10
補給拠点防衛 波状攻撃迎撃作戦

#クロムキャバリア #第一強国理念抗争 #NPC生還

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#クロムキャバリア
#第一強国理念抗争
#NPC生還


0




●奴らは風と共にやって来た。
『空色サイクロン、ターバン!』
 ふわー、とやって来た頼りない空色の量産型キャバリア。外部拡声器から堂々と発せられる声とは真逆のひ弱な機体。
『夕焼けマントル、スージー!』
 瓦礫を蹴散らし、脚部の履帯で高速移動するのは屈強なる赤々とした機体。こちらは女性のようで、彼女の登場と同時に空をふわふわ漂っていた機体は着地、二機はそれぞれポーズを決めた。
 ところでそのネーミングセンス軍部から修正食らわなかったの?
『二人揃って人呼んで!』
『ヴァイオレット・メテオ・ストライカー!!』
 うるせえぞバカップル。
 効果音を鳴らすなら「ぴしゃあーん」とでも言おうか、ばっちりポーズを決めた二体とは別に、攻撃を受けたであろう基地施設から物資を運び出す同タイプの機体たち。
『諸君、実にいい働きだった。特に、……あー……ごめんなんだっけ……?』
『ヴァイオレット・メテオ・ストライカーであります、少佐!』
『VMSと略称可であります、少佐!』
『あ、はい、オッケーオッケー。そのVMSさんすんごい見事だったよ、ホントホント、うん』
 部下と思われる二機に詰め寄られてちょっと引きつつも少佐と呼ばれた男は彼らの働きを褒めた。
 両肩に盾を装備した一つ目は、禍々しい輝きをぬらりと放ち、物資を運ぶ部下の動きを止めさせる。整列はさせないが、それでも彼らの忠義の印か、各機は敬礼を行う。
『諸君、改めて感謝を述べさせて貰いたい。今作戦の成功は君たちの尽力によるものだ。
 我らが偉大なる国家ダンテアリオンは! 陽のいずる道を戴く栄光として、後の歴史に記されねばならない。
 その為にも! 我らは!! こうして輝かしい鉄火の槍を持ちて力を示し、周辺国にこの威力を報せねばならないのであぁる!!』
『我らがダンテアリオンに栄光を!』
『我らがダンテアリオンに栄光を!』
『我らがダンテアリオンに栄光を!』
 唾を飛ばす勢いの小演説に、声を揃えた部下たち。それを悦に入って見つめていた少佐はやがて機体の右腕を上げてその声を制止させた。
 全ては、我らがダンテアリオンに栄光を齎す為に。
『我ら尖兵の足跡は栄光の礎となり我ら尖兵の足跡は時代を導く標となる。我らがダンテアリオンは、今、この時より覇道を進む。我ら尖兵が、その舵を切ったのだ!
 諸君。君たちこそ、偉大なるダンテアリオンそのものであぁあるっ!!』
『少佐かっこいー!』
『少佐イケメーン!』
『少佐イケオジ~!』
 やんややんやの大喝采を気持ちよさそうに受け入れて、少佐はめっちゃ嬉しそうにニコニコしていた。
 偉大なるダンテアリオンとかに斉唱してた時より機嫌いいじゃん。
『よせやい、褒めても何も出ないぞぅ?』
 機械の顔、言うなれば鼻のあたりを指でこする少佐。調子乗んな。
 演説も終わり、さっさと運搬しようぜと作業を再開するキャバリアたち。彼らの悪事を瓦礫の隙間から見上げて、呻く男が一人。
「ち、……畜生……!」
 怒りに燃える瞳は、侵略者に向けられていた。

●諸々の概要を説明する!
 集まった猟兵たちを背に、少し待つように手で制したのは振り返りもしないライアン・フルスタンド(ヒューグリーム決戦の悪魔・f30184)である。
 事件の発生した場所の平面図を簡単に記したホワイトボードで、マーカーのキャップをくわえていたライアンはそれを吐き捨て猟兵たちへ振り返った。
「……こういうのガラじゃないんだけど……クロムキャバリアで事件発生。
 端的に言えばアサガシアを名乗る小国家へ、周辺国家のひとつダンテアリオンに所属するイーデン・ランバー少佐率いる軍部の過激派が独断専行し攻撃を行ったって内容だね」
 あっさりと概要をまとめてホワイトボードに印を足す。同時に平面図には補給拠点の文字。
 つまり敵は、アサガシアへのダメージと自分たちの部隊、あるいは国家への貢献を考えているのだろう。物資の略奪がそのまま侵攻対象となった理由である。
「ダンテアリオンは周辺国家の中でも国力の大きな国だ。対してアサガシアは国力そのものは弱くても練度の高い兵力を有していて、傭兵稼業を国策としている。
 ダンテアリオンが周辺国家を統一できないのは彼らの兵力が派遣されているからで、武力衝突も繰り返している。それでも戦争へ発展しなかったのは、国境での小競り合いで済んでたからだ」
 それが侵略し拠点を襲撃するとなれば話は変わる。途端に均衡は崩れ、二国間の関係は戦争へと発展するだろう。
 まあそんな事はどうでもいい、とライアンは興味なさげに付け足した。
「今回進軍したランバー少佐のキャバリアはオブリビオンだ。やり方はわかんないけど、彼の率いるキャバリアは全てオブリビオンマシン化されているね。
 敵は空中機動が可能な第一波と、地上走破能力に長けた第二波の波状攻撃を行ってくる」
 第一波はガガンボと呼ばれおり、飛行可能と言えどもそれだけの能力。機体性能は劣悪で機動戦に長けたものではない。
 ライアンに言わせれば竹トンボに棺桶をくくりつけたような代物らしい。
 しかしドッグと呼ばれる第二波は地上戦用とは言え、性能だけならガガンボを遥かに上回る。
「どっちも猟兵なら倒すに問題ないだろうね。でも第一波、第二波ともにエースと呼ばれる奴らがいる。
 機体も専用にチューンしていて、彼らの能力も高い。VMSとか呼ばれる二人の連携は目を見張るよ。
 ま、ばらばらに来るから関係ないけど」
 アホやん。
 なお他の面子も同じく第一波、第二波は絆のある組み合わせとなる。オブリビオンマシンを破壊すればその洗脳から解けるが、仮に殺害してしまえば第二波の連中は狂気に飲み込まれてしまうだろう。
「少佐の駆るオブリビオンはこいつらより遥かに強力だ。詳しい情報はないけど、拠点防衛部隊はこいつに殆どが撃墜されたよ」
 拠点防衛につくアサガシアの部隊は第二波と同じドッグが十機程度。侵略者と比べ練度は高く、協力を依頼すればすぐにでも援護してくれるだろう。
「拠点の被害を考えないなら、第一波の機動力の低さを逆手に取って、建物を影に対空攻撃するのが効果的だ。第二波は装甲も機動性もあるけど体が大きいからね、逆に建物に追い詰めて空中から攻撃するのがいいだろうね」
 ただ、地形利用に関してはドッグも適性がある。予想外の動きに注意が必要だとライアンは締め括った。
 とりあえずはこんなものかとホワイトボードに書き込んだ情報を見つめ、猟兵へと振り返る。
「この戦闘で両陣営や猟兵の認識に変化が起きるだろうけど知ったこっちゃない。
 第一波襲来前に到着予定だから、使いたいなら現地のキャバリアとか好きに使ってくれていいよ。
 とは言え、この世界には暴走衛星『殲禍炎剣』の砲撃がある。高速移動する場合は高度を上げ過ぎないよう注意してくれ。ご武運を」


頭ちきん
 ヒャア がまんできねぇ クロムキャバリアだ!
 頭ちきんです。カクリヨファンタズムのシナリオはまだ途中ですが、我慢できないのでクロムキャバリアヒャッホイ!
 国家同士の小競り合いに便乗したオブリビオンマシンの波状攻撃が開始されます。オブリビオンを破壊し、国家間の武力衝突に介入しましょう。結果により、各国の情勢に変化が起きます。
 オープニングでも雰囲気作りに小難しい話をしていますが、物語の分岐もテキストフレーバー程度ですので、気楽に武力介入しましょう。
 それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 全章を通して量産型キャバリア、スーパーロボットをレンタル可能です。性能面に関して記述がない場合はこちらで選びます。また性能に関して簡略的な記号を使用できます。
『R:量産型キャバリア』『S:スーパーロボット』
『C:近接戦闘系』『O:遠距離攻撃系』
 SC、ROなどで表記下さい。スーパーロボットは音声入力方式になるので、必殺技を好きに叫びましょう。

 一章ではアサガシアの補給拠点へ第一波、航空戦力の侵略部隊が襲来します。機動力も耐久値も低い為、破壊は容易です。現地防衛部隊と協力して被害を抑えるなり、気にせず攻撃するなり戦いましょう。
 パイロットの死亡者が増えた場合、第二波の戦力がオブリビオンマシンの狂気に飲み込まれ強化されますので注意しましょう。
 二章では第二波の地上戦力を、一章に引き続き撃破して下さい。
 三章はボスとなるオブリビオンマシンとの戦闘になります。前章とは比較にならない強力な戦闘兵器ですので注意しましょう。
 なお、今シナリオにおける全ての損害はシナリオの正否に関わりありません。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
71




第1章 集団戦 『ガガンボ』

POW   :    バルディッシュ並列化偽演粒子コーティングソード
【ユーベルコードで強化した装甲斬撃剣】が命中した対象を切断する。
SPD   :    D2エンジン起動
【補助動力炉D2エンジンを起動する】事で【通常時とは比較にならない高機動戦闘モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    マイナーチェンジ
自身の【各部、兵装】を【対空迎撃用又は対地砲撃用キャノンパック】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●それは穏やかなお昼休みのことだったんじゃよ。
 ぴちち、ちゅんちゅん。
 小鳥の囀りと心地よい風の中、小国アサガシアの補給拠点防衛の為に施設へ訪れていたボイット・レンジャー隊長はアイスクリームをペロペロしていた。
「隊長ー、遠方から熱源反応有りです。方角的にダンテアリオンの糞どもっぽいです!」
「あーん? 俺は今お昼休みだから、そういうのは別の人にやらしとけよ」
「隊長ー、セクハラです」
「何で!?」
 副長の言葉に思わず声を荒げると、溶けたソフトクリームが落ちてしまい絶望するボイット隊長。気持ちは分かる。
 しょうがないなとコーンを投げ捨て、お前コーンも食えよ。
 しょうがないなとコーンを投げ捨て、隊長は副長の報告をきちんと確認すべく情報を上げた拠点の管制塔へ無線を繋ぐ。
「こちらボイット。未確認機接近の報告を受けましたが、状況の説明をお願いします」
『ボイット・レンジャーか!? 緊急事態だ、ダンテアリオンからこの施設を目指して大規模なキャバリアの進軍が確認された!
 今までどこで油を売っていたんだ、副長とかいう女は何をやっとる!?』
「えっ。あのぅー、アイス食べてましたんで、僕よくわかんないっす」
『拠点防衛の仕事舐めてんの?』
 舐めるのはアイスクリームだけにしろよ。
 とにかく急いで迎撃準備に入るのだと命令されて、ボイットは無線機に敬礼しつつジト目を副長へ向けた。
「めちゃんこ一大事やんけ! お前のせいで怒られちゃったじゃん、俺が!」
「あ、私たち今からお昼休みなので諸々の対処は隊長に一任します」
「立場を弁えろ! お前らそんなに俺の事が嫌いか?」
 唸りつつ、向かうは格納庫。
 頭上でぐるりと回り、事前確認の行われる迎撃システムに壮観だと呑気な声をあげていれば、進む足に続く足が続々と増えていき、総勢十名が彼と共に整備されたキャバリアの座る格納庫へと集まった。
「ダンテリの熱血馬鹿どもが攻めてくるぞ。迎撃システムを守り切れば俺たちの勝ちだ。あの馬面をぶん殴ってやれ!」
「隊長、ボーナスとかあるんですか?」
「出向じゃないからそんなのねえよ。死んだらタンマリ出してやるから、ハデに逝け」
 ボイットの言葉に笑う声が重なって、その顔を見回す彼も笑顔にならずにはいられない。
 さあ、アサガシア魂を見せてやる。
 吠える男の声に皆も咆哮で答え、次々と自らの駆る棺へ身を投じた。
 その声が怖くて小鳥たちは逃げたが、今から火の海となりかねない基地の中でフライドチキンとなるよりはマシだろう。
 戦闘が、始まろうとしている。


・集団戦となります。戦闘前に少し時間がありますので、必要であれば量産型キャバリア、あるいはスーパーロボットを借りてみましょう。詳細はオープニングのコメントにあるのでご参照ください。
・拠点には迎撃システムである砲台が複数設置されており、第一波、第二波のキャバリアを簡単に撃墜できる攻撃力を有しています。上手く活用しましょう。
・他にも防衛の為に十機の量産型キャバリアが配置されています。パイロットの練度が高く第一波では放っておいても被害は出ません。猟兵の要請を受ければきちんと連携を取ってくれるので、こちらも上手く活用してください。
・敵の第一波は飛行能力を持ちますがガガンボの名の通り非常に脆く、機動力に長けた性能もないので基地施設や配置キャバリアにも押され気味な貧弱なものですが、物量が多く、施設を優先して攻撃するので砲台を活用する場合は注意してください。
・部隊長格が複数混じっており、それぞれのパーソナルカラーに機体を染めています。そんなに変わりませんが、連携すると能力が上がるので注意してください。
・また、エースである『空色サイクロンのターバン』は高い技能を持っています。施設配置キャバリアにも負けないフルチューンされたガガンボに搭乗していますが、ベースは所詮ガガンボなので猟兵の敵ではないことを思い知らせてやりましょう。
・要は『気にせず暴れようぜ!』が作戦内容です。施設防衛はシナリオの正否に含まれませんので、ひと暴れしてやりましょう。
シル・ウィンディア
ええと、国作るためにっていうけど…
略奪はしちゃだめと思いますっ!

それじゃ、お仕置きしにいこっか
ブルー・リーゼ、行きますっ!

高度に気を付けて【推力移動】から【空中機動】に移行しての【空中戦】だね
そっちも空戦機だけど、わたしのリーゼも空戦機だからっ!!

攻撃はホーミングビームを敵陣に撃ち込んでいくよ
回避されたら、ランチャー・ツインキャノンで回避した敵を撃ち抜いていくね

敵機とすれ違ったらセイバーで【切断】!

敵攻撃は【第六感】で殺気を感じて【瞬間思考力】で動きを【見切り】
【残像】を生み出して攪乱回避だね

敵に囲まれたら【高速詠唱】からの《指定UC》だね
まとめて撃ち抜くっ!

あ、攻撃時はコックピットは避けるね



●ナウ・ローディング!
『各機へ通達。第三勢力より援軍あり、こちらと協力して敵を叩くように。次に送付するデータを味方の識別信号として登録しておくこと』
「あん? 第三勢力?」
 狭い搭乗席で、眉を潜めたのは小国家アサガシアの補給拠点防衛の任に就くボイット・レンジャー隊長だ。
 そんな彼の反応に溜息を吐いたのはその部下の一人。
『隊長、第三勢力と言や猟兵でしょう。ボーナスカットなんて勘弁ですぜ』
「あー。いや出向じゃねえって言ったろ、俺たちのシマ守るのにボーナスが出るかよ」
『隊長ー、セクハラです』
「嘘だろ副長、今の会話のどこにお前のセクシュアルセンサーが反応したの?」
 軽口を叩きつつ、送られた情報を手早く登録していくボイット以下十名のパイロットたち。
 どちらにせよ、この戦闘で得られる物が少ないなら使える戦力は最大限に利用すべきだ。
「死なない程度に働こうぜ。気合入れ過ぎてハデに逝ったらボーナスは出るが、俺たちの収入が減るから辞めてくれ」
『隊長ー、パワハラです』
「ん、……うん……確かにそれっぽくはある……かな……。いや俺それなりにイイコト言ったつもりなんだけど?」
 まあとにもかくにも利用しろと言う事だ。
 下卑た声で笑う隊長に通信が届かぬよう切り替えて、部下たちは声を潜めた。
『これオープン回線だから猟兵さんにも聞こえてるよね?』

「ばっちり聞こえてるんですよねー。わざとかな?」
 身勝手なお仲間の言葉を聞いて頬を引きつらせたのは黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。ロングストレートの髪を後ろでまとめて動きやすいよう気を遣っているようだ。猟兵としてオブリビオンマシンによる凶行を止める為にアサガシアと連携する事になったのだが。
 苛立つ彼女を宥めたのは迷彩服に弾薬等を括りつけた赤城・晶(無名のキャバリア傭兵・f32259)。彼らとは元同業者であるだけに事情は了承しているといった所か。
「なかなか大変な事になってるみたいだし、元同業としての縁もある。手を貸すぜ」
「そいつは有難い。おたくらの機体は奥にあるから、任意のタイミングで出撃してくれて構わないぞ。頼まれた例の物も一緒だ」
「助かる。弾薬と武器はちょいちょい使わせてもらうぜ?」
 例の物とは。
 小首を傾げた摩那の後ろを行くのは、場違いな和装メイド服で歩く御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の姿。彼女は晶と話していた整備員の示した方向へ向かっており、手元のマニュアル――量産型キャバリアの説明書に目を通している様子で、やがて目を逸らす。
「操縦も運転も似たようなものです、きっと」
 彼女が見上げたのはごてごてとした厳めしく無骨な機体で、背中には継ぎ接ぎのような大型の飛行ユニット。
「お姉さんの用意して欲しい武器ってのはこっちだったな。俺もよく先公相手に振り回したもんだが、きちんと手加減できるのか?」
「……銃器で手加減って難しくないですか…?」
「…………。人それぞれ、かな」
 整備の人は何かを察したように答えていると、更に隣からその肩をちょいちょいと突く者。
 レイ・オブライト(steel・f25854)だ。
「……コイツらは……乗る度にお釈迦にしかねない奴が乗り込んでいいのか」
「えっ、……凄い遠慮して欲しい……」
 素直な質問に正直な感想を返す男。とは言え今は非常事態。兵器とは戦闘を行うものであり、戦闘が行われれば壊れるのも必然だ。
「とは言えそこまで扱いが荒いとなるとなぁ」
「替えが利くよりか、組み立てが楽な方がいい。例えば、こう、とかな」
 例を見せようとばかりに自分の腕をすっぽんと取り、今度はそれをぱっちりと取り付ける。デッドマンならではの一発芸である。芸じゃないね。
 整備の人はしばらくすっぽんぱっちりと眺めていたが、やがて眼鏡をかけ直す。
「マネキンじゃないんだから出来ないに決まってるだろう」
「俺はマネキンじゃないぞ」
「うん、そうね。だから困惑してる」
 実際ジャイアントキャバリアなら実現可能かも知れないが、この拠点にそのような代物もない。
 寧ろ生身でもいいとの考えを示すレイであるが、幾ら単身キャバリアと渡り合えるとは言え敵の数は未知数、それは最後の手段と言うものだ。
「負けたら困るのはこっちだからな」
 少し待っていろと整備のおっちゃんはその場を離れた。
 どうやら人手が少ないらしく整備以外にも色々とやらなきゃならないようだ。世知辛いね。
「グリモア猟兵の予知からするとえらく愉快な連中みたいだな。
 果たして返り打ちに遭ってもゴキゲンでいれっかな?」
 己の手足となる【ビッグタイガー】の動作確認を行っていたチェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)は搭乗席から顔を覗かせて、集まった猟兵の面々を見つめる。顔見知りもいるようだが敵は多勢、勝手知ったるとばかりに身勝手に振る舞うことも出来まい。
「空中機動ならわたしのブルー・リーゼの出番だよ!」
 迫る敵を予想して、精霊機【ブルー・リーゼMk-Ⅱ】を見上げる小柄な少女はシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)。
 ピーキーで扱いずらいが操縦者の魔力で性能が増す高機動を有する故に、機動力の低いガガンボと比べてしまえば鳩と鷹ほどの差もあるだろう。
(こっちには空戦もできる機体がいるのか。
 だが鈍重な愛機じゃ空戦機のエースを相手取るのはちとキツイ、あたしは防衛に専念さしてもらうとすっか)
 シルの言葉にふむと頷くチェスカー。
『こんにちは、私はノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)です』
「ん?」
 隣に座る機体からの通信だ。こちらはチェスカー宛てという訳でもなく、警備部隊と同じく全員に伝わるものである。
『そちらの射程外の敵機には当方らの有射程から攻撃を掛けますので、砲台の方々は、脅して追い払うだけでも有効打になります。
 よそ様の軍の方々ですからどうしろとは言いませんが、こちらの参加による状況変化には対応して欲しいです』
 キャバリアの方は、存分に暴れて下さいな。
 付け加えた言葉に防衛部隊からの苦笑が混じる。基本は好きに行動してくれというのだろう、制限をかけるつもりはないとするノエルの言に理解を示したようで、しかしボイットは言葉を返す。
『了解だお嬢ちゃん。ただこっちもプロなんでね。そっちと連携はしっかり取るし、こっちが命令を出す場合もあるだろう。そん時は頼むぜ』
『隊長ー、越権行為でーす!』
『わかってんだよそれは! こういうのは建前ってのがあるんだから締まらん事を言うな!』
 詰まらないプライドであるが、傭兵としての側面がある以上は評価も避けられず、といった言葉だろうが。
 どちらにしろお互いに嫌悪し邪魔し合う間柄ではないと意思疎通に成功した以上、足を引っ張る事態も起きないだろう。
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は部隊とノエルの言葉を聞き留めて空を見上げた。
(まだ正体は知られてないみたいだけど、グリモア猟兵の言っていたランバー少佐ってのもオブリビオンマシンの犠牲者だ。
 過去の亡霊に、今を生きる命の運命を狂わせられて堪るか)
 皆の命と未来を護る。握る拳に思わず力が籠る。
 彼の胸にあるのはこの拠点の者だけでなく、今より攻め来るダンテアリオンのパイロットたちも含まれていた。
「…………、向こうでキャバリアとかの貸し出しもしてるんだっけ」
 使えるならば使わせてもらうべきだろう。
 格納庫へ向かうウタの背に、敵の接近を報せる警報が鳴り響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
RC

マニュアル眺め
「操縦も運転も似たようなものです、きっと」
目を逸らした

「銃器で手加減って難しくないですか…?」
推進装置付きの飛行可能な機体選択
武装はチェーンソーとブラストナックル借り受け
無いなら強度重視の棍棒的な物でも可

「メインカメラは多分頭部、コクピットは胸部で良いんですよね?」
戦闘前に位置確認
飛行して敵機体に吶喊
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
接敵したらナックル又は棍棒でまず機体頭部を叩き潰す
次に棍棒又はチェーンソーで両腕、片足の順に破壊又は切断
コクピットのカバー引き千切ってパイロット確認したらUC「桜の癒やし」で眠らせる

「細やかな動きは難しそうでしたので、蛮族で行こうかと…」
目を逸らした


黒木・摩那
オブリビオンマシンによる狼藉は中々止まりませんね。
今回の被害者であるアサガシアもいい迷惑です。
ですが、これ以上被害を広げるわけにはいきません。
助太刀させてもらいます。

【情報収集】にドローン『マリオネット』を飛ばして、敵の動きを探知します。

キャバリアは専用機である『エクアトゥール』。
今回はヨーヨー『エクリプス』で戦います。
ヨーヨーをキャバリアサイズに巨大化します。

数いる雑兵は砲台や味方機にお任せしつつ、強敵の隊長機を優先して叩きます。
ヨーヨーを敵機にからめて、UC【獅子剛力】を発動。
敵機を地上や他機にぶつけて【なぎ払い】ます。


赤城・晶
■連携、アドリブ歓迎

■味方に対して
なかなか大変な事になってるな。元同業者だからな、手を貸すぜ。
弾薬と武器はちょいちょい使わせてもらうぜ?(できれば使い捨てのミサイルを使い、迎撃撹乱する)

後はこちらから敵部隊に識別認識、幻影を展開するから、敵が乱れた時に攻撃してくれ。
俺は隙を見て部隊長クラスを墜とす。

さてウィリアム、ミラージュ装甲展開【迷彩】、レーダー【索敵】、【ジャミング】をフルパワー。識別認識を妨害し、幻影を展開。
常に状況を把握、更新してくれ。
後はエース機、部隊長機をピックアップ。行動を分析し、隙を見てUCで叩くぞ。

弾薬補給できるなら、好き勝手にやるぜ!
パーティーの始まりだ!


チェスカー・アーマライト
えらく愉快な連中だな
果たして返り打ちに遭ってもゴキゲンでいれっかな?

だが鈍重な愛機じゃ空戦機のエースを相手取るのはちとキツイ
あたしは防衛に専念さしてもらうとすっか
ビッグタイガー、スタンディングモード
ロックアンカーを地面に打って姿勢固定
機体前方を覆うようにドーザー展開
固定砲台に徹して戦車砲と副砲で弾幕を張るぜ
もし近づかれたらパルスマシンガンに持ち替える
アサガシアの部隊と連携取りつつ
ターゲットを合わせて片っ端から撃墜
又は迎撃システムの射線上に乗らせる
とかく敵数を減らす事を念頭に
あとは努力目標だがコクピットを撃たねーように応戦するぜ

コイツの装甲はダテじゃねーぞ
弾無しになる前にとっととお家に帰んな!


ノエル・カンナビス
(エイストラ搭乗、コンバットキャリアは待機中)

よそ様の軍人にどうしろとは言いませんが、
こちらの参加による状況変化には対応して欲しいです。
傭兵を国策にしている国なら傭兵の話も通りやすいかも
知れません。まずは名乗って、丁重に挨拶してから――

「そちらの射程外の敵機には当方から攻撃を掛けますので、
砲台の方々は、脅して追い払うだけでも有効打になります」
「キャバリアの方は――存分に暴れて下さいな」

さて。
大きな集団は友軍に、散らばった個体は現地軍に任せ、
半端なところを叩きましょう。空戦を挑みます。
[第六感/索敵/見切り/操縦/空中機動]辺りを駆使しつつ、
スタンナーの[先制攻撃][範囲攻撃]で蹴散らしますね。


木霊・ウタ
心情
ランバー少佐ってのも
オブリビオンマシンの犠牲者だ

過去の亡霊に
今を生きる命の運命を狂わせられて操堪るか
皆の命と未来を護るぜ(ぐっ

戦闘
SCを借りて出撃

迦楼羅の炎翼を展開して飛行
キャバリアサイズとした大焔摩天で薙ぎ払い
敵武装ごと機体を砕く
もちろんパイロットは殺さないようにするぜ

戦いの剣戟の歌が(ミサイルやビームもあるけど
俺の中の炎を益々燃え上がらせていく

だから紅蓮の光刃の鋭さや燃焼力、刀身の長さも
戦うごとに威力を増していく

輝きを増した光剣で
片っ端から切断したり砕いて灰へ還す

マシン>
お前らもオブリビオンマシンにされちまった口だよな
可哀そうに
元に戻せなくて悪ぃ

事後
鎮魂曲、には早いか
第二波に備えるぜ



●奴らは風と共にやって来る。
『という訳で諸君らは直に我がダンテアリオンの軍勢に包囲される。大人しく投降していただきたい!』
「という訳で、とか言ってるけど今言ったこと以外になんか言ってたかこいつ?」
『いえ、いきなり通信きた言葉が今のですよ』
 えへんおほんと威張り腐ってそうな台詞がスピーカーから垂れ流されて、半眼のボイットに部下の一人が返した。
 とりあえず戦闘を無意味に吹っ掛けるだけのつもりではないようだが、いきなり何の説明もなく包囲するから投降しろと言われて、兵力を持つ国が納得するはずもない。
「副長、情報は?」
『ガガンボの大部隊のようです。通信は先頭の空色のガガンボからのようですね』
「バカップルの片割れかよ」
 実力かはたまた迷惑さ加減か、名前は売れているようでボイットは疲れた声を漏らす。
 まだ敵との距離も遠く、迎撃システムの有効射程内にも達していない。だからこそのんびりと投降勧告をしている訳だが。
『もちろん、タダでとは言わん。投降し捕虜となった者たち一人につき、いいか? 一人につきだぞ、何とアメちゃんを一袋やろう!』
「――アッ……、アメちゃんだと!?」
『管制塔へ報告、隊長が裏切りそうなんで拘束をお願いします』
「いやおま、バッ! その、…………、ねっ?」
 言葉を喋れ隊長。
 仲間内にしばらくの沈黙が流れる中、「何と一袋二十個入りだ~♪」と楽しそうな敵兵の声だけが響いている。これ真面目な状況?
「…………っ、管制塔ゥゥゥ! 攻撃しろォォォ! あの間抜けを黙らせろ!」
『えぇ? でも狙いつけられる場所にはいないぞ?』
「いいからやれ! 俺の頭がどうにかなっちまう!」
『アメちゃん如きで錯乱してる時点ですでにもう手遅れだろ』
 正論にござる。
 猟兵も控えているとは言え防衛部隊の実行指揮官が錯乱しているのは事である。しょうがないとばかりに敵のいそうな方向へ砲台を向けて、弾頭を発射した。

「おっほ! この濃厚な甘い香り……間違いない、これは……我がダンテアリオン特産の最高級蜂蜜……! プラント生産品の人工調味料だけど」
 アメちゃんの実況にもお熱の入っていくターバン。そこへ緊急の通信が割り込んだ。
『ターバン大尉! 敵拠点より砲撃です!』
「構うな、所詮は威嚇射撃。蛮族どもの抵抗に過ぎん。
 ふっ、むしろ本当に当たると考えての攻撃ならば、失笑モノだがな!」
『片腹温いというやつですな! はっはっ――ほげぇっ!?』
 温いじゃなくて痛いでしょ、そんな突っ込みが誰かの口から洩れる前に飛来した砲弾が馬鹿笑いする部下の一人に直撃、機体が爆散する。
 管制塔やるじゃん。
「ウッソぉ、今の当たる奴いるぅ!? 緊急旋回! 各員部隊単位で散開しろ!」
『了解!』
 ターバンの号令ひとつ、即座に実行に移すあたり彼らの練度も高いことは知れるが、命令の通り行動する事と勝利する事ではまた別の話だ。
 続いてターバンは上官であるイーデン・ランバーへと通信回線を開く。
「少佐、準備中の所を失礼致します!」
『どうした大尉。予想より早いじゃないか。アサガシアンもやはり、アメちゃんという文明の光には勝てなかったようだな』
 馬鹿にしくさった態度で馬鹿なことを仰る。
 しかしターバンは苦しそうにそれを否定した。驚愕する少佐だが、驚く要素ある?
「敵はアメちゃんによる降伏を受け入れず、こちらを砲撃しております!」
『馬鹿な、蛮国アサガシアにはアメちゃんという文化を知らないと言うのか! 犠牲は出ているのか?』
「はっ、それがアメちゃんの良さを語るのに注力していた為によく見ていませんが、ガガンボが一機犠牲となりました!」
『……そうか……致し方ないな』
 味方にゲロ甘い軍属とか災害レベルに迷惑じゃないだろうか。
 反撃の許可を求めるターバンへ、イーデンは重々しく頷いた。
『目標、蛮族アサガシアンの補給拠点である。配置防衛力を無効化し、拠点を制圧せよ。ドッグの準備も終わり次第に出撃する、それまでに主要戦力を撃滅、あるいは減衰させるのだ』
「了解致しました、少佐! ガガンボ全機へ通達、反撃開始である。部隊長に従い総員、拠点を包囲し迎撃システムを攪乱せよ!
 死角を突いた部隊は突撃、我らの意志を鉄華として敵の喉元に我らの御旗を掲げるのだ!」
『了解!』
 ターバンの号令により航行速度を上げたガガンボは、視認した目標であるアサガシアの補給拠点へと武器を構えた。

 漸く暴れられるか。
 こちらへと迫る敵の動きを確認し、ボイットは太い笑みを見せた。彼の部下の誰もが似たような笑みを見せている辺り、蛮族、蛮国という蔑称は強ち間違いでも無さそうだ。
 格納庫の扉が開き、自らの駆るドッグを出口へ向けるボイット。彼に続き一列に並ぶ巨体は震え、両肩の排気管から唸りと共にガスが巻き上がった。
(進路クリアよー)
(発進オーケーなのー)
「…………、ん? なんだ通信? 誰の声だ?」
『隊長ー、さっさと出てくださーい』
「お、おう。
 ――ボイット・レンジャー以下十名、ドッグ! 出るぞ!」
 吠える隊長の言葉と共に、足裏の履帯が唸りを上げて背部の推進器から炎が噴き上がる。
 群青色の鉄の獣が一列となって格納庫から出て行くと、整備班の帽子を被ったアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)たちは、堅牢なキャバリアの装甲も切り裂くであろう【前肢】で器用に構えた指示棒を振り回していた。
(えっ、誰っ?)
 視界の端にちょこまかと動く節足動物たちは彼らにお嬢さんとしか映っておらず、しかし逸れた意識を矯正して戦いへと集中する。
「副長、北方向出入口付近の格納庫の屋根へ。残り五機は副長を中心に前線防御、残り四機は俺と一緒に最前線で対応する。
 猟兵の皆様も今から出てくるぞ、蹴飛ばされるなよ!」
『了解!』
 こうして補給拠点の迎撃準備が整い、遂に猟兵たちへ呼び声がかかった。
(レンジャー部隊配置完了よー)
(猟兵部隊、各位発進準備整ったのー)
(進路クリアー)
(先頭から順番に発進をお願いするわー)
 次々と脳内に響くその声はもちろん通信などではなく、アリスらの用いる通信念話である。
 それを受けて先頭にて発進準備を終えた摩那は、各システムを再度確認しながらひとつ思う。
(……アリスさんたちって、キャバリアにも乗れたりするんでしょうか……?)
 搭乗席のサイズさえあれば乗れそう。
 格納庫のシャッターが開き、眩い日差しが屋内へと入って来る。
 彼女が操縦するのは零式操念キャバリア【エクアトゥール】。両腕に肩から連なる特徴的な大型盾を装備し、機動性に長けた格闘戦機である。レールに設置された発射台にその黒い体を屈ませる。
「黒木・摩那! エクアトゥール、発進します!」
 摩那の言葉を受けて、帽子を誰かさんに渡した事で頭頂部のハゲをピカピカさせて、整備のおっちゃんがスレッジハンマーで発射装置を叩く。
 同時に留め金を外された発射台はレールを走り、パチンコの要領でエクアトゥールを空へと打ち出した。
(…………っ、これってこんな発進装置の意味ってある!?)
 恐らくは空戦機用の代物なのだろう、エクアトゥールも対応できない訳ではないが、地上戦用の機体を考慮願いたいものだ。
 打ち出された上空より両肩から放出するエネルギーで減速、ダイナミックに着地したエクアトゥールは地響きを鳴らしつつ滑走して静止、各部の異常を更に確認して摩那は機体に設置した索敵ドローン【マリオネット】を空へと放つ。
 各種センサーを搭載している上にステルス性が高く、そこらのキャバリア程度に察知される事はないだろう。取得した情報は彼女のかけるスマートグラス【ガリレオ】と同期する為、リアルタイムでの情報収集が可能だ。
「ギイエエエエッ! ギチギチ!」
(お次の方、どうぞ~)
 指示棒を振り回す帽子を被ったアリスに、整備班は人手を得る代わりに恥を晒しているのかと摩那は納得しつつ道を空ける。
「アリスさん、着地の衝撃が弱まるように何か準備とか出来たりします?」
「ギチチッ?」
(衝撃を弱めればいいのねー? やってみるわー)
 摩那の提案を受けて、各部確認や合図を送っていた自分と同じ姿の妹たちに目配せする。
 敬礼のジェスチャーを送り散っていく彼女らはさておき、レールを伝い戻ってきた発射台に乗ったのは、二番手である晶。
(ま、今の『発射』を見たら不安もあるが)
 彼の駆る【ヴェルデフッド】は高機動を売りとし、それに耐えうる剛性も持つ。多少の荒っぽい扱いでも早々と弱音を吐くようなヤワな機体ではない。
『マスター、協力組織は我々を弾丸か何かと勘違いしているようですが?』
「それだけ火力があると期待してくれてるって事だ、【ウィリアム】」
 ヴェルデフッドに搭載されたサポートAI、ウィリアムの言葉ににやりとして晶。渋いおじさまの声は不満気であるが、それを宥めて機体の両手に担がせたミサイルユニットを落とさないようしっかりと構える。
 先程、ハゲのおっちゃんと話していた『例の物』である。
「よし、ヴェルデフッドは赤城・晶で発射しろ!」
 嫌味をそのまま口にして、操縦桿を握る手に力が籠ればその身にかかるGに歯を食いしばる。
 急加速して空に打ち上げられた機体はそのまま重力に引かれ、地面に着地――、といった所で彼の機体の前に白い物体が現れた。
「おおっ?」
 驚くと同時に弾性のあるそれに包まれて、クッションとなって減速した機体は大きな衝撃もなく着地に成功した。見上げれば施設の壁面に取り付いたアリス妹たちが互いに強靭な【アリスの糸】を施設間に張り巡らせて、緩衝材としたようだ。
(作戦成功よー)
(やったわー)
 ビッと敬礼するアリスらにこちらも敬礼でお礼を返し、道を開く。
 お次は自分だと、チェスカーはビッグタイガーをスタンディングモードへ切り替えると、二足歩行の人型形態として発射台に搭乗する。
 脚部に装備された追加装甲とも言うべき盾、【EP/KE-303 ドーザー】も相まってがっちりとした厳めしい姿として目に映る。
 その巨躯を発射台に乗せればその重みで軋み、嫌な音をたてる。大丈夫かこれ。
「ま、飛ばない方がこっちも嬉しい。
 ――チェスカー・アーマライトだ。ビッグタイガー、出せ!」
 バトルライフル【パジョンカ】を構えた機体が高速で打ち上げ――られず、小さな跳躍を見せて地面を滑走する。距離にして前の二機と比べるまでもないが、軽く浮いてからの着地なだけに機体の影響もないだろう。
 ヴェルデフッドを受け止めたアリス妹たちは少々残念そうであったが、そちらには軽く機体に手を振らせて前進させる。
(アサガシアの防衛部隊は北方に二点展開、ならこっちも、上手く連携するか)
 ビッグタイガーの射出により調子も悪そうに戻って来た発射台を見下ろして、レイは何故にわざわざこれを使用しなければならないのかと首を傾げたが、様式美という奴らしく拒否権はないようだ。
 にしても一体ずつ飛ばす必要ないよね。
(まあいい。用意してもらった機体もそう悪くはない)
 レイの借りた機体は、何と彼のご希望に添える代物だ。
 関節部をそれぞれ球面とし、脱着可能としている他、特殊電磁パルスを流す事により各部を独立可動し従来の機体とはまるで異なるコンセプトで制作された。これにより機体を廻る配線などは最小限に、末端部分が破損しても即座に取り換える事が出来る。
 その名も『超電磁界覇者・ジキョクオー』!!
 の、設計プランを基に制作された量産型キャバリア、『マグネロボ肆式』である。何でもジキョクオー制作に向け思想を確認する為の実験機だとかなんだとかで、動作確認に作られた程度の代物。安全性やらなんやら諸々のチェックはまだ済んでないらしい。
 誰だそう悪くないって言ったの。
 前に発進したビッグタイガーと比べればかなりの細身、簡素な造りである反面、運動性能は高そうに見える。見えはする。
「一時とはいえ何かの縁だ。派手にやるとしよう、相棒」
 用意されていたキャバリア用のアサルトライフルとナイフ状の装甲斬撃剣とを腰にマウントする。
「レイ・オブライト、マグネロボ肆式、発進」
 簡素に告げれば他の機体と同じく加速し、空へと打ち上げられる。
(オーライ、オーライ!)
 まるで空に投げ出された人形のように何の動きも見せなかった機体は、アリス妹たちの糸がきちんとキャッチしダメージなく地上に下ろされた。
 …………、猟兵さん?
「マシンの慣らしをしておくか」
 着地後に操縦桿や各種パネルをがちゃがちゃやり始めるレイ。確認動作が遅すぎる、と言いたいが準備が遅れた事にこそ原因はあるだろう。
「ギエエエエエエッ! ギイイイイイイイッ!」
(早く離れるのよー。他の人の邪魔になるわー)
「む、すまん」
 その場で屈伸を始めたマグネロボ肆式にプンスカした様子で指示棒を振り回す帽子アリス。
 その後も歩いたり屈伸したりとぎこちない動作でその場から離れ。
 ――キャバリアの操縦に問題のある猟兵その二の発進時間となる。
「お、おお……思いの外、普通に動かせますね……」
 思わず桜花が漏らしたのは、がしゃこんがしゃこんとぎこちないながらも途中で屈伸する事もなく。車の運転も手慣れているだけあって、勘が取り易くなっているのかも知れない。
 平凡な歩行で発射台へ乗り、傍らに準備されたブラストナックルを装備。右手はアームチェーンソーに換装されている為、ブラストナックルは左手のみの装備だ。
 重量級二体目の搭乗に再び発射台は大きく軋んだが、だからと言って桜花が何か出来るはずもない。
「ふぅ。――御園・桜花、ドッグ・フライトカスタム行きます!」
 張り上げた声に合わせて射出される機体。その名の通り素体となるドッグに装備を追加した代物だ。
 特徴的な可動式武装盾は取り外され、代わりに設置されたプレート状の盾が稼働して翼となる。発射台の加速を得て浮いた機体は両肩の盾が背部のフライトユニットと連結し、青い炎を噴出して空へと飛翔する。
「結構、きちんと飛べるんですね」
 そのまま推進機を絞り施設のひとつへと着地する桜花。飛行可能ではあるが得意というような構成でも無さそうだ。不要に飛行することもない。
「私の【エイストラ】には加速も発射も必要ないのですが」
 傾げた頭に銀髪がさらりと零れ、とは言えやれと言うならやるかとばかりの様子である。一般的なキャバリアと違い、レプリカントであるノエルと機体とを直結させるデータリンクシステムを搭載した【EPリンケージベッド】をコックピットとして採用しており、基本性能を高水準にまとめたエイストラは精確な動きを可能としている。
 機体出力も高く正にこの設備は不要の一言に尽きるのだが、ぶっちゃけ他の猟兵にも言える事である。せめて横並びで順次発進ならまだ有用だったかも知れないが、その辺りの事情は設備の古いアサガシアの小国たる所以もあるだろうか。
「リンケージ。戦闘モード、起動します。
 キャバリア傭兵、ノエル・カンナビス。エイストラ、発進します」
 急激にかかる負荷にも顔色ひとつ変えず、空へと打ち出されたエイストラはくるりと縦に一回転。
(オーライ、オーラ――、あらー?)
 背面の【EPバイブロジェットブースター】から発する衝撃波が空を打ち、大きな跳躍を見せたエイストラはアリス妹らの糸を抜けてその向こうに見事着地する。
 燃料を使用せず、多数の振動フィンによる衝撃波干渉を利用した強力な加速機だ。その風圧を受けて飛んでしまったアリス妹に即座に反応して、それを受け止める。
 人間のような精密性だ。きょときょとと周囲を見回す彼女をやさしく地面に下ろし、武器の確認を行う。
(助かったのー、ありがとー!)
「いえ、こちらも不注意がありました」
 元気に持ち場へと戻っていくアリスを見送りノエル。
 エイストラに使用される【EPガーディアン装甲】には、近接防御機能である衝撃波の放射パネルで表層が覆われている。万が一の誤作動に備えてアリスの糸をかわしたのだが、同時に彼女らの内の一体を弾き飛ばす格好となってしまった。
 直撃ではないし、アリスらの生態を考えれば怪我らしい怪我も負わなかっただろうが、きちんとフォローを行った訳である。
「よし、次は俺だな」
 発射台へ乱暴に飛び乗ったのはウタがアサガシアより借りたスーパーロボット、バルジ・プロミネンスである。屈強な姿の多いスーパーロボットの中では細身、小型といった様相だが、それでも一般的なキャバリアと比較すればマッシブな外見だ。
 橙色の外装が多く太陽を想起する風貌で、大きめの肩装甲が角のように斜めに伸びる。
「ナリは小さいが、結構なパワータイプだぜ。
 ――バルジ・プロミネンス! 木霊・ウタ! 出撃する!」
 火花を散らす発射台から勢い良く跳躍し空中で反転、アリスらの張る糸をリングロープのように背面で受けて反動を利用し更に跳躍する。
 自分たちのいた格納庫の屋根へと着地して、風になびく不燃性のマフラーを弾き腕を組む。
「接近戦闘仕様なだけあって反応もいいし、動きもスムーズだ。これなら十分に戦えそうだな」
 両の拳を打ち合わせて音を鳴らし、敵が迫るであろう空を睨みつける。
 最後は最初の一体目、エクアトゥールとは対照的な白の機体。
(……ええと……、国のためにって言ってたけど……略奪はしちゃだめと思いますっ!)
 強い意思を秘める輝きを双眸に宿したシル。
 発射台に乗る騎士の如きブルー・リーゼは背負う翼を広げ、再び閉じて身を屈める。
「それじゃ、お仕置きしに行こっか。
 目標、ダンテアリオン! シル・ウィンディアとブルー・リーゼ、行きますっ!」
 レールを滑走する発射台。止めにぶつかって慣性により発射されると同時に翼を開いたブルー・リーザは大空へと羽ばたく。
 空を舞う騎士はその目に迫る敵の波を確認して、シルは操縦桿を握る手に力を込めた。
 下方を見れば、接近する敵に合わせて他の猟兵たちも行動を開始している。
『こちら黒木・摩那です。現在、ドローンによる情報を収集しているので、敵部隊の解析を終わり次第データを送信します。
 補給拠点の地形と防衛部隊の展開位置の情報は送信しておきますのでご確認ください』
『赤城了解。情報を受け次第、動かさせて貰う。敵の索敵システムに妨害を加える、その際にはこちらからも連絡する』
『チェスカー了解、追い上げは任せろ!』
『あー、オブライト了解。遊撃に回らせて貰うが、陽動が必要な場合は連絡してくれ』
『御園了解しました。こちらは接近戦用となりますので前線で直接叩きます』
『ノエル、エイストラ了解。主力をぶつけられて散らばった機体など、取りこぼしを中心に仕留めにかかります』
『木霊了解だ。こっちもバラけた奴を中心に片っ端からいかせて貰う。協力が必要な時は連絡頼むぜ』
(アリスも色々と頑張るわー)
 次々と流れる通信に、シルは思わず笑みを見せた。
 多くの敵を前にしているが、猟兵たちが揃い踏むこれほどの安心感はないだろう。
「こちらシル、了解しました。敵部隊毎に強襲をかけていきます。やってやりましょう!」
『了解!』
 少女の言葉に応えたのは猟兵だけでなく。
 迫る脅威を前に、拠点内の全ての者の意志はひとつとなった。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
※量産型/近接戦闘主体で詳細お任せ
※諸々歓迎

…コイツらは
乗る度にお釈迦にしかねない奴が乗り込んでいいのか
替えが利くよりか組み立てが楽な方がいい。例えばこう(マイ腕取ってくっつけ)とかな
等注文つけるが最終何でもいい、寧ろ生身でもいい考え

一時とはいえ何かの縁だ
派手にやるとしよう、相棒
さて
どこも戦いか
目標はパイロットを殺さぬマシン破壊
飛行中の敵を【Aureola】童心にかえって虫取りだ。被弾はさして構わず、オマケの雷光による妨害任せ
ぶつけ合わせる等し引き摺り下ろしコクピットを避け殴り潰す
マシンの慣らしってところか
(色々ガチャッておく)

成程、竹トンボに棺桶
やはりお互い降りた方が戦いになんじゃあねえか?


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

たいへーん、オブリビオンマシンの攻撃から補給拠点拠点を守らないと破壊され…あ、結構大丈夫そーねー
防衛部隊や迎撃システムが敵をどんどん落としているのー
アリスもお手伝したいところだけど、空の敵には攻撃が届かないわねー
ぼーっとしていても仕方ないし、敵の数が多いから攻撃を防げるよーに【アリスの巣】で囲んでおきましょー
妹達を呼んで防壁をつくるのよー
みんなー、出入りや砲台の稼働に支障がないよーに気をつけてねー
壁が出来たらあとはオブリビオンマシンのパイロットも保護しておきましょー
落とされたオブリビオンマシンを地面に激突する前にきゃーっち!
手足と武装を捥いで安全な場所に【運搬】しましょーねー



●ガガンボ大部隊来襲!
 各員の出撃を見送って、誘導作業を完了したアリスらは何体かごとにまとまって拠点内を散策する。
 無数に徘徊するぬばたまの瞳が接近する敵機を確認すると、味方の通信が彼女たちの頭に響く。交信用思念波の応用だろうか、すごいね群体。
『敵機確認! 管制塔、しっかりスコアを稼げよ!』
『旧式のハイドロゲン爆発反応弾発射砲台だぞ、キャバリア部隊は当てれるように誘導しろ!』
 隊長の言葉に悪態交じりの指示で返し、管制塔より迎撃システムが敵を捉えた。しかしこちらの反応よりも敵の動きが早く、照準内に中々と収められないようだ。
 砲撃手へきちんと敵の動きを見ろと叱咤を飛ばしている。確認した敵部隊が拠点を包囲展開している事を知れば激怒しそうな勢いだ。
『ようし、狩りの時間だ。蚊トンボどもはじゃんじゃん撃ち落とせ!』
 摩那がマリオネットで収集した情報を精査する内に、最初に敵と交戦したのはやはり、北方向で待ち構えていたレンジャー部隊である。
(オブリビオンマシンによる狼藉は中々止まりませんね。今回の被害者であるアサガシアもいい迷惑です)
 だが、これ以上の被害を広げる訳にはいかない。
 摩那は気を引き締めて確認した情報を他要因と紐づけする。
『敵部隊長全機確認しました。データを送信、マップ上に表示、位置情報を常に更新しながらポイントします。
 拠点内の武器、弾薬などの補給場所も全てポイントしていますのでご確認ください』
 摩那の言葉にすぐ喜びの声を上げたのは晶だった。
『有難い。東方向の敵を叩く、誰か援護を頼む!』
『私が向かいます』
 即座に反応したノエルは、連結した【複合エンジン搭載ブースターユニット】により背面から炎を噴き出し高速移動するヴェルデフッドに追従する。
 ミサイルユニットの有効射程を確認しながら、レーダーに明示された敵部隊との距離を確認。
『敵は迎撃システムを警戒して一定の回避パターンを繰り返しながら前進しているだけだ。まだ戦闘にはならないと油断しているようだな。
 俺が先行し敵部隊の識別認識に電子幻影を展開する。敵が乱れた時に攻撃してくれ』
 後続のノエルへ指示を出しつつ、こちらはサポートAIのウィリアムにも言葉を投げる。
『さてウィリアム、【ナノステルスミラージュ装甲】を起動して敵部隊へ接近する。レーダー、ジャミングをフルパワー。敵機の識別認識を妨害し、幻影を展開する。
 常に状況を把握、更新してくれ』
『了解しました、マスター』
 ウィリアムの返事とともにヴェルデフッドの姿が景色と同化していく。ナノ装甲と表層を覆う特殊な粒子で電磁波を偏向させ、一時的だがその姿を景色と同化させる機能を持つのだ。
「ギチチッ!?」
(あらー? ロボットが消えたわー!)
(音は聞こえるのー。さっきは東に向かうって言ってたしー)
(ノエルさんのロボットも追いかけてるし、追いかけましょー!)
 司令塔である帽子アリスに同調したアリス妹たちが、ノエルのエイストラを追いかけて猛ダッシュの猛追尾を開始する。
 帽子アリスはそれを見送ってきょときょとと辺りを見回した。
「ギチギチ、ギギギッ」
(他の迎撃システムとかいう所にも行ってみようかしらー)
 別の妹たちを引き連れて、アリスは先程の妹たちとは別の方向へと猛ダッシュである。
 そちらはそちらでさておき、先の妹たちが追いかけたヴェルデフッドとエイストラ。ノエルは一旦エイストラを施設の陰に隠し、ステルスを使用した晶は迎撃システムに気を取られている敵部隊へと接近する。
 使用するのは肩に装備された【複合型ミラージュレーダーユニット】。電磁波で敵機の位置を探り、指向性を持たせて敵の索敵機能を一時的に妨害する事も可能である。更に【増幅器】を併用すれば、ウィリアムと話していた幻影をも投影できるのだ。
 さて、射程距離だ。
 両手に携えたミサイルユニット二基を構えてウィリアムへ合図を出す。
 直後、迎撃システムの射線から逃れるように動き前進するだけだったガガンボが緊急回避の動きを見せると、次々と武器を構えて明後日の方向へと短機関銃で乱射を始める。
『弾薬も補給できるなら好きに暴れられる。さあ、パーティーの始まりだ!』
 狙うは色違いの隊長機。
 発射された誘導弾は捕捉したガガンボへ向けて推進剤を点火し加速する。
『飛翔物体! フォーメーション、迎撃態勢ッ!』
 そこはやはりそれなりの経験があるか、幻影を前に乱れたはずの指揮統制も、全てではないが部隊長の号令で何機かは迎撃行動へ移行、ミサイルに射線を移す。
 しかし、センサーに妨害を受けていては高速飛行する弾道を捉える事は困難だ。だからこその人海戦術。
(そう易々とはやらせないがな!)
 単発のミサイルユニットは発射と同時に投げ捨てて、腰にマウントした一対の【複合バヨネット装着型ビームライフル】、その片割れを抜き放つ。
 刹那の照準、閃いた光がミサイルを撃ち抜き、敵部隊の眼前で爆ぜ黒煙を巻き散らす。
『やったか――、!』
 その台詞、フラグって言うらしいっすよ。
 安堵した直後、爆炎を引き裂き現れた新たなミサイル。
 不意を突かれながらもコックピットを腕で防御、しかしそれで無傷になろうはずもなく、炸裂する光の中にばらばらになった機体が落下していく。
『ぶっ、部隊長ーっ!』
『馬鹿な、反射神経を鍛える為に反復横跳びを毎日欠かさず行っていたあの部隊長がやられるなんてっ!?』
 意味ありそうで意味無さそうな鍛錬方法。
 部隊長を失ったガガンボらはジャミングを受けている事もあり浮足立っているが、数機は弾道からヴェルデフッドの位置を割り出したようで、視認した機影へ反撃の銃弾を浴びせた。
『悪いが幻影だ』
『っえー!?』
 次弾の発射と同時に残るミサイルユニットを投げ捨てて、両手に構えた二挺のビームライフルを構えて飛行するガガンボ部隊の下へ潜り込んでいる。
 容赦なく放たれた二条の光がガガンボの腕や足を焼き切り、為す術なく撃墜されるガガンボ。
『いつまで幻影に踊らされてる、敵は下だ!』
『敵機、正面です!』
『幻影だと言ってるだろうが!』
『違うけど』
『えっ?』
 小刻みに加速噴射される干渉空砲で、まるで分身しているかのように敵の死角へと消えて右腕を一閃。エイストラの腕部に内蔵された【BX-Aビームブレイド】がガガンボの腰に突き刺さり、下半身の制御が利かなくなった敵機は全質量の半分程をデッドウェイト化され、悲鳴を上げて墜落する。
(きゃーっち!)
 地面に激突する前に、アリスたちの噴射した糸が機体を絡め取り空中で固定、さらに糸を伝って救出班が機体の元へと向かって行く。
(邪魔なモノは捥いじゃいましょー)
(どんどん敵が落ちてくるわー。人手を増やした方がよさそうねー)
 そこはやはり装甲をも易々と引き裂くバイオモンスターの前肢、脆い機体などまるで紙でも引き裂くかのようだ。
『な、なんっ、ヒエーッ! 顔の同じ子供が装甲を素手で剥がしてるゥー!!』
 オブリビオンマシンから解放される代わりにPTSD待ったなし。
 アリスらの襲来に意識を手放す敵兵が続出する中、その光景を共有した帽子アリスは迎撃システムの上に陣取ったまま周囲を見回す。
「ギィエエエエエエエッ! ガチッ、ガチッ!」
(たいへーん、オブリビオンマシンの攻撃が開始されたわー。……補給拠点を守らないと破壊され……あ、結構大丈夫そーねー)
 迫る敵機を次々と迎撃していく頼もしい仲間の姿に安堵を見せる。
 攻撃に加わりたい所であるが、航空戦力であるガガンボに対してアリスらは有効な攻撃方法を所持していない。とはいえ、ぼーっとしている訳にもいかないのだ。
(敵の数が多いから攻撃を防げるよーに、迎撃システムや施設を【アリスの別荘こと巣(オウチ)】で囲んでおきましょー)
 敵を探してくるくる回る砲台の上で体を起こし、前肢をぶんぶか振ってアピールしつつ、咆哮する。
「ギエェェェ! ギチギチギチ!」
(みんなー、防壁をつくるのよー。出入りや砲台の稼働に支障がないよーに気をつけてねー)
(はーい!)
 敵戦力の攻撃により被害の出た施設や、撃墜されたキャバリアそのものを瓦礫として集め、自らの糸で防壁の作成を始める。
 アリスは妹たちの働きぶりを見守りつつ、敵の動きに翻弄される迎撃システムに気を向けた。
「ギチギチ、ギギギ!」
(砲台の動きを手伝ってあげれば、もっと役に立つようになるかしらー?)


●割かし強いっ、空色サイクロン!
『全く、こいつらと来たら。俺らへの力押しで周辺国家から顰蹙を買って国境でのいざこざしかやらなかったのに、急にこれだけの部隊を送り込むとはな』
『電撃作戦するしかできない臆病者ってワケですよ』
 隊長の言葉に部下が笑って答えた。
 盾を構えて一列に並び、敵の接近を誘っていたボイット・レンジャーは、豆鉄砲では埒が明かないと短機関銃から腰の後ろにマウントするバズーカへと切り替えたのを見計らい、攻撃に転じる。
『雑草どもを薙ぎ払え!』
『了解!』
 十分な接近を待っての短機関銃による総攻撃だ。飛来する鉛弾にガガンボなどと呼ばれる機体の装甲で耐えられるはずもなく、細々と引き裂かれる。
『面倒な! 各員上昇、敵火線から逃れて砲撃開始!』
『へっ、教科書通りの戦術しかねぇな! オーライ鵞鳥ども、盾を構えて屈め!』
 足裏の履帯で後退、隊長の指示で盾を構えた同型機が簡素なレールを象り、距離を開いたボイットは急加速。
 部下のレールを発射台とばかりにその重量機で空へ跳ぶ。
『ンなアホなっ!』
『アホかどうか喰らってから考えろ!』
 超重量級のドロップキック。
 そんな質量兵器に為す術なく粉砕されて、部隊長の一機が撃墜された。地面に着地した衝撃を逃す為に両足の履帯を前後に回転させて機体を回しながら滑走、回避行動を合わせて空へと逃げたガガンボへ下方から射撃する。
『無茶は止めてくださいよ隊長、足のアクチュエーターにエラー出ちまってるぜ!』
『うるせえ、猟兵どもに少しはアピールしとかにゃカッコつかんだろ!』
『隊長ー、誰も見てないです』
『……あっ……そっすか……』
 まあ、しっかり見てはいたが。
 レンジャー部隊の漫才に思わず笑みを浮かべて聞き流して、チェスカーはビッグタイガーを施設の陰へ陣取り固定。
 姿勢制御の為に【アンカーワイヤー】を地面に打ち込んでいるのは工業用電動式CICT【ロックアンカー】だ。脚部側面の装備ではあるが、タンクモード時にはパイルバンカーとして対近接装備としても機能する。
 そうまでして機体の対衝撃性能を高めているのはその身に搭載された主砲の為である。
「副長さん、左舷後方、敵機接近」
『りょ~かいでっす。防御班そのまま、接近した敵だけ排除するように』
 チェスカーの情報を受けて攻撃方向を変えた群青の機影。彼女の装備は他のレンジャー部隊と違い、大型の弾倉を三本も差し込まれた長距離用狙撃銃だ。頭部にも精密射撃を可能とするバイザーが装備されており、ガガンボなど的に過ぎない。
「……ああ、それとだけど……」
『努力目標はコクピットを撃たないように、ですねー。了解です』
「全く、いい返事をしてくれるよ」
 多少の無茶をやらかす隊長の下に就くには十分過ぎる程の有能な副長である。
 チェスカーが思わず口角を上げるのと同時に響く轟音が敵機の撃墜を報せ、思わず口笛を吹く。
『隊長だからって群れの中で色を変えてるようなのは、素人ですよ』
「同感だ」
 馬鹿にし切った副長の言葉に同調していると、ここからは見えないほど遠くで帽子を被ったアリスがくしゃみのような事をしていたが放って置こう。アリスさんの場合は群れの誰もが頭になれるから、逆に囮にもなるしで意味合いがまるで違うしね。
 隊長、副長が抑えている方角とは別の位置に配置する敵機へ主砲を向ける。
(……イイコだ……そのまま……、良し!)
 巨大な砲身から排莢と同時にアフターファイヤーが粉塵を散らし、滑動する砲身が跳ね上がると共にビッグタイガーの全身が鋼の唸りを上げた。
 それほどの衝撃を伴って発射された砲弾は敵機の装甲を易々と引き裂き貫通し、後方の敵をも巻き込んで粉砕した。
『どっひゃーっ!?』
「ビンゴォ!」
 主砲に次弾を装填する間、影に隠れていたこちらに未だ気づかず混乱を見せる敵部隊にパジョンカで追撃する。
 混乱した敵機を攻撃することほど容易いものはない、追い立てるとなれば更にだ。
『さ、散開ーっ!』
『あれ、部隊長お前だっけ? 指揮系統的に次の部隊長はジョッシュじゃないの?』
『馬鹿野郎、さっきの一撃で部隊長もジョッシュもカンクローもミハエルも落ちたから俺なの!』
『わかったっすよ、隊長~』
『危機感もてよお前は!』
 本当だよ。
 追い立てられる先にあるのは迎撃システム、旧型ハイドロゲン爆発反応弾発射砲台の射線である。
 旧の名の割りにぐるりと即座に反応して回る砲台は即座にガガンボへ照準固定、時間差をほとんど生じさせずに即射、直撃した弾頭がガガンボの装甲内部で炸裂する。
「なるほど、貫通力はないから単体相手とは言え、十分な威力だよ。――ん?」
 ばらばらになって落ちていく蚊トンボを嘲笑すると、迎撃システムからぴょんぴょんと飛び出したアリス妹たちが胸部コックピットを糸に絡めて回収していく。
 どうやら迎撃システムの動きが良くなったのは、彼女たちの糸で操っていた事にも理由があったようだ。
(はーい、右三十一度よー)
(射角八度上げー)
(準備オッケーよー、撃ち方よーし!)
『てぇーっ!』
『な、なんだこのエックス・ワイ・ゼット全ての軸を即座に把握しているかのように精密な射撃は!?』
 まあ、そこら中にいる無数の目で多角的に得た情報が瞬時に共有されてるからね。
 しかしそれでも、この連携力が効果を上げているのは彼女らの貢献だけでなく、チェスカーの始動したユーベルコードにもある。
 【絶対防衛戦線】。拠点を守るべく活動する者たちが集まる程にその能力を上げる効果を持ち、レンジャー部隊や付近のアリス妹らも例外なく強化されているのだ。
 いくらアリスの合図があったとは言え迎撃システムが即射して命中させたのもこのユーベルコードのお陰である。
「ふん、今更こっちに気づいたか」
 捕捉された警告音に焦る事もなく、空から降り注ぐ鉛弾にも余裕の笑みを見せる。機体前方を覆うように展開されたドーザーでそれを受け止めて、反撃のバトルライフルが敵機を撃墜する。
 主砲の威力に恐れをなした遠間からの攻撃など、隊長率いるドッグ部隊と同じく盾を抜ける威力は発生し得ない。
 怯えた敵機を悠々と撃墜して、チェスカーは犬歯を剥く。
「コイツの装甲はダテじゃねーぞ、弾無しになる前にとっととお家に帰んな!」

 拠点のあちらこちらで戦火が上がり、敵の数もあり拠点内にも潜り込んだガガンボらが空を飛び回っている。
 それでも被害が尋常でないのは敵の方だ。迎撃システムへの攻撃もアリスらの造り上げた防壁が受け止め、施設には元々が物資略奪の目的もあってか攻撃は薄い。
 そんな戦場を疾駆する巨体は、各機からの攻撃を惹きつけるように上空を飛ぶ敵部隊を捕捉していた。
 ドッグ・フライトカスタムだ。
『メインカメラは多分頭部、コクピットは胸部で良いんですよね?』
(そうよー、さっき解体して確認したわー)
 搭乗者の桜花の通信を受信する謎の生命体アリス妹が機体の肩に乗り、直立の壁をも走り回れる爪のついた【関節肢】をしっかりと装甲に食い込ませて振り落とされないようにしている。
 他にも機体の操縦が億劫な者には補助としてくっついているらしく、操縦者のサポートをしていた。
『了解しました、妹さん。それでは桜花、吶喊します!』
(ゴーゴー!)
 わざわざ拠点上空に侵入しても攻撃せず、敵を惹きつけるように飛ぶなど攪乱以外の何物でもない。さりとて攻撃部隊ならば他の者が対応している。ならば、すべきは目の前の敵をただひたすらに叩き潰す事。
『戦場が混乱しているな。一部、通信が出来ない場所もある……これが……アサガシアンどもの防衛設備だと言うのか?
 ――……っ! 退避!』
 迎撃システムの射線に捕まらないよう飛行していたターバンは、接近する熱源に即座に反応、ガガンボでバレルロールを敢行し急旋回する。その形状でそんな事するとか嘘だろお前。
 その下方から十分な加速を得て、両肩のシールドを背面フライトユニットに接続、急上昇するドッグ・フライトカスタムは回避したターバン機はそのまま、反応に遅れたガガンボ一機の頭を左のブラストナックルが易々と粉砕する。
 同時に発生した電磁パルスが操縦系にも影響を与え、そのまま地面へと墜落していく。
(捕虜さんの回収は任せてー!)
 アリス妹の思念を受けて、地上を徘徊していた他のアリスらが糸を噴射して敵機をキャッチ。流れるように機体に取り付くと手慣れた動作で解体し部品を防壁にすべく運搬していく。
 パイロットは恐怖に慄きながら運ばれていった。失業保険はきちんとやっておくんだぞ。
『続いて!』
 加速上昇した勢いをそのままに、重量を活かして落下しざまに逃走するガガンボのへ悲鳴のような唸り声を上げるチェーンソーの歯が喰らいつく。
 振り下ろし、振り上げる。V字を描く連携が鉄を引き裂く甲高い音とともにその両手と片足とを斬り飛ばした。
 錐もみ状態で落下していくそれは最期の、もとい最後の瞬間に何を思っただろうか。
 鉄の塊のような機体で猛追し、鋼の牙で狂った犬のように振りかざす。それは正に。
『…………! やはり蛮族、アサガシアンは獰猛な犬と相違ない!』
『細やかな動きは難しそうでしたので、蛮族で行こうかと考えたのは事実ですが。いきなり大部隊を派遣してくる人たちに言われたくありません』
 間合いを取るターバンから視線を離し、アリス妹らから引きずり出されて悲鳴を上げる敵パイロットへドッグの左手を向ける。
 ブラストナックルから放たれたのは桜吹雪、【桜の癒やし】により救出したパイロットが暴れないようにという判断だ。
「すやぁ」
(……くー……くー……)
(……すややぁー……)
 あっ。
 パイロットを回収しようとしたアリスらも桜吹雪に巻き込まれて健やかに眠っているが、まあそこら中をダッシュしまくってたし疲れているだろうからこれで回復するだろう。スタミナお化けだけど。
 眠ってしまった仲間に「しょうがないわねー」とばかりに他のアリスが運んで行く。その様子を見てターバンは拠点を防衛している戦力がアサガシアの物だけではないと気づいたようだ。
『なるほど、貴様は猟兵だな。どういうつもりだ、我が国と敵対すると言うのか!』
『国など関係ありません。オブリビオンマシンに囚われている以上、貴方がたを倒すのは私たちの使命です』
『我らが偉大なるダンテアリオンの大儀を前に、使命などとほざくなぁっ!』
 ガガンボの左腕が滑動し中から露出した装甲斬撃剣で斬りかかる。
(敵機接近相対距離五十よー!)
『甘いですね!』
 アリス妹の言葉もあり、間一髪の見切りでその切っ先をかわす。そのまま反撃の袈裟斬りに対し、斬りかかった勢いを利用して空中で前転したターバンは機体を天地逆とし推進機を噴射、急速降下でこれを回避する。
 こいつだけ動きが異次元機動なんだが。
『思いの外にやるようだが、甘いのがどちらか教えてやろう!』
 地面激突すれすれで機体を立て直し、仰向けの状態で水平移動しつつ構えたバズーカで砲撃する。
 口先だけの実力ではない、張り巡らされたアリスの目すら掻い潜った反撃。
『!?』
 背筋をかけた悪寒に反応した桜花が、ウィングを可動し胸部を守る盾とした所を直撃する。さすがに一発でこの装甲を抜ける事は無いが、それでも盾で防御しなかったら損傷を受けたのは間違いない。
『思い切りと反応は良好、だが所々に見える粗は隠しきれんぞ!』
『助太刀させてもらいます!』
 両肩から腕にバインドされた大型盾から放出される光の翼、【BX-S エール・ノワール】を伴って急速接近するのは摩那の搭乗する黒き風、エクアトゥールだ。
 普段は生身で使用する超可変ヨーヨー【エクリプス】が、材料となる謎金属の力かキャバリアサイズに拡大されエクアトゥールの手から放たれる。
『一人が二人に増えた所でこの空色サイクロン、どうと言う事は無い!』
『ネーミングセンスはどうと言った方がいいですよ』
 地面を砲撃し、その爆風と瓦礫とでエクリプスを逸らし上昇、摩那の言葉もまるで気にしない様子で左腕の剣を格納し短機関銃を抜く。
 バズーカとサブマシンガンの両手持ちは二人を相手に逃げるつもりはないという、ターバンの意志を如実に表していた。


●風が吹くは猟兵か。
『敵には猟兵の存在も確認されたようだ、各自、気を引き締めろよ!』
『了解!』
 複合部隊で編隊飛行するガガンボの軍勢。
 ターバンからの通信を受けたようで全機が猟兵の存在へ警戒度を引き上げている。そもそも猟兵とか言う以前の問題だった気がする。
『しかしこの物量差、いつまでも持つまい。我らはこのまま全身、敵迎撃システムを守る防壁を破壊するぞ!』
『…………、なんかあの防壁にめちゃくちゃになったガガンボが組み込まれてる気がするんだが?』
『まっさかぁ!』
 その通りなんだが?
『どちらにしろ敵戦力の大半は地上部隊だ。何かやたらと命中率の高い迎撃システムを破壊すれば勝利は決まったも同然さ!』
『おいおい、負ける奴が言いそうな台詞を言うなよ! …………、ん?』
 ご自分の立場をよくわかってらっしゃる台詞である。
 そんな彼らも眉を潜めたのは、前方からまっすぐ飛来する熱源反応。それは青き閃光だった。
『――ガガンボ……、正式名称【CT043-cloud】!
 そっちも空戦機だけど、わたしのリーゼも空戦機だからっ!!』
『この数を相手に一騎駆けだと!?』
 その推進力から性能で言えばガガンボより上だと理解できるが、それでも編成された数は十を超える。そこに単機で突撃するなど彼らには及びもつかない考えだった。
 悠長に敵の接近を待つ訳にはいかない。全機に迎撃の号令を下し、乱れ飛ぶ鉛弾の雨をシルは青い瞳で捉えて射線をかわす。
 まるで水面を跳ねる魚のような回避運動に狙いが定まらず。
 精霊機は虹色の光を纏う。
『何の光!?』
『まとめて受けてください!』
 機体前方へ虹色の光が幾条を伴い放出される。BS-Sホーミングビーム砲【リュミエール・イリゼ】、操縦者であるシルの意志によって撃ち別ける事も可能な攻撃だ。
 見た事もない攻撃兵器に戸惑うガガンボの複数が虹に貫かれて破壊される。しかし、即座に回避を命じた部隊長らとそれに続いた部下もかわし。
『逃がしません!』
 ブルー・リーゼの右手に持つ大型のBSビームランチャー【ブラースク改】。己の魔力をビームとして放つそれを狙撃用に調整し、回避運動を行うガガンボを丁寧に撃墜していく。
 無論、操縦席を外している。
『舐めた真似を! しかし弾幕が薄いぞ!』
『距離が、離れていましたから!』
 嘲笑する敵パイロットにこちらも笑みで返し背部の単身砲を伸身、両肩から覗くそれの照準を向けた。BS-Sツインキャノン【テンペスタ】。長射程と高威力を誇る二門のビームキャノン、それを敵の短機関銃の有効射程距離まで使わなかったのはこちらの手数が少ないと相手に思わせる為だ。
 ブラースク改のモードを連射式へと変更、突撃から後退へ機動を変えて総攻撃を開始する。
『うおおおおおっ!!』
『な、なんとぅっ!?』
 瞬く間に閃く無数の光が青空を裂き、次々とガガンボを炎に包み込む。
 特にテンペスタの砲撃は防ぐ手立てのないガガンボには致命の一撃だ。瞬時にして半数近くの機体を失った敵機は舌を打ち、作戦変更だと機体の一部を変形させた。
 飛行能力を失い地上に着地したガガンボ数機。移動能力は低下したが、その代わり対空迎撃用の機関砲が内部から露出、変更した兵装で地上から弾幕、残るガガンボによる空中からの射撃を決行する。
 まるで鉄の風、ブルー・リーゼの機動力をもってしてもこれをかわし続けるのは至難の業だ。
(けれど、ピンチはチャンス! 移動力の落ちた敵とこちらを追い回す空中戦力、それなら!)
 その翼から噴射される推進機の最大出力。青い閃光が残像となって、敵機の目を惑わせる。
 もっと速く、もっと先へ。
『――今です!』
 全身にかかる負荷に荒々しく肺から空気を絞り出し、食いしばる歯に痛みを感じた頃、敵陣中央へ躍り出る。
『精霊たちよ、我が声に集いて、全てを撃ち抜きし光となれっ!
 【エレメンタル・シューター】!!』
 高速詠唱により灯る魔力が遍く光となって機体を覆う。
 同時にユーベルコードとして出力された力は火・水・風・土と四つの属性を複合した魔力弾となり、複雑怪奇な幾何学模様の如き軌道を描いてブルー・リーゼから弾き出された。
 その数、実に千を超える。
『――馬鹿なっ……!?』
 一瞬の出来事だった。
 荒れ狂う魔力の弾丸が、ガガンボの大群を一掃した。
 単機での撃墜数で考えれば破格の戦果だ。しかしそれを行うに無理をした体は今も軋んでいるようで、シルは呼吸も荒く。
『…………、笑顔は忘れないよ。それが約束だから』
 それでも額に流れる汗を払い、少女は笑みを見せた。

『なんだ今の光は! ……我らの戦力の半数以上が……!』
 遠方で一掃された味方の姿に、数を確認すればすでに戦力の多数を失っているという事実。
 声を震わせた部隊長の一人に、不安そうな部下の声も上がる。戦力など比肩しうるものもないと見ていた彼らにとって悪夢以外の何物でもない。
『どこも戦いか』
 拠点のどこでも発生する爆炎。レイはメインカメラに映る光景に対し、特に思うでもないのか素っ気なく呟く。感情が表に出ていないだけかも知れないが。
 さて。
 操縦にもすっかり慣れたようで、アサルトライフルを構えて走る姿は出撃時とは見違えるようだ。
(敵影三時方向、晶さんのジャミング効果がこの辺りにも及んでるからこっちに気づいてないみたい~)
『了解だ』
 桜花機と同じく、肩にはりつくアリス妹が一匹。
 彼女に導かれて疾駆するマグネロボ肆式。目標はパイロットを殺さずマシンのみを破壊する事だ。
『目標補足、トリガー』
『! 敵襲ッ、各機旋回、地上戦力を狙え!』
『了解!』
 被弾と同時に即座に命令を下す部隊長、それに続き反応の遅れた彼の部下も迎撃態勢に移行する。自分たちの不安を払拭する為にも眼前の敵を迎撃する、部隊長の即座の攻撃指示が部下の息を吹き返したのだ。
『カートリッジ』
(カートリッジよ~)
 ガガンボ四機を引き連れて弧を描き上昇する敵部隊に、弾丸を撃ち尽くした弾倉を入れ替える。
 その隙を見逃すはずもなく、各自武器を構えて降下接近するガガンボ部隊。
『敵の目を潰す! 総攻撃を仕掛けろ!』
 部隊長の放ったバズーカの一撃。易々とこれをかわしたレイとマグネロボ肆式だが、爆煙で視界を塞ぐと同時に急接近するガガンボの短機関銃が叩き込まれた。
 しかしそれも、シマウマが跳ねるような動きで全て回避、爆煙から抜け出すマグネロボ。各部の可動域が広く、人間の如き運動能力を発揮する。
『怯むな、そのまま押し潰せ!』
 囲うように射撃するガガンボたちが、それぞれ左腕に装甲斬撃剣を露出、突撃である。
『…………』
 それぞれの動きを瞬時に視界に収め、右肩に装着されたナイフを抜く。
 迫る四本の白人をライフルで受け、ナイフでそらし、あるいはかわし、あるいは蹴りにて弾き飛ばし、一瞬の応酬を潜り抜けた。
『な、なんだこの反応速度は!?』
『もう一度、今度は上空から突撃だ!』
 空へと駆け抜けたガガンボらに、思わず笑みを浮かべた。それは名前のせいもあったのかも知れないが、脳裏に浮かぶのは虫取りをする幼子だった。
『なら、虫取りだ』
(虫がいるのー?)
『ああ、四匹、いや、五匹だな』
 その身から溢れるオーラは電流を生じ、【覇気】となり拡大していく。それはマグネロボ肆式を包み、雷を呼ぶ。
 走るのは空を焼く閃光。
 彼の放ったユーベルコード【Aureola(シープ・ハーダー)】は幾重もの枷となり、雷の如き速度で空を行く四機のガガンボを捉えた。
『――おっ、ぐぅ!?』
『ぐわぁっ! 目が!』
 強烈な閃光に悲鳴が上がる中、光の中心にいるマグネロボ肆式は両腕から放った枷を引き付ける。マグネロボのパワーでは幾ら非力なガガンボとは言え四機もの抵抗するキャバリアを抑え込む事など不可能だ。
 しかし、その身を纏う覇気と念動力による操作がそれを可能としていた。
『くそったれめ! 直撃させる!』
 光から離れようともがく部下を救う為、部隊長の放った砲弾を直撃させるも、まるでびくともしないのはその身を包む覇気故か。
『時間のようだ』
 剛力で引き戻せば糸くずのように振り回されたガガンボ同士がぶつかり合い、地面に叩きつけられた。
 寸前でアリスらが糸で簡易なネットを作ったお陰でその威力は大分殺されているが、続くは自らに引き戻し構える拳だ。
 キャバリアに搭乗しているとは言え放たれるは覇気を纏うゴッドハンド必殺の一打。
 飛来するガガンボの頭部を殴り潰し、壊れた人型は力なく地面に転がった。
『……これ程なのか……猟兵……!』
 振り向くマグネロボに震える声で部隊長は漏らし。
『つあああっ!』
 気合と共に駆け抜ける炎の一閃。
 自らの地獄の炎と一体化している金翅鳥の迦楼羅を翼と成して、太陽の如き鋼の戦士バルジ・プロミネンスが光の刃を用いて部隊長を一刀の下に両断した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ドッグ』

POW   :    突撃
【盾を利用した加速】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【斜面や狭所など地形】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    D2エンジン起動
自身に【動力炉のオーバーロードによる熱気】をまとい、高速移動と【エネルギー屑】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    マイナーチェンジ
【更なる装備を重ねたキャノンモード】に変形し、自身の【移動能力】を代償に、自身の【攻撃力と射程距離】を強化する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●撃退・撃滅・掃討戦!
 真っ二つに引き裂かれたガガンボ。人の搭乗するコックピットはそらし、右肩から左足にかけてばっさりと斬り落とされて、墜落する機体を待ち構えていたとばかりにアリスたちが回収していく。
 マグネロボ肆式の肩にくっついていたアリスは、熱々の切断面に「美味しそう」と運ばれていく残骸を眺めてぽつりと漏らす。普通の生物では抱けない感想だね。
 羽ばたきひとつ、着地したバルジ・プロミネンスは炎の翼を消して、携えた紅蓮の光刃を肩に担ぐ。
 【大焔摩天】。その身に【焔摩天】の文字を刻む巨大剣を地獄の炎で炙り進化させた代物で、搭乗するスーパーロボットに合わせて巨大化させている。
『大分、数は減ったみたいだな』
『そうだな。だが子供心が満足する分には、まだまだいるようだ』
『……子供心……?』
 レイの言葉に疑問を挟むよりも、襲い来る敵を対処する方が先だ。
 マグネロボ肆式が高々と空を蹴り上げて、斧の如く振り下ろす。コンクリート舗装をぶち割って、輝く機体は雷を放ち雄叫びを上げる。
 並ぶウタもまた己の駆るバルジ・プロミネンスの出力を上げた。鋭く尖り出た両肩の外装がばちりと開けば、顎となったそれから紅炎が吹き荒れる。
 炎と雷の巨兵が睨む虚空からは、ガガンボの群れが迫り狂う。
『押し潰せぇぇ!』
『ジャミングが発生しているのはこの辺りだ、手当たり次第に撃墜せよ!』
『これ以上、敵勢を調子つかせるな!』
『さっきそうやって突撃した第三分隊から第六分隊が一機に潰されたらしいよ?』
『じゃあ逃げちゃう?』
『しっ! そういうの言ったら怒られるから!』
 誰に怒られるのよ。何か反逆分子的な発言をしているガガンボも散見されるが突撃に変更はないようだ。
 しかし敵も形振り構っていられないという事か。敵拠点で集団が固まる意味を知らぬはずもなかろうに。
(敵集団が来るわー、みんなーっ! 対空迎撃用意よーっ!)
(はーい!)
(撃って撃ってー!)
 付近の迎撃システムをフル稼働し、「よっこいせよっこいせ」とアリスたちは糸で引っ張り各種照準を向ける。
 熱々の内にと焼けた装甲をボリボリしていた個体もいたようだが、号令を受けて慌てて迎撃態勢に移る。戦場を飛び交うガガンボに対して地上を駆け回るアリスたち。
 各種情報を得て放たれた砲弾を、全てのガガンボがかわせるはずもなくその身に受けて撃墜されていく。アリスも彼らの救出におやつにと大忙しだ。
 そして。
『疾れ稲妻、我が枷よ。敵を焼き切り、塵へと還せ』
 機体を包む覇気が一際輝きを増すと、迸る無数の光条がその身から放たれる。
 数十を超える雷光だ。その先端はチャクラムとして先程と同じく、敵の悉くを焼き打つと同時に拘束する。
『アババババーッ!』
『痺れ痺れ痺びびび~っ!?』
 空中で固定されたそれぞれへ真向から光刃の切っ先を向けて、ウタは思わず苦笑した。
『お前らもオブリビオンマシンにされちまった口だよな、可哀想に。
 元に戻せなくて悪ぃ』
 輝きを増していく大焔摩天を振り被り、炎の翼に両肩より立ち上る炎を従えてバルジ・プロミネンスが飛翔する。
 深紅に燃える炎の塊、それこそが刃となって駆け抜ければ、残るは斬り裂かれた残骸のみ。
 そこにあるモノが装甲であろうと武器であろうと、それこそレイの放ったユーベルコードであろうと一切の因果を持たず斬り伏せる。それこそが地獄の炎たる所以だろうか。
 巨大な光刃を地上に衝き立て、降り立つ炎の兵。背負う翼は大きく揺れて、襟巻きの如く翻る。
 その背後で背を向け合った雷兵がその身の輝きを消した時、細切れとなり爆損するガガンボの残骸が音をたてて地面に転がる。
 めっちゃ嬉しそうなアリスが滝のようなガラクタに飛びついていくが。
(きゃーっ)
 炎の灯る残骸は一気に延燃し、驚いたアリスたちが離れる姿は正に、蜘蛛の子が散る如し。
『纏めて還してやる。紅蓮に抱かれて眠れ』
 振り返りもせず、ウタの放つ地獄の炎が周囲を焼き尽くす、それが彼のユーベルコード【ブレイズブラスト】だ。紅蓮の炎が悪魔の舌のようにオブリビオンマシンだけを舐め溶かす中、ウタが見つめるのは背後ではなく、前方のその先に在る敵の群れ。
(……戦いの剣戟が、軍靴の響きが歌となって俺の中の炎を益々燃え上がらせていく……)
 地に刺さり燃え盛る光刃が、ウタの鼓動に応じるが如く更に激しく燃え上がる。
『そっちは任せた。こっちはオレに任せろ』
『ああ、アテにしてるぜ』
 マグネロボ肆式が人のように組んだ手の指を鳴らせば、関節に損傷はないのかと心配する肩の上のアリス。
 ウタはレイの言葉に頷いて。
 互いに振り返る事なく敵の群れへ向かって走り出した。

 敵の数が多い。
 押し寄せるガガンボは脆く、こちらの火力は問題ない。しかし、その数に殲滅速度が間に合っていない。
(とは言え、もう終わりは見え始めていますが)
 薄くなる敵部隊の層と、故に強くなる敵の圧力にノエルは蹴散らかされていくガガンボに、それらがまとまる前にと最大戦速で突撃する。
 エイストラに搭載された【EPハイチューンドエンジン】は、元々が高出力であったエンジンを更に強化改造したものだ。短時間の超過電力供給を行う【Eバンク】を併せて搭載し、それを使用した本機の突撃についていけるキャバリアなどそうはいない。
『――は、速いっ』
『邪魔』
『痛いんですけどぉっ!』
 振り返り様の薙ぎ払いに、空で跳躍でもするように敵の頭上を飛び越えたエイストラ。まるで曲芸の動きで放つ回し蹴りがガガンボを弾き飛ばす。
『ノンリーサル、鎮圧します』
 【ソーノ・スタンナー】。音圧力を籠めた外部スピーカーからの麻痺超音波、非致死性による範囲攻撃。
 一瞬にして衝撃波すら生じる音の波は最早、人の耳にすら聞き取れずその三半規管を掻き回した。こうなれば装甲に守られていようと関係はない。
 機体の操縦すらままならず、非常にしょっぱい表現で申し訳ないが蚊取り線香にヤラれた蚊のように失速、墜落していくガガンボたち。
『そのまま見逃しはしない』
 墜落するのをわざわざ待ちはしない。即座に構えた【BSプラズマライフル】の銃口から光が閃き、高出力のビームが薙ぎ払うようにガガンボを無力化する。
 余りの威力に溶け落ちた四肢は、例えパイロットが音波のダメージから回復した所で戦線復帰など不可能だ。
『赤城さん、敵機向かいます』
『任せておけ、射線から離れろ! ウィリアム、照準!』
 格納庫の入り口に陣取って、アリスたちがその怪力でもってリレー運搬してきた四つの連なる砲口を持つミサイルユニットを両脇に抱えて、衝撃に備える。
『敵機最多捕捉。有効射程までの相対距離カウント、三、二、どうぞ』
『ロックオン、ファイアーッ!』
(発射よーっ!)
(すごーい!)
 大量の白煙はヴェルデフッドのメインカメラ、その視界すらも奪い去って飛来する敵陣へと飛翔する。その数、八。
『大型誘導弾っ、各機迎撃と回避運動――』
 部隊長の命令が実行されるよりも早く、『有効射程距離』に達した誘導弾はその装甲を展開し、無数の小型誘導弾に別れて乱れ飛ぶ。
 独立捕捉型四連多弾頭ミサイルユニット。アサガシアによる新兵装の試験品であったが上手く機能したようだ。
 突然現れたミサイルの雨、数の多さ故に下手な鉄砲が撃墜もするが。
 数の暴力を訴えるのは敵だけではないのだ。
『う、うおおおおおおおっ!!』
 迫る爆薬、白き煙は壁となってガガンボの群れを食い破る。
(まだまだあるわよー)
『十分だ、好き勝手やるぜ!』
 腰にマウントしたライフルを再び構えて混乱する敵へ突進、連射するビームライフルで次々と戦闘能力を奪い取る。
 脆い、故に狩るには易い。
『舐ァめェるゥなァー!』
 左腕から出現する刃にユーベルコードの光を纏い、ヴェルデフッドの背後に回り込んだ部隊長の一機が突撃をかけた。
『敵機部隊長クラスの反撃、予測通りです』
『ワンパターンだな』
 頭部へ向けて振り下ろされた光刃をかわしもせず、ライフルに装着されたバヨネットを交差させ、鋏のように敵機の左腕を斬り落とす。
 さすがにユーベルコードで強化された剣を斬れはしないが、効果の及ばぬ腕部装甲なら話は別と言う訳だ。
『馬鹿な、こちらを見もせずに!?』
『ワンパターンと言っただろう。数に任せての突撃であればそのまま前進、敵の迎撃の多少に合わせて前進か後進かを使い別け、潜り込まれれば背後を取って近接攻撃。
 行儀の良い、見飽きた戦術パターンだ』
『……貴様……!』
 苦し紛れに構えた短機関銃を銃剣で叩き落とし、突き付けた銃口でその頭部を焼き貫く。
 力を失い寄りかかる機体を突き飛ばし、二挺のライフルを連結させる。長射程のビームキャノンへと変形したそれを構えた晶の目に、もはや倒れた部隊長機は映っていなかった。
 そして二人の会話に密かに頷く女も一人。
『そうそう、せめてレンジャー部隊ぐらいやってくれなきゃあね』
 チェスカー・アーマライトだ。
『いやあんまし隊長を調子に乗せるような事、言わんどいてくださいよー』
 思わずぼやいた副長に悪気無く謝って、ビッグタイガーを施設の陰から陰へと移る。
 敵機の襲来に死角が増えた事で移動を余儀なくされたのだ。あの程度の攻撃で装甲が抜かれる事は無いが、無駄に被弾を増やす必要もない。
 決死の覚悟で飛び込んでくる相手には悪いが、その全てと馬鹿正直に付き合う必要はないのだ。同時に移動する事は敵の目標を必然的に拡散する事に繋がり、それは被害の軽減という結果を持つ。
 戦域が縮小されている事でヴェルデフッドのジャミング効果は最大限に発揮されている。目視でしか攻撃できない敵など、わざと姿を見せる陽動部隊に群がればチェスカーや副長率いるレンジャー部隊の的に過ぎない。
 傭兵稼業であるからこそ、戦場の流儀はお手の物だ。
『逃がさん!』
『蚊トンボが!』
 レベルは低くてもそこは軍属。ビッグタイガーの進行方向にあえて地上より回り込んだガガンボ、施設の陰から急に現れたそれをチェスカーは主砲でぶん殴り、ふらついた機体を重い足が捕えて壁と挟み込む。
『寄れば勝てると思ったかい? アメちゃんよりアメぇよ』
『ち、ちょっとちょっと怖い怖い!』
 胸部を押さえ込まれて、上半身を動かせねば刃を振るう事も出来やしない。反撃の手立てを奪われたガガンボにビッグタイガーが持ち替えたのは、その独特な音が愛称ともなる【BXS-PMG42】、電動ノコギリ。
 それをメインカメラに正面から押し付ければ甲高い音をたてての高速連射が装甲を易々と引き裂いた。パルスマシンガンの驚異的な連射力。寄れば勝てると思ったか、そう告げたチェスカーの言葉を裏付けるに十分な攻撃力だ。
『ポイント・クリア。残存部隊の清掃開始だ』
 沈黙した敵機を蹴り転がして、弾丸を装填した女は操縦席でにやりと笑った。


●先行部隊最後の抵抗、諦め悪いぞターバン大尉!
『な、何だと!』
 駆けつけた部下の一人による外部拡声機からの口頭に、ターバン大尉は思わず呻き声を漏らした。
 圧倒的戦力差でもって戦闘を開始したはずであった彼の率いる先行部隊が、すでに崩壊、残存数も少なく次々と駆逐されているその事実。
『いい加減、諦めて欲しいですね』
『逃げ続けてばかりじゃあ疲れるだけですよ』
 大尉を相手にしていた摩那、桜花が続けて言葉をぶつける。勢いの良い事を言っていたがその実、性能差をきちんと把握していたターバンは、つかず離れずエクアトゥールとドッグの両機の適正距離を計りながら施設を盾に、あるいは背後に攻撃の手を緩めさせて立ち回っていたのだ。
 消極的な戦闘方法の意味はこちらの戦力を釘付けにする事、分かり易い作戦だ。それでもターバン機を無視できなかったのは、それを実行する彼の実力が危険と判断したからこそなのだ。
 同時にそれは、摩那と桜花の勝利であった。
『貴方の作戦では戦力を減らしている間に包囲殲滅、と言った所でしょうが! 私たちの仲間は貴方の予想を遥かに超える力があるのです』
『もしくは自分たちが考えている以上に弱いか、ですね』
 勝ち誇った摩那と微笑む桜花。その顔は見えないまでも、響く声にこれでもかと感情が込められて、ターバン大尉もお顔が真っ赤である。
『……よ……よかろう……! 最後の手段だ、残存勢力を我が元へ集めよ!』
『だからいい加減に諦めなさいと!』
 投げ放つエクリプスからも軽々とかわして見せたターバン機。空色サイクロンは伊達じゃないぜ。
 いやそもそも空色サイクロンって何なのか説明しろ。
 そんな疑問は些細な事とばかりに上昇するターバンのガガンボに追従するガガンボたち。もはや、数えるぐらいのその戦力で。
『少佐の言葉を思い出せ!
 我らは尖兵、我ら尖兵の足跡は栄光の礎となり、我ら尖兵の足跡は時代を導く標となる!
 そう、我らがダンテアリオンは、我らの力で覇道を進むのだ!
 我ら尖兵が、命を燃やすのは今、ここにしかない!!』
 グリモア猟兵の予知にもあった、勝利を収めた少佐の言葉。
 出撃の前にも鼓舞として使われていたのだろう。所々違うのは彼のオリジナルか、出撃前の少佐の言葉がこうだったのかは分からないが、彼の受け売りである事は確かだ。
『大尉ーっ!』
『おうよ』
『そうだ、俺たちは超イケてる尖兵なんだーっ!』
『せやろ?』
『さすが大尉! ヨッ、ダンテアリオンのエース!』
『ままま、当然よね?』
『あんた今までどこで油売ってたんだ大尉ーッ!』
『おいそいつ黙らせろ』
 敵陣で何をイチャコラしてんのこいつら。
 思わず突っ込む気概すら失せた者もいるが、全く気にしない者ももちろんいる訳で。
『目標補足、発射しまーす』
「ギィイエエエエエエッ! ガチガチガチ!」
(迎撃システム総攻撃よー)
 鬼の副長と人情が通じるようで通じないアリスらの攻撃が炸裂する。
 しかし。
『!』
「ギチチッ!?」
(あらー?)
 迫り来る砲弾を、狙撃すらも全て回避する敵残存戦力。
 命を燃やすは今だと、そう言っただろう。
 驚く面々に含み笑いを残すターバン。天高く輝く陽の下で、陽炎となって揺らめく戦鬼たち。
 その装甲から棚引く白煙はガガンボらのオーバーヒートを示していた。
『ダーティ・ドライヴ・エンジン、フルパワーだ。征くぞ蛮族アサガシアン、そして猟兵ども!
 我ら祖国を栄光へと導く不退転、決して折れぬ刃を見よ!』
『我らがダンテアリオンに栄光を!』
『我らがダンテアリオンに栄光を!』
『我らがダンテアリオンに栄光を!』
 咆哮し、左腕を天へと突き出す彼らのガガンボは、ユーベルコードの光に包まれた剣を現す。
 彼らの起動させた『D2エンジン』は一時的とはいえ機体出力を劇的に向上させる効果を持つ。同時に脆弱な機体にかかる負荷は相当なもので、起動時間を延ばす程に爆損の危険性が増加する代物だ。
 それでも構わずとしたのは、言葉の通り命を賭す覚悟があるからだろう。
『なら、その意志は汲んでやる――、ワケねえだろダンテリの熱血馬鹿ども!
 各員後退! 猟兵の皆さんのお力添えで各拠点の増強は完了してんだ、まともにやり合う必要はねえぜ!』
『隊長ー、クズいー』
『誉め言葉だね!』
『蛮族とは言ったけどさぁ、もう少しプライドもてんの君ら?』
『うっせえバーカバーカ!』
 下卑た笑い声を上げたボイット・レンジャーだが、彼の部隊はその言葉に賛同しているようだ。だが、それでは第二波の到来と重なる可能性が生じる。
 同時に無理に戦えば彼らのキャバリアと共にパイロットが死亡する恐れもあるのだ。そのような作戦に乗る訳にはいかない。
『分かった、レンジャー部隊は下がっていてくれ。後は俺たちがやる』
 ターバンとボイットの醜い罵り合いへと発展していく所を遮って、ウタは緊張感のない両者に溜息を交えて宣言した。
 労せず敵が自滅するだけなら望む所といった猟兵もいるだろう。しかし、その死が敵の更なる狂暴化へ導くのだから手をこまねく必要はない。
 戦う意志を見せる猟兵たちに、ばつが悪そうなボイットはさておき彼の部下は続々と開戦の準備を始める。
(じーっ)
(じ~っ)
『…………、オーケイ、わかったよやってやるさ畜生め!』
 アリスたちの視線が止めとなったようで、戦闘続行を宣言したボイット隊長。
 再び展開する防衛部隊にターバンは不適に笑う。
『さあ、なぜこの俺がサイクロンと呼ばれるのか、その意味を教えてやる!』
 えっ、教えてくれんの?

 再動する迎撃システムの砲弾から逃れるべく散開した残存ガガンボ部隊に対し、追従するのはブルー・リーゼ、エクアトゥール、エイストラ。
『先程までのガガンボと一緒だと思うなよ!』
『確かに速くなっていますっ、それでも!』
 先行するガガンボが身を翻し、天地逆となりながらビームコーティングされた刃を構えたその姿。確かに性能を言えば先とは全く違う。
 それでも。
 一瞬で間合いを詰めたガガンボに反応して見せたシルはバレルロールを敢行し、その刃をかわすと同時にすれ違い様のBXビームセイバー【エトワール】が手元で光刃を発生、斬り抜ける。
『――何……と……!?』
 瞬く間もない僅かな時に半身を斬り離されて、驚愕の言葉しか漏らせぬ敵パイロット。シルは更に引き返し分断したガガンボの下半身を蹴りつけて、目標は空色サイクロンのターバン機。
『甘いッ、!』
 あっさりとそれを両断したターバンであったが、視界を塞がれた機を逃さず接近したバルジ・プロミネンス。
 真正面から振り下ろされた赤き刃へ左腕を引き戻して受けるガガンボ。片腕で抑え切れるはずもなく、右腕を添えた判断と回避が間に合わないと防御に回った反応速度。
『確かにあんただけは他の奴らと違うみたいだ!』
『当然だ、俺はエースだぞ!』
『けど、無理な体勢にスーパーロボットのパワーは受けきれないだろ!』
 ウタの言葉に応えて、その両肩の外装が開くと紅炎が噴き上がり、出力を上げたバルジ・プロミネンス。一気に増加した加重を受け切れず沈む機体を、ターバンはその身を返して受け流す。
(! こっちに気づいてた感じか)
 僅かな隙を狙っていた副長はバルジ・プロ・ミネンスを射線に入れたターバンに舌を巻く。
『――ま、こっちはガラ空きになるんだがな?』
 ターバン機直下、ステルスを展開し滑り込んだヴェルデフッド。周囲を見回す目が良いからこそ、ステルスを使用しているとは言え単純な伏兵の可能性も見過ごしてしまうのだ。
『ウィリアム、【オーバーブースト・マキシマイザー】、レディ!』
『オーバーブースト・マキシマイザー、レディ』
 復唱するAIに口角を引き上げて【RS-HGRZ】ハガラズと連結したビームライフルを連射、ターバンへ向かい一気に加速飛翔する。
『うぐ、おおっ!?』
 受け流された姿勢を利用し射線から即座に逃れたウタと違い、無防備な所を突かれたターバンに鉛と粒子の弾丸が襲いかかった。
 ハガラズは集弾性は低いもののこれ一挺で弾幕を張れるガトリングキャノンだ。荒れ狂う砲撃は容赦なくガガンボの手足を削り取り、だがその突撃そのものはかわされてしまう。
『やりやがるが、無傷とはいかないな! 追撃急げ!』
『当然です。――九時方向、敵機接近』
『良い所で!』
 ふらつき高度を下げた大尉を守るべく現れたガガンボ。確かに先程とはまるで速度が違うかと弾丸の如き突進に舌を打つ。
『猟兵さん、こちらへ!』
『私ですか?』
 散開したガガンボを追って地上を疾走していた桜花は、声をかけられて視線を向ければ、群青色のドッグたち。
 自らの盾を用い即席の発射台となった彼らの姿に、すべき事を理解した桜花は急速旋回、背面のフライトユニットを展開して加速する。
『飛びます!』
 レンジャー部隊を足場に飛翔したドッグ・フライトカスタム。同じドッグを足場に高度と離陸角度を確保したことで、その機体重量からは想像もつかない上昇速度を見せる。
『ひえっ』
 まるでロケットが宇宙に上がるように白煙を地上に噴射した巨大な機影に、まるで突如壁が現れたとばかりに悲鳴を上げて腕でガードするガガンボ。
 そんな防御に何の意味があるかとばかり、唸り声を上げる鉄の牙がその装甲に食らいついた。
『隙有らば撃つ!』
『見えてるぜ!』
 ふらついた体勢で桜花の隙に狙いをつけるターバンだが、そんな状態では照準を合わせるにも時間がかかる。万全の状態であれば彼の技量でも発生し得なかった隙を、正確に狙いついたのはチェスカーのビッグタイガーだ。
 音を轟かせて放たれた砲弾はしかし、その身を挺して守りに入ったガガンボが受け止めた。否、受け止めようとしたがその身は容易く貫通し、ターバン機の右肩を粉砕する。
(邪魔が入ったせいで弾道が逸れたか!)
『貴様、んなぁ!?』
 砲撃支援機の危険性は軍属として十分に認識している。即座に付近のガガンボが迫るが、横合いから伸びたエクリプスがその身に絡み、まるで魚でも釣るように吊り上げた。
 幾らガガンボとは言えその命を賭してまで出力を上げている。そう易々とはいかない。
 なればこそ、猟兵にはユーベルコードがある。
『接地、反転!』
 宝石状の呪力型加速エンジン【ジュピター】。靴に取り付けられたそれの力が伝播し、エクアトゥールの足がコンクリートで舗装された地面へ食いつく。
『アンカー作動、力場解放!』
 ユーベルコード【獅子剛力(ラ・フォルス)】により強大な力を得たエクアトゥールには多少暴れた所で所詮はガガンボ、最早その抵抗は無意味だった。
『んんだらぁああああっ!!』
『ひょわぁあぁぁぁぁあああっ!』
『ちょ、ちょちょちょっ!』
 ぶん回したそれで呑気に飛んでる別ガガンボごと絡め取り、質量を増やした大玉で空色サイクロンへ叩きつける。
『――ば、ばっかやろううううう!』
 力技百パーセントに叫ぶ気持ちはわかる。
 叩きつけられた刹那、回避に成功したかに見えたターバンであったが砕かれた肩の先にぶら下がる右腕が巻き込まれて大地へ叩きつけられた。
 直撃は避けたとは言え、地面に叩きつけられて無事でいられるはずもなく、だからこそ残るガガンボははターバン機の元へ集結する。
 例えその性能を稼働時間を代償に引き上げたとは言え、技量に置いて猟兵とまともに戦えるのはターバンのみ。それを失ってしまう意味を彼らは理解していたのだ。
 せめて第二波が来るまでは持ち堪えて見せる、そんな想いが見て取れたが。
『Aureola』
 マグネロボ肆式。
 その身から放たれたレーザーチャクラムが防御に回り動きを止めたガガンボの全てを拘束した。
『おんぎゃーっ!』
『しびびんびんっ!』
 感電して悲鳴を上げたパイロットたちに、自らの鎖と同じく拘束された姿を重ねて頬を掻く。
『成程、竹トンボに棺桶、か。
 やはりお互い降りた方が戦いになんじゃあねえか?』
 自らの覇気にて強化したキャバリアも、脆弱性で言えばガガンボとすら引けを取らない。故に思わず呟いたが常人からすれば狂人の発言にも取れるだろう。
 だって猟兵と殴り合うとか怖すぎるもん。
『言ったはずだぞ、隙有らば撃つと!』
 破損しバランサーを失ったボロ屑のような機体。故に地面に叩きつけられたその姿勢で地面にバズーカを固定したガガンボの、ターバンの砲撃がマグネロボ肆式へ発射された。
 受け止めるのはキャバリア用のアサルトライフル。
 直撃を受けて粉砕されたそれに、二度目はないとせせら笑うターバン大尉。
『どうかな』
『…………!?』
 離れた距離に対応する唯一の武器を失ったキャバリアで、余裕を見せたレイの取った行動はその右腕を敵に向ける事だった。
 二の腕を左手で抑えて腰を落とし、まるで衝撃に備えるようなマグネロボ肆式。そう、それはまるで。
『と、飛ぶ、のか……その腕が……!』
『超電磁界とやらの力だ、その目に刻め』
 不敵な笑みを見せたレイの言葉と同時に、その腕を接続する磁力が反転、反発する。
 当初の説明にあった通りの独立部位。磁力の力によって放てばそれはキャバリアの腕ひとつ、質量兵器としては十分だ。
 ばちりと爆ぜた閃光と音に、ターバンが覚悟を決めた瞬間。
『――……!! …………?』
 ごとんと落ちたマグネロボ肆式の右腕。
 そりゃ取り換えの度に発射するような威力じゃあ話になんないもんね。
『……飛ばなかったな……』
『おまっ、おまあああああっ! 舐めてくれやがってこん畜生があああああっ!!』
 ブチ切れですやん。
 粉砕する。
 その意志をただ一つ、トリガーを引こうとしたその左腕を高所から落下、否、着地したキャバリアの足が踏み砕く。
 ノエルのエイストラだ。
『……あ……』
『手間をかけてくれたな』
 冷徹に告げて、遂にその抵抗する手段の全てを奪われたガガンボとターバン。
 抵抗したら容赦なくビームでコックピットを撃ち抜く凄味に溢れてますよ、ターバンさん。
『…………、こ、降参でぇす』
 ようやく白旗を揚げた空色サイクロンの言葉に、シビシビしていた部下たちも強制的に降伏となり、遂にアサガシアの補給拠点を襲う第一波との決着となった。
 嬉しそうにシビシビしているガガンボに齧りつくアリスらを指揮して、一基の迎撃システム上に陣取っていた帽子アリスは敵の接近がまだである事を確認して休憩時間だと完成した防壁を確認する。
『これだけのオブリビオンマシンだ、鎮魂曲、といきたいがまだ早いな』
 ちょこまかと駆けるアリスが残骸を片付け、あるいは素材やおやつにしている姿に思わず笑い、ウタは空を見上げた。
 結局、空色サイクロンの由来って何よ?


●そして来る第二波へ。
「お、お次はドッグの大群だとぉ?」
 管制塔からの情報に素っ頓狂な声を上げたボイット・レンジャー。所で君は空色なんちゃらと戦ってる時にどこ行ってたの?
 副長からの冷たい眼差しにへったくそな口笛で誤魔化す隊長。やりやがったなお前この野郎。
 施設の一画に詰め込まれた大量の捕虜は、そこらのロープよりやたら頑丈な糸で拘束されている。各施設にも第一波ガガンボの残骸を利用した歪な防壁が組み立てられ、そうそうと突破できるような状態ではない。
 格納庫から弾薬を補充しつつ自分の自分の所業を棚に上げて悪態を吐く我らが隊長。
「お次も手を貸してくれるのか、猟兵さんたちは。さすがにこっちと同じ性能の奴らの群れじゃあ勝算がないぞ」
『まあ、手元にある手札で勝負するのが博打ってもんですよ』
「博打じゃなくて戦争やってんだよなぁ」
 さて。
 首を回して骨を鳴らし、栄養剤を口にする。
「宴はまだまだ、休憩はそろそろ終わりかよ?」
 視線の先に砂塵の波を見つめて、げんなりとした様子でボイットは呟いた。


・第二波集団戦となります。引き続き量産型キャバリア、スーパーロボットを借りる事が可能です。前章参加者は引き続き同じ機体を、あるいは別の機体に搭乗できます。詳細はオープニングのコメントにあるのでご参照ください。
・拠点の迎撃システムや施設は前章アリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)により防壁が設置されているので破壊の心配はありません。破壊するつもりで猟兵が攻撃した場合は別です。
・前章に引き続き十機の量産型キャバリアが配置されています。本章では敵とまともにぶつかると被害が発生します。また、こちらも引き続き猟兵の要請を受ければきちんと連携を取ってくれるので上手く活用してください。
・隊長機は第一波の指揮官を相手にまともに戦わなかったので後ろから撃ってわからせてやっても構いません。
・第二波にも部隊長格が複数混じっており、それぞれのパーソナルカラーに機体を染めています。そんなに変わりませんが、連携すると能力が上がるので注意してください。
・また、エースである『夕焼けマントルのスージー』は高い技能を持っています。施設配置キャバリアでは相手にならないフルチューンされたドッグに搭乗していますが、対空能力が低いので上手く対処しましょう。
・なお、第一波の捕虜は好きに活用可能です。確保したことで敵を説得する、あるいは人質にするなどご自由にご活用ください。
・少し複雑になりましたが、前章と同じく損害はシナリオの正否に関わらないので暴れてやりましょう。
ノエル・カンナビス
第一波で「殺されない」と思い込んだ第二波が、
気分良く攻めて来るのも困りますが。
だからと言って、派手に戦死させて脅すというのも、
何かこう、ちょっと違う気がしますね。

紛争が激化しても困ります。地道に行きましょう。

高度制限のあるこの地で飛ぶと集中砲火が来ますし、
セオリーとは逆ですが、地上戦を挑みます。
レンジャーさんたちに攻撃が向かないよう、
近くで誘引しましょう。

推進剤も弾薬も最小限で抑えた装備のエイストラ、
重量は案外軽いんですよ。そもそも中量級です。
第六感/索敵/見切り/操縦/ダッシュの回避力は高く、
鎧無視攻撃/貫通攻撃のビームは重装甲も貫きます。

D2エンジンにはUCで対抗。速さで負けはしませんよ。


シル・ウィンディア
陸戦型重装甲機体が相手なら対空攻撃に注意しつつ動けば行けるかな?

高度に注意して【空中機動】で敵機の上を取りつつ機動を行い、ホーミングビームで牽制
地上だけに意識を向けさせないように立回り

周囲に味方がいないなら
ランチャー・ツインキャノン・ホーミングビームの【一斉発射】の【範囲攻撃】

こっちに意識を向けたら
【第六感】で攻撃を察知して【瞬間思考力】で回避・【オーラ防御】を選択して被害を抑えつつ
ランチャー(連射)、キャノンで反撃

敵エースは高機動の【残像】の【空中戦】で攪乱を行い
敵機の動きを【見切り】全射撃武装で攻撃

こちらから意識を逸らしたら
《指定UC》で接近、腕部・武装を【切断】

コックピットは避ける


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

わーい、お代わりがきたのよー
次はアリスもキャバリアで戦うのー
幼い妹達を沢山呼んで、落ちているガガンボを【アリスの糸】でつなぎ合わせて搭乗(寄生)しましょー
UCの不思議パワーで人力で操縦して今度はアリス達が空からこーげきするのよー
継接ぎガガンボで上空からドッグを取り囲んで継接ぎ対地砲撃用キャノンパックでホットドッグにしてあげるのー
撃破したドッグはコクピットごとパイロットを後方に【運搬】ー
残ったドッグは継接ぎ寄生して再利用して戦線に投入しましょー
マイナーチェンジのキャノンモードはなかなかの威力ねー
でも敵の攻撃でキャバリアが壊れてもまた再結合して動かすのよー


黒木・摩那
ガガンボも強敵でしたが、まだ戦闘は続きます。
次の相手は地上戦機ということです。スペックを見るとバランスが取れてますが、中でも攻撃力と防御力が特徴のように見えます。

ここは相手と同じ舞台で戦うと苦戦しそうです。
今度は空中で戦うことにしましょう。
新装備もまだ試してないですしね。

引き続き『エクアトゥール』で戦います。
BX-S『エール・ノワール』を展開。
さらにUC【トリニティ・エンハンス】を発動。【風の魔力】を付与して、光刃の効果範囲を広げます。
ドローンからの情報で隊長機を狙い撃ち。
敵機上空からの急降下と急上昇による【空中機動】と光翼の刃の【なぎ払い】で戦力を削っていきます。


鳴上・冬季
「…成程。ここは随分面白そうな戦場ですね?」
「ああ、遅参して申し訳ありません。鳴上冬季と申します。以後お見知りおきを」
帽子を持ち上げ挨拶

「最大で120m級までいけますが…ここなら40m級で充分でしょう。雑魚退治はお任せを。…行け、黄巾力士!」
UCで黄巾力士を40m級まで巨大化
無差別攻撃・鎧無視攻撃を組合せエース機以外の敵機を蹂躙
飛来椅で飛行しの踏み潰しや飛び蹴りも行う
蹂躙優先だが猟兵機への致命的な攻撃はオーラ防御で庇わせる

「黄巾力士はああ見えて宝貝ですから。この世界の機動騎士とは違って当然です」

「そう言えば…操縦者を救うのでしたか?」
自分は風火輪で飛び回り落下機体の操縦者に仙丹食べさせ治療補助


赤城・晶
■連携、アドリブ歓迎、不殺を前提

■説得
捕虜にしたターバン達に第2波の敵に対して説得を依頼する。

俺達猟兵が相手にするのはオブリビオンマシンだけだ。お前ら、普段とは違う思考になってただろ?それはお前らの少佐って奴の機体のせいだ。まあ、どう思うかは勝手だが、良ければ仲間を説得してくれ。
後は俺達の行動で分からせよう。

さてウィリアム、ミラージュ装甲展開【迷彩】、レーダー【索敵】、【ジャミング】をフルパワー。識別認識を妨害し、幻影を展開。
常に状況を把握、更新してくれ。
後はエース機、部隊長機をピックアップ。行動を分析し、仲間と連携して叩くぞ。
細工はしつつ、たまには全力でやらないとな?ウィリアム!(UC使用)



●捕虜のみなさんにつきましては。
 まさか、あの数が全て撃墜されるなんて。
 迫る補給拠点を睨みつけて、夕焼けマントルことダンテアリオンの進撃部隊第二波を預かるスージー。長いわ。
「敵を甘く見ていた、認めたくはないがそういう事か」
『先行部隊、生死不明です』
「……蛮族のやる事、すでに命はあるまい……!」
 通信を受けてスージーは苦々しく顔を歪めると、とりあえずアメちゃんを頬張った。
 うーん、美味しい。
『えっ、……て事はあいつとの借金も……?』
『あいつに握られていた秘密も?』
『俺から彼女を奪ったあいつが!?』
『おいおい何だよ人生最良の日じゃねえか!』
 喜ぶ一同。こいつら軍として何より人としてガタガタじゃないです?
 アメちゃんを頬張っていたスージーはそれらの言葉に全く気付かなかったようで、気分もリフレッシュしたしと元気溌剌に敵陣を目指す。ピクニックじゃねえんだぞ。
 足裏の履帯を回し、両肩の排気筒から黒煙を巻き散らし走る機械の群れは先程より少なかったが、それでも重厚たる並びは死神を思わせ脅威を体現しているかのようだった。

 彼らが目指す補給基地の格納庫のひとつ。
 出入口を警備する節足動物、もといアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)の妹二体。彼女たちの前に現れたのは帽子を被った司令塔アリスと赤城・晶(無名のキャバリア傭兵・f32259)、そして木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)である。
(けいれーい!)
「ギチチッ!」
(ご苦労さまなのよー、休んでねー!)
 ビシッと前肢で敬礼の真似事をする妹たちにこちらも返して姿勢を崩させる。彼女たちの交信用の思念波が飛び交っているが、もう普通の会話のように聞き入れられるものだ。
 扉を開放する妹たちを肩越しに、アリスは二人へ振り返った。
「ギギギギ! ガチガチ!」
(この中に捕虜のみなさんを閉じ込めてるのー)
「案内助かったぜ」
「ありがとう、アリス」
「ギチギチ! ギィイエエエエエエッ!」
(お安い御用よー、アリスはまだお仕事があるから先に行くわねー)
 ドカドカと大きな音をたてて暴れ牛もびっくりな走りを見せるアリスを見送り男二人、アリス妹と共に格納庫の中に入ればアリスの糸で縛られたダンテアリオンの兵士たちの姿。
 オブリビオンマシンの呪縛は解けたようで状況を把握しきれていない者もいるが、自分たちが敵地にいることは理解しているらしく敵対的な目を向けている。
「別にお前たちを酷い目に合わせようってワケじゃないんだ。俺は赤城・晶、ターバンって奴はいるか?」
「……うぐぐ……ターバンは俺だっ……、階級は大尉。この拠点の指揮官か?」
「おお、大尉! こんな所におられましたかっ」
「えっ、そこにいるのか!」
「別に指揮官ってワケじゃないが、なんで潰されてるんだ」
 ふんじばられてぞんざいに寝転がされた空色サイクロンさん。同じく縛られてぞんざいに詰め込まれた部下たちの下敷きになっているご様子にウタも驚き晶も目を丸くしている。
 ひとまずアリス妹たちが捕虜を整理整頓してやって部下の尻から解放するが、恩知らずにもまだ睨みを利かせている。
「そんな顔するな。俺たち猟兵が相手にするのはオブリビオンマシンだけだ」
「猟兵だと? そうかその声、オレンジのロボットとやりあってた時に、俺のガガンボに鉛弾だビームだと撃ち込んでくれた奴だな!
 そっちの奴はそのオレンジロボットのパイロットか!」
「まあ、な」
「戦争ふっかけといて卑怯とかはナシだぜ」
 頬を掻くウタに対し、晶は肩を竦めた。ターバンは顔を歪めてそっぽを向く。武力を用いた事の重さに気づかない程、頭に血が上っている訳でもないと。
 ターバンの態度に十分話し合う価値はあると判断して、彼の視線に合わせるべく腰を下ろす。
「お前ら、普段とは違う思考になってただろ? それはお前らの少佐って奴の機体のせいだ」
「そうそう。アメちゃんで軍人を買収出来るなんて思い込むんだからな」
「何を言うか未開の部族め! アメちゃんは文明の華だぞ!」
「うおっ、唾飛んでる!」
「わーかったストップだこの話は止める」
 アメちゃんで軍事行動を止められると思ってる軍がいるってマジ?
 思いの外に驚天動地な考えを標準としている国家があると知り、晶は即座に話を変えた。
「その、なんだ。言った通り俺たちの相手はオブリビオンマシンだ。
 だから無益な殺生をするつもりはないし、現に敵であるお前たちの救助も行った」
「…………」
「まあ、どう思うかは勝手だが、良ければ仲間を説得してくれ」
 言いたい事はそれだけだ。
 晶は立ち上がると控えていたアリス妹へ合図を送る。戸締りと、もしも彼らが協力を申し出るなら、と。
(お任せをー!)
(けいれーい!)
「はいはい」
 ビシッと敬礼を決めた彼女らにこちらも返して、ちらとだけターバンに視線を向けて格納庫を後にした。
 ウタもそれを見ていたが、こちらは戸締りを始めるから出て行くのだと急かすアリス妹に顔を寄せる。
「……なあアリス……、の、妹。悪いんだけどターバン大尉たちが協力してくれるなら姿や声を、ライブ配信できるように準備できないか?」
(大丈夫よー。すぐに準備しておくわー。だから早く出て行ってねー!)
「分かった分かった、頼むよ」
 言葉のやりとりだけ聞けば可愛らしいものだが、アリス妹の巨体に押し込まれて外に弾き出されているものだから、まるで熊にじゃれつかれる飼育員だ。
 ちゃっちゃと戸締りをするアリス妹、門番をしていた片割れは早速とウタの要望の品を集めるつもりか地面を揺らして猛ダッシュをかましている。
(戦場に出ている軍人だ、助けようと死に物狂いになるかもだけど)
 仲間が生きていて、これからも一緒に未来を創っていけると希望を持てたら。
「何か話をしていたみたいだな?」
「希望。――きっと、マシンの狂気にも抗えるんじゃないか、ってさ」
 希望か。
 ウタの言葉に思わず晶も笑みを返す。戦いの世界とは言え、ここクロムキャバリアにはプラントがある。ひとつの戦いさえ終えれば、ひとつの安寧が訪れるのだ。
 その小さな平穏の為にも、勝たねばならない。
 シリアスな空気に爽やかな風が流れるのは様になる光景だ。まさか仲間の死をを喜ぶ者が大半だと思うまい。
 とは言え内容が内容だけに、先行部隊の存命を知れば彼らの士気が下がる事は間違いないだろう。結果が一緒ならどうでもいいって話ですな。
「それじゃあ、格納庫に向かうとするか」
 晶の言葉に従い、ウタは頷いた。


●戦争には新たな刃を添えて。
「ウタさんと晶さんは捕虜の所に向かったそうですね」
「ええ。まだ続く戦闘、第二波に有効な手立てになり得ますからね、と」
 地上を忙しなく駆け回るアリスの妹たちが各機へ弾薬を補給しているのを見つめて、ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)の問いに黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)が答えた。
 こちらは接近する敵部隊の情報をスマートグラスに投影しており、第二波の解析を行っている。
「次の相手は地上戦機ということです」
「第一波で『殺されない』と思い込んだ第二波が、気分良く攻めて来るのも困りますが」
 勢いと士気は直結するものだ。戦場を左右する要因なだけに、とても無視できるものではない。
 だからと言って、派手に戦死させて脅すというのも。
「何かこう、ちょっと違う気がしますね。
 紛争が激化しても困ります。地道に行きましょう」
 聞けば敵勢力も多いとは言え第一波ほどはないとの事。削ぐというのも戦法としては十分だ。
「ガガンボも数を揃えれば強敵でしたし。次の相手はスペックを見るとバランスが取れてますが、中でも攻撃力と防御力が特徴のように見えます。
 相手と同じ舞台で戦うと苦戦しそうですね」
 ノエルの言葉に摩那も頷いて情報を各機へと転送する。情報を受けたシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)も同じく空中戦を候補にした様子だ。
「陸戦型重装甲機体が相手なら、対空攻撃に注意しつつ動けば行けるかな?」
 これは空中戦闘に秀でるブルー・リーゼだからこそであるが。ノエルの方は違う戦法を考えているようだ。
(高度制限のあるこの地で飛ぶと集中砲火が来ますし、セオリーとは逆ですが、地上戦を挑みますか)
 語るまでもなく、それをこなせるエイストラあっての考えだ。地上戦用であり適性の高い敵機との集団戦闘だからこそ、それぞれの特徴を活かした戦いが求められる。
(こちらの補給は終わったわー。シルさんの機体は整備ねー)
「ありがとう、妹さん」
 激しい戦闘をこなしたブルー・リーゼの各関節に纏わりついてこちょこちょしているように見えたが、しっかりと整備を行っていたらしい。
「…………、成程。ここは随分面白そうな戦場ですね?」
「!」
 背後からかけられた声に少女が振り返ると、佇むのは柔らかな笑みの中に鋭い眼光の学生風の男、否、帝都桜學府所属の學徒兵風であろうか。
「ああ、遅参して申し訳ありません。鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)と申します。以後お見知りおきを」
(これはこれはご丁寧にー)
(アリスはアリスよー。みんなアリスなのー)
(けいれーい!)
 帽子を持ち上げ、首を傾げた挨拶をする冬季に敬礼で返すアリス妹たち。
 シルは起こってしまった戦いそのものを愉しんでいるかのような彼の言葉に違和感を覚えた。だが同じ猟兵、それを強く問題視する事もないだろう。共に戦いに来てくれているのだから。
 実際、緊張感のないやり取りをしている兵隊たちだ。面白がられてもしょうがない。
「シル・ウィンディア、よろしくお願いします」
 冬季の礼節に応えて、シルもぺこりと頭を下げた。

「皆さんやる気ですねぇ。どっかの誰かさんと違って」
「……なんだよ……」
 機体の確認も済ませて、愛機を前に経口補水液をごっくんごっくん飲んでいるボイット・レンジャー隊長に副長は非難がましい目を向ける。
 本人も自覚があるらしく、唇を尖らせながらも彼女と目を合わせようとはしない。
「いえね、休憩は終わりかー、とかカッコつけてた割に思いの外、時間が空いたからってコックピットから降りて一息吐いてる敵指揮官との戦闘をサボってた人ってどんな顔してんのかなと思いまして」
「ピンポイント過ぎぃ!」
 紙パックを握り潰してポイ捨てしたボイット。地球に謝れゲロ野郎。
 風にころころ転がるそれを走り回っていたアリス妹の内の一体が確認すると、「落とし物よー」と隊長に手渡した。少女として視認しつつもその巨体の圧に押されて思わず後退る。お礼を言えゲロカス。
 ボイットは手元のゴミに鼻白みながら、ポケットへ無造作に押し込めばその姿を笑う声がする。
 振り返った先で彼らレンジャー部隊と行動を共にしたチェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)。彼女の姿を確認した副長は無言で隊長の脇腹に肘を捻じ込んだ。
「うっ、わかってるって。
 あー、すまねえな、迫る敵を前にして思わずボヤいちまったが。悪気があったワケじゃないんだ、許してくれよ」
「誰も気にしちゃいないよ、あんなの。それに副長の言ってる事は正しい、手札は何遍見返したって同じさ」
「ですよねー」
 チェスカーの言葉にしたり顔で頷く副長の頭を叩きつつ、ボイットは溜息を吐く。どちらにせよ物量差があるに違いはないのだと、楽な戦いにならないと考えているのだろうが。
「アンタらが握ってんのはとびきりのジョーカーたちさ。レイズしたって損はさせねーよ」
「なんだそのイカサマ臭い手札は。俺はギリギリで勝ちを拾うのが好きなんだよ」
「隊長ー、皮肉屋気取ってもセクハラです」
「皮肉屋気取ってるって面と向かって言われるのも嫌だけど皮肉ってわかってるなら無理にセクハラにしなくてもいいだろうが!」
 こほん。
 気を取り直して咳払い。ボイットは操縦席に向かって足を踏み出すと振り返らずに右手を上げる。
「頼りにしてるぜ、ジョーカー」
「隊長、セクハラです」
「お前もう隊から出てけよ」
 子供みたいな奴だと副長は鼻で笑う。それだけに最後の言葉は本心だと彼女も自身のキャバリアへ向かいながらチェスカーへ振り返る。
「私ら皆、ジョーカーに張らせてもらってるんで。よろしくお願いしますね」
「言ったろ、損はさせねーってさ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「軽量級を重量級が殴り飛ばすのは簡単ですけれど…重量級同士の殴り合いは千日手ですよね…」
暫く考え量産型返却

「スピードは此方が上…重量級を鉄の棺桶にして差し上げます」
「オブリビオンマシンなら、破魔と浄化は効くでしょう?」
UC「精霊覚醒・桜」使用
ソニックブーム引き起こすマッハ8超で戦場飛び回る
第六感と見切りで敵や敵の攻撃に直撃しない飛行ルート選択
高速・多重詠唱で桜鋼扇に破魔と浄化込めカメラ含む頭部センサー破壊を行う
隊長機優先で各部隊を1つずつ潰していく
「確かに当たれば木っ端微塵になりますけれど…当たりませんもの!」
「砲煙弾雨の一騎駆けは、大正の御代でも経験済みですの」

戦闘後は医術で怪我人治療手伝う


レイ・オブライト
※諸々歓迎
※マグネロボ肆式

おかげでコイツの出来ることも大方分かった。腕を飛ばす仕組みの実装は急務ってことだ
第一波も統率自体は取れていた。今回は敵パイロットもだが防衛部隊から死人が出ないことを優先し立ち回る
精々、他のプロの邪魔にならんようにな

『地形破壊』する際は勢いを殺させ且つ敵機性能の確認
百兵戦を仕掛け応じる
突進は躱す心算もない。接触時盾でも殴りつけ【UC】
面は点で割るもんだ。『枷』を杭(大)と穿ち、ついでに装甲内へ『属性攻撃(電気)』を直流しし各配線を焼き切れれば上々か

まあ、オレとコイツの力があれば
胸部装甲でも殴り抜き引き千切れねえとも思っていないが(『怪力・限界突破』)
ん? コクピットか?


木霊・ウタ
心情
マシンを海へ還し
狂気に飲み込まれた人たちを開放してやろう

捕虜
姿や声をライブ配信

助けようと死に物狂いになるかもだけど
仲間が生きていて
これからも一緒に未来を創っていけるかもって希望をもてたら
きっとマシンの狂気に抗えるんじゃないか

戦闘
引き続きバルジ・プロミネンスを借りる
暴れてやろうぜ

炎翼を広げて上空へ
太陽に隠れ
重力&爆炎で急降下ざま一刀両断だ
搭乗員は殺さない

対空砲火を
避弾経始も使いながら
片っ端から炎で誘爆させたり(Bブラスト
炎のプラズマで防御しながら
それが生む爆発や煙、衝撃波に紛れて近接戦闘を仕掛ける

隊長機のような跳躍攻撃に備えてカウンター

事後
いよいよ親玉だな
続けて頼むぜ、相棒(ぐっ



●奴らは砂塵と共にやって来る。
「ギギギッ! ギチギチギチギチ!」
(整備のおじさーん、こういう部品が欲しいのだけどー)
「おっ!? おう、な、なんだ嬢ちゃんか。そんな大声だすなよ。……何々……?」
 格納庫の一室でアリスの巨体に迫られておたついたハゲのおっさんは、手渡されたメモにを読む。
 ギア関連の代物らしく、何に使うつもりが知らないがと前置きする。
「ここにあるのはアサガシアの物だ。とはいえこの非常事態、あんたらが戦いの役に立てるって言うなら好きに使ってくれて構わないぞ。さすがに施設の電力を持ってくとか言うと話は変わるが」
「ギィイエエエエエエッ!」
(ありがとうなのー)
「おいだからそんな大声出すなって! それとその帽子、気に入ったのか?」
 ハゲの言葉にアリスは首を傾げた。てっきり合図などを担当する者が被る個体識別用のアイテムだと思っていたからだ。
 わざわざそんな事を聞いてくるのだから返して欲しいのだろうとアリスは判断すると帽子を剥ぐ。ハゲだからしょうがないね。
「ギィィッ」
(はい、どーぞ)
「お、おう、ありがとうよ」
 嬉しそうに顔を赤らめるハゲ改めハゲ隠し。アリスは構わないと返し、自らは格納庫の隅に置かれていたロッカーからヘルメットを取り出した。
「ギチチ?」
(こーかしらー?)
 本来なら顔を出す所に頭を入れて、被るというよりはめる格好のアリス。その様に目を丸くするハゲ隠しおっちゃんはアリスへ声をかけた。
「おいおい、嬢ちゃんまさか出撃するつもりか?」
「ガチガチ、ギギギ!」
(そうよー、次はアリスもキャバリアで戦うのー)
 ヘルメットのベルトを探しているようだが、頭の後ろにある上に通常の人間とは大きさも違うので届かないだろう。
 やがて諦めてそのまま格納庫から出て行く彼女の後ろ姿に、おっちゃんは本当に大丈夫かと心配そうだ。
「まあ嬢ちゃんも猟兵だし、何とかなるか。……ん……?」
 おっちゃんの視線の先には、いつの間に格納庫へやって来たのか御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の姿があった。
 思案気に待機するドッグ・フライトカスタムを見上げている。
「どうかしたのかい、猟兵さん」
「摩那さんからも情報を伺ったのですが、敵は同じドッグ、つまり重量級だと」
 桜花の言葉にその通りだとおっちゃんも頷く。
 迫る敵機は全てドッグと確認されており、少々形の違う者もいるが軽量級に改造された機体は見当たらない。
「軽量級を重量級が殴り飛ばすのは簡単ですけれど……重量級同士の殴り合いは千日手ですよね……」
「まあ、そうなるな。特にこのフライトカスタムは飛行可能とは言え、この重量を支える為の大出力か推進力は相当なモノだが、機動性、まして運動性能なんて絶望的だ。
 そんな物が大量の同タイプと戦闘するって考えると、それだけで不利だろうなぁ」
 彼の言葉に彼女も同じ考えのようで、やがて「決めました」とおっちゃんに振り返る。
「こちらは返却させていただきます」
「ああ、構わないが。次はどいつを使うつもりだ?」
「いえ、このまま行かせていただきます」
「っほ!?」
 余りの衝撃に首を突き出す格好になったおっちゃんから帽子がずり落ち、ただのハゲに戻ってしまう。
 猟兵ならば戦車どころかキャバリアやスーパーロボットとも生身で渡り合える、言わば人間サイズの決戦兵器だ。だがハゲとしては他の猟兵にも勧めたように、防具代わりにでも使用して貰いたいのだ。
 万が一にも戦力を失い、この基地に被害を出して欲しくないというのがハゲの本音であろう。
「少しは生存率を上げれるようにした方がいい!」
「そうは言いますけど、集中砲火を受けてしまっては元も子もありませんし。脱出する前に爆発に巻き込まれるかも分からないですよ」
「いやまあ、うん、普通はそこを考えないもんなんだけどさ」
 生身で戦えるからこそっすよね。
 そこまで言われちゃ仕方ないと頭を掻いて、ようやく自分のハゲをご披露している事に気づいたのか慌てて帽子を拾うハゲ。これでおっちゃんに昇格できるね。
 桜花は綺麗なお辞儀で貸してもらったキャバリアのお礼を言う。「これから頑張るぞ」とばかりに拳を握って外に向かう彼女を先程のアリスと同じく見送るおっちゃんだったが、入れ替わりにやって来たレイ・オブライト(steel・f25854)に視線を逸らす。
 マネキンみたいに腕すっぽんすっぽん抜く人とは話したくないらしい。そっちも髪の毛抜けてるんだから仲良くしなよね。
 そんなおっちゃんの肩に手を置いて、有無を言わさず振り向かせるレイ。無視するからだぞ。
「頼みたい事がある」
「嫌な予感しかしないんだもんなぁ、もう」
 げんなりするおっちゃんには全く頓着せず、レイは収容されたマグネロボ肆式へと振り返った。
 先の戦闘において落っことした右腕は、既に新しい物へと入れ替えられている。お古の右腕はどこを探しても見当たらなかったらしく、まあどうせ壊れてるやろと取り換えた訳だ。
 窓の外でアリス妹たちが嬉しそうに運んでいる右腕だが、まあどうせ壊れてるやろという事で気にする必要もないだろう。
「あのガガンボとの戦闘、お陰でコイツの出来ることもおおかた分かった」
「ああ、射撃装備の増設か? 戦闘記録ではライフルを破壊されて、近接攻撃以外に何も対応が出来なかったからな」
「いや、腕を飛ばす仕組みの実装が急務ってことだ」
 なんで?
「なんて?」
 レイの言葉に思わず目を瞬かせて聞き直す。レイは立ち尽くすスマートなキャバリアへと向き直り、先の戦闘を改めて振り返る。
 集団としての兵力、部隊長による連携、そしてフルチューンされたとは言え性能を覆すエースの操縦技術。
「第一波も統率自体は取れていた。今回は敵パイロットもだが防衛部隊から死人が出ないことを優先し立ち回らねばならない」
「俺が聞き返してるのは腕飛ばす話の事なんだけど」
「ああ、もう時間はないが仕上げられそうか?」
「人と喋ってるはずなのに言葉が上手く通じてるような通じてないような、だな」
 痛む頭にこめかみを抑えるおっちゃん。しかし出来る出来ないで言えば出来ると不敵な笑みを見せた。ハゲの癖に。
「だがその前に聞きたい。腕を飛ばしてどうするんだ?」
「敵に当てる。当然だろう?」
「え、猟兵にとっては当然なの?」
 だから腕がすっぽんすっぽん抜けるのか。そう一般人と猟兵の違いを思い知るおっちゃん。それ誤解ですよ。
 で、あれば弾数一発の最終兵器、質量弾かと思わず唸る。
「撃ったら戻って来るものだろ、ロケットパンチは」
「なんて? あ、いやいい、分かった。リサイクルするようにしろってことだな、うん」
 技術屋に怨みでもあるのかとばかりの無茶な注文である。しかしおっちゃんはハゲているだけあり俺はただ者ではないのだとサムズアップ。
「髪は無くとも神の手有りと呼ばれたこの『ゴッドハンド』テリヤキ・ヤタイ様に不可能はない!」
 やかましいわ。
 自信満々に自虐ネタを披露するおっちゃん。虚ろな視線を見ればまだネタとして消化し切れていない事が丸わかりである。面倒だぞハゲ。
「期待してるぞ、あんたの腕」
「お、っと」
 おっちゃんの胸をどんと叩いて口元を笑みに歪めるレイ。
「俺も精々、頑張るとするさ。他のプロの邪魔にならんようにな」

 吹き荒ぶ風は消えた。
 だが今は、荒れ狂う砂塵が迫る。
「さあて、今度こそ休憩は終わりだな」
 赤茶色に迫る壁へ不敵に笑うボイット・レンジャー。
 自分たちの駆る鋼の体と同じ構成、されどその数は二倍三倍といった所か。
「挨拶を食らわしてやるかぁ、とびきりデカいヤツをな! 副長!」
『隊長ー、セクハラです』
「…………、まー今のは仕方ないな」
 副長の言葉にうんうんと頷いて、それは一先ず置いといてと笑う。
 立ち並ぶ群青色の犬たちが、その両手に抱える試作兵器。晶も使用した独立捕捉型四連多弾頭ミサイルユニットだ。
 ガガンボ戦のように狙撃武器を使用するつもりはないようだ。今回は敵も地上部隊、更に拠点内への進行速度を考えれば死角も多くなると判断したのだろう。
 そこで用意したのがこの武器である。
「全く、猟兵ってのはいい装備を持ってやがるな」
 摩那から実時間で送られる情報を併用する事で直接視認していない敵機を捕捉している。
 本来ならば発射後に敵を捕捉して誘導を開始する種類の弾頭であるが、予め捕捉が終わっている状態での発射だ。ならば自らの拠点という敵の死角から空中へ発射しても、問題なく追尾できるという訳である。
 おっちゃんの手により自機と簡易接続されたミサイルユニットを空へと向ける。
「さあ、猟兵の奴らにも報せてやるぞ、開始の鐘の音をな!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

チェスカー・アーマライト
手札は何遍見返したって同じさ
アンタらが握ってんのはとびきりのジョーカー達
レイズ(ポーカーでの賭け金上乗せ)したって損はさせねーよ
さて、こっからはあたしの得意分野だ
力比べと行こうじゃねーか
引き続きスタンディングモード
施設はレンジャー部隊に任せて
弾幕張りつつ敵エースに突貫だ
相手は機動性も良いらしいが
腰部から射出するワイヤーさえ当てれれば
しっかり張り付いてやらぁ
ご自慢の突進も
至近距離の重量級相手にゃ威力も半減するハズ
敵同士の誤射も誘えりゃ言う事無しだ
エース機のヘイトがこっちに向けば
ロックアンカーでの蹴りを狙う
敵機の速度+カウンター気味に入るパイルバンカー
その威力(あじ)はどーよ?



●第二波迎撃開始。
『総員、発射ーっ!』
 ボイットの号令に群青色のドッグ、その全機が上空へミサイルユニットを放つ。
 一機につき四発のミサイルは上空で花開くように軌道を変え、迫る敵機の波へ向かう。
『来たかアサガシアン! 各機散開、迎撃行動に移りつつ敵拠点へ侵攻を――』
『スージー大尉!』
 各機へ命令を流すスージーへ思わず声を返したのは彼女の部下たちだ。そう、迫るミサイルが更に小型の誘導弾をばら撒いた事に衝撃を受けたのだ。
 晶のヴェルデフッド一機でも多大な効果を上げたそれを十機が放つのだから、まるで竜巻のような煙柱は圧巻だ。
『ミサイルのサイクロンなんぞ、空色サイクロンより強い私が敗けるワケないだろうがーっ!』
 何に張り合ってんのこの女。
 他のドッグと違い両肩に配置された可動式武装盾にはロケット砲の代わりに大口径の推進機が二基並列されている。
 右手の短機関銃の他、左手にはガガンボ用のバズーカを装備している。
『蛮族の新型兵器なんぞに後れを取って堪るか! 命令を変更する。各機突撃、敵の弾幕など正面から突破してやる!』
 無茶を言いおる。
『ウソやろ大尉』
『マジかよ大尉』
『冗談だろ大尉』
 レンジャー部隊に熱血馬鹿と言われたさすがのダンテアリオンも彼女の発言についていけないご様子である。
 迫りくる弾雨を前に突撃しろって言うんだからそんな気分にもなるよね。
『弾の避け方を教えてやる!』
 盾を後方へと可動すれば響く吸引音。
 炸裂する轟音と同時に急加速するスージーの紅きドッグは低空を飛行するようで、すでに足裏は接地されておらず履帯も意味を成していない。
 バズーカから発射した弾頭を自らの弾丸で撃ち抜きミサイルの雨の前で爆発させた。その破片は小型弾頭を巻き込んで誘爆し、発生する盛大な爆炎。
 露出した推進機を盾裏に格納し炎の中に突っ込んだスージーは履帯を用いて回転、炎を吹き散らし誘導弾の感知系を狂わせると同時に背を向けたまま疾走、連射する銃弾が次々と小型弾頭を粉砕し、その爆発に巻き込ませていく。
 小型だけに誘爆し易いのか、スージーは簡単なものだと再び反転、駆け抜け様に後発の小型弾頭も破壊していく。
『……道が出来ちまったぜ……』
『そもそもバズーカの弾を落とすとか一般軍人に求めるの止めてほしいんだけど』
『まあ、もうグダグダ言ってても仕方ないし、まだ道がある内に行ったほうがいんじゃね』
 軍人って厳しいね。
 ブラック上司ならぬブラック指揮官の無茶振り仕方なく腹を括り、分断されたミサイルの群れへ突撃していく。この光景に驚くのは防衛部隊の方が大きいだろう。
『待て待て待て待て、あんだけ撃って被害ゼロとか駄目だろ隊長!』
『うるせぇ俺のせいじゃねえ! 管制塔、道が出来た分は軌道が絞れるだろ、じゃんじゃん撃ってけ!
 副長、ピーピーギャーギャーうるさいカノフの装備外すの手伝ってやれ! 接近戦用意!』
『うっしゃあ! 腹ァ括るぞ!』
 吠える隊長に雄叫びで返し、簡易接続された配線を外しミサイルユニットを投げ捨てる隊員たち。
 短機関銃へと武器を持ち替えた彼らを強化した施設の陰に潜ませて、迎撃態勢に移る。
(せっかく強くして貰ったんだ、わざわざ遮蔽物のない所に出て袋叩きにされるいわれもねえ)
 そして何よりも。
(あいつらが無傷で敵を招き入れるはずもねえ)
 ボイットの確信は、双璧となった白煙から現れた。誘導弾を煙幕代わりに姿を現したのは更に白き姿に青空の如き色を持つ、ブルー・リーゼ。
『なんだとぉ!?』
 空にかかる虹とばかりに輝く機体へ、驚きながらも銃口を向けるスージー。
 反応が速い。
 即座の対応にこちらも射線をかわして飛行し、逃れる銃装甲を追って光を放つ。
『各機対空防御態勢!』
『各員対空防御!』
『各員対空防御!』
 スージーの言葉に部隊長たちも言葉を繋ぐ。
 全ての者がシルの動きに反応できた訳ではないが、幾度となく訓練された命令に体は反応するものだ。可動式武装盾で頭上を防御するしながらも軌道を変えぬ戦場の兵士たち。
『ぬわーっ!』
『南無三っ、あー駄目だぁ!』
 とは言え弾道も見えず気づいてもいない攻撃に適当な防御をした所で、その全てを防げるはずもない。リュミエール・イリゼから放つそれは迫り来る虹の帯となり、履帯を利用した機体の反転でかわすスージー・部隊長級とは違い辛うじて盾で防いだ者の他、脚部やその他の部位を破損し戦線を離脱していく敵機の姿。
 列が崩れ、後続を巻き込んで転倒するキャバリアたち。
 しかし迎撃態勢に移行した尚、戦闘を行くスージー機の進行速度はさして落ちてはいない。攻撃、回避、反撃、どれも止まらず流れるような動作で行う彼女には後に続く者が辛い程だ。
『お次はこちらですよ!』
 続いて白煙を引き裂いたのは黒い影、否、黒いキャバリア・エクアトゥール。
 新手か。銃口を向けるスージーに対し、こちらは急降下し地面を滑走するように敵機へ接近する。
『新装備も試させていただきます!』
 両肩の大盾から展開した光輝くサイキックエナジー、翼として開いたそれは更なる加速を呼び深紅のドッグへ体当たりを敢行する。
『うっ、おっ!』
 直撃を受けて体勢を崩した敵キャバリアは進路を変えミサイルの群れへと飛び込んだ。
 質量だけならドッグと比べるまでもないエクアトゥールだが、エール・ノワールを展開し速力を得た今ならば進行方向の同じ機体を弾き飛ばすのは造作もない。
 しかし彼女は転倒させての足止めを狙っただけで、左右どちらかに弾き飛ばすような真似はしていないのだ。
『逃げられた!』
『敵機確認、進行ルートより排撃せよ!』
『了解!』
 事態に気づいた後続部隊が短機関銃と可動式武装盾の砲身をエクアトゥールに向け、即座に発射。敵の攻撃に気づいた摩那は機体を左右に振り弾丸を回避、更に上昇して敵軍の追撃をかわす。
 こちらも再び白煙へ身を沈めて攪乱すれば、シルの上空攻撃に焦りを見せる敵部隊がそちらへ注意を割く余裕などない。
『クソ、だが敵拠点は目前だ! このまま突撃を続行する!』
 そう易々と向かわせはしない。
 追走するシルは更にブルー・リーゼの高度を上げて、エクアトゥールが退避した事でリュミエール・イリゼだけでなくブラースク改、テンペスタを開放。
 背面から伸身した二門の砲台と右手のビームランチャーを地上へ向ける。
『一斉発射!』
『びえーっ!』
『エゲつねぇ!』
 思わず泣き言を叫ぶ軍人すらも蹴散らして、降り注ぐ苛烈な攻撃から逃げるように拠点を目指す。次々と爆発する光に飲まれて機体を欠損したドッグが大地に転がるが、どれもコックピット周辺を破壊されてはいない。
 つまり敵は命を狙ってはいないと言うことか。
 先頭のドッグはシルの対応に甘い事だと笑い、続いてその顔は青ざめる。
(えっ、待てよ。て事は実は先行部隊が生きてたりするんじゃね?)
『スージーさんも迎撃されちゃったし、先頭の人は名無しのザコだし、もうお終いだーっ!』
『誰が名無しだふざけんな! スージー大尉は敵を引き付けて隠れただけだ、このまま突っ込めば問題ない!』
『やらせないんですけどね!』
『また出た~!』
 横合いから白煙を引き裂いたのは白き光の翼、黒い体にそれを従えたエクアトゥールが横合いからドッグの重装甲を切断する。
『集いし戦禍を払わんが為に、風よ舞え! 【トリニティ・エンハンス】!』
 エクアトゥールの体を包み込むように渦を巻く風が、その盾より生ずる白き光へと収束していく。
 拡大していく光の翼を前に、思わず前進する速度を弱めたドッグたちの頭上を飛び越えて虹色の輝きをその身に宿したブルー・リーゼがエクアトゥールと並ぶ。
『行きましょう、摩那さん!』
『はい!』
 広げた翼を刃と化して、迫るドッグへ突撃するエクアトゥール。その後方から虹色のビームを曲射するブルー・リーゼ。
 中央突破、迫る敵を分断すべく加速する二機に対し、誘導弾の煙がついに消失したと同時に現れたのは深紅のスージー機。
『ダーティ・ドライヴ・エンジン起動。ガガンボと違って試験的な導入ではなく戦闘を目的として採用されたこの力、たっぷりと味わわせてやろう!』
 両肩の排気筒から黒煙、どころか炎を噴き上げてその装甲が鳴動する。
 赤い塗料すらも流れ始めて地肌となる黒い装甲が僅かに覗く。立ち塞がる敵機に丁度良いとばかりすれ違い様の斬撃を狙う摩那。
 しかしその軌道修正を見切り真正面からこれを受け止めるドッグ。
『軽いなぁ、猟兵!』
『と、止めたっ!?』
 下からすくい上げるように投げ飛ばされ、空中で態勢を立て直したエクアトゥール。追撃をとバズーカを持ち出したドッグへシルはホーミングビームを集中させた。
 こちらは背面に移動させた二枚の盾で受け止めて、笑みを持って振り返る。
『怯えるな! 猟兵二機は私が抑える、全機突撃!』
『了解!』
『……やっぱり、エースは腕が違うみたい……!』
 バズーカをブルー・リーゼの足下に打ち込んで土煙を発生、駆け抜ける部下たちの援護をしつつ睨みを利かせるスージーに、上空からシルは思わず呟いた。

「ギィイイイイッ! ギチギチガチガチ!」
(わーい、お代わりがきたのよー)
 もはや目前まで迫った土煙を前に、戦闘開始と意気込む輩が多い中でアリスらは別の感情で心を弾ませていた。彼女らからすればご馳走が並んでやって来ているのだから嬉しい限りだろう。
 その背後には、先の戦闘でスクラップとなっていたガガンボたち。そのどれもが歪で接合面も合ってなければ左腕の代わりに右腕がくっついていたりなど狂科学者の造り上げた人造人間のようだ。
「ギエェェェ! ギイィィィ! カチカチカチカチ!」
(【みんな~もう少しだけがんばって~】)
 ヘルメットを被ったアリスの言葉に、ガガンボらは反応して動きを見せた。
(イッチ、ニ! イッチ、ニ!)
(足のバランスが悪いわー、右足に増員よー)
(はーいっ)
 機体の表面を這い回るのは芋虫のような、環状に開く口を持つアリスの妹、その幼体である。
 有機物だろうと無機物だろうと問答無用で寄生する彼女たちはその性質を利用して、寄生した者を動く屍と化すのだ。今回はロボットを自らの糸で継ぎ接ぎしたもので屍ではなく操り人形といった所か。
 しかし動力そのものが復活した訳でもないので、戦闘能力自体は減少している。
『と、言う事で熱源反応の全然ないガガンボが何故か動いているワケだが』
『俺、怖いっス』
『恐怖ですよねー』
 後方に控えるガガンボモドキたちが仲間だという事はさておいて、理解を遥かに超えた範疇である現象に恐怖しか感じない。
 流れる冷や汗を払い、意識を敵軍へと集中する。
『ま、仲間は仲間。ゾンビと一緒に戦うのも経験としちゃ悪くねえ』
『そーですねー』
『珍しく素直じゃねえか副長』
 軽口を叩きながら、摩那のマリオネットから送られる情報を精査しつつ同じ建物の陰に潜む部下へガガンボから回収したバズーカを手渡し、こちらは短機関銃を受け取る。
 銃を両手に構えて機動戦に備えてバズーカを持たせた者には援護を命じる。頭上で鳴り響く砲撃の音に、轟く着弾音は勇壮だが戦果を挙げている訳ではないようだ。
『敵はそのまま中に通せ。包囲攻撃、狩れる相手だけを狙うんだ。削ぎ落すだけでいい、無理して撃墜されるなよ!』
『了解!』
 猟兵に追い立てられて逃走するように拠点へと雪崩れ込むドッグの群れ。
 ショータイムだ。
 吠えたのはボイットか、それとも敵か。
『うひゃあっ、こいつらガガンボを組み込んで防壁作ってやがる!』
『蛮族に振り切れ過ぎだろ!』
『もはや言葉が通じる相手とは思えないぜ!』
 戦々恐々としてるあたり、やっぱり吠えたのはレンジャー部隊っぽいね。
『攻撃開始!』
 ボイットの号令を受けて攻撃を開始するレンジャー部隊。
『! 誘い込まれたのかっ!』
『各機散開、いや、各機盾を構えて攻撃方向へ突撃! 包囲されていても全周囲から攻撃されているワケじゃない、各方向からの攻撃を潰せばいい!』
『了解ぃー!』
『急げ、包囲に潰される前に!』
 切り替えの早い奴らだ。
 盾を構えて突撃をかけるドッグを前に、連射力の高い短機関銃でも抑えるのは困難だ。後退しながら二挺を連射するボイット、その背後から発射されたバズーカの弾頭が爆炎を上げる。
『いい感じだ、逆にこっちが囲まれる前に下がれ!』
『引き受けます。レンジャー部隊、牽制せずそのまま後退してください』
 下がるボイットらの前に降り立ったのはノエルの駆るエイストラだ。ドッグらからすれば細枝のように頼りない機体、それがただの一機とあればダンテアリオンの犬たちは嘲笑する。
『航空戦力でもない二本足、そんなキャバリア一機で俺たちのドッグを止められるものか!』
『踏み潰してやるぜーっ!』
『ヒャッハーッ!』
 モヒカンかよ。
 迫るドッグへプラズマライフルを見せびらかすように、それはまるで挑発だ。そんなことモヒカンにやったらやる事はひとつだよね。
『ギャハーッ!』
『ブチ壊してやるぜッー!』
 感情的になり直線をひた走る鋼鉄筋肉達磨に跳躍、片手でその肩を弾き、ハンドスプリングの要領で軽々と背後に回る。
『推進剤も弾薬も最小限で抑えた装備のエイストラ、重量は案外軽いんですよ』
 そもそも中量級だと語るが、その身軽な業は軽量級と言って差し支えない。それほどの可動域や運動性能を誇ると知るのは容易だ。
『しかぁーし! 身軽な所でこのドッグーッ!』
『この堅牢な装甲を貫けるものかよォー!』
『それが拳法殺しと呼ばれるドッグの所以よォーッ!!』
『…………』
 余裕綽々で振り返るドッグに、無言で向けるのはプラズマライフル。
 放たれた太い光条はその拳法殺しとか言う堅牢な装甲を易々と貫いた。どうやって拳法殺しになるのか疑問はあるが、そもそもそんなんでキャバリア同士のバトルでマウント取れるとか思わないで欲しい。
『ば、馬鹿なぁっ!』
 片足を吹き飛ばされ無様に這いつくばる姿が見物だぜェー!
 あっさりと倒れたハリボテのようなドッグはさておき、即座にカバーに入る残りの機体。モヒカンみたいな言動の割には健気じゃん。無意味だけど。
『高出力ビーム兵器の前にただ装甲を厚くしただけの防御能力など、デッドウェイトと言う他はありません。せめて盾は曲面装甲にしておくべきでしたね』
『あぁん!?』
『やってみろよぉおおおおおっ!!』
 やられた奴がそこに転がってるじゃん。
 盾裏の二門の砲口を向けたドッグに対し、エイストラもまた肩部に装備された【BS-Sプラズマキャノン】とプラズマライフルを敵機へ向ける。
 逡巡する間もない。跳ねるようなサイドステップで敵の射線をかわすと同時に光の帯を叩き込む。ご自慢の重装甲もあっという間もなくずたずたに引き裂かれ、着弾と同時に炸裂した熱気が大気を揺らす。
 装甲と空気とを焼き焦がすような悪臭が発生する中で戦闘能力を奪われた機体が転がる中、熱せられて赤くなった銃口を冷却。嬉しそうに集まってきたアリス妹が更に細かく解体してコックピットブロックをぶっこ抜いて行くのを見つめて、小さな溜息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『モノアイ・ゴースト』

POW   :    バリアチャージ
【バリアを纏った】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【支援機】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    パルス・オーバーブースト
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【オブリビオンマシン】から【光学兵器による一斉攻撃】を放つ。
WIZ   :    ゴーストスコードロン
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【支援キャバリア】が召喚される。支援キャバリアは敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ドール・プレイ。
 第一波、先行したガガンボ部隊のエースを相手に足止めを行ったのは摩那と桜花である。
 今回もまたエース・スージーを相手に立ち回る摩那であるが、同じくそれだけに留めるつもりはない。
『シルさん、敵の右側面から攪乱をお願いします!』
『わかりました!』
 空を行くブルー・リーゼは己の放つ光を利用して残像を作る。スージー機の右手に持つ短機関銃の弾丸をばら撒いた所で捉え切れるスピードではない。
 ただでさえ強い七色の光が目に焼き付き見事に攪乱されたスージーを、左側面から接近するエクアトゥール。
『なるほど、接近戦か』
 展開する光の翼に対し、バズーカで牽制するでなく空へと放るスージー。光の幻影に囚われながらもこちらの意図に気づいていたらしく、ドッグの左手の装甲が展開し激しい閃光を生じた。
 対装甲電気溶断機。
『とりゃあっ!』
『何っ!』
 その手を蹴り上げてかわしたエクアトゥール、続け様に可動した左肩の盾が長大な剣となった翼で斬撃を見舞う。
 直撃こそかわされたものの、右肘から先をばっさりと斬り落とされてスージーは驚愕した。損傷ではなく、完全なタイミングだと思ったそれを迎撃した摩那の反応速度と対応したエクアトゥールの性能だ。
 その僅かな隙に差し込まれたホーミングビームをからくもかわし、深紅のドッグは排気筒からの炎を消す。
『摩那さん、一度離れてください!』
『その必要はないぞ!』
 再び全砲門を開き一斉射撃の構えを見せたブルー・リーゼに対してスージー・ドッグは落下してきたバズーカ、先程自分が空へと投じた武器を左手で受ける。
 炸裂する光が中の弾薬を焼き切って、引火した火薬が爆発、一気に爆煙が広がった。
 煙幕のつもりか。
 摩那は即座にマリオネットによる追跡を狙うが、視界だけでなく爆発による高熱が拡散した為、熱感知による追跡も難しく。
『シルさん、煙に攻撃を!』
『はいっ』
 粉塵を引き裂くブルー・リーゼの光に対し、すでにそこに敵影はなく砕かれた地面が残るのみ。
 拠点へ向かったのか。二人はその言葉を言うでもなければ確認するでもなく、推進機を最大出力に上げた。

 拠点へ雪崩れ込んだ鋼の犬が、レンジャー部隊の包囲攻撃に各方向へ迎撃に向かった時。
 その様子を施設のひとつ、屋上から見つめていた冬季。各所であがる音の轟きに火薬の臭いが広がり再び戦場と化した拠点に思わず笑みを浮かべる。
 戦火に照らされた笑みをそのままに、後ろに控えるのは彼の自作した二足歩行戦闘用人型自律思考戦車、【宝貝・黄巾力士】。
「最大で百二十メートル級までいけますが、この戦場なら四十メートル級で充分でしょう」
 雑魚退治はお任せをとばかりに施設の屋上から跳躍する黄巾力士。
「クックック、戦場を駆ける有象無象の犬どもに、我が宝貝の真の姿を見せてやろう。
 行けぃ、【真・黄巾力士】! 我が敵を完膚なきまで滅し尽くせ!」
 響く高笑いを頭上に戴き、降り立つ黄巾力士は巨大化し、大地を揺るがし猛々しく聳える黄金の大山。
 精々五メートル程度のドッグなど四十メートルを記録する黄巾力士と比べるまでもなく、唐突な巨人の出現に呆気に取られたダンテアリオン軍。
『ひげっ!』
『……ちょっ――おいおいおいおいおいおいおいおい!』
 思わず動きの止まったそれに屈みこんだ巨体の掌が直撃し、周りのドッグを巻き込んで弾き飛ばす。もはやそれ自体が砲弾といった様子で、空から落下する敵機に大慌てで後退するレンジャー部隊。
『一旦退避だ、あのデカブツに巻き込まれちゃかなわんぞ!』
 背中にぶつかる仲間を押し退けて、必死の後退を見せる彼らの目前ぎりぎりに同型機が地面に叩きつけられる。
 恐ろしい光景に怖気が走る。対してダンテアリオンは果敢にも見上げる巨体を持つ黄巾力士に己の武器を向けていた。
『所詮はデカブツだ! 俺たちと同じローラーを足に備えているようだが、この拠点で好きには動けまい!
 距離を取りつつ足を狙え、集中攻撃!』
『サー・イェッサー!』
『おっ、さすが我が栄光国軍人! 気合入ってるゥ!』
 部下の気合入ってるゥなお返事に満足そうな部隊長。敵を前に何を言っとんのじゃ。
 しかし命令内容は至極真っ当で、ただでさえ動きに難のある巨体とこの地形、距離を離して足を狙われてしまえばひとたまりもないだろう。
 ――敵に遠距離攻撃が無ければ、の話であるが。
「我が黄巾力士の張り手一発でこちらの手の内をわかった気でいるのは、さすがに愚かしいぞ軍人ども」
 再び身を屈めた黄巾力士。その両手の甲に設置された砲台と、その巨大な砲頭がよく見えるように敵部隊へ突き付ける。
 今度戦慄したのは自身よりも巨大な武器を突き付けられたダンテアリオン・ドッグズだ。
『きゃーっ!』
『きゃーっ! きゃーっ!』
『きゃああああああっ!』
 絹を裂くような男の悲鳴。ちょっと軍人男子ィ!
 逃げ惑うドッグへ勿体ぶるように照準をつければ、逃げた先には同じような悲鳴をあげて逃走するレンジャー部隊の幾名かが見て取れた。
『こっちこないでーっ!』
『あっち行ってよーっ!』
 もう少し男らしく危機を乗り切る気概はないのか。
 一撃即死の砲身を突きつけられれば本性も表れるといった所か。一塊になって逃げだすアサガシア・ダンテアリオン両軍のドッグに対し、冬季は攻撃を止めるつもりもなく令を降す。
「発射(ファーシュー)!」
 重い音をたてて軋む巨体。
 砲撃体勢を取った黄巾力士の両手・頭頂部からなる総攻撃が、塊となって逃げ惑うドッグ一団を狙い違わず粉砕する。
 硝煙を盛大にぶち撒けて排出された空薬莢は、それだけで周囲を破壊する爆撃のように拠点を揺らし。
『すんでの所、だったな』
 粉砕されたキャバリアの破片が綿屑のように空へと舞い上がる中で、ぽつりと零したレイは撃ち放った飛拳が自らの腕に戻って来るのを待ち接合させる。
 新兵器となった飛ぶ鉄拳、ロケットパンチならぬ『エレクトロマグネティック・リペルパンチ』、略してEMRパンチの初の実践相手は味方になってしまった。
 攻撃というよりも仲間を黄巾力士の攻撃範囲から弾き出す為なので拳というよりも掌打である。
 発射後、開いた腕部から覗く翼と共に自律飛行、電磁誘導で戻る仕組みとなっている。ゴッドハンドは伊達じゃない。
『……はらひれはらほれ……』
『ああ、頭の中でお星様がチカチカしてらぁ』
 レンジャー部隊の操縦者は命を失っていないようであるが、その重量を弾き出す威力を伴った衝撃に機体の装甲は潰れ、操縦者の状態も考えればとても戦線復帰は出来ないだろう。腕部の翼を格納し、レイが睨むのは屋上に立つ冬季だ。
『分かっていて撃ったように見えたが?』
「……分かっていて……? ああ、そう言えば操縦者を救うのでしたか?」
 これは申し訳ありませんと笑みを浮かべ、自らが造りし宝貝【風火輪】を足に嵌める。地を這う愚物という揶揄に腹を立て制作したとの事だが、戦闘用として仕上げられ飛行速度は迅速で、自在の軌道で突き進む。
 ばらばらになった機体は手足を失い装甲がぼろぼろになってもボディだけは健在であった。それもそのはず狙い違わず着弾したのはドッグズの足下であり、弾け飛ぶ瓦礫を散弾の要領で用いたのだ。細かくなった弾丸では重厚な胸部装甲までは貫けず、脆い関節やその他の部分がまとめて破壊され動きが封じられたのだ。
 熱く焼けた鋼へ嬉しそうに解体を進めるとコックピットブロックごと気絶したパイロットを運搬していく。こいつらは追撃の恐怖体験しなくて良かったな。
『……お、おのれっ……味方の機体が盾となってくれたか……!』
(きゃーっ)
「ふむ?」
 瓦礫の中から立ち上がったのは、ほぼ無傷で生き残った一機のドッグ。解体しようとしていたアリスらは急に動き出したドッグに慌てて逃げ出して無傷だろう。生き残ったのは部隊長らしく他のドッグとは色が違い、目を引く黄色が塗られている。
 己の宝貝と同系統の色というのも気になるが。
「部隊長級はそこそこやると聞いておりますし、黄巾力士では火力も過剰。ここはレイさんにお任せしましょう」
 浮かぶ車輪が火を放ち風に乗って空を行く。冬季はその手に【仙丹】を握り、コックピットブロックを持って黄色のドッグから逃走するアリスらの後を追い。
「飛べ黄巾力士、地を駆けられないならば空を翔けよ!」
 主の言葉を体に刻み、宝貝【飛来椅】によりその巨体は宙に浮く。伝承に伝わる物であれば形は椅子そのものらしいが、こちらは推進機といて制作されたもの。
 これ程の機体を浮かすのは相当の力が必要だ。飛翔する黄巾力士の軌道直下には凄まじい音が轟き衝撃波が発生、行く先を押し潰すように破壊していく。
 アリスらが拠点施設を補強していなければ、それさえも破壊されていたかも知れない。
『無差別攻撃とは、厄介な代物だな』
 あるいはアリスの力を信頼した故か。
 どちらにせよ戦いを長引かせるのは拠点の消耗にも繋がる事だ。レイは相対するドッグにマグネロボ肆式に構えを取らせた。
『ふん、このドッグを相手にマッチ棒のような機体で一騎討ちか』
『良いのか、そう言った相手は悉くこの俺に撃破されていく――、予定だ』
『予定かーい! ふっ、しかし自信があるのは良い事だ』
 イエロー・ドッグは周囲を見回し、いい具合に破壊された場所だなと笑う。
 その顔面にEMRパンチ。
『痛いっ! 何すんの雰囲気出してる時に!』
『敵地で何を言っているんだお前は』
 今回ばかりは加減なしの拳を固めた飛拳であったが、直前に回避を見せた機体に打撃は浅く大きな損傷も見られない。
 急速後退し距離を取るイエロー・ドッグへ、新たに支給されたアサルトライフルで射撃するが、機体を回転させ自在に高速移動する敵機を捕捉し切れず。
 ちなみにオペレーター・アリスちゃんはもう大丈夫そうなので乗ってないようです。
『細い体でそれなりのパワーを持っている事は認めてやろう、しかし乗り手がヒヨッコではな!』
『ヒヨッコパンチ』
『うおっ、あぶねっ! って痛い痛い!』
 唐突に繰り出された左拳のEMRパンチに気を取られた隙に攻撃を受けるイエロー・ドッグだが、即座に構えた盾に大事には至っていない。
 距離を離しては埒が明かない。そう考えたのは両者共に。先ほどの黄巾力士の攻撃で短機関銃と可動式武装盾のロケット砲も上手く機能しておらず、イエロー・ドッグもさして優位に立っていた訳ではなかったのだ。
 飛来した拳を戻るマグネロボ肆式と、それを睨みつけるイエロー・ドッグ。僅かに静止した間にライフルを脇へと放るキャバリアの姿に、ダンテアリオン兵はにやりと笑う。
 突貫する。
 両肩から煙を噴き上げて迫る巨体に避ける気なしと見えたマグネロボ肆式。レイの体から溢れる覇気が機体から放出、稲妻を発生。
 振り上げた拳は地面を穿ち、迸る力が路盤を砕き瓦礫を巻き上げた。
『甘ァい、アメちゃんよりなァ!』
 履帯の回転方向を変える事でその身を反転させ、瓦礫の波をかわすイエロー・ドッグ。脇を潜り抜けた敵機は更に加速、砕かれた仲間の残骸を踏み場に跳躍する。
 右前方から迫るかと向き直るレイに対し、だから甘いのだと二度目の嘲笑。
 跳躍した機体で施設防壁に足裏の履帯を当て回転、軌道を変えての着地と同時に更に迫る。
(回り込むつもりか)
 ガガンボと違い飛行能力のないドッグ、地上戦用に造り上げられたとは言え鈍重な機体性能を覆す回避能力は操縦者の技量によるものだろう。
「それでもスピードはこちらが上……重量級を……鉄の棺桶にして差し上げます!」
『なにっ、うほぅ!?』
 頭部の不揃いのアンテナ毎、メインセンサーを打ち砕いたのは桜の花びらの刻印がある鋼を連ねた鉄扇、【桜鋼扇】。
 それを持つのは桜の花びらを纏う桜花だ。
『ひっ、人が空を飛んでるっ! 猟兵か!?』
 一陣の風となって飛び過ぎる彼女を見送り、モニターに走るノイズに焦りを見せる。
『……モ、モニターが……死ぬ……!』
 パーソナルカラーが違うぞイエロー・ドッグ。
 視界を塞がれたものの全てが見えないという訳でもなく、新手が飛び去ったのなら残るは元よりその場にいたマグネロボ肆式のみ。
(位置は掴んでいる、このまま突撃するのみ!)
 可動式武装盾を機体前面に構え、その質量に物を言わせて体当たりをかますイエロー・ドッグに対して回避を見せないマグネロボ肆式の姿。
 受け止める気か。否、迎撃しようと言うのか。
(そう、突進をかわす心算は元よりない。面は点で割るもんだ)
 右足を大きく後ろに引いて体を低く構えれば、突撃をかけるイエロー・ドッグの盾に向けて下方から抉り込むような拳を放つ。
 この質量差、覇気があっても直接受ければ良くて相打ち、悪くて大破、正面からぶつかり合うはずもない。打点をずらした一撃は見事、イエロー・ドッグの盾を貫いた。
 その拳に絡みついていたのは、普段はレイ本人の身に巻かれた長短の白銀の鎖、【枷】である。聖遺物であるそれは彼の意志で伸縮・集散自在かつ覇気による念動制御も可能だ。
 打点をずらしてもしっかりと衝撃を通せたのはこの枷の存在が大きいのだろう。
『馬鹿な!?』
『驚くには早い』
 ユーベルコード、【Crucifixion(クードス・トゥー・ユー)】。砕けた鎖は組み合わさって巨大な白銀の杭と化し、穴を穿たれた盾からその腕を更に貫いた。
『うおっ、貴様ぁ!』
『手は上だ』
『え、こう? にゃーっ!!』
 覇気を通して生じた雷撃が機体内部を駆け巡る。それらは内部配線を焼き切り火を放ち、空へと向けた右手から放出された。カッコいいじゃん。ただしそれが死に様だ。
 貫いた腕を引き抜いて、杭となったそれも再び鎖へと形状を変える。敵機は完全に機能を停止した様子で、ウンともスンともニャーとも言わない。
『大人しく投降しり、と言った所だがまあ、オレとコイツの力があれば。
 胸部装甲でも殴り抜き、引き千切れねえとも思っていないが』
 構えた指先までをも覇気で覆い、胸部を拳で貫くと共に強靭な指先で装甲を引っぺがす。
『ん? コクピットか?』
 完全に気を失っている操縦者に、勝負は決したかとひっそり溜息を吐く。
「案外とお早い決着だったようですね」
 そこへ炎と共に戻って来た冬季が気絶した男の口へ仙丹を押し込む。食えば不老不死になるとも言われている物だが彼の自作で、激甘なこともあってかおやつ扱いだ。アメちゃん大好き軍人の彼らもきっと満足してくれるだろう。
 後は放置していてもアリスたちが連れて行ってくれるはずだ。
「さあ、じゃんじゃん行きましょう。片付ける物が多いですからね」
『……物、ね……』
 冬季の言葉に含みを持たせつつも特に言い返すでもなく、飛び去る彼の後を追った。


●深紅のドッグ、再び!
 戦場は定まり始めた。
 晶の考えは各所で上がる戦火を根拠としてそう断じるに相応しく、被害を防ぎ戦闘が続けられると考えていいだろう。
 たった一機の例外を除いて。
(きゃーっ)
『うわあああああっ!』
『ひええええええっ!』
 戦場を飛び行くだけで巻き起こされる破壊の圧力にダンテアリオン・ドッグだけでなく、ひらひらと飛行していたアリス・ガガンボも巻き込まれて吹き飛ばされていく。
「ギィイエエエエエエエッ! ギヂギヂギヂ!」
(こらー! 飛ぶ時は気をつけなさーい!)
 巨大な背に向かって抗議の声ならぬ思念波を放つヘルメット・アリス。しかし、これで妹たちが更に広範囲に生殖するだろうと少し嬉しそうな思考も漏れている。
 これポジティブと取るべきかアリス・ラーヴァという種族の生存競争の厳しさにネガティブになるべきかわかんないね。
 晶は逞しいアリスの様子ならば問題ないのだろうと一息入れて、こちらもヴェルデフッドの戦闘モードを起動する。
『さてウィリアム。ミラージュ装甲展開、索敵、ジャミングをフルパワー。識別認識を妨害し、幻影を展開。
 常に状況を把握、更新してくれ』
『了解しました、マスター』
 周囲との色彩差が消えてヴェルデフッドの姿が消失すると同時に、足音だけが戦場を疾走する。
『一番二番、盾を構えて前へ! 三番四番はロケット砲構え、俺の後に続け!』
『了解!』
 陣形を整え強襲するダンテアリオン・ドッグズに、カワイコちゃんでなければノーサンキューだと軽口を叩いて後退するレンジャー部隊。
 ばらまかれる弾丸を盾で受け止めて、後方から続くドッグの砲撃にこちらも盾で防御するがいつまでもその威力は耐えられまい。
『この先だ、急がねえと木端微塵にされちまうぞ!』
『分かってるけどこいつら速いぜ、本当に大丈夫なのか!』
『信じるしかないだろって、――来るぞ!』
 何の小細工かは知らんが押し潰す。
 策など気にせずと猛進する敵部隊を前に、施設の裏へと回り込んだレンジャー部隊に間髪入れず追いついたダンテアリオン・ドッグズは、先頭の二機による体当たりでレンジャー部隊をぶちかまし。
『っ!?』
 しかしそれは実体がなく突き抜けてしまう。
 猪突猛進、ここに極まれり。確かに単純明快な攻撃ほど小細工を押し潰すに相応しい力を誇る。だが、小細工でなければ問題ないのだ。
『馬鹿な、囮の電子情報だとっ、とは言え追撃していたのは間違いなく実体だった、奴らは一体どこに消えたと言うのだ!?』
『答えは単純だ。――力には力で押させて貰った。だろう、ウィリアム』
『その通りです、マスター』
 ジャミングによる位置情報の誤差を引き起こし、そしてハイテクとアナログな手法による追跡回避。
(じゃじゃーんっ)
(早くどけるのよー!)
(えっさ、ほいさ!)
『…………、えっ?』
 背景だと思っていたそこから、わさわさっと体色を変化させて偽の光景を作り出していたアリスの幼虫たちが一斉に逃げ出し、裏に潜むアリス・ガガンボがハリボテを退かせば同時に逃走していたレンジャー部隊が姿を見せる。
 茫然としていた敵部隊も、目の前で左の可動式武装盾と短機関銃を構えた群青色の犬たちを見れば、即座隊列を組み直す。
『盾は堅牢、正面突破、効果的な戦術、迅速な指揮。教科書通りの行動は先行部隊の時と同じだが、その基本を徹底的に洗練する姿勢は嫌いじゃない。
 軍として機能するには正しい働きだが、敵地で孤立した部隊の取る行動ではないな!』
 施設屋上より飛び降りて、背後への警戒を怠ったダンテアリオン・ドッグズへハガラズの集中砲火を浴びせた。
『細工はしつつ、たまにはベテランの底力、全力を見せてやらないとな。ベテランの底力、見せてやるぜ!
 いくぞウィリアム!』
『オーケイ、マスター』
 【ベテランの意地(プライド)】とばかりの囮・陽動・伏兵・奇襲を組み合わせた作戦は、反応の良い敵部隊だからこそ効果は大きかった。
 ユーベルコードの力で連射力が上がったハガラズは唸る鋼に弾け飛ぶ空の薬莢が滝のように排出し、通常時とは比較にならない量の吐き出された弾丸が容赦なくドッグを貫く。
 当然ながら盾を前面に向けていたドッグに対応できるはずもなく、挟撃を受けて瞬く間に隊列が瓦解した。
『落ち着け、前列後列に別れて防御陣形を組めばまだ間に合う!』
『おっとっと、俺らだけじゃないんだぜ!?』
(アリスたちもいるのー)
『何だと、ぐおっ!』
 前後の攻撃だけならば対処出来たかも知れないが、浮遊能力を持つアリス・ガガンボの前には隊列を組み直しても上空から背面を狙える。
 ドッグのロケット砲、ヴェルデフッドのハガラズの火力を前にして盾を使わず凌げるはずもなく、とは言え重装甲であるドッグも機体構成から前面に比べ背面の装甲は脆い。
 ガガンボの短機関銃でも十分破壊は可能だ。
『……お、の、れ……っ! これも貴様ら猟兵どもの差し金かぁ!
 全機、防御を捨てて地面を撃てーっ!!』
『り、了解っ!』
 生き残りを賭けて。
 そんな想いすら見える一撃。身を屈めてコンクリート舗装されたその場に砲撃を叩き込むダンテアリオン・ドッグズ。
『そう来たか』
 巻き上がる粉塵に引き金を戻し、即座に回避行動を取るヴェルデフッドの横を弾丸と砲弾が飛び過ぎる。
 レンジャー部隊の攻撃だ。このまま攻撃していれば同士討ちとなったろう。防御を捨てて捨て身の回避、となれば次に来るのは。
『一機一壊! どぉっせいやぁー!』
『ウィリアムに頼るまでもない、暑苦しいだけに解り易い奴らだな!』
 左右の両腰にマウントされた【ビームダガー】の内の一本を投げ放ち、雷光を生じる左手を貫く。それでも尚と突撃をかます徹頭徹尾の猪突猛進ぶりには敬意を示すが。
 雄叫びを上げて迫る黒のドッグを前に、右の腰から取り外した柄を玩具のように投げて、空で左手に掴むと同時、逆手に発生した光の刃を構え、炎を巻き上げたのは複合エンジン搭載ブースターユニット。
『うおおおおおおおおおおおっ!』
 獣の如き咆哮を無言でいなし、すり抜けるようにヴェルデフッドのビームダガーがドッグの左脇を切り裂いた。
 機能を失い垂れ下がるそれに未練などなく、即座に履帯の回転を利用した裏拳を放つが、これもまたダッキングしてかわすと同時に頭上を過ぎる手首をビームダガーで切断。
『馬鹿な、こんな、これ程の開きが我らと猟兵にはあると言うのか!?』
『猟兵だけじじゃあないさ』
『な、に?』
 晶の言葉に振り向けば、粉塵が治まる中に崩れ落ちるダンテアリオン・ドッグズの姿。
 訓練に訓練を重ね鍛え続けた部下が敗れたという現実に、遂には心が折れたのか膝をつくドッグ。さすがにアリス・ガガンボの強力を得ての撃破であるが、これで何とかなったと溜息を吐くレンジャー部隊。
『しかしアリスの擬態能力も凄まじいものだったな』
「ギチギチ!」
(ウィリアムさんの指示のお陰よー)
『それだけの力があったからこそです、アリスさん』
 ウィリアムの言葉が示すかのように、ドッグの部品も追加されて急増されるアリス・ガガンボは更に群れを成して空へと飛び立った。

『さて、こっからはあたしの得意分野だ。力比べと行こうじゃねーか』
『ほっほっほ、このドッグを前に力比べとは、腹筋大崩壊と言った所ですな!』
 各施設を壁とする一本道。
 並ぶドッグの群れと対するはビッグタイガー。
『全機突撃、パターンB、行きなさい!』
『やってやる、やってやるぞぉーっ!』
『猟兵がなんだってんだ!』
『諦めなければ夢は叶う! ウィー・キャン・ドゥイット!』
 突撃部隊が噛ませ犬の台詞しかゆってないんですけど。
 余りにもやられ役な言葉に思わずチェスカーも苦笑い。短機関銃を撃ち鳴らし疾駆するダンテアリオン・ドッグズに、ロックアンカーで姿勢を固定したビッグタイガーはすでにドーザーを展開、豆鉄砲を受け止めながら主砲とパジョンカ、更に電動ノコギリを構えた盤石の体勢だ。
 ドーザーにパジョンカを固定、一斉砲撃を開始したビッグタイガーの前に堅牢を誇るドッグであろうと――。
『うをおぉぉぉぉっ!』
『貴様の実力を試してやる!』
『所詮は――おごぉっ!』
 噛ませ犬第二弾。盾を用いず突撃したのは、背面に回した盾を用いて二列目のドッグが踏み台に跳躍できるようにする為。
 内の一機は主砲が直撃、背後のキャバリアごと撃墜されたがそれでも二機は無事だ。こちらは踏み台にした連中と違い、可動式武装盾のロケット砲をこちらへと向けている。
 だが甘い。
 頭上に閃く太陽が一際輝きを増して、降り注ぐは陽光に在らず炎の翼。
『暴れてやろうぜ、バルジ・プロミネンス!』
 真っ赤に燃えた光の刃、大焔摩天を振りかざし急降下する隕石の如き炎の塊が空を行くドッグを真っ二つに両断した。
 いやちょっとズラして操縦者は傷つけないように気を付けてるね。下手に動くと危ないぞ。
 更にバルジ・プロミネンスと並ぶように降下してきたのは桜の花びらに包まれた桜花である。
「めーんっ!」
『たわらばっ!』
 束ねられた扇が直下のドッグの頭を砕き、全損といかないまでもその機能を破壊したのは言うまでもない。
『ひ、人が浮いている!』
『まーた猟兵か!』
「まあ、まーた猟兵ではありますけども」
 桜で桃色に染まった風に纏い、髪も逆巻く人間離れした姿に怯む熱血軍人たち。とは言え敵であるのが確定しているのにそのままというはずもなく、鋼の拳を振り上げる。
「確かに当たれば木っ端微塵になりますけれど――、当たりませんもの!」
 ユーベルコード【精霊覚醒・桜】は自らの意志に比例した戦闘能力の向上と飛翔能力、その速度を増大させる。
 駆け抜けるだけで衝撃波を発生させる桜の精霊が駆け抜ければ触れずともドッグたちは鈍器で殴られたかのようにふらつき、体勢を崩す。
『ファイヤーッ!』
 それは桜花の突撃よりも、猟兵の出現に合わせた攻撃だった。白いドッグの号令を受けて突撃をかけなかった残るドッグたちの一斉砲撃が味方ごと敵を討たんと迫り来る。
「砲煙弾雨の一騎駆けは、大正の御代でも経験済みですの」
 荒れ狂う暴力を前にしてもどこか余裕を見せた桜花、彼女は直撃を受けぬ道を見切り紙一重でこれをかわし更に前進。
 襲い来る弾道もかわされてしまえば桜花の衝撃波に軌道を逸らさざるを得ず、残るバルジ・プロミネンスやドッグらとはあらぬ方向へと飛んでいく。
 味方に構わず攻撃するとは。
 双眸に怒りを宿し、荒ぶ姿は風雨と呼ぶよりは雷光か。
 駆け抜けた彼女の一閃は防御する暇すら与えず、ホワイト・ドッグの頭部を破壊する。
「オブリビオンマシンなら、破魔と浄化は効くでしょう?」
『なんという事をっ!』
 だが、それもまた良し。
 過ぎる桜花は男の含みを持たせた言葉に振り返ると、視線の遥か先でウタが突撃を仕掛けた最後の一機を切断する所だった。
 肩装甲の紅炎を消して風になびくマフラーを手で引き寄せれば、その隙間を狙ったかのように放たれた砲弾が一斉攻撃をしかけたドッグに直撃する。
『うわあああっ! パ、パワーが違い過ぎる!』
『やられちまう!』
『だまらっしゃい! メインセンサーを破壊されたこの私が落ち着き払っているのですよ、それでもダンテアリオンの兵士ですか、バカチンが!』
 そんな事を言われても、目の見えない上官が落ち着き払った所で糞の役にも立たないじゃん。
 思わず出かけた言葉を喉にぐっと飲み干して、「ソウデスネ」と固い声で頷く。隙だらけなので桜花さんが戻りがけに頭を砕いちゃってるね。
『うわああああああっ! やっぱり駄目だーっ!!』
『どうかな』
『! お待ちしておりましたよ!』
 慌てふためく部下とは違い、冷静そのものの声の主は女であった。
 熱源反応、後方より高速接近。
 通常機では考えられない速度と熱量を伴うそれに、チェスカーは舌打ちしてビッグタイガーのアンカーを外す。巻き取るのももどかしく振り返った先では炎を巻き上げて迫る深紅、否、紅蓮のドッグ。
 夕焼けマントル・スージーの登場である。
『各員体勢を立て直せ! 目がやられているならば狙いなどと構う事は無い、撃ちまくれぇ!』
『了解!』
 スージーの言葉に吹っ切れたのか、やたらめったと攻撃を再開するドッグ。狙いが甘い所か桜花に頭部を破壊されているのだ、今はそんなものに構わずチェスカーは迫るスージー・ドッグを迎撃する。
 速い。速いが。
『直線軌道は格好の的だな!』
『抜かせ!』
 左右に機体を振り射線から逃れるものの、所詮は小手先。迫る敵機にわざと弾道を甘くすればそこに飛び込んでビッグタイガーへ肉薄する。
 右腕の無いスージー・ドッグに射撃兵装はなく、狙うは肉弾戦。
 盾を構えた敵機に対し、チェスカーの狙いは蹴りとロックアンカー。
『易いな、それは!』
 耳障りな音をたてて左足を軸に回転、更に両肩の可動式盾から覗く推進機が炎を噴射し強力な加速を加えた。ビッグタイガーの蹴りと共に放たれたアンカーを回避、動きをそのまま勢いに、重量級の回し蹴りがドーザーへ直撃する。
『うぅ、ぐっ!』
 カウンターを狙った所に更なるカウンター。
 蹴りを放った直後の不安定な体勢であった事とドーザーによる装甲のお陰でダメージらしいダメージはないがその威力により転倒、衝撃を受けて肺から息を漏らす。
『蛮兵だろうが猟兵だろうが、有象無象の貴様らに我がダンテアリオンの栄光を貶める事は出来ん!』
『…………!』
 追撃の溶断機。
 青い閃光に電動ノコギリで応戦、重量機用ブースター【ストームダンプ】を併用し、頭部を狙った射撃に可動式盾で防御したスージー・ドッグから逃れ仰向けの姿勢のまま滑走する。
 入れ替わりにその上から飛び込んだのはバルジ・プロミネンス。
(オブリビオンマシンを海へ還し、狂気に飲み込まれた人たちを開放する、その為にも!)
『おおおっ!』
『ちぃっ、前方十一時方向!』
 炎の翼を開いた一刀。
 受け止めるではなく側面を盾で押し退けその場を凌いだスージー。お返しとばかりの回転蹴りを見舞うが今度は可動式盾を使う時間もなく、履帯の回転だけの為に威力は低い。
 大焔摩天を戻す時間はないとバルジ・プロミネンスの左肩で受け止めたウタは、それでも地面に叩きつけられる事無く着地する。
「――ウタさん!」
『!?』
 そこへ飛来したロケット弾、盾の代わりと放つのはユーベルコード・ブレイズブラスト。
 伸びる炎が舌のようにそれらを舐め取り空中で爆砕する。全て破壊できなかった場合に備えて侵徹力軽減の為に、先の蹴りと同じく左肩を斜めに構えた避弾経始の防御体勢を取る。立ち上がったビッグタイガーも迎撃に協力してくれた事でそこまでの必要はなかったが。
(……指揮能力も高くて反応も速い、ただ正面から撃つだけじゃ即座に対応する、か……)
 空色サイクロン、ターバンと同じく桁外れの操縦技能。エースと呼ぶに相応しい相手だ。目を細めるチェスカーのビッグタイガーと並び、剣を構え直すウタのバルジ・プロミネンス。
「折檻折檻!」
『ドイヒーッ!』
 最後の一体と見えるドッグの武器を破壊し、抵抗出来ぬ状態にした桜花もチェスカーとウタの戦列に加わる。
「敵のスピードは見ました。私が攪乱しますから、その隙に!」
『えーっ! 人が飛んでるんですけどーっ!?』
 高速飛行する桜花の姿に目を剥いて後退するスージー。しょうがないね。
 しかし追い上げる桜花の速度に敵うはずもなく、衝撃波を受けてその機体は施設の防壁に叩きつけられた。
『ぐっ、……ぬぅ……悪趣味な壁を作りやがって!』
「投降してください、悪いようにはしません! …………、多分」
『おい最後なんて言った? こっち見ろこっちを!』
 ガガンボだらけの防壁に思わず唸るスージーへ桜花。まあ投降した後の処遇なんてアサガシアが決める事だしね。
 二機の速度にまだ追いつけていないビッグタイガーとバルジ・プロミネンス、それらに視線を送って笑みを浮かべたスージーは残る左手の装甲を展開する。
『お前ら猟兵と正面からやり合うつもりはないよ』
「私もやり合うつもりはないのですけど」
 ばちりと弾ける電光に左腕の骨格の一部を成す支柱、否、棒状の爆弾が防壁にされたガガンボの一部にスタッド溶接される。
 履帯を回して粉塵を巻き上げ、両肩の推進機を噴射する敵機に追撃をかける桜花。目隠しに使った粉塵の中、左腕から引き抜かれた爆弾が即座に起爆した。
『!』
 直観で上昇、爆発を避け更には飛び散る破片をかわした桜花に、ここで攻撃に転じたのはスージー・ドッグ。
『潰れろォ!』
「――しまった……!」


●激走闘犬!
 からから、からから。
 捕虜の詰め込まれた格納庫。
 台車に乗せられた、古ぼけた見た目だが大型のモニターを持ってきてアリス妹は配線を繋ぐ。モニターの上にはカメラを置き、準備完了だと一息ついた。
(きちんと映るかお試しよー)
(? 全然違う映像が出てるのー)
「……あれは……」
 出力された映像は拠点施設の監視カメラのものだ。次々と撃墜されていく仲間の無様なやられ姿に思わず顔を覆いたくなるダンテアリオン兵士。お前らふんじばられてるから無理だけどな。
 同時に、それらから助け出される同胞の姿がその目に映る。
(奴らの言葉は本当だったか)
 先程やってきた晶たちの言葉を思い出して、肩の力を抜くターバン。
「……そうだ……我らの偉大なるダンテアリオンが史上最高の国家であるのは塗り替えようのない確かな事実……にも関わらず、それを証明しようなどと訳のわからない行動に走ってしまった俺たちはやはり、オブリビオンマシンに操られていたのか……」
「……大尉……」
 しんみりとした空気。カルト教団みたいな言葉を空気でごまかしちゃいかんよ。
 義には義で答えるのがダンテアリオン軍人だ。声を大にした大尉に呼応する部下たち。そこに氾濫の兆しと見たアリス妹たちが自分たちの糸を適当な棒に巻いた柔らかなこん棒とベシベシ叩く。
(脱獄は許されないのよー!)
(折檻折檻!)
「ごわああっ! 痛いっ、痛――くない、な? いやウザいぞこれヤメロ!」
「別に脱獄と考えてないからぁ!」

『……こ、れはっ……?』
 生身の肉体へ向けた拳の受けた衝撃は、明らかな装甲の感触。突如として現れた黄金の塊に困惑するスージー。打撃直前の柔らかな膜を打つかのような感触もあり、威力が完全に殺されている。
 助かったと零し礼を述べた桜花に、彼女を守った黄巾力士の手を退けてその右肩に座る冬季は笑みを見せた。
『このデカブツッ! 構成にドッグと似た部分もあるが、単純機構に見えてこの動きの柔軟性はなんだ!?』
「黄巾力士はこう見えて宝貝ですから。この世界の機動騎士とは違って当然です」
『パオペエって何だ!?』
 混乱するスージーにチャンスとばかり、今度は黄巾力士の左肩からヘルメットを被ったアリスがひょっこりと顔を覗かせた。
「ギィィイギギギッ! ガチガチガチ!」
(今よー、対地砲撃用キャノンパックでホットドッグにしてあげるのー)
(りょーかーいっ)
 ドッグを砲撃で焼き焦がしてホットドッグってね!
 黄巾力士の背にのったアリス・ガガンボたちが一斉に飛び立ち、継ぎ接ぎだらけの対地砲撃用キャノンパックへ換装されたそれらは、着地するスージー・ドッグへ砲口を向けた。
「ギヂギヂギヂッ! ガチッ、ガチッ!」
(今度はアリスたちが空からこーげきするのよー)
『何だこいつらは!?』
 熱源反応のない歪なガガンボに囲まれ、爆破した瓦礫を履帯で巻き上げ粉塵を発生、煙幕を張る。
「ギエーッ!」
(発射よーっ)
(いえすまむ!)
 煙幕に向けて次々と発射される砲弾が爆炎を上げるが、発射の衝撃に耐え切れず自壊するアリス・ガガンボも見受けられた。
「ギチチッ」
(マイナーチェンジのキャノンモードはなかなかの威力ねー)
 むしろ視界を塞ぐ要素を増やしていくが、それだけの火力というだけに満足そうなヘルメット・アリス。
 しかしここで墜落していくそれらを踏みつけて、ガガンボの腰にマウントされたバズーカを拾い上げるのはスージー・ドッグだ。
『舐めた真似をーっ!』
(きゃーっ)
(動きが速いわー!)
 その性能を如何なく発揮し地上をジグザグに走行、次々とアリス・ガガンボを破壊していく。とは言え元より破壊された機体、撃墜された傍からアリスたちが寄ってたかって糸で部品を繋ぎ留め、幼虫による可動再開である。
『ぎええええええっ! きめぇーっ!!』
 女の子らしい悲鳴ではないが女の子らしい感情で地面をウゴウゴした後にゾンビのように立ち上がるガガンボの群れに衝撃を受ける。
『追いついた!』
 黄巾力士の陰より躍り出て、ビッグタイガーによる電動ノコギリとパジョンカによる射撃と接近。迫る弾丸に射線からひらりとかわすが、空中からの砲撃も加わり回避行動が狭まれたそこへ、炎の翼を開いたバルジ・プロミネンスが肉薄する。
 この野郎。
 左手に電光を発生させたスージー・ドッグの張り手を潜り、かわし様の紅蓮の一閃。
『くそったれぇ!』
 脇腹を深々と切り裂かれながら辛くも両断は避けたがダメージは大きく、配線の切断された影響か脚部は震え所々から火花を散らす。
 逃走しつつの砲撃をブレイズブラストの炎の壁で防御するが、大焔摩天で切り裂いた先にすでに敵影は無かった。
『……あいつ……ゲリラ戦でもやるつもりか』
「ギチギチ!」
(妹たちが追ってるわー、逃げられる前に他のみんなに連絡するわね~)
 アリスの言葉にウタも頷き、ふらふらと空中から後を追うアリス・ガガンボを目印とした。
 追走するガガンボは速度が遅いもののこれだけ大量に追い回されれば目印には十分で、スージーは歯噛みしつつ機体を加速させる。
 両肩から炎を噴き出し疾走する深紅のドッグ、その前に姿を現したのはマグネロボ肆式、レイ・オブライト。
『お急ぎらしいが、ここが終着点だ』
『寝惚けろ!』
 レーダーに反応がない為、視線を左右に走らせ味方機がいないことを直接視認。戦闘や黄巾力士の飛行痕で砕けた施設の防壁をレール代わりに履帯で駆け抜けて逃れようとしたその足を、遠方より飛来した光が貫いた。
『ヒット。さすがですね、マスター』
『俺の腕もイケるもんだな』
 ステルス装甲を展開し伏せていたヴェルデフッドは、ビームライフルを連結しキャノンモードにしており、レイの援護を優先していた。
 爆損し足掛かりを失ったドッグ。ただでさえレーダーの利かない環境で見えぬ敵からの攻撃はさしものスージーも気取る事が出来ず、内心ほぞを噛みながらも残る右足と両肩の推進機で体勢を立て直す。
 粒子攻撃の煌めきから射線を思い描き、マグネロボ肆式を盾に軌道を修正。
『だからどうしたぁあああっ!!』
『だから? 言っただろう、終着点だとな』
 迫るスージー・ドッグに発動したユーベルコードは、地雷のように予め地面に打ち込まれた白銀の杭。
 無数に食い込んだそれらが雷を呼び、機体表面を駆け抜けて全身から火花を散らす。
『おおっ!?』
 パワーダウンした機体、即座にD2エンジンを起動し出力を確保したスージーのメインモニター一杯に移るのは、マグネロボ肆式の発射したEMRパンチ。
 即座に盾で防御しつつもふらつきつつも急速後退したその背へ、再度追いついたと笑みを見せたチェスカーの、荒い操縦をそのままに機体を振り回すが如き後ろ回し蹴りが炸裂する。
『な、なんだぁ!?』
 凄まじい衝撃に揺さぶられた操縦席、各所に鳴り響く警告音に新たなものが加わり、ただ打撃を受けただけじゃないと知るスージーに、女の笑みは濃く。
 弾き飛ばされた勢いを利用した蹴りとロックアンカーによる打突。排気筒の一本が根本から粉砕され、冷却機関の異常が発生した。
『てめぇの逃げ足にハードパンチャー並みのカウンターだ。おっと、パンチじゃないなんて野暮なことは言いなさんな、お威力(あじ)はどーよ?』
『こぉのっ!』
 挑発するチェスカーへ振り向くスージー。再び纏った熱気で熱く焼けた装甲の一部を開放し、動力炉保護に使用するエネルギー屑を放射、強制冷却と反撃を同時に行う。
 だがその直前に放たれた腰部のアンカーワイヤーが脆くなった胸部装甲を貫き、本体を振り回した。それでも放たれた反撃が空を切ったのは、それだけが原因ではない。
 【タンクキャバリア】、ビッグタイガーのタンクモードだ。全高を下げた機体の頭上を拡散放射されたエネルギー屑が飛び過ぎて、こちらへバズーカの照準をスージーが合わせる前に砲塔側面に配置された内装型擲弾発射機【トレンチャー】が火を噴いた。
 怒りに震えながらも冷静に盾での防御を平行するスージーにより散弾は止められたが、ほぼ接射の状況に盾を支える支柱も軋み。
 同時に開いた空間に割り込んだビッグタイガーの主砲が、赤く燃える犬の頭を粉砕した。
『…………!』
 降参しろ、その言葉をチェスカーが突きつける前に開いたオーバーフレーム。操縦席を露出させてヘルメットを投げ捨てたスージーは、血走った目をビッグタイガーへ向けていた。
『正気かよ!』
「戦争やってんだよ!」
 思わず叫んだチェスカーへ喉も裂けよとばかりに叫び返すスージー。これ以上振り回されては貯まらないとその身を蝕むワイヤーに盾の推進機から炎を直接吹きかけて強引に焼き切った。
 距離を離しながら副砲パジョンカと近接散弾を盾で受け止めながらタンク側面に回り込み、体当たりを見舞う。突進距離を稼げぬ体当たりなど必殺の威力を発揮する事は無いが、揺さぶられた機体内部でチェスカーが反撃体勢を整える間に再び距離を離し施設の間へと逃げ込んだ。
『待っていたよ、スージーさん!』
『第二ラウンド開始です』
『…………』
「……甘くは……ないか……」
 スージーの逃走経路に待ち構えていたのはシル、摩那、ノエルの搭乗する各機ブルー・リーゼとエクアトゥール、そしてエイストラ。
 この様子では他の道にも猟兵たちが待ち受けていたのだろうと、逃げ道を塞がれていた事に思わず苦笑する。
 だが。
「偉大なるダンテアリオンを戴くこの身こそ、戦乱の世を貫く尖兵だ。私は易々と負けんぞ猟兵ども!」
『そう難しく考える必要はないです』
 先行するエイストラに目測でバズーカの砲口を合わせるスージー。本来ならば児戯どころか狂気の沙汰とも思えるその行為に対しても余念なく、回避行動へ移るノエル。
『ちぃっ!』
『速さで負けはしませんよ。さあ、ラグのお時間です』
 まともに照準がつけられないのは確かなのだからと、即座に狙い易い有利なポジションへと移動する。同時に始動するユーベルコードは【フォックストロット】。
 前進する勢いはそのままにステップを刻んで左右へ揺れ動く、だけでなく跳ぶ丸みを帯びた白いその姿。バイブロジェットと機体本体のスラスト用ブースターとは別個になる為、慣性を無視する鋭角的な動きが可能である。
 その慣性に耐えているのも、彼女がレプリカントである事に起因するのか。
「ウサギみたいにちょこちょことぉ!」
 直撃は不可能だと悟ったスージーは足下へ砲弾、それを正に兎の如く跳躍してかわしたエイストラ。虚空で一回転しスージー・ドッグへ伸し掛かるように腕に内蔵された【BX-Aビームブレイド】を展開する。
 狙うは残る排気筒。
 明らかにオーバーヒートを起こしている敵機に対し、冷却機関を奪うのは常道。斬り捌かれた背面にバズーカごと怒りの裏拳を放てばダンスのようにひらりとかわして蹴りを放つ。
 ただでさえ片足、それも空振りで重心のずれた所への一撃だ、余計な力など必要もなく倒れ込んだドッグ。
 その間際にも、すでに両肩の推進機を用いて受け身の姿勢に移っているのはさすがの反応と言うべきだろう。
『いただきます!』
 だが、その隙を見逃さず駆け抜けたエクアトゥールの光の刃。燦然と輝く陽光にも負けぬ光の帯が、今度はドッグの左肩を斬り飛ばした。
 煌めく粒子を風に乗せて、振り返る桎梏の前には推進力を失い崩れ落ちる敵機の姿。
 装甲下部のバーニヤを露出させるが、それでもこの機体重量を支えるには出力が足りない。
「くそったれがぁーっ!!」
 異常発熱に制限のかかったD2エンジンではこれ以上のパワーを得る事が出来ず、遂には沈む巨体――。
 を、履帯と組み合わせて滑走させるスージー。
『嘘でしょう、しつこい!』
「生憎だがこっちは勝つ為に戦ってるんだよ!」
 その身を起こす事は無理だと判断し、地面に寝そべるような体勢での移動は機体表面を削り衝撃にシートは揺れるがそれでも彼女の目に諦めの色はない。
 飛翔するエクアトゥールに逃走しつつ拳銃で応戦する往生際の悪さに舌を巻くが、それでもこれ以上の手出しを摩那はするつもりはなかった。
 第三の矢は、既に射られているのだから。
『……光の精霊よ……。我が身に宿りて、全てを斬り裂けっ!』
「!?」
 纏うは光り、現れるはブルー・リーゼ。
 【エレメンタルドライブ・ライトミラージュ】は光の精霊を機体に宿す瞬間移動。シルの魔力により構成された光の刃が、遂にスージー・ドッグをばらばらに引き裂いたのだった。


●現る、元凶のオブリビオンマシン。
『おおっ、通信系が復活したぞ!』
『スージー大尉はどうした!? 他の皆は!』
 妨害を受けて敵拠点でばらばらになったダンテアリオン・ドッグズ。そのほとんどはすでに猟兵とレンジャー部隊に破壊されている中、突如として復活した通信に喜びの声を上げた。
 希望を見出したのだろう、その顔は誰もが輝いている。
『聞こえているか、我らが同志、同胞、轡を並べし尖兵よ』
『……こ、この声はターバン大尉……?』
 それはヴェルデフッドを中継に使った強制ジャック、捕虜となったターバンらの姿が映し出されている。もこもことは言えやたらめったに殴られているので顔の腫れている者も見受けられたがそこは置いておこう。
 拠点制圧の為に波状攻撃第一波として送られた先行部隊、その操縦者である彼らはこうして無事だと自らの健在を伝えて、ターバンは声を張り上げた。
『我々は負けた。だがこの戦い、既に我々は負けていたのだ。おかしく思わないか、なぜ我々が建ったのか、何の為に我々が起ったのか!』
『…………、なあ、おい』
『ああ』
 懸命にスピーチを垂れ流すターバンだったが、戦場の兵士たちはすでにそれを見てはいなかった。彼の後ろでブイサインやサムズアップで元気っぷりを見せる男たちに、死亡していたと思いやる気を漲らせた彼らから急速に士気が抜けていく。
『上げて落とすとかナシだろ』
『ホントさー、もうさー、人生最悪の日だわ』
『なんかやる気なくなっちゃったもん、俺――どぅわっ!?』
 意気消沈するドッグの背中に直撃する巨大な足。黄巾力士の降下様の飛び蹴りがその背にぶちかまされて、必殺級の一撃に四肢をもげ飛ばしながらボールのように他のドッグも巻き込んで遠方まで弾き飛ばされた。
 戦場でぼーっとしているからだぞ。
 なお、同じく戦場でぼーっとしていたレンジャー部隊の隊長ボイットのドッグを巻き込んだことでうまい具合に勢いが削がれたようだ。思わず部隊内から湧き上がった拍手喝采に、黄巾力士のの肩に座っていた冬季はきちんと見ていなかったと悪びれる様子もない。
「しかし敵は戦意喪失、これ以上の蹂躙は無理に見えますね」
 ちらと後方で睨みを利かせるバルジ・プロミネンスを盗み見て、冬季は肩を竦めた。
(ふーぅ、これ以上の無茶はないみたいだな)
 矛を収めて収縮する黄巾力士にウタはひっそりと息を吐き、二戦を共に戦い抜いた相棒に唇を歪める。
 次はいよいよ親玉だと、頼もしき相棒に声をかけた。
 戦闘の影響も考え、拠点施設の拡声器からも放たれるターバンの言葉を聞きながら風に揺れて、スージーは打ち身で動けなくなった体を、抱える桜花に全て委ねていた。
 シルに機体を完全破壊された彼女は、爆発する前に桜花によって助け出されていたのだ。
 風に舞う桜の花びらに囲まれて、全てを出し尽くした様子の彼女に桜花は笑う。
「すぐに治療して差し上げますから」
「…………、有難うよ」
「当然のことです」
「そうじゃなくてさ。その、ガガンボに乗ってた奴らも助けてくれたろ、その礼さ」
「ええ、ですから、当然のことですよ」
 桜花の言葉に小さく呻いて、皮肉げに笑う。
 どちらにせよ軍人である自分は目的を達成したのだと。その言葉に眉を潜めつつ医務室へ向かう桜花。
 最前線に残っていたレイは、手部がぐしゃぐしゃになってしまったマグネロボ肆式に頬を掻く。この状態ではすぐに戦線復帰は厳しそうだと。まあ取り換えるだけだから大丈夫だよ。整備班が泣くだろうけど。
『どちらにせよまずは格納庫に――』
 と。
 背後からの衝撃が地面を揺らす。攻撃を受けた訳ではない、背後に降り立つ者がいたのだ。
 すでに戦闘行為の終了しているこの拠点で、最後に来る者など分かり切っているもの。同時に、あれだけスージーがこちらへの打撃よりも生き延びる事、というよりも損傷を防ぐ立ち回りを優先した理由を悟る。
 あくまで勝利を目指したターバンと、違い猟兵を相手にすでに勝機を見出していなかったスージー。彼女は時間稼ぎの為に戦い続けていたのだ。
『やってくれたな、小アサガシアに徒党を成す蛮族ども、そしてそれにあやかる猟兵よ』
『待ちくたびれたぞ、大将』
『大将ではない、少佐であぁる!!』
 振り返るマグネロボ肆式に、一つ目は禍々しく輝いた。


●決戦のオブリビオンマシン!
 ゆらゆらと揺らめく怪しき影。
 白銀の騎士を思わせる外観ながら、怖気すら感じる敵意を剥き出しにした波動を発するキャバリアは、一歩、また一歩と拠点を行く。
『……ターバン、そしてスージー……! 我が軍の誇るヴァイオレットメッツ、いやヴァイオレットメイド、いやVM、えーっと。うん。
 ともかくこの二名を退けたその手腕、まずは褒めておこうか!』
 傾く日差しを背に吠える男。大物気取るなら部下の通り名覚えるぐらいしてくださいよー。むしろあのネーミングを修正させろ。
 ともあれイーデン・ランバーは戦場で部品とされたガガンボと、無様に骸を晒すドッグにこれらは栄光への礎なのだと嘯いた。
 そう。
『我らこそは時代を導く標、世界をダンテアリオンを戴くことで正常となり戦乱の世は治まる。統一されるのだ、ダンテアリオンの名の下に!
 おぉ、素晴らしきは統一国家ダンテアリオン、何物にも成しきれなかった恒久の安寧を世界にもたらす者!』
『なんだこのお花畑野郎は』
『突っ込み役がいないと寂しいですねー』
『隊長、今医務室だもんなぁ』
 ランバー少佐の妄言に悪態を吐くレンジャー部隊。オープンチャンネルの通信の為、その言葉はランバーにも届き頬を引きつらせる。絶対わざとやってるやつ。
 少佐は深く、深く呼吸して気を落ち着かせると、こめかみを指で撃ちながら隠れたレンジャー部隊へ言葉を投げた。
『あー、わかるよ諸君。君たちは突然の攻撃に混乱しているのだろうだが! 見たまえ、これが文明との邂逅というものだ。
 旧時代の遺物のような文化レベルで機体を組み込み防壁とするなど、君たちの野蛮さ・稚拙さは見るに堪えない! だが!
 先程も言ったように私は諸君らの手腕を評価しているそう! その知性なき腕力を活用する為にも我らダンテアリオンに支配されてこそ、君たちには華というものが産まれる。
 共に歩もうじゃないか、文明の道を!』
 妄言ってレベルじゃねーぞ。
 そもそもそれやったの俺らじゃないもん、とばかりのレンジャー部隊だが答えなど決まっている。他人の敷地を踏み荒らす余所者など、排撃こそが答えなのだから。
『沈黙、か。君たちの意志は分かった、そうまでして戦いたいと』
『いや普通に何て返せばいいか分からないだけっす。キモ過ぎて』
 思わず素で返した副長にランバーの額に青筋が浮かぶ。
『ぶっ殺すぞ未開の蛮族どもがぁああああああ!!』
『やってみろやこらああああああああ!!』
 遂に医務室から施設拡声器を使ってやり返したボイット・レンジャー。
 割と危機的状況であった拠点での攻防も遂に最後の戦力が現れて、その割には程度の低い口喧嘩が開始の合図となった。


・ボス戦です。敵の技量は一章、二章のエース程ではありませんが、それを補って余りある性能のオブリビオンマシンに搭乗しています。
・基本戦闘能力が高く、拠点施設の武器では足止めできるかどうかという差があります。他章と同じく防衛部隊との連携は可能ですが、レンジャー部隊がまともに正面切って戦闘を行った場合、生き残る事はできないでしょう。
・二章に引き続き防壁が設置されているため、施設の守りを気にする必要はありません。
・捕えた捕虜を利用する事が可能ですが、イーデン・ランバーに対し大きな効果は期待できません。一瞬だけ注意を逸らすなど、僅かであれば効果があります。
・二章からほとんど時間差のない戦闘となりますが、使用キャバリア、レンタルキャバリアやスーパーロボットなどは整備班の中にゴッドハンドがいるので問題なく修理補給が完了しています。
・別の機械への乗り換え、パワーアップや機能追加などもゴッドハンドがやってくれますが廃人になるかも知れません。戦闘終了後に胃薬でも渡して下さい。
・クロムキャバリアに陰謀は多く渦巻いています。そのひとつであるこの戦場を、確実に破壊しましょう。
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

えー、かわいい防壁なのにー野蛮なんてひどーい
それにエコに気を使って防壁にに埋まった機体は後で部品どりして残りはご飯になるのよー?
それにアリスは戦争を起こす人の方が野蛮だと思うなー
という事でそんな意地悪な事を言う人にはエコ執行でーす
妹達を沢山呼んで、落ちているガガンボやドッグの残骸を盾にして【ダッシュ】でとつげきー
【団体行動】で『モノアイ・ゴースト』さんのバリアチャージを押しとどめるのよー
接近できたらワラワラと機体に取りついて【鎧砕き】な自慢の挟角で比較的脆そうな部品をもぎ取りましょー
廃品回収にご協力くださーい、この活動を通してランバー少佐もきっとエコの精神に目覚めるはずだわー


ユーフィ・バウム
戦友がこちらの戦場で戦っているとお聞きしました
ブライト・ナイト」で、助力いたします

機体の武器にオーラを込め、力いっぱい
【なぎ払い】、【衝撃波】を見舞います

しかしこれはあくまで牽制で―持ち味を生かすっ!
【ダッシュ】で至近距離の戦いを挑みましょう

敵からの攻撃は【見切り】直撃を避けたうえで
【カウンター】のナックルを叩き込みます
機体での近接戦は一つ間違えば行動不能でしょうが

【勇気】と【覚悟】とともに、
機体の関節部や急所を突く【鎧砕き】の
打撃を入れていく

相手が必殺のバリアチャージを仕掛けてくるなら、
こちらもビーム発生装置からの
【オーラ防御】で機体を包み、突進です
これが、輝闘機の《トランスクラッシュ》ッ!


シル・ウィンディア
…うん、なんだろ。
もっとシリアスな感じな気がしないでもなかったのに…

…でも、実力は本物なら油断はしないよっ!
さすがに、砲撃系魔法を撃つとまずいよなぁ…
よし、これで行こう!

推力移動でジャンプしてからの空中機動に移行
高度に注意して空中戦だね

ランチャーは最初から連射モード
ホーミングビームとの一斉発射で攻撃するよ
避けられても、ツインキャノンで追撃っ!

敵の攻撃やUCの回避は
第六感で殺気・敵意を感じて、動きを見切り、瞬間思考力で回避・オーラ防御の判断をするよ
回避時は、残像を生みつつ攪乱回避だね

近接戦になったら、セイバーで斬りかかるよ
受けられたら…蹴るね
そしたら…
《指定UC》を全力で!
全部、持っていけーっ!



●ちょいと時間を遡ろう。
 夕焼けマントル・スージーの駆るドッグが撃破されたその直後。
 アリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)とその妹たちが列を成してふんじばられた捕虜たちを格納庫へ移送している。
 方向的にガガンボ・パイロットたちと同じ場所に詰め込まれるようだ。こいつら同じ所に入れていいのかね。気にする必要ないけどさ。
「ギギギッ、ギギィ!」
(ここよー、けいれーい!)
(けいれーい!)
 びしっ、と前肢で敬礼を返す格納庫の見張り役である妹二匹。ヘルメットを被ったアリスの命令に従い扉を開くと、捕虜を積んだアリスたちが続々と格納庫に入っていく。
 中から悲鳴が聞こえる事を鑑みるに、また適当にぽいぽい詰め込んで誰か氏らが下敷きになっているのかも知れない。やっぱり気にする必要ないね。
 捕虜どもを格納庫に詰め込んでいる間、アリスは妹たちへ敬礼を行い別の格納庫へと向かう。そもそも群体であり意識を共有、更に交信できる彼女たちに道案内役など必要ないのだが、そういう役どころをやりたかったのだろうか。
 ヘルメット・アリスの向かう先はゴッドハンドこそハゲ隠しのおっちゃんのいる格納庫だ。大量のガガンボが格納されており、アリスの搭乗に疲れた様子ながら笑みを見せる。
「どうだい、他の猟兵の皆さん含め、全部補給を終わらしてやったぞ。ロボットだってこんな真似はできねえさ」
「ギチギチ!」
(ありがとーなのー。でも次の出撃に使う予定はないわー)
「嘘やん」
 ばったりと倒れたのはハゲ隠しのおっちゃんだけでなく、他の整備の者たちも恐らく全てだろうか。
 アリスとて利用するならそのつもりであったようだが、来襲する敵機はひとつ。他未確認要素から数的有利を覆されないとも限らないが、先の戦闘を踏まえるとスージー・ドッグよりも高い性能を持つ機体を相手にガガンボの性能では到底届きようがないし、味方の攻撃の邪魔になりかねない。
 となれば、アリスの猟兵としての本来の性能をぶつける方が効果的だろう。彼女はそう判断したのだ。
「あの、すみません」
 唐突に響いた遠慮がちな声にアリスがぬばたまの瞳を向けると、格納庫の扉から顔を覗かせる少女の姿。
 褐色の肌に銀の髪を持つ彼女はユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)を名乗り、はにかんだ笑みを見せる。
「戦友がこちらの戦場で戦っているとお聞きしました。【ブライト・ナイト】で助力いたします」
「ギィイィ! ギギギ、ギチギチ!」
(アリスはアリスよー。戦友ってどなたかしらー?)
「……えっと……ここにはいないみたいですね」
 アリスの言葉に格納庫内を見回して、ユーフィは再度の笑みを浮かべると頭を下げた。格納庫から出て行く少女の背を見送って、倒れていたハゲ隠しのおっちゃんがごろりと仰向けになる。
「……手間が増えなくて良かったぜ……」
 心底の想いを吐露するハゲ隠しはさておき、格納庫の外でユーフィが見上げた先に、片膝をつくキャバリアの姿。
 これこそ輝闘機ブライト・ナイト。少女ら部族の住まう密林の奥地で目覚めた白く輝く装甲を持った機体である。ユーフィが操縦席に乗り込めば一般的なキャバリアに存在する操縦桿がなく、少女の動きをトレースして起動する。
 可憐な見た目に反して蛮人を名乗る彼女にこそ似合いの操縦機能となるのだろうが。
 一方、格納庫より離れた場所、スージー・ドッグに止めを刺したその場所にいたシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)は可愛らしくくしゃみをして、誰かが噂でもしているのだろうかと小首を傾げた。
 特に損傷らしい損傷もなく、射撃兵装も彼女の魔力を主とするブルー・リーゼは整備のおっちゃんの手を借りていない。敵の出現に備え、補給の必要なしと機体をそのまま戦場に置いている訳だが。
(急患よー)
(医務室に運ぶのよー)
 ちょこちょこと駆けるアリス妹に担がれて、全身の打ち身で苦痛に喘ぐボイット・レンジャーが運搬されちいくのを見送るシル。
 次は敵の親玉となるオブリビオンマシンとの戦闘。量産型キャバリアが変じた第一波、第二波とは比較にならない力を持つのだから、彼らレンジャー部隊には無理をしないで欲しいと言うのが本音である。
「エースと呼ばれるターバンさんとスージーさんも凄腕だったし、警戒しないといけないね」
 決意を新たに拳を握る。
 敵は自らの国家を掲げて侵略行為を正当化する存在。例えそれがオブリビオンマシンの影響下にあるが故の行為であったとしても、戦争を仕掛けた事に変わりはない。
 これが国家間の争いに発展する事態である事は容易に想像出来たし、何より双方の間で既にトラブルを抱えている様子。火種としては十分過ぎる事柄が、介入したとは言え第三者である猟兵としては大事には至らない事を祈るばかりだ。
 小さな吐息に見つめた先で、シルは見覚えのある機影に目を細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

チェスカー・アーマライト
連携アドリブ歓迎

おっと、まんまと時間を稼がれちまった訳か
だがすぐに取り返す
大一番はこっからだ

タンクモードで交戦開始
なるべくヘイトを稼いで
味方をかばえるよう盾役に努める
狙って撃つのは苦手分野だが
向こうから突っ込んできてくれるってんなら話は別さ
車体ごと斜めに構えたドーザーで
受け流すようにガードする
さっきの奴より重量なさそうに見えるが
そんな突進でビッグタイガーを弾けるか
やってみな!
すれ違いざまにUC発動
砲塔の旋回だけなら
奴が切り返すより素早く対応できるハズ
タンクモードは主砲も副砲も動きながら撃てる
採算度外視、全弾持ってけ!
テメーらの漫談ショウはここらで幕引きだ


レイ・オブライト
※諸々歓迎

恒久の安寧、か
拝ませてもらいたいもんだが
『覇気』展開、撃墜された機体らの装備を借り対空攻撃を
地に足を付ければ格闘を。どちらも本命は有効打よりか他への繋ぎだ
必要とあらばより戦力となる他機体を『かばう』
マグネロボはまだ実験段階、流石に性能差がデカ過ぎるかもな
んなことは百も承知
破壊される機体から飛び出し生身で継戦する。この際、最後のEMRパンチに掴まり上空へ、敵機に接触まで【Haze】+衝撃波+オーラ防御で攻撃を逸らしながら格闘を見舞いたい
結果的にロボが粉微塵になる前にオレに狙いを移せりゃいいが。ま、もしもんときも整備のゴッドハンドがやってくれるだろう

マシンにおんぶにだっこじゃあな、大将?


木霊・ウタ
心情
少佐もマシンへも可愛そうに思うぜ
マシンに精神を侵食された男と
戦いの中で壊され、今は戦いを引き起こす存在となったマシンと
どっちも犠牲者だ

マシンを海へ還して
少佐をその軛から開放してやろう

戦闘
レンジャー部隊には下がってもらう
ここからは俺たちの仕事だ

行くぜ、バルジ・プロミネンス

炎を纏い宙を割き
支援機を纏う炎で焼却したり
大焔摩天で切断して露払いし
そのままモノアイへ

爆炎で機体を瞬間的に加速させ
更にマフラーと炎と煙とで瞬間的に視界も奪い
赤光の軌跡残す一閃

一度でダメでも何度も畳みかける
操縦者は人間だ
疲労や怒り、焦り等の感情から
必ず隙ができる

トドメの時には
敵を包む炎に梵字が浮かぶ

事後
鎮魂曲

お疲れさん>バルジ



●時間は未来に進み。
 捕虜になったエース二人に少佐に対して説得を。そう考えて捕虜たちの詰め込まれた格納庫にやって来たのは赤城・晶(無名のキャバリア傭兵・f32259)であった。
 先の戦闘では捕虜たちの説得が劇的な効果を発揮し、第二波の部隊は全て戦闘の意志を無くしたのだ。とは言っても彼の考えるような内容ではなかったのだが、それはそれ、これはこれである。
 相手はレンジャー部隊が熱血バカと揶揄するだけあって、理想に燃える指揮官。部下の説得では効果も薄そうだがと彼は考える。
(一瞬でも注意が向けば御の字、そこを仲間と全力で叩ければ――、ん?)
 捕虜たちや床と言わず壁と言わず天井と言わず這い回るアリス妹たちとは明らかに違う声に晶は眉を潜めた。
 どうやら先客がいたようだと顔を覗かせると、ふんじばられて身動きが取れない捕虜たちの口へ何かを詰め込む人影。鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)の姿だった。
 彼はただひたすらにお腰につけた仙丹をダンテアリオン兵士の口に突っ込んでいるのだ。どう見ても拷問だねこれ。
「モゴゴーッ!」
「モゴーッ!」
「…………、何をしてるんだ?」
 思わず呟いた言葉に気が付いて、冬季が振り返る。手にした仙丹を玩具のように転がしていた彼は小さく笑う。
「補給しないと最後までもちませんからね?
 ご安心を、これは只の栄養補助食品です。……私にとっては……ですが」
「…………」
 全く安心できない言葉であるが、無理やり口に詰め込まれたにしては何とかそれを飲み下したダンテアリオン兵士たちは顔を輝かせている。
「あっ、あンまぁぁぁぁぁああいっ!」
「これはまるでアメちゃんを超える究極の糖分!?」
「聞いてるだけで喉が渇き虫歯菌が沸き立つように唾液が出る!」
 シュガージャンキーじゃん。
 どうやら喜んでくれた様子にうんうんと頷き、冬季は雛の如く口を開くダンテアリオン兵士たちの顔面に投げつける。優しい扱いは不要なのだ。
「そう言えば、オブリビオンマシンは人を食うそうですね。食われず済んだ貴方たちは運が良かった」
『…………!?』
 仙丹をモゴモゴやってる奴らが急に神妙な顔をするんじゃない。
「貴方たちの上司が食われず済むよう、皆さんで祈っておいた方が良いかもしれません」
「少佐が!?」
 驚きの声を上げたのは未だに仙丹を与えられていない顔も腫れ上がったターバンであった。反応を見るにオブリビオンマシンによる影響で出撃したとは言え、イーデン・ランバーを慕っているのは間違いないだろう。
 こん棒を前肢に睨みを利かせたアリス妹たちの姿に、小さく呻いて身を捩りつつも冬季に向き直る。
「少佐はダンテアリオンに無くてはならないお方だ。あんたたちがアサガシアンでないのなら、絶対に救い出してくれ!」
「それはターバン、お前たち次第だ」
「何?」
 横合いからの言葉、晶だ。訝し気なターバンに対し彼は近づくと、また下敷きになっていたのでとりあえず座らせてやる。
「お前ともう一人、スージーをイーデンも気にかけていた。敵のオブリビオンマシンはガガンボやドッグみたいな中途半端な代物じゃない。
 お前たちの説得があれば、どうにかなりそうだがな」
「…………」
 溜息交じりの言葉に閉口する。
 第二波説得の際にアリスらが使用させた機材も、元はと言えばアサガシアの物。それを頼らざるを得ないという事に屈辱を感じているのだろうか。
 そう言っていられる状況でもないはずだが。
 晶とて彼の返事を待つつもりなどなく、仙丹を投げ終わり部屋を出て行く冬季を追う。
「…………、あれっ、俺の分は?」
(美味しいわー)
(ねー)
 アリス妹の分も用意される中、ターバン大尉にだけはなかったらしい。シリアスしてるのに口に投げつけちゃ可哀想だもんね。
「冬季」
 自分の名前を呼ばれて振り返れば、彼を追い部屋を出た晶の姿。
「見ているぞ」
「ああ、大丈夫ですよ。彼らを助けなければいけないこと、ちゃんと思い出しましたからね」
 釘を刺す晶に冬季は笑みを返した。


●そして時は動き出すんだってばよ。
 稲妻の如き登場に対し、塩のようにしょっぱい対応をアサガシア連中から受けたランバー少佐。
 怒りも有頂天な彼のオブリビオンマシンは幽鬼の如く揺らめいてその単眼から光を発する。
『諸君は、舌が無駄に回るようだが然るに! 姿を見せず駄犬の如く吠え立てる!
 臆病者どもめ。蛮族と侮ったが蛮勇すらない卑怯者、逃げ回るだけの者どもそれが! 諸君らの正体である!』
『あんな事ゆってるぜ』
『卑怯でメシが食えるなら卑怯でよくね?』
『どうでもいいけどあの喋り方クソうぜぇ』
『むっきぃぃぃぃい!』
 姿を見せないまま挑発を続けるレンジャー部隊に、地団太を踏む敵機の姿。
 人は機械ではない、故に機械に近づく事が兵士としての義務なのだ。怒りの感情をそのまま見せたランバーに施設の陰から狙撃銃を覗かせる副長。
 呼吸を止め、じたばたする敵機の頭部へに狙いを定め。
『――恒久の安寧、とか言っていたか。あるんなら拝ませてもらいたいもんだが』
『!』
 射線に現れた機影に引きかけた指を止める。レイ・オブライト(steel・f25854)、彼の搭乗するマグネロボ肆式だ。
 位置を変えようとした群青のドッグへ、肩越しに視線を送るマグネロボ。訝しむ副長の前に現れたのは、夕焼けマントルことスージーを抱えた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。
 彼女は桜の花びらとともに副長機の隣に進み、オブリビオンマシンを仰ぎ見る。
「敵は強大です。援護して下さるのはありがたいのですが、私たちの攻撃が始まってからにしてください」
『…………、りょーかい』
 言外にその戦力差を突きつけられたに等しいが、副長の見せた逡巡は言葉に対する反感と言うよりも、敵に対する行動をどうすべきかにあったのだろう。
 キャバリア用の狙撃銃を抱え直して即座に後退するドッグに、桜花も傷ついたスージーを格納庫へと運ぶ。
 動く気配を鋼の肌で感じ取り、小さな笑みを見せて見上げた先に背面の突起物から伸びた尾のような物を振り回すオブリビオンマシン。生物的な威嚇行動にも見えるそれが、敵機の悪意を感じさせた。
『第一波、第二波の奴らとは比べ物にならんらしいが、さて』
『力比べでもする気か、そのように貧弱な機体で!』
 あんたらそればっかりね。
 相対するマグネロボを見据えて燃え盛る単眼。
『おっと、まんまと時間を稼がれちまった訳か』
 だが、すぐに取り返す。立ち並ぶ二機を遠目にチェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)はタンクモードのビッグタイガーを走らせ、施設から施設の裏へと回りながら攻撃地点を選定する。
 狙って撃つのは苦手な分野ではあるが。
 そう嘯く彼女の真上、ビッグタイガーへ降り立つ漆黒のキャバリア、エクアトゥール。
『あの両肩の盾、可動するようですね。という事は、ドッグのように前面に押し立てて突進してくるとか、エクアトゥールと同じ戦い方でやりにくい相手かも知れません』
 搭乗者、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)の言葉。その重量に僅かに傾いだビッグタイガーだが些末とばかりに走行を続けるチェスカーは太い笑みを浮かべた。
『向こうから突っ込んできてくれるってんなら話は別さ、狙う必要がなくなるからな』
『そうですね。ここは突進はかわしつつ、カウンター狙いといきましょう』
『ああ。大一番はこっからだ』
 砂塵を巻き上げ、敵の元へ向かうビッグタイガーと、それに乗るエクアトゥールとを見送るエイストラ、そしてノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)。傍らにはマフラーを風に揺らし腕を組むバルジ・プロミネンスと木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)の姿があった。
『んー。ここは支援に徹します。
 速度と火力、そのへんが強力な人を遊兵にしてしまうと面倒ですからね、後に続いて援護射撃します』
『ああ、分かった』
 ノエルの言葉に頷き、未だイーデン・ランバーを取り囲むレンジャー部隊を視界に収めて通信を飛ばす。
『レンジャー部隊は下がっていてくれ、ここからは俺たちの仕事だ』
『おいおい、美味しい所は総取りってか? まあ楽出来る事に文句はねーぜ!』
 格納庫から顔を覗かせたのは処置の終わったボイット・ドッグ。
 再び格納庫に戻ろうとした所を他のドッグに拘束されて引き摺り出されるあたり、部下はまだやる気のご様子。
『行ってください』
『援護射撃は任せたぜ!』
 背中に地獄の炎を背負い、バルジ・プロミネンスもまた敵オブリビオンマシンに向かって飛翔した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「部下達が此方とほぼ同じ機体に乗っているのに、文明の邂逅と知性なき腕力扱いはどうなんでしょう…」
首傾げ

「つまり、支援機をどんどん呼ばせて、彼等を物量兵器としてぶつけてやれば良いのでは?」

UC使用し敵とほぼ同速か少し速い速度で飛翔
高速・多重詠唱で銃弾に破魔と浄化の属性与え制圧射撃
敵の呼んだ支援機の攻撃を第六感と見切りで躱しながら自分を追わせ気付かれないよう敵本体に誘導
支援機が突っ込んできた瞬間敵本体の足下すり抜け支援機を敵に激突させる
その後も支援機同士がぶつかるよう誘導しながら制圧射撃で敵を引き付けつつ戦場内を飛び回る

戦闘後は持ち込んだケータリングカー内のキッチン使い大量にスープ作成し宴会に


鳴上・冬季
拠点に戻りゴッドハンドや捕虜の口に仙丹突っ込む
「補給しないと最後まで保ちませんよ?これは只の栄養補助食品です…私にとっては」

「そう言えば、オブリビオンマシンは人を食うそうですね。食われず済んだ貴方達は運が良かった。貴方達の上司が食われず済むよう、貴方達も祈っておいた方が良いかもしれません」

レンジャー部隊に
「オブリビオンマシンはコクピットを抉じ開け人を食うそうです。貴方達は近寄らず、遠距離から制圧射撃等攻撃補助に徹する方が良いでしょう」

「ふむ…黄巾力士ごと爆砕すると操縦者が死ぬでしょうし…面倒ですね」
UCで敵機の脚部爆砕
それから両腕、頭部と潰していく
敵の攻撃は黄巾力士にオーラ防御で庇わせる


ノエル・カンナビス
んー。

ここは支援に徹しましょう。
速度と火力がある人が遊兵になってしまうと面倒です。
そのへんが強力な人の後ろに続いて援護射撃しましょう。
直線速度だけならそうそう負けませんし、多少離れても
追いつけるでしょう。

しばらくは支援射撃。と言いつつ、割と本気でスナイパー/
貫通攻撃/ライフル、ないし普通にキャノンで撃ちます。

で。

「もう良い頃合いです。そろそろ終わりにしましょうね」

地上にて先制攻撃/おびき寄せでバリアチャージを誘引。
第六感/見切り/操縦/咄嗟の一撃/カウンター/鎧無視攻撃/
貫通攻撃/串刺し/ビームブレイドで、コクピットを焼かない
辺りを貫いてから指定UC。

「ところで、『あめちゃん』って何ですか?」


赤城・晶
■連携、アドリブ歓迎、不殺を前提

■刹那の説得
多分効果は薄いかもしれんが、捕虜になったエース二人にイーデンに対して説得をお願いするか。一瞬でも注意が向けば御の字、そこを仲間と全力で叩く!

それまでに仲間に伝達しつつ、出てくる支援キャバリアを排除する。
準備が整ったらエース二人に説得を開始してもらおう。
長引けば不利になるのはこちらだからな。

一部共闘できない仲間は動向に注意しよう。

ウィリアム、ミラージュ装甲展開【迷彩】し、幻影を展開。
常に状況を把握、更新してくれ。
今回はジャミングは無しだ。嫌な予感がする。
仲間に作戦を伝え、連携して叩くぞ。
相手が完全に沈黙するまでは気を抜くな。
常に先を考えていくぞ。


黒木・摩那
盾を前面に押し立てて突進してくるとか、エクァトゥールと同じ戦い方でやりにくい相手です。しかも、先の大尉達を率いていた指揮官とあっては往生際の悪さも筋金入りでしょう。根性ありすぎです。

ここは突進はかわしつつ、カウンター狙いといきましょう。

『エクアトゥール』でBX-S『エール・ノワール』を展開。
さらにUC【波紋共鳴】を使います。
敵の突進に対しては同じく盾で衝撃をずらす形で【受け流し】。闘牛士の要領で、脇や背後に回り込む形でエール・ノワールの刃をすれ違いざまに【なぎ払い】して、オブリビオンマシンの破壊を狙います。

操縦者には危害が及ばないので、手加減無用でいけます。



●激突!
 眼前の敵機からゆっくりと距離を離すよう後退するランバー少佐。
 威勢の割りには慎重な構えだとレイはボヤいて前進する。
『無造作だな。無構え、などと言うならそんなものはただのまやかしだ』
『良く喋る舌だな』
 気にも留めず歩を進めるマグネロボ肆式へ、余裕の表れだと勝ち誇った笑みを浮かべ。
 ぐんと身を屈めた次の瞬間、足をバネに天高く跳び上がる。
 しなる両足は肉食獣のそれで、オブリビオンマシンは直下の猟兵へ狙いを定め、引き金を。
『たあーっ!』
『のわーっ!』
 唐突に横合いから現れたのは輝闘機。握り締めるは光の拳、【BX-Aブリッツ・ファウスト】。
 思わぬ乱入者に思わず仰け反ったランバー少佐。
 機体内部で放ったユーフィのストレートはブライト・ナイトへ連動し、彼女のオーラ光はブリッツ・ファウストのビーム光と合わさり輝きを増す。
『うぐあっ!?』
 光の粒子が衝撃波となって拡散し、オブリビオンマシン前面を激しく打つ。
 まるでキャバリア相当の巨大な拳を受けたように弾き飛ばされた。盾を構える間もなく直撃、凄まじい衝撃のはずだが少佐は空で体勢を立て直し、そのまま着地する。
『おのれっ!』
『おおっと、邪魔するぜ!』
 即応速射。
 地上に着地する前に下方から射撃する少佐の凶弾から、身を呈してブリッツ・ナイトを守ったのはビッグタイガー。
 めっちゃ飛んでるんですけど。
『ほへっ? みぎゃあああああああ!』
 巨大な戦車に踏み倒されたオブリビオンマシン上を、駆動系から火花を散らして回転する車体。
 長大な砲身で重りに水平を取り、お釣りだと向けられた照準を横たわったままの姿勢で視認する。
『あっぶねぇ!』
 慣性もあってか砲口が火を噴くと同時に傾いだ車体、僅かに浮いたビッグタイガーが地響きを鳴らして接地する。
 放たれた砲弾は目標ではなくコンクリートで舗装された地面を粉砕して爆炎を上げた。
『重火器を人に向けちゃいかんと教わらなかったのか!』
『銃ぶっ放してた人が言っても、説得力ないんですよね』
 じっとりとした言葉で突っ込んで、上空より鷹の如く舞い降りたエクアトゥール。
 空飛ぶビッグタイガーを囮にした奇襲攻撃。そもそもビッグタイガーはどうやって飛んだと言うのか。
 エール・ノワールの黒き輝きがオブリビオンマシンを食らわんと迫るも、その背面から伸びる尾がエクアトゥールの足に絡み付いてあらぬ方角へと投げ飛ばした。
『危ういなぁ、猟兵!』
『……惚けた顔してっ……やりますね!?』
 難なく体勢を立て直すエクアトゥールへ追撃の弾丸を放つランバー少佐であるが、機体背面に取りついていたアリス妹がドッグの頭つき胸部を盾に回り込む。
 見事敵の弾丸を防いだアリスに目を剥いて、部下の残骸を利用する存在に拠点施設の防壁も彼女らの仕業かと唸った。
 ちなみにビッグタイガーが飛んだのはアリスたちがレールになってくれたお陰であり、後方のアリスたちの中には「肩がこったわー」と残骸を頭に乗せて前肢や関節肢を回している個体も見受けられる。
 肩あるの?
『この蛮族どもめっ!
 我らがダンテアリオンの兵士を壁に塗り込めるなど、猟兵と言うのはアサガシアン以下の文明意識の集団! 野蛮な生命体だ!』
「ギエエエエッ、ギイイイィィイ! ガチガチガチ!」
(えー、かわいい防壁なのにー。野蛮なんてひどーい)
 まあ、そう謗りたくもなるよねというランバー少佐の言葉。それに対して抗議の咆哮を上げたのは、同じく残骸を盾に地面を這い進むアリスたち、その先頭であるヘルメット・アリス。
 盾である残骸を振り上げぷんすこする彼女は更にまくし立てた。
「ギギギギ、ギチギチッ、ガチガチ!」
(それにエコに気を使っててー、防壁に埋まった機体は後で部品どりして残りはご飯になるのよー?)
『お前は何を言っているんだ?』
 ですよね。
 ご飯の下りに素で聞き返す少佐だが、興奮覚めやらぬアリスはそんな言葉など聞くつもりはないようだ。
「ギィイエエエエエエッ!」
(それにそれにー、アリスは戦争を起こす人の方が野蛮だと思うなー)
『ええい、いきなり正論を吐くな! 訳が分からなくなるだろうが!』
 会話に振り回されて自分の主張が見えなくなるパターンね。
 優位性がどーの大義名分がどーの話しているが、アリスは指摘して気が済んだのか、再び残骸を盾に妹軍団を率いて進行する。
『……うん、なんだろ……もっとシリアスな感じな気がしないでもなかったのに……』
 ランバー少佐とレンジャー部隊、そして猟兵仲間が繰り広げる会話の内容に思わず溜め息を吐くシル。
(……でも……! 実力は本物なら油断はしないよっ!)
 機体性能に依る部分があったとは言え、奇襲をかけたチェスカー、摩那の連携を退ける力は本物だ。
 少佐は集う猟兵たちの姿に周囲を見回し、相手にとって不足は無しと機体から漂う禍々しい気を周囲に走らせた。
『ゴーストスコードロン、射出!』
 放たれた気は周辺の物体に取りつき固定され、戦闘機へと変じていく。
 姿を現したのは簡素な風貌。細い胴体と合間ってとても人が乗るように見えないが、それらは意思を持ち本体と同じ単眼を光らせた。
『わわっ、何だこいつら気色わりぃ!』
『きンもーっ☆』
 人型にあるまじきやたらとべたべたした動きで飛び立つオブリビオンマシンの戦闘支援機。そんな物に迫られてレンジャー部隊は悲鳴を上げた。
 今更ながら彼らの部隊構成を説明すると、副長を除き全員男、髭ダルマだったりおハゲ様だったり太ってたりする。
 そんな野郎共の野太い悲鳴を叩きつけられる支援機も可哀想である。
『隊長ー、動きがデタラメで照準合いませーん』
『知るかボケ! つーかこいつら何なんだよ、カエルみたいに跳ねたり猿みたいに走ったり!』
 まるで未確認飛行物体のようにふわふわし、かと思えば急発進して回り込む支援機。隊長の号令の下、即座に円陣を組み背後を守り合うレンジャー部隊。
 しかし、やたらめったに放たれる弾丸を物ともせずかわし接近する敵機に息を飲んだ次の瞬間。
『!』
 駆け抜ける炎が支援機を粉砕する。
 散らばる火の粉が風に舞い、降り立つ炎が風へと消える。逆巻くマフラーが顔にはりついて、ちょっと締まらない姿ではあったがそれを剥がせば現れるのはバルジ・プロミネンスの顔。
『無事みたいだな』
『お陰様でな、ヒーロー』
 溜め息を吐いてサムズアムップするボイット機。その足下にいつの間にか姿を見せた冬季は、それでも危険なことに変わりはないと呼び掛ける。
「オブリビオンマシンはコクピットを抉じ開け人を食うそうです。貴方たちは近寄らず、遠距離から制圧射撃などの攻撃補助に徹する方が良いでしょう」
『よっしゃ、仕方ねえな帰投しようぜ!』
『離れて援護しろって言ってるんですよ、隊長』
 その間にも遠方から接近する支援機を閃く光が撃墜する。更なる遠方、ノエルの援護射撃だ。
 良い腕だと評する副長にウタも同意する。
「レンジャー部隊の皆さんが離れるまで私がサポートします。ウタさんはそのまま攻撃に」
『頼むぜ』
 再び炎の翼を開くバルジ・プロミネンスが見えなくなって間髪入れず、隊長の目は冬季に向けられた。
『サポートったって、生身でどうするんだよ』
『隊長は馬鹿だなぁ、猟兵なんだからどうとでもできますよ』
「そこなんですよねぇ、問題は」
『ホレ見ろ!』
 ええ、と呻く部下たちを気にするでもなく、冬季は顎に指を添えて悩むように首を傾げる。
「……黄巾力士ごと爆砕すると操縦者が死ぬでしょうし……面倒ですね」
『ぷっ、問題ってそっち?』
 彼の音声を拾った副長は思わず笑った。


●マシン・オブ・オブリビオン!
 独特な動きで跳梁跋扈する支援機に、レンジャー部隊の戸惑いも良く分かるとレイは思わず溢す。
 それらは向けられた敵意を察知するらしく、猟兵やレンジャー部隊を襲撃する。
 思いの外彼らに対して感情が無かったからか、周囲を行く支援機に狙われる事もなく手持ち無沙汰になっていたレイ。
 そこでレイが目をつけたのは彼と同じくあまり狙われていない、弾の飛び交う戦場を順調にかさかさしているアリス軍団。
『借りておくぞ』
(かわいいアクセサリーがーっ)
 彼女らの一匹から、弾除けに構えられた残骸の握る短機関銃を拝借する。
 携行していたキャバリア用のアサルトライフルも構え、走り過ぎる支援機に照準を向け。
 発射された弾丸は支援機を一機破壊したものの、敵と認識されて回避行動を取る残りには中々と的が絞れない。
 しかし、これでいいのだ。
『ようやく動いたか。てっきり、口だけで新兵の如く震え上がっていたのかと思ったぞ』
『目覚めは悪い方でな』
 背中を向け、素っ気なく返すレイ。余りにも隙のある姿勢に攻撃するなと言う方が無理な事。
 ライフルの銃身下部を滑動し、実弾兵器から粒子兵器へと形態を変えてマグネロボ肆式の背中に銃口を向ける。
『どひゃあっ!』
 遠方より奔る閃光、エイストラの狙撃が左肩の盾に命中し、慌てて後退する。
『狙撃兵まで潜めおって、たった一人にやることが姑息ではないか!』
 おめー自分が物量に物を言わせて攻めたこと忘れてるな?
 狙撃地点と思わしき方向へ支援機を送るオブリビオンマシン。しかし、ここで突進を見せたのはビッグタイガー。
「蝿は撃つより叩くのが楽、道理だな!」
 距離を詰めて接近と同時にトレンチャーから近接防御用の散弾を放つ。
 防御用とは言え、支援機を破壊するには威力も十分。
『猛々しい戦車よ、我がダンテアリオンの兵士とならないか!』
『近寄るんじゃねえよ』
 歩むオブリビオンマシンに再び散弾を放つが、これらは両肩の盾に防御され被害らしい被害はない。
『ならばっ!』
 その言葉はランバーとチェスカー、両者が吐いたもの。
 主砲を向けたビッグタイガーに、凄まじい跳躍で射線をかわすオブリビオンマシン。
『──死ねいっ、猟兵!』
 上空で禍々しい気を拡大させる敵機に対して横合いから現れたキャバリアの姿。
『ビンゴォッ!』
『えっ、また──、はべッ!』
 加速飛翔した軌道をそのままに、見舞う飛び蹴りが敵機胸部に直撃する。
 その威力にひっくり返って頭から落下していくオブリビオンマシン。無様なんですけどー!
『チャンス!』
 短い叫びと共に地上を疾走する影ひとつ。ユーフィのブライト・ナイトだ。
 地を蹴るごとに加速するそれを上空から視認していたチェスカーもまた迎撃するべく、支援機を利用して体勢を立て直す。
『ダンテアリオンの威光を、貴様に食らわせてやろう!』
 体勢を立て直した戦闘支援機らはオブリビオンマシンの各所に連結、更に前方を誘導する数機を配置しブライト・ナイトへ突撃する。
 凄まじい推力。
『──持ち味を、生かすっ!』
 バリアを展開し光に包まれたオブリビオンマシンに対し、こちらもユーフィから生じる闘気をビーム発生装置に連動させて拡大、ブライト・ナイトを包み込む。
 輝闘機の名を表すその姿。
『真っ向勝負か、いい度胸だ!』
 笑う少佐を同等の高度から七色の帯が狙い撃つ。ブルー・リーゼのホーミングビームが先導する支援機を粉砕、続く砲撃を受けてオブリビオンマシンの直線軌道に歪みが生じた。
『誉めたそばから姑息な手ばかり使いおって、貴様らはそれでも男子として、武士の魂を持ち合わせておらんのか!』
 徒党を組むのが猟兵なのよね。あと女の子ですよ少佐。
 シルは男尊至上主義的なランバー少佐の言葉に答える事なく、地上を行くブライト・ナイト、ユーフィへ言葉を投げる。
『今だよ、ユーフィさん!』
 やはり持つのは頼れる戦友か。
 シルの力強い言葉に笑みを浮かべ、迫る光を睨み付ける。
『得たチャンスにいただいた隙、鍛えられた肉体を、めいっぱい叩き込みますっ!
 これが、輝闘機の! 【トランスクラッシュ】ッ!』
 眩い光を放ち、水面を飛び立つ白鳥の如き一矢が真正面から飛び込んで行く。
 僅かとは言え揺らぎを与えられたオブリビオンマシンの軌道線上では、ブライト・ナイトの突撃に最大の力を集約させる事など不可能だ。
 空で身を翻し、更接触面積を更に広めた問答無用の必殺技ヒップアタック。
『……なっ、なにっ……!?』
『いぃっけぇえーっ!』
 高速移動する者同士、そしてエネルギーの塊と化したブライト・ナイトの衝撃はオブリビオンマシンのバリアを貫通、纏う支援機も粉砕。
 しかし盾を貫く事は出来ず、その体を吹き飛ばしながらもダメージは。
『右盾損傷!? いや盾は抜かれてないはずだ。支柱に負荷が掛かったか、可動は!』
 落下し様も立て直しは支援機に任せて損傷を確認するランバー少佐。
 ヒップアタックを敢行したユーフィも受けた衝撃は大きく、墜落したその身はマグネロボ肆式が受け止めた。
『無事か?』
『は、はい! ……でも、敵は凄いパワーです……向こうの攻撃は直撃してないのに、この威力……!』
 改めて敵機の性能に舌を巻く。
「あれがイーデン・ランバー少佐のオブリビオンマシン」
 桜の花びらと共に空を行く桜花は、支援機に支えられ着地する敵機を見届ける。
 あの支援機は自身の手足ともなるらしく、先の突撃を見る限り援護用というより本体とセットになって機能するようだ。
「つまり、支援機をどんどん呼ばせて、彼らを物量兵器としてぶつけてやれば良いのでは?」
 天才かよ。
 思い立ったが吉日と、オブリビオンマシンに向けて飛翔する桜花。
『! 新手──、人じゃん!』
 真っ直ぐ飛行する桜花に驚く少佐。ライフルを構えようとした彼であったが、右腕の反応が悪く歯噛みするのと同時に機体から広がるオーラが、再び戦闘支援機を形成する。
(まずは誘き寄せるとしましょう)
「闇を祓い光に浄める、破魔の弾丸をお受けなさいな!」
 わざと接近した後、距離を引き離すように【軽機関銃】を放てば火力は劣るものの無力化される支援機。
 警戒度を高め、迂闊に接近し過ぎないように桜花を包囲する支援機を引き連れ、本体から離れていく。
『分断されたっ?』
 その動きに桜花の目論見通り、ランバー少佐もまさか自分にぶつけるつもりとは気づいていない様子だ。

『狙いがつかんな』
 でたらめな動きを見せる支援機に、あっさり諦めて銃を投げ捨てるマグネロボ肆式ことレイ・オブライト。
(アリスのかわいいかわいいアクセサリーがーっ!)
 アリス軍団からおそらく短機関銃を奪われたと思われる個体が戦列から離れ行く。借りた物はちゃんと返すんだぞ。
 それはさておき鋼の拳を固め、迫る支援機を睨み付けたレイ。が、迫る敵はその眼前であらぬ方向へと攻撃を外す。
 一機だけではない、マグネロボ肆式を囲う全ての機体だ。
『…………』
 ちらと後方に目をやれば、ぷんすこしながら回収した武器を盾とした残骸にくくりつけるアリス妹の姿。
 流石にもう貸す事は無さそうだと首を戻す。同時に響く銃声が、光と共に支援機の頭部を次々と破壊していく。
『お邪魔だったかな?』
『いや、助かった』
 現れたのはヴェルデフッド、言葉を投げたのは晶だ。ならば彼の力で敵機に幻影を見せていたのかとレイは頭を掻く。
 とりあえず手近で盆踊りをする機体を殴り倒し、その身から溢れる覇気で機体を包む。
『オレは大丈夫だ。他に打撃力のある奴の援護を』
『分かった』
 構えたビームライフルを腰に戻し、晶はウィリアムに声をかけた。
『ウィリアム、情報を更新しミラージュ装甲を展開。常に情報を展開、更新してくれ』
『マスター、ジャミングは?』
『今回は無しだ、嫌な予感が……まあ……、説得の邪魔になるかもしれないからな』
 まるで人を納得させる為とでも言うように、端的とは言え内容を伝える所に彼らの信頼関係が表れているようだ。
『晶だ、全機に告ぐ。格納庫のエース二人にランバー少佐の説得を依頼した。
 効果は薄いかも知れないが隙はできるはずだ、その瞬間を連携して叩くぞ』
 説得。
 第二波でその成果をあげているものの、晶の危惧する通り最後の一体を相手にしては敵が止まるとは限らないだろう。
『相手が完全に沈黙するまでは気を抜くな。常に先を考えていくぞ』
『了解!』
 晶の呼び声に小気味良く答える猟兵たち。
 戦場の意識の流れを感じ取ったのか、支援機たちを離された少佐はライフルを動きの悪い右手から左手へと変えた。
 威嚇するように尾を振り回しながらバリアを展開するオブリビオンマシン。
『貴様ら、この私を、ダンテアリオンを栄光に導く尖兵を、本当に叩きのめせると思っているのか!』
『出来る出来ないじゃなく、やるのが猟兵なのさ』
『貴様ーっ! そんなに鉄屑になりたいか!』
『屑鉄ねぇ。さっきの奴より重量なさそうに見えるが。
 そんな突進でビッグタイガーを弾けるか──、やってみな!』
 吠えるランバーを挑発して、チェスカーは笑う。構える巨大戦車のその背後には身を隠すブライト・ナイト。
 輝きを増して背面推進器を起動、迫るオブリビオンマシンを遥か後方より遠距離照準器で捉えるノエル。
(ターゲット、インサイト。ロックオン、ファイア)
 収束された光が力を持ち、銃口から反動と共に発射される。
 その威力に機体が傾ぎ、跳ね上がった砲身から冷却機関が露出する。噴き上がる蒸気と共に急速冷却される砲身。
 それ程の威力を持った一撃でもオブリビオンマシンのバリアは貫けず。
『っ、ぐ! まだ狙撃兵を破壊できていなかったのか!』
 しかし威力に速度を殺され軌道を狂わされたオブリビオンマシンに、立ちはだかるビッグタイガーは構えたドーザーで正面から受け止める姿勢──、ではない。
『アリス!』
「ギギギギギィイッ!」
(そーれどっこいしょーっ)
(どっこいしょ~)
(しょーっ!)
『なっ、何ぃ!?』
 隠れていたのはユーフィだけではなかった。ビッグタイガーの履帯は瓦礫を踏みつけていたのだが、そこから現れたヘルメット・アリスたちが車体前部を持ち上げたのだ。
 傾いだ車体に装甲が接点をいなし、上空へと弾き飛ばす。
 そこに現れるのはビッグタイガーの背後に隠れていたのブライト・ナイト。
 ビッグタイガーを踏み台に駆け上がり、跳ね飛ばされたオブリビオンマシンへ拳を叩き込む。
 狙うは一点、先程の攻撃で動きを悪くした右腕だ。
『──ほう』
 昇り竜の如き一撃に、思わず感嘆の声を上げるレイ。その拳はバリアを貫き、オブリビオンマシンの右肘を粉砕、砕かれた腕が落下していく。
『こっ……こぉのっ……、ダンテアリオンの栄えある機体を……!』
『そういうのいいですから!』
『またぁ!? ──何てな!』
 空に飛ぶ度に撃墜されていたイーデン・ランバー、馬鹿の一つ覚えかとばかりに刃を両肩の盾から刃を展開するエクアトゥールを睨む。
 すでにバリアを修復したオブリビオンマシンが、エクアトゥールを目指し突撃を開始。
『常に先は、読ませて貰ってますよ!』
 敵はこちらと同じく両肩の盾を主兵装とする構成、故に、ユーベルコードを始動する。
(材料探査、解析済み。データ入力、周波数呼び戻し、同調完了)
 【波紋共鳴(レゾナンス)】は目標物体の破壊点に合わせた振動で物体を破壊するもの。各種部位により破壊点は変わる為、まず狙うは厄介な代物。
 即ち、敵機の盾だ。
『発振!』
 操縦者に害が及ばない代物、故に手加減無用。
 振動を加えた盾を可動し、光の刃を真っ直ぐ構えて突進する。互いの衝突の瞬間、エール・ノワールがバリアを貫き、消失と同時に盾を回転。
『なんとぉっ!?』
『だああーっ!』
 盾同士の衝突。だが前二機と同じくただ突撃するだけの相手に正面から受け止めるような真似はしない。
 角度を逸らし、その衝撃を流し、滑るようにひらとかわす様はまるで闘牛士のようだ。
 反転し様の薙ぎ払いが暗き光の刃でもって、オブリビオンマシンの背面を斬撃する。
(……つ、強い……!)
 晶に教科書通りと言われたダンテアリオン兵士には無い、戦場の技。
 だが、こんな事で終われようか。終われるはずもない。
 墜落する機体に対し、少佐の意思を表すようにオブリビオンマシンの単眼は怪しい輝きを強めていった。


●衝撃のモノアイ・ゴースト!
 墜落したオブリビオンマシン。しかし、即座に立ち上がれたのはその性能故か、それとも搭乗者の資質によるものか。
(先の大尉たちを率いていた指揮官とあっては往生際の悪さも筋金入りでしょう)
 根性ありすぎなバカップルを思い起こして、げんなりとした様子の摩那。だが、損傷が嵩んでいるのも間違いではない。
 立ち上がったオブリビオンマシンの右の盾にひびが入っている。そう何度も強気の突進は出来ないだろう。
 だからこそ。
(ここで退く訳にはいかないし、敵も退くはずがない!)
 飛行するブルー・リーゼは味方機から離れた合間を縫い、テンペスタと連射モードのブラースク改を構えて突き進む。
 虹色の光を纏いリュミエール・イリゼを放てば、炎のように立ち上るオーラを撒き散らして回避するオブリビオンマシン。
 回避軌道を先読みしたシルの砲撃が大地を粉砕する。しかしそれもオブリビオンマシンには当たらない、否、当てていない。
 翼を広げ急加速降下するブルー・リーゼの直線に誘い込んだ敵機へ、星の輝きの如き光を灯すエトワールを携えて。
『甘いわ!』
 膨れ上がるオーラが形を成し、発生した支援機が隊列を組む。正面に相対するブルー・リーゼに向けて、ライフルを構えるそれらの一斉射撃。
 完璧なタイミングでの迎撃はしかし、直撃したかに見えたブルー・リーゼが霧散した事で虚像であった事に気付く。
『…………、後ろか!』
『その通りだよっ!』
 咄嗟に振り返るオブリビオンマシンの視界を塞ぐ煌めきに、盾で受け止めるランバー少佐。
 その背後で唸る尾が槍の先端に粒子の刃を発生するも、即座に撃ち込まれたビームの弾丸がオブリビオンマシンを弾く。
 エイストラの援護射撃に、間髪入れずブルー・リーゼの蹴りが敵機を突き放した。
『おんのれっ、我が盾となるのだ!』
 既に配置した支援キャバリアたちに防御を構えた時、四方八方から飛来する弾丸が支援機を貫いた。
『動かねえ相手なんざスコープを覗く必要もないぜ!』
『めっちゃ覗いてんじゃん』
 戦場に響く喧しい声。
 猟兵に促され一度後退したレンジャー部隊が、てきとの距離を保つ為に全機狙撃銃を装備して戻って来たのだ。
 頭部には副長機のみであった狙撃用バイザーを新たに装備している。
『アサガシアンどもがぁあ!!』
『ブルー・リーゼ! 全開でいくよっ!!』
 全砲門展開。
 蹴りを受けたオブリビオンマシンに魔力によるマーキングを行って、機体だけでなくシル本人が認識した敵機を粉砕するユーベルコード、【蒼の閃光(ブルー・エクレール)】。
 前腕部に装着された【RS-A腕部三連装マシンキャノン】ミトラ・ユーズ、更に【BS-Fリフレクタービット】アルミューレ・リフレクターを展開しホーミングビームを拡散反射、敵機の背面をもまとめて狙い撃つ。
 流石にこの距離での砲撃魔法の使用は躊躇いつつも、故に全力の集中砲火。
『全部、持っていけーっ!』
『なあっ!?』
 炸裂する光が二体のキャバリアを包み込み。

 さて。
 遠方で生じた凄まじい爆光を横目に、のんびりと戦場を行く鳴上・冬季。
 彼は片手に読んでいた本をぱたんと閉じて、両手を腰の後ろに回す。足に装着した宝貝が火を噴き宙に浮けば、そろそろ頃合いかと晒う。
 直立のまま空を行く冬季を見送り、ノエルはオブリビオンマシンの生み出した大量の支援機を引き連れて戦場を回る桜花を見やる。
 そう、もう良い頃合いだ。ノエルも嘯きエイストラの構えたプラズマライフルを解き、胸に抱えて立ち上がる。
『そろそろ終わりにしましょうね』
 背面で、バイブロジェットの振動フィンが鳴動する音が響いていた。
 彼女たちの目指す先、光が収まった爆心地でシルは思わず後退る。
 彼女の総攻撃を受けたオブリビオンマシンは真っ黒に焼け爛れ──、否。
 炭化したような残骸の隙間から立ち上る禍々しい輝き。
『やってくれたな、流石は猟兵か』
 身を挺して本体を庇った支援機を振り落とし、その健在を表す輝く装甲。だが、無傷ではない。
 しっかりとした足取りで進むオブリビオンマシンの燃え盛る瞳は、白き機影を捉え殺意を漲らせている。
 だが、無傷ではないのだ。
 破壊された右腕がくっつくはずもなく、各機から受けた攻撃に要所からも火花を散らしている。
 敵も限界に近いはず、にも関わらず。
『この身は礎にして道標、ならばこそここで朽ちる事はあり得ない。
 例え終焉の日が来ようと太陽が西から昇る事は有り得ないし、永遠の太陽を戴くダンテアリオンが潰える事はない。
 全ては種として優位なる我らの力の証明なのだそう!』
 この私が、倒れる事は有り得ない。
 理屈ではない。ただ妄執とも呼べる信念がそれを肯定している。
『可哀想にな。あんたも、そのオブリビオンマシンも』
 オブリビオンに精神を侵食された男と、戦いの中で破壊された結果、今は戦いを引き起こす存在となったオブリビオンマシンと。
 本来ならばどちらも平和の為に戦う力、そのはずだったのに。
『どっちも犠牲者だ。そのオブリビオンマシンを骸の海へ還して、少佐、あんたもその軛から開放してやろう』
 先の総攻撃で魔力を消費したシルを庇うようにブルー・リーゼの前に立つバルジ・プロミネンスは、その機体よりも真っ赤な夕陽に照らされ燃え上がる。
 背負う炎は翼の形を持たず波打って、肩に乗せた大焔摩天を両手にその切っ先を正面に向ける。
 睨み合う両者の視線の交点は、景色が揺らいで見えるほどに闘気が見えて。
「通りますよ~」
『へ? のんっ、ぎゃあああああっ!』
 ライフルを構えた後方から、その股の間を抜けて飛び過ぎる桜花。舞い散る花びらになんぞやと間の抜けた声を漏らす直後、背後から大量の支援機の突撃を受けたオブリビオンマシン。
 戦場でかっこつける暇があったら索敵しろよトーシロが。
「部下たちがこちらとほぼ同じ機体に乗っているのに、文明の邂逅と知性なき腕力扱いはどうなんでしょう」
『いや私が言っているのはあくまで精神性と物を知らぬ文化を謗っているのであって生産技術系の話をしているのではなく』
「今、ランバー少佐は大変滑稽な姿ですけれど、それでも精神性が優位と?」
『やった奴が言うんじゃあないッ!!』
 為す術なく前方へ流される敵機に首を傾げる桜花、抗議の声を上げる少佐。
 だが今は桜花の作った好機に他ならない。ウタはバルジ・プロミネンスの右足を引くと腰を落とし、大焔摩天を正面に構えたまま腕も引く。
 突きの体勢に移るその姿に、こんな幕切れがあって堪るかと必死のランバー少佐はオブリビオンマシンをわたつかせて、後方の支援機に左手と尾で掴み取ると、後転の要領で機体の波へと乗り上げる。
『さすがに、そう上手くはいかないか』
 残念に思いつつも引いた光刃を横に構えれば、延長していく陽の剣は火の如く揺らめいて。
 裂帛の気合は繰り出した一撃でもって前列の支援機を一薙ぎに粉砕する。
 立ち上がる火柱に梵字が浮かび、それらも切り開く背面の地獄は猛々しく爆炎を噴き上げて、オブリビオンマシン目掛けて刃を振り上げ真正面に跳ぶ。
『させん!』
『うっ!?』
 貫く光がバルジ・プロミネンスを捕らえ、姿勢が乱れると同時に背面の尾先に光が灯り、バルジ・プロミネンスへと飛ぶ。
 だが、それが貫いたのはバルジ・プロミネンスではなく飛び込んだマグネロボ肆式であった。
『レイ!』
『大丈夫だ』
 胸部を貫かれながらも、肉体を傷つけることなく急所を外したレイ。彼は無事だが、機体は致命傷だ。
 倒れかけたマグネロボ肆式は受け止めたバルジ・プロミネンスにそのまま身を預け、動きが止まる前にと両腕をオブリビオンマシンに向ける。
『良くやったな、相棒。最後のロケット・パンチだ』
『うおっほい!?』
 エレクトロマグネティック・リペルパンチです。
 閃光と共に放たれた両の前腕部に、内蔵兵器かと警戒したランバー少佐は驚愕した様子である。
 ただ飛び道具は予測していた少佐、ライフルとマグネロボ肆式から引き抜いた尾槍の先端からビームを放ち迎撃する。
 その光が、稲妻を纏い黄金の輝きを見せたパンチに吹き散らされた。
(マグネロボはまだ実験段階、流石に性能差がデカ過ぎる。んなことは百も承知だ)
 発射と同時に操縦席から腕に飛び乗ったレイによって。
『何だとぉ!?』
 帽子が飛ばされないよう支えるレイの体から拡散するオーラ光が、EMRパンチを保護しているのだ。
 迫る鉄拳を燃える瞳が捉えて、禍々しいオーラが拡大する。
 使わせて貰おう、奥の手を。言葉はなくとも伝わるその執念。
 回転する両肩の盾から青い装甲が展開し砲門が露出、胸部左右の装甲も展開し大口径の二連装粒子砲に光が瞬く。
『……パルス・オーバーブースト──、消し飛べぇええっ!!』
 ブルー・リーゼの蒼の閃光にも似た強烈な粒子の一斉砲撃は、しかしそれでも飛来する鉄拳に触れる事も出来ず吹き散らされる。
 馬鹿な。
 衝撃の光景に目を見開くランバー。乱れ飛ぶ粒子がやたらめったに飛び散って、ビッグタイガーだけでなくアリス軍団も各機の防壁となる中、加速する鉄拳の上でレイはにやりと笑う。
 確かに二人はその瞬間、視線を交わしていた。
『おぉうっ!』
 鉄拳直撃。
 同時に跳ぶレイは帽子を支えていた右手を振り被って拳を握る。拡散された覇気はその一点に集約し、後方に飛ぶ帽子には目もくれず雷光を放つ拳を解き放つ。
 先のブライト・ナイトの拳が昇り竜ならこちらは悪魔の降臨か、第三の鉄拳が胸部を貫き、その砲台のひとつを破壊した。
 覇気に触れた攻撃を乱す事で、結果的にそれより素早い一撃を放つ。有り得ない物理法則を力業で捩じ伏せる、それがゴッドハンド。
 ユーベルコード【Haze(シルバー・ライニング)】の前に粒子兵器も例外無く、支援機の上から弾き飛ばされたオブリビオンマシンの代わりとばかりそれらの頭上に降りたって、レイは帯電する己の拳に息を吹く。
「……先に選びな……と、言うのは遅れたか。
 マシンにおんぶに抱っこじゃあな、大将?」
 地面に叩きつけられたそれを見送り、漸く止まり始めた支援機の群れから飛び降りる。
 おのれ、と言う台詞は何度目か。叩きつけられる直前にバリアを展開したオブリビオンマシンが高速で飛翔、ユーベルコードの力で機体性能を向上させたランバー少佐は唸り声を上げた。
『あいつ、空も飛べるの!?』
『消え失せろ猟兵、我が国家の覇道を阻む者どもよ!』
 驚くシル。ランバーは感情のままに再び全砲門を、今度は集中ではなく全体を破壊するべく拡散放射する。
 逃げ道のない光の雨にオーラを用いて防壁を張るブルー・リーゼ。
(きゃーっ)
(お空にいたんじゃ反撃できないわー)
「それなら、降ろしてさしあげましょう」
 ちゃっかり防壁の中に避難したアリスたちが攻めあぐねていると、光の中を行く者が一人、否、一人と一機。
 黄布力士でその身を庇う冬季。不敵な笑みを手にした本で隠しつつ。
「我ら仙界に交わる者が陣を描く、というのがどう言う粉とか。分かりやすく教えて差し上げましょう」
 掲げた掌から生じた光は、オブリビオンマシンの総攻撃を物ともせずその頭上に陣を描く。
「【八卦天雷陣・雷爆鎖】」
 自らの神気を込めて描かれた光の陣から無数の稲妻が降り注ぐ。
 衝撃と鋼がぶつかり合うような凄まじい音を轟かせ、次々と直撃する雷が支援機を粉砕し、空を行くオブリビオンマシンの足すらも吹き飛ばす。
「ハハハハ! 我は迅雷公! 我が雷に灼かれろ、愚民ども!」
『私を見下すなァア!』
 愉快痛快とばかりに哄笑する冬季も、ランバーの叫びに眉を潜める。
 損傷により総攻撃は中断されたが、すでにバリアを展開し目標をこちらへ固定したようだ。
『この私を見下すという事は我らの尊き意志を、ひいてはダンテアリオンを見下すということ!
 許されるはずがなぁあいっ!!』
「そればかりだな、貴様は」
 端で笑いつつも瓦礫の広がる地面へ降下する冬季。ランバーも目標に合わせ、地上を滑走するような低空飛行で彼へと迫る。
『くたばるが良い、蛮族ども!』
 挽肉にしてやるとばかりの剥き出しの殺意。だからこそ。
「ギヂギヂギヂギヂ! ギエエエエッ、ギイイイイイイイ!
 ギチギチギチギチ~♪」
(そんな意地悪な事を言う人にはエコ執行でーす。
 みんな~、【ぜんそくぜんしん】よ~♪)
(はーいっ)
『!?』
 冬季の周囲、否そこかしこの残骸から顔を覗かせたアリスたちが、ヘルメット・アリスの号令を受けてまちに待ったとばかりの猛ダッシュをかける。
 即座に横へとかわしたオブリビオンマシンに肉薄するのは降り立ったが如き夕陽の赤。
『嵐のお通りだ、ちょいと荒っぽいぜ!』
 【焔摩天W(エンマテンワイルドウィンドウィスパー)】で全身を地獄の炎に包み込んだバルジ・プロミネンスの一撃。
『折れん、私は! 貴様らなどに!』
『こっちも同じだ、一撃じゃ済まないぜ!』
『これ以上はやらせんさ!』
 連撃の初動を止めるべく、ライフルでバルジ・プロミネンスの腕を押さえ込んだオブリビオンマシンに対し、機体を左右に揺らしてそれから抜けると同時、棚引くマフラーで視界を塞ぐ。
『姑息っ、姑息、姑息ゥゥ!』
 粉砕されたバリアも再び復元し空へと逃げるランバー少佐、それを追撃し浮上する火の鳥。
「ついでに言いますと」
『一人だけじゃないですよ!』
 桜花の破魔の力を込めた銃弾が敵機のオーラを引き剥がし、薄くなったそれをエクアトゥールのエール・ノワールが叩き割る。
 機体が強化されバリアを展開する時間が短くなっても、連撃の前には無力。
『墜ちろおおおおおおおおっ!!』
 上空から叩きつける大焔摩天の一撃を受けて、文字通り墜ちるオブリビオンマシン。
『おおおおおっ、だが! だがそれでも我がダンテアリオンのキャバリアは──、うぬぅっ!?』
「ガチガチガチガチ!」
(おせーっ、おせーっ、ぜ・ん・し・ん~!)
 バリアを展開したオブリビオンマシンに対し、地上で待ち構えていたアリス軍団が栄えあるダンテアリオン製の残骸を用いて加速させる前に押し止める。
『──吹き飛ばすッ』
 突進の為の前方距離を確保すべく、破損した胸部砲台をも稼働するランバー。
(きゃーっ)
(たーいへーん、あぶないわー!)
(でも間に合ったのよー)
 犇めくアリスらの上を施設の影から現れた新たなアリスが乗り越えて、ランバー少佐の視点に一番目立つ所で大画面モニターを向ける。
 電源は追随する別個体が発電機を頭にくくりつけていた。
『少佐、もう止めましょうこんな事は!』
 現れた顔を腫らした男の姿。
『…………!? 誰、あっ、そうかターバン大尉か。拷問されたのそれ?』
『今はそんな事は問題ではありません!』
『何時だって大問題だと思うけど確かにそうだな、貴様! 裏切ったのか!』
『違います、少佐! 貴方はオブリビオンマシンに飲み込まれているんです!』
『スージー大尉までもが!? あのヴァイオレット・メテオ・ストライカーがアメちゃんも知らんような未開の文明人に説き伏せられたと言うのか!』
 コンビ名言えたじゃん。
 違うと叫ぶ部下の言葉を切り捨てて少佐は怒りの形相に顔を歪めた。
『やはり一人、いや独りか! 結局は優位を示すとはそういう事なのだ。そう、それこそが──、故に!』
 全て吹き飛ばす。
 再び攻撃行動に移る瞬間、何もない空間から乱れ飛ぶのは鉛弾と光弾の交差する雷火。
『ウィリアム、【光と弾丸の交響曲(オーバーブースト・マキシマイザー・シンフォニー)】、レディ!』
『オーバーブースト・マキシマイザー・シンフォニー、レディ』
 その正体をその瞬間まで気取られる事がないよう、完全潜行していた晶とヴェルデフッドの猛攻撃は、攻撃へエネルギーを回したバリアなど易々と粉砕。
 片足で立つもままならぬオブリビオンマシンを薙ぎ払う。
『……馬鹿なっ……? なんという、何だこの様は!』
 これ以上、支援機を出現させまいとする決死の至近距離砲撃。
 その間にもバリアが解けた事で荒波の如き攻撃にも臆せずアリスたちが機体に取りついていく。
「ギチギチ、ギチチッ」
(みんなー、自慢の挟角で比較的脆そうな部品をもぎ取りましょー。晶さんの援護をするのよー)
(攻撃に当たらないようにね~)
(両サイドから剥がすと弾も当たらないしいい感じよー)
 しかし。
 両の盾でしぶとく堪え、獣の如く暴れ回る尾槍でまとわりつくアリスを払い。
 長引けば不利になるのはこちらと踏んでいた晶の総攻撃に対しても堪え切るオブリビオンマシン。
 盾から覗く眼は不気味に光り。
(廃品回収にご協力くださーい)
(エコに目覚めるのよーランバー少佐~)
『やかましいわッ!』
(きゃーっ)
 吠えると同時にアリスらを振り払い、スパークする機体からバリアを展開する。
『ウィリアム、残弾は!』
『マスター、回避を』
 ステルス機能でこちらの姿は見えなかろうが、火線は見える。二の句も告げぬAIの言葉に舌打ちする間も惜しく後退する晶。
 機体の骨格すら覗かせる状態で尚も突撃の意志を見せるランバー少佐に、打って出たのはエイストラ。
『随分と派手にやっていますね。ところで、あめちゃん、って何ですか?』
『今更ほざくかぁ!』
 標的を新たに、遂に突進を敢行したランバー少佐。走る間にも冬季を始めとする様々な攻撃がたたったか残る足も脱落して。
 そんな状態の機械が十全な機能を発揮するはずがない。
 ノエルの碧眼はエネルギーの揺らぎすら見逃さず、脆くなった一点へビームブレイドを投げ放つ。
 バリアを貫き左肩に突き刺さったそれを、こそばゆいと一笑するランバー。
『あらよっと!』
『!!』
 ぶちかますはずだったエイストラ。しかしそこには白い装甲はなく、鎮座する巨大戦車の姿があった。
 すでにヴェルデフッドの総攻撃で索敵機を粉砕されたオブリビオンマシンに、エイストラの幻影を見せていたのだ。
 オブリビオンマシンの砲撃により一部を破損し走行出来なくなったビッグタイガーへ被せるように。
『存外、クソ真面目な人間なんでね。念入りにやらせてもらうぜ。
 採算度外視、全弾持ってけ!』
 回転する砲口が敵機を捉えて、そこにはもう二機しかおらず。
 こちらより先に切り返せるもんならやってみな。
 そう、吠えるチェスカーに発動した全砲身が【最低野郎の流儀(テキタイシタヤツハテッテイテキニタタケ)】に則り砲撃を開始する。
 前面はヴェルデフッドに、そして背面はビッグタイガーの斉射を受けて。
 だが、それでも。
『──負けない、私はっ! この身が敗れる事はあり得んのだぁ!』
 人を食らうオブリビオンマシン。それは意志を取り込み糧とする。妄想に等しい意志もまた、それは正しく力であるのだから。
 砲火の中を漂う幽鬼に、さすがのチェスカーも額に脂汗を浮かべる。
『ちっくしょう! テメーらの漫談ショウも、いい加減にここらで幕を引いちまえよ!』
 彼女の叫びと弾切れの警告音が響いたその時、【アーク・スロウワー】を携えたエイストラがその眼前に降り立つ。
『畳み掛けが足りない』
『……普通ならオーバーキルだけどな……』
 ノエルの言葉に疲れきった声色でチェスカー。
 だが、これで確実に粉砕する。
 オーバーキルでいいのだと進むエイストラのアーク・スロウワーから放たれた雷撃。それは起点となるオブリビオンマシンの左肩に突き刺さったビームブレイドへ直撃する。
 通常ではとても距離を離して使える代物ではないが、ビームブレイドによる帯電が雷撃を誘導したのだ。冬季のように直撃部位を爆破させる力はないが、その鋼の意志にひびを入れるには十分だ。
「そう、畳み掛けは大事です」
 降り注ぐ稲妻が、冬季の笑みと共にその頭部を粉砕した。
 虚空に溶け消える単眼の光。機体から溢れていた禍々しいオーラも消え失せて、遂に地面を転がるオブリビオンマシン。
 敗北。
 その二文字、受け入れるしかない現実にイーデン・ランバーは形の力を抜いた。
「……さすが……そう言うしかないな、猟兵の力は……」
 最早なんの動力も残っていないオブリビオンマシンの元のなった機体の機能か、緊急脱出装置が起動してハッチが開く。
 憑き物が落ちたようにすっきりとした表情の男の手には、トランシーバーのような形状の装置が握られていた。
「まさか、自爆!?」
「諸君らの勝利は確実、汚しはしないだが! 私の敗北も汚して貰いたくないのだよ!」
 自らの危険を省みず、限界まで速度を上げて飛び込む桜花だが、スイッチを握り込む少佐の方が遥かに速く。
 ぽんっ。
 気の抜ける音と共に操縦席から打ち上げられたそれは、闇に染まり始めた空に大輪を咲かせ、輝く文字を映す。
『…………、えっ?』
 誰もが、ランバーすらも目を丸くする中、空には『第一強国万歳』の文字が華々しく彩られていた。


●ひとつの終わりに。
「よー、副長ー」
「何ですか隊長ー」
「あいつ、こっから撃ち殺せねえか?」
「責任取らされるのはパスで」 
 アリスの糸でぐるぐる巻きにされたイーデン・ランバーが運ばれるのを双眼鏡で覗いていたボイットは、肩を竦めて隣の部下に投げ渡す。
「今で殺しといた方が、後々面倒な事にならないと思うんだけどなー」
「なら隊長がやってくださいよー、猟兵の皆さんが必死に助けた敵兵を殺しちゃったら、何されるか分かりませんよ」
 だからお前にやれと言ったのだ、喉元まで上がった言葉は飲み干して溜め息を吐く。
 どちらにせよ、これで戦争が始まる。そう呟くボイットに双眼鏡を受け取った部下は、世間体を考えてもう一騒ぎ起こしてからだろうと何の気なしに呟き返し。
「おっ、隊長、見てくださいよ。猟兵が何か配ってますよ」
「ほーん? 貰えるもんなら貰っておく、戦場の鉄則を破る訳にはいかねぇな!」
「隊長ー、セクハラです」
「……せめて据え膳云々言った場合にとかさ、きちんと流れをつくって言えよ……」

 アリスらにより瓦礫が片付けられ広場となった一画に、桜色の【ケータリング用キャンピングカー】。
 車内では大量のスープを作成している桜花に、拠点のアサガシア軍人が並び立ち話に花を咲かせている。
 中にはガクガクと震えながら妙なテンションで会話する技術班の姿が見受けられるが、まあ原因は仙丹だよね。
 レイはその中の一人でハゲがヤベー事になっているゴッドハンドへ、少々ばつが悪そうに言葉をかけた。
「あー、すまんなおっちゃん。マグネロボ肆式、完全にぶっ壊しちまって」
「イイヨイイヨー、全然構ワナイヨ、ウフッ。俺タチ仕事ガ増エタッテ喜ンデルンダヨ?」
「そうなのか? なら良かった。俺の分のスープも飲んでいいぞ」
「ウフッ、ウフフッ、ヤッタネ!」
 ハゲどころか精神まで完全にヤベー奴。
 しかし特にその変化を気にもしないレイは、スープより帽子を気にしているようだ。
「ギチチッ」
(桜花さーん、スープ運ぶわよー)
「ありがとうございます。こちら、捕虜の皆さんにも運んでもらえますか?」
(もちろんよー)
(みんなに食べてもらうのー)
 桜花のお手伝いをするアリスたちの中に、レイとかわいいアクセサリーの取り合いをしていた個体が見慣れた帽子を被っているが、他のアリスに紛れてレイは気付いていないようだ。
 きちんと返してあげてね。
「いっただっきまーす!」
「いただきますっ」
 一緒に手を合わせて微笑む少女たち。シルとユーフィの年の頃ならこれが自然なのだ。
 桜花お手製のスープに他の軍人たちと舌鼓を打つ二人の笑顔は戦場にも負けずに咲く野花のように、荒んだ人々の心を癒すだろう。
 一方では摩那が回収した紙袋からダンテアリオンご自慢のアメちゃんを取り出しノエルに手渡す。
「これがアメちゃんです」
「へえ、これがそうですか」
 乳白色の優しい色合いに摩那に進められ頬張って見れば、意外にも彼らが言うほどに甘くはなく、優しく素朴な味わいが広がっている。
 ノエルに続き口に含んだ摩那は中毒者が出るとは思えないが、確かに美味しいとアメちゃんを褒めた。
 レプリカントであるノエルにとっては初めての味なのか、摩那のようや感想はなかったが自然と頬が綻ぶのは味の成せる業なのだろう。
 彼らより離れ、ウタは傷ついたバルジ・プロミネンスの肩の上でスープを飲み干すと、ご馳走さまと手を合わせる。
 腹が膨らんだ所で取り出すのはギター【ワイルドウィンド】とインカムだ。
「いつもそうやって、戦いの後は演奏してるのか?」
「ああ、オブリビオンたちが真っ直ぐ骸の海に還れるようにな」
 すでに何杯目かのスープに匙を差し込んで、深い意味を持たず問うチェスカーに、こちらも当然とウタは答える。
 ただそれだけの会話だ。二人はそれだけで言葉を切り、鎮魂歌と咀嚼音とが瓦礫ののたうつ戦場跡に木霊した。

「それで、あの第一強国ってのは何なんだ?」
「知らない! あんなもの、私は知らない。爆薬を積んでたんだ、そのはずだった。本当だ!」
「と、言うことは、やはり自爆するつもりはあったんですねぇ」
「…………、当然だ。ダンテアリオン軍人としてアサガシアンに辱しめられるぐらいならな」
 晶と冬季の言葉に答えるイーデン・ランバー。他の捕虜とは別室で拘束されたままの彼の言葉に、病的なまでの愛国心から嘘を吐いてるとは思えない晶。
 だが、これ以上の情報は彼から聞き出せそうにもない。
「まあ、これ以上はアサガシアやダンテアリオンのやる事です。私たちの出る幕じゃありませんよ」
「……そうだな……」
 少佐らダンテアリオンの差別意識はいい気がしないが、そこは猟兵の立ち入る領分ではない。
 席を立ち、少佐に睨まれながら部屋を出た晶は前を歩く冬季にすまなかったなと謝罪する。
「何がです?」
「出撃前にさ。疑って悪かったな」
「ああ、気にしていませんよ」
 どうでも良さそうに冬季。晶は多少この男に興味が湧いたようで言葉を重ねる。
「さっき驚くほどの高笑いをしていたが、さっきと今、どっちが本当の冬季なんだ?」
「私が高笑いを? 貴方の気のせいでは?」
 振り返った彼の真顔に晶は目を丸くして、肩を竦めた。


 クロムキャバリア。暴走衛生により分断された小国家群の対立する世界。
 戦乱と呼ぶに相応しいこの地では、様々な陰謀が渦を巻いている。戦争を勝ち抜き生き残る為、あるいは我欲の為に。
 国家が民の為か私物の為か、その存在理由すらも国家の数ほどあるこの地で、今日もまたひとつの災いが断たれた。
 だがそれは、新たな災いの狼煙であると、誰もが理解していた。そう、誰もが。
 それこそがクロムキャバリア、この大地なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月21日


挿絵イラスト