大祓百鬼夜行⑰〜繰り糸人形戦闘遊戯
●カスタム人形は永遠のロマン
「え? いいの!?」
笑顔で説明をするオブリビオンの言葉に、少年は目を輝かせた。
最初、少年は『中に入るとおばけがいるらしい、なんだか良く分からない建築物』に興味本位で忍び込み、その探険に来ただけだった。
しかし、古ぼけたコンクリートでできたその建物は、中に入ると非常に小綺麗で。中央にはまるでプロレスリングを思わせる大きな台がひとつと。周囲を見渡せば、自分の指先から肘くらいまでの大きさをした、細い紐付きの人形がたくさん飾られている。
一瞬で、夢溢れる異次元に来てしまったかのような世界の中。そこにいた自分より少し年上のおばけは、
『これらの人形を一から自分で作って、おいらと一緒に遊ぶにゃ。
作り方教えるし、道具も、部品だって何でもあるにゃ。
簡単に動かせるし、動かし方だって教えるから。お前さんそれを戦わせて勝負するにゃ』
そう目を輝かせながら、少年を出迎えて遊びに誘ってきたのだ。
――少年は二つ返事で頷いた。きっとこれは『カスタムロボット』とかを、糸で動かすような古いやつ『からくり人形』とか言うに違いない。
ロボットは、親からはそんなお金は無いと買ってももらえなかった。
それが、ちょっと古そうだけれども、一から自分で組み立てられる。
しかも、まだ糸でどう動かすのかは分からないけれども、それでバトルとかできたらきっと物凄く楽しいだろう。
少年は、嬉々として時間を忘れ、さっそくその場にあるパーツから自分だけの人形を作った。
「ねえ、これどうやって動かすの?」
「まずは指に全部紐を付けて――この台の上に乗せて、動きを念じるにゃ!」
「ええー、そんなので本当に動――動いたーっ!
本当に、思い通りに動く! 凄い、凄いよ!」
「さあ、出来上がったら、さっそくおいらと勝負!
――お前さんが負けたら『その心臓を、もらって喰らう』にゃ」
少年は、その瞬間――オブリビオンの真っ赤に光る瞳を前に。
初めて、自分が今、恐ろしい化物と対峙している事を理解した。
●
「大祓百鬼夜行の状況下において。子供たちが命懸けの繰り人形遊びを迫られている」
グリモアベースにて。その状況を予知したレスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)が、端的に言葉を置いた。
「相手は強力なオブリビオン。元の妖怪の性格は心優しく、その子供と外見上の歳も近い。
今回は、純粋な『子供と一緒に遊びたい』という願いが、骸魂により歪められた結果。このままでは『自分との遊びに負けた、弱い子供の心臓を喰らい続けていく』という惨劇が起こりつつある。
至急、オブリビオンの対処を願いたい――ところなのだが」
それを予知した猟兵は、複雑そうに一息の間を置いた。
「如何せん、今回は相手が強すぎる。正面からの武力で太刀打ち出来る相手ではないところまでは、何とか確認をしたのだが。
そこで、今回は『遊びを求める敵と、同様の舞台に立ち。それで相手を打ち負かしてもらいたい』」
つまりは、敵と同じく己の繰り人形を自作した上で、それを使った勝負の場で、相手を倒してほしいのだと。
「――敵は自分の繰り人形の強さに絶対の自信を持っている。故に、相手と同じく、こちらも繰り人形を作ってもらい、それを打ち倒せれば、ショックで妖怪の救出も可能となるだろう。
場所は、UDCアースに良く存在する、目的のない建築物『超芸術トマソン』内部。人形作成に欲しいパーツがほぼ揃う傍ら、オブリビオンの影響により、人形はそこで作成したものしか動かない」
少し手の掛かる依頼だが、と。予知をしたグリモア猟兵は、最後によろしく頼むと頭を下げた。
春待ち猫
所有主さまの個性に溢れる糸の繰り人形遊びは、永久のロマンではないかと思われます。春待ち猫と申します。どうか宜しくお願い致します。
●この度は、大祓百鬼夜行の一章編成による戦争シナリオとなります。
しかし、若干趣味に走りました結果、リプレイのお返し速度は通常シナリオと同様をイメージしております為、リプレイをお急ぎの方向けではございません。大変申し訳ございませんが、予めご容赦の程をいただければ幸いでございます。
今回は『皆さまの趣味に走った戦闘用人形を作っていただき、それを操ってリングで敵と戦い、勝っていただく』シナリオとなります。
※人形は参加者様の意思の通りに動きますが、指と人形を糸で繋ぎます為、戦闘開始後は、基本的に人形操作以外の行動は行えません。
※作って頂く人形は、戦闘スタイルを含め自分そっくりでも構いませんし、外見・通常攻撃方法・動きなど、自由に想像していただいたものでも構いません。イメージした人形をご自由にお書き添えください。
●敵もユーベルコードを使用してきますが、戦闘をする人形も参加者様ご自身のユーベルコードを使用出来ます。
但し【シナリオ成功判定と演出は、通常通り『PL様が設定された、一つのユーベルコード』】にて行います。
(人形につきましても、ユーベルコードの描写は同様の扱いとなりますので、ご了承の程をいただければ幸いでございます)
プレイングボーナス……子供を救出し、代わりに懐かし遊びを受けて立つ。
今回はシナリオ公開と同時に、プレイングの受付を開始致しております。
通常と同様の進行を思案しておりますが、今回は再送の思案はしておりません為、プレイングに全く問題が無いものでも、全採用とはならない可能性がございます。予めご了承ください。
それでは、どうか何とぞ宜しくお願い致します。
第1章 ボス戦
『魔童クシャ』
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POW : 二徳とんで五徳捨て
自身に【炎】をまとい、高速移動と【爪の斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 類を真似て嫉みを喰う
【爪】による素早い一撃を放つ。また、【体の一部を猫化する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 其は極楽浄土の使者
【金棒】で武装した【人間】の幽霊をレベル×5体乗せた【火車】を召喚する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「八榮・イサ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●『超芸術トマソン』内にて
「さあ、さっそくおいらと繰り人形で勝負だにゃ。負けたら心臓差し出すに」
「びぇぇっ! 怖いよーっ」
今、その惨劇を目前にして。夢中になって人形を作る子供たちの殆どが気付いてはいなかった。
人形の勝負で、オブリビオン『魔童クシャ』に負ければ、その心臓を食われるのだということに。
それを先に知られれば、子供達に遊んでもらえないかも知れない。そう判断したクシャはぎりぎりまで隠すように、遊ぶ直前までその事実を伏せている。
そのせいか、建物内には既に子供がたくさんいるが、幸か不幸か、場に大きな混乱は今のところ見受けられなかった。
ただ――食われる直前の子供だけが、その恐ろしい事実と脅威に気付く事になる。
その渦中『超芸術トマソン』内へ、猟兵達はついに足を踏み入れた。
稷沈・リプス
自称人間な男。
そういえば俺、人形遣いだったっす。いやー、使わないと忘れるっすね!
作る人形は、俺にそっくりっす。違いといえば、手首に途中で鎖(膝まである)の切れた枷と、アンク持ってるってことっすね。
通常攻撃はアンクによる殴打、さらに途中で切れてる鎖を鞭みたいに扱うっす。
で、忘れた頃に足技がすこーんと。
【夜の舟】…太陽航路概念を、壊せるものなら壊してみろっす。
あと、太陽より熱く激しい炎もっすよー。攻撃属性も太陽っすしね。眩しいっすよ。
防御も太陽属性結界っすし。
うん、秩序大好きな故人(というか故神)の持ち物だったんすけど。こういうときには許してくれるっすよ。
あのひと、絶対同じことやったっすから。
●いにしえのおもかげ
「うわぁあん!!」
オブリビオンによる事実を知った一人の子供が泣きやまない。その様子を目に留めた猟兵、稷沈・リプス(明を食らう者・f27495)は、驚くほどに自然な動きでオブリビオン『魔童クシャ』と子供の間に割り入った。そして、からりとした様子でクシャに向かって笑ってみせる。
「そういえば俺、人形遣いだったっす。いやー、使わないと忘れるっすね!」
――確かに事実ではある。そして『若干特殊である』が故に、忘れやすいのも確かであるが。リプスはそれを、大げさとほんの少しのわざとらしさの境界にある口調で告げつつ、恐怖で泣きじゃくっていた子供に「もう大丈夫っすよ」と声を掛けて、敵から遠ざけるように下がらせた。
「む、遊び相手を奪うのかにゃ!?」
「代わりに俺が遊ぶっすよ。まあ、遊びでも適当っすけど、手は抜かずに頑張るっす。これでも人形遣いの端くれっすよ?」
「むむ。まあ、食べる心臓は時間経過してた方が美味しいに。受けて立つにゃ。
お前さんも時間をあげるから、さっそくここで自分用の人形作ってくるにゃ。本当に、何でも作れるほど揃ってるに」
どうやら、このオブリビオンは完全に『遊びと捕食』が同列であるらしい。
ならば、人形作成についても、かなり凝ったものが作れるだろう。
さっそく、リプスがクシャに促され、パーティションで区切られた違う部屋に置かれているパーツ類を見に行けば、そこには文字通り『存在しないものは無い』と言わんばかりの種類が揃っていた。
――もしかしたらオブリビオンが存在している影響で、ここにいる関係者がイメージしているパーツ類が、今この瞬間も、骸の海から生み出されているという可能性も否定できない。
「でも、これはこれで好都合っすね。さっそく作っていくっすよ」
手に取ったものは、深いビリジアンの瞳と艶やかに流れる黒髪をした、繰り糸のついた人形素体。中でも、リプスはその面差しから更に自分そっくりの人形を選び出した。
「これに……おお、こんなの本当にあるっすね」
それは、まさに自分を縮小化したかのような人形だった。リプスはそれにオプションパーツとして、途中で断ち切られた長い鎖のついた蛇の意匠が刻み彫られた手枷と共に、古代エジプトに於いては『再生の約束が叶う』と言われていた、エジプト十字――アンクと呼ばれる型をした、鈍器を武器として選び取ってみた。
(……あー、何か思い出すっすね、これ)
そうして改めて完成した人形の姿を、リプスはふとじっと見つめて。どこか、ほんの僅かにしんみりとしながら一つ小さく頷いた。
「動かし方は問題ないにゃ? さあ、勝負に!」
その掛け声と共に、クシャもリプスも互いに己の指に糸を繋いだ人形を、広いプロレスリングを思わせる台の上に乗せた。
そして――繰り人形による、戦闘遊戯が開始された。
台の上で対峙するクシャの人形も、己を写し身とした形を取っているのが目に入る。身軽な軽装に違わず、先手を取ったのはクシャの方だった。
瞬息の勢いで、こちらの懐に近く飛び込んで来たクシャ人形が、拳による鋭い突き刺すようなストレートを、リプス人形の方へと向けてくる。
「――お、速いっすね」
零れたのは素直な感嘆。しかし、リプス人形は手にしていたアンクで、完全に捉えていた拳を殴り返すように受け止め、攻撃の威力を相殺する。
その隙に、リプスは自らが所持している『明け食らう蛇』をイメージして、人形の手枷についた鎖をふるえば、それはまさしく実物と同じような動きを再現し、激しい音と共に敵人形に巻き付いて、その拳の自由を一時的にだが完全に奪い取った。
「に!?」
操り手のクシャが自分の動揺まで一緒に人形に伝達させながら、急ぎもがいて鎖を振り払う。そして、体勢を整えようとした矢先。
「……早いっすけど、けっこうグダグダっすね――隙ありっすよ」
相手の注意が向いていない足元――そこにリプスの人形は、流れるように足払いを叩き込む。すると、クシャ人形は無様なまでに、派手に台の中央へと転がり込んだ。
「こうなったら!」
近接距離での圧倒的不利を悟ったクシャが、一度戦闘を仕切り直しを狙い、己の人形を台上の端となる自分の近くへ引き寄せる。
そしてクシャ人形が、両手を上に持ちあげた刹那――その台上では、人形サイズでありながらも、クシャのユーベルコードにより生まれた存在が明瞭な形となり具現化された。
そこに現れたものは、獄卒のような金棒を持った無数の人間の幽霊を乗せた地獄の火車。
「これでボコボコにして、轢き殺してやるにゃ!」
「おお。凄いっすね、これユーベルコードもオッケーっすか。
それなら」
一瞬、リプスの深緑の瞳が僅かに細められたのをクシャは目にした。背筋に冷たいものが走るのを確かに感じ――しかしそれを錯覚と振り払った瞬間、リプス人形の持つアンクが、真上へ掲げられた。……まるで『そこには、天空がある』と、言葉に言わんとするかのように。
リプスのユーベルコードが、アンクを標とするように形を成し始める。そして湧き立ったものは、古来の武具と魔法杖で身を固めた、頭部が動物となっている人間たちを数多乗せて浮遊する――まるで、エジプト壁画を彷彿とさせる巨大木造船だった。
ユーベルコード【夜の舟】――今は、戦闘台上での具現は、全てが人形サイズである。しかしその存在は、クシャのユーベルコードの概念を明らかに凌駕していた。
それは、今はなき古き神々が司ったとされる『太陽運行の権能』そのもの。太陽がある世界に於いて『永遠に登らない太陽、永遠に沈まない太陽』という概念が存在しないように。
それを『妨げる存在(もの)はなく、妨げられる存在(もの)もない』――そのような概念は、到底そして当然、ただの人間に扱えるものではない。
クシャがリプスの存在について、僅かな畏怖と共に信じ難いという目を向ける。
しかし、それでも。もしそれが存在を問う言葉として形にされていれば、借り受けたと云うその威光と共に、ただリプスは言うのであろう。
――「やー、俺はただの人間っすよ」と。
現れた【夜の舟】は、クシャ人形が呼び出した存在の全てを燃やした。敵対する攻撃全てを昼の輝きと共に防ぎ切り、同時に太陽より熱く激しい炎を以て何もかもを焼き焦がし尽くした。
この戦闘を支える台は何で出来ているのかと思わせる程に無傷であったが、傍らでは、その舟の航路に轢き倒される形となったクシャ人形が無事なわけがない。
「眩しいにゃ! こんなの勝てっこないにゃ! ひきょう!!」
そうして、糸も含めて黒焦げになった人形を前に、勝負は完全に決していた。
しかしクシャは、まだ他の人間との勝負は諦めていないのか、どこからともなく自分の人形のスペアを引っ張り出してくる。
「……まあ、借りものだったっすけどね。卑怯じゃないっす。
秩序大好きな故人の持ち物だったんすけど、こういうときには使っても許してくれるっすよ。
……あのひと、絶対同じことやったっすから」
それが故人と呼ぶには『故神』の領域であり、相手が人間の子供の心臓を喰らおうとする摂理に存在を反したオブリビオンであるならば。尚更のこと、絶対に。
――ただ。
全てを祀っていた都は消えて。今やこの『権能』すらをも、返す事は侭ならなくなってしまったけれども。
そうして、リプスは勝利した自分の人形を引き戻し。両手に抱えて目に留めて。改めて、小さく一つ呟いた。
「――ホントに。我ながら良く出来てるっすね、コレ」
大成功
🔵🔵🔵
リステル・クローズエデン
さて、遊び(戦い)ましょうか?
人形はシンプルなヒトガタで
ただし関節などは人と同じく
守りより動きやすさ重視で作ります。
無駄な装飾は不用。武器も不要です。
軽業を活かすためです。
あと、戦闘前に少し動かしてもいいですか?
(学習力)
戦闘遊戯開始
外から見ながら動かすのは。
慣れませんね。
視力と第六感、瞬間思考力で
相手の動きを見切り、攻撃を受け流します。
ある程度、防戦一方から
ユーベルコード発動。
カウンターと体制を崩してから。
鎧砕き込みの打撃をうちこます。
さて、ここからはハイスピードですよ。
ついてこれますか?
殴る、殴る、殴る
蹴りっ、飛ばす!!
戦闘後
ボロボロになった自分の人形に
自身を投影するが…
あとは、頼みます。
●藍花
「今度はおまえさんに? おいら来てくれた子供達とも遊びたいし、個人的には、もっと鼓動を重ねた心臓の方が好みだにゃ」
『魔童クシャ』が、本当に子供のように両手をぶんぶんと振り回し、その場を離れる。だが、他の子供達の様子を見に行けば、どうやら皆、幸いにしてまだ当分、人形の完成には遠いようだった。
しょぼしょぼと戻って来たクシャは、他に遊んでくれる存在はいないと判断した様子で、先程から様子を窺っていた、リステル・クローズエデン(なんか青いの・f06520)に、少し切なげに遊ぶための繰り人形について説明をし始めた。
「なるほど」
リステルは、それに納得したように一つ頷いてみせる。
『遊び』と銘打っているが、事前の説明も含め、これは自分の心臓を懸けた人形による殺し合いだと理解した。猟兵でも人間の急所となる心臓を食われ生きている実例は聞かない。ならば、その人形の構成一つとっても、妥協は許されないだろう。
「どんな人形が好みかに?」
「シンプルなものを。ただ、関節等は可能な限り人と近い、ヒトガタが理想です」
「せっかくなんだから、もっと遊んでもいいにゃに」
「いえ、今回は」
オブリビオンと共に、戦闘道具を見て回る――誠に不思議な感覚ではあるが、猟兵という依頼においては、そんな機会もあるのだろう。
そうしてクシャがリステルの目の前に出してきたものは、イラストデッサンなどに使われる、関節のしっかりした木製のモデルのような人形だった。
それならば、と。リステルも納得した様子で人形を受け取り、次に、それを素体と決めた上で、今度は人形に付けるパーツについての説明を耳にする。
曰く、パーツも付ければ人形は強化され、繰り手が有利になるものもあるのだとか。しかし、リステルはそれもあっさりと否定した。
「守りより『動きやすさ』重視で。
無駄な装飾は不要。武器も不要です」
今、リステルのイメージしているものは、完全な格闘戦特化の人形。故に、そこに無駄な装備は一切必要ない。実際、パーツなどあったとしても邪魔にしかならないであろう。
「なんて遊び心の無いお姉さんだにゃ!」
クシャが、人形に触れて関節の硬さを確認しているリステルにぷんぷんと怒ってみせる。
その時ふと、クシャはリステルの藍花の髪飾りに目を留めた。
「そう言えば、その綺麗な髪飾りと似たパーツ、確かどこかにあった気がするにゃ」
「いえ、今回は」
「勿体ないに。あれをつけると確か、糸と思考の伝達が楽になったりするにゃ」
「思考伝達が楽に――」
リステルは僅かに思案する。
「……試運転的に。戦闘前に、その人形の動きを試してもいいですか?」
「もちろんに。おいらは繰り人形の『べてらん』だから、遊びには余裕があるにゃ」
事前に人形の動きを試せるかどうかは、実際の戦闘動作に天と地の差を生むだろう。そう思っての提案ではあった。そうして動かしてみれば、確かに思い通りに動くという話に間違いはないものの。実際に、リステルの戦闘経験をベースに人形の動きを合わせるのには若干とはいえ時間を必要とした。自分の身体を動かすのに比べ、その人形の動作は糸を経由しているせいか、やはり若干のタイムラグが発生しているのだ。
それでも、リステルはそれを、一般人とは比較にならない早さで擦り合わせていく。
「確かに……髪飾りは、あった方がスムーズですね」
先の髪飾りというパーツについては、どうやらクシャの言った通りのようだった。伝達速度の体感が明らかに違う。それならばと、リステルは硬質である木製人形にそれを絶対に外れないよう固定出来るかを尋ねたところ『出来る』という答えが返ってきた。
そうして、リステルは現実的な実用として。頭部にその藍色の花飾りを模したパーツだけを付けると、人形をリングに上げた。
「始めるにゃ!」
戦闘遊戯、開始。
クシャの瞳にオブリビオンと呼ぶに相応しい禍々しい光が宿る。クシャ人形は、さっそく冒頭から己のユーベルコードによる変化で下半身を猫に変えると、跳躍と共に鋭い爪の一撃を、真上からリステルの人形へと振り下ろす。
リステルのスピネルアイがそれを捉えれば、リステル人形は後方転回と共にそれを辛うじて躱し切る。髪飾りのパーツが爪の風圧で微かに揺れた。
本来の肉弾戦ならば反撃の余裕もあっただろう。だが、やはり己の視点が外部にある以上、実際とは勝手が異なるのだ。
「外から見ながら動かすのは。慣れませんね」
通常の人間ならば気にもならない糸への伝達速度も、戦闘に慣れたリステルには負荷となる。その分の差は既に諦め、リステルはそれを経験から来る直感と思考による予測に頼ることにすると、慣れるまでのしばしの間、完全に相手の攻撃を受け流すことに集中した。
「攻めて来ないなら、斬り裂いて潰すだけだにゃ!」
素早く激しい攻勢であるのに、絡まってもおかしくすらない繰り糸はクシャ人形の阻害を一切しない。確かに、反撃の一手がなければこのまま潰されるだけだろう。
しかし――リステルにも、その一手は、ある。
『この身は刃……切り裂く青き呪いの刃……』
リステル人形が相手の爪を弾き逸らす中、リステル自身が小声で呟く。
『呪力……解放! クロックアップモード!』
瞬間――リステルの人形は、高らかに存在の切り替えを告げた繰り主の言葉に同調するように、見る者の心を凍り付かせるように翳る青のカーズオーラを全身に纏わせると、その姿を一瞬で覆い隠した。
「にゃ!?」
クシャが目標を見失い、鋭い爪による突きを躊躇い留めようとする。しかし、遅い。
ユーベルコード【呪力解放・瞬刻斬光形態(ブルーバースト・クロックアップモード)】――カーズオーラから突き出された腕が、クシャ人形の腕を掴み引き寄せ、一気に上半身の体勢を崩させると、もう片方の腕がその人形の胴体に、激しいボディブローを撃ち込んだ。
「わ、ああ!!」
クシャ人形の胴体が大きくひしゃげる。もし人形と痛覚を共有していれば、クシャ本人も無事では済まなかっただろう。
そして、カーズオーラの輝きが抑えられれば。そこにはユーベルコードにより冷たい青に肌色を染め上げた、リステルの真の姿を模した人形が立っていた。
「さて、ここからはハイスピードですよ。
――ついてこれますか?」
「え、わ! にゃ!! ひぇ!」
リステルの言葉の元。音速を錯覚させる程の無数の拳が、クシャ人形へと容赦なく衝撃を伴い打ち貫いていく。
クシャ人形も防衛本能として反応をしなかった訳では無い。だが、それ以上に、圧倒的にリステル人形の方が早いのだ。
「これで【――蹴りっ、飛ばす!!】」
最後に、拳を打ち込み続けていたリステル人形が、戦闘台のマットに激しく手をつき華麗に下半身を跳ね上げる。そして、身動きの一切取れないクシャ人形に、とどめの回転蹴りを叩き込んだ。
弾け飛んだクシャ人形が、台のコーナーにある柱に激しい音と共に、衝撃に僅かな煙を上げて激突する。
「動くにゃー!!」
しかし、クシャの叫び空しく、クシャ人形はほぼ崩壊状態で動かない。
こうして、繰り人形の勝者は完全なる形で、リステルの方へ軍配を上げたのだった。
「この人形もボロボロですね……」
試合後――リステルは、己の放っていた激しすぎる衝撃の末に、今にも手足の関節が割れそうになっている、自分の人形を台より引き寄せ目を向けた。
自分と同じ――同じ色の、花飾りをつけた人形。
こうして、人形は武具としての役割を終えた。しかし――そもそもこれは。人形らしく『愛しい』と、愛玩される記憶すら与えられなかった存在。
(――自分も……いつか……こう、なるのでしょうか)
呟きかけた、想いを留める。
せめて静かに、それを大事に抱え上げて。
リステルは、人形を自分のものではないスピネルの瞳に映したままに、そっと己の目を閉じた。
成功
🔵🔵🔴
八重咲・科戸
どうせなら作り慣れたもので挑むのが良いだろうな
「式神使い」で自分の人形を制作するぞ
名付けて【しなとちゃん人形】だ!かわいいだろう?(ドヤァ)
(←の顔アイコンそのまんまのデザイン)
武器は普段私が使っている大鎖鎌を人形に合わせデフォルメしたものを持たせているぞ
私が操っている人形なんだから私の武器の扱いで良いよな
UCで人形に風を纏わせ高速移動で翻弄してやろう
さらに吹き荒れる暴風に煽られる人形の操作は簡単にはいくまい
私は風の「属性攻撃」「オーラ防御」で自分の人形と操り糸を守る
風の扱いには私の方が一日以上の長がある!
リング全体を「範囲攻撃」の風刃で三回攻撃だ!
●やわらかな外見と、凶悪性とのマリアージュ
「うぅ、こんなに人形を使い潰すことになるなんて思わなかったに……」
その身にどんよりとした空気すら漂わせて『魔童クシャ』は、奥に倉庫でもあるのだろうか。そこから、新たな自分の繰り人形のスペアを持って来る。
繰り人形には自信があったのだろう、見ればついている猫耳はへたれ、尻尾もしょんぼり垂れ下がっている。落ち込みようがかなり激しい。
「まだ予備があるのか! ……もう諦めたらどうだ?」
段々と、見ている方が痛ましくなってきたオブリビオンのその光景に、八重咲・科戸(一人一組の鎌鼬・f28254)が声を掛けた。
見た目、少年の外見をしているが事前情報ではかなり強力な力を持つオブリビオンだと聞いている。正面からでは勝ち目はなく、得意勝負で打ち負かして心を折る――しかし、何体あるのかそのスペア、と思ってしまうと。一歩間違えれば、いくら勝ち続けても折れるのはこちらの根性かも知れない。
「まだ負けないにゃ! 暇なときに作っておいた予備人形はたくさんあるにゃ。負けないにー!」
尻尾を膨らませてクシャが答えた――こうなれば、根比べである。子供達の命も掛かっている以上、改めて科戸はその様子に勝負の意思を強く持つ。
「そうなれば、こちらも人形を作らねばならんな」
「遊んでくれるのかに? それなら手伝うにゃ」
「いや、幸いにして式神を作るのには慣れている。同じ要領で作っても動くであろうか?」
「布から粘土まで、素材はあるからそれで作って専用の繰り糸を付ければ動くに。何ならパーツも自作できるから、機能説明書もあるのを置いてくにゃ。活用するといいに」
「では、それでいこう。どうせなら、作り慣れたもので挑むのが良いだろうしな」
「完成楽しみにしてるにゃ! 早く作るにゃ!」
そうして、繰り人形の台以外では本当に戦闘意欲のないオブリビオンと別れ、科戸はしばし思案する。
考えた末、科戸が集めて来たものは、柔らかだが艶のある合皮に大量の綿。そして綿素材と思わしき緑の布――
「さあ、さっそく作るぞ! せっかくだからパーツも自作だ!!」
取り出したるは、用意されていたものから運び込んできた針と糸。それが合皮まできちんと縫える業物であることに科戸はふとした感動すら覚えつつ、さっそく作業を開始した。
「ん――?」
気が付けば科戸の回りには『このお姉ちゃん、人形もパーツも自作するってよ!』と、同じ部屋の子供達が集まってくる。
「ワタがたくさん! おねえちゃんどんなの作るの!?」
「まあ、見ているといい。なにせ、作り慣れているからな」
つい忘れそうになるが、この場の子供達の命が掛かっている事も気持ちに入れて。科戸は純粋な眼差しの少女の問い掛けに笑顔で答えながら、針と糸を揮ってしばらく。
「――完成だ!」
そうして作られたものは、少し固いが丸くて瞳のキュートな三頭身のカマイタチ。しかも、頭にはちゃんと作り主と同じリボンが飾り付けられたおまけ付きである。
「名付けて【しなとちゃん人形】だ! かわいいだろう!?」
科戸、出来上がりに会心のレベルでドヤァと胸を張る。それに周囲からは偽りのない歓声が上がった。
何しろ可愛い。これは可愛い。しかも可愛い上に、愛くるしさまで兼ね備えている。
それは、その場にいる、数こそ少ないが少女達に大人気だった。
「ほしいー! この『カワウソさん』かわいいー!!」
「これはカマイタチだ!」
「カマイタチ? お話にでてくるイタチさん?」
「そうだ、強いんだぞ。悪いやつだって一撃だからな」
科戸はそう答えて、合わせて素材を組み合わせて作り出した、自分の所持する塵旋鎌をミニサイズにデフォルメしたものを小さな手に握らせてみる。
「しかし……いくら人形サイズとはいえ、こうも簡単に塵旋鎌の特性を模倣した武具が出来てしまうとは……」
この空間が特異である事は分かっているが、塵旋鎌は科戸の一族の家宝でもある。その胸中の複雑さは計り知れないものであったが、装備として同じ特性の武具で戦えるならばこれほど心強い事もないのも確か。
「さて、では始めるか!」
――そうして、クシャ人形と、一見気の抜けそうなまでの愛くるしさを放つカワウソ、もとい鎌鼬のしなとちゃん人形による、勝負が始まった。
戦闘台の回りには、動いているしなとちゃん人形を一目見ようと、珍しく子供達が集まって来ている。科戸は、台上での行動により子供達に危害は出ないか警戒したが、しばし台の中クシャ人形を放置して、飛び跳ねてみたりファンサービスとばかりに子供たちに手を振ったりと、人形により広がる歓声と共にふわふわと動く範囲では、その危険は少ないと判断してみた。
「こらぁ! 真面目にやるにゃ、遊びだけれども遊びじゃないにゃ!」
「まあ待て。
――ここからが本番と言うだろう?」
科戸の言葉と共に。しなとちゃん――科戸の人形から、瞬時に爆発的な風が巻き起こる。
「にっ!?」
「さて――私が操っている人形なんだから、これも私の武器の扱いで良いよな」
科戸の口端が、言葉と共にゆっくりと持ち上がる。瞬間、科戸のユーベルコードの一端が、人形を中心に風の妖力を大きく跳ね上げ――それは、暴風と化して科戸の人形を包み込んだ。
科戸人形は、そのまま風の妖力を重ねて嵐のような風を纏い、プロレスリング状となっている戦闘台の端を、四隅を回るように高速で駆け抜ける。
――暴風が、クシャ人形を中心に、回転するように動けばどうなるか。
「にゃーっ!? こんなに風が強いと糸が絡まりそうだにゃ!」
繰り手のクシャから悲鳴が上がった。併せてクシャ人形の前後左右を、風が動きに法則が見出せないほど乱れた状態で阻害する。
「それなら――こんな風!
突っ切ってでも、一撃、必殺にゃ!」
クシャ人形が、下半身をユーベルコードで猫化させ、その暴風を尚も弾き切るように加速すると、鋭い爪と共に科戸の人形の元へと飛び込んだ。吹き荒れる風よりも、更に速度を増したクシャ人形の特攻――しかし、
「風の扱いには私の方が一日以上の長がある!」
高らかに謳う科戸の言葉は、確信と共に事実でもあった。
科戸の人形が纏う風とエネルギーは、瞬時に己と自分の繰り糸を守る盾となる。
風圧の盾に真っ向から、長く細い指先を突き込んだクシャ人形は、その激しさにより、己の爪を弾け飛ぶようにへし折られた。
「わあああ! 爪折られたにゃー!!」
そして自ら暴風域に飛び込んだクシャ側では、殆ど己の人形の制御が出来ずに大騒ぎとなっていたが、その声すらも風威により擦れ声程度にしか科戸の耳には届かない。
『しかと見よ、鎌鼬一族伝統の大技……!!』
その中で、大きく見開かれた琥珀を思わせる赤茶の瞳と共に『科戸自身の武器として動く人形』が風音で唸り、台の中央へと猛り進んだ。
「喰らえ!
【玖式・疾風鎌居太刀(クシキ・ハヤテカマイタチ)】――!!」
その音は風に乗り、クシャの元へと確かに届いた。しかしそれは、聞こえたところで既に対処の出来る攻撃ではない。
科戸の人形から放たれたユーベルコードは、外部を巻き込む事はないと確信された上で、その台が広がる範囲全体を、容赦なく風の刃で切り裂いた。
風刃による、嵐の中の三連続攻撃――。
そして、全ての風が吹き終えた時。
そこには呆然としているクシャと、台上で無惨なまでに斬り裂かれたクシャ人形が、ただ糸ごと散り散りになって転がっている光景が広がっていた。
可愛さと凶暴さのマリアージュ。強さと可愛さのギャップ萌え。
そんな、しなとちゃん人形の勝利に、見ていた子供たちは無邪気さを隠すこと無く大喜びしたのであった。
成功
🔵🔵🔴
刑部・理寿乃
動きを念じるだけで動くなら私でもできそうね
不謹慎ですけど興味深いし、やってみますか
・人形の容姿
19世紀辺り古めかしいデザインのヘルメット一体型の潜水服
右手がドリル、左手が大きな斧
・戦闘方法
動きは遅いけど高い耐久度と重い攻撃で攻めとカウンターを狙う
背中についてるタンクはドリル回す燃料があって、ドリルを過剰に回すことによりなんやかんやあって、直線方向に加速することができる。スゴイ!
・戦闘
方法に書いた通り脳筋仕様なのでガンガン攻めます
しばらくしたら相手もこちらの動きを理解するでしょう
トロい動きだ、と油断した所で虚をつくドリル高速突進(ユーベルコード)をぶちこみます
●想いの中身
「ひ、非道い目にあったにゃー!!」
段々、オブリビオンである『魔童クシャ』に泣きが入ってきた。そろそろ心臓の一つも食べて心癒やされたいというのに、猟兵達の邪魔によって一切それが叶わない。
しかし、同時に呑み込んだ妖怪の影響で、がむしゃらに無抵抗な子供を襲うなどという思案なども全くもって浮かばない。
ある意味この状況が一番、凶悪なオブリビオンであるクシャを押さえ込んでいる状態とも言えた。
「あ、動きを念じるだけで動くなら私でもできそうね」
今までの勝負を見てきた刑部・理寿乃(暴竜の血脈・f05426)が、ピンク色の髪を揺らし興味深そうにプロレスリングを彷彿とさせる台を覗き込む。
「そうそう、遊びの間口は広くなきゃにゃ。遊んでくれるなら、何でも答えるに」
今のクシャにとって猟兵とはオブリビオンとしては絶対的な敵でもあるが、同時に心臓という食事にもなり得る上に、呑み込んだ妖怪の感性としては遊び相手でもある。
来る者は拒まず、去る者も引き留める方向性。
「――では、不謹慎ですけど興味深いし、やってみますか」
理寿乃の、アメトリンバイカラーを思わせる瞳がきらきらと光る。クシャはさっそく、理寿乃をパーティションで区切られた、別部屋のパーツと人形素体の置き場へと案内した。
相手は、ふわふわとした様子の存在だから、作る人形もきっとフワフワとしたものになるのだろうか。
そのように理寿乃の手の先を見つめていたクシャは――その瞳に『刃渡りが、かなり大きな片手斧』を映し出した。
「に?」
思わず間抜けな声が出る。しかし理寿乃はうきうきとそれをキープすると、次に向かった布地置き場で『防水仕様のゴム素材』を。そして最後の一つに、人形の素体と同じくらいの大きさがある『巨大削岩ドリル』を確保した。
「――にゃ……?」
クシャの思考にハテナマークが浮かぶ。むしろ、それしか浮かばない。
だが、そんなオブリビオンの様子を気にする事なく、さっそく理寿乃は人形の作成に取り掛かった。
「まずは、やっぱり『右手にドリルを装着しないと』――ドリルは、全世界、全ての女の子のロマンだから」
「――」
もはや『女の子の多様性』を認められないでいるクシャには、理寿乃が何を言っているのか分からない。しかし、理寿乃本人にはもう人形の完成像が見えているのか、ざくざくと人形作成を続けていく。
そして、完成。
出来た人形は――古い、人類がようやく深海に進出出来るようになったのでは、という時代のデザインをした、ヘルメットが密着している宇宙服にも似た黒い潜水服と。
左手に斧を持ち、そして右手には装着巨大ドリルを所持した、クシャには非常に形容しがたい人形だった。
「………………」
人形をたくさん見てきたクシャにも分かる――流石に、ここまでキてるのは見たことがない。
ドリルと斧という破壊の権化を備えたPOW型人形、しかしこれを純粋にそう表現しても良いものであろうか。ただPOW型と、そう形容するには、それらに合わせられた潜水服がシュール過ぎて仕方がない。背中に背負った、死ぬほど重たそうな酸素ボンベのアタッチメントが、余計に一部のフェチにしか刺さらなさそうな空気を醸し出している。
何だか本当に、空気音で『シュコーシュコー』言い出しそうな雰囲気だ。
「……つかぬことを聞くけどにゃ……?
自分で使う繰り人形、ホントにこれでいいのかにゃ……?」
「ええ、これで」
動揺と困惑を隠しきれないクシャを前に。しかし理寿乃の笑顔は、どこまでも曇りもなければ疑いもない。
揺るぎの一切ない理寿乃のにこやかな笑みに、クシャの思考は完全に停止した。
「じゃ、じゃあ、始めるにゃ!
ぽ、ポンコツそうなこんなのに負ける訳にはいかないにゃ!」
そうして、自分の人形を台に上げて。いざ、戦闘遊戯開始と相成った。
――対峙するクシャから、明らかな戸惑いと畏怖が感じられるが、理寿乃は気にする様子もなく、人形にまずは斧を構えさせ、その場に佇ませている。
「何だか、落ち着かなくて背中がムズムズする人形にゃ……一発殴って様子を見るに」
そう心の呟きを声に洩らしながら、クシャ人形が先制を取りポカンと一発、理寿乃の人形を殴る。しかし、受け止めた理寿乃側には、全くダメージが出た様子がない。
ゴムっぽい素材で出来た潜水服の耐久度が、とにかく高いことに気付いたクシャ人形は、何かの気配に気付いて慌てて後ろに飛び退く――それを追うように、反撃の斧が轟音と共に振るわれた。
斧は空振り。だが、理寿乃の人形はそのまま重い足取りで距離を詰め、クシャ人形に向け、ドリルによる大ぶりの突きを連続で放つ。
「あっぶにゃいな!
のろま! そんなの当たんないにゃ。
――一気に攻めて、畳みかけるに!」
一撃受ければ無事では済まないが、当たらなければかすり傷一つ負わせられない。その戦闘スタイルを理解したクシャが、その場で自身のユーベルコードを解放し、己の人形に炎を纏わせながら爪による斬撃の衝撃波を撃ち放つ。
「きゃ……っ!」
それを躱しきれずに直撃した理寿乃の人形が吹き飛ばされて転がった。それでもその耐久性故に殆どダメージは無い。
理寿乃人形はゆっくりと立ち上がるが、そこに予測していたクシャ人形の追撃はない。
「これは、長くは使えないのがつらいにゃ……」
発動条件に寿命を削るユーベルコード。長くは使えないと、息切れしたクシャが判断し纏う炎を解除する。
「でも! こんなのなくても、トロい人形なんか何とでもなるに!」
そう叫び、無策で飛び込んで来たクシャの人形――。
その瞬間――理寿乃の目が、獲物を待ち構えていた獣のようにきらめいた。
――相手の虚を突き、理寿乃の人形が装着していたドリルが、突如高速で回転を始める――!
人形制作段階から唖然としていたクシャは気付かなかったが、そのドリルは背後の酸素ボンベっぽいタンク燃料と連動しており――理寿乃曰く、ドリルを過剰に回すことにより『なんやかんや』あって、直線方向に加速突進機能を付与することができるのである! スゴイ!
(この『なんやかんや』部分には、おそらく【全能神における宇宙の摂理規模の法則】が使われているのであろう。スゴイ!)
そのような理由からかは分からないが、格好良く火花を散らす、激しいドリルによる高速突進。
理寿乃はそこに、己のユーベルコードを躊躇いなく上乗せした。
ユーベルコード名称【O・F・B(オサカベフィニッシュブロー)】――至近距離からの超高速・大威力の『想いを込めた拳』(今はドリル)の一撃。
ここで少しではあるが――ユーベルコードに乗せられた、理寿乃の人形に込められた『彼女の想いの丈』を一部数値の形で紹介したいと思う。
パラメーター:『POW【+387】』
技能:『恐怖を与える【832】』
――からの、
『想いを……届けぇぇ!』
「ヒェエえええッ!!!!」
こわい――これは、こわい。
こんなもの向けられたら、めちゃくちゃ怖いに決まっている。
オブリビオンとはいえ、感情はあるのだ。妖怪を呑み込んで存在しているのであれば尚のこと。
それが、このような想いを乗せられて、避けられる程無事でいられるわけがない。
だが、かといって『この情熱と恐怖を、愛のように嘘偽りなく受け止められる』だけの頑丈さを、クシャ人形が持ち合わせていようはずも無く。
クシャ人形は、そのまま容赦なくドリルの生贄になった!!
WINNER! 理寿乃!!
「――うん、楽しかったかもっ」
「……もうやだ……もうやだにゃ。骸の海にかえりたい……」
こうして、全力でバトルを楽しんだ理寿乃の傍らで。
オブリビオンでありながらも、クシャのメンタル回復までには、かなりの時間を必要とした。
――こうなると、今取り込まれている妖怪の精神にトラウマが残っていないことを、今はただただ祈るばかりである――。
成功
🔵🔵🔴
終夜・日明
【アドリブ連携歓迎】
『』はUCで呼んだ具現体の台詞。
僕としては子供たちの救出を最優先にしたいので、ここは【指定UC】でレムレスを呼び、彼に敵と遊んでもらいましょう。
『仕方ないなあ、遊びたいし協力してあげるよ』
姿は同じですから敵の目を欺けるハズ。自身は『迷彩』で姿を消しつつ、子供たちを【言いくるめ】て避難誘導します。
レムレスに持たせたのはオルトロスを模した人形。
奴は僕以上に負けず嫌い、反則にならない範囲であらゆる手段を用います。
【星幽の雷驟雨】による【制圧射撃】とか、子供相手にえげつない手段もしれっと使うでしょう。
『勝ちたい気持ちに子供も大人もないに決まってるじゃん』
そうだけどさ……(頭抱え)
●手段と目的の一致は、思いの外難しい
(まず――この場にいる子供達を、何とか『超芸術トマソン』の外に退避させたいのですが……)
お腹もすいたし心も悲しい、しかし遊んではもらいたい『魔童クシャ』の案内を受けて。終夜・日明(終わりの夜明けの先導者・f28722)は、戦闘遊戯用の人形を組み上げつつ、脳内でこの建物の構造把握と、救出対象となる子供たちのいる場所を改めて確認していた。
この建物において、使われているのは一階部分のみ。パーツ置き場も戦闘台もパーティションで区切られた部屋となっており、完全な壁の概念がかなり少ない。
そして、何も知らない子供達は今、日明がいる同じ部屋で目新しい好奇心に瞳を輝かせながらパーツを集め、人形作成に夢中になっている。
可能な限り、疑われる事のないように。日明自身も、視界のひらけた席に場所を取り、己のキャバリアである『【Code-Week】Mk-Third《オルトロス》』を模倣した人形を作成していた。
ロボット系は人気であるのか、糸の繰り人形に於いてもそれをモチーフにする子供たちは後を絶たないのだと、パーツ部屋に案内された際に、日明に何を作るのかと聞いたクシャはそう答えていたのが記憶に残る。
実際、見渡した限りロボットの素体はかなり多く、組み立ても他の人形を一から組み立てたり布から縫い上げたりするよりも、パーツと合わせて組み上げるというシンプルな手順だけで、かなり手早く完成させる事が出来た。
作りながら、子供達の避難について考えようと思っていた日明にとっては、あまりに魔法にも近く感じられるほど早く『オルトロス』と再現率の極めて高いキャバリア人形が完成してしまい、若干の戸惑いを隠せない。
クシャはまた様子を見に来ると言っていた。出来れば、避難までの間は、オブリビオンを戦闘台に釘付けにしている状態で、安全な形で決行したい。
最悪、子供達はそのままであっても、いざとなれば繰り人形による勝負で、クシャの心をコテンパンに叩き折れば良いのであるが、可能であれば確実な形で、今いる子供達の身の安全を図りたい。それが今回の日明の計画であった。
自分があと一人いれば――そう思い浮かんだ瞬間。その手段の具体案に行き着いた時。日明は思わず地よりも深いため息をついていた。
――日明は、今のこの状況に、ほぼ最適解とも言えるユーベルコードを所持している。だが、その特性などを踏まえれば、可能な限り使いたくは無いものだったのだ。
「……仕方ありませんね。背に腹は代えられません」
再度、今度は覚悟を決めるためのため息。そして一旦、人の姿が見えないパーティションの死角に足を運び、日明は可能な限り静かに、己の造形と瓜二つの存在を生み出すユーベルコード【《蠱毒》顕現/舞台脚本『破滅人形』(ゲーブレッヒェン・プッペンシュピール)】を発動させた。
己の生命力を代償にして『生命への特攻』という【蠱毒】と銘打たれた概念の具現体が、まるで日明の鏡写しのような姿で現れる。
「レムレス、僕の代わりに敵の引きつけをお願いします」
『えー、どうしよっかなー』
レムレス、そう呼んだ自分と同一の姿に、一応の事情は説明をするが、自分の命を代償にして呼び出した概念にこのような態度を取られれば、確かに効率と使い勝手については『使いたくない』という言葉が出て来ても不思議ではない。
『仕方ないなあ、遊びたいし協力してあげるよ』
レムレスと呼ばれた存在は、しかしそれを存外早くに受け入れた。
日明とレムレスの姿は、払う犠牲が大きいだけに同じ装備品まで完全に模倣されている。これならば、敵の目を欺く事は、さほど難しくはないだろう。
「では、人形は完成しているので、お願いします」
日明は、レムレスに『オルトロス』を模した人形を持たせると、自分からクシャを戦闘台に行った上で、そこで勝負を受け引きつけて欲しいと頼み、その姿を見送った。
そして、日明はパーツ選びに夢中になっている子供達に、目立ちすぎない程度に片端から声を掛けて回る。
『もうそろそろ、お昼の時間。ここでは食事が出来ないから、一旦外にご飯を食べに行ってから、戻って来よう』――。
元気な子供たちは、お昼近くで既にお腹がすいていたのか、その言葉に次々と従った。
それは波及的な広がりを見せて、子供達は日明の後に続きつつも、半自主的に外へと出て行く。
「にゃ! どこにいくにゃ!?」
「ごはん食べに行ってくるよー! また戻ってくるねー!!」
子供達の元気な声が響き渡る。そのクシャの目に入る前に、日明は自分の姿を腕輪型の幻影発生装置で、一時だけ周囲の景色と同化するように消して見られないようにやり過ごす。
見れば、既にクシャの目の前には、もう一人の――否『オルトロス』人形を預けたレムレスが準備していた。
繰り人形はスタンバイ済み。そのような戦闘遊戯の寸前――動けないクシャを前に、こうして日明は無事に子供達を『超芸術トマソン』から脱出させることに成功したのである。
「うあー! 子供達がいなくなってしまったにゃ! こうなったらお前さんの心臓をもらわないと気が済まないにー!!」
『いいんじゃない? ――取れるものならね』
こうして日明の代わりのレムレス、そしてクシャとの繰り人形戦闘が開始された。
『でも、子供だからって遠慮とかしないよ? せいぜい頑張ればいいんじゃない』
「むにゃー! いちいち気に障るにゃ! 早期決戦で仕留めて追い掛けるに!!」
レムレスの言葉に乗ったクシャが、その人形の下半身を、開始直後から猫へと獣化させ、加速と共に鋭利な刃物のように尖った爪による一撃を『オルトロス』人形に突き立てようとする。
――瞬間、レムレスの濃青の宝石で飾られた腕輪が一瞬僅かに燦めいた。それは、日明も所持していた腕輪型の幻影発生装置。
それが何かを知らないクシャを前に、それは戦闘台の上空に、無数の小型戦闘用端末――ユーベルコード【星幽の雷驟雨(シュトゥルム・アストラルブリッツ)】を模した幻影を映し出すと、クシャ人形の足元に一斉に可視光による熱量を伴わない光のみのレーザービットを、台そのものを埋め尽くすようにばら撒いた。
「うにゃぁあ!?!」
クシャ人形が思わず怯み『オルトロス』人形への攻撃を中断して、体勢を崩しながら後ろへとひっくり返る。
――レムレスは、その全てが幻影である可視光の中に一筋。オルトロス人形が装備していた、レーザーライフル型『CW-MkⅢ:MU-Sickle』の、確かに熱量の籠もった一撃を交えてクシャ人形を狙い撃った。
幻影により混乱している中で体勢を崩し、更にはその眩しい光の中に交えた『唯一の一撃』を躱す術など、クシャ人形が持ち合わせているはずもない。
そうして――その無慈悲なレーザーライフルの一閃は、確かにクシャ人形を焼き焦がして貫いた。
「またヘンなユーベルコードに負けたにゃー!」
クシャは泣きながらそう叫ぶ。しかし、あれ自体はユーベルコードの効果ではない。
これに関しては、正確なルールを説明していなかったクシャが悪いのであろうが、戦闘台外部からの道具干渉は、間違いなく『ひきょう!』の領域である。
「あのさ……」
クシャがまたべそをかきながら自分の人形の予備を取りにいっている間。
日明がその話を聞いて、呆れたようにレムレスを目にした。
『そんなの――勝ちたい気持ちに子供も大人もないに決まってるじゃん』
レムレスは、あまりに当然とばかりに、あっけらかんとそう口にした。
「そうだけどさ……!」
オブリビオンは倒さねばならない存在。しかし、今回に限って言えば、相手も相手である。
いくら子供たちと共に、猟兵の心臓が狙われているとはいえ、仮にも遊びの枠に自分の姿をしたレムレスが叩き付けた『大人げの欠片もない、全力によるひきょう極まりなさ』に。
日明は思わず胸と胃を痛めながら、こちらも全力で頭を抱えずにはいられなかった――。
大成功
🔵🔵🔵
キリジ・グッドウィン
メルメっち(f29929)と
人形ねぇ…ま、こうならざるえないトコはあるか
黒く無骨な自分の接近戦用量産型キャバリアを模した人形。名前は『(今回のキャバリア名)』で
(脳で直接繋がらない自機を見るのは思ったより違和感あるな)
…ってメルメっちなんか楽しそうじゃね?最近割となんでも楽しそうって感じもするが
じゃ、オレのがフロントで
即間合いを詰めての先制攻撃
そのまま挑発のポーズ。がおー。あ、ちゃんとそれも反映するんだな?
攻撃はRX-Sランブルビーストの両爪で受け止める。爪と爪とで鍔迫り合いといくか
隙を見てグラップルで掴み高く放り投げメルメっちの全武装のそれを待つ
待たせたなメルメっち、全弾ぶつけてみろ!
メルメッテ・アインクラング
キリジ様(f31149)と
「――そこに現れたのは、二体のキャバリアでございました」
お人形劇のナレーション風の台詞と共に救援に駆け付けます
私のクロムキャバリア『Hanon-60』を装備ごと模ったお人形で勝負を受けましょう
「ふふ、失礼致しました。キリジ様が心強く、つい高揚してしまいまして」
キリジ様を後方から支援。お人形を繰り、装備の一つのRS電磁連射銃を【乱れ撃ち】【援護射撃】です
「お速いですね。鈍重な機体では付いていけない――と、お思いですか?」
敵の動きを【見切り】『オーバーブースト・マキシマイザー』。全武装で【制圧射撃】でございます
「ええ、キリジ様。……胸の鼓動を、ここで止めたくはないのです」
●ヒーローは格好良く魅せる存在
「子供たちみんないなくなってしまったにー!」
先の猟兵の救出作戦によって『超芸術トマソン』からは、子供の気配が殆ど消え去った。自分の人形の予備を運び込んで、戻って来てからその事実に気が付いた『魔童クシャ』は、淋しさと心臓を食べたい欲求で余計に落ち込みながら、それでも残った子供に声を掛けて回っていた。
「え……やだやだ! 怖いよぉ!!」
そして。長くいた分だけ人形が完成してしまった子供がターゲットとなり、台に上がる直前に『負けたら心臓を』という事実を知り、その怖ろしさに大泣きし始める。
これがこのオブリビオンにとっては遊びの延長であるのだから、子供にとって恐怖は一際際立つものであろう。
「メルメっち、あれか?」
「……そのようですね」
そこに、二人の猟兵による人影が飛び込み、子供を守るように盾になりクシャの目の前に立ち塞がる。
「『いたいけな子供の危機――そこに現れたのは、二体のキャバリアでございました』……と。
大丈夫でございますか?」
「おうおう、分かったからそんな泣きじゃくるんじゃねぇよ」
立ち塞がり、大声で泣き叫ぶ子供に優しく声を掛ける二人の猟兵――メルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)と、キリジ・グッドウィン(proscenium alexis・f31149)に、先程から一度も勝っていない上に、じゃまをするその全てが猟兵という苛立ちをうけて、クシャの心が怒りで沸き立った。
「まーたー! 来たにゃー!
ことごとくっ、ことごとく!『猟兵』は、おいらの遊びの邪魔をして!!
そろそろ本気で繰り人形勝負して、お前さん達の心臓から先に、ぜぇんぶカッ喰らってやるんだにゃー!」
そのオブリビオンの一言で、キリジとメルメッテという遅れて現れしヒーロー達にも、一瞬で今置かれている相手の状況を理解した。
「へー、ふーん、ほー。
つまり、てめぇ他の猟兵にも、人形勝負で負け続けってことか」
キリジの言葉が、容赦なくクシャの胸に突き刺さる。実感したくなかったその事実に、クシャは衝撃を隠さず、表情筋ごと顔を引き攣らせながら、全力で叫び上げた。
「お前さん達も、急いで自分の人形を用意してくるに! 勝負でコッテンパンのボッコボコにして、その心臓貪り喰ってやるに!!」
そう言えば、確かに依頼で心臓がどうのなどという、そんな言葉を言っていた気がする。確かに、強いとは言っていた。ならば手っ取り早く子供を完全に助け切り、キャバリアで『超芸術トマソン』ごと、建物を外部から粉砕微塵にすれば良いという訳にもいかなさそうだ。
「人形ねぇ……ま、こうならざるえないトコはあるか」
これは確かに面倒だと、キリジが呟く。
同時に、それでは――と。傍らのメルメッテが、いつもの様子とは少し異なる、その胸が僅かに弾む様子を自らでも聞きながら、その言葉に同意を示した。
「では、私のクロムキャバリアから、装備ごと模ったお人形で勝負を受けましょう」
「『きゃばりあ』って、さっきも見たけどロボットにゃね。ロボットは子供のみんなの花形だから、パーツもたくさんあって素体もしっかり揃えてあるに。死んでも後悔しないように、時間だけはやるから全力で選んでくるに!」
そうして今まで受けた状況からも、余程心がすり減っているのであろうクシャは、二人に碌な説明もせず、メカボディが置かれた人形素体と、硬質パーツが並べられた部屋へとポイッと追いやった。
「なるほど。ここで、人形を自作すればよろしいのですね」
状況を理解したメルメッテは、さっそく自分の主である存在から賜ったキャバリア練習機である『Hanon-60』をイメージして、紺色をベースにした単眼の頭部を積んでいるロボット素体を見つけ出してきた。そして実物とのそっくりさに目を細めると、今度はそれに取り付ける装備パーツを探し始める。
「必要となります装備は――『RS電磁連射銃』『BS重力砲』と……念の為に『BXS熱短刀』も可能でしたら……出来うる限り、それに似たパーツがあると良いのですけれども」
「……って、メルメっちなんか楽しそうじゃね?
最近割となんでも楽しそうって感じもするが」
いそいそと、本当にお人形遊びでもするように強化パーツを吟味していくメルメッテに、キリジは不思議そうに声を掛けた。
少なくとも、出会ったばかりのメルメッテは、ここまで――……何であろう。これを、なんと表現すれば良いのだろうか。キリジの中で、相手の感情を指し示す言葉が浮かばない。最近、心の中にはあるものがどうしても上手く出てこない事に、キリジは己が胸の内に、若干のもどかしさを呼び起こす。
しかし、メルメッテはそれらの言葉の意図を悟ったのかのように応えてみせる。
確かに――メルメッテにとって、己が動かす人形の部品を自身が選ぶ、という体験そのものが新鮮であり、真新しい体験ではあったけれども。
「ふふ、失礼致しました。キリジ様が心強く、これからの勝負というものにも、つい高揚してしまいまして」
「あー……なるほど? ――じゃあ、少しこっちも頑張ってみるかね」
正直、改めて人形などを作るというのは、まどろっこしいものだと思っていたが。まあ、今回の連れであるメルメッテが、いつになく楽しそうにしているのならば、と。それに乗らないのも悪そうだと、キリジはそこに一つ思考の置き場を作る事にする。
それならば、万一にも手を抜くような道理はない。さっそくキリジの側も、自分の所持している無骨さが露わとなった、装甲を黒く染めている改造近接仕様量産型キャバリア『GW-4700031』に近しい素体と、己の主力となる武器とほぼ同じ働きをするパーツを手に入れた。
ロボットの組み立ては、通常の人形のカスタマイズよりも遥かに簡単で。ただ重ね合わせていくだけで生み出されたかのような、プラモデルよりも簡単なのではないかと錯覚がする程のものだった。
「完成。こりゃ楽でいいな。
――じゃ、名前は『ジャクリーン』で」
「こちらも完成致しました。――それでは、さっそく持っていって始めましょう」
そうして、繰り糸で念じて動かすキャバリア人形『ジャクリーン』人形と『Hanon-60』人形のニ体に対し、クシャ人形一体が台の上に上げられる。
「本気を出したおいらなら、ニ対一でも全く問題無いにゃ。
――『きゃばりあ』は嫌いに! めっためったにしてやるに!!」
どうやら他の猟兵への恨みが、クシャの中でかなり根深く残っているらしい――斯くして、繰り人形戦闘遊戯は始まった。
(しかし……脳で直接繋がらない自機を見るのは思ったより違和感あるな)
キリジのキャバリアは通常、脳から直接、ほぼ神経反射に近い操作で動かされるもの。それが繰り糸人形では、一度その行動を思考しなければ動かない。同時に、その視点は完全に切り離された外部というのは、少なからずキリジにとってはハンデとなる。
「それでは、どちらが参りましょうか」
「じゃ、俺がフロントで」
それらを踏まえ、メルメッテの問いにキリジは告げる。不慣れであればこそ、日常の戦闘スタイルと近いしい行動の方が良いであろう。
「では――後方から援護致します」
メルメッテの人形『Hanon-60』は、言うが早いか、クシャ人形がこちらの様子を見定める前に、ほぼ完全に自機イメージで複製された装備の一つ『RS電磁連射銃』を構え。そして、キリジの『ジャクリーン』人形がクシャ人形へ向かえる道のみを確保すると、それ以外の全面積を、実装されている電磁徹甲弾を放って、ばら撒くように埋め尽くした。
「わっ!?」
台そのものは無傷であるが、台上のほぼ一面が徹甲弾の着弾と同時に小爆発を起こし、クシャの気を大きく逸らす。
「――よっ、と」
その隙に『ジャクリーン』人形は、唯一と言ってもよいクシャ人形へ開かれた弾丸の道を駆け抜け、拳で先制ジャブの一撃を放つ。
「ひぇっ!」
一気に距離を詰められたクシャから悲鳴が上がった。そして、先制攻撃はなんとか躱したものの、大きくよろけたクシャ人形に対して――『ジャクリーン』人形はその目の前に立ち塞がり、装備された主武器『RX-Aランブルビースト』の爪を露わに両手両足を大きく広げると、ライオンっぽく、ちょっと間抜けなくらいに己の存在をアピールした。
「がおー。
あ、ちゃんとそれも反映するんだな?」
キリジの中に揺れる少しの新鮮な驚き。
そして『ジャクリーン』人形自体は、その後特に何もすることはなく、尻餅をついたクシャ人形の前で、サイズ的にも可愛らしいその挑発アピールを続けている。
「へ……? ば、ばかにすんなにゃー!」
クシャの叫びと共に、クシャ人形が怒りに跳ねるように起き上がる。
次の瞬間、見るからに分かる激怒と共に、炎を生んだユーベルコードがクシャ人形の身を包み、衝撃波を己の爪に纏わせると、それを『ジャクリーン』人形へと一気に叩き付けた。
「おっと!」
苛烈を増し、一歩間違えればこちらの装備が叩き割られる攻撃を、キリジは瞬時の判断で、両手を広げていた『RX-Sランブルビースト』の爪を一つに交叉させて受け止める。空間を擦り割るような、鋭くもいびつに響き渡る激しい鍔迫り合いの音が響き渡った。
「おとなしく、叩き割られるにー!」
「いやだね!」
ほぼ拮抗状態を見せたそれは、あっという間に人形同士の負荷と繰り手による根性勝負に持ち込まれた。しかし、クシャの使用したこのユーベルコードは寿命を削る――持久戦は出来ない。そう判断したクシャは、人形に一度限界までの力を叩き込み、それでも耐えた相手の爪を弾き飛ばして、横へと大きく飛び退き距離を取った。
「こっちの兄ちゃん、キリないに!
なら、まずはトロそうな、そちらからにゃ!」
クシャ人形の炎が消失し、代わりにその下半身が獣へと変化する。瞬足を手に入れたクシャ人形は、その勢いに乗って駆け出し、対峙していた『ジャクリーン』人形の傍を抜けると、メルメッテの操る『Hanon-60』人形にターゲットを絞り込んだ。
――あわせて、驚くほどの速度で迫る、斬り裂かれればひとたまりも無いであろうその爪が翳される。
しかし、メルメッテは人形と共に、それを正面から僅かにも逸らす事なく見据え続けた。
「お速いですね。
鈍重な機体では付いていけない――と、お思いですか?」
『Hanon-60』人形のボディに突き立てられようとしていた、無数の針すら思わせる鋭い爪。
確かに、メルメッテが操る『Hanon-60』は俊敏な機体とは言い難い。しかし、一点でしかないそれを見つめ続けたメルメッテは、愚鈍であればこそ、一切の無駄がない最低限の動きを以てそれを完全に躱し切る。
「うわぁっ!」
空振りした爪をそのままに、脇をすり抜けようとするクシャ人形に『Hanon-60』人形が軽く足払いを掛ければ、クシャ人形は繰り手の悲鳴と共に、弾けるように大きく宙を舞った。
――そして。その先には、キリジの繰る『ジャクリーン』人形の姿が。
敵に出来たあまりにも大きな隙。飛来するクシャ人形を華麗に容赦なく掴み上げると、戦闘台の上空へと力任せにぶん投げる。
「何するにゃー!!」
クシャにしてみれば、自分の人形が上空に放り投げられるなど経験したことがない。人形に付けられた何本かの糸が切れる。そして体勢を立て直せないままに、限度まで糸が伸びきり、これ以上は無いという高さにまで達した瞬間。
「――待たせたなメルメっち、全弾ぶつけてみろ!」
高らかに響き渡る、キリジの声。
同時に『Hanon-60』人形は、今まで装備していた全ての砲撃と投擲武器を、ユーベルコードの力を伴い完全展開させていた。
ターゲットは――もちろん。中空に放り出されたせいで、動きに何のよすがも得られないクシャ人形。
「ええ、キリジ様。……胸の鼓動を、ここで止めたくはないのです」
メルメッテの乳青色の瞳が、強い言葉と共に宝石のような光を放つ。
そして発動させたユーベルコード【オーバーブースト・マキシマイザー】――装備している全武装により解放された『RS電磁連射銃』『BS重力砲』そしてとどめとして投擲された『BXS熱短刀』――その圧倒的な蹂躙火力で穿たれたクシャ人形は、一瞬にして消し炭となったのである。
「――あ……跡形も残ってないにゃー……。
慈悲の、慈悲の心はお前さん達にはないのかにゃ~?」
そんなもの、人の心臓を食べようとしてくるオブリビオンに言われたくはない。
しかし、心に激しいダメージを負ったクシャは、見るからに分かる程、瞳に大粒の涙を溜めながら、べそべそと次の予備人形を持ってきた。
「人形の数もないし……もう、どんどん自信なくなっていくに……。
おいら、こんなに人形繰り下手だったかにゃ……?」
だが、その呟きだけは――今までの経緯を考えてしまえば、確かにほんの少しの同情と哀愁を誘う。
しかし勝利は勝利。
しかも、これはキリジとメルメッテのコンビによる、完全勝利の結果であった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
人形原・九十九
くすくすくす…人形で人形遣いの九十九の前で繰り人形とは笑止千万
それでは、お前の人形の操作見せてもらいましょうか
九十九は自身そっくりの和人形を
えぇ、この方が使いやすいですので
戦いが始まったらUCを、そう、これは九十九が操作…つまり装備してる人形……であれば
70体の人形、そしてこれの操作は念力で操作する
後は、わかりますね?
戦とは数でするものだとか、これで終演と参りましょう…
あぁ、終わった後に一言
九十九に緻密な操作は及びませんが…あの素早い操作は良いものでした
また、平和になったら受けて立ちますよ?
●踏襲すべきは戦の王道
「もうこうなったら、誰でもいいから一緒に遊ぶにゃー!」
猟兵達が来てから、全てが黒星続きで何をもっても上手く行かない――こうなると、妖怪生どころか、死んでいる骸魂オブリビオン生すら侭ならなく感じられるものだ。
「予備の人形が、このままではなくなってしまうにゃ……わーん! こうなったら誰でもいいから、一緒に遊んで心臓だけ無抵抗に差し出して欲しいにー!」
段々言っている事まで混乱してきた『魔童クシャ』――そんな憐れましさすら滲ませてきたオブリビオンの元に、小さな小さな含み笑いが聞こえてきた。
……くすくすくす……と。鈴の音のように玲瓏であり、しかし一応に人の声でありながら、それはあまりに冷たくクシャの耳朶をくすぐり響く。
「こんな非道い目に遭ってるのに、笑っているのは誰にゃ!?」
クシャが声のした方を勢い良く睨み付ける。
すると――そこには、ひとつ。
否、まだ生まれたばかりで表情をもたず、代わりに人形の面差しをあまりにも強く備えた、一人のヤドリガミの姿があった。
美しく整えられた長く艶やかな黒の髪。髪の漆黒が引き立つ、生地の麗しい着物には桜の染めと赤い帯――。
「人形で」
とつ、と。その場にひとつ言葉が置かれた。
人形のように固い表情の中に、その瞳だけが静かに細められる。
「人形遣いの九十九の前で繰り人形とは」
そこに映し出す、クシャを映し出す瞳の黒耀は、
「――笑止千万」
敵対するオブリビオンへと――滑稽さを伴った、侮蔑の色を備えて相手を捉えた。
「なぁー! よくもそこまで言ったにゃね!!」
クシャが怒り心頭に発するとばかりに、その身にぶわりと獣を思わせる殺気を露わにして、目の前にいる人形原・九十九(ヤドリガミの人形姫・f09881)へと向けた。
「なら、勝負するにゃ! ここで動かす人形作る時間くらいはくれてやるから、ボッコボコにして、その美味しくなさそうな心臓を差し出すにゃー!」
「……それでは、お前のその人形操作、見せてもらいましょうか」
その猟兵――九十九は、クシャよりも幼い外見でありながら。その気配は、存在を丁重に扱われ百年の経過を経た寵愛からの自信とその威圧感を、敵を前には不要とばかりに隠しもしない。
「に、人形はこっちだにゃ!」
相手の様子にクシャはたじろぎながらも、九十九を人形の素体が置かれた部屋へと案内する。
ツクモガミに成り立ての九十九は、その己の表情を、適合する表現を顔に見出せず、再び無表情に戻しながらその場の素体を見て回る。
しばらく、吟味するようにその場の人形を見て回り。九十九がそうして手にしたものは、一般的に『姫君』を呼称される、身分高くそして美しい女性の和人形だった。
「それ、そっくりにゃね。そこまで似た人形でもいいのかに? 動かしていたら退屈したりしないかにゃ?」
「ええ、まずはオブリビオンを仕留めるために、同じに近しい方が使いやすいですので」
「ヒェッ!!」
その言葉には、まだ殺意が浮かんでいた訳ではない。表情も変わることはない。だが、受けた説得力は本物だった。
思わず悲鳴を上げるクシャをよそに、九十九は戦うに丸腰では意味がないと、静かな足取りでパーツ置き場に向かい、自身が振るうなぎなたと同じ物を選び持たせることにした。
台に寄れば、静かに場が凍り付く。九十九との間に漂う空気は、そのような表現が的確なのかも知れない。
互いに己の人形を台に上げる。九十九の口許にそっと、その貌を凝視し続けてきた物好きだけが分かる程度の、微細な微笑みが浮かべられた。
そうして、奇しくも完全に互いの繰り主の姿を完全に模した、繰り人形による戦闘遊戯が開始された。
「もう、今回ずっと猟兵たちの能力で負け通しにゃ!
先手、取らせてもらうに!」
クシャが台の反対側から叫ぶ。だが、クシャが宣言する間にも、先手でユーベルコードを使用する事を躊躇わなかった九十九は、あまりにも静かな仕草で、既に己のユーベルコードを解放していた。
それが、僅かに時間が必要となる『完全展開』されるのと、クシャ人形が己の半身を躍動感溢れる猫に変えるのとは、ほぼ同時。
「――!!」
クシャ人形の目の前。その眼前に広がったものは――どれもが、一つの例外もなく。なぎなたを手にした、七十個近くにわたる九十九の繰り人形だった。
「また幻覚かにゃ!? もう騙されないにゃ!」
一度他の猟兵の行動に見事に引っ掛かったクシャは、躊躇わずその群れの中に飛び込もうとする。
しかし、その中から向かってきた数体の和人形が、それをただの的だと言わんばかりに、クシャ人形の胴体に向かい己のなぎなたを突き立てた。
「――に!?」
攻撃を受けた確かな実感――クシャ人形は一旦離れ、動作に支障はない身体に突き刺さったなぎなたを、驚きながらも引き抜いていく。
「このユーベルコードの元となるものは、九十九が操作……つまり装備してる人形。
……であれば」
九十九のユーベルコード【人形操作(ニンギョウソウサ)】――それは己の装備している人形を強さの数だけ展開し、ばらばらに操作するもの。
「70体にも及ぶ人形――そしてこれの操作は、全て九十九が念力で操作する」
中空に広がった無数の人形が、僅かな刃音を鳴らし、一石になぎなたをクシャ人形へと向ける。
「後は、わかりますね?」
全ての人形によるなぎなたの矛先が、クシャ人形へと向けられていた。この数に特攻されれば、クシャ人形など槍衾に磔にされるようなものだ。――更にクシャには分かってしまった。自分は、これを完全に打開する手札を所持していないのだ、と。
「むにゃー! こうなったら意地でも潜り抜けてやるにー!!」
半ば自棄を起こし、下半身を猫として激しい加速能力を手にしたクシャ人形を、クシャはぎりぎりまで助走をつけて、一気に上空へと跳躍させる。
そして、中空に浮かぶ和人形達の集合体に近い壁を飛び越えると、九十九が操る最初の一体――最初の人形だけに狙いを定め、その凶悪な爪を翳し力いっぱい振り下ろした。
「――」
人形達をこちらに旋回させるには間に合わない刹那。しかし、それでも繰り手である九十九は、一切表情を変える事はなかった。
その鋭すぎるまでの爪は――九十九の繰り人形の背後からこそりと出て来た、他とは違う完全な別行動を取っていた、七十体に及ぶ和人形最後の一体が庇い出て、その爪に深々と貫かれる事で引き受けたのだ。
「……ユーベルコードとはいえ、九十九の人形が。一体でも傷付けられるのは、つらいものです」
その言葉を合図として、浮かぶ人形群に背を向けていたクシャ人形は、背後に確かな寒気を感じた。
視線を巡らせるまでもない、今の僅かな隙の間に、クシャ人形は完全になぎなたを突きつける他の人形達に包囲されていた。
「戦とは数でするものだとか。
では――これで終演と参りましょう……」
九十九の表情は無表情のまま変わらないが。
その心を、感情を代弁するように――数える事の無為を示す、無数のなぎなたがクシャの人形に糸を引き裂き、その全身に突き立てられた。
「……こんなのどうすれば良かったにゃ~……!」
台から人形を降ろし、もんどり打つようにクシャは頭を抱えた。
そこに、猟兵として自分に行える事を終えた九十九が、相手にひとつ声を掛ける。
「九十九に……緻密な操作は及びませんが……あの素早い操作は良いものでした。
また、平和になったら受けて立ちますよ?」
「うーあー! この上から目線ん~! くーやーしーいーにゃー!!」
しかし、現実――今回は九十九の完封勝利である。クシャは、そろそろ悔し涙すらも枯れてきた。
――ここまでくれば、そろそろクシャ人形の予備も尽きる頃……あともう少しである。
成功
🔵🔵🔴
花染・あゆみ
絡繰り人形……!
この戦い、人形好きぬいぐるみ好き、として……是非とも受けて立たなく、ては…
人形は……ふわふわしたクマさんにしましょう、か
大きくてもふもふで、思わず抱き着いてしまいたくなる、ような…
武器はわたしが持ってるものと同じ感じの、ナイフとソードブレイカーを
愛らしいですが逞しい、クマさんの完成です…
敵の攻撃はソードブレイカーによる【武器受け】で対抗を
受けたら、【カウンター】で反撃します
【怪力】でそのまま捻じ伏せて、UCを発動させます
噴出した地獄の炎をナイフに纏わせて、畳み掛けるように【蹂躙】って……
そういえば、ホラー映画に居ましたよね、こういう人形…
なんか想像と違うような……可愛くないです
●これじゃない。
「絡繰り人形……!」
そこにあったものは、部屋一面の壁棚に飾られ、ちょこんと鎮座している無数の人形の数々。
それらを花染・あゆみ(夜明けの光・f17667)が、まるで朝焼ける暁光の一瞬を掬い取ったようなオレンジ色の瞳を、大きく見開き見渡しながらも、同時に細部まで凝視するような仕草で見つめていた。
依頼によれば、多種多様な人形を自分で作り操って、オブリビオンを倒すのが今回の目的なのだとか。
――これが、人形からぬいぐるみまでに胸ときめかす、あゆみの心に響かない訳がない。
「この戦い、人形好きぬいぐるみ好き、として……是非とも受けて立たなく、ては……」
心に決めて遠くに目をやれば、今回のターゲットであろうオブリビオン『魔童クシャ』が、何やら話し掛けるのも躊躇われる雰囲気で立ち尽くしている。
「あ、の……」
「うぅ、予備がこれも数えて後二体になってしまったにゃ……。一番精巧なオリジナルなんて、もう最初に壊されてしまったし……。またオリジナルレベルの人形から作り直すのがどれだけ大変だと思っ――わああ!!」
「きゃあぁ……っ!」
あゆみの気配に気付くのすら時間が掛かる程に心沈んでいたクシャが、ようやく驚きと共にこちらを目にして飛び跳ねる。
そのようなクシャの様子に、こちらまで驚いたあゆみは、動揺に震える心を何とか抑え込みながら、緊張の面持ちでクシャに話し掛けた。
「あ、の……使う、お人形……は、ふわふわでも……大丈夫です、か……?」
「遊んでくれるに!? もちろんにゃ! 予備が不安だけれども、遊びたいにゃ!
――もういい加減『猟兵』っていう、凶悪かつ獰猛な輩続きで疲れてきたに……! おいらも、ここでふわふわしたお人形と遊びたいに」
どうやらクシャ自身もかなり消耗しているのか、あゆみも猟兵であるという認識が完全に擦り切れているようだ。
あゆみは、その旨を改めて伝えるべきか真摯に悩んだが、結局その目に映る相手の痛ましさに、これ以上の事実を伝えて良いものかと思い直して。それ以上は口にすることなく、人形制作の手伝いをしてくれるというクシャについて行くことにした。
「ふわふわ、どんなのにするにゃ?」
「ぬいぐるみ……が、いいなと思って……いるの、ですが……」
「どのくらいの大きさがいいに?」
「そうで、すね……。
大きく、て。もふもふで……思わず抱き着いてしまいたくなる、ような……」
それを聞いたクシャは、別室の陳列素体を見渡して、その中から一体のぬいぐるみを指し示した。それは、あゆみが想像したものより若干小さなものであったが、確かに抱き着いてぎゅっとするには心地の良い大きさだ。
「大きすぎると、台の上で動かせなくなるから、この位が限度にゃね。これでも大丈夫かに?」
クシャが一抱えあるクマのぬいぐるみをあゆみに渡す。そのまま、希望より小さいけれども、腕を回すには少し大きいぬいぐるみの抱き心地は素晴らしいものだった。
「は、い……! この、クマさんにします……」
「次はパーツにゃ。何か希望はあるかに?」
「それ、じゃあ――」
そう告げて。あゆみは先程ちらりと盗み見た他の部屋――短剣を含め『アタッチメント的な、刃物が揃い並ぶ部屋』へと足を踏み入れた。
想定外の驚きと共に後をついて行くクシャをよそに、あゆみはそこから、まるで己の所持するナイフのレプリカのように、繊細ながらも鋭い白銀に燦めく一振りのナイフと。
自身も所有している、厳つく見えるが扱い勝手がとても良い、使い方一つで戦況すらもひる返せる武器――ソードブレイカーを手に取った。
「………………」
それを目にしたクシャの喉が、ごくり、と。今はまだ些細で済んでいる恐怖に鳴る音が響き渡る。
そのようなクシャの目の前で、あゆみは心嬉しそうに瞳に優しい眼差しを浮かべながら、抱えていたクマさん人形に、そのナイフとソードブレイカーを即座に臨戦態勢に入れる位置へと装着させた。
「これ、で……愛らしいですが逞しい、クマさんの完成です……」
――どうやらこれで、あゆみの人形は完成形となるらしい。
その『クマさん』の姿に、あゆみは心のどこかに湧く安心と、ゆるやかな幸福感を携えて微笑んだ。
確かに可愛いクマである。――武器さえ、装備していなければ。
そのような、幸せそうな様子を隠さないあゆみに向けて。
ここまで案内をしてきたクシャは、既にこの段階からもう逃げ出したい程の、嫌な予感しかしなかった――。
人形を台の上に置く――そして、繰り人形による戦闘遊戯は開始された。
「かわいさに良心を痛めるべきにゃのか……。それとも早くに倒して、肌に感じるこの不穏な雰囲気から解放されて、己が幸せになるべきなのか。本当に分からない人形にゃ……」
敵対するクマさんのぬいぐるみに、困惑を露わに隠せないクシャ。しかし、どちらにしろ倒さなければならないならば。
クシャは出来るだけ、ふわふわな相手の人形の無惨な姿は見たくないと、己のユーベルコードを発動して短期決戦に打って出た。
相手の人形との距離を、持ち前からの素早さで詰め、一気に懐近くまで身を寄せる。そして、その場で翻した己の爪を以て、自分より大きめのクマさんの首を一撃で刎ねようと一閃させた。
だが、その攻撃は――クシャの想定以上に、あまりにも容易く受け止められた。
クマさんの手にしていたソードブレイカーが、爪をギシギシと嫌な音を立てさせながらその凹凸ある刃で防いでいる。一度絡め取られるように捉えられたら逃げるのは困難。慌てて爪を引き戻そうとしたクシャ人形の隙を狙って、クマさんはもう片手に握っていた白銀が煌めくナイフで、隙だらけであったもう片方の腕を斬り裂いた。
――その瞬間、クシャは繰り主から戦闘慣れの気配を感じ取る。幼い姿を甘く見過ぎていた――クシャは血の気を引かせながら離れ、急ぎ己のユーベルコードを発動させた。
「墜ちるにゃ!」
クシャ人形は炎を纏い、それを伴う無数の衝撃波をクマさんに放つ。大きさの代わりに回避に難のある、その手の一部が小さく斬り裂かれた。
だが、あゆみはその傷一つすらも大して気にする様子はなく。ソードブレイカーを仕舞うと、自由になった片手で、先程のナイフの一撃により意思伝達が上手く行かなくなったクシャ人形の腕を掴み取る。そして勢い良く台の上へと叩き付けると、驚くほどの力で床にクシャ人形を押し付けた。
見開かれたまま戦況を見つめるあゆみの瞳には、本来ならば年頃の少女にありがちであろう、感情の揺らぎが殆ど見受けられない。
――そこからは、流れるような仕草だった。
クマさんの傷付けられた腕から、ブレイズキャリバーの特性を汲んだ炎が、あゆみのユーベルコード【ブレイズフレイム】として爆発するように噴き上がる。
「うわあ! 燃やされるのは待ったにゃー!」
クシャの悲鳴が響き渡るが、噴き上がった地獄の炎は、手にしていたナイフの柄刀身の全てを染め上げて。
――クマさんは、床に押さえ込んでいたクシャ人形を、炎の乱撃と共に炭になるまで容赦なく滅多刺しに――。
「……」
そこまでして。あゆみはふと、その無惨な光景を目にしながらも、今ある現実を遠ざけるように、どこかへ思いを馳せていた。
(そういえば……ホラー映画に居ましたよね、こういう人形……)
それは――気付かない方が、良かった事実であったかもしれない。
(なんか……想像と違う、ような……)
これは、どういうことだろう。
――自分が、最初に夢見て作った『愛らしいが逞しい』クマさんは……はたして、こんな感じであっただろうか――?
「また炭にされたにゃー!!」
クシャの絶叫が響き渡る。
既に勝敗は――完全にあゆみの勝ちとして、その場に刻まれていた。しかし、
「……。
これは……可愛く、ない……です……」
「酷いにゃ! お前さんの人形が、今までで一番獰猛だったにゃー!!」
思わず、今にも零れそうな涙目で呟いたあゆみに、叫び散らすクシャの声が心に痛い。
『ちがう――思っていたのと、違う。そうじゃない』
自分が最初に可愛いなと思ったものは、こんな、相手に悲鳴を上げられるようなのじゃない……。
うつむくあゆみから漂う、哀しいまでに溢れて止まらぬ【これじゃない】感。
こうして、勝利とは裏腹に。
完全にあゆみの心は、哀しみの底に沈みきったのである――。
そして、同時に。遠くから、まだ残っていた涙をぼろぼろにこぼしたクシャの嘆きが聞こえて来た。
「人形の予備が、あと一体になってしまったりゃ……
人形のないおいらなんて……おいらなんて……」
……もう。この勝負に、勝者など何処にもいないのかも知れなかった。
少なくとも、今ここにあるものは。あゆみにとっても、クシャにとっても。
ただただ、溢れんばかりの『悲劇』だけであったのだから――。
成功
🔵🔵🔴
白斑・物九郎
●WIZ
なんか俺めと似たようなツラした手合いですわな……?
まあイイですわ
ワイルドハントの王が直々に相手してやりまさァ
掛かって来なさいや、百鬼夜行
●人形作るよ
どうせなら見た目に華のある女型の方がいっスね
搭載武装は銃火器メイン
距離取ってあれこれブッぱなしてりゃそれだけで有利が取れるって寸法っスよ
電脳ゴーグル装備で弾道演算力をアップさせて――
オラッ今ですわ! ミサイルポッド展開!
MAX1010発の小型ミサイル群で描く飽和爆撃網で敵頭数を余さず【蹂躙】してやりまさァ!
(銀髪ロングに電脳ゴーグル装備、SF的なボディスーツ姿にアームドフォートを背負って――期せずしてまんま合体ユベコ召喚対象みたいになった)
●猟兵最強鎮圧兵器「彼女」
「うああ、ついに最後の一体になってしまったにゃー! も、もう傷付けられないにゃ……」
もはや涙を隠しもしない、自分を模した最後の繰り糸人形を抱きかかえてビービーと泣きじゃくる『魔童クシャ』を、白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は何とも複雑な表情で眺めていた。
「なんか俺めと似たようなツラした手合いですわな……?」
「に?」
見れば確かに、クシャと物九郎は毛色こそ違うが、動く猫耳、揺らぐ猫尻尾に始まり、何よりその面差しがとても良く似ている。
これを何も知らない人間の前に立たせて『生き別れの弟です(オブリビオンなので死に別れすらあり得る)』などと言った日には、思わず信じてしまいそうなレベルであった。……まずそんなことをされたら、過去の記憶が無い自分が信じかねない。本当に関係者だったらどうしたものか。
「まあイイですわ。
――ワイルドハントの王が、直々に相手してやりまさァ」
しかし、オブリビオンである以上やることは変わらない。
物九郎は透き通るような金眼を細めて相手を見やる。
「掛かって来なさいや、百鬼夜行」
曲者が揃う猟兵旅団『ワイルドハント』のトップ――頭目自らの登場である。その威圧感に、瞬間前まで泣きわめいていたクシャの口許が、その本性をのぞかせるように、にやりと歪み上げて見せた。
「――最後の一体でも勝負は繰り人形。勝負するにゃ」
「人形作るらしいっスね。ならせっかくですし、ここから流すっスか」
そう告げて物九郎から出されたものは、右眼に傷の意匠を凝らした茶斑の三毛型ドローンだった。
「にゃ!? それは何に?」
――それは『自撮り動画配信用、撮影機能搭載』という猫形ドローン。
完璧なカメラワークと共に、全環境への適合した配信を一台で担い、状況によっては持ち主の意に沿った煽りテロップまで自動作成して、リアルタイムでこなしてくれるパーフェクトな三毛猫ドローンである。
チカチカと右眼のカメラが光る。
ここから、今の状況が。全キマイラフィーチャーのネット環境にリアタイ配信されるらしい。
「おいら晒されるに!?」
「めちゃくちゃネット弱者の発言っスね。アレ、配信者全部が悪いわけじゃないんで――ま、」
オブリビオンなので、ボコボコにする姿は晒す訳なのだが。
「どうせなら見た目に華のある女型の方がいっスね」
そうしてドローンと共に、クシャを伴い、いざ素体とパーツの部屋に案内され。
まず、物九郎が目を付けたものは、女性型の人形素体だった。
「女の子型の人形もたくさんあるにゃ。どうするに?」
「そうさねェ」
物思いに更けながら、物九郎が何気なく手に取ったものは腰まで美しく流れる銀の髪色に、自分と似ている硬質な黄玉の瞳をした、関節が少しメカニカルパーツとなっている、凛とした雰囲気の人形だった。
「かわいいにゃ。少し固い雰囲気がなかなか良いに」
「そいで、ここに銃火器を載せるわけさァ」
「銃火器!?」
言うが早いか、物九郎は既に別の場所で様々な銃器に目を向けている。銃だけではない、無数のミサイルポッドから『最終決戦兵器』に何相応しそうな厳ついパーツを容赦なくチョイスしていく。
「距離取って、あれこれブッぱなしてりゃそれだけで有利が取れるって寸法っスよ。でも、格納時だけは小さい方がいいっスね」
基準として、そのような方式で目指すコンパクトボディ。何となくイメージは固まっているのだろうか。手にした凶悪パーツを、物九郎はクシャの目の前で、そのまま人形に躊躇いなくガン積みにしていく。
今は、格納しているので大したスペースは取っていないように見えるが、実際のところ、既にかなりの恐ろしい量をした重火器が搭載されていっている――。
「タダ撃つだけも何ですし、ここに命中率をアップさせるようなアイテムほしいですわなァ」
「ん? それならこれとかどうにゃ? メカチックだからきっと似合うと思うに」
「おお」
思わず洩れる物九郎の感嘆の声。そこに持ち出されたのは、美しい蒼の光を走らせるアンテナ付きの電脳ゴーグルだった。
「メカ系と相性いいにゃ。動作を自動補正してくれるにゃ、でも綺麗なおめめが隠れてしまうのが難点にゃ」
「それはそれ。そういうのは、付けてない日常時とのギャップが悪くないんでさァ。
そんじゃ、その電脳ゴーグル装備で、弾道演算力をアップさせて――」
物九郎が、さっそく人形にゴーグルを付けさせる。造形的には鑑賞フィギュアのような美しさがあり、必要なものとはいえ、繰り糸が少し邪魔にも感じられるようになってきた。
「せっかくだから、これ持ってきたにゃ。装備が重いから、搭載時の機動が少しと、防御が上がる、この方向性の女性型なら永遠のロマン服だにゃ」
そして、クシャがうきうきしながら持ってきたものは――電脳ゴーグルと同じ光彩を放つ、お揃いに近い女性用SF密着型ボディスーツだった。
それを合わせて、完成。
「――これ、完璧じゃないっスかね」
クシャが持ってきたものもあるとは言え、自分で触れたイメージにあまりに則した人形は、物九郎が思わず唸る出来映えだ。
「凄く良く出来たに。ホレボレするにゃ。
……ちょっと戦闘能力が過剰すぎる気がするけど、それも人形の醍醐味に。
何よりロマンに溢れてるに。ロマンは人形作りには、忘れてはならないものだにゃ」
その言葉に、ふと物九郎は人形を目にしたまま首を傾げる。
「……?」
今まで、物九郎は特に深くは考えていなかったが――これは、何やら物凄く見たことのある人形のような気がした。
銀髪ロングに電脳ゴーグル。SF的なボディスーツ姿に、背後には超巨大最強決戦兵器を搭載した――アンドロイド型の、人形。
「………………」
物凄く、既視感。むしろ、既視感しかない。
――『これ、副官』では?
脳内で、旅団の誰かの声が聞こえた気がしたが。
「まぁ、仮にも心臓懸ける人形なら、安心感ある方がいいさね」
たとえこれがどんな人形だろうと、自分が負ける姿など想像もつかないものではあるが、今、この人形から受ける『安心感』だけは格別だ。
――間違いが無い、と心の底から思える。
そして、勝負は始まった。
空を飛ぶ三毛ドローンが、際どくもナイスなカメラアングルを狙い縦横無尽に飛びかう中を、台に置かれた物九郎の人形とクシャ人形の繰り人形戦闘遊戯はスタートした。
「ロマンと、勝負は別物にゃ!
綺麗なお姉ちゃん人形には悪いけれども、こっちには傷をつけずに片をつけるに!」
クシャは、あれだけ物九郎の人形に入れ込んでいたが、正直な所、もはや自分側にも後がない。
躊躇わずクシャはユーベルコードを発現させた。
現れたものは、地獄の火車。それに乗っていた棘付きの恐ろしい大きさの金棒を掴んだ、獄卒の鬼を思わせる人間の幽霊は、次々と台に降り、まるで統率の取れた軍兵のように、一斉に物九郎の人形へと襲い掛かる。
瞬間――ガチャン、と。物九郎の人形から、一つの枷が外れる音が響く。
そこからは、立て続けだった。次々と、物九郎の人形から己の何倍にも膨れ上がる銃火器が組み上げ編成と共に、立体展開されていく――!
「オラッ今ですわ! ミサイルポッド展開!」
そして、完全体に相応しい最後の一つが展開されると。
『人類最終兵器』という単語すら浮かぶ冒涜的な銃火器を背負う、唯一付けた人形のボイス機能が言葉を発した。
『【L95式火力支援Ⅲ(エル・クーゴー・ファイアサポート)】
火力支援――ワイルドハントを開始します』
物九郎のユーベルコードと完全同調している、女性のボイスは、あまりに硬質であり、美しくもあり、そして何より無慈悲であった。
――その場を、爆撃が支配した。
爆煙により視界は消え、爆音により聴覚が奪われる。
小型ミサイルの最大弾数は1010発。それらは弧を描き、天上からの裁きとして、洗礼の雨のように台上にミサイルを降らせた。
それらは物九郎の人形周囲、三十センチ範囲外の干渉物を容赦なく燃やし尽くし、そして全てを吹き飛ばしたのである――。
何もかもが吹き飛んだ台上。
無傷なのは台外の繰り手と、物九郎の人形、そしてこの戦闘台だけだった。この台、本当に何で出来ているのであろう。
「……。うあああああー!!
もういやにー!! やめるー! 負けを認めるにゃー!
子供達も自分の人形も、本当に全部無くなっちゃったし、こうなりゃ煮るなり焼くなり好きにするにゃー!!」
そして――クシャの心がついに折れた。
泣き叫ぶクシャを、三毛猫型のドローンがしっかりカメラに捉えている。データで見られる、いいねの数は絶好調。
「そんじゃ、これで仕舞いでさァ」
物九郎が、クシャを軽く殴れば。
ぽんと、骸魂が離れ、そこには元の妖怪らしき存在が姿を現す。
――こうして、『超芸術トマソン』内での、繰り人形事変は幕を閉じた。
妖怪も子供達も救出できた。犠牲者も出ていない。
依頼は、無事成功である。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2021年05月11日
宿敵
『魔童クシャ』
を撃破!
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