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えっちなのはいけないので世界は滅びます

#カクリヨファンタズム #戦後 #『生きてて良いんだよ』

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#カクリヨファンタズム
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#戦後
#『生きてて良いんだよ』


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●公序良俗って最初に言い出したのは誰なの
 性道徳と言う言葉がある。まあ要するに道徳の小分類で、性的な事に関する道徳。と言えば大枠は間違って居ないだろう。性倫理と言う場合もある様だ。
 その要旨は、まあ平たく言ってしまえば『えっちなことはいけません』となる。人の俗欲は尽きせず、されど……或いはだからこそその情動を制御し管理する事が求められる訳だ。もっと直感的に言ってしまえば、誰しも目につくいかがわしい広告や店の呼び込みを、インモラルな話題や猥談を、性犯罪や或いは行為そのものを、嫌悪の対象として不快に思った事はあるだろう。一方で求められ、一方で拒否される。TPOに拠ると言ってしまえばそれまでだが……考えて見れば不思議な話では無いだろうか。
 しかし本来、そもそも性と言うのは種の保存に置いて必須の……。

●何事もやり過ぎはいけません
「話が長い」
 猟兵の一人にそう遮られ、ハイドランジア・ムーンライズ(翼なんていらない・f05950)は長広舌を中断した。ちょっと拗ねた顔で睨んで来るが、急かさない訳にも行かない。何せグリモア猟兵である彼女が猟兵を集めた以上、それはつまりオブリビオン案件と言う事なのだから。
「前置きは良いから何があったかだけ話してくれ」
 促され、ハイドランジアは2秒ほどだけ考える仕草をしたが。嘆息一つで気を取り直して改めて口を開いた。
「えっちな事が消えました」
 何て?
「オブリビオンの企みにより、幽世から『えっちな事』が消滅しましたの。これによりカクリヨファンタズムは滅亡(カタストロフ)の危機に瀕しております」
 猟兵達の顔に理解が広がる。妖怪達の住まうかの世界で頻発する、概念の消失。先の戦いにより大祓百鬼夜行に勝利しても尚残る世界の危機。説明されて見れば成る程簡単な……簡単な……いや、ええと……。
「すまん、俺が悪かったからもう少し説明してくれ」
 広がった筈の理解が薄れて散って行ってしまった兵達である。

「言葉としちゃ正直線引きはややこしいんだが、兎も角えっちと表現出来る事はファジーに軒並みキャンセルされてると思ってくれ。その手の店もねえし本も無いし声にも出せんし行動も出来ない」
 被った淑女のネコを投げ捨てたハイドランジアの説明に、猟兵達の脳裏に若干の疑問が過る。それは確かに大事だがか……直接的に滅びに繋がる類だろうか? あの世界の住人は大半が妖怪な訳で、寿命も長いか無いかだろうし。
「ちなみに植物すら受粉しねーぞ」
 ファジーにも程があった。成る程そりゃ滅ぶわ。
「つー訳で取り急ぎ黒幕をぶっ倒して解決しなきゃいけねーんだが。まあ、当然協力している配下がいる。淫魔の骸魂に憑かれた座敷童子の群だ」
 骸魂(むくろだま)に飲み込まれオブリビオンと化した座敷童子達。その幼い稚気が淫魔の性質と混ざり合い、淫蕩な力として発露している。相対する者を誘惑し、淫靡で背徳的な一時へと誘う魔性の妖力。
「何だが、『えっちな事』が消滅した結果ほぼ全ての力を喪ってただのガキ共となっている」
 何でさ。
 いや、理屈は分かるが何でそうなった!?
「寧ろ凹んでベソベソ泣いてるので慰めてやってくれ。子供だし、普通に遊んでやっても良いと思う」
 何でだよ。
 オブリビオンだよねそいつ等!?
「いや、冗談じゃなくてさ。ぶっちゃけ現時点でもう『淫魔の骸魂』の方は半死半生なもんで、後は『子供として扱う』事で座敷童子としての本質を強めたらトドメになって剥がれるのよ」
 驚くほど儚いな骸魂。
 と言うか何で自分達の企みで無力化してるんだと、猟兵達から至極当然な疑問の声が上がる。
「ああ別に馬鹿なんじゃなくてな。本当はもっと良い塩梅に免疫とか馴れとかだけ消滅させるつもりだったらしいぞ。世界全部が初心になる的な感じで」
 そうすれば、自分達だけがそう言う事を駆使し、誰も彼も蹂躙し支配出来る。そう言う目論見で、実際そうなればカクリヨファンタズムは色々な意味で酷い事になって居ただろう。そう考えれば確かに恐ろしい権謀術数と言えるのかも知れない。
「でも何かウッカリやり過ぎたらしい」
 それはやっぱり馬鹿なのでは?
 猟兵達は訝しんだ。
「骸魂の抜けた座敷童子達に案内して貰えれば、黒幕である西洋妖怪『プラトニック・サキュバス』の隠れ場所に行ける」
 彼女はその名の通り生来の淫魔。見習いではあるが、或いは見習いだからこその無垢さやあどけなさを武器とする誘惑の魔性である。
 そんな説明を受けた猟兵達は、しかし一様に冷めた顔をしていた。
 だって、この流れさっきもあったもの。
「うん。無力化して自棄酒してるから愚痴聞いてやって」
 聞いてやってじゃないよ。
「そう言うなよ。淫魔っつー立場に対する世間からの視線とか、見習いとして感じるプレッシャーとか、先輩にお前言動に色気が足らねーよって言われた事とかに悩んで骸魂に憑りつかれたらしいしさ。気持ちがスッキリしたら骸魂も剥がれると思う」
 ビックリするほど脆いな骸魂。
「追加の酒とかツマミとか持ってってやったら? 焼酎は芋派で剣先スルメとか好きらしいぞ」
 ……ああ、うん。色気が足らないって言われた原因は何となく分かった。
 遠い目をする猟兵達を前に、グリモア猟兵は『ああでも未成年は飲酒禁止なー。ジュース飲めジュース』とか注意している。大事な事ですね、ええとても。
「まあでかい戦争の後だからなのか何なのか、ちょっとアレな話だが……だが、放って置いて良い事じゃねえ」
 オブリビオンの陰謀を挫いてくれと、ハイドランジアはグリモアを輝かせ幽世への道を開く。
「……陰謀を、挫く?」
「あーあーーあーーー聞こえなーい」
 こまかいことはきにするな。


ゆるがせ
 ※このシナリオは設定上『えっちな事』が全てキャンセルされます(内心描写ですら曖昧になるかキャンセルされます)。言葉から行動から全て描写されませんし、意図の有無すら考慮されませんので所謂ラッキースケベの類もアウトです。該当箇所の多いプレイングは不採用となります。御注意下さい。

 色々本当にごめんなさい。謝りますけど謝るだけです。ゆるがせです。
 カクリヨファンタズムでの戦いです。
 戦う要素ほぼ無いけど戦いですと言い張る強い意志。

●第1章:『『淫魔の骸魂』に憑かれた座敷童子』
 集団戦です。OPの説明の通り能力はほぼ使えません。『座敷童子の本懐』だけは使えるけどあんま意味ないと思う。
 泣いてる子供達をあやしてあげて下さい。一緒に遊んでも良い。

●第2章:『西洋妖怪『プラトニック・サキュバス』』
 ボス戦です。OPの説明の通り能力は一切使えません。全部該当するもの。
 凹んでる女の人(女子大生とか新人OLくらいの感じ)を慰めて下さい。一緒に飲み会するのでも十分です。
 尚、憑りついた骸魂はあえて確定させてません。OPにある彼女の身の上とメンタリティを前提に、それまでの話や皆様のプレイングを見て確定させ、2章開始時の断章で明記する予定です。
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第1章 集団戦 『『淫魔の骸魂』に憑かれた座敷童子』

POW   :    メスガキの挑発
【挑発するために、現在穿いているぱんつ】を披露した指定の全対象に【絶対に『わからせ』なければいけないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD   :    座敷童子の本懐
【対象を幸せにする座敷童子の能力】を一時的に増強し、全ての能力を6倍にする。ただし、レベル秒後に1分間の昏睡状態に陥る。
WIZ   :    イノセント・チャーム
自身の【『女の子』として大切な様々な『はじめて』】を代償に、【淫靡で背徳的で抗い難い魅了効果】を籠めた一撃を放つ。自分にとって『女の子』として大切な様々な『はじめて』を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●これはこれで事案な気がする
「なんでこんな事になったのよー!?」
 そんな叫びが響き渡った。
 所はカクリヨファンタズム、騒ぐは数多の少女達。正確には、少女の姿をした妖怪達。もっと正確には、少女の姿をした妖怪に骸魂が憑りついたオブリビオン達、更に正確には少女の姿をした妖怪に骸魂が憑りついたオブリビオン何だけど諸事情あって最早無力なただの子供と化している有様達。長いな。
 最初の説明通り『凹んでベソベソ泣いてる』事は共通しているが、彼女達にも個性があるのだろう。具体的には其々に少しずつ違っていた。
「えぐ、あなたがあんなたくらみにのったりするからあ!!」
「なな何よアンタだって良いさくせんだって言ったじゃないー!」
 責を押し付け合って喧嘩をする者。
「けんかは止めなよー! スカートで取っ組み合いなんかしたら下が……えっ!? 何そのドロワーズ!?」
「なに言ってるのよそんなの……ってはいてる!? やだわたしなんではいたおぼえのないカボチャ下着きてるのー!?」
「ボクもスパッツはいてたはずなのにデニムズボンになってるー!? 怖いー!?」
 その鉄壁の禁則っぷりに怯える者。
「うわあキミなんて服がクソダサTシャツになってるよ!?」
「えっ。え? いや、この服は元々私の一番のお気に入りで……えっ、クソダサ……って」
 何かこの後、今回の件とは今一関係ない理由で泣き出す事になりそうな者。
「このはつげんはこうじょりょうぞくにはんするため、ひひょうじにさせていただいております!」
「ちょっと何なに言ってるの!?」
「違うんや! 何とかして『そう言う事』を言おうとしたら何でか口が勝手に意味の分からない事言ってまうの!」
「うそでしょ!? ……このばんぐみはKHK(カクリヨ・ハシタナイコトハイケマセン・キョウカイ)のていきょうでおおくり……ほんとだ怖っ!?」
 何とか抗おうとして潰える者。
 と言うかKHKって何だ。
「あ、アタシ本部のたてもの見た事ある。けっこう立派だったよ」
 実在するの!?
「やーーーだーーーもーーーー! うわああん!!」
「もーやだーーーー! びええええええ!」
「ヒク、ヒック、もどして、もどしてよーーーー!!!」
 そして泣き出す少女達。大泣きである。ギャン泣きである。
 絵面は大変可愛そうだが……
 あの。嫌だも戻せも何も、君達がやった事なんですけど。
エルディー・ポラリス
こういう時こそシスターさんの出番
なにせシスターですから、えっちなのとかそういうのの対極にいる存在ですから
さあ、シスターとして事態を解決……バカな、力が抜ける……! シスターはそれはそれでえっちとでも言うのか……!?

気を取り直してお子様方に接触ですよ
まあねぇ、過度にえっちなのは私も駄目だと思うんですけど、だからといって折角の衣装が台無しにされちゃうのは女の子として可愛そう
故にリメイク……! UCにより実現される超絶技巧でお子様方の服を可愛く健全にリメイク……!
動物とかアニメの絵とか刺繍しちゃうのです!

む、中々見ないTシャツ
……お行きなさい、私の手でそのセンスを変えるほど野暮ではないのです……!



●聖スヴェタペトカの如く
「こういう時こそシスターさんの出番」
 自信満々にそう言って先陣を切ったのはエルディー・ポラリス(泣き虫L.D.・f11010)だ。その装いは正しくシスター服。兄に誂えて貰った兄妹お揃いの外套を羽織って居ればまた違ったかもしれないが……もう温かくなって来たこの時期、戦闘の予定も無く羽織って来るものでは無い。
 まして彼女はダークセイヴァーの世界に生まれた『聖なる存在』、聖者だ。
「なにせシスターですから、えっちなのとかそういうのの対極にいる存在ですから」
 自信満々に言い切るのも道理ではあった。
「さあ、シスターとして事態を解決……」
 だが、その突然その歩みが止まる。その膝が折れそうになって慌てて踏ん張り目を見張った。
「バカな、力が抜ける……!」
 不意こそ打たれたが、冷静になればそれほど深刻な不調では無い。しかし、確かに己の中に在った筈の何かが消え行く様な喪失感。これは、つまり……。
「シスターはそれはそれでえっちとでも言うのか……!?」
 マジか。
 あ、いや、そう言う事もあるのだろう。修道女とは神に仕える職業であり、その正装であるその衣装にも当然神聖かつ清廉なイメージが付加される。だが、だからこそ……と言う考えや欲望は世に溢れている物だ。
 ましてエルディーはうら若い乙女である。数多の傷痕が走れど尚美しい透ける様な白い肌に抜群のスタイルの肢体は、なるほど一部なりとも『えっちな事』として打ち消され掛けるに足る物なのかもしれない。
 いかがわしい本も出してるしな。え、苦い食べ物克服の本? 本当で御座るかあ?
 閑話休題。
「まあねぇ、過度にえっちなのは私も駄目だと思うんですけど」
 気を取り直し、お子様方に接触したエルディーは先ず少女達を見回す。
 一様にベソベソ泣いている座敷童子達の中で、聖者の赤い瞳の視線の先に留まったのはその概念消失によりスパッツがデニムズボンに変わったと言う少女。今履いて見えるズボンと上の服装が全然合って居ない。そりゃあスパッツに合わせて選んだのだろうから当然だ。
「だからといって折角の衣装が台無しにされちゃうのは女の子として可愛そう」
 彼女がそう言うのも道理だろう。可愛くありたい、お洒落でありたいと言う想い自体には本来えっちも何もありはしない。
「故にリメイク……!」
「へっ」
 力強いその宣言に、座敷童子がキョトンと顔を上げた。
「お子様方の服を可愛く健全にリメイク……!」
「え? え? ええええ!?」
 その両の手に構えられるは裁縫針(※但し彼女が武器カテゴリで持って居る特大の奴では無い)と各種の糸、そして傍らに置かれるは裁縫箱!

「……これ、スパッツですね」
 だが、事態は一筋縄では行かない。呆れた様に呟くエルディーが持つデニムズボン。そう見える。けれど、なのに、その感触と彼女自身の服飾知識が伝えて来た。
 これはスパッツだと。
「そうか……概念が消えてるって言っても、未だ全部消したりするほどじゃないんですね」
 オブリビオンの企み(自爆)により消えた概念。だが全てが完膚なきまで消え去ったのなら、そもそも淫魔であるオブリビオン達も消滅している筈。認識が出来なくなってる範囲で済んでいる事も多いのだ。例えば、それ単体で見れば只の布地である服装。
「じゃあ、それはズボンに見えてるだけって事?」
 赤くなった目尻を拭いながら聞いて来る座敷童子にエルディーは頷き返した。
 認識できないから代替し置換する。それは例えば病や怪我で視界の欠けた人間にも起こる現象だ。その視界に穴は開かず、想像や周囲の情報を使って埋めてしまう。
「……え、でも。それじゃあどうやっておさいほうするの?」
 疑問も当然だろう。実際と違う物が見えている状態で裁縫など、目を瞑ってするよりも一層難易度が高い。
 けれど。
「え、何か問題があるんですか?」
 至って何とも思っていない顔で聖者は言い切った。その手が輝きを纏い、壮絶な速度で作業を開始する。
「ええええええ!?」
 絶句する妖怪の目の前でビデオの早送りの如く見る見る抜い足されて行く布地。一回の仕損じも無く、一度の刺し間違いも無く踊った針と糸のロンドの後。そこにはスポーティな刺繍で飾られ、布地に厚みを足されたスパッツ……丈まで延長され最早レギンスだ。
「すごーい!?」
 ユーベルコード【超過聖光・神縫い(パッチワーク・ラフメイク)】。その身に纏われる聖なる光で強化されたその超絶の裁縫技術は、認識の誤差など物ともせず正確無比に振るわれるのだ。
「……え、でも。何でおさいほうを強化?」
 受け取りつつちょっと釈然としない顔で少女は首を傾げるが。
「何でって何ですか。重要なんですよ、お裁縫」
「あ、はいごめんなさいありがとうございます」
 エルディーの圧に即座に屈して阿った。大人しく着替えるその姿に、外面だけはクールだけど実際には喜怒哀楽の強い聖者様は満足げに頷く。
「え、なになに、なにそれ!?」
「すごいすごい。カッコ良い」
「ひょっとしてウチらのもしてくれるん!?」
 そして示されたその成果に、周囲で様子を見ていた他の座敷童子達が騒ぎ出す。驚きと興味で涙も一時引っ込んだ様子で。
「勿論ですよ。動物とかアニメの絵とか刺繍しちゃうのです! さあリクエストはありますか!?」
 キャー! と歓声が上がった。
 此処にシスターの裁縫無双の幕が開けたのである。

「む、中々見ないTシャツ」
 ただし、クソダサTシャツ少女の服には手を出さなかった事を追記して置く。
 その成人男性らしい顔がでかでかプリントされ、『U・MURA』とだけ刺繍されたTシャツと目が合って。その男性は偉人か傑物なのか、何処となく尊べるオーラがあるのだけど、それはそれとして顔だけドカンだとデザインとしてはどう足掻いてもダサいわ的な判断はエルディーもしたのだけど。
「……お行きなさい、私の手でそのセンスを変えるほど野暮ではないのです……!」
 それが好きだと言う気持ちがある限り、其処に手を入れるべきではない。思うがままに、在るがままに、かくあれかし。
「……はい!」
 聖女の導きを受け、少女は涙を拭い歩み出すのであった。
 何処にかは知らんけど。

成功 🔵​🔵​🔴​

御狐・稲見之守
幽世の危機が去っても終世の危機は変わらんのナ。
そしてセンシティブ表示がオフになっておるが
大泣きするロリというのも需要があるのでは?

まあそういう業の深い話はともかくとして
そうじゃナ、面白い遊びをしよう。
UDCアースでバズっておったんじゃが
『こ』『ん』『お』『ま』『ち』『う』と
各面に書かれたサイコロを5つ用意してナ。
早い話がちんちろりんというヤツで
特定の語を揃えると役になるってな塩梅よ。

それでは、そい!
おお役が揃ったゾ、おち
<<このはつげんはこうじょりょうぞくにはんするため、ひひょうじにさせていただいております>>



●是もまた神事
『我為す一切是神事也』
 その存在はそう宣する。かつて人を喰い魂を呑む外道と恐れられながら、巡り合わせの末に祀られる立場となった妖狐。生まれついてでは無く、人の信仰に寄って神の座に至った物の怪の神。
「幽世の危機が去っても終世の危機は変わらんのナ」
 呆れた様にそう呟き、御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)は省エネモードと言える幼き見目形ながら、それでも滲み出る威厳を以て歩みを進める。
「そしてセンシティブ表示がオフになっておるが」
 視線の先、泣き叫ぶ幼い少女達を眺めてその目を少し細める。そこに篭るのはどの様な感情か、その神意は神ならぬ者には到底与り知れる物ではないのだろう。
「大泣きする幼女というのも需要があるのでは?」
 おう、何を仰っておいでですかね神様。

「……幼女に変わるか。恐らく語源の内容的にアウト判定なんじゃナ」
 発せぬ言葉を吟味しマイペースに呟きながら座敷童子の群の中に踏み入り、仙狐の女は其々の顔を見て行く。泣き方は各人其々で個性がある物の、概ねが所謂『子供泣き』と言う奴で色気に欠ける。鼻水も普通に出てるし……それは『えっちな事』の概念が失われたからこそなのか、或いは単にこの間の抜けたオブリビオン達の素なのかは神の眼にも判断しにくい微妙な線ではあった。
「まあそういう業の深い話はともかくとして」
 立ち止まり、懐から何かを取り出す。
 オブリビオン達は一瞬警戒した様に身を竦ませたが、それが武器の類では無いと気付き涙に濡れた目を瞬かせた。
「そうじゃナ、面白い遊びをしよう」
「……遊び?」
 取り出されたのは5つのサイコロ。だがその6つの各面に書かれているのは1から6の数字では無く、『こ』『ん』『お』『ま』『ち』『う』の6文字。
「UDCアースでバズっておったんじゃが、こう言うサイコロを5つ用意してナ」
「バズ……あ、新し親分さんの。SNSのだっけ」
 素地が東方妖怪である少女達は理解にワンクッションを要した物の、直ぐに趣旨を理解して稲見之守の説明をフンフンと聞き始める。童であれば、当然好奇心は旺盛であり。泣く子を泣き止ませる手として、『興味を惹いて気を逸らす』のは有効な手法の一つだ。
「早い話がちんちろりんというヤツで、特定の語を揃えると役になるってな塩梅よ」
 説明を終えた妖狐の懐にスマートフォン。元は山狐の身で、今では五穀豊穣と火防雷除を司る神である彼女だが、それはそれとして俗世の事情には通じているのだ。
 と言うか本当についこの間からUDCアース話題になってるゲームじゃねえかそれ。どんだけ耳早いの最早現地人じゃん。それこそバズリトレンディかこの人。
 まあそれはそれとして。
「それでは、そい!」
 神の手に寄り賽は投げられた。そも、『遊』とは霊が宿った旗をおしたてた神が行く姿を模した漢字とされる。童らの涙を止めるべく、神御自らが率先し遊びを楽しむ。その絵面は正に神事と言うのに相応しい、荘厳なる遊戯。
 ……そのゲームが、それこそ幼い子供が大爆笑する様な下品な言葉を揃え、皆でゲラゲラ笑って遊ぶ類のルールでなければな!? いや絶対楽しいとは思うけど!
「おお役が揃ったゾ、おち」
 そして躊躇なく読み上げようとしないでくれますかね神様!?
 だがそうはいかない。『えっちな事』の概念が喪われた今のカクリヨファンタズムでそんな言葉を言おうとしても、それは<このはつげんはこうじょりょうぞくにはんするため、ひひょうじにさせていただいております>と言う言葉に差し変わるのが関の山……
「……『お』『ち』『ん』『ぎ』『ん』?」
 所かそもそも違う言葉になってた。
 妖狐も座敷童子達もキョトンとして賽子を見下ろす。だっておかしい。『ぎ』の文字なんて元々ない筈なのに。
「サイコロ、誰かすり替えた?」
「……ワシは覚えが無いのう」
 気紛れで悪戯大好きな稲見之守であれど、この流れで悪戯をする程野放図では無い。やるとしたら先ず数度役が揃ってからだろう。
「ふむ……」
 と言って、長き年月を生きて来た神である。その知見からある程度の推察は立つようで、その左の金瞳を静かに輝かせながら、確認する様にまた賽子を転がして行く。
「……『ち』『ん』『あ』『な』『ご』。なるほどのう」
「無いはずの文字がめちゃくちゃふえたね……」
 概念と消滅している以上、それらの言葉は認識すらできない。そして、認識できない言葉は欠落では無く、他の近しい別物を以て代替される。
 そんな理屈を看破して、神は童達と顔を合わせ。
「「「これはこれで」」」
 そんな結論に辿り着いたのであった。
 遊ぶと言う事は楽しむと言う事。積極的に楽しもうと言う気概がれば、多少の予定外は寧ろ面白味にすらなり得る。
「ちょ、ちょっとこれはさすがにむちゃな改変だと思う!」
「あはははは! 原型がなーい!」
「て言うか文字数的にほんとはこれあの言葉だよね!」
「そう言えばそうだ! キャハハハ!」
 夢中になった子供と言うのは、これで逞しい物である。遊び出した一部の座敷童子達に最早涙の湿っぽさは無く、すっかり乾いた目で笑う彼女達は程なく骸魂からも解放されるだろう。だって、その様はもうすっかり只の子供なのだから。
「ブハハハハ!」
 共に笑う神もまた、その見目は幼くいとけない。けれど、結果を見ればその意図は凡そ見事正鵠を射るが如く事を成しており。その内心の神慮は矢張り余人には分かり得ない物なのかも知れない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

チル・スケイル
むしろ叱責したいのですが。
ああもう。

何はともあれ子どもをあやしましょう
魔法の粉雪を降らせながら、子ども達に接触

もしもし、どうして泣いているのですか
私に話してごらんなさい

子どもの一人を優しく抱きよせる
ああ、それは大変でしたね
さあ、一休みしてそれから考えましょう
今夜は涼しくなりますよ

眠った子どもは抱き上げて安全な場所に運ばなければ
家屋や小屋があれば一番ですが、木陰や岩陰で妥協するのも手か

目を覚ますまで見守りたいですが、大きな子どもが一人待っていますので
ごめんなさい

…子ども、か…そろそろ世継ぎ、いやまず相手を【検閲されました】
ああ、もう。



●つめたくて、なのにあたたかい
「むしろ叱責したいのですが」
 その声はクールで、その容姿もまた冷気を感じさせる美しい青。言葉が聞こえたのか或いは単に気圧されたのか、座敷童子の数人が少し怯えた様に見返す。
 だが、アックス&ウィザーズよりやって来た氷竜の末裔たる竜派ドラコニンアン、チル・スケイル(氷鱗・f27327)のその言葉は至って正しい、と言うかオブリビオン達は叱責所か寧ろ退治されて然るべき立場である。
 けれど。
「ああもう」
 堅そうな鱗に覆われた口から発された苛立ちの声は、存外に優しい響きを持って居て。
「何はともあれ子どもをあやしましょう」
 そう言って、子ども達に近付く。……そう、チルのその青い目に映るのは、『泣いている子供』なのだ。オブリビオンでも、この事態の首謀者の手下でも、今この時泣いている幼子を蔑ろにしたりはしない。
 所作はクールで、なのに蓋を開けて見れば『ナメられたら撃ち殺す』なんてスタンスでバチバチ暴れたりもする脳筋のチルだけど。そう言った優しさもまた、心の中に確かに持っている。
「もしもし、どうして泣いているのですか」
「ぅう……? あ、雪……?」
 声を掛けられた少女達が、涙を拭って見上げた先。竜の乙女の周囲にキラキラと粉雪が舞っている。
 ユーベルコード【氷術・癒(アイスヒール)】。それはチルの得意とする氷の魔法の産物だが、触れる物を害する物では無く寧ろ癒す。それが感覚的に伝わったのか、それとも単にその美しさに魅了されたのか、少女達は暫し涙を忘れてウィザードの言葉を聞く。
「私に話してごらんなさい」
「え、あ、あのわたし達……ちょっと世界を滅ぼそうと思って」
 ちょっとって枕詞から続くには可也ヘヴィなオープニングだなおい。
 それはともあれ、童達はポツポツと拙くながら話して行く。首魁も己達も『えっちな事』を武器とするオブリビオンだが、経験不足等が災いしてその腕前は高いとは言えなかった。だから世界そのものの抵抗力を弱める事で己達でも蹂躙できる様にし、そして世界を意のままにしようとした。なのに、失敗してこの有様にと……。
 改めて情報を整理すると、何一つ弁護する要素の無い話である。まあオブリビオンの企みなのだから当たり前だと言えばそれまでだが、話す座敷童子達の一部もその辺話している内に再認識したらしく。『やだ、わたしたちの面の皮厚すぎ……?』と気まずげに目を逸らす者もチラホラと。
 けれど。
「ああ、それは大変でしたね」
 チルはそう言って、目を逸らす子の一人を優しく抱き寄せた。
 世界を滅ぼすとまで行く子は普通いないが、悪戯や悪行を犯す子供と言うのは沢山いる。その結果酷い目にあって泣き出す子供だって幾らでも居る。それを、追い打ちをかける様に更に怒鳴って叱って躾ける……と言うやり方も、一つの教育なのかもしれない。ただ、是非以前に少なくともそれを『あやす』とは言わないのだ。
「……ぁ?」
 抱き締められた座敷童子が、戸惑った声を漏らす。
 悪い事をしたのだと言う自覚のある子供は、なのにこんな風に遇して貰える事に一瞬呆然とする。
「さあ、一休みしてそれから考えましょう」
 今夜は涼しくなりますよと、柔らかく微笑んで。
 お説教をするとしても、この涙を止めたその後で良い。今はただ『安らげ』と命ずるように舞い踊る粉雪の癒しの中、優しいひと時をと。
「……んなさい。ご、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
 チルの胸の中で少女がまた泣き出した。泣き止ませる為にした事なのに元の黙阿弥か……と言えば、そんな事は断じてない。その涙はそれまでの並だとは違う物だから。
「……ぅえ」
「わたし、わたしも……」
 伝播する様に、周囲の幼子達もえづき縋りつく様にチルに身を寄せて来る。
 反省しろと言われて反省する程子供と言うのは機械的では無く、まして自分の行いの因果と是非を理解できるだけの頭があるなら尚の事。けれど、だからこそただ優しさを以て受け入れてくれる母性の前、逆らい続ける事など出来ないし……そもそも逆らう理由も無いだろう。きっと。
 泣きじゃくる少女達が程なく寝入ったのは、眠りを齎す魔法の効果か。或いはもしかすると、チルの与えたゆりかごの様な安らぎの中で安心してしまったからなのかもしれない。

「目を覚ますまで見守りたいですが、大きな子どもが一人待っていますので」
 眠った子ども達を丁寧に抱き上げ運び、近場の家屋に運び込んだチルはそう呟く。
 何時の間にやら、最早ただの座敷童子と化している少女達は皆安らかな寝息を立てている。流石に人数分の蒲団は無かったけれど、屋根のある空き家を用立てれたのだから恩の字だ。今の季節なら風邪の心配も低いだろう。
「ごめんなさい」
 それでも尚、一言謝罪を残して出て行くのだから。少女達がもしも起きて居たら、その優しさにまた泣いてしまうのでは無いかと言うレベルの話なのだけど。
「……子ども、か」
 泣きじゃくってる間、童達は首魁の隠れ場所の事も口にしていた。後は自力でも探せるし、他の猟兵の情報と合わせれば直ぐにでも見つけれるだろう。理性的な算段を付けながら、けれどチルは頭のどこかで先ほどまで面倒を見ていた『子ども達』の事も思い返す
「……そろそろ世継ぎ、いやまず相手をこの表現はセンシティブな内容の為検閲されました」
 少なからず思う所があったのだろう。少し物憂げに呟いた妙齢の女性の言葉は、後半ちょっとあんまりな感じに改変されてしまう。
「ああ、もう」
 子供相手では無いからか、今度の苛立ちの声は余り優しげではなかった。
 実際、何とも野暮な話である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

純真邪神・幼淫魔姫ピュアニカ
えっちじゃないのはイケないと思うよ〜♪淫魔にとっては、割と真剣に死活問題だよねー♪

所で大丈夫これー?ぴゅあは淫魔の神さまでお姫さまな、えっちの化身なんだけど〜♪

じゃあ、おままごとしよっかー♪ぴゅあが奥さん役でー、淫魔童子ちゃん達も皆ぴゅあの奥さんだよー♪
手を繋いだり、ハグしたり程度なら大丈夫かなー♪えっちなの抜きでも、ぴゅあは女の子同士のイチャイチャが何よりも大好きー♪(瞳に『百合』の二文字が浮かんでいる)

取り除いた骸魂の淫魔達は、UCを歌ってぴゅあの支配する淫魔王国へご招待してあげるー♪飢えている様子だし、きっと喜んで住み着いてくれるよねー♪

※採用出来る様にアレンジ・マスタリング歓迎



●道無くとも我が道をぶち抜く
 所で、座敷童子達は『淫魔の骸魂』に憑かれている。まあ、諸々の事情でその骸魂は半死半生なのだけど、少なくとも今この時彼女達は淫魔に分類される訳だ。そんな童達からすると、例えば『淫魔の神』何て存在が「よう神だぜ」とばかりに気軽に出てくれば……まあ、所属世界が違えば直属の上では無いにせよ、こう、『同業の大企業CEOがいきなり来た』程度の衝撃は伴う訳で……。
「えっちじゃないのはいけないと思うよ〜♪」
 あざとく可愛らしい声でそう言う純真邪神・幼淫魔姫ピュアニカ(永遠に無垢なる幼く淫らな魔貌の邪神姫【百合淫魔姫】・f30297)の登場に、気付いた一部の座敷童子達は涙を流しながらも何と無く居住まいを正そうとしていた。
「淫魔にとっては、割と真剣に死活問題だよねー♪」
 そんな固くならなくて良いよーとばかりに愛らしく笑い、ピュアニカは己の纏うドレスを見下ろす。
「可愛いから良いけどー」
 桃色の瞳に髪の揃え、フリフリのレースたっぷりなそのピンク色のドレスは、幼い見目ながらスタイル抜群のピュアニカに非常に似合っており可愛らしい。が、布地が多く邪神の柔らかい白肌の殆どが隠れている。
 何せ名前からして幼淫魔姫なんて言葉が入っているピュアニカである。その言葉が示す通り普段は露出バリバリのドレスを着ているし、今回もそう言う装いで来た筈だった。
 思えば最初の言葉も、彼女の意志とは少し違うニュアンスの発音になって居る部分があった。それらの『影響』にサキュバスの神は少しだけ考える。
「大丈夫これー? ぴゅあは淫魔の神さまでお姫さまな、えっちの化身なんだけど〜♪」
 そんな彼女が概念レベルで『えっちな事』が消えているこの世界に足を踏み入れて、果たして無事で済むのかと言う話だ。
 淫魔と化している座敷童子達が現状無事なのだから、神たる彼女が揺らぐはずがないのか。逆により純度と位の高い『そう言う存在』だからこそ不味いのか。
 ただそう言いながらもピュアニカは何時も通りの甘えた妹系態度のままで。オブリビオン達もまあ平気な方なのだろうなと、それじゃあ遊ぼーと薄れて消えて行く手を挙げるピュアニカを見やり。
「大丈夫そ……うじゃなーい!?」
「ヤバいヤバい神様消えかけてる! 端からフワーって光の粒子になって消えかけてる!!」
「わー♪ 何これ面白い~♪」
「のんきやな!?」
 一悶着あったと言う。

「なんとかなったし。じゃあ、おままごとしよっかー♪」
 流石は神と言うべきか何と言うか、なにんやかやあって結局平気な顔のままアッサリ何とかしたピュアニカである。なんやかやはなんやかやなので気にしてはいけない。
 大騒ぎした座敷童子の一部にはちょっと疲れた顔になって居る者も居るが、誰一人拒否はしなかった。相手が自分達の領分の髪に当たる存在である事も、ピュアニカの髪を飾る神器『幼淫魔姫の姫冠』の姫力もあるのだろう。だが、それ以前に。
「だれがどの役やる? じゃんけんで決めよっか」
「わたしポチが良い! 猫のポチ!」
「じゃあボク酒屋さんのケンちゃん!」
 何だかんだ童遊び大好きな座敷童子達なのだ。おままごとをやると言われて喜ばない筈も無かった。何かちょっと奇を衒った配役言ってる奴が多いけど。
 だがここでピュアニカの即断即決の采配が光る。
「ぴゅあが奥さん役でー」
 先ずおままごとそのものの表題にもなっている主役的存在は淫魔神(サキュガミ)が持って行く。童子達もちょっと残念そうな子はいる者の概ね納得顔だった。今いるこの中で一番偉いのも、見目が美しく可愛らしいのも、そもそもの言いだしっぺも全てピュアニカなのだし。
 でも。
「淫魔童子ちゃん達も皆ぴゅあの奥さんだよー♪」
「「「そう来たかー!?」」」
 このおままごと、まましか居ねえ!?
 可愛い見目に騙されてはいけない。ピュアニカは己が掌握した国の男性丸々を消し去ったりした邪神である。普通にオブリビオン並にやらかしているゆるふわ系クレイジーサイコガチ女の子好きなのだ。まともな意思疎通が出来る等と甘く考えてはいけない彼女からすれば、おままごとを何かすっ飛んだ方向に持って行く位朝飯前なのだった。
「はいまま、ごはんができましたよー」
「まま、アーンしてねー」
「もー、ままったらひじをつかないのー」
 ただ、意外な事におままごと自体は至って普通の展開で。いや全員おかあさんだけどそこ以外は健全である。不健全になったらキャンセルされるからと言うのもあるのだろうけれど。
「手を繋いだり、ハグしたり程度なら大丈夫かなー♪」
 淫魔姫もスキンシップが多いだけだ。その触り方とて怪しい手つき一つせず、普通に文字通りおままごとレベルの夫婦(婦婦?)の仲睦まじさ。座敷童子達も普通の子供らしく楽しんでいる。
 それは一体何故なのだろう。
「えっちなの抜きでも、ぴゅあは女の子同士のイチャイチャが何よりも大好きー♪」
 ……あ、なるほどそうですか。
 その瞳に浮かぶのはハートマークではなく、左に『百』右に『合』。……淫魔神と言うか百合神かなあこの人。尚、語源を考えるとこの言葉も結構危険なのだけど、今では女性同士の友情も意味したりする言葉なので今の所ギリセーフらしい。
 そうして神はキャッキャと遊ぶ『奥さん』達を見回して。
「骸魂の淫魔達は、後でぴゅあの支配する淫魔王国へご招待してあげるー♪」
 剥がれ落ちかけの骸魂にまで声を掛け出した。
 ユーベルコード【【邪神の権能】大いなる強欲(イーヴィリティ・ビッグポケット)】。歌を以て望む対象の所有権を奪い取り、己が領分に引き摺り込む。『自分のポケットには大きすぎる』ならぬ『ポケットが大きすぎる』文字通り強欲の御業。
「飢えている様子だし、きっと喜んで住み着いてくれるよねー♪」
 けれど、そのまま滅び消滅する他ない骸魂からすれば救済でもある。猟兵に使役されるオブリビオンの例は幾らもある。弱り掌握され切った骸魂を連れ帰ったとて、恐らく誰も異は唱えるまい。
「みーんな、ぴゅあのモノにしてあげるー♪」
 連れ込まれた邪神の宝物庫で、骸魂達が一体どんな目に会うかは分からないけれど。それはきっと知るべきない事だろう。
 正に触らぬ神に何とやら、である。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベルナデット・デメジエール
あらまあ、自業自得とは言えお気の毒ですこと!
可哀想ですからこのわたくしが……
ってちょっと!わたくしの高貴な衣裳がいつの間にかクソダサTシャツと安っぽいジーンズに変わっているのですけど!?
わたくしの美しい装いがはしたないということ?納得いきませんわぁー!!

…気を取り直してお子様達をあやしてあげるとしましょうか。
ええと、それでは、いないいないばぁー……ってこれでは子供は子供でも赤ちゃんですわね。にらめっこならまだ相応の扱いになるかしら?
他には、みんなで童謡でも唄えば気分も晴れるのではなくて?
さあ、手を叩いて一緒にうたいましょう♪

ふぅ…まるで保母さんですわ。
子供の相手は存外疲れますのね…



●優しい夜と子供達
「あらまあ、自業自得とは言えお気の毒ですこと!」
 カクリヨファンタズムに高飛車な声が響き渡る。泣いていた座敷童子達が顔を上げた先、其処に立つのは高貴なる吸血鬼ベルナデット・フォンテーヌ・カルメン・ジャンヌ・リュクレース・デュ・メジエール! 長いので略してベルナデット・デメジエール(孤高なる夜の女王(自称)・f28172)だった。
「……西洋妖怪?」
 同郷の妖怪同士、通ずるものがあったのだろう。童の一人が呟いた通り、彼女はかつてUDCアースよりカクリヨに渡って来た妖怪の血脈。それもビッグネームと言える吸血鬼と来れば、なるほどその尊大な態度も道理であると言えるのかも知れない。
 ただ……。
「可哀想ですからこのわたくしが……」
 瀟洒な仕草で手を伸ばし、『直々に遊んであげますわ』とでも続けようとしたのだろう。けれどその言葉が尻すぼみに途切れてしまった。童達のジーっと見つめる視線に気付いたから。そしてその視線を追って自分の装いを見下ろしたからだ。
「ってちょっと! わたくしの高貴な衣裳がいつの間にかクソダサTシャツと安っぽいジーンズに変わっているのですけど!?」
 メジエール家の若き吸血鬼ベルナデットの装いは、彼女自身の言葉通りその態度と言動には凡そ全く似つかわしくない。寧ろ親しみとか気安さとかが全開になる感じの有様になって居たのだ。
「え、ええと。でもそのキャラクター……かわいいよ?」
 童の一人が恐る恐ると言う感じにフォローを入れて来るけど、そんな事で納得出来る物では無い。
 だって、『えっちな事』が消え去った今のこの世界でこうなったと言う事は。つまり。
「わたくしの美しい装いがはしたないということ? 納得いきませんわぁー!!」
 そう言う事になるからである。
 ちなみに、ベルナデットの普段の装いが美しいと言う事も事実ではある。黒曜石の様に艶やかなその黒い肌を飾る衣裳は、なるほど上質なだけでなく魔力と美麗さを感じさせるデザインで……ただ、まあ。露出が物凄いのだ。貴族……それも歴史の長い人外ともなると、その辺のセンスが先鋭化して行くと言うか、尖って行くものなのかも知れない。或いは夜の貴族として己が肉体の美その物を誇る風潮があるのか。何にせよ。まあ、キャンセルされるよねアレは。
「しかも何だか悪意を感じますわよこのデザイン!?」
 かわいいとフォローされたTシャツのキャラクター。何か太線のみで描かれた雑なおばけっぽい生き物が、目尻に涙を浮かべながら「うまい」ってお茶碗のごはんを食べていると言うデザインで。下に『ぼっちめし』と言う雑いテロップ刺繍。
「どう言うつもりですのー!!」
 まあ、うん。怒るのも無理はない。
 ちなみにベルナデットの交友関係は確かに狭いが別にぼっちではない。
 しかも、かつての知己の殆どは諸事情で喪っているのだが別にぼっちではない。
 闇に潜む夜族としての高貴さが、孤高な存在として結実しているだけなのだぼっちではない。
 兎も角取り敢えず決してぼっちではない。
「何が言いたいんですのー!?」
「お、お姉さん。落ち着いて。落ち着いて誰も何も言ってないから……!」
 ちょっと一騒ぎ。

「……気を取り直してお子様達をあやしてあげるとしましょうか」
 ベルナデットはそう言って、スタイルの良いその胸を張った。もうすっかり落ち着いており元の高貴さと高飛車さを取り戻している。……まあ、それまでのアレコレで、その詰めの甘さとか打たれ弱さとか小心者で泣き虫な所とかの地金が大分バレてしまった気もしなくもないが……そんな細かい事はどうでも良い。良いったら良いのだ。
「ええと、それでは、いないいないばぁー」
 一騒ぎが返って功を奏し、幾人かの涙は引っ込んだものの。それでもまだスンスンと鼻を鳴らしている童は多い。その一人の前に立って、ちょっと悩んで取り敢えず手の平で顔を隠して、出して。
「……ってこれでは子供は子供でも赤ちゃんですわね」
 流石に違うと思ったらしく少し悩む。名のある家の若手……であれば確かに、子供の世話など中々見る機会が無いのだろう。
 少し困りながらも真剣に考えるその姿に、それまでベソをかいていた座敷童子のまた一人が顔を上げた。
「にらめっこならまだ相応の扱いになるかしら?」
 模索して試して、それも出て来るのがにらめっこと来る。己の顔を歪めて笑いものにするその遊びは、高飛車なその言動が芯からの物であれば普通出てこないチョイスで。子供と言うのは向き合って来る大人の、その想いと誠実さの有無に敏感な物だ。
「他には、みんなで童謡でも唄えば気分も晴れるのではなくて?」
「えと、それじゃあとんからとんの唄が良い」
「わたしはあの歌。ええと、あの。かくれんぼの……」
 おずおずと出て来るリクエスト。何かを言えば何かしらが返って来る、そう信じれるから口を開く。西洋妖怪と東洋妖怪なので互いが歌える唄の選択にちょっと相談を要したけれど、そうしてああだこうだ話すのだって楽しみの一部だ。
「さあ、手を叩いて一緒にうたいましょう♪」
 そうしてはじまる一時の音楽会。
 楽しい楽しいお歌の時間、歌い付かれたら合間ににらめっこやちょっとしたゲーム。
「ふぅ……まるで保母さんですわ」
 吸血鬼のその呟きは言い得て妙と言えた。
 座敷童子達は何時の間にか涙なんてすっかり忘れて笑っている。多分、いやきっと骸魂なんてもうスッカリ剥がれておりているのだろうけど。或いはだからこそもっともっとと遊びをねだって来る。
「子供の相手は存外疲れますのね……」
 その呟きもまた、全くその通りではあった。けれど、愚痴めいたそんな言葉を零す夜の女王(自称)の顔は……
 さて、どの様な表情だっただろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

五ヶ谷・グレン
(注釈、グレンが影響を受けそうな容姿、泣き黒子、引き締まった肢体、オペラグローブ、着崩したツナギ、巨人)
概念が消失ってとんでもない所だなぁ。
(駄菓子屋でお菓子を仕入れつつ)
棒状の食べ物も全滅、薬事辞典のじいさんは無事、なんかこれ、実は元凶の主観大きく影響してないか?

届いてるなの彼女達の困った心の声
(魔女は困っている者の味方、ならユーベルコードが使えるはず)
よし、お嬢さんがた、飴ちゃん食べるか?大鍋でケーキは作れないが、
竈の魔女がお菓子をごちそうするぞ。
後、髪をとかしたり、薄い色のリップクリーム、ピカピカのネイル。化け術で可愛いドレス姿なんてのも叶えられるな。
まぁ、魔女の魔法は解けるんだがなぁ。



●楽しい楽しい舞踏会
「概念が消失ってとんでもない所だなぁ」
 所は座敷童子達の前……では無くとある駄菓子屋さん。しみじみと呟いた男は、店内を窮屈げに見回す。
 補足して置くと、店が狭い訳では無い。男が大きすぎるのだ。その身長は実に6m近く、グリードオーシャンに生まれた巨人族。けれど色々あって今はキマイラフューチャーで魔女(漢)をしている五ヶ谷・グレン(竈の魔女はだいたい筋力で解決する・f33563)の威容である。
 目ぼしいお菓子を買い物籠に入れながら、竈の魔女(男)は己の状態を確認する。色気があると言われる事もある泣き黒子や、魔女の嗜み的にその腕に纏わせたオペラグローブは無事……けれど服装、着崩していた筈のツナギは何時の間にやらピッチリと閉じられている。その引き締まった肉体美を衆目に曝すのはアウト、と。そう言う事なのだろう。
 ツナギのホックがピンッとか言って壊れて外れる事も無く、少し緩めようとしても何故か上手く行かない。
「棒状の食べ物も全滅、薬事辞典のじいさんは無事」
 手に取った『うまい板』なる見た事も聞いた事も無い菓子を手に、棒状の菓子が一切ない店内を改めて見回す。次いで己が頭上の帽子型悪魔を見上げる。悪魔と言えどお約束とロマンを愛する気遣いの人だ、無事なのは何よりだが……何が良くて何がアウトかの判断基準は矢張りファジ―に感じた。
「なんかこれ、実は元凶の主観大きく影響してないか?」
 耳の遠いおばあちゃん店長に代金を払いながら、そんな推論を出して見る。
「ああ、あたり籤はすぐ交換できるよ」
 全然違う返事をしているおばあちゃんはさて置き、その予想はそれなり以上の精度があると思われた。実際、厳密かつ徹底した消滅であればもっと大惨事になって居る筈で。老婆の店とは言え駄菓子屋さんが問題なく開店している時点で、その基準の曖昧さは明確であり。その理由を考えれば……そりゃー黒幕の認識の雑さ以外にそれらしい理由は無い。
 だが、今は先ず座敷童子達である。
 大量に仕入れたお菓子類もその為の物資な訳だが、肝心の対象のオブリビオン達は此処に居ない。実の所、彼女達の居場所からこの店は遠く、このままで色んな意味で出遅れてしまうのだが……けれどグレンは焦らない。
「届いてるな彼女達の困った心の声」
 店の外、逞し過ぎるその身体がようやく解放されたと大きく伸びをしてから、魔女は呟く。
 その耳に届く泣き声。その鼻が嗅ぎ取る心の声。子供の頃己を浚い弟子とした魔女の師匠から学んだ『魔女は何時でも困ったものの味方』と言う信念の元。力を喪い『困っている』座敷童子達は彼にとって『味方』……いや、グレン自身が彼女たちの『味方』なのだ。
 故にユーベルコード【魔女を喚ぶ請(ネガイコイトドクノロイ)】は発動する。使う事が出来る。同じ世界にいる困っている者の為に、竈の魔女グレンは千里の距離を跳ぶのだ。

「ひぐひぐ……えっ」
「わあああ」
「なに、なになに!?」
 響き渡ったのは音楽、涙にくれる童達の気を引くだけの明るくテンポの良いBGM。そして溢れ出した輝きは心の傷を慰撫する様に優しく温かで、そんな光りの中から現れたのは……巨漢。
「「「…………」」」
 思わず真顔になったオブリビオン達であった。TPOに合わせられた演出効果その他は完璧極まるのだが、如何せん当人のインパクトの凄まじさは覆し切れないのである。何せただただシンプルに、でかい!
「よし、お嬢さんがた、飴ちゃん食べるか?」
「え、良いの?」
「わあ。わあ! たくさんある!」
 けれど、文字通りのアメが与えられれば。その態度はたちどころに軟化する。
 甘い物を喜ばない子供なんて滅多にいやしないのだ。
「大鍋でケーキは作れないが、竈の魔女がお菓子をごちそうするぞ」
 駄菓子屋で仕入れられた大量のお菓子物資が炸裂である。
 遠足のおやつは500円まで、何て慣用句が広まる位に皆大好きな駄菓子だ。泣いた烏がもう笑ったと言う奴で、効果覿面にキャーと歓声が上がるこの現金さ。
 威圧感のある巨大な肉体も、こうなれば寧ろ子供達が懐きに行く要素となる。ワチャワチャと纏わり付く少女達をグレンは邪険にしない。
「わあ、おけしょう見たい―」
「見て見て、きれいでしょ。でっかいオジちゃんにやってもらったんだー」
「わーずるいわたしもー」
 その髪をとかしてやったり、薄い色のリップクリームやピカピカのネイルで飾ってやったりすればもう大人気だ。……ちなみにグレンは未だ24歳でオジさん呼ばわりされる様な年齢では無い。子供が無闇と残酷なだけである。
 挙句は化け術で可愛いドレス姿なんて手札まで出てくれば。少女達はもう自分達が泣いていた事自体覚えていないんじゃないかって位の盛り上がりとなって。当然、骸魂は見る見る剥がれ落ちて行く事となる。
「まぁ、魔女の魔法は解けるんだがなぁ」
 そんなグレンの言葉も聞こえて居るやら聞こえて居ないやら。でもそれでも別に良いのだろう。子供と言うのは何時だって今に全力なのだから。時間切れがあったって気にしない。シンデレラの時間が来るまで、全力で楽しむのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルネ・シュヴァリエ
うぅ、か、体が鉛みたいに重い……。
ルネが夢魔だから? 存在がアウト間近なの?
で、でもリリスに近い種族が悪いことしてるんだからルネが何とかしないと……!

他の皆が遊んでくれてるからルネは泣いてどうしようもない子達に接触するね。
「ほらみんな-、みんなのパワー通じなくて怖いね?
でも大丈夫これは夢、皆で一眠りしたら元に戻るからルネと一緒にお休みしよ?」
って具合にお昼寝に誘う感じで誘惑してUC使用。範囲内の泣いてる子達に眠ってもらうね。
本当は皆のパワー通じ過ぎたからこうなってるんだけど……それ言っちゃ駄目だよね、うん。

でも特に不健全なことしてないルネでこうなるんだったら
サキュバスちゃんは……大丈夫かなぁ。



●揺籠の様な安らぎを
 概念として『えっちな事』が消滅した世界。その状況に置いて悪影響を受けると言うのはどう言う事だろう。
 能力や力を喪う、使えなくなると言うのは非常に分かり易い。だが、例えば身体が消え掛けるとか。或いは……
「うぅ、か、体が鉛みたいに重い……」
 苦し気に呻くルネ・シュヴァリエ(リリスの友想い・f30677)の様に、ただ普通の行為にすら支障を来たすバイアスを受けると言うのは、どの様な理屈なのか。
「ルネが夢魔だから? 存在がアウト間近なの?」
 嘆きとも憤りとも付かぬ言葉が、その美しい容姿の唇から零れ落ちる。
 推察するならば、とどのつまりその通りなのだろう。より細かく砕いて考えるなら、存在そのものもしくは存在にそのものを支える要素自体を、『えっちな事』と判じられ消されれば。そりゃあ身体が消えたり肉体活動が不活性化したりもするのだ。もう少し具体的で極端な例に変えるなら、例えば消えたのが『竜』と言う概念なら、竜族はダイレクトに消えかねないし、竜の心臓を移植されたなんて人は心臓が無くなって死ぬし、竜の血を浴びて不死になった英雄は……場合によってはやっぱり死ぬだろう。『概念ごと要素が引っこ抜かれる』或いは『引っこ抜かれそうになる』と、そう言う事だ。
「で、でもリリスに近い種族が悪いことしてるんだからルネが何とかしないと……!」
 逆境を前に、或いはだからこそ決意を新たに進む少女。当人の言葉通り、リリスと言う西洋妖怪の彼女は己の種族そのものを引っこ抜かれそうになっていると言える。伝承や聖典に多く記述される悪霊リリス……その存在や概念は諸説が入り混じるが、多分に性的なニュアンスの伝承が少なくない。
 勿論、骸魂に憑かれたせいとは言え、ダイレクトに淫魔等と言う種族カテゴリに入っている座敷童子達が未だ生きている以上。ルネが消滅の憂き目に合う心配はないだろうが、それでも大きな悪影響を受ける事も致し方の無い話か。

「びええええ!」
 ルネの歩みはより強い泣き声に向かって進む。
「えぐっえぐっ……」
 道すがら、楽し気に遊ぶ童達の歓声も聞こえる。それは他の猟兵達の為した成果だ。
「他の皆が遊んでくれてるから」
 此度の件の首魁の隠れ場所を聞き出す為、或いは単に泣く子を放って置けなくて。各々の猟兵が各々の手法で座敷童子達をあやし、その結果笑顔になった子供達も沢山いる。けれど、全てでは無い。どうした所で零れ落ちる者、遊戯の誘いが届かない状態の童も幾人か居るのだ。
「ルネは泣いてどうしようもない子達に」
 だからルネはそう言う子にこそ接触する。鮮やかな紫色の髪に白い肌、桃色の瞳。一説に最初の女性とも謳われるリリスの面目躍如と言えるその美貌に見向きもせず、特別な配合されたコスメ『リリスの香り』の芳香にも反応せず、只管泣きじゃくる子供の前に立ち。
「ほらみんなー、みんなのパワー通じなくて怖いね?」
 先ず言葉を掛ける。反応はろくろく無いけれど、聞こえてはいる筈。それなら充分なのだ。
「でも大丈夫、これは夢」
 聞こえさえすれば、優しい嘘がそこに入り込める。
「皆で一眠りしたら元に戻るから、ルネと一緒にお休みしよ?」
 眠りに誘う誘惑の言葉がスルリと潜り込む。
 寝逃げ何て言葉がある様に、睡眠と言うのは過大なストレスを受けた精神が求める休息の一つだ。お昼寝に誘う様な方向性のルネの言葉はそう言う意味でも的確で。
(……あまり使いたくはないんだけど、これもルネの力だから)
 ましてこれはリリスとしての力の発露。
 ユーベルコード【夢魔の女王(ノゾマヌチカラノカイホウ)】。性的な事柄に限らず、ルネの誘惑を受けた存在は。魅了されるままにその命を自ら捧げるか、或いは彼女と共にある幸せな夢の中にてその心身を癒されるか。
 寧ろ、己が身から絶えず発揮され続けるリリスとしての力。ルネとてこの力を好んでいる訳では無い。そもそもが内気で喋るのがあまり得意でない彼女にすれば、誘惑の言葉を紡ぐ事自体が高いハードルですらある。
 けれど、それでも。必要なのだからがんばる。旧友の娘を探す為、不自由ない生活を捨てて故郷から出た様に。
「ぅぃ? ……ぅう」
「……ん、んん……くう」
 泣き疲れた子供が眠りの誘惑に耐えれる筈も無い。次々にうつらうつらと舟をこぎ出す座敷童子を、ルネは丁寧に眠らせて行く。
(本当は皆のパワー通じ過ぎたからこうなってるんだけど……それ言っちゃ駄目だよね、うん)
 内心そんな風に思ったりもするけれど。嘘も方便、余計な事は言わなくて良いのだ。泣く子に必要なのは、安らぎであって真実では無いのだから。夢の中、少女達はルネと川の字になって眠っているのだろう。
 眠ってまで眠るのかと言えば少し勿体なくも感じてしまうけど、それはこの上ない安らぎの時間で。きっと目が覚める頃には骸魂からも解放されているに違いない。
「でも」
 リリスの少女は少しだけその眉根を寄せる。心配げに。
「特に不健全なことしてないルネでこうなるんだったら。サキュバスちゃんは……大丈夫かなぁ」
 今回のこの『えっちな事の消失』の黒幕であるプラトニック・サキュバス。プラトニックと言うからには多少マシな気もするが……それでも、種族としてリリスと言うだけでルネが悪影響を受けるのだ。同じく種族としてサキュバスである彼女がどんな酷い影響を……そんな風に。
 会った事も無い敵を、ただ己の種族に近い存在と言うだけで気にかける。そんな心優しい夜魔の呟きは、座敷童子達の寝息に紛れてポツリと転がったのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

魔女・ウィッチ
黒猫と共に箒に乗って現れ、果実を一齧り。

くくっ…よかろう、偉大なる魔女であるこの我が少しばかり遊んでやろうではないか…!
『にゃー♪』

…あれ?あたしもいつのまにか下着がドロワーズになってるんだけどっ!?お気に入りの可愛いヤツだったのにっ!しかも脱げないじゃないっ!ちょっと、どうなってんのよっ!!?
いや別に人前で脱ぐつもりは無いわよっ!?

それはそうとあんた達、あたしの使い魔になりなさい!ほら、魔導書のここにサラサラッとサインするだけでいいから!契約してくれたら箒に乗せて飛んであげるし、猫をもふらせたり好きな事して遊んであげるわ!願い事が有るなら欲望具現術(ウィッチクラフト)でなんでも叶えるわよっ!



●頂へと続く旅路の最初の方
「くくっ……よかろう、偉大なる魔女であるこの我が少しばかり遊んでやろうではないか……!」
 果実を一齧りしてから放たれたその言葉は尊大で、箒に乗って現れた事もあり、当人が自称する『偉大なる魔女』に相応しい内容だが。
『にゃー♪』
 共に在る黒猫の鳴き声は可愛く。
「……魔女……見習い?」
 泣いていた座敷童子の一人が確認するように聞いたりもして来る。失礼千万ではあるけれど無理は無い。何故なら目前の彼女、魔女・ウィッチ(偉大なる魔女のサーガ・f33446)は未だ9歳の少女なのだから。
 名乗る名前が示す通り、彼女が魔女である事に間違いは無い。と言うか和訳したら魔女・魔女だし、ちょっと滅多に見ない程の魔女濃度である。……ただちょっと、彼女の紡ぐ英雄伝説は今は未だスタート地点近辺なのだ。一章とか。
「……あれ? あたしもいつのまにか下着がドロワーズになってるんだけどっ!?」
 序章かも知れない。
 九つの齢でどんな下着を着けていたのやら、自称偉大なる魔女は己の魔女装束をバタバタさせて確認を始める。
「お気に入りの可愛いヤツだったのにっ! しかも脱げないじゃないっ! ちょっと、どうなってんのよっ!!?」
 ちょっとした大騒ぎである。これはもしかすると外伝の0章かも……。
「あ、あの……無理に脱いでも新しいのが出て来るよ?」
「そう見えるだけっぽいって話もあるし……気にしない方が。脱げたら脱げたでたぶんもっと酷い事になるかも……」
 座敷童子達も泣くのを止めてフォローに入り出す始末である。
「いや別に人前で脱ぐつもりは無いわよっ!?」
 フォローされて冷静になったのか魔女は……或いはグランソルシエール・マルグリットと言う名の少女は、その美しい金髪を靡かせそう補足する。それを聞いた童達がちょっとほっとした顔をした。魔女としての魔法の類で無理やりにでも服を脱いだらどうしようかと思っていたのだ、概念消滅との組み合わせでどうなるかが怖かったので。

「それはそうとあんた達、あたしの使い魔になりなさい!」
「ふえっ?」
 気を取り直した魔女、此処で突然の人材登用である。オブビリオン達が思わず間の抜けた声を漏らすのも無理はあるまい。
「ほら、魔導書のここにサラサラッとサインするだけでいいから!」
 魔女導書を開きペンを手に迫る。
「え、え、え!?」
「ちょっとまって急すぎるよう!?」
 半ばパニックに陥る童達に、けれど魔女は慌てない。寧ろ我が意を得たりとばかりに笑いその青い瞳を輝かせる。
「なるほど、代償を示せって事ね! 中々抜け目ないじゃない。使い魔契約は一筋縄じゃいかないって、おばあちゃんが言ってた通りね!」
「え、あ、はい。はい?」
「……あ、うん。でもたしかに条件は聞かないと判断できない」
 良いでしょうとばかりに黒で統一された衣装をバサリと翻し、魔女は契約の代償を示す。雇用条件とも言う。
「契約してくれたら箒に乗せて飛んであげるし、猫をもふらせたり好きな事して遊んであげるわ!」
 THE・子供のノリ!!
 悪魔の契約的な物を想像していた童の数名がちょっとズッコケる。ただ……。
「……空飛べるのは楽しそう」
「にゃんこ……にゃんこは良いよね」
「言うか友だちになろ言うのと大して違わんことない?」
 トータルでは寧ろ感触の良い者の方が多かったりもする。
 それはそうだ。座敷童子達はその名の通り子供で、力を喪った今は尚の事である。そこでバリバリ血だの魂だのを捧げるガチな魔術契約を示されたら、その方が警戒すると言う物だろう。同世代……或いは寧ろ年下にすら見える魔女の提示する、遊びの約束みたいな条件の契約は、寧ろ最初のハードルの低さとして良い方に機能していた。
 それはそれとして魔導書にサインしたら割とガチな制約が掛かりそうな気もするけどそれはさて置く。
「願い事が有るなら欲望具現術(ウィッチクラフト)でなんでも叶えるわよっ!」
 駄目押しのアピールも入った。デビルキングワールドに多く存在する魔女の扱うユーベルコード【ウィッチクラフト】。欲望具現術と銘打たれるその力は実際非常に強力かつ万能に近い。例えば最も有名な術であれば魔法の鏡から、相手の美しい者を殺したいと言う願いをかなえる毒リンゴを……あの、マルグリットさん貴女最初に食べてた果実……大丈夫ですかね?
 勿論、それだけでは無い。欲望を具現する術である以上その術式は多岐に渡り、例えばこの魔女が扱える物であれば毒リンゴを更にボム(爆弾)に武器改造して発射する『魔女のくちづけ』。或いは呪われた屍竜を召喚する『魔女の王墓守護呪竜』。または弾幕を張る『魔女の大いなる慈悲の剣』。そして究極の白炎属性破壊光線を……どれもこれも殺意高いな!? いや実際9歳の若さでこれは全部凄いけど!
「え、ええと殺したい相手は別にいないかな……」
「わ、わたしもほろぼしたい国はないかも……」
「ウチも燃やしたいエルフの森ないし……」
 ちょっと目を逸らす東洋妖怪の少女達に、西洋妖怪の少女は口を尖らせる。
「ちょっと、何が不満だって言うのよ!」
 やいのやいのとちょっと言い合いが始まる。
 ただ、もしかすると魔女は気付いて狙ったのだろうか。ウーンと唸りながらアピールを聞いたり、『クーリングオフとかのせいどはあるの?』とか『野球試合チケットのオマケつかない? それか洗剤』とか小賢しい質問をして来たりしている座敷童子達は、子供同士あれやこれやと言い合っている内にもうすっかり涙が乾いている。骸魂も随時剥がれ落ちて行っており、猟兵としての仕事は見事成功しているのだ。
 使い魔登用の交渉の方がどうなるかは未だちょっと分からないけれど。
『あの、むしろ消えちゃう前に私を雇って貰いたいんですけど……』
 と言うか何か淫魔の骸魂が使い魔に立候補して来たりして、更にワヤクチャになって来たけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

諸葛・亮
拱手で挨拶します。
はじめまして!わたしは諸葛亮と申します。数日前に誕生日を迎え、猟兵として活動が可能な年齢の6歳になったばかりです。

わ、わたしもえっちなのはいけないと思います……そう言うのは、ちゃんと好きな人と……はぅ……ご主人様……はわわっ!(まっ赤に)

あ、すみません!
えっと隠れ鬼をしましょう!私が鬼をやりますね♪……宝貝「太極図」よ。我が望みし物、隠されし真実をその身に写し出しなさい!

なるほど……ここに隠れているのですか?それでは、軍師の証の力で隠れ場所に直接兵とUCを召喚します。この配置ならば逃げられませんよ?「全てはわが策略の内」です!
羽扇で号令を出し、かっこよくポーズを決めてみます!



●遊びだからこそ全力で
「はじめまして! わたしは諸葛亮と申します」
 猟兵達はそれぞれの手段や接し方で座敷童子性質の涙を止めていたが、恐らく接触から最も早くそれを為したのが彼女と言えよう。
「数日前に誕生日を迎え、猟兵として活動が可能な年齢の6歳になったばかりです」
 それもその筈、一方の手で一方の手を抑える拱手の形で丁寧な挨拶をする彼女。諸葛・亮(瑞獣・臥龍の軍師姫・f33616)は本人の申告通りに齢6歳の幼子だ。その身長は1mを僅かに越えるのみであり、見るからに年下である子供に話しかけられて、それでも泣きじゃくり続けると言うのは、如何な永遠の童である座敷童子達と言えどちょっと厳しい。
「あ、うん。はじめまして」
「猟兵って6歳なんて年の子もいるんだ……」
「その名前って、あの有名なアレ?」
 結果、直接話しかけられた数名の座敷童子は早々と涙を堪え泣き止み、己達より低い位置にあるその顔を覗き込むように見やった。
 瑞獣である諸葛亮の、正体に気付いたのか。或いは其処まででは無いにせよ、東洋妖怪である自分達と近しい何かを感じたのか、座敷童子達は幼き軍師姫の周りに何だなんだと集まり始める。
 ちなみに諸葛亮と名乗り、そう呼ばれる事を望む彼女の真名は珠理と言うのだが。これは当人が名乗ってない以上、余人には知り様の無い話だ。
「ええと、猟兵って事はわたしたちのたくらみを邪魔しに来たんだよね」
「まあ、もう邪魔も何も無い気もするけど……」
「……やめて。また泣きそう」
 少し気まずげに確認して来るオブリビオン達の言葉に、諸葛亮は羽扇『霊鳥扇「臥龍」』で自分の鼻先をくすぐり少しだけ考え込む。けれど結局はいと頷いて自分なりの言葉を紡ぐことにする。
「わ、わたしもえっちなのはいけないと思います……」
「あー……」
「……う」
 6歳の子にそう言われれば、如何な淫魔と化した妖怪達とて苦笑せざる得ない。
「そう言うのは、ちゃんと好きな人と……はぅ……ご主人様……はわわっ!」
「あらー……」
「まあ、まあ、まあ」
 続く初心な言葉と真っ赤に染まる顔に、苦笑はちょっとニヤついた笑顔に変わったりもしたけれど。とは言っても突っ込んで弄ったりはしない。そんな事したって概念消失の影響でどうせキャンセルされるし。そもそも、こんなに純な少女の純情に手を突っ込むのは流石に野暮と言う物だ。
「……て言うか、6歳でこれはむしろ早熟かな?」
「あー、そうかも」
 そんな風に脱線したりもする。確かに、想像して赤面すると言う事はある程度迄の知識があると言う事で、それは己が認めたご主に仕える瑞獣・臥龍の、それも寵姫としての才を以て生まれた彼女ならではの事なのか。或いは軍師として積み重ねた知識の賜物か。
「あ、すみません!」
 と、其処で空気を換えたのは諸葛亮当人だった。当初の目的を忘れてはいけないと、朱に染まっていた肌をなんとか元の色白に修めて話を戻す。
「えっと隠れ鬼をしましょう! 私が鬼をやりますね♪」
 座敷童子達に子供として接し、淫魔である骸魂の要素を薄め剥がれ落させる。その為の童遊びの提案。
「お、良いよー」
「やるやるー」
 そして当然童達の反応も色よく、今だ泣いている仲間達に声を掛けて誘って行く。程なく遊戯をするのに過不足の無い人数が集まって、そして鬼として目を隠す諸葛亮を置いて思い思いに四方に散って隠れて行くのだった。

「……宝貝「太極図」よ。我が望みし物、隠されし真実をその身に写し出しなさい!」
 尚、鬼としての諸葛亮はガチであった。使用したのは所有者の望む物を写し出し、隠された真実を暴く風水鏡……かくれんぼで使うには正に鬼に金棒である。
「なるほど……ここに隠れているのですか?」
 たちどころに詳らかになった童達の隠れ場所を把握し、しかし瑞獣はそこで終わらせはしない。それではと言って振るうは『軍師の証』、その力は軍師力! ……軍師力? まあ、それが一体なんであるかはさて置き、発動する効果はとどのつまり武装兵の大量召喚だ。それも、少女達の隠れ場所に直接である。
「わー!?」
「いきなりなにー!?」
「ぎゃー!? 何この柱―!?」
 次々と上がる驚愕の悲鳴。そりゃそうだ。
 まして軍師姫は童子に更なるダメ押しを重ねていた。それは『四天王』と言う由緒ある一族の者達が多く扱うユーベルコード、召喚した髑髏柱によって敵対する存在の力を縛る呪詛の術式。
「この配置ならば逃げられませんよ? 【全てはわが策略の内】です!」
 見事なコンボ、正に完全封殺。パーフェクトゲームである。
 羽扇で号令を出し、ビシッとポーズを決める諸葛亮の姿は中々サマになって居てカッコ良かった。
 そして勿論。
「ムキー! 負けた! めっちゃ負けた!」
「ガチすぎるー! でもそれにたちむかうこそほまれー!」
「リベンジだよー! 次はわたしが鬼やるー!」
 敗北した座敷童子は良い感じにエキサイトしている。
 本気でやるからこそ遊戯は盛り上がる。悔しさは次のやる気で、全力で遊べば楽しくない筈も無い。
 ギャーギャーわーわー騒いで笑って、子供達の遊びはまだまだ続く。

成功 🔵​🔵​🔴​

ファウ・ダァド
ハロー、人間さま《エラーを検出》!あれ?
そっか、妖怪さまだね!
ファウはバーチャルナビゲーター!みんなのやりたいことをお手伝いするよ!

そうだね、ぼくができること……これとか、どうかな?
(【無慣性航法】でふわっと浮いて向こう側に吹っ飛ぶ)

(戻ってくる)
びゅーんって動いて楽しいよ!ぼくに掴まってくれれば、みんなで遊べるね!ほらほら、いっしょにやろう!

(しばらくの間、幼女に見える妖怪とロボットがバグった挙動でカッ飛ぶ姿をお楽しみください)

えっへっへー、たのしい?楽しかった?
ええと、他にも困ってる妖怪さんがいると聞いてるんだけど。そこまでの道を教えてくれるかな?ファウはみんなを案内するのが仕事だからね!



●ナビゲーションAIの役割
「ハロー、人間さま≪エラーを検出≫! あれ?」
 ファウ・ダァド(オートパイロット・f28402)の言葉に早々に注釈が入ったのは、その発言がえっちで概念消失の影響を受けたから……では無い。とある世界の滅びし人類によって作られた次世代型航行用ユニットヴァーチャルキャラクターである彼女の根幹、AIプログラムからのエラーメッセージだ。
「そっか、妖怪さまだね!」
 対象の種族認識に誤謬があったと言う検知。逆に最初に依頼の説明を受けた筈なのに何で間違えるのって話なのだが、其処はファウのポンコツパイロットたる所以だ。そもそも製作者達が絶滅している為に彼女は長らくデータ更新がされていない訳で……それを考えれば至って仕方のない話でもあるのだけれど。
「え、ええと……」
「まあ、うん。確かに妖怪だけど……」
 様付けで呼ばれた事など滅多にないのだろう。座敷童子達もちょっと戸惑った様子で涙に濡れた目を泳がせる。
「ファウはバーチャルナビゲーター! みんなのやりたいことをお手伝いするよ!」
「ヴァーチャルナビゲーター」
 耳慣れない言葉に妖怪達は目をパチクリ。
 見目で言えば、ファウは彼女達と同程度の外見年代だ。顔立ちは中性的だけど、服装と合わせれば少女なのも一目瞭然。瞳の中にアイコンめいたマークがある事と、飾りのふりをして矢印ポイントが浮いてる事以外はただの子供にすら見える。
「えと、それって何をするの?」
 ナビゲートと言う言葉を何となくしか理解していない童達は首を傾げた。
 そして疑問を向けられれば答えるのがナビゲーションAI。ファウは元気よく返事をする。
「そうだね、ぼくができること……これとか、どうかな?」
 言葉と同時、ファウの小さな体がフワリと浮かび上がった。
 ユーベルコード【無慣性航法(イナートレスドライブ)】。これによりファウの全身は慣性質量がゼロの無慣性状態かつほぼ無敵となり、超光速が実現できる状態に……いやなんだその怖いSF技術。子供をあやすのになんで光速を超えれる状態になろうとするの貴女は。
 まあ、と言ってこの理論に置いて超光速を実現するには十分な推力を必要とするらしい。その上このユーベルコードを使用中のファウは自発的には一切動けない状態にあり、寧ろ何も出来ない無力な状態と言え……
──ビュッ!
 突然、ファウの身体がふっ飛んだ。なんかもう慣性所か全ての物理法則を無視した感じに一瞬で空高く飛んで。向こう側に消えて。
──ゴッ!
 次の瞬間真逆の方向から戻って来て中空にビタリと止まった。え、何これまさかと思うけど今『一周』して来てない?
「「「……」」」
 無言になった座敷童子達の見守る中、ファウはニコリと笑う。
 ……まあ、ぼぼ無敵だしね。
「びゅーんって動いて楽しいよ!」
「「「いや怖いよ!?」」」
 渾身のマジレスが返って来た。そりゃそーだ。
「ぼくに掴まってくれれば、みんなで遊べるね!」
 けれどファウは不退転だった。そして凄い笑顔。
「だから怖いって! 確かに楽しそうではあるけど原理不明すぎる!」
「どういう仕組みなの!? 3Dゲームがバグった時見たいな動きしてたよ今! リアルで見たらあんなにインパクトあるんだアレ!?」
「しかも説明聞いたらそれ! あなたの意志で動いてるんじゃないんだよね!?」
「え、えーと。それじゃあ説明するけど、先ず無慣性って言うのは……」
 その後のファウの説明は割愛する。調べたら普通に難しくて良く分からなかもとい、時間が掛かるからだ。
 それに……。
「……え、ええええと。あの、つまり。どういう事?」
「ぜんぜん分かんない……」
「つまり、安全って事で良いのかな……」
 座敷童子達にもサッパリ理解できなかったのだからどの道一緒である。
 もう割り切って一番大事な部分だけ確証を取ろうとする最後の質問に、ファウは少し大人びた笑顔を返した。
『はい。当機はご搭乗のお客様に安全で快適な旅を約束するものですから』
「……ほぇ?」
 突然垣間見えた正常な状態でのAIとしてのファウの言葉に、座敷童子はドギマギと目を瞬かせる。
「ほらほら、いっしょにやろう!」
「え、あ……うん」
 けれどアップデートもメンテナンスもしていないファウのその状態は長く続きはしない。直ぐに何時もの調子に戻ったファウは、その人懐っこい態度でグイグイと話を進め、勢いに押された童達との少し不思議なサイエンス感溢れる遊びが始まる。

 まー、それから暫くの間は大騒ぎではあった。
 勿論ジェットコースター的な意味でオブリビオンの少女達が十分に楽しんだからではある。このUCの使用中は『自分では動けない』つまりは『外部要因を基にナグった挙動でカッ飛んでるだけ』な訳で、元の場所に戻って来れるかどうかすら運勝負だと言う事が判明したからと言う理由もちょっとだけあるけど。
 それでも最後は皆揃って一息吐けたのだから、きっとUDCアースのある種のゲーム界隈でジョークとして崇められている某物理エンジンミドルウェアの神様の加護でもあったのだろう。
「えっへっへー、たのしい? 楽しかった?」
「まあね。いろいろツッコミ所もあったけど」
「でも楽しかったねー」
「バビューンって! すいせいかな? でもすいせいはもっとバァッて動くしなあ」
 何だかんだ子供と言うのは適応力が高いのだ。結局散々楽しんだ座敷童子達は一応に笑顔でワイワイと感想を言い合っている。……一人なんか心配な子いるけど。
「ええと、他にも困ってる妖怪さんがいると聞いてるんだけど。そこまでの道を教えてくれるかな?」
「あ、サキュバスのお姉さん?」
「そっか、あの人を探してたんだね」
 猟兵としての目的も忘れていないファウの言葉に、座敷童子達も素直に頷いた。散々すっ飛んで楽しんでいる間に骸魂はすっかり落ちてしまったらしい。
「うん。ファウはみんなを案内するのが仕事だからね!」
 バーチャルナビゲーターであるファウはそう言って笑う。
 定めた己が役目に真っ直ぐと。
「そっかあ」
 そんなロボット少女の笑顔に、座敷童子達も妙に嬉しそうな顔で笑い返した物だった。

成功 🔵​🔵​🔴​


●座敷童子の本懐
 座敷童、倉ぼっこ、カラコワラシ、他……その類型の妖怪は数多居り、その性質も其々に少しずつ……或いは大きく違って来る。その中で、彼女達の持つ性質として最も強かったのが『幸福を呼ぶ。誰かを幸せにする妖怪』としての側面だ。
 それをこそ本懐と定め、その役目に真っ直ぐ向き合う。
 童らしく無邪気に、子供らしく専心して、幼子らしく限度を知らず。
 そんな彼女達だから、どんな相手に対しても『幸せ』を望んだ。望んでしまった。

 例えば、そんな彼女らに邪な欲望を向けて来る者に対してですら。
 酷い話である。とんでもない事でもある。けれど彼女達は何処までも真剣だった。……そう言う『性癖』を持つ者達、世間一般の常識や倫理に置いて忌避されがちな性質を、現実の存在にまで向けてしまう彼らが……必然的に余り幸せな立場で無い事が多かった事も其の拍車をかけたのかも知れない。
 それでも、誰かしら真っ当な者に相談をすれば。道理を説き止めてくれたのだろう。『そんな事をしても彼ら自身すら幸せになれるか怪しい物だ』と昏々と語ってくれたかも知れない。けれど、何とも最悪な間の悪さと言うのはあるもので。何処までも真っ直ぐに『幸せ』を考え悩む彼女達に最初に説得したのは……よりによって生前縁のあった淫魔の骸魂達で……。

 結果はこの有様である。酷い物だ。性質の悪い冗句の様な話だ。
 だけど。けれど。でも。いや、だからこそ。彼女達の根幹はそのままだった。ブレる事すら無く、淫魔と化しても尚その能力の性質が変わらぬ程に。何が己達の仕事で、役目で、そして本懐であるかだけは決して見失わなかった。
 どうか、あなたにしあわせを。
茜崎・トヲル
あわわ。えーと、よーしよーし?
うん、よかったんだよね?こーじょりょーぞくに反しないのはいーことだし……
元気だしてー。元気出してー。メンコぺちーんする?ベーゴマ(昔の鉄でできたやつ)回す?タコ揚げる?たこ焼き食べる?
うーん、ちっちゃい子どもさんが泣いてると、おれはとても悲しい気持ちだよ。
よしよしーだいじょーぶだよー。おれも子どもとか作れねーけど、元気に生きてるよ。ずっと。いつも。
高い高いしようか。おれは力が強く出来るから、子どもさんでお手玉してあげよう。だいじょーぶ!落とさないよ!



●どうか幸せで居てね
「あわわ。えーと、よーしよーし?」
 茜崎・トヲル(白雉・f18631)のあやしかたは、いかにもおっかなびっくりと手馴れていない物ではあった。
 死を喪った朽ちぬキマイラ。その心を幼く退行させた子供より子供の様な青年。その目は何時も夢を見る様で、その顔は何時もヘラヘラとマイペース。確かに子供の扱いが得意そうとはあまり思えなくはある。
「グス……あのね。わたしたちね……」
「えっちな事を皆の中からなくせばって……」
 けれど、不思議と幾人かの童達が纏わりついて来てはいた。主となるのは特に話を聞いて貰いたがる類の泣きべそ達。自分達と同じ目線で、けれど見目は頼り気を感じて甘えれる大人……そう言うバランスが、彼女達の様な精神状態の者には救いに感じられたのかも知れない。
「うん、よかったんだよね? こーじょりょーぞくに反しないのはいーことだし……」
 結果的に良い事をしたんだよとばかりに、トヲルは少女達を肯定する。それは『世界中から抵抗力を奪って思うが儘にしようとした』彼女達の真意を忖度しない、いきあたりばったりの慰めかも知れない。けれどそれがいけない事だと誰が決めるのか。誰だってただただ話を聞いて、正論よりも優しい言葉を掛けて欲しいだけの時とてある。実際少女達は口々に言葉を続けながら、彼の奇抜な白い和装に涙を押し付け縋る様に身を寄せている。
 勿論、トヲルがそれを意図していやっているのか、天然でやっているのかは誰にも分からないのだけど。
「元気だしてー。元気出してー。メンコぺちーんする?」
 取り出されたのは昔懐かしい紙面子。丸や長方形のカラフルなイラスト付き。
「ベーゴマ回す?」
 その手の中に昔ながらの鉄で出来た貝独楽。丸六、角六、ペチャ、高王……勿論ヒモだって忘れてない。
「タコ揚げる?」
 出て来た凧の柄はそれぞれ、白い雉、朱の鳥、満開の桜、それから影法師。
「たこ焼き食べる?」
 何でか出来たて熱々で湯気まで立ってる不思議。
「……ぷっ」
「クスクスクス、もーそんなにたくさん」
「いったいどこからそんなに出したのよー?」
 そうして少女達は笑い出す。青い狸もかくやとばかりにどんどん出て来る青年の手札と、その優しさが嬉しくて。
「うーん、ちっちゃい子どもさんが泣いてると、おれはとても悲しい気持ちだよ」
 そう言って困った顔をする男を、困った顔のままで居させたくなくて。涙をグシグシと拭って笑う。
 涙が止まったら、一緒に遊ぼう。夢見るように生きる彼との一時は、きっと夢の様に楽しいから。

「高い高いしようか」
 あれやこれやと一通り遊んで、沢山準備した玩具もネタ切れになった頃。トヲルはそう提案して一人を抱き上げた。
 すっかり懐いた少女はキャーと冗談めかした悲鳴を上げつつコロコロ笑う。
「おれは力が強く出来るから、子どもさんでお手玉してあげよう」
「へ? お手玉?」
 ちょっとキョトンとしたけれど、それも盛大に高く高く投げあげられるまで。
「わー!?」
 悲鳴3割歓声7割。
「だいじょーぶ! 落とさないよ!」
 その言葉に嘘は無く、力強く抱き止められてまた投げられれば次からは歓声10割。
「キャー! すごーい!」
 確かに凄い。子供とは言え天高く投げあげその膂力は凄まじいの一言だ。
 ユーベルコード【肉体改造(ニクタイカイゾウ)】。戦い、飛翔、威嚇、その他……様々な目的に合わせてその身体の内外を改造し変容し弄繰り回す物理的変身術。普通なら苦痛だろう、激痛だろう、己の身体がねじくれ変わって行く感覚は筆舌に尽くし難かろう。けれど、トヲルは平気だ。『痛み』そのものが欠落した彼に、それを苦しむ事は出来ないから。
「よしよしーだいじょーぶだよー」
 だから、その言葉に他意は無かったのだろう。特に理由は無かったのだきっと。
「おれも子どもとか作れねーけど、元気に生きてるよ。ずっと。いつも」
 それは。
 植物が受粉すらしなくなった今のカクリヨファンタズムは、つまり子供が作れない世界と化しているから。その事に犯人である彼女達が負い目を感じない様にと。ただそれだけの優しさだったのかも知れない。
 或いはもっと端的に本当に何も考えずに出て来た只の感想なのかも知れない。
「……」
 ただ、聞いた側がどう感じるかは。それもまた聞いた側の勝手で、一方的な思い込みだ。
 余りに呆気なくあっけらかんと何の気なしに言われたその言葉。何とも思って居ない風なその様子は、逆説的には『彼にはその程度は当たり前の事』と言う意味で。それは……その程度の事を理由に彼の幸福を疑うのは傲慢以外の何物でも無いのだけど。それでも『幸せ』を主眼とする妖怪は、心の何処かに不安を覚えて。
 高い高いされて天高く投げられて、落ちて、受け止められて、その度近く遠くなるその笑顔。ヘラヘラとした笑顔。
 そう、トヲルはヘラヘラと笑う。ずっと。
 ヘラヘラ、ヘラヘラと言う表現は、大抵の場合薄っぺらさを表している。薄っぺらいと言う事は、例えば紙の様に薄いと言う事。薄いと言う事は……場合によっては、それだけ削れて掠れているとも取れる。 薄くなってて、薄くなってて、向こう側が透けてしまいそうで。透けて……そうして、そのまま何時か薄れて消えてしまうのではと。言いがかりだろう、只の妄想だろう。けれど、そんな想像を切欠として。
 ペリ、ペリリと、何かが剥がれる音がした。淫魔の骸魂が、呆気なく落ちて行く。遺った自分はなあに? 座敷童子。人を、誰かを幸せにする事が本懐の東方妖怪。
「――? あれ?」
 抱き留めた少女が目を閉じている事に気付いて、キマイラの青年はその手を止める。腕の中を確認すれば、眠っている。
「なんだろー、疲れたのかな?」
「気にしないで、すぐに目を覚ますから」
「だいしょーはいっぷんかんだけだからねー。でも良かったらおぶって行ってやって」
 そう言って来たのは他の座敷童子達だ。何時の間にか、一緒に遊んでいた子達以上の数が集まっていて、揃って一方に向かって歩き出している。
「どこに行くのー?」
「プラトニック・サキュバスのおねえさんのとこよ。探してたんでしょ?」
 それはもうアッサリと。そうして改めて見れば、もう此処にはオブリビオンは一体も居ない。皆纏めてただの東方妖怪座敷童子に戻っている。こうなればもう淫魔の力を喪った事を泣く理由なんてないし、首魁の居場所を隠す理由だってない。だから案内すると。
 それは、猟兵達の奮闘で最後の一押しまで来ていた骸魂の排除が。一人が『座敷童子としての力』を振るった事で一気に完了したからなのだけど、座敷童子ならぬトヲルはそれを知り得ない。
「わー、うれしーなあ。ありがとー」
 その力が自分に振るわれた事も。それによって齎されるだろう何らかの幸福の事も知らない。けれど、きっとそれで構わないし、それで良い。
 そして別に、彼が何をする迄も無く既に幸福であったとしても構わない。ただ彼女がそうしたいと思っただけなのだから。
『いい人はしあわせがいいよなー』
 何時か彼はそんな風に言ったけど。彼女達にはその彼こそが、幸せで居て欲しい『いい人』なのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『西洋妖怪『プラトニック・サキュバス』』

POW   :    精力と感度を、何千倍にもしてあげる❤
装備中のアイテム「【媚薬の香水(ラブポーション・パフューム)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
SPD   :    うん♪ いいよ❤ お願い聞いてあげる❤
【素早く近づいて、抱きついてキスすることで】【対象の嗜好や性癖を読み取り】【対象が好み、対象が望む姿に変身すること】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    サキュバスだけど、貴方がはじめてなんだからね❤
全身を【男性を篭絡する媚薬効果のあるフェロモン】で覆い、自身が敵から受けた【えっちな視線】【欲望】【快楽を伴う刺激】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は鈴・白です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●衝撃の真実
「なんでこんな事になったのよー!?」
 そんな叫び声が響き渡った。二回目だなおい。
 所はカクリヨファンタズムの居酒屋。……もう一度言おう。居酒屋である。尚本日休業日、なのに何でこの人プラトニック・サキュバスは此処に居るのかと言うと、バイトで雇われているからだ。
 多分明日クビになるけど。
「これが呑まないでやってられるかってーのよー!!」
 だって今ガブガブ呑んでるの、店の酒だもの。食べまくってるツマミも当然同じで、勿論無断である。
「私、私はただあ! バカにしてすらして来ないで親身にアドバイスしてくる先輩とかー! セクハラすらして来ずに残念そうな顔で見て来る店長を見返してやろうと思ってー!!」
 ダンダンとテーブルを叩きながらグジグジ愚痴を垂れ流す。
 ……て言うかそれ、愚痴だろうか。店長は未だしも普通だけど先輩方は滅茶苦茶良い人じゃねーか。
「だからこそ居た堪れないのよー!」
 あの、ト書きに返事するの止めてくれませんかねこの酔っ払い。
「先輩サキュバスで偉大なパイセンの骸魂と合体したらちょっとは強くなると思うじゃん! 色っぽくなったりなんかすると思うじゃないですかー!」
 グビグビと焼酎を飲む。うわあ、ラッパ飲みだよこの人……。
「そしたらパイセン、口だけ大将軍だったよもー! 何なのもー!」
 ああうん、破れ鍋に綴じ蓋って言うか。なるほど貴女の先輩だけあると思いますよ実際。
 焼き鳥に二本同時に被り付いてムシャムシャ食べて残った串を適当に投げ捨てると言う暴挙に出てから、サキュバスはゲフーと容赦のないゲップをかまして、座り切った眼で中空を恨みがましく睨む。
「私が何をしたっていうのよー!?」
 いや、世界を滅ぼしましたよね貴女。
「もー! 何時もドジばっかりだし企みは上手くいかないしイケメンの王子様は迎えに来ないし給料日はまだ先なのに財布はスッカラカンだしー!!」
 徹頭徹尾全部自業自得だと思う。
「私、何か悪い事した!?」
 だから世界を滅ぼしただろうが!? 他にちょっと無いレベルで上限一杯の悪行だよ!
「何もかもダメダメ本当にダメ! 全部私のせい! 分かってるわよー! そんなの私が一番分かってるのよ! ああああああ私の味方はおビール様だけよー! もうおビール様と結婚すゆー!」
 貴女がさっきから飲んでるのは芋焼酎ですけどね。
 まあ、何と言うか酷い。本当に酷い。時々普通に戻しそうになってるのも更に酷い。
「怒ってくれる人もどんどん減って来てさ、見限られてるのよ。そりゃそうよねこんな何も出来ない奴……悪い事すらこうやって失敗するんだもんね……うううううう酒! 呑まずにはいられにゃい!!」
 けれど……一点。ある事に気付いた時、猟兵達は驚愕するかも知れない。
 カクリヨファンタズムの世界から『えっちな事』と言う概念を喪わせた黒幕、プラトニック・サキュバス……の一個体。一応他の個体の名誉の為に明記して置くと、こんな酷い有様なのはこの人だけである。多分。
 その彼女の言動に隠された、とある戦慄の事実。
「今まで何もうまくいかなかったのにこれから上手く行く気なんて全然しない! アルコール様ばんじゃーい! ばんじゃ、ばんじゃーい! 誰かアルコール王国作って―! 王様私―!」
 猟兵達の幾人かは、此処に至るまでの間に手下である淫魔の骸魂に憑かれた座敷童子に相対し。彼女達の様子と、そして己が身を以て『概念の消失』による改変や認識の上書きを体験している。力や存在が減じ、見える物や聞こえる言葉が差し替えられる現象。それらにはある種の不自然さがある。
「すなぎもすなぎもぎもぎもー……歯応えが大事よねー。あ、はごたえと言ったらスルメちゃんまだ冷蔵庫にあるかにゃー」
 キャンセルされた、差し替えられた、消し去られた時、其処に僅かな違和感を感じるのだ。故に、『えっちな事』として消されたその内容は分からずとも、消された事その物には気付く事が出来る。
「ふへへへへへ、どーせ私なんて何したって全部裏目になるんだものー。もーめんどくさい。ごろごろ転がって移動しちゃうー。あー、空瓶じゃまー」
 その上で、一連のプラトニック・サキュバスの言動を観察すると、分かってしまう。気付いてしまう。
「うえっぷ。あ、まずいトイレトイレトイ……うっ」

 この人、只の一回も言動をキャンセルされて無い。
 最初から最後まで一つ残らず全部素の言動でコレなんだわ。と。
御狐・稲見之守
良い子のみんな、こうじょりょうぞくと10回云ってみよう。
もし噛んで言い間違えた時
その言葉その響きにときめきを覚えるならば
どうかその気持ちをいつまでも大事にして欲しい。

そんなことはともかく。
娘さんよ、そうくよくよと思い悩むでない。
さ、このサイコロを振りなされ。

chin-chinを出すと気持ちいいし
声に出すともっと気持ちいいんじゃ。
たまには馬鹿になることも大事であるゾ?

そして馬鹿になって
がむしゃらに仕事に打ち込むことが大事な時もある。
そうして振り返った時、随分と高く遠いところまで来たと
そう思う日がきっと来ようて、ナ?


ベルナデット・デメジエール
あらまぁ!さっきの子供達に輪をかけてひどい有様ですわね!
あまりにも哀れなのでこのわたくしが慰めて差し上げますわ!
あー、この店ワインはありませんの?
ないなら今貴女が飲んでるお酒で構いませんわ!
あとおつまみ(ry

~数十分後~
(そこにはすっかり出来上がった吸血鬼の姿が!)

…わたくしらってねぇ、吸血鬼の名に恥じぬようにと頑張ってますのよ!
それをやれぼっちらの高貴(笑)らの…みんな何もわかってない!
おまけにわたくしの一張羅も何故かダサTになるし、呑まなきゃやってられませんわ!
というか何れすのこの『ぼっちめし』って!
らいたい食事という物は誰にも邪魔されず独りれ静かれ豊かれあるべきれちょっと皆様聞いてます?



●騒ぎ騒いで憂さ晴らし
「あらまぁ! さっきの子供達に輪をかけてひどい有様ですわね!」
「おうおう、もうすっかり出来上がっておるナ」
「ほあっ!?」
 掛けられた言葉に、サキュバスは肩を跳ねさせて驚いた。
 猟兵達が来ていた事にちっとも気付いていなかったからである。
「……え、え、貴方達なに? 何しに来たの?」
 と言うか警戒心一切なしにキョトンと猟兵達を見回す。泥酔し過ぎて既に自分の立場忘れてたりしないだろうなこいつ……。
 ともあれ声を掛けた一方、高貴(自称)なる吸血鬼ベルナデットは傲然と胸を張る。普段の衣裳であればその豊かな胸元を堂々と突き出すセクシーなポーズだったのだろうけど、クソダサTシャツ姿となった今だとちょっと、中から圧迫された胸元のキャラ絵がニョーンと歪んで、その……普通に間抜けではある。
「あまりにも哀れなのでこのわたくしが慰めて差し上げますわ!」
 けれど高貴(諸説ある)な彼女はその程度ではメゲないのだ。いや本当は寧ろメゲ易いんだけど、その見栄っ張りさで何とかギリギリ堪えてるだけとも言うが。
「え、なにそれなにそれやさしーえへらへらへら」
 そしてサキュバスは嬉しそうに笑み崩れた。一切の警戒が無い辺りがチョロいと言うか、まともな判断能力残ってるのかちょっと心配である。
「あー、この店ワインはありませんの? ないなら今貴女が飲んでるお酒で構いませんけど!」
「えーと、そっちの棚にないならないれすねー。さがして見て―」
 冗談なのか酔っ払った素なのか、微妙に書店員見たいな物言いのオブリビオンの言葉に吸血貴族は『どれどれ』と探しに行く。それと入れ違いに、ヒョコッと顔を近づけたのは最初に声を掛けたもう一人だ。
「良い子のみんな、こうじょりょうぞくと10回云ってみよう」
「えっ? ごめんおしゃけ様呑むのに夢中で聞いてなかった」
 とりあえず良い子は現状ここには居らん見たいですよ。
 と言うかまあそもそも慣用句として言っただけなのだろう。聞き返して来たサキュバスにもう一度説明してやっている彼女は稲見之守、現人神のお狐様である。
「そしてじゃな、もし噛んで言い間違えた時」
「ほむほむ……こうじょりょうぞくこうじょりょうぞくこうじょりょうぞく……」
 最後まで説明をちゃんと聞かないオブリビオンの失礼千万な態度にも得に怒りはしない。その寛容さは流石信仰対象ならではの優しさだ。悪くとれば、或いは超越者故の無関心と取る事も出来るけど。
「その言葉その響きにときめきを覚えるならば、どうかその気持ちをいつまでも大事にして欲しい」
「こうじょりょうぞくこうじょりょうぞくこうじょりょうぞく……」
 ある意味素直に10回を目指して言って見ているサキュバスと、そんな彼女の持つ空のグラスにテキーラを注いでやるモノノ怪神。ちょっとした余興だろうか、10回の繰り返しは直ぐに終盤へと差し掛かり。
「こうじょりょうじょこの発言は公序良俗に反する為オミットされました。えっ」
 噛んだ言葉がキャンセルされて終わった。
 キョトンとするサキュバス。酒瓶を漁ってたベルナデットがちょっと半眼になって振り返り、稲見之守はサムズアップをする。
「えーと、こりぇは、つまり……あ。あー!」
 少し考えて後、その顔に理解の色を広げた淫魔が人差し指で妖狐を指差し。妖狐はイエーイとばかりに両手の人差し指で淫魔を指さし返す。
 そして弾ける様にゲラゲラ大爆笑。
「フヒャハハハハハ! 皇女様! 皇女様が!!」
「ブハハハハハ! 何と耳触りの良い言葉じゃろうかのう!!」
 何だこれ。
 と言うか何上手い事概念の消失を躱そうとしてるのこの神様。未だ一滴も酒呑んでない筈なのに酔っ払ってるの。いや、素面でやってのけるからこそ凄いとも言えるんだけれども。
「どうかと思いますわ……」
 各種ワインや焼酎や淀川の地酒や日本酒を見繕って運んできたベルナデットが呆れた顔で呻いた物である。普段の恰好こそこのあんまりなギャグと同じく『えっちな事』判定でキャンセルされる彼女だけれど、あくまで美しさが主眼のセクシー系衣裳とこのノリとは似て非なる物なのだ。多分。
「あとおつまみはどちらかしら」
 それはそれとして割とスムーズに図々しいのが、ある意味貴族らしいベルナデットではあった。
「あー、ついか出す出すー。業務用のれいぞうこがそっちに……」
 ノタノタと這いずる様な動きでサキュバスが取りに行く。
 つまりまあ、酒盛りの続行だ。

「……わたくしらってねぇ、吸血鬼の名に恥じぬようにと頑張ってますのよ!」
 数十分後、そこはすっかり出来上がった高貴(感じ方は人に拠ります)な吸血鬼の姿が!
 まあ、うん……知ってた。弁護と言うか補足を入れるなら、彼女はその性格故に普段は隠しているだけで、芯の方では寂しがり屋の泣き虫なのだ。そんな性格で生まれ育ったのが高貴な血筋の名門一族……そんな彼女の環境が孤立気味と来れば……そりゃ愚痴の一つや二つ所か何十何百と溜まって居て然るべきだろう。そこにアルコールなんて入れればそりゃあ……。
「夢魔に間違われたりとか! そういう心無い誤解なんかとも日々戦ってるんれすわ!」
 グデングデンになる訳だ。
「えらい! そうやって頑張ってりゅのはえらいよベルニャン!」
 愚痴る吸血鬼を無闇と讃え煽る全肯定サキュバス。
 そしてベルニャンって何だその愛称。等と突っ込める正気は既にこの26歳児のレトロウィザード×マジックナイトには残っていないのであった。
「それをやれぼっちらの高貴(笑)らの……みんな何もわかってない!」
「そーらそーら! わきゃってにゃいない!」
 めっちゃ同意してるけど、それこそ意味を正しく分かってるかどうかが大分怪しい泥酔ぶりである。
「おまけにわたくしの一張羅も何故かダサTになるし、呑まなきゃやってられませんわ!」
「ダサT?」
 ゴッゴッゴッと、飲酒の効果音としてはヤバげな音を立てて呑む高貴(あくまで主張する不退転の意志)な吸血鬼。そして一方サキュバスは言われて初めて気づいたとばかりにそのTシャツを覗き込む。
「というか何れすのこの『ぼっちめし』って!」
 憤懣やるかたないとばかりにそう言い、空になったジョッキを叩き付ける様にテーブルに置く。 
「プッ、プワヒャハハハハハハハハハ! ぼっち! ぼっちめしだってー!!」
「笑うんじゃありませんわよー!?」
 そして爆笑する淫魔。こいつ酷えわマジで容赦ねえ。
 そりゃベルニャンも怒る。まあ、そう言うサキュバスの着ている服も、資料に乗せられていた写真の胸元が大きく開いた衣装では無い。少なくとも目視する限りでは白地にでかでかと『不良債権』って書かれたTシャツになっているのだけど。
「貴女らって人の事笑える恰好じゃ無いじゃありませんの!?」
 いや、本当にな。
 だがサキュバスはどこ吹く風だ。酔っ払っているから……と言うより、そう言う己の服装の色気の生むとかダサさとかにすら頓着しない駄目さ加減が、彼女の今回の凶行の遠因なのだろう多分。何と言うか……本当に根本的にサキュバスに向いて無い女である。
「らいたい食事という物は誰にも邪魔されず独りれ静かれ豊かれあるべきれちょっと聞いてます?」
「ぼっちー♪ ぼっちー♪ ぼっちめしー♪」
 うん、聞いてませんね……。て言うか意味不明な歌歌ってるし。
 アームロックとか思い切りかけてやっても良いと思うよ。いやマジで。
「人の話はちゃんと聞きらさい! 良いれすかそもそも食文化とは元々……」
「……あ。う。ううう、また怒られた―。ほんと、怒られない日が無いなあ私……」
 と。
 高貴(繰り返す事で信憑性を増す作戦)な吸血鬼の主張は延々続いていたけれど。一方でチラリとだけながら怒られた事で、サキュバスの方のネガティブスイッチが不意に入りかけ……。
 けれど。だからこそ其処で、見に回っていた狐が間髪入れずインターセプトを掛ける。
「そんなことはともかく。さ、このサイコロを振りなされ」
 そして差し出される6つのダイス。って言うかまたそれかいって言いたくもなるが、でも考えて見れば座敷童子の時に持って来てたんだからそりゃあ今も持ってるわな!
「────を出すと気持ちいいし、声に出すともっと気持ちいいんじゃ」
 尚、最初の言葉は食器と食器が当たるchinと言う音が二つ重なって声を打ち消していた。概念消失のキャンセルは鉄壁だ。て言うか神様、神様よ、何を出させようとしてるんですか貴女はよ。
「たまには馬鹿になることも大事であるゾ?」
 娘さんよ、そうくよくよと思い悩むでない。と、そう笑う狐の笑顔に。サキュバスは一度キョトンとしてからニヘラと笑った。そいつは常時馬鹿だと言う意見も無いでもないけども、それはともあれ暗くなりかけてた雰囲気はスッカリ払拭されて。
「よーし! それりゃ私も検閲削除とかセンシティブな言葉に付き削除されましたとか禁則事項とか世界な結界とか出しまくりゅわよー!」
 そして淫魔は賽子を握る。エンジン全開である。フルスロットルである。
 神様。おーい神様。どうしてくれるんですかこれ。
「良いぞその意気じゃ!」
 わーい神様気にもしてない所か寧ろノリノリだ!? ブレーキ役が居ないとこうなる訳ですね。よい子は真似してはいけません。
 そして一通りの遊戯……或いは乱痴気騒ぎを賽子の出目に凝縮した様な一時が過ぎ……
「そしてこの様に遊ぶのと同じにじゃナ。馬鹿になってがむしゃらに仕事に打ち込むことが大事な時もある」
 気も少しは晴れたのだろう。少し明るい顔になった淫魔に、稲見之守が少し改まってそんな言葉を掛け出す。
 悪戯を好み気まぐれな性質、そのお祭り好きのマイペースさを以て今回も散々悪ノリ悪ふざけをぶちかました彼女だけど。それでも矢張り長き時を人に寄り添い続けた現人神でもあるのだ。
「そうして振り返った時、随分と高く遠いところまで来たと。そう思う日がきっと来ようて、ナ?」
「……でも、私。そんにゃ高い所にも、遠い所にも、辿り着けりゅ気は……全然……」
 ポンと、その頭に手が置かれる。言葉は伝えたのだから、後は染み込むのを待つだけだとばかりに、ただ柔く触れる。
 柔らかく温かい子供の手。けれど永き年月を経た神仙の手。
「いなみん……私、私は……」
 何時の間にいなみんなんて愛称付けたんだと言う事はさて置き。そのアルコールで緩んだ頭の中にも、何かしらがちゃんと入ったのだろう。オブリビオンは眉根を寄せ、少し言葉を探す様な顔をする。
「つまりぼっちと孤高は似て非なる物所かもっとも遠き両極とも言える物れあり、メジエール家の貴き血を受け継ぐわたくしは勿論極北の孤高を貫いれいる訳れあり。つまりぼっちれはないのれすわ証明終了完璧な理論展開にこの話は早くも終了ですわれって皆様聞いれますの?」
 所で、高貴(真理)なる吸血鬼は未だ喋ってた。
 凄いなどんだけの長さの理論だったんだろう。少なくとも何一つ『早くも』では無い。
「……え、あ、ごめん全く聞いてなかった。ベルニャンもっぺん最初からゆってー」
「なんですってー!?」
 うん。君は怒って良い。
 ただ、ムキーと怒るベルナデットに向けるサキュバスの笑顔は、最初に見せたそれよりも少しだけシャンとしていて。それと、何だか妙な位に嬉しそうでもあった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●誰かのモノローグ
 言ってやりたい言葉はあるのだけれど、自分が言っても全く説得力が無いのが悩み所。
 ともあれお前はバカだから、一緒にバカやって貰えるのは嬉しいだろう。文句だけは人一倍溜め込んでるから、一緒にクダを巻いて愚痴り合うのも楽しいだろう。
 少しは気持ちが上向いたようで何よりだけど、それで調子に乗らないかだけ少し心配かな。
チル・スケイル
ああもう。
スシでも振る舞おうかと思いましたがやめました

美しくなろうと努力もしない
自分に向き合い妥協するわけでもない
ただこんな所で腐るだけ
『こんな所』というのは居酒屋の事ではありませんよ
人生という旅路の話をしているんです

せっかくのアドバイスを無碍にしておいて『私は悪くない』ですか
骸魂の力を借りたのは楽するためですらありませんね?
何かあっても骸魂のせいにするためですね?

『私はかわいそう』『私は悪くない』『私を愛さない奴らが悪い』
都合のいい前提が心に詰まった輩など、モテるわけがない
モテてたまるか、そんな生物…!

殺してでもゴメンですよ、あなたのようなクソ女



●正しいからこそ痛い鞭
「ああもう」
 その声は、座敷童子達にも二度放たれた物ではある。一度、仕方ないなと少し優しく。一度、融通の利かない野暮めと不満げに。けれど今回のそれはそのどちらとも違う、と言うかそのどちらよりもずっと低くて冷たい声。
「スシでも振る舞おうかと思いましたがやめました」
 それは怒りの声だ。そして呆れ果てた声だ。仏の顔に残機がある様に、泣く童達を優しく受け止めたチルの慈愛にだって自ずと限度と言う物がある。
「ひぇっ?」
 その氷点下の視線の先に居るのは勿論、今回の事件の黒幕であるサキュバスだ。今の今まで酒瓶を抱いて意味不明な歌とも愚痴とも付かない音声を壊れたレコード見たいに垂れ流していたのだけど、流石にドラコニアンの冷たい怒気と言う物を感じ取ったのだろうか、少し怯えた様に顔を上げた。
「貴女と言う人は……」
 もっと言うなら、スシと言うのは和食好きなチルの好物だ。それを振る舞おうかと考えて居た時点で、この場に来るまでのチルがサキュバスに対して相当優しく好意的だった事が分かる。
「え、ええと。お姉さん。目が怖い……よ?」
 で、自分が思いつく中でも相当な好待遇で慰めようかと思って居たのに。蓋を開けて見たらこの有様だったのだ。
 世界を滅ぼすレベルのやらかしをして置きながら、アルコールに逃げて言い訳にもならない寝言と無責任かつ身勝手極まる態度を垂れ流す。なるほど酷いにも程があるし、そりゃあ堪忍袋の尾も切れると言うものだろう。
 即ち、お説教或いは面罵タイムである。
「美しくなろうと努力もしない」
「え、あう。う……」
 ピシャリと言われた言葉に、早速酔っぱらいは目を逸らす。何せ淫魔なのだから素地の容姿は美しいのだ。けれどそれを生かす気も育てる気もありやしない。持って生まれた才能に胡坐をかいていた事の自覚がサキュバス自身にもあるから。
「自分に向き合い妥協するわけでもない」
「だ、だって……!」
 この期に及んで反論しようとするけれど、青い瞳に射すくめられて口を噤む。
 実際、彼女だってダメダメなバイトとして慎ましく生活して行く事はまあ出来ただろう。でもそれで満足せずにこんな大事を起こした。それが身の丈に合っていない大それた我儘だった事は、今現在のこの有様が何よりも如実に表している。
「ただこんな所で腐るだけ」
 身を竦める淫魔の周囲。食べ散らかしたツマミに雑然と転がる酒瓶の群。確かに酷い有様だけど、けれど氷竜の末裔が言いたいのはそう言う事じゃない。
「『こんな所』というのは居酒屋の事ではありませんよ。人生という旅路の話をしているんです」
「あばばばば……」
 語気こそ荒げてないが、理路整然と次々に言葉を重ねるチルの猛攻に。サキュバスと言えば一言の反論も出来ない様子でグニャリとテーブルに突っ伏した。
「そうやってダラしなくヘタれるだけ。克己心の欠片も無い。成長の余地も無い」
「あびゃあぶばばば!?」
 ドラコニアンの乙女は普段より礼儀正しくかつクールな態度を通している。それは場合によっては冷たいと感じられる事もある立ち振る舞いなのだが、その態度の中に優しさや気遣いがある時とて多い。けれど今は、寧ろ彼女が戦いの時にのみ見せる『クール』では無く『冷徹』な竜の貌に近く。
「人の言葉に復帰しなさい!」
「ぎゃーだー!」
 そんなチルの迫力を前に駄々っ子見たいな態度を取り続けるのだから、ある意味凄い根性ではある。
「せっかくのアドバイスを無碍にしておいて『私は悪くない』ですか」
「う……?」
 ちょっと首を傾げる淫魔をギロリと睨み、ピシャリと言葉を続けるチルは。ある意味サキュバスの態度を『舐めた態度』と認定しているのかも知れない。
「骸魂の力を借りたのは楽するためですらありませんね? 何かあっても骸魂のせいにするためですね?」
「ぅえええええええ!?」
 悲鳴を上げたのは図星だったからなのか、それとも『それだけは違う』と言いたかったからか。何れにしても余り意味はあるまい。だって殊この期に及んで何を主張したって信憑性等皆無なのだから。
 如何せんこのサキュバス、負の方向の実績と証明が潤沢に過ぎる。
「大体なんですか王子様って」
「……あびゅー?」
 いや、本当にマトモな言語に復帰しろよ君は。
「『私はかわいそう』『私は悪くない』『私を愛さない奴らが悪い』都合のいい前提が心に詰まった輩など、モテるわけがない。モテてたまるか、そんな生物……!」
 此処で初めてチルの言葉尻が少し荒くなった。
 これが漫画ならきっと1ページ丸々使って、背景にサキュバスのダメダメな日常風景を幾つも映した中心で昏々と言い募っている所だろう。そんな魂の篭った一刀両断にオブリビオンは。
「あびゃーーーーん!」
 何かコマ送りっぽくスローで仰け反りそのまま倒れた。格闘ゲームのKO感ある動きだった。
 ……まあ、この女も一応、全部私のせいと言ったり、アドバイスとちゃんと向き合わない理由としても居た堪れないからと言ったり、自分の責を自覚している発言も一切ない訳では無いのだけど……しかしそれ以上に言い訳と開き直りの言動が多過ぎる。二律背反と言えば未だ聞こえはいいが、本当に一応ギリギリで自覚があるだけで結局目を逸らして反省しないのでは一緒である。
「殺してでもゴメンですよ、あなたのようなクソ女」
 FATALITY!
「うびょおおおおん……」
 氷点下を通り越して絶対零度な視線と言葉を受けて、トドメを受けたとばかりにベシャリと伸びるサキュバス。
 にしても『死んでもゴメン』じゃなくて『殺してでもゴメン』な辺り本当に殺意が高いと言うか、実にチルらしい気がすると言うか……。
「……しかし」
 だが其処で初めて、竜の魔術師は少し考える仕草をした。
 人型生物としてどうかと思う位ひらべっちゃくテーブルに広がっているクズ女から少し目を逸らして思案。
 結局まともに意味のある言葉を言わなくなったままのこの愉快不愉快生物だが……けれど、言われていた言葉の全てに対しては理解している反応を通しても居た。と言うかだからダメージを受けるのだろうし。
 つまり、どんな苦言にも耳だけは塞ごうとしないのだ。それだけが、少し意外だった。聞きたくない事に耳を塞ぎ、何なら物理的に逃げ出す類とて世には多く居るものなのに。
「……」
 思い返されるのは、独り呑みの段階での愚痴の一部。
『怒ってくれる人もどんどん減って来てさ、見限られてるのよ』
 ……なるほど。一応、最低限、ギリギリ其処だけはちゃんと理解しているのだ。
 逆説、言葉のライフル銃で思いっ切り淫魔を蜂の巣にしたチルだって多分、『見限って』はいない。見限り切って居ればその時点で他の猟兵に任せて帰っているか、或いは彼女ならそれこそ愛用の突撃杖(突撃銃に似た形状の魔法杖)でオブリビオンを物理的に蜂の巣にするかではなかろうか。
 言葉を掛けると言う事はそのまま、掛ける言葉が未だあると言う事。
 勿論、チルの本意は当人以外には分からない。もしかしたら、ただ言うだけ言わずにいられなかっただけで、波打ち際に怒鳴る様な心持で言っていただけなのかも知れない。
 ただ、まあ、当のサキュバスは『そう』認識していたのだろう。ちゃんと聞いていたと言う事は多分そう言う事だ。
「……ああ」
 繰り返すが、チルのその真意は分からない。口を突いて出たその声の続きが『もう』だったのかどうかも。もう、誰にも分からないのだ。
「ふえ?」
 何せ、視線を戻した先でクソ女が普通に新しい酒瓶を開けようとしていたから。
 この流れで! 当たり前の様に! 何未だ呑もうとしてんのこの妖怪!?
「……」
 チルがニコリと笑った。笑顔とは本来攻撃的なものでとかそう言う構文を持ち出す迄も無く、何かを感じ取った淫魔の顔が真っ青になる。勿論今更超遅い。
 言葉が通じるのだから再び言葉でも良い。何なら次は物理でも良い。……まあ、何にせよ。
 Round2,Fight!

大成功 🔵​🔵​🔵​


●誰かのモノローグ
 滅茶苦茶耳が痛い。でも多分、絶対に必要な事だよなこれ。
 思ってたのとはまた違うけど……これはこれで、言って貰えて良かったな。
茜崎・トヲル
あわわ、サキュバスのひと、だいじょー……ぶじゃないね
見ればわかるやつ
ゴミ片付けて、吐いたやつもそーじします
酒がぶ飲みすると体に悪いし、水で薄めたの渡しておくね
お金がないの?おれのあげるね
愚痴をうんうん、って聞くよ。正しさは今いらねーの

おれは王子様になれない獣だから、かわりに出来ること何でもするよ
背中をさすりながら掌に魔術陣出して、お姉さんの精神と体を癒やそう
(座敷童子のひとの加護があるなら、それもあげる)

大丈夫。あんたのこと、思ってくれる人がいるんでしょう
ならまだ終わりじゃないよ。ね。
寝ちゃお?すっきりするよ。子守歌うたったげる!


五ヶ谷・グレン
あ、俺こう言う時何ていうか知ってる。
頭痛が痛い、だ。
王子様、ねぇ、男の猟兵俺だけかなぁ。
とりあえず後味悪いのだけはどうにかするかぁ
(俺みたいな図体が入れるような店かなぁと惨劇を覗きつつ、現実逃避気味に行動開始。
バイトが骸魂に取り憑かれて店が荒らされてると。
今俺たち猟兵が解決にあたっていると店長を探して根回し。
こっちのフォローも大事だよな)
せめて片づけを。
バイト仲間だと名乗っておこう、正体無くなってるし、話を合わせてバレないよな?
飲み物に酒に酔えなくなる薬を混ぜたおつまみ追加して。かいがいしく女の子扱いして、お姫様抱っこも、勉強中だと言って、肌の調子を整えるメイクして。これぐらいだ、無力だな、俺



●蕩ける様に甘い飴
「あわわ、サキュバスのひと、だいじょー……ぶじゃないね。見ればわかるやつ」
「あ゛ーう゛ー……ちーずむしぱんたべたい」
 何時も元気でホヤホヤなトヲルが、この時ばかりは眉根を寄せて心配を顔に出した。
 視線の先のサキュバスは、どうもお説教のダメージから立ち直っていないらしい。酒とツマミとちょっと言葉にするのは憚られる代物にまみれ屍の如く潰れている……まあ、言ってる事は食欲だし、グッタリしたその口にはスルメが咥えられたままだけど。
「あ、俺こう言う時何ていうか知ってる。頭痛が痛い、だ」
 そんな言葉を漏らしたのはグレンだ。頭に被った帽子型悪魔越しに己の頭を押さえる仕草をしながら、ちょっと店の天井の高さを気にしている。
 巨人たる自分の図体でそもそも店に入れるだろうか、と言う彼の懸念は一応杞憂に終わっている。様々な妖怪の客を想定し大き目な造りの店だから。……なのだけど、巨人の中でも尚際立って大柄な彼の巨躯は、それでも油断すると鴨居に頭をぶつけそうなのだ。
「王子様、ねぇ、男の猟兵俺達だけかなぁ」
「そーだね。今んとこ他に見た覚えはねーかな」
 オブリビオンが垂れ流していた妄言と愚痴の中から情報を抜き取り、二人の美丈夫はちょっと顔を見合わせる。
「とりあえず後味悪いのだけはどうにかするかぁ」
 どうした物かと言う視線でのやり取りの後、先ず決めたのはグレンの方だ。
 店内の惨劇を見回して少し現実逃避気味な顔ながら、その逞しい巨体を翻して行動を開始する。
「じゃーおれがゴミ片付けて、吐いたやつもそーじします」
 店の中の有様に後ろ髪を引かれる魔女(漢)の心情を慮ったのか、ならばとトヲルが掃除役を担う。そして躊躇なく周囲の……まー、汚い有様を嫌がる素振り一つせず清掃し始めた。
 それは何の打算も裏も無い純粋な献身。魔女である己があり方を『困った人を助けるもの』と定義している身として、少なからず思う所があったのだろう。そんなトヲルを見るグレンの藍色の瞳の眼が少しだけ細められる。
「頼む。こっちが終わったら俺もやるから残しておいてくれ」
 そう言って席を立つ逞し過ぎる男。その言葉の通り彼自身、後で自らも片づけをする心算だったのだ。けれど魔女がより急務と考えたのは、この店の店長を探し出し事情を説明すると言う『根回し』。
(バイトが骸魂に取り憑かれて店が荒らされてると伝えれば)
 この幽世は頻繁にカタストロフの危機に曝されている。そしてその元凶たる骸魂の存在は、この世界の住人であれば当然了知している訳で。
 更に、先日に東方妖怪の親分が語った通り。此処の所その破滅を未然に防ぐ大活躍をしている存在の事も既に評判なのだから。
「今俺たち猟兵が解決にあたっていると言えば、納得はしてくれる筈だ」
 そうすれば、店の中をこんな惨状にして退けたバイトであるサキュバスの所業も……流石に御咎めなしとまでは言わないまでも、情状酌量の余地は残るのでは無いだろうか。少なくとも、何も知らないままでこの有様を見るよりはずっと心象が良い筈。
 破滅が防がれオブリオンが居なくなっても、骸魂に憑りつかれていた彼女は残るのだから。その彼女の今後の進退が少しでも良い物……と言うかマシな物と為る様に……。今現在では無く『未来に困るだろう事』も念頭に置いて『助ける』と言う所業。
「こっちのフォローも大事だよな」
 そう言って店を出て行くグレンの信念とその行動は常に一貫しており、何処までも『困った人』の為に動く。
「はーい、いってらっしゃーい」
 残されたのは、そんな優しい巨人を見送って手を振る優しいキマイラ。
「んあ……? えへへへへへ、あれあれー、小鬼だー。イケメンの様な小鬼がいるー」
 それから全然事態を理解して居ない前後不覚の酔っ払いである。別の意味でも『困った人』だなこいつ。

「お姉さん、こっちの方がおいしーよ」
「ありがとー……ゴキュゴキュ、んんんー! キくー!」
 トヲルが差し出した杯を一気に呷り、サキュバスはノリノリである。
 この期に及んで未だ痛飲するのかと言う話だが、その実傾けた杯は小さな物で。かつ中身は水で割った物。
(酒がぶ飲みすると体に悪いし、水で薄めたの渡しておくね)
 そう考えての気遣いだ。別に言葉に嘘は無く、渡したお酒が不味い訳でも無い。ポンコツオブリビオンは勝手に勘違いしてアルコールが効いた酒だと思い込んでるけど、それは単にアホなだけである。
「で、何処まで聞いたっけ。いくらでも聞くよー」
 店内の片付けは軽くで済ませている。グレンが自分も後でやると言った事もあるが、泥酔したまま泣き言やあのアレを零し際限なく呑み続ける彼女の様子を見て『これは早く面倒を見た方がいい』と判断したのも大きい。
「ザッキー聞いてくれる!? あにょね、未だ月の半ばなのに財布がねー!」
 茜崎でザッキーって、何処で切り取ってるんだこの女。と言う話はどうでも良いとして、トヲルはサキュバスの愚痴を聞き続けている。その態度はお説教とは全く逆のベクトルで。
『正しさは今いらねーの』
 そう言い切り、どんな自己弁護や身勝手にもうんうんと頷いて遣るその態度は、聞き手としてはある種の理想の極致。勢い、サキュバスの泣き言もどんどん遠慮が無くなり。
「誰か私の財布ちゃんを助けてーって思うにょー!」
 そんば滅茶苦茶な物言いにまで達して居て。
「お金がないの? おれのあげるね」
 けれどそれでも尚、トヲルの献身はアッサリとその上を行く。
「ふぇっ?」
 差し出された紙幣に、流石の酔っ払いも言葉に詰まった。
 状況が理解できずに青年の顔を見返す。そこにあるのはへらへらとした笑顔。ずっと変わらない、元気で夢見心地の子供じみた笑顔。
「おれは王子様になれない獣だから、かわりに出来ること何でもするよ」
 できるかぎりのことを、あんたにしてあげる。そう決めたなら、青年は本当にそう為すのだ。何があろうと、何をしようと……自分がどうなっても。
 お金を差し出すのとは反対の手、優しくオブリビオンの背中をさすってやるその掌に魔術陣が現れた。
 それは勿論害する物では無く……寧ろその精神と体を癒す物。
「あ、ありぇ、何だか温かくて気持ちいい」
 精神的な落ち込みと暴飲暴食の負担を減じられ、サキュバスの顔がふにゃりと幸せ気に緩んで。
「……え」
 けれど直ぐに固まった。
 彼女はサキュバス、淫魔である。どれだけ落ち零れであっても、『他の生命から精気を奪う』と言う生まれ持った性質と能力は備えており……だから、結果的にとは言え近しい行程となっているそれにも気付いたのだ。
 ユーベルコード【身を削る(ミヲケズル)】。トヲルが、自分を癒す為に振るっているその力が……己の『肉体』を代償として消費して振るわれる物であると。つまり今、『彼』は刻一刻と消費されているのだと。
 なんの為に?
「あ、そーだ。座敷童子のひとになんかもらった気がすんの、それもあげる」
 自分の為にだ。
 己の無能さに立ち向かおうともせず、骸魂に憑かれたからとは言え世界を滅ぼそうとして。挙句それに失敗したからと無銭飲食の酒に逃げて醜態を曝す。そんな自分なんかの為に、この人は。
「…………や、やめて。止めて。止めて下さいおねがい」
 釈迦尊の前世の逸話に、凍え飢えた聖者の為にそが身を火にくべた兎の話がある。諸説はあるが、己が為に小さな命を捧げられた聖者は感涙し更なる大悟を得たともされ……それは、けれど、既に己が道を歩んでいた聖者だからこそ受け止め、己が成長に繋げる事が出来たのだろう。
 比べて、彼女はどうか。
「あ、あの。あの子達の力は。あのきっとあなたの為に使った物だと思うのだから……いや、あの、それよりほんと。それ止めて。私、私なんかのためにあなたを使わないで」
 その献身を、挺身を、捧げられるに足ると。己にその自信があるか。ある筈がない。あればそもそもこんな騒ぎを起こしていないのだ。ではどうなるか。怖くなる。恐ろしくなる。そんなにして貰っても、相応の物を示せる気がしないから。そっと掛けられた優しさの、その重みにすら耐えれないほどに己が惨めで非力だから。
「……? だいじょぶだよ。おれ死なねーの。だから」
 対するトヲルは寧ろキョトンとした様な顔で。良いよと笑う。
 別に彼にそんな狙いは無い。ただ、出来る事を躊躇なく全部相手の為に使っただけだ。己と言うリソースを、底を付かないからと言う理由で大放出しているだけだ。なんでも直ってなんにも痛くないからと。好意のままに。
「ちがうちがうちがう。それでもダメ。それはダメごめ……ごめんな、ごめんなさい……」
 ガタガタと震える真っ青な顔のその口から、ようやく謝罪がの言葉が零れ落ちた。酔っ払いの戯言でも無く、軽口でも無く、芯からの初めての謝罪。自責と罪悪感の発露。
 狙っておらずとも。いいや、だからこそ、トヲルの底抜けの善意は言い訳と現実逃避の壁を貫いた。
「大丈夫。あんたのこと、思ってくれる人がいるんでしょう」
 ならまだ終わりじゃないよ。ね。
 それでも尚、キマイラの聖者の優しさは途切れない。
 心当たりがあるのか、無いのか、その言葉にサキュバスのぶれていた眼の焦点が少し合わさる。
「寝ちゃお? すっきりするよ。子守歌うたったげる!」
 良くも悪くも、淫魔は己の非に自覚があった。自己弁護や泥酔で分厚く覆ってはいても、どんなに僅かでもその心があるなら。上限の無い善意に、掛けられた言葉に逆らえる訳も無い。
「……うん」
 ともすれば先の童達よりもずっと幼い表情で、オブリビオンはただおずおずと頷く。

「バイト仲間だろ。おいおい忘れないでくれよ悲しいな」
 猟兵が多くなれば相応に緊張が生まれると考えたのか。戻って来たグレンは、サキュバスがトヲルに寝かし付けられた状態名のを幸いと残りの片づけを終わらせ。程なく目を覚ましたサキュバスにそんな方便を使った。
『あえー? そうだっけ……うーん』
 泥酔し正体を無くした彼女相手であればバレないだろうと言う判断は正しく、チョロく騙されたサキュバスはそれ以降彼を同僚として認識している。店長に話を通して置いたと言われて『神!』とか崇めだしたりもした。いいえ、魔女です。
 ちなみに、グレンの話を聞いた店長は勿論驚いていたものの。一方で何処か納得した顔でもあって……要するに、様子がおかしい事は周囲の人間(妖怪だが)には気付かれ心配されていたのだこの女は。
 決して悪い環境に居た訳では無い。なのに此処まで腐ったと言うのが逆説的に本当に見下げ果てた話なのだけど。
「ほら、片付け終わったからこっちに座りな」
「キャー! そっち系のお店見らい―! お金取れるサービスれすよこれはー」
 けれどグレンはあくまで優しい。甲斐甲斐しく女の子扱いし、お姫様抱っこで席に運んでやったりもする。
 ……肝心の『女の子』の反応が生臭いと言うか穢れていると言うかなのはさて置く。
「ほら、次のおつまみだ。ヘルシーに鶏ささみ使ってるぞ」
「やーらーグレッち女子力高ーい。これは店の女性陣がほっときませんなー」
 いや、遠慮0でささみモグモグ食べてる君も一応女性陣の一人だからね?
 相変わらずの残念さと駄目さ加減ではあるけど、淫魔の言動は可也マシな物になっていた。口調も少しろれつが回って居ない程度で……実はこれ、グレンが自作のおつまみに『盛って』食べさせているからだったりする。
 ユーベルコード【ウィッチクラフト(物理)】。竈の魔女たる彼が釜の中で創ったその薬は様々な願い事を叶える魔法の薬包。そして彼はおつまみに混ぜ込まれたそれは『酒に酔えなくなる薬』である。
 勿論、仮にも世界を滅ぼすだけの力を得たオブリビオンが相手。その効果は完全では無く有効時間も限られてはいる様だが……それでも、先のトヲルが齎した一眠りと合わせその状態を大幅に改善させていた。何せ、目が覚めた見たいだからと再び甘やかし出そうとしたトヲルを、お願いだから少し休んでてと拝み倒したのは他ならぬ彼女である。それまでの有様からは考えられない理性的さだ。
「わあ、確かに肌荒れが無くらって見えりゅー。すごいすごいもうプロじゃらーい」
 今勉強中だから実験台になってくれと、そんな理屈でグレンの施してやった肌の調子を整えるメイクにご満悦のサキュバス。この後の猟兵の彼女へのアプローチがどの様な物であれ。その概ねに対してこの精神状態の改善は良き後押しと成る事だろう。
「……だが、これぐらいだ」
 だけどグレンは不満げに少し目を伏せる。
 今回彼が彼女に与えた物は決して小さくない。慰めもそうだが、根回しの結果彼女は職を喪わずに済む可能性は大幅に上がった。けれど、それは結局根本的な解決では無い。そう思ってもしまうのだ。
「無力だな、俺」
 そんな独り言を聞けば、きっと誰もがそんな事は無いと言うだろう。けれど、彼自身がそう感じない。納得しない。
 困った人を助ける魔女……その理想の姿を追い求め、漢の見据える先はずっとずっと高いのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●誰かのモノローグ
 鞭の後に飴と言うのは道理ではあるけど、ちょっと物凄いねこれ。
 自分が駄目すぎるからおう誰にも構って貰えない、そんな風に思い込んで。ちゃんと見てくれてる人の存在も見えなくなって……言葉にすると本当に駄目な奴だけど。そうじゃ無いと此処までハッキリ示されたなら、流石に理解するかな。
 どう? 今ならもう私なんかには縋らない?
ルネ・シュヴァリエ
う、うん……元気そうでよかった……のかな?
飲んだりお説教は他の子がしてくれてるからルネは他の方向から。

えっと、そもそも骸魂使うのはどうっていうのもあるけど
骸魂の先輩さんの得意なことと貴女の相性、合ってる?

ほら、ルネもムンムンとかそういうタイプじゃないもの。
きゃーきゃー言う子やドジっ子好きな人もいるし……折角教えてくれる人がいるなら
居たたまれなくてもちゃんと聞くべきってルネは思うな。
自分でどうしてもって思う部分はこんな事する前にちゃんと言って。
そうしたらきっとなんとかなるから、ね?

さ、それじゃ店長さん達に言うことあるんじゃないかな。
今ごめんなさいしておかないときっとご飯代も貰えなくなっちゃうよ?


ファウ・ダァド
《エラー。深刻な事象改変を感知しています。脅威度:赤。早急な対応が必要です》

こここここんにちは、妖怪さま!ぼくはファウ!
道に迷っている人を助けるのがぼくの仕事なんだ。
だいじょうぶ?だいじょうぶ?だいじょうぶ?

《深刻なエラーが発生。対象の脅威度を再判定…》

《脅威度:緑。》

あれ?なんだっけ。
ええと、ぼくの名前はファウ!バーチャルナビゲーター!
あなたが行きたい目的地を教えてね!

あなたが、本当に行きたかった場所は?
何をしたかったの?本当は、どうなりたかったの?
ぼくが案内してあげる!大丈夫、辿り着けるよ!
たぶん、最終的には、ちょっと時間がかかるかもしれないけれど。
さあ、ここから出て、一緒に行こう?



●どれがあなたの進む道?
「う、うん……元気そうでよかった……のかな?」
 今の状況の幽世に踏み込んだ時点で、近しい種族と言えるリリスのルネはサキュバスの身を案じていた。『えっちな事の消失』による影響として、彼女がその存在レベルで苦境に無いかと。その心配が杞憂と判明してホッとしている……のだけど。
「このお酒おいひー、あまーい。きっとお高いやつー」
 へべれけになって味醂の水割りに舌鼓を打っている淫魔を見て、ちょっと良いとは言い難いのも事実ではあった。て言うか貴女何呑んでるの止めなさい。
「あの、せめてこっちにして」
「はーいえへへへへ」
 お酒……とは言えないその代物と焼酎の水割りを交換しながら、ルネは考える。彼女を骸魂から解放し、カタストロフを回避する為に必要な事を。
(飲んだりお説教は他の子がしてくれてるから、ルネは他の方向から)
 一緒に楽しんだり怒ったり或いは甘やかしたり、猟兵達のアプローチは其々に違い。逆に言えばそれらの手法はクリアしているとも言える。では自分はどんな方法で彼女の『気を晴らす』べきかと、リリスの少女はそう思案して。
《エラー。深刻な事象改変を感知しています。脅威度:赤。早急な対応が必要です》
「へっ?」
 そこに突然無機質な音声が響いた。
 現れたもう一人。いや、もう一機と言うべきなのだろうか。次世代型航行用ユニットVCファウの出した音声案内である
 喪われた技術によって作られているファウの『脅威度』の判断基準は誰にも分かるまい。ただ前後の言葉と概ねのセオリーから察するに赤と言うのは相当な危険信号の様で、何時も友好的な機械仕掛けのアリスナイトの目が、この時だけはノイズが走り揺らいでる。
「こここここんにちは、妖怪さま! ぼくはファウ!」
 大間抜けの大失敗とは言え、概念の一つを世界から消失させ破滅を齎したオブリビオン。人の為に作られた存在たるファウのプログラムからすれば、なるほどこれ以上の脅威は無い。その存在とリスクへの対処を求め、けれどその手段がプログラムされておらず新たに構築も出来ず。明らかにバグったその言葉は、設計から長き年月を隔てて起動しているポンコツパイロットの処理限界を如実に表していた。
「道に迷っている人を助けるのがぼくの仕事なんだ」
「……へあ? 道に?」
 それでもファウは前のめりにアピールする。お役に立つ事が被造物の存在意義と言わんばかりに積極的に。迫られたサキュバスが目を白黒させてるけどまあそれはそれとして。
「道に迷ってる……」
 だが聞こえたフレーズの一つが、ルネの思考の琴線に触れた。
「だいじょうぶ? だだだだいじょうぶ? だいじょ うぶ?」
「待って待ってやだこわいあなたの方が大丈夫らなくない!?」
 先ずファウを横に退ける。何かどんどんヤバい感じになって来てるからと言うのもあるけれど、それ以上に自分に出来る事を見定めたらかだ。
「えっと、サキュバスちゃん」
「あ、うん?」
 未だ何か言ってるファウを心配そうに見ていた淫魔が、その言葉にルネを見る。
「そもそも骸魂使うのはどうっていうのもあるけど。骸魂の先輩さんの得意なことと貴女の相性、合ってる?」
「ほへっ?」
 問うたのは、所業の是非では無く手法の是非。
 口だけだったとは言っていたけれど、逆に言えばその事に気付くまではサキュバスは骸魂の事を『高レベルな凄い淫魔』だと認識していた訳であって。まあ、つまり、今のこの世界ではキャンセルされてしまうだろう方向に強い存在だと思って居た筈で。
「そう言うの、得意じゃないよね」
「そそそそんな事は!? ……あるかも」
 淫魔としてのプライドが一分位は残って居たのだろう。一瞬見栄を張り掛けたオブリビオンだけど……先の癒しが効いているのか直ぐに肩を落とした。かもも何も『えっちな事が消滅した』この世界で全然不便なく平気で酒呑んでる時点で明らかに得意じゃないし。
 そんな彼女が『高レベルな凄い淫魔の骸魂』と合体して、そっち方面に強くなるのは果たして正しいのか。道に迷っている……つまり『手法を間違えていないか』とルネは問うているのだった。
「ねぇ……ルネを見て」
「え? あー……すごくかわいいです」
 そう誘われて改めてリリスの少女を見たサキュバスが、至極端的な言葉を漏らした。そこにはルネ自身も戸惑う、絶えず発揮される彼女のリリスとしての力も混ざっている。ユーベルコード【あなたの理想の相手(ミリョクテキナユウワクシャ)】、誘惑と催眠術を伴う妖気は彼女の全身を覆っている。それは、好意的な感情を得ようとする西洋妖怪としての彼女の本能なのかも知れず。
 けれど。
「ほら、ルネもムンムンとかそういうタイプじゃないもの」
「う……確かに。るねるねはえっちなのうみそとかそういう感じじゃないけろ……」
 少なくとも今この時この場での彼女の纏うその力は決して性的なそれではない。オブリビオン自身が漏らした様に可愛いとか、愛らしいとかそう表現される魅力だ。後、お前よりによってルネの愛称をるねるねって。お前。
「……方向性を、かえろってころ?」
 他の猟兵に盛られた薬の効果がまだ残って居るのか、酔い加減の控え目な淫魔はルネの言わんとする事を理解できたらしい。両手をモジモジと組み合わせあからさまに嫌そうな顔ながら、その真意を確認するように問う。
「そう。きゃーきゃー言う子やドジっ子好きな人もいるし……」
「分かるけろ……でもこの年でそれって大丈夫かな……え、それはそれで?」
 残念美人と言う言葉もある。ちょっとニッチな需要ではあるけれど、そう言う方向の魅力だって世の中にはあるのだ。少なくとも明らかに向いていないえっち路線で攻めるよりはずっと現実的ではないかと。そう言われれば、サキュバスの心も明らかに揺らいでいる様だった。
「折角教えてくれる人がいるなら。居たたまれなくてもちゃんと聞くべきってルネは思うな」 
「うぐっ!?」
 喉を詰めた様な呻き声をサキュバスが漏らす。どうも相当なクリティカルヒットだった様だ。
 先輩方……骸魂のパイセンではなく、『親身にアドバイスしてくる先輩』達は……恐らく今ルネが言った様な意見だってきっと言って来たのではないかと。そう言う指摘、聞く耳を持とうとしなかったサキュバスからすれば急所に直撃な痛さだったのだろう。それは逆に言えば、その言葉の理と利を理解していると言う事でもある。
「自分でどうしてもって思う部分はこんな事する前にちゃんと言って。そうしたらきっとなんとかなるから、ね?」
「あががががが……」
 諾々と聞く必要はなくて、自分の意見を言っても良い。けれどそれもこれも、先ず話し合いを成立させてこそだ。
 正に正論である。おっそろしいまでに真っ当で順当な忠言である、ある意味でお説教よりダイレクトに胸に来る言葉だった。例えて言うなら防御無視攻撃。
 喰らった側としては何か痙攣しながらズズズズと沈むしかない。いや、沈むな。
《深刻なエラーが発生。対象の脅威度を再判定……》
「……?」
 と、其処にまた響く機械的な案内音声。
《脅威度:緑。》
 勿論、バグって横にやられてたファウである。どうも己自身に起きたエラー対処をずっと行っていたのだろう。サキュバスとリリスの話の間ずっとプーーーとか、ピポパポパピピポピポとか、ピーピーピーーーヒョロロローーーとか、ピーブピブーピーガーーーーーとかそう言う音を鳴らしながら大人しくしていた彼女だったが……いやこれエラー対処か? あ、うんまあ良いやそれは兎も角今ようやく復帰したらしい。その目のノイズがすっかり消えている。
 脅威度が緑と言うのは……セオリーで推測するなら安全判定だ。もしかすると、ルネの説得がオブリビオンの危険度を大幅に下げたのかも知れない。……案内音の文言考えると悪化した様にも解釈出来るけど、まあそれはさて置く。
「あれ? なんだっけ」
「あの、ごめん大丈夫? 本当にあなた大丈夫?」
 時間経過感覚すらないっぽいファウの物言いに、ダメダメサキュバスですら心配の声を上げる始末だけども。
「ええと、ぼくの名前はファウ! バーチャルナビゲーター! あなたが行きたい目的地を教えてね!」
「ふぁうふぁう。いや、らから行きらいとこって。別に次の店にハシゴとかする訳らないし」
 元気一杯トンチンカン。今の状況に全然合ってない事を聞いて来るAIに淫魔も苦笑い。そのポンコツぶりが己の普段の駄目ぶりを思い起こさせたのか、また勝手な愛称をつけつつこれまで見せた事も無いような少し優しい顔をして。
 だからこそその不意打ちが直撃する。
「あなたが、本当に行きたかった場所は?」
「……え」
 超AIの埒外の演算の結果か。それともろくろく更新の行われていない骨董品プログラムの起こした偶然か。
「何をしたかったの? 本当は、どうなりたかったの?」
 それは先のルネの指摘にも近く、ある意味では真逆の。相互に補完し埋め合う様な問い掛け。
 あなたはなりたかったのはなに?
「私は……ええと、らから、スーパーつよつよえっちで鼻血ぶーな淫魔に……れも」
 素でそんな小学生見たいな形容詞で語ってる時点でマジ淫魔向いて無いなお前……ああいやそれは兎も角。
 サキュバス自身その言葉が正当でない事に気付いている。今さっきの会話で、『方向性を変える』事に心を傾けていたから。あくまでも性的な方向性の淫魔に拘るのであれば、リリスの少女に何を言われたとて持ち前の身勝手さで拒否している筈だから。
 えっちな淫魔にランクアップする事も。世界中からえっちな事への耐性を奪って有利を取ろうとした事も。どちらもあくまで手段なのだ。ではその手段を持って彼女はどうなりたかったのか。何処に行きたかったのか。
「ぼくが案内してあげる! 大丈夫、辿り着けるよ!」
 ヴァーチャルから飛び出た案内人は満面の笑顔で総受け負う。勇気づける。
「たぶん、最終的には、ちょっと時間がかかるかもしれないけれど」
 おおっとちょっと補足が入ったぞ?
 オブリビオンがまた少し笑う。駄目だ駄目だと自分を罵っていた彼女からすれば、ファウのそう言う所が逆にある種の親しみで救いなのかも知れない。
「さあ、ここから出て、一緒に行こう?」
「いやいや、どこに行くろよ」
 その顔は最初喚いていた時に比べて随分と穏やかな物で。
「それじゃお店の人達の所で」
「えっ」
 でもそこでルネの言葉が入った。スパッと。
「だって、店長さん達に言うことあるんじゃないかな」
 リリスの柔らかな繊手が示す店内。他の猟兵達の献身で可也片付いたけど、その後で未だ呑んでるのでまた散らかって来てる店内。と言うかどれだけ整理されたって、空になった酒瓶とつまみの皿がえげつない量積み上がって居る事実は曲がらない。何度も繰り返すがこれ全部無銭飲食である。
「今ごめんなさいしておかないときっとご飯代も貰えなくなっちゃうよ?」
 今日一番のド正論であった。
 別の猟兵が説明と根回しこそしてくれているけど、それはそれとしてまあ……ちゃんと謝らないとそりゃ多分クビだろう。
 寧ろ請求書来ますね。凄い額の。
「……あ、はい」
 青い顔で頷くオブリビオン。
 あの、貴女、自分が世界を壊し滅ぼす脅威たる存在でって事覚えてますか?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●誰かのモノローグ
 最初、余りに簡単に誘いに乗る物だから。思わずどうしてって聞いてしまったのを覚えてる?
 そしたらヘラリと笑って『パイセンは私の事馬鹿にしなかったから』って。
 ……馬鹿だね。そんなの、同じ穴の貉だからに決まってるのに。本当に馬鹿。
 誰も彼もに馬鹿にされてるだ何て、それ自体が思い込みで。そう言う所もお前の駄目な所で、私もそうだったよ。一発逆転を狙ってこんな事仕出かす馬鹿さ加減もそう。本当に端から端までどうしようもなく馬鹿で駄目で愚かで。でも。
エルディー・ポラリス
ワインです! ワインを浴びるように飲むのです!!(シードルの瓶を抱きしめてる)
飲みなさい、大いに飲みなさい! 私達にはその資格があるのです!

ていうか戦えるだけまだマシですよ貴女!!
私の村で、私と20歳以上歳が離れてない男を教えてあげましょうか!?
兄! 弟! 終わり!!!!
何が限界集落だクソッタレ!!! 限界もとっくに通り過ぎてるんですよ!!!!!!
生まれながらに出会いを奪われる気持ちが分かるか!!!!!
世界を出ろって言っても、苦手なんですよ日光!!!!!
酒を飲みましょう! 傷の舐め合い上等ですチクショーめ!

うう、ひっく、ぐすん……。
(酔いつぶれた後にダチョウに回収される)



●呑め飲めウェイ
「ワインです! ワインを浴びるように飲むのです!!」
 居酒屋の中をそんな放埓な叫びが響き渡った。
 誰がそんな事言ってるのかと見て見れば、清廉なる修道服に身を包んだシスターさんである。何でだ。
 しかもこの人、挙句シードル(リンゴ酒)の瓶を抱き締めている。何だその大事そうな扱い。エルディーさん? エルディーさーん?
「ワイン酸っぱー。れもおいしー! そうよね浴びる様に呑むにょよにぇー!!」
 そしてオブリビオンもエンジン全開だった。何でだ。
 ええ、君今までの展開で可也マシになってたよね? なってたよね? 何でまたそんな事なってるの……。
「飲みなさい、大いに飲みなさい! 私達にはその資格があるのです!」
 聖者様からのお墨付きが出ました。どう言う事だよ本当に。
 だが実の所。この言葉は二重の意味で正しかったりする。
 一つの意味では。実は少し前までとは違い、今彼女達がしている飲み食いは店の店長から許可を受け済みなのだ。
「そーだそーだ! てんちょーもさあ! あんにゃあきらめきった顔する事にゃいじゃない!!」
 何があったと言うに、他の猟兵の勧めに従って謝りに行ったら『カタストロフ案件だし、大事を取って一度店閉めて親分衆に相談するから、残りは好きにしちゃって良いよ』って言われただけなんだが。寧ろ凄い寛容な事言われてる気がするのだが。何かショックだったらしい。
 まあ、自分は世界を滅ぼしたのに、何か店閉める閉めない程度の話に纏められたらちょっと釈然としないのも無理は無いか。ただ、店長からしたら『未だ骸魂も落ちてない状態のオブリビオンがカタフトロス中に謝りに来た』と言うちょっと何言ってるか分からないシチュエーションであり……まあ、うん。やっぱどう考えてもお前が悪い。
「ていうか戦えるだけまだマシですよ貴女!!」
 そしてもう一つの意味は、エルディー・ポラリスと言う猟兵がこうしてベロンベロンに出来上がり切っている理由でもある。
 平素より自分を抑えている面のある彼女ではあるが、こんなに自分を喪う事は滅多に……滅多に……まあうん自信無いけど、寧ろクールなのは外面だけと評判だけど、兎も角少なくとも平常の状態では無い。
「そーなにょ!? わらし戦えてるにょ!? たたかえなにをこんかつを!?」
 何言ってるのお前。
 だが、その妄言の中に真実は混ざっている。つまり、エルディーはサキュバスの憂さを晴らす一助として共に酒を呑み、愚痴を語り合い、うっかり滅茶苦茶盛り上がってこうなった訳だ。
「私の村で、私と20歳以上歳が離れてない男を教えてあげましょうか!?」
 うっかり何してんのとかそう言う冷静な突っ込みはさて置き、ではこうも意気投合してヒートアップした愚痴の議題が何かと言えば。
「兄! 弟! 終わり!!!!」
 男が居ねえ問題である。
 女子大生~新人OL程度の年代人格のオブリビオンと、23歳にして未だに義兄と添い寝して眠る事がありそうな猟兵の愚痴としては……ちょっと嫌になる位生々しいなおい。
 え? 義兄はモフモフの狼になるからノーカン? 知りません。
「あ~、家族しか異性がいにゃいろはちょっろあれられ~」
 サキュバスはなるほどと難しい顔で頷きつつ、瓶に残ったどこかの地酒を飲み干す。栓の開けられたのを選んで消費するのは、店長の言った『残り』の解釈に対する配慮が見られて良い事だが、それはそれとして地酒をラッパ飲みてお前。
「何が限界集落だクソッタレ!!! 限界もとっくに通り過ぎてるんですよ!!!!!!」
 シスターの力強い遠吠えが放たれる。いや、義理の御兄妹と違ってこの人は人間の筈なんだが、何かもう魂の入り方がもう獣の域で……。
「あ~あ~あ~~~。田舎らとそうらるにょれえ……わらしが昔住んでたろろにもちょっとそゆろろあっららー」
 うんうん頷きつつ、ウォッカがあまーい! とか言いながらまた一気。何してるのお前、死ぬ気なの。
 一応好意的に解釈するなら、雇い主とのコンセンサスが取れて無意識の肩の荷が下りた事。それから、一緒になって呑んで騒いでくれるエルディーの存在が、少なからぬ救いとして淫魔の気を楽にしているのかも知れない。
 その結果がこの鯨飲なんかと言われるとちょっと答えに窮するけど。
「生まれながらに出会いを奪われる気持ちが分かるか!!!!!」
「れもれも! 出会いはあるけどかたはじからことわられりゅのもきついれすー!」
 後3年ちょいで四捨五入するとアラサーになる乙女の魂の慟哭に、ある意味空気の読めてないサキュバスの反論が入る。
 シスターはギロ……もといキッと睨み。
「告白して断られてるんですか?」
 一応確認する所が結構しっかりしている。
「……ううん、考えて見らら勇気無くれ見れるらけらった☆」
 そしてこっちは安定のクズであった。よし! 審議の価値なし!!
「世界を出ろって言っても、苦手なんですよ日光!!!!!」
 そして再開する嘆きの叫び。
 エルディーはグリモアを得た猟兵だ。その力を以てダークセイヴァーの世界から異世界に渡れば、限界集落呼ばわりされている故郷の村に居るよりはずっと出会いの幅が広がるだろう。ただ、闇に閉ざされた世界で生まれ育った彼女はどうも日の光が苦手な様で……。
「え……あ、いや、うん。そらねー。それはキツいらー」
 オブリオンは一瞬ちょっと色々考えたりもしたらしい。日の光にゆっくり慣らして行ったら良いんじゃとか何かそう言う感じで。でも何か、シスター乙女の肌の極端に白い肌を見ていると、もしかしてもしかしたら大型地雷の可能性も0じゃないなーとか。そんな保身に走る理性がこの酔っ払いにもあったのだ。
「酒を飲みましょう! 傷の舐め合い上等ですチクショーめ!」
「そらね。そーらね呑むー! 王子様はろこらー!!!」
 そんな事より酒が美味い。大事なのはそっちであるとばかりに、2人の酔っ払いは盛り上がりに盛り上がるのであった。
「そうだ何処だ―! 仕留めろ―!!!!!」
「ますいじゅうだー! ぶらっくじゃっくらー!!!」
 いや、仕留めるな。

 そうして暫く後。
「うう、ひっく、ぐすん……」
「あららばばばばば……これはやらいやつーうひぇひぇひぇ……」
 死屍累々である。いや、今回こいつらはサシ呑みだったので2人だけだけど、転がった酒瓶の数が実に死屍累々感を出している。また片付けてくれる人呼ぶべきじゃないかなこれ……。
 オブリビオンパワーなのか何なのかサキュバスは未だ稼働してるけど、一方でエルディ―はすっかり潰れていて。
「らいじょーぶ? あー……らめっぽい?」
『ヴオ~ン』
 そこに何か妙な鳴き声とも空気の擦れる音ともつかない音が響いた。
「え? うぇっ!? ダチョウ!?」
 振り返った淫魔が漏らした通り、そこに居たのは大きな駝鳥が一羽。声帯を持たないため稀に喉を膨らまして音を鳴らすのみの鳥は、緑の羽根をフルフルと震わしてエルディーに寄る。
「……あ、姐さんのペット?」
 此処に来て愛称じゃなくて敬称かよと言う話はさて置き。オブリビオンの言葉を肯定する様に、駝鳥はシスターの身体をその長い首で押し上げ、そのクッテリした身体を器用に己の背に乗せる。
 ユーベルコード【走れ駆鳥、夜明けを見つめ(メアリ)】。術式の銘の通りメアリと言う名のこの駝鳥は、泣き疲れた幼子の様に鼻を鳴らして眠る主人を回収して帰ろうと言うのだ。それは、己が呑み過ぎで潰れる事も念頭に置いてのエルディーの事前召喚か。もしそうなのであれば大した先見の明である。
「……いや、それららもっと他に出来る事ありゅと思ゆ……」
 走り去る鳥を見送るサキュバスが、何か突っ込み入れてるけど気にしてはいけない。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●誰かのモノローグ
 傷の舐め合いと言えば、寧ろ私とお前が思い切りそうで。だからこそ私が言ってはやれないなと思って居たのだけど。でも何だかんだ、もう言って貰ったも同然じゃないか。言葉にはしてないけど、どれもこれもきっとそう言う事だと思う。それはこの後に『これから』のあるお前にはきっと必要な基盤。
 私は……まあ、それは良いや。ともかく、良かった。良かったな。
魔女・ウィッチ
くくくっ…新しい使い魔が増えてこれでまた更に、大いなる魔女の軍団が強力になったのじゃ!(機嫌良さそうに)
現地へ着けば、禁断の果実より創られし甘美なる黄金の雫(つまりはリンゴジュース)にて我が渇いた肉体を潤そうぞ!

さて、まずはこの酔っ払いを何とかしないとダメそうじゃな…薬品調合で酔い覚ましと二日酔い予防の薬を作って飲ませてやるのじゃ!

何か食べたいって?仕方ないわね……あたしがなんか作ってあげるわ!偉大なる魔女の手料理を口に出来ることを光栄に思いなさいよね!(エプロンを取り出し身につけて居酒屋のキッチンで何品か作り)

何か願いとか欲望は無いのがかしら?タクトの力で可能な限り具現化してあげるわ!


純真邪神・幼淫魔姫ピュアニカ
白馬に乗って、王子様の代わりに美少女なお姫様が迎えに来たよ〜♪

ティアラに神力を込め淫魔邪神ピュアニカ・ハーメリオンが命じる〜♪サキュバスらしく、えっちなのは今は無理だとしてもせめてもっと可愛い格好しなさーい♪眷属淫魔達に頼んでメイクや可愛いお洋服でドレスアップしちゃうよー♪ 眷属淫魔の一員となったさっきの淫魔達は全身キスマークだらけで満足げな表情を浮かべてるー♪
お着替えしたらいろんな甘いお菓子を用意してお茶会だよー♪
お話を聞きながらお顔をぴゅあのお胸で包みこむように抱きしめて、あーんしてあげたりいーっぱい甘やかしちゃうー♪

アルコール王国よりも淫魔王国はどうかなー♪お友達や恋人も沢山出来るよー♪



●至れり尽くせり甘やかし
「くくくっ……新しい使い魔が増えてこれでまた更に、大いなる魔女の軍団が強力になったのじゃ!」
 決着の地に降り立ったウィッチは笑い、得られた成果を上機嫌に誇って杯に湛えた液体を呷る。
 其れは禁断の果実より創られし甘美なる黄金の雫。
「実に甘露な蜜じゃな。是を以て我が乾いた肉体を潤そうぞ」
 まあぶっちゃけリンゴジュースなのだけど!
 ついでに言うと決着の地って言うのは勿論要するに居酒屋の店内なんだけども!
「あ゛ーーーう゛ーー」
 だから勿論オブリビオンも居る訳だ。流石に先の痛飲で気持ち悪くなったらしく、グッタリ店の床に横になって居る。……いや、せめて椅子の上で寝なさいよ。
 ともあれ、サキュバスはウィッチの年若いながら白く美しいその喉がコクリコクリと動くのを見やってから、首を少し持ち上げてその口を開くのだが。
「ありょりぇ、ちゅきゃいみゃのころもろっろくわしくおしぇーれ?」
「……は?」
 泥酔し過ぎて最早何言ってるのか分からなくなってた。
 ひっでーな本当に。いや本当に。
「ちゅきゃいみゃにれきるららしぇんらいもきえゆにすむんらないかっれー」
「まずはこの酔っ払いを何とかしないとダメそうじゃな……」
 あんまりと言えばあんまりなその有様に、ウィッチは呆れ半分心配半分と言う感じの顔でそう判断する。
 そして西洋妖怪はおもむろに欲望具現術で魔法の毒リンゴを……出したりはしない。
「酔い覚ましと二日酔い予防の薬を飲ませてやるのじゃ!」
 代わりに出したには物凄い真っ当かつ的確な判断。
 居酒屋の厨房を有効活用し、テキパキと始める薬品調合。魔女の定義には諸説あるが、彼女達はその多くの資料や伝承に置いて様々な薬草や素材を使っての調薬を為す。
 黒き森の黒き魔女と謳われる大魔女に育てられたこの少女は、齢僅か9歳にしてその秘術の一部を既に己の物としているのだ。
「ほれ、出来たぞ。さあ飲むが良い」
「あぎゃばばばばにぎゃいまずいにぎゃい!?」
 良薬は口に苦しとは言った物で、効果は確かなだけ美味しいとは言えなかったらしい。それこそ駄々っ子そのまんまに真っ向嫌がるオブリビオン。
「これ、大人しくせぬか。楽になるからちゃんと飲むのじゃ。……こら、飲みなさいよ!!」
 攻防の末、ウィッチの『偉大なる魔女』を意識した演技口調が剥がれたりもしたが……まあ仕方ないと思う。寧ろそれだけ根
気よく面倒見てる時点で十分立派である。
「うううう、口の中がイガイガすりゅー。にゃにか口直しくちなおしい……」
 サキュバスは泣き言を言うけれど、その言葉の曖昧さは段違いにマシになっていた。
 それでも尚口内の苦みを消そうと酒瓶に手を伸ばす淫魔の手を押し退けつつ、ウィッチは少し考える。
「何か食べたいって? 仕方ないわね……」
 アルコールを摂取させたら元の木阿弥である。ループって怖い。
 リンゴジュースでも良いけど、甘味は意外と苦味を流してくれない。なので。
「あたしがなんか作ってあげるわ!」
「ふぇっ?」
 未来の大魔女はサッとエプロンを取り出した。
 ちょっと唖然とするオブリビオンを尻目に手慣れた仕草で身に着け、トテテと店内のキッチンに向かう。
「偉大なる魔女の手料理を口に出来ることを光栄に思いなさいよね!」
「え? え? え?」
 サキュバスが呆然とするのも無理からぬ事だろう。
 想像して欲しい、9歳の少女がエプロンを着けて台所に立ち手料理を振る舞ってくれると言うのだ。それも普段は大物ぶっているけど本当は少しドジでお調子者のお茶目な子。けれど実は幼くして大切な物を奪われ喪い、それでも尚『みんな泣かないですむ世界』等と言う理想の為に己が道を定めた……そんな健気な少女がである。
「何品か作るけど……取り合えず塩気と水分がいるし、ポトフかしら?」
「……え、わらし前世でどんらけすごい功徳つんだの?」
 酔っ払いの身体を労わる言葉に続き聞こえて来る調理音の尊さに、思わず浄化されて光の粒子になって消えそうな気分に陥りるサキュバスである。
 て言うか寧ろお前は今世で世界を滅ぼすと言う特大の罪業を現在進行形で積んでる筈なんだけどな。それでこんな良い目を見るのだから世の中は本当に不公平である。そこ代われってきっと皆思ってると思う。

 けれど慶事はまだ終わらない。
「白馬に乗って、王子様の代わりに美少女なお姫様が迎えに来たよ~♪」
 暴飲暴食後の胃腸に優しい料理を振る舞い、厨房に洗い物に戻ったウィッチと入れ替わりに現れたのは光り輝く一角双翼白馬。
「え? ……ええ? うええええ!?」
 その背に乗っているのは美少女……所では無く『淫魔(サキュバス)の姫神様』たる幼淫魔姫ピュアニカだ。
 先に、淫魔と為った状態の座敷童子達に取っての彼女を同業大手企業の重鎮に準えたが……、落ちこぼれのサキュバスである彼女から見た場合を別の比喩で表すなら……例えば『運動音痴のサッカー少年の前に突然現れた世界的サッカープレイヤー』だろうか。
 そりゃあ度肝を抜かれるわな。
 故に種族的なイニチアシブは圧倒的にピュアニカにある。けれど淫魔邪神はそこにダメ押しでティアラに神力を込め、幼淫魔姫の姫冠は装着者たる姫神の言葉に思わず従いたくなる程の威厳を与えた。
「淫魔邪神ピュアニカ・ハーメリオンが命じる~♪」
「ひぇ? あ、ひゃい!」
 思わず背筋をピンと伸ばす淫魔に、淫魔の神はその美貌とあざとさを容赦なく篭めた笑顔を向け。
「サキュバスらしく、えっちなのは無理だとしてもせめてもっと可愛い格好しなさーい♪」
 ビシリとそう言った。
「ひゃい! ……はい?」
「みんな~、とびきり可愛いくしてあげてねー♪」
 キョトンとしたオブリビオンの前で、ピュアニカは眷属淫魔達を呼びつけそう命じる……いや、この場合はお願い事か、頼んだと言うべきか。何せ彼女は甘えんぼの妹系なのだ。相手が己に絶対の忠誠を誓う眷属や信者(ファン)であっても、或いはだからこそお願いするし甘える。そしてそ
んな風に頼まれた眷属達はその希望に全力で応え。
「メイクや可愛いお洋服でドレスアップしちゃうよー♪」
 と言う主人の言葉を実現するのだ。
「こ、これが……わらし?」
 あれよあれよと言う間にオブリビオンは着飾った姿にされる。少し前に別の猟兵が施したメイクとは方向性の違う、それはもう可愛さと見栄えに全振りした化粧を施されたその顔は今までの干物サキュバスではなく、少女漫画の主人公の如し。
「お着替えしたらいろんな甘いお菓子を用意してお茶会だよー♪」
 そしてそれからサキュ神は徹底的に甘やかしにかかった。
 魔女の手料理のお陰で随分と酔いも緩み、多少はちゃんと話せるようになったサキュバスの話を聞きながらその顔を抱き締めてやる。その豊かな胸で包み込むようにしてよしよしと頭を撫で、さながら我が子を慈しむ母の様な仕草。
 見た目の年齢は完全に逆だけど、見目の印象を覆すだけの何かが其処に在る。それは愛か、欲望か、その両方か。
「は~い、あーん♪ 甘くておいしいよ~?」
 そして手づからお菓子を食べさせてやり、背中を摩ってやり。頬ずりをした所でちょっとキョトンとしたけれど、直ぐに満面の笑顔を浮かべる。
「まだまだいーっぱい甘やかしちゃうー♪」
 改めての大宣言。からの大猛攻。
 スキンシップ過剰な甘やかしではあるけれど、肉体的接触はもっとも基本的かつ有効な慰撫でもある。事、心を癒すと言う事に置いては紛れもなく最適解の一つだろう。
「ほえほえーーー」
 ポンコツ淫魔の方もすっかり緊張が溶けてほんわか癒されている。
 まして癒しにかかって居るのはピュアニカ一人ではない、彼女の連れてきた眷属淫魔達も一緒になって甘やかしにかかっている多勢に無勢ぶり。
 ……ただ、至れり尽くせりな環境に緩み切ったサキュバスの目が少し見開かれた。自分を接待している眷属淫魔の何人かに見覚えがあったからだ。
「この子達? さっき眷属にしてあげたの~♪」
 そう、先の座敷童子達の所で姫神に眷属として引き入れた淫魔達である。
「えええ…………あ! そうだ、それなら私……!」
 最初サキュバスがちょっと呆然と呻いたのはまあ、眷属となった彼女達が一様に全身キスマークだらけで満足げな顔をしているからだろう。ピュアニカの宝物庫はカクリヨファンタズムの外だろうし、であれば概念の消失の範囲外とは言え……逆に言うとつまりじゃあこの邪神様ったらわざわざ一旦帰ったのかよと言う話で。
 ただその後、何かに気付いたサキュバス見習いが何を言おうとしたのかは分からない。
「……あ、あれ?」
 言う前にその事に気づいたから。何でキスマークがあるのか。と。
 此度の騒動の中心は『えっちな事が消えた』事で、その消失の判定はファジーかつ好い加減に広い。だからこそ明らかに『そう言う事』の結果付いた『そう言う事』を想起させる痕など、幽世に来た時点で真っ先にキャンセルされて見えなくなって然るべきで。
「あれあれ? ひょっとして気付いてなかったのー?」
 ピュアニカが愛らしく小首を傾げる。淫魔の神と言う真っ向ドストライクに芯から消滅判定対象者たる彼女は、だからこそ既に気づいていた。その仕草に合わせ、零れ落ちそうなサイズのその胸がゆやゆよんと揺れる。
「その服……」
「かわいいでしょ~♪」
 その衣装はその言葉の通り可愛らしいデザインだが露出度は凄まじく、だから揺れる乳房が見てとれる。……そう、キャンセルされず、消失せず、何にも邪魔されずに見える。
 それはつまり。
「…………え」
 サキュバスは、酷くゆっくりと仕草で自分の身体を見下ろす。恐る、恐ると。
 彼女が着ているのはもう珍妙なロゴのTシャツでは無く、胸元を大きく開けたドレス。
「……ええ、え。そんな、わたし……」
 明らかに、もう概念の消失は無くなっていた。オブリビオンの力によって行使された世界の破滅は、猟兵達の尽力により防がれたのだ。つまりはその元凶たる彼女、西洋妖怪プラトニック・サキュバスもまた既に骸魂から解放されていると言う事で。
「ぇ、ふえええええええええ」
 なのに何故か、ポンコツ淫魔は泣き出した。
 キッツい説教食らっても泣かなかった癖に何で今更。まさか、初手から大失敗してこれだけグダグダになっても尚、未だその力に未練があったのか。
 それとも何か、他に悲しい事でもあったのか。
「ふええええええええええええええ……」
 一人分の泣き声が響く。

●何より大切な当たり前
「ずびばぜんでじだあ!!!」
 それはそれは、見事な土下座であった。
 一頻り泣いたらスッキリしたのと一緒に酔いも覚めたのか、サキュバスは現状と自分の立場をようやく自覚したらしい。骸魂の消滅の報を受け集まった猟兵達に向けて真向平謝り祭の開催である。まあ、実際謝る以外に出来る事ないですよねこの状況。
 猟兵達の反応は其々で違う。まあまあと取り成す者や笑って許す者、フンと嘆息する者や無言で焼けた鉄板を準備する者、盛大に垂れてる鼻を拭ってやる者や二日酔いでそれ所ではない者等々と様々だけど。
 ただ、『許さん死ね』とか言ってくる者はどうやら居ない様子で。
「アルコール王国よりも淫魔王国はどうかなー♪ お友達や恋人も沢山出来るよー♪」
 ピュアニカは勧誘してくる始末だ。
「何か願いとか欲望は無いのかしら?」
 いやー、向いてないって思い知ったばっかり何で……等と頭を掻く元オブリビオンの妖怪に、ウィッチに至ってはそんな言葉すらかけてやる。
 己が契約した精霊でもある<魔女揮杖(ウィッチタクト)>を手に『偉大なる魔女の力で可能な限り具現化してあげるわ!』と請け合う。それは欲望具現術によって望みを叶えてやれば、もうこんな事は仕出かさないだろうと言う意図もあるのだろう。けれどそれはそれとして心が広いなんて物ではない。
 ポンコツ淫魔は驚いた様な戸惑った様な、少し不思議そうな顔をする。
「……あの」
 一緒に遊んだり、慰めたり、思い切り叱ったり、癒したり、フォローしたり、相談に乗ったり、問いかけたり、一緒に騒いだり、笑いかけてやったり、愚痴を聞いてやったり、一緒に騒いだり、お世話してやったり、甘やかしたり……そのどれもこれも、言葉ではないけれど、でもそう言っている様に思えて。
 そんな事、誰も言ってくれるとは思って居なかったから。
「私、ええと……私……」
 何も出来ない能無しで。失敗ばかりの大間抜けで。その癖望む事だけは人一倍で。言い訳ばかりの馬鹿垂れで。周囲の優しさにも気づかない程愚かで。もう誰も許してなんかくれないんだと一人で勝手に諦めて絶望して。唯一だと思い込んだ気安く接せれる相手に縋って。ちょっとうっかり世界を滅ぼしかける様なポンコツの大罪人で。
 それなのに。でも。
「ここにいても、良いの?」
 そんな問いかけに対し、猟兵(あなた)達の答えは……

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月15日


挿絵イラスト