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ある少女の願い―memento mori―

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●優しき少女の祈り
 ――わたしは、ただみんなを救いたかっただけなのに。

 その少女の生まれは小さな農村で、村人全員で田畑を耕してなんとか日々を暮らしていた。
 けれどある年、度重なる天災が村を襲った。大雨で川が氾濫し、育てていた作物はほとんど流された。それでも残った作物を育てようと必死になっても冷害で実りが悪く、あっという間に食糧難に陥ったのだ。
 これほど立て続けに天災に見舞われるのは神の怒りをかったからだと霊媒師が言った。神の怒りを鎮めるためには生贄を捧げるしかないのだと。
 人身御供として選ばれるのはうら若き乙女だ。
 神様に捧げられる尊き花嫁になるのだと、少女はそう伝え聞いた。
 村にいる年頃の少女は自分ともう一人の友人だけ。
 でも彼女には親がいない。小さな弟の面倒を見ている働き者。
 彼女を失えば、あの小さな弟は……すぐに決心は固まった。
 村には少女が淡い恋心を抱く年上の青年もいた。自分が生贄になることで彼が救われるのなら。
 父親は自分を守ってくれようとした。けれど誰かが犠牲にならなければいけないのだと幼いながらも理解していて。
 村人達は自分を憐れんでくれた。そして生贄となることを受け入れた自分に感謝の言葉を贈ってくれた。
 どうせ人はいつか死ぬのだ。みんなを救えるのなら。心はいっそ晴れやかだった。
 そうして彼女は土の中へと生きたまま埋められた。
 冷たい土が彼女から体温と呼吸を奪う。優しい抱擁ではなかったけれど、口づけるように母なる大地を愛し、その身を委ねた。

 ――わたしは、土の花嫁になるの。そうすれば、この土壌も作物が実る豊かなものになって、そしてみんな救われる。
 ねえ、そうでしょう……?

●グリモアベースにて
「誰かのためにと願った祈りが届かない……全ての願いが叶うわけではないとわかっているけれど、この結末は余りに悲しすぎるわ……」
 グリモアベースで自らが視た予知に悲し気な表情を浮かべたエリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は、集まってくれた猟兵たちに気付くと、努めて明るい笑顔を浮かべる。
「ごめんなさい、暗くなっちゃって。でもみんななら……きっと救いを与えられると思うの」
 そう言ってエリシャは今回の依頼の説明を始める。
「サクラミラージュで、今までよりも強力な影朧が現れることが予知できたの。でもその影朧は、深い絶望と悲しみを抱えているの」
 明確な悪事を働くわけではないが、現れた影朧はその強大さゆえに放っておけば、遠くないうちに世界の崩壊へと繋がる危険がある。
「でもね、帝都桜學府はこういった事態に備えていたの。もうみんなも知ってるかしら。『魂鎮メ歌劇ノ儀』という名の儀式魔術があってね、これは影朧の発生理由にまつわる歌劇を演じながら戦うことで、より強く影朧を慰めることができるの」
 儀式に必要な照明などの舞台装置は帝都桜學府が準備済み。そしてこの影朧の生い立ちの調査も済んでいる。
「今回現れるのは『土の花嫁』。村を襲った天災や飢饉を鎮めるため、その身を捧げ人身御供となった少女の影朧。残念ながら彼女の犠牲があっても天災は収まらず、彼女の村は飢饉で滅びてしまった……一人だけ生き延びた村人がそのことを書き記した文献が見つかったから、彼女の生い立ちを知ることができたの」
 けれど、そこには彼女の名前は記されていなかった。歴史に名を残さない幼い少女の犠牲。そして誰もが彼女を忘れてしまったのだ。
「そうして過去から彼女は戻ってきたの。あの時、皆が求めた豊穣の実りと、神の力を持って、黄泉からこの世界へ……」
 けれど誰も自分のことを知らない。皆が幸せになるために実りをもって戻ってきたのに誰も褒めてくれない。混乱と絶望と悲しみが彼女を襲う。
「みんなには、彼女の生い立ちを追体験するような歌劇の役者として、何かの役を演じながら戦ってもらいたいの」
 彼女自身を演じても、村人の誰かになるのもいい。土の花嫁が自らの肉体から創造した配下が辺りに放たれるので、彼女が辿った悲劇の過去に準ずる物語を紡ぐように役を演じながら敵を蹴散らせば、その向こうにいる彼女にその想いは届くだろう。
「この舞台で演じれば傷ついた影朧を過去の呪縛から解き放つことができるの。舞台を見守る人々にとってみんなはスタア。素晴らしいショウで影朧を送ってあげましょう」
 大切な人たちを救いたかった彼女を今度は救ってあげる番だとエリシャは告げ、信頼の眼差しを向けると、神秘の幻朧桜が咲き誇る世界へと猟兵たちを送り出した。


湊ゆうき
 こんにちは。湊ゆうきです。
 舞台という空間が大好きです。

 全編通して照明や音響の整った舞台です(屋外)。あまり細かいことは気にせず、いい感じに演じてくださればと思います。辺りに観客という名の一般市民もいますが、帝都桜學府の皆さんが安全を確保しているので特に気にしないでください。

●第一章【集団戦】
 土の花嫁が自身の肉体から創造した配下『死に添う華』が皆さんの前に立ちはだかります。
 広い舞台の上ですので、衣装もメイクも照明も音響も自由に使って盛り上げてください。彼女がもたらすはずの実りの恵みが今は命を奪うものとして立ちはだかります。役を演じることに重点をおいてもらって、敵には一撃を食らわせたり、蹴散らしていくイメージです。
 OPを参考に、何かしらの役を演じながら彼女の悲劇のストーリーを追体験してください。役は他の参加者さんとかぶっても大丈夫です。

●第二章【ボス戦】
 集団敵を倒せば、土の花嫁との戦いになります。苦しみや悲しみを吐き出す影朧へと、誰かの役を演じながら、あるいは演じずに自分自身の言葉で影朧と語らいながら戦ってください。こちらも言葉がけをメインにしていただいて大丈夫です。

●第三章 【日常】
 影朧が過去の呪縛から解き放たれれば、やがて静かに消えていきます。まだ舞台は続いています。クライマックスと共に最高の演出で送り出してあげましょう。

 ご参加は途中からでも一章のみでも大歓迎です。
 プレイングはOP公開後すぐに受付いたします。
 それでは、皆様のご参加お待ちしております!
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第1章 集団戦 『死に添う華』

POW   :    こんくらべ
【死を連想する呪い】を籠めた【根】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力】のみを攻撃する。
SPD   :    はなうた
自身の【寄生対象から奪った生命力】を代償に、【自身の宿主】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【肉体本来の得意とする手段】で戦う。
WIZ   :    くさむすび
召喚したレベル×1体の【急速に成長する苗】に【花弁】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼
役…ヒロインの少女

この少女の境遇は、かつてのわたくしと重なる
故郷のために己が身を贄に捧げ
(わたくしの場合は「吸血鬼の花嫁」だったけれども)
されどその願いは報われず故郷は滅びて

祈りが必ずしも報われるとは限らない
それが過酷な現実だとしても
彼女を、彼女が望まぬ「世界を滅ぼす存在」にしてはいけないわ

暗闇の中、巫女装束に身を包み
祈り捧げ歌う【不屈の歌】
明けぬ夜は無い、止まぬ雨はない
必ず夜明けは来る、自らの献身が報われ、皆が救われると信じて
(自身やヴォルフ、仲間の傷を癒しながら)

遠くで誰かの声が聞こえる
それは愛しい人の声か、それとも救いを求める声か
ああ、どうか嘆かないで
わたくしは必ず、貴方を救うから


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼
俺の役は、ヘルガ演じる主人公の少女が淡い恋心を抱く年上の青年
事実がどうだったかは分からないが、この舞台では
「彼もまた少女のことを憎からず想っていた」という設定にしよう

生贄に志願した彼女を俺は止めた
村人たちが悪くないことも分かっている
何より彼女自身が止めないで、と望んだことだ
一度は彼女の意志を酌み、身を引いたつもりだった

それでも…俺はどうしても諦めきれなかった
村が救われても、そこに君がいなければ意味がない
村人たちが去った後、一縷の望みをかけて
彼女を救わんと冷たい土を掘り返す

悲痛な叫びを上げながら、地獄の使いの死人華を蹴散らして
邪魔をするな!
人ひとり救えずして何が神だ!
俺は必ず君を救い出す!


リオ・ウィンディア
私は語り部になりましょう
どうか少女が忘れられない存在になりますように

これより語るは土の花嫁
いかにして彼女は村を守ったのか
豊穣の叙事詩

マルシュアスを奏で、ノスタルジックな追憶の過去
物語の幕開けと期待を孕んだメロディ

舞台慣れした仕草で観客の注目を集めて
幼い少女はハイトーンの歌声で謳いあげる

くるくるオルガンを回しつつ
迫り来る敵はUCで対応

私は役者でもあるけれど脇役だって立派にこなすわ

アドリブ歓迎
絡み歓迎


エミリロット・エカルネージュ
ボクは土の花嫁の父親役かな?

守ろうとした娘さんの犠牲
無駄になり絶望しつつも
足掻く感じかな?

●SPD
緊迫感を出す為に、敵を天災に見立て
UC発動……血の呪いに纏わる力

こうして制御出来る様に落とし込んだけど……精神に来るなぁ

素人っぽさを『パフォーマンス』しながら【シャオロン(麺棒)&尻尾】の『グラップル』で一掃し

娘の犠牲は無駄になってしまったのか
娘の祈りの結果がコレなのかっ!

むざむざ娘を、こうなる事なら僕は
娘に嫌われようと……このまま
何もかも滅ぶと言うのなら

足掻けるだけ足掻いてやるっ!

娘の祈りが、犠牲が……天災となって現れる、無駄だったなんて結末なんて認めるものかぁーっ!

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


御園・桜花
初回はオープニングナレーション担当

「土の花嫁。土の花嫁は還ってきました。土を、村を豊かにしようと。皆に喜んで貰おうと、自ら産み出した花を携えて。でも、村には誰も居ませんでした。だから娘は、花を携え帝都までやって来ました。誰かに花を受け取って貰おうと。誰かに自分に望みを知って貰おうと。でも、誰も花を受け取ってくれません。何故かしら、どうしてかしら。土の花嫁は考えます。私はどうして、土の花嫁になったのかしら」
UC「桜吹雪」使用
舞台袖から花弁ごと死に添う華をどんどん切り刻み観客に被害が及ばないようにする
「私はなぁに?私はだぁれ?土の花嫁は、自分を、願いを、今一度思い出そうと思ったのです」
鎮魂歌歌う



●豊穣と祈りの叙事詩
 サクラミラージュでは、場所や季節に関係なく神秘の幻朧桜が一年中咲き乱れている。その美しさに惹かれるのは何もその世界に住む者ばかりではない。
 傷ついた影朧が知らず引き寄せられるのだ。
「土の花嫁。土の花嫁は還ってきました」
 帝都桜學府が用意した舞台の上に、はらはらと桜の花びらが舞う。そして朗々と良く響く声で物語の始まりを告げるのは、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。帝都のカフェーでパーラーメイドとしての仕事もこなす桜花のよく通る声が、観客にこれから始まる物語の概要を語る。
「土を、村を豊かにしようと。皆に喜んで貰おうと、自ら産み出した花を携えて。……でも、村には誰も居ませんでした」
 幻朧桜に引き寄せられ、この地に現れる土の花嫁。けれどまずは彼女が自身の肉体から生み出した、見た目は美しいが生命力を奪い死を誘う『死に添う華』が舞台へと現れる。
「だから娘は、花を携え帝都までやって来ました。誰かに花を受け取って貰おうと。誰かに自分の望みを知って貰おうと。……でも、誰も花を受け取ってくれません」
 舞台上の死に添う華が、辺りに苗をまき散らし、急激に成長したかと思うと、花弁を生やして飛んでいく。その動きにも、語りを続けながら、桜花は対処する。舞台に舞った桜吹雪は、桜花の武器を花びらに変えたもの。土の花嫁の動揺を表すように荒ぶる花弁を生やした苗を桜の花びらが包み込むと、浄化の力で無力化していく。
「何故かしら、どうしてかしら。土の花嫁は考えます。……わたしはどうして、土の花嫁になったのかしら」
 桜花が語るのは、真に土の花嫁の心境を表したものだろう。自分が犠牲になることで、皆が救われたと思った。けれど実際そうではなく、そうして誰も自分を覚えていない。沸き起こる深い悲しみと絶望がその胸にあって。傷つき荒ぶる魂が、救いを求めてこの場に引き寄せられたのだろう。
 そうして次に舞台にノスタルジックなオルガンのメロディが響く。舞台中央へとスポットライトが向けられる。その曲を奏でているのは、舞台衣装でもある喪服に身を包んだリオ・ウィンディア(黄泉の国民的スタア・f24250)。首に下げた手回しオルガン【マルシュアス】を叙情的に奏で、これから始まる土の花嫁の物語へと観客を引き込む。
「これより語るは土の花嫁。いかにして彼女は村を守ったのか……それは豊穣の叙事詩」
 リオもまた、舞台の中央でオルガンを奏でながら、良く響く声で語り部として言葉を紡ぐ。この物語を観客の前で披露することで、この名もなき少女が今度こそ決して忘れられることのない存在になるようにと願いながら。
 舞台慣れしているリオの堂々とした立ち振る舞いに、観客は釘付け。マルシュアスの奏でる過去へと導くかのような郷愁を誘うメロディは、否応にも物語の幕開けへの期待を高める。
 一度ぺこりと頭を下げたリオは、劇の主役にその場を譲り、舞台袖へと下がっていく。
 代わりに登場したのは、この物語のヒロイン――土の花嫁役のヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)だ。
 蒼いミスミソウが彩る雪のように白い美しい髪を持つヘルガだが、今日は土の花嫁を演じるため、黒髪長髪のウィッグをつける。髪色は変わっても、彼女の優しさに満ち慈愛にあふれたその表情と、他者を思いやる献身的な穢れなき魂は、役にあまりにもぴったりで観客を物語へと引き込むのだった。
「わたしが神様の花嫁に……?」
 スポットライトがヘルガを照らし、その困惑した表情が露わになる。
「それで、天災が収まるの? みんなが飢えることはなくなるのね?」
 度重なる天災に続く飢饉。それは幼い少女にも理解できること。
(「この少女の境遇は、かつてのわたくしと重なる……」)
 土の花嫁を演じながら、ヘルガは過去の自分を思い出していた。
 故郷のために己が身を贄として捧げることを厭わなかった。ヘルガの場合は、吸血鬼の花嫁だったけれど。
 世界は違っても、人身御供は花嫁などと呼ばれて尊ばれるけれど。実際に、最愛の人と夫婦になったからわかる。花嫁は自分の身を犠牲にしてなるものではない。愛しい人にその身全てを捧げるという意味では間違っていないが、ヘルガは同じくらいの深い愛情を愛する人からその身に受けたのだから。
「神様の花嫁になるだって? どうして君ひとりが背負わなければならないんだ!」
 次に舞台に飛び出してきたのは、逞しき青年――ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)だ。スポットライトが彼を照らし出す。リオが奏でるマルシュアスのメロディが、緊迫感をはらんだものへと変化する。
「生贄に志願するなんて……やめるんだ」
 少女がひそかに思いを寄せていた年上の青年は、真剣なまなざしで見つめてくる。そこには真に彼女の身を案じる想いが感じられた。彼もまた彼女を憎からず思っていたようだと観客は理解する。
「でも……わたしが拒否したら、今度はあの子が……」
 もう一人の花嫁候補は、年の近い仲良しの友人だ。彼女には親がいない。厳しい飢えをしのぐためにと山菜を求めて山に入った親が、ぬかるんだ土に足を取られ、崖から転落して帰らぬ人となった。彼女には小さな弟がいる。たった一人の家族すらも失ったらあの幼い子は……。
「誰かが代わりになればいいわけではない。誰が悪いわけでもない……けれど、君に全てを背負わすなんて……」
 何か代わりに出来ることがあるならなんだってする。そんな思いを滲ませ、青年は少女に思いとどまるように語り掛ける。
 やっぱり素敵な人、と少女は思う。だからこそこの人が救われるなら――自分は死をも恐れはしない。
「ありがとう……でもわたしが決めたことなの。どうか止めないで……」
 思いを断ち切るように、少女は踵を返して走り去る。
「待つんだ。行くな! ……俺は……!」
 ぐっと拳を握りしめ、自分の無力さを噛みしめる青年。けれど少女の意志を尊重し、想いを告げることなく身を引くことを決意したのだった。
 そうして今度はまたノスタルジックな曲へと変わる。
 舞台にもう一人の登場人物が現れた。
「今ならまだ間に合う。お前が絶対に嫌だと言えば、村人たちも無理強いはさせまい。だから……」
「いいえ、父さん。もう決めたの。わたしは神様の花嫁になるわ」
 少女の父親役を務めるのは、エミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)。いつもの人好きのする愛らしい笑顔を今は封印し、きりりとした厳しい表情で愛する娘を気遣う。亡き老師がかつて自分に向けてくれた優しさと厳しさを出せるように意識しながら、エミリロットは自分を犠牲にしようとする娘をなんとか守ろうとする父親を演じる。
「……もはや誰かが生贄になるまで物事は収まりそうにない……飢饉は深刻だ。だが誰かが犠牲になることで救われる未来とは……」
「ううん、逆よ。誰かが犠牲になれば救われるなら……大切な人たちが幸せになるのなら、わたしは……」
(「祈りが必ずしも報われるとは限らない」)
 ヘルガもそれを知っている。ヘルガの故郷もまた、願い虚しく滅びてしまったのだから。
 過酷な現実だとしても、その事実は変わらない。だからといって、土の花嫁を、皆を救いたいと願った彼女を、自身の望まぬ世界を滅ぼす存在にしてはいけないと思うのだ。
 父の愛情を感じながら、大丈夫よと微笑んで。少女は家を出て夜へと繰り出す。
 暗闇の中、少女は祈りを込めて歌う。
 どんなに暗い夜だとしても、明けない夜はないのだと。
 どんなに冷たい雨が降ろうとも、止まない雨はないのだと。
 必ず夜明けは来る。皆が救われる日はそう遠くないと――。
 ヘルガの歌声は、舞台上の仲間や観客の心を震わせ、癒しを与えるとともに、困難に立ち向かう強い意志と結束力を生む。
 歌声の余韻もそこそこに、今度は物悲しいメロディが響く。次にリオが奏でるのは鎮魂歌。
 ――少女は生きたまま土へと埋められたのだ。
 彼女が生き埋めになる様子を村人全員が見守る。それぞれの心に感謝と罪悪感を抱きながら。
 その姿を見届け、一人、また一人と去っていく村人。最後に残った青年が、強く握りしめすぎて血の気を失った拳を地面に叩きつける。
「村が救われても、そこに君がいなければ意味がない……!」
 少女の意志を尊重した結果だとしても。彼はどうしても諦めきれなかった。
 全員が去った後に、一縷の望みをかけて彼女の命を奪う冷たい土を掘り返す。
 だが、そこへ死を連想する呪いの込められた死に添う華の根が伸びてくる。
「邪魔をするな!」
 死は誰しもが抗えない運命の象徴だとでも言うように、生命力を奪おうと伸びる根をヴォルフガングは小道具のスコップを武器に見立て、死に添う華を蹴散らしていく。
「人ひとり救えずして何が神だ! 俺は必ず君を救い出す!」
 多くを救うために誰かを犠牲にしなければいけない神など必要ない。そんな神など信じない。だからこの手で今度こそ救うのだと。
 訪れた静寂の中、リオが鎮魂歌を歌い始める。まだ幼い少女のハイトーンボイスは、美しい旋律を伴い伸びやかに響く。そこへ桜花の歌声が重なり、美しい二重唱が舞台上に響き渡る。死に近い場所に身を置く墓場の歌姫と、傷ついた影朧を癒し転生させる桜の精の歌声は、一見相反するように思えるが、その想いの根底にあるものは同じに思えた。
 美しく優しく儚いその歌声は観客たちの心に深く刻まれ、涙を誘う。
 ぱっと照明が消えると、フラッシュが瞬く。ゴロゴロという効果音。村に雷雨が迫る。
 少女がその身を捧げても、天災は収まらなかったのだ。
「娘の犠牲は無駄になってしまったのか……娘の祈りの結果がコレなのかっ!」
 父親役のエミリロットが舞台に登場すると、今度はテンポの速い焦燥感を覚える曲へと変わる。
 あまりの結末に絶望感を抱く父親を演じながら、エミリロットはユーベルコードを発動させる。
 自身の血の呪いに纏わるその力を制御して、より強力な力に替えていく。暴走する危険をはらみながらも、ようやく制御できるまでに落とし込んだが、それでもその力を使うことは、やはり精神的に消耗する。
(「けれど運命に抗うって言う意味ではちょうどいいかもしれないね」)
 気を引き締めなおしてそう心の中で呟くと、エミリロットは麺棒形態のドラゴンランス【シャオロン】を農村の村人らしい素人じみた動きを交えながら、村を襲う天災に見立てられた死に添う華へと向け、蹴散らしていく。
「むざむざ娘を……こうなる事なら僕は……娘に嫌われようと……このまま何もかも滅ぶと言うのなら……」
 嵐の中、死へと誘おうとする存在を狂気混じりの様子で打ち払おうとする父親の姿。一番に娘を守ってやるべき存在であったのに、守れなかった。そして今や娘の死すら無駄になろうとしている。
「娘の祈りが、犠牲が……無駄だったなんて結末なんて認めるものかぁーっ!」
 足掻けるだけ足掻いてやると、父は血を吐くような叫びを上げ、舞台を覆いつくそうとしていた天災――死に添う華を振り払っていく。
「ああ、けれど人々の願い虚しく、天災は村を襲い、飢餓が村を蝕みました。けれど少女は誇りをもって土の中で殉じたのです」
 リオが手巻きオルガンを回し、オープニングの曲をリプライズする。舞台に残った死に添う華を、ユーベルコードで呼び出した死霊騎士や死霊蛇竜で蹴散らす様は、この村に実りが訪れなかった象徴でもあった。
 舞台が転換する。ヘルガが目を閉じ祈りを捧げるように手を組んで現れた。照明が調整され、薄ぼんやりとしていることで、彼女が土の中にいることを表している。
「遠くで誰かの声が聞こえる」
 それは思いを寄せていた、かの青年のものか、それとも愛してくれた父のものか。はたまた自分に救いを求める声なのか。
「ああ、どうか嘆かないで。わたしは必ず、貴方を救うから……」
 慈愛に満ちた表情で彼女はそっとその手を客席に伸ばす。
 それは土の花嫁の想いを代弁したものでもあり、ヘルガ自身が彼女へと向けた言葉のようでもあった。
 舞台にひらひらと桜の花びらが舞う。死に添う華から観客を守るように、救われなかったものに癒しを与えるように。
「私はなぁに? 私はだぁれ?」
 桜花のよく通る声が舞台上に響き渡る。それは黄泉からやってきた土の花嫁の気持ち。かつての出来事をこうして演じることできっと取り戻せるものがあると信じて。
「土の花嫁は、自分を、願いを、今一度思い出そうと思ったのです」
 彼女は忘れてしまった。悲しみと絶望のあまり。
 自分の名前さえも忘れてしまった彼女に、その祈りを届けるように――舞台に美しい桜吹雪が舞っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

プリムララ・ネムレイス
《遠き日の約束、偽りの鐘》鳴り響き――

それは旅に出た筈の兄でした
あるいは、飢餓で命を落とした孫娘でした
それとも、飼っていた犬、親、家族、恋人、友達――
彼らの瞳に映るその大切な人は、ただ静かに寄り添うのでした
それは言います

「ずっと一緒だよ」

と。
でも天災が、死に添う華が、そして過ぎ去る時間が、彼らの姿を無情にも消し去ってしまうのかもしれません
後に残されるのは、彼らの亡骸と黒い喪服姿の私だけ
なんで喪服なのって?
だって、死は貴方が思っているよりも身近なものだから

夢から覚めたのなら舞台を進めしょう?
私は綺麗なお花だと思うけど、捉え方は人それぞれね
杖を振るえば炎が吹き荒れて
どうでしょう?
効果覿面かしら


榎木・葵桜
「土の花嫁」さん…自分の命を捧げたのに、
結局誰も救えなかったなんて
そして過去に縛られちゃうなんて
とても悲しい話だよね
過去は変えられないけど…この舞台を通じて
ちょっとでも彼女に癒やし与えて送ってあげたいな

演じるのは、
最後まで残る「一人生き延びた村人」かな
少女が土の花嫁になるまでと
その後のすべてを見届けるのはいいなって思うから

基本は他の村人に混ざって目立たないように
必要応じてメインの役演じる人を支援したり
舞台をサポートしたいなって思うよ
もちろんお客さんにも楽しんでもらえるようにね!

もちろん華を蹴散らすのも任せて!
華の飛翔とか止めたいから、
UCで動きを止めながら桜舞花の衝撃波で一体ずつ倒していくね


愛久山・清綱
演技……斬られ役とスタントには自信があるぞ!
が、任務である以上やられるわけにはいかぬな。

■演
俺は『事件に巻き込まれた獣飼い』を演じよう。
その際は【使呼】を使用し、猛牛と大蛇を呼ぶ。

■闘
二手に分かれるよう事前に指示する。先ずは蛇が巨大な身体で
敵の軍勢に【範囲攻撃】を仕掛け、大量撃破を狙う。
牛は【怪力】を活かした突進で、倒し損ねた敵に止めを。
これを繰り返し、頭数を減らすのだ。

して、俺は戦えないので情けなく逃げ惑う演技を行う。
但し当たったら終わりなので、敵の攻撃を【見切り】つつ、
安全な場所へ【ダッシュ】し直撃を避ける事は忘れない。
アドリブで周囲に助けを求めてみるのもいいかも。

※アドリブ歓迎・不採用可


ユキ・パンザマスト
(生贄。少女
己より、友達の“あねご”さんの話を
無性に思い出してしまってた
だから、だろう)

選んだ役は村人
儀式の最後、花嫁に土を掛ける役割の

目深外套の小柄な女が
穴の底に横たわる婚礼衣装の少女へ囁く
……花嫁様
ここには私と貴女しかおりませぬ
どうかお逃げなさい

全く因果な役割です
贄の儀式などあっていいものかよ
人身御供に送り出す村より
土を掛ける私などより
今、失ってほしくないのは花嫁様です

人はいずれ死ぬ
されど、最もとうとい貴女には、まだ早い
どうか年頃の少女らしく
死にたくないと駄々をこねてはくださいませ
今ならば、まだ、

そう、ですか
(無辜の少女の犠牲に
演技でも礼は口にできず
黙礼)
……どうか、安らな睡りあらんことを



●村人たちの思い
 舞台上で猟兵たちによって繰り広げられるのは『魂鎮メ歌劇ノ儀』。傷ついた影朧をより強く慰めることのできる帝都桜學府が備えた儀式魔術。
(「『土の花嫁』さん……自分の命を捧げたのに、結局誰も救えなかったなんて」)
 既に舞台に上がる準備を済ませた榎木・葵桜(桜舞・f06218)が出番を待ち、そんな風に土の花嫁に思いを馳せながら舞台袖から劇を見守っていた。
 舞台では語り部となった猟兵が朗々と言葉を紡ぎ、土の花嫁となった少女の物語の幕開けを告げる。
 誰かを救うために身を挺した少女のあまりにも悲しい結末。そして彼女は過去から蘇った。絶望と苦しみを抱える影朧として。
(「そして過去に縛られちゃうなんて、とても悲しい話だよね」)
 彼女は救いたかったのだ。村のみんなを。だからこそ恵みを手にして甦った。もう彼らを救うことはできないのに。
 それでも、と葵桜は顔を上げる。ただ影朧を倒すのではなく、魂鎮メ歌劇ノ儀でその魂を慰めることができるのなら。
「過去は変えられないけど……この舞台を通じて、ちょっとでも彼女に癒やしを与えて送ってあげたいな」
 そのためにはこの劇を――影朧の発生理由にまつわる歌劇を猟兵たちで演じ切らなければならない。
 舞台には主人公である土の花嫁役の猟兵がスポットライトを浴び、自分が神の花嫁として生贄になるという事実を突きつけられるシーンが繰り広げられていた。そうして彼女はその優しさから自ら役割を引き受ける。自分が犠牲になって救えるものがあるならと。
 土の花嫁役が舞台袖に消えると、村人たちが次々に現れ、それぞれの思いを語る。
「天災と飢饉を鎮めるために贄が選ばれたのか……」
 村人の一人、獣飼い役を演じるのは、愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)だ。自らの身体に数多の動物的特長を有するキマイラの清綱であるが、ユーベルコードで眷属である神の名を冠する猛牛と大蛇を召喚し、従えていた。
「幼い命を犠牲にして、それで生き延びるというのか……」
 霊媒師の言うことを信じるのは、誰もがこの状況を脱したいと願うから。それほど村中に広がる飢えは深刻だった。
「年頃の少女を花嫁と称して土に埋める……」
 同じく村人を演じるユキ・パンザマスト(夕暮放送・f02035)は、きゅっと拳を握りしめていた。
 村人たちの抱える理不尽な思いを観客たちは固唾を飲んで見守る。
「おねえちゃんはだいじょうぶだよね? どこにもいかないよね?」
 葵桜が演じるのは、少女の友人の弟だ。姉が候補に挙がっていたことを幼いながら感じ取っていたのだ。
「ええ、大丈夫」
 葵桜が演じる弟の姉役として振舞うプリムララ・ネムレイス(夜明け色の旅路と詰め込んだ鞄・f33811)は、自分の役についてそっと思いを巡らせた。
 両親を失った幼い弟を持つ姉。プリムララも母を喪った。それはとても悲しかったけれど、忘れられた森から出ることが出来るのも事実で。少しわくわくしてしまったのだ。父親は見たこともなかったけれど、きっと生きているのだろうと亡き母に父の捜索を約束し、プリムララは森を出たのだ。
「でも、そのかわりに、あのおねえちゃんが……」
「……あなたはわたしが守るわ。絶対に」
 舞台を見ている者には、少女がこの友人と弟を守るために生贄を受け入れたことを知っている。観客の中には、ハンカチを手に涙ぐむ者もいた。
 少女の決意を知り、彼女が思いを寄せていた年上の青年が彼女を思いとどまらせようと言葉をかける。舞台上にはその場面にあった音楽が絶えず奏でられ、この物語を大いに盛り上げた。
 少女の決意。父親との最後の時間。そして歌劇を盛り上げる少女の伸びやかな歌声。
 そうして最後の夜は更け――。
 舞台に流れるのは、物悲しい鎮魂歌。
 少女が生きたまま土に埋められるのを、村人全員が見守っていた。
 フードつきの外套を目深にかぶった小柄な少女が、土の花嫁になる彼女へと土を掛ける役割を担う、ユキが演じる役だ。
(「この話を聞いた時に、無性に思い出してしまったのは……」)
 己より、友達の『あねご』さんの話が浮かんだのだ。だからなのだとユキは内心納得し、スコップを手に土を少女にかける演技をする。
「……花嫁様、ここには私と貴女しかおりませぬ」
 深い穴の底に横たわる婚礼装束をまとった少女へとそっと声をかける。村人たちは離れた位置からその様子を見守っているので声までは届かない。
「……どうかお逃げなさい」
 痛切な思いの込められたその言葉に、観客たちは、はらはらと次の展開を見守る。彼女が助かってほしい。けれど、土を掛ける役目の者がそんなことをすればどうなるか。だが、少女が助かるなら……。
「全く因果な役割です」
 贄の儀式などあっていいものかよ、と続けながら、少し気持ちをほぐすようにおどけた言い方をして。それでも、その次には真剣な声音で語り掛けていた。
「人身御供に送り出す村より、土を掛ける私などより……今、失ってほしくないのは花嫁様です」
 きっぱりと言い切るその言葉は土の花嫁のみならず観客の胸をも打っただろう。
 ユキ自身もまた、逢魔ヶ時にかどわかされて儀式の贄となり、UDCを喰らわされ魔に変じてしまった。記憶は随分朧気ではあるけれど、贄を許してはいけないと頭のどこかで警告するのだ。
「人はいずれ死ぬ……されど、最もとうとい貴女には、まだ早い。どうか年頃の少女らしく、死にたくないと駄々をこねてはくださいませ。今ならば、まだ……」
 呼吸ができるように上手に土を掛け、あとから逃げれば、他の村人にも死んだと思わせることができるのだと説く。
 観客からは土に埋められた少女の顔は見えない。けれど、ユキが演じるその村人の表情で全てを悟るのだった。
「……そう、ですか……」
 あまりに無辜の少女の献身を目の当たりにし、ユキは演技でも礼を口にすることが出来なかった。意を決して穴の中で全てを受け入れている少女へと土を掛け、そして黙って頭を下げる。
「……どうか、安らな睡りあらんことを」
 そうして村人たちは一人ずつ去っていく。少女が思いを寄せていた青年が彼女を助け出そうと土を掘り起こそうとするが、それは叶わぬ願いだった。
 今度は鎮魂歌を歌う二つの美しい歌声が舞台へと響き渡る。少女の死を悼むそれは優しい歌声だった。
「どうしてだ、あの子が犠牲になったのに、天災が収まらない……」
 獣飼いの青年が荒れた空を見上げ絶望的な声を上げる。彼女を犠牲にした罪悪感は全ての村人が抱くもの。けれど身を捧げてくれたことに感謝もしていたのだ。
 照明が消え、激しいフラッシュがたかれる。ゴロゴロという効果音が響き、村に雷雨が迫っていることを告げる。
 避けられない天災が、迫りくる死が、死に添う華となり舞台を覆いつくしていく。
(「演技と言えば、斬られ役とスタントには自信があるが……任務である以上やられるわけにはいかぬな」) 
 清綱がこくりと頷けば、呼び出した猛牛と大蛇が二手に分かれる。
「数が多い……蹴散らしていこう」
 死に添う華が召喚した苗は花弁を生やし急速に成長していく。それらを大蛇がその巨体を生かしてうねるように身を捻り、押しつぶしていく。大蛇が倒しきれなかったものは猛牛が突進し、その怪力を活かし止めをさしていく。
 眷属の攻撃を免れた苗が獣飼いに迫る。
「うわあ、助けてくれー!」
 逃げ惑う演技をする清綱だが、実際このユーベルコードを使用しているときは、自ら戦うことができないのだ。
「おねえちゃん、くるよ!」
「ええ、大丈夫だから」
 怯えるような演技をしながらも、葵桜もまたユーベルコードを発動させるため、嵐に翻弄されるような動きで舞い踊り、そうして桜吹雪を召喚する。そうすれば苗が増えていく速度が目に見えて落ちていく。
「まだだ、まだ神の怒りは収まらないのか!」
 清綱は無造作に逃げているようで、実は死に添う華の攻撃を見切りつつ、安全な場所を模索していたのだ。
 続く天災に絶望感を覚える村人たち。彼女の死は一体何だったのか。あの少女を差し出せば今よりましになるとなぜ信じてしまったのか……。
 まだ残っていた死に添う華が突然人型を形作る。土の花嫁の肉体から想像したものであるからそれを宿主として再現したのだろう。けれど、それは様々な人の形をしていた。彼女の姿ではないようだ。
「これは……かの村の者たちではないのか」
 小さく呟く清綱が厳しい視線を投げかけ、大蛇と猛牛にいつでも指示を出せるように構える。
「土の花嫁が救いたかった人たちだね……」
 葵桜も頷く。土の花嫁の中にまだ村人たちを救いたいという思いが残っているのだろう。
「でしたら……」
 プリムララが頷くと同時に、そこに遥か遠くから聞こえてくるような鐘の音が響く。
 だがそれは偽りの鐘。遠き日の幻を映し出すひとときを告げる音色。
 プリムララが対する村人の形をとった死に添う華は、皆一様にプリムララを見て動きを止めた。
 彼らにはプリムララが別の誰か――最も深い想いを抱いている相手の姿に見えているのだから。
 それは旅に出た筈の兄だった
 あるいは、飢餓で命を落とした孫娘。
 それとも、飼っていた犬、親、家族、恋人、友達――。
 村人たちの目に映る大切な存在は、何も言わずそっと静かに寄り添うのみ。
 ――ずっと一緒だよ。
 欲しい言葉をくれる愛しい存在。
 動きを止めた死に添う華を清綱の使役する大蛇と猛牛が、そして葵桜があっという間に蹴散らしていく。
 まるで天災が彼らの命を奪うかのように。けれどこれが事実。過ぎ去った時間は決して戻らない。
 大切な人たちの幻が、亡きがらへと変わる。プリムララは、土の花嫁の友人の少女は、喪服を着てその場に立ち尽くしていた。
 亡き友を思って喪に服していると観客は思ったかもしれない。
(「なんで喪服なのって思ったかもしれないけれど……だって、死は思っているよりも身近なものだから」)
「天災に飢饉に……この村は終わりだ……!」
 幻は消え、獣飼いを演じる清綱が狂乱の演技をすれば、猟兵たちは残った死に添う華を片付けにかかる。
 みなそれぞれの役を演じながら、運命に抗うように死へと対峙する。
 プリムララが杖を振るえば炎が花たちを焼き尽くす。それもまた観客を驚かせる舞台装置のひとつのように。
「あなただけは……」
 少女の友人が弟を守り力尽きる。弟は姉に守られ、唯一生き残ったのだ。
「……ぼくはわすれない……わすれないよ……」
 そうしてラストシーンは、土の中、少女が人々の幸せを願って祈る感動的な場面。桜の花びらが舞い散り、幻想的にステージを包む。
 観客たちも圧巻のラストに目が釘付けだ。
 死に添う華を倒しながら演じたこの歌劇は、確かに土の花嫁に届いたのだろう。
 まるで引き寄せられるように、彼女は舞台に現れたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『土の花嫁』

POW   :    あなたがにどとうえぬように
自身からレベルm半径内の無機物を【多幸感を齎す花々や果実】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD   :    このちがけしてほろびぬように
全身を【這う神血の根を広げ、戦場を目の届く範囲ま】で覆い、自身が敵から受けた【害意】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ   :    うたをきかせて、ほめて、あいして
【声】を披露した指定の全対象に【自身を崇め守りたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はロク・ザイオンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間~忘れられた少女
 まるで村を襲った天災や飢饉を象徴する死に添う華を全て倒せば、隠されたヴェールが露わになるようにその奥から一人の少女が現れた。
 長い黒髪。血の気を失った青白い肌。そしてその身体からは彼女が皆に与えたかった豊穣の恵みを象徴する草花たち。彼女が歩みを進めるごとに地面に植物が芽吹いていく。
 舞台の中央に現れた土の花嫁は辺りを見回し首を傾げた。
「ねえ、みんなはどこ?」
 自分が神様に捧げられたことで村の人々は救われたはずだ。もっともっと幸せになってほしくて、だからこうやって戻ってきたのに。
「わたし、こんなに恵みを持って帰って来たのよ」
 手を広げればたちまち辺りに草花が咲きほころぶ。神の花嫁になり、神力を手に入れた。この力があればもう皆が二度と飢えることはない。それなのに、どうしてそのことを喜んでくれる人たちがいないのだろう。
「ねえ、父さんは? 友達のあの子に弟は? それに愛おしいあの人は……?」
 喜んでもらえると思ったのに。幸せにできると思ったのに。
「どうして誰もわたしを知らないの? 何故わたしを忘れてしまったの?」
 土の花嫁の身体から伸びる植物の根が辺りに急速に広がっていく。彼女の動揺を表すように、神の血を受けたそれらは更なる実りを求めて辺りの生物の生命力を奪おうとしているかのようだった。
「ねえ、教えて……わたしは、わたしは……!」
 頭を抱えてうずくまる土の花嫁。
 まだ歌劇は終幕を迎えていない。彼女へと役になりきって言葉をかけるのも良いだろう。何かの役にならずとも、自分自身の言葉で想いを伝えるのも良いだろう。何が正解かはわからない。けれど、彼女へと思いを言葉を伝えることが、忘れ去られてしまった土の花嫁となった少女の心を深く慰めることになるだろう。
エミリロット・エカルネージュ
引き続き、父親役をやりながら
この場合、悲しみ等の負の感情
それらをこのUCで和らげながらの方が良いかなぁ?

さっきまでの感覚『学習力』で覚えつつ

●POW
でも、そのままだと絵面的に問題だし
こっそりUCの剣を『化術&属性攻撃(花園)』を加え花や実りに変化『範囲攻撃』でソレを広げつつ

あの時、僕が嫌われるのを
承知の上で、強引にでも止めれば
お前に、こんな悲しみや苦しみを

抱かせずに済んだのかも知れない

だが、良く頑張ったな
お前の祈りは決して無駄じゃない
持ってきた実りを皆が見ているんだ

お前の祈りと尊い想いは覚えている
僕も皆も、己の身に構わず
そんな姿になってまで願った事は

絶対に忘れないと

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


リオ・ウィンディア
誰も名前を覚えていないなんて・・・
BGMを呼び出した幽霊にお願いする
悲しくも嬉しい再開を演出
ここは舞台の上、わかっているけれども、どうも私情も混じってしまう
役者としては心が一つになるのはある意味正解かもしれない

彼女の友人か母親のような立ち位置で
「お帰りなさい」
彼女を柔らかく包み込む
その声もも植物も全てを抱いて
「よく帰ってきたわね。おかげで村は豊かになるわ」

・・・これは嘘の物語になる
真実とは異なる
亡くなった人々、唯一生き残った人の記録
だからこそ、彼女のことが寂しくて
生まれ変わっても誰もいなかったら私はきっと寂しくて
心がどこかへ行ってしまうから

「お帰りなさい」
ただ彼女を覚えていたいと本気で」願う


御園・桜花
「土の花嫁の知らないことは2つあった。天災が収まらなかったこと。土の花嫁の目が覚めた時には、土の花嫁が生きた時代が、昔話と同じほど昔になってしまっていたこと…お可哀想に」

「貴女は嘆いて良い、憤って良い。貴女は過去になってしまった。村の全ても過去になってしまった。それでも貴女が為そうとした想いは尊く、唯一人生き残った村人の伝えた口伝が、貴女が為そうとした事を今に伝えた…どうかもう1度生まれ直すために、お眠りを。そして次は犠牲なく貴女の願いが叶うよう」
UC「幻朧桜の召喚」
子守唄と鎮魂歌を何曲も織り混ぜて歌い花嫁の声が広がるのを妨げる
鎮めの失敗を知り抱いた負の感情をそのまま癒しと浄化に繋げ転生促す



●望んだ未来を映して
 舞台に現れた土の花嫁は、かつての村を救うために、神力と恵みをもって帰還した。
 けれどそこに彼女が救いたかった人たちはもういない。それどころか、自分が誰かを知る者すらいないのだ。
「土の花嫁の知らないことは2つあった。1つは自らの身を捧げても天災が収まらなかったこと」
 舞台上で混乱している土の花嫁の様子を、先ほどのように御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は語り部として客席に向かって語り掛ける。
「そして2つめは、土の花嫁の目が覚めた時には、土の花嫁が生きた時代が、昔話と同じほど昔になってしまっていたこと」
 この現実に戸惑い頭を抱える土の花嫁の姿を痛ましそうに見やって、桜花は小さくお可哀想に、と呟いた。
 先ほどの歌劇が彼女の生き様を表したものだとすれば、これから始まるのは彼女のその後の物語。
 桜花の語りによって観客は第二幕が始まったことを知る。
「貴女は嘆いて良い、憤って良い」
 全てを包み込むように、桜花は彼女の怒りと悲しみを肯定する。舞台には、はらはらと桜の花びらが舞い散る。
 桜花が召喚した幻朧桜の霊体が癒しと浄化を乗せた桜吹雪を舞わせているのだ。
「貴女は過去になってしまった。村の全ても過去になってしまった」
 それは彼女にとっては辛い現実かもしれない。けれど偽ることのできない事実でもあった。
「それでも貴女が為そうとした想いは尊く、唯一人生き残った村人の伝えた口伝が、貴女が為そうとした事を今に伝えた……」
 だからこうして、今になってやっと知ることが出来た。もう貴女は誰も知らない少女ではないと優しく包み込むように告げて。
(「誰も名前を覚えていないなんて……」)
 誰もわたしを知らないと嘆き問いかける土の花嫁の姿を見たリオ・ウィンディア(黄泉の国民的スタア夫人・f24250)はそっと目を伏せた。墓地を巡れば、そこには死者の名前が刻まれている。けれど彼女には墓もない。彼女の犠牲を尊ぶはずの村人もすぐに死に絶えてしまったからだ。
 リオ自身が誰もかれもに忘れられたとしたらと考えるだけでその辛さが身に染みる。だからせめてこの舞台では、彼女を知る者として、舞台慣れした役者として振舞うのだと顔を上げて。
「幽霊さんこの場を頼むわね」
 自身は役者として舞台に立つため、オーケストラピットへと呼び出した音楽に長けた幽霊にリオがお願いすると、指示を受けた幽霊はリオの手回しオルガン【マルシュアス】を演奏する。それは絶望に打ちひしがれる少女へと希望の光を灯すような温かく優しいメロディ。
「貴女の怒りや嘆きは全て受け止めましょう。そしてあの時、彼らが伝えたかった想いを伝えましょう……」
 そうして桜花は優しいメロディに合わせて子守唄を歌う。彼女の心が抱く負の感情を鎮めるように。声そのものが効力を発する土の花嫁のユーベルコードの力を抑えるように。
「お帰りなさい」
 舞台に現れたリオは包み込むように優しい声で土の花嫁を出迎えた。
 幽霊が奏でる優しいメロディは、悲しくも嬉しい再会を演出。桜花が歌うのは子守唄。かつてそれを幼き彼女に歌ったことのある存在――土の花嫁の母親として、リオは大切な娘に声をかけるように演じる。
(「ここは舞台の上、わかっているけれども……」)
 役者として場数をこなしているリオでさえ、彼女の境遇を思うとどうにも私情が混じってしまう。けれど、役者として役と心が一つになるのならば――ある意味正解なのかもしれないと思うのだ。
「わたしを待っていてくれたの?」
 優しく手を差し伸べるリオの言葉に、土の花嫁は顔を上げ、不安そうに問いかける。迷子になった幼子のような顔に、リオはええ、と大きく頷いて見せる。
 そして母親の隣に並ぶのはやはり父親だ。さきほど、父親役を熱演したエミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)は引き続き父親として、娘へと声をかける。
「ああ、待っていたとも。ずっと……」
 エミリロットは手にした花束をそっと土の花嫁に手渡す。
 しかしこれは化術を応用し、花束のように見えるようにしたエミリロットの武器・餃子剣なのだ。土の花嫁が抱く負の感情を和らげるために、薄荷餃子の浄化作用と霊的作用を極限まで高めて生成した薄荷餃霊剣は、肉体を傷つけずに負の感情のみを取り除くことができる。
 少し和らいだように思える娘の表情を確認し安堵するも、けれど父親は過去を悔いるように唇を噛みしめた。
「あの時、僕が嫌われるのを承知の上で、強引にでも止めれば……お前に、こんな悲しみや苦しみを抱かせずに済んだのかも知れない……」
 土の花嫁はその言葉に、自分のしたことを覚えていてくれた事実に、顔をほころばせ、そうして首を横に振った。
「いいえ、わたしが決めたことだから……」
「あなたがいなくなって身を引き裂かれるような思いだったわ……」
 母が涙を浮かべてそう言えば、父は今度は笑顔を浮かべて娘を労う。
「だが、良く頑張ったな。お前の祈りは決して無駄じゃない。持ってきた実りを皆が見ているんだ」
「よく帰ってきたわね。おかげで村は豊かになるわ」
 リオはそっと土の花嫁を抱きしめる。神力を帯びた彼女の声も、その身から芽吹く植物さえも、包み込むように抱きしめて。
「本当に? みんな、喜んでくれる? わたしのことを忘れたりしない?」
 エミリロットも土の花嫁の頭を撫でてやる。愛しい娘へと思いを伝えるように。
「お前の祈りと尊い想いは覚えている。僕も皆も」
 幼い頃神隠しに遭い、名前以外の記憶を全て失ったエミリロットは忘却の悲しみを知っている。忘れること、忘れられることは自分が自分でないような不安が常に付きまとう。それでもエミリロットはその後良き師、良き友に恵まれた。最近は自分の呪われた血にまつわる記憶が蘇りつつある。忘れたままでいた方が良かったのかもしれないと思うこともある。けれど自分を信じてくれる存在がいるからこそ、きっと乗り越えられるとエミリロット自身もようやく信じられたから。
「ああ、よかった。ねえねえ、これで誰も飢えることはないでしょう? 村が飢饉で滅びることはないでしょう?」
 手のひらから次々と生まれる植物を無邪気に見せて、死の果てから蘇ってまで村へと実りをもたらそうと願う少女はどこまでも純粋で。
「己の身に構わずそんな姿になってまで願った事は……絶対に忘れない」
「ええ、もう二度と飢えることはないわ……みんなここにいるわ」
 リオは慈愛を込めて、土の花嫁を抱きしめ続ける。
(「……これは嘘の物語」)
 真実とは異なる、彼女の願望が見せる偽りの物語。
 彼女の犠牲をもってしても亡くなった人々。そして唯一生き残った者の記録だけが彼女が存在したことを告げていて。
 本当はもうそばには誰もいないのに。
(「生まれ変わっても誰もいなかったら、私はきっと寂しくて心がどこかへ行ってしまうから」)
 彼女の境遇が寂しくて、リオは彼女のことをずっと覚えていたいと心から願うのだった。
 だからもう一度、心を込めてこう囁く。
「お帰りなさい」
 それは確かに真実の物語ではないのかもしれない。けれど彼女の両親が生きていれば、きっと同じように娘を抱きしめ、労い、誇りに思っただろう。
 これは舞台。真実と虚構が入り混じるこの瞬間しか体感できない唯一無二の物語なのだ。
「貴女のことを知る人がこんなにいる……もう忘れられた存在ではありません」
 桜花がよく通る声でそう告げると、舞台に美しくも儚い桜吹雪が舞い散る。
 この舞台を見届ける観客もまた、土の花嫁を知る存在となるのだ。そのことが彼女の傷を癒すだろう。
「どうかもう1度生まれ直すために、その傷を癒して……そして次は犠牲なく貴女の願いが叶うよう……」
 桜の精である桜花の優しい祈り。皆の想いと言葉が、土の花嫁の負の感情を浄化していく。
 転生を促すように、優しい桜の花びらが彼女へ降り注ぐと、忘れられた少女の傷を癒すようにそっと包み込むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼
1章で演じた青年の役を継続
土の花嫁には敵意を向けない

あの悲劇から長い年月が流れ
今は俺の体も朽ち果て、ただ魂を残すのみ

あの後も天災は止むことなく、村の全てを押し流した

それでも、無慈悲な運命を嘆きこそすれ
誰一人として最期まで君への恨み言は言わなかった
君一人に全てを背負わせたことを悔いて詫びる者さえいた
誰もが君の優しさに感謝していたんだ

肉体は朽ちて土に還り、苦しみは最早ない
そして今、大地に緑の恵みは甦り
花は咲き大樹は実を結ぶ
(舞台近くの幻朧桜と、舞台上の小道具の花を示してみせる)

ありがとう
泣かないで
君にこの言葉を伝えたかった
思い残すことは何もない
これからは君と共に、この大地を見守り続けよう……


ヘルガ・リープフラウ
❄花狼
幼馴染の少女(他の人と重複した場合は別の村娘)役
精霊の子らのルミナやアジュアと共に

泣かないで
泣かないで
わたしたちはここにいるよ

あなたの祈る声が聞こえたの
とてもやさしくて、かなしい願い

(舞台小道具の花にUCで命を与え)

土に還ったわたしたちは
四季折々の花になって
今もここに生きている
すべてが壊れて涸れた大地にも力強く根を張って
あなたが帰ってきたときに
胸を張って迎えられるように

ありがとう
ありがとう
私たちのために泣いてくれて
私たちのために祈ってくれて

命は巡る、想いは巡る
(わたくしの中にも、お父様やお母様、
命尽きた人々の願いや想いが受け継がれ生きている……)

もう寂しくないよ
これからはずっとそばに



●巡る想い 巡る命
 土の花嫁の傷ついた心は、彼女を待っていた両親との再会で癒された。実際、土の花嫁が役を演じている猟兵を実の親だと思ってはいないだろう。けれど、彼女を待っていてくれた存在がいること。自分のことをよく知っている相手に自分のしたことを受け入れてもらえる――それだけで随分と救われる心地だったのだろう。
「ねえ、他のみんなは? みんなにも会いたいわ」
 無邪気にそう問いかける土の花嫁の言葉で、舞台の役者は入れ替わる。そうして曲も幻想的なものへと変わっていく。
「わたしたちはここにいるわ。ありがとう。あなたの優しさで弟も救われた……」
 現れたのは、純白のドレスを纏ったヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)。先ほどは見事に土の花嫁役を演じきったが、ここでは少女の友人役をこなす。
「良かった……! あなたも弟も無事だったのね……でも……」
 土の花嫁は不思議そうに首をかしげる。ヘルガのそばには、淡い光を纏う少女型の精霊【ルミナ】と、水の精霊【アジュア】が寄り添うように漂っていて。
「あなたと同じよ。この命、尽きてしまったけれど、想いは、魂は消えない」
「え……」
「あの後も天災は止むことなく、村の全てを押し流した」
 ヘルガの言葉を継ぐように舞台に登場し、彼女の横へ並んだヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は、拳を握りしめ、押し殺した声でそう告げる。
「あの悲劇から長い年月が流れ……今は俺の体も朽ち果て、ただ魂を残すのみ」
 ヴォルフガングが演じるのは、引き続き土の花嫁が思いを寄せていた村の青年だ。
「どうして……天災は収まったのではなかったの? 実りがまた村に訪れて……」
 青年は首を横に振る。それから土の花嫁へと視線を向け、ゆっくりと口を開く。
「それでも、無慈悲な運命を嘆きこそすれ、誰一人として最期まで君への恨み言は言わなかった」
 君のせいではないと、全ては運命が引き起こした悲劇なのだと告げて。
「君一人に全てを背負わせたことを悔いて詫びる者さえいた。……誰もが君の優しさに感謝していたんだ」
「でも、みんな……みんなは……」
 はらはらと土の花嫁の瞳から涙がこぼれる。大切な人たちを救えたのだと思った。けれど自分の身を捧げても天災は収まらず、飢饉が村を滅ぼして……。
 その時、優しい歌声が土の花嫁の耳に届く。まさに天使の歌声と評するのがぴったりだ。
 慈愛に満ちたその声がまるで彼女の涙をぬぐうように優しく包み込む。

 泣かないで。
 泣かないで。
 わたしたちはここにいるよ。
 あなたの祈る声が聞こえたの。
 とてもやさしくて、かなしい願い。

 ヘルガの歌声が、伸びやかに舞台に響き渡る。 
「村は天災で流され、命は枯れてしまったけれど、命は繋ぎ紡がれる……」
 ヴォルフガングも頷き、土の花嫁の足元から生まれる植物を眩しそうに見た。
「肉体は朽ちて土に還り、苦しみは最早ない。そして今、大地に緑の恵みは甦り、花は咲き大樹は実を結ぶ……」
 舞台には幻朧桜から舞う花びらも降り注ぎ、ヴォルフガングはそっと舞台の小道具である花を示してみせた。
 すると、ヘルガの歌が力を与えるように。造花だった花が生命力に満ち溢れ、美しく咲き、甘い香りを漂わせる。
 生命力をはらんだ草花たちが咲き誇る様はまるで命の賛歌。

 土に還ったわたしたちは、四季折々の花になって今もここに生きている。
 すべてが壊れて涸れた大地にも力強く根を張って、あなたが帰ってきたときに、胸を張って迎えられるように。

 だから泣かないでとヘルガが告げれば、ヴォルフガングもまた優しい瞳で想いを伝える。
「ありがとう。泣かないで。……君にこの言葉を伝えたかった」
 ああ、自分も昔は戦う意味も愛も知らず本能のままに戦場で暴れるだけだった。あの時のままの自分ではこの少女の気持ちも、彼が思いを寄せた青年の心を理解することもできなかっただろう。
 彼に人を愛する心を教えてくれたのは、隣にいる無垢な雛鳥だった少女。
 ヴォルフガングの胸に溢れるのは愛する妻となったヘルガへの想い。命の尊さを知った。
「思い残すことは何もない。これからは君と共に、この大地を見守り続けよう……」
 二人の想いが優しく土の花嫁を包み込む。彼女の涙はまだ悲しみにくれたものだろうか。少しは温かなものへと変わっただろうか……。

 ありがとう。
 ありがとう。
 私たちのために泣いてくれて。
 私たちのために祈ってくれて。

 歌いながら、ヘルガはそっと自分自身の胸に手を当て大切な人の顔を一人一人思い浮かべる。
(「わたくしの中にも、お父様やお母様、命尽きた人々の願いや想いが受け継がれ生きている……」)
 肉体は滅びても、想いは願いは生き続けるから。

 命は巡る、想いは巡る。
 もう寂しくないよ。
 これからはずっとそばに――。

 土の花嫁は悲しい真実を知った。けれどそれは、繰り返される営みの中のほんの一握りの出来事。
 死は誰にも等しく訪れる。
 彼女の想いは亡くなってなお受け継がれ、彼女へと向けた人々の想いも消えない。
 そのことを二人は愛と優しさをもって示したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
目の前には影朧、されど辺りには観客……
救済に専念したいが、主演が増えると舞台が栄えない。
なれば、『イカした脇役』を演じつつ救済のきっかけを与えよう!
■闘
演じるのは騒めく生き残り……騒めき役を。

先ずは『本当に悪かった、だがもう終わったんだ』と言い、
反応があったら『もうどんな形でも構わない。終わらせてくれ。
みんな、オレ達のせいなんだ……』とうずくまる。
声かけしつつも混乱と悔恨を強調し、役になり切ろう。

戦闘も忘れず。怯える演技をしつつ彼女の声を【狂気耐性】で
聞き流し、【心切・祓】を密かに使用、彼女の心をくすぐる。
発動の際は、『土の花嫁が戸惑っている』よう演出するぞ。

※不採用可・可能であればトドメNG



●Trickster
 舞台上では猟兵たちが誰かの役を演じながら、土の花嫁の魂を慰める温かく優しい祈りに満ちた歌劇が続いている。
(「目の前には影朧、されど辺りには観客……」)
 舞台袖で土の花嫁と集まった観客を交互に眺めながら、愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)は思案していた。
 救える魂は必ず救う――それが清綱の信念であり、目指すべき兵の道だ。今回ももちろん救いを求める魂を救済したいと願っている。だが、この場には舞台を見つめる観客がいる。そしてこの影朧を強く慰めることができるのも、魂鎮メ歌劇ノ儀という儀式魔術の力だ。ならば、観客にも最大限に楽しんでもらいたい。
(「救済に専念したいが、主演が増えると舞台が栄えない」)
 清綱もまた、他の猟兵と同じように己の信念をもって土の花嫁に語り掛け、数々のオブリビオンを祓い、浄化してきたその手腕をもってすれば感動の内に舞台を彩ることができるだろう。
 もちろん次々と現れる主演級の役者の感動の演技は人々の心を動かすだろう。けれど、あまりにも感動が続くと中には冷めてしまう客もいるかもしれない。
 キマイラフューチャー出身である清綱は、映える動画が溢れるあの世界で見せ方というものを無意識のうちに体得していたのだろう。歌劇の中にも印象に残る端役は必要だ。
(「なれば、『イカした脇役』を演じつつ救済のきっかけを与えよう!」)
 そう決意した清綱は、他の猟兵が舞台袖に下がっていくのと入れ替わりに土の花嫁の前へと躍り出る。
「う、うわああああ!」
 清綱が演じるのは、先ほどに引き続き村人役。土の花嫁を見た村人は怯えたように大声を上げてから、驚きのあまり尻もちをつく。
「あなたも、わたしを知っているの?」
 土の花嫁の問いかけに、村人はこくこくと頷いて見せる。けれどその表情はかなり引きつり、土の花嫁とも距離を取ろうとしているように見える。
「知ってるも何も……いや、先に謝らせてくれ! 本当に悪かった……だがもう終わったんだ!」
 彼女を贄にすることで自分たちが生き延びる道を選んだという後ろめたさを上手に演じ、土の花嫁の反応を引き出す。
「謝ることなんてないわ。わたしが選んだことだもの」
「そんな風に全てを背負わせてしまったのはオレたちの責任だ……恨んでいると言われた方がいっそ胸のつかえがとれるというもの」
 それほどのことをしたのだと、悔恨を滲ませながら、黄泉から現れた土の花嫁の存在に混乱と恐怖の感情を滲ませて、清綱は騒めく生き残り役を演じる。
「恨むなんて……ねえ、ほらこうして実りを持ってきたの。もう大丈夫。二度と飢えることはないから……」
 差し出した手から花が咲き誇り果実を実らせる。けれど村人はその言葉を素直に受け入れることが出来ない。
「もうどんな形でも構わない。終わらせてくれ。……みんな、オレ達のせいなんだ……」
 幼い少女を見殺しにして生き延びようとしたことは事実。どんな罰でも構わない、受け入れると言うように村人はその場に膝をついてうずくまる。
 その演技の最中も、清綱は土の花嫁の強力な力を抑えるべく、ユーベルコードで生み出した清浄なる霊力を辺りに放ち、力を持つ声の効力を打ち消す。
「わたしは誰も恨んでないわ。でもみんなはわたしが恨んでいると思っているの?」
 戸惑いに満ちた土の花嫁の声。それは土の花嫁の感情を引き出そうとした清綱の演技。清浄なる霊力が、彼女が還るべき場所へとそっと促していく。
「恨んで当然のことをしたのだ」
 覚悟を決めた顔をした村人の様子をしばらく眺めた後、土の花嫁はそれでもふっとその顔に笑みを浮かべた。
「でも……わたしのこと、覚えていてくれたのね。良かった……」
 土の花嫁は登場した時のような取り乱した様子はもはやなく、観客は役者たちの巧みな演技で彼女の感情の遷移を知り、ますますこの唯一無二の歌劇へと引き込まれていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユキ・パンザマスト
忘れられている訳がないんですよ!

(外套脱ぎ捨て、ギターを構え
失せ物探し、楽器演奏、歌唱、【黎明音】
役は終われど舞台上
歌劇の楽曲、絶唱
あなたも、随分と忘れてしまっているようだ
それでも歌う)

ずっと
あなたにこがれて
躊躇って悔いて苦しんで
あなたに与えられたことを大切にして
あなたを想い、歌う
そういう人間は
今もなお、貴女を忘れ得ぬ人間は確かに居るんです!

お節介かもしれないが
今のあなたに
そんな人がいることを知ってほしかった
……ユキとて忘れるのは難しそう

さぁさ、還りましょう、往きましょう
土の下ではなく、亡き場所ではなく
皆の待つ場所へ
どうか、門出を

(それでも再び
迷い出ることがあらば
次はあなたの妹御と──)



●首途
 舞台上に次々現れた猟兵たちが、皆それぞれの言葉で土の花嫁に想いを伝える。それがたとえ何らかの役を演じているのだとしても、彼女の行いを知っていてくれた人々の存在に、その心は穏やかなものを取り戻しつつあった。
 自分のことを覚えていてくれたのだと、ほっとした表情を見せる土の花嫁の様子を見て、ユキ・パンザマスト(夕暮放送・f02035)は、いてもたってもいられず、舞台に飛び出していった。
「忘れられている訳がないんですよ!」
 もどかしそうにそう叫ぶユキは、ばっと外套を脱ぎ捨てると、愛用のアコースティックギターを構える。
「みんな、あなたのことを忘れてしまったわけじゃない……あなたの行いは皆の心に深く刻まれているんですから」
 もう先ほどの役は終わった。もはや役としての台詞なのか、ユキの心からの台詞なのかわからない。あるいはそのどちらでもあるのか。
 しかし今やそんなことはどうだってよかった。伝えたい思いをギターに乗せ、ここは舞台上だとその美声を響かせて。ユキは先ほど流れていた歌劇の曲を奏で歌う。
「あなたもわたしのことを知ってくれているの?」
 嬉しそうに微笑む土の花嫁の様子に、ユキはぐっと拳を握りしめる。伝えたい気持ちが伝わっているだろうか。だが、言葉にしなければ伝わらない。だからユキは歌い、そして言葉を紡ぐ。
「……あなたも、随分と忘れてしまっているようだ」
 ユキが切なそうに瞳を伏せると、そうして自虐的な笑みを浮かべる。ユキ自身もまた、他者の記憶を食む度、古い記憶が失われていくのだから。
 けれどどうしても伝えたい。思うだけでは伝わらないから。言葉にして初めて相手に届くから。
「ずっとあなたにこがれて……躊躇って悔いて苦しんで……」
 幼い少女が天災や飢饉から村を守るために贄となることを受け入れて。その清廉な魂の輝きに、守りたいもののために発揮する強さに心打たれ、救いたいという願いも潔く断られ、助けられなかったことを悔やみ、呵責に苦しんで。
「あなたに与えられたことを大切にしてあなたを想い、歌う……そういう人間は……今もなお、貴女を忘れ得ぬ人間は確かに居るんです!」
「……あなたもそうなの?」
 問いかけに、ユキは答えなかった。昔から彼女を知っているわけではない。今回の事件がなければ彼女の存在すら知らなかったかもしれない。
 けれど彼女の行いを知れば、忘れられるはずがなかった。古い記憶や重要でない記憶が失われていくユキですら、そのことを忘れるのは難しいことだろう。
「お節介かもしれないが、今のあなたにそんな人がいることを知ってほしかった」
 彼女が生きていた頃の村人はもういない。けれど、彼らの記憶にこの少女の記憶は鮮烈に残り続けていることだろう。
「……そう。わたしもまた忘れていたのね……」
 そう理解する土の花嫁の様子を切なそうに眺めてから、ユキはもう一度ギターを奏でる。
 彼女が行くべき場所はかつての村ではないけれど。それでも行くべき場所があるから。

 さぁさ、還りましょう、往きましょう。
 土の下ではなく、亡き場所ではなく。
 皆の待つ場所へ。
 どうか、門出を――。

 それは行くべき場所へと送り出す門出の歌。聞くものの感情を震わせ、そっと背中を押す力漲るメロディ。
 竦みそうになる足をそっと前へと進ませる。立ち止まりそうになる心を優しく、力強く奮いたたせる。
 これで彼女は進めるだろうか。還るべき場所へ。
(「それでも、再び迷い出ることがあらば……次はあなたの妹御と──」)
 心の中でひっそりと決意を固めながらも、ユキはありったけの想いを込め、門出の曲を歌い続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎木・葵桜
UC発動の上引き続き演じるね

時間軸経過も考えて
少女の友人の弟さんの子孫の役になるよ
弟さんが書いた文献を手に、土の花嫁さんに話をするね

私は、貴女のことを知っているよ
唯一生き残った私の祖先から、口伝えで話を聞いたから

村は滅びてしまったの
神様の怒りは収まらなくて

村が貴女だけに犠牲を押し付けたことを
祖先はずっと悔いていた
だから悲劇を、貴女を忘れないために
私がここにいるよ

悲劇の事実は消えない
でも、あの時村を救いたいと願った貴女の優しい心は
私のところにちゃんと届いてる

ありがとう、村の事を考えてくれて
ごめんなさい、貴女に犠牲を強いてしまって

でも、もう貴女も囚われなくてもいいの
だから、これ以上苦しまないで


プリムララ・ネムレイス
人は何処から来て
どこへ行くのでしょう
皆いつかはその息を止めて静寂の彼方へと旅立つのです
でも
生きている私達にはその先を知る術はありません
古の知識を司る三万冊の書物も
先立たれたお母様も
誰もその答えを教えてくれたりはしませんでした
ですが
私には沢山の光がお互いに寄り添う様にこの世界を照らしているのがわかります
今そうしている貴女の足下も

死は私達を分かつかも知れません
けれども死は
いつか人々が巡り逢う煌めきの魔法
世界は
そんな奇蹟に満たされて輝いています

《時の回廊、流転の果て》
そこに在るのは
光に祝福された私達なのです
愛しているわ

そうして貴女と私は出逢いました
私はプリムララ
宜しければ貴女のお名前をお聞かせ下さい



●時の輪廻
 土の花嫁が還るべき場所へと辿り着けるようにという猟兵たちの願いが、言葉と曲によって優しく舞台上を包み込んでいく。
 観客が息をのんで歌劇を見守る中、プリムララ・ネムレイス(夜明け色の旅路と詰め込んだ鞄・f33811)がその手に書物を持って現れる。その手にあるのは、星々の叡智を封じ込めた失われた筈の魔導書だ。
「人は何処から来て、どこへ行くのでしょう」
 土の花嫁へと、客席へと、永遠の命題を問いかけるように、忘れられた森の魔女は囁いて。
「皆いつかはその息を止めて静寂の彼方へと旅立つのです」
 授かった命も永遠ではない。死は必ず等しく生ある者へと訪れるのだから。
「ただ、生きている私達にはその先を知る術はありません」
 肉体は滅びても魂はまた輪廻するのか。サクラミラージュにおいては、転生という考えは一般的であるが、そのひとつひとつを追うことはできない。
「古の知識を司る三万冊の書物も先立たれたお母様も……誰もその答えを教えてくれたりはしませんでした」
 手にした魔導書を抱きしめ、プリムララは少し悲し気に目を伏せる。叡智を集めたこの魔導書にも、その答えは書かれていない。
 けれど。亡くなった母から受け継いだ杖や箒を手にするたび、そこに確かに想いを感じる。母から受け継いだ知識や魔法は大昔のままだけれど……母がいて、まだ見たこともない父がいて、プリムララはこうして今ここに立っているのだから。
「じゃあ、答えはわからないままなの?」
 神力を得て過去から蘇った土の花嫁はその命のサイクルから外れた存在なのかもしれない。天災と飢饉によって死に絶えた村人たちがどうなったかはわからない。けれど、強い想いはお互いの存在を引き寄せあうのだろうか。
 プリムララは少し微笑んで、否定するでも肯定するでもなく言葉を続けた。
「ですが、私には沢山の光がお互いに寄り添う様にこの世界を照らしているのがわかります。……今そうしている貴女の足下も」
 言葉と共にスポットライトが土の花嫁を照らす。それと同時にライトはもう一人の登場人物を照らし出した。
「私は、貴女のことを知っているよ。唯一生き残った私の祖先から、口伝えで話を聞いたから」
 先ほどたった一人生き残った村人役――少女の友人の弟を演じた榎木・葵桜(桜舞・f06218)が、今度は彼の子孫の役として登場する。
「みんな、天災と飢饉で亡くなったのだと聞いたわ……ああ、でも生き延びて……!」
「うん、貴女が助けたかったお友達の弟がみんなに守られて最後まで生き延びて……そうして貴方のことを後世に伝えたんだ」
 葵桜は既にユーベルコードを発動させ、見た目はそのままに神霊体へと変身し、土の花嫁の力持つ声への耐性を高めていた。
 頷いた葵桜は手にしていた古びた本を大切そうに抱きしめた。土の花嫁の行いが書かれた文献だ。
 そこに書かれたことはたくさんではなかったけれど。きっとどうしても伝えなくてはいけないと残したのだろう。
「確かに村は滅びてしまったの。神様の怒りは収まらなくて……」
 でもそれは誰のせいでもない。天災を神の怒りということにしなければ、人々は大自然の猛威に為すすべもなく、抗う力さえ失ってしまうから。
「村が貴女だけに犠牲を押し付けたことを祖先はずっと悔いていた」
 誰かが犠牲になればきっと救われると、それほどまで追い詰められて。時が経てば経つほど、どうしてあのようなことになったのかと思い返すたびに悔やんで。守られるだけの幼い少年は、心優しい少女を思って何度涙を流しただろう。
「だから悲劇を、貴女を忘れないために……私がここにいるよ」
「終わりじゃなかったのね。消えてしまっていないのね。……ああ、わたしの守りたかったものが確かに……」
 はらはらと涙を流す土の花嫁へと手を差し伸べて、葵桜は優しい瞳で彼女を見つめる。
「悲劇の事実は消えない。過去は覆せない。でも、あの時村を救いたいと願った貴女の優しい心は私のところにちゃんと届いてる」
 あなたの優しさと想いは無駄じゃなかったんだよと、伝えたくて。
「ありがとう、村の事を考えてくれて。ごめんなさい、貴女だけに犠牲を強いてしまって」
 少女が願ったように、村が実りで満たされることはなかったけれど、その優しさと想いはきちんと受け継がれているから。
「でも、もう貴女も囚われなくてもいいの。だから、これ以上苦しまないで」
 そっとその土気色の手を取って。葵桜は大丈夫だよときゅっと手を握る。大切な人たちを、家族を守りたい気持ちは葵桜にもよくわかるから。
「忘れないよ。これからもずっと」
 それは心からの葵桜の想い。
 そうして舞台には先ほどまで演じていた他の猟兵たちも集まってくる。
 土の花嫁の救いたかった村人たちが、彼女を囲み、感謝と労いの言葉を贈る。
「死は私達を分かつかも知れません。ですが死は、いつか人々が巡り逢う煌めきの魔法」
 終わりがあって始まりがあるように。死が訪れ、新しい生が始まる。
 巡る輪廻の中で、またどこかで魂たちが邂逅を果たすこともあるだろう。
「世界はそんな奇蹟に満たされて輝いています」
 プリムララが母から譲り受けた魔導の杖を振るう。亡き母から受け継いだ魔法がこうしてまた誰かの足元を照らすから。
 時の回廊、流転の果て。
 運命を司るフォルトゥーナの円環が光を放ちながら回転すれば、土の花嫁がこの世界にもたらす悲劇的運命を変えることができる。悲しみと絶望に取りつかれた彼女が帝都の人々へ危害を加えるであろう未来を変えるのだ。
「そこに在るのは光に祝福された私達なのです……愛しているわ」
 プリムララは胸に手を当て全てを受け入れるように優しく微笑む。
 こうして過去と現在が繋がり、悲しみの過去から希望の未来へと。自然は災害を与えもするが、こうして光を届けてくれる。
「そうして貴女と私は出逢いました。私はプリムララ。宜しければ貴女のお名前をお聞かせ下さい」
 その申し出に土の花嫁は大きく目を見開く。
 村をみんなを助けなければいけないことはわかっていた。自分が何をしたのかも理解している。
 けれど、神様の花嫁となり、人でなくなった彼女はどうしても思い出せなかったのだ――人だった頃の自分の名前を。
「ああ、でも……」
 その瞳から涙が溢れる。自分を知ろうとしてくれる。自分を受け入れてくれる。自分を認めてくれる。
 クライマックスとばかりに、全てを癒すかのように幻朧桜の花びらが舞台上へと降り注ぐ。
 その温かさと優しさに、土の花嫁は過去の呪縛からようやく解き放たれたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『いずれまたどこかで』

POW   :    湿っぽいのは嫌いなので笑顔で送ろう

SPD   :    言葉に想いを込めるのが大事だと思う

WIZ   :    祈りを…ただそれしか出来ないから

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間~幻朧桜が見守る場所で
 はらり、はらりと舞台の上に幻朧桜の花びらが舞い落ちる。
 魂鎮メ歌劇ノ儀により、傷ついた影朧の心は強く慰められた。まさに土の花嫁は過去の呪縛から解き放たれ、消えてゆこうとしている。この儀式魔術の力によるところも大きいが、それは役を演じる猟兵たちの想いと力があってこそだ。
 だが、まだ終わりではない。消えゆく彼女のために最後にできることをして、観客と共に見送ってあげるのだ。
 曲を演奏したり、歌ったり、舞を捧げてもいいだろう。最後に年頃の少女らしく過ごせるように、喜びそうなことをしてあげたり、他愛のない話をするのもいいだろう。伝えきれなかった言葉を贈るのも、ただ祈りを捧げるのでも構わない。
 その心を震わせ、慰めることが出来れば、彼女は忘れてしまっている自分の名前を思い出せるかもしれない。
 もう何かを演じる必要はない。
 歌劇はエンディングを迎え、これからはショウが始まる。
 観客たちは最後までその様子を見守っている。
 感動のフィナーレはもうすぐそこだ。
エミリロット・エカルネージュ
もう演じる必要ないなら
ボク自身、通りすがりの料理人として
最後のコンタクトを

どうせなら花嫁ちゃんも
見送られて転生する前に

自己犠牲の上で手に入れた実りの力
無駄では無かった事を実感させ
られるなら

そう思って、花嫁ちゃんに実りで果物とかを出して貰って、UCで『パフォーマンス&料理』をまだ劇の延長上だと思うし
演出重視

え?お父さんに似てる?
気のせいだと思うよ、性別逆だし

因みに、このUC餃子料理重視だけど
一応それ以外も作れる筈だよね

その実験も含め、果物で作るスイーツは華々しく花や植物みたいに飾り切り

ウサギにスワン、動物みたいに飾り切り

あれ?無意識にスイーツ餃子も
一品二品勝手に!?

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


御園・桜花
最後もナレーション

「この場にいる全ての皆様が、土の花嫁のことを知りました。彼女がどうしてそうなったか、どうして今ここにいるのか。土の花嫁も知りました。自分の村がどうなったか、自分が今何なのか」
土の花嫁と観客を眺める

「土の花嫁の終わりと始まり。彼女はもうすぐ転生することでしょう。願ってください、彼女が自分自身を思い出すことを。願ってください、彼女の望みが叶うことを。願ってください、彼女が転生することを。此処にいる皆さんの想いが、土の花嫁自身の願いが、全てを叶える力になります」
UC「幻朧桜夢枕」使用
猟兵・観客・土の花嫁自身の願いと想いを集め土の花嫁が自らの名を思い出し夢を叶えるため転生するよう願う



●未来をもたらす実り
 土の花嫁は猟兵たちが演じ、作り上げた魂鎮メ歌劇ノ儀により過去の呪縛から解放された。
「この場にいる全ての皆様が、土の花嫁のことを知りました。彼女がどうしてそうなったか、どうして今ここにいるのか」
 最後もこの舞台のナレーションを務めるのは、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。良く響く声で、桜花は歌劇のあらましを伝える。
「土の花嫁も知りました。自分の村がどうなったか、自分が今何なのか」
 歌劇を通じて彼女の過去と彼女が抱える悲しみを多くの人が知ることとなった。名前すらも伝えられることのなかった神に捧げられた生贄の少女のその献身と愛情に満ちた短い一生を。
 桜花は言葉と共に土の花嫁と観客を交互に眺める。
「ええ、本当に……あなたたちはわたしが知りたかったことも、知らなかったことも教えてくれた……」
 ありがとう、と桜花を見つめて土の花嫁は柔らかく微笑んで。
 この様子ならば転生も難しくないだろうと桜花は確信し、より確実なものとするために次の一手に出る。
「土の花嫁の終わりと始まり……彼女はもうすぐ転生することでしょう」
 桜の精である桜花の癒しがあればそれは可能だ。ただ、彼女にはまだいくらか残されている望みもあるようだ。
「願ってください、彼女が自分自身を思い出すことを。願ってください、彼女の望みが叶うことを。願ってください、彼女が転生することを」
 それは、その場にいる観客や猟兵、土の花嫁自身にその願いが叶うように呼び掛けることで、願いを実現させるユーベルコード。 
「此処にいる皆さんの想いが、土の花嫁自身の願いが、全てを叶える力になります」
 土の花嫁の転生を望む桜花のその願いを受けとめた者たちが、そっと祈りを捧げる。誰もがそうしたいと心から思ったからだ。
「ありがとう、わたしのために……ありがとう、たくさんの人たちの想いを……」
「他に何かしたいことはありませんか?」
 桜花が優しく微笑みかけると、土の花嫁が少し思案し、遠慮がちに呟いた。
「もたらした実りがみんなの役に立っていることを感じられたのなら、嬉しい……」
「それなら任せて!」
 土の花嫁の控えめな希望を聞き取って舞台に現れたのは、エミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)。先ほどは土の花嫁の父役を演じていたが、今は赤い龍の刺繍があしらわれたクンフー服を身に纏ったいつもの姿だ。
「土の花嫁ちゃんがもたらしてくれた実りを、ボクが美味しく料理しちゃうよ!」
「まあ、あなたが……?」
「そう、通りすがりの料理人としてね」
 片目を瞑ってみせると、エミリロットは誰かの役ではない自分自身として土の花嫁と向き合う。
 エミリロットは気になっていたのだ。彼女が自己犠牲の上で手に入れた実りの力。
 それが無駄ではなかったことを実感させてあげることが、その心を慰めることになるだろうと信じて。
「というわけで、何か果物とか出してもらえるかな?」
「わかったわ。……これでいいの?」
 その手から小さな芽が生えたと思えばすぐさま成長し、果実を実らせる。そうして次々と果実や野菜を実らせていく。
「ありがとう。じゃあこれを使わせてもらって……」
 エミリロットが食材を手にし、ユーベルコードを展開させれば、次々に果物の美しい飾り切りが出来上がっていく。その鮮やかな腕前に観客の目も釘付けだ。
 りんごは皮の赤が引き立つように効果的に皮をむいたり切り込みを入れたり。オレンジは皮に薄く切り込みを入れて羽が生えているかのように。桃は薄く切って巻いては薔薇の花のように。
(「よし、いける!」)
 普段は餃子や餃菓を作ることがメインのこのユーベルコードではあるが、それ以外も作れることを確認し、エミリロットはさらに次々と料理を作り上げていく。
 自分がもたらした恵みの果実が美しい料理となって完成していく様に、土の花嫁は目を見開き、感動しながら見守っていた。
 果物は美しい花や植物に見立てられ、野菜はうさぎや白鳥を模した生き生きとした動物たちの姿に。
「これが土の花嫁ちゃんがもたらしてくれた実りだよ……と、あれ?」
 夢中で作っていたエミリロットは、ふといつの間にか作っていたスイーツ餃子に気付く。短時間に百品以上の料理を作るので、無意識にスイーツ餃子を作っていたらしい。
「ボクのおすすめのスイーツ餃子もご賞味あれ!」
 美しい飾り切りされた果物が盛り付けられたスイーツプレートを桜花がトレイに乗せて運んでは、土の花嫁に給仕する。帝都のカフェーでパーラーメイドとして働く桜花の身のこなしは様になっている。
「さあ、どうぞ。貴方の願いのひとつです」
 にっこりと微笑む桜花に給仕され、土の花嫁はそっと果物を口に運んでみる。瑞々しい果汁が溢れ、喉が潤う。甘くて幸せな気分になる。
「こんなに素敵な料理になって……みんな喜んでくれるかな?」
「もちろんだよ。あとでここにいるみんなにも食べてもらうね。だから、今は土の花嫁ちゃんがたくさん食べるといいよ!」
 エミリロットの言葉に、土の花嫁は嬉しそうに頷いて、そうしてふと懐かしい目をした。
「父さんがよく言っていたの。自分よりわたしが食べなさいって……あなたは父さんに似てる気がする」
 食料が十分になかった時も、自分よりも育ち盛りの娘を思って、父は娘にそのような言葉を言ったのだろう。懐かしそうにそう呟く土の花嫁へ、父親役を演じていたエミリロットはそれでも首を横に振った。
「お父さんに似てる? 気のせいだと思うよ、性別逆だし」
 父親役の時は封印していた明るい笑顔を見せると、エミリロットはスイーツ餃子も勧める。
「スイーツ餃子も、餃子の可能性の形。土の花嫁ちゃんがもたらした実りも同じだと思うな」
 たとえあの村の人々にその恵みが届かなくても。果実は種となり後世へも実りをもたらす。
「……もう誰も飢えることのないように……」
 祈りを込め、大切そうに目の前の恵みたちを口にすると、土の花嫁はありがとう、と呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

大切な人の笑顔を、幸せを守りたいと願う心
それはきっとあなたも、わたくしも同じ

全ての願いが、そのままの形で叶うとは限らない
花の命、人の命は儚くて
それでも、いいえ、だからこそ
人は命を我が子に託し
想いを歌に紡いでゆくの

しあわせであるように
しあわせであるように
願いを止めてしまったら、未来は闇に鎖されるから

光ある方へ
光ある方へ
陽だまりの中で、花は咲き、大樹は根を張って
鳥は歌い、新たな地で種は芽吹く

決して忘れないわ
あなたからも、大切な人からも
たくさんの愛をもらったから
今度はわたくしが
託された願いを受け継いでゆくの

胸に満ちる暖かな想いを、この調べに乗せて
歌いましょう、世界を癒し、想いを紡ぐ愛の歌を


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

誰か一人を犠牲にして得られる幸せなど信じない
野生の狼に育てられた俺は、自らの力で生き抜くのに必死だったから
だから、あの役で俺が放った叫びは、紛れもなく俺の本心で
君が…或いはヘルガが犠牲になるぐらいなら、俺は必死に抗うだろう

だが、君のその「想い」を俺は否定しない
ヘルガが傷つくぐらいなら、俺が傷ついた方がいい
たとえ俺がいなくなっても、彼女には幸せでいてほしい…
彼女と出会わなければ、俺はこの心を知ることはなかった
幸せを願う思いも、受け継がれる意志も

理不尽に精一杯抗って果てるならば悔いはない
君なりの方法で現実に抗おうとした
その想いと献身を、俺は忘れない

愛するヘルガと共に歌おう
幸せを願い信じる歌を



●受け継がれるもの
 はらり、はらりと幻朧桜が舞台の上に舞っている。その中央に立つのは傷ついた影朧。
 生きた時代や世界は違うけれど、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)はどうしても彼女の境遇を自分に重ねてしまう。
 ヘルガは生き延びた。失ったものも数えきれないけれど、こうして今、最愛の人の隣に立っていられる。けれど、何かひとつ歯車が狂っていたら、自分も目の前の少女のようになっていたのかもしれない。
「大切な人の笑顔を、幸せを守りたいと願う心……それはきっとあなたも、わたくしも同じ」
 だから心からの想いをこめて、そっとその手を取り言葉を紡ぐ。
「わかってくれるのね……」
 ヘルガは優しく微笑みながら頷くと、ほんの少しだけ悲し気な色を乗せて彼方を見やる。
「全ての願いが、そのままの形で叶うとは限らない」
 彼女のもたらした実りがもう過去の人々を満たすことはないように。
「花の命、人の命は儚くて……それでも、いいえ、だからこそ。人は命を我が子に託し、想いを歌に紡いでゆくの」
「命は、想いは受け継がれて……」
 父が自分を守ろうとしてくれた。そして土の花嫁も守りたかった。たくさんの命を。
「君の献身には敬意を表する……だが、誰か一人を犠牲にして得られる幸せなど俺は信じない」
 ヘルガのすぐそばで彼女を守り支えるように立つヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)が真剣な表情で土の花嫁へと告げる。彼も今は少女が想いを寄せた村の青年役ではなく、彼自身として言葉をかける。
「野生の狼に育てられた俺は、自らの力で生き抜くのに必死だったから」
 死はそう遠くない場所にいつもあった。懸命に生きるヴォルフガングにとって、誰かのために自らの命を捧げるという行為を受け入れることはできなかった。たとえ村だけでなく世界が救われるのだとしても、そこに犠牲になったたった一人がいない世界を肯定するわけにはいかない。役を演じていたとはいえ、ヴォルフガングが放った言葉や叫びは全て彼の紛れもない本心だ。
「君が……或いはヘルガが犠牲になるぐらいなら、俺は必死に抗うだろう」
 そうして少し表情を緩めると、ヴォルフガングは敬意を込めて言葉を継ぐ。
「だが、君のその『想い』を俺は否定しない」
 ヴォルフガングが助けたい、救いたいと願うように、彼女もまたどうしても救いたいとそう願ったのだから。
「ヘルガが傷つくぐらいなら、俺が傷ついた方がいい。たとえ俺がいなくなっても、彼女には幸せでいてほしい……」
 隣に立つ愛おしい妻へと視線を向けると、ヘルガもまた同じ言葉を口にする。
「それはわたくしも同じです。ヴォルフの幸せをいつも一番に願っています……」
 その心の根底にあるものは、土の花嫁も同じ。自分の幸せよりも他人の幸せを願う尊く深い愛。
「彼女と出会わなければ、俺はこの心を知ることはなかった」
 幸せを願う思いも、受け継がれる意志も。
 狼に育てられ、幼い頃から戦場を駆けていたヴォルフガングがその心を手に入れるのはヘルガとの出会いがあったからこそ。
「理不尽に精一杯抗って果てるならば悔いはない。君なりの方法で現実に抗おうとした……その想いと献身を、俺は忘れない」
 彼女は諦めたのではない。たとえ報われなくとも彼女なりの方法で皆を救おうとした結果なのだから。その想いがあったから、こうして皆に実りを届けようと過去から蘇ったのだろう。
「……ありがとう、わかってくれて。ありがとう、覚えていると言ってくれて」
 感極まる土の花嫁へと優しい眼差しを向けてから、ヘルガはヴォルフガングへと視線を送る。それだけで彼女が何をするか理解した彼は大きく頷いて見せる。
 土の花嫁の旅立ちに歌を贈るのだ。
 幸せを願い、信じる歌を。

 しあわせであるように。
 しあわせであるように。
 願いを止めてしまったら、未来は闇に鎖されるから。

 彼女がみんなの幸せを願ったことは間違いじゃなかったと、優しく包むこむように。

 光ある方へ。
 光ある方へ。
 陽だまりの中で、花は咲き、大樹は根を張って。
 鳥は歌い、新たな地で種は芽吹く。

 ヘルガの胸に満ちる温かな想い。それをこの調べに乗せて。
 ヴォルフガングの声が重なり、心も重ねるように響かせて。
「決して忘れないわ」
 土の花嫁の手を取って、ヘルガは澄んだ青い瞳に確かな決意を乗せて。
「あなたからも、大切な人からも、たくさんの愛をもらったから。今度はわたくしが託された願いを受け継いでゆくの」
 そうしていつかヘルガの願いや想いもまた誰かに引き継がれて。植物が種子を残してまた花を咲かせるように。
 世界はそうした奇跡の連続で成り立ち、そうして未来へと続いていくから。
「わたしの想いをわかってくれて、受け継いでくれてありがとう……」
 彼女が旅立つまでもう少し。せめてこの時だけは。
 ヘルガとヴォルフガングの美しい歌声が彼女と聴衆の心を打つ。
 世界を癒し、想いを紡ぐ愛の歌が、舞台中に優しく響き渡っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リオ・ウィンディア
土の花嫁・・・行くのね・・・少し、寂しいかな
廻る命の影朧のことだからいつか何処かで会えるでしょうね
出会いあれば別れあり、よ

土の花嫁の手を取ってカテーシー
私はリオ・ウィンディア
宿世に悩み、受け入れ、未来を歩むもの
私の道はこれからだから・・・ん、頑張るよ

最後に一曲歌いましょうか
ギターを取り出して弾き語り

どうぞ未来を掴んで
その豊かな両手で大地を抱きしめるごとく
明るい未来を
悲しみに震える雫あれど朝が昇ればそれも輝かしい
懐かしい人の思いを胸にされど惑わされないで
今を、未来を歩む足に足枷は必要ない
励ましはいつも自分の心しだい
あなたなら十分に未来を進んでいけるでしょう

アドリブ歓迎



●未来を歩む足
 再度舞台へと立った猟兵たちは、これから旅立つ土の花嫁へと、様々な形を用いて送り出してあげようとしていた。
「土の花嫁……行くのね……少し、寂しいかな」
 彼女の穏やかな表情を見れば、別れの時が近いことに気づかされる。舞台上では演技をしていたとはいえ、リオ・ウィンディア(黄泉の国民的スタア・f24250)は、彼女の姿に役ではなく、リオとしての想いを重ねてしまう。
「廻る命の影朧のことだから、いつか何処かで会えるでしょうね。……出会いあれば別れあり、よ」
 そう、ここはサクラミラージュ。転生という新たな道が与えられる優しい世界。ひとつの終わりは始まりでもあるのだから。
 リオは舞台中央に佇む土の花嫁に向かって、敬愛のこもった挨拶をする。その手を優しく取って、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の膝を軽く曲げ、背筋はぴんと伸ばしたまま、片手でスカートの裾を軽く持ち上げる。
「私はリオ・ウィンディア。宿世に悩み、受け入れ、未来を歩むもの」
 何かの役でなく、リオ自身として自己紹介すれば、土の花嫁もきゅっとリオの手を握り返す。
「あなたは過去に囚われず未来を見ているのね……」
 憧れと尊敬の入り混じった屈託のない視線に、リオは少し照れてしまって、年相応のはにかんだような表情を見せる。
「私の道はこれからだから……ん、頑張るよ」
 握った手は冷たい手だった。けれどそこに確かに感じる親愛の情。忘れたくない。絶対に覚えていると言葉にせずともその心に誓って。
 じっと見つめあっていると、なんだか湿っぽくなりそうだったので、リオはギターを取り出し、演奏の準備を始める。
「最後に一曲歌いましょうか」
 墓場の歌姫が得意とするのは、何もオルガンだけではなくて。クラシックギター式魔楽器【アーケオプテリクス】を慣れた様子で爪弾けば、闇の魔力に反応した撥弦楽器が全ての音階を支配し、美しいメロディを奏でる。

 どうぞ未来を掴んで。
 その豊かな両手で大地を抱きしめるごとく。
 明るい未来を。

 過去から蘇った影朧だとしても、願えば未来は掴めるから。
 実りをもたらすその手で、慈しむように明日を抱きしめられるから。
 リオの澄んだ歌声が土の花嫁の心を癒していく。

 悲しみに震える雫あれど、朝が昇ればそれも輝かしい。
 懐かしい人の思いを胸に。されど惑わされないで。

 この世から悲しみが消えることはない。けれど涙は心が震えた証。愛する心を持っている証。
 受け継がれる想いを胸に、真実を見つめる曇りなき瞳で。
 心のこもったリオの歌唱は土の花嫁のみならず、聴衆の胸に迫る。
 誰しもが自分のために歌っているのではと思ってしまうほどに。

 今を、未来を歩む足に、足枷は必要ない。
 励ましはいつも自分の心しだい。

 宿世の記憶で自分を縛らないと、未来へ向かうのだと決めたから。
 だからきっとあなたも――。
 リオは信頼の眼差しで土の花嫁を見つめる。
「あなたなら十分に未来を進んでいけるでしょう」
 そう、信じているから。だから送り出す。
「……どうか良き旅を」
 スカートの裾を摘まみ上げ、リオはもう一度親愛の情を込め、優雅にお辞儀した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

プリムララ・ネムレイス
貴女は外の世界を知っていますでしょうか
花々が咲き乱れ、鳥達が飛び交い、人々は皆懸命にその旅路を往きます
木々の葉が擦れる音
土を踏みしめる音
風が駆け抜ける音
そんな記憶に残るような旋律を乗せて
生きとし生ける者を勇気づけています
貴女がこれまでそうしてきたように
世界も貴女を愛しています

旅に出るのでしょう?
私も貴女を祝福しています
沢山の光たちも貴女の愛を祝福しています
新しい旅路でもどうかその愛を忘れないで
《生命を讃える詩》こそが
世界を救う魔法だと思っていますから

あ、最後に
旅の道具はちゃんと離さないようにね
ラヂオはあった方が楽しいわ
あれこれ詰めたら重たくなっちゃうの
慎重に考えてみて
それじゃ
いってらっしゃい!



●Bon voyage
 土の花嫁はこれから旅に出るのだ。
 それがどれほど長い旅になるのか、旅立ってすぐに安住の地を見つけられるのか、わからないけれど。
 けれど旅支度の準備なら、プリムララ・ネムレイス(夜明け色の旅路と詰め込んだ鞄・f33811)はたくさん助言してあげられるだろう。
 母の死がプリムララの旅立ちの合図だった。忘れられた森を出ることにためらいはなかった。
(「だって外の世界には、もっと沢山の新しい出来事が待っていることを知っていたのだもの」)
 それはまだほんの最近のこと。出会った景色を一つ一つ思い出しながら、プリムララは土の花嫁へと語り掛ける。
「貴女は外の世界を知っていますでしょうか」
 閉ざされた貧しい村にいた少女は首を横に振る。プリムララもかつては自分もそうだったと言うように優しく微笑み頷いてみせる。
「花々が咲き乱れ、鳥達が飛び交い、人々は皆懸命にその旅路を往きます」
 季節の花が咲き、その花を芽吹かせるために昆虫たちが花粉を運び、その種子を未来へと繋ぐ。空には鳥たちが羽ばたき、囀り、命の賛歌を歌っている。
 道を行き交う者は誰もが旅人。背負う荷物の大小はあるけれど、自分だけの人生という壮大な道を懸命に往く存在。
 毎日の暮らしに余裕をなくすこともあるかもしれない。
 けれど耳を澄ませてみればいつだって聞こえる。
 木々の葉が擦れる音。
 土を踏みしめる音。
 風が駆け抜ける音。
「そんな記憶に残るような旋律を乗せて、生きとし生ける者を勇気づけています。貴女がこれまでそうしてきたように……世界も貴女を愛しています」
 天災や飢饉という悲劇はあったとしても、世界が貴女を見捨てたわけではないと、光が足元を照らすのだと伝えたくて。
「旅に出るのでしょう? 私も貴女を祝福しています」
 母から譲り受けたタロットカードを取り出せば、一番上には「審判」のカード。祝福と再生を意味するそのカードを筆頭に、プリムララの魔法の力でプリムラの花びらへと姿を変えていく。
「沢山の光たちも貴女の愛を祝福しています。新しい旅路でもどうかその愛を忘れないで」
 幻朧桜と共に、愛らしく可憐なプリムラの花びらが土の花嫁を祝福するように降り注ぐ。
 心打たれる情景が、記憶に残る旋律が……生命を讃える詞こそが、生きとし生ける者の情熱となって世界を救う魔法となる。
 《生命を讃える詩》こそが世界を救う魔法だとプリムララは信じているから。
「ええ、たくさんの光と愛を受け取ったわ。優しい歌に心癒され、励まされて……きっと歩いて行ける」
 見失いかけていたたくさんの愛を教えてくれた。
 プリムララは微笑むと、旅立つ彼女に最後の助言を。
「あ、最後にこれだけは言っておかないと。旅の道具はちゃんと離さないようにね。ラヂオはあった方が楽しいわ」
 ひとつあれば退屈しないし、情報も得られると旅慣れた者らしく微笑んで。そうして、旅行鞄にはいろいろと詰め込みたくなってしまうけれど。
「あれこれ詰めたら重たくなっちゃうの。慎重に考えてみて。……それじゃ、いってらっしゃい!」
 その旅立ちを笑顔で見送ろうと、プリムララは手を振る。
 いつだって世界は貴女を愛していると、旅路の先を光が照らすのだと、その優しい眼差しが告げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎木・葵桜
ここはサクラミラージュだから
もしも奇跡が起こったら、彼女は転生できるかもしれない
そのもしもの奇跡を願って
その奇跡が訪れなくとも、穏やかな心でこの場を離れられるように
私は歌で彼女を送るよ

UC発動
この歌の言葉は、私から貴女へ送る願いと祈りそのもの
過去は変えられないけれど、貴女にもこれからの未来はあるって、
私は信じてるから

可能なら、土の花嫁も一緒に、お客様へ向けてフィナーレの挨拶をしたいな

私が差し伸べる手をとってくれたら、[手をつなぎ]、
舞台上でお客様に向けてお辞儀をするの

お客様の拍手は、
貴女へも向けられてるんだよって伝えられたらいいな

最後に彼女の名前が聞けたら、
笑顔とともに、名前を呼んで挨拶するね



●カーテンコール
 たくさんの猟兵たちに見送られ、土の花嫁は旅立とうとしている。
 舞台に舞い散る幻朧桜。傷ついた影朧を呼び寄せるという神秘の桜。
 自身も桜に縁のある名を持つ、榎木・葵桜(桜舞・f06218)は、差し出した手のひらに舞い降りてきた桜の花びらへと視線をやる。
(「ここはサクラミラージュだから……もしも奇跡が起こったら、彼女は転生できるかもしれない」)
 荒ぶる魂と肉体を鎮めた後、桜の精の癒しがあれば影朧は転生することが出来る。この魂鎮メ歌劇ノ儀も通常より強く影朧を慰めることが出来ると聞いた。
 けれど実際のところ、影朧が転生したかどうかは猟兵たちにはわからない。目の前の影朧がその無念を晴らし消え去ったとしても、オブリビオンである彼らは、いつまた過去から別の個体となって蘇ってしまうかもしれないのだ。
 そうだとしても、今はその奇跡を願いたい。今目の前にいる土の花嫁が心穏やかにこの場を離れられるように。
「奇跡が訪れなくとも……私は歌で彼女を送るよ」
 その決意を胸に、葵桜は舞台中央へと歩みだす。
「貴女のために歌を贈らせて」
 葵桜は葵桜としてその場に立ち、にっこりと微笑んでから、土の花嫁に向けて想いを込めて歌う。
 それは母親から譲り受けた大切な歌。

 わたしは歌う。
 わたしは願う。
 あなたへと繋がる「奇跡」があるならば、いつか。
 たどり着くその未来に。
 この歌が、祈りが、届くように。

 誰かへと祈るその歌も、今は葵桜から土の花嫁へと向けられた願いと祈り。
 葵桜が得意なのは舞だけれど、歌うのも大好きだ。それはきっと優しい歌を教えてくれた母のおかげ。
「私から貴女へ願いと祈りを送るよ」
「……ありがとう」
 心のこもった願いの歌に土の花嫁はその想いを抱きしめるように両手を胸に当て目を閉じた。その瞳から涙がこぼれる。
「過去は変えられないけれど、貴女にもこれからの未来はあるって、私は信じてるから」
 葵桜はそっと手を差し伸べる。猟兵たちが伝えてくれたように、想いは願いは未来へと受け継がれていくから。
「この歌もね、私のお母さんが私に受け継いでくれた大切な歌なんだ」
 この歌が好きで、小さい時からよく口ずさんでいた。猟兵になってから過ごした冒険とも呼べる日々に、あらゆる世界のたくさんの人々と出会った。
 それらがあるからこそ歌に想いを乗せることが出来る。未来を祈る優しい歌。
「ええ、あなたたちが教えてくれた。想いは願いは未来へと受け継がれていくと……」
 葵桜の手を取って、土の花嫁は微笑む。それは全てを受け入れ、そして未来を信じる希望に満ちた眼差し。
 それを確認し、葵桜はこう提案する。
「あのね、舞台の最後にはみんなでお客さんに向かってお辞儀するんだよ」
 土の花嫁と手を繋いだまま、葵桜は客席に向けて深くお辞儀をしてみせた。
「こう?」
 同じように土の花嫁が頭を下げると、観客席からは割れんばかりの拍手。一度は舞台袖に下がっていた猟兵たちも観客の拍手で再度姿を現して、それぞれ隣の人と手を繋ぎ、カーテンコールの挨拶を行う。
「すごい……」
 スタンディングオベーションで熱い視線と万雷の拍手を送ってくれる観客たちに、土の花嫁が圧倒されて呟く。
「この拍手は、貴女へも向けられているんだよ」
 葵桜の言葉に土の花嫁は頷く。誰も自分を知らないと思って悲しかった。けれど今は、こうして自分を見つめてくれるたくさんの人々がいて。
「みんな、忘れないよ。貴女のこと……ねえ、最後に名前を教えてほしいな。貴女の名前を呼びたいから」
 あの文献にも彼女の名前は記されていなかった。だから彼女の口から名前を聞くことが出来たなら。
「わたしの名前……名前、は……」
 その時まで、彼女は自分の名前を思い出せなかったのかもしれない。けれど、はっと何かに気付いたように目を開いて。
 そうして、大切な宝物を見つけ、抱きしめるようにそっと目を閉じて。
「……ありがとう」
 その言葉を最後に、土の花嫁の輪郭は薄れ、繋いでいた手も頼りなくなって……やがて光の中に消えていった。
 葵桜は繋いでいた手を見つめる。彼女は彼女の一生を生きたのだ。
 土の花嫁が自分の名前を思い出せたのかはわからない。けれど、何かを見つけたようにほっとした表情を見せて。
 転生を果たせたならば、またどこかで再び巡り合うことが出来るかもしれない。
 観客の拍手は鳴りやまない。
 人々の記憶に、名もなき少女の献身と優しさに満ちた短い一生が刻み込まれ、その胸に豊穣に実る果実のごとく温かく優しい想いが宿るだろう。
 いつか必ず訪れる死を前に、為すべきことは何なのか。
 忘れられたはずの少女の想いは未来へと受け継がれていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月12日
宿敵 『土の花嫁』 を撃破!


挿絵イラスト