18
櫻花嫋嫋

#サクラミラージュ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


0




●絶景哉
 庭園の中心に座す幻朧桜は、威風堂々と。
 主の喪失も、時代の変化も、意に介さぬよう、其処にあり続ける。
 だがしかし、どこか物足りぬ。
 ――あの日のそれは……とても美しかった。
 記憶の全てを塗り替えてしまうほどの、凄艶なる姿。
 どんな傾国の美女すら叶わぬ妖艶さ。
 ――その花を咲かせるものは。
 ――この庭を彩るものは。

 やはり、優しく――美しいものがいい。

●大事なことだから、二度言いました
「喜べよ、ダーリン。メイドだ」
 阿夜訶志・サイカ(ひとでなし・f25924)はニヤニヤと笑いながら、そう告げた。
 不可解そうな眼差しを受けて、彼はゆっくりと繰り返す。
「だから、メイドやってこい」
 ――然るに。
 さる男爵の死後、長らく放置された屋敷がある。
 だが、件の男爵の血縁者と名乗るものが突如と戻り、屋敷を整え、住まうことを決めたらしい。
 そうなると当然、使用人が必要となる。
 町中には大々的に『使用人の募集』の掲示が貼り出され――提示される魅力的な給金、男爵家へのご奉公となれば箔がつくと、七百年も続く大正の世ではあるが、心ときめかせる子女もあろう。
 男爵を名乗る男が、まだ年若き美しい男ならば、尚更だ。
「だが希望はあらゆる手段を使って、全部キャンセルだ――ハン、呼ばれて集められた女ども……男もだが、全員、影朧に殺されるだけだからな」
 サイカは口の端をくっと歪めた儘、そう断言する。
 即ち、影朧による連続殺人が起きるのだ、と。
「事件は未然に防いだわけだが、それじゃァ済まねぇ。十中八九、男爵サマとやらの招待は影朧だ……片付けておかねぇとな」
 まあ、つまり。代理として、猟兵がメイド――或いはフットマンとして、屋敷に向かうことになる。
「ひとまず、片付いてないお屋敷の片付けからだ。なんせ、基本、五十年は手つかずのお屋敷らしい。人手はいくらでも欲しいだろうさ――で、よォ。俺様の言いたいこと、わかるか、ダーリン」
 ひときわ悪い表情をしたが、どうやら金目の物の話、ではないらしい。
「影朧は酔狂で縁もゆかりもねぇ『男爵』を名乗りはしねぇ。言うまでも無いが、ただの空き家じゃなく、ちゃーんと公式に管理されてた建物だ。男爵の血縁者だと証明できる何かがあったんだろうよ」
 どうにも、回りくどい言い回しだ。
「仕方ねぇ。余計な邪推されたら堪らねぇから言うが――俺様は、影朧は、男爵本人だと見てる」
 つまり、屋敷内で曾て起こった事。
 影朧がわざわざ屋敷に戻ってきた理由――そういったものが、屋敷の中には、残っているだろうということだ。
「秘密を知りすぎた使用人が殺されるってのは、サスペンスのお約束だろうが……ま、いっちょ、潜り込んで……死んできてくれ」
 極めて朗らかに、彼は告げ。
 影朧が待つ屋敷に猟兵達を導くのであった――。


黒塚婁
どうも、黒塚です。
急に「そうだよ、メイドだよ!」って天啓が降ってきたので。

●1章
皆さんにはお屋敷への奉公として、メイド、フットマン……まあ名称は何であれ、使用人として働くという題目で、屋敷の調査をしていただきます。
別に男性がメイド服着ちゃいけないとはいってません。
お好きにどうぞ。
ただし、どんな仕事であれ、使用人以外の動きは出来ませんし、突然執事などにもなれません。(詳しくは導入にて)

※若干おふざけな要素をいれながら、これを申し上げるのは心苦しいのですが。
あまり本筋から離れた行動が多い方は採用できませんので、ご注意ください。

●2章
影朧さんの仕掛けた罠にかかって死ぬというお約束。
皆さんは死んだふりをしていただきます。

●3章
影朧さんとの対決

●プレイング受付に関して
各章、導入公開後の受付となります。
受付日時は、タグと雑記でご案内予定です。
全員採用はお約束できませんので、ご了承の上、参加いただければ幸いです。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
134




第1章 日常 『真実の探求:影朧の軌跡』

POW   :    影朧を知る人を探しに行く。

SPD   :    新聞や書籍に影朧の情報が無いか調べる。

WIZ   :    影朧が執着するものについて調べる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


櫻花嫋嫋

●絶景哉
 庭園の中心に座す幻朧桜は、威風堂々と。
 主の喪失も、時代の変化も、意に介さぬよう、其処にあり続ける。
 だがしかし、どこか物足りぬ。
 ――あの日のそれは……とても美しかった。
 記憶の全てを塗り替えてしまうほどの、凄艶なる姿。
 どんな傾国の美女すら叶わぬ妖艶さ。
 ――その花を咲かせるものは。
 ――この庭を彩るものは。

 やはり、優しく――美しいものがいい。

●大事なことだから、二度言いました
「喜べよ、ダーリン。メイドだ」
 阿夜訶志・サイカ(ひとでなし・f25924)はニヤニヤと笑いながら、そう告げた。
 不可解そうな眼差しを受けて、彼はゆっくりと繰り返す。
「だから、メイドやってこい」
 ――然るに。
 さる男爵の死後、長らく放置された屋敷がある。
 だが、件の男爵の血縁者と名乗るものが突如と戻り、屋敷を整え、住まうことを決めたらしい。
 そうなると当然、使用人が必要となる。
 町中には大々的に『使用人の募集』の掲示が貼り出され――提示される魅力的な給金、男爵家へのご奉公となれば箔がつくと、七百年も続く大正の世ではあるが、心ときめかせる子女もあろう。
 男爵を名乗る男が、まだ年若き美しい男ならば、尚更だ。
「だが希望はあらゆる手段を使って、全部キャンセルだ――ハン、呼ばれて集められた女ども……男もだが、全員、影朧に殺されるだけだからな」
 サイカは口の端をくっと歪めた儘、そう断言する。
 即ち、影朧による連続殺人が起きるのだ、と。
「事件は未然に防いだわけだが、それじゃァ済まねぇ。十中八九、男爵サマとやらの招待は影朧だ……片付けておかねぇとな」
 まあ、つまり。代理として、猟兵がメイド――或いはフットマンとして、屋敷に向かうことになる。
「ひとまず、片付いてないお屋敷の片付けからだ。なんせ、基本、五十年は手つかずのお屋敷らしい。人手はいくらでも欲しいだろうさ――で、よォ。俺様の言いたいこと、わかるか、ダーリン」
 ひときわ悪い表情をしたが、どうやら金目の物の話、ではないらしい。
「影朧は酔狂で縁もゆかりもねぇ『男爵』を名乗りはしねぇ。言うまでも無いが、ただの空き家じゃなく、ちゃーんと公式に管理されてた建物だ。男爵の血縁者だと証明できる何かがあったんだろうよ」
 どうにも、回りくどい言い回しだ。
「仕方ねぇ。余計な邪推されたら堪らねぇから言うが――俺様は、影朧は、男爵本人だと見てる」
 つまり、屋敷内で曾て起こった事。
 影朧がわざわざ屋敷に戻ってきた理由――そういったものが、屋敷の中には、残っているだろうということだ。
「秘密を知りすぎた使用人が殺されるってのは、サスペンスのお約束だろうが……ま、いっちょ、潜り込んで……死んできてくれ」
 極めて朗らかに、彼は告げ。
 影朧が待つ屋敷に猟兵達を導くのであった――。


どうも、黒塚です。
急に「そうだよ、メイドだよ!」って天啓が降ってきたので。

●1章
皆さんにはお屋敷への奉公として、メイド、フットマン……まあ名称は何であれ、使用人として働くという題目で、屋敷の調査をしていただきます。
別に男性がメイド服着ちゃいけないとはいってません。
お好きにどうぞ。
ただし、どんな仕事であれ、使用人以外の動きは出来ませんし、突然執事などにもなれません。(詳しくは導入にて)

※若干おふざけな要素をいれながら、これを申し上げるのは心苦しいのですが。
あまり本筋から離れた行動が多い方は採用できませんので、ご注意ください。

●2章
影朧さんの仕掛けた罠にかかって死ぬというお約束。
皆さんは死んだふりをしていただきます。

●3章
影朧さんとの対決

●プレイング受付に関して
各章、導入公開後の受付となります。
受付日時は、タグと雑記でご案内予定です。
全員採用はお約束できませんので、ご了承の上、参加いただければ幸いです。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。

==
何かの異常で、傷つけ虐げた者達の「過去」が影朧化した存在
桜を異常に愛してた人物、桜の下に死体を埋める事で、桜を美しく咲かせる方法を考え、無数の人物を上記の方法で殺害、最後は処刑された
改変などは御自由に
==

●待ち受けるもの
 その洋館は郊外にぽつねんと佇んでいた。周囲は青々とした森で、どこか物寂しい道の先に、突如と立派なお屋敷が現れるのである。
 かの屋敷は、青磁のような外壁で、遠巻きに見てもアール・ヌーヴォーを随所に漂わせた作りをしていた。
 金物工芸による門扉から玄関、窓枠の装飾も然り。
 重ねた年数を思わせる重厚さがあり――しかし、少々手入れが足りていない印象は拭えない。
 前庭は屋敷の規模に比較すると、思ったよりも狭い――となど思いつつ、玄関を潜れば、如何にも洋風な玄関ホールに、上階に続くカーヴを描く階段が見え、その向こうに輝くような新緑の庭があった。
 もっとも、硝子窓から見える限り、これも手入れが行き届いている状態とは言えない。
 そんな来訪者たちの内心を察するように、溜息が聞こえ。
「ゆえに皆様をお呼びしたのです」
 玄関ホールにひとり。小奇麗な黒服の男が、彼らを出迎えに来ていた。
「わたくし、旦那様より皆様への指示を申し付けられた……いわゆる、バトラーなるもの、だそうでございます」
 まだ若い印象の男はそういって、恭しく集った猟兵たちに頭を下げる。
 彼曰く――新しい使用人達に任せたい仕事は、三つ。
 屋敷全体の掃除。
 各部屋の掃除。
 庭の手入れ。
「部屋には過去の不用品が残ったままで……エエ、昔の新聞などがまとめてあったり、住み込みの使用人が使っていた着物が取り残されていたり……旦那様は、処分していくおつもりのようですが、判断に迷うものを見つけましたら、わたくしにご相談くださいませ」
 注意事項は特になく、引き出しなどに触れる事も厭わぬらしい。
 何せ、五十年の時を跨いだ屋敷。少なくとも、男爵個人に思い入れのあるものが発掘される可能性は低い――と。
 それでも、貴重品などが紛れている可能性は、ある。
 諸々含め、執事を名乗る男は、巡回するつもりらしい。監視というよりは、そういった疑問の手伝いに。
 最後に、と執事は声を低くして、告げる。
「旦那様は二階の奥のお部屋におられますが、決して近づかれませぬよう。挨拶などは、落ち着いてから、相応しき場を設けてくださいます。まずは皆様の仕事ぶりを見せていただきましょう」
 執事は物腰柔らかに、さくりと猟兵達を牽制して、微笑んだ。

◇++++++◇++++++◇++++++◇++++++◇
▼行ける場所リスト
・屋敷全体
 ダイニングルーム
 厨房
 洗い場(+リネン室)
 遊戯室
 風呂場

・部屋
 客間(貴賓室)
 使用人部屋(二部屋)

・庭

▼現時点では行けない場所
・2F奥の部屋(書斎?)

▼屋敷は二階建て、玄関から建物を挟んだ先に庭、全貌は不明

▼頼まれている仕事は、掃除・雑務

▼厨房を使用は条件あり(許可が必要)
(NPCへの食事の準備などは不要と断られます)

……という条件を基本とした調査となります。
直感だけでは見つけられないような秘密の発見には、調査側の狙いが明確であることが必要です。また、現状調べがついておらず、リストの中にない場所などもあります。(お手洗いは敢えて外してあります。発見はないです・笑)

※何も発見できなくても進行しますし、特に不利なことはありません。
◇++++++◇++++++◇++++++◇++++++◇
エルザ・ヴェンジェンス
此度の素晴らしきご縁、感謝致します

黒服様には先にご挨拶をして起きましょう
2階の使用人部屋の掃除を行わせて頂ければと

持ち込んだ掃除用具でお掃除と部屋の検分を致しましょう
壁に、床板、寝所
材質、音を確認し…覗き穴くらいはあっても不思議はありませんが

あぁ、服も確認致しましょう
男爵様もお美しい方であったのでしょう
弁えぬメイドがいれば…えぇ、手紙くらいは残っていましょう

色よい手紙でも、何かを見てしまっても
言葉に出来ぬものは綴られて残りましょう
着物に隠されていれば、この屋敷について何か分かりましょうか

巡回の黒服様に出会っても困りますし
廊下の掃除へ。花を生ける許可が頂ければ花を生けましょう
まだ見ぬ旦那様の為に



●秘め事
 執事と任命されたという男に、ひとりのメイドが静かに近づき、挨拶する。
「此度の素晴らしきご縁、感謝致します」
 軽くお辞儀をしたエルザ・ヴェンジェンス(ライカンスロープ・f17139)の表情は、真摯なものだ。
「早速ですが、使用人部屋の掃除を行わせてください」
「はい、よろしくお願いしますね」
 黒衣の男は、同じく真面目な表情で彼女に頷き返す。
 その様子に不自然なところも、焦る様子も無い――エルザは色違いの双眸を軽く瞬かせ、無駄の無い動きで部屋に向かう。
 既に男爵が生活を始めているゆえか、屋敷の廊下は特に埃っぽさを感じないが、彼女にしてみれば、掃除が行き届いているようには思えぬ。
 何より、この空間は目覚めたばかりで、時が止まったまま――華やぎや、命を、感じない。
(「……当然なのでしょうね」)
 此所に住み着くのが、人ではないのならば。
 使用人室は広く、五、六人が共に寝泊まりできるよう、ベッドと個人用のチェスト、パーティションのようなもの、があった。
 エルザは自前のお掃除セットを手に、つかつかと奥まで歩いて行く。まずはハタキをかけねば、と呟いて、壁を押したり、ハタキを強めにかけてみたりする。
(「……覗き穴くらいはあっても不思議はありませんが」)
 目視で材質や、違和感が無いかを探し――音で、それを確認する。壁や、届く範囲の天上の確認が終われば、次はベッドだ。マットレスを上げて、底板を軽くノックしてみる。
 そのいらえに、彼女は殆ど動かぬ表情を、何らかの意図をもって僅かに変化させる。
(「金属。撥条……」)
 マットレスを元に戻すと、今度は中身がそのままだというチェストに手をかけた。
「あぁ、服も確認致しましょう」
 誰にでもなく言い――抽斗の奥には、地味な色味の着物が重なっている。状態は悪いが、最早これを取り戻したいものはおらぬだろう。それでも、エルザは丁寧に取り出すと、じっくりと検分する。
 服の詳細よりも、そこに混ざる何か――例えば、大切な手紙、など。
(「男爵様もお美しい方であったのでしょう――弁えぬメイドがいれば……えぇ、手紙くらいは残っていましょう」)
 言葉はその瞬間に消えてしまう不確かなものだが、綴られたものは形に残る。
 かさり、と。指先に触れた布地では無いものの感触に、彼女はひときわ注意深く、それを取り出す。
 ――日記の、切れ端。
 ざっと目を通す。そこに記されているのは、喜びから、一転。不安、不審、恐怖――。
 すぐに読み込むのは止めて、彼女はそれを丁寧に畳むと自分のハンカチで包んで、掃除道具の影に潜める。
 そして。その下に小さな簪があった。桜の意匠――。それもこっそり忍ばせて、立ち上がる。
「では、庭によい花が無いか聞いてみましょう」
 表情一つ変えずに、エルザは部屋を出る。その部屋は――見事に磨き上げられていた。
 廊下に花を生ける許可は先程挨拶したとき、とってある。この屋敷は、あまりにも殺風景ですからと、目を伏せる。
「まだ見ぬ旦那様の為に」
 それがメイドの本懐ですから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
使用人として屋敷へ潜り込む
…メイドではない、フットマンだ
仮に俺があのひらひらした服を着たとして、一体誰が得をする

言われた通り二階の奥の部屋には近付かない
今は使用人として『旦那様』の意向には従おう
怪しまれないように清掃を行いつつ使用人の部屋へ
特に調べたいのは引き出し等の収納
使用人が残した日記や手紙でも出てはこないかと期待している

以前も屋敷で今回予知されたような出来事…誰かが殺されたとしたら
使用人が不安を日記に書き留めたり、手紙で親類や友人に相談するかもしれない
そういう品でもあれば情報を得られそうだ

かつて何が起こったのか、どんな風に殺されたか
後に「死ぬ」必要があるのならその参考にもなるかもしれない



●暴露の片鱗
 男がメイド服を着ても構わないと、転送する猟兵は言っていたが――ありえん、と。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は思い出して、僅かに眉間を寄せた。
 一体誰が得をする――猟兵たちに応対した執事がどんな反応をするのか、という懸念を考えれば、然り、と。
 果たして彼は、少々窮屈に身なりを整えて廊下を行く。
 汚れ仕事に就くには小奇麗すぎると思うのだが、そういった着替えをするにも、まずは使用人部屋を整える必要があろう。
 かの部屋は、男性用、女性用と二部屋分けて使われていたらしい。
 意図せず――向けた視線の先、黒い重厚な扉が見える。あれが特別な部屋だと解る設えをしていた。意識せず、白銀の耳が、探るように動く。
 何の気配もない――不穏な気配すら。
 今のところ、誰に見とがめられる状況でも無いが、シキはすぐに視線を外す。今のところ、誰かが自分を見ている感覚みたいなものは感じないが――余計な勘ぐりをしていると思われたくは無い。
(「……今は使用人として『旦那様』の意向には従おう」)
 淡々と、目の前の扉を引く。
 部屋は――今の彼は知るまいが、女性用の使用人室と特に変わりは無い。人数分のベッド、チェスト。部屋は全体的に埃っぽく、ただそれは、汚らしいというよりも、古い匂いで充満している。執事だか男爵だかの手によって、風通しはしてあるのだろう。
 通常の清掃を装いながら、不自然で無いように、チェストに手をかける。
 重みを確かめるように、ゆっくりと引く。
 一段目には、何も無かった。だが、彼は中を改め、埃を払うという手順を焦らずに繰り返した。
 期待は、もっている。
(「以前も屋敷で今回予知されたような出来事……誰かが殺されたとしたら」)
 誰かが不安を書き留めたり、知らせるような手紙を残しているかもしれぬ。
 だがそれがあるとすれば、安易に見つからぬように隠しているはずだ。
 幾つめかの抽斗を引いたとき、手応えに違和感があった。重みの違い、ざっと目視しただけで距離を測るのは、狙撃を行うものとして自然に備わっている。
「底板が二重になっているな……」
 慎重に外す。さほど精緻な仕掛けでもなかった。此所は相部屋だ。他者の視界を厭って一枚板を噛ました、といったところだろう。
 だが、内部にはシキの目論見通り、手紙の類いが残されていた。届いた手紙と、書きかけの手紙――どちらも封はされていない。
 届いている手紙は、主に親からのもの。
 一方、書きかけの手紙は、使用人が故郷にいる恋人に宛てた手紙らしい。
 ――お屋敷が少し騒がしい。今年は、帰れないかもしれない……。
 ざっくり目を通すと、屋敷の使用人が数人行方不明になっているという。事故が起こったのか、と自問するような内容だ。男爵がひどく憔悴していて、お労しい。
『おまえに聴かせるには、少々残酷な話かもしれないが、私の心を助けると思って、我慢して読んで欲しい――』
 その一文を読んで、シキはひとたび顔を上げた。
(「かつて何が起こったのか、どんな風に殺されたか」)
 此所に手がかりがある、と確信した彼は、それを懐に仕舞いこむと、素知らぬ様子で抽斗を元通りに直し、清掃を続けた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルキヴァ・レイヴンビーク
クラシカルなメイド服に白レースのヘッド
黒く長いスカートの裾摘まんでMr.バトラーにご挨拶
ワタシ、英国から参りましたメイドのルキアと申しマス
ええ、誰が何と言おうとメイドなのデス

さて掃除開始
オールドなニュースペーパーが随分と有りマスが…
何でこんな溜めてあるのデショウね
つい紙面に目を通しちゃいマス
戸棚や箪笥の中も遠慮無く開けて整理しつつ
かつての使用人の仕事分かるモノでもありマセンかね
メイドさんは見た!的なメモか日誌とか

あ、バスルームはワタシにお任せを
定番デスよね、殺害場所や死体処理場所としては
ひとまず真面目にお掃除致しマス
髪の毛一本タイルの隙間も見逃しマセンよ

あ、お湯沸かしときマスかー?



●逢い引き
 肩は緩く膨らませた黒のパフスリーブ。露出の少ないロングスカートに、白レースのヘッドドレス――UDCアース的には間違いなくクラシカルな、慎ましいメイドスタイル。
 その黒いスカートを摘まんで、カーテシーもどきをしたのは、ルキヴァ・レイヴンビーク(宵鳴の瑪瑙・f29939)であった。
「ワタシ、英国から参りましたメイドのルキアと申しマス」
 当社比、品良く、微笑む。
 ――挨拶された執事は、微笑みを崩さぬ。それが、どんな内心をもっているのかは見事に笑顔に隠されていた。
「はい、よろしくお願いいたします」
(「これはプロフェッショナルなMr.バトラー」)
 悪戯心が擽られる鉄壁さである。
 ルキヴァの体格は屈強とは言いがたく、故に、ここまで身体のラインを隠してしまえば、雰囲気の変わった女性と思い込むことも可能だ。だが、恐らく、この男は気付いている――と、ルキヴァのシックスセンスは語る。

「さて掃除開始」
 取りかかるのは戸棚の整理。並んだ硝子の向こう、鑑賞用の本や皿が並んでいる。
 悪戯心がざわめくのを抑えつつ、まずは雑多な紙類が収められた地味な抽斗を漁る――もとい、整頓していく。
 モノは収まってはいるが、かなり雑だ。かと思えば、別の抽斗はきっちりと整頓されていたりする。
 何となく、最後には整頓する余裕がなくなっていたのではないか――そう思うような詰め込み方であった。時期にして、五十年前の日付、という事は確認しつつ。
「オールドなニュースペーパーが随分と有りマスが……何でこんな溜めてあるのデショウね」
 ついつい掃除中に読書を始めてしまうものデスよね――みたいな空気で、ルキアは記事に目を通し始めた。
 いやいや棄てるかどうかは内容を確認しなければ――貴重な記事かもしれない。などと言い訳しつつ。
 物騒な事件の報や、訃報欄などを穴が空きそうな程眺めて、不意に、思う。
(「ジャパニーズはわかりまセーンってキャラのが良かったですかネ?」)
 目立つ事件などはない。じっくり読めば見つかるかも知れないが、他の情報も探っておきたいところだ。纏めて括り上げながら、別のメモを探る。
「かつての使用人の仕事分かるモノでもありマセンかね……」
 使用人同士で、何かの手順を確認した手帳のようなものなど――パラパラとめくって眺めた灰色の瞳に――愉快そうな光が宿った。

「あ、バスルームはワタシにお任せを」
 ――などと、執事に断って、やってきたのは風呂場。作りは洋風だ。タイル張りで、ひとつは一人用のバスタブが置かれたものと、もうひとつは大浴場のようになっている。
 大浴場は、使用人達が使うもんのだろう。
「定番デスよね、殺害場所や死体処理場所としては――さーて、お掃除お掃除。髪の毛一本タイルの隙間も見逃しマセンよ」
 デッキブラシを片手に、物騒なことを囁きつつ、ひとまず掃除を始める。だが、脳内では先程見つけた使用人の暗号に思いを馳せる。
 ○は、夜。
 ◇は、庭――。
 タイルの片隅に刻まれた、小さな傷をなぞり。曾て、秘密に交わされた約束の名残を見つけ、口元だけで笑う。
「何か、ありましたか?」
 不意に――様子を眺めに来たらしい執事に声を掛けられた『ルキア』はにっこりと問いかける。
「あ、お湯沸かしときマスかー?」
 ――事件現場に、スチームは必須デスよね?

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒川・文子
メイドと聞けばわたくしめの役目になります。

わたくしめは厨房のお掃除を致しましょう。
厨房ですから何か見つかるとも思えませんが。
怪しい物が無いとも言い切れません。
メイドですから。隅々まで綺麗に致します。腕が鳴りますね。
棚にしまわれていた調味料の類も賞味期限が切れていないか確認を致します。
賞味期限の確認もメイドの務めです。

食器が欠けていないか。錆びていないか。埃を被っていないか。
確認するべき事は山のようにあります。
床も隅々まで掃除をします。
ゴミ箱もきちんと分別をされているか見ましょう。
それもまたメイドの務めですから。

ネズミはもちろんいませんよね?
ネズミがいましたら追い出しませんと。


バルディート・ラーガ
ム。なぜ燕尾服でなくメイド服をと?
どちらを選べどおカタい服です、尻尾や脚回りの楽な方が良いモンさね。
人ならざる身にゃ男装女装の概念も(然程)ございやせンで、堂々参りやしょ。

粛々とお掃除の準備をしていりゃア、小さな黒い影がさっと厨房の方へ。
アラヤダ!鼠だか蛇だか、とにかくアレを退治せにゃアなりやすまい。
このあたくしめがとらまえて参りやす、許可さえ頂けりゃ……

と。こっそりスカートの内に隠れた蛇の使いを放ち
ひとつ蛇芝居を打ちやして、秘密の場所を捜索と参りやしょ。
蛇の目とあたくしめの目で手分けをして、迅速に。

厨房といや、食べ物ですが。
今の男爵サマ、そもそも何を食べておらっしゃるンかしら?



●行き止まり
 厨房は家庭用とそう変わりない印象だった。基本はタイル貼りの西洋キッチンで、土間続きになった勝手口だけが、少々和風を感じる。
 広々とした一室なのは、使用人達が此所で食事をとることがあったからだろう。
「カフェーのものよりも、家庭用に近いようですね……食器は流石に、少し高級そうですが」
 その名残であろう食器棚やテーブルセットを一瞥し、黒川・文子(メイドの土産・f24138)はゆっくりと瞬く。
 白い肌に映える黒いメイド服――白いフリルエプロンも日常のものならば、彼女の所作に不自然な事は全く見当たらぬ。
 なにせ、本職のパーラーメイドである。
 彼女はゆっくりと厨房を一周すると、再び、左目を軽く伏せて、考える。
 掃除の手順、手入れの段取りを色々と考えるように。
 此所へとやってきたのは、素直に調査のためでも、ある。
(「厨房ですから何か見つかるとも思えませんが――怪しい物が無いとも言い切れません」)
 それはそれとして――気合いが入るのも事実。
 長らく使われていない厨房に調理器具、眠ったような食器群。あと、気になるのは食料庫か。
「メイドですから。隅々まで綺麗に致します。腕が鳴りますね」
「ええ、ええ、ピカピカに磨き上げてやりやしょう――」
 相槌を打ったのは、バルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)――緑の鱗、乳白色の瞳の、立派なドラゴニアン――であるがゆえに、黒の清楚なメイド服を着こなしている。
 本人が言うように、違和感はない。
 文子も真面目な表情で、頷き返すだけだ――彼女だからかもしれないが。
 兎にも角にも、二人は厨房の掃除に掛かった。全体の埃を払って丁寧に水拭きすると、文子がテーブルの上に食器類を並べて棚を調べる。
「そいつも調べるんで?」
「食器が欠けていないか。錆びていないか。埃を被っていないか。――確認するべき事は山のようにあります」
 バルディートの問いかけに、彼女は真剣に頷き、そう言って。
「あとは調味料の類も賞味期限が切れていないか……賞味期限の確認もメイドの務めです」
 別の棚を覗き込む。様々な瓶が並んでいるが、真新しい。最近のモノを揃えたのだろう――流石に、何もない場所に人は呼び込めまい。
「厨房といや、食べ物ですが。今の男爵サマ、そもそも何を食べておらっしゃるンかしら?」
 調味料ばかりなのを共に確認したバルディートが首を捻る。
 影朧なら、不要やもしれないが――或いは、別の場所に、何か備えがあるのか。
「いずれにせよ、食料が見当たりませんね……こういう場所なら、大体――」
 文子は周囲をゆっくりと見渡す。
 妙に目立たぬよう備え付けられている、厨房の片隅に小さな扉を彼女は認める。地下への扉らしい――鍵はない。
 開ければひんやりとした風が抜けてくる。暗所令室の地下は食材置き場であろう。少々埃じみた臭いはあるが、幸い、腐った肉などの匂いはしない――。
 と、暗黒の穴を眺める文子の背後で。バルディートが素っ頓狂な声をだした。
「アラヤダ!」
 振り返れば、バルディートが黒い影を見たという。
「鼠だか蛇だか、とにかくアレを退治せにゃアなりやすまい。このあたくしめがとらまえて参りやす」
 誰にでもなく――執事は、厨房は二人に任せましたと最初にいったきり、不思議と戻ってくる様子がない――断って、彼が軽くスカートの裾を翻せば。
 黒炎の蛇がそろりと地を這い這い、文子の横を通り抜け、穴へと飛び込んだ。
「ネズミがいましたら追い出しませんと」
 淡々と文子は同意して、扉の前を離れる――後は彼らに任せよう、と。彼女は並べた食器を改める。
 使われていないために、折角の良い食器も、古びて曇っている。これは念入りに磨かねばならぬだろう。
(「――それにしても……不思議な組み合わせで、積まれていますね」)
 同じモノがあるにも関わらず――皿の絵柄が不揃いなのだ。
 敢えて、そうする理由があるやもしれぬが。グラスや、カトラリーの彫刻などはきっちり揃えていたりするので、不思議な法則があったようには思えぬ。
「……これは使用人同士で使っていた暗号の可能性はありそうですね」
 料理が趣味の貴族であれば別であろうが、厨房に出入りするのは、主に使用人であるならば。
「あら、このお皿。桜のところが欠けていますね」
 わざと印を付けるかのように、綺麗に。

 はてさてバルディートは地下に潜った蛇の感覚を借りて――厨房で、更に不審な場所がないかと観察しながら、地下を探る。
 隙間なく重なった石壁の空間は、意外と広い。真新しい食材が棚に置かれているが、それは無視して、するすると奥へ行く。
 まさしく鼠が通り抜ける穴なども、ないようで。だが、どんどんと奥に進んでいける通路が何処までも続いている。
 やがて、何処かに上がる階段まで突き当たる――間違いなく、この厨房を使って、何処かに通り抜けることができるようだ。
 これを男爵が使ったのか――それとも、使用人が使ったのかまでは、解らないが。
(「こいつァは臭いやすな……」)
 思うが――階段を上った先に、小さな扉があり。それはどうも重しのようなもので扉は開かぬようになっているらしい。蛇に体当たりをさせても、動かない。
 もしこの先に何が続くか知りたければ、自分で探らねばならぬやもしれぬ。
 胸の内で囁きつつ、バルディートは瞳を密かと鋭くし――、今は表向きの仕事に黙々と従事するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『擬ひ物』

POW   :    まあ総当たりすれば、いつかは見つかるだろう。

SPD   :    口八丁手八丁、人から上手に情報を引き出そう。

WIZ   :    慎重に論理的に考えて、効率良く探し出そう。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●回顧
 ――猟兵たちが集めた情報は、合算すると、大体以下となる。

 五十年前。当時この屋敷は『青鷺館』と呼ばれ、代々親しまれてきた。跡継ぎの男爵――最後の男爵となった青年は、見目麗しく、頭脳も明晰であったが――脆弱の身で、なかなか自由が儘ならなかったらしい。
 そんな男爵の趣味は、庭いじりで。
 彼が手ずから育てた花々や、計画した庭は、家族のみならず、使用人たちの心も楽しませていた。
 そんな男爵の悩みは、庭の奥。様々な緑、色彩をも霞ませるような、幻朧桜。
 四季を無視して常に栄華を誇る美しさの前に、自分の手がける庭など、子供だましではないかと思い悩んでいたらしい。

 ――あるとき、事故が起こった。
 庭師が、木から落ちたのだという。
 幸い死には至らなかったが――いわゆる、骨が飛び出すような酷い外傷を負い、ひどい有様であったという。
 使用人達が慌てふためく中、冷静に対処に当たった男爵であるが。
 その日を境に、少しずつ、様子が変わっていく。

『――旦那様が恐ろしい。じぃっと桜を見つめておいでだ。あんなにも、輝く目で』
『地下に、動物の亡骸がありました。血を絞ったような形跡があります。もしや妖しい魔術などを行っておられるのでは』
『今度、夜、番をしよう。もしも、旦那様が狂気に陥っておられるならば……』

 ――旦那様は、わたくしのことを可愛いと、おっしゃってくださいました。
 最初は、本気になどしておりませんでした。
 病弱であられるあの方を、心から応援していたことは確かでございます。ずっと励ましてきた端女、取り入ったのだろうと詰る奥様も亡く。
 (中略)
 皆がいうとおり、わたくしも今の旦那様はおそろしい。
 けれども……あんなにも真っ直ぐに、言葉を投げかけられて。今日、いよいよ簪までいただいてしまった。
 あの事故の前の、旦那様であれば……。
 返事をせねばなりません。明日の夜、あの桜の前で……。

『この屋敷を見限って、暇乞いするのは容易い。だが、俺達は旦那様に、確かめなければならない――あの娘は、どうなったのかを』
『歪な美に魅入られて、変わってしまったとはいえ……旦那様は心優しい方だった。なにより俺達は長らくお世話になってきた』
『だが、もし……俺が無様を果たしたとして、お前は幸せに――』

 厨房には、庭に繋がる通路がある。元々は食材を運び込んだり、ゴミを廃棄するのに使用されていた。
 昔は――庭で犬を飼っていて、此所から残飯などを餌をやっていたらしい――。
 それがいつ頃からか、堅く閉ざされていたのだが。再度使用しようと堅い封が解かれたのは、五十年前。その目的は、誰にも知られぬままであったという。

●発露
 日が暮れる。世界は燃えるような赤に包まれ、焼け落ち、闇に沈む。
 一人の男が廊下を歩く。
 今日雇った使用人達には、夕餉の前の時間を、好きな空間で過ごすようにいってある。
「ああ、久しぶりの大仕事だ。楽しみだなあ」
 それは、使用人達を迎えた執事であった。この屋敷には、五十年来の仕掛けがある。寝そべると、暫くして底が抜け、針山に沈むベッド。
 一定時間を過ぎると、強い電流が流れる湯船。
 他にも、獣を狩る針の罠や、突如と首を吊るロープなど――。
 仕掛けが使えない相手なら、電気を落とし――暗闇の中、直接手を下せば良い。
 大事なのは、死体を作ること。
 あの人のような鮮やかな死体を。

 ――殺して、埋めよう。きっともっとずっと、美しくなるはずだ。

◆++++++◆++++++◆++++++◆++++++◆
【プレイング受付期間:5月27日(木)8:31~】
 ※受付不能になるまで

 行動も、死に方もフリーです。
 然り気無く存在している罠にかかるも、更に調査を続けて「見てはいけないものを見た」という感じで殺されるも自由です。
 いずれもちゃんと死んだふりで済みます。

◆++++++◆++++++◆++++++◆++++++◆
※追記
この章は、書斎にも入れます
エルザ・ヴェンジェンス
…この日記と、簪
貴方様の覚悟、このメイドが引き継ぎましょう

簪をお借りして髪を結い上げ
明かりをお借りして夜回りを
行き先は庭へ

仕事には庭の手入れもございましたが
男爵様は庭いじりがお好きだったとのこと
どの程度放置され、どの程度整えられているのか

道中、木々の土の盛り方などを確認して幻朧桜に向かいましょう
桜と庭の木々で差はあるのか
枝の傷、土の状態

年月は経っておりましょう
夜ですもの、限度はありましょうが
簪の方をお探し致しましょう
土を掘り起こし、届く場に何かあれば良いですが…

桜を見上げていれば首を撫でた刃
甘受するままに桜を見上げ
簪に気がつかれずとも

あぁ、桜の下で死ぬなど私には過ぎたことですわ


ルキヴァ・レイヴンビーク
ベッドの上に横たわる屍
クソ怪しいメイドが全身針山に沈んで息絶えている
――のを解放された窓辺に留まり見詰める一羽の鴉

我ながらイケメンに出来マシタ(自画自賛)
UCで作った偽死体を置いて鴉姿で外から探索開始
まずは庭の桜でも愛でに行きマスか
夜闇に紛れて羽音立てぬ様に近付き、まずは地面を物色
嗅覚は自信有りマスし
蹴爪で地を引っ掻き
埋まった何かを掘り当てるのは犬か鴉の仕事デス
天辺の枝にもお邪魔して屋敷の方角眺め
此方から見える物は向こうからも良く見える事デショウね

庭から厨房に繋がる扉も気になりマスが…
周辺を軽く物色するのみに留めマショウ
残飯漁りはシティカラスのライフハック
夜食を探しに来ただけデスから、ええ



●桜の木の下で
 ――白い横顔が、昏昏と眠る。
 否。
 それの胸は動いていなかった。
 少々早い仮眠――ベッドの上、横たわったはずのメイド……明らかに男だが、何の血の迷いかイギリス帰りのメイドだと言い張ったルキア――即ちルキヴァ・レイヴンビークは。
 胡散臭い言動をすっかり消した真顔で、ベッドから突き出した針山に貫かれ、青ざめた顔で眠っている。
 醒めぬ、眠り――。
 闇に墜ちた窓辺で、新しいカーテンが揺れている。そこに、一羽の鴉が羽を休めるように停まって――死体をまじまじと観察した後、羽ばたいた。

 ――言うまでも無い。この大きな鴉は、ルキヴァであった。
「我ながらイケメンに出来マシタ」
 あの死にっぷり。傑作では。
 などと自画自賛するのは、例の死体。
 ユーベルコードで作り上げたのは、精巧な偽者。死体だけ妙に精緻に作れるのは、こういう時のため――どんな状況だ、といってはならぬ。
 鼻歌でも歌い出しそうな鴉であるが、闇に紛れるよう、羽音を立てぬ静かな飛翔で闇に埋没する庭へと高度を下げる。
「まずは庭の桜でも愛でに行きマスか」
 言葉通りの声音で嘯いて、鴉は深淵が如き緑の中へと消えていく――。

 密かに一人のメイドが死に――それを知らず、エルザ・ヴェンジェンスは鏡の前にいた。
 艶やかな髪を慣れた手つきで結い上げると、じっと手の中の簪を見つめる。
「……この日記と、簪。貴方様の覚悟、このメイドが引き継ぎましょう」
 そっと囁き。
 仕上げに桜の簪を髪に挿す。
 髪型を改めたが、彼女の『仕事』はまだ終わっていない。先程借りてきたラムプを手にして、部屋を出た。エルザは、浴室の脱衣所にある鏡を利用したため、目的地は近い。
 表向きには、夜回りを。廊下を静かに歩いて、自身のの存在を明らかにしながら――向かう先は、庭だ。
(「仕事には庭の手入れもございましたが、男爵様は庭いじりがお好きだったとのこと――どの程度放置され、どの程度整えられているのか」)
 ラムプは仄白く輝き、足下を照らす。
 誰に止められることもなく、エルザは庭に出た。頭上で木々がガサガサと音を立てるが、彼女は気にせず歩いて行く。
 庭の印象は――和洋折衷、といったところか。枯れた芝、伸びきった芝と荒れ果てて、花壇であったところは雑草が埋め尽くしている。
 大きな木々は悠然と枝葉を伸ばし、剪定を久しくされておらぬ様子で、広い庭は森のようでもあった。
 戻ってきた男爵は、庭を放置しているらしい――が。
「道ができていますね……まるで、此方に来い、と導いてくれるかのよう」
 灯りを上げて、色違いの双眸で遠くを見定める。
 木々の枝が不自然に避けて、ひとすじの道を作り上げている。よく見れば、無造作に刈り取られていた。
 木々のアーチを潜って辿り着くのは、妙に開けた空間。その奥に堂々と座すのは、かなり大きな桜であった。
 宵に負けぬよう白く淡く輝く幻朧桜は――はらはらと花弁を落としていくのにも関わらず、ちっともその色が衰える事の無い。
 その神秘を、美を。堂々と見せびらかすように佇んでいた。
 上から下を一瞥し――エルザはその桜の根元まで歩いて、じっくりと違和感を探る。闇の中、仄かなラムプの光量は頼りなかったが。
 カァ、と。
 木の枝で鴉が鳴いた。
「あら」
「埋まった何かを掘り当てるのは犬か鴉の仕事デス」
 お任せあれと言わんばかりに、鴉――ルキヴァは軽やかに枝を離れると、臭いを頼りに――といっても、事が起こったのは少なくとも五十年前だ。既に死臭などはしない。
 感じ取るとすれば、漂う無念のようなものか。
 ひょこひょこと餌を探すように跳ねるように飛び回ると、ある一点を、蹴爪で引っ掻き始める。
「そちらでございますか」
 エルザも其処へと寄ると、掘り始める。
「余談デスが。この桜から、書斎はグッドビューポイントでして」
 此方から見える物は向こうからも良く見える事デショウね――と、ルキヴァは低く笑う。
 二人はザクザクと地を掘り進める。エルザも指で土を掻き分ける。やはり放置されていたがゆえに少々堅いが――地中には目立った石もなく、丁寧に整えられた事がうかがえる。質の良い土ばかりが深く深く、続いている。
 総てを掘り返す必要は、ない。
 ルキヴァが大胆に穿つものを、エルザが広げていき、やがて。
 ――ああ、とエルザが小さな吐息を零す。土に汚れた、堅い何か。やや褐色に染まった、白いそれ。
(「簪の方……でしょうか」)
 照合する術はない。思えば、『彼女』の人相すら、エルザは知らぬ。
 だが墓標すら与えられぬ亡骸が此所にあることが、既に異常。
 得た情報を真実と確信するに至るものであろう――。
 男爵は、誰ぞを殺め、その身を桜に捧げたのだ。
 出てきた成果を見やり――ルキヴァは、カァ、と態とらしく鳴き。とことこと芝を歩き始める。
 野良の鴉が、気紛れに土を掘り――つまらぬものを掘り当てた、とでも言わんばかりに。
「残飯漁りはシティカラスのライフハック――夜食を探しに来ただけデスから、ええ」
 そう言って、ルキヴァは静かに翼を広げると、さっと飛び去る。
 影の行方を見届ける限り、彼は屋敷の側へと戻るつもりらしい――或いは周囲の怪しいポイントをチェックして回るつもりか。
 それとも――。
(「皆様の死を、観測なさるのでしょうか」)
 くすり、と。
 残されたエルザは微笑んで、桜を振り返る。
 麓で行われた事など知らぬよう、それはただ咲き誇る。
 その、無防備な細い首に。
 冷たい何かが触れる。
 鋭利で無慈悲な感触に、エルザは目を伏せ、呟く。
「あぁ、桜の下で死ぬなど私には過ぎたことですわ」
 ラムプが落ちて――闇に消えゆく微笑みを、一瞬だけ浮かべる。彼女の髪から外れた簪が、刹那、きらりと輝く。

 遠くで、カァカァと――告発するように、嘲笑うかのように。
 鴉が鳴いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
自由に動けるようになったら書斎へ向かう
屋敷の主人が使用人を手にかけていた痕跡や、使用人の末路…書斎になら情報があるかもしれない
そうして嗅ぎ回る様子を見せて、止めようとした者の手に掛かって『死んで』見せるのが良いだろう

…使用人の部屋に手紙が残っているという事は、これを書いた者はおそらく殺されている
このままでは彼らも浮かばれない、真実を掴んで無念を晴らしたいとも考えた

ユーベルコードで近付く気配を探り、近付く者があれば襲ってくる瞬間をそ知らぬふりで待つ
襲撃の瞬間に僅かに身をずらし急所を外して受ければ、殴られるにしても刺されるにしても本当に死ぬほどのダメージにはならない筈
そのまま倒れて相手の出方を待つ


黒川・文子
引き続きメイドとして挑みましょう。

見つけてしまいましたが、これは黙っていましょう。
お掃除はこの辺りにして、お次は書斎に行きます。
埃の一つも許されません。
まずは本棚の本を整理いたしましょう。

そこで見てはいけない物を目にしてしまうかもしれません。
わたくしめはメイドでありながらじっくりと見てしまいます。
掃除をサボり、見てはいけないものまで見てしまって……。
わたくしめはメイド失格です。
良くない事が起こるでしょう。
わたくしめは夢中になっておりまして、本棚が倒れて来る事にも気付きませんでした。

今頃本棚の下敷きです。
悪いメイドにはお仕置きが付き物です。
そのままそこで死んだふりをしましょう。



●秘密の部屋
 遠くで鴉が鳴いている。
 廊下の突き当たり。シキ・ジルモントは取っ手に手をかけて様子を探る。手応えから察するに、罠は、ない――どうやら、開けて即時ワイヤーが絡んで死ぬ、というような事はなさそうだ。
 作りの都合か、心理上か。他の扉と比べると少々重く感じる扉を、彼は一息に開けると、室内は薄闇に閉ざされていた。
 無人ならば、消灯されているのは、必然か――灯りをつければ、恐らく誰の目にも明らかとなろう。
 さて、どうしたものかとシキが考えていると、ぱっと部屋が明るくなる。
 後からやってきた黒川・文子が、極々自然に、灯をつけた。振り返った男の視線に、彼女は真剣な表情で頷いた。
「お掃除に参りました。ええ、埃の一つも許されません――」
 しれっという。いや、本心でもあろう。
 皿の暗号や、地下室も、見つけてしまったが黙って仕事に挑む、メイドの鑑――という体を彼女は完璧に纏っていた。
 この状況で『犯人』がどう動くのか、気になるところではあるが、こうなれば時間が惜しい。十分な光を得たことで明らかとなった部屋の内部を、二人はまずじっくり観察した。
 書斎には壁を埋めるように本棚があり、様々なものが置かれていた。ぱっと見たところ、凶器になりそうなものが置かれている様子はない。中央には、書き物用の書斎机、更に奥に扉があり、二部屋に分かれている。 
 自然と、椅子の座面にシキが触れる。ぬくもりもへたりもない。本当に先刻まで主がいたかも怪しい。
 否、すべては道化――あちらが此方をどう思っているかは兎も角、この屋敷に存在する、多少の怪しさや不気味さは――使用人たちの疑念を誘うように、態とばら撒かれているのかもしれぬ。
 庭に面した窓からは、はっとするほど美しい桜の大樹が見える……。
「わたくしめは、奥を見て参りますね」
 告げるや、文子は奥の部屋へと向かう。視線だけで追えば、その先は本格的に書庫となっているようだ。
 シキはそのまま机を探る。抽斗のいずれも、鍵が掛かっている様子はなく――そっと引きながら、耳を澄ませて見たが、何か仕掛けられているような音はしなかった。
(「これを書いた者はおそらく殺されているのだろう」)
 見つけた手紙の文面を思い出し、シキは少し、眉を動かす。
 果たして此所に、その手がかりがあるのだろうか。喩え、あったとして。
 五十年の時を経て――真実が明らかになったとて。
 否。
(「このままでは彼らも浮かばれない、真実を掴んで無念を晴らしてやる」)
 関係者は、まだ生きているかもしれない。
 彼の――彼らの運命を思い、曖昧なまま、未だ待っているやもしれぬ。
 抽斗は滑らかに身を投げ出し、埃っぽい空気と、木の匂いが籠もった独特の臭いを吐き出した。
 便箋、封書。薄い冊子。パラパラとめくっても、いずれも白紙。
 別の抽斗には、インクと封蝋のセット。注文書、何を注文する――人の、伝手だろうか。
 更に、別の抽斗。ナイフがあった。大ぶりなナイフだ。緩く湾曲していて、刃が厚く長い。ペーパーナイフでは済むまい。クラフトナイフ――否、これは狩猟用……腑分け用の。
 シキは捜索に集中している振りを、続けた。彼の白銀の狼耳はあまりにも静かな足音を拾い、その鋭敏な五感は、敵が接近する気配を察していたが――。
「……ッ!」
 ひゅ、と風切る音を拾っても、素人じみたタイミングまで、待った。
 浅く肌が裂けて、血が舞う。咄嗟に腕を上げて、相手の腕を弾くような動きをしながら、振り返る。拳が来る――敢えて躱さず、シキはそれを受ける。
 昏倒するには、弱い。だが、机に倒れ込む姿勢で、次の攻撃を誘えば――敵は、机の上にあるナイフを手に取り、シキの横腹を、深々と刺したのだった――。

 さて、奥の部屋に進んだ文子は、まずその美貌を僅かに曇らせた。
 全く掃除がなされていない――あらかたの埃は外に追い出されたかもしれないが、虫干しも陰干しもされておらぬ本の山、それらが埃に蝕まれていた。
 逆に惘れて、彼女は少々考えてから、方針を定める。
「まずは本棚の本を整理いたしましょう」
 ざっと埃を落としてから、本を引き出し、また埃を払う。ふと気になるタイトルがあれば、パラパラとめくって、あらいけない、と独りごち、本棚に並べ直す。
 ある本を手繰った時。はらり、と何かが落ちた。
 ――桜の花弁が、押し花とあしらわれた栞。
「まあ、これは……」
 不意に気になって、その本を見る。装丁は立派だが、日記のようだ。こんな場所に紛れ込む日記といえば、つまり。
 彼女は赤いひとつ目を、軽く伏せ。好奇心に負けたというように、『いけないもの』を読み始める。
 己は秘密を守れる口の堅いメイドであるが――時に、悪いメイドでもある。
 文子は、手にした本をじっくりと読み始める。
 そこに刻まれるのは、ある青年の内心。心を乱す桜と、意志を貫けぬ自分。まさしく当事者の視点で描かれた告白。
 部屋の外で、人が争うような物音がしたとしても、気付かぬ程に熱中し――ああ、と小さく息を吐いた。
「わたくしめはメイド失格です……」
 密かに、懺悔を零す。気付かぬはずも、ないのだが――気付かぬうちに。
 彼女の背後で、ゆらゆらと、本棚が揺れていた――倒れるはずのないそれが、ゆっくりとメイドに覆い被さる。
 それを、文子は甘んじて受け容れる。何故ならば。
「悪いメイドにはお仕置きが付き物です」
 仕事を忘れるほど夢中になってしまったのだから、本棚の下敷きになるのも仕方が無いことなのだ。
 闇の中で、文子はそっと目を閉ざす。
 ――では、悪いご主人様には?

 カァカァと、窓の外で鴉が鳴く。
 机の片隅倒れ込む男がひとり。本棚の下で、眠る女がひとり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バルディート・ラーガ
フウーム。皆様の集められた情報を勘案致しやすに、
先の通路の先。お庭に繋がるハズとの事ですが。
小蛇じゃア押し開けられねエよに閉ざしてあるとなりゃア
隠されたモンが気になッちまう、つーのがメイド……イエ。
本業・盗っ人のサガにございやす。

「鍵開け」の能力はございやす。人目を盗んで厨房へ忍び込み
先の通路へ参りやしょ。暗視の効く目に舌、様子を探りながら
件の重たい扉をこじ開けに。さアて、何が出てくるやら……!!

(暗転)

切断の罠でも仕掛けて有ったンかしらねエ。
哀れ転がるは四肢の無い、ついでに尻尾も千切れた蜥蜴の使用人の姿。
まず傍目にゃ死んでいると見えやしょう。
元々無い四肢、切っても生える尻尾ですが。ヒヒヒ……



●長き短き午睡にて
 厨房には人気が無く――はてさて、では誰が使用人に食事を振る舞うのか。勝手に使ってもいいとは言われているが、その辺りからして、この屋敷、穏健ならざる気配がある。
 などと白々しい事を考えてみる必要がないのは、猟兵たちのアドバンテージである。全貌は既にうっすらと見えている。
 後は点と線を繋ぐだけだ。
 さて、その誰もいない厨房に近づく人影、いやトカゲがひとつ。
「フウーム。皆様の集められた情報を勘案致しやすに、先の通路の先。お庭に繋がるハズとの事ですが」
 今だシルエットはしとやかなメイド服を身に着けたバルディート・ラーガは、かく思案する。
 しかしてその脳裏にあるのは、掃除洗濯の作法ではなく、常の流儀。
「小蛇じゃア押し開けられねエよに閉ざしてあるとなりゃア、隠されたモンが気になッちまう、つーのがメイド……イエ。本業・盗っ人のサガにございやす」
 鋭い双眸を細めて、笑う。どうにも剣呑に瞳が輝いてしまうのは、種の問題であろうか。
 彼は闇夜に紛れるように、音もなく厨房に忍び込むと、迷うことなく件の扉を開き、地下庫から先を目指す。
 昼に開けたからか、幾分風が通ったらしく、臭いはさほど気にならぬ。
 臆す理由もない。既に知った道である。バルディートは無造作に進めば、愈々目的の扉に辿り着く。鉄で出来た重い扉は、確かに大人ひとりでも手に余る重量がある。
「防犯は大切ってェな」
 コンコンとノックしてみる。妙に重いが――鍵は掛かっていない。小さな突起を起点に、段取り通りに引き上げれば取っ手が出来て、開くという仕組みのようだ。
 果たしてこの先に、バルディートがアッと驚くものが出てくるかは半信半疑だ。
 だが単純に、やはり盗人としてのサガというか――心躍る状況でもある。
 喩え、この先に、お宝などなくとも。
「さアて、何が出てくるやら……!!」
 カチ、ギィイイ――。
 鉄が軋む音がして、ゆっくりと蝶番が五十年ぶりの仕事を果たす。夜風が、彼の鱗を撫でた。瞬間、ひゅん、と何かが飛んできた。
 そこに巻き付けられた頑丈なテグス、跳ね上がった鉄の仕掛け。大雑把に見れば、巨大なネズミ捕りにも似ている――その皮肉に、バルディートは内心で笑った。
 だが彼の身体に巻き付いたのは、反発でもって一気に骨まで切断させるよう磨かれた、しなやかな鋼であった。
 バルディートは仕掛けから逃れる術もないまま――ぷっつりと、四肢を切断される。
 ころころと転がる両手足、そしてスカートの下から転がり出た尾。
 大地に生気を失ったように倒れ込んだ彼の姿は、無惨の一言である。乳白色の視線が、周囲を探る。横たわったのは大地。冷たい草の上。仄かに輝く桜の枝がちらりと映る。
 だが、同時に。同じ高さの視点の先――土塊に埋もれるように、隠され、放置された、錆びた包丁に気付く。
(「下手人は証拠を残したりしやせん……つまり」)
 きっと、反乱はこうして終わったのだろう。否、この時点では、反乱ですらなかったのやもしれぬ。
 後は種明かしの瞬間まで、待とう。
 傍目にも確かに、バラバラになった男は――がくりと力尽きたフリを決め込む。
(「元々無い四肢、切っても生える尻尾ですが。ヒヒヒ……」)
 蜥蜴にとって、死んだふりはお手の物――。

 宵闇の空を、ガァガァと、すべてを見届けた鴉が鳴く。
 今ここに立つ影こそ、諸悪であると――。
 その場に皆を導くように。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『殺人者』桜守』

POW   :    無限開花・彼岸大桜
【周囲の幻朧桜を一時的に変異させ、自身の】【影朧をレベル×10体を召喚する。自身の】【数が減れば即座に補充し、戦力を強化する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    反魂桜~満開~
自身の【周辺に存在している幻朧桜】を代償に、【凄まじい数の影朧を召喚し、その影朧】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【猟兵に対抗する形で変質し続ける身体】で戦う。
WIZ   :    華胥の桜花
無敵の【ユーベルコードと、無敵の影朧】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。

イラスト:久蒼穹

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ある陳腐な顛末
 ――あるメイドが発見した日記には。
 五十年前の顛末が、確りと記されていた。
 伝え聞く、植物への愛情。代々受け継いできた屋敷と、庭への愛着。
 同時に、体が弱く、気弱な己の性質への劣等感。
 優しい優しいと謂れども、当主として、責務を果たすには、あまりにも脆弱で、そんな身が恨めしくあった日々の吐露。
 そんな中で芽生えた、夜半でも輝くような幻朧桜への――ある意味では、嫉妬のようなもの。永遠の象徴のようなそれを、彼は忌避していた。
 だが、あの日。
 事故で溢れた鮮血。それを受けて輝いた新緑の美しさ。妖艶なる桜の魅力。
 気付いてしまったのだ。
 ――あれは定命を揶揄するものではなく。
 ――あの美しさに、永遠を刻んでくれるのだ。

 自分に懐く可愛い犬を屠って、捧げてみた。
 桜は無邪気な朱を見せてくれた。
 自分に優しい乳母を、捧げてみた。
 桜は穏やかな薄紅を見せてくれた。
 献身的に仕えてくれた、たくましき使用人を捧げてみた。
 桜は力強き緋を見せてくれた。

 そして。
 心から愛した美しい人を、捧げてみた。
 ああ、ああなんということだろう、なんと――絶句するような、桜花絢爛。

 寝食を忘れて桜に魅入った。此所に魂はあったのだ、と男は知ったのだ。
 生きたる徴を前に、家名など守る必要はないのだと、本能的に感じた――。

 栄枯盛衰など、この大正の世に相応しくない。
 そう思い込むことで、男は。

●二度目の滅亡
 斯くして、聡明なる若き男爵はただの殺人鬼となりはて。
 いずれ孤独に病に伏したという。
 この醜聞は親族内々で秘せられ、家督のみを守り――その裁定すら、男はせせら笑ったと記しているが――五十年の時を経て、妄執のみが戻ってきた。
 桜を守り、桜を育む。
 桜に魅入られたものとして。
 最早、その根底にあった責務も、愛も。すべて忘れてしまった影朧が。
「楽しかった。嗚呼、楽しかった」
 男は言う。
 養分とするべく死体を庭に集めて、それは満足そうに微笑む。
「そして楽しみだ。この風変わりなものたちは、君をどう染めてくれる。君はどう答えてくれる……」
 その双眸は夢想の中にあるように。
 果たして現世へ蘇りながら、それは未だ虚ろの中にある――なれば。
 引導を渡すのは、猟兵の務めだ。

◆++++++◆++++++◆++++++◆++++++◆
【プレイング受付期間:6月5日(土)8:31~】
 ※受付不能になるまで

 既に桜の木の前での決戦になります。
 死んだふり状態からの復活は、お好きなようにどうぞ。
◆++++++◆++++++◆++++++◆++++++◆
シキ・ジルモント
少々傷は受けたが動く分には問題無い
服の下に隠し持つ銃を構え戦闘態勢へ、窮屈な衣装も使いようだな
本来の仕事に取り掛かろう

倒れた体勢で隙を窺い、跳ね起きて一気に影朧に攻撃可能な距離まで接近
召喚された影朧が邪魔なら、上着を投げつけて視界を塞いだ隙にでも、敵を足場に跳躍して頭上を越えるか蹴り飛ばして道を開く
再度召喚されるなら今は弾を温存
接近後は付近の影朧ごと本体へ、ユーベルコードで反撃する

どうせ蘇るなら次は影朧でなく今を生きる者として転生して来い
…あんたを案じたかつての使用人を、これ以上心配させるな

遺骨や遺品があれば縁者に返すのも良いかもしれない
五十年も屋敷に留まったのだから、もう暇を貰ってもいい筈だ


黒川・文子
桜の木の下には死体が眠ると言いますね
残念ながらわたくしめは生きておりますが
この日記帳を読ませていただきました
わたくしめはメイドでありますから、主たる者の秘密も握っておきとうございました

メイドでありながら本棚の下敷きになるなどもっての他ですが
この終わりなき悲劇を断ち切るのもメイドの務めでございます
この桜は赤く染まりません
わたくしめがここで終わらせましょう

わたくしめの得物はこの刀でございます
桜が力を与えると言うのなら桜を斬りましょう
怪物の首よりも狙う事は簡単です
桜の花弁を風で巻き上げてしまいましょう

桜をある程度散らしましたら狙いは一つです
お掃除の時間ですよ
退いて下さいまし


バルディート・ラーガ
ヒヒヒッ。いやはや、おそろしい話にございやすねエ。
生命を吸った桜の美しさたるや、人を魔に魅入らせッちまう程たア。

手足は先程ちょん切られちまいやしたが
これこの通り。胴だけの腹這いで進むのもすっかり慣れたモンで。
蜥蜴のメイドは手終い、今のあっしは巻き付き尾で薙ぎ払う大蛇さね。
場合に応じて適宜ブレイズキャリバーの手足を再生致しやすが。

罪なモンですねエ。テメエが戦えば戦うほど、散れば散るほどに
愛した桜をも犠牲にする。そらア、旦那サマの本意じゃございやすまい?
……と。蛇の本領、忍び寄る囁きにございやす。【咎めの一手】。
地獄の炎の枷でもって、灰と還して差し上げやしょう。


エルザ・ヴェンジェンス
背から声をかけるなど失礼ではございますが
一礼と共にご挨拶を

旦那様、お楽しみ頂き光栄です

髪を下ろし、いつもの姿に戻ります
簪が近くにあれば共に

質実にて、勤めを果たす身にて
影朧の皆様のお相手を

サイキックの雷撃を使い、近接にてお相手を
倒せずとも掃除は出来ます
旦那様の元へ向かう為に退いて頂きましょう

流石は旦那様の想像物、頑丈ではありますが…
無敵なだけで美しいとお考えですか?

疑問を抱いて頂ければ幸いですが
叶わずとも構いません。踏み込みます

傷は構いませんわ。旦那様の教育もメイドの務め
えぇ、私覚えがございます

このナイフ、貴方様に届かせます

貴方様の満足する答えは、遠うございますわ
禁忌の甘さは、もう無いのですから


ルキヴァ・レイヴンビーク
闇に響く我が鳴き声が悲劇の終幕を告げマセウ
羽音響かせ桜の枝の上から舞い降り

ある時は怪しいメイド
またはある時は死を見届ける大鴉
その正体は殺人愛好家の妖魔紳士!
と、マント翻しながら無駄に決め

目的あっての殺し、実に素晴らしい
但し詰めが甘過ぎるのは頂けない
其処のボーンだけと化したレディが囁いてマス
悲しみを、無念を、ね

嗚呼聞こえるデショウ?
ユーが殺めた哀れなる犠牲者の叫び声が
ワタシが貴方達の代わりに請負マショウ…復讐をね!
残留思念を呼び起こし、その負の念はワタシを闇で包み強化する
手にした黒翼銛に全ての怨念を籠め
貴方の大好きなその桜が咲き誇る様、貴方自身を捧げマセウ
樹の幹に標本よろしく磔にしてやりマスよ



●桜花嫋嫋
 仄かに輝く薄紅が揺れている。
 視界には煩いほどの桜が舞い。それを恍惚と見つめる桜守は、揃う生贄はすべて『息絶えている』と思い込んでいた。
 ゆえに、気付かぬ。
 背後で、人が起き上がった事を。
「旦那様、お楽しみ頂き光栄です」
 エルザ・ヴェンジェンスは纏めた髪を解き、豊かな青髪を下ろす元のスタイルに戻し、真摯とも思える眼差しで、男を見つめると。
 背から声をかけるなど失礼ではございますが――、嘯く声は満更でもなく、優雅に一礼した。
「おまえは……」
 呆然と、桜守は彼女を見つめていると、
「ヒヒヒッ。いやはや、おそろしい話にございやすねエ――」
 人を食ったような笑い声がする。
 だが、振り返っても、声の主は見当たらず。奇妙な事に、その声は腰よりも低いところから響く。
「生命を吸った桜の美しさたるや、人を魔に魅入らせッちまう程たア」
 事実、バルディート・ラーガは、地を這っていた。四肢を切断されながら、平然と。
 その眼差しに、ヒヒ、と本人は重ねて一笑に付す。
「手足は先程ちょん切られちまいやしたが、これこの通り。胴だけの腹這いで進むのもすっかり慣れたモンで」
 するりと動く。既にメイド服は脱ぎ捨て、彼の元の服装であるが――蛇も斯くやというその姿は滑稽さよりも、おどろおどろしい怪異めいた印象を与えた。
 本当に美しい桜ですコト、と。
 囃すような声音に、そうでございますね、と応じる女性の声音は、エルザのものとは、違った。
「桜の木の下には死体が眠ると言いますね――残念ながらわたくしめは生きておりますが」
 すっくと立つ黒川・文子は抱えた日記を手に、隻眼を伏せる。
「この日記帳を読ませていただきました……わたくしめはメイドでありますから、主たる者の秘密も握っておきとうございました」
 言いながら、一歩踏み出す。黒髪がさらりと流れて艶やかに揺れた。
 刀を手にしながら、悠然と、桜守の前に進み出て、告げる。
「メイドでありながら本棚の下敷きになるなどもっての他ですが……この終わりなき悲劇を断ち切るのもメイドの務めでございます」
 すべて、すべて。明朗になった。
 せめて申し開きがあるかどうか――メイド達からの追求の眼差しに、桜守はただ冷たい笑みを浮かべる。
「過去がなんとなる――」
「少なくとも――待ち続けたものへ、答えを渡せる」
 いらえは、また異なる場所より響き。
 ふ、と。静かな呼吸の音がしたかと思えば、一気に跳ね起きた影は、そのまま疾駆する。白銀の尾が靡くのが、宵の中でも鮮やかだった。
 然れど未だ使用人姿の儘のシキ・ジルモントは駆けながら、己の懐を探る。
「……窮屈な衣装も使いようだな」
 シキは隠していた銃を構えると――尤も、供物の武装を少しも想像していなかった桜守は驚愕に表情を染めていた――迷いのない双眸で敵の姿を捉えるや、撃つ。
 夜半の庭に、乾いた銃声が続く。
「――ッ、桜よ……!」
 桜守は銃弾を受けて、朱を散らしながら、幻朧桜から幻を紡ぐ。
 次々と庭を埋める影朧は、輪郭も曖昧な亡霊達。男女様々な、使用人のような姿形をしている。
 静かなる人影で、庭は夜会のような賑わいに包まれる。
 ――桜守はそんな光景を眺めるような陶酔した眼差しで、
「この桜に刻まれた守人たちに引き裂かれるがよい」
 笑って、いう。
 それもそうだろう、彼のユーベルコヲドより生じたそれらは影朧の性質を備えている――握る日本刀も、包丁も、或いは猟銃も、並々ならぬ威圧を発している。
 サイキックによる電流を両腕に纏い、エルザが腰を折り、お辞儀をする姿勢から――顔をあげ、色違いの双眸を煌めかせる。
「勤めを果たす身にて――では、優雅に参りましょう。メイドとは、そうでなくては」
 誘えば、漂うだけであった亡霊どものが、一気に動く。猟兵たちを押し流す奔流が如く。
 エルザも強く地を蹴って前へと躍る。振るう拳は雷が伝い、亡霊を強かに撃つ。が、構わず掴みかかってくる。その感情を消した瞳をひたと見つめる。乙女の姿をした、魂の籠もらぬ亡霊。小柄を握る手は荒事に不慣れと細い。
「倒せずとも掃除は出来ます――退いて頂きましょう」
 だが、エルザは気にせず、次の拳をその額に叩き込み、沈める。行く手を遮るものを蹴散らせば充分と、彼女は止まらぬ。スカートの裾を翻し、突き進む。
「流石は旦那様の想像物、頑丈ではありますが……無敵なだけで美しいとお考えですか?」
「ああ、この桜が、この美が永遠であるかぎり!」
 彼女の問いに、桜守はそれを誇る。
「存じておりますが、頑固なお方ですね」
 苦笑を浮かべ、エルザは覆い被さるように棒をふりおろして来た影朧を拳で昏倒させ、その体を跨いで迫る。
 誰が知ろうか、彼女は不利な状況に置かれるだけ、その能力を向上させる。ゆえに、状況に不服はない。
「そういうことでしたら――」
 片や、文子は白刃を抜き、桜吹雪と共に揺れる影朧へと真っ直ぐ、駆ける。
「この桜は赤く染まりません。わたくしめがここで終わらせましょう」
 行く手を遮る影朧をすれ違い様に斬り捨てる。か弱そうな見目のメイド達を斬り馳せると、次には屈強そうな軍服の男達が立ち塞がった。
 文子は深く膝を折り、静かに沈むと、一息に薙ぐ。
 男達の脚を切断するや、新手が遮る前に彼女は桜へと詰め寄る。その剣が、届く距離まで――。
「桜が力を与えると言うのなら桜を斬りましょう――怪物の首よりも狙う事は簡単です」
「……ッ、させぬ」
 させるな、叫ぶ桜守の耳に、ヒヒ、と嘲る声が届いた。
「イヤ、メイドってのは素晴らしいもんでございやす。ひとり、ふたりでどんどんお掃除してくれるとくりゃ」
 あっしもいつか抱えてみたいもんで、とバルディートが鋭き瞳をますます細める。
 地を這う彼の四肢から、ちろちろと炎が覗く。桜守は知るまい、それが彼の手足、地獄の炎であることを――。
 いつでも跳ね起きられるよう備えながら、バルディートはニンマリと口を歪めて、続ける。
「罪なモンですねエ。テメエが戦えば戦うほど、散れば散るほどに――愛した桜をも犠牲にする。そらア、旦那サマの本意じゃございやすまい?」
「……ッ」
 然り。桜に刻まれた、魂は。使えば使うだけ、桜と共に、消耗する――。
 その弱みを、弱さと指摘されたことで、バルディートの仕掛けが発動する。彼の四肢より熾火が走り、桜守の体を絡め取る。
 彼は細い舌をチラと覗かせ、得意げな表情でそれを見守る。
 黒炎蛇の枷に捉えられ、炎上する桜守は、何かしらの絶叫を放った。
「――ッ!」
 それは苦痛によるものではなく、桜を案じる声。
 しかし、如何に弱れど、力を封じられど――ユーベルコヲドを完全に解除することはできぬ。猟兵たちはどれもこれも壮健ゆえに。
 連動して弱まった影朧をエルザは軽やかに投げ飛ばし、文子は桜ごと消し飛ばすように刀を振るい――シキもまた、影朧たちの肩や背を蹴り、桜守に迫らんとしている。
 そして、男の頭上に大きな影が、落ちる。
 不自然に鳴く、大鴉が――不意に、桜の朱を横切り、舞い降りる。
 バサバサと、大仰な羽撃きを叩きつけながら。
「ある時は怪しいメイド、またはある時は死を見届ける大鴉――その正体は殺人愛好家の妖魔紳士!」
 黒い翼がぐっと膨らんだかと思うと、影が旋回するように捻れ、人型となる。
 降り立ったルキヴァ・レイヴンビークが、バッと黒と赤のマントを翻し――高らかに笑う。
「目的あっての殺し、実に素晴らしい」
 黒髪に本心の読めぬ灰眼を笑みに歪め、怪盗が如き黒衣の男は、演技めかして両腕を広げる。
 しかし途端に態とらしく表情を曇らせ、頭をゆっくりと左右に振る。
 手にしたステッキの鴉頭を、己の額にあて、苦悩に眉を寄せると、
「但し詰めが甘過ぎるのは頂けない。其処のボーンだけと化したレディが囁いてマス――悲しみを、無念を、ね」
 低く顰めた声音で歌う。
 木立が囁くように枝を揺らし、闇夜を深める庭の樹影は、亡霊が忍び寄ってくるかのようだ。
 ――嗚呼、何故、旦那様……。
 ――どうなさったのでございます、旦那様。
 ――もとの、お優しい貴方に。
「嗚呼聞こえるデショウ? ユーが殺めた哀れなる犠牲者の叫び声が――ワタシが貴方達の代わりに請負マショウ……復讐をね!」
 ルキヴァは周囲に更に深い闇がぽつぽつと漂い、凝る。
 それは鴉の羽のように背を彩り――即座、翳した手に、負の念を集約する。
「アナタ達の怨み悔やみ、ワタシが晴らしマショウ」
 彼の手に収まったのは、負の思念から生じた闇を凝縮したような、常よりずっとずっと暗色を増した、黒翼銛。
「貴方の大好きなその桜が咲き誇る様、貴方自身を捧げマセウ」
 形を成すやいなや、ルキヴァはそれを振り上げ、素早く突き出す。
 その黒き斬撃は近づくだけで怖気が走る、不穏な力を宿している。それを彼は飄々と繰って、遊ぶような銛捌きで追い立てる。
 黒炎蛇に捕らわれた桜守がそれを躱せるはずもなく。何とか後ろへと退くも、頬や腕に、少しずつ傷が這う。
 それどころか、ついに雷撃の拳が――届いた。
「旦那様の教育もメイドの務め――えぇ、私覚えがございます」
「なっ」
 叩くというには生ぬるい、頬を穿つような強烈な一撃。感電する衝撃に戦慄く桜守へ、エルザは更に畳みかける。
「このナイフ、貴方様に届かせます」
 薔薇の紋章が刻まれたカトラリー。磨き上げられたナイフがきらり輝く。
「貴方様の満足する答えは、遠うございますわ……禁忌の甘さは、もう無いのですから」
 唯一の愛を。ここに埋めてしまった。きっと、あの美しさは二度と手に入らない――。
 ざくりと髪を裂いて、首に朱線を刻みつけ。
 対峙するように、白刃が閃いた。
「お掃除の時間ですよ――退いて下さいまし」
 黒いスカートに返り血のように桜を纏わせながら、文子が優雅に踏み込んでくる。
 長い髪を揺らし、放った斬撃は――袈裟斬りと、派手に朱を散らし。
 両者より追い詰められた桜守は――桜の太い幹に、もう逃げ場はないと背を付ける。どくどくと血は流れ、弱る身をより強く炎が焼きながら、拘束を強める。
「標本よろしく磔にしてやりマスよ」
 左右から迫る影朧を容赦なく斬り払うと、くるりと振り返りながら、ルキヴァは銛を投擲した。
 それはいとも容易く、桜守の腹あたりを串刺しに――宣言通り、背後の木に縫い止める。
 反射的に男が咳き込むや、夥しい血が塊となって吐き出された。
 荒く息をするが精一杯の桜守が操る影朧は、既に殆ど姿を消しており。
 残るは数人の使用人たちばかり――皆、表情は影になって見えないが、じっと成り行きを見守っている。
 最後に、桜守の額へと冷たい銃口を突きつけたのは、シキだった。
 その青き瞳は静かに凪いでいる。
「……お、おまえたち――……なにを……」
 桜守は弱々しく、助けを求めるが。どの影朧も、彼を止めようとしなかった。
 引き鉄に指を掛け、シキは軽く目を伏せる。
 ――何となく、彼らが誰であるのか、わかる気がする。
 そして、その意は。きっと、復讐ばかりでなく――。
「どうせ蘇るなら次は影朧でなく今を生きる者として転生して来い……あんたを案じたかつての使用人を、これ以上心配させるな」
 彼は静かに、憎悪も憐憫もなく、眼前の敵に囁きかける。同時に、解き放つ。
 目にしなくてもわかる、耳慣れた破裂音と、火薬の臭い。
 最後の銃弾に額を穿たれた桜守は――どこか泣きたそうな表情で、影朧たちを見やり――大切な桜に縫い付けられた儘、炎に包まれて、狂ったような桜吹雪の中、消えた。

 日記を桜の根元に置いて、文子は静かに、ひとつ目を伏せる。
 焦げ痕は影朧が存在した証。墓標であるように思えた。
「仕える主を誤ったのではなく……誤った主を引き戻せなかった無念――晴らせたならば、よろしゅうございますが」
 そんなに付き合う必要もありやせんぜ、とバルディートはヒヒッと笑う。
 間違いを正そうとして、殺された。挙げ句、それは主の狂気を悪化させてしまった。
 当時の結果としては、すべて間違ってしまったのだ。
「あっしにすれば、命は何にも代えがたいもんでやすが――忠心、ってェやつは厄介な」
 死んでもまさか、同じ無念を抱えるというのは、何とも恐ろしい執念である。
 既に炎で再構成した四肢で立つバルディートはくるりと、皆を振り返る。
「さアて、しかし。図らずも知っちまったあっしらは、どうしたモンで」
 金目にならないものとて、秘密は秘密。
 盗んでしまった五十年前の無念の証どもだけが、手元に残る。それを、どうしようという話である。
 文子が小首を傾げたところに、ふーっと態とらしい溜息が割り込んでくる。
「まー、きっちり頼まれたリベンジは果たしたわけデスしぃ? ――ボーンは運ぶの大変デスしぃ?」
 掌を天に向け、大仰に肩を竦めながら、「埋めマスか」とルキヴァが妙に真面目くさった表情で言う。
 とはいえ、声音はそこまで深刻でもなく、その言は冗談だとわかる。
 そうだな、と。逆に真剣な声音で応じたのは、シキであった。
「可能ならば――縁者に届けようと思う」
 その言葉に、迷いはなかった。この屋敷には思っていたよりも文書が残っている。死した使用人たちの故郷はわかる――生きているならば。
 遅れに遅れた帰郷を、その結末を知らせてやりたい。
「付き合えとは言わんが」
 あくまでも己の仕事の延長のようなものだと、彼は瞑目しつつ、言う。
「彼らは……――五十年も屋敷に留まったのだから、もう暇を貰ってもいい筈だ」
 そうですね、と。エルザは本心のわからぬ微笑を湛え、彼の意に頷いて、手の内にある簪に目を落とす。
 きっとこの簪は、此所で寄り添いたいだろうと――日記の傍らに預けると、優雅に振り返る。
「えぇ、そのお考えに――微力ながら私もお手伝いさせていただきます」
「フフフ、残業デスか……この請求は何処につけマセウ」
 ルキヴァの諧謔を背に桜を仰ぎ、一時の主であった相手へ、皆、好き好き暇乞いを告げ――去る。

 後は静かに。木の葉のざわめく音だけが漣と広がるばかり。
 主を失った青い屋敷と、瑞々しき庭が残された――いずれ、新たな命が芽吹くときを待つことになろう。
 かつて燃えるように艶を誇った幻朧桜は、その花の殆どが散って、すっかり威勢を失ってしまっていたが――。

 残った枝枝は、可憐なつぼみを蓄えて、笑うように揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月09日


挿絵イラスト