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輸送列車護衛 敵前線基地攻略作戦

#クロムキャバリア #第一強国理念抗争 #NPC生還

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#クロムキャバリア
#第一強国理念抗争
#NPC生還


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●列車の旅って憧れるよね。
 がたんごとん、とごんたがん。
 長い軌条の上をお世辞にも乗り心地が良いとは言えない列車が走る。
 常に第三者として活動する小国家、ヴィエルマ。第三者とはこの場合、戦争への不干渉ではなく自国経済の為、彼らは直接的な戦闘以外なら双方へ協力するという。
 ある意味、このクロムキャバリアらしい公平な国家と言えようか。
 この列車はヴィエルマと同じく小国家のアサガシアが、かの国の商人を雇い用意した物。様々な物資を乗せ、更に続く台車には群青色の量産型キャバリアが十機搭載、牽引されている。
 アサガシアが護衛の為に派遣した戦力であり、列車自体に武装がないのはヴィエルマが自らの立ち位置を強調しているからだ。例え個人商売であっても。
 客間の一室では骨組みに薄い皮を被せたような、固いだけの軋む椅子に座った屈強な男たちがトランプゲームに興じている。
「にしても、最近は物資の輸送が増えましたねー。テロリスト紛れてても気づかないんじゃないですか?」
「知るかおらぁあ! ストレートフラッシュじゃいっ!」
「それポォン! スーアンコウ鍋水金地火木土天海冥でロン!」
「ババが残ってるからお前の負けじゃい!」
「だーっはっはっはっはっはっ!
 訳のわからん事を言ってないで金を出せ金を!」
 笑いが止まらないぜとばかりのこの男、ボイット・レンジャーは頭を抱える男たちの隊長であり、この輸送列車護衛の任を受けたキャバリアパイロットである。
 むさ苦しい彼らの中に紅一点、副長である女性は溜め息を交えて手札を開示しつつ財布を開き。
「ロイヤルフラッシュ」
「?」
「…………、?」
「???」
「ロイヤルフラッシュでーす。レート最上段なんでそのうっすい財布の中の有り金を全部こっちに寄越してくださーい。
 払えない分は来月給料から引きますー」
 理解できない様子の三人に繰り返せば、先の隊長の言葉よりも阿鼻叫喚となっている間に袖に隠した手札を列車の窓から外へと廃棄。
 バレなきゃイカサマじゃないって仏様も中指立ててた。
 その様子に呆れ顔を見せていた隊員の一人は、人差し指を唇に当てた副長に肩を竦める。
 と。
 突然の轟音と衝撃に列車が激しく揺れ、脱線した先頭車両と共に後続車両も引きずられ脱線していく。
 シェイクされた車内を転げ回ったレンジャー部隊であるが、元より整備不良の多い大陸横断用列車、遅いのが幸いしてか大きな怪我は見られない。
『至急、アサガシアの護衛隊へ! 敵対勢力確認、敵対勢力確認!
 急ぎ迎撃を求む! 繰り返す──』
「……いてぇ……クッソ、ヴィエルマ出るまで寝てろとか言ってたくせに……」
 痛む体をにふらつきながらも、散らばった貨幣や財布を懐にかき集めて窓を蹴破る。問答無用の火事場泥棒である。
「…………、なんじゃあ、こりゃあ」
 脱線した先頭車両に撃ち込まれた巨大な鉄杭。
 端部より伸びる鎖は軌条の先へと続き。
 そして、彼が思わず呆けた声を上げたのは、軌条を巻き込み屹立する、巨大基地だった。

●一夜にして現れた敵基地を粉砕せよ!
 ホワイトボードに輸送列車と敵対勢力との図を簡単に描いたライアン・フルスタンド(ヒューグリーム決戦の悪魔・f30184)は、集まった猟兵に内容は簡単だとシンプルな絵をペンで指す。
「予知から遡って皆が着くのは、アサガシアの列車が敵基地と接触する前なんだよね。
 距離にも余裕があるから敵の存在を報告すれば戦闘領域に突入せず待機してくれるはず」
 先にドンパチしても気づくだろうが、その分距離が近くなると付け加える。
 どちらにせよ間に猟兵を展開するつもりの彼としては、敵の攻撃がヴィエルマ列車に当たる事はないと言う。
「列車に乗ってる小国家アサガシアのレンジャー部隊から二、三機援護に来るはすだ。
 敵撃破の褒賞金狙いだから必ず戦場に出てくるけど、以前の戦闘で猟兵への印象は良いから援護もしてくれるよ」
 ただし、列車の停まる位置によって到着時間は変わるだろう。
「次は敵について。
 基地前に展開したキャバリアは、先日アサガシアと衝突したダンテアリオンのエンブレムがある」
 アサガシアは奇襲をかけたダンテアリオンを、猟兵との協力もあって見事粉砕した。
 技術部は廃人と化したが敵味方双方の人的被害はゼロ、捕虜となった敵兵もすでに解放、ダンテアリオンへ帰還している。
 指揮官以外は。
「世間一般ではこの指揮官の先走りとなっているけど、お互いの上層部はオブリビオンマシンの関与に気付いてる。
 だから敵国の内情を知りたいアサガシアは指揮官を拘束したままだし、ダンテアリオンはそれを口実に進軍を開始しててさ。
 今回の戦いもそれが理由ってワケ」
 ここまでは何の問題も無いのだが。ただの小競り合いに猟兵が介入する必要は無いのだからと、言葉を切って頭を掻く。
「この基地、いつの間にか出現してるんだよね。前日もこの軌条は使われていて、つまり一夜にして現れた事になる」
 ならば狙うべきオブリビオンは基地の奥。
「基地前方に展開したキャバリアを倒して基地攻略、って流れになるんだけど急造された物だし、要は敵戦力を順に撃破するだけの話さ。
 ただ攻撃能力も持ってるからね。基地に入る前は対キャバリア用、そして輸送列車に使われた兵器に狙われるよ」
 予知した内容に基地内を蠢くロボットを多く確認しており、実はこの敵に対して心当たりがあるのだとライアンは語る。
 一夜にして現れた基地、材料があるにしても製作に時間がかかるそれを瞬く間に終わらせたもの、ワイヤーフレーム・リバイバル・システムではないかと。
「近隣国家、おそらくヴィエルマ領のプラントからエネルギーを無線受給しているキャバリアがいるはずだ。
 そいつは無尽蔵に近いエネルギーとユーベルコードを併用して、自機の設計物を出現させる能力を持っている。
 こいつがいる限り基地内のロボットは無限に湧くし、展開しているキャバリア部隊への援護も止まらない」
 直近のプラントまで距離もある為、エネルギー送信源を特定するのも現状では不可能だ。
 しかし、打開策はある。
「敵はその性質上、秘匿不可な非常識的熱源反応とエネルギー数値を叩き出してるから特定するのは簡単だ。
 奴の背中には翼状の受給装置があるから、これさえ壊してしまえば奴のシステムは機能しない」
 残る敵を破壊して完了だとライアンは頷く。
 それからと付け足して。
「……勘……なんだけど。何か作為的なものを感じるんだよね。何がと言われると困るんだけどさ。
 ただ今回の敵は猟兵と戦ったことがないし、ダンテアリオンは前回の戦闘で猟兵を敵と見なしているけど、兵士を殺害しなければ後々利用できるかも知れない」
 勿論、自分たちの命を優先すべきで面倒を考えずに粉砕する方が、国家と端的にしか関わりを持たない猟兵にとって都合は良いだろうが。
 とにもかくにもよろしくと猟兵を見送るライアンの瞳には、どこか戸惑いの色が映っていた。


頭ちきん
 基地攻略に有人在来線爆弾を利用するのはお止めください。頭ちきんです。
 やったぜクロムキャバリア第二作となります。連続した物語ですが、気にせず敵を粉砕して下さい。
 国家同士の争いに知ってか知らずかオブリビオンマシンが投入されました。オブリビオンを破壊する為、国家間の武力衝突に介入しましょう。結果により各国の情勢に変化が起きます。
 オープニングでも雰囲気作りに小難しい話をしていますが、物語の分岐もテキストフレーバー程度ですので、気楽に武力介入しましょう。
 それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 全章を通して量産型キャバリア、スーパーロボットをレンタル可能です。性能面、風貌に関して記述がない場合はこちらで選びます。また性能に関して簡略的な記号を使用できます。
『R:量産型キャバリア』『S:スーパーロボット』
『C:近接戦闘系』『O:遠距離攻撃系』
 SC、ROなどで表記下さい。スーパーロボットは音声入力方式になるので、必殺技を好きに叫びましょう。

 一章では基地前方に展開した敵部隊と交戦します。敵部隊を援護する基地武装は破壊可能、復活するので時間稼ぎに。
 本作戦の指揮官がフルチューンされたキャバリアに搭乗しているので注意しましょう。
 ヴィエルマ領の列車は制止をかける、かけないで停まる位置が変わりますがどちらも戦闘に関わる事はありません。
 二章ではオブリビオンマシンの潜む前線基地を攻略して下さい。敵は無人ロボットと共に襲いかかります。
 キャバリア等に搭乗している場合、基地武装を使用可能です。
 三章は行動を再開した輸送列車内の食堂で、ヴィエルマ領、小国家アサガシアの関係者に歓迎されるでしょう。
 なお、レンジャー部隊が参戦しますが今シナリオにおける全ての損害はシナリオの正否に関わりありません。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 集団戦 『シャドウブレイダー弐型』

POW   :    幻影格闘機動
装備中のアイテム「【EPミラージュユニット】【BXプラズマ剣】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
SPD   :    朧纏い
【無音高速移動を可能とするEP遮音ユニット】【機体を低視認化させる光学迷彩システム】【あらゆるセンサー探知を無効化する特殊装甲】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    鉄冠変幻
自身の【キャバリア(武器も含むかは任意で選択) 】を【戦場内の指定した敵キャバリアのいずれか】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●こってりしたお肉は好きですか?
「いい加減に白状したらどうだ」
「フン」
 男の言葉にそっぽを向いたのは拘束された者。イーデン・ランバー、階級は少佐。彼の身を置くダンテアリオンの士官であり、現在は攻め入った国に囚われている。
 ここは小国アサガシアの領内である。捕虜として取調室に置かれた彼は食べ終わったステーキ皿を前に不機嫌そうにしている。おめー肉食わせてもらって何偉そうにしてんだ。
「やれやれ、今日もだんまりか。だがな、今日は特別ゲストが起こしになられている」
「……特別ゲスト……? 拷問官か、如何にも蛮族らしい手口、げふっ、だ」
 たらふく食べたステーキに満足そうなおくびを出す。お前さぁ。
 そんな態度の悪い囚人はさておき、「こちらの方です、ジャカジャン!」と招き入れられたのは黒スーツに大きな体をピッチリと収めた男だった。
「…………!?」
 質素な扉をばんと開き、狭い部屋に独特なステップを刻みながら入って来るその男。
「ナイス・チュー・ミー・チュー、イーデン・ランバー少佐。私はセルゲイ・ウォン・カラッツェ、アサガシアの代表であります。
 ――ふんぬらばッ!」
 自己紹介と同時に見せたサイドチェストに筋肉を膨張させ、黒スーツが上も下も弾け飛ぶ。避けようのない布の雨を先程まで尋問していた男が取り除くと、黒ビキニパンツ一丁でにっこりではなくニッゴリと笑う男の姿があった。
 口元に蓄えた髭、少し痛んだ金髪、顔の皺、サングラスをかけているのできちんとは分からないがそれなりに歳を経ているのは理解できる。
 しかしその頭の下に山の如く屹立する鋼の黒光りボディは歳を感じさせない代物であった。
「い、いやぁぁぁあ! コテコテしてるぅ! おぅえっ、脂っこいもの食わせた後にこんなもの見せるとかどんな拷問だーっ!
 吐くっ、吐くぞ!?」
「何を言うかこのンんぬぅはぁあ! 筋肉の砦を見て憧れない男児がいようものか、いないはずがない!」
「トラウマになるわ!」
「ぬふふふふ、照れ隠しはいい。さあ、吐いて貰うぞ洗いざらい、貴国の陰謀を!」
「ポーズ変えながら近づいてくる何この人ーっ!? こっちこないで、イヤァァァァァァーッ!!」
 …………。
 こいつ国の代表ってガチ?

 何て事だと送り付けられたビデオテープを鑑賞していたのはランバーと同じくダンテアリオンの兵士、ジョナサン・ラッド少佐。彼と同じ階級ではあるものの、ランバーに心酔しているようで彼のアサガシアでの扱いに思わず熱い涙を流す。
「見ていたか、これが蛮国アサガシアのやり方だ! 英雄となるべきあのお方をこうも辱めるっ、どこに人間の尊厳を認めているというのか!」
『でもステーキ食べてたんですよね?』
「ステーキを食べられれば人間か!? 違うだろう!」
 部下の言葉に激高する。どこが違うんじゃい。
 兎にも角にもと振り返れば立ち並ぶキャバリア、シャドウブレイダー弐型の姿。細身な機体はどことなく和風な装いを想起させ、佇まいにも武士としての覚悟が見受けられる。気がする。
 そして更なるその奥には巨大な影、一夜にして築かれた前線基地。
 防壁に取り付けられたのは新式と略称される『連装型安定性ハイドロゲン起爆弾発射砲台』と対要塞などを想定した破城槍、『鉄鎖錨射出弩グラツニカル』。
 グリモア猟兵の予知でヴィエルマの輸送列車に直撃したのはこのグラツニカルで、本来ならば錨の如き巨大質量を動かぬ相手に直撃させ、そのまま鎖を引き城門などを粉砕する攻城兵器。そんなものを前線基地に取り付けるあたり、ダンテアリオンがどんな国か分かろうもの。
 つまりは火力。これに尽きるという訳だ。
 ジョナサンは自らもキャバリアに乗り込むと、基地へと無線を繋げる。
「少尉、ランデルフ少尉! 聞こえているかね?」
『は、はい、聞こえております』
 無線に答えた自信なさげな女の声にひっそりと溜息を吐き、体調と機体の状態はどうかと言葉を繋ぐ。
『あ、はい、へへへ、す、凄いですよ、このキャバリアは。でも、私はその、全然凄くないから、機体の性能を引き出せるか、ど、どうかなんて』
「自信を持ちたまえランデルフ! 君は栄えあるダンテアリオンの軍人であり、あの功績を上げ続けたアメちゃん小隊の一員ではないか!」
 お前らもうちょいネーミングセンス良くできないの?
 ジョナサンの激励に対してもランデルフは更に委縮したようでぼそぼそと呟く。
『……で、でも……あれは別に私が凄い訳じゃ……』
「いや凄いんだって、本当に! だからこの最新と言われるクロム・キャバリアのパイロットに選ばれたんでしょーっ!?」
『そ、そんなの、体のいい厄介払いで……きっと失敗しろって皆……』
 あーあ、女の子泣かしちゃいけないんだー。
 ぐすぐすとぐずる音に顔をしかめたジョナサンはマイクから顔を離し重たい溜息を長々と。アメちゃんを口に入れて気持ちを切り替えると、できるだけ優しい声を紡ぐ。
「いいかい、ランデルフ。君の仲間たちは、本当にそんなことを思うような人々なのかい?」
『……いいえ……』
「そんな彼らが、どうして君を送り出したと思う? それも新型を扱う、こんな重要な任務に、だ」
『……わ、私に……期待してくれているからっ、です……!』
 その通りだ。
 ジョナサンは頷き、ならばすべき仕事は分かっているなと念を押す。それに対しての彼女の返事にはもう迷いなく、清々しい軍人らしい了解の二文字であった。
 通信を切れば、きびきびと動き出す基地施設が索敵を開始している。
『ラッド少佐、一時間ごとにこれやってますね』
『あの娘、パイロットとしては優秀なんだけど精神面だけが問題だよなー』
「……ああ……すんごく胃が痛い……」
 アメちゃんじゃなくて胃薬飲めって。
 すっかりげっそりやつれた顔を見せるジョナサンたちに、目標接近を報せるランデルフの凛とした言葉が響いた。


・集団戦となります。付近のヴィエルマ領施設よりキャバリアやスーパーロボットのレンタルが可能です。詳細はオープニングのコメントにあるのでご参照ください。
・猟兵は戦闘前にヴィエルマの輸送列車を止めるか、止めずにそのまま戦闘を行うか選択(特に描写がなければ止めない)できます。どちらも輸送列車が危険に見舞われる事は無く、ボーナス狙いのアサガシア・キャバリアの参戦時間に変動が起こるだけです。
・アサガシアのキャバリア、レンジャー部隊は二、三機程度の参戦ですが、基本的には援護攻撃になるので、上手く命令して活用してみましょう。
・敵前線基地前に展開しているキャバリアは機動力に優れ、接近戦に秀でた機体構成です。癖のある機体な上に基地からの援護攻撃が常に行われているので、全周囲に警戒して戦いましょう。
・内の一機はフルチューンされたジョナサン専用機で、超目立つ蛍光イエローで塗装されています。馬鹿っぽいですが性能、技量共に強者ですので注意してください。
・基地からの攻撃は無人ロボットたちが砲台ひとつひとつをそれぞれ直接操作しています。砲台、もしくは無人ロボットを攻撃することで攻撃を止められますが、修復されるので一時しのぎとなります。
・『連装型安定性ハイドロゲン起爆弾発射砲台』は着弾すると一定時間後に起爆する為、回避しても範囲に巻き込まれないようにしましょう。逆に敵を巻き込む事が可能です。
・『鉄鎖錨射出弩グラツニカル』は凄まじい威力を誇りますが弓なりの軌道で弾速も遅いため、動いていればまず当たりません。逆にわざと足を止め、接近戦を挑む敵機を巻き込むことが可能です。
・激しい戦場となりますが、敵や味方の兵力を利用し、敵前線基地までの道を切り開きましょう。
・機体レンタルに関しまして、ヴィエルマ領は第三者的立場で国家間戦争に武力協力しませんが、あくまで同じ第三者的立場である猟兵に力を貸す形になります。今回の彼らの行動が自国の立場を悪くすることはありませんので、気にせずレンタルで暴れましょう。生身で暴れても問題ありません。
シル・ウィンディア
レンジャー部隊さん、相変わらず楽しそうだね。
でも、守るために頑張るっ!

さ、ブルー・リーゼ、行くよっ!!

推力移動で地上を走って、空中機動に切り替えての空中戦!
高度に気を付けつつ、上空からツインキャノンの範囲攻撃でまとめて攻撃

ステルス機能があっても、第六感を信じてキャノンと連射ランチャーで範囲攻撃だね

敵エース機は、ホーミングビームを主体に回避をさせつつ、行動制限
さらに、連射ランチャーで牽制して、動き回らせるね

近接になったら、ビームセイバーで対応

敵攻撃は、第六感を信じて、瞬間思考力で回避・オーラ防御を選択して対応

敵機をマルチロックしたら
高速詠唱での《指定UC》で一網打尽!

コックピットは避けるよ


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

基地を一晩で造るなんてすごーい!
しかも設備や防衛兵力が無尽蔵という事は食べ放題という事なのー
『シャドウブレイダー弐型』さん達は他の人達に任せて
アリスは、はらぺこな妹達を沢山呼んで【基地を食べたい】という統一された意思のもと、【トンネル掘り】で地中から基地に取りついて無人ロボットや砲台を齧りましょー
『連装型安定性ハイドロゲン起爆弾発射砲台』とか『鉄鎖錨射出弩グラツニカル』とかなにか凄そーねー
早速食べ比べてみましょーきっと美味しーに違いないわー
そーいえば列車も止めないとねー
この前飛び散ってこの世界に居ついた子達にお願いして止めてもらいましょー


ノエル・カンナビス
はあ。(生返事

実はこの両国、とても仲が良いんじゃありませんか。
なんだかそんな気がするのですが。

まぁ、とりあえず列車を停めましょう。
無線一つで副長さんが何とかしてくれるでしょう。
……可能な限り遠くで止めたいですね。
レンジャーさんたちはなるべく遅く来て欲しいと申しますか。

でまぁ、とりあえずインクリーザーで基地を撃ってみます。
普通の基地でしたら丸ごと貫通しちゃうんですけれど。
砲台どれくらい壊れますかしら。

あとは成り行きで、仲間の援護でも。
低視認化であって不可視でないならどうにでもなります。
あ、直結リンク動作中のエイストラをコピーすると敏感過ぎて、
何か操作するたびにブレイクダンス状態で転げ回りますよ。



●ヴィエルマ領の施設にて。
 グリモア猟兵の予知により前線基地があるとされた箇所と輸送列車、丁度その中間地点の施設に猟兵たちはいた。
「レンジャー部隊さん、相変わらず楽しそうだね」
「はあ」
 思わずそんな感想を零したのは青い外套を揺らすシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)。グリモア猟兵の予知にあった光景を見れば、誰もがそう思っても仕方はない。
 隙間風からやってきた埃を白い髪の下に揃うまつげから払い、生返事で答えたノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)はシルに、と言うよりもこの状況に対してという想いの方が強いのだろう。
(実はこの両国、とても仲が良いんじゃありませんか。なんだかそんな気がするのですが)
 アサガシアからダンテアリオンに送られた尋問内容は、別に拷問ではないが一部の人々が喜びそうな内容というかなんというか。友達同士の悪ふざけにしか見えないものだ。
 そんな物を見れば本当に仲が悪いのかと思いたくもなる。
 しかし悲しいかなそこは戦場、彼らのスタンスはどうあれ兵器を使う以上、人は傷つき倒れ、死ぬのだ。
「ギィイィイィイッ!」
(基地を一晩で造るなんてすごーい!)
 昼間になればうっすらと見えるダンテアリオン前線基地の影。それを見て感心した様子を見せるアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)はぴょんぴょこ跳ねる。
 その巨体が床を揺らして隣合う少女二人の体も揺れる。
「ギチチッ、ガチガチガチ!」
(しかも設備や防衛兵力が無尽蔵という事は食べ放題という事なのー)
 花より団子とは良く言うが、圧倒的技術を食べ物と比べるのはそうないよね。
 超雑食系女子のアリスがそんじょそこいらのキャバリアも容易く引き裂く【鋏角】を軋ませて音を響かせる。甲高い音が耳に障るが楽し気な少女の念波が頭に響いてくる以上は邪見に出来ないだろう。
 ノエルはそろそろ時間かと、素肌を晒す肩についた埃を落としてシルを見やる。こちらもやる気に満ちた目で彼女を見返した。
「頑張りましょう!」
「ギチギチ!」
(アリスは今日も平和の為に頑張ります!)
「時間が空いてしまった以上は受けたお仕事ですから、私も頑張ります」
 おーっ、と手や肢をノリで上げた彼女たちだが、本当に平和の為なんだろうかと少女二人は涎を垂らす巨体を盗み見た。

「ダンテアリオンがまたアサガシアにちょっかいを出してるんですね」
 よほど恨まれているのだろうかと頭上に疑問符を浮かべるのは、ストレートを頭の後ろで縛る黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。指の空いたグローブを両手にはめて、格納庫で出撃準備中の愛機こと零式操念キャバリア【エクアトゥール】の黒いラインを見上げた。
 恨みかどうかは知らないが、そう前置きして才堂・紅葉(お嬢・f08859)はアリスと同じく窓の外、朧気に浮かぶ敵前線基地を見つめ。
「基地の一夜城とは趣深いわね。と言っても、そんな真似されたら戦術も戦略も吹っ飛んでしまうわ」
 思慮深げである。実際、敵ではないにしろ別勢力の陣地にいきなり攻撃能力を有した基地を出現させるのだから、そんな能力があればどんな国家も砂上の楼閣と言って差し支えないだろう。
 ちゅーか、なんであんなに堂々と建てられて、目の前に行くまで気づかなかったんだろうね運転手さんたち。
(……何か……嫌な予感がするような……?)
「これがヴィエルマのスーパーロボットか」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)の言葉に考えを中断すれば、外套の砂埃を落とす彼の姿があった。彼は自身の機体を持たないため、ヴィエルマより機体をレンタルしている。
 ガッチガチに固まった機械鎧のようなスーパーロボット。黒い装甲をもつそれと向かい合うようにして立つのは正反対に細身の量産型キャバリア。
「こちらは私のキャバリアになるみたいですね」
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は和装メイドのスカートを揺らして笑みを見せた。ヴィエルマから貸し出しされたスーパーロボットと量産型のキャバリアはどちらも近接戦用に調整されている。
「ところで、輸送列車を敵の攻撃で脱線するまで近付けたら、……一般の方にも被害甚大ですよね……?」
 敵前線基地近くに施設はないようだが、今も線路付近に猟兵たちの集まる格納庫があるように、走行中に攻撃を受けて脱線しては危険があるだろう。
「……まあ……グリモア猟兵の話だと攻撃は届かないだろう、とかなんとか」
 停車した場合も近ければ砲弾直撃がありえるかも知れないと、周囲への被害を気にかけているようだ。
「運転車両に接触して、停止勧告しておきましょう」
「確かに、相手の考えはともかく列車は止めておきましょうか。衝突しないとはいえ、敵に近づくのは良くないです」
 何より列車内部ではチャランポランな兵士たちがいるのだから、何かしら悪影響が出るかも知れない。
 グリモア猟兵の話では放って置いても平気であるとのことではあったが、それはあくまで距離から予想しただけの話なのだ。猟兵たちはアサガシアの物資を運ぶ輸送列車を止めるべく、未だ危機感のないであろう彼らと直接話す事を決めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那
ダンテアリオンがまたアサガシアに攻めてきたのですか。
よほど恨まれているんですかね、アサガシア?

相手の考えはともかく列車は止めます。
衝突しないとはいえ、敵に突っ込むのは良くないです。

しかし、困ったことに相手のキャバリアの方が速そうです。
しかも、見つけにくいときました。
これは、こちらがボコられかねません。
ならば、それを利用しましょう。

キャバリア『エクアトゥール』で戦います。
UC【暗黒球雷】でエネルギー吸収球をシールドに展開します。
相手からの攻撃を。シールドで【受け流し】することで、エネルギーを充填。
溜まったところでBX-Sエール・ノワールに接続。
【衝撃波】として【なぎ払い】して、面で制圧します。


ロラン・ヒュッテンブレナー
遙翔さん(f01190)と協同作戦なの
目標地点かなり離れたところで準備なの
UC発動
アルターギアを高速飛行形態(手足顔収納)にして魔力を充填なの

遙翔さん、行くね?

ブースターをフルで稼働(【封印を解く】【推力移動】【ダッシュ】)
線路を辿るように低空飛行で一気に要塞に近づくの
魔力を利用したレーダー【索敵】に相手がかかったら炎【属性攻撃】の炸裂魔術で牽制
隠れても轟音と衝撃の【範囲攻撃】で命を奪わない様に気を付けつつ炙り出すの
頭を飛び越して要塞に突撃、兵器を攻撃なの(【誘導弾】【乱れ撃ち】)

ぼくが囮になって、
殲禍炎剣に注意しながら低空を飛び回って派手に攻撃しながら、
遥翔さんを援護なの【空中戦】


久遠寺・遥翔
ロラン(f04258)と共闘
イグニシオンに【騎乗】
殲禍炎剣の下であの高速飛行
度胸あるよな
あの低空なら引っかからないってわかってんだろうけど

さて俺は事前に【メカニック】で自身の【第六感】を接続
さらに機械センサーに頼らない【結界術】範囲の探知を実現
朧を纏った相手を捕捉可能にしておく
【地形の利用】で物陰から物陰へ【ダッシュ】で移動しつつ隠れて現場へ急行

ロランが目立っている隙に死角からUC起動
百を超えるソードビットで【範囲攻撃】
纏う焔と【斬撃波】で一体ずつコックピットを外して機能停止に追い込んでいくぜ
敵の攻撃は【見切り】
【残像】も駆使して回避だ
蛍光イエローは特に注意
全ての剣を以て殺さず撃破を狙うぜ


チェスカー・アーマライト
火力こそ正義ってか
前の奴らと言い
一周回って親近感の湧く連中だが
残念ながらお仕事だ

ビッグタイガー、タンクモード
新技のお披露目と行こーか
数秒の起動シークエンス(手動)の後にUC発動
(見た目変わんねーけど)
57tの質量を時速130kmでカッ飛ばすエネルギー
そいつを丸々上乗せしたビーム砲だぜ
狙いは敵基地の砲台
片っ端から薙ぎ払って時間を稼ぐ
前線の敵機?
射線開けろって警告しときゃ十分だろ(無配慮)

ビームの持続時間はフルパワーで90秒
再起動に1分程かかるんで
狙い撃ちされるかもな
その間は味方との連携を頼りたい所だ
流石に槍を受け止める自信はねぇが
爆撃なら盾受けと火炎耐性で耐えれる
いざって時はあたしを盾にしてくれ



●みんなで止めろ、うるせぇ暴走特急!
 がたんごとん、ごたんがとん。
 のんびり進む輸送列車を格納庫から顔を覗かせた【エイストラ】が捉える。距離にして未だ遠く、輸送列車の速度も相まって敵戦力との接触に慌てる段階でもないようだ。
「まぁ、とりあえず列車を停めましょう。無線一つで副長さんが何とかしてくれるでしょう」
 チャランポランなレンジャー部隊の中でも比較的まともと思える女性を思い浮かべてノエルはエイストラの搭乗席から降りて、各機の整備を行っていたヴィエルマ兵士に声をかける。
「今、こちらに向かっているあなたがたの輸送列車に連絡を入れたいのですが、繋ぎをお願いできませんか?」
「まあ、それくらいなら構わないかな。おーい、誰か無線繋げてくれ。こっちに方面に向かう予定があるのはアサガシア領行きのヤツだろう」
「あいよーっ」
 ノエルの言葉を受けてちょこちょこと走る兵士が無線連絡器を手に彼女の元へ向かう。輸送列車宛てにチャンネルを調整する彼らを見つめて、ノエルは小さく溜息を吐いた。
(レンジャーさんたちには、なるべく遅く来て欲しいと申しますか。……可能な限り遠くで止めたいですね……)
 彼らも輸送列車の運ぶ物資護衛の任務がある。グリモア猟兵の言葉によれば臨時収入狙いでやってくる隊員はそう多くない、という事は敵の物量に押される可能性もあるだろう。
 ならば早めに止めてしまって接敵を遅らせたいのが人情と言うもの。言外に邪魔って事っすね。
「どうぞ、今に車掌が出られると思います」
「はあ」
 繋がってから渡して欲しいものだが、彼らも忙しいようで慌ただしく出て行く姿を見れば無理に止められるはずもなく。無線機を片手にしばらく待つと、小さな音をたてて陽気な男の声が響く。
『オーホーゥ! こちらカノスぅ、こちらカノスでぇえす! どちら様ですぅ?』
 酔っ払いである。業務時間だぞこのクズ。
 やかましい声に顔をしかめつつ、ノエルは「キャバリア乗りだ」と一言で答えてレンジャー部隊の副長はいないかと言葉を繋ぐ。
『あ~ん? ウチの副長に声をかけたいってぇ? アンタどちらさん?』
「だから傭兵で、…………。ヴィエルマの関係者じゃないんですか?」
『カノスはレンジャー部隊に決まってるだろ!』
 知らんわ酔っ払い。なんで勝手に余所の国の列車の無線機使ってんのこいつ。
『……何か声に聞き覚えあるような……?
 まあいいや、言伝があるんなら聞くぜどぅぞィ!』
「はあ。あの、このまま進むとダンテアリオンの軍勢とぶつかる事になるので列車を止めるよう伝えてください」
 味方を混乱させるであろう基地の情報はとりあえず伏せての言葉。
『おっけおっけ、了解ィ! ――お仕事終わりッ!』
 やたらと元気に閉じた回線、しばらく手元の無線機を見つめていたノエル。
 とりあえず近くの机にそれを置き、もう一度エイストラの操縦席に戻り列車の様子を伺う。しばし待っても減速すらしないですね。
「…………」
『ストップストップ、どうしたんですか!』
 無言で【BSプラズマライフル】を構えたエイストラを慌てて止めたのはシルの駆る精霊機【ブルー・リーゼMk-Ⅱ】。事の成り行きを見守っていた所に銃口を輸送列車方面に向けたノエルに慌てたようだ。
 さすがに少女とて本体に直接当てるつもりはないが。
 今しがたあった出来事を伝えれば、「あー」と同情的な言葉がシルから洩れる。陽気ながらも兵士として、彼女たちはレンジャー部隊と共に戦った間柄であるが戦闘時と非戦闘時でメリハリのありそうな体質は見て取れた。
 グリモア猟兵の予知を考えればこの行路は安全だとでも言われているのだろう、だらけている姿は前情報通り。
『仕方ありません、手の空いてる方々と直接列車に向かって停止を呼びかけましょう。わたしのブルー・リーゼや皆さんの機体を使えば行き返りも早いはずですっ』
(それならアリスの妹たちにお任せよー。アリスたちは先に出撃の準備をしておきましょー)
 モニターに映されたのは、これまたキャバリアの装甲を容易く引き裂くであろう爪のついた【前肢】を振るアリスの姿。
 今回はヴィエルマ領から機体をレンタルしている事もあり、機体の調整はともかく武器などの調達に遅れている物もある。
「そうですね。ここは先に走れる方々にお願いして、準備を終えた私たちはお手伝いに回りましょうか」
『分かりました。アリスさん、お願いします!』
 ぺこりと機体に頭を下げさせたノエルに任せてとばかりのアリス。
 そんな会話が離れた施設に格納された機体にも通じていたらしく、摩那のエクアトゥールで共に聞いていた紅葉は、悪い予感が当たったと思わず呟いた。

 がたんごとん、たんがとんご。
「おーい、次お前だぞ」
「はいはい」
 進む景色をぼんやりと眺めていた副長は、レンジャー隊長に促されて彼の構えた手札を引く。ババ抜きっすね。
 揃ったカードを手札から場に出して、またぼんやりと外を眺めて。
「…………」
 目が合う。
 窓の外に人がいることなど別に珍しくはないが、走行中の列車の窓ごしに、その顔がついてきているとなれば話は別だ。ぼんやりとした表情のままにゆっくりと開いていく口は、帽子を取って会釈する姿に対しての驚きか。
 車内に視線を移せば引く札を迷い互いに百面相する仲間らの姿。
「隊長ー、窓の外に人がいまーす」
「夢と希望に溢れない寝言は寝て言えっ! 今度こそ俺が一番になって総取りするんだから邪魔すんじゃねえ!」
「多分それやってる場合じゃないですよ」
「ンだよ全く、ほわぁっつ!?」
 窓ガラスをノックして再び会釈する鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)の姿。おそるおそる窓を開くボイット。
 輸送列車と平行して飛ぶ冬季の両足首には宝貝【風火輪】がはめられて炎を噴き上げる。
「見覚えのある顔だな。猟兵さんかい」
「ええ、こんにちは。この先でダンテアリオンが大部隊を展開してるので、至急列車を止めた方が良いですよ」
「残念だが俺たちはただの防衛用の戦力ってだけで、そんな権限もっちゃいない。少なくともヴィエルマ領じゃな」
 肩を竦めるボイットは、話があるなら運転手にでも言うんだなとばかりである。実際の所、先頭車両は装甲に覆われており、レンジャー部隊のように窓を叩けば接触できるというものでもない。
「隊長ー、猟兵の恨みを買うようなこと言う必要ないと思いまーす」
「いや事実だから。俺の印象が悪くなる言い方するなよ」
「実は先程、私の仲間が無線を入れましてね。そちらの部隊のカノスさんと仰る方が出て邪魔をされたみたいなんですよね」
 肩を竦める。その言葉に隊長はそっと後ろを振り返り隊員を確認、彼らも冬季と同じく肩を竦めてその通りだと認めているようだ。
 こういうのって監督不行き届きとかになるんですかね。
「敵の装備には爆砕範囲の広い長距離砲もあるらしいですね。列車が破壊されると、ヴィエルマとの関係も悪化するでしょうねえ」
「……ん~……」
 笑う冬季に俯く隊長。責任持つ人って大変だね。
 とは言え悩む必要もなく答えは決まっているようなものだ。
「貴方たちが止めないなら、私が【黄巾力士】で止めますが。どうします?」
「あのクソデッケェ黄金ロボかよ! ……わかった、すぐ止めてくるから下手しないでくれよ……」
 仕方ないとばかりに腰を上げて先頭車両へ向かうボイットに、冬季は満足そうに笑ってその場を離れ。
 前方を見て首を傾げれば、高音を響かせ飛行するキャバリアの姿。ヴィエルマからレンタルしたキャバリア・ジュリィは登山者の背負う巨大なバックパックの如きそれが、展開するように変形して翼を露出、炎を噴き上げて飛行する。
 追随するエクアトゥールは左右に開いた盾、【BX-S エール・ノワール】から黒光の翼を展開している。それぞれの手に乗せられたのは木霊・ウタ、そしてレイ・オブライト(steel・f25854)である。
 車内ではご機嫌でウォッカを仰ぐカノスに、思い切りウォッカの瓶を蹴り上げる。
「あごっ!?」
「あごは今からだ糞野郎。反省してろ!」
 歯を痛めたカノスが口を押えると、フックで顎先を思い切り殴り抜いてノックダウン。気付けのウォッカをそのまま頭にこぼすと空瓶はその辺りに投げ捨てる。借り物なんだから汚しちゃいかんぞ。
『これ以上、進むのは危険です! 敵勢力が展開しています!』
『止まってください、もし脱線するような事があれば大きな被害が発生しますよ!』
「ううっ、聞き覚えのある声がする」
 車外から拡声器を使ったであろう言葉に思わず頭を抱えるボイット。彼もお世話になった摩那、桜花両名の声だ。それでも速度を緩める様子のない輸送列車が猟兵たちを敵と見做して逃走しているのかと言えば、そうではない。
 特に速度を上げていない所を見る限り。
「何だ開かないぞ。うぉーい!」
「どうしたんだ?」
 背後からの存在に振り向けば、ウタが頭を掻いてこちらを見ている。足の速い二人のキャバリアに乗せてもらったウタとレイは輸送列車に入れて貰ったようだ。
 レイの姿は見えないが、一先ず列車を止めるべきと判断した彼はボイットの様子に大体の事情を掴んだ様子で彼をドアの脇にどける。
「ボイット隊長、だよな? 危ないから近づかないでくれよ」
 右手の包帯、その隙間から燃え立つような【地獄の炎】にわかったとばかり両手を上げるボイット。
 炎を灯した右手を取っ手に伸ばせば、その熱量で取っ手ごと鍵を溶断する。開いた扉の先では車掌と運転手が仲良く寝息をたてている。
 その傍らにはウォッカの空き瓶。
(……あ、あの野郎……)
 部下のしでかしたであろう事に頭を抱えそうになりながらも、素知らぬ振りでプロ意識のない奴らだと頷く。どの口で言うのかね。
 グリモア猟兵の予知夢やノエルのやり取りを知っているウタとしては大体の原因は察しているが、とは言えそこを今咎めても仕方あるまい。すべきは輸送列車を止める事だ。
「おい、起きてくれ!」
「……あ……うん……?」
「もうヴィエルマ出ちまったぞー」
「ふぁっ!?」
 それぞれに起こされて目をこする彼らに、もう隠す必要はないかとウタは前線基地の存在を告げる。
「ダンテアリオンが進路上に、どんな手立てか知らないが基地を設置したんだ。急いで列車を止めてくれなきゃ、奴らの戦闘部隊と接触するぞ!」
「き、基地ぃ?」
「あぁん、何言ってんだアサガシアの奴らは」
「寝惚けてんじゃねえ、起きろ馬鹿!」
 まだ酔いが回っているのか、猟兵であるからこそ素直に信じて驚くボイットと違い、ウタをレンジャー部隊の一員と勘違いしている運転手に思い切りビンタをかます。
 と。
『!?』
 急に減速を始めた車体に慣性がかかり、堪えたウタをよそにフロントガラスに突っ込むボイット以下二名。痛そう。
「いってぇな畜生! 何だよ!」
 装甲により視界の狭まったフロントガラスからでは状況が掴めないが、上手く輸送列車は停止したようだ。
「まさかあの黄金ロボだの猟兵さんのスーパーロボットや、キャバリアが止めたのかぁ?
 無茶していないならいいけどな」
「どうだか」
 横目でこちらを見るボイットへ、ウタは思わず苦笑した。


●戦場へ、いざ!
 レイは社内を移動中、輸送列車の減速と共に転がっていった先導者を踏み越えて後続車両の扉を開く。踏まれたレンジャー部隊の男が目を回す前に、丁度渡す物があったと彼をそこへ誘ったのだ。
 その先には台車の上に並ぶ群青色のレンジャー・キャバリア。重装甲なそれらとは別に、明らかに系統の違うキャバリアが一機。
「よお。また立派にしてもらったな」
 思わず口角を上げた彼が帽子のつばを上げれば、そこには鎮座するマグネロボの姿があった。
 それはかつて、彼がアサガシアの拠点で使用した量産型と言うのも憚られる欠陥品のようなキャバリアだった。しかし肆式と呼ばれたあり合わせで造り上げられた姿とは違い、細身のままであるが各所が補強され、今はキャバリアと呼ぶに相応しい姿である。
 特に腕部分にその特徴が顕著なのは、レイのお願いを聞いた整備班たちが主武装へと昇華させたであろう『エレクトロマグネティック・リペルパンチ』。
 とは言え、色々と追加装備が施されているのを見る辺り先の肆式とはまるで別物と考えた方がいいだろう。ボディには黒の塗装で捌式の文字。
 伍と陸と漆はどうしたんだろ。
 その完成度に満足気なレイが操縦席を目指す頃、外では輸送列車の壁やら天井やらでかさこそしているアリス妹たちの姿があった。
 彼女たちは粘性や強度を自在に操る【アリスの糸】、早い話が彼女らの使用する蜘蛛の糸で輸送列車をぐるぐる巻きにし減速、停車させたのだ。
『こちらの言葉を全く受け付けないのでどうなる事かと思いましたが、大丈夫でしたね。ありがとうございます、妹さんたち』
(このくらい朝飯前よー)
(そんな事より早くご飯を食べに行きましょーっ)
 この娘たちの気分はバイキングか、桜花のお礼の言葉への返しもそこそこに。
 はやる気持ちを抑えられないとばかりで列車の停止を確認するとすぐさま車体から離れ、アリスと良く似た姿の彼女たちは仲良くダッシュで敵地目指して猛進する。
『敵基地との距離も十分離れていますし、戦闘での問題にはならなさそうですね』
 摩那は拡大画面に映る敵基地の影から距離を算出し、一息吐く。
 これで守りに考える者は無し、後は暴れて敵を討つのみ。
『野郎ども、起動はどうだ?』
『全然イケますぜ、隊長!』
『ダンテリの熱血バカどもめ、俺の負け分ボーナスになってもらうぜ!』
 後続車両で次々と起動するレンジャー・キャバリア、ドッグの姿に思わずこめかみを抑える。自国領土でない場所での戦闘は彼らにとって特別褒賞に当たるらしく、やる気を見せるボイット隊長と二名の隊員。
 副長のイカサマに散々カモにされたのだろうか、やる気に溢れる彼らを止める術はないだろう。
 ただここは自国ではない、ヴィエルマの領土だ。第三者である猟兵はともかく、争いの当事者であるアサガシアに所属するレンジャー部隊は補給を受けれない為に無理な事はしないだろう。
 台車から飛び降りるドッグ三機とは別に、マグネロボ捌式がガチャガチャしているが、操縦確認が終われば彼も輸送列車から飛び出してくれるだろう。
『ウタさん、回収しました』
『レンジャー部隊の皆さんも待ち切れないようですし、急いで戻りましょう!』
『はい!』
 互いに翼を広げ飛翔する二機は、大急ぎで前線へと向かう。

 輸送列車、更には他猟兵たちの準備を進めるヴィエルマ格納庫よりも更にダンテアリオン前線基地に近づいた場所に、三人の猟兵と三機のクロムキャバリアとバイクがひとつ。
 異界の技術で成り立つ鋼翼、バイクの姿を持つ【フェンリル】から降りた久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー/『黒鋼』の騎士・f01190)は、シートに座らせていた小柄な少年ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)が降りるのに手を貸した。
 その様子を見つめていたチェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)は首の骨を鳴らしながら二人に声をかけた。
「向こうはどんな様子だ?」
「ああ、他のみんなも出撃準備は出来たみたいだな」
「そ、そう、なの」
 尻尾をぱたぱたと揺らしながらもどことなく自信なさげな少年は遥翔に同意し自らのキャバリア、【アルター・ギア】に向かう。こちらは形式上クロムキャバリアであるが、ロランにとって外骨格としての側面が強く、機動力と魔術に特化した機体は魔力の貯蓄や増幅、更には儀式の祭壇としても扱える代物だ。
 年の頃にしても背丈が低く、気性もあって頼りない印象である。しかし少年がただの内気な性格ではない事を遥翔は理解していた。
(さて、こっちも準備開始だ)
 内の一機はオーバーフレームのない未完成品の如き様相。だが遥翔が特別な起動シークエンスをフェンリルに行うと彼が乗らずとも自走しオーバーフレームへと変形、黒い装甲から白き装甲へと裏返るような変化を見せてキャバリアへと接合する。
 これが遥翔のクロムキャバリア、【イグニシオン】だ。バイク型アームズフォートであるフェンリルと合わさる事で完成する特別仕様である。
 見事なものだと感心するチェスカーに赤い瞳を向けて得意気に笑い、そのまま搭乗席へひらりと飛び乗った。自らの感覚を機体とシンクロ、否、接続し、改めてイグニシオンを起動する。
『いい感じじゃんか』
 通信機から洩れるその言葉。金細工の古風な懐中時計、【アウグストゥス】を握り締めればそこを起点に彼の結界が形成された。イグニシオンの索敵能力だけでなく、結界を利用した自らの探知能力である。
 ステルス能力に長けた敵機への対応策だ。
『頭部、腕部格納。各種抵抗相殺術式、および、魔術回路励起』
 イグニシオンの隣では邪魔となる手足、頭部を機体内に格納し高速飛行形態へと変形するアルター・ギア。
 機体設定を変更するロランの声音は極めて機械的で、先程の気弱な少年らしさはない。変形を終えた機体にイグニシオンは飛び乗り、発進に備えて身を屈めた。
『ご、ごめんなさい、なの、チェスカーさん。その【ビッグタイガー】までは乗せられないの』
「構う事ないさ、見てくれほど鈍足ってワケじゃあない」
 申し訳なさそうなロランに笑みを見せ、相棒に拳を乗せる。
 彼女のビッグタイガーは現在、防御力と速度、走破性に優れたタンクモード。少々荒れた程度のこの地形では何の問題もなく駆け抜けるだろう。
「先に行きな、直ぐに追いつく。アンタらが一番槍だぜ?」
『任せてくれ。なあ、ロラン』
『は、はい! 遙翔さん、行くね? オペレーション・スタート』
 ロランの言葉を合図として、浮上するアルター・ギア。
 次の瞬間には凄まじい熱風を置き去りに、地面に擦れるかとの高さで直進する。一拍遅れて巻き上がる砂塵に顔を隠しつつ、「あんな気性でトンでもない化け物だ」とチェスカーは目を丸くしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
オブリビオンマシンを海へ還すぜ

列車
敵基地の存在を告げ停止させる
片付くまで待っててくれよな

レンジャー
砲台の撃破を依頼
一時しのぎでも助かる
頼りにしてるぜ

砲台
爆炎噴射で回避したり
炎で着弾前に誘爆

戦闘
SC機体をレンタル
武装は大焔摩天

敵操縦者は非殺

獄炎纏う焔摩天で残像ごと薙ぎ払う:UC

炎はそのまま燃え上がらせておく

見えず聞こえずセンサーが利かなくても
居るんなら炎は影を映す

敵機の影を捉えたら
剣風を炎の竜巻として放ち
敵機の予想移動範囲内全てを紅蓮で満たす

それでも捉えきれない相手は
炎を強く燃え上がらせて視界を灼き
その一瞬に間合いを詰めて光刃一閃
プラズマ剣ごと機体を断ち切る

事後
機体の安らかを願い鎮魂曲


才堂・紅葉
基地の一夜城とは趣深いわね
そんな真似されたら戦術も戦略も吹っ飛んでしまう
このド派手なやり口の裏で、何か仕込んでるのは間違いない

「ま、目の前の事からか…迦楼羅王」

指を鳴らし忍者めいた機体を召喚
敵部隊の対応を行おう。次の展開に備え、余力は残しておきたい

方針は隠密機動の白兵戦による【暗殺】で敵機を叩き落とす
こちらも【メカニック、迷彩、忍び足】で姿を隠し、機動力にて対応
「明鏡止水」で視覚やセンサーに頼り切らずに回避し、棒や三節仕掛けによる長いリーチで【カウンター】を取って行こう
間合いの内に入るなら柔術とプロレス仕込みの【グラップル】で仕留めたい
周囲に気配りし、次の盤面に備え対応戦力の減衰を控える方針だ


鳴上・冬季
飛行で列車に並走
トランプ中のアサガシア兵の窓叩く
帽子持ち上げ
「こんにちは。この先でダンテアリオンが大部隊を展開してるので、至急列車を停めた方が良いですよ」
「爆砕範囲の広い長距離砲もあるらしいですね。列車が破壊されると、ヴィエルマとの関係も悪化するでしょうねえ」
笑う
「貴方達が停めないなら、私が黄巾力士で停めますが。どうします?」

「さあ劈地珠のお披露目です。…行け、黄巾力士」
UCで敵城塞と同程度の大きさに巨大化
飛来椅で広範囲に鎧無視・無差別攻撃で周囲を蹂躙しながら敵一夜城を目指す
周囲の地脈から力を吸い上げ継戦能力とオーラ防御で破壊防ぎ金磚で制圧射撃

「これだけ目を引けば、皆さんの役に立ったでしょう」


御園・桜花
RC

SMG装備
推進装置付


「脱線するまで近付けたら、一般の方にも被害甚大ですよね…?」
停車しても長距離砲直撃はあるかもしれないが、脱線よりは被害が少なく復旧も容易かろうと思い先に運転車両に接触し停車勧告

「此の世界の軍歌を知っていれば良かったのですが…次善の策です」
「列車を狙う射線に敵機を集めて長距離砲直撃を防ぎます」
UC「魂の歌劇」使用
外部スピーカーから大音量で帝都の軍歌流し敵の耳目惹き付け
列車と基地長距離砲を結ぶ直線上を制圧射撃しながら移動
此処に敵機を集め敵長距離砲発射を少しでも防ぐ
射線を外れたら即撃ち込まれるだろうと思っているので粘って敵機引き付け
敵攻撃直撃直前に第六感と見切りで躱し続ける



●ファースト・コンタクト!
『……ど、どうせ……私なんてっ……』
『いや、自分を悲観しないで……お前ならできるってば……』
『でもぉ!』
 いじいじうじうじ。
 飴玉を錠剤とでも言うように頬張りながら、げっそりとした様子でランデルフを慰めるジョナサン。めんどくさい彼女に絡まれて寝かせて貰えない彼氏みたいだね。あるいはお父さん。
 部下の誰もが胃薬を用意してくれない思いやりの足りない職場で優しさを振りまくジョナサン父さん。その努力が実るといいね。
『少佐! 熱源、高速接近!』
『何っ、少尉! 索敵はどうした!』
『……わ、私なんかぁ……』
『ええいっ、頼りにならない! 全機隊列保持、構え!』
 迫る存在に命令を下せば立ち並ぶ部下はキャバリアの姿勢を低くし、左半身を前にその右手を背面のプラズマ剣へ。
 抜剣の構えを見せて進撃者を待つダンテアリオン兵士の前に広がるのは、竜巻の如く巻き上がる粉塵の波。
 その中央そ真っ二つに引き裂いて、否、実際にはそれを引き連れて駆け抜ける嵐。
 ――【アルターギア・フルブースト】!
『キャバリア、アサガシアンどもか! 各機フォーメーションJ、迎撃!』
 ジョナサンがプラズマ剣を抜くと同時に、続く兵たちも抜剣する。柄に染まる光は雷光の如く、嵐を正対しても退く者はいない。その胆力は自らを誇大して叫ぶに相応しいともとれるが。
 ミラージュユニットにより次々とその姿を消していくシャドウブレイダー弐型。消す、とは言っても完全に消失している訳ではなく、動けば陽炎のごとく揺らめく景色がその居場所を教えてくれる。
 熱く焼けた大地の上で、彼らがいなくとも揺らめく風景は隠れるに相応しかったかも知れない。だが。
(速い!)
 正に嵐、吹き荒ぶ砂塵あ容赦なく装甲を叩く音を響かせる中、自陣を突っ切るアルター・ギアを振り返る。
 その背後から、砂塵の波に紛れて姿を見せたイグニシオン。自らの結界術がある種のソナーの様に敵機を捉えた遥翔渦を巻く羽の如き刃を向けた。
『導きに集い敵を貫く! 行け、【我が身に纏え落陽の剣(イグナイト・セイバー)】ッ!』
 剣状の自律兵器、ソードビットはその総数百を超え、捉えた敵機に襲い掛かる。
 次々と貫かれていくシャドウブレイダー弐型に驚愕の声を上げたダンテアリオン兵。
『こいつ、あの砂塵に隠れていたのか!』
『……何て無茶苦茶な攻撃だ……これだけの数を操って、どうして正確に狙えるんだ!?』
『狼狽えるな!』
 浮足立つ部下を叱咤し、ジョナサンの振るう光刃が焔に包まれたソードビットを破壊する。周囲を取り囲まれていた何機かが退路を見出して脱出するが、僅かな間に十に迫る数が撃墜され、更にその数は増えようとしている。
『さすがに見えない機体を相手に操縦席を貫けなかったようだな。だがこんな兵器を蛮国アサガシアが抱えているはずがない、貴様らが報告のあった猟兵か!』
 そもそもパイロットの保護を優先して動いているのだが、と遥翔は苦笑する。
 対して叫び、プラズマ剣を左手に持ち替えて右腕に付属する刃とで手数を増やすジョナサン機。否応無しに目立つその機体色はミラージュユニットを展開していない。
 それだけの自信か。追撃に向けていた焔牙の幾つかを手元に戻し、真っすぐにぶつかってくるジョナサンへこちらも黒の刃を斜めに構え、剣の腹に手を添える。
 機神太刀【迦具土】――、骸魂イグニスをその身に込めた遥翔の神剣、【焔黒剣イグニス】。その黒焔の中で鍛えられたのが漆黒の刀身を持つこの迦具土だ。本来ならば量産型キャバリアの持つ標準的装備で相手になる代物ではない。
 故に、敵が猟兵だと認識したジョナサンもそれを踏まえて行動するだろう。
(ステルス機を展開しといて自分はあの色か)
(パワーで勝るクロムキャバリアで受けの姿勢だと?)
(相当の手練れだ、量産型キャバリアなんて油断はナシだぜ)
(受けて流し、返しの刃か。ならば二の太刀でその手を貰う!)
 交差する機体のアイカメラ越しに互いの思惑が交差し、突撃するジョナサン。
 迫る敵に右足を大きく後方に置き、機体の重心を変える遥翔。
『!』
 受けの姿勢から攻めの姿勢へと転じ、逃したジョナサンの大上段振り下ろしに突きを合わせ。
『させるか!』
 手首を返し、刃を振り下ろし切る前に斬り上げへと軌道を変えるジョナサン。恐るべき反応速度だ。
 紙一重でかわした遥翔にイグニシオンは傷一つ負っていないが、危うかったと背筋を冷たい汗が伝う。
『一杯、食わせてくれたな』
『食わせたどころか、丼を投げ返された気分だぜ』
 互いに警戒を強めた直後、あらぬ方向から飛来する光が二機の間に突き刺さり、炎を噴き上げ炸裂した。
 慌てて後退するジョナサン機。遥翔は援護を行ったアルター・ギアの後ろ姿を見送り、ロランに礼を言いつつ砂塵の中へと身を隠す。
(この低空なら引っかからないってわかってんだろうけど、殲禍炎剣の下であの高速飛行なんて度胸あるよな)
 普段の彼からは想像もつかないが、猟兵らしい芯の強さを持っていると言えるだろう。
 遥翔が危機を脱した事を確認し、ロランのアルター・ギアが有象無象の頭上を飛び越えて向かうのは敵前線基地。
 何故か攻撃が行われない基地兵装に、今がチャンスとばかりに次々と炸裂魔法を浴びせていく。
『どうしたランデルフ!』
『早く迎撃してくれっ、少佐も戦闘で手一杯なんだぞ!』
 仲間たちの言葉にも応答せず。
 基地の防壁に取り付く砲台を粉砕し、それを操るべき無人ロボットが動きも見せず、ロランは思わず首を傾げた。
『こ、こんな奴ら相手に、わ、……私なんかじゃ……!』
『甘ったれるな少尉! ラッド少佐の死を無駄にするのか!?』
 死んでないです。
『…………、え、何? 呼んだ!?』
 砂塵に消えたイグニシオンの追撃に全神経を集中していたジョナサンは、唐突に自分の名が出た事に驚きを見せる。
『そんなっ、まさかさっきの攻撃で!?』
 思わず彼の機体が逃走した方向に視線を向けるロラン。死んでないです。
 仲間の言葉に衝撃を受けたのはランデルフ少尉も同じで、そんな馬鹿なと唇を震わせた。死んでないからね?
『……し、少佐は……あんなに私に期待してくれていたのにっ……!』
『だが悲観してる場合じゃない!』
『そうさ、俺たちにはやらなきゃいけない事があるんだ!』
『……いややる気になってくれるんならいいけどさ……』
 死人が納得いかない様子ですな。
 だが貴い犠牲に戦意を燃やしたランデルフ少尉。基地の最深部に位置する彼女の機体がその想いに応えるように鼓動する。
 先程まで一方的に攻撃されていた無人ロボットたちの炉心にも火が灯り、一斉に行動を開始した。もちろん、標的はロランのアルター・ギアだ。
『!』
 放たれた砲弾を鋭敏に察知して回避運動へ移る機体、捕らえられるはずもなく掠りもしないそれが後方へ飛び過ぎて、ロランは気合を入れ直した。
(このまま僕が囮になるの!)
 敵基地の猛攻を引き受けて、イグニシオンから離れる軌道を取る。その先で、青い光が発生すると彼の破壊した基地施設が次々と修復を始めていた。
 これではキリがない。だが、それは承知の上だ。
『……どんどん……どんどんくるのっ……! みんなも、もう着くっ!』
 ロランの視線の先には彼の起こした砂塵以上の、それこそ大地を破壊し迫る巨兵が映っていた。

『こいつぁハデだ!』
 後方に迫る破壊の波に思わず声を漏らすチェスカーは、大地を疾走するビッグタイガーのブースターを起動、巻き込まれては堪らないとトップスピードへ速度を上げた。
 破壊を巻き起こしているのは誰の目にも一目瞭然、巨大に黄金と輝く黄巾力士。遠目に見ても敵基地の防壁を超える高さを持つその山の如き巨体は、宝貝【飛来椅】により空を飛び、その下部に発生する衝撃が大地を破砕している。
 ビッグタイガーより離れて黄巾力士のその前を行くのは桜花とウタ、それぞれの乗る機体。ジュリィと領地の名を冠するヴィエルマ改。
 ジュリィの掌には紅葉が、ヴィエルマ改の掌には冬季がそれぞれ腰を下ろしている。
「冬季さん! ここまでする必要ってあったんですか!」
 背後から迫る爆音にこちらも負けじと紅葉は声を張り上げ、冬季は勿論ですと笑って頷いた。
 彼のユーベルコードにより【真・黄巾力士】として巨大化した姿、まだ大きさに余裕はあるがそれでも無差別に大地を捲り上げる大量破壊兵器っぷりには目を覆いたくもなる。
 だがグリモア猟兵の言葉から敵攻撃に限りなく無尽蔵な砲撃が行われるとなれば、ロランのように速度で攪乱するか今の冬季のように多少の攻撃ではびくともしないかの二極端どちらかで囮が必要となる。
 少なくともこんな物体を無視する事など出来はしない。敵の火線が集中しなければそれだけ避け易いし、何より搭乗者の疲弊も少なくなるのだから。
『とは言え、余り気持ちの良いものではないですね』
 思わず本心をぽつりと零した桜花。これにはウタも同様の想いがあったのか、ただ冬季の言葉も一理あると認めたのか押し黙る。
 ヴィエルマ改が背負う炎は機体の推進器ではなく、地獄の炎と一体化する金翅鳥、【迦楼羅】が具現化したものだ。機体燃料を抑えながらの移動と同時に、機体重量のあるスーパーロボットに操作感を馴染ませる目的もあるのだろう。
 彼らの目指す先ではすでに同じ猟兵の仲間が先陣を切り、敵陣形を大きく乱す事に成功している。
 叩くならば今、正にここだ。ウタは通信回線を開いて残る猟兵へと言葉を飛ばす。
『ノエル、摩那、みんなの距離はどうだ?』
『ノエルです。私はシルさんと一緒で、少し遅れてアリスさんが追随しています』
『こちらは摩那、出発準備はノエルさんたちが協力してくれていたお陰で、ウタさんたちとさほど距離は離れていません。レイさんがレンジャー部隊と同じ位置でしたが、今は大分距離を離してこちらに追いつきそうですね。
 ほとんど横並びですが位置が大きく違うので、冬季さんの黄巾力士に注意が向いている間に三方から攻め入る形になりそうです』
 索敵ドローン【マリオネット】から得たデータが摩那のスマートグラス【ガリレオ】を介してエクアトゥールに通じている。
 それぞれの位置関係と地形をモデリングした情報を更に全員に送信、情報を共有して摩那は眉を潜めた。
『目標から異常な熱源反応確認。敵前線基地が活性化しているようですね、迎撃にお気をつけて!』
『了解です――、と、早速来ましたね!』
 風を切り次々と伸びる黒い線。それが鉄鎖錨射出弩グラツニカルであると考えるまでもないだろう。
 回避行動に移るジュリィ、ヴィエルマ改を前に直進する黄巾力士。敵も狙いはこいつだろう、確かに良い囮になってくれると紅葉は頷いた。
 だがやはり問題は今回の敵、ダンテアリオンの事。一夜にして基地を築く力を持ちながら、敵対するアサガシアではなくわざわざ第三勢力をうたうヴィエルマも敵に回すように領地へ前線基地を設置するなど。
(このド派手なやり口の裏で、何か仕込んでるのは間違いないわ)
 ただ、その何かが今はまだ見えない。
「……ま、まずは目の前の事からか……出ろ、【迦楼羅王】!」
 ジュリィの手の中から立ち上がり、紅葉は叫ぶと高らかに掲げた右手の指を鳴らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
※マグネロボ系列

よお。また立派にしてもらったな
操作感に違いないかガチャり

ダンテアリオンも懲りない、というより
戦争なんざ大きな渦みてえなものか
いずれにせよオレの目的はひとつ
そんなもんに巻き込まれて無駄な死人が出ないことだ
コクピット破壊は避ける
新搭載ブースター(確定ロール)で空中・多段ダッシュ絡め一気に詰めての格闘等、基本足を止めぬ強襲を意識
幻も本体も飛ばしちまえば同じだろ【Thaw】衝撃波+攻撃力
ところでプラズマ剣は割といかしてるな
オレたちも似たようなことが出来んじゃあねえか?(属性攻撃/電気)

グラツニカル射程内では枷展開
敵のみ纏めて拘束し離脱。オーラ防御で守ってやりゃあ死にはせんだろう、恐らく



●バトル・イン・ザ・サンドストーム!
『くっそぅ、あの白いトゲつきはどこへ行った!』
 イグニシオンの事っすね。
 収まりつつある砂塵にきょときょとと辺りを見回すジョナサンのシャドウブレイダー弐型。そんな人間的な動きは必要ないけど形から入るのが好きな人なのかも知れない。
『少佐、そんな事やってる場合じゃありません。ヤバいですよ、アレを見てください!』
『馬鹿な、相手はクロムキャバリアだぞ! そうやって他に注意を割いては勝てるものも勝てん!』
 緊急事態って話をしているのだ。声を張り上げる部下にようやく想いが通じたのか、それとも集音器の拾う音に気付いたのか、彼がそれを見た時には既に天をも覆い尽くさんとする砂塵が目前まで迫っていた。
『おおおおおおおおおおおおおっ!?
 天変地異級の災害じゃあないかッ!!』
『だからヤバいって――、ああーっ!』
『みなさーんっ!』
 例えるならば陸の大津波。濁流のような砂塵に大地の欠片と地面がひっくり返ったような光景に消えていく仲間の姿に、ランデルフ少尉は思わず声を上げた。
 迫る破壊の洪水は基地の防壁にぶつかっては砕け、あるいは乗り越えて無人ロボットたちをも押し流す。
『おのれっ、!』
『ま、まだ逃がさない、のっ!』
 構える砲台には纏わりつくロランとアルター・ギア。
 攻撃を繰り出すにも地表を覆う塵に視界が利かない中、土煙を裂き上昇する機体がひとつ。桜花のジュリィ。
「桜花さん、お願いします!」
『いきますよ!』
 紅葉をジュリィの両掌に乗せていた桜花が機体を振り被らせれば、投擲に合わせて三節棍をつなげた【六尺棒】を用い、棒高跳びの要領で更に上空へと跳び立つ。
 アルダワ特殊鋼が砂埃にも負けず陽光にきらと輝き、上空から落下する忍者の如き機体へと突き進む。
 紅葉を巻き込み砂塵を蹴散らし舞い降りたのは、忍者めいた一機のキャバリア。これが彼女の呼んだ迦楼羅王だ。
『畜生、迎撃も出来ずに潜り込まれるとは!』
 派手に登場すれば狙いも定まるというもの。しかし、プラズマ剣を抜き放ち迫る影の一振りは空を斬る。
 先程までそこにいたはずの迦楼羅王の姿は溶け消えて。
 あらぬ方向から突き出されたキャバリア用の、もはや六尺では効かない棍の一撃がシャドウブレイダーの背中を捉えて弾き飛ばす。
『こいつも迷彩機能を! 何故俺の位置がわかった!』
『剣、丸見えですよ』
『くくぅっ、これは盲点!』
 刃の発生しっぱなしは良くないね、とばかりいそいそとプラズマ刀身を解除した所へ、質量を乗せた飛び込み様の一撃がその頭部を粉砕する。
 もはやステルス能力すらなくなり姿を現した機体を蹴倒して、粉塵に汚れた装甲が現れた。上空から現れた機体が地表で熱せられた事で起きた温度差は表面に水滴を起こし、迷彩代わりに粉塵を付着させていたのだ。
『そうでなくとも、我が心はすでに【明鏡止水(クリアマインド)】の域に達しています。見えないから優位にあるなどと慢心した攻め方じゃあ、私には届きませんよ』
 師より教わるはどのような状況にも感情に流されぬ曇り無き心の構え、否、構えと呼ぶのも不純と呼ぶ純粋なる境地。
『ならば、試してみるか』
 紅葉の言葉に姿を見せ――、見えないなこいつ。
 ともかく迷彩機能を発揮しながら意味もなく声を上げた男が一人、プラズマ剣をピカピカしながら構えを取る。
『我が名はサネユキ・ゴローダ、いざ尋常にィー!』
『丸見えですよー』
『きゃーっ、卑怯者ーっ!』
 上空から降り注ぐ鉛弾の雨に思わず叫ぶダンテアリオン兵。
 戦場に辿り着いた者の全てがこの煙幕に隠れている訳ではない、今の桜花のように上空から攻撃をくわえている者もいる。それからすれば近接戦闘で無駄に煙を晴らした上にピカピカさせている敵などいい的だ。
 キャバリア用の短機関銃の弾倉を排出すると同時に、砂煙の動きが怪しい所にていと投げればそれを目印に新たな戦闘が始まる。
 地獄の炎を纏い、キャバリアサイズにまで拡大した光の巨刃、【大焔摩天】の薙ぎ払いを跳躍してかわすシャドウブレイダー。
 頭から飛び込むようにして着地すればそのまま前転、勢いを殺さずその身に視認度を下げる光化学迷彩を纏う。
『甘いな猟兵! そのようにギンギラリンな武器の大振りなど避けて下さいと言っているようなもの!
 加えてこの俺はそこらの間抜けのようにプラズマ剣を見せびらかすような真似はしない!』
 勝ち誇ったようなお言葉であるが、まずはその間抜けどもを教育すべきだと思います。
 砂煙に身を隠しつつ回り込む機体は右腕の刃を閃かせ、ヴィエルマ改へと襲い掛かる。
『その上、自分たちからこうも我ら向きの戦場を作ってくれるとはな! 自らの失策に後悔する間もなく死ね!』
『――悪いが、煙幕ってのは身を隠すだけじゃないんだ』
 引き裂かれた土埃が彼らの居場所を教えてくれる。とは言え敵が接近せねば気づかぬものだが、それでも先手を打たせて被弾するつもりなどウタには無かった。
 その背から湧き立つように舞い上がった炎の翼が炸裂し、推力を得た機体が横方向へとかっ飛ぶ。更に光刃を握る腕の装甲が展開し、露出した推進器が炎を噴射すれば力を帯びた身は反転、振りの力へと変じ。
『――っ!』
 先の一撃を超える速度で放たれた一撃がシャドウブレイダー弐型を両断する。
『命まで奪うつもりはないぜ』
「ひえええっ」
 胸部と胴部が離れ、頭の上を通過した刃に腰を抜かした様子で見上げるダンテアリオン兵士。巻き込まれないように下がっていろと手で合図しつつ、更に迫る影を睨みつける。
 本来ならばその特性から少数でも多数を相手取るに秀でたシャドウブレイダー弐型だが、すでにその有利はない。
『数を活かせ! 敵はこちらを完全に把握できている訳じゃないのだ、互いに死角に回り込みながら仕留めろ!』
『了解!』
 ジョナサンの咆哮に返事を入れて即座に立て直しに入るダンテアリオン兵士たち。その統率力はさすがと言うべきか、後方からも驚きの声が上がった。
『生きてたんですね、少佐ー!』
『むしろ普通に会話に参加してたのによく死んだ扱いできるよね君たち』
 ランデルフの喜びに冷めた突っ込みを入れ、ジョナサンは周囲を見回す。
 どちらにせよこの戦場、敵地を支配したに相応しい状況を一転させられた。敵の突貫に続くこの流れは直接の戦いにおいて決着と言えかねない打撃だ。
 だからこそ。
『例え地位があろうとそうでなかろうと、戦場であればただの一ダンテアリオン兵士!
 ならば退く答えは有り得ん。少尉、新式照準! この忌々しい煙幕を払え!』
『サー、イエス・サー!』
 敵前線基地に動きあり。
 未だに襲い来るアルター・ギアを相手に基地は攻撃を受け続けているが、同時に修復されている砲台も数知れず。
(ひ、一人じゃアルター・ギアでもカバーし切れない!)
『ってぇえええ!』
 少尉の勇ましい声とともに無人ロボットの操る多くの連装型安定性ハイドロゲン起爆弾発射砲台から砲弾が――。
『…………、あれっ?』
 発射されないっすね。
「ギィイィイ、ガチガチギチギチギチ♪」
(硬すぎず柔らかすぎず、丁度いい歯ごたえねー♪)
(おいしーのー)
(ウマー)
 砲台を操るべく造られたはずの無人ロボットたちに取り付く節足動物、もといアリスとその妹たちの姿がそこにはあった。装甲も薄く鋏角で解体するにあたっては食べ易いのか、意外と好評の様子。装甲と内部機関の隙間にバウムクーヘン的な美味しさがあるのかな?
『きゃああああっ! ム、ムシッ! ムシがーっ!』
 ようやく女の子らしい女の子の悲鳴が響く中、何をやっているんだとジョナサンの叱責が飛ぶ。
 混乱を来す敵前線基地の防壁下部には所々に穴が空いており、アリスらがそこを通って来たであろう事が察せられる。
「ギエェェェ! ギチギチギチ!」
(みんな~あつまって~)
(はーいっ)
 司令塔であるアリスの言葉を受けて続々と地面から這い上がる【貪食する群れ】ことアリス妹軍団。更に鋭くなるランデルフの悲鳴に混じって男たちの悲鳴も加わる。
 オブリビオンマシンに搭乗していると思われる少尉はアリスの姿をしっかり認識しているようだが、そうでなくとも少女の姿と認識している人々の目には物凄い勢い防壁を這い上がる姿が確認できるのだから、ホラー演出としては上々だろう。
「ギギギギ、ギチチッ、ギチッ、ギチッ」
(これがさっきの人が言ってた連装型安定性ハイドロゲン起爆弾発射砲台ねー。なにか凄そー。
 じゃあ、あっちが鉄鎖錨射出弩グラツニカルだからー、早速食べ比べてみましょー! きっと美味しーに違いないわー)
(はーいっ)
(いっぱいあって目移りしちゃうわー)
 いつかの戦闘でこのクロムキャバリアに拡がった妹たちなのか、腹を空かせた様子で涎を垂らしながらガチガチと鋏角を打ち鳴らす彼女たちのぬばたま色の瞳に危険な色が宿る。
 飢えから基地を食すという意識で統一された一糸乱れぬ群体の共通意思が、ユーベルコードを通して更に彼女たちの能力を向上させていく。
 もはや爆発物など彼女らの口内であってもなんの意味もない、全てを餌として食らい始めたアリスらは、敵キャバリアは仲間に任せて基地兵装の沈黙に尽力するつもりだ。
『ア、アリスさん、助かったの!』
「ギギッ、ギイイェエエエエッ!」
(いーえー。もぐもぐ、火薬がスパイシーで爆発の刺激がおいしいわー)
 おおよそ生物とは思えない感想を残しつつ、アリスらとは別の個所への攻撃へ集中するロランへ前肢を振る。
 凄まじい光景でありながらも頼もしい姿に紅葉は思わず笑い、迫る殺意に鋭く視線を返した。
『やってくれるな、猟兵ども』
 プラズマ剣で砂塵を焼き払い、姿を見せたのはやはりステルスを使用していない蛍光イエローのシャドウブレイダー弐型、ジョナサン・ラッド。
 左手の刃をくるりと回して空へと放れば、背中の格納装置へ納刀する。
『困りましたね、次の展開に備えて余力は残しておきたい所なんですが』
『そういうの本人を目の前にして言う事じゃないでしょ』
 頑張っている人に失礼だとばかりの台詞、さすがダンテリ父ちゃん。とは言え敵は第三勢力を巻き込む侵略者に違いないのだから、礼儀を語る資格無し。
 足を大きく開いて腰を落とし、右腕の刃を展開するジョナサンに対して、こちらは棍を背面に構え、前傾姿勢へと変えたのも束の間、塵の中へと姿を消す。
 消耗はもちろん、正面から戦うには高い技量を持つ敵の危険を踏まえた紅葉。だがジョナサンは慌てる様子もなく動きすら見せない。死角に回り込まれるであろう当然の不利にも対処する自信があるのだ。
 先の敵と違い隙が無い。
(だからと攻めあぐねていては意味がない!)
 このジョナサンが敵軍の精神的支柱である事は確か、落とすに他は無いのだ。黄巾力士の衝撃波によって粉砕された大地の欠片を拾い上げ、音もなく走ると同時に自らの攻め入る方向とは別口に投げる。
 響く音に欠片へと体を向き直す様は、敵の反応速度の速さを裏付けた。
『疾ッ!』
『ぬるい!』
 繰り出したのは背面から、背中と右肘で支え左手で押し込まれた棍は乱れなくシャドウブレイダーの背後を攻め、しかしジョナサンはこれを潜ってかわすと同時に振り向き、ミラージュユニットを利用した分身を発生させた。
『しゃがめ紅葉!』
 叫ぶと同時に砂塵から姿を見せたヴィエルマ改。紅葉の返事を聞く間も惜しく、巨大に伸びた光の刃が地面を砕きながら激しい炎を噴き上げる。
『伸びろ獄炎、薙ぎ払え!』
『うおおっ!?』
 残像を悉く焼き払うユーベルコード、【ブレイズブラスト】。影すらも肺へと変えたそれにはさしものジョナサンも驚きに声を上げたが、空にて身を捻りアクロバティックな回避軌道を見せた彼はそのままプラズマ剣を引き抜いた。
 狙いは迦楼羅王の前に降り立つヴィエルマ改。
『――ぬるいわね!』
 ここで言葉を返したのは紅葉。自らの六尺棍と同じく留め金の外れた棍は三節となり、背面打ちの構えをそのまま引き戻す。
 地面に跳ねて自機の脇の下からヴィエルマ改の足下を抜けた棍の突端がシャドウブレイターの顔面を捉えた。
『…………!』
 頭部に走った亀裂、軋み、打撃音に軽い傷では済まないと判断したジョナサンの引き際は鮮やかで、軽口すら残さずに着地と同時に後転。
 即座に距離を離して砂塵へと消えた。
『あれが敵の指揮官か、かなりの手練れだ。助かったぜ紅葉』
『こちらこそ、ですよ。要注意だけどダメージは確実に与えました、周りのザコにも気を付けていきましょう』
『ああ』
 早速おでましだと、大焔摩天を構え直すウタと三節棍を再び一本へと接続し直す紅葉。
 ウタの剣閃に残された炎が周囲の塵を空へと巻き上げる中、揺らめく炎こそが彼らを照らすのだ。
『見えず聞こえずセンサーが利かなくても、居るんなら炎は影を映す。
 一帯は今から火の海だ、かかって来るなら覚悟してくれよな』
 構えた刃に指を這わせ、迦楼羅王に視線を向ければこちらの思惑に気づいて頷く紅葉。
 即座に飛び退き砂塵に消えた敵機を追う者とこの場に留まる者、二手に別れようとしたダンテアリオン兵士にウタは行かせないと低く唸る。
『覚悟しろって言ったぜ。唸れ剣よ!』
 刃に燃え上がる炎が赤々と天に伸び、振り回す大回転が炎の風を巻き起こして周囲を包む。
 剣風、炎となって飛び散る光が周囲を紅蓮へ染め上げた。炎の揺らめきに映るのは陽炎だけではない、シャドウブレイダー弐型を透かし見てウタは唇を歪めた。
 直後。
『はああああっ!』
 裂帛の気合と共に、あるいは言葉なく迦楼羅王と入れ替わるように砂塵から現れたのはブルー・リーゼとエイストラ。
 地上を走行し加速した機体は黄巾力士により耕された大地を滑走し、炎に揺らめく影目掛けて白と青の装甲がその光を照り返す。
 かざす刃は弧を描き、敵の反応を許さずその上半身を切断する。
 正に一瞬、目を瞬く間もない早業だ。だが二機の動きはそれだけに留まらない。背面の翼を展開したブルー・リーゼはそのまま飛翔、エイストラは足での減速に後転の動きを合わせて【EPバイブロジェットブースター】を起動、振動フィンによる衝撃波干渉が推力を上げて舞うような動きで距離を離す。
 一撃離脱を体現した、流れるような見事な動き。ブルー・リーゼは軌道を変えて宙返りすると、天地逆さのまま背負う【BS-Sツインキャノン】テンペスタの砲身を伸ばし、炎に揺らめき動く影へと狙いを定めた。
『ツインキャノン、発射!』
 空を裂く光の帯が大地に突き刺さる。それは炎の揺らめきに動きを捉えたシャドウブレイダーたちの足下で炸裂し、荒れ狂う岩石がその装甲をずたぼろに裂く。
『お、おわぁあああっ!』
『イートコなしかよ!?』
 断末魔の悲鳴を上げて吹き飛ぶ機体だが、ビーム兵器の直撃でもなければあくまで破片を利用した攻撃だ。ミサイルのように専用の指向力を持ったメタルジェットもないのだから殺人的な威力は発生し得ない。
 事実、運動性を優先して装甲を薄くしたシャドウブレイダーであってもぼろぼろとは言えコックピット内部にまで被害の広がっている機体は見受けられない。
 だが、それは同時に無事な機体が存在する事も意味する。
『……ぬ、抜き足、差し足っ、忍び足ッ……!』
『もう捕捉完了してます』
 ひっそりと逃げようとした残る一機へは、後方へ跳びブルー・リーゼの攻撃範囲を逃れると同時に射撃体勢に入ったエイストラが致命の一撃を放つ。
 【BSプラズマライフル】から奔る光がシャドウブレイダーの胸を貫く。力を失い崩れる機体だが、こちらもまた人命を害する事はしていない。
『低視認化であって不可視でないなら、どうにでもなります』
 爆発による欠片の跳ね返りによりおおよその距離や姿勢を知ったノエルにとって、低視認化程度のステルスはもはや障害とは呼べなかった。【EPリンケージベッド】によりエイストラと直結したレプリカントの少女の瞳は緑に輝き、些細な動きとて見逃すはずがなかったのだ。
『凄いな、あっという間の連携だ』
『即興だったけど、上手くいったよ! レンジャー部隊はまだ到着してないみたいだね』
 ウタの感嘆の言葉に満足そうに頷くシル。見渡した先にアサガシアのキャバリアの姿はなく、ノエルも予想通り到着を遅らせる事に成功したかと一息吐く。
(あまり真面目そうな雰囲気はないけど、あの人たちも自分の国を守るために頑張ってるんだもんね。
 だからレンジャー部隊も守る為に頑張るっ!)
『わたしは空から桜花と攻撃するね。行くよ、ブルー・リーゼ!』
『私は基地攻撃を。どうやら敵も調子を取り戻してきたみたいですし』
 飛翔するブルー・リーゼを見送り言葉を転がせば、再び構えた銃口の先でこちらへ飛来する砲弾を捉える。
 が、それは炎の翼を拡大したヴィエルマ改の熱量によって空中で起爆、爆散する。飛散する可燃性の物体が炎を広げるのを認めてウタは厄介だなと思わずぼやいた。
 今までは破壊された所の修復しかしていなかった敵前線基地の兵装が、今や至る所、でたらめに砲台を増やし、とにかく数で押そうとしているのだ。遠目にも飛び跳ねるアリスたちが喜んでいる姿が見えるが、ロランの負担も増えてこのままだと押し切られてしまう。
『わかった、頼むぜノエル。俺は出来るだけ近くでそっちが襲われそうなら援護するよ』
『ええ、お願いします』
 ノエルは静かに答えて、防壁上に現れる光が砲台や無人ロボットの外殻を形成していく様を見つめていた。


●討つべし敵前線基地!
 大地に突き刺さる砲弾が、しばしの間を置いて爆炎を噴き上げる。
 拡大する光が粉塵を巻き上げて、戦場に蔓延する砂埃をかき消していく。とても陣地内で行われる一部隊の戦闘とは思えない光景だ。
(砲台が増えた事で煙幕もどきは大分薄くなったが……このままでは……)
 互いの戦闘能力の差に歯噛みするジョナサン。
 確かに粉塵が落ち着けば動き易くなるものの、性能差をひっくり返すには数を失っている。これは大きな痛手だろう。
『いいや、だからこその火力なのだ。ランデルフ少尉、じゃんじゃん砲台を増設しロボット兵を増やし、手数と火力で押し切るぞ!』
『火力こそ正義ってか』
 ジョナサンの言葉に思わず苦笑したのはチェスカーだった。砂塵に潜んでいた大虎は、薄れ行く砂の海から姿を現す。
『前の奴らと言い……一周回って親近感の湧く連中だが……残念ながらお仕事だ』
『巨大戦車? そんな旧式がキャバリア戦で通用すると思っているのか!』
 吠えるジョナサンであるが、メインモニターに走るノイズに小さく呻く。先の迦楼羅王の一撃で頭部を破損した影響か。
 こちらへ敵意を向けたジョナサン機に女は笑い、さてと【副砲パジョンカ】、並びに【内装型擲弾発射機トレンチャー】を構えた。トレンチャーには攻撃よりも防御に主点を置いた兵装で煙幕弾を装填、同時にパジョンカをフリーにしつつ内部装置をいじり始める。
(あれだけ目立つ戦車で出てきておいて動きなしとは。罠か? だが!)
『少尉、私の正面! 対巨大戦車、新式照準!』
『了解! ……新式照準……っ、てぇえええ!』
(きゃーっ)
 お次はこちらを食べようかと無人ロボットによじ登っていたアリス妹が、砲台からの振動に大きく揺れた無人ロボットから慌てて離れていく。
 轟音と共に砲弾は発射、音をたててビッグタイガーに着弾した。しかしそれは車体正面を防御する【EP/KE-303ドーザー】に弾き返された。
『――なんとっ……?』
 鈍い音をたてて転がる砲弾に、慌てて後退したジョナサン機の前で爆発炎上する。高熱の火炎も耐性を持つ装甲が受け止めて、揺れる車内で十分に持つなと大胆不敵に嘯くが。
『おのれ、ならばグラツニカル用意!』
『ま、そいつに耐える自信はないんだが!』
 即座にトレンチャーから放たれた煙幕弾が本体から幾らも離れていない場所へと巻き散らされ、黒煙を生じ。
『しまった、逃げられた!?』
 あっという間に姿を隠した戦車に狼狽える少尉をジョナサンが叱咤する。
『愚か者! 敵が逃げたならお前の位置からならよく分かるはずだ。動きは無い、敵はまだあの中だ!
 奴がいたポイントへ向けて矢を放て!』
『……そ、そんな事を言われましても……』
『いいからやるのだ! 相手はあの猟兵だぞ、ただ黙ってやられるはずがない、何か目的を持って出てきているのだ。問答をしている暇はない!』
 真っ当至極な言葉に委縮しながらも、複数のロボット兵による視点を確認する。グラツニカルの質量弾ならばあの重装甲を貫くにうってつけだ。もし破れなかったとしても単純な威力で排撃する事も出来るだろう。
 問題は敵の位置にある。
(……て、敵は……敵はどこなの……? あの戦車がいた場所って言われても、もうわからないよ!)
 こうしている間にもアリス軍団の食欲がどんどんロボット兵や兵器を食らっている。使える武器が少なくなる程に不利、ならば例え外れるおそれがあったとしても一斉に発射すべきではないか。
 優柔不断な己に喝を入れて意識を固める。
 撃つ。
『…………、?』
 今まさに引き金を引かんとしたその瞬間、聞こえて来た音に思わず手を止めてしまう。それは戦闘の音でもなければ彼女のマシンが生み出す兵器が食われる音でもない。
『――陰に、怯え住むヒトよ。桜の幻は空に在り。
 影に、生まれ泣くモノよ。地に立つ桜と共に生き――』
『……う、歌……? 歌だとっ、こんな戦場でどこから!?』
 音源を辿るランデルフの目に留まったのは空を行くジュリイの姿。背中のバックパックが展開し、花のように巨大な外部拡声器から大音量で桜花の歌声が響いている。
 現実離れした光景だ。戦闘前でも戦闘後でもない、戦闘中にこのような出来事があり得るのか。誰もが目を、耳を疑う中で彼女は呼びかける。
『……貴方の一時を私に下さい……響け魂の歌劇、この一瞬を永遠に』
 戦場の隅々にまで広がる歌は、何故かダンテアリオン兵士たちの心へと染み入っていた。
 【魂の歌劇】。彼女のユーベルコードは声に宿り歌を伝い、人々の魂をも引き付ける。そう、ここが戦場であっても。
 彼女の呼びかけに思わず攻撃の手を止めるダンテアリオンの兵士たち。
『隙有りです!』
『みぎゃーっ!?』
 無防備となった彼らへ発射数に優れる短機関銃の制圧射撃で次々とダメージを与えていく。容赦ないんですけどこの人。
 そんな目の前の惨状に気づかないのか、歌に誘われるように戦場を移動するジュリィに引かれる様は、まるで花に群がる蝶の如く。
 その先はビッグタイガーの張った煙幕地点。
『サクラミラージュの歌を使わせていただきました……この世界の軍歌を知っていれば良かったのですが……次善の策です』
 語る桜花は機体を振り向かせて、敵前線基地を真っすぐ睨みつける。
『グラツニカルは発射させません。味方の密集するこの地点に、新式とやらの炸裂砲弾はもちろん、着弾後にどのように跳ねるかもわからない巨大な矢など使うべくもないでしょう?』
 鬼畜ッ! 綺麗な薔薇にはトゲがあるのだ!
 花に誘われたダンテアリオン兵を盾にビッグタイガーを守るジュリィ。
『卑怯な!?』
『ありがたいな、こいつは!』
 これも戦争という奴なのだ。人質行為とも取れるが敵は侵略者、更にオブリビオンが絡んでいる事態を長引かせるのは得策ではないし、彼らが味方を傷つけないと知っているからこその策である。
 その間に準備を進めるチェスカー。
『ジェネレーター出力限界解除、エネルギー接続ライン砲身直結。……Bチャンバー加圧開始……!』
『! 煙幕内に高エネルギー反応? あ、あの旧式、まさか粒子ビーム兵器も搭載しているのか!』
 驚愕するジョナサンが慌てプラズマ剣を抜く。制限を解除したか、それは通常時の三倍もの出力を誇り、周囲の空気を焦がし帯電した。
 首の根元から噴き上げる炎が外套の如く揺らめいて、頭部の割れたバイザーを赤く染め上げる。
『少尉、防御態勢!』
『えっ、えっ!?』
 状況を把握できていない少尉を捨て置き、刃を構え突進するシャドウブレイダー。密集する仲間の頭上を飛び越えて、その刃を振りかざす。
 直上のジュリィに動きなし。その被弾をも恐れぬ覚悟と踏み込みの速度に対応できなかったのか。
 否。そんな事は無い。
『貰ったぁー!』
 振り下ろす光の剣を、真正面から受け止めたのは黒きキャバリア。両肩の大型盾を前面に可動し、渾身の一振りを受け止めたエクアトゥール。
 馬鹿な。その思いは、敵の接近にすら気づけなかった程の焦りを抱いていた自分に。そして自らの剣を受け止められた手応えに。
 まるで柔らかな幾層にも重なった膜を鈍で打つような手応えで、エクアトゥールの両肩に展開されたエネルギー吸収球が、電流迸るプラズマ剣からエネルギーを吸い取っていた。
『空間転移を確認、変換良し』
 【暗黒球雷(スフェール・テネブル)】を始動した摩那は意地の悪い笑みを浮かべてジョナサン機を睨みつける。
 そうそうやらせてはやらないのだと、受け止めたエネルギーを機体へと取り込み輝きを増すのはエクアトゥールの光の翼。
 それは暗き刃の光。
『貴方がたの機体はとても速いですし、しかも見つけにくい。こちらがボコられそうな相性です』
 ならば、その状況を利用するまで。
 大きな餌があれば食らいつくのは道理で、生半可な攻撃が利かないとなれば強力な攻撃を繰り出すのも当然の事。故に狙う場所も分かり易く、そして固定できる。
 そう、これは攻撃なのだ。
『まとめて薙ぎ払う! 食らって落ちなさい!』
 圧力を失ったジョナサンのシャドウブレイダーを弾き返し、極大化したエール・ノワールが空を迸る。
 繰り出された攻撃は衝撃の波となり、密集していたダンテアリオン兵を吹き飛ばした。まるで紙細工のように散らされる仲間の姿に、ランデルフ少尉が悲鳴を上げた。
『他人の心配をしている暇はないぜ、新技のお披露目だ。この戦場の全てに告ぐ、射線を開けろ!
 あたしのマジの奥の手だ。嫌いな奴は大人しく逃げて、好きな奴ぁありがたく喰らいな!』
 【路外走破用ウィンチ】から射出された【高靭性軽鋼ワイヤー】が四本、地面に深々と食い込む。巻き上げられて弛みを無くし、固定した車体からは低い吸引音が響いた。
 五十七トンもの重さを持つ車体を時速百キロを大幅に上回る速度で駆け抜けさせる【重量機用ブースター・ストームダンプ】。そのエネルギーを直接流用した超高出力のビーム砲、それが【オーヴァードスパークキャノン】。
 チェスカーの警告に明らかにヤバい雰囲気を感じ取った敵兵士とともに大慌てで蜘蛛の子を散らすようにかさかさと防壁から逃げ出すアリス軍団。
 狙うは敵前線基地、その兵装。

 その溢れる光が戦場を貫き、防壁ごと敵基地兵装を薙ぎ払っていく様は何と例える事が出来ただろうか。
「あのような破壊兵器もあるのですねぇ」
 関心深く呟いた冬季は巨大な黄巾力士の肩の上で笑みを浮かべる。大地を粉砕する、敵の言葉を借りれば天変地異級の災害を局地的に引き起こした彼は今、探り当てた地脈から吸い上げた力を黄巾力士へ充足させていた。
(この位置からなら、道を割り作ればあの一夜城へも届きそうですね)
 物騒な考えを浮かべながら独り晒う。
 そんな彼が目を細めたのは、彼らの辿った道程の後方より高速で接近する光の筋。
「役者は全員揃った、といった所でしょうか」
 立ち上がる冬季。その足に装着された車輪が火を噴いて空へと舞えば、それに追随するように黄金の巨人も再び浮上した。
 その様子をこちらもまた確認していたのは空を行くマグネロボ捌式、レイ・オブライトであった。背面に装着された細長い直方体の装置は側面から棚状に展開して火を噴出、大きな推力を発してマグネロボを高速飛行させている。
(これだけの戦力差、以前もぶつかったって言うのにダンテアリオンも懲りない奴らだ)
 嘆息した彼は金の瞳で防壁を横薙ぎに剥がされていく敵基地を見つめる。
「……と……言うより、戦争なんざ大きな渦みてえなものか」
 抗いようのないモノ。
 人の意志によって生み出され、思惑によって発動し、感情によって歯止めを壊される。それが戦争だと彼は結論していた。
 善意悪意に関係なく個人によって引き起こされる事はあっても、個人によって止める事は出来ないのだ。
 それをどう思っているのかグリモア猟兵は我関せずといった様子であったが、それがオブリビオンマシンを相手取っても同じかどうか。
(いずれにせよ、オレの目的はひとつ。
 ――そんなもんに巻き込まれて無駄な死人が出ないことだ)
 そう、わざわざ死人を増やす必要はなく、死人が歩く必要もないのだ。
 思う彼は目前まで近づいてもなお巨光を吐き続けるビッグタイガーの眩い姿を眼下に収め、帽子を目深に被り直して息を吐く。
「間に合わなかった、って事はないよな?」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『群れ成す孤立者』

POW   :    WFRS:attack
レベル×1体の【近・遠に適した様々な兵装のロボット】を召喚する。[近・遠に適した様々な兵装のロボット]は【物理】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD   :    WFRS:charge
対象の攻撃を軽減する【、大型推進器複数搭載の地上用高速戦闘装備】に変身しつつ、【各種兵装による物理射撃、粒子ビーム砲】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    WFRS:tactics
敵より【召喚したロボット等、数的有利な】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ライアン・フルスタンドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●爆裂殺光!
 約一分半か。
 迸る光が前線基地を横薙ぎし、防壁の砲台を悉く焼き落としたその光景はダンテアリオンの兵士たちへ絶望として映った。
 科学力以前に戦闘能力としての差を感じずには居られない、それは単純なる力の差だ。
『……す、凄い……』
 ビッグタイガーの後方へと移動していた桜花はジュリィの大型拡声器をバックパックへ格納し、一言でその光景を表した。その言葉に尽きるだろう。
 とは言えチェスカーは自慢げな顔などしてもいられず、主動でコックピットハッチを開くと桜花へ顔を向けた。
「今のがこいつのフルパワー、ビームを九十秒は照射できるが再起動に一分はかかるんだ、狙い撃ちされるかも知れねえ。
 敵の新式は耐えられるから盾にしてくれてもいいが、あのクソみたいな矢だか槍だかを受け止める自信はねえんだ、援護を頼む!」
『あ、なるほど、わかりました!』
『それなら接近防御は私が』
 再びビッグタイガーの前へと機体を進める桜花、巨大戦車の真上に着地する摩那。
 強力なビーム兵器、しかし発射前の動きの無さと今もまた動かない事、そしてジュリィやエクアトゥールの動きからその理由に勘付いたジョナサン。
『何、気を抜かしているんだ貴様ら! 即時反撃、攻撃こそ我が軍の凡事徹底!』
『しかし少佐、あのような火力を前に無策で突撃するのは!』
『貴様らの目はアメちゃんか! 敵は沈黙している、今の内に撃破するのだ!』
 まあ、やらせないんだけどな。
 いきり立つ少佐の横合いから現れたのは、今までその姿を隠していたイグニシオン。赤い光を翼と開き、花びらのような粒子をばら撒いて突撃をかけた遥翔がジョナサン機をそのままかっさらっていく。
『どあーっ!』
『ラ、ラッド少佐が攫われたーっ!』
『お姫様じゃねーんだぞ!』
『ええい、くそ、私はいい! あの戦車を破壊しろぉお! ダンテアリオン魂を見せてやれえ!』
 そのまま高速で飛翔するイグニシオンにこちらも襟首から炎を噴き上げて機体の出力を上げるジョナサンのシャドウブレイダー弐型。
 どこまでの指揮官らしく、勝利の為に。
 やはり彼こそこの攻撃部隊の支柱であろう、だからこそ自らの危機を前にしても怯みなく、いや怯んでたけどそれでも勝利の為に部下たちを叱咤激励し命令を下すその心を、誰が裏切れようものか。
『やるぞ、やるしかないんだ俺たちは! ダンテアリオンの為に、そしてラッド少佐の為に!』
『そうだダンテアリオンの兵士となってからこの命! お国の為に捧げると決めた以上!』
『指揮官の命令に、そして想いに応えるのもまた軍人の心意気!』
『撃ちますねー』
『きゃあああああああっ! このアマは情緒というモンがないのか情緒というモンがー!』
 うるせえ馬鹿。
 なんかやかましく暑苦しかったので、隙だらけなシャドウブレイダーたちに短機関銃の鉛弾をばら撒く桜花。全くもって警戒していなかった敵機を二機ほど撃墜したものの、貫通力の無い武器ではそれ止まりだ。
 味方機が壁となったことで傷を負わなかった他兵士たちは目が覚めたようで、ジョナサンの言葉もあり闘志を滾らせた彼らも機体の出力を上限まで上げた。
 襟元から噴き上がる炎がマフラーのように二股に広がり直後、ジュリィへ向かい跳躍する。
(この数では――!)
 迎撃の銃弾もこの数全てを撃ち落とすには足らず、プラズマ剣を抜き放つ敵機が刃を振り翳す。
 空から降り注ぐ二条の光。
 迫る敵機を撃墜し、更に横から走り込んだ黒き装甲が三節棍を振るい飛び込んだシャドウブレイダーを叩き落とす。
『問題なさそうですね』
『紅葉さん、ありがとうございます。……それと、もう一人……?』
 迦楼羅王が三節棍を巧みに捌き、自機に纏わりつくかの如き動きを見せた。
 援護射撃もあったはずだと桜花が振り返って見上げれば、丁度着地する一機のキャバリア。胸に捌式と刻まれたマグネロボ、レイ・オブライトだ。
 飛行する時は背面に配置されていた推進器が、肩の上を通り正面に伸びる。先端から伸びる煙を見るに、どうやら射撃と飛行の機能を併せ持つユニットのようで、両手で支えていたそれを再び背へと回す。
 突撃を跳ね返されて、注意深く取り囲むシャドウブレイダー。
『気をつけろ、相手は猟兵、無駄に突撃しても勝ちは拾えん!』
『気づくのが遅いってもんですよ』
 構えた棍を前に出せば、確かにその通りだと低く唸る。
 正面から堂々と事を構えるならば。残る六機のシャドウブレイダーがプラズマ剣を抜けば、帯電した光が音をたてて爆ぜる。
 ただの力押しではない。霞む体は周囲の光景と色彩差が小さくなり、代わりとばかりに現れた分身が刃を構える。
 ジョナサン・ラッドの代わりに自らの盾となる分身。六機から、視認し辛くなった本体を抜けば十八機。そのどれもが実体を持たないが、溢れる覇気は兵士としての覚悟を決めた彼らの意思だ。
 僅かな間、突撃するのは猟兵が先かダンテリオン兵か。
 推進器を展開して飛び込んだジュリィとマグネロボ捌式、ぶつかり合うように空を翔ける幻影を二機の背後から狙撃するように繰り出した棍の刺突が次々と消し飛ばす。
 可動する推進器で左右へと消えた機影に兵士たちの注意がそれれば、真正面から突っ切る迦楼羅王。
 横に構えた棍が透過した敵を捕え押し止める。例え見えないとは言え、そこにいれば触れるのは当然の事だ。
『――カチ上げる!』
 敵機と同じく瞬間的に首元から噴き上げた炎が二股となり、その身を突き起こすように宣言通りカチ上げれば、首元から押さえ込まれたシャドウブレイダー二機の爪先が地面から離れる。
 その詳細を見える訳ではない。だがその重さを感じる棍があれば問題ない。
『プレス機は好きか?』
『行きます!』
 腕部の装甲を組み合わせて盾としたジュリィが翼を開いて空を走れば、両尾から炎を噴いて空を翔けて蹴り足を見せるのがマグネロボ捌式。
 左右へ展開した二機が再び目標へと集う一撃は、一瞬にして目標を圧壊する。
『ほげぇえっ!』
『死ぬゥ!』
『棍があるから死にゃーせんですよ』
 三節にして中央部をつっかえ棒にしていた紅葉は面倒臭げに告げた。桜花とレイが離れると同時に一本の棍へと戻し、ステルス機能を無くして転がるスクラップから視線を変える。
 残るは四機、目に見えるは十二機。たじろぐ幻影を前に、待つ時間は与えないとマグネロボ捌式は両尾を逆立てた。

 おかしい。
 変化に気づいたノエルはウタのヴィエルマ改と敵前線基地を見比べる。ビッグタイガーの強烈なビーム砲撃の後、あれが連射出来るはずもないと考えた彼女は敵兵装復活に合わせて攻撃するつもりだったのだが。
 先程よりも敵の基地修復速度が鈍く、修理が終わってからも攻撃に転じる姿が見られない。
(敵オブリビオンマシンに何か変化が? どちらにせよこの好機、逃す必要は無い、か)
 当初の予定通りだ。
 鈍くなった敵の様子に、防壁を徘徊するアリスたちは疑問符を頭上に浮かべて首を傾げている。まあ結局食べるんだけどね。
 拡大した映像に彼女らを巻き込まないようにと射角を変えつつ、基地内部から発生する異常熱源へ銃口を定めた。
『どうした少尉、何故行動しない!』
『暴れるなよ、落ちるぞ!』
『やかましい! 少尉ッ!!』
 遥翔のイグニシオンに上空へと舞い上げられたジョナサン・ラッド、彼も基地の異変に気付いたようで拘束する機体からもがき叫ぶ。
『仕事を果たせ! 貴様のいる場所はどこだ? 貴様のやるべき事はなんだ? 言ってみろ
少尉!』
『…………、も、もう、……無理……、無理ですよ! 作っても直しても片っ端からぶっ壊されるし、どころか食われるし訳わかんないし!
 ……あんなの相手に何て……』
 戦場でおセンチになってるんじゃないぞ。同情はする。
 だがそこは兵士、それも他国での武力衝突の真っ最中。そんな泣き言に指揮官が同情する訳にはいかない。
『無理だとか相手だとか関係無いんだ、兵士は! 命令をこなすのみ!
 頭を預けるから軍隊となり兵器となるのだ!』
『そんな事を言われてもっ』
『なら俺が正してやる。お前は駒であり歯車であり兵器だ、俺が引き金を引いてやる。
 吠えろただ一丁の銃よ! 貴様の口は弱音を吐く為についているんじゃあない、弾を吐き! 敵を撃滅する為にあるのだ。
 個を滅し全に尽くせ! 全てを俺に預ければ、お前の下らない悩みなど必要はない!』
 きっぱりと言ってのけたジョナサンはイグニシオンの拘束から抜け出すと空で回転、アリスによって食べ比べされる新式とグラツニカルを緩衝材に着地する。虫食いのような穴開きもぐずぐずになっていれば立派なクッションという訳だ。
(きゃーっ)
(食べ比べの種類が増えたわー!)
『うををををっ、何だこいつら!? 少尉、動けーっ!』
『…………!』
 喜びの悲鳴とでも言うのか。
 飛びつくアリス妹たちに大慌てのジョナサン。彼の言葉が契機となったのか、砲台に取り付いていた無人ロボットが動きを見せる。
(きゃーっ)
 今度はさすがにそれらしい悲鳴をあげて、かじりつこうとしたアリス妹たちが無人ロボットの手により投げ捨てられた。
 糸を巧みに操り事なきを得るが、その間にもロボットたちは砲撃を開始、破壊された防壁の修理も再開されてノエルは眉を潜めた。動きを再開した以上、放置する訳にもいかないと。
『でまぁ、とりあえず【インクリーザー】で基地を撃ってみます。射線を開けてくださいね、見たところ特別な仕掛けはないようですから、普通の基地でしたら丸ごと貫通しちゃうんですけれど』
『そんな事を言われて道を開けられるか!』
 だが、これはチャンスだ。
 上空からの砲撃を潜り抜け、エイストラに迫るシャドウブレイダーがひとつ。ただでさえ高出力のエンジンを更に強化した【EPハイチューンドエンジン】に搭載されたEバンクは短時間の超過電力供給機能を持ち、得意を褒めて伸ばして叩き上げたような性能である。
 そんなエンジンからの大電力で駆動するプラズマライフルだ。全開放の威力は如何ほどのものか。
 ――ならばその威力、真似れば逆転の目もあると。
『見せてやるぞ猟兵、このシャドウブレイダー二型のどっきりびっくり機能を!』
『何を言ってんだ!』
 寝惚けた事を言うなとばかり、追い上げたウタへ構えたダンテアリオン兵のその足元から煙が上がる。
 どろろん、とどろんバケラーでもないくせに随分と古風で和風な音を響かせて生まれた煙幕。それを引き裂いて現れたのはあっと驚きのエイストラである。
『あ、化けたんですか』
『ガワをスキャンしデータを貰う! 味わうといい、貴様らの自身の力をな!』
 踊りかかる自らと同じ機影に対しても、焦りすら見せぬノエルの言葉。
『直結リンク動作中のエイストラをコピーすると敏感過ぎて、何か操作するたびにブレイクダンス状態で転げ回りますよ』
『ぬぁにがブレイクダンスだ! 膝を焼き払われてダンスっちまうのはお前だあぁあああおおおあっ!?』
 気合の言葉がそのまま叫びへと変わり、地上であるにも関わらず錐揉み状態で在らぬ方向へとすっ飛んで行くのは正にブレイクダンス。
 彼女の話した直結リンクとは彼女と機体が直結するデータリンクシステムを指す。そんな状態のエイストラを何の適性もないパイロットが操縦出来る訳が無いのだ。
『っちぃ、どれが相手でも、誰が相手だとしても!』
『威勢が良いのはそこまで、Eバンク・リリース。インクリーズ』
 大気中に力の爆ぜる音。跳ね回るような駆動音に帯電する光はエイストラから放たれ、集約するエネルギーはその右手に保持するライフルへ。
 全てを預けるのはトリガーにかかる指ひとつ。インクリーズの言葉通りに増強されたプラズマライフルから渦を巻くように荒れ狂うプラズマ粒子は粘性を持つように銃口から溢れ出し、炸裂する。
『――ちょっ、待っ……!』
『お断りです』
 敵指揮官の制止など聞くはずもなく、増してやすでに止める術もなく。
 嵐を呼ぶ竜巻と化したエネルギー風はその中心を光に貫かれ、生み出されると同時に引き裂かれ衝撃波が大気を揺らす。
 触れる前から全ての物体を融解する一撃、それを前に進行を止める術など無く、同じく異常熱源を発する目標を貫いた。
 レーダー上は。
『……う……ううッ……!?』
 極大化する熱源の中心たるオブリビオンマシンには届かなかったが、自分の溜め込むエネルギーの全てを兵器に回したような一撃に、ランデルフ少尉は青ざめて光の行先を目で追った。
 自らの築いた砦を易々と貫き横断した特急列車の如き様相は、新たな線路を築こうかとばかりの風穴を開けたのだ。驚愕を持って目を見張るしかないだろう。
 そのまま射線を刃の如く斬り上げれば、飴細工を温めたように溶け落ちた防壁は崩れ落ち各砲台が地面に転がる。熱風が爆薬が次々と炸裂させ、そのあおりを受けて口の中から火を噴くアリスたちが駆け回る。
 一瞬で訪れた地獄、それを巻き起こした引き金から機械の指を戻し、笑みも浮かべぬノエルの瞳に色は無く。
『…………ッ、殺せえええええええええッ!!』
 恐慌したように叫ぶジョナサンに応えて猛る兵士がエイストラへ殺到し。
「いいな、ハハハッ、宴もたけなわだな!」
『ま、またこのデカブツかぁ!?』
 基地の修復を許さずエイストラの一撃で破壊された外周ごとシャドウブレイダーを吹き飛ばす巨大兵器。
 黄巾力士の背中で笑う冬季、そして猟兵たちのキャバリアの姿があった。
「さあ【劈地珠】のお披露目です。……行け……、黄巾力士!」


●兵士の矜持を撃鉄に。
『おーいおいおいおいおーい、本当に基地が出来てんじゃねえか』
『といっても、ありゃもうヒヨコが出てった後の卵のカラですよ』
 やはり猟兵の言葉を全て信じていた訳じゃなかったのか、言葉の割りに驚いた様子もなくボイットが吐き捨てる。
 部下が戦闘の様相に繋げた感想はとりあえず捨て置いて、ボイットは続く二機にハンドサインを送った。
『…………、隊長それどういう意味っスか?』
『あの戦場ヤバいからお前ら行って様子を見てこいって意味』
『おっほサイテー!』
 男どもの言葉に投げやりに答え、ボイットは機体に短機関銃を構えた。
 軽口も無駄口もここまでだと機体の利帯を駆動する。
『俺らの国で馬鹿騒ぎされるのも嫌いだが、余所様の国でまで馬鹿騒ぎに巻き込まれるのは腸が煮えくり返る思いだぜ。
 盾は揃ってる。所詮は猟兵も俺たちとは別の世界の人間だ。任務を迅速に終える為に命を金に変えろ――、と言ったら盾に怒られるからな。動きを止めりゃ十分だろ』
『アイアイ、隊長』
 砂埃を足下から巻き上げて、三機の群青は敵前線基地へと向かった。

 黄巾力士の両手に、そして頭部に設けられた砲台が連続で火を噴いた。巨大な砲口が鋼の遠吠えを戦場に響かせて、新式にも勝る破壊を巻き起こす。
 絨毯爆撃のようなそれから大きく退がる敵部隊に、黄巾力士の下に全ての猟兵が揃った。
『……少佐……』
『ふん、気にするな。やるべき事に変わりはないし、手段が消えただけの事』
『しかし少尉が!』
『言葉は変わらんぞ。道はひとつで歩くのみ、何を惑い躊躇うのか』
 沈黙した基地へ視線を送るでもなく、ただ目の前の敵を睨みつけて唸るジョナサン。彼の言葉は静かだが重く、覚悟と自信に満ちていた。
 その覚悟は戦う為の、その自信は部下を導く為の。
『猟兵ども』
 ジョナサン・ラッド。
 男の言葉にその名を呟いたのは猟兵の中の誰であるのか。割れたバイザーから輝くアイカメラが男の意思を表すように燃えている。
 背中から抜いたプラズマ剣は敵意に燃えて、襟首から噴き上がる炎が陽炎と揺れる。
『……ダンテアリオンの……兵士の、いや我らの! 底意地を見せてやろう。全軍!』
 突撃。
 振り下ろした切っ先が猟兵へと向けられて、吼える男たちは指揮官を越えて鋼の痩躯を走らせる。息吹く炎を御旗の如く掲げて、そこにあるのは国ではなく自分たちの魂を掲揚するのみ。
 ならばもう、こちらもすべきはひとつ。
 真向から迎え撃つ!
 オーラの輝きをその身に宿し、明けの一番星とばかりに飛翔するブルー・リーゼにプラズマ剣が投擲される。
 それをかわし、あるいは弾き、敵先頭集団を多重捕捉するシル。
『闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、……母なる大地よ……。我が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれっ!!』
 赤く燃え、大気が凝結し、風を纏い、そして大地が隆起する。
 四つの力を導きし精霊機から放たれた魔力は強力な砲撃となって大地を行くシャドウブレイダー弐型を粉砕する。動く標的を前に動きを変えて迫るそれは蛇の如く、操縦席を貫く事はない。
 人命を優先した敵の砲撃にダンテアリオン兵は怯む事無く、その装甲を裏返すようにブルー・リーゼへと変じた。
『空を行く力は貰ったぁ!』
『!』
 翼を開いて飛翔するシャドウブレイダー・ブルー・リーゼのプラズマ剣をビームセイバーで受け止めて前蹴り、敵との距離を放つと同時に虚空で回転した空にも溶け込む青の機体。
『はああっ!』
 直後に駆け抜けた一陣の風、と見紛う一撃が敵機の翼を切断し地上へ叩き落とす。その背後に迫る自分の偽物に反転しつつの【BSビームランチャー】ブラースク改で迎撃、飛行能力を持った敵を引き付け地上部隊との分断を狙う。
 追いすがる敵機に対して地上から狙い撃つのはエイストラ。空を焦げ臭く染めるプラズマ光がシャドウブレイダー・ブルー・リーゼの翼を貫いた。
『そちらの空戦はお任せします。他飛行機体が別方面に散開しているので、こちらは地上から援護を』
『よろしくお願いします!』
『射撃機は潰ぅす!』
 シルが答えるのとほぼ同じタイミングで飛び掛かる敵機の顔面に、煙を息吹くライフルの銃身で刺突する。走る衝撃に仰け反ったエイストラ、こちらは射撃体勢のお陰でまだ衝撃に対応したが、跳躍した敵機は緩衝するものは何もなく体を反転して地面に突き刺さる。
『酔っぱらってるのか? 戦場で寝てるンじゃないよ』
『お、おわーっ!』
 そんな機体を重戦車が踏み潰し、あわてて操縦席からパイロットが離脱する。チェスカーは良い足場だと笑って主砲をブルー・リーゼの砲撃で散らされた敵戦力へ向けた。
『ノエル、ビッグタイガーは固定する。壁に使ってくれ』
『了解です』
 彼女の言葉に動かぬ車体にライフルを固定。直後に放たれた砲弾が銃口から火花を咲かせ、大きく揺れた車体に砲身を空へと跳ね上げる。
 炸裂した音が甲高く大気を裂く音を従えて、敵陣中央で炸裂すればシャドウブレイダーたちが木端と散り、あまりの威力に防御姿勢を見せた。
 いただきだ。
 逃さず狙撃するエイストラに混ざり、低空を高速移動するアルター・ギアの炸裂魔術。
『くっそ、炎が! 何も見えん!』
 次々と上がる火柱に熱源探知も役に立たず、プラズマ剣で苛立たし気に炎を裂くシャドウブレイダーの背後で仁王立つのは黒い影ではなく、迦楼羅王。
『な、何奴っ?』
『猟兵だって言ってるでしょうが』
『敵機確認! 出合え出合えー!』
 膝裏を棍で狙撃、崩れ落ちるその頭部をも衝き砕いて本体を蹴倒せばさすがにこちらに気づいたようで、声を上げて集まるお間抜けさんたちに紅葉は半眼で呟き棍を肩に乗せる。
 取り囲む時間も惜しいと逆巻く炎を従えて接近する敵機に向けるは不敵な笑み。
『も、紅葉さんっ』
『ナイス・タイミング!』
 背後から戦場を横切るアルター・ギアへ跳躍、一瞬の時をロランと共にした迦楼羅王はダンテアリオン兵士の視界から姿を消し、仲間を足場に着地した場所は包囲の外。
 頭上で回す棍は勢いを増して力を増やし、振り下ろせば無防備な背後からその右腕を叩き潰す。
『……な、なんだと……動きが見えなかった……!』
『これが音に聞くイェーガー・ニンジャかっ!』
 初耳なんですけどー。
 棍の留め金を三節棍へ切り替えれば、浮足立ちながらも攻撃を強行する敵機へ鞭のようにしならせた一撃が絡め取る。
『……時見月在晴天影在波……だったわね』
 それは波打つ事も無き水面が空に浮かぶ月を影として映すが如く。
 敵、その一切の乱れなど既に霞にも劣る。ダンテアリオン兵士の動きを全て見透かした紅葉が体勢を崩したシャドウブレイダーを足裏で受け止めて、そのまま次と迫る敵機へ蹴り付け、その身を盾に影より地面を撃つ三節棍が跳ねて軌道を変えて敵を打つ。
『一刀ッ!』
『見える!』
 変幻自在の戦い方にその姿をまともに捉えられもせず一方的に打ちのめされる仲間の姿に、ならばとそれを囮に接近したジョナサン・ラッドの鋭い踏み込み。
 僅かに身を逸らしてこれをかわしたものの、棍の間合いの内側へと侵入された紅葉は己の武器を手放した。
 交差する視線に再び迦楼羅王から敵と同じ炎が巻き起こる。斬り込む次撃に肩からのぶちかましを見せるジョナサン機に、転ぶように後方へ倒れた迦楼羅王の両足が意識の割かれた脚部に絡みついた。
 下方からの搦め手がその動きを止め、蛇のように絡みつく機体がジョナサン機を地面に組み倒す。
『右足は貰ったわ!』
『…………!?』
 片足拉ぎの要領でジョナサンの右足首、膝をねじ折った紅葉は、援護攻撃を受ける前に解放、即座に立ち上がる。
『貴様ーっ!』
『甘いっ!』
 逆上するダンテアリオン兵に後退と共に蹴り上げた棍をぶつけ、その先端を持って振り回すと一本の棍へと嵌め直して打ち倒す。
 十分な活躍は見せたと、正面からの戦闘を避けて後退する迦楼羅王への追撃を横合いから強襲するのはエクアトゥール。
 稲妻の如く敵追撃部隊の間を駆け抜けた黒い装甲は、その両肩の大型盾から光を展開している。
『……また、つまらぬ物を斬ってしまった……なんちゃって!』
『ひえっ』
 手足をばらばらに切り刻まれて落ちる姿は達磨落としか、振り返れば崩れる機体に満足げだ。
 そんな彼女を取り巻く敵機に、まだ数が多いなと溜息をつく摩那。だがこれが実数ではなく、彼らの幻影によるものだと知っている。すでに敵に総数は少ないはずなのだ。
 ――ならば。
 包囲網をあえて抜けず、機体前面と背面を盾で隠し、飛び掛かる敵のプラズマ剣を受け止める。その盾に浮かぶ暗黒球はそう、暗黒球雷の発動だ。
『戦場が離れていたお陰で、こちらの手の内が読まれていないのは助かります、ね!』
 受けたエネルギーを力に変えて、極大化するエール・ノワールが大回転、幻影も有象無象も構わずシャドウブレイダーを吹き散らす。
 黒い竜巻がエネルギーの渦となり空へと立ち上り、引き込む風に動きを止めた後続へ、更に盾を構えて突撃をかける摩那。
 こちらの細かな動きは敵機体が邪魔して見えず、正体不明の一撃としか記録していないだろう。それを逆手に取った大胆な動きに敵もまた攻めあぐねて。
『舐めるな!』
 背後から斬りかかったジョナサン機に、その一撃を受け止めたのはジュリィ。あっさりと一撃を受け止められて舌打ちしたジョナサンへ、桜花は更に盾を押し付けてエクアトゥールから引き離す。
『入れ代り立ち代り邪魔臭い!』
『これが連携と言うものですし、それは貴方がたも変わりないでしょう?』
『ほざけ!』
 盾を打ち、反動でしなる機体に質量を乗せて連続で斬りかかる。
 他のシャドウブレイダーより強化されているとは言え、片足でバランスを取りながらの斬撃など重量機ですらないジュリィにとっても敵ではない。
 あっさりと弾き返して右手に構えた短機関銃を連射すれば接射になる、刃を握らぬ左腕を盾にしてもその損傷を防ぐ事など不可能だ。
『おぉっ! おのれ!』
『後退してください、少佐!』
 慌ててカバーに入ったダンテアリオン兵に、こちらも長々と相手はしていられないと桜花も距離を取りながら牽制弾をばら撒いていく。
 背面のバックパックを展開しつつ、集まるシャドウブレイダーから離れれば、次の入れ代り立ち代りはヴィエルマ改。
 先へは通さないぜ。
 燃える言葉を残して両手に構えた光刃を盾とし、殺到するシャドウブレイダーへ真向からぶつかる。その勢いに機体は軋み、僅かに後退したもののそれだけだ。
『…………っ、動かないだと?』
『このパワー!?』
『驚いてる暇はないぜ!』
 右足を大きく後ろに開き、振り被った右拳に腕の装甲が展開して炎が伸びる。
『だありゃあああ!』
『ぎえーっ!』
 思い切り拳を振り抜いてシャドウブレイダーを殴り飛ばしたヴィエルマ改。構え直した光の刃が赤々と燃えて、お次は刃を振り上げる。
 逆光に見る、影となった機体から右腕に朧と燃え、そして太陽へ真っすぐ伸びる赤刃に驚愕し。
 落雷とさえ語られても頷ける一撃が大地を穿つ。全力の一撃はシャドウブレイダーたちを狙った物ではなく、実際に彼らもその前には体勢を立て直し回避運動へと移行していた。
 だからこそこの一撃は大地を焼き礫を放ち、周囲に火炎を生ずる。
 一瞬にして広がった火の海はメインカメラの明度調整も間に合わず目を灼いて。
『な、南無三っ!』
『しゃらくさいってな!』
 咄嗟に構えたプラズマ剣ごと、敵の装甲を斬り裂いた。
 無双の剛力に大焔摩天が重なれば敵は無し、とばかりの光景に通信が入る。
『大暴れだな、猟兵さん。ボイット・レンジャーだ。部下二名を連れて今はあんたらの大暴れの外にいる、どう動いて欲しいか指示をくれ』
『今は敵味方入り乱れての大混戦だし、砲台の撃破を中心に動いてくれないか。あいつ、壊しても何度も復活するんだ』
『……と、言ってもよ……敵基地に動きは見られないぜ?』
 今は、だ。
 ウタはボイットのもっともな指摘に即答する。確かに彼の言葉通り、今は動いていない、という表現が正しい。未だに基地から放たれる異常熱源に変化はなく、いつ行動を再開してもおかしくはないのだ。
 ならば了解したと素直にレンジャー部隊が引き下がったのも、ひとえにそれが理由だろう。
『スナイパーキャノンに切り替えだ。もう少し後退、やたらでかい砲撃跡を塹壕代りに立て籠るぞ!』
『頼りにしてるぜ』
 立てられた親指に、ウタの地点からでは見えないがレンジャー部隊も小さく笑うとそれを返した。
『さ、続きだ』
 立ち塞がる勇壮な姿に、ダンテアリオン兵は思わず生唾を飲み込んだ。
 一方でレンジャー部隊の塹壕を作り出した黄巾力士は、勇敢にも攻め入るダンテアリオン兵士を比喩でなく一蹴していた。
「クッ、まるで児戯だな」
 戦力差、などと言える状態ですらない。喉の奥で小さく笑った冬季は、跳ねるシャドウブレイダーをその手で薙ぎ払い敵基地防壁へ叩きつける。
 ただの破壊ならば飛来椅の飛行で決着をつけられるが、こうも混戦している状態では味方を巻き込んでしまう。無駄に敵対者を増やす必要は無いと、背負う巨大な銃器を両手に構えて、敵集団へ向ける。
「発射(ファーシュー)!」
 とは言え、直撃させる訳にはいかない。放たれた光は破壊的な熱と威力をもって敵機直下に突き刺さり炸薬の如く炸裂した。
 熱風に機体を損傷したシャドウブレイダーが次々と活動を停止する中、粒子ビームを放った宝貝【金磚】の活躍に冬季は目を細める。
 実弾での使用も可能な各戦場に合わせて対応できる兵器である。今回は人命を損なわないよう熱量兵器として敵機を無力化しているが、それでも直撃させれば量産型キャバリアなど耐えられるはずもないだろう。
『デカブツめ喰らいやがれ!』
『裁きの槍を受けろ!』
『これで終わ――にゃあああああああっ!?』
 叫びに冬季が顔を向ければ防壁上、設置されたグラツニカルに取り付くシャドウブレイダーの姿――と、その後ろから瞳を輝かせて飛びつく瞬間のアリス妹たち。
 無人ロボットと違って活きの良いシャドウブレイダーに嬉しそうにかぶりつく彼女たちの姿は冬季にとっても、実に研究意欲をそそられるものだったが一先ずそれはおいといて。
「ま、このままと言うならこのままで、踏み潰すだけですがね。
 そうでなくともこれだけ目を引けば、皆さんの役に立ったでしょう」
 足元に迫る雑兵の姿に、喜悦に目は細く。


●最後の手段!
『……まあ、猟兵が参加していたのだ……見えていた結果、と言われればそれまでか』
 混沌と化しながらも一方的に破壊されていく味方の姿に自嘲する。
 だからと矛を収められるはずがない。ジョナサンが向けた視線の先では、赤い光を纏う剣が螺旋を描き、無数に空を泳ぐ。
『こういうの何て言うんだっけ。第三ラウンド、て感じじゃねぇの?』
『貴様が、出鼻を挫き、悉く邪魔をしてくれたな。――名は聞かんぞ』
 向かい合う。
 右足も左腕も使い物にならぬシャドウブレイダー弐型。対してイグニシオンは長時間稼働による疲労はあっても損傷などない。
『さっきとは違う、本気だぜ』
『奇遇だな。私もだ』
 ゆっくりと、イグニシオンの後方へ降下するアルター・ギア。対してジョナサン機の周囲には自らの姿を消していた彼の部下が数機、姿を現す。
 すでに両者の掛け声などはない。息を飲み、急発進したアルター・ギアに飛び乗りイグニシオンは周囲にソードビットの結界を張る。
 ジョナサンはプラズマ剣を何の躊躇いもなく投げつけて、部下が構えた手に乗り、更に高く跳躍する。
 結界に弾かれた剣を再び構えて斬りかかるジョナサン、同時に地上から走る影たちに遥翔もアルター・ギアから跳躍、迦具土で空中のジョナサンとぶつかり合う。
 ロランはアルター・ギアの高速飛行形態を解除、人型へと戻りシャドウブレイダーのプラズマ剣を握る手を受け止めて、そのまま足を払い他の敵機へとぶん投げた。
『わーっ! 死ぬぅ!』
『こ、これぐらいで死なないの! たぶんっ』
 身動きが取れなくなったそれらに右手に浮かべた魔法陣から光を放ち、爆裂した力が更に二機をあらぬ方向へと転がして行く。機体を完全破壊した訳ではないが、中身である搭乗者は戦闘不能だろう。
 このまま遥翔の援護をと視線を変えれば、左右からの挟撃。姿を隠していた伏兵である。魔力を利用した索敵レーダーにも引っ掛からない敵の出現にロランは目を見開いた。
 敵のユーベルコードによりこちらの策に対応して来たのだ。
『うをっ!?』
 だが防御姿勢を取るまでもなく、虚空に現れた白銀の鎖が突如として現れ、挟撃をかけた二体の装甲に食らいついた。同時に強力な念動力によって引き合うそれらがシャドウブレイダー弐型をまとめて固定する。
 それは【枷】、彼が目覚める時に欠けたモノでありそして彼は今、拘束した敵へ向けて砲撃する。アルター・ギアの両脇から飛来した光はシャドウブレイダーを貫いた。
 地上からであり、上空からでもあり。
『シルさん、レイさん!』
『もう戦いも終わるよ!』
『ああ、とっととシメよう』
 二人の言葉に振り向けば、花開くバックパックから歌を流す桜花の姿。彼女を取り囲む敵機が戦闘意欲を失い動きを止めている光景が広がっている。
 戦場を駆ける柔らかながらも力強さを感じさせる確かな音が、彼らの胸を打っているようで。
 貴方の一時を預けるよう託す桜花の歌は、その一瞬を永遠の思い出とすべく魂に刻みつけていく。
『――くだ、らん!』
『しつっこい奴は嫌われるぜ!』
 広がる歌劇の腕を良しとせず、イグニシオンに蹴りを入れて離れるジョナサンは自機を中心に幻影を発生させる。本体の損傷までは再現されていないが、少しずつずれるように幻影を重ね、同色の派手さもあいまって正確な位置を視認する事が困難だ。
『もう戦いは終わるよ! ジョナサンさんも、これ以上の戦いは止めて!』
『戦いの終始を決めるのは兵士ではない!』
 分からず屋め。
 思わず顔を歪めたシルであるが、戦乱を呼ぶ者とは言え陰にオブリビオンマシンの潜むこの事件、人的被害を出す事は憚られるのが本心だ。
 蛍光色に輝く敵機に追いすがり、ブルー・リーゼが身に纏う七色の光は【BS-Sホーミングビーム砲】リュミエール・イリゼ。全身を駆け巡る光が球となり加速を得て曲射されるそれは空に虹を描き大地を撃つ。
『鈍いぞ猟兵! 四肢を打たれたこの私を相手に、追い詰める事も出来んのか!』
『追い立てる為の攻撃だからな』
『!?』
 両尾から炎の波を噴射して高速で接近するマグネロボ捌式。対して、弾かれたように反応するジョナサンのプラズマ剣が牽制とばかりに横に振るわれながらも左へと跳ねて急激な方向転換を行う。
 それに合わせて可動する推進器が敵の逃走を許さない。
『剛力!』
『だったらどうした』
 その一撃を素手で受け止めて、否、覇気により発光する掌で受け止めていた。どちらにせよ驚愕に目を見開くジョナサン機に、頭突きを見舞う。
『ぐあっ、か!』
 捕まえてしまえば幻影など毛ほども効果は無い。バイザー所か顔の半分が潰された。そのまま刃を握る右拳が即射され、更にシャドウブレイダーの腹を打ち後方へと吹き飛ばす。
 エレクトロマグネティック・リペルパンチことEMRパンチは正式採用された事もあってか射撃体勢を保持する必要もなく発射されている。
 この戦いの中に、各地へと拡散している戦火に巻き込まれた人々もいるだろう。ダンテアリオンとアサガシアの抗争が、こうして第三国であるヴィエルマへと波及しているのだから。
 シルが考えたようにオブリビオンマシンが人々に影響を与え、そして戦えぬ人々をも戦禍の渦に巻き込もうとしている。飄々としながらもこの男、それを良しとしない情動が力となる。
 デッドマンでありながらもその感情を解く魂の衝動を【Thaw(マスターキー)】が喚び起こし、すでに機体の全身へと広がる覇気は装甲を震わせ稲光が天を衝く。
『何だ、この変化は!?』
『さあな。――ところで、プラズマ剣は割といかしてるな。
 オレたちも似たようなことが出来んじゃあねえか?』
 なあ、相棒。
 まだ腕の戻らぬ右に、集う光が剣と伸びる。集う光にもまた稲光が発生して音を轟かせる中で、正面から切っ先を向けるジョナサン・ラッド。
『舐めるなよ猟兵! 貴様らがどう在ろうと、我が双肩にはダンテアリオンの未来が、そう、我らが輝かしい未来が! だからここで負けるなどあってはならん事なのだ!』
『負けられないからって、勝つばかりとは限らねえだろ』
『――猟兵ッ……!』
 目を血走らせたジョナサンの周囲に撃ち込まれた炸裂魔術は空を行くアルター・ギア。出鼻を挫かれたジョナサンを前に、次撃へと移行するマグネロボ捌式。
 長大化する刃を従えて互いに踏み込む一歩は、既に片足をもがれたジョナサンに勝機はない。
 シャドウブレイダー弐型のプラズマ剣を弾き飛ばした横一閃が颶風を呼び、その幻影をも巻き上げ剥ぎ取る。
 馬鹿な。
 抗うべき術を全て失って、震える喉に固い唾を通す。否、まだ。
『まだだ、我らには!』
『丸裸なら、もう外しはしねえぜ!』
 遥翔の言葉はジョナサンにとって死刑宣告にも等しく、背後から飛来する赤刃にその一切を貫かれた。

 過る風に冷たさが混じり始めた頃。
 ささくれたように機体装甲のそこかしこから刺を生やすジョナサン機を見下ろす冷たい瞳。まるで、磔にされた咎人のようだと冬季は最後のシャドウブレイダー弐型の姿に欠伸を噛み殺す。
 これで残るはオブリビオンマシン。この戦地に潜り込んだそれだけだ。だが、嵐の前の静けさか、確かにいるそれは沈黙している。
「一体全体、どうした事ですかねぇ」
『少尉っ、ランデルフ少尉! 応戦しろ少尉!』
『あ、こいつ!』
 最後の手段、それはやはり沈黙した基地に居るはずの少尉であった。
『もう戦えるのはお前だけだ! 今やらねば帰る場所などないぞ、私たちに!』
『悪いが黙らせるぜ』
『職務を全うするのだ、少――』
 うるさい叫びを止めるべく、残った頭部を迦具土で斬り落として完全に沈黙させる。コックピットブロックさえ無事なら問題ないのは、彼の最後の足掻きが示してくれている。
(やかましーわねー)
(ねー)
 その様子を遠く離れて見ていたアリスたちは、無人ロボットをかじかじしてまるで他人事だ。無抵抗な餌場にお腹も満足したアリス妹たちが別の妹たちとそろそろ交代しようか、などと考えていると無人ロボットが頭を上げる。
(あらー?)
 腕にかじりついていたアリスは逃すまいとかじる速度を上げるが、そうしている間にもどんどん無人ロボットに緑色をしたワイヤーフレーム状の光が集まって、次々と内部部品や装甲が形成されていく。
 動きを再開した無人ロボットたちは砲台に取り付くと一斉に照準を――、ジョナサン機へ向けた。
(たーいへーん!)
「!」
 アリスの念話を受けてジョナサン機は元より、イグニシオン、マグネロボ捌式を庇う黄巾力士へ一拍を置き、次々と砲弾が飛来する。
「……これは……!」
 咄嗟に防御したはいいが、集中する火線に自らも巨体の影に隠れる冬季。黄巾力士は完全にその場に縫い付けられてしまい、オーラ防御で被害は少ないものの動けそうにない。
『おいおい、どういう状況だこいつは?』
 その他の一切を無視した敵の動きに困惑するチェスカー。遠くから見てもその異常性がわかる、狙いは黄巾力士ではないと。
「分かりません。詳細は不明ですが、よっぽど憎いのか指揮官へ攻撃を向けていますねぇ」
『む、無茶を言われた、から、怒ったのかな?』
『これ、ちょっとマズくないですか?』
 冬季の言葉に上空を旋回するロランが答え、摩那も痛むこめかみを押さえた。どちらにせよ被害を無視した攻撃、それもどんどんと修復しているのだから先程までの不動の際に壊滅近い状態まで破壊していたアリスの働きもほとんど無へと帰している。
 衝撃が黄巾力士を襲い、その巨体を揺さぶる。次々と炸裂する新式の砲弾だけでなく、質量兵器のグラツニカルまでその身に集中しているのだから堪ったものではない。
『レンジャー部隊!』
『いやもうやっちゃいるんですがよ!』
『頭を撃ち抜いた先からどんどん回復していきやがる。ゾンビかこいつら!?』
 ウタの言葉に叫び返した彼らはすでに行動を移していたようだが焼け石に水とばかりで焦りを見せる。ここで部下たちと同じく大口径狙撃砲、スナイパーキャノンを構えていたボイットはスコープの先を睨みつけて部下たちを叱咤する。
『目標を肩より下に変えろ、脆い部分を狙って腕を落とせ! 頭の損傷回復より腕を丸ごと再生させた方が砲台を扱うまでに時間がかかる!』
『了解!』
 隊長を担うだけあって、人柄はともかく戦況を見る目はあるようだと思わずウタ。だが、のんびりしてはいられない。
『冬季さん、まだ大丈夫ですか?』
「機体は問題ありません。ですが、どんどん後方に追いやられているのでねえ、敵の攻撃も苛烈になっていますし、このままだと押し切られますね」
 その巨体さえも揺るがす火力に冬季はふむと小さく頷く。敵砲撃を分散させるしかないが、被害を無視出来る敵を相手にそれは難しい。
 そこへ地下を通じてやって来たアリスが顔を出すと、ぼろぼろになったジョナサン機の残る右腕、左足を鋏角で斬り落とす。
「ギチチッ、ギチギチ!」
(ジョナサンさんはアリスが運ぶわー。こう見えて足は速いのよー)
『そっか、火戦に対して直角方向に動けば敵の照準もそれを追いかけるから、フリーになり易くなるかも』
 糸を用いて背中にお荷物を固定するアリスに、シルも頷く。
 だがそれは敵の命中精度にもよる話であるが、幸い敵砲撃は弾速も遅く動き回れば捕まる事もない。スタミナお化けの高い持久力を持ち一日中でも獲物を追い掛け回すアリスらならば適任と言えるだろう。
『念は入れておけ』
「ギギッ?」
 戻した右腕とは別に、左腕を外してぽいとアリスの頭に投げ込む。アリスの頭をしっかりと掴んだそれには彼の白銀の鎖が巻き付いており、彼の念動力で固定されると同時に鎖を通じてオーラによる防御が施された。
「ギエエエエッ! ギイイイィ!」
(ありがとー! じゃあ早速いきまーすっ)
 言うが早いかのロケットスタート。
 一瞬で最高速度に達したアリスが荒地を駆け抜けると、猟兵たちの予想の通りに火戦が動く。
『Eバンク、チャージ完了』
『もっかい、派手にぶっとばすか!』
「僕もやってみましょうかね」
 射撃体勢を取るノエル、チェスカーの猟兵団両主砲に冬季も加わる。
『皆さん、砲撃部隊は敵基地正面、中心付近をお願いします。端は近接系で破壊します!』
『了解だ。巻き込まれないようにアリスの妹にも伝えておく』
 摩那の言葉に答えてソードビットを頭上に旋回させる遥翔。追随するロランのアルター・ギアはシルのブルー・リーゼと共に上空からこれを狙いつつ、避難の遅れそうなアリス個体を回収するつもりのようだ。
『それではみなさん、僭越ながら。――砲撃、開始!』
 桜花の号令を受けて、猟兵たちの集中砲火が始まった。


●ヒトを喰らうモノ。
 響く砲火は鼓動のように、微睡に沈む女には心地よかった。いつまでもここに引き籠りたい、閉じ籠りたいと願う彼女の想いを汲むように、何者かの意思が絡みつく。
 ――お前は駄目な奴だ、外に出ても人を巻き込むだけの存在だ。
(そう、私は駄目な奴だ。だから、このままの方が良い)
 ――お前の行動の全てが無意味だ。すべき事も出来る事も何も無い。
(そう、私の行動の全てが無意味だ。だから、このままの方が良い)
 ――お前は卑怯者だ。誰の期待にも応えられない。
(そう、私は卑怯者だ。私じゃアイツに勝てない)
 アイツ。
 自分の思考に強制的に入り込む言葉がノイズとなる。アイツとは、誰だ。
『――、ランデルフ少尉! 応戦しろ少尉!』
 響く声が痛みを伴って頭の中を駆け抜ける。心地よい孤独を邪魔する声。
『職務を全うするのだ』
 職務、職務だと?
 ゆっくりと微睡から引き揚げられた彼女の意識は、確かにランデルフ少尉の自我であったのか。
「みんな、勝手なんだ。勝手に期待して、勝手に失望する。私だけを残してみんな消えて行ったのに、私を疎ましく想っているクセに、こんな時ばかり、私を」
 みんなとは誰だろう。誰が期待し、誰に失望されたのだろう。
 頭の片隅に浮かぶ言葉も、強烈な悪意に飲み込まれていく。
「みんなみんな、消えてしまえばいい。私なんかに出来るはずないのに、こうやって押し付けて、私は頑張っているのに、でも出来るはずがなかったんだ!
 ――奴は悪魔だ!!」
 悲鳴に近しい咆哮と抑え切れない破壊衝動が彼女の砦となるオブリビオンマシンとリンクする。開いた彼女の双眸に恨むべき相手は映っていなかったが、それでもその心に入り込もうとした男の姿は映っていた。
 しかしそれも、既に彼女の興味を引くものではない。ランデルフの衝動のまま集中攻撃を行っていた無人ロボットたちは猟兵の総攻撃の前にその殆どが破壊されていたが、破壊された端から修復されていく。
 そんな無意識の兵たちを自らの元へと呼び戻す。そう、外に意識を向ける必要などないのだ。ただ、ただ閉じ籠ってさえすれば。

 無人ロボットが後退するのを確認して、猟兵たちも攻撃を止めて視線を交わす。前線基地の防壁や砲台の修復は進んでいるが、大事な攻撃手はその場にいないのだ。
『……なーんか、怪しいな……』
 塹壕に隠れていたボイットは呟いて身を起こす。
『猟兵、様子を見る。援護を頼むぞ。お前らはついて来い』
『これ死ぬパターンじゃないの?』
『俺も映画で見たわ』
『うるせえよ、俺もそう思ってんだから言葉にするなっての』
 部下二名を連れて防壁へ取り付くボイット。一か所は出入口用の扉と化しており、戦闘の影響で歪むそれは開く様子はないが、つまりは修復されている様子もない。あくまで壁として見られているのか、あるいは砲台部分の修復を優先しているだけなのか。
 左腕の装甲を展開し、内部に搭載された棒状の爆弾をスタッド溶接し後退、部下にも別の個所へ設置させて起爆する。
 重い音をたてて倒れた門扉に煙を引き裂いて中へと進んだ彼らが見た物は、格納庫などの施設が充実した基地内部の光景だ。といってもそういった施設だけで、人に対する物が見当たらない辺り、仮も仮の拠点である事が明白であるが。
『…………、隊長』
『ああ』
 基地の中心に円筒形の艶やかな施設。否、施設と呼ぶべきかもわからぬそれは壁面に基地修復の際に現れた緑の光が走り、それを取り囲む無人ロボットたち。
 それらは砲台を構えていた時とは違い、それぞれが武装している。
『…………』
 無言で狙撃砲を構えたレンジャー部隊へ、無人ロボットたちが一斉に振り返った。
 背中を冷たい汗が伝う中、円筒の壁面が展開する。段ボール紙でも開くような薄く脆い壁面に守られていたのは一本の支柱と、それに繋がれまるで胎児のように丸くなった人型兵器の姿。
 逆さに吊るされたそれの頭部に走る二本のラインには、発光体がぐるぐると回っている。
 それが、レンジャー部隊を捉えて動きを止めた。
『悪い、猟兵。ちょっと俺らじゃどうしようもなさそうだ』
 助けてくれ。
 恥も外聞もなく、素直に救援要請を行うレンジャー部隊。彼らの正面で、敵は音もなく降り立ち、彼らへ冷たい瞳を向けていた。


・ボス戦です。付近のヴィエルマ領施設よりキャバリアやスーパーロボットのレンタルが可能ですが、前章参加者はレンタルした兵器を引き続き使用します。降りる事も可能です。
・前回戦闘で登場したダンテアリオン兵士は全て基地の外で拘束され、ヴィエルマ領の人々が回収に向かっているので気にする必要はありません。
・敵基地内での戦闘となりますが、各種格納庫の乱立する地形の為、上手く活用すれば有利に戦いを進められるかも知れません。
・アサガシアのキャバリア、レンジャー部隊は三機基地内に侵入済みです。戦闘開幕と同時に後退しますが敵の追撃を受けるでしょう。無人ロボット程度なら蹴散らし地形を利用して隠れるので彼らの被害を考える必要はありません。
・レンジャー部隊はそのまま基地内に留まり猟兵の援護を行います。彼らに命令を出す事も可能ですが、オブリビオンマシンと直接戦闘した場合、まず間違いなく破壊されるので注意して下さい。戦力差が激しい為、防衛手段がない場合は命を落とす可能性もあります。
・敵前線基地の施設、兵装は修復されているものの砲撃手はいないので目の前の敵に集中して戦闘を行えます。また、キャバリアやスーパーロボットに搭乗している猟兵、またはレンジャー部隊は基地の兵装を使用可能です。
・『連装型安定性ハイドロゲン起爆弾発射砲台』は着弾すると一定時間後に起爆する為、範囲に巻き込まれないようにしましょう。
・『鉄鎖錨射出弩グラツニカル』は凄まじい威力を誇りますが弓なりの軌道で弾速も遅いため、動かれるとまず当たりません。接近戦を挑むなど敵機の足止めが必要です。
・オブリビオンマシン背面にはグリモア猟兵の示した翼状のエネルギー受給装置がありますが、SPD対応のユーベルコードを使用されると攻撃の機会が大幅に減少します。SPD対応UCを使用しない事で戦闘を有利に運びましょう。あえて使用する事で、最大性能を発揮したオブリビオンマシンと戦うのも面白いかも知れません。
・オブリビオンマシンに取り込まれたランデルフ少尉は自我まで浸食され、別の記憶が再生され始めています。彼女の過去を知る者は猟兵の中にはいませんが、アメちゃん小隊の名を使ったり、自己否定に走る彼女の心に訴えればその束縛から解放されるかも知れません。
・最後の戦闘となります。全ての問題をクリアーして、輸送列車でご飯を食べて祝杯をあげましょう!
シル・ウィンディア
レンジャーさん達、無理しちゃだめだからっ!

空中機動(残像付き)での空中戦を仕掛けていくよ
メインはランチャーとツインキャノン
ホーミングビームは牽制として使っていくよ

飛び回って、味方の援護だけど…
オブリビオンマシンに届かないのならば

みんな、ごめん、時間を稼いでもらっていい?

言いつつ、回避運動を中心で動き回るよ
詠唱は、じっくり、みんなを信じて…
多重詠唱で術式を重ねて…
魔力溜めで限界突破しての魔力をチャージ

チャージ開始したら、オブリビオンマシンを照準に合わせて…

全力魔法での《指定UC》
ランチャーを両手で構えて…
銃身が焼け落ちるまで撃ち抜くよっ!

わたしが撃つのは、人を惑わすオブリビオンの怨念だけだっ!


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

ふー、美味しかったー
『連装型安定性ハイドロゲン起爆弾発射砲台』は刺激的だったし『鉄鎖錨射出弩グラツニカル』は食べ応えがあったのー
さて、後はランデルフさんをオブリビオンマシンから引きずり出したら終わりなのねー?
うーん、敵は数の利を活かす戦いが得意みたいだし、アリスはオブリビオンマシンの方に行くより兵装ロボットに対処した方が良さそうねー
妹達を呼び集めて【団体行動】で隊列を組んだら【集団戦術】を駆使した突撃で兵装ロボット達を押し込むのよー
アリスのパワーは36000馬力(概算値)ー!
敵を一か所にまとめたらハイドロゲンやグラツニカルで一気に吹き飛ばしてもらいましょー


鳴上・冬季
「基地内への侵入戦に移行した以上、見せ餌は不要でしょう?あちらのフォローはやっておきます」

「生きてますか?貴方達に死なれると色々困りそうですから。死なない程度に、無人ロボットを引き付けてくれればいいですよ」
「本体は他の猟兵が叩くでしょう。私達はこの辺りで嫌がらせに徹しましょう…出でよ、黄巾力士火行軍!」
人型サイズの黄巾力士と飛行で侵入
ボイット隊と合流したら火行の黄巾力士五行軍召喚

「この要塞も黄巾力士も互いに龍脈から力を吸い上げる仕様ですから、充分敵への嫌がらせになります。多少敵が優勢でも火剋金、何とかなるでしょう。ところで隊長さん達の機体の耐火性能は大丈夫ですか?」
戦闘中に築陣させ時間稼ぐ


ノエル・カンナビス
んー。

ハニービーでも呼んで転がしておいたら、WFRS:tacticsは
無力化できるとは思いますが……どうも決め手に欠けますね。

最大の問題は召喚ロボが残っている状態でWFRS:chargeを
使われた場合です。そこに保険を掛けておきましょう。

当面は範囲攻撃/キャノンと貫通攻撃/なぎ払い/ライフルで
雑魚を減らしましょう。殲滅速度最優先で動きます。

相手がchargeを使ったら指定UCで対応、突撃します。

私のエイストラも『大型推進器と通常ジャンプジェットを
並列搭載した、地上での高速戦闘を得意とする機体』です。
有り余る出力を生かした武装は軽減されても充分な威力。
次世代技術の実験機を舐めてはいけませんよ。



●激突必至、オブリビオン!
 どうする?
 顔を巡らせるキャバリア三機。群青色のそれらの中で、正面に立つボイット・レンジャーはこちらを見つめるオブリビオンマシンから決して目を逸らそうとはしない。
『いいか、こういう時はビビッたら負けって相場が決まってるんだ』
『オーケイ、ボス』
『具体的には?』
 部下の言葉に隊長は頷き、こちらへの対応を決めかねているかのような敵機を
『猟兵に助けは求めたからな、俺の合図でケツまくって逃げるぞ』
『へいへいビビッてるぅー!』
『うっせバーカ!』
 思わず叫び返すボイットに、オブリビオンマシンを取り巻く無人ロボットたちが反応する。
 掲げたその手に集う緑の光がワイヤーフレームを形成し、次々と銃器が出現していく。
『…………、やっべ』
『特別手当てって出ます?』
『そういうのは死んでから言え。──迎撃用意!
 全速後退ーっ!!』
 狙撃用の武器を背面へマウントし、代わりと引き出したのは短機関銃を構え足裏の履帯をフル回転、号令通りの全速後退で鉛弾を乱射する。
 ロボットたちは先程のように粗雑な動きではなく、盾を構えたロボットを前線に、その隙間から銃口と顔を向けたロボットたちが一斉射撃を開始した。
『野郎、そんなヘタレ弾がこのドッグに通用するかよ!』
 こちらも左肩の盾を構えて左半身を前に、両腕と胴体、頭との露出を最小限に。それを見たオブリビオンマシンが手を振るえば、小銃を構えたロボット兵は引っ込み、続いて現れるのはバズーカを担いだ集団だ。
『……あー……、ごめんそういうつもりじゃなかったんだホラ言うだろ? 可愛い相手程いじめたくなるってアレさ』
 さすがにあれは盾では耐えられないと狼狽える部下の言い訳がましい戯言は無視して、盾裏に搭載されたロケット弾を足下に撃ち込み爆炎を生ずるボイット。
『よしきた散開!』
『イィヤホーゥ!』
 即座に方向を切り替え、各施設の裏へと速力を上げた各機の間を炸裂弾が通り抜けた。
 被弾なくそれぞれ身を隠す事に成功したレンジャー部隊。敵軍は近づいてくるかと警戒する彼らの耳に、別方向からの駆動音。
 おでましか。
 笑うボイットの頭上を抜けて、青空を引き連れるかのようなキャバリアの姿。
『レンジャーさんたち、無理しちゃだめだからっ!』
『絶対にしないから安心してくれ』
 もはや見知った仲だと、シル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)の言葉に機兵の片腕を上げて返事をする。その影を地上から追いかけるようにぴょんぴょこ跳ねているのはアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)。
「ギチギチ、ギチチッ」
(ふー、美味しかったー)
 鋏角をわしゃわしゃと動かしながら満足気な彼女の呟き。そんなアリスはふと何かに気づいたようで空を行くブルー・リーゼではなく、乱立する施設に向けられた。
 小首を傾げながら施設の壁を這い回り、その爪先でつんつんと突く。中から僅かに響く機械音に気づいた様子で入り口を探せば、発見と同時にばっかりと開く。
 円筒状のボディから頭頂部が僅かに滑動し、アイカメラが覗く。オブリビオンマシンの無人ロボットだ。
 頭上のアリスに気づかず踏み出すロボットに対し、音が響くと共に頭部に着弾、破損して火を噴き上げる。
『まるで警戒心がねぇな』
 進み出るロボットを次々とパジョンカで撃ち抜いて、ビッグタイガー・スタンディングモードは先の戦車型から人型として駆動。チェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)はダンテアリオン兵士たちの搭乗するシャドウブレイダー弐型と違い手応えの無さに笑みを見せる。
『……んー……』
 戦火の広がる基地の様子を防壁上から見つめていたのはノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)と黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。お互いキャバリアであるエイストラ、エクアトゥールに搭乗して基地内と敵戦力を確認している。
 各施設からもロボット兵が無造作に展開しているが、オブリビオンマシンを囲うロボット兵だけはしっかりとした連携を見せた。数に合わせて各機の操作が億劫になると言うよりも、必要がないからそちらにリソースを割いていないのだろう。
 破壊されて行動不能となっても、復元されて再起動していく無人ロボットたち。彼らが全て出揃えば、改めて隊列を組むはずだ。
『やはり敵を相手にするなら、この基地の兵装も利用すべきでしょうか』
「確かに、それも手段のひとつですね」
 摩那の言葉に答えたのは、先程まで山の如し巨体さを見せていた黄巾力士を自身と同程度の大きさにまで縮小した鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)。
 板の上に乗るように、飛行するそれの背に立つ冬季は摩那の視線に気づいたのか笑みを見せた。
「基地内への侵入戦に移行した以上、見せ餌は不要でしょう? あちらのフォローはやっておきます」
 あちら、というのはレンジャー部隊だ。
 摩那は彼の言葉にふむと頷き、再び基地を観察する。
『彼らの力、アテにした方が良さそうですね』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

チェスカー・アーマライト
アリス・ラーヴァ(f24787)と

敵の物資を奪うのはいつものこった
まさにバイキング(海賊行為/食べ放題)って奴だな

格納庫から材料を頂戴したら
人参スティック咥えて作業開始
ヘイ、アリス
"お手伝い"を頼めるか?

スタンディングモードで交戦
UCで作成した弾はパジョンカで使用
当たれば弾けて
内部に仕込んだアリスの糸が敵を絡め取る特殊弾だぜ
オブリビオンマシンを壁に固定してやりたいが
まあ関節周辺に当たりゃ御の字だ
コイツと電ノコの制圧射撃と
挑発するよな台詞で
敵の動きに制限かけたい所だ

人の心配してる場合かとは言ったが
テメーが心配かけてりゃ尚悪いだろーが
仮にも一丁前のダンテリ兵の有様がそれか
甘ったれてんじゃねーぞ!


久遠寺・遥翔
ロランと行動
イグニシオンに【騎乗】
UCを使う
本来は自身を飛行させる黄金の焔を機体に纏わせ
基地内を超高速で飛び回りながら【地形の利用】であらゆる壁を踏み台に
高度は上げ過ぎずワイヤーも駆使した空間戦闘を繰り広げつつ
敵ロボット軍団全てに焔をばらまく
焔の威力は低いが、そうして弱らせたところを
迦具土による【範囲攻撃】【斬撃波】で一網打尽にして
敵の数の有利を潰すぜ
当然敵の攻撃は【第六感】で【見切り】
【残像】を残しつつ避ける

そうやって派手に立ち回りロランの仕込みから意識をそらす
アレが発動すれば勝ちだ

当然パイロットは助ける
事情は知らんが助けてほしいならそう言っていいんだ君は
君の前にいるのは正義の味方なんだぜ?


ロラン・ヒュッテンブレナー
遥翔さん(f01190)、火力よりも、復元力がすごいの
気を付けていこ?
奥の手があるから、ちょっと引き付けててくれる?

高速飛行形態を解除 脚部は収納したままホバー【推力移動】
ソナー(【聞き耳】)とスキャニング(【暗視】【索敵】)で戦場の【除法収集】なの
種はもう、撒いてあるの(前章で自分が魔術で攻撃した箇所をすべて【追跡】【地形の利用】)

アルターギアの本当の力を、見せてあげる【封印を解く】【高速詠唱】【全力魔術】
ぼくにはその機体を祓う事しかできないけど
きっと助けるの

要塞全体を【範囲攻撃】の雷で【浄化】するの
発動中にも【多重詠唱】して【乱れ撃つ】よ
アルターギアがあれば、いくらでもいくよ【継戦能力】


黒木・摩那
ハイドロゲンもグラツニカルもご自由にお使いください状態と。
確かに使い勝手は良くない兵器ですが、威力は魅力です。
特に数が多い強力な敵を相手にするときには。

有効活用してみましょう。
要は当たるところに敵を放り込めばよいのです。

射点測定ドローン『マリオネット』。
弾道計算とタイミングは『ガリレオ』にお任せして。

ヨーヨー『エクリプス』で戦います。
ヨーヨーをキャバリアサイズに変形します。
さらにUC【獅子剛力】を発動。ヨーヨーを絡めて次々に敵機を爆心地へ放り込みます。
他にも肩シールドで【シールドバッシュ】したり、【敵を盾にする】して、押し込みます。
問題は射手ですが……ここぞレンジャー部隊の見せ場ですよ。


御園・桜花
「基地内なら殲禍炎剣の監視はありません。望みが相反する以上、全てを破壊し貴女を其処から引摺り出します」

UC使用
亜音速飛行しながら全身使い生身でRC用大太刀振り回す
敵の攻撃も飛行中の障害も第六感と見切りで躱す
ロボット弾き飛ばし敵の羽も切り飛ばす
コクピット形式なら敵機体の両腕も飛ばす
パイロットスーツなら桜鋼扇に持ち替え切り裂き本人引摺り出して軽く頭突き
「逃げたいなら、逃げても良いと思います。戦いたくないなら、戦わないのも在り方の1つでしょう。でも其れは、戦うよりもずっと険しい道です。少なくとも、其のオブリビオンマシンの中に座す事ではありません。貴女のやりたいことがやれるか、一緒に考え探しましょう」


才堂・紅葉
「ちょっと無理しないと駄目そうね」
楽な仕事をしたいが、そうもできる相手じゃなさそうだ
何はともあれあの受給装置を破壊する必要がある

SPDUCで真の姿の迦楼羅王で対峙する
タイマンなら最大性能を相手にするのは悪手だが、チーム戦なら戦術になりうる
熾烈な攻撃を各種格納庫の乱立する【地形を利用】し機動戦。後は【気合、野生の勘】だ
命中弾は【オーラ防御】による回し受けで【ジャストガード】で凌ごう

狙いはワンチャンで掌で接触し、敵機に「ハイペリアの紋章」を刻印すること
奈落門を開き、爆縮の重力【属性攻撃】で攻撃したい
本命は重力場の【結界術】で【捕縛】からの、グラツニカルの一撃だ

「あんたら死ぬ気でぶち当てなさい!!」


木霊・ウタ
心情
マシンを海へ還し
少尉を解放するぜ

戦闘
っとこいつは!
改の武装が解放されてるぜ
敵さんに呼応してるみたいだ
OKやってやろうぜ

Mハリケーンでロボを攻撃しつつ
エネルギー受給を妨害
一時的だけど

で天に掲げた左腕の装甲を展開
ブラストナックルの電磁パルスを調整し
宙に漂うエネルギーを改に吸収してく
同じヴィエルマ製だから相性いいぜ

胸部装甲が展開
吸収したエネルギーに獄炎を加え
太陽の如きビームを放ち(Cビーム
ロボット軍と翼を溶解させる
ブレイズ・ブラスター!

少尉
期待なんか糞喰らえ
今のままの自分でいいんだ
隠れる必要はないぜ

少佐からも呼び掛けてもらう

UC発動
紅蓮に包み
心奪われたままの未来を灰に

事後
鎮魂曲

お疲れさん>少尉


ルゥ・グレイス
借りたROにロングレンジライフルだけを積んでやってきたのは前線基地より西方6km。
「これでよし、と」
慣性制御や防壁貫通他、必要そうな魔術を刻めるだけ刻んだ弾丸をセット、狙撃形態へ。

傍受した猟兵やキャバリアの通信、散布した魔術式ナノマシンの情報から内部構造はほぼ理解できている。
基地の騒動を観測、「世の中っていろんな人がいるんだなあ」とか思いつつ銃身を調整。
後は機を待つのみ。ただ致命的な一瞬を作るために。

折を見てUCを起動、演算精度を上げ然るべきタイミングを推し量る。
そして一発。時速1000kmの弾丸が届くまで6秒、弾着確認の前に体が休眠状態に入る。

目が覚めたとき、事件は終わっていますように。



●脅威のゾンビロボット軍団!
 格納庫からの進軍は破壊されつつも、まるでゾンビのように這い回り。
 やがて復元され歩行を再開するロボットの姿にロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は行動を共にする久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー/『黒鋼』の騎士・f01190)へ声をかける。
「遥翔さん、火力よりも、復元力がすごいの。気を付けていこ?」
「ああ。それに外側の奴らは動きは鈍いけど、あのオブリビオンマシン周辺の奴らはちょっと動きが違うな」
 基地へ進行した遥翔はノエルらと同じ感想を抱いたようで、一先ずの攻撃目標は中央に位置するオブリビオンマシンだ。それぞれアルター・ギア、イグニシオンに搭乗しており、遥翔の機体は高速機動するロランの機体にマウントし、基地上空を旋回している。
 続々と集まって来た猟兵たち。その勇壮なる姿に気を大きくしたのか、レンジャー部隊の一機が施設の陰から身を乗り出した。
『おい、下手な動きはするなよ。こっちゃ適当に撃って適当に処理して適当に生還すりゃいいんだからよ』
『それが一番難しいんだよなー』
『確かにな』
 部下の言葉に小さく頷き、狙撃砲を改めて構えこちらも身を乗り出すが。
 そんな彼の隠れる壁の一部が展開し、ロボット兵が顔を覗かせる。
『こんちはー、ってマジ?』
 思わず片手を上げたボイットに対し、当然とブレードを振り上げたロボット兵。
 舌打ちしつつの前蹴りは咄嗟の一撃ながらもその体格、敵の胸部を潰して後方へと吹っ飛ばす。施設内の何体かを巻き込んで転倒させるが、中にはまだ数がいる。
『くっそ、おい気をつけろ、どこもかしこも敵入りだ!』
『マジぃ!?』
『隊長、そっちに合流する! 固まって行動しよう!』
 部下の進言にハンドサインで了承しつつ、迫る敵へ銃口を向け。
 直後に敵機の顔面を貫通したのは質量弾、空飛ぶ鉄拳、エレクトロマグネティック・リペルパンチ。
 翼を広げて本体たるマグネロボ捌式へと戻るそれを装着して、レイ・オブライト(steel・f25854)は先の戦闘と同じく何の障害もなくスムーズに撃ち出せる拳に兵器としての扱い易さを感じると同時に、あの使い難さに愛着があったのか、どことなく寂しげである。
『助けてもらって悪いが、ボサっとしてる場合じゃねえぞ!』
『大丈夫だ』
 まだまだと格納庫から歩み出るロボット兵の群れを前に、レイは事も無げに言い切った。
 そんなレイの言葉を証明するようにそれらへ体当たりをかましたのは彼らよりもずっと小さな、そう、先程人型のサイズにまで縮小した黄巾力士である。
 上空から炎の車輪と共に、す、と降下後に制止して冬季はボイットへ振り返る。
「生きてますか?」
『お、おう、お陰様で』
「それは良かった。貴方たちに死なれると色々困りそうですから。死なない程度に、無人ロボットを引き付けてくれればいいですよ」
 元からそのつもりだ、などと憎まれ口を叩く余裕はない。
 笑みを見せた冬季へこちらも言葉を返しつつ、履帯を回して後退、残る二機と合流しさらに後退する。全ての基地施設に無人ロボットが格納されているとは思えないが、それでもかなりの数がこの基地内に配置されているはずだ。
「本体は他の猟兵が叩くでしょうから、私たちはこの辺りで嫌がらせに徹しましょう。
 出でよ、黄巾力士火行軍!」
 始動したユーベルコードは【黄巾力士・五行軍】。五行の木・火・土・金・水のそれぞれを司る黄巾力士を召喚するもの。普段は金行を主とする黄巾力士、ただそれでは面白くないと予備の素材でそれぞれの黄巾力士軍団を作ったとは冬季の談だ。
 召喚されたのは彼の言葉通り火を司る黄巾力士。これらも冬季と行動する黄巾力士と同じく人間サイズ、小さいながらも大量に発生した数の利を活かし、一気に押し返して行く。
 数も全てを攻撃に回すのではなく、レンジャー部隊付近まで後退させた者には基地施設を利用した築陣を行わせる。
『…………。まあ、いい。やるべき事に違いはないな』
 レイは一人呟いて、迫るロボット兵の群れを前に雷光の生じる両拳を打ち合わせた。
『戦場が動き始めましたね』
 その様子を見ていた摩那は一言呟き、マリオネットを空へと飛ばす。ステルス性が高く発見され辛い事もあり、無人兵器を相手にその効果は大きいだろう。
(射点測定、弾道計算とタイミングはガリレオにお任せして、と)
 基地の地形情報、それらを取り囲む防壁の兵装をマッピングしていく。
 その隣ではやはりノエルが悩まし気に小さく唸る。
(【ハニービー】でも呼んで転がしておいたら、敵の数を活かした戦術は無力化できるとは思いますが。
 ……どうも決め手に欠けますね……)
 ハニービーとは小型の戦闘用武装ロケット機、と言えば聞こえが良いが、要はマイクロミサイルに展張翼を装着した無人機だ。レーザー機銃も懸下しているのでそれなりの戦闘能力を持つが、その継戦能力は推して知るべしである。
『最大の問題は敵ロボット兵が残っている状態で、例のオブリビオンマシンが戦闘モードへ移行した時、ですね。そこに保険を掛けておきましょう』
 防壁から基地内へと飛び降りて、目指すはオブリビオンマシンを囲う敵集団。
『当面は雑魚の数減らしを優先します』
『了解しました。
 基地兵装のハイドロゲンもグラツニカルも、それぞれご自由にお使いください状態ですから、そちらを有効活用してみますよ』
 兵器の使い勝手が良いとは思えない摩那であるが、ノエルと同じく対多を相手にすると想定するならば、こちらの消耗もなく利用できる超威力は魅力と言えよう。
 そんな彼女たちの会話を受信したアリスは、たらふく食べたそれらの味を思い出して涎をすする。
「ギイィ、ギギギッ。ガチガチガチ!」
(連装型安定性ハイドロゲン起爆弾発射砲台は刺激的だったし、鉄鎖錨射出弩グラツニカルは食べ応えがあったのー)
 そんな彼女に、「それは良かった」と思わず零すチェスカー。格納庫のひとつのロボットらは鎮圧し、復元されるとは言え一先ずの落ち着きを見せている。
『敵の物資を奪うのはいつものこった、まさにバイキングって奴だな』
 昔由来の海賊行為と食べ放題のバイキングとを合わせてウィンクするが、アリスは気づいているのかいないのか。チェスカーとしても時間がない以上、アリスの反応を待たずに格納庫へと潜り込んでいる。
 そこには様々な武器や物資が保管されており、これらもオブリビオンマシンが出現させたのかと舌を巻く。
(ま、だからこそのバイキングだ)
 目ぼしい材料を確認しつつ、操縦席で錆びた缶のシガーケースを開く。だがそこにあるのは煙草ではなく、容器と違い鮮やかなオレンジを見せる人参スティック。
 それを口に咥えパジョンカで行動を再開するロボット兵を撃ち抜いて、未だ格納庫の壁面で幸せに浸るアリスへ声をかけた。
『ヘイ、アリス。お手伝い、頼めるか?』
「ギチチッ?」

 敵前線基地より西方に六キロメートル。
 線路脇にヴィエルマ領から借りた量産型キャバリア、モノクラーの座す傍らに蹲る少年はルゥ・グレイス(RuG0049_1D/1S・f30247)。
「これでよし、と」
 立ち上がり手を叩けばその足元に、魔術による術式が刻み込まれた弾丸があった。生身用の代物ではない、キャバリア用の巨大な代物だ。慣性制御や防壁貫通の他、必要になり得る力を注がれた弾丸、一撃の牙。
 ルゥは特殊繊維でできた白衣、【ドクターコート】をはためかせするりと操縦席に登る。機動したモノクラーはスマートな体格で接近戦に向くような風貌ではなく、性能もその通りだろう。
 だがルゥとて接近戦を挑むつもりがないのは先の弾丸を見れば一目瞭然だ。術式をこれでもかと刻みこんだ弾丸を拾い上げると、左腕の装甲が展開し内部に挿入する。
 背負った折り畳み式ロングレンジライフルに左腕を連結、人型であったモノクラーは小さく体を折り畳むと、まるで四足の獣のように地面に這う。
 射軸の安定を優先した狙撃形態へと移行したキャバリアは、頭部前面が展開しその名の由来となったであろう巨大なアイカメラが露出する。
 準備前に大気中に散布した魔術式ナノマシン、そして傍受した猟兵たちの通信内容から基地の内部構造は把握しているようだ。その壁が薄く、どの射角が邪魔になるのか。
 そして、最たる敵の位置は隠しきれない熱源反応が示している。
 狙撃用カメラのレンズを絞り、倍率を上げて基地の細部の確認、ピントを合わせて映像を鮮明化しながらもルゥは、「それにしても」と傍受内容を思い起こす。
(世の中っていろんな人がいるんだなあ)
 オブリビオンマシンを前にしても緊張感があるのかないのか、猟兵だけでなくレンジャー部隊と呼ばれる現地軍人すらもどことなく緊迫感のない会話をその一言で処理しつつ、折り畳まれた銃身を展開した。
 バイポッドを広げて接地するキャバリアを遠目に、才堂・紅葉(お嬢・f08859)は新たな助っ人かと様子を見守っていた。
 基地内での動きは表れているが、まだ睨み合いに近い様子見だ。破壊しても修復されていく敵の情報は共有されている為、紅葉も無限補給なる特殊な敵陣を苦々しく感じていた為、味方が増えるのは大歓迎だ。
『お嬢、こちらが武器でさあ』
『ありがとうございま――、貴方がたにお嬢と呼ばれるいわれはありませんよ?』
 何となく雰囲気で、そう言って頭を掻くヴィエルマの整備士が運んできたキャバリア用の大太刀を受け取る。運搬用のトレーラーに乗せられていたが、それでも重さに車体は沈み、全長は収まる様子もない。
 形状こそ日本刀に似ているものの、峰は厚くその重さでもって装甲を潰し斬るような武器に見える。だが逆に言えばその頑強さ、数を相手にする今回の戦闘向きと呼べるかも知れない。
「それがキャバリア用の剣、ですか」
 改めてお礼を述べた紅葉、彼女の載るキャバリア・迦楼羅王へ声をかけたのは御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。紅葉や整備班へお願いし、刀らしき武器を探してもらい得たのがこの大太刀という訳だ。
『相当な代物ですから、気を付けてくださいね』
「ええ、勿論です。よいっ、しょっと!」
 ずしり。
 渡された巨大な刀を両手で、まるで倒れ来る壁を支えるかのように受け止めた桜花。そう、彼女はキャバリアに乗っていない、生身でそれを受け止めているのだ。
 トレーラーを運転していたヴィエルマの整備班は顎が床に落ちそうな程に大口を開けて硬直しているが、まあそういうベタな反応の相手をしている暇などないのだ。
「これだけの武器があれば、壊し尽くす事に疑問はありませんね」
『……まあ、確かに……ちょっと無理しないと駄目そうですしね』
 紅葉は基本的に楽な仕事をし、報酬を得るのが一番良い。少ない労力で得られる大金ほどいい、それが稼ぎというものだ。だが、今回の敵はそうもできる相手じゃなさそうだと、彼女の勘が告げている。
 だからこそ、勝率を上げるファクターとして。
「ありがとう、助かったぜ」
 続いて現れた整備班の車から降りたのは木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)。陽気に運転手へ手を振り、自ら待機させていたヴィエルマ改へと乗り込む。
『どうでしたか?』
『ああ、問題ないさ。大丈夫だ』
「それでは、先を急ぎましょうか」
 機体を起動させればメインモニター越し、訝しげな紅葉の言葉に親指を立ててウインクするウタ。用事が済めば当然ながら用は無しと、敵前線基地を指す桜花。
 線路の先では時折と上がる火の手が映る。
『行こう。とっととこのバカげた戦いを終わらせるんだ』
 怒りの滲むウタの言葉が荒野の砂塵に溶け込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
※マグネ

無人機は覇気で殴り倒し足場に、屑鉄の散弾に等精々リユース
無限湧きに付き合える程この世界も穏やかじゃあないらしいんでな
UC
ランデルフへ格闘を当てにいくが、特に序盤はあちら優勢だろう。雷で無人機を減らせりゃどちらに転んでもよしだ
また、戦場を遮る雷壁としレンジャー隊への攻撃を消し飛ばす
限界突破で中破以上でも声掛けを戦闘と並行

期待? 失望?
理由を誰かに預けるなよ
その程度ならこの機に戦士なんざやめちまえ
だがテメェで望んだ戦場なら、見失ってる場合じゃあねえぞ

始まりの日を忘れるな

オレは。弱かろうと臆病だろうと、志のある奴を不恰好とは思わん
もし本当に指差す奴がいるならぶん殴ってやる。なんで『思い出せ』



●流転するは其に在らず。
 全てが憎い、全てが疎ましい。自分を包む全ての存在に嫌悪する。
 それでもやはり、最も唾棄すべき者は。
(……私は……何をしているんだ……私は……)
 呆けたように流れる時間、脳裏を掠めるのは次々と破壊されていく仲間の映像。確かにそれは仲間であるはずなのに、その顔も、声も、名前すらも思い浮かばない。
 何をしても手が届かず、何をしても守れず、そして、何をしても倒せなかった。全てを託されたはずなのに。
(誰に? 何を託された?)
 分からない。思い出せない。
 否、思い出すべき記憶が無い。にもかかわらずこの胸を締め付ける想いは何だ。身の裂けるような慟哭は。
(……私は生きてる……どうして、生かされているんだ……)
 何の為に。そんな事は決まっているはずなのに。
 空を割く飛行音、鋼の唸りと共に甲高い金属音が耳に木霊する。戦いだ、戦の音だ。
 ここは戦場なのだ。ならば戦わないといけないではないか。何も出来ない自分が。
(……お前たちのせいだ……)
 瞳に灯る怒りは、自らを燃やすようなその炎は空を行くキャバリアへと向けられた。
『お前たちのせいで私はっ、また戦わなきゃいけなくなるんだーっ!!』
 ランデルフ少尉の咆哮に反応し、オブリビオンマシンを取り囲むロボットだけでなく、基地内の全てのロボットの眼に意志の光が映る。彼女と同じく燃え滾る憎悪を。
『来た!』
 連携しつつもどこか事務的だった迎撃行動に、感情を交えた苛烈さが表れた事を悟るシル。
 空を行くブルー・リーゼに盾の隙間から短機関銃を連射していた無人ロボットたちは、盾を投げ捨て鋼の刃を携えて飛翔する。
『やらせるもんか!』
 機体を回転、バレルロールを描くように敵近接攻撃をかわし、振り返る事もなくその身に纏った七色のホーミングビームで追撃する。
 全身から放たれた光が急角度で歪曲し空飛ぶ無人ロボットを撃墜していく。防御よりも攻撃を優先する敵機は墜落それらに巻き込まれて大破するが、それらも全て復元されるものだ。
 だからこそ。
 右手のランチャー・ブラースク改を連射モードへ切替え、背面二門のビームキャノン・テンペスタの伸身、全て地上へ向けて砲撃する。
 火戦を敵地上部隊へ集中、その壁を割き、オブリビオンマシンへの道を切り開く。
『何だお前はーっ!?』
『ランデルフ少尉の声? くっ』
 両手両肩両足と、緑の光が集積し生成したのはミサイルユニット。全身から白煙を巻き上げて山と発射する誘導弾の群れに顔を歪めたシルは空の精霊と共に舞う。
 大空に焼き付く残像を貫いて在らぬ方向へと消え行くミサイル、その全てをかわしてシルは後方を振り返る。続くのはアルター・ギアとそれに乗るイグニシオン、そして地上を走るエイストラだ。
 オブリビオンマシンへの道は開いたまま、敵の復元も間に合ってはいない。
『みんな、お願い!』
『任せておけ! ロラン!』
『はいなのっ』
 ロランは機体を傾けてスターティングブロックの役割となり、思い切り蹴りつけて地上へ発進する遥翔。赤い光の翼を広げて加速するイグニシオンは、携えた迦具土を一閃し復元を始めるロボット兵を斬り捌く。
 その頭上を飛び越えてフィギュアスケーターの如き回転を見せたエイストラが、体を開き空にて回転を止め。
『そこです』
 ノエルの放つプラズマライフルの光も横薙ぎに、イグニシオンと同じく復元しかけたロボット兵たちを薙ぎ払った。空のエイストラ、地上のイグニシオン、その間を駆けるアルター・ギア。
『!』
 高速機動形態を解除したアルター・ギアは降下し様の形成する右掌の魔法陣が赤い光を灯す。
『高エネルギー反応!?』
 魔力をその他エネルギーとして置換し感知したのはオブリビオンマシン故か、ワイヤーフレーム・リバイバル・システムで創造したミサイルユニットを排除、同時に両手に生み出した刃で斬りかかる。
 放たれた光が刃に触れて炸裂、爆炎と破片を引き裂いて現れたオブリビオンマシンが振り被れば、その手に再び現れた剣。
『させない!』
 狙い撃つブルー・リーゼのランチャーがその右手を穿つ。
『た、助かったの!』
『……けど……!』
『お前たちはっ』
 即座に復元される右手に、ランデルフは接近するイグニシオン、エイストラへと視線を変え。
 その眼前へと壁として生成されるロボット兵。各自盾と武器を構えるが、真向から盾ごと真っ二つに両断するイグニシオンと、その壁を貫通するプラズマライフルの光弾。
『そんなに私を苦しめたいのか!』
『助けてほしいならそう言っていいんだ、君は』
 両断したロボットを蹴り倒し、更に接近する遥翔の言葉。
『君の前にいるのは正義の味方なんだぜ?』
『……正義、正義だと……? 貴様らが我が小隊を粉砕したんだろうが!』
 激昂する少尉の言葉に眉を潜める遥翔。当然ながら彼ら猟兵とランデルフは初対面のはず。それであるのにここまでの憎悪を燃やしているのはやはり、オブリビオンマシンによる影響か。
『事情は知らんが、いや。その記憶、本物なのか?』
『何っ、……何だと……?』
 遥翔の言葉に怯む隙を逃さず、腕部に内蔵された【BX-Aビームブレイド】を使用、背後から斬りかかる。
 が、その姿は周囲の無人ロボットにより捉えられ、情報を共有するオブリビオンマシンは回避しビームブレイドは装甲表面を削るのみ。
『今一歩で!』
『そんなものでこのエルフィの演算システムを破れるものか!』
 例えパイロットが役立たずでも。
『マシンの性能がそれを覆せば、貴様らなど! 我が小隊の生きた証を、ここに立てる!』
『生きた証って……通信を傍受した内容では、彼らは死んでないはずじゃ……』
 思わず目を丸くするシル。上官であるジョナサン・ラッドの言葉を借りれば、アメちゃん小隊なる劣悪なネーミングの部隊が腕の良い彼女を送り出したはず、ならば彼らが死亡している事もなかろう。
 遥翔の懸念通り、何かしら偽の記憶が植え付けられているのは確実だ。
 あるいは、オブリビオンマシンの記憶そのものが。
『ちっ!』
 斬り込むロボット兵に追撃と、各種分担して攻め立てる敵機に舌打ちを残して後退するノエル。遥翔もそれに続き、リカバーの速いオブリビオンマシンに苦々しい表情を見せた。
 エルフィという名の演算システム、言われてみればこれだけの数の兵器を各座標に出現、復元、そして命令起動させているのだ。相当な情報処理能力を持つと見ていいだろう。
『あの目の数がある内は、死角がないと考えて良さそう、なの。
 …………、遥翔さん、奥の手があるから、ちょっと引き付けててくれる?』
『ああ、分かってる。アレを使うんだな』
 着地したアルター・ギア、ロランの言葉に遥翔は答えて迦具土を構える。再びロボットの壁に阻まれたオブリビオンマシンへの道だが、遥翔の目に諦めは無い。
 時間を稼ぎ、敵を引き付け、オブリビオンマシンを破壊しパイロットも救う。
『正義の味方だからな』
『私たちも手伝うよ!』
『雑魚減らしも任せてください』
 遥翔の言葉に応えてシル、ノエルも武器を構えた。力強い仲間の言葉に、脚部を機体内部に格納、ホバー移動で後方へと下がるロラン。
 周辺敵機もまだ残っているものの、同じく後方には猟兵やレンジャー部隊がいるのだから問題はないだろう。気を付けるべきはやはりこのオブリビオンマシン。
『……不愉快な連中だ……! 私を異常者扱いする、気に食わない!』
『なーんか、性格もどんどん変わってる気がしてきたぜ』
 好戦的な声色に遥翔は思わず苦笑した。

「ギッチッチ、ギチチッ!」
(はーい、どいてどいてー)
 格納庫からもたもたと出てくるロボット兵を、手伝ってやると言わんばかりに外へ運び出すアリスとその妹たち。
 手っ取り早く外へぽいぽいと放り投げれば、待機していたレンジャー部隊の攻撃が敵機に突き刺さる。だがどれもこれも時間稼ぎに過ぎない。
『これ、このままやってて弾足りるか?』
『もう五割切ってるから無理でしょ』
『おいおいおーい、分かってるんなら俺の優秀な部下は打開策出してくれるんだろうなー?』
『やだなーもー、それ隊長の役目じゃないっすかー』
 責任の押し付け合いだなんて、大人ってやーねー。
 軽口を叩き合いながらも出来る事はやる、とばかりの彼らの態度は評価して然るべきではあるが。格納庫内のロボットたちをすっかり外へ放り出したアリスらは、同じく格納庫内に忍ぶビッグタイガーへ向けられた。
「ギィイエエエエエッ! ガチッ、ガチッ!」
(チェスカーさーん、お掃除終わったのー)
(他にお手伝いすることはー?)
(まだまだ頑張りますっ)
 珍しくお腹一杯な事もあってからやる気に満ち溢れたアリスらにチェスカーはにやりと笑う。
 用意していた弾丸の芯をアリスらの前に並べる。
(おやつかしらー?)
(美味しそうね~)
『食べるんじゃないって。そいつにアンタらの糸を巻き付けて欲しいんだ。それも簡単に裂けて飛び散る強度で、出来ればその後に固くなるような感じにできねえかな?』
「ギチチッ? ギギギギギ」
(強度と粘度を調整するって事かしらー)
 チェスカーの言葉に小首を傾げるアリス。彼女たちの糸は蜘蛛のそれに近く、体内の成分を調整して射出する事で粘度や強度を変化させる。噴射させる際の力や大気との反応もある為、出来ない事はないとアリスは頷いた。
 出来るだけ液状に近い状態でチェスカーの用意した弾芯に付着させておけば、飛び散り拡散した後に糸を固くする事が可能だ。
(凄いわねー)
(どういう仕組みなのー?)
『単純だよ、こいつを柔いカートリッジに入れて置けば発射後、着弾するか一定距離でカートリッジが割けて弾芯が露出するんだ。
 カートリッジが割ける仕組みってのも、熱された弾丸が開くような仕掛けになっているのさ』
(すごーい!)
 前肢を振り上げて驚きを表すアリスに、「節約が高じた趣味みてーなモンさ」と照れたように笑う。それでもユーベルコードの域まで極まった技術、【弾丸芸術(ダンガンゲージツ)】であればこその正確性だ。
『という事で、アリスたちにはアタシの用意した弾芯に糸を準備してカートリッジを被せ、外にいるこのビッグタイガーまで運んで欲しいワケだ』
「ギギギギッ!」
(りょーかーい!)
(でもこれ、アリスたちみんなでやるお仕事じゃなさそうねー?)
 敬礼するように前肢を上げたアリスに対し、妹たちは顔を見合わせている。僅かな間にチェスカーは大量のストックを用意してはいるものの、一気に組み立てた所で使い切るには時間がかかる。
 手持無沙汰なアリス個体が増えるのではないか、という事だ。もちろん一気に終わらせてしまってから別行動するのも作戦と言えようが、今は大量の敵を前にしているのである。
(いーとーまきまき)
(いーとーまきまき)
(ひーてひーて)
(とんとんとん♪)
 とりあえず数体がかりの流れ作業で糸、というよりは粘液に近いそれを弾芯に付着、カートリッジへの詰め込みを行う。
 アリスは不足はないか確認しつつ、次はこちらだとおやつ探しに周囲を見回し始めた妹たちへ声をかけた。
「ギィギ、ガチガチ!」
(お仕事ならまだあるわー、アリスについてきなさーい!)
(はーいっ)
 外へと駆けながら念話を飛ばす司令塔アリスの言葉に、妹でありつつも群体である彼女らはそれに続き外へと向かう。
「ギチギチッ、ガチガチガチガチ!」
(さあ、後はランデルフさんをオブリビオンマシンから引きずり出したら終わりよー。
 敵は数の利を活かす戦いが得意みたいだし、アリスたちはオブリビオンマシンの方に行くより無人ロボットの対処をするわよー)
(おーっ)
 並んで出発していくアリスたち。かさかさと目指すは冬季の命により壁となって押し寄せる敵機を止める黄巾力士軍団の元である。
「ギエエエエエッ! ギィイィイィ!」
(冬季さーん、お手伝いに来たわー)
「おや、援軍が現れましたね」
 地面から施設の壁からどこからと、わさわさやって来たアリス軍団。退屈そうに無人ロボットを押し返す様を見つめていた冬季は笑みを浮かべて歓迎する。
「これだけの数なら、築陣に数を割けそうですね」
「ギチチ、ギチギチ!」
(アリスもお手伝いしましょーか~?)
「いえいえ、その体躯でこちらを守って下されば十分ですよ」
 冬季の言葉に了解したとばかりのアリスは、黄巾力士軍の後方で妹たちを一列に並べる。ガチガチと打ち鳴らす鋏角の音に合わせて並ぶ彼女たちは、まるで点呼を受けるように端から順に前肢を上げ、ガチリと音をたてる。
 軍隊方式ならぬ群体方式である。
「ギィィイエエエエエェッ!! ギチギチギチギチ~♪」
(アリスのパワーは概算値三万六千馬力よー! みんな~【ぜんそくぜんしん】よ~♪)
(はーいっ!)
 頭部を下げて低く構え、敵ロボットへ向かって猛ダッシュ。
 黄巾力士たちもそれにタイミングを合わせて後方へ引き、押し合っていたロボットが体勢を崩した瞬間を見極めてその横をすり抜け、アリスたちの導線上から緊急避難。
 低く構えた彼女たちの怪力は不安定なロボットなど屁でもなく、ブルドーザーのように地面を削りながら敵機を弾き飛ばした。
「豪放磊落な突撃ですねぇ。レンジャー部隊の皆さんは間違っても見習ってはいけませんよ」
『いやまあ、時と場合によるけどさ。あの娘っ子たちはどんな教育と鍛錬してんの?』
 「行け―、そこよー」と前肢をぶんぶか振るう司令塔アリスの命令を受ける後ろ姿には、幼げな少女たちのフットボールプレイヤーもびっくりなタックルにボイットも投げやりである。これも猟兵の成せる業、と言えばそれまでだ。
 冬季は笑みを片手の本で隠しつつ、建設中の要塞を壁に装填するレンジャー部隊へ振り返った。
「この要塞も黄巾力士も、互いに龍脈から力を吸い上げる仕様ですから、半永久的動力を持つ者同士、充分敵への嫌がらせになります。多少敵が優勢でも火剋金、何とかなるでしょう」
 要は火属性の黄巾力士、故に鋼製無人ロボットなど熔解してしまえるから何とかできらあ、という事である。なるほどと馬鹿正直に頷く部下二人はさておき、博打のような条件で安心はできないぞと釘を刺す隊長。
 態度がデカいぞ隊長。
「まあまあ。ところで隊長さんたちの機体、耐火性能は大丈夫ですか?」
『盾を使えば早々とやられやしないさ。火だるまにもなれば簡単に関節が焼き切れて行動不能だけどな。
 …………、え。何そんな熱量発生するんです?』
 おいおいヤベーじゃんとばかりのレンジャー部隊。
『そこで皆さんにお願いがあります』
 意地の悪い笑みを浮かべて建築中の要塞に降り立つ黒い装甲、摩那のエクアトゥールだ。
 にわかに上昇を始めた気温に黄巾力士が原因かとおたついていたレンジャー部隊へ、この要塞をそのまま壁に、後方に設置されている新式、そしてグラツニカルの使用を提案。
『狙い易い箇所は幾つかピックアップしています。私たちでそちらへ敵を誘導するので、皆さんにはあの兵器を使って攻撃して欲しいんです』
『……豆鉄砲じゃすぐに復元されちまうし……、その案にはありがたく乗らせて貰うぜ』
 狙撃砲をもってして豆鉄砲と語らずにはいられない現状だ、範囲攻撃を行える武器の使用を中心とさせてもらえるのはありがたい。
『ピックアップしたデータを転送してくれ。各自狙い易い砲台をそれぞれ使いながら援護する。爆破範囲に巻き込まれないでくれよ?』
『巻き込まれるのは敵だけですよ』
 いい返事だと摩那の言葉を笑い、ボイットは部下を引き連れ後退、防壁上の砲台に向かう。
 彼らの移動を見送って摩那は自らも使用する謎なる金属作成されたで超頑丈物体、超可変ヨーヨー【エクリプス】をエクアトゥールに装着。このヨーヨーはヒーローズアースの産物なこともあってか使用者の意思で質量可変、拡縮自由と凄まじい性能を持つ。
 エクアトゥールで扱うに相応しいサイズへ巨大化させ、向かうは戦場、アリスらのタックルに足元を狙われ転倒する無人ロボットだ。
『要は当たるところに敵を放り込めばよいのです』
 足を崩されもはや的と化した敵機を前にして、エクアトゥールはエクリプスを機体周囲に旋回させた。
 確かにこれは良い的だ。
 彼女の心中を察したように嘯くレイ。彼の操る鋼の拳が貫き引き千切るような弧を描き、粉砕した無人機の装甲を後方へと弾く。
 まるで散弾となったそれを受けて動きを止めた敵機の群れに対し、行動不能と化したロボット兵を蹴り飛ばす。彼らも下で走り回るアリスの襲撃を受けて足を崩されており、そんな重量物を受けては立ったままでいられるはずもなくそのまま転倒。
『ここはもう十分だろう、オレは前に行かせて貰う』
『よろしくお願いしますね』
 元々は別方向のロボット兵と戦っていたレイとマグネロボ捌式であったが、アリスらの活躍によってか敵がこちらへ流れて来た為に合流したのだが。
 数で有利を取るはずが、今や数だけならこちらが優勢、ならば前に出ようというのは勿論の考えで、摩那もそれに賛同する。
 倒れた敵機を踏み台に、マグネロボの膂力で高く跳躍すれば両尾を展開、炎を噴射して前方の集団へと突撃。入れ替わるように基地内に足を踏み入れたのは桜花、紅葉、ウタの三名だった。
『思いの外、混戦していますね。と言うよりも数で負けていない、と言うべきでしょうか』
『アリスさん、冬季さんのお陰ですね』
 数の上では旗色も悪くなるかと考えていた紅葉にとっては嬉しい誤算だ。桜花も二人を労いつつ手を振ると、両名が手を振ってこちらに応える。
 何はともあれ、敵の攻勢を抑え込めているのならば機会はここだとウタは飛び去るマグネロボ捌式の背中を指で示した。
『幾らアリスたちがスタミナお化けで黄巾力士が回復しながら戦ってると言っても、相手はゾンビみたいなマシーンだ。傷が増えて致命傷を受ける前に機能を停止させなくちゃな!』
『そう、グリモア猟兵の言葉通りなら、何はともあれあの受給装置を破壊する必要があります』
 ウタの言葉に目を鋭く細めて紅葉は返した。キャバリア用の刀を担ぐ桜花も同意見のようで、これで前線に向かう猟兵は八名。数の上でオブリビオンを滅するには十分だ。
『後方はお任せ致します。我々はオブリビオンマシンを!』
「お任せ致します。…………、ああ、レンジャー部隊のみなさんは、基地兵装を利用する予定なので何かあれば彼らに一報を」
『了解です、と』
 冬季の言葉に紅葉は答え、迦楼羅王の各種制限装置を解除していく。
 正面からの激突だ。
 襟首から二股に流れる炎を燃やし、迦楼羅王のバイザーがぎらと輝いた。


●起動、地上高機動戦用外装・ヴィマナ!
 敵の壁を貫くに必要な矛とは何か。
 まず第一に考慮すべきは火力。壁も盾も無視しうる力。もうひとつは火力がなくとも突破する方法。それは知を活かした策であり、あるいは全てを置き去りにする速度だ。
 遥翔は操縦席から意識を正面の敵集団、そして殺気を放つオブリビオンマシン・ランデルフに固定したまま精神を研ぎ澄ます。男の身を黒き装甲が包み込み、光る眼は黄金で、その身をも同じ色の焔が包み込んだ。
 異形なる黒鋼の騎士、否、焔黒騎士フレアライザーへと変身した遥翔の焔は操縦席から溢れ出し、機体すらも包み込んで行く。
『フレアライザー・ヘヴン、イグニシオン、出る!』
 黄金を纏うイグニシオンは空を翔け、即座に反応した迎撃の弾丸へ弾かれたように直角方向へと回避する。イグニシオンのオーバーフレームであるフェンリルに搭載されたワイヤー・アンカー【プロミネンスチェイン】を利用した立体機動だ。
 格納庫壁面に『着地』すると同時にアンカーを外し、そのまま壁を蹴りつけてあらゆる角度、方向へと予測不可能な鋭角軌道の連続。
『天より降り注げ、浄化の焔ッ! 【天焔弾(コスモスフレア)】ッ!!』
 纏う焔はその身から溢れる力を体現するだけの代物ではない。ただの一機で包囲戦を行うが如き動きと共に次々と放たれる黄金が無人ロボットを燃焼させた。
 火力自体は攻撃を目的とする火炎放射器などと比べるまでもないが、関節を焼かれれば即行動不能となる。
『小癪な、その程度の小細工、目眩ましにも時間稼ぎにもならんぞ!』
『試してみます?』
 ランデルフの言葉に答えたノエルが向けるのは、エイストラの左肩に装備された大口径のビーム粒子砲、【BS-Sプラズマキャノン】。
 間髪入れずの一撃は砲身から冷却ガスを噴出し、蒸気を拡げるエイストラ。対してそれを盾で受け止めたロボット兵。だがその火力、抑えるに足りず。
 盾ごと熔解して動力系に直撃したロボット兵は爆散、プラズマキャノンのエネルギー反応と共に周囲のロボット兵ごと吹き飛ばしてしまう。
 だがその先にオブリビオンマシンはいない。
『――取った!』
『ダメ!』
 跳躍した敵機の両手に形成された巨大砲身。溢れるエネルギー反応に対し、狙撃モードへ切り替えたブラースク改が狙いを外さず砲身を貫いた。
 舌打ちと同時にランチャーを破棄、爆発にダメージを受けぬよう新たに形成した盾を構える。
『だが! お前たちの動きは全て見えている! 無駄な抵抗をするな、時間がかかるだけでこの無限の活動期間を持つエルフェを破壊する事は不可能だ!』
 爆光に視界を奪われつつも笑うランデルフ。エルフェと呼称するオブリビオンマシンに搭載された演算システム・エルフィさえ無事ならば問題ないと言うのだろう。
 そこへ背後から思い切り殴りつけられなければ。
『!?』
 それに気づいたランデルフが機体の身を捻るも間に合わず、否、捻ったお陰で背面ではなくその頭部で一撃を受け止められた。――マグネロボ捌式の右拳を。
『どうやら、見えていない事もあるようだな』
『――き、さまっ……!』
 即座に降下する自機を守るためにロボット兵が周囲に寄り添うが、そのどれもがイグニシオンにより黄金に染められ眩い光を放っている。アイカメラの視界を奪うには十分な程に。
 如何な演算システムと言えど、情報なくば計算など出来はしない。前方のロボット兵はアリスらにより封じられ、自身を守る者も目を潰されている。エルフェ本体の視界は三百六十度近くの情報を把握可能であるが、高速戦闘中ではどうしても偏りが発生する。
 そうなってしまっては普通のキャバリアと変わらない、死角が発生してしまうのだ。
『何を得意気になっている。私は女だてら戦争に身を費やして、荒くれ者を纏めたガン・スモーク小隊でもこの腕を認めさせたんだ。
 貴様らなんぞに、墜とせるタマじゃあないんだよ!』
「ガン・スモーク小隊? アメちゃん小隊とか言う名前だったのでは?」
 追いついた桜花が思わず目を丸くする。ジョナサンの話との食い違いに、遥翔は確信する。ただ偽の記憶を植え込まれたというだけではない、これはオブリビオンマシンどころか、オブリビオンマシンとなる前の搭乗者の記憶ではないかと。
 だが、それを一考にする余地はあっても今はまだ、同情する場面ではない。
「我は精霊、桜花精。呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん!」
 地上を行く桜花のキャバリア用大太刀による横一閃が、視界を奪われた無人ロボットを薙ぎ払う。頭部のカメラをぐるぐると回し周囲の確認を怠らないランデルフだが、幾ら反応して見せた所で防御そのものを貫く攻撃を前にしては無意味というもの。
 全身に包む桜吹雪が渦を巻き、【精霊覚醒・桜】により身体能力を大幅に強化した桜花。いつもの柔和な笑みと違いきりと結んだ口元に髪は風に逆立ち、戦に喚ばれた戦神の如く仁王立つ。
「雑兵を斬って捨て、貴方のその装いも斬り捨てます!」
 お覚悟を。
 迫る桜花と同時に横合いから現れたのは炎を首に巻く迦楼羅王。だがその姿、先程までと様相が違い装甲の各部位が展開、放熱するように赤き揺らぎが見える。
 何より赤く染まった胸部には、青く咲き誇る【ハイペリアの紋章】。
『ぶっ壊す!』
 紅葉の名を示すかの如く、赤く燃えるのはその毛髪と瞳をも。
 正面から二手に分かれて斬り込む桜花、紅葉を前に盾として現れたのは緑の光。高速で構成されるワイヤーフレームから出現するロボット兵を言葉通りに斬って捨て、桜花の攻撃の間に斬り飛ばされた敵機を弾丸の如く撃ち込むマグネロボ捌式。
 敵は正面二人だけではない、この場の猟兵全員なのだ。戦場として当然の攻め手にランデルフは目を見開く。
『やかましい!!』
 当然なればそれを切り抜けるも力技、周囲のロボット兵を持ち上げて盾とし、そのまま迦楼羅王へ蹴り付ける。
 勢いを乗せた膝が無人ロボットの腹を貫き、払いのけた先にエルフェは見えず。
『…………!』
 逃げたのではない。
 盾を使った僅かな時間の間にその身へ纏った外装が、エルフェを包み隠したのだ。構わず撃ち付けた拳が触れるのは、排除した外装甲一枚のみ。
 一枚剥がした所で復元するのは瞬きする間すらない。
『見せてやろう、猟兵ども。地上高機動戦用外装・ヴィマナを纏ったエルフェの力を!』
 横倒しにした四角錘を思わせる外観。だがその後部にはこれでもかと増設された大口径推進器に各部の補助推進器、追加マニピュレーターには接近戦用の兵装に加え、各所に射撃兵装が設けられた火薬庫の塊とでも言うべき姿。
『……趣味が合いそうにありませんね……』
『ふん、実用性の前にそんな言葉は無価値だ』
 思わず零したノエルの言葉を鼻で笑い、周囲を取り巻く無人ロボットを後方へと展開させる。盾であり、迎撃装置であった彼らは今、援護攻撃へと目的が切り替わったのだ。
 機体上部が僅かに開いて姿を見せたのはエルフェの頭部。二本のラインをなぞるように緑の輝きが回転し、全周囲を視認する。
『猟兵ども、この私が直々に罰を下してやる。貴様に嘗めさせられた辛酸の数々……その屈辱……!
 今こそ我らが怨みを思い知れッ!』
『ま、待ってよランデルフさん! あなた、自分が何を言っているか分かってるの? おかしいよ、自分の言葉が変だって気づかないの!?』
 思わず叫ぶシル。彼女らの知らぬ怨み辛みをぶつけられるだけではない、多か個かも分からず混同するような言葉を吐くランデルフの姿はとてもまともだと思えなかったのだ。
 だが彼女の言葉がランデルフに届く事はないだろう。
『先程から妙な事をっ、私の名はクロエ・レーテルバック! ガルメリッサ軍所属、ガン・スモークのクロエ中尉だ!』
『な、何だって!?』
 彼女の言葉にウタは耳を疑った。
 別人の名前と所属を発した彼女は、もはやランデルフではなく、ダンテアリオン所属の兵士ですらないと言うのだ。
 確信を得ていたとは言え、余りにも正気を疑う言葉に遥翔も押し黙る。だがすべき事は決まっている、決まっているのだ。
『ほ、本当に、ランデルフさんじゃないって言うの?』
『くどい! 我が誇りを疑う事は容認できん!』
 エルフェ・ヴィマナの背面から生じる爆発にも似た業火は後方に控えるロボット兵をも吹き飛ばし、人の身で耐えられるのかと疑心する速度で接近する。
 戸惑うシルは反応に遅れ、突貫する敵機に握られた刃が鈍く光り。
『させるかぁ!』
 敵機と同じく背負う焔を爆散させて飛翔したヴィエルマ改。ブルー・リーゼとエルフェ・ヴィマナの間に滑り込み、大焔摩天の光刃でもって受け止める。
『――ぐっ!』
 しかし勢いに押されて後方のブルー・リーゼごと弾き飛ばされてしまう。斬撃を当てたというよりも突進を食らわせたような敵機は勢いのまま地上を旋回、視認する周囲の猟兵に向けて全身に備えられたビーム粒子と言わず実弾と言わず、射撃兵装を乱射する。
 薙ぎ払うような一斉射撃。
『畜生!』
『す、すみません!』
 巨大化する刃を舗装されたコンクリートに突き立てて盾とするヴィエルマ改。ブルー・リーゼを守る壁となったウタに思わず頭を下げるが、無事だったら何よりだと笑って返すのみ。
 他機体は回避に、あるいは敵機をそのまま盾にやり過ごしているが熾烈な砲火と高速機動は厄介だとほぞを噛む。
 ヴィエルマ改はこういった機動戦に向く性能ではない。ただウタの力によって対応できるよう引き延ばされているに過ぎないのだ。
『貴様には分からないんだ、私がどれだけの血を流してこの地位に着いたのか。貴様が一瞬で奪って行った私の場所が、どれだけの価値を持っていたのか!』
『知らんな』
 泣き言をばっさりと一蹴し、盾にしたロボット兵を投げ捨てるレイ。
 例え彼女の言葉に正義があろうと、ただ泣く被害者であったとしても、オブリビオンマシンとして内在する意識が、記憶が今を生きる人を侵したのならば、それは彼にとって弱きを害す悪意でしかない。
『理解されようと思っちゃいない。これは私の弱さが漏らす戯言だ。だが、……そう叫ばずにはいられない……!』
 周囲に生み出すは更なる無人のロボット兵。
 人を得ず、ただ孤独に身を落とす女の傀儡となるそれらに何の価値があると言うのだろう。
 ただ今は、障害であるそれを排するのみ。
 猟兵たちの意識が、明確に敵であるオブリビオンへと据えられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『歓談食堂』

POW   :    がっつり食べて体力を付ける

SPD   :    食事は軽めにして会話を楽しむ

WIZ   :    いっそ自分も厨房に入り、料理を作る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●力と力!
『……きっ……きぃたぁああ!』
『うるせえ迎撃急げ!』
『こんな鈍い砲台でどうしようってんですかっての!』
 単純な前進攻撃しか行わなかった無人ロボット兵団が隊列を組み、突撃部隊と前列、後列のみっつに分かれての行動は、まるで軍人らしい統率力だ。
 鏃状の陣形を組み突撃する敵部隊に焦りを見せるレンジャー部隊だが、そんな彼らを余所に冬季は笑みを隠して迫る敵機へ手を向けた。
「突破する為には時をかけ過ぎましたね。要塞はもう完成しているんです」
 薙ぎ払え。
 冬季の言葉を受けて要塞から顔を見せた黄巾力士たちはその体を取り巻く砲台を、そして金磚を構え攻撃を開始。深紅に燃えるエネルギーが空を迸り、超高熱の弾道が貫通するのは突撃部隊の装甲。
 点が面となって迫るそれに、突撃部隊も黙ってやられる訳ではなく即時散開、的を絞らせないように動くがまとまりを失えばこちらのものだ。
「ギィイイイイィッ!」
(突撃よーっ!)
(はーいっ)
 地上をちょこまかと走り抜くアリスたちが散開するロボット兵を追撃、そのまま足下に組み付き、あるいは体当たりでバランスを崩して引き倒す。
 突撃部隊を突破した勢いで隊列を組むロボット兵に向かうアリスらであったが、それもがっちりと構えられた盾に弾かれてしまう。
(あぶなーい!)
(きゃーっ)
 盾の間から姿を見せた銃口に慌てて逃げ出すアリス。だが、動きを止めてくれたならば上々だと笑うのはボイット・レンジャー。
 今こそ扱い辛いという武器を使うチャンスだ。
『ストップですよ、レンジャー部隊の皆さん』
『ちょいちょいちょーい! 何で止めるんだよ、多分今が最初で最後のチャンスだぞ!』
『大丈夫ですよ』
 不満げな隊員の言葉にも笑みを見せて、自信を損なわぬ摩那の言葉。エクリプスをしゃかしゃかと回す様はインサイド・ループか、トリックを行うエクアトゥールは彼女の自信を表しているようだ。
 不満を漏らす部下を制止し、信頼すべき猟兵の言葉だとボイットは摩那へ言葉を向ける。
『それでどこで構えりゃいいんだ、イェーガー?』
『話が早いっ! 転送したデータの三番目です、行きますよ!』
 靴に取り付けられたのは水面や地表との反発力を高める事で移動速度を大幅に上昇させる宝石型の呪力型エンジン【ジュピター】、その力を最大限に稼働。
『接地反転!』
 ジュピターの力が機体を伝い、反転させた力場に足と地面がアンカーとなり固定、脚部関節を軋ませて回転による加速をつけたエクリプスが走るは敵前列へ。
 威力を伴ってその手から駆け出したエクリプスは後列でライフルを構えていた無人ロボットごとまとめて縛り上げた。
『……力場解放ッ……、出番ですよ、レンジャー部隊のみなさん!』
 左手は右腕を掴み、エクリプスでしばりあげた敵集団を引っこ抜く。悲鳴を上げる駆動音にまだいけるはずだと摩那は歯を食いしばり、力場の解放により固定された足は空に浮く。
『どぉおうりゃあぁあーっ!!』
 ハンマー投げに自らの質量を合わせたような跳躍と同時の投擲。
 空に高々と打ち上げられた敵機をそのまま地面へと叩きつける。場所はレンジャー部隊と共有したポイント・ナンバー・スリー。
『こいつぁドンピシャだ!』
 衝撃にフレームは歪み、動きの止まったそれらへ撃ち込まれる巨大な砲弾が装甲を裂く。
 跳ねる部品と欠片が甲高い音をたてる中で、復元の始まるそれらが動き出す前に火柱を上げた。音が轟き敵ロボット兵が吹き飛ばされる中で、一翼を欠けば死角の生まれる隊列に、先程までは逃げ惑っていたアリスたちも四方八方からその足にかぶりつく。
「足下を崩してください、攻撃して足止めします」
『そしたらまた、まとめて投げ込みますよ!』
(りょーかーい!)
 やたらめったに鋏角でかぶりつき、あっちへそっちへと引きずり回すアリスたちに、敵機も銃を構えて抵抗を試みるが照準を合わせる事も出来なければ黄巾力士たちの攻撃がその四肢さえも焼き尽くす。
 手足がなければ抵抗すらも出来はしない。
『さあ、どんどん火をくべますよ!』
 地を走るエクリプスがスクラップのような敵機の下を駆け抜けて、エクアトゥールの手首の返しに合わせて敵を絡め取る。
「さて、ここいらが処分場になるのは目前ですが」
 冬季は笑みを潜めて砦に立つ金行の黄巾力士と共に熱をふりまく軍隊を見下ろす。敵の無力化にはもう時間はかからないだろう。だが問題として気にするべきは、敵がどのような対応に出るかだ。
 子機とも言えるそれらを生成する以上、使えないのであれば自分の手元に新たに生成すると考えていいだろう。そうなれば今、オブリビオンマシンと戦っている者たちが危険になる。
『――そこで、真打ち登場ってヤツさ』
『チェスカーさん?』
 格納庫の影から姿を現したビッグタイガー、その更に後ろでは弾丸の部品をお手玉にしているアリスの妹たち。
 構えたパジョンカが復元を始めたロボット兵へ向けて火を噴けば、発射された弾丸は動き始めた敵機を中心に着弾、次々と連続でヒットしていくそれは触れると同時に弾けて粘着質なアリスの糸を拡散した。
 チェスカーの思い描いた通りの効果を発揮し、特別なアリス粘着弾とも言うべきそれは次々とロボット兵を拘束していく。地面にへばりつくそれらが動けなくなれば、修復されようが復元されようが関係ない。
『最初の木偶の坊みてぇな動きを考えれば、ヤツも動かす数に限度はあるらしい。機能停止してまた作り直す事ができるかできないかは分からないが、どちらにしろこいつで釘付けにすれば変わりない』
「ギチギチ!」
(妹たちも頑張ったのよー)
 弾丸で遊んでいるかと思いきや、それぞれ手投げで回しつつ組み立てているようだ。だいぶ手慣れ、もとい肢慣れたもんだね。
 楽し気に弾丸作りを続けるアリス妹たちをビッグタイガーの指先で撫でる代わりと突いてやりつつ、未だ硝煙を銃口から息吹くパジョンカを肩に乗せて手を挙げる。
『さあ、前線を押し上げようぜ。アドバンテージ・オーバーだ』
(どういう意味かしらー?)
(無線の合図じゃないのー?)
『……多分違うと思いますけど……』
 前進するビッグタイガーの後ろにつきつつ、お手玉するように弾芯へ糸を絡めて次へ渡すアリスの疑問に、それを受け取ったアリスが答える。
 無線ではオーバーと言うけれど、こっちは摩那の否定した通りラグビー用語である。
『前進か、こっちも防壁沿いに進むぞ。援護できる場所から攻撃だ』
『アイアイ、キャプテン』
『アイは一回!』
『なして?』
 細々と言葉を繋ぎ、ぶつくさ言いながらも進むレンジャー部隊を見送り、ふむと頷く冬季。砦を築いた以上、動くに不満があるのかと思いきや。
「こんな事もあろうかと、といった所ですかねぇ」
 にやりと笑うそばで黄巾力士たちが砦の壁へと取り付くと、留め金を外し壁を剥がせば部位ごとに分解され、そのまま可動する。まるでブロックを崩したかのように独立して移動するそれらに移動可能な砦などと、目を丸くするレンジャー部隊のその後ろに閃く稲光。
「…………、晴天の霹靂、とは違うようですね」
 青空広がるその下で、発生した黒き光に冬季は浮かべた笑みを益々と濃くして口元を本で隠した。

 行くぞ。
 叫ぶべき言葉は喉を通らず、発したのは獣じみた唸り声。背面から烈火と炎を噴き上げて、走る機影はエルフェ・ヴィマナ。
 歯を食いしばってその加速に耐えた女の眼は、正面に立つ目標を睨みつける。構える事もなく睥睨するマグネロボ捌式へ向かう様はまるで弾丸だ。
『――しかし直線機動では!』
 どれだけ速かろうとショートカットを設置すればその突進を止めるに易い、狙うは敵の到達点。紅葉の迦楼羅王は全身から光を放ち躍動する。
 運動性能で負けるつもりはないが、この機動力を有する相手に一対一で戦うのは悪手だが、チーム戦ならば戦術と成り得る。摩那から得た情報と共にマッピングを終えた基地内の施設を頭に叩き込みつつも、突き出す棍はマグネロボ捌式より離れ、接触するは到達点。
『!』
 跳び込んだ迦楼羅王の足に縋りつくロボット兵。勢いを削がれた矛先には更に現れたロボット兵たちが壁となる。
『……露払いはさせて貰うが……!』
 纏わりつくロボット兵に黄金の炎を投げつけて発火、その関節ギヤを焼き切り迦楼羅王の拘束を解く。だがすでに攻撃のタイミングに間に合わない。
『吹き飛べ!』
『どうかな?』
 突撃する先端に向けて、不敵な笑みを見せたレイはここで初めて構えを見せた。引いた右足と共に右腕を引き、威力的な突進に対しその全身から稲妻を発生、引き絞られた力を開放するように真向から拳を解き放つ。
 衝突。
 まるで杭と知らずにぶつかった魚のようにその身を悶えて装甲はひしゃげ、弾き飛ばされる巨体が転がるように施設のひとつへ叩きつけられた。無論、このような突撃を受けてマグネロボも無事ではいられない。
 右腕一本で衝撃全てを受け止められるはずもなく、こちらも弾き飛ばされて背後の施設の壁を粉砕、中へと転がり込む。
「レイさん! ……しかし、なるほど……」
 吹き飛ばされた彼の身を案じつつも、その光景に何か策が浮かんだのか目を細めた桜花。
 これほどのダメージを受けては幾ら装甲に守られているとは言え搭乗者もまたダメージを受けるはず。計算づくかはわからないが、デッドマンであるレイは耐えるだろう。それがクロエを名乗るランデルフも同じとは思えない。
『ぐッ、くそ、なんだあのパワーは!』
 目眩に呻くランデルフ。そこに大きなダメージが残っているようには見えず、横転した機体を押し返したのは下敷きになったロボット兵たち。彼らがクッションとなり衝突の勢いを減らしたのだろう。それどころか、エルフェに追加されたヴィマナ自体にも機体を保護する高い機能が備わっていると見ていい。
(あの受給装置を守る為、と考えれば当然の備えではありますね)
 ノエルは冷静に敵性能を分析し周囲のロボット兵と、立ち並ぶ施設を見比べる。他の猟兵もそうだが、やはりこの地形を利用しない手はない。
『敵が立ち直り切れていない今がチャンスです。エイストラ、行きます』
『分かりましたっ、ブルー・リーゼで援護します!』
 地上を疾走する機体にその後方から空を行く機影。
 迫り来る二機に機体を大きく揺さぶるオブリビオンマシン。その中で揺れの治まった視界に少女らを収めてランデルフの顔が醜く歪む。
『フン、この程度が隙になると思っているのか!』
 損傷した装甲を排除、軽くなった機体が体勢を立て直す間も緑光が新たな装甲を形成していく。そのエルフェ・ヴィマナを守るように並ぶ無人ロボットだが、エイストラを追走するブルー・リーゼの放つ粒子兵器がその装甲を易々と貫いた。
 それがどうした。
 発した嘲笑は満足げで、盾が破壊される間にこちらへその先端を向けたエルフェ・ヴィマナの複数のマニピュレーターに搭載された砲口が牙を剥く。
『砕け散れ!』
 迎え撃つばかりではないと、先端装甲を展開してビームブレイドを発生、迫るエイストラ目掛けての発進だ。姿勢制御の補助スラスターで方向を調整しながら滑走するオブリビオンマシンが迫るエイストラ、そしてブルー・リーゼへビーム光と火線を向け。
『ノエルさん!』
 減速し回避行動に移るブルー・リーゼの装甲を光が掠めて黒く染める。思わずその名を叫んだシルに対し、ノエルはエイストラの前進を止める事なく、正面から迫り来るビームを潜り、砲弾をステップを踏むようにしてかわし。
『私のエイストラも、大型推進器と通常ジャンプジェットを並列搭載した、地上での高速戦闘を得意とする機体です』
『このエルフェ・ヴィマナと同格とでも言うつもりか、笑わせるな!』
 集中する火線へ更に加速するエイストラ。
 ラグのお時間です、そう唇から零したノエルに合わせて言葉通り、並列搭載されたジャンプジェットの衝撃波干渉が機体を左右へ跳ねる。それは水面を跳ねる魚にも見えて、あるいは氷上を滑る天使にすらも。
 それはまるで、相手の呼吸を乱す【フォックストロット】。
『小癪な真似をっ、叩き潰してくれる!』
 兵器を投げ捨て蜘蛛のように広げた何本もの腕を、余裕の笑みすら浮かべてノエルは対応する。振り下ろされる腕にはステップを、突き出される腕には跳躍を。
 突端に灯るレーザーブレードすらも腕を踏み台に飛び越えて、天地逆さとなった姿で構えたプラズマライフルは一矢、光を放ちオブリビオンマシンの後方に集中する大型推進器ごと装甲を焼き貫いた。
『エイストラの有り余る出力を生かした武装は軽減されても充分な威力、次世代技術の実験機を舐めてはいけませんよ』
『何が次世代機だ、っぐぅ!』
 体勢を立て直そうとしたエルフェ・ヴィマナだが、プラズマライフルの一撃による影響は大きく姿勢制御用のバーニヤも爆損する。
 しかし破壊されればそのまま修復するのが、このオブリビオンマシンの特性だ。
『こっちだって次世代型だ、侮るな! SFEに頼らない、SFEを超える! 真の力を!』
『……エス、エフ、イー……?』
 聞きなれぬ単語に眉を潜める紅葉の視線の先に、修復は完全でないながらも再びエイストラへ向けて生成した兵装を向けるランデルフ。
『ランデルフさん、あなたはそのマシンに操られているんだよ、本当の自分を思い出して!』
 エイストラの援護に入ったブルー・リーゼ。背負うテンペスタの光にエイストラへと向けた武器を纏めて貫かれて舌を打つランデルフ。
 また貴様か、そう言いたいのだろう。
『クロエ・レーテルバックだ、これだからガキは嫌いなんだ』
 側面の装甲を展開、搭載された大量のマイクロミサイルを一斉発射。ブルー・リーゼもホーミング
ビームで迎撃するがその数は圧倒的だ。
『面倒です』
 状況を端的に一言で表して、肩のプラズマキャノンと共にプラズマライフルでこちらも迎撃に回るノエル。
 誘爆も狙い連鎖的に破壊するも、続々と発射するエルフェ・ヴィマナが相手では焼け石に水である。遥翔もイグニシオンから炎を放つが。
『――メタルッ、ハリケェエエエンッ!』
 唐突に響いたウタの咆哮が力を伴ったかのように巨大な渦が戦場を横断する。風ではない、金属粒子の竜巻だ。
 見れば展開した腹部装甲より金属粒子竜巻発生装置を覗かせたヴィエルマ改の姿があった。斉射された後続のミサイルも金属粒子による電子妨害で在らぬ方向へと飛散し、ランデルフは、否、クロエは舌打ちして砲撃を止める。
『シル、気持ちは分かるけど、今は!』
『……はい……』
 一時の動きが止まった戦場に、エルフェ・ヴィマナの周囲にはロボット兵が集う。桜花はするりとヴィエルマ改の顔の横へと滞空し言葉をかける。
「このスーパーロボット、こんな機能もあったんですね」
『ああ。いや、敵さんに呼応しているみたいで武装が色々と解除されてるみたいだ。
 もしかしたら、ヴィエルマ領とあのオブリビオンマシンに繋がりがあるのかも知れないな』
「あのオブリビオンマシンと?」
 直感にも近いウタの言葉に桜花は首を傾げた。過去より来る者、オブリビオン。ならば何かしらの関係があるかも知れないが。
 それはさておき、と紅葉は対峙するエルフェ・ヴィマナに眉を潜めた。
『何で動きが止まったんですかね、アレ』
『動きが止まった、停止した、ではないけど。…………、警戒してる?』
 メタルハリケーンの妨害機能か。
 合点がいって頷くノエル。よく言えば各機の統率はオブリビオンマシンによって行われているのだから、ジャミング効果を持つ機体の出現に注意を深めたのだろう。
 あるいはエネルギーの供給に影響が出ているのかも知れないが。
『どっちにしろメタルハリケーンの妨害範囲は竜巻を中心にそこまで広い場所までの拡散や持続効果はありません。直接叩きつけてやりましょう』
『オーケイ、やってやろうぜ。なあ、ヴィエルマ改!』
 甲高い音を立てて発生装置が唸りを上げた直後、その真正面に三体のロボット兵が出現する。
 あちらもあちらで直接叩きに来たか。苦く顔を歪めたウタだが、即座に反応したのはキャバリア用大太刀を振り回す桜花と棍を支えに跳躍した迦楼羅王の飛び膝。
 残る中央の機体にはイグニシオンの迦具土が深々と突き刺さり。
『助かるッ! 二発目いっけぇええええええ!!』
 地獄の炎を翼と吐き出し支えとして。
 空気との摩擦に雷すら生じるメタルハリケーンが地面を削走、エルフェ・ヴィマナへ突き進む。だがこれをそのまま通すはずもなく、ロボット兵たちは隊列を組んで自分たちの体と体を固定して壁と成した。
 こうなっては一枚の壁、電波を妨害されようと関係ない。
 正面から金属粒子を受け止めてその身を削られながらも、弾け散るそれらの効果の及ばぬ外で、新たに造られたロボット兵が次の壁となるべく待機している。
(これじゃあ、押し切れないかっ)
 既にヴィエルマ改もオーバーヒートの警告音を響かせており、壁ひとつ貫く事は出来ても次の壁を突破するのは難しい。
『大丈夫だ、間に合った!』
 焦るウタの心を感じ取ったか、遥翔は自信に満ちた笑みを見せる。
 その言葉に続くは轟音。金属粒子の渦にその身を盾に防いでいたロボット兵らの頭上に落ち、機体を粉砕するは黒い雷。
『気象兵器だと! ……まずい……!』
 後方に控えたロボット兵も次々と雷を受けて、間髪入れず回避に転じたオブリビオンマシンへヴィエルマ改のメタルハリケーンが到達した。
『うおおおおっ!! くっそぉ! 何時の間にこんなモノを!』
『この基地の前でジョナサンさんたちと戦っていた時から、種はもう、撒いてあるの』
『!』
 語り掛ける言葉に振り向けば、ホバー形態で戦場に舞い戻ったアルター・ギア。削られる装甲に舌打ちして周囲のロボット兵を確認するが探知できず、反応もない。
 メタルハリケーンの効果で交信が出来ないのだ。それだけでなくロランはアルター・ギアのソナーとスキャニングにより施設裏に隠れたロボット兵を含め全ての敵機を捕捉している。
『ぼくには、その機体を祓う事しかできないけど』
 きっと助ける。
 ロランの想いはアルター・ギアの力を開放する。機体をなぞる緑光が輝きを増し、歓喜に震えるような装甲が音をたて、空を仰げばその眼が光が発せられた。
『マジカスキャン、座標確定。各マジカ反応、リンク。術式転送、転写。エネルギー充填、……完了……』
 普段の声音とは違い機械音声かと勘繰るばかりの抑揚のない、冷たい声。
(……これ以上は機体がっ……!)
(――こっちもっ、もちそうにないぜ!)
 メタルハリケーンの発生装置が遂に限界間際となり、ウタは苦渋の選択として攻撃を中断する。腹部の重要部品の詰まった箇所、破損しては一大事だ。機体を大型化し装甲を増やした事で耐え切ったエルフェ・ヴィマナだが、こちらもまた前面装甲を引き剥がされぼろぼろの姿と化している。
 だが、耐えたぞ。
『これこそが力だ! 見ろ、こんな傷などすぐに癒える!』
『ならぼくの、アルター・ギアの本当の力を、見せてあげる』
 全ての術式との同期を終えたアルター・ギアが、オブリビオンマシンを正面に見据えた。
 同時に基地全体を喰らい尽くすかのような超巨大魔法陣が空に形成される。それは全て、ロランのアルター・ギアの撃ち込んだ炸裂魔法が発信地となり、空の魔法陣へと力を注いでいた。
 まるでこの世の終わりの如き光景にさしものクロエも言葉を失い、同じ猟兵ですらも空を見上げてしまう。
『アルター・ギアがあれば幾らでも落とせるよ。この雷は』
 魔法陣へと集中する力が、黒いプラズマを発生させ空間を歪めていく。
 ――過去に汚辱されたこの基地を。
『浄化するのっ!』
 降り注ぐ黒い雷はまるで例えてしまうなら豪雨だ。音すらも暴力となって荒れ狂う中で、雨粒もかくやと思う程の大連雷が基地を破壊しロボット兵を粉砕し、オブリビオンマシンを貫いた。


●シェル・ザ・クロエ・レーテルバック!
 どうしようもない不安と焦りに追い立てられ、失意の中まどろみに沈んでいたランデルフの人格は、重く、泥の沼に寝ているような気分だった。
 自我はある。ただ彼女を取り巻く怒りの感情が怖く、不便で不快なその場所から出るのを躊躇った。
 しかし、怒りの隙間を風が吹き抜けるように運ぶ感情がある。それは、不安だった。
 不安と焦り、自信を失う前兆。彼女の良く知る感情そのものだった。
 先程まで追い立てられた感情が今は何故か無性に居心地が良く、まどろみの中から覚醒する。風に導かれるように吹き込むそこへと歩んで行けば、彼女の脳裏に過る記憶の断片。
 そのどれもが彼女の知らない人たちで、そのどれもが愛おしくて堪らない。自信に満ち溢れ、輝かしい日々。日々のひとつひとつをかけがえのない時間として過ごしたであろう記憶。
 だが、奇妙な記憶の先に居たのは、真っ暗な闇の中で蹲る女性、ただ一人だけだった。

『こいつはおったまげたぜ』
 基地施設を荒らし回る漆黒の帯を、防壁沿いに進んでいたレンジャー部隊は戦々恐々たる想いで見つめる。言葉や態度にその心は表れていなかったが。
 大地を揺るがす天変地異の再来だ。この前線基地へとたどり着く前に土地をひっくり返したような巨大黄巾力士の行進跡を見た後なだけに、猟兵がこうも規格外である事は頭に留め置く事ができなのだろう。
『こりゃ、俺たちの出番なんてないんじゃないすかねぇ?』
『さあな。この雷はどういう仕組みか、あのロボットどもを一網打尽にしてるみたいだ』
『やっぱやる事なさそうじゃないですかい。その方が楽できるしいいか』
 操縦席で肩を回し、欠伸でも呑気にしたい所だがこの光景を前にしてはそうもいかない。
 連絡を待つ。
 ボイットは嘆息して言葉を転がし、懐から煙草を一本取り出した。そのまま視線を下に向ければ、おっかなびっくりする事もなく進む猟兵の姿が見受けられる。
 自分たちに害はないと確信しているのだろうが、それにしても肝が据わっているものだと世界を股にする者たちへ諦めにも近い称賛を述べた。
 一方で称賛された摩那のエクアトゥールを先頭とする猟兵後方部隊。
 こちらもまた黒い雷に蹂躙される敵戦力の姿に戦も終わりかと思わず考えてしまったようだ。
「ギチチ、ギッギッギッ!」
(カリカリになってデザートに良さそうね~)
『…………、そいつはどうかねぇ』
 運動もしてお腹が空き始めたのか、思考に食事の存在感が増え始めたアリス。それに対してチェスカーは苦く笑う。
 先頭を行くエクアトゥールも足を止め、肩越しに振り返れば冬季と黄巾力士たちが再び砦を組み立てている所であった。
『アレ、どれぐらいもつと思います?』
『……さて、ね……』
 再び視線を戻した摩那の言葉に、チェスカーは肩を竦めて。
 彼女らの視線の先には稲妻の集中する中、周囲に高速で修復されると同時に破壊される夥しいロボット兵と、その残骸を頭上に配置し盾とするオブリビオンマシンの姿であった。
 最初の数発は直撃したものの、途中から対応したエルフェ・ヴィマナ。激しいエネルギーの集中地点にこちらもまた攻撃に手を出す事は出来ないのだが、徐々に持ち直して盾の枚数が増えている所を見れば。
 突破されてしまう。
『やれやれ』
 諦めの悪さならばタメを張る。瓦礫を除けてようやく戦場に戻って来たマグネロボ捌式は右肩から火花を散らしていたものの、関節部に負荷が集中しただけだと問題なさげにするレイ。
 実際、その質量差もあって早々に弾き飛ばされたのが損傷の軽減にもつながったのだろう。オブリビオンマシンの損傷を考えれば近接戦用に調整された捌式の耐衝撃性が活かされた結果とも言える。
『どうする。相手が動けないなら今の内にオレから行こうか』
『…………、いや、まずは俺が行く』
 レイの言葉にウタが答えて周囲を見渡す。
 強力な射撃兵装を持っている機体ならばリスクを下げて先手を打てるが、如何せんロランの作り出した空間さえ歪曲するエネルギーの集中地帯ではまともに照準をつける事もできないだろう。射撃の直前に攻撃を止めたとて空間を歪みそのものが直ぐに収まる事は無い。
『ロランのやってくれた雷ごと、ヴィエルマ改のビームでオブリビオンマシンを吹き飛ばす。
 針みたいに細い光じゃねじ曲がっても、濁流なら関係なく押し流せる。けど、多分それだけじゃ奴を破壊できないはずだ、後を任せるぜ』
『乱暴な作戦ですね。でも、力押しってのは分かり易くていいです』
 ウタの言葉に賛同する紅葉。ならば、敵を力場から押し出した後の追撃ならば格闘機。
 敵機が生み出す盾を掻い潜り、裸にし、そこを射撃機に突いて貰うのが定石かと。
『大体の動きは決まったな。ロラン、大丈夫か?』
『だ、大丈夫。このまま動きを止めておく、けどあの、早めにお願いするのっ』
 遥翔の言葉にロランは答える。別にアルター・ギアに限界が近づいている訳ではない。これだけの攻撃を行っても未だに余力の残る本機は驚異に値するが、それにも増して対応力を高めているオブリビオンマシンの存在だ。
 盾の枚数を着実に増やし、雷の下での機動戦を行う準備を着実に進めるエルフェ・ヴィマナ。
『他のロボット兵を抑えてくれていたみなさんも、こっちに来てくれたみたいですね』
 集う仲間の姿に何とはなく呟いて、ノエルはエイストラに手を振らせるとこちらに気づいたアリスが前肢を上げて答える。保護色のせいで気づかなかったが、あちこちにいたアリスの妹たちもこれみよがしに前肢を上げてノエルに答えていた。
 ちょっと怖いんですけどー。
『これだけの数がいれば、敵を裸にするのも簡単だね!』
「裸、裸。レンジャー部隊のみなさんに配置されている施設の壁を壊してくれるようにお願いしてもらってもいいですか?
 一枚ずつ、修復されても常に」
『施設の壁を、一枚ずつ?』
 よし、と拳を固めたシルは桜花の提案に目を瞬かせながらもレンジャー部隊に通信を送る。彼らもシルを仲介した桜花の言葉に疑問を抱いたようだが、頼まれ事とあらば引き受けるのが今回の仕事だ。
 壁の破壊に効果の高い新式にそれぞれが取り付き、目につく施設に砲弾を撃ち込んでいく。
『状況開始だ。ウタ、頼む』
『ああ』
 ウタに声をかけると同時に散開する各機。ウタは小さく息吹くと、未だに動けぬオブリビオンマシンを睨みつけヴィエルマ改の左腕を掲げた。
 右腕と同じく、頑強な左腕の装甲が展開すると共に内部フレームが滑動、手甲へ移動しブラストナックルへと変形する。ウタは背面の地獄の炎から迦楼羅を顕現、左手へと誘う。
 電磁パルス発生装置に地獄の炎を介し、エネルギーを発するそれを収集装置へと応用し、アルター・ギアやエルフェ・ヴィマナの集約するエネルギーを吸収していく。
『ヴィエルマのエネルギープラントだからか、相性もいいみたいだな!』
 それなりに時間を要すると思われた充填時間も短く、本体のエネルギーメーターをは別のメーターが上昇、グリーンラインを超えた時、ヴィエルマ改の胸部装甲が開いた。
 内面は鏡面となり輝くそれに、複数の砲身が内部より姿を見せた。左手の迦楼羅が大きく羽ばたき、胸の前へ移動。同時に砲口に光が灯り始めた。
『元々は近接防御用の拡散キャバリアビームだ、それをひとつに束ねた威力、獄炎も合わせて食らえ!』
 ウタの言葉と同時に、複数の砲口から発射された光が鏡面装甲により拡散する。レーザー光が霧のように放たれるも、それを一身に受けるは燃え盛る金翅鳥。
『……オブリビオンマシンを海に還し……、少尉、あんたを解放する!』
 その輝きは太陽の如く周囲を照らし。
『――ブレイズ……ッ、ブラスタアアアアアアアアァッ!!』
 迦楼羅によって集約されたレーザー光はその身に宿す獄炎と共に炎の如き奔流となって解き放たれた。
 全てを焼き尽くすかの如き業火は地面と言わず空と言わず真っ赤に染め上げてオブリビオンマシン=エルフェ・ヴィマナへ猛進する。
『!!』
 頭上に全ての防御を集中させていたクロエに防ぐ時間などあるはずもなく、ロランの発する黒き雷ごと飲み込まれて、波に流される木の葉のように為す術なく押し流された。
『な、んだっ、これはぁーっ!』
 次々と拉げ、溶け、破壊される装甲にエネルギープラントからの膨大なエネルギーの発する熱量にすら耐えうるエルフェ・ヴィマナが異常発熱に警告を発している。
 例えそれだけの力を内包できても、獄炎までは防ぎきれないのだ。拉げたところから装甲がめくれ上がり、内部にまで獄炎が達した事にクロエは焦りを隠す事もできずに悲鳴をあげた。
 脱出しなければ。だがどうやって。
 力の流れに完全に捕らわれていたオブリビオンマシンに、クロエは苦肉の策として爆損していくヴィマナ内部にロボット兵を生成した。壁となる僅かな時間に舵を切り、ヴィエルマ改のブレイズ・ブラスターから脱出する。
 しかしすでにヴィマナは見る影もなくぼろぼろで、内部のエルフェすら見えている状態だ。本体にも相当の損傷があると見ていいだろう。
『だがそれでも! このエルフェにはワイヤーフレーム・リバイバル・システムがある!
 無限の力の前にはお前の足掻きなんぞ無意味と――、!』
 言葉を切ったのは攻撃を受けたからではなかった。自分の優位を豪語するシステムに異常が発生したのだ。その根幹であるプラントからのエネルギーを受給する装置の異常。
 ヴィエルマ改のブレイズ・ブラスターがヴィマナ内部に及んだ結果、特に厳重に守られていたはずの装置にする損傷が生じたのだ。
(大丈夫だ、完全に壊れた訳じゃない……まずは装置の回復を優先して……)
 そして。
『お願いします!』
 攻撃は今から受けるのだ。
 ウタにより黒雷から抜けたエルフェ・ヴィマナを追走していた影ふたつ、迦楼羅王とエクアトゥール。
 両手に構えた迦楼羅王の棍に乗るエクアゥールを回転、ハンマー投げの要領で勢いをつけた迦楼羅王の各部から溢れる光りが強さを増し、首元の炎も強さを増して炎の竜巻をなる。
『いぃいっけえええええええっ!!』
 迦楼羅王の大回転で撃ち出されたエクアトゥールは、その盾で未だに荒れ狂う地獄の炎から身を守りつつ、真直ぐにオブリビオンマシンへ跳び込み激突した。
 損傷も大きい上に内部の修復を優先する敵機は受け身を取る事すら出来ず、叩き落とされたのは壁を破壊された施設のひとつだった。
 並ぶ機械に制御盤と、おそらくは武器やロボットの整備を行う為の施設なのだろう。エルフェがいなくとも稼働できる用意がされている辺り、ダンテアリオン軍はこの場所をそのまま占拠するつもりだったのかも知れない。
 しかし今、この場にいるのはダンテアリオン軍ではない。ガルメリッサ軍を名乗るクロエ・レーテルバックと。
「お相手願います」
『悪いが、一対一じゃあないぜ?』
『……貴様ら……』
 ひらりひらりと舞い落ちる桜の花びら地に落ちる前に金色に燃えて。
 待ち構えていたのはキャバリア用大太刀を携えた桜花と静かに燃える遥翔=フレアライザー。
『追い詰めたつもりか、この私を!』
 ヴィマナ内部に格納されていたボックスを破壊し、更にその内部へと格納されたバズーカ砲。おそらくは前面装甲から取り出すであろうそれも、先の一撃により装甲が融解したからこその乱暴な扱いだ。
 本体であるエルフェが扱うには一回りも二回りも大きなバズーカ砲、発射の衝撃に砲口を跳ね上げつつも精確な狙いである。桜花、そして遥翔はそれが着弾するよりも前に閃き消えると、施設内部の壁や機械を足場にでたらめな軌道で跳躍する。
 まともに照準をつけることも出来ず、目を白黒させるクロエ。
「どうしました? 修復できていませんよ!」
 纏わりつくように飛び込んだ桜花の一閃が砲身を斬り裂いた。
『貴様っ、うお!?』
 クロエの視線が桜花へ移ると同時にイグニシオンの迦具土がヴィマナの装甲を斬り落とす。本体にまでは届かなかったが、それでもその体へと刃は届く位置になった。
 既にヴィマナは死に体である。クロエは足枷としかならないそれから別のバズーカ砲を回収しつつ脱出、目晦ましとばかりに置き去りにしたヴィエマへ砲撃、爆散させた。
(機体が重い、駆動系にも支障が出ているのか!)
『――ッ、そっち!』
『違うんだなぁこれが!』
 機体反応の鈍さに舌を打ちながらも敵影を察知して武器を向けるクロエ。だがその射線で互いに交差した桜花とイグニシオンに照準を定められず、背後に回り込んだ迦具土の一撃。
 辛くも身を捻り受給装置への直撃をかわしたものの、その切っ先は頭部を削りセンサーを破損させた。
『……視界、が……!? マズい!』
 地形を利用し四方八方から迫り来る苛烈な攻撃に対応できず、ましてやメインモニターにもノイズが生じている状態で出来る事など。
 後退すべきだ。しかし外に出ては雷に打たれるか、それとも敵に包囲されるか。
 いずれにしろ。
(追い詰められているのか、この私が!)
「施設内なら殲禍炎剣の監視はありません。全速でいきます!」
 衝撃波すら生み出して、跳ね回るような軌道はすでにクロエの目に影すら捉えられていない。
 次々と被弾し被害の拡大する機体に考えている余裕などはない。
「望みが相反する以上、全てを破壊し! 貴方をそこから引きずり出します!」
『ッ!』
 恐怖。
 クロエが選んだ後退の道は、選ばされた後退の道は感情によるもの。外の状況など考えになく、まさしく逃げ出したという表現がぴったりな姿だった。
 それは優秀なパイロットであるクロエが自覚しないはずもなく、同時に感情を律するべき後退判断を感情で行ってしまった事による自尊心への傷。
 パイロットである自分を否定する行為だ。
『くっそおおおおおおおおおっ!!』
 喉も裂けよとばかりの咆哮が戦場に木霊する。
 屋根なきその場にヴィマナも無く、ロボット兵たちも封じられたその身ひとつでは猟兵と戦える状態ではない。
(……ま、負ける……、負けるのか、この私が……こんな場所で……!)
 思考に入るノイズもまた彼女の動きを鈍らせる一因か。
 操縦から感情が離れた一瞬の間に、オブリビオンマシンへ空と陸から纏わりつく機影。
『動きが遅い、回復ができてない?』
『あれだけの攻撃を受け続けて、システムにも異常が出たみたいですね』
 ブルー・リーゼとエイストラのライフルから光が走り、携えたバズーカと共に右腕を破壊され我に返るクロエ。
『まだだ!』
 叫ぶと同時に修復完了するワイヤーフレーム・リバイバル・システム。直後に破損した右腕に光が集い、破壊されたロボット兵を再びその周囲へと展開していく。
『おっと、さっきみたいにゃいかないぜ!』
「ギイエエエエエエッ! ガチガチガチガチ!」
(突撃よーっ! ゴーゴー!)
(はーいっ)
 移設された砦から姿を見せたビッグタイガーのパジョンカが吼える時、発射された特殊弾がロボット兵の足下に炸裂して動きを止める。
 同時に周囲にその身を溶け込ませていたアリスらが接近、動きを封じられたロボット兵に次々と飛び掛かり押し倒す。
『……何だ……』
 遠くに配置されたロボット兵はアルター・ギアの雷により動きを止められ。
『……この……、情けない戦況は!』
 己もまたマグネロボ捌式に接近戦を挑まれ自由が利かない。
 砦を壊され、数の有利を潰され、装甲をも剥ぎ取られた。八方塞がりの現状で、システムを活かす隙すらない。
「何かが無い限り、覆す手はありませんよ」
 何かが無い限りは。
 後はパイロットが折れるだけだと、黄巾力士と共に盤石とも言える戦場を見つめる冬季。そこにあるのは一抹の不安要素と言うべきか、それとも愉悦か、まだ終わりらないだろうと言う確信にも似た予感。
『足りないと言うのか、私にっ! 何が足りない! 何故、勝てない!
 私は失望される訳にはいかないッ、戦いの中で、私に期待された役割はこれだけ、――だと言うのに!!』
 両手に生み出した刃を眼前の敵へと振り下ろす。悪足掻きのような一撃もその両腕で刃でなく、手部で止めて弾くマグネロボ捌式。
『期待? 失望? 理由を誰かに預けるなよ。その程度ならこの機に戦士なんざやめちまえ』
 吐き捨てるレイの言葉。その言葉に歯を軋ませて「見下すな」と睨みつけた。
 流儀もなく殴りつけるような滅茶苦茶な連撃をあっさりと見切り、体が流れた隙に蹴りを見舞う。たたらを踏む機体へ直撃したのはアリスの糸を拡散するパジョンカ・バレット。
『捕まえた』
 施設の壁面に固定された機体は、蜘蛛の巣にかかった獲物と等しく拘束を解こうともがいている。
 付近のアリスたちが「ちょっとは齧っても良いのでは?」とじりじり間合いを詰めるが十分なプレッシャーだと放置しつつ、チェスカーは油断なくオブリビオンマシンへの照準は定めたまま。
 何か手立てがあるのだろうと振り向く機体に、熔解した胸部装甲を削ぎ落したヴィエルマ改が姿を見せる。
 砲身や鏡面装甲も全て破損しており、再度の攻撃は不可能だろう。
『ありがとう、チェスカー。
 なあ、少尉。期待なんか糞喰らえだ。今のままの自分でいい、隠れる必要はないぜ』
『貴様も訳のわからないことをッ』
 唸るクロエに怯みもせず、「少佐からも呼び掛けてもらう」とウタは安心させるように笑みを浮かべた。もっともこちらは相手に見えてはいないが。
 ヴィエルマ領の通信施設から回収された捕虜たちの内、ダンテアリオン兵士を率いるジョナサン・ラッドにヴィエルマ改を中継地点にする事で、限定的だがオブリビオンマシンへ回線を繋げさせたのだ。
『ランデルフ少尉』
『…………。何だ、貴様は』
 ジョナサンの呼びかけに対しては警戒心はあるものの、猟兵たちへ向けた剥き出しの敵意は無くウタはその手応えに思わず拳を握った。
『事の経緯は通信により知っている。まさか我がダンテアリオンの最新鋭機が……オブリビオンマシンだったとは……!』
(最新鋭機、って所から眉唾なのよね)
 ロボット兵たちも動きを止めた戦場で、紅葉はジョナサンの言葉に首を傾げる。彼らが製造した物だと言うのなら、グリモア猟兵がこの機体の特徴、そして弱点まで詳細に知っている事の説明がつかない。
 彼らが造ったというならばグリモア猟兵の知る何かを模倣した機体、あるいはそう説明されただけの旧世代機。
『少尉、君は我ら栄えあるダンテアリオンの、誇るべき戦士、兵士なのだ。決してガルメリッサなどという訳の分からない軍属ではない』
『……ガルメリッサこそこの混沌の大地で覇権を握る唯一の……!』
『認めんぞ少尉!!』
 張り上げた声に震える体。自分の存在を一切認めない男の言葉が心の芯を貫く。しかし。
 自分が立っていたはずの場所を、急にそこは立つべき場所ではないと言われ、従える人間などどこにいようか。
『……黙れ……黙れ黙れ黙れ! 貴様ら言うに事欠いてこの、私を、存在をっ!
 否定するな!』
『正気になれ、君はランデルフ・スコットハウアー、ダンテアリオン軍所属、階級は少尉! アメちゃん小隊で仲間からその期待を一身に受けた、誇るべき存在なのだぞ!
 それを否定する事は許さん!』
 童謡するクロエからランデルフを引きずり出すべく、力強くその存在を定義するジョナサン。彼の言葉はクロエの知らない人々の顔を、ランデルフの関わった人々との思い出をその胸に去来させた。
『――……! わ、私はっ、ただ自分の居場所が欲しかっただけだ!
 ただその為にがむしゃらに戦って、戦い続けた戦場で、この私から仲間を奪うだけでなく、全てを、この私を! 否定するのか!』
『さっきは人の心配してる場合かとは言ったが、テメーが心配かけてりゃ世話がねえ、いや尚悪いだろーが!』
 ジョナサンとクロエのやり取りに痺れを切らし、チェスカーは堪らず声を張り上げた。
『仮にも一丁前のダンテリ兵の有様がそれか、甘ったれてんじゃねーぞ!』
『うるさい! 私はガルメリッサの兵士だ、私の居場所はここだけなんだ、その為に戦ってきたんだ、私は! もう、失望される訳にはいかないんだ!』
 駄々を捏ねるな。
 クロエの悲鳴にレイは溜息を吐いた。その言葉に身を震わせて、それが彼女の、クロエの地位や期待という鎧を剥がされた、このオブリビオンマシンと同じく脆弱な本当の姿なのだろう。
『そうやってカラに閉じこもるのはいいさ。だがテメェで望んだ戦場なら、見失ってる場合じゃあねえぞ。
 始まりの日を忘れるな』
 始まりの日。
 兵士として立ち上がった日。それとも戦う事を決めた日か。あるいはこの世界に生まれ落ちたその日だろうか。
 望んだ戦場、ただ追い込まれ自分を否定され立ち上がる気力すら圧し折られる、こんなものが自分の望んだ戦場なのか。
『……私は……どう、すれば……良かったんだ……』


●兵士、二人。
 始まりに不幸はあったのかも知れない。だがそんな事は、このクロムキャバリアの世界においてありふれた戦禍だった。
 彼女が銃を手にしたのは、その時に手を伸ばせば届く距離にあったからだ。
 彼女が軍に入ったのは、自らを守ってくれる家を必要としたからだ。
 だから彼女は兵士になった。いついかその家を自分の居場所として信じて、信頼され信頼する仲間たちの為に戦い、命を預けた。
 だが彼女は一人になった。
 全てを投げ出す覚悟で挑んだ戦いに敗れ、自らの居場所は奪われ、しがみつける場所は軍しかなかった。それで彼女は居場所を守れたのだろうか。
 無理だったのだろう。だから、ここにいる。
「……クロエ・レーテルバック……?」
「……ランデルフ……スコットハウアー、か……」
 蹲る女性に呼びかければ、力なくこちらの名を呼ぶ。その目は虚ろで生気が感じられず、自らの生み出した感情に飲み込まれていた。
 先程までのランデルフと同じように。
 望んだ結果を得られなかった、望まれた結果を出せなかった。自らという弱い存在に対する失望と自己を否定する心は、彼女が今まで築きあげた人生さえも否定してしまう。
「私は何の為に存在している。私のすべき事は奴らを殺す事、それは理解している。だが、理由が……私の理由が消えている……私は、何の為に存在しているのだ……」
「それは分かりません。けど、クロエ中尉が誰の為に存在しているのか、私には分かります。こんなにも、みんなに必要されていたんですから」
 振り返った先が、闇の中であったその場所に道が象られた。絵画のようにかけられた写真に写る人々は、クロエの中に存在する人々だ。
「…………」
 クロエはしばらくそれを見つめていたが、やがて寂しげに笑いランデルフに目を向けた。
 お前が誰の為に存在しているのか知っている、そう語る彼女の瞳は、微睡に沈んだはずの自分を想いし言葉だった。
「何となく、分かってはいたんだ。私は異物だと、ただの付属品だ。このエルフェの」
「そんな事、ありませんよ。――私に力を貸してください、中尉」
「フ、私の力だと? 何の意味があるのだ。私には力なんてない、ただ機械にしがみついでいるだけの無能なのだ」
 そんな事は無い、そんなはずは無い。
 ランデルフはクロエに強く訴える。ならばなぜ今まで戦ってこれたのだ。支えとなった技術は確かにあった、だからこそ戦い、そして敗れたのだ。
 その心を貫く敗北と挫折の味は、ランデルフは痛い程に知っている。それはクロエも同じだ。辛酸を嘗めて、心の折れた二人だからこそ、立ち上がれるはずなのだ。
「私がアメちゃん小隊に選ばれたのは、みんなに期待されたのは、情報処理能力の高さです。随時判断を行い予測する、チームをまとめる為の指針のひとつに成長して欲しい、そう願われたんです」
「……私が……ガン・スモーク小隊に選ばれたのは戦闘能力の高さからだ。隊長を守り、仲間を援護し、確実に生きて帰る為のライフガード」
「エルフィは私が管理します。敵の動きだって捉えて見せます」
「エルフェは私が管理しよう。敵ならば必ず撃ち砕いて見せる」
 視線を交わす二人に、もう不安の色は無かった。
 自信に満ちたその顔は、追い詰められた獣でもなく、ただひたすら兵士として。

(可動範囲修正無用、左舷反応誤差修正、コンマゼロゼロゼロイチサン)
 スコープを覗き、敵オブリビオンマシンの動きに合わせて何度も細かく行っていたモノクラーの照準と機体反応性の修正。
 その間も位置を変える事は無くただひたすらに狙撃の瞬間そ準備だけに時間を費やしていたルゥ。とは言え彼も、先刻から動きを止めた目標、それも猟兵らによって囲まれた状況に出番はないかと考えていた所だ。
 それならそれで良いと特に関心も低くリラックスした様子のルゥ。状況が変わったのはその直後だった。
 ――捕捉された。
 電脳魔術師としての特性か、モノクラーでさえ反応していない電子情報に気づいたルゥは眉を潜める。即座に攻撃をする、といった敵意は感じられない。どちらかと言えば位置を確認した程度のものだが、今の今までされなかった事だ。
 それが、完封されているはずのこの状況で行われた。
(スコープを覗いてるだけ、とはいかないみたいですね)
 ルゥは前線で戦う猟兵らへと通信回線を開く。
『こちらルゥ・グレイスです。みなさん、オブリビオンに何か変化はありませんか?』
 その頃、件のオブリビオンマシンを取り囲んでいた猟兵たち。全員が見ている訳ではなく、動きを止めたロボット兵にも注意を向けている状態だ。
 特に近い位置にいるのがレイとウタ、離れてチェスカー。ルゥからの通信に反応したのは彼女だった。
『特に変化らしい変化は無いと思うが、何かあったのか?』
『僕は今、その基地から六キロメートルほど離れた場所にいますが、捕捉されました。先程まで捕捉されていなかったので、確認をと』
『……六キロ……?』
 それなりの距離であるがレーダーで探知できない距離ではない。探知程度はしていたかも知れないが、問題は先程まで捕捉されていなかったという事。
 それまで動きの無かった相手が変化を見せている。猟兵の間に一瞬の緊張が走る。
『……ラッド少佐……』
『! 少尉、良かった。戻ってきてくれると信じていたぞ』
 自分の名を呼ばれた事で安堵するジョナサン。中継していたウタも彼と同じく安堵した様子を見せた。
 少佐はすぐに咳払いをすると、即座に命令を伝える。
『少尉、作戦は失敗だ。我々は敗北した。だが君の機体なら帰投できるはずだ、今すぐ戦線離脱を行うのだ!』
『おいおい、勝手を言われちゃ困るぜ!』
『拒否します』
 思わず不満を漏らすウタだが、それよりもジョナサンの言葉を一蹴したのはランデルフである。
 目を見張るウタの前で、頭部のセンサーをぐるぐると回転させるオブリビオンマシン・エルフェ。戦闘行動へ移行している事に気づいたチェスカーは即座にサブアームである『BXS-PMG42』、通称電動ノコギリを引き抜くも、先に動いたのはエルフェだ。
 施設の壁、その上部にいつのまにか生成していた砲台からレーザーが放たれ、アリスの糸を焼き切った拘束を解く。
『いかん、戦場は決しているのだ、被害を増やしてはならん!』
『いいや、まだだ。まだ決してはいない。この戦地には最後のダンテアリオン兵であるランデルフが』
 そして。
『この世界には最後のガルメリッサ兵であるクロエがいます』
『……何を……!? 少尉ッ!』
『悪いが通信はここまでだ!』
 ヴィエルマ領との通信を切断、ひらりと施設の屋根へ飛び乗ったオブリビオンマシンを睨みつける。
 何やら嫌な開き直り方をされたか。ここにきて、敵機から生じる嫌な重圧にチェスカーが頬を掻けば、発破が利き過ぎたかとレイは首の骨を鳴らした。
『猟兵ども、見せてやる。このエルフェの、我らが軍の――、いや私たちの力を!』
 一斉に行動を再開したロボット兵に、慌てた様子で飛び掛かっていくアリスたち。
 だがその群れをあるいはかわし、あるいは蹴り跳ね除けてその歯牙にかからないよう機敏に動く。
「ギギーッ!」
(何だか動きが早いわー!)
「……と、言いますか……! 全体的に反応が良くなっています!」
 桜花の接近に対して跳躍して回避行動に移るロボット兵たち。だが戦闘速度において大きく差がある以上、追撃で真っ二つを狙えば他の機体が味方もろとも射撃する始末。
 修復手段がある故の行動だが、最初に連帯感を見せた時よりも、より人間臭い動きを見せているのだ。
「すみません、ロランさん!」
『わかってはいる、のっ!』
 敵部隊の集中攻撃をかわしながらロラン。雷を撃ち落とそうとしたアルター・ギアを優先する敵の動きに、遥翔は地上を走り、炎をばら撒いて敵の頭部を焼いていく。
『時間を稼ぐ、この内に――、!』
 しかし、頭部のセンサーを焼き潰されても敵の狙いは止まらない。構わずアルター・ギアへライフルの銃弾を連射する姿は壊れた操り人形そのものだった。
 そう、その索敵能力は互いのロボットが相互補完している。
『ならば!』
『まとめてぶっ壊す!』
 迦具土を構えたイグニシオンが施設の壁面を蹴り、敵集団へ向かえば同じく紅葉の操る迦楼羅王も炎を従えて棍を回し、敵集団へ一直線。
 アルター・ギア狙いのロボット兵の一部が迎撃へと行動を変えるが、易々と捉えられるはずもなく。
『!?』
 しかし、足場にした施設の壁面が崩れて体勢を崩すイグニシオン。施設内部から壁を壊した出あろう大鎚を担ぐロボット兵の姿。
 即座に黄金に燃えた機体は炎を噴出、地面を前転して立ち上がると同時の刺突がロボット兵を粉砕した。
(動きを読まれてる!? いや、見えているのか? さっきまでとは明らかに違うぞ!)
『…………、オブリビオンマシンだ! 奴を自由にさせとくのはマズい!』
『それは分かっているのですが』
 遥翔の言葉にノエルは状況を煩わしく感じながらも答えて舌を打つ。雑魚掃除をと考えていたノエルであるが、彼女も早々に敵機の変化に気づきオブリビオンマシンへ狙いを変えた。
 しかし、再びロボット兵という数多の視界を手に入れた敵機はこちらの射線に留まる事無く逃げの一手である。
 そこにはマグネロボ捌式、ヴィエルマ改の連携もあり敵が攻勢に回り切れていないという優位もあるのだが。
(結局、今の状況がそのままという事に変わりはありませんね)
 何とも歯痒い。
 迫る敵機をプラズマライフルで焼き払いながら、即座に修復されていく姿に嫌気が差す。戦場全体の把握能力が劇的に向上している。損傷した機体の即座に修復、こちらの動きへの対応、どれもただの一人で統率しているとは思えない反応だ。
(少佐の言葉は、ランデルフさんに届いていた。でも、彼女は、彼女たちは戦いを止めない)
 再開された戦闘に、シルは苦しそうに胸元を押さえた。
(少佐の想いはきっと少尉に届いていた、だから二人はひとつになったんだ。だけど、それ以上の先に、オブリビオンマシンに届かないのなら!)
『みんな、ごめん、時間を稼いでもらっていい?』
『何か策があるなら、是非ともお願いします!』
 エクリプスで救い取ったロボット兵一機を大玉に、次々と他ロボット兵に食らわせ、あるいはかわされつつも攻めるのを止めない摩那。
 彼女の同意を得て、シルは後退する。攻撃手が少なくなるのは痛手だが、状況を打開する為に必要ならば。
「ロランさん、こちらの砦へ。身を隠しながらユーベルコードを!」
『り、了解したの!』
『おっと、行かせん!』
 後退するロランへ追撃を狙うロボット兵、そこへイグニシオンの投げた迦具土が突き刺さり、後続の機体を巻き添えに弾き飛ばされた。
『助かるぜ、ルゥ』
『いえ、僕も出来る事は――、あ。紅葉さん後方上空』
『任せてください!』
 超々後方から戦場を見つめるスナイパー。彼の指示を補助に敵オブリビオンマシン程ではないが、効果的な敵から排除していく。
『シィ!』
『斬ッ!』
 跳び込み様の蹴りとすれ違い様の斬撃。
 施設の屋上から屋上へと飛び移り、互いに近接戦の応酬を繰り広げるランデルフとレイ、ウタの三名。雷光と炎を引き連れて動く機影は速く、獣の如く。
 しかしそれを受けずに払い、かわすオブリビオンマシン。
『大分マシになったようだな』
『苦しくなったとも言えるけどな!』
『お前たちもあの雷様を守りに行った方がいいんじゃないか?』
 互いに軽口を叩くが、頭部のセンサーが高速回転するエルフェの姿がその目に焼き付く。
 こちらの動きに対応しているのは間違いないが、だから余裕がある訳でもないのだ。
『よし、ロラン、動きの止まった奴を片っ端から雷で破壊してくれ!』
『でもそれじゃあ……すぐに敵が復活しちゃうんじゃ……』
 訝しむロランに操縦席からウィンクひとつ送り、チェスカーは笑う。
『その方が良いのさ。奴は相当に無理をしている、どれだけやれるのかは分からないが、長期戦でジリ貧なら短期決戦、根競べといこうぜ』
「なるほど、そうと決まれば話は早い」
 二人の言葉に冬季は頷き、殺到する敵ロボット兵の群れに頭を下げた。視線だけは迫る数へ向けられて。
 お引き取り願いましょう。
 彼の言葉に導かれ、砦から一斉に顔を見せた火行の黄巾力士たちの熱量光線が敵の装甲を次々と熔解させていく。
『アリスさん、後方援護。砦の方に集中お願いします』
「ギギッ!」
(りょーか~い!)
 こちらも負けじと隊列を組んで体当たりをしていたアリス軍団、ルゥの言葉に一部を残し後退、殿となった妹たちも紅葉や遥翔の援護を受けて撤退し、砦に纏わりつく。
 それとほぼ同時に砦内部に出現する敵ロボット兵。
「敵もこちらと一緒で構造物をしっかり把握していたんですね。ルゥさん、いい判断です」
「ギィエエエエエエッ! ガチガチガチ!」
(突撃よーっ!)
(はーいっ!)
 床と言わず壁と言わず天井と言わず。
 内部を埋め尽くすようにして突撃するアリスらの姿は押し寄せる波の如く、出現したロボット兵は逃げ場もなくそのまま踏み潰される。
 何という密度と質量か。
『アルター・ギア、行きますっ、なの!』
 再び基地上空の巨大魔法陣が力強く輝き、巻き添えを食わぬようにと後退した猟兵たちの目の前に黒い落雷が発生する。
 しかし。
『受けた!?』
『避けてる!』
 雷などかわしようがないと踏んだランデルフは三機ごとに連携させ、盾で頭上を防御する二機とそれらに守られ前進する一機とでパターン別けした。破損を免れた者たちは互いに同じくスリーマンセルを組み砦へ向かい前進する。
 一撃で粉砕できなかった事でタイミングをずらし復元されるロボット兵たちに、一撃で殲滅する事が出来ずに時間稼ぎを強いられているような状況だ。
「ギチギチッ」
(でも、砦に辿り着けなさそうねー)
 粉砕したロボット兵のパーツをもぐもぐしているアリスの言葉にロランも同じ事を考えていたようだ。結局は時間稼ぎをした所で敵は粉砕されている事に変わりはない。
 戦場にいる時間が長いだけで打開策はないのだ。
(……時間稼ぎ……やっぱり、チェスカーさんの言う通り、なのかな……?)
 対してレイらと戦っていたランデルフは別だ。雷発生箇所を読み取り、落雷が生じる前に回避している。
 ロランの攻撃の巻き添えなど気にするでもなく、真直ぐに最短距離で接近するマグネロボ捌式は両腕を顔の前に揃え、ボクシングでいうピーカブースタイルを見せる。
 別方向からの攻撃を気にしているのか左腕一本の剣で対応するランデルフに、突きを前腕で受け流せば、勢いをそのまま掌で獲物を滑らせ、逆手へと持ち替えるエルフェ。
 戻す腕の動作をそのまま攻撃に変えた斬撃も、見切り潜るキャバリアの瞳には闘志の炎を燃えていた。
 上半身を上げず、むしろ更に沈め。
『――フフッ』
 奇襲に繰り出された浴びせ蹴りも小さな笑みと共にステップでかわせば、稲妻を受けて脆くなった屋根に鋼の踵を落ちて崩落させた。
 施設の中へと身を滑り込ませるオブリビオンマシン。
『レイ!』
 思わず叫んだウタの制止の声も聞かず、後を追うレイ。これが誘いである事は明白だが、挑まなければならないのはレイだけでなく、勿論ウタも承知の上だ。
 しかし躊躇いもなく跳び込むかとウタはひっそりと溜息を吐きつつ、気合を入れ直して穴へ向かう。
 瞬間。
 凄まじい揺れに足元を崩されてたたらを踏むヴィエルマ改。その安定性をもってしても崩される程の揺れ、ユーベルコードによる落雷を受けたとは言えキャバリアの蹴りで崩された施設の強度が耐えられるはずもない。
 崩落部分から引き裂かれるように崩れ始めた施設に、慌てて飛び降りれば粉砕する壁面。
『!?』
 瓦礫ごとマグネロボ捌式を吹き飛ばし現われたのは最早キャバリアとは思えぬ巨体。
 エルフェ・ヴィマナ、先程よりも大きく猛々しい姿が施設を粉砕し、吹き飛ばしたマグネロボ捌式へ更に追撃する。
『速いな、くそ!』
『名付けるならセカンドとでも言おうか!』
 ビッグタイガーの援護射撃は精確にオブリビオンマシン下部に直撃、拡散するアリスの糸が地面にも粘着するが背面だけでなく側面にも増設された新たなセカンドの加速力、減速したもののコンクリート舗装を引っぺがして構わず突き進む。
『けど、お陰で間に合った!』
 右腕から噴き出す炎は威力となって、オブリビオンマシンの突撃に合わせ一回転、握る大焔摩天は光に輝き、その高熱は空気を焦がし世界を歪め、巨大な刃の一閃がセカンドに正面から激突する。
 深々と食い込んだ刃は炎を噴き上げて装甲を溶断していくがその巨体、右腕の加速を使っても両断には至らず跳ね飛ばされてしまう。
 その間にも体勢を立て直したマグネロボ捌式は、オブリビオンマシン突進の回避に成功している。
『幾ら何でも、あんなデカいの装備するには時間が早過ぎないか!?』
『…………! そうか、この為の時間稼ぎだったのか!』
 ウタの言葉に遥翔も反応して歯噛み、施設を薙ぎ倒す巨体に向けてこちらも迦具土を構えた。
『なるほど、ロボット兵を戦場に残す時間を増やす事で全体数を誤魔化して、先に外装を施設の中で生成していたんですね』
 姑息な手段だと唸る摩那であるが、効果的ではあった。出現したセカンドは各部にロボット兵の頭部も増設されており、更に短い時間で自身が反応できるよう、各機ではなく自機で死角を消すように調整されている。
 クロエのユーベルコードで焼き潰されては各機の目の優位性も消える、だからこその判断だろうが。
『……フ、フフフッ……見えるぞ、猟兵め。今の私なら風を読める、雷すらもかわせる、エルフィを管理するランデルフが私に情報を伝えてくれる。
 私の処理し切れなかった情報はもう無いのだ、今こそ積年の恨みを、我が手に勝利を!』
 吠える彼女の鼻を啜る音にノエルは眉を潜めた。泣いている様子はない、ならば鼻水というよりも鼻血ではないかと推測し、事実彼女の読み通りランデルフの鼻は出血していた。
(毛細血管の弱い人間はストレスで出血すると聞くけど、余程の負荷がかかっているのは間違いありませんね)
 チェスカーの仮説に根拠が付き、ノエルは戦場を往く巨体を睨みつけた。
 敵の戦力は劇的に向上しているが、同時にその力に追い込まれている。
『ロランのユーベルコードが復活した以上、ここからは総力戦だな』
『機体の方は大丈――、夫、じゃあなさそうね』
 一度はまともに跳ね飛ばされたマグネロボ捌式。現れたその姿に紅葉は声をかける、一目に各所から火花を上げ、動きの怪しい手足に呻く。
 当の本人は気にする様子なく、視線の先で回頭するオブリビオンマシンを見つめていた。
『無限湧きに付き合える程この世界も穏やかじゃあないらしいんでな』
「その通りです。一気に決着としましょう」
 レイの言葉に共感する桜花。その足元にどかどかと荒馬の如き足音を響かせてやって来たアリスが上空へ視線を向ける。
「ギィィ、ギギギッ」
(桜花さーん、レンジャーのみなさんはどうするのかしらー?)
 通信を受信したのであろうアリスが確認に来たらしい。
 敵の巨体に対し先の作戦が効果的とは思えず、さすがに施設の破壊から摩那らとともにロボット兵の破壊に回っていたレンジャー部隊。
『特に予定が無いようでしたら、私の合図と共にオブリビオンマシンへの一斉攻撃をお願いします。
 そうですね、……一人……、いえ二人はグラツニカルの使用をお願いしたいです』
「ギチチッ!」
(了解よー)
 紅葉の言葉に前肢で敬礼を返すアリス。そのまま砲台に取り付くレンジャー部隊へハンドサインを送っているが、「いや聞こえてるから」とボイットがそれを制止し、紅葉へと言葉を返す。
 合図については勿論、了解したとの事であるが問題は場所、そして敵の動きだ。はっきり言って敵の速度についていける武装ではないし、偏差射撃を行うにも厳しいと言う。
 軍人が泣き言を吐いてどうする。
『大丈夫です、動きは止めます』
『止めるったって、どうやって?』
『そこは猟兵を信じて下さい』
『…………。そうだな、前の戦闘でもそうだったんだ、今回も信じさせて貰うぜ。あの化け物の撃墜をよ』
 キャバリアで親指を立てて見せれば、紅葉もそれに答え迦楼羅王の親指を立てた。
 さて。
 正面に鎮座する巨体。機体後方側面の装甲を展開し、筒口を伸ばすセカンド。更に推進器を増やす敵機の突撃の意思は火を見るよりも明らかで、紅葉は棍を地面へと突き刺して。
 あちらさんもやる気みたいだし。
『シルさん、そちらは大丈夫ですか?』
『……もう少し……、みなさんの連携に合わせます!』
 摩那の問いに答えるその方向に、ロランは強力な魔力が発生しているのを察知していた。彼が宙に浮かべた魔法陣と同じく、空間すらも歪めてしまいそうな高濃度の圧縮密度。
 それを当てる為にも。
『わざわざ待つ必要はありませんね。ロランさん、お願いします。
 ――機動戦、用意』
 ノエルの言葉に猟兵たちの言葉が止まる。ロランの黒雷によって動きを止められた戦場で、睨み合うは最早、過去の亡霊と猟兵たちだけ。
 否、この世界で確かに生きる者たちの、ダンテアリオンとアサガシアの兵もまた戦場の鍵と成り得る。それ故に。
『潰す』
 頭上に閃く雷に反応し、急発進するセカンド。漏れた言葉はランデルフかはたまたクロエか。
 巨大な弾頭が如く、オブリビオンマシンは怨敵に向かって突撃した。


●ランデルフ・スコットハウアー。
 突き進む敵機に先陣を切り、正面から対応するのはエイストラ。互いに次世代機を謳いその速度を称えたノエルの言葉通り、最大戦速で迫るオブリビオンマシンに本機も負けてはいない。
 高速多重ロックにより発射されるのは、右肩に装備された【RS-Sランチボックス】。ダイレクトキル用の誘導弾は白煙を生じながらも発射されつつも、すぐに遅れを見せ機体後方へと展開していく。エイストラがそれほどの速度を有しているのだ。
 真正面。
 オブリビオンマシンの前面装甲が展開し複数のマニピュレーターが展開、射撃兵装を有している物もあるがそれらは全てエイストラを向いておらず、空手のみが向けられている。
 攻撃は後方を、自身は捕縛するつもりか。
 安く見られたものだと嘆息したのも刹那の間すらない、時の流れも感じさせぬ戦闘速度の潮流で、多方向に発射された砲弾と光の雨の下、迫る手にビームブレイドを突き刺すのと左側面に回り込む動きはほぼ同時だった。
『はっはっはっはっは、見えているぞ!』
『私もです』
 ビーム砲で誘導弾を一薙ぎにしつつ、更に装甲下部に隠されていた虎の子と思しきマニピュレーター。が、それもノエルはステップを刻むような小運動の複雑な繰り返し、ダンスと呼んで差し支えないそれで幾重とかわし、斬り刻み、更にその腕を足場に機体上部へと飛び移る。
『チェック』
『甘い!』
 プラズマライフルを突きつけ、内部のいずこかにいるであろうエルフェ本体へ向けて引き金を絞るノエル、それに対応し機体上部から巨大な推進器を用いて急減速したオブリビオンマシンの滑動に振り落とされる。
 振り向き止めと回転する巨体に対し、片手で地面を突き側転するエイストラが銃口を向ければ一瞬、オブリビオンマシンの動きが止まる。
 そのマニピュレーターの一つに絡みつくのは刃を露出させたエクリプス。
『何だと!?』
 地面を抉り進んで敵の目を誤魔化したエクリプスを、減速の瞬間にチャンスとばかり引き上げた摩那。先の砲撃は両肩の盾で防いだ上に、呪力エンジンによって固定されたエクアトゥールはその機体重量に似合わずびくともしない壁となり。
『――どぉおおっせええええええっ!!』
 怯みもしない摩那の一本釣り、さすがにその巨体をぶん投げるまでには敵わなかったが、腕のひとつを捥がれ剛力に持ち上げられたオブリビオンマシンは自らの質量と合わせて悲鳴を上げる。
 動きが止まった。即座に牽制から射撃体勢に移行するエイストラの脇を駆け抜ける人影ひとつ。
「翔けろ、世迷う桜よ、我と共に!」
 渦巻く桜の花びらと共に携えた超大なる剣が装甲を展開したオブリビオンマシンの左側面を深々と抉り、構えた腕を斬り落とす。
 いい感じだ。
 即座に閃く光がその傷を貫いて爆発し、花開くように巨体の前面部分を爆損するセカンド。
『…………っ!』
 たかが一瞬。
 その間に受けた損害に目を剥くランデルフであったが、戦場がそれすら待たない事をクロエは知っている。
『次弾装填、損傷個所復元並びに子機へ号令・敵機再探知範囲拡大、全目標補足接近危険度、十!』
 クロエの経験を知っているからこそ即座の判断を行うランデルフ、警鐘鳴り響く頭に恐怖心と焦りを握り潰し、自らの放った硝煙を引き裂き現れるマグネロボ捌式の眼前にロボット兵を生成。
 緑色の光に骨格を彩られ、内部機構や装甲を展開していくロボット兵たちはその機能を完全とする間も待たずに拳、あるいは生成中の刃を振り上げた。
『墓は欲しいか』
 眠る事の許されない衛兵らにレイは呟き、両手に生じた稲妻が鎖のように繋がれる。まるで咎人が手枷をされたような姿で前へ向けたのは赦しを請う手ではなく、敵を粉砕する為の拳。
 覇気をその両の拳へと集約させて放たれたEMRパンチはロボット兵を容易く貫き、彼らの守るセカンドへ向かう。
 敵機を死角とした奇襲。
『――だから、私にはッ、見えているんだよ!!』
 頭痛に細めた目から溢れる涙を拭いもせず、吐き捨てる言葉と同時に巨体に似合わぬ回避を見せたオブリビオンマシン。
 飛来する双拳は哀れ空を切り。
『!?』
 親指を立てたそれを驚異的な動体視力で確認するランデルフの眼前でぐるりと下に向くと、前腕部分の噴出口から伸びる炎がに彩られて地面へと衝き立つ。
 凄まじい衝撃が足下を揺らし、コンクリート舗装の地面を大粉砕して逆巻く青白い雷の群れ。
 【Blast(シュート・ザ・ムーン)】はロランの黒雷と相反するように発生した力の帯はセカンドを舐めるが如く追撃しただけでなく、覇気を纏うマグネロボ捌式を通じてレイのヴォルテックエンジンに力を注ぐ。
『ぐっ!? 計器優先周囲再索敵迎撃要請――、異常箇所の報告はいい!
 っ、地下最接近反応!』
『そう簡単にバレちゃうのは困りますけど!』
 刃を展開したエクリプスを回避したオブリビオンマシン、しかしそのエクリプスは先よりも更に巨大で。
「ギチギチ!」
(お届け物でーす!)
『特大ピザは熱々の内に食わなきゃあな!』
 現れたのは巨大エクリプスにアリスの糸で固定されたビッグタイガー。携えた電動ノコギリはその名に相応しく凄まじい音をたててパルス光弾を連射する。
 雷により損傷した計器の修繕を優先するオブリビオンマシンでは察知し得なかった攻撃を避ける程の機動力は発揮できず、激しい光弾の雨に悲鳴を上げた。
『…………、どけぇ!』
「ギギギッ!」
『おっと!』
 弾丸の集中する側面から機体下部より展開した銃器の群れ。しかし即座にエクリプスを引き上げた摩那により、アリスとビッグタイガーは驚きの声を上げただけでダメージはない。
 弾道から抜けたビッグタイガーへその視線が固定される中、後方から炎を巻き上げて接近するヴィエルマ改。
 翼と開き滑走する重装甲、その肩に乗るは黄金を纏うイグニシオン。
(……子機の生成が……間に合わない……!)
 遠方に反応のあるロボット兵はロランの雷によって破壊され、付近のロボット兵はレイの雷によって機能停止に追い込まれている。
 計器を優先して修復したお陰で後方から接近するキャバリアの存在を察知しているものの、それを防ぐ手立てが無い。
『――だからと言って!』
 機体後方の筒口を可動し無理やりに振り返ろうと推進剤を噴射するオブリビオンマシンだったが、凄まじい音をたてて爆損、後方の主となる推進器を巻き込む損傷を受けた。
(きゃーっ)
(作戦成功よー!)
(撤退~)
 レイの雷により目を奪われた一瞬の間、チェスカーらとは別方向の地面から現れたアリス妹たちが機体に取り付いていたのだ。
 個体同士で共通する意識に群体行動の乱れは無く、この妹たちの行動を悟らせない為にアリスとチェスカー、そして摩那は攻撃を合わせたのだろう。
 爆発から逃れる彼女たちが三体で器用に持つパジョンカを見るに、その筒口の奥へと特殊弾を発射したことが伺える。高出力故に粘り付いたアリスの糸は壁となり、爆発を巻き起こしたのか。
『……馬鹿な……こんな……!?』
 各部の損傷を後回しにしたツケ。否、こうせざるを得なかったのだ。
 足を完全に奪われたセカンドに対し、迫るヴィエルマ改の右腕は紅炎と化し大焔摩天が天へと伸びる。
『ならば!』
 左側面は使えない、接近する敵を止める手立てはない。残る右側面の腕で狙えるのはエクアトゥールらか。だが狙うべきはそこではない。
 耐えれば勝つ。
 その想いで向けられた照準は冬季の築いた砦である。
『目標、攻撃対象アルター・ギアです』
『悪足掻きを!』
 冷静なルゥの言葉を受けて、ロランを守るべくヴィエルマ改の肩を蹴り加速するイグニシオン。敵の狙いはアルター・ギアの攻め手を止めて、自らを守る盾を増やす事であろうが。
『そう簡単にはやらせない!』
 加速する機体を黄金の弾丸と化し、直接敵機へぶちかます。巨体を揺るがす衝撃に砲口は砦より離れたものの、機体下部その装甲から誘導弾が一斉に発射された。
 マニピュレータに持った火器は囮かとほぞを噛むものの、空を行く白煙に対して照射されるのは赤光。
 砦に構えた黄巾力士たちの金磚が放つ熱線は、次々と誘導弾を焼き切り、あるいはその熱量で熱探知の誘導機能を狂わせ進路を奪う。
「後方はご安心を」
 底意地の悪い笑みは本の下に隠し、向けた言葉は猟兵ではなくオブリビオンか。
『――……ッ! 貴様らがぁあ!』
 その巨体を揺らし、無理に砲身を叩きつけるセカンドであるが、それは触れられもせぬ残像だ。
 掻き消えるイグニシオンを引き裂いて、業火にその身を滾らせたヴィエルマ改が、右へと大きく引いた巨大な光刃は地面と水平に、背面に回るほど限界まで引かれたその刃。
『がああああああああっ!!』
 炎を棚引かせた咆哮が、獅子の顎が如くオブリビオンマシンへ深々と撃ち込まれた。突きでも無ければ斬り下ろしでもない、先の一撃の雪辱を果たさんとするかのようなヴィエルマ改の右腕は炸裂するように激しく爆ぜて、その一撃を今度こそ振り切った。
 赤々と溶けて飛び散る装甲、内部より生じる閃光と火花、操縦桿に残る確かな手応え。
 致命傷、そのはずが。
『――フフッ』
 その小さな含み笑いは、ウタがレイと二人でエルフェの足止めをしていた時と同じものだった。
 巨体の、ずたずたに引き裂かれた装甲が火薬により排除されて中から現れたのは、一度は彼らの撃墜した姿――、正真正銘のエルフェ・ヴィマナだ。
『……は、は……切り札は……最後、まで……! ……我が……誇りは……ガルメリッサ……の……!』
 苦し気な声。すでに肉体の限界が近いのであろう言葉は間違いなくクロエのものだった。
 新たに装甲を展開し滾らせる闘志は本物だ、しかしそれはすでに燃え尽きようとしているもの。これ以上の戦いは死すらあり得るだろう。
『……目が覚めたとき、全ては終わっていますように……』
 そんな彼女への祝福とも取れる優し気な声。そう、全てはこの瞬間の為に。
『――切り札は最後まで、全くその通りですね!』
 すでに死に体であったのか。接近する敵機の存在に気づかなかったクロエとランデルフ。
 黄巾力士に連れられ空より降下する迦楼羅王、紅葉の言葉にエルフェ・ヴィマナは頭部を上げて迎撃態勢へ。
(ワンチャン、間に合え!)
 恐ろしくゆっくりとして見える光景の中で、展開した装甲から生えたマニピュレーターの群れと定められる数々の照準。
 だがその鉄の塊は敵意に咆哮する事無く、【形而上銀河鉄道の車窓(ノン・ヒューマン・レヴェル)】より放たれたたった一発の弾丸が、エルフェ・ヴィマナと貫いた。
 まさかそれが、何キロと離れた位置からの狙撃であると誰が予想しただろうか。
 その衝撃に機体は揺れて持ち上がり、力を無くして落ちる腕を抜けた黒がひとつ。敵機体の突端に落下して大きく装甲を潰した迦楼羅王の掌打が、ヴィマナの外装を粉砕した。
 胸に灯るハイペリアの紋章が輝きを増し、紅葉の手に映るそれもまた強い青で視界を染めた。
『コードハイペリア承認。アビスゲート限定解除……承……認……』
 ずしりとセカンドの上にあったヴィマナが沈む。迦楼羅王の右掌を中心に、その装甲が歪んでいく。
『超高重力場……特異展開……実行、ハイペリア重殺術、【奈落門(アビスゲート)】』
 機体内部に刻み込まれたハイペリアの刻印を中心として発生する重力の歪み、極度の集中。紅葉はユーベルコードの成功を確認すると同時に機体から跳び立ち、今か今かと構えるレンジャー部隊へ遂に言葉をかけた。
『あんたら死ぬ気でぶち当てなさい!!』
『よーっしゃ!』
『任せろ姐さん!』
 誰が姐さんだ。
 思わず半眼で呻きながらも機体を旋回、空にて迫るグラツニカルの巨大な鉄の矢を回避する。
 あの野郎どもめ、号令の前に撃っていたなと舌を打ち。
 激しい衝突音が基地内に響き、エルフェ・ヴィマナの装甲を貫通する二つの矢。重力に縛られ鎖で繋がれ、完全に動きを封じられたオブリビオンマシンへ新式の連射がお見舞いされる。
 激しく上がる爆炎は止めとばかりだが、ヴィマナの外装を考えればこの程度でパイロットが死ぬはずもない。
『早く救出を――、!』
 炎の中へ踏み込もうとした遥翔はイグニシオンの動きを止める。
 まさに揺れる炎の中で、救いの手を拒絶するように向けられた砲身。熱により弾けてマニピュレーターを粉砕されても、移動することすら出来ない状態でも、声すら上げられずとも。
『…………』
 未だに戦意を抱えたエルフェ・ヴィマナの前に、雷光に照らされてマグネロボ捌式が立ち塞がった。
『オレは。弱かろうと臆病だろうと、志のある奴を不恰好とは思わん。
 もし本当に指差す奴がいるならぶん殴ってやる。なんで、思い出せ』
 望むべきは過去にあるのか、未来にあるのか。
 望んだものは何だったのか。
 振り被る拳は愚直に相対するオブリビオンを睨みつけた。
『……フ……』
 力なく零れた鼻息は、憐れんでいるようでもあり、嘆いているようでもあり。
 直後に放たれた飛拳は雷鳴轟かせ、強烈な風をともなってヴィマナを粉砕する。――そう、外装を。
 全力の拳がその装甲を抉り貫通した所へヴィマナを脱ぎ捨て正面、隙を晒したマグネロボ捌式、レイ・オブライトへ飛翔するエルフェ。
『死なば諸共ォ!』
『そんな終わりは許さない!』
 吠える兵士を叱咤するのは、その身に魔力を湛えた精霊機ブルー・リーゼとシル・ウィンディアだ。
 珍しくその目を怒りに濡らす少女はマグネロボ捌式の盾となるように姿を現し、ハイペリオンの紋章に爆縮する空間の歪みすらも跳ね除ける程の力を有した機体で疾るエルフェへ照準を定めた。
『闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と……闇よ……!
 六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!』
 高速で詠唱される言葉を更なる力として、ブラースク改にシルの魔力が集約する。
『銃身が焼け落ちるまで――、わたしが撃つのは、人を惑わすオブリビオンの怨念だけだっ!』
『!』
 【ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト】。
 唱えた言葉に放たれた力の奔流は砲身を熔解しながら拡散し、正面に浮かぶ六芒星によって強引に集約されて渦を巻き、激しい光が拡散していく。真っ白に染め上げられていく視界に、エルフェに搭乗し、そしてランデルフの心に寄り添ったクロエはただ静かに笑った。
『……だ、……め……駄目、だっ……!』
 縋りつく弱者の言葉にクロエは言葉もなく手を振ると、光と共に運び去られた。
 基地を薙ぎ払う巨光。
 視界を埋め尽くしたそれが治まった時、そこに残るのは装甲を溶かして、なおも立つエルフェの姿である。だが、そこに先程までの覇気も、邪気すらも感じられない。
 抜け殻のようなそれは、それでも溶けた腕を天へと掲げた。
『……駄目だ……私は、一人じゃ……何も……誰も……』
 虚空から降り注ぐ光が、弱者の言葉に応えるようにその身を覆っていく。だが、それは祝福ではない、呪縛に他ならないのだ。
 砲身の溶けたブラースク改を取り落とし、その小さな身のほとんど全ての力を使い果たしたシルに呼応してブルー・リーゼが片膝をつく。
 余りの威力、その余波にヴィエルマ改やイグニシオンも遠くへと弾き出されており、オブリビオンマシンへのワンアクションに遅れが生じている。
 間に合うか間に合わなざるか迷うよりも早く、この状況で賭けに出たのはノエルだった。
『飛、べッ!』
 白き投手がオーバースローで投げ放ったのは桜の花びら纏う精霊。
「チェィイエイストオオォッ!!」
 一刀。
 気合の裂帛と共に駆け抜けた一閃が、爛れたエルフェの翼を斬り落とした。
『――あっ、ああっ……そんなっ、光が……!』
 その腕に集う光が消え、悲壮に喘ぐランデルフの言葉を無視しエルフェの腕を叩き切る。
 地に落ちた両腕は、戦いの決着を意味していた。
「…………、終わり、か」
 最後の最後まで足掻きを見せたオブリビオン、センサーからも光を失い、力なく項垂れた事で戦いの終焉を悟り冬季は小さく息を吐いた。
 だが、桜花はまだ終わりではないと風に逆巻く髪を揺らし、キャバリア用大太刀を投げ捨てて代わりとばかり、桜の花びらが刻印された【桜鋼扇】を懐から取り出す。
 逆手に持ったそれを開いて胸部装甲を斬り付ければ、シルの一撃もあり薄くなったそこはあっさりと斬り開かれた。
「どうしてっ、……どうして……っ! クロエ、私一人じゃ無理だよ、みんなの声に応えられない……駄目なんだよぅ……!」
 操縦桿に縋りつき年甲斐もなく泣きじゃくる弱者そのものの姿、ランデルフは亡き幻想の名を呼んでいた。
 桜花はそれを厳しい目で見つめて彼女を操縦席から引きずり下ろし、童の如く未だに泣くその額へ頭突きをくれてやる。
「せいっ」
「あっ、……つぅう……!」
 もちろん全力ではないがそこは頭突き、痛打された事にようやく彼女の目が桜花へと向けられた。
 その目に映るのは卑屈で弱く、自信のない怯えた弱者の色。
「無理だと思うなら、その通りです。逃げたいなら、逃げても良いと思います。戦いたくないなら、戦わないのも在り方のひとつでしょう。
 でもそれは、戦うよりもずっと険しい道です」
「……逃げる、事が……険しい……?」
「ええ。そうです」
 桜花はこちらの言葉に応えたランデルフに、ようやくいつもの優しい笑みを浮かべた。
「少なくとも、その険しい道は、そうでなくとも貴方の道は、このオブリビオンマシンの中に座す事ではありません。
 貴方のやりたいことがやれるか、一緒に考え探しましょう」
 言葉なく頷くランデルフに、事件はようやくの終わりを見せたのだとロランは安堵の息を吐く。だが、痩せても枯れてもオブリビオンマシン、その原型を留めたままにしておく訳にはいかない。
 ワイヤーフレーム・リバイバル・システムを失い、既に活動をとめたロボット兵と同じく漆黒の稲妻をヴィルフェへと落とし、完全なるスクラップへと変えた。
 仕事終わりのおやつだと嬉しそうに近づいていたアリスの妹たちが慌てて逃げ出すのに気づいてロランは謝罪しつつ、残るロボット兵の処分をアリスらに一任する。
 ノエルはエイストラの機能を確認しつつ、最大出力での戦闘記録も確認しているようだ。激烈な反応速度と死角のないオブリビオンマシンとの速度決戦は価値あるデータとなるかも知れない。
 紅葉は機体の各所から噴き上げていた炎や光を消し装甲を閉じた、それでも未だに熱を発したままの迦楼羅王を見上げる。彼女の背後、その先には地面に突き刺した本機の棍が残されているが、回収するにももう少し休めてやったほうがいいだろう。
 すっかり髪の色も元に戻り、右の拳を左の掌に打ち付けて任務終了間近に目を細める。その顔には報酬への期待が笑みとなって映っていた。
 イグニシオンも纏っていた金色の炎を消し、レンジャー部隊に声をかけて基地の防壁へと向かう。この基地に取り込まれた輸送列車用のレールを掘り出す為である。
 掘削ならば任せろと言った所で摩那はエクアトゥールと共にその背に続いた。刃を伸縮し繊細な動きも可能なエクリプスは大きな戦力になるだろう。ビッグタイガーをエクリプスから引き剥がしたアリスもついていくか迷った様子であったが、ロランのお願いを優先してロボット兵の元へ向かう。
 チェスカーは縛り上げて持ち上げるなどと、随分と無理をさせる形になったビッグタイガーに、搭乗席から降りるとシガーケースから取り出した人参スティックを加えながら手で触れてその身を労わる。
 とは言え、まだ全てが終わった訳ではない。
 砦はそのままに、内部の通信機能を使い輸送列車と連絡を取る冬季。随分と時間がかかったが、さすがにまた酒を飲んでいるという事も無ければその連絡はきちんとヴィエルマ領の車掌が受け取り、輸送列車の進行を再開した。
 シルは消耗した体でやっとのこと精霊機を降り、ふらつく足に転倒する寸前でレイに抱き留められた。が、マグネロボ捌式の損傷の通りにそれなりにヤベー身なりとなったゾンビマンの姿に思わず絶句。
 少女の気力の回復が先か、彼の体の回復が先かといった所だが、そんなものは心配事ですらない。敵の外装を剥ぎ取るに至ったマグネロボとオブリビオンマシンの力の殆どを剥ぎ取った互いの全力による一撃を健闘を称えて。
「ふぅ」
 敵との戦闘よりも、酷使によってぼろぼろとなったヴィエルマ改。
 搭乗席から飛び降りたウタは傅くそれを見上げて、「頑張ったな」と拳を掲げた。それからと歩を進めた先で、桜花に慰められていたランデルフ・スコットハウアーが落ち着きを取り戻した事を確認し。
「お疲れさん、少尉」
「貴方は……確かラッド少佐の通信を中継していた、あの機体の……?」
「ああ」
 こちらも警戒させないように出来るだけの笑みを浮かべて答え、その右手に炎を灯す。それは柔らかな輝きを持ち、陽の光の下でも確かな存在感を放っていた。
 【ブレイズアッシュ】。彼のユーベルコードで、地獄の炎に生命賛歌を込める事で特性を変化させ、理不尽な未来そのものを消滅させる力を持つ。
「辛い想いをしただろう、あんたはオブリビオンマシンに心を囚われていたんだ」
「……囚われる……」
「そうだ。だから、この炎でその記憶と未来を浄化させる。オブリビオンの戒めから解放されるんだ」
 解放。
 ウタの言葉に不安そうな視線を向けるランデルフだったが、隣で肩を抱く桜花から勇気を得て一歩、前に踏み出した。
「……あの、私は……私の中にいた、クロエを消したくない……彼女の心は、想いは、きっと私と同じだったはずだから、私は彼女と未来に行きたいんです」
「…………、駄目だ。彼女の心と記憶は消していく。ただ、少尉が言うようにきっと、彼女の想いはあんたに残るよ」
 だって、共に未来を勝ち取ろうとした戦友なのだから。
 例えその先が破滅だったとしても、その言葉を飲み込んだウタに、ランデルフは全てを託すように頭を下げた。
 右手に灯る炎が、空に舞い上がる火の粉となり、彼女の抱える過去の妄執を消していく。こんな戦いがあったなど素知らぬような、魔法陣も雷も、銃声すらない真っ青な空へ。

 猟兵たちが最後の仕事へ取りかかっている頃、冬季に連絡を受けた輸送列車は線路を行く。相変わらずのゆったりとした走行に冗談かと思うばかりの振動を伴う車内で、またも賭けに興じる副長らレンジャー部隊の姿があった。
「カード、チェンジで。……あ、それと副長……見てますからね?」
「カモ以外にイカサマなんてやってられないってば」
 カモと呼ばれた三人の頑張りなど露知らず、鼻の頭を掻きながらどの札に金を賭けるか選ぶ博徒たちの顔ぶれ。
 ただし唐突な急停止にその顔を座席に突っ込むまでの話だ。
「あつつ……今度は何……?」
『アサガシアンの人たちよう、すまねえが車外のあのキャバリア、様子を見てくれないか!』
「ええー。…………、カノス、行っといで」
「うぅん、分かったよ」
 隊長であるボイットに怒られた手前か、それとも手札が悪かったのか、副長の言葉に席を立つカノス。停止した輸送列車から降りた彼が向かうのは線路脇に蹲る一体のキャバリア。
 ロングレンジライフルを狙撃態勢のままかっちりと固定された姿に、何かトラブルでもあったのかと機体を駆け上がるカノスは非常用の炸裂ボルトを使用し操縦席を開く。
「…………」
『カノス、どんな感じ?』
「……ああ……いや、人が寝てるだけだ。一人」
『ふーん。問題ないなら空いてるスペースにキャバリア乗せて、パイロットの回収よろしくー』
「ええ、何だってそんな」
『多分、というか絶対猟兵だから』
「あ、そうっすか」
 猟兵であらば手荒に扱う訳にもいくまいと、カノスは安らかに眠るルゥを見下ろした。
 全く、幸せそうに寝ていると和む彼は、まさかこの少年が着弾まで六秒もかかる六キロメートル先のオブリビオンマシンを狙撃し、仲間を救い勝利へ大きく貢献したなど夢にも思わないだろう。
 ルゥを起こさないようにゆっくりと抱え、停止する車両の座席へ運んだ彼は今度はモノクラーへと飛び乗り、狙撃形態を解除すると自分たちのキャバリアを乗せる後部の台車へと積み込んだ。
 その様子を確認にして汽笛をあげ、再び走り出した輸送列車。
「……はぁー……すっげ」
 その前方に鎮座する防壁に囲まれた敵前線基地、そして一部崩壊した場所からこちらへと手を振る隊長らの姿に、カノスは呆けたように口を開いていた。


●おい合成飼料飯食わねえか?
 がたんごとん、んがたんごと。
 ぎしぎしと軋む車両は破壊の跡が残る粉砕された敵基地を行く。掘り出したレールは少々歪んでおり車体が揺れるが、ゆっくり進めば脱線の危険もない程度だ。
『えー本線はぁ、間もぉなくダンテアリオン軍の設置したよくわからない基地を抜けー、ヴィエルマ領を退域いたしますー。
 引いてはみなさま、ヴィエルマ領の兵士が警備をしている為、下手な真似、あ下手な真似をなさらないようご注意願いーます』
 車掌のアナウンスを聞き流し、猟兵たちは通された車両のひとつ、食堂で小さく固い椅子の上、今から今かと運ばれてくるはずの料理を待っている。
「今日の戦いは本当にとんでもないもんだった。物量、質、敵の練度、どれをとっても一級品で相手をするこの俺、ボイット・レンジャー率いる――」
「うるーせ、飯食わせろー!」
「引っ込め―!」
「隊長ー、セクハラです」
「……お前らマジでいい加減にしとけよ……」
 部下たちから突きあげられるような軽口に頬を引きつらせたボイットだが、彼とてこのような場が得意な訳ではない。わざとらしく咳払いをすると、料理を待つ猟兵たちへ笑みを向け、スペシャル・メニューのご馳走だと巨大な大皿に蓋をした物を机に次々と並べていく。
 どんな料理かと楽しみにする者もいれば、明らかに湯気もなく熱気を感じない更に嫌な予感を隠し切れない者も。
「オープン、じゃあん! アサガシア産、そしてヴィエルマ産の携帯固形食糧だぁーっ!」
『…………』
 嘘だろ。
 そんな部下たち、そして猟兵の視線を跳ね除けてボエットは車窓から流れ行く外の景色を見つめる。
「わりぃ、ヴィエルマ領で使う予定だった食糧費、全部スっちまった」
「殺すぞオイ」
 あまりにもあんまりな隊長の言葉にいつもながらの軽口よりもドスの利いた声でストレートに上官を脅す副長。
 だがもはや無い袖は振れないとする隊長に、副長は重苦しい溜息を吐いて猟兵たちへと向き直った。
「すいません、みなさん。こいつは今からロープに縛って車両の最後尾に繋げて転がしとくんで許してください」
「悪魔かお前は!」
 自らの非を棚に上げて声を張り上げる。おめー飯の恨みは忘れないもんだぞ。
 レンジャー部隊の隊長のせいで、あまりにも盛り上がらないおもてなしが開催されようとしていた。


・輸送列車内でのお食事会の始まりです。食堂にはレンジャー部隊と猟兵だけですが、後程ヴィエルマ領の車掌も顔を出します。
・現在皿に山ほど盛られているのはパサパサして触感ももそもそっとした味のないガムのような、現代を生きる人間が好んで食べるには相応しくない代物です。ボイットの口に突っ込んでやりましょう。
・車両内には様々な代物を持ち込み可能です。食料なども持ち込んだものとして扱える他、賭博用のなにがしかでレンジャー部隊から金を巻き上げることもできるでしょう。ボイットの身ぐるみをひっぺがしてやりましょう。
・またボイットについて、どうにも怪しい点があります。脅したり脅迫したり恫喝したりする事で、ヴィエルマ産あるいはアサガシア産の美味しい食料が出てくるかも知れません。
・ヴィエルマ領の車掌に頼めば、彼からも何かしらの料理が振る舞われるでしょう。また捕虜たちの処遇、小さな情報は車掌などから入手できるかもしれません。
・長い戦いの後、車窓の景色は褒められたものではありませんが、料理に舌鼓を打ちレンジャー部隊やヴィエルマ領の人間と親睦を深めつつ、仕事終わりのささやかな旅を楽しんでください。
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

わーいわーい、たのしーお食事会なのー
さて、ボイットさん、携帯固形食糧はこれはこれで美味しくいただくとして他にもおいしーものを隠している匂いがするのよー
でもアリスも鬼ではないので出したくない物を無理に出せとは言いません(大きく口を開けた幼い妹をボイットさんの頭に装着し)
話は変わるけど、これは緊箍児というアクセサリーに着想を得たお遊びなのー
口がじわじわ締まっていき幼い妹が我慢できなくなったらゲームオーバーよー
でも安心してー、きちんとおいしー物を出した人は100人中99人生還してるわー
ボイットさんよりおいしそーな物が出てきたら多分外れるから、おいしー物を出したくなったらだしてねー


シル・ウィンディア
ボイットさん…。
ほんとに、何にもないの?
そっかぁ、楽しみにしてたのに…(ウルウルしながら上目遣いで)

ご飯が出てきたら、ありがとー♪って笑顔でお礼を言って、みんなの元に
あ、車掌さん、これでお料理してもらっていい?

ふふ、おいしいものはみんなで食べてこそ楽しいしね。
ボイットさんも食べたいの?
仕方ないなぁ、一緒に食べよ

食べた後は格納庫にも行こうか
わたしの相棒も労わってやらないとね

リーゼ、ごめんね無理させちゃって
でも、みんなの子も結構ボロボロ
それだけハードな戦闘だったからなぁ…

みんなの機体を労わるように撫でて回るけど
ふぁぁ、さすがに魔力を使いすぎて眠いなぁ…
ちょっと休憩
リーゼの足に体を預けておやすみだね


鳴上・冬季
捕虜達に仙丹与えてからランデルフ少尉の元へ
「ダンテアリオンに戻っても貴女に生きる術はないでしょう。逃げたらいかがです?」

少尉に仙丹渡し
「戦場で倒れた上官を撃ち殺そうとした。普通に考えて銃殺ものでしょう?それに、またアレに乗ってクロエ嬢のような方が居なかった時。貴女、戦えます?」
「集団に属すということは、有事の際に命を求められるということです。貴方の上官はその点を良く分かっているようですが、貴女はどうです?」
「師を敬い同門を助け己が望みに邁進せよ。私ですら求められれば死ぬ覚悟がある…貴女は?」
「お逃げなさい、追い詰められて自分で立つしかなくなるまで。アサガシアに亡命してから隙を見て逃げればいい」


ロラン・ヒュッテンブレナー
遥翔さん(f01190)、お手伝いするよ?
たくさん量があるから、従者のマリア(無口なメイドNPC)にも、手伝ってもらうの

遥翔さんから料理を受け取って、ちょっとびっくり
ありがと、がんばってくるの
後押しをもらったから、従者のじぃや(無口な執事NPC)にお料理運ぶの手伝ってもらって、
ランデルフさんに会いに行くの

えと、あの、捕虜のみんなも、ごはん、食べて?
生きてれば、いい事あるから
一緒にごはん食べながら、ランデルフさんに聞いてみるの
これから大変だけど、がんばれそう?
過去を受け止めて、前に進めそう?
拒絶してばかりは寂しいから
だから、もっと、周りの人を見て上げて
あなたには、こんなに、仲間がいるんだから


久遠寺・遥翔
ロラン(f04258)と参加
おいおい、質より量を重視するにしても限度があるだろうが?
せっかくの食事会なんだから全員にもっとうまいもんを食わせてやるよ

ボイットから食糧を回収
他の猟兵が既に回収してたならそれを分けてもらい【料理】
UCも使って最高の料理を皆に振舞うぜ
このままでも美味いだろうが多少大味だから
ロランの従者のマリアさんと協力して仕上げだ

まぁ食糧を提供してくれたのはこの隊長さんなんだから勿論食べさせてやる
これから先食糧の味を馬鹿にできないようにしっかりとな?

ロランと従者のじぃやにも話のタネに持ち運びやすくて美味い一品モノをいくつか持たせておくぜ
しっかりと話して来いよ


黒木・摩那
ひと仕事終えて、せっかくの慰労会だったのに、出てきたのがレーションでは……。
これでは気分もだだ下がりです。雰囲気最悪。
使い込んだという隊長はあとで〆るとして、お通夜になってしまったこの空気を手っ取り早く回復させるには、やっぱり食べ物です。

まずはある物で手早く料理を作ってしまいましょう。

超級料理人にお任せあれ(違います)。

用意するのは揚げ油と先のレーション。
そして、それを油で揚げます。
最後に秘蔵の唐辛子をパラリと掛ければ

お手軽料理のできあがりです!

ただし、カロリー爆弾だけどね!
後が怖くて自分ではちょっと食べたくないかなー。

普通においしいものはきっと他の方が見つけて作ってくれるはず!


ルゥ・グレイス
目が覚めるといつの間にか列車の中、
ブーイングの中で山盛りの(実家の味にとてもよく似た)
携帯固形食糧が並べられている。

「このごちそうは先勝祝いという扱いでよろしいので?」

地元はお腹一杯ものを食べる、ということがもう贅沢な世界。
本気でこれをごちそうだと思ってる。

とって一口。
「あ、チョコレート味」
(いないけど)おふくろの味とでも呼ぶべき甘さ
「どこに行っても携帯食料の味は一緒なんですねえ」

破壊された基地に到着して猟兵を迎え入れるたのち
彼らに僕が眠った後の顛末を聞く。
「そうですか。オブリビオンの浄化には成功しましたか。よかった」

「ともかく皆様お疲れさまでした。食べ物用意されていますよ。食べませんか?」


ノエル・カンナビス
WIZ

……お料理……。

携帯口糧ではいけないのでしょうか(レーションを仕舞いつつ

でもとりあえず、アサガシアとヴィエルマの口糧を調べます。
塊一つに全種類の栄養が入っているんですか?(つんつん
一つ戴きますね(ぱく

……。

この口糧は、兵員の士気を著しく低下させると判断します。
ではアサガシアの方を(ぱく

(けほけほけほっ

兵員の叛乱を誘発するトラップが混じっていたようです(けほ
なるほど、これを敵軍の配給品に紛れ込ませれば……。

……ともあれ、お料理される方がいるなら手伝いますけど(←料理1

私? 私は自前の口糧で結構です(缶詰・レトルト・密閉包装のパン
いえ決して、自分で作ったものが食べたくないわけではありますが。



●おのれボイット、許さんぞ!
「ギッチギッチ!」
(わーいわーい、たのしーお食事会なのー)
 興奮した様子で鋏角を軋ませるアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)。嬉しそう。
 そんな彼女はどたがたと強靭な肢で輸送列車内の天井を駆けている。怖い。
「…………、なあ」
「しっ。ああいうのは気にしちゃ駄目だって橋の下で釣りしてるおっちゃんが言ってた」
 視線をそらすレンジャー部隊さん。アリスは巨体である為、食堂として造られた広めの車両でも人の往来に気を遣い天井を駆けているのだろうが、常人には恐怖が先に来るようだ。天井走ってるから仕方ないね。
 ところでこの世界の川に魚っておんの?
「副長。持って来たぜ、火」
「ん」
「止めろーっ! いつの時代の処刑方法だ!?」
 食堂の隅で逆さ吊りにされているのは隊長であるボイット・レンジャー。ぐるぐる巻きにされたそれへ火のついた松明を近づける副長の顔に一切の変化はなく、人を殺す事に躊躇いの無い人物である事がわかる。
 お前らここ他国の管理する列車の中だからね?
「はいはい、レンジャー部隊のみなさん。悪ふざけもそこまでにしておきましょうか」
 欠伸を噛み殺す鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)もまた、隊長を助けたと言うよりもその被害に全く興味を示さないもので、単に騒々しいのを嫌ったか、焼けた上で発生する臭いや煙を嫌っての事かも知れない。
 仕方がないと消化するレンジャー部隊にすでに興味もなく手元の本へと視線を落とす冬季に続き、彼を食卓に挟み椅子に座っていた黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)も不満そうに立ち上がる。
「ひと仕事終えて、せっかくの慰労会だったのに、……出てきたのがレーションでは……。
 これでは気分もだだ下がり、雰囲気最悪です」
 声を張り上げる事はせずとも圧を強めた言葉に視線をそらすボイット。その顔をふん掴まえて目を怒らせる摩那へと向け直すレンジャー部隊の皆様。いい部下持って良かったね。
 実際の所、量だけで言えば見事なもので皿に盛られた携帯用の固形食糧が携帯できない量で山になり、もう見るだけでお腹一杯である。
「おいおい、質より量を重視するにしても限度があるだろうが?」
 久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー/『黒鋼』の騎士・f01190)はすでに胃をやられたらしく、げんなりとした様子である。遥翔と同じ席に着くロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は彼の重々しい溜息を心配そうに見つめていた。
 性格からかそのご馳走として用意された物にケチをつける様子はない。素直ないい子である。
「で、でも、他じゃ食べられない味かもしれないの」
「……それは……そうかも知れないな」
 ポジティブな方向に切り替えるロランに合わせて、思わず笑みを返した遥翔。ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)もまた二人と同じ席に着いているのだが、二人のやりとりから大皿へと視線を変える。
「……お料理……、携帯口糧ではいけないのでしょうか」
 でんでんでん、と盛られたそれらを見て首を傾げつつ、一般的な自前の携帯口糧をしまいつつ、一先ずとばかりに一つを指で突く。
 アサガシアとヴィエルマ、両国の代物は非常に似通っており、長方形で握り込める程度、一口で食べられる大きさだ。中央に両国の物と思われる刻印がなければどちらがどちらの物か分からない程だ。
「塊一つに全種類の栄養が入っているんですか? 栄養のみを凝縮させたとか、そういう物ですかね。
 一つ戴きますね」
 摘みあげると思いの他に脆く、強く持てばたちまち崩れるようなそれをさっと口に入れると。
「どう?」
「…………。
 この口糧は、兵員の士気を著しく低下させると判断します」
「そ、そうか」
 表情に変化なし、と思いきや眉間に皺が寄っているような、悲しんでいるような、何とも言えぬ表情である。さほど変化はないのだが、雰囲気というものは得てして人に伝わってしまうものなのだ。
 レンジャー部隊の落ち込んだ様子もわかろうと言うものだが、次はアサガシアの物だと拾い上げるノエルへ猟兵たちの視線も集う。
「ではアサガシアの方を」
 あむ、と口に含めばパサパサとしているだけでなく独特なもそもそっとした食感。それは先のヴィエルマ産も同一であるが、それ故に飲み下そうとしたその瞬間。
「…………、!?」
中に混じっていた破片のように固い何某かに違和感を覚えて嚥下するのを止めると同時に、ぱさついたこなが気管に影響を与えて思いっきりむせる。
 慌てて背中をさするロランと用意されていた水を渡す遥翔に苦し気にお礼を返し、一息に飲み込んだ。
「けほ、はあ。兵員の叛乱を誘発するトラップが混じっていたようです」
「何それ怖い」
 どうやらタブレット状の栄養凝縮剤が入っているようで、まあ、トラップと言われても仕方ない内容だ。
 そんな様子を隣の席から見ていたチェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)はこれ見よがしに肩を竦める。
「釘が打てるような硬さのクラッカーに比べりゃ、噛めるだけマシってモンさ」
 言外に食べ物でないレベルの物と比較されているのである。
「ただ、体張ったあたしらへの心付けとしちゃちょいと如何なモンかと思うわけよ? ええ?」
 じっとりとした目線がボイットへ向けられる。火炙りは取り止めとなったが逆さ吊りは続行しているので、すっかり顔が赤く苦しそうな様子である。
 それでも頭をがっちりと固定されているボイットは目を窓へ向け、素知らぬ風に口笛を吹く。おめーそれで誤魔化せると思ってるのか。
「ほー、そんな態度かい。こちとら値引きセールした覚えも無えんだわ、報酬上乗せを要求さしてもらうぜ」
「いいっすよ。カノス、隊長の財布の中身を猟兵さんたちに配ってあげて」
「おい止めろバカ! カノス!」
 副長の言葉に下卑た笑みを見せたカノスが、隊長のナップザックを漁り食糧費をスった割にはぱんぱんの安物財布を取り出した。
「いやー、なんか頭痛くってよぉ。さっき誰かさんに殴られたんだよなぁ」
「あれは流石にお前が悪かったろ!」
「うるせえ知るか! 因果応報勧善懲悪関係なく、俺は受けた恨みは忘れねえ!」
「最低だこいつ!」
「いや隊長も十分最低っすよ」
 副長の言葉にカノスは財布を開いて硬貨や札束を抜き、綺麗に猟兵の人数分へと別けて配布していく。慟哭するボイットや出てきた内容だけに、受け取りに難を示す者もいたが、それはそれ、後で返せばいいだろう。
 今はお仕置きタイムなのだ。
「別に舐められてるとは思っちゃいねーが、ま、こいつは職業病だ」
 カノスから受け取った紙幣をひらひらさせて、ようやく逆さ吊りから解放されしくしくと泣くボイットにチェスカーは笑う。
 自業自得な姿に少し哀れみを感じた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は「さすが隊長さんです」と笑みを見せた。
 それが皮肉的な意味なのか、それとも場を治める為のものかと言えば。
「とりあえず、お腹を満たして落ち着きましょう?」
 後者であるらしく、未だに空気の悪い食堂内で桜花は袖を捲り、精神を集中していく。ユーベルコードの準備をする彼女の隣では臨時収入により懐を温めた才堂・紅葉(お嬢・f08859)が頬を緩めている。
 先程はこちらの合図する前の援護射撃にあわやという場面もあったが、懐も温かいと多少は人に優しくなれるとご満悦だ。
 なお、件の援護射撃については別料金だ。
「大仕事だったけど、何とか無事に終わって良かったわ。折角のお誘いだし戦勝祝いも良い物ね」
「……戦勝祝い……まあ、確かにね」
 見た目だけでなく、中身まで最低だとノエルの貴き犠牲により知られた食糧品に項垂れるチェスカー。
 彼女らより更に奥、食堂の一番隅のテーブルに座る者と寝込む者。
「…………、メシの味を更に悪くしちまいそうなナリだが?」
「そんな、気にしなくても大丈夫だよ!」
 帽子を目深に被り、いつも羽織る衣服を正面にタオルのようにして自らの体を見せないようにしている。臭気もあり、中身がどうなっているのか見たシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)が答え、特にそれを咎める事はしない。
 とは言え、気にする者もいるだろう。横にはすやすやと机に突っ伏して眠るルゥ・グレイス(RuG0049_1D/1S・f30247)の姿もあるが、特に荒っぽい連中の多いレンジャー部隊、彼らだからこその独特な空気はどちらにも転びうる危うさもある。
「外の空気を吸って来る」
「あ、うん」
 ヴォルテックスエンジンにより、多少見れるようになるまではと適当に席を外し肉体の修復を優先するようだ。
 そう言われてはこちらも無理に引き止める事もなく、レイが車両と車両の間の通路へと歩いていくのを見送れば、入れ替わりに姿を見せた木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)はすれ違いざま、オブリビオンマシンの外殻を粉砕した彼を労うように拳を掲げる。
 こちらは無事な方の腕をあげた為に不器用なハンドサインとなったが、その想いは互いに通じただろう。ウタはルゥの隣の席に着くと人の気配に気づいたのか、ようやくとルゥは体を起こす。
「あ、悪い起こしちまったか」
「……いえ、別に……大丈夫です」
 眠たげなルゥは手の甲で目元を拭いながら謝るウタに返す。
 いつの間に列車に乗せられたのかとばかりであるが、ボイットへ非難轟々の車両内で、皿の上に山盛りの携帯固形食糧だ。
「このごちそうは先勝祝いという扱いでよろしいので?」
 え、マジで?
 大量のメシマズを前に目を輝かせるルゥの姿に、「そーよねー」と天井から糸を垂らしするすると降りて来たアリスは同意した。
 鉱石を飯にできる生物に同意される感性、といえば異常に思えるが、実際の所はお腹一杯の物を食べる、それが贅沢な世界であったのだ。
 その心に偽りはないだろう。
 嬉しそうなルゥの言葉にさしものボイットもばつが悪いのか、チェスカーとはまた別の意味合いで視線を合わせられないようだが。
 ともかく、ボイットらレンジャー部隊によるおもてなしは始まったばかりである。
 これがおもてなしされる方になるとは、彼らはまだ気づいていなかったが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

チェスカー・アーマライト
連携、アドリブ歓迎
釘が打てるような硬さのクラッカーに比べりゃ
噛めるだけマシってモンさ
ただ、体張ったあたしらへの心付けとしちゃ
ちょいと如何なモンかと思うわけよ? ええ?
こちとら値引きセールした覚えも無えんだわ
報酬上乗せを要求さしてもらうぜ
舐められてるとは思っちゃいねーが
ま、こいつは職業病だ
(文句言いつつ、結局は携帯食料も食べる。がめつい)
賭け事が始まりそうならあたしは見学で
他の人らの技術を見て
盗めそーな手口は頑張って覚えてみっかな

車掌が来たら
ダンテリの連中がどうなったか
チラッと聞いてみるか
特にあの少尉
その後の様子がちと気になる所だ


御園・桜花
D:ダンテアリオン
V:ヴィエルマ
R:ランデルフ

「さすが隊長さんです」
笑いつつUC「花見御膳」
携帯食料元に状態異常:精神に回復効果のあるチョコバー作成
「とりあえずお腹を満たして落ち着きましょう?」

副長と可能なら隊長連れV車掌に確認
Rに会う
「Rさんのしたい事がどうしたら出来るか、一緒に考えに来ました」
「此の儘では捕虜交換でVからDに引き渡されるのでは?まずアサガシアに亡命しては?」
「密約無しで大部隊展開は難しいかと」

「戦うのはお好きでないでしょう?なら、その状況から逃れるために全力を尽くしてみませんか」
「長い時間が掛かるかもしれません。私達がD上層部からオブリビオンマシンの影響を除ける迄は」


才堂・紅葉
大仕事だったけど、何とか無事に終わって良かったわ
折角のお誘いだし、戦勝祝いも良い物ね
懐も温かいと、多少は人にも優しくなれる物です

お食事とお酒を頂きながら、興が乗ったのでギター演奏を披露しましょう
BGM代わりには丁度良いでしょう
ロックは好みですが、落ち着いたジャズもいけます
リクエストがあれば受け付けますね



●誠意を見せろ! 食材を隠す不埒物!
 もそもそ、もそそっ。
 如何ともし難い表現になる食感、しかしそれを満足そうに食べるルゥと大皿に顔を突っ込むアリスの姿。頼もしいっすね。
 実家の味にとても良く似ている、実食した感想を胸中にするルゥにとってそれは嬉しい内容だったのかも知れない。
「…………、ん。こっちはチョコレート味。どこに行っても携帯食料の味は一緒なんですねえ」
「嘘だろ……期間限定含め累計百三十八種のフレーバー全て人間では判別できない味だと言われているのに……」
「人間成分解析機かよ!」
 それでも実家、とでも言うべきかそこに良く似た味は親しみがあり、美味しそうに食べ、更には種類の判別すら行うルゥの姿はレンジャー部隊にとって理解にかけ離れていた様子で、もはや人間扱いしていないのでは、といった評価だ。
 大皿に顔を突っ込んでひたすら食べているアリスさんはちょっと怖いのでノーコメントっすね。
 一人と一匹? の様子にそんなに美味しいのかと眉唾ながら拾い上げたのは四人目の挑戦者、チェスカー・アーマライト。ボイット隊長に対して相当な物言いであったがせっかく用意された物に手を出さないほど礼儀知らずではない。
「食べ物用意されていますよ。みなさんも食べませんか?」
「ああ、そんじゃいただくとするかね」
 ルゥの言葉に意を決した様子のチェスカー。
 礼儀を持って用意された物ではないので手を出さなくてもそれはそれで構わないのだが、彼のすすめもあっては拒否する訳にもいかない、というのは建前で要はがめついだけである。
「……おぉう……」
 しかし口に含めば予想を超える食べ応えの無さと、味らしい味を感じない量を見る程に嫌気の差す携帯固形食糧。どこぞの世界ではミリタリー飯として人気の出ている物もあるが、栄養剤をまとめて食わせる為にまとめて練り込んだような代物は見向きもされないだろう。
 さすがに手を止めてしまうチェスカーであったが、ここで救いの手となる桜花のユーベルコードが発動する。
「――いきます」
 【花見御膳】。除菌した手でテンテンと握り崩さぬように携帯固形食糧に触れそれぞれを種類別けしつつ並べ替えると、大皿の端を使って全て細かく引き砕き持ち込んだ調味料で味を調えていく。
 さっと形を作り直したそれを携帯ガスコンロでちゃっちゃかと焼いて固めれば、あっという間に美味しそうな甘い香りの漂うしっかりとしたブロック状のエネルギーバーへと仕上がった。
「さあ、どんどん焼き直しますのでみなさんもどうぞ」
「おおっ、あからさまに美味そうな物に生まれ変わったぜ!」
「『死ぬよりは廃棄物食って命を繋げ』がキャッチコピーの携帯食糧が、これじゃまるで『いつでも食べなよ三時のおやつ』だ!」
 何でもいいけど素晴らしいプラントでなんでそんなゴミが生産品になるの?
 しかしその衝撃的な変わりようにも元の物質に対する不信感が強いのか、手を伸ばしながらも指先だけで突くレンジャー部隊ばかりの中で、新しく増えたエネルギーバーに対しても何の疑いもなく手を伸ばすルゥ。
 皿ごと食べてるアリスさんはちょっと参考できないっすね。
「! ……甘い……」
 しっかりとした固さにしっとりとした舌触りは意外にも口当たり良くまろやかで、ふんわりと優しく香るチョコレート。香りに違わぬ甘さも強い訳ではなく、『おふくろの味』とでも言えばイメージに易い。
(いないけど)
 さらりと胸中で付け加えるルゥは微笑みを見せ、その姿にこれは本物の食べ物だとようやく不安を払拭したレンジャー部隊、そして先に手をつけていたノエル、チェスカーもそれに続く。
「……なるほど、これは……」
「悪くないね」
「酒にも合うんじゃないか!」
「おお、いいねぇ。いっとく?」
 評価は上々、味だけでなく合わせ物にも話が盛り上がるレンジャー部隊に、チョコバーを食べる遥翔もなるほどと頷く。
 料理を振る舞う、その手もあるのかと。
「しかし、材料がないとなるとなぁ」
 小さく唸り頭を掻く遥翔。ロランも同じく何かあれば手伝うとするが。
「お重ではありませんが、お皿をあと何段重ねましょう?
 花見の御膳は自信がありますの。今回の勝利を花と思って、どうぞ心も身体も解きほぐして楽しんで下さいね、うふふ」
「ひゅーっ!」
 さて。
 もぐもぐバリバリしていたアリスはひと段落したのか、ぬばたまに輝く瞳を泣き止みながらも部屋の隅でしょんぼりしているボイットへ向けられた。
「ギギギ、ギィーッ」
(ボイットさん、携帯固形食糧はこれはこれで美味しくいただいてるけどー、他にもおいしーものを隠している匂いがするのよー)
「ぎくっ!?」
「…………、はーん?」
 アリスの言葉を受けて硬直するボイットに副長を中心とする冷たい視線が突き刺さる。
 おかしいと思ったのだと腕を組む面々。
「あの隊長が自分の利益を逃すハズはないってなぁー」
「そうそう、金が残ってたあたり賭博用のヤツを残してたんだろ?」
「そんな知恵の働く、いや欲望に忠実な隊長っすから、ずぇーったい、何かあるんじゃとは思ってましたけどねー」
「ハハッ、ナニユッテンノ? アルワケナイジャン!」
「声高ッ」
 嘘が下手、というよりも部下の圧力に負けたであろう隊長の言葉に、答えは決した。猟兵らも隠している物があることを察して嘘吐き男へにじり寄る。
「食糧費を賭けちまうって軍紀違反だよなー。
 そもそも仲間内での賭けなんだろ、返してもらえばいいんじゃんか」
「いやー、隊長はヴィエルマ領に買い出しに行ってそのまんまスったんですよ」
「駄目じゃん隊長」
 仲間内での賭博用の金だけ残すさすがのダメっぷりに、フォローを入れようと考えたウタも頬を引き攣らせた。
 だんまりを決め込むボイットに拳を怒らせた摩那。
「お通夜になってしまった空気を回復させたのはやはり食べ物でした。ならばここらで手っ取り早く賑わせるのも、やっぱり食べ物です。
 さあさあ、早く出してください!」
「知らん知らん、誰も持ってるなんて言ってないだろ。第一、どこにそんなモノあるんだよ!」
 つまらん言い逃れを。
 チョコバーを咥えて読書に耽る冬季はその顔をちらりと見て、万が一にも彼の言葉が真実という事は有り得ないなと鼻で笑う。
「いいか、そもそも隊長であるこの俺が、部下の事も考えず金をスったのもお前らの不甲斐ない戦績がだな、…………?
 なんっじゃこりゃあああああ!?」
 責任逃れをしようとするボイットの頭の上へ、ぽいっ、と投げられたのは芋虫のようなアリスの幼い妹だった。先端部に環となる口を大きく開き、並ぶ歯をそのままボイットの頭に齧りつく。
 見た目ファンシーな帽子だ。似合ってるぞゲロ野郎。
 焦るボイットとは対照的に、「出したくない物を無理に出せとは言いません」と鬼ではないアピールを行うアリス。食の鬼であるアリスさんにも人の心を想う気持ちはあるという事だ。
「ギィイエエエエエエッ! ガチッ、ガチッ、ガチッ。ギギギ!」
(話は変わるけど、これは緊箍児というアクセサリーに着想を得たお遊びなのー。
 口がじわじわ締まっていき幼い妹が我慢できなくなったらゲームオーバーよー)
 緊箍児とは西遊記で孫悟空の頭に巻いてるアレである。悪い事をしたら呪文を受けて締め付け、痛みを与える道具であるが、全く関係なく鋭い歯を段々と締めていくアリス妹を見れば着想を得ただけで全くの別物である事がお分かりいただけるだろう。
 まあそもそも有罪確定だし、そうしてやったほうが世の為だよね!
「いや幾ら何でもやり過ぎだろうが!」
「ガチガチ、ギチチ!」
(安心してー、きちんとおいしー物を出した人は百人中九十九人生還してるわー。
 ボイットさんよりおいしそーな物が出てきたら多分外れるから、おいしー物を出したくなったらだしてねー)
「判定基準が雑! つーかデスゲームじゃねえか!」
「副長、隊長が死ぬか美味いモンが出るか賭けようぜ」
「んー、それじゃあ美味しい食べ物を出した挙句によく分からないモノで頭を砕かれるに票を入れるとするかな」
「お前ら人の命を何だと思ってるの!?」
 少なくとも飯の恨みがある以上はその程度の価値しかないのだ。
 ぬるりとした手触りに上手く掴めず外せないアリス妹。尻尾を振って抵抗するそれに恐怖を覚えるボイットの目の前にちょこんと座り、シルは本当に何も無いのかと問う。
「本当だって、ないない! ちゅーか助けて欲しいんですケド!」
「……ボイットさん……。
 ……そっかぁ、楽しみにしてたのに……」
「――うっ……?」
 瞳を潤ませ上目遣いの少女の言葉は段々と食い込む牙よりも心に効いたのか、ボイットはそこでようやく嘘も吐けずに言葉に詰まった。
 レンジャー部隊とみなさんの温かい触れ合いを見つめていた紅葉はチョコバーを頬張りつつ、開いた扉に目を向ける。
「おやおや、結構な盛り上がりみたいで――、いや何してるの君たち?」
「車掌さん、お騒がせしております」
 営業スマイルがそのまま硬直する車掌さんに、紅葉は思わず苦笑した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
メシの味を更に悪くしちまいそうなナリだが?
多少マシになるまで適当に席を外し、Vエンジンによる肉体の修復を優先

響く痛みは『聖痕』のもの
荒れた景色が流れる窓に、この地で嘆き苦しむ一人一人の顔が映るわけもなく
言うまでもなくオレは流れ者だ
レンジャー部隊員でも捕虜でもいいが、もし誰かと居合わせることがあれば
何故戦うのか、生きた話を聞いてみたい

さっきは偉そうなことを言いはしたが、オレの戦いも誰かの夢の続きが半分
……だが、人は泣いてるより笑ってる方が良いのは確かだ
ところで車内(主にボイット)の馬鹿騒ぎで休むに休めねえんだが。丁度良い、奴とも腹割って話したかったとこだしな
骨の一本くらいもらいにいくか

※諸々歓迎


木霊・ウタ
心情
こういう時間って好きだぜ
まったりするぜ

ポイット
食糧費を賭けちうって軍紀違反だよなー
仲間内での賭けなんだろ
返してもらえばいいんじゃんか

俺も探してみるぜ

影で車内を探索
ボイットの私室とか倉庫とか

車掌
捕虜たちはどうしてる?
少佐は最新鋭機って言ってたけど
ダンテアリオンってそんなに技術がすごい国?

あとガルメリッサ軍とかSFEって何か聞いたことある?

行動
飯を食う
中華っぽいものがあるといいけど
まあそれぞれのお国柄の料理を楽しむ

レンジャーらに
レンジャーを目指した理由とか夢とか聞いて
親睦を深める

裏がありそうな奴は…いないか

食後に車窓を眺めながら
エルフェとクロエの安らかを願い
皆の邪魔になんない様にギターを爪弾く



●兵士たちの一幕。
 先頭車両からやって来たであろう車掌さんが、レンジャー部隊らの大騒ぎに迷惑そうな顔をしている。
 その視線に苦笑いを浮かべつつ、ウタは体調へ向き直った。
「あー、とりあえず頭が噛み砕かれる前に食材の場所を教えて欲しいぜ」
「う、うぐぅ、お、俺の使ってる寝床の下とキャバリア乗せてる台車の隙間、あとコックピットだ」
「思春期男児がエロ本隠してそうな所とか衛生観念の破綻してそうな所にまで何してんすか」
 呆れた様子の副長に他の面々も同意しているが、ウタは一先ずとユーベルコードを始動、同時に揺らめくのは自身の影。
 焔あるところ、即ち光あるところ、影あり。召喚された【影の追跡者(シャドウチェイサー)】はウタの影から飛び立ち、車両へと広がり隊長の言葉の場所を探索していく。
 五感を共有するウタにもその情報は伝わり、言葉通りの場所に隠された食材を探し当てると影たちにそのまま食材を回収してもらえば、中々の量がそこにはあった。
 一人で食べきれる量にはとても見えない。それなのに所在を隠したという事は、これらを母国アサガシアに持ち帰り転売するか、それとも貯蔵してゆっくり自分の分として食するか、という事だったのだろう。
 公的費用での転売も独り占めも許せねえよなあ?
「ボイットさん、ありがとー♪」
 屈託のない笑顔で邪気なくお礼を述べたシルであったが、こちらと違い邪気が溢れまくっているのがレンジャー部隊のお歴々である。いや地位は低いけど実際今生殺与奪の権利を握って絶対的優位に立っているのって部下のみなさんだもんね。
「……隊長さー……」
「やっぱ美味しそうな食材出して隊長も死ぬでフィニッシュじゃん!」
「おいおいおいおいおいおいおいおい! さすがに助けろ、見ろ、血が出始めてるぞ血が!」
「ギチッ!」
(それは涎よー)
(もがーっ!)
 再び騒がしくなる車両内に、まあ戦闘の後だけに仕方あるまいと他の客も乗せていないだけに車掌は見て見ぬふりだ。
 しかしながらヴィエルマ領内で起きた戦争、特にダンテアリオンが仕掛けた前線基地の突破とレール部分の破壊は極めて好ましい事だと猟兵らに語る。
「アサガシアとダンテアリオンの闘争は激しさを増していくでしょう。しかし、今回のように他国を巻き込む事を厭わないダンテアリオンに正義はありません。
 この事件はヴィエルマ政府にもきちんと報告を入れていますし、彼らの社会的立場が悪くなれば、小国家も団結し易くなります」
 団結してしまえば、それはもう一つの国に勝るとも劣らない。この一帯では巨大な力を持つダンテアリオンとて、小国家群を敵として扱える程の力は無いのだ。
「私たちもこのような形でアサガシア軍に協力しているとはいえ一民間企業、軍属でもないヴィエルマ国民です。そんな私たちを守って下さったこと、猟兵のみなさまには感謝しております」
「いえいえ、そんな。
 あ、お礼にあやかるという訳じゃないけど、この食材でヴィエルマのお料理って作れないかな?」
「おや、これまたたんまり。もちろんです、喜んで作らせて頂きますよヴィエルマ料理を!」
 シルの言葉に満面の笑みを浮かべて食材の包みを幾つか選び、奥の部屋へと消えていく車掌さん。どうやらそこに調理室があるようだ。
 これには料理人として腕に覚えのある者も魅かれたご様子。
「せっかくの食事会なんだから全員にもっとうまいもんを食わせてやるよ」
「それなら、たくさん量があるから、従者のマリアにも手伝ってもらうの」
 ロランの背後から現れた黒いメイド服は頭を下げるも姿勢を乱さず、用意された食材を手にウインクする遥翔へと着いて行く。
「ふふふ、なるほど。で、あればまずはある物も含め手早く料理を作ってしまいましょう。
 超級料理人にお任せあれ!」
 違います。
「ギチチッ!?」
(摩那さんの料理が食べれるのーっ?)
 出しちゃいけないやる気を出してしまい、まだ皿に残っている携帯固形食糧をよっこいせと持ち上げた摩那の言葉が、アリスの期待にも火を点けた。
 もう後戻りはできないらしい。その様子に気づいた桜花は何かを言おうとして手を伸ばしたが、躊躇う間に摩那は食堂の奥へと姿を消した。
(……まあ……お腹の調子を回復させる物を用意しておきますか)
 摩那の後ろ姿に冷や汗を流す桜花。同じくその後姿を見つめるノエルはふむと頷き、手元の固形物を見下ろした。
「桜花さんや摩那さんはこれを元に料理をなさっているんですね。……なるほど……、これを敵軍の配給品に紛れ込ませれば、と考えていましたがそれなりの再利用方法があるらしいですね。
 ともあれ、お料理される方がいるなら手伝いますけど」
 ノエルにとって携帯固形食糧に関する評価は廃棄物と同程度、あるいは敵の士気を下げる物品と言った認識のようだがこうして美味しく再利用、もとい調理されたのだからと自称超級料理人の手伝いをと席を立つ。
 こうして料理人たちが食堂へと向かい、トラブルはあったものの懐も温まったし美味しい料理が出るとなれば結果としては上々だとレンジャー部隊も席へと戻る。
「おい、この頭のいつ取れるんだ?」
「ギギッ、ギィー」
(ご飯が出てからよー)
(もがーっ!)
「嘘だろ? なんか締め付け具合がすげー早くなってんですけど?」
 不安を隠せそうにない隊長の言葉なんぞ気にする様子のないアリスは、また通行する人の邪魔にならないようにと天井へ戻る。
「よう姐さん、酒なんてどうだい!」
「誰が姐さんですか。まあ、お酒はいただきますけど」
 隊長に続き基地へと赴いた男の一人、彼が机に置いた丸瓶には、安酒とされる薄麦色の液体が注がれていた。
 大き目のグラスに半分ほど注げば顔を顰めるようなアルコールの臭気。美味しい、と思えそうにないがウイスキーベースのそれは安物らしく、アルコール度数が高いだけのお酒、といった印象である。
「別に水割りしろとは言いませんけど、アイスはないんですか?」
「アイスぅ? ソフトクリームかぁ?」
「おいおいガキは酒を飲んじゃいけねえんだぞ」
「なー?」
『ガーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!』
「シンプルにうざい」
 戦場兵士らしく氷もなくその場その場で飲んでいるのだろうが、盛り上がる男二人を苦々しく睨みつけて、あっち行けと手で追い払い、グラスの中身を啜る。
 喉に焼け付くようなアルコールは味も辛味を感じた程度で、あとはその臭いが鼻を突き抜け頭に響くような。
「…………、かぁーっ! 効くぅ!」
 ご満悦である。
 さて、そんなこんなで待機する調理時間に酒やら賭博やらをやり始めるご一行。
「こういう時間って好きだぜ。なんか、まったりできるんだよな」
 シルと共に席に戻ったウタが平和を噛み締める言葉を零せば、ルゥは一生懸命詰め込んでいたチョコバーに一息をついてそちらへ視線を送る。
 ルゥと言えば戦いの経緯こそ知るものの、直接戦闘を行っていたのは彼らだ。だからこそ、自分が眠った後の顛末が気になるようで。
「ああ、あんたのお陰だよ。今、あそこで酒を飲んでる紅葉の援護をしてくれたろ? お陰で無事に攻撃を食らわせて動きを止める事が出来たんだ。
 そこに、さっき出て行っちまったけどレイと、こっちのシル、そんで桜花の力で最後は捕まってた少尉さんを助けたよ」
 オブリビオンマシンもロランのユーベルコードによって完全に破壊された。猟兵たちが手を組み合い、現地戦力であるレンジャー部隊と共にこの難敵を撃ち破ったのだ。
「そうですか、オブリビオンの浄化には成功しましたか」
 良かったと、かいつまんだ程度ではあるが改めてルゥ自身の気を失っていた間の出来事を知り、満足したように頷く。
「ともかく皆様お疲れさまでした。どうぞ、チョコバーを」
「おう、いただくぜ!」
「いただきます!」
 奇襲に成功したとは言え長時間の包囲戦だっただけに、疲れた体をこのチョコレート味が癒してくれる。
 段々と場の空気に熱が入り始めた所に賭博に負けた男の泣き声が混じる。
「……どれどれ……」
 チェスカーが覗けば四人ほど、副長を含めて円となり彼女の手によりカードが配られていた。
 さきほどイカサマをしていたという事で厳しい目が向けられているが、わざとらしく一枚ずつ配布しており配布する山札の一番上から抜いていると見せかけ、別の場所から抜くセカンドディールの兆候はない。
 袖にカードを隠すなどもやっていたのでこれだけでしていないとは決められないが。
「猟兵さんも入ります?」
「いや、あたしは見学でいいさ」
 シガーケースから野菜スティックを取り出そうとして、思い直しチョコバーを口にする。
(ん?)
 ちかちかとした光が目に入り、そこへ視線を変えると本の表紙で太陽光を反射させる冬季の姿。眉を潜める彼女に再び光で示した先に、チェスカーとはまた別のレンジャー隊員。
 見学しているようで、目の前の男の役を見てほうほうと頷いていたが、やおら右手を上げてサインを見せる。それを見ているのは対面にいる副長のみ。
 要はそういう事よね。
 ぱちんとウインクする副長に、イカサマは自分の技術だけで行うものではないのかと曖昧な笑みを見せた。他のメンバーと言えばただ真面目に手札から揃える確率の高そうな役を選んでいるだけだ。
 これなら勝てはするものの必ず大きな金を稼げるという訳でもない。
「ようし、ベットだ」
(ん?)
 しかし手札がバカに強い相手に対し挑む副長。相手の手札を知る彼女が無理をして受けるものではないが。
 当然と他の面々も続き金額を上乗せしようとした所で、副長は考え込む素振りを見せてあっさりと勝負を降りた。
(…………! 釣り餌か!)
 冬季の読む本の表紙に使われた、小さな魚で大きな魚を釣る男の絵を見てはたと気づく。
 わざと勝負に乗るように見せかけ相手を焦らし、自分の有利な大勝負に相手を引きずり込もうとしているのだ。と、なればわざと勝負を降りる事で相手にイカサマをしていないイメージを植え付けて。
「んー、中々厳しいねー。けど、そろそろそっちもブラフなんじゃない?」
「さあて、どうですかねー?」
 頭を掻いてわざとこちらに視線を向けさせながら、イカサマをしていないだろうというイメージを元に舌戦をしかけ、堂々と頭の後ろに隠した袖からカードを抜く。
 大胆不敵、緻密に重ねた布石、効果的な挑発、策略、そしてやはりイカサマをきちんと利用した上でやり遂せたのだ。
「次は俺も混ぜろー!」
 元気を取り戻したボイットが声を張り上げる。
 ずかずかと賭け事の輪に入っていく隊長、否、レンジャー部隊を見つめて溜息ひとつ。
「……褒めるべきか、褒めざるべきか……」
「ま、これも技術ですよ」
 大勝利に湧く副長らを前に、肩を竦めるチェスカーへ冬季は笑った。

 軋んだ音をたてて開いた扉にレイが目を向けると、酒瓶を頭に乗せたカノスが驚いて小さく声を上げた。人がいるとは思わなかったのだろう。
 お前こそなんで頭に酒瓶乗せてんの? 
「あんたも猟兵だろ? 何だってこんな所に独りでいるんだい」
「ちょっとな」
「ちょっとぉ? …………、ま、そんな事もあるか。吸ってもいいか?」
 煙草を取り出すカノスに構わないと言えば、吹き込む風に苦心している。レイも体を壁にしてやり火を点けるのを手伝えば、彼は素直にお礼を言って大きく吸い、深く長く息を吐く。
 同時に流れる煙はレイの目や鼻にも流れ込んだが特に気にする様子はなく、ただ風に消えるのみ。
 車両を繋ぐ通路の手すりに乗りかかって景色を見つめるカノスに対し、レイは自分の体の様子を確認する。修復は進み、皮膚の捻じれたような部分もあるが、動くに問題はないだろう。それでも鈍く響くのは現世の痛みを引受け、溢る光で人々を癒すとされる聖なる傷跡、【聖痕(スティグマ)】。
 らしいが、最早新旧様々な傷跡が残る身、どれがどれやらと言った感じである。
「なあ、話を聞いて貰っていいか」
 吸い終わった煙草を揉み消して、そのまま車外に弾くカノスの言葉に、こちらもまた構わないと答える。ポイ捨ては構うべきだと思います。
 カノスは身を変え手すりに背をもたれると、未だに乗せたままの酒瓶を落とす事もなく器用に背を反らす。
 今日、戦友が逝った。
 語るカノスの声に哀愁はなく、事務報告を行っているようにも見えた。
「ダンテリの馬鹿どもさ。他の輸送列車も襲われてるんだ。そいつは同期だったんだが、そいつらだけじゃあねえ、まだまだ死んでるし、まだまだ死ぬ。
 戦争だから仕方ねえ、ただ俺が生き残ってあいつが死んだその違いってのは、あんたらが来るか来ないか、それだけだったんだなってよ」
「…………」
 荒れた景色が流れていくのを見つめる。カノスには、同じ景色を眺めながらこの地で嘆き苦しむ者の顔が見えたからこそ、背を向けたのかも知れない。
 だがレイにその一人一人の顔が映る訳もなかった。言うまでもなく彼は、彼らは流れ者なのだ。
「そんな戦場で、どうして戦うんだ」
「俺が兵士だからさ。……いや……そうだな……」
 レイの問いに即答したカノスだったが、真直ぐこちらを見つめる瞳に視線を逸らして俯くと、言葉を変える。
 兵士だから戦う。それは間違いない。それでもここで、こんな戦場で戦い続けているのは。
「俺みたいなどうしようもねえグズが一人、戦場で踏ん張ってりゃ、その分は他の奴が助かるかもしれねえ。
 俺が戦場にいるだけ、誰かが俺の立場にならなくて済む。だから俺は戦ってるのさ」
 主体性があるともないとも言えない言葉。だがそれが事実であり、この男はそれを自分のすべき事として受け入れ、信じている。
「さっきは敵基地で、戦いの理由を誰かに預けるなと偉そうなことを言いはしたが、オレの戦いも誰かの夢の続きが半分だ。要はそうやって、どう自分に落とし込んでいくのかって話なのかも知れないな。
 ……だが……、人は泣いてるより笑ってる方が良いのは確かだ」
「確かになぁ」
 吸うかと差し出された煙草を丁重にお断りするとカノスは一人でスパスパやりつつ、「とっとと車内に戻って飲み直すか」と呻いている。レイの視線は彼の頭上に向かうが、特に何も告げる事は無かった。
 それにしても。レイは一息吐くカノスに言葉をかける。
「車内の馬鹿騒ぎで休むに休めねえんだが」
 主に復活したボイットとかですね。
「丁度良い、奴とも腹割って話したかったとこだしな。
 骨の一本くらい貰いにいくか」
「おー、いったれいったれー!」
 やるか、と進むレイへ、カノスは無責任な声援を送っていた。


●さぁ、おあがりよ!
 忙しなく動く鍋とおたまのカツカツという金属音。
 油の上に焼かれて空を舞う食材の焼ける音。
 漂う煙さえ色づくような香り。
 そして数秒と経たずに次々と仕上がっていく料理たち。
「な、なんか早くなぁい?」
 さすがに異常な速度で食材から料理に変わっていく流れに恐怖すら感じている様子の車掌さん。そんな車掌さんを置き去りに、次々と並ぶ皿の列をマリアがせっせと最後の調整を行っている。
 【天然自然の三ツ星(ウィルダネス・スリースターズ)】により作られる料理は先の桜花と同じく驚異のスピードで仕上げられていくが、放浪生活で培ったという彼の技術は大変美味だがワイルドな味わいになるのは避けられない。
 そこでロランの従者であるマリアが、生クリームやワインなど甘めの素材を使用して味を上品に整えているのだ。
「全く、凄いですねぇ」
「……こちらも中々……」
 対して摩那の料理は用意されていた携帯固形食糧をそのまま油の海でカラッと揚げてしまうものだった。油で揚げる、それだけで食材は美味しくなるのだ。
 実際、高温に晒される事で内部にあるタブレット状の栄養剤も中で溶け、意外にもいい感じに仕上がっちゃったりしているのだ。あくまでいい感じであって格別美味いとかそういう話はしていない。
 更にここで登場するのは、破滅的辛党である摩那が各ワールドから集めた極辛素材の詰まりに詰まって真っ赤に染まった【調味料ポーチ】から、選りすぐりの唐辛子を刻んだ代物。
 こちらを一つまみ、左手で右肘を支えながら高い所よりぱらぱらとかけて完成である。
「お手軽料理の出来上がりです!」
 こちらはユーベルコードではなく、正にお手軽さを利用した代物。じゃんじゃんと皿に盛りつけていく猟兵の後ろで、ようやく完成だと車掌が漏らしたのは、じっくりと火を通された焼き魚。
 生産プラントで作られたそれが実際に海水を泳いでいたのかは知らないが、串に通されたのは実に和風な姿だ。
 先のボイットが運んできた時とは違い、熱が籠り豊かな香りを零すカートの上に銀の蓋。
 遥翔を筆頭にマリア、摩那、ノエル、そして車掌の登場に待ってましたとチョコバーを食べていたレンジャー部隊も猟兵たちも嬉しそうに声を上げた。
「放浪生活で培った野生のスペシャリテだぜ!」
『おぉー!』
 じゃん、と蓋を取れば広がる湯気と同時に、鉄板の上で焼けたぶ厚い何かの肉のステーキや同じく肉を利用したハンバーガー、パンはぐずぐずにならないように別けられてはいるが、すでにこちらも焼かれていてざっくりとした食感は堪らないだろう。
 肉尽くしの料理の中でも思わず目を引くハンバーガーだが、受け取った鉄板に踊る肉汁とナイフを差し込めばそれだけですらと切り分けられる程の柔らかな肉質は、そのぶ厚さを感じさせない程である。
「うっ、……うめえっ……!」
「嘘だろ、塩胡椒でしっかり味付けされただけでなくこの柔らかさに合う風味は……まさかクリーム……!?」
「ワインで一度煮込んだのか? 肉自体がほんのり甘い!」
「……おぉ……パンに挟むのが肉だけなのにこのわくわく感……」
「こっちはなんだ? 唐揚げ? 甘酸っぱいタレに漬け込まれて、うんめえぇ!」
 すっかり味の虜となったようで、遥翔らのカートの前に並ぶ人だかり。しかし料理は他にもある。摩那とノエルの運んできたカートにもどんなものだと集まり、得意気に湯気が舞う。
「おお、なんだこの食欲を誘う刺激的な――、刺激……刺激的……し、しみしみししし沁みるゥ!」
「ン、げっは! ごほっ、ごほっ! 何だこの、いやあのっ、何!?」
 目や咽頭に直撃する刺激に圧倒されすぐに離れるボイットや他の面々に、摩那は得意気な様子を止める事なく自慢の唐辛子で彩られた固形物を指す。
「ふふふ、名付けるなら移動式活火山スペシャリテ!」
「聞いてるのは名前じゃねえよ!」
「微妙に遥翔さんに寄せてますね」
 突っ込む隊員とノエルであるが、どちらももうそれに手を出す気配はなく。
「まあまあ。さすがの私も学習していますよ。いつもなら直接練り込むかなにかしますが、今回はぱらりとかけただけ。あれ、ノエルさんも遠慮なさらずに!」
「私? 私は自前の口糧で結構です。
 いえ決して、私と摩那さんで作ったものが食べたくないわけではありますが」
 あるんかい。
 言葉に気づいてか気づかずか、残念そうな摩那の前で自らの用意していた携帯食糧、缶詰やレトルト、密閉包装のパンに手を出す始末。
「ギチチーッ」
(久々の摩那さんの手料理ー!)
「同志アリス! 沢山あるのでどうぞどうぞ!」
 摩那曰く学習されたらしい辛さの移動式活火山スペシャリテだが、食べれば食べる程に食べる勢いを増していくアリスの様子を見ていると、皿だろうと石だろうと変わらぬペースで食べるアリスの様子が一変している事を考えれば、それが人体にどれだけの影響を与えるか考えたくもなかろう。
 そんな彼らの間を、ヴィエルマの料理は質素になるなと車掌が見せたのは、串に通された焼き魚に刻み乗せられた青野菜が独特な香り付けをしている。
 和風な見た目だが中華に近しいようだ。
「…………」
 ごくり。
 大きく喉を鳴らしたのはボイットである。料理が運ばれるや否や再び縛られた理由は火を見るよりも明らかだが、その様子を見たシルは小さく笑う。
「ボイットさんも食べたいの? ふふ、美味しい物はみんなで食べてこそ楽しいしね。
 仕方ないなぁ、一緒に食べよ」
「あ、ありがてぇ」
「まぁ食糧を提供してくれたのは隊長さんなんだから、勿論食べさせてやるさ。
 これから先、食糧の味を馬鹿にできないようにしっかりとな?」
「ああ、メシの恨みが凄まじいってのも覚えておくぜ」
 シルに縄を解かれ、給仕する遥翔にげっそりとした様子で誓いをたてる。いつの間にやらアリスの妹も彼から離れていたようで、車掌の用意した焼き魚を串ごと幸せそうにかぶりついていた。
「ボイット隊長には罰として、カロリー爆弾を召し上がっていただきましょう」
「いやそれは要らな――もがぁ!?」
 部下の反応から普通に拒否したボイットであるが、有無を言わさず紅葉の投擲がその咽頭に直撃する。むせることすら出来ずに倒れ込み痙攣するその威力と、ひりひりする指先に彼女は思いの外に劇物であった事を悟りつつ、まあいっかといった様子で遥翔の元へ向かう。
「すみません、私もバーガーをお願いします」
「私も!」
「どうぞどうぞ!」
 カロリーを考えれば後が怖くて自分でも食べたくないとちょっぴり考えていた移動式活火山スペシャリテ。普通に美味しい物を作ってくれた遥翔の元へ摩那が導かれるのも仕方のない事だった。
 常人にはカロリーがどうの言う話ではなかったが。
 とりあえず劇物を取り除き胃薬などを流し込むと言う緊急オペのような処置を桜花が行いボイットは生還したのであった。

 何だかんだと食事が進み、和やかな雰囲気の中で腹を満たしていく人々。どの料理も受けが良く、受けの悪そうな料理もアリスらがしっかり頂いて大盛況だ。
 そんな中で車掌さんへと向かう猟兵らの姿。
「よう車掌。ちょっと聞きたいんだが、ダンテリの捕虜の話でさ」
「捕虜の?」
 訝し気な男に頷く。
 捕獲した兵士たち、その人数だけでも相当なものだったが、彼らがどうなったのか。そして何より、あのランデルフ少尉についてだ。
 これには気になる猟兵も多く、その所在を知りたがっている様子だ。
「ヴィエルマは、あくまで戦争という形式を取ってはいない。なので拘束後、ダンテアリオンに抗議をしつつ彼らを引き取る帰還を決める事になるだろうな。
 ランデルフ、あの女のパイロットも同じで、他の捕虜と同じ場所で拘束されているはずだ。身動きは封じているから、仲間内からリンチに合うような事もないはずだ」
「みなさんどちらにいらっしゃるんですか?」
「ああ、もうヴィエルマから離れてはいるが。君たちがキャバリアを受け取った格納庫の一室を使っていると言う話だ」
 格納庫の一室。
 あの場所かと見当をつけて、車掌にお辞儀をする桜花。場所が分かれば後は向かうだけ、何もこのまま列車の旅を楽しむだけでこの一件を終わらせる必要もないのだ。
「隊長さん、副長さん。よろしければ私と一緒に捕虜のみなさんの所へ来ていただけませんか?」
「おいおい、ようやくまともな飯を食えるんだぜ? そもそもそいつらに会う必要性を感じねえ」
「じゃあ私が行きますよ。代表から戦闘記録のデータを送って欲しいと連絡が隊長宛てに届いたので、よろしくお願いしまーす」
「へえっ?」
 不満たらたらでステーキをかぶりつこうとしたボイットの動きが止まる。肉と副長との顔を交互に見た挙句、悲しそうに呻くと共に戦闘に出た二人を引きずってキャバリアを乗せる台車へと向かった。同情はしないぞ。
「ロラン!」
 副長、桜花に続く小さな背を呼び止めてハンバーガーを包んだ包みを幾つか、マリアがカートに乗せて運ぶ。
 それを受け取るロランともう一人の従者であるじぃや。
「文句なしに美味いから、話のタネにもなると思うぜ。しっかりと話して来いよ」
「あっ、ありがと。…………、がんばってくるの」
 少し驚きつつも、ウィンクと共に親指を立てた遥翔に耳を揺らし、ロランはじぃやと共に包みを抱えて外へと向かう。
「私もそろそろ向かうとしましょうか」
 大きく伸びをした冬季もそれに続き、チェスカーは彼らへと手を振る。
「少尉さんの事、よろしく頼むぜ!」
「お任せを」
 振り返るでもなく手を上げて答えた冬季。何の気も無さそうだが何も言われずとも少尉の所へ向かう辺り、彼も考えている事があるのだろうとチェスカーは満足そうに頷いて車掌へと視線を戻す。
 ウタはまだ車掌と言葉を交わしている所で、他にも気になる点について詳細を確認している様子である。
「あんたの知りたがっていたガルメリッサ軍と、SFE? とかいうものだが特に知っている奴はいなかったな。軍部にも確認を回してみたが、すぐに連絡が来るとは思えないね」
「そうか。あー、あと、ダンテアリオンの少佐は基地を造ったキャバリアを最新鋭機って言ってたけど、ダンテアリオンってそんなに技術がすごい国?」
「技術、というよりは経済力だな。単にデカいだけじゃなく交易も盛んだからな。金を使って兵器を買い、買った兵器で戦争し、戦争で勝てば兵器を奪う。そんな国だからな。
 技術研究していない訳じゃないだろうが、音に聞こえた技術大国、なんて話はない。もちろん、あんなキャバリアを投入してくるんだ、秘密裏に何をしているかは分からんがね」
 なるほどなぁ。
 表向きで言えばそれらしい情報はないかと、ウタは頷く。協力に礼を返し、今度は飯を食べて腹を膨らませるレンジャー部隊へと歩を向けた。
 戦の勝利と祝杯の味に、彩られるのは紅葉の弾き語るギターの音。ロックが好きな彼女はほろ酔い気分で腹も満ち、心地好さに合わせて静かな曲調ながら芯のあるロック調の曲を流していた。
「油淋鶏か。美味そうだなぁ」
「ああ、美味いのなんのって。俺らが特に手伝った訳じゃないんだ、じゃんじゃん食ってくれよ!」
 フレンドリーに接するレンジャー部隊にこちらも遠慮なく輪に加わり、勧められた油淋鶏を頬張れば甘酸っぱいタレにざくりとした衣、広がる肉汁に熱々のぷりっとした肉が実に美味。
 給仕するマリア、遥翔にサムズアップしつつ、輪となる男たちへ言葉を投げた。
「なあ、あんたらレンジャー部隊ってさ、兵士を目指した理由とか夢とかって聞いてもいいのか?」
「別に構わないが、大して面白い話でもないぜ?」
「そうそう、よくある兵士になるしか道が無かったってだけの事さ」
 それ、自分たちで納得できるのか。
 ウタの問いに、酒を煽り鼻を赤らめた男が最初から納得する者などそうはいないと笑う。しかし、戦い続け、命を拾い、守り、奪い、そして逆らって。
 敵とも味方とも戦い続ける毎日の中で戦場と仲間とを渡り歩き、いつか気づく場所があるのだと。
「それが俺たちの国で、そして背中を預けられる仲間がいる場所があれば、持つのはそれだけでいいってな」
「違いねえ」
「でもそいつは、持たざる者の理由なんじゃあないのかい?」
 ウタの問いの間に入ったチェスカーの言葉に、そうかも知れんとこれまた笑う。
 だが、それは何の関係もないのだ。たらればを語った所で意味はない。今、自分たちのいる場所がここである事に変わりはないのだから。
「……そっか……信頼してるんだな、仲間を」
「信頼せざるを得なかったのさ。そしてその目は間違いなかった。お互いにな」
 掲げたグラスに他の面々も続き、乾杯と声を揃えて酒を煽る。そこに嘘は混じっているようには見えなかったし、それぞれの抱えた影は感じられたが、裏のありそうな人間は見当たらなかった。
 ウタはそうかと満足したように答えて、静かにギターを弾く紅葉の対面に座る。
 こちらもギター【ワイルドウィンド】を取り出し、紅葉の後に続くように物悲し気な曲を弾く。寂しい雰囲気であるが、どちらかと言えば旅立ちを歌い上げるような寂しさで、バラード曲という訳ではない。
「何だ何だァ、もうちょい明るい曲の方がいいんじゃないか? せっかくだしパァーっとさぁ!」
「後でな。今はこのままだ、これは鎮魂歌なんだ」
「? でもよぉ、今回の作戦って誰も死んでないんだろ?」
「そうでも、なかったのさ」
 寂しげな笑みを見せたウタに、紅葉もその意図を察したのか彼の曲に寄り添うように音を変えた。
 理解できない様子であったレンジャー部隊の中で、カノスは一人神妙な顔つきでグラスを掲げる。頭の上の酒瓶そのままなんですけど。
「ガーランド部隊、ジョイス・ゴーンヘッドに」
「…………。北口防衛隊、クリストフ・マッケンジーに」
「同じくクリストフに」
「国境警備隊のライラ・ソ・アエンに」
「ジェリコ部隊のアルロイ・パーカーに」
「同じくジェリコ部隊のイースリーピース・ジェンキンスに」
 グラスを合わせ、一気に飲み干す。
 ウタと紅葉の送る相手が誰なのか、彼らは知りもしなかったが、それでも鎮魂を謳う彼の言葉にケチをつける者は誰一人としていなかった。それは戦場を渡る兵士として当然の作法だったのかも知れない。
 レイは骨の一本でもとした隊長を余所に、彼らの心を送る。聖痕の痛みが鈍くなったのは気のせいではなかっただろう。
「さ、まだまだ腹は空いてるだろ? じゃんじゃんいってくれ!」
「それなら、僕も」
 静かなギターの音が止まると同時に声を張り上げた遥翔に、ルゥが答えれば俺も、俺もとレンジャー部隊や猟兵たちが続く。
「曲はどうしましょうか、ジャズでもなんでも、リクエストお請けしますよ」
「ハードなロックだ! ガンガンズンズンいこうぜ!」
「オーライ!」
 チェスカーのリクエストにお答えしまして、とばかりに机に足を乗せて激しく掻き鳴らす紅葉。初速から最大風速を発揮する台風のような奏法に刺激されたのか、ウタもそれに合わせて火が出る程の高速ピッキングを披露、お互いが干渉し合う炎の如き激しい奏法であった。
「あまり聞かない曲ですが、たまにはいいですね」
「ギチギチ、ギチチッ!」
(体を動かしたくて仕方ないわー!)
 ノエルの言葉に同意して激しく前肢をぶんぶか振るうアリスは踊っているようにも見える。たぶん超級料理人・摩那による劇物による影響だろうが、摩那自身は移動式活火山スペシャリテに手をつけず、アリスの妹とともに焼き魚を堪能している所であった。
 戦いの最中、その後でも、消えた者を送るのは生者の作法だ。
 そして、生を謳歌するのは生者の特権なのだ。


●生者より。
 宴もたけなわといった所。
 シルはよく食べて膨らんだお腹に食べ過ぎたかと四苦八苦しつつレンジャー部隊と共に猟兵たちのキャバリアも乗せた、台車へと向かう。
(わたしの相棒も労わってやらないとね)
 そう微笑む視線の先で、傷ついたブルー・リーゼを見つめる。
「リーゼ、ごめんね無理させちゃって」
 視線を返せば、どのキャバリアも激戦を重ねた戦いの中で多くが傷ついている。「それだけハードな戦闘だったから」、とう胸中で呟くシルの言葉を受け取るように、しかし精霊機もどの機体も受けた傷は誇らしげであった。
 他の機体も労わりその装甲を撫でて行くが、彼女自身大量の魔力を消費している。ボイットが部下に怒号を飛ばしてデータ転送を作業を進める中でも意に介さず、大きな欠伸をしてうとうとと重い瞼を擦った。
「ふぁぁ。……さすがに魔力を使いすぎて眠いなぁ……」
 少しの休憩だ。
 ブルー・リーゼの足に体を預けたシルが幾らと待たずに寝息をたてた頃、現れたルゥは寝入るシルに気づきタオルケットをかけてやるとモノクラーへと飛び乗った。
 腹も十分に満ち、すでに眠り活気もある。車掌を通じてヴィエルマから借り受けたモノクラーをそのまま譲り受けたルゥは、新たな相棒であるそれの動力炉に火を入れる。
 量産を目指して作られながらも実験的な要素が多く見送られた代物。高い狙撃能力に対し機体性能が追いついておらず、パイロットの補助機能が不十分なモノクラーを扱うには、ルゥ程の適正が無ければ意味は無いと考えた技術部が彼に渡したのだ。
「一足先に、行きましょうかモノクラー」
「あん? っておいおい、機体が出るぞ! ドッグ寄せろ!」
「ありがとうございます。それでは、お元気で」
 コックピットを閉めて邪魔にならないように避けた群青色のキャバリアへお礼を残し、猟犬は台車から飛び降りた。

 がちゃりと開いた扉に、警戒する視線が向けられて。
 黄巾力士に乗って格納庫へと戻って来た猟兵たちは、ずらりと並び座らされたダンテアリオン兵士に友好的な笑みを見せた。さすがの彼らも縛られている状態で、かつ自分たちの命をわざわざ救った相手と無理に敵対しようと考えてはいないのか緊張を緩める。
 指揮官であるジョナサン・ラッドの存在も大きいのかも知れない。
「えと、あの、捕虜のみんなも、ごはん、食べて? じぃや、お願い」
 おずおずとしたロランの言葉にじぃやは言葉なくお辞儀し、後ろ手に縛られた捕虜たちの拘束を解き、とは言え念の為に手を前に直して手錠をかける。
 これなら料理は食べられるだろうと、遥翔作のハンバーガーを配っていく。
「これもどうぞ。疲労回復効果がありますから、デザートに」
 チョコバーをそれぞれに配る桜花に、兵士たちは顔を見合わせながらもお礼を述べた。更に極めつけとばかり、冬季は激甘な【仙丹】を渡していく。常人が気軽に食べていいものではないぞ。
 その間に桜花は唯一の女性、ランデルフ・スコットハウアーへ副長と共に歩を進めた。
「ランデルフさんのしたい事がどうしたら出来るか、一緒に考えに来ました」
「……私の……?」
 状況の飲み込めない彼女へ笑みを見せる桜花。
 このままでは彼女がヴィエルマからダンテアリオンに引き渡されるのは明白だ。それは車掌が語ったように、戦争に参加していないヴィエルマとしては拘束し続ける義務もないし、得策でもないからだ。
 しかし、戦う事を嫌う彼女が軍に戻る、それで良いのだろうか。
「まずはそんな状況から逃れる為、全力を尽くしてみませんか?」
「貴様ら、我が兵に対して何を――」
「戦場で倒れた上官を撃ち殺そうとした。普通に考えて銃殺ものでしょう?」
 抗議の声を上げたジョナサンの言葉に割り入って、冬季が告げる。肩を震わせたランデルフを見れば、やはりその可能性はあるのだろう。
 ダンテアリオンに戻っても生きる術はない、そう断言する冬季の言葉が冷たく彼女へと突き刺さる。
 硬直するランデルフへ仙丹を渡して、しかし冬季は同情するような笑みは浮かべない。
「それに、またアレに似た物に乗ってクロエ嬢のような方が居なかった時。貴方、戦えます?」
「……私……は……」
「集団、それも軍に属するということは、有事の際に命を求められるという事です。貴方の上官はその点を良く分かっているようですが、貴方はどうです?」
 押し黙るランデルフ。
 覚悟がない訳ではなかったろう。命を失う覚悟はあったはずだ。だが、その命を賭してすら結果を出せない時、自らの命を捨てた所で事態が好転しなかった時、いや、むしろ悪化させてしまったら。
「師を敬い同門を助け己が望みに邁進せよ。私ですら求められれば死ぬ覚悟がある。貴方は?」
「ランデルフ少尉、聞くな」
「……ありません……」
「少尉!」
 ジョナサンは声を張り上げ、勝手な事を言うなと猟兵を睨みつけた。確かに戦場での混乱は個人の問題ではない、戦場そのものを揺るがす禁則事項のひとつだ。それも上官、指揮官を殺す事など断じてあってはならない。
 しかし、それでもこの戦場を救う為、ただの一機で克とうとした事をこの場にいるダンテアリオン兵士の全てが知っている。ならば、彼女を守る事もまたこの戦場で守られようとした彼らの使命だと。
「駄目です。そこにあるのが信頼であるのは理解できますが、今、あの国にオブリビオンマシンの影響がある以上、彼女を巻き込むべきではありません。
 私たちはもう、貴方がたの国から送られてきたオブリビオンマシンと二度に渡り戦っています。貴方がたの国は、ダンテアリオンの上層部は、オブリビオンによる影響を受けているのではないですか?」
「…………! そ、そんな馬鹿な!」
 即座に否定出来なかったのは、オブリビオンマシンによる威力と実際に戦場に投入されたと言う事実に直面したからだろう。
 その力を以てダンテアリオンの威を示せと、命じられたと感じてしまったからだろう。
「ランデルフさん。戦うのはお好きでないでしょう? 貴方を捕らえる為に密約もなく大部隊を展開する事は出来ないでしょうし、密約を結ばないであろう国を私たちは知っています」
「あー、それで呼ばれた感じですか?」
 完全に第三者気分でじぃやから余ったハンバーガーを頬張っていた副長は頭を掻く。
「まあ別にウチは構いませんけどね」
「敵国だぞ、少尉!」
「…………」
 泣きそうな顔でジョナサンを見つめるランデルフ。その顔を掴んで自分の顔へと引き寄せた桜花は強い口調で告げる。この状から逃れる為に全力を尽くさないか、と。
「長い時間が掛かるかもしれません。少なくとも私たちがダンテアリオンの上層部からオブリビオンマシンの影響を除けるまでは」
「お逃げなさい、追い詰められて自分で立つしかなくなるまで」
 桜花と冬季、二人の言葉を受けても口を開こうとしない少尉に、ジョナサンは安堵したように息を吐く。
 結局、最後は全て彼女の意思による。離れる二人と入れ替わるように、ロランは冬季から受け取った仙丹と、ハンバーガーやチョコバーを渡す。
「生きてれば、いい事あるから」
「…………」
 隣に座ってハンバーガーを一口。美味しいよとアピールする少年の尻尾の動きに目を寄せて、ランデルフは言葉を交わさずに一口、いただく。
 その美味しさといったらなかっただろう。不安と恐れと焦りに飲み込まれ、孤独に固まっていた彼女の心を解してくれるような味。人の血が通った、温かみのある味だ。
「これから大変だけど、がんばれそう?」
「…………」
「過去を受け止めて、前に進めそう?」
「……う……ん……」
「拒絶してばかりは、寂しいから。
 だから、もっと、周りの人を見て上げて。あなたには、こんなに、仲間がいるんだから」
「……うん……!」
 おずおずとしながらも強い意志を秘めたロランの言葉を受けて、遥翔や桜花、そして冬季の味と言葉とを噛み締めるランデルフ少尉。
 後は、彼女に任せるだけだ。
 何かあればヴィエルマの職員からアサガシアへ連絡を送るよう副長が伝え、彼らも格納庫を後にした。
 陽が傾き始めた空を見上げ、戦いの、事件の終わりをようやくと実感する。
「副長さんはまた黄巾力士で列車までお送りしましょう」
「あー、頼みます。それからランデルフとかいうの、多分こっちに亡命するんじゃないですかね、雰囲気的に」
「確実ではないでしょうけど、そうなってくれると嬉しいですね」
「ランデルフさんが、戦わないで済むような……そんな国にしなきゃいけないんだね……」
 そうですね。
 ロランの言葉に冬季は頷きながら、太陽より降り立つ黄巾力士へ合図を送った。

 多くの戦いに晒されるアサガシアと、周辺国家たち。
 ダンテアリオンとの兵力差は如何ともし難く、戦争に備えて始めた物資の補給も多くの輸送列車が破壊され、その物資もダンテアリオンに奪われている。
 アサガシアの戦力も減少している。だが彼らの兵力により助けられた周辺国家からの助力もあり、ダンテアリオンが一気に攻め込むような事態に陥ってはいない。
 ダンテアリオンもまた、オブリビオンマシンの存在により猟兵に介入され、大きな損害を被っている。
 アサガシア、ヴィエルマ両国の猟兵に対する信頼は厚い。
 ダンテアリオンは猟兵を敵として認識しているが、命を奪わず自らの役目に徹底する彼らを、実際に戦った兵士たちは敵として認めるには難しい状態にある。
 未だ、戦場は混沌としている。だが光明が差す瞬間は、もう目前であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月08日


挿絵イラスト