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惜春の花送り

#封神武侠界

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#封神武侠界


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●たまゆら
 碧空が広がる。
 一羽の白鳥が大きな翼を広げて、ひとすじの白を広げていく。
 白鳥の眼下には大きな池の畔の小さな村。
 村の道には金糸梅の花垣、北には香り豊かな八重梔子の木、南には真っ赤な虞美人草、池の畔には青紫の燕子花。
 彩なす花々は、この春を最期に来年へと眠りにつく。

 ――ありがとう、ありがとう。
 ――こころ穏やかなひとときを、ありがとう。

 村の人々は感謝と再会を願って花の神を見送る。
 ほんのわずかな時間、されど確かにこころ癒される時があった、そんな春を見送る。

 白鳥は空を舞う。
 人間の行いをどう思うのか、それはわからない。
 ただ彼は故郷へ帰るため、ひとときの羽休めの為に池へと舞い降りる。
 ぱちゃり。
 降り立った池の先には、大きな洞穴。風が吹いて、靄がかかって――どこかへと通ずるようだ。
 白鳥には好奇心があった。
 すう、と水を分け入って進んだ白鳥は――もう二度と、故郷へ帰ることは叶わなくなった。

 最期に聞いたのは、洞窟の奥で響いた麗しい声。

「――おまえの翼は美しいな。我にくれ」


●おちこち
「みなさま、春が過ぎてしまいますね――」
 エンドゥーシャン・ダアクー(蓮姫・f33180)は、哀しげな顔で呟いた。

「今回は、封神武侠界でのお仕事の依頼です。人界のある小さな村に、大きな池があるのですが…この池には洞穴がありまして、この洞穴が仙界へ続いているのです。此処を通って、人界と仙界は交流をしていたのですが…どうやらオブリビオンが発生して、交流が途絶えてしまったようなんです」
 恐らく、ふたつの密接な関係にある世界を断ち切り、各個撃破しようというオブリビオン側の策略が裏にはあるようだ。

「皆さまには、この洞穴へと乗り込んで、元凶たるオブリビオンを倒してきていただきたいのです。ただ――どんな敵が洞穴の先にいるのかは、残念ながら見通せませんでした。わかっているのは、どうやら洞穴へ迷い込んだものは、洞穴から出られないような仕掛けがあること、そして、さらに奥に潜む敵は、美しい部位を欲しがっているようで……例えば、翼とか、目や髪だと思われます」
 不安そうな顔で言葉を切ったエンドゥーシャンは、あ、そうそう、と両手を打って顔をほころばせた。

「近くの村は、今は『花送り』の儀があるようです。これは、毎年咲いて人間を楽しませてくれる花々に感謝の気持ちを伝え、来年の再会を願って花神を見送る儀式なんです。好きな花枝で花籠を作り、それを池に浮かべるのですって。儀式とはいえ、そんな堅苦しいものではなくて、飲み物や食べ物も用意されて、ゆったり行われるようですよ」
 花の神のご加護を得られるかもしれませんから、花送りの儀も楽しんでくださいね、とにっこり笑って付け足す。

「先が見えないのは不安でもありますが…きっと、皆さまなら大丈夫だと信じております。それでは――ご準備は宜しいですか?」
 ぽう、と手元の蓮のグリモアが淡い光を出して――次の瞬間には、猟兵は村の近くへと転送されるだろう。


南雲
 皆さまこんにちは、南雲(なぐも)と申します。
 今回が初めての通常シナリオ。封神武侠界でございます。世界観の解釈が間違っていないかどきどきしております。

 花送りをモチーフにしたのは実は二度目ですが、戦争とはまた違う花送りにしてみました。描写されている花々の咲く季節が少々ずれていますが…お気になさらず。仙界が近いと、きっと空気も違うのです。

●章構成
第一章(日常)
 村では花送りの儀が行われています。猟兵の皆さんは、以下のいずれかの行動を選んでいただければと思います。(プレイング内に絵文字1字をお入れください)
🌸お好きな花枝(ご自由にどうぞ)で籠を作り、池に浮かべて花送りの祭りに参加する。
🍹祭りの様子を眺めながら、梅を煮た甘酸っぱい飲み物や桃饅などの食べ物(ご自由にどうぞ)を楽しむ。
🌳祭りの様子を眺めながら、お好きな花木(OPに花種類の記載在り)の近くでのんびりする。
 何を考えながらなのか、お気持ちを書いていただけると捗ります。

第二章(集団)
 ボスに囚われてしまった幽鬼たちです。猟兵の皆さんたちへ幻惑をかけ、捕らえようとします。敵のユーベルコードに対応した行動をとってください。詳細は断章を挟む予定です。

第三章(ボス)
 人の物を欲しがる仙人です。詳細は断章を挟む予定です。

●受付期間
 公開と同時に受け付けております。
 第一章は、最初の方のプレイングが到着してから、3日程で〆たいと思います。具体日はハッシュタグにてお知らせします。
 第二章から第三章は断章を差し挟んでから、同様に進めていきたいと思います。此方も様子を見て適宜お知らせしたいと思います。
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第1章 日常 『水辺に佇んで』

POW   :    野外活動を楽しんでいる

SPD   :    語らい団らんしている

WIZ   :    穏やかに過ごしている

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

燐・梟羽
🌳燕子花の近くでのんびりしながら祭りの様子を眺めています。

「この身は記憶もない死人だが、人が楽しんでいる光景は心が躍るものだな」
死体である僵尸の身だが、失われた生前の記憶には、こういった祭りで笑う自分もあったのだろうか。
それともこのようなものには目もくれず鍛錬に明け暮れていたのだろうか。
ともあれ少なくとも、この燕子花の花言葉のごとく、人々に幸福よ来たれ、と思う今の気持ちに嘘はない。それでいいだろう。

【アドリブ等歓迎です】



 白鳥が姿を消したという湖の畔、深い青紫の燕子花が咲き乱れている。足場として設置されている木板の道を、一人の青年がこつりこつりと足取りも穏やかに歩んでくる。
 水際に立つ彼の髪は白。すらりと伸びた背筋に、この池で姿を消した麗しい白鳥と重ねてか、村の少女たちが遠くからこっそり覗き見ているようだ。祭りのための花籠から花が落ちても気づかない。
 少女たちのその視線に気づいて、燐・梟羽(仮面の僵尸・f33366)が少しだけ微笑めば、きゃあという黄色い声と共に、少女たちはぴゅうっとか駆けていく。
 梟羽は、その様子に今度は白い歯を見せて笑って。肩の力を抜いて、ひとつ息を吐きながら、燕子花の群れ咲く隣へ、立つ。

「――この身は記憶もない死人だが、人が楽しんでいる光景は心が躍るものだな」

 血の通わぬ四肢も、陽の光に温められてみればぬくもりを感じる。
 失われた記憶も、人々の笑う声を聞けば、どこかで扉が開くのではないか。
 梟羽は日を受けながらそっと目を閉じる。

「(――失われた生前の記憶には、こういった祭りで笑う自分もあったのだろうか。それとも、このようなものには目もくれず、鍛錬に明け暮れていたのだろうか)」

 目覚めた自分の身は、かつては絢爛豪華であったであろう遊郭の地下にいた。自ら僵尸となったと思しき記述、されど思い出されぬかつての記憶。歯がゆさがないでもないが――僵尸とは言え、今は猟兵として食事も楽しめる。陽の光を浴びることもできる。
 今はこうして自ら行きたい場所に行くこともできると思えば、くよくよ思い悩むこともない。
 隣で静かに咲く燕子花を、一陣の風が駆け抜けた。
 さやさやさやと、まるで同意するかのように燕子花は揺れる。
 嗚呼、燕子花の花言葉は、「人々に幸福よ来たれ」だったか。陽の光をその花に受けて、輝かんばかりの花。祝いの花だな、と改めて納得するように頷く。
 このような花言葉を贈る相手も、かつてはいたのかな――そんな想いがふと胸をかすめて、梟羽からほのりと小さい何かがこぼれ落ちる。
 ふるりと頭を振って、梟羽は面を上げた。

(「ともあれ少なくとも、今の気持ちに嘘はない」)

 先程の少女たちが、再び戻ってくる。その手には、溢れんばかりに花を乗せた小さな花籠を持っているようだ。梟羽のために、少女たちが用意したのだろう。はにかみながら、押し合いながら、梟羽へと差し出される花籠。その上には白い鈴蘭が乗せられて。
 花言葉は――「再び幸せが訪れる」。少女たちは梟羽の境遇を知らない。だから、これは全くの偶然だろうけれど。

 人々に、幸福よ来たれ。
 心の底から、この人々の幸せを祈る自分が、今、ここに、いる。

「それでいいだろう」

 梟羽は心の中で呟きながら、青い空を見上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
🌳北の八重梔子の木の側へ

わぁ、いい香り!
梔子の香りを胸いっぱいに吸い込みながらお祭りを眺めたいです
梔子の白い花……わたしの髪に咲く月下美人も白
お揃いで嬉しい

思い出すのはわたしの生まれた故郷のこと
あの小さな港町にも夏の初めに祭事があったなあ
「あの子と遊んだらダメ」
「その子は不幸せを運んでくる」
ふふ、結構酷い事言われたりされたりしたっけ
独りだと輪の中に入るのが今も少し怖い

世界に選ばれてから生えたこの翼
故郷を逃げ出した時からずっと一緒
自分の身体の一部だけれど改めて
これからもよろしくね

もう一回香りを吸い込んで
控えめに歌えばお祭りの邪魔にはならないかな?
少し切ない旋律の花の歌を

※アドリブ・アレンジ歓迎



 花送りのさなか、南から柔らかな風が吹く。
 供された花籠の花たちが水面で揺れて、わあ、と人々の温かな嬉しげな声が沸き立つ。花の神様も喜んでくださっているね、この花たちを召してくださるんだね――そんな村の人々の声を聞きながら、ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)は梔子の木の傍に腰を下ろしていた。
 風が村の中を駆けてここまで届けば、梔子の香りがふうわりと香って。その香りをその身に行きわたらすように、ハルアは目を閉じて香りを胸いっぱいに吸い込む。

「――わぁ、いい香り!」

 ぱっと目を開けて左右へ微笑めば、己の髪に咲く淡光の月下美人と揃いの白。お揃いがなんだかうれしくって、あなたたちきれいね、と心を込めて梔子に語るように言葉を落とす。
 人々の浮き立つ空気はどこかわくわくして、けれど穏やかで。そよぐ風に髪を遊ばせながら、ハルアは知らず両膝を胸に寄せて村の人々を眺めていた。

(「…あの小さな港町にも、夏の初めに祭事があったなあ…」)

 想起されるは故郷のこと、夜と闇に覆われたあの世界でも、季節を寿ぐ祭りはあって。けれど、こんなに穏やかなものじゃなかった。わたし、には。

 ――あの子と遊んだらダメ。
 大人たちのひそひそとした声は、聞きたくなくても耳に届く。自分の子の腕を引いて、指さすわけでもないけれど、その視線が背中に、肩に、胸に、突き刺さって見えない棘みたい。

 ――その子は不幸せを運んでくる
 母が泣いている姿がちらつく。慰めてあげたい、笑ってほしい、けれど――おかあさん、わたしがいるから、泣いているの?悲しくて、足元がぐらついて、寝る前に独りぼっちで泣いたことが何度あっただろう。

 春の温かい日差しの中、ハルアは思い出してちょっとだけ身体の奥が冷える。
 今でも、独りだと輪の中に入るのが、少し、怖い。

「ふふ、結構酷い事言われたりされたりしたっけ」

 彼女の面に浮かぶ苦笑交じりの微笑みは、この数年で培った気丈さでもあり、彼女が生きていくために必要なものでもあった。
 風が温かな空気を運ぶ。ハルアの真っ白な大きい翼は、陽の光を受けてふかふかと温かな空気をはらんで。ちょっとだけ冷えた芯もまるごと、背中を守るように大きく包んでくれる。
 この翼は、ハルアが故郷と決別したときに生えたもの。世界に選ばれたことの証であり、そして、大切なあの人と出会うきっかけにもなった、自分に必要な一部。
 そっと手を伸ばせば、ふわ、と手が優しく沈み込む。優しく指で梳りながら、ハルアは愛おしげに呟いて。

「――これからも、よろしくね」

 ぴう、と吹いた風に、再び人々の歓声が聞こえてくる。花の神様、今年もありがとう――その声を聞きながら、ハルアは少し笑う。この村は平和だ。此処で生きるこどもたちは、…わたしみたいな思いは、してほしくないなぁ。
 人々の歓声に織り込むように、ハルアは小さく願いの旋律を奏でる。

 ――花の神様、どうぞこの村の人々を守ってね

 春を見送るこころに、そっと寄り添うような花の歌。空気にとけていくその声は、きっと花の神の耳にも届くだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柳・雪蘭
🌸
花送り、やってみたいの。
花を選べるのね?
何が良いかな…折角だし、名前に入ってる通りの蘭の花があれば良いんだけど。胡蝶蘭は大きくて綺麗だし、雪蘭は繊細で素敵ね。
金糸梅も綺麗、池に浮かべたらきっときらきらして星みたいだわ。
周り見て、真似して頑張って籠にして、池にそっと下ろして。
膝をついて祈りを捧げましょう。
来年も、綺麗に花が咲きますように。この村が穏やかでありますように。

食べ物や飲み物も出てるんですって?
面白いものあるかしら…お花の形のとか、綺麗で可愛いものが良いわ。
この後の事もあるから、頑張る為にも美味しいと可愛いを探さなきゃ。



 村の中央には、花の神へ捧げる花々が生けられている。青空の下、燦燦と降り注ぐ太陽の光を受けてきらきら輝く花々は、この春の日を言祝ぐようでうつくしい。
 小さい子どもたちが、きゃあきゃあと笑い声を上げながら花を降らせる。
 花も恥じらう乙女たちが、数人でくすくす笑いさざめきながら、花籠を編む。
 大人たちは、白い陶磁器の盃に酒を満たして昼日中から酒の宴。
 柳・雪蘭(雪華的假小子公主・f33385)は、その金がかった桃色の瞳を好奇心で満たしながら、こうした人々の間を歩いていた。

「面白いもの、あるかしら…」

 しゃらりと糸のような薄紫の髪を靡かせ歩く彼女の姿は、まさに仙女。村の青年たちは動きを止め、自然と雪蘭を目で追いかけてしまう。その男心を知ってか知らずか、雪蘭は折角食べるなら綺麗で可愛らしいものを、と探し求めるのに夢中だ。

 お嬢さん、とひとりの青年が勇気を出して皿を雪蘭の前に差し出す。陶磁器の皿に乗っているのは、雪白の繊細な糸のようなものでできた、繭のようなお菓子。「これは?」と問うように、雪蘭が星の如く澄んだ瞳を上げれば、青年はたじたじと照れながらも説明してくれた。

「これは龍鬚糖っていう砂糖菓子なんだ。白くてふわふわしてるから、雲みたいだろ。えっと…お嬢さん、天女さんみたいだからさ。雲を食べるって、ぴったりかなと思って」

ひょい、とひとつつまんで口へ運べば、さくっとした触感と共に、桃の香りが広がって。

「おいしい!」

 雪蘭が口元を軽く押さえて、子どものように瞳を輝かせる。その表情は、さっきまでの天上人のような遠いものではなく、身近な可愛らしい女の子のようで。愛らしいその様に、周りの羨む視線が青年へと突き刺さる。

「ありがとう、いただいていくわね」

 数人の若い衆がこぞって押し寄せてきそうなのを感じて、雪蘭は差し出された皿ごと手にしてふわりと退散する。頑張るためのご褒美だもの、ゆっくり頂かなくては。
 龍鬚糖と食みながら歩む雪蘭の目に、花籠を編む少女たちの姿が目に留まる。様々な花蔓を編んで作られる花籠は平たく、小さいお皿のようだ。
 残っている龍鬚糖をそっと薄様の手巾に包んで、雪蘭は花の並ぶ卓子へ足を運ぶ。そこには彩とりどりの花が並べられ、各々好きな花で籠を編んでいる。
 雪蘭は居並ぶ花の中から、己の名と同じ花を見つけてそっと手に取る。小さく三方に広がる淡緑白の花は愛らしく、この花で作られる籠もきっと美しくなるだろうと思われて。籠を編む少女たちの手元をちらりと見ながら、その繊細な雪蘭の葉を編んでいく。
 編みあがったのは、花のうてなと言うにふさわしい小さな花籠。五片の花びら広げる金糸梅をその中に並べれば、まるで星を抱くよう。
 両手で押し頂くように持ちながら、雪蘭は池の方へと近寄って。膝をついて、そっと池へと浮かべる。
 雪蘭の小さな船が、水面をすうと淡く波立たせながら、星を運んでいく。

「――来年も、綺麗に花が咲きますように」

 雪蘭は両の手を組んで睫影を雪白頬に落とし、村が穏やかであるようにと祈りを込める。この先に待ち受ける災いを、必ず手折ると誓いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

張・西嘉
アドリブ歓迎
🌳
八重梔子の花の香に誘われて

良い香りがすると思ったら梔子の花か。
花には詳しくはない方だが何度か匂いを嗅いだ事があるからな。
…まるで主の様な花だとそう言ったら主は眉を顰めるだろうな。
その容貌と香るような色香は主を苦しめたと言う。
今も多くの人間には心を閉ざしたままだ。
俺にだけ綻んでくれる花。
主としては忠誠を一人の男としては愛情を捧げると誓った人。

さて、この先のオブリビオンは美しい部位を好むと言うが無骨な俺にそんな場所はあるだろうか。
そう言えばと耳に触れて思い出す。
この耳飾りは美しかったが…これは部位にはあたらんか?



 日は高く昇り、抜けるような青空は高く、どこまでも飛んでいきたいような気持にさせる。
 人々もひととおり料理を楽しんで、祭事の空気も賑々しくなってきた。
 ころころと白い犬と駆けまわる子どもたちを、「おっと」と避けながら、ひとりの男が歩む。
 彼の名前は張・西嘉(人間の宿星武侠・f32676)。上背がありがっちりとした肩、均整の取れた体格に鋭いまなざし。その風貌は、何処か鷹を感じさせる。
 西嘉は小さな鎌鼬のように過ぎ去る子どもたちを笑みながら見送り、風の涼しく吹き抜ける木陰にどかりと腰を下ろした。
 手にしていた包を解けば、中に在るのは竹蒸籠。さらにその中から、なんとも可愛らしい大熊猫の肉まんを取り出す。ほかほかと温かい肉まんは、西嘉の手づくりだ。
はむりと食みこの先の戦いに備えて滋養をとっていると、日差しで温められた空気の中に、ほわんと甘い香りが漂ってくる。
 此の香りを知っている――西嘉が記憶を呼び起こしながら香りの出どころは何処かと視線を巡らせば、背中で香るは八重梔子の白い花。
 何物にも染まらぬ可憐な白いその花は、西嘉の知っている人によく似ていた。
 西嘉が精悍な眉をくしゃりと寄せれば、そのかんばせには何とも柔らかな笑みが浮かんで。

「…まるで主の様な花だと…そう言ったら、主は眉を顰めるだろうな」

 思い浮かべるは、我が主。由緒正しい血筋の主は、嫋やかで儚げな美貌の持ち主でありながら、家を守る気丈な女性でもあった。
 しかし――その類稀なる容姿が、梔子のように人を惑わせるほどの色香が、その持ち主すら苦しめたという。
 今は、青空の下ではひらくことのない花。

(「――俺にだけ綻んでくれる、秘密の花」)

 彼女の有り様に、ひとりの臣下として心惹かれた。
 忠誠を誓うならば、この人がいいと思った。
 そして、一人の男として。必ず彼女を守り抜きたいと思った。
 俺の、唯一の愛を、捧げる人。
 西嘉は知らず耳飾りに手を触れる。触れたらひやりと感じて、その手触りが水晶のようなあの人を思い起こさせる。
 この先のオブリビオンは、他者の美しい物を欲しがるという。己にあるのは頑強な身体と精神だけと、西嘉はつづまやかに思う。もし狙われるとしたら――この耳飾りだろう、とも。
 一瞬、西嘉の眼差しが獲物を狙う鷹のように鋭くなる。

「…奪われるわけにはいかんな」

 ぱくりと最後の肉まんを口に放り込んで、西嘉は立ち上がる。この先のオブリビオンを倒すため。
 ――大切なあの人のもとに、帰るため。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
🌳燕子花

「…ふむ。人の祭り、ですね」
腕を組み祭りを眺める
あの中に、仙を目指す者はないようだ


豊葦原の一尾の野狐に生まれて力を欲した
幾星霜重ね生まれ滅びて力を蓄え尾を増やした
やがてこの地に生まれ仙骨を知り更に生死を繰り返して尾と仙骨を育て仙に至った
宝貝を作って封神に励み猟兵となり界を越えて拠点を移した
尾の数だけ生死の記憶があり尾の数以上に細切れの記憶がある
仙骨も尾も育てられなかった無為な生が何度もあったのだろうと結論付けた
昇仙までの記憶を残す人外はさして珍しい話でもない

豊葦原では神を羨み
ここでは仙の二流以下と見る
価値観は入り乱れ覆る

「人のまま終わるのもそれはそれ、ですね」
自分の流儀ではないだけで



 學徒兵の羽織が翻る。
 颯爽と燕子花の道を歩いてくるのは、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)。オブリビオンとの戦いに備えて英気を養おうと、青紫揺れる燕子花の傍、手頃な木にその身を預けて片膝を立て座る。
 すぐ横で水を湛える池は広く、その奥には此度の戦場となる洞窟があった。青炎のような冷たく美しい瞳を洞窟へ向けてから、腕を組み花送りの儀に興じる人々のほうへと目を向ける。

「…ふむ。人の祭り、ですね」

 花送りを楽しむ人々の無邪気な声が耳に届く。酒が入ればちょっとした小競り合いもあるようだが、それすらも平和で穏やかな村の一日そのものだった。冬季はそんな平凡な様子を眺めながら、気のない視線を走らせる。
 仙人を目指すものが紛れていないか――己の同志がいないか、と。

 冬季は、只の學徒兵ではない。年若く飄々としたひとりの青年として受けた生は、前の生も、その前の生も、覚えている。
 かつて、冬季は豊芦腹の一尾の野狐に過ぎなかった。
 神を羨み力を欲して幾星霜。
 生まれては滅びゆく生の中で、それでもその野望と自我を保ちながら転生し、確実に力をつけ尾を増やしていった。
 あるひとたびの生の中で、この世界を知り仙人というものを知ってからは、未だ底知れぬ力の先を求めてさらに転生を繰り返し、血を吐くような修行を重ね、仙人となった。
 しかし、その力を得ても冬季の力への憧れが和らぐことはなかった。仙人としては二流以下であると自戒しては、さらに力を求め宝貝作りに励んだ。
 機会を得て猟兵になってからは、さらに世界を渡り、桜舞う帝都へと流れ着いた。

 長い長い己の命の渡りへ思いを馳せ、尾の数以上にある細切れの記憶に瞳を閉じる。
 幾度も生まれ変わっていく中で、修行が実を結ばず力を重ねられなかった生が何度もあった。
 この村の人々のように、仙人ではなく、ひとりのただの人間として生まれ、終わった命もあった。
 そんな自分の生を、無為と割り切っていた時もあった。

 けれど、今は。
 何度も生まれたからこそ。何度も死を経たからこそ。
 ひとつひとつの命の尊さと、その意味を思う。

「人のまま終わるのもそれはそれ、ですね」

 今や人を救う立場にある冬季にとっては、もう二度と、ひとつの命を無為に過ごすことなく修行を重ねていかなくてはならないけれど。
 ひとつきりの生を謳歌し、温かい日差しの中で微睡むような、こんな穏やかな時があっても、それはそれで悪くない。
 冬季はオブリビオンとの戦いを前に、淡い夢へと身を委ねながら、そう思うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『面影鬼』

POW   :    ここは桃源郷
【己が何者であったかを忘れさせる桃の香】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
SPD   :    もはや帰れぬ桃源郷
戦場全体に、【強い眠気と記憶障害を誘発する桃の木】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    失われた桃源郷
【強い風とともに、闘争心を失わせる桃の花、】【困難に立ち向かう克己心を失わせる桃の実、】【生への執着心を失わせる桃の木の枝】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●面影くゆる桃の香

 花送りの儀もゆるやかに終わりを告げ、西日へと傾いていく。村の人々は花の神へ最後の感謝を述べてから、わが家へと帰り着く。

 おかえり、ただいま――

 家々から明るく響く声が猟兵たちの背の後ろで聞こえて。
 猟兵たちは、それぞれ池の奥の洞窟へと向かう。
 膝まで浸る水を掻き分けながら奥へと進めば、ぼう、と仄白い人影が暗闇から浮かんでくる。

 ――おかえりなさい
 ――待っていたよ

 人影を取り巻く靄が、濃い香りを帯びていく。
 人影が、ゆらりとその朧な姿を変じていく。
 あなたは、この姿を知っている。
 あなたの知るその姿は、あなたをこの洞窟へ留めようと言葉をかけてくる。

 ――ずっとここにいましょうね

 引き留める知己の姿を魅せるのは、この濃い香り――
 足を止めずに、この奥へ行かねばならない。
 猟兵たちは、それぞれの武器を手にして相対する。
ラファエラ・エヴァンジェリスタ
愛馬に騎乗し、洞窟の奥を目指す
…嗚、呼
私はこの声を姿を、知っている

そこにいらっしゃるのは御父様、御母様
…御久しゅう御座います
「ラファエラ、良い子にして居たか。為すべきことは分かるだろうな? 御前は血族の希望なのだからー…」
「ええ、そうよ。貴女は解っているでしょう? だから、これからも私達に従うの」
その後ろに見えるのは叔父上叔母上に、他の血族たちに…

嗚呼、…怖い
足が竦むし手綱を持つ手も震える
生前の私はただの一度も抗えなかった
…けれど
「…助けて」
UCで白銀の鎧兜の騎士を召喚
言葉は届かねど忠実な彼が血族の幻を薙ぐ
それを見もせず愛馬を駆り先を目指す
反撃に対しては騎士がこの身をかばう
叶わねばオーラ防御を



 蹄が水底を鈍く打つ音が響く。
 洞窟の壁に反響する水音は、誰かの囁き声のようにひたひたと。通る者の前から後ろから、気配すら伴って。

「よしよし。テネブレ、いい子だ。そのまま進んでおくれ」

 ピンと背筋を伸ばしたまま、愛馬に横座りしたラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)が、細腕伸ばしてその首を撫でてやる。
 満足そうなテネブラルムが、ぶるると小さく返事をすると、一際強い風が洞窟の奥から吹き渡る。水面を走るそれに、テネブラルムが二の足を踏んで何かを知らせる。
 揺れる水面、その上を水煙が滑るように現れたのは二人の貴族。たっぷりのフリルとパニエ、上質なレース。贅を凝らしたつくりの貴金属。

「…嗚、呼」

 ラファエラの白き花唇から、思わず声が落とされる。
 この御姿を知っている。
 此れは幻。そうと知っているのに。
 この二人の前では、身体が自然と愛馬から滑り下り跪きそうになる。

 ――御父様。御母様。

「…御久しゅう御座います」

「ラファエラ、良い子にして居たか」
「嗚呼、わたくしの可愛い子」

 半月を描く唇から紡ぎだされる言葉は、この上なく優しいのに。何故だろう、縺れ合う茨のようにラファエラの身を捕らえて這い上がってくる。

「為すべきことは分かるだろうな? 御前は血族の希望なのだから――…」
「ええ、そうよ。貴女は解っているでしょう? だから、これからも私達に従うの」
 おかえりなさい。我らのもとへ。
 産めよ、増えよ。
 我らの為に。

 御二人の後ろに見えるのは叔父上、叔母上。嗚呼、他の血族たちまで勢ぞろい。
 高貴なる筈の御方々が仰る言葉はどれも外面は美しいのに、中身は。
 空虚。
 その虚に、あの時から囚われ続けている。
 ラファエラは、握る手綱にぎゅうと力を込める。
 怖い。…こわい。
 けれど、あの日から。
 自分には、寄り添う影が在るから。

「…助けて」

 かそけき声が言い終わらぬうちに、ぶわりとラファエラを包み込むように現れたるは、白銀の鎧兜の騎士。
 ラファエラを苛む見えない茨を解くように螺旋を描いて上り、空でひたと幻見据えて剣構え。ラファエラをかばうように幻との間へと降り立って、揺らめく幻へと切り込んでいく。
 煌めく刃に阿鼻叫喚の声上げながら、血族たちがラファエラの名を叫ぶ。
 けれどその声には耳もくれず、ラファエラは愛馬の手綱を一振りし駆け出した。
 対する幻は最早貴族然とした姿形は留めず、奇声を上げてその背より褐色の木枝をラファエラめがけびゅうと伸ばし、捕らえようとした、その刹那。
 ――ばつん、と一刀。白銀の騎士の剣がその行く手を阻む。

 金属の振り下ろされる音、血族のものとも思われぬ、聞くに堪えない金切声。
 そのすべてを後ろに置いて、ラファエラはただ奥を目指して駆けていく。
 この身を守るために常に傍にある者。その強さを知っていても。
 振り返り、名を呼べば。きっと笑うであろうその口元を思い浮かべても。
 背中に聞こえる戦いの音は、ラファエラのこころを揺らす。

「――……」

 そして、奥へとたどり着く頃には、古傷のような鈍い痛みだけが、微かに残っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

張・西嘉
アドリブ歓迎

見える存在は…家族。
だがそれはとっくの昔に亡くした者達だ。
ならず者に襲われて俺以外はみんな死んだ。

とっくの昔に亡くした者のはずなのにその面影はあの頃と変わらず俺をもう一度家族に戻そうとでもするかのように佇んで…

桃の香は今に至る俺自身を否定していく。
ふらりとする頭に触れようする前に触れる冷たい感触。
耳飾り。
この耳飾りをくれた人には己が武侠でなければ出会うことなどなくだからこそ。

ギリリと唇を噛んで意識を繋ぐ。

UC【地砕撃】

今の自分を否定させはしない。



 池の水は洞窟の奥へと流れるように緩やかに波打つ。張・西嘉(人間の宿星武侠・f32676)が足を踏み入れれば、作られた波紋は奥へと続いて。その奥に潜む見えないものに、自ら飲み込まれていく。

「…奥は見通せないな」

 呟いた西嘉の声に反応するように、奥から白い靄が漂ってくる。ぼう、と現れた白い靄は、最初は形を結ばなかった。けれど、目を凝らせば徐々にその姿を鮮明にしていく。
 これは、ひとがた――自分より先に逝ってしまった、家族だ。
 更にその後ろに、見知った風景が像を結んでいく。
 誰も彼もが知り合いで、悪戯を働こうものなら近所の人が叱咤する、そんな人情味のある町。
 そんな町にやってきたならず者どもに、西嘉の家族は無残にも襲撃された。決して裕福だったわけではない。狙われたのは、不運な巡り合わせに過ぎない。
けれど、年若い西嘉は、独りになってしまった。
 帰る場所を、失くしてしまった。

 ――西嘉、帰っておいで
 今のお前は不幸だね
 我らを亡くしてたったひとり
 今ならお前を抱きしめてあげられる
 お前の帰る場所は、我らの元だろう――

 かいなを広げて迎え入れてくれるのは、母だろうか。
 その肩を抱いて、鷹揚に笑みを浮かべるのは、父だろうか。
 洞窟の奥から、風がふわりと桃の香を運んでくる。
 不思議とこの風は温かくて、自分が何者なのかなど、些末な問題のように思えてくる。

 帰ってもいいのかもしれない、帰りタイ、カエラナクチャ――

 焦燥感にも似た気持ちに、足が一歩踏み出しかけた、その時。
 風が揺らした、肌に触れるひいやりとした感触。
 氷の欠片のような、耳飾り。
 あの人の、こころの欠片のような、耳飾り。

 ――必ず、戻れよ。

 ぱん、と音がしたかのように西嘉の目が見ひらかれる。
 己を失いかけたその身の不甲斐なさに、ぶるんと首を振る。

 家族と共に過ごした時間は、確かに平穏で、幸せだった。
 家族を喪ってからは、確かに辛くて、苦しくて、必死で――だが、必死になれたからこそ、あの人に出会えたのだ。必死になって、己の信じる道を極めなければ、あの人の隣にはいられなかっただろう。
 今は、決して不幸なんかじゃない。
 寧ろ、幸せなのだ。
 貴方を守ることができる、自分で在れるのだから。
 
 ――そうでしょう、我が主。

 ギリ、と噛んだ唇からは、じわりと血の色が滲む。

「俺は、あの人の元に帰る」

 ぎゅうと青龍偃月刀の柄を握る手は、鍛錬を重ねた厚く大きい手。
 守ることのできる手だ。大切なものを亡くしたからこそ得られた、今の俺の手だ。

「今の俺を、否定させはしない」

 西嘉が振り下ろした長柄の穂先が地に着くや否や、凄まじい音と共に衝撃が洞窟を揺らす。
 巻き起こる水柱は幻ごと桃の香を飲み込んで、霧散し――元のさらさらとした水音だけが、西嘉の足元を流れる。

(「――俺も、まだまだだな」)

 背中から差す西日が、洞窟の奥へと長い影を落とす。夜は近い。
 日が変わる前に、必ず帰ろう。
 あの人の、元へ。
 揺れたこころは今は凪いで、その在るべき場所を明確にして。西嘉の足取りに、もう迷いはなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

柳・雪蘭
皆帰ったのね、じゃ行きましょうか。
洞窟はこの池の向こうにあるのね。

ふわふわと、爪先だけを水につけて身体を浮かせて進んで行くわ。
現れるのは…誰でしょう。
お義父様?お母様?お姉様達かしら?
それとも、あの街に住んでいた誰かかしら。
誰が来ても、止まったりしないわ…だって、夢でしかないのを知ってるもの。
もう、無い筈のものに心を動かされたりしないわ。

扇を開いて、惜別の舞を。
開いた扇に風を纏わせて、衝撃波で全て吹き飛ばしてしまいましょう。
まやかしはいらないわ、今、私は幸せだもの。
あの村の人達は優しかった、守る為に進まなきゃ。
池に浮かべた花籠を思い出して、笑顔を絶やさずに進んで行きましょう。



 村の人々が家に帰る声は、洞窟内に入ると隔たれた世界で発せられた言葉のようにぼやけていく。
 その声を聞き届けて、振り返った柳・雪蘭(雪華的假小子公主・f33385)は結んだままの唇に微かな笑みを浮かべた。

「皆帰ったのね。じゃ、行きましょうか」

 ふわ、と薄氷を思わす羽衣を纏って、雪蘭は空を蝶のようにふわふわ、ひらひらと進んでいく。爪先が弾く池の水は、日で温んだ水と違ってひいやりとしている。
 これが人界と仙界の境、まるで夢のようなふわふわとした心地を感じながら進めば、清澄な水の香りに交じる、むせるほどの桃の香り。
 進む雪蘭の周りを、いつの間にか白い薄靄が取り囲んでいた。辺りの空気がとろんと重みを増して、靄からは気配が漂ってくる。次第に形をとる靄は、よく知っている姿に思えた。

 ――おかえり、雪蘭
   もう、どこへ行っていたの
   また弓の練習?

 さざめくような音は、水音なのか。記憶の中に在る、どこかで言われたような言葉が、水を、空気を揺り動かすように辺りをふるわす。
 けれど雪蘭は、歩みを止めない。ぼんやりとした靄を横目で見つめながら、柔らかな白頬に微笑みを浮かべる。それは、間違いなく微笑みでありながら――どこか達観したような眼差しのせいで、淡い雪蘭の花の如く、もろく繊細な表情に見えた。

「もう、無い筈のものに心を動かされたりしないわ」

 聞こえた声は、夢にまで見た懐かしい、慕わしい故郷。
 母と、義父と、姉たち。
 もう、いないひと。
 此れは、夢でしかない。

 雪蘭は、瞳を閉じて花籠を思い浮かべる。陽のさす村で池へと浮かべた、手作りの花籠。
 自分と同じ名の、星を運ぶ花籠。
 流れる星に願いを託せば叶うというのならば、願うのは。

「――花咲くあの優しい村を、守る為」
 力を、貸して。

 ぱっちりと目を開いた雪蘭のおもてには、笑み。それは凛とした、揺るがぬ決意の現れ。
 幻に囚われなかった雪蘭に、白い靄から強い風が放たれる。
 雪蘭は手にした雪華扇を、しゃらりと孔雀のように広げ、揺れる袂を片の手でやわりと支えて。
 にっこり、笑ってみせた。

「まやかしはいらないわ、今、私は幸せだもの」

 雪蘭が扇をかざせば、舞い起こる風にその身はふうわり浮かんで。
 靄から生き物のように飛んでくる桃の実を、扇に風を纏わせ包むように受けてから吹き飛ばす。
 風に乗りくるりとその身を空に遊ばせた雪蘭は、大きく扇を開いてぶわりと一陣。突風を巻き起こす。
 散り散りになった靄からは、もうなにも、聞こえない。

「――大好きな人たちは、きっと…見守ってくれているもの」

 雪蘭が浮かべるは、微睡むような微笑み。名残の風に、ふわん、と身を預けて暫し風と遊んで――守るべき人たちのために、雪蘭は深層へと進んでいく。

成功 🔵​🔵​🔴​

燐・梟羽
【アドリブ等歓迎】

この匂いは桃、だろうか。
意図的かどうかは知らないが、僵尸に桃を持ち出したということは喧嘩を売っていると解釈しよう。
自分が何者であったかなど、元々曖昧な身なのだし。

人影はかつて生きていたであろう遊女を形どるかもしれない。
記憶がないのにも関わらず形どるということは、それは魂魄に刻まれるほどの縁ある相手なのだろう。
親か恋人か、あるいは仇か――

洞窟の中でも【暗視】で視界は良好。よく観察すれば記憶の糸口になるかもしれないが、そうすることはない。
ただ冷静に、積み重ねた【功夫】と【発勁・四肢尸掌】を用いて攻撃する。

「自分の記憶ぐらい自分で暴きます。こともあろうに、敵の手など借りませんよ」



 ざぷ、と足を浸せば、波紋は洞窟の壁に反響してまた自分へとかえってくる。
 洞窟も奥へと進めば闇が濃くなるが、僵尸たる燐・梟羽(仮面の僵尸・f33366)には何の支障もない。この静かな暗闇に、ほんの少し、目覚めたあの場所を思い出すくらい。
 奥へと進むほど、空気は湿り気を帯びる。その中に、なにやら甘い香りが漂って。

「これは…桃の香り」

 甘やかな香りは、どうやら敵からの攻撃であるらしい。くん、と香りを嗅げば、頭の奥に靄が広がるような、にぶい喪失感。けれど、この地に足着かぬような曖昧な感覚、己というものの不確かさは、常感じているもの。それが少々強くなったからとて、梟羽には些末な問題だ。
 しかし、よりによって桃の香とは。桃の木と言えば、僵尸の弱点のひとつ。梟羽は退屈しきったような顔に微笑みを浮かべて、爽やかに言い放つ。

「喧嘩を売っていると解釈しよう」

 その言葉を受けてか、暗がりからぼんやりと淡く光る女の姿が現れた。

 ――のゥ、おぬし、我をお忘れかえ

 垂れる薄絹は華やかで、しゃらりと玉を揺らす簪は金細工。顔はよく見えないが、紅を差した唇だけがぬらりと鋭い光彩を放つ。
 おそらく遊女だろう――が、この女は既知なのだろうか。
 梟羽には記憶がない。この女にも、見覚えは無い。それにも関わらず、こうして形をとるという事は、魂魄に刻まれるほどの所縁が在るのだろう。
 よくよく観察すれば、もしかしたら心の片隅でふるえる何かを、己の中に見つけられるかもしれない。
 しかし、所詮は敵の見せる幻影。
 仮に正しかったとて、確かめる術などないのだから。
 梟羽は、すっと腕を水面と水平に上げる。ゆらり、梟羽は構えて勁を練る。梟羽の全身を練り上げられた勁が巡り、腕を通って掌へと気が高まっていく。

「――はっ!」

 稲妻の如き素早い動きとともに、梟羽が腕を突き出した。
 次の瞬間、どうっという衝撃音と共に、目に見えぬ波動が靄がかった幻影めがけて放たれる。大型動物すら吹き飛ばすほどの衝撃が、洞窟内の空気を大きく揺らして風を起こし、水飛沫をあげて靄ごと幻影を吹き飛ばす。
 瞬く間も無き出来事だった。
 桃の香りも、今はない。揺れているのは、水面だけ。
 梟羽は、形の良い唇に冷ややかな笑みを浮かべる。

「自分の記憶ぐらい自分で暴きます。こともあろうに、敵の手など借りませんよ」

 余計なお世話です、と付け足して。
 もう聞く者のいない空間へ一瞥だけくれてやって、ふっと奥へと顔を向ける。美しい駿馬の鬣の如き髪をさらりと揺らして、梟羽は奥へと向かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ハルア・ガーラント
●WIZ
翼が濡れて重いし気持ち悪いです

解っていても目の前の暗闇から何かが現れるのは怖い
〈銀曜銃〉を手に進みます

仄白い人影はお祭りで思い出した故郷の人達かな
でもあの人達はおかえりなんて言わない
だからきっと現われるのはわたしの唯の願望
温かい笑顔は貼り付けただけ
そう自分に言い聞かせます

[浄化]の力を込めた[オーラで障壁を張り防御]しつつ洞窟を通り抜けたい
立ち止まっては駄目
焦がれた光景だとしても

猟兵になってわたしは狡くなった
自分の感情でさえ利用する方法を知ったんです

排除衝動、恐怖、悲しみ、自嘲
感情を全てのせUCを発動
蕩ける桃も熟れ切った笑顔も全部落としてしまえばいい

泣いてしまうのは――要改善、ですね



 洞窟の壁では気化した水が再びその手を繋ぎあって、重みに従ってすべり落ちていく。
 ぴしゃん、とそこを通るものを勝手に濡らして、覆って、包んで、取り囲んでしまおうとする水の重さ。その重さは、村を潤す優しい水の、もう一面。

「ひゃっ」

 落ちる滴が翼に落ちて、ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)はびくっと両肩を上げて身を縮こませた。陽の光を受けてあんなにふかふかだった白い翼も、今は水分をたっぷり含んで萎み気味。しっとりとした翼の先から滴が伝ってぴちゃん、と音を立てては、またハルアの震える心臓をわしづかみにする。
 目の前に続くのは、西日も届かぬ闇ばかり。ハルアは優美な線を描く銀曜銃をぎゅうと握りしめながら、ひざ下まで届く水の中を掻き分け進んでいく。

「うう…濡れて重いし、気持ち悪いです…」

 ハルアが怖さを紛らわせようと一人ごちれば、辺りの空気がさらに重みを増して、白い靄が桃の香りと共に漂ってくる。
 ハルアがぱっと銀曜銃を構えて戦う姿勢をとると、瞬きひとつ。
 その次に感じたのは、潮の香り。そして、眼下に広がる海だった。夕暮れが落ちようとして、海はそれを反射しキラキラ輝いて。
 ――これは、この景色は。
 軽い混乱とともに後ろに気配を感じて、振り返る。
 さあっと吹く風に揺れる緑、傍にはその草を食むヒツジやヤギ。
 そして、居並ぶ故郷の街の人々。
 ハルアはひゅっと小さく息をのむ。握られた手は小刻みに震え、足は一歩後退する。

 ――ハルアちゃん。ハルア。
 おかえりなさい、待っていたんだよ。
 謝りたかったんだ、本当は、ずっと。

 人々は皆一様に笑顔で、一歩、また一歩と近づいてくる。潮風と共に、甘ったるく熟した桃の香りが鼻を掠める。

「――そんなはず、ない…」

 温かい言葉。懺悔の言葉。
 その言葉を、その笑顔を。
 わたしが故郷を出る前に、言ってくれたなら。
 下を向いたハルアの、その口元がひくりと小さく上がる。
 違う。あの人たちが、こんな言葉を言うわけがない。思い出すのは、あの囁き声。好奇と蔑みの表情。今あの人たちの顔に浮かんでいる笑顔なんて、無理やり作ることができるって、わたしはもう、知ってしまった。あんなのが出てきたのは、わたしの願望を、敵が見せるから。

 わたしの、願いを。
 消さなくちゃ。

 ハルアは顔を下げたままゆらりと右腕を上げる。このぐちゃぐちゃの気持ちを、力にしてしまえばいい。狡いわたしには、それがもう、できてしまう。
 ぽわ、と白い淡光が現れ白鷲の形をとる。
 そう、こっち。
 こっちが正しく、わたしの願望のはずだから。

「来ないでくださいっ!」

 白鷲の翼がぶわりと広がって、ハルアの視界を白で埋め尽くす。
 仄明るく光る白鷲が幻影へと突っ込んで、空高くハルアの視界から外れていく頃には――洞窟の景色は、元に戻っていた。残るのは、甘い香りの残滓。

 ぽたりと、水面に雫が落ちる。
 ハルアは頬から落ちたそれを、ぎゅっとこぶしで拭う。
 ずし、と肩に重みを感じてはっと顔を上げると、そこには戻ってきた白鷲。あとわずか、消え入る前に戻ってきたのだ。二度と、甘い香りに絆されてしまわぬように。
 ハルアはくしゃりと口を歪めて、わるいものなど浄化してしまいそうなほど白い鷲の背を撫でる。温かく力強いその手触りに守られて、ハルアは再び前を向いて駆け出していくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴上・冬季
「貴女でしたか」
一尾の若い野狐を見て微笑む

記憶に残る1番最初
共に育って巣別れした兄弟狐…多分、妹

好奇心が旺盛で
大胆で臆病で
初めて見た蛙に大騒ぎして
触って飛び掛かられて巣穴に逃げ込んだ
巣別れの後
二度と会いはしなかったが

しゃがんで頭撫で
「きちんと生きて死ねましたか。貴女が私の妹だったのは、戦国がまだ豊葦原と呼ばれた頃…とうに千年以上経ちました。何も考えていない貴女なら、とうに何度も生きて死んだ筈です。呼んだのは多分私でしょうが…疾く今のところへお帰りなさい。もしまだ生まれ変わっていないなら、早くどこかの世界へ生まれるのですよ」

「洞門に死者がないとはいえ、己の薄情ぶりがよく分かりますね」
苦笑し進む



 西日はすっかり沈んでしまったのだろうか。
 洞窟の中でわずかな光を受けて油のように反射するのは、確かに村を潤していた池の水と同じものなのに。水を吸った服や靴が濡れて張り付くせいか、まるで意思を持つひとつの生き物のように、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)の足へと絡みついてくる。

「…はあ。難儀ですね」

 小さく嘆息するも、冬季は足を止めない。冬季が寝ている間に先へ行ったであろう猟兵たちの後を追って、ざぶざぶと水を分け入っていけば、どうやら敵のお出ましのようだ。水のにおいを上書きするように、梅の香が淡く漂ってくる。けれど、香りは弱弱しく――どうやら、もう消え入りそうな様子である。
 暗闇の洞窟の奥から、ようやく形をとった何かがぱちゃりと水をはじく音を立てる。
 進み出てくるものを、冬季は構えもせずに見据え――やんわりと、微笑んだ。

「貴女でしたか」

 現れたのは、一尾の若い野狐だった。
 赤茶の毛はふわふわとしていて、足の先の毛は白い。
 冬季のまことの姿に近いそれは、共に育った兄妹狐。冬季の記憶に残る、一番最初の生。そのときを共に過ごした、妹。
 野狐は言葉を話さない。けれど、甘えるようにその尾を冬季の足へと絡めて。くりっとした瞳で冬季を見つめれば、思い出し笑いに冬季の頬が緩む。

「そういえば、貴女は好奇心旺盛でしたね」

 子狐の頃から、こうして冬季の周りをくるくる忙しなく歩いてはじゃれついていたのを思い出す。臆病なのに大胆で、初めて蛙を見つけた時には、もう興奮して大騒ぎ。ぴょんぴょんと尻尾を揺らしながら飛び跳ねて、そのくせ触るときにはそろっと前足でつつくだけ。しかも、蛙がぴょんと飛び跳ねれば、その動きに大仰天して巣穴に頭から突っ込んで――全く、愛らしい子狐だった。
 巣別れのあと、彼女と会うことは二度となかった。厳しい戦国の世、狐にとっても生き残るだけで相当な苦労があった。彼女は、どうだったのだろう。
 冬季は濡れるのも構わず、しゃがんで野狐の頭を撫でてやる。

「きちんと生きて死ねましたか。貴女が私の妹だったのは、戦国がまだ豊葦原と呼ばれた頃…とうに千年以上経ちました。何も考えていない貴女なら、とうに何度も生きて死んだ筈です。呼んだのは多分私でしょうが…疾く今のところへお帰りなさい。もしまだ生まれ変わっていないなら、早くどこかの世界へ生まれるのですよ」

 優しく、教え諭すように。おとなしく頭を撫でられている野狐は、ひとしきり撫でられてからそのふかふかの尻尾を揺らしてくるりと洞窟の奥へと駆けていく。
 最後に、冬季に何か呼びかけるように、一声鳴いてから。ぶわ、と白い煙になって、洞窟にはまた元の静寂が戻る。
 留めるために現れた、その姿は最初の生の家族だったか。師と仰いだものもいただろうに、人型をとるものが現れなかったのは、力を求め続けることを身上とするわが身の薄情さの表れなのだろうか。

「同門に死者がないとはいえ、己の薄情ぶりがよく分かりますね」

 冬季はそんな自分に少し苦笑して、先へと進んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『異端仙人『翠醒』』

POW   :    大人しくしてくれないか
自身が装備する【切れ味鋭い妖刀】から【対象に向かって四方から襲い掛かる炎】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【妖刀に斬られたいと渇望し動きが鈍る魅了】の状態異常を与える。
SPD   :    アレが欲しい、手伝っておくれ
【仙術で威力を増幅した魅惑の視線】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
WIZ   :    大丈夫、一瞬だから
【妖刀もしくは仙術による攻撃】が命中した部位に【身体の表面を走る光る龍の形状をした仙力】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はエーリヒ・グレンデルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●蒐集家

 空中に、角灯がゆらゆらふわふわと浮いている。
 洞窟の奥は、灯りの光を受けて様々なものが煌めいていた。白鳥の翼や鷹の翼、色とりどりの蝶の翅に甲虫の外殻。白い象牙に雄々しい虎の毛皮、薬になるとも噂されるセンザンコウの鱗。
 美しいはずのそれらは、本来あるべき形から無理矢理引き離されて、哀しく、どこか不気味にその存在をこの世に残している。

 辿り着いた猟兵たちを、ぼんやり光る中に佇むひとりの仙人が待ち受けていた。

「ああ、来たね。ふうん…」

 品定めするようにあなたを上から下まで観察するように見る仙人。
 そうしてにっこり笑って、指さしながらこう言い放つのだ。

「それ、それがいいな。頂戴よ」

 わざわざ来てくれたんだから、飾ってあげるよ。
 半月描く妖刀をくるりと回しながら、整いすぎて冷え冷えとした印象の美しい顔に笑みを浮かべて。

 この仙人がいる限り、仙界の入口は閉ざされたまま。
 そして、この洞窟に迷い込んだものは、己にとって大切なものを悪戯に奪われたまま――

 戦わなくてはならない。
 あなたの大切な、あなたのものだからこそ価値のある、うつくしいものを守るため。
燐・梟羽
【アドリブ等歓迎】

さて、美しいものを欲する敵だというが、もしこの体の何かを欲されるようなことがあれば、大いに嘲笑してやることにしよう。
この身は死体。死体の部位を欲する審美眼なぞ、ろくなものではない。

「いやはや、動く死体の『髪』を欲するとは、随分ご立派な眼のようですね」(『』内は、欲された部位)

ついでにそれで激昂でもしてこちらに刃を向けてくれるなら好都合だ。
ヘイト役…と言うのだったか、それには生者より死体のこの身の方が適していよう。

戦闘は【功夫】【受け流し】を用いて、致命傷を避けつつ、敵の攻撃を捌き、時に受けることを第一と考える。
敵が間合いの内で隙を晒すようなことがあれば、【尸人鉄山靠】を放つ。


張・西嘉
アドリブ歓迎

お前の欲しいものとは何だ?
ここにある美しいものも力強いものそのどれもの命を奪って得たものであるのならば俺からお前にやるものはない。

羽一枚ではなく翼。蝶にとっての翅。
奪われれば命を失ってしまうものばかりだ。

まぁ、交渉で得られるものなら考えんでもないが。
俺は主の元に帰らねばならぬからな。
出来れば怪我なく帰りたいし主からの賜り物を失うわけにもいかん。

魅惑?俺は本当に美しい人を知っているからな。
俺には無意味だ。

UC【宿星天剣戟】
この技をもって相手になろう



 揺らめく角灯の灯りを受けて、洞窟内に影が躍る。
 燐・梟羽(仮面の僵尸・f33366)の白く煌めく髪が、さらりと揺れて。灯りを照り返しながら、梟羽は黙って腕を組んで相手の動きを分析している。
 ざっ、と一歩前に踏み出し口を開いたのは張・西嘉(人間の宿星武侠・f32676)。西嘉は、優男のように薄っぺらい笑みを浮かべた仙人を、静かな眼差しで見つめて問う。

「…お前の欲しいものとは何だ?」

 それを受けて、仙人は首を軽く傾けて応える。動きに合わせて揺れる黒髪は優美ではあるが、その白々とした顔は軽薄にも見えた。

「ほしいもの?そうだな、選り取り見取りで迷うが…」

 仙人はまるで品定めするかのように二人をじろじろと無遠慮に見る。散々迷うように視線を這わせて、西嘉の後ろに控える梟羽の髪が光を受けるのに目を止めた。

「まずおぬしの髪だな。白く輝いて…先日手に入れた白鳥のようだ」

 仙人が、ぷらりと手首を返して人差し指を梟羽に向ける。指を差し向けられた梟羽は、品ある口元から歯を見せて、「くっ」と小さく嗤って見せた。

「いやはや…動く死体の『髪』を欲するとは、随分ご立派な眼のようですね」

 仮面の下で瞳は定かでないが、梟羽の澄んだ声音には明らかな侮蔑が含まれていて。

「どうやらあなたの目は死んでいるようだ」
「――…一本残らずいただこうか」

 ぴき、と仙人の額に青筋が立つ。表情はにこやかなままだが、その声には怒りがにじみ出ている。その怒りに洞窟内の空気がぴりぴりと振動する。併せてかたかた震える飾られた生き物たちの一部は、まるで自らの身に起こったことを恐れるような、嘆くような。
 そのさまを見て、西嘉は憐憫を含んだ瞳を周囲に、仙人に、向ける。

「ここにある美しいもの、力強いもの、そのどれも命を奪って得たものであるのならば…お前にやるものはない」

 西嘉はひたと敵を見据えて、静かに言う。

「何とでも言え!まずは生意気な白鳥小僧、おぬしの髪からだ!」

 仙人が手にした妖刀を振り上げれば、火の気のない洞窟内に忽ちぼわっと火が起こる。その火は梟羽の四方を取り囲み、首を焼き切ろうと一斉に襲い掛かる。

「児戯ですね」

 梟羽はぐんっと素早く反り返り炎を避ける。さらにその体勢で足から全身を使って勁を練り上げる。練り上げた勁を掌に集め、燃え上がる炎を押し開くように腕を広げれば、瞬時に炎は払われて。
 次いで仙人が梟羽の髪を切ろうと投げた妖刀を、キンッと音を立てて西嘉が弾く。弾かれた妖刀をすぐさまその手に戻し、仙人はぎっと西嘉を睨みつける。
 西嘉は静かに剣を構えて詠唱し、その身を仙人の如く空へと浮かばせていた。剣を構えたまま、西嘉は小さく嘆息する。どうやら仙人は命を奪うことも含めて、美しいものの蒐集をしているようだ。梟羽の髪を得るのに、首ごと狙ったのがその証拠。交渉の余地はないらしい。

「この技をもって相手になろう」

 西嘉が剣を構えて上から仙人に躍りかかる。空からの攻撃、加えて体格差もある。鍛え抜かれた西嘉の一撃一撃が重く仙人にのしかかる。この重撃を喰らい続けるのはまずいと判断し、仙人は剣戟をなんとか受けながら、その力を己の瞳に集約し淡く発光させる。

「おぬしからは、その耳飾りをもらいたいな」

 かちりとあった淡緑の瞳をのぞき込めば、それは邪眼。瞳の中でずず、と何かが渦巻く。濡れ羽色の髪が揺れて、西嘉のこころを囚えようとする。薄唇をひらいて、「ほうら。我は美しかろう。全てを捧げたいと思うほどに」と仙人が微笑めば――

「俺には無意味だ」

 黒い前髪を、すぱん、と斜めにそぎ落とすは西嘉の宿星剣。
 ――あの人を、守ることこそ我が宿命。

「俺は、本当に美しい人を知っているからな」

 ましてやその人から贈られたものを欲するなど、言語道断。まったくもって交渉の余地なし。
 己の一部を切り取られて、仙人は後ろ飛びに避け距離をとる。前髪に触れ極端に短くなってしまったことに気づけば、洞窟内に響く咆哮。

「我の…ッ我のうつくしい髪がァッッ!!」

 動揺を隠さず叫んだ仙人のその懐に、いつの間にか気配があると思えばそれは梟羽。仙人が叫んでいる間に一瞬で間合いを詰め――その身は素人目にも見えるほどの淡い光を帯びて。勁よく通り、その身は鉄の如き硬さで迫りくる。

「美しさの欠片もありませんね」

 聞き取れたのは短い一言だけ。凄まじい衝撃音と共に仙人は吹き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられる。立ち上がり奥へと逃げ込む仙人を、梟羽は己が身を、西嘉は己が剣をそれぞれに油断なく構え、追撃する姿勢をとる。

「まだ立ち上がりますか?悪趣味仙人さん」
「これ以上は無駄だとその身を以て知っただろう」

 隙の無い二人の構えに仙人は為す術もなく――洞窟の更に奥へ退かざるを得なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
……あげない

貴公に賜うものなどないのだよ
そこにあるその品々の元の持ち主も……きっと、貴公が手にすることを望んでいないだろうから

我が騎士よ
私にも欲しいものがある
あの仙人のあの黒髪だ
すぐにも奪い、私に捧げよ

指定UCで騎士を召喚し、差し向けながら
我が身は愛馬Tenebrarumに騎乗し、敵と距離をとり後衛へ
敵の攻撃に際しては我が身と騎士とにオーラ防御を展開する

…騎士よ
私を退屈させないでおくれ
テネブレ、我が愛馬よ
蹂躙し、踏みつけ、あの笑みを歪ませておくれ
騎士よ、愛馬よ、貴公らはいつも私の味方であろう

私は…私は
この気持ちをどう言えば良い
愛馬に寄り添いながら帰ろうか


鳴上・冬季
「ああ、構わん。…貴様の命と、交換だ」
凄惨な笑み

「遠慮は要らん。貴様が黒焦げの骸になるまで、我が名の由来を味わうがいい」
UCで豪雨のごとく雷を降らせ敵が滅するまで継続ダメージ与える
敵の攻撃は黄巾力士にオーラ防御で庇わせる

「宝貝を作り、使うが仙の定めよ。作りもせず、使いもせずとは余程の三流以下と見える。浅ましくもここで消えるが良かろう」
「封神台がない以上、貴様の名はこの世に残らん。代わりに妄執深ければ、何度でもこの世に蘇ろう。三下の身の丈に合った末路だろう?」
嘲笑う

「私は妖仙です。邪仙ではないが正義を標榜するものでもない。とりあえずこの地の邪仙は滅したのです。それで良いではありませんか」



 洞窟の奥へと仙人は逃れる。ばしゃばしゃと水音響けば、それは自身の居場所を告げるも同じ。
 愛馬のテネブラルムの背に乗ったラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)と、宝貝・黄巾力士を連れた鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)がその足音を聞きつけ追ってくる。

「――斯様なところまで逃げても同じこと」

 響くラファエラの声に、仙人はばっと振り向いて片手で妖刀を構える。もう一方の手は、先程無残にも斜め切りにされた前髪を隠して。

「ふん、此処なら他に邪魔されないから来たまでだ。貴族の女と…なんだ、おぬしも仙人か」
「いかにも。だが貴様と一緒にされたくはない。宝貝を作りもせず、使いもせず、ただ生き物の一部をコレクションしているとは…仙人としても三流以下の貴様とはな」

 異端の仙人は二人を警戒しながらも、その貪欲さから好奇の視線を二人へ向ける。

「ふん…口が達者な仙人のほうはその青い瞳だな。おぬしのものにしておくには勿体無いほど、澄み渡るよき光を宿しておるではないか」

 異端の仙人は傲慢な微笑を浮かべてまずは冬季へと妖刀を構える。その切っ先を見下ろした冬季の瞳には、奥底から針のような光がきらりと一閃のぞいた。その彩は氷の如き青。口元には人の心を冷え冷えとさせるような、永劫融けぬかのような冷笑。

「ああ、構わん。…貴様の命と、交換だ」

 言うが早いか、冬季が結んだ印が陣となって異端の仙人を囲い込む。八方を塞がれたその中に轟くは、雷鳴。その音は次第に激しさを増し、まるで艦砲射撃のように大地を震わせるほど。

「遠慮は要らん。貴様が黒焦げの骸になるまで、我が名の由来を味わうがいい」

 冷たい笑みの中にどこか愉悦を思わせるものをにじませながら、冬季は嗤う。

「ぐぅっ…!」

 身を焦がしながら、異端の仙人は渾身の力で妖刀をふるい陣を切りつける。陣に現れた龍形の仙力は、陣の一部を爆破し辛くも異端の仙人は躍り出る。躍り出た先はテネブラルムの足元で。馬上から垂れる黒い薄琥珀を片膝ついて見上げながら、異端仙人は虚勢をはる。

「ハァッ…ハァッ…!ふん…女。良い馬に乗って高みの見物か。その馬の首ごと貰おうか」

 対するラファエラは、先程ここに来るまでに見た生き物たちの哀しみに思いを馳せていた。美しい一部たち。命を広げて空を駆け、野を駆ける姿は美しかったろうに。きっと、このような男が手にすることを望んでいなかっただろうに。

「……あげない」

 ぽつりとこぼした言葉と、すいと異端の仙人を見下ろすその輪郭もまた、静かな憤怒で氷の如き鋭さをもって。内に秘めたる怒りはただ静かに――主人に代わり、誇り高い従人が白馬に跨り音もなくラファエラとテネブラルムの前に姿を現す。

「我が騎士よ。私にも欲しいものがある」

 黒いレースに覆われたか細い指がついと示す、その先を。従順な騎士も静かに見下ろす。
 ラファエラは、静かにその先の言葉を紡ぐ。侮蔑の視線を、トーク帽のレースに隠して。

「あの黒髪だ。すぐにも奪い、私に捧げよ」

 承る言葉の代わりに、騎士は剣を真横に構え、切っ先を右に向ける。ラファエラが優雅にテネブラルムの鼻先を変え後ろへ下がれば、白馬は仙人の左側へと駆け抜けて。
 ぷつり、異端の仙人の後ろ髪が半分ほどはらりと地に落ちる。首が落ちる一寸手前、その腕の正確さ。異端の仙人の首筋に、たらりと冷たい汗が滑り落ちる。

「くそっ…!」
「…騎士よ。私を退屈させないでおくれ」

 異端の仙人は取る物も取り敢えず、袂を翻しさらに奥へと逃げ込もうとする。その後ろ背にかかる冷たくも甘い声の、空恐ろしさ。

「蹂躙し、踏みつけ、あの笑みを歪ませておくれ」

 騎士を乗せた白馬が前足を上げ、空で漕げば次の瞬間には振り下ろされる白銀の蹄鉄。がすん、がすんと次々繰り出される馬の脚に、仙人は只防戦一方。命からがら蹄の嵐から抜き出でても、再び襲うは冬季の黄巾力士。繰り出す一撃一撃は、地面へ叩きつけられるたびに地形を破壊し異端の仙人の戦う意思すら蹂躙していく。

「封神台がない以上、貴様の名はこの世に残らん。代わりに妄執深ければ、何度でもこの世に蘇ろう。三下の身の丈に合った末路だろう?」

 成長も達成も叶わず、愚かな同じ命を繰り返す。己を高める努力もしないで、欲しいままに軽々に、命に手を出す愚かな仙人の末路。この者から学ぶことは何もない。嗤う冬季のその目には、揺るがず己の道を貫いた気概が滲む。

「く…くそぉぉぉ!」

 異端の仙人は、最後の力を振り絞って奥へと這う這うの体で姿を消した。その後ろを、後から来た猟兵たちが追っていく。
 その背を見送るラファエラに、白馬の騎士が両手で何かを捧げるように差し出す。テネブラルムの上で、ラファエラはその黒髪に手を伸ばして、受け取るその瞬に、じい、と。騎士の兜の、その奥を見透かすように見つめて。

「(この気持ちをどう言えば良い)」

 僅かな風にもさらりと靡くその髪を手にしてみても、こころは動かない。朧なほんとうのこころを掴めぬまま、あの異端の仙人と同じく要らぬものを欲してしまった。
ほしいのは、触れたいのは、これではない。
 ラファエラが沈むように見えてか、冬季はその後ろ姿へかけるともなく言葉を紡ぐ。

「私は邪仙ではないが、正義を標榜するものでもない。とりあえずこの地の邪仙は退けたのです。それで良いではありませんか」

 それぞれの、道がある。それぞれの、向き合うものがある。
 冬季はそのまま振り返りもせず洞窟の外へと来た道を戻る。思いがけずかけられた言葉に、ラファエラは麗しい笑みをひとつ落として、テネブラルムの鼻先を明るい外へと導いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
●WIZ
広がる光景に粟立つ肌
剥製よりももっと生々しいそれらは綺麗で美しくて――不気味で

涙の痕は強く拭い彼を見据えます

あなたの「欲しい」の為に幾つの命を奪ったんですか?
ここで飾られる為に彼らは生きていたんじゃない

彼の狙いはきっとこの翼でしょう
彼の殺気や狂気を[第六感]で感知しつつ攻撃を回避しますが翼周辺には厚めに[オーラを纏い防御]を

身体を走る光龍を追うようにUC発動
爆破効果の解除と彼の集めたもの全てを神聖な植物に変化させます
一瞬でいい、その光景に目を奪われた隙を捉え〈咎人の鎖〉で彼の手足を拘束してしまいましょう

狩られた者達の痛みと無念をあなたは知るべきです!
〈パニッシャー〉の銃弾を彼へ放ちます


柳・雪蘭
何が欲しいの?

何を言われてもあげることは出来ないけれど。
全部、私も大事だもの。
貴方は綺麗だし、これだけ集めたのにまだ足りないのね?
これ以上、誰かのものを奪うなんて駄目だわ。

ふわりと周りに芳香が漂う。
真の姿に近付いた事で、更に華やかな色気を動作一つにも纏わせて。
伏せた瞳を開けば、目の金色が更に強く。

絶対外さないんだから。
月華神弓を取り出し、構えてくるりと裾を翻して。
柔らかな動きですいと手を引けば、光の矢が番えられる。
貴方に安らかな眠りを。
集めたものに囲まれて最期を迎えられるなら、そんなに悪くないでしょう?

終われば、残された全てのものは村の方に確認して弔いを。
然るべき所に返してあげたいわ。



 仮初の主のいない洞窟の壁には、残された角灯の光が揺らめいている。戦いの中に在っても、蒐集された生き物の一部たちは特殊な術で守られていた。
 だが、それも優しさと言うにはあまりに哀しい光景だった。朽ち果て、生まれ出でた大地に還ることもできず、ただ。壁面を飾り、一人の妖仙の目を楽しませるだけの存在。

「――ひどい…」

 ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)は、その光景に戦慄していた。
 美しい生き物だったはずのもの。剥製よりも生々しくて、美しいのに恐ろしいものに成り果てている。長く正視するには、耐えない。
 心優しいハルアの頬を、涙が伝う。顎から落ちゆくその雫に気づいて、柳・雪蘭(雪華的假小子公主・f33385)は横に立って肩を優しくさすった。

「…然るべき所に返してあげたいわ」

 そのためには仙人を倒さなくちゃね、と雪蘭はハルアに淡く微笑む。
 白き翼の乙女と淡紫の花の乙女は、飾られた哀しい一部たちを、最後にもう一度だけ、決意するかのように見つめる。
 ――助けてあげなくちゃ。今からでも。
 そうして二人は異端の仙人が逃げた奥へと共に駆けていく。


 洞窟の奥では、無残にも髪を切り取られた仙人が自分の傷を癒していた。

「くそっ…猟兵たちめ、わがコレクションに手は出しておらぬだろうな…!」

 傷を癒したら直ぐに戻って後片付けをせねば、と独り言ちるその背中に、追いついたハルアと雪蘭が最後を申し渡す。

「――あなたの『欲しい』の為に、幾つの命を奪ったんですか?」

 ハルアの声に、仙人は気だるそうに振り向いて。チッと小さく舌打ちする。

「まだ居ったのか。説教は聞かんぞ。それとも、我のコレクションのひとつに、その大きな翼を入れさせてくれるのか」

 その戯言に仙人をキッと睨みつけるハルアの前に、雪蘭がふわ、と加勢して。

「これ以上、誰かのものを奪うなんて駄目だわ。貴方は綺麗だし、あれだけ集めたのにまだ足りないのね?」
「ふん。おぬしも仙界のものか。…実に美しい瞳をしているな。寵姫の瞳か?…それが欲しいな」

 仙人の瞳が怪しい光を放ち始める。その発光は、魅惑の視線――この瞳の力で、洞窟に迷い込んだ生き物たちを捕らえてきた。その瞳を、雪蘭へと向ける。にやりと笑う仙人は、されど瞳の力が同様の力に圧されているのを感知して。

「――何を言われてもあげることは出来ないけれど。全部、私も大事だもの」

 静かに仙人を見据える雪蘭の瞳の金色が、一段と深まっている。瞳を彩る睫が上下で重なり合い、美しい金桃の瞳を覆い隠す。すい、と扇で隠す口元は、桃の艶を一層光らせて。辺りに漂うは、天上のものと思しき芳しき香り。
 ふわりと洞窟の天井近くまで浮かぶ雪蘭の攻撃の予備動作に合わせて、ハルアは温かな白い光を纏い防御を展開する。オーラを纏った白い翼は、暗い洞窟の中で目映いばかりに光り輝いて。その光は、ハルアに勇気を齎してくれる。

「小癪な!」

 二人の動作に反応して、仙人が妖刀を構え、その力を刀へ注いでいく。ぞわりとその肌を這いあがるは光る龍。
 仙力が握る妖刀へと集まるその瞬間、微かな旋律が洞窟内にこだまする。

 ――美しきものたち 今こそ

 大気ふるわすその声は、ハルアの歌声。柔らかな翼を淡く照らす光は何処からか、ハルアの声に合わせて金管楽器の澄み渡る音も連れてくる。
 暗い洞窟を共鳴させ、光満ちる世界へと変えていくような透き通った声に、誰もが息することすら忘れてしまうほど。
 その美しい旋律が音波となって洞窟内の空気を震わせると、まず仙人の刀がカタカタと震えた。

「な…なんだ!?」

 刀へと移行した光る龍が色を黒く変え、焦げ臭い煙を吐き出す。仙人は注いだ力が消滅していくのを感じて、慌てふためき注意を怠る。
 さらにハルアの後ろからは、先程飾られていた生き物たちの一部が、ふわりと飛ぶように空を駆けてきて――めき、しゅるる、ふわ――その姿を、新たに変えていく。白鳥の翼は燕子花のような真っ直ぐな葉に、蝶の翅は色とりどりの花に。白い象牙、虎の毛皮は春の訪れを告げる緑たちへと変貌していく。
 それは天恵、緑の言祝ぎ――哀れなる命に、花の女神が力を添えたのかもしれない。
 上空では緑の賛歌に目を覚ますように、ぱっちり目を見開く雪蘭。目覚めた花の乙女の淡紫の髪がぱらりと広がって、その力は構えた月華神弓へと注がれていく。弦を引けば、現れるは光の矢。
 余りの美しい光景に、釘付けになった仙人。その隙に、金に煌めくハルアの咎人の鎖が仙人を拘束する。
 白き翼の乙女がぢゃき、と構えるはパニッシャー――悪を処罰する狙撃銃。
 きりきりきり、と弓が鳴る。
 かしかしかしん、装填した弾が点火を待つ。

「狩られた者達の痛みと無念を、あなたは知るべきです!」
「集めたものに囲まれて最期を迎えられるなら、そんなに悪くないでしょう?」

 光の矢と銃弾とに貫かれた仙人の、その姿は最期に緑に覆われて。
 奪われたものたちは、最期に異端の仙人を黄泉へと送る。


●まほろば
 洞窟内にはさらさらと流れる水の音だけが残った。人界と仙界を隔てていた危うい桃の香はもうしない。
 澄明な水を辿り村へと戻れば、空には星。すっかり夜更けて、村には静かな夜の歌が満ちている。
 ハルアと雪蘭は、星明りの下、仙人を黄泉へと送った緑たちを編む。
 姿を変えて、この地に戻ってきた。ならば、後はもうただ心静かに還ろう。
 花籠には彩とりどりの花を飾って、そっと池へと流して。

 ――どうか、きっと。

 空には綺羅星。陽が出ればまた鳥は駆ける。
 その命の、限りない自由を乗せて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月15日


挿絵イラスト