大祓百鬼夜行㉓~金で、殴れ!!
●~UDCアース・バズリトレンディ御殿~
『バズリトレンディ御殿』の一際大きなダンスホール天井。
どこからともなく、一枚の長方形をした紙切れが落ちてくる。
一枚、二枚、三枚――それは見る間に数え切れない程の量となって、戦場に無限を伴い降り注ぐ。
その光景は、カクリヨファンタズムの桜景色など比較にならない程に生々しく、強欲を感じるものであり、そして何より力強かった。
「これで猟兵を迎える準備は万端や!
あーテステス、『よくぞ生き残った我が精鋭達よ!』」
マイク片手に全力ボイス。
ハウリングなんて、この時代のマイク性能なら日常茶飯事。
「あ、違うわ。イイ台詞やけど、今のワイちゃん、こっちの形態やない」
慌てて、手元のマイクを後方に放り投げれば。マイクは、既に足元を埋め始めた薄茶色の紙――金であるお札の上にポスリと落ちた。
「改めて……世の中何か! 『銭』や! ゼニぃっ!!」
今度はマイクも無しで、その存在――新し親分『バズリトレンディ』は、どこへともなく、力いっぱい気合いで叫んだ。
――過去。
金が、全てにおいてモノを言い。
男性は栄養ドリンクで24時間労働を可能にし、女性は舞台で踊り狂うという、狂乱と情熱の時代があった。
今となっては、完全なゆめまぼろしの概念だが。
それ故に、この『バブル全盛期』と呼ばれたものは、今カクリヨファンタズムにおける確かな存在として確立されていたのである――。
「世の中やはりゼニや! 金さえあれば世界は回る! さあ、猟兵のアンちゃんネェちゃん!」
床一面に広がるお札が、まるで可憐な花びら――否、豪胆な紙吹雪となって中空に噴き上がる!
「――ワイちゃんと勝負や!」
●
「……そこが、地獄か楽園か。
若干解りかねる空間において、新し親分『バズリトレンディ』の居城『バズリトレンディ御殿』の存在が確認された」
予知をしたグリモア猟兵、レスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)は、それらの様子を目にした胸中の複雑さを隠しもしない様子で告げる。
曰く。
大祓百鬼夜行が始まる前から、骸魂に呑まれても、まるで変わっていない新し親分『バズリトレンディ』は、大祓骸魂との最終決戦を可能とする、猟兵達にとって切り札となるであろう技『虞知らず』を授けたいと願っているのだと。
それを習得する為に、新し親分は全力での勝負を求めている、とのことだが。
「予知によると、彼女は『トレンディ形態』いわゆるUDCアースの『バブル期』の権現となっている。バブル期というのは、世の中は金で動き、世界すらも回った時代であったのだとか。
それで、今回猟兵の皆方には――同じく『金で世界を回す』つもりで戦ってきてもらいたい」
その予知によれば、今バズリトレンディのいる『バズリトレンディ御殿』では、金が全てを支配しているらしい。
そこでは、湯水の如く零れ落ちる金を使うイメージをすればする程、溢れる金が消費され、思い馳せたものは『購入したもの』として具現化するのだと。
そうすれば戦況は有利になり、猟兵達は訳の分からない理屈により、姿までもがゴージャスになりつつ、強くなれるのだという。
「そのゴージャスな姿に、物理的になりたいかはさておき……実際に、バズリトレンディは強い為、己の強化は必須となるだろう。イメージで購入したもので、戦ってもらうのも『金の力』として換算される。
つまり。猟兵の皆方には、今回『浅ましさ』という概念は全て捨て、
『金にモノを言わせ、金の力で戦ってもらい、金による完全なる勝利』を、収めてきてもらいたい」
――言葉にされると、それはもう何という生々しさか。
だが、それが勝つ為の方法であるならば、他に選択肢はないのであろう。
「今回は――その、良識のある存在ほど、正気を失いそうになる戦場ではあるのだが」
よろしく頼む、と。予知をしたグリモア猟兵は、何事もなかったかのように頭を下げた。
春待ち猫
こちらのシナリオフレームを見た際に、是非コメディ系のシナリオを出してみたいと心に決め、オープニングを書かせていただきました。春待ち猫と申します、どうかよろしくお願い致します。
●このシナリオについて
・こちらは、一章編成の戦争シナリオになります。
・現状のシナリオの雰囲気は、シリアスとは縁遠いコメディ的なものを想定しております。リプレイの文体も緩くなるかと思われますので、苦手な方はご注意いただければ幸いでございます。
●プレイングについて
・上記オープニング内容に沿ったプレイングであれば、内容はご自由にお書き添えください。採用させていただきましたものにつきましては、全力で善処させていただきます。
コメディですので、参加者皆さまの全力で何かを振り切った情熱などがございましたら、是非プレイングにてご記載をいただければ幸いでございます。
・オープニングにて触れさせていただきましたが、リプレイ上で『強くなるのに、外見的にもゴージャスな姿になってみたい』という方がおられましたら、プレイングにてご記載いただければ、可能な限り誠意努力させていただきます。
※今回は戦争シナリオであることから、プレイングにつきましては、公開段階からの受付を行っております。
しかしながら、受付停止タイミングは【プレイングを拝見し、書かせていただけそうなものを、章クリアの青丸分が確保出来た段階で受付終了】とさせていただく予定でございます。
可能な限り、その段階での全員様を採用させていただければと思われますが、内容に全く問題の無いプレイングをお預かりいただけましても、時間的な問題ならびに当方実力不足により、流れてしまう可能性がございます。予めご容赦いただければ幸いでございます。
●プレイングボーナスについて
プレイングボーナス……お金で買えそうなものを買いまくりパワーアップする(買ったもので攻撃するのもOK)。
それでは、最後までご閲覧いただきまして、本当に有難うございました。
どうか、何とぞ宜しくお願い致します。
第1章 ボス戦
『新し親分バズリトレンディ・トレンディ形態』
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POW : 竹やぶで拾ってきたわ!
【多額の現金】を籠めた【大きなカバン】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【戦闘意欲】のみを攻撃する。
SPD : 何があろうと戦い続けんと!
【栄養ドリンク】を給仕している間、戦場にいる栄養ドリンクを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : ワイちゃんと踊ろうか!
【召喚したミラーボールから光】を降らせる事で、戦場全体が【1990年代前半のディスコ】と同じ環境に変化する。[1990年代前半のディスコ]に適応した者の行動成功率が上昇する。
イラスト:天城望
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
曲輪・流生
アドリブ歓迎
お金を使う…僕、お買い物とかほとんどした事なくて幽世に来てからは駄菓子を買ったり依頼先の屋台で食べ物を買ったりくらいしか…
うーん、後は昔は沢山きれいなおべべ…服を頂いたのですが…それで着飾ってもらったり眺めたりするのは好きでした。
だからそれをイメージしてみます。
価値はわからないのでどこまで抗えるか分からないですがやってます。
白い生地に刺繍の綺麗な着物(高級生地に緻密な細工の実は激高の着物)
レースの綺麗な絹のお洋服(高級シルクに繊細なレースの激高ドレス)
あと真珠の小物も綺麗でした…(最高級以下略)
(無自覚で高価な商品を購入)
えっとこれで攻撃すればいいんですか?
UC【真白き炎】で攻撃。
●初めて見る、ふわふわの羽根扇(ジュリ扇)
「レッツ、パーリィや!!」
曲輪・流生(廓の竜・f30714)が、バズリトレンディ御殿の広々としたダンスホールに足を踏み入れた瞬間。その照明の全てが一斉にして消え去った。
そして、そこに響き渡るポジティブ極まりないネアカな声――新し親分『バズリトレンディ』のマイクボイスが響き渡り、同時に天井から降りて来たミラーボールが、新しい照明代わりに、無駄にキラキラとした光を放っては辺りを照らし出していく。
「わぁ……」
それは、流生が一度も見たこともないような、極めて不思議な空間だった。
澄み渡る紫水晶の大きな瞳が、ミラーボールの照らす光を反射して、それ以上の煌めきで輝き出す。
「ヒャッハー! ワイちゃんテンションアゲアゲや!
そこのボッちゃん、ワイちゃんと戦うつもりなら、テンション上げな絶対勝てんよ!?」
――そう、これはバズリトレンディのユーベルコード。
バブリーだった1990年代前半ディスコの空気を完全に再現したこの場所は、そこに適応した者こそが絶対的な正義となるのだ!
「て、テンションですか……。そう言えば、お金を使うって……」
確かに、グリモアベースでそのような話を聞いた。相手は強敵であり、パワーアップをする為には『湯水のようにお金を使う』必要があるのだ、と。
しかし――
「……僕……お買い物とかほとんどした事なくて……」
バズリトレンディが己はミームの権現の姿をしているくせして、その言葉に、文字通り『信じられん』という、人外を見るような無礼極まりない眼差しで、流生のことを凝視する。
流生がその眼差しに気付いて、大きな宝石の瞳をきゅるんと潤ませた。
「お買い物は……カクリヨに来てからは、駄菓子を買ったり依頼先の屋台で食べ物を買ったりくらいしか……」
「あー……けっこう、切ない人生送っとんな、あんた……。でも、分かるわー。金にスレてない気配するもんなー」
いつの間にか、悪意なさそうに正面に立ったバズリトレンディが、困り申し訳無さそうに告げた流生の姿を目に、しみじみ呟く。
それでも。常に、己に必要な物は捧げられることが全てであった流生からしてみれば、初めてお買い物をしたカクリヨファンタズムの駄菓子は、いつかの自分に出されていた高級和菓子などとは違うとても新しい甘味であり。屋台における食べ物の珍しさと外で食べるという美味しさは、流生にとって心からの感動の連続であった。
しかし今、それをこの場における『買い物の経験』とするには、到底足りなさそうな気配は、痛切に実感できる――。
「せめて全力出してもらわんと、ワイちゃん戦う事も侭ならんわ。何かないん? あんた、妙に『バブリーとは関係無いセレブ』の気配漂っとるけど」
「うーん……」
改めて流生は考える。そう言えば――
「後は、昔は沢山きれいなおべべ……服を頂いたのですが……それで着飾ってもらったり眺めたりするのは好きでした。
だから、それをイメージしてみます。
価値はわからないので、どこまで抗えるか分からないですが――」
「ええね! 形態違えばハートアイコン連打したくなるようなの頼んますよ!」
「では、まずは……」
流生は、己の記憶を辿り始める。思い浮かぶのは、透き通っているのではないかと錯覚する程の美しい白生地に、華麗に枝葉を伸ばす金糸の枝葉。その先にある、ほんのり薄紅に染まった満開に散る桜の刺繍が入った着物――それをイメージすると、今まで着ていた服はポンと傍らに折りたたまれ、代わりにそれを身に纏った流生がその場に立っていた。
「わ……」
そこに込み上げる懐かしさと愛おしさ。思わず流生の瞳が細められる――同時に、バズリトレンディの目の先にある、地面を埋め始めていたバブリーマネーの一部がごそりと消えた。
「え゙?」
美しい着物であった。それはバブル期フルの、新し親分の目から見ても間違いはない。しかし、無限に生み出されるものとはいえ、なかなかに恐ろしい金の消え方をしたものだと思う――しかし、それもそのはず。
過去、流生が思い起こしたそれは、正絹の駒羽二重に、刺繍は手抜きと失敗を一切許されぬ総手刺繍という、なかなかに手間とお値段の狂った品物であったのだ。
「――洋風の、お洋服も好きでした……」
一度受けた懐かしさに駆られ、ほんのりうっとりと続けて流生が呟けば、新たな衣装も、ポンとその身に纏う形で現れた。
生地を幾重にも重ねたドレスワンピースは、やはり天然素材のシルクの手触り。和屋で過ごした流生にとって、その座り心地はとても大事なもの。そして上身を覆う、どこまでも純白の海のように広がる、薄らと透き通るシルクシフォンの手触りは、まるで楽園を想起させるものであり――
「後は、それに誂えていただいた真珠の小物も、とても綺麗で……」
無論、ここまで来て。そこに現れた最高級阿古屋貝による左足のアンクレットと右手のブレスレットが安物のはずもない。
こうして、見る間に流生は無意識に高級品を纏い続け、外見と力をパワーアップさせては、相応の代価として、容赦なくゴゾリと御殿のお金を削り取っていく。
「こ、こいつぁバブリーや……バブルの概念なかったら、ワイちゃんなんて親分でも庶民系妖怪、一生お目に掛かれん品物や……」
新し親分、思わずごくりと唾を飲む。
しかし、一気にドレスアップした流生を目に――バズリトレンディは気合いを入れ直すと、興奮を伴い高らかに宣言した!
「ここまでパワーアップされたなら、せっかくやから、ダンスで勝負や! 活力もバブリーのうちやしな!!
――さあ【ワイちゃんと踊ろうか!】」
新し親分が、勢い良く流生の手を引き、ミラーボールの真下にあるお立ち台へと上がる。
「え、僕も踊るのですか……!?」
「なんや、あんた! ここに来て、ジュリ扇の一つも持ってないんかい!
敵に塩送るわけやないけど、こんなかわえぇならジュリ扇の一つくらい持たんとあかん! ワイちゃんの貸したるわ!」
うっすらと掛けられていた場の音楽が、一気に派手なテクノへ変わる。新し親分は流生に、ふわっふわの羽根が付いた扇子――いわゆるジュリ扇を押し付けると、更に場に適応すべく全身で派手に踊り狂い始めた!
「わ、わ……! こ、こうでしょうか――!」
見よう見まねでありながら、流生も慌てて踊り始める。扇子一つの翻し様にも、桜の花のような華やかさが一気に舞い散った。
――確かに、身に纏う金額は既に狂気であったが、まだ他の場にも出られるフォーマルな正気の範囲でもある流生の服装が、この場に適応しているとは言い難い。
だが、最高級装備でパワーアップした、ひれ伏したくなる高級オーラでジュリ扇を煽るその姿は、確かにその根源にあたる『人の視線を浴びて、目立つ』というトレンドの原点においては、完全に適応していると言っても過言ではなかった――。
「えっと……これで、」
そして。流生がジュリ扇を振る度に涌き上がり始める、ユーベルコード【真白き炎】――華麗に現れる、まるで己を輝かせる為の演出のように浮き立つ炎は、流生の動きと合わせて、まさに美しいと呼ぶに相応しい動きで舞い飛び始める。
光景としては、バズリトレンディの別形態であっても、観客を煽るには十分な光景であったかも知れない。
何しろ、当時。踊りながら自力で発光できるような存在であたったならば、そりゃもう皆キラッキラに光っていたに違いないのだから。
これはもう――そんなバブル絶世期の再現に他ならない。
「この状態で攻撃すればいいんですか?」
「せや! 新し親分として、その情熱! 先に全身全霊で受け止めたるわ!!」
自分のテンションアゲアゲで、バズリトレンディは――流生のユーベルコードに気付いていない――。
流生は、その新し親分に容赦なく、己の生みだした炎を連続で叩き付けた!
「ぎゃああ! 詐欺やー!!」
詐欺ではない、これはバブル期に極めてよく見られた『慢心』である。
――そうして、その心の在り様までも再現したミームの妖怪……もとい、新し親分バズリトレンディは。
見事、お立ち台から全力で吹き飛ばされ、顔からベチンと地面に転がり落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
スピーリ・ウルプタス
これは!ダイ様を全力で労うチャンスでは!?
即座にUC発動
お金で世界が舞わせる、もとい回せる……
成程、私、学びました!(御殿の概念を『世界の常識』だと解釈した)
ダイ様、此方の絹が上質のようです、ああっ、そちらも捨てがたい…全部買いましょう着ましょう
(黒蛇を着飾らせる。蛇、大迷惑そうだがこれも務めだと我慢中)
お腹はすいていませんか?普段召喚しては戻られてますから、そういえばお食事とっていただいた事ないのでは……、
私、なんと薄情で残酷な!(戦慄)
御馳走をどうぞ!
おや?ダイ様どうされました??(出されるままに栄養ドリンク戴きながら
(ストレスフルな蛇、八つ当たり的にパワーアップ。敵さんへ尾(ビ)ンタ)
●スピーリ・ウルプタスは考えた。
リアルで使える金のお札が、紙吹雪となって華麗なまでに宙を舞う、バズリトレンディ御殿にて。
「お金とは……」
グリモアベースで、意訳『金を使って勝て』と言われたスピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)は考えた。
そもそも。スピーリは、良い意味で金に頓着のないヤドリガミである。自分の私腹の為に金を使うことには、一切の快楽を見出せず。更には、そんな状態で猟兵をやっているものだから、財布のお金は溢れんばかりに貯まる一方で、ヤドリガミ生において、まったく困った事がない。
その中で、さて改めて金を使うとするならば、その目的はどうするか――。
「成程――お金で世界が舞わせる、もとい回せる……。
ハッ。私、学びました!
つまり、お金さえあれば、本当に世界は意のままに動かせる――! このスピーリ、感銘を覚えました。まさかそのような世界概念があろうとは……まだまだ知らないことばかりです。
お金とは、かくも凄いものだったのですね!」
何かスピーリは、この御殿限定のバブリーマネーを、世界規模にまで拡大させた理解を得た気配がする。しかし、それは今、目の前にいる新し親分『バズリトレンディ』にとっては好都合。
「せや! 金で、世界の大体八割は上手く回せるようになっとるんや!
嬉しいなぁ、このニィちゃんもバブリーな金の魅力に一気に目覚め――」
「つまり、これは!
日頃お世話になっている『ダイ様』を、全力全霊渾身の力とお金をもちいて、日頃の苦労を労えるチャンスなのでは!?」
「え……?」
目の前に広がる札束乱舞を前にして、スピーリの瞳が輝いた。
『何かの為に』とは、それは少し想定外。バズリトレンディから、驚きと共に想定外を示す感嘆の声が上がる。
しかし――そんな感嘆をしている場合ではなかった。
バズリトレンディは次の瞬間、ある意味金(の目的)に目が眩んだスピーリにより、ものの見事に彼の意識から叩き出されたのである。
数十年前センスであるなら、まさに『アウトオブ眼中』へ。
「あ、いや、ちょっと待ちぃや!! ワイちゃんとの勝負――!」
仮にもここのボスなのに! 妖怪親分なのに!!
そうして――見事に取り残された新し親分をよそに、スピーリは思い立ったら即決行。
『いらっしゃい、慰安のお時間です! 締め付け担当さん!』
スピーリは即座にユーベルコード【蛇締め(スネーク・ストレイン)】を発動し、巨大な黒蛇の『ダイ様』を召喚した。
「さっそく不肖、私。日がなお世話になっているダイ様への慰労を、全力で行わせていただきたく――!
まずは今あるお姿と致しまして『服』をご用意させていただければと」
「――服……?
あ、あれになん?」
見事に蚊帳の外にされたバズリトレンディは、データ的にもう絶対触れてはならない、己のねず耳を疑った。
蛇に服――何とか理解へと繋げようと試みるが、バブル時代的な考えをするのであれば、蛇は『バッグの蛇皮』しか思いつかない。
その瞬間より『立派な蛇皮』という目でしかダイ様を見られなくなった新し親分に代わり。
スピーリとしては、まずは服。足りない感謝は、やはり紳士的に服に込めなければと思ったのだ。
ありったけの想いを込めて。しかし、それでも――この慰労については。
やはり、既に冒頭の第一歩から、全力で躓いたような気がしなくもない。
『あー、これボケのツッコミ待ちなら、さすがに入れてあげな可哀相な領域やなあ……』
そんな相手にしみじみと、そう思い始めた新し親分を余所に、スピーリはさっそく物を購入するイメージを思い浮かべる。
すると、一斉にスピーリの周囲を取り囲むように、購入イメージされた布生地の入った棚が一気にこの場に広がった。
――この猟兵、どうやら本気で、服で大蛇を慰労するつもりである。
「ダイ様、此方の絹が上質のようです。ああっ、そちらの最高級カシミア生地も柔らかくて素晴らしく、捨てがたい……さあ、全部買いましょう着ましょう」
巨大な黒蛇の身体にあてがう麗しのシルク生地、上品な柔らかさを持つブランド物のカシミア生地、果ては袖を通さなければダイ様にぴったりであると、イメージから買った十二単の着物まで。その身を包み込むように、スピーリは布を絡ませダイ様を着飾らせていく。
当然、ダイ様は蛇である。もう突然喚び出されて、この仕打ち。
もう『大迷惑です!』以外の何物でもないが、一応はこれも依頼の務めの一つ、と。その精神力から意地で我慢している様子が、見ている側にはダダ漏れに伝わって来た。
「ああ、やはりこの十二単が一番お似合いですよ、ダイ様!」
しかも、どうして、どうして。よりにもよって一番重たいものを選ぶのか。
「さあ、衣が整えば、次は食と申します。ダイ様、お腹はすいていませんか?」
そうして死ぬほど重たい十二単の生地を、全部乗せられた大蛇の黄金の瞳は『早く帰してくれ』と訴えているが。かなしきかな奉仕も至福の一環である、スピーリの瞳には驚く程に映っていない。
だが――その中でもスピーリは、とある事に気が付いた。
「ダイ様……普段召喚しては戻られてますから、そういえばお食事とっていただいた事ないのでは……」
その事実に『あり得ない』という虚無を掲げて、スピーリが衝撃の真実に気付く。
「私、なんと薄情で残酷な!」
それはスピーリなりの、魂の叫びであった。
「これから用意致します! ――御馳走をどうぞ!
……ああ、ですがダイ様は何がお好みであられますでしょうか!?
こんなにお世話になっているダイ様の好みを、私はなにひとつ把握しようとすらしていなかったなんて……!!」
思わず絶望的な悲嘆に打ち震えるスピーリ。それら一連を見ていたバズリトレンディは、ツッコミに回す労力を諦めた瞳で、こくこくと頷いた。
「あー、あるわー。バブル期に異常に巨大ニシキヘビとか爬虫類飼うトレンドあったわー。ツチノコって一度は飼いたくなるやん? 蛇もええけど、やっぱロマンはやっぱりツチノコやねぇ」
存在が忘れられ掛けている、この状況下でも『隙有自語』を容赦なく叩き込んでいくスタイルのバズリトレンディ。
しかし『何を食べるのか分からない、教えて下さいダイ様!』と叫び続けるスピーリの姿は、新し親分としても、見続けるにはとても切ないものを感じてきた。
一言で言うと、つらい。
「あかん。流石にあかんわ。一肌脱いだる!
――その蛇、依頼の相方なんやろ? なら景気付けに、ワイちゃんからこれプレゼントしたるわ!」
バズリトレンディから差し出されたのは、ユーベルコードで振る舞われた、スピーリ用の小瓶に入った栄養ドリンク。
ダイ様には、どこか昔を彷彿とさせる水色のポリバケツに、ザバザバ注がれたものをドン!
「これは、何とお心優しい親分さんでしょうか! このスピーリ、感激を隠しきれません……!!
ダイ様、これでまた私、心強いダイ様のお姿を拝見でき――」
感動を言葉にしながら、給仕された栄養ドリンクを有難く飲んでいくスピーリを前に『何かを訴え掛けるのは諦めた』ダイ様は、バケツの栄養ドリンクを己の栄養の為に一気に飲み干し――。
『シャーーーッ!!!!』
――これが。ダイ様のストレスフルの臨界点だった。
ダイ様は、十二単というゴージャスパワーを身に纏った、その巨躯をフルスイングでしならせると、目の前のスピーリを全力を込めた『尾ンタ(ビンタ)』で吹き飛ばした!
「おブッ!!」
一応召喚された存在である以上、スピーリの位置づけはともかく、立場上ではダイ様の方が若干弱いのかも知れない。
だが『今やらずしていつやるのか』――そのような瞳のダイ様は、今までの商品購入者として、既に強力な力を宿していたスピーリを弾丸に、バズリトレンディへと激突させた!
「ぎゃん!! いたぁ!!」
吹き飛んだスピーリは、先にいたバズリトレンディを巻き込み派手に激突しては、相手に大ダメージを与えることに成功した!
――客観的に見れば、尾っぽを振ったら『偶発的に』スピーリに当たり、それが新し親分への一撃に繋がった――そう『スピーリを巻き込んだのは事故』。このダイ様は召喚主を全く裏切ることなく、見事に依頼の役割までも果たしてみせたのである。
だが、それで。そのダイ様の心身が癒されたかと問われれば。
その黒蛇の持つ濁りかけた黄金色の瞳と、どんより漂う気配を。
見て見ぬ振りをした方が良さそうだったのは言うまでもない――。
大成功
🔵🔵🔵
地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
何でも買っていいって、そんなっ……
そんなこと言われたら買うしかねえじゃねえか……
食品を……!
うるせえ子供が成人するまでの費用は全部公立校に通って高校卒業から就職決めたって2500万は硬いんだよ!!!!
金がなくて食えない子供たちが好きなだけ食べれたら経済も回るしフードロスも減ってwin-win!!!
みんなが笑顔になれずして何がトレンドだ!あ゛あ!?
(間違いなく路線違いだが気にせずゴリ押す流れ)
俺だって、俺だってっ、こんだけ食えてたらもっと身長伸ばせてたんだよこん畜生ォ――――ッ!!!!
子供の飢えと悲しみを思い知りやがれェ!!!
(何故か手にスイカをぶっ刺し【指定UC】で腹パン)
●ただでさえ難儀なミームになんてことを言うんだ
「いきなりやけどぉ!
――【竹やぶで拾ってきたわ】ぁっ!!」
「うぉわぁっ!!」
それは、あまりにも出会い頭的な出来事だった。
バズリトレンディ御殿にて、顔を合わせるか合わせないかの瞬間。地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)は、プラチナムな輝きを見せるジュラルミンケースにより、頭を全力でぶん殴られた!
あまりにも想定外の不意討ちに、また自分が存在概念として喰らってきた、不運の類へと派生する『穢れ』によって、頭上の華美なシャンデリアが自分に降って落ちてきたのかとも思ったのだが。
――これは、単純な先手必勝。
どうやら、この発狂しそうなミームの塊――もとい、新し親分『バズリトレンディ』も、これが何回かの戦闘を繰り返した末に出してみた結果なのであろう。単純にこの外見相応な、中身までこの頭とろけそうな存在ではないらしい。
そもそも、トレンドとは思考の早さとアンテナの幅広さのみがキャッチ出来るものである。決してそれはバカに捉えられる類のものではない。
しかし、それでも凌牙は『何だかしょーもなさと、存在の危険度にステ値を全振りしたような親分』だと風の噂で聞いていた。
故に――どうしてその戦闘意欲を。同じ親分とはいえ、西洋親分『しあわせな王子さま』あたりと、同様の熱量で保てようか――。
「はっはっはー!! やっぱり株も行動も、金扱うなら先手必勝が一番や! どうや、猟兵!」
「あー……」
もちろん凌牙にしてみれば、やるからには本気のつもりではあった。
しかし諸々あった、この新し親分の前評判。まだ、正直そこまでの意欲はついていっていなかった――つまり、
そもそも存在しない戦闘意欲ゼロ状態は、いくらダメージを受けようとも、ゼロである。
「あー、まぁ、つーか、な?」
正直なところ形態が違うと言われても、外見は殆ど変わらない。なまじ『古い』せいで痛ましさまで感じるミームの権化、もといバブルの権現は凌牙にとっては目のやり場にすら困る。
曖昧に目を逸らして言葉を濁した凌牙に、新し親分は腰に手を当て全力で高笑いをした。
「『ほーっほっほっほ!! さあ、跪きなさい!』――これも形態違いやな……近年の一大ブームやったのに、今や去りゆきつつある悲しい文化や……。
や、のうて! どうや猟兵! 悔しかったらドン底から這い上がれや!! 世の中バブリー! この竹やぶで拾った二億円に勝てるエネルギー見せてみろ!
さぁ、なぁんでも買えや!!」
「……二億円で、何でも……?」
その瞬間。戦闘意欲どころか全てのやる気まで削がれ掛けていた、凌牙の眉間がぴくりと動いた。
そして、心切羽詰まりながらも、まるで大地のドン底の世界から響くような声が呟かれる――。
「何でも買っていいって、そんなっ……。
そんなこと言われたら買うしかねえじゃねえか……。
――『食品』を……!」
二人の間に、激しい稲妻が駆け抜けた。しかし、その言葉に衝撃を受けつつも、バズリトレンディはその脳に状況理解が追いつかない。
「は……?」
思わず、全力で触れてはならない黒耳の上に浮かぶ疑問符アイコン。この島国バブル期の概念が凝り固まった形態であるバズリトレンディは、凌牙の答えに、思いきり素っ頓狂な声を上げた。
――当時の島国バブル期といえば、好景気中の好景気。
確かに見えないところではあったかも知れない。しかし、それ以外の大体が『飢え』など考えるよりも、その豊かさにあぐらをかいていた『飽食』と共にあった――それこそが、このバブル期だったのである。
そんな世界を再現した、このバズリトレンディ御殿において、この猟兵は一体何を言おうというのか――?
「いや、確かに上から下は見えんけど……いきなり『食料』なんて、ゾンビサバゲーみたいなこと言われても――!」
「うるせえ!!」
動揺を隠さないバズリトレンディの言葉を、凌牙は躊躇わずに一蹴する!
「いいか!? 子供が成人するまでの費用は全部公立校に通って高校卒業から就職決めたって2500万は硬いんだよ!!!!
バブル期だが何だか知らねぇが、それを『今の時代を生きてる奴等』に言えるのか!? 過去のバブル期がいくら素晴らしかろうがな!『今は、それだけじゃ、生きていけねんだよ!!』
今、金がなくて食えない子供たちが、好きなだけ食べれたら! 経済も回るし、無駄なフードロスも減ってwin-win!!!
そんな、みんなが笑顔になれずして――何がトレンドだ! あ゛あ!?」
凌牙、まさかの、渾身の一撃的な、
【バズリトレンディ、存在完全否定】。
――いきなり突きつけられた、現代UDCアースの現実。今や世界中で大問題になっている、まさかまさかの食糧問題。
そんなものをいきなり叩き付けられた新し親分は、心に深い傷を負った!
「ウッ!!! た、確かに……! 確かに……!!
せや……けどな――。
バブル期は金があるのが当たり前やったんや!! 夢と希望が確かにそこにはあったんや!
ワイちゃんが悪いわけやない!!」
「……それは。今の俺の身長見ても、同じことが言えんのか……?」
「っ!!」
――バズリトレンディは、名前の通り全ての流行に敏感であり、それら全てを拾い上げる感性も無駄なくらいに豊かな彼女は、もちろんちゃんと空気も読める。
時々、周囲の円満な人間関係の為に、敢えて読まないこともあるにはあるが。それが2~30年くらい前のトレンディーの数々を享受し、また拾い上げては生みだしてきたものが、新し妖怪という概念である。
――そんな彼女は、凌牙の言わんとしていることも、その意を即座に汲み取り理解した。
目に映るその身長、159.3cm。
それは、160cmにも満たず。この可愛い女の子――女性ではないかという私見を交えつつ、本妖怪のプライバシーの為に敢えて実年齢の想定は控えさせていただく――の新し親分の身長にすら及ばない、この残酷な事実に。
思わず、バズリトレンディは動揺を隠すことなく、思いきり数歩後ずさる。
「せやかて、せやかてクド――! あかん! ワイちゃん今、その形態やない!!」
「この、碌に食えないかった成長期のせいで――この身長の、この俺に言えるのかぁー!!!」
「ひぃぇえええ!!!」
バズリトレンディは完全に威圧負けの末、相手の血を吐くような叫びに悲鳴を上げた。
この場において、まずそもそも『お金がたくさんあったら夢いっぱいだな、過去にはそんな世界があった、うふっふー』というのが、今回のトレンディ形態のバズリトレンディである。
そこに、凌牙が現代の悲しみをぶつけるのは確かにあまりにも路線違いではあったが、どうやらここは気にせず、敢えてこのまま押し通す流れであるらしい。
それはひとえに、全力を懸けての勝利の為――。
「俺だって、俺だってっ、こんだけ食えてたらもっと身長伸ばせてたんだよこん畜生ォ――――ッ!!!!」
違った、間違いようもない我欲の為であった。
「子供の飢えと悲しみを思い知りやがれェ!!!」
こちらは恐らく、凌牙の性格上として本心だろう。
凌牙は、まるで相手の武器の意匠『HPAH(ハンマーパイナッポー&アッポーハンマー)』に合わせたかのように、己の最大の武器である両手足に称された黒竜の爪牙の一部、右腕に『購入イメージで、突如現れた大玉のスイカ』を突き刺すと、その鉄球を思わせる強烈な一撃で、バズリトレンディを全力で腹パンした!
ユーベルコード【刳り貫く黒竜爪(ガージュアウト・ドラゴネスクロウ)】――それは本来、命中箇所の部位破壊が起こる程の威力。
しかし、それで弾け飛んだのはスイカの方だった。
単純に、新し親分が強かったのか。敢えてスイカを突き刺したボディブローが、凌牙の心遣い故の産物であったのか。
現状、本気で挑めと言われている手前、それは単純には計り知れないラインであろう。
「ガファッ!!!」
スイカの真っ赤な果汁と種を浴びて、激しく吹き飛ぶバズリトレンディ。
「あかん……そんなん、ワイちゃん泣くに決まっとるやん……。
喰らわなあかん、と思うやん……?
でも、な――そのスイカについては、ワイちゃん形態違いやからツッコミ入れられないんや……カンニンな……」
ばたり、恐らく数秒で復帰するであろうが、新し親分がフラリと床に倒れ伏す。
そして、それを見つめる凌牙の瞳からは、心の様々な傷を剥き出しにしたが故であろう、仁王立ちによる漢泣きの涙が、滝のように溢れ出していた――。
大成功
🔵🔵🔵
フィッダ・ヨクセム
バカ高いあまーいお菓子いッぱいに埋もれたい!!
高級お菓子ッてなに?ごーじゃすじゃね??
手がベッタベタになるくらい、アホ甘いの一辺倒がいい!
両手に抱えるほどじャあ足りん、食べるのが義務に感じるくらいがいいな!
甘いもの以上に購入意欲を持ッた事あんまねえから
高額のベクトルがいまいち掴めない
お金で買えるが、おかねでかえない幸福感でごーじゃす?
とやらを俺様は理解したい!
(根は凄くノリがいいけれど真面目のヤドリガミ)
誰が食べて消費すると思う?当然俺様だ!やらねえ!
甘い物への執着でもうニッコニコだ
24時間?ハッ、平然と戦うわ72時間くらいなら出来てトーゼンだ!
栄養ドリンクをグイッとして…突然、UCで奇襲する
●黄金より高い美味しいお菓子。三つ食べればお値段三倍
「金――? 俺様、バカ高いあまーいお菓子いッぱいに埋もれたい!!」
「ハッハー! やっぱワイちゃんのバブル時代には、このくらい正直な方がええなぁ!!」
バズリトレンディ御殿における仕様を把握したフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)の元気溢れる発言を耳に、今までのダメージを全力で蓄積してきた新し親分『バズリトレンディ』は、ようやく新しき理解者が現れたと言わんばかりに、その言葉に力いっぱいの笑顔で頷き返した。
「それなら、まずはバブル期に大ブーム起こした、『恋人に! お嫁さんへの夜遊びしてた言い訳に! 人に言えない相手への貢ぎ物に!!』――このバブル時代に、とんでもない女の子達への癒しを叩き出してきた『最高級お菓子の数々』なんてどうやっ!?」
「高級お菓子ッてなに? 何か、凄ェごーじゃすじゃね??」
「もちろん……凄い!
最高級ならではの豊富な味わい、その口溶け口当たり、どれをとっても最高や!」
バズリトレンディの言葉を耳に、フィッダの茶味強い柘榴石の瞳は、今まで以上の輝きでキラキラし始めた。
――フィッダは、存在がヤドリガミである為か、そもそもの気質として金を乱雑に使うということがあまりない。美味な甘味ばかりは容易に自作という訳にもいかない為に、そこにこそ購入意欲は湧くものの、それ以外の金銭感覚として『高額』と称されるものが、どれだけの価値を持ち。また、それを払えばどれだけ自分に得るものがあるのか、など――高級品と呼ばれる物の価値が、いまいち把握しきれていないのだ。
直球で言ってしまえば、それは金に対する極めてピュアな感性であり、バズリトレンディは、思わず感涙しかけた熱い目頭を強く押さえた。
バブル期なんて、言わば露骨な『金の亡者』しかいなかった時代である――そんなバズリトレンディの目に映るフィッダ程の純粋な若者は、あの時代で一度滅んでいたのではないかと思うほどのレアリティであり、その感動は、胸を思わずガンガン鳴らす銅鑼の音の如く響いたのである。
「ええなぁ、ええなぁ……! いや、あかん。泣いている場合やない」
そう、全力でバズリトレンディを倒さなければ、まず『虞知らず』の習得は叶わない。ならば、その為に親分側からしてみても、この相手が『菓子を食べてパワーアップ』するならば、それを望まない意志が一体どこにあるだろう。
「せっかくなら手がベッタベタになるくらい、アホ甘いの一辺倒がいい!」
「オッケーや! 両手に抱えるほどの、高級菓子出したるわ!!」
「む――両手に抱えるほどじャあ足りん、食べるのが義務に感じるくらいがいいな!
何というか……お金で買えるが、おかねでかえない幸福感でごーじゃす?
――とやらを、俺様は理解したい!」
それは、ヤドリガミ特有の、存在に対する探究心故か。
あまりにもバブル期に浸りすぎたバズリトレンディは、フィッダのその熱心で、勤勉にも近く、己を追求していく真面目極まったスタイルに。新鮮すぎる打撃を受けて、口許に手を当てながら思わずその場によろめいた。
「あかん、この子本当にピュアや……ああ『バブルで男女で札束風呂』なんて穢れた夢まで一緒くたに背負ったワイちゃんとは、存在概念が違うわ……!
もしかしたら、それこそ本来あるべきだったバブル期の、ワイちゃんらの夢ある金の使い方だったんかも知れん。
ワイちゃんらの時代には――」
同時に、きちんと『隙有自語』も忘れない新し親分。きっと重症なのだろう。
「――よっしゃ、まーかせとき! 叶えたる!」
新し親分が手を高く掲げ指パッチンをすると、床から迫り上がるように椅子とテーブルが現れた!
「さー、『イメージするのは常に最強の自分』――あかん、これ形態違いや!
とにかく、高くて美味しい菓子イメージしや! 思っただけ溢れ出てくる資金源、金こそ正義!!」
「おう!!」
しかしさっそく、そう促されるままに席についてみたフィッダだが、具体的なお菓子名に詳しいわけではなく。まずは『高くて甘い物が、これでもかと言うほど欲しい!』それだけを力強くイメージする。
すると、出るわ出るわ。そこには一瞬にしてテーブルに溢れそうになる、フィッダが見たことのない、世界中の高級菓子の数々!
「おお? これは何だ?」
「おっと、さっそくお目が高いな! これは千年の歴史がある伝統の干し柿や。とある武家の棟梁から『これ蜂蜜レベルの甘さじゃん!!』とお墨付きをもらって以来、そのレシピを語り継いで作られた、一個三十万円の――」
ぱくっ。
バズリトレンディの話はあまりにも長すぎた。食べてみれば分かるだろう、そう顔に書いたフィッダは躊躇いなくその干し柿を手に持ちかぶりついていた。
「あー! まだ話終わってな……!」
「ん、本当に甘いな!! もう一個、おかわり!」
フィッダの目が甘露によって、見て分かる程の幸せ色に染まっている。
何かを言い掛けた新し親分の心は、それだけで十分に満たされた。
ここには確かに、あの頃皆が幸せだった――バブル期の夢が、ある。
「――それなら、次や!
一個五万円のおまんじゅう! チョコレートトリュフ一個、八万円!! 三つ星パティシエの作った苺のホールケーキ四十万!!」
「美味いな、これ! ――もッと食いたい!」
次々と心の要望によって現れる、世界最高級菓子の数々――それらを次々に、全身全霊で味わいつつ、フィッダは手当たり次第に食べ尽くした。
テーブルに乗る、消えることない豪華絢爛な甘味の数々。
それらの菓子の中には、美しさを追求した海の色合いの錦玉羹や、燦めく宝石のような琥珀糖なども並んでいる――。
「あー。ワイちゃんも食べたい……!!」
微かに呟かれたバズリトレンディの言葉を聞いたフィッダが、満面の笑みでそれに答えた。
「これ、誰が食べて消費すると思う? ――当然、全部が俺様だ! やらねえ!」
血も涙もない発言だが、もうフィッダの頭の中は、甘味への溢れる執着と満足感が同居して、幸せいっぱいになっている!
「なんなん!! その心に血と涙は流れてないんか!!」
「――それなら自分で頼めばいいんじャないか?」
既に両手を、その希望の通りに甘味でベタベタにしながら、フィッダが不思議そうに問い掛けた。
そう、欲しければ自分もこの御殿ルールに従って、お菓子を買えばいいではないか。
その事実を、指し示した瞬間。
「うああ、見せしめやーっ!! こんなん、ダイエット中の乙女に対する見せしめやぁ!!」
バズリトレンディは、瞳に涙を溜めて叫び上げた。
ダイエット――こればかりは仕方がない。
たとえ血の涙を流しても。努力できるのはバブル期だろうが当人だけなのだから――。
「あ……! アカン、つい本来の目的忘れるところやったわ。
さあ、それだけパワーアップしてれば十分やろ!
甘味は一旦休止して、そろそろ勝負しやっ。24時間戦える栄養ドリンクもある!【何があろうと戦い続けんと!】」
そして新し親分が、甘味の時間に一区切りと言わんばかりに、殆ど空きのないテーブルの上に、スターン!! と軽快な音を立てて、栄養ドリンクを置く。
「24時間? ハッ、平然と戦うわ72時間くらいなら出来てトーゼンだ!」
それを宣戦布告と受け取り、甘味を手放し栄養ドリンクを一気に天井に向けて煽るフィッダ――そして。
「うまかッた! 菓子をたらふく食ったこのパワー!!
『甘味全部食い上げて! 俺様は、俺様の道を行くぜ!!』」
フィッダは雄叫びにも近い勢いと共に、突如己のユーベルコード【異なる二対の調停者(ダブルアテンション)】を発動させた。現れたものは赤の運命の糸で繋がれた、道行きに欠かすことのできない運命のバス停――。
それを、真の本体と合わせ、ツインブレードモードとして、
「ごちそうになッたぜ! お礼にこっち喰らっとけやァ!!」
「え? あ――嘘やろー!!」
スパーン!! 戦うこともきちんと忘れていなかった猟兵の華麗な不意打ちにより、新し親分は見事に空に輝く星になって、しばらく戻って来なかった――。
「あー、食ッた。これだけ食えばしばらくは……。
いや、せっかくだしもう少し食ッておくか!」
同時に、
目的をあらかた達成したフィッダは、ほぼ無限に金イコール菓子が生み出されることになった空間に身を置いて。
敢えてギリギリまで残りつつ、最後まで美味しいお菓子を食べ続けることにしたのであった。
そんな高級お菓子とは――幸せになれる味、のことである。
大成功
🔵🔵🔵
ラビット・ビット
アドリブ◎
え゛っ!?!?ホントにいいんですか!?やったー!
やはり初手はこれでしょう!
高くて買えなかった原作本(ハードカバー
文庫は持ってるけれど
ビットくんはやはりこの重さがだいすき💕
関連書籍も買いまくって
次に買うのは立派な椅子
ビットくんのかわいいお目目のメモリも増設して
推しメモリアルを充実させましょう
やはり時代は4kですよFHDはもはや小さい
そうだ!もしや今なら桐箪笥のついてくるDVDも買えちゃうのでは!?
ホームシアターセットも買ったら
とどめはこれだ!同人誌!!
ジャンルの本全部買います
殴られなくても戦意はないですよ
ビットくんには
ビットくんはここで御本を読んでるので
ろくろうさんあとは任せました!
●オタクが迫害されていた時代は、そこに確かに存在していた
「え゙っ!?!? ホントにいいんですか!? やったー!」
それは、ラビット・ビット(中の人等いない!・f14052)の魂の雄叫びだった。
過去、オタクと呼ばれた存在が社会に迫害されていた時代――その人権なきバブリー時代が、現代に新し親分『バズリトレンディ』という存在と共に『無限の金だけ持ってやって来た』のである。
幅広いジャンルのオタクであるラビットにとって、これを歓喜せずして、一体何に歓喜しろというのか。
「ああ、存分に買いや! 戦うのに、弱いんじゃ話にならんしな!!」
「それなら、やはり初手はこれでしょう!」
この猟兵は何を買うつもりなのだろう――バズリトレンディが見つめる中、ラビットが高らかに宣言した瞬間、ポムと音を立てて即座に物が現れた。
この猟兵、初めての購入想像までも一瞬であった。余程日常より想像力を鍛えに鍛え上げているに違いない。
そこに現れたものは、今まで高くて手を出せなかった、長編ファンタジーの傑作とまで呼ばれた物語の原作本、全十一巻セット――の初版。
今ではちょっと入手困難となっている、今も昔も愛されているハードカバー仕様である。
ラビット的には、本は初版に限らず読めれば基本オールオッケーなのだが、どうせ買うなら初版は愛。
「文庫は持ってるけれど、ビットくんはやはりこの重さがだいすき💕
すき、ふふ……すき💕」
その中の本の一冊を胸に抱えて、ラビットはその幸せを体感しながら全身からハートマークを乱舞させる。
「せっかくなので――」
そこに現れたのは、もう一冊。海外の言葉でしたためられたその本は、先に購入したものの、第一作目。人気が出る前に数百部だけ刷られた希少本――瞬間、御殿のお金の一部がゴッっと音を立てて消え去った。
その本のお値段、オークション落札価格にして現代金額一千万円弱也。
「なっ――!!」
驚きにバズリトレンディも声を上げた。何しろ、もう少し上乗せすれば、現代UDCアースのマンション一戸が買えてしまうお値段である。本一冊に、金さえあればそれを躊躇わないオタクの精神に、新し親分は打ち震えずにいられなかった。これは、バブル期もびっくりの散財方法である。例えるならば、有名絵画が五十億で買われた時の衝撃にも近い。
「で、ビットくんは関連書籍も買っちゃいますよーっ?」
勢い良く言ったそばからポンポンと煙が上がり、見る間に本が積み重ねられていく。
タイトルだけで判断するならば、それは作品紹介の雑誌であったり、ぶ厚く深い考察本であったりと、もう『名前さえ付いていれば全部買う』レベルの所業――オタクにとっては、お金はあるだけ使うもの。特に生活費など、決して回してはならないお金以外であれば尚更だ。
「そうなれば、次はこれを読む為の立派な椅子が必要ですね!」
ラビットの言葉とほぼ同時に出てきたものは、躊躇いなく即決購入でイメージされた一つの椅子。それはシックな雰囲気と座り心地に身体の負担、その全てが考え極められたパーフェクトなものだった。
基本的に椅子は、性能の良いものほど例外なく高い。しかし、愛しい本を読むのに、己の生存に関わること以外の妥協は決して許されることはない――そもそもお金があるのに、オタクが妥協をする理由など、どこにも存在していないのだ。
「おおお、本当に出て来ますねぇ、お金があるっていいですねぇ!」
「あんたほど、金使うのに一瞬の躊躇いもない猟兵初めてや……! ほんと湯水のような金の使いっぷりやな!」
「いやいや、褒めても何も出ませんよぉー」
どうやら、この『バブリーの権現』であるバズリトレンディと、オタクという『浪費の体現』であるラビットの相性はとてつもなく良いようだ。
「せっかくですから、これを機にビットくんのかわいいお目目のメモリも増設して、推しメモリアルを充実させましょう。
やはり時代は4kですよFHDはもはや小さい」
理想の推しを可能な限り再現する為には、やはり解像度の高さは欠かせない。同時に、日常における『カップリングの受け攻めの判定』は、刻一刻を争う問題の為、限界値まで素早く行う事が求められる。ましてや、それを違える事など決して許されることはなく、その目は常に練達とバージョンアップを欠かすことは出来ないのだ。
さっそくこちらに背中を向けて、瞳をバージョンアップするラビットに、バズリトレンディが首を傾げて覗き込めば、ぽんと即時購入したカーテンが現れて『これは、ビットくんの企業秘密なので、カーテン越しのモザイク処理でお願いします!』と念を押された。
――どうやら、リアリティのある生々しい光景は、ヴァーチャルキャラクターとしての沽券にかかわるらしい。
「ふぅー、これで推しメモリアルを充実させましょう!
――そうだ! もしや今なら桐箪笥のついてくるDVDも買えちゃうのでは!?」
そして一息ついたラビット。
彼は同時に、幅広い趣向の範囲内として音楽映像も嗜むのだが、その中の一つ。どうしても欲しかったのに諦めざるを得なかったものがある――。
それは『予約特典で桐箪笥がついてくる、音楽アーティストのミュージックDVD』。
何を言っているのかと思われそうだが、これは想像の範囲を超えて現代のUDCアースに実在する、ある意味伝説級の一品だ。
単二電池で動き、引き出しを開けると、電光文字と共に、イルミネーションが光り輝く。どうやら、その音楽アーティストの作品歌詞の中にある『祖父の遺品の古箪笥』からイメージされたようだが、こんなものがリアルで祖父の遺品で残されていたら、間違いなくその人格を疑うことになるだろう。
当然、正気でないお値段もかなりのもの。しかしそれでも、ラビットのような愛好家がいる限り、これらは妖怪にすらならない程に、廃れることは決して無いのだ。
「ハッ! これを見る為のホームシアターセットもおまけで買っておきます。これは大事、だいじ」
ラビットが二回頷いた瞬間、轟音と共に降ってその場に現れた大画面シアターセット。ちゃんと、DVDラックもセットで購入。
卓上にはオタクライフに大切な、推しをモチーフにした人形達を飾り付ける事も忘れない。
「そしてぇ――……」
「あんた、まだあるんかい!!」
お金はある、正直言って無限なまでにジャブジャブある。
しかし、流石にそろそろツッコミを入れなければならないと思わせる程に、ラビットの購入意欲は、バズリトレンディの想像を大幅に越えていた。
「とどめはこれだ! 同人誌!!
ジャンルの本――全部買います」
すると、手元には、大量の薄くて高い本が降り注ぐように綺麗に積み重ねられていく!
今、戦場から同人誌即売会までは足を運べないが、気分は『この島の本、全部ください』である。
一瞬にして溢れた本は、長身の金髪青年と黒髪の美青年が『とても』仲良くしている、読めば物足りなくて切なくなる程、やはり薄くて高い本。
しかし、これらには合法阿片並の中毒性がある為、幼いよい子は絶対読んではならない。何故なら人生の未来が、ちょっと抜け出せない沼一直線になるからね!
「いい加減――目ぇ、覚ましぃや!!!」
――流石にバズリトレンディ。浪費は大歓迎でも、このノリにはついていけなかった。
ジュラルミンの輝き放つ、二億円の入ったアタッシュケースでラビットの頭を全力で打ち据える!!
――ばきぃっと、イイ音がした。
それは、実は地形破壊系ユーベルコードなのではないかと思わせる程に、本当に、実にイイ音がした。
それはバズリトレンディ渾身の、見事なまでのツッコミだった。しかし、
「そもそも、ビットくんには戦意はないので」
身体には影響のないユーベルコード。ラビットは気にも留めることなく、ぴょんと可愛らしい仕草で椅子に座る。
「ビットくんはここで御本を読んでるので……
――『あ~もうこれ絶対くっつくやつでしょ!! 僕知ってる!!』」
むしろその目の前で、ラビットは合法阿片に近い御本に悶えるエモさを全身に浴びながら、脳を活性化させるユーベルコードを乗せ、心のお友達である全長二メートルの『ろくろうさん』を喚び出した!
「ろくろうさんあとは任せました!」
つぎはぎガジェット人形のろくろうさんは、ラビットのお話を聞いてくれて、やるときはやるという、非常に大切なお友達である。
話を聞いてくれても、本当に無口であることは。ラビットにとっては少し寂しいものではあるのだが、
「ああ、そこ! そこでくっつかないなんて!
新刊は! 新刊はどこですかぁっ!!」
――こうしてラビットが御本にもだえ、ときめきを振りまく間。
ろくろうさんは、立派にバズリトレンディをめためたにしてくれたのだから、きっとその絆はとても深いものであるに違いない――たぶん。
大成功
🔵🔵🔵
ラファエラ・エヴァンジェリスタ
欲しいものを、何でも…?
じゃあ、馬
どこぞの社長が破格の値段で馬を買った話が最近まさにバズっただろう?
私は某名馬の産駒が欲しい
母は某名牝だ
具体名を言わせるでない
大人の事情だ
貴公の耳と同じようなものだよ
あと、アハルテケも欲しい
あれはたいそう美しいので
出来れば仔馬を
馬具もマストだ
この世界はフランスだとかいう国に良い馬具屋があると聞いた
馬場用の鞍をお願い
ブーツも服も一式
あぁそれから、たしかその店に有名なバッグがあるだろう
歌手の名のものも女優の名のものも両方だ
サイズはそれぞれ30と28
色?ヒマラヤ
私は鞄など持つことはないのだがとりあえず
嗚呼、何だっけ
戦い…は私には無理だ
騎士に任せる
あと荷物運びもね
●おそらく本日最多の浪費率
「欲しいものを、何でも……?」
新し親分『バズリトレンディ』から、そう告げられたラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)は、途方に暮れた。
蘇った寵姫の、虚無にも近い今の環境は。改めて何か欲しいと一際に言わしめるには、そこに空いた心の空白はあまりにも大きすぎるものだった。
しかし、しばし考え。ふと、ラファエラは思い出したように顔を上げた。
浮かんだのは、現状において、唯一。自分の傍らに、生命を持って存在している存在――。
「――じゃあ、馬」
「馬、ええな! めっちゃバブリーやん!!」
両手を叩きつつ、バズリトレンディが歓喜に瞳を輝かせる。
「どこぞの社長が破格の値段で馬を買った話が最近まさにバズっただろう?」
「あかん!! ワイちゃん、今形態違いやからバズリ情報のアンテナ伸ばしきってないんや。
両方キャッチしきってこその新し親分やのに!」
バズリトレンディが、ラファエラの豪快なフリに自分の頬をベシバシ叩く。形態違いの縛りは大きい。
ちなみに、その馬の落札価格は五億円弱。バブルでもないのに、それを極めた某IT業界社長の行動力の凄まじさは計り知れない――。
「私は某名馬の産駒が欲しい。母は某名牝が良いな」
これは確かに欲しい――己でそう思えるだけの実感に、ラファエラはひとり、その感覚を味わうように頷いてみせる。
「んー、それ願えば叶うんちゃう? 母親の名前分かる?」
「具体名は言わせるでない。大人の事情だ。
――貴公の耳と同じようなものだよ」
「ヒぇッ!!」
今、馬業界は形態が違えども、絶対押さえておきたいムーブメントだ。だが、あの界隈には恐ろしい規約が結ばれている。大人の事情に深入りすれば、バズリトレンディについている耳と一緒で、うっかりで手が後ろに回りそうな勢いなのである。
「じゃ、じゃあ、それは後でこっそり願っておきや。
馬の特徴は知ってる人にはモロバレするから、声に出したりするのも、大人の事情でカンニンしてくださいよ……!」
「うむ。
あと『アハルテケ』も欲しい。月毛だと尚良いのだが――」
ラファエラの告げたアハルテケ――それは、UDCアースに現存している一番古い種類の馬種である。
その稀少性をまるで際立たせるように、今その世界で飼育されているのはたった四千頭にも満たない。光が差せば、本当に美しい金属を思わせる光を反射させる、毛並みの美しい馬である。
月毛は、その中でも混じり気のないクリーム色が、正に月光を思わせるような種類。
「出来れば仔馬を」
ラファエラがそう告げた瞬間。そこにはまさしく、透き通る光を毛並みに宿した一頭の仔馬が現れ、ラファエラを目にすり寄るように近づいてきた。
「……可愛い」
ぽつりと零れる寵姫の本音。当然お値段は安いものではなく、傍らでは現金がゴソリと減ったが、それはラファエラにとって、心満ちる非常に有意義な買い物となった。
そうして、ひとつ買えば欲が出る。
ラファエラは、その久方振りの感情に、ほんのりと胸を高鳴らせ、この思いに従った。
「ならば、馬具もマストだ。この世界はフランスだとかいう国に良い馬具屋があると聞いた。
馬場用の鞍をお願い――ブーツも服も一式」
フランス。そこには、今の時勢においても、誰もが知らぬものはいないであろうというブランドがある。
今でこそ、バッグを始めとするファッションブランドとして、バブルが弾けたUDCアース島国で、尚も絶対的な知名度と人気を誇っているが、そこの発端は『馬具メーカー』なのである。
「あ、そこ知っとるわ! バブリーな時代の風物詩だったからなぁ。あそこは品質が何よりすごくてな。ワイちゃんも必要以上にたくさん集めてみたいなぁ思ったもんや」
どうやらこの新し親分、意地でも『隙有自語』を叩き込んで行くスタイルらしい。
だが、寵姫故だろうか、人の話はけっこう聞かないスタイルのラファエラはそれらをあっさり流して、乗馬を嗜む為の必要品をあっという間にその場に揃えた。
「後は、たしかその店に有名なバッグがあるだろう。
歌手の名のものも女優の名のものも両方だ」
それは、バブル時代から今に至るまで、そのファッションブランドを支え続ける巨大な柱。
片方は、クールで気品に満ちた美貌を誇る女優の名を冠したもの。
もう片方は、敢えて飾らない美しさで愛されていた歌手の名を冠したもの。
その両方が欲しいというのは、まるでラファエラという存在の二面を僅かに顕しているようにも思われて。
「サイズは、そうだな。それぞれ28と30――」
「待ちや。あれ確か色によってえげつないほど値段変わった記憶あるけど、何色を探しとるん?」
「色?『ヒマラヤ』」
――ゴゾリ。
瞬間、今まで溜め込んできていた、バズリトレンディ御殿のお札が、一時とはいえ、殆ど一斉に消え失せた!
「ヒェッ!!」
バズリトレンディが、二度目の奇妙な悲鳴を上げる。
それもそのはず――そのブランドが出す革製品。その中でも、カラーの一つであるヒマラヤは、その革の希少性から一年に一、二個しか生産されない。現代の新品は、もはや入手は不可能とまで言われているのだ。
それを、
「私は鞄など持つことはないのだがとりあえず」
「マジかーーー!!」
『とりあえず』で、まさかのキープ。
使うのが、決して勿体ないからではない。
本当に――何となくで使わない。
そこには、完全なる寵姫としてのラファエラが、ものすごく『バブル期の女王として相応しい、浪費家の鑑』として顕現した瞬間だった――。
「あかん! 御殿の金尽き掛けとる!! もっと増やさな、戦闘意欲に直結するやん!」
本当に一時ながらに、根こそぎ減ってしまった御殿のお札。
それを、バズリトレンディが大騒ぎで増やしている傍らで。相手から出た言葉にふと、ラファエラは麗しの金銀を交えた髪を揺らして首を傾げた。
「戦闘……意欲? ……購入、意欲ではなくて……?」
……ものの見事に、本来の目的を忘れ去っていたラファエラである。
「違うわ、猟兵! ワイちゃんとこに戦い来たんやろうが!!」
それが本来の目的であることを、華麗にスパンと忘れていた――むしろ前提記憶に無かったラファエラに、バズリトレンディが鋭いツッコミをぶつけてくる。
しかし、それには困ったように。ラファエラは見えないヴェールの向こうに、目にすれば本当に美しいであろう眉根を寄せた。
「戦い……は私には無理だ。
――騎士に任せる」
そしてラファエラは、実際のバブル期であっても破産しかねない程の、本日最大級の買い物をして強化された自身のユーベルコード【昏き淵への嘆息(サスピリオルム)】を解き放つ。
現れたのは、銀の甲冑に身を包み、その姿をかすかに透けさせた、過去、己に仕えた騎士団長。
「戦いの、後は任せる。
……あと、今までの荷物運びもね」
内容は――『限界突破の、理不尽オブ理不尽』。
しかし、今はその願いを寵姫の為に勤め上げるのが、騎士、そして騎士団長としての努め。
無言の騎士は、静かに寵姫の前に、新し親分との間に進み出た。
そして――実際に、その騎士団長はやり遂げた――否、やり遂げ切ってしまった。
「一緒に踊れば適応判定入って、こんなんほぼ確でワイちゃんの勝ちやん! 勝負!!」
バズリトレンディが己のユーベルコード【ワイちゃんと踊ろうか!】を騎士団長に叩き付ける。
1990年代前半のディスコに適応出来なければ、相対的に能力がガタ落ちする場の生成において。
何とこの騎士団長――寵姫の為、唯一それだけの為に。
お立ち台の上で甲冑を着込み済みの状態でありながら、ジュリ扇を片手にそれを感じさせないパーフェクトなダンスを踊り切ったのである――。
そして、その姿に全力でドン引きした、隙だらけのバズリトレンディの後頭部を、手にしたメイスで力いっぱいぶん殴り。
同時に、荷物の為の往復など、寵姫の騎士としてあるまじき惨めな真似は決して許されないと。
ラファエラの大量買いした馬具もバッグも全てを一度に持ち切って。騎士は、一足先に帰ると決めて、馬を愛しそうに二頭連れて歩く寵姫の、優雅にそして少しの満足と共に進む姿の、その後に付き従って歩き始めた。
そうして。
バズリトレンディがメイスで伸されてブッ倒れている間に。
そのニ名とニ匹の馬は、ゆったりと優雅な仕草で。やはり少し目的を忘れたままに、一足早くその場所を後にしたのである。
「う――あんなん……ひきょ、ぅ、ゃぁ……!!」
バズリトレンディは、頭が痛くて動けない。
しかし、ルールに則りラファエラは己を強化し、そのユーベルコードでバズリトレンディを叩きのめしたのだ。
これはまぎれもない純然たる勝利と言っても、何も差し支えないに違いない。
――『虞知らず』は、きっと後でも教えてもらえることだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
水鏡・怜悧
詠唱:改変・省略可
人格:ロキ
お金で買えるもの……まぁ、国とかも買えますから大丈夫でしょう。
○買うもの
発電施設
変電所
お台場のユニコーンガン●ム
○行動
メカニックと世界知識と戦闘知識と属性触手を駆使して限りなく本物に近いモノに魔改造。
足りないパーツは板金を購入し火属性と雷属性の触手で加工。重力属性の触手で運搬も楽々です。
組み上がったのは全長19.7mのロボット。武装も完備。ただし電動式。もちろん搭乗し戦います。とりあえずミラーボールは踏み潰しておきましょう。
総額はわかりませんが、大きさはキャバリアの4倍ほどですからね。普通に強いですよ。あと、何か……ロマン?とか入ってます。多分。
●刺されても後悔しない。それこそが、ロマン
「お金で買えるもの……」
そのバズリトレンディ御殿についての仕様を耳にして、水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)は、しばし思案に耽ることにした。
ここにいる新し親分『バズリトレンディ』は、猟兵達が全力で己に挑んでくることを望んでいる。それも、自身の一つでもある『バブル期の無限に湧く金』という概念でパワーアップするのも許容した上でだと。
その上で勝てる最大限を――多重人格である今の性格は『ロキ』として存在している怜悧は、その知的好奇心も伴い、思考をフル活動させていた。
「バブリーで買えんものなんかあらへん! ドーンと来や!」
そのバズリトレンディの言葉に、怜悧は静かに頷いた。
「……まぁ、国とかも買えますから大丈夫でしょう」
――聞かなきゃ良かった、バズリトレンディはそう思った。
「では、まずは」
その瞬間、怜悧の言葉と共に御殿の一角が、溢れ出ていたお金と共にガツンと削れた。文字通り、物理で削れた。
「ちょっ! あんた、何買ったんや!?」
「『発電施設』を少し……ですが、困りましたね。
この御殿では少しスペースが足りないようです。併せて『変電所』も欲しいのですが」
「それなら御殿から直結したところに、土地買えばええやん」
「それで行きましょう」
「――あ」
バブリーな発言を、その存在故に息するようにしてしまったバズリトレンディ。
敵に致命的なまでの塩を送った彼女は、これが完全な致命傷になることを。この時点から、既に悟っていたのだと後に語る――。
それもそうであろう。
新しく買われた土地には、発電施設と並ぶ変電所が建てられた上。
そこに、UDCアース島国の首都、お●場にある『ユニコーンガン●ム』の等身大立像などを、買収――もとい一時とはいえ御殿の殆どの金を消費し、購入されて持ち込まれた日には。
この、伏せ字の位置も変えられないほど危険なシロモノ、等身大『ユニコーンガン●ム』を正面に見据えながら。
怜悧は参照資料として購入イメージしたテレビとBlu-rayアニメ、そしてこの世界に対応した戦闘兵器資料を同時並行しながら見つめ、持ち前の情報収集能力で把握しながら、まるで水でも飲むようにその知識と映像情報を吸収していく。
そして、
「可能――ですね」
そう、一つの結論に辿り着いた。
怜悧は確信する。ここに、この等身大の立像を、限りなく本物に近い存在へと魔改ぞ――もとい、昇華させる事が、自分の手であれば物理的に可能である、と。
そして怜悧は、祈るように手にした己の銃型魔導兵器・オムニバスの引き金を引く。発動させるユーベルコードに――己の抱く、確かなロマンを込めて。
『僕たちの希望、託します――これは……僕たちの戦争なんだ!!』
少し、参照資料のアニメは見過ぎたのかも知れない。
チュイーン! ガガガガッ!! ドガーンっ!!
そして、今――目の前で、悲しいくらいに広々と大きくなった御殿は、既にクロムキャバリアの世界もびっくりの巨大な建設プラントと化していた。
もはや、呆然とその光景を見守る事しか出来ないバズリトレンディを後目に、怜悧は次々とそのイメージを形にし始める。
ユーベルコードで生みだした、一本一本が各々に様々な属性の力を取り込んでいる触手を駆使しつつ、怜悧は元にあった立像をガツガツと改造していく。
「そうですね、やはり火属性と雷属性の触手加工は現実的です。
足りないパーツは……追加で板金を購入して作りましょうか。
運搬なども、重力属性の触手で楽々ですね」
「ひぃぃいい……っ」
約五百本にわたる触手が、怜悧の意志により、職人の手を思わせる程の精密作業を執り行っている。
「こ、これ――完成したら、ワイちゃんと、戦うようになるん……?」
「ええ、立派に仕上げてみせますよ」
怯えまじりのバズリトレンディへと、触手たちに指示を出す怜悧がさらりと答える。
「……」
これは、完成まで待つべきか。それとも、待たずに卑怯ではあるが、今のうちに背後からHPAH(ハンマーパイナッポー&アッポーハンマー)で殴りつけて、怜悧と(この触手群)相手に戦うか。バズリトレンディにとっては、一体どちらの方が楽なことであっただろう。
――正直どちらも勝てる気がしない。
それは今、この状況におかれたバズリトレンディの、偽らざる本音であった。
「完成、です」
怜悧が感慨深く、その光景を見上げて頷いた。それは、立像であった頃より、実用性を重視した為に更に重厚感を増しており、伴う威圧感も相当のものがある。
もちろん、それは立像が型として装備していた60ミリバルカン砲も、更にはあのビームサーベルまで使える完璧仕様である。ただし電動式、こればかりはどうしようもなかった。その為、最初に併設した発電施設も変電所も現在フル稼働中だ。
――全長は約19.7m。大きさとしては、一般的なキャバリアの約四倍にあたる。足元などに居ようものなら、人間サイズの一般的な存在など容易く踏み潰してしまえる大きさである。
「こんなん、存在の暴力やん!!」
「これが、僕の――猟兵の本気です」
「うっ……! た、確かにワイちゃんの金も使うとるしな……正当パワーアップやもんな……」
バズリトレンディが思わず叫ぶが、怜悧としては完璧なまでの正当な手段を踏んでいた。
彼女の中には、過去二、三十年のトレンドがしかとその身と記憶に刻まれており。当然、この完全武装ロボットとなった雛形の存在が、アニメのシリーズとして思い至る訳だが。
――当然ながら。それと自分がガチで殴り合いをする事になるなど、一体どうして想像できただろう――。
「あ、もちろん搭乗して戦います。自動操縦には対応していないので」
「……」
ロボットに戦わせるのであれば、まだ言い逃れも出来たのかも知れないのに。そう浮かび掛けたバズリトレンディは、思わず力いっぱいに頭を振った。
「あかん! 勝つんや!! ワイちゃん、弱気になったらあかん!!
――こう来ないと、物足りないくらいや!!」
しかし、頭を切り替えれば、バズリトレンディには怖いものなど何もない。それが、トレンドを楽しみ生み出す精神そのものなのである。
バズリトレンディは、大きくその目を見開くと、既に搭乗し身を起こした怜悧のロボットを強く睨み付けた。
「こんなん、お立ち台に組み込みゃ怖ないわ!
――【ワイちゃんと踊ろうか!】」
バズリトレンディが手を高らかに上げて指を鳴らす。
そこに流れる、ハードコアテクノの音楽! 召喚された、プラント御殿と化した世界に光輝くミラーボール!
「とりあえずミラーボールは踏み潰しておきましょう」
怜悧、即決。
――まず、比較すべきはこの体高。これがいくら1990年代前半のディスコに適応出来ずに弱くなろうが、そのサイズが縮まるものではない。
「総額はわかりませんが……大きさ自体が、キャバリアの四倍ほどですからね。普通に強いですよ」
そうしてロボットは、容赦どころか血も涙もなく――もとい、極めて合理的な怜悧の判断として、光と共に更なる煌めきを放とうとしていたミラーボールを、ベキバキと踏み潰した。
「あああああああ! ワイちゃんの象徴がぁ!! ロマンがぁー!!」
バズリトレンディが、ほぼ断末魔に等しい悲鳴を上げる。
「ロマン……?」
薄暗いコクピットの中。怜悧はしばし考える。
あのミラーボールに、その魂はちきれんほどの叫びを上げるまでのロマンがあったというのであれば。こちらには。
「ロマンとか、入ってますね。多分」
怜悧も、確認するように己の心に静かに頷いた。
確かに。もしも、ここにロマンが入っていなければ、側(ガワ)だけからキャバリアレベルで中身を作って動かそうとは思わないだろう――。
そうして。
バズリトレンディの象徴とも言えるミラーボールを破壊した、一方的なメンタル虐殺にも近しいこの状況で、心がバッキリと折れきったバズリトレンディはついに己の敗北を認めた。
立ち塞がった、この新し親分の存在故であろう。それは極めて幅広く、奇妙奇天烈な闘争と相成ったが。
この勝負は、完全なる猟兵たちの勝利として幕を閉じたのである。
大成功
🔵🔵🔵