大祓百鬼夜行㉕〜赤色に染め抜く、隔世の夢~
●カクリヨファンタズム
吐息を零せば、あなたの名になる。
それほどに思うのに別たれた。
彼方と此方は違うのだと、届かぬ声は悲しみに濡れている。
示すはまるで赤と白の曼珠沙華。
もはや決して交わる事のない世界の隔たりに。
すぅ、と懐刀を握る指先を揺らす少女。
この切っ先から流れる血が。
赤い糸となって、あなたと結び付きますように。
二度と断ち切れない想いを絡み付かせますように。
色褪せる事のない永遠の愛を、不変なる過去として傍におけるように。
――そう、永遠に傍にいたい。
「あなただって、そう想いませんか?」
気付けば無数の鳥居が連なり立ち並ぶ中で、少女は静かに微笑む。
名を大祓骸魂。このカクリヨの凶事の元凶にして、愛を謳う禍々しき神。
美しき少女の貌には、恋慕の色ばかりを浮かべて。
叶わぬ夢をそれでもと追い求める姿は、何処かしら儚くて。
「あなただって、取りこぼした誰かを想う気持ちはありませんか」
救いを求めて。
それを得る為に、血の滴る指を揺らす。
ああ。
生と死と。
どうして別たれてしまったのでしょうか。
問いかけるように微笑み、死をもたらす切っ先を向ける。
ねぇ、と。
これを未練だとか。
叶わぬ現実を、変えられぬ過去をだとか。
そんな綺麗ごとで切り捨てずに、胸に懐きて生きて戦い続けて。
想い続けて、未来を変えようとしている。
そんな姿は。
戦いに臨む姿は。
「あなただって、同じ筈でしょう?」
狂気に似た思慕は渦巻き、神智を越える虞となって風を引き起こす。
匂うは何処までも優しき花のそれ。
とくん、と脈打つ鼓動さえ聞こえる静寂の中で。
語れど、話せど、意味はなく。
今を過去に変えて、永遠を求める一途な心と刃は止まらない。
――永遠を願う心は、果たして罪なのでしょうか。
一瞬でもそれを抱いたというのなら。
私達は救われませんねと、『あなた』を見る少女の眸が訴える。
それでも進もうとするのだから。
進む路に、血のような赤い彼岸花を。
いいや、鮮血で咲かせる曼珠沙華で、この路を満たそう。
全ては、あなたの傍にあるが為に。
絡み付く運命の赤い糸、別たれぬ為に。
●グリモアベース
「語る事は多くはなく、最後の決戦となります」
そう語るのは秋穂・紗織(木花吐息・f18825)。
ふんわりとした雰囲気と口調は何時もの通りで。
ようするに、人は、心は、変わらぬものとして既にあるのだ。
それを変えようとするのならば。
殺すしかない場合とて。
「敵は大祓骸魂。カクリヨファンタズムの元凶にして、UDCの世界を愛しきと歌う邪神」
彼女の持つ懐刀『生と死を繋ぐもの』は何だって殺せる。
そう、世界さえも愛の元に殺して、共に骸の海で永遠に在れるのだ。
決して心変わりなどする存在ではなく。
「故に、その危険性――狂気故に、殺さなくてはいけません」
今までの妖怪と違って、救う事など不可能。
そも話の通じる相手ではなく。
纏う力も人知を越えたものばかり。
武術など知らぬかのような繊細な姿であれ。
振るう力も、技も、まるで異次元の存在。
真っ当に衝突するならば危険に過ぎる。
「ただ、話は通じとも聞く事はあるでしょう」
少しでも共感すれば、力を落とすかもしれない。
正しくとも邪であれども、神に通じるのは何時とて、誠実なる心のみ。
真心にて為す忠のみに、荒ぶり狂う神は動きを止める。
そして。
「今回はかつての『連ね鳥居』と同じような場所。その影響も受けてか、大祓骸魂には逆鱗とでもいうべき弱点が存在します」
その場所はここ、と秋穂が指さすのは心臓。
ここに一撃を届ければ、必殺とはならずとも深い一撃となる。
それを如何にして届けるかが難しいのだが。
「語って変わらずとも、あなたの想いを聞く事で、動きが鈍るかもしれません」
愛にて狂ったのならば。
偽りなき愛にて、鎮められるのもまた神の道理。
人智を越えた存在だからこそ、語ればその幻影とて現れるかもしれない。
「普通に戦えば激戦は必須。どのようにして、全ての元凶たる神の心臓に刃を突き立てるかの一点に集中するもの。……いえ、語らいとてそうかもしまれませんが」
手繰る剣技とて侮れず。
術というのならば悉くを踏み千切る。
距離という概念さえ、忘れてしまう程に深い存在こそ。
大祓骸魂。
さあ、その募りし愛で狂った心臓に、どのように刃を突き立てるのか。
「どうか、よき結末を辿られますように」
武運で拓くもよし。
想いにて通じさせるもよし。
どちらも困難な路だけれどと。
過去という不変に固まってしまうのは、悲しい事だと。
秋穂は瞼を伏せた。
変わり続けるから美しく。
愛しさは募るどころか、増していくのだから。
さながら、四季の如く。
雪のように降り積もり、紅葉のように色付いて。
桜と散って、雨のように音を成す。
それが、心なのだと。
遙月
何時もお世話になっています、遥月です。
最後となりまして、『大祓骸魂』のシナリオをお届けさせて頂きますね。
方向性は心情×戦闘。ただし、厳しくも熾烈に。
そして悲しくも、美しくと。
難易度は『やや難』となりますが、戦争のラストという事もあって、遥月としては難易度がかなり高く、厳しく判定させて頂きます。
何時、誰が、何をもって、どのように。
心情だけではなく、プレイングに記載された『大祓骸魂』、その逆鱗へと一撃を届ける為の方法をとお願い致します。
語らいをもって、『大祓骸魂』に隙を……愛に狂った神だから、未だに想い続ける少女だからこそ、自らの『別たれた想い人』を語る事で、隙を作ることも可能ですが。
どちらも難易度は非常に難しく、プレイングでの判定が強いシナリオです。
或いは強引に突破するのも手ですが、その場合はひどく深い負傷描写などは覚悟の上でお願い致します(真の姿を利用する場合も、負傷は覚悟の上でと)
つまる所、手段はお任せの激戦。
けれど、そこに心情もありきといきたいので、どうぞ宜しくお願い致します。
採用数は無理のない範囲でと八名前後を予定していますが、上記を踏まえて、活躍させやすい方、書きやすい方から順番にお届けさせて頂きます。
受付期間はご案内致しますが、戦争の完結に間に合わないかもしれないのはご承知くださいませ。
それでは、長々となりましたが、どうぞ宜しくお願い致します。
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プレイングボーナス……連ね鳥居の中で戦い、敵の逆鱗を攻撃する。
or
…… あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。
or
…… 真の姿を晒して戦う(🔴は不要)。
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※想い人を描写して語らうのは、夜までではなく、大祓骸魂が聞き届けて戦意を薄めるまでで可(まぼろし橋と似た形です)
第1章 ボス戦
『大祓骸魂』
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POW : 大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
レモン・セノサキ
ボーナス:真の姿
爱し戀し元の世界、か
私も"元の世界"に焦がれてるけど
変わる姿すらも許容出来ない程
お前の愛は『薄っぺら』なのか?
「仕掛鋼糸」で空中を高速で飛び廻り
攻撃躱しながら「ブルーコア」を飽和展開
懐刀を▲レーザー射撃の▲弾幕で破壊する
忘れられたってのは、裏返せば知ってる人が居たって事だろう?
こちとら認知すらされてないぞ!
「FORTE.50」に「C.T.弾頭」装填、眼前で起爆させ▲時間稼ぎ
ああ、胸張って啖呵切ってやろうじゃないか
それでも私は、あの銀の降る世界を愛している!!
真の姿(詳細:ステシ)を晒してUC発動、奪った『何だって殺せる』力で
顕現体を使い潰してでもお前の愛を歪める『虞』をブチ殺す
想いが途切れる事なんてありはしない。
心が枯れ果てるなんてこと、ないのだ。
例え、命が尽きる事があっても。
ああ、だからこそ悲しく、切なく、狂う骸魂がそこにある。
連なる鳥居の奥深く。
永遠の愛を詠う、狂いし神が。
「爱し戀し元の世界、か」
金の瞳で真っ直ぐに見据えるはレモン・セノサキ(金瞳の"偽"魔弾術士・f29870)。
生まれ落ちた世界を想う気持ちは、レモンとて判らなくはない。
叶うのならばと。
記憶は疼き、胸の裡にて情念が焦がれる程に。
幾度とて夢に思い描くは、"元の世界"。
本物から受け継ぎ、脈打ち続けるは。
色褪せることなき、死と隣り合わせの青春。
けれど。
「変わる姿すらも許容出来ない程」
世界は移ろい、変わりゆく。
無惨な程に時は流れ過ぎて、形と色彩を変え。
そこに棲まう人と、想いさえも変わるのだから。
「お前の愛は『薄っぺら』なのか?」
当たり前の事を認められず、愛と歌うのか。
成長すること、進むことも。
未来を歩み往くことさえも、受け入れられないというのなら。
永久に、在りし日の姿を愛したい。
そんな独善で身勝手な、薄い愛情など。
「認める訳がないだろう。壁を破り、前へと進み続けるのが私だ」
それがレモンの信念ならばこそ。
小型腕輪から放たれるは仕掛鋼糸。
鳥居に絡まり、小型詠唱動力炉が巻きあげて空へ。
更なる前と高みへと、空を翔るかのようなレモンの姿に。
――構いませんよ、と。
大祓骸魂の囁きと共に、無数の輝きが浮かびあがる。
数百を超える全てが懐刀。
数える事も出来ない程の刃が、空間を埋め尽くすように襲いかかる。
それはさながら銀の雨。
恐ろしさも、懐かしさも感じさせる。
これを潜り抜けて来たのだから。
元いた世界で、レモンの本物はこれを越えて来たのだから。
生と死を繋ぐ、刹那の裡に。
今、またレモンも越えて往こう。
過去になど、囚われぬ身だと誇るように。
「忘れられたってのは、裏返せば知ってる人が居たって事だろう?」
浮遊する極小のビットからレーザーの弾幕を放つ。
破壊する事叶わずとも軌道を逸らし、降り注ぐ懐刀を躱していくレモン。
完全になどいく筈がない。
瞬く間に全身が鈍の刃で切り刻まれ、鮮血を霧のように散らす。
だが、だからどうしたというのだ。
「こちとら認知すらされてないぞ!」
そんなものは意に介さない。
己がどう思うかが全て。
触れる事も叶わず、伴にあれぬからと。
殺すというのならば。
世界で生きる人々の全てを、骸の海に堕とすというのならば。
「帰れない。逢えない。だからどうしたんだ。それで、自分の思いがどう変わる」
相手の反応ひとつで変わる程度に。
お前は薄っぺらいのだと、バトルライフル『FORTE.50』を向けるレモン。
装填した『C.T.弾頭』にて即座に射撃し、空間爆撃を発生させる子弾を撒き散らす。
起こせるのはほんの僅かな時間稼ぎにしかならない。
そんな事もレモンは別っていても。
「忘れ去れたぐらいで変わる愛、なのかよ」
私は違う。
存在を、産まれた事さえ認知さえされていなくても。
「ああ、胸張って啖呵切ってやろうじゃないか」
戦い続ける理由はあるのだと、真の姿を見せる顕すレモン。
薄黄の外套を翻して空を駆け。
無数の蒼く輝く魔砲陣を引き連れる姿へと。
「それでも私は、あの銀の降る世界を愛している!!」
金の瞳で大祓骸魂の姿をしかりと捉えながら。
「ああ」
そうですか、と呟く大祓骸魂。
忘れさせれても。
存在を知られずとも。
叫ばれる熾烈な愛が、眩いのだと瞼を伏せて。
瞬間、舞い乱れる懐刀を潜り抜け、レモンがついに肉薄する。
『――換装(アクティブ)』
祈るような言葉は想いの熱を持って。
白銀の十字剣を巨大化させ、全身全霊を燃やすのだ。
大祓骸魂の『生と死を繋ぐもの』が全てを殺すというのならば。
あらゆる能力を奪う、この一振りを以て殺すのみ。
『――我が元に、纏え……ッ!!』
故に清冽なる銀の一閃が、大祓骸魂へと放たれ。
大祓骸魂が握る懐刀がゆらりと泳ぎ、それを弾き返したとしても。
纏いし虞は薄らぎ、狂いし愛の気配が揺れる。
「この顕現体を使い潰してでも」
振るうレモンに懸かる負荷は尋常ではない。
全てを殺す力など猟兵が扱える範疇ではなく、ただの一振りで自壊が始まっている。
「お前の愛を歪める『虞』をブチ殺す」
それでもと繰り出す二閃目は大祓骸魂の懐刀を弾き飛ばし。
聖杯から成る刀身が、白銀の輝きを放つ。
純粋なる願いをもって振るえば、命さえも救うのだと。
「愛っていうのは、そういうものだろう」
真っ直ぐに見つめられない大祓骸魂へと突き刺さる、十字剣の銀閃。
ただ殺めるだけではない。
死と隣り合わせだからこそ。
生き続けるだと受け継がれし想いにて、聖杯の刃は未来を斬り拓いた。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
死人語り
「貴女の愛は美しい宝石を愛でるよう。宝石がどう想うか考えない。此の世界が生命を育んだのは、此の世界の意思だと思うからこそ…私達は、貴女を否定します」
口元を紗で隠した白装束の女2人を見遣り
「幼子の頃…言葉もなく、ただ時間通りに食事を与えられ湯浴みして髪を整えられ。行灯は格子の外にしかない。少しでも長く居て欲しくて、視線の意味を想像した。彼女達を知りたかった、愛されたかった。でも彼女達の名も声も知らない私は…会えても、彼女達と交わせる言葉がない。彼女達が狐狸でないと確かめる術もない。だから言葉を得た私は、言葉で分かり合う未来を望んだ…其れを否定する貴女の愛を、私は否定します」
UCで攻撃迎撃
愛しくて、悲しいことなのだと。
翠色の眸を伏せるのは、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。
桜が散っても、なお在り続ける若葉を想わせるそれは。
優しくとも、憂いに似た想いを滲ませて。
どうして、他の方法を取れないのだろうと。
愚かなまでの一途さに、言葉を零す。
「貴女の愛は美しい宝石を愛でるよう」
輪郭を指先でなぞり。
変わる事のない輝きを、愛おしむ。
永久にて不変の色彩へと、たった独りで微笑みかけるばかり。
「宝石がどう思うかは考えない」
微笑み返される事も。
愛してくれる事も、考えない。
どうしてそれで、幸せといえるのか。
一方通行の愛など、不幸せでしかないというのに。
「此の世界が生命を育んだのは、此の世界の意思だと思うからこそ……」
そこに思いがあり。
記憶があって、感情があって。
紡がれる人生という道行きがあるのだから。
「私達は、貴女を否定します」
その先にある幸福を願って、桜花は翠色の眸で大祓骸魂を見つめる。
何処までも、間違ってしまった存在を。
少女のような無垢さのまま、狂った神へと。
「……そう」
懐刀を玩び、その刃先で自らの指をなぞる大祓骸魂。
桜花の直向きなまでの視線と、そこに込められた想いに。
凶厄とはいえ、神たる身は動きを止める。
己を否定する想いであれ。
それは自らの為に紡がれたものなのだから。
続けなさいと、朱色の眸がゆらりと泳いで先を促す。
愛であるのならば。
想いであるのならば。
それは、この胸を穿つ何かを慰撫する祈りになるのだからと。
例え、大祓骸魂が果てたとしても。
その先に望むものがあるのならばと。
ならば、どうして。
そこまで出来るというのに、たったひとつの事が出来ないのか。
悲しみに、桜花の眸は微かに揺れて。
視線の先、口元を紗で隠したふたりの白装束の影を見る。
幻の見せた。
微かなる、名残として。
ふたりの女の表情は、見えずとも。
判らずとも。
「幼子の頃……言葉もなく、ただ時間通りに食事を与えられ湯浴みして髪を整えられ」
そうやって世話をしてくれたひとの、思いはどうだったのだろう。
ただの役目か、憐れみか。
それともその先に、優しい思いがあったのか。
今はもう、確かめる術もない。
「行灯は格子の外にしかない」
今は自由に、光の中を歩けるけれど。
暗闇の中に佇むだけだった頃に、知りたかったことがある。
誰か教えて欲しいと、切に願えれど。
言葉はなく、静まりかえった闇の中から、するりと視線が流れるだけ。
ふたりの女の、視線だけが桜花に届いたのだ。
「少しでも長く居て欲しくて、視線の意味を想像した」
何かを、『もしも』声を言葉として紡げれば。
届ける事ができれば、女たちも返してくれるのではないだろうか。
傍に近寄る事が出来るのではないだろうか。
甘く、儚く、けれど一縷の希望を桜花は胸に懐いて。
「彼女達を知りたかった、愛されたかった」
けれど、世界は時として余りに残酷で。
無慈悲なまでの静けさで、満たされるのだ。
「でも彼女達の名も声も知らない私は……会えても、彼女達と交わせる言葉がない」
まるで童話の人魚姫のように。
声は無く、黒々とした世界をひとり佇むばかり。
まず初めに声をかけて。
何かを与えねば、何も帰ってこない。
それが人の心の常でもあるのだから。
その始まりのなかった桜花に、先などなかったのだ。
「彼女達が狐狸でないと確かめる術もない」
今となっては、全ての真実はあの地下の闇の中。
過去へと置き去りにされ、あのふたりが現のものか幻だったのかさえ、判らない。
「だから言葉を得た私は、言葉で分かり合う未来を望んだ……」
声をもって、呼びかければ。
言葉を届けて、思いを交わせば。
触れられぬ筈のひととさえ、きっと心を結べる。
今、桜花は深くそれを感じるから。
するりと、白魚のような指を大祓骸魂へと向ける。
ねぇ、貴女には声があるでしょう。
愛しい世界へと、呼びかける事が出来るでしょう。
そんな、幸せの可能性を持っているのに。
捨て去って、握り絞めるのは『何でも殺す懐刀』。
――自分の想いと、未来を殺すように。
「其れを否定する貴女の愛を」
感情にて織り成される、世界の色彩を。
宝石という不変の色彩に閉じ込めるというのならば。
変わることが出来て。
今は不幸でも、幸せに近づける。
それが言葉の繋がりだと、桜花は知るからこそ。
「私は否定します」
「そうね……言葉は、祈りだもの」
近づく桜花へと、大祓骸魂は敵意も刃も向けず。
ただ、つらつらと。
桜花が望んだように、言葉をもって結ぶように。
「祈りは、神と分かり合う事も、荒ぶる災禍を鎮める事もあるだもの」
世界とだって。
誰とだって。
まずは、言葉を向けなければ、意味はなく。
「……ただ、届かない言葉に。忘れ去れた声に、意味はあるのかしら」
誰からも忘れられた故に。
姿は見えず、声は確かに届けられぬ者になった大祓骸魂。
だとしても、桜花は確かな声で告げるのだ。
「それでも、続ける事に意味があるんです。想い続ける事に、意味があるように」
想った事を、口にしよう。
届くまで続けてみよう。
歌うようには、いかなくとも。
『おいで精霊、数多の精霊、お前の力を貸しておくれ』
桜花の紡ぐ詠唱は、隔世とも現とも付かぬ場所でも。
精霊へと届き、ふわりと力を渦巻かせる。
大祓骸魂の虞を祓い、忘れ去れた魂へと。
まるで無数の蛍の光のように。
魂を黄泉へと葬る、優しく穏やかな流れのように。
魔力の弾丸は静かに、大祓骸魂の身体へと届いた。
その魂の芯まで。
桜花の想いと、祈りを込めて。
声は、言葉は。
世界を越えて、辿り着く。
狂いし神の刃をも止める結末へと。
大成功
🔵🔵🔵
ネフラ・ノーヴァ
真の姿は赤い瞳の開眼。
ああ、愛するという事に違いはない。だが永遠か刹那かで私と君は違う。数多出会い別れ、花開き散りゆく刹那こその美しさを愛する。だからこそこうして相対するものさえ私は愛するのだよ。
一礼、開眼、抜剣、UC電激血壊を発動、その速さでもって連なる鳥居を駆け刃を舞い躱し、刺剣のただ一撃を心臓へ届ける。
さあ君よ、白を赤く染めて、美しき花を咲かせるが良い。
許されれば血の滲む手の甲に口づけを落とそう。
漂う花のような優しい香り。
けれど、それは死を呼び込む虞だから。
生と死を繋ぎし、その気配に呼び起こされるように。
こつん、と足音を響かせる影がひとつ。
「ああ、愛するという事に違いはない」
大祓骸魂へと向かうは、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)。
優美なる羊脂玉の姿と、声色をもって。
何にも臆す事なく、ただ真っ直ぐに連なる鳥居を抜けながら。
大祓骸魂の、朱色の瞳を見据えるのだ。
「だが永遠か刹那かで私と君は違う」
まるで歌劇の一幕が如く。
詠う様は美しくも、秘めたる熱と狂気を滲ませて。
「数多出会い別れ、花開き散りゆく刹那こその美しさを愛する」
一歩、一歩と遠い鳥居の先へと進む。
この一瞬を、鮮やかに記憶へと刻むように。
誰からも忘れ去れていた大祓骸魂を、二度と忘れぬように。
このたった一度きりを、と。
すぐに終わってしまう、徒花の如き夢を。
「だからこそ、こうして相対するものさえ私は愛するのだよ」
「あら。ならばなんと不埒な方かしら。……日によって姿を替える月のように」
「一途であれば。不変であれば。……それこそが私達の美観の違いではないのかな」
ある意味、それこそが交差する理由なのだと。
愛すべきものが為に、路を譲らぬネフラと大祓骸魂が視線を交えて。
騎士が如く一礼するネフラ。
瞬きをすれば、その色彩が変わる。
瞼から覗いた眸は、深紅の宝石のように美しく。
この世に在らざる妖しき艶やかさに濡れている。
これが神智を越えた虞を前に、顕れたネフラの真実の姿。
「変わり、終わるものを、美しい、愛おしいと思うこと。例え神が相手でも、私は譲る気はないのだ」
そのまま冷ややかな空気を斬り裂くように抜刀する。
顕れるは余りにも鋭き切っ先を持つ一振り。
銘を血棘の刺剣。その刀身が描いた先に咲くのは、赤薔薇のように麗しい鮮血の花。
美しくあれど、さながら吸血鬼の牙めいたそれを。
するりと大祓骸魂の心臓へと向ける。
最早、言葉は不要であろうと。
未だ遠くに佇む大祓骸魂へと、足を踏み出すネフラ。
『雷電の如き神速こそ力……』
ネフラが纏うは超伝導性の血紋。
己が寿命を対価に、得た速さはまさに迅雷。
周囲に大祓骸魂の紡いだ数えきれぬ程の懐刀があれど。
数多の鳥居を、無数の刃を、潜り抜けて駆け抜けるネフラは優雅なる舞踏のよう。
迫る刃たちを跳躍して躱し、鳥居の柱を蹴って前へ。
跳ねるように左右へとステップを刻み。
足音を置き去りに、一気に大祓骸魂の元へと迫る。
刃の群れを無傷で踏破ではる筈がなく。
切り刻まれて、己が身をも血で赤く染めながらも果敢に進む。
それこそ、刹那に緋の色彩を輝かせるが如く。
切っ先が瞬き、ただ一撃を。
その鋭き刃をもって、大祓骸魂の心臓に血棘の刺剣の一閃を。
鮮血の花を咲かせ、その血飛沫を浴びることこそ、ネフラの抱く望みで、愉悦なればこそ。
「さあ君よ、白を赤く染めて」
声と伴に大祓骸魂の心の臓を貫くは熾烈なる刺突一閃。
大祓骸魂の白無垢を、舞い散る赤い血で染め抜いて。
「美しき花を咲かせるが良い」
言葉の通り、深緋の花が隔世に咲き誇る。
赤き彼岸花よりなお赤く。
白き花が咲く場所など、もはや何処にもないのだと。
身を貫き通した血棘の刺剣にて、更に傷口を抉って血を流させるネフラ。
「……ああ」
虞を纏う大祓骸魂でも、唯一の弱点としてあるそこ。
深く、己が芯を捉えて刀身に視線を落として、大祓骸魂は声を漏らす。
「心が愛を思えば、それは傷となる」
「傷は痛みとなって、死を呼ぶ。……心臓を刺されても死なないのは、流石は神か」
狂いて墜ちたとしても。
真実の名を喪っても、なお究極の妖怪にして神。
けれど、確かに届いたネフラの刃はその命と魂に癒える事のない傷を刻んだのだから。
「この剣をもって、許されるならば」
狂い神に届かせた、刹那の美しさを認めてくれるのならば。
「血の滲む手の甲に口づけを……」
「酔狂なひと。美観、美意識の違い……愛しいものの、違い、なのでしょうね」
だが、否定などしないのだと。
血棘の刺剣にて貫かれまま、するりと手を滑らせて。
ネフラの口元へと、その手の甲を。
「ですが、認めましょう――刹那の美しさへの、愛を」
敗北を認めるように。
ネフラに口付けを認める、大祓骸魂。
血の色の染まる、奇譚の如く。
「それを示した、貴女の愛と剣を」
白無垢を赤く染めた姫の手へと、口付けを落とすネフラ。
もう此処に、白く、無垢なるものはないのだと。
懐刀が、からんと地面へと落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
ラルス・エア
「愛する存在に変異と永遠という不変を願う…」
相手との距離を
戦闘知識から己の疾駆速度の秒数で把握
「矛盾では
『変えなければ、求める意義も見出せないもの』を貴方は愛しているのか?」
挑発
敵UCをダッシュで大きく左右どちらかへ引きつけ
フェイント
瞬間思考力による判断の最短秒数で
空いた敵正面の懐へ駆ける
グラップルで襟元を掴み
「真の想いは、己だけにあれば良い」
自分にも相手にも言い聞かせよう
相手の瞳を見つめ
覚悟を共に
「私を愛する事も出来なくとも
私の愛は揺るがない
それこそが『ほんとうに大事』
―ならば
真の愛は―求めず、有りの儘を愛することだ…!!」
相手の体勢を崩し
指定UCを
心臓へ
彼岸花咲く限界突破の右腕拳を
胸の奥底で、痛みし想いこそ。
愛という名で語られるのであれば。
それでも、傍にと願うのならば。
愚かな程に一途でなければならないのだ。
ああ、それは判るけれど。
叶わぬと知りながら、追い求める願いはラルス・エア(唯一無二の為だけの・f32652)とて抱くものだから。
「愛する存在に変異と永遠という不変を願う……」
ラルスは諦念に似た感情を憶えて。
けれど、目の前の大祓骸は狂気と結び付いた愛を詠う。
全てを殺す事ができるという懐刀『生と死を繋ぐもの』を玩ぶ。
静かに、儚く。
けれど妖しき神へと、ラルスは紫の眸を向ける。
「それは矛盾では」
唇より零れる言葉は、突きつけるように。
大祓骸魂にとって、何より大切なものに疵を刻むため。
「……『変えなければ、求める意義も見出せないもの』を貴方は愛しているのか?」
この挑発は、ラルス自身の心も傷付けるけれど。
だからこそ芯に響く。
無視できないものだと、大祓骸魂の朱色の眸を揺らさせる。
「いいえ。求めるからこそ、傍にある為に変わるのですよ。……短命のおひと」
その刃は鈍なれど。
想いを宿し、時をかければ、何にだって届くものだと。
大祓骸魂が自ら、鳥居を潜りラルスへと歩み寄る。
囁く声は、恋の夢に溺れる少女じみていて。
けれど、禍の神としての眸で、ラルスの真実を見出して語るのだ。
「死んでなお。滅びて風に散れると判れど――叶えたい願いは、未練となるものは判るでしょう」
例えばそう。
「誰かとの約束だとか。不変で傍に、違える事なくと」
「それは確かに真実なのだろう。だが」
認める訳にはいないのだと。
自らも鳥居の連なる路を疾走するラルス。
それは青紫の風のように。
迷う事なく、臆す事もなく。
確かにその腕が届く間合いに至る為。
疾駆速度の秒数から大祓骸魂との間合いを測りながら。
されど。
大祓骸魂の濃密な虞は、視覚を初めとした五感に、第六感も狂わして。
ラルスの遠近感が奪い取られ、隔世の惑いに溺れていく。
いいや、それのみではなく。
「だが、なんなのでしょう?」
まるで此方と彼方を歪めて、縮めたように。
或いは、彼岸と此岸を繋いで結んだように。
唐突にラルスの左より囁かれる声色は、物静かに流れ往き。
走る懐刀の一閃が、ラルスの腹部を斬り裂く。
「……っ!?」
距離という概念を無視して顕れるは、さながら幽霊のように。
大祓骸魂の率いる百鬼夜行。
その意思は崩れず、結び付く程に強くなるのだから。
血の色を咲かせ、更に続けて走る懐刀の斬撃。
物静かとさえ言える挙動ながら、烈風と化して奔る切っ先。
余りにも速いそれにラルスの身が刻まれて。
幾つもの赤い彼岸花が、血飛沫で描かれる。
「だが――」
激痛に身を苛まれながらも、右へと跳ぶと見せるラルス。
一度距離を取ろうとするかのような動きなれど。
それはフェイント。
ラルスは痛みに、傷に、怖れるような者ではないのだから。
懐刀に急所を掠められながらも、果断を以て踏み込むのは大祓骸魂の懐深く。
伸ばした指先は、白無垢の襟元を掴み。
「――真の想いは、己だけにあれば良い」
自らにも言い聞かせるように。
秘めたる決意と共に、大祓骸魂の朱色の瞳を覗き込む。
ああ、これは覚悟なのだと。
魂に在りし、彼方の約束。
違えるとなれど。
別れることとなれど。
それでも、生きる事を選ぶものとして、懐刀を腹部に深く突き刺されながらも、ラルスは告げる。
「私を愛する事も出来なくとも、私の愛は揺るがない」
どのような悲しみと、痛みが訪れても。
絶望と、叶わぬ現実に心を苛まれたとしても。
ラルスは変わる事なく、想い続けるのみのだと。
「それこそが『ほんとうに大事』」
顧みぬ想いこそが、ほんとうに大事な愛なのだから。
そう伝えるラルスの紫の眸に、大祓骸魂の心が揺れる。
報われたいのだと。
傍にあり続けたいのだと。
身勝手な愛を、狂った思慕にて切っ先を向けるのは。
想い続ける痛みに耐えられないからなのだと、ラルスに気付かされて。
「――ならば」
深く傷を負い、血に染まり。
されど心と想いを揺らがせ、大祓骸魂と百鬼夜行の繋がりを断ち斬り。
狂いし神の姿を、体勢を崩させるラルス。
心在りし言葉あれば、如何なる神とて鎮められ。
己を厭わぬ魂は、理不尽さえ覆すのだと。
地面を滑らせる足先で大祓骸魂を転ばせ、地面へと投げ飛ばす。
最悪の妖怪である大祓骸魂も、結ばれぬ愛に溺れた少女に過ぎないのだと。
諭すように。
救うように。
或いは、自らに刻み込むように言葉を紡ぐ。
「真の愛は――求めず、有りの儘を愛することだ……!!」
故にと。
短き命を燃やすが如く、彼岸花の刻印が浮かぶ右腕を振るうラルス。
轟音を伴い、打ち下ろされるは心臓へ。
大祓骸魂が描いた他者の血ではなく。
己が魂にて、限界を超え、叶わぬものを掴み取るべく。
未来を拓き、手にすべく。
「ああ、ならば」
その刹那。
大祓骸魂の唇から零れるは、哀惜の声。
叶わぬというのなら。
どうしてなのだと、真実に悲しむ声。
「誰からも忘れ去れた私は、辿り着けぬ私は、そのような真の愛を与えられぬのでしょうか」
応えるべき言葉はラルスにはなく。
既に過去の存在となっていた神を、愛に狂った少女をと。
安らかなる場所へ。
纏いし覇気に、慈悲の願いを滲ませて。
黄泉へと葬るべく、右腕彼岸花の刻印を鮮やかに瞬かせる。
もたらすは、在るべき場所へと戻ること。
最早、大祓骸魂という存在は、儚くも狂いし愛の夢でしかないのだと。
未練が赤く染めた糸を。
骸の魂に絡み付き、この場に留めるそれを引き千切る。
今を生きて、明日へと辿り着くが為に。
ラルスの胸に焼き付く思い出を。
ひとつ、ひとつと増やすために。
少女の織り成した悪夢に、幕引きを。
大成功
🔵🔵🔵
忠海・雷火
人格変更
父、母、弟
私達は、家族との日々が欲しかった
学校や仕事の話、恋愛相談をしたり、悩みを聞いて、旅行したり、遊びで競争したり
新しい思い出、年を経て変わっただろう会話。変わる未来があって初めて見られるもの
だから……生きていて欲しかった。わかるだろう
変わる世界もきっと愛する貴女なら
語りつつ鳥居内を駆ける
狭いから軍団は身動き取り難い筈。地形利用し敵を盾にし、被弾を減らす
更に刀で足を薙ぎ払い転ばせ、後続の動きも含め阻害
防御は短刀で行い、触れた妖怪の骸魂を破魔で弱らせる
頃合い計り、疲れた演技で片武器を落とし隙を誘い
戦意低下と騙された敵間で崩れた連携の間隙縫う様に、大祓骸魂へUCの針を投擲。喰らうは心臓
なあ、わかるだろう。
永久に、傍にいたいと願うのならば。
別たれた悲しみに、心より血を流し続けるのならば。
生きる世界の美しさを、幸せに彩られた日常を。
愛おしく、大切なる瞬間を。
「わかるだろう」
連なる鳥居を駆け抜けながら口にするのは忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)。
いいや、その別人格であるカイラなのか。
深紅の眸を悲しげに、物憂うように揺らして。
過去を反芻すれば、薄闇に浮かぶは心にありし過去の残像か、幻なのか。
父、母、弟。その幻影が、通り過ぎていく。
カクリヨはあらゆるものを受け止める、優しき世界なのだから。
ならばこそ、それを率いる大祓骸魂とて、本来ならば。
でなければ、話など通じる訳がなく。
「私達は、家族との日々が欲しかった」
駆ける勢いで漆黒の髪を靡かせながら。
零れるカイラの言葉になど、耳を貸したりはしないのだ。
「学校や仕事の話、恋愛相談をしたり、悩みを聞いて」
日常への憧憬を。
自分の手では、決して届かないものを。
もう、叶わない夢の姿を、微かに揺れる声色でなぞる。
「旅行したり、遊びで競争したり」
そんな当たり前が欲しかった。
「新しい思い出、年を経て変わっただろう会話」
すぐ傍にあり続ける温もりが欲しくて。
変わりゆく笑顔が、表情と心が、眩いほどに愛おしい。
「変わる未来があって、初めて見られるもの」
それを追い求めたいと、心の底から湧き上がる想いは何処までも真実。
余りにも純粋だから。
手に執りし骸刀『焔喰』を振るい、迫る妖怪を斬り捨てながらも。
カイラの見つめる視線は、ただ真っ直ぐに。
届けるべき相手、大祓骸魂へと向けられている。
鬼の爪がカイラの腹を切り裂き、狐狸の牙が脚を抉れど。
溢れて流れる血も、身体を走る痛みも厭わずに。
カイラの繰り出す静かなる剣閃が、虞に引き寄せられた百鬼夜行を斬り払う。
「だから……生きていて欲しかった」
――わかるだろう。
何度も言葉を重ねて、その胸へと届けようと。
わからない筈がないのだと、カイラは深紅の眸を、狂いし恋慕に染まった大祓骸魂の瞳へと向けるのだ。
「変わる世界もきっと愛する貴女なら」
遊びあって笑ったり。
悩みに苦しんで、悲しんで。
移り変わる季節に、思いを馳せる。
止まらずに増え続ける記憶の頁は、愛と共に深く募っていくのだから。
「わかるだろう? ただ生きて、一緒に変わって、進んでいきたいと」
愛に狂うのならば。
永遠を願うのならば。
変わり往く日々の愛しさを、知る筈なのだとカイラが告げる。
だからこそ、そっと瞼を伏せる大祓骸魂。
零れる声は、ひっそりと。
胸の奥に秘めて、隠して、自分でも忘れてしまったものを形作る。
「……それが、叶うのならば」
叶うのならば、骸の海で変わらずに漂うよらり。
生と死を繋ぐように、人生という路を伴に歩み続けたい。
変わるというのは、終わりがあるという事であったとしても。
「終わるその瞬間まで、愛し続けたい。愛され続けたい」
狂いし災神ではなく、少女の嘆きが鳥居に響き渡る。
渦巻く虞は薄まり、殺意に狂奔していた百鬼夜行の動きが乱れる。
従えていた筈の大祓骸魂が揺らげば、意思を繋げることで強化されていた妖怪たちも鈍り、弱り、勢いを減じるのだから。
その一瞬を見逃さず、果敢に斬り込むカイラの姿。
「だったら、せめて。私達が、忘れ去られた貴女の傍にいこう。愛を思い出した、貴女の傍なら」
独りにはさせないのだと。
不変でははなく、永遠などないのだとしても。
ひとつも叶わぬ夢などないのだと。
狭い鳥居にて動きを乱す妖怪達の群れの中へと踊り出るカイラ。
爪も牙も。放つ炎も、纏う氷も怖れる事はなく。
敵を盾にしながら、するりと走り抜け。
下段に構えた骸刀にて、すれ違い様に脚をなぎ払い、鬼を転ばせて後続を詰まらせる。
刀身か纏う破魔は、妖怪化させた骸魂そのものを弱らせ、次々と妖怪たちを討ち取っていく。
黒と赤の斬閃は、禍々しさ携えど。
優しき美しさを、その裡に秘めさせるもの。
悲しき骸魂たちに。
叶わぬ想いを持つものに、安らぎをと刃が鳴く。
故に、次第に斬り崩される百鬼夜行。
従える大祓骸魂の意思が揺らぎ、清冽な戦意をもってカイラが挑むのだからもはやこれは当然。
闇を払うは、何時だって光なのだから。
もう少しで届くのだと、カイラの振るう切っ先が鋭さを増す。
捨て身の如く、鬼が繰り出した棍棒の一撃を受けた短刀が掌から弾き飛ばされるが、放つ刺突がその喉を穿ち抜き。
身ごと骸刀を翻せば、鬼の首が空へと斬り跳ばされ、霧の如く霧散する。
苛烈なまでのカイラの攻勢。
故にこそ疲労は蓄積し、負傷は重なり。
動きが僅かに鈍り、百鬼夜行が殺到する。
「ああ」
叶わぬのか。
あなたも、またこの私に、大祓骸魂に届かないのかと。
痛み続ける心臓に、触れてはくれないのかと。
大祓骸魂が視線を落とした瞬間。
百鬼夜行の群れより、連携の崩れた間隙を縫うように。
奔り抜けるは深紅の一条の光。
『我が身に宿る餓犬よ。血道を辿り、内より喰い散らせ』
カイラの刻印より投擲されたそれは術式誘導の血針。
さながら、大祓骸魂の求めた赤い糸のような軌跡を残し、その心臓へと突き刺さる。
「わかるだろう」
再度、言葉を重ねて。
いいや、何度でも続けるカイラ。
「生きて欲しいという、変わる世界の願いが。……そこにある、愛が」
ただの邪神として終わって欲しくなくて。
救う事など出来ないと、別っていても。
せめて想いばかりは。
掬いあげて、抱き締めてあげたいのだと。
針を通じて刻印より痩躯四足の餓えた猟犬が呼び出され、大祓骸魂の心臓を裂き喰らい、胸より飛び出す。
鮮血の花を、さながら赤き彼岸花のようにその胸から描きながら。
それでも死なない。
死ぬ事のできない、大祓骸魂が囁く。
「……それでも、『あなた』の傍にいたい」
涙を流す事もできない、少女のように。
心臓より鮮血を流す大祓骸魂が、哀惜の念を。
叶わぬ愛の言葉を零すのだ。
「出来るのならば。変わり続ける『あなた』の愛を……」
それを見届けてみせよう。
貴女は、名を忘れ去れたとしても。
決して世界から愛されなかったのではないのだと、カイラと雷火は記憶に刻んで。
この先へ、未来へ。
ふたつの世界が変わりゆく、美しさと、愛しさを見る為に。
何れ、骸の海に漂う貴女に。
変わり続ける世界の愛を、届けよう。
刃や血ではなく、両手に抱える程の花束と伴に。
大成功
🔵🔵🔵
鳴宮・匡
【無形の影】で銃を象る
連なる鳥居の中で立ち回るなら、向こうも動きの択を絞られる
襲い来る刃を払い除ける銃弾は最小限
自身が致命傷を食らわない程度でいい
代わり、相手の逃げ道を狭める狙撃を多く絡め
動きを制限していくよ
届かなくとも想い続ける
その気持ちだけは、わかる
俺だって、胸の裡にあるこの想いを
諦めたいと思ったことはない
でも、俺は
世界の彩に心揺らし、続いていく日々の中で笑う
その様の全てをいとおしいと思うから
死で留めたいとは思わない
彼女の生きる世界を、日常を守りたいと
その想いばかりが強くなる
だから、負けない
この世界は殺させない
そう思う限り、引鉄を引く指は鈍らない
心臓を狙える隙を晒すまで粘り強く戦ってみせる
痛みも、迷いも。
戸惑う心も、振り返りたくない過去も。
けれど、そこに抱いた願いも全て自分なのだから。
なにひとつ、もう零したくはないのだと。
連なり続ける赤い鳥居の下で、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は佇む。
凪の海のような、穏やかな貌は変わらずとも。
焦げ茶色の瞳は、ただ独りで佇む大祓骸魂を見据えて。
「ひとりきりじゃ、ないからさ」
夥しい死を積み上げてきた昔の自分や。
これからまた、世界そのものを殺めようとする大祓骸魂とは。
もう違うのだと。
静かな決意と伴に、黒き影にて銃を象る鳴宮。
「進む道は退かないし、譲らない。ただ、進みたいんだ」
立ち並び、遥か遠くまで連なり続ける鳥居。
狭い此処で立ち回るならば、向こうの動きの択も絞られる。
逆にいえば鳴宮もそうなのだが。
決して退かないと口にした通り、越えてみせるのだと銃口を覗く瞳が揺れる事はない。
故に、すぅと。
薄闇の中に浮かび上がる、無数の懐刀。
時間をかければ何だって殺せる、『生と死を繋ぐもの』。
数えるのが馬鹿らしくなるような切っ先を前にして、それでも怯まずに銃声を響かせる鳴宮。
同時に降り注ぐ雨の如く、一気呵成にと襲い懸かる懐刀たち。
けれど、それらを打ち払う弾丸は最小限。
戦いに支障をきたすような深手と致命傷さえ避ければいいと、身に幾本もの刃を突き立てられ、鮮血を散らせながらも。
鳴宮の放つ影の弾丸は、遠くにある大祓骸魂の動きを制していく。
その身を穿つ事は叶わずとも。
狙撃にて放たれる一撃、一撃が、大祓骸魂の挙動を絞り、次の動きをと読みやすくする。
時に弾丸が、手に携えた懐刀で弾かれたとしても、鳴宮は動じることなく。
唇より、微かな声を漏らす。
この距離では、届かずとも。
誰かの耳に、心へと響かずとも。
自然と零れるのは、これが紛れもない想いだから。
「届かなくとも想い続ける」
その気持ちだけは、判るのだ。
戦場を渡り歩き続けた時だって。
或いは今、叶わずともと願い始めたものとて。
「俺だって、胸の裡にあるこの想いを、諦めたいと思ったことはない」
だから。
世界を滅ぼす程の愚かしいまでの愛で。
他は何も見えない程の、視野の狭まった一途さで。
恋慕に狂いし大祓骸魂の全てを否定する事なんて、出来はしない。
いいや、鳴宮はしないのだ。
「でも、俺は」
世界の彩に心揺らし。
移り変わる日常に、誰かと共に歩む続いていく日々に。
笑いたいと思うのだ。
今日と明日で、違う笑顔を浮かべたいと願うのだ。
ほんの些細なことでいい。
異なるひとつ、ひとつ。
交わすさりげない言葉の、ひとかけら。
重ねて、織り成す記憶の情景。
その様の全てをいとしいと思うから。
全てが優しくて、美しいものではないとしても。
今握り絞める銃が破滅を宿す、“こころ”の影が模すものであったとしも。
握る指に流れる想いは、終わりを求めてなんかいないのだ。
「死で留めたいとは思わない」
浮遊する懐刀が太股に突き刺さり、痛みと鮮血が流れても鳴宮は動じない。
そんなものよりも。
傷より、痛みより、大切なものがあるのだから。
悲しいものに、凄惨なことに、取り返しのつかない過去へと目を向けるばかりじゃなくて。
「彼女の生きる世界を、日常を守りたいと」
その思いは、募るばかり。
まるで南天の身の如く、赤く、赤く。
「その想いばかりが強くなる」
鮮やかに、鳴宮の胸の裡で揺れるから。
血の赤さなど、褪せているのだと。
そんなもの、胸にある想いに比べれば意味がない。
ああ、そういう意味で言うのならば、きっと同じこと。
「だから、負けない」
想いの形として、約束として心に浮かぶのは。
あの美しき色と、愛しい声。
絡まる糸が何へと結び付くのか。
判らずとも、鼓動は疼き。
刃で刺された傷より痛むから。
「この世界は殺させない」
殺すということではなく。
鳴宮は生き続けて、進むという事を選ぶのだから。
誰かと、彼女と伴に。
ひとりきりの大祓骸魂という、悲しい存在などに。
この想いは、約束を結びし心が劣る事などないのだ。
そう信じ抜いて、思い続けるからこそ引鉄をひく指は止まらず、鈍らない。
明日へと進み、変わり続ける事を願う鳴宮は。
永遠という夢に溺れ、進んで変わる事を捨て去った過去の骸を越えて往く。
そう、長く、長く続いた互いの身を削る戦いも。
前へと進むという想いが、勝敗を別つのだ。
どちらも身の痛みなど知らぬと、一途に想うものだからこそ。
たったひとつのその違いが。
死を求めず、守りたいという願いが。
心臓を狙うその一瞬を、見出して。
放たれる影の弾丸は、ついに不変を願う鼓動を撃ち抜いた。
舞い散る鮮血は。
まるでランタンから零れる幻橙の光のように見えたのは。
ただの錯覚のか。
全てを受け止める、このカクリヨの優しさなのか。
判る事実はひとつだけ。
世界さえ殺める狂愛の刃は、此処にて終わり。
この世界で、鳴宮は生き続ける。
誰かと共に。その心と願いと伴に。
永遠などないのだとしても、構わない。
変わりて移ろう。
万華鏡の如き世界の色彩を、愛しみがら。
吐息を零して、名を形作ろう。
生きるべき彼女の、その名を。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
大祓が愛した現世に似せ幽世拵えたなら
住まう命は彼女の愛と存在の証左
それを壊すなどさせたくは…
懐刀弾き進む先
白無垢
紫髪
女二人
帝国に囚われた私を救いに来たあの人を殺め
今日はこの子の愛かしら?
アレクシア様
それが私の…
本当は貴方の骸を見たい
けど
女、玉座の電脳禁忌剣投げ渡し
大祓騙し討ち
二つの世界を救いなさい
優しいあの人はそう望むから
そして
例え忘れられても
貴方に刻まれている物語が好きだった愛する人に
私は生きて欲しかったから
全力魔法捨て身の一撃一閃
五体砕け
拒絶が如く剣も骸の海へ還ってゆく
結局
二人の女の愛に
咎持つ騎士気取りの出る幕は無く
嗚呼
大祓に何も出来ぬこと口惜しく
女が瞋恚抱え骸の海に微睡んでいること哀しく
それが狂気に染まった恋慕だとしても。
あった事には変わらないのだから。
想いをなかった事になど、御伽の騎士は出来ないから。
悩みに揺れる思考を捨てることできず、連なり並ぶ鳥居の下を白き戦機が駆ける。
不器用で、一途で。
ある意味で愚かなのは、きっと同じ。
想いと理想に殉じるとは、そういう事なのだから。
「大祓骸魂が愛した現世に似せ、この幽世を拵えたならば」
住まう命は彼女の愛と存在の証左。
例え、届かないものだとしても。
忘れ去られてしまった、悲しい夢だとしても。
「それを壊すなどさせたくは……」
ないのだと。
悩みと憂いを振り切り、儀礼剣による白き剣閃にて懐刀を弾くはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
願いに焦がれるその身に迫る刃は数えきれず。
湧き上がる懊悩と同じく、鋼の身を刻み、あるかも定かではない心に痛みを走らせる。
こんな身体など。
所詮は作り物だから。
本当の愛というものを、心というものを救いたいのだと。
「殺めるなど、させたくはないのです……!」
守る為、救う為にこの鋼鉄の身体はあるのだから。
切れ味など捨て去り、頑強さのみを求めた儀礼剣を振り翳し。
数多に浮かび、空間を踊る懐刀たちを斬り弾き。
大盾で受けて押しのけ、前へ前へと。
未だ遠い、大祓骸魂へと声をかけるべく。
「貴女の愛を、死の赤さで染めさせたくなど……!」
悲劇の闇を切り裂き。
朝焼けのように眩い希望の光を見出そうと、トリテレイアは懐刀たちに装甲を削られながらも前へと駆け続ける。
けれど、その翠玉のようなモノアイに映るのは。
白無垢に身を包み、懐刀と指から赤い血の雫を零す少女と。
機械の玉座に座り、冷ややかな隔世の風に紫の髪を靡かせる女の姿。
どちらも幻のように儚くて。
報われない惨劇の気配を滲ませながら。
こんな身を救いたいの。
そんな罪深い、闘争の為の戦機が。
妖しさを帯びるほどに深い情念を向けるのだ。
――ひとの想いを、知った気になった鋼の人形が。
「……っ!」
それは優しく残酷な隔世の見せる幻か。
空間に渦巻く神智を越えた虞が、黄泉たる骸の海に繋げたせいなのか。
全ては確かではなく。、
忘れ去られた神は物静かに微笑み、『生と死を繋ぐもの』の切っ先をトリテレイアに向ける。
さあ。
自らの罪咎に。
永久に苛む想いに、向き合いなさいと。
でなくば、愛に狂いし神に謁見など許されないのだと。
「魂ないと、盲信するならばなおのこと」
囁く大祓骸魂に、くすりと冷たい微笑みが重なる。
ああと。
確かに、トレテレイアは罪深い。
誰も彼をも救おうと、清冽ながら勇猛に。
何にも臆す事なく進むのだから。
けれど現実は結果として――どれだけ殺したのかと。
玉座に座る紫の女の眸が、鋭くトリテレイアを射貫く。
『帝国に囚われた私を救いに来た、あの人を殺め』
その白い装甲など上塗り。
夥しい返り血で、赤黒く錆び付いた戦機がお前なのだと。
紫の女は、冷たく笑って告げる。
『今日はこの子の愛かしら?』
戦い、壊して、奪うしか能のない。
『誠に騎士たる身を希うのなら、まず己を恥じて死になさい』
それがせめてもの贖いなのだと。
紫の女の幻は、翠の眸をゆっくりと細める。
奇しくもそれは、トリテレイアに似た色合いで。
「アレクシア様……」
その紫の髪と、翠の眸の女性の名を。
かつての主の名を呟き、身を軋ませるトリテレイア。
「それが私の……」
続く言葉はなく。
動揺に動きが鈍る、トリテレイア。
瞬間を見逃さず、五十を超える懐刀が一斉に襲いかかり、剣を握る右腕に突き刺さり、遥か後方まで斬り跳ばす。
連なる刃は、それこそトリテレイアを断罪するように。
鈍くらとは思えぬ、狂気宿す切っ先が鋼の断末魔を奏でる。
『本当は貴方の骸を見たい』
死をもって贖えと。
訴える女の心に嘘偽りはなく。
「そう、私は愛しいあの世界を殺めたい」
重なる大祓骸魂の、無垢なる殺意にトリテレイアは晒されて。
「永久不変に、愛しく傍に。鮮やかなる過去を、色褪せさせずに」
百はあろうという懐刀が鳥居の裡を埋め尽くし。
如何なる盾であろうと、戦機の身であろとも。
果てるまで切り刻むのだと、するりと懐刀が泳ぐ。
「私の刃はなまくらだけれど、時をかければ、それほどの想いを注げば、誰だって、何だって、殺せるのだから」
願い叶うまで、想い続けるのだと。
大祓骸魂の朱色の眸が妖しく輝いて。
トリテレイアに死という贖いと救済をもたらそうと、艶やかな赤に塗れた刃が踊る。
そう、瞬間で終わりを。
生から繋がり、死へと転がるその刹那を。
『けれど、それは今じゃないの』
紫の女が玉座よりトリテレイアに投げて渡すは、一振りの剣。
女の髪と同じ色の花の意匠が凝らされた。
電脳が成した禁忌にして、不壊の剣。
星さえ砕かんと力を秘める刀身は、大祓骸魂の握る懐刀に似て。
けれど、違うのだと。
振るう想いによって、力とは変わるのだと。
星を渡る程の技術は、誰も彼の夢をも救い、叶える為にあるのだから。
――それだけは、憶えていてと。
盾を捨て去り、禁忌剣を握り絞めるトリテレイアに伝わる、重さと響き。
声ではなく。質量ではなく。
何と判ずるべきか判らないのは、決してトリテレアが認めぬものだから。
己の裡にはなく、触れることのできないものだとトリテレイアが頑なに盲信するが故に。
禁忌の剣を振るうに値するのだと、女が諦念に似た笑みを浮かべる。
許すことなど、出来なくとも。
『二つの世界を救いなさい』
柔らかくというには、なんとも悲しげで。
唇を震わす苦しさは、祈りのように。
『優しいあの人はそう望むから』
その言葉が届くと伴に。
隻腕となったトリテレイアが、戦機の怪力と禁忌の刃をもって迫る懐刀たちを斬り砕く。
「……承知しました」
他者からの命令を受けることで。
ようやく、トリテレイアの電子頭脳に凍結封印されていたデータが、力と技能が、禁忌剣を十全にて手繰りて、滅ぼすべきもののみをその斬刃にて葬るのだ。
例え星であったとしても。
星を呑み込む程の怪物であったとしても。
世界を滅ぼす、悲しい程に狂いし愛だとしても。
『そして、例え忘れられても』
忘れられたといのうならば女とてそう。
今ようやく名を思い出され。
呟かれた創造主は、涙を零すこともなく。
許せぬという想いと、それでもという願いにて。
御伽の戦機へと、懇願(オーダー)の声を織り成す。
『貴方に刻まれている物語が好きだった愛する人に』
少なくとも私はそうなのだと。
更に二倍以上の懐刀を浮遊させる大祓骸魂に、悲しげに一瞥をくれて。
『私は生きて欲しかったから』
伴に在れないから。
死んで欲しいなんて、頼めない。
煉獄で一緒になんて、少女の夢語に浸れないから。
「ええ……重ねて、承知しました」
故にと全身に限界を超える力を溢れさせ。
炉心より自壊する程の出力を、剣より溢れる魔力を纏い。
トリテレイアが繰り出すのは捨て身の斬撃。
元より幾度とて振るうこと叶わぬ力を秘める禁忌剣。
星すら斬滅する刀身を耀かせながら。
さながら、彗星の如く大祓骸魂の元へと駆け抜けるトリテレイア。
自らの力で両足に罅が刻まれど。
振るいし禁忌剣と、大祓骸魂の握る懐刀が激突する。
戦機が自壊しながら繰り出す星砕きの刃と、愛に狂った神の腕にて手繰られる刃。
音は余りにも澄み切りながらも、二振りの刀身は壮絶そのもの。
空間が撓み、次元が歪む。
叶わぬ想いをそれでもと。
ふたりの女の愛が、世界さえ裂かんと刃の歌を奏でて。
弾き合い、拒み合う。
「それでも」
諦めないのはお互い様。
けれど、独りではなく、命じたものがあるから。
禁忌剣に宿る願いは、ひとつだけはないのだから。
トリテレイアの身を砕け散りさせながらも、続く一閃が大祓骸魂の身へと届く。
守るが為に在る戦機が、『貴女』の愛と祈りが為に、今は全てを捨て去り。
その胸へと、懐刀『生と死を繋ぐもの』を深く刺されても。
この程度では、死ぬ事も叶わぬ戦機の身だから。
「禁忌剣アレクシア……それが貴女の夢を葬る、女の愛です」
「そうですか」
ばらばらと崩れるは、むしろトリテレイア。
反動と出力過多で五体が崩れ去り。
その欠片たちへと、ぽとぼとと大祓骸魂の鮮血が降り注ぐ。
「なんとも。そう、なんとも」
大祓骸魂とて軽い傷ではなく。
よめろく身体で、腕で、トリテレイアの頭部に触れて。
「……終わらせるには、美しい女の愛と騎士に剣」
そのまま懐刀を振り下ろせば、終幕なれど。
静かに、静かに。
幻のように儚く、血のように妖しく。
大祓骸魂の声が、唇より零れる。
「ここで御伽と奇譚にこんな終わりなど、それこそ私の愛が認めません」
ああ、と。
ノイズばかりのトリテレイアの声はもう届かない。
留められなかったのかと、痛みを覚えて。
救うことはできなかったのかと、苦しみ抱いて。
永劫続く、罪に塗れた騎士の道を思い浮かばせさせる。
ひとりでは、けっして。
そこから抜け出す事は出来はしないのだと。
今のトリテレイアを拒絶するが如く、地面に転がった禁忌剣も骸の海へと還り。
鳥居の元に残されたのは、壊れかけたトレテレイアだけ。
ふたりの女の愛を前にして。
咎を持つ騎士気取りが出る幕はないのだと。
「嗚呼」
永遠を求めるの罪咎なのかと。
応えることさえ、できなかったのだと。
大祓骸魂という、神にして少女に。
報われぬ愛という病に苛まれた少女に何も出来ず、救うことできず。
悔しくて。口惜しくて。
それでも生きる事を。
世界を残す、その一助となれた事だけは確かな筈なのだけれど。
それは、まだ御伽の騎士の路が続くということ。
癒えぬ傷口から、血が零れ続けるのを見続けるしかないのだと。
女が瞋恚を抱え。
骸の海に微睡みながら。
癒えぬ傷と病巣が、じわりと進んでいくいく事が。
ただ、ただ哀しくて。
けれど、もはやトリテレイアには声を紡ぐことさえ叶わない。
五体も砕ける程の、捨て身の後では。
何もかも捨てた騎士の路の後に、続く物語はないのだから。
ただ先へと、進んで変わるしかない。
不変であれば感じずにすむ、懊悩と苦痛を懐きながら。
今は想いを届けた欠片として、トリテレイアはこの世界にある。
大成功
🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
【彼岸花】
──そうですね。永遠があればよかった。
死と忘却に拭えないものがあれば、きっとこんな戦争は起きなかった。
破滅の灰の奥底に全てを埋めてきたわたくしにあなたを非難する資格などありますまい。
けれど。
だからこそ未来を想うのだという結実がここにいる。
例え身は朽ちたとて。
繋がり続ける心は、想いは、連綿と結ばれる。
だからわたくしは世界を守ります。
アイリス様が願い、ネグルが受け取って、
大切なみんなが生きて、紡ぐ明日を見続けたいから。
おいで、【神遊銀朱】。
虞を揮う腕を、その袖を、愛の咲く地へと縫い留め、拘束し。
心の臓へと一献捧げましょうや。
その心を抱き続けるは苦しいでしょう。
どうか、もうお眠りなさい。
ネグル・ギュネス
【彼岸花】
永遠など無い、ありはしないんだよ
確かに俺にも救えなかった人がいた
邪神の眷属となりて、対峙し、再度討ち滅ぼす羽目にもなった
何より、救われぬと勝手に決めないで貰いたい
彼女は私に託し、私は思いを背負った
何より、互いに伝えきれなんだ思いを繋ぎ合えた
何より俺は/『私は』強く生きていけたし、迷わず戦えた!
未来の為に、何より互いが思い合った願いと愛の為に、歩み背負うと誓った
未練は無いとは言わない、今でもな
だけど彼女は、アイリス・エトワールは其れを善とはせん
永遠よりも、今を、明日を、未来を、限りある命を強く生きて幸せになれ願われたんだ
愛する人の願いを違える事などはせん
まやかしの永遠よ、此処で潰えよ!
現とは思えぬ隔世の冷ややかな風を受けて、なお。
ただ真っ直ぐに歩む少女の姿は、一振りの刀のよう。
迷うなく、ただ想いの儘に果敢。
臆するものなどないから、その赤い眸は鋭く、美しく。
全ての名残を、捨て去るように。
ひっそりと唇より声を零す。
「──そうですね。永遠があればよかった」
けれど、そんなものはないのだと。
ないからこそ、この刃があるのだと。
穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は鏡の如く煌めく結ノ太刀の刀身をするりと泳がせる。
「死と忘却に拭えないものがあれば、きっとこんな戦争は起きなかった」
誰かの為に血を流し。
その赤さをもって、死を呼び込み過去へと変える。
悲劇と呼ばず、なんというのだろう。
それを切り拓くが為に、刃はあるのだと穂結はその意思をもって伝えるのだ。
「破滅の灰の奥底に全てを埋めてきたわたくしに、あなたを非難する資格などありますまい」
けれど、と。
視線を逸らすことなく、切っ先と共に大祓骸魂へと向ける穂結。
声は何処までも透き通り。
世界の隔たりさえ、越えるように。
如何なる時が流れても、この想いは朽ち果てないのだと。
「だからこそ未来を想うのだという結実が、ここにいる」
狂気に蝕まれた愛の元に。
時をかければ、誰でも、何でも殺せる刃を止めるべく。
「例え身は朽ちたとて」
戦にて倒れ、土へと還り。
燃え尽きて灰となり、何処かへと風に運ばれたとしても。
「繋がり続ける心は、想いは、連綿と結ばれる」
穂結に願われた想いは。
そして今も共に在る心は、きっとそうだから。
受け継がれる志の輝きこそ、消え果てる事のない尊さなのだと。
声にて届かぬならば、刃にて訴えうるべく、結ノ太刀を構える穂結。
その傍らで、ああと頷くのはネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)。
白い髪に紫の眸。
精悍なる貌には、疵が刻まれど。
それがなお、戦の裡でも消え果てぬ想いを示すのだ。
幾ら傷つき、痛みを覚えて。
自らの半身と記憶を失って、それでもなお立つのだと。
歩き続けるのが、ひとなのだと。
「永遠など無い、ありはしないんだよ」
ネグルは自らの路が、永遠ではない事を知っている。
日常も、心に抱いた想いも記憶も。
いずれは露と消えるものだと、別っていて。
「確かに俺にも救えなかった人がいた」
それどころかと、機工刀の柄を強く、強く握り締めて。
「邪神の眷属となりて、対峙し、再度討ち滅ぼす羽目にもなった」
鞘より抜き放つ機工刀の銘は天花一条『裂空』。
白刃に宿った鋭き輝きをもって、大祓骸魂へとネグルの意思を示すのだ。
お前の絶望と悲しみになど。
飲まれて、流され、決められてやるものかと。
「何より、救われぬと勝手に決めないで貰いたい」
穂結が語ったように。
報われぬ結末があれど、連綿と受け継がれた想いが、ふたりの刀には宿るから。
絶望も惨劇も、破滅さえも越えて往こう。
そこに人の思いと、日常という光があるのならば。
「彼女は私に託し、私は思いを背負った」
大祓骸魂の愛がどれほどに深いものであれ。
魂と世界に絡み付く、赤い糸の切実さが如何に美しいものであっても。
「何より、互いに伝えきれなんだ思いを繋ぎ合えた」
この繋がりを、絆を。
越える程の何かがあるだろうか。
無惨に断ち切れる程の理由と、強さなどある訳がないのだから。
「何より俺は/『私は』強く生きていけたし、迷わず戦えた!」
意念を込め、ネグルが機工刀より呼び覚ますは閃光の権能。
より光を求めて。
ただ前へと進み続けるのが、ひとなのだから。
「未来の為に、何より互いが思い合った願いと愛の為に、歩み背負うと誓った」
故に、大祓骸魂の虞に呼び寄せられた百鬼夜行の群れへと。
明日への希望願い、命燃やすと誓いを立て、真の姿へと変じて斬り込むネグル。
果断なるは勇と信念故に。
譲れぬ誓いこそ、胸の奥で脈打つのだから。
迫る鬼の腕を斬り捨て、巨狼の首を突き刺して。
血飛沫乱れる最中で、光刃と伴に踊る。
「未練は無いとは言わない、今でもな」
「それでも、と仰る?」
静かに佇み、ネグルと穂結の言葉を聞いていた大祓骸魂が問いかけながら。
からん、からんと下駄を響かせ、歩み寄る。
「だけど彼女は、アイリス・エトワールは其れを善とはせん」
神智を越えた虞が渦巻き、大地に狂愛の赤に満ちた彼岸花を咲かせる大祓骸魂。
此処は己が領域なのだと。
何を語ろうとも、それはひとのそれ。
神なる身として一足に飛び込むは、白無垢姿の少女と思えぬ程に速く。
懐刀が、一途な殺意によって斬閃を描く。
舞い散るは、赤。
首と肩の付け根を斬られ、致命すれすれの裂傷を負いながら。
ネルグは狂いし神たる大祓骸魂へとぶつかり、鍔迫りを演じる。
その刃を、凶行を止めるために。
互いの吐息さえ感じる距離で、はっきりと告げる為に。
「永遠よりも、今を、明日を、未来を」
ぎちぎちと、機工刀の刀身が悲鳴をあげる。
少女の繊手に違いないのに、恐ろしいまでの力。いいや、虞を纏い、狂い咲く彼岸花の上に佇む、邪神の刃。
止められず、次第にネグルの心臓へと近づく懐刀の切っ先。
それでもなお、一切の恐怖はなく。
張り上げられるネグルの声は、決意に満ち溢れて世界を震わす。
「限りある命を強く生きて幸せになれと、願われたんだ」
ならばそれに従い、殉じるのみ。
愛と絆をもって懇願されし男が怯むことなど、死神を前にしたとしてもある筈がなく。
烈士の如き勇猛さを。
曇ることなき信義にて、狂いし神たる大祓骸魂の動きを止める。
力ではなく、技ではなく、ただ命を燃やす程のひとの願いをもって。
「束ねられ、此処に結ばれた想いを、甘くみるな……!」ヶ
ならばこそ、その先を紡いでみせよう。
緩やかに切っ先を泳がせるは穂結。
剣に舞うかのように優美なれど。
それは斬刃の意にて、踊りし神の御技。
偽りなれど、真に迫り。
過去の真実と違えど、それを越える程の想いを秘めて。
「だからわたくしは世界を守ります」
詠うように静かに、告げられる穂結の宣誓。
周囲を取り囲む百鬼夜行をするりと斬り伏せながら。。
舞い散る血と彼岸花の禍々しい赤さを、鎮めるように。
「アイリス様が願い、ネグルが受け取って」
そうしてここにある路を、世界を。
鮮血の彼岸花で満たすなど、させはしない。
殺める花など不要。
自分たちが彼岸花に望むのは、ただひとつ。
――また会う日を楽しみに。
それが、奇跡のようなものだとしても。
叶わないと決めつけるほど、穂結もネグルも薄い意思と願いではないのだから。
「大切なみんなが生きて、紡ぐ明日を見続けたいから」
愛しさとは、そういうものの筈だと。
大切なみんなと共に、紡ぎ続けるもので。
不変なる過去に留めて、終わらせてしまうものではないのだと。
「おいで、【神遊銀朱】」
偽りなれど、集いし想いは真となり。
継承された志は、かつての真実を越えて往くのだと。
「愛する人の願いを違える事などはせん」
現実も未来も守るが為に。
白き迅雷と化して、ネグルは機工刀を揮う。
全身全霊を燃やして放った一刀は大祓骸魂の懐刀を弾き飛ばし、姿勢を崩させる。
追撃の烈閃は、ひらりと軽やかに躱されども。
それは当たれば大祓骸魂でも驚異なのだと、ネグルの刃を、愛を認めたこと。
「ああ」
溜息を零す大祓骸魂。
何処か嬉しそうに朱色の眸を揺らして。
ネグルの傍まで駆け寄る穂結を見つめるのだ。
射干玉の夜色を宿す艶やかな長髪を靡かせ、穂結は前へと躍り出る。
「虞を揮うその腕」
穂結が虚空へと結ノ太刀を滑らせれば。
複製された刀身が飛翔し、大祓骸魂の袖を愛が狂い咲く地へと縫い止め、拘束し。
「本当に掴みたいのは、そんな死を呼ぶ懐刀ではないのでしょう」
「ええ……その通り」
血で濡れたものではなく。
屍を抱き締めるのではなく。
生き続けられるのならば、それはなんと幸いか。
誰も彼もが知る、叶わぬ隔世の夢でありながら。
大祓骸魂の胸に浮かびし幻想ごと、その心臓へとネグルの機工刀が斬閃を刻む。
咲き誇るかのような、深紅の血飛沫。
その中をするりと、泳ぐように。
ただ果敢に、鋭く、真っ直ぐに。
人々に願いかけられる刀たる身と知る穂結が更に迫る。
「その痛み続ける心の臓へと、一献捧げましょうや」
静謐なるまでに研ぎ澄まされた刺突が奔り抜け。
続けて大祓骸魂の心臓へと、音も無く刃が届けられる。
その命を、存在を、うっすらと消えさせながら。
熱意を宿すネグルの眸を、大祓骸魂が覗き込む。
「まやかしの永遠よ、此処で潰えよ!」
向けられるのは、何処までも雄々しく、凜々しき男の視線と想いで。
ならばと、愛に濡れた声を、名を喪った神なれどと、告げるのだ。
「その愛と願いが、忘れ去られませんように。数多の花のように、散り逝かぬように」
それは祈りか、呪いか。
愛しか知らぬ神のもたらす祝福を、ネグルは受け止めて。
「その心を抱き続けるは苦しいでしょう」
過去の愛は、確かに不変で不滅であっても。
新たに芽吹く幸せは無いのだから。
痛み続け、悲しみ続け、他者と自らの心を殺め続けるばかりならば。
「――どうか、もうお眠りなさい」
穂結は諸手の指を柄に絡ませて。
そこに宿る魂を、絡み付く虞ごと斬り祓う。
きっと穂結とネグルが断ち斬ったのは、運命の赤い糸ではなく。
夥しいまでの、愛さえ歪めてしまう虞なのだろう。
忘れ去られたという悲嘆の鎖を、斬り捨てて。
その魂は、骸の海へと漂いゆく。
愛を知るならば。
願い続けることを知るのならば。
狂気と妄念より解き放たれたそこで。
彼岸花のみならず、赤い花のみならず。
色彩が踊るような四季の草花にて囲われる筈なのだから。
梨、棗、黍に粟つぎ、延ふ葛の。
後も逢はむと、葵花咲く。
赤く染め抜かれた夢から目覚めれば。
そこにあるのは、きっと優しい光だから。
永遠なんていらないと思えるほどの、愛しさと温もりに囲まれて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
緋翠・華乃音
……君を阻む資格なんて、無いのかも知れない。
君が生に死を与えて愛を叶えようとするように、
俺もまた死に生を与えようとしているのだから。
――寧ろ、自然の摂理に銃口を向けているのは俺の方。
この世から去った者を、黄泉路から連れ戻そうなんて。
俺は君に共感するよ。
痛いくらいに気持ちは分かる。
想いは同じことなのだから。
別たれた生と死を繋ごうとすること。
戦闘は虚実と表裏を織り混ぜて。
研ぎ澄ませた合理性で最適解を導く。
五感と直観の賦活。
戦場に起こる事象の全てを知覚する。
懐刀は軌道を見切ろう。
有って無いような死角を拳銃の銃撃で道として拓く。
永遠を求める君に辿り着けばナイフを心臓に突き立てる。
彼岸花を踏まぬように。
ひらりと、隔世の風に蝶が舞うように。
音をたてぬまま、穏やかな気配を漂わせて。
雪月のように御空色を僅かに帯びる銀の髪を。
冬に満つる白百合のような肌を。
精緻に整った白皙の美貌を。
その幻想のように繊細な容姿を、虞を含む隔世の空気に晒して。
緋翠・華乃音(終奏の蝶・f03169)は、大祓骸魂の前へと姿を表す。
白無垢は血で汚れて。
懐刀をもって、幾つを斬って、斬られたのか。
それでも変わらず、物静かで妖しい微笑みを浮かべて、緋翠へと切っ先を向ける。
この愛の一筋の路を。
阻むのならば、ねぇ。
私に負けない程の愛を見せてと。
愛しか知らない、愚かなる少女のように。
ならばこそ。
「……君を阻む資格なんて、無いのかも知れない」
薄い唇から零れた緋翠の声に。
僅かに動揺し、刃を揺らす大祓骸魂。
ああ、確かに。
阻まれると別っているから。
永遠を求めて、殺めて、不変の過去にするなど。
罪咎であると、大祓骸魂とて知っているのだから。
それでもと、止まれないのだ。
鼓動が疼く限り。
哀切の情動が、脈打つ限り。
「君が生に死を与えて愛を叶えようとするように」
するりと静かに。
瑠璃色の眸を瞬きで隠しながら。
右手に執るは軽やかなるコンバットナイフ――『to be vengeance.』
復讐を重ねて結ぶ刃と共に。
左には冷たき眠りを告げる瑠璃蝶の拳銃、『to be silence.』が。
零れる言葉と裏腹に戦いに臨むのだと、静かに告げている。
「俺もまた死に生を与えようとしているのだから」
ああと、淡い溜息をひとつ。
緋翠は微かに、喉より紡いで。
「――寧ろ、自然の摂理に銃口を向けているのは俺の方」
なぜならば。
神でも叶わぬ事を、緋翠は望むのだから。
「この世から去った者を、黄泉路から連れ戻そうなんて」
どうしても。
なにをしたとしても。
叶わないと、報われないと判っていても。
それをしなければ、呼吸さえままならない願いがあるのだから。
「私も、むしろ……そうできればよいのに」
緋翠へと小さく微笑む、大祓骸魂。
だが、死んでいないものを黄泉から連れ出すことなんて出来ない。
いいや、黄泉という向こうから、骸の海から戻ってきてしまったのが、大祓骸魂という邪神であり。
「俺は君に共感するよ」
同時に、何処までも一途な少女の心なのだから。
桜の花にも似た甘き死の香りを淡く纏う緋翠は。
死と虞を、そして愛にて咲く彼岸花を引き連れる大祓骸魂に、ゆっくりと視線を流して。
「痛いくらいに気持ちは分かる」
とんっ、と足音を響かせ。
緋翠は姿を揺らす。
さながら雪の上に浮かぶ影のように。
或いは、蝶のはばたきのように。
確かに捉えることのできない、夢幻じみた体捌きで。
「それでも、戦うというのですね。ええ……判るからこそ、決して、決してと譲れぬ路。似ているからこそ、相容れない」
故にと、懐刀『生と死を繋ぐもの』を泳がせて。
無数の複製を生み出し、縦横無尽にその刃を踊らせる。
ああ、でもと。
「想いは同じことなのだから」
虚と実を織り交ぜて。
幻のように、声を残して。
ひらり、するりと刃を躱して逃れる緋翠。
次第に、ゆっくりと、連なる鳥居を越えて大祓骸魂へと近づきながら。
「別たれた生と死を繋ごうとすること」
情緒の宿る声色と裏腹に。
合理性をもって、最適解の路を歩む緋翠。
それこそ、刃が白い肌を掠めて、赤い血の雫が滲もうとも。
かすり傷。何のことはないと、痛みさえ抱かぬままに。
五感と直感の賦活は因果直観となり。
戦場に起きるあらゆる些細なことさえ、見取る異能の眸となる。
人の理を越えてしまって。
自己証明と守れぬ約束が、瑠璃色へと宿り。
静かな銃声が、懐刀さえ撃ち落として。
あってないような死角を、路として切り拓いていく。
「君の愛である、この彼岸花を」
決して、踏み躙らないように。
けれど静謐なるものとして。
死の匂いを伴い、大祓骸魂へと近づいて。
ほんの瞬間。
刹那の隙を、その瑠璃の眸が見つけ出して。
永遠を求める大祓骸魂に。
愚かなまでに想い続ける、少女の心臓へと。
終わりを奏でる蝶が、寂寞たる刃を突き立てる。
鮮やかなる血が、舞い散る中で。
微かな音も立てず。
ひっそりと、秘やかに。
愛を傷付けることなく、緋翠は弔いにと。
「綺麗なままで、一緒に黄泉へと葬ろう」
美しさは、愚かさだから。
また独りのままだけれど。
そのままの君で、愛を忘れぬ儘に眠ってくれと。
痛い程の想いを、傷ついた身体などより、遥かに耐えがたい。
死別したひとを想う鼓動に、僅かに瞬きをして。
緋翠は吐息を零した。
それが、取り戻したい人の名の形を取ることはなくとも。
叶えたい夢を、静かに揺らす。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
【相照】
(外套を外し、金眼に)
愛おしいからと歪ませる様な真似をするなぞ只の身勝手
そんなエゴの手に委ねられはせん
では往くとしよう
視線に足先、切っ先、氣の流れと情報全てに第六感重ねて戦闘知識で計り
攻撃起点を見極め、カウンターの衝撃波で潰し時間を稼ぐ
幾ら丈夫とは言え削られ続けるのを放置出来るか
極力ニルズヘッグへと向かう攻撃も弾く
……残念ながら私は感情的なんだよ
一瞬、其れで十分――魄碎武朽、違わず抉れ
合図など必要無い、彼の竜なら成してくれると信じているが故に
怪力を脚力へと回して加速
突き通すは動きの止まった其の胸――逆鱗。否、其の心
失う事が恐ろしくとも
変わり行く事をも貴び美しさと心得るのが愛だろうに
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【相照】
真の姿:白翼の竜人
壊したいほど何かを想えるのは、少し羨ましい
だからって容赦はしないし
通すわけにもいかないけど
……うん、行こう
蛇竜を黒剣へ変えて、攻撃は極力受け流す
【常夜の旅路】で召喚する亡霊たちに彼岸花を焼き尽くさせて
数に任せて拘束させるまでは時間稼ぎだ
要の嵯泉が消耗しないように盾になろうか
術を維持する意識と集中が途切れない程度なら許容範囲
この格好だと頭がよく回る
何にも、怖いと思わないで済むんだ
嵯泉
私のことなんて、気にしない方が効率良いよ
後は嵯泉の一撃を、存分に喰らってもらうよ
愛してるとか、恋しいとか、そういうことを言うんなら
全部受け容れて抱き締められなくちゃ、いけないと思うんだけどな
連なる鳥居と、狂い咲く彼岸花。
無数に在りしその赤と朱。
愚かなまでに一途に。
永遠とい愛を夢見る少女の色彩として。
ふたつの世界を血色で繋ぎ、そして、殺めるのだ。
「愛おしいからと」
肌に感じるのは神智を越える程の虞。
艶やかに、妖しく彼岸花を咲き誇らせて。
けれど、全てを不変の過去に変えようとする、大祓骸魂に。
「歪ませる様な真似をするなぞ只の身勝手」
鋭く呟くのは 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
はらりと。
身に纏う外套を外して、地へと落として。
真の姿へと変貌する鷲生。
「そんなエゴの手に、世界を委ねられはせん」
敵手を見据えるは、赤を払う美しき金の眼。
黄金と呼ぶには何処か違う。
光を弾くような艶やかさは、いっそ刃に似て。
手に携える、災禍断ち斬る為に在りし秋水の刀身に似た気配を漂わせる。
今と未来を蝕む全ては一閃にて、露と払うのだと。
でもと。
傍らで、白翼がふわりと揺れる。
それは鷲生と同じく、真の姿を顕したニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)のもの。
姉が悪魔であるのならば、彼は一体。
灰燼色の忌み子たるニルズヘッグは、今、純白の翼を伴う竜人としてここにある。
でも、と。
微かな呟きを、風に乗せて。
「壊したいほど何かを想えるのは、少し羨ましい」
それほど、何かに執着して。
想い続ける事は、とても難しいのだから。
命に届く程に、研ぎ澄ますなんて。
「だからって容赦はしないし」
からん、からんと鳥居の向こうから。
白無垢に身を包んだ少女の姿をして、下駄を鳴らし。
世界に死をもたらす禍々しき神が近づくからこそ。
「通すわけにもいかないけど」
ニルズヘッグが傍らに控える蛇竜へと手を伸ばせば。
主の意思に応じるよう、黒き剣となって手に収まる。
「だが、私達の意思と誓いも、あれの凶念に揺らぐようなものではあるまい」
鷲生の言葉は、ニルズヘッグに戦意を沸き立てせ。
ふたりもまた、一歩と鳥居へと。
周囲を愛の色に染まった彼岸花で満たす、大祓骸へと踏み出すのだ。
ひとつ、ひとつと。
足音と歩幅を重ねて。
「では往くとしよう」
「……うん、行こう」
ふたりの姿に、決して別たれぬ絆と約束に。
大祓骸魂の朱色の眸が、すぅと細まる。
愛しそうに。
眩そうに。
そして、焦がれるように。
「ああ」
細い喉が声を震わせば、優しき花の香りと共に。
虞が巻き上がる風となって、ふたりへと殺到する。
「手に在るならば、伴にと思わずともよいのですね――今は」
そう、今は。
別たれた後に、ニルズヘッグと鷲生がどうなるかと。
悲しそうに囁く大祓骸魂へと、黒剣の切っ先を向ける。
「それは、お前が踏み込んでいいものじゃないんだよ」
永遠なんてないのだと。
誰だって薄らと気付き、微かにこの手に欲しいと想うから。
ニルズヘッグが情念より編み込む術が呼び込むのは、地獄の炎たち。
それを槍と化して手に携え、嘆き続ける亡霊たちが愛と狂気に染まった花畑へと穂先を突き立てる。
燃え上がる彼岸花と、怨嗟の声。
どれほど美しい言葉と容姿で飾ろうとも。
大祓骸魂、お前もまた地獄にあるべき存在だろうと。
『道連れだ』
それを望み、憎んで、五百に近い亡霊たちが地獄の炎で彼岸花を焼き払っていく。
神智を越える虞にて成るそれは、灰と化すには時間がかろうとも。
いずれ灼き付くのだと、ニルズヘッグの操る術式と魂は、その領域を広げていく。
だからこそ。
鷲生が気づけたのは剣士として生きたから。
このような状況を許す訳がないと、積み重ねた戦の知識と経験が。
ぞわりと冷たく震える肌は、殺意にて研ぎ荒まれた切っ先を第六感で捉えて。
全身全霊を以て、ニルズヘッグの前方の虚空へと秋水を振るう。
熾烈なる一閃が響かせるのは、澄み切った鋼の音色。
彼方と、此方。
結んで、繋いで、距離を無視して。
瞬間にて現れた大祓骸魂と、その手に握られる懐刀。
ニルズヘッグの首を切り裂こうとした切っ先を弾き返して。
くすりと、微笑む少女の声と共に。
「お見事」
「面妖なる技だ。……神、か」
現と隔世。
その狭間にありし邪神、大祓骸魂はすぐそこに。
剣も術も、なんという出鱈目かと鷲生の金眼が細められ。
呼吸の狭間にと、幾度となく斬り結ぶ。
空間に刻まれる剣閃の軌跡は、繚乱と咲き誇り。
飛び散る火花と、刃金は美しき音色を奏で続ける。
「さあ、如何されました、剣士さま?」
大祓骸魂の握る懐刀はなまくらで。
振るうは少女の儚き繊手だというのに。
鷲生の両腕から繰り出す速度と剣威を越えている。
それこそ鷲生の肌にと懐刀が刺さり、血を流させる程に。
「十分。神とさえ刃を結べるのならば、後は為す者が為に振るうのみ」
「雄々しく、凜々しい方……ならば」
と、鷲生の斬撃を受け止めた懐刀が翻り。
刀身を滑るように伝って、大祓骸魂が一気に肉薄する。
虞による狂愛の彼岸花はその力を強めていて。
ニルズヘッグへと一太刀とも切っ先を向けさせぬと、身を張る鷲生の姿は烈士のそれであれど、立ち回りを鈍らせるのだから。
秋水を弾き落とし、跳ね上がる切っ先が鷲生の喉へと迫る。
命へと触れる、その瞬間。
「その誇りが、いずれ貴方を殺す」
それは、今でもはなくともと言葉を残して。
横手より漆黒の刃が静かに奔りて、大祓骸魂の白無垢を掠める。
逆に喉を掠めた黒剣の冷たさに、僅かに朱色の眸を揺らし、後方へと跳ぶ少女の姿。
「いずれ、その竜人を独り残す因果の起点と、罪となる」
声を揺らし、愛に濡れた彼岸花が燃え尽きていく場に佇む大祓骸魂。
「だとしても、嵯泉は嵯泉だ。……私が望む限り、傍にいてくれる。それが永遠では、ないとしても」
望む限り、求める限り。
それさえも、永遠ではないとしても。
「変わらない事を、不変である輝きと温もりを、大切だと思えない。昔より今の日々が、愛おしい」
そう呟き、鷲生の前に立つニルズヘッグ。
自らが盾になろうと。
この神へと確かな一撃を届けるのは、鷲生だと信じ抜くからこそ。
「そう教えてくれたのは、嵯泉だから。呪うような言葉は、私が許さない」
そう、と呟いて。
地獄の炎が渦巻く場となって鳥居の下で、物静かに微笑む大祓骸魂。
ようやく虞にて力を増す彼岸花は燃え尽き始めて。
「この格好だと頭がよく回る」
それでも再度と虞を放たれれば。
もう一度、最初からやりなおしとなる。
真っ向より大祓骸魂と対峙するには消耗激しすぎるのだ。
だからこそ。
「何にも、怖いと思わないで済むんだ」
ニルズヘッグは黒剣を構え、前へと歩み出る。
狙われるは地獄の炎と、亡霊たちを操る自分だと判っていても。
「嵯泉」
呟くは、穏やかな声色で。
信頼しているのだと、腕を伸ばす変わりに。
「私のことなんて、気にしない方が効率良いよ」
それを示すが為に。
大祓骸魂が跳ねるように飛び込み、虞を纏う懐刀を振るうのを強引に黒剣で防ぐ。
片手だというのに竜人の膂力を圧しきり、そのまま腹部へと至るなまくらの刃。
肉を切り潰して血を流させ、更に奥へ、命へと鈍い刃がニルズヘッグを捉えながら。
それでいいのだと、真っ向から大祓骸魂を見つめるニルズヘッグ。
「時間さえかければ、誰でも、何でも殺す」
その懐刀を、身で受けながらも。
今もなお、臓腑へ動脈へと届かんとさせながらも。
「それを、私なんかに向けていいのか?」
逆に大祓骸魂の手首を掴み、足先を踏んで、その身体を縫い止める。
そして殺到する数多の亡霊たち。
地獄の炎を宿す穂先は、大祓骸魂が立つ地面だけを、そこにある赤い花を確実に灼き尽くすべく集められて。
さながら煉獄の舞台を。
黄泉へと至る炎の路を形作る。
「……残念ながら私は感情的なんだよ」
気にしないでいいと言われても。
伴にありしと誓った者が傷つき、血を流し。
その様を想像するだけで、胸は激しく痛む。
己が傷など些細なことなのだと。
致命でなくば意に介さぬという、鷲生であっても。
大切なるものが疵付くことだけは、許せず、認められないから。
「効率など、この刃でねじ伏せて呉れる」
そして、その為には。
必ずや為すと、ニルズヘッグを信じていたから。
「一瞬、其れで十分――魄碎武朽、違わず抉れ」
それが何時、どのようにかは判らない。
合図もなく、ただ、必ずや彼の竜が一瞬の好機を為すとだけは信じているから。
盲信と笑うならば笑え。
所詮は同じく、愚かなほどに一途と微笑むならば好きにすればいい。
「だが、私達とお前は違うのだ」
その程度で、呪うような、祝うような言葉で揺れるものではないのだと。
全身の氣と力を脚へと廻し、果断の迅さをもって斬り込む鷲生。
あらゆる災禍を斬り払い、未来へと突き進む光の姿として。
秋水が刺突にて貫き通すは、大祓骸魂の其の胸。
逆鱗――否、その心。
愛と悲しみに、痛みながらも。
「虚ろ故に、真実の姿を持てぬ故に、その魂に至るほどに脆かろう」
不変を祈るなど。
変わってしまう者だからこその、儚き願いに過ぎぬのだと。
さながら流星の如く、閃く切っ先が大祓骸魂の心臓を穿ち抜く。
背より突き抜けた刃は、真っ赤な花を咲かせて。
一瞬も姿を保てず、舞い散らせる。
だが、ひとの生と想いとはそれでよいのだと、金の眸が見つめる。
「失う事が恐ろしくとも」
大祓骸魂の朱色の瞳は変わらず、愛と狂気に濡れていて。
その奥にじわりと、憧憬の如き輝きがあれども。
「変わり行く事をも貴び、美しさと心得るのが愛だろうに」
ああ、鷲生の言うことは判れど。
認めたくないのだと。
頷きたくないのだと。
諦めたくないのだと、懐刀を握り絞めて。
「愛してるとか、恋しいとか、そういうことを言うんなら」
けれど、横手より滑り抜けた黒剣が、その懐刀を遥か彼方へと弾き飛ばす。
その腕と指は。
殺める為だけのものに、絡めるのかと。
ああ、ニルズヘッグは人の想いを、この大祓骸魂のそれを、十全に理解できなかったとしても。
「全部受け容れて抱き締められなくちゃ、いけないと思うんだけどな」
そうかもしれない。
正しき想いと、思慕の途とはそれかもしれない。
一途でも愚かではなく。
潔くとも、何処までも純粋な愛とは。
全てを抱き締め、変わりゆく姿に美しさを見出すものなれど。
不変と、不滅と、永遠と。
傍にいたいと、願うから。
「――……っ……――……」
喉から溢れる鮮血が。
それでもと形作る唇から溢れ出て。
何も言うことできず、言葉を残せず。
ただ、ただ小さく動く。
――それでも、貴方達のような繋がりが欲しいのです。
結び付いた絆さえ、想いさえ残っていればよかった。
記憶さえ過去に流れて、形も色も失うのはいやだった。
それさえ罪というのなら。
地獄へと参りましょう、この愛と花を抱いて。
それだけの覚悟は秘めているから。
間違っている事をしているとは、判っているから。
心臓を貫く刀身から、止め処ない血を流し続ける。
もう流せなくなった。
その流し方を、自らの名前と同じく忘れ去った。
涙の変わりに。
斯くはなるまいと。
果敢なる士は想いて祈り。
こうは終わらないと。
幼くも儚き、産まれた竜の祈りは。
隔世の風にと溶けて往く。
残る絆と繋がりを、確かに胸に懐きながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
柊・はとり
あんたの愛とやらで滅んだ地球は
いずれ地獄の黙示録とか呼ばれるだろうな
UC発動し自己強化
虞は不可視の攻撃だろう
厭な気配を極力直感で避け
残りは殺気と呪詛耐性で相殺
探偵と痴情は切れぬ関係
俺に纏わりつくこの呪いは
愛に殺された人間の無念だよ
お前の罪悪をその身で受けろ
彼岸花を凍てつく炎で燃やし
俺自身は偽翼で浮遊
凍った花の足場を暴力で破壊するが
それで大祓が落ちるなら
敢えて抱きとめに
あんたを救えないのが残念だ
本当に
逆鱗を狙うなら一番近い所から
直接全力の冷気を送って凍らせ
そのまま心臓を刺す
俺の心臓は止まっているから
手も冷たくて悪い
赤い糸は切らせて貰うが
あんたの呪いと鼓動は覚えてる
今更一つぐらい増えても大差ねえよ
もう止まる筈がないのは。
過ぎ去る時間と同じこと。
この夢を、想いと願いを、愛の赤さで染めたくのだと。
鳥居にて佇む大祓骸魂は、何処までも静かに微笑み続ける。
幾ら傷つけど。
その命が終わりに近づけど。
「想いは、不変で不滅なのですから」
魂にかけて、愛しき世界を殺めるのだと。
血に濡れた懐刀の切っ先を泳がせ、赤い糸を描いてみせる。
こうなってしまったひとを、よく知るから。
溜息のような。
冷たい息を、ひとつ唇より零して。
「あんたの愛とやらで滅んだ地球は」
氷の刀身を持つ大剣、コキュートスの水槽を構えるのは。
死んでも、死ねない。
終わることなど、出来はしない。
周囲で殺人が続く探偵という業を纏いし柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)。
「いずれ地獄の黙示録とか呼ばれるだろうな」
携える刃のように、凍て付く輝きを持つ眸にて。
愛と狂気の色艶を帯びる、大祓骸魂の瞳を鋭く睨み付けるはとり。
「だとしても、それがどうしたのです?」
するりと、白無垢の袖を揺らして。
その細い腕を振るう、大祓骸魂。
「自らの愛を、他者にどう呼ばれようと、その本質は変わらない」
殺めることだとしても。
愛である事には、傍にいたいという想いには。
「変わらないのです」
それが不変なのだと、指先に誘われて。
あまりに優しき花の香りが、はとりへと流れ逝く。
これが虞。神智を越えたものなのだと、気配で察して。
決して見えずとも、触れれば終わりを告げる死神の指先なのだと。
直感で察したはとりは横手へと転がり込んで避け、殺気と呪詛への耐性で備えれば。
身より湧き上がる、切なる何か。
激痛を伴い、鼓動を苛む苦痛に、呻きを零す。
「直撃は避けましたか」
大祓骸魂の言葉の通り。
見れば周囲に咲き誇るのは、狂気じみた愛を宿す彼岸花たち。
無数にその赤い色を広げるのは。
夢のように、奇譚のように。
白無垢姿の大祓骸魂を迎え入れる、嫁入りの路として広がるのだ。
此処にて阻むものは。
決して認めず、許さないと、彼岸花が妖しく揺れている。
「ああ、経験はあるんでね」
だとしてもと、赤き狂想の花畑の上に立ち上がるはとり。
「探偵と痴情は切れぬ関係」
その身体から殺気と共に立ち上らせるのは、触れるものを凍て付かせる蒼き炎。
ゆらり、ゆらりと。
あまりに冷たい気配を、周囲に滲ませて。
「俺に纏わりつくこの呪いは」
彼岸花の狂い咲く足下へと、コキュートスの刃と共に蒼い炎を突き立てる。
そう。地を伝わり、触れるものを凍て付かせるこれは、呪いなのだ。
このまま何もせずに終われないのだと、静かに叫ぶかのような。
「愛に殺された人間の無念だよ」
揺れて、揺れて。
連なる鳥居の元で咲き誇る彼岸花たちを、凍て付く炎で燃やし尽くしていく。
愛に殺された故に。
殺めた罪に、報いをと。
あまりにも静かに、けれど、一気に燃え広がる蒼い炎。
罰もなく、ただ逃れる事などあってはならないのだと。
無念は、怨念は、愛と同じく終わらない。
「お前の罪悪をその身で受けろ」
自らはコキュートスが強制的に生やさせた氷の翼で空へと飛翔し。
肉を食い破る氷のイカロスがもたらす苦痛に、はとりは僅かに頬を歪めた。
「……成る程。殺める罪悪を認めねば、この愛も認められぬのだと」
ならばと。
いっそ、潔い程に。
儚く、果敢に、大祓骸魂は凍て付く蒼い炎の中へと身を投じる。
「……っ。やっぱり、お前のようなのは馬鹿かよ」
燃やされ、凍て付き。
足場は凍った花ばかりなのだから、無惨に切り刻まれながら。
それでも私はこの路を進み続けるのだと、うっすらと空飛ぶはとりへ微笑む大祓骸魂。
ならば止めるまで。
この道を、地球へと繋がる殺人の路を。
理不尽な暴力で斬り崩すして壊すのだと、飛翔の速度を乗せたコキュートスの大剣を地面へと振り下ろす。
唸りを上げる偽神神装。
それは、はとりにかかる負担と同等に。
蒼き斬撃を輝かせて、凍て付いた地面を粉砕する。
どうしても、この路を往かせる事はできないのだと。
愛を、理不尽をもって終わらせるように。
「あら」
故に足場を失い、転がり墜ちる大祓骸魂。
自分を攻撃するのならば判る。
だが、どうして足場をと思い、悩めば、成る程。
「力でねじ伏せるのではなく。思いは、理不尽な介入で終わることもあるのだと――それが悲劇で」
はとりがそれを伝えたかったのか。
真意を確かめる事はではないけれど。
「――それでも進もうとするから、罪咎で、罪悪といいたいのですね」
踏みしめる大地はなく。
崩れる鳥居と共に、空から墜ちる大祓骸魂。
誰からも忘れられ。
そして、足場もなく、誰の手も掴めずに墜ちていく少女の姿を。
「さあ。知らないさ」
ああ、知らない。
お前みたいな狂った馬鹿の事はと。
氷の翼で飛ぶはとりが、大祓骸魂のほっそりとした身体を抱き留める。
なぜ。
どうして。
わざわざ路を苦難の凍て付く蒼い炎で満たして。
それでも進むのならばと、暴力で撃ち壊して。
それでいて、抱き留めるなんて。
「ああ、だから刃が突き刺さるのですよ」
「知るかよ。けれど、それで愛するものを殺させないのなら」
いいだろうと。
動かない心臓を刺されても、動じないはとり。
コキュートスから伝わる冷気なのか、傷口から流れる鮮血も凍て付いた赤い飛礫として零しながら。
「殺されて、事件になって、探偵が解決するのなら。……殺される前に終わらせてみたいんだよ」
それでは事件ではなく、探偵の出る幕はない。
自分の存在意義を否定するようなものだけれど。
「面白い人ですね。心臓を刺されても死なないのは、魂が別の何処かに。想いと共にあるから?」
さあなと。
冷たい吐息を、血と共に大祓骸魂の白無垢へと落として。
「あんたを救えないのが残念だ……本当に」
殺したとしても。
決して報われず、救われず。
ああ、だとしたら犯人と探偵のひとり二役。
マッチポンプもひどいだろうと、はとりが苦く頬を歪めた。
「俺の心臓は止まっていて、血も流れないから」
そう口にして、抱き留めていた手で。
コキュートスの刃を握り絞め、大祓骸魂の胸へと突き刺す。
抗わないのは。
それで自らの愛を示そうとする、夢見る少女のような狂気なのか。
ひとつを追い求め、願い続ける一途さなのか。
「抱き締め、葬る手も冷たくて悪い」
「いいえ。手が冷たい人は、心が温かいのでしょう」
血で塗られた、この手よりは。
暖かいでしょうと、朱に染まった指先ではとりの頬をなぞる大祓骸魂。
「ああ、この優しさも。繋がりも。不変で、不滅で、永遠ならばいいのに」
「俺はご免被る」
灰色の髪を、大祓骸魂の血が穢しても。
それでいいだろう。証として、覚えておこう。
忘れ去れた少女の思いを、名残の欠片とし留める為に。
永遠なんて、ないけれど。
「……お前みたいな馬鹿な犯人と、救おうとして救えない探偵の、繋がりなんて」
くすりと笑う大祓骸魂の心は。
はとりにも判らないけれど。
ただ、冷気と刃を、大祓骸魂の逆鱗たる魂に。
きっと虞で覆わぬと決め、愛するものに捧げると決めた、その場所へと届ける。
「赤い糸は切らせて貰うが、あんたの呪いと鼓動は覚えてる」
絡み付いて、離れぬものとして。
とくんっ、と脈打つこの愛の鼓動を。
恋慕に狂いし瞳の朱色を。
「今更一つぐらい増えても大差ねえよ」
数多の罪を。
赤い色を、骸の海へと零して落としながら。
ただ過去には流さないと。
はとりが、はとりでありつづける限り。
憶えておこう。忘れない。
呪いとして、動かない心臓に絡みつけて。
それでも、進もう。
「泣けよ、悲しいなら」
せめての優しさの欠片を、はとりの唇が零す。
愛しい世界に辿り着けずに、消えてしまう少女の胸へと。
「呪えよ、せめて俺ぐらいは」
最後に、叫べば楽になるのだと。
儚げに微笑み続ける貌へと、はとりは冷艶なる蒼い眸を向けた。
大成功
🔵🔵🔵
篝・倫太郎
【華禱】
世界はそこで生きるすべての命のものだ
たった独りの愛だけで
どうこうして良いもんじゃない
真の姿を開放し、暁焔使用
華焔刀には浄化と破魔を常時乗せてく
衝撃波を乗せた華焔刀でなぎ払いの吹き飛ばし
完全に引きつけるのは無理でも
多少は意識を向けさせることが叶えば勝機はある
俺の役目はいつだって変わらない
夜彦の一撃を確実のものとするための盾
敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防いで凌ぐ
戦闘半ばで倒れたりしないという覚悟を持って
以降の攻撃には生命力吸収も乗せる
地を満たした花は
破魔や浄化を乗せた火焔系の属性攻撃で焼き尽くす
夜彦が狙われる場合は確実に庇う
俺の刃、簡単に折れると思ってもらっちゃ困る
月舘・夜彦
【華禱】
永遠の愛を求め、二度と断ち切れぬ想いの不変を求める
……想わぬ訳ではありません
此の世に永遠が在るのならば、どれ程に良いか
流れる川を止められぬように、それでも世は変わり続ける
それを受け止めるか否か……貴女と私の違いは、それだけの事
真の姿にて月絲使用
アーマーリングから浄化と破魔の力を込めた糸を紡ぎ
範囲攻撃にて目視できる位置で操って攻撃
彼岸花に満たされた地は戦いに影響が出ないように衝撃波にて祓う
極力移動はせずに敵からの攻撃は糸を格子状にしてオーラ防御で対応
倫太郎が防いでくれている間に機を窺う
倫太郎の動きに気を取られた隙を見て、糸を操って串刺し
私の為すべき事を
姿形が変わろうとも想いは変わらず
永遠と、不変。
愛に溺れる恋人たちが。
どれほどにそれを求めたというのだろうか。
それが在れば叶わず悲劇となったものが、どれだけ救われただろうか。
だが、現実にそんなものはありはしない。
いいや、あってはならないのだと。
月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)はゆっくりと首を振るう。
「永遠の愛を求め、二度と断ち切れぬ想いの不変を求める」
過ぎ去る時の流れは同じでも。
生きる寿命の長さは、違うのだから。
「……想わぬ訳ではありません」
此の世に永遠が在るのならば、どれ程に良いか。
それはあくまで、想い続ける人の身勝手さなれど。
痛い程に判るから。
離別をこそ最初に知る、夜彦だからこそ。
纏う白無垢の衣装を。
もはや自他の血で赤く染めてしまった姿に、悲しげに眸を揺らす。
「流れる川を止められぬように、それでも世は変わり続ける」
そんな世界に。
変わることで幸せをえる、誰かに。
視線を巡らせ、微笑むことが出来るのか。
胸に悲しみの傷跡が、幾ら刻まれようとも。
それでも誰かの為に。
「それを受け止めるか否か……貴女と私の違いは、それだけの事」
たった、それだけが。
致命的なほどの違いを生むのだと。
歩みを止めない大祓骸魂へと、声をかける。
聞き届けられることはないと、夜彦自身も判っていても。
それでも呼びかけずにはいられなくて。
だからこそ。
声色に宿る慕情に、微かに虞の気配が薄らぐ。
一途な想いは、狂いし神をも鎮めるのだと。
「世界はそこで生きるすべての命のものだ」
だが、認められないのだと。
優しすぎる夜彦より前へと出て、大祓骸魂の朱色の視線を受け止めるは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)。
「たった独りの愛だけで」
その想いの色彩だけで、染め抜いて。
独りだけのものにして、傍に留めおくなど。
「どうこうして良いもんじゃない」
世界の全てを、過去という宝石に閉じ込めるようなこと。
許してはならないのだと、鋭い視線を送る倫太郎。
けれど。
声を揺らし、想いを紡ぐ大祓骸魂は止まらない。
「たった、独りの愛で」
血で濡れた懐刀『生と死を繋ぐもの』を、するりと泳がせ。
「変わるのが、世界というものでしょう」
それだけの力があって。
想いによって、救われるのだと。
恋人たちの、夢物語を諳んじるのだ。
故に判らない。
ああ、立場が変わった時、倫太郎は、夜彦は。
――死に別れて、もう一度逢えるならどうするのだろう。
「……生まれ変わっても、憶えていて欲しい」
――輪廻の先で、記憶を喪った愛する人に。
「ああ、もう一度、抱き締めて欲しいのだと」
――思い出して欲しいと、願わずにいられるのか。
「そんな罪咎を、抱いてしまった私は、止まれないのです」
視線を伏せる大祓骸魂は。
此れが許される路なのだと。
世界を殺めて、永遠に己がものとして傍になど。
許されないと知るから、猟兵たちを待ち受けたのだ。
それでも、止めようとする猟兵という世界を退けられたのなら。
叶えてもいいだろうと。
抑えきれない愛は、募るばかりで。
「なら、仕方ねぇだろうさ」
「ええ、是非もなし」
故にと真の姿を解放する倫太郎と夜彦。
『これは災いを断ち切る絲』
詠唱の言葉を残して。
竜胆のような紫色の長髪を靡かせ、飛翔するは夜彦。
アーマーリングの夜謳から、破魔と浄化の力で紡いだ幾筋もの糸を周囲に張り巡らせ。
同時に花びらを散らせ、高速で空を翔る抜ける。
地は、そこを歩む大祓骸魂は任せたのだと。
同じく真の姿へと変貌した倫太郎に信頼の視線を寄せて。
『夜陰の果て、眠りは終焉。常世を焼く焔で暁を呼べ。』
受け止めた倫太郎の眸は変わらぬ色彩をもって輝き。
華焔刀を振るう勢いで揺れる、艶やかな長髪を伴って。
大祓骸魂の前へと、踊り出るのだ。
暁という名の戦を、災禍狩りの一族の力宿す美しき刃にて告げるべく。
「ならば、迎えましょう。異なるからと、路を真っ向から違えるからこそ」
激突する華焔刀と、懐刀。
凄まじい剣風が渦巻いた直後、大祓骸魂の身を中心に放たれた神智を越えた虞が吹き荒れる。
見えず、避けられず。
しかし確実に在りしそれは、ふたりを狙ったものではなく。
大地を撫でて、狂気と愛の赤さに濡れる彼岸花を一面に広げる。
これが私の進む路。
愛しい貴方に、愛しい世界に、繋がりて死をもたらす道筋なのだと。
「ですが、自由のにはやられません」
夜彦が腕を振るえば、瞬くは月光のように美しい斬糸。
舞う花びらと共に、地上に咲く彼岸花を狩り取り。
倫太郎の戦う地を、負担を少しでも軽くしようと、衝撃波を伴い螺旋を描いて、祓っていく。
「愛しい人を傷つけ、殺めるか。信じて、共に進むか。――それもまた、私と貴方の違う所だからこそ」
そんな夜彦の声を背に受けるからこそ。
破魔の炎を宿した華焔刀で周囲の彼岸花を焼き斬り、身を転ずる勢い乗せて大祓骸魂へと熾烈なる一閃を繰り出す。
美しく、清く、赤い刃が。
禍々しく、妖しき、朱の刃と交差する。
そして、全てを見抜くような。
大祓骸魂の、その神の眸とも。
「なるほど、貴方は――愛しいひとを守りたいのですね」
「当たり前だ。刃である夜彦の、盾であること。それが俺の変わらない誓いだから」
少女の繊手とは思えぬ、懐刀の威。
力を強めた筈の華焔刀が真っ向から弾き返され、懐に滑りこまれれば流れる刃が胸板を斬り裂く。
なまくらだからこそ。
その痛みは恐ろしく。
まるで、恋のそれのように響き渡る。
「ならば、その約束も不変にしてさしあげましょう。それならば、違えることはありませんよ」
誘うような声に。
より猛りし焔を刃に纏わせ、倫太郎は攻め懸かる。
それは勇猛なる威を、烈火の如く輝かせて。
「違えねぉように、必死に守ることが。想い続ける事が大事なんだろうが!」
再び真っ向から、華焔刀がぶつかり合い。
けれど、今度は退かず譲らぬのだと、噛み合う二振り。
多少でも意識を引きつけられれば正気はあるのだと倫太郎は思っていた。
現に、こうして今も斬り結ぶ最中に、夜彦の操る糸は彼岸花を狩り取り、斬り祓い、戦う為の場を作り出し。
一瞬の好機を生み出せば、それを夜彦が確実に叶えると信じている。
けれど、それだけではダメなのだ。
認められない思いがある。
遂げてはいない、愛がある。
殺意に濡れた夢など、あってはならないから。
「俺の刃、俺の信念。簡単に折れると思ってもらっちゃ困る」
「この懐刀は、誰であれ、何であれ。時をかければ殺せるとしても?」
「だったらやってみな。あいつを想う俺の心臓は、あいつ以外に穿てるかよ」
言葉によって加速する刃と刃。
まるで刃に踊りて、舞うように。
激突して火花を散らし。
狩り取られた彼岸花が、斬り裂かれた傷口と共に鮮やかな赤を添える。
ああと、大祓骸魂の喉が震えて。
「その誓いとやらが、あなたの本当の心臓ならば……あなたを殺めるには、あなたの盾を崩させねばならない」
「できるもんなら、やってみな! この誓いは、不変ではなくとも絶対なんだよ」
故にと。
心臓や喉、急所を避けて。
想いと祈りを、誓いを砕けさせるように、大祓骸魂の懐刀は倫太郎へと奔る。
想いこそが全て。
それを抱いたまま死んだのでは。
勝ったといえず、進んだといえず。
そして自分も相手も報われないだろうから。
愛と想いに殉じて、ふたりは赤き神楽に舞う。
「だから」
それを見て。
できるだけ動かず。
一瞬、刹那を見逃さないようにする夜彦は嘆息する。
「だから、心臓が逆鱗なのですね」
捧げると決めているから。
虞にて守ることなく。
気付いてくれた愛しいあなたに。
思い出してくれた、愛しい世界に。
この命ごと、魂ごと捧げてみせよう。
何も愛は一方通行ではならないのだから。
奪い、殺めるならば互いにと。
「愚かなほどに一途だから、自ら弱点をなど……」
本当に、ひとのように愛を知る神だと。
愛に染まり、溺れて、それでも手放さないものへと。
運命の赤い糸ではないけれど。
悲劇の因果を斬り裂く、糸として。
「あなたの未練を、想いを断ち斬ってみせましょう」
倫太郎と交差して、互いの身を斬り合い。
大祓骸魂の身体が揺らいだその瞬間。
全てを懸けるが如く、手繰る夜謳の糸に力を乗せて放つ夜彦。
その心臓を。
愛故に守られる事なき、脆く、弱き場所を、貫くべく。
薔薇は純潔を守るが為に棘があるという。
その鋭き棘を怖れぬものにだけ、触れる事を許す気高さ故に、純潔の花言葉を持つのだと。
ならば。
大祓骸魂はどうなのだろう。
もう愛故に狂気に穢れたのだと。
その棘を負ってしまったのか。
殺されたとしても、手にしたいのだと。
愛するものと対等であろうとしたのか。
その想いを知ることは出来ずとも。
「……貴女の様は覚えて起きましょう。悲しいまでに、愛したのだと」
夜彦が操る糸の先端が、その心の臓を捉える。
大祓骸魂の唇より零れる鮮血。
それでもなお、微笑むのはこの程度では死なないから。
時間さえかければ。
誰だって、何だって。
愛するあなたさえ、殺せてしまう私なのに。
「けれど、それを見て憶えて。背負えども」
心臓に糸を絡み付かせて。
ずるりと、その柔らかな肉を切り刻みながら。
「私の為すべき事を」
時は立ち。
いずれは全てが変われども。
「姿形が変わろうとも想いは変わらず。誓いは、この指にある通りに」
華禱の誓いと、禱りの元に。
「まだ、ふたつの世界で見たいものがあるのです。……ふたりで」
だから。
夜彦と倫太郎がふたりが紡いだ糸が。
大祓骸魂の愛に病みし心臓を、信じる光の如く。
未来と幸せを求めて斬り祓う。
血の花嫁が逝く、百鬼の夜の後に広がるのは。
朝焼けのような白い光だと、願うから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
負傷流血大歓迎
※NG:四肢欠損
_
取り零した人を想う気持ち
…あるに決まっている
忘れたことなんてない。忘れられない、忘れてはならない
然しそれは救いを求める為ではない
赦してほしいわけではない
唯、取り零してしまった己の大罪を魂に刻み
救えなかった彼らに報いる為に
大祓骸魂の愛を否定はしない
けれど彼女の愛が、俺の護りたい人たちや
救えなかった人たちの大切なものを奪ってしまうのなら
俺は彼女に、神に
真正面から牙を剥く
彼らの心を、魂を
過去に置いていかない
今度こそ、俺は護りたいから
_
(永遠にも思える剣戟
どれだけ傷を負おうと意地でも膝は付かず
死を傍に感じながらも最善の一手に賭ける)
取り零した人を想う気持ち。
胸の奥で震える、それに応じるように。
かたりと、鞘の裡で震える一振り。
さあ、名を呼んで。
本当の"名"じゃなくてもいいからと。
桜と名付けられた妖刀が、男の心に声を響かせる。
「……あるに決まっている」
死に別れて。
喪ってもなお、忘れる事など出来ない思い出。
いいや、忘れられない。忘れてはならないのだと。
丸越・梓(月焔・f31127)は己を律するように、痛む心と共に鞘から刃を抜き放つ。
静かに、静かに。
けれど、月光のように鋭い白刃を晒して。
「然し」
それは、救いを求める為ではないのだと。
決して、赦して欲しい訳ではないのだと。
ただ、ただ、取り零してしまった己の大罪を胸に刻み。
生き続ける限り、この切なる痛みと共に歩み往こう。
鼓動の度に、もはや笑うことのない彼らの笑顔が過ぎるけれど。
悲痛なる誓いを伴いもって進むからこそ。
「救えなかった彼らに報いるのだ」
そんな事をしても届かないかもしれないのは百も承知。
けれど、何もせずにはいられない。
自罰というのならそれまでだとしても。
忘れない事だけが、せめてもの救いと贖いだと梓は信じるから。
「大祓骸魂、お前の愛を俺は否定はしない」
だが、こうして抜き放った刃があるのだ。
そこに宿る想いと信念は、大祓骸魂の世界殺める路を止めると告げるのだ。
だって、未だに世界に残されたものはある。
「お前の愛が、俺の護りたい人たちや」
例え喪われたとしても。
その全てが消え失せた訳ではない。
ああ、それこそ忘れ去られた大祓骸魂とは分かり合えないかもしれないけれど。
「救えなかった人たちの大切なものを奪ってしまうのなら」
凜々しくも美しき男の貌には。
静かなる戦意が宿り、黒き眸は敵としてその姿を捉える。
「俺は、神に。お前という存在に、真っ向から牙を向けよう」
そして静かに、切っ先を向けて。
白無垢に身を包んだ、狂いし神に立ち塞がる梓。
「今度こそ、俺は護りたいから」
彼らの心を、魂を。
過去においていけないから。
いいや、ずっと傍で、未来へと伴っていくから。
「不変の過去に留まるお前とは、相容れないのだ」
それが梓が神へと告げて。
刃を交え、斬り伏せるとする理由と信念。
まるで誓うような言葉を受けて、ゆらりと泳ぐ大祓骸魂の腕。
その腕に握られた懐刀『生と死を繋ぐもの』の切っ先、梓と同じように相手へと向けて。
「そう。私を許せないのね、自分と同じように」
或いは。
悲嘆に濡れているのは、このふたりともにだったのかと。
ふわりと流れるは神智を越えた虞。
鳥居の周囲に咲き誇る彼岸花が、狂気に染まった愛を詠う。
「だから――対策などひとつもない」
大祓骸魂の力を増す、この赤き世界に。
何もせず、ただ刀一振りを携えて、ひとが挑む。
ならばと踏み出す大祓骸魂。
するりと、懐刀が瞬いて。
「想いで、願いで、心でこそ決しましょう」
言葉と共に、梓と大祓骸魂の剣戟が始まる。
正面から放たれる斬撃は熾烈の一言。
音の壁を越え、衝撃波と火花を散らして、ふたつの刃金が歌い上げる。
己が信義を、通したい願いを。
どれほどに狂おうともと。
弾かれる妖刀は、されどと翻り大祓骸魂の首筋へと迫り。
けれど、澄んだ音色を響かせて受け止める懐刀。そのまま、するりと踏みだし刀身の上を滑らせて梓の懐に譜入り込む少女の影。
「言葉は、不要でしょう」
そのまま、赤い花が乱れ咲くように。
繚乱と舞う懐刀の斬撃。
腹部を、腕を、脚を切り裂き。
切っ先で胸を穿って、翻ればそのまま首と肩の付け根を削り取る。
それでもと。
退く事はなく、体当たりをするように鍔迫り演じる梓。
神を前にただ一振りをもって相手するなど、愚かな男なれど。
その愚かさは、この神も同じだからこそ。
彼岸花の咲く場で、幾重にも描かれる剣閃の輝き。
赤く、或いは白く。
静かに、けれど、何処までも加速していくふたつの刃たち。
気付けば梓に刻まれた傷は、もはや数えきれず。
静かなる斬刃の舞踏に、白無垢の少女と竜胆のように咲き誇る男がその身を投じ続ける。
笑うことはなく。
泣くこともなく。
互いの息を感じて、それを断つが為に。
瞬く一閃は、余りに鋭く。
受け止める懐刀は、一途すぎるが故にナマクラで。
梓の意識を、戦意を断つ事できずに、傷を増やして死を近づかせる。
――誰であっても、何であっても、時をかければ殺せる刃。
だとしたら、確実な死がそこに迫っているのに。
梓の黒き眸は揺れることなく、ただ斬るべき神の少女を見据えるのみ。
だた一瞬、刹那を求めて。
真っ向から斬り掛かり、受けて流し、弾いて返す。
路は譲らぬのだと。
この程度の痛み、彼らを思い出せば湧き上がるそれにくらべれば余りにも浅いのだと。
衰えることのない剣気を宿し、凛と澄んだ剣閃を繰り出し続ける梓。
死を呼ぶ神の懐刀に身を晒しながらも。
ただ、ただ一念を以て待ち続けるのだ。
永遠を求める心を、斬り捨てるその時を。
心で、意思で負けねばそれは訪れるのだと、信じ抜くが故に。
長く、永き剣戟の果て、ついに。
梓の信念へと切っ先は届かなかったように。
きんっ、と微かな音を立てて。
懐刀の切っ先が弾かれ、虚空を泳ぐ。
大祓骸魂に出来たのはほんの僅かな隙。
けれど、これ以上の最善はないのだと、梓の剣士としての嗅覚が嗅ぎ取って。
『お前の愛は途切れたのだ──静かにしていろ』
詠い続ける愛を斬るべく。
静謐にして神速。
音も時の流れさえも斬り裂くような。
怜悧なる刃が、ついに神たる大祓骸魂の胸を斬り裂く。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
真の姿になり歌で身体強化したら
アレスと共に鳥居を翔る
アレスが光陣を使うまではその背を追い
属性魔法で追い風を吹かせて盾が往く路を拓けるように
陣が展開されたら俺の番だ
【暁星の盟約】
攻撃力をあげ
光の柱に紛れながら前へ
有象無象も敵の攻撃も気にしねぇ
アレスが守ってくれるって知ってるから
だからその分も全力で!
永遠に、ずっと、一緒にいたい
そう思うことはあっても
同意は…欠片もできねぇな
どれ程会いたくても
鳥籠に共になんて思ったことはない
それよりもずっと、生きていて欲しいと思った
思っていた
10年ずっと…そう…
過去と未来に別れても
幸せを願う、それが愛だろ
言葉と共に逆鱗めがけて真っ直ぐ剣をぶちこむ!
アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎
真の姿になり
敵が光陣の範囲内に入るまで
盾からオーラ『閃壁』を展開、セリオスの前を翔る
剣の征く路を守り抜く為
妖怪達が来ようとも盾で弾き飛ばそう
範囲内だと見切れば【天聖光陣】展開
敵の退路を浄化を乗せた光の柱で塞ぎ
妖怪達にも光の柱で浄化と牽制を
セリオスへの攻撃は庇い
傷を負わせない意志で盾で防ごう
…傍に、ずっと一緒にいたいと思うことも
変わらない誓いだってある
けれど…大祓骸魂
君のには同意できない
たとえどんなに離れていようと
大切だと想うものを守る為に手を伸ばす事も
…空の下での幸せを願う事も、出来るはずだよ
前を征くセリオスへ
風属性魔法で追い風と光の柱で援護を
今度は僕が…言葉と剣を届かせる!
黒と白の翼が、夜を越える。
誓いで結び付く青宵の剣と赤暁の盾。
祝福の歌を伴い、百の鬼など怖れる事はないのだと。
一筋の流れ星のように、二人で連なる鳥居の元を翔け抜ける。
さながら空を舞うように。
何処までも自由な未来が広がっているのだと。
清き風を吹き抜かせるは、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)。
もう閉ざされた場所なんかない。
不変だといっても、それは心を殺めるものに他ならないのだから。
「さあ、行こう」
この先もずっと。
青い炎の一等星として。
お前の剣として、有り続ける事を願うセリオス。
――それが永遠ではないからこそ。
願い続ける意味があるのだと――
澄んだその歌声と共に、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)に伝わる想い。
「ああ、この路を往こう。ふたりで」
真の姿へと変貌したふたりは。
何にも留められぬ翼を手にしているのだから。
アレクシスが掲げるは微かな燐光を纏う白銀の大盾、閃盾自在『蒼天』。
そこより溢れ出るはオーラの光が織り成す『閃盾』だ。
セリオスの前を進み、如何なる者の爪牙をも阻んでみせるのだと。
蒼穹のような青い眸に、清冽なる意思を宿して。
己は守護者たるのだ。
盾であるのだと。
宵に似たセリオスの青い眸が寄せる信頼をその背に受けて。
「そう。それでも往くのが人だと、神なる私でも判るから」
大祓骸魂の声に応じて、百鬼夜行がその猛威を振るう。
禍々しく、恐ろしく。
けれど、何処か悲しいその姿はきっと。
喪ってしまった大切なものを、取り戻そうとする過去の魂だから。
闇に埋もれ、悲しみに溺れた者たちを救おうと。
アレクシスが展開するのは光の陣。
『払暁の聖光を今此処に!』
敵の退路も、進みべき路も。
全てを包み込んで、立ち上がるは浄化の光の柱。
絶望と闇は斬るものではい。
光と祈りをもって、祓うものだと知るが故に。
アレクシスの放つ光柱を受けて、散り散りに乱れる百鬼たち。
荒れ狂う姿は、雄々しさよりも悲嘆のようで。
掲げる『閃盾』をもって受け止め、路を更に切り拓いていくアレクシス。
妖怪たちこれだけいても、誰かが別の誰かの背を押すことなどない。
ならばこそ。
セリオスの起こす追い風と歌の元、怯んで臆す事などはありはしないのだと。
金色の髪を靡かせ、陣から奔る光の柱をを一際強く煌めかせる。
なのに、そこに猛る攻撃の意識は見えないのだ。
何処までも護ろうと願うのがアレクシスなのだから。
傷のひとつ、つけさせはしない。
全てをこの盾と、意思で護ろうと。
この身を挺して、もっとも大切なひとへと想いを示すのだ。
「……傍に、ずっと一緒にいたいと思うことも」
見つめる先には、儚くも妖しき気配の影。
大祓骸魂が白無垢の姿で、血濡れた指にて懐刀を携えている。
佇むのは、愛しきひとを待つ少女のように。
けれど渦巻く虞は、神智を越えた狂気を滲ませて。
――永遠を求めるのが、罪だとしてもと。
「変わらない誓いだってある」
――不滅である、鮮やかさをこの腕に。
ねえ、それは変わらないでしょう。
私の想いは、貴方たちと違わないと。
囁いて微笑む姿を見て、ああ、だからこそと。
アレクシスには認められない。
「けれど……大祓骸魂。君の永遠には同意できない」
剣の往く路を拓く為。
盾としてその身と決意で前へと進む姿。
これは、不変ではないのだ。
より善く、より尊きものへと変われる筈。
明日という理想への歩みさえ、留めてしまうのが大祓骸魂の愛ならば。
「たとえ、どんなに離れていようと」
手で触れられず。
声は届かずとも。
「大切だと想うものを守る為に手を伸ばす事も」
指先は虚空をきれど、確かに想いは届く筈なのだ。
祈りを握り絞めて。
さあ、願おう。
「……空の下での幸せを願う事も、出来るはずだよ」
美しき空の下で、光の下で。
愛しい人の笑顔を、思い浮かべて、その為にと祈ることは。
難しいことじゃない筈なのだから。
遙かなる距離にて別たれても。
時と命が、繋がりを断ったとしても。
「私はセリオスの幸せを願い続けられる。生きて欲しいと、願い続ける」
静かに、けれど、何処までも誇らしく。
微笑むアレクシスに、大祓骸魂は眩いものを見たように眼を細めて。
続く光陣のもたらす裁きの燦めきに、瞼を落とす。
なんて一途で。
世界の残酷さを知りながらも、貫こうとする想いなのだろう。
ああ。
私は、これを忘れてしまったのだろうか。
弱点となった心臓に、足りないものはこれなのか。
応えるのは、盾より続く剣。
光柱に紛れ、有象無象など意に介さず。
いいや、全てアレクシスが護ってくれると信じているから。
『――暁を知る星よ! 深奥に眠る光を我が手に!』
迷いなく。
曇りなき一振りの青き剣となって、セリオスは突き進む。
光陣の上に立つセリオスの力は、暁星の盟約によって。
いいや、重ねて結ばれた想いと光によって、根源の魔力と共に明日へと向かう強さへと束ねられていく。
「永遠に、ずっと、一緒にいたい」
判らなくはないれど。
純白の剣、双星宵闇『青星』の柄を強く、強くと握り絞めて。
「そう思うことはあっても」
違う筈だろうと。
魔法で背に追い風を流してくれるアレクシスと同じく。
認められないのだと、その眸で大祓骸魂の姿を、いいや、その奥の心を見据えるセリオス。
「同意は……欠片もできねぇな」
だってそうだ。
あくまで、互いにとっての光でありたいのだから。
愛しあうというのはそういうこと。
愛する相手からの、愛を求めるというのはそういうこと。
「どれ程会いたくても、鳥籠に共になんて思ったことはない」
狭い、狭い硝子の箱庭でふたりきり。
他のものが入る余地などない楽園。
それを幸せと詠う少女の夢を否定はしないけれど。
「自分の想いが、相手を閉じ込めるものになりたくないんだよ」
変わりゆく明日があって。
理想や、次に叶えたい夢が次々と咲き誇る。
悲しげに、儚く笑う姿は大祓骸魂の貌は美しくとも。
次に咲く花のいろを、朝日の光を知らぬものなればこそ。
「それよりもずっと、生きていて欲しいと思った」
殺めるより。
死という過去で、永久に傍にと願うより。
そんな暗闇を何時か、祓えるのだと信じて。
「思っていた」
幽閉されていた籠の中で。
「10年ずっと……そう……」
そして、解き放たれ今も。
「今でも、想い、願い、希い続けている!」
セリオスは美しき祈りを囀り、黒い翼をはためかせる。
空へ。遙かなる天空へと。
ふたりならずっと、ずっと昇っていけるから。
セリオスの『青星』の刀身から浮かぶは、意念による光刃『光閃』。赤星と伴にあるならば、何処までも翔る強さを得る切っ先を。
余りにも眩い。
闇より抜け出した想いに、瞼を閉ざした大祓骸魂の胸へと向けて。
ただ真っ直ぐに。
一途に想い続けるのならば、負けはしないのだと。
傷つく恐れは、全てアレクシスが撥ね除けて。
繋がれた路を、光の剣が突き進む。
「過去と未来に別れても」
周囲に響き渡り、満ちる程の大きな声で。
高く澄み切った、アリアのような声色を伴って。
「幸せを願う、それが愛だろ」
ただ、ただそれだけだと。
奇を衒う事などなく。
純粋なるまでの想いだけを込めた『光閃』が、大祓骸魂の心臓を貫く。
朝焼けの美しさを知らず。
宵闇に揺れる、大祓骸魂の朱色の眸。
「……ええ、否定はしません」
けれど。
届かぬ思いに、痛み続けるこの胸は。
光刃で刺されてもなお、変わらぬ痛みを脈打たせる。
このままでは、死ねないのだと。
「ですが……もう一度、もう一度だけ」
懐刀を地面へと落とし。
からんっ、と響いた音色に、小さく祈りを込める。
「名を呼んで欲しい。愛しい、あなたに」
大祓骸魂という。
誰かにつけられた、忘れられた妖怪としてではなく。
狂いし神ではなく。
自らの幸福と笑顔を知り、愛を受け取ってくれた。
あなたに。
愛する私の名を。
「――あなたに呼ばれたら、きっと思い出せるから」
口こら零れた鮮血が。
白無垢を赤く、朱く、染め抜いて。
路を間違えた夢はこの色にて終わってしまうのだと。
彼岸花が風に揺れる。
名も忘れた少女へと、狂いし神へと。
手向けの歌が、子守歌のような優しさで紡がれる。
誰の喉から囀られたのか。
それに伴う拍子は誰のものなのか。
もはや、大祓骸魂には届かずに。
もう、これは何もかも遅く。
喪われた物語と夢なのだから。
未来と暁天を求めて。
セリオスとアレクシスは、静かに、穏やかに。
その呼吸と音色を、交えるように重ねていく。
これは、今にありて。
喪われぬ物語なのだと、確かめるように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百鬼・景近
(無心で斬り結ぶ
其が簡潔で良い
そう思い乍らも選んだ手は――道の先には、再び想い人の幻)
…御免ね
身勝手ばかりで
けれど、君も彼の骸魂を放ってはおけぬだろうから――この一時だけ、どうか力を貸して
(其の幻と向き合い
然れど触れ合いはせず
永遠も望まず
――静かに二人
骸魂へ向き直り)
愛しい人をこの手にかけ、自ら別ち――其でも想い続け
夢幻が過る度、掴めぬと分かって尚、手を伸ばしかけてしまう
君の気持ちは分かるよ
痛い程
だけど俺は
救われなくて良い
身は隔たれど
心は彼女に捧げ続ける
俺は、其で良い
苦みも痛みも
今は遠い彼女に繋がるもの
せめて其だけは手離さず胸に留める
UCの業火咲かせ
血も彼岸花も塗り替え
骸魂に
恋人に
決別の送火を
想い届かぬ、狂気と愛の神ならば。
ただ無心で斬ればいい。
斬り返されて、血が流れど。
幾度とて斬り結び、終わるまで続ければいいだけ。
其が簡潔で良い。
何も迷わずに、心を痛ませずにすむのだと。
百鬼・景近(化野・f10122)は、緩やかに、連なる鳥居の先へと進む。
余りにも寂寞として。
虚ろだと自覚する心の闇を抱えて。
けれど。
そう思い乍らも選んだ手は――道の先には、再び想い人の幻が浮かぶ。
「……ご免ね」
自然に零れたその声は。
謝罪なのか、それとも赦して欲しいのか。
それとも罰して欲しいのか、景近にさえ判らずに。
ただ琴を爪弾くのように、一定の旋律で悲しげな音色を響かせる。
「身勝手ばかりで」
それでもと、赤い眸を幻へと向ける景近。
向き合うのはとても難しくて。
苦しみと、切なさと、痛みが伴い続けるけれど。
「けれど、君も彼の骸魂を放ってはおけぬだろうから――この一時だけ、どうか力を貸して」
其の幻と向き合い。
されど触れることはなく。
声を重ねることさえ、在りはせずに。
永遠を求めることのないふたりは、現と幻はただ、ただと。
――静かに、大祓骸魂へと向き直る。
ぬらりと赤黒い色を帯びる妖刀を捧げ持つように構えて。
呟く景近。
「愛しい人をこの手にかけ、自ら別ち――其でも想い続け」
それこそ血濡れた路を。
延々と進み続けたように。
鮮血の曼珠沙華が咲き誇る路は、己が路でもあるのだと。
想いを、血の滲むような哀惜を、声色に滲ませて。
「夢幻が過る度、掴めぬと分かって尚、手を伸ばしかけてしまう」
声を唇むより零していく景近。
「君の気持ちは分かるよ。痛い程」
だけれどと。
妖しき刃を大祓骸魂へと向けて。
「だけど俺は、救われなくて良い」
静かに。
無言のままに受け止める、大祓骸魂。
放たれる妖気と虞が、鬩ぎ合いを起こし始めたとしても。
「身は隔たれど、心は彼女に捧げ続ける」
地面に咲き誇る赤い彼岸花。
狂気に似た愛の色で、世界を包む中で。
「俺は、其で良い」
告げた景近が地面と花を蹴り、一気に大祓骸魂へと肉薄する。
疾走の勢いを乗せた袈裟斬りは懐刀に弾かれて。
続く剣閃も、澄んだ音色と火花を散らせて。
神に刃向かうとはこういうことなのだと。
己が呪いさえ、解くことの出来ない身が、どうしてと。
「……救われたいと、想わないのですか」
翻った懐刀が、景近の腕を深く斬り裂いて。
「報われたいと、願わないのですか?」
それこそが。
大祓骸魂を、此処に引き留める呪いなのだと、気づけずに。
「苦みも痛みも……今は遠い彼女に繋がるもの」
ならばこそ。
喪わず。
そして、より痛みが増していく変化を認めて。
不変に、このまま、この程度の痛みを疼かせるだけでは景近は認められないから。
「せめて其だけは、手離さず胸に留める」
そうと。
幾重にも瞬く懐刀が、景近の身を無惨に切り裂き。
それでも急所に刃を届けぬのは。
想いこそを屠る為。
力で膝をつかせて、斃すだけではなく。
諦めさせて、大祓骸魂が世界を殺めるのを認めさせる為。
――愛されたいと、身勝手な願いをかけるように。
「女というのは、どうしてこうして」
周囲に色気のない男は。
あえてそうしているのかと、景近は呟いて。
瞬間、妖しき火が周囲に灯る。
無数の業火が彼岸花の上で咲き誇り。
血も花も。
虞も、穢れも。
肉も心も焼き払う劫火の花が、満開に咲き誇る。
己さえ灼き尽くすこと、厭わずに。
「さあ、終わらせよう。この赤い夢を」
報われること、ありはしない骸魂に。
この手にかけた、想い募りし恋人へと。
決別の送火が、徒花として乱れ咲く。
全ては灰に。
夢と未練の露も残さないのだと。
景近の赤い眸が、ゆっくりと瞼に閉ざされて。
その様にまた、大祓骸魂も。
この愛に負けぬのだと、送火を避けることなく。
白無垢に包まれたその身を焼き焦がす。
花嫁を送るには、あまりにも無惨で。
恋した幻と魂を包むには、激しすぎる。
けれど妖しくも美しい、終わりの赤い色彩が舞い踊る。
ひとの想いは、時として呪いとなり。
祈りとなり、願いとなり。
神にさえ届くのだと、揺れる炎の花が歌い上げた。
大成功
🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
捏造歓迎
和服
玄夜叉無
UC使用
想い人は初恋の人(お嬢)
俺の主の娘
黒の長髪
芯が強い
もしまた逢えるなら
謝りてェ
最初で最後の戀で無くなったコトを
(きっと笑うだろうなァ
『どうして謝るのです?
クロウ、わたくしはあなたの幸せを─』
故郷を出ると言った時、俺を引き留めなかったのは…
愛してたのに
俺は世界を選んだ
唯一を手離した)
俺の初恋
初めてを教えてくれたひと
好きな花や好物は
元々お嬢の好きなもの
忘れたくなかった(一番の理由
…俺も大概重いンだわ(苦笑
敵の戦意削ぐ
隙作る
核の一撃に総て込め
花炎で焦がれた戀心ごと灼く
赤は無限の光
虞や穢れ祓い浄化し朱赤の彼岸花で結ぶ
變じない永遠の愛なんざ俺は信じねェが
罪とも思わねェよ
大祓骸魂
ふわりと。
柔らかに流れる風が運んだのは。
過ぎ去りし夢か、想いの残滓か。
気付けばその身に纏うのは、かつての着物。
ああと、喉を鳴らして寂しげに笑うのは杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
夕赤の眸に、懐かしさを。
青浅黄の眸に、悲しみを。
それぞれ滲ませ、揺蕩う幻影を垣間見る。
疵一つなき神鏡なればこそ。
決して、嘘偽りを浮かべる事のできない誠の想いばかりを浮かべて。
「……お嬢」
連なる鳥居の向こうで、少女の艶やかな黒髪が風に靡く。
たおやかなる容姿であれ、芯の強さを感じさせるその眸。
クロウのかつての主。
その姿を見て。
思い浮かべる記憶と情景によって。
心へと染み渡るは、報われなかった初恋の残響。
「もしも、また逢えるのなら」
叶わぬ事なのだと。
泣き顔にも似た微笑みをクロウは浮かべて。
それでも確かな声を紡いで届ける。
「謝りてェ」
赦して欲しいなど願わない。
罰してくれても構わないのだから。
一途に想い続けられなかった。
始めてにして、最期を捧げられなかった身を恥じるように。
「最初で最後の戀で無くなったコトを」
この心臓さえ、彼女に与えてもよかったのに。
両腕は、抱き締めるためだけにあってもよかったのに。
それは、本当のこと。
過ぎ去った、もはや取り戻せぬあの日の事であっても。
ただひとは変わる。
全てを受け止めて、それで進むからこそ恋したのだろう。
凜とした視線が、クロウへと向けられて。
(きっと笑うだろうなァ)
クロウの想う通りに、微かに、優しく微笑んでみせるその姿。
愛しき彼方の、初恋を懐かせた美貌。
『どうして謝るのです?』
あくまで物静かに。
けれど、私の想いもまた、クロウと同様に譲らないのだと。
教えたでしょう。伝えたでしょう。
その鼓動に、今もわたくしの意思は残っているのだから。
『クロウ、わたくしはあなたの幸せを――ただ、それだけを願うのですから』
くすり笑う声色が、風と共にクロウに届いて。
あまりにも優しく耳朶を、乱れる情緒を撫でていく。
(故郷を出ると言った時、俺を引き留めなかったのは……)
それが偽りなく、何処までも真実だから。
嘘など映さぬ神鏡は、ひたむきな想いを受け止めて。
己の心に切実なる痛みをはしらせる。
(愛してたのに)
それでも、この手は。
今もなお、彼女に伸びることはなく。
(俺は世界を選んだ)
初恋という、クロウの魂の色を染め抜いた。
(唯一無二の、お嬢を手離した)
だからもう二度と、その腕を向けて。
指先で触れる事は出来ないのだろう。
例えこれが幻影であろうとも、してならないのだと義心が訴える。
せめて誠実であれと。
過去の自らを、美しく飾るなどせず。
「忘れちゃいねェよ。……忘れねェよ」
初じめての恋の甘さも、優しさも。
温もりも何もかも。
クロウが好きな花である紫苑に杜若は彼女が好きだったもの。
彼女が好きなものだから、好きになって。
今もなお、風に揺れるその色艶に想いを寄せる。
「せめて、あの花たちを好きで居続けたらよ」
記憶は色褪せず。
情景は未だに疼き続けて。
「お嬢の事、忘れないだろうと――忘れたくなかった」
風が吹きて。
時と季節が流れて。
蕾が開く度に、貴女の声と眸を思い出す。
「……俺も大概、重いンだわ」
苦笑を浮かべるクロウへと。
涼やかな視線と声が突き刺さる。
『そんな重く、重く。思い出の全てを、触れた人の全てを抱き締め続けるクロウの、あなたの幸せを願ったんですよ』
わたくし、独りの為ではない男だから。
その鼓動に宿るものは、数多の願いであるべきだから。
独占して、思慕の糸を絡み付かせて。
『前へ、未来へ。世界へと進む男の枷になりたくない』
澄み切った女の眸を、受け止めて。
変わり続ける世界の中で、初めてを受け取ったという真実だけを。
『幸せとして、抱きますから』
だから、此処はクロウの故郷ではないけれど。
わたくしの産まれた世界でもないのだけれど。
『――守って、救って』
それでこそ、わたしくに初恋を捧げた男、クロウなのだと。
誇った上で幸せになって欲しい。
別の花と共に笑い合う未来を、結ばれて幸福になる姿を。
『願い、祈らせて。わたくしにとっての幸せでもあると信じさせて』
大概に重いのはお互い様でしょう。
わたくしの色を、クロウは宿すのだから。
それは拭い去れない、積み重なる想いと日々。
今と、これからを織り成す糸なのだと。
「ああ、判ったよ。お嬢が信じてくれた、俺である為に」
杜鬼・クロウとして恥じぬ為に。
そうやって関わってきた、全ての人々に背を向けず、胸を張って進もうと。
「不変の過去を越えて、俺は進んでやらァ。どうなるか判らない未来に、揺れ動く俺なんかじゃねェんだよ」
故に連なる鳥居を進み。
黒い髪の、初恋の影の横を通り過ぎて。
朱色の眸にてクロウを眺める大祓骸魂へと立ちはだかる。
「お前の好きな花はなんだ?」
「……何を」
唐突な問いに、惑うように揺れる大祓骸魂の朱色の視線。
それに間髪をいれず、突きつけるように。
これが俺だと、クロウは宣言する。
「誰からも忘れられたとしても、お前の好きという想いを、俺が背負って、消えさせてはしねェよ」
忘れ去られて、悲しかったんだろう。
届かない想いばかりで。
指先は虚空をきって。
名を呼ぶ事も、呼ばれる事もできない儘に。
「俺は、大祓骸魂。お前を否定も、忘れもしねェ。愛するなんて言えねェが、確かにいたんだと憶えておく」
ならばと、懐刀を翻して。
周囲に渦巻かせる神智を越える虞の風。
花の優しき匂いと共に、辺り一帯へと咲いて満ちるは彼岸花。
「赤き曼珠沙華。膨らんだ鬼灯の実」
愛しい草花の名を告げながら。
からん、と下駄を鳴らして歩み寄る大祓骸魂。
忘れぬというのならば。
この切っ先に貫かれて、過去として留まるか。
それとも、この神たる身を越えて先へと進むか。
いざ、参りましょうと微笑む、儚き少女の貌。
「鮮やかな彩が好きかい? それなら、炎の花を以て葬ろうか」
故にとクロウが掲げるは、唐菖蒲に黒羽根と翠玉を添えたお守り。
炎連勝奉と名付けられたそれが、クロウの声に応じて姿を変えていく。
『不退を誓い、誇りを謳えば、猛き義侠が連なり燃ゆる――』
ゆらゆらと揺れながらも。
赤々と勇猛なる炎の刀身と化した、そのお守り。
必勝を捧げる烈火の一振りとなり、クロウの手で構えられる。
『――顕現するは、鎹鳥へ奉る花炎の一振り』
そして、周囲の花たちへの一閃。
唐菖蒲の花弁と見紛う燃え盛る炎は、クロウの戦意と共に狂気と愛に染まった彼岸花たちを焼き払い。
虞も、穢れも。
赤という無限の光の下に。
未練も、名残をもと炎にて祓い清めて、赤き戦場を織り成す。
「變じない永遠の愛なんざ俺は信じねェが」
場は花の燃え盛る舞台。
大祓骸魂も、クロウも、共に炎に身を焼かれながらも。
緩やかに歩を進め、ただ一撃、ただ一瞬の交差の為に視線を結ぶ。
「永遠を求める事を罪とも思わねェよ……大祓骸魂」
「いいえ」
ならばこそと。
懐刀『生と死を繋ぐもの』の刀身に、虞を掻き集めて。
クロウの炎刀へと、応じるが如く。
なまくらなれど、何処までも一途な恋慕の狂刃を振るう大祓骸魂。
「私は……殺める事さえするのだと、罪咎だと知りますから」
それでもするのだと。
秘めたる決意は、静かなる炎のようで。
「そうかい」
止まらぬと判ったからこそ。
その激しく、狂おしい程の恋慕を映したクロウが駆け抜ける。
隙などあってないようなもの。
狂いし神に挑むならば、力で押し通すものではない。
想いで、信念にて通すのだと炎の刀身を凝縮して、熱を高めて。
振るうは全身全霊を燃やて顕す花炎の一刀。
この花炎で、焦がれた戀心ごと灼いて終わらせるのだと。
核たる心臓を狙い、放たれる赤花の剣舞。
無傷で通れぬとは承知の上。
恋に、愛に触れたものが、痛みなしで叶う筈はないと。
迫る懐刀の切っ先を左腕で受け止め、肉を穿たせど動きを止め。
無防備となったその胸に。
深紅の剣閃が、虞を焼き祓う誓炎の猛威を示す。
神たる大祓骸魂、その心臓へと花炎の刃を届けるクロウ。
刀身より炎は溢れに、溢れて、大祓骸魂の裡から身を灼く尽くす。
恋も、愛も、魂に宿してしまった全てをと。
穢れた狂気を。死の気配を灰とすべく。
「……そんな懐刀より。血より」
互いの血で結びて。
忘れることはないのだとしても。
そんな赤より、愛おしいものがあるのだと、遙かな遠くにある影に。
初恋の人の微笑む貌を、細めた眼で見つめて呟くクロウ。
ああ、一瞬でも目移りしたのは悪りィよ。
けれど、互いに恋に浮かされて、見るべきものが見えないだろうと。
「誰でも、何でもというモンより、よォ」
互いの吐息さえ感じる距離で。
何処までも夢見る少女のように、炎花の刃に焼かれる大祓骸魂へとクロウは囁く。
雄々しくも、頼もしく。
優しくも、途を諭すように。
「骸の海で、握って、抱き締めて。想いで染め合ういろはあるだろうさ」
こんな場で、過つよりは。
殺めるような路を、進まずともと。
血色の曼珠沙華、優しも猛る義の炎にて舞い。
はらりと黄泉たる海へと、崩れゆく。
永遠などなく。
この想いも、恋も願いも。
儚き夢のようなものだから、尊く、愛おしいのだと。
初恋の情念を炎と化して焼く、隔世の夢。
現に繋がりし、想いの世界にて。
命の温もりに触れて、大祓骸魂は瞼を閉じた。
永遠となったふたつの初恋を。
朱赤の彼岸花の如き劫火が包み、灼き尽くす。
血のような赤い夢を。
隔世と現を滅ぼす、恋の奇譚を。
業火の仇花が、黄泉へと葬り去る。
叶うことのない、おんなの情が、赤い糸が。
焼き切れる程の想いが、此処に集ったから。
『わたしくは、クロウの幸せを願っています』
燃える花炎のの奥で、微笑む。
芯が強く、迷うことなく。
笑って、さよならを告げる女の影。
灰が舞いて。
残りて香るは燻りではなく。
血のように甘く、蜜のように深き、桜のそれ。
黄泉で幸せなどなれるのか。
旅立つ大祓骸魂には判らない。
骸の海にて、ひとり佇むのか。
それとも、流れ着いた新たしい何かの為に。
かの血濡れの指を洗い清めて。
結びあうのか。
それはまだ誰も知らぬ、夢の話。
斯くあれば、まだ幸いなのだと思える。
不変と永遠にと微笑み崩さぬ貌の神から。
夢を叶えて、幸せに笑う少女へと変じるべく。
花の匂いと、と深緋の炎が舞い踊る。
永遠の初恋よ。
叶わぬ想いを抱き続けたものよ。
今はその心と慕情を、今は眠らせよ。
新たなる物語の始まりの為にと。
百鬼の夜が過ぎし空は朝焼けにて唄いて。
朱かき火の彼岸花が、今は名さえも喪った神の終わりを結ぶ。
大成功
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