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逆徒動乱勃発 重要施設内反乱分子制圧作戦

#クロムキャバリア #第一強国理念抗争 #NPC生還

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#クロムキャバリア
#第一強国理念抗争
#NPC生還


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●あおぞらを、取り戻す。
『と、言う訳で自由青空党の党首、スンゲ・トブゼの下に集いしダンテアリオンの戦士諸君よ、君たちこそ自由の戦士!
 共に我らの力で青空を取り戻そうではないか。そう、ダンテアリオンに革命を起こすのだ!』
 わー、わー。
 響く歓声を一身に受けて、ナルシズム溢れるポーズで空、もとい天井を見上げる一機のキャバリア。おそらく量産型キャバリアであっただろうそれは、補修改修を繰り返し、歪な一個の兵器へと進化していた。
 そんな彼への称賛も、なんかもうぶっ飛んでるものばかりだった。
「ひゅーっ、名前からしてトんでやがるぜぇ!」
「この人についていけば間違いなく俺たちの空が戻って来ると確信が持てるッ!」
「特に具体的な説明はないけどエネルギープラント中継施設を占拠した腕前は疑いようがねえぜ!」
 何ゆってんだこいつら。
 状況解説を行うモブその三より、スンゲが占拠したのはエネルギープラント中継施設のひとつ。
 エネルギー供給を賄うはちゃめちゃに重要な施設である。ダンテアリオンの生命線であり、故に強固な警備が行われていた。
 はずなのだが、それらを守る兵士たちがこのスンゲ・トブゼに感化されて寝返ってしまった、というお粗末な話なのだ。現在はこの超重要施設を一般開放し、民間人を施設の中に招き入れて演説の最中である。
 突っ込みが追いつかないほどいっぱいいっぱいの導火線に火が点いてますね。
『駆けつけて下さった一民間人諸君、君たちも気になるでしょう? そう、どうやって……【殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)】を破壊するのか、と……!』
「な、何ィ!?」
「この集団はアレを破壊するつもりなのか!」
『え、知らなかったの? なのに来たの? 自国民危機意識無さ過ぎでしょ……怖……』
 告知はしていた様子、でも国民のみなさんは気づいてなかったらしい。さすがのスンゲも引くが、国民のみなさまも心外であろう。
 しかし全く気にせずスンゲの名を復唱する大盛り上がり。
『……ま、いっか……』
 スンゲは用意した『ひみつへいき』と書かれたコンテナにそっと布を被せた。

 この事態、どうするつもりだ。
 白髪の老人だが背筋を伸ばし、猛禽類の如き鋭い眼光が歳を感じさせない。
 体格の良い素敵ミドルなナイスおっさんは、窓にかけられたブラインドをがしゃがしゃしながら外を覗き見たり見なかったり。
 素敵でもなんでもねぇ手持無沙汰なただの暇人ムーブだぜ!
「正面のキャバリアがリーダー機か。他は外で見張り、聞こえた声からすると『第一強国』がどうとか」
「むう。その第一なんたら言うのは貴殿の弟君の構想であろう。あやつらはその腹心か?」
 おじーちゃんの言葉に大男は気まずく顎を撫でる。弟、とは近頃ダンテアリオンが武力衝突を繰り返す小国家に捕虜として拘束されたイーデン・ランバーを指す。
 つまりは彼、ガストン・ランバー将軍はその兄なのだ。将軍だってよこの窓際族。
「賢弟の事をそれ以上に言ってはならん。吾輩の賢い弟とはいえ、人は必ずしもパーペキではないのだ」
「貴殿マジで兄バカよな。で、パーペキとは?」
「カッハハハ! 宰相であるそなたが知らぬとは! パーフェクトであり完璧、つまり略してパーペキと言うワケであァる!」
「何その頭痛が痛いみたいなの。若者言葉むつかしい」
 今正に死語を擦り込まされている可哀想な老人こそ宰相、ボアゴン・ド・キッセンである。
 国のお偉いツートップがこんなトコで何してんの?
「ええい、そんな事はどうでも良いのだ!
 ワシが聞いているのは『いきなり突撃・宰相と将軍が労いに来ちゃったよ大作戦!』なんぞに巻き込んで、挙句護衛もなくこの場に放り込まれた、これをどう打開するのかと聞いておる!」
 分かり易く訳の分からん状況説明をありがとうございます。
 青筋を浮かべて肩を上下し唾と一緒に入れ歯もフゴフゴしだすおじーちゃん。ぽっくり逝きそうだから止めてよね。
「そう怒るなキッセン宰相。アメちゃんがあるんだがどうする?」
「食べるぅー!」
 懐から取り出した包みに年甲斐もなく瞳を輝かせるキッセンおじーちゃん。このトップあって国民ありである。というかアメちゃんとか言うの危険な薬の隠語とかじゃないよね?
『そこまでだ、ランバー将軍。そしてキッセン宰相! 貴様らを断罪し、このダンテアリオンは更なる強国として世界へ羽ばたくのだーっ!』
 バイオセンサーでも搭載しているのか、壁一枚を綺麗に剥がしたスンゲが二人に迫る。
「ペロペロペロ! ひまっふぁ、見つはっはペロロ!」
「ペロペロペロリ! ううむ、仕方ない、アメちゃんを舐め終わるまで待っておれ!」
『よかろう。くっくっく……最後のアメちゃんを楽しむんだな……!』
 抵抗を諦めアメちゃんペロペロを優先するお偉いさんとそれを許容する革命家。
 このダンテアリオンに未来はあるのか。

●ライアン・フルスタンドは語る。
「今度は周辺国家の中でも強い力を持つ、ダンテアリオンでの事案だよ」
 お国騒動などに首を突っ込みたくはない。ましてやアメちゃんペロペロしてる国など以ての外。
 だがそこにオブリビオンの影あれば、動かざるを得ないのが猟兵なのだ。同情せざるを得ないっすわ。
「まあ各々、言いたい事はあると思うけど場所が場所だし時間が無いからね、手早く行くよ」
 ホワイトボードに記されたのはスンゲとその手下が占拠したエネルギープラント中継施設。
 施設外部にはスンゲに感化されたダンテアリオン兵士が反乱に気づいた他兵士と牽制し合う状況で、いつ戦闘が始まってもおかしくはない。
「と言ってもこの国は今、猟兵に対して否定的だ。まずは近くにある整備工場に自分の機体を隠したり、スンゲの部下とでも偽って機体を借りるのがいいだろうね」
 この国はあらゆる機体を鹵獲している為、様々な種類のマシンを徴発できるだろう。もっかい言うけど徴発ね。
 また、これまで戦った兵士たちが革命軍と戦っているはずだ。国家として猟兵と敵対しているものの、その命を救われた兵士たちが戦場にいれば、協力を取り付ける事が出来るかもしれない。
「敵戦力の主力は半戦車形態にも変形するマシン。重装甲な上に様々な武器を持っていて火力は勿論、継戦能力が高いから注意だね。
 地上での戦闘適性は高いはずだし、簡略化された変形機構は全高を下げるから回避にも使うはず。動きを止める、そして位置の変わらない足を狙うのがおすすめかな。
 対してリーダー機は改造が過ぎて、どんな手を持っているか全く分からない。すまないけど、各々で対処して欲しい」
 また施設内には多くの住民とついでにアメちゃんペロペロしているお偉いさんがいる。
 彼らをどうするのか、そこはまた猟兵次第という事になるが。
「重要施設内で敵との戦闘なんてさ、やってらんないよね。
 下手を打てば国家存亡の危機だし外に連れ出すのが得策だけど、まあ、よろしくね」
 しかし。
 敵の行動ははっきりとした自殺行為であり、彼らの手段が殲禍炎剣の前に有効でない事をライアンは予知している。
「派遣戦力にオブリビオンの絡んだ国が、今回は自国に牙を剥けられてる。やっぱり、オブリビオンマシンのせいで混乱してしまった国家って事なのかな」
 もしくは、彼らすらもただの。
 言葉を止めてライアンは猟兵たちに目を向けた。悩むは後、すべき事は迅速に。戦場での鉄則を己に当てはめて。


頭ちきん
 ぶん殴ってやった国家を更にぶん殴ろうぜ。頭ちきんです。
 敵を粉砕し国家を救うか滅ぼすかして下さい。
 お国騒動の内輪揉め? にオブリビオン退治、首謀者をとっちめましょう。現在この国は猟兵に敵対的ですが、兵士は命を救ってもらっているので微妙な立ち位置にいます。
 人的被害が出やすい為、周辺兵士を利用するのが得策です。
 それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 全章を通して量産型キャバリア、スーパーロボットをレンタル可能です。性能面、風貌に関して記述がない場合はこちらで選びます。また性能に関して簡略的な記号を使用できます。
『R:量産型キャバリア』『S:スーパーロボット』
『C:近接戦闘系』『O:遠距離攻撃系』
 SC、ROなどで表記下さい。スーパーロボットは音声入力方式になるので、必殺技を好きに叫びましょう。

 一章では反乱軍に占拠された施設を目前に、整備工場で突入の準備を行います。この時点で重要施設から人々を逃す為、周辺を警戒する兵士に接触するのもいいでしょう。
 国民は猟兵に悪感情を持っているので身分を隠すのが妥当ですが、それを利用して脅しても構いません。また兵士たちは猟兵に救われている者もいるので、あえて名乗り出るのも手となるでしょう。
 二章では重要施設前に展開する反乱軍、正規軍との戦闘に介入します。猟兵である事を明かせば正規軍からの協力を得られますが、味方を巻き込んだ攻撃をした場合には即時敵対されます。
 三章は重要施設内に残るオブリビオン単機の破壊です。ただ人的被害を考慮して正規軍は手を出せないため、国民の避難誘導などに活用しましょう。
 施設内での戦闘は国家に深刻な影響を及ぼします。またツートップもいらっしゃるので、国家の存亡は貴方の手の中にあります。
 が、発生する被害はシナリオの正否と無関係です。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 日常 『整備日和』

POW   :    各種武装の修理やメンテナンスを行う

SPD   :    アクチュエータやブースタ等、機体の動作に関わる部分の修理やメンテナンスを行う

WIZ   :    AIや火器管制システム等、機体の頭脳に相当する部分の修理やメンテナンスを行う

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●そして国家は戦場となるか。
 町中を駆ける軍人の列。
「出撃準備、急げ!」
「先に出ているのはアメちゃん小隊だ。この空色サイクロンと呼ばれたターバンを差し置いて、奴らに英雄面はさせん!」
 先頭を行く男はそんなん呼ばれてどうすんの、という二つ名を何故か誇らしく掲げて後ろに続く部下に発破をかける。
 彼と並ぶ女は不敵に笑い、当然の事だとターバンに同意した。
「我が栄光あるダンテアリオンに一差しの影もあってはならない。ターバンと夕焼けマントルのスージー、二人揃って人呼んで!」
『ヴァイオレット・メテオ・ストライカー!!』
 バシィイン、と効果音が出そうな勢いで声を揃えた二人の上官を見て部下は何を思うか。
(かっけぇ)
(……さすがあのアメちゃん小隊にも実力は負けてないとされるお二人……)
(朝飯食い逃したなー)
(一生、あの二人についていくぜ!)
 嘘だろユーたち。
 無理な掛け声により息を切らす二人へ、何の曇りも躊躇いもなく憧れの視線を向ける部下たちの姿。いや一人飯の事を考えてる人もいるわ。
 そういった事情はさておき、道の途中で合流した正規兵に部下たちと違って無様に肩で息をするお二人は敬礼、現地指揮を任される上官ストレイト・ヘアピンカーブ中佐の前に立つ。
 おめー真直ぐなのか捻じ曲がってるのかハッキリしろ。
「直れ。諸君、事態は極めて切迫している。奴らは『あおぞらを、取り戻す』をスローガンに殲禍炎剣の破壊を謳うテロリスト、自由青空党だ。
 首謀者はスンゲ・トブゼ、場所は見ての通り、この先にあるエネルギープラント中継施設だ」
「ヘアピンカーブ中佐、ぶっちゃけて言うと自分は一、ダンテアリオンの国民としてその言葉に賛成しております!
 何より最近の野党は――」
「修正ーッ!!」
「ごっは!」
 何やら危ない発言をしそうだった兵士の頬へ、ターバンの鉄拳が撃ち込まれた。ありがとうターバン。
 なしてぶったの、とばかりの兵卒にターバンは発言の許可を得てから愚言しろ、と叱りつけて危ない兵士を立たせてやる。
「貴様らの想いはもっともだ。だが自由青空党はただの逆徒であり、我らが国家運営に邁進する与党と野党のみなさま一切と関係しない事をここに宣言する次第である!」
 そうだそうだ! ぱっと思いついた名前に後から後悔してもしょうがないから開き直っただけで、別にお国に対して何だかんだ言おうなんて政治的メッセージは一切ないのだ!!
『サー、イェッサー!』
 ストレイトの言葉に敬礼を返すターバン、スージー以下。彼らの返答に満足げに頷き、まずはキャバリア操縦に秀でた者を集め、速やかに施設前の敵機撃滅を指示する。
 同時に施設内での戦闘を厳禁とし、国の財産である国民を決死の覚悟で救う事、それを当然と申し付けるストレイトは軍人の鑑と言えた。
 捻じ曲がってるとか言ってごめんね。
「ふが、はふ、と、所で、我らが将軍はこの状況を何と?」
「修正ぃー!!」
「あぁんもっと!」
 今度は反対の頬をスージーに殴り飛ばされて危ない兵士が女の子のようにへたり込む。男と違って女に殴られたのだ、もはや疑問に思う事もないだろう。
 ストレイトはこの速やかなる逆徒撃滅、並びに国民救助はガストン将軍の指示であると胸を張った。だけど、本当は行方知らずで彼自身が立案者である事を、聡明な猟兵のみなさんは察するだろう。
 彼より上の地位の者もいるが、現在は将軍と宰相の居場所を極秘裏に捜索、そして情報の漏洩を防ぐべく尽力している所だ。
「しかし貴様、そのおたふく風邪のような面ではキャバリアの操縦は無理だろう。他にも不要な兵士を算定し、ターバン、スージーの両名は彼らに付近の警戒を指示、残りを連れて戦場に向かえ」
『サー、イェッサー!』
 ストレイトのきびきびとした指示にこちらも即座の敬礼で返すヴァイオレット・メテオ・ストライカーのお二人。
 登場してから有能感しか醸し出していないストレイト中佐は正に頼れる現場の指揮官だ。
 おたふく風邪のようにほっぺの腫れ上がった兵士やその他の警戒要員を残し、彼らはエネルギープラント中継施設へと急ぐ。
「はぁー、忙しそうだねぃ」
 その様子をぼんやりと眺めていた整備工場の工員たち。国家存亡の危機に対してここまで意識が低いとスンゲが怖がるのも分かっちゃうよね。
 そんな整備工場に足を向けるのは、国家を滅ぼすかまたは存続させるのか、それらの意志を秘めた猟兵たちの姿であった。


・戦闘前の日常パートとなります。
・各々の兵器に整備工場にて細工したり、必要であれば量産型キャバリア、あるいはスーパーロボットを借りてみましょう。詳細はオープニングのコメントにあるのでご参照ください。
・工場を利用するには猟兵である事を隠す必要がありますが、別に脅しても構いません。脅す場合は猟兵である事を名乗った方が無駄な抵抗を受けないでしょう。
・付近を散策するダンテアリオンの正規兵たちは以前、猟兵と戦闘を行った経験があります。結果として彼らに命を救われているので、猟兵は敵ではなくあくまで第三勢力である事を理解しています。
・兵士を利用する場合は猟兵を名乗った方が話を通し易いでしょう。
・今章にて、敵影響下から国民たちを救うための何らかの下準備を行う事も可能です。
シル・ウィンディア
まさか、ダンテリさんの所で動くとはね。
今まで相手を救う為か

被害が出るなんて、そんなことさせるわけにはいかないよね。

一般人の人が多いなら、それを守る為に…

そういえば、ヴァイオレット・メテオ・ストライカーの二人もいるんだっけ?合えなくても、近い人に会えたら話は通じるかな?

あの二人の部下っぽい人…。
なんか、顔腫れているけど、大丈夫かなぁ…

「こんにちわ。わたしはシル。猟兵だよ」

名乗ってから、ここで争う意思がないことも伝えるよ

「わたしは、無謀なことをしようとしている人を止めたいだけ」
「そのために、一般の人が巻き込まれるなんてだめだから、その人達を、あなた達に守ってほしいの」

うるうる上目遣いで訴えよう。


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

よくわからないけど色々大変そーねー
まー、801時間討論しても結論が出なさそーな政治のお話はおじさん達にお任せして、アリスは国民さん達を助ける準備でもしておきますか
妹達を沢山呼んで【団体行動】で安全そーな場所からエネルギープラント中継施設直下まで【トンネル掘り】で補強を入れつつ地下通路を作っておくのー
人間は言うまでもなく車両やキャバリアも通れるくらいの大空洞よー
正規軍の兵士さんに手伝ってもらって国民の皆さんの救出路に使うのー
この国の人には心情的にあまり好かれていないよーだけど、国民の人達の救出の為と言ってお願いしましょー
車両は近くの工場から根こそぎ徴発したらいーかなー?


紅月・美亜
「キャバリアを借りる気は無い。自前のがあるからな」
 と、言ってASTERISKを指差す。まあ、今回コイツの出番はこれだけなんだが。スーパーロボットと言う事にしておこう。その類ではある。
 キャバリア乗りに偽装しないと猟兵だとバレバレだらかなぁ。
「整備も要らん。情報だけ寄越せ」
 と、言いつつ勝手にハッキングして抜き取るがな。猟兵をナメる意味を教えてやる。
「教えてやろう。殲禍炎剣が何を封じているかをな……」
 本命になる戦闘機の整備、主に殲禍炎剣対策を施しながら開戦を待つ。
 要するに、今はやる事が無くて暇だ。味方キャバリアにちょっとお手伝い(魔改造武器搭載)でもしようか。


黒木・摩那
ここが噂のダンテアリオンですか。
殲禍炎剣を破壊とか、すごいこと言ってますね。本当に手はあるんでしょうか……

まずは状況把握。ドローンでプラントを【情報収集】。施設の監視網に【ハッキング】して、敵の配置や人質の居場所を探します。場所が判明したら、UC【影の追跡者の召喚】を将軍に付けて、さらに深堀りします。

オブリビオン退治に当たり、取り囲む軍に筋を通しておきます。先に戦った二人組もいることですし、指揮官に顔をつないでもらいます。
猟兵です、いろいろ退治しに来ました、協力お願いします、な感じです。
手土産に近くで買った飴ちゃん詰め合わせ持参します。

素で突っ込むと猟兵ヘイトがさらに爆上がり。下準備大事です。


ノエル・カンナビス
エイストラはコンバットキャリアに格納中ですし、
キャリア自体はダンテリさんに知られていませんので、
整備工場近辺に駐車します。

キャリアの装備はエイストラの予備部品を括り付けたもの。
統合センサーもありますから、壁越しの受動探査で
ペロペロ中のお二人の位置でも探しましょう。
ちょっと遠いので時間掛かりそうです。

エイストラもキャリアも無線リンクで動かせますし、
ずっと乗っている必要もありません。
現地を見物もとい偵察に行きます。こそっと。
正直に傭兵を名乗ってもなかなか信じてもらえない身なりも
こういう時は便利です(服装一式オーダーメイドの高級品

ダンテリさんたちと話した覚えもありませんし、
接触は他の人に任せましょ。



●潜入任務開始、ただし忍ぶとは言ってない。
 実銃を装備し、物々しい雰囲気で通りを警戒する兵士たち。町中ではそんな様子に怯える国民たち、と思いきや楽し気に写真を撮ったりしてる。
 半端じゃねーやダンテアリオン国民。戦争国家なだけあって異常時に対する警戒心が低くなっているのかも知れない。
「まさか、ダンテリさんの所で動くとはね」
 そんな町並みを見渡して、肩程の青い髪を熱風に揺らす少女の名はシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)。
 ダンテアリオンにとって猟兵は敵と認識されているが、猟兵にとってもそれは同じで戦場を変えながら二度に渡り激突を繰り広げたのだ。
 そのどちらもダンテアリオンの侵略を防衛する為である事からも、彼らの気持ちを知るには易い。しかし。
(今まで敵として戦った相手を救う為、か。でもオブリビオンのせいで被害が出るなんて、そんなことさせるわけにはいかないよね)
 一般的な市民が多いのならば、それを守る為にと決意を新たに頷くシル。
(ここが噂のダンテアリオンですか)
 シルとは少し離れた通りで市民に紛れているのは熱気に曇った眼鏡のレンズを拭く黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。
 摩那が人々とともに見つめているのは壁にべたべたと貼り付けられた広告紙で、『あおぞらを、取り戻す』の文言と共に自由青空党による殲禍炎剣破壊が謳われていた。
「ふがーっ! ふがふがふが、もがーっ!」
「何だぁ!?」
「怪人おたふく男だー!」
「おかめさん男だーっ」
 突然現れた兵士により広告紙は引き裂かれて次々と回収されていく。彼の剣幕に人々は蜘蛛の子を散らすように逃げて行き、摩那はふむと小さく頷いた。
(殲禍炎剣を破壊とか、すごいこと言ってますね。……本当に手はあるんでしょうか……)
 この町より少し離れた場所に見えるエネルギープラント中継施設。取り囲んでいるであろう自由青空党の面々とダンテアリオン正規兵たちの姿を思い浮かべれば、僅かながら第一強国というワードも聞こえる。
「ギチチッ」
(よくわからないけど色々大変そーねー)
 そんな彼らを横目にぬばたまの瞳を陽光に反射させているのはアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)、無邪気な言葉とは裏腹に巨大甲殻虫の如き姿は獰猛で強靭な【鋏角】をぎちぎちと軋ませる凶悪な姿だ。
(こんにちはーっ)
(さようならーっ)
「ふっへぇ!? ふぁふぃ、ふぁふほははー」
 なんて?
 アリスの後ろに続くのは彼女と同じ姿をした妹たち。まるで幼稚園の引率のようだが、それに返す両頬を腫らした兵士も思わずその巨体に仰け反っている。
「ギギギッ、ガチガチ!」
(まー、八百一時間討論しても結論が出なさそーな政治のお話はおじさんたちにお任せして、アリスは国民さんたちを助ける準備でもしておきますかっ)
(はーいっ)
(肢が鳴るわー)
 四百十時間は元より八百十時間かけても無理そうだよね。
 彼女らが列を成してどたどたと進む中、捕食者の無数の目がきょときょとと町中の使えそうな物を探している。
(あ、こんにちはーっ)
「はい、こんにちは」
 走り行く妹の内の一匹とすれ違い、ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)は挨拶を返し彼女らの来た道の先を見る。そこにあるのは整備工場で、おそらくはグリモア猟兵の語っていた場所だろう。
(整備や改造、機体のレンタルにはここを利用しろとのことでしたが)
 ちらと振り返れば大型の装輪式戦闘車【コンバットキャリア】。キャバリア整備台を積んだ戦闘も可能なこの戦闘車に、彼女の扱う【エイストラ】は格納されている。
 要は彼女自身、整備工場を使う必要は無いと言う事だ。
(キャリア自体はダンテリさんに知られていませんし、整備工場の辺りに駐車しますか)
 目星をつけてコンバットキャバリアに乗り込むノエル。人通りと虫通りもある中をゆっくりと発進させると、同じく整備工場に向かう大いなる始祖の末裔、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットこと紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)の姿があった。
 車両を走らせるノエルとは違い、こちらは徒歩である。
「整備工場に向かうなら乗りますか? そこまで距離はありませんが」
「む、それならお願いしようか」
 美亜は青ざめた顔色に笑みを浮かべてコンバットキャバリアの助手席へと座る。内部の構造に関心があるようで辺りを見回す美亜へ、手ぶらな事もあり整備工場で機体を借りるのかと質問する。
 彼女と言えばそんな事は無いと不敵に笑い。
「キャバリアを借りる気は無い。自前のがあるからな」
 フロントガラスから前方を示せば彼女の指の先、整備工場の一画に巨大な人型機動兵器が出現した。【Operation;ASTERISK(オペレーションアスタリスク)】、それはユーベルコードにより召喚される無敵の巨人。
「宿命の剣で全てを斬り裂く、星の改竄者だ」
「いきなり出て来たので驚いてる人がいるみたいですけど」
 ふふん、と得意気な美亜に対し冷静なノエルの言葉の通り、急に出現した巨人の姿に驚く整備員と一般国民さんと工場を目指していたシル、そして摩那。
 流石にオブリビオン関連であれば一目で分かるだけにそういった物ではないと看破した二人は少し驚いただけだが、他の一般市民に過ぎない人々からすれば敵襲かはたまた最新機のデモンストレーションかと叫ぶばかりだ。
 プチ・パニックである。
「まあ、今回コイツの出番はこれだけなんだが。キャバリア乗りに偽装しないと猟兵だとバレバレだらかなぁ。
 スーパーロボットと言う事にしておこう、その類ではある」
「……それだけの為にパニックに……まあ、関係ありませんね」
 てんやわんやする人々などどこ吹く風、その間を抜けて整備工場の駐車場へとコンバットキャバリアを停車するノエル。
 一方、たまたま近くにいたシルと摩那は人々を落ち着けるのに専念している様子だ。
「ひえええっ、祟りじゃ、この国を造る為に山を削り土地を荒らし、その祟りが今、機械神となって現れたのじゃ!」
「そんな事はないと思うなー、落ち着いてお婆ちゃん」
「ええい、レレイをババァと申すな!」
「レディも言えてないのにレディ扱いは厳しいですって」
 レレイなんてレディとは呼べないのよさ。
 興奮さめやらぬお年寄りを宥める二人であるが、摩那としては何かと反応が和の島を思わせるダンテアリオンに何処となく親近感を覚えていた。
(案外、ダンテリのみなさんって東洋を祖としているんですかね? 見た目はアジア系でもないですけど)
 お婆ちゃんはとりあえず必殺の「まあまあまあまあ」で排除した摩那は各種センサーを搭載した索敵ドローン【マリオネット】を起動する。これは彼女の眼鏡であるスマートグラス【ガリレオ】と連携し、情報の伝達が可能だ。
 まずは状況把握という訳だ。
「そういえば、ヴァイオレット・メテオ・ストライカーの二人もいるんだっけ?」
 ふと疑問符を浮かべるシル。何を隠そうこの二人も、彼らと死闘を演じた一員だ。
 敵として戦場で相対した壊滅的センスな二つ名を誇る彼らも、こちらの事を覚えているだろう。
「会えなくても、近い人に会えたら話は通じるかな?」
「……近い人と言うと……例のほっぺた殴られてた兵士ですかね」
 非常に分かり易い外観に変化している事など知りもしない二人は、顔を覚えているかなと無用な心配をしつつマリオネットを空へと飛ばしたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

支倉・錫華
情報収集、と思って来てみたけど……この国情報、いるかな……?

ま、とりあえずはキャバリア乗りの傭兵として参加しておこうかな。
本職だしね。

キャバリアは貸してもらえるみたいだし、借りておこう。
できれば、軽装でスピード型の機体があるといいんだけど……。

えっと、燃料とか弾薬、整備はさせてもらっていいんだよね?

工場で準備をしながら、正規兵の人がいたら接触。
猟兵を知っていそうなら、こっそり身分を明かして協力をお願いしようかな。

あぶないのが出てくると思うんだ、そのときはわたしたちが相手するから、
逃げる手はず、整えておいてもらえると嬉しいな。

アメとか用意しておけば、ツートップを一本釣りとかできるのかな……?


赤城・晶
■連携、アドリブ歓迎

■繋ぎと情報収集
工場の人や兵士には隠さずに猟兵を名乗るか、暗いものは持ってないしな。利用できるものは利用するさ。

もしかしたら、前の依頼で会ったことある兵士がいるかもな。
兵士には『今回もオブリビオン関係で戦闘に介入する。おもうところはあるかもしれんが、共闘、最悪でも不戦の約束をしたい』と繋ぎをとっておく。
分かるなら主要要人の二人の状況と場所が分かれば聞く。

後は共闘予定兵士達の認識信号があれば聞いておくか。
もう一つ、兵士に『手の空いてる奴は避難誘導してくれ』
と言う。

仲間にも一応兵士には攻撃を当てないように注意喚起しておく。

UCは念の為にウィリアムが計算できるように使用しておく。


御園・桜花
「普段飛行する私が行くと、他の方が借りにくくなるかもしれません。今回は、借りないことにします」

「こんにちは、お久しぶりです」
見かけたダンテアリオン兵士に手を振る

時短と材料節約でUC「花見御膳」
状態異常:精神に効果のあるポトフ作成
兵士に配布しながら情報収集&他者が機体を借りやすくなるようお手伝い

「私達は、オブリビオンマシンと戦う方の味方ですから。今回は此方の国を支援するのです」
「此れは私個人の考えですけれど。殲禍炎剣はオブリビオンマシン、いえ此の世界のフォーミュラかもしれないと思うのです。彼等だけでは戦力不足、此の国が滅亡する可能性を見過ごせません」
「集まった方々には、穏便に解散してほしいです」


チェスカー・アーマライト
否定的だろうが気にはしねー
あたしは仕事をするだけさ
とは言え、面倒事は避けた方が無難か
……アメちゃんで誤魔化せねーかな
猟兵の身分は隠さず
非常食の飴玉を袖の下する
通用しなかったら普通に脅すぜ
OK OK アイム フレンドリー
今回は友軍だ
だから物資と機材貸してくれ、な?

戦闘に備え
パジョンカで撃つ榴散弾やら
戦車砲で使うAPFSDS弾(装甲貫通に特化した砲弾)やらを準備

予知によれば
相手はビッグタイガーと似たようなコンセプトの機体っぽいな
もしそうなら対策し易いが
逆にこっちも対策されちまう可能性ありだ
念のため、そこらの兵士か工員に
敵機の特徴なり武装の詳細なり聞き込んどく
できればリーダー機の情報も掴みたいが……


木霊・ウタ
心情
今度は内乱か
Oマシンが絡んでいるなら介入するぜ

行動
整備工場へ
マシンを借りるぜ
スンゲの命令ってことで
SO

操縦席とか見せてもらいながら
影の追跡者を放ち
住民とアメちゃんトップの居場所を探る

施設を見つけたら
兵士の配置や巡回の頻度等
警備体制を確認

隙間から影を侵入させ
内部状況を確認する
怪我人の有無とか

序に配線に潜らせてアラームを切っておく

戦い前に脱出させてやりたいけど…
チャンスがありそうなら工場を離れて俺と影でやるぜ

脱出させた場合
人数が多いと多分見つかるだろう
そんときゃ猟兵を名乗り
協力してくれる兵士を見つける

すぐの脱出にリスクが高そうなら
戦闘開始まで待つ

どちらにせよ頼りにさせてもらうぜ
相棒>SO



●餌付け作戦準備開始!
 今回の事件とはまた別口で騒がしくなり始めたダンテアリオン国家において、支倉・錫華(Gambenero・f29951)は「うむむ」と唸る。
 彼女は歴史ある街を治めてきた戦士の一族、その次女に当たり、領主の影として生きていた。現在はその町からも出奔しているものの、習い覚えた技を駆使してフリーの騎士兼諜報員となり各地を巡っている。
 そんな彼女の脳裏に閃く一筋の疑問。
(情報収集、と思って来てみたけど……この国情報、いるかな……?)
 少なくとも戦争相手の情報とか色々知りたいだろうし、相手国にもこの惨状を教えてあげたりとか価値あるものとなるのは確かだ。
 でもアメちゃんペロペロしている脳筋国家と関わり合いになりたくない国が多いだろうし、その情報を得ようと思うかどうかは疑問である。ダンテアリオン自体もこの状況なので、情報を買う余裕もないだろう。
(ま、とりあえずはキャバリア乗りの傭兵として参加しておこうかな)
 本職だしね、と一先ず諜報員としての側面は置き、例のグリモア猟兵が示した整備工場へ向かう。せっかく貸して貰えるのならば借りておこうと言う訳だ。
 身分を隠す訳でもないなら演技と呼ぶものですらなく、自然とダンテリのアホども、もとい平和ボケした国民たちに取り入る事が出来るだろう。
「ギッチギッチ!」
(さー、今日も美味しいご飯のために頑張るのよー!)
(はーいっ)
 安全ヘルメットを被ったアリスたちが群れを成して道路を進む。車ではないが二メートルを超える巨体に錫華は立ち止まり、機械や工具を担いだ不思議な虫、あるいは怪獣の群れを見送った。
「今度は内乱か。でもまあ、オブリビオンマシンが絡んでいるなら介入するぜ」
 今までの武力介入では敵対者であったが、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は錫華の隣で拳を握る。
「ウタさんも整備工場へ?」
「ああ、スンゲの命令って事でマシンを借りるぜ」
 そのまま整備工場を媒介にユーベルコードを使用、ダンテアリオンのツートップについても探索するつもりだと。
 錫華としてもするべき事は一緒であるが、まずは道具が必要かと腕を組む。
「……アメとか用意しておけば、ツートップを一本釣りとかできるのかな……?」
「これまでの戦った感じからすると、それで大丈夫だと思う。まずは近くを探してみるさ」
 アメちゃん。
 二人の話を聞いていたチェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)も、手としてはそれが妥当かと取り出したシガレットケースから野菜スティックを口にくわえた。
「国民が否定的だろうが気にはしねー、あたしは仕事をするだけさ」
「同感だ」
 チェスカーの言葉に同意を見せたのは赤城・晶(無名のキャバリア傭兵・f32259)である。彼もまた、以前ダンテアリオンと戦った一人であり、この国家が猟兵に対して良く思っていない事は理解しているが。
「後ろ暗いものを持ってる訳でもないし、工場の人や兵士には隠さずに猟兵を名乗るか」
「うぅむ。とは言え、面倒事は避けた方が無難か」
 そこでチェスカーがごそごそと取り出したのは、非常食として彼女が所持していたアメちゃんの入った紙袋である。錫華とウタの言葉を参考にした代物だ。
「アメちゃんで誤魔化せねーかな」
「ウタも言っていたが前の感じだと、十分に効果はあるだろ。
 それにもしかしたら、前の依頼で会ったことある兵士がいるかもな」
 グリモア猟兵の言葉を思い起こす。激戦を繰り広げたダンテアリオンのエースパイロット、それに従う兵士と小国家アサガシアへ侵攻した面々がこの付近を警備していると考えても良さそうだ。
 頭上を飛び回るドローン・マリオネットに、続々と集まる猟兵たちが情報収集を始めている事に気づく晶。
「ここで四の五の言っても始まらない。整備工場へ行くとするか」
「ああ。ついでにアメちゃんも分けておくかな。アンタもいるかい?」
「ありがたくいただくぜ。利用できるものは利用するさ」
 小さな包みに移したアメちゃんを受け取って後生大事に胸ポケットにしまう晶。チェスカーは紙袋を比喩でなく袖の下に隠しつつ、前を行く錫華、ウタの後を追った。
 そんな彼らの姿を行進するアリスらの群れの隙間より覗くのは御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。
「普段飛行して姿を見せている私が行くと、他の方が借りにくくなるかもしれませんね」
 今回は借りない事にしようと桜花は呟く。
 確かに彼らとの戦闘、後半はキャバリアを降りて生身で戦闘を行っていた為、彼女を覚えている兵士に会えばすぐに正体が知られてしまうだろう。
「こちらの立場も真心込めて伝えればわかって下さるでしょうし、まずは手土産となるものを準備しましょうか」
 良し、と振り向く桜花の瞳には、【ケータリング用キャンピングカー】が駐車されていた。もちろん駐車禁止な道端ではなく、無料駐車場にあるためド派手なピンク色でも周囲を警戒する兵士たちは気にも留めていない。
 ここでテロ起こしたら絶対に成功するね。いやもうテロされてるんだったわ。
 桜花は美味しいポトフを兵士たちに贈ろうと、袖を捲り気合を入れて車の中へと入っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「私は滅びても構いませんが、実際に滅びれば不都合が大きい。難民が量産されれば、周辺国家の治安も悪化するでしょう?」

ターバンやスージーを見かけたら、功夫と仙術で仙丹を指弾
2人の口の中に仙丹を放り込む
他にも見かけたことがある兵士を見つけたら口内へ仙丹を指弾

軽く帽子持ち上げ挨拶
「大したことじゃありません。ダンテアリオンが殲禍炎剣に滅亡させられる瀬戸際だと聞いて、救助に来たのですよ」

「私にキャバリアが不要なのは、戦ったことがある貴方達ならご存じでしょうに」
「役に立ちますよ、私は。仙丹も持っていますし」
笑う

「例えば…これで一般人を眠らせ貴方達が彼等を運搬するのはどうです」
見本代わりにターバン眠らせる


レイ・オブライト
※マグネ系列

さて、活気があって結構じゃあねえか
本物の空。骨を折るに十分な夢物語だ
叶うさ。いずれな

生身でやり合いもしたんだ。戦場にいた奴らには顔が割れてると考え
オレを見て反応した兵士へ猟兵として接触
母国を救えるかは、あんたが今協力するかにかかっている
これは気高き愛国心を見込んだ『お誘い』だ。好きに選びな(覇気そよそよ)
話が決まれば片隅に相棒を休ませてもらおう
民衆の避難先も考えといてくれ

工場
立場明かさず兵士に口利きさせ利用
マシンを見て回る
オレは銃の狙いが雑なんで自立式の念動制御砲や誘導弾系が良いかもな
ついでに広域電磁バリア…は、ゴッドハンドの仕事分で十分か
後で『借りられそう』なブツに目をつけておく


シャナミア・サニー
いや、前置き長すぎるでしょ予知
っていうか何で漫才してんの
え、あれマジ?
まぁいいや
私は私で戦闘に備えよう
やることはレッド・ドラグナーのメンテだ

猟兵であることは隠しておこうか
旅人みたい……って私は元々旅人だけどさ
そんな体で整備工場使わせてもらうよ

市街戦になりそうだ
全体的なバランサーを調整しつつ
近接戦を視野にチューニングしよう
シールド間に合うかー?
まぁ無ければ無いでなんとかなるか

さて、と
時間が空いたら工場の人に話を聞いてみようか
「ここ、戦闘に巻き込まれたらどうすんの?」
とか
「ここに殲禍炎剣墜ちてきたらどうする?」
とか
今後どう動くかの参考にさせてもらうよ
巻き込むつもりはないけどさ



●ロボット、貸すよ!
 今回の騒動を見るに、本当に国家のお家騒動的なものかと問われれば、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)も疑問を呈する所だ。もっともそれはグリモア猟兵と同じ疑問ではないようだが。
 国家存亡の危機を預けられた身ではあるものの、戦ったとはいえダンテアリオンに対してそう思い入れがある訳ではない。
「私は滅びても構いませんが、実際に滅びれば不都合が大きい。難民が量産されれば、周辺国家の治安も悪化するでしょう?」
「そうだな。戦災は事が終わってやって来るものもある」
 冬季に答えて近くの家屋に背を預けていたレイ・オブライト(steel・f25854)は被っていた帽子を取る。
 おや、わざわざ目立つのですか。面白げに笑う冬季に対し、まあなと素っ気なく答えるのは、生身を晒しやり合った経験もあるダンテアリオン兵士に顔が割れていると考えた故だろう。
「私も顔を合わせていますからね。兵士の方から当たってみるとしますよ」
 冬季の言葉に頷いて二人は分かれた。整備工場に向かうのではなく、周辺を警戒する兵士たちへ。道すがらの騒がしさは騒動への反応と言うよりはこのダンテアリオンの国自体の雰囲気と呼ぶべきか。
 何より遠方からの空を勝ち取る事を叫ぶ自由青空党の党員たちの叫びが、この町の賑わいを増やしているようだ。
(さて、活気があって結構じゃあねえか)
 危機感がない事は色々と察するべきものがあるものの、平和を謳歌する自由を責められるべきではない。いやでもやっぱ時と場合によるかな?
「本物の空。骨を折るに十分な夢物語だ。
 叶うさ。いずれな」
 ただし、それは今ではない。
 嘯くレイに気づいたのか、警戒する兵士の一人が何気なく見たこちらの顔に驚いた表情を浮かべた。レイの事を知っているのだろうか。
 早速の目標発見に、彼は唇の端を笑みに歪めて男へと歩み寄った。

 お昼休憩に入ったのか、静かな工場内でシャナミア・サニー(キャバリア工房の跡取り娘・f05676)は施設内の設備を見て回っていた。訳あってキャバリア工房の跡取り娘に認定された彼女としては気になるものもあるのだろう。
 しかしそれよりも気になる事が。
(いや、前置き長すぎるでしょ予知)
 日本刀どころか剃刀の如き切れ味抜群の一言。
 本題に行くまでの話題が妙にまどろっこしくてややっこしくて、導入を複雑にしたがるかっこつけしいっているよね。そういうの総じて独り善がりな文章と言う。導入をややこしくしたクセに特に使える情報をよこさないグリモア猟兵は反省しろ!
「っていうか何であいつら漫才してんの。え、あれマジ?
 …………、まぁいいや」
 私は私で戦闘に備えよう、とシャナミアはアメちゃんツートップやらスンゲやら正規軍やらの奇行を投げ捨てて、自らの赤き竜騎兵、【レッド・ドラグナー】のメンテナンスを行う。適応力が非常に高い機体構成であるが、同時に長所と呼べるものがそれだけで器用貧乏を突き詰めた機体と言われる試作機だ。
 それだけに現地の状況下で戦闘前にメンテナンスを行える事は重要だろう。
「んん? どちらさんだい。お昼休みだってぇのに、何だかやたらとお客さんが来ているようだが」
 奥の部屋から顔を覗かせた整備員の一人にシャナミアが軽く頭を下げると頭部から覗く黒い角がてらりと輝く。
「この辺では見ないが、旅人かい?」
(……旅人みたい……って私は元々旅人だけどさ)
 グリモア猟兵の言葉もある。身分は隠しておこうかとシャナミアは整備員の言葉を肯定する。
 休憩中の彼らを無理やり働かせるのも人道に反するというもの。
「そっか、あんたもあの騒ぎを止めるように軍に呼ばれたんだな。でも、今は生憎と休憩時間だからなぁ」
「私もキャバリア工房の関係者だから、空いてるスペースを教えて貰えればそこでやっておくよ?」
「……うーん、あっちこっち勝手されるのも……いや、これもお国の一大事。あっちのスペースがまとめて空いてるから好きに使ってくれ。
 すまないが頼むぜ」
 助かったとばかりに手を振って、休憩室と思われる部屋へと進む男を見送る。
 続いて視線を送るのは彼に示された空きスペースだ。キャバリアを複数設置できる空きがあり、猟兵たちの持ち込んだ機体をまとめて整備する事もできるだろう。
「戦場について考えなきゃいけないね。市街戦にもなりそうだ」
 エネルギープラント中継施設は町から離れているものの、十分戦禍に巻き込まれる距離ではある。テロリストである彼らとの戦闘、場合によっては敵も市街地戦を展開すると想定のは当然だ。
 整備工場の外に配置していたレッド・ドラグナーに乗り込むと、開け放しになっているゲートからそのまま歩かせてスペースに向かう道すがら、背面推進器【EPドラグナー・ウイング】の反応や噴射口の動作を確認する。
(全体的なバランサーを調整しつつ、近接戦を視野にチューニングしよう。
 シールド間に合うかー?)
「……まぁ……無ければ無いでなんとかなるか」
 搭乗席からするりと降りて、工場内の整備用アームをレッド・ドラグナーへと伸ばす。
 一方ですでに並ぶマシンを見上げるのはウタと錫華である。工場内に配置されたレンタル可能となったマシンたちから、自分が乗る機体の確認をしているのだ。
「できれば軽装で、……スピード型の機体があるといいんだけど……」
「俺はスーパーロボットかな。射撃に強い機体がいいぜ」
 並ぶ機体は多岐に渡り、前情報通りに統一された品揃えではない。それだけに彼らの要望に応える機体もあるだろう。
 選ぶ内に早めの休憩を終えたのか、整備員の一人と思われる橙色のつなぎを着た女性が姿を見せた。
「どちらさんだい?」
「わたしたちは、えっと」
 錫華からの視線を受けて、ウタは声を潜め自由青空党のスンゲから依頼を受けた傭兵であると答えた。
 立場上は正規兵と対立する形になる為、彼らには黙っていて欲しいという事だ。
「なるほど、状況はわかったよ。それで戦いに参加する為の機体を借りたい、という訳だね」
 テロリスト一味に機体貸すとか物分かり良すぎじゃない?
 危機意識の低さとか以前にこのダンテアリオンに対する国民の不信感が高いのではないかと思える状況だが、それはこの国家の身から出た錆なので猟兵が関知する事ではないのだ。内乱とかは勝手にやっといてください。
 二人の探す機体の特徴を聞いて、女はお勧めの代物へと案内する。
「スピード型ならこいつはどうだい? 『yuckyX-OVER BROMKEY』、その読みからヤキソバと呼ばれている!」
「えっ、ダサい」
「えっ?」
 錫華の忌憚なき感想に女は咳払いをすると、ブロムキィと改めて名前を言い直した。
 ブロムキィは細身でシャープな体格となっており、装甲による凹凸も少なく人間的な外観をしている。特に装備は追加されていないようだが、その体躯から推察できるように運動能力が高く地上戦での回避行動、機動戦共に高い適性を持つとの事。
「格闘装備や射撃装備、どちらも人に近い動きの出来るブロムキィなら対応し易いだろうし、使いたい方を選んで持って行っていいぞ!」
「ありがとうございます」
「で、お次はこちらの御仁に」
 移送用アームでブロムキィを別の場所に移動させ、その奥の機体を左右に分けて更に奥。
 壁際に佇む鎧武者の如き分厚い装甲に身を包んだスーパーロボットが姿を見せた。背面に翼とも外套とも言える装甲版を二枚担いでおり、この装甲の下には誘導弾や機関砲など様々な実弾兵器が搭載されているのだと言う。
「単体で張る弾幕は艦隊射撃にも負けてない! 気持ちは!」
「イマイチ頼りないなぁ」
 まあ、そう言うな。
 ウタの言葉にウインクして見せると、この『ガザンライタイガ』、通称ガタイの本領はその背負った装甲版にあると言う。
 二枚組み合わせる事で六角形の砲身となり、胴体に連結させる事で上半身そのものを砲台と化す射撃形態に移行、強力な粒子砲として機能する。
「へえ、そいつは中々良さそうだな。ガタイはダサいからザンライガって呼ぶぜ」
「えっ?」
 通称が改名されザンライガとなったガザンライタイガに女はショックを受けたようだが、ダサいんだからしゃーないよね。
 二人が機体選びを終える頃には休憩を終えた他の整備員も姿を見せ始めており、工場内にも機械による騒々しい音が広がり始めていた。
 チェスカーと晶も工場内に姿を見せており、シャナミアのレッド・ドラグナーの整備を行っている場所に戦車形態の【ビッグタイガー】や【ヴェルデフッド】が格納されている。
「どんどん客人が増えて行くな! あんたらもあの青空党とか言うののお仲間かい?」
「……いや……、猟兵さ」
「ああ、自由青空党とかとは関係ないな」
 声を潜める男の言葉に思わず顔を見合わせる。めっちゃ話広まってるじゃん。
 チェスカーはとりあえず否定し、猟兵である事を名乗ると晶もそれに追随する。その言葉に思いっきり顔を顰めた男。やはり猟兵は受け入れられていないようだ。
 だからこそ。
「まあまあ、ちょっとこいつを見てくれ」
「……これは……?」
「アメちゃんだ」
「!? お、おいおいおいおい、声が大きいぞっ」
 やはり比喩でなく袖の下にしていたアメちゃんの紙袋に狼狽える男。アメちゃんってやっぱヤバい奴の隠語だったりする?
 他の整備員たちの視線を気にしながら工場の隅へと二人を導き、例の紙袋を受け取る。がさりと袋を開いてアメちゃんをひとつ取り出した。
 工場の照明に透かして見るが、保存食としているだけあって熱対策に粉末で保護されており、透けた姿を見る事は出来ない。
「…………、なるほど、魚粉か。いや知らんけど、とにかく保存食用の製法がされているな。砂糖を塗しては熱に弱くなるし菌に対しても問題だ。
 粉を塗す事で熱に強く、他のアメちゃんとくっつき合う事がないように工夫されているな。汚れた手で触れても付着しづらく、衛生面においても良好と見ていいだろう」
 アメちゃん好きによる本気解説。
 いや知らんけど、で終わるような言葉をつらつらと連ねる男に、もういっすかとばかりにチェスカーが言葉を挟む。
「オーケイオーケイ、アイム・フレンドリー。今回は友軍だ。
 だから物資と機材貸してくれ、な?」
「良いだろう、存分に使ってくれ。弾丸類は外のコンテナだ、種類ごとにネームプレートがついてるからすぐにわかるぞ」
 男の言葉にチェスカーはビッグタイガーの副砲である【パジョンカ】で使用する榴散弾やら、主砲で使用する装甲貫通に特化した装弾筒付翼安定徹甲弾ことAPFSDS弾の準備を始める。
 晶はヴェルデフッドの操縦席を開くと機体を起動、サポートAI【ウィリアム】を立ち上げた。
「ウィリアム、情報を集めてくる。お前は念の為に位置検索や座標計算の準備をしていてくれ」
『オーケイ、マスター』
 ウィリアムとの通信回線を開いて操縦席から飛び降りると、チェスカーは用無しとなったフォークリフトから顔を覗かせ、工場を後にする晶に補充や整備はやっておくかと声をかけた。
「ああ、頼めるか」
(どいてどいてー、危ないわよー)
「おおう」
 チェスカーの言葉に応えた晶の前を、弾薬の詰まった木箱を頭に乗せたアリス妹がてこてこ歩いて行く。彼女のフォークリフトが用無しとなった理由だろう。
 更にその後ろにはアスタリスクを運搬する他アリス妹と、その先頭の背に座る美亜の姿があった。
「ペロペロ、なんだ、お前も猟兵か? ペペロペロ」
「違う、私はただのキャバリア乗りにして大いなる始祖の末裔、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだ。
 いや貴様、人が話している時にアメちゃんを追加ペロペロするんじゃない!」
 ペロペロしてる間に名乗りをしたなら仕方ないが、名乗ってる途中でペロペロ追加するのは駄目だよね。流石の失礼マナーに怒りを見せる美亜に、男は謝罪しつつもうひとつアメちゃんを口の中に追加して紙袋をしまう。
 いーかげんにせーよ。
「それにしても……やたらと力持ちなお嬢さんたちに運ばれているが……整備が必要なら場所を空けようか。
 あそこにいる奴らはいけ好かない猟兵どもだ、客人の言葉とあればす~ぐに退かしてやるぞ!」
「……何……? ふん、整備も要らん。情報だけ寄越せ」
 賄賂を受け取ったにも関わらずこの言い様。美亜は不快気に眉を潜めたが、すべきは情報の収集と自由青空党の目的や敵機の特性、更にはアメちゃんペロペロツートップについて、行方を知るかそれとなく確認してみるが。
「お偉いさんならダンテアリオンの中央に位置する首都モンゴリアンにいるはずだ。自由青空党の機体については、蛮国アサガシアの輸送列車に乗っていた機体を奪取した物、と聞いてはいるが。
 奴らの目的というのも殲禍炎剣の破壊と話は聞いているな」
「なるほど」
 したり顔で頷きつつも、やはり有効と思える情報はないようだ。首都モンゴリアンにいる、というのも常駐しているのがその場所だというだけで、今現在行方不明になっている事を知らないのだろう。
 とは言え美亜自身、彼から有効な情報が引き出せると思ってはいない。このような会話をしている間にも周囲に走らせた視線、全方位レーダー管制システム【N.D.A.L.C.S.】により整備工場内のパソコンの位置を確認している。
 ここへ対象を問わずハッキングする事が可能な【アンカー付き光学式チェーン】を使用すれば、男の知らない情報も多く入手出来るだろう。この男自身の情報を抜き取る事も出来るが、まあ一般市民がアメちゃんをペロペロしているだけだ。特に意味は無い。
「大体わかった。後はこっちでやるから下がっていいぞ」
「なんか偉く高貴というか尊大な口調だな……ま、まあ……何かあれば俺やその辺にいる整備員に聞いてみてくれ」
 では。
 ペロペロ男を後にさせ、美亜は輝く瞳を目的のパソコンへ向けた。
「教えてやろう。……殲禍炎剣が何を封じているかをな……」

●ダンテアリオン正規軍との共闘。
 ふあーあ、と欠伸がひとつ、ふたつと町並みを転がる。
 町を警戒する正規兵たちも自由青空党の広告紙を剥がしたり、とりあえず反逆的な事を井戸端会議で盛り上がる逆賊ライクなおばさま方を散らしたりする程度でお暇な様子。
 お前らもっと危機感持てよ。
「こんにちは、お久し振りです」
「あ、はいお久し振り。いや誰――、あ」
 とりあえずと欠伸を噛み殺す兵士の一人に声をかけたのはミトンで大きな鍋を掴む桜花である。底を片手で支え、周りの兵士たちの注意も自分に向けるように手を振る彼女はユーベルコード、【花見御膳】で精神を落ち着け友好的に作用する効果を持つポトフを持ち寄る。
「お、お前はまさかっ!」
「猟兵か!」
 アサガシアの施設に拘束されていた兵士たちがいたのだろう、以前の戦闘で飛び回る桜花の映像を見ていた彼らは恐れを為したように携帯していた武器を握る。
 しかし桜花を笑みをそのまま、出来るだけ優しい口調で彼らに語り掛ける。
「私たちは、オブリビオンマシンと戦う方の味方ですから。今回はこちらの国を支援するのです」
「……オブリビオンマシンを……」
「…………」
 顔を見合わせる兵士たち。彼らも無駄な殺生をされた訳でもなく、肌でオブリビオンマシンの力を感じた彼らは猟兵の言葉の意味を知っているのだ。
 動きを止めた隙にポトフをちゃちゃちゃと更に盛り付け、兵士たちに配布していく桜花。
「むむっ、これはアメちゃんに勝るとも劣らない安らぎを感じる野菜の旨味のとろけたスープ!」
「ほっと一息つけるようなホクホク野菜!」
「とりあえず朝飯食えなかったから嬉しい!」
 桜花の絶品ポトフに舌鼓を打つ兵士たち。
「これは私個人の考えですけれど。殲禍炎剣はオブリビオンマシン、いえこの世界のフォーミュラかもしれないと思うのです」
「な、何だってーッ!?」
「フォーミュラって何だ?」
「オブリビオンマシンのスゲーヤツだよ!」
 認識的には間違ってない。
 そのような存在を自由青空党は相手にしようと言うのだから、戦力不足なのは目に見えているというもの。
「その様な状態で攻撃を仕掛けてはこの国が滅亡する可能性もありますし、猟兵として見過ごせません。今は整備工場に私たちの仲間が集まっているので、皆さんの作戦行動が成功するよう支援して頂きたいのです」
「…………、分かった」
「いいのか、本国は猟兵を敵として扱っているんだぞ」
「敵である事に変わりはないが、今は敵を同じくしているというだけだ。それに、朝飯を食い逃した俺にご飯を持ってきてくれたのは信頼に値する」
「何ゆってんだお前マジで」
 マジで何ゆってんだお前。
 よく分からない信頼を見せた兵士の一人であるが、まあそういう方向で話をまとめるかと彼らは頷く。どうやら話はついたようだ。
「施設に集まった方々には、穏便に解散して貰えるようご協力お願いしたいです」
「国民を守るのが我らの使命だ、それは約束しよう」
 桜花の言葉に力強く頷き、友愛を示して右手を差し出す兵士の一人に、桜花も笑顔でそれに答えた。
 彼女らとは別の通りにて、頬の腫れも冷やして少しは引いたか、それでも未だにハムスターのように膨らんだ顔をこさえた兵士へ近づくのはシルと摩那である。
 マリオネットの映像から両頬を腫らした兵士を確認し、まああの二人に殴られてたのってこいつっきゃないよねという事で接触したのだ。
(なんか顔が腫れてるけど、大丈夫かなぁ)
 兵士の現状を気遣いつつ、シルは最初の一言を兵士へ投げる。
「こんにちわ。わたしはシル。猟兵だよ」
「黒木・摩那、私も猟兵です。いろいろ退治しに来ましたので、協力お願いします」
「な、ななな何ィ!? ちょっと待っていきなり何!?」
 シル、摩那両名の言葉に驚きの声を上げるおたふく兵士。どうやら普通に喋れる程度に腫れは引いたようだ。
 急な言葉もあって混乱しているようだが、シルは「争いに来た訳じゃないよ」と彼を落ち着かせるべく笑みを見せた。それを見たおたふく兵士も取り乱す事無く、携帯している武器を構える素振りもない。やっぱり笑顔が大事ね。
 ここで摩那はマリオネットで得た情報から付近の商店で購入した物資こと、忍ばせたアメちゃんを下準備に持参している。
(素で突っ込むと猟兵ヘイトがさらに爆上がり。下準備が大事です)
 心中でほくそ笑む摩那。やっぱり賄賂も大事ね。
 アメちゃんのぎっしり詰まった紙袋をおたふく兵士に押し付けつつ、ひっそりと声を潜ませる。
「近くの商店で買いたたいたアメちゃんです。これで私たちに敵意がない事が分かるかと」
「おおお、おいおいおいおいおい! こんな往来でっ、…………!
 あっちだ、ついて来い!」
 大慌てのおたふく兵士。やっぱアメちゃんって賄賂の隠語と違うのか。
 一先ず人目につかない場所と整備工場の駐車場に向かうおたふく兵士と、それに続く少女二人。『只今工事中』と書かれた看板とカラーコーンを抜けて駐車場に入れば、工事の音がうるさく鳴り響くそこで兵士は二人へと向き直る。
「な、なるほど。確かにこいつは……上物……!」
「こっちにもあるけど、要り様か?」
「うへぇっへ!」
 急な言葉に飛び跳ねる兵士の視線の先には、チェスカーから分けてもらったアメちゃん入り紙袋を掲げる晶の姿があった。
 騒音もさる事ながら、アメちゃんを二袋も手に入れてほくほく顔の彼が落ち着いた所で、猟兵三人による正規兵との談合が開始された。
「俺たちが求めているのは単純だ、今回もオブリビオン関係で戦闘に介入する。思う所はあるかもしれんが、共闘、最悪でも不戦の約束をしたい」
「そうです、オブリビオンマシン退治に当たり、取り囲むダンテアリオン軍にも筋を通して貰いたいんです。特に貴方の上司であるターバン大尉、スージー大尉は現場で指揮も執るかも知れませんし、こちらにも繋いで貰えれば」
「……なるほど……敵の敵は味方、と言う訳か。しかしだな、我々は表向き、猟兵と敵対しているという姿勢を崩す訳にも」
 まじめぶった顔してんじゃねえぞおたふく野郎。
 ここでシルが大事そうに紙袋を抱える兵士の腕に縋るように手を乗せた。
「わたしたちは、無謀な事をしようとしている人を止めたいだけ。
 その為に一般の人が巻き込まれるなんて駄目だから、その人たちを、貴方たちに守ってほしいの」
「――うっ!?」
 うるうるとした涙目で訴えられては情に絆されるしかない。ただでさえ敵として見る事ができない兵士たちだ、その効果は覿面だろう。
「わ、分かった。両大尉には連絡を入れて置こう。貴様ら猟兵についての報告も上げておく」
「現地にいる共闘予定の兵士たちの認識信号、教えてくれれば登録するが。手の空いてる奴には現地の一般人の避難誘導も頼みたい」
「ああ、避難関連は承知している。信号についても構わない。最大限の協力をするよう整備工場の方にも連絡を入れて置くから、そこを中継に他の猟兵たちとも連絡を入れてくれればすぐに出来るはずだ」
 それから、この国のツートップについて。
 晶の言葉にさしものおたふく兵士も警戒に目を細めた。彼は大事にするつもりはないがと前置きしつつ、彼らを救う為にももし居場所が分かれば教えて欲しいと兵士に告げる。
「あの方々については鋭意調査中だ。もしかすれば、自由青空党の奴らが知っているかもしれないが――」
「ギイィエエエエエエッ! ガチガチガチガチ!」
(こらーっ! こんな場所で何してるのーっ!)
 工事現場の奥からぷりぷりと怒りを見せて鋏角を打ち鳴らして現れたモンスター、アリスの怒号に思わず身をすくませるおたふく兵士。彼らの目には猟兵である彼女はヘルメットを被った年相応の少女に見えているであろうが、その威圧感は頂点捕食者のそれである。
 思わず背筋を正したおたふく兵士に、削岩用にツルハシ等の工具や器械を背に乗せたり、キャバリアの装甲をも引き裂く超硬度の刃のついた【前肢】で後生大事に抱えた妹たちも姿を見せた。
(関係者以外立ち入り禁止よー)
(工事看板が見えなかったのかしらー)
(オヤジがいたら大ハンマー投げられるわよー!)
 アリス妹たちも珍しく怒りを見せる。それもそのはず、事故は起こさないよう安全第一で行うのが工事作業なのだ。関係者でもない第三者のトーシロがやって来ては迷惑千万なのである。
 これだからペーペーは、といった様子のアリス妹たちのヘルメットには『玉掛者』や『合図者』と書かれたゴムバンドが付けられており、誰がこの作業を行うのかしっかりと明示している。これもまた作業の透明化と分かり易さを表す指標なのだ。
 でもぶっちゃけその作業ないのでこんなもの着けてる方がペーペーと言われても仕方がないのも事実であったりする。実際アリスたちはトーシロなのでしょうがないのだ。
 しかし、穴掘りに関してはそこらの工事作業員や重機など及びもつかない能力を誇るが。
「わ、分かった、すぐに出て行く! …………、お前たちも工事の邪魔にならないようにここから出て行ってくれ! 整備工場には他の者も向かわせるから、互いに協力するとしよう」
「ありがとうございます!」
(アリスさんたちが何をしているのか気になりますが、まあ、こちらもこちらで事を進めるとしましょう)
 頭を下げるシルと共に三人も駐車場を離れ、摩那はマリオネットをエネルギープラント中継施設へと向ける。同時にユーベルコード、【影の追跡者の召喚】を放ち施設へのアクセス権へのハッキングと同時に施設内の探索を行うつもりの様だ。
 晶はウィリアムへ通信を繋げ、ヴェルデフッドを中継点に他の猟兵たちへもダンテアリオン正規兵へ攻撃は加えないよう注意喚起を入れる。
「まあ、そんな事する奴もいるとは思わないが一応だ。頼むぞ」
 離れ行く仲間とおたふく兵士の後ろ姿を並ぶぬばたまの瞳が見送って、「とっとと仕事を片付けるわよー!」と作業を再開するアリスたち。
 整備工場の駐車場、その隅っこに開いた巨大な穴は、アリスたちがガンガン掘削しトンネルを作っている場所なのだ。ぶっちゃけ削岩器とかツルハシとか一切使ってない。そんな物より自分たちの前肢でがさがさやった方が早いからしゃーないね。
 摩那のマリオネットから味方に送られている情報、電気信号をそのまま思念波へと変換して受信するアリスたちはエネルギープラント中継施設への位置を確認し、施設直下へ向けて道を作っているのだ。
 所々に【アリスの糸】で掘り出した石、あるいは糸そのものの粘度や強度で補強しつつ地下通路を作成している。その広さは車両はもちろん、キャバリアさえ通れるような大空洞だ。
 ユーベルコード【アリスの巣(おうち)】を併用する事で通路を彼女たちの巣と同じ構成とし、頑強に作り変えている。
(おっと、危ないわー)
(埋設物発見よー)
「ギチチッ!? ギチギチ」
(図面にないわー、保護砂もないみたいだから周りを補強しながら傷つけずに掘り進めてね~)
(はーいっ)
 市街地掘削あるある。水道管や電気管、通信線といった埋設物が地面の中にある訳なのだが、それらの位置を記している図面とは全く別の場所から出て来たり、記載のない不明管が出てきたりするのだ。
 挙句に保護目的の管周囲に埋める保護砂がなかったり、埋設物表示シートといったものがなく、掘削したそばから間違えて水道管を破断してしまう事があるのだ。たった一本でその大損害は推して知るべし。
 土木工事のみなさんは道路工事するの大変なんだゾ。
「ギギギギギ、ガチッガチッガチッ」
(正規軍の兵士さんに手伝ってもらって国民の皆さんの救出路に使うから、完成したらそこら辺の兵士さんを連れて来るのよー。
 この国の人には心情的にあまり好かれていないよーだけど、国民のみなさん救出の為と言ってお願いしましょー)
(はーいっ)
(車両は地上に並んでる物を根こそぎ徴発したらいーかなー?)
 地上とは言うまでもなく駐車場に止められた整備工場の人たちの車両である。問題なく使用しちゃっていいんじゃないかな、反逆的思想の持主ばかりっぽいし。
「ギィイイエエエエエエエッ!」
(さーっ、施設まで頑張るわよー!)
(はーいっ)
 アリスたちがやる気を爆発させる駐車場の一画には、ノエルの乗るコンバットキャバリアの姿もあった。
(キャリアの装備はエイストラの予備部品を括り付けたものですし、統合センサーもありますから、壁越しの受動探査でペロペロ中のお二人の位置でも探しましょうか)
 【EP統合センサーシステム】。レーダー機能に加え光学・音響探知機の統合システムユニットである。度アリスたちの掘っている直通地下トンネルもあるのでそれを利用すればよりクリアに状況を探知出来るだろう。
「まあ、ちょっと遠いのとアリスさんたちの作業中なので少々お時間が掛かりそうですが」
 だがこんな時にも役立つのがユーベルコード【リモート・レプリカント】である。脳波コントロールによる強力な無線リンクにより、コンバットキャバリアは勿論、載せているエイストラもノエルの直接操縦を必要とせず稼働できるのだ。
 ならばこのまま運転席にずっと乗っている必要もない。
「現地を見物――、もとい偵察に行きますか。こそっと」
「ギチチッ?」
 運転席から降りたノエルに、まだ人がいたのかと近づくアリス。
(そういえば、アリスさんたちには【保護色】で地形に溶け込む技がありましたね)
 以前の戦闘で見事にダンテアリオン兵の目を誤魔化したアリスたちの集団戦術を思い起こし、ノエルはアリスに妹を一匹、こちらの足に使えないかと言葉をかけた。
「ギチギチ」
(そうねー、休憩中のアリスを呼ぶわー。トンネル掘りよりは全然疲れなさそうだし、問題ないわよー)
「ありがとうございます」
 思念波をゆんゆんと飛ばし、木陰で掘り出した廃材を齧っていた妹の内の一匹がノエルの下にやって来る。迷彩能力も高く足も速ければスタミナお化け、とりあえず彼女一匹いれば施設近くでの活動に問題はないだろう。
(偵察、か。正直に傭兵を名乗ってもなかなか信じてもらえない身なりも、こういう時は便利ですね)
 胸中で呟いて見下ろすのは服装一式がオーダーメイドの高級品である。猟兵としての能力であらば彼らも気にしないだろうが、アリスのように知らず知らずの間に威圧感を受けている者もいれば、オブリビオンの影響下にある者だと話も変わる。
 念を押すに越した事はないのだ。
(ダンテリさんたちと話した覚えもありませんし、接触は他の人に任せましょ)
「それでは行きましょうか、妹さん」
(はーいっ)
 ノエルの言葉に前肢を上げて元気の良い返事を返したアリス妹は、アクセルひと踏み最大加速の化け物マシンのような加速力で整備工場の駐車場を後にした。
 走り去るアリス妹の巻き起こした突風に、ガードレールに乗せていた帽子が飛ばされるのをすんでの所で掴み抑え、レイは小さく溜息を吐いて帽子を被り直した。
 モンスターマシン、ならぬ掛け値なしのモンスターの出発に状況を掴めていないダンテアリオン兵士は巻き起こった砂埃に咳き込んでいた。
「まあ、ともかくだ」
 レイは改めて、男に顔を向けた。
「母国を救えるかは、あんたが今協力するかにかかっている。
 これは気高き愛国心を見込んだ『お誘い』だ。好きに選びな」
「……気高き……愛国心……!」
 偉大なるダンテアリオン、栄光の頂にあるダンテアリオンと自らの国家を誇る正規軍兵士の心には突き刺さる言葉であろう。
 感極まったような顔はすでに篭絡しているものだ。ゴッドハンドであるレイの【覇気】を薄くそよ風に流せば、ただそれだけで劇画のようなワンシーンとして男の胸に刻み込まれただろう。
「ああ、任せてくれ。このクロムキャバリアを統べ、覇道を往くべきダンテアリオン! その危機というこの極地に、思想も立場の違いもあるものか!」
「民衆の避難先も考えといてくれ。俺と同じ、猟兵たちが作戦を練っているはずだからな」
「そちらも任せてくれ!」
 発言には思想の危うさが滲み出ているものの、頼り甲斐のあるサムズアップにレイも思わず唇を笑みの形に歪めて、若き兵士を送り出す。
 さて、お次はと彼が目を向けるのは、整備工場であった。


●狼煙を上げろ!
「ふあああ――、うっ!」
「ふぁふ、…………ッ!?」
 欠伸をする兵士たちの口内に次々と撃ち込まれるのは指弾、狙い違わず放つのは冬季、指に弾かれ弾丸となっているのは激甘で色々な効能を持つ【仙丹】である。
 実際の所、それらが及ぼす影響をそこまで関知していない訳だが。次々と異物を口に発射される兵士たち、そして彼らを率いて戦場に向かっていたターバンとスージーは激甘なそれをアメちゃんかと勘違いしているようで頬を綻ばせ何の疑いもなくボリボリと食している。
 こいつら兵士失格だぞ。
「うーん、ウマウマアマアマ。…………、何奴!」
「お久し振りです、ターバンさん、スージーさん」
「貴様、覚えがあるぞ。アサガシア領で戦った猟兵の一人だな」
 軽く帽子を持ち上げ挨拶する冬季へ、疑念の目を向けるスージー。ターバンは忘れていた様子だったが彼女の言葉に思い出したようで、仙丹を噛み砕いて飲み下すと何の用だと詰問する。
 場合によっては。そう、携帯していた拳銃を向けるターバンに、冬季は余裕の笑みを向けた。
「大したことじゃありません。ダンテアリオンが殲禍炎剣に滅亡させられる瀬戸際だと聞いて、救助に来たのですよ」
「どこでその情報を、いや。それで単身、戦力も無く乗り込んで来た、という訳か?」
「単身とは一言も。それに私にキャバリアが不要なのは、戦ったことがある貴方たちならご存じでしょうに」
 その言葉にターバンとスージーは顔を見合わせた。彼の胡散臭い笑みを信じる気は無いが、それだけに何の打算もなく接触したとも思えない、といった所であろうか。
 測りかねる二人に冬季は笑みのまま、彼らの口に狙い打った仙丹を掲げて見せた。
「役に立ちますよ、私は。仙丹も持っていますし……例えば……これで一般人を眠らせ、貴方たちが彼らを運搬するのはどうです?」
「眠らせるだと、睡眠薬でも入っているのか? 施設内の国民は興奮状態にあると聞いている。そんな彼らに今も眠気を感じないような代物で眠らせるなど――」
 百聞は一見に如かず。
 嘲笑するターバン大尉に向けて、冬季はぱちりと指を鳴らした。
「短くも長い悪夢から……目覚める幸せを知るがいい……堕ちよ、夢幻界」
 始動するユーベルコードは仙術、【邯鄲之夢】。
 指を鳴らした動作に合わせて、まるで糸の切れた人形のように崩れ落ちるターバン。気持ち良さそうにいびきをたてて鼻提灯を膨らませる姿に一同驚愕である。
「……ええぇ……キモ、そんな速攻で効くとかあるゥ?」
「役に立つ、と言ったでしょう」
 ふごご、すやすやと眠るターバンをつつくスージーは、冬季の言葉を認めざるを得ないなと苦々しく頷いた。

 整備工場の内部にはダンテアリオンの正規兵たちの姿も増え、整備員とも可能な部分は情報共有を行いながら猟兵たちへのバックアップを急ぐ。
 ザンライガの操縦席で操縦方法を確認していたウタは、その間にも摩那と同じく影の追跡者を放ち、エネルギープラント中継施設の情報を収集していた。
 逆徒らの警備体制は勿論、巡回ルートに忍び込める場所などの確認を行っている。救出路としてはアリスズ・トンネルが便利であるが、ルートは複数あったほうが確実性も安全性も増えるというもの。
 まだ内部状況の確認まで出来てはいないが、傷病者の確認や警戒システムの解除なども可能なら行うつもりのようだ。
(……本当は戦い前に脱出させてやりたいけど……場所が遠い、時間的にチャンスはなさそうだな)
 アリスらのトンネル完成にも時間がかかる、スンゲに見つかれば脱出する際の危険性も高くなるだろう。
「しょうがない、戦闘開始まで待つとするか。頼りにさせてもらうぜ、相棒」
 動力炉に火を入れて、装備の確認を行いウタはザンライガに呟いた。
 隣ではブロムキィへの装備可能な武器や防具を確認する錫華の姿が見える。
「えっと、燃料とか弾薬、整備はさせてもらっていいんだよね?」
 工場でそれらの準備をしながら始動するユーベルコードは【脈動臨界チューニング】、その能力、個性や適性、長所を大きく伸ばすものだ。代わりに犠牲になる能力値もあるものの、その効果は絶大である。
「段々、工場の中にも兵士のみなさんが増えて来たなぁ」
 猟兵を知っている、そうグリモア猟兵は伝えていた。彼の言葉通り、整備員たちには悟られないようこっそり身分を明かせば、彼らも他の猟兵から話を受けたようで可能な限りの協力を約束してくれた。
「ありがとう。でも戦いでは危ないのが出てくると思うんだ、その時はわたしたちが相手するから、
逃げる手はず、整えておいてもらえると嬉しいな」
「お任せ下さい、我々も必死ですよ。国家存亡の危機ですからね」
 確かにその通りである。
 なんか緩いし危機感を感じないような輩ばかりで忘れていたが、テロと時同じくしてツートップが消えるという一大事、国家存亡の危機である事は間違いないのだ。
(予知によれば、相手はビッグタイガーと似たようなコンセプトの機体っぽいな)
 錫華と同じくグリモア猟兵の言葉を思い出しながらチェスカー。もしそうなら対策し易い所であるが、逆に敵も対応し易いという可能性もある。
 念の為とそこらの兵士や整備員に敵機の特徴を確認してみたが、アサガシアから奪取されたと言う機体の特徴以外にそれらしいものはなく、リーダー機の情報なども皆無だ。
「となりゃあ、部下に直接、聞くしかないな」
 敵から情報を引き出す、それが一番の近道であり、かつ確実な方法なのだ。
 着々と猟兵たちが準備を終えて行く中、シャナミアもレッド・ドラグナーの準備を終えて背を伸ばし、さて、と一息を吐く。
 近くを歩く整備員を捕まえて、今後の参考の為と質問を投げた。
「ここ、戦闘に巻き込まれたらどうすんの? 敵は殲禍炎剣を破壊するつもりみたいだけど、ここに墜ちてきたらどうする?」
「……え……」
 どうやら考えてすらいなかったようだ。テロリストを市民を解放する英雄だとでも思い込んでいたのか。勿論、巻き込むつもりなど無いシャナミアとしては、その答えで十分だと安心させるように笑う。
 実に単純な話だ。――市街地にまで戦闘を響かせない。それだけの。
 シャナミアの様子を見つめて、美亜は名刺代りのアスタリスクとは違い本命になる戦闘機の整備、主に殲禍炎剣対策である速度や高度その他への施しを終えて開戦を待っている状態だ。
 人の様子を眺める程、要するに今はやる事が無くて暇だという事だ。
(ふむ。味方キャバリアにちょっとお手伝い、でもしようか)
 何処となく邪な笑みを見せた美亜の横顔は、悪魔めいて輝いて。
 そんな人々が開戦を待つ中でただ一人、レイは腕を組んで並ぶキャバリアの列を見つめていた。
「…………、どいつがいいか」
 出遅れているぞ、レイ・オブライトッ!
「す、すいませぇん、しばしお待ちを!」
 整備員と兵士は工場内を右往左往し情けない声を上げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『フィールドランナー』

POW   :    パターンA 全弾発射
【重狙撃砲、連装機関砲、両肩腕武装の一斉射】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    パターンB 連携攻撃
【装甲及び半戦車形態の機動力活用】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【仲間と共に撹乱しつつ重狙撃砲】で攻撃する。
WIZ   :    パターンC 最後の手段
【胴体格納兵器による自爆を目的とした】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【事前に武器を配布した仲間】の協力があれば威力が倍増する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●出陣へ!
(むむっ)
(監督ー、ここからコンクリです~)
(遂に辿り着いたのねー)
 アリスズ・トンネルの最奥部。妹たちは思念波を監督こと司令塔であるアリスへ送る。
 そんな彼女から受けた内容は気を付けて、内部の人間に気づかれないよう掘り進め、施設内部に侵入する事。
(そろーりそろーり)
(ぱくぱくぼりぼり)
 掘るっていうか食べてるね。
 アルカリ性がまた舌に響くのかも知れない。コンクリートと鉄筋を慎重に食べ進めるという訳の分からない状況を作り出すアリス妹たち。
 削るように食べ終えて、音を立てずに捕食者たちがゆっくりと顔を覗かせる。更にはそのアリス妹たちの間から湧き立つように影の追跡者たちがエネルギープラント中継施設内部に拡散していった。
『――即ち、ダンテアリオンは空への翼を得る事で、ダンテアリオンが空への翼を得る事が!
 この戦乱の世、クロムキャバリアに唯一絶対である偉大なるダンテアリオンを、各国へ証明する確固たる手段なのである!!』
(ギャグのつもりかしらー?)
(サムいわねー)
 自らの保護色で施設内の剥き出しのコンクリートへ体色を変化させつつ、演説中のスンゲ・トブゼの様子を見つめる。
 彼らは施設の奥にいる訳でもなく、ただ入り口に近い広場に溜まっているようだ。スンゲの言葉に熱狂している国民たちは元気全開で特に異常は見当たらない。
 ぶっちゃけると現状が異常なのでむしろすでにこの国民おかしい。
 駆け巡る影の追跡者たちはスンゲの駆るオブリビオンマシンの背後に、壁一枚剥がされた部屋の中、簡素なパイプ椅子を座り潰しそうなガタイの男と、そんな椅子が似合う老人が一心不乱にアメちゃんをペロペロしている姿を確認する。
 将軍、ガストン・ランバー。そして宰相、ボアゴン・ド・キッセンの姿である。どうやら最後のアメちゃんというのは紙袋に詰められた全てのアメちゃんを言っていたようで、時間は全く問題なさそうだ。
 こいつ本当にテロ起こす気あんのか。
(施設の中はあのオブリビオンマシン以外にいないみたいねー)
(影のみなさんも確認したし、国民さんたちも問題なさそうだし、アリスたちも戻りましょー!)
 そそくさと祝・開通したアリスズ・トンネルへ戻るアリス妹たち。
 その外では別の個体と共に施設の外に辿り着いたノエルの姿があった。
『第一強国の理想の為に!』
『全ては第一強国の思想の下に!』
『うるせえぞテロリスト! なんだその広告を一緒に考えてくれそうな思想は!』
『どういう理想でどういう思想もってんのか説明しろ!』
『そんなもの、リーダーしか知らん!』
『何でテロ起こしたのお前ら!?』
 睨み合う両者の間で決定的な程に分かり合えない部分が露呈しているがそれはさておき、施設内部の影と共に、アリス妹にくっついてきた影により人間用の出入口が音もなく開いた。
「あの人たち、どういう考えしてるんですかね」
(さー。きっとむしゃくしゃしていたんだと思うわー)
 割と妥当な分析かも知れない。
 ノエルの言葉に答えるアリス妹だが、正面入り口の解錠も成功した上、アリスズ・トンネルの開通と共にコンバットキャバリアによる施設内部のマッピングは完了している。
「敵、味方の位置関係、戦場となる地形も把握しました。戻りましょうか、妹さん」
(はーいっ)
 再び瞬間加速するアリス妹の巨体にしがみつき、自らの反射神経と身体能力に振り落とされない事を感謝しながらの帰途へ着いたのだった。

 整備工場内では猟兵の持ち帰った情報が共有されており、対自由青空党への対策が進んでいる。
 施設内国民、そしてまさかの何故か、施設内にいたダンテアリオンツートップの救出作戦をも同時並行されている。
「オレは銃の狙いが雑なんで、自立式の念動制御砲や誘導弾系が良いかもな」
「へい、丁度いいブツがありやすぜ!」
 正規軍による口利きで、手もみしながらレイへ遜るのはチェスカーたちから賄賂を受け取っていた整備員だ。
 こいつ分かり易く力に媚び諂うタイプだね。
「……こいつは……」
「へい、マグネロボ肆式超、アサガシア領で実験に使われていた代物らしいですが、扱える者がおらず別地域へ輸送していた所を我が軍が接収した物でさぁ」
 それはまごう事なき、レイがダンテアリオンとの最初の戦いに使用したマグネロボ肆式を強化改造した代物だった。だから伍・陸・漆はどうしたんじゃい。
 背面にフライトユニットが追加された肆式超。背負う装備には着脱式の砲台が二つ搭載されており、これが念動力により使用するものと一目に分かる他、尾翼下部には誘導弾発射装置があり、装弾数は少ないものの射撃能力は肆式と比べ大きく変わるだろう。
「携帯するライフルや近接武器などは適当に選んでいただければ、へい」
「……ついでに広域電磁バリア……は」
「へぇ?」
「いや、何でもない」
 言葉を濁し、ゴッドハンドである自らの能力を代用すれば大丈夫かとレイは頷く。
 目ぼしいものとして肆式超の出撃準備を進めるよう男に伝えれば、それぞれの出撃する機体は決まったかと目を輝かせるのは美亜であった。
「ふふふ、出撃前に希望者にはこの私、大いなる始祖の末裔であるレイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットが、強力な武器を取り付けてやろう!
 まあ使用に足るのも一回程度だろうが」
 その顔は正にマッドサイエンティストか、嬉々とした様子に機体に無理な負荷をかけるであろう要素を追加する事にキャバリア工房と縁を持つシャナミアとしては良い顔が出来るものではない。
(でもそういった技術、というのは得られるものがあるかもね)
 迷う所だと思わず唸る少女と同じく、チェスカーもどのような内容によるか、とばかりである。
 実際の所、そういった装備と言うのは得てして有効とは限らない。とは言え、マイナスとばかり限らないのだから悩むのだ。
「まあ、話を聞いてみた方がいいかもね」
「同感だ」
 チェスカーの独り言に同意して晶。ヴェルデフッドの剛性ならばある程度の無茶も効くはずだ。ウィリアムとも相談するべきかも知れないが。
 同じく錫華はユーベルコードによりブロムキィの性能を限界以上に引き出している状態だ。ここに無理を乗せるべきかどうか、悩ましい所だろう。
「ウタさんはどうするか、決めてるの?」
「いや、決めてはいないけど……どんな装備を追加するか、だな……」
 錫華の問いに答えてこちらも悩まし気である。
(…………、キャンピングカーにも武装を追加できるのでしょうか)
 美亜の言葉に猟兵の無茶な運転にも耐えうる夢とロマンの桃色カーを見つめる桜花。
 そんな悩みは一先ず置いて、工場内に戻ってきた摩那はシルと共に声を張り上げた。
「敵機の特徴はグリモア猟兵からの情報通り、一部不明な点もありますが対策を立てましょう!」
「一般のみなさんを助ける為にも、頑張ろうね!」
『おーっ!!』
 その呼び声に、兵士だけでなく整備員すらも声を合わせて、汗と油に汚れた顔を空へ向けた。


・集団戦となります。紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)により、第二章に参加する全てのプレイヤーはキャバリア、スーパーロボット、生身に関係なく一度だけ魔改造武器の使用が可能となります。これらの特性はプレイングに記載がある時のみ使用可能です。
・現在、アリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)の掘ったトンネルからエネルギープラント中継施設内の救助部隊が進行中です。救出部隊が到着するのは戦闘終了後、施設前にもダンテアリオン正規軍が残っていれば正面からの救助活動を展開できるでしょう。
・戦場はエネルギープラント中継施設の正面広場、地面は濡れた芝生に覆われ足下が滑り易くなっている他、隠れられるような場所はなく開けた地形となっています。
・敵キャバリア、フィールドランナーは粒子兵器や格闘用武器を所持していませんが、あらゆる物理射撃の兵装を持つ他、腕内部に複数搭載しているのは携行武器であり、奪って使用する事が可能です。プレイングに指定があれば指定された物をもぎ取れます。
・重装甲ながら履帯により機動力が高く、変形による高低差による回避行動が得意である為、グリモア猟兵の言葉通り足を狙う作戦が有効となります。ただし、動けなくなった個体は自爆の確率が上昇します。
・部隊長格が複数混じっており、それぞれのパーソナルカラーに機体を染めています。機体性能はそんなに変わりませんが、連携すると能力が上がるので注意してください。
・エネルギープラント中継施設の外装は堅牢で、被弾などを気にせず戦える上、外に一般市民もいないので好きなように暴れられるでしょう。
・敵軍正面にはフィールドランナーの前身となる、変形機能はないものの履帯による高速機動を得意とするドッグ、そして空中機動が可能なものの機動力、装甲共に劣悪なガガンボという二種類のキャバリアが配置されています。
・ドッグは盾とバズーカなどで武装し攻撃力、地上走破力、防御能力に秀でています。ガガンボは空を飛べる以外に良い所はありません。
・戦闘能力においてフィールドランナーに勝る点はなく、正面対決を行った場合、ダンテアリオン正規軍は甚大な被害を受けるでしょう。が、エースであるガガンボ・ターバン機、ドッグ・スージー機、ダンテアリオン軍最強と呼び声高いアメちゃん小隊のドッグ五機はフルチューンされており、フィールドランナーを相手にしても早々と撃墜される事はありません。
・ダンテアリオン正規軍は、猟兵の活躍により将軍と宰相の居場所が発見された事、オブリビオンマシンの相手をするべく戦場に加勢する事が知らされており、友軍として扱ってくれます。猟兵からの要請にも対応し、連携してくれるでしょう。
・ただし、誤射ではなく友軍の損害を気にせず攻撃する場合は直ちに敵対します。
・様々な要因があるものの、要は『気にせず暴れようぜ!』が作戦内容です。人命を含む全ての損害はシナリオの正否に含まれませんので、ひと暴れしてやりましょう。
シル・ウィンディア
さて…。
それじゃ、止めるための戦い、始めようかっ!!

魔改造武器は、拡散するタイプのビームバズーカ

空中機動で高度に気を付けつつ、上空からの射撃戦
ホーミングビーム、ランチャー、ツインキャノン、バズーカの一斉発射の範囲攻撃でまとめて撃ち抜くよ
コクピットは狙わずにね

敵機の攻撃は残像を生み出して、空中機動と推力移動で攪乱回避
でも、今回の本命は…
近接してからの、セイバーでの切断!
狙うは、腕部の武装が集中している場所!
肩口から切断していけば、あとでこっちで使えるようになるかな

敵隊長機が出たら、ギアを入れて…
高速詠唱でのエレメンタルドライブ・ダークネス
このモードのわたしを簡単にとらえられるとは思わないでね


木霊・ウタ
心情
敵味方共に被害を少なくするぜ
未来を創り出す命を守るのが
オブリビオンに対す何よりの矜持だ

行くぜ
ザンライガ

魔改造
推進機
飛行や高速移動が可能

戦闘
救出作戦の為の他
戦力差もあるから出来るだけ正規軍を守る

敵を非殺

獄炎で弾速↑や高熱で貫通力、爆発力が増した
弾丸やミサイルで敵機の足を狙う

炎が延焼し自爆装置の機能停止だ
命の炎は消させやしない

爆炎スラスターで回避するけど
スパロボだから多少の被弾は織り込み済みで臆せず進み
敵を分断し連携阻止

粒子砲も出し惜しみしない
タイミングとしては正規軍を守る為に
纏めて薙ぎ払う時とか

こいつも獄炎+だから
延焼が無事な敵機の履帯を焼き切る

弾切れが近づいてきたら
ガトリング奪取

事後
鎮魂曲


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

トンネル開通ー、最終チェックも多分誰かが確認したからヨシ!
さて、次はフィールドランナーへの対処ねー
かなりの重武装っぽいから妹達と【団体行動】で地中を【トンネル掘り】で潜伏しながら近づきましょー
敵の足元まで到達したら皆で協力して地中に引きずり込んで脚部を埋めるのよー
足が止まったり自爆しそーな敵には、幼い妹達を胴体に侵入させて格納兵器を【捕食】しましょー
敵味方問わず戦闘不能になったパイロットや兵士さんは機体から引きずり出して後方に【運搬】して避難させるのー
残った機体は寄生して人力で動かして再利用よー
皆ほどうまく動かせないけど正規軍の人達と協力して戦いましょー


支倉・錫華
魔改造武器、せっかくだし使ってみないとだよね。

チューニングでスピード5倍、装甲半分にしてあるんだし、
重い武器よりは、軽めの……ん、そか。あれでいこう。

レイリス(以下略)さん。
時間制限ありでいいから、わたしの機体にバリアフィールド張れるようにしてほしいんだけど、できるかな?

魔改造してもらったら、戦場ではそれを展開して、
無敵モードで敵陣に突っ込んで敵と陣形を蹴散らしていこう。

『ヤキソバマックス発動!』 なんてね。

時間めいっぱいまで体当たりで敵を弾き飛ばしつつ、武器をいくつか回収。

時間切れになる前に敵陣からは離脱して、そのあとは射撃でみんなを援護していくね。

持ってきたアメは、まだ使いどころないかな。


紅月・美亜
 教えてやる。殲禍炎剣が封じている物の価値をな。
「私達はずっと待っていたんだ」
 私はFRONTIERで出撃する。相手がキャバリアなら原寸サイズでも問題あるまい。
「最終平和兵器。私達は引き返せない。フォーメーションGF」
 【Operation;BLACK】を発動し、隊列を組んで飛行する。
 この世界では戦闘機の相手は慣れてない筈だ。殲禍炎剣に引っ掛からない高度を維持し、翼下機銃射撃で仕留める。主砲は使うまでも無い。6発しか撃てないからな。
 BLACKは自立戦闘モード。ビーム機銃とSAAM、そしてここぞという時の収束ビームだ。
 たっぷりと教育してやろう。戦闘機の恐ろしさをな。



●出撃の一幕ッ!
 各々が己の具足、そして武器の準備を終えて状況を確認して一息吐き。
 先程も兵士間で話が上がっていた通り、猟兵たちの情報が共有された事で宰相と将軍の場所が分かった訳であるが。
「早くお救いしなければと血気流行っている者もおりますが、そこは大尉たちやアメちゃん小隊が抑えて下さっているとの事です」
 大尉たち、と言うのはターバンとスージーの事だろう。頬を腫らした兵士の言葉を受けて、急がねばならない事に違いはないと猟兵たちも頷く中、大いなる始祖の末裔であるレイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットこと紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)は「こんな事もあろうかと!」と様式美に近い台詞を転がし天を指す。
 彼らがいるのは整備工場なのでそこにあるのは天井であり屋根であるはずが、今まさにそれは開き太陽の光を見せていた。
「この工場の屋上に簡易的な電磁加速射出システムを用意した。暇だったからな。これで戦場へひとッ飛びだ!」
 暇だったら施設を造り変えてもいいだろ精神。無論、工場長や経営者への許可は取っているので心配はない。彼らも暇していたのか喜んで手伝ってくれたらしい。
(オラーイ、オラーイ!)
(わっせ、わっせ!)
 外では射出システム用の滑走路を持ち前の怪力で移動させ準備をしているアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)の妹たちの姿があった。
 合図者ヘルメットを被った者がきちんと合図をしており、前肢をぶんぶか振って誘導する様を見れば法律的にも問題は無さそうだ。
(どいたどいたー!)
(こちとら江戸っ子よー!)
 と思ったらそんなのお構いなしに次々と滑走路が運ばれて来る。そもそも彼女たちは群体でありながら意識の共有が可能なので、やろうと思えば合図誘導など必要ないのかも知れない。
 それでも健気に合図者が合図誘導しているのは怠けているのではない、雰囲気を守っているのだ!
 アリス妹らの活躍で次々と部品が繋がり整備工場屋上から連なる滑走路を完成させると、工場内に立ち並ぶ機体を運搬用アームが昇降機へ乗せて行く。
『よろしくお願いします』
(お願いされたわー)
 白と青のツートンカラーに彩られたのは精霊機【ブルー・リーゼMk-Ⅱ】、搭乗者であるシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)は背面の翼の可動を確認している。
 それ以外に特筆すべきは通常時の彼女の機体にはない巨大な砲身を持つ携行兵器の存在だ。重そうに左の肩に預けるように支えられている。
「ふふふ。このブルー・リーゼには搭乗者であるシルの要望により、【BS拡散ビームバズーカ】を渡している。元々はこの工場にあったビームバズーカを流用した代物だが。
 即席の強化バッテリーと追加エンジンによる出力増加と、それに伴った砲口変更によりビームの拡散発射が可能だ。即席な事もあって一戦闘程度しかもたないだろうが、希望以上を約束しよう!」
 嬉しそうに解説する美亜にブルー・リーゼは右手の親指を上げてサムズアップし、アリス妹の操作によって屋上へ送られていく。
 屋上は邪魔そうな鋼材が全て端に寄せられているばかりか、休憩中のアリス妹がぱくぱくもぐもぐしているという哺乳類からすれば衝撃的な光景が広がっているがそれはひとまず置いておこう。彼女たちが工場長から許可を得ているかは知らない。
 休憩中の妹たちとは別に赤く点滅する指示棒を前肢で器用に持つ司令塔アリスがひょっこりと姿を現すと、機嫌良く指示棒を回してブルー・リーゼを発射台へと誘導する。
 この手の合図誘導は小国アサガシアで行っていた事もあり手慣れたもので、シルもこの騒動の最初の出撃を思い出して思わず笑う。
 だからこそ。
 発射台に乗ればブルー・リーゼの足に滑り止めの装甲版が設置され、シルは機体を低く構える。アリス妹たちの設置した滑走路に光が灯り、進行方向を表すと同時に強力な磁場が発生した。
(電磁加速射出システム、スタンバイ!)
(進路クリアー)
「ギチチッ、ギチギチ!」
(それじゃー合図をお願いするわー)
『……さて……、それじゃ、止める為の戦い、始めようかっ!
 ブルー・リーゼ、シル・ウィンディア! お願いします!!』
 シルの言葉が告げられると同時に発射台が僅かに浮き、直後に高速で平行移動する発射台は滑走路の勾配に合わせて上昇し。
 急加速で空に、戦場へ向けて打ち上げられたシルはその速度と爽快感に束の間の開放感を満喫しつつ、降下が始まれば翼を開く。
 止める為の戦い、その戦場へ向けて精霊機はエネルギープラント中継施設へと向かった。
 その様子を外部監視カメラから確認していた美亜は、予想より完成度の高い発射システムにさすがの私だと自画自賛の言葉を胸にしまい。
 続いての機体へ目を移す。
 先のブルー・リーゼと違い、無骨なるスーパーロボット・ザンライガ。搭乗席へと飛び乗るのはこの機体を工場より預かった木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)。
「こいつは凄い、機体のパワーがそのまま推進器に回されているんだな」
「当然だ、全身火薬庫みたいな機体で重量がある分、持ち前の高出力を背面の追加推進器、装甲版を利用して揚力を発生させるように強化している。
 脚部にもスラスターを追加してホバー移動出来るようにしているから機動性も大きく上がっているはずだ。それでも無理のある改造だし、炉心に影響がないよう一定時間後にはオートパージされるように調整している」
「あまり深く考える必要はないって事だな、サンキュ」
 流石はレイリス。
 ウタはシルと同じく、こちらは生身でサムズアップし搭乗席のハッチを閉じた。山と鎮座するそれの目に光が灯り、脚部から瞬発的に噴射される気流で滑るように昇降機へと移動、そのまま屋上へと運ばれて行った。
 屋上の一画ではやはり休憩中のアリス妹たちが興味津々といった様子で鋼材をもぐもぐしながらこちらを見つめている。彼女たちの興味というのは美亜のような知的好奇心ではなく食欲に偏重しているが、その視線から逃れる為にも発射台へと足を乗せ。
(敵味方ともに被害を少なくする。未来を創り出す命を守るのが、オブリビオンに対する何よりの矜持だ)
「ギチギチ、ギギギ!」
(それじゃー合図をお願いするわー)
『おっと、それじゃあ行くぜ。
 ザンライガ、発・進!!』
 身を低く構えたザンライガは先のブルー・リーゼと同じく発射台より高速発射され、滑走路を駆け上がりその巨体は空を飛ぶ。
 虚空へ投げ出された機体は装甲版を翼の如く広げて揚力を得ると、背面に追加された大口径の噴出口によりその重い体を支えた。
 トップバッター程ではないが、それでも高い速度にウタは思わず笑みを見せた。
 本来ならば空を飛ぶ代物ではないだけに、ザンライガの飛行が整備工場の中でも歓声をもって受け入れられる中、次は自分だと支倉・錫華(Gambenero・f29951)はウタと同じくこの工場で借りた機体、ブロムキィへと乗り込んだ。
 こちらはザンライガと違い細いシルエットで、飛行機能は無いものの追加するのであればザンライガよりも簡単だ。
 しかしこの機体元々、錫華によって装甲のあらゆる部分を肉抜きする事でカタログスペックの五倍に匹敵する速度を発揮するようになった。かわりに装甲の耐久性は半分ほどと大幅な低下が認められるが。
(魔改造武器、せっかくだし使ってみないとだよねって事で、重い武器よりは軽めの、あれでいこう。って思いついた訳だけど)
 改めて機体の起動シークエンスを実行して、錫華は少し離れた場所にいる美亜へと視線を向ける。ブロムキィの頭部もこちらへと傾いた事で、美亜は心配するなと不敵な笑みを見せた。
「この大いなる始祖の末裔、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットに不可能は無い。そのブロムキィには強力なバリアフィールド発生装置を内部に増設している。装甲が半分程削られていようと、そもそも攻撃が装甲に届かなければお構いなしだ。
 まあ、流石にこれもまた急ごしらえの代物、長時間の使用に耐える程の能力はない」
『ううん、少しでも発動できるなら。ありがとう、レイリス(以下略)さん』
 節約って大事だよね。
 錫華の素直な感謝の言葉に美亜はそれを受け取り、それからとバリアフィールドについての言葉を付け足す。
「ブロムキィに飛行能力は無いからな、電磁加速射出システムで射出されると同時にバリアフィールドを展開し揚力を得て戦場までパチンコ玉の要領で飛ぶようオートアシスト機能を組み込んでいる」
『……そのせいで使用時間が短くなっているのでは……?』
 小さな親切大きなお世話とはよく言ったものだ。しかし戦場に着弾、もとい到着する上でこの方法に勝る速度はない。
 これ以上の懸念の言葉もなく、錫華の乗るブロムキィは昇降機に乗ると屋上へと運ばれて行く。
 三度目ともなれば妹アリスも落ち着いたもので、「今度のは柔らかそう」「おやつ的な感覚でイケちゃいそう」と兵器に対する評価とは明らかに違う内容を評している。
「ギイエエエエエッ! ガチッ、ガチッ」
(こっちよー、オーライ、オーライ)
 そんな妹たちを横目に指示棒を振り回すアリスに誘導され、錫華はブロムキィを発射台に乗せる。美亜の言葉を考えれば、特に彼女が操縦する必要はなく玉となって戦場に届けられるという事だが。
(これを見ると少し不安になるなぁ)
 電磁誘導により加速し、滑走路中盤から始まる傾斜に導かれ空へと放たれる出撃機能。
 紐無しバンジーをするから怪我しないように何もするなと言われて、頭では納得できても心で納得するのは難しいものだ。
「ギチギチ、ギギギ!」
(それじゃー合図をお願いするわー)
『それでも、こんな機能を追加し射出システムを作ってくれたレイリス(以下略)さんですから、その力に身を委ねるのも当然、――ならば。
 ブロムキィは支倉・錫華で出ますっ!』
 宣言にも等しい合図と共にその身をシートに押し付けるような加速、Gが発生する。だがその感覚も一瞬で、先の二機と同じく空へと射出されたブロムキィは間髪入れずにバリアフィールドを発生させた。
 空に浮かぶシャボン玉のように、油質で陽光を弾き七色の色合いを見せるそれ。
『お願いだよ、ブロムキィ!』
 弾丸となったそれは一直線に戦場を目指したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「アリスさん達が向こう側に通じる道を通してくださったとは言え、一般の方全員をそこから運び出すのは難しいでしょう?ならば正門を開けられるようこちら側も準備しましょう」
正門前の人員と中の人員でキャバリアに乗っていない一般人がどちらに多くいるか確認
外にも一般人の壁があるなら外から、中だけならアリスさんの道で中から一般人を眠らせて退避の手伝い

大声で話す一般人を中心に可能な限り仙術と功夫利用した指弾で仙丹口に突っ込んで黙らせなるべく多くの一般人が入るようにしてUC使用
寝た一般人の運搬は外はダンテアリオン兵士、中はアリスさんに依頼

「一般人の壁がなくなれば、猟兵は元より軍も動きやすいでしょう?」
嗤う


黒木・摩那
美亜さんの魔改造武器が使えるなんて! それは素敵です。
では、このロケットハンマーで。

オブリビオンの前に行くには自由青空党が邪魔ですね。
殲滅炎剣の件も言いくるめられてるようですし。
一発殴って、目を覚ましてもらいましょう。

自由青空党のキャバリアを排除します。
キャバリア『エクアトゥール』で戦います。

相手の射撃は盾バインダーと機動性で【受け流し】しつつ、加速。ハンマーで足を潰した後に、【敵を盾にする】しながら、相手の武器も利用して攻撃します。
自爆の気配を【第六感】で察知したら、即離脱します。

リーダー機にはUC【飛天流星】で間合いに入り、連続技で攻撃します。
乗員は傷つけないように気をつけます。


赤城・晶
■連携、アドリブ歓迎、不殺を前提

■強襲、展開
ウィリアム、ミラージュ装甲展開【迷彩】、レーダー【索敵】、ステルスしつつ、死角から接近。相手が油断した最高のタイミングで強襲&UC使用。UC終了後、【ジャミング】をフルパワー。識別認識を妨害し、幻影を展開。エース機、部隊長機から仲間と連携して叩くぞ

UCは敵のみに当たるようにするか(事前の識別情報を元に)

魔改造武器、あるなら内部機関を麻痺、破壊するような電撃武器(射撃)があるか聞いてみるか。

■台詞等
『手こずってるみたいだな、手を貸すぜ』

『久しぶりだな、今度は味方だから撃つなよ?』

『ほれ、大好きな飴だ。ここいらでは手に入らない高級品だぜ?』


ノエル・カンナビス
飛んでくるのが実弾ばかりでしたら、オーラ防御と称する
ガーディアン装甲の近接防御衝撃波で弾き飛ばせますが。
咄嗟の一撃/武器受け/カウンター/衝撃波/吹き飛ばし/
オーラ防御って感じですね。

そこを含めて、正規軍さんのガードに入りましょうか。
一般ガガンボさんは戦場外周で周辺警戒を、
一般ドッグさんは遠距離から支援射撃をお願いしたいです。
どちらも必要な役割ではあるので、適材適所です。

あとは正規軍さんに攻撃が向かないよう威嚇射撃/おびき寄せ/
フェイント/見切り/操縦/推力移動/ジャンプ辺りで翻弄。
実効射撃の方は範囲攻撃/鎧無視攻撃/砲撃/キャノンを主軸に、
両腕や装備火器を吹き飛ばして裸にしてしまいましょう。



●出撃の二幕ッ!!
「美亜さんの魔改造武器が使えるなんて! どれも素敵ですね」
「レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだ」
 ほぼ美亜の改造装備見本市と化していた整備工場であるが、そこに目を輝かせたのは猟兵の一人、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)である。その言葉は美亜にとって嬉しいものだが、きっちりと訂正を入れて要望の物は用意してあると空きスペースに置かれた武器を指で示した。
 そこにあるのはキャバリア用の一振りのハンマー、否、ロケットハンマーだ。打撃面は平滑だが何か仕掛けがあるのか模様のような筋が走っている。反対側には噴射口があり、単体で加速打撃する武器だと見て取れるだろう。
「ありがとうございます。では、あのロケットハンマーで」
 摩那の搭乗するキャバリアは零式操念キャバリアと呼ばれる超能力者専用機、【エクアトゥール】。彼女はその黒い装甲の内へと身を滑り込ませて、美亜の作製したハンマーを担ぐ。
「説明すべきは殆どないが、握り部分をアクセルに噴射口から加速打撃するロケットハンマーだ。敵の装甲に合わせて柄頭のスイッチを入れる事で内部の打突を伸ばして形状を変える事も出来るぞ」
 装甲破壊の完全打撃だけでなく、刺突による装甲貫通能力も持つという事か。あの重装甲の敵主力キャバリアに対しても十分に効果を発揮するだろう。
『期待させて貰いますよ』
「存分に期待していいぞ。ただ、燃料が一回の戦闘しかもたんだろうが」
 戦闘中にもてば十分。
 摩那はエクアトゥールを昇降機に乗せ、屋上へと向かう。屋上ではやはり相も変わらず休憩中のアリス妹たちが鋼材をぽりぽりしているが、一般人の目にはわからないまでも実は別のアリス妹に入れ替わっているのだ。
 だから何だと言うと、きちんと休憩をとっているというアリス建設のホワイトさアピールだね。
「ギチチーッ!」
(お客さんが来たわよー)
(はーいっ)
 司令塔であるアリスも休憩として鋼材を齧っている間に、別のアリス妹が指示棒をぴっぴか光らせて振り回している。
 摩那はその光に導かれてエクアトゥールを発射台へと乗せて、アリス妹のジェスチャーに合わせて機体を低く構える。
 同時に可動させるのは本機の大きな特徴である両大盾。
(オブリビオンの前に行くには自由青空党が邪魔ですね。殲滅炎剣の件も言いくるめられて――、いやそもそも雰囲気だけでついてってるような気もしますが)
 思想も理念も知らない癖にテロリストに加担しちゃうような奴らが軍人になる国家があるんだってよ。
 何はともあれ、彼女がする事はシンプルだ。
(発進前、スタンバって~)
『一発殴って、目を覚ましてもらいましょう。黒木・摩那、エクアトゥール! お願いします!』
(はーいっ、発射ー!)
 一瞬の浮遊感と同時に流れる景色。
 超高速で発射されたエクアトゥールは大盾の裏から推進剤を噴射し更に加速、大空へと飛び立った。一瞬で豆粒のように消えたそれを見送って、「チョコが食べたいなー」とアリス妹はぼやきつつ。
 赤城・晶(無名のキャバリア傭兵・f32259)は次々と飛び立つ仲間たちの姿を窓の外に眺めて美亜へと視線を変えた。
「実際の所、このシステムとやらはどこまで届くんだ? 戦場まで届くとして、敵陣に届くのか、それを超えるのか、それとも自軍の手前か」
「ふむ。飛行出来る機体で距離が変わるのは当然だが、こちらで用意する推力だけで考えれば自陣まで、敵陣に届く程の速度はない」
(……と、言う事は……ヴェルデフッドの電磁波領域を展開するには接近が必要だな。敵陣に届くならそのままの勢いで戦場を縦断しながらというのが理想だったが)
 美亜の言葉に頷きながら、自らの装備、性能を考え思案する。やるべき事は決まっているのだから、手持ちの駒でやりくりするしかないではあるが。
 手持ちの駒、と言えば。
「敵駆動系や内部機関を麻痺できる電撃系の射撃武器、って言うのは用意できたのか?」
「ふふふ、抜かりはない――、と言いたい所だが少々扱いづらいぞ。ホロウポイント弾を参考に着弾時に敵装甲へ食い込み貼り付く特別仕様の弾丸と弾倉の備えはあるが、射撃前に充電が必要だ。
 射撃間隔が空くから数で攻める敵主力相手には迅速な対応とは言えないぞ」
「構わないさ、助かるよ。不殺が大前提だからな、大いに役立たせて貰う」
 ヴェルデフッドの腰へマウントされた黄色のキャバリア用拳銃は、今回限りの特別装備な事もあってわざと目立つ色合いにしているのだろう。
「そういう訳だ、使用武器の特性把握は頼むぞウィリアム」
「大丈夫です、マスター。美亜さんより仕様情報は受け取り済みです」
「レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだ」
 ちょいちょい省略された事もあってかきっちり主張していく美亜。
 言葉を交わすのもそれまでに、晶はヴェルデフッドに乗り込み、丁度降りて来た昇降機に機体を進めて屋上へと向かう。
 屋上では美亜の説明通りの発射台と滑走路を確認してそこへ歩を進めると、おやつタイムで気づいていなかったアリス妹が慌ただしく指示棒を振り回して駆け寄って来た。
『ウィリアムのサポートがあるから、無理に誘導してくれなくても大丈夫だぞ』
(そーはいかないわー、お仕事お仕事っ)
 忙しない様子に思わず苦笑しながらも、ウィリアムにヴェルデフッドの【複合エンジン搭載ブースターユニット】がいつでも使えるように起動しておくよう指示を入れる。
 背部連結することで出力と移動速度を飛躍的に上げるスラスター付のブースターユニットは、今回のような分かり易い射出システムで実力を発揮する。直接加速して飛距離を伸ばす考えだ。
(固定オッケーよー、進路クリアー、発進どうぞ!)
『ゴーサインです、マスター』
『ああ。ヴェルデフッド、赤城・晶。速力最大で戦場へ突貫する!』
(発進よ~)
 滑走路に灯った電磁誘導の光に合わせ、衝撃なく滑走する発射台からそのまま空へと投げ出されたヴェルデフッド。
 接尾はともかく原理は原始的な物。そして、それ故に分かり易いとした射出システムは減速を重力として体感し、ウィリアムの補助もあって加速点を把握できるのだ。
『ウィリアム!』
『OK、マスター』
 晶の言葉に合わせたウィリアムにより、ヴェルデフッドの背面ブースターユニットは盛大な火炎を巻き上げた。
 加速するヴェルデフッドに先の晶と美亜との会話を重ねて、ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)は彼が何を考えているのか把握している様子だ。
 このダンテアリオンとの初戦では共に戦った事もあり、ヴェルデフッドの妨害性能の高さを知っていたからだ。
(精細さを欠いた攻撃、まして飛んでくるのが実弾ばかりでしたら、ガーディアン装甲の近接防御衝撃波で弾き飛ばせますが)
 【EPガーディアン装甲】。近接防御機能である高硬度衝撃波の放射パネルで表層を覆った、運動性能を優先するエイストラの防御能力を上げる為に装備されたナノクラスタ装甲である。
 味方の動きに合わせて自身の行動を考えるノエル、その隣を行く影ひとつ。
 鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)だ。
「冬季さんはどうされるんです?」
「私は直接、戦場に向かいますよ。アリスさんたちが向こう側に通じる道を通してくださったとは言え、一般の方全員をそこから運び出すのは難しいでしょう?
 ならば正門を開けられるようこちら側も準備をしようかと」
「なるほど、わざと遅れる事で敵の目をそらす訳ですね」
 美亜の用意してくれた発射システムは否が応にも目立つ為、こうやって意識をそらさせるのも良いだろう。
 ノエルの言葉に「そういう事です」と笑みを浮かべた彼を見送って、ならばすべきは常に攻撃を加えて暴れる事、または戦場で常に目立つよう行動する事が優先されるだろうか。
「晶さんが妨害機能を使用してから、こちらの装甲を利用して正規軍さんのガードに入りましょうか」
 やる事は定まったとノエルは頷き、駐車場に停めていたコンバットキャバリアからエイストラを降ろす。周りにあった車両が何故か軒並み消えていたが、敵地での変化でもない為に特に気にせず機体へ搭乗、屋上へと向かう。
(オーライっ、オーライっ)
 鋼材を前肢で抱えてぽりぽりしながら指示棒を器用に頭の上で揺らすアリス妹。意味のある振り方ではないが、代わりに自分自身が道標だとばかりにエイストラを発射台へと導いて行く。
 何とも言えないが、ちらと視線を向けると鋼材の山だった場所も物資は随分と薄くなっている。本当に食べて大丈夫なんだろうか。
(ま、気にしませんけど)
 発射台に乗れば足を固定され、姿勢を低く加速に備える。
 滑走路に走る電流とライトアップされた道に、即席で美亜が用意した物とは言え、それに対応できる程の物資があるのはアサガシアとの大きな違いだろう。
(ステンバーイ、ステンバーイ、もぐもぐ。
 ステンバイ・コンプリィ!)
『…………。スタンバイ完了。
 エイストラ、ノエル・カンナビス。出撃しますので合図お願いします』
(はーいっ。ゲットレディ、ゴーッ)
 ぴょんぴょんと跳ねて指示棒を揺らすアリス妹の合図と同時に、僅かな浮遊感が起きて足元から前方へと引き込まれるように高速移動する。
 体勢を崩さないよう低く構えた姿勢のまま、エイストラもまた滑走路を抜けて空へと飛び立つのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
ダンテアリオン兵士に確認
「故障時に外からコクピッドを開閉できる装置がフィールドランナーにもあると思うのですけれど。場所と手順を教えて貰うことは可能ですか」
「自爆を選んでも、突進する時間の猶予がある筈です。その間に操縦士を救助できれば、少なくとも人的被害だけは抑えられるでしょう?」

UC「精霊覚醒・風」使用
殲禍炎剣の制限に掛からない最高スピードで飛行しつつ回避で敵翻弄
仲間同士の衝突では自爆を選択しないと思うのでその隙にコクピッドを強制開閉(無理なら破壊)して中の操縦士救助を狙う
シートベルトは桜鋼扇の縁で切り裂き操縦士は顎に掌底
無理矢理引きずり出しダンテアリオン兵士に預ける

「命だけは戻りませんから」


シャナミア・サニー
待ち時間(断章)が長い(メタい)

やっと出番だ
いくよ、『レッド・ドラグナー』!

魔改造武器かー
気になるっちゃ気になるけど
テストパイロットとしては
こっちの兵装試さないと
コレもたいがい尖ってるから

【メインウェポン・チェンジ】で
『スチームエンジン・ハンマーガントレット』チョイス
攻撃力5倍、射程半分
どうせこれ持ったら射撃武器なんて関係ないし

ドラグナー・ウイングの水平推力移動で
一気に接近、そして殴る!
「吹っ飛べ!!」
足とか関係あるか、一撃でぶっ飛ばせば問題なし!
攻撃の回避方法がほぼ無いからガントレットの表面で受け止めるしか無いかな
頑丈だからそう簡単に抜かれたりしないと思うけど
味方は殴らないように気をつける


チェスカー・アーマライト
開けた戦場ってのは
重量機にとっちゃホームグラウンド
キャタピラなら
濡れた芝生くらい悪路の内にも入らねー
装甲と火力を存分に生かして
正面から叩き潰してやんよ
だが地形有利は向こうも同じ
早めに隊長格を叩いて
敵の足並みを乱してやらねーとな

主砲に装填してるAPFSDS弾は
杭みたいな弾芯を
金属が融解する程の速度で叩き込むシロモノだ
バカみてーに貫通力あるんで
誤射には最大限注意しとく
火線を維持しつつ
必要なら盾役、囮役も買って出るぜ
相手はこっちの射線を切って
死角を取ろうとしてくるだろーが
タンクモードの超信地旋回は
素早くコンパクトに機動できる
砲塔の旋回速度も合わせりゃ
そう簡単に振り切らせねーぜ



●出撃の三幕ッ!!!
「やっと出番だ」
 運搬アームに牽引されるレッド・ドラグナーを見上げてシャナミア・サニー(キャバリア工房の跡取り娘・f05676)はむくれた顔を見せる。
「シャナミアは特に頼んでいる物は無かったな。何を不機嫌になっているんだ?」
「魔改造武器、か。気になるっちゃ気になるけど、テストパイロットとしてはこっちの兵装試さないとね。
 それよりも」
 シャナミアは眼前に佇むキャバリアをぺちぺちと素手で叩きながら、「待ち時間が長い」と不満をぶちまけた。
 今までの準備を考えれば待機時間はそれぞれの発進にかかる順番待ち程度のものであるが、視点の移動による時間軸のズレとそれに即したストーリー展開は文章の長さという形で展開され、その差異を実感してしまう存在、即ち第四の壁を打ち破ってしまう者も現れるのだろう。
 そう、それは世界を渡る猟兵という存在が故に。
 つまりどういう事だってばよ。
「断章が長い!」
 メタァァァァァいッ、説明不要!!
 昇降機に乗る赤き竜騎兵が上っていく様を感情の無い瞳で見つめて、美亜は小さく溜息を洩らした。
 屋上ではすっかり不要物が無くなり綺麗に片付いており、だからとそれには特に感想も無くシャナミアの乗るレッド・ドラグナーをアリスが誘導している。
「ギチギチ!」
(こちらでーす!)
『可愛い誘導員さんね』
 キャバリアによる体格差もあってペット的な感覚を持つが、そこから降りてしまえばそこらの猛獣よりも巨大な捕食者である。その時も同じ感想が出るかは別として、発射台に足をセット。
 滑走路に灯る光と電磁誘導による加速発射システムは彼女としても気になる所ではあるが、そう複雑な機能ではない。ならば見るべきは仕組みではなくその性能。
 このレッド・ドラグナーがどこまで飛べるかだ。
(生チキン、じゃなくて鳥の群れが通過したわー。進路クリアー!)
『何? 今、生チキンって言った?』
(射出システム、準備完了っ)
「ギギギッ! ガチガチッ!」
(発進、いけるわー)
『ま、まあ良いか。行くよ、レッド・ドラグナー!
 シャナミア・サニー、出るッ!』
 小さな音をたてて発射台の留め金が外れると、高速で滑走する発射台を蹴り出して背面のドラグナー・ウィングが大火を放つ。
 青い尾を引く赤の流星は、敵陣に目掛けて空を翔けた。
 ここまでの機体は飛行能力を持ち、無くても機体重量が軽いとそれぞれの特徴が出ていたのだが。
「あたしの場合はどうなんのかね?」
 チェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)。自走させるビッグタイガーは戦車形態のままであるが、この重量機がとても着地時の衝撃に耐えられるとは思えない。
 それでも美亜は自信満々で胸を張る。
「案ずるな、策はある。ただし、発射システムを使う際は人型になって貰うぞ。無論、昇降機に乗るにもだ」
「ま、大丈夫だって言うなら構わないぜ」
 美亜の言葉に全幅の信頼を寄せている様子でシガレットケースから取り出したスティック状の人参をくわえ、チェスカーはビッグタイガーへ乗り込むと車両の変形を開始する。スタンディングモード、つまりは人型のキャバリアへの変形だ。
 これらは全て手動でそれぞれの動作を行う為、まるでロボット玩具の変形合体を手作業で行っている様な感覚、それもこの機体が数世代前の型落ち機である事が原因だ。
(だが、開けた戦場ってのは火力を発揮し易い重量機にとっちゃホームグラウンド。
 キャタピラなら濡れた芝生くらい悪路の内にも入らねー、装甲と火力を存分に生かして正面から叩き潰してやんよ)
 時間をかけて車体を持ち上げ、逆関節式の脚部を備えた人型への変形する間に戦場の性質と自身の機体特性とを考慮する。
 問題は敵主力兵器にビッグタイガーとの類似性がある事だ。
(だが、地形有利は向こうも同じ。早めに隊長格を叩いて敵の足並みを乱してやらねーとな)
 変形を終えるとその間にはすっかり待機状態になっている昇降機へ、重い機体を力強く支える足で乗り込んだ。
 大きな軋みの音を響かせてゆっくりと上り始める姿はその機体の重さが見えるようで、ザンライガも同じくであったが。
『お次は?』
(オーライライ、オーライライライっ)
 屋上へと上がったビッグタイガーを妙にノリの良いアリス妹が発射台へと誘導する。その横には彼女たちの移動力を支える【関節肢】を器用に畳み、体を伏せたアリスらが前肢で更に器用に自分たちの糸を編んでいた。
『……まさか……パラシュート?』
(そうよー)
(シンプル・イズ・ベストって話だわー)
『おいおい、いや効果が有るのは知ってるが』
 発射台に乗って新しい野菜スティックをくわえた頃に、「出来たわー」と嬉しそうなアリスたちがわらわらとビッグタイガーの足下に集まると、そのままぴょんぴょんと飛び乗ってその体に取り付いた。
 それぞれ前肢に丸めたお手製パラシュートを所持しており、空中で減速・降下に着地をするつもりだろう。
「ギッチギッチ!」
(準備完了ーっ)
(発進、いつでもいいわー)
『信じてるからなアリス。くれぐれも落ちないでくれよ。
 ビッグタイガー、チェスカー・アーマライト、ゴーッ!!』
(ゴーゴー!)
 雄々しい叫びと同時にその重量にも負けずに電磁誘導で浮いた発射台が、そのまま滑走路を駆け抜ける。
 大量のアリスをその背中や肩に乗せて更に重量を増したビッグタイガーすらも力強く、大空へと打ち上げた。
(ひゃっほーっ)
(すごーい!)
『ぐっ、マジで落ちるなよ!』
 体にかかる負荷に呻きつつ、チェスカーは能天気な声を上げるアリス妹たちに声をかけた。
 賑やかな発進となったビッグタイガーの姿にレイ・オブライト(steel・f25854)は「オレのはそうなりはしないか」と運搬アームに運ばれたマグネロボ肆式超。
 前回搭乗した時とは違い飛行能力を有しているのだ、アリスらの協力は不要だろう。
「ロケットパンチ――、【EMR(エレクトロマグネティック・リペル)パンチ】も健在か」
 マグネロボの名の通り、磁力を利用して拳を飛ばす必殺技である。ぶっちゃけ必殺と呼べる程の威力を出せるかは猟兵次第だけど。
 しかしそんなロマンの詰まったワクワク兵器、どうせならば自分に任せてくれれば良かったものをと美亜は唸る。
「せっかくの機会、元々は試用兵器と言う話なら私の魔改造技術で存分に腕を鳴らしてやったが」
「こいつは超だからな。すでに魔改造されているようなモンだ」
 マグネロボシリーズとの付き合いも長くなりそうだが、レイは美亜に答えて以前も座った事のある肆式超のコックピットへ腰を下ろす。
 前回の戦いで完全破壊に近かったが、すっかり元通りだ。
(ゴッドハンドにスープをくれたのが良かったかも知れんな)
 ゴッドハンドとはアサガシア領の基地施設にいた整備員。冬季の仙丹を食べてメンタルが『ハイッ!』といった感じになっていたが、腕は確かなだけにマグネロボ肆式を肆式超として見事に復活させたのだ。
 とは言え、結局は肆式の性能は引き出されたというよりも猟兵、レイによって引き上げられた物だったので強化されたにも関わらず想定した性能を発揮できずに廃棄されたのだろう。
『逆に言えば、俺が乗れば奴の想定した性能を発揮できるはずだ』
 実際に彼が想定しているかは別としても、肆式の能力を引き上げたのならば肆式超でも同じ事が可能だ。昇降機に乗らず、テスト飛行とばかりにそのまま屋上へ向かう肆式超に美亜が慌ててアリスらへ連絡を入れる。
 屋上は開いたままなので問題はないが、急に現れた肆式超にアリスたちが慌てた様子で準備を進めていた。
「ギチチーッ!」
(緊急スタンバイよー!)
(はーいっ)
『これは凄まじいな』
 屋上に着地してシームレスに飛行できる肆式超の性能向上振りに、驚いた様子もなく呟いてアリスの案内に従い発射台へ足を固定する。
 流石にここから戦場へ直接飛ぶつもりはないようで、「無事に案内できたわー」とアリスは一息吐いた。
(進路クリアー、シグナル・オールグリーン!)
(?)
(良くわからないけどとにかくヨシッ、て意味らしいわー)
(へーっ!)
 和気藹々としている妹たちが準備を終えた滑走路から離れるのを確認し、同時に飛行態勢に入ったマグネロボ肆式超を確認してアリスは指示棒を掲げる。
 発進準備は整ったという事だろう。
『…………。ん? 何か言うのか?』
「ギイエエエエッ! ギィイィイィ!」
(お名前と機体名を言うのよー。合図してくれれば発進するわー)
『なるほどな』
 アリスさんの優しいご教授であるが、お声が怖くて思念波がなければ怒ってるようにしか見えないですね。
 とは言え付き合いも長い相手の機嫌など分からないはずもなく、レイは冷静に返して操縦桿を握る。
『マグネロボ肆式超、レイ・オブライトだ。――発進』
(はっしーんっ)
 無感動な言葉と同時に発射された台。
 電磁誘導で加速したそれに滑走路から解き放たれた肆式超は、以前の姿とは違い立派な雄姿を青空に描いた。
 これで全てのキャバリア、そしてスーパーロボットがこの空に飛び立った事になる。残るは。
「私の場合もアリスさんお手製のパラシュートになるんでしょうか?」
 頬を掻く御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。彼女は機体を借りている訳でもないので、元々の移動手段としてはキャンピングカーがあったのだろう。
 カタパルト式に発射されるキャンピングカー、大空を突き抜けるその姿は見てみたいような気もするが、そういった事にはならないと美亜は笑う。
「陸路を走行して冬季を拾って欲しいんだ。そのまま敵陣で戦闘を開始、冬季には途中で降車してもらい、周囲の混乱に乗じて行動してもらうとしよう」
「なるほど、それが良さそうですね」
 彼女の言葉に頷いて愛車へと向かう道すがら、猟兵たちの出撃の殆どが終わり町の警戒へと戻る兵士の一人を呼び止めた。
「故障時など、外からコクピットを開閉できる装置がフィールドランナーにもあると思うのですけれど。場所と手順を教えて貰うことは可能ですか?」
「ああ、それなら――、君!」
「はい?」
 兵士に呼ばれたのはたまたま近くにいた整備員である。敵主力であるフィールドランナーはアサガシアより奪取された代物、それらの整備や調査はダンテアリオン各所の整備工場で行われており、ここもそのひとつなのだ。
 桜花の質問を受けて整備員はそれならと場所の説明を始めた。
「頭部と胸部装甲の間にコックピットブロック・ハッチのロックを強制排除するハンドルがあるんだ。装甲で隠れてるんでそれを剥がす必要があるが、ハンドルを引けばロックを排除して強制解放可能ですよ。
 しかし何だってそんな面倒な事を?」
「敵は自爆機能もあると聞いています。ただ自爆するだけのはずもありませんし、自爆を選んでも、突進して接近する時間の猶予があるはずです。
 その間に操縦士を救助できれば、少なくとも人的被害だけは抑えられるでしょう?」
「な、なるほど」
 敵を救うという考えの無かった整備員は驚いているようだが、この兵士もまた猟兵たちとの戦いの中で救われた身なのかしたり顔で頷いていた。なんじゃいその面は。
 やはり猟兵、すべき事は変わらないのだろうと。
「自爆に巻き込まれる恐れが減るのは軍としても万々歳だ。その時は、よろしく頼む」
「ええ。それでは」
 外に停めてあるキャンピングカーへ向かう桜花を見送り、さてと美亜は昇降機に乗る。
 こちらは機体に乗るでもなくそのままの姿で上れば、美亜の目に映るのは発射台に玉のように絡み合って乗り込むアリスたちの姿だった。とてもじゃないが発射の反動に耐えられるように見えないが、アリスの糸でそこらを固定するなど考えはあるようだ。
「ギチチーッ! ガチガチガチ!」
(いくわよーっ!)
(それーっ)
(ゴーゴーゴー!)
 それはまさしく巨大なパチンコ。
 大玉となったアリス玉が雷光伴う発射台ごと射出され、自分たちの前肢でタイミングを合わせ糸を切りそのまま空へと解き放たれた。
 途中で彼女らも解け、ビッグタイガーと同じくお手製パラシュートを使用し強襲兵として戦場に降り注ぐのだろう。
「滑走路は自前がある」
 そう零して構えるのは左腕に装備された【神喰級空母の飛行甲板】、離陸着陸用の滑走路のついたそこから飛び立つのは新型光学兵器を搭載した小型戦闘機の群れ。それは最終平和兵器と呼ぶ美亜の力の一端。
 口元を歪めるだけの笑みに、こちらはユーベルコード【Operation;FRONTIER(オペレーションフロンティア)】により拳銃の形をした独特なボディを持つ戦闘機を召喚して飛び乗る。
『相手がキャバリアなら原寸サイズでも問題あるまい。私たちは、ずっと待っていたんだ』
 機体は滑走路目前。
『最終平和兵器。私たちは引き返せない。フォーメーションGF。
 ――こちらフロンティア、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだ。テイクオフ!』
 噴射口から火を噴き、後部のプロペラの回転速度を上げて滑走路を抜ける戦闘機の姿。空へと向けて駆け上がる翼はそのままの勢いで飛翔、機体下部からも銃火器を展開し美亜は未だ戦火の灯らぬよう尽力する戦場へ目を向けた。
『教えてやる。殲禍炎剣が封じている物の価値をな』
 小型戦闘機とともに隊列を成し空を行く飛行機の姿は、このクロムキャバリアには珍しい威力をもった航空戦力であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
※マグネ
※諸々歓迎

撃破時極力コクピットを避けるのは変わらない。そのための誘導弾だ
というわけでゴッドハンドの技の見せ所(?)か
相棒、見せてやれ
【UC】
疑似電磁バリア(『オーラ防御+属性攻撃(電気)』)の類は民間人の避難支援に用いる。オレより後方には流れ弾ひとつ抜けさせる気はない、単純に殴り落しても良いがな
『覇気』帯びた格闘、新搭載の装備およびそれらでの破壊を軸に敵機から次々もぎ取る携行武器(砲・煙幕系)を使い潰しつつ切り込む

荒野でもない街中で自爆とは穏やかじゃあない
ブチ抜く拳から伝わす『属性攻撃(電気)』で配線を焼き切り命令を遮断しての阻止を試すか
考えろ。ここがその理想に相応しい死に場所か?



●フロントライン!
 戦場へ向かう冬季の頭上を飛び過ぎる機体の数々。
 風を切り熱風を巻き起こし、高速で飛翔する装甲兵たちを見送って、冬季はそのまま歩を進める。移動手段は別に歩きだけではないのだが、戦場が混沌とするまでを見越しての移動なだけに彼にとって無駄に早く着く訳にもいかないのだ。
「……と、思っていましたが……」
 聞き慣れた駆動音、自動車だ。後方からやって来たピンクの車体に冬季は被っていた帽子を取り軽く頭を下げると、その前で停車する。
「冬季さん、ご一緒しませんか?」
 運転席から顔を出した桜花は声をかける。早く着くのは問題だが、わざわざ追って来た者を跳ね除ける必要も無いのだ。それにわざわざ来たと言う事は、こちらの目的を分かった上。攪乱される前の戦場で戦えと言うつもりは無いはずだ。
「そうですね、それではお言葉に」
(きゃーっ)
「おや?」
「妹さん?」
 頭に響く悲鳴に冬季と桜花が顔を上げれば、その遥か先を飛んでいくアリス玉。そこからぱらぱらと降って来るのは芋虫状のアリスの幼体、つまりは幼い妹たちだった。
 ぱらぱらと頭の上やら車の上やらに落下し、バウンドして地面に転がる芋虫集団。四十センチ程度の大きさとは言え先端部となる頭部に歯の並んだ円形の口があり、虫嫌いの方々はおろか常人ですら怖気の走る恐ろしい風貌である。
 そんなものが大量に降って来るんだから発狂もんだよね。別にアリスさんに文句を言っている訳じゃないよ。
 実際、すでに慣れた桜花や冬季はひょいとそれを拾い上げてどうしたのかと聞く余裕すらあるのだ。
(アリスたちはみんなで移動してたのー、でも勢いが強すぎて幼いアリスたちだけ落ちちゃったのよー)
「それは大変ですねぇ。かき集めましょうか?」
 間違ってないけど言葉遣いよ。
 冬季の提案に桜花も同意したが、そうしている間にもあっちにそっちに落ちてきている状況でこれらをかき集め、もとい助けるには時間が掛かる。
(大丈夫よー、車の屋根にいるアリスやついてこれるアリスだけ一緒に行くわー)
(他のアリスはそのまま町の内外で生息地を増やすのー)
(ライフラインを傷つけないようにしないとけないわね~っ)
(ねー!)
 まんまモンスターパニック映画の導入である。
 別に人を食わない訳ではないが無理に食う訳でもないので、とくに害はなかろうと判断する猟兵二人。猟兵の仕事は猟兵退治じゃないものね。
「繁殖地がどんどん広がっているようですねぇ。以前のアサガシアでは私が散らしてしまったのですが」
「アリスさんたちは頭が良いですから、大丈夫ですよ」
 石だろうがコンクリートだろうが餌としてしまうのだから、食料の奪い合いが起こる事もない。地下で広がるであろう彼女たちの棲み処で空洞も舗装工事より補強されるので、住居が倒壊する恐れは無いだろう。
 とりあえず車の前に出ないよう拾い上げたアリス幼虫に他の幼虫へ命令を送って貰い、冬季はキャンピングカーの助手席に乗り桜花はアクセルを踏む。
 キャンピングカーの桃色の屋根の上で、幼虫たちは集まりピクニック気分を楽しんでいた。

 エネルギープラント中継施設前。
 防衛しているとは言え、一向に攻めの姿勢を見せないダンテアリオン正規軍に、自由青空党は訝しんでいたようだ。
『何故、奴らは攻めて来ない』
 当然の疑問に、とりあえず思い立った可能性を述べる者も。
『恐らくは何かを待っている、としか。援軍でしょうか。あるいは施設内の民間人を気にしているのかも知れません』
『……ククク……! 我ら闇に紛れ陰に潜みし者。この無欠なる高尚な計画の前に彼奴らはすでに五里霧中、疑心暗鬼、呉越同舟。施設内の情報無きあれらに手だしなど出来はすまい。
 そう、戦わずしてすでに勝敗は決しているのだ!』
『呉越同舟って違くない?』
『なんか厨二なのか参謀系の雰囲気出したいのかごっちゃになってる気がするしな』
『覚えたての用語を使いたがるガキじゃあるめえし』
『くすん』
 四方八方からの口撃に思わず鼻を啜る男。豆腐にすら勝てなさそうな脆弱なメンタリティよ。
 だがどちらにせよ、と数を揃えたテロリストは正規軍の集めたキャバリア集団を見つめる。
『ガガンボにドッグ、か。脅威と思うべきはドッグだが、それでもこのフィールドランナー、あれの後継機だけあって性能差は歴然。
 こんな開けた地形で戦う以上は数と力押し、数で並び力で勝る我らに敗北は有り得ん』
『ならば出ますか』
『党首スンゲ・トブゼは施設に敵を入れない事を優先すべしと徹底防衛を命令したが、未だクーデターの成らん以上、ここは敵地と考えて良かろう。敵地で敵を前にただ待つなど機を与えるだけの愚か者のする事よ』
 それ党首は愚か者って言ってる?
 気まずい沈黙。自分の失言に気づいたのか饒舌だった男も思わず押し黙り、わざとらしく咳払いして「と・に・か・く!」と話を無理やり前に進める。
『敵勢が更なる力を得る前に第一陣を粉砕する。第一列、私の命令後に重狙撃砲斉射、連装機関砲を連射しつつ第二列と交替、第二列も第一列と同じく行動し相手の動きを見る!』
『了解!』
 勢いでそのまま押し切った男、恐らくは小隊長の一人であるその言葉に、部下らは返事を返して機体右肩の狙撃砲を展開、射撃体勢を取る。
 正面でそんな事をされて見えないはずもない。前面に展開するピンク色のキャンディーカラーのピンクでまとめられた、戦場に出て来るとか頭おかしいんじゃないのといった塗装の五機は即座に味方と、そして敵へ通信回線を開く。
『各機防御態勢、ドッグは盾を構え、ガガンボは後方に弾がそれないよう降下せよ!』
『貴様ら、我が方の背後には居住区になっているんだぞ! テロリストとは言え同じダンテアリオン、にも関わらず国民を盾にし、あまつさえ国民を攻撃しようと言うのか!』
『お前らが避けなければいい話だ、狙撃点を上空に定めなければ後方にそれる事もない!』
『理想も思想もわからんのにテロ起こすような、おちゃらけた奴らの言う事が信用できるかっ!』
『同じダンテアリオン国民を差別するって言うのか!?』
『犯罪者を犯罪者として扱って何が悪いんだ!!』
 軍事行動中にこんな低レベルな会話をする辺り、同じダンテアリオン国民である事に変わりはないっすね。
 だがそれも、時間稼ぎとしては十分な働きとなったようだ。
 ――来やがったな。
 索敵機の反応に笑みを見せたターバン、彼の駆る空色のガガンボが空を見上げる。
『何っ、うおおおお!?』
 同じく高速接近する機体の熱源に気づいた自由青空党であったが、地上に展開する正規軍を注視していた彼らは空より迫るそれらに気づくも遅く。
『一気に行くよ!』
 空に溶け入りそうな機体色に虹色を纏うのはブルー・リーゼ。【BS-Sホーミングビーム砲】リュミエール・イリゼは操縦者であるシルの意思に応じて撃ち出す方向を変じる全周囲攻撃型ビーム砲。
 同時に構えるのは美亜から預かったビームバズーカ、そしてメインウェポンであるのは自らの魔力を粒子兵器として射撃する【BSビームランチャー】ブラースク改、背面に搭載された二門のビームキャノン【BS-Sツインキャノン】テンペスタ。
 全ての光が空より注ぎ、反応の間に合わぬフィールドランナーを次々と粉砕する。
 あまりの光量に目を覆う光の幕とでもするかのような圧倒的火力。
『――っ、散開いいぃ!』
『各機所属の小隊ごとに行動しろ! 小隊長を失った隊は最寄りの小隊と行動を共に、新しい小隊長の選定をする暇はないぞ!』
『ポジション・シフト! ハリーハリーハリーハリー!』
 猟兵の急襲に対しても見事な反応を見せたテロリスト。おつむはからっきしだがそこは確かにダンテアリオン兵だった者たち。正誤はともかく即座に行動に移した彼らの現場慣れしたその動き、続々と戦場に飛来する猟兵も急動する敵機の姿に舌を巻く。
『猟兵、か。気に食わん奴らだが敵前線を乱し粉砕した事は評価してやろう。
 押し上げる! 各機援護を!』
『ストップです、みなさん』
 血気逸る、と言うよりは町への被害を抑える為の前進。そこへ待ったをかけたノエルは空より降下するエイストラをくるりと前転させて背面の噴射口で減速、着地に合わせて身を屈め機体への衝撃を分散する。
 負荷を避ける為であるが登場としては派手であっただけにアメちゃん小隊を含む味方前線の視線が集う。
『猟兵か。一応言っておく、貴様らには情報を貰った恩もあるし貴様らに命を救われたと感謝する兵もいる。
 だが! このダンテアリオンで、覇を成す我ら国家の手足である兵士に命令をすると言うのならば! 納得のいく説明をして貰おうか』
 全く、上から物を言う。
 ダンテアリオンという国家そのものの風潮でもあるが、それに何より軍の中でも特にその性能を評価されているであろうアメちゃん小隊、その隊長であるガラドにとって猟兵は煩わしい存在に変わりないようだ。
『分かっている事だとは思いますが。敵との性能差が大きすぎます。加えて同じダンテリ軍人さんですから操縦技術に差はない以上、敵に分があると見て当然です』
『ダンテリなどと蛮国アサガシアのような呼び方をするな!』
 蔑称だったんすかダンテリ野郎。
 ノエルはくっそしょうもないガラドの言葉に思わず半眼になったが、気を取り直して言葉を続ける。面倒なので謝りはしない。
『彼我の差が大きい以上、通常機ガガンボさんは戦場外周で周辺警戒を、通常機ドッグさんは遠距離から支援射撃をお願いしたいです』
『我ら栄えあるダンテアリオン兵が、足手纏いだとでも言うのか』
『どちらも必要な役割ではあるので、適材適所です』
 ノエルの言葉に低く唸り声を上げつつも、理に適った内容に反論はない。ガラ無敵モードで敵陣に突っ込んで敵と陣形を蹴散らしていこう。
『ヤキソバマックス発動!』 なんてね。
時間めいっぱいまで体当たりで敵を弾き飛ばしつつ、武器をいくつか回収。ドは了解と短く答えて味方全軍へと指示を出す。
 これでぶっちゃけ足手纏いの一般機ガガンボさんが戦場に出張って来る事もないだろう。同時にフィールドランナーに対し戦闘能力を持つドッグは戦場に残り、敵に対する威嚇対象ともなる。
 エース機に至っては戦力として。
(シルさんの攻撃で、敵は混乱してる)
 地面すれすれで芝生を削りながら高速飛行するブロムキィ。搭乗する錫華はシルにより乱された敵前線に、出来れば自らが一本鎗として突撃したかったがと笑いつつも展開したエネルギーフィールドの出力を引き上げる。
 敵前線を破壊する役目とは違っても、逃げ惑う敵の尻を追いかけ回し、無敵モードで陣形を蹴散らしていく。
『ヤキソバマックス、発動!』
 なんてね、と舌を出す錫華の茶目っ気ある所作と違い、帯電した装甲から電流を放つ。ブロムキィは破壊的なフィールドの出力を更に上昇、速度を上げて敵機の背後へ迫る。
『何ッ、だこいつは!?』
『時間いっぱい、目いっぱいやらせてもらうよ!』
 駆け抜ける風は嵐の如く。
 触れるだけで巻き取るように装甲を削り取るヤキソバマックスの力に、操縦席はかわしながら敵の戦闘能力のみを奪っていく。
『なめるなよ猟兵!』
 足の履帯をそれぞれ別に回転させる事で急速反転、構えた両腕の装甲を展開し、中に格納されたライフル三挺、左右合わせて六挺。
 まるで機関銃とでも言うように乱れ飛ぶ弾丸の嵐。
『くっ!』
 それにエネルギーフィールドを突破する力はないが、それでも速力を落とす壁にはなる。
 そう易々とやらせ続けもさせないが。
『行くぞ、【迦楼羅】!』
 ブレイズキャリバーである自らの地獄の炎に潜む金翅鳥。右腕の包帯から噴き出した炎は操縦席に溢れ機体を走り、その背面から出力された噴射剤にまで炎を灯す。
 急加速するザンライガがその分厚い装甲で弾丸を真向から受け止め、直接フィールドランナーに掴みかかる。
『ぬおおおっ、ぐ、こいつが!』
『悪いが、この距離は俺の距離だぜ』
 胸部装甲展開、四門の大口径機関砲がせり上がり、地獄の炎により貫通力を底上げした高熱量の弾丸がフィールドランナーの装甲を紙屑のように引き裂いた。
 自爆機能も阻害する地獄の炎の延燃により操作不能に陥ったそれを蹴倒して、弾丸を受けた装甲から煙を息吹くザンライガの巨体。その背中に錫華は助かったと一言入れて、同じく突進能力に長けたザンライガとは方向を違える。
『敵の火力は相当、今は防御に回ってるからいいけど、囲まれないように気を付けて!』
『ああ、そっちも無理はし過ぎないようにな!』
 炎の翼を開くザンライガを見送り、こちらも有限の時間を失う訳にはいかないと錫華はブロムキィの出力を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『敗残者の王』

POW   :    果てし者よ、惰眠にはまだ早く
戦場の地形や壁、元から置かれた物品や建造物を利用して戦うと、【戦場で破壊されたキャバリアの残骸や武装】の威力と攻撃回数が3倍になる。
SPD   :    望む終わりは未だ来たらず
【戦場に散乱する残骸で補修した即席改造機体】に変身する。変身の度に自身の【武装】の数と身長が2倍になり、負傷が回復する。
WIZ   :    数多の敗北を識るが故に
【機体に刻まれた膨大な『敗北の記憶』から】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

二天堂・たま(サポート)
ワタシは流血を伴わない攻撃手段が主だ。
武器:ケットシーの肉球による“負の感情浄化”や、UC:常識を覆すピヨの波動によるスタミナ奪取を多用する。

直接触れないような相手(体が火や毒で覆われている等)の場合はUC:アルダワ流錬金術を応用した攻撃が主力だ。
(火に覆われているなら水、毒液で覆われているなら砂嵐等)

しかし実際には直接的な戦闘以外の方が得意だな。
ボビンケースの糸を使った即席の罠の用意、料理や情報収集や掃除。
UC:親指チックで呼びだした相棒による偵察と、同UCによる居場所交代(テレポート)で潜入・解錠して味方の手引きとかな。

もふもふが必要ならなでても構わんぞ。UCで呼んだ相棒達(ひよこ)もな。



●猟兵、来る。
 火力だけで言えば猟兵相手でも引けを取らないかと見えたテロリスト・自由青空党のフィールドランナー。しかしそれは全軍での総攻撃による話であって、今のように狼狽えていてはどうしようもないだろう。
 だが彼らとて、いつまでも逃げ惑っている訳ではない。
『おのれ、いい気になりおって! 者共、出会え出会え~ぃ!』
『もう出会ってますぅ!』
 芝居が掛かった仕草で散開した小隊の内のひとつ、先頭を行く蒼白のフィールドランナーが履帯を利用して振り返る。彼の言葉に部下は声を上げつつも同じく履帯の回転を利用して反転、進行方向を変える事無く追撃する空色のガガンボと夕焼け色のドッグへ照準を向けた。
『我らこそはダンテアリオンに栄光をもたらす者、貴様ら信念無き権力の犬などにこの栄国ダンテアリオンは任せられん!』
『ふん、何を抜かすか。ダンテアリオンとは是即ち武力の国家!』
『我ら尖兵、栄光の足跡として選ばれた者! 貴様ら信念思想も知らぬ有象無象のテロリストにどうと出来るものか!』
『う、ううるさいうるさいっ! 精神論での勝負ではない、武力と言うのなら性能でしょ~ぶっ!!』
 顔を真っ赤にして言葉を返す小隊長。実にカッコ悪い返しに部下のみなさんも「あちゃ~」と天を仰ぐが、実力行使こそ戦場での本懐だ。
 語るまいとあらば好都合、そう笑うのは戦力差を理解出来ぬ馬鹿か自らの実力に自惚れる強者のみ。今回で言えばターバンとスージーは後者となる。
『スージー、前回は出来なかったがアレをやるぞ!』
『任せておけ、フォーゥメイションッ!』
『ヴァイオレット・メテオ・ストライカーその壱、夕焼けカタパルト空色ロケット弾!!』
 珍妙な言葉を吐き垂れてスージー機の腕に飛び乗ったターバン機。両肩に装備された盾の下、追加スラスターと足裏の履帯を利用した高速回転により、フルチューンして速力強化されたガガンボは更に回転力を上げたドッグをカタパルトに敵集団へ突撃する。
 しかし所詮はガガンボ。
『笑わせおってぇ、あれだけデカい口を叩いてやるのは正面突破とは捻りもない!
 飛んで火に入る夏の虫、ならぬガガンボよ! 全機照準、攻撃開始ィー!』
『イエッサー!』
 高速後退しつつ火線の集中。左肩の連装機関砲の高速連射は単体でも強力な弾幕を張れる。それが小隊を組めばどうなるか。
 小さく声を上げたターバンは機体を回転、背面を正面へと向け変えて噴口から爆炎を吐き出し減速、そのまま上昇して射線をかわす。
 さりげなくターバン機の後方についてきていたスージー機も盾を可動し機体前後を保護しながら、軸足を交互に切り替え木の葉のように機体の反転を繰り返し弾丸の被弾を抑える。
『ふふふははははは、さすがは我が軍のエェエスッ! しかし戦は数とそして性能で決まるもの!
 弾幕をすり抜けて来るつもりだったんだろうが、鉛弾の雨ならぬ壁となって迫るこの暴雨っ、逃れようとも逃れられまい!』
『暴雨じゃ結局雨だよね』
『しっ、ウチの隊長そういうとこガバいのに厳しいから』
 きちんとフォローしてくれる辺り、思いの外に部下からの人望は厚いようだ。
 並列した部下たちを左右に別けて、火線が集中しないよう別方向に避ける二機を追撃する。
『くははははっ! 無駄だ無駄だぁ、後退しながらの我らに回避で精一杯の貴様らに追撃など出来ようはずもなかろう!
 弾切れまで粘るか、えぇ!? それも良かろう、このフィールドランナーの総弾数を知って恐れ慄くが良いわぁーっ、がっはっはっはっはっはっはっはっ!』
 さっきから楽しそうねこの人。しかし彼の言葉通り追うに難いこの攻撃力。色が被っているからと蒼白のフィールドランナーを追走するターバンであったが、己が失策に舌を打つ。
(スージーと一緒とは言え、この数で挑むには無謀だったか。信念なきテロリストも照準の付け方に引き金を引く事も出来る、腐ってもダンテアリオンの一兵士!
 油断大敵ってヤツだ!)
 兵士が感情に任せてたった二機で敵小隊に挑むんじゃあない。
 敵の注意を引く為ならばいざ知らず、攻撃部隊として機能するには性能差を前に数が足りないのだ。そう、つまり敵の注意を引く為ならば。
『フロントがガラ空きだ』
『…………っ!?』
 左右に別れた射線、ならば中央と突如姿を現したのはヴェルデフッド。警戒色とばかりに目立つ黄色の電撃銃は、スージー機を狙って油断を晒していたフィールドランナー一体のコックピットブロック。
 撃ち込まれた弾丸は弾頭が潰れて芯と共に敵機装甲へと食らいつく。同時に放たれた電流が内部回路を焼き尽くした。
『電撃っ!? システム異――』
 ぶつりと切れた言葉にシステムダウンが発生したかと部隊長は悔し気な唸り声を上げた。
 猟兵の登場、分かり易く危険性を示した晶にフィールドランナー部隊の視線が集中し、同時に照準が向けられた。
『ウィリアム、ミラージュ装甲再展開!』
『オーケイ、マスター』
 晶の命令を承諾するウィリアム。ヴェルデフッドの【ナノステルスミラージュ装甲】はナノ装甲と特殊な粒子で電磁波を偏向させる事で、一時的に自らを景色と同化させる機能を持つ装甲である。
 だが敵の眼には、寸前まで居た猟兵の姿が焼き付いているのだ。一瞬で味方を行動不能にした敵の姿が。
『止さんか同士討ち――』
 照準を向けたままの部下の姿に気づいた部隊長が思わず制止の声を上げるがすでに遅い。
『迎撃ぃ!』
『ちょ待っ、危ない危ないって!』
『ちょっと男子ィー! 当たってる当たってるぅー!』
『ああもう、撃ち方止めぃ』
 あっと言う間に乱れた隊列に途切れた火線。
 この機を逃すはずもなく、瞬時に状況を把握したヴァイオレットなんちゃらさんたちが機体の方向を切り替えて最大出力で敵小隊目掛けて加速する。
『ぐぬぬっ、隊列を立て直せ! 両翼外側二機は周囲警戒、戦列中央、正面の敵!
 撃ち方用意!』
『撃ち方用意!』
『撃ち方用意!』
 相変わらずの統制能力。ここはテロリストに落ちたとは言え流石の軍国主義国家の如きダンテアリオン、その実力は以前見た通りだ。
 姿を隠し、引いたであろう敵機に警戒しつつ、正面突破を目指す敵への対処はお手本通り。懐に潜っているのならば即時の攻撃があるはず、その攻撃が無い事から後退して同士討ちを狙ったとの判断だろう。
(同じ手を食らったな!)
 機体左右両腰にマウントされた【ビームダガー】を逆手に抜き放ち、刃を発生させる。離れてなどいない、ヴェルデフッドは既に敵戦列の内側へと潜行している。
 その気配に気づいた時にはもう遅く、それは同士討ちと続く二度目の致命的な判断の遅れだ。
『な、何だとぅ! 貴様!』
『ウィリアム、EMP出力最大! 派手にぶっ放せ!』
 背後から牙と突き立てられた粒子光が装甲を削る中、晶の言葉を受けてユーベルコードを始動する。
 ヴェルデフッドの肩に装備された【複合型ミラージュレーダーユニット】は電磁波によって索敵や指向性を持たせる事で一時的に索敵を妨害する効果を持つ。
 【Electromagnetic field(デンジハリョウイキテンカイ)】はレーダーユニットの性能を限界まで引き出し戦場全体に強力なEMPを放つ。至近距離にいる敵部隊に対するダメージは勿論、効果の及ぶ戦場全体にジャミングと電子機器への麻痺効果を与えるのだ。
 特筆すべきはユーベルコードの力もあり、この効果を敵味方に識別し付与できる事。
 まるで閃光弾が炸裂したかのような光が敵の視界を奪い、衝撃をもって拡散する電磁兵器に吹き飛ばされるフィールドランナー。いくら装甲が厚いとは言え噴射口を持つ背面でこのような力が炸裂すればどうしようもない。
 芝生をめくり上げて転がる彼らが起き上がる事は最早無いだろう。全ての機体がシステムダウンを引き起こし、二度と火が灯る事のない鋼の兵士の前に、ターバン機とスージー機が辿り着く。
『俺たちを餌にしやがったな』
『手こずってるようだから手を貸したまでだ。あんたらとは久し振りだな、今度は味方だから撃つなよ?』
 スージーとしては分かっているとばかりだったが、ターバンと晶は直接の面識がある。それも捕虜として囚われていた時分にだ。
 今回の件も彼らの落ち度であるが、どちらにせよそのプライドが傷つけられたのは言うまでもない。押し黙るターバンに、さすがに後ろから撃つような真似はしないだろうと溜息を吐きながらもウィリアムに声をかけハッチを開かせた。
『! 正気か、すでに戦場となっているこの場所で……自殺行為だ……!』
「そちらが壁になってくれているからな。それより」
 ほれ、と差し出したのはチェスカーから頂いたアメちゃんである。小さな包みに何だそれはと眉を潜める二人だったが、例の如くそれがアメちゃんだと知ると慌てふためいてコックピットを開く。
 おいおい自殺行為してる奴らがいるぞ。
「ほれ、大好きな飴だ、ターバン、あとスージーも。両大尉のお気に召すようなここいらでは手に入らない高級品だぜ?」
「……ぬぅ……」
「ターバン」
 受け取った包みに苦々しく顔を歪める男へ、スージーは咎める視線を送る。ここまでされて敵対的な態度は取れないだろうとする彼女へ、ようやくターバンは首を縦に振った。

 炸裂した光と共に戦場の隅々にまで行き渡った力の波は散開するフィールドランナーを襲った。索敵機は勿論、通信も出来なければ照準をまともにつける事さえ出来ない。性能で勝っていたはずのフィールドランナーが、一瞬にして旧式のガラクタにも等しい状態にされてしまったのだ。
『くそ、各機通信回線は回復しても開くな、傍受の防護も出来ない! 全て外部拡声器を使って――、格納してある予備のバッテリーも引き出せ!
 全て挿げ替えて機能の回復に努めるんだ、全て手作業だぞ。急げ、敵は待ちはしない!』
『ひえぇえーっ』
『こいつぁどんな訓練よりもハードだぜーッ!』
 平和ボケしてるんじゃねえ実戦だぞ。
 大慌てで周囲を目視で確認したり、警戒しつつの修理を始める自由大空党員たち。あまりの忙しさに悲鳴をあげる者もいればどこか嬉しそうな者もいる。
 そんな状態で、ただでさえまともに計器も働かぬ機体を引きずって周囲を警戒できようものか。
『無理だね』
 現れたのは隠密行動なんて糞食らえとばかりのピンクカラー。
 アメちゃん小隊の一人、マーレイと呼ばれるその者は距離を離した背後に同型機であるドッグを引き連れて戦列を組み立てている。
『敵機接近しているぞ、警戒! 索敵! 何をやっている!』
『ムチャ言わないで下さいよー!』
『敵が既に射撃体勢で展開されているっ、マニュアルで照準合わせろ! 射角は撃ちながら調整、全砲門を開いて撃って撃って撃ちまくるんだ!』
 遅い遅い。
 反撃体勢に移行する敵を前に、マーレイは意地の悪い笑みを見せて機体の右腕を高々と掲げた。
『ろくに動けもしないガラクタ引き摺って何が出来んのって話よね。ほれ、斉射』
 小言を交えた号令と共に振り下ろして、並んだドッグの可動式武装盾、その裏に配備された二門のロケット砲から砲弾が射出される。
 離れた距離に携行する短機関銃ではフィールドランナーの装甲に対し有効ではない。とは言え砲弾では簡単に避けられてしまうこの距離を、存分に活かせるのは晶とヴェルデフッドによるものだ。
『ただでやられて堪るか! 両腕防御、連装機関砲をマーカーに狙撃砲で蹴散らせ!』
『そうは言いますけどぉ!』
『泣き言を言うなボケナス! 人々が泣かないように訓練を続けてきたんだろうが!』
 うるせえぞテロリスト。
 なぜか正義の味方を気取っているテロリスト連中であるが、彼らを激励する黒塗りのフィールドランナーは言うだけあって反応が鋭い。部下に命じた事をばっちりと決めつつ左右に体を振る動きは、あの機体で考えると非常に難しい行動だ。
 それをさらりと決めるとは。
『ちょーっちマズいな。各機、射撃終わりに防御態勢、順次回避行動』
『了解しま――ったぁあ!』
 機関砲による火線を文字通りマーカー代りに、手動で照準補正を行った黒塗りの狙撃砲。砲口から炎を噴き上げて発射される弾頭に、直撃する前から直撃コースを悟った男の悲鳴が響く。
 どうやら返事に気を取られ回避行動が遅れたらしい。新兵かお前は。
 だが放たれた砲弾にもはや区別などはない、ただ狙い定められた所へ突き進むのみ。かわす術なきドッグはどうしようもなく、戦場に響く炸裂音。
『…………! ……何だとぉ……!?』
 驚愕するのは砲撃した黒塗りのフィールドランナー。
 直撃したはずのそれは装甲を食い破る事なく、まるで弾き返されたように、否、弾き返されたのだ。重装甲かつ曲面装甲を持つドッグとは言え、狙い違わぬこのフィールドランナーの火力を真正面から跳ね返す力などありはしない。
 事実、そこにいたのはドッグの質量を支えに自らの体を盾とした白いキャバリア――、エイストラだった。
『馬鹿な! あんな細い体でこのフィールドランナーの攻撃をっ?』 
(これがガーディアン装甲、なんて説明する必要はありませんけど)
 表面装甲から放射された衝撃波により弾き返したエイストラ、ただ咄嗟の行動故にその衝撃の全てを受け切れるわけではなくドッグを支えとしている。更には方向が合わせられただけではAI制御と違い突端を綺麗に直撃させるのも難しい。
 ノエルの当初の予想通り、といった所だろう。
 ともかく、敵に動揺の走った今こそ。
『ぼーっとしてんじゃないよ、とっとと態勢立て直し。反撃行動開始』
『ひええっ、こっちもムチャ言う~!』
『猟兵に守られといて何言ってんの』
 弱音を吐く部下たちに苦々しく答える。アメちゃん小隊としては直接の面識がない上に指導者たちの居場所も猟兵たちが先に見つけるなど、軍としても遅れが目立ち恥じているのだろうが。
『ふっふふふ! 立ち直りが遅れているという事は!』
『即ち先に準備をしていた俺たちの方が早いという事!』
『要はこっちの番って事だァー!』
 正規軍の泣きっ面に勢いづいたのは勿論、テロリストの面々である。手動操作で戦線に復帰した自由青空党による機関砲の一斉射撃は弾幕となり、焼けた鉄風が迫り来るのだ。
 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。あらぬ方向へ飛んでいく弾丸は言わずもがな、動く目標に合わせようと蠢く射線は戦場を走る狗たちを狩り立てた。
『へっ、そう簡単に的は絞らせねぇんだな、これが!』
 芝生を掘り返して急旋回、先頭のマーレイ機をも通り越して戦場を横断するのは鉄の塊、重量級の巨大戦車、ビッグタイガーだ。
 口角を吊り上げたチェスカーに、高速連射されるも収束されなければただの豆鉄砲だと弾き返すビッグタイガーの姿は否が応にもテロリストどもの視線を釘付けに。
『……戦車……、いや、可変式のキャバリアか!』
 似た機体に搭乗しているとは言え、即座にその正体を見破る小隊長の慧眼はさすがと言えよう、それに目を奪われている間に飛翔急加速したエイストラがビッグタイガー上に着地。
 敵陣目掛けて走るチェスカーへと言葉をかける。
『チェスカーさん、正規軍さんに攻撃が向かないよう威嚇射撃、翻弄といきましょう。正規軍さんたちにも手柄を立てさせてあげないと逆恨みされかねませんし。
 何よりこちらが攻撃を集中して敵を取りこぼすより、敵をこちらに集中させるように動いた方が被害も減るはずです』
『こっちもそのつもりだ。盾役、囮役も買って出るぜ。それとは別にこっちの主砲を使えば引き寄せるには丁度いい』
『ぬぅ! 各機足を回せッ、防御態勢だけじゃあ駄目だ、命中率が落ちてもいい! 敵の射線に捕まるな!』
 回る砲塔に脅威を察した黒塗りの命令に、慌てて履帯を回すフィールドランナーたち。火線の乱れが激しくなり、正規軍にさえ向かない弾丸だがそれも牽制だと同士討ちにだけ注意させ、射撃を続行させる。
 まるで針鼠か山嵐か、恐怖をそのまま攻撃に変えたようなフィールドランナーの対応に上等だと笑みを見せるチェスカーとノエル。
『失礼!』
 ビッグタイガーを足場にそのまま跳躍、多数の振動フィンによる衝撃波干渉で空気を加速噴射する燃料不要のブースター、【EPバイブロジェットブースター】。
 そんな直線的な軌道でか。
 迂闊な行動を見逃しはしないと嘯く黒塗りのフィールドランナーは背面の連装機関砲だけでなく両腕の装甲までも展開する。並ぶキャバリア用の小銃が唸りを上げれば、ただの一体で十機近くの弾幕を狙い撃つ。
 すでに機体の癖も理解したか、照準制御がなくても手動で全ての補正を済ませているのだ。口先だけの男ではない。
(本当に直線的か、さて)
 バイブロジェットとエイストラのメインスラスターは別設である。メインはそのまま、バイブロジェットによる多角方向への加速が軌道を複雑化、一気に黒塗りの射線からの離脱――、などと簡単にはさせないのが小隊長。
『舐めるなよ猟兵! ならば拡散連射するまでだーっ!』
『【H・S・F(ハーデンド・ショックフロント)、ラディエイション』
 両腕部搭載小銃の射角を変えて広域拡散するフィールドランナー、同時に発動するのはノエルのユーベルコード。
 先程と同じくナノクラスタ装甲を利用した全方位へと超音速で放射される高硬度衝撃波、範囲内の全員を高威力で無差別攻撃するという代物だ。圧倒する威力の代わりに味方をも巻き込みかねない攻撃だが、今、先行するのはエイストラ一機のみ。
 そして敵勢への接近は完了している。
『…………!?』
 不可視の威力が炸裂し、フィールドランナーの装甲を叩き関節部からばらばらに引き裂いた。
『どっひゃーっ! 小隊長がこんな簡単に!』
『そんな馬鹿なーっ!?』
 最も近くにいた黒塗りは勿論、その他周辺のフィールドランナーを纏めて薙ぎ倒したエイストラの動きは止まらない。飛び込んだ先でも更に跳躍、空中から左肩の【BS-Sプラズマキャノン】で狙いを定め、衝撃を受けて動きを止めたフィールドランナーの武装を次々と砲撃していく。
 粒子ビームに貫かれた武装は爆損し、光はそのまま地面に刺さり炸裂する。
『ぷわっ、目が!』
 閃光弾のような光は自由青空党員の視界を奪い、機体による恩恵を受けられぬ彼らにとって視界を奪われる事は致命傷だ。
『いいねぇ、これならただのダックハントだ』
 慌てふためき再び回避行動へ移るフィールドランナーの群れに、チェスカーは野菜スティックを齧りながら照準を定めた。
 主砲に装填されたAPFSDS弾は塑性流動による相互侵食で装甲の厚さを抜く長ささえ確保すれば、その強度を無視して貫通可能だ。
(杭みたいな弾芯を金属が融解する程の速度で叩き込むシロモノだ。バカみてーに貫通力あるんで誤射には最大限注意が必要って所だが)
 正規軍はすでに後方、突出するエイストラも空を行き地上を走るフィールドランナーを前に誤射する方が難しい。
『さあ、ハントの開始だ』
『ひえっ』
『マンハントを楽しもうとしている人がいるぅ!!』
 恐怖に怯えている様子だが戯言を聞く気は毛頭ない。
 発射直後に跳ね上がる砲口、直前にそこより飛び出した砲弾は標的へ向けて直進し、分離する装弾筒に露わとなった弾体は矢状となり、風を切って自らの位置すらわからぬ哀れな獲物へとその牙を突き立てた。
 着弾時の発光は紅く、フィールドランナーの装甲を貫き胸部から背面へと通り抜けた。
 反応すら出来ずに戦闘不能となった敵機にその威力を示したビッグタイガー。重い音を響かせて次弾が装填される。
『今の砲撃、砲撃か? あの重戦車か!』
『フィールドランナーの装甲を意に介さないなんてッ』
『驚いてる暇はないんだよねぇ~。各機、攻撃開始。出遅れはこっちに続いて、接近してサブマシンガンで仕留める』
『了解しました!』
 今回はしまったとはならず、きっちり言い終えてマーレイ機に続くドッグは味方の砲弾を掻い潜る。
 小隊長を失い、猟兵各機の攻撃により連携を分断され火力に怯えた鋼の体は、委縮した犬にも劣る。
『後は残党を蹴散らすだけだ。あたしらも合わせる! もう一踏ん張り、行くぞ!』
 最大加速でこちらを追い抜いたピンクカラーを先頭にするドッグに倣い、【連携戦術(ヨユウガアレバヒトヲタスケロ)】を実行するチェスカー。
 逃げる敵への行動予測、恐怖に乱れる弾筋を難なくかわすエイストラに続く第二陣は先程までの新兵丸出し軍人の姿はそこにない。これこそが彼女のユーベルコードであり、士気を上げるように同じ目的を持つ味方の能力を引き上げるのだ。
『逃げ回る敵に面白いようによく当たるッ』
『これがいわゆる、ゾーンってやつか!』
『生死を前に能力が覚醒するというアレが発動したのか!』
 違わいバカタレ。でもそういう誤解も士気に関わる力となれば、わざわざ解く必要もないのだ。
 すっかり調子に乗った部下たちに即座に作戦変更、自らと並列して壁となり追い立てるマーレイ。彼らの性能を活かす為に隊列を変えた彼に合わせ、ノエルもビーム砲による支援射撃で敵の逃走経路を塞ぎ、またチェスカーは副砲に装填された榴散弾が装甲を叩く。
 礫ではフィールドランナーの装甲を抜く事は出来ないが、混乱に陥った敵を誘導するには十二分だ。
 ここでの戦いもまた、すぐに決着となるだろう。


●内容はシリアスなのに絵面がシリアスにならないんだよね。
 空を行く白い影。
 逃走していた自由青空党の紫色の小隊長機はそれを目で追っていた。追走する敵機を逃さぬと。
『奴の攻撃が我らの陣営に混乱を招いた。生かしてはおけん、この苛々をぶつけてやる!』
『……やっぱ紫色って欲求不満なのかな……?』
『知らねーけど苛々してるって事は悶々としてるって事だろうぜ?』
『略式処刑!!』
 女の言葉に思わず嘯いた部下ら二名へ履帯を逆転し高速反転、そのまま砲撃して沈めてしまう。欲求不満とかいうレベルじゃねえぞ。
 至近距離からの狙撃砲でその身を貫通されたが、さすがにコックピット直撃と言う訳ではないようだ。操縦席周辺に爆薬が設置されているにも関わらず爆発しない所を見ると、きちんと手順を踏まなければ起爆しないようにそれなりの加工がされているのだろう。
 そうでなければ重装甲とは言え、火薬の多いこの機体を扱うのは怖いと言うものだ。
(でも……まさか味方を撃つなんて……)
 お笑いテイストながらやっている事はただの弾圧である。それを小隊長とは言え党首でもない者がやっているのだから、彼らの成そうとしているものが階級を絶対視する暴力的な社会に相違は無いだろう。
『ダンテリさんたちの思想も危ない気がするけど、あなたたちが覇権を握るのも危険そうだから、きっちり止めさせてもらうからね!』
『寝言をほざくなよ、いつまでも逃げてばかりだと調子に乗るな! 全機反転!』
 女の命令を受けて履帯を利用し高速回転を決めるフィールドランナー。あまりにも見事な同タイミングでの反転から進行方向も速度も変えない統一された動きに思わず見とれてしまう小隊長と、どや顔を決める党員たち。
 制御AIも上手く働かない中でこれだけの事をやれたのだから、誇っていいよ。でもここでやる事じゃないんだよなぁ。
『えっと、攻撃するね?』
 注意散漫な彼らに気が引けたようだが、攻撃の機会を逃す訳にもいかない。
 美亜から入手した拡散ビームバズーカを放つ。シャワーのように空から降り注ぐ光の筋が次々と炸裂する中、どや顔で直線軌道を取っていた馬鹿者どもが避けられるはずもなく脚部や腕を爆損していく。
『貴様ぁ、この美しい隊列を見て何とも思わないのか!?』
『え、いや、うん、でも……えぇ……』
 とんでもない言いがかりに困惑するシルだが、そんな言い合いに傾ける耳は必要無いのだ。
 そして。
『ふん、レーダーが利かなきゃあなあ、気づく訳もないよなぁ!』
 フィールドランナーの進行方向、ブルー・リーゼやザンライガの攻撃によってめちゃくちゃに荒らされた芝生。その中には破壊痕に紛れて塹壕が設けられていた。
 その中に潜むのはアメちゃん小隊の隊長ガラドとその右腕、コタロー。威勢の良い言葉を吐いたのはコタローで、策の通りとばかりの敵の動きに彼の後ろに続く同型のドッグたちもほくそ笑んでいるかと思いきや。
『……あのぅー……』
『ここって勝手に使っていいんですかね?』
 思わず声を潜めるドッグの群れの隣では、今もせっせと塹壕を設ける節足動物らしい生物の姿。
「ギイィエエエエエッ! ガチガチガチガチ!」
(急ぎなさーい! 馬車馬の如く働くのよーっ)
(はーいっ)
(えっさ、ほいさ!)
 自らの分泌物で造り上げた糸をより集め、鞭のようにしならせたそれで自らと同じ姿の妹を叩くアリス。彼女らの甲殻からすれば撫でられた程度にも感じないだろうが、まあ気分っすよね。
 施設への道を造ったように、破壊によって柔らかく耕された地面をそのまま塹壕へと作り替えているのだ。
(そういえばトンネル開通したけれど、大丈夫だったかしらー?)
(最終チェックなら今使ってる兵士さんたちの誰かが多分確認したからヨシ! よ~)
 塹壕をぺっぺと固めながら割と無責任な言葉を交わしている。とは言え、実際に固めながら強固に造ってきたのだし、確認すべきは後に使う者こそが適任であるのは確かだ。今は緊急事態だから絶対確認とかしてないだろうけど。
 そんな彼女たちがやっているのはフィールドランナーへの対処である。
 自分たちが姿を隠せる塹壕であり落とし穴。アリスたちは完成した塹壕から更に穴を掘って地中に潜行している個体もいる。
 そんな塹壕なので数の割りにアリス妹たちがいない場所もあり、そこへダンテアリオン正規軍がやって来たという訳だ。
 彼らの目にはアリスという存在もこの世界にあり触れた者として映るので、幼女が素手で高速穴掘りをしているようにでも見えるのだろう。怖いよね。
『しっ、見ちゃいけません!』
 ガラドも思わず声を引きつらせる中で、部下たちは従うしかない。
 そんな伏兵など露と知らず、追い立てるシルへ向けての対空攻撃を行う自由青空党員。青空を引き裂く赤い火線を、白い影は機体を旋回させてすり抜けるようにかわしていく。
 緩急をつけ鳥のように自由自在の見せるブルー・リーゼだが、欲求不満パープルレディは鳥を捕まえるのは得意だと笑って見せた。
『線で捉えようとするから駄目なのだ。所詮はキャバリア、物質として存在する以上、捉えられないという事はない!
 各員AからD面で対応、E以降は横軸軌道、いくぞ!』
『隊長っ、AIが上手く働かないのでよく分かりませぇん!』
『何をぉ!?』
 当たり前なんだよなぁ。
 複雑な射撃により弾幕を構成し、虫取り網の如く機体を捕えようと考えていたのだろうが、それを行うには手動での操作は辛いと言うもの。更に射撃の複雑化を察したシルは更なる回避行動へと移る。
 緩急をつけた動きの鋭角化。まるで中空に稲妻を描くかのような軌道に照準を定められない自由青空党員。
『まだまだ、行きますよ!』
『!! 何とぉー!?』
 鋭角化した軌道の頂点毎にランダムで残された機影は残像。自由青空党員へ追走しているとは言え、二次元的ではない三次元的な軌跡は取り残された機影を壁の如く、攪乱するだけでなくブルー・リーゼの姿を隠していく。
 その隙間から差し込まれる拡散光に、牽制どころか退避するのがやっとの部下を叱咤しつつも。
(……おかしい……なぜ、奴は先の様な一斉射撃を行わないのだ? 回避を織り交ぜているとは言え、この武器しか使わない理由はなんだ!?)
 先のように火力を集中させれば更なるダメージを彼女の部隊に与える事は必至。で、あるのにそれをしない理由とは何だ。むしろ、やられていれば自分はどう行動するか。
 勿論、対応できない火力となれば再び散開するしかない。弾幕は凄まじきとは言え所詮は一機、的を散らすのが当然の対応。逆にそれがないから自分たちはまとまり火線を集中して。
『…………!』
 そこでようやく気付く、シルの目的に。
『ま、まずい、各機前方索敵――』
『――遅いんだよなァ!?』
 十分な距離へと誘い込まれた自由青空党員に、塹壕から姿を見せたダンテアリオン正規軍。
 可動式武装盾のロケット砲だけでなく短機関銃による攻撃も集中させる。有効射程距離であれば豆鉄砲でもフィールドランナーの装甲を削るには十分、それだけでなく奇襲による敵の錯乱を誘う為にも火力を集中させた理由もあるが。
『うひぃいいいい!』
『状況不明! 状況不明!』
『お、俺は敵から逃げつつ攻撃していたと思っていたら、いつの間にか――、ドワオ!』
『よ、よくもこんな!?』
 一瞬で混乱に陥った自軍の波に紛れ、味方を盾に正規軍の集中砲火を逃れるパープルレディ。非道ではあるがパニックパニックな味方をあっさりと見限り、冷静な味方が自分と同じ行動をするように道を示すのはある意味で有効と言えよう。
 盾となった自軍を背中に、見上げるのは再び七色の光を纏うブルー・リーゼ。背面の二門を伸身して狙いを定め、ブラースク改も持ち出した敵機がこの混乱に乗じて最大火力を叩き込もうとしているのは目に見えていた。
『やらせるものかよ、白い奴!』
『カウンター!?』
 即座の反撃に攻撃を中断して機体を急降下きりもみ回転させるシル。同時に「ぷはーっ」と紫のフィールドランナー足下に顔を出したのは地面を潜行していたアリス妹たち。空を見上げるパープルレディが彼女らの存在に気づくはずもなく、混乱する自軍の中で味方を壁に足を止めていた機体をそのまま地中へと引きずり込む。
『!!』
 下半身が丸々と地面に沈み、目を見開く女の攻撃は回避に舵を切ったブルー・リーゼに触れるどころか在らぬ方向へと弾は散り、彼女だけでなく他の機体も次々と下半身を地面に埋没していく。
 いくら走破力の高いフィールドランナーと言えども、足を丸々と埋められてしまえば走行は不可能だ。
『ありがとう、アリスさん。……ギアを入れて……行っくよーっ!』
『くくく、来るなぁーっ!』
 待てと言われて待つ馬鹿はいないし来るなと言われて来ない阿呆はいないのだ。
 なお時と場合による。
『そう簡単にやらせるかっ、聞こえる者は私に続け、例えこの身が塵芥になろうとも!
 我らが戦意を挫いたあの者を生かしてはおけん! 全軍攻撃、パターンB! っしゃああああああああああああ!!』
『特攻だぁー!?』
『塵芥なんて嫌だァーッ!』
 地面に触れるか触れないか、地面すれすれを平行に最大加速で進行するブルー・リーゼ。正面ならばと背後の攻撃を無視するパープルレディに何のかんの言いつつも砲撃を集中させるあたり、彼らの信頼は得ているのかも知れない。
 地平線から迫るような砲弾の雨霰に対し機体を回転してその間を抜き、残像を拡げて敵の目を眩ますブルー・リーゼ。
『そんな馬鹿な! 相手が行っているのは二次元軌道だぞ、なぜかわせる!?』
『【エレメンタルドライブ・ダークネス】――、このモードのわたしを、簡単にとらえられるとは思わないでね!』
『……黒……、黒だと!?』
 白き幻影の中から現れたのは闇を纏うブルー・リーゼ。戦いの中で掘り返された芝生と土に溶け込むような影の色は、幻影として広がる青と白の色の中に溶け消える。
 故に彼らが狙っていたのはそもそもブルー・リーゼの本体ですらないのだ。
『…………、隊長、なんか俺たち目立ってないっすね』
『言うな』
 コタローの言葉に答えるガラド。一斉射撃を行う彼らこそ戦場の華とばかりのはずであったが、対岸の火事とばかりにパープルレディは気にしちゃいない。
『だが、種が割れればそれまでだ! もう逃さんぞ猟兵!』
『それはこっちの台詞!』
 シルの始動したユーベルコードはただ闇を纏うものではない。闇の精霊ダークネスの力を借りる事でその速度を増し、更に本来ならば星の輝きの如く光る光刃剣、【BXビームセイバー】エトワールも闇に侵され漆黒を湛えている。
 これぞ闇の精霊ダークネスに祝福されし刃。
『この距離はすでに、わたしの距離っ!』
 焔と滾る漆黒が、一振りの軌跡に疾風となる。
 剣より遥かに離れた間合いからも構えた武器を肩口から切断され、されど退く意志の無きパープル・フィールドランナー。
『そんな事で、この私がァ!』
『……そして……ッ!』
 この距離はすでに剣の距離だ。
 駆け抜けたブルー・リーゼの一閃が、小隊長の残る腕をも斬り落とした。
 背面の武器ごと叩き切られてパープルレディは思わず沈黙――、する事無く。
『ふははははーっ! 甘いっ、甘いぞ猟兵! その低空では我らの機体群を突破する事能わず!
 故にこれが我らのパターンC!!』
 パターンC、いわゆる自爆ですね。
 勇ましく破滅的な言葉を吐いたパープルレディの言葉に浮足立ちつつも続くのは自由青空党員。思想も理念も知らない癖に何故ここまで命を懸けられるのか。
 アメちゃん小隊率いる正規軍も思わず塹壕に機体を伏せさせたが、警戒した爆発は襲ってこない。起爆スイッチを入れたはずのテロリストどもが困惑する中で、パープルレディも思わず声を上げた。
『どうしてだ、どんな環境でも起爆できるよう安全ピンを抜いてボン! が売りの起爆システムだと町工場から聞いていたと言うのに!』
 そんなほいほい起爆するような機体を撃つんじゃないよ。
 しかしそこはユーベルコードの成せる業か、それとも安全ピンこそ至高の存在か、アナログなスイッチを使わなければ起爆しない訳だ。だがその起爆システムを使用しても作動しない訳は。
(火薬はやっぱりスパイシーねー)
(ねー)
 堅牢なる装甲の内部を這い回る芋虫状の生物。
 アリス妹、その幼虫たちだ。成虫であるアリスらの体に付着していた幼虫たちが、地中からの急襲に合わせてフィールドランナーへと寄生していたのだ。そのまま内部を、特に胴体部に格納された爆薬を中心に食い荒らされてしまい、自爆などすでに出来ようはずもなく、ともすれば機体を動かす事すら億劫となった者も見える。
『……そんな……あの電磁波の影響がここまで……いや、だが、こんなはずは……』
「ギチチーッ」
(お邪魔しまーすっ)
『へ? は?』
 もはや機体の自由も利かずに戦意を喪失したテロリスト。そんな機体の操縦席へと上るのはアリスの群れ。
 前肢で胸部装甲をひっぺがし、欲求不満おばさんをぽいぽいして操縦席にその巨体をすっぽり収めるアリス。彼女だけでなく、他の妹たちも同じように行動不能となった機体から搭乗者をぽいぽいして身を収めて行く。
 開いた装甲はアリスらの糸で塞がれ、正に寄生といった姿形である。
「何だ何なんだあいつらは!? もう驚いてばかりだが極めつけのこれは何だ!」
(パイロットさんはっけーん、確保ーっ)
(確保ーっ)
「おわあああああ!?」
「助けっ、ひぎゃあああああ!」
 投げ捨てられたパイロットたちは彼女らの潜行した穴へと引きずり込み、弾丸の届かない場所へと運搬する。彼らの命を守るための行動だが、一般的な見方としては捕食者に囚われ巣穴に引きずり込まれる獲物である。
 モンスターパニックでよくある光景。主人公側の話を信じてなかった町の人とか、町を守りに来た軍隊とかがよくやられるよね。
『ギエェェェ! ギイィィィ! カチカチカチカチ!』
(【みんな~もう少しだけがんばって~】)
(はーいっ)
 搭乗した司令塔アリスのユーベルコードを受けて、爆薬を食べて一服していた幼い妹たちも、今度は機体中枢へと潜り込み寄生し傀儡と化す。
 先程までとは違う感情で悲鳴のあがる阿鼻叫喚なる戦場で、機体の粉砕された部分には成虫となったアリスたちが身を沈めてフィールドランナーの動力を確保し、意識をリンクし合う群体故に操作する事は造作もない。
 熱源もなく再起動するフィールドランナーの埋まった下半身をアリス妹たちが掘り起こし、地上に這い出たそれらはアリスの思念波を通してダンテアリオン正規軍の識別信号を発している。
『この一画での戦闘はこれで終わりか』
『敵の動きを押し止めたにも関わらず、全く働いてない気がするっす』
『だから言うなって』
 コタローのぼやきにガラドは嘆息しつつ、幽鬼の如く戦場を闊歩するフィールドランナーを見つめる。履帯の動きなどは先の連中と比べるまでもないが、それでも動いちゃってるんだからホラーよね。
『…………、念の為に連絡を回しておけ。ゾンビみたいなキャバリアが戦場をうろついているが、自由青空党員の罠ではなく識別信号の通りに味方であると』
『了解しました。全軍移動開始! 塹壕を放棄して攻めに転じるぞ!』
履帯機動もふらふらと、上手く動かない者は重い体を引きずって歩いて行くゾンビランナーを見送って、ブルー・リーゼが破壊した敵機の腕をガラドは確認する。装甲内に格納されている小銃は片腕につき三挺、それぞれ弾倉の切り替えや引き金を弾けるような内部ギミックが設けられており、腕によっては炸薬弾が内蔵された物もある。
『物自体は独立している、外せば使えそうだな。各機、残弾の少ない者や火力に難がある者は奴らの銃を持っていけ。
 機動性が上の相手を追い立てるには短機関銃より小銃の方が有利なのが道理というものだ』
『さすがアメちゃん小隊の隊長、俺たちでも思いつく事を偉そうに言ってくれる!』
『そこに痺れる憧れるゥ!』
『略式処刑』
『ギニャーッ!』
 ガラドの号令を受けてコタローの足が失礼極まりない事をくっちゃべっていた部下の膝を蹴り砕く。重量級同士故に関節部を狙うのは人でも人型機動兵器でも関係ないと言う訳だ。
 走行不能となって転がるドッグ二体に、「要救助者確保ーっ」とアリス妹たちが群がったので彼らの命に別状はないだろう。代りによってたかって装甲を刻まれ引きずり出され引きずり込まれるというトラウマを植え付けられただろうが、口は災いのもとって言うから諦めてね。
(…………、どっちが覇権を握っても、案外変わらないかも知れないなぁ)
 そんな彼らの様子に、シルは重い溜息を吐いた。

 迫る黒の装甲に、輝くアクアマリンのラメ入り塗装を施されたフィールドランナー、その搭乗者は鬱陶しい前髪をかき上げてぽってりした唇を笑みの形に変えた。
 何故だか操縦席の各所に活けられた薔薇を一輪引き抜いて口元に寄せる。
『フフフ、あちらでも片が付いたようだ。接近するフィールドランナーの数を見れば大勝利と言っていいだろう。
 君たち猟兵はこちらのシステムダウンを狙えば勝てると思ったようだが、百戦錬磨の我らダンテアリオン兵、誇りを持ちクーデターを狙ったとは言え腐っても軍事強国の兵なのだ。負けはしないさ』
『まずその気取った言葉と悪趣味な色を止めてもらってもいいです?』
 げんなりとした様子で答えたのは黒の装甲エクアトゥールを駆る黒木・摩那。どうやらそこそこの時間をこの青ラメキザっぺ野郎と追い駆けっこしていたらしく、もう相手をしたくないとばかりだ。
 そんな彼女のエクアトゥールは両腕に推進器を備えた盾を持つ機動性に長けた機体。それを相手に逃走し続けらていたのは統率の取れた敵の連携にあった。
 明らかにその他の自由青空党員とは違う統一された動きは、AIによる補助を失われた後にも関わらず立て直しが早く、強襲をかけた摩那に数機を撃墜されながらも攻撃の手を逃れた青ラメに続くフィールドランナーは、まるで氷上を滑る妖精のように芝生の上を削走しながら片足で白鳥のようなポーズを決めたりくるっとターンを決めたりしている。
 やっぱ重量級がドルドル言いながら駆け回ってるだけだから、妖精というよりお相撲さんが器械体操してるようにしか見えないや。
 だがそんな不規則な動きをされれば的を絞れないのは当然にしても、接近を待ち総攻撃でもって追い払う彼らの動きは鬱陶しくも射撃に秀でていないエクアトゥールにとっては相性の悪い戦法であったのだ。
(とは言え、いつまでもこうしている訳にはいきませんね。敵も合流するなどとほざいちゃってますし)
 さて。
 大型盾を可動しつつ、腰の後ろにマウントされたロケットハンマーに右手を伸ばす。そろそろ決着を目指さねば、バレリーナの真似事をする見苦しいキャバリア群は精神衛生上に悪いというものだ。
『機動性に長けた格闘機、強襲といったものがどういうものか教えてやりますよ』
『フフン、威勢が良い所は気に入ってたけどねぇ、もう僕たちの勝ちはすぐ側さ。さあ皆、武器を構えて!
 優雅に決めよう、美しさの為に!』
『美しさの為に!』
 キザっぺの言葉に気取って胸部装甲を拳で叩く部下連中。こいつらだけ何か違うものに心酔してるぞ?
 そんな奴らを相手に長々と追走劇を繰り広げた摩那には同情すべきだろうが、盾を前面に構えたエクアトゥールは操者の言葉を体現すべく、踊り狂うお相撲さんの群れへと突撃をかけた。
『今の今まで僕たちは君をただ追い払っていた訳じゃあないよ。君の機体の速度、タイミング、癖、そういったものを見切り最大火力を叩く為の道筋を作っていたのさ。
 そう、美しきフィヌァアアアルゥエの為にっ!!』
 くるくる回っていたフィールドランナーが左右へと別れ道を作ればエクアトゥールの正面、がっちりと並び狙撃砲を構えたフィールドランナーが鎮座していた。言葉だけではない、攻め入るタイミング、方向を確実に見切ったその配置。
『ビューチホー・ファイアー!』
『サー・ビューチホー・サー!』
 何ゆってんだこいつら。
 間髪入れずの砲撃連打。盾を構えているとは言え、この強力な火砲を受けては動きも止まり袋叩きに合うだろう。すでに最大戦速、スラスター付の大型盾による軌道変更は大きく自在の飛行が可能とは言え、直進中にかわせるタイミングにない。
 そう思えた自由青空党。事実、普段の彼女ならば被弾したであろう瞬間を狙ったのは見事だが、今回は一味違うのだ。
『お披露目ですよ、美亜、もといレイリスさん制作のっ!』
 右手を捻る。装着されたロケットハンマーが大火を噴き上げて、直進推力に加わった横軌道の推力が、エクアトゥールをあらぬ方向へとかっ飛ばす。
 まるで湖面を跳ねる魚のように、何の前触れもなく進路を大きく変えた機影に反応できず砲弾は的のない芝生へと着弾した。
(きゃーっ)
 …………、何かいたみたいっすね。
 噴き上がる炎と土石を置き去りに、急上昇したエクアトゥールは陽光を背に浴びて、逆光から完全なる黒へと染まる。
 戦場に現れた死神の如き様相で、両手に振り上げたロケットハンマーに炎が灯る。
 その両脇を駆け抜け白い筋を空に描くのは美亜の小型戦闘機だった。
『…………!』
 美しい。まるで死神と思えたそれが大天使の如く翼を開き、羽を散らすような姿は一枚の絵画に封じ込めてしまいたいとすら思える程の。
『――ずぅえええあああああっ!!』
『あっひゃあ!』
 咆哮と同時に振り下ろした破壊の一撃は惜しくも当たらず、女々しい悲鳴を上げたキザっぺの青ラメランナーが尻もちをついた。幾らAI制御が利かない状態とは言え、その機体で尻もちつくなんてどんな操縦しとんのじゃ。
 機体の全質量にロケットハンマーを含む加速を乗せた強烈な一撃が、大地を脈動させ周囲のフィールドランナーの足を止めた。再び何者かの悲鳴がそこかしこから聞こえた、というか脳に響いたがそれはそれである。
 強力無比な打撃に足元を崩された自由青空党員。足元、とは言え崩落した訳ではないのだが、バランサーも働かない状態ではフィールドランナー売りの安定性も、二足歩行時には無理が来ると言うものだ。
 硬直した敵機集団、しかし全力を放ったエクアトゥールもすぐには動けず。
『たっぷりと教育してやろう。戦闘機の恐ろしさをな』
 故に疾るは編隊を組んだ小型戦闘機。
 先程攪乱の為にエクアトゥールの脇を駆け抜けたそれらはそのまま急上昇、バレルロールを応用した軌道で折り返しと同時に二手に別れ、美亜の言葉と共に敵機上空を交差するように飛び抜けて。
 同時に降り注ぐのは光のシャワー、ビーム機銃による攻撃の応酬が敵機の装甲を容赦なく穿つ。
『だがしかし!』
『そしてカカシ!』
『この堅牢なる装甲を穿つには美しさが足りーん!』
 マッチョポーズを見せたフィールドランナーを壁に美しさに青ラメ入り装甲を輝かせるキザっぺ小隊長。彼の中では美しさは火力に直結するらしい。
 事実、彼らのポーズと並びは実に見事に決まっており、ただし粒子兵器により装甲を穿たれたフィールドランナーは歪みが生じ美しさとはかけ離れている。
『あれだけ小型な機体、それも上空にいられてはロックもできないし……攻撃なんてとても……』
『フフン、所詮はうんちにたかるコバエ、無視すればいいのだ。……虫だけにね……!』
『…………、それって我々がうんちって事で?』
『キェエエエエエッ! ンな訳あるかぁい!』
『どうでもいいですけど』
 うんちに例えられて顔真っ赤する小隊長。そんな彼らのうんち話など端っからどうでも良い摩那は態勢を立て直したエクアトゥールはロケットハンマーを振り上げた。
『粉・砕!』
 柄頭のスイッチを入れ、打撃面中央が筋部分から展開し、突起が露出し装甲の薄い膝関節を文字通り粉砕したロケットハンマー。ただの打撃なら拉げようが、打突を受けては膝から切断されるように片足を失ってバランスを崩すそれの背後に回り込み、股に己が武器を差し込んで頭部を鷲掴みにして固定するエクアトゥール。
 ひえっ、と悲鳴を上げるのは削られ軽くなったフィールドランナーの操縦者。盾とされた事で敵勢に戸惑いの色が広がる。目に見えて攻撃の手を止めた部下に対し、小隊長は叱咤激励する。
『目を開き、前を見ろ! 敵の盾とされつつも僕らの為に自らを犠牲にしようと覚悟を決めて、悲しくも美しい兵士の姿を!』
『え、えっ?』
『くくぅっ、ナガシマ、お前ってヤツぁそんな覚悟をっ』
『えぇ!?』
『ナガシマ、お前の覚悟は受け取ったぜ。その美しい青ラメ入りの精神を!』
『……えっ……えぇー?』
『……ナガシマぁ……往生せいよ!』
『みんな、彼への最期の言葉はきちんと送ったかい? 全軍、攻撃開始ィ!』
『えええーっ!』
『全く覚悟しているように見えませんけど!』
 真に貴き者として銃殺刑に処される哀れなナガシマだが、だからとこの弾幕の中で盾を手放すはずがない。
 悲鳴をあげるナガシマさんを拘束したまま強引に敵陣へと迫るエクアトゥールに、正面戦闘ならばと狙撃砲を構えるフィールドランナー。
『ならば後悔させてやろう、コバエと無視したツケをな!』
 再び空から注ぐ光の筋。だがそれは敵を狙ったものではなく、突撃するエクアトゥールと敵陣の中間地点。
『こ、この美しい光のビューチフル・カーテンは!?』
 一糸乱れぬ斉射がエクアトゥールの姿を覆い隠し、直後にその粒子光を幕と引き裂くのは盾にされたフィールドランナー。
 押しの一手で正面のフィールドランナー一機に叩きつければ互いに重量機、その衝撃は互いに操縦席にまで達し、ナガシマさんの弛緩した機体腕部に格納された火器に手を伸ばす。
 機体そのものは正面の敵機に預けておけばいい。構わずその手に握るのは他のフィールドランナーと違い小銃ではなく、対キャバリア擲弾発射器。
『他キャバリアへの支援目的なんでしょうけど、誰でも扱えるというのはいいものですね!』
 一般的なキャバリアの指に替わり格納された細部マニュピレータを直接引いて、発射された炸裂弾が改めて腕を構えたフィールドランナーの分厚い胸部に突き刺さる。
『ぎゃーっ!』
 爆裂した炎が胸部装甲を捲り、それでもさすがの最新機と言うべきか致命傷には至らず仰向けに転がる程度で済む。
 ひっくり返った亀のようにじたばたしているフィールドランナーの様子は、姿勢制御AIの機能不全によりマニュアル操作のシステムが十分に行き届いていないか、あるいはその技術を兵士が持っていないのか、それともその両方か。
 どちらにせよ立ち上がる事が出来なくなったフィールドランナーに摩那のスマートグラスには「チャンスよー」「進めーっ」と何某かの芋虫らしき者たちが地面から這い上がっている様子を確認しており、転がしてしまえば終いかと笑みを見せる。
『これなら簡単にいきそうですね』
『あまり僕らを舐めない事だッ! もうすぐ他の小隊とも合流する、いくら美しい光の芸術を使うとは言えコバエ如き、そして人質を取る醜き輩に負ける事は有り得ない!
 ナガシマ君、美しく自爆し次代の礎となるべく散華したまえ!』
『えッー!?』
 犠牲になる覚悟さえなかったのに何を命じているのか。
 盾と扱われ矛と扱われるナガシマ君へ下された非情なる命令に、戸惑いを隠せない。いや元々戸惑いを隠せてなかったな?
 そんなナガシマ君に構う事無く両腕の擲弾発射器で次々とフィールドランナーを転がしていた摩那。覚悟なくば自決するはずもない、当然の行動だ。
 しかし。
『――……っ!』
 言葉ではなく、ガリレオからのデータでもなく、肌でナガシマ君の変化を感じ取る。自らの失態により次々と仲間を戦闘不能にされているこの状況を、軍人の端くれとしてどう思うか。作戦遂行の足手纏いとなり、戦友らを倒す武器として扱われ。
(まさか、自爆するつもりなんですか!? お仲間がすってんころりんしてるだけで!?)
 そう、すってころりんしているだけで。
『……くぅぅ……、南無三っ!』
『させるかーッ!』
 覚悟を決めて遂には起爆スイッチに手を伸ばしたナガシマ君。その動きを言葉の前に心で察した摩那は声を上げ、フィールドランナーの両腕を解放しエクアトゥールで改めて握り込むのは股に差し込んだロケットハンマー。
 噴炎を上げるそれは腰を落とし両足を開いた黒の機体に支えられ、剛力を以てかち上げられた。
『どひゃーっ!』
(スパイシーねー)
(ねー)
(あらー? 何だか浮遊感があるわー?)
 その質量を物ともせず空の彼方へ吹っ飛んだナガシマ・ランナーは終ぞ爆発する事無く、おそらく内部からのアリス妹の声を聞くに内部火薬は食い荒らされたのだろう。
 摩那と美亜、二人の攻撃により足を止めている間に、地面から湧いて出たか吹き飛ばした土塊に付着したアリスたちに浸食していたのだ。
 となれば、もう自爆の危険性もあるまい。
『……あ、あの機体に何てパワーだ……! いや、あの武器が原因か!?』
『そう、この武器が原因なのだ!』
 驚愕する自由青空党員に得意気な美亜は上空で再び編隊を組み、青ラメビューチホー小隊からは離れる軌道を取った。
 もはや目前とまで接近するフィールドランナーに舵を切るでもなく、目指すは別の敵小隊だ。
『改めて知るがいい。大いなる始祖の末裔であるこの私、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットが叡智によって作り出されたロケットハンマーの威力を!』
『とか何とか言いながらどこ行くんだアイツ?』
『大言壮語した所で、同胞の到着に恐れをなしたといった所か。フフン、威勢が良くても僕らの勝利に揺らぎはない!』
 それはどうだろうか。
 威勢の良い言葉を吐くキザっぺ小隊長へ笑い返したのは摩那である。激戦を制した傷跡か、迫るぼろぼろになったフィールドランナーの軍勢を前に彼女の顔に焦りはなかった。
『コケ脅しもここまでさ。さあ、敵は一機、一気に覆土叩きにして美しく晴れやかな一揆の如き歓声をあげよう!』
『ギィイイエエエエエッ!!』
(突撃よーっ)
(はーいっ)
『ちょ待、こっちじゃな――、何だこいつら!?』
 よたよたとした足取りで文字通り雪崩れ込んだフィールドランナーは全て、アリスたちが乗っ取った機体群であった。
 ダンテアリオン正規軍の識別反応を発信しているものの、計器類を破壊された自由青空党員にそれを知る術は無く、まさかこれ程の数が敵に渡ったと考えるはずもなく、文字通りの奇襲をまともに受けてしまった。
 寄りかかるようなフィールドランナーの群れにすってんころりんしていく部下の姿に、慌てて陣形を立て直すべく命令を放つがもう遅い。すでに姿形の同じ機体に取り囲まれ、どれが敵で味方かなど混乱した戦線で判別する事などは不可能だ。
『こ、こんな、僕の美しい隊列がこんなにも醜く崩れていくなんて!』
『最初から美しいとは思ってませんでしたけど』
『…………! うぅうぬれえええええぇ!!』
 怨嗟に塗れた青ラメ入りの突撃に、ビンタでもするような盾の一撃を合わせてその勢いを利用しひらりとかわす。
 背後を取ったエクアトゥールは巨大なロケットハンマーを右手に携えたまま背面へと大きく取り回して姿勢を低く構えた。
(セーフティ解除。励起)
 機体全体へと帯電が発し、各関節から火花を噴くように放電する。
 突撃をかわされたキザっぺ小隊長のフィールドランナーが振り向くが、遅い。加速を開始した黒の装甲が走ればその軌跡に青白い閃光が空間に尾となって残滓が残る。
『――うっ?』
 瞬きする間に格闘戦の間合いに飛び込んだエクアトゥールに目を剥きながらも、左の膝蹴りを合わせるのはさすがの対応力と言えようが。
『ですから――遅い!』
 右足を引いて半身になると同時に腰を落とす動作をその分、前進する力へと変えて僅かな間合いで左肘を胸部に衝き込む。
 打突の瞬間、衝撃を受け流すように大きく溢れた電流は七色の花びらとなって関節部分から放出された。
 下半身の空振りと上半身の衝撃とで大きく後方に機体を傾けた青ラメ入りのフィールドランナー。加速する戦闘速度はそれに留まる事無く、ロケットハンマーを握り込んだままの右の拳を打ち下ろして敵機の顔面を粉砕し、拳を振り抜いたまま滑るように背面へ回り込んだエクアトゥールの前蹴りが崩れ落ちそうだった敵機を無理やり立たせた。
 花が躍るように空間へと舞い散る電影華のひらが舞う。
『レイリスさんの叡智により生み出されたロケットハンマー、パーフェクトです!』
 点火した加速力に更に自らの加速で大盾による一回転の勢いを加え、最大戦速をフィールドランナーの腰へと叩きつけた。
 それは僅かな抵抗をその手に残しただけで、重厚なる装甲も、頑強なる骨子も、複雑に絡み合った配線すらも気に留める事無く粉砕し、引き千切り。
『ゆ、ゆ、有終のビューチホーッ!!』
 ロケットハンマーは青ラメキザっぺ小隊長機を粉砕し、まるでだるま落としのようにその上半身が落下して地面へと転がった。
 全ては敵機が膝蹴りを繰り出してから一秒と経つ間もなく起きた出来事だ。本来ならば敵を確殺する為にその反応速度を超過した四連撃を叩き込む、それが彼女の【飛天流星(メテオール)】だ。今回は人命を優先する事もあって最後の一撃は操縦席を狙う事もなかったが。
『さっきも言った通り最初から、美しいとは思いませんでしたけど。まあまあ面白かったですよ?』
 次々とゾンビランナー、もといアリスランナーが猛威を振るうのを背景に、よいしょとばかりにキザっぺ野郎の操縦席をかち割り引きずり出すべく、ロケットハンマーを振り上げた。
『……ひっ……? ひぃえああああああっ!』
 キザっぺ野郎が美しく終われる訳がないのだ。


●そして戦場は再び施設前に移り行き。
『い、いかん。互いの連携が取れていないとは言え、小隊級以上で固まっているにも関わらず各隊が撃破されているとは』
『どうされます、隊長』
『……うむ……、信号弾を上げよ! このまま撃破され続けては元もこうもない、再びエネルギープラント中継施設前に集結し、敵軍勢を撃破する。
 徹底抗戦である! 我らが決意は数こそ少なく、されど燃える志は天高く! そう、全ては第一強国の理想の為に!』
 第一強国の思想の下に。
 純白に輝く装甲は縁に金の意匠が取り入れられ、重厚たる姿ながら美麗なる隊長機の宣言に続くドノーマルな部下たち。少なくともこっちの人がびゅーちほーだと思われますが、そもそも思想も理想も分からんと豪語していた奴らが何をしたり顔で話してんですか。
 ビューチホー隊長の命令により、部下の一人が操縦席を開いて信号弾を空へと放つ。弧を描いて光り輝く玉が落ちて行くのを見送って、こちらも移動を開始するぞと小隊長の言葉に頷き、施設を目指す。
『……む……?』
『ようやく来た』
 フィールドランナーたちの前に現れたのは、行く手を遮る赤き竜騎兵。
 シャナミア・サニーとレッド・ドラグナーだ。まるで城へ帰還する聖騎士たちを阻む悪竜、もしくは城を戴く悪竜の討伐隊とでも言うべき光景に、小隊長は鋼鉄の右腕を上げて後続の部下を止める。
『たかが一機とは言えこの軍勢に臆する事も無し、か。見れば覚えのないキャバリア、貴様、猟兵だな』
『兼業だけど。それより、こっちはもう何週間だか一か月超だかと待たされてるのよ、あなたで鬱憤を晴らす!』
『何を言うてはんのや君は』
 シャナミアの言葉に目を瞬く小隊長。突っ込んだら火傷するんで止めてくださいビューチホー。
 操縦席の中で小盾【シルバー・ガード】と一体化した籠手に守られて手の骨を鳴らす。言葉の通りに鬱憤の溜まっていそうな彼女は首の骨まで回して音を鳴らし、改めて操縦桿を握る。
 好戦的な笑みを浮かべる訳でもなく、むすっとした顔でレッド・ドラグナーの両手を掲げ、高らかと叫ぶ。
『【メインウェポン・チェーンジ】!』
 それは彼女がテストパイロットとしての試すべきとしていた兵装、【RX-MWスチームエンジン・ハンマーガントレット】。ユーベルコードにより攻撃力を強化したメインウェポンとして換装された物で、今の彼女の気分を表すかの如く左右一対、格闘戦用の籠手。
(レイリス、だか美亜だかに武器を作ってもらうまでもなく、コレもたいがい尖ってるから)
『それに何より、どうせこれ持ったら射撃武器なんて関係ないし!』
 打ち鳴らした両の拳に合わせて各部から衝撃を逃す為の蒸気が勢い良く噴出する。それだけではない、エンジン・ハンマーの名の通り、その打撃にも蒸気の力が用いられた近接線用破壊兵器だ。
『勇猛とすべきか、蛮勇と断ずるべきか。それもすぐに分かる、か』
 両腕部の装甲を開き、並ぶ銃口を赤き標的に向ける。迷いのないその動きに機体制御に関する不備は感じられず、確かな修練の成果を思わせた。
 小隊長の動きに合わせて後続の敵機が次々と両腕の装甲を開き、背面の連装機関砲を一斉に向ける。それを真向から見返すシャナミアの笑みは大胆不敵。
 ドラグナー・ウイングから響く吸引音は、敵の殺意の膨張へ合わせて高まり続け。
 レッド・ドラグナーの背が大火を背負うのと集中する鉛の豪雨が放たれるのとは同時。
『吹っ飛べ!!』
『!!』
 迫る弾丸を正面からその籠手で受けて怯みもしなければ速度も落ちず、そのままの勢いで殴りつける。如何な総攻撃とは言え通常弾頭、距離を潰されては貫通力を維持できずに弾頭が破砕されてしまうのだ。
 とは言え運動エネルギーはそれだけ衰退しないので大きな衝撃を伴うが、点となって直線軌道を真正面から突破されては左右に広がった隊列では捉えきれず、直撃弾の数も見た目ほどではない。
 まさかの突撃に拳を受けて、後方のフィールドランナーごと殴り飛ばされるビューチホー隊長。インパクトの瞬間に噴き上がる蒸気が一瞬視界を隠し、腕の一振りでそれを払えば面食らったように攻撃を止めた敵集団の姿。
 射程距離はそのまま素手と変わらず短くなったとは言え、それを補って余りある攻撃能力である。
『さあ、答えはどっち?』
『ぐ、う……見くびっていたのはこちらか……! 認めてやろう、勇猛果敢なる兵士よ!
 全機散開、包囲を形成しろ! どれだけ速くても所詮は一機、同士討ちに注意して仕留めれば問題はない!』
 いち早く立ち直ると引き続き命令を下し、動揺していた部下たちに気を張らせて直後に反撃を開始する。自らが率先して砲撃する事で注意を引き、倒れた後続の立ち直りや両翼機体が包囲へ移る為の時間稼ぎだ。
 そんな事は素人でも一目で分かるが問題はその精密性。生半可な衝撃では止めようがないと悟った小隊長による狙撃砲の使用は合理的な上、AI制御が無い今の状態でレッド・ドラグナーの軌道上に合わせた砲撃。
(ま、この距離でその砲台の動き、分かっていれば避けられる!)
 難なくそれらを回避し炎を翼と空に舞う赤の装甲。だがそれは小隊長の狙い通り時間稼ぎが成功しているという事になる。まさにビューチホー。
 が。
『レッド・ドラグナーのスピードはこんなもんじゃない、まだまだイケる!』
 その性能の限界までをも把握するのがテストパイロット。こちらの速度を計算して射線を合わせると言うのならば簡単な話、計算手の反応速度を超えれば良いのだ。
 同時にそれは敵小隊を叩く為の突破口となる。
『グリモア猟兵は足を狙えと言っていたけど! 足とか関係あるか!
 一撃でぶっ飛ばせば問題なし!』
 頑丈だからそう簡単に抜かれたりはしないだろうと、狙い通りの効果を奏した籠手に守られた腕を交差させて万が一に備えつつ急上昇、ビューチホー隊長の照準を振り切って急降下する。
 まるで隕石でも降って来るような炎の塊に対しても臆さず狙いを定めた小隊長だが、直進するレッド・ドラグナーに驚愕した。こちらの火力を知って回避行動に移っていた女が、何故真正面から再度の突撃を試みるのかと。
(迷うな、単純軌道に変わりはない! 引き付けてかわすつもりだろうが勝負は待たない、残るのは結果だけだ!
 それがどちらに転ぶかは――)
『すぐに分かるッ!』
 直上へ向けられた砲身が唸り、砲口は雄叫びを上げた。迫る巨炎に対しては何と心細い炎かと思えたが、それでも吐き出される一撃は敵機を粉砕するに確実。
 それを前にレッド・ドラグナーは進路を変えず――、目標を逸れず放たれた砲弾は炎を食い破り。
 そこに赤い装甲はなかった。
『何だと!?』
『所詮は一機、確かにな』
 驚愕する小隊長を前に、幻影を生み出したヴェルデフッドが姿を現す。
 人の錯覚というものは容易い。援軍の懸念はあっても目の前にいた一機を追いかけてしまう。空へと飛びあがった大火が降下してくれば、それはそいつが戻って来たとでも思うのだろうと。
『残念だが、幻影ってこった』
『作戦は成功ですね、マスター』
『――……ッ、各機!』
『でぇぇえい!!』
 小隊長が命令を下すよりも先に、ヴェルデフッドの幻影により死角より降り立ったレッド・ドラグナーの一撃が敵陣の片翼に穴を開ける。
『ごわあああっ!』
『何じゃらほい!?』
『馬鹿な、奴はさっきまで隊長と戦っていたのに!』
 再び混乱に陥った面々を落ち着かせようと歩む足を前に、立ち塞がる晶。
 今度はこっちの番だ。そう語る言葉の意味は、先程の彼と同じく自分が男の注意を引くという事だろう。目の前で堂々と告げられて、さしものダンテリ生まれも自嘲するしかなかった。
 性能で劣り、システム面でも妨害を受け、だからこそ得た数の有利に驕った結果である。
『国を建て直す軍属として、取るべき対応ではなかったな』
『それは今の行動の事を言うんだ。これ以上の交戦は無意味だ、降伏しろ』
『断る。我らが戦場に残る間、仲間がお前たちの危険に晒されずに済むからな』
 無意味かどうかを決めるのはお前ではないと一蹴する男に、晶は行動はとかく覚悟こそは国を守る人間として相応しい人格なのだろうと胸中で溜息を吐いた。
 背面の武装と共に両腕部の装甲を展開し、迎撃ではなく突破の意思を行動で示す白騎士にヴェルデフッドもまた電撃銃を構えた。
『行動を起こした理由は納得できないが、お前のような軍人ってのは国を守る為に必要なのに変わりはないんだ。殺す選択肢は外しておく』
『舐めているのか、猟兵!』
 白の重騎兵は前屈の姿勢からそのまま後ろへ倒れ込むようにして半戦車形態へと移行、戦場を走る移動砲台と化す。
『足を奪うぞ、ウィリアム!』
『ヴェルデフッド、アティチュードコントロール、底線確保。いけます、マスター』
 猛進する敵機を前にサイドステップを踏んだヴェルデフッド。芝生に土塊を巻き上げて気筒の唸りを上げた鋼の獣が回頭する中で、左手で右の腰から抜いたビームダガーに光が灯る。
 抜く動作をそのまま予備動作に、ウィリアムによって姿勢制御を受けた機体は地面に転がる寸前、フィールドランナーの脚部装甲に守られた狭い隙間目掛けて精確に光刃を投げ放つ。
 内部へと至る刃が履帯を焼き斬り、旋回中のフィールドランナーは制御を失いヴェルデフッドを狙う余裕などなく。
『うおおおおっ!?』
 スピンした敵機あらぬ方向へと滑動する先へ、機体を二回転させた晶は勢いを殺し膝をついた姿勢で電撃銃を構えた。
 狙うは死角、無防備となった背面へ。
『小隊長ッ、ほぎゃーあ!』
『そう簡単に手は出させないって!』
 一か八かの援護射撃を敢行するべく砲台を向けたフィールドランナーの一機に対し、即座に反応したレッド・ドラグナーが降り立つ。
 地面を揺らして落下したように現れた本機が立ち上がれば、余熱によって装甲から立ち上る白煙と共に陽炎がその視界を塞ぐ。
『くぬやろ~!? 真正面に立たれてやらいでか!』
『言葉を吐く暇なんてさあ!』
 改めてその砲身を真正面のレッド・ドラグナーへと向け直した敵機に対し、愚鈍と断じたその対応を嘲る時間もなければそれこそ吐く言葉が終わる前に。
 重い音をたてて衝き込まれた拳打が操縦席をかわして腹部を貫き、籠手から勢いよく蒸気が噴き出す。疾風となった拳を抜けば、腕まで潜り込んだそれが重厚なフィールドランナーに風穴を開けていた。
 完全に静止したフィールドランナーを尻目にヴェルデフッドへと目を向ければ、見事に白き装甲を電流にて焼き焦がす姿があった。
 着弾点から泡立つように白の塗装は焦げ、無残にも捲れて静止した元ビューチホーから視線を変えてこちらもレッド・ドラグナーへと向き直り、晶は機体の親指を立てる。それに答えたシャナミアも親指を立てて、指揮官を失い混乱の冷めぬ雑兵らへ。
『疾ッ!』
 量の拳を腰で構え、しっかりと膝を落として構えを取ったレッド・ドラグナーが虚空を乱れ打てば、蒸気機関による打突が激しい衝突音と共に白煙を棚引かせる。
 拳を解けばかたかたと指を動かしてシャナミアは笑みを見せた。
『さあて、次は誰から穴だらけにされたい?』
『ひえっ、……露骨にプレッシャーかけてくるっ……!』
『くそっ、だからとは言えここで立ち止まる訳にはいかなぁい! 敵はたったの二機! 諦めずに戦い続ける事で活路を掴める事だってぇ、あァるはずさアァー!』
 希望的観測。ここで断言出来ないから雑兵だと言うのだ。
 照準の大多数は目立つレッド・ドラグナーへと向けられる中で、再びヴェルデフッドは姿を消す。包囲網も完成せぬ中で指揮官を失い、好き勝手に攻撃へ転じた者どもの連携力など考慮する価値もない。
『正面真向!』
『ならこっちは裏取りだ』
『わわわっ、こっちに来た~!』
『おぉい邪魔だって、射線を開けろ!』
『くそう、敵を見失ったぞ! 奴はどっちだ!?』
 斬り込む事で、正に死中に活を求め見出すシャナミアと、彼女を剣とし身を隠す晶。明剣と暗剣による双刃は次々と敵機を斬り捌き、すでに瓦解した敵軍勢に後れを取るはずもなかった。

 荒れ果てた光景となったエネルギープラント中継施設前では、所々で火の手が上がり、轟音が響き渡る。
 それらから迂回するように走るピンクのキャンピングカー。でこぼこの地面に跳ねる車体の屋根からは、まるでフライパンで炒められたモロコシのようにぴょんぴょんとアリス妹たちが跳ね落ちている。
 成虫ではなくさきほど彼女らに許可を得て乗り込んで来た幼虫たちであり、落ちる際は悲鳴どころか喜声を上げているのは他の妹たちと同じく地中に伝播していけるからだろう。
「敵はまた、施設前へ集まり始めてますねぇ」
「先程の信号弾でしょうか?」
 キャンピングカーを走らせていた桜花は冬季の言葉に答えて、すでに空へと消えた光を目で追った。
 戦場から一歩離れた視点の為、仲間を含め敵の動きもよく分かる。散開していた小隊級が次々と撃破され、残る部隊も追撃を受けながら再び集結を始めているのだ。
 キャンピングカーも同じく施設前を目指しており、目的は冬季を送り届ける事だ。敵との戦闘を避ける為に戦場を迂回していたが、このままでは渦中に飛び込むのは必至である。
 ――と。
 道行くキャンピングカーの前に親指を立てる者の姿が桜花の目に映る。ヒッチハイカーの姿勢であるが、この戦場でそのような者がいるだろうか。いるとすれば。
「猟兵、ですかね?」
 小首を傾げた彼女が車を減速すれば、近づく人影は予想を超えて遥かに小さい。不思議に思いながらも泥などがはねないように気を付けて傍に車を止め、何者なのかと顔を出す。
 その者は桜花の言葉に対してかけていたサングラスをちゃりと頭の上に乗せて、青みがかった体毛に囲われた細い瞳をきらりと光らせた。
「ワタシの名か? ……ワタシは……『ケットシー』だ!」
「ケット・シーさんですか?」
「そうだ、ケットシーだ!」
 いまいち会話が噛み合っていない自己紹介。それもそのはず、彼のそもそもの名は【二天堂・たま(神速の料理人・f14723)】なのだ。ただ名乗る瞬間に自分の名前を忘れてしまうという大きなクセとでも呼べるものがある故に。
 ケットシーが種族名であることは分かりきっていたが、本人がそう名乗るのだから仕方ない。桜花はひとまず「ここは危険ですから」と運転席のドアを開き、たまを抱き上げるようにして車内へ通す。
 戦場に似合わぬアロハシャツとハイビスカスの花輪が揺れて、獣というよりも爽やかな香りを放つたまはお礼と共にジャカジャカとウクレレを弾いた。
「よろしくお願いします、ケットさん」
「うむ!」
 冬季の差し出した手に答えてもっふりこりこりした握手と軽い自己紹介を済ませてキャンピングカーは再び走り出す。
 道中で問いかけたのは冬季だ。内容はもちろん、なぜあそこに居たのかという事だろう。
「いやなに、ワタシもこの動乱を治める為にやって来たのだが、どうも距離が遠くてだなぁ。
 我がユーベルコードをもってすればこのような事件、すぐに解決! と思ったのだが」
 こちらと合流する前に先行していた猟兵かと冬季は頷く。
 確かに移動についてグリモア猟兵から説明もなかったし、ケットシーの操縦できるようなキャバリアあるいはスーパーロボットがなかったなら、先行するべく走るのも仕方ないと言うものだ。
「なら、目的地は一緒ですね。今、私たちはこの事件の親玉さんのいるエネルギープラント中継施設に向かっている所なんですよ」
「なるほど、頼む手間が省けたと」
 ヒゲを撫でながら空いた手で懐をごそごそやると、「ピヨピヨ」と甲高い声を上げる黄色のもふ玉が現れる。別世界では縁日とかでもよく見かけるヒヨコである。見間違えようがないね。
 獲物の気配を察知したのかキャンピングカーの天井の気配がざわりと蠢いたが、君たちのエサじゃねーから。
「それがお手伝いの報酬ですか?」
「いいや、キミたちで言う所の武器、または相棒だ。本当は彼らに乗って移動したい所だが、どこから砲弾がやってくるとも言えない戦場でおいそれと犠牲にはできんのだ」
「えっ?」
 ヒヨコを頭の上に乗せて冬季の言葉に答えるたま。体の小ささに対して尊大な態度だが、どうやらそれだけの器を持っているようだ。
 なるほどと頷く冬季の隣で、運転しつつの話半分で聞いていた桜花はそのヒヨコに乗るのかと驚いている様子。もちろん騎乗用のヒヨコはもっと巨大である。
 …………、それもうヒヨコじゃなくね?
 実際の所、懐からポンと出てきたように彼らは鶏の雛ではなく、ヒヨコの姿をした妖精なのである。同じ精を帯びる桜花もそれにはすぐに気づいたらしく、生じた誤解も刹那に消えたが。
『…………!? なんだ、一般人か?』
『よく見ろ、識別反応を発しているのだから友軍だ。猟兵だよ』
 戦場に動きが出て敵と同じく施設前を目指す一団、ピンクのキャンディカラーを基調とした二機のドッグを先頭とするアメちゃん小隊指揮下の正規軍との合流だ。
 ちなみに味方の識別信号は食材を保存する冷蔵庫に潜り込んだアリスの幼虫が発している。彼女は決してサボっている訳でもないし、信号発進のエネルギー補給にご飯を頂いているだけなのだ。
『皆さん丁度良い所に。道すがら少し協力をお願いしたいのですが』
『協力?』
 桜花から借り受けた蒸気機関式の拡声器、【シンフォニックデバイス】を構えて冬季は声をかける。疑問符を浮かべたアメちゃん小隊機に頷き、別に足手纏いになる訳ではないがと前置きする。
 両者ともに目指すは施設前、ならば敵から見て壁となり、キャンピングカーを隊列の裏に隠して欲しいと。
『進行ルートに変更が無ければ構わん、好きにしろ』
『……少しは融通を利かせて貰いたいという事なのですが……期待していますよ』
 頭のおかしいピンクカラーの指示により、横並びの隊列は壁のように縦並びへと変わってキャンピングカーの左側へ展開された。視線を受けるであろう敵軍からその姿をカーテンのように隠している。
 同じピンクカラーでも桜の花びらをイメージしたような桜花のキャンピングカーと、どぎついピンクのキャンディカラーとでは全く持って違うのだと、並ぶことでまざまざと教えてくれている。
 学べよキャンディ野郎。
 しかし頭がおかしいとも彼らは友軍、その協力はありがたいものだ。冬季は助力に対してそれと、と付け加えて視線を施設へ変え。
『確認をお願いしたいのですが、現在、施設正面入り口付近に一般人は展開されていませんか?
 持ち帰られた情報では中だけという事でしたが、私も救出に動きたいので人々の配置を確認したいんですよねぇ』
『…………、いや、一般市民の脱出は確認されていない。ゲートは猟兵様々のご活躍により開いちゃいるがそれを報せた訳じゃあないからな』
『おいっ!』
『ちっ。まあ何より、下手に動いて彼らが危険に晒されるよりはいいだろう』
 妙に刺々しい言葉はやはり、敵として認識されていた猟兵への嫌味と言った所か。片割れに咎められて謝罪する訳ではないが、少しは態度を改めているようではある。
 冬季、桜花ともに特にその態度を気にしている様子はなく、冬季に至ってはにんまりとした神経を逆撫でするような笑みで馬鹿丁寧にお礼を返した。不機嫌になる男に再び釘を刺して片割れの男は、あくまで施設付近の並走のみが可能で、すぐに救助へ動けはしないと言葉を投げた。
『この大人数だ。そうでなくてもキャバリアに乗っている以上、下手な接近は内部の目標に察せられる可能性が高まる。
 おたくらの力で内部との通信も断絶されているはずだが、敵が強硬的な態度に出る前に決着し、人質を助けたいのが正直な所だ』
『承知しました』
 男の言葉ももっともだと冬季は返して、ついでにシンフォニックデバイスも桜花へと返す。内外の人々によって行動を変えるつもりであったが、戦闘中に彼らが動けず、また外に救うべき者がいないと言うなら先にすべきは施設内で人々の救出準備を優先すべきだろう。
(お腹いっぱいだわー)
「それは良かったです」
 食材の置かれていた棚からひょっこり出てきたのは信号発進装置となっているアリス妹である。がたつく道にころんと床に落ちて、あっちへこっちへと転がる姿に桜花も思わず笑う。
 その様子に気づいたたまの両目も僅かに大きく開いたが、大してアリス妹はたまの頭の上の柔らかそうなひよこの姿に満腹を述べた直後にも関わらず、大きく口を開いていた。ひよこは二人の様子に気づく事もなく、たまの頭の上に蹲ってのんびりと車窓から漂う陽気にご満悦だ。
 そんな三者三様の反応に、お互いに食べたりしないでくれと肩を竦める冬季。そんな彼もアリス妹の活躍を労いつつ、もうひとつの頼み事と他のアリスへの連絡を請う。
「今の所、一般市民の皆さんは中だけのようです。ダンテアリオンの兵士たちがアリスさんの道より施設内部へ向かっているはずなので、手が回りそうなら私と一緒に退避の手伝いをお願いしたいんですよ」
「ワタシも手伝おう。駄々を捏ねる輩は我が肉球でいちころだ」
 わきわきさせる掌にあるのは、【ねこ、もといケットシーの肉球】である。それもケットシーというだけあってただの肉球ではない、鎧の上からでもその感触を通し、触れた者の負の感情を浄化する。
 何たるチート。これでは大事な会議の朝に出勤しようと急ぎ準備をするくたびれた中年オヤジであっても足を止めざるを得ない。言い方を変えれば悪魔的所業の最強兵器だ。
 確かにこれがあれば意味も分かっていないテロリズムに熱狂しているバカもとい国民たちを誘導するのも楽になろう。さすがに幼虫であるアリス妹の助力が必要とは思っていない冬季であったが、たまと成虫であれば力もある上にお得意の隠密能力も合わせ、更に彼自身のユーベルコードによる睡眠効果で人質解放に大きな戦力となるだろう。
(それじゃー連絡するわね~)
 首を上げて電波ゆんゆんし始める幼虫。即座に応答があったようで、ぴょんぴょこと跳ねて「大丈夫よー」と冬季に返している。
 現在は交戦中でもありすぐに集結する訳ではないが、それぞれ状況を確認しながら妹たちを向かわるとの言葉が心強い。
「とは言え、口八丁で何とでもなりそうですが」
「何だかんだで相手は武装蜂起するようなグループです、どこで暴走するかも分かりませんしねぇ」
 ディスイズ正論。特に理由もはっきりしてないのにこんな事をしでかす時点でとんでもない奴らですもんね。
 やれやれと肩を竦める冬季に思わず桜花も苦笑する。
「…………、そろそろですね」
 機体の手振りで合図を入れて、こちらから離れて行く戦闘のピンクカラー。続いて離れて行く味方軍の列に、桜花はぽつりと呟く。
 今では視界一杯に広がる施設を前にしてキャンピングカーの速度を緩めて出来るだけ音を出さないように減速、そのまま敵勢の目を盗んで施設に横づけすれば、冬季はお礼を言ってドアを開き、たまも同じく礼を述べて助手席のドアから外へと飛び降りた。
「車は置いて行きますので、妹さんも冬季さんに同行願えますか?」
(腹ごなしにぴったりねー)
 もそもそとやって来た芋虫をそのまま肩に乗せ、冬季は片手をひらと振り施設を目指す。ノエルらによってすでに解錠されている入り口の扉に手をかけて僅かに開き中の様子を確認。
 特に問題はなさそうだととりあえずの合図を桜花に入れて、わくわくしているアリス妹、そして潜入の気配が全くない服装ながらどっしりと構えたたまともに扉の隙間から施設の内部へと体を滑り込ませた。
 桜花もそれを見送るとシートベルトを外して車から降りる。
「さて」
 分厚い壁越しに静かな巨大施設、振り向けば鉄火の盛る戦場。運転席のドアポケットに入れていたのは【桜鋼扇】。桜の花びらが刻印された鋼を連ねた鉄扇であり、五行術式の触媒として様々な属性を扱う事も可能である。
 それを手に収めてドアを閉じ、向き直るのは鉄火場だ。
「我は精霊、桜花精」
 開いた鋼に柔らかく扇いで風を送り、そよ風は突風となり渦を巻く。
「呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん!」
 渦巻く風にその特徴的なクセのある髪も逆立てば、その体も木の葉のように虚空へと浮かぶ。精霊化する事で自身を桜花精へと変じ、風の力を身に纏い飛行能力をその身に宿したのだ。
 そのまま戦場へ向けて花びらを引き連れて飛翔する桜花。殲禍炎剣の危険度を考え高度や速度に注意しつつの飛行であるが、視界に掠めた爆炎にそちらへと顔を向ける。
 吹き荒ぶ熱風を貫いて、大気を焦がす臭いを残し飛翔する影を捉える事も出来ず、狙い外した弾頭が次々と芝生に着弾し火炎を咲かせていた。
『全部、見えてる』
『だ、駄目だ、捉え切れない――、うぅわああああぁっ!』
 断末魔と共に包囲網を突破され、ブロムキィの体当たりで下半身を丸ごと吹き飛ばされたフィールドランナー。
 ブロムキィの速度自体は通常の五倍という驚異の走力を持つが、あくまでそれは地上適性。加えて飛行能力もなく美亜が追加したバリアフィールドと、その速度を利用したオートアシストによる揚力制御が機体の飛行を可能としているというだけだ。
 少なくとも飛び立つ際の脚力により瞬間瞬間の速度は異常とも言えるが無理のある飛行機能故に、全体的な速度で言えば他の高速型よりも劣る面があるだろう。
 それでも彼女の機体が敵機に捉えられないのはヴェルデフッドによる妨害機能はもちろん、常人よりも研ぎ澄まされた感覚がもはや第八感と呼べるまでの域へ高められた【アウェイキング・センシズ】による異常察知能力が大きな理由だ。
 敵の注意を引く要素を全て把握し、荒れた地形に敵の弾幕による視覚妨害、敵の武器構成やその射線などの膨大な情報を感覚的に処理する事で間断なく状況の全てに対応する。
 敵がフィールドランナーならば、そのバトルフィールドを見下ろすゲームマスターとでも呼ぶべき視点。敵機の動向を肌で感じるように可動するには、人間的な外観を持つブロムキィは直感的な錫華の操縦と良く馴染んでいた。
『速過ぎるッ、何だこのスピードは!』
 足音すらも呼び餌となり、敵機が振り向く頃にはその場にいない。飛行力と脚力の差による戦闘速度が敵の感覚を狂わせ、その認識に齟齬を与える効果を偶然ながら発揮していた。
 そしてそれを最大限に利用するのも。
『駆け抜けて、ヤキソバマックス!』
『えっ、超クールなネーミング――、わっひゃーっ!?』
 やはりダンテアリオンの人間としてシンパシーを感じたのかその名に驚く隙に、右半身をバリアフィールドに削り取られて戦闘不能に陥る敵機から離れ、均一に張られていたバリアフィールドの出力に揺らぎを感じて眉を潜めた。
(……パワーダウン……そろそろ時間切れってとこですね)
 着地と同時に進行から後退へと方向を変える錫華。ブロムキィの機体性能であればバリアフィールドが消えても十分な戦闘能力を持つ、しかし数的不利を持つ以上その変化が命取りとなり得る。
(まずは安全な場所でバリアが切れるか、こちらで解除するかして再び攻撃を――)
『後退か、援護する』
 ブロムキィの動きから錫華の意思を見定めて、彼女の機体と入れ替わるように戦場入りしたのは装甲に刻まれた超の文字。
 凄まじい電圧により掘られたその文字は誰の刻印か、マグネロボ肆式超が低空より飛翔する。後退したブロムキィの次に現れた新手の軌道に思わず目を奪われた自由青空党員。
 その隙に後退した錫華を眼下に見送り、レイは対空攻撃へと切り替える敵機の群れへと意識を向ける。
 メインモニター内に表示された敵機の全てを捕捉、予め致命傷となる操縦席を外し各関節部を攻撃できるようプログラミングされている。
 それもこれも大いなる始祖の末裔、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットによるものだ。始祖を崇め奉れ。
『というわけでゴッドハンドの技の見せ所か。全機ロックオン、相棒、見せてやれ』
 始祖よりもアサガシアのゴッドハンド優先である。製作者だからしょうがないね。
 尾翼下部の誘導弾発射装置から連続して白煙が上り、空からばら撒かれた誘導弾はふらつくような動きを見せた後、地上の獲物に向かって速度を上げた。
『何の、そのまま対空迎撃だー!』
『下手な鉄砲も数撃ちゃ当た――らない!?』
 降り注ぐ炸薬に次々と腕や足を破壊されて無力化されるフィールドランナー。対空迎撃って難しいんだぞ。
 悪足掻きと空に放たれた銃弾から距離を取るようにしてかわしつつ、レイは機体を空転、背面スラスターを全開に直進する。
 先の誘導弾に気を取られている隙に最短距離で接近した肆式超。左右に開いた手刀に漲る覇気が電流を帯びて明滅し、刃となって敵機の両腕を斬り落とす。
『…………!』
『借りるぞ』
『それ絶対返さないヤツー!?』
 抗議の叫びには言葉でなく、強烈な空中回し蹴りで答えを返して蹴倒すと、倒れた敵機を足場にそのまま跳躍。背面のフライトユニット上部から砲台が離れれば、レイの念動力によって肆式超の周囲にふわりと浮く。
 砲口自体は本機の捕捉機能頼りだが、砲台自体が独立機動するので多角的かつ場所を選ばぬ攻撃が可能となる。
 即ち。
『くそ、防御態勢しっかり取れよ! 小型弾頭のひとつやふたつじゃフィールドランナーは揺るがない!』
『めっちゃ揺らいでるんですけどー!』
『酔い止め飲むか酒でも飲んでろタコスケ!』
 業務時間に飲酒すんじゃねえよ。
 関節箇所を狙われていると知れれば対応は易いと亀のように縮こまるが、所詮は正面への対応だ。背面に回り込んだ浮遊砲台がその膝裏を狙撃する。
『伏兵だッ、……と……いや何だこいつぅ!』
 ふわりと浮くそれに疑問符を浮かべる敵兵はそのままに、砲台は低空より次の獲物へと向かう。機動力を失えば地面より這い出る者たちの餌食になるのは明白だ。
『よくわからん小型機が飛んでいるぞ、それなりに火力もある!』
『こまい動きができないってこんな時に!』
 こんな時だからこそ、である。
 飛翔し誘導弾と共に接近する肆式超と、死角を突く浮遊砲台とに翻弄される自由青空党員。そう、こんな時だからこそ。
『ぐあああああああっ!』
 戦場に咲く烈火の華に、敵機の動きにも緊張が走る。ちょっと遅いんじゃない?
 空に幾条もの白い筋を描き、編隊を組んで飛行するのは小型戦闘機の群れ――、美亜のフロンティア率いるブラック編隊だ。
『この世界では戦闘機の相手は慣れてないはずだ。殲禍炎剣に引っかからない高度を維持し、翼下機銃射撃で仕留める』
 主砲は使うまでも無い。六発しか撃てないからな。
 操縦桿を握り不敵な笑みを見せる美亜のフロンティアはきりもみ降下、劇的に進行方向を変えた先頭機に追従するブラック編隊。
『コバエがあ!』
『さっきも聞いたセリフだなッ』
 残るは集結残存部隊の掃討。今回は美亜も戦闘に参加すると翼下機銃が咆哮すると同時に前後へ滑動し、発射された弾丸がフィールドランナーの装甲を穿つ。
 その口径に見合わぬ威力で体を食い破られ、驚愕する自由青空党員を尻目に駆け抜けるフォロンティア。そして、追従するブラックの一斉射撃が破損した装甲の穴を拡げ内部をずたぼろに引き裂いた。
『ま、また航空戦力だとっ?』
『注意しろ、奴らは群れでやって来るっ! 軌道が読めない、突破力も桁違いで小型機のパワーじゃないぞ!』
『そんな事を言われても、こっちだってなぁ!』
 なるほど。
 敵の混乱に際してお借りしたフィールドランナー腕部内に格納されたキャバリア用グレネードランチャーを両手にレイは頷く。目の前を飛び交う敵機を無視する事が出来るはずなく、見事にブロムキィの代役として敵を釘付けにする肆式超。
 武器の知識は薄くとも、形状を見れば誰でも役割がわかろうと言うものがグレネードランチャーだ。弧を描くように敵機上空を飛行していたレイは、こちらへ銃口を向ける敵機へと引き金を弾く。
 圧縮した空気が放たれるような軽い音とともに発射されたふたつのグレネードは地面に着弾すると同時に爆発、ひとつは予想通りの効果を、もうひとつは煙幕として機能し盛大な白煙を巻き上げた。
 見れば左手に持つランチャー内のグレネードは、右と違い赤色をしておりスモークグレネードとして区別されているのだ。
『あーん、見えないっ。見えないよーっ!』
『情けない声を出すなダンテアリオン軍人がっ、あーっ! 鬱陶しい~!』
(踏まれないように注意するのよー)
(突っ込め―っ)
 情けないやら八つ当たりするやらの声が煙幕から上がる中、頼れる幼虫らの言葉も聞こえる。
(使い所、か)
 計器もなくば機動力も封じられて、煙幕の中で恐慌状態に陥った敵軍にレイは己が武器の使用を模索する。
 と。
『!』
 そんな状況で、やたらめったに周囲への攻撃を開始した自由青空党員たち。
 先程までは民間地上空へと弾丸を逃さぬよう突撃位置、高度を調整していたレイであるが、こうなっては調整も何もない。周囲の損害について考えのないかのようなテロ行為であるが、信号弾を見て集まった残存部隊に小隊長級が存在していない事も大きな理由だろう。
 統率の取れない兵など犬にも劣る。
(面倒だが)
 フライトユニットの翼部を可動させ大きく旋回すれば、敵軍より離れ向かうは市街地方面、正確には方角か。スモークグレネードを腰のウェポンラックに提げ、通常弾頭のグレネードランチャーはぽいと放り投げ。
 自由となった両手は拳を握り、市街地を背に向き直る。
『紅月、キャバリアの視界を拡げるにはどうすればいい?』
『レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだ! 友軍機、左翼展開が遅れているぞ!
 キミのキャバリアは旧式の物を実験機として採用した物品らしいな。視界を拡げるにはズームアウトするのが簡単な方法だが――、位置を確認した。やりたい事は大体わかった』
 敵の銃撃を加速力で振り切り、縦列に並ぶブラックを引き連れ空を泳ぐ蛇のように身を捩るフロンティア。美亜は現状と肆式超の位置からレイの目的を察したらしく言葉を繋ぐ
 メインモニターの映像を広角表示へと切り替える。ズームアウトする事で視界を拡げる場合は目標物も縮小されてしまうが、この方法ならばその心配はない。
 変わりに角度などに誤差が生じてしまうのだが。
『視覚で得られる情報などタイミングで十分だろう、後はゴッドハンドとしてのキミの力で対処すればいい。任せるぞ』
『ああ、任せろ』
 操縦席で首の骨を鳴らし、帽子を座席の角へとかけていとも簡単に言い放つ。
 頼もしい言葉だと通信を終えようとする美亜へ、再びその名を呼ぶレイ。
『レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだ! なんだ、こちらもそれなりに忙しいんだぞ!』
『いや、カメラの切り替え方法がわからないんだが』
『…………』
 聞く相手が違うんだよなぁ。
 思わず言葉を失った美亜であるが、そこは大いなる始祖の末裔。各機の整備に際して全ての機体を確認していた彼女はそれ故に肆式超が実験機であったことも把握していたのだ。
 地上より乱れ飛ぶ弾丸を蛇行してかわしつつも戦場の情報を正規軍へと流し、彼らの作戦支援を行うそれなりに忙しい活躍をしていた美亜は、言葉を失う間もただひたすらに記憶の底からマグネロボ肆式超のマニュアルを思い返していた。

成功 🔵​🔵​🔴​


●小国家アサガシアの決戦兵器!
 『CT102-DASH-2』、通称フィールドランナー。ドッグと呼ばれる前身『CT009-DASH』の特徴を大きく引き継いだ直接の後継機だ。
 堅牢な装甲に長距離狙撃砲や連装機関砲、ロケット弾発射装置と強力な兵器を豊富に備え、エネルギーインゴットを利用した高出力の主動力炉が過重とも言える質量に対し、走破能力を確保する為の無限軌道の速度を支え、更に単純変形による高い機動力と適応力を持つ。
 人型による射角の確保やカバーアクションも可能とキャバリアとしての応用力も備える上に、他機体を支援する携行火器を複数格納できる両腕部はそれ単体で射撃可能な機能も持つと、固定装備と合わせて多大な火力。
 だが同時にその特徴はただの一機に対して複数機分の兵器を積載しているという事に外ならず、軍事力を考える上でバランスのいい兵器とは言えないだろう。
 だが、それらが確保できていればどうだろうか。潤沢な資金に加え高い兵器の製造能力、それこそ持て余す程の軍事力。
 まるで玩具で遊ぶように、趣味とでも言うように一人の人間が武器を集めているような機体をまともに動かすにはそういった配慮が必要だ。特に主戦力として用いるなど、正気の沙汰とは思えない。
 故にもうひとつ、これらを利用するであろう理由がある。少数で敵を突破する為の決死戦、決戦兵器としての使用方法。
 そう、機体よりも兵器の生産を優先するのは搭乗者の少なさが理由。ならばこそ、こういった馬鹿げた発想にも現実味がわくというもの。
 フィールドランナーは元より周辺国家群で高い軍事力を持つダンテアリオンと唯一対抗できる小国家、アサガシアが本国へ搬送していた兵器だ。
 ダンテアリオンに勝るとも劣らない練度を誇る兵士を保有し、しかしその数において圧倒的に不利であるアサガシア。そんな彼らが過重な火力によって多数を粉砕し兵士の帰還を求めるのであれば、このような兵器の準備も納得できるというもの。
 輸送列車による搬送は各地から行われたが、彼らの動向に目を光らせていたダンテアリオンの襲撃により奪われたこれらは今、自由青空党員の決起に使用されている。
 図らずともその使用目的通りの実戦投入となったフィールドランナー。圧倒的な火力、性能の差でダンテアリオン正規軍では蹴散らされかねない中、猟兵の参入により戦況は覆された。
 突破困難と思われたエネルギープラント中継施設前の敵軍を粉砕し、妨害機能によりシステムを麻痺させ、性能差を消し有利に事は進んでいる。
 散り散りになった自由青空党員は一度こそ混乱した自軍を建て直す為に散開したが、小隊級での行動にも関わらず各隊が撃破される中で現状を打破すべく再び施設前の集結を図る。
 だがここまで含めて、猟兵やダンテアリオン正規軍による作戦だとすれば。数の有利を押さえられ、一か所に集められる様は追い込み漁にも映る光景だ。
 追い込み漁とは、仕掛けた網に獲物を追い立てるという別世界の島国にある昔ながらの伝統漁法である。人の知恵というものは知識より派生し、知識があればこそ結果を残せるのだ。直感というものはそれを凌駕する事もしばしばあるが、不測の事態、例外と呼ぶべきものだろう。
 つまりはすでに、自由青空党員は獲物として罠に向け集められているのだと。
 空を行く美亜はアリス軍団による乗っ取りが成功した機体、アリスランナーやドッグによる包囲が狭まりながら、再びの集結を見せる敵軍に笑みを見せた。
 散開しても容赦なく撃破されれば戦力を改めて集中させるのは当然の行為だが、そもそも前提としてその戦力を一度粉砕された事を分かっていない。数を減らされた上での再集結は戦場で敵に背を向ける過程もあり、追撃する自軍がいる事を考えれば自然と包囲網を形成する事になる。
 敵勢力を押し止める為に殿を用意し、集結地点の戦力立て直しまで時間を稼がなければならないのだ。だがそれは更なる戦力低下を招く欠点もある。そもそも数的不利を受けてこのような開けた場所での殿など、下手をすればそのまま踏み潰されて突破を防ぐ力が残るとも思えない。
 この状況でおそらく最も正しい行動とは、逃走である。戦場を引き延ばし数的不利を覆す為に同時戦闘する機体数を減らす。そして小勢でも戦える場所を探し、移動し続けなければならないのだ。
 だがここにいるのはテロリストとは言え同じダンテアリオンの軍人だ。国民に直接被害を与えようなどという考えはないだろう。そもそもこいつら党の思想とか理想とか知らないし。
 そんな彼らが居住区に逃げるはずもなく、隠れる場所もなければただ戦力を集中させるという愚策に走ったのだ。
『そう、全ては――、この大いなる始祖の末裔であるレイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットの掌の中……!
 ふっ、……くっくっくっくっく……!』
『敵機進行――、止まりませんっ!』
 操縦桿を握ったまま、さて高笑いをと大きく息を吸った所で邪魔が入る。良い所でと舌打ちしつつも、通信を受けた小隊方面を抜けて爆走するフィールドランナーの群れ。
 走っているというのは誤解があるか、半戦車形態で猛進している。
『来たな、不測の事態だ!』
 空を行く白筋に華麗な旋回を決めて、蛇のように編隊を組んだブラックは先頭のフロンティアに続くように右翼から順にターンを決める。
 半戦車形態へと変形したフィールドランナーに履帯への攻撃を上空から行うのは至難の業だ。ならば火力で攻めるのみ。
 先程敵機へ炸裂させたのはセミアクティブ誘導方式の空対空ミサイル、SAAMと呼ばれる代物だ。本来ならばその名の通り空対空のドッグファイト等に用いられるものだが、迎撃能力の落ちた地上兵器を狙うのに問題はないと言う訳だ。
『ファイア!』
 地上すれすれで再び展開、鏃状に並んだブラックから一斉にミサイルが放たれる。捕捉するは正面、白銀に輝くフィールドランナーを先頭とした小隊級複数。
 セミアクティブの名が示す通り、機体の直接誘導によって飛行するミサイルは接近飛来物を察した白銀が回避行動を見せてもしっかりと追尾を行い。
 急制動をかけた白銀が他の黒き装甲の群れへと隠れる。次々に炸裂するミサイルの威力は敵進行を減速させたものの、小隊長と思われる敵機に対してダメージは与えられなかっただろう。
『やるな!』
『ふっふっふっふっふ。輝きがぁ、足りてぬぁい!』
 何ゆってんだこいつ。
 その反応、そして対応に思わず称賛の言葉を漏らした美亜に対し、訳の分からんことを言って再び先頭に現れた爆走白銀フィールドランナー。
『刮目せよ、この銀、ギラりッ、このギンギラリンーッ!
 ギンギラリンに輝き目立ち生きる事こそ人生、人は誰しもが主人公! そうだこの走り、そしてギラり、止められるものなら止めて見ろォーッ!!』
『何ゆってんだこいつ』
 思わず至極当然な言葉を転がしつつも、美亜は回避行動へ移る。敵進軍を僅かとは言え減速させる事に成功し、更に言えば正面に注意を向けさせた。
 仕事としては十分だ。
『じゃあ止めるとしようかい!』
『むっ、おわああああああッ!?』
 突如、先頭を行く白銀のフィールドランナーが側面よりぶちかましを受けて大きく弾かれ、その衝撃に空を舞うのはアリス妹たちの姿。
 保護色により芝生に溶け込み、そしてフィールドランナーを真似た色合いとアリス妹たちが武器のふりをするという大規模な偽装により大胆不敵にも大接近していたのはチェスカー、ビッグタイガーだった。
 正に獲物を狙い野に伏すようにして迫ったそれは、一見すれば歪とわかるもどの機体も追撃により歪んでいた為に気づかなかったのだろう。
 何より、そのフィールドランナーたちと同じ無限軌道のビッグタイガーには。
(きゃーっ、と、着地!)
(ご飯がいっぱいねー)
(硬直してて足が痺れたわー、いただきまーすっ)
『な、なんだ、状況不明、損傷拡大――のぎゃあっ、機体の上になんかいるぅー!?』
 ばらまかれたアリス妹らはそのまま後続の群れへと襲い掛かり、ビッグタイガーにまだ貼り付いていた妹たちも、もう擬態の必要がないと知ればチェスカーに別れを告げてぴょんぴょんと敵機に飛び掛かっていく。
 ビッグタイガーもかなりの重量を持つ機体だが、対する敵も多くの武器を積載する為に造られた機体、最初の体当たりで大きく軌道を変えられた。
 互いに弾かれた状況であるにも関わらず、両者に減速という言葉はない。速度を乗せたまま操縦桿のみで態勢を立て直す敵機ならば、敵の進行を止める為、こちらも減速する訳にはいかないのだ
『さすがにその見た目はダテじゃあないか!』
『ぬぬぬ、やりおる! 各機進路変更、今離れた戦車は敵だ。周囲を囲み破壊するのだ。我らは止まらん、故に見敵即殺!!』
『たたた隊長っ、なんか少女らしき影が機体にとりついておりますぅ!』
『お前のイマジナリー・ドーターだ! 娘に応援されるなんて羨ましいぞ、カッコいい走りを見せてやれ!』
『は、はははははぃぃ!』
 不明な状況を勢いだけで乗り切る白銀小隊長。意外にも指揮能力は高い部類なのかも知れない。
 予想を上回るパワーワードで混乱する部下をぶん殴り、無理やりその指揮下に再び収めた彼の命令により、単機離れたビッグタイガーに回り込むフィールドランナー。
 ビッグタイガーの砲身に気を取られている様子の彼らだが、相変わらずAI制御が不能という事もあり連装機関砲での攻撃を主軸としているようだ。
 だがこれは機動戦だ。射線を集中できず直撃も出来ないとあらば弾丸すらも弾かれるのが対戦車戦。同じく重装甲の前に、砲身ががたがたとぶれる敵の攻撃は礫を投げつけられているようなものだ。
 だが包囲され数撃たれれば、直撃弾が出るのも当然の事で。
(撃たせっ放しなんてのも性に合わねえ!)
 左右の履帯を逆回転させる事による超信地旋回だ。そう、左右の履帯で別々の回転機動を取る事を超信地旋回と言うのである!
 同時それはビッグタイガーの走行速度を下げる事となり、急減速した機体に衝突を避けるべく背後を取ったフィールドランナーたちも進路を変え。
『――はっ……?』
『ジャックポットだ』
 昏い笑みを見せたチェスカーの言葉は処刑宣言に近い。
 後方へと流したつもりのビッグタイガー、その恐れた砲口が駆け抜け様にフィールドランナーへ向けられた。こちらの射線をかわすべく動いた所で砲塔の回転と合わせては、包囲している以上それをかわすには無理があるというもの。
 すり抜ける僅かな隙に合わせられた照準は、鋼の咆哮により狙い違わず敵機の狙撃砲ごと背中の装甲を吹き飛ばした。
 貫通した弾頭はそのまま地面に突き刺さって土砂を巻き上げ、その土煙に乗じて姿を消したビッグタイガーは次の獲物へと牙を剥く。
『背後頂き!』
『えっ、ぎゃああああああっ!』
 重装甲など紙屑とばかり、易々と貫通するAPFSDS弾。ただの一撃で次々と戦闘不能へ追い込む戦力に背後を取られ、見るからに大慌てするフィールドランナー。
 白銀兄さんは止まらないのでほっぽっといて前進してますね。
 だからとただ撃たれる訳にはいかない。彼らも上半身部分を反らし、砲台を回転させてこちらを狙うが可動域の問題でこちらを狙うには時間がかかる。
 戦車と違い、上半身が砲塔として回転する機能もないらしい。諦めて減速、機体ごと向き直ろうとする者が大半だが、その間にも火を噴くのはビッグタイガーの主砲である。
 装填の時間を除き、間断なく目の前に並ぶ標的を次々と撃ち砕く。一撃ごとに衝撃が操縦席を貫くが、人型であれば軋み仰け反るそれも、タンクモードであれば装甲中の砲撃もお茶の子さいさいなのだ。
『た、隊長、背後を取られてしっちゃかめっちゃかですぅ! ……それと、ひえっ……!
 イマジナリー・ドーターが何かしているみたいでどんどん使用不能武器が増えてますぅう! ぶっちゃけ食べてるのが見えますぅぅぅぅ!』
(むしゃむしゃ)
 泣き喚くなバカチン。
『何ィ、娘さんに甘えられているなど羨ましいぞ! 使えない武器はその子が遊んでるだけだ、使える武器だけ使え!
 背後を取られたなら背後を取り返せばいいじゃない! さっきの戦車も減速しているのだ、お前たちも減速して対応しろ!』
 言動はともかく指示は案外まともである。異常事態を意に介さない鋼の精神ぶりに再び落ち着いたのか、部下たちも威勢の良い声で言葉を返し減速、対ビッグターガー用の編隊はチェスカーの作戦と同じく超信地旋回を行いながら迫り来る。
 何だかんだで軍事国家、しっかりと兵器の運用を分かってらっしゃる。
『食ぅらえええええ!』
 狙撃砲しか使えないのか、撃墜される仲間たちの間をかきわけ完全に振り返ったフィールドランナーの内の一機。もはや搭乗席のあたりをアリス妹がこじ開け始めているので、この気迫は追い詰められた者故のであろうか。
 ほぼ同時にチェスカーも照準を向けている。中途半端な戦車形態を持つフィールドランナーとビッグタイガーでは旋回速度が違うのだ、そう簡単に振り切らせる事は無いと彼女。
 だがこのタイミングは相打ちと言え、敵の弾が外れる事を祈るのは三流のする事だ。要は敵より早く撃つか、回避するか、あるいは防ぐか。
 先に敵を無力化するには目立つ胴体を撃ち抜けば問題ないだろうが、アリス妹がいる事に加えてそもそも人命に関わる場所を攻撃できるはずもない。
 とは言えその狙撃砲に照準を向け直すには時間がかかる。
『ここは任せて貰います!』
『新手だとっ、ええい構うか、というか!』
(こんにちはーっ!)
『構ってられるかあ!』
 回避行動を選択したチェスカーに言葉をかけてその頭上を越えたのは黒い影。
 現れた新手に迷いが生じたものの、ついに操縦席の装甲を引っぺがされた自由青空党員は恐怖のまま砲撃、向かう砲弾はしかし、装甲の前に弾かれる。
 直撃コースであったそれを弾いたのは、斜めに構えた大型シールド――、エクアトゥール。
 斜めに構えた事で後方へと跳ね飛ぶ砲弾はもちろんビッグタイガーに当たる事もなく、そのまま地面に落下して爆発する。
『そのまま行きます!』
 攻撃機はそのままイマジナリー・ドーターに操縦席から引きずり出されているので放っといて、続くはその他のフィールドランナー。
 チェスカーもまた、勇ましく駆ける頼りがいある背中にお礼を述べて、彼女やアリス妹に蹂躙されているフィールドランナーとは別の者へとその照準を改めた。

 芝生を蹴散らし土煙を上げ、爆走する白銀のフィールドランナー。
 エネルギープラント中継施設へ向かう他フィールドランナーをまとめて包囲網を突破し、見事施設前へと雪崩れ込む事に成功した。
 戦力をまとめ消耗を防いだその手腕は何よりも速度、勢いを貴び味方の士気の低下を防いだ事が大きい。それは同時に犠牲を放置する事で戦力の低下を最小限に抑えた結果でもあるが。
(数が、減ったな)
 白銀のボディーをミラー代りに後方の味方機の数を確認、険しい顔を浮かべる。計器類を破壊された非常時とは言えその塗装に実用性あったんか。
 彼の塗装が趣味か機能美かはさておいて、施設に向かう逃走劇、ダンテアリオン正規軍の追撃と猟兵による迎撃は訳が違う。
『……ふっ……だが止まる訳にはいかない、俺は走る、この窮地を!
 駆けて抜けて活路を開き、その時こそ俺はギンギラリンに輝くんだァーッ!!』
 やっぱこの人おかしいよ。
『まずはその黒煙ィ、俺の輝きで吹っ飛ばす!』
 猛然と目指すはレイの張った煙幕内。内部には先に到達したフィールドランナーが囚われており、おかしいのは確かであるが野生の勘でもあるのか何気に行動としては正しいものだ。
 もうなんか本当におかしいよこの人。
 広い屋外での戦場、煙幕が常に展開される事は有り得ない。常に継ぎ足す存在があるはずだと視線を走らせたその瞳が捉えるのは、一定空間を飛び交う一機のキャバリア、マグネロボ肆式超。
『ようし、俺の直接後方より三機編隊、あの鬱陶しい敵機を撃墜せよ!』
『……対空攻撃かぁ……お前自信ある?』
『射撃適性Sの俺なら余裕さ!』
『ウチの評価は二十六段階だからそれ低いって意味だぞ』
『淀むなヒヨッコども、迸れ! お前らも俺に負けず強く輝く戦場の星になるんだ!』
 星屑になりそう。
 躊躇すれば即座に尻を叩く、単純明快かつ効果的な激励に、嫌々ながらも肆式超へ向けて進路を変える三機。
 二機を前面に一機を後ろへ、二枚盾を構えるような陣形だ。レイと言えば美亜の説明を受けてメインモニターを広角表示に切り替えている状態で、飛来物の全てを視認している。
 本来なら直線軌道にも関わらず画面上に曲線を描いて飛ぶそれらは銃弾。こちらを狙ったものではない、視界を塞がれ苦し紛れの抵抗に過ぎない。
 戦場であらば対応する必要など毛ほどもないが、それも居住区へ害を及ぼすとなれば話は別だ。
『――ふっ!』
 一息の呼吸から刹那となく、高速連打される拳は飛電を散らし、迫る銃弾を叩き落とした。ゴッドハンドとしての力、正しくである。
 実際の所、自身の拳でもなければその動きを機体が再現するような操縦方法でもないので、操縦席では神速の域でレバーをガチャガチャしているデッドマンとは思えない猟兵の姿が見れるぞ。
 画面上で繰り出される拳撃の位置、弾丸の位置、相対距離。全てを瞬時に判断して修正しながらの連動である。
(…………、反応速度が上がっているな)
 神速でレバガチャしたとは言え、その神速が機体に反映されるかと言われればそうでもないのだ。あくまでその処理能力を超えない範囲で再現する事しか出来ない、それは人の体にも言える事。
 しかしこのマグネロボ肆式超、レイ・オブライトの情報を基に強化改造されたというだけあってその特性を活かしており、覇気による機体のコーティングをそのまま駆動系の強化に繋げ、関節肢の摩擦を減らし通常の機体よりも可動速度が強化されるようになっているのだ。
 それでもゴッドハンドの性能を十分に活かせる機体とは呼べないが、ここに組み合わさったのがレイのユーベルコード【Relic(ワンダーラスト)】。彼の触れた将来的に『聖遺物』となる存在を、通常状態から意味を与えて限界突破させる事で、即席で機能するという奇跡的な状態へと変じるのだ。
 これにより先の動きの如く、火線の集中されない弾丸を打ち落とすなど朝飯前という訳である。
 本機は捨てられちゃったけど、ゴッドハンドと呼ばれた整備士の腕は伊達ではなく、レイが扱う上での下地として十二分に機能して見せた。
 レイは自らの手足となった機体へ覇気を充実し拡散する。物理攻撃力を持つまで気を硬質化させるゴッドハンドならばこそ、盾として使用する事も可能なはずだ。
 肆式超を中心に拡散する気はそのまま濃度を上げて壁となり、稲妻を発し攻撃力さえも持ちながら増大していく。
 これが、彼の出撃前にひとりごちた、電磁バリア、その疑似的な再現である。
『単純にさっきみたいに殴り落しても良いが、オレより後方には流れ弾ひとつ抜けさせる気はないんでな』
 その言葉を示すように跳ね回る弾丸をその気に受け止めればばちりと音をたて焼き焦げる。拳の届かぬ距離はもちろん、これならばゴッドハンドのレバガチャに肆式超がついていけなくとも関係ないと言う訳だ。
 正に市民の盾としてここにある。正規軍ども、お前らの仕事だぞ。
『確かに中々の腕前のようだが、今大絶賛迸り中の三人衆ならば空中で止まってる奴なんて余裕でブッチよぉ!』
『ブッチ切るんじゃなくて攻撃するって話だけどわかってんのかこいつ』
『弾丸を手で弾いたりバリアで弾いたりするキャバリアが相手ってのわかってんのかこいつ』
 愚痴を言っても始まらないぞテロリスト。
 もはや万が一の勝算もないと悟っている二人と共に、何故か勝つ気が満々の男一人の組み合わせ。無論、接近する敵影などすでに捕捉済みだ。
(無用な被害が出ないようにしているんだがな)
 いかなテロリストとは言え、国民を直接攻撃するなど本意でないだろう。革命は成しても順風満帆とはいかない。ただでさえ燻る火種があるというのに、そこに過失があればどうなるか。
 でもこの国の国民性って割とノリで生きてるからどうにでもなりそう。
 この国の未来を憂慮したところでどうでも、もといしゃーないのでレイが向けるのは腰に提げていたグレネードランチャー。
 飛来する弾道からバリアを展開する必要がない一瞬に解除、敵軌道上にスモークグレネードを放つ。
 ついでにどったんばったん大暴れしている煙幕会場にも新たなスモークグレネードを追加するレイ。その直後。
『――これが三機編隊の意味じゃ~い!』
 地を這い山となる煙幕を突き抜けて、空へと発射されるように飛び出したのは一機のフィールドランナー。以前レイ自身も見た事がある、前身となったドッグらが当然のように使用していた味方機を踏み台にするという戦術だろう。
 相も変わらず計器類が使用できないためミサイルポッドは使用できない様子だが、その他の武器は全てだと両肩の狙撃砲に連装機関砲、両腕の装甲を展開し搭載されたキャバリア用の小銃群をマグネロボ肆式超へと向けた。
『射撃適性Sの俺様の力をナメるなァーッ!』
『なんであいつが攻撃役なんだよ!』
『……勢いが凄かったから……』
 勢いが優先される軍隊とか兵器持たせたくないんだけど。
『ヒィイヤッハーオッ!!』
『…………、どこを狙ってるんだ?』
 奇声とともに乱射される弾幕はそれなりの濃さであるものの、まるで目標を避けるように展開されているのだ。評価二十六段階でのSランクは伊達ではなかったのだ。
 とは言え数撃ちゃ当たる、弾道も目視しながら火線も集中となればすぐにでも命中させられるだろう。
 それまでを待つ者はいないが。
『だはっ、だははははははーっはっはっはっは――、ん? どぅわあああぁっ!?』
 気持ち良くトリガーハッピーしていた所、突如の爆発がSランカーを襲う。ただでさえ飛行能力を持たないフィールドランナー、その重い体は下降も始まっており、爆発で押し込まれるように黒煙の海へと沈められた。
 名ばかりのSランカーを沈めたのは肆式超より離れて後方、レイの捨てたグレネードランチャーを回収していた錫華のブロムキィである。
『お待たせ、こちらはバリアも切れたからしっかり援護していくね』
 がちゃりと構えたグレネードランチャーがしっくりと来る。どこから拾ってきたのかグレネードを装着したバレットベルトを交差させるように二本その胴体に巻いて、回転弾倉に装填していく。
『ああ。煙幕内の敵機はアリスたちが何とかしてくれるだろう。そちらの片が付くまでオレはここで防衛に回る、その間を頼む』
『任せて!』
 装填完了。
 親指を立てたブロムキィにレイもまた肆式超の親指を立てた。


●駆逐・自由青空党!
 マグネロボ肆式超、その手に持つランチャーから放たれたスモークグレネードが煙幕を増やす中、それを晴らさんと爆走する白銀のフィールドランナー。
 例の迸ってる小隊長だ。
 後続部隊も少なくなったものの彼の姿勢に諦めは見えず、言動は置いといても正規軍に所属していた頃はそれなりに有名だったのかも知れない。
『ゴールはもう目前だ、気力を振り絞れ!
 とは言えゴールに着いてもそれが終わりというワケじゃあないのだ。人はそれを第一段階といいあるいはスタートラインと言う。そう、ひとつのゴールはひとつの目標の達成に過ぎず、そこから大海大空大陸へと広がる視界の中に今まで見えなかった目標すなわち次のゴールを見出すことこそがゴールラインでありスタートラインの役目であって――』
『――以下略!!』
 衝突音。
 周囲を警戒しながらもアクセルを緩めず速度を一切下げず、そんな相手がぶつかった存在とは。
『うぅっ、おっ、なンだぁ、今のは!?』
 正面からぶつかった衝撃にモニターすらも歪み、操縦席にまで浸透して痺れた腕を堪えながら体制を建て直す。警告音すら鳴り響かない為に各部の異常は察するしかないのだが、混乱の中でも的確な動きが光る。
 ノイズの走るそれの先に、本機の衝突箇所にはやはり何も無いと確認し。
『――てめぇ……』
 否。
 ノイズの中にすら空間の歪みを視認した男は、そこにある映像が虚像だと瞬時に察した。他の小隊長たちも苦しめられた、ヴェルデフッドによる幻影。
『悪いが、合流なんてさせないぜ。敵を分断し連携阻止、単純だけどそれが正規軍を、引いてはこの国を守る事になる』
 まるで蝋燭の火が消えるような揺らぎが広がり、現れ歩み出たのはザンライガ。以下略宣言により鬱陶しい小隊長の言葉を遮ったウタはにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
 止めたな、俺の進撃を。
 唸るような男の言葉に肩を竦める。ウタとしてはこの男、正面切っての衝突に他フィールドランナーの残骸を使うなど行動阻止に万全を期している。それもビッグタイガーを筆頭に彼の進行を滞らせ勢いを弱めたからこそできた間だ。
 両脇に置いていたフィールドランナーのスクラップと繋がる連装機関砲を二挺、両腕で抱え上げる。
 使い物にならないと見えるが、周りをウロチョロしているアリス妹たちが「オーライ、オーライ」と合図を出しているので謎のアリス・エンジンにより問題なく起動するのだろう。
 猟兵ってスンゲー!
『数が少なくなったお陰で後続に轢かれなかったんだ、ありがたく思えよな!』
『……い~ぃだろう……相手をしてやる』
 相手してくれとは言ってないんだけど、との言葉は飲み込むウタ。こんな物を構えて相手をするな、など無理があると言うものだ。
 敵を正面にエンジンを唸らせる白銀。
 相対するは両腕の連装機関砲だけでなく胸部装甲を展開した鈍重。
 各砲門を確認でもするように回せば、フィールドランナーと同じく威嚇の唸り声を上げているかのようだ。
『この俺の、いや俺たちの、いやいや自由青空党の!
 進軍を止めた事を! …………、後悔させてやる』
『何だそのタメ。まあいいぜ、どっちが後悔する事になるか、試してみるか!』
 抜かせ。
 ウタの言葉に凄絶な笑みで返し急発進するフィールドランナー。隊長に続けと後続の敵機も音を轟かせれば、どっしりと腰を低く構えたザンライガ。ウタの指示を受けてアリス妹たちが連装機関砲のトリガーを起動、銃身が高速で回転。
 同時に胸部より迫り出した四門の砲台もまた唸りをあげ、乱気と吐き出された鉛弾の嵐が正面の白銀を中心に並走するフィールドランナー群へと叩きつけられた。
『ぷわっ、ぶっ!?』
『どっしゃー!?』
 まるで水でもぶちまけられたような被弾音。濃密な弾幕を広範囲に張られて減速、どころか停止を余儀なくされる後続連中。
 仲間の体を盾にしてでも進むんだ甘ちゃんアメ太郎どもめ。アリスさんなんて同族の動きが悪くなったら担いで盾にしちゃうんだぞ。
 しかし、小隊長の任についた彼は違う。先程の様な愚直なまでの突撃では耐えようがない。だからこそ背面推進器を利用、ドリフトするように車体を斜めにしながら押し込み、微妙な揺らぎで火線を弾き猛進す。
 こうも強引に、かつ技巧を凝らして来られてはその弾幕を正面に集中するしかない。圧倒的質量に対し圧倒的物量での真っ向勝負。
『小隊長に攻撃が集中している、チャンスだ! 全機突撃ィ、あれっ?』
『……なんか進まないんだけど……?』
『おいおいぬかるみにハマったかぁ?』
 無限軌道がそう簡単にハマって堪るか。
 折角のチャンスに行動を起こせず、焦る彼らが目撃したのは熔断された履帯とその上で空回りする起動輪その他の姿。
 獄炎である。その炎に包まれた銃弾は至近距離であれば先のフィールドランナーのように装甲など容易く引き裂く。
 だが距離があったこと、何より火線を拡散した事で威力は下がった。とは言えより脆弱な履帯へと被弾してしまえば話は違う。あれほどの弾幕、装甲で履帯の全てを覆っている訳もないのだから必ず穴があり、被弾を許してしまったのだ。
『たかがメインキャタピラをやられただけだ!』
『各機スタンディングオベーション、我らが小隊長を援護せよ!』
 オベーションが何の役に立つんじゃい。
 しかしそこは頭諸々がおかしいとは言え元軍人、拙い暗号であったのかフィールドランナーたちは次々と立ち上がり、その武器をザンライガへと向ける。ここに至るまで受けた攻撃の数々は装甲だけでなく、すでに満身創痍の者もあり満足に使える兵器も見当たらないが。
 それでも彼らの火力が集中すれば、幾らザンライガの装甲でもひとたまりも無いだろう。
『あえて言おう、勝ちであると!』
 白銀の装甲は黒へと染まり、銃弾の嵐に弾くのも限度がある。それでも勝利を確信したのは自らが盾となる事で味方の接近時間を稼ぐ自負があるからこそ。
 いわば自らの死を覚悟した上での勝利宣言だったのだ。だがウタは弾切れを起こした連装機関砲を投げ捨てて不敵に笑う。
『その勝利宣言、ちょっと早かったな!』
『敵陣で足止めを食ってしまった結果を教えてあげましょう』
 ザンライガの背後より現れたのは白きキャバリア、エイストラ。
 白銀小隊長とは別ルートで施設前へと到達した彼女はそのまま回り込み、彼らの迎撃へ向かったのだ。ザンライガを壁として。
『な、何ぃっ、俺を踏み台にしたー!?』
 煤けてしまったもはや白銀とは言えぬそれを足場に跳躍、狙うは後続のフィールドランナーだ。未だに戦力は残っているが、いくら小隊長機と言えど猟兵を目前としてしまったのでは未来などない。
 ならば撃つはより危険度の高い後続部隊のみ。
『慌ただしくお越しいただきましたが、いいんですか? そんなガタガタの装備で』
 バイブロジェットで低空から直進するエイストラに対し、即座に迎撃態勢へと移る自由青空党員。エイストラとテロリスト、真なる大空の覇者は誰なのか――、などといった展開があるはずもなく、横合いから敵部隊を掠めぬぎりぎりの位置で横切った人影。
『うおっほい!』
 意識を前方に向けていた所だ。並ぶ機体のメインカメラに映る空行く桃色の影に思わず注意が逸れたその瞬間、フィールドランナー中央上空へと達したエイストラにノエルは再びユーベルコードを始動する。
 放たれるは全方位への高硬度衝撃波。
『H・S・F、ラディエイション』
『きゃあああああああっ!』
『ハレンチな風がフィールドランナーの装備を剥がしていくーっ!?』
 上空から放たれればまるで鈍器で頭から叩き潰されたような衝撃。正規軍からの猛攻に晒されたフィールドランナーはご自慢の装甲で耐えたとは言え、先も述べたように無傷ではない。
 繋ぎ目はもちろん、兵装もまたがたついており、例え内部に影響はなくとも外装が耐えられるとは限らない。その結果が自由青空党員の言うハレンチな風という訳だ。
『お、おのれぇい!』
 攻撃範囲から離れていた敵機がおっかなびっくり砲身を向けるが、それよりも早く飛来するのは先の人影、桜花。
『さっきの小型機!?』
『例の対空機体のフロートキャノンか!』
『もしくは鳥!?』
『またはUFO!』
 何ゆっとんだお前らは。
 飛び交う彼女を捕えようと手をかざすが、そんな鈍重な動きでは不可能だ。あっさりとすり抜けて体勢を崩したフィールドランナーがひしめき合い互いに干渉する。
 邪魔だと剛腕を振るえば先の攻撃の後、装甲どころか腕が脱落する者もいれば、ドミノ倒しのようによりかかって仲間と共に転倒する者さえいた。
 キャバリアの視線程度の高度だ、幾ら速度を上げても殲禍炎剣に捉えられる事はなかろう。
(さすがに仲間同士の衝突で自爆を選択、何て事はありませんでしたね)
 倒れ行くその機体の下すら潜り敵の視線をかわし、神出鬼没に惑わせる。頼るものが肉眼にしかない彼らにとってこれほど辛い状況もないだろう。
 どうしても注意を引き付けるキャバリア・エイストラに対し、不意に姿を現す桜花によって敵の集中力も瓦解している。
 敵の陣列も指揮ももはや機能していない。今こそ好機。
 倒れ込んだフィールドランナーへと舞い降りれば閃くは桜鋼扇。がたがたになった装甲に差し込み、弱った支柱を切断し、てこの原理であっさりと装甲を剥ぐ。
 狙うは頭部と胸部の隙間に設置されたコックピットブロック・ハッチの強制解放ハンドルだ。
「よいしょ、っと」
 奥まったそれは事前に整備工場の工員から聞いた場所にそのままあり、伸ばした手で何とか握り込むとアナログな仕掛けでハッチ周囲の炸薬が起動、ロックボルトが排除され自重でそのまま隔壁が開いた。
「ななななな、何だ何だぁ!?」
「失礼しますね」
「うひゃーっ、髪の毛が逆立ってる! 鬼婆だ!」
「失礼ですね」
 シワひとつないお姉さんに暴言だぞ!
 男の言葉に眉を顰めつつも、装甲を剥がした桜鋼扇をその首元に構える。熱された戦場の中で風に曝された冷刃は、逆立つ長髪と合わせ確かに鬼を思わせるのも無理は――、いや失礼。
 ともかくその光景に思わず生唾を飲み込んだ男だったが、それが裂くのは彼の思う場所とは違い、その体を固定するベルトであった。
 へたついたとは言え鋼すら切断したその手並み、安全性の高いベルトと言えど紙と同じ。
「……ベルトを……!? ……何故……」
「せいっ」
 容赦ない掌底が男の顎を襲う。舌噛むんじゃねえぞ。
「――ごっ!? ……な、なん……で……」
 そりゃ口やかましく叫ばれて抵抗される敵兵を運び出すより、無意識で無抵抗な人間を運び出す方がべらぼうに楽でよろしいのです。
 別に口が禍を呼んだ訳ではなくってよ。あくまで合理的判断によるものなのだ。
「武器を手にした以上、これは戦争です。命だけは戻りませんから」
 気を失った男へ嘯き、コックピットから引っこ抜くとそのままポイ捨てする。それなりの高さなので受け身も取れない人間が投げ落とされれば命にも関わるが、進軍を押し止めた事で追いついたアリス妹軍団が地下から顔を出している状態である。
(ナイ・ピッチー!)
 投げられた男をキャッチし、野球少年団が叫んでいそうな言葉で答える妹さん。人を玉として扱うなど言語道断ともとれるが、森羅万象区別なく餌とできる超雑食性生物ならではの平等主義なのだ。
 他の機体がエイストラに集中している間に転倒した機体、こちらに気づいていない機体を次々と襲いパイロットのポイ捨てを続ける。特に転倒した機体や装備を全て剥ぎ取られた機体を優先しているのは、敵に自爆をさせない為だ。
 完全無力化したフィールドランナーに食欲を示したアリス妹、それを追い払うように着地を決めたのはエイストラ。
 左肩のプラズマキャノンを先と同じく地面に向けて発射、周囲の敵を薙ぎ払い桜花へと声をかける。
『桜花さん、敵勢力減少につき妹さんたちの数が増えたら囮役の交換をお願いします』
「ええ、大丈夫ですよ。ノエルさんは?」
『私は正規軍を引き連れている陽動部隊を叩きます』
 どうやらあの信号弾に気づいていなかったか、或いはあえて無視をしたのか、どちらにせよ正規軍の追撃をかわすのだからはぐれ者たちをまとめる指揮能力を持った輩がいるのは間違いない。
 外ではまだ猟兵が動いている。他のはぐれ者はすでに無力化されているはずだ。
(施設に向かう他のアリスから、こっちにも余りそうな数を分けてくれるんだってー。もう三十秒とかからないわ~)
「その時間なら、私だけでも大丈夫そうですね」
『了解しました、では早速――』
 言葉を返したその瞬間、もはや殲滅まで時間なしと思われた敵部隊の中から二機のフィールドランナーが飛び出した。あの攻撃に晒されながらも反撃に転じず身を潜め、その損傷を最低限にした者たち。
 ようやくお出ましかと嘯くまでもなくキャノン砲を向けるノエル、しかしそれを制したのは桜花だった。
「こちらはお任せを。ノエルさんはあちらをお願いします」
『分かりました、お任せします』
 桜花の言葉に飛び立つ白き姿、溢れた風を受け流してそれを見送り、未だに闘志に燃える敵機へ視線を変える。
 残りの救助と行きましょう。
 呟く言葉と共に、踏み荒らされた芝生から凶悪な生物たちが無数に這い出し始めるのだった。

『よっしゃあ!』
『ちいっ!』
 同型機の高火力兵器二門に加え、ザンライガの火力をも耐え切ったフィールドランナー。すでに装甲に傷のない場所などなく、まるで弾丸に彩られたかのようだ。
 連装機関砲を捨てたザンライガに立ち上がるような格好で人型へと戻るフィールドランナーは、そのまま圧し掛かるように振り上げられた両腕。機体の質量と勢いをかけた単純な振り下ろしをこちらもまた両手で受け止めるウタ。
 敵の両腕、装甲は歪み開く事は無いだろう。背負っていた武器もとっくにザンライガの弾幕で吹き飛ばされた。重射撃が主力となる兵器でありながら取れる行動はただの格闘、そう。
『殴り合いだ!』
『いいぜ、来いよ!』
 重量だけならザンライガとてフィールドランナーに負けてはいない。しかし勢いの乗った攻撃で押された姿勢にこん棒のような振り回しの一撃が頭部を横殴りにする。
 傾ぐ機体へ更に左腕が胸部を打つ。衝撃が直接操縦席を揺さぶり思わず呻くがそれも一瞬だ。敵の言葉を受け止めたように、すぐにこちらも笑みを見せて拳を固める。
 右のオーバースイング。拳闘であれば反撃に使っていい代物ではないが互いに鈍重、機敏な動きが出来る性能ですらない上に、そもそも互いに避ける気すらないのだ。
 敵の攻撃を無視して追撃を強行するフィールドランナーを剛腕の一発で黙らせる。傾きを正す軌道を呼び動作に、全体重をかけた一撃が敵機をも弾き飛ばしたのだ。
『くぅ、何と重い拳だ、魂が籠っている! 正にソウル・フィスト!』
 その呼び名は止めてください。
『あんたもな。けど、いつまでも殴り合いする気なんてないぜ。これで終わりだ!』
 流れを変えた拳。
 再び背負う炎の翼を右腕に纏い、赤腕と化した拳から炎が零れ落ちる。
 名実ともに最後の一撃、そのはずが。
『やらせん!』
『ハッハーッ!』
 突如現れたフィールドランナー二機の射撃により阻まれた。燃え盛る腕を咄嗟の盾とし、更に背面の装甲を前面に展開して防御する。
 大事には至っていないが、現れた二機によって何とか繋がれた小隊長はそのまま後退、ザンライガと距離を取る。
『ふふふ、この時の為に潜んでいたのさ。何も軍人だけが自由青空党員という訳ではない!』
『ある時はペンキ屋! またある時は塗装屋!』
『しかしてその実態はこのダンテアリオン大国を支える縁の下の力持ち!』
『何故か軽視されまくってしょうがねぇ諜報部員だァーッ!! 俺たちが潜んでいるなど分かるはずもなかろうーっ!』
 実に分かり易い自己紹介ありがとう。でもさぁ。
『いや、そんな目立つ色してるから誰でも気づくって』
 その装甲、まっピンク。そもそもなぜピンク?
 ぶっちゃけ彼らが潜んでいる事はノエルもあっさり看破していたし、というか見えるし、なんなら突入時点で美亜にも目視されていたりする。
 要はバレバレなのである。何が諜報部員だこの野郎。
『くくく、負け惜しみを。ペンキ屋塗装屋として巷に潜む事で鍛え上げたこの早塗り技術と特殊機械によるニンジュツ・衣替え、敵の目を欺く完璧さに気づける者などあるはずもない!』
『敵と一緒にやって来るのに欺ける者などあるはずもないだろ』
 ド正論。
 思わず彼の言葉に合わせて答えてしまったウタに対し、「え、そう?」とばかりに顔を見合わせる二機。おいこの国の諜報部やべーぞ。
 何が悪いのか全く分かってない様子のピンクランナーであるが、これで数だけなら敵は三機、対してこちらは。
『腕はそれなりらしいな』
『援護なら任せて!』
 頼もしい言葉を背に受ける。空中から舞い降りたマグネロボ肆式超と、その機体より受け取ったスモークグレネードランチャー、先の物と合わせて両手に二挺携えたブロムキィ。
 すでに静かになった煙幕の中からは「これは食べれるのかしらー?」「こっちに数が足りないわー、手伝って―」「施設行きのアリスはこっちよ~」といった凡そ戦場とは思えないほのぼのとした会話が繰り広げられている。
 結果はホラーな蹂躙が完了した事を意味するのだが。
『これで数は一緒だぜ』
 胸部の連装機関砲を収納し、固めた拳を前に構えるウタ。確かに数で言えば一緒だが、敵は二機温存された戦力とは言え残る一機は満身創痍。戦う上での戦力差は大きいだろう。
 そんな事を理由に止まる輩でもないが。
『ふっふっはっはっはっは! 面白い! 目に物見せてくれるわ!』
『諜報部員魂、ゴォウッ!』
『うおおおおおおおおおおおおっ!!』
 滾る情熱が抑えられないのか、とても諜報部員とは思えない雄叫びを上げて突撃する半戦車形態のピンクランナー、それを盾としてこちらは人型のまま走る小隊長機。
 対して前に進み出たのはマグネロボ肆式超。
 無言で出たレイを横目にウタは拳を解いて一歩下がり、とすれば殺到するのはフィールドランナーだ。音をたてて帯電する装甲へ、全兵装を展開するピンクランナー。
『……援護手がいるのに突撃って……』
 まるで存在を無視されたような敵の行動に困惑しつつ、撃ち込んだグレネード弾にスモークグレネードはない、どちらもすでに炸薬へと入れ替えている。
 放物線を描いて飛来するグレネード弾は、肆式超の頭上を越えてピンクランナーへと着弾。着弾時の衝撃など物ともしないがそこは爆薬、直後に炸裂した爆光に視界を奪われ、またその衝撃に動きが止まる。
 両腕から生じた雷光を従えて、低く疾走する肆式超。目を焼かれた男らが悲鳴を上げる事すら間に合わず、覇気に燃える拳がピンクランナーの胸部に突き刺さった。
 搭乗者への被害を考慮し中央を避けているが、操縦席周りにあるのは爆薬だ。先の戦闘で小隊長が当たり前に攻撃している通り誘爆の危険性が低い仕組みになっているようだが、それでもそこを狙うには肝を冷やしてもおかしくないが。
 貫通部から激しく散る火花は溶断されているようにも見えたが、ここで姿を現したのが小隊長機だ。
『どりやぁあ!』
『!』
 ザンライガの集中砲火を受けても最後まで守り抜いた履帯による加速とピンクランナーを足場とした高度から繰り広げられる見事なフラインブボディプレス。アホじゃん。
『はい』
『ぐわぁあぁあああっ!』
 冷静に発射されたグレネード弾が落下地点をそらし、自重によるダメージがぼろぼろの体を更に破壊してしまう。もう一度言うけどアホじゃん。
(この人たちアホなのかな?)
 シリンダーを回して念の為と装填する錫華の懸念はすでに確信である。頭上より離れた敵機体を白い目で見送って、分厚い装甲をブチ抜いた両腕を引き抜くレイ。
『そ、そのカラーはアメちゃん小隊専用のキャンディカラー!?』
『馬脚を露したか猟兵!』
『……えぇー……』
 勝負は決まったも同然の所に現れたのは、桜花らと共にやって来たアメちゃん小隊の二人であった。引き連れていたドッグは施設へ敵機を近づけないよう展開しており、ここに居るのは彼ら二機のみである。
 新たな頭痛の種に呻いた錫華を尻目に、「やっぱり騙せるじゃん」「なあ?」と呑気な会話をしている諜報部員ブラザーズ。くっそ腹立たしいがダンテリ軍人が企画しただけにダンテリ軍人には通用してしまったという事である。
 軍事国家なだけあって気質は良いが、人としての特質が致命的に軍人に向いていない気がする。
『あれはフィールドランナーだ、あんたらのお仲間じゃ――』
『隙ありィィ!』
 隙有らば突くのは常道。レイの意識が割かれたと同時に突進するピンクランナーが目指すのは猟兵ではなくすっかり騙されちゃってるアメちゃん小隊だ。
 肆式超の両脇を抜けた敵機であるが、易々と逃すはずもなく本体から分離する浮遊砲台。だがそれを易々と行かせるはずがないのは敵とて同じ事なのだ。
『キャッチ・アンド・クラッシューッ!』
 キャッチしてないじゃん。
 開かぬ腕を振り下ろし、高度を増す前にと地面に叩きつける小隊長。飛行機能自体はレイの念動力によるもので問題はないのだが、射撃機能に障害が発生してもおかしくない。
 咄嗟の判断で砲身の角度を上げて地面に接触しないように庇ってはいるが、上面をそのまま叩きつけられている為、内部基盤の損傷もあり得る。
『レイ、射線から離れろ!』
 言葉に振り向き見れば、そこには背面の装甲板を前面へと展開するザンライガの姿があった。腰を守るスカート部分から複数のアンカーが射出され、柔くなった芝生に深く突き刺さる。
 姿勢制御の為のアンカーであるが、この足場では効果も不十分だろう。だからこそ大きく開いた足に腰を下げ、前傾姿勢で衝撃に備える。
 前方へ突き出した腕をレールに装甲板が接合、頭部ごとまとめて上半身を巨大な砲台と化し、その口を向けるのは小隊長機、そして先を行くピンクランナーをまとめた二機。
 低い吸引音が巨大な砲身の奥から鳴り響き、機体の振動が大きくなるにつれて高音へと変わり、装甲の隙間から炎が溢れ出す。
『何だっ?』
 事態に気づいた小隊長が振り向くが、その隙に自由を得たブロムキィが再びグレネード弾を発射する。着弾点は狙い違わずアメちゃん小隊と迫るピンクランナーの中間地点だ。
 爆炎が壁となり、反射的に後退するアメちゃん小隊とピンクランナー。互いの距離が開くと同時に足手纏いどもも射線から離れた。
 ならば残っているのは小隊長機とピンクランナー、そして。
『桜花、アリス妹、全員離脱しろよーっ! いくぞ!』
 砲撃で巻き込む範囲をデータで送り、信号を受信したアリス妹たちが地中へ、位置関係を把握した桜花が隼の如く宙を舞い射線から離れていく。
 それを確認する事もなく、ただ仲間を信じてトリガーを。
『ザンライガキャノン・【ブレイズフレイム】レベル、シューット!!』
 そこらのキャバリアならそのまま中に詰められそうな巨大な砲口。放たれた青い光はかの三機だけでなく、その先の地上部隊も含めて薙ぎ払う。
 音が轟く中で芝生さえ燃える熱量だが、こんなものを直撃させてはパイロットの命も補償できず、ウタは射角を上げて直撃を避けている。
 が、これでは掠りもしない敵機に対してその熱量だけでの殲滅など不可能だ。
『……くっ……ぐっ……』
 凄まじい光量と荒れ狂うエネルギーの渦がモニターを潰し、その反動に耐えるだけで精一杯のザンライガに操縦桿を握るウタ。これに晒されては敵も動けなかろうが、戦闘不能に追い込むにはまだ足りない。
 ならばもっと威力を、熱量を。
 ウタの右腕から溢れる獄炎は搭乗席を埋めて更に溢れ、装甲の隙間から零れた炎がまるで刺の如く形を成し、失った鋼の翼の代わりに巨大な焔翼が背面に開く。青き巨光が細い赤光へと変じていき、悲鳴のような高音が周囲を圧倒する中で灼熱がフィールドランナーの装甲すらも熔解した。
 灼熱地獄、獄炎を表すに相応しいその輝きをまともに見れた者はほとんどいなかっただろう。
 針の如く絞られた鮮紅は大気を焦がしプラズマ状に帯電、白熱が輝く空はただただ白に染め上げられて、耳をも目をも塞いだその力が消え去った時、そこに動ける者は。
『…………っ、まだ、生きているぞ!』
『おおッ!!』
 何とピンクランナーである。確かにこいつらほとんどノーダメージだったもんね。
 諜報部員魂を見せつけろとばかりに危険度が一番高いと判断したザンライガへ突進するがその機体、上半身は頭部はもちろん肩や腕、バックパックもまた狂熱により溶解してしまっている。
 両腕の武器も爆損したのか、閉じる力すらなくなった両腕の装甲をカタカタと鳴らす様は幽鬼にすら似ている。その体で出来る事など、決まっている。
 自爆特攻、唯一つ。
 砲撃を終えて、自らの熱量に溶けた砲身を無理やり剥がし、再び背面へと移設するザンライガの身からは既に炎が消え、白煙を上げるのみ。力尽きたような姿は防御の姿勢を取る事も出来ず敵機の接近を許す。
 懐に潜り込んだ二機のフィールドランナーに迷いはなく、ペンキ屋と塗装屋のあんちゃんたちは起爆スイッチを入れた。
『そりゃあ無理だ』
 レイの言葉を証明するように、起爆せず。
『……あれ……?』
『ここってもう天国?』
『残念ながら、まだ地上だ』
 困惑する諜報部員はさておき、起爆しなかった答えは先のマグネロボ肆式超が貫いたその胸部にある。雷をまとった拳が内部配線を焼き切り、起爆システムをダウンさせたのだ。
 操縦システムとは独立していたのだろう、それ以外に影響が出なかった為、異変に気づいていなかったのだ。
『距離があるとは言え、ここは荒野でもない街中だ。そんな場所で自爆とは穏やかじゃあない』
『何が穏やかじゃい!』
『武力衝突してるんだぞ!』
 穏やかじゃなくしていいのか。
 レイは言葉を繋ぐ。猟兵という規格外の戦闘能力を保有する武力に対して、戦争をしたいと言うのか。
 彼らが今もこうして喋れているのは、その命を守る為に猟兵たちが尽力しているからだ。どれだけ彼らがお間抜け軍隊であろうと、武力を行使した以上それは戦争となる。この事態を穏やかで済ませようとしているのが今回の事件なのだ。
 全ては、彼ら自身が正そうとするこの国の為に。
『考えろ。ここがその理想に相応しい死に場所か? 否かを、だ』
『……な、なんだこの凄味は……!』
『だが我々もこの国に骨を埋め命を捧ぐダンテアリオン軍人っ、そんなプレッシャーがなんだってんだ!』
 争う姿勢をそのまま見せるが、もはや彼らに武器はない。残るは鈍器にもならぬ壊れた腕で殴りかかるか体当たり程度。しかし、それでも動かないのはレイの言葉がその胸に深く突き刺さっているからだろう。
 憎まれ口を叩いた所で、彼ら自身が疑問を持っているはずなのだ。そもそもどんな理想だっけ、と。
『悪いけど、今だね』
『へっ、のぎゃあああああああッ!』
『うわっ、うわわーっ!』
 硬直してしまった二人に対し、言葉だけの謝罪と共に情け容赦なく放たれたグレネード弾が、遂に諜報部員どもの足を吹き飛ばした。
 武器を失い、足も失ったとなっては戦闘を継続する事など不可能だ。餌の臭いを嗅ぎつけて、焼けて固まった土塊を吹き飛ばしアリス妹らが顔を覗かせる。
『……まさか、我々のパーソナルカラーを使った敵だったとは……』
『ちっ、また世話になったって訳か、今度は直接的にな』
 無力化されたピンクランナーを苦々しく見下ろすアメちゃん小隊。土下座しろ。
 挑発的な男の語り口で言えば、ダンテアリオン・ツートップを見つけた事を借りとして受け止めているのだろう。そんなレベルじゃない大恩である事を胸に刻むのだ。
『しかし、あれだけの威力でも距離の離れた後方部隊相手じゃ威力が持たないんじゃないのか?』
『いや、あいつらもザンライガの炎で内部機能まで焼けてるはずだ』
 ザンライガキャノンと併用したユーベルコードにより獄炎と一体化したエネルギー砲であったが故に、その熱で燃焼した部分を更に延燃し、内部機構まで焼き尽くしたのだ。
 自爆機能も同じく焼き潰れて、名実ともに丸裸という訳だ。
 施設前の敵はこれで一掃したろう、そう語るウタの目の前で再起動したフィールドランナーたちがぎこちなく歩いて行く。
『……あれは……? 動いてるけど』
『うん、まあ、あれはもう味方だから』
 指で示した男の言葉に、ウタは頬を掻いてばつが悪そうに言葉を返した。そんなやりとりを見つめながら操縦席に深く座り直して息吹く錫華は、持ち込んだアメちゃんへと目を移す。
(……持ってきたアメは、まだ使いどころないかな……)


●テロリズム、未だに終結せず!
 世界を埋め尽くす巨光が天に消えて、色の戻った視界に思わず頭を振る晶。ウィリアムの視覚調整によりモニターはその強烈な光を軽減していたものの、それでも発光が目に焼き付いていた。
『全く、なんて無茶な武器を使うんだウタの奴』
『お言葉ですがマスター、全機直撃を避けたコースです。無茶はありません』
 そういう意味ではないのだが。
 言葉は喉の奥で殺し、晴れた煙幕の中から姿を見せるヴェルデフッド。煙幕に閉じ込められていたフィールドランナーの操縦者たちは全て確保され、アリス妹らに地中へ引きずり込まれ、もとい安全な場所へと移送されている。
 ともかくこれで施設前の危機は去ったと言う訳だ。
『ヴェルデフッド、こちらフロンティア・ワン。現状を確認したい』
『美亜、じゃなくてレイリスか。こちらヴェルデフッド、施設前の敵戦力排除に成功。パイロットたちの確保も随時実行している。まだ動ける敵機は、いや動けない奴もだがアリスの妹たちが戦力に加えているところだ。
 もう自由青空党が施設に近づく事は出来ないだろう』
 すでに中にいる敵は除いて、の話だが。
 付け加えるウィリアムに晶は言葉の代わりに笑みで返し、そのまま美亜へ言葉を繋ぐ。
『残るは敵の外周部隊だが、そろそろダンテアリオンの救助部隊がトンネルを通って施設内に到着するはずだ。桜花が戦闘に加わっていた事も考えれば、冬季も施設内だろう。
 アリスも戦力を別けているようだし、こちらからも救助に人員を回してはどうだ?』
『…………、いや、それこそダンテアリオンの軍人らに任せるべきだ。万が一でもあっては困る、防衛はこのまま我らで行い、手の空いた兵士たちを施設ゲートに集合させよう。
 そのまま入れるのは危険だが、人手が必要になれば中から連絡があるはずだ』
 それもそうかと晶は頷く。万が一など起きそうにもない状況であるが、その万が一を起こしそうなのがダンテアリオンの国民だ。軍人もまた例外ではなく、慢心している彼らだからこそ何があるのか分からない。
 彼は現場の指揮はこちらに任せろと美亜に伝えて通信を切断、自分たちの糸やら体をそのままはめこむやらで応急処置にて復活したアリスランナーへと振り返る。
 煙幕の中で同士討ちやらアリスからの攻撃やらで酷い目に合わされたフィールドランナーであるが、こうして動ける状態にまでもっていけたのだから恐ろしい。
『よし、このまま皆には施設の防衛に回って貰う。正規軍のドッグと配置を入れ替え、パイロットには施設内の救助を手伝わせる為に正面ゲートへ集結させる。
 そうだ、識別信号はしっかり出しておくんだぞ』
(はーいっ)
 晶の指示に元気良い返事をして、アリスランナーはよちよちと散開していく。こちらとしてはこれで十分だろう。
 残る敵戦力も、追撃しているであろう猟兵に任せれば良いのだが。
『思いの外、手こずっているようだな』
 時折見える爆光に晶はぽつりとつぶやいた。

(全く、やりづらいなぁ)
 晶の言葉を肯定するように、シルは追走するフィールドランナーに難しい顔をする。
 エネルギープラント中継施設前へと雪崩れ込んだフィールドランナー、彼ら程の数ではなく最初に散開した時と同じ小隊級の数に過ぎない。
 その数を従えて半分は前、残る半分は後ろを向いて激走している。全方位への警戒と、施設前の戦力へ正規軍が集まる事を防ぐ為。
 だからこそ後進するフィールドランナーの速度に合わせて前方を向くフィールドランナーも速度を下げ、敵を振り切るという事をしない。
 両腕の装甲を展開し、空を行くブルー・リーゼへ武器を向け後進する敵機。今はこちらを睨んでいるだけだが、接近すれば弾幕を張りこれを拒む。
 ブルー・リーゼへ狙いをつけたものではない、ただ数による圧倒だ。エレメンタルドライブ・ダークネスを発動したシルの精霊機を捉えるなど常人には不可能、故に点ではなく面で押し切る策に出たのだ。
 実際、突破できないものではないのだが無理に接近を強行した場合、敵は後続を巻き込んで前を行く部隊が再び弾幕を張る。背面からの総攻撃を受けてはフィールドランナーもひとたまりない。自爆に繋がる行動でもあり、『やりづらい』と評したその通りの内容なのだ。
 ただでさえ生命力を削るユーベルコード、長期継続を拒み今は使用していないが厄介この上ないといった所だろうか。
『……あの光……あれ以降、戦闘の様子が無い』
 先頭集団より少し下がって味方機の中、施設前の様子を窺う彼こそが逃走するフィールドランナーをかき集めたのだ。
 特別それらしい役職を持たぬただの兵士であったが、こういう場でこそ頭角を現す雄もある。
『……もしかして、あそこでは、もう……』
『言うな。やるべき事など変わらない、何一つ、軍の旗の下だろうと、自由青空党の旗の下だろうと、俺たちのすべき事は戦場で生き残り続ける事だ』
 それが勝利に繋がる、ラストマン・スタンディング。最後まで生き残り立ち続けた者こそが勝者となるのだと。
 実際、彼の言葉を示すように追撃する正規軍の数は急速に減り、今や目に見えるのは空を行くブルー・リーゼのみ。
 これならいけるのではないか、などとまやかされるのも当然だろう。疑う事を捨てればそれは現れる。自らを騙くらかせば、結末を変えられる。
 そう信じてさえいれば戦えるのだ。
 そんな彼らを見つめてシルは携行する拡散ビームバズーカに意識を向ける。これを使用すれば敵を削るには最適、だがそれは彼らの警戒心を引き上げる事になる。
 使うなら、効果的なタイミングで。
(追い込み漁、か)
 美亜の言葉を思い起こす。効果的な場所へ追い込むのだ。そう、それは。
『いい感じですね、シルさん。チェスカーさん、射角プラス三度修正、砲塔右へ四』
『オーライ』
 敵の動きを観察するのは摩那とエクアトゥール。彼女らを上に乗せて主砲を立たせているのはビッグタイガー・タンクモードである。
 彼女の指示を受けて射角を調整するチェスカーは、野菜スティックを歯に挟んで笑みを見せる。本来ならば身を隠せるはずもない芝地において、アリス妹らによる塹壕を利用しその巨体を隠しているのだ。
 それでは視界が確保できない為にエクアトゥールがその上に立っている訳だが、本来ならばドローン・マリオネットを飛ばせば彼女も身を隠したまま指示を出せるのだが、そうしない事にも理由はある。
 追い込み漁だ。
『むむっ、小隊長代理! 左舷に敵機視認!』
『伏兵か。後方部隊はそのまま、左舷迎撃行動開始!』
『イエッサー!』
 サーは要らん、そう返すまでに反応した男たちが砲身をエクアトゥールへ向ける。敵意に晒されても笑みを崩さず摩那は大盾を構えその銃弾、砲弾を一歩と動かずに弾く。
 先の戦闘で行ったと同じく、防御による回避と言えよう。ただその場を動かないとなれば話は変わる。それは例の白銀小隊長が証明したと言えよう。
 弾丸に曝され続ければ威力を削ぎ、弾いたとて、僅かに残る損傷がとっかかりとなり弾く力も失せてしまう。歪みが強くなれば操縦者の予期せぬ直撃点が増加し、防御は突破されるのだ。
 にも関わらず動かない意味など、決まっている。
『寄せ餌としては十分ですかね』
 こうまで動かないとなれば敵の意識は否が応にもエクアトゥールに向けられてしまう。攻撃を指示された左舷だけでなく、右舷の敵機も自分たちの担当視野を離れてエクアトゥールへと注意を割いてしまうものだ。
 通常の任務であればそうもならなかったろうが、現在は追い詰めに追い詰められた非常事態。軍人とは言え人間、分を超えた行動を取ってしまうのもしようがない、彼らを責める事はできないだろう。
『シャナミアさん!』
『うっしゃあっ!』
 摩那の呼び声に吠える者あり。
 アリスらの造った塹壕のひとつに潜んでいたのはビッグタイガーだけではない。彼女らとは反対側、敵集団を挟んで右舷から土を粉砕し現れたのはレッド・ドラグナー。
 弾けるように敵の視線が右舷へと移り、その驚愕を一身に受けて両の拳を打ち鳴らして威勢の良い蒸気を噴き上げる。
『――迎撃……』
『攻撃開始』
 右舷側の機体による迎撃行動、それを命ずる前に放たれたのは奇しくも正面、わざわざ注意を逸らした右舷ですらなく、馬鹿正直な正面。
 戦力を持って行進する彼らの前に、誰もが予想しなかったそこに佇むのはエイストラただ一機、ノエル・カンナビス。
『…………ッ、……か……!』
 回避を。
 叫ぼうとした小隊長代理はその言葉を発せない。後方に敵機、左舷に敵機、右舷に敵機、進行方向、そのどこにも敵がいる。
 どこへ回避しろと言うのか。明確な指示が出せなければ味方機はただひたすらに散開する。それはつまり、戦力の分断であり各個撃破の未来であり、再集結は不可能だという確定事項だ。
 軍人であった彼らが、そのパフォーマンスを発揮できずにいる事を、この状況で誰が責められるだろうか。
『全機回避ッ、左舷へ急げェーッ!!』
 一人だけだ。自らに後悔を持つ己こそ唯一人。誰が何を認めようと、己こそは認められない。自らに責を問い続ける人生など、認める訳にはいかないのだ。
 小隊長代理は唯一攻撃的な姿勢を見せていない左舷、エクアトゥールへの回避を命じ、混乱する彼らもその声に従い動きを見せる。後方部隊などはブルー・リーゼを視界から外してすら全力で逃走している。
『予想通り、目標は餌場へ到達! 摩那!』
『準備は完璧ってもんですよ、レイリスさん! チェスカーさんカウント、三、二、一!』
『ファイアーッ!』
 上空より美亜の言葉、それに合わせて摩那の合図、これを受けて叫ぶチェスカーと火薬の雄叫びを上げたビッグタイガー。
 放たれた砲弾は塹壕の壁にぶつかる事無く上空へ高々と撃ち上げられた。進撃するフィールドランナー集団とは在らぬ方向――、では無い。
 撃ち上がった砲弾は重力を受けて降下する。その弾速の限界により停滞するそれは自由落下し、加速し、地面に到達する頃には再び発射時と同じ運動エネルギーを、威力を秘める。
『着弾ンンッ!』
 目標違わず。
 思わず拳を握った摩那は敵集団の目の前に炸裂し、芝生を吹き散らして火柱を上げたその光景に声をを上げた。狂乱するようにこちらへと逃げ込んだその足すら止めた強力な一撃だ、肝っ玉を潰すには十分過ぎる。
『ば、馬鹿なっ、地雷!? 何と強力な!』
 地雷と間違うのも仕方がないだろう、まさか迫撃砲の如く砲撃されたとは夢にも思うまい。
 そして、遂に彼らは足を止めたのだ。唯の一点に注意を向けて。
『これこそまさに!』
『千載一遇のチャンス!』
 ブルー・リーゼの拡散ビームバズーカ。炸裂する光が雨となって敵フィールドランナーへと降り注ぐ。塊となった彼らには特に効果的だろう、単機と思われたその場から威力ある弾幕が張られては混乱に陥るも易い事。
 小隊長代理の言葉がかかるまでもなくブルー・リーゼへと向き直り、退避あるいは迎撃と自由行動へ移るそれらに対し、統率のない攻撃など容易くかわしながら接近する。
『わたしばっかり見てていいのかなっ?』
 刃を振りかざす機体を目に焼き付けた彼らにその言葉は届かない。
『こっちも忘れんなってこと!』
 猛獣が餌となる草食動物の、柔らかな腹を食い破るように鋼の牙が敵機の群れへ穿たれた。
『いたぁい!』
『女々しい声をあげるな!』
 重装甲もまるで紙細工、先の一戦とまるで威力は劣らず貫いて、泣き言を喚く敵兵を叱咤するシャナミア。上空だけではなく部隊中央にまで食い込まれ。
『ひゃーっ!』
『今度は何ィ!?』
『いえ、攻撃開始って言ったじゃないですか』
 プラズマキャノンによる粒子ビームを薙ぎ払い、敵の腕や砲台を焼き切ったノエルは飄々とした様子で唇を尖らせた。宣言してたもんね、そりゃ撃つよ。
 ここでまだ私がいる訳だが。
 そう、空から舞い降りたフロンティアに続き、円を描くように並ぶブラックの銃身から光が溢れる。
 各機一斉による拡散ビームを収束、更に円となった編隊により一本の強大な粒子兵器として可動すると言うのだ。
『万が一にも勝ち目はない状況だと言うのは子供でも分かる。私としては諸君が白旗を揚げてくれると手間が省けるが』
『こ、この……ダンテアリオンの志を誇示する我らに向かって……』
『でぇい!』
『ぎゃんっ、ちょっと今は会話中――、おぎゃあっ!?』
 やかましいんじゃいとばかりのシャナミアのぶん殴りは止まらず、次々と粉砕されていくフィールドランナー。彼らにとって司令官と思しき美亜との対話なんぞ知らぬとばかりの傍若無人。打ち、穿ち、殴り飛ばすごとに鬼の鼻息の如く蒸気を発散する両腕が、赤い装甲を染め上げる。
『まだ答えを渋る気かな? まあ答えを出さずとも、否を突きつけようとも、答えは変わらんし是非にも降伏をお勧めするが』
 さあ、ハリー。
 答えを求める美亜。噛み締めた歯を軋ませて、小隊長代理の沈黙が続く程に被害は拡大する。シルや摩那、チェスカーなどは見守っているだけだが、ノエルはそろそろ開始するかと砲台を構える始末。
 シャミアに至ってはその猛威に陰りすらない。
 答えはすでに決まっていた。


●人質? を救助せよ!
 場所は代わりエネルギープラント中継施設内部。
『……だーれも話なんて聞かねーしなー……勝手に盛り上がってばっかりでさぁ……』
 いじいじ、いじいじ。スンゲ・トブゼのご登場である。随分とお久し振りですね。
 操縦席で色々とご高説垂れ回ったものの、国民はとりあえずウェイウェイ言って喜んでるだけでバックグラウンドミュージック扱いだし、この国のツートップに至ってはアメちゃんを舐めるのに夢中で気にすらしていない。
 ヴェルデフッドにより外との交信も遮断され、妨害電波を正規軍が使用したのだろう程度の考えしかないスンゲは、段々と治まっていく戦闘音に、そろそろ戦場が移るかと笑う。
 どれだけ戦力を集めようとこの施設内にまで武力を持ち込むとは思えない。キャバリアを排除する為に必要な武力で、国家の生命線を断ったとなれば申し開きも出来ないだろう。
 更にこちらの手の内には、何故か知らないがのこのこと現れた将軍と宰相までいるのだ。手出し出来ようはずもない。
『…………、あのぅ、ランバー将軍にキッセン宰相? まだまだアメちゃんもあるようですし、少ぉーし僕にも分けていただければなぁと思っているワケですが』
「やだやだやだやだ!」
「やじゃいやじゃい!」
 へりくだる革命の戦士に対して駄々を捏ねる二人。いい歳こいたヒゲゴリラと枯れ枝ジジイがやっていいことじゃないぞ。
 彼らとしては命に係わる時間稼ぎ、そう易々とアメちゃんを手放す訳にはいきないのだろう。でもこの国の人間と考えると単に卑しい根性なだけにも思える。
 全力で拒否され機体も三角座り、すっかりいじけてしまった我らが党首の様子を見つめる幾つものぬばたまの瞳。
 保護色で周囲に溶け込むアリスとその妹たちだ
(スンゲさんは籠城で疲れて注意散漫よー、チャンスは今だわー)
 思念波を受け取って冬季は静かについていくるようたまへ合図を出す。神妙に頷いたたまは潜入行動に合うとは思えないハワイアンな服装で抜き足差し足忍び足。
 頭の上でぴよぴよ鳴いてる存在がどうにもネックだが、国民のみなさまはカーニバルかと思う程に騒ぎ狂っているので問題ないだろう。
 それとなく狂人どもの中に紛れ込み、大口を開けてウホウホ叫んでいる輩に指弾を用いる。さきほど使用した仙丹による戦術で眠らせてしまおうと言うのだ。
「ウッホウッホ、ウホッホ、ホッホ! ――うっ……!?」
「ウッホーホウッホッホ! ウッ、げっは、げは、ごほっ!」
 咽頭に直撃した仙丹に思わずむせ返る国民の姿が見受けられるが、自然由来の成分で構成されているのでご安心下さい。
 異物を予想だにせず次々と撃ちこまれて、寝込むどころか苦しそうに倒れる人間が増えて行く中、たまはまた別の人々へと向かう。
 気を付けないと踏まれてしまいそうな体格差であるが、ぽろろんぽろんとウクレレを鳴らし自分の存在を強調する。
「ウホホホッ、ホホッホホーウ!」
「ウッホウッホウッホウッホ!」
「嘘だろうキミたち、全く気付かないのだな」
 正気とは思えない彼らに困ったものだと顎の下を掻くたま。思案気に首を捻っていたが、頭上の鳴き声に啓蒙を得たかにやりと笑う。とりあえずとばかりに懐からヒヨコを取り出して、それらをぽいぽいと投げるのは人々の頭の上。
 自分と同じようにヒヨコの精霊を頭に乗せてウホウホ言っている彼らの姿は、狂人という恐ろしさからただの馬鹿という可愛らしいマイルドなものへと変化した。どっちにしろヤベー奴ってのに変わりはないです。
「ぴよーっ」
「ぴよよ~っ」
「あっ、痛い!」
「痛い痛い! なに!?」
 キツツキばりにスココンと脳天へ嘴連打をかまされて悲鳴を上げる人々。さすがにこれを無視できるはずもなく頭上の敵対生物を引き剥がそうとするが、精霊というだけあって頭皮をしっかり掴んだその足は離す事もなく、掴んだ手に嘴をスココンスコスコやるので掴んでさえもいられない。
 だがお陰で狂気的な行動は止まった。彼らの注意を引く為に大きく咳払いをしてたまは声を張り上げる。
「諸君、ワタシの声は届いているな。ワタシは、そう――、ケットシーだ!」
「ケッ・トシィさん? それともケット・シーさん?」
「ケットシーで繋ぎじゃないの?」
「いやどっちでもいいって。何か用?」
 せっかく楽しんでいたのにとばかりで彼らは不機嫌だが、間抜けに口を開けてると狙撃されるぞ。
「空気っての読んでくださいよぉケットさんよぉ――はぐぅっ!?」
「ええっ、ウホヤマさん!? どうなさったんで――おごっほふ!」
 急に倒れ込んだ男に慌てる面々にも隙あらば次々と指弾を放つ冬季。まさか口の中に異物を撃ち込まれてるなど知る由もなくその異常に大慌てだ。
 そんなに口を開けていては申し分ない。
 ピンポン玉よりも更に小さく、五つ程を掌に握り込めるよう造られている。それぞれの指を連動して捻り出すように人差し指まで運び、親指で弾く指弾の基本形。動きを精確かつ迅速に行う事で連射を可能としているのだ。
 これも功夫という訳だが、それだけで終わりはしない。
 右の拳を開けば真横一列に揃えた四個の仙丹、それを眼前に並べると同時に差し出す左の拳は仙丹が毛ほども落下する前に親指で支えた四指で弾く。
 同時に放たれた四つの礫は見事それぞれの喉に撃ち込まれ、むせ返ってすっ転ぶ。
「うぅむ、どうもこういう直接的な手段を使うのはなぁ。ワタシは流血を伴わない攻撃手段が主だ」
「私もですよ。それに一般人の壁がなくなれば、猟兵は元より軍も動きやすいでしょう?」
 痙攣しながら意識を手放している彼らが窒息しているのか寝入っているのか、まあ顔色は良好なので問題ないっしょ。
 晒う冬季の顔に悪意を見たのか、たまは重々しい息を吐く。襟元を緩めるように指先でくいくいとやっているが、ボタンも留めていないアロハシャツなので雰囲気のようなものだ。
「い、一体……一体あんたらは……っ?」
「はっ!? ここはダンテアリオンでも重要な場所、エネルギープラント中継施設! まさかテロリストなのでは!」
「く、くそテロリストめぇ! 高々一般市民であってもダンテアリオン国民の誇りを胸に、犯罪組織なんかに負けないぞべらんめぇ!」
「あっ、ちなみにですけど人命を尊重し非破壊的活動を目的とした主張であるなら考慮いたしますです、はい!」
 うーん、この聞き分けの悪さと良さの同居した叫びよ。
 とりあえず一番先頭で景気よくべらんめぇ調で入れ歯を発射するお爺ちゃんへとたまは歩み寄り、おもむろに両手を振り上げる。
 まさかかかじろうというのか、総入れ歯のお爺ちゃんを。猫に引っ掛かれたなど場合によっては心臓発作レベルのショックを受けるに請合いだ。
 餌を上げた覚えなどないと言うのに、まるで孫の反抗期でクソジジイとでも呼ばれたかの如く両目をかっぴらくクソジジイ。その爪にかかる事を震えて待て。
「ぴよーっ!」
 跳躍。
 まるでヒヨコのような奇声をあげて繰り出された一撃は、予想に反して爪を利用したものではなく、その肉球によって顔を包み込むものであった。攻撃ですらない。
「――はっ、はわっ、はわわわわぁ~!!」
 こりこりもふっ、とした肉球とふんわりとしたふかふかの体毛。顔を挟み込まれたのは一瞬だったにも関わらず、あまりの心地好さに腰砕けとなった老人はそのまま崩れ落ちてしまう。
 これぞ猫、もといケットシーの魅力なのだ。
「お爺さんを!? ……くっ……なんて凶悪なテロリストなの……!」
「もふもふが必要なら撫でても構わんぞ?」
「!!」
 人々の目の色が変わる。時として猫、もといケットシーは聖人君子をも猛牛と変えるのだ。しかし魅惑の毛並みをしていようと彼も猟兵、一般国民を相手に後れを取る事は無い。
「ワタシの『世界』へ案内しよう」
 殺到する一般国民へカンフーアクションさながらの空中殺法で肉球はんこを押し付けて行く。
 そこそこ危なげな場面も冬季の仙丹が咽頭と言わず額と言わずぶつけてバランスを崩し、その窮地を脱しながら。
 くるりと空中で体を回し、華麗に着地したたまのヒゲがピンとはねる。
「これは!?」
 引き込まれるような感覚と共に急に開けた視界に驚きを隠せない一般国民たち。
 それはユーベルコードによって形成された【妖精の里(ホームタウン)】。そこには溢れかえるほどのもふもふ、たまの相棒であるヒヨコの精霊たちが無双群生している。
 正に地上の楽園、もふもふ天国。
 夢心地の彼らが昇天した所で冬季は「確かに出血を伴わないものだ」と笑みを見せ、肩に乗っていたアリスの幼虫に声をかける。
「他に寝ている者、党首機から離れて多少叫んでも影響のない者たちをかき集めて脱出してください。入口側には正規軍も来ていただいてますから、アリスさんたちの造ったトンネル進行部隊と一緒に救出しましょう」
(すぐに連絡を回すわー)
 指示を受けて早速と電波をゆんゆんする幼虫。これを受けてすでに中に入っていたアリスは人用出入口のドアのノックして待機中の兵たちを招き入れ、アリス妹はアリスズ・トンネルの蓋をノックしこちらからの進行部隊も同時に中へと招き入れる。
 作戦は急を要し、迅速かつ隠密に。
「ギチチッ、ギチッ、ギチッ」
(急いで運び出すのよー。大騒ぎしてる人は口を塞いでねー)
 救助というより人攫いに近いが、国家存亡の危機を前にして倫理観など不要なのだ。
「各員急げよ、足音に気を付けろ!」
「兵は拙速を尊ぶと言いますが、確かにこれは強引に行ったほうがよろしいかも知れませんね」
 軍靴の音を潜めて走る正規軍に混じり、桜色の髪を流す桜花。音をたてずに舞い上がると、カサカサ保護色で這い回るアリスたちの入りづらい狭い場所に飛び込んで、人々が驚く前に広場へ引きずり出すとそのままアリスの糸で口封じさせてしまう。
「んーっ! んーっ!」
(じゃんじゃん運んじゃってー。人手が足りない所は正規軍の人たちに任せるのよー)
(はーいっ)
(ドナドナドーナード~ナ~♪)
 重さだけならば糸で自分たちの背にくくりつけ、幾らでも運べるだろうがそれは荷ではなくあくまで人、載せ過ぎれば下の人間が潰れてしまうため、きちんと考えて運んでいるようだ。
 口遊むというか、思念波から流れ込んでくる選曲が非常に気になるものだが、運ばれる人間は死体のようにぐったりしているか、そもそも暴れているかでとても風情のある雰囲気ではない。
「あちらは何かあったのでしょうか、すっかり意気消沈している様子ですが」
「その方がやり易いのですが、さすがに近くにいるツートップを救出するのは厳しいですねぇ」
 桜花の言葉に応えて冬季。確かに一心不乱にアメちゃんをペロペロしているバカ二人はこちらに気づいていないし、こちらから向かえばすぐに気取られる可能性がある。
 施設前に展開していた党員の能力を考えれば、それを束ねる党首は更なる強者と考えていいだろう。
「なあに、ともかくワタシたちは一般ゴリラの救出を滞りなく終わらせればいいのだ。後の事は後の事、それぞれで対策を考えれば良い」
「まあ、それもそうですね」
 人的被害に関心も薄く頷く冬季。
 正門とアリスズ・トンネルからの救出活動、運搬口を二つ設けた事で一般国民さんの撤去も滞りなく進んでおり救出作戦もすぐに終えるだろう。
 残る問題はこの国、ダンテアリオンの生命線であるエネルギープラント中継施設を占拠する自由青空党スンゲ・トブゼの排除と、国の舵を取るバカの救出だ。
 だが所詮、国の行く末など猟兵にとってはどうでも良い事なのだ。この戦いの結果、例え施設が破壊されようと、例え重要人物が命を落とそうと、それを関知する必要はない。
 ただ、それでも。
 その結果が数多くの人民に影響を与え、命の灯が消える事になると言うのならば、それを考えてしまう猟兵も居るだろう。
 全ては彼ら自身が決める事、責務などあり得ないものを背負う必要はないのだ。
「ギチギチ、ギチチ?」
(食べちゃったら無かったことにならないかしらー?)
「……それは止した方が……」
 不意に疑問を浮かべたアリスに、さすがにと桜花も止める。
 やっちゃってもいいけどあんまり無茶な事はしないで欲しいなぁ、猟兵の皆さんにはね?


●かくて時は過ぎ。
 ふと、彼が我に返ったのは、動物園のように騒がしかった人々のざわめきが消えたからであった。ようやく疲れて黙り込んだのかと言えばそうではない。
 人の気配は壊れた室内でペロペロしている二人以外になく、人目のつかない所で休んでいるにしてもあの人数が全て消えてしまうなど考えられない事だ。
『…………』
 自らの武器を引き寄せ、立ち上がる機体。戦いの記憶を引きずるように、その傷跡が醜く体を歪めた異形の鉄兵は、周囲へその赤い瞳を走らせた。
 静かなものだ。外の戦闘音すら聞こえない程に。
『ふん、役立たずどもめ。いや、それは早計か。
 要るんだろう、ダンテアリオンの旗の下、その魂を腐らせた犬ども。そして、我らの聖戦を不遜にも土足で踏み荒らす猟兵ども』
 姿は未だに確認できずとも、威嚇の声を張り上げる。どうでもいいけどダンテアリオンのおバカツートップは気にせずアメちゃんをペロペロしている。
 巨大な鉈を右肩に乗せ、左手のバトルライフルの安全装置を外す。臨戦態勢だ。
『誰しもがそうだ。己の領分を弁えず、自らは選ばれた者だと勘違いをしている。視野が狭いのだ、どう足掻いても人間、脳がひとつしかなければ自分を世界の中心に置く事しかできない。
 当然だ、世界は己の五感でのみ知覚できる存在に過ぎないのだからな』
 何の話をしているのだろうと、思う者もいる。
 ならばそれはお前自身に当てはまるだろうと、そう思う者もいた。
 だが違う。スンゲ・トブゼは勇ましく吼える。
『我らが戴く空は我らを礎にありはしない。この不毛な闘争の続く大地で、絶対の王を待ち望む。それが、空の支配者、それが王!
 俺は尖兵だ。この身を礎とするのは当然、だが空は礎を求めるものではない、王がそれを求めるのだ。我らの礎をもって達成される、空は! この大空は!
 我ら王に跪きただ世界を構成する存在のひとつに過ぎないのだ!』
 自らを王としない考え方。だからこそ腑抜けたとするダンテアリオンに革命の息吹きを起こすのか。
 ならばその王とは何者なのだろうか。その身が礎と言うのならば別に王の器が存在する事になる。
 あるいは、理想の王を自らの手で造り出そうとでも言うのだろうか。
『物語は始まったばかりだ。王の歩みは止められない。俺は石だ、路傍の石。だが道を作る為に積まれた誇り高き石。
 王道の礎となるこの身なれば、大儀を失いし軍兵も、志なく聖戦に足を踏み入れる猟兵も、ただの有象無象に過ぎん。
 この礫ひとつ、貴様らに割る事など出来うるものか!』
 総ては、第一強国の為に。
 死を覚悟し、その上で世界の覇を望む男の咆哮が施設を揺るがす。
 彼の背後でコンテナに被せられた布がはらと落ちて、『ひみつへいき』の文字が再び照明に晒されたのだった。


・大変長くお待たせして申し訳ありません、終章ボス戦です。残る敵は『敗残者の王』、敵は死を覚悟する自由青空党の党首、スンゲ・トブゼただ一人となります。
・キャバリア等の使用は自由ですが、レンタルキャバリアを使用する場合は前章からの続投、また紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)による装備は使用不可となります。
・軍事国家ダンテアリオンの生命線、エネルギープラント中継施設内から開始されます。施設内での対策なしによる戦闘は敵も暴れる為、ダンテアリオンへ人命を含む多大な影響を与える事に直結しますが、敵のUCの多くを封じられるため有利に戦闘を行えるでしょう。UCなどを利用して施設を保護し、敵を叩くのもいいかも知れません。
・施設内での戦闘が不利だとわかった敵は施設外を目指します。敵の脱出を止める事はできませんが、時間を稼ぎダメージを蓄積させれば施設外戦闘においても有利に戦えるかも知れません。
・重要施設内での戦闘にダンテアリオン正規軍は手出しできません。また施設外においても各自ツートップの保護に全力を尽くす為、施設の護衛から動く事はないでしょう。
・敵は施設内のガストン・ランバー将軍、ボアゴン・ド・キッセン宰相に配慮が無く、狙う事もありませんが逆に戦闘に巻き込まれないよう戦うつもりもありません。保護をする場合、猟兵に不信感を抱いている二人の為に彼らの好きな物を用意してあげましょう。一体、何が好きなんでしょうか。
・自由青空党の思想を知る者はいませんでしたが、党首である彼からその目的らしきものが語られています。しかし、聞く耳を持っていないとは言え部下にすら浸透させていないその言葉が、果たして本意なのかは疑念が残る所です。
・『敗残者の王』の足下には『ひみつへいき』と書かれたコンテナが配置されています。大きさは大型バスほど、キャバリアならば運び出すには荷物になっても開けて中身を確認する事は造作もないでしょう。
・軍事国家ダンテアリオンの未来を左右する大事件です。ですが、その戦闘の結果、起こりうる悲劇、また犠牲はシナリオの成否と関係はありません。自由に戦い、勝利を掴み取りましょう。
ノエル・カンナビス
ダンテリさんにとって火力が正義ならば殲禍炎剣は大正義、
なんて思想でしたら頭ハタきますよ。

さて。
ペロさんズに流れ弾が行かぬよう、施設内では陽動支援に徹しましょう。
外に出てからが本番です。

統合センサーシステムをフル稼働し、ECM/ECCMも起動。
高速戦闘下では状況把握力の差が重要です。

そして指定UC。
建造物やら残骸やらが豊富であれば、地上と空中との
境界上を高速で駆け飛ばすエイストラは、単なる空中戦
よりも格段に高い運動性を発揮します。

索敵/見切り/操縦/ジャンプ/推力移動/空中機動/軽業、
一斉射撃に続く二回攻撃、切断/ブレイドで部品切除するなり
貫通攻撃/鎧無視攻撃/ライフルで回復する以上に壊すなり。



●陰に潜む者たち。
 威風堂々と呼ぶよりは無鉄砲か、どこに敵が潜んでいるとも分からぬ施設内を行くキャバリアの姿に、そこかしこに潜むアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)と同類の妹たちはぬばたまの瞳を闇に溶け込ませて見張っている。
 息を潜めて様子を窺っているのは他の猟兵も一緒で、ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)は解放した正面ゲートより入り込んだ自らの機体を壁際に寄せた。
「ギチギチ、ギチチッ」
(みんな慎重ねー)
『このエネルギープラント中継施設はダンテアリオンの重要施設らしいですしね。敵も迂闊に攻撃は出来ない様子です』
 電波のようにゆんゆん飛んでくる思念波へ、こちらは無線を飛ばすノエル。もちろん敵に聞こえないよう外部拡声器に繋げて会話している訳ではないが、当たり前のように電波を受信して会話できる生物ってびっくりするよね。
 ノエルの言葉通り重要施設である事に違いはない。この施設ひとつでダンテアリオンの電力全てを賄ってはいないが、町の一画やそこから波及する施設に繋がっているのだから、病院関係や交通機関など、ここに異常が発生すれば人命の損失にも直接繋がってしまうのだ。
『そんな所でキャノンはさすがに撃てないから、やっぱりメインはビームセイバーでの接近戦だけど』
 こちらも物陰から索敵する敵機の様子を覗きつつ、シル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)は表情を曇らせる。
 こちらが接近戦を挑んだ所で相手が応えるとは限らないのだ。
『同じダンテアリオン出の人間だ。そうそう無茶をするとは思えないが、念を押すのに損はないぜ』
 シルも懸念したであろう事に賛同するのは赤城・晶(無名のキャバリア傭兵・f32259)。こちらのヴェルデフッドは隠密能力も高い為、簡単に見つかる事もないだろう。
 しかし問題は敵の出方だ。自らの隙を晒してまで敵を探そうとする姿勢、スンゲは施設内での戦闘も考慮しているの見て間違いあるまい。
「敵も追い詰められている、無茶をすると考えていいかも知れないな」
(えっさ、ほいさ!)
 フロンティアのハッチを開い姿を見せるのは大いなる始祖の末裔、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットこと紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)だ。
 戦闘機はアリス妹が背に乗せており、敵に見つからないよう移動している。
『同じ国民を巻き込んでまでやる事じゃないだろ。王ってのが誰の事を言っているのか分からないけど、すっかりマシンに取り込まれちまっているんだな』
 オブリビオンマシン。人々を食らう存在。それに搭乗してしまったスンゲの成り行きを憐れむ木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)だが、やはり気になるのは『ひみつへいき』と書かれたコンテナだ。
 これは鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)も同じく考えていたようで件のコンテナを見つめている。
「秘密兵器といったところで自爆装置なのでしょうが。とりあえず人命救助してからでしょうね」
 晒う顔を手持ちの本で隠しつつ、冬季の言葉にノエルは溜息を吐いた。そうなるだろう事は織り込み済みとは言え面倒なのは面倒なのだ。
 この状況でも未だにペロペロとアメちゃんを貪るおっさんとジジイを見れば誰もがそう思うだろう。
『私はペロさんズに流れ弾が行かぬよう、施設内では陽動支援に徹しましょう。
 外に出てからが本番です』
「ギチギチ、カチカチ」
(シリアスさんはすぐに行方不明になるから困るよねー、ダンテアリオンの愉快な人達にも困ったものだわー)
 節足動物に愉快扱いされる国のツートップよ。所詮二本足など野蛮な猿に過ぎんのです。
『あのコンテナもだよっ。冬季さんの言うように爆薬が詰まってるなら大変だよ!』
『ああ、そっちについては俺たちに考えがある。なあ、ウィリアム?』
『勿論です、マスター』
 冬季の言葉から施設への影響を心配するシルへ、晶は答えて任せろとウィンクすれば、ヴェルデフッドのサポートAI、ウィリアムの言葉に表れているように元より計画している事があるのだろう。
 ならば気にすべきは陽動か。
『敵の攻撃が散らばらないように、平面移動を中心にしたほうがいいんじゃないかな』
「いい心がけだ、シル。各員は地上から仕掛けるように心してくれ。そういう事で私の役目はまだ先だな!」
(まだまだ背負うってことかしらー?)
 美亜の言葉に頭を上げたアリス妹に、その通りだとこちらも答える。彼女としては別段疲れるものでもないが、個体の情報が全体へと伝わる群体のアリスとしては確認は大事なのだ。
 スンゲの視界から隠れるように移動するアリス妹に感謝しつつ、こちらも体をコックピットへ収める。その様子を横目にしつつ、ウタはペロペロペロンチョのおっさんらを機械の指で示した。
『……あのおっさんたちなら……誰か飴を持ってたよな? そいつで釣って、施設外の正規軍に引き渡した方がいいんじゃないか?』
「でしたら、こちらも協力しましょう。近づくだけなら生身の方がやり易いですし、他にも協力される方がいれば連携を取り合いましょうか」
 ただでさえ猟兵に敵対的と言うのだから、真正面から引っ張り出そうとして悪目立ちしても困る。
 冬季は答えて陰から陰へと敵の死角を突いて素早く移動、手伝うなら彼に合わせるべきかとするウタであるが、彼のザンライガは巨体なこともあって救出には向かないだろう。
「ギィー、ギッチギチ」
(とりあえず、陽動と救出に分かれるってことでいいのかしらー?)
『大まかに言えば、そうですね。施設の保護も考えないといけませんが』
 施設の保護。
 ノエルの言葉にアリスは考える素振りを見せると、まだ施設の外に展開している妹たちへ思念波を飛ばす。
 防御は任せろとばかりに前肢をぶんぶか振るアリスに、これは頼もしいとノエルは見もせずに言葉を転がし各部の再確認を行う。
『そろそろ始めましょうか』
「キチキチキチキチ!」
(状況開始よーっ)
 鋏角を軋ませる音もいつもと違い囁くように。
 猟兵たちは陰に忍びそろりと動き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
すっかりマシンに取り込まれちまっているんだな
可哀そうに
スンゲを狂気から解放してやりたいぜ
そして王を仲間の眠る海へと還してやろう

将軍&宰相
誰か飴もってたよな
飴で釣って救出
施設外の正規軍へ引き渡す

戦闘
非殺

施設内では重火器は不使用
ひみつへいきから引き離して
施設外へ押し出す/誘導

殲禍炎剣の破壊ってのも判る話だけど
過去の化身が決めていい話じゃないぜ

施設外に出たら機関砲
王狙いの他
周囲の残骸を爆発四散や熔解させる
再利用させないぜ

機を見て
キャノンで王の纏う残骸を一気に消滅・熔解
剥き出しの王を
紅蓮で過熱させてパワーダウンさせたり
配線を焼き切りスンゲを引きずり出す

事後
鎮魂曲を奏でる
安らかに

喉飴を舐める



●孤独じゃないのよ猟兵は。
『レーダーに反応がない……と言うよりも、レーダーが反応しない……? 厄介な!』
 計器が完全に壊れてしまったのかと唸るスンゲ・トブゼ。歩き去る機体の後ろ姿を見送って、ガストン・ランバーは不意に動きを止める。
 何だかんだ言った所でやはり一国の長、脱出の機会を窺っていたのだろう。
「どうした将軍、ぎっくり腰か」
 マジで?
「そんな訳あるまい」
 そりゃ良かった。
 しかしご老人ボアゴン・ド・キッセンは腰をいわした前提で腕を組み、うんうんと頷く。やれ「何時までも若いと思うな」だの、やれ「一度やっちゃったらもう後戻りはできない」だの。
 大変共感できる話なので色々とご教授願いたい所だが、その歳で腰をいわしたことのない将軍は聞く耳持たずである。悪い事は言わない、ここは年の功を信じろ。どうせお前らに出番なんてないんだから。
「ふん、クーデターを起こす手腕、少しは認めていたが所詮は凡骨か。いや、ここは経験不足としておいたほうがいいか」
「仕方なかろう、あの歳でぎっくり腰など経験している者の方が稀よ」
「そなたよ、違う言ってるじゃん」
 違うらしいぜそなた。
 年齢故かきちんと言葉の通じていない宰相には取り合わず話を進める将軍。彼が指で示す先には、施設内の装置に身を隠す機体が見える。ザンライガだ。
 ガストンは他にもあれやこれやと隠れている猟兵たちを言い当てる。隠密能力に長けた者まで確認する事は出来なかったが、それでもスンゲの発見できなかった彼らを見つけるのはさすが武を司る軍の頂きと言うべきだろう。
「カッハハハ! 我がダンテアリオンの危機を際して動いたか猟兵ども! 蛮国小アサガシアに与する下賤の輩め!
 あのような塵芥が幾ら積もろうと山には成り得ん、我れらが覇道を阻むのは不可能よ! ……と、言いたい所だが……」
 さすがに生身でキャバリアに勝つ事は不可能だ。そこそこ現実を見れる男、ガストン将軍。やはり理性が米粒程度でも残っていないとトップには立てないんだね。
 未だにぎっくり腰あるある講座を開いている爺さんの首根っこを捕まえて、アメちゃんと共に移動を開始するガストン。
「ぬぅ、貴殿よ無理をするでないぞ! 少し体勢を変えて楽になったとしてもそれは一時的なもので、腰をいわした以上は絶対安静が必須なのだ!」
「カハッハ! そんなもの、戦の臭いあらばすぐに治るわ!」
 何の根拠もなく胸を張る将軍。お前なんか魔女の一撃で一生腰をいわすといいわ。

 施設外、正面ゲート前。
 一般国民たちを運び出したケータリング用キャンピングカーから降りた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、物惜し気に桜色の車体を見つめていた。
「施設内で車は小回りが効きません。殲禍炎剣の規定するスピード以下で吶喊しても、望んだダメージが出せるかも不安ですから……今回も生身で吶喊ですね……」
 折角持ってきたのに残念だと、溜息を吐く桜花の足下でぴょこぴょことこちらも残念だと思念波を発するアリス妹、その幼虫たち。
 おそらくは、というよりは確実に車内の食べ物を目当てに集まったのだろうが、さすがに不要とされた車に残ってまでつまみ食いをする気はないらしい。
『桜花さんもそのまま、施設に入るんだね』
 彼女の様子を見て声をかけたのは支倉・錫華(Gambenero・f29951)だ。搭乗するブロムキィは先の戦いにおいてバリアフィールドを使用し獅子奮迅の活躍を見せたが、専用のエネルギーも使い切ってしまいあのような動きは不可能だ。
 とは言え、人体力学に極めて寄せられた動作をするこの機体。
『途中まで運ぼうか。施設の中は大きいし、下手に飛ぶよりこの機体で隠密行動した方が早く進めるはずだよ』
 機械でありながらまるで忍者のように壁に貼り付いて歩いたり、匍匐前進はお手の物。こういった所で光る機体性能だ。
「ありがたい申し出ですが、私も、と言う事は錫華さんも機体から降りられるのですか?」
 桜花の言葉に、車から降りたから通信が入っていなかったのかと錫華はアリス妹へ声をかける。アリス妹の中継した通信内容によると、どうやらアメちゃんペロペロツートップを見失ったとの事。
 敵対者として扱う猟兵の気配を察知し、スンゲの隙を見て隠れたのだ。さすがは腐っても将軍級、と言った所か。
『こういう場合は諜報員としての本領発揮だよ。施設内ではまずは端末を探して、端末が見つかったら、【クーリエポーチ】を接続して施設の地図を手に入れるんだ』
 クーリエポーチとは多機能カメラやウェアラブルデバイス、爆薬などの諜報兼破壊活動用のツールキットだ。先程戦った早塗りだけがお得意な諜報部員とは訳が違う。
『この機体は施設に入ったら装置の陰にでも隠しておいて、そこからはわたしも生身で活動って所かな。端末を探すにもその方がやり易いだろうし』
「なるほど」
 無理に自分を運ぶ為に機体を使うのであれば遠慮もするが、物のついでとなれば話は別だ。こちらへ掌を開くブロムキィに、お世話になりますと頭を下げて乗り込む桜花。ブロムキィの足には「乗り込め―っ」と幼いアリス妹たちもひっついたが、まあ特に気にする必要はないだろう。
 幾らお腹が空いてもさすがに味方機を食べる事はないはずだ。多分。
 ブロムキィが施設に入ってしばし、次に姿を見せたのはマグネロボ肆式超、レイ・オブライト(steel・f25854)とエクアトゥールに搭乗する黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)、そして彼女を乗せたビッグタイガーを駆るチェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)。
 レイは念の為とエネルギープラント中継施設前で自由青空党員の撤去完了まで見張りとして配置されていた。摩那、チェスカーも同じくこちらは施設より少し離れた場所に配置されていたのだ。
 どちらも特に問題なく捕縛と移送が終了し、こうして施設へやって来た訳であるが。
『アメを舐めているだけかと思いきや、しっかり隙を窺っていたワケか』
 面倒だ、とは言葉にしなかったが明らかに面倒臭いとの意味を含めて言葉を零すレイ。摩那もまた心根は同じく唸っていたが、チェスカーとしては状況を悪くした事よりもそれなりに能力を持った人間であった点を喜んでいるようでもあった。
『まあ、そこは錫華に任せておけば問題ねえだろう。それよかちぃとばかり気になるのは例の秘密兵器、だな』
『あー予知にもあった、アレですね』
 巨大戦車から飛び降りて、エクアトゥールの腕の動きを確認する摩那。上手く敵の弾丸を弾き、限界が来る前にビッグタイガーの砲撃でその攻撃を阻止していたが、それでも大量に降り注ぐ鉛の雨を受けたのだから不安が残る。
 特に問題がなかったのは確認済みだが、それでもやはり念を入れたくもなるものだ。
『そう、そいつだ。どうせロクでもねー代物だろ、企みを根本から潰すためにもぶっ壊しといて良いと思うんだが』
『それもいいんですけど、彼らが抵抗の拠り所とするひみつへいき、を奪取することで、その意志をくじくのはどうでしょう』
 ひみつへいき、一般国民さんたちが見向きもしなかった為にそれが何かは未だに分かっていない。だがこの期に及んでもまだ秘密にしたいということは、よほど使いたくないか、あるいは、まさか、もしかして、恥ずかしい物だったりするのではないか、そう摩那は考えていた。
 まあぶっちゃけ、どっちにしたって大したことない本体へのブラフだろうというのが彼女の結論だ。
『色々と利用方法がありそうですし、党首スンゲの注意を引いたり何やらやっちゃって、早々に中身を大公開してしまおうかと。
 壊すのはそれからでも間に合いますよ』
『けど、爆薬って可能性もあるなら問題だぜ。その為にも中身の確認ってのは同意するが――、レイ、アンタはどう思う?』
 マグネロボへと振り返って、あれと目を瞬くチェスカー。視線の先にレイと機影は無く、同時に大きく鋼の軋む音と振動が響く。
 正面ゲートの解放、外部パネルから操作していたのはもちろんレイである。
『呼んだか?』
『……ああ……いや、例の秘密兵器とやらについてさ。アンタはどう思う?』
『さあな。オレが考える問題じゃない』
『おいおい』
 全く関心のない彼の言葉に肩を落とすチェスカー。対して摩那はなるほどと思わず笑う。
 出来る事、すべき事は猟兵それぞれが思い描いているのだから、自らの不得手にわざわざ囚われる必要はないのだ。
 猟兵とは群れて行動するもの。
 軍隊とは違う。個として戦い、その中に連携を持つ。あくまで彼らは孤ではないのだ。
『行きましょうか。適材適所、考える人が考えればいいって事です』
『…………、だな』
 摩那の言葉にチェスカーも苦笑して錆びたシガーケースを開く。
 音をたてて闇を覗かせたゲートに、三機は足取りも軽く信頼する仲間と、そして敵へと向かうのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「施設内で車は小回りが効きません。殲禍炎剣の規定するスピード以下で吶喊して望んだダメージが出せるかも不安ですから…今回も生身で吶喊ですね。折角持ってきたのに残念です」
ケータリングカー眺め

UC「精霊覚醒・風」
敵のメインカメラやアンテナ桜鋼扇で殴って壊し状況把握の手段制限
また敵を煽ってなるべく早く施設外に誘導し施設の損壊を減らしたい
回避率上げ第六感や見切りで敵の攻撃を躱す

「ダンテアリオンの精神を謳う割に、残される民草の事を考えない。随分卑怯ではないですか」

「貴方の言い様…殲禍炎剣を倒すと言いながら、殲禍炎剣の下僕のようです。貴方の主は、本当は殲禍炎剣なのではないですか」

戦闘後は車輌で炊き出しし配布


シャナミア・サニー
なんでこんなに複雑かつカオスかつわけのわからんことになってるのか
もうついていけないんだけど
まぁいいや
アレ壊せば終わりってことでいいなら突撃する
施設内での戦闘に注力するよ

メインウェポンは捨てて(後で回収するから)
標準兵装&【コンバットパターン【A】】で突っ込む!

スケイル・カイトシールドを前に構えつつ
盾の下からツインバレルライフルで実弾とビームで交互に狙撃しつつ
ドラグナー・ウイングで加速して激突&シールドバッシュ!
直後、ライフルも投げ捨てて両腕のビームブレイド展開!

かわせるものならかわしてみなよ!
私とレッド・ドラグナーがそのまま施設に激突して全力で破壊するし
それをお前のせいにするからな!



●そろそろ動くかロッケンローラー!
 全く、面倒な事をしてくれる。
 いつの間にやら消えたぺろぺろツインズに晶は思わず舌打ちする。
 計器類の故障したスンゲはまだ気づいていないだろうが、それも時間の問題だろう。
『ここは奴を引き離す。ウィリアム!』
『オーケイ、マスター』
 複合ミラージュレーダーユニットを増幅器により強化する事で生み出された幻影、それをデコイとして出現位置をノエルらが持ち帰ったマップ情報の座標に固定する。
『状況を動かす、準備はいいな?』
『いつでも!』
『どこでも!』
『 Rock'n'Roll !!』
 ウタと摩那がノリ良く返せば、締め括りとばかりにチェスカーも叫ぶ。底抜けに明るい声音はむしろ戦場に似合うようで、しかして隠密中の活動に合うものでもなく。
 思わず苦笑した晶によって発動した幻影は、狙い違わずスンゲの目の前に出現した。
『! 何者っ、いやそれは!?』
 幻影自体はヴェルデフッドを模した物。その両手に抱えられた代物は布が被せられ、彼には見覚えがあった。
 そう、例の『ひみつへいき』だ。
 布の剥がれた一部にその文字が刻まれており、スンゲがその存在に気づくと同時に身を翻すヴェルデフッドの幻像。
 逃げる、そう気づいたスンゲの行動。
(…………?)
 その様子を陰から見ていた晶の覚えた違和感は、敵の動きが止まった事だ。唐突の事態に動きを止めてしまう、それは分からぬ事ではないだろう。
 自由青空党を名乗り、大空の奪還を謳う男がその要たるコンテナを奪われた事に慌てて追いかけ、罠ではないかと止まる。それなら理解も出来ようが。
(止まってから動くかどうかを迷った? まるで追いかける必要がないのに、追いかけて見せるべきか迷ったような)
 動揺するスンゲを他所に、摩那の念動力が本物のコンテナを奪取すべく引きずっている所だ。
(中身の確認はともかく、まずは場所を移動させない事には話にならないですからね)
 そこそこ大きな物体である、集中力を高めているエクアトゥールのその下を潜り抜ける錫華には一切気づいていない様子であった。
 彼女もまた用があるのはコンテナ付近、と言うよりもスンゲによって破壊された将軍と宰相のいた部屋である。
 あの二人が揃っていたのだから、目的も考えれば内部にモニターなどの装置があってもおかしくはない。そこから監視カメラなどにクラッキングを仕掛ければ施設内部は筒抜けになるはずと踏んだのだ。
 彼女と一緒に行動していた桜花も、「むむむ」と摩那の集中するエクアトゥールを潜り抜けたが、こちらは錫華とは反対の方向、スンゲ機へと向かう。
 狙いとしては最後の一機である自由青空党の党首、これの破壊だろう。
(先程、晶さんは状況を動かすと言っていましたが思うようにスンゲさんを陽動できなかった様子。不測の事態といった所でしょうか)
 実物コンテナから注意を割くため、別方向に出現させた幻影に釘付けとなるスンゲは桜花の接近に気づいてはいない。だがそれも、いつまでその状態かは分からないのだ。
 背が遠くなる幻影に対し動かない敵機の姿は異様と言える。
(ここで幻影の動きを止めたら陽動だって言ってるようなもんだし、仕掛けるなら今か?)
 ヴェルデフッドへ顔を向けるザンライガ。
 晶としてもこれが攻撃する絶好の機会である事は百も承知だが、動かない事が気がかりなのだ。
『…………、あの様子じゃコンテナを追うつもりはないようだ。攻撃を仕掛ける、陽動・攻撃を目的とする者はヴェルデフッドに続き援護、施設の損傷に注意してくれ』
『分かった』
 晶の言葉に答えたレイ。ウタとしても隠密性能の低いザンライガ、騒音を立てるよりも身軽な機体である彼らが先を行くのがベストだろうと頷くのみ。
「ではこちらはペロさんズの元へでも向かいましょうか」
 破壊された部屋へと潜り込む錫華に続く冬季。
 その姿を天井に張り付いていたアリスは見送り、全体の動きを群体の無数の瞳に収めてふむふむと頷く。
「キチキチ、キチチ」
(ダンテアリオンの皆さんは愉快な雰囲気だけど、シリアスさんを取り戻すためにアリスは真面目にお仕事するのー)
 最終目標はオブリビオンマシンの停止である。しかし、この施設での戦闘がどれほどの被害をもたらすのか、それはグリモア猟兵からも伝えられたものだ。
「……ギィィ……カチッ、カチッ」
(この施設は大切な物だったかしらー?
 壊れたら困るみたいだし、まずはオブリビオンマシンを施設から追い出しましょー)
(はーいっ)
(しーっ)
(静かにいきましょ~)
 司令塔の呼びかけを受けて、施設内外のアリスたちは一斉に行動を開始した。

『なるほど、それで一気に溢れ出てきたワケね』
 芝地からもこもこと姿を現した地獄の使者たちに、赤き装甲を駆るシャナミア・サニー(キャバリア工房の跡取り娘・f05676)はなるほどと頷いた。
(中はスンゲさんの動きや変なおじさんたちを追い駆けててしっちゃかめっちゃかよー)
(シリアスさんとおじさんはすぐに行方不明になるのー)
『なんでそんなに複雑かつカオスかつわけのわからんことになってるのか、もうついていけないんだけど』
 前肢をぶんぶか振って説明するアリス妹たちに、シャナミアは思わずこめかみを押さえる。
 戦況は正に混乱しているようだ。複雑かつ面倒で、しかし先の戦い程ではない。物事はシンプルにするに限るのだ。
『まぁいいや、そいつを壊せば終わりってことでいいなら突撃する。
 施設内での戦闘に注力するよ』
(その前に破壊されたキャバリアの残骸や武装を利用されないよーに皆とゴミ拾いを手伝ってほしいのー)
(施設の中でバリケードの材料にしてしまいましょー)
『ふむ?』
 どうやら彼女たちは破壊されたり自分たちの手足としていたフィールドランナーの残骸を地中へと引きずり込んでおり、アリスズ・トンネルを利用して施設内部へ運搬する予定のようだ。
 これにより施設の防御用バリケードの設置と物量による押し出しを計画しているらしい。
『手伝いとは言うけど、私が手伝う必要ってある?』
(いけいけー)
(急いで運び入れるのよー!)
(わっせ、わっせっ)
 ブルドーザーなど目じゃない勢いで残骸を引きずり片していくアリスたち。大きいとなればその強靭な鋏角で易々と引き裂き、蟻よりも機敏に運搬していく様を見れば誰だってそう思うだろう。
(あっちよー、ああいった物を平らにしてほしいのー)
 アリスの内の一匹が示すのは山のように積み重なったフィールドランナーだ。
 スクラップとなった各部が絡み合って固まっており、さすがにアリスらの力を以てしても動かすには無理があるだろう。運び易いように鋏角で切断しているが、がっちりと食い込んだ機体群は切断箇所も多く時間がかかる。
 そこで、単純な力なら彼女らよりも上の赤の機械に引っこ抜いてもらいたいと言った所だろう。
『分かったわ、見てなさい』
 両の拳を勢い良く打ち合わせれば、蒸気が盛大な白煙となって籠手から噴き出しその迫力にアリス妹たちも思わず歓声を上げる。
 オーディエンスの声には応えてしまうもの。瓦礫の山に文字通り噛り付くアリスらをどかせば差し込んだ諸手が、めりめりと低い音をたてて絡み合った部分も引き千切り、強引に解体していく。
『投げるわよー!』
(へいへいへーいっ)
(パスパース!)
(足の空いてるアリスに適当に投げてくれればいいわ~)
 前肢をぶんぶか振り、あるいは後肢で体を支え、ぎこちなく立ち上がるなどアピールに励むアリスたち。とりあえずどっちでもいいわとばかりの同族の言葉に、それならばと見事なジャイアントスイグンでスクラップとなったフィールドランナーを投げるレッドドラグナー。
 赤き装甲は蒸気の噴出する手をぱんぱんと叩いて埃を払うような仕種を見せる。
『この調子でガンガンいくわよ!』
(おーっ)
 やる気に溢れた両者を遠巻きに見ていたアメちゃん小隊は、囚われていた、というか居ついていた一般国民を運んだ猟兵の一人、もしくは一匹である二天堂・たま(神速の料理人・f14723)へと視線を移した。
「なあ、ケ・トシィさんよ。ありゃ何しているんだい?」
「うむ、ワタシは知らんぞ」
 自慢の髭をピンとはねて、なぜか胸を張るアロハの猫は人語で答えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

シリアスさんはすぐに行方不明になるから困るよねー
ダンテアリオンの愉快な人達にも困ったものだわー
そんな雰囲気だけどシリアスさんを取り戻すためにアリスは真面目にお仕事するのー
さて、あとは最後のオブリビオンマシンを停止させたらいーのねー
でもこの施設は大切な物だったかしらー?
壊れたら困るみたいだし、まずはオブリビオンマシンを施設から追い出すのー
ついでに【戦場で破壊されたキャバリアの残骸や武装】を利用されないよーに皆でゴミ拾いをしてバリケードの材料にしてしまいましょー
折角抜け道を作ったのだから地下通路を有効活用して資材を施設へ搬入ー
施設の奥の方からがれきを持って外へ押し出しつつ、バリケードをどんどん積み上げてオブリビオンマシンを外に追い出すのよー
あとアメちゃんをなめているノーヘルメットの変なおじさん達は工事の邪魔だから地下トンネルに放り出しておきましょー
工事現場は関係者以外は立ち入り禁止でーす!


シル・ウィンディア
わたしも、空を自由に飛びたいから、わかるんだ
でも、だからといって、こんなことが許されるわけないよねっ!

リーゼ、行くよっ!!

施設内だから、キャノンはさすがに撃てないから
メインビームセイバーでの近接戦だけど…
さすがに、簡単にはいかないと思うから
連射モードのビームランチャーも使って
射撃&近接のコンビネーションっ!

こっちも外に出たほうが動きやすいんだけどね…

屋内では推力移動での平面移動を中心に機動して動くよ
敵が外に出たら、推力全開の空中機動で追いかけるよっ!

その時は全武装ロック解除っ!
ホーミングビームとツインキャノン、ビームランチャーの全射撃武装での攻撃を仕掛けるよっ!

機動は残像も生み出しつつ…
攪乱機動を心掛けて、味方の援護になるように牽制射撃も撃っていくよ

隙を見つけたら…
全速力で接敵っ!
オーラ防御も併用して、被弾を気にせずに最短距離で接近してから
ビームセイバーで切断っ!
その後、UCを使用して一気に押していくよっ!

空を取り戻したいなら
マシンをはねのけて、あなたの言葉でしっかり伝えてっ!


紅月・美亜
「お前の王はお前に死ねと言ったか」
 FRONTIERの機内から問いかける。
「そうか、なら愚昧と愚王よ。自らの命も軽んじる奴に他者の命を預ける奴は居ない。そして、死を強いる指導者の何処に真実があるッ!」
 一発限りのボンバーを初手で投下。火薬量を抑えてチャフを詰め込んだ目くらましだ。隙が出来た所に五発の主砲を撃ち込む。
「STGで死ぬ事は前提だ。だが、死に場所を求めて死ぬのではない。生きる道を求めて散るのだ」
 最後の一発を急所に撃ち込む。ラジエーター辺りなら装甲は張れない筈だが。

 そもそも、私とFRONTIERは囮でな。
 【Operation;UNCHAINED】を随伴させて存在を隠し続けた【Operation;R】全機合体して成型した決戦兵器、R-9DP3ケンロクエン。
「指揮官が前線に出るなら囮と相場が決まっている」
 波動エネルギーで撃ち出されるパイルバンカー帯電式H型は全てを撃ち抜く。射程が短いのが難点だが、今回の場合広域破壊しないのは利点だ。
「この一撃、止められる物なら止めて見ろッ!」


赤城・晶
連携を重視

あんたの思想や行動、言動をとやかくは言わねぇ。
勝てば官軍、負ければ賊軍だ。
だが、あえて一つ言わせてもらうぜ。
どんなに恥辱にまみれようが生きるのを諦めない。最後の最後まで自身で、仲間で、目的を達成しようとしないお前は、負けるぜ

ウィリアム、ミラージュ装甲展開【迷彩】、レーダー【索敵】、【ジャミング】をフルパワー、識別認識を妨害し、幻影を展開。
常に状況を把握、更新してくれ。

索敵した情報等は逐一味方に送信。
デコイ、施設外への誘導として『秘密兵器を持ったキャバリアが出口に向かう』幻影を展開し、外に誘導させてみるぜ。キャバリア以外にも人間サイズのアメをなめながら出て行く幻影も展開。
撹乱させつつできた隙にビームダガー【先制】やビームライフルで攻撃。
常に移動しつつ、味方の援護もする。
外での戦闘て、かつ広い場所、隙ができた場合に周りの残骸を吹き飛ばす以上のフルパワーでUCを使うぜ。

空を解放するなら、世界が、皆が協力出来なければ絶対無理だぜ?
そのために俺達は戦う、生きる。
それだけだ。



●クロースコンバット!
 コンテナを持ち、出口へと向かうキャバリアの後ろ姿を見送るスンゲ。彼にとって重要であるはずのそれを追わないのは、晶の指摘した通り極めて不自然と言うべきだろう。
 ならば。
(先手は打たせて貰う!)
 前進するヴェルデフッド。そのまま続けば気取られると足を止めた猟兵を背に先行する。狙うは勿論、幻影に気を取られたスンゲ・キャバリアの背面だ。
(施設前の戦闘後に電磁波領域は再展開している、気取られない為に最大出力とはいかないが――、目を盗むには十分だ!)
『むっ!?』
 気配を察し振り返ったのは、十分な距離に達した晶が隠密行動よりも迅速な攻撃を選択したからだ。今更回避も防御も間に合うまい、ならば一撃必殺と言わずとも威力ある一撃を。
 左右の両腰に装着されたビームダガーを逆手に握り込めば、肉食獣の双牙の如き輝きが頭上より襲いかかる。
 振り返りもさせん。焼け引き裂かれる装甲は不快な高音を発生し敵キャバリア、否、オブリビオンマシンに深々と光が突き刺さる。
『――……ッ! ち、直接キャバリア戦を!? えぇい、離れろォ!』
『こいつっ?』
『マスター!』
 ウィリアムの言葉に慌てて離れる晶。元とは違うであろうバランスの悪い肩部はそれだけに堅牢で、深々と突き刺したつもりの牙も駆動系にまでは届いていないだろう。
 何より機体に秘められたそのパワー。背中から覆い被さるヴェルデフッドを容易に振り解き叩きつける程の膂力、それを即座に想定したウィリアムの警告だ。がっちりと組み合った晶がこれまた即座に離れたのも直感的に敵の攻撃力、防御力を察したからこそだろう。
『このタイミングでジャミングを最大出力には――、情報は常時展開する! 常に状況を把握、更新してくれ。
 ウィリアム、データ・ディヴェロップメント、サポート!』
『オーケイ、マスター』
『小難しいことを早口で!』
 後退するヴェルデフッドへ振り被って見せたのは右肩に担いでいた巨大な鉈。保護材に覆われているがその峰の厚さを鑑みればキャバリアの装甲などただの一撃で粉砕できる。
 だが身の丈はあろうかという長大な武器を躊躇いなく片手で振れる程の性能はない。地面に降ろすような動作を円弧の流れに変えて、下からすくい上げる軌道でヴェルデフッドの股下を狙う。
『パワーにはパワーで、二本目の槍がいくぜ!』
 だが、そこに二本目の槍として現れたのはヴェルデフッドの背後から姿を見せたザンライガ。ウィリアムから得た情報を基に、敵機の膂力を予想しその攻撃を受け止める。
 直接刃に触れては損傷を受けるがそこは歴戦の猟兵、一瞬だけ背面から噴出した炎はその巨体を空へと持ち上げ距離を潰し、巨石の如く落下する。
『!』
 振り上げる右腕を上方からの押さえ込み。機体重量も乗せればただでさえ操るに難儀な大鉈だ、持ち上がる事もない。
『う、ぬっ、き、貴様ら、ここでまともにやり合う気か!?』
 この場所の重要性、分からぬはずもあるまいと。暗にそう言いたいのだろうスンゲの言葉に、ウタはザンライガによる体当たりでオブリビオンマシンを弾き飛ばす。
 こんな場所に陣取った者の台詞ではない、言葉を行動で表してたたらを踏む敵機へ拳を振り上げた。
 容赦なしのロングストレート。態勢を立て直そうと硬直した機体、普通ならばかわせぬタイミングにしかし、スンゲは行動を合わせて見せた。
『なんのぉ!』
 堪える姿勢から流れる姿勢へ、自動制御プログラムを解除し背面へと倒れ込む動作を継続、打ち落とされた右手に大鉈を逆手に持ち替えて引き上げる。
 距離が伸びた事でインパクトの瞬間を逃したザンライガの肘を打ち、軌道を逸らして完全回避を達成すると同時、振り上げた右足がザンライガの胴を打つ。
『うっぐ!?』
 操縦席が衝撃に揺れてウタが呻く間、倒れそうな機体を背面スラスターを用いて滑走したスンゲは猟兵から距離を取りつつ立ち上がった。
 重量機と思えぬ運動性能、と言うよりも運動性能の低さを自らの技術でカバーしたか。
(あぶねえ、威力の乗らない振り子軌道でも右足じゃなくてあの左足で蹴り上げられていたらダメージもとんでもない所だったぜ!)
 改修というよりも補修を受けたようなバランスの悪い機体性、故に左右の足もまた形状が大きく違うのだ。重武装化された左足の質量で考えれば幾らザンライガでも揺れる程度では済まなかっただろう。
 同時に、あの右足でなければ避ける隙もあったのだが。
(……戦い慣れてる……あのヴァイオレット何とかの二人組と同レベルだとしたら、機体性能が高くなってるだけ厄介だな)
 技量だけではなく経験も十分な戦士、クーデターを起こす中心人物でありながら自らを尖兵とするのも伊達ではない。機体構成から苦手と思える格闘防御の対応も技量でカバーしているのだから、その実力は認めるべきだろうと情報を更新する晶。
『ふん。追撃の砲火がないとは、少しは冷静なようだな!』
『こっちにも居ますからね』
 憎まれ口を叩くスンゲにはこちらも同じくとノエルが答える。言葉に驚きこそすれ動揺を外に出さず、間髪入れずに大鉈を振り抜く。
『…………っ!』
 が、そこに機影は無い。
 エイストラもまたヴェルデフッドと同様、電子戦に秀でた機体だ。EP統合センサーシステムを最大稼働し起動させたECMが、地形に溶け込んだアリス妹を中継地点に信号を思念波へ変換、スンゲへ投射している。
(きゃーっ)
 頭上を通り抜けたのは、さすがのアリス・ラーヴァ種でも単体では食うに困る巨大剣。
 ちょこまかとその場を逃げ去るが、保護色で色彩差を消したアリス妹にレーダーの利かぬ機体と人の肉眼で捉えるには難しい。これぞ科学の力だ。
 科学ったら科学なのだ。生物学は科学に含まれるの!
『三本目だ』
 振り回した獲物が空を切り、その隙を逃さず飛び込んだのはマグネロボ肆式超。
 させじと再び振り返り様の一撃は、左の盾を利用したショルダータックル。だが重量物を振り切って泳いだ体で、連撃でもなくベクトルの違う方向へのまともな攻撃を行うなど到底無理だ。
 より甘い一撃となれば差し込まれる隙は大きい。そしてそれを見逃すゴッドハンドではない。
 盾の下を潜り抜け、ライフルを持つ左腕に今度はこちらの右肩を押し当ててその動きを封じる。下から突き上げるショルダータックルに近い動きだが、威力を乗せたものでなく。
 人対人であれば正中線を狙い撃てる必殺の間合いであれど人型であって人ではないキャバリアに対しての戦闘。装甲で守られているのは勿論の事、下から顎を抜くのは不可能だ。
『そんなパワーのない機体で、この俺に接近戦か!』
 右足を後ろに体勢を立て直したオブリビオンマシン。振り抜いた大鉈の軌道を変えて返す刀へと変えたその右肩を左拳で打ち抜く。
 先のヴェルデフッドの双牙を受けた箇所だ。流石に貫通とはいかないが、体重移動の瞬間を見切れば損傷部に負荷を加えるだけで態勢を崩すのも容易い。
 人型は人ではないが、それでもやはり人型なのだ。人間工学に通ずる以上、その拳閃から逃れる事は出来ない。
 前に出ようとしたはずの体が倒れ崩れる前に、スンゲもまた背面のスラスターを利用する。スンゲにとっては今しがた訳の分からない手品に惑わされたのだから、ザンライガと違って距離を取るまいとした抵抗だろう。
 それは同時に機体の硬直を意味する。
 ザンライガ戦での応酬を観察し、ウィリアムから敵戦力レベルの報告を受けたレイにとって、受け流しを封じた瞬間こそが狙い目だったのだ。開いた距離に絶妙な間合いと瞬間を見切り、稲妻の如き足刀が分厚い装甲に守られた操縦席へと突き刺さる。
 パワーがないなんて言ってないもんね。
『こいつが四本目――、と言えば贅沢か?』
 悲鳴すら上げられずに弾き飛ばされた機体は通路の奥、今度こそ本当に待ち構えていたエイストラが姿を現した。
『なら私は五本目ですか?』
『ぐぬぬぬぬっ!』
 前後前後と揺さぶられたとて、この状況では気を配らない訳にもいかない。例えその声がまたも幻惑であったとしてもだ。
 バトルライフルを肆式超、ザンライガへと向けるが照準が定まらず。ただの牽制、本命はやはり右の大鉈だ。
『見えたぞ、今度は!』
『グラウンドリフレクター・オン』
 重い左足を先に接地し軸として、回転斬りを放つ。振り向き様の一撃ではなく、視界に入れて距離を計った必殺の斬撃だ。スラスターの出力も相まって地上を高速で走るエイストラへに対してすら完璧に対応した速度。
 加速する機体は真向から受け止めるように直進し、その装甲表面にぬらりとした粘質的な光が走った。
『く、潜っ――!?』
 まるで人間とばかりにスライディングして大鉈を潜る白き装甲。通路を削る事もなければ火花も散らさず、まるで接触していない様子で速度が落ちる事もない。
 彼女の始動した【ダブルフェイズ・マニューバ―】は装甲を反射板と仮定する事で表面に力場を発生し、地形その他の接触による反動を零とし直接の干渉を避けるユーベルコードだ。
 これにより速度を落とさず地上での滑走を可能とした。
(屋内や地上と空中との境界上を高速で駆け飛ばすエイストラは――)
 本来ならば胴から腰を薙ぎ払う、キャバリアの駆動ではかわせるはずもない軌道を頭上に観越し、片手で地面を突く。
 一瞬の反転。
『貴様ァー!』
 大鉈を握り直し、姿勢を変えて刃を引き戻す。脳天からかち割ろうと挑むオブリビオンマシンに対してハンドスプリングの要領で地上を跳ねた白い装甲は、パワーモーターの唸る右肩を飛び越えて背後に回り込んだ。
(――単なる空中戦よりも、格段に高い運動性を発揮します)
 更に建造物や残骸などが豊富であれば、足場として機動補助のレールとして活用し、その能力は留まる事を知らないだろう。
(背後は取りましたが、まず狙うべきは)
 ヴェルデフッドの双牙を受けても突破できぬその装甲、同じ個所を狙ってもオブリビオンマシン相手では貫く前に先の晶の二の轍を踏むだけだ。
 しかしグラウンドリフレクターを起動したエイストラの装甲は、決して触れる事がないという力場を利用する事で楔の如く装甲間を切り開く。
 正に敵のあらゆる防護を貫くユーベルコード。背後を取ったエイストラの手刀がオブリビオンマシンの肩口を精確に捉えた縦一線。
 装甲の隙間を拡げ内部駆動へと直接の一撃を叩き込む。
(ダブルフェイズ・マニューバーは地上空中間抜ける立体機動を示す言葉ですが、こういう利用法もある訳で)
『みっ、右腕がっ? 馬鹿な、この装甲を抜いたのか!』
 エイストラの一撃により力を失った右手から大鉈が転がり落ちるが、駆動系の柔い部分はただ押し出されただけで、シャフトに影響があったかも分からないし配線などのダメージは殆どないはずだ。
 オブリビオンマシンである事を考えれば、いつ復活してもおかしくはない。
『有り得ん、大志抱く我らがッ、志無き輩に!』
『志、ですか。ダンテリさんにとって火力が正義、みたいな人たちが多かったですけど。ならば殲禍炎剣は大正義、なんて思想でしたら頭ハタきますよ』
『そ、その殲禍炎剣を破壊しようと言うのが我らの目的なんだぞ!』
 はて。
 その割にひみつへいきと銘打たれたコンテナの奪還に動かなかった訳だがとノエルは眉を潜めた。思わず脳内で突っ込んだ僅かな隙をつぶさに感じ取ったのか、機体をぶん回し、パワーで持ってエイストラを引き離すスンゲ。
(巨体と出力を活かした単純明快な出し得技って感じですね。そう何度もやらせませんけど)
 スンゲ、あるいはオブリビオンマシンの防御パターンの解析情報を展開しつつ間合いを測るノエル。その隙を狙ってライフルから一瞬だけ手を離したスンゲは回収した大鉈を右肩の後ろへマウントする。
 そんな彼女たちの戦いを離れた物陰からこっそりと覗いていたアリス妹であった。
 場所が場所でもありそれ以上の激しい戦闘へと発展しない光景に背を向け、お次に顔を覗かせたのは巨大な電源盤の裏。
 そこには同じくアリス妹の背に乗せられたフロンティアから姿を見せた美亜、ブルー・リーゼから顔を出すシル、そしてエクアトゥールとともに施設内に侵入した摩那が潜んでいた。
(みんなは働かないのー?)
「……まるで我々が怠けているような言い方は止めてもらいたいですね……」
 アリス妹の言葉に眉間を指で揉む摩那。協力したいのは山々だが敵一体に対しまとわりつく味方は四体、ただでさえ砲撃が有効でない場面でこれらが肉弾戦を繰り広げるのだ、数を増やしても邪魔になるだけだ。
 索敵用のドローン・マリオネットから情報を受けるスマートグラス・ガリレオはレンズ内面にそれらを描き、確認する摩那は美亜へ顔を向ける。
「錫華さんは施設内の情報端末にアクセスできたようです。このまま監視カメラからペロさんズを追跡、冬季さんたちも続くと。桜花さんは生身の利点を活かして最前線に潜伏中です」
「あのスンゲ・トブゼと戦っているのは正面ゲートからの直通、搬入路になっているからか近接戦闘に耐える頑丈さを備えてはいるが、周囲を囲むにも幅が足りんし」
「あの、陽動はどうしよっか?」
 悩む美亜へ続くシルの問い。
 現在、スンゲの気を逸らしている間に摩那が念動力で奪取したコンテナが手元にある訳だが、これをどう利用したものか。
 敵機前方は晶を筆頭にしたアタッカーであるウタ、レイのチームが、陽動役であるノエルは敵機後方の壁となっている。囲まれている状態のスンゲにペロペロジジイを気にする余裕はないだろう。
「……そうだな……晶が攻撃を行ったのはあのスンゲの行動に疑問があったればこそだ。状況を動かす為に突いた訳だが、それで全て把握できる訳でもない。
 攻撃対象がいるのは通路、とは言え激しい戦闘をすればその裏、隣接した部屋の機材や壁床天井を走る電線に影響が出ないとは言えないだろう。こいつを使って戦場を伸ばそう」
 戦場を伸ばす、とは戦いを一か所に集中させず、通路を移動させて破損個所の重大化を防ごうという事だ。こいつとは勿論、例のコンテナである。
「それなら私が持っていきましょう。内容物についてはスキャン済みで爆薬などの仕掛けは無さそうですね。
 中身は資材、かどうかは分かりませんが大小さまざまな箱が敷き詰められているようです」
「大小さまざま? ……物資……いや、ひみつへいきとやらの部品? 未完成というなら好都合だな、丁寧に扱う必要もない訳だ」
 それがスンゲの不可解な行動に繋がったのだろうか。思案する美亜に対して特に大したものではなかろうと考えていていた摩那も腕を組む。
 まあ、そんな長々と考えている暇はないのだが。
「ともかく、先頭は摩那、晶たちの後方から走り抜けるように獲物を釣ってくるのだ。シル、キミは摩那とセットで動きサポート、……いや……私から合図を入れよう。摩那と同じく釣るように意識してくれ。
 ノエルにもこちらの動きに合わせるよう連絡を入れておく」
(アリスたちはー?)
 下からの声に美亜は「そういえば」と頬を掻く。何やらてきぱきと動いている彼女たちには、まだ作戦の相談をしていなかったのである。そこら中にアリス妹がいるため情報共有されてはいるが、彼女たちの行動を確認してはいない。
「あのオブリビオンマシンを外に出す算段をしている、……との話だったが……ふむ。
 こちらの動きに合わせて後方から押し出してくれないか? 晶たちの後ろからだ。手段は問わないが、施設の被害にだけは気を付けて欲しい」
(わかったわー)
「ギチギチ、ギチチッ!」
(お話は聞かせてもらったわーっ!)
 本来なら扉ではなかったであろう床をバチコンと開いて、司令塔たるアリスが顔を覗かせた。唐突な登場に驚くシルに前肢を上げつつ、自信満々の構えである。
 聞いてたっちゅーか以心伝心だものね。そりゃタイミングも完璧というもの。
「ガチガチ、ガチガチガチ!」
(準備は整っているわー、美亜さんの合図と同時に作戦開始よーっ)
「レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだッ」
 アリスの言葉をしっかりと訂正しつつ、こほんとひとつ咳払い
 それでは諸君、よろしく頼むと指揮官としての礼を述べて操縦席に座る美亜。摩那、シル、ついでにアリスはこれに右手と右肢を敬礼の形にして返しつつ、それぞれの持ち場へと向かう。
 頼もしい仲間の後ろ姿を見ながら美亜は首を傾げた。
(…………、準備が終わったならシャナミアとチェスカーはどこに?)


(この先は右に曲がるのよー)
「なるほど」
 肩に乗せた幼いアリス妹が全身をバネにぴょんぴょんと跳ねて情報をアピールしてくるが、その声は直接頭に流れ込んでくるので聞き逃す心配は無用だろう。
 冬季の行く一般通路はスンゲらとの戦闘と比べサイズも人用に調整されている。窓から覗けば至近距離で鋼と鋼がぶつかり合い火花を散らし、幾らこの国の一般国民のみなさまでも肝を潰すであろう。
 そんな光景を平然と見つめる彼も一般国民ではど肝を抜くような高速で水平移動中だ。両の手を腰の後ろに回す冬季、その両足首にはめられているのは宝貝【風火輪】。自作した飛行装具であるが、その理由は地を這う愚物と揶揄されたからだとかなんだとか。
 えれーこと言う奴もいたものである。
 更に彼の後方にぴったりとついてくるのは同じく自作宝貝のひとつ【黄巾力士】。戦闘用人型自律思考戦車と呼ぶべき代物で全身に火器が搭載されている。今は人間サイズなので問題ないが、いつかの戦闘では巨大な破壊兵器としてあらん限りの蹂躙を尽くした破壊の権化だ。
 減速もなくT字路を右に曲がった冬季の後ろで黄巾力士が壁にぶつかって減速するというパワー・イズ・ベストなテクニックを発揮しているが、特に施設に障害は起きていないようなので無問題である。
 もう少し慎重に行動してもらっていいですか?
(次もその次も真直ぐよー、足を止めてるみたいだからすぐに追いつきそうねー。
 錫華さんも来るから挟み撃ちにできるわー)
「制圧、もとい捕獲なら私だけで十分でしょうが。万に一つとも言いますしね」
 唇の端を傾けた彼が加速すれば、背後の黄巾力士も炎を噴き上げて加速する。これって次にぶつかった時とか大丈夫ですかね。
 幾らとかからずアリス妹のナビ通りの通路を抜けた先、こちらに気づかず窓の外を見つめながらアメちゃんをぺろぺろぺろんちょしている男が二人。
 その先、男らの向こう側にアリスへ情報を送っていた錫華が姿を見せた所だった。こちらの性格を読んでいたのかたまたまか、加速したにも関わらずタイミングはぴったりだ。
 やっぱ早塗りなんぞという意味のわからない事を自慢してくるエセ諜報員とは格が違うね。
 腰の後ろに回していた右手を上げて減速、その合図に騒音を響かせ地面を削り、急ブレーキをかける黄巾力士。
 さすがにこれには気づいたようでガストン将軍は退路を確認し、それを塞ぐように歩み寄る錫華に表情を険しいものへと変えて冬季へ向き直る。
 ボアゴン宰相も状況に気づいたようで、こちらは錫華へ体を向ける。とても戦えるようには見えないが、最低限の心得はある訳だ。
「カッハッハッハッハ! 自由青空党のスンゲとやらの配下とも思ったがその面構え、下に就くようには見えん。貴殿ら、この栄光の都に潜り込んだ下賤者、猟兵だな!」
「さすがは将軍、一目で分かるとはな」
 敬服するとばかり大事そうに抱えていたアメちゃんを床に置き、骨と皮だけのような老骨の手は懐から拳銃を取り出した。
 称えられた男も得意気に太い笑みを見せると、軍服の内側に収められていた剣を抜く。刀身は短いが肉厚で幅もある。
「良くお分かりになりましたね。その通り、我々は猟兵です」
 もっともこの状況、裏切りの青空党員であれば軍服を着ているであろうし気づくのは当然だ。の、はずが冬季の言葉にガストン将軍は目を丸くしている。おめーさては適当にかっこつけて言っただけだな?
「落ち着いて、わたしたちは別に危害を加えに来たワケじゃないからね」
 勝手に盛り上がっちゃってるアメちゃんずを落ち着かせようと両手を上げて説得にかかる錫華。が、信じられるかとばかりに引き金に指を置くクソジジイことボアゴン。
 こんな時の為のアメちゃんなのだ。待ち続けた使用機会に恵まれて、アメちゃんもさぞ喜んでいることだろう。
 こいつが目に入らぬかと上げた手に掲げた代物、それはもちろんアメちゃん入りの紙袋だ。
「な、なにぃ!? 貴様ら、そんな物でこのダンテアリオン一の識者と謳われたこの宰相、ボアゴン・ド・キッセンに、そんな、そんっ、……手が通じると……思うてか!?」
「…………、要らないの?」
「ふぐぅぅッ、要るに決まっているだろう!」
 もはや中毒者のそれ。話を聞いていた将軍も鬼の顔で錫華を肩越しに見つめている。この状況で注意をそらすとか、やっぱダンテリの馬面ってやべーよ。
 冬季は彼らの敵対心がアメちゃんへの執着に切り替わった事で余裕を持ち、更に敵対心を薄めるべく話を振る。
「お二方、逃げもせずに何を見られていたんですか?」
「ぬ? ……むぅ……」
 すでに闘争の気配を感じなくなったのか、警戒の目はそのままに剣をコートの内側へと収めるガストン。不安気なボアゴンはそれを見ながらも、まだ拳銃から手を離す気は無いようだ。
「吾輩が見ていたのはあのスンゲ・トブゼの格闘である。あれの受け流しの技術、このダンテアリオンの対敵性者制圧用覇道将校陸軍近接格闘術の六、『アメちゃんとは円弧の動きである超防御テクニック』を主としたものであったが」
 なんて?
「反撃に使う技が大振りだ。あの初手を引き最大剛力でもって返す戦術は小国アサガシアのものと共通している。正に蛮族国家よ。
 賢弟・ランデルフの懐刀と思っていたが、さて」
 鋭い洞察力だ。前半は何を言っているのかさっぱりであったものの、さすがは軍事力を司っているのを表しているかのような将軍の言葉。これに対し「それって本当?」とばかりの今回初めての接触である錫華の視線を、冬季は「わかんね」とばかりに肩を竦めた。
 そりゃそうだ。獲物により人により、戦い方が変わるのが格闘戦。勢いをどう利用するかもその時その時の判断であり、アメちゃん円弧がどうのこうのいう軍格闘を常に行うとは限らない。
 更に言えばこのような発言も、敵国アサガシアへ責任転嫁を行うべくしたのだと思えるほどだ。
「ええと。とりあえず命が危ない事だけでもわかってもらいたいんだけど、大丈夫?」
「うぬぬ」
 両手を上げたまま、目の動きで戦闘を行うキャバリアの姿を強調する。こんな所で押し問答や突破する為に戦闘など行っていれば、いつあの巨体に通路ごと押し潰されるか分かったものではない。
 ……でもこいつら普通に戦いを見学してたしな……。
「よ、良かろう。だがまずはその紙袋を寄越すがいい。話はそれからだ!」
 今から逃げるって話をしてるのにそれからも何も無くない?
 しかしアメちゃんを渡せば信用を勝ち取れるのだから安いもの。錫華は笑みを見せて頷き、近づいて警戒されないよう投擲すべく身構える。
 慌てたのはボアゴンだけでなくガストンもだ。キャッチに失敗して紙袋が破れたらどうするのだとくっだらねえ事を気にする大人二人が完全に錫華へ向き直った所で、冬季は呆れ交じりに鼻で笑う。
 こちらに背を向けている間に用意するのは【式神】。符に描き実体を得る二体の式神はとりあえず素知らぬ風を装い黄巾力士の背へと隠し、冬季は紙袋に殺到し兼ねない勢いの二人へ声をかける。
「もっとたくさん飴玉いりませんか?」
「な、なに!?」
「まだまだアメちゃんがあると言うのか!」
 今度は二人揃ってこちらに振り向くと言ううかつっぷりを晒すアホの足下を駆け抜けた式神にアメちゃんを渡す錫華。普通はできないぞこんなコンビプレー。
 びしりと親指を立てた錫華に敬礼を返す式神は、もったいぶって両手を握る冬季に釘付けなアメちゃんずの足下でドキドキしているご様子。
 舐められてんぞダンテリトップツー。
「分かってもらえた? 敵意がないってこと!」
 錫華が声をかける事で注意をそらし、その間に式神たちは再び足下を駆け抜けて冬季へアメちゃんを手渡した。いい仕事してますね。
 冬季はそれを受け取ると、式神たちをポイと黄巾力士へと放り投げる。雑な扱いしてますね。
 式神は生命的な存在であろうと使用適性に合わせて扱いを変えるもの。その存在意義は時代の流れによって変わっていったに過ぎないとはいえ、式神その他を問わずあれやこれやとを束ねて率いる冬季にとって目的の為に最短となる扱いも仕方ないのかもしれない。
 式神たちも慣れた様子で黄巾力士に掴まり、するりとその背に隠れている。
「お二方、いきますよー」
「えっ、えっ!?」
「こっちにもアメちゃんありますけどー」
「はわっ、はわわわわっ!?」
 ほーれほれと前後で見せびらかされるアメちゃんに、弄ばれる猫のように視線を彷徨わせるジジイども。
 念の為に教えてやるが、可愛くないんだよね。
「さあ、受け取って!」
「もーっ!」
「だから投げるなってば!」
 錫華が餌撒きとばかりに投げたそれを慌ててキャッチし安堵の息を漏らすアメちゃんず。安心すれば人は天を仰ぐか足下を見つめるかのどちらかだ。ご多分に漏れず視線を下へと向けて、手元のアメちゃんにご満悦である。
 そんな大間抜けの後頭部へ弾と化した仙丹を指弾で放つ冬季。手首に利かせたスナップを、挟んだ人差し指と弾く親指に伝達し特殊な回転を加えて弾いた物。
 両手から発射された仙丹は両サイドの壁面に衝突すると同時に跳ね返り、別々の角度、タイミングで宰相と将軍の後頭部を襲う。武に親しみのあるガストンに気取られないよう念を入れた対応であったが、そんな必要あったかどうかは不明です。
 あでっ、とばかり指弾に打たれて痛そうに振り返るクソジジイどもに、冬季は芝居がかった仕草で帽子を脱ぎ頭を下げた。
「山ほど飴玉のある部屋へお連れします。この紙を手に取ってください」
「なにっ、うむ?」
 飛来した式神の本体に描かれた文章。アメちゃんから痛覚へ、痛覚から視覚へ、視覚から言の葉へ。
 流れるように意識を散らされた二人はまるでコンビニの配置に流される素人消費者のように、あれよあれよと冬季の策略に転がされて、式神の符を手にしてしまう。さすがの彼らであっても普通に渡されようとすれば拒絶したかも知れないが。
 抵抗なく触れたそれに吸い込まれるようにして消えた老害、もといダンテアリオンのツートップ。
 式神の内の一体は再び実体を現わして錫華から紙袋を受け取ると、ぺこりと頭を下げて姿を消した。
「長くも短くも、かの宝貝の中の時の流れは自由自在……存分に楽しまれるが良かろう……導け、【壺中天(コチュウテン)】」
 静かにその名を告げて、符を回収する冬季。ユーベルコードを利用した宝貝へとの繋ぎ役になった式神は、錫華から受け取った紙袋を手に内部を案内している事だろう。そこは案内する先により経過する時間さえも異なり、並ぶは限りを知らぬ東屋風の倉庫だ。
 この中に導くには抵抗されない事が条件であり、同時に拘束性もない。だが彼らが動きを止めるに十分な量のアメちゃん袋があるのだから問題ないだろう。
「ひとまず人質は確保、と。使えるならアリス嬢の作った道から正規軍へ送り届けるところですが」
 何か気がかりがあるのだろうか。冬季の様子に疑問符を浮かべて声をかける錫華。
「その二人ならわたしが連れて行こうか。キャバリアも待機させてるし、安全に脱出できるけど」
「…………、いえ、私が連れて行きます。この連れの機械人形は張ろうと思えば障壁も張れますし。錫華さんにはこの場に残って、敵の情報を集めて貰いたいですね」
 敵の情報、その言葉に合点がいったようで錫華は了承する。
 つまりは将軍の言葉が真実の可能性もあると彼は言っているのだ。彼女にとって初めて接触したダンテアリオンは情報など必要かと嘆いてもいたが、そこは諜報部と漏れなく記録を怠っていない。
 彼らの動きとこのスンゲ・トブゼに決定的な違いがないか、それを情報のスペシャリストである彼女の視点から確認が欲しいと。
「まあ細かい要素の照らし合わせなら、……十分情報があるし……」
「もうひとつ、摩那さんからも情報を受け取ってください。彼女なら備えが多いですから」
「了解したよ」
 通路に設置された案内用の電磁パネルにポーチから取り出したウェアラブルデバイスと繋ぐ。デバイスはそのまま腕にはめて虚空に表れた虚像に触れると通路案内が表示されていた映像が監視カメラのものへと切り替わった。
「これであらゆる角度からあのオブリビオンマシンの確認ができるよ。摩那さんのドローンの情報、直接戦ってる晶さんの情報、それらを複合すれば照合するのも簡単だから答えはすぐに出ると思う」
「答えが出次第、共有をお願いします。大した情報とは思いませんが」
「そうかなぁ」
 まるで興味がわいたから調べている程度の頼み事に聞こえるが、ガストンの言葉通りにスンゲ・トブゼに他国の流れを組むものであらば大事も大事だろう。
 そんなやりとりを些末と扱われて錫華は小首を傾げたが、冬季は気にする様子もなく後は任せたと黄巾力士と共に来た道を引き返して行く。それを見送り目を移すは窓の外、猟兵を相手に大立回りするオブリビオンマシン。
(確かに、情報を扱うならわたしだよね)
 特に迷惑という訳でもなく、あるいは興味を増した様子で胸中で独り言つ錫華であった。


●謎が謎呼ぶ怪人・スンゲの目的!
『面倒だぞ、貴様らァ!』
『有難いお言葉だぜ!』
 振るう右の剛腕にこちらも右の剛腕と左手を添えて受ければ、がっちりと受け止めて揺れもせず。オブリビオンマシンの一撃を留めたザンライガの肩口から、ヴェルデフッドの光牙が迫る。
 呻いて下がるスンゲにザンライガの脇を抜けて追撃するマグネロボ肆式超。繰り出すのは敵の後退よりも速さを見せて、雷光を纏わせた諸手突き。
 それでも下がる身に決定打とはいかないが、受ければ体勢を崩すには十分だ。
『肩を借せ、ウタ!』
『かち上げるぜ!』
 その隙を逃さず、ザンライガの肩に飛び乗るヴェルデフッドをショルダータックルによりカタパルトの要領で打ち上げる。
『いい間合いだな』
 思わず感嘆の声を上げたレイを眼下に置いて、ビームダガーを逆手に空中で前転、回転力を加えて更に威力を増した双牙は先程穿った肩を精確に狙うが、左腕の一本で両腕を受け止められてしまう。
『はい足下』
 背後からの急襲。
 壁を足場に回り込んだエイストラが右の膝裏を踏み抜き、オブリビオンマシンの重心を崩せばそのままヴェルデフッドが押し倒し――、切れず。
『舐めるな雑兵ども!』
『この力自慢が!?』
 腕を傾けて打点をずらし、左腕を滑るヴェルデフッドへそのまま肘を当てに行く。これには肘を折り畳んで右肩で受け止める晶だが、そのまま弾き飛ばされてしまう。
 力を活かす為の細かな技術を使う以上、ただの力自慢という訳でもないがだからこその言葉だろう。エイストラに崩されたのと逆の左を軸足に、崩れた右足を引き上げた後ろ蹴り。
 牽制の一撃とは言え単に重量兵器、エイストラが身を引けば伸びた足を鎌の如く折り曲げて後ろ回し蹴りへと変化させる。
 狙いは勿論、先程弾いたヴェルデフッドだ。
『こんな役回りばっかだが!』
 こちらの身が自由な内に接近したザンライガの剛腕で、再びオブリビオンマシンの攻撃を受け止めて思わずぼやくウタ。
 続くはヴェルデフッドの代わりとばかり、翼を開いて加速する肆式超。
 飛び込む拳がその頭部に打ち込まれると同時に、敵機の左拳がこちらの頭部を打つ。相打ちのクロスカウンターだ。
『ちっ、……隙があるのかないのか……、……わからん奴だ……!』
『……こ、のっ……、どありゃああッ!!』
 背面フライトユニットの噴射剤の出力を上げ、押し切ろうとするレイを重量で勝る機体の膂力で真向から殴り飛ばし、正面のザンライガと体ごとぶつかり合う。
『ったく、片手が使えずによくやるぜ!』
『王道の礎となるこの身に対して、有象無象が集った所で!』
『――う、そだろ!?』
 ずしりと踏み込まれて傾いだ機体に、十全ではないそれに押されるのかと目を瞬くウタ。
 ならば並び立てば問題なかろう。当然と発せられたその言葉、姿を現すは通路床より。
 どう見ても扉とは見えない床の一部を勢い良く開いて姿を見せたのはスタンディングモードのビッグタイガー。
『!? なぜ床から出て来る!』
『なぜも何も、通路を使ってるだけさ』
 関係各者に知らされていない通路があるらしいっすよ。
 補強されているとは言えダンテアリオン都市部からエネルギープラント中継施設へ毛細血管のように広がっているアリスズ・トンネル。ついでだからと重要施設の床を穴だらけにしても今更どうと言う事は無いのだ。
(ビッグタイガーの砲撃だと施設へ誤射した時の被害がデカい、ここは接近戦だ)
 戸惑うスンゲに直接肩をぶち当ててチェスカーは笑う。
『よし、一気に押し込んで拘束だ!』
『ちゃっちゃと終わらすぜ!』
『うおっ、おっ!』
 重量級のキャバリア二体が揃い踏み、二方向から押し込まれては幾らオブリビオンマシンと言えども堪え切れず、そのまま壁へと叩きつけられた。
「わわわっ!?」
 付近に潜んでいた桃色の人影が、直前に慌てて抜け出した。機会をうかがい潜んでいた桜花である。振動で揺れる足下もしっかりと踏みしめてぐらつく事無く、肩越しに装甲を擦り合わせて火花を散らす鉄の巨兵を振り返る。
(攻撃の合間に細かい部分を狙うつもりでしたが、あのスンゲさん反応が鋭いですね。
 確実を狙って皆さんの動きに合わせたほうが良さそうです)
 壁に押し込まれたオブリビオンマシン。千載一遇のチャンスと言えるが左腕は拘束されておらず僚機を押し返そうと抵抗している。勘の鋭さも加えて先手を撃ち込めても、あの手で反撃されるのが関の山だ。
(ユーベルコードを使えばかわすのは簡単かも知れませんが、あれほど鋭い感性ですと桜の気配も気取られそうですし、攻撃を受け止められては意味がありません)
 特に意味なく自分の存在を見せてしまうのは面白くない。だからこそ、生身である事を加味して慎重かつ精確に動く。キャバリアとは違う戦い方をせねばなるまい。
 それに互いとも大暴れとはいかない場所だ、このまま抑え込めばそれだけで勝ちも取れるというもの。
『我がキャバリアが止められるか!』
 が、そのまま事を成せるほど容易ではない。装甲の継ぎ目から噴き出す蒸気と共に体が収縮でもしたかの如く、装甲が沈みオブリビオンマシンの体が一回り小さくなる。
 その動きに嫌な予感を覚えたのは間近のチェスカー、そしてノエル。
(この動きは――)
(防御装甲!?)
 同じく装甲に防御系を持つ者と衝撃を攻撃に利用する両者故の直感。
 刹那の暇もなく全身からボルトが突出し、同時に元の位置より更に広がるようにして装甲が弾き出された。組み付いたザンライガとビッグタイガーにたたらを踏ませる。
 衝撃はそれなりだが貫通力もないただの叩きつけ、威力らしいものはない。だが、隙間を開くというのが重要だ。
『しまっ!』
『手の内を見せびらかすのは好きじゃあないが!』
 右腕が使えずとも肩で当たるに問題はない。ザンライガへのショルダータックルと、動きの鈍いビッグタイガーへの回し蹴り。
 二機を打ち飛ばしたオブリビオンマシンだが壁に追い込まれた状況はそのままだ。
『観念しちまったほうがいいんじゃないか?
 殲禍炎剣の破壊ってのも判る話だけど、過去の化身が決めていい話じゃないぜ』
『過去、……過去だと……? ふざけるな、過去は現在を育み現在は未来を創る!
 事件を起こすのはいつだって過去の事柄だ、それをないがしろにする事は許さん! 俺はこの程度の戦況など、幾度となく乗り越えてきたのだ。王の道となる我らの誇りを、言葉で挫く事は出来ん!』
 荒ぶるスンゲに対し、ウタは思わず嘆息する。彼の言っている事は事実だろうが、進むべき道たる未来はそうでない。
 過去の因子だけで全てを決する未来などは悲劇しか生まない。それは閉ざされた未来であり、過去の焼き増しでしかないのだ。だからこそ、オブリビオンマシンに未来を託す訳にはいかない。
 そう、過去を教訓にする事と過去に囚われる事は違うのだ。
 装甲が元の位置に戻ると同時にボルトも元の位置へ沈み固定する。距離を保ったままその様子を注意深く見つめるチェスカー。
『……俺が王だ、くらい言うかと思ったが……あんな我のクソつえー国民性をよくもここまで謙虚に出来るモンだ』
『結構カッコイイこと言ったのに酷い言われようなんだけど?』
 事実故致し方無し。
 とは言え、そんな軽口のひとつやふたつ、投げ交わした所で二人の間に流れるのは闘気と殺気。敵同士なのだから当然だが、両者の気が緩まる事は無い。
(ここまで性質が変わっちまったんなら、前の件みたく乗っ取られるか共感するかしちまったか?)
 以前もまた、同じくダンテアリオンとオブリビオンマシンの事件があった。その際は最終的に、オブリビオンマシンに宿った人格と搭乗者の人格とが補強し合う形で共存する状態となった。
 このスンゲ・トブゼこそ自分自身の意思かのように話しているが、彼もオブリビオンマシンと意識が共有されているのかも知れないのだ。
『聞こえますか、皆さん。錫華です』
『なんだ? どうかしたのか?』
 唐突の通信に怪訝な顔を見せるウタ。錫華はスンゲの行動パターンからひとつの事実が確認できたと告げる。
 その事実とは。問いを重ねるウタ、その耳を貫く雄叫びが言葉を裂く。
『よっしゃあああああああああっ!』
『な、なんだぁ?』
 晶も思わず動揺する鮮烈な戦場デビューを果たしたのは、ビッグタイガーと同じくアリスズ・トンネルから姿を見せた奇怪な化け物、もとい、アリス妹たちにやたらめったひっつかれて判別がつかなくなったレッド・ドラグナーとその操縦者、シャナミアの姿であった。
(きゃーっ)
(たーのしーい!)
 前肢を振り上げて威嚇行動をする群体、それに対し機体をぶん回して撒き散らせば悲鳴や歓声、様々なノイズを発して床やら壁やら天井やらを跳ね回る。
『ようやく元凶と会えた、木偶の坊!』
 メインウェポンであった籠手はもう不要と留め金を外し後方へと投げ捨てる。「オヤツだー!」とアリス妹たちが群がるが、お前たちの物ではないとシャナミの一喝。そりゃそうね。
 ただ外して投げただけの話、当然ながら後々回収するつもりなのだ。超雑食性節足動物用のエサにするわきゃねーのだ。シャナミアの剣幕に不満気ながらも従うあたり、お仕事を手伝ってもらった恩はきちんとあるのだろう。
 すごすごと引き下がるアリス妹軍団を横目に取り出したのは、【EP-Aスケイル・カイトシールド】。ハンマーガントレット等とは違うレッド・ドラグナーの標準兵装で、ナノクラスタ装甲を使用したその名の通りのカイトシールド型。左腕に固定したそれは竜鱗の如き風貌で、盾裏に装備された【RBSツインバレルライフル】を抜き放つ。
 こちらは実弾と粒子弾を撃ち別ける事が可能な二段バレルの特徴的なライフルだ。トリガーもそれぞれ別けるよう二つ揃い、敵に対し効果的な弾種を即座に撃ち別け可能な兵器。それだけにハンマーガントレットを装着した手では扱いも難しかっただろう。
 派手に登場したはいいが、木偶の坊と罵った相手はこちらに眼中なく、距離を離したとは言えまだ近場にいるザンライガとビッグタイガーへ注意を向けている。
(そんならそれでもいいけどさ)
 盾を前に構えて右手のライフルは腰元に。
『後悔しろーっ!』
 響く銃声に閃く光。僚機の間を抜き迫る弾丸がオブリビオンマシンの装甲を叩く。
『銃撃!?』
『やる気の奴がいるのか!』
 驚くウタとともに振り返るスンゲ。無視はさせまいとライフルを構えていたシャナミアは得意気な笑みを見せた。
 彼女はライフルの銃身を盾の下部に固定し前傾姿勢へと移行。僚機に囲われ壁に追い込まれ、動きを制限されたオブリビオンマシンへその矛先を向ける。
『――まずい……彼女を止めて!』
『いや止めろったって!』
 錫華の言葉を受けても、キャバリアは急には止められない。敵から味方へと向き直るビッグタイガーだが、すでに背面に大火を滾らせた赤い装甲の足は地面を離れているのだ。
 加速。
『かわせるものならかわしてみなよ!
 私とレッド・ドラグナーがそのまま施設に激突して全力で破壊するし、それをお前のせいにするからな!』
『台詞が悪役!!』
 目指すオブリビオンマシンへ突撃するレッド・ドラグナー。実弾と粒子弾を交互に放つ姿はそれでも乱射ではなく、盾に固定し反動で弾道がぶれないよう狙撃をしているのも施設への被害を抑えようとしている姿勢が見て取れる。
 だが。
『この距離――、もらったっ!』
 左肩の盾で身を守る敵機は完全に動けぬようだと、【コンバットパターンA(アサルト)】による突撃をそのまま敢行する。
 血の滲むような超特訓で体に覚え込ませた強襲用連続攻撃。完全に敵を捕えたと誰もが思ったであろうその瞬間。
『なるほど。……結局はこの施設の価値を忘れてはいないようだ……!』
 向き直ったビッグタイガー、恫喝しつつも精確な射撃を行うレッド・ドラグナー、その全ては施設への被害を懸念し、施設を守る為の。
 ならばこうだ。
 含み笑いすら聞こえるようなスンゲの言葉。なんとこの男は施設の被害などどうでも良いかと言うように、レッド・ドラグナーの射線から身をかわしたのだ。
 的を無くせば彼女の弾丸が貫くのは施設の壁。壁内やその向こうにどんな機械があるかわかったものじゃない。だが、文字通り常人の耐えうる限界を超えた超特訓により反射速度を超過した攻撃パターン、それを体に落とし込んだ連続攻撃は止まる事は無い。
『チェスカー!』
『分かってる!』
 叫ぶウタに吠えるチェスカー。距離で言えば近いのは彼女で、相対する姿勢のままレッド・ドラグナーへ突っ込む。
 ウタもまたその身を盾に被弾する壁面へ向かうがザンライガではその身も重く。
『うっく!?』
 爆光にメインカメラの搭載された頭部を保護するスンゲは目を細めるが、その視線の先に壁が破壊された様子はなかった。
 爆発があった以上、防いだ者がいたはずだがザンライガも今一歩届いていない状況でレッド・ドラグナーの猛攻を受け止める事ができる者など。
『間に合ったか』
 施設に損傷なく、その結果に一息吐いたのはレイである。かざした右腕に肘から先から先がなく、断面に生じる火花と甲高いモーターの駆動音が鳴り響いていたがそれもすぐに小さく消えていく。
 レッド・ドラグナーの連続射撃に対し、機体を盾にするのは間に合わぬと踏んだレイの飛ばしたEMRパンチがその攻撃を防いだのだ。だが元よりただの腕であり正面から殴りつける為の質量兵器、側面で受けて耐えられるはずもなく爆損している。
 お陰で施設は無事だ。機体ひとつの右腕一本、その犠牲で多くの人々が救われたと思えば安い物。しかし問題はそこではない。
『ふっ、やはり猟兵ども、施設を破壊する気はないようだな!』
『軍人がこんな重要施設を守らないってどういうつもり!? 恥を知りなさい、恥を!』
『攻撃した奴がそれ言う?』
 ビッグタイガーに抱き留められてようやく行動を停止したシャナミアの叱責を受けて、スンゲも思わず肩を落とす。まあ戦闘中だしすぐに気を取り直すんだけど。
『どういう事だ。幾ら既存の支配体制を変えたいからと言って国の生命線を断つのではクーデターは失敗する。国民だってついてこないぞ。これがオブリビオンマシンの意思なのか?』
『それが、スンゲ・トブゼはダンテアリオン国民でない可能性があって』
 呟く晶に答えたのは錫華だ。彼女が通信を入れてきたのはこの報告にあり、冬季の指示を受けて調べていた行動パターンには、確かにダンテアリオン軍にないものが複数見つかった。
 同時にそれは摩那から受け取った情報と照合し、合致するものがあったのだ。
 ガストンの言葉通り小国、アサガシアのものである。
 各種攻撃への対応であればたまたま行動パターンが似通っているだけとも取れるが、攻撃の起点にそのパターンが見え隠れしているとなれば信憑性は高まる。この言葉を受けて眉を潜めたノエルは、誰もが思ったであろう疑問を錫華へ投じる。
『つまりそれって、このスンゲがアサガシアのスパイで、更にオブリビオンマシンに乗っ取られてるって事ですか? そしてクーデターを起こしたと。
 こんな重要施設を掌握するなんて突発性があるというよりは計画性があるように見え――、いやでもここの国民ですし思い立ったが吉日でクーデター成功もあり得ますね』
『わたしも詳しくは分からないけどダンテアリオンの技術をその身に馴染ませているし、工作員として長く潜入している人物なのか、それとも元からダンテアリオン国民だったのかは分からないよ。
 ただあっさり命の選択が出来たっていうのは外部の人間って考え方になるんじゃないかな。それも他国の技術を使用できるならなおさらだよ』
 錫華の言葉を聞けば、確かにスンゲの正体は外部の人間と考えるのが妥当だろう。周囲の信頼を勝ち取りクーデター軍を率いる程の信頼を得ているのならその期間も長い。
 ただここの国民はアメちゃん依存症なのでノエルの言葉通り、ぽっと出のスンゲにアメちゃん賄賂を渡されてコロッといっちゃった可能性も捨て切れない。
 が、ここで晶が思い起こすのはひみつへいきに対するスンゲの行動だ。明らかにその中身を重要視している訳ではなく、ひみつへいきという外面に重きを置いたかのような態度。
 なりふり構わず守ろうとするでない扱いに加え、その後の摩那の報告からしても緊急性がある代物ではなかったと言えるだろう。
 つまりスンゲはアサガシアを含む周辺諸国との紛争中にも関わらずクーデターを引き起こし、砂上の楼閣を建てた上で先の見通しも確定していない殲禍炎剣の破壊という夢物語を掲げたのだ。
 ノエルと錫華の言葉に晶は美亜へ通信を繋ぐ。
『…………、今の話、どう思う?』
『ふぅむ。アサガシア・ダンテアリオン両国は昔から諍いがあったと聞いている。単純に考えればアサガシアによる敵国の扇動行為と言った所だろう。だがクーデターが成就すればダンテアリオン国民の熱量は殲禍炎剣に向けられ、それを止める力などあの男に有るようには見えない。
 殲禍炎剣への攻撃が強行されればこの密集した小国家群の地形、被害はダンテアリオンに留まらない。周辺国へも甚大な被害を及ぼす作戦を、国家存続の為に連携国を必要とするアサガシアが行うとは思えんな』
 そう、それでは共倒れになってしまう。晶もまた感じた違和感はそこにあった。ただオブリビオンマシンの影響により狂った計画を突発的に打ち立てたのならば理解できる。だがこの決起にあったのはアサガシアへの補給物資、兵器の略奪と共に起こされた計画的なものであり、何より第一強国という言葉に縛られている。
 その言葉はアサガシア末端の補給施設へ攻め入ったイーデン・ランバーから連なるもの。が、当の本人はそれを知らないと言っている。
 にも関わらず今回決起したのが工作活動をしていたアサガシアの軍人であれば、たまたまオブリビオンマシンと接触し暴走した可能性はあっても国民を先導する殲禍炎剣の破壊を掲げるのはいいとして、仔細不明の第一強国という言葉を使う必要はないはずだ。
(アサガシアの流れを組むのは確かだが、アサガシアの人間とするなら不明、どころか不利益になる行動が多過ぎる、か。
 しかしオブリビオンマシンによる暴走だとしても言動が作為的で不可解、と)
『今回の事件、予想を遥かに超えて複雑なようだな。ウィリアム、戦場の情報に注意して、各項目ごとにまとめてくれ』
『オーケイ、マスター』
 ウィリアムの頼りがいある言葉に頷くと同時にセンサーに反応。後方より高速で接近する熱源反応。
 反応する晶とは別に、前線に立つ猟兵たちは今の会話を聞き、オブリビオンマシンから目を離せなくなってしまう。
 それは冬季が危惧し、予想が確信になるまで情報の共有を禁じた理由。
(……こいつが外部の人間なら、施設に直接攻撃しかねないって事になるぜ……!)
 現状に置ける最悪の懸念。固い唾を飲み下すウタが注視するのはやはり敵の動向。
 膠着した戦場に攻撃の手を図らずも封じられる歯痒い想い。シャナミアもまた、敵の防御行動を見越しての攻撃だっただけに破壊に加わるような真似を進んでするつもりはない。
『…………、気にせず殴って良くない?』
『それは止めときな、今度はお姫様を抱き上げるだけじゃすまねえよ』
 ぽろりと小声で零したシャナミアに、肩を落としたチェスカー。あらやだこのコ破壊の権化よ。
 猟兵たちの様子に攻め手が途絶えたなと嘯くのは、余裕すら見せるスンゲ。ならば動かしてやろうと彼が構えて見せたライフルの銃口。その先にあるのは機影でなく。
『配線ボックス!? 思った通りを狙いやがって!』
 そこにあったのは施設の点検の為か設けられた仮設の配線ボックス。主電源の検査をする場合や新たな設置物の際に使われるもので、簡易的に電源を入れ替える物。その内容がただの照明かそれとも各種重要基盤への電源か分からないのだから堪ったものではない。
 ウタの気遣いなど気にするはずがなく引き金を絞れば、発射された弾丸を受け止めたのは黒い装甲のエクアトゥール。
『ナイスキャッチィー!』
 両肩の大型盾を機体前方で交差させ、口径の大きなライフル弾を難なく受け止めた。
『ネズミがわらわらと!』
『他人の事は言えないでしょうに!』
 苛立つスンゲを一蹴、羽開くように広げた二枚盾が弾丸を弾き飛ばし、内に見せたのはその両手に乗せたひみつへいきと描かれたコンテナである。
 驚愕するスンゲの脳裏を過るのはやはり、先程彼を誘き出そうとした幻影だろう。どちらが本物かなどの区別はつくまいが、それでも彼を動揺させ動きを止めるには十分な代物だった。
『……そ、れは……!』
『ふっふっふ、ライブ・スタート!』
 頭上に浮かべたマリオネットがエクアトゥールとその手のコンテナをカメラに収め、更には錫華の形成したネットワークから施設外のダンテアリオン正規軍、更にそれを中継地点として周辺地域の住民宅の回線を乗っ取り映像を流す。
 無論、スンゲも同様だ。
『なんだ!? なんだこれは!』
 すぐにモニターの映像をサブモニターへと追いやって視界を確保するが、そこに映る摩那はコンテナを掲げていた。
『突然の放送失礼する、ワタシは……そう……ケットシーだ!』
 画面の端にちょこんと姿を見せたのは先と同じアロハな姿にウクレレを弾くたまの姿。かけていたサングラスを頭に乗せて、ペコリと頭を下げる。
『この映像は栄光あるダンテアリオンを支える超重要な施設、エネルギープラント中継施設内である! 現地の摩那リポーター?』
『はい、こちらリポーターの黒木・摩那です!』
 尊大な言葉とは裏腹に丁寧な対応を見せるたま、彼からバトンを受けて弾む声を披露する摩那。これ見よがしにコンテナを見せびらかしている。
(自由青空党の反乱も、残る機体は党首スンゲ一機のみ。勝負は決したと言えるでしょう。
 しかし、全く諦める気配はありません)
 これ以上の抵抗が続けば、この国にとってかけがえのないエネルギープラント中継施設に被害が及ぶ。それはもう、スンゲの行動が証明したと言える。
 だからこそ絶対に防がねばならないのだ。
『皆様、こちらをご覧ください。このキャバリアの持つコンテナ、ひみつへいきと書かれているこれこそがこの自由青空党の党首、スンゲ・トブゼの言う対殲禍炎剣用兵器です!』
『――……! まさかっ』
『おぉっと!』
 はたと気づいたスンゲが進むのを阻み、ザンライガが聳え立つ。その動きに気づいたビッグタイガーもまたレッド・ドラグナーから離れて余裕を持った様子で並び立った。
『貴様ら、そこを退けぃ!』
『そうはいかねえぜ。どうしてもって言うんなら力づくで来るんだな、間に合うかは知らないが』
 背後を親指で示すウタに唸るスンゲ。彼の視線の先にあるのは今にもコンテナを引き裂かんと両端を握るエクアトゥールの勝ち誇った姿。
 そう、中身を晒さんとする猟兵の姿だったのだ。
 もしもそれが、この場でなければ何とでも言い繕えただろう。晶の作った幻影のように、スンゲの預かり知らぬ所でコンテナの中身を暴かれても知らぬ存ぜぬを通し、でっち上げだと再起を図る事は出来たはずだ。
 だが、彼と共にあるそれは、それだけで信憑性が深まる。ましてや彼が用意したと宣言された代物、好奇の対象となっている以上、今彼が弁明した所で効果はない。
(――そして! 今、彼がこうやって焦っているという事は! 完成品でないからこその焦りじゃあない。それなら熱に浮かされた人々を冷静にしてしまう欠点があるとは言え、嘘じゃないからです)
『つまりは、私の推測通り――』
『よせぇえ!!』
 エクアトゥールの指がコンテナ内部に牙となって食い込み、まるで菓子袋でも開けるように頭上で易々と引き裂けば、スキャン通りの大小様々な箱が降り注ぐ。どれもこれも特別な材質という訳でもなく、エクアトゥールの装甲に当たって潰れたり中身が転がり落ちて来る物も。
『……これって……』
 拉げたコンテナを振っても落ちて来るのは紙製のただの箱。そして箱から出てきた中身とは、あのアメちゃんが詰め込まれた紙袋だったのだ。
 ……あのさぁ……。
 しばしの沈黙。いや通路上では嬉しそうにアリスの妹たちが駆け回ってはいるけど。どこから湧いたんだと言うなら野暮な突っ込み、だってここはもう彼女たちのお家の上なんだもの。
『大した事は無いと思っていましたけど、中身がこれっていくら何でもあんまりじゃ?』
『……アメ……アメちゃんとな……? ぬおっ!?』
 ひみつへいきの正体を知るや否や、施設外ではたまに駆け寄る軍人が現れたのか慌てた様子がモニターに走る。雨霰と降るアメちゃんの姿に理性を失ったのだろうか。マジでやべーじゃんダンテアリオン正規軍。
 「ぴよーっ!」という掛け声と共に映像が乱れて消えれば、残るはモニターに反射するスンゲの赤く染まった顔だった。
『……こ……これでは……礎になるなど……! おっ、俺のっ……この俺の誇りが……っ!
 きぃぃいさあぁあまああらああああああああ!!』
 怒号。
『……このパワーは……っ! 通していいんだよな!?』
『作戦だからな!』
 男の怒りの血が通ったかの如くオブリビオンマシンが脈動し、抑え込む二機をまとめて押し返す。明らかに尋常ではない様子に危機感を覚えるウタだが、この輩を施設内に留める訳にはいかない。
 機体各所からの衝撃削減用の圧縮ガスを噴き出してギアが甲高い音を響かせるオブリビオンマシンを眼前に、チェスカーの言葉でタイミングを合わせ共に道を開く。
『志ひとつなくただ吠えるだけの貴様ら猟兵は!』
『何を訳の分からない事を!』
 阻む者がいなくなり怒り狂って猛進するスンゲに対し、餌が効きすぎたかと頬を引き攣らせて、摩那もまた移動を開始する。ここまでは作戦通りだ。ここまでは。
『臥薪嘗胆! 積年の想いをコケにしてくれたなぁ、よくもこうも無様に、この俺をっ!
 叩き潰してやるぞ、黒いヤツ!』
『ちょっと食いつきが良すぎやしませんか!?』
 まるでライフルすら鈍器だと振り上げる一撃を咄嗟にかわし、お返しとばかりの蹴りで体勢を崩しにかかるも、びくともしないその堅牢な体に舌を巻く。
 エクアトゥールとの質量差、それも機体の特性とも言える加速力を利用しない攻撃だと、咄嗟の蹴り程度で敵を崩すのは不可能か。
「けれど、攻撃の一手を加えられるほどに隙だらけなのもまた事実です!」
 側方からの一閃。桃色の風が駆け抜ければ視界を塞ぎ、直後にはモニターを埋め尽くすノイズの嵐。
 背面から頭部へと回り込んだ桜花の狙いすました桜鋼扇の一撃である。スンゲの血走った目にその姿を捉える事も出来なかっただろう、流れのままくるりと反転し空中で静止した彼女の顔に棚引く毛髪は風に巻き上げられて逆巻いて。
 それが先程と同じくユーベルコードが行使されている事を示す。
 どこからともなく吹き荒ぶ桜の花びらを従えて、視界を奪われたオブリビオンマシンを見つめる桜花。
『……してやったつもりか……!』
「!」
 人で言えば双眼、保護ガラスが砕け、破損した内部のメインカメラが露出している。しかし赤いセンサー光は消えておらず、次の瞬間、シャッターが下りるようにして現れたのは新たな保護ガラスではない。緊急時の為に使用されるサブカメラの一種だ。
『まだ――、見えている!』
 迫り来る巨拳の風に乗り、流れるようにその腕を滑れば新たなカメラへと桜鋼扇を投げつける。スンゲは腕を捩じるように折り畳んで肘を使いそれを弾き、機体上体回しながら肘を戻す動きを予備動作に肉薄する桜花へ裏拳を放つ。
「こちらも――、見えています!」
 迫る鉄拳に左手を合わせ、衝撃を流す事で完全に威力を殺した桜花は裏拳を足場に跳躍、オブリビオンマシンの勢いと自らのユーベルコード加速力。これらを合わせた突進力にはさしものスンゲも対応できず、跳ね返った桜鋼扇を手に取り一直線に向かうのはオブリビオンマシンの額より大仰に伸びる角型アンテナだった。
『――……!』
 直撃。
 全身を弾丸とした扇の一撃はアンテナを圧し折り、捕えようとするする左手も掻い潜って距離を取る桜花。精霊へと覚醒し桜吹雪をまとう事で敵の感知から逃れ回避能力を底上げするユーベルコード、それを行使しているとはいえ精細を欠くオブリビオンマシンの動作。
(あの眼、緊急用の応急処置ってところでしょうか。性能は良くないみたいですね)
 敵の感知系を粉砕する事で状況把握能力を制限した桜花はちらとエクアトゥールへ目を向ける。彼女の行動がスンゲの誘導にある事は理解しているが施設への攻撃も辞さない相手、敵の注意を奪うにしても怒り狂っている状態では危険な事この上ない。
 冷静さを欠かせるにしても理性は必要なのだ。
「殲禍炎剣破壊の裏はもう、国民の皆さんに知れ渡りました」
『そーそー、無駄な抵抗は止めなさい!』
(そうよそうよー!)
『ぬぐぅ』
 桜鋼扇をびしりと突きつけた桜花と共に声を上げる摩那と、便乗して床下から顔を出すアリス妹軍団の大合唱。思わず押されたスンゲであるが、そんな言葉で止まるのならばクーデターなど行うはずもない。
『ええい、黙れ黙れ! 例えクーデターが失敗に終わろうと!
 この俺がこの国に存在している以上、俺の志は断てーんっ!』
『……はぁ……? どういう意味だ?』
『知らん。が、混乱しているようにも思えないな』
 吠えるスンゲの言葉に眉を潜めたのは彼らを追うチェスカー、そして答えるレイ。シャナミアは会話内容にそこまで興味はないようで、ただ敵機への追い上げに集中している。
 晶は二人の言葉を聞き留めながら錫華の送る施設内部の情報を整理し、最後尾にビッグタイガーが続く流れだ。
 こんな時に重装甲というのも考えものとするのはウタであるが、先の戦いと違いブレイズキャリバーである自身の力で底上げしないのは施設外戦闘に備えての温存と、その加速を利用されて施設内壁に叩きつけられるようなもしもを避けての事。
『混乱していないと言うなら、あのスンゲ・トブゼがこの国にいる事に意味がある、そういう内容になりますが』
 工作を続けるから、という意味ではないのか。
 ノエルの言葉を耳に挟み、さすがのシャナミアもぽつりと零して思案気に唸る。彼女らの言葉を聞いて疑問点があるのは確かだと思いながらも、美亜は敵機の位置をマッピングされたデータに重ねた。
(戦場の引き延ばしには成功した。思わぬアクシデントもあったが作戦通りに違いはない)
「シル・ウィンディア、アリス・ラーヴァ、出番を頼む!」
『任せてっ!』
「ギィエエエエエエッ! ガチガチガチッ!」
(はーい!)
 美亜の合図を受けた司令塔アリスによる信号が、さきほどまで野次を飛ばしていた妹たちに伝播すれば彼女らは巣穴へとその身を隠し、同じく合図を受けたシルもまたブルー・リーゼの片膝をつける。
 クラウンチングスタートの姿勢だ。人間と同じくアリスらの用意した特製のスターティングブロックへその足を乗せている。
 シルたちが構えているのは移動を始めたスンゲらより更に更に後方、元々コンテナのあった場所である。
「ギィイーッ!」
(位置についてーっ)
(よーい!)
 作業用の安全ヘルメットを被ったアリスの言葉を受けて次々と通路に穴が開き、妹たちが引っ張り出したのはスクラップになったキャバリア・フィールドランナーの武器。勿論空砲だ。
 それに自分たちの糸をひっかけて天を向かせれば、引き金によじ登る妹一体。
(スタート!)
 言葉、というか思念波と共に鳴り響く銃声、同時に施設地下に潜むアリスらがブルー・リーゼのスターティングブロックをかち上げるようにフィールドランナーの残骸で作成された隔壁を競り上げた。
 押し出されるような形で更に壁を蹴り、まるで人間のようなロケットスタートを見せる青の装甲。
『リーゼ、行くよっ!!』
 出だしの加速をそのまま力に変えて、背面の翼が開くと同時に噴出する更なる力の帯が精霊機を押し上げる。
 直進コース、減速する必要などは皆無だ。
 最奥に位置していたブルー・リーゼは最大加速へ瞬間的に到達すれば、施設内の空気を斬り裂き駆け抜けた後に風を伴う颶風となって飛翔する。
「追い出し作戦も、最終段階に入ったね」
 通路窓から通り過ぎる青き風と、音を轟かせて通路より生える歪な隔壁に、放送も終わった事だしと道具をポーチに収納する錫華。
 こちらも早く脱出せねばなるまい。キャバリアの方は回収をアリス妹らに頼んでいるので問題ないだろうが、先のシャナミアのようにつまみ食いは止めろと注意はしていなかったことを思い出す。
「……さすがに乗ったら動かない、なんてことはないよね……」
 一抹の不安を頭から追い出して、施設内通路を把握した錫華は出口を目指して走り出した。
『うおっ!?』
 こちらは、一瞬にしてその脇を潜り抜けたブルー・リーゼとそれに続く風圧に驚きの声を上げたウタ。が、ザンライガの安定感をもってすればまだましで、比較的軽い肆式超などは飛行中にふらつく程だ。
 それでも操縦不能にならないあたり、レイも操縦技術が向上していると言えるだろうが。
(はいはーい、止まって止まってー!)
(ストップ! ストップでーす!)
 先に行ったブルー・リーゼ、元より前方に位置していたエイストラと後続組となったウタらのキャバリアを遮るようにアリス妹たちが通路より顔を覗かせる。皆が一様に安全ヘルメットを被り、中には赤く明滅する指示棒を振り回している個体もいるので、アリスズ・トンネルを制作していた群体かも知れない。
『――お、ととと! どうしたの、急に?』
 現れたアリスらに、こんな所で止まってる場合ではなかろうとしながらも素直に従うシャナミア。先頭に追い付いたウタもまた疑問に思いつつ、後方から響く騒音に気づいて振り向いた。
「ギィエーッ! ガッチガッチ!」
(そーれどっこいしょー!)
(どっこいしょー!)
「ギエエエエエエッ! ギチギチギチ!」
(ほーれよっこいしょー!)
(よっこいしょー!)
 現場監督らしいアリスの合図を受けて通路から引き上げられる、フィールドランナーの残骸を利用した壁の群れ。
 通路を埋めるように何枚もの壁が迫り出し、それこそ迫り来る圧を与えている。
「ギチギチギチギチ~♪」
(みんな~【ぜんそくぜんしん】よ~♪)
 それそれと自らの糸で編んだらしい扇子状の代物を掲げて妹たちを操作し、彼女らは群体として一糸乱れぬ動きにより隔壁を排出、次々と前進し通路を塞いでいく。
『お、おいおい、これ止まってる場合じゃあないぜ! このままスンゲを押し出す作戦だろ?』
『……別に俺は潰れても構わないが……』
『デッドマンと人間を一緒にするな! アリス、どういうつもりだ?』
 加速力はもちろんこの機体の最大速度では脱出する前に隔壁に挟まれてしまうと、自らの獄炎の用意をかけてザンライガの右腕の装甲を展開するウタ。レイは別段と焦りは無さそうだが、それは彼の特色というよりも性格のせいだ。とかく、晶がアリス妹たちを通して監督アリスへ言葉をかければ、その答えはこちらですとばかりに妹たちが前肢をぶんぶか振っている。
 いつの間にここまでわいたのか、保護色を解いたアリス妹の群れが一斉に床をひっぺがすと巨大な通路の入り口と化す。これならばキャバリアも十分に通れるだろう。
(工事現場は関係者以外は立ち入り禁止でーす!)
『……いや関係者なんだけど……』
(四の五の言わないのー!)
(ここならお外に直通でーす!)
(足の遅い人はこっちを使うといいのー)
 人というよりはキャバリアであるが。彼女らの言葉にふむと頷くシャナミア。
 しかしこれを有難いとするのはやはりウタと、そしてチェスカーだ。移動力としてはビッグタイガーを変形すれば確保できるものの、時間がかかってしまう。それでは壁に押し潰されてしまうだろう。
『助かるよ、脱出口が多いのはさすがだな』
 正にこの通路は渡りに船、チェスカーは巨躯を屈ませて、階段のように続く地下道に目を見張る。彼女とシャナミアが利用したのはキャバリア一機がせいぜいといった曲がりくねった自然洞のようなトンネル。が、こちらは整然と作り変えられ通路と呼ぶに相応しい形をしている。
 おそらくは他のキャバリアやダンテアリオン正規軍が使っていた通路もこのようにされているのだろう。未だに通路作成のため安全ヘルメットを被ったアリス妹がそこかしこにおり、巣穴ではなく人が使う道として制作している様子。
 もっとも、そこから離れればどのような道になっているか想像も出来ないが。
『中は全然広いな、すぐに入れるぞ!』
 言葉と共に入り口から機体を避ける。移動力の低さから最後尾へ回るつもりなのだろう。
『オーケイだ。シャナミア、レイ、ウタ、続いてくれ』
『分かっ――、ああ! 私の武器はどうなった!?』
(ちゃんと回収してるから大丈夫よ~)
 通路に入りかけた所で大事な事に気づいたシャナミアへ、アリス妹が答えれば良かったと安堵の溜息を吐く。
『ザンライガの速度じゃ先回りとはいかなさそうだけど、このまま行けば不意を突けるかも知れないな。
 …………? レイ、どうかしたのか?』
 続々と通路に巨躯が進行する中、一機その場から動かぬ姿に疑問符を浮かべる。
 当のレイはウタにちらと視線を向けただけで、再び機体を浮遊させると前進を再開した。
『敵はそう速い機体じゃない。このマグネロボ肆式超ならまだ追いつける』
『そりゃあんたやシャナミア、晶の機体ならいけるだろうけど……まあ……施設を守る人間が多いに越した事は無いな』
 レイの考えを理解したようでザンライガの右手を振らせ、一時の別れを済ませて通路の奥へと進む。額縁通りに別れだからこその挨拶ではない、この場を任せるという意味を込めたものだった。
『任せろ』
 もう目を向ける事は無く、ただその一言を返してレイは操縦桿を深く握り直す。その様子にチェスカーは施設へ入る前の会話を思い起こした。
 適材適所、その言葉を。
『あたしもご一緒させてもらうか。舵取り役をお願いしたいんだが、そっちも頼めるかい?』
『舵取り?』
 通路の戸を閉じつつ、シガレットケースから野菜スティックを取り出してチェスカー。言葉の意味が理解できない様子のレイに、にやりと笑って操縦席の側壁を叩く。
『こいつは歩くだけじゃあノロマだが、重量機用ブースター【ストームダンプ】がある。
 この五十七トンのデカブツを時速百三十キロでカッ飛ばす為の推進装置があんのさ。さすがに飛べないが、隔壁に追いつかれる事はないだろうぜ。一本道だ、移動するだけなら問題ないがあのスンゲの野郎に追いついた時には丁度良い位置、ってのを取れないかも知れねえ』
『なるほど。正に舵を取って微調整をしてほしい、と』
 右腕を失った機体でバランスを取るのは難しい、ブルー・リーゼに近づくとならば尚更だ。しかし安定性能も一級品なビッグタイガーに掴まれば、問題なく走る事が出来るだろう。
 敵に近づけば小回りの利かないビッグタイガーに変わり、肆式超の推進装置を利用すれば移動するオブリビオンマシンへの接敵も可能なはず。
『そっちも任せろ』
『男前な台詞だね』
 加速の衝撃に備えて身を屈めるビッグタイガー、肆式超は上体の取っ手を握り浮遊する。背面を開けているとはいえこの位置で、この体勢で長時間を耐える事は出来ないだろう。もっとも、それだけの時間を過ごすつもりはなかったが。
『股下焼けても文句は言うなよ!』
『大丈夫だ。オレもこいつも焦げる程度は慣れっこだ』
『いい返事!』
 甲高い吸引音と共に震える装甲。
 直後には耐衝撃姿勢など意味を成さず、首がもげるかとも錯覚する加速に仰け反りながら、背後に迫る壁を置き去りにビッグタイガーは発進した。


●激闘、エネルギープラント中継施設!
(今度はあっちよーっ!)
(それ~!)
(お次はこっちよーっ!)
(はーい!)
 急に騒がしくなったものだ。
 通路の床すれすれを浮き、風火輪で高速移動する冬季はアリスら用の横穴を忙しそうに出入りする妹たちを横目にすることもなく、手元の本から視線を離さず嘆息する。
 肩にしがみつくのはダンテアリオンツートップを封じた式神と、その手元に乗るアリス妹の幼虫。彼女のお陰で現在の施設内の動きは把握出来ており、やがてこちらにやってくる猟兵たちの動きも理解している。
 広々とした通路を黄巾力士とともに中央を進んでいた彼であったが、後続の為と通路脇へその身をかわし。
「先程の放送ですが、ダンテアリオンの正規軍の皆さんは未だに落ち着きを取り戻していないのでしょうか?」
(そこはケットさんが頑張ってるわー、狂乱状態の軍人さんたちを食欲のそそる声で威圧して、こりこり美味しそうな肉質でなんやかんやしてるみたいなのー)
 式神の手の甲をころころと転がりながらのアリス妹。主観に塗れた説明であるが、なんやかんやでオッケーな感じってことかな?
「そうですか」
 明らかに不要な部分はあったものの、まあ言葉は通じているのでそこは良しと冬季は頷く。本を閉じて右手を腰の後ろへ回し、視線を前へと固定する。
 このまま地下を抜ければ、あとは落ち着いた正規軍へ件の二人を引き渡せば一段落、その頃には敵機の施設外排除も完了しているだろう。
 例の『ひみつへいき』の中身も、ダンテアリオン国民が興奮する以外は危険性の全くないアメちゃんだと分かった事でわざわざ回収する必要もないこと、加えて爆薬であれば壺中天の破壊を代償に内部へ封じようという彼の考え、それも杞憂に終わったと頷く。
(とすれば、外に出ればそのまま決戦。ケットさんの力は見させて貰っていますが、使い物にならない兵隊が戦場に転がっていても面倒ですね)
「外の様子が分かるということは、別の妹さんたちも施設外にいるのでしょう? 邪魔になりそうな方々は撤去してくれませんか?」
(保護じゃなくて撤去でいいのかしらー?)
「はい、あー。いえ、やはり保護でお願いします」
(はーいっ)
 そういえばこいつら人間も食べれちゃうな、と思い返したのかアリス妹の言葉通り保護へ名目を変える。障害物は食べたり建築資材に使っちゃう種族なので言葉で伝えるには細心の注意が必要だぞ。
 幼虫が頭を持ち上げ、口をパラボラアンテナのように大きく開いて電波をゆんゆんさせている所で通路に揺れが発生する。後続の猟兵が近づいたのではなく、通路頭上付近でアリスらが隔壁を設置している影響だろう。
「さて。私たちが外に出るまでに、彼はどうなっているでしょうか」
 天井へ視線を変えて、口元を歪める。様子を見透かすその笑みの先では通路を行く火花が撒き散らされていた。
 噴射剤で加速する機体。
 通路を擦り抜け音と火花を鳴らす爪先たち。
『……ふざっ……けるなあああああっ!!』
 怒声を上げてバトルライフルを振り回すスンゲの眼前を、ひらりひらりとかわし翻弄する桜花。返し技を狙うも隙は無く、左肩の盾で頭部を隠される。だがそれは同時にその視界を塞ぐ事となり、両脇のエクアトゥールと追いついたエイストラに狙われる隙となる。
『膝裏ぁ!』
『ぬっ、ぐ!』
『はい脇腹』
 後方から徹底して追尾するエクアトゥールの盾から輝くのは【BX-S エール・ノワール】。サイキックエナジーの翼ともなる光であり、刃だ。
 攻撃方向が決まっているので辛くもこれをかわしたものの、通路を足場に三次元機動で迫るエイストラの腕部に収納された【BX-Aビームブレイド】が脇腹を突く。
 白と黒の巧みな追撃には彼の防御技術でも防ぎ切れないのだ。が、さすがの装甲、損傷はしっかりと与えているものの貫く事は出来ていない。
『おっ、おのれっ! くぅ!』
 反撃しようにも頭上を飛び交う桜花に気を取られたスンゲは防戦一方で、だからこそ移動せざるを得ず、それもまた一方向から押し上げる摩那によってただ進むしかないようコントロールさせている。
 とは言えオブリビオンマシンを駆るだけで猟兵を相手にここまで渡り合えるのも流石と言う他にない。
(だからこそ、外に辿り着く前に可能な限り削り取る。高速戦闘下では状況把握力の差が重要ですし、悪いとも思いませんので余裕を与えるつもりは一切ありません)
 スンゲの移動方向を制御する摩那とは別に、ノエルの動きは周囲への注意を散漫させる動き。壁を、天井すらも足場に周囲を飛び交う稲妻の如き動きは、どこから攻撃が来るのかと焦らすには十分。
 そして極めつけは頭部に取り付く桜花だ。主要となるカメラやアンテナを破壊され、情報処理能力も下降したオブリビオンマシンではその動きを追うのがやっとで攻撃も間に合わず防御に多くを割いている。
 これでは施設への攻撃などといった暇も無い。猟兵の罠にはまったと分かっていても前進し続けるしかないのだ。
 しかし。
『――……!』
 オブリビオンマシンの操縦席に響く電子音。――右腕の異常回復完了の音だ。
 唸りを上げた鋼と脈動するその動きに、ノエルは思わず目を見張る。
 もう回復したのか。
『はあぁあ!』
 雄叫びと同時にその右手が狙うは肩にマウントした獲物の握り。
 留め金が外れ一息で振り下ろされた鈍が空を噛み千切る。その風を受け流し距離を取られまいとする桜花の前方に表れるバトルライフルの銃口。
「く!」
 突き込まれたそれをかわし様、頭部に視線を送るがやはり盾で守られていた。更に今のオブリビオンマシンの右腕に戒めは無い。
『まとめて叩いてくれる!』
 振り下ろした勢いに身を任せた跳躍は、桜花へと突きを放った筒先をそのまま通路に当て支点としていた。その重量を顧みない軽業は彼のテクニックは元より、その風貌からは想像出来ぬ運動性能と各武装の強靭さを示す。
 正に驚愕の一言。
『そんなのって有りですか!』
「た、確かにそれらしい動きは最初もしてましたけどっ」
 叫ぶ摩那もマリオネットを中継し、更新した情報を全機へ拡散している。ファーストコンタクトでは見事な格闘戦を演じたスンゲだが、どちらかと言えば噴射剤やアンバランスな重量を利用した彼のテクニックによるもの。
 だが今回は性能に裏打ちされた行動で、同時にスンゲ・トブゼという戦力を向上させている事が証明された。まだまだ、底が見えていないという訳だ。
 否、オブリビオンマシン故の、摩那への敵対心を喰らい馬力を底上げしたその力も考慮すべきか。
『まずは貴様だ黒いの――ッ、!?』
 その身を反転させたスンゲの得意気な言葉もすぐに詰まる。後方に見えるはずの通路に次々と壁が出現しているのを目視したのだ。
 今の今になってようやく、彼も状況を把握出来たのである。二機と一人の連携の為だけでなく、彼はもう施設より退去せざるを得ないのだと。
(こんな防災機能は知らんぞ!? いや、しかし何だあの壁は! 有機的とも無機的ともっ
 ……こ……これでは……あの二人はとっくに!?)
 センサーが使えずに望遠で目視し、壁の構造に使われているフィールドランナーの残骸に思わず頬を引き攣らせる。
『ここまでやるか貴様らっ、う!?』
 モニターに映る青い影。反射的にバトルライフルを引き、右肩の局部装甲板と左肩の大型盾を交差させたスンゲ。
 ほぼ同時に受けた衝撃は機体を揺らし後方へと仰け反る。
 ブルー・リーゼの最大加速による突撃であった。
(わたしも、空を自由に飛びたいから、分かるんだ)
 精霊機を駆り、無限の青を行く喜びを知る彼女だからこそ、例え建前であったとしてもスンゲの言葉を理解できたし、この世界に住む人々がそれを渇望している事も知っている。
 でも、だからって。
 心の中にずっと響いていた言葉が、シルの瞳に力を与えている。
『……ば……馬鹿な……っ』
 交差した分厚い装甲をも貫通した光の刃が波打ち、火花を散らす。危うくその顔面に届くかという光にその目を灼かれまいと目を細めたスンゲは驚愕を隠せず対応が遅れた。
 この一瞬こそ必中の瞬き。
『こんなことが許されるわけないよねっ!』
 ほぼ体当たりのようにぶちかました突撃、深々と装甲を貫いたエトワール。シルは体を入れ替えて正面に交差された装甲を思い切り蹴りつけてビームセイバーを引き抜き流れのまま後方へ跳び、構えたのは連射モードのブラースク改。
 穴を穿たれたとは言え、お構いなしに射撃された光がオブリビオンマシンの装甲を焼き視界を奪う。
『ぬうあっ!』
 相手が冷静になるまでの一瞬の間ではあったが、射線から逃れようと攻撃が止んでも堪らず横方向へ移動するスンゲ。これも全ては桜花が目を奪った事が効いているのだ。
『――イィイイイイヤッホオオォウ!』
 歓声と共にブルー・リーゼより更に後方から姿を見せたのはビッグタイガー、その背より噴射剤を火炎に変えて、ともすれば制御を失い跳ね上がりそうな機体を質量で無理やり抑えつけている。
 その上部にボディーサフィンともスタントフライヤーとも言えない姿勢で食らいつくマグネロボ肆式超。暴れ馬のようなビッグタイガーのふらつきに合わせて姿勢を制御しつつ、背面のフライトユニットを利用する事で蛇行しそうな軌道を直進へと見事に調整している。
『右前方!』
『いい位置だ』
『次から次へと性懲りもなく手段も択ばず! 貴様ら加減を知らんのか!』
『卑怯上等、分かりやすい逃げ方したテメーが悪いのさ』
 機体を傾け、暴れ馬を乗りこなす機兵が向かうは言わずもがな、壁際へと回避したオブリビオンマシン。味方の突撃を察して回避する摩那の横をすり抜けて、チェスカーはダンプストームを停止すると同時に肆式超のフライトユニットを利用しその身を回転、加速力を保ったままの運動エネルギーを足へと集約する。
『そうら砕けぇ!』
『ごあっ!?』
 分厚い盾を避けて外角から右脇腹へ抉り込むのは、全質量を込めた必殺の上足底。この加速の中で使用した部位、攻撃位置と言い狙撃と呼べる程の精度である。その威力にはさしものオブリビオンマシンですら巨体が浮き、通路の側壁へ叩きつけられてしまう。
『射線にも気を配るんだが、やりにくいったらねーからな! こいつは今までの分の釣りだ、取っときな!』
 よっぽど足止めだけに注力していたのが気に食わなかったのか、吼えるチェスカーは叩きつけた足をそのままに、脚部側面に設けられた工業用電動式CICT、【ロックアンカー】がその突端をオブリビオンマシンへ向ける。本来は姿勢固定に用いるのだが、パイルバンカーとしての応用も利く。
 炸裂する衝突音は装甲を引き裂く甲高い音と重なった。大質量の一撃で変形し、その堅牢なる装甲でも肉薄する杭の一撃を耐える事が出来なかったのだ。
『…………、ぬ、抜けねえ』
『ええっ?』
「私が何とかします、援護を!」
 そのまま蹴り離そうとしたチェスカーであったが、アンカーに装甲が食いつき足が離れない不足の事態に苦い表情を見せた。頓狂な声を上げたシルに対して即座に反応した桜花が声を張り上げる。
 視線を変えれば防御姿勢を解除したオブリビオンマシンの、燃えるような赤い瞳が身動きの取れないビッグタイガーと、ついでにくっついている肆式超を見下ろしていた。
『多少、肝は冷えたがこれではな!』
『ちっ』
 右の大鉈を振り上げ、柄頭で殴りつけるそれにビッグタイガーの肩に立ち上がった肆式超が受け止めた。だが片腕しかないこのキャバリアでは、同じキャバリアとは言えオブリビオンマシンのパワーを、それも自身の身の丈を余る鉈を持った一撃を受け止められはすまい。
 それは足場となった片足立ちのビッグタイガーにも言える事。
『うをッ!』
 面と向かって叩き潰す一撃。打点をずらして腕を受けたものの、そのまま柄頭を頭部に受けた肆式超ごとバランスを崩したビッグタイガーが通路へと転がる。
『釣銭が多いとは、計算違いだったな小娘!』
 間髪入れず左のバトルライフルを向けたスンゲに対し、更に間髪入れぬエイストラの体当たりがその銃口を跳ね上げた。
 あらぬ方向へ発射される弾丸。
『!』
 だが、その零コンマ以下の秒数すら見逃すゴッドハンドではない。左肘の接合部分を互い違いに回転、青い稲妻と火花を散らして装甲が捲れ上がり強力な電磁界の発生と同時にそれは弾け飛び、生じる反発力に本体から左腕の肘より先を解脱する。
 発射されたその鉄拳は掘削機の如く回転し、青き飛電により機体と、否、操縦者であるレイと繋がれていた。
 ビッグタイガーともつれるように転がった体勢で発射された拳はしかし、見事にオブリビオンマシンの凶弾を打ち砕く。が、やはり右腕と同じく受ける為の代物ではない。
 大口径の弾丸を受けて被弾箇所は熱により炎を散らし、脆くも拉げ手首を超えて亀裂が走る。
 これで左右の腕は無くなった。
「次が来ます!」
『了解っ』
『もう少し右が大人しくしてくれてれば良かったんですけどね!』
 叫ぶ桜花は杭の突き刺さった箇所へ桜鋼扇を突き込み、装甲の隙間を拡げている。スンゲは逃がすまいと、今度は鉈を振り被る仕種だ。大上段から叩きつけられてはビッグタイガーもただでは済むまいが。
 援護すべく迫るエクアトゥール、ブルー・リーゼの二機に対し邪魔はさせじと穴の開いた左の盾で進路を塞ぐオブリビオンマシン。だが空を行く二機を相手に、下ががら空きとなってしまう。
(本来ならここを潜り抜けてあの鉈を止める所ですけど、逆に左をフリーにしてはバトルライフルの追撃があるんですよね)
 これまでの敵の行動に自らの行動を当てはめ、笑みを見せた摩那。
 だから、左は無視しない。両足と腕とをコンパクトに折り畳み、盾の下を潜るエクアトゥール。ぎらりと光った双眸に機体もまたアイカメラより光を発し、両手を支えに逆立ちの形で蹴り上げる。
 両肩の大盾の加速も利用して。
『垂直打上げ式ロケットキィーック!』
『っ、なんと!?』
 機体性能だけでなく人としての運動能力も合わせた格闘攻撃が鈍重な左腕を弾き、その手からバトルライフルを弾き飛ばす。即座にそれを掴み取るスンゲだが、これで左は間に合うまい。
(こっちも外に出たほうが動きやすいんだけどね……駆け抜ける――!)
 振り下ろす右に対しては、摩那の足と跳ね上がった左腕との隙間に機体を捩じり込むシル。手首から肘にかけてエトワールが一閃する。
 装甲を焼く火花が散り、大鉈は目標であるビッグタイガーの頭部を逸れてその横へと衝き立った。
『うひょう、やるぅ!』
 この一撃すらも通路下にあるかも知れない配線に影響を出さぬよう、肩で受ける肆式超。
 仲間の働きに感謝の念を乗せた歓声で応じつつ、犬歯を見せたチェスカーが抜くのは【BXS-PMG42】、驚異的な連射速度を誇るパルスマシンガン『電動ノコギリ』だ。
 中距離戦よりも接近戦で威力を発揮する射程の短さ、ネックとも言えるそれも状況によっては価値がある。
 その俗称を表すような唸り声をあげ光の牙を放つ銃口は、容赦なくオブリビオンマシンの巨躯に食いついた。
『なあっ、ぐっ、洒落臭い!』
 バトルライフルを持ち替えて銃身でパルス弾を受け止めないようにしつつも鈍器として扱うのだから、やはり武装の耐久性も尋常ではない。
 敵はすっかり落ち着きを取り戻している。てこの原理で食い込んだ装甲を開き、離脱可能な範囲まで穴を拡げた桜花は肆式超へと振り返った。
「引っ張って下さい!」
『ああ!』
 フライトユニットの翼を開いた肆式超で、そのままビッグタイガーを引きずれば不快な音を響かせロックアンカーが遂に抜ける。
 足下のエクアトゥールを左足で払い除けるが、鈍器と化した銃底は空振りだ。絡んだ足でそのまま立ち上がらせた肆式超にお礼を言いつつ、腕に挟まる彼の機体を解く。
『……この状況で一機も潰せないとは……ッ』
『勝てるつもりでいるのも驚きですけど』
 ずいとビームブレイドの切っ先を向けて機先を制すノエル。だがこちらを見据える敵に焦りは無い。撃破ならずとは言え結果的に肆式超の戦力は大幅に下降し、ビッグタイガーの強力な一撃もその装甲を貫くに至らないと証明された。
 ブルー・リーゼの攻撃もまた、その巨体に有効である事は示したが蓋を開けば本体への損傷は皆無だ。
(けど、あの厄介な両肩の装甲に大きなダメージ。破壊するチャンスは出来てましたね)
 問題はそれを突破する破壊力を持つ兵器など、この場では使えないという事だ。ブルー・リーゼの威力を発揮するにしても突進距離がなければ。
(小回りで攪乱する他ないよっ!)
 横に並ぶブルー・リーゼと視線を合わせたエイストラ。共に足を踏み出すも先行したのは背面ウィングを開いた青の風。
『先程とは違うぞ。正面からこのマシーンを揺るがせるつもりか!』
『そんな事はしない!』
 大鉈を自らの左肩に乗せ、右腕の下にバトルライフルを構えた迎撃態勢。刃を寝かせている所を見れば右袈裟に近い水平斬りか。
 瞬時に太刀筋を見極めたシルは機体を天地逆に回転させてそのまま軌道を抜ける。一撃をかわされたスンゲだが、その目に映るは後続のエイストラ。シルはオブリビオンマシンの右脇腹を抜け様にその肩口を刃で斬りつける。
 装甲の合間にもカバープレートは存在するが、本装甲を狙うよりはマシというものだ。それでも切断とまではいかず。
 ダメージを与えたブルー・リーゼの後ろ姿を見送り、接近するノエルは右腕で向けられた銃口をそらして左腕に刃を発生させ一息に衝き込む。
『馬鹿め!』
 まるで意に介さず。
 胸部に受けたそれを無視して装甲便りに踏み込むスンゲ。胸元で飛び散る火花と粒子がモニターを灼くが、格闘戦の間合いならば問題ないとの考えか。
『こちらの台詞です、よ!』
 その巨体を受け流すように後方へ転がる。人間の取っ組み合いであればそのまま巴投げでも決まりそうなものだが、相手に掴まる前に後転したエイストラの屈んだ身、その肩を足場に跳び出す黒の機影。
『ちょっとは止まってくださいってのに!』
 両肩から発生させたエール・ノワールで狙うは両肩、晶のヴェルデフッドによる先制から続く傷。
『ぬううううううっ!』
(刺さった! けど、抜けてはいないかっ?)
『こんにゃろーっ!』
 摩那の叫びに呼応しサイキックエナジーの出力が上昇、光が溢れ巨大な粒子刃へと変ずる。
(も、持っていかれる!? この装甲が!)
『退けよ黒いの!』
『チャンスは逃さないぜ!』
「その通りです!」
 エクアトゥールを蹴り飛ばそうとしたその足を、威力を発する前に距離を潰して受け止めたのはビッグタイガーだ。こちらとしても重量兵器、蹴り出す前の片足一本なら受け止められる。
 そしてそのビッグタイガーの上体に取り付いていた桜花。険しい瞳を向けて桜の花吹雪を纏うその身。
 風と共に直進する彼女の狙いはやはり眼だ。今は補助用のサブカメラを使用しているとはいえ、そんなパーツが幾つもあるはずが無い。
「ここで、……ここで形勢を戻さないと……!」
『させて堪るか!』
 嘘だろ。
 足を受け止めたキャバリアの体を足場に、駆け上がる敵を目の当たりにして思わず零すチェスカー。刃が抜けて体勢を崩すエクアトゥールをも踏みつけて、天井近くまで跳躍したオブリビオンマシンは戒めの解けた両腕で桜花を打ち払う。
 精霊化した桜花に攻撃が当たる事は無いが、両腕を使う事で起こした風圧が壁と化して近づけない。彼女の風を読み切ったかのような動きを記憶していたスンゲなりの策だろうが、単純かつ効果的だ。
(やはりこの方、動きを止めるつもりですね!)
 スンゲの目的に勘付いた桜花は、迫る隔壁へと目を向けた。
「ギイィエエエエエエッ! ガチガチガチガチ!」
(こらーっ! いつまで戦ってるのーっ!)
 攻めるに攻め切れず、戦況を動かせぬ両者の間に現れたのは安全ヘルメットを被ったぷんすこアリスであった。
 監督アリスの現場指揮としてはこれ以上、味方が燻っていては隔壁を設置出来ないのだ。敵もそれを理解しているからこそ足を止めた。
 外界と隔絶された通信機能、隔壁に使われたキャバリアたち、被害防止は勿論だが施設からの排除を優先するその動き、外に出た所で準備が整っているのは猟兵たちだと分かり切った所。ならばこちらが窮屈でも相手に窮屈を強いられる場所に陣取るのが戦い方と言うものだろう。
 だがその状況を良しとせず、猟兵とは数を合わせて戦う者である故に。
『こちら錫華、状況は把握したよ。今から敵の動きをコントロールするから、後の追い出し作戦をお願いするね』
『作戦があるのか?』
 手が空いている所か手の無い肆式超に、手持無沙汰なレイが錫華の言葉へ反応する。彼女は未だ施設内、そろそろ外にも出られるかと言った所で足を止めて端末を繋ぎ、各機の通信へ参加している。
『うん、と。説明の前に如何にも撃墜されそうな、相手にとって手頃な餌に見える囮なんて、都合の良い人っていたりする?』
『まあ、オレだな』
『えっ、本当?』
 割と難しいであろう要求を軽々とクリアしている肆式超に、即答するレイ。都合の良い人が都合良く見つかったので手を叩く錫華はすぐさま別の通信回線を開く。
 その間もスンゲと猟兵による一進一退の攻防が続いている。
『悪役のセリフだが、多勢に無勢ってんだこんなのは。いい加減に諦めな!』
『まともに銃も撃てん奴らの言う事か!』
 構えた電動ノコギリにバトルライフルを叩きつけるスンゲ。鈍器の一撃を受けながらも武器を手放す事無く、舌打ちして後退するチェスカー。
 確かに彼の言う通りで、周囲に被害を与える位置取りでは威嚇以外に意味を成さない行動だが、それへの対応如何によって味方が更なる行動を起こす。これぞ多勢の強みであり連携である。武器の制限があるとは言え、スンゲが有利とはならないのだ。
 事実、後退するビッグタイガーを擦り抜けて接近する桜吹雪。
「こんな所で戦いを続ける――、ダンテアリオンの精神を謳う割に、残される民草の事を考えない。随分卑怯ではないですか」
『何をっ、無関係なお前たち猟兵が口を挟む事か!』
 纏わりつかれまいと半身を逸らして、大刃を振り抜かず手首の返しと僅かな腕の動きだけで千変万化の軌道を見せるスンゲ。
 やはり最初の長物を力の限り振り回すオブリビオンマシンの動作ではない。明らかにパワーが上がっている。
 まるでナイフでも操るような軽やかさと可動域に顔を険しくした桜花がそれを掻い潜るが、懐へ潜り込めば待っているのは先程も見せた防御装甲の突出。
 直撃することなく風に流れる木の葉のように下方へと逃れるも、絡みつく軌道も足に振り払われてしまう。先の状態と比べても右腕一本を取り戻しただけだが、迎撃態勢を整われたのは大きな痛手だ。
「国家間、あるいは国家の内情と私たち猟兵は確かに無関係です。けれど、だから分かるんです。外から見れる分、あなたの自分勝手な振る舞いを!
 非戦闘員を巻き込みながら、彼らの命にも関わるこの施設で戦おうという事がどんな意味を持つのか、この世界の人間が分からないはずもないでしょう?」
 言葉尻から感じられる彼女の想い、怒り。
 この国の人間は底抜けに阿呆である。簡単に戦争に駆り出され、戦い、兵士として命を奪う。それもいいだろう、それこそがこの世界における戦争で、そこに人間性の貴賤を問う必要は無い。国家としてどう生き残るのか、集約されるのはそこなのだ。
 けれど、自ら滅びに行くのはただの自殺だ。それを看過できない人間はいるし、他人を巻き込むような人間を目前にすれば怒るのもまた人間である。
 同じ人間であるならば。
「人あっての国だと言うのに、あなたは卑怯です! そこに何の志があると言うのですか!」
『……ふっ……、意味だと? 分かるからこその戦いだ。それで卑怯と言われるならそれもいい!
 だが、俺の志に泥を塗る事は許されんッ、罰を受けろ猟兵! ――うっ!?』
 見下し切ったスンゲでも卑怯であるとされた自らの行動理念への言葉は突き刺さったようで、バトルライフルの銃口を桜花へと向ける。生身である彼女に直撃すれば致命傷は避けられないが、その機動力の前に狙いを定められもしないだろう。
 だが避ければ直撃するのは施設である。だから卑怯だと言うのに、桜花が毒づく間もなく桜鋼扇を開き攻撃を受け止める姿勢を見せたと同時、スンゲの動きが止まる。
 先程まで猟兵を近づけなかったスンゲの防御、それを崩した桜花の突貫と口撃。生じた隙にオブリビオンマシンの目の前に現れたのは肆式超の浮遊砲台だった。
 敵キャバリアの接近がなかっただけに衝撃を受けるスンゲが一瞬の硬直の後、思わず後退するとこちらも何をするでもなく引く砲台。
 危機を脱して間合いを図る桜花に注意を保ちつつ、後退する浮遊砲台の行方を目で追う。その先にあるのは当然と言うべきか、両腕を無くした肆式超の姿があった。
(……退く……、何故退く?)
 オブリビオンマシンに背を向けたキャバリアの背面フライトユニットに砲台が回収され、そのまま噴射炎を見せた肆式超。
 迷いなき撤退に判断を迫られたのはスンゲである。
(あの損傷、攻撃を外すリスクを考えればあの程度のちょっかいしか出来なかったのも理解できるが)
 腕を失っただけではない、大鉈の一撃を肩口にも受けており内部フレームは勿論、各機関に影響が出ていてもおかしくはないだろう。
 それほどのダメージ、追い打ちすれば破壊するのは造作もない。
(不自然なほどの前方突出も戦闘に参加できない状態と考えれば、しかし追撃するにはこの数の相手を後ろにする事となる)
 だが。
『この場で戦うと決めたのは時間稼ぎの為ではないのだ、まずは一機! 獲らせて貰うぞ猟兵!』
『よく口が回る奴だ。マシンから引きずり降ろした後、も一度あの長話が出来りゃ拍手してやろう』
『貴様こそその減らず口、今! 黙らせてやる!』
 目標を固定、突撃をしかける巨体の前方を阻むエイストラへ裏拳を放ち、かわしたそれには目もくれずに肆式超の背中を追う。
『狙い通り餌に食いつきましたね。シルさん、チェスカーさん、追撃を。アリスさんは隔壁を』
 目論見に沿って動くスンゲに対して喜ぶでもなく淡々と告げたノエル。レイは加速するオブリビオンマシンに対しこちらも速度を上げつつ抵抗しているように見せて距離を合わせた。
『上手いね。レイさん、敵の次手は読める?』
『加速に合わせた大鉈の振り下ろし、背中から中心、操縦席狙いだな』
『上手い事かわせるんだよね?』
『一度なら受けられる。後は任せた』
『任されて。準備頼むよウィリアムさん』
 移動しつつの作戦立案と展開につき、疲れたのかと一息入れる錫華を気遣うウィリアム。彼女としてはいつもの喋り方だっただけに大丈夫だと一言添えて、残る行動を仲間へと託す。
『獲った!』
『それはどうかな?』
 ほぼ同時に大鉈を振り被るオブリビオンマシン。スンゲは哂い、レイも口角を引き上げ犬歯を見せる。
 落とされる巨大刃。肆式超の減速と同時に間合いを消したレイは足刀を放ちその握り手を打つ。支点を崩され打点を狂わされた刃が当たる事もなく、更にレイはその場で機体を回転させ回避の勢いを足に乗せ、強烈な回し蹴りでオブリビオンマシンの右腕を弾き飛ばした。
 それでも大鉈を離さないのはさすがと言うべきか、後方の敵を考えて一撃で肆式超を破壊するつもりであったスンゲは鬼のような形相を見せて。
『……その格闘戦能力、まだ扱う事が……!』
 蹴りと同時にオブリビオンマシン前方から逸れた肆式超、その先の通路に現れたのはこちらに更に背を向け走る子供の姿だった。
『一般人!? あの隔壁を作動させた以上、もう人はいないと思っていたが!』
『ぐぅ!』
『はっはっはっはっはっ、ツキはこの俺に味方しているようだな!』
 蹴りの体勢のまま足を戻す間もなく、オブリビオンマシンの体当たりで通路壁へと弾き飛ばされたキャバリアに衝撃を受けてレイが呻く。その機体を更に挟み込むように体を当てて胸部装甲を押し潰し、スンゲは子供の元へと向かう。
 潰したと言っても操縦席に達するような損傷ではない、ただの時間稼ぎだ。その間にあの子供を奪取出来れば、戦闘の優位性は完全にスンゲへと傾くだろう。
 大鉈を肩の後ろへマウントし、必死に走る子供へ迫るオブリビオンマシン。
『所詮は子供の足か。その身の小ささでどこにでも隠れていたんだろうが、残念だったな猟兵よ。俺はどんな手を使ったとて――!』
 伸ばした手が子供の行く手を塞ぎ、そのまま抱え込むようにスライドしたその瞬間、何の前触れもなく、その姿が消えてしまったのだ。
 そう、ヴェルデフッドによる幻影を錫華の情報からウィリアムが出現、誘導しタイミングを合わせたただの囮。
(どりゃーっ!)
(おりゃーっ!)
(そりゃーっ!)
 疑問に思う暇すらなく、オブリビオンマシン後方の床が開き発射台のように斜めの形で固定される。それを行ったのはやはりと言うべきアリス妹たちの姿だった。
 その発射台を後方からかっ飛ばしたビッグタイガーが滑り跳んで射角を確保、機体を寝かせて放つは砲弾の如きドロップキック。
『正面飛び式ドロップキックゥウ!』
『こいつも持ってけぇええっ!』
 その加速に追いついたブルー・リーゼの飛び蹴り。背面から光を放ち青い流星となったそれは、まるで砲弾がなぞる軌跡の如く一本の矢を象った。
 同時着弾。 
『うええええええええあっ!?』
 無防備な背中を蹴撃されて、悲鳴を上げるスンゲと共に弾き飛ばされたオブリビオンマシンは通路に爪先の傷と耳障りな音を響かせた。勢いを殺そうと足を踏ん張らせたいが、被弾覚悟で子供の確保に向かった姿勢では持ち直せていない。
 それでもその巨体、そして爪先の接地による摩擦で急減速。
『タイミングドンピシャってやつですよ、ウィリアムさん!』
『おっ、とぉ!?』
(キャッチキャッチー!)
 墜落寸前のビッグタイガーを足場に跳躍加速したエクアトゥール、バランスを崩した巨体はアリス妹たちが支えてくれているので問題は無しだ。
『こんの、舐めッ、るなぁーっ!』
 倒れる事だけは何とか体勢を変える事で凌ぎ、反転するオブリビオンマシン。そのまま身を固定すべく噴射剤を用いたスンゲであるも、二機のキャバリアの攻撃を受けては如何な重装甲とは言え不調を来すには十分な理由だ。
『双発スラスターが!? 左の一号機か、踏ん張りが利かん!』
 変形した噴射口から途切れ途切れに見える噴射炎、これでは即時持ち直しとはいかない。そのような状況で転ばないパイロットの腕を褒めるべきか。
 が、桜花が先に言った通り形勢を再び逆転させる訳にはいかない。
『やはり狙う訳だろうが、故に読める!』
『正面を読んだだけじゃあな』
 迫るエクアトゥールに刃を構えたスンゲへ側方から奇襲をかけたのは肆式超、レイであった。
 ヴェルデフッドの電子攻撃、メインカメラ破損、アンテナ破壊と索敵能力が劣化してはオブリビオンマシンと言えど隙だらけだ。
 踏ん張りの利かない左半身を流し、右足を軸としたオブリビオンマシン。その右足にタックルをかました肆式超は、見た目は不格好だがそのまま自らの足を絡ませた。
『離れんか馬鹿者!』
『せっかくの花道だ、少しは見ていろ』
 ひしゃげた胸部装甲を己の拳で粉砕し、敵を前にして生身を晒すレイ・オブライト。その身が纏う覇気は雷光を生じ、マグネロボ肆式超までを包み込む。
 操縦者を失ったはずのそれが顔を上げ、まるで仇敵を睨みつけるような構図だ。
(な、なんだ、気圧されているっ、この俺が!)
『倒れろーッ!』
「片目だけでも!」
 ボロ雑巾のようなキャバリアから溢れる気迫にしてやられたとでも言うのか、エクアトゥールの存在を頭から消してしまったスンゲに無防備なオブリビオンマシンの胴体へと、肩から体当たりをぶちかますエクアトゥールの攻撃で仰け反り倒れるオブリビオンマシン。
 同時に肩の盾裏から姿を見せた桜花の桜鋼扇がオブリビオンマシンの右目へと衝き立った。執念の一撃、ここに通じカメラアイを破損する。
『な、……なんという事をっ……!』
 メインモニターを走るノイズに呻くも、サブモニターの映像を拡縮しメインモニターに連動させる。角度も違えばカメラの位置の違いに明度も違う。違和感に目が痛くもなるが、四の五の言える状況ではないのだ。
 除け。
 剛腕とともに繰り出された変幻自在の刃すら、舞う桜吹雪の前に目標を見失い易々とかわされた。それでも水平斬りへと変じた斬り下ろし、エクアトゥールの頭上を掠めていくのだから驚愕だ。
『た、助かりました、桜花さん!』
「いいえ、それよりも早く後退を!」
『なんという事をぉ、逃さん!』
 踏み込むその足に、しかし絡みつく肆式超。ついてこない足に舌打ちして振り回す刃をその光る機体へと向ければ、受け止めたのはレイだった。
 およそ常人が止められるはずもないそれを、全身から迸る覇気を纏った両掌が挟み込む。
『……真剣白刃取り……このサイズ差で……!?
 それから降りれば済む話だろう、貴様! 命が惜しくは無いのか!』
「守るもんを失やぁここにいる意味もない。いちいち惜しむかよ」
 今一度と刃を振り上げた敵機を見上げ、自らの命を天秤にかけるまでもないとぶっきらぼうに答えを返したレイ。それがデッドマンであるからこその言葉なのか、猟兵としての矜持なのかとスンゲは知る由もないだろう。
 だが。
「お前もそう思うだろう」
 ちらと向けた視線の先で、レイに答えるように肘までしかない両腕をオブリビオンマシンに向けた肆式超。自らの力で焼き付けた超の文字をなぞり、レイもまた、オブリビオンマシンを見上げる。
 歴戦の傷跡をそのままに、誇りとするかの如きその様相。生まれてより渡った戦場は比べるまでもないが、それでもこのマグネロボ肆式超、その身に宿す想いはオブリビオンマシンを相手に負けてはいない。
 唸りを上げる突端が火花を散らし、高速回転と共に発生する電磁界。双輪がレイの覇気に導かれその境界を解いて行く。
『――電磁砲……!』
「能ある鷹は爪を隠し、能ある人はパンチを晒す。肆式最後の拳、受けてもらう」
 閃光弾のような光がマズルフラッシュの代わりとばかり、体ごと撃ち出されたレイの鉄拳がオブリビオンマシンの重厚なる装甲をもあっさりと貫いた。
 閃きの瞬間ですら反転し、天井を足場に着地したレイ。だが放電する彼の表情に余裕はなく睨みつける先の巨躯は大きく体勢を崩しているが。
 マグネロボ肆式超もまた、レイの放電に耐えられず大鉈を受けた箇所から大きく裂けて、傷は胸部にまで渡り内部構造を大きく露出。これでは耐電機能など意味を成さない、発射台となった己の両腕をも熔解させる電圧は内燃機関をも焼き潰す。
 対して相手は。
(オレと肆式の技を見抜くか、勘の利く奴だ)
 マグネロボ肆式超の、否、レイと肆式最後の一撃であったが瞬時に特性を見抜いたスンゲが身を反らし、貫いたのは右肩の装甲のみ。だが焼き斬るような軌道で貫いた事、先の装甲への損傷も伴ってまるで刃物に斬られたようにざっくりと殆どが地へと落ちた。
 どんな薄い鉄板も、縦か横かの側面で受ければその長さが厚みとなる。実際はそんな単純なものではないが例え肆式超の電磁力にレイの覇気を組み合わせたとて、ブルー・リーゼの一撃がなければ貫通する事無く途中で止まっていただろう。
 それだけにこの威力はスンゲにとって衝撃だった。
『うぬっ、くっ……猟兵、め……っ!』
 次弾はない。足に絡みついたまま力を無くした肆式超は重りとなり、後方から攻撃に移る猟兵らに対して防御力の落ちたオブリビオンマシンで対抗するのは、何よりも体勢を崩したまま連撃を受けてはそれこそ先の再現だ。
 選択するのはひとつ、脱出しかない。
『おのれえええええ!』
 倒れそうな巨体に炎を灯し、背面から爆炎を上げた敵機は、安定しない体をそのまま通路壁へ叩きつけて全力で逃走を図る。
 スラスターですら本調子でないのだから建て直す暇などない。ただ、仰向けに滑動する姿勢は追手に対し反撃を狙うには丁度良かろう。
 左のバトルライフルで無防備とも言えるほどがむしゃらの突撃を見せる猟兵たちに笑みを向けた。
「追い込まれていると言う当然の流れも、追い詰められれば頭から抜ける。
 ――馬鹿が来たな!」
 施設から追い出すと言う名目上、進路方向に敵はいないと踏んだスンゲ。だが猟兵の目的は施設の保護でありオブリビオンの退場であり、そしてオブリビオンマシン撃退の為の攻撃なのだ。
 ただで逃すものかと最後に待ち伏せていたのは美亜だった。
(ようやく働くのー?)
「作戦時間に不都合が生じただけだ、まるで何もしてなかったような言い方は止めろ!」
 偉く長い不都合でしたね。どこかの誰かさんが謝りそうな台詞であったが、臥薪嘗胆、時は来たれりと笑みを見せた美亜の前には些細な問題だったかも知れない。
 フロンティアを持ち上げるアリス妹のぬばたまの瞳に晒されて怒りを見せる美亜。だが、この千載一遇の機会を逃す手はない。
「チェスカーは武器の特性というものを良く知っているが、それは私とて同じ。
 教えてやる。Rとは――」
(あらー? 呼び出しがかかったわー)
「何? お、おいちょっと待て!?」
 関節肢でがっぱと通路の蓋を開き、フロンティアを頭上に拘束したまま地下へと潜るアリス妹。どうやら戦場の移動が再開した事で隔壁設置が再開、手が足りないと監督アリスから指令が来たのだろう。
 群体である彼女たちの意識は種族全体で共有されており、この個体がフロンティアをがっちり掴んでいるのは全個体が知っている事だ。
 でもまあ動きがなかったから別に構わないでしょと判断されたんだろうね。美亜の動きは全体の作戦内容からあえて独立させる事で攻撃機会を固定せず、流動的かつ最大戦力をどの瞬間でも叩き込めるよう用意していた。
 連携というものは互いの信頼や協力によって成り立つ事で大きな成果を発生する。しかし、このような場における連携、それも発動機会を窺うものは隙を狙うほど味方に負担がかかる。負担というものはミスにつながり、ここでのミスは人命に関わるものだ。
「待て待て待て待て!」
(お仕事が終わったら戻るわー)
「それじゃ遅いと言うにーっ!」
 アリス用と思われる狭い地下通路にコックピットハッチを閉じた美亜。
 そこで自らの目的を話さず観測と作戦指揮に注力する事で味方の負担をも無くす、正に『敵を騙すには味方から』という作戦を打ち立てた訳だ。が、作戦内容が伝わってなかったのでアリスらに「でもまあ以下略」としてそのまま運搬された訳である。
 お仕事もする、仲間も守る、アリス妹の平和への使命感は司令塔アリスと変わらないのである。偉いね。
『手傷は負わせる! 避けれるものなら避けてみろ!』
『避けれちゃうんですよね、これが』
 先頭のノエルは余裕の笑みを見せるでもなく、端的な事実を漏らすだけでエイストラを弾丸軌道上から翻す。後続の猟兵たちもその身を逃し。
 衝撃音。
『……ぬ、ぬぐっ、くぅう……!』
 悔し気に歯軋りするスンゲの目には、大口径の弾丸が隔壁に受け止められた光景だった。そう、人手――、いや人じゃないけど。蟲手を増やしたアリスらの隔壁設置は速度を増し、追いつかんとする勢いだ。
 迫る猟兵の布陣より後方の施設内壁に攻撃が当たるように撃てば、身を盾にするなど減速せざるを得ない。だが、彼らより前方に撃った所でこの移動速度、あっという間に隔壁で塞がれ結果は同じ。
 自分の前方に射撃した所で被害を発生させる事も出来ようが、余計に猟兵たちが速度を減じる必要が無い。
 即ち。
『……や、やはり逃げるしかない……この俺が……敵の罠へ……あると知りながら……!
 こんな屈辱が!!』
 血走った眼を迫る猟兵から逸らし、オブリビオンマシンを俯けへと切り替えた。摩擦による速度減退は逃走においてマイナス以外の何物でもなく、それならばと姿勢を変えたのだ。
 最大出力、片方の推進装置の不調は己の技術で補助するという覚悟、何より次なる決戦に向けた闘志と勝利の二文字への執念がどれだけその男に刻みつけられているのかが良く分かろうというものだ。
「…………、厄介な敵、という訳だな」
『えっ、いつからいたの!?』
 思わず呟いたレイに対し、ブルー・リーゼの頭部にしがみつかれていたと気づいたシルは思わず声を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「秘密兵器といったところで自爆装置なのでしょうが。とりあえず人命救助してからでしょうね」
嗤う

『もっとたくさん飴玉いりませんか?』
『山ほど飴玉のある部屋へお連れします。この紙を手に取ってください』
式神に書いてから人質2人の後頭部に仙術+功夫で仙丹を指弾
2人の注意が手元の飴玉から外れたら式神飛ばし2人の目の前で文章見せつけ
2人が式神を手に取ったら同時に2人ともを壺中天内に招待
使えるならアリス嬢の作った道、なければ風火輪で飛行しダンテアリオン正規軍の所へ
スージーがいれば2人ともスージーに引き渡しご機嫌取りの仙丹も渡す

2人を施設外の正規軍に引き渡したら戻って式神飛ばし秘密兵器を壺中天へ格納
「これなら例え爆破されても壺中天が壊れる程度で済むでしょう?」

なお人質救助、秘密兵器格納、どちらの場合も自分を黄巾力士にオーラ防御で庇わせておく

「ダンテアリオンが壊滅しようが正直興味はありませんが。今回の失態で失脚する人は必要でしょうし、依頼の失敗を断じられても業腹ですし。ここら辺が落とし所でしょう?」
嗤う


チェスカー・アーマライト
俺が王だ、くらい言うかと思ったが
あんな我のクソ強えー国民性を
よくもあそこまで謙虚(?)に出来たモンだ
前の件みたく
乗っ取られるか共感するかしちまったか?

ビッグタイガーの砲撃だと
施設へ誤射した時の
被害がデカい
射線にも気を配るんだが
やりにくいったらねーな
なるべく接近して
一番射程の短い『電ノコ』や
脚部側面パイルでの蹴りを主軸に戦うぜ
機体の物理耐久を活かした盾役も任せな

外へ逃げてくれるんなら好都合
通路を抜ける間に
後ろから攻撃を仕掛けるぜ
卑怯上等
分かりやすい逃げ方したテメーが悪いのさ
屋外へ出たなら
武装はオールフリー
徹底的にやってやんよ

例の秘密兵器とやらも
どうせロクでもねー代物だろ
企みを根本から潰すためにも
ぶっ壊しといて良いと思うんだが


レイ・オブライト
※マグネ
※諸々歓迎

よく口が回る奴だ
殺害は極力避け動く。マシンから引き摺り下ろした後、も一度同じ長話が出来りゃ拍手してやろう

★施設内
猟兵以外の命、重要設備に被害が及びかねない場合
EMRパンチとその『衝撃波』で敵を弾く、または機体を割り込ませ『かばう』『覇気』による『オーラ防御』で保護
守るもんを失やぁここにいる意味もない。いちいち惜しむかよ
おまえ(マグネ)もそう思うだろう
自機は人々や設備の盾として防御体勢を保ったままその場に残し、生身で継戦

敵が呼び集める残骸を足場に間合いを詰め『悪路走破』
格闘。増した装甲ごと打ち砕く『鎧無視攻撃・怪力』
オレなりの“おしとやかな方法”だ

★施設外
改造を繰り返すんだろうが、ゾンビごっこも飽き飽きだ
TVの中のゾンビですら出番を弁えてるってのに
【UC】『念動力』
・あたりの半壊した機体や武器を乗り手/使い手不在のまま攻撃させる
・敵UCにて敢えて取り込ませ、その状態で自爆させる
意識は全てUCでの精密操作に割く
身を守る備え? 知らんな。奴と違って、孤独な戦場でもないんでね


黒木・摩那
引き続き『エクアトゥール』で戦います。

自由青空党の反乱も残り機体はあと1機。
勝負は決したと言えるでしょう。
しかし、反乱側はまだ諦めていません。
これ以上、抵抗を続けることで、大事なエネルギープラント中継施設に被害が及ぶことは防がないといけません。

彼らが抵抗の拠り所とする「ひみつへいき」を奪取することで、その意志をくじきます。「ひみつへいき」が何かはわかりませんが、この期に及んでもまだ秘密にしたいということは、よほど使いたくないか(恥ずかしい?)、大したことないブラフではないかと考えてます。

「ひみつへいき」のコンテナを【念動力】で引きずって、最後はキャバリアで奪取。
早々に中身を大公開してしまいます。

それでも抵抗を止めないのならば、いよいよ実力行使。
真の姿発動!で強化したサイキックパワーをキャバリアに乗せて、UC【超重新星】でアッパーパンチ o(・_・)○☆
星になってもらいます。


支倉・錫華
さて、ここは諜報員としての本領発揮と行こうかな。

施設内に入ったら、ブロムキィは建物の陰に隠して置いて、
わたしは生身で施設内に入り込むね。

施設内では、まずは端末を探すよ。
端末が見つかったら、クーリエポーチを接続して施設の地図を手に入れて、
『アメちゃんず』のいそうなところをマークしたら、しらみつぶしに当たっていこう。

『アメちゃんず』を見つけたら、保護……したいけど、素直にはしてくれそうにないかな?
ま、そうなったら、もらっていた【アメちゃん】の出番だね、

アメちゃんを渡して、状況を説明。
とりあえず命が危ない事だけでもわかってもらって、脱出に賛成してもらおう。

ブロムキィのところまで移動したら、2人を手に乗せて脱出に移るよ。
『敗残者の王』が気付く前に戦闘範囲外にまで移動して、2人はダンテアリオンの正規軍にお任せしようかな。

身軽になったら、みんなの援護だね。
拾ったグレネードランチャーはまだ使える、かな?

遅く参戦した分、状況は見やすいはず。
『敗残者の王』の予想していないところへの攻撃で隙を作ろう。



●決戦の豪雨!
「……ぴよーっ……ぴよーっ……」
 油断なく構えるたまは片足立ち、顔の横に構えた右の掌は正面の『敵』を、左の掌はゆっくりと回り込む動きを見せた『敵』へ合わされている。
 周りには死屍累々と倒れた者たちの姿。深く、長く。自らの精神と肉体、そして冷え始めたこの戦場の空気を同調させるような息吹き。
 その構え、間違いなく達人級である。
(ふふふ、昨日見たカンフードラマが実に役に立つだろう状況だ!)
 前言撤回、完全無欠のど素人である。
 だけどやはりそれなりに立派に見える事、そしてそのサイズ差の為か、『敵』も迂闊に攻めてこれないようだ。
「……アメぇー……」
「……アメぇ……あめぇえぇええ……」
 まだ残っていたテロリストか、軍服を涎に汚し、目から怪しい光を放っている。先程のニュースに当てられたのだろう、やっぱこの国の人間ってやべーよ。
「ぺろぺろぺろろっ! むぐ、あいつらはほっといてもいいのですか?」
「ごくりっ。相手は猟兵だし、あむ、ペロペロ! 気にする必要は無いだろう、無傷で事を済ませてくれるさ。それより迂回経路ぺろろっ! 警備強化急げ!」
「了解ぺろろんちょ!」
 アメちゃんを必死でぺろりんちょしながら部下たちへ指令を飛ばしていたのはスージーだった。ちゅーかもしかしなくてもテロリストじゃなくてダンテアリオン正規軍があの様ってこと?
 他の奴らと違い理性を保っているのも、結局はアメちゃんを補給しているからという事である。
 そう考えるとアメちゃん次第で無差別テロが発生するこの国って、今更ながら本気でやべーんじゃなかろうか。
『あぁあめめめぇーっ!!』
 暴れ回っている敵の正体もダンテアリオン正規軍と判明した所で、尺は稼いだとばかりたまへ飛び掛かる両者。
 細められた瞼の奥できらりと光る深緑。
「ぴよーっ!」
 天より落ちたる一閃の雷光。
 空に影となって浮いたたまと兵士二人は互いに空を翔け、入れ違いとなって着地した。こういう時と言えば我らが猟兵が先に体勢を崩し、アメちゃんテロリストが勝ったと思いきやというのが定番だ。
「……こ、こりこりぃ……」
「……もふぅう……」
 とまあ、そんな感動的演出などなくあっさりと幸せそうな顔で倒れる彼らの額には肉球マークがしっかりと浮いていた。
 また、つまらぬものをモフってしまったとばかりに髭を弾くのは存外に渋く、たまは空を見上げる。先程の稲妻に合わせ、低く響く雷鳴から天気の崩れをつぶさに感じ取る。
「……雨が来る――、わわぁーっ!?」
 突如、バケツをひっくり返したような大粒の雨が爆撃のように降り注ぎ、慌てたたまがあたふたしながらウクレレをその身で守っていると、すぐ傍らより「よいしょーっ!」と地面を開いて現れるアリス妹。
「ふぅー、助かったぞ。雨しのぎには良い体だ!」
(あ、ケットさんこんにちは!)
(お弁当はないのー?)
 弁当とは恐らくあのヒヨコの事であろうが、意味は通じずたまは疑問符を浮かべてその身を震わせ、水滴を弾くだけだ。
 その飛沫を顔に受けてたのは、アリスらの開いた土扉から浮遊し地上へと現れた冬季であった。
「……雨、ですか……アメの後に雨とはいささか下らない状況ですね」
 偶然ですよ。別にたまの水飛沫を受けて不機嫌になった訳でもないだろうが、泥水が通路にも流れ始めた状況に眉を潜める冬季。
 彼の視線の先では流水の侵入を防ごうと、アリス妹らが周囲の泥と糸をこねこねした土堤をせっせと仮設している。お早い対応に利用者もにっこり。
 さて。
 アリスらの見事な手腕をそのまま眺めている訳にもいかない。この出入口を守っているであろうダンテアリオン正規軍を見回し、見知った顔であるスージーを認めて彼女の側へと近寄った。噴き上げる炎に彼女は驚いていたようだが、冬季も人前でわざわざ見下ろすつもりはなく微笑みかけて着地する。
 元々が戦いで荒らされた芝の上、それが更に降水でぬかるみ靴も汚れると嫌そうな顔を一瞬だけ浮かべ。
「ぺろぺろ、むぐっ。……お前か……あむっ!」
 人と喋りながらアメちゃんを口に追加するんじゃないよ。
「先に閣下をぺろろっ! 連れてきていると聞いている、むぐむぐ。お前が連れて来ている訳じゃあないのか? バリボリ」
「ちゃんと連れて来ていますよ。こちらの符を預かって下さい」
「……何……?」
 濡らさないでくださいね、と手渡された物に今度はスージーが眉を潜めた。彼女らから見れば紙切れ、将軍と宰相の解答にはならないとばかりに冬季を睨みつける。
「ユーベルコードです。そちらの符の中にお二方はいらっしゃいますので、満足すれば勝手に出てきますよ」
「ほーん、ユーベルコード……え、中にいるってぇ……!?」
「それはまた珍妙奇天烈摩訶不思議な」
「ですから、濡らさないでくださいね」
 はえー、と感心した様子で集まって来た正規兵を散らして警備を命じつつ、スージーは後生大事に懐へしまう。男としては嬉しい状況かも知れないが、それはそれで蒸れて濡れちゃうんじゃないです?
 スージーは一先ず兵の代表、否、国の代表として冬季へしっかりと頭を下げた。これでも互いに生死をかけて戦った間柄、もう彼女にとってその蟠りはないのだろう。
「構いませんよ。ダンテアリオンが壊滅しようが正直興味はありませんが、今回の失態で失脚する人は必要でしょうし、依頼の失敗を断じられても業腹ですし。
 ここら辺が落とし所でしょう?」
「人が改まった時にそんなん言っちゃう普通?」
 晒う冬季を前に頬を引き攣らせるスージー。アメちゃん狂いが常識人ぶってんじゃねえぞ。
 だが彼の言葉は正しく責任を取る人間は必要だ。頂点である人間が必ずしも責任を取るとは限らないがわざわざ見捨てて国への印象を悪くする必要もない訳だ。
 それはさておきと冬季は出入口を警戒する兵たちは必要ないとし、国民の護送や符の警戒に兵を割くようスージーへ伝える。今よりここから出てくるのは猟兵だけで彼女らの守護は不要かつ敵は機会があれば人命も利用できる、目的の為に手段を選ばない人間だ。
 言ってしまえば足手纏いだと。
「分かった、伝えて置こう。だが改めて言わせて貰うが我らはダンテアリオンに籍を置く軍隊だ。こんな場所で戦う事は出来ないし、お前らに戦って貰いたくもない。
 だが事が事だ。攻撃に参加する事はできないが、お前たちの邪魔をしない事は約束する」
「勿論、それも構いませんよ。早く行ってください、キャバリアが出て来るのに足下に人がいつまでもいては気を遣うでしょうし」
「ふん。奴を無事に倒せたなら、その口も許してやる」
 信頼を預けた笑みを見せて踵を返すスージー。果たして、彼の言葉通り幾分と時を置かず姿を見せたのはレッド・ドラグナー。
『雨、……って最悪……! めちゃくちゃ滑るじゃないの!』
(こらーっ! 堤を崩しちゃダメーっ!)
『うっ、ごめん』
 不満を口に地上へ這い出ようと乗せた手の上で、ぷんすこしているアリス妹。シャナミアも素直にそれは謝って仮土提から手を退ける。
 しゃかしゃかと補修していく働き者の節足動物に人知れず溜息を吐きつつ、降水で滑り易くなった土を無視し背面の推進器により勢い良く飛翔する。
 着地と同時に泥石を跳ね飛ばし、不安定な足場も滑る事無く手を使うでもなく直立し。機体のバランサーよりも本人の腕によるものだろうが、この悪環境で戦うに問題はなさそうだ。
『凄い雨だな。装甲を叩く音まで中に響きそうだ』
 遠くまで見通せぬ雨量、それに文句もつけず晶はモニターノイズキャンセラーを起動。視界の確保に努め除去パターンをウィリアム経由で各機へ伝達する。
 こちらはレッド・ドラグナーとの情報を共有しているのか、そのまま階段を使って地上へと姿を見せ、続くのはザンライガの巨体である。
『……中は排水もしっかりしてるようだから問題ないが……この天気じゃ射撃援護もやりづらいか?』
『その為のサポートAIだ、摩那のドローンもあるし大船に乗ったつもりでいい』
 不安を零したウタに答える晶。
 細かな運動能力は機械が補助してくれる、いい時代になったものだ。
『ま、先回り出来たのは良かったのか悪かったのか。中の連中、大丈夫かなぁ』
『良いに決まってるでしょ。さっきは邪魔されちゃったけどスンゲのヤツ、ぶっ潰してやるわ』
 ウタのぼやきにも自らの苛立ちを乗せ、機体の指関節の確認を行うシャナミア。人間であればごきごきと音をたてていたかもしれないが、滑りの良い駆動音が鳴るのみである。
 そんな音が鳴ったら異常だし、調子良さそうだからいっか。
『アリスさんたち、ブロムキィの準備は大丈夫? まさか食べたりしちゃいないよね?』
(ぎくっ)
(ち、ちょっと噛んだだけだから大丈夫よー)
(噛み切ったり飲み込んだりしてないわ~)
 アメちゃんをしゃぶる感覚なんだろうか。不安にならざるを得ないアリス妹たちの言葉に、施設の脱出口を開いた錫華はじっとりとした目で浮足立つ数体のアリスへ目を向ける。
「もうそろそろスンゲさんも出て来ると思うので、施設正面ゲートから離れて。アリスさん、怒ってないからブロムキィも急いでね」
(はーいっ)
 ほっとした様子で地面に潜るアリスたち。それとほぼ同時に凄まじい轟音が雷鳴とは別に響き渡る。
 同時に発生した振動が施設外壁を揺らし、非常階段から階下へ降りようとした錫華は慌てて手摺にしがみついた。
 再度襲う衝撃に、ゲートは火花を散らして大きく歪む。
『お出ましだぜ』
 派手な登場だと笑うウタの前に、裂けるように分厚い扉が千切れ跳んだ。それを行ったであろう足と共に、現れたのはやはりスンゲ・トブゼのオブリビオンマシン。
 ぬかるみの上を傅くような姿勢で滑走し、勢いと共に動きを止めたその巨躯にも容赦のない雨粒が降り注ぐ。
 斬り落とされた右肩の装甲板、両肩の深々と抉られた穴に加え装甲前面の変形、損傷。背面ではスラスターすら破損し、右足にはキャバリアにまで組み付かれた搭乗機。
 ゆっくりと顔を上げたオブリビオンマシン、スンゲは視界に待ち構える猟兵らの姿を収めて思わず自嘲する。不甲斐ない姿だと。
敵に出し抜かれ、追い込まれ、果ては仲間もなく寂れた戦場に一機のみ。
『……ふ、ふふっ……くっくっくっくっく……!』
 低く、押し殺しても堪え切れないと喉から洩れるその声に、訝しむ様子の猟兵は気遣うでもなく。
『ようやく、外に出れたねっ』
 オブリビオンマシンと同じ場所から外へと歩み出たのはブルー・リーゼだった。シルは窮屈さから解放されるのだと操縦席で背伸びをしつつ、スンゲの蹴破った扉の邪魔な部分を光刃で斬り落としていく。
『………、他の皆さんも揃っているようですね』
 同じく横に並んだエイストラで邪魔な部分を斬り落とし、ノエルも呟く。厳密には美亜の姿がまだないのだが、そこはアリスの事だからきちんとやってくれるだろうという信頼もあってこそである。
 二機のキャバリアが拡げたゲートにチェスカーはお礼を述べてビッグタイガーを外へと運ぶ。その背には破壊されたとも破壊したともつかないマグネロボ肆式超に代り、操舵したであろうエクアトゥールの姿があった。
 肆式超と比べても大型盾に組み込まれた推進器、その移動力も安定性も格段に上がっていただろう。左右の盾裏にはそれぞれ身を隠していたレイ、桜花が姿を見せている。
『やれやれ、狭い所を抜け出せば、今度はこの大降りか。棺から抜け出したゾンビの気持ちも少しは理解できそうだ』
「例え顔を出すと同時に雨が上がった所で、祝福を受けた気持ちにはならないぞ」
『えっ、いつの間にそこに!?』
 思わずぼやいたチェスカーに、デッドマンからの忠告。ブルー・リーゼに乗っているものとばかり気遣っていたシルは思わず言葉を漏らし、チェスカーはその存在に言葉を誤ったかと鼻白む。
 桜花はそんな両者へ視線を向けて、お次はと目をレイへ移し遠慮がちに疑問を投げかけた。
「……体験談、ですか……?」
「さてな」
『ゾンビジョークはフィナーレまで取っておきましょう!』
 実体験かただの空想か、それとも摩那の言葉通りゾンビジョークにゾンビブラックジョークを返しただけなのか、その真意は投げ捨ててエクアトゥールは着地する。
 黒きキャバリアの背より改めて発進するのは、レイや桜花と同じく機体に確保していたドローン・マリオネット。動かぬオブリビオンマシンを監視するそれを見送り、摩那は静かに息吹く。
 前門の猟兵、後門の猟兵。そして周囲をカサつく節足動物、もとい猟兵。
 包囲されたと断じるに相応しいこの状況で、スンゲは灰色の蹲る空を見上げた。まるで彼の行く末を表しているようだ。
 だが。
『勝ったつもりか、猟兵ども』
 全身からボルトが突出、戒めを解かれた装甲が弾き出される。解放された内燃機関や駆動系が音をたてて湯気を放出し、この雨を受けて急速に冷却されていく。
 ただの冷却行為、ではない。装甲と本体との間に出来た空隙がゆっくりと埋められていく。開いた装甲から姿を見せた黒色のそれは、僅かに溢れ出るようにして動きを止めた。
 まるでキャバリアがパンプアップでもしたかのような、ただでさえ大きな体が更に見違えてしまほどの変形。
『……じ、人工筋繊維……?』
『いや、これは高分子吸収体、というヤツだな』
 若干引いた様子のシャナミアに対し、答えたのは「よっこいせーっ」と出てきたアリス妹に固定されたフロンティア、その中で機嫌の悪そうな顔をしている美亜であった。
 高分子吸収体というのは簡単に説明するなら、自らの自重を遥かに超えて水分を確保できる代物だ。生理用品などにも多く使用されており、魅力的な保水力の高さを誇る。
『なるほど。排熱能力の低そうな見てくれだからな。冷却チューブで水を巡らせる代りにあれを装甲下全身に張り付けている訳か。
 熱で硬化や軟化を繰り返す性質のものもあるらしいが、それらの特性を両立させ保水した水分を移動し、常に冷却できるようにしていたと』
 ふむふむ、雑巾絞れば中の水が抜けて、代わりに周囲の新しい水が入るようなイメージっすね。え、違う?
 晶の言葉に頭を悩ませた様子で、ウタは苦い顔をする。
『……分かるような分からんような……つまり、どうなるんだ?』
『あれは言わばクッションだ。耐衝撃性の向上、軟化している状態では装甲局面の受け流し効果も上がるだろう。もっとも、あそこまで傷ついた装甲じゃあ受け流すのは無理もある。
 問題は硬化だ。着弾時の熱で一時的とは言え硬くなっちまう。要はタフさが上がったって事だ』
 ただの嫌がらせじゃないの。
 本来の用途を超えるであろう保水量に動きの制限も考えられたが、スンゲの感情に呼応してパワーアップしたオブリビオンマシンにそのような常識も通じない。
 面倒だと見つめる猟兵たちの視線を受けて、ずたぼろになった肆式超の胴体を掴むオブリビオンマシンは、そのまま力で引き千切り投げ捨てた。内部へ達した損傷があるとはいえ、純粋な腕力で引き千切る膂力など通常のキャバリアでは不可能だろう。
 アリス妹たちが嬉しそうにその残骸をアリスズ・トンネルへと回収する様を見送るレイの背は哀愁漂うようにも見えたが、その表情に変化はなかった。機械という無機物の相棒であったが、役目を終えて食物連鎖の環へ還った事を案外と喜んでいるのかも知れない。
 そんな彼女らの様子など気にも留めず、改めて両手に武器を握り直すスンゲ。
 ――始まる。
 戦いの雰囲気を肌で感じ取り、美亜は口を開いた。
『スンゲよ、答えて貰おう。貴様はアサガシアの人間なのだろう?』
『ふん。そうだな、自己紹介をしていなかったか』
 立ち上がるオブリビオンマシンは相対した時よりも更に大型化している。高さは変わらぬものの、厚みが増えたその体は見違えるようだ。
 装甲に溜まった雨水が滝の如く流れ落ちて、敵を周囲にしてもただ孤軍のスンゲは声を高らかにする。
『アサガシア機械化陸軍管轄特務機関所属、スンゲ・トブゼ。元ではあるが、生粋のアサガシアンだ』
(特務機関、ということはわたしのような諜報員。……わざわざそれを明かすってことは……)
 今もなお食感楽しみ中のアリス妹のお尻を叩いて引き剥がし、思ったほどの損傷はないブロムキィへと乗り込む錫華。その間もスンゲの言葉を耳に入れており、自信に溢れた自己紹介に内心ほぞを噛む。
 もう彼は目標を達成した気でいる。本来の目的がこれから成るのか、あるいはもはや止められないのか。
『わかってるの、殲禍炎剣へ攻撃するって。この国だけじゃない、小国家群なんて言われてるあちこちに飛び火して、連鎖爆発とか、そういうとんでもない事になるんだよ!
 アサガシアだってどうなるか分かんないよ!』
『当然だ。俺の目的は攻撃じゃない』
 思わず感情的になってしまったシルの叫びにも、余裕と見下しすら添えて男は語る。それはそうだろう、男の言葉に理解を示した摩那は鼻を鳴らした。
 例のひみつへいきとて中身の無い代物だったのだ。あるいは上層部を取り込むのに十分な威力を発する秘密兵器として申し分ない内容だったかも知れないが。
(殲禍炎剣を討つような超高度の攻撃兵器への道筋でもなければ、敵国のキャバリアを強奪して再利用するような、新規兵器の開発技術に力を注いでいないダンテリさんたちじゃあ、簡単に出来やしないんですよね。
 つまり、この人のやってる事はただの扇動。何の為に? なぜこのタイミングで?)
 悩む摩那の頭に浮かぶのは、やはりアサガシアが反撃の準備を整える為の行動。補給物資を本国に送っていた所を見るに、近々ダンテアリオンの強襲部隊が近隣小国家を押し退けて自分たちに直接踏み入ると予想した、そう考えるのが自然だろう。
『…………、要らん事を喋ってしまったな。始めるとしよう』
 あっさりと開戦の言葉を転がして、オブリビオンマシンは右手に握る大鉈の切っ先を左肩に乗せ、その刃の下から銃口を見せる。
 前方、施設方向のみへの攻撃姿勢。施設を巻き込むつもりかとノエルが前に一歩踏み出すと同時に、胸部装甲下から数発の炸裂弾が投下された。
 否、煙幕弾だ。瞬時に拡散する煙が一瞬にしてオブリビオンマシンの巨躯を覆い隠し、舌打ちするチェスカーはビッグタイガーを前進させた。
『ウタ、前に出ろォ! チャフ・バーストだ、機体を盾に強襲する!』
『もうやってる!』
 チェスカーの叫びに考えを同じくしていたウタも叫んで返す。
 煙幕と同時にチャフこと電波欺瞞紙、レーダーを妨害する物質までばら撒かれたのだ。目標を見失った事で重装甲機を先行、煙幕内の探査と攻撃の両方を同時に行う腹積もりである。
 敵のレーダー・センサーに対する妨害を常に展開しているとは言え、逆に攻撃されては守る手段は――、有る。
(こちらは既にECCMを起動しているのですが、原始的な手段で来ましたね!)
 チャフによって中を探れぬとは言え、それは所詮、電波探知に対してのみしか効果はない。赤外線センサーなど項目を変えてしまえば。
(! ……目標がみっつ……、いや!)
 煙幕内には高熱源体が三つ。だが、ゆっくりと落下していく二つに対し高度を下げないものがひとつ、エイストラへ接近。
 煙幕とチャフ、そして赤外線センサーに対する高熱源体のデコイ、妨害策フレアー。これら三つの手段を同時に展開していたのだ。
『な、なにぃ!?』
 てっきり煙幕内での待ち伏せか、こちらの出方に合わせての攻撃かと踏んでいたチェスカーであったが、煙幕への突入間近、ビッグタイガーと入れ替わるようにして走り抜けるオブリビオンマシンの姿を認めて声を上げる。
 どれだけ人の目を誤魔化しても有人機として動けるのはこのオブリビオンマシンのみ。その進路からすでに攻撃を予測していたノエルは上体を逸らす。煙幕を張る前の敵の構えから攻撃軌道を予想。
 果たしてその予想は当たり。
(……間に合わない……!)
 予想通りではあったが、すでに直撃コース。敵は自らの行動に対して動きを見せたキャバリアを攻撃すると、そう決めていたのだろう。出鼻を挫く為にはよくある手だが、妨害手段を重ねて使用する事で予備動作を悟らせず一気に攻撃へと動いた。
 結果を見れば実に単純な行動だ。だが敵に囲まれたこの状況で迷いなく攻撃目標を定め、その機会を淡々と狙っているとなれば。
 どれだけの死線を超えてきたのか、この男。
『――飛ぉんでけぇえええっ!』
 しかし動いていたのはスンゲだけではない。
 轟き注ぐ稲妻にも負けじと天高々と上げられた黒い爪先。豪快な投球フォームで発射されたのはレイだった。煙幕が撒かれた時点で自らの突撃よりもゴッドハンドの投入を考えた摩那は、エイストラへの突撃を見せたオブリビオンマシンに目標を切り替えたのである。
 とは言え投げられるのは生身だもんね。表情を変えぬ球代りの男に対し、こちらは投げられず自ら飛翔する桜花。桜の花びらと共に空を行く彼女はレイを巻き込み、誘導する。
「レイさんは二番手、私が一番手! お願いします!」
「ああ」
 気流の中でくるりと回転したレイが構えを取る。風は二人を回避行動へ移るエイストラへと運び、まるで地面を蹴り上げたような硬さでもって押し上げた。
「一ッ!」
 桜鋼扇を構えた桜花が機先となる大鉈の切っ先へ下方からぶちかます。
 その質量、速度、機先を制すると言ってもすでに放たれた攻撃に対し、一の攻撃だけで防げるものではない。だからこその二撃。
「シィイ!」
 四ではありません、息吹きです。
 共に繰り出された直上蹴りが大鉈に加えられ、波状攻撃によりさしものオブリビオンマシンの攻撃も浮ついてしまう。
 装甲と刃のぶつかり合う音が二人の鼓膜を襲い、衝撃波が二人を弾く。
『――助かりました!』
 胸部装甲の一部を掠めただけの被害で済んだエイストラはそのまま後転、ハンドスプリングの要領で身を起こし、礼を述べるノエルにスンゲは追撃をかける。
『人が優しくしてれば調子に乗って!』
『お前に関しては最初から暴力だったろう!?』
 煙幕を突き抜けた赤い装甲、シャナミアの言葉に思わず反論して放つのは後ろ蹴り。その足を左手で叩き落とす勢いを利用して空へと舞う。
 もちろんレッド・ドラグナーの質量、出力だけで実際に足を落とす事は不可能だが、逆にそれは敵の回転を利用する次撃の手助けをしない事にもなるのだ。
 次の蹴りを放つには、攻撃に繰り出した足を設置し軸足としなければ連続性がなくなり、威力を乗せるにも時間が必要となる。
 僅かな時間とは言え、こと格闘戦においては致命的だ。
『貰ったぁ!』
 頭上からのツインライフルの速射。こちらは左肩の盾でやり過ごすスンゲも舌打ちする。上空と地上、交わされたアイカメラの視線は一瞬で、着地と同時に振り返るレッド・ドラグナーと大鉈を上段に構えたオブリビオンマシン。
『まだまだっ!』
 ここで先に横槍を入れたのはエクアトゥール。大鉈を蹴りつけて攻撃手段を奪えば、ほぼ同時にシャナミアもライフルを連射する。
 粒子弾と実弾が装甲前面に爆ぜて、感度の下がった視覚情報を灼く。低性能のアイカメラでは断続的な視界不良も戻すには時間がかかるのだ。
『ちいいっ!』
 ビッグタイガーの電ノコで装甲を荒く撃たれたとは言え、まだ致命傷には至っていない。問題は視界が塞がれた事だと盾を前面に向けて一歩下がるスンゲ。
『スカを掴まされて黙っちゃいられねえ』
 スンゲが接近戦を選択した時点で敵に捨て置かれたビッグタイガーであったが、わざわざその戦いの中に飛び込む必要は無く。
 すでに屋外、ここでの使用武器に制限などないのだ。
『武装はオールフリー、徹底的にやってやんよ!』
 地上の状況故にいつもより深く挿入されたロックアンカー。構えた砲台はすでに敵へ照準を向けている。
 その砲身は飾りではない。照準を定めると同時の警告は全機に送達済み、オブリビオンマシンが退くと同時に猟兵たちはクロスレンジから離脱している・
 そして、敵の右半身を守る盾はすでにない。
『チェスカー!』
 晶のゴーサインと同時に衝撃に備えた射撃体勢を取るビッグタイガーから音が轟く。滑動する砲身の逃す衝撃は、それでも機体は揺さぶり足場の悪い条件下にぬるつく足裏も固定された事でようやくと抑え込む。
(存外、クソ真面目な人間なんでね。念入りにやらせてもらうぜ)
 採算も被害も度外視に、【最低野郎の流儀(テキタイシタヤツハテッテイテキニタタケ)】とばかり着弾状況を見るまでもなく、左にパジョンカ、右に電ノコと肩部搭載【RS-ADS地対空短距離誘導ミサイル】、ハーベスターをも展開。
 対空ミサイルも弾幕のひとつ、数撃てば当たるとばかりの使い方で主砲の次弾装填する間を惜しむように一斉射撃を敢行する。
 オブリビオンマシンの煙幕の比ではない、一瞬で爆炎に消えた敵機の姿はここまでやるのかと言わんばかりだ。
 だが敵の防御能力を考えれば実に有効な手段で、敵機熱量を瞬時に上げる事で装甲下部緩衝材の硬化、その後の連続的、あるいは同時攻撃による衝撃はそれを砕くのに有効な手段だ。
 中身の詰まっていない装甲ほど脆いものはない、装甲を貫かなくても支柱が折れれば機体より剥がれて落下するだけである。
 とは言え、敵も為すがままというはずがない。すっかり姿の見えない機影に対し、逆に言えば射線から逃れる事は無かった訳だと美亜はチェスカーへ攻撃停止を命じた。
『言われなくても第一射はこれで撃ち止めだぜ』
 脂汗の滲む額を拭う事もなく、彼女は煙を見据えて注意深く空になった弾倉を落とす。電ノコの鳴き声すらわからぬ程の激しい砲火を受けたオブリビオンマシン。まともな確認は出来ていないが主砲は直撃した事に疑いはないし、防御行動をとった所で右半身への損傷は免れない。
 そのはずだ。
(……にしては、静かすぎる……嫌な気配だ)
 ひっそりと溜息を吐いたチェスカーの視線の先に、薄まった黒煙から現れたのは壁となった大鉈だった。
 なるほど、失った装甲の代わりに盾とした、当然とも言える話だが。被害箇所を減らす為、あえて機体の向きをビッグタイガーへ向けず大鉈での防御範囲を最大限に有効活用している様子。
 それでも直撃しているのだ。二撃目の主砲も刀身へ直撃していたようで、ぼろぼろになった大鉈がその身の半分ほどから砕けて地面に落ちる。
 その切っ先がぬかるみに突き刺さった後、ゆっくりと倒れる様までつぶさに見つめていた猟兵たちの前で、短くなった刃を降ろすスンゲ。
『……つくづく……貴様らは……』
 半端に残っていた右肩の装甲板など木端微塵、分厚い装甲は拉げて大穴が空き、その奥から火花を散らしている。駆動系への損傷は先のエイストラのような一時的なものではないはずだ。
 肘から先の動きを確認するような動作が見受けられるが、例え問題なかったとしても肩を損傷していては十分の一の性能も発揮できまい。
 ビッグタイガーに撃ち抜かれた肩口は勿論、前腕部分の装甲も粉砕されて焦げ千切れた緩衝材までも露出している。
 損傷個所からまるで親を探す子供のような、何かを探るように伝達系が這い伸びる。それがオブリビオンと化したマシンの特性だというのは明らかだった。自らの損傷を回復させたように、自らが造り変え続けられたように、この戦場に残骸のひとつでもあれば食らいついていただろうが、もはやそれを行える機体などない。
 王はすでに独り。敗残者であるが故の立ち位置も、孤独な戦場で王足り得ないのか。
 だがやるのだ。残された武器を突き詰めて戦う、それが兵士だ。
(王、か。可哀そうに)
 開戦当初から一切揺るがぬ闘志の雄を前にして、ウタは哀れみの視線を向けた。
(王に傅くパイロット、それを戴くのは『敗残者の王』。二人の狂気、解放してやりたい)
『いや、解放してやるぜ』
 そしてオブリビオンを仲間たちの眠る海へと。
 破壊されたオブリビオンマシンの右腕と違い、自らの右腕の装甲を展開するザンライガ。ウタの獄炎と合わせて静かに炎を天へと伸ばす赤腕は、否が応にも視線を引き付ける。
『気を付けろ。今までの行動から考えて奴の隠し玉があの装甲だけとは思えん。旧式然とした見た目だが、システムにしろ武装にしろ、どこまで引き出しがあるのか分からんぞ』
『ああ、注意する』
 美亜の言葉。ウタが直接見た訳ではないが、共有された情報から推察される敵の運動性能は、ザンライガを超える質量と装甲であるにも関わらず数段上だ。直接の格闘戦では後手に回るのは明白である。
 しかし、猟兵は独りにあらず。
『バックアップは任せて!』
『取っ組み合いに拘らないようにしてくださいね。ヒットアンドアウェイを念頭に、こういう手合いの相手は息継ぎを与えないよう戦うのが鉄則です』
 シル、摩那からの助言に頷いて拳を構えるウタ。それを正面から見据えて向けるのはバトルライフルの銃口。防御用でなかったとは言え肆式超の腕を粉砕したその威力は推して知るべし、といった所だがエイストラの追撃に使わなかったのはキャバリアを一撃粉砕するほどの威力を持っていなかったからだろう。
 確実なダメージよりも撃墜を優先したのは敵の攻め手を削る為。何の事はない、スンゲもまたこの状況に焦っているのだ。
 猟兵が悟っているのも重々承知で、スンゲは隠すつもりもない。むしろ相手が乗って来るのならばとこの戦場を利用しているように。
 隠し玉はまだある、その言葉を証明する態度かそれともブラフか。
『それもすぐに分かる、か。ウタ、頼む』
 テロリストらの一人から言葉を真似つつ【複合バヨネット装着型ビームライフル】を構え、ヴェルデフッドを射撃体勢へ移行する晶。
 ならば行くとしようか。
 言葉もなく、前傾姿勢を取るウタとザンライガ。炎の波をその場に残し、加速する重機体の進路に対し直角方向へと回避しながら牽制射撃を行うオブリビオンマシン。
 だが彼の機体背面に搭載された装甲板はそれこそオブリビオンマシンが使っていたように盾として機能し、大口径の弾丸を受けて衝撃に減速や進路の歪みは見えても突撃を止める力はない。
 スンゲの回避方向へ進路を合わせるザンライガを嘲笑し、片足で制動をかけたスンゲ。その膝は下腿へと沈み、周囲の部品が開くと同時に複数の排圧管を露出し蒸気を噴出する。
『ショックアブソーバー!? ここまで強力な代物を!』
 驚きの声を上げた美亜を他所に、慣性を利用し振り回す鉈は体重を乗せてないとは言えその大きさ、半分になった所で威力は無視など出来はしない。
『――だけど!』
 押し通る。
 そのまま装甲板で鉈を受け止めて、可動を合わせ側方へ弾く。生じた警告音に舌を打つもそこに気を割く余裕はない。
 燃え盛る赤腕が繰り出されれば、前腕を下から弾くオブリビオンマシン。拳は届かずとも、猛る獄炎は止められない。
『ぬう!』
『何だぁ!?』
 勢いを止めた片足立ちのままで膝を横へと折り、まさかの動きで火炎砲をかわす敵機の動きに声を上げるウタ。
 スイングされた上体を利用したハイキックを左腕で受け止めたものの、そこを支点に機体を回転、上段から振り下ろす爆撃のような蹴り技を見せる。
『こ、この動き!』
 辛くも装甲板で受け止めれば、それを足場に空へと跳ぶその巨体。施設内でも見た動きだが運動性が数段上どころの騒ぎではない。晶は中継するドローン・マリオネットの情報を基に解析を開始する。
『可動域の拡張と駆動系の保護を同時にやっている。膝周りだけだと考えている場合じゃない、損耗による行動制限以外の敵の情報を一度捨てるんだ! 重量機との戦闘想定を高機動戦へ変更!
 再構築した戦闘パターンに敵機スラスターの破損を組み込んで軌道予測を、出来るかウィリアム?』
『急ぎます、マスター』
『……重量機を当てた戦闘が完全に裏目になるとはな……、持たせろよ、ウタ! 弾幕張れ! ザンライガにあれを近づけさせるな!』
 大雨の空で弧を描くオブリビオンマシンへ、胸部装甲を展開し四門の機関砲を乱射するザンライガ。敵機はこれを軽々とかわすが、それも予想の内だと装甲板下部の誘導弾を発射、機関砲も加え計六門の大口径からなる弾幕が追撃する。
『フィールドランナー並の火力か。しかし!』
 その身を切り変えて軌道を急変、回転する身に誘導弾を潜り抜け急降下する目標はザンライガ。
(射角が間に合わねえ!)
『潰れろ!』
 鋼と鋼が衝突し、火花を散らす右肩。幾ら重量級の機体とは言え高々度からの加速落下はもはやそれ単体で質量兵器の一撃だ、耐えられず膝をつくザンライガが警告音を発する。
『だからヒットアンドアウェイと言ってるんですよ!』
『逃げる間がないんだって!』
『分かっちゃいますが! シルさん、バックアップを!』
『もちろん!』
 ブラースク改を連射しつつ、突撃するエクアトゥール後方に着くブルー・リーゼ。光の走る戦場にスンゲは犬歯を見せて笑い、左腕を使って振り落とそうとするザンライガを更に踏みつけ跳躍する。
 すんでの所で一撃をかわされた摩那は苦々しく顔を歪めるもその場に留まっていればウタの二の舞だと駆け抜けて、後続のシルは機体を仰向けに上空のオブリビオンマシンへ狙いを定めた。
『当ったれー!』
 お次は狙撃と敵の進路上へ強力なビームを放つも、推進器の破損を利用した不安定な軌道と回避運動に捉え切れない。
 重量級の空中機動でない、と言うよりもこちらの動きを読まれているような。
『な、何かおかしいよ。普通じゃない!』
『普通じゃないのは分かっているが――、あれは技術だの勘だのの動きとは割り切れんな。摩那、ドローンで周囲を探索してくれ!』
『了解ですけど、センサー類がヴェルデフッドの電子妨害を抜けられるんですか?』
 晶の言葉にマリオネットの探知範囲を拡げて検索項目に情報を追加していく摩那。だが当然とは言え浮かぶ疑問はヴェルデフッドが敵の探知能力を低下させているはずではないか、という点だ。
『先程のフィールドランナー戦は電磁波領域展開により探知系を破壊しています。重要施設は当然強力な電磁シールドで保護されているので影響を受け辛く、オブリビオンマシンに対する効果は外界との通信が途絶されただけです。
 また、彼らの利用している通信系はダンテアリオン正規軍のものでしたのでそこから妨害をかけていましたが、周波数を変えていれば別回線からの情報受信は可能です』
『と、言う訳だ。ついでに言えばもう一度電磁波領域を展開するにもあの回避能力のからくりを解いて、施設から十分に引き離しておかないと同じ事をされる可能性もある。施設内で最大出力を出せなかったのもそれが理由のひとつにある』
 ウィリアムの解説に加え、晶は現状に対する所見を述べるが実の所、大体の見当はついていると笑う。
 もし予め施設周囲にオブリビオンマシンへ情報を送る子機が設置されていたのならば、フィールドランナー戦での電磁パルスが全て破壊しているはずだ。
 外へ出ると同時に撒いた、というならその動きに先に地上へと現れた晶たちが気づかないはずもない。
 ならば敵が行ったのは煙幕展開の際、それも飛び散る子機が確認されていないとなれば、チャフとフレアーを使った煙幕内に限定される。
『目標数も不明、視認していないとなれば地面に埋まっている可能性もあるな。アリス、摩那に加勢し敵対子機を破壊せよ!』
(はーいっ)
 美亜の言葉に機体を支えていたアリス妹が返事をすれば、周囲でカサついていたり先程強奪したアメちゃんを容器ごとバリボリしていた個体もマリオネットと交信しつつ煙幕散布箇所へ急行。
 …………、司令塔の現場監督アリスさんがいませんね?
(カラクリに気づいたか、対応が早い)
 果たして、晶の予測は当たっていたようで地面に撃ち込んだ子機へ接近する反応に、それでもスンゲは笑みを止める事は無い。
 桜花の攻撃によって目となるカメラやアンテナを破壊されたものの、その機能の全てが潰えてはおらず。拾える情報を増やせば不完全でもこれだけの動きは出来ると自負していた彼にとって十分な役割を果たしていた。
 しかしそれも、もう失われるのは確実だ。
(ダメージは与えたが一機のみ、撃墜できるほどの損傷でもない)
 機体に受けた負荷は余程であったか、ようやくと体勢を立て直したザンライガを隻眼に捉えながらひらひらとブルー・リーゼによる狙撃をかわす。
 しかし、それ以外の敵の動きが鈍い。
(いや、作戦行動を起こしていると考えるべきか。――ならばッ!)
『もはや隠す手の内もない、真向でも搦手でも、死力を尽くして貰おうか。
 この俺の大義の前に華々と散るがいい!』
『勝手を言う!』
 美亜から指示された攻撃ポイントへ移動するシャナミアは苛立ちを隠せないようだが、だからこそ一杯食わせてやると無駄な攻撃はしない。同じく指示を受けたチェスカーも同様だ。
 その間にも煙幕散布地点に到着したマリオネットの金属探知により大体の位置を割り出し、アリス妹らがブルドーザーのように芝生と泥土をひっくり返し――、否、美味しそうに食べながら地表を削走する。
 これならいちいち探さなくても胃袋の中に消えちゃうので割かし合理的っすね。通信が途絶した子機にすら余裕を見せたままでいるスンゲ・トブゼ。
『ふん。だが時間稼ぎには十分だ。貴様らの戦闘データーは直接回収している。この俺とて鉄火場で育った人間だ、今更情報回収装置を破壊された所でもう遅い!』
『どうかな?』
 スンゲの言葉に異を唱えたのは晶である。ブルー・リーゼの狙撃に加え、二挺のビームライフルが戦列に加わる。
 単に手数が増えたというだけでも厄介だが、攻撃が掠めるのは当然とする重装甲だ。予想を遥かに超える高機動戦を展開するオブリビオンマシンによる性能差をひっくり返すには心許なく。
 直撃。
『――……っ!?』
 掠める所の騒ぎではない、かわしているものが多いとは言えヴェルデフッドの、そして特に注意を入れていたブルー・リーゼの弾道が直撃コースへと切り替わっている。
 脇腹に突き刺さった一撃はヴェルデフッドのビームライフルであったため、まだ大事に至ってはいないが彼の得た情報とは明らかに動きが違う。
『か、回避パターンが把握されているだと!? 馬鹿な、機械制御されている訳でもないこの不規則な軌道を!』
『それを計算できるのがウチのサポートAIでね。当たりだウィリアム、補正を入れて全機へ情報更新!』
『オーケイ、マスター』
『こいつを待ってた!』
 攻撃地点へと移動完了。ウィリアムからの情報を火器管制へ反映しチェスカーは喜びの声を上げてパジョンカを上空へ向ける。どうせなら主砲、電ノコも使いたい所だが射程距離や対空攻撃への連携に相性が悪い。
 ならば代りに今度こそは地対空ミサイルを。
『いくら重量級の考えを捨てろったって、どう見ても地上用の機体なんだからまだまだ飛べるってワケでもないでしょ。
 撃ち落とす!』
 吠えるシャナミアは殺意マシマシである。
 これで二機が戦列に加わり、黒々とした雨雲の横たわる空に白煙を巻き起こす誘導弾が群れを成す。
『お前っ、らっ! …………ッ、ぬあああ!』
 ミサイルによる回避機動の制限、精確性の上がった攻撃。破損した推進器を利用した回避運動を見切られた上に元より地上機、シャナミアの予測通り落下と左肩の大型盾を利用した空気抵抗を合わせて誤魔化しの滞空性能を見せていただけに過ぎないのだ。
 化けの皮を剥がされた以上、力尽きるまで空にいる訳にもいかない。装甲下部から再び煙幕弾を投下、バトルライフルで狙撃しその他の弾頭も誘爆させ空中に煙幕を拡げる。
『悪足掻きがお好きですね』
 ありったけのフレアーも散布したのか赤々と燃える黒煙にノエルは一息入れ、改めて周囲を警戒する。このまま着地するにせよ煙幕を利用して踊り出るにせよ、離れた位置からの視認は鉄則だ。
 それに第一、煙などはすぐに晴れる。
『最大出力で撃つ必要はないぜ、ザンライガ。お返しを叩き込んでやれ!』
 傷ついた装甲板を接合、自らを巨大な砲身とするザンライガの砲撃形態。
 スカートから発射されたアンカーが本体と地面を繋ぎ、天を仰ぐ姿はまるで尖塔の如く低い吸引音をその身に纏う。
『ザンライガキャノン・ノーマルレベル! 拡散放射だ!』
 先の一撃とは違い収束させず、出力も上げる事無く噴き出されたエネルギーは炎の竜巻と化して渦を成し、オブリビオンマシンの発した煙幕をフレアーやチャフごと巻き上げてしまう。
『なんとぉ!?』
 一瞬にして隠れ蓑を奪われて目を見開くスンゲ。
(奴らめ、最初の二機の後は次の二機で攻撃と、有効射程外になった俺を明らかに誘導している! ……鬱陶しい攻撃だが、黙らせるには……)
 オブリビオンマシンの下方より攻撃を加えるビッグタイガーとレッド・ドラグナーを視認し、スンゲは背面より再び炸裂弾をばら撒いた。
 発煙筒ではないと、弾種を確認しな美亜は眉を潜めて警告を発する。
『……超小型爆弾……、チェスカー、シャナミア、周囲に爆撃来るぞ!』
『あんな小豆で退くワケにはいかないねえ』
『右に同じくッ、何度も好きにさせたかないっての!』
 衣を剥いだとて未だ丸裸といかないのは見ての通り、それでも両者は一切退く事無く、空のオブリビオンマシンに対して攻撃すると同時に爆弾を迎撃、誘爆させて。
 無論これで全て破壊など出来るはずもない。チェスカーは稼いだ時間の間に左足に格納された複合装甲板【EP/KE-303】ドーザーを展開し右膝をつく。シャナミアも同じく片膝をつき、カイトシールドを機体前面に、できるだけ被弾箇所を小さくする戦法だ。
 被弾覚悟とはな。黙らせるつもりであったはずの二機のパイロット、そのはずがむしろ闘志を燃え立たせる結果となってしまった。
『――が! 覚悟などは前線に立つ者が須らく持ち合わせて然るべき要素!』
『ややこしい言い方をした所で!』
『撃って死んだは犬でも出来ると言っている!』
 空を行く黒い装甲に罵声を浴びせて鉈を振るう。乱れ飛ぶ弾丸もまた、戦場を観察するマリオネットの弾道計算により隙間を縫うエクアトゥールの装甲を掠める事もない。だが自らの言葉を証明するように、直撃弾を気にせずこちらの迎撃に当たるスンゲの気迫は風すら伴う勢いだ。
『まあ気力で現実は押し返せませんけど、ね!』
 発生させた双翼のエール・ノワールを交差させて受け止めると同時、機体を減速させオブリビオンマシンの鉈を受け流す。
 気力、威勢が戦場の流れを変え勝機を呼び込む事は事実だが、現実的要素が変わる事は無い。刀身は半分以下、推進器に異常も抱えては当初の威力を発揮するなど無理な話だ。
 すれ違い様に脇腹へ蹴りを見舞われ、これもまた誘導の一端かとスンゲは臍を噛む。
『着弾確認、問題ねえな!』
『思った通り威力はひっくい!』
 投下された爆弾は接触により次々と起爆し、連鎖的な破壊を見せるがそれも一発毎であればキャバリアの装甲を抜ける程ではない。あの散布力を見れば目晦ましか、もしくは直接後方の敵に叩きつけて大ダメージといった用途なのだろう。
 爆撃として使用されても対空迎撃で誘爆されてはより拡散され、目標物に届く数も少なく効果的なダメージを与えられはしない。だがそれでも周囲の爆光は攻撃を止める効果はあった。
(今の内に軌道修正を!)
『悪いな、お前の手番はもう無い!』
 千載一遇の機会を得たりとするスンゲに対して冷酷に告げたのは晶だ。ビームライフルを連結し、ヴェルデフッドを伏せて狙撃態勢に入った彼はキャノンモードを起動、長射程の威力減衰率を持つ粒子砲を発射。
 狙い違わず着弾したのは装甲ではなく、健在であった右の二号機――、背面双発スラスターだ。
『ぬああああああああああああああ!!』
 巨大な爆発と共に揺さぶられる機体。大きく離れたヴェルデフッドにこちらからの有効な射撃がないこと、同時に敵機の命中率も低下する事で放置していたツケが回って来た、という事だろう。
 背中から黒煙を上げて落下していく巨体へ更に狙いを定めるのはエイストラ。獲物である【BSプラズマライフル】はその名の通り粒子弾による攻撃兵器。しかし手軽に扱える代物ではなく使用に際する膨大な兵器内部電力はエイストラから蓄電される、という欠点がある。
 その点、威力に関しては申し分ない。
(スナイピングにはそこそこ自信があります。勘の鋭い相手ですし、覚悟もあるお人らしいですし、まあ)
 悪く思わないで下さいね。
 言葉を告げずにトリガーへかけた指、だが寸前で止まる。落下軌道はそのまま、敵の動きに変化が出たのだ。左の大盾で機体前面を、鉈で機体背面を防御している。
 それならばそれで。
 小さく浅く、何度か呼吸した後に大きく息を吸い込む。ぴたりと止めた彼女が狙う一点は、錐揉み状に落下するオブリビオンマシンのただ一点。
『!?』
 胸部装甲への警告音。それは盾で守っていたスンゲにとっては驚愕すべき事実であると共に、ノエルにとっては自身の起こした当然の事実。
 回転落下するオブリビオンマシンの胸部へ精確に命中したのは、ブルー・リーゼが大盾に開けた風穴を抜けた粒子弾だ。一秒にも満たぬ刹那の間を抜けたそれの全てが直撃した訳ではないが、薙ぎ払う格好になるため損傷した盾を内部から引き裂き損傷を拡げている。
 何より、砲火に晒され硬化した緩衝材は、その不完全な一撃で十分なほどクッション性を無くし崩れ落ちる。特にぶ厚いと思えた胸部装甲に出来た隙間は、そのまま防御能力の低下へ通ずる。
『……ふっ……ふふふ……』
 焦りからざわつく心に、全身が総毛立つような緊張感。危機感が視野を狭くしていると実感し、呼吸も浅く息が上がる。狭い操縦席の圧迫感はより強く操縦者であるスンゲを呪縛する。
 だがそれでも、自然と溢れる笑みは何だ。額に浮かんだ脂汗が目に沁み込んでも拭うはずもなければ、瞼を下ろす事もない。
『……戦争だ……戦争をやっているのだ……勝つ為の……勝利の為の……!』


●粉砕される鎧!
 じょろじょろじょろろ。
 大空を揺るがす振動。大地を揺るがす振動。原因は違えど大別するなら同じ戦闘行為によるものだ。
 戦火の上がるその中で、平和な音を醸し出すのは現場監督アリスこと群体の司令塔たるアリスであった。先程まで被っていたヘルメットは背中に乗せられて、前肢で器用に挟み込んだ緊急物資のひとつであるヤカンでお湯をコップへ注ぎ込んでいる。
 めっちゃ熱いはずだけどアリスには関係ないらしい。
「香り立ちますね。戦場の臭いというのもまた、香りを楽しむにはいい塩梅です」
「あちっ、あちちっ。ふー、ふーっ。
 んー、あっちちちっ!」
 注ぎ込まれたお湯を楽しむ冬季とたま。たまはまだ味を楽しめていないが、元よりただのお湯に芝生と泥土の香りが炒りこんだ代物。仙人としての気質がある冬季だからこそ楽しめる香りと言えるかもしれない。
 猫もよく草を噛み噛みするけど、それは猫の話なのでたまに関係あるかは分からないぞ!
「ギチギチ!」
(それほどでもー!)
 冬季の言葉に答えてアリスはヤカンを口に突っ込む。種族は違えど香りを楽しむ心は共通なのだ。その食べ方に香りを楽しむ余韻があるかは分からないぞ!
 一際大きな爆発音。中空に咲いた炎の花をアリス妹の下から見上げて、冬季は再び手元のコップへ視線を下ろす。
「風流ですねぇ」
「うーむ、湿気た風が爆熱で温められて気持ち良いものではないがなぁ」
 飲むのを諦めて地面に置き、髭を弾くたま。君たちそんなのんびりしてていいのか。
 とは言え彼らの周りにも小さくまとまったアリス妹たちがちらほらと、大雨を行水か何かのようにして汚泥を濯いで身震いし、体を綺麗にしている姿が見受けられる。時刻は十五時、こりゃー三時休憩ってやつですね。
 先程、オブリビオンマシンの子機を破壊した個体たちはそのまま戦場周辺を闊歩していたり文字通り道草を食っていたりしている。後から交代して休憩するんだろね。
「しかし、暢気にしていられる状況だろうか」
「そんな事を言われても、空中戦に巻き込まれる必要もありませんし、そこで労力を割いても不得手となれば無駄も出ます」
 無駄はしない事こそ最善、強行しては害にも成り得る。
 そんな自論を展開する冬季も、墜落していくオブリビオンマシンに目を光らせた。
「まあ確かに、そろそろ動くべき時かも知れませんね」
「うむ。ここからは地上戦だろう。いやワタシは直接戦闘に参加できんがね」
 轟音と共に墜落したオブリビオンマシンに地面が揺さぶられ、泥のはねたコップの中身を指でゆっくりとかき混ぜて。
「あっつ!」
 やはりたまはお湯を飲めずにふーふーした。

 大地の震動と同時にスタートダッシュを決めたエイストラ。
 彼女だけではない、地上へ落ちたオブリビオンマシンへ向け、動ける猟兵たちは一斉に行動を開始していた。
『奴に立て直す暇を与えるな、確実に力を削ってはいるが、攻撃能力が大きく低下した訳ではない!
 特に格闘戦こそ奴の本領、ここからだぞ諸君!』
『そう、ここからだッ』
 カサカサと駆けるアリス妹に拘束されたままのフロンティアから、美亜の激励が飛ぶ。しかしその言葉に誰より先に反応したのは当のスンゲ・トブゼだった。
 濡れた地表に砂塵は立たないが、爆損した背面推進器から上る煙がその姿を隠す。とは言えそれもすぐに消えるもの、黒煙から姿を現した巨躯はすでに第一歩を踏み出した所であった。
 とっくに行動可能な状態。それは墜落ではなく着地したという結果を知らしめていた。
 制御を失った状態で成功させるなど、奇跡に近しい出来事だ。
『全く、神懸かりな操縦センスだがそれを認める訳にはいかんな』
『その通り、オブリビオンマシンの力と見た方がいいですね。そんな相手と戦うとなったらほっとんどの作戦が立て直しになっちゃいますし』
 連結を解除して走るヴェルデフッド、晶の言葉に摩那も同意。過小評価する訳ではないが、相手を過大評価する事は自らの足に枷をはめる行為になる。
 ただでさえ敵は強大、足踏み出来る状況ではない。
『接近は続行、アリスさんたちと桜花さん、レイさんの連携お願いします』
『安心しろ、直接指揮はこちらで取る。本命は彼らだ。待たせたな錫華! 状況を!』
 ノエルの言葉に手早く返し、美亜は温存させていた最後の戦力へ言葉を送る。
 冬季とたまは温存させてるとかそういうんじゃないです。
 ぬかるみを意にも介さず、スプリンターの姿勢で駆け抜けるキャバリア。ブロムキィだ。これこそ本領とばかりの走行速度でオブリビオンマシンの落下地点に一番近いこともあり、接敵するのは彼女が一番先になるだろう。
 振り返る敵機、捕捉されたアラートが操縦席に鳴り響く。
『丁度今、敵に捕捉された所で、こっちも捕捉した所』
『気を付けろ、今の奴はもう後がない。手強いぞ!』
『……最初から手強かったけど……まあ、諜報員の役割はいつだって穴を開ける事だから』
 そう言って貰えるとありがたい。
 笑う美亜にこちらも笑い、直後に顔を引き締める。バトルライフルの銃口を向けるオブリビオンマシンにぶれはなく、継戦可能な事は一目でわかる。変化と言えば先程見せた膝関節以外に、鼠径部や肩、肘などからも排圧管が露出している事か。
 晶の読み通り足だけでなく、各関節の可動域と運動性能は人体構造を真似たブロムキィ以上。
『罠を作るのだって、諜報員の仕事のひとつってね。遅く参戦した分、戦況は最大限に利用させてもらうよ。妹さん!』
(はーいっ)
 錫華の言葉を受けて、地面からひょっこりと顔を覗かせたアリス妹。彼女の抱えていたのはフィールドランナー戦で肆式超とブロムキィが使用していたグレネードランチャー。
 センサーの殆ど死んだオブリビオンマシン、追い詰められた状況で次々と接近する敵を前に、足下に現れた生物に気づく余裕などスンゲにはない。
 爆発。
(きゃーっ)
『っ! 直下からの攻撃!?』
 直近の爆発に地面から吹き飛ばされたアリス妹は腹を天に向けわちゃわちゃしていたが、大きく体勢を崩したオブリビオンマシンがたたらを踏むと、その振動で更にひっくり返り慌てて逃げ出す。
 スンゲもアリス妹を捉えたが、追う状況でない事は頭で理解している。
 目を奪われた、その理由など当然至極。
『出鼻を挫く――、良い手を使う――、新手が!』
(まあ、スンゲさんにとっては新手になるかな)
 接近するブロムキィへ牽制の横薙ぎ。前屈するようにかわす勢いを利用して中空に回転、踵落としを見舞う。
 舌打ちして身を反らし、本来のキャバリアで言えば干渉により振るえぬ間合いを無視して銃身で受け止めた。力押しで弾き返すオブリビオンマシンだが、余裕があればライフルを手放しにこちらの足を掴んでいただろう。
 そうなればパワー差は圧倒的、一瞬で叩き潰される。そうされなかった、出来なかったのもこちらの動きに対する余裕を奪った錫華の采配だ。着地の姿勢のまま両腕で機体を支え、弾き出すような蟹鋏みでオブリビオンマシンの右膝を襲う。
『関節技だとっ、阿呆が!』
 ブロムキィの足が絡みつくと同時に、右足を支柱に膝から側方へと折れ曲がる。右肩を損傷した事で大上段へと構えられなかったオブリビオンマシンは、右肘と水平になった上半身とを利用し縦一閃を繰り出す。
 状況を考えた上で確実に大打撃を与える攻撃、それを一瞬で選択したスンゲの実戦経験、あるいは才覚。
 そんなもの、ザンライガとの戦闘で既に把握しているのだから驚く事は無い。
『妹さん!』
(せいっ!)
(セイッ!)
(せいせいせーい!)
 解れた大地からぴょんぴょこと飛び出したアリス妹たち。振り下ろされる刃を前にブロムキィの上に並び立ち、強靭な前肢に加え関節肢でオブリビオンマシンの縦一閃を受け止めた。
 複数体による真剣白刃取りである。
『――……っ! !?』
 ここでスンゲが行ったのは、受け止められた刃を戻そうとした事。肩が使えない以上、引く力は弱く、他肢をがっちりとブロムキィの装甲に食い込ませたアリス妹たちはびくともしない。
 足を挟まれ、右腕を固定され。この動きの止まった一瞬こそ、錫華の引き込んだ攻撃機会。
『いいぃいいっけぇええええええ!!』
 生じるは【蒼の閃光(ブルー・エクレール)】。最大加速で飛翔したブルー・リーゼが先の再現とばかりに突撃する。
 手元の刃は光を散らし、裸になったオブリビオンマシンの右肩からその脇腹へと突き刺さった。
 その衝撃たるや、膝を側方に折り曲げていたを弾き飛ばし、拘束を解いたブロムキィにしがみついていたアリス妹も持っていかれる。
 なお、ブロムキィ自身は彼女らの甘噛みしていた装甲が裂けたお陰でそれについていく事は無かったが。裂かれた装甲はそのままに、後転する錫華は空に高々と飛んでいくアリス妹らと、困惑と焦燥を呻きに漏らすスンゲを見つめる。
(本当なら、包囲接近される状況で足を止めるなど言語道断。足を拘束された時点で原因を取り除く攻撃までは良かったけど、妹さんたちに鉈を掴まれて、取り戻そうとしたのは誤算だよ)
 本来ならば武器を手放したろう。スンゲほどの男ならば尚更、そこからブロムキィを捕え引き剥がすなり盾とするなり、このオブリビオンマシンの膂力ならば可能なはず。だが鉄火場で育ったと豪語するスンゲも諜報員としての活動を余儀なくされ、加えて孤軍奮闘という現状だ。
 兵士ではなく司令塔として機能し、敵軍に潜伏するという心境が武器を失う事を恐れさせた。それがスンゲの隙だったのだ。
(気持ちは分かるよ、だから。全力で付け入れさせてもらったよ)
 跳ね上がる巨躯を見送り、空舞うアリス妹たちの回収へ急ぐ。彼女らの耐久力ならば高所からの落下もある程度は耐えられようが、戦闘に巻き込ませない為の回収だ。
『うぬっ!』
『!』
 左腕を大きく後方へ戻し、ぐいとバトルライフルを右肩に取り付いたブルー・リーゼへ向ける。こういった無理のある動きも可能な関節の動きは死角をも埋める。シルは即座に反応、エトワールを抜くと同時に蹴りつけて機体より離れ、バトルライフルの射線より身をかわした。
 一瞬の攻防により解放されたかに見えたオブリビオンマシンだが、猟兵による包囲はそう甘くない。
 エトワールに貫かれた脇腹に蒼の光が収束し幾何学模様、魔法陣を描き出す。シルの魔力によるマーキングであり、呪術的要素で両者を繋ぐ物質世界より離れた鎖だ。
 天地逆さとなって頭上を飛ぶブルー・リーゼを、隻眼のオブリビオンマシンが捉える。
『リーゼ、全開で行くよっ!!』
 幾重と虹の橋をブルー・リーゼは身に纏い、上空からその輝きを放つ。リュミエール・イリゼの砲撃が次々と地表、オブリビオンマシン本体を叩く。
 装甲表面で弾ける虹色の粒子は性能の低いアイカメラを灼き、堪らず頭部を左腕で保護するスンゲ。同時に手首だけを異様な角度に折り曲げて牽制射撃、しかしそこは既に誰もおらず、スンゲが頭部保護に動いた時点でシルは地表へ飛び込んでいる。
 円を描く軌道で背面へと回り込み、背面より伸身するは二門のビームキャノン・テンペスタ。
 同時発射ではなく、あえてずらして連続発射するシルは二発撃ち終わると同時に、再び空へと跳躍。
『猟兵風情がッ!』
 近距離からのビーム砲の威力はオブリビオンマシンとは言え無視できるものではない。背面スラスタ下の腰、そして左の大盾で弾けた光が装甲表面を赤く焼き上げ、スンゲは着弾箇所から勘だけでブルー・リーゼのいるであろう左側面へと向き直った。
 が、勿論すでに空へと舞い上がったブルー・リーゼの姿などあるはずもなく。
『まっだまだぁ!』
 連射モードのブラースク改と共に伸ばしたテンペスタはそのまま、それらに影響が出ないよう下半身部分に虹色の帯を渦と集め、隙だらけのオブリビオンマシンへ火力を集中する。
 呻くスンゲ、同時にオブリビオンマシンの推進器が背面より離れた。支柱によって繋がれたそれはぐるりと回転し真横に加速、半壊を超えた状態であり短距離に過ぎないが距離が近い都合上、光の雨をかわすには十分な動作だ。
(可動式のスラスター!? ……まだ手の内を隠して……と言うより、使う機会がなかっただけ、って所かな?)
 敵の回避方法が増えた事は周囲を警戒している摩那のドローンが情報を共有しているはず、とばかりにこちらは地上での細かな動きを注視する錫華。
 敵機の情報はマリオネットで共有できるが、デジタル化された情報から敵の真意を汲み取るのは時間が掛かる。直視した情報からパイロットの動きを読む『勘』を伝達するのは、やはり諜報部など情報を扱う人間が通す追加情報だからこそ、理解を早める事ができるというものだ。
 ステップするように小刻みな回避動作を見せるオブリビオンマシンに重さは感じられず、誘導弾程度ならかわす推進力による機動性と柔軟な関節の織り成す運動性は何度も情報化されたように、重量機のそれではない。
(――けれど! わたしの魔力が引っ張ってくれる!)
 ホーミングビームはもちろん、自身の魔力を介したブラースク改の連射もまた印を刻まれたオブリビオンマシンへと吸い寄せられる。
 分身体とも言えるそれに引かれるのは粒子弾だけでなく、シルの精神も同様だ。
(……例え、どう逃げたって……)
『ぐっ、おっ!?』
 方向を変えて追撃する光の礫に目を見開くスンゲ。
『――上かぁ!』
(わたしを見つけた所で!)
 瞼を閉じる。
 オブリビオンマシンに刻まれた魔力は操縦者という機体のコアとなったパイロット、スンゲ・トブゼと繋がりその燃えるような執念すら風となってシルに流れ込んだ。
『捉えたぞ!』
『捕まえた!』
 スンゲは姿を、シルは心を、互いに認めた二つの姿が対極となって重なり合う。
 バトルライフルを投擲したオブリビオンマシン、それを潜るブルー・リーゼの砲撃を左手で受け止めて男は笑う。
『イェエガアァーッ!』
『悪いけどさぁ!』
 迫る左手にエトワールを突き刺し、それでも止まらぬ剛腕を斬り抜けて迫撃するブルー・リーゼの膝がオブリビオンマシンの顔面に突き刺さった。だが近づけばこちらのもの。
 太い首がそれを受け止め、右手がその足を遂に掴む。
 万力の如く締め上げるその力。肩が使えなくとも健在とばかりの握力、先の失敗は犯すまいと即座に鉈を手放したスンゲはオブリビオンマシンの力でもってぶん回し、そのまま地面へ叩きつける。
 ――などとはさせない。
 振り回される中で風を読み心を見つめ、叩きつけの瞬間にオブリビオンマシンの右肩を蹴りつけた。回線不良が指先にまで伝わり開いた手からくるりと小さく後転し空へと逃れる。
 獲り逃した。
 視線は鳥となって大雨を行くブルー・リーゼに、しかし右手はすでに鉈へと伸びる。
『拾わせるっ、かぁーっ!』
 盾ごとの突撃、シールドチャージ。衝撃に目を剥くスンゲの視界を、雨粒の中でも一際輝く赤い装甲が覆う。
 背中に大火を背負い、ようやく間に合ったと息巻くシャナミアは感情のままメインウェポンも纏わぬ右拳のフルスイングをオブリビオンマシンの顔面に叩きつけた。
 二度目の殴打である。だがそれは読んでいたとばかり間髪入れずの左拳にシャナミアは舌打ちしてカイトシールドを用い弾く。
 直撃を受けてはその衝撃だけで内部機構に障害が発生し得ない、だからこその弾きも盾を通じる振動が凄まじい。
 後退するレッド・ドラグナーを睥睨し、スンゲは晒う。
『はっはっはっはっはっはっは!
 一撃離脱、二撃離脱! 腰が入っていない、まるでなっちゃいない! 次はどうする? 接近するキャバリアどもが俺を叩くか!
 それもいいだろう。だが俺は生き残るぞ、先と同じく、その先の先と同じく!
 逃げ出してばかりのお前らにこの俺が止められる訳が無い、俺が敗北する事など有り得んのだ!』
『はぁー、口やっかましい。けど、そうは言うけどさ、追撃がないってことはそっちもそろそろ限界なんじゃないの?』
『…………』
 シャナミアの指摘に沈黙。
 左手はシルによって裂かれたが拳を作れるあたり、動作に問題はないだろう。だが握りが甘いからこそ、咄嗟の反撃ではレッド・ドラグナーに盾で弾く隙を与えた。
 そのはずなのに。
 強まる重圧にシャナミアは額の汗を拭い、小さく息吹く。この男が笑っているであろう顔を予想しながら。
『俺が何故、お前らの攻撃に耐えられたと思う。何故、俺は叩き続けられるのだと思う?』
『知ったこっちゃな――』
『そう、大儀だ』
『いや聞いてな――』
『この足を支える大義が! 俺を生かす!』
 おめえ質問しといてそりゃねーっしょ。まるでマナーのなっていないスンゲに閉口するシャナミア。
 対して相手はテンションもフルボルテージで言葉は止まらない。
『俺の生死は大義と共にある! 大義あれと欲するならば俺は生かされ、大儀あらんとするならば俺は死す!
 全ては王に捧げた、この俺の!』
 お前の王は、お前に死ねと言ったのか。
 猛る男へ浴びせられた冷水の如き一言。それはスンゲに沈黙を与え、同時に生じた怒りという圧が、稲妻轟く戦場にのたうつ。
『……何だと……?
 えっ、いやなに、なんだお前!?』
 振り返る先に外部拡声器により声を発した美亜の戦闘機フロンティア――、とそれをがっちり捕まえるアリス妹の姿。
 まあ気持ちは分かるよね。
 動揺するスンゲだったが咳払いをして襟を正す。
『王が求めるのは死ではない、結果だ。だからこそ俺は結果を出す為に死すら厭わん、王はそれを咎める事もないだろう。
 王! それは天を戴くたった一人の存在だ!』
 雨穿つ戦場はもうすでにその勢いはなく、ちょっと動揺したけどその左手で高々と天を示すスンゲに迷いはない。どうでも良さそうに前肢でぬばたまの瞳を磨くアリス妹の上で、美亜はそうかと息を吐き瞳を閉じる。
 眉間に寄せた皺を取り、真直ぐ敵を見つめる為に瞼を上げて、彼女は高らかに宣言した。
『なら愚昧と愚王よ。自らの命も軽んじる奴に他者の命を預ける奴は居ない。そして、死を強いる指導者の何処に真実があるッ!
 ――アリス! の、妹!』
(はーいっ)
 既にエンジンに火は灯っている。アリス妹が肢を外すと同時に離陸したフロンティアはそのまま急上昇する事でスンゲの目を奪うが、即座に放たれたレッド・ドラグナーの弾丸は左肩の盾で防ぐあたり、警戒は怠らないといったところだろう。
(……こ、このっ……噛ませ犬みたいなポジションに……っ。
 泣きっ面をかかせてやる!)
 フラストレーションを溜めるシャナミアであるがこれも連携なのだ。チームに噛ませ犬なんていません。
 周囲に視線を走らせるスンゲは、集まる猟兵たちとの距離を確認しつつも怒りを抑え切れずに声を張り上げた。
『舐めるなよ盲目な猟兵がッ!
 真実とは嘘偽りのないただ一つの正義だ! 正義とは己が為すべき志であり、志とは身命を殉ずるに値するッ!!
 大義は!! 我らの志を寄り集めた大火なり!! 王に捧ぐ大義を!! 許さんぞお前らああああああああ!!』
 凄い怒ってるやん。
(凄い早口ねー)
(そんなに大声出さなくても聞こえるわー)
(喉の器官を損傷したりしないのかしらー?)
(お前らって言ったのー? 言ってるの美亜さんだけよね~?)
『大いなる始祖の末裔、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだ!』
(凄い早口ねー)
『やかましいっ!』
 ぴーちくぱーちく、という形容が相応しい足下から発せられるアリスたちの思念波や、それを聞きつけた美亜の言葉に青筋を立てるスンゲ。
 まあこれも、相手の集中力を欠く事が出来れば幸いだ。
 既に雨は上がった。迫る目標を前にして、チェスカーはシガーケースから取り出した野菜スティックを咥える。
『そろそろ行くか。ウタ、ついて来れるな?』
『そっちこそ遅れないでくれよ。何たってタイミングを合わせなきゃならないんだぜ?』
 気楽な様子のチェスカーに呆れ気味のウタ。並走する二人はザンライガに合わせて出力を調整するビッグタイガーという様相だ。背面から噴き出す炎がこの重量物を移動させているが開けた場所だからいいものの、先の施設内や市街地ででも見れば壁が迫って来るようなものだ。
 銃を構えて硬直状態であったレッド・ドラグナーとオブリビオンマシンであるが、敵も当然こちらに気づいている。頭部がこちらに傾けられるのを合図に、チェスカーは唇の端を持ち上げ、ウタは歯を食いしばった。
『イグニッション!!』
『ブースター!!』
 ウタは自らの獄炎を翼と開き、チェスカーは重量機用のブースターを用いて加速、最大出力でオブリビオンマシンへ突撃する。巻き添えを食わないよう引くレッド・ドラグナーの動きに一抹の不安を覚えたスンゲだが、優先すべきがこの二機であるのに変わりはない。
 真向から見据えて動かせぬ右肩に鉈を中腰、横薙ぎの構えを見せてから左手へと移す。
(劣勢には小手先かい。そりゃ右手が使えないなら左手、だが左には盾がある。わざわざ右の損傷を晒す事を強調するってのは、何か策がある――。
 と、俺たちに教えている訳だ)
 つまりは心理戦、故に小手先。
 敵の目論見を看破するチェスカーはウタの名を叫び、同時にザンライガは飛ぶ。
『おおっ!?』
 よもやの動きに戸惑うスンゲへ先程はよくも踏んでくれたとばかりのウタ。だが例え上下に別れて急襲しても、それだけで効果的な一撃を加えられるとは限らない。
 胸部装甲が展開し、同時に迫り出す四門の大口径機関砲。
 対するオブリビオンマシンの背面推進器も迫り出し、回転する。
『!?』
 炎を噴き上げ輪を描き、自らの体を浮かせる推進力に合わせて後方へ小さく飛ぶ。
 コケ脅しの時間稼ぎ、にしては開く間合いが余りにも小さい。考える隙を与えず、オブリビオンマシンは空中で振り上げたその足を、着地と同時に地面へ叩きつけた。
 衝撃に舞う粉塵が、ウタとチェスカーの目からその巨躯を覆い隠す。先程まで雨が降っていたのだ、この土煙など予想できるものではない。
 ならばなぜか。当然、例の推進器による噴射炎だ。コケ脅しという意味は勿論あっただろう、だがそれは足下の地面を焼く事で固め、踏み砕き粉塵とする事にあったのだ。
(が、あの背後の赤いキャバリアからは丸見え、動きの報告は出来るだろう。時間があればな!)
 狙うは正面、ビッグタイガー。加速したその鋼鉄を引き裂くべく砕けた鉈を振り上げる。すでに位置は捉えている、後はただ猛進し斬り裂くのみ。
 躊躇無くば失敗はない。
 相対距離の算出など当に終え、敵が警告を受けるよりも、警戒するよりもなお早く踏み込むのだ。
 粉塵引き裂いて躍り出たオブリビオンマシンに覚悟を乗せた鉈はただひたすらに振り下ろされて――。
 空を、斬った。
『……馬鹿な……っ!』
『ぎっりぎりだぁ!』
 掠めるよりも寸前で、まさに紙一重の回避を見せたチェスカーは己の足を突っ張っての精一杯の減速であった。
 とはいえ勢いを全て殺せた訳でもなく、そのまま抱き着くように飛び込んだビッグタイガーの体当たりにたたらを踏むオブリビオンマシン。中途半端とは言え速度がそのままであれば敵を押し倒す事も出来たろう。
 最も、その場合は脳天とでも言うべき砲台ごと胴体に深々と一撃を入れられていた事になるが。
『目隠しをした時点で? いやそれですらも間に合うはずがない!』
『スンゲ・トブゼ! あんたが強いってのは認めるさ。けどなぁ!』
 相手が悪い。
 叫ぶウタ、装甲板で揚力を得て飛行するザンライガより放たれる無数の銃弾。盾で頭上を防ぎ身動きの取れなくなったオブリビオンマシンへ食らいつくのはビッグタイガーの電ノコとレッド・ドラグナーのツインバレルライフル。
 上空前後と弾丸に曝されても、頭部を保護し敵位置を確認できれば問題ないとばかりのスンゲ。さすがに無防備な背面に攻撃を受けて推進器は使えないと考えたか、やおら左足を軸に横方向へ折り曲げると意表を突く側転を見せた。
『相手が悪いって聞かなかった!?』
『痛ァい!?』
 オブリビオンマシンの側転に向けて繰り出されたのは、何とレッド・ドラグナーのローキックである。カイトシールドを投げ、そこに合わせた蹴りは盾の質量を足し強力な一撃となってその頭部を揺らす。
 回る視界に走るノイズ。
 立ち上がり自体に問題はないが、状況把握の手段が弱まり動きが止まる。ならば、その横腹に叩き込まれたのはビッグタイガーの足刀だ。
 鋼が悲鳴を上げるように軋み、今度こそ堪らず倒れ込んだオブリビオンマシン。スンゲはその身に受けた衝撃よりも、何よりも自らの打つ手、打つ手の全てを上回る一手で悉く差し返される衝撃をその心に受けていた。
 自らの志に誇りを持ち、それを支える己の力を真向から圧し折られるのだからこうもなるだろう。その支えを持って単身、敵地で堪えて来たというならばなおの事。
『……あ……有り得ん……何故だ……何故、こうも……! この俺が!』
『猟兵、を甘く見ていたという事だ』
 崩れ落ちる機体の傍に立つのはヴェルデフッド。蹴り飛ばされた位置に彼がいたという事は、そのまま追撃を入れるも可能だったと知らしめる為だろう。
 語る晶、ヴェルデフッドより更に上空。そこには空に光を湛えて静止するブルー・リーゼと、その頭部に接触するドローン・マリオネットの姿があった。
 魔力を介してスンゲと繋がるシル。彼女がスンゲの思考を読み取り、直感的情報を全ての猟兵へと伝達していたのだ。無論、スンゲの心の全てを読む訳ではない。あくまで彼の意識の流れ、淀み、注視しているもの、そういった感覚的情報だ。
 それを今までのスンゲの行動理念の解析に努めた錫華を通す事で敵の行動を予測し先読みをする、彼の動きを上回っていたのはこの絡繰りがあったればこそ。
『降伏しろスンゲ・トブゼ。人的被害は出ていない、今なら』
『俺に退路など――、無い!』
 装甲下部より撒かれる炸裂弾――、煙幕かそれとも超小型爆弾か、小手先の目晦ましに粉塵を使っていたが、手をまだ残しているあたり本当の試合巧者と言えるスンゲの行動も、「いただきまーすっ」と地中から飛び出したアリス妹たちが口に入れて地面に潜っていく。
 その様はまるでイルカショーとも見れる。ちょっとした地震が起きたので爆弾だったご様子。まあ彼女らの甲殻や体の構成ならあの程度の威力ひとつではちょっと口を痛めるぐらいだろう。少しくらいならいいよね。
 これもまた、シルや錫華の情報を受け取った故の先回りである。
『…………。
 それで、悪足掻きは終わったか?』
『そう思うか?』
『いいや』
 伝達される情報に、スンゲが投降するつもりがない事は理解している。沈黙する両者の間に不意の笑いが訪れるのと、ヴェルデフッドが銃口を向ける瞬間は同時だった。
 片膝を着いた状態から繰り出された後ろ蹴りをステップでかわし流れのまま反撃する粒子弾。対して牽制の蹴りの後、鉈を持った左手で倒立。ヴェルデフッドのライフル光をかわし様、勢いを加えて立ち上がるオブリビオンマシン。
 舌打ちすらせず眉を潜めるだけで、二挺の銃口から次々と光を閃かせた。まるで足下が揺らいで崩れるような動きでゆらゆらと、その全てをかわすオブリビオンマシン。
(人型とは思えん動きだが、それを操るのも流石と言わざるを得ないぜ!)
『お前らのやり方は分からんが! どうやら行動の起点が分かるだけのようだな。ならば後はこの腕一つで上回ればそれで良い!』
『良い開き直りだ、立ち直りも早い! 兵士として優秀なのは敬意を表せるが、それだけじゃ越えられないのが猟兵だ!』
 巨体を思わせぬ回避力は既に織り込み済み、消耗しているとは言え接近戦をするつもりはない――、晶は。
『一人じゃないから猟兵ってんだ!』
『読めないとでも思うかこの俺が!』
 炎の翼を解いたザンライガはその機体から湯気を噴き、落下しつつ機関砲を乱れ撃つ。範囲を拡げた濃密な弾幕には可動域も関係ない。対して再びの盾を構えたスンゲは跳躍、迫るビッグタイガーを踏み台に更に跳ぶ。
『今度はこっちか!』
 踏み台にされて沈み込んだ上体ながら、即座に電ノコで反撃する。さすがに一射目から命中とはいかないが、当たらないのも姿勢次第。即座に立て直して下方から連射するビッグタイガーと、同じく支援射撃を行うレッド・ドラグナー。
 それを物ともしない装甲任せでザンライガを左腕一本で叩き飛ばし、鉈をレッド・ドラグナーへ投擲し射撃を中断、火線を一本に集中させる間に着地する。
(装甲を見て、攻撃を受けたまま攻撃しかねないビッグタイガーより、私が避けると踏んでこっちに投げたワケかっ)
 盾があるとはいえ、わざわざそれを受けていては身が持たない。
 理屈は分かる。だがそれで収まりがつかないのが感情だ。フラストレーションの溜まるシャナミアの爆発点はいつになるのか、暴発だけは止めてくれよと施設内でのやりとりを思い出すチェスカー。
 そんな彼女であるが着地の瞬間、膝を歪めて僅かに体勢を崩すオブリビオンマシンに注目。左膝、そして左鼠径部から生じた火花を見逃さず、シルから伝達されたスンゲの焦燥に弾き出す答えは。
『左足だ。左足の関節、弱くなってるぞ!』
 おそらくは最初の錫華の作戦によりアリス妹が発射した砲弾。無防備に晒された下半身への直撃が関節部への損傷に繋がったのだろう。そこへ全身を満遍なく銃撃され、更には高所から推進器を使わぬ自由落下。
 ここまで来れば異常が出ない方がおかしいというものだ。
『はっはっはっは! だから何だ。真正面から突き破れるのか、この装甲を!
 俺はまだ戦える、例え足をが動かずともなぁ。ヒット・アンド・アウェイなどと生温い攻撃が間断なく続いた所でこの俺は!』
『ほう、そんな生温い攻めだと思っているのか』
 スンゲの言葉に、今、哂うのは美亜たち猟兵の方だった。
 足が止まり、高機動戦が出来なくなったなら。今までの攻撃方法が変わるも当然である。雲の切れ間より注ぐ光の柱、その間を抜けて優雅に飛ぶフロンティア。そこから投下されるのは一発限りの爆弾。
 否、ここではボンバーと言うべきか。音をたてて落下するそれも高機動戦であれば当然と当たる事は無い一撃のはず。だが機動力の落ちた今、そして初めての攻撃であるからこそ。
『……この……音は……?』
 周囲を警戒するスンゲに攻撃を受け続けたオブリビオンマシンの集音機能では外部の音声を鮮明に捉える事も出来ない。このタイミングで来る爆弾の音などは。
 直撃、炸裂。
 右肩に落ちたそれはしかし、火薬量を抑えた目晦ましである。チャフが拡散され索敵器は勿論、視界すらも奪われたオブリビオンマシンへ、突撃をかけたのはザンライガ。炎の翼はなくとも自前の推進器で、代わりとばかり振り被る右腕より展開した装甲から噴き上げる炎は金翅鳥を纏い黄金を発する。
『ブチかますぜ!!』
 大きく踏み込んだ左足。己の獄炎で焼けた後の鋼の体は泥を焼き焦がして地面を揺らす。蹴り足すらも豪快に地面を砕き、放つはストレートではなくフルスイングの右フック。
 目を潰した後とは言え、背後などではなく真正面から正々堂々の一撃は左の大盾に穿たれた穴をぶち抜いて熔解、そのままの勢いで左肩の装甲すらも熔解した。緩衝材さえ瞬時に沸騰硬化したオブリビオンマシンは殴り飛ばされ、それでも倒れぬその機体。
『あああああっ! それ私がやりたかったヤツー!!』
『い、いやそんな事を言ってる場合じゃあ』
 シャナミアの叫びを背に装甲版を前面へと可動、砲撃形態へ移行するウタ。
『――殺す』
 まるでこちらを無視したやり取りは激怒を超えて遂には冷静になったのか、殺意だけを含ませたスンゲの血走った目はノイズだらけのモニターを睨みつけ、殴りつけた相手がいるであろう場所へ向き直る。
 反撃出来る気でいたのだろうか、闇雲にでも殴りかかればと。そんなに甘くはない、そう猟兵たちが哂ったように、オブリビオンマシンが反撃に転じる間を与えず着弾するのはフロンティアの主砲だった。
 ボンバーの投下後、その身を切り替え地上へ降下していたフロンティア。地上に擦れるかと思えるほどの低空を迫る銃を象った戦闘機。先端部より砲撃する主砲の威力は凄まじく、小型である戦闘機の機首がそっくりそのまま砲台となっているのだからサイズ以上の力があるのは確実だ。
 実際、正面からであるにも関わらず直撃した主砲の一発で、ザンライガへ向かおうとしたオブリビオンマシンの動きを押し止めたのだ。
 射撃と同時に空の排莢はそのまま、回転式弾倉が次弾を備える。
『シューティングゲームで死ぬ事は前提だ。だが、死に場所を求めて死ぬのではない』
 初弾たったの一発で止まる事無く、立て続けに四発連射。だが相手はスンゲ、猟兵の追撃は勿論あるだろうと左肩の盾を正面に向けた。
 ザンライガの黄金の腕により熔解された盾を。被害状況を知っていればスンゲは無理をしてでもかわす選択をしただろう。だが目も耳も潰された今の状況で、スンゲは選択を誤ったのだ。
 苛烈な攻撃がある。美亜の宣言が彼の心に突き刺さった事も影響しているだろう。かわせないと。
『生きる道を求めて散るのだ。戦いとは生還があってこそ。そうだろう、スンゲ・トブゼ!』
『がああああああああっ!!』
 熔解した盾の穴はまだ赤熱して柔らかく、立て続けの砲撃が遂にはオブリビオンマシンの大盾を粉砕した。爆裂する衝撃に動かせぬ自らの状況、一度は冷静になったかに見えた男も獣の如く吠えた。
 追い詰められれば追い詰められる程、人の本性は表れる。
 ならばこの獣のような戦いへの執念を、幾度となく見せる姿こそ彼の本性なのだろう。兵士として、戦場と死地を求める男が今まで鎖に繋がれていた事の方がおかしかったのだ。
 この男は、このような役をすべき性質ではなかったと。
『殺す! 殺す!! お前ら全員この俺が!!』
「無理な事は、言うべきではないですよ」
 激昂するスンゲへ淡々と。集音機能の殆ど潰されたスンゲに届いたのは、その声が機体に近かったからであろうか。
(この声っ、あの生身の二人組、女の方か!)
 フロンティアの主砲でチャフを吹き飛ばされて、ノイズも治まりかけた視界を巡らせ姿を探すも見つからず。
 まともに動けず探知系を破壊されたキャバリアなど、妨害機能を使わずとも死角だらけなのだ。
「――風は、起こる」
 直下より直上へ。
 吹き荒ぶ桜の花びらはノイズを抜けて、スンゲの瞳に焼き付くのは桃色の光。
 オブリビオンマシンの頭上で桜と開く桜鋼扇、くるりと回る桜花はその手に花びらを咲かせてオブリビオンマシンを――、スンゲを見下ろす。
 視界が回復したのか、桜に誘われるまま顔を上げていたオブリビオンマシンの左胸部装甲が落下するのはその瞬間だった。
 猟兵らの連携により硬化した緩衝材、そこを逃さず狙撃したノエルにより生まれた隙間は更なる攻撃によって広がり、桜花はその隙間を潜り抜けて胸部装甲を支える支柱を切断した。何度も攻撃を受けて歪み、耐久性を失ったその支柱を。
『――な……んだと……?』
 見下ろしたスンゲの視線に映るのは装甲ではない。アリス妹らが「せいせいせーいっ」と組んだ前肢を足場に跳び込んだ、レイ・オブライトだ。トレードマークの帽子はその内の一匹に被せて確保しつつ。
 正面から真直ぐに。フロンティアの主砲の爆炎も物ともせずに。右拳を構えた男が見つめるのはスンゲではない、自らの打突すべきただ一点。
(……く……来るのか……? ……装甲の下でもない……生身のまま……)
『――この猛火を越える気か!?』
「オレの身を守る備えを気にしてくれているのか?
 知らんな。あんたと違って、孤独な戦場でもないんでね」
 返す笑みは余裕そのもの、スンゲのように哂う必要はそこに無い。レイの言葉はそのままの事実で、己が槍としても続く槍がある事を示していた。
 そしてこの槍が折れようと、必ず仲間が起こしてくれる事を。
『これが、猟兵――』
 衝撃。
 硬化しても分厚い緩衝材。それを人外モンスターズの力も借りているとは言え拳の一発で見事にぶち抜き、その衝撃は風となってスンゲの体をも貫いた。
 まるで人の筋肉とばかり爆ぜて内から外へばらばらと弾けた緩衝材は、レイの拳で破壊された内部骨格をも露わとする。
「殺害は極力避けて動く、オレなりの『おしとやかな方法』だ」
『――侮辱か猟兵!』
「ぐっ!」
 そのような衝撃を与える拳である、反動も凄まじい。弾かれるようにしたその体の滞空時間も勿論長く、飛行能力のないレイにとってそれは一見、無防備な時間そのものだった。
 目前の機会を逃す事があろうか。体に燻る火すら動じないデッドマンも、自分の体重を遥かに超える巨大な裏拳を受けてはどうしようもない。
 骨が砕け肉が潰れ裂ける音を鋼の拳から伝え聞く。
『はっはっは!
 どうした、それが孤独じゃない戦場と宣った結果か!?』
 勝ち誇る様子のスンゲに返す言葉もなく、弾き飛ばされたその体を桜花が受け止めた。その衝撃ですら肉がぐずつくほどにぼろぼろだ。
「レ、レイさん、大丈夫ですか?」
「……ああ……仕掛けは完璧だ」
 そんな状態であるにも関わらず、レイの顔から笑みは消えていない。
 本来なら。例え中空であってもその威力を軽減できるよう受け止めるか、もしくは受け流すかするのがゴッドハンドだ。それが分からない程にまでスンゲは追い詰められている。
『ふっ、露出した内部構造か。骨格下にも支える為のプレート程度はあるだろう。しかし、内部を冷却するラジエーターまで囲んでしまうように装甲を張る事は出来まい。
 背面に可動式のメインスラスター、ならばあるのは前面だな?』
『…………』
『――! そこだよっ、レイリスさん!』
 カマをかける美亜の言葉。おくびにも態度に出さぬスンゲだったがそれもシルの前では無意味だ。
 狙いをつけた彼女の照準位置にゴーサインを出すシル。それを受けて美亜は見開いた目に唇を吊り上げる。
 獲物を前にそのような事、二流のする事だと人は言う。
 だが表情と言う情報は、それだけで人を攻撃するに足る。例え見えずとも伝わるのが気配なのだ。
『!』
 攻撃の気配を察したスンゲが向き直る。狙いは正面、射角良し。照準に合わせて向き直ってくれた事に感謝するでもなく、弾倉に装填された最後の一発を弾くと同時に船首を切り正面進路より外れるフロンティア。
 放たれた弾丸は狙いを外す事なく、冷却機関を食い破った。
『おっ、あああああああ!』
 直撃部から炎を噴き上げ後退るその体、内部からの爆発に残った胸部装甲も大きく引き裂いた。
 よろめく巨躯にもはや、初めの勢いなどあろうはずもなく。
『はい足下――、て、先程も言いましたっけ』
 淡々と告げるノエル。確かに施設内でも転がした台詞であるが、今回はあの時と違いプラズマライフルによる狙撃だ。それも最大限までチャージした最高出力。
 落下時の狙撃とは違う。狙った場所も損傷を受けた左膝である。どてっ腹から出火している状態で回避など出来ようはずもなく。
『――……ッ!?』
 損傷した装甲の隙間を狙い、貫通される粒子の一条。照射された一撃は内部骨格ごと伝達系を焼き潰し、体勢を崩した事で自重のかかったオブリビオンマシンの膝は完全に破壊された。
 崩れ落ち、手をつく巨体は両肩の損傷からその身を支え切れず、遂に、遂には地に伏したのだ。
 同時にそれはスンゲにとって屈辱に屈辱を上塗りされた瞬間である。
『……ご……かっ……お前、ら……猟兵……ッ!』
『よう、スンゲさんよ。悪足掻きは終わったか?』
『…………! くくっ、くっ。いいや?』
 憎悪と怨嗟に満ちたスンゲの呻きに、晶は先と同一の問いを行う。
 否定するスンゲの言葉に反応したのか、ずたぼろの巨躯から、まるで舌なめずりするように現れる配線や骨格が、まるで触手のようにのたうち回る。
 急速に撃ち出されたそれは脱落した胸部装甲は勿論、破砕された大盾などその身から生じた破片を絡め取り、自らへと引きずり込む。
 オブリビオンと言うものは。
 顔を歪める晶は思わず吐き捨てるようにしてスンゲへ言葉をぶつけた。
『あんたの思想や行動、言動をとやかくは言わねぇ。勝てば官軍、負ければ賊軍、それが戦場の真実で答えだ』
 それは誰もが思う言葉。だからこそ勝利に命を賭し、道を拓く為に命を失い、掴んだ栄光で命を紡ぐ。
 だが、あえて一つ。あえて一つを言うならば。
『どんなに恥辱にまみれようが生きるのを諦めない。最後の最後まで自身で、仲間で、目的を達成しようとしないお前は、負けるぜ』
『…………!』
『ウィリアム、EMP出力最大! 派手にぶっ放せ!』
 オーケイ、マスター。
 心強い言葉が操縦席に響く。ヴェルデフッドの五体に力が漲り撓むと、解放と同時に放たれた電磁波領域が衝撃波を伴って地面を捲り上げ粉砕した。
 機体を中心に広がる領域はオブリビオンマシンの触腕を引き千切り、取り込もうとした装甲を弾き飛ばす。
『だったらどうしたぁあ!』
 各部からオイル液を血液のように滴らせて上体を起こし、スンゲが絶叫する。
 幾らオブリビオンマシンとは言え限界がある。その回復力も素材が無ければ元通り動く事も出来やしない。自らの体の余分な装甲を駆動系に回していようが、もはや死に体。
 故にその執念を認めざるを得ないのだ。
『これ以上再利用なんてさせないぜ。もう一度やるぞザンライガ!
 ザンライガキャノン拡散放射、フルレベルだ!』
 砲撃形態への移行は終えている。後退するヴェルデフッドを合図に螺旋を描くような光が砲身に吸い込まれ。
 直後に赤光がウタの言葉通り拡散された。
 熱風が戦場を覆い、濡れた芝生をも焼き焦がす。焦土と変える程の力はない。ただ、眼前にあるオブリビオンマシンを焼き、そして粉砕された破片材の全てを熔解していく。赤熱する鋼が風と共に散り消えた時、残るは焼け焦げたオブリビオンマシンが残るのみ。
 レベルは違えど三度ものザンライガキャノンの使用。熔接されてしまった装甲板を自らの腕で引き剥がし、支柱を圧し折るザンライガもまた胸部を熔解、接合されたように開く事もないだろう。
 既にその必要もないだろう相手に見えようが。
『……ここまで……されるか……』
 ザンライガキャノンにより溶けた装甲表面は波を打ち、黒く煤ける。
 だが起つ。
『……まさか……この俺が……』
 機体各所から散る火花は今現在も、その身を焦がし消耗している事を伝えていた。
 だが起つ。
『……この、俺の……分け身たるキャバリアが……』
 音を起てて、それでもなお崩れぬ鋼鉄の鬼。
 それが今。
『――くぉの程度でえええええええっ!!』
 起つ。
 獲物を求めてのたうつ触手を背に、圧し折れた頭部に残る隻眼が赤い光を灯す。
 砕けた左足に右足の力だけで立ち上がったそれは、自らの胸を引き裂いて操縦席を晒した。ヴェルデフッドの攻撃により完全に目を失ったオブリビオンマシン、ならば自らの目を使えば良かろう。
 煤に塗れ火傷を負ったその顔に、血走った双眸だけがぎらぎらと輝いていた。
『スンゲ、……あんたもう……』
 取り込まれているのか、オブリビオンマシンに。砕け落ちたはずの左足が内部より骨格部分だけ伸び簡素な物へと変じ回復していくその姿。
 ウタの言葉を男は哂う。取り込まれているなどと、そんな事がある訳がないのだと。
「お前らは分かるまい。こいつは俺なんだ、そう、……俺なんだよ……!
 この国の備品として保管され、ただ分解されて資材になろうとしていたこいつは。元がもはやどの国の所属だったのかも分からないこいつは!」
 それだけの存在だったはずのマシン。
 戦場を流離い、敗北の歴史の生き証人となってしまったマシン。
 死に場所を奪われ続けたマシン。
 兵士としての戦場を奪われ、敵国で生きる事となった自らを重ねたのだろう。その想いは身を焦がす程の激情となり、オブリビオンであるこのマシンと繋がっている。戦場を渡り歩いたこのオブリビオンマシンはその感情を食らい、経験を共有し、こうして強大に育ったのだ。
「俺はこいつの魂だ! こいつは俺の体だ! 俺たちは一心同体の志士なのだ!!
 限界などあるものか! 起てば成る! 我らこそが王に捧ぐ大義の具現、顕現なり!!」
『なーにーが一心同体ですか、アホくさい。オブリビオンがそんなの気にしますかって』
 ぼそっ。
 思わず呟いた摩那に向けられるのはスンゲの凄絶な笑み。「やっべ」とばかりに顔を逸らすついでにエクアトゥールもまた顔を逸らす。
 明らかに不必要な動きを見せたのはスンゲの神経を逆撫でする為だろう。
「……オブリビオン……オブリビオンマシンだと? こいつが?
 はっはっはっはっはっ、そんな訳がなかろうが!」
 叫ぶ。
 ならば何故、自分に力を貸すのか。何故、こうも支えとなるのか。人を狂わし喰らうオブリビオンマシン、ならばこんな形にはなら無かろう。
 男の主張を心底呆れた目だけを向け聞いていたが、やがて溜息を吐いて再度スンゲへ向き直る。
『どっちにしたってもう限界です。食べるものが無ければ喰われてしまうだけの話。シルさん、行きましょう。もうアレの心と通じる必要なんてないですよ』
『……そう……だね……』
 疲れた様子を見せたシルはブルー・リーゼの頭部に載せていたマリオネットを引き離し、ゆっくりと地上へ舞い降りた。
『全く、どうするよ?』
『仕掛けは終わってるって話ですから、もう決着は付いてるワケで』
 向こうはやる気も満々ですけど。
 重い体を引き摺るチェスカーに答えて、摩那の視線は空を行く桜花へと向けられていた。
 さて。
『ステゴロ上等! なーんてつもりですか。ホントーに下らない、どうしようもない見栄に命を張るなどと、だからどうしようともう既に終わりが来てるんです。
 何をした所で終わりって、見れば分かる程の所まで突っ走って来てるんですから。食べられちゃう前に引きずり出させて貰いますよ、スンゲさん』
「み、見栄だと? 俺のこの志を!?」
『あーもう、そういうのいいですから!』
 全くもって面倒だ。見栄も、理屈も、志に大義とやらも。
 だからシメよう、この戦場を。戦いの場を。下らない闘争を。
 その結果がどう転ぶかは――、すぐに分かる。
「おや、シャナミアさんと――、そういえばアリスさんが見当たりませんね」
「ああ、あの赤いキャバリアの。確かに」
 終わりとなるべき戦場へ、徒歩で現れる者もいる訳で。


●敗残者たちの責務。
「……終わりだと……? シメるだと?
 やってみろ。この俺の、俺たちの戦いを、出来るものならな!」
『…………?』
 男の言葉に違和感を覚えたのか、晶は目を瞬いた。ならば手早くやってやろうと殺気立つ摩那の意思を表して、踏み込むエクアトゥール。
 両の盾から伸びる光の刃。深く沈めた体のまま疾走するエクアトゥールと相対し、拳を構えたオブリビオンマシン。迎え撃つスンゲの顔から笑みは失われておらず、その余裕とも見れる姿が癪に障る。
「くぅうだけぇ!」
『テレフォンパンチってヤツですね!』
 放つストレートを軽々と跳んでかわし、前転の要領で振り下ろされた二本の刃は溢れるように長大化。オブリビオンマシンの肩口を斬りつけた。
 装甲の破壊された腕を斬るなど摩那のサイキックエナジーを基とする刃なら造作もない、と言いたい所だが分厚い装甲が無くともただ重厚な腕、切断とまでは至らない。
「つああああっ!」
『わっち、そんなの!』
 後方へと抜けるエクアトゥール、それを視線で追うように仰け反り倒れ。
 勢いを利用した蹴り上げをこちらもまた蹴りで返そうとして動きを止める。剥き出しの操縦席にもはや衝撃を防ぐ構造もまともに動作するとは限らない、そのまま倒れ込むオブリビオンマシンに一撃を加えてしまえば中のパイロットは。
「っぐう! はぁ、どうした猟兵、動きが鈍いな」
『……こ、こいつ……』
 やはりと言うべきか、跳ね回る体をベルトで固定して、それでも頭を強か側面モニターに打ち付けたスンゲ。傷など気にする様子はないが、彼の浮かべる笑みの意味に気づいて摩那は苛立ちを見せた。
 迂闊とも言える反撃の蹴り上げは感情に任せたものではなく、こちらの動きを見る為のものだったのだ。
 つまりは不殺、こちらを殺すつもりがないのかどうかを。スンゲは、自らを人質に戦おうと言うのだ。
『そこまでするかい』
『しますよ、それは。戦争してますから』
 咥えた野菜スティックをそのまま咀嚼するチェスカーに、狙撃の体勢はそのままでノエルは答えた。どれだけの被害を出そうと勝てばいい、その犠牲に特別扱いなどありはしない。例え自分の命であったとて。
 だが、そうなるとビッグタイガーの攻撃では過剰火力となりコックピットごと潰しかねないし、他の攻撃も同様だ。狙うならやはり狙撃だろうが、動きを止めるほどの攻撃を行うとなれば体勢を崩すだろうし、倒れ方によってはそれだけで挽肉になる。
『ゴリ押しは無理ってことか、こりゃあシャナミアにも釘を刺さないと、…………?』
 周囲を見回し、そこで初めてレッド・ドラグナーの姿がない事に気づくチェスカー。やっぱり皆が気にするシャナミア・サニー。
 小首を傾げる間にも、スンゲはオブリビオンマシンに遅々とした歩を進めていた。
「温い! 温いぞ猟兵ども。殺さずでこの俺を相手にする、どこまでもとことん侮辱し腐って!」
 言葉とは裏腹に笑いを堪え切れないその様子、強引な手段を取れないと分かっているからだろう。益々と癪に障る所だ。
『桜花さんとレイさんで、スンゲさんをコクピットから降ろす事はできないの?』
『レイさんはとても動ける状態ではありませんし、私もレイさんがオブリビオンマシンから離れないように移動と保護をしているので……すみません……』
『ああっ、いいよ、大丈夫だよ!』
 申し訳なさそうな桜花の答えに慌てて手を振るシル。上空ではオブリビオンマシンを中心に桜の花びらが旋回しており、その中に彼女らもいるのだろう。アリスらの幼虫がこちらに通信を飛ばしてくれているのだ。
 実際の所、この二人が自由であってもここまで深く結びついたスンゲとオブリビオンマシン、無理に引きずり降ろそうものならそのまま機体へと取り込まれかねない。
『パイロットの保護、というなら私がどうにかしましょう』
『! 冬季か、今まで何をしていたんだ?』
 突然とわいた声に、思わず苦笑する晶。待っていたとばかりの彼に答えて歩くオブリビオンマシンを、更に遠巻きに歩きながら観察する冬季。その頭、帽子の上でトランポリンのようにぴょんぴょこ跳ねているアリス幼虫。
 その隣にはレイからの帽子を預かったアリス妹が「どっちが良さそうかしらー?」と勝手に比べっこをしており、更にまたその帽子を勝手に被っているのはたまである。
 中々と混濁したお連れはさておき、もはや立ち上がる為に、歩く為に機能を集中させた敵機に先の運動性能はあるまい。排圧管も圧し折れ、あるいは可動すらせず機能は失われている所を確認すれば当然とも言える。
『美――、レイリスさんの作戦に合わせて動きますので、敵をそのまま叩いて下さい。ある程度は全力で、機能停止を狙って貰った方がやり易いですね』
『大丈夫、それ?』
『ええ。そちらこそ頼みますよ、錫華さん』
『むう』
 不安を見せた錫華へ逆に励ましの言葉を送る。彼女もまた美亜の作戦に絡んでいるのだ。
『ワタシからは特に何もないぞ!』
『了解だ。…………、いや何で発言した?』
 当然とばかりに胸を張り、髭にじゃれつくアリスの幼虫を無線代わりと摘まんでたま。晶もそれを受けて頷き、思わず肩を落とす。
 が、とにもかくにも材料は揃った。作戦を決行する為の材料は。
 腹を据えるしかないな。
 ウタの言葉に頷く猟兵の面々。ノエルは望遠へと切り替えていたモニターから目を離して眉間を揉み、小さく息を吐く。
『機動力でいきましょう。動きを止めるのは私と晶さん。直接攻撃に摩那さん、シルさん、美亜さんで』
『大いなる始祖の末裔、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだ!』
 アッハイ。
 こちらはお留守番かとウタは拳を掌に打ち付け、チェスカーは頭の後ろに腕を組んで背筋を伸ばす。ザンライガはその攻撃にブレイブキャリバーの力を乗せた事で限界を超えており、内部機関も予想外の損傷が生じているかも知れない。
 だがやはり、先と同じく過剰な攻撃力と機動力の低さから殴り合いに発展してしまった場合を考えてだろう。
『…………、まとまりましたね』
 全員の様子を見て一言発する摩那は、再び盾にサイコエネルギーを纏わせた。
『まずは足、敵機右側方から右足を斬り抜け、左足を崩します。シルさんは右足に追撃をお願いします!』
『……スンゲさん……、うん、やれるよ!』
 では。
 同時に地上を駆けるエクアトゥールとブルー・リーゼ。二機はオブリビオンマシンを正面に捉えて燕のように左右へと展開、飛翔する。
 確固たる信念を持った動きだとスンゲの顔から笑みが消えた。
「殺す覚悟は出来たようだな。ならば見せてくれる、路傍の石たる俺の覚悟を――、そっち!」
『わっ、とと! いちいち言う事が大袈裟なんですよ!』
 切断といかずも両肩を斬り裂いて、なかろうと踏んでいた裏拳を繰り出されたものの速度を増す事で打点をかわすエクアトゥール。
 勢いのまま振り翳した二本の刃が、その身の回転に合わせてオブリビオンマシンの右足に纏わりつくように斬り刻む。
 脆くなった装甲を溶断し、赤々と焼けた傷跡。目印代りだとする摩那は移動を止めず回し蹴りを敵機の左膝へ決めた。
「おおっ!」
 沈む巨体に驚きの声。もう彼自身、キャバリアでの機動戦についていける状態ではない事が分かる。機体の状態だけでなく、明らかに反応速度も下がり、それでも戦う以上自覚はあるのだろうが。
 それでも退かない、覚悟を。
『スンゲさん、お願いだからもう止まって!』
「敵に懇願するのか!? まだ殺さずでこの俺を!」
 摩那の斬り抜けた装甲へエトワールを刺突する。緩衝材も貫いて右膝の駆動系を破壊すれば、両膝から前のめりに崩れ落ちる。倒れて堪るかとばかりに両腕で突っ張らせるスンゲ。今回はそれで堪えるのだから、裏拳を放っていた件も合わせて敵の回復力が上がっていると摩那の舌打ち。
『どんな策だかわかりませんが、急いでくれないと本当に!』
『十分ですよ、間に合います』
(そいやっ!)
 アリス妹がぺぺいっ、と地面を弾き飛ばして開いた穴より飛び出したのは黄巾力士。冬季と別れて行動していた黄巾力士はアリス妹らと共に地下を移動していたのだ。
 地面に手をつくオブリビオンマシン、その開いた胸元、操縦席へと黄巾力士が飛翔する。
「なんっ、だこいつは!」
 胸部へ取り付くそれに、操縦席に備えていた大口径のハンドガンを取り出すスンゲ。驚きつつも即座に対応する男の姿は的確と言えたが、相手は人間ではない。射撃した弾丸が跳ねて操縦席を暴れる跳弾となり、三発と撃たずに拳銃を無骨な人型兵器へ投げつける。
『冬季さん、無理やりの救出は!』
「あの方の命はどうでもいいのですが、ただオブリビオンの喜ぶ事をするつもりもありません」
 錫華の忠告はしっかりと聞き届いているものの、帽子をトランポリンに遊ぶアリスの幼虫がいい加減に煩わしかったのか、指で弾いてしまったので彼の答えが全員に伝わる事は無い。
 弾かれた幼虫は不満気だったが無事に土へ潜っていったので、土中の生き物やら生き物でないものやらを取り込んで立派なバイオモンスターへと成長する事でしょう。
 風火輪で空を飛ぶ冬季は立ち上がりかけたオブリビオンマシンと猟兵たちの間で声を張り上げる。
「スンゲ・トブゼさんは黄巾力士を中心に耐衝撃のバリアを形成し保護します。オーラを利用したものですので、こちらの作戦に支障はありませんよ。今の内にオブリビオンマシンを徹底的に叩いて下さい」
 とは言え限度はありますが。
 付け加える言葉を鑑みれば戦力変更の必要は無いだろう。なるほど良い案だと頷く錫華は、立ち上がるオブリビオンマシンを見送ってノエル、晶へ振り返る。
 言葉を発さず自らのアイカメラを指し、続けて敵機へ指を向けるヴェルデフッド。「常に見ている」、そう言うのだろうか。準備は変わらず万端と言い換えても良い、錫華は桜花へ言葉を繋ぐ。
『桜花さん、いけるよ。レイさんは?』
『…………、大丈夫のようです。カウント開始しますので、タイミングよろしくお願いします、錫華さん』
『ええ、任せて』
 気持ちの良い返事だと桜花は笑い、すぐに顔を引き締めて腕の中のレイを見つめる。元より血色の良い顔色ではないし、表情にも変化がない故に死体でも見つめているようだ。それでも彼の目だけが動き、自らの生存を報せてくれている。
「九」
 血と気泡を唇から吐くレイに、血液で喉が詰まって言葉が出せないかと、桜花は彼の視線に頷きカウントを開始。
 レイからオブリビオンマシンへ視線を変えて飛行、彼の体から流れ落ちる血液を味見するアリス幼虫を通して声が聞こえるよう、順次数を口にした。
「五」
「……くそっ、前が……退かんか木偶!」
 体を固定するベルトを引き剥がし、操縦席から落ちないようにと両手両足を突っ張る黄巾力士の脇から視界を確保するスンゲ。
 随分と無理な姿勢だが再び歩行を開始する彼に、もう上空を気にする余裕はない。ただ目の前の誰かを、ただの一機でも。
「一!」
「!?」
 桜花がカウントを終えるのと同時に、オブリビオンマシンがつんのめった。頭であるスンゲの命令を拒否するような駆動系の異常に、彼は操縦席から転げるが黄巾力士から張られたバリアのお陰で外に落ちる事もなければ、その衝撃も吸収されて痛みもない。
「何がっ、何が起こった!? 限界が来たとでも言うつもりか、そんなものはとっくに超えているだろうが!」
 混乱するスンゲは自らの操縦に抗うかの如きオブリビオンマシンを怒鳴りつけた。敵機を上空から見下ろして、半壊した体のままレイは目を閉じる。
 自らの体の操作よりも、全ての集中、意識を割いていたのはユーベルコード【Radix(インヴィジブル・ハンド)】の行使によるもの。
 彼の纏う覇気を最大限にまで拡散し、内包する物体を操作する。硬質化し攻撃や防御に転換するそれは希薄化しても、不可視であるが確かに存在する力となって。
「……そうやって……改造を繰り返すんだろうが……ゾンビごっこも飽き飽きだ……」
 喉に溜まった血も吐き終えたか、喉元に出来た血の海を嬉しそうに跳ねている幼虫はさておき皮肉を言うレイ。
 今、オブリビオンマシンの内部に入り込んでいる異物は、レイの左腕だ。裏拳によって叩き潰されたレイの体の一部はへばりつき、操作された生体部品とも言うべきそれらは猟兵らの攻撃に傷つくオブリビオンマシンが内部へと取り込んだ。
 鋼をも貫く骨肉が今、オブリビオンマシンの駆動系へ突き刺さり動きを止めているのだ。長々と続くものではないと言え、覇気による防御もなければ圧壊するのみ、故に。
 ずっと移動を続けていた、その場所へ。
「どうした、何か挟まっているとでも。この戦いの中でそんな些細な――ッ?」
 小さな振動にスンゲは動きを止めた。異音、不可解な動作。この振動は爆発だ。
 内部で何かが爆発したのだと即座に判断を下したスンゲは内部の確認へと走る。操縦席からは黄巾力士の存在により出る事は適わない、モニターも全てヴェルデフッドにより潰された。調べるには伝達系の異常から読み取るしかないが、そう上手くいくものでもない。
 まさか、思いもしないだろう。己の叩き潰した男が、爆発物付きで内部に潜り込んで来るなどと。
 そして。
「…………? ……なんだ……なん、……っ……」
 内部を探っていたその指の動きに鈍りが生じ、瞼が重く。
 戦闘と言う興奮状態における体ならば早々と陥らない欲求、眠気が今の彼を襲っていた。怪我をし、出血し、疲弊しているのは間違いないがそれでも急激な変化である。
 普段ならば、ただの日常において苦も無く抑えられる欲求だ。そう訓練してきたのだから。
「……むっ……う……うぅ……」
『しばらく眠っててね』
 抗えぬそれは睡魔ではなかった。痺れの広がる体に鈍っていく感覚、意識。操縦席にしがみつく様にして沈黙するスンゲに錫華はその様子を確認して淡々と呟いた。
 抵抗できずに沈む体、本人の知覚も合わせその様子を例えて『眠る』と称しているのだろう。皮肉にも取れる言葉だ。
「上手くいきましたね」
「……ああ……」
 桜花の言葉に返し、ようやくとばかり緊張した全身から力を抜くレイ。彼が血塗れの顔を向けたのはブロムキィだ。
 レイの隠し持った爆発物は元より錫華の用意したものだった。中に詰まっていたのは最低限の爆薬と錫華の用意したオキナグサから成る毒の成分。普段なら【金鳳風舞(キンポウフウブ)】と舞い踊り、衣装に隠し持つその毒を撒くのだが相手がキャバリアに搭乗しているとなればそうはいかない。
 そこで装甲を崩し内部を破壊し操縦席へも亀裂が生じるほどの損傷を与え、潜り込ませたレイの毒付き腕を爆破、毒を蔓延させてスンゲへ至らせる事に成功したのだ。
 錫華はレイの視線に気づくとブロムキィの親指を上げて、その健闘を称える。
『これで目標二は沈黙、ですね』
『問題は目標一だがな』
 ノエルの言葉に答えて晶。彼の言葉通り、魂であるスンゲの操縦がなくともオブリビオンマシンはもげかけた頭部を繋ぎ直し、レイにより爆損した内部の応急処置も終わったか再び足を踏み出していた。
 背面の触腕は勢いを増し、隻眼の下に並ぶひびはまるで顎の如く割れ開く。焼けた鋼と配線の異臭が煙となって息吹き、獣と化した鋼が吠えた。
『その様が、実にらしいと言えるなオブリビオン!』
 美亜の言葉は正しくその通り、まるでスンゲの闘志が乗り移ったかのような出で立ちである。だがそれも、追い詰められた獣に過ぎない。獣であれば狩れば良かろう、すでにそれは兵士でないのだ。
『左足、貰います。晶さんは右足を』
『右なら手数だな』
 ノエルの言葉に連結していたビームライフルを解除、両手に構えて前へと走るヴェルデフッド。骨格のみと言えるほどの左足はエイストラの粒子弾で易々と切断、右足もまたエクアトゥール、ブルー・リーゼによる装甲へ受けた打撃をそのまま、手数で押し切るように撃ち砕く。
 三度と崩れ落ちたオブリビオンマシンがその両腕で倒れるのを拒み、足代わりと直立している。叫ぶ巨獣を前にして、摩那は何度目かの舌打ちわざとらしく大きく響かせ。
『と、失礼!』
 続く下半身を焼き潰さんとする射撃は前腕に残った装甲で受け止め、前傾姿勢へと移れば更に獣臭さも増す。
 摩那は後方支援の邪魔にならぬようひらりと空を舞いオブリビオンマシン周囲を回転、防御に使う両腕の動きを封じるべく肩を斬り刻んだ。
 悲鳴ともつかぬ遠吠えが大地を揺るがし、それはスンゲの心に突き刺さる。
(……聞こえる……我が身の叫び、震える声が……お前は……奴らの言う通り、オブリビオンマシンだったのか……)
 彼の指図を受けずとも起ち、歩くその姿は今のスンゲでは見る事も出来ないが、響く振動は被弾の衝撃だけではない。だからこそ察する事もあろう。
 勝利を。ただひとつの勝利を求め、死地に生き残ってしまった者たちの叫び声が、この操縦席に詰まっている事を。
 だからこそ選び、だからこそ信頼し、だからこそ共に駆けた。何の事は無い、己がそうであってように、これもまた求めているのだ。たったひとつでいい、その身に刻むべき勝利の二文字。
 その為にこそ、生きて来たのだから。
(……ならば……喰らえ……俺を……お前の、糧と、しても……!)
「――……ッ、勝利をぉおおおお!」
 スンゲの咆哮とオブリビオンマシンの遠吠えが重なる。
 悲願を! 求める戦場のこの場所で!
 隻眼から溢れる赤光は怪光となりて天を穿ち、共鳴する想いを力と成す。否、喰らってこそがオブリビオンか。
『攻撃を強めろ、スンゲが喰われる!』
 美亜の言葉に焦りが生じる。それでも過剰な攻撃は出来ないのが歯痒い所で、操縦席を守る黄巾力士は中にまで溢れ始めた配線類が操縦者たるスンゲを求めている事を察して千切りにかかる。
 加熱する火線、その間を縫い飛翔するブルー・リーゼは黄巾力士ごと胸部へと体当たりを決めた。
『スンゲさん、お願いだからそれに呑まれないで! 空を取り戻したいならマシンをはねのけて、あなたの言葉でしっかり伝えてっ!』
「……ぬ……」
 霞む目で振り返る男であるが、毒を受けて視界も暗い。ただシルの愚直なまでに真直ぐな言葉はオブリビオンマシンの衝動しか受け入れていなかったスンゲにも届くものだった。
 最後の足掻きとばかり、座席にしがみついた体を反転させ、荒い呼気でどうにか背もたれに身を預けて座り込む。
 座り直す事は出来ても、もう操縦桿を握れもしない。シルの言葉に応える気もないらしい。脂汗を浮かべた顔で苦しい笑みを見せるのみ。
『スンゲさん!』
『もういいですよ、シルさん! 敵の抵抗、闘志はそのままです。実力行使あるのみッ!』
 暴れる触腕を斬り落とし、ブルー・リーゼを守るべく立ち回る摩那への負い目もあり、説得を諦めたシルはエトワールを構えた。
 遺恨を残す事になるかも知れない。だが、これは戦争なのだ。どちらに転ぼうと争いの火種が燻っているのは争乱の常と言うべき事柄だ。
『故に熱に浮かれた戦場で人々の目は曇り易い。戦場の演出家の名は伊達ではないぞ、今の貴様には何も見えまいが、容赦はしない!』
 刻まれるのを拒むオブリビオンマシンに対して高らかに宣言する美亜。空を悠々と飛び戦場の情報を更新しているだけに見えた彼女、正確には戦闘機フロンティアの背後に揺らぎが生じる。
 まるでシーツを引き剥がすように姿を露わとしたのは熱光学迷彩搭載早期警戒機の群れ、これこそ【Operation;UNCHAINED(オペレーションアンチェインド)】。彼らの随伴により存在を秘匿していたものこそが、エネルギープラント中継施設内で彼女が発動する直前にアリス妹にかっさわれた代物。
『改めて教えてやる。Rとは、単機で敵中枢に潜り込み、戦局をひっくり返す存在だと!』
 【Operation;R(オペレーションアール)】。丸形のキャノピーに『101』と刻まれた巨大赤色戦闘機。施設内でこそ群れを形成し各所に隠れていた存在が、屋外に出た事で直前まで群体である必要を無くし、全てを合体した決戦兵器。名を【R-9DP3ケンロクエン】。機体下部に搭載された波動砲を運用する為の次元戦闘機である。
『波動エネルギーで撃ち出される【パイルバンカー帯電式H型】は全てを撃ち抜く。射程が短いのが難点だが、今回の場合広域破壊しないのは利点だからな』
 本来であれば施設内での攻撃による被害を増やさない為の一手であったが、施設外となればまた話は別。
『白兵戦の最中にあっても味方を巻き込む事無く、そして不必要な破壊を招かず狙い撃ち抜く――、ケンロクエン!』
 突撃をかけるフロンティア。それはあくまで後ろに続く、紅炎を二本の尾として駆けるケンロクエンの軌道を周囲に報せる為。
『邪魔ぁっ!』
 触腕で叩くオブリビオンマシンのそれを微塵に斬り捌き、肩口にサイキックエナジーの刃を突き入れた。手数で圧倒する、その考えでの攻撃も捌かれた傍から胴体に吸収し攻撃を繰り返す。
(手数はこっちが上で、しっかり敵の腕を削り取って。回復よりも攻撃が上回って!
 なのに攻撃が激し過ぎて動けないって言うのは!)
 左腕側に立つブルー・リーゼも同じく足を止めているが、こちらはエトワールに纏わりつく触腕に向けてテンペスタを向けている。
 摩那と同じく足を止めてオブリビオンマシンの攻撃に耐えているが、全くの膠着状態であり。
『レイリスさん!』
 それこそ彼女らの求めた状況。
『この一撃、止められるものなら止めてみろッ!』
 狙うは胴体、をそれて腰と下腹部。粉砕する、この一撃を。
 急加速するフロンティアはオブリビオンマシンを前に急上昇、そのままの進路であれば串刺しにしたであろう触腕をかわし、飛び込むのはケンロクエン。
 外れた触腕など何の脅威もない。先行するという事がどういう意味か、それに釣られるのがどういう意味か。スンゲならば即座に立て直しも利いたろうが、獣の如きそれでは不可能だ。
『ゆけ、バンカーッ!!』
 紅い彗星の先端が渦を巻き、現れた波動は世界を捩じる。
 生じたエネルギーは迸るを知らず、ただ砲口に集う事で瞬きの間にも質量を爆発的に増加させていく。
 重さとして換算されるエネルギーの総量、それがただひたすらに増える暴力的な力。
 ――あっさりと。
「…………!」
 余りにもあっさりと。
 ケンロクエンはオブリビオンマシンの下半身を粉砕し、まるで障子紙でも突き破るように貫通した。
『なあに衝撃を受けてるんです?』
 敵の渋とさについてはもう十分だ。ならば後は畳みかけるのみ、狂暴な笑みを見せた摩那の瞳に映る敵の姿にスンゲはいない。あくまでも伐すべきオブリビオン。
 摩那の中に猛るサイキックエナジーが荒神となって操縦席に吹き荒れ、髪を巻き上げた。まるで桜花が精霊化したような姿にも見えるが、それは不可視の力がその体より溢れ出ている証明と言えるだろう。
 力が荒れ狂う前に、美亜の見せた波動エネルギーの如く集中させる。踏み出した一歩、踏み込んだ力が地面を粉砕し、大地から噴出するは力の一端。
『……力場、確認完了……いきます』
 体の半分を失ったそれへ、下方から振り抜くアッパースイング。前隙も後隙も関係がない、力の限りの一撃は仲間による攻撃への信頼か。
 喰らって吹き飛び星に成れ。
 エクアトゥールの右拳がオブリビオンマシンの左胸に抉り込んだ。体の半分近くを失い装甲を剥がされたとは言え未だに並みのキャバリアを超える質量だ。拳ひとつに支えられるだけでも自重で大きく損傷するであろう敵機を、その拳で殴り飛ばす。
 ――【超重新星(シュペールノヴァ)】、必殺級の一撃は摩那の言葉通り敵機を直上へ吹き飛ばしたのだ。
「…………。
 ……ですから、限度はある、と……」
 大変気持ちのよろしいフルスイングとボールのようにかち上がった巨体を見送って、冬季は呆れた様子で呟く。
『いやあ、ちょっと拳に力が入り過ぎちゃいまして。あっはっはっは――』
 わざとらしい笑い声に合わせ、上空のオブリビオンマシンが爆発する。もしかしてマズい?
 さすがにかち上げた張本人である摩那の笑い声も当然と止まる。もしかしなくてもマズい?
『何だ、何の爆発だ?』
 その爆発を上空から観察していた美亜は機体を切替し回頭、船体を横へ倒して下方を確認する。
 機体そのものが爆発してしまったのだろうか、黒煙がとぐろを巻いているその場所で、全てが終わったのだと簡単に認めないのは指揮官としての器だろう。
 足を止めたのが命取りだ。
『!』
 黒煙を引き裂いて現れたのは、鋼の体と共に魂として叫ぶスンゲ・トブゼ。
「たったひとぉつ! 勝利をぉぉぉぉぉぉお!!」
 破壊された、と思い込んでいた推進器。この飛行で完全に爆損したが最後の最後にこの男は執念を実らせようとしていた。
 どれだけずたぼろにされようと戦闘機ひとつ、質量で叩き潰せるのだ。
『獲った――、とでも思ったか?』
 哄笑と切望、迫る巨大な掌を前にしてすら、憐みの目を向けた美亜は小さく息を吐く。
『そもそも私とフロンティアは囮でな。指揮官が前線に出るなら囮と相場が決まっている』
「……お、囮……?」
 黄巾力士の隙間から見つめるスンゲの顔に影が差す。それはフロンティアの物でも、雲でもない。
 音をたてて迫るそれは破壊への衝動を一切隠しておらず、その正体を知るのは簡単だった。
『だーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!
 待ちに待って待ち続けたわこの瞬間!!』
「ギィエエエエエ! ギイイイイイッ!」
(きゃーっ、すごいスピードよ~!)
「――おっ、おま……! またお前かぁ!?」
 雨雲が消えた快晴に、太陽を背としたレッド・ドラグナーは漆黒に染まってその形は異形と化す。それが、その背にひっついた現場監督アリスのこれでもかと積んだ銃火器の数々のせいであると気づくのに数舜と要らなかった。
 全ての火力を叩きつける。
『獲ったのはこの私! 今度こそ逃さない、この距離は!』
「うぅうがあああああああ!!」
 届く、手を伸ばせば届く位置に、たったひとつの勝利が。
「ギッチ、ギチチッ」
(ダメで~す)
 無慈悲なアリスの宣告と共に、自らの糸で体に巻き付けていたグレネードランチャーをレッド・ドラグナーへ手渡せば、即座の射撃。
 次弾の装填など考えはない、反動に合わせて手放せばすでに別の肢が機体の手へ他の武器を与えていた。
 コンバットパターンA。超高速連続攻撃に組み合わせたのは重火器による連続爆撃。装填や構えといった動作を削る為に背負ったアリスは多くの肢を総動員し、その身に括りつけたフィールドランナーの武器を矢継ぎ早に取り換える事で超練習によるシャナミアのパターンに幅を加えたのだ。
 これもまた、孤独な戦場では出来ない対応だ。
「あ、ああっ、ああああ! 止めっ、止めろォお!!」
 爆発に巻き込まれて弾かれた手。衝撃を受けて落ちる体。質量によって叩き壊される装甲。
 もう、空を飛べぬその体に一片の勝機があろうものか。叫ぶスンゲの言葉は最早雄叫びではない、悲鳴である。
 この声――、聞きたかったのはこれだとサディスティックな言葉で猛るシャナミア・サニー。
 爆炎の中、届かぬ勝利を掴もうともがくその手を見下ろすのは、美亜も同じでフロンティアを翻し空へと消えた。交わされた視線を切り、スンゲの、もう決して手の届かぬ空へと。
『どこ見てんの! まだ終わってないから、さぁ!』
 使い捨てられた火器も全てアリスの発した糸からそのまま口へと回収されて無駄のない連携であったが、止めに関しては一人で十分。
 腰の後ろに回していたツインバレルライフルを速射し、ドラグナー・ウィングの出力を上げて更に加速。
「ギェエエエエエエッ!」
(あちっ、あちちちちっ)
 背中にひっついているだけのアリスは噴射炎の防護対策などはなく、直火で炙られる、どころか焼かれていると言っても過言ではない彼女の感想が「あちち」である。
 それは彼女の甲殻や内部皮膜による様々な耐性のお陰である。ガスバーナー以上の火力で直に焼かれてこれで済むんだから、生物としての範疇はとうに超えてるね!
「おおおおおおお!?」
 激突。
 更に盾で殴りつければ体勢を崩し、落下による加速の中で機体が回転。下半身すらないのだから空中での立て直しは不可能だろう。
『むぁだ終わってないっつーの、私の怒りは!』
「ギチチッ!?」
(キャッチー!?)
 自前のライフルさえも投げたライフルを危うく射出した糸で絡め取り、そのまま口へ――、運ぼうとしてさすがにこれはダメかと体に巻き付ける。
 獲物を全て使い切ったかに見えたレッド・ドラグナーであるが、その手甲に発生するのは竜の爪、【BX-Aビームブレイド】。
『くたばんなさい、スンゲ・トブゼ!』
 殺すつもりらしいですよ。
「……ですから……限度はあるので、無茶はしないようにと」
 殺すつもりなくても死ぬ可能性はあるらしいですよ。
 思わずこめかみを押さえた冬季の言葉は思いの外に通じていたらしく、赤き竜が捕えたのはオブリビオンマシンの両肩であった。
「ギィイイ! ガチガチガチ!」
(きゃーっ、目が回るわ~!)
 無作為ででたらめな落下軌道、そんな物体へ繋がればもちろん待っているのは同じ軌道で大地に引きずり込まれるのみ。
「シャナミアさん!」
『桜花!』
 暴れる機体を安定させようとするシャナミであるが、何といっても重心はあちらにあるのだからそう上手くはいかない。そこへ現れたのが桜花だった。
 風の精霊と共にある彼女なら、この窮地から脱するのも可能だろう。しかし。
『まだ! まだこいつに私の怒りを全部ぶつけられてない!』
「ええっ、もう地面が近づいてますよ!」
「ギチギチ、ガチチッ」
(次の監督は誰にしようかしら~)
(アリスがいいなぁ~)
 このまま抜ければ敵も体勢を立て直す事が可能となるかも知れない。だが、そんな事より何よりも、自らの留飲を下げられるかどうかの話なのだ。
 シャナミアの言葉に目の前の危機を桜花が告げれば、あっさり自分の生を放棄して次の現場監督、もとい司令塔となるべきアリス選びを始める現アリス。それに答えるのは桜花の襟元から顔ぞ覗かせる幼虫である。
 君はもっと大きくなってからね。
『シャナミアさん、桜花さん、聞こえる?』
『錫華っ? 取り込み中だから手短にお願い!』
 ええと。
 シャナミアの気迫に押されて頬を掻きつつ、隣に並ぶエクアトゥールへ視線を向けた錫華。一息入れて言葉を繋ぐのは摩那であった。
『私のドローン・マリオネットで離脱可能限界点を割り出しました。ここに到達するまでにオブリビオンマシンから抜け出さないと地面に叩きつけられるので、防御策を立ててもダメージは相当なものです。
 アリス妹さんたちが糸や自分の体を使った簡易マットの制作を真っ先に提案してくださいましたが、それは却下してます』
「ギチチッ」
(最善策だと思ったのー)
 それで生を捨ててたのね。あっさり諦めたのではなく、彼女にとっての唯一策が却下されたから保険をかけようと考えただけのようだ。同種を命を簡単に道具とし、生存が不可能であれば次の個体へ役目を移す、群体らしい思考とも言える。
 アリスの事はさておき、シャナミアはそこまでは分かっている話だと答えて、すべき事があるのだろうと次の言葉を促した。すべきは単純、合図と同時にその腕を振り抜け、と。
『スンゲさんだかオブリビオンマシンだか分かりませんが、敵も暴れているので軌道予測は不可能と考えていいですし、ここは敵のクセを見切るのに長けた錫華さんに合図を出して貰います。
 ビームブレイドを振り抜き、敵の勢いと重量を利用して両腕を切断、晶さんとノエルさんに狙撃して貰い両腕は弾き飛ばして敵に回収されないようにし、レッド・ドラグナーを桜花さんが導けば、残るオブリビオンマシンはそのまま墜落。
 どうです? スッキリしそうです?』
『オーケイよ、合図をなるたけ急いでね!』
 迫る地表に焦りはあるのか、即座に了承するシャナミア。そこは心配する必要はないと錫華は笑うでもなく、ブロムキィの両手を拳銃に象り、それを組み合わせて四角を作り出す。
 枠の中に落下するオブリビオンマシンとレッド・ドラグナーを収めて一言。
『今』
『っ!?』
 チャンスは一度。
 カウントも何もなく唐突の言葉には返答も出来ず両腕を振るうシャナミア。振り回されるオブリビオンマシンの両肩から刃が斬り抜けるのと、ノエル・晶双方の粒子弾が切断された両腕を弾くのとは同時だった。
「こちらです、シャナミアさん!」
『こちらってどっち!?』
 舞う桜の花びらが赤き装甲を包み、言葉ではなく視覚にて進べき道を示す。回転する体に方向を告げても混乱するだけだ。そうして空を行くレッド・ドラグナーに、アリスが自らの糸で即席の傘を作り風に乗る。
 桜とともに空を行く赤竜を雅と取るか、風に流されるキャバリアに窮地を脱した凧を見るかは見た者次第だろうか。
 それとは対照的に地表へと落ちていくオブリビオンマシンとスンゲ・トブゼ。彼らの悲鳴は大地へと突き刺さり、爆撃と変わらぬ噴煙が上った。
 これ死んだんじゃ?
「全く、さすがにオーラバリアは頑丈って所ですかね」
 どこか残念そうな摩那の言葉の通り、煙に見えずともマリオネットの生体センサーがスンゲの生存を示していた。耐衝撃用のバリアを張ったお陰だろう、ただ外に飛び出さないようフィールドを作っただけならば、彼の死亡は間違いなかったはずだ。
「……あ……あ、が……く……っ」
 それでも操縦席に背中を打ち付けた衝撃が内臓に伝わったか、呼吸するにも苦しい様子。何度か咳き込み、嘔吐するスンゲの目に意志の光が灯ったのは毒も吐き出した事で軽減したのか。
 対して両腕をも失って仰向けに転がったオブリビオンマシンに、今までの力が感じれるものはない。背面から伸びていた触腕も動きすらなく。
「……だが……っ、だが!」
 握力の戻らぬ手で操縦桿を握り込み、体を起こした彼が見つめるのは注意深く接近するエクアトゥールと、その背後に桜と共に降り立ったレッド・ドラグナー。
 座席の下から引き出したのは機体の操縦桿とは別の起動装置。フィールドランナーと同じく機体操作と独立した自爆装置である。
『これって状況としてマズいのでは』
「あれだけの装甲、中に強力な爆薬があるとは考え難いですがねぇ」
 離れた位置から冬季と狙撃態勢を崩さずノエル。
 黄巾力士の視覚情報は摩那のドローンを通じて全機に伝達されている。キャバリアに搭乗していない者にはアリスらによる思念波が脳裏へ焼き付けている事だろう。
「この命ひとつ、勝利の為ならば何時だとて!」
『冬季、スイッチを押させるな!』
 スンゲと晶が叫ぶのはほぼ同時だった。
 間に合うものかよ。蔑み哂う男の指に力がこもる。
「…………? !?」
 が、作動せず。
 目を見開き、抱え込んでスイッチを何度も繰り返し押すスンゲ。モニターも点かない彼が気づく事はなかろうが、既にその機体の内部に潜り込み食い荒らす生物を。
 中へと潜入したのはレイの腕だけではない。それによって空いた穴を媒介に次々と潜入し、内部を食い荒らしていたアリスの幼虫たち。
 彼女たちは、腹を空かせていた事を理由にたまにひっつきヒヨコを所望のたまっていたのだが、ここでトンチを利かせた彼の発案で黄巾力士へと飛びついていたのだ。
(むしゃむしゃごくごく。やっぱり火薬ってスパイシーねー)
(でもこの液体ってそっちと違うのよねー? 食べ比べしたいわー)
(でもお腹で混ざったら爆発よー?)
(味覚情報だけ共有すればいいわ~)
(でもこーいうの、味気ないって言うのよねー)
 滅茶苦茶ゆってるじゃん。
「しかし、こんないい感じになるとは思っていなかったぞ」
 腰に手を当てたま。単にお腹が空いたなら敵を食えばいいじゃないという発想であり、フィールドランナーと同じく爆薬が仕掛けられていると先読みした訳でもなければそれらを食べてくれると思った訳でもなかったらしい。
「ふ、ふざっ……ふざけるなよ……!
 ふざけるなあああああああ!!」
 起爆スイッチを投げ捨てて、操縦席を塞ぐ鋼へ体当たりをぶちかます。丈夫な軍服と言えど尖る部位まで防御できず、彼の肩や腕は簡単に赤く染まったがそれでもスンゲは止まらない。
「こんな終わり方が認められるか! ……こんな……! 俺はこんな結末の為に戦ってきた訳じゃない、耐え忍んだ訳じゃないぞ!
 お前だってそうだろう、ええっ? オブリビオンと化してなお、ただ機会を待ち倉庫で眠り続けていたお前は、俺とひとつとなって、一体となって! 俺の導く勝利へ貢献するのだ! でなければ何の為にお前は今まで動くともせず時を生き永らえたのだ!
 起てオブリビオンよ! そう呼ばれたマシーンなんだろうが、起てよおい!!」
 何とも見苦しい姿だ。無様と言っても良い、敗者の姿。だがこれが敗残者の魂の咆哮だと言うのなら、それに答えうるのがオブリビオン。
 背面の触腕が再動する。
 足も無ければ腕も無く、取れかけの頭に残る隻眼が光を見せたと同時に捥げ落ちた。もはや胴体しかないそれが身を起こす姿は、猟兵たちもその執念に寒気すら感じたろう。
「はっはっはっはっはっはっは! そぅうだ、それでいい!
 どれだけ打ち負かされようが、起ちさえすれば、起てさえすれば! 敗北は有り得ない! 掴むのだ勝利を、お前のその力で、俺を食らってでもなぁ!」
 哄笑するスンゲ。身を起こしたオブリビオンマシンから黄巾力士が落下。角度の問題ではなく、操縦席周りの部品が丸ごと脱落した事による。それを支えにしていた体は抵抗も出来ず。
 これで視界も晴れやかだと凄絶な笑みを向けたスンゲに対し、立ち塞がるのはこちらもまた満身創痍、ぼろぼろとなった半身を引きずるレイの姿だった。
「……テレビの、中の……ゾンビですら……出番を弁えてる、って、のに……」
「…………」
 左半身を庇うようにして立つレイを無言で睨むスンゲ。志がそうさせるのだと、スンゲもまたレイを認めたのかも知れない。引き裂かれた左足を前に、踏みしめた右足に重心を乗せて右腕を引く男の姿に、スンゲは黙したまま、攻撃の意を決した。
 殺意に反応して隆起する肉体が攻撃を放たんと爆ぜる直前。
「――のぉおおおおおおおお!?」
 突如として打ち上がった操縦席。間抜けな悲鳴を喉から迸らせて空へと投棄させられたが如きスンゲの姿に、さしものレイも呆気に取られた様子で空を見上げた。
『ええっ、どういうこと!?』
 驚きを隠さずシルの張り上げた疑問を答えられる者もおらず、脱出装置が作動したのだと理解するまで時を要したのである。
 さすがのオブリビオンマシンとは言えこの状況、誤作動を起こしたとでも。
『と、見惚れている場合じゃないな。桜花、スンゲの回収を頼む。レイは下がっていろ、摩那とシャナミアは待機。
 ウタ、チェスカー、止めを』
『了解、サー。行こう、ウタ』
『…………、ああ』
 チェスカーに促され釈然としない面持ちで歩を進めるウタ。彼の目に映るオブリビオンマシンは触腕を用いて体を立てかけただけで、それ以上の行動はしていない。
 目標一と称されたオブリビオンマシン。その姿にすでに危機は無しとノエルはようやく狙撃態勢を解除、武器は構えつつも距離を潰し接近する。
 晶も想いは同じだが、念には念をとこちらは狙撃態勢のままである。
「おおおおおおおおおおっ!?」
「アリスさん!」
「ギッチギッチ!」
(キャッチキャッチー!)
 状況を掴めず悲鳴を上げたままのスンゲを、その座席から転げ落ちないようにと桜花の乗るアリスが糸を飛ばし、その体を射出された操縦席に縛り付けた。
 どう見ても脱出装置、本来ならば落下と同時に落下傘でも開くのだろうが本当にそこまでの機能が無事か分からず、救出の邪魔にならないようにと座席ごと雁字搦めである。
「舞うべき桜と空に問え、風よ!」
 上昇速度を抑えるように風を伴った桜の花びらがスンゲを包み、抱き着く桜花によりようやくと操縦席は上昇を止めた。
 縛り付けられた男の悲鳴も止まっていたが、放心状態で茫然自失としている。この間にもと桜鋼扇でアリスの糸を切断した桜花は操縦席からスンゲへ抱えるを変え、地表へと舞い戻った。
 様子を見つめていたウタは瞼を下ろして長く、長く息を吐き。
『……そうか……あんた、スンゲを守りたかったんだな……』
 命の波動すら感じぬがらくたを前に、憐憫の眼差し。得も言われぬ感情がその心に去来するのは、激闘を重ねた者の終わりが余りにも唐突で、その激情とかけ離れた行動で力尽きた故か。
『オブリビオンがパイロットを守る? まさか』
 ウタの言葉に懐疑的なのは摩那である。オブリビオンという存在上、そのような感情があるとは思えなかったのだ。だがオブリビオンもまた感情ある存在だ。中にはこの世界と共存できる者もいることを彼女は知っているが、稀なケースだとも理解している。
『彼は自分こそ魂だと言っていたし、スンゲさんを守ると言うより、自分の魂を守りたかったんじゃないかな』
 言わば自己保存か。錫華の言葉はこのオブリビオンマシンの執念を表すにも的確だし、それなら納得できるかと摩那も頷いた。
 どちらにせよ、止めは必要だ。
 野菜スティックを歯に挟み、まるで煙草を咥えるかの動作でチェスカーは言葉を転がした。抵抗する事もないならば、彼女が手を下す必要は無い。弾薬費の節約という現実的な問題から逃れる為でもあるが、消し去るというならお前の役目だとザンライガへ視線を移す。
『離れていてくれ。骸の海へ還してやる』
『お任せするよ』
 ウタの言葉に手を挙げて後退するチェスカー。彼の右腕から溢れた獄炎は、そのまま操縦席を満たし装甲を展開した右腕から噴出する。
 掲げた腕から立ち上る炎は晴天に陽へと至る階段のようで、何者かを送るに相応しく。
(ザンライガはもう限界だけど、最後の一仕事まで頼むぜ相棒)
『オブリビオンマシンよ、紅蓮に抱かれて眠れ』
 【ブレイズブラスト】は浄化の為のユーベルコードではない。あくまで敵を滅ぼす為のユーベルコードだ。だが、だからこそ敗残者たる彼を送るに相応しいのだろう。
 蛇の如く鎌首をもたげた炎の流れが、随分と小さくなってしまったオブリビオンマシンを呑み込んだ。地獄の炎が力を失った骸を焼き尽くすまで然程の時間はかからず、あっさりと燃やし尽くされ後には灰すらも残らない。
 多くの猟兵を相手に戦ったオブリビオンマシンもまた、魂を失ってしまえばただの鉄屑に過ぎないのだ。
「おのれぃ、まさかあいつが俺を裏切るなど!」
『…………、裏切る?』
 足下からの叫びに眉を潜めてノエル。そこには情けなくも桜花にお姫様抱っこされるスンゲの姿があった。声に威勢はあってももう体は動かせず、ぐったりと力が抜けている。
 それでもなお憤るスンゲに桜花は憮然として言葉を投げた。
「裏切るって、あのマシーンの事を言われているのですか? 貴方を守ったんですよ?」
「守るだと? 守られて何の意味がある。この俺も、あいつも! 生き恥を晒す為に生きていた訳じゃあないんだぞ!
 そうだ、俺は――、俺たちは――」
 この国を。
 報復の業火に包まんが為に。
「それが本性ですか」
 呆れて告げるノエルはキャバリアから降りた所で、蔑みの目を男に向けていた。敵国たるダンテアリオンへの復讐。何度となく小競り合いを繰り返したという両国において、物的被害は無論、人的被害もあるだろう。
 復讐心を抱くも不思議ではなくその想いが使命感と繋がり、執念と化すもまた、不思議ではないのだと。
「……貴方の言い様……奮起の為、人心掌握の為であったとしても殲禍炎剣を倒すと言いながら、殲禍炎剣の下僕のようです。貴方の主は、本当は殲禍炎剣なのではないですか」
 強引であるが、指摘するにはもっともなスンゲの言動。猟兵たちが覚えた違和感、それは周辺国家へ被害をもたらすであろう殲禍炎剣への攻撃であった。
 それ単体では成り立たない傭兵稼業を生業とする小国家アサガシアに、周辺国家のダメージは存続を左右する問題に繋がる。
 そんな事、本当にアサガシアが望んているのか。そもそもスンゲの目的とは、殲禍炎剣への攻撃ではないと自分で述べていたはずではないのか。
 それともそんな想いすら、オブリビオンマシンに飲み込まれたと言うのか。
「はっ! はははははっ! 俺の、いや我らの傅く王が殲禍炎剣、だと?
 ふっ、ふっふっふ、愚かしい女が!」
「なら何故、自分たちの国すら危険に引き込もうとするんだ。
 空を解放するなら、世界が、皆が協力出来なければ絶対無理だぜ? よっと!」
 ヴェルデフッドから顔を覗かせた晶はそう告げて、小さく声を上げて操縦席から飛び降りる。睨みつけるスンゲに一歩たりとも引く様子はなく、睨み返して晶は言葉を繋いだ。
「空の解放は、この世界に住まうみんなの願いだ。生き延びる道のひとつなんだ。だからそのために俺たちは戦う、生きる。
 それだけだ」
「時を重ねるだけの生に何の意味があるのだ。空を掌握するのは王のみ、愚民は率いられねば争いが消える事もない。そんなもの、生き延びる道じゃあない、そんなもの、ただの逃避だ」
 だからこその協力なのだ。
 兵士としての姿を剥ぎ取り、一人の人間として言葉を交わす。が、スンゲの言葉には反論を唱えず飲み込んで、晶の目もまた憐みへと変じた。根っこの部分で考えが違うのだから仕方ないと言えばそれまでだが、こうもひとつ事に凝り固まった人間を憐れんでしまうのも、仕方ない事かも知れない。
(拍手してやろうと思ったが……これじゃあな……)
 アリス妹の背に乗せられたレイは思う。初めて会った時のような覇気は無く、むしろ自分こそが逃避を行っているかのような虚勢を張る姿勢。まだ戦えたのだと、敗北を認めようとしない男が言い訳に選んだ先がオブリビオンマシンとなったのか。
 情けないの一言に尽きると零したレイが目を閉じると、彼の帽子を比べっこを終えたたまから回収したのだろう、「お休みねー?」とばかり頭に乗せていたアリス妹が、今度はそれをレイの顔へと移す。
 ちょっぴり焦げ臭い。
「ええい、落ち着くのだ!」
「もふぅっ!?」
 見かねたたまのひっかき攻撃、なはずもなく、肉球のこりこりとした触感と、その手にふんわり生えた体毛が衝撃を心へと通じさせる。
 まるで毒気が抜けたようにぼんやりとした顔になったスンゲは、傍から見てもヤベー奴だ。まあ憤怒の形相で声を張り上げるよりはマシだしえーやろ。
『あなたの目的って、結局は何だったワケ?』
 地響きをたてて落ち着いたスンゲを見下ろすレッド・ドラグナー。操縦席の中から彼の姿をモニター越しに見つめて、腕を組んだシャナミアは問う。
 矛盾した会話に対する回答を簡潔に求めた彼女に、スンゲの目はレッド・ドラグナーではなく着陸したフロンティアに向けられた。
「……指揮官が前線に出るなら囮と相場が決まっている、か……お前たちと同じさ。
 俺はただの囮だ」
 やはりか。
 スンゲの行動に矛盾や疑問を持っていた者は、自ずと頭に浮かんでいた言葉。何かから、気をそらそうという行動ではないのか、と。
『何かあるんです、アサガシアに。それとも隣接する小国家にですか?』
「直に分かるさ、直にな。お前たちも状況の一部として利用されていると」
「どういう、こと?」
 摩那の問いをはぐらかし、意味深な言葉を呟く男へ首を傾げるシル。シャナミアは負け惜しみではないのかと発言そのものを疑っている。
 それ以上は語る気もないのだろう、にやけた面で口を噤むスンゲに怒りを覚え桜花が頭突きを見舞った。
「痛いんですけどッ!?」
「貴方はご自分を魂だと仰いました。貴方を守ろうとした体を愚弄しておきながら、自分が痛みを覚えずに済むと思っているんですか」
「いやめっちゃ怪我してるけどねぇ!」
「心の話だ、スンゲ・トブゼ。貴様はあのマシンを勝利へ導くと言いながらもその実、全てを共有するつもりはなかったのだろう。勝利の栄華を受けるべきは自分であり、機械の体など具足としか思っていなかったのだ」
 だからこそオブリビオンマシンを拒絶した。あれは最期まで、想いがどうあったにせよ貴様を守ったというのに。
 美亜の言葉が突き刺さったのか言葉に詰まるスンゲ。たまの攻撃が心へ波及した事もあるのだろうが、やはり暴力が心を制した事も大きかったのかも知れない。
 もはや跡形もなくなったその場所へ目を向けた彼の胸中に何が残るのか、そこまで猟兵たちに悟る事は出来はしないが。
「ようやく、片がついたんだな」
『ええ、先程ダンテアリオン正規軍にも連絡を――、と。来たみたいだね』
 開かなくなった操縦席を溶断し、金翅鳥と共に外に出たウタは日差しに目を細めて背筋を伸ばす。錫華はそのぼやきに答えて、ブロムキィーの脇を駆け抜ける走行車両や兵士らが大人しくなったスンゲを拘束する姿を見つめていた。
 桜花も特に言葉なく、彼らへ引き渡している。これからスンゲがどう扱われるかは分からないが、無事には済まないだろう。このような大事をしでかした以上は全貌を知る為、拷問に近い審査が行われるかも知れない。
 いやでもこの国の事だしなぁ。
「ま、何はともあれ一件落着だ。後に何があるにしてもさ」
 ビッグタイガーから顔を覗かせたチェスカーが、ほれとばかりにアメちゃんをウタへ投げてよこした。労いだろうか、それを口に詰めて彼は片手を上げる。
「よぉ、おたくら。施設回りは滅茶苦茶、地下も何かよく分からん状態によくもやってくれたなぁ」
 言葉とは裏腹に親しみを込めた様子で二人を見上げるのはアメちゃん小隊の一人、マーレイだった。気安い軽薄な笑みは皮肉げにも見えて、痩せぎすの姿は人に好かれる見てくれではなかった。
 無論、例の隔壁は休憩を終えたアリス妹らのおやつや建築材料へと再利用されているので、撤去も問題なかろう。
 言動からして見た目通りの性格らしいが、それでも猟兵が自分たちの為に戦ってくれた事は理解している様子で、レイを運ぶアリス妹に自分の軍帽を剥ぎ胸へと当てる。
「同盟でもなければ敵対までしたと言うのに、勇敢な者への賛辞を惜しむ訳じゃないんだが。
 状況が状況でなぁ、全員がお礼を言えない事、許して欲しいもんだねぇ」
「……え……あ……いや、うん……はい」
「…………、まあ、美談にはなるね」
 血だらけで半壊したデッドマンの姿に心を痛めるマーレイ。思わずその想いを受け取って真実を告げられなくなってしまうウタとチェスカー。彼女の言葉通り美談となれば、ダンテアリオンの猟兵に対する想いはより一層、民間にまでも浸透する事になるだろう。
 図らずも友好の懸け橋となった訳だ。もしもまた、彼らが顔を会わせたらどうなる事やら。
「融通を利かせろ、と言いたくはありませんがそれだけ大きな事をした訳ですから。
 これから何かあった時、変に感情で事態を悪化させないように願いますよ」
「へいへい、きちんと報告はさせてもらいますって」
 転げ落ちた黄巾力士に念の為と運動させ、自身で状態確認するよう命じる冬季。そんな彼が釘を刺しにやってきて、マーレイは当然だと頷いた。
 それでも報告に留めるあたり、自分の立場は理解していると。食えない男だと冬季は鼻で笑い、それでも構わないとした。
「今度は敵じゃない事を願うってさ。ほれ、とっととしょっぴけー、時間ないしさぁ」
「あ、待ってください!」
 力の抜けたスンゲの体を引き摺り、担架へ乗せた所で声をかけたのは桜花だった。その手には皿と匙とがあり、湯気の漂うそれの中には乳白色のクリームスープが注がれていた。
 優しい甘味を予期させる香りだが、ごろつくような野菜の間に浮く黒胡椒を見ればしっかりとした味つけがされているのだと分かる。
「……これは……?」
「スンゲさんへお願いします。あの方もこれからの取り調べ、体力を使うでしょうから」
「敵にも情けをって感じだわね、りょーかい」
 肩を竦めて受け取るマーレイへ、桜花は他の兵士たちへも料理を用意しているとエネルギープラント中継施設前に停められた自身のケータリング用キャンピングカーを指す。
 気持ちはありがたいがと難色を示すマーレイ。事が事であっただけに、スープを飲む時間すら惜しいと言うのだろう。
「スープは私たちで配膳いたします。皆さんも雨に打たれながらの作業をしていたんですから、体力も消耗しているはずですし。これから長丁場でしたらしっかり温まって頂いた方がよろしいかと」
「そりゃあ、そうね」
「アリスさん、摩那さんもお手伝いお願いできますか?」
「ギィイイイイ! ガチガチガチ!」
(任せてー! 張り切っちゃうわ~!)
『別に構いませんけど、どうするんです?』
 キャバリアに乗っているのだからスープの宅配だろうかと小首を傾げる摩那。そんな彼女、というよりキャバリア・エクアトゥールから顔を背け、「気付け薬に」と小さく答えた桜花。
「よく分かりませんけど、調理を手伝えばいいんです? まあ私の調理の腕なら問題ありませんよ!」
 全て等しく劇物になるのである意味では腕に問題ないと言えるね。問題は劇物って事だけどね。
(摩那さんのお料理が食べられるのかしらー?)
(わくわくねー!)
 そんな劇物が制作、もとい調理されると聞いてアリスらは興奮のご様子。お前らのメシはねーから、と言いたい所であるがいつもの備えとして桜花は彼女らの分を用意しているであろう。
 兵士たちの労いは勿論、共に戦いこの国の滅亡を防いだ猟兵たちの分もまた。
「有難くいただきますんで、よろしくお願いしましょうね。
 行くぞ、スンゲ・トブゼ」
「…………、猟兵よ」
 兵士たちに引きずられながら、こちらに首を向けるでもなくスンゲは言う。その目は桜花の運んだスープに向けられて。
「アサガシアのムルチに潜むオロチは、誰にも止められんぞ。このダンテアリオンが炎に包まれる様を見届けるがいい。
 お前らの招いた結果だからな……ふふふ、ふ……」
「私たちの、ですか? ……ムルチと……オロチ……?」
「気にしなさんなぁ、ただの負け惜しみさ。おい、黙らせて運べって」
 マーレイの指示を受けて静かに笑うスンゲに容赦のない銃底の一撃を浴びせるダンテアリオン正規軍兵士。
 乱暴な扱いに桜花は抗議の目を向けて、マーレイはお道化た様子で両手を挙げた。後は薄ら笑いを浮かべるだけで運ばれるスンゲを見送る彼女の隣に、晶が歩み寄る。
「どういう意味だ? この国を業火に包むって言うのは、殲禍炎剣を利用した報復ではなかったのか?」
「分かりません、けども。私たちの招いた結果というのはどういう事なんでしょう?」
「…………、俺たちの受けた依頼の中に、アサガシアの報復を手伝うものがあったという事、か」
 憶測でしかないが。
 晶は唇に握った拳を添えて、某か考え込むものの、如何せん材料が足りない。唯一、言える事は。
「次はアサガシアか」
 フロンティアをアリス妹らに運ばせながら、こちらの会話へ割り込む美亜。わざわざあのスンゲが漏らした言葉、アサガシアのムルチとオロチ。自身の個人的感情は抜きにしても目的は達成したと言うならば、そこで何かが起こるのだろう。
 問題はそれを知るにグリモア猟兵の力が必要である事だ。
「せめて、後手に回らない予知があると願いたいね」
 頭を悩ませる三人を横目にビッグタイガーの足へ背を持たせ、シガーケースから取り出した野菜スティックを咥えるチェスカー。
 そんな彼女の前に現れたのは、列を成して並ぶアリス妹たちであった。
(あっつあっつのスープよー)
(お皿まで美味しいわ~)
(桜花さんの手作りよーっ)
「おう、ありがとうな」
 お皿まで美味しいスープらしいが、そこまで食べちゃうとお腹の調子がどうのこうの以前に桜花さん夢のキャンピングカーの備品が足りなくなるから止めようね。
 苦笑して湯気立つ液体を啜り、舌にピリリと来る味の濃さが操縦席の中で汗をかいた体に沁み渡る。
 ザンライガの搭乗席にまで登って来たアリス妹は、皿を差し出しつつ迦楼羅をじーっと見つめていたので、慌てて自らの右腕の包帯に取り込むウタ。
「さ、さて! 腹も膨れたし一曲いくぜ」
 急ぎスープを飲み干して、操縦席の裏から取り出したのはギター【ワイルドウィンド】。ジンライフォックスの顔を象ったデジタル【ジンライチューナー】がギラリと輝く。
 弾くは鎮魂歌、ただし優しく囁く音ではない。勝利を求める敗残者たちの為、彼らが進むべきを勇壮に奏でる風の曲。
 ただ風は吹く、迷わず吹き抜ける為の力強き祝福を授けんと。敗残者たちを束ねた王たるオブリビオンマシン、その体に紡がれた数々の者たちへの手向け。
「去ぬ後ろ姿は勇ましく、ただ心には安らぎを抱いて眠れ」
 歌は風に乗り辻を巻いて空へと駆け上がる。その風が海まで流れんと送る彼の声を聞きながらシャナミアはアリス妹より受け取ったスープを口に運ぶ。
 匙に息を注いで冷ましつつ、舌に乗せればまだ熱いが火傷する程でもなく。
「美味いっ!」
(シャナミアさんの角もいい感じよ~、て、きゃーっ)
 本日一番、輝く笑顔を見せたシャナミアの角で歯を研いでいた幼虫を匙で突いて地面へ落とし、彼女はこちらのスープと違い、血にも勝る地獄の赤色を見せたスープ皿に気づく。
「アレは?」
(アレはアリスたちのものだからダメよー)
(分けちゃダメなのよー)
 独り占めしたがっているようなアリス妹たちの言葉に「ふーん?」とどうでも良さそうな顔で食を進める。
 彼女と同じくスープを飲むシルとノエルは、それがどのような代物か知っている事もあって疑問を持つ事も無かったが、赤いスープ皿を運ぶアリス妹を見咎めてしまう。
 これを流せないのがシルという少女の性なのだ。
「んぐっ!? こほこほ、妹さんたちっ、それどこに運ぶの?」
(兵士さんたちにお届けよー)
(桜花さんが気付け薬にって、摩那さんに頼んでたのー)
「ええっ、あの劇物、じゃなくて。その、摩那さんの手料理を?」
 言い直しても言い直さなくても摩那さんの手料理は劇物に相違ないっすよ。
 しまったとばかり口元を手で押さえたシルだが、その肩に手を乗せたのはノエルだった。以前、ヴィエルマ領内での輸送列車の際も摩那は多少なりとも改善した劇物を振る舞い、この世界の住人の胃袋や目鼻を破壊している。
 きっとまた摩那も劇物を改善し、毒素がもうちょい抜けて食べた人が捧腹絶倒、もとい倒伏悶絶する程度で済む事だろう。
「いやでも、物凄い真っ赤っかだよっ?」
「無償の奉仕ですし、そこはもう桜花さんや摩那さんに任せるしかありません。それにあの連中、アメちゃんを求めて獣のようになっていたそうですし。
 これぐらいないと目覚めても未だ理性無く、なんて事もあり得ます」
 ……えぇ……。
 意気揚々と運ぶアリス妹たちの皿を見れば全てが赤い。アメちゃんや冬季の渡した仙丹などにより理性を失わなかった兵士たちは巻き込まれ損であろうが。
 まあ彼らも糖分が手元にあったから理性を失わなかっただけの話なのでこの際、味覚を粉砕されて摩那やアリスらの激辛党に降るのも良いだろう。
 料理皿を配膳し終えていち早く戻って来たアリス妹の個体が一匹、真っ赤なスープを皿ごといただくと同時にそわそわし始め、お腹だかお尻だかをぶんぶか振り回す。人で言えば辛くて堪らないといった所だろうが、あのアリス・ラーヴァ種の行動に異常を引き起こす料理、と言えば摩那の手料理による威力がどんなものか理解できるだろう。
 もっともアリス自身はこれがお気に入りであり、ダンテアリオン兵士が摂取してどうなるかは推して知るべし。まあ、異常者が異常に見舞われるだけだから気にする必要ないという話なのだ。
「良く分かりませんが目の覚めるようなアレンジを、という事でしたし。
 『着火DE目覚ましドンと濃いスープ』を! 振る舞ってさしあげましょう!!」
 濃いんだ。ヤベーぞ。
 桜花の調理用大鍋に世界の隔たりを超えた超絶激辛【調味料ポーチ】から中身をぶち撒ける。真っ赤っかな中身は各ワールドから搔き集められた劇物、もとい香辛料である。色で内容は察してね!
「料理と聞いてやって来たぞ! ワタシも手伝い――、むぎゃっ!?」
 言葉通り料理と聞いては黙っていられない、それほどの調理技術を持つたまであったが車内に入ると同時に気化した劇物の洗礼を受けて、ひっくり返るように車外へ転げ落ちてしまった。
 目や鼻に生じる痛みに錫華が慌てて用意した水桶に顔を突っ込んで辛味成分を洗い落としている。猫も水への恐怖を忘れる異次元の辛さなのだ。猫じゃないけど。
「た、たた大変な目に遭ったぞ! 恩に着よう」
「別にいいけど。こんな威力があるモノを味覚障害というか、偏執的アメちゃん狂のダンテリさんたちに配って大丈夫なのかな?」
 頭おかしいとは言え普通の人間、異常者が異常に見舞われるだけだと言ってもやはり被害は出る訳で。錫華は調理過程でも猟兵にダメージを与える劇物を危険視しているようだ。
 とは言えスープはスープ、気化して車内に蔓延する劇物の威力がそうしているだけであって、スープ化すればその範囲も狭まろうというもの。
「……何か……魔女が調理しているみたい……」
「う、うむ」
 楽しそうに大鍋を赤く染め上げ、ぐるぐると中身をかき混ぜる姿は確かに、魔女を連想させる恐ろしさがあった。
 恐ろしき魔女こと摩那の調理する戦場より離れてしばし。レイを背中に乗せてとことこ歩くアリス妹の元に、ぬばたまの瞳を輝かせる他のアリス妹たちがついて回っていた。
(レイさんの反応がないわー)
(冬季さんたちは死んだって言ってたわよ~?)
(食べちゃってもいいのかしらー)
 飛び交う思念波は当然レイの脳内にも響いているが、仰向けになった彼の喉には再び血が溜まり声が出せないご様子。
 体の一部は動かしてみたものの、敏感な外殻を持たないアリスたちは気づかなかったのだ。
「ギィイイィイエエエエエエエエッ! ガチッ、ガチッ!」
(こらーっ、食べちゃダメよーっ! ちょっとだけにしなさい!)
(はーいっ)
(【ヴォルテックエンジン】ってどんな味か気になってたのよね~)
 異常に気付いた現場監督アリスによる指導に妹たちが賛成する。ちょっとだけでも食べてるのは食べてるんだよなぁ。
 レイは疲れに任せたように、やれやれとばかり瞳を閉じた。
「……ムルチとオロチ……漏池と大蛇、ですかね」
 大型化した黄巾力士の肩に乗り、書物を読んでいた冬季は思案気に唸る。
 かつての伝説、遠い島国にそのような伝説があったと。それがどのようなものか、口伝によって差異はあっても示すのは大蛇による被害とそれを救った生贄の話である。
 伝説が関係あるとも限らないが、少なくとも単語に共通性が見られるのは確かだった。
「次は恐らくアサガシアでしょうけど、どうなるのか、楽しみではありますねぇ」
 まるで他人事のように晒い、飛び立つ黄巾力士と共にダンテアリオンより去る冬季。
 その足元にはレイが群がられていたが、彼は特に手助けするつもりはなかったようだ。アリスたちは何だかんだ良識があるので、ヴォルテックエンジンが動いていればちょっと食べるだけで済ませると信じるしかないだろう。
 晴天広がる空に響く悲鳴は、『着火DE目覚ましドンと濃いスープ』を飲んだ兵士たちだけのものであった。


●第一共国の興り。
「うっ、うぅ。もう止めてぇ……これ以上は何にも知らないからぁ……ホントだからぁ……。
 ステーキの脂身ばっかり食べさせてあまつさえテッカテカのオイリー・ボディービルダーに尋問させるのはもう止めてよぉ。胃が限界だよぉ、うっぷ!」
「失敬だなあ君は! 私は職業国王、ボディービルダーなどではないぞうっはっははははは!」
 小さな取調室でこげ茶色の肌を自慢げにテカらせてビキニパンツにサングラスという訳のわからない姿を晒しているアサガシアの代表ルゲイ・ウォン・カラッツェと、直々の尋問に音を上げるイーデン・ランバー少佐の姿。
 無駄に大声で笑い、ポージングする耳にも目にも煩い彼の姿に、さすがのダンテリ軍人も追い詰められている。とは言え彼自身、知っている事は余りに少なく吐いた所で彼の企てたとされる事件の全貌が知れる事は無い。
 否、正確には彼の企てと別の計画が進行しているのだと、それを確定させるに十分な証明と言えようが。
「代表」
「ん?」
 椅子の上でポージングを次々と変える代表は、ノックと共に部屋に入って来た代表補佐に耳を寄せる。彼からの言葉にふむふむぬんッ、と相変わらずポーズを極めていると、やがてにっこり、ではなくニッゴリという脂ギッシュな笑みを見せて立ち上がる。
 色々と都合がついたよ。そう嘯く代表はオイリィなボデェをいそいそとスーツに詰め込んで少佐に笑う。
「喜びたまえイーデン・ランバー少佐殿、解放だ。とは言え貴君の国と我らが国は戦闘状態にある。君の国の兵士を招き入れる訳にはいかんのでね、我らが兵士によりヴィエルマ領かどこかまで護送させて貰うよ。
 それまでの窮屈を満喫したまえっはっはは!」
「え? 何? ちょって展開急すぎて理解が追いつかないんですけど?」
 理解する必要は無い。代表補佐がイーデンの当然過ぎる疑問を否定し、代表もまた「すぐに兵士が迎えに来る」と笑顔で告げ部屋を出て行こうと踏み出す。
 が、忘れていたとばかりに振り返った。
「おお、そうだそうだ! 貴君らダンテアリオンに対し我々アサガシアは正式に戦争を開戦すると、この場を借りて簡略的であるが宣言させて貰うよ。
 大事なお話なんでね、しっかりと伝えてくれようっはっはー!」
 帰国するまで、国が残っていればの話だがな。
 嘯く代表に目を見開く少佐。
「……何だと……? まさかこの茶番は、俺の胃を破壊する最低なやり取りは全て、ダンテアリオンに対する先制攻撃を隠す為のものだったのか!?」
「何を言う、先制してきたのは君たちじゃあないかふっふっはっはっは!」
「笑うな! 戦闘を遊びにしている蛮族が!」
 胃もたれにも負けず、怒りを露わにしたイーデンに代表はようやくと笑い声を止めた。厳ついサングラスを外すとそこには――、年甲斐もなく子供のように輝く右目と。
 薄暗い闇を湛えた左目の穴とがあった。
「囀るな若造。お前たちの喜ぶ戦場を用意したのだ、感謝されたいぐらいだがね」
「…………っ!? ど、どういう事だ? 用意した? この戦いは……俺が奮起したもので……!」
「マシーンに呑まれて何を言う。まあ、それに関しては私も言える立場じゃあないが」
 哂う男の言葉に、それではあのオブリビオンマシンはと少佐が搭乗した機体を想起する。
 全てが、この戦いの始まりからして暴走ではなく制御下にあったのだとするならば。戦いを起こす意味とは何だ。
「楽しみたまえよ職業軍人。戦いの場を用意するのはいつだって国を動かす者だ。君たち犬はただ主人の言葉に従えばいい、それが仕事だ。
 我々はいつでもその仕事を歓迎している」
 丸っきり見下した瞳には底冷えするような光と見つめる者を呑み込む闇とが並び、息を飲むイーデン・ランバー。
 若造と蔑まれた通りの、何も言えずに委縮してしまった少佐をその場に残し外へ出たルゲイ・ウォン・カラッツェ。代表補佐も当惑する少佐へ頭を下げ、その背に続く。
「いやしかし、随分と頑張ってくれたねぇ彼。あー、スンゲ・トブゼくんだったかな? っはは」
「ええ、よくご存知で。残念ながら猟兵の活躍により、クーデターは失敗したと」
「何を言うかね、我らが大事な兵力だぞぅ、把握していて当然さ。それにクーデターなど成功するとは微塵に思っちゃないよ、彼がやれるつもりだったかまでは知らないがねっふふふふ」
 外へ出ると同時にサングラスをかけ直した代表。代表補佐の言葉に応えて襟を正しネクタイを締め、スンゲを評価しているとも馬鹿にしているとも取れる言葉の最中も笑みは消えていない。
「始めるぞぅ代表補佐。ヴィエルマとカイラン・テンへ連絡だ。楽しい楽しい戦争の開幕を、我ら『第一共国』による『第一強国』の実現をなぁふっふふふ。
 開戦の狼煙は足並みを揃えなくちゃならん。アサガシア・ムルチを浮上させろ。我らが最強兵器をな、っはっはっはっはっは!」
「承知致しました。ところで、例の動力源にはあの部隊を?」
 愉快で堪らないと楽しそうに笑い声を上げる代表へ疑問を挟む。
 男は当然だとばかりに頷いて、むしろ何を疑問に思うのかとばかりだ。
「彼らの素行の悪さは代表も知っているでしょう。その戦績も猟兵の働きによるものが大きいと」
「何を言っているんだね、彼らは生還した兵士だぞぅはっははー。何を使っても生き延びる、それが戦場で兵士に託された人間としての唯一の特権だ。彼らは人間として兵士であったに過ぎない。
 脳が二つあることは指揮系統に混乱を生んでしまうが、遊撃部隊であれば問題はないし、分散させれば優秀だよ、彼らはね。んふふ」
 いちいち笑い声が気持ち悪いなこいつ。
 代表補佐は頷き、準備を始めるとセルゲイから離れる。彼はそれを肩越しに確認して、ふむと頷き窓から外を眺める。
 空に輝く太陽は晴れ晴れとしていて、人々の争いなど知った事ではないとばかりだ。
「空の支配だと、ふん? 解放に何の意味がある。
 人間は、ただ地上を這いずり争っていればいいのだ。分不相応な望みなど……いや……不必要な望みなど……ふっ、ふっはっはははは!
 いや確かに! 空を舞えば再び戦略が拡がる、楽しい時間が増えるじゃあないか。はっはっはっはっはっはっは!」
 快晴に響き渡る笑い声は実に朗らかとしていて、通路を行くアサガシアの兵士たちは「また代表が馬鹿笑いしてら」と呆れた顔を見せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月28日


挿絵イラスト