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絶望を砕く日

#ダークセイヴァー #第五の貴族

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#第五の貴族


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●地の獄
 そこに居た人々は、皆一様に衰弱しきっていた。
 牢に囚われ、与えられる食事は命を繋ぐ最低限。硬く冷たい石の床に手足はかじかみ、辺りには同胞の亡骸が散らばっている。
 オブリビオンに捕らえられ、この地底都市のさらに奥深くへと送り込まれた人族奴隷に希望などあるはずもない。
 いっそ食事を拒み、命を捨ててしまえば楽になれるのだろうが、『牢番』達がそれを許さない。
 醜い芋虫に無理やり蜘蛛脚を付けたような怪物達に、奴隷達を捕らえたオブリビオンはこう言ったのだ。

 ──彼らは大事な材料だから、食べることは許さない。ただし、死体と死にゆく者はその限りではない。

 怪物達は人間を丸呑みに出来るほどの体躯ではなくて、犠牲者は生きながらに少しずつ身体を齧り取られる。
 勇敢な若者の雄たけびが悲鳴に、悲鳴が懇願に、そして意味のないすすり泣きへと変わり、それが途絶える様を見た人々は、死に向かう意思すらも挫かれていた。
 助けを待とうにも相手はオブリビオンで、此処は空も見えない地の底なのだ。

 自分達がどうなるかは知らないが、せめて一思いに終わらせてくれないかな、と。
 人々はただ、乾いた笑みを浮かべるばかりであった。

●血濡れの祭壇を破壊せよ
「皆様、お集りいただきありがとうございます。世界コードネーム:ダークセイヴァーにて、オブリビオンの出現が確認されました」
 シスター服に身を包んだグリモア猟兵が、自分の呼びかけに応じてグリモアベースに集った猟兵達へ語りだす。
 静かに言葉を紡いだ彼女は、ふとその表情をふにゃりと崩し。
「……ところで、良いニュースととても良いニュース、どっちから話しましょう?」
 どこか呑気な問いかけを投げかけるのであった。

「ではまず良いニュースです! この度、私共グリモア猟兵の予知で『紋章の製造場所』が分かるようになりましたー!」
 きゃあきゃあとテンションを上げて報告するグリモア猟兵の言葉に、猟兵達の表情も明るくなる。
 ダークセイヴァーの地下深くに潜む強大なオブリビオン、『第五の貴族』。
 彼らの力の背景にある寄生型オブリビオン『紋章』は、その一つ一つが強力無比な力を有している。
 これまでは猟兵達の機転や力でどうにか打ち勝ってはきたものの、それはあくまで対処療法的な戦いであり、第五の貴族の発生そのものには全くの無策であった。
 だが、製造場所が分かったという事は、そこを制圧してしまえば新たな紋章を作ることはできなくなる筈だ。
 勿論、製造場所が一つきりという訳はないだろうが、此方から攻撃を仕掛けられる事自体が大きな好転であると言ってよい。
 しかし、彼女はこれを『良いニュース』と言った。これより更に良いニュースがあるというのだろうか?
「あ、それを話す前にもう少し続けますと……紋章の材料が、人間であることが判明いたしました」

 ついでと言わんばかりのその言葉に、ある者は表情を強張らせ、ある者は知っていたかのようにため息をつき、あるいは義憤にかられる者も居た。
 そんな彼らは、各々の感情を抑えて彼女の話を聞き……。
「そして、今日もまた新しい紋章を作るとか……ええ、囚われた人々はまだ生きておりますとも」
 『とても良いニュース』が何かを、理解した。

「そういう訳で急いで第五の貴族の下へ乗りこんで人々を救出すべく、説明も巻いていきますよ! まず、お屋敷自体はもぬけの殻! 祭壇のある地下への入り口まではグリモアの転送で直行できます!」
 気持ち早口になったグリモア猟兵の背後でグリモアがくるくると回り始め、光を放ちだす。
 説明が終わればすぐに転送なのだろう、猟兵達も話を聞きながら準備を整えだす。
「皆さんがまず出るのは地底にある谷の入り口! 多分、元々あった谷の上にお屋敷造ったのかと思います、すごく大きくて深いのです!」
 谷には階段などは備え付けられてはおらず、鋭利な棘の生えた茨が側面を張っているだけだ。
 なんらかの飛行手段か、茨を安全に伝う技術が求められる。
「……一番早いのは落ちちゃうことなんですが。谷底にある祭壇には人々が入れられた牢屋と、その見張りとして配置された虫型のオブリビオンがおります。着地の瞬間齧りつかれる恐れもあるので、その辺平気な人だけにしてくださいね」
 すん……とした表情で最速ルートを提案したグリモア猟兵が、再び早口になる。
 まだ生存している人々を救える焦りと期待で、彼女のテンションも微妙におかしい。
「そーゆーわけで、谷底についたらまず見張り番の虫を蹴散らしてください! 恐らく、追い詰めたら囚われた人々を食べようとすると思うので、それも防げると大変よろしいです!」

「……そして、予知の最後に映った第五の貴族。『メローゼ・トロイメツァライ』という、少女の姿をした呪詛の塊です。多分、祭壇を荒らしまわってたらあっちから怒ってくると思います」
 当然、メローゼは紋章を備えているはずだ。
 しかし、猟兵の側からの奇襲であれば、彼女は最適な紋章を装備する暇もなく戦闘を開始することになる。
「予知によると、メローゼが現在所持しているのは『辺境伯の紋章』。単純なスペックの底上げを行う紋章で、弱点を攻略しにくいものですが……急な戦闘で馴染んでいなければ、恐らくずっと効力を発揮していることはできないと思うのですよね」
 メローゼは強敵だが、それは事前に戦いが分かっていればの話だ。
 十全ではない彼女が相手であれば、付け入るすきも皆無ではない筈である。

「敵地に乗り込んでの戦いですが、第五の貴族を倒す為、そして何より、紋章の材料として命を奪われようとする人々を救うチャンスです」
 どうか、ご武運を。
 そう言葉を結んだ彼女の背後のグリモアが一層強い光を放つ。
 光に包まれた猟兵達は次々に姿を消していき……ダークセイヴァーに君臨する絶望を砕く戦いに挑むのであった。


北辰
 OPの閲覧ありがとうございます。
 ダークセイヴァーコワクナイ。北辰です。

 色々手を焼かされてきた『紋章』の製造法と、その場所が判明いたしました。
 こうなれば此方のもの、早速乗りこんで第五の貴族の大事な祭壇をめっちゃくちゃにしてやろーぜ! っていうお話でございます。
 折角の反撃開始なシナリオフレームですので、今回のシナリオでは是非ヒロイックに活躍いただければと存じます。
 テンション上げてまいりましょう。

●章構成
 1章は冒険フラグメント。
 底も見えない深い谷を降りていきます。
 OPでもお話ししているように、谷の側面は茨で覆われ、対策なしで降りれば相応のダメージを負うことになるでしょう。

 2章の集団戦では、牢屋の見張り番として飼われている『死肉喰らい』との戦闘になります。
 実は彼ら、紋章になりかけているオブリビオンであり、全身に触手が生えた奇怪な見た目となっておりますが、戦闘能力は通常の個体と同様です。
 また、戦場となる紋章の祭壇付近には捕らえられた人族奴隷が多数存在しております。
 衰弱しており、自力では逃げる事も困難であるので、死肉喰らいが狙った場合は是非守ってあげてください。

 3章では第五の貴族との戦闘です。
 相手が1人だけになる都合上、前章ほど奴隷狙いの攻撃はしてこないでしょう。
 ここまで来ればもう一息、紋章の力に気を付けつつ、祭壇ごと撃破しましょう。

●プレイング受付期間
 基本的に、OP公開直後から常に受け付けております。
 ただし、各章開始後最長12時間以内に断章を執筆する予定ですので、そちらで描写される情報を確認してからのプレイング投稿をお勧めいたします。

 それでは、ダークセイヴァーに君臨する貴族たちの力。
 その絶望を打ち砕く猟兵の皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『暗く、深い谷の底へ。』

POW   :    頼れるのはこの身一つ、ひたすら降りる。

SPD   :    深淵を恐れるな、空に身を任せ飛び降りる。

WIZ   :    時間はまだある、休憩でもしながら降りる。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●薔薇の谷
 ダークセイヴァーに降り立った猟兵達が真っ先に感じたのは、むせ返るほどの薔薇の香りであった。
 強烈に香る花の匂いに顔をしかめながらも、幾人かの猟兵はそれだけでは説明のつかない不快感を感じていた。
 薔薇の香りそのものではない、それが覆い隠せぬ程に濃い別の何かの匂いだ。

 それの正体をどうにも掴めぬまま、彼らは目の前の谷を見やる。
 予知の情報通り、側面を埋め尽くすように茨が生い茂り、谷の底は暗い闇に包まれてれいる。
 此処を降りるとなると、自力で飛ぶか落ちるか、それ以外では鋭利な棘を持った茨を伝うしかないだろう。
 頑丈な猟兵の体と言えども、オブリビオンが用意した茨の前に油断はできない。
 如何にしてこの谷を攻略するかと思案する猟兵達が、ふと最初に抱いた不快感の原因に気付く。

 この地は、嫌になるほどの薔薇の香りに包まれて。
 それで塗りつぶせぬ程に濃い、血肉の腐った匂いが漂っていた。
九尾・へとろ
奴隷を贄に得る力、なーんか強くなさそうじゃの。
まぁ壊してしまえば事もなしじゃな。

さて、谷に落ちるのが仕事とは難儀じゃのー。
茨でウチの一張羅が破けたら誰に弁償させればいいんじゃろ。
やはりグリモア猟兵様かのー。
ま、破れることはないんじゃけどね。

パンと柏手一つ。
両の手をゆるり広げ描くはウチより大きな水色の円。
UDCアースのぷーるで見た、人が入れる風船じゃ。
空気で膨らましたわけじゃないから割れる心配もない。
周囲を高粘度の厚い層で描けば、落ちながら茨の上でも舞えるわけじゃ。
これぞへとろの異能、武舞姫の彩の属性色術よ。

ということで、ぽよんぽよんと下までいくのじゃよー。
ひょひょ、道行は楽しくなくてはのー。


シャルロット・クリスティア
高貴なのか何なのか知りませんが、ただ強いだけの花の香りと、生臭い暴虐の香り……
……嫌な臭いです。
いくら嗅ぎ慣れても、好きにはなれませんね。

翼竜に騎乗。この子で可能な限り下まで降りてみましょう。
行きますよ、レン。でも、無理はしないように。

怪我をさせてまで強行する気はない。どうせ下ではこの子の機動性は活かせないでしょうしね。
極力、邪魔な棘はこちらからの射撃でへし折ったりで処理しつつ、
狭くなってきたら、最悪飛び降りるのも覚悟しましょう。
どうせ亡霊です。落ちたくらいで死にはしません。

……囚われの人たちがまだ生きているとはいえ、そう時間が残されているとは思えない……急がなければ。



●シャボン特急便
 谷とは、一般的に上方ほど広く、底に近づくにつれて細く狭くなっていくものだ。
 これは、殆どの谷が風や水による浸食によって生み出されるからであって、ダークセイヴァーのように超常の存在が我が物顔で動き回る世界では必ずしも当てはまるものではないが、今回はその常識から逸脱はしていないようだ。
「まだ余裕はありますけど……少しずつ狭くなってきてますね。レン、無理はしないように」
 それはすなわち、降りるほどに壁面に這う茨との距離が縮まっていくことを意味する。
 レンと呼びかけた翼竜の背に乗って谷の底を目指す少女猟兵、シャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)もそれに気づくと、乗騎に警戒を促した。
 谷の底に着いてからが本番ではあるが、そこでレンの機動力を活かせると考えるのは、少々希望的観測になるだろう。
 既に命を落としたシャルロットであるのだから、どうにも時間がかかりすぎる場合、身一つで飛び降りてしまう手段もある。
 勿論、囚われた人々を考えるならばなるべく早く着く方がよいのであるが、自分を慕うこの竜を傷だらけにしてまで押し通るメリットが薄いというのが現状であった。

 ゆっくり下降するレンが器用に茨を避け、どうしても邪魔なものはシャルロットの弾丸が砕く。
 いくら嗅いでも慣れない、血と花の醜悪な匂いに顔をしかめながらも、一人と一匹は順調に谷を降りていた。
 どれほど降りただろうか、やはり底は見えてこず、全体のいくらを攻略したかは分からない。
 冷静に茨に対処するシャルロットの額に一筋の汗が浮かんだ、そんな時であった。
「おおっ、猟兵ではないか! おぉーい、少し手を貸してくれんかのー!」
 茨が特に細くなった道を塞ぐようにはまり込んだシャボン玉。
 その中で、にこにこと此方に手を振る少女の姿を見つけたのは。

「いやぁ、我ながらないすあいであとは思ったんじゃがなぁ。此処まで道が狭くなるとは!」
 九尾・へとろ(武舞の姫・f14870)と名乗った狐耳の少女がにこやかに語るのは、この地に一番乗りをしていた彼女の道程。
 ユーベルコードで作る舞台の応用として生み出したシャボン玉に身を包み、茨の棘もものともせずに進んだまでは良かったものの、うっかり茨の隙間にはまり込んでしまったと古めかしい口調は語る。
「それは……災難でしたね」
「まあ、それが故にシャルロット様と合流できたと思えば僥倖よ! ぽよんぽよんと弾んでいくのは楽しいんじゃが、やはり一人だと飽きが来てのう」
 へとろは明るく語るものの、それを受けるシャルロットの表情は芳しくない。
 へとろも言った通り、茨による道の制限が予想以上に大きく響いている。この調子でいけば降りる速度はますます遅くなり、囚われている人々の救出にも支障が出るかもしれないのだ。
 しかし、これ以上の強行軍となると、それこそ怪我を覚悟で茨の中に突っ込むよりほかあるまい。
 そこまで思考を進めたシャルロットに対して、へとろはやはり明るく提案する。
「しかし、もうひと味欲しくなるのう……どうじゃ、こっちに乗ってみるかの?」

「──それです」
「えっ?」

 先ほどよりも大きく膨らませたシャボン玉。
 そこに入り込む少女猟兵二人を見下ろすように、翼竜レンは羽ばたいていた。
「まあ、これはこれで楽しそうじゃが……本当にいいの?」
「ええ、速い乗り物には慣れていますから……レン、お願いしますね」
 へとろの確認に頷いたシャルロットの指示に合わせて、レンが勢いよく真下に体当たりを行う。
 当然、それが押し出すのは二人が乗ったシャボン玉。ユーベルコードに守られた泡のゆりかごは二人を守りながらも、茨を押しのけて一気に谷を落ちていく。
「はっはっは! 凄いのう、翼竜がどんどん遠くなりよる!」
「これならすぐに着きそうですね……!」
 二人を乗せたシャボンは、その勢いを衰えさせること無く、地の底の祭壇へと落ちていくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ディアナ・ロドクルーン
はっ…! なるほど、成程。面倒な紋章は贄からできていたと
――胸糞悪いとはまさにこの事ね。

それに…匂いを誤魔化そうにも隠し切れぬ死臭が鼻につく
この下に行けば良いのよね

これ以上紋章を作らせることはさせない


UCを使い、姿を変えて谷を降りましょう
肉体を強化していたとしても油断は大敵、
棘には十分気を付けて慎重に隙間を塗って下っていく

ああ――…下るほどに匂いが酷くなる
この下はどうなっているのか想像に難い
下り終わったら何かも。オブリビオン全てを滅してくれるわ


月隠・望月
強者が、猟兵が戦えない者を守るのは当然。オブリビオンの凶行を許さないのも、当然。
行こう、助けられる者がいるのなら。

深い谷……落ちるのが一番早い、とは聞いたが、戦う前に怪我をするのは避けたい。
【百剣写刃】で無銘刀を複製し、複製した刀を念力で操って足場にしよう。わたしには飛行能力はない、が、刀を階段代わりにすれば谷を降りていくことができるだろう(【足場習熟】)
万一に備え【式鬼・鴉】(アイテム)に下の様子を【偵察】させつつ谷を降りよう(【式神使い】)
敵の罠や待ち伏せ、障害物など、ないとは限らない、ので念のため

しかし、酷い匂いだ。花の香もそうだが……既に犠牲者が多くいるのだろう。
生存者は助ける。必ず。



●救うために堕ちていく
「なるほど、成程。面倒な紋章は贄からできていたと――胸糞悪いとはまさにこの事ね」
 白い細指で鼻を覆おうとも、獣の嗅覚は悪趣味な花と犠牲の匂いを捉えてしまう。
 あらゆる要素が気力を削いでいくような環境だが、しかし女の眼差しには確固たる意志が宿る。
「──強者が、猟兵が戦えない者を守るのは当然。オブリビオンの凶行を許さないのも、当然」
 そして、深い谷を物ともせず、ぽつぽつとしかし力強い義侠心を滲ませて語る者がもう一人。
 獣の耳を持つ女が振り返れば、幾十もの刀を従えた少女鬼は、己が決意を確かめるように言葉を結ぶ。
「行こう、助けられる者がいるのなら」
「ええ……これ以上紋章を作らせることはさせない」
 ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)と月隠・望月(天稟の環・f04188)。
 二人の女猟兵もまた、自らの意志で血濡れた谷を降りていく。

「……ウォウッ」
「ああ、此方の鴉も振動に反応した……離れよう、あの辺の茨は《生きている》」
 複製した刀を足場に空中を進む望月に対して、ディアナは茨の覆う壁面に存在する僅かな隙間を器用に抜けていく。
 人の姿を変じ、紫紺の狼となった彼女が先導する形で、二人は茨の谷を攻略していく。
 敵らしい敵の姿は見えないが、オブリビオンの邪気とおびただしい数の贄の血を浴び続けた薔薇は、所々に悪意的とすら呼べる変化を遂げていた。
 一段と血の匂いが濃い茨をディアナが睨めば、それは獲物を逃した獣のように悔し気な身震いを見せて、望月の使い魔目掛けて放たれた花粉は、別の茨に当たりそれをグズグズに腐らせた。
「(罠……にしては杜撰な隠し方。勝手にこうなったって事は……)」
 ディアナの喉から、無意識に怒りを滲ませた唸り声が漏れる。
 どれだけ残酷で悍ましい行いが、どれほど繰り返されればこのような環境が生まれるのだろうか。
 降りるにつれて強くなり続ける血の匂いとも合わせて、その問いの答えは凄惨なものへと変じていく。
「……生存者は助ける。必ず」
 その怒りには触れず、望月もディアナに、そして自分に言い聞かせるように決意を口にする。
 獣の嗅覚とはいかなくても、忍びとして修練を積んだ望月にとってもこの血の匂いは強烈に香る。
 彼女にとっても、この地に刻まれた残酷さは眉を顰めるに余りあるものだった。

 そんな彼女達が歩みを止めたのは、分厚い茨の壁で作られた、蓋のような障害物の前であった。
「……多少斬っても、すぐ生える。全力で崩さないと」
 いくらか試してみての望月の結論がそれだった。
 足場に使っている刀で一気に斬り払えば、壁に風穴を空ける事は出来るだろう。
 勿論、それをすれば望月は足場を失うし、この茨に限って大人しく斬られるだけという都合の良い展開も期待するべきではない。
「グル……」
「わかった、お願いする」
 だが、この地に降り立った目的は救出なのだから、いつまでもここで立ち往生するわけにもいかない。
 望月は刀から飛び降りると同時に、操っていた刀のすべてを用いて茨を切り裂いていく。
 それと同時に、同じ形に再生するばかりであった茨の様子は変化し、さながら槍のような刺突を持って猟兵達へと襲いかかる。

「……!」
 だが、それと同時にディアナが望月の衣服を咥え、一気に谷を駆け下りる。
 魔性の茨がそれを追おうとも、ユーベルコードの力も合わさった獣の脚はすさまじく、落下するよりも更に早く谷を下っていくのだ。
 無論、そこまでの速度を出すディアナも、無茶な体勢で運ばれる望月にも限界はある。
 ──それが来るより早く谷底に辿り着くくらいでなければ、誰も救えない。
 その意思を合わせた彼女達は、悪意の薔薇を置き去りに、救うべき人々の下へと降りていくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
これだけ強い薔薇の香りでも、血の臭いは全く隠れてはいない
…この茨は、一体どれだけ血を吸ってきたのだろうな

谷を降りる為に、飛龍のセイの力を借りる
空を飛べるセイに乗って、空中を降下して谷底を目指す
ぎりぎりまで敵に気付かれないように、なるべく羽音を立てずに滑空を主体にゆっくり降りていく
セイの翼が茨に触れないように、ゴーグルの暗視機能で周囲はよく確認しておく

それにしても、人を材料として紋章を作っていたとはな
では、今まで倒して来た敵が使った紋章も…
…考えても胸糞が悪くなるだけか
この憤りは製造場所とその主にぶつけるとして
まず囚われている者たちが気掛かりだ、彼らの姿が少しでも確認できればと、谷底に目を凝らす



●静寂
 滑空、停止、旋回。
 騒々しい羽ばたきも無く、茨の谷を無音で回り続ける。
 並大抵の獣であればとうにバランスを崩して墜落するだろう無茶な飛行を続けてなお、その滑空によどみはない。
 瞳の色からセイと名付けられたその竜は、モンスターの最高峰に位置する肉体のポテンシャルを発揮し、危険と惨劇で育てられた茨の道を降りていく。
「……この茨は、一体どれだけ血を吸ってきたのだろうな」
 その背でぽつりと零すのは、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)。
 曲芸の域にまで達した無音飛行の中で、それでも漏れてしまうのはこの異様な谷への嫌悪だ。
 シキも、このダークセイヴァーにおいて紋章を有する敵と相まみえたことはある。
 その正体が人の贄によって作られたと聞かされた時点でも憤りを感じたし、この谷に漂う血肉の匂いを嗅いでしまえば、それが予知するまでもない真実だと嫌でも理解できる。
 だが、シキは必要以上に声を荒げ怒りを発散する事も無く、セイの背に乗って静かに谷を降りていく。
 今、考える事ではないのだ。
 この怒りには蓋をして、オブリビオン達の下に辿り着いて叩きつけるその時までぐらぐらと煮えたぎらせておけばいい。

 そうしなければ、まだ生きている人々を救えないのだから。

 飛竜の通れない、極端に茨が狭まった地帯に差し掛かると、シキは迷うことなくセイから飛び降りる。
 ゴーグルによって暗闇の視界を確保した彼は、まだ安全に着地できる高度ではないことは重々承知している。
 だが、こうも道が狭まってはセイは通れないのだから、彼は身一つでそこをすり抜けるほかない。
「──よし、頼むぞ」
 そして、茨を潜り抜けた後でユーベルコードによって相棒を呼び出せばいいだけの話だ。

 これまでのオブリビオンの行いを、今まさに囚われてる人々の苦難を思えば、シキの胸には確かな憤りが燃え盛る。
 しかし、それに突き動かされるだけでは救えぬと、彼は知っているのだ。
 その羽ばたきは、その進軍は、その思考はあくまで静寂の中で。
 暗視の視界に僅かに映る檻の影を目指して、シキは静かに谷を降り続ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…薔薇の香気で誤魔化せないほどの死臭が渦巻いているのね
一体、この地の底で何人の罪無き人々が犠牲になったのか…

UCを発動して左眼の聖痕に宿していた無数の霊魂を大鎌に降霊し、
呪詛を詠唱させて次の戦いまで大鎌に闇の魔力を溜め続けておく

…加減は無しよ。後の世にこんな外法の代物を遺す訳にはいかないもの

…死してなお我が身に宿る英霊達よ、どうか今一度、その魂を奮わせて力を貸してほしい
この地に縛られた霊達を解放する為に。そして、この世界の未来の為に…

「影精霊装」に防具改造を施しパラシュートの落下傘のように変化させ、
周囲を暗視して索敵を行い体勢を崩す事がないように注意しつつ闇に紛れてゆっくり崖を降下する



●全霊
 ふわりふわりと少女が落ちる。
 羽のようにゆっくりと、けれど誰にも捕まえられぬ程軽やかに。
 陽の光が照らさないダークセイヴァーの最も暗い場所、地底都市の貴族の館においても、その光景はどこか神秘的で穏やかさすら感じさせるものだった。
 少女の名は、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。パラシュートに変化させた精霊衣を用いて下降する彼女は、周囲に警戒を払いながらも器用に布を操って茨を攻略する。
 その額にはうっすらと汗がにじむ。茨の詳細が分からぬ以上刺されるわけにはいかず、緩やかな自然落下と言っていいこの方法で降りるのは、見た目以上に神経を削る行為だった。

「……黒剣覚醒、呪言詠唱開始。黒き咎人に断罪の刃を……」
 そのような方法をリーヴァルディが選んだ理由は単純明快で、彼女は谷の攻略にユーベルコードを使うつもりが無かったからだ。
 谷を降り始めてから絶えず唱える詠唱は、谷底に潜むオブリビオン達を斬り払うための物。
 パラシュートを操り、詠唱を唱え、その集中力を削る華と血の悪臭に耐え続ける。
 リーヴァルディの選択は、肉体ではなく精神を削る戦いであった。
「……死してなお我が身に宿る英霊達よ、どうか今一度、その魂を奮わせて力を貸してほしい──この地に縛られた霊達を解放する為に。そして、この世界の未来の為に……」
 故にこそ、彼女は死者へと向けるその言葉に、過去と未来の命を語る。

 それは英霊達への呼びかけであり、同時に彼女自身の背を押す言葉だ。
 紋章を作るために血が流れる。紋章が与えた力で血が流れる。
 数多の命を啜ったあの外法の宝物は、決してこの世に残してはいけない。
 万に一つでもこの地で猟兵が敗れれば、囚われた人々は紋章の贄となり、その力を得た第五の貴族によって更なる命が奪われることは明らかである。
 ならば、リーヴァルディが持つ最大の力を持ってこの祭壇の攻略に臨むことは、彼女にとっては当たり前の結論なのだ。

 茨をすり抜け、どんどんと強くなる血の匂いのその奥に。
 かさかさと何かが蠢く音と、弱弱しい幾つもの吐息がわずかに聞こえる。
 その地の底を目指して、リーヴァルディはただひたすらに降りていくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルトリウス・セレスタイト
直行するか

普通に谷底へ向け落下。足から
状況は『天光』で逐一把握
到達後の攻撃及びその他害ある要素には煌皇にて
纏う十一の原理を無限に廻し阻み逸らし捻じ伏せる

着地地点の様子は予め『天光』で把握しておく
自身への落着の衝撃は『無現』で否定し消去
要救助者に及ぶ余波は否定。それ以外は虫を排除する物理力を期待して放置
全行程必要魔力は『超克』で“世界の外”から常時供給

堂々と落ちてくれば勝手に注目してくれるだろう
有象無象が『煌皇』を超えることはない
群れてくる端から排除しておけば後続の安全確保にもなろう
纏う原理を無限に回し、無限量の圧と破壊の原理を乗せ打撃で始末

※アドリブ歓迎



●宣戦布告
 ばきばきと大きくはない、しかし絶え間ない破壊音が谷に響く。
 青年の形をしたそれが纏う光が茨に触れれば、侵入者を傷つける棘は砕かれ、蔓は容赦なくへし折られる。
 無防備に落ちてくるという選択を選んだアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、しかし驚異的なペースで谷を降りていく。
 何も飛行手段を講じない、自由落下であるのだから早いのは当然でもあるのだが、それをさせない為の谷であり、茨であったはずだった。

「……思ったよりも破片が多い、か」
 落下を続けるアルトリウスの纏う光がひときわ強く輝けば、砕かれていく茨はとうとう灰も残さず消し飛ばされ始める。
 あまりに多くの棘の欠片が降り注げば、谷底に囚われた人々を傷つけるやもしれぬという判断だ。
 すべての障害を砕きながら落ちていくという彼の選択は、多くの猟兵が避けてきたものである。
 無論、例外なく人域を超えた猟兵であるならば、オブリビオンそのものではない茨如き、容易く破壊できる者はいくらでもいるだろう。
 つまりこれは、燃費の話になる。
 谷底でのオブリビオンとの戦闘が予知されている以上、当然の心理として、人は道中での消耗を避けるという思考に辿り着く。
 そもそも身体が頑丈で何もせずとも傷を負わないのであれば問題ないが、多くの猟兵はそこまで振り切れてはいないし、アルトリウスもまた、周囲に展開する『煌皇』の維持にはそれ相応の魔力を要求されるのだ。
 よって、このような選択肢を取るのは彼のような──魔力に関する、理不尽なまでの回復手段を持つ者に限られる。

 どぉん、と。
 地底に大きな音が響く。
 アルトリウスが落下という選択肢を選んだ理由は、単に可能だからというだけではない。
 救助対象を脅かす着地の余波も、自分ならば防げるという確信が一つ。
 もう一つ、これも人々を守るため。

「ギギ、ギィッ!?」
 限りなく高まる薔薇の匂い、それに彩られる血濡れの祭壇。
 いくらかはアルトリウスの着地の衝撃で吹き飛ばされたものの、それを取り囲む膨大な数の蟲が侵入者を見とがめ騒ぎ出す。
「そうだ、敵が来たぞ」
 振るう拳で勇敢な一匹を砕き、アルトリウスは名乗りを上げる。
 冷たさを感じさせるその眼光の奥に、人々を救うため、自分にこそオブリビオンの悪意を向けさせる猟兵の意志を秘めながら。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『死肉喰らい』

POW   :    捕食行動
【集団での飛び掛り攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛み付き】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    多足歩行
【大口を開けての体当たり】による素早い一撃を放つ。また、【数本程度の足の欠損】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    死肉を喰らう
戦闘中に食べた【落ちた仲間の足や死肉】の量と質に応じて【傷を癒し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。

イラスト:猫背

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●助け
 谷底の存外広い空間に造られた血濡れた祭壇に、薔薇の香りが漂う。
 祭壇の中心部は、人を何人か寝かせられそうな平らな造りであり、そこには特に濃い血の跡がべったりと付いている。
 『死肉喰らい』は、蜘蛛と芋虫を掛け合わせたような、醜悪な蟲の姿をしたオブリビオンだ。
 ただでさえ生理的嫌悪感を呼ぶ外見ではあるが、この地の祭壇に巣くう彼らはひと際悍ましい姿をしている。

「ギ、ぎギ欺giいい……!」
 『紋章』を知る者なら、すぐにわかるだろう。
 蟲から歪に生える肉の触手が、今まで見た紋章のそれとよく似ているという事が。
 猟兵の襲来に浮足立った連中はそこまでの大きな力は秘めていないが、放置すれば更なる犠牲のもとに、驚異的な力の源泉となることは明らかだった。

「あの、人たちは……」
 そして、騒ぎ出す蟲たちの後ろで、猟兵達の視線を受け止める存在。
 錆びた鉄格子に押し込められ、第五の貴族の為に命を散らすばかりであった人々。
 絶望に浸りきっていた彼らは、唐突に天から現れた助けを、どこか信じられぬような呆けた顔でじっと見ていた。
ディアナ・ロドクルーン
共闘可・アドリブ歓迎

あの茨…ああ、薔薇のだったのね
…随分と品の無い薔薇だこと

だからこんな虫がついちゃうのね
害虫は駆除しないと

虫でも恐怖は感じるのかしら
その醜い躰、生きたままゆっくり殺しましょう
真の姿を解放しUCを使う

四肢を腐らせながらその歪な肉を削ぎ落していこうか
マヒ攻撃をしながら脚、触手を部位破壊していきましょ
死肉を食らう暇も与えない

ねえ、そう簡単には息絶える訳ないわよね?
はははっ!多少は抗ってもらわないと殺し甲斐がないというもの

犠牲になった人たちの苦しみ、憎しみはこれの比じゃないわ

――と言っても…もう聞こえないかしら?


アルトリウス・セレスタイト
雑兵は手早く、且つ圧倒して始末に限る
黒幕気取りを引き摺り出すか

戦況は『天光』で逐一把握
攻撃には煌皇にて
纏う十一の原理を無限に廻し阻み逸らし捻じ伏せる
要らぬ余波は『無現』で否定し消去
全行程必要魔力は『超克』で“世界の外”から常時供給

敢えて近接し白打で一撃
纏う原理を無限に回し、破壊の原理と無限量の圧を乗せ、時の原理にて無限加速して叩き込む
万象一切に終わりを刻む破壊の原理に例外は無い
どのようなモノであれ消え去るのみだ

最初の一体を討った後は無限加速した動きで目に映る敵性個体が消えるまで継続
所詮寄せ集め。ユーベルコードなど不要だろう
他への支援が必要なら魔眼・封絶で拘束

※アドリブ歓迎



●熱く冷たい心と共に
 しなやかな四肢を覆う黒い装束。
 戦場においては不似合いなはずの、腹や肩の肌を大胆に露出した女が薄く笑う。
 檻に囚われていた奴隷の間に走る動揺。音もなくこの地に降り立ったはずの狼が、次の瞬間紫紺の人狼へと姿を変えていた。
 あくまで女は笑みを絶やさずに、周囲を取り巻く花に目を向ける。
 オブリビオンの育てた花になど関心が無かった女は、その時初めて自分たちが突破した茨が薔薇であったと気づく。
 香りばかりが強く血のように濃い色をした、悪趣味な薔薇……だからだろう。
「だからこんな虫がついちゃうのね。害虫は駆除しないと」
 笑みを、普段の穏やかな笑みとは、決定的に何かが違う表情を浮かべたディアナは弾むような声で呟いた。

「ギィ、ッギギギっ!」
 ディアナの体に潜むUDCの刻印が、死肉喰らいの触手を削ぎ落す。
 オブリビオンの体が切り裂かれると同時に、その傷口は急速に膿み、腐りゆく。
 ユーベルコードである毒の霧も、刻印による攻撃も、オブリビオンを即座に絶命させる威力は持たない。
「……虫でも恐怖は感じるのかしら」

 ・・
「喜べ、しっかり恐れている」
「そうなの? ありがとう、教えて下さって」
 だが、即死しないだけだ。
 生きながらに腐り、体を削がれ死にゆく蟲を掌底で消し飛ばすアルトリウスが、その身の光で見通した敵の感じる恐怖を、ディアナに告げる。
 狂気的な笑みを浮かべて腐敗と破壊を振りまくディアナに動じた様子もなく、彼も淡々とオブリビオンを減らしていく。
 アルトリウスの余裕は、死体を食う事も出来ず、一方的に狩られゆく蟲のような力なき存在でないという事にも起因するが、本質はそこにはない。
「――はははっ! 多少は抗ってもらわないと殺し甲斐がないというもの」
 勇敢な個体が、決死の覚悟で突き立てた牙に血を流しながら、ディアナはその口に直接毒霧を流し込み、体内から腐らせていく。
「ッ、ヒィ!」
「落ち着け、害はない」
 その霧の一部が、逃げ場のない牢の中の人間にまで届く。
 しかし、それはアルトリウスが見立てた通り、彼らの体を一切侵すことなく霧散する。
 人々は、アルトリウスが守ってくれたのかと彼の顔を見上げるが、青い目を閉じた彼は首を横に振ってそれに応える。
 単に、この霧は元から人々を害すことのないものだ。

「……犠牲になった人たちの苦しみ、憎しみはこれの比じゃないわ」
 ディアナは、怒りに突き動かされるままに残酷な戦いを繰り広げている。
 それは、正しいけれども、本質の全てではない。
 その根底にあるのは情だ。
 理不尽に自由を、尊厳を、生を奪われた人々を想う悲しみであり、だからこその怒りだ。
 それを眩しく思う事こそあれ、怖れるなどという思考はアルトリウスには存在しない。
「さて、そろそろ黒幕気取りを引き摺り出すか」
 あの怒りは、アルトリウスの中には無いものだ。
 眩しく憧れども、模倣と再現で構成された彼の心身には宿らないもの。
 それでも、彼の中で憧れを生む、人間性と呼ぶのもおこがましい何かが、震える人々を早く助けてやれと急かす。
 この地の第五の貴族であるメローゼは、祭壇を荒らし回れば怒りを持って姿を現すと予知されている。
 ならば、この醜悪な雑兵をすべて消し去ることが、この戦いの最終盤を告げる狼煙だ。

「……ユーベルコードは不要だな」
 この程度の敵に後れを取るアルトリウスではないし、ますます勢いを増して敵を駆逐するディアナも、助けてやらねばならないような弱者ではない。
 彼の纏う光が再び煌めき、そこに触れた蟲が灰すらも残さず消滅する。
「これは……」
 アルトリウスの光も、ディアナの霧も、決して蟲を逃さず人々をただの一度も危険には晒さない。
 生贄にされるはずだった囚人達の胸中に、『まさか』と『もしかして』が、ぐるぐると回り始めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
これが紋章の素か…
無暗に攻撃すると足が欠損して加速するかもしれない
敵の前に出て体当たりを誘発、ギリギリまで引き付けてユーベルコードで反撃を試みる
大口に銃口を突っ込むくらいの至近距離で引き金を引く
この距離なら確実に頭を潰せる

囚われた奴隷の位置や人数は戦いながら確認し、敵が向かうなら最優先で守る
真の姿を解放(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように変化、瞳は夜の獣のように鋭く光る)
身体能力を底上げして奴隷を狙う敵に接近、割り込んで奴隷への噛み付きを妨害しつつ、胴体部分を狙って発砲する

奴隷たちには助けに来たと伝える
こんな場所に囚われていては精神的にも疲弊しているだろう
声をかけて少しでも不安を除きたい


月隠・望月
ここで紋章を作っていたのか。だが、それも今日で終わり。
オブリビオンは倒す。すべて。

【呪符壁展開】を使用して自身の周りに結界を張り、敵の攻撃を防ぎながら機を見て一撃入れよう。
敵は数本程度の足の欠損で更に加速する……なら、数本程度でなければ、どう? 敵が体当たりを仕掛けてきたタイミングで敵の目の前に結界を張って動きを阻害、その隙に無銘刀で敵の足を【切断】したい(【部位破壊】)。攻撃は敵の足をすべて切り落とすつもりで行おう。中途半端では逆効果になる
動きを止められたらとどめを刺そう

捕まっているヒトが攻撃されそうになったら、最優先で周囲に結界を張って守ろう。
わたしは、あのヒトたちを助けに来たのだから。



●月が照らす
 猟兵の襲撃により、地の底の祭壇は混乱の色を強めていく。
 触手を生やした紋章化にによる意識の混濁もあるが、元々死肉喰らいは賢い部類のオブリビオンではない。
 しかし、だからこそ猟兵という強者の出現に対して、本能を持って最短の対応策を選択する。
 すなわち、捕食による自己強化だ。
「ギィ、ギギギギッ!」
「う、うわぁ、こっちに来たぞ!」
 牢に囚われた人々のうち、恐怖の叫び声をあげる者はほとんどいない。
 大部分の囚人は疲弊しきっていて、抵抗はおろか、蟲から逃げる事すらままならない程に弱っているのだ。
 そんな人々に対して、蟲は容赦なくその牙を剥く。

 がきん。
 響くのは、固いオブリビオンの牙を受け止める金属の音。
「隙あらば、だな。やってくれ」
「ああ……もう大丈夫だ、助けに来た」
 爛々と光る眼光で敵を見据えるシキが、牙を受け止めたナイフで素早く蟲の喉を掻っ切れば、その僅かな隙に望月の結界術が完成する。
 瞬く間に人々を覆った結界に別のオブリビオンが齧りつくが、ユーベルコードによって作られたその守りを雑兵が突破できる訳もない。
 シキも、望月もこの人々を守るためにこそこの血と薔薇に彩られた祭壇まで降りてきたのだ。
 そんな彼らが守るべき人々から意識を逸らすわけもなく、獣の瞬発力で割り込んだシキが間にあったのは、当然の結果であろう。
「あ、あなたたちは……」
 地の底に囚われた彼らも、ダークセイヴァーに現れた猟兵達の事は知っていた。
 しかし、所詮救われるのは地上の人々。このような、月明りすらも届かない地の底に救いの手が差し伸べられるなど、想像すらしていなかったろう。

「さて、あんた達の安全が確保出来たら、未来の憂いも絶たないとな」
「紋章作りも、今日で終わり」
 しかし、月すらも照らさないこの地獄に、彼らは確かに現れた。
 淡い光を纏い、鋭い牙を見せるシキに対して、複数の蟲が一気に飛び掛かる。
 敵の性質は事前の予知で割れている。半端に傷つけるのではなく、一気に仕留める事こそが重要だと承知しているガンナーは、その手の銃を冷静にオブリビオンの口へと向けるのだ。
 不自然に大きく響く銃声が、一つ、二つ。
 一気に口内を貫かれた二匹の蟲にも、結界の中でただ驚くばかりの人々も、その不自然さには気づかない。

 唯一、猟兵としての知覚能力から、シキの放った銃弾が四つであると気づいた望月も、彼女の武器である刀に手を添える。
 シキとは違い、彼女は既に人々を守るためにユーベルコードを使っている。
 いくらかのキャパシティを割いて、蟲を受け止める事も出来るだろうが、どのタイミングで第五の貴族が現れるか掴めない以上、弱者の守りを減らすという選択肢は望月にとって論外だ。
「――ふっ」
 とはいえ、死肉も食えず、素の力量のまま突っ込んでくる蟲に後れを取る彼女ではない。
 素早く刀を振るい、オブリビオンのすべての脚を切り落とした彼女は、そのまま頭部を両断し、敵を沈黙させる。
 当然、その間も結界を保つ集中力が切れることなどあり得ず、彼女が斬ったオブリビオンの退役すらも、囚人達には届かない。

「……これは、足を斬った後のトドメを任せても?」
「そうするか。少しでも早く片付けたい」
 望月の提案にシキが頷き、ちらと結界内の人々を見やる。
 降りてきたばかりのシキでさえ、顔をしかめずにはいられぬ血と花の悪臭だ。
 それに囲まれ、死の恐怖に怯え続けた彼らの疲弊はいかほどのものか。
 彼らの絶望を思えば、少しでも早く戦いを終わらせて、此処から連れ出してやりたいというのは、ごく当然のことだった。
 かくして、二人の猟兵による蟲の掃討は、奴隷達の身に一切の危険を及ぼすことなく、急速な速さで進められていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
まだ救える人がいるのは幸いですね……。
これ以上の被害が出る前に、蹴散らさせて頂きましょうか。

数は多いですが、下手に銃を乱射すると、流れ弾が出かねない。
捕らえられている以上は逃げ場もありませんし、狙撃では時間がかかりすぎる。ならば。

希望の旗、開帳。
こいつで薙ぎ払う。
幸い、敵は近接攻撃手段しか持たず、向こうから群れてきてくれる。迎撃に徹すれば容易い事です。

喰いたければ喰いに来い。
希望を喰らい、絶望を齎すことがお前たちの本懐ならば、私は全力でそれに抗おう。
お前たちがどれほど喰らおうとも、この希望は折れぬことを見せつけてやりましょう……!



●地獄に旗を立てよ
「(存外、厄介な状況かもしれませんね)」
 地の底に降りて、ひとまずの状況を確認したシャルロットの結論は芳しいものではなかった。
 紋章を作る為であろう祭壇、それを取り囲むような複数の檻に、牢番たる死肉喰らい。
 シャルロットの主たる武器は銃火器の類であるが、何処に向けても射線上に救うべき奴隷達がいるのだ。
 勿論、シャルロットとて歴戦の猟兵であり、第五の貴族でもないオブリビオン相手に、敵だけを撃つという芸当ができないわけではない。
 しかし、それは相応に神経を集中させねばならない戦いになるし、狙いすまして撃つ分、射撃の間隔も長くなるだろう。
 なによりも、当てるつもりが無かろうが、救うべき人間に銃口を向けるなど、シャルロットの流儀ではない。
「……向こうから群れてきてくれる。やりようはありますね」
 シャルロット・クリスティアは、希望を見せる為にこの地獄に降り立ったのだ。

「ギギ……ギギシャアァアァ!!」
 ただの人間のように見えたシャルロットの肌から、急速に血の気が引いていく。
 猟兵の有する真の姿、それを解き放つシャルロットに対して、死肉喰らい達はにわかに騒ぎ出す。
 あれは死肉だ。死してなお動き続ける、生きのいい大好物。
 矛盾したその存在に狂喜乱舞するオブリビオンは、赤い銃剣を構えるシャルロットへと一斉に襲いかかる。
 瞬間、この地に満ちる薔薇の花びらとは異なる赤い閃きが走る。
 息もつかぬ程の速さで斬り捨てられたオブリビオンが地に落ちれば、シャルロットは不気味な赤い瞳で次の獲物を見定める。

「あ、ああ……」
 その光景を見ているのは、シャルロットが背後に庇う檻に囚われた人々だった。
 助けに来たとはいえ、多くの人が恐れるだろうシャルロットの姿を見て、しかし彼らは恐怖ではない涙を流す。
 旗だ。光り輝く旗が立っている。
 戦場においてなお神々しく、折れること無いその旗こそが希望なのだと、彼らは本能的に理解した。
 希望を喰らい、絶望を齎す悪魔たちが支配するその地で、自分こそがそれに抗う者なのだと彼女はあの旗の輝きで叫んでいるのだ。

 一人の男が、弱り切った子供を背負う。
 戦闘が続いている間は逃げられないだろうが、彼女達が逃がしてくれるその時に、足手まといにならぬよう、速やかに逃げねばと思った。
 折れてしまった筈の心を照らされた人々が、生きる為の行動を始める。
「喰いたければ喰いに来い。お前たちがどれほど喰らおうとも、この希望は折れぬことを見せつけてやりましょう……!」
 シャルロットが掲げる旗。
 それが照らす人々の心を支配していた絶望が、急速に小さく弱いものへと変わり始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…捕らわれた人達は牢に入れられているのね
それならば、この一撃で諸共に消し飛ばす憂いは無い

地の底に辿り着く前に空中機動を行う「血の翼」を広げて浮遊し、
囚われた人々や敵の配置を暗視して攻撃に人々が巻き込まない位置を索敵して見切り、
大鎌を武器改造して巨大剣の柄に変形しつつ維持していたUCを解放

…さぁ、"過去を刻むもの"よ。その力を解放しなさい

降霊した霊魂の魔力を溜め限界を突破して長大な闇の光刃を形成して怪力任せになぎ払い、
極限まで高めた呪詛のオーラで防御ごと敵陣を切断する闇属性攻撃の斬擊波を放つ

…半ば紋章化している以上、肉片の一欠片すら残す訳にはいかない
この醜悪な祭壇諸共、地の底で眠るがいいわ



●希望が降りて、絶望が降りる
 死肉を貪る蟲がいる。
 醜悪な触手を生やした蟲達は、猟兵達の襲撃に右往左往しながらも、祭壇を守るべく戦いを続ける。
 牢に囚われた人が居る。
 諦観に染まりきっていた筈の彼らの表情は、この地獄に降り立った猟兵達を見て、明確な変化を見せ始めている。
 そして今、この地には。
「……これならば、この一撃で諸共に消し飛ばす憂いは無い」
 絶望を砕く為に降り立った、彼女達がいた。

 限定的な吸血鬼の力、血の色の翼を広げたリーヴァルディは、空中から戦場を観察していた。
 多くの蟲が跋扈するこの場所において、しかしほとんどの奴隷達は牢に入ったままか、猟兵達に庇われている。
 攻撃の余波が、彼らを脅かすことは無いだろうと、リーヴァルディは道中の準備が無駄にならなかった事を安堵する。
 そんな彼女の手の中、がちゃがちゃと音を立てて変形していく大鎌は、武器としては似つかわしくない、大きな棒状の形をとる。
 勿論、これはれっきとした武器だ。この地に巣くうオブリビオンを滅ぼすために造られた巨大な武器だ。
「……さぁ、"過去を刻むもの"よ。その力を解放しなさい」
 その武器の『柄』を握るリーヴァルディが、ずっと語り掛けていた霊魂に号令をかける。
 この地で続けられた生贄の儀式に、引導を渡すのだ。

「ギ――ッ!」
 長く暴虐を尽くしてきたオブリビオン、死肉喰らいがその悍ましい断末魔すらも許されずに消し飛ばされる。
 大した知能を持たない彼らにとって、巨大な光の柱にでも見えただろうその力は、リーヴァルディの握る柄から伸びていた。
 このオブリビオンも紋章化しているのならば、一匹たりとも、いや、体の一欠けらすら残すわけにはいかない。
 己の限界すら超えて、極限まで高められたリーヴァルディの操る闇の光刃が、この紋章の祭壇そのものを両断する勢いで振るわれる。
 閃き、と呼ぶには圧倒的すぎる魔力の奔流が斬撃波となり祭壇を襲えば、この場所を覆っていた薔薇と血の匂いが、たちまち吹き飛ばされていく。

「……こんな所ね」
 やがて、蟲達を全滅させたリーヴァルディが谷底に降りて、辺りを見渡し壊れた祭壇を確認する。
 確かに破壊されたそれを見たのちに、彼女は感謝の表情を浮かべて檻から出ようとした人族奴隷たちを手だけで制する。
 まだ、その檻の中に居た方が安全なのだと。
 猟兵だからこそ分かる、急速なスピードでこの祭壇に降りてくる存在。
 死肉喰らいなどとは比べ物にならない『貴族』の気配を感じながら、猟兵達は最後の戦いを予感した。
「来なさい――この醜悪な祭壇諸共、地の底で眠るがいいわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黒茨の魔嬢『メローゼ・トロイメツァライ』』

POW   :    おなか、へった
全身を【黒茨の咎の牢獄】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    ……ねむい
【夢幻の眠りを齎す蝶の残滓】【幻惑し迷いを齎す蝶の亡骸】【焼け焦げた黒茨の咎鞭】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    大輪の薔薇にて紅く染めテ
自身の装備武器を無数の【伝染する呪詛の込められた薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:葛飾ぱち

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠パラノロイド・スタングリクスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●苛立ち
 谷を覆う茨が蠢く。
 薔薇達の主が降りる為の道が開かれ、そこを落ちるように降っていった少女が平然と谷底に着地する。
 どこかぼうっとした顔立ちの愛らしい少女に、しかしその場の誰もが警戒の表情を持って出迎えた。

「むしがうるさいと、おもったら……」
 少女の、いや、少女の姿をした呪いと怨念の塊。
 第五の貴族、『黒茨の魔嬢『メローゼ・トロイメツァライ』』 は、微かに苛立ちを滲ませた表情で壊された祭壇に目を向ける。
 その胸元で蠢くのは、猟兵が破壊せんと今回の戦いの原因にもなった『紋章』だ。
 見たことがある者も居るだろう『辺境伯の紋章』は、単純なスペックの底上げを可能とする隙の無い紋章。

 しかし、どうにも様子がおかしい。
 メローゼの体に纏わりつくそれは、激しくのたうち回ると思いきや、急に静まると、挙動が一定していない。
 グリモアベースで予知された、『ずっと効力を発揮していることはできない』という言葉がこの状況を指すのであれば。
 ――ユーベルコードのような、強大な力にあの紋章が耐えられないのなら。

「さいだんは、まだあるけど……ひとまず、しんで、ね?」
 此方に茨を向けるメローゼ。
 強大な第五の貴族を相手にして、猟兵達は今一度気力を奮い立たせ、最後の戦いに臨むのであった。

●ボス 黒茨の魔嬢『メローゼ・トロイメツァライ』
 辺境伯の紋章を備えた第五の貴族との戦いです。
 メローゼは紋章の力により強力な力を得ています。
 ただし、ユーベルコードを使った攻撃の後は、未調整の紋章が暫く機能不全に陥るようです。
 そのため、敢えて先手を譲る……『敵の先制攻撃を攻略し反撃する』プレイングにはプレイングボーナスが加算されます。
アルトリウス・セレスタイト
紋章の力とやら、見せる気があるなら急ぐことだ
消え失せてからでは叶わんぞ

戦況は『天光』で逐一把握

敢えて先手は放棄
自慢の紋章が効かねば揺らぐだろう
攻撃には煌皇にて
纏う十一の原理を無限に廻し阻み逸らし捻じ伏せる
要らぬ余波は『無現』にて否定し消去
全行程必要魔力は『超克』で“世界の外”から常時供給

破界で掃討
対象は戦域のオブリビオン及びその全行動
それ以外は「障害」故に無視され影響皆無

高速詠唱を『刻真』『再帰』にて無限に加速・循環
瞬刻で天を覆う数の魔弾を生成、周囲全方向へ斉射
更に射出の瞬間を無限循環し殲滅まで一切止まらず継続
戦域を魔弾の軌跡で埋め尽くす

これで仕舞いか
骸の海でも飲み干して出直せ

※アドリブ歓迎



●悪手
 とうとう現れた第五の貴族、メローゼ。
 しかし、その強大なオブリビオンと猟兵の戦いは、事の他静かに始まった。
「……紋章の力とやら、見せる気があるなら急ぐことだ。消え失せてからでは叶わんぞ」
「…………」
 街頭にでも立つような自然体、一見無防備とすら見える立ち姿のアルトリウスに対して、メローゼもまた静かに警戒の姿勢を見せる。
 幼い少女のように見えても、その正体は過去から帰ってきたオブリビオン。
 自分の紋章が不完全であることは承知しているし、その事が敵にバレているのも分かっている。
「わかった、なら、これはどう?」
 その上でメローゼが選んだのは、自身を取り巻く茨を薔薇の花びらに変えての面制圧であった。
 勿論、ただの花びらではない。
 紋章の力によって強化されたユーベルコード、あらゆるものを冒し破壊する呪詛の花びらは、防御すら許さない必滅の呪いである。
「ひ、は、花びらが……!」
「なるほど、そういうことか」
 加えて悪辣なのは、数多の花びらが牢に囚われた人々にも向けられたこと。
 多くの猟兵が、無辜の人々の犠牲を厭うものだと知っているメローゼにとっては、アルトリウスに更なる負荷をかけられる有効な手だ。
 ――ただしそれは。

「思ったよりも、陳腐な手段であったな」
「……え?」
 アルトリウスに、限界というものが存在するという仮定での話だ。

 人を撃ったのなら人を、壁を撃ったなら壁を、術を撃ったなら術を呪い、崩壊させるはずの花びらが消滅する。
 アルトリウスが放ったいくつもの蒼の光弾が狙われた人々ごと花びらを穿った瞬間、メローゼの術だけが跡形もなく消滅する。
 無尽蔵の魔力を、破壊する対象以外への余波を否定し無視することが可能なアルトリウスに対して、メローゼの取った手段は悪手そのものだ。
 一瞬で目論見を潰されたメローゼの胸元で、辺境伯の紋章の動きが弱り、彼女に与えていた力が一時的に途切れる。
 瞬時に、膨大な時間を使った詠唱を瞬時に終わらせる矛盾を創るアルトリウスによって、暗い谷底を照らすように光が満ちる。
 それが、先と同じ魔弾で作られた光だとメローゼが理解すると同時に、その空は落ちてきて……。

「これで仕舞いか――骸の海でも飲み干して出直せ」
 アルトリウスの言葉と共に、メローゼの体は光の中へと飲まれるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月隠・望月
強力なオブリビオンに隙の無い紋章……強敵だが、突破口はある。
あの紋章は不安定。敢えて敵に先手を譲り、反撃を狙う。

敵は黒茨の牢獄と化している間は全く動けないようだ。こちらから攻撃しつつ、紋章が機能不全に陥るのを待とう。
敵の同じ箇所を無銘刀で何度も斬りつける等してみようか。ほとんど効かないだろうが、それでいい。これは【時間稼ぎ】。『ほぼ無敵の防御に対して、ダメージの蓄積を狙って無意味な攻撃をしている』と、敵が誤認して侮ってくれれば御の字。

紋章の効果が切れたら【剣刃一閃】で攻撃しよう。効果切れの影響で黒茨に攻撃が通るようになればいいが……そうでなければ、祭壇をさらに荒らす等して防御を解かせたい。



●忍
 この地に囚われた人々を救うための猟兵達の奮闘を阻む要素として、第五の貴族、メローゼ・トロイメツァライの単純な強さが存在する。
 彼女のユーベルコードを凌げば紋章の力は失われるが、そもそもの話として、強大なオブリビオンに対して先手を譲る行為そのものがリスクなのだ。
「ちょっと……けがしたから、あなたのおにく……ちょうだい、ね?」
「……断る」
 メローゼの言葉に短く返す望月の視界は、黒一色に染まっていた。
 辺境伯の紋章が大きく蠢いたのが見えたのは一瞬、目の前にいた少女の姿は掻き消えて、望月は瞬く間に茨の牢へと囚われていたのだ。
 咄嗟に周囲を確認し、生贄の奴隷達が巻き込まれていないと安堵したのも束の間、望月を襲ったのはメローゼそのものとも言っていい呪詛であった。

 がきんがきんと、植物とは思えぬ硬度の牢獄を斬りつける望月の刀がむなしい金属音を響かせる。
「むだだよ、これは、とてもかたいから……」
 口もないのに平然と語りかけるメローゼの声を無視しながら、望月は額に滲んだ汗をぬぐう。
 此処はいわば、メローゼというオブリビオンの胃袋だ。
 この手の精神を乱す呪詛にもある程度の耐性を持つ望月だからこそまだ動けてはいるが、そうでなければとっくに精神が狂い、メローゼの腹に収められている。
 彼女が誇る通り、物理的な手段で破ることは叶わず、この牢獄の外にいるであろう他の猟兵達にもそれは同様の事が言えるだろう。
 考えれば考えるほど、猟兵の手でこの牢獄を不可能だ。
 望月の動きも少しずつ鈍り、やがて暗い牢獄の中で蹲るように倒れた彼女の体は、ぴくりとも動かなくなった……。

 月隠・望月という猟兵の事を語るのなら、忍としての手札の多さが挙げられるだろう。
 彼女の生まれた里は戦闘能力を尊ぶ気風があるが、だからといってそれ以外を全くの蔑ろにするわけではない。
 望月自身、数多くの技能を修めてきたし、それを過不足なく使いこなす経験も積んできた。
 それは例えば、強固な牢獄に小さな、ほんの小さな傷を繰り返しつけ続ける剣術であったり、汗をかいてみせて追い詰められたふりをしてみたり。

 ――あるいは死んだふりであったり。

 脱力からの覚醒。
 起き上がってから駆けるのではなく、忍としての強固な体幹による寝たままの、起きながらの疾走。
 望月の呪詛耐性によって『消化』の感覚が狂っていたメローゼにとって、力尽きた獲物を食うだけだと思い込んだ彼女にとって、それは完全に虚をつく斬撃。
「ッ、まだ、もんしょうは……!」
「弱ってはいる……十分だ」
 メローゼの言う通り、紋章の力が完全には失われてはいないタイミング。
 だが、繰り返しの斬撃でヒビを入れられた茨には、既に望月の刀を防ぐ力はなく。
「き、きゃあああ、あ!?」
 刃が断ち切ったその茨。
 それはまさしく、メローゼの体が引き裂かれたのと同じであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
敵の攻撃後、紋章の機能が止まった隙を狙う
真の姿を維持し、相手を観察して反撃の隙を探る

蝶による眠気と幻惑の影響を感じたら抵抗、厳しいと判断したらナイフで自身の腕を傷付けて痛みによって覚醒を試みる
対応が遅れれば鞭が来る、躊躇してはいられない
すぐに鞭を確認し攻撃範囲から離脱するように回避する

攻撃直後であれば紋章は機能しない筈
今度はこちらがユーベルコードで反撃させてもらう
今なら防御に気を配る必要は無い、祭壇と敵本体への攻撃に集中
紋章の機能が復活するまで可能な限り連射、双方へ弾丸を撃ち込み続ける

奴隷に手を出す気を起こさせない為、力を見せつけて猟兵を脅威と改めて認識させたい
多少の被害は構わず積極的に攻める



●脅威
「……いた、い」
 谷底の祭壇での戦い。
 紋章の効力が切れる隙を突く猟兵達の攻撃は確かにメローゼにダメージを与えているが、幼い容姿には見合わぬ、オブリビオンとしての耐久力を持つ彼女を仕留めるには至らない。
 その上、メローゼの本領はその正体でもある呪詛による攻撃だ。
 見た目上の傷は彼女の戦闘能力を損なうことは無く、寧ろ、猟兵を確かな脅威として再認識した彼女の攻撃の勢いは増すばかりである。

「この数……すべてを回避するのは現実的ではないか」
 メローゼを取り巻く茨から放たれる、黒い色をしたなにかの欠片。
 もはや波のような物量で迫るそれが朽ち果てた蝶の亡骸であることを認識したシキは、獣の如き眼光を細く薄めて、迎撃を選択する。
 紋章の力を受けたユーベルコードの規模が拡大している以上に、シキが回避の為に駆け回れば、それを追うメローゼの攻撃が奴隷達に当たってしまう可能性が否定できないのだ。
 シキの体を、いくつもの死んだ蝶が叩く。
 それは物理的な損傷こそ与えないが、当たるたびにシキの思考にモヤがかかるような感覚を生じさせ、彼の動きを止めるのだ。
「このくらいで……!」
 その瞬間、自らの腕にナイフを突き立てるシキが、蝶の背後から襲いかかる茨の襲撃を紙一重で回避してみせる。
 相手が呪いであるのなら、直接的ではない、精神を削るような手段を有していることは想定できる。
 ならば、初めから痛みで惑わしの術を打ち消すと決めていれば、十分に対処可能であろう。
 勿論、言うほど楽な事ではない。
 自傷を想定して敵に対峙し、いざその状況になったとして、ためらいなく自らを傷つけるなど、並大抵の胆力では不可能だ。

 紋章の効力が切れ、メローゼの力が弱まる。
 だが、メローゼも紋章の力のみで第五の貴族の地位についたわけではない。
 シキの対応を見て、彼の脅威度を上方修正したオブリビオンが、残された力を駆使し、茨での防御姿勢を取る。
「く、ぐうう……!」
 茨を突き抜けるシキの弾丸のいくつかが、メローゼの体を抉る。
 その痛みに耐えつつも、どうにか致命傷を避けるメローゼが再び茨を解き放てば、その視線は銃を構えたシキを捉える。
「……?」
 違和感を覚えたのは、銃口の向き。
 シキの視線こそメローゼを捉え警戒を保っているが、銃はまったく別の方向を向いている。
 その方向には何があるのか、メローゼが一瞬だけ疑問を抱き。
「そういう、こと……!」
 それは、崩れかけていた祭壇。
 数多の銃撃を受け、今度こそ修復不能なまでに破壊されてしまったそれを認識したメローゼが自分のミスを痛感する。
 この男に、攻める隙を与えてはいけないのだ。
 自分と祭壇の両方を攻撃するような相手に、またチャンスを与えては、今度こそ自分の守りが貫かれるだろう。

 目論見通り、猟兵こそを至上の脅威として認識したメローゼの邪気の増大を肌で感じるシキが弾丸の装填を素早く終える。
 次こそ仕留めるという猟兵とオブリビオンの戦いの緊張は、いよいよピークへと達しようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
第五の貴族とはいえ、そんな状態で私の前に立つとは…侮られたものね

…ならば、侮りの代償を支払ってもらいましょうか。お前自身の生命でね

過去の戦闘知識と経験から敵UCを先読みして黒茨の牢獄を見切り、
「怪力の呪詛」のオーラで防御しつつ最小限の動作で受け流し、
闇の精霊を降霊した「精霊石の耳飾り」を使い闇に紛れた紋章を索敵してUCを発動

…無駄よ。本調子ならまだしも、今の紋章の気配を見逃すほど私は甘くない

吸血鬼化した右眼に血の魔力を溜め暗視した紋章に"支配の呪詛"を流し、
機能を反転させ限界突破して敵の生命力を吸収するよう武器改造を施し、
体勢を崩した敵に「黄金の楔」を怪力任せに投擲して捕縛する早業の追撃を行う



●打倒
「ふーっ、ふー……!」
「第五の貴族とはいえ、そんな状態で私の前に立つとは……侮られたものね」
 自身に刻まれた傷跡を抑えるメローゼが、息を荒げて猟兵を睨む。
 もとより少女の姿など見せかけで、生命とすら呼べるか怪しい彼女であるのだから呼吸など不要。
 すなわち、その荒い息はそのまま追い詰められた彼女の精神そのものを反映したものだ。
 紋章の不完全さを突かれ、もはや勝ち目など万に一つという状況であるのに、メローゼは退こうとはしない。
 その理由が何処にあるのか、リーヴァルディとて気にならないわけでもないが、聞き出そうとして手加減などするはずもなく。
 数多の戦場を駆け、オブリビオンが猟兵と等しく人知の及ばぬ怪物と知っているのならば、殺せるときに殺さぬ選択肢はないだろう。

 今日、この場で侮りの代償を払うのは、オブリビオンだけだ。

 メローゼの姿が解れるように黒い糸のような形へ変じ、それは次第に鋭い棘を有する茨へと成長する。
 それは彼女の有する力の中で最も強力な守りの姿であり、同時に敵を閉じ込め呪いに沈める牢獄。
 リーヴァルディを囲うように作られる茨の牢獄を、しかし彼女は素早く空白をすり抜けて回避してみせる。
「……限定解放。我に従い我が眼前に平伏すべし」
 そして、リーヴァルディは戦いを終わらせるためのユーベルコードを解き放つ。
 視線を媒介にするその術で狙うのは、メローゼの力の根源たる辺境伯の紋章。
 暗い谷底の中で、幾本もの茨の集合体へと変じたオブリビオンの体から、それを見つけるのは容易ではないだろう。
 相手も本能的に危険を察したのか、牢獄となった茨の奥へと紋章を隠してしまう。

「……無駄よ。本調子ならまだしも、今の紋章の気配を見逃すほど私は甘くない」
「ぐ、う……!? あああっ!」
 しかし、それで凌ぐには、メローゼは弱りすぎていた。
 精霊の力を借り、闇の中で呪詛を届かせたリーヴァルディによって紋章の所有権が奪われれば、紋章は今しがたまで力を与えていたメローゼを蝕み、そのユーベルコードを強制的に解除する。
 少女の姿へと戻ったメローゼの隙を見逃すはずもないリーヴァルディが金色のナイフを投擲すれば、それは禍々しい牙を生やした獣の顎を模して飛んでいき……。

 拷問具に嚙み砕かれたオブリビオンの体が霧散していく。
 牢番たる虫の残骸が転がり、砕かれた祭壇の瓦礫が散らばる中でリーヴァルディは立ち尽くす。
 そんな彼女に恐る恐る近づく奴隷達が、不安げに猟兵達の顔色をうかがう。
 確かに救われた命たち、メローゼの消滅と共に茨も消えた今なら、彼らを此処から連れ出すことも難しくはないはずだ。
 だからこそ、絶望は砕かれたのだと伝える為に。
 リーヴァルディは柔らかく微笑んで、人々へと口を開くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月01日


挿絵イラスト