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がらくたのくに こころのありか

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #不和の魔女 #愉快な仲間 #猟書家 #花咲く笑顔の国『カローラ』

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#猟書家
#花咲く笑顔の国『カローラ』


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 グリモアベースに撮影用ドローンを浮かべるなり、「ててーん♪」と間の抜けたジングルが鳴り響き。
 猫耳と猫しっぽを生やしたグリモア猟兵――天元銀河・こくう(黒猫看守・f16107)が、周囲の景色を一変させる。
 眼前には、橋がかかっていて。
 アーチ状のそれを越えれば、見渡す限りの花畑を前に、ちょっぴり傾いだ看板が立っているのが眼に留まる。
 そこには、こどものような字で、こう書かれていた。
 ――花咲く笑顔の国『カローラ』へ、ようこそ!

 風にそよぐ花畑を前に、こくうはひとしきり景色を眺めた後、肩越しに振り返った。
 視線の先には、猟兵たちの姿。
「この国は、以前、貴様たちの力を借りてオウガの企みを退けた国だ。皆でどんな国にするかを話しあって、一緒に国名も考えた」
 『カローラ』とは、「花かんむり」の意。
 その名の通り花咲き乱れる国となってからは、住人であるぬいぐるみや玩具たちによる歓待が日々賑やかに行われ、来訪者たちを笑顔にしてきた。
「ところが、だ! ここに猟書家の『魔女』が現れ、鉤爪の男の目論む「超弩級の闘争」を実現しようとする予知が成ったのだ!」
 「我々が関わった国をふたたび荒らそうなど、言語道断!」と言い添えて、こくうは猟兵たちの眼前に、国の簡易地図を広げ見せる。
「要所となるのは、ここだ」
 ――水上アスレチックと『舞台』を擁する大森林。
 住人たちのお気に入りの場であったその森に、争いをもたらす『不和の林檎』が持ち込まれて。
 やがて瞬く間に、住人たちの争いの場と化してしまうというのだ。
「森に魔女が侵入することは判明しているが。広大な場所ゆえに、正確な居場所まではわからない」
 べちん、と指先を地図に押しつけ、こくうは言った。
「まずは、この森を覆いつくさんと増殖する『不和の林檎』を伐採し、愉快な仲間たちを救出せよ! そうして、猟書家の居場所を突き止め、『魔女』をぶちのめしてきてくれ!」
 転送地点は森の入口にしておくので、後は頼んだぞ!と、言い捨てて。
 こくうは、猟兵たちを送り出す準備に入った。


 愉快な仲間たち――この国ではぬいぐるみ等、玩具の姿をしている彼らは、かつて猟兵たちとともに、国造りを行った。
 最初はのっぺりとしたハリボテの国だったが、みんなの「おいのり」によって、「ほんもの」の大森林もできた。
 彼らは、国を訪れたアリスを招くために、池の上にアスレチックを造った。
 丈夫な蔦で編み上げたネットに、ブランコ、そして吊り橋。
 螺旋階段や、入り組んだ段差、急に途切れる道。
 すこしばかり不便なつくりであっても、玩具たちにとっては遊び場となり。
 いつかやってくるであろうオウガたちにとって、この上なく厄介な仕掛けとなるはずだったのだが――。

 ――ズダダダダダ、ダンッ!
 アスレチックの周辺では楽隊による太鼓が打ち鳴らされ、籠城するぬいぐるみたちを威圧する。
「アクレチックはみんなのものだー!」
「ひとりじめするな~!」
 一方、アスレチックを占拠しているふわふわのぬいぐるみたちは、ふかふかの拳を振り上げながら叫ぶ。
「このアスレチックは、ぼくたちのものだ!」
「そうだ、そうだ!」
「きみたちなんかに、わたすもんか!」
 いがみあう双方を前に、猫のぬいぐるみたちが集まって、おろおろと身を寄せあっている。
「みんな、やめようみゃ~」
「ケンカはよくないのにゃ!」
 そんな猫たちに迫るのは、はたらく車に乗ったブリキの子ども。
 手にしたベルを振りかざし、詰め寄っていく。
「そういう猫たちは、いつもログハウスで寝てばかりじゃないか!」
「ぼくらだってねむりたいときがあるのに!」
「ずるいぞ! ずるいぞ!!」
 責め立てられた猫たちは、しっぽを巻いて方々へと散っていった。

 大森林の一角には、巨大な木のうろを利用して造られた『舞台』も存在している。
 しかし、ぬいぐるみたちのお気に入りであるそこは林檎の樹にのまれ、今やだれひとり、見向きもしていない。
 逃げ延びた猫のぬいぐるみは針と糸で縫い留めた眼をゴシゴシとこすりながら、樹木の枝に覆われ、牢獄のようになった舞台を見あげた。
「みんな、みんな、コワイかお……。なんでこんなことになっちゃったのにゃ……」
 猟兵やアリスなら、こんな時、『なみだ』を流すのかもしれないが。
 使い古された玩具たち――元々、がらくたであった疑似生命たちには。
 ただただ、嘆きかなしむことしか、できなかった。


西東西
 こんにちは、西東西です。
 『アリスラビリンス』世界にて。
 花咲く笑顔の国『カローラ』へ行き、国の平穏を取り戻してください。

 シナリオ『アリスへ捧げる花かんむりを』に登場した国ですが、未読でもご参加いただけます。
 ※プレイングしだいですが、前作より文字数少なく、書ける範囲での執筆となります。

 プレイングボーナス(全章共通)……愉快な仲間たちを正気に戻す、共に森の拡大を食い止める。

●第1章:冒険
 国にある大森林で、『不和の林檎』が増殖しています。
 次々と増えていく樹木を伐採し、愉快な仲間達を正気に戻してください。
 なお周辺では、アスレチックを占拠したぬいぐるみたちが、その他の玩具たちと対立しています。
 愉快な仲間たちと関わりたい場合は、前作から住人を引用しても、新たに住人を設定してもOKです。

●第2章:ボス戦
 この国に争いの種を持ちこんだ『魔女』を撃破してください。
 救出した愉快な仲間たちの応援を受けることができれば、より有利に戦えるようになります。

 提示されている行動は一例です。
 どうぞ思うまま、自由な発想でプレイングください。

 それでは、まいりましょう。
 オウガと愉快な仲間達が待つ、不思議の世界へ――。
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第1章 冒険 『不和の森を伐採せよ』

POW   :    POWのユーベルコードで伐採する/愉快な仲間達の争いを情熱で止める

SPD   :    SPDのユーベルコードで伐採する/愉快な仲間達を不和の林檎から遠ざける

WIZ   :    WIZのユーベルコードで伐採する/争い合う愉快な仲間達を魔法等で落ち着かせる

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鎹・たから
む、これはいけません
仲良しだった皆さんがいがみ合い、喧嘩するなど

巨大化した手裏剣で伐採
住民を傷つけぬよう攻撃は樹木のみ指定
素早く的確に斬っていきましょう
【2回攻撃、早業

むぅ、いくつ斬ってもキリがありませんね
ですが必ず終わりは来ます
可愛らしい皆さんを悪に誘う林檎は、どんどん斬ってしまわなくては

伐採中、籠城する皆さんにも声掛けを

あなた達は、自分達だけで遊んでいて本当に楽しいですか?
今まで仲良くしていた人達と傷つけあうのは、悲しいことです

あなた達なら、わかっているでしょう
心のどこかにトゲが刺さって痛いはずです

どうか思い出してください
あなた達の互いを想いあう優しい気持ちを
【情熱、優しさ、心配り




 真っ先に現場に到着したのは、くすんだ髪にスノーフレークオブシディアンの角をいただいた羅刹の少女。
 根や枝を伸ばし、ほんものの森を浸食し続ける『不和の森』の存在を認めるなり、鎹・たから(雪氣硝・f01148)は足を止め、色硝子の瞳でひたと見つめる。
「む、これはいけません」
 すぐさま雪華をかたどる手裏剣を己の身長ほどに巨大化させると、全身をしならせるようにして、はなつ。
 ――ザンッ!
 閃く刃は、空からふるうつくしい結晶よりもなお鋭く。
 鬼種の膂力に任せ、次々と樹々を斬り倒していく。
 少女の胸元を彩るあざやかなスカーフが、ふわり舞って。
 軽やかな身のこなしで、踊り子のごとく周囲を舞い跳ねた。
 しかし、魔女によってもたらされた樹々が増殖していく速度もまた、早い。
「むぅ、いくつ斬ってもキリがありませんね……。ですが、必ず終わりは来ます。可愛らしい皆さんを悪に誘う林檎は、どんどん斬ってしまわなくては」
 いずれ、ほかの猟兵たちも駆けつけるだろう。

 その合間にも、たからの耳には愛らしき者たちの争いの声が届いている。
「この森から出ていけ~!」
「この場所は、ぜーったいにゆずらないぞ!!」
 ――魔女の術にかかっている。
 そうとはわかってはいても、真正面から声をかけずにはいられない。
「ふわふわのみなさん。あなた達は、自分達だけで遊んでいて本当に楽しいですか? 今まで仲良くしていた人達と傷つけあうのは、悲しいことです」
 小首をかしげるように問いかけるその声に、ぬいぐるみたちの動きが一瞬、停止する。
 たからは自分が駆けつけた時、入れ違うように散っていった猫たちの姿を探すように、森へと視線を巡らせて。
「あなた達なら、わかっているでしょう。今もきっと、心のどこかにトゲが刺さって、痛いはずです」
 ゆっくりと瞬きをしながら。
 ぬいぐるみたちがどこかへ置き忘れた感情を探るように、己の胸に手を置いて見せ、告げる。
「どうか思い出してください。あなた達の、互いを想いあう優しい気持ちを――」
 ぬいぐるみたちが、その問いに応える前に。
 たからの眼はふたたび増殖しようとした樹木を捉えて。
 寸分の狂いなく、横一閃に、切り倒した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
気のいい愉快な君達
僕は初めましてだが…以前のお話を聞くに
この状況は本意じゃないどころか
後で大層悲しくなってしまうんじゃないか
なるべく早く、仲直りしよう

未だ正気な子を探して猫君に声を
大丈夫かい?安心して
本心から争ってるんじゃない
こころを惑わす林檎に、操られているんだよ

あの樹を倒す、が…その前に
楽しかった日々のこと、誰かを迎える為
皆で力を合わせていた時の事を教えておくれ
と、カローラの平時の情景を聞いて、夢幻の術で空に広げ
僅かな間、眠りに誘う

君たちは、何の為にここをこんな風に育てたの
思い出しておくれ
その手、音、声は誰かを責めるためにあったかい?

少しでも落ち着蹴られたら
その隙に、樹を薙ぎ払いで伐採しに




 羅刹の少女(f01148)が、アスレチックのぬいぐるみたちに語りかけていた、その時。

(「気のいい愉快な君達。僕は初めましてだが……以前のお話を聞くに、この状況は本意じゃないどころか、後で大層悲しくなってしまうんじゃないかな」)
 そう考えながら注意深く森を駆けていたのは、枯野色の外套をひるがえし走る、ヤドリガミの冴島・類(公孫樹・f13398)だった。
 ――なるべく早く、彼らが仲直りできるように。
 アスレチックのある方向から逃げ来る猫たちを見つけると、声をあげながら駆け寄った。
「君たち、大丈夫かい? すぐに猟兵たちが助けにやってくるから、どうか安心して」
「「うわあぁぁん、猟兵さぁぁぁん!!」」
 みゅーみゅーとかなし気に鳴き声をあげ、引っ付いてきた猫たちを順番に撫でながら、類はゆっくりと言葉を重ねる。
「あのぬいぐるみ君たちは、本心から争ってるんじゃない。こころを惑わす林檎に、操られているんだよ」
「こころをまどわす……」
「……林檎?」
 首をかしげ、顔を見あわせる猫たちを見やり、類が頷く。
「そう。君たちのこころを苗床にして、この国に争いの種を撒こうとしている。悪い魔女の仕業なんだ」
 周囲を見やれば、増殖した樹木の一部が、猫たちを追いかけ迫りつつある。
 類は、影沿うように佇んでいた絡繰人形――濡羽色の髪持つ半身『瓜江』を護り手代わりに立たせて。
(「あの樹を倒す。が――、その前に」)
 一瞬、するどさを見せた緑の瞳を、眼前に集まった猫たちへと向けた。
「僕に、楽しかった日々のことを教えておくれ。誰かを迎える為、皆で力を合わせていた時の事を」
 かなしみに打ちひしがれていた猫たちは、喜んで類に語った。

 ――猟兵たちと一緒に、お昼寝用のログハウスを作ったこと。

 ――日当たりの良いその場は、いつもみんなが集まって。

 ――国を訪れたアリスたちにとっても、憩いの場であったこと。

 やがて、類の紡いだ夢幻の術が、集まった猫たちの頭上にひろがって。
 あたたかな毛布のように、彼らを包みこんでいった。
(「そう。楽しい夢にしよう」)
 浸す甘美ではなく、悪夢や悲しみを塗り替える夢を視られるように――。
 身を寄せあい、丸まって眠りについた猫たちをその場に残すと決め、類は立ちあがった。
 十指に繋いだ赤糸を手繰れば、主と猫たちを護るべく佇んでいた絡繰人形もまた、森の奥を見据えて。
「さあ。この間に、樹を討ち払いにいこう」
 その眼に強き意思をたたえると、次なる場へと急いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
●WIZ
いがみあう愉快な仲間達の元へ
緊張は大きく身震いして吹き飛ばします
笑顔、笑顔で

こんにちは、ここは素敵な国ですね
このネットやブランコはアスレチックかな、とっても面白そう!

――でも、この林檎の木がちょっとお邪魔になっていません?
困った表情で周囲を見渡し小さくため息の演技
これがなくなったら、もっと楽しく遊べそうなんですけれど……

こっそりUCを発動しながら近くの子達や木々にタッチ
元々は仲良しなら少しづつ想いは伝わって行く筈
木も土を抱える根を弱くしてくれないかしら
わたしは〈銀曜銃〉の魔弾で根元を削り伐採しやすくし、そこへ〈咎人の鎖〉を巻き付け引っ張って貰い抜き去りましょう

ね、みんなでやる方が楽しい


野々瀬・和
【WIZ/連携、アドリブ歓迎】
せっかく訪れた平和が脅かされるのは放っておけない…。幸せな物語を取り戻すために俺に出来ることがあるのなら力を尽くすよ。

UCを使い、愉快な仲間たちに『カローラ』が出来た時のことを思い出してもらいます。
「君たちの物語は幸せなものだったはず。きっと今回も大丈夫、素敵な国にもどれるから。」

愉快な仲間たちが幸せな気持ちを思い出している間に周辺の不和の林檎を伐採。

ケンカした後は気まずいかもしれないので仲裁を。
時にはケンカも悪くないけど最後は仲直りをしないとね。
そしてよければ、俺に素敵な『花咲く笑顔の国』のことを教えて欲しい。
もちろん、まずは目の前のことを片付けてからだけど…。


シウム・ジョイグルミット
[POW]
花咲く笑顔の国……いいねー、素敵な場所だよ
さあ、早く名前通りの国に戻さなきゃ

この木が邪魔してるんだねー
よし、『Hungry Dumpty』召喚!
どんどんアップルパイの木に変えちゃえ
やっぱり林檎は美味しく食べないとね
変えたら食べやすい大きさに切っていこうか、「Delicious」よろしく!
銀のお皿もたくさん作って、切ったパイをのせてくよ

準備が出来たら仲間達のところに行くね
はい、ケンカは一旦ストップ!
お菓子を持ってきたよ、皆で一緒に食べよー
パイがのったお皿をふわふわっと仲間達に配って、おやつの時間!
美味しいものを食べたら、嫌な気分も飛んでいくんじゃないかな
楽しく仲良くの方が絶対いいよね♪




 絡繰人形を操る青年(f13398)が、アスレチックの元へ向かっている頃。

 髪に月下美人を咲かせたオラトリオの娘――ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)は、翼を羽ばたかせ森の上空を飛翔していた。
 目的地が迫るにしたがい、両の手でこわばる頬を挟みこむ。
(「笑顔、笑顔で」)
 己にまじないをかけるよう胸中で唱え、大きく身震いをしながら住人たちの遊び場へ。
 占拠するぬいぐるみたちの眼前で羽ばたき滞空すると、人好きのする笑顔を浮かべ、敵意がないことをアピールしてみせる。
「こんにちは! ここはとっても素敵な国ですね。このネットやブランコはアスレチックかな、とっても面白そう!」
 手放しでほめそやせば、最初は警戒していたぬいぐるみ達も顔を見あわせ、もこもこの胸を張り、言った。
「そうさ! ここはぼくらの『城』みたいなもの!」
「とってもすばらしい場所なんだ~!」
 ハルアはすかさず、提案する。
「そんなに素晴らしいお城なら、ほんの少しの時間でもいいんです。わたしも、一緒に遊ばせてもらえませんか?」
 悪い気はしなかったのだろう。
「しかたがないなあ!」
「ほんのちょっと! ちょっとの間だけだぞ~!」
 気をよくしたぬいぐるみたちは、自分たちの立っている場所に来ても良いとハルアを手招いた。
「ありがとうございます! みんなで遊ぶ方が、ずっと楽しいですものね!」
 大げさに喜んで見せると、仕掛けを遊ぶふりをしながら、ぬいぐるみたちの元へ。
 そこから見える景色を一望して、小さく溜息をつく――演技をしてみせる。
「ああ、残念。あの一帯や、この辺りにも生えている林檎の樹が、ちょっとお邪魔になっていません? なくなったら、もっと楽しく遊べそうなんですけれど……」
 自分たちの『城』の良さがわかる猟兵の言葉とあれば、無視するわけにもいかない。
「えっ。どこどこ?」
「どの木のこと~?」
 いぶかり景色を注視し始めたぬいぐるみたちの背を、ハルアが己の翼で次々と触れていく。
 ユーベルコード『エアリアルフェザー』によって無意識に友好的な意識が生じたぬいぐるみたちは、すぐに「樹を切りにいく?」と頭を寄せあって。
「皆さんがいくなら、わたしもお手伝いしますよ」
 ハルアは満面の笑みを浮かべ、アスレチックから降り、樹を伐採しに行くことを提案した。


 オラトリオの娘(f23517)が、アスレチックを占拠したぬいぐるみたちと話をしている頃。

(「せっかく訪れた平和が脅かされるのは、放っておけない……。幸せな物語を取り戻すためにも、できることはしたいよね」)
 桜の精である野々瀬・和(片隅で紡ぐ春・f33209)は、ぬいぐるみたちと言いあっていた他の玩具たちの元へ向かっていた。
「あいつら、なんてわからずやなんだ!」
「もう、いっしょにあそんでやらないんだ!」
 ――ズダダダダダ、ダンッ! ダダンッ!
 いらだつ楽隊による太鼓があたりの空気を震わせ、その勢いはしだいにヒートアップしていく。
 和は「やあ、こんにちは」と声をかけ近づくと、目線をあわせる為に、その場に膝をついた。
「見たところ、なにか困っているようだけど……。俺にできることがあるのなら、力を貸すよ」
 怒り心頭といった様子の玩具たちは、どこかぼんやりとした表情の猟兵を見やると、毒気を抜かれたように振りあげていた拳をおろした。
 なにかと頼れる存在――猟兵にそう言われては仕方ないと、玩具たちが事情を語り始める。
「猟兵さんにも、見えるだろう?」
「あそこに、アスレチックをひとりじめしてる仲間たちがいるんだ」
 敵の術中にあっても『仲間』と称する玩具たちに、和はわずかに、口の端をもたげて。
「……そっか。それだけ、あの遊具は君たちにとって大事なものなんだ」
 理解したことを示すように、ゆっくりと頷いて見せる。
「時にはケンカも悪くないけど、最後は仲直りをしないとね。そしてよければ、俺に素敵な『花咲く笑顔の国』のことを教えて欲しい」
 語りかけると同時に、和はユーベルコードを展開させた。
 それは、玩具たちが物語の結末を語ったその時、心を満たす幸せな感情をもたらすもので。
 場に居合わせていた羅刹の少女(f01148)もこの機にと、言葉を重ねる。
「お互いが、大切に想っている『仲間』だからこそ、心のどこかにトゲが刺さって、痛いと感じるんです」
 遅れて合流した、絡繰人形を操る青年(f13398)もまた。
 眼前の彼らだけではない。
 魔女のたくらみによって傷ついたすべての者たちへと届くよう願い、玩具たちへ告げる。
「君たちは、なんの為にここをこんな風に育てたの。……想い出しておくれ。その手、音、声は、誰かを責めるためにあったかい?」
 和は猟兵たちの言葉に頷き、玩具たちに促した。
「そうさ、君たちの物語は幸せなものだったはず。だから、大丈夫。きっと今回も、素敵な国にもどれるから」
「でも……」
「なかなおり、できるかな……」
「できるまで、俺たちが手伝うよ」

 玩具たちを励ましていると、アスレチックに向かったオラトリオの娘(f23517)が、ぬいぐるみたちを引き連れて向かい来るのが見えた。
 聞けばぬいぐるみたちも、娘の声を聞いて我に返ったらしい。
「……あのね。ごめんね」
「ぼくたち、ひどいこといっちゃったんだよ~」
「でも、猟兵さんのことばをきいて、なんだかおかしいなって、おもったんだ」
「ぼくたちの国には。あんなにたくさん、林檎の木はなかったはずだし」
「ほんとうは。いっしょにあそびたかったはずなのに、って」
 和のユーベルコードの効果もあり、もとの国のことを語りあう住人たちの間に、なんでもない日々の幸福感が押し寄せて。
 そこから、彼らが正気に戻るのは早かった。
「よければ君たちも。俺に、この国の物語の結末を、教えて欲しい」
 和はそう、ぬいぐるみたちにも提案したけれど。
 なおも増え続けていく一方の樹々を見やり、わずかに眉根を寄せて、言った。
「でも、ゆっくり話を聞くためにも。まずは、目の前のことを片付けないとね――」
 オラトリオの娘も頷き、すぐさま聖霊の棲む銃を構えて。
 撃ちはなった魔弾で樹木の根元を削ると、純白の大きな翼に絡みついた『咎人の鎖』を操り、禍々しい樹木を地面から引き抜きにかかった。


 ほかの猟兵たちの様子は、いざ知らず。

 転送後、手にしたコインの裏表で行く先を決め、気ままに森を歩いていたのは、時計ウサギのシウム・ジョイグルミット(風の吹くまま気の向くまま・f20781)だった。
 カジノディーラーを思わせる愛らしい衣装に身を包み、色鮮やかな緑の髪を揺らしながら、周囲にひろがる花畑や大森林を仰ぎ見る。
「花咲く笑顔の国……いいねー。こうして歩いているだけでも、とっても素敵な場所だってわかるよ♪ だけど――」
 シウムが眼をとめた先には、うねうねとねじれた枝を伸ばすいくつもの樹木が見えた。
「なるほど、この木が邪魔してるんだねー」
 太陽を目指し、まっすぐに枝葉を伸ばす森の樹々とは違い、『不和の林檎』はまるで早送りをしているかのような成長速度で増殖していく。
「さあ、早く名前通りの国に戻さなきゃ!」
 宣言とともに両腕を広げれば、すぐさま、シウムの周囲に宙を舞う様々な銀食器があらわれた。
「これ、お腹減るからあんまり好きじゃないんだけど。――よーし、『Hungry Dumpty(ハングリィ・ダンプティ)』、召喚!」
 ユーベルコードを発動したシウムの意思にしたがい、召喚した食器たちがひとかたまりになっていく。
 やがて見上げるほど大きな『手足のはえた口』へ変化すると、シウムは林檎の樹を指さし、命じた。
「どんどんやっちゃえ! ぜーんぶ、アップルパイの木に変えちゃえー!」
 あらゆる存在を咀嚼するその口は、触れた対象を菓子化することができる。
 口は命じられるままに、樹々をアップルパイに変えていき。
 すぐに、大量のアップルパイが山となって積みあがった。
 シウムは銀の食器を生成する力を持っている。
 できたてのアップルパイは、どれもすぐに生成されたお皿にのせられて。
「食べやすい大きさに切っていこうか、『Delicious』よろしく!」
 目と口のついた60cm程のステーキナイフが、もの言いたげに瞬きをしながら、せっせと積みあがったアップルパイを切り分けていく。
 そのひとつひとつを浮遊するお皿にのせると、シウムは跳ねるようにスキップをしながら、お皿たちと一列になって森を進みはじめた。


 シウムと『手足のはえた巨大な口』は、行進しながらも次々と新しいアップルパイを生成していった。
 できたてのアップルパイの香りにつられやってきたのは、逃げまどい身を隠していた猫たちだ。
「なんだか、とってもいい匂いがするにゃ~」
「猟兵さん。それはなにかみゃー?」
「できたて熱々のアップルパイだよ! さあ、どうぞ召しあがれー♪」
 かなしみにくれていた猫たちは、甘くておいしいアップルパイをたくさんほおばって、すっかり心が元気になった。
「ボク、このアップルパイを他のみんなにも食べてほしいんだけど、どこに行けばいいかなー?」
 問えば、猫たちは言った。
「森の奥で、ぬいぐるみたちと玩具たちがけんかしてるのにゃー」

 ならばとシウムが進んだ先では、猟兵とぬいぐるみたち、玩具たちが、協力して林檎の樹々を伐採しているところだった。
 しかし、樹々たちも命の危険を感じたのか、さらに増殖スピードを増しており、完全な伐採には苦戦を強いられているようだ。
「あれ? ケンカはもう終わったのかな? まあいいや」
 ある程度仲直りができていたのなら、最後のもう一押し。
 美味しいものをおなかいっぱい食べたなら、それまでのゆううつな気分も吹き飛んでいくだろう。
 シウムはパイの乗ったお皿を浮遊させ、次々と仲間達の元へと配って。
「はい、作業は一旦ストップ! 今からはおやつの時間! お菓子を持ってきたから、皆で一緒に食べよー」
 大きな口――『Hungry Dumpty』に、そのまま林檎の樹々を食べつくすように伝えて。
「おかわりもあるよー!」
 呼びかければ、あちこちに居た住人たちから、「はい!」「はーい!」と手があがった。
 山盛りだったパイが次々と売れていくとあって、シウムもご満悦。
 銀のお皿たちが忙しく行きかうのを見守りながら、頷いた。
「やっぱりおやつの時間は、楽しく仲良くの方が絶対いいよー! それに林檎は、美味しく食べてこそだよね♪」
 住人たちの食欲は、たいへんに旺盛で。
 居合わせた猟兵たちも顔を見合わせ、いくつかパイをいただいた。

 大きな口と一緒になって、残る林檎の樹の伐採を手伝えば。
 まもなく、大森林に広がっていた『不和の林檎』は跡形もなく、きれいに、きえてしまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『不和の魔女』

POW   :    とても美味しい林檎の迷宮
戦場全体に、【心惑わす林檎の森】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD   :    其の感情を、其は喰らう
【怒り】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【ねじれた魔樹】から、高命中力の【毒の林檎】を飛ばす。
WIZ   :    汝、新たなる苗床
攻撃が命中した対象に【不安を宿す木の芽】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【生命を啜りながら成長する樹木】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黒蛇・宵蔭です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ひと仕事終えた猟兵と住人たちが、お腹いっぱいになるまでアップルパイをほおばって。
 そのアップルパイもまた、『不和の林檎』と同じく、すっかりきれいになくなった頃。

「驚いたわ。まさか、わたしの樹が食べつくされてしまうなんてね」
 くすくすと笑いながら、闇の中からひとりの魔女が姿をあらわした。
 闇と同じく漆黒のドレスに身を包み、杖と林檎を手に艶然と不敵な笑みをうかべている。

 ――幹部猟書家『不和の魔女』。

 しかし魔女は猟兵たちには眼もくれず、『愉快な仲間』である住人たちを見やり、あざけるように言った。
「でも、これでわかったでしょう? 毎日いっしょにいたところで、隣にいる相手のことなんて、ちっともわかってはいなかったのだということが」
 不穏な言葉にのまれまいと、ぬいぐるみや、玩具たちがお互いを支えあうように身を寄せる。
 そして、もちろん。
 居合わせた猟兵たちは、彼らを護るようにその眼前に立ち、猟書家と対峙する。
「あなたがたの絆は、本当に『ほんもの』かしら? 果たして、だれも恨まず、愛し続けることが可能かしら?」
 紅玉のごとき魔女の瞳が、『愉快な仲間』たちを射抜く。
「そもそも、ガラクタのあなたがたの、何処に。『こころ』なんて大層なものが、存在するというのかしら」
 翻弄するように告げ、ケラケラと嗤うと。
 魔女は『愉快な仲間』たちを手招くように、赤い林檎の実を、掲げ見せた。
東雲・深耶
つまらん女だ
ガラクタとこの者達を笑っているようだが…ああ何だ,羨ましいのか?
れっきとした命であった存在だったのに、今は躯の海の染みでしかない己が嫌なんだな
ああ、可哀想だぞ貴様
侮蔑の念を込めて挑発し、『怒り』を不破の魔女に抱かせて自分のUCに自爆させる
私がこいつに抱く感情は侮蔑と憐憫。怒る価値すらない
故に不和の魔女のUCの対象とはならない

自爆するようなUCとはお粗末だな
なら、私が本物の異界法則(ユーベルコード)というものを見せてやろう
そう言ってUCを起動。全ての私が敗北する可能性とその要因を略奪し、私を極限まで強化させる
さて、言い残したことがあれば聞いてやる
そう言って未来を切る白先を突きつける


響納・リズ(サポート)
「ごきげんよう、皆様。どうぞ、よろしくお願いいたしますわ」
おしとやかな雰囲気で、敵であろうとも相手を想い、寄り添うような考えを持っています(ただし、相手が極悪人であれば、問答無用で倒します)。
基本、判定や戦いにおいてはWIZを使用し、その時の状況によって、スキルを使用します。
戦いでは、主に白薔薇の嵐を使い、救援がメインの時は回復系のUCを使用します。
自分よりも年下の子や可愛らしい動物には、保護したい意欲が高く、綺麗なモノやぬいぐるみを見ると、ついつい、そっちに向かってしまうことも。
どちらかというと、そっと陰で皆さんを支える立場を取ろうとします。
アドリブ、絡みは大歓迎で、エッチなのはNGです




 すいと魔女が手を動かせば、嘲笑う女の足元から『ねじれた魔樹』が次々と芽吹いた。
 急成長する枝葉を天へ伸ばすと、魔女の腕脚ほどの太さに成長した根が、大地をかき乱すように土を抉り、這いずり前進する。
「つまらん女だ」
 言い捨て、迫る魔樹の枝を斬り伏せたのは、東雲・深耶(時空間切断剣術・空閃人奉流流祖・f23717)。
 ――黒のセーラー服に、長い黒髪。
 UDCの街中から降り立ったかの如き少女は、手にした日本刀――封縛刀『白先』を軽やかに手繰った。
 深耶に毒林檎を浴びせかけんと伸びた枝が、次々と細切れにされ、落ちていく。
「あの猟兵の感情ごと、喰らっておやりなさい」
 魔女が杖を手に命じれば、急成長した魔樹たちが、次々と深耶――と見せかけて、後ろでおびえていた愉快な仲間たちへと毒林檎を投げつけ始めた。
 すかさず間に入ったのは、黄金の髪もつオラトリオ――響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)だ。
「ごきげんよう、不和の魔女様」
 純白の両翼で空を打てば、住人たちに迫っていた林檎は、そろって地に落ちて。
 娘は流れるような所作で優雅に膝を折り、微笑む。
「本日はこれから、荒天の予報となっておりますの。急な竜巻にご注意くださいませ」
 ブーツの先でトンと地面を叩けば、フリルをあしらったパラソルの先で、天を示した。
「さあ、愛らしい住人の皆様はこちらへ。安全な場所へとご案内いたしましょう」
 肩越しに振り返り、身を縮めていた玩具の住人達へウィンク。
 次の瞬間、
 ――ごおっ!
 白薔薇の花弁が渦巻く竜巻が一帯を覆いつくし、花びらと風にまかれて、ふわり、ぷかりと、玩具たちの身体が宙に浮かびはじめる。
「わ、わ、わ~~!!」
「きゃーっ」
 悲鳴をあげながらも手を取りあって空へ舞いあがれば、玩具たちもなんだか楽しくなってきたらしい。
 やがて、魔女や魔樹らの間合いを離れ安全圏へと離脱する頃には、白薔薇の絨毯の上を飛び跳ねながら、転げるように地面へと降り立った。
「猟兵さん、すご~い!」
「いまの! もっかいやって!」
 おねだりする住人たちに、「白薔薇の招待は特別ですの。そう何度も、お招きできませんのよ」と言い聞かせて。
 リズは忌々し気に見つめる魔女へも大きく手を振り、満面の笑顔で応えた。
「ごめんあそばせ、不和の魔女様。私の白薔薇は、オブリビオンには少々、手厳しいんですのよ」

 竜巻は魔女たちをも巻き込み、誘いの『対象外』と判じた者たちをことごとく傷付けた。
 切り裂かれ、枝折られた樹々に迫り、深耶は逆巻く風に黒髪を乱しながら、刃を振るい続ける。
 ――己の刀身と同じ色の、白い薔薇。
 その花弁を紙一重で薙ぎ、続けて魔女を引き裂くべく、腕を振るう。
「あの者達をガラクタと笑っているようだが……。羨ましいのか?」
 切っ先は女に届かなかった。
 身代わりになった枝が、パシンと音をたて、あらぬ方向へと飛んでいく。
「羨ましい?」
 反芻する魔女が、いびつな表情を浮かべる。
 受けた裂傷から流れるのは、林檎とはちがう、毒の如き青ざめた体液で。
「ああ。『可哀想』だぞ、貴様」
 眼にも留まらぬ早業で間断なく斬りかかると、深耶は魔女の身代わりになり両断された樹木を、勢いよく蹴り飛ばした。
 流れる黒髪の狭間。
 鋭く向けた瞳は、魔女と同じ、紅玉で。
 「ほう」と吐息をこぼし、続ける。
「己も、れっきとした命であったのに。今は躯の海の『染み』でしかないことが、嫌なんだな」
 ――抱く感情は、『侮蔑』と『憐憫』。
 『怒り』には値しない。
 ――故に、不和の魔女の術にからめとられることは、ない。
「この私が。本物の『異界法則(ユーベルコード)』を見せてやろう」
 手にした封縛刀のリミッターを解除し、構える。
 手中の『転生式次元干渉兵装』が、骸の海から蘇った存在の『勝利の可能性』を奪い尽くしていく。
「言い残したことがあれば、聞いてやる」
 厳かにかける声にも、魔女は不敵に笑んだままで。
 ――応じる余地、なし。
 深耶は、地を踏みしめるように深く腰を沈め、黒髪が肩から滑り落ちた瞬間、弾かれたように地を蹴った。
 白先が閃いて。
 構えていた杖ごと、魔女はまっぷたつに切り裂かれた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 ふたつにわかたれた魔女は、口から青ざめた体液を流しながら、紅玉の眼を見開いた。
「あは、あははは、あはっ」
 カラカラと嗤う女の、異質な声が響く。
「『ほんもののいのち』であることに、なんの意味があるというの? ほら、こんなふうに――」
 その身を包んでいた漆黒のドレスが、千切れた身体を元の位置に戻すべくあやしく蠢いて。
 闇のドレスが服としてのカタチに戻るころには、猟兵が斬ったはずの傷口は、どこにも見えなくなっていた。
 しかし魔女の口の端からは、いまも確かに、血の跡が流れている。
「躯の海の深淵に染まっている方が。ずっと、ずっと、すばらしいというのに」
 
 
野々瀬・和
おなかいっぱい、心も満たされたところで…
元凶のお出ましか
林檎によってもたらされた不和こそ、『ほんもの』とは言えないんじゃないかな
それに『こころ』があるからこそ時にぶつかり、絆を深め合うんだ

愉快な仲間たちに不和をもたらした魔女への怒りでUC発動
開いた本から頁が離れ、次々と鳥の形となり、鋭い勢いで魔女を切り裂く

魔女の攻撃に対しては結界術で対処
愉快な仲間たちに攻撃がいかないようかばいつつ、不安そうにしている子たちには大丈夫だよと、落ち着いて自分なりに微笑みかける
俺はあまり表情豊かな方じゃないから、ちゃんと伝わってるか少し心配だけど…この国にいると、自然と笑顔になれる気がするから、きっと伝わっただろう




 ――甘い甘いアップルパイの味は、まだ舌の上に、ほのかに残っている。

 斃(たお)されたはずの魔女はふたたび身を起こし、愉快な仲間たち――玩具の住人たちを標的に攻撃を仕掛けはじめた。
 猟兵たちがどれだけ阻もうとも、魔女は彼らなど眼中になく、『疑似生命』だけを執拗に狙い続ける。
「きゃああ!」
「いきかえった!」
「なんで、ぼくたちばっかり……!」
 猟兵たちを応援するべく集まっていた住人たちは、ふたたび自分たちが標的にされていると理解し、慌てふためいた。
「なぜって。あなたたちを『愛している』からよ」
 住人たちを『不安を宿す木の芽』の苗床にするべく、魔女は胴体と同じく元のカタチに整えた杖を振るう。
「あわわわわ!」
「もうだめだぁ……!」
 『終わり』を覚悟し、住人たちが眼を背けた、その瞬間。
「大丈夫だよ」
 ふわり、桜の香りや花弁とともに、やわらかな声が降りそそいで。
 桜織衣をひるがえし駆けつけた野々瀬・和(片隅で紡ぐ春・f33209)が、霊符をはなって結界を展開。
 震える住人たちの前に膝をつくと、小柄な彼らと目線をあわせ、言った。
「必ず、俺たちが護るよ。だから、安心して身を隠しておいで」
 ふだん、大してゆるむことのない頬を、自分なりに総動員して微笑む。
(「俺は、あまり表情豊かな方じゃないから。ちゃんと伝わってるか、少し心配だけど……」)
「ありがとう、猟兵さん!」
「ぼくたち、あっちで待ってる!」
「いっぱい、いっぱい! 応援するね~!」
 玩具たちはそう告げると、和の結界があるうちにと、互いに協力しながら逃げていく。
 ――この国にいると、自然と笑顔になれる気がする。
 ぴょこぴょこと手を振る小さな仲間たちをあたたかな気持ちで見送れば、
「邪魔しないでちょうだい」
 なおも小さな住人たちを苗床にしようと、杖を掲げた魔女と眼があった。
 あんなにもいのちを輝かせている、彼らを。
 『ガラクタ』と判じ、この国に混乱をもたらした、すべての元凶。
「『こころ』があるからこそ時にぶつかり、絆を深めあうんだ」
 おだやかな緑の瞳に、強い意思の光を浮かべて。
 底知れぬ紅玉の眼を、静かに見つめ返す。
「林檎によってもたらされた不和や、あなたの愛こそ。『ほんもの』とは、言えないんじゃないかな」
 まっすぐに言いはなてば、女の唇が、いびつに歪んだ。
「あなたが。わたしの『愛』を、語らないで」
 杖の狙いが己へ向けられたと悟り、和はすかさず、霊力を込めた本をひらいた。
「どうしても、わかりあえないなら――」
 風にあおられるように頁が舞いあがったかと思うと、それは次々と鳥のカタチを成し、一直線に魔女のもとへと飛んでいく。
 六十を超える鳥たちの翼が空をたたく音は、轟くように一帯を満たして。
 鳥たちの鋭い攻撃は、白い女の肌が、青ざめた体液の色に染まるまで続いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



 女が二度目の『終わり』を迎えても、猟兵たちは気を緩めはしなかった。
 案の定、漆黒のドレスはぼろぼろになった女の身体を包みこみ、そのカタチを何事もなかったかのように元通りに整えた。
 だが、注意深く見やれば。
 その身体が、漆黒のドレスが、いくらか欠け始めていることに気づいただろう。
 女は己の身など構わずに、震える住人たちを見やり、満足げに嗤う。
「いとおしいのよ」
 戸惑う姿も。
 尽きる姿も。
 なにもかも。
「あいしているから、すべてをみたいの」
 
シウム・ジョイグルミット
[POW]
大丈夫だよ、仲間たち!
皆の『こころ』は今ひとつ!
魔女の言葉なんかに負けはしないよ、一緒に立ち向かおう!
『Pleasant Revolution』発動!
皆ついてきて、出口はきっとこの先だよ【野生の勘】【見切り】
さっき召喚した『Hungry Dumpty』がいるなら、森を食べてもらって穴開けちゃおうか

迷路を抜けたら皆で魔女に攻撃だー
ボクは銀のお皿を作って、皆が怪我しないように守るね
恐れず勇気を出して進め、仲間たち!
ダンプティがいるなら、魔女の武器に触れるように指示するね
触れたらグミに変えて機能停止させちゃおう

国を守るために一緒に戦って、皆の絆はきっと深まったよ
これからも、笑顔で仲よくね♪




 新たに魔女が生みだした『不和の林檎』は、周囲の生命をすすり急成長を遂げて。
 脚のごとき根が、緑に覆われた大地を乱暴にかき乱し。
 腕のごときねじれた枝が、さわやかな空を覆いつくしていく。
 『不和の魔女』のねじれた感情そのままに、愉快な仲間たちを虜(とりこ)にしようと、緑と花に満ちていた森を、争いと不和を呼ぶ迷宮に塗り替えていく。
「ああっ、花畑が……!」
「これじゃここから出られないヨォ!」
 強固な樹々の幹は、猟兵たちの攻撃も寄せつけず。
 力自慢のはたらくくるまも歯が立たず、オロオロと周囲をはしるばかり。
 よみがえった魔女は艶然と微笑むと、悲嘆にくれる住人たちをいとおし気に見やった。
「あなたがたの感情が、本当に『ほんもの』だというのなら。もっと、もっと、さらけだして。わたしに見せて」
 「あっははは!」と嘲るような笑いを残し、魔女は現れた時と同じように、闇の中へと姿を消した。

 残されたのは、茶色の土がむき出しになった大地に、牢獄のごとくそびえる魔樹の壁――『林檎の迷宮』。
「ぼくたちの国が……」
「アリスたちも、きにいってくれてたのに……」
「せっかく、『ほんとうの国』になったと思ったのに」
 もとは玩具ゆえに、涙は流せなくとも。
 なげき悲しむ彼らの心は、たしかに涙をこぼしているのが、わかったから。
「大丈夫だよ、仲間たち!」
 シウム・ジョイグルミット(風の吹くまま気の向くまま・f20781)は、これまでと変わらぬ笑顔を周囲へと振りまき、居合わせた皆を励ますように言った。
「皆の『こころ』は、今ひとつ! 魔女の言葉なんかに負けはしないよ、一緒に立ち向かおう!」
 残念ながら、迷宮に対しては、『Hungry Dumpty』氏――先ほど魔樹をアップルパイに変えてくれた彼――の歯はたたなかったが。
 皆のおなかは、まだ、一緒に食べたアップルパイで満たされていたし。
 歩くだけの元気は、残っていたから。
 シウムはひときわ大きなナイフとフォークを天にかざして、言った。
「皆、ついてきて! 皆の力で、笑顔あふれる楽しい国を取り戻すぞーっ!」
 先陣をきって歩きだせば、召喚した食器たちも、ぞろぞろと後に続く。
 促された住人たちもまた、一緒になって歩き始めた。

 ――それはそれとして。
 ずんずん進んでいくシウムに、桜の精の青年(f33209)は不思議そうに尋ねた。
 彼も自身の式鬼たちを先行させ、行く先を探らせてみたのだけれど。
 入り組んだ樹木の複雑さゆえに、出口を見出すことができなかったのだ。
「まるで、出口を知っているかのような足取りだけど。こっちの道であってる……のかな?」
 シウムは、カジノディーラーを思わせる愛らしい衣装を見せつけるように胸を張り、言った。
「どうだろう。でも、ボクの時計ウサギの勘が言ってるんだー。出口はきっと、この先だよ!って」
 要するに、なんの根拠もなかったのだが。
 ――ユーベルコード『Pleasant Revolution(プレザント・レボリューション)』。
 シウムの元に多くの仲間が集まり、意思を統一すればするほど一同の能力が強化されるこの技は、元々とんでもなかったシウムの『野生の勘』を、さらなる精度へと引き上げていた。
 よって、この場にいた誰よりも鋭敏な感覚を駆使することのできたシウムの勘は、驚くべき能力を発揮して。
 間もなく。
 一同はすこしの回り道をすることもなく、すんなりと、迷宮の出口に到着することができたのだった。

 出口を突破したことにより、住民たちの士気はぐんぐんと上がっていた。
「さあ皆、ここからは、ボクたちが反撃する番だよ♪」
「「「「 おおーっ!! 」」」」
 出口周辺に植え付けられていた魔樹めがけ、ナイフとフォークを手にした玩具たちが突撃していく。
 その勢いには、もう二度と『不和の林檎』に惑わされまいとする、愉快な仲間たちの決意が見てとれて。
「恐れず勇気を出して進め、仲間たち!!」
 シウムはそんな彼らのそばに、銀のお皿をたくさん作りだして。
 おぞましい樹木と果敢に戦う皆が怪我しないようにと、彼らの盾となり、懸命に守った。

 やがて、新たに植えられた魔樹が伐りつくされた頃。
 魔女は、己の計略がこうも次々と打ち破られていくことに、憤りを感じはじめていた。
 ふたたび闇の中から姿をあらわし、紅玉の瞳に怒りの炎をたたえながら。
 今度は、愉快な仲間たちではなく。
 己の眼の前で、武器を構える猟兵たち睨みつけて、言った。
「何度も、何度も。ああ、おせっかいな猟兵たち! ――いいでしょう。あなたがたを、先に始末してあげるわ……!」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
こころの有無
逆に『存在しない』証明も難しいのに
軽くあんなこと言う相手を信じなくてよろしい

喧嘩したら悲しくて
誰かが喜んでくれたら嬉しくて
相手がわからないことが、怖い
こころが無ければ…感じないと思うよ?
巻き込まれぬよう下がっていてね
応援してくれたら嬉しいな

互いをわからないから手を伸ばし合うんだ
彼らは支え合うことも、愛も知ってる

笑う魔女が掲げる腕狙い、薙ぎ払い
口を止め、気を引く為の牽制を

がらくたなんて呼ばせない

手繰る瓜江に組み付かせ動きを止めようとし…避けられたと見せかけフェイント
怒りを露わにし、こちらへ誘い攻撃を受け
糸車で返し不意をつき
味方側の攻める機を作れたら

絆なんてのはさ
本物にしていくものだよ


鎹・たから
甘いアップルパイでした(もぐ
…あなたは、とても悪い魔女ですね

毎日一緒に過ごすからこそ
見えないものもあるでしょう

仲良くできず喧嘩する日だってあります
ですが、それがなんだというのです

仲直りできない理由にも
愛し続けられない証拠にもなりません

こうしてお互いに謝って
想いを告げ合うことができた彼らには
間違いなく『こころ』があります
愛しあう感情が、確かに存在します

あなたの悪い林檎などに、彼らは負けたりしません
そして、たからも

情熱と勇気で心を落ち着かせ
怒りに身を任せぬよう意識
住民の皆の姿を見れば、冷静でいられます

毒の林檎を武器で弾き
視線を魔女に向け
【念動力、貫通攻撃、2回攻撃

この氷柱は
あなたを必ず射抜きます


ハルア・ガーラント
●WIZ
極力魔女の攻撃を受けないよう〈咎人の鎖〉を使った防御や回避を
愉快な仲間達が危ない時は間に割って入ります
木の芽を植え付けられても魔女を見据え戦闘継続

芽生える不安は「愛」についてかな
全てを知りたい、見たい、暴きたい
解る、愛は綺麗ごとだけじゃないもの

けれどね
良く聞いてわたし――「愛」は免罪符じゃない!

わたしの命を啜るならこの身に宿る[浄化]の力もうんと吸わせましょう
〈銀曜銃〉からも光の力を流し込んで
辛くても愉快な仲間達の声で頑張れる
わたしの意志と[念動力]で樹木を操り、魔女を[捕縛]します
UCを発動し一気に畳みかけたい

木、こころ、そして絆
最初はちっぽけでも時間を重ねれば育っていくんです



 時計ウサギ(f20781)の励ましを受けた住人たちは、自分たちの手で協力して魔樹を殲滅できたことにより、大きな自信を得ていた。
「やったー!」
「ぼくたちの国を、ぼくたちで守れたぞ~!」
 この勢いで魔女も!と意気揚々と食器を掲げる玩具たちの様子を見て、
「気持ちはうれしいけれど。巻き込まれぬよう、下がっていてね」
 赤糸で手繰る瓜江とならび立ち、警戒した様子の冴島・類(公孫樹・f13398)がやんわりと押しとどめる。
「たとえば。みんなで、僕たちを応援してくれたら嬉しいな」
 そう提案した、次の瞬間だった。
 ふたたび魔女が闇の中から姿をあらわし、紅玉の瞳に怒りの炎をたたえながら杖を構えた。
 今度は、愉快な仲間たちではなく。
 己の眼の前で、武器を構える猟兵たちに明確な殺意を向けて、言った。
「何度も、何度も。ああ、おせっかいな猟兵たち! ――いいでしょう。あなたがたを、先に始末してあげるわ……!」


「――いけない!」
 とっさに飛び出したのは、その場で最も機動力の高いハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)だった。
 純白の翼でひとつ、ふたつ空を打てば、魔女の間合いへは一瞬で飛び込める。
 しかし、防御に意識を向けるだけの十分な時間はなく。
 ハルアは身を投げ出すようにして、魔女と玩具たちの間で両翼を広げるしかなかった。
「ガラクタもろとも、新たな苗床となりなさい!」
 手にした杖を振るい、『不安を宿す木の芽』を撃ちはなつと同時に、次々と新たな魔樹を召喚していく。
 初手の攻撃じたいは、なんということはない。
 攻撃の対象者に、不可思議な木の芽を生やすというだけなのだが、
「!」
 ハルアの『芽』を目印に、四方から魔樹の枝が伸び、貫かんと迫る。
 逃げても逃げても、攻撃は次から次へと攻撃対象を追いかけた。
 『咎人の鎖』で一方を抑えても、また別の方角から枝が伸びる。
 空へ逃れようと羽ばたいたところで、足首を捉えられ、引きずり降ろされた。
 四肢や首に絡みつく枝が、娘の生命力を容赦なく奪っていく。
 ハルアは己に生えた『芽』を通して、どろりとした不安が広がっていくのを感じていた。
(「ああ、これは」)
 娘は、『それ』をよく知っていた。
(「全てを知りたい、見たい、暴きたい。……解る。愛は、綺麗ごとだけじゃないもの――」)
 そうして。
 ハルアの意識は、茫洋とした闇に堕ちた。


 一方、他の猟兵たちは玩具たちを守るので精一杯。
 仲間の危機は視界の端に捉えていたものの、まずは愉快な仲間たちを避難させるべきと判じた。
 類が一足飛びに間合いを詰め、牽制をするべく杖持つ魔女の腕を一閃。
 手にした短刀で正確に切り裂いて。
「さあ、今のうちに……! 応援をたのんだよ!」
 後は他の猟兵たちに任せ、瓜江とともに魔樹の攻撃を払いにかかる。

 鎹・たから(雪氣硝・f01148)もまた、戦場を風のように駆けまわりながら、住人たちへ迫る枝や、飛来する毒林檎を雪結晶の刃で撃ちはらっていく。
 混乱に満ちた場の中にあって。
 少女が通り過ぎたあとには、しんと、音を吸い込むような静寂がのこった。
「……あなたは、とても悪い魔女ですね」
 近づき、攻撃を仕掛けようとすれば、すかさず毒林檎が飛来する。
「お褒めにあずかり光栄だわ。私は不和の魔女。ひとの感情をもてあそんで、喰らう者なのだから」
 ――そうだ。
 怒りで我を忘れれば、魔女を護る樹々たちの標的になってしまう。
(「大丈夫」)
 たからは己に言い聞かせるように、呟いた。
(「住民の皆の姿を見れば、冷静でいられます」)
 仲間たちの手によって避難が完了しつつあった玩具たちは、攻撃の及ばぬ遠くから、なんとか猟兵たちを励まそうと懸命に飛び跳ねている。
 それぞれ、なんと言っているのかまでは、聞き取れなかったけれど。
 ――互いに謝り、想いを告げ合うことができた彼らには、間違いなく『こころ』がある。
 ――愛しあう感情が、確かに存在する。
 なればこそ、猟兵である自分たちが、ここで敗れるわけにはいかない。
 己の持つ『情熱』と『勇気』を奮い立たせ、心を落ち着かせる。
「ハアッ!」
 意識を集中させ、迫る毒林檎を武器で弾く。
 前進、跳躍。
 さらに間合いへと踏みこんで。
 曇りなき色硝子の瞳で、瞬きもせず。
 魔樹をけしかけようとしていた魔女を、まっすぐに見つめる。
「あなたの悪い林檎などに、彼らは負けたりしません。そして、たからも」
 少女の眼前に、円陣を描くように氷が生成されていく。
 それは、瞬く間に鋭さを持つ氷柱へと育って。
「この氷柱は。あなたを必ず、射抜きます」
 宣言した次の瞬間、冷気と輝きをはなつ氷の郡柱が、一斉に魔女の胸を貫いた。

 たからの氷が魔女を射った、その時。
 ひやり、ハルアの頬を冷気が撫で。
 磔(はりつけ)に架けられた聖人のごとく捕らえられていた戒めが、緩んだ。
 それをきっかけに、不安に埋め尽くされていた意識が、焦点を結んでいく。
「もう一度です」
 凛とした声には、覚えがある。
 続いて、羅刹の少女の追撃をうけ、悲鳴をあげる魔女の絶叫。
 ――ああ、ここは戦場で。
 そこで、ハルアは我に返った。
 曇天のごとく胸中を覆っていた不安を、自らの意識で打ち払う。
「良く聞いて、わたし。――『愛』は、免罪符なんかじゃない!」
 両の手足に絡みつく魔樹の枝が、いまだ己の生命をすすっているのがわかる。
 その時だ。
 他の猟兵たちに守られながら、懸命に声援を送る愉快な仲間たちの声が届いた。
「猟兵さん、まけないで!」
「がんばってー!」
 どんなに辛くとも、彼らの声があれば頑張れる。
 力が湧いてくる。
「それなら、この身に宿る『浄化』の力も、うんと吸わせてあげます……!」
 装備していた銃を手に取り、光の力を流し込むよう、精霊に願う。
 不和をもたらす魔樹は、住人たちの応援によって何倍にも増幅された浄化の力に灼かれ、一瞬で炭と化した。
 しかし。
 いくら不和の林檎を伐ったところで、魔女がいる限り、この戦いは終わらない――。


 仲間のはなった氷柱の連撃は、魔女の胸を幾重にも貫いた。
 傷ついた身体は体液に濡れ、すっかり青ざめて。
 しかし、闇のドレスが傷ついた女のカタチを整え、今なお『ヒト型』たらしめている。
 肌と闇で継ぎはぎになった腕が、かの杖を握りしめていて。
「まだよ。まだ終わらないわ。だってほら、私はまだ、こうして動けるもの……!」
 魔女に張り付き、徹底的に攻撃を重ねながら、類は考えていた。
 ――魔樹を生み出させてしまえば、嫌でも駆除が必要になる。
 ――だからこそ、本体である魔女を集中して叩きたい。
(「さっきの氷柱の攻撃のように。うまく手を重ねれば、会心の一撃を叩きこむことは、可能なんだ」)
 間合いにさえ飛び込むことができれば、機はある。
(「魔女の術が、『怒り』を標的にするなら――」)
 類は瞬時に思考を巡らせ、策を練って。
 手繰る瓜江を魔女へと差し向け、組み付こうと試みる。
「あっはははは! なんて見え見えな動き!」
 瓜江の手をかいくぐった魔女が、嘲笑った。
 その時だ。
「彼らはあなたよりも、支えあうことも、『愛』も知ってる。がらくたなんて呼ばせない……!」
 類はあえて怒りの感情を湧きたたせることで、魔女の意識をこちらへと引きつけた。
 ねじれた魔樹の枝が一斉に類をとらえて。
 撃ちはなたれた毒林檎が、次々と類の身体をとらえた。
 吹き飛ばされた類の身体が、地に打ちつけられる、寸前。
 類は脱力させていた身体で受け身をとり着地すると、腕をすいと動かし、唱えた。
「廻り、お還り」
 瓜江と己を結ぶ赤糸が、キリキリと鳴き。
 主の意を受けた人形が、そっくりそのまま、同じ技を魔女に叩きこんだ。
「な……!?」
 何が起こったのか理解できないまま、魔女は己の身が毒されたと理解して。
 反撃の機をうかがっていたのは、類ひとりではない。
 じゃらじゃらと耳障りな音がしたかと思うと、今度は自分の身体に、幾重にも鎖が絡みついていることに気づく。
 それは先ほど、同じように磔にされた、ハルアの鎖で。
 魔女は、この鎖が少しづつオラトリオの元に引き寄せようとしていることに気づき、懸命に抗った。
 しかし。
 主の精神と接続された鎖は、抗えば抗うほど、深くその身に食い込んでいく。
「木。こころ。そして、絆。……最初はどんなにちっぽけでも。時間を重ねれば、育っていくんです!」
 傷ついたこころ。
 ないがしろにされた想い。
 それらへの万感の想いをこめ、ハルアは叫んだ。
「その身を以て、天獄の燈火となりなさい……!」
 互いの表情が見えるほどの至近距離では、さすがの魔女も攻撃から逃れることは叶わなかった。
 広げた両翼から仄昏く光る刃羽根が次々とうまれ、その身体を切り裂いて。
 全身に裂傷を負った魔女が倒れたのを見計らって。
 たからはふたたび、眼を見開いて言った。
「狙い撃つと。言ったはずです」
 つららのごとき氷の柱は、今度は魔女の頭上に円を描いて。
「あはは! やって、やってみなさ――」
 ふたたび蘇ることができると踏んでいた魔女は、ボロボロになった闇のドレスが、もはやなんの効力も持たないことに気づいたらしい。
「ギャアアアアアアァァイヤアアアアア!!」
 遠く見守る愉快な仲間たちへ。
 それでもなお手を伸ばしながら、息絶えた。
 塵と化し消えていく魔女を見送り。
 類はそこでようやく、肩の荷を降ろすように、ふかく吐息を零した。
「……絆なんてのはさ。時間を重ねて、少しづつ、本物にしていくものだよ」

●花咲く笑顔の国『カローラ』
 猟書家の脅威が去ったあと。
 居合わせた猟兵たちは、荒れた森の整備を手伝って。
 それから。
 今回あったことを、うやむやにするのは嫌だからと。
 愉快な仲間たちに請われて、「みんなでごめんなさいをする会」の立ち合い人になった。
 大森林の舞台の周辺に、国中の愉快な仲間たちが集まって。
 敵の術中にあったとはいえ、対立した者たちは互いに謝罪をし。
 そして、お互いの言葉を受け入れあった。

 『こころ』とはなにか。
 『絆』とはなにか。
 『愛』とはなにか。
 それらは、いったいどこにあるのか。
 明確な答えはでなくとも、最後までとことん、みんなで意見を交わして。

「こころの有無など、逆に『存在しない』証明をするのも難しいのに。軽くあんなことを言う相手は、信じなくてよろしい」
 まるで学校の先生みたいに、類(f13398)が告げ、
「喧嘩したら悲しくて、だれかが喜んでくれたら嬉しくて。相手がわからないことが、怖い……。でも、『こころ』があるからこそ、感じることができる。君たちは、君たちのこころで、ちゃんと痛みを知ることができているんだ」

 たから(f01148)も琥珀色の髪を揺らし、「そうです」と頷く。
「毎日一緒に過ごすからこそ、見えないものもあるでしょう。仲良くできず喧嘩する日だってあります。ですが、それがなんだというのです」
 同じように心揺れる日は、たからにだって存在する。
 けれど、信頼できる相手だと知っているからこそ。
 嘘偽りのない、『ほんとう』の自分の心をさらけだしていられるのだ、と思う。
「そんなもの、仲直りできない理由にも、愛し続けられない証拠にもなりません」

 猟兵たちの言葉に、シウム(f20781)もうんうんと、深く頷いた。
「皆で一緒においしいものも食べられたし! 国を守るために一緒に戦って、皆の絆はさらに深まったよ。これからも、笑顔で仲よくね♪」

「ところで、覚えているかな」
 それまで会の進行を見守っていた和(f33209)が、ふいに住民たちに呼びかけた。
 「なにを~?」と首をかしげる玩具たちに、和は言った。
「喧嘩の仲裁をした時に、伝えた言葉だよ。よければ俺に、この国の物語の結末を教えて欲しい。素敵な『花咲く笑顔の国』のことを教えて欲しい、って――」
「「「「 あー! 」」」」

 それから。
 住人たちの「ぼくたちの国を紹介する会」は、昼夜を問わず展開され。
 猟兵たちは楽し気に語る彼らを前に、何日も何日も、尽きることのない話を聞き続けることになったとさ。

 おしまい。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月16日
宿敵 『不和の魔女』 を撃破!


挿絵イラスト