、月影を背負った人影がすぐ間近にあって。首元には白銀の刃が突きつけられていた。ジーンズにシャツ、丈の長いミリタリージャケットを羽織ったラフな姿の女性。猟兵の直感が告げる。それは不倶戴天の敵――オブリビオンであると。
「あの……どうして」
 有り体に言えば絶体絶命。命の危機が目前に迫る状況。
 だけど、澪は喉元に迫る刃よりも目を離せないものがあった。なぜなら――
「どうして……泣いているの?」
 束ねた銀の髪を風に揺らす白銀の月の化身のような女は、その顔を悲痛に歪ませ、蒼い瞳から止まぬ涙をこぼし続けていたから。
「……妹が2人、死んだ」
「あ。そ、れは……」
「怖がりで、気のやさしい子たちだった……」
 猟兵は拠点破壊部隊のオブリビオンを利用し、デミウルゴスと殺し合わせていた。
 ――無意味で無価値だった者たちを、もう一度利用し殺し合わせるのだ。
 グリモア猟兵の言葉を反芻する。その指示に間違いはないはずなのに……。
「僕たち、が……」
「そう。だからこれ以上」
 可愛い妹たちを猟兵が誘惑しないよう、見張っていたのだ。と、女は言った。
「うっ……ええと。僕は……」
 過去の残骸、世界の敵――忘却の化身。
 討滅すべき敵に過ぎないものに胸が痛みを覚え、罪悪感を抱いてしまうのは、やはりその姿があまりに人そのものに近いからだろうか。澪はただ指示に従い、そして、
「デミウルゴスさんに……彼に叶えられない望みがあるなら」
 僕が代わりに叶えてあげよう、と。そう思っただけなのだ。
「……デミウルゴスさまの、望み?」
「そう。だって、僕の命は、」
 貴方達の為に――そんな覚悟さえ胸に秘めて。
「……」
 オブリビオンの蒼い瞳が真意を確かめるように琥珀色の瞳を覗き込み。
 やがて、
「Oh……それならそうと言ってくだサーイ!」
「え? ……え?」
 銀髪の女は剣を収め、乱暴に目元を拭うと、急にアメリカンなノリで明るく笑う。
「確かに、デミウルゴスさまの望みは解放デス。そして……妹たちには荷が重くとも! そういうことならこのとってもCooooolなスーパーお姉ちゃんにお任せデース!」
「ええぇ……?」
 ストームブレイドと思しきオブリビオンがHAHAHAと笑い、澪は混乱する。予定では出来るだけ多数を説得しようとも考えていたが、彼女はそれを一人で請負う気らしく。
「あの。それじゃ、命令は不得意なんですけど……」
 貴方がそれを望むなら、と告げる澪に、
「ノンノン! 命令じゃなくて、スイーツ支払いでお願いしますネー!」
 オブリビオンは何とも俗でお手軽な報酬を要求した。
「あ、飴玉ならあるよ。美味しいよ」
「ワオ☆ ギブミーキャンディネ~♪」
 その大げさな仕草に思わずクスリと笑って。小瓶に入った可愛らしい飴玉を分けてあげると、オブリビオンはそれをハンカチに包んで大事そうにポケットに仕舞う。
「ん……いいお土産が出来ました」
「うん。それじゃ……お仕事だよ」
 そうして天使の翼を持つ者に導かれ、
「一緒に行こう」
 猟兵とオブリビオン――相容れぬ宿敵は共に死地へと向かうのだった。

●苦痛
 祈る者もなければそれを護る者もない、ただ朽ちてゆくだけの廃教会にて。
「デミウルゴスさん。叶えに来たよ……貴方の願いを」
「天使……だと……?」
 花を纏い、清浄な輝きすら放つ、天使の翼と無垢な少女の姿を持つ者――澪がデミウルゴスの前に姿を現すと、彼はまるでその容姿自体が逆鱗に触れたかのように、激しい怒りの感情を見せた。
「猟兵め……まがいモノが、俺に……あてつけるつもりかぁああっ!!」
「っそんなこと……!」
「黙れ、黙れ、黙れ……偽善者が!!」
 異形の化け物じみた赤黒い半身を持つ、虚ろな目の偽神――デミウルゴスの殺意が、殺気が物理的影響力すら持ってビリビリと空気を震わす。
 オーラの守りがあってさえ、その意志だけで怖気立つ程の威圧感。
(僕に注目してくれるなら、好都合だよ……!)
 必然のように憎しみを向けてくるそれが、死を間近に想起させる。それでも、少しでも有利な戦場へと導くべく距離を取り、やがて月下の空に浮かんで偽神と対峙する。
(僕の攻撃は届かない。それならせめて)
 そうして桜色の唇を割って零れる音。澄んだ歌声を響かせ、澪はユーベルコード『戦場の歌姫』を発動させた。
「っ? 歌……だと? どこまでも、俺を……愚弄するか……!!」
 それは敵を誘い、足を止めさせる歌。デミウルゴスの歩みは止まらなかったが、同時に歌に共感した者たちの戦う力を鼓舞する歌でもあって。
(――……おいで)
 月を背に、誘うように手を伸ばし微笑む澪。
「いいだろう。その翼を切り落とし、八つ裂きにしてやる……そしてお前も、生まれて来たことを呪い、後悔するがいい……!!」
 赤黒い大剣を携え、禍々しき偽神が迫る。憎しみと怒りで血走った目は、他のモノを映さず澪だけを捉えていたから。だから彼は気づけなかった。空気の壁を切り裂いて疾駆する白銀が、天使に襲い掛からんとする己の身に迫るその音を。
「っ!? ぐぅ……っ、がぁあああああああっ!!!???」
 白銀の剣を持つオブリビオンの一撃はデミウルゴスの右脇腹を深々と抉り、左の胸から血濡れの刃を生やす。無理矢理に体を旋回させ偽神断罪剣を振るったデミウルゴスの動きに合わせ、剣を引き抜きながら傷口を広げれば、偽神は血と臓物をぶちまけながら膝を付いた。
「デミウルゴスさま? やっぱり、女の子に乱暴はだめデショー!!」
 その首を狙った追撃を異形の左腕が防ぐも、駒のように回転した女の蹴撃が力なく垂れさがる右腕の妨害を受けることなく、デミウルゴスのこめかみに刺さりのけ反らす。
(……強い)
 またオブリビオンにまで間違われたけれど……それは意識の外に追いやって。澪の支援効果もあるとはいえ、オブリビオン化しデミウルゴス式偽神細胞を取り込んだストームブレイドの能力は、猟兵すら凌駕しうるほどの破壊力で偽神を追い詰めていた。
「猟兵、卑怯者どもが……また惑わすのかっ!! 唆したのか……!!!!!」
 勝利をつかみかけているとさえ思える瞬間。澪は地に這いつくばり血を吐く男のゾッとするほど昏い目に射貫かれて。……いや、デミウルゴスは初めからそれ以外は眼中になくて、その狙いはずっと一貫していて――
「今度は……逃がさぬ……!」
「しまっ……逃げ……くぅ……あああ……っ」
 デミウルゴス・ヴァイオレーション。無差別にまき散らされる強毒化した偽神細胞が周囲一帯を穢し尽くした。焦ったように何かを叫んだオブリビオンが異形の左腕に腹部を貫かれ、剣を落として力なく項垂れる。全身は黒く染まり、既に崩壊を始めていた。
(あぁ……ごめん、なさい)
 空中にあって回避に専念しようとも、範囲内の全周を覆う毒から逃れる術はなかった。強毒化した偽神細胞の痛み、死に至る拒絶反応を味わう澪。全身の制御を失い、真っ逆さまに落下していく。だけどいっそ、そうして物理的に頸が折れるか頭が割れてくれた方が楽になれるかもしれない。
(こんな……苦しみを……みんな……)
 細胞が生命の維持に必要な活動を放棄していた。全身を襲う激痛と悍ましいまでの頭痛に嘔吐感、呼吸困難。正気を失うような、ありとあらゆる苦痛が絶え間なく続く。

 そうして地へと堕ちた天使の似姿は、激痛に苛まれる中で、地面とは案外と柔らかな感触だなと感じていた。続くのは嵐のような勢いで風が流れていく不思議な感覚。激しい拒絶反応で細胞の一片まで引き裂かれるような痛みが、少しだけ楽になる――デミウルゴスの放った偽神細胞が排出されているような感覚に身を預け、澪は気を失った。

●花の匂い
 呼吸。息を吸い、息を吐き出す……。
「……」
 矢に射抜かれ地に落ちた小鳥の心臓のように、トクトクと弱々しい鼓動。
 でも、生きている。
 朦朧とする意識の中、目をゆっくりと開けば。
「……ひっ」
 嫌悪すべき漆黒が間近で、死神のように覗き込んでいた。
 それは本能的に忌避感を抱かせる悍ましい姿。人の形を辛うじてとどめた、罅割れた影人形。その存在が強毒性を持ち、暴走する偽神細胞の塊だと直感で理解して。恐ろしい痛みがフラッシュバックして、体に力が入らない。
 涙が溢れだす。止まらない。歯がカチカチとなる。こわい。こわい。
「……」
 影人形は真っ黒に錆び、剝がれ落ちてゆく躰の中で何かを取り出した。緑、赤、黄色、青――小さな飴玉の粒。何もかもが黒に染まる中でそれだけがまだ彩を残していた。震える指先がその飴玉を一粒、泣いている澪の口に含ませて。
「あ……」
 直後、形が崩れ始めるとあとは一瞬。
「あああ……」
 影人形は初めから何もなかったように、塵一つ残さず消えてしまった。口の中にほんの僅かな間だけ広がった、甘い味さえも。何も残せずに。





 花園に歌声が響く。
「……~♪」
 骸の海に還ったであろう、オブリビオンへと捧げる鎮魂の唄。

 ……彼女たちは本当に無価値で無意味だったのだろうか? 力及ばなかったとしても、懸命に生きただろう人たち。失われた命の重さを誰なら決められるというのか。
 
 届くはずのない、だけど、どうか届いて欲しい祈り。

 ――ありがとう。さよなら。

 聖痕を露わに、生み出した魔を祓う花園は花の匂いが漂っていた。色彩豊かな花びらが舞い上がり、青白い月影に踊る。幻想的で美しい光景の中、澪は跪き祈りを捧げた。
 それは無意味で、無価値な願い。
 聞き届ける神のいない、赦されることのない祈り――それでも、祈り、歌い続けた。
 後悔を抱いて苦しみ、涙を流していた者が、やさしい記憶を失っていたとしても。

 ――せめて、安らかに……。

 今はただ、全てを忘れ、ゆっくりと休めるように……と。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴上・冬季
デミウルゴス
以下、D表記

「真実と妄想の境目など、本人にしか分かりませんよ」
嗤う

「貴方達の痛みと苦しみを解消し、英雄になれる手段がある、と言ったらどうします?」
「貴方達に苦しみを与えた救わなかったDを、貴方達自身で倒す。例え倒れようと、貴方達はDを解放し世界を救った英雄です。Dが居なくなれば、少なくとも今の貴方達の苦しみは終わるでしょう」
「私は7度の生を繰り返し不老不死となりました。死は次の生の始まり、死を恐れる必要はないのです」

「庇え、黄巾力士金行軍」
攻撃者達をオーラ防御

Dに
「D。偽神細胞を持つ者しか傷つけられないというなら、貴方は自死で全てを終わらせることが出来る訳ですが。どうします?」
嗤う



●誘惑
 野狐上がりの妖仙が嗤う。
「真実と妄想の境目など、本人にしか分かりませんよ」
 自意識――それによる世界の観測、捉え方。その過程に不具合が発生していれば同じ人間とて共感は難しい。何しろ人間ときたら、本人にすら分からないことも多いのだ。
 或いは、分からないのではなく、受け入れられない現実もある。
 否認。投影。退行。抑圧。逃避。反動形成。合理化。代償……。
 世界をありのままに受け取ることなく、自分に都合の良いように認識を捻じ曲げる。それは人に似せて造られた偽神も、或いは同じだったのかもしれず。

 ――祈りの声が聞こえなくなるまで、俺がお前達を殺し尽くしてやる。

 救いを求める声、切なる祈り。
 応えることもできない偽神はその苦しみの果てに、一つの解を導き出した。
『拠点破壊部隊』を派遣し、祈りを捧げる者どもを殺そう。黙示録の黄昏(アポカリプスヘル)にしがみつく者共を殺し尽くそう、と。
 それがいかなる心理の働きによるものかは、彼自身にも分からないだろうが――。

 鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)が訪れたのは拠点の闇医者の研究室のようだった。薬品の匂いが漂う薄暗いその部屋で、くたびれた白衣を着た中年の男が対面に座っている。
 付き添うフラスコチャイルドの少女がテーブルに二人分の紅茶を並べて彼の後ろに立つと、二人はそれに口をつける事もなく。
「それで、話というのは?」
「貴方達の痛みと苦しみを解消し、英雄になれる手段がある、と言ったらどうします?」
 促され、冬季が口を開く。すると男は聖書と十字架を掲げ、応えた。
「神の御名において命ずる。悪魔よ、立ち去れ……! ……ふむ。悪魔ではないのか」
「……それは生き抜くために役にたちましたか?」
「信仰は絆を結ぶ文化の一つだよ。使い方を間違わなければ薬にもなる。……一応ね」
 どうやら闇医者であり研究者であった男は、ついでに神父でもあったようで。
 思わず呆れ顔の冬季に対して悪びれる風もなく、聖書を卓に置きその表紙を撫でた。
「まぁ良いでしょう。話の続きです」
 悪魔扱いされた冬季は、それでも蛇のように、神への反逆をそそのかす言葉を紡ぐ。
「貴方達に苦しみを与え救わなかったデミウルゴスを、貴方達自身で倒す。例え倒れようと、貴方達はデミウルゴスを解放し世界を救った英雄です」
「英雄か……そんなものに憧れた時代も確かにあった気がする、が……失礼するよ」
 神父は急に落ち着かない様子になった。発汗し、全身が震えだす。ピルケースから取り出した錠剤を呑みこみ、フラスコチャイルドが差し出す水を飲んでしばらくすると、ようやく落ち着いた様子に戻ったが……。
(ふむ? 拠点では立場ある人物だったようにも見受けられますが)
 こちらも精神的にかなり追い詰められていそうな様子が窺えた。オブリビオンが過去の投影だとすれば、生前もかなり状況がひっ迫していたのかもしれない。
「……僕は、英雄になろうだなんて、二度と、考えたくもないよ」
 深い深いため息とともに、オブリビオンは絞り出すような声でそう告げて。
「でも、そうだな……デミウルゴスさまが解放を望んでいることは、僕らにもわかる。それであの方も、そして我々も楽になれるのならば、それも良いかもしれないな」
「ええ、ええ。デミウルゴスが居なくなれば、少なくとも今の貴方達の苦しみは終わるでしょう」
 悪くはない感触にほくそ笑む冬季。
 更には、この行いにはデメリットさえも無いのだと、畳みかけるように続ける。
「私は7度の生を繰り返し不老不死となりました。死は次の生の始まり、死を恐れる必要はないのです」
「それはすごい。……ただ超越者の経験は僕たちの今後にはあまり参考にはならないかもしれない……解剖でもして調べさせてくれるとありがたいんだがね」
「お断りします」
「だよねぇ……」
 猟兵である冬季は世界の加護を受けた存在。彼らとの明確な違いを一つ上げれば『世界に選ばれた』ことがあるが、その基準も不明な以上、調べたところで答えが出る可能性も低いだろう。
「それと……神さまだって安息日には休んだんだ。7回も生を繰り返すというのは、僕には働き過ぎに思えるね」
 今は、ただただ休みたいんだ……。
 ひどく疲れた声で、信仰浅き神父が呟いた。
「それで、どうするのです?」
「乗っかっても良いんだが、僕はもう少し様子を見るよ」
 彼自身は参加しないようだが、神父は冬季に従順なフラスコチャイルドたちを連れて行くように助言した。彼女たちならば容易に唆せるだろうから、と。

「そう言えば一つ。デミウルゴスに自死は可能だと思いますか?」
「ある意味、僕らの反抗を見逃しているのがそれと呼べるのかもしれない。だが、あの方は拠点の人間を殺すのにさえ、僕らの手を必要としていたんだ。それは単純に頭数を揃え範囲を広げるためということもあるだろうが……」
 あの精神状態を見ると、拠点を手ずから一つ一つ潰しに回っても不思議は無い。したくとも出来ない可能性がある……少なくとも今は。
「なるほど……救えないから殺す。それすら自分の手ではできないから、誰かの手を借りる、と? なんとも無様で滑稽な神もあったものですね」
 嗤う冬季。
 しかしそれは彼の責任ではなく、そう造られてしまったからで。人の心という鎖で縛られた偽神――彼の願いを叶えるには、彼の手足となって動くものが必要だった。
「フラスコチャイルドの製作に関わった僕にも少し分るよ。何故あの方がああも歪な存在になってしまったのか……」
 フランケンシュタイン・コンプレックス――創造主に成り代わって被造物を創造することへのあこがれと、さらにはその被造物によって創造主である人間が滅ぼされるのではないかという恐れが入り混じった複雑な感情。人間の抱く不合理な心理。
 神父は罪を悔いるように話して聞かせた。哀れなほどに従順で、人の意志が無ければ生きていくことすらままならないよう造り出された生命たちが、生まれた意味すら分からぬままに使い捨てられ死へと向かわせられる物語を。
「M7――ベリアル。それが僕の罪だ」
 フラスコチャイルドのシリーズ名なのだろうそれを聞き終わり、冬季が退室すると薄暗い部屋にはくたびれた神父とそれに付き添うフラスコチャイルドが残されて。
「……君は行かなくて良かったのか? 確かに、どう転んでも楽になれるだろう」
「はい。……いいえ。私はまだ、ここに居ます」
「そうか……」
 神父はとっくに冷めてしまった紅茶に口をつけ、ゆっくりとカップを傾けた。

 そうして冬季は、ハーメルンの笛吹きよろしく連れ去っていく。息をひそめて震えていたフラスコチャイルドたちを集め、甘い言葉で唆して。
 偽神細胞を植え付けられ軋む体。悪意ある言葉を聞けばたちまちひび割れてしまう、弱い心。その幼い精神に甘言が染み入っていく。
「死を恐れる必要はないのです」
 なにもこわくなんかないよ。
「貴方達は英雄になれる」
 みんながよろこんで、ほめてくれるよ。
「デミウルゴスを解放し、貴方達の苦しみも終わる」
 それは、とてもとても、すばらしいことなんだよ……。
 一人では前に進む事すらできない、人が作り出した不自然なまでに従順な存在。何一つ赦されることなく、全ての願いを切り落としてただただ死へと向かわされた生命は。
 オブリビオン――過去の残滓として再び現世に顕れ、再び同じ道を辿る。
 或いは、此処にあれば冬季を切り捨てたかもしれない白銀は、既にいなかった。

●地獄
「庇え、黄巾力士金行軍」
 展開させた金行の黄巾力士が廃教会へと進撃していく。フラスコチャイルドたちのガードにと用意したものだが、そもそも彼女らの生死はデミウルゴスの意思一つで握りつぶされる。視界を遮るカバーか、もしくは意識を分散させる程度だろうが。
「金行軍は壊しても構いません。全力で戦いなさい」
「了解しました」
 フラスコチャイルドの動きから戸惑いを見て取った冬季が指示を下すと、自分たち以外のユニットを巻き込み破壊する事を恐れていたらしい彼女らが全力での攻撃に移る。
「お前達……お前達……何故だ!!! 何故抗う!!?」
「我が主、あなたを殺します」「そうすればきっと……きっと?」
 ベリアル(埋葬)と銘打たれた者たちが火力を集め、偽神へと向ける。グレネードランチャーの発射音と至近での炸裂音が連続し、小銃弾とは比較にならない破壊力が偽神の身を穿つ。けれど、攻撃に参加した彼女らもまたバタバタと倒れ朽ちてゆく。
「駄目。足りません」「……行こう」
 その生き残りも短い言葉を交わし頷きあうと、吶喊。
「……ッ止まれ!」
 断罪剣の横薙ぎに致命傷を受けながら、数名がデミウルゴスに取り付いて。
「……こわく、ない」
 爆炎をまき散らし、爆ぜた。
 犠牲を顧みず、仲間ごと巻き込みながら、ベリアルたちはその死の瞬間まで戦った。
「ぐ、うううう……ああああああああああああ……ッ!!!!!!」
「どうです? 飼い犬に手を噛まれた気分は?」
 焼け焦げ、血みどろと化した偽神が絶叫する。
 地獄を顕現させた妖仙が嗤う。
「デミウルゴス。偽神細胞を持つ者しか傷つけられず、かといって自らを終わらせることすらできない無能な神」
「そう、無能だ。だから……だから誰もが……誰もが俺から立ち去り、誰もが俺を見捨てるというのか……」
 いまや虚ろな目に灯る光は弱々しく。
 そんなデミウルゴスに冬季は囁くのだ。悪魔のように。
「いいえ、いいえ。貴方が死を、解放を望むのであれば終わらせてあげましょうとも」
 さぁ、どうします? と。嗤いながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒風・白雨
おぬし達は役目が欲しいのか
おぬし達は死が欲しいのか
ならば、わしが役目をくれてやろう
わしが死をくれてやろう
皆等しく、わしの得物となるがよい
(UC:催眠術)

デミウルゴスと言ったか
苦しみを生み出すような世界などいらぬと、おぬしはそう言うのじゃな
ならばわしは……そうじゃな、この世界にも飯が美味い温泉が一つくらいはあるじゃろう
その一点をもって、わしはこの世界を守護るとしよう

敵からの攻撃は《竜神武者》に守らせつつ、自身は《力》でもって無造作に拠点破壊部隊の者達を掴み取り、そのままデミウルゴスに投げつけよう。デミウルゴスに叩きつけよう

苦しむためだけに骸の海より生み出された者達よ
疾く骸の海に還してやろうぞ



●欠落
 それは黒地に赤で縁取られた着物姿の、どこか死神めいた印象を与える女だった。彼女の金色の瞳が怪しく光り、一定の抑揚とトーンで深層心理を探る言の葉が紡がれる。

「おぬし達は役目が欲しいのか」

 身を寄せあい、その声を聞くのは銀髪に赤い目を持つフラスコチャイルドたち。
 長く美しい銀色の髪は少女らにとっても身近で、親しみある存在で――その隙間から覗く二本の赤い角などは見たこともなかったけれど。

 ――はい。どうぞ命令(オーダー)を。それを叶えることが、私たちの喜びだから。

「おぬし達は死が欲しいのか」

 植え付けられたデミウルゴスの偽神細胞の強力さ故、苦痛にあえぐ存在。
 およそ心の障壁というものを持たない、そう造られた存在は、素直な返答を返す。

 ――はい。生きていることが、存在することが、とても、苦しいのです……。

「……ならば、わしが役目をくれてやろう」

 ――役目。私たちの存在意義……私たちが、居てもいい理由?

 銀色の髪、赤い目をした少女たちからどこか期待のこもった眼差しを集め。
 頭一つ分高い身長差でそれを見下ろし、黒風・白雨(竜神・f31313)はいとも容易く成功した催眠術の出来に薄く微笑む。あるいはこの調子であれば神通力 弐式――ユーベルコードの力を借りずとも、上手く行っていたかもしれないほどだったが。

「わしが死をくれてやろう」

 ――はい。殺してください。ころして……いやだ。しにたくない。こわい、こわい。

 安堵、緊張、恐怖――嘆き、悲しみ。
 催眠とは対象の潜在意識、深層心理に触れ、同調し導く技術。本人たちでさえ自覚しえない無意識下の感情があふれそうになる。けれど白雨は焦ることなく、超越者たる己の望みと彼女たちの望みを同じ方向へ向かうように塗りつぶし、導いていく。

「皆等しく、わしの得物となるがよい」

 ――はい。貴方がそう望むなら。それは私たちの望み。ほかには何もないから……。
 ……だからせめて、それが叶った時は。
 かなったときは……なんだったっけ……わからない……わからない。

 過去の残滓、忘却の化身。壊れた世界に生まれて死んだ、既に壊れ果てた存在は。
 致命的なほど欠けていて、救いようのない存在。世界を否定し、世界に否定される――世界の敵でしかなかった。
 だから、生前より繰り返すその宿命から逃れる術は、この世界のどこを探しても、きっと存在しないモノ……。

●劫火
 デミウルゴスは再び廃教会の礼拝堂に居た。
「猟兵……また、俺を、殺しに来たか……」
 地面に突き立てた偽神断罪剣に背中を預け、座るような姿勢で眠っていたようだ。そうして傷が癒えるのを待っていたのかもしれないが……癒えきるその前に、何度でも抉り続ける。デミウルゴスが死に絶えるまで――それが依頼の趣旨であったから。
「デミウルゴスと言ったか。苦しみを生み出すような世界などいらぬと、おぬしはそう言うのじゃな」
 暴力に慣れた雰囲気を纏う女は、それでも、或いはそうだからこそ余裕のある口上で偽神に問いかけた。どこか超然とした金色の目を、虚ろで荒んだ金色が見上げ応える。
「そうだ。全てが無駄だった。こんな世界で……何故俺を造った? どうすれば満足だった? 俺は生まれてきたくなどなかった。そんなこと、誰に頼んでもいない……」
 偽神が応え、血の混じった咳をしながらゆらりと立ち上がる。
 世界を破滅に導くモノ。その資格を与えられたオブリビオン・フォーミュラの一柱。
「ならばわしは……そうじゃな、この世界にも飯が美味い温泉が一つくらいはあるじゃろう。その一点をもって、わしはこの世界を守護るとしよう」
 白雨が告げる。たった今思いついたかのようなその理由を。
 デミウルゴスはしばし瞑目し、やがて虚ろな目を開くと、喉を震わせる。
「……そうか。良くわかった。そんな、取ってつけたような理由で、お前は……俺を」
 デミウルゴスの懊悩は、世界中の祈りと嘆きは、その行きつく先に滅びを望んだ願いは。あるかどうかさえも定かでない、一時の娯楽のためにと容易く否定されたのだ。
「ならばその温泉とやらの為に、死ね! 苦しみ、後悔と共に死に行くがいい……!」
 怒りと呼ぶよりも、もはや絶望や諦めと呼ぶべき感情を爆発させながら、黒と赤の断罪剣を携えた偽神が迫る。
「死ぬのはおぬしらの方だけよ。わしには温泉が待っておるでの」
 けれどその刃は白雨に届くことなく2体の『竜神武者』によって遮られ。
「我が主、お覚悟を」「どうか、死んでください」「さもなくば、私たちを……」
 礼拝堂の窓が、ステンドグラスが砕け散る。飛び込んできたフラスコチャイルド――ベリアルたちの火線が幾筋も交差し、殺し間に立つ案山子の様に偽神の身が躍り。
「グ、ガァッ……何故、だ……!」
 血みどろに砕けていく中、偽神の虚ろな目がベリアルたちを捉え、悲鳴が連続した。
 本来であれば逆らう事の許されない存在はデミウルゴス式偽神細胞の暴走と強毒化により容易く無力化されてしまう。が、
「あっ……ぐぅ、」
「苦しむためだけに骸の海より生み出された者達よ」
 膝を付いて崩れ落ちるオブリビオンを白雨は掴み、デミウルゴスめがけて投げつける。その肉体を圧倒的な『力』で鞭のようにしならせ、デミウルゴスへと叩きつける。
「ッ……そんなもので、この俺が……!!」
 華奢で細い躰は大した打撃も与えず引き裂かれて血の雨を降らし、或いは全身が崩れ消えてしまうが、時折起こる爆発は偽神細胞の暴走とその痛みで動けなくなった瀕死のオブリビオンの活用としては十分な威力で。
「疾く骸の海に還してやろうぞ」
「ひっ……ゃ……」
 拠点を襲い人々を根絶やしにする想定からか、火炎放射機など持っていたオブリビオンを暴力の支配するその中心にくべてやれば、一際大きな爆発、空間を埋め舐め尽くすような火炎が巻き起こった。
「……おっと。ちぃと火が強すぎたかの」
 酸欠にならないよう息を止め、屋内から脱出する白雨。礼拝堂からは火に巻かれたオブリビオンが誘爆しているのか、断続的な爆発が続いていた。
「やめろ……やめろぉ……」
 開口部や破損した外壁を貫き激しく燃え盛る焔。何もかも焼け落ち、崩れ落ちていく廃教会の中で、その破滅の音すらかき消すように、
「何故だ……何故……! 俺は……お前たちまでもが……どうして俺を……」
 全身を幾度となくえぐられ、燃え盛る劫火にくべられ、それでもなお死なぬ――死ねない偽神、デミウルゴスの慟哭が響いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

御園・桜花
UC使用
偽神も拠点部隊も説得
「酷くて卑怯なお願いに参りました。貴方達の命で、貴方達自身と貴方達の神を救ってほしいのです」

「偽神細胞を持つ者だけが、偽神にダメージを与えられる。貴方達の攻撃は偽神に通り、偽神の攻撃も貴方達に通る。貴方達の痛みと苦しみは偽神が、偽神の苦しみは貴方達が終わらせられるのです。偽神に立ち向かい、貴方達自身と、偽神を救ってほしいのです」

「願いは祈りになる、力になる!今1度の生を終わらせても、更なる生はあります。それが生か死せる生になるかは、願いの強さと骸の海での虚無の取込み具合だけです。救って下さい、貴方達自身を、貴方達の神を!そして何時か此処がアポカリプスヘルからアポカリプスヘヴンと呼ばれるようになる日まで、何度でもお戻りを!何度でもお待ちします、お手伝いをさせていただきますから」

偽神に制圧射撃し行動阻害
拠点部隊全滅まで攻撃補助

「今の苦しさを終わらせ、貴方も救われて欲しい。救えぬ辛さを知る貴方なら、骸の海を抜けて貴方も皆も救える存在になれると思うから」
1度は手を握る



●思い出
 遠くで銃撃と、時折起こる爆発の音が轟いている。静かだった月の夜はいまや地上の喧騒と、赤々と燃える炎、立ち上る煙で染められていた。
「行かないと……まだ、生きている方を……」
 言いかけ、『生きている者』などこの場には猟兵以外誰もいないことを思い出す。
 人の暮らした気配も色濃く残る施設。だけど、そこにかつてどんな人たちが居たのか、知る者はもう居なくて。
「だけど、きっとここで、生きていたんですよね……」
 残っているオブリビオンを探す御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の足は、自然とその場所に向かう。
 ガランとした食堂を通り過ぎ、奥まった場所にある調理施設に彼らは居た。
「つまみ食いでもしに来たかい? もう何にも残ってねーぞ」
 声をかけてきたのは黒い槍を雑に担いだ黒髪の少年。彼の傍に二人のフラスコチャイルドと、周囲に感じる気配も幾つか。合わせて一分隊の8名程度といったところか。
 銃口を向け油断なく桜花の挙動を見張る少女らと、それを束ねる若い少年は、そこはかとなく不良っぽい雰囲気を感じさせた。そんな柄の悪めな彼らに絡まれた桜花は、
「こっ、こんにちは、お邪魔しています! 私は桜の精のパーラーメイドで、御園桜花といいます。そして……全ての世界に転生を。多分それしか考えていないのです」
「う、うん? お、おぅ……」
 あせあせと自己紹介をすると、いくらか警戒も和らいだ……様な気がする? 所謂ぱーふぇくとこみゅにけーしょん、というモノだろう。正直一番、天然が二番……。
「それで、転生しか考えてない桜花は何しに来た。腹でも減ったか?」
「でも、食べものないよ」「パンケーキもないよ」「かなしいね……」
 と尋ねてくる口ぶりや緊張感のないお喋りの様子からすると、
(お、おなか減ってるんでしょうか……?)
 彼らの方こそ欠食児童なのでは、と言った様子。しかし仲は良さそうなグループで、黒い槍も恐らく偽神兵器で――それもかなり強力なものであると第六感が囁く。
 だから、桜花は大きく息を吸って覚悟を決め、真剣な表情で切り出した。
「……酷くて卑怯なお願いに参りました」
「はちみつもないの」「メープルシロップもない」「かなしいね……」
「……」
「……すまねぇ、気にせず続けてくれ」
 こほん、と咳払い。
 とりあえずパンケーキのことは置いておいて、ある意味気が進まない説得を続ける。
「貴方達の命で、貴方達自身と貴方達の神を救ってほしいのです」
 それは端的に言えば彼らに主を裏切り、殺し、死ねということ。
「偽神細胞を持つ者だけが、偽神にダメージを与えられる。貴方達の攻撃は偽神に通り、偽神の攻撃も貴方達に通る。貴方達の痛みと苦しみは偽神が、偽神の苦しみは貴方達が終わらせられるのです」
 だから、偽神に立ち向かい、貴方達自身と、偽神を救ってほしいのです――と。
「救い? 救いなんてどこにもない。無いものを探してまで救う必要もない。生命を根絶やしにすれば終わる。俺たちはそういう風にできているから」
 槍を持った少年は特別何の感情も見せず、だけど桜花の言葉に否定的だった。
「出来ることとやりたいことは別物だ。救いなどない。無かったから俺たちはこうなった。デミウルゴスが死んだところで今更何も変わらない。なら、やりたいようにやる」
 当然と言えば当然だ。猟兵とオブリビオン、本来はこうして平和裏に会話を交わすこと自体が珍しいと言えるかもしれない相手同士。オブリビオンは昏い目で続ける。
「神は誰も救わない。この手も何も救えない――それで良い。もう終わったことだ」
「救いが無いなどと言わないでください。願いは祈りになる、力になる! 今1度の生を終わらせても、更なる生はあります」
「ふん……それなら、黒き風による死は救済だと言われて。死は終わりではなくオブリビオンという栄光につながるのだと言われて。桜花は納得するのかよ?」
 売り言葉に買い言葉、ではないが……反駁する少年に、桜花は狼狽した。彼らの虚無はそれほどまでに深いのだろうか。桜花はサクラミラージュで影朧――不安定なオブリビオンを癒し、転生させる桜の精だ。転生後が『生か死せる生になるかは、願いの強さと骸の海での虚無の取込み具合だけ』だと本気で信じているが。彼らがもはや生に何の望みも持たず、深い虚無を抱いて沈み沈める存在ならば、彼女にも出来ることはない。
「……本当に、そんな風に思っているんですか?」
 言葉は恐る恐るとしか出てこない。
「ああ。救いなんて、いらねぇ。ただ……」
 少年が言いよどみ、目をそらす。幻朧桜召喚・解因寿転(インガヲホグシテンセイヲコトホグ)――桜花のユーベルコードはオブリビオンの想いとぶつかり、心からの説得を試みる桜花を後押しし、過去の残骸が抱く疵を癒そうとしていた。
「……一番惨めなのはな。俺が弱いことなんかじゃない。大切な人が助けを必要としている時に何も出来なかったことだ。だから、俺は赦しより救いよりも、裁いて欲しいんだ。そうだ。救われたいなんて」
 望んでいない。望んではいけない。だから、彼は。
「動けないんだ。ずっと、こんな場所に居るんだ……」
「兄さま……」
 フラスコチャイルドたちが集まってぎゅうぎゅうと抱きつき慰めようとする――彼は涙を零し泣いていたから。同じように悲しそうな顔をして、寄り添おうとしていた。
(ああ。やっぱり、救われて欲しい、ですね……)
 彼らにも生きた過去があり、思い出があった。悲しいものが多くて……けれど今は忘れてしまっていても、楽しいものもきっと少なくなかった筈だと、そう思える者たち。
「それでも……どうか救って下さい、貴方達自身を、貴方達の神を! そして何時か此処がアポカリプスヘルからアポカリプスヘヴンと呼ばれるようになる日まで、何度でもお戻りを!」
「ふ、ふっ……物騒な天国だ。さては桜花は英語、苦手か……?」
 熱の入った桜花の声に、揶揄うような声が返る。
「だけど悪くはないのかもしれないな……本当にそうなら。せめていつか、こいつらがそうなってくれれば」
「……なりますよ。何度でもお待ちします、お手伝いをさせていただきますから」

●終焉
「デミウルゴス。貴方の苦しみを終わらせに参りました」
 燃え盛る炎に照らされるその躰は、破損と偽神細胞による再生を繰り返し大きく変化していた。神ではない、人ですらない、全身を赤黒い甲殻で覆う獣のような姿。ソレは猟兵から受けた傷を癒すため、フラスコチャイルド――ベリアルの死体を喰っていた。
「お前達さえ、居なければ……!」
 虚ろな目をした偽神はその運命を呪い、嘆き、憎んでいた。猟兵さえいなければと。安息へと辿り着けたかもしれない未来――何方にせよ、其処へ至るにはまた別の苦しみが待っていたのだろうが。
「お前達は居るだけで俺を苦しめる。お前達なんて嫌いだ……大っ嫌いだ……!!」
「私は、今の苦しさを終わらせ、貴方にも救われて欲しいのですよ」
「っ……! 偽善者が……これ以上、俺を惑わすな……俺を、苦しめないでくれ!!」
 前進するデミウルゴスへ軽機関銃が火を噴き、牽制する。しかし偽神細胞を持たない桜花の攻撃では目くらましにしかならず、その歩みが鈍る気配も感じられず。
 ベリアルらがカバーに入ろうとした刹那、予想していたかのように獣が叫ぶ。
「お前達……猟兵を、殺せ! 殺せっ! 殺せぇ……!」
「っ……!?」
 銃口がピタリと桜花を照準する。信じられないものを見るような目、赤い目が桜の精を見つめていた。排他的命令の競合。ベリアルらのとった行動は、
「……ごめんね」
 外しようのない距離で銃口を頭部に向け固定する。引き金を引く、ただそれだけ。
「待って。駄目……!」
 彼女らにとって最も価値が無く、最も殺しやすい存在に向けて。
 桜花は反射的に手を伸ばそうとしたが、届くはずもなく。
「あぁ……」
 頭を吹き飛ばされた少女の死体が新たに七つ、転がった。
「見ろ。誰もが俺を裏切り……俺から離れていく。俺の願いを叶える者は居ない……」
 カラカラに乾いたような声で、デミウルゴスが呟いた。
「いや、ちがう。皆が俺に死ねと言う。死にたいと、殺してくれと言ったのは俺だから……早く死ねと言ってくれている。それが俺の望んだことだ……それが、何故……」
 こうも痛くて、いたいのか。この世に生まれたことが罪で、これが与えられた罰だとでもいうのか? そんなもの望んでいない、望んでいなかったというのに。
「神さま。デミウルゴス。こうして見ると、アンタ……」
「あ゛……?」
 トン、と。
 さしたる抵抗もなく、その背中から胸の中心を貫いて黒い槍の穂先が生えた。全身を黒い炎に包まれた少年が瞬きをする間にその場にいて、偽神を貫いた槍から黒い炎を噴き上げていた。
「案外と……」
「ぐぅ、がぁあああああああ……ッ!!」
 黒い炎が外骨格の様な甲殻に護られたデミウルゴスの身を内側から焼き尽くし、胸の傷口だけでなく口腔や眼窩からも吹きあがる。断末魔の叫びをあげる偽神の背後で、オブリビオンもまた燃え尽き灰となって崩れ、吹きあがる風に巻かれ散っていった。

●君が眠る場所
「……」
「く、苦しみを……お前たち……道連れに……」
 今際の際、偽神は強毒化した偽神細胞とそれにより死に至る拒絶反応をまき散らす。
 祈りの声は未だ止まぬ拷問のように響き続けていたが、それももうすぐ聞こえなくなるだろうか。このいき苦しさが終わる――デミウルゴスは少しだけ気が楽になった。
「デミ、ウル……ゴス……」 
 足を引きずるようにして猟兵が近づいてくる。偽神細胞の毒は死に至らしめることは出来なかったようだが、相当に苦しみ弱っているのだろう、ゆっくりとした歩み。
 そうして気配がすぐ傍まで来たところで、もはや指一本動かない手に触れる感触。
「……例え此処がサクラミラージュであろうとなかろうと。其れが骸の海からであろうと。何時か貴方の想いが癒され、転生の願いに結びつきますよう……」
「なに、を……いって……いる……?」
「救えぬ辛さを知る貴方なら……」
 骸の海を抜けて貴方も皆も救える存在になれると思うから、と。
 崩れていく偽神の、劫火に焼かれて冷えきった手を握り、桜花は祈りを捧げていた。
「わからぬことを、言うな……願うな……俺にはわからない……から……」
 煩かった声が遠ざかっていく。狂人たちに造られた不完全な神は、数多の願い、祈りを押し付けられてどうする事も出来ず、我慢するしかなくて。冷え切った心ひとつで世界を憎み、痛くて、いたくて。滅ぼそうとした世界に否定され、滅びを迎えて。
 その最期に。
「どんな願いでもよいのです。絶望より希望を口にして……誰も、貴方の言葉を聞かないものなど、誰もいませんから……」
「……」
 ――ああ、それならば。
「……あの声の……ない、静かな、場所で……今は……静かな場所で、眠りたい……」
 虚ろで、荒んだ目はすでに何も映さず、声はどんどんと遠ざかっていく。
 安堵と、孤独感が押し寄せてくる。
「はい。……おやすみなさい……デミウルゴス」
 偽神デミウルゴスは最期に彼のために祈り、彼の言葉を聞いた者に看取られ、骸の海に還っていった。

「貴方の怒りも嘆きも……此の地で得た全ての痛みと想いを、置いて逝かれませ」
 桜の精は彼らの魂が救われ、いつか転生に結びつくことを願う。
 この世界の理にも恐らくないだろうそれは、まるで砂漠に種を植え水を撒くような、無意味で無価値なことだと、皆が笑うかもしれないけれど。
「何時か貴方の想いが癒され、転生の願いに結びつきますよう――」
 いつか彼らが眠る場所まで届くようにと。願い、祈る。

 そしていつかは――大海に沈む彼らを照らすために咲く花が、あるのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月25日


挿絵イラスト