大祓百鬼夜行㉑~かくして彼は立ち塞がる
●UDCアース・UDC組織さいたま市支部
白昼のさなかに、突然窓ガラスの割れる音が響く。
ビルの室内、ちょうど談話室になっていて、職員が寛いでいるそこに、ガラスの破片が無数に飛び散った。
「な、なんだっ!?」
「分からない、急に窓ガラスが割れて……!」
混乱する室内。一般人の職員には何が何だか分からないであろう。何しろ、窓ガラスが『ひとりでに』割れたようにしか見えないのだから。
そして割れたガラスを踏む、下手人の姿も見えないのだから。
「へへへ……こんな脆弱な壁しか備えていないたぁ、『ゆーでぃーしー』とやらも大したことはねぇなぁ」
「フランケン、油断するなよ。どんな化け物を中に囲っているか、分からないのだからな」
踏み込んできたのはフランケンシュタインとドラキュラ男だった。その後ろにはモヒカン頭の狼男も見える。
そのままフランケンシュタインの拳が談話室のテーブルに叩きつけられた。木製のテーブルが真っ二つに割られ、上に乗せられていたコーヒーが床にこぼれる。
と、その時。職員が部屋の隅に固まっている談話室の扉を開けて、一人の人物が駆け込んできた。
「何があったんですか!?」
それは、野球帽をかぶりギターケースを背負った青年だった。同行していたらしい職員と一緒に、室内の惨状を見るなり息を呑んでいる。
「あ、狗巻君!? それが……」
そして室内にいた職員の一人がその名前を呼び、視線を窓の方に……妖怪が侵入してきた方を見やる。そちらに目を向けた狗巻青年は目を見開いた。
そこにいるのは、三体の怪物。
「……あなたたちは」
怪物たちから視線を外さないまま、ギターケースを下ろす青年。彼の姿を見た狼男が、面白そうな目で彼を見てくる。
「おぉ? 俺らのお仲間にしちゃあひょろっちいが……お前、俺らが見えているな?」
「こいつが狙い目の怪異だな、殺さずに捕らえるぞ」
ドラキュラ男も動き出した。完全に標的は、この青年に向けられている様子。
職員たちが悲痛な声を上げた。彼は、ただの人間ではない。貴重な『保護対象』であるのだ。
「狗巻君……!」
「皆さんはセキュリティエリアへ! すぐに猟兵の皆さんに連絡を!」
ギターケースからギターを取り出した狗巻・祐也の腰からしっぽが生え、耳が伸びる。そうして『街を往く獣人』の姿を顕にしながら、彼は組織の職員の前に立ち塞がった。
●グリモアベース
「ま、連絡が来るより先にボクたちが予知しちゃうんだけどね」
猫塚・咲希(過去は人の間を往く・f24180)はグリモアベースにて、大きな耳をぴこりと動かしながら猟兵たちに視線を向けた。
カクリヨファンタズムとUDCアースを巻き込んだ戦争は、まだまだ終わりを見せない。二つの世界を守るためにも、猟兵たちは休むことなく戦い続けなくてはならないのだ。
今回の事件は、状況を見るにUDCアースか。咲希がグリモアから投影した映像を見た猟兵が、小さく首を傾げる。
「うん、状況は今見せた通り。UDCアースの各地に点在するUDC組織の建物を、妖怪たちが襲撃するんだ。職員の皆は妖怪の姿を見ることが出来ないから、何がなんだかさっぱり分からないままに建物を壊されちゃうってわけ」
その言葉に、猟兵たちが一斉にざわついた。UDC組織はUDCアースにおいて、怪異に立ち向かうための重要な協力者だ。彼らの本拠地が襲撃されるなど、ただ事ではない。
しかも襲ってくるのがカクリヨファンタズムの妖怪というのが始末が悪い。何しろUDCアースの人々にとって、妖怪は遠く忘れ去られた存在だ。忘れられた妖怪は見ることも出来ない。
このままでは姿の見えない妖怪に、いいようにされるしかない。しかしそこで、咲希は人差し指を立てながら言った。
「でも、唯一……この施設に保護されているUDC-Pの子だけは、妖怪の姿を見ることが出来るんだ。妖怪も、どうやらUDC-Pを味方に取り込むことが目的みたい。皆が駆けつける頃には、たぶんUDC-Pが一人で頑張ってる」
彼女がそう告げながら、映像を一時停止する。恐らく外出先から戻ってきたところなのだろう、ギターケースを背に負った青年が画面に映し出される。
この彼が、UDC-Pだ。一人で三人を相手取るのはさすがに厳しいだろうが、ここに猟兵が参戦すれば戦況は一気に覆せるだろう。
「うん。だから皆には、UDC-Pの子と協力して妖怪をやっつけてほしいんだ。UDC-Pはそこそこのレベルの猟兵一人分くらいの戦闘力はあるし、ユーベルコードも使えるから、戦力に数えていいよ」
そう話しながら咲希は口角を持ち上げた。曰く、UDC-Pはサウンドソルジャー相当のジョブで、ギターを用いた近接戦闘を行う他、歌声で仲間を強化することも出来ると言う。その支援力は、戦闘の大きな助けになるだろう。
「敵の妖怪は、西洋妖怪の三人組。フランケンシュタインと、狼男と、ドラキュラ男。がっちり連携を取って戦ってくる、ってわけじゃないけれど、一人ひとりが結構強力だ。気をつけてね」
フランケンシュタインは憤怒の感情を爆発させての巨大化の他、豪腕で殴りつける攻撃を得意とする。
狼男は両手の爪の他、戦場全体を満月の夜と同じ環境に変え、こちらの精神を錯乱させてくる。
ドラキュラ男は吸血コウモリの群れの召喚が得意だ。UDC組織の職員は談話室から退避しているとは言え、油断は禁物だろう。
そこまで説明したところで、咲希が手元のグリモアを回転させた。ポータルが開き、UDC組織の建物の入口へと道がつながる。
「それじゃ、頑張って行ってきてね……あ、そうそう。そのUDC-Pの子だけどね」
そして猟兵を送り出そうとしながら、咲希はかつて猟兵たちが助けた、その名を口にする。
「獣人の、狗巻・祐也くん。彼が今、そこにいるよ」
屋守保英
皆さん、こんにちは。
屋守保英です。
過去に登場させたUDC-Pをシナリオで出していい戦場ということで張り切りました。何しろ何人もいますからねやもりさんち。
●目標
・ウェスタン・スケアリー・モンスターズ×1体の撃破。
●特記事項
このシナリオは戦争シナリオです。
一章のみで構成された特別なシナリオです。
UDC-Pやエージェント達と協力して戦うことで、戦闘を有利に進めることが出来ます。
●戦場・場面
(第1章)
UDCアース、UDC組織さいたま市支部の建物内、1階の談話室です。
ウェスタン・スケアリー・モンスターズが支部の建物に侵入し、設備を破壊しようと暴れています。
どうやら彼らは、この支部で保護されているUDC-Pを取り込もうとしているようです。
●UDC-P
このシナリオではUDC-P「狗巻・祐也」が戦闘に参加し、猟兵に協力してくれます。
祐也はUDC「街を往く獣人」のUDC-Pで、柴犬獣人の見た目をした男性です。
ギターを持って戦い、「サウンド・オブ・パワー」相当のユーベルコードを使用して猟兵を援護します。
登場シナリオは下記の通りです。性格等の参考にして下さい。
(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17827)
(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=29163)
それでは、皆さんの力の籠もったプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『ウェスタン・スケアリー・モンスターズ』
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POW : フランケン『ラース・ヴァイオレンス・アタック』
【気に入らねえ奴らをぶっ潰すという憤怒】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD : 狼男『ルナティック・ムーン・ライト』
【精神を錯乱させる月の光】を降らせる事で、戦場全体が【満月の夜】と同じ環境に変化する。[満月の夜]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ : ドラキュラ男『ブラッディ・ヴァンパイア・バット』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【獰猛な吸血コウモリの群れ】で包囲攻撃する。
イラスト:草間たかと
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「仇死原・アンナ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
火土金水・明
「三人組が相手ですか。確実に一人は動きを封じたいところですね。」「私はフランケンを受け持ちましょう。」(裕也さんの歌声に合わせて攻撃を始めます。)
【POW】で攻撃です。
攻撃は、【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【銀色の一撃】で、『ウェスタン・スケアリー・モンスターズ』を攻撃します。相手の攻撃には【残像】【オーラ防御】【見切り】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等は、お任せします。
キング・ノーライフ
関わりのある者を呼んだ方が安心するかと予め【鼬川の指輪】から鼬川を呼び出してから中に突入、狗巻の前に立ち「安心しろ、我が来た」。
月は狗巻が反応しそうでややこしい、吸血鬼の範囲攻撃は論外。となると狙うはデカブツか。「狗巻、音を鳴らせ。怒りも揺らぐ位にロックな音でな」と【鼓舞】。その音に強化されながら【敵を盾にする】等で鼬川と連携を取って戦う。多少共感しても巨大化強化よりマシだろうしな。
更に怒りを減らす方向で行くかと【贄の名残】で女の姿になって【誘惑】で気を逸らせて顎か股間を思い切り蹴り抜くか。
後は鼬川と狗巻を頑張ったと褒めつつもふる。普段やれん事はやっぱりしておきたい。神は幾つも顔があるのだ。
夜羽々矢・琉漣
ひとんちに窓から上がり込む悪い子は何処かな~?
(UDC組織育ちなので大体の支部は親戚の家くらいの認識)(つまりコイツらは琉漣にとって「親戚の家に窓からお邪魔してきた悪い子」なのである!おこだよ!)
月光による精神干渉は装備の【狂気耐性】で耐えつつ、召喚するのは月を司る神「ツクヨミ」。とは言っても、ゲームでのだから月の満ち欠けでの強化弱化があるくらいだけど――満月の夜は強化MAXになるんだよね。
元のゲームでも気位高くて激しやすい方だから……まぁ、覚悟しといてね?
(「ツクヨミ」の攻撃は月光を集めたような刀での斬撃と月の魔力を束ねて放つレーザー)
あ、狗巻くん、錯乱防止に【ハッキング】しとこうか?
六道銭・千里
UDC組織の方を狙うとはやるやんけ…
指弾で弾いた霊符の硬貨の『結界術』で一旦合流するために壁を
んで、アンタはよう一人で頑張ったわ、お疲れさんっと
ほんじゃあ、ちとやんちゃが過ぎる妖怪たちにお灸を据えるとしようか
骸魂の影響…殺しはせんけどちとキツくいくから覚悟せえよ
UDC-Pには歌の支援を俺は頼むわ
硬貨を巾着に入れて遠心力を、所謂ブラックジャックっちゅうやつやな
相手の攻撃は結界術で作った盾で『盾受け&受け流し』その威力をまともに喰らうわけにはいかんなぁ…
指弾で顔に向けて硬貨を投擲、牽制
一気に近づいて顔面向けて巾着で思いっきり殴りつける!中が詰まっとる分威力は…自分で確かめ!
お疲れさんっと
ルネ・シュヴァリエ
あなた達ルネと同じ西の妖怪でしょう?
酷いことするんだね
見えない人達の代わりにルネがお仕置きしてあげる
えっと、祐也くんでいいんだよね?
ルネの力だけじゃ追いつかないと思うの
あなたの音楽の力、借してくれる?
強くしてもらった念動力でコウモリを押しとどめるよ
「ほら、血、吸いたいでしょう……? 噛みつきたいんだよね、ここに。」
催眠術を込めた言葉で話しかけながら
ドラキュラくんに向けて首元を見せて誘惑してUCを使用
ダメージの対象は敵の3人と吸血コウモリ
これでコウモリを落としながらドラキュラくんを倒せるまで生命を吸収し続けるね
職員さんの中に命の危険があるような怪我してる人がいたらUCの回復の対象にして眠らせるね
●狗巻・祐也「S工業大学からUDC組織傘下の大学に転学しました。今は3年生です」
ウェスタン・スケアリー・モンスターズの三人を前に、狗巻・祐也はまさしく孤軍奮闘していた。
愛用のギターを鈍器のように使っては敵の攻撃を受け止め、流れるように弦を弾いて自身の強化を行う。
集団敵オブリビオン相当の力しか持たない彼にしては、なかなかに奮戦していた。
「はっ!」
今もまた、狼男の爪の一撃をギターで受け止め、弾き返す。手が跳ね上げられた狼男が目を大きく見開いた。
「おっと……なんだ、ひょろっちい見た目の割りには頑張るじゃねえか」
「だが、それもいつまで保つかな」
前線に立つフランケンと狼男の後ろで、ドラキュラ男がほくそ笑む。確かに、既に劣勢に立たされている祐也だ。このままでは遠からず叩きのめされるだろう。
「くっ……やっぱり一対三じゃ……!」
祐也が歯をぎりと噛んだところで、そこに小さな音を立てて飛んでくるものがあった。
一枚の硬貨だ。その硬貨が祐也の前まで飛んでくるや、一気に結界を展開させる。
「なっ!?」
祐也も、ウェスタン・スケアリー・モンスターズの賛人も驚いた。明らかに結界の強度が違う。
その硬貨を……正確には硬貨の形をした霊符を指弾で弾いたのは六道銭・千里(あの世への水先案内人・f05038)だ。結界の内側、祐也の前に割り込むように駆け込む。
「UDC組織の方を狙うとはやるやんけ……んで、アンタはよう一人で頑張ったわ、お疲れさんっと」
その優しい言葉に、祐也が小さく目を見開く。と、そこに次々に猟兵たちが駆け込んできた。総勢五人、および従者一人。
キング・ノーライフ(不死なる物の神・f18503)と鼬川・瞬太が祐也に声をかけながら、彼の傍に立つ。
「狗巻!」
「安心しろ、我が来た」
二人とも、何度も顔を合わせて見知った人物だ。祐也の表情にも笑みが戻る。
「鼬川さん! 猟兵の皆さん!」
ようやく余裕を取り戻した祐也の前で、夜羽々矢・琉漣(コードキャスター・f21260)はパシンと両手を打ち鳴らした。
「ひとんちに窓から上がり込む悪い子は何処かな~?」
UDC組織育ちの琉漣にとって、UDC組織の支部は親戚の家のような感覚だ。そこを襲撃し、挙句の果てに窓を破って机を壊した。この妖怪たちは明らかに悪い子だ。
ルネ・シュヴァリエ(リリスの友想い・f30677)も目の前の妖怪たちを、なんとも言えないきつい表情でにらみつける。
「あなたたちルネと同じ西の妖怪でしょう? 酷いことするんだね。見えない人たちの代わりにルネがお仕置きしてあげる」
冷たく言い放つルネに頷いて、火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)も頭にかぶった三角帽子を直した。
「三人組が相手ですか。確実に一人は動きを封じたいところですね」
ただでさえ強力なボス敵オブリビオン。それが三人一組とは厄介だ。彼女の言葉通り、相手の動きを封じていくのは重要なこと。
千里の結界が解除される。猟兵たちは既に戦闘準備を万全に整えた後だ。この時点で、形勢は逆転したと言える。
「猟兵か! ちっ、こんなところまで出張ってくるとはな!」
「めんどくせえ、まとめて叩き潰してやらあ」
歯噛みする狼男の隣で、フランケンが面倒くさそうに拳を打ち鳴らした。
そうしてどんどんフランケンの身体が大きくなるのを見上げる祐也に、ルネが声をかけた。
「えっと、祐也くんでいいんだよね?
「は、はい」
彼女の言葉に祐也が返事を返すと、ルネは小さく笑いながら、彼の相棒であるギターに視線を向けた。
「ルネの力だけじゃ追いつかないと思うの。あなたの音楽の力、借してくれる?」
支援要請。その言葉に祐也が目を見開いた。猟兵の側から、自分に支援をお願いしてくるなんて、彼もきっと考えつかなかったことだろう。
キングもうっすら笑いながら祐也に声をかけた。
「そうだ、狗巻、音を鳴らせ。怒りも揺らぐ位にロックな音でな」
「そうだぜ狗巻、お前の音をここの全員に聞こえるくらいに響かせてやれ!」
瞬太も力いっぱい吼えた。千里も琉漣も頷いている。
祐也は気持ちを新たにした。もう、恐れることはない。
「……分かりました。いきますよ!」
そして爪弾かれるギターの弦。数節のイントロの後に、祐也の声が談話室に響き渡った。
●UDCさいたま市支部職員「狗巻君については職員が最低一人同行すること、組織外では人間に変身することを条件に外出を許可しています」
祐也の歌声が施設内に響き始めるや、猟兵たちは自分たちの体に力が満ちるのを感じた。
結構な強化だ。これなら安心して戦える。三角帽子をそのままに、銀の剣を構える明が一歩前に進み出る。
「おぉ……これはかなりの強化。いいですね、私はフランケンを受け持ちましょう」
「一人で相手取るにはきつかろう、我も行こう」
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
キングと瞬太も前に出た。このまま祐也ばかりに攻撃を集中うさせるわけにはいかない。巨大化したフランケンが大きく吼えた。
「バカにしやがって……まとめて捻り潰してやる!」
フランケンが高く吠える。その声を聞いて顔を上げながら、千里がゆびのうえで硬貨をはじいた。
「ほんじゃあ、ちとやんちゃが過ぎる妖怪たちにお灸を据えるとしようか。ちとキツくいくから覚悟せえよ」
そう言いながら、千里は硬貨を入れた巾着袋の口を固く引き絞った。その巾着をぶんと振り回せば、それだけで鈍器の完成だ。狼男がニヤリと笑う。
「は、ブラックジャックってやつか? そんな即席の武器で、俺たちの攻撃をどうにか出来ると思うなよ! アォォォー……!」
と、そこで狼男が天井を見上げて吠えた。談話室の中に、昼だと言うのに月の光が差し込む。満月の、眩しい光が。
途端に、脳を揺らされるような感覚が襲う。祐也が小さくうめきながら目を細めた。
「く……!」
「狗巻! 平気か!?」
風の刃を飛ばしながら瞬太が祐也に声をかける。一瞬音を途切れさせながらも、祐也は何とか正気を保っていた。
「平気……です、このくらい!」
そうして祐也が声を上げると、そこにそっと琉漣が近づいてきた。トン、と軽く彼の肩を叩く。
「……っ、あ、あれ?」
と、その瞬間。祐也の目の中の瞳孔が、元の大きさを取り戻していた。今までは狂わないようあがいている感じだったのだが、すっかり落ち着きを取り戻している。
そんな祐也に、琉漣がにこやかに微笑みかける。
「錯乱防止のハッキング。ちょっとは楽になったかな?」
「あ、ありがとうございます」
琉漣へと祐也がお礼を述べる。それにもう一度笑みを返した琉漣が、さっと腕に伸ばしながら狼男の前に立った。
「さて、それじゃあ行こうか――コピーキャットシステム、『ツクヨミ』、起動」
次の瞬間、琉漣の姿が大きく変わった。シンプルだった服装が、まるで神様のような丈の長い、派手な服装になっている。
「な!?」
その変化に、狼男が目を見開いた。その顔に向かって、月光を集めたような刀の切っ先を琉漣は向ける。その切っ先が満月の光を受けて怪しく輝いた。
「へへ……満月の光、ありがとう。おかげで強化MAXだよ」
琉漣が召喚したのは、月を司る神「ツクヨミ」を模した衣装と武器だ。丈の長い、月光を受けて輝く衣。月光を束ねたかのような刀。その指先からがレーザー光線も放てる。
ここに来てさらなる戦力アップだ。千里の口角も自然と上がる。
「は、これは頼もしいわ。ほなら一気に行くで!」
そう言いながら千里の指が、硬貨型の霊符を強く弾いた。一直線に飛んだそれが、狼男の額にぶつかって力強く弾く。
「く……! これ、ただのコインじゃ――」
「正解や。中がそいつで詰まっとる分、威力は……自分で確かめ!」
破邪の霊符がたっぷり詰め込まれた巾着を、千里は振るった。それが狼男の横っ面に激突し、彼の頭を大きく揺らす。
一発だけでもきっちり当たれば頭を弾くほどの威力のある霊符だ。それが数百枚、詰め込まれた状態での遠心力を伴う一撃。当然、威力は何百倍にも跳ね上がる。
その時には、フランケンに立ち向かう三人も次々に攻撃を重ねていた。絶え間ない攻撃を受けたフランケンは、自分の拳を振るう暇もない。
前衛の二人が見る間に拮抗から劣勢に立たされ始めるのを見て、後衛で戦闘の様子を伺っていたドラキュラ男が冷や汗を流し始める。
「バカな……猟兵がたった五人加わっただけでこうも形勢が逆転するだと? これは我輩も座して見てはいられん」
そう言いながら吸血コウモリを召喚し始めるドラキュラ男。彼の前に立つのはルネだった。
「あなたも動くのね……なら、ルネが相手してあげる」
そう言いながら、ルネが首につけたチョーカーをずらした。細い首筋を顕にしながら、甘い口調で語りかける。
「ほら、血、吸いたいでしょう……? 噛みつきたいんだよね、ここに」
「な……」
その、自らスキを晒すような行動。ドラキュラ男が驚きに目をみはるが、それ以上に。召喚された吸血コウモリがルネに目を奪われたように動きを止めると、その場にへなへなと崩れ落ちたのだ。
「なっ、こ、コウモリ共! へたり込んでいないで仕事をしろ! くっ、これでは我輩も……!」
「ほら、ここよ? せっかく噛みつきやすくしてあげているのに、いいのかしら?」
コウモリたちを叱咤するドラキュラ男だが、自分の体にもなんだか力が入らない。ルネの誘惑の術によって、知らず識らずのうちに自ら生命力を差し出しているとは、まだ気付いた様子はないようだ。
そしてその硬貨は戦場全体に届いていた。キング、瞬太、明と相対していたフランケンも、その身体を少々縮めながらふらふらと頭を振った、
「あぁ……なんだ、くそ、身体に力が入らねぇ……!」
その鬱陶しそうな声に、キングがほくそ笑む。攻めどきだ。
「ほう、ここまで届くか。ならばもうひと押し行ってやるか。鼬川、足を止めさせろ」
「あいよっ!」
キングの言葉を受けて、瞬太が特大の風刃を放つ。フランケンの足元目掛けて飛ばされたそれが、フランケンの足を確かに止めさせた。
「ぐ――」
「ここよ」
その間に、キングはその姿を美女へと変じていた。両手両足に水かきを備えた、長い髪を保つカエルの美女へと。その脚力で一気に距離を詰めたのだ。
「なっ!?」
「こんなに昂ぶって……すごく乱暴な身体だわ。私にもっと見せてちょうだい?」
そしてキングが、甘い言葉を吐きながらフランケンの身体にそっと手を添えて、優しく撫でる。その言葉と手付きだけで、フランケンはぼうっと惚けたような表情になった。
「で、でへ……」
「おいフランケン、そいつは――」
鼻の下を伸ばす彼に、ドラキュラ男が声を飛ばすが、遅い。キングの足が鋭く振り抜かれる。
「甘い」
「あぐぉっ!?」
股間に向けた強烈な蹴り、男性にとっての大事なところを蹴り潰されたフランケンが、悶絶しながら股間を押さえてうずくまった。
その隙きに、明も一気に距離を詰める。
「色仕掛けにかかるとは滑稽ですね。一筋の一撃を」
そうして突き出された銀の剣。それがフランケンの額に突き刺さった。
「ぐわ……」
苦悶の声を上げながらフランケンが身体を縮め、もんどり打って倒れる。その額の傷からあふれるように、黒い靄が外に吐き出された。
骸魂が出ていったのだ。これでまずは一人。
「フランケン!? くそ――」
「おっと、よそ見している暇なんてあるのかな?」
倒れるものが出たことに戸惑う狼男に、レーザーを連射しながら琉漣が笑う。月の光を束ねたその一撃が、また狼男の毛皮を焼いた。
「ぎゃ……っ!」
「そら、もう一発! そのまま浄化されてまえ!」
そこに叩きつけられる千里のブラックジャックによる一撃。再び脳を揺らされた狼男がたまらず膝をついたところで、琉漣が月の刀を振りかぶった。
「いいね、これでトドメだよ!」
振り下ろされる刀の一撃、それが狼男へのトドメとなった。血を吹き出しながら狼男が倒れていく。
「あが……」
その身体からも黒い靄が吐き出された。傷は深いようだが、命はあるようだ。じきに目を覚ますだろう。
また一人。残るはルネに生命力を吸われ続けて、へろへろになったドラキュラ男だけだ。
「くそっ、残るは我輩一人だと!? こんな――」
「こんなことは有り得ない? いいえ、有り得るわ。それを成し遂げるのがルネたち」
そう言いながら、ルネがもう一度を伸ばした。とどめを刺さんと、残りわずかの生命力を吸い上げにかかる。
他の猟兵たちも一気に襲いかかった。瞬太が風の刃を飛ばし、キングが蹴りつけにかかり、千里が霊符を飛ばすのに合わせて琉漣もレーザーを飛ばす。
「フィナーレや、盛大に行くで!」
「了解です、このままアウトロまで一気に行きますよ!」
それを支えているのは祐也の音楽によるバックアップだ。既にフィナーレのラスサビ。ここから曲調もいっきに最高潮。
その曲の勢いに合わせ、猟兵たちの一斉攻撃がドラキュラ男に殺到する。
「が……こんな……」
たまらず倒れ込んだドラキュラ男からも、黒い靄が吐き出された。
●UDCさいたま市支部職員「狗巻君の愛用のギターは彼自身が購入した私物ですが、通常のギターより強度は高いようです」
猟兵たちが武器をおろし、祐也がギターをおろして息を吐いたところで、談話室の扉が開かれる。セキュリティエリアに退避していたUDC組織さいたま市支部の職員たちが戻ってきたのだ。
「狗巻君! 猟兵の皆さん!」
「あ……皆さん!」
彼らの姿に、祐也が明るい笑顔を見せた。全員、命がある様子を見てホッと胸をなでおろしている。
職員の方も、祐也が無事にいてくれたことを喜んでいるようだ。猟兵たちに深く頭を下げている。
「よかった……まさか連絡を入れる前に来てくださるだなんて」
「ま、そのへんはね。猟兵の皆のおかげだよ」
職員の一人の言葉に、琉漣が後頭部をかきながら応えた。これだけ迅速に動けたのは、グリモア猟兵のおかげでもあるのだ。皆の力が合わさったからこそである。
職員たちに、ルネが心配そうな表情をして声をかける。
「職員さんの中に、怪我をしている人はいませんか?」
「いえ、全員大した怪我もなく無事です。せいぜい、割れたガラスで腕を切ったくらいですよ」
そう言いながら腕を掲げた職員の右腕には、包帯が巻かれていた。きっと割れた窓の近くにいて、ガラスの破片を浴びたのだろう。しかし、その程度ですんだと言うなら僥倖だ。
他方では、キングが祐也と瞬太の頭を抱いて、わしゃわしゃと撫で回していた。
「狗巻も鼬川も、二人ともよく頑張ったな」
「あぅっ、その」
「へへ……何だよご主人様、もふってくるなんて珍しいじゃねーか」
急にもふってきたキングに戸惑う祐也と、どこか嬉しそうな瞬太。珍しいこともあるものだが、神とは得てしていくつも顔を持つものだ。
ようやく平穏を取り戻した談話室に立ちながら、明が一点に視線を向ける。
「皆さん無事なようで良かったです。後は、彼らですかね」
そこにいるのは、骸魂から吐き出されて元の状態に戻った西洋妖怪三人である。すっかり意気消沈して、談話室の床に正座している。
とはいえ、妖怪。今もまだ、UDC組織の職員の目には姿が映らない。
「その、一体何があったんですか? お恥ずかしながら、我々にはさっぱり……施設内のカメラにも何も映らなくて……」
「UDC-Nullってやつや。ま、しゃーなし。現象が起こっても、実際に自分の目で見れへんかったら、理解もできひんわ」
戸惑う様子の職員に、千里が肩をすくめながら言った。妖怪によって起こされた現象は見れても、結局妖怪の姿は映らないまま。それでは荒唐無稽な妄言と言われてもしょうがない。
身を小さくする妖怪たちに、千里が歩み寄りながら声をかける。
「自分ら、もう吐き出されて正気に戻ってんねやろ? ちっとは反省しとるんか?」
「う……」
「す、すまねえ……」
「謝っても届かないとは思うが……申し訳ない」
三人の妖怪たちは、頭を下げながらますます縮こまった。その姿を見ながら、祐也がそっと目を細める。
「いいです……いえ、よくはないですけれど。でも、誰も死ななかったんですから、いいです」
そう言って微笑む彼に、目を見開きながら妖怪たちが顔を上げた。
したことは決して許されないだろうけれど、それでも許してもらえた。狙われたUDC-P本人がそういうのだから、きっと大丈夫だ。
気持ちを切り替えるように、祐也がぽんと手を叩く。毛に覆われ、肉球を持ったその手は、強く音を立てることはないけれど。
「さ、談話室の掃除をしましょう。このままにはしておけません。皆さんも手伝ってくれますか?」
彼のまとうその優しい雰囲気に、猟兵も妖怪も動き出す。
掃除が終わり、壁や窓ガラスの修理を終えたら、またいつもの日常が始まる。それはきっと、この先の戦いの力にもなるはずだ。
大成功
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