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碧湖の底にて待ち受ける祭壇とは

#ダークセイヴァー #第五の貴族 #復讐譚

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#ダークセイヴァー
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#第五の貴族
#復讐譚


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●ダークセイヴァー某所・???
 ――エメラルドグリーンに輝く湖底に沈む、小さな城内にて。

 中庭に続く扉の前に連れてこられた近隣の村人たちを、紅瞳を宿した吸血鬼の少年たちが逃げられない様囲む中、青髪を肩口で切りそろえた吸血鬼の少女が、何かを値踏みするようにひとりひとり見定めていた。
「ふーん、お兄ちゃん可愛いね?」
 やがて、吸血鬼の少女はある蒼瞳の少年の顎に手を当て、瞳を覗き込んだ。
「決めた! あなた、あたしのお兄ちゃんになって?」
「あ……やめ……」
 吸血鬼の少女が恐怖に震える少年の頬に口づけすると、少年の全身からすっと力が抜け、恐怖の代わりに笑顔を浮かべ始めた。
「これで、お兄ちゃんとあたしはずーっと一緒だよ」
「ああ……うん」
「ずっと、ずっと……ね♪」
 吸血鬼の少女が、笑顔を浮かべる少年の首筋に噛みつくと、少年の蒼瞳が瞬時に紅に染まり、肌が病的に青白くなった。
「じゃあ、お兄ちゃん。今ここにいる『素体』たちを、中庭に放りこんじゃって!」
「うん!!」
 紅瞳に変じた少年は、少女の命じるまま他の囚われた村人の腕を掴み、無理やり扉の前まで引きずる。
「ウェス、や、やめて……!!」
「頼むから正気に戻……うわああ!」
「ウェス」と呼ばれた紅瞳の少年は、村人の叫びを無視して次々と中庭に放り込み、扉を閉めた。

 数分後、扉越しに中庭から聞こえてくるのは……悲鳴と絶叫、そして咀嚼音。

 ――ガリッ、ボリッ、
 ――クチャ、グチャ……。

「うん、今日もいーっぱい『素体』を与えたから、新しい『番犬の紋章』が完成するのももうすぐねっ!」
 村人たちが生きたままオブリビオンに喰らわれる悍ましき音を嬉しそうに聞きながら、吸血鬼の少女は恍惚とする。
「さあ、お兄ちゃんたち、あたしと一緒にイイコトして遊びましょう?」
 無邪気な笑顔を浮かべた吸血鬼の少女は、吸血鬼の少年たちを従え、別室に移動する。
 その中には、先ほど世話になった村人を『素体』として捧げた、吸血鬼化したウェスの姿もあった。

●グリモアベース
「先日、『紋章』の製造場所をひとつ潰してもらったが……もうひとつ発見した」
 集まった猟兵たちを前にグリモア猟兵館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)が怒りを籠めつつ告げたのは、新たな『紋章の祭壇』の存在。
 ダークセイヴァーのオブリビオンを強化する『紋章』の製造場所『紋章の祭壇』の存在をグリモアが齎し、複数の猟兵達がその存在を確認し破壊したのは、つい先日の事。
 他のグリモア猟兵も『紋章の祭壇』の在処を把握していることから、複数あるのは確実視されていたが……。
「『紋章』は人族奴隷や下級オブリビオン等、おびただしい数の命を材料に創り出されているから、グリモアの予知にかかった『紋章の祭壇』は片っ端から潰していきたい。今回も手を貸してもらえないだろうか」
 頭を下げる敬輔に、猟兵達は各々の想いを胸に頷いた。

「今回、俺が把握した『紋章の祭壇』の在処は、エメラルドグリーンの湖底に沈む城の中庭だ」
 湖に潜り湖底に沈む城まで辿り着き潜入できれば、城内は然程広くないため、中庭に向かうのは難しくないだろう。
「『紋章の祭壇』が設置された中庭には、『紋章』に「なりかけ」ている、全身に無数の触手を生やした赤黒い鈴蘭の花型の下級オブリビオンが、生贄として運び込まれた人々を「素体」や「養分」として喰らっている。そこで、運び込まれた人々を別室に避難させながら、下級オブリビオンを全て倒してほしい」
 大量の生贄の血と死骸が散乱し、悪臭を美しい薔薇の香りで押し隠した悍ましい儀式の場と化した中庭では、近隣の村から浚われ囚われの身となった人々が、虚ろな目をしたまま喰らわれる時を待っている。
 彼らを喰らわれる前に別室に避難させつつ、『紋章』に変じようとしている下級オブリビオンを全て殲滅しなければならないため、一工夫必要となろう。
「下級オブリビオンを全て駆逐し、囚われていた人々を避難させれば、異変を察知し戻って来た『第五の貴族』が、吸血鬼化した少年たちと共に戻ってくる」
 自ら製造した「番犬の紋章」を宿し、吸血鬼化した少年たちを使役する『第五の貴族』と真正面からぶつかっても勝ち目は薄い。
 一方、オブリビオンが『紋章』を宿すということは、同時に弱点を備えるということに外ならないため、弱点を集中的に攻めれば勝機を見出せるはず。
「吸血鬼化した少年は『紋章』こそ持たないが、既にオブリビオン化したため助けられない」
 せめて骸の海に送ってくれ……と、敬輔は自らの感情を押し殺し、淡々と告げた。

「でも、おそらく、この少女の吸血鬼は……」
 準備をする猟兵たちを前に敬輔が見せたのは、蒼紅の双眸に宿す苦悩の色。
 しかし、敬輔は猟兵達が何か問う前に首を振ってそれを振り払い、丸盾のグリモアを展開した。
「いや、何でもない。今はひとりでも多く『第五の貴族』を討ち取り、『紋章の祭壇』を砕くのが優先だ」
 だから頼む、と再度頭を下げた敬輔は、碧白に染まった丸盾の転送ゲートを形成し。

 ――猟兵達を、湖底城が沈む湖の縁へと誘った。


北瀬沙希
 北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
 よろしくお願い致します。

 ダークセイヴァーにおいて、オブリビオンを強化する紋章の製造場所『紋章の祭壇』のひとつが発見されました。
 猟兵の皆様、ひとつでも多くの『紋章の祭壇』を破壊すべく、助力を願います。

 展開次第で、後味の悪い結果になる可能性もあります。
 事前にご了承の上、ご参加をお願い致します。

●本シナリオの構造
 冒険→集団戦→ボス戦となります。

 第1章は冒険『湖底城』。
 湖深くに沈む城に潜入し、中庭を目指してください。
 なお、城内は中庭含め、しっかりと空気が満たされております。

 第2章は集団戦『黒鈴蘭』。
『紋章』になりかけの下級オブリビオンを全て倒すとともに、「素体」とされかけている人々の安全を確保してください。

 第3章はボス戦『兄を探し求める吸血鬼『カヤ』』。
 儚さと優しさの裏に狡猾さを隠し持ち、複数の少年吸血鬼を侍らせた「番犬の紋章」を宿す「第五の貴族」たる吸血鬼の撃破を願います。
 ※弱点は第3章の断章で開示します。

●プレイング受付について
 当分の間、MS事情で執筆日が不定期となる見通しですので、リプレイは書けそうなときに手元にあるプレイング(サポート含む)から随時採用して執筆し、お返ししていきます。
 執筆できそうな日はマスターページにて告知しますので、送信前にマスターページをご確認いただけますと、幸いです。
 もしプレイングが失効した場合、お気持ちが変わらなければ再送願います。

 各章プレイングの受付開始は、冒頭の断章追記後から。
 締め切りはマスターページとTwitterで告知致します。

 全章通しての参加も、気になる章だけの参加も大歓迎です。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『湖底城』

POW   :    気合と体力勝負で泳ぎつき、城への出入り口を探す

SPD   :    水棲の魔獣から逃げ切りながら、周辺を調査をする

WIZ   :    状況を分析し、城に何が住んでいるかの推測を行う

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ダークセイヴァー某所・湖底城沈む湖の畔
 碧白の転送ゲートを潜った猟兵達の目の前には、エメラルドグリーンに輝く大きな湖が広がっていた。

 湖の畔から水中に目をやると、湖底に仄かな灯が揺らいでいるのが見える。
 さらに良く目を凝らし観察すると、仄かな灯に照らし出されるように、小さな城の姿が浮かび上がった。

 あの湖底城は、かつては水棲の魔獣が住まう地とされていたらしい。
 それを裏付けるように、湖を見渡すと、所々水棲の魔獣らしき生物が回遊している様子が確認できた。
 魔獣を刺激しなければ襲われることはないと思われるが、魔獣の生態がわからないため、警戒するに越したことは無いだろう。

 時折、湖底から気泡が浮かび上がり、湖面で弾ける。
 おそらく、湖底城には何らかの手段で空気が満たされているのだろう。辿り着けば呼吸の心配はしなくてよさそうだ。

 かつては美しき景観を保っていたと思われる湖底城は、今や悍ましき『紋章』を生み出す儀式の場と化している。
 猟兵達は、一刻も早く湖底城に潜入し、『紋章の祭壇』がある中庭に向かうために、準備を整え湖にゆっくりと身を沈めた。

※マスターより補足
 第1章は『紋章の祭壇』の在処「湖底城」へ潜入し、中庭まで向かっていただきます。

 城内に潜入できれば中庭に向かうのは然程難しくありませんので、プレイングは湖底城に辿り着くまでの手段に重点を置いていただいて構いません。
 POW/SPD/WIZも一例ですので、どうぞ自由な発想でプレイングをおかけください。

 ――それでは、よき水中の旅を。
シェラ・ルート
「泳ぐのは…どうだろうね?」

泳いだ事は、ある。ただそれは森の中での遊びとしてで、経験としては少ない訳で。

「水の精霊さん、力を貸して…私も、頑張るから」

水の精霊さんにお願いして城の入り口を教えてもらいつつ、できる限りは自力で泳いでみよう。やってみないとわからないからね。きつくなったら水の精霊さんに助けてもらうしか無いかなぁ。

もしできそうなら他の猟兵さん達のお手伝いも水の精霊さんにお願いしたいかな。余裕があれば、だけど。

安全に行くために、襲われそうになったら【全力魔法】【衝撃波】で時間を稼いで逃げる準備はしておこう。

「よし…泳ぐぞぉ。アル、見ててね?」



●精霊と共に碧湖の底へ
 エメラルドグリーンに輝く湖の畔から湖中を覗き込みつつ、シェラ・ルート(ドラゴニアンの竜騎士・f09611)は言の葉を漏らす。
「泳ぐのは……どうだろうね?」
 故郷の森で泳いだ事は、ある。
 ただし森の中での遊びとして泳いだだけであり、本格的な遠泳や潜水の経験としては少ないほうだと、シェラ自身思っている。
 出来る限りは自分で泳いでみるつもりだが、体力も息も最後まで続くかどうかは、やってみないとわからない。
 だから、シェラは手指を複雑に動かし、精霊を召喚する。
「水の精霊さん、力を貸して……私も頑張るから」
 シェラの呼び声に応え現れた水の精霊さんは、湖面からちらりと顔を出しつつ、頷いていた。

「よし……泳ぐそぉ。アル、見ててね?」
 家族同然のドラゴン「アル」を、できるだけ水中の抵抗を和らげるためにランス形態へと変化させ手に持ち、シェラはそっと湖に身を沈める。
 思ったより水が冷たくないことに驚きながらも、シェラは湖の縁を蹴りながら湖底に向かって泳ぎだした。
 水の精霊さんは、シェラから先行するように湖中を泳ぎ回りながら湖底城を探していたが、やがて仄かな灯が漏れる城を発見し、シェラを手招きして誘導する。
 誘導役の水の精霊さんを目標に、シェラは徐々に深く潜ってゆくが、やがて少しずつ息が苦しくなり始めた。
 十二分に息を整えて潜ったつもりでも、これだけ深く潜れば、潜水に慣れぬシェラでは息が続かない。
 苦し気に顔を歪めるシェラを心配し、水の精霊さんがそっと近づく。
 すると、シェラの危機を察した仲良い風の精霊さんが突然水中に現れた。
 本来、水中は水の精霊さんのテリトリーゆえ、風の精霊さんが姿を現すのは難しいが、シェラとの深い絆がそれを可能にしたのだろう。
 水中に現れた風の精霊さんがシェラの周囲に風を吹かせ、水の精霊さんが風の隙間から水が入らぬ様遮り、水風のヘルメットとなってシェラの頭と呼吸を守り始めた。
 風に囲まれたことに気づいたシェラは恐る恐る目と口を開け、二、三度呼吸を繰り返し、驚く。
 ――精霊さんたちのおかげで、息苦しくなくなったから。
「水の精霊さん、風の精霊さん、ありがとう」
 己が頭を守ってくれる精霊さんたちに礼を述べ、シェラはさらに深く潜ってゆく。
 風の精霊さんは、水圧に負けぬようにするためか、絶えずシェラを守る風となり舞い続けていた。

 やがて、シェラの目の前に、悠然と佇む湖底城が姿を現す。
 そのまま城の入り口向けて泳ぎ、ふわりと降り立ったシェラは、突然自身の周囲から水が消え失せたことに驚いた。
(「息ができる……ううん、水が入ってこない?」)
 入り口に目を凝らしてみると、城と湖との境界線を明確にするかの如く、あるいは水を遮るかの如く、入り口に結界が張られていた。
 そういえば、水棲の魔獣がうっかり湖底城の窓に衝突するのを何度か見たような気がするが、城内に水が入った形跡は全くない。
 少なくとも、湖水と魔獣は結界が遮り、城内に入れないようだ。
 その結界を誰が構築したのかは、今はわからないが、城内を動き回るのに呼吸の心配をしなくて良いのは有難い。
 一方、シェラは水の精霊さんが入り口で困ったようにうろうろしているのが気になった。
 風の精霊さんは無理なく通り抜け、シェラの周囲を舞っている。
 おそらく、水の精霊さんは実体化していると「湖水」同様とみなされ、結界を通り抜けられないのだろう。
 実体化を解き、在るべき居場所に還しても良いのだが、シェラはふと何かを思いついたか、結界越しに水の精霊さんに声をかけた。
「水の精霊さん、お願いしたいけどいいかな?」

 ――後に続く他の猟兵さん達のお手伝いも、お願いね。

 シェラのお願いにこくりと頷いた水の精霊さんは、湖面向かってゆっくり移動する。
 他の猟兵の助力となるべく湖面へ向かう水の精霊さんたちを見送りながら、シェラは身を翻し、中庭へと続く通路に足を踏み入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラング・カエルム(サポート)
「ほほう、私の力が必要なようだな。安心するがよい、私が来たならもはや解決したも同然だ!」
何かと首を突っ込みたがる。とても偉そうだけど人類みな友達だと思っている毎日ご機嫌ハイカラさん。
別に男に間違われてもなんら気にしない。そもそも自分の性別を意識していない。
別に頭が悪いわけもなく、むしろ回転は速い方だが、明後日の方に回転させる。
とてもポジティブ。人類みな友達だけど、悪いことした奴に叱るのも友達。なので誰にだって容赦もしない。容赦なく殴る。容赦なくUCも使う。だって友達だからな!



●ハイカラさんは湖中でも没頭す
「ほほう、私の力が必要なようだな」
 湖の畔に現れたラング・カエルム(ハイカラさんの力持ち・f29868)は、湖中を見つめながら自信たっぷりに断言する。
「安心するがよい、私が来たならもはや解決したも同然だ!」
 湖底の城、というシチュエーションに引かれたか、それとも首を突っ込みたがる性分か。
 いずれにせよ、私がここに来た以上は大丈夫! と自信満々。
「湖底城にいるであろうお友達が悪いことをしていたら、容赦なく殴ってやらないとな!」
 人類みな友達だと思っているラングは、時にオブリビオンも「人類」とみなす傾向がある。
 それは、オブリビオンが絶対悪であろうが、決して変わらないラングの信念。
 だから今回も「友達」を殴り飛ばし改心させるため。
 ラングは何度か呼吸して息を整え、湖水に飛び込んだ。

 湖水に飛び込むと、肌を晒さない様全身に纏っているラングの衣装が水を吸って一気に重くなり、飾りが四肢に纏わりつき行動を妨げる。
 だが、ラングは全く気にしない。
 というか、泳ぎに没頭しているので全く気にならない。
 見れば、ラングの全身を覆うパステルカラーの後光が徐々に激しく輝き始めている。
 ――それは、ラングが潜水という「非戦闘行為」に没頭している証。
 非戦闘行為に限定されるとはいえ、特定の行動に没頭する限り攻撃を遮断し、生命維持すら不要とするハイカラさんのユーベルコードは、水中では最大限の効果を発揮する。
 ふと、ラングの右側に、悠然と泳ぐ水棲の魔獣が現れた。
「グオオオオオオォオオン!!」
 突如前方を遮られ、後光で目が眩んだ水棲の魔獣が、ラングを丸のみにしようと大きな咢を開けるが、噛みつこうとして障壁と化した後光そのものに阻まれた。
「グウォオオォォォ!!」
 魔獣がいくら喰らいついても、ラングを丸のみ出来ず、それどころか後光に阻まれ噛むことすらできない。
 やがて、疲れ果てた魔獣は、すごすごと退散していった。

 無事に城の入り口に辿り着いたラングは、衣装の水を軽く絞り、呼吸を整える。
「さあ、此の先にいるお友達を殴りに行こう!」
 悪いことをした奴に叱るのも友達の役目だからな! と翠の瞳を輝かせながら、ラングは中庭へ悠々と歩いて行った。

成功 🔵​🔵​🔴​

加美歩・水峯
実に美しい湖畔じゃないか、久しい遊泳には昂りが付き物だ
それに元より水棲の僕にとって、水を往くなど一切の問題は無い

今は人の身だが【烈々濁流に溶く】により顕現せし流麗なる碧鱗にて、ゆるりと泳ごう
水棲の魔獣達、同じく水に生きる者とて、僕とは美しさも知性もよく違う
もっとも彼らが縄張りに侵入した僕に抵抗を加えたとて、鱗は水に溶け一切は当たらないだろう

さて方向音痴な僕だが、よく視界は開けている
城を探そう、此度、和邇の意気にて乗り込むまで


(アドリブ、絡み歓迎です)



●聖獣はゆるりと身を溶け込ませ
 薄闇の中で自己主張するように輝くエメラルドグリーンの湖畔に立った加美歩・水峯(碧水巫覡・f33948)はほう、と感嘆のため息を漏らしていた。
「実に美しい湖畔じゃないか」
 久しい遊泳には昂ぶりが付き物だ、と、逸る気持ちを表現する言い回しはやや芝居がかってはいるものの、頬がほんのり紅潮しているのはおそらく本心。
 普段から芝居じみた言い回しで内心の臆病さを隠しているとはいえ、馴染み深い水を前にしては昂ぶりを隠せないのだろうか。
 今でこそ淡色の水干を纏う若人だが、もとより水棲の召喚獣「和邇」の水峯にとっては、水を往くなど一切の問題はない行為なのだから。
(「和邇たる僕は美しいだろう!」)
 声に出さずに己が聖獣の美しさを褒めたたえた水峯は、躊躇うことなく湖中に身を躍らせた。

 湖に飛び込んだ水峯の四肢は、いつの間にか美しい緑の和邇に変貌し、臀部からは己が背丈とほぼ同程度の長さの立派な和邇の尾を生やしている。
 流麗なる碧鱗を顕現させることで聖獣たる和邇の姿を露わにした水峯は、そのまま湖底向けてゆっくりと泳ぎ始めた。
 水に溶け込むようゆるりと泳ぐその様は、水棲の魔獣の興味をも惹くが、大半は水峯を同じ水棲の生物と認識したか、襲うことなく穏やかに泳ぎ去る。
 しかし、全ての魔獣が同じ認識を抱くかというと、決してそうではなく。
「グゥルルルル……」
 やがて、大型の水棲の魔獣が飢えた獣の唸り声を上げながら水峯に急接近し、ギロリと値踏みするよう睨みつけてきた。
 和邇とヒトの半獣半人の姿をとっている水峯は、飢えた水棲の魔獣にとっては縄張りを荒らす邪魔な魔獣としか見えないのだろうか。
 ……あるいは、餌としてしか見えていないのか。
「グルォォォォ……ガウッ!!」
 魔獣の咆哮に驚いた水峯は、驚き四肢を止めてしまう。
 その一瞬で魔獣は大きく口を開き、一気に水峯を食い散らかそうと噛みついた。
 しかし。
 ――スカッ。
 魔獣の咢が水峯に触れた瞬間、水峯の姿は水に溶け込むようにかき消えた。
「ガウゥゥ?」
 突然餌を見失った魔獣が水峯を探すと、先ほどかき消えたはずの水峯の姿が再生されたかのように現れる。
 驚いた魔獣が再度水峯を喰らうが、やはり水にかき消え、直ぐに再生された。
 ヤケになった魔獣が三度水峯を喰らうが、結果はやはり同じだった。
(「同じく水に生きる者とて、僕と魔獣とは美しさも知性も違う」)
 全く学習しない水棲の魔獣に、内心ため息を漏らす水峯。
 半獣半人の水峯の身体は、周囲のエメラルドグリーンの湖水と同化したかのようによく溶け込み、魔獣の歯牙にかけられることはない。
 つまり、水棲の魔獣がいくら水峯を喰らおうとしても、その咢は和邇の肉体ではなく水を噛むことになり、魔獣の喉を通るのも美味しい肉片ではなく、普段から飲み慣れている湖水だけなのだ。
 結果、魔獣がいくら噛みついても体当たりしても、完全に水と同化した水峯の鱗は、魔獣の歯牙や爪に己が肉体を掠めさせることすら決して許さなかった。
「ガウウウゥウゥ……」
 やがて、魔獣は水峯を餌とすることを諦め、すごすごと泳ぎ去っていった。

 飢えた水棲の魔獣を追い払った水峯はいったん立ち止まり、周囲をじっくりと見回す。
 気付けば、魔獣と遭遇した地点から随分と離れてしまっていた。
(「思わぬところで時間をとってしまったが、さて……」)
 それでもじっくり周囲と足元を見回せば、やがて湖底城から漏れているであろう仄かな灯が目に入る。
 方向音痴の水峯にとって、目的地を探すのはなかなか骨の折れる作業だが、もとより湖底城と水棲の魔獣以外何も存在せず、なおかつ城から漏れる仄かな灯が存在を主張していれば、視界が開けて道標まで存在する以上、迷うことは無い。
 目的地を定めた水峯は、此度、和邇の意気にて乗り込まん、と、改めて気合を入れ直し。
 和邇の四肢をゆるりと動かしながら、湖底城目指して泳いでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
アドリブ◎

……目的地が湖底で、良かった
底に沈んでいくだけならば、"金槌"でも出来る
「気活丸」を口に含み、飲み下す
み゙ ゅ゙ お゙ え゙ え゙
に……にぎゃい……
でも、これで溺れなくなるなら安いもの
妖力薄弱だから、精霊様を呼び出したり出来ないし
……尻尾の元気が無くなるのは致し方なし

▲水上歩行で城の真上まで水面を移動し、そこから潜る
▲深海適正で水から酸素を取り込みつつ
水棲生物を刺激しないように静かに沈む
水の揺らぎに▲催眠術を乗せ
自分を"沈んでいく小石"に見せる

気付かれた場合は迎撃
脚を踏ん張れないのは些か不安は残るけど
大人しく食われてやる義理は無い
身体を捻って水の抵抗ごと斬り裂くように
UCを発動する



●妖狐は河童の術を借り潜行す
 エメラルドグリーンに輝く湖畔に降り立ったクロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)は、陸上から水底を覗き込み、心底安堵する。
(「……目的地が湖底で、よかった」)
 もし、泳いで向かえと言われたら、泳げないクロムにとっては計り知れない苦行となったであろう。
 だが、今回の目的地は、湖の底にある『湖底城』ゆえ、湖に身を沈めて湖底に辿り着ければよい。
 それなら“金槌”であっても十分成し遂げられるはずだ、とクロムは踏んでいた。
 ……問題は、水中で息を長続きさせる方法だ。
 実際、水中に適性のない他の猟兵は、精霊の力を借りたり泳ぎに没頭したりして突破しているが、妖力が薄弱で精霊様を呼び出せないクロムは、代わりにあるものを用意していた。
 クロムは腰に下げたきんちゃく袋から、河童が調薬したとされる濃緑の丸薬「気活丸」を取り出し、口に含んで一気に飲み干す。
 直後、凡そ人智を超えるであろう猛烈な苦みが舌と喉に広がった。
「み゙ ゅ゙ お゙ え゙ え゙……に……にぎゃい……」
 想像を絶する苦みに耐えきれず、クロムは奇声を発しながら思わず顔をしかめてしまった。
 ……周囲に同行者や見聞きする者が全くいなかったのは幸いか。
 余りの苦さに、クロムの尻尾も元気をなくし、だらんと垂れ下がってしまったが、これも今後の為と思って、今は我慢する。
 実際、服用した気活丸の効果が持続する限り、水中呼吸が可能となり、溺れる心配がなくなるのであれば、一時の苦みで悶絶するなど安いものだから。

 陸上から見える仄かな灯で城の位置のあたりをつけたクロムは、水面を静々と歩いて城の真上に移動する。
 真上に辿り着いたクロムはすぐさま水上移動の術を解き、水棲の魔物たちを刺激しない様、水の揺らぎに紛れるように水中の酸素を取り入れながら、己が身をゆっくりと沈めていった。
 ――さながら、水中でゆっくりと沈んでいく小石のように。
 己が気配すら小石であると催眠術で誤魔化しながら、クロムはゆっくりと、ゆらゆらと身を沈めてゆく。
 その甲斐あって、城がはっきりと視認できるようになる距離まで、水棲の魔物に襲われずに接近できた。

 だが、城の周りを回遊している水棲の魔物が、咢を開けながら猛スピードでクロムに迫る。
 ……おそらく、小石に見せかける催眠術に惑わされなかったのだろう。
 気付かれた以上は迎撃するしかないが、いまだゆっくり沈みゆくため、脚を踏ん張れないのはいささか不安。
 だが、このまま魔獣に大人しく食われてやる義理もないだろう。
 ――何より、食われては湖底城に囚われた人々を救えない。
 ゆえにクロムは、殺気と気配を一時的に完全に断ち、刻祇刀・憑紅摸に手を添え、魔獣が至近距離に迫る一種を待つ。
 目前に迫っている以上、魔獣の視界にクロムの姿は捉えられているが、今はそれでも十分。
(「神速剣閃、壱ノ太刀――露と消えよ」)
 至近距離まで迫った一瞬を見切り、クロムは水の抵抗に逆らい無理やり身体を捻りながら刻祇刀・憑紅摸を抜き、目の前の魔獣向けて抜刀術を繰り出した。
 纏わりつくようなエメラルドの湖水に、刻祇刀・憑紅摸に纏わりついている炎は一時的にかき消されるが、至近距離で必要なのは、炎より己が技量だ。

 ――ズブブブブッ!!

 水の抵抗ごと斬り裂かんとする超高速かつ大威力の抜刀術が、水棲の魔獣の頭から尾までを一直線に斬り裂く。
 哀れ、水棲の魔獣は断末魔を上げる前に上下二枚下ろしにされ、息絶えた。

 二枚に分かたれた水棲の魔獣の肉体を、クロムは足場代わりに蹴り飛ばし、城から遠く離れるように沈めながら、改めて城の位置を確認する。
 湖中に漂う血の臭いに、他の獰猛な水棲の魔獣が惹かれるのを見下ろしながら。
 クロムは気活丸の効果が切れる前に城に辿り着かんと、一気に己が身を湖底まで沈めていった。 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『黒鈴蘭』

POW   :    黒鈴蘭の嵐
自身の装備武器を無数の【幻覚をもたらす催眠毒を放つ鈴蘭】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    大地の福音
【侵食した大地】から【侵食、吸収能力に長けた根】を放ち、【毒性】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    享楽の傀儡
対象の【身体】に【幻惑毒を分泌する根】を生やし、戦闘能力を増加する。また、効果発動中は対象の[身体]を自在に操作できる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ダークセイヴァー某所・『湖底城』中庭
 ――ダッダッダッ!!
 ――ガチャン!!

 城に潜入し、一気に石畳の通路を駆け抜け。
 中庭に通じる扉を開けた猟兵達は、目を疑った。

 この中庭は、かつては湖中にあるにもかかわらず美しい花々を咲かせ、住人や来客の目を楽しませてきたのだろう。
 だが、美しき庭の面影はもはやなく、今は地面に大量の肉片が散乱し、土壌は大量の血で赤黒く染まっていた。
 しかも、中庭全体に、肉片と血液から漂う耐えがたい悪臭を誤魔化すかのように美しい薔薇の香りが漂っている。

 さらに中庭の中央には、醜悪極まりない見た目の『紋章の祭壇』が備え付けられ、『紋章の祭壇』を囲むように、無数の触手を生やした赤黒い『黒鈴蘭』がその身体と根をうねらせていた。
 周囲に張り巡らせた根や花から分泌する毒で幻覚を見せ、人々を誘き寄せる傀儡としたり、根を直接侵食させて栄養分とする植物魔物が、今や『紋章』に「なりかけて」いるのだ。

 ――中庭は、あまりにも悍ましき儀式の場と化していたのだ。

 猟兵達の目の前で、黒鈴蘭が身を震わせながら、いぎたない音を立てる。

 ――ガリッ、グチャッ。

 黒鈴蘭が食したと思われる「素体」――囚われの人々のうちのひとりの肉片と、大量の血液が、地面に散乱した。

「ああ、あああ……」
「俺たちはもう、おしまい……」

 虚ろに響く声を耳にし、猟兵が部屋の四隅に目をやると、そこには『第五の貴族』に囚われ、『紋章』の素体として、あるいは『黒鈴蘭』の「養分」としてこの部屋に放り込まれた人々が、虚ろな目をしてぶつぶつ呟いていた。
 おそらく、虚ろな目をした人々は、黒鈴蘭の花びらに含まれる幻覚毒に侵され、抵抗の意志を削がれているのだろう。
 もし、幸運にも幻覚毒に耐えられたとしても、生きながらヒトが食われる光景を見せつけられ続ければ、いずれ正気を失ってしまう。

 猟兵の目に入ったのは、中庭の左右、そして奥にある扉。
 だが、奥の扉から漂う気配は、享楽にふける吸血鬼たちのそれゆえ、奥の扉の向こうに『第五の貴族』がいる可能性は高い。
 もっとも、楽し気に笑う声や艶めかしい声が聞こえてくることから、おそらく『第五の貴族』は、一通り愉しむまで扉の奥から出てこないだろう。

 一方、猟兵達が入って来た扉の手前は、石畳の通路だった。
 左右の扉の奥に何があるかは不明だが、おそらく同じような通路が続いているだろう。
 奥の扉以外から避難させれば、当面の安全は確保できそうだが、囚われの人々を避難させている間にも、黒鈴蘭の攻撃を受ける可能性はある。
 その場で人々を守りながら黒鈴蘭を撃破し、『紋章の祭壇』を破壊した後で急ぎ避難させるのもまた、ひとつの選択だ。

『紋章』に「なりかけ」の下級オブリビオンを全部撃破し、「素体」や「養分」として供されるために捕らえられた人々を救うために。
 猟兵達は、それぞれの行動を始めた。


※マスターより補足
 第2章は『紋章』に「なりかけ」ており、自ら「素体」や「養分」を捕食しているオブリビオンの花『黒鈴蘭』との集団戦となります。

 この章では、囚われの人々を避難させたり、人々を護りながら戦った場合、プレイングボーナスが付与されます。
 囚われの人々は幻覚毒に侵されていますが、『黒鈴蘭』を全て倒すか適切なユーベルコードで治療すれば解毒されます。

 ちなみに、この章で『第五の貴族』及び少年吸血鬼たちが増援として登場することはございませんので、ご安心ください。
 ――それでは、良き救出戦を。
レオナール・ルフトゥ(サポート)
 誰かの面倒を気づいたら見ているような、
 近所のお兄さん、もしくは保護者的ポジションです。
 荷物番から料理まで頼まれれば意外になんでもやります。
 料理に関しては頼まれなくても率先してやります。

 基本的に穏やかな性格をしていますが、甘いわけではありません。
 可愛い子には旅をさせよ精神。

 全体を見るようにし、必要な場所へ行きます。
 無駄な争いは厭いますが、納得できるものであれば容赦はしません

 他おまかせします。


二天堂・たま(サポート)
ワタシは流血を伴わない攻撃手段が主だ。
武器:ケットシーの肉球による“負の感情浄化”や、UC:常識を覆すピヨの波動によるスタミナ奪取を多用する。

直接触れないような相手(体が火や毒で覆われている等)の場合はUC:アルダワ流錬金術を応用した攻撃が主力だ。
(火に覆われているなら水、毒液で覆われているなら砂嵐等)

しかし実際には直接的な戦闘以外の方が得意だな。
ボビンケースの糸を使った即席の罠の用意、料理や情報収集や掃除。
UC:親指チックで呼びだした相棒による偵察と、同UCによる居場所交代(テレポート)で潜入・解錠して味方の手引きとかな。

もふもふが必要ならなでても構わんぞ。UCで呼んだ相棒達(ひよこ)もな。



●「素体」とされる前に救助の手を
 ――濃密な薔薇の香りと悪臭が立ち込め、大量の血液と肉片が散乱している中庭にて。

「ああああ……もう、もうだめ」
「ああ、次はオレか……」
 幻覚毒に抵抗心を奪われ絶望を植え付けられながら、ただ「素体」となるのを待つ人々の前に、突然淡い碧白に輝く丸盾の転送ゲートが出現した。
 わずかに目を見開く人々の前に、転送ゲートを潜り降り立ったのは、一対の角を宿す優し気な風貌のドラゴニアン、レオナール・ルフトゥ(ドラゴニアンの竜騎士・f08923)と、複数のヒヨコに騎乗した青みがかった灰のケットシー、二天堂・たま(神速の料理人・f14723)。
 先に潜入した猟兵達が中庭に乱入したことで直接転送が可能となっていたが、中庭の状況が良くないことを見て取ったグリモア猟兵は、奥の扉に程近い右奥と左奥の隅に固められた人々の前に、レオナールとたまを直接転送させていた。
「これは……酷い」
 温和な顔を顰めながら呻くレオナールに同意するように、たまもまた鼻を押さえながら頷く。
「これはこれは……急いで助けると仕様」
 漂う香りの悪趣味さと、散らばる物体から察せられる凄惨さに、たまとレオナールはお互い目配せし合い、行動を開始する。

「まずは僕が、この植物魔物を無力化するよ」
 右手に緑のドラゴンオーラを宿したレオナールが、大きく手を振りかざし、黒鈴蘭たちを覆い尽くすようにドラゴンオーラを放つ。
 穏やかで無駄な争いは厭うレオナールだが、目の前でヒトが「素体」として喰らわれそうな可能性を見せつけられれば、容赦はしない。
 決意を秘めたレオナールの瞳と同じ緑のドラゴンオーラが、狙い違わず黒鈴蘭たちを覆った直後、ドラゴンオーラが大爆発を起こす。
 ――ドガーン!!
 爆風が黒鈴蘭たちの花と葉を引きちぎりながら、地面から動けぬ黒鈴蘭たちに少なからぬダメージを与えていた。
 そして、煙が晴れた後に残ったのは、緑のオーラが凝縮した鎖でお互い繋がれ、動きを制約された黒鈴蘭たち。
 目には見えぬが、オーラの鎖はしっかりと地中の根をも繋いでいた。
「……ほう、幻覚毒か」
 一方、鼻をしっかり押さえてもなお鼻につく薔薇の香りと悪臭に紛れるように、微かに漂う幻覚毒の存在に気づいたたまは、軽く周囲を見渡す。
 かつては美しく整えられていたであろう中庭の地面には大量の肉片が散乱し、土壌は大量の血液を吸って赤黒く染まってはいるが、よく見れば石畳がところどころ地中から突き破られるように破壊されていた。
 ……ならば。
「ちちんぷいっ! と」
 まるで魔術を行使するかのような軽快な声をあげながら、たまは黒鈴蘭にケットシーの肉球を見せつけるように翳した瞬間。

 ――ゴウッ!!

 突き破られた石畳の欠片が大量の砂に変化し、一斉に黒鈴蘭に殺到。
 無機物を自然界に存在する物質に変換するたまの錬金術で、破壊された石畳が大量の砂に変換され、砂嵐となって黒鈴蘭に叩きつけられていた。
 砂嵐に巻き込まれた黒鈴蘭の花や茎、葉に付着した血液は、叩きつけられた砂が吸収し、徐々に固まってゆく。
 数秒後、黒鈴蘭の全身は、まるで精巧な砂の鈴蘭の彫像のような見た目になっていた。
 ご丁寧に、たまが小さな壷のかたちをした花のひとつひとつに砂をぎっしり詰めるよう砂嵐を操作したため、花から人心を狂わせる幻覚毒や催眠毒を放出することもできなくなっている。
 緑のオーラと大量の砂で行動がほぼ封じられた黒鈴蘭は、纏わりつく大量の砂を振り落とそうとするが、体表に付着していた大量の血液を吸って固まった砂はそう簡単には振り落とせない。
 地面から根を突き破らせ、人々に再度幻覚を植え付けようにも、緑のオーラの鎖は細かい根同士をも繋いで阻害している上、そもそも纏わりつく砂が五感を妨害し狙いを定められない。
 結果、黒鈴蘭たちは「素体」の正確な居場所を把握できなくなり、幻覚毒や催眠毒も行使できず、根で「素体」を操ることもできなくなっていた。

 黒鈴蘭が砂を振るい落とそうと躍起になっている間に、たまは虚ろな目をした人々に、己がケットシーの肉球で片っ端から触れていく。
 負の感情を浄化する柔らかな肉球で触れられた人々から、幻覚毒と催眠毒で植え付けられていた「負の感情」――諦念が浄化され、わずかに生気が戻った。
「あっ……」
 僅かに意思の光を取り戻した人々は、地面に散乱する大量の肉片を目にし咄嗟に目を背ける。
 ――それが、同郷の無惨な遺体だと、気づいてしまったから。
 だが、悲嘆にくれる前に、レオナールが人々に呼びかける。
「今のうちに、皆さんこの庭の外へ出よう!」
 レオナールの呼びかけに、たまの肉球で諦念を浄化された人々が頷き、次々と立ち上がった。
 あの不気味な鈴蘭の動きを封じてくれた以上、少なくとも優し気な風貌のお兄さんと、ヒヨコを従えたネコさんは信用できる……人々はそう判断していた。
「さあ、あの扉から外に出るのだ」
「慌てず落ち着いて外へ出て!」
 たまとレオナールの声に弾かれたように、囚われていた人々は左右の扉に殺到し、扉の外へ出る。
「この人、脚が悪くて……」
「ならば、ヒヨコたちに乗るのだ」
「ありがとうございます!」
 ショックが激しかったり、身体が弱って自力で動けない者は、たまのヒヨコたちに乗せられ、扉の外へ連れ出された。
「あ、ああ……腰が……」
「僕が手を貸すから、さあ一緒に」
 目の前の凄惨な光景に、腰を抜かし立てない若い女性に、レオナールが肩を貸し立たせ、左の扉から中庭の外に出た。
 砂にまみれた黒鈴蘭たちは、それを妨害することもできず、必死に砂を振り落としていた。

 かくして、吸血鬼の脅威と「素体」となる恐怖、双方に怯えていた人々の半数は、レオナールとたまの手で左右の扉から中庭の外に脱出した。
 そして、同郷の住人らが助け出されるのを目にしていた残り半数の人々の目にも、微かに希望が宿り始めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

彩華・夜翔(サポート)
地味でゆる系な僕だけど、役に立てると良いな。

とりあえず可能であれば先制攻撃や不意打ちを狙うかな?
こっそり敵の背後とったりするの好き。
いい感じにみんなのサポートができたら嬉しいよ。

お手伝いついでに綺麗な景色が見れたら良いな、なーんて。
よろしく、ね。


戦闘は基本的には装備武器の双刃刀を使用。
スピードを活かした素早い動きで敵を翻弄するのが得意。遠距離や咄嗟の時の為にこっそり銃も持っている。

二人称(君(きみ)/名前+くん、さん)
いつも笑顔で戦闘中でも口調は柔らかい落ち着いた少年

アドリブは細かく気にせず遠慮なく!
共闘、負傷、ネタ等、何でもガンガンお好きにどうぞー!



●星々は人々の希望の道標となりて
 ――ぶるり。
 無数の触手を生やした黒鈴蘭たちは、先の猟兵が浴びせかけた大量の砂を振り払い、未だ残る「素体」候補たちを喰らわんと地面から根を伸ばす。
 砂を浴びせかけられた時に「素体」候補の半分は逃がしてしまったため、早急に残り半分を手中に収めるべく根を伸ばし傀儡化しようとする黒鈴蘭を見て、中庭の隅に固まった人々が諦念とともに虚空を見上げた、その時。
「美しく……弔ってあげる」
 突然響いた柔らかく落ち着いた声と共に、無数の星屑の煌めきが中庭に満ちた。

 ――ザアアアアァァ!!

 天井付近に満ちた星屑の煌めきは中庭全体に一気に降り注ぎ、地中から「素体」を穿とうと先端を突き出した根を悉く焼き尽くす。
 囚われの人々を穿ち、操ろうとして地表に顔を出した根は、瞬く間に星屑の煌めきに焼き尽くされ、その力を失った。
 煌びやかな星屑の煌めきは、黒鈴蘭本体にも降り注ぎ、その体表に付着した血液ごと、赤黒い釣鐘状の花や葉を焼いてゆく。
「きゃあっ! ……あれ?」
 中庭全体に星屑のきらめきが降り注ぐのを見て、囚われの人々も反射的に身を伏せるが、星屑の煌めきは一切人々を傷つけない。
 怪訝に思いながら身を起こした彼らの目に入ったのは、水中に突然現れた満天の星空の如く、人々を柔らかく照らし、希望の光となる星屑の煌めきたち。
「なんとか間に合ったね」
 そして、身を起こした人々の前には、いつの間にか星の力を秘めた断罪の双刃刀・ツミキリを手にした彩華・夜翔(闇彩変幻・f02015)が立ちはだかっていた。

 熱さに身を捩りながら茎や葉を振り回す黒鈴蘭を見て、夜翔は内心胸をなで下ろす。
(「先制攻撃や不意討ちを狙えたら狙いたかったけど、うまくいったね」)
 地中から根を人々の足に穿とうとしていたのを目にしていた夜翔は、黒鈴蘭に見つからないよう気配を消しながら、囚われの人々からも姿を隠しながら、闇の力を秘めた連鎖の双刃刀・サイカを星屑の煌めきに変換し、天井付近から一気に降らせたのだ。
 結果として不意討ちの如く降り注いだ星屑の煌めきを大量に浴びた黒鈴蘭は、悶えるように全身を捩らせ、触手を激しく蠢めかせていた。
 その触手の動きは、黒鈴蘭の「紋章」化を促進するためなのだろうか。
 あるいは……黒鈴蘭のいのちが削られている叫びの代わりなのだろうか。
「うーん、綺麗な景色が見れたら良いな、なーんて思っていたけど」
『紋章の祭壇』がこっそり設置され、凄惨な儀式の場に変貌する前の美しかったであろう中庭を想像しながら、夜翔はツミキリを両手で確りと持ちながら黒鈴蘭に接近し、葉や茎に斬りつけながら大声をあげる。
「さあ、今のうちに逃げて!」
「あ、はい!!」
 絶望を打ち消し希望を与えるかのような星屑の煌めきを目にし、さらに目の前で黒鈴蘭に斬りつけた穏やかな青年の姿に、1度は萎えかけた希望を取り戻した人々は、我先にと扉の外へと逃げ出した。

 夜翔が黒鈴蘭の根を切り払い、葉や茎を切りつけ妨害している間に、囚われていた残り半分の人々は、全員中庭の外へ退避していた。
 ――残すは、『紋章』になりかけている黒鈴蘭の群れのみ。

成功 🔵​🔵​🔴​


※マスターよりお知らせ(9/09 7:03)
 囚われていた人々の避難が全て完了いたしました。
 以後、囚われの人々の護衛・避難行動で付与していたプレイングボーナスは、特にプレイングで言及がなくとも【自動的に付与】させていただきます。
(既にお預かりしているプレイングに対しても、同様の対応をさせていただきます)

 ――それでは、良き討伐戦を。
シェラ・ルート
「良かった、助かって…」

捕らわれていたヒト達は、他の猟兵さんが助けてくれた。あとは、あれを倒すだけ…かな?

「倒すだけ、なんだけど…うぅ、気持ちわる…」

"花"は好きだけど。目の前の"あれ"は花とは呼べないし、呼びたくもない。
もう、風の精霊さんに全部、全部全部吹き飛ばしてもらおう。

【POW】UCで全力で攻撃、相手の花びらごと吹き飛ばそう。もし攻撃がきたら【見切り】で回避か、【全力魔法】で相殺、かな。

「お願いだから…消えて」

あれと対峙すると、いつもと何か違う、とても嫌な感じ…あぁ、そっか。私は今、怒ってるのかも。せめて、ここにいた人達の無念くらい、果たせたら…


(アドリブ、絡み歓迎です)


クロム・エルフェルト
アドリブ他◎

……また、このにおい
花の匂いに雑じる、屍山血河の凄惨な臭気
何人が犠牲になったのだろう
嗚呼、心の底から相容れない
悪趣味な蝙蝠共の思惑は、今この場で斬って捨てる
今この場にお師様が居たのなら、屹度そうしているだろうから

心無き悪の華にかける慈悲は無い
襲い来る毒根を斬り、掠れば毒が回る前に傷口を炎で舐め、灼いて塞ぐ
▲早業の一太刀を放ち、斬首の如く茎を▲切断する

万が一毒が回り動けなくなれば
――否
その程度で止められるものか、うつけ。
此れは、救われなかった衆生の怒り
灼落伽藍・敷火の焔を身に宿し、毒もろとも根を▲焼却
UCの加速を用い、身を覆う焔で黒花弁焼き散らしつ
敵の毒華をなで斬りにする


文月・統哉
送り出しの時の敬輔の様子が少々気になる
まさか…いや、今は戦いが先決か

素早く状況を確認
人々の避難が既に完了しているのは有難い
仲間の活躍に感謝しつつ
俺もまた俺の役割を果たそう

避難した人々は追わせない
そしてこのオブリビオン達も
紋章になんてさせるものか

ガジェットショータイムで
空気清浄機型のガジェットを召喚
毒を【浄化】する
放たれる根の動きを【見切り】攻撃回避
炎の【属性攻撃】と共に宵で斬り
黒鈴蘭のエネルギー吸収を絶つ

紋章の祭壇か
いったいどれだけの命がここで犠牲になったのか
せめて安らかな眠りを願い【祈り】と共に宵で斬る

そして戦いはまだこれから
兄を求める第五の貴族
彼女が探している者は、きっと…

※アドリブ歓迎



●着ぐるみ探偵は『正体』を探りに
 ――時は、ほんの少しだけ遡る。

 囚われていた人々が中庭の外に避難した直後、中庭に通じる扉の前に、文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)の姿があった。
 グリモア猟兵が送り出す直前の様子が少々気になったため、転送を願い出てここへ送ってもらったのだ。
(「……あの濁し方。まさか、とは思うが」)
「……いや、今は戦いが先決か」
 ひとまず意識を切り替え、中庭に足を踏み入れようとして……ふと、統哉の紫の瞳に座り込んでいる人々の姿が映った。
 凄惨な血の牢獄と化していた中庭から脱出したため、当座の安全は確保されているはずなのだが、その表情は妙に浮かず、未だ己を抱きしめ震えている者もいる。
 おそらく、目の前で同郷の者が黒鈴蘭に喰らわれるのを目の当たりにしたからだろうか。
 それとも……何か、別の理由があるのか。
 時間があれば少し聞いてみたいところだが、今は彼らの安全を完全に確保すべく、中庭の植物魔物を、そして背後でそれを操る者を掃討するのが先だろう。
(「人々の避難が既に完了しているのは有難い」)
 ……ならば、俺もまた、俺の役割を果たそう。
 統哉は仲間の猟兵達の活躍に感謝しつつ、中庭へと足を踏み入れた。

●猟兵らは嫌悪感を隠し切れず
 一方、中庭には、既に2名の猟兵が潜入していた。
「良かった、助かって……」
 シェラ・ルートは、他の猟兵達の手で囚われの人々が全て避難したのを見届け、ほっと胸をなで下ろしていた。
 後は目の前で全身に触手を生やしながらゆらゆらと獲物を待ち受けている、赤黒い鈴蘭を倒すだけ、なのだが。
「倒すだけ、なんだけど……うぅ、気持ちわる……」
 生理的な嫌悪感が先に立ったか、思わず口を押えるシェラ。
 草原にひっそりと咲く“花”や花畑に咲き乱れる“花”は好きだけど、目の前の“あれ”は花とは呼べないし、呼びたくもない。
 ……いや、ヒトを幻惑毒や催眠毒で惑わせ、操ったり喰らったりするような花が“花”であってほしくない。
 あからさまに嫌悪感を見せるシェラの横で、クロム・エルフェルトは目を伏せながら、怒りをふつふつと滾らせていた。
(「……また、このにおい」)
 美しい薔薇の花の匂いに雑じる、屍山血河の凄惨な臭気。
 それは、先日凍原の先にあった教会で鼻についたにおいと、全く同じ。
(「ここで何人が犠牲になったのだろう」)
 他の猟兵が囚われた人々を救出したとはいえ、おそらく全員の救出は叶わなかったであろう。
 花びらがまき散らした催眠毒に侵され、自ら黒鈴蘭にその身を差し出した者や、幻惑毒に惑わされ、抵抗心を奪われ成す術なく食われた者もいたはずだ。
 ――嗚呼、心の底から相容れない。
(「だから、悪趣味な蝙蝠共の思惑は、今この場で斬って捨てる」)
 刻祇刀・憑紅摸の柄をぐっと握りしめつつ、クロムは黒鈴蘭をきっと睨む。
 今この場にお師様が居たのなら、きっとそうしているだろうから。

 そして、中庭に足を踏み入れた統哉もまた、血と儀式に塗れた黒鈴蘭を見て、一瞬息を呑む。
 目の前で触手ごと蠢く黒鈴蘭たちは、『紋章』となるべく、その悍ましいいのちを繋ごうとしているようにも見えた。
「『紋章』になんてさせるものか」
 統哉は漆黒の大鎌「宵」を左手に、変形前のガジェットを右手に持ち。
 シェラとクロムと目を合わせ、一つ頷き合ってから、ガジェットを高らかに空に掲げた。

●白天使は怒りの竜巻とともに
 統哉の手にしたガジェットが、周囲の空気を分析し変形、UDCアースでよく見られるような小型の空気清浄機の形をとる。
 いまだ空気に幻覚を見せる毒が僅かに含まれ、猟兵達が幻覚を見る危険が残っている以上、この状況では最も有効なガジェットとも言えよう。
 空気清浄機型のガジェットがうなりを上げて周囲の空気を吸い込み、幻覚毒の成分だけを取り除いて排出、毒を一気に浄化した。
「――――!!」
 空気中の毒を全て無力化された黒鈴蘭が、地中に張り巡らせた根を一気に伸ばし、シェラとクロムの足を狙う。
 もし侵されれば同士討ち必至の幻惑毒を分泌させながら迫る根を、シェラは足元から地面を突き破る直前の地面の動きを見切って避け、クロムは根が顔を出した瞬間、刻祇刀・憑紅摸で地面をスレスレに薙ぎ、根を悉く焼き尽くした。
「――――!!」
 炎に根を炙られた黒鈴蘭が、声なき悲鳴をあげながら大きく身を捩らせ、全身から無数に生える触手も一気に活気を失う。
「おいで、わたしのともだち」
 好機と見たシェラは、仲良い風の精霊さんを再度召喚するが、伝わってくる風の精霊さんの感情に思わず身震いした。
 ――風の精霊さんが、怒っている。
 おそらく、風の精霊さんも、大量の血潮が浸みこんだ地面の惨状と、それを糧とするグロテスクな“花”に対し、嫌悪感と怒りを覚えているのだろう。
 だが、風の精霊さんに共感しているシェラもまた、胸の裡に嫌悪感という名の重い澱みを抱えている。
「お願いだから……消えて」
 シェラは、喉の奥から絞り出すように、嫌悪感に満ちた声で、叫ぶように風の精霊さんに命じた。
「風の精霊さん、全部吹き飛ばして!」
 こくり、と頷いた風の精霊が、シェラと共有する嫌悪感に任せるかのように竜巻を発生させ、黒鈴蘭の周囲の石畳や土壌ごと黒鈴蘭を呑み込んだ。

 ――ゴウウウウウッ!!

 局地的に発生した竜巻は天井近くまで達し、中庭の血塗れの草花や破壊された石畳を噴き上げながら黒鈴蘭の群れを翻弄する。
(「あれと対峙すると、いつもと何か違う、とても嫌な感じ……」)
 胸にわだかまる嫌悪感の正体を察したシェラは、あぁ、そっか、と微かに唇の端に乗せ、呟いた。

 ――私は今、怒ってるのかも。

 この土壌に滲みている無数の血潮は、『第五の貴族』の戯れで奪われた人々のいのちそのもの。
 多くの無辜の命を散らし、『紋章』制作の糧とする所業そのものに、シェラも風の精霊さんも怒りを覚えているのだろう。
「せめて、ここにいた人達の無念くらい、果たせたら……」
 既に「素体」として供され、無念を抱き骸の海へ向かったであろう人々の代わりに。
 私が無念を晴らすから……と無意識に言の葉に乗せたシェラは、竜巻に宿った風の精霊さんの怒りに己が想いを同調させながら、黒鈴蘭が竜巻に翻弄されるのを見守っていた。

●剣狐は埋め火を、探偵は優しさを
 竜巻が消えると、巻き上げられた石畳の欠片が落下し、黒鈴蘭の葉や茎を強打する。
 花びらも竜巻で散らされたところに追い打ちをかけられた黒鈴蘭からは、明らかに生気も活気も失われていた。
 それでも、黒鈴蘭は目の前のクロムたちを良質の「素材」とみなしているのか、地中からの攻撃の手を緩めない。
 再び地中を突き破り現れた根が、クロムの足を僅かに掠めた。
「くっ!」
 咄嗟に襲い来る毒根を斬り飛ばしつつ、炎で傷を舐めるように灼いて一気に塞ぐが、わずかに入った幻惑毒が徐々にクロムの認識を狂わせ始めた。
(「私が、焼き尽くす敵は……」)
 足を止めたクロムの瞳から、少しずつ光が消え、幻惑毒で認識がすり替わり始める。
 悪趣味極まりない触手に塗れた黒鈴蘭は、守護の対象に。
 そして、黒鈴蘭を滅せんと手を緩めぬ猟兵達は――倒すべき敵に。

 ――否。

「その程度で止められるものか、うつけ」
 炎刀を再度傷口に押し付け、己が劫火で傷口と毒を完全に灼き尽くしながら、クロムは己を低い声で叱咤し、正気を取り戻す。
 傷口を焼き切った劫火は、足から胴体をつたいながらゆっくりと全身に広がりつつあった。
「十面埋伏。埋め火の恐ろしさ、身を以て知れ」
 己が寿命を代償に、深い火傷を刻み付ける憑紅摸の焔を全身に纏いながら、クロムは炎刀を正眼に構える。
「此れは、救われなかった衆生の怒り」
 己が劫火と衆生の怒りに身を任せながら、炎刀を地表に叩きつけるよう振り下ろして火災旋風を周囲に生み出し、分泌された毒ごと根を一気に燃やし尽くし。
「心無き悪の華にかける慈悲は無い――散れ!!」
 そのままクロムは地面を蹴って加速し黒鈴蘭に一気に接敵し、刻祇刀・憑紅摸を一息に斬り上げながら毒華を撫で斬りにし、黒花弁を周囲に大量にまき散らした。
「――――!!」
 クロムの全身を覆う劫火が、まき散らされた釣鐘状の花に燃え移る。
 花が劫火に包まれるのを見て、統哉もまた、宵の刃先に炎を宿し、接近。
 侵食・吸収能力に長けた根の動きを、統哉は見切って躱しながら宵で黒鈴蘭の茎や葉に斬りつけ、これ以上のエネルギー吸収を阻止した。
「風の精霊さん、もう1度!」
 再度シェラの懇願を請けた風の精霊さんが、黒鈴蘭を巻き込むよう竜巻を起こす。
「統哉さん! クロムさん!!」
 シェラの叫びに、統哉とクロムは一斉に後退。
 それぞれの得物に宿っていた劫火と黒鈴蘭の花を燃やす炎が風の精霊さんが巻き起こした竜巻に灯ると、たちまち炎の大竜巻と化し、地表も地下もまとめて焼き尽くし始めた。

 ――ゴウウウウウウッ!!

 怒りと優しさが綯い交ぜとなった炎の大竜巻が、無念に漂う魂を優しさで在るべき場へ導きながら、黒鈴蘭の残った生命力を毒と根ごと一気に焼き尽くす。
 黒鈴蘭の群れは、断末魔の悲鳴すら炎の大竜巻にかき消され、燃え尽きた。

●『紋章の祭壇』破壊せし後に来るモノは
 炎の大竜巻が消えた後に残ったのは、黒鈴蘭の護りが焼き尽くされ露わになった、『紋章の祭壇』。
 悍ましい悪臭と濃密な薔薇の香りは、黒鈴蘭が消えても未だ漂っていた。
「……いったい、どれだけの命がここで犠牲になったのか」
「ん」
「もう……わからないですね」
 統哉の怒りを籠めた呟きに、クロムが怒りの、シェラが哀しみの声音で応じる。
 3人はお互い頷き合ってから、シェラがもう1度、風の精霊さんを召喚した。
「風の精霊さん、もう1度力を貸して。――あの祭壇を壊して」
 シェラの操る風の精霊が、三度『紋章の祭壇』を荒れ狂う暴風で包み込み、祭壇の装飾を悉く吹き上げ、丈夫な基礎を鎌鼬で斬り刻む。
 暴風荒れ狂う中、クロムと統哉が風の精霊さんに護られながら『紋章の祭壇』に接近し、それぞれの得物を振り下ろした。
 クロムの刻祇刀・憑紅摸の一振りは、悪趣味極まりない蝙蝠の思惑を全て破壊する劫火となり、切り刻まれた祭壇をさらに燃やし。
(「……せめて、安らかに眠れ」)
 統哉が犠牲者の鎮魂の祈りとともに振り下ろした宵の一撃は、閉じ込められた犠牲者の魂を解放しつつ、祭壇の基礎を深く穿っていた。

 ――かくして、力を失った『紋章の祭壇』は完全に破壊された。

『紋章の祭壇』が破壊され、悪臭と薔薇の香りが消えても、猟兵達はその場を動かない。
 ――まだ、『紋章』を製造していた『第五の貴族』が残っているはずだから。
(「……戦いはまだこれからだが」)
「統哉さん、どうかしましたか?」
「ん、ああ……」
 シェラからの気づかいを生返事で誤魔化しつつも、統哉の意識は既に『第五の貴族』の正体を探るほうへ向いている。
(「兄を求める『第五の貴族』。彼女が探している者は、きっと……」)
 統哉が正体を朧げに掴みかけた、その時。
「あ~!! なんてことしてくれるのよー!!」
 驚愕と怒りが綯い交ぜになった悲鳴が、奥の扉のほうから響いた。

 シェラが奥の扉に目をやると、背後に5人の赤目の少年を従えたワンピース姿の少女が、怒りに肩をわななかせている。
 破壊された祭壇を凝視する少女の肌は、怒りに赤く染まった頬以外は病的な程、白かった。

 そして、少女の胸元には。
 白いワンピースと対照的な色合いゆえよく目立つ、赤黒い三つ首の『番犬の紋章』が脈動していた。

「……『第五の貴族』ね」
 怒りを籠めたクロムの呼びかけに、『番犬の紋章』を宿す少女は怒りの形相のまま、頷いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『兄を探し求める吸血鬼『カヤ』』

POW   :    お兄ちゃん、あたしと一緒に行こう?
【紅い瞳による魅了】【優しき抱擁】【吸血の為の首筋への噛みつき】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    お兄ちゃん、助けて!
【「お兄ちゃん」からの助言を受けたように】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    お兄ちゃんとはいつも一緒だよ?
【かつて自身が篭絡した若い少年の吸血鬼】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[かつて自身が篭絡した若い少年の吸血鬼]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠館野・敬輔です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『第五の貴族』の怒りは猟兵へ向いて
「もう、何てことしてくれるのよ!! せっかくイイコトしていたのに!!」
『紋章』となりかけていた黒鈴蘭を全て殲滅され、肝心の『紋章の祭壇』を壊された少女吸血鬼は、少年吸血鬼との「イイコト」を破壊音で妨害されたこともあり、怒り心頭になっていた。
「ああ……たくさんの『紋章』を作っていたのに、これじゃもう作れなくなるじゃない!!」
 完全に破壊された『紋章の祭壇』を見つめつつ、頬を怒りに染めて喚き散らす少女吸血鬼の瞳には、徐々に嗜虐心と殺意が宿りつつある。
「こうなったら、猟兵を血祭りにあげて、それから外にいる素体たちを皆殺しにしてあげるわ!」
 それに、お兄ちゃん候補となりそうな猟兵もいそうだし……と密かに舌なめずりをする少女吸血鬼は、くるりと身を翻し、背後に控える色白な肌と赤瞳の少年吸血鬼たちに微笑みかけた。

 ――お兄ちゃんたち、あたしを助けてね?

「うん、カヤちゃんの為なら何でも!」
「カヤさんを守るんだ!!」
 背後に控えていた少年吸血鬼たちは、少女吸血鬼――『カヤ』に盲従するかのように、カヤと猟兵の間を遮る壁となる。
 その後ろで少年吸血鬼たちに微笑みかける『カヤ』の口端には、いつしか残虐な笑みが宿っていた。

 さあ、猟兵達よ。
 目の前に現れたのは、『第五の貴族』たる強大な少女吸血鬼『カヤ』。
 儚げな印象を見せながらも、優しさの裏に狡猾さを隠し持ち、胸元に『番犬の紋章』を宿す少女吸血鬼を討ち取り、これ以上の悲劇を防げ。

 ――健闘を、祈る。

※マスターより補足
 第3章は『第五の貴族』たる少女吸血鬼『兄を探し求める吸血鬼『カヤ』』とのボス戦となります。

 カヤの弱点は、【胸元】に宿す赤黒い三つ首の『番犬の紋章』そのものです。
 まともにやり合っては勝ち目はありませんが、紋章を傷つければ徐々に弱体化します(プレイングボーナスが付与されます)ので、積極的に狙ってみてください。
 なお、イラストでは胸元が白のワンピースに隠れておりますので、紋章もワンピースで隠されていることになりますが、あからさまに色が違い目立ちすぎる為、ワンピースに隠れていても『番犬の紋章』の場所は一目瞭然です。よって、『紋章』を狙う際のペナルティは特にありません。

 POW「お兄ちゃん、あたしと一緒に行こう?」は、若い男性の猟兵がいれば優先的に狙って使う傾向があります。(誰もいなければ女性に対しても使います)
 この技で猟兵が吸血されても、一時的にユーベルコードを封じられるのみで、吸血鬼になることはございません。ご安心ください。

 5人の少年吸血鬼たちは、カヤの盾となり立ちはだかる以外に、SPD「お兄ちゃん、助けて!」でカヤに助言を与えたり、WIZ「お兄ちゃんとはいつも一緒だよ?」でカヤの力となったりします。
 この少年吸血鬼たちは、既にカヤに魅了されオブリビオンと化して盲従しているため、救出不可能ですが、カヤを倒せば全員倒れます。
 また、少年吸血鬼の中には、オープニングで吸血鬼とされた「ウェス」もいますが、彼も救出不可能です。

 ちなみに、猟兵を無視してカヤや少年吸血鬼たちが中庭から外に出ることはありませんので、ご安心ください。

 ――それでは、良き結末を。
真宮・響
【真宮家】で参加

敬輔の予知での様子が気になって来てみたが・・・酷い状況だね。全く。それに目の前にいる娘に見覚えあるが。成程、敬輔が言葉を濁す訳だ。

これ以上放置しておけば被害が増えるね・・・ここで終わらせるよ。

弱点が胸元ならいつもの隠密は使えないね。【戦闘知識】【残像】【オーラ防御】で少年吸血鬼達の攻撃を捌きながら真紅の騎士団と【衝撃波】で少年吸血鬼達を薙ぎ払う。敵一人だけになったら【頭突き】をした上で【グラップル】【怪力】で胸元の紋章を正拳で殴る。後は【スライディング】して【踏みつけ】てやる。

戯れが過ぎたようだね。やんちゃはおしまいだ。この儀式は止めさせてもらうよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

遅参になりましたが、参りました。・・・・この方が、カヤさん。良く似てらっしゃいますね。お兄様を求める気持ちは良くわかるのですが、そのやり方は許容できません。止めさせていただきます。

【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で防御を固めた上で【激痛耐性】でカヤさんの近接攻撃に耐えます。

凄く痛いですが、男の方達が犠牲になるよりずっといいです。UCが使えれば最近接で信念の拳で、胸元の紋章を狙いたいですが、UCを使えなくなる可能性が高いので、【怪力】【グラップル】の拳でのパンチで胸元の紋章を狙います。

これ以上の犠牲を防ぐ為に。終わらせます!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

敬輔さんの様子が気になって駆け付けましたが・・・敬輔さんが言葉を濁す訳ですね。良く見覚えある顔ですし。兄として気持ちは分からないでもないですが、犠牲を伴うやり方は止めねばなりません。

僕は少年吸血鬼達の動きを牽制します。月読の同胞にサポートして貰いながら、【衝撃波】【吹き飛ばし】で一か所に纏めて集まらないようにし、【マヒ攻撃】【鎧無視攻撃】【目潰し】【部位破壊】を併せた【結界術】を敵の群れに攻撃して展開。カヤ本体を狙える余裕が出来たら【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を併せた【誘導弾】を。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。



●【真宮家】と「妹」との邂逅
 美しきエメラルドグリーンを湛える湖の底にある城の中庭は、今や暴風が荒れ狂ったかのように瓦礫と千切れた草花が徒に散乱し、残った植物や地面が紅に染まり、微かに血臭と濃密な薔薇の香りが漂う、凄惨な儀式の場と化している。
 荒れ果てた中庭で、自ら虜にした少年吸血鬼を盾に後方で笑みを浮かべながら佇む『第五の貴族』カヤの目の前に、突然碧白の巨大な丸盾のゲートが出現し、3人の猟兵が姿を現した。

「遅参になりましたが、参りました」
 ゲートの中から現れた真宮・奏(絢爛の星・f03210)が、少年吸血鬼たちの壁の向こうにいるカヤの顔を見て、一瞬息を呑んだ。
「……この方が、カヤさん」
 良く似てらっしゃいますね、と続けて口にしようとした、その時。
「グリモア猟兵のグリモアベースでの様子が気になって来てみたが……酷い状況だね。全く」
 続けて足を踏み入れた真宮・響(赫灼の炎・f00434)が、中庭の惨状を目にし眉を顰める。
「……これは彼が言葉を濁す訳ですね。彼にとっては良く見覚えのある顔ですし」
 響と同時に転送され、カヤの顔を一瞥した神城・瞬(清光の月・f06558)が浮かべたのは、渋い表情だった。
「あら、いかにもあたしを知っていそうな口ぶりだけど、猟兵の知り合いなんていないわよ?」
「な……!!」
 頬を膨らませながら否定するカヤを、瞬と奏は思わず怒りの形相で睨みつける一方、響は納得いったかのように頷いていた。
 ――彼女が知っている彼は、『猟兵として覚醒する』前の彼なのだから。
 ゆえに、『猟兵の知り合いなんていない』という言は矛盾しないはず。
「そうだろうね。まあ、それでも……ちょっと戯れが過ぎたようだね」
 カヤの肉壁として立ちはだかる5人の少年吸血鬼を見渡しながら、軽く眉を顰める響が、ぐっと拳を握り込む。
「お嬢ちゃん、やんちゃはおしまいだ」
「兄として気持ちは分からないでもないですが、犠牲を伴うやり方は止めねばなりません」
 冷静に、しかし言の葉に怒りを籠め言い放つ瞬に、ぷうと頬を膨らませるカヤ。
「犠牲って心外ね。お兄ちゃんたちはみんな、喜んであたしのお兄ちゃんになってくれたってのに」
「お兄様を求める気持ちは良くわかるのですが、そのやり方は許容できません」
 止めさせていただきます、とエレメンタル・シールドを構えた奏に頷きながら、響が言葉を引き取る。
「ああ、これ以上放置しておけば被害が増えるね……ここで終わらせるよ」
 その言葉とともに、瞬が六花の杖を高らかに振りかざした。

●其の魅了術を仕込んだのは誰か
「月読の同胞、力を借ります!!」
 剣と弓を手にした月読の同胞を召喚した瞬は、同胞にサポートしてもらいながら、六花の杖を一振りし、綿密に麻痺毒と目潰しの術式を編み込んだ結界を中庭全体に広がるよう一気に展開。
「うわああっ!」
「目が、見えない……!」
「身体が、おも、い……」
 結界に包み込まれた少年吸血鬼たちは、麻痺毒と目潰しで行動不能に陥っている間に、奏は翠のオーラを濃密に前方に展開しながら走り出し、少年吸血鬼の壁を突破。
 あっという間にカヤの前に辿り着いた奏は、エレメンタル・シールドをどっしり構え立ちはだかった。
「あら、女の子に用はないわよ?」
「男の方が犠牲になるよりは、よっぽどいいですから」
 ちら、と後方の瞬に目をやってから、奏はカヤが瞬に視線をやらぬよう、徹底的に纏わりつき、妨害する。
「仕方ないなあ。お兄ちゃんじゃなくてもいいわ」
 わざとらしく大きなため息をつきながら、カヤは紅の瞳を輝かせ、奏の紫の瞳を覗き込んだ。
「さあ、お姉ちゃん、あたしの目を見て?」
「!!」
 思わぬ命令口調に、奏は反射的にカヤの輝く紅瞳を見てしまう。
 直後、奏の全身に甘美な電流が走り抜けたかと思うと、エレメンタル・シールドを下ろしていた。
 後方で見守っていた瞬の目の前で、凛々しさを保っていた奏の表情が崩れる。
 魅了された奏は、意思無き妖艶な瞳をカヤに向けていた。
「さ、お姉ちゃん、その邪魔な盾を捨てちゃって?」
「ああ、はい……」
 思考と理性が封じられた奏は、命令通りエレメンタル・シールドを地面に捨てる。
 奏のいのちを幾度となく救って来た愛用の盾は、地面の瓦礫にぶつかりガラン、と音を立てながら、血潮の染みた土の上に転がった。
「そうそう、いい子ねお姉ちゃん?」
 蕩けるような口調で奏を宥めつつ、カヤはそっと奏に抱きついた。
 ――其の口元に、侮蔑の笑みを浮かべながら。
「ああ……」
「さ、あたしのお姉ちゃんになって、イイコトしましょ?」
 カヤが奏の耳元で睦言を囁きながら、首筋に犬歯を突き立てようとした、その時。
「貴様ぁ……!!」
 瞬が腹の底から怒りを振り絞るかのような低い声を出しながら六花の杖を一振りし、乱暴に誘導弾を発射。
 出鱈目な狙いをつけ放たれたそれは、奏の首筋とカヤの口の間の僅かな隙間をすり抜けた。
「きゃっ!!」
 驚いたカヤが奏に近づけていた口を離すと、立て続けにカヤの吸血行為を阻止するように、瞬の誘導弾が次々と通過する。
「オレの妹に、何をしてくれる!!」
 冷静さをかなぐり捨てた乱暴な口調でカヤを糾弾しながら、瞬は誘導弾を連射し続けた。
 猟兵は世界の加護で吸血鬼化は逃れられるとはいえ、目の前で家族が、最愛の義妹が、吸血鬼の毒牙にかかるのは耐えられないから。
 一方、響はカヤの所業に怒りを覚えつつも、激しい既視感を抱いていた。
(「この光景、どこかで見たような……」)
 既視感のおかげで瞬よりも幾分か冷静になれた響は、己が交戦記録を記憶から少しずつ辿り……やがてある記憶に辿りつく。
「そうか……!! 思い出した!!」
「母さん、奏が危ないんですよ!?」
 思ったより落ち着いた響の叫びに、瞬は腸煮えくりかえるような怒りとともに響を睨みつけるが、響は構わず、百体以上の胸に1と刻印された戦闘用の槍や剣で武装した真紅の鎧の騎士たちを召喚し、少年吸血鬼たちの足を止めるよう命令。
 真紅の騎士団が麻痺毒でふらつく少年吸血鬼たちを取り囲み、時間を稼いでいる間に、響は怒りに燃える瞬を落ち着かせるように説明し始めた。
「瞬、以前倒したロイを覚えているかい?」
 ――それは、1年以上前に討ち取った、若い女性を篭絡し侍らせていた、吸血鬼の名。
「ええ、確か無限の愛とやらで女性を篭絡し……あ!!」
 響の出した名が呼び水となり、記憶が蘇ったか、瞬も叫んだ。
 無限の愛を語りつつ、猟兵すら手中に収めようとした魅了の術には、瞬を始めとする猟兵たちも手を焼いたものだ。
 そう言えば、確かロイも、魅了し洗脳する甘い視線と蕩けるような声で篭絡した女性の血を吸い、吸血鬼に変えていた記憶がある。
 響は力強く瞬に頷き、己が脳裏に閃いた推測を語った。
 ――然るべき者が耳にしていたら、憤怒に駆られるであろう、その推測を。
「ああ、カヤを吸血鬼にしたのは……おそらくロイだ」
 言われてみれば、目の前のカヤの誘い方はロイのそれと酷似している。
 カヤの魅了術が、ロイに仕込まれたそれである可能性は、かなり高い。
 あるいは、カヤ自身もロイの魅了術を受け、無限の愛という名の偽りの愛情を植え付けられ傅いた後、ロイに吸血され吸血鬼化された可能性もある。
 カヤの言の葉に魅了の魔力は籠っていないため、ロイほどの強制力は持っていないようだが、それでも目の前で瞳を覗き込まれながら誘われればどうなるか。
 それは、カヤに抱き着かれても全く抵抗しない奏の様子が全てを物語っていた。

●家族の絆で魅了から解放され
「瞬! 少年たちはアタシの騎士団が抑えるから、奏をカヤから引き離すんだ!!」
「はい!!」
 深呼吸し少しでも気を落ち着かせ、腹の底に澱んだ憤怒に呑まれぬ様自制しながら、瞬は改めて麻痺毒と目潰しの術式を六花の杖の先に展開し、凝縮。
 それは1発の透明な誘導弾となり、六花の杖の先から発射された。
 先程は怒りのまま発射したため、吸血を阻止する程度しかできなかったが、確りと狙い撃った今度の誘導弾は、狙い違わずカヤの紅の瞳に命中し、その視界を奪う。
「いった~い!! 目が見えないじゃないのよ!」
 奏から離れたカヤは、潰された目を押さえつつ後方にふらりと下がりながら奏に命じた。
「お姉ちゃん、悪い人からあたしを守って!!」
「ああ……お姉ちゃんが……守るから」
 カヤの前に、ふらりと向きを変えた奏が肉壁として立ちはだかる。
 その口元の笑みは酷く虚ろで、光の無い瞳は瞬や響を家族として認識していない。
 だが。
「奏!」
 鋭い瞬の声が奏の脳を揺さぶり、奏の瞳に僅かに意思の光が戻った。
「……瞬、にいさん……」
 ――私は、何を……。
 奏は己が行動を見つめようとするが、頭に濃密な靄がかかり、思考がまとまらない。
 霞んだ瞳では、響や瞬の居場所も、愛用の盾も見つけられない。
 何より自分自身が「お姉ちゃん」としてカヤの肉壁となることを望んでいる。
 違う、と理性が叫んでも、カヤに絡め取られた心がそれを決して認めない。
 しかし。
「奏、敵を見誤るな! 敵は後ろの吸血鬼だ!!」
 母の一喝が耳に届いたその時、奏はやらねばならぬことをかろうじて思い出していた。

 ――私は、この吸血鬼を……。

 奏は反射的に唇を噛みしめ、痛みで強引に意識を覚醒させ、思考を妨げる靄を振り払う。
「これ以上の犠牲を、防ぐために……この、信念の拳で……!」
 そして、籠手を着けた手を引きながら、くるりと180度回転してカヤを視界にとらえた。
 攻撃力激減とユーベルコード封じの魅了と抱擁を受け、ユーベルコードの威力が激減している今、頼りになるのは己が怪力と格闘術だけだが。
 それでも、呼び覚ましてくれた家族との絆を信じて、奏は拳をカヤの胸元に叩き込んだ。

 ――ドゴォッ!!

 カヤの胸に吸い込まれた奏の拳は、狙い違わず胸元の『番犬の紋章』を強打していた。
「……っ!!」
 目を大きく見開きながら胸を押さえ、酸素を求める金魚のように頻りに口を開閉させつつも悶絶するカヤを目にしながらも、強引に魅了に抗しながら拳を振るった奏は精神的な負荷から気を失い崩れ落ちる。
「カヤちゃん!」
「くそっ、こいつら!!」
「目が、目が見えれば……!!」
 妹のピンチに少年吸血鬼たちはカヤの下に駆けつけようとするが、百を超える真紅の騎士団と月読の同胞に群がられ、さらに瞬の結界術で目を潰されているため、かなわない。
「よくも奏を魅了してくれたね。食らいな!」
 カヤがふらついたのを見て、響は紅の衝撃波で一時的に道を開け奏の下に駆けつけつつ、怒りと怪力を乗せた追撃の拳をカヤの紋章に叩き込む。
「…………っ!!!!」
 再び息を詰まらせたカヤは、さらに大きくよろめきながら後退。
 その隙に、響は気絶した奏の身体を抱え、エレメンタル・シールドを拾って瞬の元まで撤退した。

●後を託して
「奏、無茶をして……!」
 瞬の声で一時的に意識を取り戻した奏は、義兄に弱々しい笑みを向けながらも、言葉を振り絞る。
「でも、母さんや瞬兄さんが魅了されるよりは、ずっとましだったはずです」
 もし瞬が魅了されていたら、響や奏は結界術で行動不能にされ、もし響が魅了されていたら、真紅の騎士団の標的は瞬に変わっていただろう。
 結果的に、覚悟を以てカヤと対峙した奏の行動が、魅了による被害を最小限に抑え込んだ形になったが、精神的に消耗し意識を失いかけている奏を守りながら戦うのは、真紅の騎士団がいたとしても分が悪すぎる。
「今はこれで十分だろう……撤退するよ」
「ええ、紋章の威力は十分削りましたから、後は他の猟兵に任せましょう」
 意識を失った奏の身体を響が抱え、瞬が誘導弾で少年吸血鬼やカヤを牽制しながら、3人は中庭の外へ撤退した。

 ――『紋章』狙いし他の猟兵に、決着を委ねて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

北条・優希斗
統哉(f08510)と
他の方との連携・アド○
…カヤ
敬輔の妹か
オブリビオン化しているだろうとは聞いていたが…
…彼には酷な話だな
運命か
そうかも知れないね統哉さん
(…業、かも知れないが)
少年達の命は救えない
だが彼等もカヤの犠牲者
ならばその魂だけでも救済を願う
その為には―
先制攻撃+UC(詠唱無)
統哉が少年達を足止めする間に
残像+見切り+ダッシュ+地形の利用+第六感+軽業
少年達を無視カヤに肉薄
作り物のお兄ちゃんに俺の動きは読めないよ
2回攻撃+薙ぎ払い+早業+串刺し+属性攻撃:蒼+傷口を抉る+追撃
胸元の紋章を抉って骸の海へ還す
可能なら
倒れた少年達に範囲攻撃+UC:闇技・罪業断裂蒼覇斬
―安らかに…眠れ


パラス・アテナ
連携歓迎

カヤは若い男を優先して襲うんだろう?
アタシは対象外だろうが油断は禁物
手下どもを先制攻撃からの2回攻撃と制圧射撃で片付け
カヤが一人になったら声掛け

アンタはあんな木偶人形で満足できるのかい?
叱らない逆らわない文句も言わない
そんな奴隷が「お兄ちゃん」なら自動人形でも可愛がってな

アタシの知り合いに妹の行方を探してる男がいてね
見るほどアンタにそっくりだ
アンタの「本当のお兄ちゃん」の居場所
教えてやろうか?

動揺を誘い足を部位狙いで撃ち抜き指定UC
紋章を狙って放つよ
残念だが「第5の貴族」としてのアンタに教える訳にいかないね
『兄を探し求める吸血鬼『カヤ』』として兄に向き合う準備をしてきな
骸の海にお還り


クロム・エルフェルト
アドリブ・連携◎

青い髪に、敬輔さんの面影がある顔
思い返すのは送り出す際の彼の表情
辛そうな、声の色
仮に "そう" だとしたら、その胸中の痛みは計り知れない
然れど……討つしかない
彼女が、此れ以上大罪を重ねる前に

並み居る「兄」達の足を▲切断、斬り飛ばしつつ
カヤを間合いに捉えるよう▲ダッシュで肉薄を試みる
勢いを乗せ、当身で▲体勢を崩したい
叶うのならば▲早業の一太刀を浴びせよう

――いいえ
当身も抜刀も敵のUCを誘う▲騙し討ち
助言に従って躱した先、紋章を裂くように
彼岸花の斬撃で追い詰めたい

戦いの合間、余裕があれば
静かに咎めるよう、彼女に向けて呟く
お前の兄と云うものは――誰でも代りが務まる程
軽い存在だったの?


文月・統哉
【優希斗(f02283)】と参加
優希斗が来たのもまた運命の導きかな
連携して戦うよ

白い肌に青い髪、成程よく似てる
やっぱり君だったんだね
敬輔の妹、カヤ

カヤを狙えば吸血鬼の少年達は盾となり庇うだろう
反撃を【見切り】【武器受け】【カウンター】
宵で斬って、骸の海へと還す
妹を守ろうとする彼らの
本当に護りたかった者達の下へ

そして兄を失った妹は再び兄を求めるのだろう
魅了された【演技】で近づき
『宵月夜』で【部位破壊】、紋章を貫く

俺は君の兄にはなれない
彼らも君の兄じゃない
君が探す本当の兄は……もうすぐ会えるから、きっと

骸の海へ送り出す
次に会う時は、敬輔と共に

可能なら
優希斗に合わせて祈りの刃を

※連携・アドリブ大歓迎



●業と因果は縁在る者を呼び寄せて
「あ~もうっ! せっかく『お兄ちゃん』を増やすチャンスだったのに」
 頬を膨らませながら怒る『第五の貴族』カヤに向ける文月・統哉の瞳は、哀し気な色を帯びていた。
「……白い肌に青い髪、成程よく似てる」
 あえて誰に似ている、とは告げず、統哉は目の前の少女吸血鬼の名を口にする。
「やっぱり君だったんだね――カヤ」
 その名は、以前グリモア猟兵が口にしていた、彼の妹の名。
 一方、その名を耳にしたクロム・エルフェルトの脳裏には、出立前の彼の表情が過っていた。
 皆を送り出す直前の彼の声音は……余りにも辛く苦しく、葛藤するそれ。
 一方、グリモア猟兵としての責務が、グリモアが齎した少女吸血鬼の正体を皆に漏らすことを許さず、ただひとりの妹であっても『第五の貴族』として討てと依頼するしかなかったのだろう。
(「仮に "そう" だとしたら、その胸中の痛みは計り知れない」)
 胸中を察し目を伏せたクロムの背後に、突然碧白に光る丸盾のゲートが現れ、新たな猟兵が2人、姿を見せた。
 ゲートから現れた猟兵のひとり、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が、カヤを一目見るなり息を呑み、その名を言の葉に乗せてしまう。
「……カヤ」
(「……本当に、よく似ているな」)
 その顔つきと目つきに彼の面影を感じ、優希斗は大きくため息をついた。
 オブリビオン化しているだろうとは彼から聞いていたが、本当にオブリビオン、それも彼が憎悪の対象とするヴァンパイアとして蘇っているとは。
「……彼には酷な話だな」
「ああ、酷な話だね」
 いつの間にか、優希斗の横に相槌を打ちながら統哉が並んでいた。
「でも、ここに優希斗が来たのもまた、運命の導きかな」
「運命か。そうかも知れないね統哉さん」
(「……業、かも知れないが」)
 統哉に届かぬようあえて言の葉には乗せず、そっと胸の裡だけで自嘲気味に呟く、優希斗。
 彼の両親の行方と故郷の仇の居場所は、優希斗のグリモアが全て予知している。
 だが、今回カヤの行方を予知として齎したのは……彼のグリモアだ。
 グリモアが予知を齎した時点で彼には関与が許されなくなる戦いに、自分が赴いたのは何かの業なのだろうか。
 そう、自問自答する優希斗の横で、同じくゲートから現れたパラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)は、カヤを一瞥するなり言い放った。
「アタシの知り合いに妹の行方を探してる男がいてね、見るほどアンタにそっくりだ」
「ふーん、それで?」
「なんだい、探しているいい男がいるってのに、興味ないのかい?」
「だって、目の前に『お兄ちゃん』たちがいっぱいいるから」
 目の前にずらりと並ぶ少年吸血鬼たちに魅了の視線を送りつつ、悪びれなく言い放つカヤを見て、仏頂面を不機嫌そうに渋くするパラスの前に、少年吸血鬼たちがのろのろと立ちはだかる。
「カヤちゃんのお兄ちゃんとして、彼女には傷ひとつつけさせない!」
「妹を守るのは、お兄ちゃんの役目だからね」
 魅了され心を掌握され、吸血鬼化したことで身をも掌握され、盲目的にカヤに従属する「お兄ちゃん」として振る舞う少年吸血鬼たちを見て、優希斗の心がチクリ、と痛んだ。
 カヤに魅了され、吸血鬼と化した少年達の命は救えない。
 だが、彼等もカヤの犠牲者であることは、間違いない。
(「ならば俺は、その魂だけでも救済を願う」)
 その為には、何を為すべきか――。

 カヤが猟兵達を見定めし、少年吸血鬼たちが猟兵達に群がるより先に。
 全身に蒼月の光を纏い、瞳を蒼穹に変えた優希斗が、蒼月・零式を手に飛び出していた。

●歪みし守護の盾
 剣神を蒼月の光として己が身に宿らせ、神速戦闘形態へと変貌し真っ先に飛び出した優希斗を見て、ちっ、とパラスが舌打ちひとつ。
「若い男性を優先して狙うってのに、先に飛び出すんじゃないよ」
 呆れながらもパラスは、少年吸血鬼にEK-I357N6『ニケ』とIGSーP221A5『アイギス』を向け、優希斗を遮ろうとする少年吸血鬼の足を止めるように制圧射撃。
 感情とは裏腹に正確に足元を狙い躊躇いなく連射するその動きは、歴戦の傭兵のそれ。
 的確に足元に撃ち込まれる弾丸に足を止めた少年吸血鬼たちに、それぞれの得物を構えた統哉とクロムが肉薄する。
「カヤちゃん、僕たちが盾に!!」
「行かせないよ!」
 あくまでもカヤの盾として立ちはだかる少年吸血鬼たちの動きは、極めて緩慢。
 どうやら、先に対峙した猟兵達に注ぎ込まれた麻痺毒がまだ残っているため、身体の自由が利かないのだろう。
 カヤを甘く狙うように漆黒の大鎌・宵を掲げた統哉の前に少年吸血鬼の一人が割り込むが、統哉はその動きを見切って避けながら、カウンター気味に振り下ろした宵で斬り。
「キミたちに、これ以上邪魔はさせない」
 そして、クロムは地面スレスレを薙ぐように何度も刻祇刀・憑紅摸を振り、次々と少年吸血鬼の足を切断、移動を封じる。
「作り物のお兄ちゃんに俺の動きは読めないよ」
 3人の猛攻で生じた少年吸血鬼の肉壁の綻びを見出した優希斗が、少年吸血鬼の間をすり抜け、ダッシュでカヤに接近。
 仄かに蒼月の光に包まれた蒼月・零式を、胸元を薙ぐように左右に振るった。
 ――その光は、剣王の上位神、剣神の魂宿る蒼月の光。
「作り物だなんて失礼ねっ」
 一瞬、カヤの紅の瞳が輝くが、優希斗を守る蒼月の光の加護が、心の隙間に僅かな楔をも穿たせない。
 ――斬ッ!!
 深き蒼穹の瞳と蒼影を纏いつつ、人と神との間を揺蕩う青年が振るう蒼月の刃は、カヤの胸元の紋章を蒼で侵蝕しつつ抉り取り、大きくその力を奪っていた。

●悪しき瞳は決意を揺らがせず
 二丁拳銃に制圧され、宵に斬り伏せられ、刻祇刀・憑紅摸に足を切断された少年吸血鬼たちが、血潮の滲みた地面に倒れ伏す。
 微かな呻き声を上げながら、それでも立ち上がろうともがく彼らを見下ろし、カヤはぷぅ、と頬を膨らませた。
「もう!! よくもお兄ちゃんたちをやってくれたわね!!」
 蒼に侵蝕される紋章から伝わる不快感に顔を顰めつつも、カヤは口端を釣り上げた不気味な笑みを浮かべる。
「でもいいわ、代わりの『お兄ちゃん』はいくらでもいるのだから」

 ――そうでしょ? お兄ちゃん??

 カヤが微笑みながら光る紅の瞳を向けたのは、統哉。
 優希斗が魅了されなかったため、代わりに統哉を「兄」として求めることにした。
「あっ……」
 紫瞳から紅の光を吸い込んだ統哉の瞳からたちまち意思が失われ、口元に虚ろな笑みが浮かぶ。
「さ、こっちに来て」
「あ、ああ……うん」
 魅了された統哉は、真っ直ぐカヤだけを見つめながら、宵を手にカヤの下へ向かった。
「統哉さん!」
「統哉、そっちに行くんじゃない!」
 クロムとパラスが鋭い声で制止するも、統哉は振り向くどころか足を止めさえしない。
 意思を失った統哉の瞳はカヤだけを見つめ、魅了された心はカヤ以外の言葉を統哉に届かせていなかった。
「妹」に尽くすためにカヤの下へ向かう統哉を、優希斗は制止も邪魔もせず、あえて見守る。
(「……統哉さんは『宵』を手放していないな」)
 蒼月の光を纏ったまま蒼穹の瞳を向けつつ成程、と頷く優希斗の目前で、統哉がカヤにそっと膝を折り、頭を垂れながら傅く。
「カヤ、来たよ……」
「ありがとう、今からあなたをあたしの『お兄ちゃん』にしてあげる♪」
 統哉の心をより深く絡め取りながら、カヤが首に犬歯を突き立てるため抱きつこうとしたその時、突然統哉が顔を上げた。
「えっ!?」
 顔を上げた統哉の表情から虚ろな笑みが消え、瞳に意思が戻っていることにカヤが気づくより早く。
「斬る!」
 統哉の一喝と共に振られた宵の刃先が、カヤの胸元に吸い込まれた。
 至近距離からの「お兄ちゃん」の奇襲に、カヤは全く動けない。

 ――ズブッ!!

 紋章を断ち切る意思を映し出した漆黒の刃が、真っ直ぐカヤの紋章に吸い込まれ、両断した。

●少女は『第五の貴族』か『兄を求める吸血鬼』か
「ああああああーー!!」
『番犬の紋章』を両断されたカヤは、力を零さぬよう紋章ごと胸元を押さえながら統哉を睨みつける。
「そんな、あたしの『お兄ちゃん』になってくれるんじゃないの?」
「ごめんな、でも俺は君の兄にはなれないから」
 首を横に振り拒絶する統哉を見て、カヤの顔が一気に怒りに染まった。
 一方、パラスは統哉が魅了されていなかったことにほっとしつつ、いつでも二丁拳銃で撃ち抜けるよう、事の成り行きを見守っている。
 そしてクロムは、目まぐるしく変わる状況を把握しきれず、唖然としていた。
「どういうこと、なの」
 クロムの疑問に答えたのは、優希斗。
「統哉さんは最初から魅了されていなかった……全て演技だったんだよ」
 紅の瞳が光った瞬間、気を強く保ちつつ一瞬目を閉じて魅了を逃れた統哉は、魅了され服従する演技でカヤを欺きつつ、至近距離まで近づいていた。
 もっとも、演技中も統哉は宵を手にしたままだったので、カヤが注意深ければ途中で演技だと見抜かれる可能性もあったのだが、先に対峙した猟兵を魅了した経験からの慢心と、パラスとクロムが統哉を制止できなかった事実が、魅了失敗の可能性をカヤの思考から追い出していたのだ。
 結果、統哉に対する警戒を完全に解いたカヤは、統哉が意思を取り戻す演技をするまで魅了が失敗していたことに気づかず、至近距離から紋章を両断された。
 クロムとパラスに「先に言っておかなくてごめん」と謝った統哉は、倒れ伏したまま弱々しく呻く少年吸血鬼に軽く視線を向けながら、いまだ胸元を押さえるカヤに語り掛ける。
「そこに倒れている彼らも、君の兄じゃない……わかっているだろう?」
「お前の兄と云うものは――誰でも代りが務まる程、軽い存在だったの?」
 統哉に続き、クロムもまた、カヤを糾弾。
 しかし、カヤの顔に浮かぶのは――酷薄な笑み。
「お兄ちゃんが『お兄ちゃん』でいてくれたら、あたしは誰でもいいのよ♪ ……ほんっと、この子たちは良くなついてくれたわ」
 己が盾となり倒れた少年吸血鬼たちを侮蔑を籠めた視線で見下ろすカヤの態度は、クロムの嫌悪感を逆撫でし、ある確信を抱かせた。

 ――ああ、どこまでも話が交わらぬ、傲慢で残忍な吸血鬼だ。

「お前っ!!」
 激昂したクロムは、カヤにダッシュし当て身を食らわそうとするが、カヤはあらかじめ「お兄ちゃん」に教えられていたかのように回避。
 当て身を外しても尚、クロムは無理やり身を捻りつつ早業で刻祇刀・憑紅摸を逆袈裟に斬り上げるが、カヤはそれもひらりと回避し、クロムから距離を取った。
「ふふん、昔『お兄ちゃん』が教えてくれたから簡単にかわ……え?」
 クロムの二撃を余裕で回避したはずのカヤの瞳が――一瞬で凍り付く。
 凍り付いた視線の先には、一瞬で態勢を整え、刻祇刀・憑紅摸を大上段から振り下ろそうとしているクロムの姿があった。
「神速剣閃、参ノ太刀――微塵に断つ」
 刀を振り下ろしつつ高速で距離を詰めたクロムは、加速を乗せた斬撃を胸元にひとつ叩き込み、カヤを怯ませつつ紋章を斬り。
 さらに立て続けに斬り上げ、薙ぎ払いで二つ、三つと紋章に刀傷を穿ち。
 三撃の刀さばきは、助言に従い避けたカヤの行動の先を読んだのように、一瞬で紋章をズタズタに斬り裂く。
 その勢いで四肢を狙うクロムの刀を、カヤは寸前で避けようとするが。
「その癖はもう、読んでいる」
 間合いから逃さぬよう踏み込んだクロムの手から、四撃、五撃、六撃と立て続けに振るわれた刻祇刀・憑紅摸は、避けようとするカヤの四肢を確実に捕らえ、白き肌に刀傷と火傷を刻んでいった。
 激昂からの当て身と逆袈裟の斬り上げは、何れもカヤに「お兄ちゃん」からの助言を使い切らせるための囮。
 本命は――紋章を斬り刻んだ彼岸花の三連撃のほう。
 三連撃を紋章に叩き込みつつカヤの身体捌きの癖を把握したクロムは、確実にカヤの癖を読み、追い詰めていった。
「アンタはあんな木偶人形で満足できるのかい?」
 四肢に刀傷と火傷を増やして行くカヤに、パラスが問う。
「お兄ちゃんを木偶人形呼ばわりしないでよ、オバサン」
「ふん、あんなの木偶人形じゃないか」
 侮蔑を籠め吐き捨てるカヤに動じることなく、パラスはカヤを挑発するかのように言い捨てる。
「叱らない逆らわない文句も言わない。そんな奴隷が『お兄ちゃん』なら自動人形でも可愛がってな」
「失礼ね、あたしはあたしのいう事を聞くお兄ちゃんが欲しいのよ♪」
 まるで「お兄ちゃん」を玩具としか見ていないかのようなカヤの言動に、パラスの渋面がさらに渋くなる。
 吸血鬼化したことで、性根が歪んでしまったのか。
 それとも、性根を歪められ……吸血鬼化したのか。
(「そもそも、カヤを吸血鬼にしたのは、誰なんだい?」)
「……おそらく、彼女を吸血鬼に変えたのはロイでしょう」
 パラスの疑問を読み取ったかのように、優希斗がかつて己がグリモアで予知し、パラスが討滅に手を貸した吸血鬼の名を挙げる。
 成程、と当時の記憶を掘り出し、納得し頷きながら、パラスはカヤに二丁拳銃を向けた。
「アンタの『本当のお兄ちゃん』の居場所、教えてやろうか?」
「本当のお兄ちゃん?」
 カヤが鸚鵡返しのように問うた瞬間、パラスはカヤの足に二丁拳銃を向け、躊躇いなく引き金を引く。
 ――ズキューン!!
 極限まで威力と命中率を高められた2発の弾丸は、カヤの両膝を撃ち抜き、骨と肉を砕く。
 両膝が砕かれては立っていられず、カヤはその場に転倒した。
「い、いた……い……いたいいたいいたいいたい!!」
 膝を撃ち抜かれた激痛に喚くカヤの頭上に、二丁拳銃を突きつける、パラス。
「残念だが『第五の貴族』としてのアンタに教える訳にいかないね」
「あたしが貴族ならなぜ教えてくれないのよ! オバサン!!」
「教えてほしいなら、『兄を探し求める吸血鬼『カヤ』』として兄に向き合う準備をしてきな。……骸の海にお還り」
 パラスの言の意味を理解できず唖然としたカヤに、統哉とクロムが得物を向ける。
「君が探す本当の兄は……もうすぐ会えるから、きっと」
 統哉が手にする漆黒の大鎌は、憐みをたたえ。
「これ以上大罪を重ねる前に、斬る」
 クロムが手にする刻祇刀・憑紅摸は、静かな怒りを主張するかのように刀身を劫火で覆い。
 漆黒と劫火の刃が、動けぬカヤ目がけて同時に振り下ろされた。

 ――斬ッッッ!!

 憐憫の刃と憤怒の刀がカヤの身体に吸い込まれ、吸血鬼としての彼女の命脈を断ち切った。
「あ、あ……」
 紋章も力もいのちも、全てを零しながら絶望に満ちた表情を浮かべるカヤの白いワンピースに、紅の炎が燃え移る。
 それはたちまちカヤの全身を包み込み、彼女の悪しき意思を燃やさんとばかりに高らかに燃え上がった。
「あああああああああ――――っ!!」
 断末魔の叫びをかき消すように勢いを増した炎は、カヤの全身をあっという間に包み込み、その肉体を劫火で燃やし尽くした。

 炎の中に消えるカヤを見届けながら、統哉はそっと、炎に言の葉を乗せる。
「……次に君と会う時は、本当の兄と一緒に」
 その機会がいつ訪れるかは、統哉にはわからないけど。
 彼女を吸血鬼の軛から解放できるのは――実の兄だけだから。

●解放されし魂よ、安らかに
 クロムたちに斬り伏せられ、倒れたままの少年吸血鬼たちに、優希斗が歩み寄る。
 上位者たるカヤが消滅した今、少年吸血鬼たちはそのまま捨て置いても消滅するだろうが、吸血鬼として歪められた少年の魂は未だ肉体に縛り付けられたまま。
 優希斗が手にする蒼月・零式の透き通るような蒼刃に、闇に堕ちた娘の涙への贖罪の意志を籠め始めると、その横に宵を手にした統哉が並んだ。
「優希斗、俺も」
 淡く輝く宵に宿るのは、紋章を両断した時の切り裂く意思ではなく、優しい祈りと願い。
 ……魂の解放を求める想いは、統哉も同じだから。
 優希斗と統哉はお互い目を見合わせ、ひとつ頷き合った後。
「――安らかに……眠れ」
「……安らかに」
 それぞれの得物を、少年吸血鬼たちに振り下ろした。

 ――ザンッ……。

 邪心を切り裂く漆黒の刃と、精神を汚染する深淵のみを断つ透き通る蒼の刃が、少年たちの身体を傷つけることなく、精神を歪めたカヤの呪縛のみを断つ。
 魂を解放された少年たちの身体は、肌を病的な白から健康的な肌の色へと戻しつつ、ゆっくりと砂に変化し、さらさらと崩れ落ちた。
「ようやく、魂が解き放たれたのね」
「そのようだね」
 全く、優希斗も統哉も優し過ぎないかい……と呟くパラスの仏頂面を横目でちらりと見つつ、クロムはじっと虚空を見つめる。
 その視線の先で、束縛から解放された少年たちの魂が湖上へ向けてゆっくりと浮かび始めていた。

 その後、囚われていた人々を地上に還したパラスたちは、グリモアベースに帰還する。
 かくして、湖底城にて『番犬の紋章』を製造していた『第五の貴族』は討たれ、『紋章の祭壇』がまたひとつ、この世界から姿を消した。

 だが、帰還した猟兵達は、ひとつの予感を胸に抱いていた。
 ――『紋章の祭壇』に関わる度に世界の真実に近づいているのではないか、との予感を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月17日
宿敵 『兄を探し求める吸血鬼『カヤ』』 を撃破!


挿絵イラスト