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ちょっと銀行強盗するだけの簡単なお仕事です

#デビルキングワールド

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#デビルキングワールド


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●こども銀行
「我が『こども銀行』において、魔界の子供達に、真の正しき悪の伝え方を『戦隊の仲間達』と考えていた!」
 突如『こども銀行』の支店長となったばかりである『悪魔戦隊デビレンジャー』のレッドはそう叫ぶと、おともだち――もとい、仲間である両手のイエローとブルーのパペットを掲げて、支店長の椅子から勢い良く立ち上がった。
『こども銀行』――とは言っても、このデビルキングワールドの銀行は、おままごとではない。
 ここは、お年玉などで『ゲーム課金沼に落とす』という極悪非道な悪を狙う意図もないのに、不覚にも通貨であるD(デビル)を渡すという善行を働いてしまった親御さんや親族のお子さんから、脅迫でそのお金を奪い取っては、それを問答無用で銀行に『預金』させる組織なのである。

 まあ――これだけ聞くと、どこの一般的ご家庭でも起こり得そうな現象ではあるが。

 しかし、この『こども銀行』の恐ろしいところは、それだけではない。
 ここは泣く子を前にしても、その預金引き出しを決して許さず。預金されたDを『デビル株』という、一瞬で破綻することもある謎のギャンブルに注ぎ込んでは一瞬で全額消し飛ばすという、この世界の泣く子の涙が、あまりの悪行で歓喜に変わるという程のとんでもない犯罪組織なのである。
 現在『デビルキング法』が制定されて悪行が喜ばれるようになっても、ここまでの悪に成り上がることは容易ではない。
 故に『銀行』は、デビルキングワールドの子供達が将来なりたい職業の上位に未だ食い込む、ものすごい悪行組織なのだ。

 そんな『こども銀行』の支店長が、力いっぱい息を吸う。
「まず! 以降は『デビル株をやらずに、預金は全てこの悪魔戦隊デビレンジャーの懐に収める!!』」
 それを耳にした行員達から、どよめきが走った。今までは誰も得をしない、ある意味クリーンな悪事であったのに、それで私腹を肥やすとは何という悪であろうか。
「そして――『預金を奪った後の、子供はころす!』――いや、震え上がるが、はっきり言おう『殺す!!』」
 そして重ねられた言葉に、銀行は驚天動地のような騒ぎが起こった。それは、元が善良故に誰一人として思いつかなかったような悪。むしろオブリビオンでなければ思いつかない領域である。
「我ながら、震え上がるほどの悪! 真の悪を伝える為とはいえ、ヒーローが未来ある子供の命を奪い、私腹を肥やす……これはもはや邪悪と言ってもいいだろう!
 だが、決行すれば悪を広める効果はてきめんだ! ……考えるだけでも恐ろしいが、それもヒーローの宿命だと覚悟を決めたのだ!」
 支配人の口にする内容のあまりの恐ろしさ。そして、慄きつつもその邪悪さにときめきすぎた善良な行員は、失神するかスタンディングオベーションするかの二択を迫られ、その銀行は数日間の休業を余儀なくされたという――。

●グリモアベースにて
「――という予知だ。いくら悪を尊ぶ世界とはいえ、流石に子供達を殺させる訳にはいかない。
 だが、そのオブリビオンだからこその発想に、行員達は既に心を奪われている有り様だ。
 支店長を叩きのめすだけならば容易いが、その行員達の目を覚まさせる為に、より華やかで派手な悪――『コテコテかつ、華麗なる銀行強盗』をして来てほしい」
 少し正気を疑われそうな予知の特異性も踏まえ、見た予知の仔細を全て語った後。それを目にしたレスティア・ヴァーユは、呼吸するように猟兵達に難題を吹っ掛けた。
「あの世界では、オブリビオンがDを一箇所に集めると『カタストロフの儀式魔術』を行使できる。それを踏まえ、両方を防ぐ方法として『銀行強盗をして、出て来た支配人を殴る』のが一番手っ取り早いと判断した。
 幸い、数日の時間的猶予はある。まずは銀行のある街に赴き、下調べと共に『より完璧な銀行強盗』の為に、当日の計画準備をしてほしい。
 必要なものは大体現地で調達できる。着る服などにまでこだわりがあると尚良いだろう。
 ――当日は何が起こるか分からない。計画は基本的には誰が何をと仔細まで決めるよりは『Dを奪い、奪ったDを持って逃走する』という正統派な結果を出せるものであれば、アバウトに誰でも出来るものの方が好ましいだろうな。
 行員達は『フランケンシュタイン』。人並みの知性はあり、こちらの言葉も問題無く解すが、話すのは不得手。支配人のオブリビオンは、Dを持って逃げれば嫌でも追い掛けてくるので、敵対するまで気にしなくて構わないだろう。
 ……情報としては以上だろうか。
 ふざけた依頼ではあるが、若干手間の掛かる依頼となると思われる。それでは宜しく頼む」
 そうして、予知を見たグリモア猟兵はひとしきり告げると、静かに集まった猟兵達に頭を下げた。


春待ち猫
 この度はご閲覧いただき、誠にありがとうございました。春待ち猫と申します。どうかよろしくお願い致します。

●このシナリオについて
 今回は、デビルキングワールドが舞台となります。話の内容は『コメディ系のなにかユルい』ものを思案していますが、計画などのやることなどは、完璧を突き詰めますと少し多いかも知れません。
 基本的にはこの世界の住人達が『銀行強盗だ! なんかすげー!!』というテンションになれるものであれば、プレイングはギチギチでなくとも構わない、という程度のものを想定しております。

●各章説明
 第一章は日常です。
 数日間の日常生活を送りつつ、銀行強盗に入る為の下調べや、物品入手、計画を立てるなどの第二章の準備期間になります。POW.SPD.WIZについては、ゆるふわにて問題ございませんが、この世界の住人はコテコテの様式美も大事にする為、押し入る際の格好などから気にしても良いかも知れません。
 以降の章では、第一章段階で立てた計画に沿うと、その章のプレイングボーナスが増えます。

 第二章は集団戦です。
 基本的には、戦闘が発生するものと思われますが、猟兵達によって完璧かつコテコテの作戦による銀行強盗が行われた場合には、戦闘の無いタイミングが発生する可能性もございます。

 第三章は支店長とのボス戦闘です。
『悪魔戦隊デビレンジャー』のレッドです。どう見ても一人しかいませんが、両手につけた何の変哲もない普通のパペットのおともだち――もとい仲間の『イエロー』と『ブルー』がいる為、本人は戦隊だと主張をしている、悲しくも孤高のヒーローです。
 容赦なく倒して下さい。

●シナリオ進行について
 今回は各章にプレイング受付期間を設けております。第一章受付時刻は【2021/07/10(木)08:35~07/12(月)16:00迄】となります。こちらより前後にいただきましたプレイングにつきましては、流れてしまう可能性が高くなりますので、予めご了承いただければ幸いです。
 二章、三章につきましては、断章投下後に、タグなどで受付期間のご確認をお願い致します。
 今回はシナリオの性質上、再送については思案しておらず、全採用はお約束できない状態の為、プレイングが流れてしまいました場合には何卒ご容赦の程をいただければ幸いでございます。

 それでは、どうか宜しくお願い致します!
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第1章 日常 『ワルなコスチューム開発』

POW   :    悪魔たちの個性を活かす

SPD   :    異世界の素材を使う

WIZ   :    戦闘用のギミックを仕込む

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
銀行強盗…?
…我らも一度くらい嗜むべきか
付き合え、我が騎士よ

現場の下見をする
現金輸送車はないが馬車ならあるし
輸送車を持つ猟兵もいるやもしれぬ
乗り付ける場所と動線を見たい
いっそぶち抜き易そうな壁とかないかな
派手だし華麗だろう?

行内の見取図は要るね
席配置、通用口と窓を含めた出入口
死角になりそうな席と人質に取り易そうな位置の席を押さえたい

銀行強盗と言えば銃
自前の銃「Last Tango」は誂えた
服選びも拘るぞ
黒のレザーのキャットスーツ
髪は高く結わえて 
サングラスをかけ口元はスカーフで隠す
よし、完璧に銀行強盗…かテロリストだが
美しいので良かろう

我が騎士…は
顔も隠しているしそのままで良い…か?
うーん…?



●銀行強盗は淑女の嗜み

「銀行強盗……?
 ……我らも一度くらい嗜むべきか」
 ふむ、と。膝裏までの金と銀の髪色を海のように広げたラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)は、羽根を収めた黒い洋扇を口許に当てて思案していた。
 元の狂信者達から袂を別ってしばらく。
 確かに、今の生活に不便はある。だが、ここには常に新しい驚きがあり、感銘があった。
 もう、あの頃自分を取り巻いていた元の世界へ戻る気などありはしない。
 この状況に喩えるならば、今回の依頼である銀行強盗など……それはもう、嗜まずせずして如何せん。

「――付き合え、我が騎士よ」
 ラファエラが、沸き立つ心にユーベルコード【我が騎士との輪舞曲(マイ・ディア)】を伴えば、そこには白銀の甲冑で身を固めた己の騎士の亡霊が現れた。
 この姿を見る都度に、ラファエラは兜に隠れた貌を、表情を、少しだけ見たいという衝動に駆られる。
 しかし、はっきりと見たいと願うには、あまりに色々と足りない気がした。自分の心も、覚悟も何も。

 転送して降り立った世界の先。情報を元に、まずは銀行を取り巻く公道を、ラファエラは己の騎士を伴いゆっくりと一周してみる。
 まず第一に、戦場において必要な物は何か。
 生前、過去に騎士団長であった己の騎士が知っていたであろう知識を追想したくて、ラファエラは人目に付かぬよう、蘇ってからそのような本を気まぐれに読んだことがある。ふと今、その中に含まれていた『退路』という言葉を思い出した――他は、そもそも本自体が難しすぎて、全部すっからかんに忘れてしまったが。
 しかし、確かにこの状況において、銀行強盗後の退路は必須となるであろう。
「ふむ。この手に現金輸送車はないが、馬車ならある。輸送車を持つ猟兵もいるやもしれぬ。――ならば、それらを乗り付ける場所と動線を見たいな」
 適応たる道は広く、しかし目立たなければ目立たない程に良い。
 ラファエラはそのまま銀行へ乗り付けられる出入り口が、いくつあるのかを探す。
 今のところ目についたものは、玄関、通用口と、裏口。
 同時に、通常ではここからDの運搬をするのであろう、地下駐車場――。
 試しに、迷子のふりをしてそちらも見に行きたいとも思ったが。案の定、入り口の警備員のフランケンシュタインに止められ追い返された。
 仕方なく、ラファエラは足先を銀行内へと向けてみる。
 しかし、どこもかしこも、あるドアあるドア『立ち入り禁止』の文字ばかり。
 これはフラストレーションも溜まるというものだ。ラファエラの気質上としては、一際に。
「いっそぶち抜き易そうな壁とかないかな。
 ――派手だし華麗だろう?」
 銀行内へ押し入る際、あるいは撤退する際に、薄そうな壁を爆破するのは確かに銀行強盗のロマンの一つ。ストレス発散だけではなく、純粋に一考する余地はあると考えながら、今度は警備員らしきフランケンシュタインの目に触れぬよう、ロビーをじっくりと見渡した。

 ロビー左右には大きな窓と、いくつか銀行に用のある人物すら座らない、死角となり得る席がある。
 それと同時にロビーカウンターの正面にある席などは、背後の配置ATMから一直線に来る事が可能だ。ここに人質を取れれば完全に人目を引くことが可能だろう。
 それらの情報を脳裏に纏めながら、思考に耽りかけたラファエラは、ふと視線を感じた気がして振り向いた。
 己の騎士が、こちらを見ている気がする――あり得ないことだ。錯覚であろう。
 しかし、確かにその瞬間。
 ――まるで警備員が、長居をしていたラファエラ達を訝しんで確かにこちらを目にしていたのを見た。
「では。十分涼んだし、行くとするか」
 背筋に僅かな緊張が走る。ラファエラは可能な限り違和感が無いよう、敢えてゆったりとその場を離れた。

 こうして、確認したものを思考し脳内に纏めつつ、ラファエラは買い物をして己が住まう数日間の仮の拠点に戻って来た。
 この間にも、他の猟兵たちも最善を尽くし各拠点に身を置きつつ、様々に行動を起こしているに違いない。

「さて、次だ。
 服選びも拘るぞ! まずはこれに――」
 バン、と。ラファエラが、己の騎士に持たせていた袋から取り出したものは、如何にも『これから犯罪します!!』と言わんばかりの、セクシーな黒のキャットスーツだった。しかも、それは着ればしっかりと身を包みつつも身体のラインを完璧に露わにした上、身を止めるファスナーは艶やかな腰上までしか上がらない為、乳白色の胸元が見事に露わになるパーフェクトな悪女スタイル。
 基本、猟兵の姿は渡る世界により各世界に違和感なく適応する特性を持っているが、あくまでそれは、対象世界における一般的なものでしかない。
 であるならば、それだけに頼らず『らしくみせる』為には、相応の手間を掛ける必要があるのだ。

「これを身に付け……そして――」
 ラファエラの意を察したように、長く豊かに揺れる金銀の髪を、侍女として存在している『Wilhelmine』が、高く一つに結い上げる。
 併せて、今回は寵姫の瞳を隠すだけの目的ではないサングラスを掛け、口にスカーフで覆って――完成。
「よし、完璧に銀行強盗……かテロリストだが。美しいので良かろう」
 ここに来るまでに、己が誂えてきた自前のガトリング銃『Last Tango』の調整も完了されている。
 見事なまでのセクシーを鏡に映しては、満足げに頷くラファエラに。普段、常に正面を向き、戦闘時以外は動く事もない亡霊である騎士の兜が、その瞬間、僅か視線を逸らすように下げられた。だが、その『極めて重大な事象』に――改めて、鏡に向き直ってしまったラファエラは気付かない。
「我が騎士……は。
 顔も隠しているしそのままで良い……か?」
 ワンテンポ遅れて、ラファエラは鏡越しの騎士を目にして首を傾げる。
 それは見事なまでに、切なくも惜しいすれ違い。
 ラファエラが鏡から離れ、正面から己の騎士の前に立てば、やはりもう正面位置から微動することもない相手の兜に目をやった。
「うーん……?」
 己の騎士は、いつもと変わらぬガッツリとした甲冑姿だ。

 ――せっかく自分がここまで悪らしく整えたのであるから。こちらも何か、こう――。

 そうして。決行当日まで、ラファエラにとってそれが一歩間違えると銀行強盗よりも難しい悩みとなった。
 ――何か良い『悪そうな姿』はないであろうか。己の騎士の姿をひたすらに夜通し見つめては、ユーベルコードの効果が消えるまで考え続ける。
 ユーベルコードは、都度まちまちな効果時間であるが。
 己の騎士が消えるまで、ラファエラが凝視し続けたその時間は、もしかしたら継続最長記録を叩き出していたかも知れない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

地籠・陵也
【白竜と白猫】アドリブ歓迎
悪影響が少ないやり方がしたいな……ん?どうしたエインセル。
……なる程、アニメのキャラクターになり切って銀行強盗をすれば相手のダメージも少ない。確かにその通りだな、いいことを考えたなエインセル(なでなで)

とするとなりきるならまずは形からだな。コスプレ衣装店に突撃だ。
あれ、店の公式サイトに掲載されていた値段と全く違うな……ぼったくりか?(店内の掲示板を見る)なるほどそういうことか。
えーっと……(電子書籍に入れたデビキン本を読んでから咳払いして)
こういう商売をするということは、痛い目を見る覚悟はできているワケだな?と【指定UC】で強化したバールのようなものをつきつけるぞ。


エインセル・ティアシュピス
【白竜と白猫】アドリブ歓迎
にゃーん、ぎんこーごーとーって「てをあげろー!」ってじゅうとかナイフとかむけておどすのがテンプレート、ってこのまえこのせかいでやってるアニメでみたよ。
ねえねえりょーや、そのアニメのまねしたらあくまさんたちよろこばないかにゃ?(じーっと見つめる)
ごーとーってほんとうはこわーいことだから、あんましこわがらないようなやりかたがしたいにゃーん。

てんいんさん、なりきりセットのコーナーはどこにありますかー?(無自覚に【指定UC】で見つめながら)
あれ?おねだんが……りょーや?
わるーいことをしたらおねだんがやすくなるサービスなんだ!
よこーえんしゅー?にもなっていっせきにちょーだね!



●事前練習は、雰囲気作りには欠かせません。

「ここか……」
 熱い直射日光が燦々と照りつける中、グリモアベースの転送により『こども銀行』の近くに送られた地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)とエインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)は、一度現場を目にしておきたいと、構内の確認の為、試しに数日後に踏み込む事になる『こども銀行』へと足を踏み入れることにした。
 中に入ればエアコンが良く聞いた温度差により、肌が一気に冷たく感じられる。ゆっくりと中に進んでみれば、実質、子供をターゲットにして悪事を働いていることを宣言しているこども銀行というだけあって、分かりきっていたことではあったが、この場にはとにかく子供達が多いのが印象的だった。
 陵也の表情が、晴天に湧いた光を隠す雲のようにはっきりとした翳りを見せる。
「銀行強盗か……。悪影響が少ないやり方がしたいな……」
 デビルキングワールドは、己が出した猟兵の依頼以外にも、こうして自らが依頼に参加し足を運ぶことも多い。その特性上、そこに住まう住人たちが『悪いことほど素晴らしい』と尊ぶ、若干常識から外れていることも十分理解していた、のだが。
 それでも――陵也の心の内部には、熱に溶けた金属のように張り付いては、灼き爛れさせていくものがある。

 ――ある日の日常。
 陵也がずっと続くと思っていた幸福な日々が、突如崩壊させられた、その瞬間――。

 確かに、この世界の住人は頑丈すぎて死とはあまりに遠く、更に刺激的で迫力ある不道徳なものを、何よりも喜ぶ性質を持つのも分かっていたが。
「……」
 それでも尚、陵也の中で本来『強盗とは、それを望まぬ者に強いる行為』なのだという思いが、どうしても抜け切れないでいる。
 涼しい建物の中、まだ隙間から抜ける心の痛みに視線を落としていた陵也は、その傍らでエインセルがチラチラと不安そうにこちらを覗き見ていることに気が付いた。
「ん? どうしたエインセル」
 ふ、と。少し思考に浸りすぎていたらしい。陵也は少しの反省と共に、心配そうにこちらを見つめていた、大事な飼い猫でもあるエインセルの言葉を待った。
「にゃーん、ぎんこーごーとーって『てをあげろー!』ってじゅうとかナイフとかむけておどすのがテンプレート、って。このまえこのせかいでやってるアニメの『すてき! ぎんこーごーとー!』でみたよ」
 一つ一つの言葉に大きく身振り手振りをつけながら、エインセルは無意識に心に影を落とした陵也をいたわるように、一所懸命に話をしていく。
 銀行と同時に、銀行強盗も子供達にとっては犯罪の花形である。エインセルくらいの少年がそれについて語っていても、日常的すぎてあまり危機感はないのであろう。警備員もこちらを向く様子はない。
「ねえねえ、りょーや。
 そのアニメのまねしたらあくまさんたちよろこばないかにゃ?」
 エインセルも同じようにフロアロビー内にぐるりと見渡してから、先程まで無意識に気落ちしていた陵也にじーっと目線を預けて、その心を覗き見したかのように見つめ返した。

「ごーとーってほんとうはこわーいことだから。
 あんましこわがらないようなやりかたがしたいにゃーん」

 どうやら、思っていることは同じであったらしい。
 むしろ、無意識に。エインセルが陵也の心に合わせてくれたのか。
 陵也は己の心に少しの情けなさを伴って。同時に胸のやり場に困りながら、エインセルに向かって微笑んだ。
「確かにその通りだな、いいことを考えたなエインセル」
 そして優しく、今は人の姿をしている相手の頭を陵也は柔らかく撫でつけた。

 ――気落ちは、ここまで。
 これは、この場にいる子供達の命もかかった依頼であるから――
『強盗でDを奪い、ならびに子供を殺すと宣言したオブリビオンを倒す』。
 どのような個人的感傷が、行動の邪魔をしそうになっても。そのような未来を打ち消す為の、そもそもの失敗は決して許されないのだから。

「とすると――なりきるならまずは形からだな」
「てんいんさん、なりきりセットのコーナーはどこにありますかー?」
 こども銀行から歩いて行ける、更には値段の安い店として候補を絞って向かった先。
 そこには、たくさんのハンガーラックに掛けられた沢山の衣装があった。
 どぎつい色を中心にインパクトに溢れた、デビルキングワールドで大人気の変身アニメ衣装から、適当に作られて棚に重ねて袋詰めにされている日常的な変身願望を満たしてくれるけれども『正直、フェチがないと何に使うのか理解が難しいコスプレ衣装』まで。
 辿り着いたのは、文字通り山と積まれた衣装が置かれている、ネットで調べた限り地域一番特価のコスプレ衣装店だった。

 コスプレというそのニッチさも、他の世界基準から見た尖り具合も、このデビルキングワールドの住人的には好評なのか、店の広さと品揃えからはそれなりに儲かっているのが伝わってくる。
 しかしこうも広いと、闇雲に『それらしきブツ』を探すには無為に時間を浪費してしまう。
 遠くを見渡しても、ラックに隠れて他の人物の姿が見えない。
 店自体にも若干の困惑が隠せない陵也が、店員の姿を探そうとした時に、そんなエインセルの無邪気で可愛らしい声が響き渡った。
「もー少し静かにお願いするっすよー……」
 その声に、隠れて見えなかった奥のカウンターから、バイトの若い悪魔青年がノロノロと姿を現す。
 態度の悪さが、他の世界と比較してもグダグダであることこの上ない。
 しかしこの世界では、お客様に丁寧な接客などもっての外だ。
『善意は全ての人ならず』。とはいえ、突き放してボコボコにしては、そもそも商品が売れないので、適当にかつ乱暴にして、店員は客の心を沸かせる必要があるのだ。
『店の物が売れる程度に、お客様は雑に扱え』これこそが、この世界の過剰ではない的確な接客なのである。
 そんな事情を裏に抱えて。とにかく気怠そうに近寄ってきた店員に。瞬間、エインセルの潤んだ瞳が、隠しもしない純粋かつピュアな輝きを放って店員を直撃した。
 無自覚のユーベルコード【にゃんこのおめめ(ゲニオソロシキハジュンスイサ)】――小首を傾げて真っ直ぐに見つめてくるエインセルの視線がぶつかり、だるんだるんだった店員の心を照らしつつ、同時に同じ閃光でさくっと音を立てて貫いた。

 このユーベルコードは、エインセルのつぶらなおめめに捉えられた対象が『無意識に友好的な行動を取ってくる』魔性のユーベルコード。
 しかし、デビルキングワールドにおいてこれが発動するとどうなるか。
「お!? 何だちび助、強烈なガン飛ばしてくるじゃねぇか!
 可愛さでひと誑かそうだなんて、実は相当な悪なんだろ!?
 そのふかふかのしっぽと、ねこ耳! 後は、ほっぺた両手につまんで泣くまで引っ張りたくなる衝動を必死に抑えながら、且つ付きっ切りもしないパーフェクトな塩梅の放任主義で接客してやんよ! 何の用だ!!」
「にゃぁあああ――っ!?」
 と――それは都度、無自覚が出した結果とはいえ。エインセルが想定していたものと明らかに異なっていた。
 いつもは、見つめれば皆、理由までは良く分からないけれども優しくしてくれる事が多かった。……時折『罪悪感』という謎の言葉で、もんどり打って死に掛けたりしている人もいたが。
 しかし、ここでは。それは悪と称えられ、柔らかなお餅のようなほっぺたをつまんで引っ張ると言われ、更にはそれを放置すると言う――。
 個人の接客に対する姿勢はひとそれぞれだが、これこそがデビルキングワールドにおいて、これも意欲に満ち溢れた厚意満載、理想の接客なのである。
 ――ただ。それは一般的な世界に主軸を置いて存在してきたエインセルには、少々相容れなかった。

「あう……にゃ~……」
 エインセルが悲しみと衝撃に濡れつつも、つぶらに潤んだ澄み切った翠の瞳で傍らにいた陵也を見つめる。
【にゃんこのおめめ】発動――無自覚故に乱発されるユーベルコードは、飼い主であっても決して慣れるものではない――むしろ、それをどうして飼い主に避けられようか。
 猫の飼い主とは大体、例外こそ多少はあれど、基本はその『にゃんこの可愛さに洗脳された下僕』なのである。

「……商品の、場所を知りたいんだが。どこにあるか教えてくれないか」
 陵也が、背後に普段見せる事のない、並々ならぬオーラと共に、ふと手に『そこら辺で拾ったバールのようなもの』を握り込む。うちの子を何いじめようとしているのか――ギチリと、握り手から音がした。
「カッコイーッ! 無言の脅し――!!
 カッコイイが、それに屈したら接客は出来ねぇぜ! こっちだ、ダセぇがそのカッコよさに免じて特別に案内してやる!」
 そうして、二人が連れて行かれたのは店内奥の一角。その先は、拓けた場所にあるバラエティ満ちた王道の、職業なりきりコーナーだった。
 コアなマニア向けなのだろうか『なぁす』やら『冥土服』と良く分からない字で書かれたものの中に、ようやく目的のブツとなる『今日から、貴方も憧れの! あの【銀行強盗に】なれる!!』と書かれた一式が収められた袋を見つけ出すことに成功した。
 見ていると、店のこだわりなのだろうか。それらの袋の中には、どれも縁のある軽い小道具も付いている本格派なのだが――この袋に収められている銃の重さには、じわりとした本物度を感じずにはいられない。
 引き金引いて実弾飛びだしたらどうしよう、思わず不安極まりない表情を浮かべる陵也の傍らで、ふと、エインセルが不思議そうに首を傾げた。

「あれ? おねだんが……
 りょーや、これまるのかずがひとつちがうよー」
「ん? 本当だ、おかしいな……」
 確かに、ここに来る前。
 二人が調べた、この店の公式サイトで売り出していた商品と、今同じものを手にしているはずなのだが。
 だがネットで見た品より、ここで売られている商品の方が、左末尾のゼロの数がどう見ても数個多い。間違えたら勘違いしたままでレジに持っていきそうな程の小ささで書かれているが、値段のカンマはそれを含めた数値で刻まれているではないか。
「……ぼったくりか? えっと……」
 店内にある掲示板を見やれば、どれも特価を謳いながらも、やたらめったらネットで見たよりゼロが多い。どういうことかと改めて店員を呼びつければ『ようやく気付いてもらえた悪事!』とばかりに、店員は目を輝かせて一言告げた。
「袋詰めの手数料だ! おい、手慣れた作業員による『キモチ』にD払えねぇっていうのか!?」
「なるほど、そういうことか――。
 えーっと……」
 今にも掴み掛かってきそうな言葉とは裏腹、好意を向けられたシベリアンハスキーの如く目をキラキラさせている店員に、陵也は手持ちのネット検索もできる電子書籍リーダーデバイス・THOTHから、この世界の本をしばし捲り上げては脳に叩き込み、咳払いを一つ。
 そして、
「……りょーや?」
 不思議そうに陵也を見やるエインセルに一歩下がっているように告げると、陵也は先程より床に置いていたバールのようなものを再び手に取った。
 瞬間、ユーベルコード【エスカリバール(シゴクタンジュンニツウレツナバールノヨウナモノ)】により、バールのようなものから閃光が迸る。
 一層の神々しさすら感じられる光を纏ったバール(以下略)を握り締めた陵也は目つき鋭く、それを荒ぶる風を纏った轟音と共に、完全に恐れをなした店員に突き付けた。
「ひぇっ!!」
「こういう商売をするということは、痛い目を見る覚悟はできているワケだな?
 よし……『これを頭に一撃受けたくなければ、同じものをもう一つ用意しろ。今すぐに、だ。
 ――D? ハッ、お前にはDよりそこらの石ころがお似合いだ!! はーっはっはっは!!!』」

 最後の一文。この辺りは、事前に読み込ませていたTHOTHに載っていた『デビルキングワールド国内旅行編~旅の礼儀正しいご挨拶~』の一節である。
 これをUDCアースの概念に合わせると。
『ごちそうさまでした。料理物凄く美味しかったです。
 お会計はいくらになりますでしょうか』
 になる。世界によって常識はここまで変わるのだ。
 それにどこまでの説得力と感銘を与えられるかは、口にした人間次第になるが、陵也の演技はこの世界で大分慣れたのか、バール(略)の輝きと合わせ、かなり迫真を極めたものだった。
「ひぇっ、そんなもの突き付けられたら流石に命もたねぇぜ! 持ってきな、アンタも見た目にかかわらず相当の悪だ! シビれるぅっ!!」
 これも訳せば、
『そこまで喜んでいただけるならお代はいりません。むしろおかわりどうぞ』
 にあたる――過去にも思った。大丈夫なのか、この世界……陵也は湧き上がる頭痛を意地で抑え込んだ。

「すごーい! わるーいことをしたらおねだんがやすくなるサービスなんだ!
 よこーえんしゅー? にもなっていっせきにちょーだね!」
 ぱぁあっと、花咲くようにそれを見ていたエインセルが純粋な笑顔を見せた。
「……頼むから、こんなのは覚えちゃだめだぞ……?」
 きゃっきゃと喜ぶエインセルを横目に、これはあまりにも教育に良くない世界に連れてきてしまったかも知れないと、陵也は痛切なまでに実感した。
 店員が歓喜と共に『銀行強盗セット』をもう一つ用意している間、思わずめまいと胃痛を覚えて蹲りたくなる衝動を必死で我慢する。

 しかし――次は、これの本番が待ち構えているのだ。
 今の状況は、陵也のバイタルが更なる急降下する前触れでしかない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
雪丸様(f31181)と

仰る通りでございます。
強盗など初めてで不安でしたが……そんな心配も吹き飛ぶほど雪丸様のお言葉にわくわくして参りました
そうと決まれば舞台の準備。早速、街を巡ります

劇場の確認は重要でございますね
私は【瞬間思考力】で侵入と逃走の経路を導きます
有用性と見栄えを兼ねた道を探しましょう

小道具も大事な要素。雪丸様へと、兎耳と月の飾りが付いた雪の様に白いドミノマスクを選びます
そちらは私に?綺麗……非常に嬉しいです

最後に喫茶店でお茶をしながら当日の打合せでございます
ええ。どのような口上に致しますか?
私は字を書けないので筆記は雪丸様にお願い致します

なんて素敵な悪だくみ!開演が待ち遠しいです


雪丸・鳳花
メルメッテくん(f29929)

この世界では悪行が法律で推奨されているのだそうだ
しかし、命を奪うなど見過ごせない!

ボクらの銀行強盗は演劇のように!
予告状を出し、観客を盛り上げ!
派手に華麗に盗み出そう!

まずはボクらのステージとなる場所、銀行を下見しよう
潜入しやすい窓や裏口、Dの保管場所、行員の人数や配置、交代時間も調べられたらいいね
UCで眠気を誘い、コミュ力と演技で聞き出せるかな

次は強盗の扮装の調達だ
互いの仮面を選ぼう
メルメッテくんには白色に銀の装飾のドミノマスクが似合いそうだ

最後に喫茶店で当日の流れを話しながら予告状を作成だ
予告文は刺激的な文章にしたいね!

皆に華麗な真の悪を見せつけよう!



●光り輝く舞台のために。

 こども銀行が遠目に見える、先にある街並みをゆっくりと。雪丸・鳳花(歩く独りミュージカル・f31181)とメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)は周囲の状況を確認するように歩いていた。
 まるでおもちゃ箱を引っくり返したかのような、現代と中世がごった煮状態の街並みを体感するように、二人は改めて興味深くもありながら街の姿を見て回る。
 ――すれ違う住人達の『悪を奉じる勢いで存在している』と噂に聞いていたものとは、あまりに異なる『悪に疲れきってスレているかと思いきや、むしろ非常に幸せそうにしている』ことが、少し感覚的に理解できないこの世界。
 
「この世界では悪行が法律で推奨されているのだそうだ。
 ――しかし、命を奪うなど見過ごせない!」
 そう、今回は子供達の命が掛かっている。しかし、高らかに謳い歩く鳳花の隣に並ぶメルメッテの乳青色の瞳に映るものは――やはり、そんなデビルキングワールドの住人達が見せている、場違いにすら感じられるその笑顔。
「……」
 メルメッテは、思わず小首を傾げたままに歩き続ける。
 そもそも情報データでしか知らない『銀行強盗』という行為を行う自分、という存在自体に実感が湧かないというのに。更に重ねて、この世界では、資料で見ていた一般人の反応が大きく違うというのだ。
 ――この世界では、銀行強盗は喜ばれる。どういうことなのだろう。普通は怖いものなのでは――?
 そのような困惑を隠せないメルメッテに、先の己の声に重ね、鳳花は華やかな衣装の飾りを揺らして訴え掛けるように、そのような彼女の正面に軽やかに飛び込んだ。
「確かに、不思議も多い世界だけれども!
 ならばボクらの銀行強盗は演劇のように!
 予告状を出し、観客を盛り上げ!
 ――派手に華麗に盗み出そう!」
 人目も少なからずある、車道沿いの歩道ど真ん中。
 鳳花はクルクルと、一台詞ごとに都度ミュージカルシーンのポーズをパーフェクトに決めながら、混乱に近い様子のメルメッテに語って聞かせた。
 今、そんな鳳花から湧き上がる情熱は『ハイカラさん』と呼ばれる種族影響を大いに露わにして、背後からサングラスが欲しい程に、後光となってキラッキラと輝いている。
 その言葉に、メルメッテの瞳から段々と疑問が薄れ、その代わりに目に映る光を写し取るように輝き始めた。
「そう、ですね……仰る通りでございます」
 鳳花の情熱的なダンスポージングに、あまり乗り気ではなかったメルメッテの俯き気味の表情が、共に強い意志に溢れたものへと変化する。

「強盗など初めてで不安でしたが……そんな心配も吹き飛ぶほど雪丸様のお言葉にわくわくして参りました……!」
 実感して言葉を受ければ、不安以上の興味と楽しみにあふれた胸の高鳴りがメルメッテの中に一つ響いた。また一つ、新しい事が出来る――その心臓の鼓動に両手をそっと胸に沿えれば、一気に音が昂ぶる気がして。
「ああ、そうとも!
 ――銀行強盗! これは絶対、最高のステージになるに違いないよ!」
 そうして、高らかに謳う鳳花の響く声は、まるで天空にまで差すかのように響き渡った。
 ミュージカル『銀行強盗』の開始である。
 宣誓こそ人目のつく道のど真ん中ではあったが――この世界では、銀行強盗への一般人の憧れは日常茶飯事であったから、気にする住人は誰もいなかった。本当に、一応ながらも平和な世界なのである。オブリビオンさえいなければ。

「そうと決まれば、まずは本格的に舞台の準備に掛からなければなりませんね」
「そうだね。まずはボクらのステージとなる場所、銀行を下見しよう」
 二人が辿り着いた銀行内。暑く、少し心地良さとは遠い外とは異なり、銀行の中はひやりと涼しい空気に包まれていた。
 しかし、銀行ロビーから見えるドアは殆どが、屈強なフランケンシュタインのいる受付カウンターの向こう側。そうでないものは、警備員の格好をしたフランケンシュタインが傍らについているか、関係者立ち入り禁止の張り紙と共に、鍵が掛けられている物のみ。
「これは……一階フロアからの奥への侵入は難しそうでございますね」
「さっき、ここの建物に直結している地下駐車場を見つけたから――華々しく大金を奪うとしたら狙うとしたら、そこからだろうね。行こう!」
 障害があればある程やりがいも大きなものだ。互いの気分が、見る間にも、思わず紡がれる歌のように昂揚したものへと変化していく。
 この難関をどう潜り抜けるか。二人は思わず足取り軽く地下駐車場の入り口から見られる死角まで足を運んだ。
 見えるものは車、ならびに通行者のチェックをしているフランケンシュタインの警備員が一人。
「ボクは!
 さっそく!
 軽やかなる侵入を! 謀ろうと思うのだけれども!
 メルメッテくんはどうだい!?」
 鳳花のキレのあるポージングが華麗に炸裂する。しかし、ここまで派手では、ちょっとこの場の死角の意味も無くなるかも知れない。
「それでしたら、私もここから雪丸様とご一緒致しまして、侵入経路と退路の確保を記憶して参りましょう」
 そうと決まればさっそく決行。
 鳳花は、まだ気付かれていないその場所から、ユーベルコード【眠れる劇場の観客(ネムレルゲキジョウノカンキャク)】を発動させた。
 響くのは、ミュージカルのワンシーン。ゆったりとした旋律と、緩やかに舞う母親が赤子に歌い聴かせるような優しさを伴う歌詞が、届いた警備員を眠りへと誘った。
「内部に入っても、ずっと歌って眠らせて行きたいところだけれども……この場の全員が眠っていたら、流石に不審に思われてしまうよね――慎重に行こうか」
 鳳花の方針にメルメッテも小さく頷きを見せた。
 二人は慎重に、地下通路を物陰に隠れながら警備員をやり過ごし奥へと進む。
 鳳花のユーベルコードは最小限に。メルメッテは瞬間的な思考展開により、脳に完全な形で地下情報のマッピングを行っていく。
 建物の最奥、Dの保管場所には巨大な金庫が一つ。警備員が二人。
 遠目に見た暗号パスと物理キーの組み合わせは難解で、猟兵によっては物理で壊す存在が現れてもおかしくはないだろう。
 同時に、複数の警備員達が集まる休憩所を見つけ、鳳花はそこに先のユーベルコードを囁くように歌い紡ぎ、内部を無力化させて中に入る。
 部屋には複数の警備員の格好をしたフランケンシュタインの姿。半分程度に夢世界にいる彼らに話し掛けるが、言葉を殆ど発せない彼らの言語は「うごー……」「うがー……」等、意味があっても解読するのは困難で。
「ありゃ、これは考えなかった」
 作戦変更。鳳花は眠りを少し深く。皆が完全にすやすや眠り始めた所持品から、こそりと地下警備の情報が含まれたメモが書かれている手帳を拝借することに成功した。
 手帳には持ち主がまめ過ぎたのか、地下を警備している行員の人数や配置と、交代時間までもが記載されている。今回の侵入においては一番の宝だと行っても良いだろう。
「さて、メルメッテくん! ボクは好調だよ、キミはどうだい!?」
 ついつい、鳳花は嬉しさに全身を燦めかせては慌てて己のトーンを落とす。
「そうでございますね……。何台かの監視カメラを見つけましたが『本日は映らない』道を選んでおりますので、ここに来るまでの侵入側は滞りなく。
 本番では、もう少し『有効性と見栄え』のある道を探したいところでございます」
 そう、ここにも防犯上、侵入者対策として監視カメラが仕掛けられている。メルメッテはそれを察知した上で違う道を選んできたのだが、それも『本日は』の話。
 これが当日であるならば、むしろ監視カメラには『軽やかにカメラにピースサインを残し駆け抜ける』くらいの余裕がなければならない。
 実際の銀行強盗実践時には、監視カメラに写し出されるその悪事を目にすれば、この世界の住人の心までをも湧かせることが出来るに違いない。
 危険ではあるが――これはミュージカル。
 舞台はしのぎを削る程に、観客と世界に向けて心を切迫する方が、ずっと楽しいに決まっているのだから。

 そして、地下駐車場の警備員が他のフランケンシュタインに居眠りと勘違いされ、叩き起こされているのを後目に、二人は下見を終えて華麗に銀行を抜け出した。
「さて!
 舞台のリアリティを上げる為にも、次は小道具が必要だね!」
 脳内処理を完結させたメルメッテの傍らで、鳳花も一度は銀行地下に潜った高揚感から醒め切れずに、切れ味の良い華麗なターンを決めながら、この世界の舞台専科の職業も世話になるという、様々な物の販売に特化した百貨店へと向かう事にした。
 見て回れば、そこは『かなり尖って普通は売れない品揃えを、敢えて集めて取り扱う』ことで、莫大な収益を出している店のようだ。
 当然、求めていたものもある――。華麗に襲い、華麗に奪い取るといえば、やはり顔を隠すマスクアイテムは必須であろう。
 向かった先は、雅やかな西洋仮面を取り扱ったコーナー。おもちゃという区切りになっているが、どれもがかなりの本格派だ。
「雪丸様へは……」
 二人で互いに、マスクを選び合う。
 メルメッテが鳳花へと選んだものは、綺麗に天に伸びた兎耳と、その耳元に金で出来た月を模す音のしない飾りのついた、顔の中程から上部を隠す面積の狭いドミノマスク。顔全てを隠すものの方が目立ちはしないが、ここは『格好良さの美学』が追究されているのだ。
 白雪を思わせる色の仮面を鳳花が試しに身に着けると、その鮮やかな赤髪と覗き見える紫の瞳を交え、マスクの純白はさらに際立った。
「これは!
 素晴らしいね!」
 銀行における緊張感も薄れ、スパーン! と再び鳳花がポーズを決めてみせる。いつも以上にとても似合うその姿に、メルメッテが思わず微笑み小さく笑う中。鳳花は、しばらく商品をじっと見た後。メルメッテと少し見つめると、その瞳の形に沿うラインのドミノマスクを手に取った。
 少し大きめながらも、双眸の端に向かうにつれて細くなる、同じくスッキリとしたドミノマスク。左側だけに入ったアシンメトリーの銀縁取りがそのセンスの高さを感じさせる。
「メルメッテくん!
『これに! 決めた!!』
 ――似合うと! 思うんだけど! どうだろう!?」
 華麗なステップと芝居掛かった仕草で、鳳花はメルメッテにマスクを渡す。
「……そちらは私に? 綺麗……非常に嬉しいです」
 メルメッテはそれをしばし、自分が身に着ける物だということを忘れて見入っていたが。その事実を思い起こすと、思わずその表情を花のように綻ばせた。

 ――そして、夕方。買い物を終えてお茶をしながらの、決行当日の打ち合わせ。
『せっかくだから予告状を出したい』――それは、依頼を始めてからの、二人にあった共通の思いであった。
 突然襲い来るから純正の強盗のような気もしなくはないが、今回の方針としては、あくまで華麗に盗み出し、盛大に支配人を叩きのめすのであるから、悪人を伸す理由としても、予告状は外せないのである。
「予告文は刺激的な文章にしたいね!」
「ええ。どのような口上に致しますか?
 私は字を書けないので、筆記は雪丸様にお願い致します」
 文字を練習中のメルメッテが書くと、筆記具を問うことなく、どうしても釘で机を削ったような文字になってしまう。
 ここのイメージとしては、軽やかな羽のようなものが好ましいところ。
「では、このようなものはどうだろう?」
 そう告げては、鳳花の手指の先にあるペンから、まるで魔法のようにサラサラと書き出されていくいくつかの案。
 書けない代わりにメルメッテも案を出し、鳳花がその細部を飾りながら、本日買い占めて大量にある大ぶりのカードの上に、カリグラフィーで文字を書いていく。
 そして、軽く半分の紙が消費された頃――。

「できたよ!
 これで、完璧だ!」
 そうして、レタリングペンが静かに置かれた先――二人のテーブルの中央にあったのは、ようやく互いのイメージを擦り合わせて完成させた、一通の黒い封筒に入ったメッセージだった。

【こども銀行のD、全て華麗にいただきに参ります】

「後は、これを決行前日に届ければ完璧だね!」
「これは――なんて素敵な悪だくみ! 開演が待ち遠しいです」

 ――この瞬間、二人の感性は確かに一つになった。
 テンションは高揚の極み。
 そして、当日に向けて。皆に華麗な真の悪を見せつける為、二人は力強く席を立ち上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベルゼ・アール
WIZ
アドリブ歓迎

強盗ね…直接押し入るのは趣味じゃないし…
ここは内部から崩壊させる手で行きましょう

まずは短めの休暇を貰いましょうか、丁度有給溜まってたし
相手がDを消費せずに溜め込む以上、Dを守るために警備体制も厳重にするはず
となると警備の人員を増やすわよね?
その求人に応募するわ
採用された直後のタイミングで銀行あてに予告状を出せば、向こうも警戒して警備を厳重に固めるわね
具体的には金庫に通じる通路とか、ドアの前に複数名固める形になるかしら
その人員をまとめてガスで無力化してしまえば、労せずして金庫の中身をいただけるというわけ

事前の準備はこれでいいわね
警備員用の制服には薬剤スプレーを忍ばせましょう



●知性で攻めるもまた美学
 転送先から一時の住居を決めて。さっそく銀行の正面、周囲を一回りして来たベルゼ・アール(怪盗"R"・f32590)は、軽く手を組み思案を始めた。
「華麗にコテコテな強盗、ね……。正面突破もありなのでしょうけれども、直接押し入るのは趣味じゃないし……」
 ふ、と。己の思いに耽る――ベルゼは、とあるSSWの軍需企業・株式会社UAIに身を置く社長秘書であるが。
 その夜の姿は『稀代の大怪盗』にして『詐欺師』。そして『フリーランスの工作員"R"』と――完全な暗部に咲き誇る、美しき華。

 そのような目を持つ彼女からすれば、正面からのロビーからの押し入りで、地下に眠る巨大な額のDを無視して、一階にあるものだけを奪い取るのは、あまりにもせせこましい。
 大物は盛大に狙うべきだ。そうでなくては、そもそもオブリビオンである支配人が追い掛けて来ない可能性すらある。
「そうね。
 ――ここは内部から崩壊させる手で行きましょう」
『こども銀行』という少し夢ある名前の場所をフランケンシュタインに護衛させるような形式美も何もありもしなければロマンの欠片もない銀行など、様々な点においてたかが知れたものであり。本来のベルゼにしてみれば、依頼でなければ本来の食指はぴくりとも動かないものではあるのだが。
 やるからには徹底的に。ベルゼはさっそく外堀から攻めるべく銀行の内部に入ろうとはせず、その場から颯爽と姿を消した。

 そしてまず始めた事は、表向きは社長秘書として自分を雇う『軍需企業・株式会社UAI』に連絡をつけることだった。
 猟兵としての仕事も優先順位が高いものの、数日がかりともなればこちらを疎かにする事は出来ない――まず、数日間とはいえ『自分の居ぬ間に、問題あふれる社長を野放し』という現象などは考えたくもなかった。引き継ぎもきちんとしたい。これを怠ると、戻って来た時には有能だった代理秘書が何人も辞めているという、悲しいまでの悲劇が発生したりする。
 有休を使い、短めの休暇を。案の定電話の向こうでは、ざわめきと共に電話口にいないのに聞こえてくる社長の自信あふれる声一つ。
「というわけで、どうか宜しくお願い致します」
 きちりとした秘書としての言葉を最後に、通話を切った。
 今度は、自分の居ぬ間に辞める人材の数などは数えたくないものだが。この空白の期間はなかなかに頭が痛い。
 そして――澄んだアンバーの瞳を閉じて、深呼吸を一つ。
 ゆっくり目を開けて思考を切り替えた先は――夜、無数の悪の肩書きを背負った『R』の横顔。

 深夜、銀行の近くにある古い建築の建物から、キャットスーツの動きを制限しない、小さな双眼鏡を取り出した。目に入る範囲から、銀行の間取りを脳裏に叩き込みつつ、思案する。
(相手がDを消費せずに溜め込む以上、Dを守るために警備体制も厳重にするはず――。
 となると……)
 
 翌日、ベルゼの想定はある意味、現実となった。
 情報収集の為にベルゼが購入した新聞と。
 そして、後はここの支配人の頭はどこか抜けているのか、銀行敷地の壁あちこちに『キミも! 子供達に悪を伝える、輝かしき銀行警備官にならないか!?』というポスターが所狭しと貼られているのが目についたのである。
 これでは『悪いことを思いついたが、今、この銀行にはそれに適応出来る人手が足りない! 銀行強盗さんっ、今が狙い目っすよ!!』と、大声を上げて宣伝しているようなものだ。
「……」
 ベルゼは思わず「ここの支配人はバカなのでは……? いえ、オブリビオンである以上、バカでなくとも倒さなければならないのだけれども」――という思考の原点に立ち返らざるにはいられなかった。
 しかし、もしかしたら罠かも知れない――そう警戒を深めつつ。
 銀行の動向を慎重に窺いながらも、求人にかこつけて自分の経歴を偽造して訪れてみれば――それはもう拍子抜けどころではないほどに、ベルゼはあっさりと警備態勢の裏側へと潜り込む事に成功したのである。
 ベルゼは思った――今回の敵は、本当にあたまがよくないのであろう、と。

 そうして、ベルゼは残りの主な時間を銀行内で過ごす生活が始まった。
 彼女自身、厳ついフランケンシュタインに囲まれつつ仕事をするのは中々に新しい体験であったが、この世界の皆が悪事を尊ぶ割に、やはりどこか性根が優しく――そして、その分油断も多い。つけ入るとしたそこであろうと判断する。
 警備内部は、確かに地下に頑丈な金庫が用意されているが、フランケンシュタイン達にやる気がないのか、どこか金品を護っているという緊張感がまるでない。

 しかし、計画通りならば猟兵達が銀行に押し入るまで後二日に迫った。
 こちらもそれに合わせて、明日、銀行宛に予告状を出せば、完全に入手した警備情報が多少変化しても、内部にいるベルゼならば余裕で対処する事が出来る。
 この規模の銀行で考えられるとするならば、金庫に通じる通路の各所、ドアの前、金庫の正面に、物理的な人材が追加で置かれることになる程度であろう。
 こちらも無為に窮屈な生活を送っていた訳ではない。鍵の置き場も暗証番号も完全にベルゼの脳内に刻まれている――たとえ増えたとしても、その人員をまとめてガスで無力化してしまえば、結果、労せずして地下大金庫の中身をいただけるというものだ。

「さて。このようなものかしらね」
 満足げに呟くベルゼ――しかし。唯一、問題があるとするならば。
 今回は、群れて動けば目立つため、他の猟兵たちの共有している情報は決行日時のみとなっており、それぞれが独自に動いているということだ。
 その為、こちらは恐らくほぼ全ての情報を把握しているが、それを必要に応じて伝えるには、おそらく若干の無理がある。
 いきなり壁が爆薬でぶち抜かれる程度の不測の事態については、覚悟を決める必要があるだろう。
 とはいえ、
「――その辺りは。他の猟兵も何処かしらに奇をてらって来ているでしょうし。やってみなければ分からない。
 それならば、大怪盗らしく――迂闊な手を借りるよりも『誰よりも早く、完全に盗み出してしまえば良いだけ』ね」
 そう、謳うように小さく口ずさみ。ゼルベは警備員用の制服に、フランケンシュタインの意識すらも瞬時に昏睡させる薬剤スプレーを忍ばせると、口許に妖艶にも近い微笑を浮かべた。
 依頼の一つである『オブリビオンが提示した悪から銀行員達の目を覚まさせる』のも、この世界であるならば、

『よりシビれてカッコイイ。目が覚めるほどに華やかな、圧倒的な心震える一つの悪』それさえあれば、もう充分。

 それが、最初にベルゼの生まれた己の故郷、デビルキングワールドという世界――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイグレー・ブルー
こ、ここがデビルキングワールドでありますか……!
価値観が違うとこうも違った世界になるのですね
騎士を志す身としてはこの様な事やってはいけないとわかっていても、身分を隠し時に悪に手を染めるのもちょっとかっこいいからやってみたいであります!
強盗とはいえかっこよく怪盗みたいな感じでいきたいですね。格好から入るの大事ですっ
観光と称し歩き回りそれらしいマスクやスーツを購入しましょう
え、えーとこちら1Dにまけてくださいませ!わたくしワルなので!

後は予告状を用意ですね
「こども銀行御中
拝啓、貴社ますますご清栄のことと」……
はっ 多分違うであります!!
『Dをありったけいただきに参ります 怪盗メタモル』
よし!!



●騎士さま見習い、悪(ワル)を目指す。
「こ、ここがデビルキングワールドでありますか……!」
 たゆん、と。星空色のグリッターに燦めくブラックタールの髪が揺れた。
 緑味の深いパライバトルマリンをはめ込んだような瞳が、輝かしい好奇心と衝撃に揺れながら周囲を見渡す。アイグレー・ブルー(星の煌めきを身に宿し・f20814)の目に映る世界は、あまりに広いものだった。
 立ち並ぶ中世ヨーロッパを思わせる住居区や、新鮮な野菜や果物を扱う市場。同時にそこに並んで売られる電化製品と、その傍らを、風を捲いて駆け抜けていく乗用車など。
 アイグレーはその光景を、キョロキョロと見て回る。移動しながらも、思わず上がる小さな歓声は、どう聞いても『上京してきたおのぼりさん』のそれであった。
「価値観が違うとこうも違った世界になるのですね。あ、あの機械はわたくしも似たような形を見たことがある気が――」
 右へふらふら、左にふらふら。人型の細く麗しい足をあちこちに向けながら、アイグレーは複数の文明をおもちゃ箱に入れてひっくり返したかのような世界を、サイキックでたゆたい歩く。
 しかし、話によれば。ここは『悪がどうしようもなく人の心を惹き付けてやまない、更には実行すれば喜ばれてしまう』世界なのだという。
 今回の依頼も、言わば『悪行に、さらなる悪行を重ねてぶん殴れ』というものだ。アイグレーがそれを耳にしたときには、己の心にある防衛隊長としての良心と、騎士を志すという熱意が罪悪感から大いに揺れた。このような事は、目指す目標から大きく外れた行為であると。
 しかし、依頼としてでもなければ、このような機会はまず回っては来ないであろう。
 アイグレーは思うのだ。

 たまには……その身分を隠し悪に走るのも、ほんの少しかっこいい。

「素性も隠して……悪に手を染める……。
 ちょっとやってみたいであります……!」
 その禁忌感たるや。そうして、胸をどきどきさせながら、アイグレーは小さな決意を改めて心に固めたのである。

「――やるべきことは強盗ですが、強盗とはいえかっこよく怪盗みたいな感じでいきたいですね……!」
 市場街から離れた先、しばらくふわふわしていると、今度はきちんとした商品が店に陳列されている、少し高級そうな品物を扱う路地に出た。
「そうと決まればやることはひとつ――。
 格好から入るの大事ですっ」
 力強く拳を作った可愛らしい気合いと共に。アイグレーは観光と銘打って、まずは『それに相応しい衣装と仮面』を探し、各店の様子を窺いながら再びふよふよし始める。
 道に出ている看板が、様々に個性にあふれている。それらを参考にしつつ、目的の物を探して特に目についたのは、
『時代は格好良さと可愛さを兼ね備えた悪! 今、夏らしい怪盗になる!
 可愛いお洋服とそれっぽい仮面、買うなら今!』
「あ、このお店とかちょうど良さそうであります。入りましょう!」
 看板だけ見ていると、果たして一般的な需要があるのかどうかも気になるが、そこは銀行強盗が花形悪役となるデビルキングワールドである。中に入れば、店の中はまるでちょっとしたブティックのようだった。
 取り扱いの方向性は多岐に渡っており、仮面は子供向けのお祭り用のものから、東洋西洋の舞踏用まで。衣装は怪盗お約束のキャットスーツから、機能性は少し怪しいが可愛いチュチュ付きのレオタードまで。
 バラエティにあふれたラインナップに、アイグレーは表情を輝かせ。その中から、緊張しつつも、覗き見る瞳沿いに大きな白い花をあしらった造形麗しい仮面と、胸元と付属のパレオの先に大きめの花が縫い止められた、同じく白を基調としたレオタードを手に取った。
 種族上、姿自体が変幻自在なのであるが、ここは形から入る事こそが立派な悪への第一歩なのである。
「ありがとうございます、お客様。二点合わせてお値段『900000D』となります」
「えっ?!」
 しかし、店員から平然と告げられたとんでもないお値段に、アイグレーは思わず身を跳ね上げた。
 衣装と仮面で百万円相当――当然、真性のぼったくり価格なのだが、気性が善で出来ているアイグレーは思わず自分のお財布を確認してしまう。
「え、えーと……こちら1Dにまけてくださいませ! わたくしワルなので!!」
 思わずあがる上擦った大声。
 次の瞬間、アイグレーはメタモル☆キャンディを口に放り込むと、ユーベルコード【枕上の星間"化"学(スペクトル・メタモルフォーゼ)】により、その姿を燦めく星を思わせる光を纏ったオオカミに変身し、上げられるだけの大声を雄叫びとして吼え上げた。
「ひ、ひぃぇえええ!!」
 その店中に響いた声に、恐れをなした店員と客が全力で逃亡してしまう。
 そうして――店内にはアイグレーだけが残された。
「ま、待って下さいませ! せ、せめて1Dだけでもお受け取りを……!!」
 何やら強盗よりも悪いことをしてしまった気がする――しかし、店員はいつまで待っても戻って来る様子がない。
 仕方なく、アイグレーは心より申し訳なく思いながらも、ほんのすこし罪悪感で震えつつ、そっとその場を後にした。

「――後は、予告状を用意ですね……」
 こうして様々あったが、無事に拠点へと戻って来たアイグレーは、一枚のカードを前に、緊張した面持ちで人の姿の喉を鳴らして向き合った。
「さ、さっそく書いてしまいましょうであります……!
『こども銀行御中
 拝啓、貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げ――』
 ……はっ、多分違うであります!!」
 あああああ、と頭を抱えながら書き直す。緊張からそのような事を繰り返し、一枚の予告状に掛ける時間、実にニ時間半。
 ――怪盗らしく、美しく、エレガントに――。そう、必死に考えて書き切ったものは、

『Dをありったけいただきに参ります 怪盗メタモル』

「――よし!!」
 アイグレー、渾身のガッツポーズ――からの、思わず『今のは騎士らしくなかったのでは!?』と、慌てて誰もいない左右をキョロキョロ見渡しつつ。
 改めて見つめる、書き切った予告状に目を留める。
 一所懸命考えた文章である。
 怪盗名だって、掛かった時間のうち一時間も掛けて考えたのだから、きっと完璧に違いない――。

 確かに……これを客観視してしまえば、さまざま思うところはあるかも知れない。
 しかし、アイグレーは頑張った。頑張ったのだ。
 それだけは、違えようのない事実なのである――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『フランケンシュタイン』

POW   :    マッドネスサンダー
自身の【知性】を代償に、【電撃】を籠めた一撃を放つ。自分にとって知性を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    フランケンナックル
【強靭な拳】で攻撃する。[強靭な拳]に施された【電撃発生装置】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ   :    ファイナルフランケン
【体内を流れる電流】を一時的に増強し、全ての能力を6倍にする。ただし、レベル秒後に1分間の昏睡状態に陥る。

イラスト:炭水化物

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 決行前日。猟兵達の予告状は無事、銀行に届けられた。

 その数――実に、3枚。

「ここを狙っている怪盗と強盗が複数いる!!」
 それらの予告状は、夜であろうと、容赦なく健康的な眠りについていた支配人を叩き起こし。
 当日の銀行は、ささやかな悪の見本である情報リークにより『複数から狙われた、悪同士の一大決戦場』として、スクープを求めた多数のマスコミと野次馬を集めた、一大舞台へと変貌した。

 依頼の予定上、決行日の延長は出来ない。
 ――健闘を祈る。

------------------------
(リプレイにて登場した下記情報、またリプレイを経て状況変化した以下内容は、第二章参加者様全てが大前提で知っているものとして、プレイングにご記載いただけます。
 ※当初からのシナリオ難易度等に変更はございません。
下記情報はプレイングに詰め込みますと大変な事になりますので、ゆるふわなイメージとしてお楽しみ下さい)

○一階フロアのロビーには、完全な死角となる席と、そこに立つだけでフロア全員の目を引く席がある。
○一階フロアで動いているそれなりの通貨(D)とは別に、地下フロアにはその大元となる『巨大金庫』がある。
○一階フロアには、無数の警備員『フランケンシュタイン』が警戒にあたっている。
地下には警備員が巡回。『巨大金庫』の前にも、複数の警備員が待機。

○地上から確認できる出入り口は、現状では『正面玄関』『通用口』『裏口』と、地下へと通じる『地下駐車場』の4つ。
○地下フロアは、一階フロアとつながっている。
○地下駐車場の入り口には、車、ならびに通行者のチェックをしているフランケンシュタインの警備員が常駐している。

○『巨大金庫』の鍵は、暗号パスと物理キーの組み合わせ。
 事前に知らなければ難解だが、猟兵ならば物理破壊が可能。
○銀行内の全体各所には『監視カメラ』があるが、設置は穴だらけで、よく確認すれば映らずにすり抜けることも、逆に華々しく全力で映り込む事も可能。
○地下には、複数の警備員達が集まる休憩所がある。モニターがあり、監視カメラ情報もここで統括している。

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【決行当日:一階と地上の状況変化】

○『3枚も予告状が来た、悪名高き銀行』として、作戦決行日時には、地上にはこの世界のマスコミが、『銀行強盗の瞬間』というスクープを撮りに、正面玄関に押し掛けています。
※初期段階では、正面玄関付近はカメラを積んだマスコミの車でいっぱいになっていますが、悪らしく対応できれば皆、喜んで対処してくれます。

○一階フロアのロビーには、『カッコイイ銀行強盗』をこの眼で見て体感しようと、子供も大人も理由をつけては押し掛けており、人口密度が少し高めです。
警備員が入場制限を設けて定期的につまみ出しており、入れ替わりが発生するほどの人気です。

※これらに登場するNPCは、完全に興奮しきっており、上手く協力を持ちかければ、大喜びで銀行強盗を手伝ってくれます。
 ですが、腕力ではフランケンシュタインには敵いません。

(長くなりましたが、上記はあくまで『ゆるふわ』な状況認識レベルにて、全く問題ございません。
 それでは受付開始時間より、ご自由な形にてプレイングをいただければ幸いです。心よりお待ちしております)
地籠・陵也
【白竜と白猫】アドリブ歓迎
そういや俺自身があまり隠密に向いていない質なのを忘れていたんだよな。
なので、表から堂々と入り込んで他の猟兵たちに視線が行かないよう【おびき寄せ】ることにしよう。

【結界術】と【オーラ防御】を俺とエインセルにかけてから
「強盗だ!Dを出せ!!」と真正面からバール(略)でガラスをぶち破って侵入だ。

「大人しくしていれば何もしないが抵抗するなら――」
と、前振りして適当な悪魔を【指定UC】で捕縛。あとはエインセルのUCで眠らせて、
「真っ昼間だというのに爆睡してタスクが蓄積する……そんな悪虐の限りを尽くすことになるぞ?」
とにやり顔しておこう。中々の悪事になるハズだ。多分。きっと。


エインセル・ティアシュピス
【白竜と白猫】アドリブ歓迎
りょーやといっしょにほかのいぇーがーのみんながでー(D)をぬすみやすくするようにうごくよ!
「にゃーん、てをあげろー!」ってりょーやといっしょにガラスをぱりーんしてしんにゅーだー!

「てーこーしたらちくちくするぞー!」
【式神使い】でぬのやりさん(『生命を守護せし聖布の霊槍』)にあくまさんをけがしないぐらいでちくちくしてもらうよう。

それで、りょーやがユーベルコードであくまさんをつかまえたらぼくのおしごと!
あくまさんのおみみのちかくで【指定UC】でひそひそしてぐっすりおやすみしてもらうにゃーん!かおみたらすごくつかれてたし……
「でーくれないならおしごとさぼらせちゃうぞー!」



●あくま、襲来
『こども銀行』の正面玄関付近は、今『空前絶後の大フィーバー』という死語を思い立たせる程の人混みと車にあふれ返っていた。
 玄関前の道は、この世界のマスコミ報道車でいっぱいになっており、銀行に向けてテレビ中継しているアナウンサーが喧しくがなり立てている。同時に、どこにそれを作る時間があったのか『銀行強盗がんばって!!』という力の入った横断幕を作って掲げている若者達と、『Dのついでに利子として、持っていたオモチャまで取り上げられた』という、銀行側の悪に感動しつつも、その恨みを晴らしてほしい子供達が並んでテレビカメラの前に立つ。
 更に、人生一度は『銀行強盗』をこの目で目撃したい、というご老体まで加わった挙げ句に、その客を狙って屋台まで立ち始め――。
 地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)とエインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)がこっそりと向かった先――そこは、もはや混雑混乱を通り越し、既に混沌の領域にまで達していた。
 
「あー……。予測はしてたが、この人混みの中で隠密に動くのは……」
 表がここまで賑やかであれば、内部も似たような騒ぎになっているのは間違いないだろう。今はとにかく人の目が多く、隠れて何かをするには綿密な下準備か、とっさの機転とハッタリその他諸々が不可欠だ。ただでさえ良くも悪くも思考が実直である陵也には、下準備なしにそれは難しい。
「だが、それなら。
 ――それこそ正面から行けばいい」
「うん! ほかのいぇーがーのみんなが、でー(D)をぬすみやすくすればいいんだよね?」
 陵也とエインセルが、顔を合わせて頷き歩き出す。
 陰で動く事が出来ないならば。自分がその陰を更に深めれば、他の猟兵がより紛れやすく動きやすくなるというものだ。
 陵也が言葉と共に己の固有能力である、不運や呪いの原因となる『穢れ』を浄化する力【穢れを清める白き竜性(ピュリフィケイト・ブランシュドラゴン)】を発動する。すると、ふわりと光で編まれた強力な守護のヴェールが、己とエインセルの身を護るように包み込んだ。
 人が多いとはいえ、少しずつ、正面から玄関へと近づけば近づく程。二人の存在は、必然的に周囲の目を容赦なく引きつけていく。
 そして辿り着いた玄関前。遮る物は玄関ドアのガラスのみ――二人がその正面に辿り着いた時、既に場からは、はち切れんばかりの緊張感と沈黙が漂っていた。

「さて――
『強盗だ! Dを出せ!!』」
「『だせーっ!』」

 陵也がエインセルと共に合わせた掛け声と共に、正面玄関のガラスを『そこら辺で拾ったバールのようなもの』を振りかざし、真上から全力で叩き付ける。瞬間響いた激しい音と、大きな破片と共に粉々に砕け散った玄関ガラス――それを目にした周囲から、まるで世界が割れんばかりの大喝采が二人に向けて轟いた。
「わ、すごい……!! がんばろうね!」
「ああ」
 そんな光景に、目をキラキラさせたエインセルに頷きながら、ふと陵也は思う。
 ――銀行強盗が、ここまで歓迎される世界って何なんだろう――そんな陵也の目は、ちょっとばかり死んでいた。

「強盗だ! 手を上げろ!!」
「にゃーん、てをあげろー!」
 二人が飛び込んだ銀行内部は、多少の混雑気味はあるものの、外ほどの人口密度は感じられなかった。どうやら警備員が、先に正面玄関から用もないのに入り込んだ客を、通用口へと追い出しているのが見えた。これならば、立ち回りには困らなさそうだ。
「ウガーッ!!」
 近くにいた警備員のフランケンシュタイン達が、今を待っていたとばかりに雄叫びを上げた。そのまま巨躯を揺らしこちらに近づくと、問答無用とばかりに自身の知性と引き換えに拳に激しい雷を纏わせ、雷光の奔る一撃を二人めがけて一斉に叩き付ける。
 だが、その攻撃は二人を取り巻いていた光のヴェールによって弾け飛ぶように掻き消えた。激しい衝撃によりヴェールが波打ち、光の薄れた箇所が目に見えて分かるようになるが『そこに更なる一撃を叩き込む』という判断に到るには、失われた知性の影響は大きく、近くにいる警備員達は、攻撃がノーガードで防がれた事に困惑して右往左往し始める。

「大人しくしていれば何もしないが、抵抗するなら――」
「てーこーしたらちくちくするぞー!」
 陵也が、バール(非常に長い為、正式名称は割愛させていただきます)を振り上げるのに続き、エインセルの宣言するように掲げる手が、ふわりと傍目には見えない気配を宿す。
 現れたのはエインセルが式神として扱う、世界に流れる生命力で編まれた不可視の布槍――『生命を守護せし聖布の霊槍』。
『銀行強盗』という好奇心によって目をきらきらさせた少年の思いに応え、それが後ろからこちらに襲い来る二人の警備員の身体を、怪我はしていないが非常に痛い、という絶妙の刺し加減でチクチクと突き始めた。――名前的に、このような目的で気軽に使って良いものではない気がしなくもないが。
「「ウガァ!!」」
 目に見えない痛みほど、精神に響くものは無い。思わず悲鳴を上げて、大げさに見えるほどに仰け反り後ずさった警備員の姿に、叩き出されるのを回避した一般人達が歓声を上げた。
「ガ、ガウガー!?(目的は金か!? だが、我々は銀行強盗ごときに屈する訳には!!)」
 カウンター越しの事務をしているフランケンシュタインが声を上げて問い掛けらしき言葉を放つ。陵也は、ここでかなり大事な事に気が付いた。
 言葉が通じない――否、向こうはこちらの言葉が分かるが、向こうの言葉がこちらには物の見事に分からない。
(こ、これで銀行強盗らしく、相手を引きつける事が出来るのか……!?
 ――そうだ!)
 瞬間、陵也は脳内で、ここに来る前に読んでいたデビルキングワールドの電子書籍の内容を思い出していた。とにかく、この世界の常識と陵也の今を保つ常識はあまりにも相違している。平たく言えば世界単位で相性が悪い為に、電子書籍による知識補完は欠かせないのだ――下準備段階に続き、バール(省略)の次に、本当に正しく大活躍する電子書籍リーダーデバイスである。もしも、バ(略)に意思があったならば、本来の目的に使われる機械に嫉妬していたに違いない。

「(ここは……!)
『――はーっはっはっは!! 何を言っているのか分からんなぁ!
 悪が人、もとい電卓を叩く社畜ゴリラの言っている事を聞くとでも思っているのか、アァン!?』」
 ――悪態をつき、更にひとの話を一切聞かない。それは悪の基本中の基本にして、最上級のコスパを叩き出す力強い『挨拶』である――。
 これは、陵也がついにデビルキングワールドの本を読み込みすぎて暗唱できる領域に達してきた、この世界のとある実業家が出した本の名言である。
「グガアッ!!(社畜ゴリラ!!)」
 しかし、どうやら悲しくも、その罵倒は事実であったらしい。行員はその言葉を受けて、思いきりメンタルダメージを受けて激しく地面に倒れ伏した。
 ――人を傷付けない嘘が、優しさや善と成りうるのならば。事実が罵倒よりも心抉る悪となることも、往々にして起こり得ることなのである。
「ああ、やっぱりか……」
 カウンター越しの相手を観察してきた今の陵也ならば、どの言葉が行員のフランケンシュタインに刺さったのかが分かる。陵也は表情にかすかな哀れみを滲ませると、今度は躊躇いなく他の行員に目を向けて手を伸ばし、光り輝くオーラ――ユーベルコード【ドラゴニアン・チェイン】を煌めかせた。
「グァ! ――ガ、ガゥガ!!(な、何だこれは!!)」
 行員にぶつけられた光が大きな爆発を起こす。この程度でデビルキングワールドの住人は死なないが、同時に陵也の手から伸びた鎖が互いにしっかりと結びつけ、相手から逃げるという選択肢を奪い取る。
「エインセル!」
「うん!」
 それまで、後ろから不意打ちを狙おうとしていた警備員を相手取り、目に見えぬ布槍により牽制をしていたエインセルが、小走りにこちらに飛び込みカウンターの向こう側に飛び込むと、そっと鎖で繋がれた行員の耳元で囁きかけた。
「『にゃーん、おかおをみたらすごくつかれてたから……いつもがんばっててすごいにゃーん! でもつかれたら、ちゃんとおやすみしようね……!』」
 ユーベルコード【安眠誘う子猫の囁き(エニュプニオン・フウィスパー)】――それは『元気になってほしいという思いを込めた労りの言葉』で、相手の『顕在意識と不眠の原因、蓄積している疲労』を攻撃するもの――。
 たとえば、この行員。誰のせいとは言わないが、とある予告状が三通も届いたせいで、真夜中から叩き起こされ、既にDが盗まれていないか等を含めた総額チェックに駆り出され、そのまま朝の業務に就いて休みなどほぼ無いに等しい状態だ。
 さてそこに、不眠を解消させるレベルに到る原因や、この状況で追い詰められて興奮している最中の疲労が攻撃されればどうなるか――。

 エインセルが、こしょこしょと小声で語り掛ける。すると、パソコン前に立っていた行員は、バッタリとその場に倒れ込み、ガーグーと大きないびきを伴って人々の前で爆睡し始めた。
「――!!」
 周囲の顔に、一斉に激しい恐怖を伴う戦慄が走る。
 この場にいる行員達はその意味を知っている――当然、今は。銀行強盗がいる以上、業務どころではないだろう。
 しかし――それでも強盗を叩き出したら、同じ業務に満ちた変わらぬ明日がやってくる。

「「ガー!!(寝るんじゃ無い! 寝たら死ぬぞ!!)」」
「さあ、Dを寄越せ。
 抵抗したら……真っ昼間だというのに爆睡してタスクが蓄積する……そんな悪虐の限りを尽くすことになるぞ?」
 言葉の中にある陵也の笑みが、一際あくどい色へと進化する。
「にゃーん! でーくれないならおしごとさぼらせちゃうぞー!
 つーぎーはー」
「「グァーーー!!(やーめーてー!!)」」

 そうして、その悪行に感動しつつも、あまりの恐ろしさに次々と逃げ惑う行員達を、陵也がとっ捕まえ、エインセルが次々と眠らせていくという、究極の『社畜事務員特攻イベント』が開催された。
 この事変後。この光景の最中にいた行員のフランケンシュタインの一人が、妻と娘に語った言葉がある。

 ――自分達を襲った銀行強盗の中で、あれは一番恐ろしかった。きっとあれこそが、悪の心を知り尽くした、本物の悪魔(デビルキング)に違いない――と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ベルゼ・アール
さて、外が賑やかになってるわね
プラン通り、外の騒ぎに乗じて巨大金庫のDを頂くわ

休憩所の監視カメラで外の様子を伺い、正面突破を図る猟兵が来たところで巨大金庫へ

「外が大変なことになってるわ! 応援要請出たわよ!」
嘘は言ってないわよ?

これで巨大金庫の前の人員が減るわね
そこへ睡眠ガスを散布、無力化
1人の警備員を敢えて起こし、後ろから拳銃を突きつける

「動かないで。ちょっと言うこと聞いて貰うわよ」

警備員に金庫を開けさせて、中身を丸ごと愛用のアタッシェケースに入れるわ

後は地下駐車場に停めてある愛車に乗って悠々と脱出よ
入る方に警戒しても、出る方には警戒しないでしょ?

全て計画通り…怪盗"R"のお仕事完了ってね



●完全犯罪計画(パーフェクト・ミッション)
 一階フロアについに銀行強盗が現れた。
 しかし、指示された持ち場を離れるわけにはいかない。警備員の一同が固唾を呑んで見守る中――次の瞬間、休憩室のモニタが一階フロアロビーにおいて、尋常では無い爆発音を拾い上げる。警備員のフランケンシュタイン全員が、一斉にそちらに釘付けになった。
(外もかなり賑やかになってるわね。それじゃ――)
 その様子を一望できる、出入り口付近に立っていたベルゼ・アール(怪盗"R"・f32590)は、己の存在がその瞬間、一時とはいえ周囲から消えたタイミングを完全に捉え、警備服のままの姿で、巨大金庫まで一気に駆け出した。

「ウガー!?(どうかしたのか!?)」
 巨大金庫にまで辿り着けば、警備にあたっていたフランケンシュタインの視点が、一斉にベルゼに向かい立つ。今までの侵入期間で、他の警備員との信頼関係も完璧だ。尤も、それも『この為』だけのものなのだが。
「外が大変なことになってるわ! 応援要請出たわよ!」
「ガガッ!? ガー!!」
 仲間と思って疑わない相手であるベルゼの一言に、その場の警備員が一気に駆け出し、その警備の数を一気に三分の一まで減らす。――確かに嘘は言っていないのだが、ここまで騙されやすいと、流石にベルゼのやり甲斐も少しの気抜けは免れない。
(……。まあ、それじゃあ――始めましょうか!)

 ベルゼの、獲物を狙うネコ科を思わせる琥珀の瞳がキラリと光る。そのまま身を翻せば、一瞬にしてその姿は警備員から、見るからにセクシーな黒のジャンプスーツへと華麗なる変貌を果たす。
 驚きを隠せない警備員達の合間に、露わになった胸元からスマートな香水瓶を床に叩き付けると、一気に気化した催眠ガスが彼らを襲い、あっという間に残りの警備員を眠りの中へと叩き落とした。
 数秒で消え去るガスを華麗なハンカチでやり過ごしたベルゼは、地面に倒れた一人を敢えて叩き起こすと、前後不覚から醒めようとしていた後ろから、二丁一組の大口径自動拳銃、UHGX-2200[Space Raptor]の片割れを手に、音を立てその首筋に押し付けた。

「動かないで。ちょっと言うこと聞いて貰うわよ」
 流石のフランケンシュタインも、首後ろに弾丸が直撃すれば昏倒は免れない。緊張の走る相手に、ベルゼのしなやかな指先で巨大金庫の鍵部位を指差せば、その意図は容易く相手へと伝わった。
 警備員が、震えながら巨大金庫の鍵を開ける。
 開かれた大金庫へと、ベルゼは警備員ごと中へと押し入った。
 ――その先には大量に山積みにされた、恐らくオブリビオンの方針転換で『デビル株』に使われなかったDと、
「これは、節操がないわね……」
 そこには、更に銀行が子供からDと共に、恐らく『利子』として奪い取っていた、ぬいぐるみやプラモデルなどが陳列されていた。

 それらは売ったところで金にもならないであろう。恐らくは悪の強調の為に奪われた――誰かから、誰かへの想いだけが込められた子供のおもちゃの類。

「……これは、いいわね。計画にも無いし」
「ウーガーっ!?(もしや悪なのに、子供に情けを掛けるつもりなのかっ!?)」
 僅かに後ろを、こちらに向けられたフランケンシュタインの目端が訴え掛けてくる。短くも共に過ごした身である。意思疎通に不都合は無い。
「他にも予告状が来ているでしょう? ――これらをここに残しておけば、後から来た怪盗に『私が盗む以上の、喪失感と罪悪感を与えられる』ってこと」
「ガガーッ!(何という悪!!)」

「……」
 と、そうは言ったが――。
 ベルゼは、Dを愛用のいくらでも物が入り、形も変わることのないアタッシェケースに入れながら思案する。
 実際のところ、今回のベルゼの作戦は完璧であった。所持品、武器、能力に『今も発動しているユーベルコード』――何もかもが『完璧』という名を冠するに相応しい計画だった。
 故に、ユーベルコードを犠牲にした上で多少の計画外になろうとも、ここまで来れば、この並ぶおもちゃを盗んでいくのは、あまりに容易いことだろう。
 確かに、巨大金庫は盗みに入った後にカラとなっている方が、受ける悪のインパクトはあまりにも違うものだ。
 しかし、最初に受けた仕事の依頼は『銀行のDを奪うこと』。
 それを――目にした、たいして高級でもない子供のおもちゃを『計画にも無い、ついで』で、持っていくのは。
 デビルキングワールドでは、それこそ最上級の悪であったとしても――それは怪盗の美学よりも、泥棒の所業ではないだろうか、と。

「……」
 それに――同じ目標を抱いた他の猟兵が、ここを狙っている可能性がある。
 もし彼らが、完全なまでに密やかに盗みきった自分よりも目立つ行動でここに辿り着いて金庫を開けた場合に。
 金庫がカラで、盗む物が何も無ければ――己の完全性よりも、この世界の住人達の目には『共食い状態の銀行強盗ダサい』となる可能性も秘めている。
 ならば、これらは『敢えて残していく』のが最適解だ。
 ここまでの完璧な作戦に、共食い評価は御免である。
 己の仕事は、何処までも華麗であるべきなのだから。

 そして――残ったモノをどうか使うかは、他の猟兵次第であろう。

 ベルゼは突き付けていた銃を離す代わりに、警備員の首に上段の回し蹴りを入れて吹き飛ばし昏倒させると、おもちゃ類をそのままに、一筆入れたカードにルージュの唇を寄せた後、フランケンシュタインの胸ポケットに押し込んだ。
【この銀行のDは、確かに怪盗“R”がいただいた】
 ――これならば、巨大金庫の明瞭な状況は、この警備員が目覚めるまでの時間は陰蔽され。そして、目が覚めれば嫌でも銀行内で広まる事になるだろう。
 怪盗が『最初から警備員として潜り込んでいた』――そんな最初から全て、完璧に。

 そして、ベルゼは従業員としてずっと地下駐車場に止めていた己の愛車『UAI-SV-200 "Dio Demone"』に乗って、侵入者しか警戒していない為に、警備も碌にいない出口から軽やかに脱出した。
 道を走らせる愛車のタイヤが地面を力強く掴みながらも、軽やかに駆け抜けていく体感が心地良い。
「全て計画通り……怪盗“R”のお仕事完了ってね」
 爽快なまでの満足感。
 作戦も依頼通りのパーフェクト。
 しかし、それであるが故に、つい同じ依頼を受けた他の猟兵の行動影響を考えて行動してしまっていた、そんなつい零れた己のフォロー気質などは――少し甘過ぎるものだっただろうかと考えて。
「まあ、いいわ。私も、依頼に無いような子供のおもちゃを、理由も無く大量に抱えて歩くなんて柄じゃないもの」

 車が通りを駆け抜ける――窓を開けたスポーツカーから流れ込んでくる風が、ベルゼの艶やかな黒髪を華麗に揺らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイグレー・ブルー
いよいよ怪盗決行でありますっ
購入…もとい頂いてしまった衣装を持ち込み華麗に参りましょう…!


化術を用いて押し寄せてきた人々に溶け込んで銀行に侵入
お客様の中から急に白い衣装に身を包んだ怪盗が現れる巧み(アイグレー比)な演出です
この世界における子供たちの夢の職業の矜持は壊してはいけません
鮮やかに盗み出すのがお約束ですが、ここはあえてしっかり見せつける事にします
怪盗メタモル見参でありますっそこのDを奪いにまいりました!

空中浮遊で空を飛び相手を攪乱します
申し訳ありませんがフランケンシュタイン殿には少々やられてもらいましょう
さぁ月虹蝶々、出番ですよ
相手を一時的に戦意喪失させて使用UCで撃ち落とすであります


ラファエラ・エヴァンジェリスタ
報道車ども、邪魔だ退け
誰の御前に立つと心得る
…まぁ多少巻き込んで構わぬか

銀行の正面の壁を爆破して2nd Waltzを突撃させる
雑な破壊工作だが派手だろう
同時に自身は愛馬テネブラルムに騎乗しUCの騎士を伴い正面から乗り込み
入店即ガトリングで威嚇射撃&威圧
ご機嫌よう、銀行強盗だ
例の目立つ席辺りで騎士に人質を取らせる
此奴の命が惜しくば言うことを聞け
返事ははいかYESで!
とりあえずこのフロアにあるD全て馬車に積め

戦闘になれば騎士任せ
悪のカリスマで野次馬どもを扇動して肉壁にする
とりあえず他の猟兵の時間稼ぎ兼ねて暴れる
陽動、と言うやつだ
折をみて撤退

…騎士の鎧?
闇属性攻撃を応用して黒くしてみた
少し疲れる



●騎士見習い、生粋の悪より心意気を学ぶ
「いよいよ怪盗決行でありますっ――え?」
 意気込んで正面玄関前に現れたアイグレー・ブルー(星の煌めきを身に宿し・f20814)は、その時既に正面玄関のガラスが割られ、内部から響いてくる『阿鼻叫喚の悲鳴』に悪の気配を感じて興奮した野次馬達が、何とか潜り込もうと押し掛けている光景を目の当たりにすることになった。
 警備員のフランケンシュタインが『悪見学は入れ替え制です。並んでお待ちください』という意思疎通の図れるプラカードを持って立ち塞がっている様が見て取れる。
「大変です、出遅れてしまったでありますでしょうか……っ!
 ――けれども、こんな時こそチャンスと言いますっ。
 購入……もとい頂いてしまった衣装を持ち込み華麗に参りましょう……!」
 そうして、アイグレーは小走りで人にあふれている玄関入り口の端に駆け寄ると、その可愛らしい口の中に、ぽんとメタモル☆キャンディを放り込んだ。それをトリガーに種族ブラックタールの特性により、たぷんと音を立ててアイグレーは地面に溶け込んで見えるほどの液体状の姿に変身する。
 そして、そのまま手にしていた衣装を包み込むように呑み込むと、人の足元をすり抜けていくようにこっそりと中への侵入を試み始めた。

 一方では。己の瞳をサングラスで隠し、それでも尚、美貌と分かる姿と、『銀行強盗』であると隠しもしないキャットスーツを着こなしたラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)が、ユーベルコード【深き淵への嘆息(サスピリオルム)】により――だが、その甲冑の色合いを白銀から漆黒へと変えた己の騎士の霊を従えて。
 目の前の、統一性の欠片も無い有象無象に片眉を僅かに引き上げながら、不機嫌極まりなさそうに辺りを見渡した。
 ここまで車が多ければ、逃走の際、作戦には支障をきたすであろう。
 その中で、ラファエラは殊一番邪魔だと思われた報道車の群れの前に――それは同時に、大々的なデビルキングワールドの大々的なデビューとなる訳だが――立ち、太腿のホルダーから閉じた黒扇を引き抜くと、その苛立ちを露わにするように、軽く己の掌に叩き付けた。
「報道車ども、邪魔だ退け。
 ――誰の御前に立つと心得る」
「っ!? もしやその格好は! ここにも銀行強盗さんが!!」
 一人のアナウンサーが、マイク片手に素っ頓狂な声と共に、実況とも歓声ともつかない声音を上げる。そして、それを引き金に、二人を取り囲むように野次馬と他局のアナウンサーが集まり始めた。
「……まぁ、多少巻き込んで構わぬか。
 二度は言わぬ。道を開けよ――でなければ」
 ――数十秒後、そこには大きな爆発による衝撃波が迸る事になる。

(上手く潜り込めましたね……)
 アイグレーは銀行内のフロアロビーで、何やら起きているらしい惨劇に悲鳴を上げる銀行員の声を聞きながらも。地面すれすれからでは良く見えない為、ただただ不思議に思いながら人の足元をすり抜けていく。
 そして――人の密集するど真ん中まで辿り着くと、持ち込んだ白のレオタードに仮面をつけた人の姿を形取り、アイグレーは颯爽とジャンプして、誰もいないカウンター正面へと躍り出た。

「怪盗メタモル見参でありますっそこのDを奪いにまいりました!」

「おおお!!」
 周囲から盛大などよめきが起こる。言葉を形取れない警備員達も動揺と困惑を隠さず、その中に己の声を同化させた。
 ――集まった有象無象の客の中から、急に白一色の衣装に身を包んだ怪盗が現れる巧みな演出。それは、まるで昔の怪盗をテーマにした少女漫画を彷彿とさせる節もあるが、アイグレー的比較としては、これはもう巧妙極まりない演出であった。
 ――実際そのコテコテ気味に、デビルキングワールドの住人達は、今熱狂的にも近い視線をアイグレー、もとい今『怪盗メタモル』に集めているのだから、これは確実な成功例だと言って間違いないだろう。
 しかし、機械達の防衛隊長をしていた時と違い、生きている存在の目を集めるというのは中々にプレッシャーを感じるものだ。視線を一身に浴びたアイグレーは、思わず小さな悲鳴を上げたくなるのを必死に我慢する。
(こ――この世界における子供たちの夢の職業の矜持は壊してはいけません。
 本来は、こんな人目なしに鮮やかに盗み出すのがお約束ですが、こ、ここはあえてしっかり見せつけなくては……!)
「さあ、今すぐDを用意してくださいっ。そうでなければ――」
 覚悟を決めた怪盗メタモル。格好良く決めポーズを一つ。それを目に、一同が次の台詞を待ち焦がれる瞬間、

 チュドーン!! ドカァンッ!!

 突如、怪盗メタモルの背後で、古き特撮ヒーローの火薬量もびっくりな大爆発が沸き起こった。
「すげぇ、怪盗メタモルかっけー!!」と子供達から声が上がるが――当然、アイグレーはそのような演出を組んだ覚えは無い。むしろ、続けようと思っていた台詞は頭の中から綺麗さっぱり吹き飛んだ。
「は、はぇ……?」
 呆然と爆音の黒煙が立ちこめる方を見やる――すると、奥の見えない爆ぜた穴の向こうから、風を切る轟音に煙を巻き込み。
 ラファエラの所持する漆黒の馬車2nd Waltzが人を撥ねかねない勢いで疾駆して来た。
「ひぇえぇっ!!」
 更にそこに追い打ちを掛けるように、愛馬テネブラルムに騎乗したラファエラと、漆黒の装甲を重ねたユーベルコードの騎士が、華麗に中空を跳躍せん勢いで追走して来た。瞬間、
 入店から瞬息の勢いで、ラファエラがガトリング『Last tango』を構え、アイグレーのいる正面カウンターに向けて、威嚇射撃と威圧攻撃を兼ね、問答無用で弾丸を全力で撃ちばら撒いた。
「ひゃぁあああっ!!」
 怪盗メタモル、思わず空中浮遊で上空に逃げを打つ――むしろ、打たなければ威嚇射撃と言えども、容赦なく流れ弾が当たる危険があった。
 デビルキングワールドの住人と勘違いされていたら、一、二発喰らった程度でも笑い話で片付けられる。しかし、ブラックタールであろうとも、銃弾が身体に飛び込んで来たら痛いのだ。むしろ、痛いよりも驚きで身体が硬くなってしまうかも知れない。一大事である。

 ――しばらく続いた乱射の音が消えた。場が硝煙の香りと共に静まり返る。
 緊張の面持ちでアイグレーが凝視する中。愛馬テネブラルムより降りたラファエラが、厳ついガトリングをカウンター越しの行員達に躊躇いなく向けたままに、一言告げた。

「ご機嫌よう、銀行強盗だ」

 観客場、絶賛。その存在感と物理破壊力は、今までの追従を許さない。
(ひ、ひぇぇ……!! 猟兵さんでありましたか!
 敵より、味方の方が怖いであります! 怖いであります!!)
 あまりのインパクトである。完全に見入ってスタンディングオベーションが入る老若男女の銀行来訪客達。
 ラファエラは、そこに重ねるように『銀行強盗経験者』を疑うほどの手際の良さを見せた。即、騎士に指示を出し、人目の注目を集めずにはいられないロビー中央席に、恐怖と感動に腰を抜かした銀行員の一人の襟首を掴み、黒銀の剣を突き付けさせる。
「此奴の命が惜しくば言うことを聞け。
 返事は『はい』か『YES』で!」
「ガゥアーッ!?(一択しかないのでは!?)」
「言っている事が分からん! 私に分かる言葉で言え!
 ――強盗らしく手短に言うぞ。とりあえずこのフロアにあるD全てをこの馬車に積め。今すぐに!」
 ラファエラ、素であるにもかかわらず、パーフェクトなまでの悪役ムーブである。
 しかし、ここまでされて黙っているほど警備員も無能ではない。
「ガァーッ!!」
 体内の電流を活性化することで、身体能力を六倍にまで高めた警備員のフランケンシュタインがラファエラにその拳を振り上げる。
「騎士」
 しかし、ラファエラがその一言で、ほんの二歩ほど下がって場を作る。その瞬間に、腰の抜けた人質を置いた騎士が、ラファエラの前に躊躇いなく飛び込み身を置くと、相手の拳を剣一振りで防ぎ切る。
 傍らでは、洋扇を翻すだけの仕草から溢れる『これでもかとばかりに魅せる悪のオーラ』を受けて、観客の野次馬が自分から戦闘に飛び出してラファエラの盾へとなりに行く、もの凄い光景が繰り広げられている――。

「はっ、わたくしも戦わなくては……っ。
 こちらにもDを渡すであります! 渡さないと――」
 ふわりと、アイグレーは柔らかなその身を、まるで無重力空間を錯覚させるように中空へと漂わせた。
 右へ、左へ。たゆたいながら攻撃を避けていく。まるで上空から見下ろす相手の動きが、こうしていると同じように緩やかに感じられるのは、少し不思議で。
「改めて。怪盗メタモル、参ります――。
 ……申し訳ありませんが、フランケンシュタイン殿には少々やられてもらいましょう。
 さぁ月虹蝶々、出番ですよ」
 そっと優しく、星煌めく指を伸ばした先端に、アイグレーが柔らかな声音で囁く。
 するとそこから仄光るムーンストーンのような宝石の蝶が、主と同じく無重力の中を舞い揺らぐように羽ばたいた。
 そのあまりの心触れる美しさに、散らす鱗粉の燦めきに。フランケンシュタインの手が止まる。その間に、アイグレーが差し伸べた指先から星屑を零すように、己のユーベルコード【星周塵のクーベルチュール(サーカムステラ・マスロス)】を発動させた。指から零れた砂を思わせる幻想的な星屑は、警備員達の近くを舞えば確かにそこに存在している宇宙を飛来する鉱石の飛礫。
 その美しさに戦闘意欲を削がれた警備員達が、それがアイグレーの攻撃だと判断した瞬間、相手を宇宙の軌道のように飛翔していた飛礫は一瞬にして集約し、警備員達に襲い掛かった。
 声を上げる間もなく、更には己のユーベルコードのブレイクダウンと重なって、警備員達は次々と衝撃に倒れ伏しては動かなくなっていく。
「おおおぉー!!」
 アイグレーの活躍に、歓声が聞こえてきた。
「少しは……怪盗らしいことは出来ましたでしょうか……?」
 ほっと胸を撫で下ろし、地面に降りるアイグレー。もしかしたら、こうなると『純然たる強盗』にしか思われていない可能性も無きにしろあらずだが、今は少し考えずに本来の目的に集中することにした。

 そして、アイグレーもとい怪盗メタモルの前に積まれた山のようなDと、ラファエラの馬車の中に呑み込まれるように積まれたものが、一階フロアの全てのDだと確認して――。
「これで目的達せ――はっ! 脱出経路を確保しておりません!
 し、しかもこれを抱えたままでは……!」
 アイグレーは動揺を隠しきれずに右往左往し始める。先の警備員も目を覚ましつつある。しかし、間違いなく追い掛けてくるであろう中、このDを抱えれば動きはどうしても鈍るだろう。
 しかも、何処をどう逃げたものか、どれだけ走れば安全圏か――。
「大変っ、何も調べてないであります!!」
 全力全身で、ぐるぐると狼狽えた様子を隠せず困惑するアイグレー。
 それを、逃亡を前にしてその姿を目にしたラファエラは、その様子に跨がり掛けたテネブラルムから降り、馬車の方へ足を掛けると、アイグレーに向かって声を投げ掛けた。
「――貴公、来い!」
 馬車の中は、女主人の招きに預かったもののみが乗れる、質量を無視した固有結界。瞬間、その一声でアイグレーも馬車に乗る資格を得る。
「は、はい!!」
 呼び声に応じて、Dを両手に抱えたアイグレーが馬車に乗る。走り出した馬車に、追い掛けてくる警備兵相手に殿を務め、無事に退いた黒甲冑の騎士が追い縋るように馬車に手を掛け飛び込んだ。
 こうして、馬車と並びの美しい馬二頭は、銀行内の一階フロアロビー全体のDを全て奪い取り、見事逃走することに成功したのである。

 ラファエラのルート選択は下調べ時点から完璧であり、馬車はあらかじめ決めておいた逃走経路を全力で駆け抜ける。
「――騎士、でありますか……!?」
 中で一息ついたアイグレーが、後から追うように飛び乗ったラファエラの亡霊騎士の姿を見つめ大きく目にする。
 絵本で見た理想の騎士と違うと感じたのは、ユーベルコードの存在であることと、あとはやはり絵本と違う漆黒の鎧のせいだろうか。
「……騎士の鎧?」
 アイグレーの凝視先、騎士の鎧に目を向けたラファエラが、何かを解放するように深く息をつくと、その姿は光呑む漆黒から光を放つ白銀へと移り変わる。
「闇属性攻撃を応用して黒くしてみた。
 ……少し疲れる」
「おお……っ凄いであります……!」
 どうやらこれも『少しでも悪役らしく』という、徹底された意志の元であるらしい。
 どちらを称えるべきか分からないが、取り敢えずアイグレーは力強く頷いてみせた。この心意気は、デビルキングワールドにいるまでの間、悪であり続けるならば是非に見習うところのあるものだろうと確信してみる。
 そうして、一階フロア分、固有結界の空間内あちこちに全てのDが散乱した馬車は、道を全力で駆け抜けていった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

メルメッテ・アインクラング
雪丸様(f31181)と

いよいよ本番でございますね
雪丸様の仰せの儘に!

雪丸様と共に、リハーサル通り密やかに地下駐車場から地下フロアへ潜入
『殉心戯劇』で纏った熱を利用し金庫の一部に指を滑らせ熔斬し【切断】して、UCを解除
中のDは【念動力】で浮かせて運びます
「ええ!クライマックスです!」
雪丸様に抱えて頂き一階へ移動開始
道中の敵は攻撃を【オーラ防御】し思念銃で【マヒ攻撃】です

カメラにアピールをしつつ目指すは正面玄関。ご来場の方々にはご協力をお願い致します
「花道を開けて下さいませ!」
そしてフィナーレへ。雪丸様のサイキックキャバリア、サチコ様に一礼。Dをお渡し致します

皆様の御心をも奪う気概で参りましょう


雪丸・鳳花
メルメッテくん(f29929)

ボクたちは華麗にスマートに
観客の皆を楽しませるエンターテイメント強盗を目指そう!

事前に準備した扮装に着替え、下見で得た情報を元に地下駐車場から潜入
死角や監視カメラの穴を巧みに利用して静かに金庫に辿り着こう
観客に見つかったらシーッと人差し指を立てて協力を要請

金庫の前でサプライズ登場
ここからは派手に行くよ!
Dは念動力で浮かせて運ぼう
ボクは光るジェットブーツで空中浮遊さ
メルメッテくんをお姫様抱っこで運びながら監視カメラや観客に存在感をアピール!

外に出たらサチコ(キャバリア)を召喚
Dを一先ず預けておこう

警備員の攻撃はジャンプや見切りで回避を試み、UCで魅せるように反撃だ



●至上の財産を、悪の基準を、もしも心に委ねるならば
「いよいよ本番でございますね」
 下調べで見つけた地下駐車場における死角にて。メルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)は、緊張を滲ませた面持ちで呟いた。
「大分華やかになっているようだけれども!
 ボクたちは! 華麗にスマートに!
 観客の皆を楽しませるエンターテイメント強盗を目指そう!」
 小声ながらも、メリハリの非常に良く利いた声で雪丸・鳳花(歩く独りミュージカル・f31181)が告げる。
「雪丸様の仰せの儘に!」
 二人で小さく気合いを入れる。下準備段階で入手していた衣装に着替えれば、その気合いも充分。思わず輝く鳳花の後光の光を見て、小さな子供が、
「あ、もしかして、ぎんこーごーとーしゃん!?」
 とつぶらな眼差しで見やれば、鳳花は光を抑えつつ、そのシーンがまるで絵になるような仕草で指に手を当てて、シーッとこれから観客となる子に合図を送る。
 それを目にした相手が、目を輝かせこくこくと頷くと、二人はさっそく地下駐車場へと侵入を果たした。
 全てはリハーサルの通り――メルメッテが下調べ時に作成したマップは完璧であり、最初に選んだルート通りに進み、道中の巡回警備員の姿を死角でやり過ごしながら、監視カメラに写らないように、静寂を崩さないよう二人は順調に、地下大金庫へと足を進めていく。

 その頃、一階フロアロビー内は、気絶したり眠りこけていたりする警備員のフランケンシュタイン達の転がり具合から、もはや戦場跡地のような状態になっていた。
 それでも、人はまだお祭りだとばかりに集まり、マスコミ達も中継を繰り返す中、
「部長! 銀行監視カメラの録画情報への共有に成功しました! これで我が局の独占スクープです!」
「銀行の監視カメラシステムのデータにハッキングだなんて、お前はなんて有能な悪だ!」
 一部のマスコミが『地下の大金庫は無事なのか、そこを狙っている強盗がいればスクープだ』という思いに駆られ試みた結果、見事に監視カメラ映像のハッキングに成功していた。
「誰か、車ん中の大型モニタ持ってこい!! テレビ報道と同時に、現場でも一足先に取材班が情報を流す悪をやるチャンス!」
 これはかなりの情報リーク系の悪である。しかし、会場の人々は全て繋がれたそのモニターに釘付けになった。
「誰も映ってませんね……」
「うーむ……
 いや、来たぞ!! 報道の悪の女神は我々に味方している!」

 地下大金庫の入り口前――。
 ここが最後の監視カメラ設置点となる場所において、二人はカメラの位置を確認すると、その姿がはっきりと映り込む位置に、舞い出るように姿を現した。
「突然の! 強盗サプライズ!!」
 バンッ! と。スポットライトが当てられた錯覚がする程の求心力が鳳花から放たれる。
 完璧なポージングを決める鳳花の傍らに、同時に躍り出て内心緊張しながらも、監視カメラの前にて、リハーサルで練習した通りのポーズを決めたメルメッテは、急ぎ閉じられている金庫前に片膝をつき、鍵の位置を確認した。
「『今、こうして高鳴る鼓動を、永遠のような一瞬を――ここに』」
 緊張感と悪い事をしているという背徳感に、胸の鼓動が鳴り止まない。思いを形取れば、それはユーベルコード【殉心戯劇(ザ・ポイント・オブ・ノー・リターン)】の条件を満たし、メルメッテの身体を激しい熱で包み込む。蜃気楼のような揺らぎを熱として纏ったメルメッテが金庫に触れ指を滑らせると、激しい金属の火花散る音を立てて、その軌跡が溶斬されていく。そして、ユーベルコードを解除したメルメッテの先には、鍵部分が完全に抜け落ちた金庫の扉がゆっくりと開かれていった。
「さあ! 軽やかに! 華麗に奪おうか!!」
 二人が大金庫の中に足を踏み入れる。一応、顧客のプライバシーという瞑目でもあるのか、監視カメラですら届かないその光景に、二人は思わず息を呑んだ。

 ――金庫内の中央に、叩きのめされて気絶している一人の警備員が転がっている。
 金庫内部には既にDらしきものは欠片も残っておらず――そこには、銀行が預金という形で子供達からDを巻き上げた末に『利子』として奪い取った、新古様々なオモチャばかりが並んでいた。
 Dが、ない。

「え……っ? これはどういう……!?」
「どうやら……――」
 金庫の内部に驚くメルメッテに、僅かに表情を退いた鳳花が片手を上げて言葉を制す。この状況、監視カメラに声を拾われたらこのステージが即強制終了となってしまう可能性があると即座に鳳花は判断する。
 倒れている警備員の胸元へ刺さっているカードを引き抜き、書かれた文言を読んで頷くと、再び元の位置へ戻す。
「これは、どうやら先客の猟兵がいたみたいだね……。どうやら完璧にDを奪い取っていったらしい」
 自分の口許に人差し指を当てつつ、小声で話す。
「それは……! どう致しましょう、Dがありませんと――」
 困惑を示すメルメッテに、鳳花は考える。――ステージに立っていれば、本番中に限って演出機器が壊れるアクシデントというのは往々にして起こるものだ。そこで動揺せずに、観客に気付かれないまま完璧に乗り越えてこそ、一流のミュージカルスターというもの。
「……。いや、これなら――うん、『このおもちゃを全部盗もう』――それも、D以上に盛大に、どのオモチャも全部カメラに写るくらいにアピールしながら!」
 力強く。両手を広げて告げた、鳳花の深くも存在感鮮やかな紫の瞳に映る輝きには、現状に対する確信の光が見えた。
 メルメッテはそれを信じて、覚悟を決めた様子で小さく頷く。
 演技再開――すぅっと鳳花は大きく息を吸い、金庫外の監視カメラ――ひいては外のテレビ報道にも拾える程の声を上げて高らかに宣言した。

「ここに大量の子供向けおもちゃを見つけたよ!
『皆のおもちゃは、D以上の価値がある! ボクらはこれを奪っていこう!!』」

 そうして、Dの代わりにおもちゃが、一個ずつじっくり監視カメラに写るように、念動力でふわふわと運搬されていく。
 それを見ていた観客――マスコミと、特に集まっていた子供達により、外のテレビ前は文字通り蜂の巣突いたような騒ぎになった。
「あれ、ぼくのおもちゃー! うわーんっ!! 銀行強盗さん待ってぇっ!!」
「敢えてD以上に心の籠もったおもちゃを盗むなんて……! 悪逆非道にも程がある……!これが、真の銀行強盗! 悪!!」

「ここからは更に、一気に! 派手に! 格好良く!!」
「――ええ! クライマックスです!」
 鳳花が、抱きかかえたメルメッテにおもちゃの運搬を任せ、靴底が華やかに光るジェットブーツで通路中空を、敢えて地下駐車場出口ではなく一階フロアに向けて駆け抜けていく。
 監視カメラには、その華やかな眼差しからの、激しいまでのアイキャッチとウインクを欠かさない。
 あまりの悪、と。外では鳳花のアクションの一つ一つに大の大人まで興奮してモニタに釘付けになっている。
 ――上がってきた一階フロアロビーは、半数以上の警備員が転がっており、既にどこかの野戦を彷彿とさせる状態であったが、まだ無事であった警備員が最後の力を振り絞って二人に襲い掛かってくる。
 それを、メルメッテは片手でおもちゃの制御をしつつ、透明な硝子の様相でありながらも頑丈なオーラを以て、警備員であるフランケンシュタインの雷撃を纏った拳の一撃を防ぎ切り。相手がその衝撃で手を下げた隙に、己の手には少し余る思念銃を片手で扱い、攻撃と共に下げられた知性に、畳みかけるようにその思考をマヒさせていく。
 正面玄関を飛び出した先には、晴れ渡る空と二人が惹き付け続けた観客達――。

「ご来場の方々にはご協力をお願い致します――!
『花道を開けて下さいませ!』」

 今、Dを奪う以上の悪を成し遂げようとし、凶悪な警備員を打ちのめしたばかりである――この本人としては内心、心苦しい『悪の華』の一声に、デビルキングワールドの住人がどうして逆らえよう。そこには、ガッと問答無用で一本の花道が出来上がる。
 そして、舞台はフィナーレへ。
「――サチコ!!」
 メルメッテを軽やかに地面に降ろし、鳳花は己のキャバリアである青の甲冑を纏った、現在は真名秘密の『サチコ』を召喚する。
 それはまるで『舞台界のラスボス』という言葉を彷彿とさせるような威圧感。観客はあまりの圧巻ぶりに、至近距離でも逃げ出すことすら忘れ、サチコに釘付けになっている。
 二人は、本来奪うはずだったDの代わりに、一旦広げられたその巨大な両手の上に、奪ってきたおもちゃを預け乗せていく。
 地上に降りたメルメッテも、鳳花の『サチコ様』にきちんと一礼して。
 そして――これでいいのだろうか、と。高揚と同じだけ感じる不安を隠しその眼差しを鳳花へ向けた。

 鳳花はメルメッテから離れ、こちらに追い縋る警備員を見つけると、躊躇いなくその懐に自分から飛び込んだ。
「『この閃撃――キミにかわせるかな?!』」
 相手の鋼のような拳の一撃を軽くいなす。その流れで、相手の肩に手を掛け羽根のような軽さで己の身を中空に跳ね上げると、空より輝く後光の眩しさに怯む相手のこめかみに身をひねっての回し蹴りによる第一撃を叩き付けた。
 ユーベルコード【閃光乱舞(センコウランブ)】――『四撃必殺』のその攻撃を、叫び声を上げるフランケンシュタインの巨躯を軸に、ジェットブーツで宙を蹴りその後頭部に二撃目を。よろめき倒れ掛けた相手の背中に靴の踵で駄目押しの三撃目をお見舞いして。そこでようやく沈んだ敵と共に、鳳花もふわりと地に足をつけた。
 既に相手に意識はなく、一般住人である以上攻撃はこれで充分――それよりも、鳳花にはやることがある。
 警備員まで完全にノックアウト。周囲より、その華麗さに拍手が起こる中、
「おっと……!!」
 鳳花は本当によろめいたかのような演技で軽く後ろに下がる。そして、その先にいたキャバリア・サチコに背中をぶつけると――サチコは、乗り手の意志に沿い、おもちゃを乗せていた手を、膝を折るように高度を下げて地面につけた。
「ああ! こんな時にボクの巨大ロボットにダメージが!
 このままでは、大事なお宝が『子供達に』奪われてしまうよ!

 ――『銀行強盗』から、更にお宝を奪う――!

 ああ、それは何という悪なのだろう! クッ……ボク達以上の悪がこの世界に存在していたなんて――!!」

 サチコの傍らで、大仰なまでの絶望を演出し、顔に手を当てて鳳花が渾身の演技を見せる。
 それを見た子供達は、皆で顔を見合わせると――じっくりと監視カメラで流れた、銀行に奪われた自分のおもちゃを、さらに『奪いに』――一斉にサチコの掌の上に集まった。

 それから――鳳花がシェイクスピア劇も吃驚な、長丁場の悲嘆な演技を続けている間に、サチコの手の中にあったおもちゃはあっという間に消え去った。
 悪だー! と嬉々として持っていき、持って行かれた自分のおもちゃを手に涙ぐみながら喜ぶ子供達を目に、そこでようやく鳳花がピタリと身を止める。
「――でも、これで『この銀行の、巨大金庫は空になった』よ!
 今回はこのくらいで許してあげようかな! ハーッハッハッハ!!」
 そうして、完全な事実ではあるが、真実は大幅に異なりそうな悪を、指先まで決まったポーズと共に一つ逃亡の理由として残すと。
 鳳花はメルメッテに目配せをして、サチコの手の平に飛び乗り、そのまま飛翔すると空へと飛び去った。

 風圧に配慮された、サチコの手の平の上で下の銀行の敷地を見ながら。ほっと息をつきつつ、メルメッテは考えた。
 これは成功なのか、失敗なのか――Dは無かった、だが先にDを盗んだのは他の猟兵であれば、依頼自体は失敗していないと言える。
 同時に、先、鳳花が宣言した通り、悪徳銀行の地下大金庫を空にしたのは確かな事実でもあり。

「銀行強盗が勝ったぞー!! カッコいーっ!
 ま、まぁ……ソイツらから、おもちゃをうばいとったオレサマには負けるけどー!!」

 何より――こちらに一所懸命手を振っては怒られて、それでも手を振り続ける宝物を取り戻した数多の子供達の姿を見れば。
 自分達が盗んだものは『D以上に、はるかに価値あるもの』であることは疑いようもないと、確信出来るのではないか――。
 そう己の胸に鑑みたメルメッテは、こちらを見ていた鳳花とふと顔を見合わせる。
 お互いの口許には、思わず微笑みが。

 こうして。銀行のDならびに、換金もままならない悪の為だけにあった『カタチ』まで、全てを奪い取っていった強盗怪盗団――猟兵たちの活躍は、完全にデビルキングワールドの一大ニュースとして取り上げられた。
 しかし。この銀行襲撃の一部始終を、わなわなと震えながら耳にするオブリビオンの魔の手が迫っていることに、逃走する猟兵達はまだ気付いていない……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『悪魔戦隊デビレンジャー』

POW   :    極悪合体、ダイアクマオー!
自身と仲間達の【アクマシーン】が合体する。[アクマシーン]の大きさは合体数×1倍となり、全員の合計レベルに応じた強化を得る。
SPD   :    3D(デビル・デルタ・ダイブ)アタック
レベル×5km/hで飛翔しながら、【パペットを着けた両腕】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ   :    ガンバエーキッズサポーターズ
戦場に、自分や仲間が取得した🔴と同数の【自身を応援する魔界の子供達】を召喚し、その【励ましと応援から生じる後ろめたい気持ち】によって敵全員の戦闘力を減らす。

イラスト:スダチ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は仇死原・アンナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 銀行から目的を果たした猟兵達。
 残るは撤退するのみ。ある者は陸路を走り、ある者は空路を飛び――だが、最初に打ち合わせた集合場所に繋がる一本の道を前にして。
 そこには下見時にはなかったはずの、行く手を拒む黒山の人だかりが出来ており、撤退する猟兵達を完全に足止めした。

「うむ! 流石は『悪魔戦隊デビレンジャーの情報司令部』だ!
 受け取った電波指示に従って網を張ったら、本当に強盗を足止めすることができた!
 これも、ここにいる見事な仲間達との『戦隊チームプレイ』であろう!!」
 ――気が付けば、猟兵達の周囲を大きく取り囲んでいた人だかりから、応援や歓声が聞こえてくる。
 それらから、これらはどうやら、興味本位で集まっていた銀行にいた野次馬達の延長であろう事が窺えた。
 陸路を人の波に塞がれ足を止めた猟兵達の前に、今回のオブリビオンである『こども銀行』支店長『悪魔戦隊デビレンジャー』のレッドが、数歩前に足を踏み出し猟兵達の前に姿を現した。
 このオブリビオンは――しかし、どう見ても単独であり、一体である。
 しかし、どうやら彼の中では情報を出す司令部があり、その電波指示(直感)があり、それに従い事前にこの場所に網を張ったのだという。
 それが的中したことは、素晴らしい。さすがオブリビオンの名も伊達ではないのだろう。

 しかし『戦隊』を名乗りつつも――この、レッドしかしないのに両手につけたパペットを、イエローとブルーとして動かしながら『戦隊』を名乗り続けるというのは、見る者の哀愁を根こそぎ誘ってやまないものであった。
 それはもう、見ているこちらが涙零れそうになる程の残酷さを孕んだ光景だった。
 ――これは決してぼっちが悪い訳ではない。強いて言うなら、戦隊ヒーローあらんとする彼がこうせざるを得なかった、この世界が悪いのである。

 どちらにしろ――今回の事件を起こしたオブリビオンは叩きのめさなければならなかったのだから、これは非常に好都合な出来事であった。
 むしろ、これで最後まで出て来なかったらどうしよう、と安堵のため息をついた者さえいた中で、
「フッ、子供達の期待の為に、戦隊ヒーローは最後に格好良く登場するものなのだ!
 さあ! 自分でもふるえが止まらない『こども銀行支店長』としての、この悪の伝導を行う為に。
 銀行強盗! 奪ったDを返してもらおうか!!

 行くぞ、ブルー! イエロー!
 我らは『悪魔戦隊デビレンジャー』!!」

 銀行強盗、ならびに怪盗達へのFinal Mission,
 立ちはだかるオブリビオン『悪魔戦隊デビレンジャー』を倒せ――!
ラファエラ・エヴァンジェリスタ
野次馬共め
我が道行きを遮るとは何事か
私は早くこのDを使って遊び回りたいのに…
…じゃない
あの童を倒すのか

愛馬に騎乗しUCの騎士を伴い
敵を見て言葉を詰まらせる
…一人遊びという意味では私も人の事は言えぬが
貴公ら何と言うか…随分と予算の狭い戦隊なのだな
不憫な…このDは返してやろう

Dを差し出すフリをして騎士には予め敵背後からの攻撃指示を
返す訳なかろう?
目の前でDを多少野次馬にばらまく
悪らしく

だいたい今の今まで横領一つせず真面目に支店長しておいて何が悪か
それだから自分の両手がお友達なのだ
我が騎士もそう思うよな?
「黒孔雀」を煽ぎつつ
キッズサポーターは死なぬ程度に愛馬に蹂躙させる
我が騎士よ、引導を渡してやれ



●『人形遊び』と――
 デビルキングワールドの花形一大イベント『銀行vs銀行強盗&怪盗』の第一ラウンドは、強盗&怪盗側の見事な勝利に終わった。
 しかし、こちらが完全に計算し尽くしたはずの逃走経路を、『限りなく電波に近い何か』で野次馬を集め封鎖してきたオブリビオンの『こども銀行』支店長『悪魔戦隊デビレンジャー』に、ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)はヴェールの下で見えない片眉を大いに跳ね上げた。
 逃走時に拾った他の猟兵を馬車2nd Waltzから降ろすと、自身もユーベルコード【深き淵への嘆息(サスピリオルム)】によって喚び出していた騎士の甲冑を、闇を伴う攻撃魔法の応用で、黒き茨に包み込む。太陽に煌めく銀の甲冑は、再び表層を光吸い込む闇色へと変化させる。

「野次馬共め……。我が道行きを遮るとは何事か。
 私は、早くこのDを使って遊び回りたいの、に……ん、んっ。こほん――じゃない」
 ――確かに。グリモアベースでは、そのDの使い途については殆ど追求されてはいなかった。ただ、オブリビオンの手に渡らないようにしてもらえればとアバウトに言われていた気がする。
 その言葉に倣えば、誤魔化しつつのラファエラの行動も、見事な依頼完了の為の一環と言えた。一応、我に返り否定こそしているが――そこには『真の悪たるものは、やはりこうでなければ』という、デビルキングワールドにおける輝ける見本となり得る眩しさ隠しきれない。
 そして、完全に足を止められたラファエラは、己の騎士を傍らに、急ぎ外につけた自身の愛馬の元へと向かう。美しき青鹿毛のTenebrarumの鞍はサイドサドル故に、キャットスーツに身を委ねて尚、淑女の嗜みとして足を開くことはなく。ラファエラはその身を寄せるようにTenebrarumへと騎乗し腰掛けると、愛馬の蹄一つ鳴らして、オブリビオンへと向き直った。

「さあ、銀行強盗よ! 大人しくそのDを返すのだ!」
 目の前に立ち塞がるのは『こども銀行支店長、悪魔戦隊デビレンジャー』――とにかく肩書きが長い。
 そして、まず目に留まるのは。
「……。貴公、まずは――」
『その哀しみにあふれた戦隊パペットをどうにかしてはもらえないか』――そう憐れみを交えて告げ『戦隊人形ごっこ』をしている童を倒さなければならない、という事実を目の当たりにした時。

 ラファエラは、静かに息を呑み。その先の言葉を喉奥から引き上げることが敵わなかった。
「――……」
 自分の隣には、既に骸の海に沈んだ騎士がいる。
 これこそ、人形ごっこ――ではないのか。
 互いに、生きていた頃を知っていた。故に、今はその自分の為に死して亡霊となった騎士を骸の海から引き上げて、ユーベルコードで酷使して。
 それなのに、過去において輝いていた蒼穹の瞳の現実を知る為に、覗き込むことすら出来ぬ己は。この目の前にいる人形を『仲間』だとして遊ぶオブリビオンと、一体何が違うのであろう。

「……一人遊びという意味では、私も人の事は言えぬが」
 まさか、この様なところで突き付けられるとは。
 ラファエラは静かに黒のヴェールの下にある瞳を閉じ、数秒、ゆっくりと隠したままに静かに見開くと『その場には、浮かびもしなかった』話題を変える為、改めて『悪魔戦隊デビレンジャー』の三体を見渡した。

「しかし、貴公ら何と言うか……随分と『予算の狭い』戦隊なのだな」
 ――ある意味、否、確かにこれについては『人件費の一切掛からない編成』ではあった。
 目に映る哀しみを乗り越えて言えば、これは三人編成戦隊における、最高の節約術には違いない。
「わああ!!『予算狭い』とか言うなぁ!
 我々は――っ! これで戦隊モノにおける史上最高のコストパフォーマンスを叩き出して……!!」
 そこでモゴモゴと、レッドの言葉が止まった。
 確かに、パペット二体で最高のコスパなどと言われても、実質レッド一人である以上、見ている側としては、何処にフォーカスを当てて良いのか分からない――そもそも、どこにも当たっていない可能性すらある。
「……あまりに不憫な……。ならば、このDは返してやろう」
「何っ!?」
 そっと、ラファエラが自分の馬車から、強盗時に最初からケースの中に入っていたDを、蓋を開けて支店長のレッドに見せる――。
 Dに目が釘つけになるレッドに、ラファエラはその視線を一瞬己の騎士へと走らせ、
「おおー! 銀行強盗が、悪魔戦隊デビレンジャーに恐れをなしてDを返しに来たぞ! これこそ『真の悪は勝つ』のだと、この場の子供達に見てもらわなくて、は――ギャンッ!!」
 レッドの言葉は終わる事すら許されなかった。感動に周囲も見ずに言葉を発する最中、そのレッドの後頭部にラファエラの騎士のメイスが火花を散らして炸裂したのである。
「ふん、返す訳なかろう?
 こんな、端金にもならないDなど――こうだ!」
 レッドが脳震盪を起こしてピクピクしている――その間に、ラファエラは高笑いあたりを交えながら、ケースのDをきちんと己の取り分を計算しながらも、派手に見えるよう野次馬達に勢い良くばら撒いた。
「このような物見遊山に興ずる野次馬共よ! このような弱きモノより私に従え。跪いて涙と共に讃えれば、子供の小遣い程度のDをこの手でめぐんでやろうではないか!」
「――跪いて讃えても、配るのは小遣い程度のDだなんて……なんて生粋の悪!!」
「なにっ! この手自らでは不満か!!」
 互いにそう叫んでは、受ける新鮮な感情を楽しむ互いの間において。その間にも、生存時には本人考えもしなかった寵姫ラファエラの施しにより、100D(価格比較100円)硬貨などをばら撒く音が響き渡る。這い蹲ってそれを見つめていたデビレンジャーのレッドに悔し涙が滲んだ。
「あああ、Dが、Dが……!!
 し、しかし――ここに、まだ私を応援してくれているキッズサポーターズ達の声が聞こえる……!
 強盗よ、この声が聞こえないのか! 己の罪悪感に責め苛まれはしないのか!?」
 足元に転がっている支店長のレッドが、まだこども銀行の悪事に魅せられたままでいる『ガンバエー!!』と一所懸命に叫ぶ子供達の応援を受けて、フルフルと立ち上がろうとする。
 ――それを。ラファエラは、己の愛馬で容赦なく轢き倒した。
 元の気性が酷く荒いTenebrarumの猛攻である。しかし、デビルキングワールドの子供も、このくらいでは死ぬことなく、元気に空へと弾き飛ばされていく――。
 その様子を目にしながら、戻って来た騎士にDのケースを預けると、ラファエラは優雅に己の黒洋扇である『黒孔雀』を煽ぎ、特に好きでも嫌いでもなく、ただ愛着だけは無くもない蟻を見るような目で、地面のレッドに目をやった。

「だいたい。今の今まで銀行に勤めておきながら『横領一つせず』真面目に支店長しておいて、何が悪か。
 それだから『自分の両手がお友達』なのだ。
 ――我が騎士もそう思うよな?」
 ラファエラの問い掛けに、騎士が同意する様子も、反応する様子も無い。
 しかし、一瞬――確かに刹那の動揺を浮かべたかのように見えた騎士の気配に、やはり己にマイペースなラファエラは、それに気づく事ができなかった。
 下準備の時点で呪いでも掛かっているのか。それは……ついDで、しばし出費が控えめだった己が豪遊することに、ラファエラが気を取られたほんの瞬間の出来事だった――。
 真実は伏せられ、光当たることのないままにすれ違う。
 しかしこれを、決して『うっかりさんの自業自得』などと言ってはならない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
雪丸様(f31181)と

ええ。参りましょう、幕が下りるまで!

サチコ様に一礼し宙を舞って華麗に着地
同じく、怪盗ハートビートでございます
真の悪をお見せ致しましょう

私は地上から思念銃を撃ち雪丸様の援護です
観客の皆様を【念動力】で浮かし【オーラ防御】で守ります
殺す悪より生かす悪。それが私達が目指す悪の姿でございます

アクマシーン?キャバリアの様ですね
「お任せ下さい、スノームーン様!」銃を構えて『殉心戯劇』
輝く光線。雪丸様の笑顔。ああ、なんて心躍る舞台でしょう
負ける筈がありません。その只中に立つ私の胸は今もこれほど高鳴っているのですから
「アンコールはおしまいです」
募る想いを力に替え、この熱を撃ち出します!


雪丸・鳳花
メルメッテくん(f29929)

さあ!仕上げと行こう!
ボクらは言うなれば怪盗イェーガー!
最後まで悪役を演じ切ってみせよう!

ハッハッハ!
高らかに笑いながら、サチコの手の平から飛び降りよう
ボクは怪盗スノームーン!
キミにボクたちが倒せるかな?

UCで脚に結晶体をまとい、光るジェットブーツで空中戦と行こうか
敵の攻撃が観客に当たらないように観客からは距離を取りたいね
万が一、観客に攻撃が当たりそうな時は念動力で客を捕まえるフリをして助けよう
ヒーローショーの悪役が観客を捕らえる演出みたいにね!

乱反射するビームと共に突撃して蹴り攻撃だ
だが、ボクは囮さ
今だ、ハートビート!
乱反射するビームでトドメを演出しよう!



●その閃光は、灼熱に到る想い
「うん! あれが支店長か!
 ――ついに出てきたね!」
 猟兵とついに接触した『こども銀行支店長、悪魔戦隊デビレンジャー』――その様を、飛行するサイキックキャバリア・サチコの手の上に乗り、オーラ防御で風圧を防ぎながら下を覗き見ていた雪丸・鳳花(歩く独りミュージカル・f31181)が、ちょうど真下に群がる黒い人波と、起こっているその様子に力強く頷いた。
「オブリビオンでございますか?」
 鳳花の様子に問い掛けるメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)も、その隣に座り地面を見れば、目に映る光景に思わず淡く煌めく乳青色の瞳を大きく見開き、小さな胸の高鳴りと共に「あぁ」と思わず感嘆の声を上げた。
 目に映るのは沢山の観客、そして仕上げに相応しいオブリビオンの姿。
 そこには先の続きが――『輝かしい舞台の続きと、感動のフィナーレ』が待っている――
 
「さあ! 仕上げと行こう!
 ボクらは言うなれば怪盗イェーガー!
 最後まで悪役を演じ切ってみせよう!」
 オーラによる防御もすり抜ける風が、言葉と共に立ち上がりポーズを決める、鳳花の短くも華やかなジャケットを揺らす。
「ええ。参りましょう、幕が下りるまで!」
 今のキャバリア・サチコの手は、言うなれば舞台袖。
 気合いを込めた二人は、互いに決め合ったコードネームを呼び合い、二人揃ったコンビを、今『怪盗イェーガー』と定めた。
 過剰なまでに情熱的な気合いの入れ方に思われるが、舞台とは役者が何処まで入れ込んでも、入れ込んだ分まで応えてくれる。ましてや『デビルキングワールドの住人』という、この上なくノリの良いオーディエンスがいるのであれば、その想いは正直いくらあれども足りないくらいである。
 サチコの高度が、猟兵ならばギリギリ無傷で着地の出来る高さまで下げられた。上空からの影に、観客の何名かがこちらを見て大声を上げ始める。
 ――今、まさに二人の舞台の幕が上がる瞬間――。
 この興奮だけは、何度舞台に上がろうとも決して慣れることは無いであろう。心地良い緊張と限りない情熱をかざして、鳳花の後光が煌々と光り輝く。
 そしてメルメッテが、今までその手に乗せてくれたサイキックキャバリアである、サチコに感謝と敬意を伴う一礼をすると。
 二人は一度、互いに目を合わせて頷き合い。そのタイミングを見計らうと、極めて高度あるキャバリアの手の中から、二人は恐怖も躊躇いも一切無いままに、舞台に向かって落下した。

「ハッハッハ!」
 天空から地上にまでをも駆け抜ける、高らかな笑い声。
「あれは何だ!?」
 野次馬の中の一人が、天空を指差して叫ぶ。
 声の主である鳳花は、大地に着地するまでの回転数までパーフェクトに計算し尽くされた無数の前方宙返りを繰り返した後。両足を完全に揃え、自重を殆ど感じさせないブーツの踵の澄み渡る音を鳴り響かせながら、人垣の中央――こども銀行支店長『悪魔戦隊デビレンジャー』である、レッドの前に降り立った。
 そして、ほぼ同時に飛び降りたメルメッテも、華麗な新体操を思わせる身をひねらせながらの後方転回を披露しながら、猫のようなしなやかさを以て鳳花の隣へと、足のぶれ一つ無くほぼ無音で着地する。
「何者だっ!?」
 ――デビルキングワールドでは、とにかく悪は形から入るものであり、実際にその形が好まれる――。
 そんな、あまりにベタな問い掛けをする支店長のレッドに向けて。
「ボクは怪盗スノームーン!」
 鳳花が自分の今回のコードネームである『スノームーン』という名乗りと共に、仮面の上に掛かった鮮烈な赤の髪を勢い良く掻き上げる。
「同じく、怪盗ハートビートでございます」
 傍らでは『ハートビート』を名乗るメルメッテが、あまりにも完璧かつ丁寧な物腰で、オブリビオンと観客の野次馬達へと片手に胸を添え深々とお辞儀をすれば。
 その仕草が、このデビルキングワールドではあまり目にしない程に整っており、観客達が『これは凄い怪盗が来た!』と、その心を一気に煽る。
 そして――二人の視線は、オブリビオン『悪魔戦隊デビレンジャー』のレッドへと向けられた。
「キミにボクたちが倒せるかな?」
「ああ! 君達は私の金庫をスッカラカンにしてくれた二人組ではないか!!
 しかも! 私達は【戦隊】なのだから『キミ』じゃなくて、こちらについては『キミ達』と呼ぶべきだ! ――なあ、そうだろう!? イエロー! ブルー!!」
 ――当然、そのイエローとブルーは、パペット二つである以上、傍目には返答の程がある訳もないのだが。
 支店長のレッドはその沈黙を『電波的に納得した』らしく、そのまま二体のおパペットをつけたままに戦闘の構えを取る――。
「それでは――真の悪をお見せ致しましょう」
 そうして、メルメッテの胸に情熱を隠し秘める声音による、宣言の下――『悪魔戦隊デビレンジャー』と『怪盗イェーガー』による戦闘は、幕を切って落とされた。

「勝負だ!」
 先手を取ったのはデビレンジャーのレッドだった。
 地面を蹴り飛び上がると、レッドはそのまま上空へ駆ける。そして、鳳花に向かい空を滑空しながら、イエローとブルーのパペットを着けたままの両腕で、ずっと銀行内から鼻を明かされた怒りを込め、無数の乱打を繰り出した。
「おっと!」
 その先制を、鳳花はまるでダンスのようにターンを決めて軽やかに舞い避ける。そして、相手が急な方向転換の出来ないままに滑空し続け、大きく弧を描いて上空に戻るまでの間に、鳳花は自分の光るジェットブーツの両踵を地面に大きく打ち付けた。
 響き渡る、聞き心地の良く花咲くような軽やかな音色。瞬間、ユーベルコード【The Glass Slippers(ガラスノクツ)】により、まるで硝子の美しさを彷彿とさせる透明に光り輝く結晶体が、精神感応によって鳳花の両脚を包み込む。
 ――空中戦ならば、鳳花も決して後れを取ることは無い。
 軽いジャンプと共に宙へと舞い上がれば、その攻撃が観客へと当たらぬよう、その場から飛翔し、オブリビオンを引きつけようと距離を取る。
 しかし――再び別方向から空を滑り込んできたデビレンジャーのレッドは、その鳳花の動きにまったく対応が出来ていなかった。
「うわぁああっ!」
 ――デビレンジャーとしては、先の攻撃は『必殺の一撃』のつもりであっただけに『まさか空振りして、そのまま観客へと飛び込むかも』という未来など、想定もしていなかったのである。
 そして、今。まさに、観客を巻き添えに集まる人混みに突っ込まんとした時――鋭さすら感じさせるメルメッテの思念銃による一撃が、派手にデビレンジャーを弾き飛ばし、
「ハッハッハ! ――捕まえたよ!」
 上空にいた鳳花と二人で、オブリビオンが吹き飛んだ先。――更にそのレッドが体勢を立て直せないままに観客をなぎ倒そうとしていた周囲の野次馬達を、鳳花がサイキックで一斉に浮かび上がらせ、メルメッテが放つオーラの防御壁によって中空に隔離した。
「皆さま捕まえさせていただきました! 解放されたくば――デビレンジャー! 負けを認めて降伏なさってくださいませ……!!」
 二人の機転により、野次馬達に被害は出ず。強いて被害を露わとするならば、それはデビレンジャーの顔面と地面による『熱いスライディングダイレクトキス』に留まった。
 観察すれば、地面は削れて見るからに痛そうな、完全に『顔面シャベル』状態となっているが、当のデビレンジャー・レッドは、元気にダメージを受けて地面を転がり回っている。
 同時に、中空に持ち上げられた身動きの取れない野次馬達は、
「人質だなんて、悪だ! 悪だわ!!」
「わぁーっ! 降ろせよー! でもカッコイイー!!」
 と、一際の興奮に染まった歓声を上げている。
 しかし。その中で一声、
「『悪魔戦隊デビレンジャー! お前の悪の力はそんなものじゃないはずだー!!』がんばれ!!」
 と、中からオブリビオン側の提示した悪に感銘を受けたままの人々による応援の声が響き渡った。
 それが耳に届いたデビレンジャーのレッドが、声に勇気を得たかのようにふらふらと立ち上がる――。
「そうだ、私は子供たちに悪を広める為に、こんな所で負ける訳にはいかないんだ……!!」
 そして、見事。顔面を痛打していたはずのデビレンジャー・レッド、復活――。
 その光景は、デパート屋上のヒーローショウで起こるお約束の『危機の時に声援に助けられ、立ち上がるヒーロー』という、完全なアレの流れであった。

「い、今こそ――この苦難にこそ、子供に悪を伝道する『悪魔戦隊デビレンジャー』の真の姿を見せるとき……イエロー、ブルー! 合体だ!!
 来い!【アクマシーン】!!」
 完全に地に足をつけ、両手を掲げるレッドの手から、二つのパペットが自然にスポっと抜けて上空に舞い上がる。それは込められたパペットの想いが昇華されたのか、単にレッドの妄想念動力がそうさせるのかは分からない。しかし、どこからともなく輝き始めた眩しい光の中で三つの影が重なった瞬間。
「これこそ【極悪合体、ダイアクマオー!】としての、我々の真の力だー!!」
 光が消えさり、そこに現れたのは『赤・青・黄』を交えた一体の巨大メカの姿――。
「アクマシーン? キャバリアのようですが……」
「うん、でも――」
 判断するメルメッテの傍らで、鳳花がメルメッテと並んで言葉を濁す。
 先程までの単体が、極めてヘッポコだったせいもある。
 だが、この『ダイアクマオー』を謳うこのメカから感じ取る力は、確かにオブリビオンのそれだった。
 二人の間に振り下ろされたダイアクマオーの拳が、地面表層に激しいひび割れを起こす。瞬時に違う方向へと飛び退いた二人は、その破壊力に確信を持って納得と共に頷くと、即座にそれぞれが行動を起こす。
 鳳花が再び上空へと飛び、先のユーベルコードにより己の後光を攻撃力に転化したビームを脚の結晶体の輝きを通じて無数に放ち、無数の閃光としてダイアクマオーへと叩き付ける。
 それにより、あちこちで細かな爆発が起こるが、しかし本体のダメージとしては威力に欠けていることを、その場の誰もが理解する――。
「ふはははは! この程度痛くもかゆくもな――ぐはっ!」
 同時に、目の眩むその閃光を追うように駆け寄り、距離を詰めていた鳳花がダイアクマオーのレッド部分――恐らくは核となっているであろう胴体と頭部に、激しい追撃の蹴りを叩き込む。
「うおおおっ!?」
 大きくよろけた態勢を立て直し、鳳花へ完全にターゲットを向けるダイアクマオーが叫んだ。
「おぉー怒ったぞー! お前にこのダイアクマオーの力を見せてやる!」
 恐らくレッドの物であろう怒りの声が、左右腕部分がイエローとブルーに染まっているダイアクマオーの拳を激しく振るわせ、その一撃が鳳花に迫る。
「――だが。ボクは囮さ」
 合体した悪魔戦隊デビレンジャーの声、こちらに向けられていた我を忘れたような鋭い視線に、鳳花が口端を大きく上げて笑顔を見せる。
 信じ難い言葉と共に、ダイアクマオーの襲撃が鳳花の前で硬く停止した。
 そういえば、もう一人の強盗は。
「――あ、あれ? もう一人は」
「さあ、ハートビート!!」

 そのコードネームを改めて紹介するように声を上げる鳳花――否、怪盗スノームーンの言葉に、はっきりと応える声一つ。
「お任せ下さい、スノームーン様!」

 そこには、いつの間にか野次馬達に道を開けさせて、一直線上の離れた先。
 鳳花の放つビームの純白とは異なる、赫々とした光を溜めては溢れ零れる、メルメッテ――ハートビートの所持する、思念銃の銃口が完全なるロックオン状態でダイアクマオーへと向けられている――。
「え、いや、ちょっと待ってくれ! というか、待って!!」
 ダイアクマオーが逃げようと辺りを見渡す。しかし、いつの間にか円形ではなく、道路一直線上を囲むように形を変えられた野次馬の集まりにより、一線上に狙われた先に、逃げ場となるような空間は無い。
 せめて、己の大きさが三倍になっていなければ――! 攻撃を受ける上で、極めて当たり前と言えることに、ダイアクマオーの核であるデビレンジャーのレッドが、自分の行動に思いきり後悔の色を見せて、やはりこれから撃たれるという恐怖に右往左往し始める。

「――」
 その移動差分も、きちんと思念銃の射程に収めながら――メルメッテの煌めく乳青色の瞳はそこに、より一層の輝きを増した。
 相手を確実に捉えた銃口。気付いていない敵の背後で、更に輝きを増していく鳳花の、見ている者まで心沸き立たせる笑顔。
 ――完全に整えられた舞台において、その心はかつて無い程に熱く、楽しく。
 それはメルメッテにとって、ほぼ未知とも言える程の情動を叩き出していた。
「……ああ、これは……なんて心躍る舞台でしょう」
(――負ける筈がありません。その只中に立つ私の胸は、今もこれほど高鳴っているのですから……!)

「待った! 待ったぁ! ほら、私は仲間と共に、銀行に戻ったら後片付けとかしないといけないし、舞台ならアンコールにだって応えなきゃいけな」
「アンコールはおしまいです」
 ゴォウ、と。メルメッテの沸き立つ心の信に寄り添うユーベルコード【殉心戯劇(ザ・ポイント・オブ・ノー・リターン)】に応え、思念銃が今までにかつて無い程の熱を持ち、今まで耳にしたことのない興奮を煽る音と共に鮮烈な光を放つ。
「今だ、ハートビート!!」
「はい! スノームーン様!」
 鳳花の足元から、プリズムのように無数に散り雪原に反射する月光を思わせる光が、四方八方よりダイアクマオーに突き刺さり、その眼を眩ませる。

「この心を、熱を……受け取ってくださいませ!!」
『ハートビート』――彼女のコードネームに相応しい熱が、太くそして鋭い周囲の大気をも燃やす赫の閃光として撃ち放たれ、その光は確かにダイアクマオーの身体を貫き、無数の爆発を引き起こした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベルゼ・アール
【株式会社UAI】
待ち伏せされてたのはどちらかしらね?
…ジェイミィ!
(指パッチン)

悪かったわね、一時的に職場復帰までして貰っちゃって
報酬は後でクロムキャバリアの口座に振り込んでおくわ
そうそう、UDCアースの静岡にハンバーグが美味しいステーキハウスがあるのよ

さぁ、そんなわけで怪盗"R"の仕事の総仕上げにかかるわよ
ここから先の私は撹乱役
空を飛びながら二丁拳銃を撃ちつつ素早い動きで相手を翻弄するわ
敵の攻撃は三角蹴りを織り交ぜた動きでさっさと回避よ

いい位置にいるじゃない
JACKPOT!
(二丁拳銃を弾倉が空になるまで撃ち尽くす)

デビルキング法のない世界で悪事を重ねた私に目をつけられた事を後悔するのね


ジェイミィ・ブラッディバック
【株式会社UAI】
(ベルゼの指パッチンを合図に小型ミサイルを敵めがけて斉射)
(UCで確認した未来位置に待機)
ふう、情報通りの位置に待機していて正解でした
お疲れ様です、ベルゼさん

いえいえお気になさらず
丁度抱えてた案件がある程度片付いて暇でしたので
昔、部長時代の社長の右腕として働いてましたし、秘書業務も苦ではなかったですよ
ほう、最近あのお店行けてなかったんですよね、ご馳走になりましょうか

空を飛びつつ両手のGAW-WM-209Xを連射して円の動きで追い込みます
敵の攻撃はUCで見切り、推力移動によるダッシュで回避

今です! ターゲット、ロックオン!
JACKPOT!
(装備した射撃兵装を全て撃ち込んでいく)



●デビルキングワールドは、甘い

 目的地まで後しばらくの所だった――数分前まで、中世ヨーロッパじみた街並みの中に、恐らく『景観を壊す』という悪事の為に建てられた、手にしている文明相応の近代ビルがちらほらと見受けられる道を、愛車のUAI-SV-200 "Dio Demone"で走り抜けていたベルゼ・アール(怪盗"R"・f32590)は、目の前に広がる人混みを前に、ゆっくりとその車を止めざるを得なかった。
 この世界の住人は、車に轢かれた程度では『お星様になった後、五体満足で元気に戻ってくるだけ』なので大したダメージではないが、流石にそれほど頑丈な存在を轢き続けていては車の耐久度の方がもたないだろう。
「ふははははー!『悪魔戦隊デビレンジャー』による待ち伏せ大作戦、大成功だ! 悪らしく住人を焚き付けて誘導した甲斐があったー!
 ――ウッ……! さ、さっきの一撃が……痛い……!!」
 車を降りたベルゼに『こども銀行の支店長、悪魔戦隊デビレンジャーのリーダー』という肩書きを背負ったレッドが、高らかに語りながら。
 その合間に、他の猟兵との戦闘で合体を解いた爆発風により、少し焦げくさくなったイエローとブルーのパペットを再び手に装着しては、先の猟兵による渾身の一撃が直撃した痛みでもんどり打っている――。
 痛みが少し引いては自信満々に勝ち誇り、それで痛みが悪化すればこれでもかと言う程に地面を転がり回る――元気そうであるのには間違いないが、見ている側としては、煩わしいのでどちらかにしてもらいたい光景である。

 そんなデビレンジャーのレッドに、周囲の光景に軽く目を走らせたベルゼは告げた。
 己の胸の内に、この状況に相応しくないと誰しもが思うであろう――確信と自信を沿えて。
「待ち伏せされてたのはどちらかしらね?」
「何っ!?」
「……ジェイミィ!」
 女怪盗らしさを全面に出したベルゼは、悪役としては必須とも言える人の目を惹き付けずにはいられないエレガントな仕草で、呼び声と共にその右手を高らかに掲げ、指を天空に向けてパチン! と鳴らした。
 響き渡る、悪の指パッチン。
 瞬間、隣に立っていた高層ビルの屋上から、まるで『完全に申し合わせていたかのように』正体の知れない数多の小型ミサイルが、悪の支店長であるレッドに向けて雨あられとなって降り注いだ。
「ぎゃあぁー!!」
 直撃しては連続で爆発する容赦のない衝撃波の激しさに、ベルゼは目を細める事で何とか己の視野を確保し続ける。
 ミサイルの雨が一点集中の精密さで、オブリビオンへと叩き付けられていく。
 そして、煙が引いたその先には――。
「う……うぅ……!」
『これ、オブリビオンでなければ絶対死んでた』レベルでまだ息のある、頑丈なオブリビオンの傍らで――ベルゼはミサイルの飛来した高所より、聞き覚えのあるブースターの駆動音を聞いた。
「ふう、補助AIによる演算情報通りの位置に待機していて正解でした。
 ――お疲れ様です、ベルゼさん」
 それは、しっかりとしたメカ特有の重量感ある着地音。ベルゼの隣には、この状況下に援軍として呼んだ、元同じ企業に勤めていた自我ある鋼鉄の猟兵――ジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/開発コード[Michael]・f29697)の姿があった。
「お疲れ様。相変わらずの高性能と言ったところかしら」
 ベルゼも、企業勤めと変わらぬ挨拶をする相手に、同じく『お疲れ様』と言葉を返して微笑んだ。
「悪かったわね、一時的に職場復帰までして貰っちゃって。報酬は後でクロムキャバリアの口座に振り込んでおくわ」
「いえいえお気になさらず。丁度抱えてた案件がある程度片付いて暇でしたので」
「でも、社長の相手は大変だったでしょう?」
「いえいえ。昔、部長時代の社長の右腕として働いてましたし、秘書業務も苦ではなかったですよ」
 小型とはいえミサイルのスコールを受けた敵が、ぷすぷすと煙を上げている中で、まるでオフィスの中の如く、仕事話に華が咲く。
「そうそう、UDCアースの静岡にハンバーグが美味しいステーキハウスがあるのよ。知ってる? 良ければ今度奢るわ」
「ほう、あの辺りもあちこち行きましたが、該当するのは一件ですね――あの『隠れた名店』もついに知られるところになりましたか。
 最近あのお店行けてなかったんですよね、ご馳走になりましょうか」
 互いの会話の内容が、まるで出張から本社に数年年越しで帰ってきた社員を労るような、見事な歓迎会ムードになっている。
 流石に、このままでは『今回のボスなのに、完全に存在忘れ去られる!』と。激しい危機感を募らせたオブリビオン、悪魔戦隊デビレンジャーのレッドは、気合いと根性で起き上がった。

「『人の存在は悪でも忘れてはならない』と教わらなかったのか!? 教えてくれたおかあさんが泣いているぞ! 主に私の母だが!!」
「――さて」
 己の存在を叫ぶオブリビオンに、和やかにかつ嬉しそうに話をしていた二人は、相手の言葉に手にした銃火器をリロードさせる硬質の音色で応えてみせた。
「さぁ、そんなわけで怪盗"R"の仕事の総仕上げにかかるわよ」
「ええ――承知しました」

 ジェイミィの言葉と同時に、二人が地面の石畳を蹴り一気に左右へと散開する。
「え? えっ!?」
 二人の息の合った、あまりの素早さに困惑するデビレンジャーのレッドを前に。完全に先制を取ったベルゼがその真横を駆け抜けがてら、銃声が殆ど響かない二丁一組の大口径自動拳銃『UHGX-2200[Space Raptor]』のそれぞれを手に持つと、片方でオブリビオンを、もう片方でその足元を激しく狙い撃ち、相手の移動を阻害する。
「ひぇえっ! こ、これでも私は純粋無垢な子供たちに悪のヒーローの在り様を伝える伝道師! 負ける訳にはー!」
 聞くだけでも情けなくなるようなオブリビオンの震える声が、しかし己の覚悟を叫ぶことにより、悪による勇気と気合いを交えたものへと変化した。
「この一撃が! 悪の道を切り開くー!!
 くらえ!【3D(デビル・デルタ・ダイブ)アタック】!!」
 掛け声と共に、オブリビオンの脚が、勢い良く地面を蹴りその身を空へと浮かばせる。
 そして、青と黄色のパペット――もとい、既に彼の中では至上の仲間であるイエローとブルーを共にした両腕が見掛け以上の鋭さを放ち、ベルゼを捕捉すると、手に残像が浮かぶ程の拳による乱打を放つ。
「――っ!」
 ベルゼが回避を試みた先。背後で駆けた数メートル程の元いた場所にて、建物の壁が、大きく爆ぜて穴が開く。
 どうやら、このオブリビオン。本当に、ふざけているのは見た目だけの可能性がある。

「この一撃を外すとは! しかし次は倒してみせる! 全ては子供たちに悪の――」
「いちいち――うるさいわね!」
 容赦のない攻撃に野次馬の住人達が逃げ惑い始めた中、壁沿いを駆けるベルゼが態勢不利と判断し、更に走る速度を上げて勢いを付ける。
 ベルゼはそのまま己の動きに沿って並ぶ、逃げ場のない壁を力いっぱいジャンプと共に蹴り上げると、その身を、華麗な蝶のように中空へと投げ込んだ。
 更に間一髪で、敵の攻撃により自分の真後ろの壁が崩れ落ちる。
 ベルゼは空での勢いを調整する宙空前転と共に、跳躍した頂天にて、ユーベルコード【ナイトウィング】を発動させた。魔力によって象られた、まるで空に広がる闇夜を思わせるコウモリの羽根が、弾ける音と共に翼を大きく広げ、その場での滞空を可能にする。

 敵も飛翔可能――だが、ベルゼは相手に浮かび上がらせる時間など与えない。

 相手の一撃をかわしたベルゼが、翼を翻し一直線に自分からその距離を詰めると、敵の脳天に、静寂に溶け込む静かな歩みと攻撃可能な硬質を両立させたブーツによる華麗な踵落としを叩き込んだ。
「いただだっ! ま、まだまだぁ!!」
 状況的には頭をかち割られていても文句の言えないベルゼの攻撃。しかし尚も立ち上がる悪魔戦隊デビレンジャーのレッドは、戦闘は悲しいまでに手伝ってくれないが『それでも仲間である』イエローとブルー(のパペット)を伴って、再び立ち上がりベルゼを追うべく、舞台を空へと移そうとする。

「――残念ですが、それをさせるわけにはいきません」
 瞬間――ベルゼとの戦闘に、完全に全集中力を奪われていたデビレンジャーのレッドは、上空から響いた声にハッと顔を上げた。
 そこには、鋼鉄よりも遥かに硬質なボディを持ち、両手のマシンガン『GAW-WM-209X』で武装したジェイミィの姿。
 目が合えば以降の言葉代わりに、ジェイミィのマシンガンは文字通り火を吹くように弾丸で歌い上げては、円弧を描くようにデビレンジャーのいる地面を削り、敵の移動範囲を面の範囲で天空から圧迫制御していく。
 しかし敵は、己のオブリビオンという在り方を露わに、弾丸をかわし、或いは避ける事を諦め一部をその身に受けて、尚も上空へと跳ね上がり、飛翔と共に無数に残像を残す拳をジェイミィへと奔らせる。
「――『S.K.U.L.D.System ver.3.0.1 Stand by... Completed.』――」
 呟きに近い起動コードと共に、紅い閃光がジェイミィのレーザーアイを光らせる。
 脳裏を駆けるはユーベルコード【S.K.U.L.D.System(スクルドシステム)】。奇しくも未来を司る女神の名を得たシステムは、補助AIを停止させることなくフル稼働して導き出した答えにジェイミィを誘う。
 それに従い推力移動を駆使して滑るように風を切れば、オブリビオンの攻撃により生み出された豪風が、先程までいた場所を竜巻に近く呑み込むところだった。
 それを目にしたジェイミィが、更なる演算からある事に気づいたように、沸き起こり消えない竜巻とデビレンジャーのレッドを挟み込む位置に疾駆し、マシンガンを突き付ける。
「この銀行怪盗め! いい加減、無駄な抵抗はやめるんだ!!
 こ、これ以上の連撃は『私の身体の悪的に』非常によろしくない!!」
 竜巻とジェイミィとの狭間に立たされたデビレンジャーのレッドは、明らかな身の危険を感じ取り、双方から逃れる為に真横へと逃亡を図る。
 しかし、そこには――ずっと己の銃口の先を待ち焦がれていたように、二丁拳銃を構えるベルゼの姿が。
 それは、オブリビオンが己の攻撃により起こした竜巻から生まれ、その躊躇いの一瞬をついて形成された、計四丁の銃器に照準を向けられた十字砲火の構え。

「あら――ジェイミィ、いい位置にいるじゃない」
 銃口を向けたベルゼが、待ち焦がれたようにその口許に蠱惑の笑みを浮かべる。
「し、下――い、いや上だ! 上なら逃げてもワンチャンあるぞ、私!!」
「演算通り! ベルゼさん『下に』!
 ――ターゲット、ロックオン!」

「「JACKPOT!!」」

 それは悪魔も泣き叫ぶとされる、とどめの一声。
 ジェイミィが、予知にも近い演算の末に、宣言とは逆の下へと逃げ降りようとするオブリビオンに向けて。
 ベルゼは二丁拳銃の弾倉が空となるまで撃ち尽くし。
 ジェイミィからは、マシンガンの他に並列装備していたミサイルポッドMMX-2900を解除し火力と煙の花を開かせ――肩部に搭載されたレーザーキャノンWMLC-A109 "INDRA"の光を雷霆の一撃として迸らせた。
「ぎゃあああっ! 落ちるぅーっ!! もう少し手加減してくれたってぇー!!」
 手持ちの銃火器攻撃手段の全てにおける、全弾ヒット――もはや三流でも言わない雑魚悪役の言葉を放ちながら、何故まだ炭と化していないのかが不思議でならない程の攻撃を浴びた悪魔戦隊デビレンジャーが地面一直線に落ちていく。
「手加減――?
 それならデビルキング法のない世界で悪事を重ねた、私に目をつけられた事を後悔するのね」

 頭から落ちていくデビレンジャーのレッドに、ベルゼが手向けに近い言葉を告げる。
 そう、デビルキングワールドは、大元は良い子の世界。
 たとえベルゼが、最初こそこの世界の生まれだったとしても。現れたオブリビオンが、その世界のタガが外れ兼ねない大悪事を働こうと頑張っても。

 今となっては、この世界自体が。既にベルゼにとってはちょっと――否、だいぶ『安易であり、スリルも足りずに興奮にも至らない』安全退屈な世界であったのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイグレー・ブルー
くっ……先程の銀行強盗では見知らぬ猟兵の方に助けていただいたりして後れを取りました…!!(それにしても鮮やかな強盗っぷりでありました。黒くて白い騎士殿もとても素敵でしたし)

お一人で「戦隊」ですか……、その部分を攻めることはしたくないですね。成りたいもの、在りたいものありますものね
ですが度の過ぎた悪は通せませんっ。わたくしも怪盗メタモルとして後には引けませんっ参ります!

相手の攻撃は髪の毛で全力で受け止めます。そして跳ね返す様にランスチャージ
オーディエンスの方もいらっしゃいますし、心配りも忘れずに
わたくしの中を走るナノマシンで身体を固くし、念動力で空中から一気に攻めるであります!!



●今流行りの『おひとりさま』戦隊
 銀行脱出からしばらく――他の猟兵の逃走に乗じて共に移動手段に乗せてもらい『ここまで来れば安全であろう』と、互いに顔を隠した相手の素性も分からないままに、ぽいっと路上に置いて行かれたアイグレー・ブルー(星の煌めきを身に宿し・f20814)は、しばらくその相手の向かった先を、ぱちぱちと瞬きをしながら見つめていた。
 そう――華麗に格好良く登場、キラキラとしたオーラを纏わせながら、悪い銀行員からDを奪い取り、颯爽とその場から姿を消す――しかし、その理想と実際起こった現実とのギャップに、アイグレーは思わずその悔しさに息を詰まらせた。
「くっ……銀行強盗では見知らぬ猟兵の方に助けていただいたりして後れを取りました……!!」
 悔しさあふれて、思わずぎゅっと胸元に小さな握りこぶしを一つ。
 しかし、確かに同乗した猟兵による銀行強盗の手際は、あまりにも鮮烈かつパーフェクトなものだった。今後、アイグレーの瞳の前に、とてもあのレベル以上の銀行強盗が現れるとは思えない程に。
(――鮮やかな強盗っぷりでありました。黒くて白い騎士殿もとても素敵でしたし)
 とはいえ、そのような光景が毎度起こるようなエキサイティング過ぎる世界も困るものではあるのだが――。
「それにしても……少し悲しくあります……。立てた計画もパーフェクトとは言い難、く――あー! 自分で奪ったD分を、先の乗り物に置いてきたでありますっ!!
 待ってー! 待って下さいませーっ!!」
 ……斯くして。何も知らないアイグレーは、そこに激しい戦闘が繰り広げられているオブリビオンが待つ目的地点へと、それとは知らずに全力で駆け出した。

 眼前に広がるのは、激しい戦闘の跡。道路や建物の一面に残る、銃撃の痕跡ばかり。
 あまりにも凄惨な光景に、アイグレーが言葉を無くしたその中央に『こども銀行支店長』にしてオブリビオン『悪魔戦隊デビレンジャー』のレッドが、両手のパペットを煤に塗れさせながら地面に転がり煙を上げていた――。
「こ、これは――! け、気配的に、この方がオブリビオンでありますでしょうか……?」
 敵として立ち塞がるにはあまりにも情けない光景である。アイグレーが目を見張る中、オブリビオンは、ぜーぜー言いながら、ふらふらになりつつも尚も立ち上がって、こちらにビシィッと指――もとい、仲間(パペット)のブルーを突き付けた。
「猟兵どもよ! これで勝った気になるとは思わないことだ! この眩しい『仲間』との友情パワーで、悪魔戦隊デビレンジャーは『いくら悪を重ねて、敗北を喫してもネバーギブアップ!』なのだからな! ああ、こういう教訓を子供たちへと伝えたい!」

「……仲間……? どこに……!?」

 仲間と言うが、警戒しようにもアイグレーの純真無垢な瞳には、そのような仲間はどこにもおらず、目に見えるものは遠巻きにこちらを取り囲む野次馬達ばかりのみ。
 それを嘲笑うかのように、悪魔戦隊デビレンジャーのレッドは大きく胸を張り自信あふれる声で叫んだ。
「フッ! この存在が素晴らしすぎて目に入らないとは!
 さすが私の仲間であるブルーとイエロー!!」
 バッ! と、レッドが両手を天に向け、パペットである両手に装着した二体の人形を頭の上に掲げてみせる。

「我ら、三人揃って『悪魔戦隊デビレンジャー』!!」

「……ぁ……」
 ……その台詞を以て――アイグレーはようやく相手の状況とその概念を理解した。
 しかし猟兵をやっていて、ここまでの悲しき概念を理解したのは、存在してから初めてかも知れない。
「……お一人で『戦隊』ですか……、
 いえ、その部分を攻めることはしたくないですね。
『成りたいもの、在りたいものありますものね』」
 アイグレーからの、あふれんばかりにダダ漏れとなっている同情のまなざしが、心のどこかで己のその虚しさに気付いていたデビレンジャー・レッドの心を、深く『さくぅっ』と音を立てては容赦なく傷付けていく。
「うおぉぉ……っ。そ、それでも、我々は悪魔戦隊デビレンジャー!
『こども銀行支店長』として、盗んだDを返してもらうぞ! そして、我々は、こ、子供を……その、ころ、ころして!
 ――完全なる悪として昇華するのだーっ!」
 未だに、己の悪が恐ろしすぎて、上手く口に出せない悪魔戦隊デビレンジャー。
 その言葉に、アイグレーの瞳が鋭く光を走らせ、オブリビオンを睨み付ける。
「さすがに、度の過ぎた悪は通せませんっ。
 わたくしも怪盗メタモルとして後には引けませんっ――参ります!」
 互いの目線が火花を散らす。そうして、怪盗メタモルと悪魔戦隊デビレンジャーとの勝負は始まった。

「――【極悪合体、ダイアクマオー!】」
 オブリビオンが高らかに叫べば、邪悪でありながらも煌々とした眩しい光と共に、その姿は三倍の大きさにまでなった超合金ロボとなって、再びこの地に降り立つ悪魔戦隊デビレンジャー。
 その巨躯から、コンクリート壁すらも一撃を以て激しく打ち砕く豪腕を、容赦なく怪盗メタモルに向けて横薙ぎに振り払う。
「させません!」
 怪盗メタモルは、破壊力の代わりに上乗せされた大きな隙の間に、即座に『axion-厘六徳錠』を口に入れる。すると、瞬間まで星空のグリッターがたゆたう柔らかな銀河を思わせた髪をはじめとして、錠剤効果によって己の身体に駆け巡る全身に、ナノマシンが駆け巡った。
 そして、きらめく水よりも遥かに麗しい髪を、この地上にあるかも分からないまでの硬質な盾へと変化させ、その相手の攻撃を激しい衝撃音と共に受け止める。
「なにっ! この一撃を受け止めるとは――!」
「次はこちらですっ!」
 怪盗メタモルの内部に稼働するナノマシンが、ダイアクマオーの攻撃を受け止め競り合う彼女の髪を、硬度はそのままに大きく波打たせた。
 その動きは、力点に乱れた力を加えることで、敵の攻撃を弾き飛ばして、怪盗メタモルとダイアクマオーとの間に距離を取る。
 僅かに生まれたその隙間を、メタモルは見逃さなかった。
 瞬間の隙――メタモルは、その先端が仄かに光る槍『Campanula -カンパニュラ-』を構えると、短い距離を全力で駆けて。そのままダイアクマオーに体当たりすると、カンパニュラの槍身を金属の接続部位に深々と突き立てた。

「うわぁあ!!」
 ダイアクマオーから、ショートした回線と共にあちこちに小爆発が起こる。
「観客の皆さま、少し離れてくださいませ!」
 その一撃を確認し、メタモルが周囲の観客に呼び掛けて――とん、と。メタモルは殆ど音を立てることもなく、宇宙の恩恵を全身に受けるようにサイキックを駆使して、己の柔軟さを露わにしながら空に向かって飛び上がった。
 ダイアクマオーより高く、そして羽根を思わせる軽さから一転――ブラックタールであるメタモルの身体を、波打つ星空の髪がくるんと包み込む。
「『こちらは地上で見られる流れ星! 受けるであります!!』」
 強い意志と言葉を共に発動したユーベルコード――【火球のレヴェイユ(ジェットラグ・ミーティア)】が、ブラックタールにおける、液体からこの世界にはない隕石の硬さとなった球状の姿を保つメタモルの身に、摩擦熱によって流星の輝きを纏わせる。
 そしてメタモルは、己が身に周囲に被害の出ない限界速度を伴い。
 その身を以て、ダイアクマオーの機体に、正しく星の如く衝突した。

 ――連鎖的な大爆発を起こし、敵オブリビオンが弾け飛ぶように変身合体を解き、地面に転がる。
 敵、大損壊レベルの大ダメージ――その光景は、今までの行動の失敗を完全に払拭した、怪盗メタモル面目躍如の瞬間とも呼べる、華やかなる戦闘のワンシーンとして、周囲の観客の心に残ったのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

地籠・陵也
【白竜と白猫】アドリブ歓迎
……(可哀想なものを見る目をするドラゴニアン)
いや、あの。ブルーとイエローをやってくれる友人はいなかったのか……?
そうか……(再度哀れみの視線を向ける)

おっと、悪らしさ悪らしさ……
この俺にこんな視線を向けさせるとは見上げたヒーローじゃないか。褒めてやろう。
で、戦闘前にエインセルに作戦を耳打ちしてから戦闘だ。

【オーラ防御】だけ纏って攻撃を全部【かばう】。
痛いが【激痛耐性】で我慢だ。
倒れる振りをして相手が調子に乗ったところで鍛えた【継戦能力】で起き上がって【指定UC】【破魔】の【全力魔法】連打で怯ませる。

覚えておけ、悪はこうして敵を欺くものだ!
あとは任せたぞ、エインセル。


エインセル・ティアシュピス
【白竜と白猫】アドリブ歓迎
にゃーん、ブルーとイエローになってくれるひといなかったの?
かわいそう……
でも、それでどーじょーはしないぞ!っていうのがわるいやつだから、ぼくもそれにならってがんばってこころをおにさんにするよ!

ひそひそさくせんかいぎしてたらてきさんがロボットだしてきたにゃーん!?
すごーい、かっこいいー!
でもぼくのにゃんげいざーはも―――っとかっこいいもんね!!
【式神使い】でにゃんげいざーをよぶよ!

すこしでもいたくないように、りょーやがたおれたふりするときに【結界術】かけて、りょーやのこうげきがきまったら【指定UC】で【レーザー射撃】だー!

ぼくたちにかとうなんてひゃくねんはやいにゃーん!



●悪の教示
「まだ……まだだ……!
 まだ、悪は戦えるはずだ――そうだろう『イエロー!』『ブルー!!』」

「………………」
「………………」

 口からケホっと煙がこぼれる。もはやボロボロと言っても過言ではないオブリビオン『悪魔戦隊デビレンジャー』のレッドが、両手に装着している同じくボロボロの『仲間』――パペット人形『イエロー』と『ブルー』に力強く語り掛けている。
 それを、地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)とエインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)は、言葉なく――棒立ちにも近い状態で、ただそれを見つめていた。
「いや、あの――」
 パペットを相手に気合いを入れ直しているデビレンジャーのレッドに、陵也はおずおずと言葉を置く。
「……ブルーとイエローを――『やってくれる友人はいなかったのか……?』」
 悪魔戦隊デビレンジャー、そのリーダーの肩書きを持つレッドが、陵也の一言に全身を硬直させる。
「にゃーん、『ブルーとイエローになってくれるひと』……いなかったの?」
 そこにエインセルの更なるピュアで悲しげな瞳の輝きが、レッドを照らし出すように差し込まれる。
 正論の光が差せば――当然、影は冥くなるものだ――。
 デビレンジャーのレッドは、ふ、と遠くに目をやると、今までかつて無い程の静かな声で呟いた。
「……皆……二人とも。
 私より自分の方が悪知恵と、己の力が強いと知った瞬間――翌日には『これを俺だと思ってくれ!』という書き置きと共に、このパペットを置いて姿を……」
 それは――もう『触れるべきではなかった』級のネタだった。
 デビルキングワールドの常識と照らし合わせれば、その行為は正しいのであろうが。実際にされて、それがオブリビオンとして現れた挙げ句にまざまざと見せつけられると、あまりの情緒の揺れ具合に、咄嗟のツッコミ一つ入れられない。
 敢えて言うならば『哀しみが増すからよりにもよってパペット人形置いていくのはやめてやれ』と思わなくもなかったが、悪を尊ぶこの世界――その残酷な別れそのものが、この世界で尊ばれる悪行の一つとされているのであるのだから、もはや同情として言えることが何一つとして存在しない。

「そうか……」
「かわいそう……」

 陵也からは、あふれんばかりの同情の眼が。エインセルの瞳にはしょんぼりとしたかなしみの視線が。二人同時に悪魔戦隊デビレンジャーのレッドへと突き刺さる。
 レッド本人も、その辺りはデビルキング法が施行されていても、心のどこかに思っていたのであろう。そこに流れるのは、痛ましいまでの無言であった――。
「あー……、そのだな」
 これは、心のやり場にあまりに困る。
 しかし正面から向き合わなければならない哀しみに、陵也は思わず掛ける言葉を探し――はたと我に返った。
「(おっと、悪らしさ悪らしさ……)
 フッ、この俺にこんな視線を向けさせるとは、それこそ見上げたヒーローじゃないか……! 褒めてやろう」
 ドスの利いた低い声で悪を演出しつつ皮肉と共に相手を称える――陵也に出来ることと言えば、もはやこれくらいしかない。
「『でも、それでどーじょーはしないぞ! どーじょーしないでめたんこにしてやるっ!』ていうのがわるいやつだから、ぼくもそれにならってがんばってこころをおにさんにするよ!」
 エインセルも、この世界に倣って言葉を告げる。
(……、どこで学んだのだろう。ちょっとこの世界に毒されてきたかのでは……?)
 それは、陵也達家族の愛猫でもあるエインセルの言葉である。エインセルには、健全に育ってもらいたい――この瞬間、陵也にとっては友に見捨てられたレッドよりも、エインセルの方が圧倒的に心配になったのは言うまでもないことだろう。

 そのような間を置いて、
「エインセル、戦闘前に少し作戦会議をするぞ。いいか」
「んーっ?」
 相手が落ち込んでいるその内に、陵也はエインセルの可愛らしく大きな耳に『ひそひそ、こしょこしょ』と内緒話を始める。
「――ふ、ふはははは! さて! そんな訳で落ち込みの時間は終了だ!
 皆まとめてぼこぼこにしてやるー! いでよ、アクマシーン!」
 話が終わったその瞬間。悪魔戦隊デビレンジャーは両手のパペットを高く天上へと掲げるキメポーズを取る。
 そして、デビレンジャー達は、光の中で三体のロボットのシルエットを重ねながら――。
「【極悪合体、ダイアクマオー!】」
 派手な光の演出が消えた時。
 そこには。赤、青、黄色で構成された人の等身よりも三倍程の大きさをしたキャバリアを思わせるロボット『ダイアクマオー』が召喚されていた。
 ちなみに、これにパペットがどのように干渉されているかは不明である。恐らくは最後まで不明であろう。

「わああ! ひそひそさくせんかいぎしてたらてきさんがロボットだしてきたにゃーん!?
 すごーい、かっこいいー!」
「だろう!? そうだろう!?! そこの『よい悪い子』! もっと敵を褒めて悪さを極めていくといいぞ!!」
「んー。
 でもぼくのにゃんげいざーはもーーーっとかっこいいもんね!!」
「何だとぉっ!?」
 瞳をキラキラと輝かせながら、相手の期待を持ち上げるだけ持ち上げて、一気に地の底に叩き落とす――そのような悪を、よりにもよってあの『概念が天使』であるエインセルが呼吸するように行いながら、その右手を大きく空へと上げる。
「にゃんげいざー!!」
 空高らかに響く声。その呼び掛けに応えるかのように、エインセルの背後の空間を割り、日常式神の一部として扱われるロボット『鋼鉄猫帝ニャンゲイザー』が現れる。
「え? ――ちょっ、こちらのダイアクマオーより大きいんだがっ!?」
「さあ、戦闘開始だ。
 来い、悪魔戦隊デビレンジャー!」
「え、ええいっ! こうなったらそこのでかいロボットの主の方から倒すのみ!!」
 相手のペースは全てぶち壊していくのも悪――デビルキングワールドの認識にも大分慣れた陵也が放つ、戦闘開始の合図。
 困惑を残したままでいる、恐らくダイアクマオーの主操縦を担っているであろうレッドが、躊躇いもそのままに、ニャンゲイザーの前に立っているエインセルに向かいその大きな拳を振りかざす。
 ――キャバリアよりも小さいが、それでも人に比べれば約三倍の大きさにもあたるダイアクマオーの一撃。それが、今まさにエインセルへと振り下ろされそうになった瞬間。
 その人一人分が割り込める隙間を狙い、純白に光り輝く防御オーラのみを纏わせた陵也が、白の光を放ち盾の能力を付与された『そこら辺で拾ったバールのようなもの』で庇うべく飛び込んで来た。
「ぐっ……!」
「りょーや!」
 エインセルが思わず叫ぶ。魔力が込められた『バールのようなもの』の力で分散されているとは言え、全身に受ける重力が一気に加速したような重圧で、骨ごと押し潰されそうになるのを陵也は気合いのみで我慢し耐えている。
「まってて、いまたすけ――!」
「来るんじゃない!!」
 エインセルが慌てて駆け寄り、助力しようとするのを陵也が片手で制す。
「ふはははは! ようやく勝てる相手を見つけたような気がするぞー!」
 何だか悲しい言葉であるが、事実でもあり、デビレンジャーが珍しく口に出来た悪の言葉でもある――その意気込みと同時に、拳の圧力により、陵也を中心に地面が大きくひび入り、その周辺が一気に円状に深く沈み込んだ。
「にゃーん! りょーや!!」
 エインセルの叫びが木霊し、ダイアクマオーの腕が離れた先には、完全に倒れ伏した陵也の姿が。
「はーっはっはっは!! 子供の目の前で味方の大人を叩きのめす! これこそ『子供に伝えたい百箇条!!』
 さぁ! 見ている観客の子供達!! 銀行強盗なんて甘いものに夢を見ず、この悪を貫く『こども銀行』に有り金を全て預金するんだ!!」
 ダイアクマオーに乗った、悪魔戦隊デビレンジャーのレッドは『こども銀行』支店長としての立場をようやく思い出すだけの余裕を取り戻し、この場を借りて悪の布教の為に、既に倒した陵也と戦う気のなさそうなエインセルから背を向けた。
 そして、子供達に「強いだろう!? さあ、貯金を全て渡すんだ!」アピールを始める。
 その背後では――攻撃を受ける直前。その鍛えた身体に『先の打ち合わせ通り』エインセルの防御結界術を受け――実はほぼ無傷で先の一撃をやり過ごした陵也が、勝利を確信したちょっとあくどい笑みを無意識で浮かべ、ゆっくりと立ち上がったことに気付かないまま――。

 その様子に先に気付いたのは、その場にいた観客の子供達だった。わぁっという小さな歓声が、波のように大きく沸き上がる。
「……へ?」
 レッドが振り返った時には、既に遅し。
「悪の詰めが甘い!! ――喰らえっ!」
 ぶわり、と。陵也の周りに数え切れない程の小さな白光の光球が現れる。
 今回、攻撃回数に特化させたユーベルコード【改良術式【秘された魔術書】(ミリオラメント・グリモワール)】――。
 小さいとは言え、陵也の周囲空間を全て埋め尽くさんばかりの光から放たれた、悪を打ち砕くレーザーと共に、ほぼ無傷の成果として温存された陵也の残りの力全てを込めて放たれた光は、第二波、第三波を伴って、ダイアクマオーの全身に突き刺さり大爆発を起こした。

「ぐあああっ! 不意打ちなんて卑怯だぞ!!」
「仮にも悪なら覚えておけ、真の悪はこうして敵を欺くものだ!
 ――あとは任せたぞ、エインセル」
「うんっ! いくよ、にゃんげいざー!!」
 エインセルが、その煌めく瞳をダイアクマオーへと鋭く向ける。
「『人々を苦しめる悪しき者、このニャンゲイザーが逃しはしないぞ!』」
 響き渡る鋼鉄猫帝ニャンゲイザーの厳かなる声――エインセルの視線、それ一つでダイアクマオーを敵と見なしたニャンゲイザーの猫耳先端から光が集まり、二本の肉球まで完全再現された手に集約され――荷電粒子ビームとして、正面のオブリビオンへと向けられる――。

「ちょっ、ちょっと待て!
 そんなの喰らったら、いくら悪の伝道師でもしぬ! しんでしまう!!」
「オブリビオンなら大人しく過去に還れ!」
「いくよー!! レーザーはっしゃー!!」
 的確過ぎる陵也の言葉を受け、エインセルがダイアクマオーに手を向ける。
 それを合図に発動したユーベルコード【ニャンゲイズ・ボルテックオーバーブラスト】は、ニャンゲイザーの手に集められた荷電粒子ビームにより、観客を巻き込まないギリギリの範囲で、ダイアクマオーのいる場所にある全てを破壊し打ち払った。
 ――響き渡る爆雷音。連鎖爆発するダイアクマオー。
「覚えていろよー! 私が消えても、第二第三の悪が現――!!」
「ぼくたちにかとうなんて、ひゃくねんはやいにゃーん!」
「せめて、台詞は最後まで言わせてー!!」

 こうして――デビルキングワールドにまた一つ。オブリビオン以上の、更なる悪の上書きにより、この世界は何が正しいのかいまいち良く分からない、相も変わらずの平和に包まれた。
 しかし――少なくとも、オブリビオンに狙われていた、子供達の命は確かに守られた。それだけでも十分な成果と言えるであろう。

 猟兵達の手元にあったDについては、一箇所に集めることのないようにとだけ指示され仔細については触れられていない。流石に、元の持ち主にこれを返すのは不可能に近く、Dは猟兵がそれぞれ任意に扱うことになった。
 使い方は人それぞれであり、猟兵によっては手を付けなかったり、些細な買い物の後、その場の観客達にばら撒いて回ったりしていたが、中には大量のDを一泊二日の豪遊で使い切った者がいたりと様々だ。

 斯くして。
 いつも少し不安になるデビルキングワールドの平和は、今日も確かに猟兵達によって守られたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月24日


挿絵イラスト