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大祓百鬼夜行⑧~リコリスの橋架

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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●まぼろし
 世界を照らす大きな月。
 その光を映した水面はキラキラと輝いているが、その底は分からないほどに世界は夜の闇に包まれていた。
 水中から覗くのは深紅色の花――黄泉へと誘う彼岸花が咲き誇り風に揺れる。
 そこに現れるあの影は――。

●アナタに逢いに
「皆さんには、もう一度逢いたい。けれどもう逢うことが出来ない方はいますか?」
 仄かに苺色の瞳を曇らせて、悲しげな眼差しでラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は猟兵へとそう問い掛けた。
 彼女が語る戦場は――カクリヨファンタズム内で伝わる話。この世界の川には、時折渡った者を黄泉に送る『まぼろしの橋』が掛かるという。
「……今回のお願いは、この橋を浄化してきて欲しいんです」
 きゅっと唇を結んで、ラナはどこか真剣な声色でそう零した。

 実際に訪れる場は、大きな月が浮かんでいる。
 辺りはどこまでも続く巨大な川で、その川には水中に生息する独自の生体をした彼岸花が顔を覗かせている。
 底も分からぬ暗く染まる川の中。浮かぶ彼岸花は深い深い赤を宿し――月に照らされる光景は、美しくも何処か幻想的で、またどこか不気味な世界。果ての見えぬほどの川もまた不思議なもので、正に黄泉へと足を踏み入れたよう。
 そして、その川に掛かるのが巨大な橋だ。朱塗りの橋はアーチ状をしているとても立派なものな為、万が一のことがあっても川へ落ちることは無いだろう。
 その橋が、伝わる通りの『まぼろしの橋』であることは確か。
 では、一体何が伝わっているのか――。
「この橋はですね。……『死んだ想い人の幻影』が、現れるそうなんです」
 もう二度と逢うことが叶わない筈だった、アナタの大切なヒト。
 そのヒトがこの橋の上に現れるらしい。そして、夜が明けるまで語り合えば――この橋を浄化することが出来るのだという。

「強く、強く……逢いたいと。そう望む方には、夢のような場所だと思います」
 勿論、全ては『まぼろし』……黄泉から訪れた存在である。
 実際にそのヒトが生き返ったわけでも無ければ、新たな道を歩めるわけでも無い。
 けれど――もう逢えないはずだったヒトに、逢うことが出来るのだ。
 伝えたいことがある者もいるだろう。
 もう逢いたくなかったと思う者もいるだろう。
 1人1人に、出逢いと別れがあり。対する想いも違う筈。だからこそこの機会に、アナタの正直な想いを、言葉を、行動を――後悔の無いように紡ごうか。
 結末はひとつ、大切なヒトと生きることはもう出来ないと云うこと。
「辛い人もいると思います。……けれど、しっかりと向き合えば」
 此の世界を救うことが出来るから。
 だからよろしくお願いしますと。そっと瞳を閉じてラナは猟兵へと語り掛ける。

 幽世の月夜に、現れたあのヒトはどのような姿をしているだろう。
 触れても良い?
 声を掛けても良い?
 嗚呼、でも気をつけて。
 手と手を取り合って、この先へと行くことは叶わないよ。
 だってこの先に行けば、もう戻ってくることは出来ないから――。


公塚杏
 こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
 『カクリヨファンタズム』での戦争シナリオをお届け致します。

●舞台
 大きな月が浮かぶ夜の頃。
 闇に包まれた世界に咲く彼岸花の中。巨大な橋の上での「想い人」との邂逅のひと時です。

 ちなみに橋には1人、又は同行者様とのみで。他の人はいません。
 場所と時刻は一定ですが、季節や天気はお好きに選べます。(雪が降っていたり、雨が降っていたりです。指定無ければ今頃の季節、虫の鳴き声が聴こえる晴れの夜で描写します)

●プレイングボーナス
 ・あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。

 どのような人物か、プレイング内で分かるようにして下さい。
 どのような想いで、どんな人と逢い、何を語らうのか。お好きな想いを綴って頂ければ。
 プレイングとステータス以外の外部情報は一切参照致しません。
 口調などは齟齬が出る可能性が高いので、全体的にふわっとぼかしながら、雰囲気重視で描写させて頂くことになります。

●シナリオフレームについて
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●その他
 ・心情重視での描写予定です。
 ・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。また、3人以上での団体様は優先順位が下がりますご了承下さい。
 ・受付と締め切り連絡は、マスターページにて行います。お手数ですがご確認下さい。採用は先着順ではありませんが、全員採用はお約束しておりません。また、少人数での運営となる可能性が高いです。

 以上。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

疎忘・萃請
お前に逢えるとは
……夜叉

天災としてアタシと共に畏れられた大男
忘れられ、消えてしまったお前に
アタシは何を言えばいいのかわからないよ

まるで降るような星空の元
再び逢えた事を嬉しく思う
……実を言うと、今お前が来るまで
忘れていたよ
酷いやつだと思うだろう?
……やはり、お前は優しい奴だ

今はな、ヒトの子らを
愛しているんだ
まだまだ側に行くのは怖くて足踏みをしてしまっているがな
笑うなよ、傷つくじゃないか

なんだか懐かしいな
忘れ去るほどの時が我らの間に流れたが
互いに思うことは同じか
……うん、救うんだ。ヒトの子らを
ありがとう、また進む活力を貰えたよ
ふふ、もう忘れない
サヨナラ、夜叉




 深い深い、闇の中。
 浮かぶ月が淡く世界を照らし、穏やかな風が疎忘・萃請(忘れ鬼・f24649)の頬を撫でた。橋の上から見える景色は美しく、夜とはいえ広いこの場に自分しかいないことが不思議に想う程。
 ぴちょん、と。水音が鳴ったかと思うと、急に強い風が吹き数多の彼岸花が揺れ動く。花と花が擦れ、音色を奏でる中――向こうからやってきた人影を見て、萃請はそっと大きな瞳を伏せた。
「お前に逢えるとは。……夜叉」
 呟く声は、人のいない静寂の中やけに大きく響いた気がした。
 その声に、萃請の姿に、目の前の夜叉と呼ばれた大男は笑顔を見せる。そのまま彼が夜の挨拶を紡ぐから、萃請も返すけれど――その後に、続く言葉が見つからない。
 彼は、天災として。萃請と共に畏れられた男。
 そして相手は忘れられ、消えてしまった。
 萃請は、人々の発展により忘れられても、風化しても。今世界を生き、ヒトに歩み寄っている。同じなのに違う彼に向け、萃請は何を言えば良いのか分からなかった。
 夜の静寂の中、零れるのは互いの吐息の音のみ。
 相手からも何も言葉は出ない。けれど彼は――夜叉はそこにいる。
 降るような瞬く星々が美しい中、久々に会えた彼はあの時と何ら変わらず。
「……実を言うと、今お前が来るまで。忘れていたよ」
 酷いやつだと思うだろう? と、口許に手を当てながら笑みと共にそう紡げば。目の前の彼は笑っている。――あの時の、彼らしい笑顔で。
 時が経っても、黄泉に辿り着いても、その優しさは変わらない。
 そんな彼に向け、萃請が伝えたいことは――。
「今はな、ヒトの子らを。愛しているんだ」
 かつて2人を恐れ、敬われたヒトを。時代が変われば都合の良いように存在を忘れたヒトを。萃請は、愛している。だから彼女は消えずに、自我を持ち歩み寄っている。
 まだ、傍に行くのは怖いけれど。いつかはこの足踏みも終えて、前へと進み出したい。
 ぽつりぽつりと紡がれる言葉に、夜叉はくすくすと笑い声を浮かべる。その笑い声をまた懐かしく思いながらも、今の今までそれを忘れていたことを実感する。そう、忘れ去ってしまう程の時間が、2人の間には流れたのだ。
 笑みを浮かべ、少し戸惑うように心の内を語る萃請に向け、夜叉は語り掛ける。その言葉に、そっと萃請は笑みを浮かべ――頷きを返した。
「互いに思うことは同じか。……うん、救うんだ。ヒトの子らを」
 それが心からの言葉。
 迷っていたけれど、彼が背中を押してくれたからもう大丈夫。
 ――語り合っていれば、段々と夜の闇の奥に光が差し込んでくる。
 仄かに世界を温もり色に染め、2人の髪に照らしていけば。
「ふふ、もう忘れない。サヨナラ、夜叉」
 ふわりと袖を揺らし、手を振って。萃請は笑みと共に静かに紡いだ。
 けして手は取らない。
 萃請は今を、ヒトの傍で生きていくから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
もう一度会いたい
もう会えない
居るわ

あかいあかい彼岸花
あなた達は此方と彼方、何方に根をおろしているの?

雪がちらつく
向こう側から現れる姿
わたしに似た、長い金髪の女のひと
どこか儚げで優し気に微笑んでる
赤ちゃんの時にだけ会った
本当のお母さま

どうしてわたしを手放して
ブルーベルの家に預けたの
わたしの事、愛してなかった?
本当のお父様はだれ?
もしかして

――ううん

手を繋いで
微笑んで

あのね、わたしね
今たくさん、大事な人がいるんだよ
みんなとっても優しいの
色々な事を教えてくれたり
お出かけしてくれたり
お話してくれるの

今とても幸せだよ
……ま、
ママのおかげ、……です

あなたはずっと微笑んでる
微笑み返して
手をはなす

ばいばい




 さわりと冷たい風が、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)の淡い金の髪を撫でた。ちらちらと雪が降る程に世界は冷たく、彼女の唇から零れる吐息も白く色付く。
 水音が響く中、水気を含んだ風はまた冷たく感じ。ぷるりと微かに身体を振るえさせ、少女は身体を守るようにきゅっと自身を抱き締める。
 この場は、黄泉へと渡る橋。
 もう一度会いたい、けれど会えない人に会える場所。
「あなた達は此方と彼方、何方に根をおろしているの?」
 雪の中、赤々と咲き誇る彼岸花に向け、ルーシーは問い掛ける。黄泉と此方を繋ぐ存在だと表しているのだろうか。どこまでも続く闇の底へと伸びる彼岸花は、美しくもどこか不気味な色を宿し――雪降る夜では、尚その赤が色濃く映った。
 ふうっとまた小さく溜息を零し。静かに月を見上げた時――月の光に浮かぶ人影が見えて、少女ははっとする。
 ぱちりと瞬かれる左目。
 その青が捉えたのは――少女によく似た、長い金の髪を揺らす女性。
 どこか儚げで、優しげに微笑んでいるその人は。
(「本当のお母さま」)
 彼女は、ルーシーが赤ん坊の時にだけ会った人。
 会いたい、けれど会えない。言葉を交わしたことすらないその人に、今此の場だから会えたと云う実感。小さな手をきゅっと握り、胸に抱くぬいぐるみを強く抱き締めて。微かに震える身体は、寒さにでは無い。
 顔を上げ、唇を開く。
「……」
 零れる白い吐息に乗せて――紡ごうとした言葉が見つからない。
 どうしてわたしを手放して、ブルーベルの家に預けたの。
 わたしの事、愛してなかった?
 本当のお父様はだれ?
 尋ねたいことは色々とある。もしかして、と憶測も数多浮かんでは消えていく。
 けれど――ルーシーは戸惑うような表情を花咲く笑みに変えると、そっと女性との距離を詰め、その細い手を取った。
「あのね、わたしね。今たくさん、大事な人がいるんだよ」
 その手は冷たい。けれど、どこか安心するのを感じながら、『今』のルーシーを伝える。皆が優しくしてくれて、色々なことを教えてくれたり、沢山のまだ見ぬ場所へと連れて行ってくれて、沢山お話をしてくれる。
 素敵な人に囲まれて、ルーシーの日々はキラキラと輝いていると。
 そう。彼女は今、とても幸せなのだ。
 そしてそれは――。
「……ま、ママのおかげ、……です」
 震える声で、小さな少女はただ微笑むだけの彼女を見上げて。心の声を、零した。
 それは先程浮かんだ疑問とは全く違う言葉。
 けれど、確かに熱を宿した。ルーシーの心からの声だった。
 女性は、変わらず微笑んでいるだけ。けれどルーシーによく似たその眼差しは優しげで、しっかりと言葉には相槌を打ってくれる。
 初めて見た姿。
 初めて触れた手の感触。
 その事実にルーシーの手は震えるけれど――そっと、繋いだ手を離した。
 温もりに覆われていた手を撫でるのは、冬の凍て付く風。すぐに冷えてしまう自身の手を庇うように、ひとりで重ね合わせると。
「ばいばい」
 別れを、告げる。
 紡いだ言葉に戸惑いは無い。
 手を繋いだまま、この先へと行くことは出来ないから――。
 彼女の言葉に、笑顔に、母親は優しく笑みを返してひとり去って行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
正直また会う機会があるなんて思ってなかったよ、父さん

顔や性格とか何も覚えていなかったんだけど……こうやって会ってみると、家族なんだって実感するよ
いや、酷いと言うけど、一緒に暮らしたのは5歳頃までだろ。悪かったとは思うけど、色々あったんだから仕方ないだろ

そんな風に、和やかに近況報告をして、今は戦っていると告げる
心配してくれてありがとう。戦いの道を進む事になったとはいえ、俺はちゃんと幸せだから

だから、優しかった父として。俺の幸運を祈ってくれ
――ああ、少しだけ思い出した。夕暮れ時に散歩した、なんてことはない思い出なんだけどな

じゃあな、父さん。そっちにいる母さんと弟にもよろしく言っておいてくれ




 夜の闇の中。
 虫の音色が響き、心地良く夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)の耳を撫でる中。月の光に浮かぶその人の姿を見て――彼は笑みを零した。
「正直また会う機会があるなんて思ってなかったよ、父さん」
 紡がれる声に、頷きを返す男の姿。
 ――それは、確かに鏡介と血の繋がった、父親の姿だった。
 今初めて対峙する気がする。顔も、性格も覚えていなかった。だから――今目の前にしてみて、家族なのだと実感する。それは鏡介が成長したからこそ、強く想うのだろう。
 彼の零した素直な言葉に、目の前の父親は苦笑を零す。
「いや、酷いと言うけど、一緒に暮らしたのは5歳頃までだろ。悪かったとは思うけど、色々あったんだから仕方ないだろ」
 その言葉に、その笑顔に。
 懐かしさを感じながら――鏡介は静かに、今は戦っていると告げた。
 それは、決して伝えることが出来なかったこと。もう二度と出逢うことも叶わない筈で、成長し立派に人々の為に生きていることを、見せることも出来なかった筈。
 それが、今この一瞬だけだとしても。確かに目の前に彼は居る。
 微笑みを浮かべ、静かに語る鏡介の言葉に耳を傾けながらも。身を案じてくれる優しい父親。その笑みは鏡介と似ているけれど、深みがあるのはやはり年のせいなのか。
「心配してくれてありがとう。戦いの道を進む事になったとはいえ、俺はちゃんと幸せだから」
 ――こんな風に。親の優しさだって、知ることは出来なかった筈なのだ。
 だから鏡介は笑みと共に、強く頷き『今』を伝える。
 幼い頃に別れてしまった人に向け、安心させようと――そして、黄泉の先から幸運を祈ってくれと、未来へとこの繋がりを残す言葉を鏡介は紡ぐ。
 その言葉に父親は強く頷く。
 いつだって、息子を見守っていると――それが、父親なのだと。
 その笑顔に、姿に。鏡介の記憶の扉が開いた。このような闇の中では無い、夕暮れ時に散歩をした。そんな、なんてことはない日常の思い出。
 それは太陽が昇り始め、闇の中にうっすらと光が射してきたからだろうか。
 ほんの些細なものだけれど、何も記憶が残っていなかった鏡介にとってはとても大きい。確かな過去の思い出と、今の再会を胸に刻めば更に前へと進めそうだから。
「じゃあな、父さん。そっちにいる母さんと弟にもよろしく言っておいてくれ」
 顔も姿も捉えられなかった父親。
 ぼんやりと記憶に残る通りだけれど、その姿を今後は鮮明に思い出せるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
迷い込んだ幼いボクの手を引いたキミ
夜闇に覆われた街の領主で、幼なじみで
兄貴分で、友だちで、手の届かない星のようで
6つも歳が離れていたのに
ボクの前では子どもっぽくて
身長が抜かれてからも頭を撫でようとしていたね
あぁ、トリスの名前をくれたのもキミだった

キミが抜け出さなかった夜と闇の
鳥籠の外には色んな世界があってねぇ
年中桜が咲き誇る世界は春のよう
色んな島が浮かぶ世界は夏の海みたいで
不思議なことのよく起こる此の世界も
キミと一緒に見れたら良かったのに
こんな形ではなく……なんて夜明まで語り明かせば
最後にみた景色と同じように
キミは手を振り別れを告げるのだろう

最期までボクから手を
引っ張らせてはくれなかったなぁ




 夜の世界に佇めば、そっと手を掴んできた存在に鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)は驚きを隠せず琥珀色の瞳を見開いた。
 確かな熱を感じる先を見れば――そこには、よく知った人。
 それは夜闇に覆われた街の領主で、幼馴染だった彼。
 あの時のように、エンデの手を引いてくれる彼。迷い込んだ幼いエンデの手を引いてくれた、あの時のことが今でも鮮明に思い出せる。
 彼は兄貴分で、友達で、手の届かない星のようで。6つも歳が離れていたのに、エンデの前でだけは少し子供っぽかった。身長が抜かれてからも、エンデの頭を撫でようとしていた。ひとつひとつの思い出が、ふつふつと湧き上がってくる。
「あぁ、トリスの名前をくれたのもキミだった」
 懐かしむように琥珀色の瞳を細め、口許に笑みを浮かべ零せば目の前の彼は笑う。
 繋いだ手をぎゅっと握り。
 手を伸ばし、エンデの黒い髪へと手を添えて。
 もう二度と感じることが出来ないと思っていた、その感覚に。エンデは複雑そうな表情を浮かべる。――けれど、直接彼に伝えられる機会は今しかない。
「キミが抜け出さなかった夜と闇の、鳥籠の外には色んな世界があってねぇ」
 年中桜が咲き誇る世界は春のよう。
 色んな島が浮かぶ世界は夏の海みたいで。
「不思議なことのよく起こる此の世界も、キミと一緒に見れたら良かったのに」
 ――それは、物語を拾い集めた彼の紡ぐ物語。
 直接その目で見て、触れて、数多の世界に接した時。閉じこもっていた世界は本当に小さなもので、鳥籠だったのだと実感した。
 キミにも、自由と共に世界を見せたかった――。
 美しき月が浮かび、さわさわと風に揺れる赤々とした彼岸花咲くこの地も美しいけれど。一瞬の邂逅では無く、日常的にこの地へと訪れることが出来たなら。
 そんな、もう叶わぬ願いをつい口にしてしまう。
 彼は、そんなエンデの言葉に静かに耳を傾けている。
 あの時と変わらぬ姿で、表情で――彼等の会話は穏やかに、世界が白み始めるまで続いた。仄かな光が闇色のエンデの髪を輝かせていることに気付いたのか、目の前の彼は世界を見渡した後――そっとその手を、振ったのだ。
 それは、別れを告げる合図。
 エンデも顔を上げ、世界が温もりに包まれていくのを理解すると手を振り返せば、彼はくるりと背を向けて、橋の向こうへと歩いて行く。
「最期までボクから手を引っ張らせてはくれなかったなぁ」
 宙を掴みながら、自分の手を見つめてエンデはそうひとり紡ぐ。
 共に手を取り合い向こう側へと歩くことは、出来ないとは分かっているけれど。
 最期くらい、と心を掠める感覚が。エンデを満たした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・テュール
死んだ想い人の幻影…か…
本人で無いと言うのは重々承知だ
だが、その上で俺は語り合いたいと思っている

迂闊だった俺を庇い廃墟の防犯装置にて死んだ父さん
貴方が庇ってくれたおかげでなんとか一命を取り留めることが出来た、すまない、そしてありがとう
父さんの様にとは言えないが奪還者として貴方から教わった技術を人々の為に使い活動を続けているよ

あぁ、そうだ聞いてくれ子どもの頃は上手く吹けなかった草笛だが、ようやく吹けるようになったんだ


流行り病で無くなった母さんと向こうで仲良くな
俺もまだまだそっちに行くわけには行かないが
いつか…今より語れる思い出をお土産にそっちに行くから




「死んだ想い人の幻影……か……」
 冷たい風が肌を撫で、茶色の髪を揺らす中。ヴォルフガング・テュール(人間のサバイバルガンナー・f33281)はふうっと深い溜息を零した。
 それは本人なのか、違うのか。
 黄泉であるこの地では、とても曖昧な存在。けれど、もう戻れないということは本人では無いとヴォルフガングは想う。
 そう、それは分かっている。けれども――彼は語り合いたいのだ。
 今、姿を現したあのヒトと。
 かつて迂闊だったヴォルフガングを庇い、廃墟の防犯装置にて死んでしまった父親と。
 巨大な月明かりが2人を照らし、仄かな水音と虫の音色響く中。彼等を祝福するかのように赤々とした彼岸花が揺れ動く。
 不思議な景色の中、佇む記憶の奥に居た父親に向け――。
「貴方が庇ってくれたおかげでなんとか一命を取り留めることが出来た、すまない、そしてありがとう」
 深々と礼をしながら、ヴォルフガングはそう紡いだ。
 それは、ずっと言いたかった言葉。
 今、彼が生きているのは誰でも無い父がいたからこそ。あの日のことを後悔しなかった筈は無いのだが、真っ直ぐに育ち今は十分立派になったと言えるだろう。
 まだ、父のようにとは言えないけれど。奪還者として、貴方から教わった技術を、人々の為に使って活動を続けている――そんな、近況の報告が出来ることが夢のようで。例え彼が偽物だとしても構わないと強く思ってしまう。
 瞳に深い笑みを浮かべ、静かに頷く父親。
 その姿を見れば、ヴォルフガングの記憶が刺激されていく。
「あぁ、そうだ聞いてくれ子どもの頃は上手く吹けなかった草笛だが、ようやく吹けるようになったんだ」
 こんな、何でもないことの報告すら出来なかった筈なのに。
 確かな成長を、父親に今伝えることが出来た。
 嬉しげな父の姿を、見ることが出来た。
 それだけで喉は震えるようで、きゅっと強く強く両の手を握り締める。
「流行り病で無くなった母さんと向こうで仲良くな」
 一夜限りの再会だとは、分かっている。
 だからこそ最後には、しっかりと別れを告げなければいけないのだ。
 あの時出来なかった別れの言葉を。そして、まだそちらに行くつもりは無いことを、しっかりと彼等へと伝える為に。
「いつか……今より語れる思い出をお土産にそっちに行くから」
 その時まで、さようなら。
 別れを告げた時には、闇に包まれていた世界はすっかり光が差し込み。
 そこに居たはずの父の姿は見えなくなっていた。
 ――全てが、幻だったかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
橋の向こうに見える、見知った影
彼は──じぃや!

私の大好きなじぃや
小さな頃
屋敷の外に出られぬ私の面倒を見てくれていた

短い髪にがっしりした身体
ひょいと抱えられ遊んでもらうのが大好きだった
優しい笑顔に大きな手

─若様は聡明でありますな
─若様は我らの自慢ですぞ
将来は立派な龍になりましょう

褒めてくれた
─これは、母君にも内緒で
こっそりお菓子をくれた

気が良くて強い─雷龍の

その姿に涙が溢れる
そんな資格ないのに傍に駆けていく
じぃや、あいたかった

私は立派になれたのかな
私は

じぃや…謝りたかったの
食べてしまってごめんなさい
あなたを愛呪の贄に、

そうと撫でてくれた手も笑顔も
あの頃と変わらず
まだ謝りきれてないのに

夜が、あける




 さわりと風が髪を撫でた時。背中に感じた感覚に振り向いた時――。
「――じぃや!」
 橋の奥に見えた人影に向け、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は声を上げた。
 見間違うはずもない、彼は櫻宵が大好きだったじぃや――幼い頃、屋敷の外に出られぬ櫻宵の面倒を見てくれていた存在。
 こちらへと近付いてくれば、その姿は記憶のままで。
 短い髪に、がっしりとした身体。あの大きな身体に、幼き櫻宵は抱えられ遊んで貰うのが大好きだった。
 ずっと一緒に居た彼を、見間違うはずが無い。
 彼は大好きだった変わらぬ笑顔で、大好きだった大きな手を挙げて櫻宵へと近付く。
 嗚呼、あの時の記憶がまた鮮明に思い出せる。
 ――若様は聡明でありますな。
 ――若様は我らの自慢ですぞ。
 ――将来は立派な龍になりましょう。
 そう優しく紡いでくれたじぃや。
 幼き櫻宵を褒めてくれる、大切な人。
 ――これは、母君にも内緒で。
 こっそりお菓子をくれた、優しい優しい彼。気が良くて強い――。
 あの時の声が、笑顔が、手の温かさが。目の前に彼が立っていれば、浮かんでは櫻宵の記憶へと新たに刻まれていく。
 忘れてなどいなかった。
 けれど、こんなにも鮮明に思い出せた。
 ――それは嬉しさだけでなく、あの時の記憶も。
 ぽたり、と櫻宵の桜霞の瞳から雫が零れた。
 ひと粒流れれば雫は止まることなく、次々と溢れるように流れてくる。けれど櫻宵はその涙を拭うこともせず、穏やかに笑むじぃやへと駆け寄ると――。
「じぃや、あいたかった」
 震える声で、彼へと抱き着いていた。
 あの時は随分と身長差があったのに、包まれる温もりが心地良かったのに。今はこんなに顔が近い。あの時とは全然違う、変わった自分を実感する。
「私は立派になれたのかな。私は」
 いつだって褒めてくれたじぃやだから、櫻宵はつい弱音を吐いてしまう。それは、まるで幼きあの頃へと戻ったように。
 そう、あの時――時間が止まってしまったのは、他でもない。
「じぃや……謝りたかったの。食べてしまってごめんなさい」
 櫻宵のせいなのだから。
 全ては愛呪の贄として。葛藤が抑えられなかった。数多の人への謝罪を胸に、ここまで生きてきたけれど。今やっと、ひとつ言葉にして伝えることが出来た。
 震える肩。零れる涙と嗚咽の声。
 ぎゅっとじぃやの胸にしがみつき、幼子のように泣き続ける櫻宵を――じぃやはそっと、撫でてくれた。
 あの時と変わらない温かくて大きな手で。
 優しい笑顔で。
 何も、あの頃と変わっていない。
「……」
 顔を上げ、その笑顔を間近で見る。
 先程までと違う。しっかりとその顔が視認出来るのは――もう太陽が昇り始め、夜が明ける合図でもあった。
 まだ、謝りきれていないのに。
 太陽が昇れば別れの時。
 最後にもう一度、名を呼べば。彼は目元に深い笑みを浮かべ手を振ってくれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
月が見えない

分厚い雲が空を覆い
隣に在るものが何なのかも解らない程
暗い、昏い、夜が此処に

ねぇ、そんな寒い所で何をしているの

じっと橋の上で佇む背中に声を掛ける
いつだって元気で明るかったお前にこんな所は似合わない

振り向くかんばせ
晴れの日の太陽のみたいな笑顔は失せ
其処にあるのは静かな笑みを携えた姿

――そんな顔も出来たんだね

識らなかったよ
なんて

僕が知り得ているのはあくまでもお前の眸を通じてみたものだから
“お前”自身について知り得ている事は存外少ない

やわい頬に手を伸ばす
常より冷やかな僕の指よりずっと冷えたそれに触れ

――……、

言いたい事も、聞きたい事も沢山沢山あるのに
――嗚呼、厭だ

胸が詰まって、言葉が出ない




 夜の世界へと足を踏み入れた旭・まどか(MementoMori・f18469)に待っているのは、月の見えぬ闇に包まれた世界だった。
 天を見上げれば分厚い雲が空を覆い、煌々と世界を照らす筈の月を覆い隠している。
 こんなにも闇に包まれていては、隣に在るものが何なのかも分からない。
 暗い、昏い、夜が此処にある。
 ――けれどまどかは、とある存在を感じ取ると橋の上を一歩踏み、木と靴底が合わさる音色の中ひとつ、唇を開く。
「ねぇ、そんな寒い所で何をしているの」
 彼の眼差しの先には、橋の上で佇む人物の背中。
 まどかの記憶に残るそのヒトは、いつだって元気で明るかった。そんなお前に、こんな月も届かぬ闇の世界は似合わないと想うから。
 まどかの言葉に、あのヒトは振り返る。
 そこに浮かぶ表情は――静かな笑み。
 あの晴れの日の太陽のような笑顔は失せ、静かな笑みを携えた姿。
 嗚呼、君は――そんな顔も出来たんだね。
 その表情に、まどかは溜息と共にそう想ってしまう。
「識らなかったよ」
 紡ぐ言葉に彼は返事はしない。ただ、目の前に佇んでいるだけ。まどかの知識とは違う姿で。表情で。闇の中に。
 けれど、改めて考えればまどかの知り得た知識はあくまで極々一部のもの。片側だけの側面を通じて見えたものだから――『お前』自身について知り得ていることは、存外少ないのだと気付く。
 一歩踏み出せば、もうすぐそこに君がいる。
 恐る恐る、手を伸ばしてみれば――柔らかな頬に、まどかの手が触れた。
 いつだって冷ややかなまどかの指。けれど、君の頬はまどかのそれよりもずっとずっと冷え切っていて、柔い感覚と共にぴりりとした感覚がまどかの掌を伝う。
「――……、」
 声が、出ない。
 言いたいことも、聞きたいことも沢山沢山、あるはずなのに。
 胸が詰まって、言葉が出ない。
 呼吸だけが精一杯で。ただただ、目の前の君に触れて、見つめる事しか出来ない。
(「――嗚呼、厭だ」)
 心では、こんなにも想えるのに。
 目の前の君に伝えることは出来ないもどかしさに、まどかは深く息を吐く。
 深呼吸をして、息を整えて。
 言葉を発そうとするけれど――刻一刻と、確かに時は進んでいた。
 夜が明けるまで、あとどれ程の時間が残っているだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鬼・景近
(不思議にも不気味にも映る月夜
炎の様に血の様に、酷く目を引く彼岸花
嗚呼――君を失くしたあの日も、こんな光景だったな

ふらりと進めば
先には予想通り

何度も何度も過る夢幻
――優しく微笑む、愛しい恋人の姿)


また、逢ったね

本当は、駄目だと分かっているんだけど――御免ね
やっぱり、逢いたくて
来てしまった

(独り善がりと分かっていても、それでも――君の笑顔に触れられる一時は、狂おしい程――)

夜明けまで
隣に居ても良いかい

共に歩めずとも
せめて心はいつも君の傍らに

…穢れたこの手で君の手をとる事は叶わぬけれど
浄められるものがあるとは思わなかったな

(例え俺達は救われずとも――此の一夜が、世界を救う一助になるならば――)




 不思議な世界に浮かぶ大きな月は、不思議にも不気味にも映る。
 水音響く辺りに咲く彼岸花は濃く赤々と染まっており――炎のようにも、血のようにも想えて百鬼・景近(化野・f10122)の目はついつい引かれてしまうのだ。
(「嗚呼――君を失くしたあの日も、こんな光景だったな」)
 溜息混じりにそう想えば、彼の心に浮かぶ人の影。
 忘れられない。忘れるはずも無い。
 けれどこのような世界に佇めば、あの時の記憶が鮮明に蘇り――ふと気付けば、そこには何度も何度も過る夢幻の人の姿があった。
 一瞬幻かとも思う程、不意な出来事。
 けれど優しく微笑むその笑顔を見れば、これは幻では無いと気付き。
「……。また、逢ったね」
 足を止め、口許に笑みを浮かべて、数多の感情が入り乱れる瞳で景近は紡ぐ。
 愛しい、恋人へと。
 彼の言葉に、彼の姿に。恋人は笑みを零している。その姿を見れば景近の心はざわつくのだ。本当は、駄目だと分かっている。もう別れてしまったのだと分かっている。
 けれど――。
「――御免ね。やっぱり、逢いたくて。来てしまった」
 それが、素直な彼の心の声。
 もう、会えないと分かっているから。だからこそこのような機会があると分かれば、いてもたってもいられなくなった。
 目の前のヒトは、変わらず微笑んでいる。
 記憶に残る笑みと同じ表情を見れば、景近の心にふつふつと愛おしさが湧き上がる。
(「独り善がりと分かっていても、それでも――君の笑顔に触れられる一時は、狂おしい程――」)
 ふうっとひとつ息を吐けば、その吐息に反応するように世界に風が吹いた。
 水気を含んだ空気はどこからか花の香も運んできたようで、世界の幻想さが増したよう。揺れ動く彼岸花の中、景近は一歩踏み出すと。
「夜明けまで、隣に居ても良いかい」
 目の前の恋人へと、ひとつ問い掛けた。
 すると目の前のヒトは笑顔のまま、こくりと頷き同意を示す。
 その瞬間、景近は心が通った気がした。そう、共に歩めずとも。景近の心はいつも君の傍らにあるのだ――思わず手を伸ばしたくなるほど愛おしいけれど、穢れたこの手では、君の手を取ることは叶わない。けれど、浄められるものがあるとは思わなかったと、景近は何も掴めぬ自身の掌を見遣りながら心に想う。
(「例え俺達は救われずとも――此の一夜が、世界を救う一助になるならば――」)
 このひと時が。一夜限りの邂逅が。此の世界を、そして密接に関わるもうひとつの世界を。救うひとつの力となる筈だから。
 だからもう少し、君の傍に居ても良いだろうか。
 ――あの空が、白み始めるまでは。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月17日


挿絵イラスト