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大祓百鬼夜行㉕〜愛憐

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#カクリヨファンタズム
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#大祓百鬼夜行


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●愛がよく届くから高い場所を選ぶ、例えば電波塔
 大祓骸魂という娘が「UDCアース」と囁く声は、幽世全てを煮詰めた蜜の如く、甘い。
 思い焦がれが頬に紅を刷き、漸くの帰還に踊る心は釣り上がる口元に現われる。
 嗚呼、なんと桜梅桃李にして天真爛漫。
 彼女は、現在往くUDCアースを愛し、故に全てを殺め己の領域に招こうとしている。
「愛するUDCアース あなたを永遠にしたい あとひと刺しで それが叶います」
 そのひと刺しは容易いものであってはならない。
「猟兵たちよ 止められますか」
 そう、精一杯に阻んで。

●グリモアベースにて
「死に水を取ってきちゃァくれないか」
 比良坂・彷(冥酊・f32708)は、掛かる絵画に重ねて映したおかっぱ髪の娘の横顔をこん、とノックした。
 ナマクラ刀を胸に捧げ持つ大祓骸魂の横顔は、恋する娘のように頬を染めて俯いている。
「一方的で相手を死に至らしめる妄執に、どんだけ美しく『愛』なんて付箋を貼ったとこでさぁ、赦されるもんじゃァないのよ」
 それに気づけぬとはもはや憐れだと、男はしこたまの煙を吐いた。
「罪状は死にも値するよ」
 個人的干渉は予知には邪魔なだけだと、裡の共感は隠し込み続ける。
「スカイタワーの上で彼女は待ち構えてる。何にでもつきあうってさ! そう、この百鬼夜行で提示されたいろいろな仕掛け全部、彼女は内包してんの」
 空になった煙草の匣が潰れる音がする。
「だからあんたらの好きな手段で、彼女の罪を防いでやってよ」

 UDCアースへの愛が膨らみきった結果、其処に生きる人々や作り出された全ての文明物品他への思い入れが喪失した。
 愛が重たすぎて相手の心も躰も尊厳も何もかも全て総て壊してしまう、なんて皮肉な話でしょう――。


一縷野望
※既にプレイング募集しています。明日の朝8時半までは受付けます、以後は集まり方次第です

【採用について】
・採用人数は少なめ

・先着順ではありません
 プレイングの優劣ではなくて「ぴん」ときたもの、イメージが浮かんだもの採用します

・『連係攻撃』ボーナス利用の方は2名様で来て下さい。1名・3名以上は採用確率下がります、ごめんなさい

【プレイングボーナス】
全ての戦場のプレイングボーナスから好きなものを選び、使用できます。
『死したる想い人と語らおう』が『真の姿を現そう』が『連係攻撃しよう』が『バズろう』が……他の過去ボーナスならどれでもよいです、書けそうなら組み合わせも可能

もしくは
『プレイングボーナス』を利用して工夫を凝らしたものでもよいです
真の姿の設定語りでもいいし、死したる人との共闘でも構いません
団地レトロに想いを馳せつつ宴会もいいでしょう、大祓骸魂さんがつきあいますよ。どこまで会話が成立するかは怪しいですが


【文字数】
採用項目次第で結構上下します、ご了承ください
目安は、戦闘、交流<心情

それではプレイングをお待ちしています
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第1章 ボス戦 『大祓骸魂』

POW   :    大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD   :    生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:菱伊

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

紅呉・月都
【月刃】

お前、なんで…
―何この状況?
気付けば隣に銀狼の女
銀髪に一筋の紅
藍のリボンで結んだ襟足
青藍の瞳で見回して首を傾げる
俺の元持ち主

―ユア!久しぶり、て言っていいのこれ?
知らねえ聞くな
てか、ユアと知り合いかよ
―うん、にゃんとも
は?
―私の頃の親友だよ
…あの既視感はそういうことか
再会を喜ぶ主と妙な顔をしたユアを見て納得した

まあいい、話は後だ
アイツを潰す
―へえ、いいね
俺の本体を持ち
ニィと笑う戦闘狂

片や相棒
片や親友
共に戦場を駆けた銀狼に声掛けは必要無い

―さあ、どうだろう?それは今後何を視て、何を想うかで変わる
別に無理しなくていいだろ?

どっちにしても/しろ
ユアが好きなものの為に
戦えばいいんだから/だろ


月守・ユア
【月刃】
僕の大切な人を傷つけた憎むべき此の世界
されど、あの子が愛す世界
そしていつか誰かが愛していた希望の在処

僕は僅か悩んでいた
此の世に守る価値があるのか

彼の隣に現る銀狼の女性に
心に懐かしさが込み上がる
――ルティエ
いつかの世界で出逢った大切な親友

…うん
久しぶりだ
ずっと懐かしかった
月都さんを見てて
懐かしさの謎は君かぁ

靄が晴れた様に再会を喜ぶは束の間

ねぇ
僕はまたこの世界を好きになれるかな?
好きになる為に戦える?

大祓の姿を見据え友に聞く
返ってきた言葉は相変わらず
背を押してくれる力強い声

ああ
ホント…心強いにゃんともだなぁ

ありがとう
ルティエ
…月都

行こう
アレも世界を愛す一人成れど
奪われるわけにはいかないから




 大祓骸魂を眼前にしてなお、月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)の心は攪拌された沼の如く迷いに澱んでいる。
 ――大切な人を傷つけた憎むべき此の世界。魂すら捧げさせられた彼女へ、縋る者どもは更なる責め苦を与えあろうことか…………。
 ――されど、あの子が愛す世界。
 ユアは己を賭して最愛を護る、それは自動的に行われる類いのものだ。然りとて意志は持つ、故に心がこんなに濁っている。
 果たして、此の世に守る価値があるのか? と。
「あー……ユア?」
 連れてきて良かったんだろうかと燃えさかるような緋色髪を掻くのは紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)だ。
 彼もまた守護を軸に持つ。守護を担うナイフに宿り此の身を成した。
 彼が大祓骸魂に抱くのは、勝手に滅ぼすと言われた苛立ちと武装が元故の思う様“ヤ”れるとの滾りだ。
 それはそれとして、懐旧を喚起する娘の様子が気に掛かる。かけたい言葉はある筈、なのに一向に形を編んでくれやしない。
『ああ、幽世』
 出迎えた娘は熱に浮かされた口ぶりで嘯いた。
『現世では到底辿れぬ縁を手繰り寄せるてみせましょう』
 薬指に巻いた赤い糸をなぞると、月都とユアの前に今にも朽ち果てそうな古びた橋が現われる。
 元よりこの空間の質量は歪みきっている。だからまぼろし橋が存在すること自体は構わぬ、が。
「お前、なんで……」
『――何この状況?』
 橋の中央にて戸惑い深い面差しで佇む女性は、三角の耳を片方を倒した。つられて一房の緋色が弾み、藍の髪留めが衣擦れの音をたてる。
 一方、ユアの月の眼はフラットの中に柔らを孕む。
「――ルティエ」
 澱んでくるくるまわっていた中身が月光帯びて輝いた。さながらそんな風に浮かび上がるのだ――此の世は“そしていつか誰かが愛していた希望の在処”と。
『ユア! 久しぶり、て言っていいのこれ?』
「知らねえ聞くな」
 頬を掻いてそっぽを向く月都と頬を膨らませるけど本気で怒ってるわけもないルティエを前に、ユアの胸から優しき懐旧が滲みあふれ出る。
「……うん、久しぶりだ」
 穏やかに崩れる口元の儘に相好崩したら、ルティエも微笑みのお返し。いつかの世界で出逢った大切な親友。互いの胸に、一瞬であの居心地の良さが蘇る。
『ふふ』
「てか、ユアと知り合いかよ」
『うん、にゃんとも』
「は?」
 そのやりとりに到っては、ユアは明確に吹き出した。
「そう、にゃんとも」
 大切な大切な場所で沢山の思い出を紡いだ懐かしい匂いのするひと。
「だから、にゃんともってなんだよ?!」
「私の頃の親友だよ」
 月都が腰に下げた斬禍炎焼『紅華焔・燼』に視線を合わせ、懐かしげに青藍の瞳を眇めるルティエ。柄で揺れる赤い房をちょこんとつつく。
「そうだよ、親友」
 月都の緋色の髪から、ルティエの一房に視線を移す。
「ずっと懐かしかった、月都さんを見てて――懐かしさの謎は君かぁ」
 羽根のない違和を抱えた此の生の中で、チョコレートの匣にひっそり残る甘い香りみたいに胸にあった優しい残滓。
「……あの既視感はそういうことか」
 月都もまた謎の答えを見いだして、にっと歯を見せ笑顔になる。
 並んで戦いたいととにかく惹かれた。初対面の時もしっくり馴染む既視感に充ちていた。
「まあいい、話は後だ、アイツを潰す」
 スカイツリーに無理矢理ねじ込んだまぼろし橋の欄干に腰掛けて、川からの風に髪を遊ばせる大祓骸魂へ、魂そのままの鋭い視線を射かける月都。
『へえ、いいね』
 ルティエは逆手に持った深緋の刀身を構え口元を歪める。
 片や相棒、片や親友。共に矜持を振る舞い戦場に踊った仲だ、もはや銀狼に言葉は必要ない。
「待たせたな」
 鮫のように闘志を剥き出しに、月都はリノリウムの床を蹴り大祓骸魂へと一気に詰めた。
 刃にて押しつぶされた空間が熱を帯び焔を呼ぶ、だが大祓骸魂は落ち着いた所作で腕を掲げ妖怪らを招き身代わりにした。
「そいつらじゃねーよ、ふざけんな」
 絡みかけた鎖を握り潰した月都の手のひらが焦げた。愛すべき二つの世界を護ろうと軍門に降った妖怪らをこれ以上痛めつけるのは嫌だ。
「愛だのなんだの言って、こいつらもUDCアースも全部滅ぼすってどういう了見だよ」
 愛しているのなら壊さず護りたいが普通だろうと、大祓骸魂の奇異な思考回路を受け入れがたいと歯がみ。だがまた妖怪を呼ばれ盾にされたらと思うと手が出せない。
『苦戦してるようね……ユア?』
 戦イ狂ヒ、かつての友もさぞや昂ぶっているかと横を見れば、
「…………」
 大祓骸魂への警戒心は剥き出しだが何処か物憂げでもある。
『またなにか悩んでる?』
「……ねぇ、僕はまたこの世界を好きになれるかな?」
 銀薔薇の鎖が擦れて啼き声をあげる、逆十字が不気味な程に近い月の光を吸い銀の刀身を移し込むも、まだ誓えない。
「好きになる為に戦える?」
『さぁ、どうだろう?』
 ルティエは仁王立ちの月都の脇を過ぎて、大祓骸魂の配した妖怪達の中へ握り込んだ刃を差し入れる。
『それは今後何を視て、何を想うかで変わる』
 夥しい血が噴き出しルティエの頬を汚した。ぱたりぱたりと妖怪達が左右に倒れるも……彼らは無傷だ!
「別に無理しなくていいだろ?」
 流石は主との賞賛は、鎖骨そばに刺し傷を穿たれた女の芯を捕らえて烈火にて灼き払うことで現した。
 一気に絢爛豪華に爆ぜる場へユアも歩を進める。月色の瞳に映したのは、赤色の無情で愛を騙る女だ――そう、騙っているとすら気付かない憐れな忘却の徒。
「アレと同じになりたくないな」
『同じじゃないわ。ユアはわかってる、だから変化していける』
 大祓骸魂が虚空に翳した指先ひとつひとつからあふれ出るナマクラ刀。
「危ない!」
 ユアは咄嗟に蝶を遣わせる。
 親友を傷つけさせない、勿論月都さんだって。
 カウンターに駆けのぼり蝶の消し残しを叩き払うユアを前に、月都とルティエは全く同じ表情で破顔一笑。
 ……もう、見つけてる。
『どっちにしても』
「どっちにしろ」
 台詞まで同じだ。
「ユアが好きなものの為に戦えばいい――」
 ……ん、だから、と、飛び込んだルティエが大祓骸魂の後頭部を叩きおろし、
 ……だろ、と、下を向いた顔を月都が燃やしあげる。
「ありがとう、ルティエ……月都」
 ああ、ホント……心強いにゃんともだなぁと、ユアは漸く花のように笑った。それはもう黒き薔薇の如き気高さで。
「そうだね、行こう」
 大祓骸魂も、世界を愛す一人成れど奪われるわけにはいかないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
※死人との共闘

なぁーチューマ
俺のことをさ、罰してほしいって言ったら…お前は叶えてくれるか?
……ま、そーだよなぁ
今のお前が俺に望んでるのは、そんなことじゃねえ
それに…俺もお前も、生まれ育ったUDCアースは守りたい
協力してくれ──Jackpot

俺が前に出るから、懐刀を撃ち落とせ
盲目だからって出来ないとは言わせない
他の感覚の鋭さで十分だろ
インファイトでしっかりヘイトを稼ぐ
射手をフリーで動かせるように立ち回るのは基本だ
常に間に立ちはだかり、タイミングを待つ

──さっき渡しておいた、お前の遺品
ちゃんと弾込めて、メンテもしてある
…不意に間に居た俺が横にずれ、射線が開く
全てを『停滞』させる冬の魔弾、くれてやれ




「なぁーチューマ、俺のことをさ、罰してほしいって言ったら……お前は叶えてくれるか?」
 背を向けたヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)の口元は、物々しい問いかけに反して綻んでいる。
「残念ですが、Arsene」
 足元に積み上げられた愛銃達を拾いあげる浅黒い肌の少年は、ヴィクティムを見もせずに黙々とコンディションを確認をする。
「『僕の店』ではそのようなものは扱っていません」
 盲目故に総て手触りで把握、完璧に。淡々としながらも戦乱の魁を孕む鋭利な気配が、彼の帰還を物語る。
「僕はただ、公平で在りたい。誰でも、選べる権利があるべきだと思うから」
 ――Arseneの運命はArseneが選びなさいと、背中を押された。
「……ま、そーだよなぁ」
 漸く振り替えることができたヴィクティムは乱暴に目元を拭う。センチメンタルで視界を滲ませてられるか、これから戦うのに。何より、その姿を網膜に灼きつけておきたい。
 果たして、ホルスターに小銃をさした彼は、光の射さぬ眼差しで生前と変わらずそこにいた。ああ、一つだけ違うか、艶なき漆黒の髪には一束のシオンの花が揺れる。
 その花は紛れもない死者の証明。
 同時に、死しても何処かで糸はつながり続けているのだとの救いでもある。
 2人のやりとりを「これも尊き愛の形」と訳知り顔でほざく大祓骸魂には虫ずが走る。
「協力してくれ──Jackpot。俺もお前も、生まれ育ったUDCアースを守りたい、だろう?」
「作戦はいつもの通りですか?」
「……ああ。盲目だからって出来ないとは言わせない」
 直後、風圧。
 盲目のJackpotは、風の強さ、ヴィクティムの声の遠ざかり方、また先程の女の声の方角と大きさ……などを感じ取り盤面を正確に構築していく。
 接敵、ヴィクティムが隠し持ったナイフで首元を抉る。血を垂らした敵が散歩下がり……これは、無数のナイフが空中にある、成程、制圧射撃か。
 無論、ヴィクティムは刀を一振りたりともJackpotには向かわせない。
 欄干を掴み振り上げた両足で叩き払い、エクス・マキナ・ヴォイドの理屈を超えた伸縮にて絡み落した。
『あなたと彼も永遠にしてあげられるのに』
「てめえは自分のことしか考えちゃいねぇくせによ」
 全て自分に跳ね返り胸にひっかき傷が無数に出来た。本当にナマクラだ、足は殆ど損傷を受けていないというのに!
「それでいいんですよ、Arsene。ああ、振り返らないでください」
 戦場で気を散らすななのか先程の後押しの続きなのか、意図がわからない。
「どちらもですよ」
 そんなことまで読んでくるのか。だったらかつての俺の考えも読み取ってくれたって夢見ていいか?
「……そうだな」
 不意に躰を反転すればぽっかりと射線がひらけた。直後に女が握った懐刀がガチンと鈍い音を響かせて刃に弾丸を受け入れる。
 ――此は全てを『停滞』させる冬の魔弾だ。
 砕けることも出来ず、然りとて突き立てることも叶わなくなる。だが悔しさに歯がみする大祓骸魂に最初から興味はない。
 振り返ったヴィクティムは、愛しき『停滞』がJackpotと己には訪れないことを知らされる。
「…………ああ、ありがとよ」
 彼のいた場所には愛銃が積み重なり落ちていた。まるではじめからいなかったようになんて寂しいことは云わないでくれ、ちゃんと痕跡は残ってる。銃は硝煙を纏い、Jackpot好みに調整は施されているのだから。
 そう、ヴィクティムは、此からもJackpotと共にある。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
彼女にも感謝しないとね
きみと並び立てるなんて有り得ない
僕が生きればきみは死に
きみが生きれば僕は死ぬ
表裏のきみ
シャト・メディアノーチェ

金髪碧眼の娘は皮肉げに咲う
贋作のくせに台詞が長いわよ
今だけは死者として暴れてあげる
想われてやる謂れもないけど
『シャト』に成るのはあたし
あんたを殺すのはあたし
世界ひとつの滅び如きで
邪魔すんな

【忘れ去られて尚、愛せるのはどうして?】

猫科の獣が白無垢に殺到する
『シャト』は逆手のナイフで斬りかかる
僕は血で錆びたカッターを握る
もはや手首の薄皮も切れない鈍ら

著作―『さよならの言い訳』

製本されていない只のノートに
刃を突き立てる
其処に誰かの心臓を幻視して

唯一つの愛を呉れよ、と




 ――金色に何を足せば藤色になるだろう?
 桜の花びら、
 雨、
 闇夜、
 土塊、
 血。
 全部当り、でも外れ。
 シャト・メディアノーチェに何を足したって、シャト・フランチェスカになりはしない。
「彼女にも感謝しないとね」
 和傘の紅の影で佇む大祓骸魂にシャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)が視線をくれたのはそれっきりだ。
「きみと並び立てるなんて有り得ない」
 本来は。
 然れどこのまぼろし橋の中央ならば、背中合わせ、同じ指遊びすら叶う。
 しゅるり、と、宙を円に斬り裂くカッターナイフ/ペンを、大祓骸魂は優美高妙なる容で見守っている。噫、まるで主役めいた威風堂々、ならば此方が担う役柄は物語の必然に挽きつぶされる舞台装置か。
 脇役より色濃く綴られるが脇役より選択肢が与えられない、そうだまさに己と彼女のようだ。
「僕が生きればきみは死に、きみが生きれば僕は死ぬ。表裏のきみ――」

 シャト・メディアノーチェ。

 したためられた過去は変化を赦されない、故にシャト・メディアノーチェは■■。噫、インクが落ちた、読めない。否、はじめから何も書いていない所にインクを落して偽装しただけかもしれない。
「贋作のくせに台詞が長いわよ」
 ハッと、嘲る空気の破裂は蕾が一瞬で咲くよなデタラメめいた響き。
 か……、と、カッターナイフとペンが全く同時に静止した。
「今だけは死者として暴れてあげる。想われてやる謂れもないけど」
 シャト・フランチェスカの眼前に回り込んだ金髪碧眼の娘は、皮肉に濁った笑いと共にペン先で贋作の顎から頬をなぞりあげた。
「……」
 想うことすら赦されないのも当たり前。何しろ彼女という存在を略奪したのだから。
 謝罪を紡ぐ存在が目の前に現われた。シャト・フランチェスカは今更ながら想い出した様に唇を「す……」の形に変える。
「『シャト』に成るのはあたし」
 だが、発声は一切なく、形にはならない。
「あんたを殺すのはあたし」
 シャト・メディアノーチェは、もはやシャト・フランチェスカを見もしない。眼差しは、シャト・フランチェスカが相対して直後以降は視界から外した娘へのみ注がれる。
「世界ひとつの滅び如きで、邪魔すんな」
『…………はじめてもよろしいですか?』
 番傘をぱちりと閉じる娘へ、シャト・       は問いかけを謳う。

【忘れ去られて尚、愛せるのはどうして?】

 三角耳を立てた獣たちの疾走へ追いすがり『シャト』は逆手持ちのナイフで白無垢を袈裟に裂いた。
 うっすら血を滲ませて大祓骸魂は虚空に指を翳す。
『私の中には全てのUDCアースが充ち満ちているのです』
 虚ろなあなたとは違うと嗤われた声は、実際は無数のナマクラ刀の群れが翻り藤色髪の女を斬り裂いた音だった。
 握りが刺したカッターナイフはもはや手の薄皮も切れず、其奴等を阻む事すら叶わなかった。
「鈍? 僕のカッターナイフより余程仕事が出来るじゃないか」
 猫と共に生じた表紙には『さよならの言い訳』とある。只のノートを壁に押しつけると、思う様に刃を突き立てた。
「……………」
 ねじ込む手の持ち主は、口元を傾がせる。その瞳には、誰かの心臓が浮かび、つぷりと刃で割られた其れは濁流めいた血を吐き出して機能停止へ向かうのだ。

“――唯一つの愛を呉れよ”

大成功 🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
誉人f02030と橋で会った主の姫明日香呼び
3人で殴飛ばす
一緒に世界を救うっす

大祓骸魂
会わせてくれた事には礼を言うっす
でも3人揃り
世界を護り
きょうからあすに進むっす

2人で来て怒られそう
でも会わせたかった
誉人
話しがあるんっすよね

俺は2人のモノ
大事な主っす

でも誉人は俺が選んだ最初の主で
最後の自慢の主っす

短命の呪を吸取りきるのが先か
命果てるのが先か
解らないっすけど
最期迄共にって決めたっす

そりゃ俺の主だから大事っす
でも誉人が特別だから燻らない様にって
言いたい事全部言うっす

極力ゆっくり行くっす
誉人と共に

誉人は嫌がる
でも
妬いてるだけ
解ってる


聞いてくれて有難う


待てなかったら先に行って良いっす
縁があれば会える


鳴北・誉人
饗f00169と

はっきり言っとく
俺はお前がキライ
いつまでもこいつがてめえのだと思うな
あと
いつまでもこいつをあるじって呼ぶお前もムカつく
お前は俺のンだろうが

最初に言ったろ
独占欲強えって
手放してやれねえって
お前はなんて答えたか覚えてねえンか

二人のものってナニ?
怒らせてえンか
俺はお前をシェアする気ねえわ!

何遍も会いてえくらい大事なんだろ
よくその口で俺を特別なんて言えるな
そんで
また会う約束かよ

俺は
饗の「一番」じゃねえってことがよくわかったわ

腹立つわ悲しいわで頭ぐちゃぐちゃ…
それもこれも全部お前のせいだよ、大祓骸魂!
剣刃一閃斬り捨ててやる
大人しく八つ当たられてろ

(くそ、解ってっけど、心が追い付かねえ…)




 剣呑な雰囲気を隠しもしない鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)を隣に、香神乃・饗(東風・f00169)は真正面の娘に向け深々と頭を垂れる。
『……どういう了見でしょう?』
 小首を傾げさらりおかっぱ髪を揺らす大祓骸魂の態度すらあざとく見えて誉人は歯がみする。
 いやしかしだ、一番濃密な感情は敵である彼女ではなくて、自分の反対側の隣に立つ饗の元の主――姫明日香へ向いているのだ。
「大祓骸魂、会わせてくれた事には礼を言うっす」
「ああもう! そうじゃねぇだろうがよっ!」
 胸ぐら掴んで頬をひっぱたくように此方へ向けたい所だが、流石に堪える。その代わり、痩せた腕を袖より晒し佇む饗のかつての主へやぶにらみ。
「はっきり言っとく、俺はお前がキライ」
 突如の悪意に鳩が豆鉄砲を食ったように瞬き1回、姫明日香は「ああ」と腑に落ちたように頷く。
『饗、もしやこの人が……?』
「……っす」
 先だっては憧れた男たれと引き締めた口ぶりも、誉人の前では何時ものものに。だがそういった変化がわからぬ誉人はかつての主への劣等感が隠せない。
『饗がお世話になっているようで……』
「いつまでもこいつがてめえのだと思うな。お前に頭を下げられる云われはねぇんだよ」
「誉人、誉人」
 新旧主のやりとり、一方的に怒り剥き出しの芯主へ狼狽するのはここまで。饗は誉人の真ん前に立つと、一直線の口ぶりで告げる。
「誉人が怒るのは予想してたっす。でも、主さまに会わせたかったっす」
「お前なぁああ……」
 その実直さが、ますます誉人の怒りと嫉妬心と劣等感を煽るのだ。
『ああ……』
 大祓骸魂と二人を困ったように見比べる姫明日香。対する大祓骸魂はくるくると番傘を回して艶然と口元を歪めた。
『おかしな話ですね。死者(あなた)との邂逅より、普段顔を合わせている相手との話に必死のようです』
『――あなたが世界を? 饗が言っていた『世界を救う』ために倒すべき人、なのだろうか?』
 くるりん。
 反転回しで止め、かちりと番傘を閉じる。俯き頬をさらうおかっぱ髪で口元を隠す娘の感情は読み取れない。
『私はUDCアースを愛しています。この愛は揺るがない』
「そもそもっ! いつまでもこいつをあるじって呼ぶお前もムカつく」
 その宣言も誉人の吠え猛る喚きに潰されてしまうのだけれども。
「お前は俺のンだろうが!」
 悲鳴と聞き取れないのは饗だけである。
「最初に言ったろ? 独占欲強えって、手放してやれねえって…………お前はなんて答えたか覚えてねえンか」
 二人だけの言葉を広げれば、自分の元へ取り返す事ができるんだろうか?
「俺は二人のモノ、双方大事な主っす」
 なのにこの唐変木ときたら、誉人の神経を逆なですることしか言わない。
『ああ、えっと……』
 饗、と今呼ぶのは不味いか。
 しかしながら、大祓骸魂と言葉を交し続けることには本能的な忌避を感じる姫明日香。
「二人のものってナニ? 怒らせてえンか、俺はお前をシェアする気ねえわ!」
『……あの』
 つつけば藪から蛇がでそうな勢いだが、新しい主との間に波風を立てたい訳ではない。そう口にしようとしたが、
「誉人は俺が選んだ最初の主で、最後の自慢の主っす」
 ――饗の物言いに姫明日香はただただ微笑みを浮かべて黙った。
 饗は、憧れを塗り込み縋った“彼”は、今の主に大層な寵愛を受けているのは間違いない。
 ……良かったと、安堵している。ものとして扱われずに、二人、明日へと歩いているのだ。
「最期って……」
 誉人が怯んだ所に姫明日香は楚々と唇を差し挟むんだ。
『奇妙なものだな。“今日”と名乗るお前が未来へ歩み続けて“明日”を名に持つ私は既に過去だ……』
 寄った眉根から寂寞を感じ取った饗は項垂れた。それがまた誉人の胸をギリギリと削り取るのだ。
「…………短命の呪を吸取りきるのが先か命果てるのが先か、解らないっすけど…………」
 どちらも大切な主様、間に立ち繋ぎあいたいのに、上手くはいかない。
「……期迄共にって決めたっす」
 でもそれで、いい。
 そこで受け入れればいいのに、ぐちゃぐちゃな誉人は納めることが出来ず頭を掻きむしる。
「何遍も会いてえくらい大事なんだろ! よくその口で俺を特別なんて言えるな」
 柄に指をかけ荒ぐ息を吐き出す。
 嗚呼、嗚呼、俺は一体誰を斬り捨てたいんだかな?!
「そんで、また会う約束かよ…………」
 なんだよ、結局さ、俺は饗の「一番」じゃねえんだよな。それがわかったと捨て台詞で剣を抜いた。
「そりゃ俺の主だから大事っす」
「……まだ言うのかよ」
 項垂れる誉人の肩をぐいと掴むと、頭をぶつける勢いで近づける。
「でも誉人が特別だから燻らない様にって……言いたい事全部言うっす………」
 嫉妬も憎しみも怒りも、その他の全ての感情をあるが儘に映し出す。濃密であるが故に尖った其れらは“極上”なのだから、どんなものであれ奇麗なものに決まっている。
『……ふふふ。本当にお前に掛かってはどうしようもないな。饗は、死への恐怖も哀しみも絶望も、命ある他者への嫉みすら、こんな美丈夫に実らせたんだよ……今の主様、それはわかってやってくれ』
 大祓骸魂の飛ばしたナイフを振り払い、軽々と動く手足に破顔一生。だが続く姫明日香の誉人へ向けた眼差しは重たくも厳しいモノに変ず。
『饗を、彼を粗末に“割る”ようなことだけは絶対になさらぬよう――私からは、それだけだ』
「…………」
 誉人は舌打ちを一つだけで返す。
 見透かしたような物言いがやはりどうしたって好きにはなれないし、地獄の釜の如く煮えたぎるだけの己では気の利いた言葉なぞ返せない。
(「くそ、解ってっけど、心が追い付かねえ……」)
「割れやしません。そして、主様。待てなかったら先に行って良いっす、縁があれば会える」
『ああ、そうだろうね』
「俺は極力ゆっくり行くっす」
 居合い斬りの構えに逃げる誉人の肩に触れ饗もまた破顔一生、それは姫明日香にも屈託のない時の誉人にもそっくりな容。
「誉人と共に」
 饗の配した苦無を精密に辿る誉人の太刀筋が大祓骸魂を袈裟に斬り伏せる。
 戦い出せばあうんの呼吸、其れが何よりの証明なのだとは、さぁ誉人はいつ気付くのだろう? 饗は既に色々お見通しなようだけど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

斬断・彩萌
大祓骸魂ちゃんやっほー!
来るのが遅くなってごめんね、ちょっと準備に手間取って
え、何って……番組の準備だけど?

はい、カメラ回るよー
『カクリヨからいらしゃ~い!』って言うから合わせて登場してね、OK?
3、2、1。せーのっ!

はいでは、今日のゲストは大祓骸魂ちゃんです!
なんでもUDCが好きすぎて永遠にしてしまいたいとか?
例えばUDCのどんなところが好き? 食べ物とかシチュエーションでも良いよ
ちなみに私は放課後友達と集まって遊ぶのが一番好き!

ははぁ、愛って一口に言っても種類があるからねぇ
大祓骸魂ちゃんの愛し方はそういうやり方なんだね
賛同は出来ないけど、否定はしないよ

だから精一杯、阻止させてもらいまーす!




 大昔なら物々しいテレビカメラ等々が必須だったわけだが、このUDCアースでは誰でも持っている電話端末でOK! 便利な時代になったものだ。
 ものだ、が。
 斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)はとにかく拘りたくって、テレビ局顔負けの機材をどっちゃり担いでスカイツリーに参上です。電波を飛ばす塔だから、そこはきちりとね?
「大祓骸魂ちゃんやっほー! 来るのが遅くなってごめんね、ちょっと準備に手間取って」
『準備とは一体なんでしょう?』
「え、何って……番組の準備だけど? よいしょっと」
 切りそろえた黒髪を揺らしてキョロキョロ見回す大祓骸魂の眼前で、ぬいぐるみが置かれたひな壇が設置され、ギンギラギンのライトで照らされる。
『暑いですね』
「メイクしてないから崩れる心配もないっと。しかしすごいぴちぴちのお肌ね」
 加齢からも忘却されたのかしら、なんて。一匙の嫉妬は隠してカメラを向けたなら準備OK。
「はい、カメラ回るよー」
『あ……はい』
 大祓骸魂、わかってない。
 しかし彩萌は説明をぶっ飛ばして片目で画面を覗き、よしっと頷くのみ。
「『カクリヨからいらしゃ~い!』って言うから合わせて登場してね、OK?」
『ああ……ああ、番組ですか』
 壊れた映像端末を使って番組とやらを流すやり口が確かにあったと漸く納得した大祓骸魂の肩が画面中央へ向けて押される。
「3、2、1。せーのっ!」

「『――カクヨリからいらっしゃ~い(です)!』」

 ノリで合わせてくれた、語尾ズレはご愛敬。
 ちょこなんと首を傾げて短刀を膝に置き座る大祓骸魂へ、彩萌は満面の笑みのカメラ目線。
「はいでは、今日のゲストは大祓骸魂ちゃんです!」
『よろしくお願いします、UDCアース』
「お、さっそくのラブコールですね! なんでもUDCが好きすぎて永遠にしてしまいたいとか?」
『はい。誰もが覚えていなくても、私があなたを覚えています。その記憶は憧れを産み、私は私の幽世をこしらえたのです』
「例えばUDCのどんなところが好き?」
 そう問いかけられて大祓骸魂の唇がピタリと塞がった。放送事故レベルの無言になる前に、彩萌はすかさず話題を継ぐ。
「食べ物とかシチュエーションでも良いよ、ちなみに私は放課後友達と集まって遊ぶのが一番好き!」
『…………』
 しんと静まりかえる電波塔、ガラス張りの足元には遙か彼方のUDCアースがたゆたうというのに、大祓骸魂の紅色の瞳は感情の彩を一切浮かべずに制止している。
「…………ねえ、大祓骸魂ちゃん」
『なんでしょう?』
「大祓骸魂ちゃんは、本当にUDCアースを愛してるの?」
 テレビ映えを保持する為に口調は軽妙だ、しかし内心には深い疑念と怒りが存在している。
 このUDCアースには掛け替えのない誰かたちが無数にいて、人生を刻んでいる。それを一方的な愛を理由に無為にしようとする大祓骸魂。愛すらないのだとしたら、もう情状酌量の余地は、ない。
『時が進めば皆変わっていきます。私が忘却されたように――私は良いのです、私の愛は揺るがない。だから私は帰って来たのですから』
「過去(おなじ)にしたいからってこと?」
 答える代わりに振るわれる刃、テーブルを押して後ずさった彩萌はカメラをぐりんと彼方へ向けると腰から二丁の拳銃を抜いた。
「ははぁ、愛って一口に言っても種類があるからねぇ、大祓骸魂ちゃんの愛し方はそういうやり方なんだね……」
 頷く娘の周囲を浮遊する刀が全て彩萌を狙うも、ひな壇を倒し銃弾で落とし近づけない。電波塔の展望台受付カウンターへと飛び込むと、銃口だけ晒し光弾で娘の肩を貫いた。
「賛同は出来ないけど、否定はしないよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

リインルイン・ミュール
「お月見」する「宴会」
持ち込み、或いは屋台があるなら其処で準備
団子とお茶、その方が月見っぽいですかネ!

桜と月、一緒にみても本当に良いものです
まあるい月が注ぐ光、照らされ舞う桜、積もる花弁も淡く輝く。美しく何処か儚い、ずっと見ていたくなりますネ
お団子も美味しくて、思わず歌いたくなるような、心の満ち足りる一時デス
……大祓骸魂、アナタはどう思いますか?

容易く何かを傷付ける愛をもつ命は、他にも見ましたし
アナタのもある種の愛だろうとは思いマス
だから傷付けて良いわけじゃない、ヒトの為とするワタシにもちょっと痛い話ですが
世界に生きるもの、そこから紡がれていくこれからの景色を望まないアナタは、やはり相容れない




 実は、先程の番組セットで組まれていた下町屋台。それを前にリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)は、ホクホクと獣の口元を緩めた。
 スカイツリーの眺めは良好、ガラス越しの月は不気味な程に近くて大きくて、まぁるい。
 リノリウムの床をぶち破りデタラメに咲き誇る薄紅も、リインルインに言わせれれば風流に尽きる。
 一旦人の形をとり、黒き乙女は団子を買い求めて熱湯を充たした保温ポットを手にはせ参じる。
「桜と月、一緒にみても本当に良いものです」
 とろりと肢体が崩れ、再び形を為したのは『ヒトの為のケモノ』の姿。物々しい爪先は繊細に団子選びに迷う。
 みたらし? 定番のあんこが一番。いやいや、翡翠色のずんだ餡も中々……。
『……』
 不可思議なモノを見るように伺う大祓骸魂を一度だけ招き、後は構わず窓の外の月を伺う青黒き獣。
「まあるい月が注ぐ光、照らされ舞う桜、積もる花弁も淡く輝く。美しく何処か儚い……ずっと見ていたくなりますネ」
 二度とは廻らぬ今を言祝ぎ、リインルインはまた人に姿を戻す。そうして急須て丁寧に入れた緑茶に舌鼓。冷まし湯で引き出した甘さとあんこの甘さは濃度も舌への刺激も全く違う。でも甘い。
 甘さは、幸せ。
「ああ……」
 上機嫌に綻ぶ口元は、歌を紡ぐ。UDCアースで憶えた桜に待つわる歌は途中から別の曲につながるが、そんなデタラメすら心の栄養剤。
『……随分とご機嫌でいらっしゃる』
 傍らに来た白無垢の娘へ、娘姿のリインルインは緑茶を振る舞い歓迎する。
「機嫌よくもなりますヨ。お団子も美味しくて、歌は心地よい、心のち足りる一時デス」
 失礼、と隣に腰掛ける大祓骸魂は、喉をこくりと鳴らした。ぬくもりが腑に染みたタイミングで、リインルインは問う。
「……大祓骸魂、アナタはどう思いますか?」
 と。
『私は私の愛を果たすため、帰ってきました』
「……殺すのですか?」
『はい』
 嘆息。
 リインルインは対話の果てが破滅しかないとわかった上で言葉を探す。
 とても無為な行為だと、思う。
 でも、この時間すら愛しい――それも紛れもない本音だ。
「容易く何かを傷付ける愛をもつ命は、他にも見ましたし、アナタのもある種の愛だろうとは思いマス」
 勧められるが儘に団子に歯を立てる大祓骸魂の口元は、相も変わらず釣り上がっている。
 ――まるで、笑顔という無表情だ。
『私は、愛するUDCアースを永遠にしたい、ただそれだけです』
 唇の端についたあんこを上品な所作で拭い、大祓骸魂はことりと首を傾ける。
「だから傷付けて良いわけじゃない、ヒトの為とするワタシにもちょっと痛い話ですが」
『あなたは、人の為なら誰かを傷つける事ができる、と――』
「…………そう、でしょうネ」
 ぱちり。
 皿に置かれた櫛は洗ったように奇麗だ。身を引くように立ち上がる大祓骸魂は、愛していると嘯きながら、赤色の瞳に何も映していない。
 美味なる団子も、典雅なる真円の月も、儚い薄紅の花びらも――総て全てすべて、なにも。彼女の心を動かすこと、叶わないのだ。
「世界に生きるもの、そこから紡がれていくこれからの景色を望まないアナタとは――やはり相容れない」
 確認がとれた、それだけでこの対話は役目をきちりと果たしたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クルル・ハンドゥーレ
アドリブ連携◯

PB
妖怪と電話で話す

もしもし?
教えてほしいことあるんで電話させてもろたんよ
貴女の言う『愛』について
情薄いんか知らんけど
どうもようわからへんのんよ
その手で殺して
永遠に変わらんカタチに凍らせる
それは変わられるんが怖い、置いていかれるんが怖いゆうんと
、どう違うん?

電話で問いながら戦う
己の根幹や
考え応える隙はあるやろ

リミッター解除+先制攻撃でUC発動
破魔+フェイント+毒使い+マヒ攻撃+鎧無視もUCに入れ攻撃

敵UCはあえて避けず
自UCの攻撃軽減を利用
瞬間思考で攻撃を見切り
武器受け+盾受け+オーラ防御でダメージを最小限に

己の想いを押し通すんが愛なら
貴女に向ける私らの刃も
ひとつの愛なんやろ




 展望台の受付カウンターに置かれた電話のベルがけたたましく鳴った。
 あれやこれや沢山のやり方があったものだと、娘は口元に弧を描き受話器を取る。
『はい、どちら様でしょう?』
「もしもし? 教えてほしいことあるんで電話させてもろたんよ」
 クルル・ハンドゥーレ(逆しまノスタルジア・f04053)は名乗りもせずに、一方的に話し出した。
 暁と黄昏、相反する輝きに心を囚われたエルフは既に故郷への帰り道を見失っている。斯様に謎に塗れて惑う彼女だか、苦悩に囚われ続けることは、ない。
『なんでしょうか?』
「貴女の言う『愛』について」
 古びた受話器の音質は最悪で、時にざぁざぁと雑音が混じる。薄い壁越しに背中合わせ、職員控え室のクルルを大祓骸魂は気付いていることだろう。
「どうもようわからへんのんよ」
 くるり。
 螺旋のコードを指に巻き付けては外しを繰り返して、クルルは相手の反応を引き出すべく一拍おいた。
『理解を求めてはいませんから、そこは思い煩わなくてもよろしいですよ』
「ああ、きらんといてよ」
 語尾が縮こまった所から切断を悟り、クルルは素早く言い募る。
「その手で殺して、永遠に変わらんカタチに凍らせる、それが貴女の言う『愛』で間違いないか」
『あとひと刺しで殺され、UDCアースは過去となり、骸の海で永遠となる』
「あってるということでええかな? それでな……」
 ぷいんっと振動するコード。既に指遊びは止まり、腰に結わえられた赤と白の花に触れている。
「それは変わられるんが怖い、置いていかれるんが怖いゆうんと……」
 柄を握り宙返り。
 壁を蹴り壊しいきなり眼前に現われたクルルは、大祓骸魂の額に赭い花を咲かせた――Nerium oleander。
 麻痺で三テンポ遅れる隙を逃さずに、紅白の花びらを散らして薙刀で斬り祓う。
「どう違うん?」
 ところで、実態のクルルはまだ壁の向こう側にいる。受話器越しの小さな悲鳴をモノともせずに質問を完結させた。
『違うか違わないか……それは些事です』
 鬩ぎ来る彼岸花の群れには紫電の盾をガンと物々しくたてて阻害する。
 畏れよとの囁きには耳を貸さず、クルルは再びコードを指に巻き付けては外しを繰り返す。
『故に私は無為な思考をさく気はありません』
「連れんなぁ」
 盾に凭れ大祓骸魂への答えに思わず漏れる溜息。
「己の想いを押し通すんが愛なら……」
 命が減ずる気怠さにこめかみを押さえる。一方で、クルルの現し身は蜃気楼の如くぼやけ現われと娘を翻弄し、確実に刃を見舞った。
 ああ、そうだ。
「貴女に向ける私らの刃も、ひとつの愛なんやろ」
 ちん、と、愛らしい音をたて受話器を取り戻したレトロな電話機は、それっきりで沈黙する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウグスト・アルトナー
『真の姿』『妖怪と電話で話す』
全身から翼を生やした姿で、大祓骸魂に電話をかけます

【先制攻撃】として、【精神攻撃】を仕掛けます
ぼくの言葉は届かないかもしれませんが、それでも

【幸せな結末】をお話しましょう

大祓骸魂、あなたがオブリビオンでなく、UDCアースに暮らす人間の少女だったなら
あなたは、あなたの愛するUDCアースで、人並みに育ち、人並みに老い、人並みに終わりを迎えたことでしょう
骸の海での永遠を望むあなたにとっては、それは望ましくないことかもしれません
ですが、愛する存在と共に移り変わりゆくことこそが幸福だと、ぼくは思います
ですから
そうした幸福全てを壊そうとするあなたは
存在してはいけないんです




 展望台の受付カウンターに置かれた電話のベルがけたたましく鳴った。
 華奢な指が掴んだ受話器からは、アウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)の聞きよい淡々とした声が流れ出す。
「【幸せな結末】をお話しましょう」
 髪に肩に腰に足に……夥しい翼を生やしたアウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)だが、雲烟過眼とした気配は何一つ変わってはいない。
「大祓骸魂」
 さぁ、この言葉が――精神を蝕む声は果たして届くだろうか?
『なんでしょう?』
 今すぐに受話器を叩きつけて切ればいいのに、カクリヨの妖怪達が為した全てを扱えるというのは即ち、全てに縛られということに他ならない。
 其れは、一見すると自由に何処にでも飛び立てるアウグストの足に、枷がついているのに近しい。
「あなたがオブリビオンでなく、UDCアースに暮らす人間の少女だったなら」
『私が、ですか。それでは、私はUDCアースを愛しきれませんね』
「結論はまだ早いですよ、大祓骸魂」
 やはり一筋縄ではいかないか。
 アウグストは自らより羽根を抜くと、彼女が咲かせだした彼岸花へ向けて放る。
 幾つも、幾つも、幾つも!
 例えこの翼がなくなろうとも、その花は咲かせては、ならない。
「あなたは、あなたの愛するUDCアースで、人並みに育ち、人並みに老い、人並みに終わりを迎えたことでしょう」
 何故なら、そのような平凡な娘は、異界の花を咲かせる事など出来やしないからだ。
『人並み……とは、どのようなことでしょう?』
 枷に縛られるが故に、アウグストに問いかけずにはいられない。
 この明らかな変化は本来は有り得ない埒外、即ちユーベルコードを行使できる猟兵に関わってしまったということである。
「そうですね……」
 しかしながら、アウグストもまた平凡な人生を語るには、経験という引き出しが少なすぎる。
 ダークセイヴァーで生まれUDCアースに生きる身ではあるが、鳥籠に封じた骸を持ち歩き家族との対話に引きこもる青年が想像し創造できる『平凡』とは果たして。
「…………あなたには、お兄さんがいるんです。追い風の中にいるように、いつも真っ直ぐで屈託ない、そんなお兄さん」
 でも、これならば語れる。ねぇ“ユーリ兄さん”
『兄、ですか』
 瞳を閉ざせば現われる兄は、幻だとわかっている。
「ええ。ずっと一緒なんですよ……」
 言い聞かせるように思い出を紐解けば、アウグストの唇は滑らかに家族の肖像を語る、騙る、カタル。
『…………お嫁さんをもらわれたら淋しいですね。これは兄に言ってもいいのでしょうか?』
「あなたが決めていいんですよ」
『そんな……困ってしまいます』
 まるで人のように悩む様は、アウグストの作り上げた“妄想”に捕まった何よりの証だ。
 仕上げだ。
 すう、と息を吸い込んで、アウグストは一気に捲し立てる。
「骸の海での永遠を望むあなたにとっては、それは望ましくないことかもしれません。ですが、愛する存在と共に移り変わりゆくことこそが幸福だと、ぼくは思います。あなただって、幸せでしょう? 望ましくないなんて、もう思っていない筈です」
『…………』
 帳のように重苦しい沈黙を、時間という指先で捲りあげて曝け出す。

 娘の息は、荒い。
 戸惑い、己の欲望に迷いを生じさせているのだ。

「ですから、そうした幸福全てを壊そうとするあなたは“存在してはいけないんです”」
 受話器の向こうからのくぐもった悲鳴が、アウグストの耳たぶを震わせる。それを気が済むまで聞き込んだ後で、彼は上品な所作で受話器を手放すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
◆真の姿

私の罪も誓いもあそこに在る
永遠になどさせはしない

私は死毒
触れたものを何もかも蕩かす
そこに意思は介在しない
ただ在るがままにその効能を振り回せばいい
人の形を失うのはこわい、ですけど

瞼を閉じる
佐伯さん 此処は彼に近い
ならば尚更 失敗はできない

私は救いたい
救わなければならない
それが彼らとの約束だから

──、私の形を融かす

負傷は構わない
醜い死毒に人の形なんてない
痛みもないし 意思もなければ畏れもない
皮を剥がせば毒が溢れ出るだけ
迷わない

私は万物の死毒
私の持つすべての毒性を注ぎ
貴方の全てを融かす
呪いを 愛を 妄執を
何もかも融かしてしまいましょう

貴女の愛は健全ではない
故に
貴女の恋患いを治しましょう




 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)が背にした硝子が砕け散った。
 ひらりひらりと墜ちていくのは、赤色の細い花弁、そう、彼岸花。
『上手く避けましたね』
 足元に鬱蒼と咲いた彼岸花の茎を折り、ナマクラと共に掲げ持つと娘は紅一本の唇に弧を描く。
『次はそうは行きませんよ』
「……私を倒して」
『愛でUDCアースを永遠にします』
 蜜は頭を横にゆらした。
 はたり、はたり、リノリウムに粘ついた黒が散る。バタバタとはためく白衣……と、もはや言えぬか、黒く染まった上着は蜜が人の質量を佚するが儘に平坦にしぼんでいく。
「私の罪も誓いもあそこに在る」
 まなじりから涙のように伝うひと筋の黒は、やがて白目も藤色の瞳孔も黒く塗りつぶしていく。
『泣いているのですか? 私の手で過去に到れば嘆きは全て……』
「……永遠になどさせはしない」
 こわい。
 ……人の形を失って、戻れなかったらどうしよう。
 意思を介在せぬ死毒、其れのみに辿りついてしまったならば――私は、どうなるのか…………。
 こわい。
 けれど、人の形を失う以上に、失いたくないものがあるのだ。
 ……佐伯さん、と形作られた唇は既に声帯も崩していたので声にならなかった。
 もし、私に心というものが存在しているのなら、この願いを核としよう。
 佐伯さん、此処は彼に近い。ならば尚更、失敗はできない。

 斯くして、全てを蕩かし死へ至らしめる死毒は、人のように願うのだ――私は救いたい、と。

(「それが、彼らとの約束、だから」)
 もはや黒でしかない瞼をおろせば一気にひとのかたちは崩れ、有り得ない質量の黒い海へと変じフロア全体に広がった。
『……あなたは、一体』
 たじろぐ大祓骸魂の足元で咲き誇る彼岸花も、どろりとした水銀めいた粘つきに囚われる。触れた傍から蝕み此の世で姿を保つこと赦さぬと、茎も花も何もかもを、蕩かす。
『……ッ』
 娘は手のひらを翳し、必死に咲かせた彼岸花で黒を相殺する。
 毒を持ち、何より根源の畏れを引きずり出す花が、黒の地面に咲き誇る。その度に現世より削られる感触は確かにあるのだが、蜜の心に“畏れ”は生まれない。
(「醜い死毒に人の形なんてない」)
 生き物に人に赦される、意思も痛みも何もかも持ち得る訳がないのだと事実を唱える。
 きっと、人の形の冴木蜜ならば、その事実に僅かだろうが傷つき気を病み苦悩するのだろう。
 そうやって、彼は“人を救いたい”冴木蜜を構築してきた。
 救いたい、救いたい、救いたい――。
『あなたも出鱈目だと気がついてらっしゃいますか?』
 ちゅん、と、マッチが水に投げ入れられるような音で、最後の彼岸花が消滅する。
 大祓骸魂は足首に絡みついた死毒よりその定義を聞かされる。即ち――私は万物の死毒、私の持つすべての毒性を注ぎ貴方の全てを融かすもの、と。
『私の愛は揺るがない』
 錆びた刀を振り回す。ちゃぷりと鈍く払われ千切られた黒は些細な量でしかない。なにしろこの刀はなまくらで、時間を掛けねば殺せない。

 それだけの時間があれば充分です。
 呪いを 愛を 妄執を、何もかも融かしてしまいましょう――。

 波打ち際で寄せては返す“黒”が娘を海へと引きずり込む。
『……私が、また融かされる。忘れ去られて、しまう。愛しているのに……』
「貴女の愛は健全ではない」
 故に、
 貴女の恋患いを治しましょう。

 …………。
 白無垢を漆黒に染め抜かれて項垂れる娘の傍らで、蜜は己が穿った穴より零れ落ちていく。
 大丈夫、地表に叩きつけられて夥しい痛みを感じられたならば、それが人に戻れたということだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛昼禰・すやり
【ヲルガちゃん(f31777)】と
『連携で戦う』『妖怪を殺さない』

ゆらり
揺らぎ燃える鬼火を纏い
暴風が如く駆け上がる銀の竜神の軌跡に乗る
向かう妖は同胞、殺さず征ければ夢見も良い
【眠りと幸せ】で仄かな燐光振り撒いて
ようよう眠って、良い夢を

しゃらりと揺れる銀の髪の音色美しく
気高いそれに安らぎと信なる心寄せ
路を開いて共に行こう

わたしはねえ、ヲルガちゃん
もう何にも、わからなくなっちゃったのよう
ひとつの愛しも分からないけれど
だからこそ、みんな愛しいのかもしれないな…

だから、ねえ、きっとお前も愛しいの
友と天まで昇ったら、共に地に堕ちようか
そんな高く遠くじゃなくて、近付かないと、愛も届かないんじゃないのかなあ


ヲルガ・ヨハ
【すやり(f30968)と】
『連携して戦う』『妖怪軍団を殺さない』

同胞(はらから)よ
いとし世界を
喰らおうと云ふか

徒手空拳と尾で
阻む妖怪軍団の武器落とし、恐怖を与え
殺めぬよう、頂へ
同じくいくさに踊る、白き竜神を見遣る
鬼火のゆらり揺めきが如しを
迫る牙あれば”おまえ”にかばわせ

嗚呼、雲のよに掴めぬ男
どれほどの牙持つというのか
けれど
背を任すのは
確かなる信頼で
返る信に笑み、速度増す

すやりよ
なにをいとおしと想う?

嗚呼、
われも似たようなもの
われはすべてを喰らってしまった
情も
未練も
そう、なにもかもを

喰らうことが愛か?
膓におさめてしまっては
こうして
触れあう(たたかう)ことも出来ぬというに
【雲蒸竜変】で地に墜とす




 赤色の番傘が弾けて落ちた。
 露わになった大祓骸魂の胸元に、しゃなりとそろった白魚の指が痛烈なる一打を見舞う。
「同胞(はらから)よ、いとし世界を喰らおうと云ふか」
 ヲルガ・ヨハ(片破星・f31777)は続けて妖怪らへと指を伸ばす。
 かちん、かたん。
 リノリウムの床を落ちて滑る武装。怯み震える彼らへは、面紗ごしの瞳を和らげてから伏せる。
『私はUDCアースを愛しています。ですからこの手に――』
 大祓骸魂が妖怪どもへ目配せするのを阻むは鬼火。
「ようよう眠って、良い夢を」
 妖怪達を燐光に包み意識を眠りへと浚う。一方で愛昼禰・すやり(13月に眠る・f30968)は、ヲルガの尾が巻き起こす暴風に指先の焔を余すことなくのせて娘の右肩を灼ききった。
『……私の妖怪に随分と勝手なことをされるのですね』
 火傷した肌に張り付いた白無垢を千切り捨て、大祓骸魂は瞳を眇める。悠然とした余裕の微笑みは既に欠け落ちていた。
「妖は同胞、殺さず征ければ夢見も良い」
 その名の儘に安らかな眠りをもたらしたすやりへ口惜しいやと、大祓骸魂は怒りを塗り込めたナマクラ刀を射出する。
『あなたもUDCアースの一部ならば、私は愛せます』
 黒紅の切っ先はすやりへは届かずに、幾本かは厚い胸板に刺さり、逃れた残りは鬼火で果てた。
『…………』
“おまえ”は仮面の元の唇を一文字に結んだままで、苦も何も現さず、ただひたすらに二人を庇い立つ。
『横恋慕でしょうか』
「われの“おまえ”が横であれ他に色を遷す訳もない」
 くすりくすりと葉が擦れるように笑うヲルガの隣に戻った“おまえ”は、無造作に刺さった刀を抜いていく。
「ありがとう。ヲルガちゃんの良い人」
 果たして、妖怪達が立ち去った先に己は存在(あ)ることが叶うだろうか? 淋しいのだ、ひとりは。幸せな微睡みを齎せば、彼らのひとりぐらいは己の肉体の傍らに来てくれるやもしれぬ。
 ――肝心の己が、其処に還れるかはわからぬのだが。
 彷徨いの足取りでふらり、髪音はしゃらり。
 涼やかに鳴らし指先の焔を翳す。再び大祓骸魂が差し向けた刃を「大丈夫」と示すように指をふるとやわり首を傾けた。
 刃は全て逸れた。何故か、すやりの髪の一本すら切り取ること叶わずに床へと落ちた。
 理由は明白、妖怪どもの置き土産である“幸運”がすやりに充ち満ちている。
「嗚呼、雲のよに掴めぬ男」
 背中越しにヲルガが竜尾を振るえば、踏まぬようにと小さく飛ぶすやり。あうんの呼吸が心地よい。
「どれほどの牙持つというのか」
「どうかしらね」
 ヲルガの尾で壁へと叩きつけられた大祓骸魂へ、すやりは腕を差し伸べる。すると竜のように大縄が腕に絡み現われたかと思うと襲いかかったではないか!
『……うぅ』
 雁字搦め、壁に縫い止められた大祓骸魂へ、ヲルガは滑るような足取りで駆け寄った。
 背後ではかんからと落される刃の音、信頼にくふりと笑みが漏れ落ちた。
 平手で何度も打ち据える相手だが、ヲルガの意識には腫れて変わりゆく顔すら刻まれない。
「すやりよ、なにをいとおしと想う?」
 そう、関心は総て、背後を護る男へと向いているのだ。
「わたしはねえ、ヲルガちゃん」
 手繰るように手のひらを上に向け返せば、大祓骸魂を戒める祟り縄がギチリと華奢な体躯を締め上げる。
 細い眉が寄り脂汗を浮かべる大祓骸魂を前に、すやりはころころと鈴めいた笑いを響かせた。
「もう何にも、わからなくなっちゃったのよう」
 吐かれた言葉は寂寞塗れのものであるのも関わらず、すやりの口元は綻んでいる。
「嗚呼、われも似たようなもの」
「ヲルガちゃんも、忘れてしまったの?」
「われはすべてを喰らってしまった」
 唇に手の甲を押し当てる仕草は優雅ながらも堪えきれぬ欲を納めるよう、面紗がなければであるが。
「情も」
 ちらり、脳裏に瞬くは竜面の裏側の“おまえ”
「未練も」
 嗚呼、嗚呼、わからぬ。どうであったのかは。
 然れど、時に、人より“おまえ”に向けられた色に対するわれのあの心は一体?
「そう、なにもかもを」
 ヲルガが無理矢理にした封を気にも留めず、すやりは不意に祟り縄に注ぐ力を抜いた。
「ひとつの愛しも分からないけれど……だからこそ、みんな愛しいのかもしれないな……」
 崩れ落ち咳き込む大祓骸魂は、血まみれの息と共に毒づく。
『愛し方がわからぬとは哀れな』
「そなたは、喰らうことが愛か?」
『喰らわない。ただ只管に殺すだけ』
 赤色の錆びを愛おしげになぞり、大祓骸魂は口ずさむのだ。
『この懐刀『生と死を繋ぐもの』は、なまくらだけれど時間をかければ――誰でも 何でも、殺すことができる』
 何度目かの突きを打ち払われて、ヲルガは楽し楽しと悦に入る。
「確かに、膓におさめてしまっては、こうして触れあう(たたかう)ことも出来ぬな」
 なまくら故に斬れもせずジンとしびれるだけの指先を反対の手で覆いほんの少しだけ斜め後ろに首を傾ける。
 ひゅるり、と。
 疾走の風と共に現われた“おまえ”が組んだ腕を振り上げて大祓骸魂を殴りおろした。鈍い音で叩き落とされたそれへ、ヲルガは竜尾を叩きつけ追い打つ。
「お前はそういう愛し方をするのね。きっとわたしはお前も愛しいの」
 と、すやりの紡ぐ愛は致死性の毒に等しい。一足飛びに近付いて、なまくらを握る手首を掴み耳元に更なる毒を、注ぐ。
「友と天まで昇ったら、共に地に堕ちようか」
 ガン! と、叩きつけられた躰は床を打ち破った。開いた穴に“おまえ”は躊躇わずに身を投げて蹴打を見舞う。
「そんな高く遠くじゃなくて、近付かないと、愛も届かないんじゃないのかなあ」
 だから墜としてあげる。
 穴から覗く竜たちは、てらてらと輝く唇を吊り上げて闇に嗤いを蠢かせるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
嘗て信仰されていた大妖怪

でも
あなたは――、

忘れられて棄てられたのでしょう?
言は
巻き起こる風に散る

身を苗床に咲き誇る草花
呼び覚ます片翼の真の姿

己もまた
棄てられた証
地に落とされ
翼を欠いた

だのに
主の姿で顕現した身を
執着と言わずして何と呼ぶだろう

私達は
似ているのかしらね

名を呼んで欲しかった
共に歩いて欲しかった
応えの貰えぬ想い
埋まらぬ虚

けれど
相憐れむことはしない

何かを「永遠」として残すのは
生きているものの祈りの形なのだから
骸は骸
無は無でしかないの

僅かの隙も機も逃さぬ第六感
間合い迄一息に羽搏いて
振り薙ぐ一閃

永遠になりたかったのは
大祓自身だったのではないかとも思えて

覚えていますよ、と
柔らに紡いで海へ還したい




 満身創痍の身であるが慎ましく美しくありたいと、娘は彼岸花を咲かせて己の身を繕う。
「嘗て信仰されていた大妖怪」
 青磁の眼差しは暮色蒼然たる香炉と全く同じ彩。くべられた香を燃やす受動の徒たる都槻・綾(絲遊・f01786)は、大祓骸魂に対して親近感を携えている。
「でも、あなたは――忘れられて棄てられたのでしょう?」
 風が巻き上がり天井を抜いた。煽られ持ち上がる髪を抑える娘は、綾の足元からあり得ざる勢いで枝が伸び、花が狂い咲くのを目の当たりにした。
 ぱきり、と、鴉羽に虹を透かす片翼が一度だけ広がり畳まれたところで、綾はうっすらとした微笑みを浮かべる。
「己もまた棄てられた証」
 繊細な細工はひと筋でも傷が入れば有様が変じてしまう。二人を覆う天蓋は星の海、だがこの花鳥は決して其処へは至れないのだと暗に騙る。
「地に落とされ翼を欠いた」
 似ているでしょうとの語りかけに対し、応答より先に緋色の視線が絡みつく。
『……瞳の色が』
 ああ、と手のひらを宛がう綾へ、大祓骸魂は歩を進める。
『あなたは、変じてしまった。畏れもなく……』
「元より変じている」
 放棄された時、疵の入った時――なにより、この姿で顕現した時に。忘れられて棄てられてなお、主の姿を写し取った己、此を執着と言わずして何と呼ぶだろう。
「私達は、似ているのかしらね……」
『あなたは、主に何を請うたの?』
 絞り出すように妖怪を呼ぼうにも、先程の眠りで還され叶わない。
 そう――なまくらは、命を絶つに到らなかったのだ。
 諦観と共に、持ち上がった容には口元だけの笑みがある。男女、顔の作り、全てが違うがまるで綾と大祓骸魂は鏡写しのよう。
「名を呼んで欲しかった、共に歩いて欲しかった」
『誰も私を見る事はできない、誰も私を知る事も私を愛する事もできない――それでいいのです、私の愛はゆるがない』
 その口ぶりは試すようでもあり、もっと言えば否定して欲しいようですらある。
 成程、この大祓骸魂は数々の戦いを経て変化を生じたのだろう。頑なさを佚し、相手の言葉を待つだなんて。
「けれども、あなたは幽世をこしらえた」
『“あなたは主の姿を写し取った”』
 互いの裡には虚ろしか詰まっていない。応える存在は既になく、ないしは此方を認知出来ず、故に決して埋まることのない虚ろが横たわる。
 ――なにもない に みちている。
 矛盾を伴侶に佇み続けても永くは続かない、だから彼女の幕を此処で下ろしてやろう。
 ぱさり、乾ききった羽ばたきと同時に綾の姿が床からかき消える。
『……あ』
 娘は緋色の瞳を大きく見開いた。まさか、綾が飛べるとは思わなかったのだ。
 咄嗟に掲げられたさび色の刃なぞ避けるのは容易い。綾は降下の勢いに任せて右肩から脇腹まで袈裟に深く斬りおろした。
 取り繕った白無垢があっさり千切れ、数多の猟兵につけられた色とりどりの痣や傷が露わになる。
 綾は謝罪と共に上着を掛けてから後方に一歩引いた。
『私……やはり忘れ去られてしまうのですね』
 寂寞を吐いた娘の唇から無数の彼岸花があふれ出た、その花はずっと咲かせてきた赤ではなくて白無垢の色をしている。
「――想うはあなたひとり」
 白い彼岸花の謳う言葉を綾が紡げば、図星をつれたか、娘は容を手で覆い隠して膝を折った。更に細かく段だらに折れる傍から崩れるように咲き続けるのは、やはり白の彼岸花。
 愛するUDCアースを永遠にしたいという娘だが、果たして彼女自身は永遠だったのだろうか? 本当は彼女が永遠になりたかったのでは――?
 問いを投げかけようとした綾だが、胴体半ばまでを亡くし縋るように此方を見る眼差しに言葉は即座に差し替わる。
「覚えていますよ」
 あなたがUDCアースを愛し覚えていると繰り返したように。
『…………愛して、います』
 ぱさり。
 唐突に娘のいた場所に一輪の彼岸花が落ち、それもパッと花弁を散らして消えた。
「さようなら」
 骸の海で永遠に――どうするかは、大祓骸魂が決めればいいと綾は唇を噤んだ。願わくば、その海が柔らかに彼女を包み込んでくれればと、願う。
 
―終―

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月03日


挿絵イラスト