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或る秘密の眠る、その國で

#サクラミラージュ #桜シリーズ

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#サクラミラージュ
#桜シリーズ


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「……漸く彼女が口を開いた、と言う感じか。意外と言えば、意外な話かも知れないが」
 グリモアベースの片隅で。
 北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が小さく溜息を一つ漏らしつつそう呟く。
 その呟きに気がついたのか、集まってきた猟兵達の気配を感じ取り、優希斗は閉ざした双眸をそっと開いて猟兵達を見つめながら、皆、と猟兵達に呼びかけていた。
「数ヶ月前。帝都桜學府諜報部と皆の力で、亜米利加のスパイ『女郎花』……今は『白蘭』と名乗っているが……彼女を捕虜にする事が出来た」
『女郎花』は投降した後、諜報部の『竜胆』達による事情聴取を受けた。
 その『女郎花』が意外な事実を話してきたのだ。
 それは……。
「亜米利加のスパヰである彼女は、実は仏蘭西に対するスパヰの役割も果たしていたらしい。その仏蘭西の首都巴里で、その力を着実に付けつつあるとある結社に対抗するための『武器』として、亜米利加は帝都で研究されていた対影朧兵器に興味を持ったそうだ」
 ――何故か?
 それは、その『結社』が仏蘭西を影から操れるだけの力を身に付けるために、影朧を兵器として利用しているという重要な情報が入ったからだ。
「仏蘭西がそんな結社に支配されて亜米利加に矛を向けられれば、当然ながら今の亜米利加には対抗できないだろう。そう言う意味では、対影朧兵器技術を盗もうとするのは、当然だろうね」
 ともあれその結社の名は、まだ鮮明ではない。
 だが『女郎花』の情報によると、巴里にはその結社の尻尾を掴もうとする二重スパヰの役割を果たしている人物がいるらしい。
「此処まで話せば、皆なら察しは付くだろう。その人物がかの結社によって暗殺される可能性を帝都桜學府諜報部が示唆してきた。普通なら帝都桜學府所属のユーベルコヲド使いに対処して貰うべき案件なんだが……」
 それでは、戦力が足りない。
 つまりスパヰだけでなく、ユーベルコヲド使いも殺害される可能性が極めて高い。
「そう言う光景が、俺には『視えた』。だからその事件に対処するために、皆に力を貸して欲しいんだ。此は、帝都桜學府諜報部からの正式な依頼でもある。皆には、巴里に観光客として侵入し、その結社とそれを探る人物を特定して欲しい」
 かの地でそのスパヰは、衣服屋を営んでいるという噂もある。
 お洒落の街、と称される程の巴里だ。
 洋服屋や観光地等で情報を探れば、結社の尻尾を掴むことが出来るだろう。
「まあ、やり方次第では当然、相手に気付かれる。少なくとも、そのスパヰの正体は確定される。どの位早く、或いは正確に情報を掴めるかどうかで、実際に結社とぶつかった時の危険度は大きく左右されるだろうな」
 尚、既に帝都桜學府諜報部の諜報員が一人現地に飛んで、捜索を始めているそうだ。
「その人物の名は、雅人。皆の中には、既に知っている者もいるかも知れないな。先に現地に飛んでいる雅人と合流すれば情報を割り出すことも楽になるかも知れないね」
 対影朧兵器を戦争に利用されぬ様に帝都に封じ込めている今の状況。
 しかし、影朧の力を利用する結社の存在によって仏蘭西が強くなり、結果として帝都の平和を脅かす事態を招くのは、当然ながら避けるべきだろう。
「だから皆に力を貸して欲しい。皆の力であればきっと、この事件を解決できるはずだから。……どうか皆、宜しく頼む」
 その優希斗の言の葉と、共に。
 蒼穹の風がグリモアベースに吹き荒れて――気が付けば、猟兵達は姿を消していた。


長野聖夜
 ――その秘密の眠る、その先には。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 今回はサクラミラージュのシナリオをお送りいたします。
 このシナリオは、下記7シナリオと設定を若干共有していますが、新規の方もご参加頂いて全く問題ございません。歓迎致します。
 1.あの桜の木の下で誓約を
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=14914
 2.この、幻朧桜咲く『都忘れ』のその場所で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=15730
 3.その、桜の闇の中で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17026
 4.情と知の、桜の木の下で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17027
 5.愛と死の、桜の木の下で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=24934
 6.あの思い出の墓地の、その影で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=29868
 7.宵闇の桜の、その先で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=30122
 尚、今回は仏蘭西の巴里が舞台となります。
 服飾も、基本巴里っぽい衣装を見繕えますが、それ以外の衣服などを見繕っても構いません。
 また、第1章には、雅人と言う名のNPCが登場します。
 雅人:上記7シナリオで登場している帝都桜學府諜報部の諜報員の1人で、ユーベルコヲド使いです。数多の事件を搔い潜っているため、皆さん程ではありませんが、ある程度の力を持っています。
 情報収集なども比較的得意な様です。
 第1章のプレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
 プレイング受付期間:7月20日(火)8:30分以降~7月22日(木)9:00頃迄。
 リプレイ執筆期間:7月22日(木)10:00頃~7月23日(金)一杯迄。
 変更などがございましたら、マスターページ及び、タグにてお知らせ致しますので、ご参照下さい。

 ――其れでは、良き探索劇を。
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第1章 日常 『ハイカラ衣装探し』

POW   :    店主におすすめを聞く

SPD   :    知り合いと一緒に互いの服を見繕い合う

WIZ   :    服に似合う小物を探す

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

館野・敬輔
単独希望
アドリブ歓迎

…随分と、華やかな街だが
どうにも俺は溶け込めそうにないな

目立たなそうな衣服を適当に見繕ってから
人目を避けるように人気のない場所に移動し
座って黒剣を手にし指定UC発動
少女たちの魂とともに街中を捜索(世界知識、闇に紛れる、失せ物探し)

俺が探すのはスパヰよりは結社の人間
巴里全体にそれなりの人数が潜伏していると見た
一般客を装って特定の店に潜入したり
別の建物から監視しているような輩はいないか?

何らかの情報を得たら
統哉のすまほにメール送信
…雅人が関わっているなら統哉はいるはず

捜索中は俺自身の身辺にも注意
複数人で捜索する以上、結社の注意は嫌でも引いてしまう
自衛するに越したことは無いだろう




――仏蘭西首都、巴里。
 表通りを歩けば、多くのカフェが点在し。
 カフェの外にはテラス形式で机とイスが置かれ、人々がお茶とパンを楽しみながら会話に興じる、華やかな光景がそこにはある。
 他にも多くの建物が建造され、賑やかな喧噪に満たされている、そんな街。
 そんな賑やかで華やかな『お洒落の街』の、人目に付かぬ地下街への階段を下りながら。
(「……随分と、華やかな街だが、どうにも俺には溶け込みそうにないな」)
 そう胸中で小さく呟くのは、館野・敬輔。
 目立たない衣装に身を包み、まるでスラム街の様な地下街でも特に人気の無い場所へと足を運ぶ。
(「……どんなところにも、表と裏の顔、というのはあるものだな」)
 そう、この地下街の様に。
 徒然無くそんな事を考えながら、敬輔は静かに目を瞑る。
(「……俺が探すべきは、スパヰじゃない」)
 其方は恐らく、他の猟兵の有志達が、探し出してくれるだろう。
 流石にこんな地下街まで入ってくるとは思えないが……。
(「では、俺が探すべき相手は、やはり此方か」)
 即ち、結社の人間。
 そう思い、鞘に納めた黒剣を静かに抜剣。
 銀製の刃を持つシンプルな剣の刃先が、まるでこの陰鬱な地下街に溶け込む様な色へと変化していく。
 それに小さく頷いて……。
「……皆、頼んだよ」
 そう誰にも聞こえぬ声で囁くと、人々の影に溶け込む様な姿をした黒剣の中の魂達が巴里の街へと飛び出していく。
 あっ、という間に地上へと散らばっていく影達が、華やかな巴里の町並みを捜査し始めた。
(「もし、奴等が仏蘭西そのものに影響を与えようとしているのであれば……」)
 恐らくそのスパヰを探し出すべく、『結社』の人間達が其れなりに潜伏しているだろう、とそう思う。
 その敬輔の思考を裏付けるかの様に。
(「……雅人」)
 1人の顔馴染みの黒髪の青年をカフェテラスから新聞を読む振りをしてチラチラと見やっていると思しき人物の姿が認められた。
(「……気付いているのか? いないのか?」)
 よくよく『彼女』達の五感を駆使して雅人の回りを観察してみれば、要所、要所で死角から注意深く彼を見つめている人影がちらほらと。
 恐らく雅人は……。
(「……泳がされている、のか?」)
 となると、結社の者達は相当な実力を持っている、と見て良いだろう。
 或いは雅人の方こそ、意図的に結社にばれる様に情報収集を行っているのかも知れないが……。
(「……雅人が関わっているなら、統哉も来ている筈だ。ならば連絡は入れておいた方が良さそうだな」)
 恐らく来ているであろう知人の猟兵の顔を思い起こしながら、胸中で呟く敬輔。
『彼女』達との同調・共有を一度断ち、一時的に喪失していた意識を取り戻し、周囲を念のため警戒しながら、メールを送る。
(「……流石に此処に隠れている俺の事にまでは、結社も意識を向けないか」)
 胡乱な眼差しを向けてくる一般人達の事は脇に置き。
 そう胸中で結論づけ、もう一度意識を『彼女』達と共有し、敬輔は更なる情報の収集を続けていく。
『結社』の正体を暴く、そのために。

成功 🔵​🔵​🔴​

森宮・陽太
アドリブ歓迎
連携は可能なら

…以前、「暗殺者」として女郎花を殺めようとした俺が
どんな顔して皆の前に出りゃいいんだよ

とりあえず適当な衣服屋に入り
店員に巴里で流行の服を見繕ってもらうついでに
さりげなく巴里の治安状況を聞き出すか
結社が一般市民に何らかの影響を与えてなければいいんだが
影朧兵器に手を出すなんて不穏な空気しかしねえぞ

いくら観光客の振りをしたとしても
結社に目をつけられる可能性はそれなりにある
もし俺が結社の人間に目をつけられたら
人気のない路地に誘い込んで「騙し討ち、グラップル」で気絶させるぜ
ついでに尋問して二重スパヰの情報を引き出せれば僥倖

出来れば「暗殺者」に頼らず切り抜けてえが…難しいか


クラウン・アンダーウッド
何とも面白そうなお話だね。衣服自体にも興味が湧いてきたよ♪

からくり人形の衣装を見繕いつつ、からくり人形(γ)に砂塵のような蝗の群れを呼び出させて情報収集させる。何か分かり次第γからクラウンに伝える。




 ――仏蘭西巴里。
 サクラミラージュにある、『お洒落の街』
 そんな街の一角で。
「いやぁ、中々面白そうなお話だね~」
 と、どこか道化師めいた笑顔を浮かべて、飄々とした様子でクラウン・アンダーウッドが軽く肩を竦めている。
 そんなクラウンの、その隣で。
 ガシガシ、と軽く頭を掻きながら、共に街路を歩く森宮・陽太の足取りは、なんだか酷く気後れした様子だった。
「おや? どうかしたのかい、キミ? 折角のお洒落な街だ。衣服を見繕ったりするのを楽しもうじゃないか?」
 そんなクラウンの呼びかけに。
 陽太がクラウンをちらりと見やり、えもいわれぬ表情を浮かべて溜息を漏らす。
「……いや、さ。どの面下げて、俺が皆の前にでりゃ良いんだよ、と思ってな」
 溜息と共に紡がれたその言の葉には、沈痛さの微粒子がちりばめられていた。
「でもキミは此処に来た。それは、この街で起きる事件を解決したいからじゃないのかい?」
 口元にからかう様な笑みを浮かべてそう問いかけるクラウン。
 そのからかいに、特に怒るでもなくそうだけれどよ、と答えた、陽太の口の端には、皮肉げな笑みが浮かんでいた。
「ただ……俺は、この事件の情報を提供したスパヰ……『女郎花』をこの手で殺めようとしたんだぜ? そんな俺が、あの時一緒に戦った奴等の前に、どう顔を出せば良いんだよ、ってな……」
 やや自嘲じみた口調の陽太の其れに。
 クラウンがヤレヤレ、と言う様に軽く肩を竦めてみせた。
「まあ、普通にやれば良いとボクは思うよ? だってボクは今回、初めてキミと一緒に此処に来ているわけだしね。最後は皆がハッピーエンドになればそれでいいのさ♪」
 いけしゃあしゃあ、と言った様子で愉快そうに語るクラウンの其れに。
「皆がハッピーエンド……か」
 顎に軽く親指を当て考え込む表情になる陽太に、そうだよ、とクラウンが笑う。
 楽しそうに。
 道化の様に。
「まっ、あんまり難しく考えても袋小路に迷い込むだけだし。折角来たんだから、楽しめるところは楽しんで、ついでにさっさと二重スパヰを見つけなきゃね?」
 クラウンの、その呼びかけに。
「……ああ、そうだな。その……ありがとよ、赤髪のにーちゃん」
「な~に、どういたしまして。それもまた、道化師であるボクのお仕事さ!」
 と、大仰に両手を挙げて叫ぶクラウンの其れに。
 陽太が思わず口元に微苦笑を綻ばせ、ただ、静かに頷いた。


「さ~て、ショータイム♪ γ! アポリュオンのイナゴ!」
 そのクラウンの、言の葉と共に。
 クラウンがからくり人形の内の1体……個体名称:γに、すかさず指示を出す。
 その指示を聞いたγが、超極小の絡繰蝗の大群を召喚。
 そのまま一斉に巴里の街全体へと広がっていく様子をみて陽太がへぇ、と感心した様に鼻を一つ鳴らす。
「成程ね、こうやって蝗達に情報収集をさせるのか」
「まあ、そう言うことだね♪ さてさて、何かが分かったらγから情報が入るし、それまでボク達はのんびり衣装選びとしゃれ込もうじゃないか!」
 冗談めかした口調で軽く片目を瞑るクラウンの其れに、ヤレヤレという様に軽く頭を掻きつつ陽太が頷きを一つ。
 そうして、しゃれっ気のある豪華な作りの建物が延々と街道の両脇に並ぶその道を歩き出す。
 キョロキョロとまるでお上りさんの様に街並みを見て回る陽太。
(「帝都と違って、やっぱり洒落た街作りだよな。帝都にも、モダニズム建築はあるが……あれはどちらかというと、機能性に富んだ作りだし」)
 何となくそんな事を思いながら、周囲を見て回る陽太。
 その陽太の隣を、ヒュゥ、と口笛を吹きながら、クラウンが飄々と歩いている。
 ――と……そこで。
「おっ、キミ、あの店なんかいいんじゃない?」
 クラウンがしれっ、と1件のブティックを指差した。
 そこは自己主張が強すぎず、けれどもモールの様に機能性だけを追求してもいない、洒落たデザインのブティック。
 最新の流行の服から、デザイナーのオーダーメイド服迄、一通り揃っているその店にそうだな、と陽太が軽く首肯した。
「じゃあ、あそこにするか」
 そのまま店舗に足を踏み入れると。
「Bienvenue」
 と軽く店主と思しき男性が一礼してくるのに、陽太が軽く会釈を返すその間に。
「う~ん、やっぱりこっちが良いかなぁ。うんうん、こっちも……」
 等とクラウンが蝗を通して情報収集を行うγに似合いそうな衣装を勝手に見繕いだしたのに苦笑を零し、陽太が店主に声を掛ける。
「最近の巴里の流行の服はなんだ?」
 陽太のその問いかけに、店主がちらりと店の中央に飾られている最新の衣装を示しつつ。
「女性用? 男性用?」
 と冗談めかした笑みと共に問いかけてくるのに、陽太が思わず苦笑を零した。
「そりゃ、男性用だよ。と言うか、俺に合いそうな流行の服を見繕って貰いたいんだって」
「成程。そう言うことでしたら……」
 陽太のオーダーを受け、先程自らが指差した衣装売場へと足を向ける店主の後に続く陽太。
 クラウンは既にからくり人形サイズの衣服の数々を、子供の様に目を輝かせて見繕うのに夢中になっているが……。
「うんうん、キミキミ、これ、γに似合うと思わないかい?」
 等と店主が服を見繕う間に陽太に問いかけてくる辺り、案外此方に気を遣ってくれているのかも知れないなどと少し思う。
 と、此処で。
「此方などどうですか、お客様?」
 店主が通気性の良さそうなカジュアルなTシャツとジーンズを勧めてくるのに、成程と適当に頷き返しつつ、そう言えば、と陽太は問いかけた。
「この街は賑やかだな。皆楽しそうに騒いではしゃいでる感じがするぜ」
 そう軽く水を向けると、店主が陽太の衣服の上からこのコートとのコーディは如何かな? 等と気安く勧めつつ、軽く肩を竦めた。
「そうだねぇ。ただ、これでも最近は、少し人流は減ってきていますよ」
「へえ、そうなのか?」
 思わぬ店主の言の葉に、陽太が大仰に驚いて見せながら問いかけると、愛想笑いの儘に店主が応じた。
「最近はあなた達みたいな外国からの観光客が減ってきていますからねぇ。だから、お客さん達みたいなのに来て貰えると私達としても大変助かるわけです」
「まっ、そうだろうな」
 観光客というのは、良い商売対象だ。
 其れが減る、と言う事はそれだけそこで狙っていた利益を損ねることになる。
 しかし、観光客が減っているという事実は……。
(「治安が悪くなっていると言うよりは、外国人の入国を制限し始めているとか、そんな感じか?」)
 そんな考えが、チラリと陽太の脳裏を過ぎった。
「此処最近は、時折暴力沙汰とかもちょくちょく起きていますから、観光客が近寄らなくなるのも致し方ないのですがね。何というか……皆、何処かピリピリしている感じはします。特に外国の方に対しては。まあ、私の様な客商売は別ですがね」
「ピリピリ、か……」
(「となると、何かが起きようとしている前触れみたいなものを、街人達も無意識に感じているのかも知れねぇな……。まあ、影朧兵器に手を出すなんて不穏な空気しかしねぇしな」)
 そのまま店主に礼を言って、見繕って貰ったジーンズとシャツ、ついでにコーディネート用のコートを購入する陽太。
 からくり人形の衣服を嬉々として選んだクラウンもまた、同様に店主に金を払って陽太と共に、店を出る。
 ――と。
「……γ?」
 γが何かを訴えかけるかの様な光を目から発し始め、それからかくかくとクラウンの手の中で動き始める。
 それは、新しくクラウンに買って貰った衣装に喜んでいる様に見えたが、どうやらそれだけでは無さそうだ。
「……ふ~ん。ボク達の方を監視している奴があの通りの方に居る……か」
 どうやら蝗達の群れが陽太達の死角から此方を伺う影の存在を見つけたらしい。
 ぱっと見た限りではチェスターフィールドコートに身を包み、サングラスを掛けた普通の男だった様だが。
「……成程ね。腰に銃を下げていた、と」
 呟くクラウンに答える様に頷くγ。
 クラウンがγを通じて蝗達が捕らえてきた情報を陽太に伝えると、陽太は思わず舌打ちを一つ。
「……尾けられていたか? 多分、結社の奴等だろうな……」
「多分ね」
 陽太の呟きに頷くクラウン。
 となると、自分達がやれる事は1つ。
「わざわざ向こうから接触してきてくれたんだ。折角だしショーを楽しもうじゃないか♪」
 クツクツと楽しそうに笑いながら、γに回り込むための道を教わるクラウンに、やれやれ、と陽太が溜息を吐いた。


 ――観光客。いや……超弩級戦力か?
 それと思しき相手の姿を見つけたその男は、自らの気配を完全に絶って、気配を殺して通路の奥に消えようとする。
 だが……。
「おっと。追いかけっこはお仕舞いだよ?」
 奥に入ろうとしたその男の前に現れた赤髪の男が、からかう様に呼びかける。
 その男……クラウンに先回りされた男は、咄嗟に腰の銃に手をやろうとするが、次の瞬間には、背後から鋭い手刀が彼の首筋に決まった。
 そのまま昏倒する男の様子を見ながら、陽太が、軽く額の汗を拭い、その男の状態を淡々と調べる。
 するとその服の胸に、何か複雑な紋様の刻まれた紋章が縫い止められているのに気がついた。
 ついでに、その歯に毒を仕込んでいるのにも気がつき、顔を顰める。
「ちっ、自決用の毒まで仕込んでやがるのか。となると尋問をしても口を割る様なタマじゃなさそうだ。……まあこの紋章を調べれば、何か分かるかも知れねえが」
 その陽太の呟きに、そうだね、と口の端に道化の笑みを乗せたままに頷き掛けるクラウン。
 手に入れた紋章を懐にしまいつつ、陽太が顔を顰めたまま、空を見上げた。
(「……出来れば『暗殺者』に頼らず切り抜けてぇが……難しいかもな」)
 そんな陽太の思いを代弁するかの様に。
 雲が、太陽を覆う様に空一面を黒く濁らせ始めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ウィリアム・バークリー
各国との外交や諜報工作って、政府の外務なり国防なりが所轄な気がするんですけどねぇ。何かあれば帝都桜學府に振られるわけですか。
雅人さんはおつかれさまです。自分の身を一番に考えてくださいね。

さて、巴里のブティックを回ってみましょうか。「礼儀作法」はきちんと弁えて。

手頃な衣装を試着しつつ、店員や店主の人に、他のブティックの話題を聞いて探っていきましょうか。まあ、世間話みたいなものです。
今一番の成長株とか、流行ってないのに潰れないお店だとか?

流行ってないお店のことが聞けたら、そっちへ入ってみましょうか。
あくまで普通のお客の振りで、警戒されないように。
試着の合間の世間話で、影朧の話でもしてみましょうか。


天星・暁音
亜米利加に仏蘭西…ね
そんで舞台は巴里と来たか…どこかの世界では花の都だね
にしてもまあ…結社…ね
影朧を利用か…全くもって人間らしく度し難いことだね
ま、仕方ないか…人間だものね
とはいえ阻止させてもらうしかない訳なんだけどね
普通に暮らしている人たちには悪いんだけど…ちょっと監視させてもらうとしようか…
頭には相応の負担は強いるから覚悟はしとこう…


クレインを巴里中に撒いて雅人と存在すると衣服屋の店員を監視します
膨大な情報を整理するのにどこかカフェのようなとこで監視しつつ得た情報で必要なモノは仲間に伝えスパヰや雅人が何らかの理由で危機に陥るならクレインで援護します

共闘歓迎
スキルUCアイテムご自由に


馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

まあねぇ、私たち、四人中三人が関わってましたし。放っておけないのも本当のことですし。
スパヰというのは、同じ穴の貉なんですよ、私にとって。

さてー、では観光客として衣服屋巡りしましょうかー。
ええ、こういうところ、滅多に来ないのでー(本当。UDCアースでも和装中心生活)
ついでに一つか二つ、服買っていきましょう。

同じように巡り、かつ何も買わない者。商品を並び替えるもの。そんな人たち、いたりしませんかねー?

あとは、雅人殿と合流しましょう。人種としても、話してて違和感はないでしょうからねー。


エミリロット・エカルネージュ
むぅー……結社がらみの事は、今回の二重スパイと学府所属のユーベルコヲド使いの殺害の可能性の示唆まで

一連が根深そうだけど
取り敢えずUCでボク自身技能強化して

洋服屋で、カッコ可愛く探偵っぽい洋服を見繕って貰う序でに、結社もとい怪しい動きをしている人等の『情報収集』

勿論、周りを然り気無く警戒しながら……店員さん(二重スパイさん)と服を選びながら然り気無く、違和感なく周りに怪しまれないかなっ?

その後、情報を『学習力&世界知識』で纏めつつ雅人さんを捜索、場所によってはボク自身に『オーラ防御』に『属性攻撃(迷彩)』付与しステルスしつつ

当人にあったら事情話し
『情報収集』しつつ護衛

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動

相手が高性能の兵器を入手したら、対抗して同じ兵器を調達する…こちらの世界でも、パワーゲームが行われているという事ですか。このままだと、果てしない軍拡の挙句、最後はどうなるか…言うまでもないですね。

まず雅人さんと接触、主に二重スパイの正体、及び結社に関する現時点で判明してる情報を聞きます。
また、雅人さんと接触する際には周囲の監視や尾行の有無等を厳重にチェック。先に潜入している雅人さんの正体が露見してる場合、あえて泳がされている可能性もありますから。逆にその監視や尾行を捕らえて情報を聞く、という手もありますが。
ここはいわば敵地。慎重に慎重を期して損はありません。


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

アドリブ・他者とと絡み歓迎

昔から、ある兵器に対抗するのに最適なのは同じ兵器、って言うが、やれやれ、俺のいた世界と大差ないな。ま、とりあえず仕事はキッチリと果たすとしよう。

局長は雅人と接触するらしいので、俺はそこからやや離れた所で周囲を警戒する。当然、見た目はただの観光客として、雑誌片手に煙草でも吹かしていよう。無論、局長とは面識ない振りをしながら、但し無線で状況を逐一局長に報告。局長はまだしも、雅人の方は敵に監視されてる可能性があるからな。その監視者の位置を特定、可能だったらそいつを尾行して居場所を突き止める。当然、荒事になってもあんまり派手な立ち回りは控えないとな。


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で逐次情報共有

国家に真の友は居ないとはいえ、足の引っ張り合いばかりだと、
こういう時につけ込まれるんですよ

雑誌記者に(変装)し潜入
局長や雅人氏とも情報交換し現地の商業関係の顔役を割り出し接触
二重スパイな事を鑑み、情報を得る為に現地政府系の仕事を良く請け負い、かつ服飾については保守的で米国の事はあまり好ましく思ってなさそうな人物の店は無いかを必要ならアイテム:badge of Troyの(催眠術)も使用し官憲を装い聴取

特定できたら指定UCを使用し対象者と自分達の周囲を監視。
見張る人物が居ないか確認。可能なら仲間と客を装い接触し
場合によっては強制保護して組織について(情報収集)します


文月・統哉
雅人、お疲れさん!

雅人と合流
敬輔達仲間と連絡取り情報共有

影朧を制御して利用となるとその威力は絶大だ
国家中枢まで食い込んでる可能性も大いにありそう

二重スパヰなら
亜米利加と交易あり
政府高官御用達や
将校の軍服も受注する様な店なら
上層部の情報も集め易いだろうか
雅人に心当たり聞いてみる

UCで目星つけたら
旅行中の華族子息に【変装】し店へ
雅人も変装してみない?
紫蘭へのお土産も探さないとね♪

服飾制作技術なら
着ぐるみ制作のお陰で精通してたり
【世界知識・コミュ力・演技・読心術】活かし【情報収集】

スパヰ本人と確定出来るなら
桜學府でなく猟兵の立場で
暗殺の危険伝え
身の安全保障する代わりに情報貰う取引を持ち掛けるのも手?


藤崎・美雪
他者との絡み、アドリブ大歓迎

出立前に竜胆さんと白蘭さんに追加情報要請
二重スパイの容姿や名前がわかれば教えてほしい
参考程度の情報でも、手掛かりにはなるだろうからな
後はサクミラにおける巴里の地図も人数分
…UDCと大分異なるだろうしな

現地では雅人さんと一緒に行動
虹色のミラーコンパクトで巴里中の衣服屋の場所を調べて地図に書きこもう

問題は二重スパイのいる衣服屋を特定する方法
個人的には数年以内に開店した店が怪しいと思うから
重点的に観察するぞ
…此方を監視する輩の存在も警戒しつつな

二重スパイのいる衣服屋を特定したら
指定UCで呼び出した影のもふもふさんを潜り込ませておくか
何か異常があれば知らせてくれよ


神宮時・蒼
……本当に、スパヰが、多く、入り混じる、世界、ですね
…ついに、御国まで、越えました、か
…とは言え、事件は、事件、です。急ぎ、対処、せねば、なりません、ね

現地の諜報員の方に、少し情報を頂きましょう
ある程度、場を絞れれば、情報の精度も上がりましょう

表立っての行動は不得手なので【目立たない】ように情報収集に努めますが、必要ならば【演技】も視野に
場所が割り出せているのなら、空舞う鳥に頻繁に出入りする人が居ないか【動物と話す】で問うのも有りでしょうか
勿論、人に見られぬ場所で、ですが

其れにしても、おしゃれ、というのは、熱量が、その、すごい、のですね
皆様、きらきら、ひらひら、して、ます


白夜・紅閻
アドリブ歓迎

◆POW

◆あんのカミサマめ!
俺を呼び出しといて、遅刻とは…(ため息)
どうせ風呂で飲んでいて、のぼせたにちがいない。いや、きっとそうだ!


◆…雅人、元気にしてたか?
それと、少し痩せたか?
まぁ、あの日を境に、お前の境遇はガラリと変わったからな。
体調管理はちゃんとしとけよ?
どっかのカミサマみたいに、疎かにするな。
場合によっては、命に関わることだからな。それで、あの女から、新しい情報でも提供されたのか?

(心情としては、雅人に対しては弟のような感覚らしい)


UCで呼び出した二人を伴って、この後に合流予定のとある人物にもと、服探しも兼ねている様子。


彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

元気はどうかはさておき
白蘭さんが情報明かしたってことは、無事に捕虜生活送れてるのよね

それにしても二重スパヰ…恐ろしく危険度の高い動き方よね
思惑はあるんでしょうけどその覚悟には頭が下がる思いだわ

現地での情報収集は
できるだけ雅人さんと合流して捜索に協力したいわ
その方が情報の精度も上がると思うし、
スパヰの正体特定も早いんじゃないかしら

万一の場合の雅人さんの護衛もあるといいかしら
皆も居るから安心だけど私も動けるようにはしておくわね

…って、情報収集の名目でお店巡ってるわけだけど
あお、目的忘れてないわよね?(半眼
え、コレ似合うから着てみろ?靴も、帽子も?
もう何度目なのよ…!(うんざり


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と

情報収集がてら、お買い物するよ!
スパヰさんが洋服屋営んでるなら、
もうこのあたりのお店全部入って様子見て回るのもありなんじゃないかなーって!

え?それじゃ逆に怪しまれる?そうかな?
ほら、姫ちゃんの知り合いさんの雅人さんはある程度あたりつけてるんじゃない?
なら、その辺から更に絞り込みかけた方がいいって

色々やることはあるんでしょーけど、一応情報収集メインなんでしょ?
なら、今からそんなにガッチガチに力入れてたら、
欲しい情報まで逃げてっちゃうよ、姫ちゃん!

そんなわけで、せっかくの巴里!
メインは押さえつつ、でも同時に楽しまなくっちゃね♪
姫ちゃんを着せ替えて思いっきり楽しんじゃうよ!




 ――仏蘭西巴里。
「亜米利加に、仏蘭西ね……」
 何処かの世界では花の都とも言われている、その街に足を踏み入れて。
 天星・暁音が何気なく紡いだその言葉に、人々の喧噪の中、空を漂う暗雲に目を細めていたウィリアム・バークリーが振り返る。
「外国との外交や諜報工作って、政府の外務なり国防なりが所轄な気がするんですがねぇ」
 ウィリアムのその呟きに、蝋で封じられていた封書に目を通した藤崎・美雪が、それが、と溜息をついた。
「普通はウィリアムさんの言う通りなのだがな。竜胆さんから貰った手紙によると今回の件は、帝都桜學府が独自研究している『影朧兵器』の情報漏洩の阻止が目的。影朧という存在自体が絡んできている事件である以上、只の外務や国防は使えないと言う事なのだそうだ」
「成程、影朧絡みだから、影朧救済機関、帝都桜學府に振り分けられた、と言う事ですか。それはまた、災難と言えば災難な話ですね」
 美雪の其れにウィリアムが軽く首肯するのをちらりと見やりつつ、むぅー……と唇を軽く上げる様にしながら、エミリロット・エカルネージュが唸っていた。
「結社絡みの事って……今回の二重スパイに、帝都桜學府所属のユーベルコヲド使いの殺害の可能性の示唆だよね?」
 そのエミリロットの質問の様な呼びかけに。
 暁音が頷きつつ、にしてもまあ、と肩を竦めて軽く頭を横に振る。
「……結社……ね。影朧を利用する、か……」
 その含む様な暁音の言の葉に、エミリロットが思わず首を竦めて返事を返した。
「……何だか、一連がとても根深そうだね、この話」
「……そう、ですね、エミリロット様。……ボクも、その為に、御国まで、越える事に、なるとは、思って、いません、でした……」
 エミリロットの呟きに、その赤と琥珀色の双眸で空を見上げながら、唖然とした様子で応じるのは、神宮時・蒼。
(「……本当に、スパヰが、多く、入り交じる、世界、ですね……」)
「それにしても、相手が高性能の兵器を入手したから、対抗して同じ兵器を調達する、ですか……」
 エミリロットの其れに、蒼が遠くを見つめるその間に。
 軽く眉間に皺を寄せる様にして溜息をついたのは、ネリッサ・ハーディ。
 何処か沈痛さの籠められたその呟きに、
「……全く以て人間らしく度し難いことだよね、それ」
 と、暁音がその体に刻まれた共苦の痛みのある部分を擦りながら呟くと、ミハイル・グレヴィッチが咥えた煙草に火を付けながら肩を竦めた。
「まあ昔から、ある兵器に対抗するのに最適なのは同じ兵器、とはいうけれどな。ヤレヤレ……これじゃ俺達のいた世界と大差ないな、局長」
「ええ、そうですね、ミハイルさん。此方の世界でも行われているパワーゲーム。此がこのまま続けば、果てしない軍拡の挙句、最後はどうなるのか……言うまでも無いことの筈なのですが……」
「ま、仕方ないんじゃないかな……。そう言うのも俺達人間のやることなんだし」
 ネリッサの沈痛な呟きに、暁音が粛々とそう答えると、
「そうですね」
 灯璃・ファルシュピーゲルが変装用に掛けてきた伊達眼鏡を軽く上げて見せる。
「まあ、実際、国家に真の友は居ないものですが、足の引っ張り合いばかりだと、こういう相手は付け込んで来ますよね……」
 小さく溜息を漏らしながらの灯璃のその言葉に、そうですね、とネリッサが同意して頷いた、丁度その時。
「おやおやー、皆さん、奇遇ですねー」
 のほほんとした温和な口調で語りかけてくる馬県・義透の第一人格『疾き者』が姿を現したのに気がつき、ネリッサが義透さん、と呼びかけた。
「今日はいつもどおりですね」
「ええ、いつもどおりですー。まあねぇ、私達、四人中、三人が関わってましたし、放っておけませんからねー」
 のほほんとした口調で告げる『疾き者』のそれに、そうですか、とネリッサが静かに頷く。
 ――と、此処で。
 ヴルル……ヴルル……。
 文月・統哉の黒ニャンコ携帯のバイブレーションの鳴る音が響き、其れに気付いた統哉がその黒ニャンコ携帯を見る。
「もしかして、統哉君の大切な人からメールかな~?」
 統哉の隣に蒼穹の風と共に姿を現した、榎木・葵桜が嬉しそうに藍色の瞳を輝かせグイ、と身を乗り出した。
「あお……、あのねぇ。統哉さん、誰からかしら?」
 天真爛漫な笑顔を浮かべる親友に、彩瑠・姫桜が思わず微苦笑を零しつつ腰まで届く程の金髪を風に靡かせる。
 何気ない風を装いつつ様子を伺う姫桜に、統哉がニャハハ、と笑いかけた。
「敬輔からだよ。こっちに来るとは聞いていたから、何かあったら連絡しようって話をしていたんだ」
「ああ……先輩とそんな約束をしていたのか。まあ、今回の状況では情報の共有は最重要だとは思うが……」
 納得したと言う様に頷く美雪に、そう言うことだね、と朗らかに返し、黒ニャンコ携帯に届いたメールを開く統哉。
 けれども、その表情が見る見る強張っていき、何時しかその目が真剣なものへと変わっていく。
「どうかしましたか? 統哉さん」
 その統哉の様子に気がついたメリッサが呼びかけると、統哉は直ぐには答えず周囲を振り返る。
 其処からただならぬ雰囲気を嗅ぎ取ったミハイルが煙草を吹かしながら、腕を組んで頭の後ろに回し、何気なく背伸びを一つ。
 煙草の灰を2、3滴地面に零すが……そのサングラスの奥で輝く茶色の瞳は、鋭く研ぎ澄まされていた。
 一方で……。
 ――ズキリ。
 不意に鋭く突き刺す様な痛みを共苦の痛みが発したのに気がつき、暁音が一瞬、顔を強張らせる。
 咄嗟に星具シュテルシアを構え、ある術式の準備を始めるその間に……。
「ミハイルさん、此処は謂わば敵地です。どうか軽はずみな行動は慎んで下さい」
「あっ? ああ、分かっているぜ、局長。何、一寸背伸びしただけだろ」
 ネリッサの窘める様なそれに伸びを中断、携帯灰皿に煙草を片付けたミハイルが欠伸を一つしていた。
 何となく感じた視線の先から、暁音を隠す様な位置取りを見せて。
 程なくして此方に感じていた視線が無くなるのを確認してからパタパタと軽く手を振るミハイル。
「ま、取り敢えず『仕事』はキッチリ果たすからよ。でもその前に休憩だ、休憩」
 そのまま近くのカフェテラスへと悠々と歩いて行き、紅茶を頼んで、適当に雑誌を取り出し、新しい煙草に火を点けた。
(「……どうやら、観光客に対する視線がやや厳しいようです」)
 そのままミハイルが気付かれぬ程度に周囲を警戒するその間に、密かにJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioを起動、状況を解析した灯璃がネリッサに耳打ち。
 それにネリッサが頷き、統哉と暁音に視線を送ると、統哉が首肯。
 その一方で、暁音は振りそうな雨に備えて傘に変形させた星具シュテルシアを掲げる様にして、周囲にクレイン(小さい)魔導機械群体を召喚した。
(「あの視線の正体がなんであれまあ、阻止させて貰うしかないわけだからね」)
 そう胸中で呟きながら。
 監視のためにクレイン魔導機械群体を巴里全域に展開し始めた暁音の様子を確認してから、統哉がそっと左目を瞑る。
「取り敢えず、雅人と合流するのが先だろうな」
「そうですね」
「えっ、あ、そうなの!?」
 統哉の提案にネリッサが頷く一方、エミリロットが微かに驚いた表情になって思わずそう応えを返した。
 その手には、何時の間にか霊芝入り茸餃子の霊力の籠められた食べられる気の塊が、球になって浮いている。
(「取り敢えず……えいっ!」)
 パクリ、と気の塊を食らい自らの身体能力を強化。
 瞬間、今までの倍近い情報収集力と、瞬間思考力を得たエミリロットの表情が不意にキュッ、と引き締められた。
「確かにボク達を見ている人達がいる雰囲気だね! 敵かどうかは分からないけれど!」
「まあ、それは暁音さんが展開してくれたクレインが何れ正体を掴んでくれるとは思うが……。いずれにせよ、早目に雅人さんに合流する方が良いだろうな。だが、ただ合流だけを目指すのは却って警戒心を招くかも知れない」
 エミリロットの提案に頷き、無数のナノマシン群と五感を同調させる暁音を気遣いつつ、美雪が自らの思考を纏める様にそう呟く。
 では如何するか、とネリッサ達が其々に深刻な表情をしていた、正にその時。
「あんの、カミサマめ!」
 何だか、空気をぶち壊しかねない勢いの勇ましい怒声が、唐突に降り注いだ。
 あっ、と驚いた様に蒼が息を呑んで其方を見ると、そこに居たのは……。
「……あれ? 確か、白夜様、では、ない、でしょうか……?」
「えっ? ああ、そうですね。確かに紅閻さんですね」
 蒼が怖ず怖ずと言った様子で辿々しく紡いだ言の葉に気がついたウィリアムが其方を振り返り、同意する。
 一方蒼達に発見された白夜・紅閻は、蒼達に気付いているのかいないのか……。
「俺を呼び出しといて、遅刻とは……なんなんだ、全く。どうせ風呂で飲んでいて、のぼせたにちがいない……。いや、きっとそうだ!」
 と、憤懣やるかたない、と言った様子で虚空に向かって吼えていた。
「……あの、白夜様、では、ない、でしょうか……?」
 虚空に向かって吼える紅閻に、恐る恐ると言った様子で話しかける蒼。
 その声に気がついた紅閻が我に返った様な表情になり、その手に嵌めた、色褪せてしまった指輪をそっと撫でる。
「ああ、君は確か……蒼だったか?」
「……あっ、は、はい。以前は、その、ありがとう、ござい、ました……」
 前回のお花見の時のやり取りを思い出したのであろう。
 ペコリと小さく頭を下げる蒼の姿に気にするな、と言う様に手を振る紅閻。
 それからゆっくりと顔を上げると、偶々何だかなぁ、といった表情で溜息をついていた姫桜と目が合った。
「久し振りね、紅閻さん。あなたも此処に来たって事は……」
「ああ、君達もか。そうだ。雅人を探しに来た」
 告げる紅閻の其れに、やっぱりそうなのね、と姫桜が頷くその間に。
「よ~し! それじゃぁ、情報収集がてら、お買い物しちゃおうよ!」
 と葵桜がにっぱり八重歯の光る底抜けに明るい笑顔を見せて、生き生きとその場を仕切り始める。
「え……ええっ!? ちょっとあお、何で買い物行くことになるのよ急に……!」
 姫桜が驚いて目を白黒させると、だって~とニコニコ笑顔の儘に葵桜が続けた。
「もう誰かが私達の事見ているのは分かっちゃっているし、雅人さんも狙われている可能性あるんでしょ? だったら会うまでは普通にもうこの辺りのお店全部入って様子見て回るのもありなんじゃないかなーって思うの!」
「あっ、それ名案だね。ボクも丁度格好可愛い探偵っぽい洋服を買いたいな~って思っていたんだよね!」
 葵桜の提案に何故か妙にウキウキと同意するエミリロット。
「ああー、そうですねー。私も衣服屋巡りはしたいと思っていたところですよ-」
 エミリロットと葵桜の提案に、好々爺然とした義透が意外にも乗ってくる。
(「まあ、スパヰというのはねー、同じ穴の狢なんですよ、私にとってはねー。ならば、現地に来た観光客として情報を集めた方が確実でしょうしねー」)
 生前の『忍び』としての冷徹な思考は、口にこそ出さなかったけれども。
「うん、僕も服を選びに行くと言うのであれば、吝かではないな」
 そう呟いた紅閻が、色褪せてしまった指輪を再び撫でる。
 白銀の双翼と、金剛石の月華。
 本来であれば、二つで一つであった綺羅星の揺りかごたるその指輪を撫でるや否や、紅閻の後ろに月の聖霊と銀の双翼が姿を現す。
 それは、月の聖霊・瑠華と、銀双翼・剴と言う名の、2柱の聖霊。
 紅閻の背後に現れた瑠華と剴がその洒落た巴里の街並を、何処か期待する様に見つめているのを見て、まあ、と灯璃が小さく頷いた。
「元々、私も聞き込みは行うつもりでしたし。局長や統哉さん達が雅人氏との合流を優先するのであれば、その間にある程度情報収集は可能でしょう」
「そうだね。俺も少し時間が掛かる……かな」
 灯璃の其れに、金の眼差しで此処ではない何処かを見る様な表情で返す暁音。
 その暁音の様子を雑誌をパラパラ捲りながらちらりと見たミハイルが、灰皿に煙草の灰を落としてから、暁音を手招き。
 そのミハイルの手招きに応じる様に、ミハイルと同席するべく移動を開始する暁音を気遣う様な眼差しで見送った美雪が提案する。
「監視はミハイルさんと暁音さんがしてくれると言うのであれば、私達は其々に行動を開始した方が良いだろう。皆、其々に知っておきたいこともあるだろうし、雅人さんにも会いたいだろうしな」
「そうですね、美雪さん」
 美雪の提案にネリッサが素早く頷きそれからちらりと隣の灯璃を見やる。
 見やられた灯璃がそれに頷き、トランクケースからすっ、と人数分の無線機を取り出した。
「何かあれば、直ぐに此方に連絡、情報共有をお願いします。その方がお互いに対処もし易くなりますからね」
「分かりました。それでは無線機をお借りしますね」
 灯璃の其れに頷き無線機を受け取るウィリアム。
 エミリロットや、蒼達も同様に其れを受け取るのを認めてから、では、とネリッサが静かに呟く。
「SIRD――Specialservice Information Research Department&Yaegers.此より、ミッションを開始します」
 その、ネリッサの呼びかけに。
『Yes、マム』
 灯璃と、カフェにいるミハイルの無線機から号令が聞こえ……猟兵達は、各々巴里の街の二重スパヰ探索を開始した。


 ――巴里、ブティック街。
「あ、あの、すみません……! 何か格好良くて探偵っぽい洋服、置いてありませんか?」
 そのブティックの1つに入店して。
 愛想笑いを浮かべて一礼してきた店主に、鬼気迫る様な表情で問いかけるエミリロット。
「えっ? 格好良くて探偵っぽい洋服……ですか?」
 いきなりの要望に、流石に戸惑いを隠せなかったのだろう。
 鸚鵡返しの様にオーダーを繰り返す店員のそれにエミリロットがはいっ、と意気込んで首肯する。
(「そんなにその服、気になっていたのでしょうか……?」)
 そんな思考が、ウィリアムの脳裏を掠めていくが、構わずダンディなパリジャン的な礼儀正しさで一礼し……。
「此処の所、多忙でして。ぼく達、最近の流行のスーツや衣装が分からないのですよ。それで何か適当に見繕って頂きたく思いまして」
「そうですねー。私も折角来たのですから、何か私に似合いそうな洋服が欲しいですね-」
 ウィリアムの丁寧な挨拶に相槌を打つ義透。
 尚、姫桜と葵桜は別行動。
 と言うより方針が決まるや否や、そのまま葵桜が姫桜を引っ張って連れて行ってしまったのである。
「ほ~ら、姫ちゃん! 行くよ、いくよ~っ!」
「ちょ、ちょっとあお……!」
 等と姦しい会話を挟みながら。
「そうですね~……」
 何となくその時の事を回想する義透達に店主が頷き、先ずエミリロットに、某探偵が愛用しているインバネスコートを仕立てた物をお勧めする。
 他の店員達も現れ不意に訪れた観光客……悪く言えば金のなる木……に愛想笑いを浮かべウィリアムや義透に適当な服を勧めてきた。
 そんな店員達の様子を見ていると。
「おい、こっちだ!」
 或る店員がエミリロットからやや離れて服を並べていた店員へと呼びかけた。
 彼が慌てて此方へとやって来るのに、呼びつけた店員が軽く溜息をつく。
「全く……まだ並べ替えていたのか?」
 先輩店員の溜息に、呼ばれた男の方はすいません、と軽く目礼する。
「何分、自分慣れていないものですから。もう少し早く並べ替えとか出来る様に、もっと精進致します」
 と何事もなかったかの様に頭を下げる新人店員に、先輩店員がしょうがないな、とポン、とその肩を叩く。
 ただ、その新人店員の仮面の下から何か鋭く険しい視線が一瞬感じられたのを、義透は見逃していなかった。
(「どうやら、色々な所に配置されているようですねー。観光客に対する警戒が強いという話は聞きましたが、成程、事実上の監視というわけですか-」)
 一瞬好々爺然とした笑顔に冷徹な光を宿した視線に戻り、エミリロットへと軽く目配せを行う義透。
 ウィリアムやエミリロットもその気配に気がついていたのだろう。
 軽くそれに頷き返しつつ、ウィリアムが店員に水を向ける。
「そう言えば、最近他に流行っているブティックはありませんか? 或いはここ一番の成長株のブティックとか」
 衣装を着付けしつつ問いかけるウィリアムの其れに、微かに店主がそれでしたら、とあっさりと告げた。
「こっちの通りじゃなくて、彼方の通り……高級ブティックの並ぶ店がありますが、最近だと彼方の方が人気でしたねぇ。貴方方の様な観光客には特に人気のスポットでしたよ」
(「でした……過去形ですか……」)
 その言い回しに微かに引っ掛かりを覚えるウィリアムの代わりに、女性用インバネスコートに身を包んだエミリロットが口を開いた。
「そう言えば、人通りは多いけれど、ボク達みたいな観光客っぽい人ってあんまり見かけないね。何かあったの?」
 エミリロットの質問に店主が思わず口ごもる様な表情になり、軽く目を逸らす。
 その事自体に特別な悪意は無さそうだが……話しづらい何かがある様な雰囲気が察せられた。
「まあ、最近は色々と物騒な世の中になってきている様ですからねー」
 執り成す様な義透の其れに、瑠華と剴を伴い、適当な自分用と女性服を見繕っていた紅閻がそうだな、と軽く相槌を入れる。
 義透と紅閻の言の葉に、店主がほろ苦い微笑を浮かべながら、気をつけて下さいね、と軽く気遣う様な言葉を掛けてきた。
「最近は昔よりも、ちょくちょく暴力沙汰とかスリとか多くなってきていますので。特に観光客が狙われやすいという噂もありますから、皆様もくれぐれもお気を付けて巴里を楽しんで下さいませ」
 そう言って丁寧に一礼する店員達に会釈をして。
 ウィリアム達が店を出たところで、灯璃に配られた無線機に通信が入る。
「皆さん、聞こえていますか? 応答願います」
 無線機の声の主は、灯璃。
 気がついた義透がのほほんとした笑顔の儘に、その無線機に対して応えを返す。
「ああー、灯璃さんですかー。はい、私達には聞こえていますよー」
「その声は義透さんですね。では、報告を。此方は雅人氏と無事合流を致しました。合流ポイントは……」
 灯璃に告げられた合流ポイントに、美雪から貰った巴里の地図を広げてエミリロットが確認、義透が分かりましたーと返事を返す。
 そこで通信が切れ、ウィリアム達が合流地点へと向かう途上、紅閻が誰に共無く小さく呟いた。
「雅人に会うのも、もう数ヶ月ぶりか。あいつは元気にしているだろうか?」
 何処か懐かしそうに目を細める紅閻の其れに対する応えまで、後少し。


「雅人、お疲れさん!」
「お久しぶりですね、雅人さん」
 巴里の、とある一角で。
 カフェテラスを移動し、遠巻きに監察していたミハイルと暁音の目の先で、統哉とネリッサが其々の表情で挨拶を交わす。
 統哉達が話しかけたのは、何かをしきりに気にするかの様に腕時計を確認していた黒髪の青年雅人。
 その懐から、ひょこり、とペット兼、伝書鳩代わりのオコジョが顔を覗かせ、そのままトコトコと雅人の肩に移動する。
 動物とも会話の出来る蒼から見れば、雅人の肩に移動したオコジョがあざとく小首を傾げる様を見て……。
(「……も、モフモフ……可愛い、です……」)
 モフモフするとフカフカな猫達の事を思いだし、何かあのオコジョを軽くギュッ、としてみたい等と少々不埒な想いが脳裏を過ぎった。
 そんな蒼の胸中を脇に置いて、雅人が、統哉さん達が、と話を続ける。
「統哉さん達が来てくたるのは、本当にありがたいよ。もう気付いているかも知れないけれど、僕は……」
 そこまで雅人が告げたところで。
 統哉が左目を瞑りながら、ああ、と首肯し、小声で返す。
「敬輔から聞いている。雅人が監視されているらしいって」
 その統哉の言の葉に、雅人が軽く首肯を行う間に、ネリッサの無線機からミハイルの声が入ってきた。
「局長。不審者っぽい奴は隠れているが……どうやらあいつら、俺達が雅人に接触する可能性も織り込んでいたみたいだぜ?」
 そう告げて。
 其処から姿を消そうとするその監視と思しき男を追うか? とミハイルが無言の確認を取ると、ネリッサは軽く頭を横に振り……。
「暁音さん」
 と、ミハイルと共に居る暁音へと呼びかけた。
「うん、大丈夫。今消えた人影は、俺の放ったクレインが追っている。誰かに会って情報を共有するつもりか、それとも別の何かを企んでいるのか……それは俺の方で索敵を続けるよ」
(「まあ、巴里全域にクレインを展開しているから、そこそこ頭に負荷は掛かるんだけれど」)
 鈍痛の様な頭痛を解す様に米神を軽く解しながら、そっと心の中でそう付け足す暁音。
 とは言え、常人には決して耐えきれない程の世界の痛みを、共苦の痛みを通じてよく感じる暁音には、耐え難い程ではないけれども。
 暁音の言葉に、お願いします、とネリッサが頷き、改めて雅人の方へと視線を向けた。
「雅人さん、幾つか掴んでいる情報を私達に教えて下さい」
「ええ、分かっています」
「私の竜胆さんから貰っている情報もある。まあ、此方は参考程度ではあるが、照らし合わせればもう少し精度の高い情報になるだろうな」
 呟く美雪の其れに、そうですね、と雅人が大人びた笑みで応じるのにネリッサが短く頷いた。
「では、率直に。二重スパイの正体及び、結社に関する現時点で判明している情報を教えて頂けますか?」
 そのネリッサの問いに。
 雅人が静かに頷くと、ちらりと肩のオコジョへと視線を向ける。
 オコジョは何故か鼻をくんくんと動かしていたが……やがて大丈夫、と言う様にフリフリと首を縦に振った。
 其れを確認した後、先ず、と小さく雅人が話を続ける。
「僕の方で掴んでいる情報ですが、結社の名前は、『黯党』と呼ばれています。今回の幹部の名は、恐らく『アザミ』です」
 そう告げる雅人の言の葉に、何処か強張った口調が加わっている。
 けれども雅人はそれを誤魔化す様に微苦笑を零してから、話を続けた。
「『白蘭』さんが僕達に提示してきた話と、二重スパヰからの情報を元に諜報部の方でプロファイリングの結果、推定される人物でした」
「二重スパヰは、ルイ、と言う名前だったか? まあ、亜米利加のスパヰである以上、偽名の可能性もあるが……」
 美雪のその言葉に、そう聞かされています、と頷く雅人。
 一応、そのルイという人物の写真……と言うより『白蘭』の情報を基にした肖像画も回されてはいるが……。
「彼は変装も得意です。フ……『黯党』と亜米利加のスパヰを行っている以上、顔で簡単に足が付く様な事はしていないでしょうね」
 雅人のその言葉に、美雪が一瞬、険しい表情になった。
(「何か今、不穏な言葉が出かかっていなかったか?」)
 そんな美雪の表情に気がついたのか、統哉が左目を瞑ったままに話を続ける。
「影朧を制御して利用となると、その威力は絶大だ。下手をしたら、国家中枢まで食い込んでいる……或いは食い込みかけている可能性も大いにありそうだね」
 統哉の呟きに雅人が微かに目を見開くが、そうかも知れませんね、と聞き流す様にする。
(「……えっ? ちょっと待て。まさか、さっきのフって、まさか、仏蘭……」)
 何だか怖い方向へと話が行ってしまいそうな予感がした美雪が顔を青ざめさせつつ軽く頭を横に振る。
 うん、結社の件に関してはさておき、それ以上の怖い方向に想像の翼を広げることは自重しよう、と内心誓う。
「では、その『ルイ』という方が二重スパヰと言うのは……」
 溜息をつきつつネリッサがそう尋ねると、はい、と雅人が静かに頷いた。
「『白蘭』の自供を聞いた限り、どうやら結社、『黯党』に潜り込んで情報を収集、それを亜米利加に流ししていた、と言う事の様です。そして、この『黯党』は恐らく……」
 そこまで告げたところで。
 何かに想いを馳せるかの様に一度言葉を切る雅人の様子に、葵桜との店周りを一度中断して統哉達に合流した姫桜が重苦しい溜息を吐いた。
 その背に冷たい汗が滴り落ちているのを、確かに感じながら。
「二重スパヰ……恐ろしく危険度の高い動き方ね。勿論、その『ルイ』さんにも何か、思惑があるのだろうけれども……」
「何か話が進めば進むほど、凄いことになっている感じだね~、姫ちゃん!」
 渇いた喉で生唾を飲み下す姫桜とは対照的に楽しそうな笑顔を浮かべる葵桜。
 そんな姫桜と葵桜の様子を横目にしながら、統哉がだとしたら、と両腕を組んで雅人に問いかける。
「亜米利加と交流があり、且つ政府高官御用達や、将校の軍服も調達する様な店なら『黯党』の上層部の情報も集めやすそうだね。雅人、その場所に心当たりは?」
「それは……」
 と雅人が統哉に応えを返そうとした、正にその時。
「……雅人、元気にしていたか?」
「また、随分と大きな厄介ごとに巻き込まれて……雅人さんもお疲れ様です」
 紅閻と、ウィリアムが其々に雅人に呼びかける。
 紅閻が親しみの籠った微笑を浮かべ、ウィリアムはやれやれと言う様な苦笑を浮かべるのに釣られる様にして、雅人がそっと微笑んだ。
「……何か急に巨大な迷路に迷い込んだ感じがするんだよね。……世界を股に掛けたスパヰ活劇……話の規模が大きくて、整理するのが大変だ……」
 エミリロットが何だか遠くを見る様な眼差しをして呟くのに。
「スパヰはね、そういうものですよー。スパヰも忍者も同じ穴の狢ですからね-」
 好々爺の笑みで応じる義透にそういうものなんだ、とエミリロットが頷いた。
 まあ、先程強化したこの世界の知識を紐解いても、国家規模の暗闘は幾度となく繰り広げられていただろう、とは思えるが。
 それでも700年以上帝都による世界統一が維持され、大きな戦争も起きず泰平の世が続いているのだから、その点は本当に頭が下がる。
「……ええと。と、言う事、は、雅人様」
 唖然とするエミリロットの内心に深く同意しつつ、赤と琥珀色の双眸を宙に彷徨わせつつ蒼が雅人に問いかけた。
「如何したんだい?」
「その、つまり、文月様の、仰る様な、場所に、雅人様も、二重スパヰ様が、いらっしゃる、と、お考え、なので、しょうか?」
 辿々しく尋ねる蒼のそれにそうだね、と雅人が頷いた。
「僕もそう言った場所の目処は立てている。その場所は……」
「高級ブティック街、ですか?」
 雅人の回答を僅かに先回り。
 収集した情報を披露するウィリアムの其れに、雅人がその通りだよ、と頷いた。
「流石に超弩級戦力の皆さんだ。きちんと裏まで取って来てくれているんだね」
「まあ、彼等の動きを知りたかったですからねー。今の所、大きな騒ぎを起こすつもりは無さそうですが、何かが起きたらそれに巻き添えにする位はしてきそうですねー、彼等は」
 のほほんとしつつも、さらりと恐ろしいことを告げる義透。
(「とは言え、事件のどさくさに紛れて雅人さんや関係者を暗殺するのは、基本中の基本ですけれどねー。分かっていますよー。私がもし貴方方でしたら、同じ行動をとったでしょうしねー」)
 胸中で義透がそう呟くその間に。
「……どちらにせよ、高級ブティック街には、行く必要がありそうですね」
 カタカタカタ……と、JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP RadioのPDAで情報解析を行っていた灯璃がそう呟く。
 それから眼鏡をかけ直し、雅人さん、と話を続けた。
「高級ブティック街の顔役を教えて頂けませんか? 接触を図りたいと思います」
「分かりました」
 灯璃の其れに軽く頷きを返す雅人。
 そこにミハイルから無線機で通信が入った。
「でだ、局長。多分、その結社の奴等だろうが、幾つかのグループに分かれて、雅人と俺達の事を監視しているみたいだぜ? 暁音がクレインに追わせた先程の奴から提供された情報を基にしたんだろうな。如何する? いっそコイツらを叩きのめして尋問して、アジトについての情報を引き出すか?」
 暁音がクレインで得た情報を元に、今の状況を分析して指示を請うミハイル。
 その口元には獰猛な肉食獣の笑みが浮かんでいるが、流石に無線でのやり取りでその笑みを見る事は出来ない。
「それも一つの手ではありますが……。私達の事が気取られていると言う事は、此方が騒ぎを起こせば一般人に巻き添えが出る可能性も高いですね。此処は敵地。相手の挑発に乗って行動を起こしたら、どの様な報復が来るのか、分かりません」
 ネリッサのその言の葉にそうかもな、とミハイルが軽く首肯を返した。
「Yes、局長。取り敢えず暁音と一緒に監視は続ける。まあ、あいつらにとっては国盗りが掛かっているわけだ。無駄な浪費は控えたいのもあるだろう。只、本当に必要なら荒事に持ち込んでもいいな?」
「ええ、ですが、積極的に害して来ない以上、此方から迂闊に手を出さないようお願いします、ミハイルさん」
(「雅人さんの正体が露見しているのかどうかは、気になりますがね」)
 ただそうであればSP宜しく自分達が張り付けば、相手も現時点では早々攻撃を仕掛けてこないだろう。
 もし、統哉の言う通り国の中枢まで彼等が潜り込んでいるのだとしたら、自分達の戦力……国力を徒に消費する愚は避ける筈だ。
 状況の整理が終わったところで、美雪が取り敢えず、と重苦しい溜息をついた。
「……何だか目眩がしそうな程な厄介ごとに巻き込まれている気がするが。取り敢えず観光客として、高級ブティック街に行くとしよう」
 力なく紡がれた美雪の言の葉に、反対する者は、この場には居なかった。
 雲が空を包み込み、更に暗澹たる幕を垂らすのを、その肌で感じ取りながら。


 ――喧噪が、辺り一帯に響き渡る。
 でもそれは、猥雑とした下町の様な喧噪ではなく、何処か優雅で眩しく輝く様な……全体的におっとりとした、喧噪。
 カジュアルに身を包む者、スーツで決める者、質の良い衣装で日よけ傘を開く者……いずれも、育ちの良さそうな人達で。
 そう言う人達が細やかに会話を楽しみ、身を飾り、品の良いブティックに足を運び、気ままに買い物を楽しんでいる。
 そんな、まるで異世界の様な光景を見て……。
「……其れにしても、おしゃれ、というのは、熱量が、その、すごい、のですね」
 と今までお洒落とは無縁だった蒼がほぅ、となんとも言えない表情で息をつく。
 何だか知恵熱が出そうな程に途方も無い話に巻き込まれている気もしないでもないが、この熱量には敬意を払わずには居られない。
「……皆様、きらきら、ひらひら、して、います……」
「じゃあ、え~っと、蒼ちゃんだっけ? 情報収集も重要だけれど、折角だし、目一杯楽しんじゃお~よっ! ねっ、姫ちゃん!」
「ちょっ、ちょっとあお!? そんな事言って目的忘れていないでしょうね!?」
 葵桜の提案に姫桜が思わず突っ込みを入れる。
 因みにその靴は何故か真新しい物を買ったかの様にキラキラ輝いている。
 情報収集のために先程姫桜と葵桜が足を運んだ靴屋で靴を修理して貰った為だ。
 そんな姫桜の抗議になど耳を貸さず、葵桜はほらほらっ! と蒼の後ろに回り込んでグイグイ背を押した。
「……えっ? えっ? あ、あの……榎木様……? ボクは、その、表だっての行動、苦手、なの、ですが……」
 何となく焦った口調で思わず後ろを振り返る蒼。
 けれども葵桜はそんな蒼の様子を気に留めた様子もなく、姫桜も合わせてほらほら! と2人の背を纏めて押していく。
「あっ! そっちの赤髪の子、エミリロットちゃんも一緒に行こっ、一緒にっ!」
 葵桜のお誘いに、両方の金の瞳を一瞬輝かせたエミリロット。
「あっ、ボクも一緒に? 良いのかな?」
「勿論っ! 女子会だよ、女子会! 皆女の子なんだから、こういう時はきちんと羽を伸ばさないとっ!」
「あお、絶対あなた目的忘れているでしょっ!?」
 再びの姫桜の突っ込みに、え~っ、と悪戯っぽい笑窪を刻んで、葵桜が答えた。
「確かに色々やることはあるんでしょーけど、元々情報収集がメインなんでしょ? だったら、今からそんなにガッチガチに力入れてたら、欲しい情報まで逃げてっちゃうし、本番で疲れきっちゃうよ、姫ちゃん!」
「……うっ……」
 葵桜の笑顔と鋭い指摘に一瞬、怯んだ表情を浮かべて顔を赤らめる姫桜。
「まあ、確かにそうだねっ! 片意地張ってばかりじゃ疲れちゃうよね!」
 そんな葵桜の指摘に納得した様にうんうん、と首肯するエミリロット。
「……えと、そういう、もの、なの、でしょう、か……?」
 エミリロットとは正反対に戸惑いの表情で瞬きする蒼の姿に、そうだよっ! と断言する葵桜。
「そんな訳で次はこの店ね! 姫ちゃん、姫ちゃん、この服姫ちゃんによく似合いそうだよっ! あっ、こっちは蒼ちゃんに似合いそうっ! エミリロットちゃんはその探偵衣装も良いけれど……こういう赤い服なんかも似合うんじゃないかなっ、ないかなっ!?」
 等と、あれよ、あれよと言う間に、葵桜のペースに乗せられて、高級ブティックのに連れて行かれる、姫桜・蒼・エミリロット。
 葵桜達を見て、美雪が思わず微苦笑を零しネリッサがまあ、と息をついている。
「葵桜さん達の様に純粋に旅行をしている方達がいると思わせられれば、彼等の監視の目も多少は減るかも知れませんね」
「まあ、ネリッサさんの言葉には一理あるが……何かあれは違う気がする……」
 遠い目になって呟く美雪の其れに、ニャハハ、と統哉が笑った。
「良いんじゃないかな? 確かに事件そのものは大きいかも知れないけれど、だからといって楽しんじゃいけないってわけじゃないし。そうだろ、雅人?」
 と旅行中の華族子息に変装した統哉が問うと、そうだね、と雅人が頷いた。
 尚、雅人も同様に変装していた。
 雅人は今まで目立たない衣装だったが、此処に近付くなら華族みたいにした方が良いんじゃない? と統哉が諭し受け入れたからだ。
「そう言えば雅人、お前、少し痩せたか?」
 そんな統哉の言の葉を受け入れた雅人の隣で。
 同様に華族の衣装を身に纏った紅閻が、さりげなく雅人にそう問いかける。
 気遣う様な紅閻のその言の葉に、雅人は華族衣装をひらひらと靡かせ自分を一通り見つめてから……。
「そうかも知れませんね」
 そう呟く彼の目の下は、微かに黒い。
 恐らくは、此処に潜入してからずっと働きづめでもあったのだろう。
 情報を掴む為も勿論だが、ある程度自分に対する監視の目がある事は、雅人自身も気がついていた様だから。
「まぁ、あの日を境に、お前の環境はガラリと変わったからな」
 そう――あの日。
『紫蘭』と呼ばれる桜の精がこの世界に生まれ落ち、其れに殆ど合わせる様に、ユーベルコヲド使いに雅人が覚醒した、あの日から。
「……もう、あれから1年半以上経つんですね……」
 感慨深そうな口調で雅人が呟くと、そうだな、と紅閻が軽く頷き返す。
「体調管理はきちんとしておけよ? どっかのカミサマみたいに、疎かにするな。場合によっては、命に関わることだからな。ましてや、お前はどっかのカミサマと違う、ユーベルコヲド使いとは言え、『人間』なんだからな」
 それはまるで弟を気遣う兄の様な、そんな口調。
 自分を弟の様に見ているのかそうして気遣ってくれる紅閻に、ありがとうございます、と雅人が穏やかな微笑みを浮かべている。
(「そう……俺は、今度は、守りたいんだ……」)
 霞がかった靄の向こう……顔の見えぬ『彼女』の思い出を、主の記憶を、思い出させてくれた雅人達の事を。
 そんな紅閻の背後では、瑠華と剴が寄り添う様にして歩きながら、高級ブティックの商品を見て回っていた。
「まあ、こういう状況だし、折角だから雅人、紫蘭へのお土産も探さないとね♪」
「えっ、そこっ!?」
 冗談めかした統哉の思わぬ奇襲に泡を食った表情になる雅人。
 その顔が微かに赤らんでいるその様子を、紅閻が優しく見やっていると……。
「……局長、遅くなりました」
 灯璃からの無線がネリッサの無線に入り、ネリッサが其れを取る。
「お疲れ様です、灯璃さん。どうでしたか?」
「ええ、中々口を割ってはくれませんでしたが……どうにか、雅人さんの教えて下さった人物との接触及び、情報収集は完了しました」
 ネリッサに告げる灯璃の其れは、軍人らしくキビキビしていたが、微かに疲れを滲ませている様にも聞こえる。
 実は、Badge of Troy……見た者を記憶改竄・消去・簡易洗脳可能な諜報兵器迄使って、漸く吐き出させることに成功する程度には、手間が掛かる相手だったのだ。
「現地政府系の仕事を良く請け負い、且つ服飾については保守的で米国をあまり好ましく思わない人物の店について聴取した所、一件、それに一致する店が。尚、この店は統哉さんが先程雅人さんに伺っていた、『政府高官御用達』で、将校の軍服も受注し易い店でした。最も、そんな店ですから入店して衣装を買う客は殆どいない様ですが」
「そうなってくると、人の出入りも少なそうですね」
 ネリッサの通信機から聞こえてくる灯璃の説明を聞いていたウィリアムが小さく呟く。
「それで、灯璃さん。その店はいつ頃から開店しているのだ?」
 美雪が確認すると、はい、と灯璃が報告書を読み上げる様にすらすらと述べた。
「どうやら、数年ほど前からの様ですね。最も店舗そのものは老舗を買い上げています。しかし、店員も入れ替わっている以上、実質的な新店舗と言って差し支えないでしょう」
「……相変わらずの情報収集力だな、灯璃さん……」
 美雪が軽く息をつくのに、灯璃が任務ですから、と特別に驕った様子もなく冷静に応える。
「いやー、どうやらその店で確定の様ですねー。……そう言えば、エミリロットさん達はどちらのブティックに向かったのでしょうかー」
 ふと義透が呟き、そう言えば、と美雪達が顔を上げた、丁度その時。
「今度は此処にしよーよ、姫ちゃん! 蒼ちゃん! エミリロットちゃん!」
「ええっ、靴の次は帽子だと思ったら、今度は外套屋さん!? ちょっとあお……ってもう、何度目よ!」
「……あっ、あの、榎木様……、ボクは、こういう、のは、あまり、ですね……」
「うん、此処も中々格好良さそうなのが揃っているね! ……ってあれ? これ、軍服じゃぁ……。もしかして、コスプレ衣装を取り扱う店なのかな?」
 葵桜に引っ張られて姫桜、蒼、エミリロットが其々の表情を浮かべ入っていくのを見かけた――。
「そのブティックの名前は――」
 灯璃がネリッサ達に告げた高級ブティックと、同じ名前の、店であった。


「……もふもふさん達、探しものをお願いしたい。頼んだよ」
 葵桜に押し込まれる様にそのブティックに入店していく姫桜達を、何となく可哀想な子を見る様な目で見つめながら。
 まるで観音菩薩の如き悟りを開いた表情で淡々と詠唱する美雪。
 美雪の其の詠唱に応じる様に、100匹の影だけれど、触るともっふもっふな……。
「……猫さんっ……」
 何か一瞬、蒼がその赤と琥珀色のヘテロクロミアを葵桜に引っ張られつつ光らせた気がするが、気にせず小動物さん達を召喚する美雪。
「……何か異常があれば、知らせてくれよ」
 美雪の其れにモッフモフな小動物の影達が頷くのを見ながら自分達も入店する。
「灯璃さん、ミハイルさんと暁音さんは?」
「ああ、見えているよ、ネリッサさん。今、近くの高級カフェに移動中。何故だか監視の目それ自体が、今は解かれているけれども」
 ネリッサ達の通信を聞いていた、暁音の声。
「ミハイルさんは?」
「俺のクレインからの情報を元に、確認のために相手を尾行しに行った。此方は其方の監視に気がついているよ、と言う牽制も兼ねてね。見つかって巻かれれば、少なくとも雅人さんやルイさんの命を容易く狙えなくなるし、見つからなければ居場所が特定できるかも知れないからね」
 そう暁音が告げたところで。
「悪い、局長。連中流石にプロだ。上手く巻かれちまった」
 と程なくしてミハイルの無線から連絡が届いた。
「分かりました。ところで、私達の周囲はどうなのでしょうか?」
 問いかけるネリッサの其れに……。
「大丈夫です。私達の周囲、及びメリッサさんの周囲には、私達を監視する気配はありません」
 周囲の生物……半径50km以内に存在する人々の目を借りて、周囲の索敵を行った灯璃が安全を保証してくれる。
「報告した奴、どうやら俺達が監視されていることに気がついていることに気がついていたみたいだな。で、もう一度監視態勢を整えたが、それも俺達に見破られたのを悟り、俺達の前から姿を消した。となると次にやって来ることは、多分……」
 結社の尾行を断念、暁音の居るカフェに戻ってきたミハイルが考え込む様に独りごちながら、暁音の真向かいに座って適当に食事と飲物を頼む。
 無線機の向こうで一通りの状況を確認したネリッサ達は、緊張した儘、高級ブティックへと足を踏み入れた。
 そこには……。
「ねぇねぇ、姫ちゃん! このベレー帽なんか姫ちゃんにぴったりだよ、ぴったり、きっと!」
 何だか妙にリーズナブルな価格の可愛らしい帽子に葵桜が目を輝かせ。
「だ、だから、あお、何度目……って、あっ、確かにあの店で見た物より可愛らしいデザインね。と言うか……猫柄模様かしら、これ」
 うんざりした表情でありながら、いそいそとその帽子を検分する姫桜と。
「……ね……猫……。猫様は、可愛い、ですよね……」
 薄青を含んだ白色の、猫耳フード付き外套、月白を纏ったまま、姫桜が手に取る帽子に書かれた猫さんに頬を紅潮させる蒼と。
「このナプキン、洋風餃子を並べる時、机に敷くのにお洒落かも……!」
 と何やら、ワクワクした様子で高級ブティックの隅に置いてあるナプキンを興味心身と言った様子で見つめるエミリロットと。
「何でも良いから、さっさと適当な物を選んで買っていってくれ」
 何だか酷く気怠そうな表情をした店主らしき男が、うんざりした様に眉根を寄せて、蒼達4人を見つめる姿。
 其々に買い物を楽しんでいるエミリロット達の姿を気にしつつ、統哉が店主に声を掛ける。
「もしかして、あなたがルイさん?」
 すると、店主……ルイがチラリと統哉を初めとした10人程の男女の大所帯に流石に目を白黒させるが……。
「そうか、あなたがルイさん、なんですね」
 雅人が水を向けたところで、ルイは思わず、ふん、と一つ鼻を鳴らした。
「成程。帝都桜學府の狗が来てたか。道理であの男が観光客を警戒するわけだぜ」
「では、あなたが?」
 ルイの言葉に美雪が問いかけると、その通りだ、とルイが軽く頷きを一つ。
「まっ……そう言う事だ。俺がルイ……。多分、アンタ達が探していた存在だ」
 スパヰには見えないふてぶてしい笑みを湛えるその男に統哉がならば、と聞く。
「率直に言わせて貰う。あなたは今、結社『黯党』に暗殺される可能性がある」
「ああ……だろうな」
 統哉のその言の葉を、ルイがあっさり首肯した。
 思わぬ応えの間に、先程面会した顔役の家を辞し、ルイのブティックに向かってきていた灯璃が合流した。
「どうやらルイさん。あなたは自分が今、どう言う状況に置かれているか分かっている様ですね」
「まあな。ずっと結社『黯党』の中に潜り込んでいたんだ。最初はあいつらの望む革命とやらに感銘を受けていたが……あの事件が耳に入りゃ、愈々俺の命も危なくなると思ったよ」
「……あの事件、ですか?」
 ネリッサの問いかけに、ああ、とルイが頷きを一つ。
「『女郎花』が、帝都桜學府諜報部に拘禁された。そんな話を聞けば、仏蘭西に根を張りだしていた『黯党』の幹部も流石に焦る。しかも、ユーベルコヲド使いも派遣されるらしいって噂もありゃ、尚更だ。内通者の存在を疑っても可笑しくねぇ」
「……まるでこの結社……『黯党』か? あなたが内通していた結社の幹部が、帝都桜學府への拘りを捨てきれない様な言い方だな」
 呟く美雪のその言の葉に、さて、とルイが人の悪い笑みを浮かべてみせた。
「詳しくは話せねぇよ。此処から先は、自分達の目で確かめてみな。あいつらの本拠地なら教えてやる。その代わり……」
「猟兵として、あなたの安全は保障する。まあ、言葉でしか約束できないが……」
 そう呟く統哉の其れに、何、とルイは笑った。
「何だか至る所に影やら何やらを配置しているみたいじゃないか。その力で俺にアイツらの目が向くのを隠してくれ。そうすりゃぁ、俺も隙を突いて亜米利加に戻れるってもんだ」
「……分かった。ならばもふもふさん達に、暫くあなたの周りを離れるな、と伝えておこう。多分、それだけでも結社に対する牽制にはなる筈だ」
 呟き、その指示を影のもっふもふな小動物さん達に出す美雪。
 小動物さん達が動き、警戒を続けるのを確認したルイが、漸く安心したかの様に溜息を吐いた。
「契約成立だな。あいつら結社『黯党』の本拠地は、巴里の地下トンネルにある、カタコンブ・ド・巴里で未開拓とされている立入禁止区画にある。分かったら、さっさと行くんだな」
 そう告げて。
 ルイはそれ以上を語ることもなく黙然と仕事に戻り、ウィリアム達もまた、その場を後にする。
 ――店を出たネリッサ達を出迎えた曇天は未だ晴れることなく……今にも黒い雨が降り出しそうな、そんな気配を発していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『廃棄物』あるいは『人間モドキ』』

POW   :    タノシイナァ!アハはハハはハハハハハハハハハ!!
【のたうつような悍ましい動き 】から【変異した身体の一部を用いた攻撃】を放ち、【不気味に蠢き絡み付く四肢】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    ミてイルヨ、ズットズットズットズットズット……!
自身の【粘つくタールが如き何かが詰まった眼窩の奥】が輝く間、【歪んだ出来損ないの四肢】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    アソボうヨ!ネエ、ネエ、ネエ、ネエ、ネエ……!
【嫌悪や憐れみ 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身と同じ存在達】から、高命中力の【執拗な触腕による攻撃】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ――カタコンプ・ド・巴里。
 それは巴里の地下でも有名な、数百万という人骨の埋葬された納骨堂。
 ある意味では、巴里を象徴する納骨堂……墓場として、一種の観光地とされているその場所の近くに、彼等は居を構えていた。
 ――本来であれば、立入禁止区画の、その場所に。
 ルイに言われた道を通って、その場所に辿り着いた猟兵達。
 そこに待ち受けていたものは……。
「……来たか、超弩級戦力……帝都桜學府の狗共め!」
 悪態と、悪意に満ちた、男女の集団。
「貴様達は、また奪うのか!? 俺達弱者から何もかもを……! 其れがこの安寧の平和の為に必要なものだと斬り捨てるのかっ!?」
 結社『黯党』の結社員の一人が、金切り声で叫んでいる。
「こんな偽りの平穏と怠惰に満ち満ちた世界では人は衰退し、そして無為の日々を過ごしていく。そんな無為な日々を受け入れ続ける事を、お前達は私達に強要するの!?」
 鋭く突き刺す様なそんな女の、金切り声に賛同する様に広がる声。
 その声を聞きながら、奥に控えていた周囲のみすぼらしい格好をした結社員達よりもやや身なりを整えた人物が此処は、と静かに呟く。
「此処に埋葬された者達は、平穏と安寧という名の偽善の前に、無為に散らされていった罪なき貧しい者達の命だ。我々は、彼等の無念を、遺志を継ぎ……この仏蘭西を足掛かりに帝都の偽りの平和に叛逆する……! それこそが、我等の革命! 我等が結社の、真の目的!」
 その叫びと共に。
 懐に持っていた爆弾の様な何かを、この地の遺骨達に向けて投げるその男。
 放たれたその粉を浴びた骸骨達が、不意に、ぐにゃり、と歪み始める。
『ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ! ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ……!』
 まるで、狂った子供の様な笑い声を上げながら。
 骸骨達が粉々に砕けトンネルの大地と融合し、異様な姿形と為した化物へとその姿を変貌させていく。
「こ……これは……」
 猟兵達と共に、その様子を見ていた雅人が思わず息を呑む。
 ――それはまるであの時、或る人物が使った技術に良く似通っていた物だから。
「でも、あの黄泉がえりの法は……!」
 呻く雅人に、いいや、と人形を作ったその男は、歪な笑みを浮かべて見せた。
「これは、我等が主、あの御方が心より尊敬していた今は亡きある御方より授かったとされる黄泉がえりの技法! 人為的に影朧を作り出すグラッジパウダー……! 未だ、未完成の試薬品だが、此があれば、貴様達帝都桜學府の狗共にも対抗できる……! さあ、征け、影朧達よ! この地を見つけた超弩級戦力と帝都桜學府の狗を余さず滅ぼし……この国を足掛かりとした革命の一歩を踏み出すのだ!」
 男の其の呼びかけに応じる様に。
『キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!』
 人骨と、大地の融合によって生まれ落ちた哀れなる歪な影朧達が、一斉に猟兵達と雅人に向かって襲いかかってきた。

 *第2章のルールは下記となります。
1.第1章の判定の結果、アジトを突き止めることに成功しました。また、二重スパヰの情報を得ることも出来たので、スパヰの安全は保障されました。
2. 『黯党』の結社員達は、人を影朧化させると言うグラッジ弾を改良したグラッジパウダーによって、人骨を大地と融合させ、影朧を作り上げました。もう、後戻りは出来ない状態です。
3.雅人は、第2章でもNPCとして参戦します。扱いは下記となります。
 a.この場から撤退することはありません。
 b.基本的に猟兵達の指示には従います。
 c.自衛能力は持っているので無理に庇う必要はありません。
 d.フォローする場合はプレイングボーナスとなります。
 e.雅人が現在活性化させているユーベルコヲドは、『剣刃一閃』です。他に『強制改心刀』も所持していますが、此方は猟兵の指示が無い限り使用しません。
 f.雅人は今、現れている結社員の隊長クラスとは顔見知りではありません。しかし、彼の言う『我等が主』については知っている可能性があります。
 g.『我等が主』と言うのは、第3章で現れます。その為、此処では深く言及されることはありません。

 ――それでは、良き戦いを。
 
ウィリアム・バークリー
人造影朧――つまり人造オブリビオン。あなたたちは、一体何をしているか分かっているのですか!? オブリビオンは遍く世界を滅ぼす存在。それを自ら作り出すなど!

皆さん、影朧の方をお願いします。ぼくは結社の構成員を捕縛しますので。

「高速詠唱」でStone Handを使い、逃げられる前に先手を打って、構成員達を岩の腕で捕縛します。
この拠点の人員は、これで全員取り押さえられたでしょうか?

一人ずつStone Handを解除して、丈夫なロープで拘束していきましょう。
戦闘の流れ弾を防ぐために、氷の「属性攻撃」で氷塊を作って盾にしておきます。
あなた方の尋問は、また後からです。専門の方に絞られるといいですよ。


エミリロット・エカルネージュ
その埋葬された命を、貴方達のやった行為は……弄んでいるのと同じだと思うんだけど、その命に無念を感じていながら

やってる事矛盾してるよね?

●POW
影朧にされた命、せめて安らかに
『早業』でUC発動で他の猟兵と『集団戦術&団体行動』で連携して先陣『切り込み』突っ込むよっ!

『空中戦&推力移動』で駆け回りながら『第六感&瞬間思考力』で『見切り』『空中機動&残像』で攻撃を回避しながら撹乱し

【緋色の炎の龍】とミントは霊的に『浄化』の効能があるから【ミント餃子のオーラの乱気流】を纏い【シャオロン(麺棒モード)】に纏わせ『グラップル&功夫』で立ち回り『範囲攻撃&なぎ払い』影朧達を浄化を

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


馬県・義透
引き続き『疾き者』にて。
武器:漆黒風

墓場で黄泉がえり。初めて関わったときのことを思い出しますねー。
ですが…それ故に、四悪霊の怒りを買ったと知れ(のほほんはどこかへ行きました)
これが黄泉がえりであるものか。

敵の数が多いのならば【四悪霊・『解』】にて。私たちに幸運を、相手に不幸を、味方に相対的幸運を。
生命力も吸収してますからね、攻勢が長く続くとは思わないことです。

私自身は漆黒風を投擲していきますが。
さらに、四重(風、氷雪、炎、重力)の結界術で敵の視線を遮断。攻撃されようと、身を削るだけですよ。

革命で戦いとなったとき、犠牲になるのは、その罪なき者たちですけどね?


ネリッサ・ハーディ
SIRDのメンバーと共に行動

成程、黯党というのは、極左的な結社だった様ですね。その結社が活動している国が仏蘭西とは、私の世界からするとある意味皮肉ですね。
この様子では恐らく何を言っても無駄でしょうから…力でねじ伏せるしかありません。

UCの炎の精を展開しつつ、ハンドガンの射撃で攻撃。恐らく、敵は人骨を元にした、いわばアンデッドに近いものでしょうから、そういう手合いはやはり焼き尽くすのが一番効果的な筈です。眠れる死者を無理矢理蘇らせるのは、冒涜です。
可能だったら、炎の精の一部を黯党メンバー周囲に差し向け逃走を阻止。捕えて尋問すれば情報を聞き出せるかも。尤も、彼らに逃走する気があれば、の話ですが。


天星・暁音
余り…くだらない事を囀らないでくれるかな…
例えそこに…どれほどの想いがあろうと、どれだけの無念があろうとも、今の世を打ち壊す為に死者の眠りを妨げ脅かす行為を肯定などする訳がない
革命について俺が言うことは何もない
それが成されるのならそれまでの事だ
それが自分たちの力のみで成すならね
過去に頼り、眠りを犯し、影朧という埒外頼りに成した革命に意味はないし長続きもしないよ



場所と影朧の生み出し方にガチギレに近い状態なので今一度眠らせる為に、持てる手札は全て用いて全力で打ち倒します
結社の人間には相応の報いを与えたいとは思いますが捕虜にしたい人がいるならそちら優先

共闘アドリブ歓迎
スキルUCアイテムご自由に


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

アドリブ・他者とと絡み歓迎

やれやれ、こりゃ随分と手荒く楽しいコトになってきたな。
まぁいい、こちとら諜報戦なんかよりこの手の荒事の方がよっぽど性に合っているみたいなんでな。せいぜい楽しませてくれよ?

UCでUKM-2000Pの弾幕射撃を展開して有象無象共に鉛弾を喰らわせてやるぜ。
同時に、雅人を同じく弾幕張って援護射撃。ここは俺達が引き受ける。だから雅人はあの隊長クラスをブチ殺すなり、とっ捕まえるなりしてこい。美味しいトコはくれてやるぜ。

(戦闘の合間見て煙草咥え火をつけ)無念?遺志?偽りの平和?ったく、この手の連中の主張は判で押した様に同じだな。もうとっくの昔に聞き飽きたぜ。


朱雀門・瑠香
途中からですが助太刀いたします!
あ~、革命する人っていつも過激な事しかしないですよね・・・遠慮はしませんよ?
いえ、全然楽しくないですけど・・・・
カタコンプの地形を利用しながらダッシュで接近。敵の攻撃を軌道から見切って地形を利用したり武器で受けたりして回避、受けたら呪詛耐性、激痛耐性、オーラ防御で耐える。
そして間合いに入ったら破魔の力を込めて纏めて切り払います!
現場の隊長は逃げたら追いかけて捕まえるとしますか。
相手の方から黒幕が出てくるでしょうけど・・・


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

黄泉がえりの秘法、だと!?
しかも「亡きある御方」から授かった?

だがな、影朧を「人の意志で使役しよう」とする時点で
あなたたちは既に道を誤っている
影朧はあなたたちが使うべき道具ではない!!

いつも通り、歌で回復支援
「歌唱、優しさ、鼓舞」+指定UCを猟兵全員に聞かせる
地下でオーロラ出すなとか言われても聞かないぞ?

可能なら戦場から離れた上で竜胆さんに連絡し追加情報要請
欲しい情報は「生前の紫陽花さんの交友関係」と「『女郎花』が仏蘭西に持つスパヰのネットワーク」のふたつ
黄泉がえりの秘法が流出するとしたら、この2つのラインが濃厚だからな
…やっている余裕があるかどうかは怪しいが


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

…やはり、影朧を武器として使役するか
ならば俺は…容赦なく斬る

他猟兵の動きを察知し遅れて現場に駆けつけるが
「地形の利用、世界知識、闇に紛れる」で他猟兵に見つからぬよう身を隠し不意討ちの機会を伺う

頃合い見て指定UC発動しながら飛び出し
「2回攻撃、なぎ払い、属性攻撃(炎)」+衝撃波で影朧の一掃を狙う
反撃は「残像」を囮に「見切り、武器受け」しつつ回避

人が生きていた証たる骨を影朧と無理やり融合し兵器として使役する
その時点で貴様らは『罪なき貧しい者たち』の尊厳を踏み躙っている

貴様らも弱者だ、斬り捨てられたというなら
他の弱者が生きた証を、尊厳を
エゴという名の土足で踏み躙るな!!


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で連携
事前:閃光手榴弾及びテルミット手榴弾用意

不思議ですね?…同胞の遺体と無念を平然と利用して戦争を仕掛ける人間が弱者を名乗るんですか?戦争狂いの間違いでは?

敵視認と同時に閃光及びテルミット手榴弾を投擲
光と熱で驚かせ敵の先制を阻害(先制攻撃)

敵の出鼻を挫いたら、ミハイルさんと連携し機銃射を抜けようとする敵の腕と頭部を大口径で狙撃し局長や仲間を狙撃支援(スナイパー)しつつ敵の動きを監視(情報収集)

局長の炎精に囲まれ敵が固まり始めたら
指定UCでその周囲にスリットのある耐火ベトンの壁を生成し閉じ込め、更に火炎放射器も作成し炎を追加し敵側を炉の内部状態にして温度を高め焼殺を狙う

アドリブ歓迎


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

(転送された先での惨状に眉を顰める)思いつめた先がこれかい。(結社員の表情を見て溜息)事情は良く分からないが、とりあえずこいつ等を何とかしなければ始まらない。早く楽にしてあげないとね。

時間は掛けてられないか。【ダッシュ】で敵の群れに飛び込み、【オーラ防御】【見切り】【残像】で敵集団の攻撃を凌ぎ、敵の攻撃回数が増える前に情熱の炎で焼き払う。【追撃】で【範囲攻撃】【衝撃波】で残らず消し飛ばす。

手荒い方法だが歪んだ形で動かされているのはあってはならないからね。せめて手早く終わらせてやるさ。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

(転送された先で現場を見て)酷いですね、これ・・・この人達が黒幕ですか(結社員を確認)もう限界、という顔してますね。だからといってやった事は許される事ではありませんが。

この敵の数を見て、動けなくなることは覚悟せねばなりませんか・・・【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で防御を固め、白銀の騎士で移動力を犠牲に防御力を上げ、【結界術】を展開、強固な防御陣地を構成して攻撃を引き受けることをメインに。

攻撃はその場から動かず、【衝撃波】【範囲攻撃】で。【追撃】【二回攻撃】も使用します。

苦しいですよね・・・おやすみなさい。


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

・・・・・(生まれ故郷での惨状を思いだして思わず目を閉じる)そうですか、これが思いつめた気持ちの結果・・・・(結社員の表情を確認して嘆息)犠牲になった方は可哀そうですが、被害が広がる前に。

敵がお互いを攻撃して攻撃回数を増やす前に動きを止めます。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して敵集団に展開、【追撃】で風花の舞で攻撃。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。

狂気の犠牲になった方々は間違いを犯す前に止めねば。救ってあげられなくて申し訳ありません・・・・


白夜・紅閻
・銀紗

・漸く来たか、カミサマ
え?どこにいるか…だって?
(おまかな情報と居場所を伝えておく。カミサマのことだろうから一足遅い合流となるだろう)

・戦闘(幸運・二回攻撃
篁臥と白梟を呼び出し

白梟、お前は雅人のフォロー
援護射撃、不意打ち、衝撃波に乱れ撃ち、そしてブレス攻撃

篁臥は僕と来い!
騎乗突撃、威嚇射撃、吹き飛ばし、斬撃波

小細として
残像+おびき寄せ+罠使い+だまし討ち

イザークでは念動力+重量攻撃+蹂躙+範囲攻撃、グラップル
レーヴァテインでは切断、継続ダメージ+生命力吸収

UCは使えるタイミングで使用する

敵の嫌がらせはイザークにでも捕食させるかな
あとはオーラ防御と残像で回避できれば

連携・アドリブ可


吉柳・祥華
・銀紗

ぬ、白夜か
して、今の状況はどうなのじゃ?
ふむ、了解したのじゃ

では妾も『神凪』で現場に向かうかのう
識神を放ち【範囲攻撃での索敵、追跡、偵察、情報収集】
皆を見つけ次第【援護射撃でのレーザー射撃】
ただし〝闇に紛れて”いるので敵には見つけ難いはず

奴らの背後…足元を突ければいいのじゃが、難しいかのう?
どうやら大地と融合させておるようじゃしに
妾がつく前に【地形の利用+第六感+龍脈使い+念動力】で大地の淀みを“追跡”し“破魔+浄化”による“地形破壊”という名の“神罰”は可能かの?

まぁ、無理なら現地へ行っての
UCでも撃ちまくるかのう?


暴走しそうな奴がいたらやんわり止める
あと、少しでも痛みを和らげればと


神宮時・蒼
…なんと、過激な、思想の、持ち主、ばかりの、よう、ですね
…ヒトとは、平穏を、求める、ものでは、なかった、のですか…?
…ボクには、やはり、理解、しきれ、ません

…安寧の、眠りを、妨げるのは、赦せません、ね

【WIZ】
思った以上に、攻撃的な様子
まずは【魔力溜め】した【結界術】で防御を固めましょうか
相手が複数同時に迫ってくるようであれば【弾幕】で牽制、足止めを
攻撃は【見切り】で回避

…やり方は、それぞれ、ある、のでしょう、けれど
…せめて、貴方たちの、未来が、明るいもので、あります、よう
【全力魔法】と【範囲攻撃】、【浄化】を織り交ぜた「翠花魅惑ノ陣」を描きましょう

…人間とは、本当に、怖い、生き物、ですね


彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

UCで戦闘力強化

雅人さんの援護中心
必要に応じて[かばい]基本は自衛に任せる

敵からの攻撃はできる限り[武器受け]で防御
敵へはあおと連携して攻撃
一体ずつ確実に[串刺し]にしていくわね

>影朧達
…っ
(影朧達を見て過ぎったのは「ややこ島」で
泥人形と化した島の人達と戦った時の記憶
けれど、あの時[覚悟]を決めたから
今はもう、身体が固まって動けないなんてことはない
いい意味でも悪い意味でも猟兵になったってことよね、と内心で苦笑し)

ごめんなさい、死んでしまった後まで巻き込んでしまって
恨み言があるならとことん付き合ってあげる
痛いし苦しいと思うけど、すぐに解放するわ
だからもう少しだけ頑張って…!


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と

基本的に姫ちゃんが動きやすいように援護

UCを[範囲攻撃]で展開
敵の動きを止めることに専念する
必要に応じて[衝撃波、なぎ払い]で一体ずつ撃破
仲間とも連携して臨機応変に対応する

>結社員
そうだね、平和ってホント綺麗事だとは思うよ
嫌な話、いつだって弱者は踏みつけられる
そういうのってこの世界だけじゃない

でも、ここに埋葬された人達にどんな事情があれ
あなた達がいいように扱っていい権利なんてない

何が「我々は、彼等の無念を、遺志を継ぎ……」よ
勝手にここの人達の想いを決めつけて、自分たちの歪んだ思いで踏みつけて

冗談じゃない!
ここの人達の静かな眠り、これ以上邪魔させたりはしないんだから!


文月・統哉
オーラ防御展開
仲間と連携
影朧の攻撃を【見切り】【情報収集】
雅人達仲間と声かけ合いつつ
【武器受け】で応戦し【カウンター】

胸に掲げる正義はそれぞれのもの
本物も偽物もない
長く続く平穏に疑問を持つ者もいて当然だろう
それでも
既に眠りについた遺骨達まで無理やり影朧にして
その尊厳を踏みにじり兵器として使い捨てる
それがお前達の正義だというのなら
俺は全力で止めるよ
それもまた
俺にとっての正義だから

人として生きた彼らの魂に敬意を持ってその尊厳を守りたい
その祈りと願いと決意を込めて
大鎌の【衝撃波】として
祈りの刃を広く【範囲攻撃】で放つ

この方法で
無理やり影朧にされた彼らの魂を
安らかに送る事が出来るなら
雅人にも協力を頼む


クラウン・アンダーウッド
アドリブ・連携何でも歓迎

好きなだけお互いに慰めあって辺境にでも住んで生きていけばいいのに。他人に干渉しなければとやかく言わないよ。問題なのは自分たちの主張が正しいと他人に迷惑をかけることが当たり前って考え方だね。それこそキミ達が嫌いな帝都桜學府の狗と同じなんじゃない?「同じ穴の狢」ってね♪

遺骨は大事にするものだけど、アレ(影朧)はもはや只のゴミだねぇ。纏めて処分しないと♪
10体のからくり人形が両手に投げナイフを握り締め、瞳が妖しげに紅く輝くと一斉にクラウンにナイフを突き立て引き抜く。
からくり人形達は炎が血のようにこびりついた投げナイフを手に、ケラケラと笑いながら踊るように敵に襲いかかる。


森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

黄泉がえりの技法かよ
…嫌な記憶を思い出すじゃねえか

しかし…これはまた、外道なものを生み出しやがったな
てめえら、全員無傷で帰れると思うなよ!

この狭い空間ではアスモデウスやスパーダは使いづれえ
ここは「高速詠唱、言いくるめ」+指定UCでストラス召喚
人間モドキの頭を闇黒で包み込み視界を閉ざすよう命じる
奴らが足を止めたら、二槍伸長「ランスチャージ」で「串刺し」だ!

てめえらにひとつ、教えてやる
その技法を研究していた男の目的は、我が子を蘇らすためだった
しかしてめえらはその技法で仲間の遺体や影朧を使役している
…仲間の尊厳を無自覚に蹂躙しているてめえらに、弱者と称する資格はねえよ




「……なんと、過激な、思想の、持ち主、ばかり、なの、でしょうか……?」
 カタコンプ・ド・巴里の遺体と大地の一部を融合させて。
 まるで泥人形の様にのたうつ何かを作り上げ、嗾けようとしている、『黯党』の結社員達のそれに、神宮時・蒼が顔を青ざめさせる。
 その赤と琥珀色の双眸を、哀しみと猜疑、動揺に震わせて、冷え切った太陽届かぬ地下世界の中に彷徨わせながら。
「黄泉がえりの秘法、だと!? しかも、『亡きある御方』から授かった、だと?」
 蒼が全身に感じているそれを肌で感じながら、思わず、と言った様に結社員達に呼びかけるのは、藤崎・美雪。
 美雪の呼びかけに、結社の隊長格がその通りだ! と胸をそびやかす。
『そう、我等が主の敬愛せし、今は亡き、あの御方より授かりし、黄泉がえりの秘法! 我等が主が改良し、骨と化した哀れな同胞達を蘇らせるグラッジパウダーの実験品を作成するのに遂に成功させあそばしたのだ! これぞ正に天命! 我等が革命を、神が、弱き者達の遺志が、望みし世界の理!』
 自己陶酔ここに極まれリ、と言った様子で蕩々と語る隊長格の男に向けて。
「人造影朧――つまり、人造オブリビオン。あなた達は、自分達が一体何をしているのか、本当に分かっているのですか!?」
 ウィリアム・バークリーが雄叫びを上げると、彼は当然の様に頷いた。
 その瞳の中には、当然の様に人が持つある種の狂気の光が収束している。
『当然だ! 我等は秘法、グラッジパウダーを使い、影朧達を我等が手で制御する! 其れは強大な世界を救う為の力となる! それは腐った下らない偽りの平和に埋もれた人々の目を覚まさせる特効薬となり得るだろう!!』
「巫山戯るな! 影朧……オブリビオンは遍く世界を滅ぼす存在! 世界に存在するだけで影朧本人達が望むと望まないとに限らず厄災を齎す彼等を、自ら作り出す事の何が特効薬というのですか!?」
 ウィリアムの問いに、隊長はその狂信的な光を称えたその瞳で射貫く様に彼を睨み付け、だからこそだよ、と返した。
『偽りの平穏に溺れ、ただ徒に恵まれたものだけが享受することの出来る幸福。その様な不平等な幸福に傾いた天秤を戻すためにも、犠牲となった人々の……影朧達の力は、必要なのだ! 不安定な世界の歪みを我等の手で正すその為にも!』
(「……不安定な世界? 幸福に傾いた天秤……?」)
 その言の葉に籠められた意味。
 それは、雅人と、この場に居る猟兵達の多くが、一度聞かされた事のある物語。
 ――けれども。
 今、大事なのはそこではない。
 今、目前で起きている……。
「貴方達は、この平和のために犠牲になった……埋葬された命を使って、この影朧達を生み出した」
『ああ、そうだ。彼等は世界のために我等と共に戦う同胞だ! 故に彼等は此を浴び、其れに喜びを得て、我等に新たな力を与えてくれる! それこそが当然の理! 革命の運命!』
 隊長の同意に、その矛盾を、自分達の傲りから来る過ち、即ち……。
「そうやって理屈を付けて、死した人達の命を利用して、影朧を生み出す。……その行為が、貴方達が、無念を感じているはずの命達を弄んでいるんじゃないの? それは、今、貴方達がしようとしている事のその理由と、矛盾しているんじゃないの!?」
『革命』という名の美名の元に、死んだ命を弄ぶ行為の矛盾を指摘し諭すこと。
 そうして、少しでも気付いて欲しいと尋ねる事が必要なのだと、エミリロット・エカルネージュは思いの丈を籠めて、叫ぶ。
 だが……。
『違う! 我等は彼等の遺志を、その命と共に受け継いだ! だからこそ、我等が声に従い、我等と共に戦うべくこうしてこの地に再び蘇ったのだ! 此は彼等の命を尊重し、共に在るために行う聖戦なのだ!』
 激高して叫び返す隊長格のその男の声に……。
「あまり……下らないことを囀らないでくれるかな……」
 感情の全てを押し殺した様な、突き放す様な冷たい幼い子供の声が戦場に響く。
 怪訝そうに結社員達がちらりと其方を見れば、そこには星具シュテルシアをきつく握りしめ、金の瞳を鋭く細めた天星・暁音がいた。
(「暁音さん……?」)
 何時になく冷たく感じられるその声音を聞いた美雪が一瞬怪訝そうに目を細めるのも構わずぐっ、と或る部分を強く握る暁音。
 掻き毟る様に握られたその部分……共苦の痛みの刻まれたその箇所は、衣服に隠れて見えないが、灼熱の炎の如き輝きを放っている。
 全身を炎に焼き尽くされてしまいそうな、凄まじい熱痛を暁音に与えながら。
 その熱さに自らの呼気が、体が焼かれていくのを自覚しながら、暁音は反吐を堪える様な平坦な口調で言の葉を紡ぐ。
「例えそこに……どれほどの想いがあろうと、どれだけの無念があろうとも……今の世を打ち壊す為に死者の眠りを妨げ脅かす行為を肯定などする訳がない。失われた命達が、『世界』がそんな事を望む筈がない。其れを望むのは――お前達の傲慢だよ」
(「革命について俺が言うことは、何もない」)
 人は生き、そして死んでいく。
 その生命の循環が、時に停滞を生み出すこともあるだろう。
 その停滞を打破するための革命が、人の手によって為されることもあるだろう。
「だから、革命が成されるならば其れまでのことだ。但し、自分達の……人々だけの力で成すのならね」
 だが……。
「過去に頼り、眠りを犯し、影朧という埒外頼りに成した革命に意味なんてない。いわんや長続きなんてする筈もない」
『貴方の様な子供に革命の何が分かると言うの!?』
 暁音の淡々とした呼びかけに返ってきたのは、結社員の女性の罵声。
『人は過去に学び、現在を歩み、未来を作るために革命を起こすのだ! 彼等は、この影朧達は我等が大望を信じ、共に歩む同士に過ぎん! この者達は最早、我等と共に真の平和を望む者達なのだ! 今世の綺麗事に過ぎぬ幻朧桜に守られた偽りの平和を打ち砕くための力なのだよ!』
 その隊長の怒濤の叫びに。
「……そうだね、平和ってホント綺麗事だとは思うよ」
 軽く小さく頷きながら。
 桜舞花を開き、あどけない笑みを消して、静かに頷くのは、榎木・葵桜。
「本当に嫌な話だよね、いつだって弱者は踏みつけられる。それも確かに本当のことだよね」
 全ての人が幸せに、平等に何て世界は存在しない。
 地獄だって、その罪の重さによって階層が決まるし、天国だって、平等で幸せな世界なのか何て分からない。
 それは確かな事だろう。
「あお……?」
 思うことあるのか、黙りこくって蘭色の瞳に光を称える葵桜の姿に、彩瑠・姫桜が微かに気掛かりな声を上げる。
 けれども、そんな姫桜の葵桜への心配……想いを踏み躙る様に。
『そうか、ならば……!』
 友好的、とも言える笑みを浮かべて、隊長が手を突き出そうとした、丁度その時。
「でもね。そういうのって、この世界だけじゃないんだよ。しかも……」
「お前達は、既に眠りについた遺骨達まで無理矢理影朧にして、その尊厳を踏み躙っている」
 葵桜の言の葉を引き取る様に。
 この冷たい洞を思わせるカタコンプの中で、冴え冴えとした光沢を放つ漆黒の大鎌『宵』を構えた、文月・統哉が粛々と告げた。
「胸に掲げる正義が、其々のものなのは認めるけれど。これが、お前達の正義だというのならば、俺は……俺達は全力で止める。それが、俺達の正義なんだ」
「……文月、様……?」
 その胸中に宿る決意を解き放つ様に。
 何処か粛々と襟を正した口調で呟く統哉の其れに、蒼が色彩異なる双眸に困惑の光を揺蕩わせた。
『何故だ? 我等はこの者達の命を、尊厳を踏み躙るつもりはない。ただ、我等が革命を共に成す力として、彼等と共に在る。その革命の志と力の意味が、何故貴様達には分からないのだ!?』
 と隊長が怒声を叩き付けた、その直後。
「まあ、ボクはさぁ、別に好きなだけお互いに慰め合うだけならさぁ、害もないし別に良いと思うけれどね」
 些か皮肉げな道化の笑みを口元に浮かべて。
 飄々と肩を竦めて姿を現したのは、両手の10本の指から張った10糸の先に付いたからくり人形達を茶化す様に踊らせる……。
「あなたは確か……クラウンさんだったかしら?」
 問いかける姫桜のその言の葉に。
「そうだよ~」
 とヘラヘラ笑みを浮かべて答えるクラウン・アンダーウッド。
 クラウンの身分を証明するかの様に、人形楽団が喇叭を吹き鳴らした。
「……ああ、そうか。赤毛のにーちゃん、クラウンって言うんだな。悪いな、名前を聞いてなくて」
 そのクラウンの後ろから何となく決まり悪げな表情をして、森宮・陽太が姿を現すのに、クラウンがイヤイヤと笑顔を浮かべる。
「気にしない、気にしない。所詮ボクは、只のからくり人形の道化師さ。君が動きやすくなったなら何より、何より」
 そう言って冗談めかしてウインクをするクラウンの其れに、参ったと諸手を挙げて降参の意を示す陽太。
(「何というか、この事件で皆と会うのが気まずいなぁとか思っていた俺が馬鹿みたいじゃないか」)
 等と思いつつ、二槍を構える陽太が『彼等』を見て、思わず表情を強張らせた。
 美雪が陽太の様子に目を細めつつ、静かに頷くと。
「此が黄泉がえりの技法なのかよ……嫌な記憶を思い出すじゃねぇか……」
 低く唸る様な声音で呟く陽太に、心外だ、とばかりに隊長が大仰に溜息をつく。
 そんな陽太の様子を認め、口の端に微笑を作りつつ、大仰に溜息をつく隊長にこれ見よがしに溜息を吐き返すクラウン。
「自分達の主張が正しいと思うのは勝手なんだけれどさ。だったら辺境にでも住んで生きて、他人に干渉なんてしなければ良かったのに。そうすれば、誰も、何もとやかく言いやしないさ」
『……何だと!?』
 クラウンの挑発に、激昂する『黯党』の結社員達。
 けれどもクラウンはそんな彼等に対し、浮かべていた笑みを嘲笑に変えて、からかう様にからくり人形達を器用に踊らせる。
「問題なのは、自分達の主張が正しいからと言って、他人に迷惑を掛けることが当たり前って考え方なんだよね。それこそ、キミ達が大嫌いな帝都桜學府の狗と同じなんじゃない? 『同じ穴の狢』って奴だね♪」
『お前……! 我等が誇り高き理想を穢すと言うのか……!? しかも、人々から牙を抜き取る腑抜けた帝都桜學府の狗と我等が同じだと……!?』
 その結社員の怒号に応じる様に。
 からくり人形達が、『キャハハハハハハハハハハハハッ!』と甲高い子供の様な笑い声を上げながら、眼窩の奥を輝かせたその時。
「……こいつらが思い詰めた先の果てが、此だったって言うのかい」
 何処か諦念と、同情を漂わせながら。
 死者達の成れの果て……『廃棄物』或は『人間モドキ』と化した彼等の姿を見た真宮・響が痛ましい口調でそう呟く。
 今にも暁音達の肉を食らい、骨を切り刻み、全身をその身に取り込んでやりたいという様に壊れた笑みを浮かべる彼等の姿に。
「……酷いですねこれは。この影朧を生み出した黒幕が此の人達だと言うのですか」
 歪んだ、出来損ないの四肢で響を打ち砕こうと先走った影朧の前に、翡翠色の結界を編んで弾いた真宮・奏が静かに頭を横に振る。
 エレメンタル・シールドに大地の精霊達の力を取り込みつつ、奏が影朧に守られた結社員達へと澄んだ紫の瞳を向け。
 静かに、頭を横に振った。
 そのみすぼらしい格好と、悲壮な決意の込められた表情を悼む様に見つめながら。
「もう限界、と言う顔をしていますね。だからといって、やった事は赦されることではありませんがね……瞬兄さん?」
 そう奏が呟いた、丁度その時。
 六花の杖を構えたままに、その赤と金のヘテロクロミアで目前の惨状を見つめて、息を呑み双眸を瞑る神城・瞬の姿が目に入る。
「……」
 義妹の其れに応えを返さぬ瞬。
 その脳裏を過ぎるのは、嘗て自らが失った故郷の姿。
 自らの里……世界の傭兵として渡り歩いていた自分の両親達が無残に殺されたその時の惨状と、自らの想い。
 復讐と絶望に、身を焦がした。
 仇は既に取ったが、その時に抱いたその思いは、今も尚、鮮明に自らの心中に、月読みの紋章と共に刻み込まれている。
(「もし、僕に母さんや奏がいなければ……」)
 彼等と同等か、それ以上に絶望し、今の彼等の様な表情をしていたのだろうか。
 そう言う意味では、彼等はもう1人の自分なのではないか。
 ――けれども。
「キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
 嘲笑にも、悲痛にも聞こえる影朧達の笑い声に、瞬もまた自らの想いを定め、逡巡を振り切り、愛杖を突き出した。
「……犠牲になった方々は可哀想ですが、これ以上、被害を広げぬためにも」
「あ~……そうですね」
 その瞬の呟きに。
 瞬の隣に吹いた蒼穹の風と共に姿を現すは、白き軍服に身を包んだ紅の瞳の娘。
「私達のせいで色々追い詰められているのかも知れませんが、如何して革命を志す人達って、こう、過激な事しかしないのでしょうね? こんな事をされたら、帝都桜學府の学生として、朱雀門の当主として、見逃すわけには行かないというのに」
 その娘……朱雀門・瑠香の言の葉に、影朧達に守られた隊長の表情が愈々憎悪と憤怒に歪む。
『貴様……帝都桜學府の狗……學徒兵か! よくもまあヌケヌケと我等が前にその姿を現すことが……!』
「ええ、そりゃ、現しますよ。あなた達がこんな事をしなければ情状酌量の余地があったかも知れませんが、あなた達はそうではないのですからね。あなた達のやり方は、私達帝都桜學府の掲げる、影朧救済の理念とは対極にあるのは間違いありませんし。だから……」
 ――遠慮はしませんよ?
 その瑠香の呟きに応じる様に。
『キャハハハハハハハハハハハハッ!』
 影朧達が雄叫びと共に、飛びかかる様に襲いかかろうとした、その刹那。
 ――カッ!
 と白熱する凄まじい爆発と閃光が、戦場一帯に炸裂する。
 あまりにも眩い閃光に、影朧達が一瞬怯むのを見逃さず、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"を構える、灯璃・ファルシュピーゲル。
「本当に解せませんね? ……同胞の遺体と無念を平然と利用して、戦争を仕掛ける人間が弱者を名乗るなんて? それは弱者なんかではなく、只の戦争狂いの間違いではありませんか?」
『これは必要な聖戦なのだ! 弱者が強者を打ち倒し、新たなる世界の礎を作るために避けては通れぬ道なのだ!』
 灯璃が炸裂させた閃光弾に、目をしょぼしょぼさせて涙を流しながらも、怒号を叩き付ける隊長。
 その隊長を守る様に動いた影朧達に向けて。
 ――ドルルルルルルルルルッ!
 愛機関銃、UKM-2000Pから薬莢を飛ばしながら無限にも等しい弾幕を張り巡らしつつ、ミハイル・グレヴィッチが鱶の笑みを浮かべていた。
「おー、おー、如何にもな話だねぇ。これだから、この手の連中ってのは面倒なんだよ。大体判で押した様に同じ様な主張を押し通そうとばかりする。そんなに主張がしてぇなら、クラウンの言うとおり、人に関係ねぇ所で御大層に文句を並べ立ててりゃぁいいものをよぉ」
 パッ、と散る影朧達の姿を認めながら、左手を空中に掲げて方円を描き上げつつ、ネリッサ・ハーディが成程、と納得の頷きを一つ。
「ですが、此で大分はっきりした事も有ります。この『黯党』と言う結社が極左的な結社だった、と言う事です。まあ、この仏蘭西で活動している『黯党』が支部である可能性も否定できませんが」
 それにしても……と周囲に炎を展開しながら、溜息を一つつくネリッサ。
(「その結社が活動している国が仏蘭西とは、私の世界からすると、ある意味皮肉ではありますがね」)
 そう思い、愛銃G19C Gen.4による牽制射撃を行おうとした、その時。
『これ以上やらせるなっ! 奴等を叩け!』
 隊長がそう叫ぶと同時に影朧の一体が、歪んだ出来損ないの四肢の一部を切り取り、ネリッサに向けて投擲しようとする。
 ――と、その時。
(「墓場で黄泉がえり。初めて関わったときの事を思い出しますね-」)
「ですが……其れ故に、我等四悪霊の怒りを買ったと知れ、愚者達よ」
 凄まじい暴風と共に解き放たれた棒手裏剣が、ネリッサに肉薄していた四肢の一部を貫き落とす。
 ネリッサが其方を振り返れば、その瞳を鋭く細めた、そこには馬県・義透の姿。
 その全身から正しく亡者の如く広がる鎖状の呪と、其れに呼応する様な呪詛の声が、戦場全体に響き渡った。
「これが、黄泉がえりであるものか。その様な事にも気付かぬ貴様等に、黄泉がえりも革命も語る資格はない」
『……何だとっ!?』
 無感情に紡がれる義透の言葉の1つ、1つに含まれる針と毒に貫かれる様に、結社員達が表情を強張らせる。
 そのまま雪崩れ込む様に始まった、戦い。
 その戦いの傍らで。
「白梟、お前は雅人をフォローしろ。篁臥は僕と共に来い!」
 白夜・紅閻が鋭く命じながら、カードに封じた白梟を解放し、その身に纏った外套を脱ぎ捨てる。
 その肩の小さなインコが鳴き声と共に紅閻の肩を飛び立って巨大な白き怪鳥と化して嘶き外套が黒豹の如き獣と化して、鋭い咆哮を上げた。
(「カミサマ……漸く、だな」)
 カタコンプに漏れ出す神気を感じ取り。
 紅閻がそう呟きながら、その瞳を真紅に染め上げた姫桜と共に、退魔刀を抜刀した雅人へと気掛かりそうな視線を向けた。


「さて、急ぐとするかのう……館野」
 死闘が始まろうとしているカタコンプ。
 その一つ上の階層で頭痛を堪えるかの様に軽く頭を押さえていた𠮷柳・祥華のその呼びかけに、館野・敬輔が溜息を一つ漏らす。
「……祥華。何故頭を押さえているんだ?」
『神凪』に搭乗し、識神を放って紅閻達を探索する祥華の様子に、敬輔が微かに眉を動かして問いかけると。
「何、大した事は無いでありんすよ、館野。ただ、妾が昼間から少々酒を嗜み、白夜との待ち合わせに送れてしまっただけでありんすからな」
「……其れは大した事だと思うのだが。しかし、昼間酒か」
『彼女』達の影で巴里の街で確かにそんな話を紅閻がしていたのは耳にしている。
 統哉からも似た様な情報は手に入れているが、特に反省の色も見えない祥華の様子には、流石の敬輔も肩を竦める事しか出来ない。
 敬輔の非難がましい瞳はさておいて、祥華は両腕を組み何かを考えこんでいる。
「ふむ……後少しで白夜達の居る戦場には辿り着けそうでありんすな。しかし、貴奴等、どうやら人骨を大地と融合させておるようじゃしのう……」
 背後……足元を付ければそれに越したことはないのだが、大地の力を吸収しているのであれば其れは少し難しそう。
 そんな思考を進める祥華の口元にそうじゃ、と言った笑みが浮かんだ。
「どうした、𠮷柳?」
「何、貴奴等はまだ妾達に気付いて居らぬ。であれば、いっそのこと妾達が戦場に着くよりも前に、大地の澱みを“追跡”し、神罰を下すことも出来るかのう? と思うてな?」
 まるで名案を思いついたかの様に告げる祥華の其れに、敬輔が思わず祥華の肩を掴み、待て、と声を掛けた。
「そんな事をしたら、地下洞穴とカタコンプそのものが陥没するぞ。そうなったら被害は巴里全域に及ぶ。……あの影朧を武器として使役しようとする奴等以上の災厄に俺達がなってしまうぞ」
 敬輔のその制止に。
「ふむ……一理ありなんしな。じゃが、では如何するでありんすか、館野? このまま地下へと下りてゆけば、忽ち乱戦に巻き込まれてしまうぞえ?」
 その祥華の呟きに。
「一応、手は考えている。アンタの識神の力があれば、恐らく上手く行く手段をな」
 返す敬輔に、口を羽衣の裾で覆いカラコロと鈴の鳴る様な笑い声を祥華はあげた。
「仕方ないでありんすのう。では、此度は白夜と合流するまではお主に付き合うでありんすよ、館野」
 その祥華の呟きに。
「ああ……行くぞ、祥華」
 さらりとそう告げた敬輔が、祥華と共にカタコンプの地下へと続く、その道を降りていく。
 ――統哉達が通った地下に続く階段の反対側に存在していた、その道を。


「……ヒトとは、平穏を、求める、ものでは、なかった、のですか……?」
 何処か悲痛な戸惑う様な呻きと共に。
 悲哀と惑いが綯交ぜになって胸に灯るそれ……彼らに託されたヒトとしての『心』が漣だって揺れるのを感じながら呻く蒼。
 けれども蒼の動揺とは裏腹に、その手は反射的に雨に薫る金木犀を構えている。
 馨しき香を纏う、朝から夕方までの限りある短き時の中を懸命に咲く儚き花の名を抱きし杖の先端に、ぽう、と暖かな灯が灯った。
 その灯に呼応する様に、蒼の髪を飾るとけない心……融ける事無き、凍てついた花が涼しげに青く輝き、杖の先端に魔力を収束。
 雨に薫る金木犀の先端に灯りし灯がそれを受け……美しき赤と青の一対の幽世蝶の力を育み。
 ばさり、と彼岸の如きその愁いを抱きし天へ祈る幽霊花が空を舞い、その翅から緋色の鱗粉を戦場へと撒き散らす。
(「……安寧の、眠りを、妨げられた、あなた達に、どうか、安らぎを……」)
 自らの裡に宿る憐憫と呼ばれる情を意識した蒼の祈りに答える様に。
「アソボうヨ! ネエ、ネエ、ネエ、ネエ、ネエ……!」
 悲しき笑い声を上げながら、次々に増殖する様に自らと同じ存在……グラッジパウダーで分裂した『自身』の触腕を伸長させる敵。
 容易く猟兵達の体を絡め取ってしまう様なその触腕の目前に、緋の憂い纏う鱗粉が結界を構築、辛うじてそれを受け止めるその間に。
「てめぇら、全員無傷で帰れると思うなよ! 闇と光を司る梟の悪魔よ、我が声に応え、彼の地を闇黒に閉ざせ!」
 鋭き詠唱と共に、銃型のダイモンデバイスを左手で構えて片手撃ちする陽太。
 引き金を引く直前、銃口の前に現れた魔法陣の中心に描き出されたのは、小さい灰色梟の姿。
 引き金を引かれ飛び出した弾丸がその魔法陣を潜り抜け……まるでカタコンプの夜を暗示する灰色の梟の悪魔を召喚する。
 ――まるで、この地を守る、墓守の様に。
「ストラス!」
 陽太の叫びに応じる様に、その灰色の双翼を羽ばたかせ、大きな瞳を怪しげに輝かせる灰色梟、ストラス。
 その瞳の輝きと共に闇黒が、分裂した人間モドキの頭を覆い隠す様に包み込んだ。
 灯璃の炸裂させた閃光弾に目を焼かれ、チカチカしていたのがようやく慣れたところに降り注ぐ闇黒。
 それは、彼等の動きを阻害するのに十分な一撃。
「……わりぃな、終わらせるぜ」
 そう告げて。
 素早く濃紺のアリスランスを伸長させて貫き、その欠片を砕く陽太。
 だが、その程度で終わる彼等ではない。
「タノシィナァ! もっと、モット、アソボうヨ!」
 ガタガタガタと歪んだ出来損ないの四肢を駆使して走り、人ではありえない方へと腕を捻じ曲げ剛腕を振り下ろす。
「っ!」
 それは敵の一人を一閃、自らに迫る人間モドキの腕を切り捨てた、雅人の死角から彼に向かって迫っていた。
「くっ……!」
 咄嗟に刀を引いて、正面に逆手に構えて受けの姿勢をとる雅人。
 ただ、突然の死角からの攻撃に体勢が崩れている。
 だが……。
「雅人さん!」
 その瞳を真紅に染め、その口から鋭い犬歯を伸ばした姫桜が雅人と腕の間に二槍を風車させながら割り込んだ。
 黒槍Schwarzと、白槍Weißが其々白と黒の線を曳いてその攻撃を受け流し……。
「やらせられないんだよ~!」
 その言の葉と共に、自らの舞……桜舞の名を授けた白地に桜の花弁をあしらった舞扇子を翻して葵桜が舞う。
 美しく滑らかな曲線を描いた舞と共に、風を孕んでひらひらと舞う、桜吹雪。
 そのままくるりとその場で円舞の如く軽やかに体を回転させ、戦場一体に嵐の様に桜吹雪を降り注がせた。
 空気を振動させ、大気に乗って舞う桜吹雪達が、追撃の分身を生み出そうとしていた何体かの人間モドキの動きを堰き止めて。
「今だよ、エミリロットちゃん!」
「……はい! 影朧にされたその命……せめて安らかに……!」
 葵桜の応えに応じたエミリロットが、頷きと共に、たん、と大地を蹴る。
 天井にぶつかるかぶつからないかのスレスレの空間部分を水餃子の様にしなる自慢の足で蹴って踏み込み……。
「破っ!」
 と気合一声、自らの全身に緋色の龍の炎を纏う。
 自らの気を練り固めて生み出された龍の焔は冷たい地下との間に大きな寒暖差を。
 加えて大気を水餃脚で踏み抜く事で生まれた大気の不安定さを存分に活用し……。
「呼吸や挙動は、餃子を皿に貸すが如く――!」
 言の葉と共に、ミント餃子のオーラの乱気流を生み出し、麺棒型竜騎士の槍、『シャオロン』を麺棒モードにしてそれを纏わせる。
 鮮やかなミント色の輝きを纏い、甘く心安らぐ香りを発するその麺棒をそのまま空中で三回転半を決めながら叩きつけた。
 叩きつける様に振り下ろした麺棒型シャオロンを引くや否や横薙ぎに一閃、ミント色のオーラで影朧達の一部を薙ぎ払う。
 舞い散る桜吹雪の嵐の向こうから姿を現したエミリロットが、黙祷を捧げる様に、束の間両手で『シャオロン』を握りしめた。
(「ミントは霊的に『浄化』の効能があるから……これで少しでも彼等の穢された魂達が浄化されます様に……」)
 そうエミリロットが短く祈りを捧げるその間に。
「モット! モット! モット! アソボうヨ! アソボうヨ! アソボうヨ~!」
 葵桜の桜吹雪の戒めを抜け出した人間モドキ達が狂笑を上げながら、千鳥足の様な動きでグズグズ崩れる踵を蹴り上げる。
「死んで安らかに眠っていた筈の命を弄ばれ、こんな悍ましい攻撃を笑いながらさせるなんて、あまりにも救いがなさすぎるよ……!」
 迫りくるその鋭い踵蹴の気配を直感し、結社の者達に向けて怒りの声を上げながら、側転してギリギリその蹴りを躱すエミリロット。
 だがその瞬間、悍ましい蹴りを叩きつけた人間モドキのタールが如き何かが詰まった眼窩の奥が異様な輝きを帯びた。
「ズットズットズットズットズット……アソボうヨォォォォォォォォォォッ!」
嘲笑の様な笑い声と共に歪んだ出来損ないの四肢を繰り側転後のエミリロットの着地地点目指して戦場を駆け抜ける人間モドキ。
「ちっ……篁臥!」
 紅閻が跨がる黒豹の如き召喚獣篁臥に素早く呼びかけるや否や、篁臥が咆哮し人間モドキに肉薄。
 篁臥が全身をバネの様にして体当たりを行い人間モドキを吹き飛ばしたその瞬間。
「レーヴァテイン、焼き尽くせ!」
 終焉の炎の名を与えたサイキックエナジーの塊……シルクハットを被った犬の様な塊にそう命じた。
 命じられたレーヴァテインが笑い声の様な炎をその身に纏って自らを一太刀の刃と変化さえ、人間モドキに一撃。
 浴びせられた一撃が、出来損ないの四肢の一部を切断、そのまま焼却する様に焼き尽くしていく。
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ! タノシイナァ、タノシイナァ、タノシイナァ!」
 告げながら蒼やエミリロットに向けられた憐憫の情から生み出した自らと同じ存在達の壊れた触腕を叩き付ける。
「……っ!」
 篁臥に命じて咄嗟に走らせて幾何かの漆黒の残像を生み出し置いてその攻撃を躱そうとする紅閻。
 だが、間に合わず執拗に繰り出された触腕の攻撃が届こうとした、その直前。
「おっと、テメェラの好きにはさせねぇよ。まっ、此も仕事なんでね」
 UKM-2000Pから間断無く放った銃弾の嵐で人間モドキの触腕を穴だらけにして肉塊へと変えるミハイル。
 そこに……。
「フォーマルハウトに住みし荒れ狂う火炎の王、その使いたる炎の精を我に与えよ!」
 ネリッサの鋭い一斉と共に解き放たれた100体の炎の精達の数体が我先にと、肉塊を呼んだ人間モドキに群がり、その身を焼く。
 骨が焼け、大地が焦げる、血生臭ささえ感じる匂いがカタコンプ一体に漂うが、ネリッサは其れを涼しい顔で受け流した。
(「……こういう場所で生まれ落ちたアンデッドの類いは火葬するのが一番効果的なのですが、匂いも含めて、あまり良い気分ではありませんね」)
 銃を発砲し発される硝煙の匂いや灯璃の放った閃光弾が破裂する時の火薬の匂い。
 そして、ミハイルのUKM-2000Pの銃口から吹く煙と、地面へと落ちた幾千……否、幾万とも言える薬莢。
 それは、普段は嗅ぎ慣れ、見慣れている何気ない光景。
 だが、この墓場で人間モドキ達が崩れ落ちるその合間にこれを見ると、何だか例えようのない閉塞感を微かに感じてしまう。
「ネリッサさん、ミハイルさん、援護感謝する」
 微かに感傷めいた何かがネリッサの脳裏を掠めていったものを打ち消す様に。
 統哉のクロネコ刺繍入り緋色の結界に守られながら退魔刀を一閃、ネリッサに焼き尽くされたその魂を浄化しながらの雅人の礼。
「いいえ、此も私達の任務ですから。とは言え……まだ彼等を拘束出来る程、影朧達を駆逐できた、とは言い難い状況ですね」
 雅人の礼に軽く会釈を返して応じるネリッサの其れに、ミハイルが素早くガンベルトを装填しながら舌打ちを一つ。
「やれやれ、馬鹿の一つ覚えみたいにああいう言葉を操る手合いとの殴り合いだ。もっと楽に終わると思っていたが……どうにもそう簡単にミッションコンプリートとは行かせてくれなさそうだぜ……ったく」
 飄々とその肩を竦めるミハイルが、弾幕を一瞬途切らせたその隙を突く様に。
『アハハハハハハハハハハッ! ミィツケタ、ミィツケタ!』
 と天井に張り付いていた人間モドキが粘つくタールの如き何かの詰まった眼窩の奥を輝かせ、飛びつこうとしてきたその瞬間。
 音もなく放たれた一発の弾丸がその頭部を射貫き、そこに数体の炎の精達が飛びつき人間もどきを焼き尽くす。
「……此方もかなりの人数が揃っていますが……何千万と言う人々の骨が埋葬されているというカタコンプだけはありますね。生み出される敵も無尽蔵で、キリがありません」
 Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"で人間モドキを撃ち抜いた灯璃のその言の葉に、ネリッサもまた、そうですね、と頷き返す。
 ――それは、戦いがまだ始まったばかりであると言う事を暗示するかの様な……不吉さを伴う応えだった。


 ミハイルの機関銃掃射による弾幕と、その間隙を拭って迫りくる出来損ないの四肢を撃ち落とす灯璃の援護を受けながら。
 その眼窩の奥を怪しく光らせ、歪んだ出来損ないの四肢で抱きつき自らを押しつぶそうとしてきた人間モドキに向けて。
「さぁてと。遺骨は本来大事にするものだけれど、コレは最早只のゴミだねぇ。纏めて処分しないとね♪」
 クラウンが飄々と、そう笑った。
 そのクラウンの傍に、カタコンプのまだ影朧化していない人骨を壁にしながら駆け寄る様に躙り寄る瑠香が怪訝そうに眉を顰めた。
「ゴミ……ですか。確かに既に骨と化した者達である以上、その存在に意味がない、と言えば無いものでしょうが……」
 呟き抜刀していた物干竿・村正で自らの身を旋回させ、空を断ち切る瑠香。
 切られた大気が発した振動が衝撃の波と化して、じりじりとにじり寄ってきていた人間モドキ達を打ち据え怯ませる。
 だが、目に見えて倒れた者は1体もいない。
 痛撃を与えたのは確かだが、かといって致命傷を帯びた者はいなさそうである。
(「これでも私も多くの戦いを乗り越えてきた猟兵の筈なのですが……それでもこれだけしか衝撃を与えられないとは、やはりまだ未熟な様ですね」)
 久方ぶりに戦場に出た為かやや鈍っている自らの戦いへの感覚に、兼ねてより抱いていた劣等感を瑠香が思い起こす、その間に。
「いやいや、キミ、十分だよ! お蔭でボクの方も準備ができたからねぇ♪」
 本気とも冗談ともつかぬ道化の笑みを浮かべるクラウンに困惑する瑠香。
 同時に、今から起きようとしている何かに悪寒の様なものが走るが、クラウンは瑠香のそんな胸中を意に介さず……。
「さぁ、パーティーの始まりだ!」
 と、大仰に両手を掲げた。
 クラウンが掲げた両手の10本の指と糸で繋がれた10体のからくり人形が、その声を受けて一斉にその瞳を妖しげに輝かせる。
 その手にはまるで誰かを……何かを料理するべく用意された、2本の投げナイフが握られていた。
「何時の間に投げナイフを……?」
 思わぬ光景に一瞬瑠香が目を奪われた、その瞬間を狙って。
「アハはハハハハハハハハハハハハっ!」
 おぞけが走る様な笑い声と共に、不気味に変容した自らの右腕をちぎり取る様にして投擲する人間モドキ。
 投擲された歪な右腕が、バキバキ……と言う異常な骨の鳴る音と共に、瑠香を丸呑みする程巨大な爪となって襲い掛かる。
「くっ……!」
 咄嗟にバックステップをしてその攻撃を避けようとする瑠香だったが、タイミングが僅かに遅れた。
(「くっ……これに巻き込まれては!」)
 飲み込まれ、身動きが取れなくなりそうになることに、思わず瑠香が歯軋りをした、その刹那。
「瑠香さん! させません……シルフィード・セイバー、必殺フォーム!」
 奏が己が風の精霊達纏いし、シルフィード・セイバーの力を完全解放、翡翠色の送風を瑠香の前に送り込む。
 ――ジャスト・ガード。
 瞬間的に展開された翡翠色の風の結界が巨大化し、巨大化した両手を受け止めたその瞬間に……。
「手荒い方法だが、纏めて焼き尽くすよ!」
 響が鋭い叫びと共に、情熱の焔を思わせる残像を展開して人間モドキの集団の群れに肉薄しながら、手を掲げた。
「……ネリッサの言う通り、こういう手合いは火葬が手っ取り早いね!」
 その叫びに呼応する様に、響の手がブレイズランスの如き赤熱色の炎を宿す。
 ――それは、響の情熱の炎。
 解き放たれた荒ぶる情熱の炎が熱波と化して波打つ様に飛び火して、瑠香を狙う手に着火、更に幾体かの敵にも着火する。
「アハハハハハハハッ! アツぃ、アツぃヨォォォォォォっ! ズットズットズットズットズット、タノシモウヨォ!」
 ネリッサの炎の精と響の熱波にその身を焼かれながらの、人間モドキ達の悲痛な、悦楽を伴う叫び。
 その叫びに、狂気を孕んだ笑みを浮かべながら……。
「そうだねぇ♪ それじゃぁ、もっと楽しいことしよっか♪」
 道化の笑いを含めたクラウンのその声に応じる様に。
 ――ドスドスドスドスドスッ!
「……っ!? クラウンさん、何を……っ!?」
 目前の光景に、瞬が思わず息を呑む。
「……えっ? どう、して……?」
 それは奏の作り出した結界に重ね合わせる様に緋の憂い纏う結界を作り出していた蒼も等しく共有した思い。
 胸の灯……人で言う所の動悸……が激しくなるのを感じながらの蒼の言の葉に、なぁに、とクラウンが笑う。
 楽しそうに、笑う。
「まっ……ボクもキミと種族的には、同じなんだよね♪ ヤドリガミ。そんなボクだからこそこれは出来るオンステージさ♪」
 だくだくとクラウンの全身から滴り落ちる血液の様な、何か。
 それが滴るのも構わず、クラウンはより一層、笑みを深める。
 からかう様な道化の笑みに、からくり人形達が染まる、狂気を加えて。
 ――パチン。
 そのまま、両指をクラウンがすかさず弾いたその瞬間。
「ケラケラケラケラ!」
 クラウンの指先の糸の先に括り付けれらた投げナイフを二刀流した10体の人形達が一斉に狂気の笑みを浮かべ。
「ケラケラケラケラケラケラケラ!」
 笑いながら、二刀の投げナイフから血の様に赤い焔を纏わせ、瑠香に一撃浴びせられ、響の消えぬ炎に巻かれる人間モドキ達に……。
「ケラケラケラケラケラケラケラ!!!!!!!!!!」
 ――切りかかった。
 それはあたかも2本のナイフで料理をするべく解体し、けれども上手く切れなかったのでゴミとして焼き払う、道化の料理人の様に。
 と、此処で。
「無垢なる聖域、我らを護り仇なすものへの裁きを! 暗闇のような現在(いま)を切り拓き導く聖なる寿ぎ! イノセント・サンクチュアリ!」
 ――カツン!
 焼き尽くされのたうつ人間モドキ達と、クラウンが支払った代償を取り戻す様に、星具シュテルシアの棒で地面を暁音が強く叩いた。
 足下に叩きつけた錫杖形態の星具シュテルシアと、暁音の詠唱に応じるかの様に。
 暁音の足下に六芒星の刻まれた魔法陣が生み出され、同時にそこから戦場全体を包み込まんばかりの眩い光の波が放射される。
 ――其は、味方を癒し、強化する無垢にして、清浄なる加護の聖域。
 共苦の痛みが絶えず与えてくる灼熱感が、常人には耐えがたい死臭と焼臭に感応して更に一際強くなるが、構わず暁音は聖域を展開。
 それは消えゆく直前の蝋燭の如き熱であり、焼き尽くされ消滅していった死骸が増える度、次第に落ち着く痛みでもあったから。
 特にエミリロットや統哉、そして統哉に乞われた雅人が、『浄化』の意志と共に人間モドキ達を屠る度、熱は急速に収まっていく。
 一方で隊長及び、結社員達の動きは人間モドキと共に目に見えて遅くなっていた。
 その身を拘束するかの様に光鎖が地面から飛び出し人間モドキ達を捕え、結社員達の進路を阻む様に光鎖の茨が編まれていたから。
「此処迄死した命や魂達を冒涜し、何もかもを自分達の正義の正当化に利用としようとするこいつらなんて、今直ぐにでも八つ裂きにしてやりたいけれど……」
 その光鎖を解き放ち、光の波を維持しながら、暁音が殺意を籠めて、人間モドキに守られる彼等を金の瞳を細めて見つめる。
 けれども、それ以外にもう一人、暁音の視覚に飛び込んでいる者がいた。
 それは……。
「皆さん、すみませんが引き続き影朧達の方はお願いします! 今の内にぼくは、彼等を拘束しますので!」
 そう呟き。
 ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、大地に突き付け、地上に魔法陣を描くウィリアムの姿と声が耳に入っていたから。
(「龍脈の流れがあのパウダーの影響か、狂っていますね……! 龍脈の力を誘導するのにもう少し時間がかかりますか……!」)
 そう内心で呟いているウィリアムのその表情と努力を、暁音には如何しても見逃すことは、出来なかった。
(「……まあ、この場で人間の屑に相応しい報いを与えてやっても良いと俺は思うけれども。此処で捕らえられた方が、より一層の報いを受けることになるかも知れないからね……」)
 一先ずそう自分を納得させ、共苦の痛みの刻まれた部分をなぞる暁音。
 共苦の痛みを通して、伝わってくる人間モドキ達の魂の奥底にある悲嘆の情は、暁音の心の中に確かな憐憫を抱かせていて。
 故に……。
「アソボうヨ! ネエ、ネエ、ネエ、ネエ、ネエ……!」
 人間モドキ達が敏感にそれに気が付き、またまた生み出した、自身と同じ存在の触腕の牙が、暁音に寄ろうとした、正にその時。
「……来たか。イザーク、食らえ」
 雅人の護衛を任せていた白梟の『目』を通して、その気配を察知した紅閻がそう呟き、自らのサイキックエナジー・イザークを解放する。
 重力と念動力を操るイザークのその一撃がまるで槌の様に、暁音を狙った人間モドキを押し潰す様に牽制した、その刹那。
「……許せ!」
 その動きを鈍らせた人間モドキの背後で、赤黒く光り輝く刀身を持つ刃が、白き靄を纏い二閃された。
 放たれた三日月型の白き斬撃の衝撃波が下段から跳ね上げられて、人間モドキの一体を切り裂き。
 更に唐竹割に振り下ろされたもう一撃が、もう一体の人間モドキを真っ二つに引き裂いて、どう、と地に崩れ落ちさせる。
 慌てて別の人間モドキが突如として現れた白い靄を纏った影を狙おうと振り返ろうとした矢先。
「すまぬのう、白夜。少々出遅れてしまった様でありんすなぁ」
 と雅な口調でゆったりと告げると、黒竜の姿をした、光学兵器反射型戦闘ドローン『識神』の瞳からレーザー光線が迸る。
 それはクラウンのからくり人形にその身を解体されて焼かれながらも、その眼窩を輝かせた人間モドキを背後から射抜いていた。
 精密射撃の様に撃ちだされたレーザー光線で崩れ落ちた人間モドキの背後からゆらり、ゆらりと陽炎の様に一人の女が姿を現す。
 巫女の姿を取ったキャバリア神凪に搭乗し、その肩の彩天綾を虹の光彩の様に揺らめかせる彼女の姿を見て……。
「遅いぞ、カミサマ。どこで道草を食っていた!?」
 紅閻が何処か呆れた様な口調で怒号の叫びを上げ。
「け……敬輔さん!? 何時の間に……?!」
 瞬が思わず、と言った様に息を呑み呼びかけるのに、白き靄を纏いし黒騎士……敬輔が瞬か、と小さく息を漏らした。
 ――佳境に向かって進んでいく……その戦いを、象徴するかの様に。


 ――はっきりとした吐き気を催させる死臭と、骨と土が焼けた匂い。
 口の中に酸っぱい物が込み上げてくるのを辛うじて堪えられているのは、自身がこの者達の隊長であるが故の矜持であろう。
 既に暁音の光鎖に道を阻まれ、充満する煙と死臭によって嘔吐き、その場に蹲っている者達も現れ始めている。
 そんな状況下で、敬輔と、祥華と言う新たな猟兵達の増援。
 無尽蔵に生み出そうとすれば、生み出すことの出来る同志……否、影朧という兵器ですらも、徐々に勢力を押し返されてきている。
 それは、分かる。
 だが……。
『何故だ!? 天は我等に神の啓示を……革命の意味を与えて下さった筈だ! その我等に如何してこれ程迄に不都合で、帝都桜學府の狗共に都合の良いことばかりが起こるのだ!?』
 其れは怨嗟と嫉妬の混ざり合った地獄の其処から湧き上がる様な絶望の叫び。
 天上へと至る糸を漸く登り切ろうとする直前に、糸の切れ目が不意に見えてしまった様な、そんな絶望と不幸。
『何故だ……何故……?!』
「何故? その様な事も分からぬか、我等が怒りを買いし者達よ」
 低く唸る様な呟きと共に。
 轟、と颶風に乗って解き放たれた漆黒の棒手裏剣が、隊長格を貫かんとする。
 顔を強張らせた隊長格がしゃがみ込むや否や、まるで其れに覆い被さるかの様に人間モドキが肉壁となり、全身を貫かれて崩れていく。
 ベチャ……ベチャ……と土塊と化したそれが土砂の様に隊長に降り注ぎ、更に砕かれた骨の雨が彼の全身に浴びせられた。
 あまりの惨状に悲鳴を上げる隊長の前に現れた人間モドキ達が、関節を感じさせない異常な動きで、ぐるりと首を360度回転させる。
「ねぇ、アソボぅヨ! ズットズットズットズットズット……!」
 眼窩を輝かせ、崩れ落ち欠損した四肢を我武者羅に振り上げる人間モドキに……。
「レソ・ニーヴェオ・ディスグラーツィア・ズヴァーチ・ヘイ・リヒト・ザラーム・インベル・セイクリッド・オア・ダークネス(白き雨は災厄を呼び黒き雨は聖邪の祈り)!」
 神凪に搭乗したままに目を瞑り、言の葉と共に、何かへと祈りを捧げる祥華の声に合わせる様に白き雨が天空から降り注ぐ。
 酸を含む全てを貫く白雨は、瞬く間に眼窩を輝かせた人間モドキの顔を焼くが。
『ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!』
 彼等は悲鳴の様な笑い声を上げ我武者羅に走り回りながら欠損した四肢を振るう。
 だが、その悉くが義透に当たらない。
 その時には人間モドキの欠損した四肢には漆黒風……黒き棒手裏剣が針の様に突き立ち、そこに紅閻が指先を突き出している。
 降り注ぐ漆黒の酸の雨が、祥華の白き酸雨と重なり、その土を、骨の肉をグズグズと溶かし、跡形もなく其れを消し飛ばしていた。
 そこに……。
「……瞬!」
 祥華と共に奇襲で2体の人間モドキを屠った敬輔が叫ぶと同時に、大地に刀身が赤黒く光り輝く黒剣を突き立てる。
 続く敬輔の行動の意図を悟った瞬が、
「はい!」
 と応え、自らの周囲に110本の六花の杖の複製を作成。
「蒼さん、お手伝いをお願い出来ますか?」
「……神代より、語り継がれる、翠の花。……神城様、分かり、ました……」
 その赤と琥珀色の双眸の奥に、深き葛藤と答えを求めて彷徨い惑う光を宿しているのを横目にしながら。
 それでも雨に薫る金木犀を両手で握りしめ、その先端を大地に突きつけて法陣を描いていた蒼の応えに瞬が双眸を思わず細める。
 其処にある懊悩を肌で感じつつ、自分が何も答えを出すことの出来ぬ事に歯痒い思いを抱きながらも、瞬は周囲に展開した六花の杖に魔力を籠め。
 蒼もまた地面に描き出した陣術を、蛍袋の灯火から甘く切なく優しき橙火を落として維持しながら、雨に薫る金木犀を突きつけた。
 瞬の手にあるオリジナルの六花の杖と、110本の六花の杖の複製品と、蒼の純白の杖の先端の宝玉から無数の誘導弾が弾幕の如く放射。
 放射線状に撃ち出された100を優に越える魔力弾が、宙を舞う緋の憂い纏う幽世蝶の鱗粉を受けて、緋色の結界と化して敵を締め上げる。
 そこに……。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 敬輔が叫びと共に、赤黒く光り輝く刀身に纏った黒剣を擦過させていた大地から跳ね上げた。
 切り上げる様に跳ね上げると同時に、放たれた三日月型の斬撃の衝撃波が瞬と蒼によって編まれた結界と重なって鋭利なる焔の鉄条網を作り上げる。
 その焔の鉄条網が、暁音の光の波の後押しを受けて燃え、跡形もなく酸の雨で開かれた先の人間モドキ達を纏めて焼き尽くした。
「……大地へ……」
(「……どうか、あなた達の、眠りが、安らかで、あります、様に……」)
 焼き尽くされ、灰と化した彼等の姿を見送りながら、蒼が静かに人間モドキへと祈りを捧げる。
 その足元に、翡翠の花金凰花の花が中央に描かれた魔法陣が描き出され、風を生み出し月白の外套の裾を翻した。
 外套の下のスカートもまた、風を孕んで微かに裾が宙を舞うが、それよりも蒼の胸中の灯は千々に乱れていた。
(「ヒトは、平穏を、求める、ものの、筈、なのに……。如何して、死者達の、安寧を、妨げる、ことが、容易く、出来る、の、でしょうか……。ボクには、やはり、理解、しきれ、ません……」)
 その迷いと死者達の安寧なる眠りを祈るヒトとしての心が、花金凰花……ラナンキュラスの翡翠ノ色をより一層際立たせる。
 ――それでも。
(「……ボクには、理解、しきれ、なくとも……」)
 赦せぬものを、赦し、それを見過ごすことが出来る程、自分はもう、他者に無関心ではいられない。
 それではあの人達……自らの本体、氷晶石と琥珀のブローチを作り、命を吹き込んでくれた『主』達に申し訳が立たないから。
 何よりも……そんな自分を、1人の『モノ』である自分は、赦せないから。
 ――だから。
「――無限の如く、咲き誇れ」
 その呟きと、共に。
 灯火によって維持されていた花金凰花の描かれた翡翠ノ魔法陣が空中へと浮かび上がる。
 浮かび上がった法陣の中央に、雨に薫る金木犀を突きつけると……。
 ――轟、轟々。
 翡翠ノ花金凰花の花吹雪が嵐の様に咲き誇り……葵桜の呼び出した桜吹雪と混ざり合って強大な花吹雪の嵐と化した。
 狂乱の花吹雪による暴風が、その力の封印と浄化の祈りの籠められた花吹雪が、金鎖に縛られた人間モドキ達を打ち据えていく。
 更に戦場に咲乱れた翡翠ノ花金凰花が光輝の風を伴い、祝福を齎し、蒼自身と陽太達の体を更なる高みへと歩ませていた。
「……てめぇらに1つ、教えてやるぜ……!」
 蒼と、暁音の援護を受けながら。
 灰色の梟、ストラスによる闇黒の霧を広範囲に拡散させ、人間モドキ達の視界を奪った陽太が、低い声音で叩き付ける様に叫ぶ。
 暗闇を掻き切る一条の光の如く奔った淡紅のアリスグレイヴが人間モドキの腸の様な形をした部位を貫きその内側から引き裂いて。
 そこにネリッサが解き放った炎の精達と、響が継続して点火させていた情熱の炎が焼き尽くしていく様を見送りながら続けた。
『何をだ!?』
「……その技法を研究していた男の目的は、我が子を蘇らすためだった。ただ、その願いのためだけに、その技法を作ろうとしたんだ」
 黄泉がえりそのものが、外法だと言われれば確かにその通りだろう。
 だが、あの時、『彼』は……雅人の関係者でもある『柊』は。
「少なくとも、軍事目的のために、其れを使おうとしていたんじゃねぇ……! あいつは只、自分にとって大切な者達を守る為だけに其れを作ることを願ったんだ! しかも、今はその罪を認め、償うためにこの技法の研究を捨て、新しい道を進もうとしている……! てめぇらみたいな自分達の得手勝手の為に、この技法で仲間の遺体や影朧を使役するつもりなんぞ、はなから無かったんだよ……!」
「陽太さん……ええ、そうね。柊さんは、私利私欲と言ってしまえば其れまでだけれど……でも、少なくともこんな事の為に、あれを作ろうとしたわけじゃなかったわ」
 陽太の怒りの奔流を見て取った姫桜が、その真紅の瞳から血の涙を零しながら陽太のその言の葉に頷きを一つ。
 そのままヴァンパイアの膂力を使って肉薄し、陽太の伸長した濃紺のアリスランスに貫かれその身を悶えさせる人間モドキにschwarzを突き出し、その傷口を抉る。
 トドメとばかりにWeißで敵を串刺しにしても尚、自らの腕に嵌め込まれた桜鏡……銀の腕輪に嵌め込まれた玻璃鏡は漣すら立てていない。
 エミリロットのミントの香りによって多少緩和されても、染みついても可笑しくない程の死臭に嘔吐く位が、当然の筈なのに。
 そう……あの、結社員達の女性の様に。
 でも……そんな死臭のあまりの苦しさに嘔吐く程に脆い心の持ち主達が、覚悟の定まらない者達が、この哀れな影朧達を生み出したのだ。
 ――全ては、自分達の……。
「貴様達の……エゴのために!」
 姫桜の想いを先読みしたかの様に怒声を叩き付ける敬輔の声。
 その声に深く同意する様に、桜鏡に嵌め込まれた玻璃鏡が淡く波打つその間に。
 姫桜の脳裏を過ぎったのは、『ややこ島』で泥人形と化した島の人々と戦った時の記憶。
(「それまで私は、猟兵としての覚悟も半端なままで、戦っていた」)
 その自らの心の動揺は……嬰児をその腹に抱く媛宮との戦いの折に顕著だった。
 嬰児を抱えたあのオブリビオンの媛宮を、姫桜は二槍で貫くことが出来なかった。
 でも――『ややこ島』の泥人形達との戦いの、時。
(「あの時私は『覚悟』を決めた。そのせい……なのかしら」)
 今は、動く。
 自分の胸中に波立つ漣と千々に乱れる様々な想い……数多の情にほだされながらも、こうして目前の人間モドキと対峙している。
(「これは、良い意味でも、悪い意味でも……私が猟兵になってしまったと……そう言うべき、なのよね」)
 ポツリ、と思わず苦笑が漏れる。
 ヴァンパイア化の代償故に、口から溢れる、赤黒い液体が零れ落ちて服にシミが広がるにも関わらず、苦笑がどうにも抑えられない。
 足元を濡らす血で転んでも可笑しくない筈なのに、不思議な程に姫桜は立ち続けられている。
 だから、姫桜は憐憫と後悔と贖罪の念をその身に抱きながらも尚……その二槍を風車の様に回転させた。
 吹き荒れる様に大気を切った白と黒の槍が生み出した風圧が、槍の刃先型の風と化して纏めて人モドキ達を貫いていく。
「……ごめんなさい、死んでしまった後まで巻き込んでしまって。もし、あなた達に恨み言があるならば、とことんまで付き合ってあげる……!」
「姫ちゃん……!」
 その姫桜の、親友の人モドキ達への呼びかけに。
 地面に零れ落ちた親友の血液の量に何処か心配を示しつつ、葵桜が素早く桜舞扇を振るって呼び出した風で人モドキを薙ぎ払う。
 そのままベチャリ、と綺麗にしたばかりのブーツで自らの血溜まりを踏み抜きながら、姫桜が叫んだ。
「痛いし、苦しいと思うけれど、直ぐに私達が解放するわ。だから、もう少しだけ、頑張って……!」
 祈りの様に籠められたその叫びを搔き消す様に。
『アハはハハハハハハハハハハハハハッ!』
 嘲笑を浮かべて見る者が嫌悪を覚えずには居られない奇怪な動きを伴った回し蹴りを解き放つ人モドキ。
 けれども、その攻撃が、姫桜に届くよりも先に。
「白梟! 雅人を守る、姫桜を守れ!」
 紅閻の呼びかけに応じた空中を飛翔していた白梟が突進して、その鉤爪でその足を抉る様に切り裂いて。
「……させませんよ」
 灯璃の無音フルオートライフルの引金が引かれ、人モドキが撃ち抜かれた。


「よし……漸く掴めました……!」
 この地を巡る龍脈の流れ。
 大地の力と人骨を融合させた影響で生じていた地に流れる歪ん龍脈を避けながら。  
 ウィリアムが漸く、目的の場所に龍脈の力の移動に成功させた。
 その龍脈の流れは、その場で地に伏せて嘔吐き、或いは喘ぎ、時に怒声や罵声を自分達にくれている結社員達に向けられている。
 その龍脈の流れの微妙な変化に気がついたか、それとも偶然か。
 ウィリアムに向けて人間モドキの1人が眼窩を輝かせて真っ直ぐに突進してきた。
「ウィリアムさん、下がって下さい!」
 気がついた義透の声が間一髪間に合い、ウィリアムが咄嗟にバックステップ。
 猪突してきた人間モドキの攻撃を躱し、呪詛で締め上げられたその人間モドキを返す刃の如く投擲した漆黒風で射貫く義透を一瞥する。
「すみません、助かりました、義透さん。とは言え……完全無傷での捕縛は、中々難しそうですね」
 全員がその目的を持って行動していれば、或いは、この任務は完遂することが出来たかも知れない。
 けれどもこの短期間で、其処まで完全な意思統一を行う事は誰にとっても難しい。
 その事実を、一体誰が責めることが出来ようか。
(「ですが、このまま見逃すわけにも行きませんし……!」)
 そうウィリアムが思った、その矢先。
「灯璃さん、支援攻撃をお願いします」
「Yes、マム」
 ネリッサが隣で援護射撃を行い続けていた灯璃に短い指示を出し、灯璃もまた、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"のスコープから戦況を覗き込みながらそう頷き返す。
 それにネリッサが素早く頷きを返した、正にその時。
「出来ることならば、此処で竜胆さん達からの報告が上がるのを待つべきだったが……流石にこれ以上、其の労を惜しんでいる暇はないか……!」
 其れまで後方で戦局を監視し続けていた美雪が小さく呻く。
(「最も、黄泉がえりの秘法の情報が流出する有力なラインなど、2つしか考えられないがな……!」)
 そうやむを得ず見切りを付けた美雪が、グリモア・ムジカに手を滑らせ、素早くとある音楽の譜面を展開。
 それは、新しき世界が見つかったその時にグリモア・ムジカに刻み込まれた新たな譜面。
 即ち……。
「――♪ ――♪ ――♪」
 ――極光に包まれしトッカータ(トッカータ・オブ・オーロラスタイル)
 それは……諦めない意志を称賛し、貫くことを願う歌。
 そうして……共に戦う仲間達を鼓舞する温かな七色のオーロラ風を吹き荒れさせる癒しと追風を巻き起こす歌。
 その歌声と追風が、戦場全体に鳴り響いた、その瞬間。
「……フォーマルハウトに住みし荒れ狂う火炎の王、その使いたる炎の精を我に与えよ!」
 ネリッサが自分でも驚く程に滑らかな口調で呪の詠唱を完了させ、人間モドキの次の一手、或いは結社員達が逃げ出すよりも先んじて行動を開始。
 美雪の歌声とネリッサの詠唱で、戦場に生まれ落ちていた100体の炎の精達が2倍に増殖、手当たり次第に人間モドキに突進。
 そのまま人間モドキ達を取り囲む様に其の周囲を満たしたのを認めた灯璃が、パチン、とすかさず指を鳴らす。
「……Was nicht ist, kann noch werden.」
 其の詠唱と、共に。
 灯璃が生み落としたのは、スリットのある大火ベトンの壁と火炎放射器。
 其れは美雪の歌声と、暁音の光の波、そして蒼の翠ノ花金鳳花の園によって何重にも強化された……。
「餃子が焼かれるその時の様に、熱く強く燃え上がれ、ボクの龍炎……餃子を皿に返すが如く……浄化せよ、その魂を!」
 エミリロットの緋色の龍炎と、ミントのオーラの乱気流を纏った麺棒の一撃と。
「オラオラオラオラオラオラ! 何時迄もちんたらやってんじゃねぇぞ!」
 薬莢を飛ばしながら、UKM-2000Pで弾幕を張るミハイルに追い立てられた人間モドキ達を包囲する。
 耐火ベトンで生成された模造品の壁が、炎の精達と共に、人間モドキを余すことなく捕らえ、そこに続けざまに上空から降り注ぐ火炎放射器。
 その銃口から吐き出された火炎が、胸の悪くなる様な絶叫と共に人間モドキ達を焼き尽くすのを耳にしながら、暁音が星具シュテルシアを構える。
 星具シュテルシアの先端に籠められた星の力が輝きを発し、星属性の閃光魔法を炸裂させて、辛うじて生き残った人間モドキ達の目を焼いて。
「ほぅら、ほら、一欠片も余すことなく焼き尽くされてしまえば良いんだよ♪」
 嘲笑する様な、からかう様な笑い声と共に姿を現したクラウンに応じる様に、楽団人形達が喇叭を鳴らし。
 それに応じる様にからくり人形達が、先程よりも一トーン高い声で笑い声を上げて暁音の閃光に怯んだ人間モドキを八つ裂きにし。
 ――お兄ちゃん。
「……ああ、分かっている! これは、人が生きていた証たる骨を影朧と無理矢理融合し、兵器として使役する、この結社員達の罪の証だ!」
『少女』達の声に押される様に応えを返した敬輔が、赤黒く光輝く黒剣の刃先から、幾度目かの斬撃の衝撃波を叩き付けた。
 炎を纏った斬撃波が、クラウンのからくり人形達のナイフに纏われた地獄の業火に怯む人間モドキ達を煤すら残さず、焼き尽くした。
『ぐっ……このままでは、我等が大望が……! 退け、退けお前達! 次の機会が来るその時まで、其の命を永らえるその為に……!』
 隊長の指示を聞いて、益々充満する死臭に動けなくなりかけていた結社員達の瞳に僅かに希望の光が差すが……。
「……極左派といえど、命は惜しい、と言う訳ですか。ですが……其の様な輩を此処で見逃すわけには参りません」
 ネリッサがその隙を見逃さず、まだ生き残っている数体の炎の精達を誘導し、彼等の逃げ道を防ぐ様に追い込んだその瞬間……。
「今度こそ、行きます……! Stone Hand!」
 再詠唱したウィリアムが『スプラッシュ』を地面に突き出し、龍脈の力をネリッサの炎の精に先回りされた結社員達の地面に誘導。
 其れと同時に、彼女等の足元に土色の魔法陣が描き出される。
 蒼の描き出した翡翠ノ花園の色が混ざり合った魔法陣が明滅し、瞬間大地から岩石で出来た大地の精霊の両腕が突き出された。
 突き出された両腕は、辛うじて人間モドキを呼び寄せ、自分の代わりに盾にした隊長を除いて結社員達を一網打尽にした。
 その人間モドキが纏めて大地の精霊の腕が掴みこんで捕らえた人々にその腕を向けようとするが……。
「やらせませんよ!」
 ウィリアムが滑る様に『スプラッシュ』を一閃、一塊の簡素な氷塊を作り、風を用いて其れを飛ばして人間モドキの愚行を止める。
 その瞬間……。
「あなたに怨みはありませんが……其の苦しみから解放されるためにも、どうかお休み下さい……!」
 祈る様に言の葉を紡いだ奏がシルフィード・セイバーを一閃した。
 横薙ぎに振るわれた風の精霊の力を纏ったその刃が大気を切り裂く鎌鼬を生み出して其の人間モドキを切り刻み……。
「今はとにかく、ゆっくりとお休み……」
 掲げていた手にブレイズフレイムを持った響が、その刃を唐竹割りに振り下ろし、其の体を欠片も残さず焼却していく。
 既に、その数が殆ど意味を成さなくなってきていた人間モドキ達だったが……。
「アソボうヨ! マダマダマダマダマダマダ……!」
 狂った様に笑い声を上げながら、隊長への行く手を遮る様に姿を現すのを認め、雅人が一度退魔刀を鞘に納めて深呼吸を一つ。
「……雅人」
 紅閻がその雅人の横顔に何かの決意を見て取ったか、気遣う様な口調で呼びかけるが、雅人は其れには応えない。
 そして其れは……。
「雅人、やっぱり一緒に、来てくれるんだな?」
 それまで『宵』による薙ぎ払いで援護攻撃を繰り返していた統哉もまた、同様だ。
「……うん、そうだね」
 統哉の其の言の葉に、小さく首肯する雅人の瞳に宿る静かな覚悟を見て取って、統哉が静かに首肯を返す。
 そしてそれは、姫桜や葵桜も同様だった。
 残された残敵の数を見たミハイルが、一段落と言う様に懐から取り出した煙草を口に咥えて熱波を利用して器用に火を付け、UKM-2000Pを構え直す。
 そして幾度目かの再装填を先程と同じ筈なのに、異様に速い速度で行い、其の引金を引いた。
「おい、雅人、文月、彩瑠、榎木、朱雀門、神宮時。あの隊長クラスをブチ殺すなり、とっ捕まえるなりの惜しいところはくれてやる。とっとと、黒幕を引きずり出すために用事をすませてこいや」
 道を切り開き、投げる様に紡ぐミハイルの、其の言の葉に。
「……ミハイル様……?!」
 微かに驚いた様に赤と琥珀色の双眸を見開く蒼。
(「……ボクまで、如何して……?」)
 其の疑問について、蒼が誰かに尋ねるよりも、先に。
「……ありがとうございます、ミハイルさん」
 雅人が軽く礼を告げ。
 納刀した退魔刀の柄に手を乗せて、一気に戦場を駆け抜けるべく前傾姿勢に。
 その雅人に続く様に。
 統哉、姫桜、葵桜、瑠香の4人がほぼ同時に走り出し、其れを追う様に慌てて蒼が追随する。
 蒼達の行く手を遮らんと人間モドキが攻撃を加えようとするが。
「おっと、そいつらの邪魔はさせねぇぜ?」
 煙草を噛み砕く様にして鮫の様に笑ったミハイルがUKM-2000Pの引金を引き、雅人達を妨害しようとする人間モドキ達を撃ち抜いていく。
 堪らず、統哉達からミハイル達へとターゲットを切り替えた人間モドキ達が攻撃を仕掛けてくる直前に。
「革命で戦いとなった時、犠牲になるのは、あなた達を作り出した、罪なき者達である事……知らないんですかね?」
 微かに冷静な口調で呟きながら、今までに封じてきた呪詛の残りを解放し、人間モドキを義透が締め上げ。
「……おっと、邪魔はさせやしねぇぜ……ストラス!」
 陽太がストラスに闇黒を呼び起こさせて人間モドキ達の視界を奪うと同時に、二槍を突き立て、薙ぎ払って彼等を一掃。
 義透の……四悪霊達の呪詛に縛られた人間モドキ達は、まともに戦えるだけの生命力を失いながらも。
「こんな悲劇、何度も繰り返させないためにも、今は安らかに眠って!」
 陽太の事を襲おうとした人間モドキに自らの健脚で大地を蹴って空中から飛び込む様に滑空したエミリロットが麺棒に纏ったミントの炎で浄化して。
「あの隊長格については、雅人さん達に任せるべきなのでしょうね」
 呟いた灯璃がエミリロットとミハイルが打ち漏らした相手をサイレンサー付きの"Schutzhund"で狙いを定めて撃ち抜くのに。
「そうですね、灯璃さん」
 同意したネリッサがG19C Gen.4の引金を引いて、残敵とも言うべき人間モドキ達を掃討している。
「……良いのでありんすか、天星」
 その様子を認めながら。
 白き雨で人間モドキ達を撃ち抜いていた祥華が星具シュテルシアを構え、光の波を放出し続ける暁音へと問いかける。
「……何が?」
 平坦に暁音が祥華に問うと、何、と祥華が冗談めかした様子で唇を歪めてみせた。
「援護に徹している筈のおぬしではあるが、どうにも一際強い殺気を奴等に向けて発していたからのう。おぬしは、雅人達が求める結末で構わぬと言うのかと、妾は聞いているのでありんすよ」
 祥華の其の問いかけに、暁音は軽く肩を竦めた。
「……誰かが彼等を捕らえるつもりだったなら、俺は俺の怒りを欲しいままに彼等にぶつける気なんて更々無かったよ。もっと相応の罰を与えることが出来るのは……多分、雅人達だろうから」
「ホッホッホ……では、そういうことにしておくでありんすかのう」
 鈴の鳴る様な笑声を上げる祥華に暁音が静かに頷くその間に。
 敬輔が斬撃の衝撃波で薙ぎ払った人間モドキ達をレーヴァテインで焼き払いながら、紅閻が奥へと気掛かりな視線を向けた。
(「白梟……任せた」)
 其の、紅閻の祈りを聞いていたかの様に。
「それじゃあ、此処のガラクタ達の解体パーティーも愈々クライマックスだね♪ レッツ、ラスト・ダンス!」
 クラウンが狂気の笑みでそう叫び、その声に応じたからくり人形達が、生き残っていた人間モドキ達を一気阿世に切り刻み地獄の炎で焼き尽くした。


『くっ……待ちなさいあなた達!』
 逃げようとしても大地の精霊の両腕に拘束されて逃げられず。
 ただウィリアムにされるが儘に拘束されているしかない結社員の1人が、隊長の向かった奥に向かって走り去ろうとする統哉達を呼び止めた。
「……何?」
 葵桜がその藍色の瞳を細めて問いかけると
『何故、お前達は帝都桜學府の狗になることを甘受していられる!? 只、この醜く歪な平和を、徒に享受した儘で居られるというの!? 彼等は、死した者達は、この仮初めの平和の中でどれ程の無念を抱いて死んでいったか……! 其の遺志を我々に継いで欲しいと如何して願わずには居られなかったのか、分からないというの!?』
 歯軋りをしながら彼女は鋭く糾弾と罵声の声を上げた。
 その結社員の糾弾に。
 プツリ、と自分の中で何かが切れる様な音がした気がした葵桜がふざけないで!! と大声で返した。
「何が、『どれ程の無念を抱いて』よ、何が、『其の遺志を我々に継いで欲しい』よ……! 勝手に此処の人達の想いを決めつけて、自分達の歪んだ想いで踏みつけて……そんなの冗談じゃない! 此処の人達の静かな眠りを妨げる……そんな事の何処に正義が、大義が、理想が、遺志があるんだよ!!」
 怒りの儘に言の葉を叩き付ける葵桜の其れに、結社員が思わず怯んだ表情になり。
「あお……」
 姫桜が怒りに顔を真っ赤にした葵桜の様子に微かに目を見張らせながら呼びかけるが、大丈夫、と言う様に葵桜は頭を横に振った。
 思わず怯んだ表情になった結社員へと、統哉もまた、一瞥を叩き付ける。
「お前達の言う事にも、ある意味では一理あるんだ。正義に本物も偽物もない。長く続く平穏に、お前達の様に疑問を持つ者がいるのも当然だろう、と俺は思う」
『では……!』
 怯んだ表情を見せていた結社員が思わず相好を崩すのに、統哉がけれども、とキッパリと切り捨てる様に告げた。
「お前達は、あの死者達を同志と呼んだ。けれども実際にお前達は、お前達が蘇らせた彼等を……影朧達を利用し、見捨てようとした。ただ……自分達が生き残る為に」
 一息にそこまで告げたところで。
 軽く深く息を吸った統哉が、そのまま淡々と言の葉を続けた。
「彼等の死者達の尊厳を踏み躙り、兵器として使い捨てる様なお前達の何処に正義がある? いや……そんな正義、俺には、絶対に認められない」
『……っ! 大義の前には、時に……っ!』
 ――犠牲が必要なのだ。
 そう言おうとした結社員の様子を見て、統哉が鋭く目を細めた。
「……革命、大義のためには犠牲が必要? その為の影朧達? その為に……死した人々の魂の尊厳を踏み躙る? そんな矛盾した正義がお前達の正義だというのなら、其れを全力で止める事こそ、俺達の正義だよ。この気持ちは、ずっと変わっていない。変えられない、ものだから」
『……っ!』
 それ以上の、言の葉をぶつけることも出来ず。
 ウィリアムに拘束されたまま黙りこくる結社員を捨て置いて、統哉達は先を急ぐ。
「……これが」
 先を急ぎながら……統哉や葵桜と結社員達の応酬を聞いた蒼が、赤と琥珀色の双眸を落ち着き無く宙に彷徨わせた。
「蒼さん?」
 その蒼の茫洋とした表情を気遣う様に。
 その瞳から血の涙を流しながらの姫桜の呼びかけに、微かに惑う様な表情を見せた蒼が目を逸らす。
「……彩瑠様、ボクには、分かり、ません……。……人間とは、ヒトとは、如何して、この様な、争いを、生み出す、ことが、出来る、の、でしょうか……? 文月様、いえ、皆様の、様に、死者の、安寧を、妨げる、ことを、赦せぬ、と、憤る、事の出来る、優しき、皆様も、いらっしゃる、と、言うのに、です……」
「……蒼さん」
 本当に訳が分からない、と言う表情を浮かべる蒼の、迷いの籠められた告白に。
 姫桜が一瞬、言葉を失うと、瑠香がそれを引き取り、それが、と言葉を紡いだ。
「それが、ヒトの心なのです。いいえ、人だけではありません。私達其々の心もまた、未熟で、何が答えで、何が間違っているのか、その本当の理由を見つけ出していることが、出来ているとは思いません」
「……朱雀門様……」
 瑠香の静かな述懐に、蒼が赤と琥珀色の光を称えた双眸を其方へと向ける。
「あの時、あなたは自分が物だと言いました。あの、お祭りの時の事です」
「……はい。そう、ですね」
 思わぬ所からの話の切り出し方に蒼が反射的に釣られる様な好奇の光を称えた双眸を、瑠香へと向ける。
 瑠香がそれに頷きながら、ですが、と蒼に小さく続けた。
「蒼さん、今のあなたは、何ですか?」
 その、瑠香の問いかけに。
「……ボク、ですか? 今の、ボクは……」
 自分でも不思議な程にスッキリとした表情でそっと自分の胸を、心の灯が灯る其処を押さえながら、蒼が答えた。
「ボクは、モノ、です。ヒトでもなく、物でも無い、1人のモノです……!」
 その蒼の強い語調につまり、と瑠香が頷いている。
「今のあなたは心を持ち、自ら考え、行動に移すことが出来る、私達と同じ存在なのでしょう? ならば、其の答えを今すぐに出す必要は無いのでは無いでしょうか?」
「……朱雀門様……そう、かも、知れま、せんね」
 呟く瑠香の其の言の葉に、静かに頷きを返す蒼。 
 そうした問答をする間にも最後の人間モドキが此方に気がつき、雅人達を襲わんと襲ってくる。
 ――それはまるで、其の会話の時が終わるのを待っていたかの様な……バッチリとした、タイミング。
 其のタイミングに合わせる様に。
「……もう少しだけ、お節介をさせて貰いますよ」
 遠くから摺足で風の様に此方を尾行していた義透が、四悪霊達が蓄えてきていた呪詛を解放。
 放たれた呪詛と、暁音の光鎖に締め上げられ、其の体をゆっくりと動かす人間モドキ達に、白梟が空中から白きブレスを吹き付ける。
『アアアアアアアアアアッ!』
 紅閻の使い魔、白梟に吹き付けられた白炎のブレスに絶叫する人間モドキ達。
 既に朽ち果て傷だらけになりつつある彼等を。
「……ごめんなさい。本当にごめんなさい。どうか、どうか安らかに……!」
 自らの血涙が収束し、深紅の輝きが混ざり合った白と黒の二槍を旋回させ、白と黒と赤の混ざった刺突の風で姫桜が貫き。
「もう大丈夫! 私達が、あなた達を眠らせてあげるからっ!」
 舞い続ける事で削り取られていく寿命を現すかの様に桜舞扇の桜の花弁がしなびていくのを見ながら、桜吹雪を吹き荒れさせる葵桜。
 吹き荒れる桜吹雪と共に、蒼が、地面に咲いた花金凰花ノ花弁を風に舞わせて弾幕とする。
 浄化の祈りの籠められた翡翠ノ花弁の弾幕と桜吹雪が最後の舞を舞い……雅人を庇う姫桜を襲おうとした人間モドキ達を浄化させ。
「この数ならば……!」
 誓いと浄化の祈りの籠められた物干し竿・村正で大気を切り裂いた瑠香が、真空の衝撃波で人間モドキ達を叩き斬っていた。
 後方からの義透の四悪霊の呪詛に生命力を奪われていた人間モドキ達が破魔の光に耐えきれず、グズグズと溶け始めていく。
 その様子を統哉が見て。
「……雅人、頼む。無理矢理影朧にされた彼等の魂を安らかに送るために、俺に力を貸してくれ!」
 その統哉の願いと祈りの籠められた漆黒の大鎌『宵』が、統哉の祈りに答える様に、その刃先に聖光の如き輝きを纏った時。
「ああ……そうだね、分かったよ、統哉さん」
 呟きと共に祈りを籠めて納刀していた退魔刀を抜刀、横一文字に一閃する雅人。
 其の雅人の一閃に、合わせる様に。
(「せめて……安らかに」)
 そう、深き願いと祈りの言の葉を籠めて。
 宵闇を切り裂く聖光の一閃を、『宵』の刃先から統哉が解放した。
 解放された願いと祈りは、人間モドキ達の邪心を……人々を殺すことに喜びを見出すその心を断ち切られて……。
「ア……あ……」
 呻くような呟きと共に。
 光と化して、消え去っていく。
 その時、暁音の共苦の痛みは、一瞬の凄まじい痛みを暁音に与えたが、直ぐに其の痛みは沈静化していっていた。
 ――全ての魂を、とまでは行かなかったけれども。
 それでも安らかな『死』……眠りを与えられる事を望んだ魂達の一部は、母なる海に抱かれ、安らかな眠りへと還っていくことが出来たのだ。
 其の事実を直感的に理解して、心の何処かで安堵の息を漏らした統哉達。
 彼等の目前には、人間モドキ達を生み出した、あの隊長が信じられないという表情になって雅人達を見つめていた。
『……馬鹿なっ! お前達は、1人残らず滅ぼしたというのか……?! 我が同胞たる影朧達を……!』
 その隊長の、呼びかけに。
「……同胞? 兵器の間違いじゃないのか?」
 珍しく憤った口調で統哉が鋭く突き刺す様に問いかけると、隊長が微かに怯んだ表情を見せた。
『ちっ……あの役立たず共め! 我等が革命を成す事すら出来ず……帝都桜學府の狗共を1人も滅ぼす事さえ出来なんだが……! くそっ……!』
 鋭い舌打ちと共に、雅人達に滲み寄られていく隊長。
 最早此まで、と玉砕の覚悟を抱き、腰のサーベルに彼が手を触れた、正にその時。
『……此処までの様だな。だが……お前達の好きにはさせぬぞ、超弩級戦力、及び帝都桜學府の狗……我が敬愛する紫陽花閣下を殺した者達よ』
 深い憎悪と憤怒の籠った声が、姫桜達の耳に、雷の様に轟いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『黯党戦闘部隊『深闇』将校』

POW   :    凸式戦闘術
【闘気を纏った】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【同胞】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    死霊術式戦闘術
【銃剣】で武装した【同胞】の幽霊をレベル×5体乗せた【装甲車】を召喚する。
WIZ   :    「貴公らはこの欺瞞を棄ておくのか!」
対象への質問と共に、【冥府】から【亡き同胞】を召喚する。満足な答えを得るまで、亡き同胞は対象を【生前の得物】で攻撃する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は国栖ヶ谷・鈴鹿です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「そうか。この事件の元凶は貴方だったのですね……花蘇芳(ハナズオウ)殿」
 その顔を、雅人は知っていたのであろうか。
 目前に現れた男へと雅人が問いかけると、狗が、と明らかな侮蔑の眼差しを雅人へと花蘇芳は向けて見せた。
『貴様は、未だあの帝都桜學府に肩入れしているのか。あの御方……紫陽花閣下の死を隠匿し、全てを無かった事にした、あの帝都桜學府に』
 その花蘇芳の言の葉に。
 雅人は微かに表情を青ざめさせながらも、尚、ええ、と頷きを一つ。
「それが僕の選んだ道です。そもそも紫陽花さんの事件は、僕や柊さんにも縁深き事件。あの事件以降、行方を眩ましていた貴方は、仏蘭西に亡命していたのですね」
 確認する様に問いかける雅人の其れに、その通りだ、と花蘇芳が応える。
 骨太な外見を持った其の男の全身からは、生気と思しきものが失われていたが、その瞳に宿る憎悪は、其れを補いあまりあった。
『あの御方は将の中の将であり、漢と呼ぶに相応しい者であった。だが、あの御方はお前達帝都桜學府の狗共の策略によって殺された。だから私は、あの御方の志を引き継ぐために、此処にいる』
「……紫陽花さんの遺志を継ぐ……?」
 その一言に思わず怪訝そうな表情を浮かべ。
 抜刀していた退魔刀を納刀し眉を顰めた雅人に、その通りだ! と大仰に手を開いて花蘇芳が叫んだ。
『そうだ! あの御方は世界の革命を……血と硝煙に塗れた闘争の果ての人々の更なる進化を望んでいた! だからこそ、当時未完であったこの人為的に影朧を生み出すグラッジ弾の改良型……黄泉がえりの秘法たるグラッジパウダーを私に遺したのだ!!!!!』
 哄笑と、凄まじい笑声と共に。
 大仰に叫び、其の両手を広げて止まらぬ笑いを繰り返す花蘇芳に雅人が馬鹿な、と小さく呻いている。
「紫陽花さんが、そのグラッジパウダーの試作品を作れたとは思えない……。いや、仮に作っていたとしても、それは、黄泉がえりとは異なるおぞましい別の何かであろう! 其れが分からぬ程紫陽花さんが耄碌していたとは僕には到底思えない……!」
『何とでも吼えるが良い、愚かなる帝都桜學府の狗共よ! 我等はあの御方の……紫陽花閣下の遺志を継ぐ! 其の遺志を継ぎ、幻朧戦線に所属しながらも尚、あの御方が成し遂げることの出来なかった偉業……革命を成し遂げ、人を次の段階へと進化させる! 其の進化の先にある帝と同じ不老不死の命こそ……我等の進化の究極の果てにあるものだ!』
 そう花蘇芳が叫ぶと、ほぼ同時に。
『おお……閣下! 花蘇芳閣下!』
 虜囚の身となった『黯党』の結社員達が、花蘇芳に感涙と感激の涙を流し、其れを捧げた。
『我等の革命に栄光あれ! 帝都による偽りの平和に災厄あれ! 今こそ私は人を越え、不老不死たる命となる! ……このカタコンプ・ド・巴里の地に眠る、我が同胞達と共に、偽りの安寧を破壊するその為に!』
 怒号の様な雄叫びと共に。
 広げていた其の手に何時の間にか握りしめられていた一本の注射器を、花蘇芳は躊躇無く自らの右腕に突き立てた。
 そこに封入されていた液状の何かが花蘇芳の全身を駆け巡り、其の身から白き骨が生え、鋭いサーベルを抜剣し、身構える。
 その全身から噴き出すのは全てを闇へと送り込む『穢れ』とでも呼ぶべき『深闇』
『さぁ、帝都桜學府の狗共よ! 我等が真の主、紫陽花閣下のため、そしてこの世界の新たな秩序の誕生のための最初の贄となるが良い! その時こそ……我等が革命の第一歩の始まりだ!』
 花蘇芳のその叫びに応じる様に。
『ジーク花蘇芳! ジーク花蘇芳!』
『黯党』の結社員達の熱に浮かされた熱狂的な叫びが戦場に響き渡り、其れをその身に受けた花蘇芳が、その手のサーベルを鈍色の銀に光らせた。

 *第3章のルールは下記となります。
 1.第2章の判定の結果『黯党』の結社員達を捕縛することに成功しました。
 しかし、花蘇芳のカリスマはどうやら結社員達を熱狂的に奮い立たせた様です。この結果、花蘇芳は絶対先制として、POWのユーベルコードを使用してきます。
 このPOWのユーベルコードによる先制攻撃は、どの属性のユーベルコードを使用しても自動的に適用されます。
 何らかの対策を講じることでプレイングボーナスとなります。
 2.第3章にも雅人は引き続き登場致します。雅人については下記ルールが適用されます。
 a.この場から撤退することはありません。
 b.基本的に猟兵達の指示には従います。
 c.自衛能力は持っているので無理に庇う必要はありません。
 d.フォローする場合はプレイングボーナスとなります。
 e.雅人が現在活性化させているユーベルコヲドは、『剣刃一閃』です。他に『強制改心刀』も所持していますが、此方は猟兵の指示が無い限り使用しません。
 f.雅人は花蘇芳の事を知っています。その為、彼から多少何らかの事情を聞く事が出来るかも知れません。
 3.結社員達は、戦いに巻き込まれて死亡する可能性はあります。
 しかし、彼等の生死は問いません。

 ――それでは、良き戦いを。
ウィリアム・バークリー
く、先手を取ってきますか!
「全力魔法」で「オーラ防御」を張って、氷の「属性攻撃」で作った盾で「盾受け」。これで受け切れれば。

紫陽花さんは、不器用な方でした。手のひらからこぼれ落ちていくものを何一つ失わせまいと、情に任せて『黄泉還り』を求めていた。
だからといって、正しい戦争で不正義の平和を打ち壊す事を認めるわけには行きません。

ほとんどの人は、とても弱い。異世界を見てきたからこそ言えることです。偽りの平和だろうと、そうした弱者は安寧の中でしか生きられない。
花蘇芳さん、多くの人たちはぼくたちやあなたたちのように強くないんです。革命を起こしたら、真っ先に犠牲になるのはそういう弱者ですよ。

一刀一閃、斬!


天星・暁音
俺には人の不老不死そのもを否定することは出来ないけれど…
それが進化かどうかと言われるなら俺は否定するよ
まあ、それよりも何よりもだ
革命だの意志を継ぐだのお題目で人を影朧にするという行為をした時点で、そこに俺が認める義はどこにもないんだよ
紫陽花さんだろうと貴方だろうとね
何かを為すには犠牲が必要…それは確かに仕方ないの事だ…
それでもしてはならない事というのはあるんだよ


先制攻撃は横に飛び退くことで回避し可能であれば銃撃等で反撃を試みます
味方の回復をし隙があれば積極的に攻撃しながら味方の攻撃行動の支援を行います
可能であれば戦闘後に、輝く星での浄化と墓地の修復を


アドリブ共闘歓迎
スキルUCアイテムご自由に


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

ふうん、紫陽花の意志を継ぐとか言うか。人の生の尊厳を平気で踏みにじる奴は許さない。ある意味カリスマのある輩は厄介だねえ。

んん、連携した突進が厄介だねえ。何とかするか。【戦闘知識】で動きをよんで【怪力】【気合い】で敵をしっかり受け止め、【重量攻撃】で力任せに押し返す。無敵の相棒で夫の力も借りてそのまま押し切るか。更に【範囲攻撃】【衝撃波】を【追撃】で放ってダメ押し。敵の攻撃は【オーラ防御】【見切り】【残像】で対処。

紫陽花の最後は色々思うところあったが、少なくともこんな事を望んていないはずだ。意志を継ぎたい気持ちは分かるんだが、どこで間違ったんだろうね。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携)

紫陽花さんの最後は多くの思いと痛みを齎すものでした。道を間違えてしまいましたが敬意を抱かせる覚悟と強さを感じさせました。今回の用な人が出るも納得できますが。歪んでますね。


連携が手強い。【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】でしっかり受け止め、【怪力】【シールドバッシュ】で押し返し。追撃で襲って来る装甲者は【衝撃波】と彗星の一撃で対処。

事情を抱えてるように見受けられる紫陽花さんですから裏の方にも繋がりがあるのでしょう。でも人の尊厳を汚すような行為はあの方の本意ではない。多くの無念の死者の為に覚悟を持って戦った方ですから。


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

あの時の紫陽花さんの覚悟と言葉を思いかえします。あの方の人を動かす力が悪い形で歪んで出てしまったのですね・・・納得いかないのは分かるんですが。

まずは連携からの攻撃の対処ですか。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【吹き飛ばし】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して展開。同胞達の動きを拘束して連携を阻止。襲って来る装甲車の群れは風花の舞で迎撃した上で【追撃】で【衝撃波】【吹き飛ばし】でダメ押し。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。

人の尊厳の犠牲の果ての革命は紫陽花さんは望まないはず。歪んだ信念の果てはどうなるんでしょうね?


吉柳・祥華
心情
あの時
あやつはなんて言うておったか…のお?
弔い
と云うておった

ふむ
弔いの為に修羅の道を選んだぁ奴が…誰かに遺志を託すものだろうか?


『神凪』は最初は結社員どもに対して
念動力+存在感+威圧+恐怖を与えつつ浄化による精神攻撃

『識神』は妾達のフォローじゃな
援護射撃+レーザー射撃+威嚇射撃

オーラ―防御+結界術と倶利伽羅による守りを固め
薬品調合によるドーピング⇒バーサーク

功夫+残像+軽業による風華月を投擲し捕縛し
白刃刀にて解体+切断、斬撃波+貫通攻撃
仕上げに神罰を下す

あとは霊符を範囲攻撃で放ち
霊符に封じてある鬼神の封印を解く+召喚術+降霊+式神使い
で仮初の姿を得た“朱霞露焔”による浄化+爆撃+焼却かのう


白夜・紅閻
(明らかに人でない気配…だな。紫陽花は一応『人』であったと思うが)

あんた…『人』を棄てたのか?
あいつは、紫陽花は…人(理性)は残っていたぞ?

不老不死?
あいつは、そんなこと望んじゃいなかったぜ?
なら、託されたあんたは何故
あいつをソレで黄泉がえりしなかった?


守りはオーラ―防御と結界術
今回は篁臥を雅人のフォロー
場合によっては雅人を背に乗せて行動力を補う
戦い慣れているとはいえ、雅人は一般人だ

白梟は俺たちのサポートだ
上空からの援護射撃や翼での衝撃波、ブレス攻撃等


レーヴァテイン=☆
イザーク=★

☆による斬撃波+貫通攻撃
★重量攻撃+爆撃+蹂躙

残像+フェイント+だまし討ち
また、念動力+吹き飛ばし+体勢を崩すなど


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

アドリブ・他者とと絡み歓迎

やれやれ、大抵この手のヤツらは、絶対に自分達は正しい、自分達のやるコトに間違いはない、とほざきやがる。ここまでくると、革命云々はオマケで、最早狂信者だな。
そこまで革命革命騒ぎ立てるんなら、その革命と一緒にまとめて葬ってやる。

UCを使って弾幕射撃を展開して味方を援護。どうやら結社員達を黙らせた方がいいらしいが…最悪、全員射殺しちまうのも手だな。別に俺がやってもいいし。まぁもっとも、他の連中に止められるだろうがな。

ったく、紫陽花はな、敵とはいえ最後まで己の信念を貫いた。その点は評価してるんだ、俺は。手前らなんかと一緒にするんじゃねぇぞ、屑野郎が。


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で連携

先ずは刀を構え迎撃姿勢を見せて自身を囮に突進を誘導、敵の動きを(見切り)つつUC:ウロボロスアーセナルを使用し閃光手榴弾と機動阻止システム剤充填手榴弾を作成
閃光弾を投擲し囮にして注意を引きつつ機動阻止剤を投げ
敵の足元周囲に爆破散布。地面を滑りやすくさせ突進妨害し
尚且つ注意を引く事で味方が攻撃を仕掛けるのを支援(罠使い)

更に捕縛中結社員に対しても上記UCで
無力化ガス手榴弾を作成投擲し連携を断つ様に図る

敵先制を凌いだら回避・動き回りつつ敵の足を殺すよう狙撃(スナイパー)し装甲車召喚同胞を出し始めたら指定UCで狼達を召喚し黒霧で連携を攪乱しつつ確実に排除するよう戦う

アドリブ歓迎


エミリロット・エカルネージュ
独りよがりが過ぎる気がするけど、真偽はどうあれ、こう言うのがカリスマを持つとさっきの人達が暴走も解るかも。

●POW:UC対策
【棒餃功筒】に『属性攻撃(鳥もち)&&覇気&オーラ防御』を込めた『範囲攻撃』『砲撃&弾幕』を展開し『念動力』で操作しながら『ジャストガート&盾受け&受け流し』

同時に『第六感』で『瞬間思考力&見切り』『空中戦&推力移動&空中機動』で『残像』回避しつつ『早業』UC発動

真の姿、エカルド(ヴァレーニキタイガー)に変身

『属性攻撃(冷気)』を込めた『グラップル&功夫』を【発勁、尻尾、健脚】の『早業』コンボを皆と『集団戦術&団体行動』で連携しつつ御見舞いを!

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動

この手のイデオロギーや宗教は大抵、最初の思想や教義から逸脱・曲解されて過激化が進む事がままあります。私のいた世界ではさして珍しい事ではありませんでしたし、恐らく彼らもその類でしょう。果たして彼らの有様を見て、紫陽花さんが草葉の陰でどう思うのやら。

ハンドガンで花蘇芳に応戦しつつ、UCを使用して結社員の周囲にある物を燃やし、文字通り煙に巻いて彼らの士気の阻害を試みます。まぁ上手くいったとしても、効果は限定的でしょうが。今後の情報収集を考慮して、結社員達は生存した状態での捕縛が望ましいですね。彼らから、何かしら新しい情報が入手できるかもしれませんから。

アドリブ歓迎


馬県・義透
引き続きのほほんがどこかにいった『疾き者』にて

狂信。それも紫陽花殿をいいように見ているような。
だが、ここで騒ぎを起こすと言うのならば…悪霊は手加減をしない。
突進してくると言うのならば、結界術にて防護を。一瞬だけ遅れさせればいい。
その一瞬で『馬県義透』という認識術式の封印を解除、一時的に四人とも穢れと一体化して回避。

まあ、ここに私たちを『馬県義透』と認識してくれる人がたくさんいるので、出来る芸当ですけどね。あまりやりたくないんですが。
再集結し『馬県義透』として漆黒風を投擲。

そうやって勝手に継いだ気になり、酔い、そして戻れなくなってしまっているのが、あなたたち。
墓を悪用するものよ、呪われよ。


神宮時・蒼
……ボクは、紫陽花様、という、方を、知りません、が…
…ボクですら、歪んでいると、そう感じる、程の、思念の、持ち主、だったの、でしょうか…
…ヒトとは、本当に、難しい…

【WIZ】
自らを異形へと変じてまで
そんなにも平和を憎む理由は、一体何なのでしょう

相手の数が増えるのは手数が増えるのと同じ
まずは【結界術】で防御を固めましょう
冥府からの死者は、【破魔】を込めた【弾幕】で牽制

例え、敵だろうと、死していい魂などありません
結社員に攻撃が向かうのであれば【斬撃波】で軌道を逸らします

いなく、なって、しまえば、其れで、終わって、しまいます、から
【全力魔法】【魔力溜め】で威力を高めた【雪花誓願ノ禱】を


文月・統哉
仲間と連携
捕虜達もオーラ防御
死なせない

武器受けと見せ残像のフェイント
突進回避しカウンター

弱者や影朧達の無念を汲む
成程重要な事
だがこんな方法で為せるとは思えない

無念は自ら影朧となる
世界を呪うも転生に希望を託すも各々の意思
静かに眠っていたならそれも彼らの選択だ
無理矢理怪物化し盾にして
意思も尊厳も踏み躙って何が同志か

紫陽花氏を動かした後悔と絶望
その根底には懸命に生き散っていった者達への敬意があった
彼を思えばこそこの手段は有り得ない

矛盾指摘しカリスマ剥がす

影朧の不死性に目が眩んだか?
させない
祈りの刃で斬り捕縛

不老不死を夢想する彼だからこそ
人として裁きを受けるべきと俺は思う

雅人はどう思う?
君は君の選択を


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
真の姿解放

…弱者が世界の変革を求めて戦う図式は
俺の世界の闇の救済者たちと似ている

だが、死者の意を踏み躙った者が革命と嘯いても
貴様らのエゴを強要しているにすぎない!
狂信者共々、ここで散れ!

UC対策
先制は突進を「見切り」つつ「殺気、属性攻撃(風)」を籠めた「衝撃波」を「早業」で撃ち出し足止め
死霊術式戦闘術も同様だが、属性攻撃は聖に変更

凌いだら指定UC発動
「ダッシュ」+高速移動で花蘇芳を撹乱
死角から「2回攻撃、怪力、属性攻撃(聖)」で腕を斬り飛ばしつつ
「衝撃波」で「吹き飛ばし」を狙う

俺は容赦なく花蘇芳を斬るが
ひとつだけ彼に問おう
其れは本当に紫陽花から受け取ったものか?


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

どうにも違和感が拭えぬ
柊さんが研究を諦めた事を知った紫陽花さんが
花蘇芳さんにグラッジパウダーを託すチャンスがあるとしたら
あの墓地の一件の直前くらいしかないのだが

闘争は進化を生むかもしれんが
それは完全破壊との究極の二択
無秩序な破壊を容認することなどできぬのだよ

雅人さんの知る花蘇芳さんは、もともとこういう方か?
もし何か知っていたら教えてほしい

先制対策として「拠点防御」で狙われた者を身を挺して庇いつつ
「歌唱、鼓舞、優しさ」+指定UCで皆を鼓舞しよう
…ほんとこれしかできないんだよな、私

隙を見て竜胆さんに連絡
内容は花蘇芳さんとグラッジパウダーのこと
…藪蛇をつつくかもしれんな


森宮・陽太
【POW】
アドリブ連携大歓迎
真の姿解放

花蘇芳が注射しやがったのはグラッジパウダーか?
てめえまで柊の…我が子を想った親の想いを踏み躙るのかよ

…花蘇芳の行動の引き金を引いたのは紫陽花の死だろう
だとしたら、俺らにはてめえを止める義務があるだろうな

花蘇芳、てめえはあらゆる罪を背負って前に進む覚悟があるか
踏み拉いた弱者の命を背負う覚悟があるか

ならば俺は
てめえを「敵」として止めてやる!

先制の突進は「第六感、見切り」で突進の軌道を察知し回避
凌いだら「高速詠唱、言いくるめ」+指定UCでフォルカロル召喚
花蘇芳の周囲に局地的な暴風を生み出し足止めを図りつつ
「闇に紛れる」よう背後に迫り「ランスチャージ、暗殺」を狙う


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と

真の姿(外見変わらず)を開放し、UC発動

基本は「亡き同胞」を蹴散らすことに専念
可能なら花蘇芳を一発ぶん殴る!

>花蘇芳
感情的になるのは負けなんだよ、ホントは
でも、私、貴方だけは許せない

紫陽花さんは、貴方の言うように、この世界のシステムの変革を望んだのかもしれない
でも、それは貴方みたいに、あの人なりにこの世界から大切な人達を失う悲しみをなくしたいって思ったからこそ
進化とか、不老不死とか、偉業とか、そんなくだらないことになんか、執着してなかった

不老不死になりたいなら勝手になればいい
でも、都合のいいように紫陽花さんを利用しないで
カタコンプ・ド・巴里に眠る人達の眠りを妨げないで


彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

真の姿(外見変わらず)開放

雅人さんの援護中心
必要応じUCと[範囲攻撃]併用

「同胞」の動きを止め
他の仲間の攻撃が通りやすくなるよう意識

>花蘇芳さん
紫陽花さんは、貴方達にとっては確かに「将の中の将」だったのでしょうね
貴方を始めとした大切な部下が迷ってしまわないように
何もかも背負ってそんな風に振る舞ってたんでしょうから

でも
私から見た紫陽花さんは、
「将の中の将」でも「真の主」でもない
一人の人間なの

娘と、自分の部下を愛するが故の
自らの「意地」と「信念」を貫き通した
どこまでも「莫迦な父親」なの

莫迦な父親の「信念」が暴走して今に至ったのなら
私は「娘」の代表として
すべて叩き潰してみせるわ


クラウン・アンダーウッド
成程、自分の思想に酔っぱらってるタイプか。典型的な先導者だね。はい、拍手〜♪
相手を煽りに煽りまくる。

さぁ人形楽団、連中の声援なんてかき消して皆を鼓舞する音楽を♪
人形を呼び出して舞台演出をさせる。

相手の攻撃を自ら後ろに吹っ飛ぶことでダメージを緩和させ、相手から自身の姿を消す。

過去の持ち主の姿になり、悲鳴の様な駆動音を上げるバンシーを手に相手を解体せんと攻撃する。
意思を継ぐ、いい言葉だね。でも所詮、過去は過去。いずれ廃れるものなのさ。




『ジーク花蘇芳! ジーク花蘇芳!』
 囚われの身と化した結社員達の熱狂的な歓喜の声。
 其の歓喜の声をさも当然の様に受け入れた花蘇芳が其の手に刃が鈍銀色に輝くサーベルを握りしめ……。
『――行くぞ!』
 両手遣いに其れを構え、その全身から噴き出される漆黒の『穢れ』を纏わせる。
「……くっ。先手を取ってきますか!」
 龍脈の力を誘導し、結社員達を拘束していた岩石の腕を、熱狂的な熱で搔き消されたウィリアム・バークリーの思わぬ舌打ち。
 しかし、幸運なことに体は動いていた。
 両目を金色に輝かせ全身を覆い尽くす様にしたアイスブルーの波動を前面に誘導。
 それを空中に咄嗟に描き出した氷の精霊達を収束させる魔法文字に収束させて乳白色の結界を練り上げる。
(「とは言え、所詮は即興結界ですから何処まで保つかは分かりませんが……!」)
 ウィリアムの呟きの、其の後ろで。
「……ボクは、紫陽花様、という、方を、知りません、が……」
 赤と琥珀色の色彩異なる双眸を空中に彷徨わせながら。
「……紫陽花様、という、方は、そんな、ボクですら、歪んでいると、そう感じる、程の、思念の、持ち主、だったの、でしょうか……?」
 小さく、馨しき香を纏う、限りある短き時の中で、懸命に咲く儚き花、雨に薫る金木犀を構え拙くそう問いかけるのは、神宮時・蒼。
 全身に自らの名と同じ色の光を纏い、辿々しく問う蒼のそれに。
「……狂信者は自らの正義を正当化するために、如何なる手段も方法も問わない。そんな姿のまるで見本の様な相手ですね……局長」
 ――スラリ、と。
 試製十参式護霊刀『狐火』を抜刀、銀の刃から現出した白き大狐の幻影を纏い、刀を構えた灯璃・ファルシュピーゲルがそう返すと。
「そうですね、灯璃さん。革命や不老不死の様な、イデオロギーや宗教は大抵、最初の思想や教義から逸脱・曲解されて過激化が進む事が儘あります。彼等もまた、恐らく其の類いでしょう」
 今にも大地を其の両足で踏み抜こうとする花蘇芳の姿を認め、愛銃G19C Gen.4を構えたネリッサ・ハーディがこう応えた。
「……ファルシュピーゲル様と、ハーディ様は、紫陽花様と、お会い、したことが、ある、のですか……?」
 その赤と琥珀色のヘテロクロミアを見開いて。
 問いかける蒼に、まあな、と答えたのは、UKM-2000Pのガンベルトを装填し直すミハイル・グレヴィッチ。
 漆黒のサングラスが瞳の輝きを隠していたが、口ぶりには抑えているとは言い難い苛立ちが籠められている。
「ええ、そうですね、僕達は、あの方の事を知っています。それどころか……」
 ミハイルの言の葉を引き取る様に、六花の杖に籠められた氷の様に冷たい魔力を元に、地面に月読みの紋章を描きながらそう応えたのは、神城・瞬。
「俺達は……花蘇芳のこの行動の引金を引いた原因ですらあるぜ、蒼」
 キツく唇を噛み締め血を滴らせながら瞬に続けてそう答えたのは、森宮・陽太。
(「花蘇芳が注射しやがったのは、例のグラッジパウダーか? だとしたら……」)
「てめぇまで柊の……我が子を想った親の想いを、踏み躙るのかよ……!」
『踏み躙る? 何を馬鹿な。私達は弱者を救う大義のために力を得、我等と共に在る事を望む同胞達と共に戦っている、唯それだけの事! 此が弱者を犠牲にしていると揶揄するなど、愚の骨頂! 万死に値する!』
 狂信的な雄叫びと嘲笑と共に。
 陽太の怒りを孕んだ問いかけに答えつつ、前傾姿勢を取る花蘇芳。
 今にも飛び出そうとする、花蘇芳に向けて。
「ははぁ、成程ね。此は自分の思想に酔っ払っているタイプかぁ。典型的な先導者だね~、わ~、凄い、すご~い♪」
 パチパチパチパチパチ、と。
 鼻歌交じりの拍手を叩くは、口元に道化染みた笑顔を浮かべたクラウン・アンダーウッド。
 其れに合わせる様に周囲を浮遊していた人形楽団が喇叭を吹き鳴らす。
 応援歌の様なからかいの混ざったその喇叭の煽りに反射的に怒りを覚えたか。
『我等が大望を嘲笑う愚か者共よ……沈め!』
 と叫び、クラウン……そう、灯璃と陽太の背後にいる……に向かって一気阿世に突進する。
 其れに合わせる様にウィリアムの戒めを解いた結社員達も突撃しようとするのに……。
「……ふむ」
 と。
『神凪』に搭乗し、軽く煙管をくゆらせる様にした𠮷柳・祥華が鋭くその翡翠の両目を細めていた。
『神凪』が右腕を上げ上空から強烈な圧迫感を感じる光を降り注がせる。
『……なんだっ!?』
 降り注ぐ其れに結社員達が驚き上空を見上げた瞬間。
「……あの時。あやつは……紫陽花が、何というておったか……おぬしらは知らぬのかのう?」
 と、祥華が問いかけたその瞬間。
 不意に結社員達の心底から、何かに揺さぶれる様な我武者羅な恐怖が湧き上がり。
 同時に鋭い偏頭痛を覚えて動きを鈍らせていくのを見つめながらきやつは、と祥華が独り言の様に言の葉を紡ぎ続ける。
「弔い、と云うておった」
 ――そう。
 死者達の無念や尊厳、不条理に其の命を奪われた者達の、戦いの中で奪われた者達の想いを『弔う』ために彼は起った。
「その弔いの為に修羅の道を選んだぁ奴が……誰かに意志を託すものじゃろうかのう? 特におぬしらの様なものにな。白夜、おぬしはどう思う?」
 結社員達に精神攻撃を与えて、その動きを鈍らせる祥華の問いかけに。
(「明らかに人でない気配…だな。紫陽花は一応『人』であったと思うが」)
 そう、胸中で紫陽花の戦いの時の事を回想しながら。
「……あいつは、紫陽花は……人(理性)を残していた。今のあんたの様に……『人』を棄てた、そう言う気配はなかったぞ? 不老不死? あいつは、そんな事も、望んじゃいなかったぞ?」
 雅人の上空で滞空していた白梟に白光のブレスを吐かせ、花蘇芳の動きを抑制し。
 篁臥を雅人と文月・統哉の元へと向かわせながら、白夜・紅閻が答えるのに。
『貴様等……閣下を侮辱するか!? 弱き者達を救う為、自ら率先して立ち上がり、我等への決起を促したあの方を……!』
 憤怒で鬼の様な形相を浮かべて突進してくる花蘇芳に。
「……巫山戯ないで!」
 ――轟。
 まるで、己が内に籠めた感情そのものを叩き付けるかの様に。
 颶風の如く、叩き付けられる風圧の波。
 強烈な波の一撃に突進の勢いを削がれ、一瞬動きを止める花蘇芳の視線の先には、
其の紫の瞳を激情に彩り朱色地に金装飾の薙刀を振り下ろした、榎木・葵桜の姿。
 全身から発されている人の持つものとは思えぬ程に尋常でない其れを称えるその姿は、まるで神霊体がその地に顕現したかの様。
(「感情的になるのは負けなんだよ、ホントは」)
 ……けれども。
「確かに紫陽花さんは、貴方の言う様に、この世界のシステムの変革を望んだのかも知れない。そして、それは貴方みたいに、あの人なりにこの世界から大切な人を失う哀しみを無くしたいって思ったからだ!」
 ――でも。
「進化とか、不老不死とか、偉業とか、そんなくだらないことは、只の手段でしかなくて執着なんて全くして無かった! そんな紫陽花さんの理想を、信念を、貴方の都合の良い様に解釈して、あの人を貴方こそ愚弄しないで! 自分勝手な理想に酔いしれて、あの人の死をせせら笑う様な事を絶対にしないで!」
『ふん……何を馬鹿な。あの御方は革命を志す我等であるが故に死の待つ戦場に向かう前、これを我等に託したのだ! もしもあの御方が志半ばに倒れた時、我等が其の後を継ぐことを心より望んでな!』
 漆黒の闘気……穢れがウィリアムの乳白色の結界を押し包み、銀刃が灯璃が構えた刀に吸い込まれる様に突き出される。
 けれども……。
「……狂信が」
 そう呟くと、ほぼ同時に。
 馬県・義透の影に潜んでいた巨大なミズクラゲが飛び出し、其れを受け止める。
 同時に破裂する様な音を立てて、水色の結界を張り巡らしたその上に降り注ぐのは、緋の憂いを思わせる幽世蝶の降らせし緋の鱗粉。
 鱗粉が義透のミズクラゲの破裂と共に生み出した水色の結界に覆い被さり、薄らと紫のヴェールを張り巡らす。
 其れにより、一瞬動きを止めた花蘇芳に向けて、灯璃がパチン、と指を鳴らした。
 同時に生み出されたのは……。
「閣下! 花蘇芳閣下……!」
 ――カッ!
 爆発した閃光弾から、花蘇芳を守る様にその身を捨てた防御を行う様に立ち塞がろうとする結社員の隊長格の男。
 けれども……。
「今ですね」
 ――カン、と。
 瞬が地面に描き出した月読みの紋章を六花の杖の先端ですかさず叩いた。
 叩かれる音と共に月光を思わせる光の線が枝の様に突き出し、隊長格の男の身柄を拘束。
『だが……閣下をやらせはせぬ!』
 其の閃光の中でも辛うじて拘束を免れた左腕を突き出し、花蘇芳の眼を庇う隊長。
 炸裂する閃光は、隊長格の男の目から視界を奪うが……。
「お前の忠義、無駄にはせぬぞ!」
 其のお陰で閃光に視界を奪われなかった花蘇芳が灯璃に刃を届かせようとする。
 それは、ウロボロス・アーセナルで制作した機動阻止システム剤充填手榴弾を投擲しようとしていた灯璃に迫るが。
「紫陽花さんは、道を間違えてしまいました」
 懐旧と複雑な胸中が綯い交ぜになった想いを触れた者に感じさせる、震えた声で。
「ですが……紫陽花さんは、私達に敬意を抱かせる覚悟と強さを感じさせる想いの深さを抱いておりました」
 名残惜しむかの様に、そう告げながら。
 『狐火』でその攻撃を受け止めるのが一瞬送れた灯璃の前に、エレメンタル・シールドに翡翠の輝きを伴わせた真宮・奏が割って入る。
 突き出されたエレメンタル・シールドと、花蘇芳の漆黒の波動を纏った銀刃がぶつかり、激しい火花を周囲に散らした。
(「義透さんや蒼さんの結界術、ウィリアムさんのオーラ防御で勢いと威力を削がれても尚、これ程の衝撃ですか……!」)
 大地に根を張る巨木の如く、確と立っているにも関わらず、そのまま押される様にジリジリと後退する奏。
 それに口元に鮫の様な笑みを浮かべた花蘇芳が踏み込みを更に深くして奏を押し込み、盾を割ろうとする。
 穢れの余波を浴び、熱に浮かされた表情と化した結社員達が精神への縛めを断ち切り、士気を向上。
 続けざまに乱戦のため使えなかった懐に帯びた拳銃をクイック・ドロウし、花蘇芳の援護射撃を行おうとしたその時。
「させませんよ」
 G19C Gen.4による奏への掩護射撃を行っていたネリッサが、其の左指を結社員達に突きつけた。
 突き付けられた指先から生まれ落ちたのは、100体のフォーマルハウトに住みし、荒れ狂う火炎の王に仕える炎の精達。
 その炎の精達が一斉に結社員の周囲の物……髑髏や人骨を燃やし、煙幕を焚いた。
『げっ……ゲホ、ゲホッ?!』
『我らが同志の遺骸を辱めるなんて……?!』
 思わぬ煙幕に、涙で煙を流しながら憤怒の叫びを上げる結社員達。
「その同志達の遺骸を人為的に影朧化し、私達に嗾けたあなた方にその様な事を言われる筋合いはありませんね」
 さらりとネリッサがそう受け流しつつ放った掩護射撃で後退する灯璃とクラウン。
 そこに入れ替わる様に飛び込んだのは……。
「あなた達のそれは独りよがりが過ぎると思う……! その紫陽花さんと言う方を打ち倒した皆があなたとその人が『違う』と言うのであれば、尚更だよ……!」
 意気込みと共に『棒餃子功筒』に籠めた鳥もち弾丸を戦場全体に撃ちだしたエミリロット・エネルカージュの援護を受けた。
「ふぅん、紫陽花の遺志を継ぐか。その大義名分の前に、人の生の尊厳を平気で踏み躙る様な奴に、あいつが遺志を継いで欲しいとは思っていなかっただろうけれどねぇ」
 押し戻されつつある奏を守る様に、背後からブレイズブルーを地面に擦過させて跳ね上げる様に振り上げた、真宮・響。
 青白く燃える様に光る槍の一閃が、エミリロットの鳥もち弾丸をまともに受けて動きを鈍らせた花蘇芳の刃を弾く。
『ぐっ……!? 不老不死と化し、我等が革命の為に得た我が力を押しのける程の力を持つ、だと!?』
 思わぬその攻撃に2、3歩軽くよろめき後退しながら呻きつつ、銀刀を素早く引き戻し横薙ぎに一閃する花蘇芳。
 その一閃と共に穢れ……『深闇』が迸る様に黒い剣閃と化して、颶風の如く噴き出し、奏と響を断ち切ろうとした、その時。
(「これも……弱者が世界の変革を求めて戦う図式、か」)
 花蘇芳のカリスマに中てられて、懸命に戦おうとする結社員達を見つめながら。
 自らの纏う板金鎧を、瞬く間に漆黒の全身鎧に身を包み込み。
 その全身鎧に脈打つ様に走る血色の紋様を赤黒く光り輝かし。
 そして兜の面頬を引き下ろした館野・敬輔が、面頬の奥で深紅の眼光を鋭く細め。
「だが、死者の意を踏み躙った者が革命と嘯いても、貴様らのエゴを強要しているに過ぎない! 狂信者共々、此処で散れ!」
 赤黒く光り輝く黒剣を側面から振るう。
 目にも留まらぬ早業で繰り出された漆黒の衝撃波が、大気を断ち割り鎌鼬の刃と化して同色の衝撃波とぶつかり、爆ぜた。
『ぬっ!?』
 思わぬ敬輔の一閃に、衝撃波の半分を削ぎ取られて一瞬目を見張る花蘇芳の様子を、藤崎・美雪は紫の瞳を細めて見つめていた。
 その胸中に漂う、底知れぬ不安と背筋を撫でる様な違和感を感じながら。
(「……どうにも拭えないな」)
 花蘇芳が自らに突き込み注入したグラッジパウダー。
 だが、それを紫陽花が花蘇芳に直接託せるとしたら、その時は……。
(「……柊さんが黄泉がえりの研究を諦めた事を知った、紫陽花さんが、あの墓地の事件を起こす直前位しかないのだが……。それ以外にも何らかの背景があったと言う事だろうか?」)
 思いつつ、美雪が箱形のグリモア・ムジカを前面展開。
 展開と同時に巨大な障壁の盾として、敬輔が半分相殺した漆黒の衝撃波の前に立ってそれを受け止める。
「……っ!」
 放たれた一撃の重みに、美雪が思わずギリリ、と唇を噛み締めた。
 これだけ威力を相殺しても尚、美雪の体を貫いた激しい斬撃の痛みが、共苦の痛みを通じて、天星・暁音の体を抉る様に切り裂いている。
 その痛みに悲鳴の一つも漏らす事無く、星具シュテルシアを構えながら。
「俺には、正直人の不老不死そのものを否定することは出来ない……」
 その心の奥底に不老不死を齎す祝福であり、呪いともされるTime of eternityを刻み込まれている自分だから。
 ――けれども。
「でも、それが人の進化なのかどうかと言われれば、俺は違う、と答える」
 不老にして、不死なる事。
 それは多くの人が求めてやまぬものではあるが、後に生に倦み、無為な停滞の時を経る業(カルマ)を背負う事でもあるのだから。
 そう心の内で呟きながら、星具シュテルシアを美雪に向けて、突き付ける暁音。
(「俺のところに来るよりも前に、美雪さん達が食い止めてくれたか。けれども、その負傷は……」)
 ――並ではない。
 だから暁音は、星具シュテルシアを天に掲げた。
 錫杖形態のシュテルシアから星色の神聖なる光が迸り傷ついた美雪の体を癒す。
『貴様……人の進化の果てたる不老不死を否定するというのか!? 未来永劫、弱き者達を守り続けるための力を高めることの出来るこの手段を否定するのか!?』
 花蘇芳の、その怒声に。
 金の瞳に凍る様な冷たい光を称えた暁音が、淡々と答えた。
「別に、否定しているわけじゃない。ただ、それが進化の果てではない、と言いたいだけだよ。でも、そんなことよりも、何よりも……」
 声調に底知れぬ怒りを孕ませながら。
「……革命だの、遺志を継ぐだの、お題目で人を影朧にするという行為をした時点で、俺が認める義は何処にもないんだよ。それが例え、紫陽花さんであろうと、貴方であろうとね」
『貴様……あの御方を何と心得ている! 己が未来の全てを我らが革命の為に贄としてくださったあの御方の御心を……! 将の中の将たるあの御方を……!』
「……確かに貴方達、それとも、貴方にとってかしら?」
 絶叫する花蘇芳の、その声に引き寄せられる様に。
 気が付けばその腰まで届く金髪を風に靡かせ、黒と白の二槍を構えた彩瑠・姫桜が、花蘇芳に肉薄していた。
『ぬうっ!?』
 思わぬ伏兵の奇襲に咄嗟に銀刀を縦に構えてその二槍を受け止める花蘇芳。
 けれども姫桜は頭を横に振る。
 葵桜の風の衝撃波の援護を受け、たん、とバックステップで後退しながら。
「紫陽花さんは、確かに、『将』の中の『将』だったのでしょうね。貴方を始めとした大切な部下が迷ってしまわない様に、何もかも背負ってそんな風に振る舞っていたんだでしょうから」
『な……何だとっ!?』
 思わぬ姫桜の呼びかけに。
 サーベルを掲げ、カタコンプ・ド・巴里……ある意味最も冥府に近いこの世界に、亡き同胞達の魂を集わせつつ怒声を上げる花蘇芳。
「でも、私から見た紫陽花さんは……そうじゃなかったわ」
 ぐっ、と二槍を強く握りしめる姫桜。
 彼女の想いの深さを現すかの様に銀の腕輪に嵌め込まれた玻璃鏡の鏡面が波飛沫の如く広がっていく。
(「そう、紫陽花さんは……」)
『これが、我が本当の力では、決して無いぞ! 果てよ!』
 それ以上の言葉を断ち切るかの様に。
 亡き同胞達を召喚した花蘇芳がそう苛立ちの声を張り上げるのに。
「花蘇芳……てめぇはあらゆる罪を背負って前に進む覚悟があるか?」
 陽太が低い声でそう問いかけるのに、ふん、と鼻を鳴らす花蘇芳。
『罪? 何を馬鹿なことを! 真に罪深き者は、この偽りの安寧を築き上げた貴様達、愚かな帝都桜學府の狗共であろう! 正義は我等にあり! 故に、同胞達は我等に無限の力を与えているのだ!』
 その花蘇芳の応えを聞いて。
「……そうかよ、ああ、分かった。ならば……俺は、俺達は……」
 陽太の顔に白きマスケラが被せられ、その身を漆黒のブラックスーツに包み込み。
「……てめぇを『敵』として、止める。それが俺の……無面目たる暗殺者である、『俺』の仕事だ……」
 紡がれた陽太の言の葉が。
 ――本当の戦いの合図の様に、戦場に鳴り響いた。


『愚かな! 大義は我等に有り! 貴様達の様な狗共が我等の崇高なる革命を止めようなどとは……笑止千万!』
 花蘇芳の雄叫びの様な怒号に応じる様に。
『ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!』
 まるで、共鳴の様な叫び声が上がり、花蘇芳の周囲の髑髏達に、漆黒の波動、『穢れ』が満ちる。
 満ちた穢れに飲まれる様にして姿を現したのは……。
「……装甲車、ですか」
 炎の精達を操りつつ、装甲車とそれに乗る無数の花蘇芳の同胞たる幽霊達を見つめながらネリッサが呟くその間に。
 さっ、と身を引いた花蘇芳はサーベルを青眼に構え、踏み込みと同時に唐竹割りの一撃を放つ。
 その一撃は……。
「! 雅人!」
 気がついた紅閻が呼びかけ、白梟に指示を出すよりも僅かに速く。
 花蘇芳の大上段からの一撃が退魔刀の濃口を切り篁臥に跨がった雅人へと迫った。
「グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥアッ!」
 篁臥が咆哮と共に、漆黒の残像を曳いて最初の踏み込みを辛うじて躱すが。
『ふんっ! 獣如きに我が技が見切れるものか!』
 素早く手を翻すと同時に左足で踏み込み二ノ太刀を放つ。
 その一撃が篁臥に跨がる雅人に迫った、其の刹那。
「白梟!」
 紅閻が上空の白梟に命じて咄嗟に白炎のブレスを放射させ、一瞬花蘇芳を牽制し。
「させるものかっ!」
 その間に、統哉が篁臥と雅人の前に飛び出し、漆黒の大鎌『宵』を頭上に掲げ、クロネコ刺繍入りの緋色の結界を構築。
 走る二ノ太刀の剣閃に、ずしり、とした重撃を感じ、統哉が思わず眉を顰める。
「統哉さん! この……!」
 其れに気がついた姫桜が、統哉を援護するべく、schwarzとWeißの二槍を花蘇芳の懐に飛び込み、突き出して。
「あなたの好きにはさせないよ!」
 エミリロットが、其の手の棒餃功筒から鳥もち弾丸を弾幕の様に乱射して、花蘇芳の動きを阻害。
 鳥もちが周囲の地形に罠の様に配備され、思わず蹈鞴を踏む花蘇芳。
 その花蘇芳の脇腹に姫桜がその二槍を突き立てようとした、その瞬間。
『させぬわっ!』
 それを遮る様にその腕の白き骨が姫桜の二槍を絡め取る様に動き二槍を縛り上げ。
 続けざまに骨が姫桜を拘束しようとその全身に這い上がろうとするが。
「貴方みたいな人に、姫ちゃんをやらせるわけがないでしょっ! そうやって死んだ人達の魂を弄んで、紫陽花さんの誇りを穢さないでっ!」
 咆哮の様に罵声を叩き付けた葵桜が胡蝶楽刀を振り下ろした。
 胡蝶楽刀から空間を断ち切る衝撃波が放たれ、白い骨を叩き折りかけるが、花蘇芳は咄嗟に白い骨を引っ込め、事なきを得る。
 だが、葵桜の衝撃の余波で骨に罅が入っている音を聞き、思わず舌打ちを一つ。
『何故だ! 何故貴様達は帝都桜學府の愚行を、欺瞞を捨て置き、我等が大義を理解せず、偽りの平和に身を浸し続けるのか! 人は何時迄も安寧なる楽園に居続ける事など出来ぬ! このまま停滞し続ければ、怠惰と腐敗が蔓延し、世界による弱き者達からの搾取が途絶えることはない! 何故、その様な当然の事が貴様達には見えぬ!』
 怒号と悲鳴が綯い交ぜになった様な花蘇芳の問いに応える様に。
 この地に眠る冥府より生まれ落ちた亡き花蘇芳の同胞達が、其々の得物で以て葵桜達を襲う。
 その中には、葵桜と同じリーチである薙刀を持つ者もいた。
 振り下ろされる薙刀と、其処から発される衝撃波に、葵桜が反射的に胡蝶楽刀で受けの態勢を取ろうとしたその瞬間。
『何……?!』
「えっ……!?」
 花蘇芳と葵桜が呆気にとられた様に息を飲んだ。
 ――其の理由は……。
「――我等の呪い、思い知れ」
『馬県・義透』……否、疾き者・静かなる者・侵す者・不動なる者にあり。
 義透を構成する4人の悪霊がかの漆黒のそれと同じもの……即ち『穢れ』と化して、亡き同胞達を包み込んだのだ。
「……これは、義透さん……なのですか?」
 目前で起きている非現実的な光景に、SIRD――Specialservice Information Research Departmentとして数多の戦場を共に潜り抜けていた灯璃さえも息を呑む。
 義透と呼ばれる穢れ達は、召喚された花蘇芳の亡き同胞……穢れで構成された部位と一体化、彼等に癒える事なき傷痕を残す。
 残された傷痕が、まるで化膿する様に膨らみ、亡き同胞達の動きを鈍らせた時。
「……どうか、安らかに、お休み、下さい……」
 其の手の、雨に薫る金木犀……純白なるその杖を、まるで硝子の槍の様に変化させた蒼が、その突端を突き出していた。
 蒼の周囲を羽ばたくのは、普段の、あの、緋の憂い抱きし幽世蝶ではない。
 己が名……凍てついた心を砕いたかの如く、美しい水晶色に輝く幽世蝶の群れ。
 その蒼き煌めき抱くかの水晶蝶達が硝子の槍の突端から羽ばたき、そのまま夢幻の弾の如く、亡き同胞達へと襲いかかった。
「……ヒトとは、本当に、難しい、ですね……。……如何して、自らを、異形へと、変じてまで、そんなにも、平和を、憎む、の、でしょう、か……?」
 ポツリ、ポツリと紡がれた蒼の問いかけに応える間もなく水晶色の幽世蝶の群れに襲われる花蘇芳の亡き同胞達。
『問いかけているのは我等だ! 何故、貴様等は、強き者達が我が物顔に顔をきかせ続ける偽りの楽園……無為な平和の中で永劫の時を過ごすことが出来る!? 其の世界の中にいる無数の弱者達を容易く踏み躙る事が出来る!? あの御方は! 紫陽花閣下は! この不条理な世界を変えるため、そして真の平和を、真の人類の進化を望み、あの愚かな帝都に反乱の狼煙を上げたというのに……!』
 呪詛の様な花蘇芳の雄叫びに応じる様に。
 呼び出された装甲車が其の砲塔から機銃を掃射しながら肉薄し、装甲車に搭乗していた銃剣で武装した同胞の幽霊達が、次々に着地。
 そのまま前衛と後衛に別れて横一列陣形を作り上げ、銃剣を構え一斉突撃を開始。
 銃剣の先で鈍く光輝く銀の刃を認めたミハイルが、口元に鱶の笑みを浮かべて、UKM-2000Pの引金を引いた。
「はっ! そんな陣形なんぞ纏めてぶち抜いてやりゃぁ、良いだけだろうが!」
 叫びと共に放たれたのは無限にも等しい銃弾の群れ。
 薬莢を派手に飛ばしながら放たれる無数の銃弾に撃ち抜かれ、力尽きる亡霊達を援護する様に撃たれる装甲車の機銃。
 激しい銃撃戦の中を掻い潜る様に紅閻の雅人を乗せた篁臥が戦場を疾駆し、其の爪を装甲車へと突き立てる。
 篁臥の爪牙が、装甲車の外壁を剥ぎ取るのに気がついた花蘇芳が刃を雅人に一閃しようとするが。
「させません!」
 奏がその間に割り込み、シルフィード・セイバーで空中に魔法陣を描き出す。
 描き出された翡翠色の複雑な幾何学紋様を描き出された魔法陣が明滅すると共に、1100本の星の光を纏った剣を生み出していた。
『その様なものでは、不老不死の力を得、大義を、弱き者達の痛みを知る我等を止めることは出来ぬ! 其れが分かっていて、何故、尚、貴様達は我等の邪魔立てをするというのだ!?』
「人の尊厳を、死を辱め、其れを汚す貴方達の様な方々が、紫陽花さんの本位なんかじゃないと、貴方方に思い出して貰う為です!」
 花蘇芳の怒号に、怒鳴り返す奏。
 その怒りに応えた星の光を纏った1110本の剣が、複雑怪奇な幾何学紋様を描きながら、花蘇芳に向かって襲いかかった。
 奏の攻撃に合わせる様にして。
「『Dumpling System!』」
 エミリロットがヴァレーニキタイガーへと変身し、その体を覆う様に鎧装が駆動音と共に展開。
「『Varenyky Russian Revolution! (欧亜の餃菓の虎は、今此処にっ!)!』」
 更に追加デバイスが駆動音を鳴り響かせて起動、エミリロットの全身を餃子の皮を想起させる鎧装で覆い尽くしていた。
「……欧亜の餃菓の虎は、今此処にっ!」
 叫びと共に、真の姿……フルアーマー・エカルド(ヴァレーニキタイガー)と化したエミリロットが姿を現す。
 そして……。
「……行くよっ!」
 自らの外装で爆発的に強化した餃発勁拳を目にも留まらぬ速さで解き放った。
 振るわれた其れが大気を粉砕する餃子の『気』を生み出して、吸い込まれる様に花蘇芳の鳩尾に叩き込まれる。
『がはっ……?!』
 鳩尾に叩き込まれた激しい衝撃に思わず咳き込む花蘇芳の隙を見逃さず。
「行くよっ、相棒!」
 響がすかさず声を張り上げると。
 響の背後に、響の2倍程の高さを持った巨大なゴーレムが現れる。
 其のゴーレムの風貌の所々に奏に似通った部分がある様に見えるのは、それが響の夫……律を模したゴーレムだからだろうか。
『ちっ……味な真似を……!』 
 呻く様に舌打ちをしながらも、再生した白骨を射出し響を貫かんとする花蘇芳。
 響は小刻みにステップを刻みながら、自らの魂の色を思わせる青き結界で自らを守りつつ、残像で其れを攪乱する。
 その動きをトレースして、夫を模したゴーレムもまた同様の動きを見せながら、其の両手を振り回す。
 ゴーレムの両拳が、響の動きを食い止めようとした結社員達を吹き飛ばす様に其の手の巨大な槍を振り回し……。
「……だめ、です……!」
 その胸元の石……本体である、氷晶石と琥珀のブローチを鈍色に輝かせながら。
 蒼が硝子細工に見える雨に薫る金木犀を突き出し、水晶蝶達を羽ばたかせ、結社員達を守る、水晶色の結界を展開すると。
「……蒼、アンタ……」
 響の浮かべた其の表情を見つめ、蒼が腰まで届く程に伸びた髪を風に靡かせながら小さく頭を横に振った。
「……すみません、真宮様。……ですが、例え、敵だろうと、死していい、魂など、ありません、から……」
 蒼のその言葉の意味を汲み取り、そうだね、と響が納得した様に頷くのを見つめ。
 ミハイルがやれやれ、と言う様に肩を竦めてみせる。
「本当は片端からアイツらを撃ち殺してやった方が手っ取り早いんだろうが……まっ、それじゃあ何のためにアイツらを浄化したのか分からねぇ、か。ヤレヤレ……しょうがねぇ奴等だな」
 ぼやきつつ煙草を取り出し口に咥え、ライターで火を点け美味そうにそれを吹かすミハイルに、それに、とネリッサが返した。
「もしかしたら、あの結社員達を捕らえることが出来れば、新しい情報を得る事が出来るかも知れません。であれば、蒼さんや統哉さん達の情を抜いても同様の結論に至っていたことでしょう」
「まっ……それも、そうか。おい、そう言うわけだぜ、陽太。別にテメェの行動を批判するわけじゃねぇが……程々にな」
 嘗て『白蘭』を殺すのを力尽くで止めた時のことを思い出しながらのミハイルの軽い口調での呼びかけに。
 陽太が灯璃の立てた煙幕に溶け込む様に姿を消し、ダイモンデバイスを構え。
「……フォルカロル」
 淡々と呟き銃型のダイモンデバイスの引金を引くのとほぼ同時に、一発の銃弾がダイモンデバイスの銃口から飛び出した。
 飛び出したそれは外の空気に触れるや否や不意にその姿を変容させて……。
「あれは……ビーク……じゃなかった、グリフォンですか!?」
 現れたグリフォン……『フォルカロル』が其の白き翼を羽ばたかせる姿を見て、ウィリアムが思わず目を細める。
 フォルカロルがウィリアムに応じる様に嘶きその両翼を大きく羽ばたかせた。
 羽ばたきと共に花蘇芳の周囲に生み出されたのは、局地的な暴風。
 暴風に足下を救われる様にして、思わずその身を傾がせる花蘇芳へと。
「えええいやぁぁぁぁぁっ!」
 気合い一声、自らの虎の尾を鞭の様に撓らせたエミリロットが強かに花蘇芳の脇腹を打ち据えて。
「今じゃよ、白夜」
 その様子を、『識神』の目を通じて捉えた祥華の呼びかけに。
「ああ……! イザーク、喰らえ!」
 紅閻が応えつつ己がサイキックエナジーの塊……全てを食らうサイキックエナジー・イザークに命じる。
 カボチャの様な形をし、魔法使いの様な帽子を被ったサイキックエナジーの塊が、紅閻の呼びかけに応じて其の口を大きく広げ、敵を喰らわんと花蘇芳を襲う。
『ちっ……!』
 舌打ちしつつも即応して、自らの纏う穢れを翻し、イザークを叩き斬らんと横手に刃を構える花蘇芳。
 彼の技量があればそれは、十分叶う筈――だったが。
「貴様の好きにはさせぬよ。我等悪霊達の怒りを買いし、墓を悪用せし下郎よ」
『なっ……?!』
 漆黒の穢れの中から唸りの様に響いた声が、花蘇芳の穢れの流れを狂わせた。
 それは、収束。
 花蘇芳が制御しきれない程に爆発的な、穢れの収束。
 あまりの質量を勝手に持ち出した穢れは、まるで突然ガスを吹き込まれ今にも破裂寸前の大きさにまで膨張した風船の様。
 その風船の様に膨らんだ、其の穢れの一点に向けて。
「……分かったよ、義透さん」
 共苦の痛みを通して伝わる憤怒と憎悪の溶鉱炉に投げ込まれた様な痛みに頷いた暁音が、星具を星槍へと変形させて、其れを投擲。
 放たれた槍と化した星具シュテルシアが、その膨張した穢れを貫いた時。
 ――パリィィィィンッ!
 硝子が砕ける様な音と共に粉々に砕け散らせる。
 穢れを纏った銀刃は、其の影響で只の鈍に変貌していた。
 鈍に斬られる筈も無いイザークが花蘇芳の穢れの破片を喰らい、引き千切る。
 肉を切られ、骨を断たれる激痛に鮮血を飛ばしながら、呪詛の様に、
『くっ……馬鹿なっ!? 既に自らの力で得た筈の我が力を、何故こうも我が制御を受け付けぬ!? この様な事が……!』
 呻く花蘇芳に応える様に、武装した亡き同胞達が、紅閻に襲いかかろうとするが。
「させるものかよっ!」
 漆黒の全身鎧から鮮血の如き殺気を疑似残像として叩き付ける敬輔。
 自らの全身に白き靄を纏いながら。
 それを黒剣に集結させて、眩く光輝く白き光と祈りを籠めた斬撃の衝撃波を解き放つ敬輔。
 三日月型の斬撃の衝撃波が、横合いから纏めて花蘇芳の呼び出した装甲車から降りてきた亡者達を吹き飛ばし。
「……斬るっ!」
 そのまま肉薄しながら唐竹割りに黒剣を振り下ろし、花蘇芳の問いと共に動き出した亡き亡者達を一網打尽に叩き斬っていた。
『ちっ……! 何故、こうも……!』
 簡単に我が同志達が切り裂かれる!?
 僅かな混乱と動揺を見せる花蘇芳の正面についた祥華が、カラコロ、と鈴の鳴る様な音を立てて笑って見せた。
 その手の白刃刀から斬撃の衝撃波を放ち、『神凪』を通じて『識神』の目を借りて、その正体へと呼びかけながら。
「これはまた、妙術でありんすのう……馬県とやら?」
 其の祥華の呼びかけに。
 怪訝そうな表情になる花蘇芳とは対照的に正面から彼と対峙する様に立った人形の穢れ達からくぐもった笑い声が響いた。
 ――その、笑い声は。
「……馬県様、なの、ですね……?」
 その胸元の水晶と琥珀色のブローチ……ヒトの心に惑い、悩む少女の心を反映する様に揺らぐ其の石の輝きを見て。
「ええ、その通りですよ。蒼殿」
 四悪霊達が再集結し、着物姿で両手を着物の裾に隠す、義透がのほほんとした笑みを浮かべて立っている。
 最も、その笑みもまた、結局上辺だけのもの。
 瞑られた瞼の裏で蠢く漆黒の両眼は、見る者によっては見つめられるだけで凍てつきそうな程に底冷えした光が称えられていた。
 穢れの残滓に刻まれた決して癒えることの無い傷痕から毒の様に何かが吸い込まれる流れを見つめながら、
「……これ程の力を義透さん、貴方が使えるとは思っていませんでした」
 とネリッサがさりげなく水を向けると。
 馬県・義透と言う認識術式を再集結させた義透が、まあ、とのほほんとした笑みを薄ら寒いものに変えて苦笑を零す。
「我等……私『達』を、『馬県・義透』として認識してくれる皆さんがいるので、出来る芸当ですけれどね。できればあまりやりたくない芸当ですよ」
「……馬県・義透として?」
 義透の解に、思わず怪訝そうな声を漏らす統哉の其れに、義透……疾き者は、はい、と懐から棒手裏剣を取り出しつつ頷きを1つ。
「私は……いえ、我々は『悪霊』です。以前にも申したとおり、死した嘗ての世界から、『黄泉がえり』し者。四にして一。一にして四なる存在です。それが私、『馬県・義透』を構成する因であり、その果なのです」
瞬きを繰り返す統哉に、そう言の葉を紡ぎながら。
 棒手裏剣……『漆黒風』を取り出して……花蘇芳の肩へと解き放った。


『ぐぅっ?!』
 ――ドスリ。
 義透の投擲した『漆黒風』は、そのまま螺旋状の回転を描きながら、吸い込まれる様に花蘇芳の肩に突き立つ。
 傷口を抉る様に突き立ったそれを強引に引き抜き、装甲車と銃剣部隊に包囲網を組む様指示を出す。
 其の口調には、明らかな焦りがあった。
『何故だっ!? 我等が大義は不滅! なのに何故、帝都桜學府の狗如きが喰らいついてくることが出来る!? あの御方……紫陽花閣下の遺志を継ぎし、神は勝利と言う名の天啓を、革命と言う名の至高の祝福を、我等にのみ与えたと言うのに!』
 絶叫の様に轟くその矛盾した言の葉にも、亡き亡霊達は一斉に賛同と称賛の声を張り上げ、花蘇芳の士気を盛り上げる。
 自らに都合良く、心地よく入って来る亡霊達の声に思念を返して、彼等の得手による攻撃を叩き付けさせる花蘇芳。
 その目に入ってきたのは……。
「其れに答える事は出来ないけれど、さっきの話の続きならしてあげられるわ」
 其の両掌に、バチリ、バチリと高圧電流を奔らせながら。
 軽く長髪を書き上げる様にした姫桜の姿。
 姫桜の両掌で輝く高圧電流を封じるべく、武装した、死した同胞達が襲いかかろうとしたその瞬間。
「あなた達はもっと、姫ちゃんの話を聞くべきなんだよ! 姫ちゃんの……あなた達以外の誰かから見えるあの人の姿を知るべきなんだよ! 邪魔なんてさせないんだから!」
 葵桜の胡蝶楽刀から衝撃波を解き放ち、その金細工を錆びさせながら、死した花蘇芳の同胞達の動きを食い止め。
「……ボクには、あなた達に、何と、答えれば、良いのか、分かり、ません……」
 蒼が純白の槍を突き出して青い幽世蝶の群れを再び解き放ち、彼等を結界の内側へと押し込める。
 その赤と琥珀色の双眸を、躊躇いがちに、彷徨わせながら。
「……ですが、ボクは、文月様達、なら、何か、答えを、言えるのだと、信じて、います……」
 ――ボクを……物であった、ボクを、『蒼』として、認めてくれた、彼等なら。
 その答えの1つを教えてくれた、此のヒト達なら。
 嘗ての自分……モノと化す前の自分を思い起こし、その胸の石、『氷雪の燈火』が淡く輝く。
 それは、彼女の命、彼女の心。
 その『呪』を自らの一部として受け入れた、『蒼』と言う名の、『ボク』
 そんな蒼の言の葉と、想いに後押しされる様に。
「私から見た紫陽花さんはね、『将の中の将』でも、貴方達の『真の主』でもない、只の1人の人間なのよ。娘と、貴方達の様な、自分の部下を愛するが故に、自らの『意地』と『信念』を貫き通した何処までも『莫迦な父親』なの」
 その声は何処までも突き放す様に鮮明で。
 けれども惜しみない程の震える程に深き想いに包み込まれていて。
 其処にどれ程の想いが籠められているのかも分からぬ其の声音の変化に。
『巫山戯るなぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 貴様達は、何処まであの御方を愚弄すれば気が済むというのだぁぁぁぁぁぁっ!』
 怒声と共に銀刀を振り下ろす花蘇芳の刃を姫桜が二槍で受け止めるとほぼ同時に。
「本当に紫陽花氏の思いを愚弄しているのはどちらだ……!」
 統哉が割り込む様に戦場に飛び込み、漆黒の大鎌『宵』を一閃する。
 宵闇を斬り裂く星彩の如き輝きを刃より発した其の大鎌の一閃が、統哉の頭上で銀刃と交差して弾け、火花を散らすその間に。
「確かに、姫桜さんの言葉は、紫陽花さんを馬鹿にしている様に聞こえるのかも知れません。また、不条理にあの人が殺されてしまったことに納得が行かないことも、僕達には理解出来ます」
 そう告げた瞬が、110本の六花の杖の模造品を展開し、其の全てから無数の月光の光を解放する。
 放たれた月光を思わせる光線が、装甲車を撃ち抜き消失させるその間も、統哉は真摯に其の言の葉を紡ぐ。
「少なくとも、弱者や影朧の無念を汲もうとすること……その想い自体は成程、重要だろう」
 瞬の月光を思わせる光線の一撃に、揺らぐ装甲車と亡者達。
 彼等は、統哉にそれ以上、花蘇芳に何かを伝えさせぬとばかりに銃剣を前に突き出し、彼に肉薄したが。
「ホッホッホ……如何した? 何か焦っておるようでありんすな?」
 鈴の鳴る様な声で笑った祥華が『神凪』から追撃のホーミングレーザーを撃ちだし、その亡霊兵達を焼き払い。
「ふんっ……統哉はな俺達と同じ位、お前達が奉じている紫陽花の事を知っている」
 吹かしていた煙草を潰さんばかりの勢いで噛み砕き。
 大量の灰を地面にばらまきながら、UKM-2000Pの引金を引くミハイル。
 ――ドルルルルルルルルルルッ!
 銃口が無限にも等しい回転を続ける度に薬莢が飛び出し、弾幕の嵐が装甲車をぶち抜き、亡霊達の銃剣を叩き壊す。
 思わぬ銃撃に統率が乱れた亡霊達を、灯璃がHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"で撃ち抜いた。
(「ばっ……馬鹿なっ……か、閣下……!」)
 無念と驚愕の表情で、灯璃に撃ち抜かれ、ミハイルに蜂の巣にされ、ネリッサの炎の精に焼却される亡霊達を見据え、はんっ、とミハイルが鼻を鳴らした。
「この程度の銃撃戦に耐えきれないか。ったく、紫陽花だったら、最後まで己の信念貫いて耐え抜いただろうによ。あの自らの信念を貫く其の強さは評価に値する奴だった。テメェラみたいにあっさりと駆逐される様な屑野郎共と一緒にすんじゃねぇ」
『き、貴様、よくも我が同志達を……!』
 再び黄泉の門を潜り死んでいった亡霊達。
 その姿を見て怒りと驚愕の表情を浮かべる花蘇芳に『宵』を、其の亡者達へと左人差し指を突きつけながら、統哉は続けた。
「こんな風に死人達を無理矢理怪物化して盾にして、意志も尊厳も踏み躙るその様な事の何処が正しい!? その様な形で行使している彼等の事を同志だと? 其れの何処が本当の同志だ!?」
『きっ……貴様っ……!』
「聞けっ! この世界で無念を抱き果てていった者達は影朧となる。そうで無ければ幻朧桜の加護によって転生し、新たな生となる。どちらも望まぬのであれば、この場で静かに眠り続ける事も出来る。……世界を呪うも、転生に希望を託すも、静かに骸の海の揺り籠の中で眠り続けるも、それは全て彼等の選択だ。お前達の行いは、彼等の選択に土足で踏み込み、自らの我欲を満たす為に好き勝手に躙り潰した死者を貶める蛮行に過ぎない!」
『貴様……云うに事かいて、我等の革命を、大義をそうまでして貶めるか!? 弱き者達の為にこの剣を、この力を振るう事を蛮行と称するのか!?』
 自らのカリスマの軸たる軸を破壊しようとする統哉の糾弾に。
 感情の欲するままにサーベルを振り上げる花蘇芳。
 その花蘇芳の一撃が振り下ろされるよりも、一足先に。
「ええ、統哉さん、姫桜さんの云うとおりでしょう」
 小さな氷の礫をエミリロットの鳥もち弾丸に重ね打ちをする様に撒き散らし、其の体に氷塊を粘着させながら、ウィリアムが同意した。
『なんだとっ!? ぐっ……刃が……っ!』
 鳥もちによって粘り着いていた所に氷塊が覆い被さり、更にその動きを鈍らされ、苦渋の表情を浮かべる花蘇芳。
 其の花蘇芳にルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、その剣先を氷塊で凍てつかせて氷剣としながらウィリアムが続ける。
「紫陽花さんは、不器用な方でした。姫桜さんの仰るとおり、掌から零れ墜ちていくものを何一つ失わせまいと、情に任せて『黄泉還り』を求めていた」
「まあ、将校としちゃぁ、ある意味失格だよな。部下の命に一々気を向けていたら、指揮官なんてやってらんねぇ。将は兵に『死ね』と命じる立場にあるわけだからな」
『貴様等……!』
 ウィリアムの言葉に、ミハイルが2本目の煙草をくゆらせながら同意する。
 其れに憤怒の表情を浮かべる花蘇芳だったが、其の分大きな隙が生まれた。
 その隙に付け込み横薙ぎに『スプラッシュ』を構えながら、ですが、とウィリアムが続ける。
「だからといって、正しい戦争で不正義の平和を打ち壊す事を認めるわけにはいきません。……紫陽花さんは、自分自身が必ずしも正しいとは思っていなかったのでしょうけれどもね。そう言う意味では紫陽花さんは、その事も分かっていた、と言えるのかも知れません」
『……っ?!』
 思わぬウィリアムの一言に。
 一瞬その身を震わせ動きを止める花蘇芳の脇腹に氷剣を突き出しその身を斬り裂裂きながら、粛々と続ける。
「殆どの人は、とても弱い。これは、ぼくが沢山の異世界を見てきたからこそ言えることです。偽りの平和だろうと、そうした弱者……力無き者は、安寧の中でしか生きられない」
『いいや、違う! 我等は人類が強いと信じている! だからこそ、新たなる世界……本当の世界の在り方を、彼等と共に進むことこそが寛容なのだ!』
 その、花蘇芳の言の葉に。
 脇腹から凍てついていく花蘇芳の姿を見つつ、違う、とウィリアムが『スプラッシュ』を振り切りながらきっぱりと告げた。
「花蘇芳さん。多くの人達は、ぼく達やあなた達の様に強くないんです。革命なんて起こしたら、真っ先に犠牲になるのは、戦うことの出来ないそう言った弱者なんですよ!」
『違う! その様な弱者を踏み躙り、生まれ落とさせてしまったことこそが、帝都の、世界の罪なのだ! 人々は誰かに全てを委ね、そして自分だけが安穏とした怠惰な日々を暮らす毒沼に溺れてしまっている! この毒沼から抜け出すためにも、一度蜜の様に毒を与える世界そのもののシステムを破壊し、人々が不老不死という新たなる進化を行う事が必須なのだ! 何故だ! 何故其れが分からないのかっ、愚昧共がっ!!!!』
 罵声を叩き付けると、ほぼ同時に。
 花蘇芳と共に『在った』亡霊達が雄叫びを上げ、花蘇芳と同時に刀を振るい、ウィリアムを斬り裂こうとする。
 剣閃から迸る衝撃波が雅人と篁臥、そして結社員達を飲み込もうとしたその瞬間。
「……やらせ、ません……!」
 強き意志を秘めた蒼が、硝子細工の様に見える雨に薫る金木犀を振るった。
 振るわれた槍の刀身が放った斬撃の波が、陽太の呼び出した空中を飛翔するフォルカロルの羽ばたきと、白梟のブレスと重なり合い……。
 ――パァン!
 と、何かを破裂させる様な音と共に、その衝撃波を打ち砕いた。
『ぐっ……!? 我が力が弱まってきているだと!? 馬鹿なっ……! そんな、そんな馬鹿なっ!?』
 喘ぐ様な花蘇芳の、其の言の葉に応じたのは、道化染みた笑い声。
「アハハハハハハッ♪ 意志を継ぐ、とっても良い言葉だねぇ♪ ボク、感激しちゃうなぁ。でも、其の紫陽花さんがそんな世界を求めていたのかと言われれば、其れは本当にそうなのかなぁ?」
 不意に背後から掛かった、その呼びかけ。
『……なにっ!?』
 装甲車も、其処から飛び降りたが既に半減している亡霊兵達もずっと気付かぬままに紡がれたそれに動揺を露わにする花蘇芳。
 その時には既に彼は……クラウンは動いていた。
 しかしその姿は、先程迄の道化師衣装では無い。
 何処か知的好奇心に溢れた学者の様なコートに身を包み、眼鏡を掛けたまるで技師か絡繰り師の様な思念の姿。
 ――それは、嘗ての『主』と、同じ姿。
 チクタク、チクタク。
 止まっていた懐中時計が音を立てて動き出す。
 まるで失われた時間を取り戻すかの様に。
 或いは残り少ない懐中時計としての時を、少しでも前に進めようとするかの様に。
 ――キュィィィィィィィィィィィッ!
 まるで悲鳴の様な、駆動音を其の手に握りしめたバンシーが鳴らす。 
 その音を聞く度に、体の関節部の各箇所からまるで出血の様に火花が噴き出すが。
(「今は、此すらも心地よい……」)
 だって、これは。
 この痛みは。
(「我が主。いつも貴方は、ボクの心に……」)
 ――生前の自らの持ち主……主の心を感じさせてくれると、そう思えるから。
 だから……。
「さあ、行くよ、解体の時間だ!」
 愉快そうな叫びと共に。
 バンシー……もしかしたら、人形師であった彼の元の主も使っていたのかも知れないチェーンソー剣の刃を回転させるクラウン。
 爆発的な速度で音を立てて回転するチェーンソーの刃は、花蘇芳の背後から、容赦なく其の体を解体せんと刈り取っていく。
 ――不老不死たらしめた筈の、其の命を。
『ぐっ……ぐぁぁぁぁぁぁぁっ?!』
 背中の皮膚から骨までを根こそぎ剥ぎ取られる様な、そんな苦痛。
 常人であれば決して絶えきることの出来ないであろう苦痛を味合わせられながら、その身を解体される花蘇芳にクラウンが微笑を浮かべる。
「知っているかい? 所詮、過去は過去。何れ廃れ、消えていくものなのさ。まあ、そもそも意志を継ぐと言っても、其々に継ぎ方、継がれ方というものも在る様だしね?」
『きっ、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 其の絶叫と、共に。
 自らの白い角を背面へと移動させ、クラウンの懐中時計を抉り取るべく貫きの一撃を放とうとする花蘇芳。
 その動きに気がついたクラウンが爆発的な反応で後退すると……。
「……永遠に眠れ」
 無機質な鉄を思わせるその言葉と共に。
 白いマスケラを被った陽太が淡紅色と濃紺の線を曳いた二槍を伸長させ、クラウンの背後から花蘇芳を狙う。
 淡紅色に輝くアリスグレイブが、花蘇芳の右胸を貫き、そのまま横薙ぎに払う様にしてその身を斬り裂き。
 続け様の濃紺のアリスランスが背中から左胸までを突き通す勢いで花蘇芳の体を刺し貫いていた。
『ガハッ……?!』
 直感的に其の気配を悟っていたのだろうか。
 其れなりの手応えこそ感じられたが、それでもギリギリ内臓器官……心臓を貫き損ねた事を感じ取り陽太が軽く頭を横に振る。
 花蘇芳は自らの胸から突き出しているアリスランスを左手で握りしめ……。
『そう簡単に……やらせはせぬ!』
 叫びと共に、地面に一息に其の槍を自分の方に引き寄せる様に力任せに引き抜く。
 アリスランスを手放すよりも先に陽太がその勢いに釣られる様にして見る見るうちに其の背に迫る。
(「……こいつ、何を考えている?」)
 そう、陽太が内心で微かな不信を感じた時。
 ――♪ ♪ ♪
 今起きている状況の意味を悟った美雪がはっ、と顔色を変え、アドリブでグリモア・ムジカに楽譜を展開、音楽を奏で始めた。
 それは……諦めない意志を称賛し貫くことを、願う歌。
 温かな七色のオーロラ風が戦場に吹き荒れ、陽太が其れに身軽になり、同時に素早く周囲に仮面の向こうの翡翠の瞳を向けてやれば。
 空中に張り付く様にして、此方へと銃を構えて今、正に火薬に火を入れようとしている、最期の生き残りたる亡者達の姿。
(「……そう言うことか」)
 間一髪……いや、半髪と言った所か。
 陽太が二槍から手を放し、体を渦巻き状に捻って、銃口から体を逸らす。
 同時に撃ち出された弾丸が、陽太の右肩と、左手、右足の太股と、左足のふくらはぎを撃ち抜き、鮮血が溢れ出した。
(「……くっ……」)
 危うく蜂の巣こそ免れたものの、陽太が負傷を重ねたことには変わらない。
 変わらないが……それは、暁音の予見の範疇でもある。
 ――だから。
「何かを成すには犠牲が必要……其れは確かに、仕方の無いことなのだけれども……それでも、してはならない事というのはあるんだよ」
 淡々とした、其の呟きを口にした後。
「祈りを此処に、妙なる光よ。命の新星を持ちて、立ち向かう者達に闇祓う祝福の抱擁を…傷ついた翼に再び力を!」
 神聖なる祈りの言の葉を紡ぎ、星具シュテルシアの先端から星色に輝く神聖なる光を放出する暁音。
 其の光は陽太の体を星のオーラで包み込む様に輝き、陽太が受けた傷を見る見る癒していく。
『だが……未だ、まだ、我等の革命を、大望を果たすためには……!』
 陽太のアリスランスを引き抜き、その体から大量の血液を流しながら喘ぐ様に呻く花蘇芳。
 決して倒れぬと言う不屈を思わせる其の意志を見つめながら、エミリロットが自らの健脚で鋭い後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
「あなたの様な人がカリスマを持ち、他の人々が不幸になるするというのなら……ボク達があなたを止める……!」
 其の誓いと、共に。
 エミリロットの解き放ったロシアン餃子の皮を思わせる甲冑を纏った健脚によるその蹴撃。
 それは、ロシア名物のお菓子と化したペリメニを凍てつかせたかの様な一撃。
 鋭く凍てつく様な疾さを伴った蹴りが、花蘇芳から零れ落ちた血液を凍てつかせるのを認め。
「……いきます」
 ――ハラリ、ハラハラ。
 自らの周囲を舞う水晶蝶と自らの本体……氷晶花の破片を飛び散らさせながら、蒼が花蘇芳の全身に其の破片を突き立てていく。
 ――それは、己が命。自らの心を蝕み、自らの寿命を削る命がけの技。
 放たれたその欠片に全身を貫かれ、動きを止めた花蘇芳に肉薄した敬輔が、黒剣を振るう。
 黒剣がX字型に花蘇芳の肉から骨にかけてを斬り裂き、確かな痛打を与えた。
「がっ……ごはあっ……!」
 それでも尚、動き、攻撃を仕掛けようとする花蘇芳に向けて。
「――Sammeln!Praesentiert das Gewehr……仕事の時間だ、狼達≪Kamerad≫!』
 自分達の在り方に疑義を抱かせることに成功させた灯璃の呼びかけに応じる様に、全ての光を飲む漆黒の森の様な霧が浮かび、光すらも喰らい尽くす様な狼の群れが一斉に飛びかかる。
 飛びかかった狼達による食いちぎりの一撃に問いを投げかけていた死した亡者達が一掃され……そして。
「墓を悪用する者よ、呪われよ」
 義透が自らが作り出した癒えない傷痕に漆黒風を投擲し、その全身を暴風で貫き。
「行くぞ」
 祥華が静かにそう言の葉を紡ぎ、自らに仕える霊符に封じた鬼神の封印を解く。
 祥華の求めに応じて現れたのは、仮初めの姿を得た朱霞露焔。
 式神でもある朱霞露焔がその全身から浄化の炎を放出、ネリッサの呼び出した炎の精と其の力を重ね合わせ、その身を焼き払い。
「如何した? この程度で終わりなのか?」
 紅閻が、白梟に命じて翼を羽ばたかせて烈風の衝撃波を叩き付けながら肉薄。
 全てを焼き尽くす終焉の炎……レーヴァテインの名を冠するカボチャ型のフォースイーターを起動し、空間毎、花蘇芳を斬り裂いた。
 怒濤の攻撃にその身を大きく傾がせる花蘇芳。
『花蘇芳閣下! 花蘇芳閣下!』
 戸惑いと驚愕を露わに叫ぶ結社員達が、花蘇芳を手伝おうとその身を挺して彼を守ろうとするが、その時には響がブレイズブルーを一閃。
 夫……律の模造ゴーレムと共に放った衝撃波で結社員達を纏めて気絶させている。
『クソッ……! クソッ……!』
 己が体の傷に血が滲むほどに強く唇を噛み締める花蘇芳の様子を見て、アンタは、と酷く冷徹な口調で紅閻が声を投げかけた。
「あいつを……紫陽花をそれだけ慕っておきながら、如何してソレでアイツを黄泉がえらせなかった? そこまであいつを信奉し、あいつの遺志を継ぐなどと言いながら、何故それを自分に打ち込んだんだ?」
『……っ!? そ、それは……?!』
 紅閻の問いかけに、絶句する花蘇芳。
 その花蘇芳に肉薄した葵桜が桜舞扇を取り出して……。
「不老不死になりたいならば、勝手になれば良い! でも、自分の都合の良い様に紫陽花さんを利用しないで! カタコンプ・ド・巴里に眠る人達の眠りを妨げないで!」
 感情の赴くままに爆発した声を上げて桜舞扇でその顔を張り飛ばす。
 葵桜に張り飛ばされ勢い余ってプロペラの様に回転しながら床を転がる花蘇芳に。
 その両掌に高圧電流を蓄えた儘だった姫桜が……。
「娘と、自分の部下を愛するが故の自らの『意地』と『信念』を貫き通した、何処までも『莫迦な父親』である紫陽花さんの『信念』が暴走したというのなら……」
 静かに鏡面を波打たせる玻璃鏡に導かれる様に、其の両掌を大地に叩き付ける。
「……私は、『娘』の代表として」
 その言葉と共に、電流が。
「全て、叩き潰してみせるわ」
 大地を、花蘇芳の背筋に冷たいものを、走らせていく。
 凄まじい高圧電流の波が竜の様な唸りを上げて花蘇芳に襲いかかるが、既に傷だらけの花蘇芳がその一撃を避けられるはずもない。
 激しい電流が花蘇芳の全身を走り、大地に伏せていた花蘇芳が、空中へと浮いて天井に激突し、喀血。
 そのまま落下してくる花蘇芳の様子を見つめながら。
「影朧の不老不死に目が眩んだか? 不老不死を夢想する貴様は、人として裁きを受けるべきなのではないか?」
 統哉が漆黒の大鎌『宵』に星色の光彩漂う刃先を一閃。其の願いと祈りを籠めて、一太刀を解き放った。
 それは、邪心を、その心を断ち切る一太刀。
 それは着地するのもやっとであった花蘇芳を打ち据えるのに十分な一閃。
 けれども、かの力は願いと祈りを籠めて、『邪心』を断つ技。
 花蘇芳の『邪心』の一部を断つに留まるそれを受けた彼は、肩を荒げて、サーベルを杖にヨロヨロと立ち上がる。
 そうまでして、戦いを……世界の平穏の破壊、革命を望む花蘇芳の狂信的な光の宿った眼差しを見て、統哉は、思わず問いかけた。
「雅人……君はどう思う? 君は、君の選択を」
 そう……雅人に。
 その、統哉の問いかけに。
「……御免」
 雅人は篁臥に跨がったままに静かに頭を横に振る。
「もし、人に戻ることが出来るのであれば、花蘇芳さんは、人として其の罪を背負い、そして償う必要があるだろう。でも……」
「……恐らく其れは出来ない。雅人さんは、そう言いたいのだな?」
 その美雪の問いかけに。
 雅人が静かに頷き、彼は、と妄執の塊とでも呼ぶべき花蘇芳を一瞥する。
「花蘇芳さんは、紫陽花さんの部下の中でも、ある意味では特に一途な人だった。……皆に紫陽花さんの真実を突きつけられ、そしてそこに納得したとしても……彼は自分の心を変えることも無く、この修羅の道を進むことになるだろう。何よりも……」
 ――不老不死、と言う名の影朧と化したこの存在を、救う事は出来ないから。
 苦渋の表情でそう淡々と紡ぐ雅人のそれに。
「……分かった。それなら……雅人、頼む」
 統哉が悔しそうに顔を俯かせつつ、雅人にそう告げると、ほぼ同時に。
 雅人は、其の手の退魔刀を一閃し、上下の体を真っ二つに斬り裂き。
「せめて……苦しまぬ様に」
 続けざまにその頭上に刀を雅人が振り下ろそうとした、其の直後。
「一つだけ、聞かせて貰おう、花蘇芳。其れは……その、グラッジパウダーは、お前が本当に紫陽花から受け取ったものなのか?」
 泣き別れになった下半身に向けて斬撃の衝撃波を解放し、粉微塵に砕きながらの敬輔の問いかけに、花蘇芳が意味ありげに笑う。
『……に、禍あれ! ……に、栄光……あ……れ……!』
 ――ドスリ。
 その花蘇芳の酷薄な笑みの、その上に。
 雅人の刀が突き立ち、花蘇芳は其の生を未来永劫、取り戻す機会を喪った。


『あ……ああ……閣下! 花蘇芳、閣下……!』
 其の死を見届けた、結社員達の絶望の声が上がる。
 呪詛や怨嗟を感じさせるその声を聞きながら、小さくエミリロットが溜息を一つ吐いた。
「……結局、あの人は独り善がりな世界から逃れることが出来なかった様だけれども……だからこそ、あれだけのカリスマ性を発揮できたのかも知れないね。そんな闇の様なカリスマを身に付けていたからこそ、今回の様な過ちを起こせたのかも知れないな」
 エミリロットの、独白の様な其の呟きに。
「……ヒトの、心は、難しい、もの、なのですね……」
 そっと胸元の本体である石……氷雪の燈火の上で其の小さな掌を重ねる様にして祈る表情を浮かべた蒼が呟く。 
 其の口調の中に寂しげな音が混じっている様に聞こえたのは、エミリロットの気のせいではないだろう。
 戦いが終わり、漸く沈静化してきた共苦の痛みの状態を感じ取りながら、暁音がボロボロになったカタコンプの様子を見つめていた。
(「……出来るかどうかは、分からないけれども」)
 そう胸中で思いつつも、為そうとせずには居られない。
 そう願い。
『降り注げ金色(こんじき)の雨、大いなる慈悲をもちて慈雨となれ、蝕まれし大地に祝福を、命の息吹を齎せ、走れ魔法陣、輝け、星命の灯……』
 小さな祈りの言の葉を紡ぐと、共に。
 清浄なる空を空中に描き出す様にした暁音が星具シュテルシアを天に掲げる。
 掲げられた星具に取り付けられた神祭具の神楽鈴が、チリン、と小さな音を鳴らすと同時に、空中より降り注ぐ、光の雨。
 星を蝕む浄化の力の込められた祈りの雨がカタコンプに降り注ぎ、影朧と化させられた人々の骸を再生する。
 無論、死した命が宿るわけでも、カタコンプが完全に再生されるわけでもない。
 此処は人為的に作られた一種の聖堂……構造物なのだから。
 けれども……それでも、死した者達の亡骸の中で安らかな眠りにつく事が出来る程度の安らぎを与える為に無意味なものではなかった。
「終わりましたね、それでは帰りましょう、皆様」
 捕虜達が舌を噛み切って自殺などをしないように拘束しながらのネリッサの促しに猟兵達と雅人が頷いた。
(「……流石に海外では、竜胆さんでも直ぐに情報を割り出すことは出来ないか」)
 半分くらい諦念の表情を浮かべて軽く溜息をついた美雪が、そんな灯璃達の後に続いてこの場を後にする。

 ――何時かまた、何か大きな事件が起きるかも知れない。
 この不安をその胸の中に孕んだ儘に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月02日


挿絵イラスト