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大祓百鬼夜行⑱〜群れて満ちよ、悪の心よ

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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【その願いを直視せよ】

 山の中、朽ちた祠である。本来であれば山の持ち主が修復するなり移動させるなりするのであろうが、それは最早祠とさえ認識できないほどの物と化していた――からかどうか、実のところは誰も知らない。もしかすると、単に持ち主が知らなかっただけなのかもしれないし、費用に見合わないと思っていただけかもしれない。いずれにせよ、その場所は、ある種のホラー掲示板にて、一定の知名度で語られていた場所であった。所謂『凸』と呼ばれる行為もたまにあり、掲示板での実況なども盛り上がったものであった――

 そう、今日までは。

「はい、今日は、噂の場所に来てまーす」
 男はカメラを回しながら、友人数人と一緒に、山を登っていた。現在時刻は夜の十時半。動画投稿者である男は、動画のネタの一環としてオカルト話の検証やホラースポット巡りを行っており、今日もそのために、この山へと訪れていたのだった。因みに周囲を歩く友人たちも皆自分のチャンネルを持っているので、所謂『コラボ回』というものでもある。
 勿論、撮影については山の持ち主に連絡をしており、許可も取ってある。こういうところが視聴者の好感度に繋がると男は知っていた――尤も、山の持ち主も男のような類には慣れているのか、撮影の『さ』の字あたりで「いいよいいよ、例の祠でしょ? 何が取れる山でもないし、荒らさなければ好きにしていいから。え、夜? まあ別にいいけど、責任は自分で取ってね。野生動物には注意して」と言うだけだったが。
「えー、はい、ちゃんと許可は貰ってますんでね、安心してください。……っと、あぶね」
 頭につけていたカメラを枝へ引っ掛けそうになって、男は慌ててしゃがむ。
「そこ、お前らも気を付けろよ。目とか傷ついたら失明するかもだからな。……んで、もうちょいですねー、例の場所は」
 友人が後ろで、「だいぶこの辺り歩きやすいんで、元は道だったと思うんですよね」などと言っているのを聞きながら、そのまま男は、件の祠へと辿り着き――ぽかんと口を開けてしまった。
 薄青い――何かがいる。
 友人たちも同じなのか、実況を忘れて、その生き物を見ている。
 それはおよそ、尋常な生き物ではなかった。半透明に透き通り、中空を泳ぐように飛んでいる。その『尾』と思しき場所には、
「っひ、ひ、ひと……?」友人の一人が、小声で言った。その言葉の通り、その生き物の尾と思しき、否、尾以外にも、白く光る部分からは、醜く呻く人のようなものが生えていた。
 ――男が思ったのは、「視聴率絶対やばい」だった。ホラスポ行って変な生き物見つけて、これってやばい、絶対やばい。サムネどうしよう。生半可なサムネじゃダメだ――そんなことを考えながら、男は生き物へと近付いていく――向かってこないから大丈夫だと思ったのだ。それにちょっと、可愛いと思ったのもある。こういう生き物が、元来男は好きだった。友人たちの反応は様々であったが、同じように近付いてくる者の方が多かった。
 そして生き物が、頭と思しき青い部分を擡げ、

【汝、心を身に映せ】

 男を、見た。

 ●

「UDC-Nullというものがある――否、あったのであるがな」

 それはUDC組織により『UDC怪物ではないと証明されたもの』、つまり単なる虚言の類であるされたものにつける分類であった。葛籠雄九雀は、相も変わらず、どこかのんびりとした様子で話を続ける。

「だがそれが、此度の百鬼夜行で、『かつて本当に実在していた』ものであるというのがわかってしまったのであるよな」

 骸魂と合体して帰還した妖怪がそこへ再び収まってしまったからだ。そうなると何が起きるか。仮面は誰にも聞こえない程度の溜息めいた声を漏らしてから、言う。

「噂や都市伝説を確かめに行った者が、実際に現れた『UDC-Null』を目撃して、殺されそうになっておるのであるよ。どうやら現在は、当の『UDC-Null』の吐き出した粘性液体に捕らえられておるようである」

 被害者は動画投稿をしようとした男と、その友人数人である、と仮面は言う。
 正直、と九雀は、声には出さずに思う。自業自得というものではないだろうか。そんなものをわざわざ確かめに行かなければ、被害に遭わずに済んだのだから。そこまで含めて、行動する責任というものだと思うが。
 とは言え、放置しておくわけにもいかない理由もある。

「しかもこの出現した元『UDC-Null』であるが――放置しておくと『感染型UDC』へと変異して、更に増殖していくのが判明しておるのであるよ」

 であるから、と仮面は続ける。

「猟兵ちゃんたちにはこの『UDC-Null』を殲滅してもらいたいのである。できれば、赴いた動画投稿者の男たちが死なぬようにして欲しい、というのがUDC組織の意向である。実際、男たちさえいなくなれば、大火力で吹き飛ばしても構わぬらしいであるからな」

 場所は森の中、朽ちた祠。周囲には被害者であるその動画投稿者以外にはおらず、山の持ち主とはUDC組織が交渉済みのため、基本的には何をしても問題ない。

「そういうわけで、本当にただ『UDC-Null』を倒し尽くし、男たちや妖怪を救出するだけの仕事であるが」

 よろしく頼むであるよ。
 そう言って、いつものように九雀は猟兵たちへと頭を下げたのだった。

 


桐谷羊治
 なんだかポンコツなヒーローマスクのグリモア猟兵にてこんにちは、桐谷羊治です。
 十本目のシナリオも戦争シナリオです。噂のホラスポへ行った一般人を助けてついでに妖怪も救出しよう!なシナリオです。

 そんなわけで、三本目のカクリヨファンタズムです。お手柔らかにお願いします。
 プレイングボーナスは以下の通りです。

 =============================
 プレイングボーナス……襲われている人々が、妖怪に殺されないようにする。
 =============================

 今回もプレイング受付から先着順かつ書けると思った順にスピード重視に書いていくので文字数が普段よりちょっと少なめになるかもしれませんので予めご了承ください。
 また、書けると思ったプレイングを執筆させていただくので先着順でも不採用が有り得ます。こちらも予めご了承ください。
 冠達成時点で〆ると思います。

 心情はあれば書きます。なくても大丈夫です(若干文字数は減るかもです)。大体いつも通りです。
 若輩MSではございますが、誠心誠意執筆させていただきたく存じます。
 よかったらよろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『ゴースト・プロムナード』

POW   :    その願いを直視せよ。
【自身の体液】から、対象の【悪しき欲望】という願いを叶える【複数の不完全な対象の分身】を創造する。[複数の不完全な対象の分身]をうまく使わないと願いは叶わない。
SPD   :    汝、心を身に映せ。
【悪】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【複数の不完全な対象の分身】から、高命中力の【捕縛用粘性液体】を飛ばす。
WIZ   :    我らは群れる者。
レベル×1体の【自分自身】を召喚する。[自分自身]は【水】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

神代・凶津
面倒をかけてくれるぜ。まあ、怖いもの見たさってヤツも分からなくないがな。
「・・・犠牲になる前に助け出さないと。」
おうよ、いくぜ相棒ッ!

捕まっているヤツらを見付けたら破魔の力を宿した霊鋼の薙刀で粘性液体を浄化してやるぜ。
助けだせたら結界霊符を貼って保護するぜ。

んじゃ後はUDC-Nullを倒すんだがその前に
「・・・破邪・鬼心斬り。」
薙刀で動画投稿者達の『悪の感情』や『悪しき欲望』を叩き斬ってやる。
これでコイツらから複数の不完全な対象の分身ってヤツが現れたりしなくなるだろ?

式神【ヤタ】を放って攻撃しつつ注意を引きつけてる間に近付いて薙刀でなぎ払ってやる。
さあ、怪異祓いといこうかッ!


【アドリブ歓迎】


エミール・シュテルン
アドリブ歓迎

怖いものみたさ…というのは、人の性分なのかもしれませんね。とはいえ、危険なことであるとしっかりと学習してもらわないといけませんね。そのためにも、まずは救出しないといけませんね。

【目立たない】ような位置から囚われてる方々に近づきますね。粘性は液体って剥がせるんでしょうか?試すだけ試してみますね。その間にUDC-Nullから攻撃を受けそうでしたら、動画投稿者の方々を【かばい】ます。
私では抱えて逃げることはできないので…反省も込めて、頑張って走って逃げましょうね?その間、足止めの手伝いとして七星七縛符を使用します。
人も妖かしもどちらも助けるためにしっかりと頑張らないとです。



 
 森の中を走りながら、遠くに粘液によって木々へ磔にされた動画投稿者を見つけて、神代凶津は、まったく、と頭の中で小さく毒づいた。どうやら全員まとめて固められているわけではなく、一部は――うつ伏せで張り付けられているところから、逃げようとして背後から襲われたようだ――木々にいるらしい。こりゃ、一気に全員回収、なんてのは難しいな。凶津はいよいよ溜息をついた。
(面倒をかけてくれるぜ)
「まあ怖いもの見たさってヤツも分からなくないがな」
 人の中の一部はどうしたって、禁止されている場所や、見たら自分に危険が及ぶような場所に足を踏み入れたがる――好奇心が警戒心を上回るのだ。その危機管理能力の低さと俗に罵られるものが、本能の退化だとかと呼ぶべきものなのか、そこまでは知らないが。人類の知性の進化ではあるのかもしれない。いや、賢ければこんなことはしないか。
「……犠牲になる前に助け出さないと」
 静かな声音でそう言葉にしたのは、普段から退魔師として活動する神代桜だった。彼女は凶津を面として被ったまま、息も切らさずに森の中を走っている。足音も殆ど立てていないから、木々の向こうでちらちらと見えるUDC-Nullたちも彼女には気付いていない。
「おうよ、いくぜ相棒ッ!」
 桜の言葉に意気込んで答え、まずは最初の一人に辿り着く。一先ず周囲を警戒しておくが、やはり宙を漂う例の海産物――と、凶津には見えた――はこちらへ向かってきていないようだった。
「……生きてるよな、これ?」
「……おそらくは……」
 粘液によって口から足まで覆われ、木に押し付けられた投稿者の一人と思しき男は、完全に白目をむいていてぴくりともしない。鼻までは覆われていないので、窒息してはいないと思うが。
「いずれにせよ、助けない選択はありません」
「そうだな」
 桜が薙刀を構える――その、強い破魔の力を宿した切っ先を。
「――らァっ!」
「――はッ!」
 互いに気迫の声を上げ――一閃。
 霊鋼と呼ばれるその刃、その一振りは魔を断ち、穢れを祓う。薄桜色の霊力を纏った刃に『切断』された粘液の隙間から、羽化する蛾か何かのように気絶した投稿者の肉体がぼとりと地面に落ちた。薙刀に浄化された粘液も、溶けるように消えていく。一応桜が脈をみて、生きていることを確認してから、楽な姿勢で地面に寝かせた。
「しかしよく寝てるもんだな」
「起きるまで結界霊符を貼っておきましょう」
 またUDC-Nullの標的にさせるわけにはいきません、と桜が取り出した符で結界を張る。戦闘が終わってUDC組織に保護されるまでの処置としては十分だろう。
「んじゃ後はUDC-Nullを倒す――んだが、その前に」
 凶津の言葉へ続くように、桜が再び薙刀を構える。
「……破邪・鬼神斬り」
 振るう刃が、投稿者の肉体を一刀の元に斬り裂き――何も起こらなかった。少なくとも、見た目上は。だが凶津は、桜はその技が『肉体を傷つけるものではない』ことを知っている。それは対象の精神のみに作用し、邪心や歪んでしまった心や想いを断ち切るものである。今回であれば、この投稿者がUDC-Nullによって――あるいは元より持っていたのかもしれない――『悪の感情』や『悪しき欲望』を叩き斬ったのである。
「これでコイツらから、『複数の不完全な対象の分身』ってヤツが現れたりしなくなるだろ?」
「そのはずです」
 UDC組織がネット上から回収した動画にて判明した、投稿者たち自身の、崩れ切った分身。それがこの粘液を吐き出していたのは分かっている。であれば、投稿者自身が浄化されれば、出て来なくなるのは道理だ――ということで、凶津たちはそれを斬り捨てたのであった。
 これで後は、他の猟兵か、UDC組織が救助してくれるだろう。名も知らぬ投稿者に背を向け、桜が霊符を取り出して、式神【ヤタ】を呼び出し――未だこちらへ気付かぬUDC-Nullへと放つ前に、横から走ってきた何かに気付いて飛びのいた。
「何――」
 凶津と桜、どちらが先に言葉にしようとして、そして失敗したか。
 桜が今さっき飛びのいた場所で、金髪の少年が、どろどろに溶けた人型の『何か』に首を捕まえられたところであった。
「っき、消えねえのかよッ!」
「いいえ、新しく生まれるのは阻止できているはずです。が……」
 確かに、『先に生まれていたもの』まで消える確証などどこにもありませんでしたね。言いながら薙刀を構え直し、僅かな焦りを滲ませた桜が一息に『何か』へと踏み込む――だが、それは斜め上から放たれた水流によって吹き飛ばされた。桜が木に背中を強かに打ち付けて、呻く。
「桜ッ!」
「……だ、大丈夫、です……」
 いつの間に気付いたものやら、複数のUDC-Nullが、少年と凶津たちを狙っている。高度こそ然程ないが、数はそれなりだ。しかもよく見れば、金髪の少年から幾らか離れたところで、「もう無理だって! 帰りてえよ、こんなん出るって聞いてねえもん俺!」と子供のように泣きじゃくる男もいた――間違いなく被害者だろう。
 人型の『何か』が、少年を放り出して、凶津を、というより、おそらく桜を見る。
「……ぎ、ぎ、じょ。きじょ。ゆう、ゆうめいな、ところ、だと、ととと、あ、あああ、あだちがはらの、き、きじょですが、い、いま、お、おおおおおお――れの、れの、のまえに、おに、おにのめんの、おんなが――がががが」
「おいおい、鬼女扱いされてんぞ」
「失礼な……」
 立ち上がれば、桜の額から血が流れてきているのがわかった。ヤタを引き寄せ、UDC-Nullと『何か』を見る。形成は不利、少年はまだ咳き込んで事情が聞けない。
 しかし。
「私たちのやることはただ一つです」
「――さあ、怪異祓いといこうかッ!」
 凶津と桜はそう叫ぶと、薙刀を三度構えたのだった。

 ●

(怖いものみたさ……というのは、人の性分なのかもしれませんね)
 エミール・シュテルンは、そんなことを思いながら、できるだけUDC-Nullに見つからぬよう、目立たぬ木々の隙間や夜の影を移動する。
(とはいえ、危険なことであるとしっかり学習してもらわないといけませんね)
 そのためにも、まずは救出しないといけませんね――少年がそう決意するのと、遠くの木に、粘液で絡め捕られ、歪な木の実のようにぶら下がる投稿者の一人を見つけるのは、殆ど同時のことだった。繭状のそれが遠目にもゆさゆさと揺れているのは、どうにか逃げようとしているのだろう。それとも、ただ苦しいのか。
 ……辿り着いてみても、どちらかはわからなかった。ただ、粘液で固められた白い何かは、うごうごと蠢き、枝から落ちようとしている。流石にUDC-Nullの撒き餌などではないだろうし、よく見れば足元にカメラも落ちていたので、これが投稿者の一人の成れの果てなのだろう。幸い、木はしっかりしているのですんなり登れそうだ。
(……粘性がだいぶ強いようですが。この液体って剥がせるんでしょうか?)
 不安に思いつつ、エミールは木を登り、液体と枝の付け根に触れてみる――が、逆に指が持って行かれそうになり慌てて手を引っ込めた。
(駄目そうです。……焔麗で切れるでしょうか……)
 深紅の魔鍵を取り出し、液体に近付ける。今度は、その力のためか、先程とは違ってすんなりと液体が切れた。こちらにしよう、とエミールは焔麗で液体の繭を切り落とすと、自分もすぐに地面へと降りた。そのまま救出のために繭を切り――
「――ひっ――」
「ひ?」
 繭の中から現れた投稿者の一人らしき男が、少年を見て喉を引きつらせた。大丈夫ですかと聞く前からそんな顔をされたので思わず首を傾げた瞬間、男から聞こえてきたのは、絶叫だった。
「――ばっ、ばけものっ、空、空飛ぶ化物がァっ、ああああああああっ!!」
「――っ!」
 しまった、完全に錯乱している。繭の中で四肢を強張らせ、目を見開き、涙で顔をぐしゃぐしゃにして男が叫び続ける。木々の向こうを見れば、当然のように、UDC-Nullがこちらへと顔を向けるところであった。こうなると荒療治だが仕方ない、焔麗で男の胸を突き刺す――泣いていた男が、一瞬で泣き止む。肉体を傷つけることのない剣に、男が驚愕を隠しもせず瞬きをする。
「き、きみ、な、なに、なんだこれ」
「助けにきました、大丈夫ですよ」
 私では抱えて逃げることはできないので……、とエミールは苦笑する。
「反省も込めて、頑張って走って逃げましょうね?」
 ほら立って、と焔麗を引き抜いた男を強引に立たせ、向かって来るUDC-Nullから逃げる形で走り始める。
「なんできみ、だめだよ、こどもがこんな時間に。え、俺、夢見てるのかな……」
「大丈夫ですってば」
 どうにも子供扱いされるので唇を尖らせつつ、木々の間を縫うようにして追いかけてくるUDC-Nullへと、エミールは七星七縛符を投げる。命中した護符は、UDC-Nullのユーベルコードを封じて足止めになり――直後、ぬう、と目の前に現れた二体目のUDC-Nullには、咄嗟に反応することができなかった。先程背後から現れたものは確実に命中したから、これはまた別のものだろう――考えるより先に、エミールの体は動いていた。
 投稿者の男を狙って放たれたその『水鉄砲』を、突き飛ばして庇い、受ける。少年の薄い腹へと直撃した水圧は、容易にその細い肉体を背後の木へと叩きつけ、圧した。男の悲鳴を聞きながら、エミールはどうにか動かすことのできる手首から先で、護符を投げた。七星七縛符が命中し、水が消える。よろめきながら、「大丈夫かよ!」と駆け寄って来る男の手を掴み、「行きましょう」と技を封じられ悶えるUDC-Nullの横をすり抜けた。
「なに、なに? きみなに? 陰陽師的なやつ? 札とか使ってるし、なに? 俺は今何に巻き込まれてんの? 俺死ぬ? しぬやつ? き、きみ死なないよな? 子供死ぬの俺だめなんだけど、マジで地雷なんだけどあの」
「お静かに。後で説明しますし、今はご自身の命の心配をしてください」
 やや強めの語気で言うと、ハイ、と素直に男が黙って、エミールの背後をついて来る。だがその足音は当然ながらかなり夜の森に響いていた。このままでは他の個体も集まってくる可能性が高い、申し訳ないが、他の猟兵と合流したい――
 赤い鬼面の女性が、ぐずぐずのなにかに襲われかけていたのは、そう思っていた最中のことだった。気付いているか気付いていないかわからない、だがおそらく猟兵だろう。庇う、庇わなくても大丈夫か、いや!
 結論として庇うことを選択したエミールは、その『何か』に首を絞められていた。投稿者の男が「どうすんだよこんなのぉ!」と再びヒステリックに喚き始めたのを聞きながら、自分を助けようとした女性がエミールたちを追ってきたらしい個体に吹き飛ばされるのを見る。失敗したか、と思うよりも早く、『何か』がエミールを放り出し、女性が立ち上がって薙刀を構えた。咳き込む少年の前で、女性が従えた鴉で上手く注意を引き、水鉄砲や何らかの霧を食らわぬようにしながら、薙刀の――おそらく特殊なものなのだろう――一刀でUDC-Nullを薙ぎ払っていく。だが数が多い、ここへ来るまでの間で随分と分裂したのだろう。知らない男の声が「うじゃうじゃと!」と叫ぶのを聞きながら、エミールは立ち上がる。
(人も妖かしもどちらも助けるためにしっかりと頑張らないとです)
 少年はありったけの護符を出すと、見える限りのUDC-Nullへと七星七縛符を放った。女性がこちらへ視線を向ける。
「これで、相手は何もできませんよ!」
 エミールに、女性が感謝の言葉を叫ぶ。
「ありがてえ!」
「ありがとうございます!」
 薄桜色が、春の夜に閃いて――

 最後に残ったのは、染み入るような静寂。

 ――そうして被害者たちはUDC組織へと引き渡され、手当てをされたエミールたちも無事下山したのだった。
 そう言えば相手の名を聞かなかったな、などと互いに思いながら。


 

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

都槻・綾
祠と呼ばれる場所なれば
嘗て信仰の在った神――妖しなのでしょう

もはや謂れを知る者も無きと言う
忘れられた信仰は
時の流れの中に
ぽつんと置き去りにされた妖しの
寂しい眼差しを見るようで
物悲しい

寄り添う想いは吐息に秘め
先ずは
人命を助けるべくの一詠、鳥葬

数多の鳥符の羽搏きが
固き礫となりて怪を穿ち
青年達を護る堅牢な壁を築く

五行相剋
水を堰き止めし土の盾

強度不足の時は
彼らを背に庇い
広げたオーラで護り抜く

詠唱を重ね
啄みを畳みかけ
怪異の鎮静に努めよう

無事に青年らと妖しの救出が叶ったならば
祠へ手を合わせ
深き一礼を

もし
一緒に礼をと申し出てくれた者あらば
ふわりと笑みを咲かせる

此の祈りが
妖しの心を温めてくれるものであると良い


冴島・類
写し切り取る画角の中の評価に夢中になるのはわからないが
いつの世も
怖いもの知らずはいるもんだな

戦闘の邪魔にならぬよう
粘性物に捕われてる子らを
避難させること優先
動かせるなら
瓜江に担がせ、相手射程外へ運ばせたい
自分は彼らを追わせぬ為
薙ぎ払いで放つ衝撃波で、粘液を跳ね返したり
見切りで避け、退避完了までは凌ぎたい

心を身に…
欲と向き合えと言われたら
毎日向き合ってる…今更だ

瓜江が戻れば攻撃に転じる為
彼は青い本体へ向かわせ
自分が分身達の気を引き、攻撃を集中させるよう引き付け
粘液が放たれれば、あえて受け
糸車で本体へ返し、行動阻害
味方の機に繋げたい

今回のことで、少しは懲りてくれるかな
いのちは、取り返しつかないんだ



 
(写し切り取る画角の中の評価に夢中になるのはわからないが)
「いつの世も怖いもの知らずはいるもんだな」
 そんなことを呟いた類に答えたのは、隣で一緒に移動していた都槻綾だった。以前にも、今回と同じグリモア猟兵の予知で一緒になったことがある――尤もその時は、牡丹色の女性と一緒だったから、直接会話はしなかったけれど。
「忘れ去られる、というのはきっとそういうことなのだと思います」
「……そうなのだろか」
 瓜江を連れて走る自分の横で、ええ、おそらく、と綾が言った。
「祠と呼ばれる場所なれば、嘗て信仰の在った神――妖しなのでしょう」
 祠周辺を漂っているらしいオブリビオンたちを刺激せぬようにしつつも、綾と共に木々の間をできるだけ急いで登りながら、二人は何となく――『ヤドリガミ』と呼ばれる身を持つ二人は――会話をする。
「既に誰も謂れを知らぬようですが」
「……もう、場所も知られていないのだっけ」
 そう考えると、『怖いもの知らず』というのは、本人たちだけの問題ではないのかもしれない、と類は少しだけ思った。己自身も祀られていた鏡である彼は、その事実に、どこか薄ら寒いような、哀れむような気持ちがする。この感情は、持てる者の傲慢だろうか?
 自分は焼けたためにすべてを失い、代わりのようにこの身を得たが――『それ』すらも、ここにある祠の主はなく、ただ狭間の世界に住まう妖となり、骸魂に取り込まれ、そうしてようやく今、この百鬼夜行にて再び、その『身』と『おそれ』を得たというのなら。
 きっといつかの日には神だったのだろうと綾の言う、件の『UDC-Null』に、類は。
 ただ――痛みのような思いを抱いている。
「……最初はそうでなかっただろうに」
「移ろいゆくものですから――ひとも、ものも、神さえも」
「嗚呼――そうだね。ものもひとも神になり、神も物の怪になるものだから……」
 ものでもひとでも神でも、変わらぬものはないものだ。永遠。そんなものはこの世の何処にもない。そして、だからこそ過去は色褪せ、明日は青く鮮やかに輝く。
 会話はそこで終わりだった。二人無言で登っていくうち、ずぶ濡れになって折れた木々が周囲に転がる、開けた場所に辿り着いた。その真ん中で、二人ほどが、『とりもち』のようなものに固められ、地面へ張り付けられている。抜け出そうと足掻いてはいるようなので、生きているのは間違いないだろう、尤も、効果はないようだが。
 そして、その上空を漂うように泳ぐのは――複数の青いオブリビオン。
 だが幸いにも、彼らはこちらに気付いていないようだ。
 木々が折られているのには少々驚いたが、おかげで救出でも戦闘でも動きやすい。綾が、敵たる彼らに気付かれぬような小声で類に囁く。
「私の方で彼らを解き放ちます。その後はあちらの妖しを引き受けますので、その間に、類さんは彼らを連れて行ってください」
「わかった」
 元より戦闘の邪魔にならぬよう、あの粘性物に捕らわれている子らを避難させることを優先するつもりであったので、異論はない。
 ――と、よく見れば、木々の奥には、どろどろとした人影のようなものも二つ見える。
「綾さん」
「なんでしょう?」
「あちらの奥にも敵がいるようなので――気を付けて」
 綾は二度ほど瞬きをして、それから目を細め、「ああ……本当ですね」と口にした。やはり気付いていなかったようだ。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、大変なところを任せるのだから」
 先に気付けたのは運が良かった、と類は思った。横から襲われて、あの餅のようなもので攻撃されてはたまったものではない。
「では――」
 航り逝く路を標さん。
 そう詠うような声音で口にした青磁の青年の手から、ひらりと鳥符が舞い始める。それが土の気配を纏っていることに、類は気付いた。鳥符が数を増やしていき、投稿者たちの餅を溶かすように引き剥がした。それと入れ替わるように瓜江を操り飛び込ませ、彼らが何かをするより先に捕まえて担ぎ上げる。
「わっあっああっ!?」「なにっ、今度はなんだぁっ!?」
 悲鳴に反応したらしいオブリビオンと、人影がこちらへ向かって動き出した。それを無視して、子らを抱えたまま即座に攻撃が届かぬ遠くまで瓜江を走らせる。それを追おうとしたらしき青い本体や人影を、綾の鳥たちが壁となって抑え込んだ。投稿者たちの悲鳴が、どんどん遠くなっていく。
「……あの子らは、麓まで連れて行った方がいいだろうか」
 オブリビオンとなった妖怪たちはここ以外にもいるらしく、時折別の場所から、他の猟兵の戦闘音が聞こえて来る。あの錯乱した様子だと、逃げているうちにうっかり他の戦場へと乱入してしまいそうだ。それに、夜の山は単純に危ない。
「そうですね……思ったより楽に持ちこたえられそうなので」
 麓まで送ってしまった方が安全だと思います。鳥の壁を維持したまま、綾が答える。粘液などは薙ぎ払って跳ね返すか、見切って避けようと思っていたけれど、それも綾の壁で全て遮られている――有難いことだ。
「……祠を」
 何度か詠唱らしき言の葉を重ねていた綾が、不意に、ぽつりと言った。
「無事に青年らと妖しの救出が叶ったならば、祠を探したいのですが」
 手伝ってくださいますか。そう言う青年の貌がどんなものだったのか、闇に羽搏く土の鳥礫に丁度遮られて、類にはわからなかった。
 けれど――
「もちろん」
 断る理由もない――それに。
「僕も……気になっていたんだ」
 ここに祠はない。なぎ倒されてしまったというよりは、逃げた投稿者を妖怪たちが追ってきて、そのまま捕まえたという形なのだろう。ということは、また別の場所にあるのだ。
 かつて彼らを祀っていた、祠は。
「一緒に参ろう……彼らを」
 そんな類の返事に。
 綾がふわりと笑みを咲かせ――途中で行き会った別の猟兵に投稿者らを引き渡した瓜江が戻って来るのは、それと殆ど同時のことだった。

 ●

 見つけた場所、つまり戦場となった場所に祠がなかったのは、幸いと呼ぶべきだったのだろう、きっと。戦いの場となれば朽ちているという祠が更に壊れてしまっていたかもしれないし――祠の前で、そこに祀られていたはずの彼らを、必要なこととは言え打ち据えるのは些か、気分のよいものではなかっただろうから。
 人命を助けるべくの一詠、鳥葬〈ヨミシルベ〉にて生み出された、数多の鳥符の羽搏きが、固き礫となりては怪を穿ち、堅牢な壁として綾や類を――本来は青年達を護るつもりで築き上げたものだったが、彼らは類によって、より安全で然るべき場所へと既に連れて行かれている――護っていた。
 青い、かつて神だった妖したちの成れの果ては、土の鳥たちに水流による攻撃や、霧による弱体化などを仕掛けているけれど、五行相剋、水を堰き止めし土の盾。鳥たちによる壁はびくともせず、妖したちはただ数を減らしていく。強度不足があれば広げたオーラと己が背にて庇うことも考えていたが、必要はなさそうだ。何度かの詠唱と、鳥たちの啄みを畳みかければ、思っていたよりもずっと容易に怪異を鎮静化出来ていく。類が指摘した人影など、とっくに鳥に啄まれて消えてしまった。おかげでまだ余力がある――それこそ、祠を探して歩ける程度には。
(……これが終われば)
 祠へと礼をしよう。綾はそう思った。そのためには探さねば、と申し出た探索を快く承諾してくれた類に微笑めば、彼の連れていた人形が帰って来る。それから間もなく、その場にいた最後の一体も鎮まったので、綾は鳥たちを消して歩き出す――今度は、祠を見つけるために。
 あちらではないかな、と、折れた木々を辿る類を追うように山を進む。先程までよりも山頂へ近くなっていくにつれ、きっと昔は人が通っていたのだろう痕跡さえも薄くなっていくのが、何とも言えず。それでも、ついさっき青年達が通ったばかりで折れた枝木や削れた苔は、確かに祠への途を教えてくれて。
「――ああ、ほら」
 あった、と言う類の声も、多分、綾と似た色をしていた。
 苔むし、崩れ果てた祠は原型を殆ど留めていない。先んじて「祠がある」と言われていなければわからないような、その、もはや謂れを知る者も無きと言う忘れられた信仰は、時の流れの中に、ぽつんと置き去りにされた妖しの寂しい眼差しを見るようで――
(『ほらあすぽっと』、)
 ――ひどく物悲しかった。
 ここは本来、そう呼ばれるものではないはずなのに。彼はどうにも――たぶん、『やりきれず』、青磁の瞳を少しだけ伏せた。寄り添う想いを吐息に秘めて、一つ瞬きをする。それから綾は祠へ、手を。
【――汝、心を身に映せ】
 頭の中へ直接響くようなその声と、胸の中に『何か』を強引に植えつけられるような感覚に驚いて、咄嗟に顔を上げる。祠の真上から、例の青い妖しが泳いできていた――が、その『何か』が綾に根付くことはなかった。
「……廻り、お還り」
 悲しげな、類の声。そちらの方へと目を向ければ、人形を背に置いた少年が、囁くように言うのが聞こえた――「心を身に……」。欲と向き合えと言われたら、毎日向き合ってる……今更だ。唇だけでそう紡ぐ類はどこか苦しげで、だからこそ、きっとそれは誰にも聞かせる気のなかった独り言のはずだった。だから綾は、その通り、聞かなかったことにする。
 類が何かをしたのだろう、宙を泳ぐ青い巨体がのたうって、どろどろとした、先程の人影と同じような妖しが現れる。それが本体を、あの粘液で捉え――綾は再び鳥葬にて鳥たちを呼び出すと、分身と本体、その両方を礫にて撃ち貫いた。たったそれだけのこと。
 それが、綾たちの戦いの終わりだった。
 崩れた木造の祠を直す術を綾も類も持たず。
 ただ、綾たちは祠へと手を合わせ、深く一礼をする。
 此の祈りが、妖しの心を温めてくれるものであると良い。
 そう願いながら。
 ――祈りを終えて帰路へ着き、先に口を開いたのは類だった。
「……今回のことで、少しは凝りてくれるかな」
 誰が、というのは訊かずともわかる。例の青年達だろう。憤りを含んだ口調で、類が続ける。
「いのちは、取り返しつかないんだ」
 いのち、と綾は、頭の中でその言葉を反復する。そう――いのちは、取り返しがつかない。だから続きを生きるしか――嗚呼でも、生きて、居られたのだろうか。
 いのちの続きを?
「……ひとが神と呼ぶものにも、種々様々ありますが……」
 なんとなく、綾は言う。
「少なくとも、彼らのような神は、ひとがきっと生み出すのでしょう」
 ひとが神と呼んだから、彼らは神になった。
 ならば彼らも『いのち』なのでしょうか。
 だとすれば――取り返しは、きっとつかないのだろう。信仰は失われて久しい、きっと今回の事件を切欠に、祠には何らかの処置が施される、『施されてしまう』。
 自分の横顔を、人形を連れた類が、見つめる気配がする。
「……ひとは二度死ぬというけれど」
 肉体が死に、記憶から消えて、二度死ぬと。類が言う。
「それは、僕らのようなのも同じなんだろう」
「……」
 類がまた前を向く気配。
「……失うことはおそろしいですか?」
 言って、顔を向ければ、類がひどく驚いた顔をして綾を見た。それから、前へと視線を戻す。
「……おそろしいよ」
 おそろしくないわけがあるものか――類の言葉。
 失うことは。
 絶えてしまうことは。
「おそろしくて……さびしい」
 だから、受け継いでいくしかないんだ。
「失う前に、必死で……続けていくしかない」
「……」
 受け継ぐ――続きを。
「そう……ですね」
 そうですね、と綾はもう一度だけ呟く。
 それから、やはり、「ひとではない自分の祈りだとしても、失われてしまった彼らに、少しでも安らぎを与えられておりますように」とだけ、再び願ったのだった。


 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジニア・ドグダラ
……今回、山の持ち主ですら分からなかった以上、致し方ない部分もあるでしょう。
しかし敵も数が多く、ただ救出するは、少々難しいです。『であれば、出来る事を熟すのみ』

木々にフックワイヤーを掛け跳躍し、できる限り早く移動しながら呪言を高速詠唱。
襲われるまで時間が無い以上、そこまでの時間は短縮させる。
棺の封印を一部解き零れ出た死霊を呪言にて弾丸として圧縮、即座に発砲。
狙いは敵其の物でなく、その土地に。

敢えて外した弾丸を踏み、別の呪言にて式を起動。弾に宿した呪詛によりまた別の死霊の呼ぶ門として発動。
現れたる死霊を盾とし、襲われている人が逃げ出すまでの時間稼ぎ兼数の多いUDC-Nullへの攻撃として活用。


ヴォルフガング・ディーツェ
俺も概ね九雀と同意見だ
親愛なるエージェント達の頼みでなければ、魂を濁らせた愚者など諸共首を飛ばしていたよ

しかしオーダーには応えよう
【指定UC】で黒犬の機霊…テオを召喚
粘性液体を爪で削ぎ落とすか、そのまま愚者らを背中に乗せ離脱して貰う
…ごめんね、背中は後で綺麗にするから!

敵性体には邪魔はさせない
「多重詠唱」「高速詠唱」「全力魔法」で書き上げた死と火のルーンで煉獄の炎を作り出し、焼き払おう

こちらの願いも邪悪も「ジャミング」で読み取らせない
俺の無明、易々と見破られたら敵わないなあ!…命が惜しくないと見える
忌々しさはありゆる攻撃技能に込め、限界すら越えて魔爪でばらばらに引き裂き、嵐の如く蹂躙しようぞ



 
「結局、自業自得なんだよ」
 被害者たちへの嫌悪感によるものか。そう呟いた男に、フックワイヤーの点検をしていたジニアは、装置から顔を上げた。この大祓百鬼夜行で、以前にも共闘した人狼の男である。それより前にも、あの白い工場で世話になった男だった――けれど、その吐き捨てるような言葉は少し看過できなくて、ジニアは口を開く。
「……今回、山の持ち主ですら分からなかった以上、致し方ない部分もあるでしょう」
 確かにジニアも、ある程度は自業自得だとは思うけれど。投稿者は皆いい大人なのだし、妖怪がいようがいまいが、ホラースポットだろうがなんだろうが、夜の山に登るのは愚行であると誰も止めなかったのだろうかとも思っている。
 だが、無知は罵られるべきことだろうか?
 ジニアより背の高い男を見上げるようにすると、自然、睨むようになったのか、人狼の男――ヴォルフガング・ディーツェが、「ごめんね、聞こえちゃったみたいで」と首を竦めた。その仕草が、本心からのものでないことくらいは流石にわかる。それに些かムッとして眉根を寄せれば、「でも」と男が続ける。
「言動には責任が伴うものなんだよ、ジニア」
「それはわかっていますが」
「じゃあ、我らが親愛なる、あの仮面のグリモア猟兵が、いつも予知の後にUDC組織と連携して情報を出来る限り収集していたのは何故だと思う? 十分な情報を集められない時、俺たち猟兵へ謝ることさえあったのは?」
「え?」
 唐突な質問に、ジニアは丸い目を瞬かせる。そんな自分に、今の今まで冷たく赤い目をしていた男が、何故か子供のように笑った。
「『情報』が今の世で最も価値のあるもので、今の世で最もひとの命を守るものだからさ」
 だから俺も概ね彼と同意見だ、とヴォルフガングが言う。同意見、と言うが、あの仮面は別に、何も言っていなかったと思う。確かに、少し溜息みたいな声は零していたし、いつもよりは楽しそうでなかったけれど。
「まあまあ安心してジニア、俺だって彼らを助けるために来たんだから。目的は君と同じだし、今から君のお手伝いをしようとも思ってる。それじゃだめかな?」
「……駄目ではありませんし、お願いします」
 どこか釈然としないものを感じつつも、先程までのような邪気が一切なくなった、まるで幼子のように無垢な笑顔で首を傾げる男に、ぺこりと一つお辞儀をする。
「こっちこそ、お願いするよ」
 男が頭を下げる。それを見てから、ジニアはフックワイヤーを木々へと向ける。敵の数は多く、ただ救出するは、少々難しい。配信されていた動画からわかったが、相手は最大で百を超える数まで増えるようだ。それも、一体だけからそれだけの数増えることが可能なのだ。それをジニア一人で、あるいはヴォルフガングの二人だけで捌くのはどう考えても無理がある。
『であれば、出来る事を熟すのみ』。
 あの団地でしたように、ジニアはフックワイヤーの射出と巻き取りで、木々にワイヤーを掛けては跳躍する。土地勘などまったくない夜の山だ、下手に歩いて崖から落ちるなど笑えない。そうなれば、上から行った方が早いだろう――というのがジニアの考えだった。そうしてできる限り早く移動しながら、ジニアは死地弾丸〈ラスピィゴースト〉を発動させるための呪言を高速詠唱する。気付けば、枝から枝へと跳躍する自分について、地面を黒い獣が走っていた。その背にはヴォルフガングが見える、おそらく彼が召喚したものなのだろう。
 襲われるまで時間が無い以上、そこまでの時間は短縮させる。その目的で、移動しながらジニアは準備を完了し――
 上空を覆い尽くすUDC-Nullと、木に吊られた蓑虫のような被害者を二人分ほど見つけたその瞬間、棺の封印を一部解き、零れ出た死霊を呪言にて圧縮、即座に発砲した。
 狙いは敵其の物でなく、その土地に。
 死地弾丸〈ラスピィゴースト〉――命中した対象にダメージを与えるだけでなく、外れた場合でも、その土地一帯を死霊彷徨う場所に変えてしまう呪いだった。
 ――ふと何故か、ヴォルフガングが笑う声がした。
 とは言えそれを問う気もなく、ただジニアはワイヤーを使って枝から地面へと降り立ち、もう一度呪言を使う。だが今度は、別のものにて式を起動、弾に宿した呪詛によりまた更なる死霊の呼ぶ門として発動させる。
 これだけの頭数があれば――ヴォルフガングが被害者を回収して逃がすまでの時間稼ぎと、数の多すぎるUDC-Nullへの攻撃手段としては十分だろう。人狼の男が蓑虫を爪で引きずり落として、嫌な顔をしながら引き剥がし、悲鳴を上げて喚く被害者を昏倒させてから、先程まで己が乗っていた黒い獣の背――おそらくこれも犬か、狼――に乗せた。ごめんね、背中は後で綺麗にするから!と叫んだヴォルフガングから、獣が走って離れていく。
 それを追おうとするUDC-Nullを、ジニアの死霊が盾として押しとどめ、ヴォルフガングがそれごと燃え盛る炎に巻く。
「嗚呼、此処は煉獄だったかな」
「……さて、どうでしょう」
 祠が既に神を失っているなら、それも正しいのかもしれません。
 そんな会話をして――二人はUDC-Nullの本格的な始末に取り掛かったのだった。

 ●

 愚かだ、と思った。あの仮面のグリモア猟兵が何を思っていたのか正確にはわからないけれど、きっとあの仮面も、似たようなことを思ったのに違いないとヴォルフガングは思っていた。
 ジニアには若干誤解されている気もするが、ヴォルフガングは別段、彼らや山の権利者の無知を責めているわけではない。多分、あの仮面も。無知とは単なる人生の余白に過ぎず、それに何かを書き込むかどうかは、人の勝手である。それを愚かであるだとか、責めるべき罪過であるだとか、ヴォルフガングは考えているわけではなかった。
 ただ自分は、彼らが、『己の無知であることを知らず、己の楽しみのために、他人を危険に晒した』その愚かさについて呆れ果て、軽蔑し、うんざりしていただけなのだ。
 彼らの浅慮で人が死ぬかもしれない。己自身も含めて。それを愚かと言わずして何と言う?
(親愛なるエージェント達の頼みでなければ、魂を濁らせた愚者など諸共首を飛ばしていたよ)
 確か、あの仮面はそう言ったところには頓着しないタイプであるはずだし。まあ、流石に、少しくらいは怒られるかもしれないけれど。
 しかし組織からのオーダーは『救出』だ。
(オーダーには応えよう、俺に対する彼らの信頼にかけて)
 ヴォルフガングは、迷宮団地の時と同じようにワイヤーで跳躍して山の中を進んでいったジニアの背を見ながら、『調律・墓標守の黒犬〈コード・ブラックドッグ〉』を使用する。
「――電子界・ミーミル接続開始……ダウンロード正常。おいで、わんこ。『墓標』のオレとお散歩だ」
 詠唱が終われば、現れるのは邪鉄の武装を纏った、黒犬の機霊である。名をテオという。ヴォルフガングは召喚したテオの背にひらりと飛び乗ると、ジニアを追った。暗い森を、ワイヤーで跳躍する黒ローブ姿の猟兵は、きっと常人ならば見つけられなかったろうが。彼女の下を追うように走っていけば、現れるのは当然ながら、UDC-Nullと、その被害者。
 ――と、ジニアが突然、発砲した。何をするのかと思えば、ヴォルフガングの眼前に広がる森のそこかしこから死霊が現れ、UDC-Nullを攻撃し始めたではないか。その光景に、なんだかヴォルフガングは笑ってしまって――それからすぐに、ジニアが再び呪言を唱え、死霊溢れる門が生成される。
 最早、ヴォルフガングたちの立つ一帯だけ、疑似的な地獄と呼べる有様であった。
(……これこそホラースポットだよ、まさしく)
 朽ちた祠より、余程再生数が伸びるだろう。合成とかCGを疑われると思うけど。そんなどうでもよいことを考えながらヴォルフガングは歪な木の実のように吊られた二人を魔爪で斬り落とし、死霊に汚染された地面に放り出す。痛みのせいか、びたびたと暴れる蓑虫を引き裂く――殺してしまったら、手元が狂った、ではきっと通らないだろうな。そうも思う。ぶは、と出てきた途端に喚くのが耳障りで、適当に殴って昏倒させる。
(やっぱり逃がすだけなら、これが一番早いからね)
 テオの背に被害者を乗せると、黒犬が、なんだかちょっとだけ、嫌そうな素振りをした。粘性の高い液体は完璧に剥がせるものでなかったらしく、被害者についたままだったからだろう。おかげで落ちる心配がないのはよいが、不愉快であるのは間違いない。かく言うヴォルフガングの爪にも、液体がまだべたべたと残っている。
「……ごめんね、背中は後で綺麗にするから!」
 今は行って、と愚者を乗せたテオを送り出し、離脱して貰う。追い縋るUDC-Nullをジニアの死霊が捕まえ――ヴォルフガングは、死と火のルーンで煉獄の炎を作り出して、それらを焼き払う。多重詠唱と高速詠唱を駆使した、ヴォルフガング全力の魔法だ、耐えられるはずもなくUDC-Nullは焼け落ちた。骸魂だけを倒せていればいいけれど――中の妖怪には一応、罪はないのだし。その様を見ながら、男は再び笑う。
 棺桶を背負った、死霊操るローブの女へと向かって。
「嗚呼、此処は煉獄だったかな」
「……さて、どうでしょう」
 祠が既に神を失っているなら、それも正しいのかもしれません。ジニアの返答に、ヴォルフガングは三度笑う。UDC-Nullも死霊に反応しているらしく、増えているようだけれど、どれだけ数がいようとも、世に死人の尽きまじ、死霊が絶えることはない。ジニアの死霊に捕まえられたUDC-Nullが燃えていく。
【汝、心を身に映せ】
 不意に頭の中へと聞こえた声が、ヴォルフガングの願いや邪悪を覗き、更なる悪までをも植え付けようとしてくるが、とっくの昔に仕掛けておいたジャミングのおかげで、読み取らせることも植えつけられることもなかった。男の生み出す業火が、UDC-Nullを舐めていく。念のため様子を窺うが、巡らせたジャミングのおかげで、ジニアの方にも、別段影響はないようだ。
 ――そして、ヴォルフガングの前に、どろどろとした人影が現れたのは、そう機嫌よく燃やし続けていた、最中のことだった。
(……――大人しく、燃えていればよかったものを)
『それ』は多分――不完全なヴォルフガングの姿をしていた。ジャミングで殆ど何も読み取れていないはずなのに、断片から無理矢理生み出したらしい。ジニアは燃え盛る炎と増えるUDC-Nullの相手をしているからか、まだこれに気付いていないらしい。
「……俺の無明、易々と見破られたら敵わないなあ!」
 燃える森、歩き回る死霊――嗚呼。
 これに似た光景〈地獄〉を、もしかして自分は見たことがあったっけ?
 は、は、は、とジニアに悟られぬよう息だけで笑って、ヴォルフガングはUDC-Nullや人影を睨む。
「……命が惜しくないと見える」
 炎の中へ、忌々しさを込めて飛び込む。ジニアが驚いたような声を上げたが、ヴォルフガングが燃えていないのを見ると、死霊でUDC-Nullを炎へとくべる作業へと戻った。彼女のそう言ったところはとても助かる――感情の箍が弾ける、煉獄の炎に熱した魔爪を振るって、すべてをばらばらに引き裂いていく。中の妖怪まで死んだとしても最早知るものか――逆鱗に触れるとは、そういうことだ。一片も残すことなく、嵐の如く蹂躙しようぞ。

 そうして燃やして裂いて千切って嬲って壊して殺して殺して殺して――

 最後に一つ瞬きをして、その後には、何もなく。
 炎も死霊も消えた森の中で、ただ、ローブの女が困ったように彼を見ているだけだった。

 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レッグ・ワート
おいおい半ばでも出てくるのか。
そんじゃ仕事といこう。

生体だいたいそう。手足りる時はいいんだけどな。とりま俺は救助活動だ。迷彩起こしたドローンで情報収集。そっから防具改造でフィルムの各耐性値を対策出来得る耐性に振り直しでいけりゃいいけどな。部分的な氷結耐性で熱すか火炎耐性で凍らすか、呪詛耐性で繋がり千切るか。まあ後は怪力だが怪我させないようにはするよ。ちな動けるようにするかは現地判断、外せればいい。
どうせ糸網編んで纏めて引き渡すし。とりま作業中は気逸らしがてら兼機材確認で、他系統込み過去配信絡みの雑談かね。敵性質的に拙そうならさっさと昏倒させてく。攻撃は複製した鉄骨盾操作して防ぎたいトコだな。



 
(おいおい半ばでも出てくるのか)
 大祓百鬼夜行はまだ終わっておらず、猟兵は未だ戦っている。それでも妖怪たちがカクリヨファンタズムからUDCアースまで噴出――帰還しているという事実にレッグ・ワートは少々驚愕した。こんなものが頻発したら、大祓骸魂とやらがやってくる前に生体が全滅してしまう。ならばレグのやるべきことは一つだった。
「――そんじゃ仕事といこう」
 自分の仕事を成す。それだけである。
 さて、他の猟兵たちが戦っている音を聞きながらレグがやっていたことが何かと言えば、迷彩を起こしたドローンによる情報収集であった。迷宮でも行ったが、こういった場合には情報収集から入るのが基本だ。『十名の実況者による大型ホラーコラボ』――ドローンを飛ばしつつレグがUDC組織の者と共に調べていた最中に見つけたのは、事件の発端となった企画、その告知動画やSNSの投稿だった。ライブ中継じゃなかったのはまだマシだったな、とレグは思ったし、十人も集まって何してんだ生体、と思った。だが同時に、「生体だいたいそう」と思うなどもした。何人集まっても――否、数多く集まれば集まるほど、生体というのは『気が大きくなって』、とんでもなく厄介なことをしでかすものなのであるという知識がレグにはある。だから、今回の事件は最早起こるべくして起こったのだろう。人数が多くなれば怖いことなどないと思ったのに違いなかった。
(手足りる時はいいんだけどな)
 とりま俺は救助活動だ。SNSなどの様子や、入山時のやり取りを確認したところ、どうやら十名全員が参加していたのは間違いなかったので、レグはその十名を回収するべくドローンを飛ばしながら、他の猟兵が被害者である生体を回収するのも確認する。その数六名。その一部を――特に、戦闘中に人形が担いでいたものや黒犬に乗せられたものは、レグが直接赴いて回収し、複製した糸で編んだ網に放り込んだ。他二名の被害者は、猟兵がそのまま届けたようだったので、レグが手出しをすることはなかった。なお、黒犬に乗っていた二名はよいとして、人形に担がれていた二名はUDC-Nullに手を出されると問題が起きそうだったので、レグの方で昏倒させた。必要があれば気を逸らすためと、彼らの機材が『まだ生きているか』などの確認のために他系統込みで過去配信絡みの雑談でもしようかと思っていたが、先に届けられた被害者からの聴取を確認する限り、『敵さん』は精神に作用する類の力を使うようであったので、黙らせていた方が効率的だと判断したのであった。
 そういうわけで、レグが回収すべきは残り四名なのだが。
(よし、見つけた)
 祠の裏手から少し進んだ場所にある、随分と年月を重ねているらしい木。それに、粘液で張り付けられている。
(これ……あれだな)
 カマキリの。その姿を見て、レグはそんなことを少しだけ思った。てか息できてんのか、動いてねえんだが。完全に粘液で覆われ微動だにしない姿に、レグは、麓で待機する組織へ回収した四名を引き渡すよりも先にこちらの救出を優先しようと決めた。抱えた四人がUDC-Nullの攻撃で死んでも困るが、こっちの四人が酸欠で死んでも困るのだ。結果的に計八名を守らねばならなくなってしまったが、網に包んで鉄骨で組んだ箱にでも入れておけばある程度は耐えるだろうという目算であった。
 レグは防具改造でフィルムの各耐性値を一先ず呪詛耐性に振り直し、網を背負って歩く。山の中だろうがなんだろうが、レグにとっては基本的に問題にならない。程なくしてレグは産み付けられた卵のようになった四名の元へ辿り着き、粘液に触れてみる。――よし、何とか引っぺがせるな。氷結耐性を上げて熱したフィルムで焼き切るか、火炎耐性を上げて温度を極限まで下げたフィルムで凍らせ砕くか、など考えていたが、呪詛と決まれば話は早い。レグは己の怪力に任せ――無論怪我はさせぬよう配慮はしつつ――『ぽいぽい』とでも言うべき速度で四名を木から剥がすと、案の定酸欠で朦朧とし始めていた彼らに一旦応急手当をしてから、吸引型の睡眠剤で昏倒させて、他と同じように網へと放り込んだ。これも先程と同じく、下手に意識を取り戻されると面倒だからである。そも、彼らが動けるようになるかは優先事項ではない。現時点では彼らが死なないように連れ戻すことが最優先事項である。
 そうして八名を詰めた網を持ち上げようとして――レグは、どろどろに溶けた、というより、何かそういう類の素材を無理矢理人の形に仕上げた、と言った風情の『何か』に取り囲まれて動きを止めた。しかも上からも一体、UDC-Nullが泳ぎ着くところであった。
「あー……面倒だな」
 単純に数が多い。レグは八名を包んだ網の周りに、複製した鉄骨で彼らを守るための檻を作る。どいつもこいつも動きが遅いのは有難いな――そんなことを考えながら、数本残した鉄骨のうちの一本を構える。
 UDC-Nullが、レグに語り掛けた。
【汝、心を身に映せ】
「なんかUDCアース由来の敵って心について問うてくるの多いよな。あんだけ生体多いとどうしてもそうなんのかね?」
 既にフィルムの耐性を呪詛にすべて変換していたレグに、UDC-Nullの質問はろくに効かない。もっと言えば――レグに『善悪』はない。鋏に善悪を問うてどうする? レグに悪の精神を植え付けようとするということはそういうことだ。鋏に悪意を与えるのはいつだってそれを使う『生体』でしかないのだ。
 だからレグはただ、己を取り巻く四体の『何か』から放たれた粘液を、盾のように振り回した鉄骨ですべて吹き飛ばすと、地面に刺していた鉄骨を『何か』たちそれぞれへと念力で投擲した。鉄骨はすべて命中し、『何か』はすべて沈黙した。
「……一応あれ、妖怪なんだよな」
 上空を揺蕩うUDC-Nullを見上げながら、「当たりどころが悪くなきゃいいが」――そう呟いて、レグは鉄骨を投げた。
 悲鳴を上げて落ちてくるその姿は、致命傷を負ったようには見えない。だが倒せてはいるようだったので、飛んだ鉄骨がどこかへ落ちる前に念力で手元に戻す。
「……骸魂と妖怪ってのは、どうも扱いが難しいんだよなあ……」
 やっぱあっちも治療必要なのかね?
 そんなことをぼやきながら、レグは鉄の檻を回収すると、中の網を背負ったのだった。


 

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年05月26日


挿絵イラスト