大祓百鬼夜行㉕~愛桜のエルガー
●愛しきアナタ
闇空の中、高く高くそびえ立つそれは大都市である東京を新たに象徴する塔。
しかし、見慣れた景色には異変が生じている。巨大な塔の最上部に設置されたのは、更なる大きさを持つ不思議な塔。大祓骸魂の力により建造されたその建物は、上空に不思議な空間を作り出し世界を包み込もうとしている。
全ては、たった一人の強い強い愛の為に。
――愛するUDCアース あなたを永遠にしたい。
――あとひと刺しで それが叶います。
●桜日和
「ついに、大祓百鬼夜行も大詰めですね」
ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は苺色の瞳に真剣さを宿すと、猟兵へとそう紡いだ。ひとつ深呼吸をして、心を落ち着けるとそのまま最終戦について語りだす。
今回のボスである『大祓骸魂』が現れたのは、カクリヨファンタズムと密接に関係するUDCアースの上空。東京の上空をカクリヨファンタズムが如き空間へと変化させると、あらゆる手段を用いこの世界を殺めようとしているのだという。
「このままでは、本当に世界の危機です。だから皆さんには……今回の戦争で経験した力を元に、敵を倒してきて欲しいんです」
両手を組むと、ラナは願うように猟兵へと紡いだ。
今回猟兵を案内するのは、不思議な空間の中でも更に異質。サクラミラージュの幻朧桜の満ちる丘だという。
時間帯は夜。不思議な光を纏いライトアップされた夜桜だけがどこまでも広がる丘の上で――猟兵達が出来ることは、ただこのひと時を楽しく過ごすこと。
白に近い淡い桜色は、光に照らされぼんやりと光り輝くかのよう。風が吹けば淡い花弁がはらはらと零れ落ち、優しい風と共に人々を撫でていく。
満ちる香りは春を思わせる甘い甘い花の香。雲ひとつ無い瞬く星々の下で、静寂に包まれた世界で、佇む人々は何を想い、何を楽しみ、そしてこの瞬間を力をするのか。
戦況は大詰めではあるが、桜の力を強めることも重要なこと。
だからその辺りは気にせずに、しっかりとこの景色を楽しむことが大事なことだろう。
「強い強い愛……。その気持ちは、応援したいとも思います。けれど……」
それで世界を滅ぼすことは、どうなのだろうか。
ラナは少し困ったように微笑みながら、自身の想いを言葉にする。カクリヨファンタズムに住まう妖怪と、UDCアースに住まう人々。その全てを殺めてまで叶える愛は――本当の意味での正解は、見えないものだけれど。
世界を救いたいという強い気持ちは、きっと猟兵としては正しいことだから――どうかお気を付けてとラナは紡ぐと、猟兵達を戦場へと送り出す。
――此処は『過去の遺物』で組み上げられた、儚くも幻想的な幽世世界。
――想い焦がれた人の心は、数多の奇跡を生むだろう。
公塚杏
こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
『カクリヨファンタズム』での戦争シナリオをお届け致します。
●戦場
『カクリヨファンタズムが如き空間』内に発生した、幻朧桜の丘です。
闇の中、淡い桜色の花弁が一面にはらはらと落ちる、幻想的な世界。
桜の樹は何本もあるので、人を気にせずに過ごすことも出来ます。
また、大祓骸魂を救うことはできません。
●プレイングボーナス
・よその戦争を無視して宴会する!
人と楽しんでも、一人でしっとりと物思いに耽っても。
桜の下でのひと時を楽しめばそれで大丈夫です。
桜の樹以外のもの、お店などは無いので。必要な物はご自身で用意をお願いします。
お酒も可ですが、未成年の飲酒は描写致しません。
●シナリオフレームについて
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●その他
・基本的には桜を楽しむことを最重視にしたお話の予定です。戦闘は一行「倒す」と触れてあれば問題ありません。
・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】又は【グループ名】をお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。また、3人以上での団体様は優先順位が下がりますご了承下さい。
・少人数での運営となる可能性がございます。
・受付と締め切り連絡は、マスターページにて行います。お手数ですがご確認下さい。採用は先着順ではありませんが、状況によって短時間での募集になる可能性がございます。
以上。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 ボス戦
『大祓骸魂』
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POW : 大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:菱伊
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ワン・シャウレン
鞍馬(f02972)と
倒す
気は満々じゃがこういう趣向とはの
楽しめば良いとは言う事なしの筈じゃが
少々落ち着かぬの
まぁ目的の傍迷惑さを思えば避けられ忘れられるも当然かの
桜も自然散り、それをも愛でるもの
その巡り移ろいもまた味わいじゃろう
朽ちるを惜しむなとは言わぬが、
それを一度で終わらせようとは永遠の捉え方はさておいても
愛で方を褒めは出来ぬの
受けておいて手酌もさせられぬ
此方からも返し
そういう所は武士らしいのう
じゃが、そうじゃの
わしも技を競うは好むものじゃし
競えば否応にもその者の生き様は表れよう
それを知る欲といえば…ないともいえぬか
落ち着かぬと見て話も気遣ったようじゃな生意気な
まぁ、良い
楽しめたしの
鞍馬・景正
ワン嬢(f00710)と。
世界さえ道連れにする覚悟の愛、と。
果たしてそれが何に起因したものか知れませんが、ただ一個の意志で滅して良いものではありますまい。
持参の徳利から酒を注ぎ、ワン嬢に一献。
例えば斯くも清艶なる桜、愛で餐する想いは抱けど、散らしたいなど、とても。
──ワン嬢は如何にお思いなさいますか?
そう静かに問いつつ、自らも一杯。
私は……戦場に出逢いし強者になら分かります。
肉を断ち、骨まで砕き、溢れる血潮を
如何な焔より赫々と闘志滾る瞳を
その過去から最期までかけた全てを
自らのみの知るところとしたいとは、否定しませぬが。
盃が空けば注ぎつつ、やがて満足すれば抜刀し妖怪諸共に薙ぎ払いましょう。
●
世界に終わりを招く大きな敵――。
美しきそのヒトを倒す気は満々だけれど、視界に広がる闇の中の淡色花にワン・シャウレン(潰夢遺夢・f00710)は少し戸惑うようにみ空色の瞳を細めた。
「楽しめば良いとは言う事なしの筈じゃが。少々落ち着かぬの」
風に揺れる淡金の髪を押さえながら、紡ぐ女性。その姿を見て、はらはらと零れ落ち続ける花弁を抱く立派な桜を見上げ――鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)は瞳を細める。
(「世界さえ道連れにする覚悟の愛、と」)
今回の戦いは、全て愛に始まり愛に終わる物語。
それが何に起因したものかは、景正には分からない。けれど、ただ一個の意思で滅して良いものでは無いということは分かる。
ふうっとひとつ溜息を零した後。彼は持参したとっくりを取り出すと、小さなおちょこへと酒を注ぐ。とくとくと微かな水音が響いたかと思えば、小さな容器の中の酒は桜が帯びる光を浴び輝いた。
「ワン嬢」
一献どうぞと彼が差し出せば、ワンは口許に笑みを浮かべ細い指で受け取る。零れ落ちる桜の元、乾杯の後飲み干せば――ほうっと零れる息はほぼ同時。
美しき桜の元、味わう酒はまた格別で。
景色と、五感と、共に楽しむからこその味わいだと景正は想う。この景色があるから、このような時間を味わえるのだと想えば。
(「――例えば斯くも清艶なる桜、愛で餐する想いは抱けど、散らしたいなど、とても」)
景正の頭を巡る思考。それはひとつの結論が出ているようだけれど――そっと彼は藍色の瞳を傍らへと向けると、唇を開く。
「──ワン嬢は如何にお思いなさいますか?」
彼の問い掛けに、手元のおちょこを弄っていたワンは顔を上げた。
ひとつ、瞳を瞬いて。
咲き誇る桜を見上げた後――吐息の後に彼女は言葉を零す。
「まぁ目的の傍迷惑さを思えば避けられ忘れられるも当然かの」
桜も自然に散り、それをも愛でるもの。
その巡り移ろいゆくのもまた味わいだ。
「朽ちるを惜しむなとは言わぬが、それを一度で終わらせようとは永遠の捉え方はさておいても。愛で方を褒めは出来ぬの」
小さな笑い声を零しながら、紡がれたそれはワンの此度の感想。そのまま彼女は景正が用意したとっくりを手にすると、空になった彼のおちょこへと酒を注いだ。
一瞬の空白に響く水音が心地良い。
彼女の言葉が、景正の心に満ちる。――すっかり満たされた器をじっと見て、ひとつ息を零して、景正は今度は自身の心を言葉にした。
「私は……戦場に出逢いし強者になら分かります」
肉を断ち、骨まで砕き、溢れる血潮を。
如何な焔より赫々と闘志滾る瞳を。
その過去から最期までかけた全てを。
「自らのみの知るところとしたいとは、否定しませぬが」
手元のおちょこを揺らしながら、彼はそう語る。
ゆらり、ゆらり。
揺れる水面を藍色の瞳に映した後――くいっと酒へと口を付ければ、ワンがくすくすと笑い声を零していた。
「そういう所は武士らしいのう」
彼の言葉はとても彼らしく、つい漏らしてしまったのだ。
けれども、ワンも技を競うことは好ましく思っている。
「競えば否応にもその者の生き様は表れよう。それを知る欲といえば……ないともいえぬか」
彼女の紡ぐ言葉は、重ねた年月の分どこか重みを感じる。
空になった景正へと再び酒を注ぎながら、彼が話も気遣っていた様子に少しだけ心が乱れるが――次の瞬間、ワンの口許には自然と笑みが零れていた。
「まぁ、良い。楽しめたしの」
お礼のように、景正が最後の一滴までワンのおちょこへと注いだ時。ぴちょんと響く音色に合わせ、吐息と共に彼女が零した言葉の真意には、彼は気付かない。
このひと時は、この酒が尽きるまでの僅かな時間の幻想空間。
だから最後の一滴まで。穏やかに楽しもうか――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マスティマ・カシチェイ
同行:フィロメラお嬢様(f33351)
夜空に満開な桜の樹の下ですか
不思議な光景といってしまえばその通りですが
細かいことは気にせずに置きましょう
満足させるのが執事の役目でございますから
お嬢様は何もない丘で
御茶会をせよとの事です急ですね
執事にはなんの問題もございませんが
何やかんやで飲食できるものはお出しします
机と椅子まで出せるかは…その場のノリで
花を愛でる機会は余りありませんが
刹那が尊ばれるのは分からなくもないですね
花は美しいから愛されるのだと思います
切り取られた一瞬の輝きと言いますか
……柄にも無い発言だったので
お忘れ頂きたいところですが
お誘い頂けたことは感謝しておりますよ
フィロメラ・アーティア
執事さん(f32039)と
フィロメラは今回カクリヨに
初めて訪れましたが、この桜も
本来は此の世界のものでないそうですね
初めて同士お花見を楽しむことにしましょう
フィロメラにも青い花が咲いています
執事さんにお願いしてのお茶会ですね
あたたかい紅茶もお茶請けのお菓子も
用意出来るなんてスゴイことですね
満ちる甘い香りはお花でしょうか、それとも
桜は儚く散るさまが愛でられているようです
刹那を愛するということでしょうか
花は散るから愛されるのでしょうか
執事さんはどう思いますか?
応えは何であれ
今この時間をフィロメラは
楽しかったのだと覚えておきますね
戦闘は鈴蘭の嵐で行う
●
ほうっと、初めて見る光景にフィロメラ・アーティア(花盗人・f33351)は淡い唇から吐息を零した。
彼女がこのカクリヨファンタズムという隣人と密接な世界に訪れたのは、今回が初めてのこと。だからこの景色は初めて見るものだが――美しく咲き誇る、淡色の桜も此の世界のものでは無いと云う、なんとも不思議な現象に彼女の口許に笑みが浮かぶ。
「初めて同士お花見を楽しむことにしましょう」
フィロメラにも、青い花が咲いている――風に揺れる髪に踊るは、青と紫の美しき小花たち。花弁のようなドレスの裾を揺らし、桜の元へと近付けば。用意を整えていた執事が優雅に礼をした。
――何も無い丘で、お茶会をせよ。
それがお嬢様であるフィロメラの命令。
急な物言いだけれど、執事であるマスティマ・カシチェイ(箱の中・f32039)にとっては何の問題も無い。どこから出したのか分からないカップの中からは、温かな湯気が立ち上がり。花々の香に混じり紅茶の芳しい香が広がっている。白磁の食器にはスコーンやケーキが並び、真白のテーブルセットの上に綺麗に並ぶ。
「あたたかい紅茶もお茶請けのお菓子も、用意出来るなんてスゴイことですね」
その光景に、フィロメラが感嘆の言葉を零せば。マスティマは礼をしながらもその口許に笑みを浮かべる。――その表情の真意は分かりにくく、感情を読み取れはしないけれど。フィロメラの為にこの場を用意してくれたことは確か。
そう、お嬢様を満足させることが、執事の務めなのだから。
何故、此の地に満開な桜が咲いているのか。
何故、今この瞬間に穏やかなひと時が過ごせるのか。
そういった細かなことを気にする必要は無いのだ。
ただ目の前の彼女を満足させることが役目だから――そっと椅子を引き少女を促せば、静かにフィロメラは席に着く。風が吹けば彼女と、マスティマの淡い紫の髪がふわりと揺れ動き。辺りに満ちる花の香りが強くなった気がした。
はらはらと零れ落ちる花弁は尚も続き、世界を埋め尽くすかのよう。
ひらりと落ちた一片が、琥珀色の液体の上に落ちた時。ふと、フィロメラの心に疑問が浮かぶ。
桜は、儚く散るさまが愛でられているという。それは刹那を愛するということなのだろうか。花は散るから愛されるのだろうか。
「執事さんはどう思いますか?」
桜の花弁が浮かぶカップから顔を上げ、傍らに控えるマスティマへと語り掛ける。
交わるふたつの瞳。
真っ直ぐなその眼差しを見返しながら――マスティマは、笑みを浮かべた。
「花を愛でる機会は余りありませんが、刹那が尊ばれるのは分からなくもないですね」
花は美しいから愛されるのだと思う。
それは、切り取られた一瞬の輝きとでも言うのだろうか。
ぽつりぽつり、零れ落ちる花弁を見て。フィロメラの髪に咲く花を見て。零すマスティマの言葉はいつもとはどこか違うようで、はっと彼は我に返る。
「……柄にも無い発言だったので」
お忘れ頂きたい。
そう願う彼の笑みはいつもと変わらぬようだけれど、ほんの少しだけ困ったように見えたのは気のせいだろうか。
今の言葉は忘れて欲しい。
その想いはあるけれど――この瞬間にお誘い頂けたこと、それは。
「感謝しておりますよ」
一瞬浮かべた笑みとは違う笑みを浮かべて、じっとフィロメラを見つめるマスティマ。彼のその言葉に、表情に。フィロメラは口許に笑みを浮かべて、こくりと頷きを返す。
彼の応えは儚くも消えていくものだけれど――。
「今この時間をフィロメラは、楽しかったのだと覚えておきますね」
こくりと頷き、静かに瞳を閉じて。
この時間を味わうように、彼女はカップへと淡い蕾を口付けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花澤・まゆ
幻朧桜が見られるなら、もう一度この世界で見たい
今度は一人で物思いにふけりたいと思ってたの
ああ、やっぱり、どの世界で見ても綺麗な桜
あたしの故郷の自慢の桜
こんな戦争でもあたしたちを助けるために咲いてくれるのは
なんだか本当に嬉しい
桜の木の根元に腰掛けて、桜の花を見上げて
降る花びらに手を伸ばして
忘れられても愛おしい気持ちはわかるんだ
あたしも、あたしを捨てた両親が未だに愛おしい
桜の下で、何度も思ってきた
でも…命を奪うのは違う、と思うよ
貴女のことはあたしが覚えてる
大祓骸魂、貴女のことも助けたかった
ごめんね、力が足りなくて
少し泣きながら――倒す、よ
アドリブ歓迎です
●
――幻朧桜が見られるなら、もう一度この世界で見たい。
闇の中、はらはらと零れ落ちる薄紅色の花弁を見つめながら。静かに花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)は笑みを浮かべつつ、心に想う。
今度は、一人で物思いに耽りたいと思ったから。
闇の中、光にぼんやりと照らされる姿は純白に輝いているようにも見えて。神々しく、永久に咲き続ける不思議な花であると云うその姿をより強い存在へと魅せているよう。
「ああ、やっぱり、どの世界で見ても綺麗な桜」
ほうっとひとつ溜息を零し、まゆはその立派な幹へと手を添える。
まゆの、故郷の自慢の桜。
凛々しくそびえ立つその姿は、どこで見ても変わらず美しい。
本来あるべき世界とは違う、この戦争でも。まゆ達を助ける為に咲いてくれていることに嬉しさが込み上げ、まゆの肩と翼が仄かに震える。
そうっと優しく撫でるように幹を伝い手を下ろすと。そのまま彼女は樹の根本へと、深緑の袴が汚れないようにと丁寧に扱いながら腰掛けた。
すうっと深呼吸をすれば、儚い花の香りが胸に満ちる。
優しく風が吹けば、まゆの白い肌を撫で、艶やかな髪を揺らし、揺れるリボンに舞い落ちるのは薄紅の花弁。ひらり、ひらりと儚く舞い散るその花弁へと手を伸ばせば、彼女の黒の手袋の上へと偶然にも舞い落ちた。
その花弁をじっと見ながら、まゆはどこか寂しそうに青い瞳を細める。
「忘れられても愛おしい気持ちはわかるんだ」
強く、強く――愛を語る一人の少女を想い彼女はぽつりと零した。
まゆも、自身を捨てた両親が未だに愛おしい。
今のように桜の下で、何度も思ってきたことがある。
「でも……命を奪うのは違う、と思うよ」
細めた瞳をしっかりと見開いて。キラキラと輝く青い瞳に宿るのは、先程帯びた悲しみでは無い。彼女を想い、自身の意思を込めた真っ直ぐな眼差しで、言葉で、まゆがそう紡いだ時。ざわりと風が吹いたかと思えば、目の前には少女が佇んでいた。
花弁の嵐の中、優雅に傘を差して。
鈍く光る刃を手に、儚く笑う少女。
「貴女のことはあたしが覚えてる」
――大祓骸魂、貴女のことも助けたかった。
少女を真っ直ぐに見つめ、まゆは霊刀を握ると迷うこと無く一振りする。素早く動く彼女の軌跡には――キラキラと輝く、雫が見えていた。
ごめんね、力が足りなくて。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「此処にも幻朧桜が…」
バスケットに煎茶道具一式とお握りと桜葉餅入れ参加
「お呼びする事は出来ないのでしょうけれど…貴女に、感謝を」
魔法瓶から茶器に湯を移して冷めさせ一煎目と桜葉餅を大祓骸魂にお供え
自分は二煎目三煎目を飲みつつお握りパクリ
桜の隙間から覗く空見上げ
「愛しているから相容れない…けれど感謝はしているのです。其れが一時の事であろうと、此処に幻朧桜が現出したのは貴女のお陰ですから」
「骸の海に浮かぶ泡沫の世界であっても、愛ゆえの行動であっても…此の世界を骸の海には沈めさせません。それでも感謝を感じるから…相容れる貴女のお戻りを願うのです」
宴が盛り上がるよう花見の歌桜の歌哀の歌を歌い続ける
●
ざわりと風が強く吹いたかと思えば、淡い花びらが世界に舞う。
「此処にも幻朧桜が……」
波打つ鮮やかなピンクの髪を押さえながら、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は言葉を紡ぐと共に溜息を零していた。
彼女にとって、幻朧桜は身近で。そして自分が何時か幻朧桜になる前身だと思っている存在。――それは、彼女が幻朧桜から生まれた身だからだろうか。
そのまま彼女はひらひらと袴の裾を揺らしながら、桜の下へと腰を下ろすと。持参したバスケットの中から、次々と物を取り出す。
並ぶのは、煎茶道具とおにぎりに桜葉をくるんだ桜餅。
魔法瓶から注ぐお湯は湯気をあげ、水音と共に香ばしい香りが世界に広がる。ゆっくり、じっくり。丁寧に入れた煎茶の一煎目を注いだ湯呑は――彼女自身の前では無く、そっと誰かへと差し出すように奥へと置かれた。
「お呼びする事は出来ないのでしょうけれど……貴女に、感謝を」
瞳を伏せ、穏やかな笑みを浮かべる桜花。
お茶の隣に桜葉餅を添えれば、世界に満ちる桜の香。
貴女――大祓骸魂と共に、ほんの少しでもお茶がしたいと思ったのだ。
人の居ないその席を一瞥した後、桜花は自分の為に煎茶を注ぐ。二煎目を飲み干し、三煎目を注いだ時には自分はおにぎりを一口。
そのまま視界を覆う桜を眺めれば――その隙間からは、闇が覗いていた。
「愛しているから相容れない……けれど感謝はしているのです。其れが一時の事であろうと、此処に幻朧桜が現出したのは貴女のお陰ですから」
改めて、感謝の言葉を口にする桜花。
例え彼女が此処にいなくとも。例え実際同席出来なくとも。この空間を作り上げたのは、紛れもなく彼女自身の力だから。
その感謝の想いと共に桜花に宿るは、猟兵としての責務。
彼女の愛した世界の片隅にこうして腰を下ろしても、やはり譲れぬものはあるから。
「骸の海に浮かぶ泡沫の世界であっても、愛ゆえの行動であっても……此の世界を骸の海には沈めさせません。それでも感謝を感じるから……相容れる貴女のお戻りを願うのです」
静かに微笑み息を吐き――そのまま桜花は唇を開くと、歌を紡ぐ。
それは花見の歌桜の、歌哀の歌。
さわりと風が吹き零れる桜の花弁は――まるで誰かが、涙を流しているようだった。
大成功
🔵🔵🔵
彩・碧霞
【香霞】
塔の上だというのに桜ですか
それも私が今暮らすサクラミラージュの幻朧桜
「ああ、すみません香鈴さん」
地球からカクリヨ、そして猟兵の力を得たことでサクラミラージュへ移り住んだ私がまだ店でなく工房だけを拵えた頃出会ったのが幼き日の彼女で
生きる為働かせてくれと願った彼女に色んな物を集めて来るよう願ったのが全ての始まり
「少し、懐かしく思っておりました。私達の、出会いの日を」
重たい竜の体でゆっくり地に座る
目の前には用意されたお弁当
戦地である筈なのに本当におかしなことだけれど
「そうですね。地球、カクリヨ、サクラミラージュ…3つの世界全てに愛着のある私ですから」
精霊の波を放つまで少し舌鼓を打ちましょうか
花色衣・香鈴
【香霞】
歩くのが苦手な筈なのにとすんとすんと足音をさせて何処かぼうっと桜の下を歩く綺麗な神様
「あの、碧霞さん、場所はこの辺りで良いですか」
振り向く彼女が虚ろでなくて安堵しながら花見の用意を整える
碧霞さんは家事の類をあまりしない人だからわたしが用意した
「今のわたしの始まりの日…」
愛する両親を骸の前で泣かせるのが嫌で家を出て
宛所なく彷徨う足の最後の力で偶然出会ったのが碧霞さん
働かせてくださいと言った病身のわたしに蒐集の仕事をくれた
今使う羽衣も地球に生まれた彼女がカクリヨの技術で拵え、サクラミラージュで戴いた物
「碧霞さんに、縁がある依頼だと思ったんです」
この時間を味わい尽くしたらこの場を祓いましょう
●
一面に広がる世界の色に、彩・碧霞(彩なす指と碧霞(あおかすみ)・f30815)は不思議そうに淡い緑の瞳を瞬いた。
塔の上だと云うのに、桜が咲いている。
しかも、UDCアースでも、カクリヨファンタズムでも無く。その正体は碧霞が今暮らしているサクラミラージュの幻朧桜。
その光景が不思議で、彼女はゆったりと桜の下を歩いている。
とすん、とすん。重い身体故に歩くのは苦手な彼女が、足音を鳴らせて歩む姿はどこかぼうっとしているようにも見えて――。
「あの、碧霞さん、場所はこの辺りで良いですか」
少し遠慮がちに、けれど彼女の在処を確かめるかのように花色衣・香鈴(Calling・f28512)は問い掛ける。するとくるり、碧霞は振り返ると。
「ああ、すみません香鈴さん」
そう紡ぐ彼女の眼差しは、いつもと同じ色。
虚ろでは無い淡いその瞳の色に、香鈴は安堵を覚える。気付かれぬほどの小さな吐息を零し、そのまま慣れた手付きで桜の下でのお花見の準備を始めた。重い身体故に動きにくい碧霞は、動く彼女を眺めながらあの日を想う。
地球からカクリヨファンタズム。そして猟兵の力を得たことで、サクラミラージュへと移り住んだ碧霞。彼女がまだ店では無く工房だけを拵えた頃、出逢ったのが幼き日の香鈴だった。生きる為に働かせてくれと、願った彼女に色々な物を集めて来るよう願ったのが全ての始まりだった――。
「少し、懐かしく思っておりました。私達の、出会いの日を」
そうっと瞳を閉じて、口許に笑みを浮かべて。
あの日を想いながら、静かに碧霞は準備の整った草の生える柔らかな地へと腰を下ろす。その拍子に重い竜の身体故どすんと、音が響くけれど。香鈴は気にした様子は無く、彼女の言葉を胸に溶かした。
「今のわたしの始まりの日……」
思い浮かぶのは、過去のこと。
愛する両親を骸の前で泣かせるのが嫌で、家を出て。
宛所なく彷徨う足の、最後の力で偶然会ったのが碧霞だった。働かせてくださいと言った、病身の香鈴に彼女は蒐集の仕事をくれた。
そして、今がある。
ゆったりと香鈴が用意したお弁当を食べる碧霞を眺めながら、そんな過去のことを思い出していた。家事の類をほとんどしない彼女の為に、こうして振る舞うことも随分と慣れた気がする。
そっと美しく煌めく羽衣を強く纏うように抱き締める香鈴。
そう、この羽衣だって。地球に生まれた碧霞が、カクリヨファンタズムの技術で拵え、サクラミラージュで香鈴にくれたもの。
この戦争が。
そして、この美しき桜の咲く景色が。
「碧霞さんに、縁がある依頼だと思ったんです」
ざわりと風が吹き、薄紅色の花弁が舞い散る中。揺れる髪を押さえながら香鈴がそう紡げば、碧霞はお弁当から顔を上げぱちぱちと幾度か瞳を瞬いた。
甘い花の香りが鼻をくすぐる。
澄んだ空気は懐かしくも馴染むような不思議な心地で――。
「そうですね。地球、カクリヨ、サクラミラージュ……3つの世界全てに愛着のある私ですから」
ひとつ深呼吸をして。
心を落ち着かせると淡く笑みを浮かべて、静かに碧霞はそう紡ぐ。
はらはらと零れ落ちる薄紅色は、不思議と落ち着く温かさを宿し。この地で過ごす2人を優しく包み込むかのよう。
全ては、幻朧桜の温かさ。
そうっと瞳を閉じて、この瞬間に身を委ねる少女達。
今は確かに、大きな局面であることは確か。
けれどあと少し。もう少しだけ――このひと時を味わおうか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
幻朧桜……故郷では見慣れた光景だが、世界や環境が変わればまた雰囲気や感じ方も変わるというか。ああ、これはこれで見応えがあって良いものだな
少しだけ新鮮な気分で、温かいお茶でも飲みながら、桜の木の下に座ってゆっくりと過ごそう
今は考えるべきじゃないのかもしれないが、それでも少しだけ考えてしまう
幻朧桜が大祓骸魂に何かしらの影響を与える事があるのか、ないのか
最早救うことができない――例え出来たとしてもこれだけの事を引き起こした以上、唯では済むまいが――これが大祓骸魂にとって、何かしらの救いになれば良いのだけど
――それじゃあ、さよならだ。神刀を抜いて浄化の神気を込めた一刀を大祓骸魂に叩き込む
●
「幻朧桜……」
はらはらと零れ落ちる薄紅色を眺めながら、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は吐息と共に言葉を零す。
サクラミラージュ出身の彼にとって、目の前の桜は身近で見慣れた光景。
けれど、世界や環境が変わればまた雰囲気や感じ方も変わる気がする。
闇の中。
ぼんやりと灯る淡い花は儚くも美しく、心地良い風が吹けば数多の花弁を散り世界に色を宿している。
「ああ、これはこれで見応えがあって良いものだな」
桜以外は、何も無い不思議な空間。
その中で佇みながら、鏡介は改めて幻朧桜を眺めそう想った。
宿る気持ちは、少しだけ新鮮な気持ち。
ポットを取り出しお茶を注げば、水音と共に湯気がふわりと辺りに広がった。花散る中、静かに息を吸えばお茶の香りと共に満ちるは甘い甘い花の香。それは幻朧桜のものなのか、はたまたどこからか風に乗ってきたものなのかは分からない。けれど鏡介は仄かにその香りに心地良さを感じながら、そっと桜の樹の下へと腰を下ろす。
ふう、ひとつ零れる溜息。
今は考えるべきでは無いのかもしれない。それでも、少しだけ考えてしまう。
(「幻朧桜が大祓骸魂に何かしらの影響を与える事があるのか、ないのか」)
彼女を救うことは出来ない。――例え出来たとしても、これだけの事を引き起こした以上唯では済まないだろう。
それは鏡介も分かっているのだ。
けれど、つい願ってしまう。――これが大祓骸魂にとって、何かしらの救いになれば良いと。愛を宿した彼女にとって、例えほんの少しだとしても。
ざわりと風が吹けば桜が舞い散り、一瞬視界が塞がったかと思えばそこには佇む少女の姿。くるりと傘を回し、儚く笑う彼女を見て。鏡介はコップを置くと立ち上がり、笑みと共に神刀を抜く。
「――それじゃあ、さよならだ」
紡ぐは別れの言葉。
少女へと振り下ろされる森羅万象を断ち切る刃は、浄化の力を宿していた。
大成功
🔵🔵🔵
フィッダ・ヨクセム
ただ、桜を眺めたいと思う
少しだけ前を向いて……きちんと眺められる気がしたから
普段はしないが、喚びだす鬣犬バスに寄り添わせる
"待て"。暫く"伏せ"てろ
でっかいハイエナの腹部をクッション代わりにする
バスがぶちぶち文句を言おうが俺様は華麗に無視する
「てめェが心底されたいことをしてんだよ」ッて、黙らせる
頭の立派な鬣か、顎の下をわしゃわしゃ撫でてな!
(そうすると文句がピタリと止んで黙るんだ)
……なんだ、結構いい眺めなんじャん夜桜
眠気の代償は小さくないが、花を眺めて休息ができていると思えば悪いことはない
温かい気持ち。
俺はそれに満足するまでぼーッとする!バス停立てて!
思い出したら、指パチンで襲わせる"行け"
●
フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は想った。
――ただ、桜を眺めたいと。
今は少しだけ前を向いて……きちんと眺められる気がしたから。
視界に満ちる淡い色。
はらはらと零れ落ちる花弁は淡色の雨のように降り注ぎ、すうっと息を吸えば胸に甘い香りが満ちてくる。
そんな彼の足元を温もりが伝ったかと思えば、身を添わせるようにハイエナの鬣犬バスが居た。――いつもは別行動をしている筈。けれど今日は特別だ。
「"待て"。暫く"伏せ"てろ」
命を下せば静かに言うことを聞き、すぐにその場へと伏せる鬣犬バス。そのままフィッダはしゃがみ込むと、大きなハイエナである彼の腹部へと触れた。
ふかりと手に伝わる温もり。
そのまま身体を預ければ――小さく彼は唸りを上げる。
「てめェが心底されたいことをしてんだよ」
その言葉と共に、頭の立派なたてがみを。彼のあごの下を。撫でてやれば先程までとは打って変わり、鬣犬バスは静かになる。そっと身体を伏せて、フィッダが身を預けやすいようにと静かにしている様子に、彼はひとつ息を零した。
改めて見上げてみれば、零れる桜の花弁は先程と変わらず降り注ぐ。
「……なんだ、結構いい眺めなんじャん夜桜」
ふう、と深い息を吐き。
ただただ静かに桜を眺めれば、自然とフィッダの身を襲うのは眠気。
その代償は小さくないけれど――花を眺めて休息が出来ていると思えば、悪いことでは無い。段々と温かな気持ちが彼に満ちる。
背には温かな感覚。
心地良い風の中。傍らには本体であるバス停を立て、フィッダはただただ静かにこのひと時へと身を委ねた。
――"行け"
そのひと時が開けるのは、指を鳴らす音と紡がれる一言が全ての合図。
闇の中の穏やかな時間は、その瞬間まで確かに続いていた。
大成功
🔵🔵🔵
花房・英
【ミモザ】
そうだな、色んな戦場が現れるような話だったけど
ここはあんま警戒しなくて良さそうだ
とはいえ、油断はしないけど
寿は寿で得意な分野で役に立てばいいだろ
戦うだけなら俺ができるし
それより弁当、何入れたんだ?
オムライスのおむすびを見つけて、思わずじっと見てしまう
うん、好きだ
食べていいか尋ねたら、手を合わせてから食べる
美味い
壊すより仕舞っといた方がよくないか?とは思う
寿はどう思う?
…俺もピンとこない
植物に対する…そっか、ああいう気持ち
言葉にするのは難しいけど
は?また、そう言うことを…
良いこと言ったみたいなドヤ顔すんな、腹立つ
…そうならいいと思うけど、多分俺の気持ちはそんなに綺麗なものじゃない
(倒す
太宰・寿
【ミモザ】
空の上に丘があるなんて、不思議だね
でも正直言うと、この不思議が有難い
こういうところで少しでも役に立てるなら、救われる気がするの
もう少し戦いでも役に立てたらいいんだけど
急いで作ったから、おむすびと卵焼きとウインナーだけだよ
ふふ、英オムライス好きでしょ
口に合ったならよかった
桜の花びらがひらひら舞うのを眺めながら
愛って色々あるんだね
大祓骸魂は、愛しいから殺そうとしてるんだよね
仕舞っておく…その方が分かるかも
うーん、難しいね
見返りを求めないのが愛だと思ってたけど
私もよく分からないや
植物に対する愛情、英は持ってると思うよ
家族愛って言葉もあるし、私と英の間にも愛があると思わない?
(倒します)
●
はらはらと零れ落ちる薄紅の花弁。
風が吹く数多の花弁の雨の中――太宰・寿(パステルペインター・f18704)は風に揺れる柔らかな髪を押さえながら、ほうっと溜息を零した。
「空の上に丘があるなんて、不思議だね」
此処は確かに、空の上。
しかも幻想的とは無縁なはずの世界なのに――今広がるのは、闇の中に咲く淡く光る数多の幻朧桜。どこまでもどこまでも続くその幻想的な世界に、寿はほんの少し嬉しそうに笑みを浮かべた。
今は戦争と云う大きな戦いの最中。
そして、既に戦局は最終戦。
だからこそ、こういうところで少しでも役に立てるなら、寿も救われる気がする。
「そうだな、色んな戦場が現れるような話だったけど、ここはあんま警戒しなくて良さそうだ」
彼女の心を察してか、彼女の元からの性質を知っているからか。辺りを見回しながら花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)はそう紡いだ。勿論、油断はしないけれど。今この瞬間は、そこまで真剣なひと時では無い筈だ。
「もう少し戦いでも役に立てたらいいんだけど」
「寿は寿で得意な分野で役に立てばいいだろ」
隙を見せず佇みながら、英は桜の景色から寿へと視線を向ける。彼女は少し戸惑うように瞳を伏せていたけれど、当然のように英は語った。
そう、戦うだけならば英が出来るから――彼女の気持ちを持ち上げるように、とんっと英は歩みを進めると桜を背に腰を下ろしてから口を開く。
「それより弁当、何入れたんだ?」
何気ない、日常のような会話。
その言葉に寿は笑みを浮かべると、鞄からお弁当箱を取り出した。
「急いで作ったから、おむすびと卵焼きとウインナーだけだよ」
蓋を開けたそこには、柔らかな卵焼きに香ばしいウィンナー。そしておむすびは、真っ赤なケチャップライスに卵をふんわり纏わせた花咲くような色をしていて。その花に、じいっと英の瞳が釘付けになる。
「ふふ、英オムライス好きでしょ」
「うん、好きだ」
食べても大丈夫かと確認をして、頷きが返ればしっかりと手を合わせて英はオムライスを一口。――美味い。自然と零れるその言葉を聴けば、寿は満足そうに微笑んだ。
ひらり、ひらり。
薄い花弁が舞い散る様は幻想的で、儚くも美しい。
その光景を眺めながら――寿はひとつ、溜息を零した。
「愛って色々あるんだね」
溜息と共に零れる言葉は本当に不意に。
けれど、だからこそ彼女の心を表しているよう。
今回の戦いのボスである大祓骸魂は、愛しいから殺そうとしていると云う。その愛のカタチに触れたのは初めてのことで、驚きが隠せない。
「壊すより仕舞っといた方がよくないか? とは思う」
彼女の呟きに、おむすびを飲み込んだ後英は自分の心を呟いた。そのまま寿はどう思う? と問い掛ければ――彼の言葉に頷いた寿は、戸惑うように眉を寄せる。
「うーん、難しいね。見返りを求めないのが愛だと思ってたけど」
よく分からないや。
困ったように笑った彼女の姿を見て、英も自分ピンとこないと素直に紡ぐ。
愛のカタチは様々。
その答えが導き出せない英だけれど――。
「植物に対する愛情、英は持ってると思うよ」
「植物に対する……そっか、ああいう気持ち」
助け舟を出すように紡がれた寿の言葉に、英は顔を上げると納得したように頷きを返す。言葉にするのは難しいけれど、胸に湧き上がる温かな心地。けれがそうだというのだろうか――それならば。
「家族愛って言葉もあるし、私と英の間にも愛があると思わない?」
にっこりと、先程の陰りを帯びた表情とは打って変わっていつもの穏やかな笑みでそう紡ぐ寿。その言葉と表情に、英はほんの少し困ったように、慌てたように視線を逸らし。
「は? また、そう言うことを……。良いこと言ったみたいなドヤ顔すんな、腹立つ」
口許を隠しながら、少しぶっきらぼうにそう返していた。
――そうならいいと思うけれど。
(「多分俺の気持ちはそんなに綺麗なものじゃない」)
その一言は、心に秘めて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メリー・ブラックマンデー
(アドリブ連携歓迎)
桜。カクリヨにもUDCアースにも咲く花だけど…これはサクラミラージュの幻朧桜かしら。
不死の帝が治める世界で年中咲き誇る桜は、永遠の象徴と言えるかもしれないわね。
…永遠を求める大祓骸魂。此度の敵に相対するまでの間、少し足を止めてみましょうか。
流れる時を緩めてみれば、ひらひら舞い散る花びらも空中で掴めそう。
…花はいずれ散り行くものだけど、どうせ散ってしまうからといってこの世界の人々は花を無意味と言うものかしら。
愛せないと諦めてしまうものなのかしら。
…いいえ。だって今も尚、人は春の桜を楽しみにしているのだから。
さあ、そろそろ流れる時の速さも元に戻る。
行きましょう、貴女を討ちに。
●
桜は、カクリヨファンタズムにもUDCアースにも咲き誇る美しき花。けれど目の前に咲く淡く光る美しき花は、今回の戦争に密接に関わる2つの世界では無い。永久に大正が続く地、サクラミラージュから現れた神秘的な幻朧桜。
「不死の帝が治める世界で年中咲き誇る桜は、永遠の象徴と言えるかもしれないわね」
はらはらと雨のように零れ落ち続ける淡い花弁を見上げながら、メリー・ブラックマンデー("月曜日"がやって来る・f27975)は煌めく瞳を細めながらそう紡いだ。
この地を作り出したのは、永遠を求める大祓骸魂。
どこか近しい彼女と云う敵と相対するまでの間だけ、足を止めてこの美しき花を眺めても罰は当たらない筈。――メリーがはらはらと零れ落ちる花を見上げていると、気付けばその手を伸ばしていた。
ひらり、ひらり。
ゆっくりと、不規則に舞うその花弁は掴めるだろうか。
流れる時を緩めれば、掴めるだろうか。
「……花はいずれ散り行くものだけど、どうせ散ってしまうからといってこの世界の人々は花を無意味と言うものかしら」
花の美しさは永久では無い。
季節が巡ると共に花も巡る。
だから――ヒトは愛せないと諦めてしまうものなのだろうか。
「……いいえ。だって今も尚、人は春の桜を楽しみにしているのだから」
はらりと零れ落ちる花弁を1枚掴むと、小さな手をきゅっと握りメリーは紡ぐ。儚い一瞬の命だからこそ、人々は花を愛する。その瞬間を、輝かしいひと時を。
そして再びの出逢いを夢見て、このひと時を記憶に残すのだろう。
ヒトは巡り、消えゆくものを愛する心を持っているから。
――そして、幻朧桜はその巡りとは少し違う位置づけにある不思議な花。
――例え散りゆけども、四季を問わず永久に咲き続ける神秘的な存在。
故にこの地に現れたのだろうか。
ふう、とひとつ溜息を零して。メリーはただはらはらと零れる桜の花弁を見つめる。神として、散りゆくその花は普通とは違う軌跡を描く速さをしていたけれど――彼女が握っていた手を開き、掌から零れ落ちる桜の花弁。すると同時に、辺りの花の速度も変わった気がした。
はらり、はらり。
時が落ちる。
「行きましょう、貴女を討ちに」
零れる桜を最後にもう一度見つめた後、静かにメリーはそう紡ぎ桜を背にした。
大成功
🔵🔵🔵
榎本・英
【春嵐】
嗚呼。桜が綺麗だね。
此方にあるものは、いつものドロップとナツのポン菓子だ
それはそれで良しとして呉れ。
折角なら君の紅茶も飲みたかったのだが
今回は、私が持参した茶だ。
紅茶は帰ったら淹れてくれるかい?
嗚呼。ポン菓子は此方に来てから何かと強請られるのでね。
ナツは眠っているよ。ランは如何かな?
君は今日もとても美しいね。
嗚呼。なゆ、口を開いて呉れ。
からころ笑うドロップ缶から
いちご味の一粒を君の唇へ寄せよう
紅い色彩はさいわい
戦を忘れた穏やかな一時の印だとも
器に浮かぶ桜の花弁が穏やかな一時をいろどる
次は、弁当を持って花見をしたいね
おにぎりは作れるかい?
君の握ったおにぎりは如何なる形をしているのだろうね
蘭・七結
【春嵐】
溢れ落つ花びらのうつくしいこと
桜の世界には、よおく訪れるものだから
この彩を見慣れているというのに
あわい彩を目にしたのなら、つい見蕩れてしまう
細長い指さきが摘みあげる、あかのいろ
からころと、いちご味の甘味を転がしましょう
もちろん、喜んで
此度の戦ごとが終息をした暁には
ふうわりと香る、サクラのお茶を仕立てましょう
幽世蝶をこの光景へと遊ばせて
降り注ぐ花びらと、あかい耀きを眺む
ほんとうに、うつくしいわね
この世では常なるサクラは咲かないから
いっそうその儚さに心を惹かれてしまう
食事をしながら眺むサクラもステキでしょうね
まあるいものと、三角のもの
そうと握って仕立てるひと時も
屹度、とても愉しいのでしょう
●
――嗚呼。桜が綺麗だね。
零れ落ちる幻想的な花弁の雨を見上げながら、吐息と共に零れる榎本・英(優誉・f22898)の言葉。その言葉へと耳を傾けながら、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は穏やかに笑みを返す。
その花弁がとても美しいことはよく分かっている。
良く訪れる、常に桜の咲き乱れる世界。その世界の花だと云うこともあり、この景色も彩も見慣れているはずなのに――何故だろう、あわい彩を目にしたのなら、つい見惚れてしまうのは。
じっと七結のキラキラと輝く宝石のような、紫の瞳が花を見上げる。
零れる花片雨の軌跡を無意識に追い、また咲き誇る満開の桜を見上げて。自然と溜息を零したならば、傍らの英が穏やかに笑みを零していた。
「此方にあるものは、いつものドロップとナツのポン菓子だ」
彼の手には、からころと鳴るドロップ缶。そして、白猫のナツが大好きなポン菓子。何かと強請られると彼の云う通り、どこか幽世の世界と合うお菓子だが生憎今はナツは眠っている。いつもの2つを手にして笑う彼は、そっと人差し指を口許に当てると。
――それはそれで良しとして呉れ。
囁くように、そう紡ぐ。
ざわりと風が吹けば、花嵐と共に柔らかな七結の髪が世界に舞い踊る。その美しき様子を眺めた後――英は、お茶をカップへと注ぐと彼女へと差し出した。
折角なら、君の紅茶も飲みたかったけれど。今回は彼が持参したもの。
「紅茶は帰ったら淹れてくれるかい?」
「もちろん、喜んで」
笑みと共に紡がれる言葉に、七結はこくりと頷き同意と共にその細い手を差し伸ばしカップを受け取る。湯気の立つ器へと触れれば、じんわりと温かな感覚が満ちてきた。
此度の戦ごとが終息した暁には、ふうわりと香る、サクラのお茶を仕立てましょう。
微笑みと共に交わされる約束の言葉。
そのままお茶へと唇が触れれば、彼女はほうっと溜息を零す。
ひらり、ひらり。
零れ落ち続けるは淡い花の雨。
いつまでも、いつまでも続くその雨を眺めていれば――。
「嗚呼。なゆ、口を開いて呉れ」
囁くような言葉。
彼から紡がれたその言葉に七結が顔を上げると――からころ、音色が鳴ったかと思うと、彼女の蕾のような唇に触れる『あか』があった。
ふわりと鼻をくすぐる甘酸っぱい香。
細長く無骨な指先が摘まみあげたそのあかいろを、ころりと口中へと転がせば。いちごの味が舌のうえへと広がった。
――紅い色彩はさいわいの色。
ころり、ころり。
転がる音色もまたさいわいの音色をしているようで。自然と綻ぶ七結の顔を見れば、満ちる胸の心地も穏やかで温かなもの。
今このひと時だけは、戦を忘れた穏やかなひと時。
ふうっと溜息と共に英が視線を桜へと向ければ――そこにひらひらと舞い踊る蝶の姿がいた。それは七結の呼び出した、くれない纏う真白の蝶。ひらり、ひらり。花とは違う緩やかな軌跡を描き輝きを放つその姿は。
「ほんとうに、うつくしいわね」
ほうっと溜息と共に七結は零していた。
この世では、常なるサクラは咲かない。
だからだろうか、いっそうその儚さに心惹かれてしまうのは。
「次は、弁当を持って花見をしたいね。おにぎりは作れるかい?」
――君の握ったおにぎりは如何なる形をしているのだろうね。
仄かに頬を染める彼女の手を取って、微笑みながら日常のことを交わす英。彼の言葉に、七結は同意を示すようにこくりと頷く。
食事をしなが眺めるサクラもまた、ステキであろうことは想像出来る。
「まあるいものと、三角のもの。そうと握って仕立てるひと時も」
――屹度、とても愉しいのでしょう。
そのひと時を今から夢見るように瞳をとろけさせて七結が紡げば、辺りの甘い香がより一層強まったような気がした。
はらり、はらり。
変わらず零れる幻朧桜は、ただ静かにふたりを包み込むように佇んでいた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水鏡・多摘
ああ、この桜は本当に心安らぐのう。
酒を持ち込み少しずつ呑みながらこの緩やかな時間を過ごす。
…積年の恨みつらみの一つが果たされる。
だが邪神はまだこの一柱だけではない。それらすべてを倒すまで我の戦いは終わらぬ。
心残り全てを果たす事ができたその時は…きっとあの愛し子達の元へ逝くことができる。
志半ばで力尽きる可能性もあるじゃろうが、それでも最期の瞬間は満足して逝くことがきっとあの子達に報いる術なのじゃろう。
桜は賑やかなくらいに咲き誇り、いつかは散ってしまうもの。
だけれども、終わりがあるからこそきっとその美しさはより映えて世界を彩るのだろう。
そんな事を思いながら桜と酒を楽しもう。
※アドリブ絡み等お任せ
●
「ああ、この桜は本当に心安らぐのう」
ひらりふわりと舞う花弁を見上げ、水鏡・多摘(今は何もなく・f28349)は無意識に言葉へと落としていた。
たぷりと揺れ動く手元の盃の中の酒。
ぼんやりと灯る桜が水面を照らす中――多摘の積年の恨みつらみのひとつが果たされる心地が満たしていた。
彼にとって、此の地は縁が深いもの。
そして今回の戦いと密接に関わるUDCアースとも。
だからだろうか、より強く強く心がざわつくのは。
だが邪神はまだこの一柱だけではない。それらすべてを倒すまでは、多摘の戦いは終わらない。そして心残り全てを果たすことが出来たその時は――きっとあの愛し子達の元へ逝くことができる筈だから。
志半ばで力尽きる可能性もあろうだろう。
それでも最後の瞬間は、満足して逝くことがきっとあの子達に報いる術なのだから。
ふうっと多摘の口から零れるのは、大きな溜息。
鋭い爪を携えた、大きな盃がゆらゆらと揺れ。白髪の目立つ口許へと運べば彼はごくりと音を鳴らしながら酒を飲んだ。
今はひとりの彼に、お酌する者はいないけれど。
だからこそ、温かく見守るように咲く桜に心安らぐのだろう。
目の前の桜は、賑やかなくらいに咲き誇っている。
けれど、儚きその花はいつかは散ってしまうもの――。
「だけれども、終わりがあるからこそきっとその美しさはより映えて世界を彩るのだろう」
儚いからこその美。
このひと時が美しくも安らぐのも、きっとそのひとつ。
だからこそこのひと時に感謝をするように、多摘は酒の満ちる盃を掲げた。すると偶然だろうが、はらはらと零れ落ちる花弁が盃の中へとふわりと舞い降りる。
彼の動きに合わせ水面が揺れれば、中の花弁もゆらゆらと揺れ。
儚くも温かなこのひと時を、まるで桜の意思で共にしてくれているようにも感じた。
その美しき様子に、自然と多摘の顔に笑みが浮かぶ。
嗚呼、そうか。
今このひと時だけは――。
大成功
🔵🔵🔵
都槻・綾
f11024/花世
花弁は
全てを白に還す雪片にも似て厳か
然れど
あなたが居てくださるから
寂しくも凍えたりもしない
ありがとうございます
差し出す玻璃の一献
香しき酒精
胸に燈った温かさへの礼なのだと
花世は気付かないかもしれないけれど
ただ微笑んで
胸の裡に仕舞っておこうか
ついつい進む盃
伸べられた手に従うように
花世の膝へと寝転べば
いっそう穏やかな心地になる
そっと双眸を閉じたなら
ゆうらり花筏で揺蕩う想い
ふと気付くも
夢と現の淵にて、ぼんやり
視界に映るあなたの姿
咲き誇る牡丹へ指を伸ばし
おはよう
一瞬眠っていたみたい、と
柔らな笑みを湛えて
愛しみの挨拶を
大祓に差し上げられるのは
別れの挨拶のみ
餞に花筐を添えよう
おやすみなさい
境・花世
綾(f01786)と
清らに透きとおる甘露を、
互いの酒杯に飽きるほど満たして
ふふ、綾、呑みすぎたらだめだよ
そっと手を伸ばせば、上機嫌な綾は
わたしの膝にころんと収まってしまうから
仕方ないなあと滑らかな頬を辿る
見惚れるほどきれいな神さまの寝顔は
きっといつか朧げな記憶になって
世界から、わたしから、失われるんだろう
淡いひとひらの落ちる酒杯は
呑み込めば喉を灼くほど甘くて苦い
このまま眠ったままのきみと、
えいえんに、それは、しあわせなこと?
けれど、目覚めたきみの挨拶が
あんまりにもいとおしいから
いつか忘れても、さみしくても、
永遠よりも、今、わたしは選ぶんだ
──おはよう、綾
立ち上がって、大祓へ餞を渡しにいこう
●
花弁は――全てを白に還す雪片にも似て厳か。
そう、都槻・綾(絲遊・f01786)は零れ続ける花を見ながら想った。
凍て付くような冬の象徴である雪欠片。けれど今は、あなたが居てくださるから――そう想い傍らを見れば、花のような温かな笑顔が咲いている。
そう、だから寂しくも凍えたりもしない。
彼が笑みを零したと同時、差し出されるのはひとつの輝くグラス。
「ふふ、綾、呑みすぎたらだめだよ」
零れ落ちるような笑みと共に、境・花世(はなひとや・f11024)がそう紡げば。ちゃぷりと水音が響き辺りに芳しき酒清の香りが満ちた。
「ありがとうございます」
そっと笑みを浮かべ、綾はそのグラスを受け取る。
――その言葉は胸に燈った温かさへの礼なのだけれど、花世は気付かないかもしれない。けれどもただ綾は微笑んで、胸の裡に仕舞っておこうと想った。
軽く酒を飲み干せば、また再び注がれて。
暫しの間、水音と喉を鳴らす音が響くだけ。
はらはら零れる花の落ちる音すら聞こえそうな静寂の中――そっと、花世は無言で手を伸ばした。その細い指を見て、くいっと酒を飲み干した綾は彼女の手に従うようにそっと温かな膝へと寝転んだ。
彼の行動に、一瞬花世の大きな左目が瞬かれる。
綾の温もり。綾の重さ。綾の存在。
すぐ傍に感じれば花世の胸に満ちる心地に、自然と身体は震えてしまう。
「仕方ないなあ」
ふわりと笑み、手を伸ばせば――綾は拒否することなく、そうっと彼の滑らかな頬を花世の指先が伝った。
そのまま綾は瞳を閉じる。
静かな彼のその顔を、じいっと花世は見つめていた。
見惚れるほど綺麗な神様の寝顔。きっといつか朧げな記憶になって。世界から、わたしから、失われるのだろう。
淡いひとひらが盃へと落ちる。
仄かな波紋を生んだその盃を手に飲み込めば、花世の喉を灼くほど甘くて苦かった。
このまま眠ったままのきみと――えいえんに、それは、しあわせなこと?
ざわり、心がざわつく感覚が満ちる。
背筋が氷ようで、微かに震えが花世の身体に走る。
けれども次の瞬間――。
「おはよう」
開かれた綾の青磁色に映る自身の姿を見て、そっと自身の八重牡丹に触れる彼の細いけれど大きな指先を感じて、笑みと共に零れるその言葉に花世は現実へと引き戻される。
一瞬眠っていたみたい。
溶けるように柔らかな笑みが綾の顔には浮かんでいる。
零れる挨拶は愛しみのこころを込めて――そんな彼の姿に、挨拶に。花世の胸には湧き上がるようにいとしさが満ちていた。
嗚呼、そうだ、あんまりにもいとおしいから。
(「いつか忘れても、さみしくても、永遠よりも、今、わたしは選ぶんだ」)
きゅうっと唇を結んで。
両手を握った後――心を確かめた花世は、その口許へと笑みの花を咲かせる。
「おはよう、綾」
そうっと再び彼の滑らかな頬を撫でて、瞳に掛かる髪を払って。挨拶を交わせば彼等はただ静かに笑みを零し合う。
はらはらと零れ落ちる花の雨は尚も変わらず2人へと降り注ぎ、このひと時を彩っていて。きっと花世にとって、心に刻まれたひと時へとなるのだろう。
――けれど甘くも儚い、夢心地は少しの間だけ。
さあ、立ち上がって大祓へ餞を渡しにいこう。
穏やかな笑みから一遍、真剣さを彼等は顔に浮かべて駆け出す。
彼等が大祓に差し上げられるのは――別れの挨拶のみ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
イア・エエングラ
やあ、や、うつくしい、世界だこと
しらしら降る花弁を指先に
花の降るのとおんなじに
星まで降ってきそうねえ
しゃらと鳴る泡のお酒を切子の硝子へ
つまみに添えたのはプラムコンフェイト
世界の終わりを望むのならば
お星さまを食べても宜しいでしょう?
甘くほどけて舌に残って
そんな世界の終わりの、あるかしら
そしたら僕も、見てみても
――良いかしらなんて
なあ、幾度と咲いて桜の散るなら
一度きりでは惜しかろな
愛し君のいないせかいを
君を想って、泣くのなら
君に逢うまで降り重ねるのも
悪くはないと、おもうもの
ついと乾したら、また注いで
ねえ、星の朽ちるまで
石のこの身の砕くまで
――のんびりまつのも、悪くはないよう
●
闇の中。
ぼんやりと灯る淡色の桜の花弁が、ひらりひらりと舞い踊る。
「やあ、や、うつくしい、世界だこと」
その光景を見て、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)の唇からは溜息と共に言葉が自然と零れていた。
それはまるで、夢現のように。揺蕩うように。
ゆらりゆらりとした心地で彼が煌めく手を伸ばせば――しらしらと降る花弁が一瞬指先に触れた。その仄かで柔らかな心地が何故かくすぐったくて、温かくて。花の降るのとおんなじに、星まで降ってきそうだと彼は想う。
手にはしゃらと鳴る、泡のお酒を注いで。
光を浴びて輝くグラスは、複雑な模様を抱く切子の細工。
淡く世界を照らす桜へとグラスを掲げ――添えたプラムコンフェイトを手に彼は笑む。
世界の終わりを望むのならば。
「お星さまを食べても宜しいでしょう?」
淡く笑む口許に、運ばれるはお星様の欠片。
キラキラ輝くその欠片が青く色付く唇へと触れ、そっと舌へと転がせば。甘くほどけながらも舌に残る。
そんな世界の終わりの、あるかしら。
そしたら僕も、見てみても――良いかしら、なんて。
心に想った言葉に、イアはそっと瞳を伏せながら笑みを零す。
光を浴びてキラキラ輝く指先を桜へと伸ばしても、その高さ故に手が届かない。それはまるでお星様に手を伸ばしているようだけれど――今は手元にお星様がある。
なあ、幾度と咲いて桜の散るなら。
一度きりでは惜しかろな。
愛し君のいないせかいを。
君を想って、泣くのなら。
はらり、はらりと零れ落ちる桜の花弁は。そんなイアへと返事をしているかのよう。だからこそ雨のような花弁を見つめ、そっとイアは心に想うのだ。――君に逢うまで降り重ねるのも。悪くはないと。
こくりと泡を飲み干して。
再び注げばキラキラとグラスが煌めく。
「ねえ、星の朽ちるまで。石のこの身の砕くまで」
――のんびりまつのも、悪くはないよう。
淡くゆらりと語られる言葉。彼に返事をするかのように、桜がざわりと風に揺れた。
大成功
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