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三上山の大百足~竜メシの流儀~

#カクリヨファンタズム #猟書家の侵攻 #猟書家 #三上山の大百足 #竜神 #ダークコメディ #強敵

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●贄
 小高い山の山肌はあちこちが崩れ、荒れ果てていた。
 ポツン、と残る今にも崩れそうな小さな社。とうの昔に神聖さなど失くした、廃墟。
 そこにあるのは赤黒い染みの跡、汚れた杭、鉄錆びた釘、生きものの骸――それから、神の骸。
「う、ぅ……」
 うめき声を漏らすのは二本の鬼の角を生やした女性。絢爛豪華な装い、赤や金を基調とした色鮮やかな着物を纏う女。
 彼女は頭を抑え、何かを堪えているようだったが――突然、発狂したかのように叫び、床を転がる。
「うあーん。いやでござるいやでござる絶対にいやでござーるぅうううううう!!!」
 じたばたじたばた。
 ……そうしてしばらくすると、むくりと起き上がり。
「大人しくしなさい。もう少しの辛抱だから……」
 こめかみを抑えながら、同じ口からなだめるような言葉が口をついて。
「へぶぅ……へぶっ。せっしゃのんびり寝てただけなのに、あ、あ、あんまりでござるううううううううううううううううううううぅっ!!」
「うるさっ。分かった、分かったのじゃ。……もうっ、これで本当に竜神の端くれなのかのぅ……?」
 ゴロゴロじたばた……スゥン。
 一人三役のようなやりとりをする女性を、逃さぬように、甚振るように百足の群れがその肌を這いまわり。
「ひぎぃいい。気持ち悪い痛い痛い噛んじゃダメでござるせっしゃ痛いのはいやでござるんよやさしくしてえええええええええ!!!!!!!!」
「本当に困った竜ねぇ。そんなに泣かずとも良かろうに」
「いずれ骸の海に還ってしまえば、楽になれるのじゃ……」
 神、鬼、竜、三つは混ざり合い、苦痛と絶望の中でやがて大百足に喰われる時を待っているのだ。

●夢枕
 ――一夜目。
『Hey! おにいさん、そこの格好いいおにいさん! せっしゃ、せっしゃでござるよ! ほら、かわいいかわいい、せっしゃでござる! 可愛くてごめんねでござる。それでとっても可愛くて特別なキャンディをもらえる特別な存在である拙者が実はちょっと困ったことになってて』
「拙者拙者詐欺なら間に合ってる」

 ――二夜目。
『ほげぇっ、ほげぇっ……。あ、おにいさん。おにいさあああん!!! せめて、せめて聞いてくれでござるぅうう!!!』
「うーん、明晰夢。疲れが取れないのやだなぁ」
『……うぐぅっ。こ、こんなにかわいいせっしゃが、そろそろ大むかでにたべられそうでござるんよ……? なにが悲しくて大むかでのごはんに……こんなトホホな竜生の終わりってないでござる。ぐすんっ、せっしゃ、かわいそう……ちらちらっ』
「こっち見んな」

 ――三夜目。
『こ、のひとでなしぃ……! うっ、ひぐぅ。うあああああん……おげっ……ほげぇほげぇえっ……!』
「あ、ガチ泣きし過ぎて吐くやつだ……」
『お、お主、まじでおぼえておれよ……七代先まで絶対たたってやるでござる……! 覚悟の準備をするでござる! 本気の竜神の祟りでござる……これからずーっとヤンデレにしか愛されない呪いと、本命の時ほどガチャで爆死するのろいかけるでござるもんね!』
「生憎、うちの世界では神様はずっと前から廃業しちまってるよ」
 ふ、と笑う枕元、枕サイズの竜に似た小さな生きものがポロポロと涙をこぼしていた。
『ひぃんひぃん……お、終わったでござる……。せめて、どうせお料理されるならかわいい女の子にクッキングされたかったでござる。ふわふわのパンにたっぷりの生クリームと一緒にはさまれてみたかったでござるぅ……せっしゃ、辞世の句』
「マリトッツォだっけ? 俺も食ったことないや」
 ジミーがデコピンを一撃すると、小さな竜は『ミ゛ャー』と鳴きながらひっくり返って消えた。

●おわかりいただけただろうか?
「って、ことがあってだな。もしかしたらあれは、助けを求める竜神の、生霊だったとでも、言うのだろうか……」
 過去の話にすな。
 そんなツッコミを受けつつグリモア猟兵であるジミー・モーヴ(人間の脇役の泥棒・f34571)が語ったのは、割と真剣に可哀そうなことになっていそうな話だった。
 どうやら幽世(カクリヨ)にて猟書家の幹部である『三上山の大百足』が『強き神々の種族』たる竜神を食って力を取り戻そうと画策しているようで。竜神の一柱をさらって『骸魂』と合体させ、残虐に苦しめ絶望させてから喰らおうとしているのだそうだ。
 ジミーはその予知を感じ始めてから三日ほど寝かせてしまったようだが、仮にヒトならざる精神力を備えた竜神達が心を折られて絶望し、それを『三上山の大百足』が喰ったなら、この猟書家幹部は一気に莫大な力を取り戻し――いずれは手の付けられない存在になってしまうだろう。
「やっちゃったZE。めんごめんご。……しかしなぁ、お前さんらも他の世界線とかで忙しそうだしなぁ。まぁ、竜がどうなろうが俺はどっちでもいいけど」
 ジミーは最近アポカリプスヘルで見つかった変なおじさんの本拠地にみんなで乗り込んだりとか、「「「THEEEEEEND!」」」されたら大変そうとか、そういうことを言っているようである。他意はない。
 そうして胡乱気な目で見られながらも、男はパンパンと手をたたいて強引にまとめた。
「幹部の手で骸魂と強引に合体させられ、心身を苛まれている竜神を助け出して、幹部の捕食と強化を阻止しましょう!」
 どうやら、そういうことらしい。


常闇ノ海月
 チェンパラがはじまっても第六猟兵のことも忘れないでくださいね、などと供述しており……常闇ノ海月です。
 まさに新人マスターの鑑。どうか第六のことは忘れても、ぼくのことはわすれないでください!(そもそも知られてない)

 ……こほん。さて、今回のシナリオは以下のような流れになります。

●第一章
 場所:荒れ果てた山の崩れそうな社にて。
 対象:古き神の成れの果てである『骸魂』の中に囚われ『オブリビオン化した竜神』を。
 目的:しばき倒して(竜神と骸魂の合体を解除することで)【救出】する。

●第二章
 場所:山肌が崩れ荒れ果てた山の中腹にて。
 対象:食事を妨害され、怒り狂う『三上山の大百足』を。
 目的:救出した『竜神』と協力し、【撃破】する。

 情報は以下。

●天津児魅比売(オブリビオンの姿と主人格)
 幽世には向かわず、骸の海に沈んで『骸魂』となった古の女神が一柱。
 ヒトの愚かさへの蔑みと憐憫、取り込んだ妖怪『鬼女』の怒りを内包した存在。
 人間に対して敵対的で、一見して明るい態度からはうかがえぬ程に危険度の高い存在だが、今回は竜神の影響で乗っ取られ何かギャグ化してしまっている。
 とはいえ、単体でも恐ろしい存在が竜の力までを備えているため、非常に強力なのは間違いない。

●竜神
 名前は『珊瑚』。
 翠色っぽい体色、おなかやおしりがぽてぽてした体形で外見は幼竜。
 大きさは鼻先からしっぽまで入れると60cm強。猫よりやや小さい位。
 猟兵到着時は色々あって闇落ちしかけ『にんげんがにくい……』状態。痛いのが苦手ですぐにパニックになる。実は余裕ある説もある。

●三上山の大百足
 でかい、つよい。でかいはつよい。そして視覚的にキモイ。
 そろそろ絶望するのか……? いや……まだ早いのかもしれない。いや……そろそろ絶望するのか? いや……と待つのを繰り返した結果、疲れて寝てしまっている。

●プレイングボーナス
 大百足が起きてしまわないよう、なるべく刺激せずにオブリビオンを撃破するため、【竜神の苦痛を和らげる】。

 竜には『逆鱗』があるという。
 通常の戦闘では苦戦必至な敵だが、少ない攻撃機会で極大のダメージを与え合体を弱めるため、【逆鱗を攻撃】する。(プレイングで探るか、OP情報等から予想してください)

 嫌がるペットをなだめて置いて、隙を見てお医者さんがぶすーっと注射するノリです。たぶん。

 では、願わくばどうぞ良い旅を。
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第1章 ボス戦 『天津児魅比売』

POW   :    妖産み
【その場で水墨画を描くこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【描きあげた様々な幻想生物】で攻撃する。
SPD   :    獣創り
無敵の【様々な幻想生物】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ   :    夢育み
自身の【直筆による水墨画】を代償に、1〜12体の【様々な幻想生物】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠イシャ・ハイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

オメガ・カストゥール
グルォロロロロロロロロロォギャロロロロロオォ!!
『そこまでだ貴様、留まれぇ!!』

話を効いた瞬間に飛び出したドラゴン、その名はオメガ。
今回のやっている事そのものが我慢ならないのだ。
カクリヨのオブリビオンは骸玉と融合しているやつが基本ってことで、基本的に倒せば何とかなると言うではないか。

そして、【竜】だ。
『そこの本来の貴様、耐えろ。憑いた存在を剥がす作業を行う。』

後は言葉はいらない。

同類ではあるが、属性の違うドラゴン4種を呼び出し、オブリビオンを抑えるように言う。
『今回の相手はヤツだ。同類の好で、奴に憑いたモノを力づくで剥がしてやる。奴には属性の違うブレスをタイミングずらして攻撃させるぞ!!』



●竜の死
 ――グルォロロロロロロロロロォギャロロロロロオォ!!
 人ならざる者の咆哮が轟く。小高い山の社に巨大な影が射し月を隠して。
『そこまでだ貴様、留まれぇ!!』
 そんな意味を持って響いた音、闖入者に僅かたりと動じもせずに、小さき光が涼しく嗤う。
「遅かったのぅ……」
 うぞうぞとその身を這いまわる百足の眷属。死のケガレを纏う、骸の海に堕ちたかつての女神。
「――竜は、すでに死におったわ」
『なん、だと……』
 絶句する影――オメガ・カストゥール(火焔竜にして、竜神王・f34605)。グリモア猟兵の話を聞き、その瞬間にも飛び出した竜神の一柱。その身は数多の竜を従える、火竜の長であるという。
 オメガは百足風情が『竜を喰らおう』などという不遜が、それも甚振り苦しめてからなどといった恐れ知らずの愚行が我慢ならなかったのだ――が。
 グリモア猟兵が「カクリヨまじで場所が良くわからん……まぁいい多分この辺だろ」と適当に送り出したのが災いしたのか、竜はすでにこのオブリビオンに喰らいつくされたのだという。
「騒がしき竜よ、あたら命を落とすこともない。今すぐに引き返すのならば、見逃してやろうぞ」
 強大な捕食者である己を前にして、こゆるぎもしないオブリビオン――世界の敵は、見上げる巨躯を見下すように嗤う。その小さな躰に秘められた力は、恐らく熟達の猟兵をして圧倒されかねぬ危険なもので。
『……ならばせめて、貴様を滅して手向けとするまで』
 低く、獰猛な唸り声。
 怒りに燃え盛る目が堕ちた女神――天津児魅比売(あまつのこみひめ)を射抜いた。
 好戦的で気性の激しい、いかにも火竜らしい火竜たるオメガは、竜という種族への誇り、同族に対する仲間意識は強いようで。その誇りを汚されたままでは引き下がれぬと感じているようだったが――。
「ほう? 参考までにどうするか聞いても良いで……良いかの」
『我のブレスで以て焼き尽くすまでよ!』
 すると、天津児魅比売の端正な唇が歪み、右手がスっと前に差し出された。
「あ、痛いのはやめて。そのブレスは拙者に効く……」
『……』
 どうやら、竜、まだ生きてるっぽい……。
 ならば話は早い。
(カクリヨのオブリビオンは骸魂と融合しているやつが基本。倒せば何とかなると言うではないか)
 オメガはこの敵も、基本的に倒せば何とかなると思っていた。その通りではあるのだが、果たして。
『そこの本来の貴様、耐えろ。憑いた存在を剥がす作業を行う』
「いやでござる! 痛いのは勘弁でござる! 『……助けて貰う気が無いのかのぅ』」
 救出すべき竜――珊瑚の意識は敵である天津児魅比売にも呆れられているような超軟弱レベルだ。
『莫迦め! 痛いからと言って何もしなければ助からんぞ!』
「でもでも、拙者痛いのはいやなんでござる!」
『貴様も竜ならばそのくらい、耐えろ!』
「いやっ、いやーっ!」
『グルルギャルルルグルアオォオッ!!(異なる属性の4竜よ、出でませいっ!!)』
 後は言葉はいらない、とばかりに攻撃の準備を進めるオメガ。属性の異なる四体の竜が山頂付近に座す社を四方から包囲して。
『今回の相手はヤツだ。同類の好で、奴に憑いたモノを力づくで剥がしてやる』
「雷竜に地竜。こりゃまた懐かしいでござるな……って痛いのはイヤー!」
 オメガがオブリビオンを抑えるように言うと、諾の意が返り。珊瑚の悲鳴が木霊する。
「拙者たちはまだ……ちゃんと……話し合ってないでござるううううううう!!『あ、こやつチェンジしおった……もうっ、世話の焼ける』」
 そんな風にもう、だれが敵だか味方だか分からない動向を見せながら、珊瑚はどうやら意識を表層から引っ込めて天津児魅比売に戦闘をぶん投げることにしたらしい。

●残滓
『奴には属性の違うブレスをタイミングずらして攻撃させるぞ!!』
「ふむ……竜には龍、かの」
 風竜が、雷竜が仕掛け――無敵の幻想生物『龍』に阻まれる。
「朱雀、白虎、玄武よ。来よ」
 更に続々と現れる幻想生物、攻めあぐねる眷属を見てオメガ自身も仕掛けるが、珊瑚――どうやら水の竜らしい――を取り込んだ古き神は火竜たるオメガとの相性も最悪のようだ。ファイアーブレスの莫大な熱量が水分を蒸発させるために消費されてしまい、天津児魅比売の下までは辿り着くことが出来ないのだ。
『ぬうぅっ……!』
 それは、神の格を持つ者がオブリビオン化した脅威をまざまざと突きつける。更に、衰えたとはいえ竜神の力をも得ているのだ。これを伝説に残る大妖怪、大百足が取り込んでしまえば――。
 決死の覚悟を抱き、天津児魅比売との死闘をくりひろげる竜王――世界の守護者に、
「もうっ、だめっ、あの子(大百足)が起きちゃうからああああああ!!!!!」
 珊瑚の意識が覚醒し、泣きながら懇願してきた。……どうやら、派手に暴れすぎたようだ。
「ほげ、ほげぇええっ……せっしゃに、これ以上……どうしろというのでござるっ!」
『大人しく、我慢してろ!』
 天津児魅比売の意識が弱くなったか、竜の醜態を見たからか、攻め手の緩んだ幻想生物――青龍の喉元に喰らいつき、一撃で屠るオメガ。更には劫火の息で以て、風竜と雷竜を苦しめていた白き虎を焼き払う。
「っ!」
『行けぃ、我が眷属よ! 誇りを示せ!』
 応、との思念が返り風竜、雷竜が玄武の護りを切り裂いて。飛翔する朱雀を水竜が抑え、荒涼とした大地を駆けるのは地竜だった。そのブレスが辛うじて残っていた社を完全に倒壊させ、女神の身を礫が打ち付ける。
「はっは……少しは、やるのぅ」
 唇の端に滲んだ血をペロリとなめながら、天津児魅比売はどこか嬉しそうに竜王を見上げていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴上・冬季
「数を数だけで下すのも、重ねすぎれば無粋でしょう。今回は趣向を変えましょうか」

「庇え、黄巾力士」
自分は風火輪
黄巾力士は飛来椅で飛行
黄巾力士にオーラ防御で自分を庇わせ竜脈から力を吸い上げつつ敵と幻想生物がそこそこ入るよう空中から仙術で陣を描く
「貴女が死ねば召喚物は長く存在出来ません。であれば広大な陣を描く必要もない」
嗤う

UC発動後、黄巾力士に地上降下命じ、竜脈からの力を黄巾力士に振り分けて継戦能力高め鎧無視の無差別攻撃で残敵の蹂躙を命じる
自身は空中戦継続し空中から雷公鞭振り回し雷属性で残敵に属性攻撃
敵の攻撃は空中起動で回避

「わざわざ鞭を舐めたくないですから、これで終わると良いですねえ」



●狂神
『ふ、ふ。まだ、血は流れておるのか……』
 うぞり、うぞりと。
 剥き出しの肌、袖口から覗くのはその柔肌を這ってうごめく百足の眷属ども。
 毒牙が突き立てられ、皮膚が溶けていく。大百足の眷属の毒に、過去の残滓に過ぎない、この影さえもが溶けていく。溶けた傷口をひっかくささやかな動きも百と集まれば、百足の脚は万となり剥き出しの神経を抉る凶器と化して。
『ひ、ひひひっ……!』
 狂う、狂う――莫迦め、狂えばいいのだ。
 このくらい痛む方が良い、その方が余計なことに気付かずに済む。血が流れ、魂が流れ、全てが腐り堕ちてしまえば良い。そうして大百足の餌となるのもまた、一興であろう。
『あー。は、は、ははは……!』
 天津児魅比売――『世界の敵』となった古き女神は、狂ったように笑う。
 否、事実、狂ってしまっているのだろう。
『楽しい、な。猟兵よ! もっと、愉しい、たのしい、タノシイ夜にしてやろうではないか!』
 オブリビオンが水墨画を広げる。
 白と黒の平面に描かれた世界。生き生きと躍動する幻想の生物たち。
 青、紫、金の光が淡く蛍のように灯り、紙の中にあった存在はそこを抜け出して彼女の周囲をふわふわと漂いだす。
 蝶、魚、小鳥――踊る光の化生たちが、荒涼とした風景、冷めた月夜に幻想の彩りを添えて。
 狂った神の成れの果ては、来訪者を出迎える。

「数を数だけで下すのも、重ねすぎれば無粋でしょう。今回は趣向を変えましょうか」
 互いに値踏みするように、互いに見下しあうような、冷たい視線が交錯する。
 狂神が嗤い、対峙する男――鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)もまた、嗤う。
『趣向! 趣向と来たカ! ほれ、やっテみよ……!』
「……言われずとも」
 チリチリと身を焦がすような、不吉な重圧感。幻想生物もその主たるオブリビオンも、見た目通りと侮れば命を奪われるのは何方になるか――冬季は先ず竜脈から力を吸い上げ黄巾力士――人型自律思考戦車を強化させて。
「庇え、黄巾力士」
 飛行法具たる飛来椅を装備した黄巾力士を前面に出し、自らも両足首に嵌めた宝具――風火輪にて空中へ。自律する宝具の兵士に己を守らせながら、仙術にて陣を描く。
 戯れのように、好奇に誘われた幼子のように。
 小さな化生どもが黄巾力士をついばめば、金行のヒトガタ宝具は高熱で炙られたように装甲を溶かしていった。
 あれでは、竜脈の力を借りたとてそう長くも持つまいが。
「貴女が死ねば召喚物は長く存在出来ません。であれば広大な陣を描く必要もない」
 必殺の陣はすでに完成しており――妖仙たる冬季の目論見は十分に達成可能となっていた。

 ――木火土金水相生せよ、木金火水土相勝せよ、相乗せよ相侮せよ生ぜよ滅せよ比和せよ比和せよ比和せよ比和せよ……
『ひ、ひひっ! 雷を呼ぶか……『オギャー!! お兄さんゆるしてぇ!!』』
「……万象流転し虚無に至れ!」
 最後に何か気の抜ける悲鳴が響いたが、構わず術式を発動させる。
 陣の内部を雷撃が荒れ狂い、雷鳴が轟いて――。
「わざわざ鞭を舐めたくないですから、これで終わると良いですねえ」
 水の気を帯びた颶風――凄まじい暴風が何もかもを押しつぶすかの如く、天より落ちた。
(百足と同じく土の気を以てあたるのが正道なのでしょうが……)
 それを強行するには何か、嫌な予感が拭えなかった。
 竜脈が細り、清浄な水の気が枯れていくと同時に、不浄なる土の気が増大していく。
 穢れた火が燃え盛り、燃え尽きようとしていた。その炎を消し止めねば――

●夢育み
『やれやれ、これは主のような者のために造ったのでは無いというに……』
「……困りましたね」
 土煙が晴れ、聞こえてくる声に舌打ちを漏らす。
 一網打尽となった小さき化生どもの死骸。だがその中心に佇む天津児魅比売は依然健在で。
 展開していた小鳥、魚、蝶の幻が主を守ったのだろう。無傷では無いものの、さしたる痛痒を感じているように見えない。ただ光を失い、墨色の影と化した小鳥の骸をつまみ上げ、不思議そうに呟く。
『そう。これは……これは? 何だったか……』
「ただの落書きだろう? 貴様と同じ、無価値な残骸のな」
『……ふ、ひひっ。良く、言うた!』
 天津児魅比売は次なる絵巻を広げ、生まれ出るは燃えるような赤い炎の瞳、巨大な黒き犬どもの姿。
 妖狐は応じるように金剛力士を地上に降下させ、蹂躙せよと無差別攻撃を仕掛ける。
「ちぃっ、持たないか……」
『そう、所詮ハ現世のすべて、無価値なもノよ。どウでモいい。    全部忘れテしまえバいい。    ソうすればはじめから、苦しむこともなカっただろう?         その為ニ、自ラ、望んで。     骸の海に沈んダのだカラ! は……はっ、アヒャヒハハハハハハ……ッ!!!!』
 狂った神の哄笑が響く。
 気が触れたような女の姿は無防備にも見えたが、冬季は黒犬――死の先触れたる猟犬どもに襲われ追撃の余裕を失っていた。黄巾力士がどうなったかはいわずもがな、である。
(少し、不用意過ぎましたか……)
 対群のユーベルコードは正しく機能したが、結果としては地力の差もあったか競り負けて。
 獰猛な黒犬に囲まれた冬季は、空中機動し雷公鞭の雷撃にて迫りくる死の似姿を焼き払う。その間に迫る牙を光の粒子を羽と化して凌ぎ、なおも喰らいつかんと至近に迫る顎に鞭を持った腕を突きこみ――雷撃、内側から弾け飛ぶ黒き影。
「狗ども、が……」
 全ての黒犬を虚無へと還し終えたとき、男もまた五体に刻まれた浅からぬ傷に疲弊しており――
『はは、はっ! さア、もっトダ! 殺しあおうウぞ! 全ての色が交わリ、やガて無色へ還ルその時マで――!』
「……やはり、鞭など舐めるものでは無かったようですね」
 徐々に凶悪度を増しつつある幻想生物に囲まれ、狂ったように嗤う女神に背を向け、雷使いの妖狐は忌々し気に呟いたのだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

御園・桜花
「後で回復して差上げます、貴方の好物を何でも作って差上げます。一撃で貴方を解放して差上げますから…逆鱗の位置を教えて貰えませんか?」

後の調理用に戦場近く迄ケータリングカー持込み
痛いのが嫌ならば逆鱗一撃で即死級のダメージを出すしかなかろうと宥めながら質問
泣き言ござる口調を竜の回答と判断

狙う逆鱗?の順は首元宝石>頭上の光>その他回答位置
UC「精霊覚醒・風」で回避力あげ吶喊
高速・多重詠唱で破魔と浄化の属性攻撃乗せた桜鋼扇で該当場所をぶん殴る一撃離脱戦法繰返す
敵の攻撃は第六感と見切りで躱す
回避不可の時は盾受けかカウンターからのシールドバッシュ

「比売さま、どうぞ骸の海へお還りを…そして何時か転生を」



●交渉
 桜色のケータリング用キャンピングカーから降りてトコトコと山道を登る。やがて此方を見下ろす人影を見つけ、警戒しいしい刺激しないように慎重に接近して。
(あらら、皆さん派手にやってますねぇ……)
 山頂付近の戦場はすでに訪れた猟兵との闘いの痕跡が刻まれており、焼け焦げ抉られた大地や僅かに残る社の残骸などがその激しさを物語っていた。
『見ておったぞ……あの車、さてはお主……』
 その戦場に佇む艶やかな女神は、一見して明るく接して来ようともその危険度は非常に高いのだ。
 彼女はキャンピングカーに興味を持ったようだが、警戒されたのだろうか? 瞳孔が開き、どこか焦点の定まらぬ目で天津児魅比売は――
『せっしゃを、おいしく料理しに来たのでござるな……?』
 ……どうやら、今は竜の意識が表に出ているようだ。
 そう判断した御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は目をぱちくりとさせ。
「お料理、されたいんですか?」
『大むかでに食べられるよりは……へるぷみーでござる。暗黒神さま助けてぷりーずでござる』
 相変わらず、緊張感に欠けるSOS――しかし、そんな竜も聞いていたより既に随分元気が無い様子。とうとう暗黒神(誰?)にまで助けを求めているのがその証拠だろう。
 あまり余裕が無いのかもしれない竜に、桜花は提案する。
「猟兵たちは、あなたを解放したいと思っています。でも痛いのが嫌というならば」
『ならば……?』
「逆鱗一撃で即死級のダメージを出すしかないでしょう」
『ひぇっ。即死とかなんか怖いことを言い出したでござる……!?』
「後で回復して差上げます、貴方の好物を何でも作って差上げます。一撃で貴方を解放して差上げますから……逆鱗の位置を教えて貰えませんか?」
 提案にしり込みする竜――珊瑚を物で釣って宥めつつ、桜花はその弱点の位置を問う。その為に今回、ケータリングカーもわざわざ持ってきているのだ。
 ただ、そこまで言うならと聞く耳こそ持つ珊瑚だったが、
『ミ”ャー……逆鱗でござるか』
「ええ、逆鱗でござる」
『……せっしゃのかわいい愛されボディにそんなものが?』
「自分の体なのにわかんないんですか? いえ、今は自分の体じゃないのでしょうけど」
 どうやら珊瑚自身も良くわかってない様子。
「なら仕方ないのであちこちしばいて試してみましょうか。まずは首元宝石から、頭上の光とか」
『二度もぶつでござる? ……ござるぅ』
 珊瑚はしょんぼりしながらも、桜花の武器が扇であることを見て取って激しい拒否は示さない。
 だが、そうして桜花が構えをとるとゆるゆるな雰囲気が一瞬で霧消して――

●溺れ、故に沈む
『主らの好きにさせルと思うてカ?』
「うしさんですか」
 天津児魅比売が巻物を解けば、牛頭人身の怪物が出現する。桜花に倍する体躯、構える巨大な斧――恐らくはミノタウロス。墨染の肉体ながら筋骨逞しい隆々とした体躯はその膂力の高さを窺わせる。
「我は精霊、桜花精。呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん!」
『ほゥ、桜華を咲かすカ。なラばお主モ骸ノ海に連れテ行こう。そウすれば――そうすれば?』
「?」
 呆けるように虚空を見上げる敵を不審に思いつつ、疾風と化した桜花――精霊化した桜花精は吶喊を敢行する。ただでさえ数は二対一の不利な状況、隙を見逃す道理はない。見た目の巨大さに反して機敏な獣の斧が迫るも、ユーベルコードによって生じた全身に渦巻く桜吹雪がその身を護り刃は空を切れば。
「これでどう、ですっ!」
 懐まで一瞬にして距離を詰めた桜の精は、鉄扇にて天津児魅比売が喉元の宝石を叩き――砕かせた。
(故事に倣えばこの位置のはずですが)
『……ふ、ふ。すまぬの、どうにも殺気を感じぬで、侮っておったわ』
「~~っ!?」
 直感に従い、空中でうつ伏せるように体を倒す――風になびく桜色の髪がはらはらと散って。そのまま車輪のように宙を転がり、視界の隅に映った牛頭の一撃を紙一重で見切り、躱す。全力で一時離脱し距離をとった桜花の目には、
「……ずるいです、それ」
『くくっ。首を捥いでやろうと思うたのに……ますます連れていきたくなるではないか』
 幽鬼の如く複眼を光らせる、墨色の巨大蜘蛛の群れ。
 従え嗤う、鬼の角と爪を持つ女。
(鬼女さんを取り込んだって聞きましたけど、接近戦も出来ちゃうとか……これ、どうすれば?)
 大蜘蛛が囲み牛頭が隙を伺う中、舞うようにして攻撃を捌き立ち回る桜花は、しかしいつまでもは呼吸が続かぬことを悟り。
「くぅっ……」
 まとわりつく大蜘蛛の群れに、桜の精は散る花びらの如く不規則に揺らぎ。剛腕、叩き潰すような斧撃――大地を抉る。くるり、と独楽のように身を翻した桜色がトンと地に足をつけば、同時に牛頭が転がり落ちて。
『は、ははっ!! やりおるのぅ!!』
「比売さま、どうぞ骸の海へお還りを」
 花の命を摘まんと振るわれた血のように赤い、金を散りばめた爪は銀色の盆を犠牲に凌ぐ。渾身を込めて押し返し、その身の態勢が崩れた刹那。再び超近接の距離となった両者、一方は笑い、一方は瞳に真剣な光を宿して――。
 詠唱、速く速く、音を重ねて。
 破魔と浄化の光を宿した桜色の扇が頭上より振るわれ、

 ――そして、何時か転生を。

 そっと祈りを込めた呟きに――空気が、凍った。

(……!?)
 いつの間にだろう、振り下ろす腕が鬼の掌に掴まれていた。ぎり、ぎりと鬼の爪が食い込む。死人のように冷たい手――だというのに、燃えるように焼け付く痛み。
 やはり頭部付近に弱点があるのか、天津児魅比売の反応は恐ろしく速く。そして、一時は戦いを楽しむようにも見えた彼女は、今は虫でも見るような、ゾッとするほど冷たい目で桜花を見つめていた。
 けれど、死をも覚悟したその身はあっさりと解かれ、痛みは捕まれた腕に手のひらの跡を残すのみ。
『嫌だ。イヤだ。なぜ、そんなひどいことを言う』
 女神の成れの果てはよろよろと後じさり、両手で顔を覆う。まるで無防備な姿を晒していて。
『なぜ、吾を苦しめる……お前たちが、すべてが骸の海に沈めばいいではないか。そうすれば、死ぬこともない。殺されることもない。別れることもない。奪われない。消えてしまわない。ずっと、思い出すこともない。思い出になるものがない……』
 全てが備えられていて、だからこそ、そこにはもう……
『なにも、ない。それがいい、そのほうが、いい』
「……天津児魅比売、貴女は」
 魂の禊は、転生は彼女にとっては救いではないのか。
 鬼と竜を喰らった古き女神の骸魂は、恐ろしいもののはずなのに、桜花の目にはそれがただ耐えがたい悲しみに襲われ泣き止む事の無い、ただただ哀れな一人の女のように映ったのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

サンディ・ノックス
話を聞く限りだといまいち緊迫感がないんだよね
だからグリモア猟兵さんも数日放置しちゃったんだよ、たぶん
ただ猟書家が強化されるのはよろしくないな、さくっと助けようか

現場についたら、相手は「誰」かと問う
竜神さんが濃すぎて敵の信念があまり見えなくってさあ
倒すことには変わらないから信念も気にせず潰してもいいんだけど
せっかく戦うなら魂の色(=気質)を見抜いてから潰したい
正々堂々とした奴と正面からぶつかって戦うのは好きだし、ヒトに不信を抱いているなら気持ちがわかるところあるからね

攻撃できる回数は少ないというから使うユーベルコードは解放・宵
命中率を高めて額を攻撃するよ
聞いた話から推測するに、そこでしょ? 逆鱗



●失楽園
(話を聞く限りだといまいち緊迫感がないんだよね)
 中性的な印象を与えるシルエットに、やや幼さを残す顔の青年――サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)。彼が依頼を受けた際に抱いた感想はそれだった。
「だけど、猟書家が強化されるのはよろしくないな、さくっと助けようか」
 そんな動機で彼は天津児魅比売の下へと向かい、その骸の海より染み出たオブリビオンと対峙した。『それ』はどこか疲れた様子で、覇気の失せた目をのろのろと向け出迎える。
「貴方は誰?」
 サンディがその正体を問えば、
『吾は……せっしゃ1/3でござるぅ……』
 混ざってるけど、竜神成分をアピールしたいということらしい。
 その、気の抜けるようなござる口調に苦笑を浮かべ、
「竜神さんか……なんというか、竜神さんが濃すぎて敵の信念があまり見えなくってさあ」
『そんな、かわいいせっしゃがかわいすぎるばかりにおねいさんを? すまぬ、すまぬぅ……』
「……そういうとこだよ。だからグリモア猟兵さんも数日放置しちゃったんだよ、たぶん」
『放置したあやつは絶対に許さぬでござる』
 そうつぶやいた瞬間、若干瘴気のようなオーラを放つ竜。おこのようだ。
「天津児魅比売だっけ? 倒すことには変わらないから信念も気にせず潰してもいいんだけど」
 せっかく戦うなら魂の色を見抜いてから潰したい、と青年は思ったのだ。
「正々堂々とした奴と正面からぶつかって戦うのは好きだし」
『……』
 降りた沈黙と向けられた昏い視線に、言うか言うまいか迷って、結局は言葉にする。
「……ヒトに不信を抱いているなら気持ちがわかるところあるからね」
『お主もヒトであろうに、というのは無粋であろうな。ヒトとはそのようなものゆえ……』
 神の骸たるオブリビオンは、嘆くように、憐れむように返す言葉を紡いで。
『然り然り! せっしゃもわか』
「竜神さんはちょっと黙ってて」
『あ、はいでござる……』
 向けられる憐憫にどのような意味があったのか。サンディには分からなかったけれど。
「もう一度聞くよ。――貴方は、誰?」
『吾は眠り損ねた残骸、その影にすぎぬ。けれどこうして世界に顕れたからには』
 墨色の筆先は光を湛え、光を手繰るように絵を描く。
 描き出されるのは牛頭の魔物。しかし冠と王笏を持ったその姿は、先立って別の猟兵が戦ったモノともまた違うようで。
 ――永遠に生き存えながら悲哀に呻吟するよりその方がよほど幸福だといわなければならない。
『それがヒトが語らせる彼奴の言葉よ。さぁ、殺しあおうぞ猟兵よ。吾を骸の海に還すか、さもなくば滅びを受け入れるが良い』
「……悪魔?」
『さてな。神はヒトの都合で魔へと追いやられ、魔もまた神にもなろう。そうそう、そやつはまたこうも言うたそうじゃ「わたしは公然たる戦いを主張したい。詭計云々については、他のものほど経験がない!」……ヒトは、仇なすものから守るでもない、このような神がお望みなのだろう?』
 生み出した幻想を差し向ける女は、怒りと憎しみに濁った目でサンディ――ではなく、自らが生み出したそれを見ていて。かつて女神であった世界の敵は、その存在に深い嫌悪を抱いているようだった。

●涙の国の君主
(攻撃できる回数は少ない……こういうことか)
 冠と笏を携えた牛頭の悪魔。その腕は長く、強く、獰猛であった。灼熱をその身に宿し、揺らめく陽炎に混じって、悲鳴と絶叫とを纏っていた。
「正々堂々とはしているのだろうけど……」
 暗夜の剣で打ち合いながら、剣戟に混じって聞こえてくる、幼い阿鼻叫喚の声がサンディの心をざわつかせる。聖者としての心が叫んでいた。このような存在を許してはいけない。呪われた武具でさえ、激しい怒りを孕んで――また、ヒトへの絶望が染み出すように伝わって来てしまう。
(ヒトが、ヒトを……罪なきもの、か弱きものを虐げて)
 悪辣な者の、贄としたか。
 ――柔和であった青年の表情に凶相が浮かぶ。
「さぁ、宴の時間だよ」

 黒剣を握る腕をだらりと垂らし、息を切らせながら前へ。
 横なぎに振るわれる王笏を黒剣を両手に凌ぎ、よろめきながら――圧倒的な劣勢にも健気に立ち向かう姿。勝利を確信したかのように、叩き潰すように王笏が降って、青年はついには黒剣を取り落とす。
『終わりか……呆気なかったの』
 天津児魅比売の声がぽつり、と惜しむように聞こえた。
 悪神の長い腕がサンディを捉え――弾かれたようにのけぞる。
『ア゛ア゛アアアアア!!!』
 空いた左で抑える右の腕にはもう一つの黒剣、玉桂の小刀が深々と突き立って。狼狽する懐にするりと滑り込む青年の手には、いつの間にか暗夜の剣。朔――フック付きのワイヤーに結ばれたその黒剣が一閃し、腹から片口までを深々と切り裂かれた悪神は、背を向けて逃げ出そうとしたが。
「お前みたいなやつ、俺が見逃すと思った?」
 一切の容赦なく、切り刻む。
 そうして生贄を喰らう悪神の影は、やがて塵となって溶け消えていった。

『所詮は消え損ねた残骸が作ったまがい物……この程度か』
「天津児魅比売……竜神さんは、返してもらうよ」
 生み出した幻想の敗北にうっすらと笑みさえ浮かべる女神。
 切っ先を向け、サンディが告げる。
 ピタリ、と狙いを定め、解放・宵――ユーベルコードと共に一陣の風と化す。
「聞いた話から推測するに、そこでしょ? 逆鱗」
『ふ、は、は。見事……っ!』
 容易く、その切っ先は角と角の間、前髪に隠された逆鱗に届いて。
 軽々と宙を舞った体は仰向けに地べたを転がり、額から血を流しながら、解け始めた竜との結合に力を失いながら、狂った神はさも愉快そうに笑っていた。
「天津児魅比売……貴方は、ただただ早く骸の海に還りたいと思っているんだね」
 その陽気さもまた、この神の本質だったのだろうが――それも今は、歪んだ影の悲哀でしかない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
自嘲の呟きを聞いて思いが強くなった
天津児魅比売を解放してあげたい
百足に食われて終わりでもいいなんて言わないで

たぶん貴方は守り神だったのに
ヒトの信仰を失い幽世にたどり着けず骸の海に落ちた
そこで眠っていたかったのに現世に染みだしてきてしまった

推測も多いけど
眠りたいという気持ちは勘違いでないはずだ
願いを叶えたい
彼女の誇りも傷つけない形で

一度突いた逆鱗は簡単に狙えないだろう
呼び出される幻想生物ごと指定UCで包囲攻撃
肉体を変異させて武器を作っているから消耗が激しいけど
どんなに傷つこうと動きを止めない
竜神だけでなく女神も助けたいから

額を狙える僅かなチャンスは逃さないようにしたい
十字槍を掴み逆鱗に向けて投擲



●勝利ではなく
「……百足に食われて終わりでもいいなんて、言わないで」
『……』
 天津児魅比売は何も答えなかった。
「たぶん、貴方は守り神だったのに」
『……』
 天津児魅比売は何も答えなかった。
「ヒトの信仰を失い、幽世にもたどり着けず骸の海に落ちた」
『……やめよ』
 天津児魅比売は。
「そこで眠っていたかったのに、現世に染みだしてきてしまったんだ」
『やめてくれ……』
 弱々しく、首を振って。
「天津児魅比売。貴女を、解放してあげたい」
『……そうか』
 血で汚れた顔を向け、のろのろと立ち上がる過去の化身――オブリビオン。
 追撃のチャンスはあった。けれど、中性的な顔立ちに幼さを残す青年――サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)の目的は、ここに至っては単純な討伐ではなく、
(貴方の誇りも傷つけない形で)
 推測にすぎぬことばかりだとしても。
 きっと、眠りたいという気持ちは勘違いでないと思うから。
(願いを叶えたい)
 天津児魅比売を骸の海に還し、眠らせてあげようと――そう願ったのだ。

「貴方の望む場所へ、還してあげる」

『伴星・強欲の両鎌槍』――サンディのユーベルコードが発動し、漆黒の十字槍が無数に飛翔する。そうして冷めた月の下飛び交うは、幾何学模様を描く千を超える黒き刃。
『ならば、礼には礼を返そうか』
 但し、世界に破滅を齎す者として――皮肉気に嗤い、水墨画の絵巻物を取り出し。
 そこに描かれた幻想を召喚するべく、巻物を開こうとした天津児魅比売は、
「?」
『……』
 何を思ったか、ユーベルコードの代償となるそれを開くことはなかった。
 鬼を宿した己の肉体一つで十分ということか? ……だけど、これでは、あまりにも。

●寂莫の果て
(たぶん、貴方は守り神だったのに)

 ――守り神。
 ヒトが邪なるものに傷つけられたならば憤り。
 彼奴らの手にかかり失われる度、我が子を亡くしたように悲しみ。
 かつて、現世にあったころ、たしかにそのようなものだったのかもしれない。

(ヒトの信仰を失い)
 
 ……そうだ。
 いつしか懐で守り育んだ雛たちも巣立ち、自らの翼で羽ばたいていく。
 愛した子らに忘れ去られることは寂しくはあれど、それはそういうものだから……。
 すでに神の手を必要としなくなった愛し子たちを誇らしく思い。
 懐かしい思い出を抱いて、幽世に揺蕩えば良かったのだろう。

 ああ
 ああ けれど
 離れがたき故郷で

 餓えたる者に与えられたパンが
 砂漠にて乾きゆく者が見つけた井戸が
 どれほど心を満たし、安らぎを与えてくれたのか……

「~っ! 天津児魅比売、貴方は……!」
 険しい顔して少年が此方を睨む。
 今世を守護する者。世界に破滅と終焉を齎す我らの宿敵が。
『……どうした、もう限界か? 強力な力、されど身を削る力。そうであろ?』
 絵を描くことは、描くものを良く見て、良く知ることから始まる。
 顔を強張らせる少年は、身に宿した悪意の力にてその身を削るように戦っているから。
『そろそろ辛いか? 苦しいのか。ならば……』
 今、楽にしてあげるから。滅びを受け入れなさい。
 赤々と鋭き爪を、苦し気に歪む表情の、その首を刎ねるべく――……あれ?

 半分が赤く染まり消え失せた視界に、急速に近づくのは荒れ果てた地面。

●解放
「俺、は……」
 どんなに傷つこうとそれでも良かったのだ。
 彼女が司る幻想は強く、まだ底を見せていなかったから。
 一度突いた逆鱗はそう簡単に狙えないだろう、そう考えていたから。

 どんなに傷つこうと――犠牲を払ったとしても。
(竜神だけでなく、女神も助けたいから)
 ……と、そう決意していたのだ。

 だけど。

『ははは。負けた負けた!』

 無様に突っ伏し、荒涼とした土に汚れた顔で、天津児魅比売は笑っていた。
 赤い赤い彼岸花が、せめてもの慰めのように咲いた、寂しい土地で。

 左腕を失い
 右脚を失い
 左目を抉られ
 何本もの槍に貫かれた躰は、片腕でどうにか仰向けになると、空を仰いで笑っていた。

 投射武器は近接ほどの微細なコントロールは難しく、彼女の殺意は本物であったから。
 命を刈り取ろうと迫る強敵を、本気で迎撃しなければ、危うかったのも確かで。
 
「……」
『どうした?』
 追撃もとどめも思うがまま。されど降ってこないそれに天津児魅比売が疑問を発して。
『竜ならば心配はいらぬ。先のお主の一撃で、すでに結合は解けつつあったのでな』
 あれで強かなヤツのようじゃし、おかげで大百足めも、まだ目覚めまい、と。
『後はこの死に損ないを片付けて、おしまい』
 明るい声音で響く、自嘲の声。
「どうして」
 その身一つで向かってきた天津児魅比売にサンディが問う。
 掠れそうな声で。絵巻物から幻想を召喚しなかったその理由を。
 天津児魅比売は、空のどこか遠く遠くを見つめてつぶやいた。
『分からぬ。……分かるのが、こわい』

 過去の遺した影に過ぎない己に分かるのは
 ただ心の底から憎むものと、それに与するヒトの愚かさと。
 もう守ってあげることもできない、自ら滅びの道へ進むひとびと。
 同じヒトの手によって、私欲と狂気に染まるものによって、犠牲とされる……

『もういいでしょう? 少しつかれた……』

 どうしてこうなったのだろう
 私はただ
    と
 居たいだけだった

 ほんの少しでも長く
 そばに居たかっただけ
 ほかには何もいらなかったのに

「……天津児魅比売、貴方は」

 青年が跪き、間近に覗き込んでも反応を示さず、もう何も見えていないだろう目。
 うわ言のように囁く言葉。
 幽世に旅立つことを選べなかった女神は。

「誰よりも、未練たっぷりだったんじゃないか……」

 愛の深さゆえに愛に溺れ
 骸の海に沈むこととなった女神は
 最後はおそらく、愚かなヒトの過ちによって
 思い出を抱えて眠ることにさえ耐えられぬほど

 傷ついていた

 だから。今はせめて。

 全てを忘れて、骸の海で眠れるように。

「そこには何もないのかもしれないけれど」

 いつかその魂が救われる日が来ることを祈って。
 サンディは黒き刃を振り下ろし――竜神と女神を贄へと導く、悪因を解いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『三上山の大百足』

POW   :    全て潰えよ
単純で重い【自身の体】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    竜よ、溶け落ちろ
【竜の鱗さえ溶かす溶解液】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    我が呪いを受けるがいい
【敵対者への呪詛を纏った自身の体】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はルイス・グリッドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●三上山の大百足
 解けた骸魂と竜の結合。
 一方は光の粒子となって掻き消え、一方は光の球体を中心に実体となって結実する。
「スヤァ……へぶっ!?」
 重力に引かれて空中から地面に落ちた幼竜――珊瑚が目を覚まし。
 誤魔化すように右手……右ひれ? をビシっと挙げて猟兵たちに感謝を告げた。
「あ、ありがとう……せっしゃ、皆のこと、信じてたでござるよー!!」
 ……竜は苦痛に苛まれていると聞いていたが、存外リラックスしていたような。よだれの跡さえ残るそんな竜神の姿を認めながら、だけど猟兵たちは油断せず周囲を警戒する。
 竜を捕らえ、食らおうとしていた猟書家――三上山の大百足がどこか近くで眠って居るはずなのだ。……まぁ、その割には既に大場れしてた猟兵たちも居たりするのだが。
「はっ!? 来る……イセリナが……音もなく走ってくるでござる……!」
 珊瑚が良くわからない警戒の声を上げた。瘴気の様な汚れた気配が辺り一帯に充満していく……。
「……上から来るでござる! 気をつけるでござるー!!」
 ごごご、と地面を揺らし……足元の地面からその一部が隆起し終に姿を現す。
 そう。猟兵たちが立っている三上山の地面にこそ、大百足は隠れ潜んでいたのだ。
 伝承によれば山を巻いて七巻半あったとされる大百足。さすがにそこまでの大きさは取り戻せていないようだが……その頭部だけでも巨大の一言。
『ドウイウコトダ……リュウジン。ムクロダマハ……ワレノ餌ガ……』
 呆然としていた様子の大百足は、やがて状況が呑み込めてきたのか、その長大な体躯を激動さえ、激怒する。
『ワレノ肉ヲ! ワレノ贄ヲ! 奪ッタモノドモ……ユルシハセヌ!!』
「だれが可愛くて最高の美味しいごはんでござるか! せっしゃだって許さんもんね! さっ、先生たち、やっちゃってくださいでござる!!」
 ふよふよと宙を浮かび、ぺちぺちと前ひれで猟兵たちを嗾けようとする竜神。微妙に気が抜けるその応援(?)を受けながら、猟兵たちは食事を邪魔された怒りに狂う大百足と対峙する。


====================
●マスターより
 ご覧くださりありがとうございます。
 そろっと第二章を動かしていこうと思いますので、よろしくお願いいたします。

●状況
 目を覚ました大百足とのガチンコバトルです。
 山の斜面(頂上付近)であること、山肌は植物も少なく脆いですが、普通に戦う分には特別影響はないでしょう。

●大百足
 大きさは悩みましたが、猟兵のサイズに合わせて可変ということにします。
 最小30M~300Mです。通常は30Mの大百足を相手していただきます。30Mの場合でも横幅だけで人間の身長と同じくらいはあるでしょう。
 見た目によらない素早さと外皮の硬さ、凶暴性の高さ等が特徴。

●珊瑚(竜神)について
 ネタ晴らしをすると、無意識で無意識に干渉するような能力を持っています。
 あとは防御や浄化系を多少……といった感じかも。
 能動的な協力はあまり得意ではありませんので、空気だと思ってても大丈夫です。
 勿論、プレイングで絡んでいただいても、何なら漫才を始めていただいてもOKです。

 では、願わくばよい旅の終わりを。
オメガ・カストゥール
出てきたな、源頼光に退治された妖怪。
竜王として、貴様は葬り去る。
だが、我としては、唾なんていう貴様の弱点を付くつもりなぞ、毛頭にない。
そして、その醜い蟲の分際で我ら竜族を喰らおうとは、笑止千万。
我の火炎の威光を持って、貴様を滅せなければ、虫唾が収まらんのでな。
だからこそ、我が、直接、貴様に、罰を与えてくれよう!

猟書家と言っていたな。また現れるだろうが、その時も同様に扱わせてくれる。
我も、全力で行かせてもらう!
我に集う火精の力を全開で行く!暴走しても構わん!燃えろ!!我が全てを焼き尽くしてくれる!!

臆してるではないか、ムカデよ!
貴様も全力で来い!
来ぬなら、我から行くぞ!!

空ヘ飛んで口からファイアーブレスを吐いてムカデを燃やす。
超高熱なら、ムカデも焼けるであろう。
奥の手として、燃えてる体の状態でムカデの胴体を抱き上げて、燃え尽きるまで抱きついていく。
「このまま燃え尽きるがいい!!」

アドリブ歓迎 


火土金水・明
「昔から百足にお茶をかけて退治する言い伝えがありますけど、ここまで大きいとお茶がもったいないですね。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃は、【高速詠唱】で【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【コキュートス・ブリザード】を【範囲攻撃】にして、『三上山の大百足』を【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【第六感】【残像】【オーラ防御】【呪詛耐性】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。



●竜と百足
『ワレノ肉ヲ! ワレノ贄ヲ! 奪ッタモノドモ……ユルシハセヌ!!』
 百足と呼ぶにも凶悪にすぎる貌。その牙から犠牲になった妖怪の血を滴らせ、猟書家でもある大妖怪、三上山の大百足が猟兵たちに襲い掛かる。
「すごく怒ってますね……」
 ウィザードハットが風で持っていかれないよう片手で抑え、黒いローブに黒いマントといった魔女のような姿の女――火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)が斜面を駆けて。
「昔から百足にお茶をかけて退治する言い伝えがありますけど、ここまで大きいとお茶がもったいないですね」
「あっ……せっしゃはせっしゃは饅頭もお茶も弱点でござるよ?」
 さてどう退治するかと算段をつけながら零す明にふよふよと並走しながらアピールするのは、件の大百足に生贄として食べられそうになていた竜神――珊瑚。
「退治してほしいんですか?」
「そこに愛があるのなら! でござるぅ~」
 などと宣うが、明は初対面の竜に特別何の感情もないのでスルーして。
「それにしても、大きい」
 三上山の大百足は目算で山の斜面の半分ほどの長さはあり。大体300メートルという、ちょっとした山の高さサイズになってしまっていた。比較対象としてはスカイツリーの半分、エッフェル塔や東京タワーの高さと同じくらいだ。
「出てきたな、源頼光に退治された妖怪。竜王として、貴様は葬り去る!!」
 その異様な巨体に怯まず、びりびりと空気を震わせ雄たけびを上げて、火竜――100メートル級のオメガ・カストゥール(火焔竜にして、竜神王・f34605)が対峙する。
 空を飛ぶオメガに対し、地を這う大百足はその長大なリーチで対抗しようとでもいうのか、溜めを作って身構える。伝承の山を七巻半するほどではないが、ここまで大きいと明の言ったお茶でなくとも何かしらの弱点を突きたくもなるというものだが。
「だが、我としては、唾なんていう貴様の弱点を付くつもりなぞ、毛頭にない。そして、その醜い蟲の分際で我ら竜族を喰らおうとは、笑止千万」
『タカガ竜ゴトキガ……ワレノ餌ニスギヌモノドモ』
 伝承によれば、人間のつばが弱点だったという三上山の大百足。猟書家なのでその通りとも限らないのだが、元よりそんなものに頼るつもりはないと宣言するオメガへ、大百足は取るに足らぬ小物を見下すようにして言葉を返した。
「その不遜な物言い。虫唾が走るやつだ。やはり、我の火炎の威光をもって、貴様を滅さなければ腹の虫が収まらん! 我が、直接、貴様に、罰を与えてくれよう!」
 開戦の号砲。
 上空ヘ飛んだオメガは竜王の顎より高熱の火炎、ファイアーブレスを吐いて大百足に浴びせかけ燃やさんとする。
「超高熱なら、ムカデも焼けるであろう」
『ヌゥウ……! リュウメ……オノレ、オノレェ!!』
 高熱に炙られ表面を火が躍る姿のまま、大百足は全て潰えよとばかりに飛び掛かりボディプレスを仕掛けた。
「蟲の分際で動くではないか。だが、我には及ばぬ!!」
 百足らしい俊敏さで迫るそれをオメガは空中で身をよじって回避し、その勢いのままに太い尻尾を叩きつける。
「わ、わ、っと……!」
 地面へと更に勢いよく落下する大百足の巨体に、地響きで明の体が浮き上がった。

●氷と炎
「……怪獣大決戦ですね。巻き込まれないようにしないと」
 激しい応酬で目まぐるしいが、大百足は上空のオメガに気が向いているようだ。
 明はならばその隙にと攻撃を企画し、実行する。
「……我、求めるは、冷たき力」
 高速詠唱。継続ダメージ、鎧無視攻撃、貫通攻撃――
 研鑽を積んだ魔術の奥義の一端を披露すれば、中空に現れるのは500を超える氷の矢。
「高温もいいけど、ちょっと臭くなるから……百足にはやっぱり冷凍ですね」
 全力魔法で放つユーベルコード『コキュートス・ブリザード』。数多降り注ぐ魔法の矢撃は氷属性の範囲攻撃となって三上山の大百足に襲い掛かって。
『グギィイイイ!?』
「さ、もう一発!!」
 此方に気づいた大百足へ牽制とフェイントを交えつつ、二回攻撃で同じ箇所を狙い、凍結ダメージを拡大させていく。
 地上からの攻撃に気づいた大百足は、その長い体で逃げ場を無くしながら、魔女へと巻きつこうとしていた。そうして太く鋭く硬い、刃物のような脚が黒いマントに包まれた体をズタズタに斬り裂いて――
「……残念、それは残像です」
 直感と経験、そして相手の虚をつく技術で残像を残し、明は百足の背を蹴って脱出していた。流石にそのまま本気で追いかけ続けられれば拙かったかもしれないが、
「どうした、臆してるではないか、ムカデよ! 貴様も全力で来い! 来ぬなら、我から行くぞ!!」
 地上をまさぐり始めた大百足へは上空からオメガが襲い掛かり、自由を許さない。
大百足はドラゴンの火力を以てしてもかなり防御が硬く、やはり一筋縄ではいかない相手のようだったが。
「少しでもダメージを与えて次の方に」
 そうして注意が再び上空へ戻ると、明が再び仕掛けて足の一部を凍結させ、多足による敏捷性を徐々に殺していった。
 そうして敵の動きを牽制しておけば、
「そろそろ我も、全力で行かせてもらう!」
 オメガが奥の手を使い、勝負を決めにかかる。火精顕現――体内に眠る火の精霊の力を解放するユーベルコードを発現させ、赤熱する体でムカデの胴体を抱き上げて、燃え尽きるまで離さぬとばかりに抱きついたのだ。
『!? ハナセ……グギギギギイイイイ……!!!』
 暴れ逃れようとする大百足の体を鋭い爪と竜王の膂力が押さえつけ、砕けた外皮からは体液が飛び散った。
「我に集う火精の力を全開で行く! 暴走しても構わん! 燃えろ!! 我が全てを焼き尽くしてくれる!!」
 大百足は巻きつき、暴れ、嚙みつくが、高熱を発するオメガに対してはそれ自体もダメージを負う行為。生物が活動するに適さない灼熱に、体液は蒸発し血まみれの牙ですら焼け焦げていく。
『ギギギ、ギイイイイイ……ッ!』
 凶暴で一度現れると暴虐の限り尽くし、妖怪を迫害し喰らう猟書家、三上山の大百足。その猟書家隋一と言える凶暴性も気性の激しいオメガには通用しなかったようだ。
「このまま燃え尽きるがいい!!」
『ギャアアアア……ァァアア……ッ!!』
 手痛い傷を負い、脱出しようともがく大百足はとうとう体が千切れてしまった。氷漬けにされ脆くなった部分が耐えきれずに砕けてしまったようだ。逃げていく頭側だけでなく、尻尾側もまだまだ元気に動く様子はさすが百足の生命力と言った所だが。
「ふん。焼いても食えそうにもないか、……それにしても酷い匂いだな」
「煮てよし、焼いてよし、タタキよし! なせっしゃとは大違いでござるな!」
 反射で動く尾部をブレスで焼き尽くし動かなくさせ、大百足の惨めな逃走を見て溜飲を下げるオメガに、珊瑚が謎のせっしゃ自慢を始めるが。
「……食べられたいの?」
「愛があれば……食べないでござるぅ!」
 地上で繰り広げられるそんなやり取りを華麗にスルーして、オメガは宣言した。
「猟書家と言っていたな。また現れるだろうが、その時も同様に扱わせてくれる」

 傷を負ったとは言えまだまだその力を出し切ってはいないだろうが――
 かくして、三上山の大百足との戦いはまず猟兵たちが先制に成功したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
大百足見つめたまま
「珊瑚さん、でしたか?大百足退治が終わったら、御馳走作って戦勝パーティしますから…間違っても、戦闘に巻き込まれないで下さいね」

「確か百足って、千切れても暫く生きて動くんですよね…」
UC「エントの召喚」
貫く木の根で何ヵ所も何ヵ所も大百足を串刺しにする
串刺しし易いよう、高速・多重詠唱で銃弾に破魔と炎の属性攻撃付与し制圧射撃
竜神に百足が辿り着けないようにする

「食物連鎖的に言えば、貴方の言う事は間違っていないのかもしれませんが。オブリビオンになった貴方の願いを、叶える訳には参りません」
「植物の生存戦略には、共存か殲滅しかありませんの。どうぞ骸の海へお還りを」

戦闘後は其れでも鎮魂歌歌う


鳴上・冬季
「血塗れな私より竜神に惹かれますか。そのポンコツより霊格神格が劣ると?…忌々しい」
血混じりの唾吐く

「来い、黄巾力士火行軍!そのクソ百足を蹂躙しろ!」
112体の黄巾力士を
9体9組
10体3組
の12組に編成

砲頭からの火線で鎧無視・無差別攻撃する組
砲頭からの実体弾で鎧無視・無差別攻撃する組
上記2組をオーラ防御で庇う組
の3組で1隊として4隊に編成
2隊ずつ組ませ波状攻撃での蹂躙命じる

自分は残り1体にオーラ防御で庇わせ竜脈使い黄巾力士の継戦能力底上げ

「何故だ、何故倒れん!」
「こんなところで、百足ごときにっ」
黄巾力士のオーラ防御を突破されたら仙術と功夫で縮地し回避

「こんな失態を師に知られたら…くそっ」
毒づく



●偽死
 それは御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が「確か百足って、千切れても暫く生きて動くんですよね……」などと言っていた矢先のことだった。
『グギギ……リュウジン、ドコダァアア!!? 喰ワセロォオオオオ……!!!!!』
 猟兵との激闘の末、長い体を途中から千切られた大百足は狂ったように叫びながら竜神――珊瑚を探し始める。
「傷を癒すために竜神のお肉が欲しいんでしょうかね?」
「そうかも? かわいいせっしゃのお肉はエリクサーより貴重品でござるからねっ!」
 地上にて汚れた体液をまき散らしながら蠢く大百足を目を離さず見つめたまま、桜花は何故か得意そうに語る竜神――珊瑚へと注意を促す。
「珊瑚さん、でしたか? 大百足退治が終わったら、御馳走作って戦勝パーティしますから……間違っても、戦闘に巻き込まれないで下さいね」
「分かったでござる! せっしゃ、この戦いが終わったらパーティでご馳走を頂くでござる! アツアツのピッツァも食べたいでござるぅ~!」
「はい。……ん? それって」
 何か死亡フラグっぽい。思わずちょっと胡乱気な目で珊瑚を見やる桜花。
 一方で大百足がそんな風に竜神を探すのを見て、不満げに眉を顰めるのは鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)だ。
「百足め、血塗れな私より竜神に惹かれますか。そのポンコツより霊格神格が劣ると? ……忌々しい」
 と零し、ペッと血混じりの唾を吐く冬季。天津児魅比売との戦闘で消耗しての連戦は、普段は余裕の態度を崩すことも少ない妖仙にとっても堪えているようだ。
「ふふん。せっしゃ、滋味芳醇で一口食べれば健康増進、長寿間違いなしのグルメでござるからなぁ……」
 そしてポンコツ呼ばわりされた珊瑚は何故か照れていた。霊格がどうと言うより、たまたま捕まえやすかった竜神がこれだったという可能性も高い気がする。
(何を張り合っているんでしょうね、お二人とも……)
 大百足の餌としての品質(?)を競い合う妖狐と竜神にちょっと呆れながら、桜花は無差別に暴れ狂う大百足に向けて、まずはその足を止めるべく自らのユーベルコードを発動させる。
「おいでませ我らが同胞。その偉大なる武と威をもちいて、我らが敵を討ち滅ぼさん」
 エントの召喚――木の牧人の霊を召喚し、木の根や枯れ葉などを用いて敵を攻撃する能力。地中から現れた貫く木の根が大百足の腹側から何ヵ所も何ヵ所もと突き刺さり、大百足を串刺しにして。
『……グ、ゲェエエエエーーッ!!?』
「珊瑚さんには、近づけさせませんからね」
 更には高速・多重詠唱で破魔と炎の属性を付与した軽機関銃を構え、制圧射撃。的が大きい分、当てやすいのを幸いに大百足の行動を阻害してみせた。大百足は弾丸に穿たれ体液と臭気をまき散らし藻掻いていたが、段々と動きが鈍りぐったりとしだして。
「おや、死んだでござるかなぁ~ん?」
「……お待ちなさい」
 人の忠告をあまり聞いてなさそうな珊瑚が大いに油断し大百足に近づこうとするのをむんずと捕まえ、油断なく見張る。
 大百足はその巨大すぎる体の外皮がパキパキと音を立て砕け始めていたが……。

●執念
 シュウシュウと湯気を立て大地を汚す大百足の体液。消えゆく躰。しかし不吉な気配は未だその場にとどまっていた。
 そして再び、血のように赤い二つの眼が不気味に浮かび上がる。
『喰ワセロ……喰ワセロ……邪魔スルモノドモ……呪ワレロォオオ……!』
 そうして現れたのは、30メートル程度にダウンサイズした大百足。千切られていた体も復元しており、的は小さく、小回りが利くようになっているようだ。
 単純な力のごり押しだけでは猟兵に叶わぬとみて、必要な攻撃性能を残しながら最適化したという所だろう。遠隔攻撃を警戒し横に旋回しながら猟兵たちの隙を窺いだす。
「来い、黄巾力士火行軍! そのクソ百足を蹂躙しろ!」
 冬季は苛立ちのままに叫び、黄巾力士・五行軍を召喚。ユーベルコードにて呼び出された112体の人型自律思考戦車を編成し、指示を下していく。
 まずは112体の黄巾力士を9体×9組、10体×3組の合計12組に分け。砲頭からの火線で鎧無視・無差別攻撃する組、砲頭からの実体弾で鎧無視・無差別攻撃する組。それから上記2組をオーラ防御で庇う組の3組で1隊として4隊に編成。その2隊ずつを組ませて。
「波状攻撃で蹂躙しろ!」
 指示に従い動き出す火行軍。おびただしい数のレーザーと実体弾が間断なく大百足へと向かう。
『グゥウ……』
「何故だ、何故倒れん!」
 攻撃は確実に効いてはいるようだが、大百足は外皮を削られ貫かれても足を止めず、
『スベテ……潰エヨ……!!』
 反撃にて単純で重い自身の体の一撃を叩きつけた。周辺の地形ごと、火行軍の一部が押しつぶされ不快な音と共に爆散する。
「ええい! この……百足如きが、私の……!」
 単体で素早く、強力な外皮を纏う大百足に、火行軍は数の利を存分には生かせていないようだった。広範囲無差別攻撃を仕掛けることも考えたが、同士討ちや地形の崩壊、救出対象への影響などデメリットもあって二の足を踏んでしまう。
「ひぇっ。こ、こっち来るでござる? ここは任せたでござるー!!」
 不穏な気配を感じ取った珊瑚は薄情にもさっさととんずらをかまし逃げていった。
 だが、大百足は既に旋回し、蛇行し、間近まで迫っていて。
「こんなところで、百足ごときにっ」
 手元に1体残しておいた、龍脈の力で強化した黄巾力士がオーラ防御と共に阻む。突進を受け弾き飛ばされながらも砲撃を加えるそれを、しかし大百足は素早く大顎で捕えるとバリバリ嚙み砕いてしまった。
『マズイ……血ノ滴ル……ナマ肉、臓物……喰ワセロォオオオ!!!』
「くっ。こんな失態を師に知られたら……くそっ」
 冬季は毒づきながら、黄巾力士が稼いだ僅かな間に仙術と積み上げた功夫による縮地で距離を取る。時の運にまで見放されたかのように失態を重ねる己に、思わず悪い想像までが重なるが。
「勝っているのは此方ですから、焦らずに……合わせましょう」
 山の斜面を上へと向かうと、珊瑚を守りながら桜花が待ち伏せていた。
 確かに、落ち着いて見下ろせば五行軍も一部が破壊され突破を許したとはいえ、オーラの防護を専門とする隊を混ぜておいた事もあり被害は軽減出来ているようだ。2つの部隊が大百足を追う形で上ってきていた。
「ふむ……挟撃になりますか」
 頂上付近の峻厳な地形で、冬季は雷公鞭を取り出すと雷撃を呼んで大百足へと向かわせた。
『カユイワァ!』
 青白い閃光が奔り大百足は一瞬足を鈍らせるも、再び勢い良く突撃しようとした。
 そこへ。
「食物連鎖的に言えば、貴方の言う事は間違っていないのかもしれませんが。オブリビオンになった貴方の願いを、叶える訳には参りません」
『ウ、グググ……ガッ!!』
 再び這い出た木の根が、騎兵を殺す槍のように迎え撃った。更には強制的に起き上がる体制となった大百足へ、追いすがる火行軍から砲撃が加えられ、外皮を穴だらけに変えていく。
「植物の生存戦略には、共存か殲滅しかありませんの。どうぞ骸の海へお還りを」
『ダマレ!! ワレハチカラヲトリモドシ……閻魔王ヲ……!!』
 頭上から銃弾を大量に喰らわせながら、桜花が告げる。だが大百足は、その強靭な生命力は未だ絶えることなく。猟兵を屠り、竜神を喰らおうとする妖怪――その血のように赤い二つの目はギラギラと不気味なまでに燃えていた。
「往生際が悪いでござる! はっ、もしやこれがストーカー……?」
「……実はこのポンコツを喰わせたら弱体化するとかありませんかね?」
 珊瑚が弱りながらも諦める気配のない大百足に明後日の妄想を膨らませ、冬季もそのしつこさに辟易とした顔で呟いた。すでに致命に近い傷を負いながらも、執念で竜神を喰らうことを――再び大妖怪へ至る力を求める猟書家。その先にある目的、閻魔王を獲得しオウガ・フォーミュラの姉妹へと捧げる事こそが彼らの悲願。
(生きる上で相容れぬ者とて、それでも、鎮魂歌を捧げるつもりですが)

 猟兵に圧倒され瀕死ながらも大百足は未だ諦めておらず、戦いはまだ、終わらない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

サンディ・ノックス
物理的なものより火や水のほうが効果的みたいだけど、俺が扱うものはほぼ物理
仕方ない、美味しくなさそうだけど悪意の魔力で喰らい尽くそうか
珊瑚さん、肩の上においで
ちょっと戦場でうろうろされてると邪魔…もとい巻き込んでしまいそうだから
わあ、耳元であまり騒がないで
うっかり落としちゃうよ?

UC解放・夜陰発動
これは俺の持つ魔力を水晶の形で具現化したもの
敵を喰らい同化しようとする性質がある
弱っている相手ならどこを喰らっても効果ありそうだね

百足からの呪詛は
俺の魔力がそもそも呪詛みたいなものなので耐性が備わってる
全く辛くないって言ったら嘘だけど
でもお前も辛そうだね
弱っている状態でいつまでそれを扱っていられるかな?



●聖者と悪意
 炎に氷、杭に銃弾、砲弾、雷と。バリエーション豊かな猟兵たちの攻撃により大百足の体はすでにボロボロだ。
『オノレオノレ……ウマクイッテイタモノヲ……』
 動くたびに溢れる体液をまき散らしており、強靭な生命力で未だに動けてはいるが、限界が近い肉体を精神力で補っていると言った方が近い状況。
「あと一押しでござるかな……ここはせっしゃの本気を見せつけるべき?」
 珊瑚はのたくる大百足に強気な発言をするが、ギャグ時空に居るからどうにか生きているような珊瑚がシリアスに戦った場合、もれなく悲しい判定が下ってしまうだろう。
「やめときな。これであっさり食べられでもしたら、全部無駄になっちゃうから」
「ミ゛ャー」
 一見柔和で優し気な少年、サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)がその尻尾をむぎゅっと捕まえて軽く引っ張り呼び寄せる。
「珊瑚さん、肩の上においで」
「およ? さてはついに猟兵さんもせっしゃの魅力にメロメロに……」
「ちょっと戦場でうろうろされてると邪魔……もとい巻き込んでしまいそうだから」
「邪魔って言った! 確かに言ったでござるぅ!」
 肩に留まってへばりつく珊瑚は、猫が液体というなら竜も液体のような、そんな感触でひんやりすべすべとしていた。実はスライムと言われても納得してしまいそうだ。
「馬鹿にされている気配を感じる……せっしゃはどらごんでござる。だれが何と言おうとどらごんでござるぅ~……!」
「わあ、耳元であまり騒がないで」
 ぎゃあぎゃあと落ち着きのない珊瑚にサンディが眉をしかめる。邪魔にならないようにと手元に置こうとしたが、これではどっちみち邪魔だったなぁ……などと思ったり思わなかったり。
「あまり騒ぐと……うっかり落としちゃうよ?」
 影があるというか、陰もありそうなサンディがほほ笑みながら警告する。一発だけなら誤射かもしれないとか、そういうこともあり得そうな迫力が隠れた笑顔だった。
「ぷるぷる……せっしゃ、わるいどらごんじゃないでござるんよ……?」
「うん。それじゃ、大人しくしていてね」
 そうしてしおらしくなった珊瑚をしり目に、大百足へと目を落とす。硬い外皮と巨体による高い水準の防御能力。攻撃性能はそこまで高くないが、巨体を生かしたボディプレスや、竜の鱗さえ溶かす溶解液、呪詛を纏った体による拘束などをその凶暴な性格で強引に仕掛けてくる、いわゆる『キレやすく、ケンカに強い』タイプの敵だ。
「ううん。物理的なものより火や水のほうが効果的みたいだけど……」
 外皮が硬く、近接では剣のような多脚や単純な重量も脅威となる。魔法や銃、ダメージが浸透しやすい攻撃を遠距離から仕掛けられれば理想的ではあるのかもしれないが。
 生憎、剣を使うサンディの攻撃手段は物理に偏っているようで。
「仕方ない、美味しくなさそうだけど悪意の魔力で喰らい尽くそうか」
 そう決めた少年の口元が、酷薄な笑みの形に歪む――本人さえも気づかぬ内に。

●渇望
 サンディがユーベルコード『解放・夜陰』を発動し、500を超える闇属性の水晶が現れる。それは青年の持つ魔力を水晶の形で具現化したもので。
「……触らないでね。危ないから」
「ひょ!?」
 同化を渇望する悪意を根源に持ち、敵を喰らい同化しようとする性質があった。
『邪魔ヲスルナ……ナゼ邪魔ヲスル。餌ヲヨコドリスル……!!?』
「……食べようっていうなら、食べられる覚悟もあるんだろう?」
 大百足は漆黒の水晶を警戒しつつもじりじりと近づき間合いを図っていた。無数の悪意がそれを喰らう時を今か今かと待ち受け、聖者は昏い笑みを浮かべていた。
「弱っている相手ならどこを喰らっても効果ありそうだね」
『呪ワレロ……!!』
 大百足はその長い体を大きく振った。生じた遠心力で礫のように飛散してくるのは――剣のように鋭い百足の脚。自ら切り離したようだ。それも漆黒の水晶が空中で迎撃し喰らってしまうが、いくらか動いた態勢の隙を見つけて大百足は強引に突撃した。
「う。呪詛、か……」
 掠っただけで伝染した呪いはサンディのユーベルコード――悪意から生じ喰らう水晶をかき消した。そうして長い巨体でのしかかり、足で地に縫い留め拘束を試みる。
『ドウダ……!? ワガ呪イヲウケ、苦シミ喰ワレルガイイ!!』
「全く辛くないって言ったら嘘だけど……」
 呪詛、激痛へも耐性を持ち、何より演じることに慣れた青年に動じた様子はなく。
「でも、お前も辛そうだね」
『ナゼダ!? ナゼ……』
「俺の魔力がそもそも呪詛みたいなものなのだからさ。耐性が備わってるんだ」
 そして、そんな風にユーベルコードを使えない状態のサンディを仕留めきれない大百足の状態は、言うまでもなく死に瀕していて。
「弱っている状態でいつまでそれを扱っていられるかな?」
 サンディの顔に嗜虐的な笑みが浮かぶ。その傍らに、再び出現したのは無数の漆黒。
『クソオオオオオ……!!!』
 刺々しい形をした565本の同化を渇望する悪意が、猟書家の全身に突き刺さりその身を余さず喰らい始めた。

「やっぱり、あまり美味しくはないね……」
「……せっしゃを100点とするなら?」
 ちょっと引きながらそんなことを聞いてくる珊瑚。
「食べ比べてみないと分からないよ?」
「ごめんなさいでござるぅ!!」

 こうして、猟書家の竜を喰らうグルメ展開は阻止され。
 大百足は猟兵が美味しく……もないけど頂きましたとさ。おしまい。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年10月01日


挿絵イラスト