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世外桃源さえ返る陰々滅々

#封神武侠界 #お花見

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#お花見


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●桃源郷に在りて何を思う
 桃の花咲き乱れる光景が広がっている。
 それはうららかな日差しが差し込む雅なる場所。封神武侠界においては滞在した者の霊力を高める場でもある。
 しかし、力が得られる場は常に悪意ある者に狙われるのが常であるのならば、現在の封神武侠界ほど悪意ある者が跋扈する世界もないのかもしれない。
『封神台』が破壊され、封じられていたオブリビオンたちが溢れかえり、彼らは力を求める。
 己の欲望を満たすためだけに力を振るう彼らにとって『桃源郷』は格好の餌場であったことだろう。

「これだけの美しい場所があろうとは」
 溜息をつくように陰気を吐き出したのは『星鬼・魅陰(シングゥイ・メイイン)』であった。
 嘗ては武侠であり、今は凶星より齎された陰気満ちるオブリビオンである。
 その体に流れるは血潮ではなく陰気。冷たい陰気は、周囲の熱を奪い続ける。それはどうしようもないことであり、同時に彼が抱える嫌悪そのものでもあった。

「さりとて我の冷えた体を温めるは叶わず」
 彼の体は陰気が流れるが故に冷たいままであり、周囲の熱を奪っても満たされることはなかった。
 故に『桃源郷』であれば、体を温めることが可能であろうかと思われたが、それは真逆であった。
『桃源郷』に満ちる霊力は確かに『星鬼・魅陰』の力を増した。
 けれど、それは即ち身に満ちる『陰気』が強化されただけに過ぎない。彼が求める『温もり』は永遠に手に入らないだろう。

「故に我は憎む。生きとし生けるもの全ての暖かさを。その身に宿した血潮の熱さを妬む」
 それがどうしようもないほどの逆恨みでしかないのだと知っていても、オブリビオンである以上、その衝動は止められない。
 温もりを。
 暖かさを。
 己にないのであれば、奪うだけである。『星鬼・魅陰』は桃源郷の樹に生った果実をもぎ取り、握りつぶす。
 果実の甘さも、匂いも、何もかも感じられない。
 感じるのは力が自分の体に流れ込んでくるということだけ。
 それが虚しいと感じないわけでもないけれど、それでも己の体は力を求める。
 宿した凶星の輝きが、チカラを同仕様もなく求めるのだ。

「ならば、憎むしかあるまい。我になくて、他者にあるもの。温もりを持つ生命全てを――」

●桃源郷は遠く、さりとて其処には非ず
  グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件は封神武侠界。その『桃源郷』をめぐる事件となっております」
 彼女が告げる『桃源郷』とは如何なるものか。
 新たなる世界である封神武侠界は、その全容を全て知られていない。『人界』と『仙界』があることは知られているが『桃源郷』とは一体、と猟兵達が首をかしげる。

「『桃源郷』とは、滞在した者の霊力を高めてくれる土地のことを指します。桃の花が咲き乱れる非常に風光明媚なる場所であることもしられているのですが、そこにオブリビオンが乗っ取り、己の力を高めようとしているのです」
 滞在すればするほどに力を増す場所。
 なるほど、オブリビオンが己の欲望を満たすために乗っ取ろうとすることもわからないでもない。
 このままオブリビオンを放置してしまえば、オブリビオンの力は益々持って強化されて手がつけられなくなってしまう。

「そうなる前に『桃源郷』への道を阻む障害を躱し、オブリビオンを打倒しなければなりません」
 ナイアルテの眉根が潜められた。
 何故ならば、『桃源郷』にたどり着くのは容易ならざるものである。
 必ず障害が発生しているものなのだ。今回猟兵達が突破しなければならないのは、どこかしらに『功夫』を続ける熊猫……パンダが存在する竹林である。
 鬱蒼と茂る竹林は、それだけでも障害物に成り得るのだが、『功夫』を続ける熊猫たちが猟兵たちを阻むのだ。

「えぇっと……熊猫さんたちは別にオブリビオンというわけではないのですが、『桃源郷』に至るための門番……? のようなものなのです」
 説明するナイアルテも若干要領を得ない。
 賢い動物だっているくらいなのだ、別に戸惑うことでもないのだろうが、それでも丸々もこもことした熊猫が格闘術の訓練をしている光景は微笑ましくも何処か困惑を招くのだろう。

「彼らは当然ながら皆さんほど強いわけではありません。けれど、オブリビオンではありませんので……」
 倒してはならない。
 けれど、邪魔をしてくるのでこれを躱さなければならない。事態は一刻を争う。オブリビオンが『桃源郷』の霊力に寄って、さらなる強化を得る前に打倒しなければならないからだ。

「熊猫さんを躱した後は、オブリビオンと戦うことになります。『星鬼・魅陰』……元は武侠であり、死した骸に凶星の陰気が宿ったことによりオブリビオンへと変貌を遂げた羽衣人です。彼もまた『功夫』と陰気による周囲の熱を奪うユーベルコード、さらには『桃源郷』から得た力により強化されています」
 言うまでもなく強敵である。
 これを打倒しなければ、『桃源郷』の力によって益々手のつけられないオブリビオンへと変わってしまうだろう。

 これを倒すことが今回の事件の主な猟兵の為すべきことである。
 だが、僅かに表情を明るくしてナイアルテは告げる。
「戦いが終わった後、わずかでありますが時間があります。季節は春、『桃源郷』でお花見をしてもよいでしょう。この『桃源郷』には非常に不思議な力を持つ果物が生っているそうですよ」
 様々な楽しみ方できるであろうとナイアルテは告げ、戦いの後のささやかな憩いとして楽しむのもいいであろうと告げる。

 されど、それもオブリビオンを無事に打倒した後での話である。
 油断は許されない。けれど、ナイアルテは猟兵達の背中を信頼と共に送り出すのであった――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 封神武侠界において『桃源郷』をめぐるオブリビオンとの戦いを描くシナリオになります。

●第一章
 冒険です。
『桃源郷』に至るまでの道程として、竹林を抜けなければならず、其処には『功夫』を続ける熊猫たちの姿があります。
 彼らは竹林を抜け、『桃源郷』に至ろうとする者達を妨害する存在であり、オブリビオンではありません。
 倒さず彼らをうまいことを躱す必要があります。
 また強さの目安として猟兵以上の『功夫』を積んだ熊猫はいないようです。

●第二章
 ボス戦です。
『桃源郷』を乗っ取り、パワーアップを図るオブリビオン『星鬼・魅陰』との戦いになります。
 彼はすでに『桃源郷』に滞在しており、並のオブリビオンではない強敵として皆さんを迎え撃つでしょう。

●第三章
 日常です。
 桃の花咲き乱れる『桃源郷』でのんびりと過ごす章になります。
 不思議な力を持つ果実が生っていて、それを食べるのもよいですし、桃の花びらが咲き誇る光景を楽しんでもいいでしょう。
 良き思い出となるはずです。

 それでは、封神武侠界でのオブリビオン事件。『桃源郷』をめぐる戦い、その物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
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第1章 冒険 『雑然としている場所』

POW   :    ●『気合や根性で障害物を蹴散らしたり、武器にしたりする』

SPD   :    ●『身のこなしや軽業で障害物を躱したり、隙間を縫うように抜けていく』

WIZ   :    ●『知恵や工夫を働かし、敵を障害物へ追い詰める』

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 誰が言ったか『熊猫神拳』。
 いや、誰も言ってないけど確かに『桃源郷』を守るように障害として存在する竹林の中には『功夫』を続ける熊猫たちの姿があった。
 普段はのんべんだらりと笹食ってるいめぇじであるが、この竹林に存在する熊猫たちの動きは機敏だった。
 湯呑を頭とか肩とか膝とかに置いて同じ体勢をずっと取っていたり、胡桃割ったり、腕立てする下に火のついた線香立ててたり、竹の上においた卵を割らずに掴んだり、なんかそう! 色々やっているのだ。
 これ酔拳の修行じゃない? と誰かが思ったかも知れないが、多分そうかも。
 まあ、見た目的には大変平和な雰囲気である。
 しかし、一度『桃源郷』に至ろうとする者あれば、熊猫の眼光が鋭く輝く。
 先程までのある意味のどかな修行風景は何処かへ吹き飛び、猛る熊猫たちが凄まじい勢いで飛びかかってくるではないか。

 そう、言うなれば『笹食ってる場合じゃねぇ!』というやつである。
 ともあれ猟兵は彼らを躱し、竹林を抜け『桃源郷』に至らねばならない。
 こんな所で無駄に時間を食っている暇はないのだ――!
ソナタ・アーティライエ
急がなくてはいけないと理解していますけれど
パンダさんたちの功夫する姿に、ほっこり和まずにはいられません
急いては事を仕損じるとも言いますし
強引に突破するのではなく、パンダさんたちを愛で……
いえ、友好を深めて穏便に進める関係を築きましょう

パンダさんたちの功夫の見事さに感心しきり
中には意味のよく分からないものもありますけれど
自分には出来ないことをこなして見せる姿に手放しで称賛を

荷物をもって走る修行も見たいとリクエスト
自分が荷物役になって、うまく進路を誘導し桃源郷前まで運んでもらいます
無事到着しましたら、見学と運んでくれた事へ丁寧にお礼し
UCで姿を消して桃源郷へと進みますね

アドリブ歓迎です



『桃源郷』に滞在するオブリビオンによって『封神武侠界』自体に危機が及んでいる。
 それは猟兵にとって急がなければならないことであるのだが、『桃源郷』に至るまでの道程は険しいものである。
 容易にたどり着けぬがゆえの『桃源郷』。
 その力の恩恵は言うまでもない。
 霊力に寄って強化されたオブリビオンは刻一刻と力を増しているだろう。
 手がつけられなくなる前にこれを打倒しなければならないのは理解できていたが、猟兵ソナタ・アーティライエ(未完成オルゴール・f00340)は目の前の光景に感心しきっていた。

 何に、と思われるかもしれない。
 そう、『桃源郷』に至る道程に自生する竹林において白と黒のもこもこ。即ち熊猫が『功夫』を重ねているのである。
 彼らは様々な修行に身を投じ、いつもののんべんだらりとした雰囲気など何処かに忘れてきたかのように励んでいるのだ。
「ええ、わかっておりますとも」
 ソナタは力強く頷いた。
 わかっているのだ。急がなくてはならないこと。そして、せいては事を仕損じるということも。
 ゆえに彼女は強行突破sるのではなく、友好を深めて穏便に関係を築いて竹林を突破しようとしていた。

「いえ、決してパンダさんたちを愛で……」
 ようとはしていないのである。
 しつこいようであるが、ソナタはちゃんと考えての行動なのだ。決して、そのふわふわもこもこに抱きついたりしたいなぁとか、そんなことは考えていないのである。
「――?」
 熊猫たちはというと、ソナタの容姿に小首をかしげている。
 ああ、その仕草さえ可愛らしい。
 けれど、ソナタは落ち着いて言葉を選ぶ。

「素晴らしい『功夫』ですね。わたしには到底真似できそうもありません」
 そんなふうに手放しで称賛されると熊猫たちはテレテレとしてしまう。無理なからぬことである。
 だって美少女である。
 美少女が褒めてくれるのである。調子に乗ってしまうのも仕方ないのである。
「なんて重たそうな水瓶……それを持って千里征くと……まあ、ならわたしを担いで疾走ることはできますか?」
 そんなふうにソナタが誘導する。
 普段の熊猫たちであれば、気がついたであろう。彼女がうまい具合に竹林を抜けるために己達の修行を利用しようとしていることに。

 けれど、褒めそやされて大変得意満面な彼らは快くうなずいてソナタを担いで、えっほえっほと走り出す。
 わあ、すごい。
 そんなふうに言われてしまえば浮かれきってしまう。
「あちらには何がありますか? わたし見てみたいです」
 なんて、楽しげな声で言われようものなら、熊猫たちは自分たちが竹林を抜けようとしていることさえ忘れてしまってソナタを担いで『桃源郷』の入り口まで走り抜いてしまうのだ。

「ぜーはー……!」
 荒い息を吐き出しながら熊猫たちが大地に突っ伏す。
 かなりの距離を走らせてしまったのが、ソナタには申し訳なく思えたが、もう『桃源郷』は目の前である。
 お礼とばかりにソナタの歌声がユーベルコードを伴った疲れ切った熊猫たちに届けられるのだ。

「幻妖童歌 其之百六十六『迷子の仔猫』(アナタトアソブカクレンボ)……丁寧に運んでくださりありがとうございます。これは幾許かのお礼です……」
 ありがとうございます、と重ねてソナタは礼を告げ、召喚された子猫たちが自身に触れ、ソナタを透明にさせる。
 そう、それこそが彼女のユーベルコードである。

 熊猫たちはソナタの姿が見えなくなってしまったことに驚き慌てふためく。
 だってそうだろう。
 自分たちが確かに運んできた少女がまるで狸か狐に騙されたように消えてしまったのだから。

 そんな彼らを透明になったソナタが申し訳無さそうに見つめ、けれど目的地である『桃源郷』にたどり着けたことに安堵するのだ。
「……ちょっと申し訳なかったですけれど……誰も傷つかないほうが良いですよね。また今度歌を披露させてくださいね」
 ソナタはほほえみながら、『桃源郷』へと駆けていくのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

遥・瞬雷
SPDで行動。

陰陽の気を整え不老不死に至るのが仙人。陰の気をばら蒔かれるのはいただけないねぇ。
清業を積み重ね、永遠の若さと力を保つ為にも一働きしておこうか。…って、こういう我欲を捨てろと師匠には叱られるけど、まだまだ未熟だね。

さて、準備体操に付き合ってくれるとは粋な猫達じゃないか。私の功夫、試させて貰うよ。
襲いかかる熊猫の背を飛び越え股の下を潜りすり抜ける。
竹林のしなりを利用し跳躍する等して桃源郷に向かおう。
ははっ、やっぱり私は座学よりこういう修行の方が楽しいねぇ。楽しさは陽の気を生み心身の調和を保つ。これでまた若返られそうだよ。



 仙人とは修行の果てに仙術と不老不死を獲得した者である。
 遥・瞬雷(瞬雷女仙・f32937)もまたその一人であり、嘗ては戦乱を生き抜いた女傑。
 さらなる力と不老不死を求め仙術を学ぶ妙齢なる女武人である。
「陰陽の気を整え、不老不死に至るのが仙人。陰の気をばら撒かれるのは頂けないねぇ」
 彼女の目的は『桃源郷』に至ったオブリビオンの打倒である。
 凶星により陰気を血液の代わりに体へと巡らせる『星鬼・魅陰』が力を得て、世界に陰気を撒き散らせば世界の均衡が崩れ滅びへと向かってしまう。
 それは清業を積み重ね、永遠の若さと力を保とうと願う瞬雷にとっては、困った事態である。

 とは言え、師かからはそういった我欲を捨てろと叱責を受けるばかりである。
 それが自身がまだまだ未熟である所であるのだが、オブリビオンが悪行を為すこととは関係がない。
 竹林に足を踏み入れれば、『功夫』を重ね、様々な修行に明け暮れる熊猫たちの鋭い眼光が出迎える。
「ほう……熊猫とは言え、中々に練り上げられているねぇ」
 彼らの鍛えられた肉体を見れば分かる。
 愛くるしい姿かたちとは裏腹に強靭な筋肉。鋭い爪、そして牙。
 どれもが天然の餌付けによって草食にならなければ、猛威として人々に認識されていたであろうことを裏付ける姿を瞬雷は真正面から見つめ、油断なく対峙していた。

「さて、準備体操に付き合ってくれるとは粋な猫達じゃないか」
 鼻で笑った瞬雷に熊猫たちの眼光が輝く。
 俺達は猫じゃねぇ! とばかりに飛びかかる姿は、マジで猫じゃない。いや、熊でもない。
 そう、彼らは熊猫。
『熊猫神拳』の使い手である!

「私の『功夫』、試させて貰うよ」
 突進してくる熊猫の背を掌で跳び箱の要領で飛び越え、さらに襲いかかる熊猫の股下をするりと滑るようにくぐり抜ける。
 熊猫たちの瞳に緊張が疾走る。

 こ、こいつできるッ……!

 瞬雷は笑った。まるでアトラクションだ。
 次から次に襲いかかる熊猫たちの俊敏さはには目をむくこともあったが、それでも焦るほどではない。
 竹林の竹をつかんで、しなりを利用して高く跳躍し、自身へと集まってきている熊猫たちの数を把握する。
「一、二、三……五、六、七とまあよく一人にこれだけ来るもんだ!」
 けれど、楽しい。
 熊猫たちは少しの加減もなく拳法と強靭な肉体を生かして瞬雷に襲いかかる。けれど、その尽くを彼女は躱し、竹林を駆け抜けていく。

 仙術を納め、不老不死を体得する仙人とは言え、彼女もまた武人である。
 ゆえに、このようなじゃれ合いのような運動のほうが性にあっているのだろう。
 別に師である仙人に対する不平不満ではないけれど。一応断っておく。
「ははっ、やっぱり私は座学より、こういう修行の方が楽しいねぇ」
 熊猫たちの腕を掴んで合気の要領でなぎ倒しながら、瞬雷は竹林を駆け抜けていく。
 楽しい。楽しい、と心の奥底から陽気がこみ上げてくる。
 これこそが陽の気を生み、心身の調和を保つ修行の一つでもある。瞬雷は楽しげに笑いながら、熊猫たちとの追いかけっこならぬパルクールに興じ、一気に竹林を抜けていく。
 熊猫たちはスタミナ切れでへばっているが、瞬雷はまだまだ余裕がありそうであった。

 そんな彼らに向かって彼女は言う。
「ありがとうねぇ。これでまた若返れそうだよ」
 それじゃあね、と瞬雷は朗らかに笑ってから、再び『桃源郷』を目指すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
桃源郷かぁ、どんな素敵な場所なんだろうね
楽しいお花見の為にもお仕事頑張ろうね、梓
梓の作ってくれたお弁当楽しみだなー

わぁ、パンダが色んな芸しているよ
サーカスとかに出られそうだね
可愛い~と言いながらスマホで写真や動画を撮りまくる
SNSにアップしたらいいねいっぱい貰えること間違いなし
…あ。パンダがこっち向かってきた
あははーごめんごめん
雑に謝りつつ梓と一緒に焔の背へ

これだけ竹が生い茂っていると焔も飛びにくそうだね
UC発動(攻撃回数重視)、進行方向にある竹を
ナイフで次々と切り倒して道を開いていくよ
ナイフには「熊猫」を透過する性質を与える
うっかり彼らにナイフが当たって傷付けないようにね


乱獅子・梓
【不死蝶】
いや、仕事の目的はそれじゃないんだけどな…?
昔の綾なら強敵との戦いを何より楽しみにしていただろうに
今では戦いより花、花より団子か
それだけ楽しみにしてくれたら俺も作りがいがあるってもんだ
(花見の為に前もって作っておいた弁当持ち込み

おい綾、写真撮るなとは言わないが程々にしておけよ
あんまり近付くとシャッター音とかで気付かれる可能性が…
って気付かれたし!?
仕方ない、強行突破だ!
焔を成竜に変身させ、綾と共に乗る
邪魔くさい竹を綾に処理してもらいながら
高速で飛んで竹林を抜けていくぞ

更にUC発動し、零の咆哮を辺り一帯に響かせ
立ち塞がる熊猫を眠らせていく
あくまで眠らせるだけで、倒さないように注意



『桃源郷』――それは求める者は訪れることのできぬ霊場として知られるのは異なる世界の御伽噺であったことだろう。
 しかし、『封神武侠界』における『桃源郷』は違う。
 その場に滞在する者の霊力を高め、桃の花が咲き乱れる麗しき園。
 故にオブリビオンは『桃源郷』を独占し、乗っ取ることで己の力を強化し、欲望のままに振る舞うことを望むのだ。

 それは言うまでもなく世界の危機に類することである。
 故に猟兵はこれを止めなければならないのだ――が。
「『桃源郷』かぁ、どんな素敵な場所なんだろうね。楽しいお花見の為にもお仕事がんばろうね、梓」
 そうのんびりとした雰囲気で言ったのは、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)であった。
 告げられた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、まだ緊張感を持っていた。
「いや、仕事の目的はそれじゃないんだけどな……?」
 梓は確かにグリモア猟兵から託された事件の解決のことを言っていたのだが、綾はどうにも違うようだった。
 昔の彼であれば強敵との戦いを何より楽しみにしていたのだが、今はそうではないらしい。
 その変化が好ましいのか、それとも好ましくないのかは梓の心の内側を覗くほかあるまい。

『桃源郷』に至る竹林を前に二人は立ち並ぶ。
「梓の作ってくれたお弁当楽しみだなー……見てご覧よ、梓」
「今では戦いより花、花より団子か。それだけ楽しみにしてくれたら俺も作りがいがあるってもんだ」
 花見のために前もって作って持参した弁当箱のことを綾は言っているのだろう。それはそれでうれしいものであるが、今はその時ではないのだ。
 なぜなら『桃源郷』に至るための道程には竹林があり、そこには『功夫』を積む熊猫たちが待ち構えている。
 通り抜けようとする者を排除しようとする障害として座しているのだ。

「わぁ、熊猫がいろんな芸しているよ。サーカスとかに出られそうだね」
 可愛い~と綾はスマホを構えて、様々な修行をしている熊猫たちを写真やら動画に納めまくるのだ。
 きっとSNSなどにアップしたのならば、いいねがバズってしまうことうけあいである。
「おい綾、写真撮るなとは言わないが程々にしておけよ。あんまり近づくとシャッター音とかで気づかれる可能性が……」
「あ。熊猫がこっち向かってきた」
 おい! と梓が思わず叫ぶ。
 それが更に呼び水となって熊猫たちが一斉に眼光鋭く二人をにらみつける。完全に気づかれてしまった上に、注意を惹きつけてしまう結果になってしまった。

「あははーごめんごめん」
「いいよ、仕方ない。強行突破だ!」
 二人は成竜へと変身した焔の背に乗ると一気に竹林を飛ぶ。綾はその瞳をユーベルコードに輝かせる。
 ディメンション・ブレイカーと呼ばれるユーベルコードは指定した対象を透過する力を発露させ、竹林を薙ぎ払っていく。
 この場合、綾が付与したのは『熊猫を透過する性質』である。それによって不意に熊猫が襲いかかってきたとしても、刃はすり抜け彼らを傷付けないだろう。
 うっかり彼らを傷付けてしまわないようにとの配慮でった。

 しかし、打撃としてのダメージが与えられない以上熊猫たちの猛追は続く。
「竹林はどうにかしたから、後お願いねー」
 綾の言葉に梓はうなずく。
「歌え、氷晶の歌姫よ」
 頼んだぜ、と氷竜『零』の咆哮が轟く。
 それは神秘的な咆哮であり、熊猫たちを葬送龍歌(クリスタルレクイエム)に誘うように次々と眠らせていく。
 彼らからすれば何故眠くなるのかすらもわからないままに、身を打つ咆哮の前にただ倒れ伏し、鼻提灯をぷかぷかさせるばかりである。

 その様子を綾はスマホに納め、再び梓に叱られるといったことを繰り返しながら竹林を抜けて『桃源郷』へと急ぐ。
 二人はあえて熊猫たちを倒すのではなく、緩やかな午睡に誘い込んで安全に向かうことを選んだ。
「まあ、そうだよな。せっかくの花見が控えているっていうのに、いたずらに熊猫を刺激する必要もないしな」
「そうそう。せっかくのお弁当なんだから、楽しくないとね」

 二人はそんなことを言いながら、二匹の竜と共に『桃源郷』へと急ぐのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
熊猫ねぇ。可愛らしく見えるけど、あれも熊の仲間なのよねぇ。
それにしても、客寄せどころか客を追い払うか。愛想の無いこと。
そう思わない、アヤメ。

撃破じゃなく突破でいいのなら、「仙術」「道術」の出番ね。方術『空遁の法』!
アヤメごと周囲の空間を切り取って、熊猫のいない場所へ転移。これを繰り返して、熊猫の修行場をすり抜けるわ。

万一熊猫が襲ってくることがあれば、薙刀の石突きで「なぎ払い」追い返す。

そういえば、この生き物たちどんな声で鳴くんだっけ? ここにいるのは人間の言葉喋ってるから、動物としての本来の鳴き声じゃないし。
うん、本当にどうでもいい話よね。さっさと転移を連続して、この場を通り抜けましょう。



『桃源郷』に至るための道程は障害がつきものである。
 目の前に広がる竹林にもまた、その障害とも言うべき『功夫』に励む熊猫たちがいる。
 彼らは皆、一様にふわふわもこもこであり、可愛らしい姿をしているにも関わらず、その鍛錬に寄って得られた強靭なる肉体は言うまでもなく凶悪そのものであった。
 猫って書いていても熊であるからして、その愛くるしい姿からは想像もできないようにな膂力を持っていることは言うまでもない。
「熊猫ねぇ。可愛らしく見えるけど、あれも熊の仲間なのよねぇ」
 そんなふうにしみじみと言うのは、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)であった。

 彼女の視線の先にある熊猫たちの修行風景と、『桃源郷』にいたろうとする者を阻む凶暴性はあまりにもかけ離れていた。
 それほどまでに彼らの修行風景は、まあなんていうかほんわかしていたのだ。
「それにしても、客寄せどころか客を追い払うか。愛想のないこと」
 そうは思わないかと式神アヤメに尋ねるが、彼女からすれば『桃源郷』へ至らせないための障害であるわけであるから、当然であったのかも知れない。

 それに動物園という文化がなければ、客寄せパンダという類の比喩もピンときていないのかもしれない。
 ならば、今度出かけるときは動物園にでも行こうかと思案巡らせたゆかりはうなずく。
「撃破じゃなく突破でいいのなら、『仙術』、『道術』の出番ね――現世の裏に無我の境地あり。虚実一如。空の一心によりて、我が身あらゆる障害を越えるものなり。疾っ!」
 彼女の瞳がユーベルコードに輝いた瞬間、彼女たちは一瞬で熊猫たちが否居場所へ転移する。
 それは一瞬であった。
 自分たちを囲む空間を切り取り転移する術式によって、空間を跳躍せしめるは、方術『空遁の法』(ホウジュツ・クウトンノホウ)。

 例え、自分たちを視認したとしても次の瞬間にはそこにはいないのだ。
「そいうえば、この生き物たちはどんな声で鳴くんだっけ?」
 熊猫たちは息も荒く、セイッ! って感じで修行に勤しんでいるせいで、特に鳴き声らしいものは聞こえない。
 まあ、熊猫は熊猫である。
 賢い動物のように言葉をしゃべる類の者ではないのだろう。単純に『功夫』を続ける動物というふうに理解したほうが、簡単でいい。
 アヤメも疑問に思っていたようだが、此処で答えはでないようだ。

「ううん、本当にどうでもいい話よね」
 さっさと転移を連続して……と呟いた瞬間、ゆかりたちの背後に熊猫達が迫る。
 え!? と思った瞬間、ゆかりは反射的に薙刀の石突きで襲いかかってきた熊猫を薙ぎ払う。
 まさか追いついたのか。
 次の瞬間ゆかりは理解する。熊猫たちが如何にして自分たちに追いついたのか。

 それは竹林に生えた竹をしならせ、まるで投石機のごとく熊猫を飛ばして追いついてきたのだ。
「ええー!? 何、何なのよ!?」
 気持ちはわからないでもない。
 だって、熊猫が振ってくるのだ。放物線を描きながら、ゆかりたちを逃さぬとばかりに追い立てる。
 これはたまらないとゆかりは次々に転移を連続して竹林を抜けていく。

 桃源郷の前でゆかりは荒い息を吐き出しながら、思った以上に熊猫たちの『功夫』が練り上げられていたことに驚嘆するのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

聖・華蓮
この熊猫さん達、強そうですね…私などでは、一撃で吹き飛ばされてしまいそうです。
けれど、何とか通して頂きませんと…

私には戦う術はありませんので、何とか説得によって道を開けて頂こうと思います。
素直に応じてくれないかもしれませんが、そこは粘り強く。
熊猫さん、私はどうしてもこの先の桃源郷に行かないといけないのです。
どうか、道を譲って頂けないでしょうか…?
(無意識に寵姫の瞳を発動しつつ)

首尾よく道を開けて頂けたなら、お礼をしつつ先へ進みます。
もしご厚意によって道案内をして頂けるのであれば、お言葉に甘えると致しましょう。



 その瞳は心を射抜く視線を伴って。
 その唇は心を揺さぶる音色となって。
 その肌は触れれば漣のように溶け落ちていくようで。

 つまるところ、ふわりと羽衣人の軽い体を舞わせるように竹林の前に降り立った聖・華蓮(傾界幻嬢・f32675)は謂わば、寵姫の中の寵姫であったのかもしれない。
 心を惑わす、その概念が形を為した存在というには言葉が足りない。
 それほどまでに幼さが残る絶世の美貌のままに彼女は細い足を竹林へと踏み入れる。
「ああ、熊猫さん達、強そうですね……」
 その瞳は己が荒事に向かぬことを自覚していたからこそ、不安げに揺れた。

 竹林の中で修行に励む熊猫たちは皆、草食であることを忘れ、己が屈強なる熊に連なる者であることを思い出した熊猫たちである。
 みなぎる闘志が『功夫』を受けて、体中から湯気のように立ち上っていく。
 それほどまでに修練に余念のない熊猫たちを相手取って華蓮が勝てる見込みなど万に一つもなかった。
 一撃で吹き飛ばされてしまうだろうと、彼女自身もわかっていた。
「けれど、なんとか通して頂きませんと……」
 彼女は寵姫である以前に猟兵である。
 自分の本分を忘れたわけではないのだ。けれど、彼女自身に戦う術はない。

 だからこそ、彼女は言葉を尽くすしかないと竹林に一歩を踏み出す。
 瞬間、ギラついた眼光が彼女を射抜く。
 それは『功夫』に明け暮れていた熊猫たちの瞳であった。彼らはこの竹林を抜けて『桃源郷』に至らんとする者たちを通さない。
 そのための障害である。
「……熊猫さん、私はどうしてもこの先の『桃源郷』に行かないといけないのです。どうか、道を譲って頂けないでしょうか……?」

 彼女の所作は美しいが弱々しいものであった。
 到底何か武術の類を納めているように思えなかったことだろう。事実、彼女事態に戦闘力と呼ばれるものは存在しない。
 あるのは、美貌だけである。
 けれど、その美貌こそが最大にして最高の武器である。
「――……」
 熊猫たちが華蓮の前に立ち塞がる。
 線の細い娘と、むくつけき熊猫たち。これから起こるのは凄惨為る悲劇であると誰もが思ったことだろう。
 けれど、それは起こらない。

「まあ、わかってくださるのですね」
 微笑んだ華蓮の瞳は、ユーベルコードに輝いていた。
 いや、彼女自身は無自覚である。魅惑の視線が寵姫の瞳から放たれ、熊猫たちを射抜いたのだ。
 それはあらゆる事象を彼女に友好的なものに変える凄まじきユーベルコードである。
 熊猫たちは、それ故に華蓮に恭しく……時にデレデレっとしながら、道を開けたのだ。
 まるで海を割るように。
 あらゆるものが彼女に味方をする。それこそが寵姫。

「ありがとうございます。ありがとうございます」
 しかして、彼女は己の美貌が齎したことを知らぬ無垢為る者。熊猫一匹一匹に一礼をしながら、さりとて安全に竹林を抜けていく。
 ああ、けれど。
 華蓮は竹林をどう進めば『桃源郷』に至るのかを知らない。道に迷っていると、我先にと熊猫たちが華蓮の道案内を買うように、あっちこっちそっちどっちと指差して教えてくれるのだ。

「まあ! なんていうことでしょう。何から何まで本当にありがとうございます。では、お言葉に甘えまして」
 華蓮は微笑む。
 ただそれだけで熊猫たちは彼女に魅了され跪くのだ。
 圧倒的な美貌の前には生命であろうと無機物であろうと、自然現象であろうとも、彼女に従う。

 それこそが寵姫。
 それを体現する華蓮は悠々と竹林を抜け、『桃源郷』へと至ることに相成ったのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

厳・範
封神台が壊れたあの日から、故郷は連日、騒がしいことだ。
…何ともまぁ、長閑なことよ。
しかし、ここの番人は熊猫だったのか。

さて、オブリビオンではないし。できるだけ避けて、倒してはならぬ…となると。
回避重視になる【転変】か。雲を発生させて、それに乗る。
さて、この速度はいつもより速いのか遅いのか…まあよい、回避もいれるとこうなる。
あやつらの攻撃(?)は見切って避ける。わしは先に行くのを重視するからな。

…使令に熊猫も考えてみるか。



 猟兵とは世界を渡る者である。
 数多ある世界を見聞きし、世界それぞれにあるであろう文化や世俗を知る者である。だが、出身世界から出ることを知らなかった者もいる。
 それを偏狭であると誰が言えるであろうか。瑞獣たる厳・範(老當益壮・f32809)にとって、それは真実ではない。
 黒麒麟の瑞獣たる彼が守護していたのは親友であった。
 真に英傑であったと言える人物であったことだろう。けれど、その親友を亡くしてから、彼は親友が好きであった世界を護るために戦う。

 そこに世界を一つしか知らぬという事実は意味をなさない。
 己が為すべきことを為すという確固たる意志があるかぎり、猟兵はその責務を忘れないだろう。
「封神台が壊れたあの日から、故郷は連日、騒がしいことだ」
 封神武侠界は今まさにオブリビオンの脅威に晒され続けている。
 それは言うまでもなくオブリビオンをこれまで封じていた『封神台』が破壊されたからにほかならない。
『人界』も『仙界』も数多のオブリビオンが跋扈し、いつ世界の破滅を齎すやもしれぬ。
 故に範は戦うのだ。

「……なんともまぁ、長閑なことよ」
 しかして、彼の瞳に映るのは竹林であった。
『桃源郷』に至るための道程、そこに障害として待ち受ける竹林には『功夫』に励む熊猫達の姿があった。
 修行に明け暮れる姿は確かに微笑ましくもあるのだが、これが障害となるんであれば、それは取り除かなければならない。
「しかし、ここの番人は熊猫だったのか」
 意外であったが、驚くには値しないだろう。
 瑞獣たる彼にとって、封神武侠界とは勝手知ったる世界である。故に熊猫が『功夫』を積んでいたって別におかしいはなしではないのだ。

 竹林に踏み込んだ彼を待っていたのは、鋭い眼光の熊猫たちであった。
 酔拳みたいなポーズを取っているのは、冗談でもなんでもない。蛇拳、鷲拳なんでもござれである。
「さて、オブリビオンではないし。できるだけ避けて、倒してはならぬ……となると――さて、行くか」
 範の判断は速かった。
 本性である黒麒麟に変化し、彼の体重が10分の1へと変わる。
 それは羽衣人のように風に舞うように、襲い来る熊猫たちの攻撃をいなすのだ。

 例え、彼らの『功夫』が類まれなるものであったとしても、彼とて嘗て武侠であった身である。
 その動きを見切って躱し、流麗でありながら壮麗な動きで翻弄するのだ。
「此度はお前達を打ち倒すのが目的ではない。故に、暫し共に演舞とまいろうか」
 それはまさしく武を舞に変えた動きであった。
 転変(テンベン)。
 それは範の動き似合わせて熊猫たちが舞い踊るようでも有り、同時に全ての攻撃が範に届かず空を切る。

 されど、その動きは回避一辺倒。
 一歩も竹林を進むことはできないはず、だった。
「大した『功夫』だ。だが、まだまだ練り足りぬな」
 仙人としての高みに登った彼にとって、それは赤子の手をひねるようなものであった。一瞬で体の立ち位置を切り替え、熊猫たちの間をするりするりとくぐり抜けるようにしてさっそうと襲い来る熊猫たちをいなして進む。

 それはまるで風に流れる雲を掴むようなものであった。
「それではなわしは先に征くとしよう」
 範は優れた体捌きで熊猫たちをいなし、竹林の先へと進む。
 先に見える『桃源郷』。そこに今回の事件の原因であるオブリビオンがいる。ならば、これを討って、今は亡き親友に捧げねばならない。
 その想いを新たに範は進む。

 けれど、先程の攻防を踏まえて彼はこうも思ったのだ。
「……使令に熊猫も考えてみるか」
 それは思いつきであったであろうし、実現するかはわからない。けれど、悪くない思いつきのように範は思いながら『桃源郷』へと急ぐのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒髪・名捨
判定:POW

桃源郷ねぇ
しょーじき興味ねぇなぁ
霊力だが、気力だかしらねーが。土地の力借りる程度の力なんぞたかが知れてるさ。『功夫』しろよ。
あと阿片な(寧々「これは合法じゃ。良い子は違法に手を出すでないぞ。」)

さて、最初の関門は熊猫門番か、おもしれぇ。
オレの『気合い』と『覇気』に怯えないとは…やるなッ。
はッ!!(拳から『衝撃波』)
りゃりゃ!!(覇気で武器受けで攻撃をいなし)
おりゅあーさ!!(互いの拳がぶつかり合う『カウンター』)
いいパンチ持ってるじゃねーか。

ふっ、武道家にとって拳と拳が交われば友と化す。
ナイスガイだぜ(寧々「旦那様そいつメスじゃ。」)
え、あ…すまん(吹っ飛ばされつつ吹っ飛ばしつつ)



 力を求めることは、誰しにもある衝動であろう。
 そこに己の内側から発露するものか、それとも外側から齎されるものかの違いはあれど、力とは単一のものである。
 故に『桃源郷』を求めるオブリビオンの心もまた力を求めるという一点においては純粋なものであったのかもしれない。
 けれど、力を己の中より練磨する者たちにとって『桃源郷』が齎す力は魅力的でもなんでもなかったのかも知れない。

 少なくとも、黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)にとって『桃源郷』とは力を求めるところのものではなかった。
「『桃源郷』ねぇ……しょーじき興味ねぇなぁ」
 ぷかり、と合法阿片をくゆらせ、キセルを揺らす名捨は、目の前の竹林を眺める。
 そこに在ったのは様々な修行に明け暮れる熊猫たちの姿であった。
 オブリビオンの目的は『桃源郷』に滞在し、霊力を得て力を増すことである。
 だからこそ、手がつけられなくなる前に猟兵たちはこれを討ち、『桃源郷』を乗っ取ろうとするオブリビオンの企みを打ち砕かなければならない。

 名捨にとって霊力だか気力だかは知ったことではない。
 土地の力を借りなければならない程度の力などたかが知れているとさえ思っていた。有り体にいえば『功夫』しろというたった一つの言葉で片付けられてしまう。
「あとコレな」
 これさえあればいいと合法阿片をぷかぷかさせるのだ。
 喋る蛙『寧々』が頭上で、『これは合法じゃ。良い子は違法に手を出す出ないぞ』と言っているが、この封神武侠界においては阿片とは即ち国を滅ぼすほどの猛威を振るう劇物である。

 さて、と名捨は竹林の前に足をすすめる。
 ここは『桃源郷』に至るための道程。ここを避けては通れず、けれど此処には熊猫たちが道を塞いでいる。
「さて、最初の関門は熊猫門番か、おもしれぇ」
 びりびりと名捨から溢れる気合と覇気。
 それは並の人間であれば気圧されてしまうほどの重圧であったが、熊猫の一匹はものともせずに構えた。
 なるほど、と名捨は思っただろう。
 だてに『功夫』に明け暮れていたわけではないのだ。

 熊猫。
 その名前だけ、その字面だけを見れば可愛らしいものであるが、熊である。言うまでもなく、その膂力は凄まじいものであろう。
 故に、『功夫』を積んだ彼らにとって敵に臆することなどないのだ。
「やるなッ……はっ!!」
 そこから言葉は不要であった。
 名捨から繰り出した拳からの衝撃波に耐えた熊猫が疾走る。
 その恵まれた体躯から放たれる突進の一撃は、名捨の覇気にぶつかるも、即座にいなして体勢を立て直す。

「りゃりゃ!!」
 ぐるん! と互いの位置が入れ替わり、余談無く続く拳の応酬。
 時に蹴撃。
 時に防御。
 互いの『功夫』を認め合うような連撃のさなかに、二人の間には不思議な感情さえ芽生えただろう。
 言葉によるコミュニケーションではなく、拳に寄るコミュニケーション。
 それは拳法家同士にしか通じぬ言語であったが、それでも名捨と熊猫は通じ合っていたと言えるだろう。

「おりゅあーさ!!」
 互いの拳がぶつかり合い、衝撃が竹林を揺らす。
 一陣の風が二人の頬を撫で、まるで互いの『功夫』を、そして力量を知るように体の中を心地よい疲労感が抜けていく。
「いいパンチ、持ってるじゃねーか」
 二人は笑っていた。
 互いの『功夫』をたたえあい、突きつけられていた拳は掌となって、がっしりと握手を交わす。

 もはやそれだけでいいのだ。
「ふっ、武闘家にとって拳と拳が交われば友と化す」
 それは言うまでもない事実。
 そして、それだけ種族の差は越えられるのだ。
「ナイスガイだぜ」
 ふっ、と爽やかに笑う名捨。けれど、頭の上に座って居た喋る蛙『寧々』が言う。そいつメスじゃ、と。

 え、と思った瞬間、ぶるぶるふるえる熊猫から放たれた一撃に名捨は吹き飛ばされながら、竹林を後にする。
 てっきりオスかと!
「すまん」
 それだけ告げるの精一杯であったが、名捨はなんやかんやありながら、竹林を抜け、『桃源郷』に至るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と

パンダだ
…パンダだ
やっぱりパンダは格闘家だったんだ(嬉
うんうん。美味しいらしいとは聞くけどそれは兎も角…

そうだね、ここは平和的に
パンダさん集めてくれたんだ。ありがとう。じゃあいくね
「これからここにいる晴夜お兄さんがパンダの皆さんと戦います。全員でかかってくださって結構ですので、無事に勝てたらここを通してください」
これでいいよね。ほら、拘束といて(とてもやり切った顔
あ、勿論殺してはいけないから武器は禁止ね

というわけでお兄さんの手腕とパンダの格闘を堪能していく
時々パンダを応援する
格闘パンダカッコいい
無理に通るよりこっちの方が結果的には早いよ
って、待ってもうちょっと見てた…


夏目・晴夜
リュカさん(f02586)と

見て下さい、パンダですよ
熊の腕に香草詰めて焼くと美味いらしいですね

でも倒すのはダメですから平和的に行きますか
よし、ここは私にお任せを
『憑く夜身』で操ったパンダ達の影でパンダ達を一時的に拘束します
どうです、リュカさん!このハレルヤの至高の技術
熊の腕の代わりにハレルヤの手腕を存分に堪能しつつ褒めて下さっても…
…いや何故そんな宣言したんです?拘束してる隙に通ればいいのに
武器禁止は流石に無理…うわ、拘束解けたじゃないですか!

第六感フル活用で躱しつつ、足蹴り位なら何とか…
パンダじゃなくてハレルヤのか弱い人狼ボディを応援して下さいよ!
全然早くない。ほら、さっさと駆け抜けましょう



 竹林の中で弛まぬ『功夫』を積み上げていく肉体の美しさと、ふわふわもこもこの白黒の体毛が奏でるハーモニーは素晴らしいものであると言えたことだろう。
 何を言っているのかと言えば、『熊猫神拳』の修行に明け暮れる熊猫たちのことである。
 彼らは皆、一様に己の肉体を鍛え上げ、『桃源郷』への道程を護るように愛くるしさと相反するような鋭い眼光でみなぎる闘気を発露させるように修行を続けていた。
 そんな彼らを見て感激していたのは、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)であった。
「見てください、パンダですよ」
 言わずもがな、そんなことはわかっているリュカに声をかけるのは、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)であった。


「パンダだ……パンダだ。やっぱりパンダは格闘家だったんだ」
 二度言った。
 リュカの瞳は喜色に染まっていたし、その瞳にあったのは憧憬であったのかもしれない。みなぎる闘気を前にリュカは見惚れるように彼らの『功夫』を積む姿を眺めていた。
 無限に見ていられる。そんな気さえしたのだ。
「熊の腕に香草詰めて焼くと美味しいらしいですね」
「うんうん。美味しいらしいとは聞くけど、それは兎も角……」
 そんなリュカを前にしていきなりの食欲である。唐突すぎる食べ物の話に、ちょっとびっくりする。
 え、食べる気なの? と。けれど、倒すことは止められている。故に二人は平和的に行動しようと話し合っていたのだ。

 晴夜の瞳がユーベルコードに輝く。
「どうぞ存分に自分の影とお遊び下さい」
 私におまかせを、と晴夜は得意げにユーベルコード、憑く夜身(ツクヨミ)の如き目に見えぬ操り糸を放ち、熊猫たちの影に落とす。
 それは鍛錬に集中していた熊猫たちにとって、驚くべきことであっただろう。糸が触れた影が蠢き、熊猫たち自身を雁字搦めにしてしまうのだ。
「どうです、リュカさん! このハレルヤの至高の技術。熊の腕の代わりにハレルヤの手腕を存分に堪能しつつ褒めてくださっても……」
 それはもう得意満面であった。

 確かに見事な手腕であった。
 気取られることなく熊猫たちを拘束し、一気に邪魔されることなく竹林を踏破できる。
 それは言うまでもなく『桃源郷』に急ぐための最善手であったことだろう。
 けれど、褒めて褒めてと視線でチラッチラッとする晴夜とは打って変わって、リュカの取った行動はある意味で合理性に欠くものであった。
「熊猫さん集めてくれたんだ。ありがとう。じゃあいくね」
 リュカが拘束された熊猫がたちの間を縫って歩いていく。
 晴夜にとっては、あんまりもあっさりしたお礼の言葉。もっとこう、ね。感激したり、感謝したり、感動したりしてもいいんですよ、と言いたくなるが、ぐっとこらえた。
 きっとこの後、驚く位の美辞麗句で褒めてくれるに違いない。きっとそうだとさえ思ったのだ。

 けれど、晴夜の期待は裏切られる。
 リュカはあろうことか、影の拘束を解いていくのだ。え、なんで!? となるのも無理なからぬことであった。
「これからここにいる晴夜お兄さんがパンダの皆さんと戦います」
 ん?
「全員でかかってくださって結構ですので、無事に勝てたら此処を通してください」
「……いや、何故そんな宣言したんです? 拘束している隙に通ればいいのに」
 なんでそんなことするの?
 あ、武器禁止ね、とリュカはとてもやりきった顔をしている。
 サムズアップさえしそうな雰囲気すらあった。

「武器禁止は流石に無理……うわ」
 彼の目の前には殺到する熊猫の群れ。
 全ての眼光が晴夜に向けられている。拘束を解かれた熊猫たちが晴夜めがけて、その鍛え上げられた格闘の術を持って排除しようと迫るのだ。
 凄まじい技の応酬。
 積み上げられた『功夫』は裏切らない。
 それを証明するように熊猫たちは次々と技を放っては晴夜を追い詰めていく。

 されど、晴夜とて歴戦の猟兵である。
 見事な体捌き……という名の勘の冴えどころにより熊猫たちの猛襲を躱していくのだ。
「うんうん、そこだよ。もっとえぐりこむように」
 リュカは晴夜と熊猫たちの戦いに応援するように声を上げる。その声援どっちに向けたものです? と晴夜が疑問に思うのも無理なからぬことであった。
 なぜなら、きらっきらしたリュカの瞳は常に熊猫に注がれているのだから。

「熊猫じゃなくてハレルヤのか弱い人狼ボディを応援してくださいよ!」
 完全に熊猫の応援をしているリュカを抱えて晴夜は竹林を疾走る。
 後から追いかけてくる熊猫たちを躱しながら、それでも走るのだ。平和的と言ったが、こういうことじゃないのだ。
「って、ちょっと待って。もちょっと見てた……」
「全然早くない。ほら、さっさと駆け抜けましょう」

 二人は、散々に熊猫たちから追いかけられ、竹林を抜け出し『桃源郷』へと至る。
 けれど、リュカの瞳は満足げではなかった。
 もうちょっと見ていたかったな、と格闘熊猫の格好良さに後ろ髪引かれていたのだ。
 そんな彼を見て晴夜は荒い息を整えるしかなかったのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
むむ、此れは凄い。パンダ達が武術の修業をしているぞ。
邪魔するのも悪い故、なるべく穏便に通ろう。
といっても、あまり歓迎されていないようだ。
■闘
【WIZ】
【奇詞】を用いて交渉に挑む。
会話の際は俺の【動物と話す】力で、現地のパンタ語を話す。

先ずは動物相手でも拱手で挨拶し、邪魔したことを謝罪。
そこから『桃源郷に世界を滅ぼそうとする者が現れた』
旨を話し、通行の許可を要請。
当然『お前何言ってんだ?』と思われるだろうが、直後に
『俺は嘘などついていない。只、もしそれでも信じられぬなら
俺を此処で喰らい殺めても構わぬ」と畳みかける。

おお、「とんだ馬鹿がいたもんだ」という声が聞こえる。

※アドリブ歓迎・『』はパンダ語



 如何に数多の世界を巡ってきた猟兵であったとしても、驚天動地の光景を見れば戸惑うものである。
 それは仕方のないことであり、既知より未知に心惹かれるのまた道理である。
 故に愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)は目の前の竹林に広がる光景に驚きの声を上げたのだ。
「むむ、此れは凄い。パンダ達が武術の修行をしているぞ」
 賢い動物など猟兵の姿は多種多様である。
 故に驚くべき事実ではなかったのかもしれないが、いざ目の前にしてみれば話は別であろう。

 酔拳の修行なのか、それともはたまた蛇拳の修行なのか。
 いいや、此れは『熊猫神拳』の修行である。
 熊猫たちの身に宿る闘気は凄まじいものであった。練りに練り上げられた闘気が、その体毛を通して湯気となって伝わるようでも在った。
「なるほど、これが『功夫』……邪魔するのも悪い故、なるべく穏便に……」
 清綱はあくまで熊猫たちを刺激しないようにと気を使ったのだが、この竹林を通って『桃源郷』に至らんとする者たちの障害となるのが熊猫たちの使命であればこそ、避けては通れぬ接触であったのかもしれない。

「……あまり歓迎されていないようだな」
 しかし。
 そう、しかしである。猟兵である清綱にはユーベルコードがある。
 それは、奇詞(キシ)と呼ばれる力。動物とさえコミュニケーションが取れる言語を習得している清綱にとって、その発動条件は簡単なものであったことだろう。
 現地の熊猫語。
 一瞬何いってんだと思われるかも知れないが、そうとしか表現がしようのないことであった。

『これは無礼を。まずは『功夫』の邪魔をしたことを謝罪したい』
 清綱の言葉と共に拱手でもって熊猫たちに非礼を詫びる。
 何事も挨拶は大事である。
 なるべく穏便にという清綱の言葉に熊猫たちは警戒を解かずに、うなずく。
『今まさに『桃源郷』に世界を滅ぼさんとする者が現れた故、拙者はそれを討たねばならぬ』
『何を言っているんだ、お前は』
 それもそうだろう。
 熊猫たちにとってオブリビオンの存在は感知するものではない。
 故に、そのようなことを言われてはいそうですかと通すわけにはいかないのだ。けれど、清綱の真摯なる言葉は続けられる。

『俺は嘘などついていない。只、もしそれでも信じられぬなら俺を此処で喰らい殺めても構わぬ』
 どかっとその場に座り込み清綱は瞳を閉じる。
 その姿に偽りはなかったことだろう。
 熊猫たちは互いに視線を見合わせる。目の前の武人の言葉は真実だろう。その偽らざる言葉が証明しているし、態度でもわかる。

 しかし、それで話が通るわけではない。
 彼らはしかして『功夫』を以て精神修養もまた修めた者達であればこそ、通じるものが一縷あったのだろう。
『とんだ馬鹿がいたもんだ』
 その言葉に清綱は瞳を開ける。
 どうやらわかってくれたようだ。彼らの瞳は鋭さではなく、つぶらないつもの熊猫そのものであった。
 白黒のもふもふもこもこの手が差し伸べられ、座り込んだ清綱を引き上げられる。

 こうして此処に清綱と熊猫たちの間に対話は成ったのだ。
 しかし、無茶をすると熊猫たちが豪快に清綱の背中に紅葉の痕を残したのは、清綱にとっては気合の入るものであった。
『それでは、事が終わった後で」
 清綱は猛禽の翼を広げ、拱手でもって彼らの厚意に応え、竹林を抜けるように飛んでいく。
 目指す『桃源郷』はすぐ其処だ。
 後は己の為すべきことを為す。
 それだけを胸に抱いて、清綱は『桃源郷』へと急ぐのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎

頑張っているところ悪いが、通してもらうぞ
熊猫は凶暴とか言ったような気もするし隠密で行こう

SPDで判定
【視力】【暗視】【聞き耳】で熊猫を捕捉
外套の【迷彩】の力で隠れつつ適当に小石を拾っておき、孔雀輪を使った【空中浮遊】【空中機動】で音を立てないように進む
熊猫が密集している場所があれば小石を適当な方向へ【投擲】して音を立てて【おびき寄せ】その隙に【ダッシュ】で通り抜ける
熊猫に罪はないので怪我させないように【心配り】しながら【落ち着】いて桃源郷を目指す



 竹林では今も、昔も、そしてこれからも熊猫たちが『功夫』を積み重ね、『熊猫神拳』を納めるべく修練を欠かさないだろう。
 その姿は傍から見れば微笑ましいものであったが、急ぎ『桃源郷』へと至らねばならない猟兵にとっては、障害として存在するのだ。
「頑張っているところ悪いが、通してもらうぞ」
 竹林に踏み込み、一気に彼らの修練している場所を通り抜けようとしたルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は、しかし踏みとどまった。

 彼の五感に感じるのはみなぎる闘志であった。
 それは言うまでもなく目の前で修業を続ける熊猫たちから溢れ出ている。
 そこで気がついたのだ。
 熊猫。
 熊と猫。可愛らしい風貌をしているが、ああ見えて熊猫は熊である。天然の餌付けによって笹ばっかり食べているが、あれで熊である。
 故にルイスは侮ることなく隠密行動を取ることを選択したのだ。

 それは正しいと言うまでもないだろう。
 無用な戦いを避けて急ぐ。
 当然であったが、簡単なことではない。彼の義眼のメガリスが輝き、その類まれなる視力でもって修行に励む熊猫たちを観察する。
「……修行に集中しているように見えて、周囲にも気を配っている……」
『功夫』を積んだ熊猫だからこそ出来る芸当であったのかもしれない。
 けれど、それが今さにルイスを阻む障害になっているのは皮肉でしかなかった。
 外套の迷彩がなければ即座に見つかっていたことだろうが、小石を拾って孔雀の目が変化したようなメガリスの力によって地上から浮かび上がる。

 なるべく足音を立てずに移動するにはこれしかない。
「……物音に反応してくれよ」
 手にした小石を投げ放ち、熊猫たちの密集している場所に落ちる。
 その物音に反応した熊猫たちが一斉に駆けていくのを確認してからルイスは一気に竹林を駆け抜ける。
 熊猫たちに罪はない。
 彼らは『桃源郷』に至らんとするものたちを阻んでいるだけだ。
 猟兵としてオブリビオンを打倒することは当然であるが、罪無き者たちを傷つけることを良しとするほどルイスは落ちぶれては居ない。

 そこに効率以上に価値を見出すことがあるからこそ、ルイスは隠密行動を選び、彼らに怪我を負わせぬようにと気を使ったのだ。
「……しかし、『熊猫神拳』……そういうのもあるのか……」
 世界は広い。
 数多の世界を巡っても尚、理解しきれぬ文化と世俗がある。
 それを目の当たりにしながら、ルイスは空を舞うように竹林を抜ける。

 もう少し行けば、『桃源郷』だ。
 そこに倒すべき敵がいる。
 オブリビオン。世界を破滅を齎す敵。熊猫たちの愛くるしい姿を思い出す。
 彼らを護ることにも繋がるのだと思えば、ルイスは風と共に彼らの修行風景を思い出す。
 きっと彼らにもまた守りたいものがあるのだろう。

 それを守るための盾となる。
 それこそがルイスが己に課した命題であるというように、目の前に座す『桃源郷』の光景に目を奪われるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳳凰院・ひりょ
アドリブ歓迎
SPD
熊猫かぁ…実は初めて見るんだよな…
思ったより大きい…オブリビオンではないとはいえ、迫力はあるな
あの熊猫達、格闘術の訓練をしているとか…
むぅ…世の中はまだまだ俺の知らない事が一杯だな

ひとまず危害は加えたくない
【生命力吸収】で少しだけ元気を奪って動きを鈍らせよう
そのうえでライオンライドでライオンを召喚、その背に乗って竹林を駆け抜ける
万一の為、周囲に【オーラ防御】を纏った【結界術】で結界をはり奇襲に備える
ライオンに騎乗しながら【索敵】で周囲に熊猫達が迫ってきていないか確認は取ろう
迫ってきた熊猫には極力威力を落とした【レーザー射撃】による【威嚇射撃】でけん制する



 傷付けたくないと願い者と道を阻む者がいたとして、両者の思惑は交錯することはあれど、同じ点を見ることはない。
 けれど、猟兵は『桃源郷』に行かねばならない。
 そこにオブリビオンが存在し、霊力を高め世界を滅ぼさんとする意志があるのであれば、これを止めなければならないのだ。

 しかし、今まさに目の前に広がる光景。
 竹林において『功夫』を積む熊猫たちの姿を見て、鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)は僅かに困惑した。
 一般的な世界に住まう者であれば、動物たちが人間の拳法を学ぶという光景は、想像を絶するものであったことだろう。
 それに熊猫という生物を初めて見る者だっている。
 ふわふわもこもこしていて、ずんぐりむっくりしていて、それでいて謎の愛嬌がある生物。
 それが熊猫である。
「……実は初めて見るんだよな……思ったより大きい……」

 ひりょは、初めて見る熊猫の姿に驚きを隠せなかった。
 オブリビオンではないにせよ迫力があるのは、『功夫』によって闘気が高められているからであろう。
 彼らが格闘術の訓練をしているというのがまた、ひりょには信じられないものであった。
「むぅ……世の中はまだまだ俺の知らない事が一杯だな」
 それで納得できるから、猟兵の感性の柔軟さは特筆すべきことであっただろう。
 普通はそうはならんやろってなるところである。

「危害は加えたくないよな……」
 彼にとって、熊猫たちは障害であっても打倒すべき存在ではない。
 ならば、彼らを消耗させつつ竹林を抜けなければならない。それならば、と彼の瞳がユーベルコードに輝く。
 ライオンライド。
 それは自身の身長の二倍の黄金のライオンを召喚し騎乗するユーベルコードである。

 黄金のたてがみを撫で、ひりょは頼んだぜと、その背に乗る。
「それじゃ、行こうか!」
 一気に竹林を駆け抜ける。
 その黄金の旋風のように走るライオンの姿を見て、熊猫たちはおののくどころか、むしろ、眼光鋭く追ってくるのだ。
「追ってくるのか! 百獣の王に!」
 ライオンの威容を見れば熊猫たちは怯むかと思われたが、その逆であった。
 むしろ、ライオンを打倒してこそ我等が熊猫こそが百獣の王であると言わしめんとするように襲いかかるのだ。

「めちゃくちゃだな……! けどさ!」
 こちらには危害を加えるつもりはないのだ。
 オーラと結界術に寄って凄まじい蹴撃を放つ熊猫の一撃を受け止めながら、ライオンは駆け抜けていく。
 ひりょは軋む結界の音に驚きながらも、竹林を駆け抜けることは止めない。
 一刻を争うのだ。
 だから、と向けた呪札から放たれた光の熱線が、追いすがる熊猫たちをかすめる。

 あくまで牽制射撃。
 こちらが竹林を抜けるまで近寄らせなければいいのだ。
 ライオンの黄金が竹林を疾走り、ひりょは背後から次々と迫る熊猫たちを牽制する。
 それはまるで悪夢のようであった。
「怖い怖い。あれは怖い。ほんと猫熊って言えるほど可愛らしいものじゃないよ、あれ!」
 字面も可愛ければ見た目もかわいい。
 けれど、猛追する熊猫たちの眼光は武人のそれであった。

 彼らを躱し、ひりょは『桃源郷』へと走る。
 えらい目にあったが、なんとか互いに傷を追うこと無く振り切ることができたようだった。
 ぜえぜえと荒い息を吐き出すライオンには申し訳ないことをしたな、と思いつつ、ひりょは思いを新たにする。
 それは『桃源郷』に座す強敵、オブリビオンの陰気が此処まで漂うようであったからだ。

 必ずや、この『桃源郷』を取り戻す。
 そのために、ひりょは戦うと決意してやってきたのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『星鬼・魅陰』

POW   :    不断打打
【冷たい陰気を纏う体で、非常に強力な功夫】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
SPD   :    凶拳凄凄
【相手に陰気を放ち寒さで動きを鈍らせること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【命中率の高い功夫】で攻撃する。
WIZ   :    陰風陣陣
自身が装備する【羽衣、または自身の体】から【周囲の熱を奪う、強烈な冷たい陰気】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【寒さにより動きが鈍る『寒冷』】の状態異常を与える。

イラスト:ひよこ三郎

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアリアケ・ヴィオレータです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『桃源郷』は冷たい冷気のようなものが漂っていた。
 即ちそれを『陰気』と呼ぶ。
 陰陽の片割れであり、世界に存在する要素の一つである。決して無くなることはないが、けれど陰陽の調和が崩れることは即ち世界の破滅。

 凶星が輝く時、『星鬼・魅陰』は、その体に陰気を宿し、周囲の熱という熱を奪いさる。
 それは凍結などではない。
 ただ、熱を奪うという力が、その身から発露しているだけに過ぎない。
 武侠として死せる骸。
 凶星が宿った後にオブリビオンへと変じた彼にとって、熱ある者は全て妬みの対象である。
 どれだけ身体が凍えようとも、奪った熱はでは己の身体は温まらない。

「故に。我は奪おう。我以外の全ての熱を奪い去れば、即ち平定。我の心の平穏を乱す熱を無くすことこそが、我にとっての罪悪」
 ゆらりと羽衣人の身体を揺らめかせ、一分の隙もない構えを取る。
 それは武人をして至高の領域にまで高められた『功夫』によるものであると知ることができただろう。

 さらには『桃源郷』に滞在することによって得られた霊力が発露する。
 生前よりも遥かに膂力、速度を増した『星鬼・魅陰』は笑う。己の力を誇示したいわけではない。
 けれど、力に酔いしれる彼は笑ってしまうのだ。
「猟兵何するものぞ。我と凶星の前に地面に這いつくばるのは――」
 お前達だと、その漲る陰気でもって猟兵達に対峙する。

『桃源郷』の華やかなりし光景の中、猟兵たちは彼を打倒し、この霊場に平穏を取り戻さなければならないのだ――!
遥・瞬雷
そこまで練り上げた武侠が、酷い有り様だねぇ。
責める気は無いよ。あんたは自分の人生を生き抜いた。死後陰気に乗っ取られたのは災難と私は考える。
あんたみたいなのを何とかする為に私達仙人がいるんだ。

宿星剣を構える。呼吸と軽い剣舞で体内の陽気を全身に巡らせる内功。冷気に抗する。熊猫達との功夫で練った陽気が良い感じだね。感謝しなきゃ。
まだ動きが鈍るか。おいで、觔斗。雲に乗り空中機動。歩法を雲に任せ剣戟にのみ集中。舞う様に攻撃を仕掛ける。
舞は更なる陽気を生む。陽気と陰気のぶつかり合いは風を生み雲は風に乗る。
宿星天剣戟の術。高速飛行による間合いの制圧と、神速の連続攻撃。寒くて辛いんだろう。楽にしてあげるよ。



 オブリビオン『星鬼・魅陰』から放たれる陰気の質と量は凄まじいものであった。
 その陰気に触れるだけで身も凍るような冷たさを身体は訴えただろう。
 陰気とは即ち陽気の対極にあるもの。
 死せる武侠に凶星から放たれた陰気が宿り、オブリビオンと変じたものの生前に培った『功夫』は変わることはない。
「我の陰気を前にしても、猟兵は立ち止まらぬか」
 己の身に流れるは血液ではなく陰気。
 それは生者から熱を奪っても晴れることのない陰惨たる存在であることの証明であった。

 遥・瞬雷(瞬雷女仙・f32937)はそれを惜しいと思うことはあれど、その結末を攻め立てる言われはないと真っ向から退治していた。
「そこまで練り上げた武侠が、酷い有様だねぇ。責める気はないよ。あんたは自分の人生を生き抜いた」
 ただ、その骸が凶星より放たれた陰気に乗っ取られたのは災難であったといえる。
 それこそが人界に蔓延るオブリビオンの仕業であるというのならば。

「――あんたみたいなのを何とかする為に私達仙人がいるんだ」
 宿星剣を構える。
 互いに一分の隙もないことは、互いを見やれば分かることだった。
 練り上げられた『功夫』がそれを伝えるのだ。
 視線を外さず、されど瞬雷の体の中をめぐるのは陽気であった。
 呼吸と軽い剣舞の如きゆらりと揺れる体捌き。それは柳の葉が寄れるように優美であり、『桃源郷』に咲き乱れる桃の花びらと相まって、壮麗なる姿であったことだろう。

 その体の中に内功によって陽気が満たされた瞬間、周囲を埋め尽くさんとする陰気より齎された冷気を跳ね除ける。
「ほう、我が冷気を跳ね除けるか。よく練られたものだ」
「まあね。熊猫達との『功夫』で陽気が練り上げられた……感謝しなきゃ」
 走る互いの足。
 踏み込んだ瞬間、『星鬼・魅陰』の放つ陰気が足を絡め取る。それは陽気を練り上げた瞬雷であっても足を鈍らせるほどであった。

「――ッ、あまだ動きが鈍るか。おいで、觔斗」
 ふわりと舞うように『星鬼・魅陰』の拳を躱し、瞬雷は不思議な雲の上に乗る。
 それは心清らからな者を載せて空を疾走する不思議な雲。名を、觔斗雲。
 彼女は歩法を觔斗雲に任せ、剣戟のみにて集中する。
 拳と剣が激突する。
 されど、その音は『桃源郷』に長くは響かなかった。

 彼女の舞うような舞踏は、さらに陽気を産んで陰気とぶつかり合う。
 それは風と成って雲はさらに風に乗る。
 その速度は凄まじく、練り上げられた陽気はユーベルコードの輝きと成って彼女の瞳を輝かせる。

 それは宿星の輝きであった。
「その輝き――! 我が凶星と相対する宿星……!」
 そう、凶星が陰気を齎すというのならば、宿星は乱れる世を正すための力。陽気の力を宿した宿星天剣戟は、凄まじい速度で剣閃を走らせ、『星鬼・魅陰』の身体を切り裂く。

「寒くて辛いんだろう。楽にしてあげるよ」
 その間合いはすでに彼女の間合いであった。
 類まれなる『功夫』を積み上げた武侠同士であるから分かる。それはどうしようもないほどに決定的な一撃であった。
 陽気と陰気は表裏一体。
 調和を以て世をまとめ上げる。それが仙人の役目であるのならば、オブリビオンの存在を許してはおけないのだ。

 瞬雷の剣閃は五つ。
 それはまるで彼女の名の通りに。
 明滅した瞬間に一度に放たれた攻撃を躱す術などない。
 一瞬の間に放たれた斬撃が陰気ごと『星鬼・魅陰』の身体を打つのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
大人しく骸の海で眠っていればいいものを。こうして出てくるから、あたしたちの仕事が増える。
ともあれ、相手もかつてはひとかどの武侠。拱手して礼をしてから、討滅を始めましょう。
アヤメはあたしの死角のフォローお願い。
無手で来るのなら、リーチの長い薙刀の方が有利。ただ、懐に入られるとまずい。
間合いの差を、確実に生かしていきましょう。

偶神兵装『鎧装豪腕』で、魅陰の攻撃を「盾受け」「受け流し」、その合間に炎属性の「属性攻撃」「浄化」を乗せた不動明王火界咒を放つわ。
そんなに冷え性なら、熱くしてあげるわよ。

炎を振り払おうとしたときがチャンス。「貫通攻撃」で「串刺し」にしてあげるわ。
どうかしら? 少しは温まった?



 斬撃がオブリビオン『星鬼・魅陰』の身体を切り裂く。
 五つの斬撃が一瞬の内に放たれ、陰気すらも切り裂いて、迸る。その体に血潮は流れていない。
 すでに骸と成った武侠の体に宿りし、凶星の陰気だけが躯体を動かす原動力であればこそ、彼の体を剣閃が刻む度に迸る陰気は霧散し消えゆく定めである。
「ぐっ……我が『功夫』を上回るか……だがッ!」
 その武侠としての『功夫』がかれを裏切ることはない。
 皮肉にも、オブリビオンとして蘇ったことにより、生前の彼の『功夫』の練り上げられた業が活きるのだ。

「おとなしく骸の海で眠っていればいいものを。こうして出てくるから、あたしたちの仕事が増える」
 嘆息したのは、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)であった。
 封神台に封じられていたオブリビオンたちが溢れかえったことによって、封神武侠界はオブリビオン跋扈する世界へと変わってしまった。
 誰がやったかはしらないが、こうして猟兵としての仕事が増えるのは感心しないことであった。

「ともあれ、相手も嘗ては一廉の武侠」
 拱手と共に礼儀を尽くして彼女は、かつて在りし武侠の『功夫』に敬意を払うのだ。
 薙刀を構え、式神のアヤメに己の死角をフォローしてもらいながら、ゆかりは『星鬼・魅陰』と相まみえる。
 凄まじい重圧。
 それが類稀なる武侠であった事を示している。周囲の熱を奪う陰気を身にまとい、刻まれた傷跡すらも覆っていく。
 それがオブリビオン化して得た、そして『桃源郷』に滞在して強化された武侠としての力の発露であったことだろう。

「長物を使うか。だがッ!」
 走る体捌きは凄まじいものであった。
 一瞬で距離を詰めてくる。リーチというハンデなどものともしない『功夫』。それを前にゆかりは鎧装豪腕で放たれた拳を受け流す。
 しかし、それでも軋む音が響き渡る。
 無手。それも拳の一撃に式神の装甲が砕ける音がした。
 振るう薙刀の一閃を軽々と躱し、再び蹴撃が鎧装豪腕に放たれる。衝撃波がゆかりを襲う。

「これほどの相手を前にしても、我が血潮は滾らずか。なんとも、なんとも、我が肉体は……!」
 強者と相対しても己の中に流れる陰気が薄まることはない。 
 どうあっても己が死せる者であることを意識さられ、『星鬼・魅陰』は吠えた。
 しかし、そのを前にゆかりは叫ぶ。
「そんなに冷え性なら、熱くしてあげるわよ!」
 投げつけた白紙のトランプから噴出した炎が、『星鬼・魅陰』の体を巻き込む。
 浄化の炎の力を込められた不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)の一撃は絡みつくように、その陰気を纏った体を焼くのだ。

「熱さなど感じるものか」
 炎を振り払って、ゆかりへと迫る『星鬼・魅陰』。
 けれど、それで十分だったのだ。陰気は炎によって薄れ、その体を覆うことはできない。
 紫の刃が煌めき、薙刀の一閃が彼の体を貫くのだ。
「炎は、囮……!」
「どうかしら? 少しは温まった?」
 その一突きは確かに『星鬼・魅陰』の体を貫く。

 されど、その身体から血潮は溢れず。
 陰気だけが満たす身体は、彼女の言葉通りにはあたたまることはない。されど、その瞳に映るのは怒りであったことだろう。
 しかし、もう遅いのだ。
「少しも温まっていないっていうのなら!」
 式神アヤメとの連携に寄って放たれる薙刀の斬撃は浄化の炎を纏って、その一撃を繰り出す。

 紫と炎の赤。
 その剣閃が繋ぐ軌跡は確かに陰気を切り裂いて、『星鬼・魅陰』の身体を一刀の元に切り捨てるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

厳・範
(本性姿のまま)
この陰気…つまり、近づくと危ないということか。
さて、近づかずに…となると。

【声焔】か。これは指定範囲内に相手がいればよいし、しかも攻撃は『鳴き声』だ。
その炎は簡単には消えぬし、延焼させようとしても無駄である。オブリビオンのみを焼く炎な上、消すのはわしの自由であるからな。

近づかれぬようにして、一撃を食らわぬようにせねば。…万一、近づかれたら見切りを活用するが。

猟兵は多種多様。一つの世界しか知らぬ相手に、他の猟兵が負けるとも思わんがな?



 その黒き姿こそが、黒麒麟たる厳・範(老當益壮・f32809)の本来の姿であった。
 嘶く声は焔となり、陰気が満ちていく『桃源郷』に暖かさを取り戻していくようであった。
 しかし、オブリビオンが存在する限り『桃源郷』には陰気が満ちていくだろう。
 それは本来在ってはならないことだ。
 陰気を全て取り除くことは世界に不調和を齎すことになる。
 されど、陰気だけに包み込まれれば世界は滅ぶ。全ては何事も中庸が肝心である。調和の取れた陽気と陰気があるからこそ健やかなる世界があるのだ。

 故に範は己が戦うことに躊躇いを持たぬ。
「この陰気……つまり、近づくと危ないということか」
 先行した猟兵達の戦いによってオブリビオン『星鬼・魅陰』の放つ陰気は徐々に祓われて始めていた。
 けれど、それでもなお、かのオブリビオンの体に取り巻く陰気は凄まじいものであった。
 死せる武侠の体に宿った陰気がこれほどまでに厄介な相手になる。
 全てはオブリビオンとして蘇ったが故であろうし、同時に霊場である『桃源郷』によって力を強化されているがためであろう。

 しかし、範が退く理由にはなっていない。
「わしが瑞獣たる意味を教えよう」
 声焔(セイエン)。
 それは黒麒麟たる彼の声が、陰気を燃やす光景であった。ユーベルコードに輝く彼の瞳にあったのは、嘗て共にあった親友と見た世界であったことだろう。
 放たれた声はオブリビオンのみを燃やす。
 それに類する陰気すらも同様である。

 その炎は決して消えぬ。
 ユーベルコードの主である範が消さぬ限り消えることはないのだ。
「この炎……! これだけ燃え盛っているというのに……!」
 だというのに『星鬼・魅陰』は熱さを感じていないようであった。
 彼の体は既に骸。
 暖かさを、熱を感じることなどできないのだ。
 故に、身体を動かす陰気こそが彼の生命と言っても過言ではない。練り上げられた生前の『功夫』による打撃が範を襲う。

 けれど、それらを躱しながら、範は言う。
「猟兵は多種多様。一つの世界しか知らぬ相手に、他の猟兵が負けるとは思わんがな?」
 けれど、それで自身が戦わぬという理由には成っていない。
 拳足が飛ぶ度に、範は陰気溢れる拳と蹴撃をひらりと躱す。組み手と呼ぶにはあまりにも実力差が離れていたことだろう。

 彼は老練なる戦士である。
 彼が生きた年限こそが、今まさに類稀なる武侠の業を躱して見せるのだ。
「何故だ、何故我の拳がこうも容易く……!」
 躱されてしまうのだと、『星鬼・魅陰』が呻いた。
 けれど、それに対する範は冷静そのものであった。彼の身体を突き動かすのは、約束だけだった。

 たった一つの約束事。
 己に託され、己が全うすると願った願い。
 亡き親友の愛した世界を守る。ただそれだけが、凶星より齎された陰気を上回る力であった。
 放つ浄化の炎をほとばしらせた馬銜が、その願いを受けて膨れ上がるように力を増す。
 黒麒麟が鳴く。
 それは愛した世界を憂う声であり、鳴き声であった。
 ユーベルコードの輝きを持つ炎が、オブリビオンを焼き尽くす。
 陰気に包まれていようとも関係がない。
 熱を感じられぬというのならば、思い出さなければならない。
「お前も嘗ては人であり、お前が妬む暖かさを持っていたであろうに。死せる者、オブリビオンよ」

 その魂こそ燃えて尽きるべし。
 その言葉と共に範の放った炎は、オブリビオン『星鬼・魅陰』の身体を包み込み、炎の柱のように『桃源郷』に咲き乱れる桃の花弁と共に火の粉を散らすのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎

オブリビオンには分からないだろうが自分に無いから奪う、壊すのは愚の骨頂
俺は一度死んだ身だが命を、暖かさを奪うお前を許して置けない

SPDで判定
孔雀輪に炎を纏わせた蹴りで攻撃しつつ寒さを防ぐ【焼却】【属性攻撃】【全力魔法】
敵の攻撃は銀腕を【武器改造】で盾にし【盾受け】、更に盾の表面のみを液状化させて【受け流す】
敵の動きを【見切る】事が出来るようなら【怪力】で【カウンター】を行う
勿論、周辺へ被害が及ばないように【心配り】する



『桃源郷』に火の粉が舞う。 
 それはオブリビオン『星鬼・魅陰』の陰気を振り払うかのような力の奔流であり、桃の花弁が舞い散る優美な光景に映えたことだろう。
 しかし、未だオブリビオンの存在は霧散することなく霊場である『桃源郷』から力を組み上げるようにして陰気から放たれる冷気を強めていた。
「我の体に流れる陰気を燃やすか……だが、我は、我が体は依然変わらぬままだ。何故、我はこんな体になったのか。妬ましい。全ての熱を持つ生命が妬ましい」
 その顔にあったのは、己が持たざる者であるが故の狂おしいほどの嫉妬であった。

 熱ある者。 
 即ち生者の温もりを欲していながら、『星鬼・魅陰』は只奪うことだけに固執していた。
「オブリビオンにはわからないだろうが、自分に無いから奪う、壊すのは愚の骨頂」
 陰気渦巻く『桃源郷』において、ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は死を越えた存在である己のデッドマンとしての体を生命ある者の盾として前に押し出す。
 例え陰気が生みだす冷気が体の動きを鈍くしていたのだとしても関係ない。

「ならば、どうする。猟兵。我の陰気は熱を尽く奪う。奪う以外知らぬというのであれば、なんとする――!」
 荒れ狂うように陰気が渦巻き、ルイスを襲う。
 それをメガリス、孔雀輪の炎を纏わせた足で蹴って、高く空へと舞い上がる。
 桃の花弁が舞い散る中、ルイスの足は煌々と燃えていた。
 メガリス・アクティヴ。
 ユーベルコードの輝きを受けて、彼のメガリスは力を更にましていくのだ。

 放たれる陰気が熱を奪うのであれば、それを上回る熱でもって塗りつぶせばいい。
 銀の腕が盾のように変貌し、迫る拳を受け止める。
「……ッ! この手応えのなさは……!」
「簡単に貫けると思うなよ!」
 放たれた拳の一撃は液状化した銀の腕の表面を滑る。

 例え類稀なる『功夫』を積み上げたのだとしても、液状化した盾を捉えることは難しいだろう。
 放たれるカウンターの蹴撃が『星鬼・魅陰』の頬をかすめる。
 ユーベルコードによって強化された炎を纏った一撃が、彼の頬を焼く。けれど、その傷跡から漏れ出るのは血液ではない。
 その体は骸。
 すでに死した武侠の体に凶星が宿りて、陰気を巡らせて動くオブリビオンである。
「ならば、知るがいい。お前が奪おうとしているのは今を活きる者の熱だ。お前から奪われたものじゃあない」

 ルイスの瞳がユーベルコードに輝く。
 メガリスの義眼、銀の腕、そして孔雀の目のような輪から炎が噴出し、空より飛来する蹴撃の一撃を『星鬼・魅陰』の体へと叩き込む。
「グハッ――ッ!!」
 打ち込まれた炎は、オブリビオンの陰気を焼き払うように。
 されど、その体は『桃源郷』の大地へと堕ちるほかないのだ。

 霊場の力がどれだけのものであったとしても、猟兵たちは戦いをやめない。
 オブリビオンが世界に仇為す存在である限り、戦いは止まらない。
 いつだって力を持った悪意に晒されるのは力なき者だ。
「そのために俺は『生者の盾』となる。お前のような者から生者を守る、それが――!」
 己のデッドマンとしての使命であるとルイスは叫び、再び炎をまとった蹴撃をオブリビオンの陰気を焼き払いながら叩き込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳳凰院・ひりょ
アドリブ歓迎
WIZ

なるほど、貴方が今回の事件の首謀者というわけか
冷気と功夫の使い手…厄介だな
…以前に格闘戦を挑んできたオブリビオンに敢えてこっちも拳で殴りに行った時があったな…確かカクリヨで…
あの時以来になるが、いっちょやってみるか!

ドロップを媒体に固有結界・黄昏の間を発動
火の疑似精霊を召喚
まずは自分の体を覆うように【オーラ防御】を、そしてその外側に火の疑似精霊の力で火属性を付与しよう
【環境耐性】【氷結耐性】も付与しておけば対策はばっちりだろう
【決闘】のつもりで【切り込み】炎を纏った拳でぶん殴る
相手の攻撃は【第六感】を研ぎ澄ませつつ【見切り】回避
相手の防御を貫く【貫通攻撃】のラッシュを浴びせる



 打ち込まれた猟兵の一撃が陰気を払ったのも束の間であった。
『桃源郷』に吹き荒れる陰気から為る冷気が周囲の熱を奪っていく。それはあまりにも強大な力の奔流であり、オブリビオン『星鬼・魅陰』のユーベルコードの為せる業であった。
 羽衣と肉体それぞれから放たれる陰気による冷気は、凶星が齎した力であり、周囲の熱を奪い続ける。
「されど、我が身体は熱を持つこと叶わず。ならばこそ、我は破壊するのだ!」
 打ち倒されても尚立ち上がるは、生前武侠であった証であろうか。

 その姿と相対するのは鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)であった。
「なるほど、貴方が今回の事件の首謀者というわけか」
 ひりょが見据える先に立つ『星鬼・魅陰』の姿は、練り上げられた『功夫』と冷気によって凄まじい力を持つ強敵であることを示していた。
 しかし、彼が退くことはない。
 確かに冷気と『功夫』を練り上げた拳法は厄介と言わざるを得ない。
 けれど、以前にも格闘戦を挑んできたオブリビオンと対峙する機会はあったのだ。それを思い出し、ひりょは構える。
「左様。とでも言えばわかりやすいか、猟兵!」

 一瞬で距離を詰める。
 その歩法は絶技と呼ぶに相応しいものであったことだろう。
 オブリビオンとして死した後に凶星を宿した武侠。その力は絶大であった。
 けれど、ひりょは躊躇わない。
 己の手にしたドロップを媒体にユーベルコードを発動させる。
「場よ変われ! ――固有結界・黄昏の間(コユウケッカイ・タソガレノマ)!!」
 ひりょを中心にして周囲にありし無機物を火の疑似精霊に変換し、オーラと共に己の身体を覆っていくのだ。

 その力を持って拳を握りしめる。
「どれだけ冷気で覆うとも!」
 踏み込みに対して、ひりょもまた踏み込む。
 互いに拳の間合い。
 けれど、互いの拳の速度が同じとは限らない。武侠たる『星鬼・魅陰』の拳は速かった。
 想像を絶する拳。
 その一撃一撃が励起を伴って、ひりょの身体を打つ。

「ぐっ……! けど、耐えられないわけじゃない!」
 拳と蹴撃の連打。
 それの一つ一つが鋭いカミソリのような冷気を伴ったものであった。けれど、己の体を覆うオーラは氷結や冷気に対する耐性を獲得し、遅れてひりょも拳を打ち込むのだ。
 互いの拳がぶつかり合い、けれど徐々にひりょもまた対応してくる。
「我が拳を見切るといか! だがな!」
 拳での戦いは、『星鬼・魅陰』に一日の長がある。押し負けてしまう。それがはっきりとわかった。

 けれど、ひりょは諦めない。
 己の第六感を研ぎ澄ませる。五感を越えた感覚。それを有する者に如何なる光景が見えただろうか。
 流れるような陰気。
 そして遅れてやって来る拳。
 それらを知覚出来た時、ひりょの瞳はユーベルコードに輝く。
 火の疑似精霊が生み出した炎を拳に集めて叫ぶのだ。
「その奪うだけの生き方がしたくて『功夫』を積んだわけではあるまい! だから、その過去に歪んだオブリビオンとしての凶星を!」
 打ち砕くのだ。

 それこそが『桃源郷』における戦いの目的。
 死した武侠の嘗ての生き方、その弛まぬ練磨の果てが、こんなことになっていいわけがない。
 だからこそ、ひりょは燃える拳を握りしめ、裂帛の気合と共に拳の凄まじい連打を打ち込む。
 それは冷気を伴う陰気すらも打ち砕く。
「陰気が覆うというのなら、それを上回る陽気――火で押し込むッ!」
 放たれた一撃は、ついに『星鬼・魅陰』を捉え、打ち上げる。

 盛大に吹き飛ばされたオブリビオンの陰気が描く軌跡を見やり、ひりょは拳を突き上げる。
 何もこれ以上奪わせないと言うように、猟兵の戦いを此処に見せつけるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と

了解
取りあえず木の影やありそうなら建物等の地形の利用して身を潜める
お兄さんが敵のほうにつっ込んでったら戦闘開始、そこから射撃を行う
急所は人間と一緒でいいのかな
探りつつ灯り木で敵が死ぬまで撃ち続ける
数度銃弾を撃ち込んで、位置を特定されそうならお兄さんの戦闘を目くらましに移動しつつ隠れて鬱の繰り返し

逆恨み…逆恨みっていうんだね、こういうの
残念だけど、自分が不幸だから周りも不幸になるべきって考えてる人って結構いる
お兄さんみたいに、どんなに攻撃を受けてもか弱い狙撃手を守るよって言ってくれる人だっているのにね。という事でもうちょっとかかる
頑張って。粘って

俺は自分の安全第一派なの


夏目・晴夜
リュカさん(f02586)と

敵の攻撃、つまりは視認されなきゃ攻撃されないわけですね
それでは敵は私が引きつけます
リュカさんは隠れて敵をカッコ良く撃って下さいね!

という事で私は正面から対峙
敵の攻撃は『喰う幸福』の高速移動で躱したり妖刀で【武器受け】して凌ぎつつ、
リュカさんが銃で撃ちやすいようさり気なく引き付けて誘導しながら戦います
隙があればリュカさんの銃弾が貫いた傷へ妖刀を【串刺し】て、
呪詛を伴う衝撃波を直接体内へと放って差し上げましょう

逆恨みが悪い事とは思いませんが、逆恨みしている人って随分と見苦しいですねえ
来世では我々を見習って生きられたら良いですね
で、リュカさん、倒すまでもう少しかかります?



 戦う理由はそれぞれにあるのだとして、その質を問うことに意味があるのだとすれば、人はそれを善悪で二分するだろうか。
 良い悪いだけで片がつくのであれば、人の間に争いは起こらないだろう。
 どちらも正しく、どちらも過ちを侵すからこそ、人の争いは止むことがない。
 ならば、猟兵とオブリビオンの戦いはどうであったことだろうか。

 世界を滅ぼすほどの欲望と世界の悲鳴を聞き届ける猟兵。
 己のために戦う者と、他のために戦う者。
 互いに相容れぬからこそ滅ぼさなければならない。
「妬ましい。我にないもの、炎を、熱を操る者たち……!」
 オブリビオン『星鬼・魅陰』は、己の身体を流れる陰気によって常に熱を奪い続ける。
 
 それはどうしようもないことであったけれど、熱き血潮の流れる生者を妬ましく思う心は過去に歪められたからにほかならない。
 オブリビオンとして凶星から陰気を受けた武侠の骸は、人の世に己の欲望を満たすためだけに力を欲する。
 霊場『桃源郷』に在りて、その力は益々持って強大なものへと変わっていた。
 周囲を包み込む陰気は冷気となって相対する者たちの動きを鈍らせる。
「逆恨みが悪いこととは思いませんが、逆恨みしている人って随分と見苦しいですねえ」
 夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は陰気漂い、人の熱を奪う冷気の中にあって『星鬼・魅陰』に対峙する。

 真正面からの対峙は自殺行為に他ならない。
 それは、地形を利用し身を潜めたリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)もまた理解していたことだった。
 晴夜が敵の注意を惹きつけ、己が射撃で持って敵を仕留める。
 そう打ち合わせたとおりであった。
 敵のユーベルコードは動きを鈍らせ、そこに格闘戦で持って視認した相手を攻撃するものであるのならば、やりようはある。
 晴夜が囮と成って引きつけることでリュカを危険に晒さずに、敵を討つことができる。

「逆恨み……逆恨みっていうんだね、こういうの」
 リュカにとって、それは新鮮な言葉の響きであったのかもしれない。
 人を恨むことをしない者にとっては、それは考えもしないことであったのかもしれないし、けれど、それはどうしようもない事実であった。
「残念だけど、自分が不幸だから周りも不幸になるべきって考えてる人って結構いる」
 人が幸福追求のために生きるのであれば、それは尤もな感情であったのかも知れない。
 他より優れていたい。
 他よりも多くを持っていたい。
 誰もが願うことだからこそ、それはどうしようもないことだ。

 けれど。

 けれどと言う心が在る。

「残さず食べて差し上げます」
「戯言を。我の陰気まで喰らうことができるものか!」
 晴夜のユーベルコードが輝く。
 それは悪食の妖刀が喰らってきた暗色の怨念を身にまとい、凄まじい速度で『星鬼・魅陰』と切り結ぶ姿であった。
 喰う幸福(クウフク)とは、即ち常に己の中に渇望があること。
 満たしきれぬ空腹を抱えてなお、妖刀と晴夜は征く。
 例え、己のみがか細いものであったのだとしても、『功夫』練り上げられたオブリビオンに打倒しきれぬものがあったのだとしても、拳と刀がぶつかりあう度に、勝機を手繰り寄せるのだ。

「来世では我々を見習って生きられたら良いですね――で、リュカさん、倒すまでもう少しかかります?」
「頑張って。粘って」
 晴夜の剣閃が走る。
 その一撃一撃を持って、オブリビオンの注意を惹きつけ続け、誘導する。
 瞬間、轟音が響き渡り、リュカの改造アサルトライフルから弾丸が放たれる。
 それは夜明けに星が揺れるような小さな瞬きであったのかもしれない。けれど、その弾丸は一直線に晴夜のすぐ横を横切り、『星鬼・魅陰』を穿つ。

「――ッ!?」
 彼にとって、それはあまりにも唐突な出来事であったことだろう。晴夜だけに注意を惹きつけられた『星鬼・魅陰』は不意打ちに近い弾丸を受けて吹き飛ぶ。
「お兄さんみたいに、どんなに攻撃を受けてもか弱い狙撃手を守るよって言ってくれる人だっているのにね」
 それは悲壮なる決意でもって齎されたものであるかもしれない。
 如何なる思いがあったのかもわからない。けれど、言葉がある。互いに理解することができる。
 どうしようもない妬み、嫉みすらも乗り越えていける。

 打ち込まれた弾丸の痕に晴夜は妖刀を突き立てる。呪詛が溢れ出し、陰気溢れ出す躯体へと衝撃波と共に打ち込むのだ。
「……星よ、力を、祈りを砕け」
 あふれかえる陰気が壁のようになった『星鬼・魅陰』の身体を見据えるのは、リュカのユーベルコードの輝きであった。
 届け、願いの先へ(バレット・オブ・シリウス)と放たれる弾丸は、陰気の分厚い壁すらも砕いて進む。

 それは夜空に輝く星のように。
 砕けていく陰気と凶星の輝きすらも霞むようで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒髪・名捨
陰気ねぇ。
確かに熱さを失った武芸者なんぞただの陰気臭いおっさんだな。

とくとイね。
拳に『覇気』を…
剣に『気合い』を纏い、拳と剣の『2回攻撃』で『武器受け』し連撃を受け流す。
なるほど、冷静で的確だ。だが、熱さのない功夫なんぞ、ただの打撃にすぎねぇ。(『激痛耐性』で痛みに耐えつつ)
『カウンター』に拳の『マヒ攻撃』を込めた『捨て身の一撃』だ。
どうだ?熱さを奪う?笑わせる。つーか。熱さで平穏が乱れる?
それはお前の『功夫』が足りないだけだ。

トドメだ…煌閃の『レーザー射撃』で汚物は『焼却』完了ってな。
これがオレの全力だ!



 打ち込まれた弾丸と呪詛によって陰気は砕け散る。
 けれど、凶星は未だ瞬き、宿星のように死せる武侠の骸を突き動かし続ける。
 それがオブリビオン『星鬼・魅陰』である。
 立ち上がってくるのだ。何度打ちのめしたとしても、止まることはない。
 その身に流れる陰気が在る限り、オブリビオンとしての本能――即ち、己の欲望を為すために猟兵を滅ぼさんとするのだ。

 それはあまりにも悲壮なる姿であったことだろう。
「陰気ねぇ。確かに熱さを失った武芸者なんぞただの陰気臭いおっさんだな」
 とくとイね。
 そう呟いたのは、黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)であった。
 彼の赤い瞳に映る陰気纏う『星鬼・魅陰』は確かに武侠の身体そのものであったけれど、身にまとう陰気から放つ冷気はあまりにも冷たい。
 けれど、それが何するものぞ。

 己の体に流れる血潮がある。
 熱を持ち、未だ生きているという生の実感が在る。故に、名捨は己の覇気をほとばしらせるのだ。
「我の身体が、我の欲望が、我の『功夫』が、熱を求めているのだ!」
 得られぬものを求めて、『星鬼・魅陰』は疾走る。
 目の前の敵、猟兵を下し、再び己の力を増大させるために。己の欲望のために拳を振るうのだ。

 けれど、名捨は構える。
 拳に覇気を。剣に気合を纏い、百龍拳伝承者として相対する。
「百里神剣……! 貴様ッ、百龍拳伝承者!」
「知ってるのか……なるほど。冷静で的確だ」
 放たれる拳を剣と拳で受け流し、舞うようにオブリビオンと猟兵が激突する音を響かせる。
 それは『桃源郷』の桃の花弁が舞い散る中にあっては、一種の舞踏の如き光景であったことだろう。
 時に美しさすら感じさせる人の可動範囲を『功夫』によって越えた芸術ですらあったかもしれない。

「だが、熱さのない『功夫』なんぞ、ただの打撃にすぎねぇ」
 打ち込まれる拳から流れる陰気。
 それが名捨の熱を奪っていく。けれど、それが何に為る。己の中にある燃える心は一片たりとて奪えるものではない。
 陰気が全ての熱を奪うのであれば、己の胸に燃える熱さは奪えるものではない。
 己の意志が在る限り、己の練り上げられた『功夫』は燃え盛り続けるのだ。
「馬鹿な……何故、我が拳を受けて動ける!」
 驚愕しきりであったことだろう。
 どれだけ打撃を打ち込んでも、名捨は止まらない。止まれない。何故ならば。

「どうだ? 熱を奪う? 笑わせる。つーか。熱さで平穏が乱れる? それはお前の『功夫』が足りないだけだ」
 その瞳がユーベルコードに輝くからだ。
 必殺を越えた必殺の一撃。
 百里神剣の一撃が『星鬼・魅陰』の片腕を切り捨てる。瞬間、名捨の身体が距離を詰めていた。
 驚愕に見開かれる瞳。

 されど、それは当然の帰結であったのかもしれない。
 強化された陰気であったとしても、これまで猟兵たちが消耗させているのだ。それ相応の動きの鈍さだってある。
 そこに来て、名捨の捨て身の一撃である。
 勝てぬ道理もない。
「我の『功夫』が足りぬっ、そんなことはあるはずがないッ!」
 認めたくないのはわからないでもない。

 けれど、事実だ。
 名捨の拳が疾走る。
 その一撃は、神無(カンナ)。
 彼の奥の手にして、最大の一撃。放たれた拳は龍の如く輝き、『星鬼・魅陰』の纏う陰気すら砕いて、嘗て武侠であった熱き魂の残滓を捉え、『桃源郷』の空へと、その骸と成った身体を打ち上げるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ソナタ・アーティライエ
陰気に吞まれた冷たき躯
そう聞き及んでいましたけれど
戦うその姿に、口をつく言の葉に、まだ熱は残っていると感じました

奪った熱では温まれないのでしたら
その心を熱く燃やし、大いなる陽気となしましょう
身体が陰気で満たされているなら、心は陽気で溢れさせましょう

心を熱く滾らせるものと言えばやはり強敵(トモ)
神の力を借りる術法で、かつて彼と拳を交わし覇を競った方達の英霊をこの場に導きます

力を増した今の貴方様に力及ばないのは承知
しかし英霊の皆様とて、かつてのままの力量ではありません
その上で、数と支援(回復)ありで臨ませて頂きますね
つまらない戦いになどさせはしません
ですからどうか……熱き心を思い出してください



 ソナタ・アーティライエ(未完成オルゴール・f00340)の瞳に映るオブリビオン『星鬼・魅陰』の姿は、陰気に呑まれた冷たき骸……そのように見えなかったかもしれない。
 彼女の青い瞳にあるのは、悲壮を秘め、その奥底に僅かばかりでも残る熱を抱える欲望の徒であった。
 戦う姿、口をつく言の葉。
 それを受けてソナタはまだ彼に熱が残っていると感じた。

 錯覚であったかもしれないし、気の迷いであったのかもしれない。
 けれど、誰がそれを否定できるだろうか。
 めの前のオブリビオンを突き動かすのは、紛れもなく我欲である。ならばこそ、凶星より齎された陰気が骸に流れていたのだとしても、其処に在るのは欲望という名の熱であったことだろう。
「奪った熱では温まれないのでしたら、その心を熱く燃やし、大いなる陽気となしましょう」
 ソナタは『桃源郷』の桃の花弁が舞い散る大地を踏みしめる。
 戦いは恐ろしいものだ。
 けれど、今『星鬼・魅陰』に必要なのは、嘗て在りし武侠の戦いに対する熱き思いであろう。

 ならばこそ、彼女は己の恐れを乗り越えて一歩を踏み出す。
 オブリビオンの身体はすでに片腕を失い、纏う陰気は強大ではあれど消耗させられていた。
「ならば、なんとする。我の体に陽気はない。陰気のみが我を突き動かす。そこに熱などありはしないのだ!」
「いいえ、身体が陰気で満たされているなら、心は陽気で溢れさせましょう」
 ソナタの瞳がユーベルコードに輝く。
 それは、転身譜(カミヤドスショウジョノキセキ)。
 己の体に神を降ろし可憐なる衣装をソナタは身にまとい、くるりとその場で変身する。
 その度に生まれるのは彼女の願いを受けた英霊。

 その英霊の名をソナタは知らない。
 けれど、確実に嘗ての武侠で在りしころの『星鬼・魅陰』の瞳には動揺が映っていた。
「き、貴様は……! まさかッ!」
 現れた英霊が静かに構える。
 言葉を発することはなかった。けれど、構えるだけでよかったのだ。
 ソナタは言う。
「力を増した今の貴方様に力及ばないのは承知の上。しかし、英霊のみなさまとて、かつてのままの力量ではありません」
 彼女が舞うように変身を重ねる。その度に英霊たちの数は増えていくのだ。それは嘗て武侠であった頃に『星鬼・魅陰』が対峙し、拳を交わした者達であろう。

 ソナタは体に溢れる陰気はどうしようもないと言った。
 けれど、心は違うのだと、未だ燃え盛る武侠の心を感じ取ったのだ。
「つまらない戦いになどさせはしません。ですからどうか……」
 それは願いであったし、祈りであった。
 ソナタにとって、それこそがオブリビオンへと成り果てた『星鬼・魅陰』の手向けであった。

 彼の心の奥底に未だ種火のようにくすぶる思いがあるのであれば、その心は応えるだろう。
 必ずや拳は風を起こし、蹴撃は炎を巻き上げる。
「熱き心を思い出してください」
 ソナタの言葉と共に英霊たちが疾走る。
 彼女の言葉通り、確かに霊場『桃源郷』によって『星鬼・魅陰』が得た力は強大だ。
 けれど、嘗て拳を交わした友とも言うべき者達の拳は、さらにその上を行く。

 それは優しい決闘であったのかもしれない。
 絶え間なく続く拳闘の日々。
 その最中にあって、心を満たすのは熱き心であったかもしれない。陰気を撒き散らしながらも、それでも払うように拳のやり取りが行われ、英霊たちの一撃によってオブリビオンは過去へと叩き返されるように、その充足したあの日々を思い起こさせるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
かつての兵(つわもの)が、あのような姿に……何と空しき事。
されど、嘆く暇はない。今は己の『役目』を果たすのみ。
拙者、愛久山清綱……その力、祓わせて頂く!
■闘
武侠の無念を晴らすべく、あえて敵の力を正面から受け止める。

【野生の勘】で陰気を感じ取りつつ、少しでも冷える感覚を
感じたらすぐさま【オーラ防御】を展開し、ダメージを軽減。
寒冷から来る身体の痛みは【激痛耐性】で耐え抜くぞ。
頃合いがくるまで、刀を握り締めるのだ。

【破魔】の力を最大限に込めて【心切・祓】を発動、霊力を
戦場を覆う陰気にぶつけ陰力を【浄化】しつつ、奴の本来
『在るべき海』へ導いてみせよう。

海原の、渦が祓うは罪穢……

※アドリブ・連携歓迎



 人の心が齎すのは陽気であるのならば、拳が齎すのはなんで在っただろうか。
 嘗ての兵がオブリビオンへと成り果てたことを愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)は嘆いた。
「あのような姿に……何と空しき事」
 けれど、それは僅かな嘆きであった。
 彼にとって、この『桃源郷』において成さねばならぬことはまだあるのだ。
 それこそが嘗ての武侠への手向けと為ることを彼は知る。
 故に、彼の心に燃えるのは己の今の『役目』を果たすことのみであった。

 嘗ての武侠であったオブリビオン『星鬼・魅陰』は数多の猟兵達の攻撃を受けて、満身創痍であった。
 片腕は斬り落とされて、打撃の数々を受けても尚立ち上がる姿は、確かに嘗ての武侠そのものであったことだろう。 
 だが、彼を取り巻く陰気が齎す冷気だけが違う。
 それは死せる武侠の骸に凶星の陰気が宿ったものでしかない。
「何故だ……身体が、心が燃えるのに、身体が、熱を持たない……ああ、これこそが我が身が外道に落ちたことに変わらぬこと。ならば、我は外道の如く振るわまわなければならない」

 その瞳が凶星の輝きを灯す。
 けれど、清綱はユーベルコードに輝く瞳を持って相対する。
「拙者、愛久山清綱……その力、祓わせて頂く!」
 真正面から陰気の放つ冷気を受け止め、清綱は激突する。
 冷気を感じた瞬間にオーラによて防御を展開しても尚、己の身を貫く冷気に驚愕する。
 身体が軋む。
 けれど、それ以上に清綱の身体を打ったのは、武侠の拳であった。
 如何なる『功夫』を詰めば、これだけの拳を放つことができるのであろうか。確かに今、清綱は嘗ての武侠と拳を交わしているのだ。

 それだけで、己の心の内側から燃え上がるものがあるのを確かに感じた。
「どうした! 名乗るばかりで!」
 放たれる拳が次々と清綱を打つ。
 けれど、清綱は刀を握りしめる力を込めるばかりであった。刀身に薄っすらと破魔の力を籠めていく。
 それこそが、彼のユーベルコード。
 清浄なる霊力を放ち、抜き祓われた斬撃が戦場を覆う陰気すらも浄化して、斬撃を『星鬼・魅陰』へと届かせるのだ。

「海原の、渦が祓うは罪穢…… 在るべき海へ還さん。秘儀・心切」
 その斬撃こそが、心切・祓(シンキリ)。
 本来であれば、斬撃を見舞った対象の棲家へと転移させる力である。
 けれど、彼にはもうそれがない。
 戻るべき場所などないのだ。故に、その斬撃は深く『星鬼・魅陰』に刻まれる。
 深々と刻まれた傷跡から溢れるのは、血潮ではなく陰気。

 すでにその身体が凶星の輝きに寄って侵されていることを示していた。
 それを虚しいと思うことはあれど、憐れと思うことはなかったのかもしれない。本来あるべき『海』それは、骸の海に他ならない。
 そこへの転移ということは即ち消滅。

 けれど、未だ拒否する『星鬼・魅陰』は傷を負いながらも立ち上がる。
 その姿を天晴というには、あまりにも。
「されど、その武侠の魂でもって、歪める過去は断ち切らせて頂く」
 放つ二の太刀の一撃が、オブリビオンの陰気を引き裂く。

 それは清綱が見せるオブリビオン……いや、嘗ての武侠に対する手向け。
 未だ熱を求め、我欲を見たさんと歪められた心根だけを切り裂く退魔の太刀にて、陰気のみを切り捨てるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星野・祐一
よっ助太刀に来たぜ…うわ寒ッ!
なんともまあ…難儀な体質になってんだなあんた
恨みはねえが、倒させて貰うぜ

[SPD]
寒さは宇宙服の【環境・氷結耐性】と気合で耐えるとして
まずは隙を作らないとな

拱手を手早く済ませたら流星を構えて【属性・先制攻撃】
そのまま一定の距離を保ちながら相手の回避を【誘導弾】で無視して
電撃によるマヒ効果で【体勢を崩す】のを狙う(戦闘知識

功夫の間合いに入らないように注意して立ち回るが
接近を許した場合は【第六感、読唇術】で察知
【瞬間思考力、見切り】で攻撃をピアースで受け流して
【シールドバッシュ、吹き飛ばし】で対処な

最後は雷鳴を構えて【UC、貫通・2回攻撃】
こいつで終いだ!

アドリブ歓迎



 陰気とは陽気の対極にあるもの。
 即ち熱の極地、寒冷極まる力であるのならば、『桃源郷』を包み込む冷気は尋常ならざるものであったことだろう。
 遅れてやってきた猟兵、星野・祐一(シルバーアイズ・f17856)にとって思わぬ展開であったが、陰気は先行した猟兵達によって消耗激しいものであった。
「よっ助太刀に来たぜ……うわ寒ッ!」
 宇宙服の環境に対する耐性を持ってしても、肌を貫くような寒さが祐一の肌を刺す。
 拱手を持って礼を失することのないようにと祐一は礼をしたが、身体がふるえるほどであった。

 目の前には片腕を失い、陰気を払われ続けたオブリビオン『星鬼・魅陰』の姿があった。
「我が躯体より溢れる陰気こそが力の根源。我が宿星は凶星であれば、必ずやお前達を……」
 一歩前に進む度に強化された陰気が冷気を伴った祐一を襲う。
 しかし、さらに脅威であったのは、冷気よりも練り上げられた『功夫』より放たれる打撃であったことだろう。

 踏み込みが早すぎる。
 これが本当に消耗させられたオブリビオンの動きか。
 打ち込まれる拳が触れた箇所が熱い。
 それほどまでの打撃なのだ。宇宙服の防御すらも貫いてくる。嘗て武侠であった『星鬼・魅陰』がどれだけの弛まぬ練磨を続けてきたのかを、祐一は知る。
「これだけの『功夫』を練り上げても、過去に歪められるかよ!」
 熱線銃から放つ弾丸で一定の距離を保とうとするも、すぐさまに距離を詰めてくる。弾丸すらも拳と陰気で弾き飛ばし、祐一に迫る『星鬼・魅陰』の『功夫』は練に練り上げられていたと言っても過言ではないだろう。

「弾丸を打ち出す武器……! 飛び道具風情が!」
 放たれる弾丸は直線的であった。
 けれど、それだけしかできないわけではない。誘導弾による曲線を描く弾丸こそが本命である。
 電撃の力を帯びた弾丸が陰気を抜け、『星鬼・魅陰』の身体を打つ。
「こういうこともできるんだぜ!」
 距離を詰める。
 いや、距離を保つために祐一はあえて、踏み込んだのだ。

 可動装甲板展開した防御形態からシールドピアースを変形させ、大型兵装としての姿を現したシールドバッシュの一撃で『星鬼・魅陰』の身体を吹き飛ばす。
「ぐぉ――ッ!?」
「こいつで終いだ!」
 別に『星鬼・魅陰』に恨みはない。
 けれど、その存在が在るだけで、世界が破滅に追いやられるというのであれば、話は別だ。

 過酷な宇宙という環境で育った自分だからこそわかる。
 この『桃源郷』はまさしく楽園だ。霊場としてだけではない。誰もが願う場所であり、心にあるものであろう。
 だからこそ、陰気だけで満たしてはならない。
 祐一の瞳が決意と共にユーベルコードに輝く。
「この一撃雷で終わりにしようぜ…!」
 溜め込まれた輝きが、熱線銃の銃口から放たれる。
 
 それは冬雷(トウライ)のように『桃源郷』に轟き、そのすさまじい弾丸の一撃をもって、オブリビオンの纏う陰気を振り払い、その肉体を穿つのだ。
「悪いけど、寒いのは慣れているんでね。けれど、あんたの拳……効いたぜ」
 例え、オブリビオンであったとしても、嘗て在りし過去は変わらない。
 そこにあった『功夫』の積み重ねだけは、否定してはならない。
 そんなふうに思いながら、祐一は轟雷の残響を聞くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

聖・華蓮
身体が冷えれば心も冷える。そうして貴方様は、このようなお姿になってしまわれたのですね。
…私のこの身を以てして、貴方様を温めて差し上げられたなら。その御心を温めて差し上げられるでしょうか…?

けれど、彼が放つ陰気はあまりに凄まじく。先に私の体が凍えてしまいそうです。
全ての熱を奪えど、貴方様は凍えたまま。熱を求められるのでしたら、私が与えて差し上げます。
ですので、どうか一度でも、その御体に触れさせてくださいませ――
(無意識の【誘惑】を交えて懇願)

接触叶えば、抱擁を以て、冷たきその御体を【慰め】て差し上げましょう。
けれどその熱は…或いはかの御方の肉体を滅ぼすものかもしれませんが。
(UCの作用による)



 猟兵達による攻撃が打ち込まれたオブリビオン『星鬼・魅陰』は、それでも『桃源郷』に立つ。
 霊場として力を与え続ける『桃源郷』に在りて、彼の身体は満身創痍であった。
 けれど、すでに凶星の放つ陰気の器としての躯体でしかない彼の身体は、痛みも感じない。
 熱も感じない。
 そこにあったのは、ただ他者の熱を妬み嫉む心でしかない。
 己にはないから奪う。
 己には持ち得ないから、それら全てをなかったことにしたい。

 その思いにかられてしまったのは、あまりにも悲しいと感じるのが寵姫としての聖・華蓮(傾界幻嬢・f32675)であった。
 彼女の憂いを帯びた瞳が『星鬼・魅陰』の身体を打つ。
「身体が冷えれば心も冷える。そうして貴方様は、このようなお姿に成ってしまわれたのですね」
 彼女の言葉は優しげであった。
 そうなることも理解できると頷ける度量があった。

 それが寵姫としての彼女の有り様であると言えば、それまでであったことだろう。
 例え猟兵としてオブリビオンを滅ぼさなければならないのだとしても、彼女に直接オブリビオンを打倒する力はない。
 あくまで彼女の存在自体がユーベルコードに匹敵する魅了の力を持っているということだけであった。
「私のこの身を以てして、貴方様を温めて差し上げられたなら。その御心を温めて差し上げられるでしょうか……?」
 彼女の言葉は甘やかであった。

 あまりにも甘美な声の響き。
 その声は世界すらも震わせ、歓喜の声を上げさせたことだろう。けれど、オブリビオンである『星鬼・魅陰』は声を震わせた。
「構うものか。我の心は誰にも触れられぬ。我が躯体は陰気が流れる。ならば、如何にしても我が身体を温めることなどできようものか」
 満身創痍でありながらも、一歩前に進む。 
 確かに長く『桃源郷』に滞在していただけあって、周囲を取り囲む陰気の量は尋常ではなかった。

 猟兵達に打ち払われても尚、有り余る陰気。
 それが凶星の瞬き故であると言うのならば、その星こそが打倒すべきものであるのだろう。
「……全ての熱を奪えど、貴方様は凍えたまま。熱を求められるのでしたら――」
 華蓮の声が震えていた。
 あまりの陰気に彼女の身体が凍えていく。 
 身震いしながらも、それでも華蓮は一歩を前に踏み出した。それはオブリビオンにとっては不可解な行為であったことだろう。
 何故、と問うまい。
 それが寵姫としての彼女のあり方なのだ。

「私が与えて差し上げます。ですので、どうか一度でも、その御身体に触れさせてくださいませ――」
 たおやかな指が伸びる。
 それはオブリビオンに向けるものではなかった。凍える魂に向けた指であった。
 凍えてしまいそうな心が暖かさを求めるのは道理である。
 故に彼女は与えようというのだ。

 己の熱を、体温を全て与えても良いとさえ思っていたのだ。
「なに、を……」
 たじろぐ『星鬼・魅陰』は動けずに居た。一歩も動けないのだ。拳を突き出せば、華蓮の身体を貫くだろう。
 けれど、それができない。
 なぜなら、彼女は寵姫である。森羅万象をも虜にする魔性の美を持つ者。

 ならば、彼女に手を挙げることなどできず。
 懇願されれば、その瞳に抗うことはできないのだ。
 まさに想死想哀(ソウシソウアイ)とも言うべき凄まじき力。
 触れた指先から暖かさが流れ込んでくる。けれど、その暖かさは陰気によって即座に霧散していく。
 それが彼の身体がオブリビオンたる所以であろう。
「ああ、やはり熱が……」
 悲しげな瞳。 

 憐憫を向けられたことに対して恥じ入るわけではない。
 けれど心地よいとも思えるのだろう。満身創痍であった『星鬼・魅陰』の体が足元から崩れていく。
 まるで華蓮から与えられた熱を以て自壊していくように、がらがらと砂のように成ってい消えていく。
「僅かな一時でも触れ合えた事、嬉しく思います。どうか、次なる時など訪れないことこそが、貴方様の慰め……」

 その憐憫が、その慰撫が、オブリビオンを滅ぼす熱となって陰気だけが満ちていた躯体を滅ぼしていく。
 ああ、と吐息のように華蓮の言葉が紡がれる。
 たった一時の間でもいい。

「わたしはあの御方に熱を与えることができたでしょうか――」

 それは静かに。
 桃の花びら共に霧散し、消えゆく。答えはないけれど――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『天上の甘味』

POW   :    沢山の果物を食べ、大いなる力を授かる

SPD   :    受けたい効果を持つ果物を探し、もぎ取る

WIZ   :    果物から作られたお酒や飲み物を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『桃源郷』に満ちていた陰気、その冷気が晴れていく。
 冬が訪れ、そして春が来るように、温かい空気が『桃源郷』を満たしていく。桃の花は咲き誇り、花弁がこれまで以上に舞い散る。
 その光景はまさに猟兵達の勝利を祝福するようでもあった。

 そして、強烈なる陰気である冷気に晒された樹木からは、流れ込んできた陽気によって次々と実を結ぶのだ。
 色とりどりの不思議な果実。
 それは『桃源郷』が霊場として存在するように、一つかじるだけで不思議な力が湧き上がってくるだろう。

 それは今回限りの……最早、戦う必要など無いのだが、力を齎す。それでも天上の甘味と呼ぶに相応しい味であったことだろう。
 戦いを終え、転移するまでの僅かな時間であるが、それでも猟兵達の憩いの時間として『桃源郷』に暫し滞在し、楽しむのもいいだろう。

 脅威は去った。
 けれど、またいつかオブリビオンはやってくる。
 その時まで、猟兵は英気を養わなければならない。今はその時だ。ゆっくりと、そして華やかなりし『桃源郷』を満喫するのも良いだろう――。
厳・範
終わったか。…まったく、本当に連日騒がしいことだ。
(桃食べてる)

わしは他世界に赴いたことがなかったから、知らなかったのだが。『桃源郷』そのものが、他世界にはないのだな。伝承ではあるようだが…。

亡き友であれば、その好奇心で他世界にもいったであろうか。
桃ではなく、桜が一年中咲く世界。
この世界よりも先の歴史を紡ぐ世界。
闇に覆われた世界。
コンキスタドールの源流がいる世界。
同じくコンキスタドールが訪れていた世界。

…わしもまた、行ってみてもいいのだろうか。なあ、親友よ。
答えがあるはずもないのに、聞こえた気がした。

親友「いいんじゃない?君、他世界知ったら放っておけないし…成り立ちからして、仁獣なんだから」



 封神武侠界は『封神台』が破壊されてからというもの、オブリビオンの起こす事件によって騒々しい毎日が続いている。
 それは乱世と言ってもよいものであったことだろう。
『人界』、『仙界』が共存する世界。
 オブリビオンはどちらも脅かす。
 そして、それを鎮めることができるのは猟兵だけである。
 ならば、己が為すべきことは、この世界を守ることであると、厳・範(老當益壮・f32809)は約束事として己の胸のうちに秘めていた。

 オブリビオンが骸の海へと還った『桃源郷』は陽気が戻り、今は色とりどりの果実が実を結ぶ。
 桃の花弁が風に舞い、美しい光景で範の瞳を楽しませる。
「終わったか」
 それを実感できるだけの余裕があることは喜ばしいことだ。
 猟兵としての力があれど、彼らは他の世界を知らない。他の猟兵に言わせれば、まだまだ数多くの世界がオブリビオンの脅威にさらされているのだという。
「……まったく、本当に連日騒がしいことだ」
 桃の果実を頬張ると甘みと滋味が体に染み渡っていく。

 戦いの後の疲労感も癒えるというものだ。
 ああ、と一息吐き出す。
 亡き友であれば、その好奇心で他世界にも赴いたことだろう。それが想像できるくらいには、まだあの眩しい思い出の中の彼は笑っているようであった。
「『桃源郷』そのものが無い世界か。伝承でしか存在せず、その意味もまた変わっていると……」
 伝え聞けば聞くほどに驚くものばかりである。
 桃ではなく、桜が一年中咲く世界。
 この世界よりも先の歴史を紡ぐ世界。
 闇に覆われた世界。
 コンキスタドールの源流がいる世界。
 同じくコンキスタドールが訪れていた世界。

 様々な世界が未だ知らぬものであることを範は知る。
 風が桃の花弁をさらい、果実の甘やか為る香りが鼻孔をくすぐる。
 思いを馳せる。
 彼の胸中を知る者は多くはないだろう。その瞳が一体何を見据え、何を思い、何を決意しようとしているのかを誰も彼もが知るわけではない。
「……わしもまた、行ってみてもいいのだろうか」
 小さく呟いた言葉は、願望であったのかもしれない。
 もしくは、彼の心が動き出した証であったのかもしれない。

「なあ、親友よ」
 その友の名をつぶやく。
 答えなどあるわけがない。すでに彼は亡くなっている。何処にも届かないつぶやきが『桃源郷』の風に乗って、遠くへ、遠くへと跳ねるように飛んでいく。
 けれど、それが幻聴であったのだとしても、はっきりと範の耳には届いた。

 懐かしい声。
 どうしようもなく、それでいて昨日聞いたかのような代わり映えのしない声が響いたような気がした。
「いいんじゃない? 君、他世界知ったら放っておけないし……」
 からかうような、けれど、どこかなんでもわかっているような声。
 範は取り乱すことはしなかっただろう。
 静かに瞳を伏せる。
 ただそれだけで瞼の裏側に見える姿がある。

 吐息を漏らすような笑みを浮かべた。
「……何より、成り立ちからして君は、仁獣なんだから」
 仕方ないな、と背中をそっと圧されたような気がした。
 黒麒麟は征く。
 背中に触れた風の暖かさを友に。
 未だ見ぬ世界。己の世界と同じくオブリビオンの脅威に晒されている世界へと向かう。知っては放ってはおけぬとそっと駆け出す。
 いつだって戻ってこれる。
 ただ、それだけでいい。
 それは、嘗ての約束事。そうあれかしと願われた想いであるのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
ふう、陰の気が去って、ここも陰陽の平衡を取り戻してるわね。
それじゃ、アヤメと羅睺と一所に、祝勝会と行きましょうか。
ここで「竜脈使い」の力で地脈を流れる霊力を取り込めば、羅睺の顕現も大丈夫。正直結構重いけど、それも修行。

それじゃ、果物取ってきて、お花見と行きましょう。浮世の憂さを晴らす時ってね。篭がいっぱいになるくらい取ってきましょ。
アヤメと羅睺は、仲良くお願い。

ふふ、アヤメ、はい、あーん。次は羅睺ね。食べさせてあげるから口開けて。
どう、おいしい?
じゃ、あたしも食べさせてもらおうかしら。
ここの人から、瓶子にお茶を淹れてもらって持ってきたわ。湯飲みと一所。アヤメはお酒の方がよかった?
骨休めねぇ。



『桃源郷』に満ちていた陰気が晴れれば、陽気が訪れる。
 それは世界の摂理であったのかもしれない。
 しかし、それこそが猟兵がオブリビオンに打倒せしめた証であろう。桃の花びらが舞い散る光景は、猟兵が護った証である。
 そんな花見ついでと言ってはなんであるが、僅かな時間であっても憩いの時間として過ごせるのはありがたいことであったのかもしれない。

 何も猟兵の戦いはオブリビオンを打倒するばかりではない。
 たまにはこんな役得があっても悪くはないだろう。
「ふう、陰の気が去って、此処も陰陽の均衡を取り戻しているわね」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は戦いの後ではあるが、幾許かの時間を得ることができたことを素直に喜んでいた。
 ユーベルコードに寄って召喚された式神であるアヤメと羅?と共に『桃源郷』において祝勝会へと雪崩込む。

 本来霊力を振り絞って顕現させる式神・羅睺。
 けれど、今は『桃源郷』という霊場に流れる地脈の力を取り込んで、なんとか維持している状態だ。
 そんなに無理をしなくてもとたしなめるアヤメであったが、ゆかりは頭を振る。
「大丈夫。正直結構重いけど、それも修行よ」
 せっかくの憩いの時間であるのだから羽を伸ばせばいいのに、と思わないでもなかったが、それでいいと思うのならば止める理由もないのだ。

 アヤメが『桃源郷』に実る実を取ってきてくれて、桃の花を眺める花見が始まる。
 一粒でもかじれば、甘い香りと味が口の中に広がる。
 確かに天上の甘味と呼ぶに相応しい味だ。
「これは美味しいわね……それにしても籠がいっぱになるくらい取ってきて……」
 まあ、それでもいいかとゆかりはうなずく。
 式神であるアヤメと羅睺が楽しんでくれるのならば何の問題もない。

 こんな時くらい、浮世の憂さを晴らさなければならない。
 アヤメと羅?は仲良く並んでいる。それはとてもありがたいことだ。力を貸してくれる式神。
「ふふ、アヤメ、はい、あーん」
 口を開けるアヤメに果実を手ずから食べさせる。美味しそうな顔をしてくれるのが嬉しいと思うのは、とても心が暖かくなるものだ。
 羅睺にも、と同じように食べさせる。
 二人が競うように口を開けるものだから、大変だ。
 けれど、それもまた楽しいものである。二人がひとしきり食べきった後、今度は自分にも、と口を開ける。

「じゃ、あたしも食べさせてもらおうかしら」
 なんて口を空けていたら、二人して果実を突き出してくるものだから、また二重に大変な思いをしたのは此処だけの話である。
 お茶を淹れて一服する。
 涼やかでありながら、暖かさもあるような心地の良い風が頬を撫でる。
 それだけで戦いの疲れは癒やされるようであった。

 瓶子にお茶を入れてあるものだから、てっきりお酒だと思っていたアヤメが変な顔をする。
「アヤメはお酒の方がよかった?」
 なんてからかいながら、ゆるやかな時間が流れていく。
 こんな穏やかな時間は僅かなのだろう。
 また転移すれば、オブリビオンの齎す事件が待っている。それを思えば、心休まるものではないけれど、霊場としての『桃源郷』が心に活力を与えてくれる。

 それだけではない。
 式神の二人の安らかな顔をみればわかる。これは一時の憩い以上の価値がある。
「骨休めねぇ」
 何となしに呟いた言葉は、緩やかな暖かさに溶けて消えていく。
 午睡のようなまどろみに誘われながら、ゆっくりと。
 けれど、確かに身体が癒やされていくのを感じるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

遥・瞬雷
近くの幹を撫でる。
お疲れ様。災難だったね。
ふぅ、やれやれ…と外見に似合わぬ年寄り臭い仕草で腰を下ろそう。
千洞獄から盃を取り出す。始めようか。
瓢箪を一つぽんと叩くと、舞う花弁が陽気と共に吸い込まれる。
混ぜ合わせる様に暫くゆっくりと回す。そろそろかな。
瓢箪を傾けると、予め入れておいた純粋な酒精に桃源郷の花と気が混ざり、桃の香りの仙酒になって盃に注がれる。仙術って程のもんじゃない。仙人の嗜みさ。
盃を呷る。世は並べて事も無し。これからもこうありたいもんだ。

…ふと見回す。共に戦った、彼らが異世界の兵かな?
世界も不変とはいかないようだね。さて、私はどうするべきかな。
異界に挑む自身の想像を肴に酒を楽しむよ。



 うら若き女性の猟兵が『桃源郷』に映える樹木の幹をそっと撫でた。
 彼女の名は、遥・瞬雷(瞬雷女仙・f32937)。
 猟兵として、この『桃源郷』に居座るオブリビオンを打倒した者たちの一人である。彼女は妙齢の女性であるが、その実年齢は探るものではない。
 妙に年寄り臭い仕草であると思ったとしても、それは豪放磊落であるだけである。そういうことなのだ。

「お疲れ様。災難だったね」
 そんなふうに労るように樹木を撫でる姿は、心の内側にある優しさを映し出すようでも在った。
 陰気が抜け、今や『桃源郷』は陽気に包まれている。
「ふぅ、やれやれ……」
 束の間であるが、猟兵たちには憩いの時間が約束されている。それを思い出して、瞬雷は宝貝『千洞獄』を手にする。
 一見、瓢箪にしか見えないが、それは体積を超える容量を持つ、あらゆるものを自在に出し入れが可能なる宝である。

 その瓢箪を軽くぽんと叩くと、周囲に舞い散る桃の花弁が陽気と共に吸い込まれていく。
 何故そんなことをしたのか、彼女以外の者は理解できなかったことだろう。瓢箪をくるり、くるりとゆっくりと混ぜ合わせるような動きで回す。
「ん、そろそろかな」
 瓢箪の栓を抜いて、杯に傾ける。
 ふわりと酒精と混じり合って『桃源郷』の花の香りと気が立ち込める。
 それは仙酒であった。

 宝貝と『桃源郷』の陽気によって生み出された仙酒は芳しい香りでもって瞬雷の鼻腔をくすぐる。
「うん、いい出来栄えだ。ま、仙術って程のもんじゃないけれど……仙人の嗜みってね」
 杯を傾ける。
 程よい甘さが舌を楽しませる。口腔を占める香りと味。
 これが戦いの後の楽しみである。

「世は並べて事もなし。これからもこうありたいもんだ」
 そう願いたくなるのも無理なからぬ光景だ。
『桃源郷』は平和そのもの。
 けれど、力を求めるオブリビオンがいる限り、いつまたこの平穏が破られるやもしれぬ。
 ましてや今、『封神武侠界』は封神台の破壊に寄って混乱を極めている。
 そのためにユーベルコードを扱うことのできる猟兵の力が求められているのだ。

 ふと、周囲を見渡せば彼女と同じように憩いの時間に浸る者たちがいる。
 オブリビオンとの戦いに参加した猟兵達だろう。見覚えがある。彼らもまた瞬雷と同じように、この時間を楽しんでいるのだろう。
「世界も不変とはいかないようだね」
 瞬雷は頭をひねる。
 確かに不変とは無縁の世界へと変わってしまった。激動の時代とも言える。ならば、己は何ができるだろうか。
 どうすべきかを考えることが、今の自分にはできるのだ。
 未だ修行中の身であれど、世界を滅ぼさんとするオブリビオンの撃退はできる。

 この世界だけではない。
 数多ある世界。その全てが過去の化身オブリビオンに狙われていると知った今、瞬雷は新たなる未知の世界に挑む自分の姿を幻視する。
「どんな世界が待っているんだろうね」
 単純に楽しみだと言える。それほどの度量が彼女にはあるのだ。
 未だ見ぬ異世界。
 その先に見えるであろう光景を肴に瞬雷は陽気と混じり合った酒を楽しみ、ゆったりとした時間、『桃源郷』の穏やかな時間を彼女は過ごすのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ソナタ・アーティライエ
穏やかな温かさを取り戻した桃源郷に、ほっと安堵の息をつきながら
同時に悲しさも覚えずにはいられません
あの方の終わりに、わたしは何かを成せたのでしょうか……

想いに沈みそうになるわたしに、そっと身を寄せるアマデウス
その静かな励ましが確かな温もりとなって心に染み入ります
ええ、大丈夫……ありがとうアマデウス

もいだ果実を二人で分け合ったら
アマデウスが姿を変えた二胡を手に
桃源郷の温かさを絃の響きへ乗せて
遠き世にまで伝わりますようにと願いを込め奏でます


アドリブ歓迎
服装は白と青を基調とした華ロリドレスです



 陽気が満ちて、桃の花びらが舞い散る。
 風は優しくて、心地よいと感じることがオブリビオンが打倒され本来の『桃源郷』の姿を取り戻した証であった。
 こんなにも心地よい空気が流れている霊場であればこそ、滞在する者の力を強化するというのも頷けるものであった。

 けれど、ソナタ・アーティライエ(未完成オルゴール・f00340)は安堵の息をつきながらも、同時に悲しさを覚えずにはいられなかった。
 オブリビオン『星鬼・魅陰』。
 かのあり方は悲しいと思うには十分な姿であった。
 凶星によって齎された陰気だけが身体をめぐる。熱き血潮の感触も思い出すことも出来ず、けれど心はくすぶるような種火だけが残っている。
 それを憐れと思うことはあれど、ソナタは自分が何を出来たであろうかと自問自答する。
「あの方の終わりに、わたしは何かを成せたでしょうか……」

 目の前の『桃源郷』の光景を見やれば、尚更のことであった。
 少しでも気を抜けば暗澹たる思いが胸よりこみ上げてくる。もっとできることがあったのではないだろうか。
 もっと良き終わり方があったのではないだろうか。
 そればかりがソナタの優しい心を暗い思いに引きずりこもうとする。けれど、そっと銀竜がソナタの肩に寄り添ってくれる。
「アマデウス……」
 その静かな励ましは、ソナタの沈みそうになる心を引き上げるようであった。
 そんなことはないと。
 例え、どうしようもなかったのだとしても、あの者の終わり方はあれでよかったのだ。

 最後に拳を交わし、その魂の根底にある原点をきっと思い出したであろうと、言葉亡くとも伝わる温もりがソナタの心を温めるのだ。
「ええ、大丈夫……ありがとう、アマデウス」
 そっと銀竜の頬を撫でる。
 それだけでよかったのだ。誰かの温もりが、誰かの心を温める。
 陰気に呑まれていたのだとしても、ソナタの配った心がきっと『星鬼・魅陰』の魂のどこかに触れていたであろうから。

 そう思い直す。
 ソナタは『桃源郷』の樹木に生る果実をもいでアマデウスと分け合う。
 たった一つの果実しかないのならば、半分に分ければいい。
 互いを思いやる心こそが、きっと誰かの慰めになるであろうから。過去に歪められた存在の心を慰める。
 ソナタの戦いとはそういうものだ。

「……甘い」
 とても甘い。天上の甘味といわれただけのことはある。
 その甘さが染み渡って、力となっていくのを感じる。心地よい風に吹かれながら、ソナタは白と青のドレスをなびかせながら、静かにアマデウスが変じた二胡の弦を奏でる。
 それは桃源郷に満ちる陽気を表すように。

 どうかと願う心がある。
 此処ではない何処か。
 きっと遠きいつかのあの日に届きますようにと。それが慰めになってくれたらいい。
 荒ぶる魂も、悲しみに沈む魂も。
 そして、陰気に囚われた過去の武侠にも。

 きっと届きますようにと想いを籠めてソナタは旋律を響かせ続ける。
「世界とは、こんなにも広いものなのです……だから、遍く全てに届きますように」
 その願いはきっと。
 今は未完成だけれど。それでも、いつかきっとすべての魂に平穏がありますようにと、祈りとともに響き渡るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳳凰院・ひりょ
アドリブ歓迎

やはり嘗ては武侠であった相手、強敵だったな…
先程の戦いを振り返り、まだまだ自分は精進を重ねる必要がある事を実感する
今はたとえ彼の領域へ辿り着けなくとも、いずれ彼のような領域へと至れれば…その時はより沢山の人々を救う事が出来るようになるだろうか?

俺は不器用な人間だから、今まで支えてくれた沢山の人々から受けた恩をこういう形でしか返す術を思いつかない
でも、それでもいいのかもしれない
相手を思いやる気持ち、返したいという思い、そういうのが世の中に広がっていけば、もっと沢山の人々にとって優しい世界になっていくはず
俺はその為にも戦い続けるぞ

そんな事を想いつつも果物を食べる手を止められない(汗



「やはり嘗ては武侠であった相手、強敵だったな……」
 そうやって平穏が戻った『桃源郷』において、先程までの激戦を振り返ったのは、鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)であった。
 すでに『桃源郷』に満ちていた陰気は陽気に押し流されるようにして、その欠片を感じ取ることも難しかった。
 桃の花びらが舞い散る光景は幻想的でありながら、何処か懐かしさを感じさせるものであっただろう。

 この光景の中に滞在し続けることができたのならば、どんなにいいだろう。
 けれど、己は猟兵である。
 オブリビオンが争いを生むのであれば、これを打倒しなければならない。
 故に、ひりょは思い返すのだ。
 あの『功夫』の練り上げられた体術の全てを。
 故に、彼は未だ自分が精進を重ねなければならないと実感していた。まだまだたどり着けない。
「今はたとえ、彼の領域にたどり着けなくとも、いずれ彼のような領域に至れば……」

 力を求める者はいつだって、悪意とともにあるわけではない。
 心の内側から溢れる善意でもって力を求める者だっている。故に、善悪の戦いは続く。
 どちらがどちらであるとは言えないけれど。
 けれど、それでもとひりょは願うのだ。
「よりたくさんの人々を救う事が出来るようになるだろうか……」
 猟兵に成って、己の力の使い方を定めた時。
 その時、彼は何を思っただろうか。

 自分が不器用な人間だからと言ってもいい。
 けれど、今まで支えてくれたたくさんの人々から受けた恩を返す形を、このような形でしかできないのだ。
「でも、それでもいいのかもしれない」
 そんなふうに思えるように成ったことこそが、最大の収穫であるのかもしれない。

 だってそうだろう。
 人は世界に溢れている。
 生命は世界に生まれ続けている。
 その循環の中に在りながら、相手を思いやる気持ち、返したいという想いが広がっていく。
「誰も最初にやらないというのなら、俺がそれをやる」
 思いやる気持ちがあれば、それが世界に広がっていく。
 そうすれば、嘗て自分がそうであっったように。もっとたくさんの人々にとって優しい世界になっていくはずだからだ。

 それを理想と呼ぶのは滑稽だ。
 実現不可能と嗤うのも構わない。どれだけ不格好だっていいのだ。もうひりょは決めたのだ。
 それはもう二度と覆ることのない思いだ。
「俺はそのためにも戦い続けるぞ」
 そうすることがきっと、世界のためになると信じている。

 けれど、ひりょは大きくため息を付いた。
「……これ、本当に止まらないなぁ……」
『桃源郷』の樹木になる果実。
 それがどうしようもなく美味しいのだ。風に吹かれ、心地よい気分になりながら天上の甘味ともいわれる果実をかじる。

 ただそれだけ口の中いっぱいに甘みが広がっていく。
 くどすぎることなく、さっぱりと。けれど、甘さと旨味だけは残るのだ。
「手が止まらないよ……」
 どうしよう、なんて思いながら、ひりょは止まらぬ手のままに。
 緩やかな春の日差しを受けて、憩いの時間を過ごすのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
さぁ梓、早く早くっ
レジャーシートを広げたら、お楽しみのお弁当タイム
お弁当の蓋が外される瞬間は
まるで宝箱が開けられる時のような感動
まさに宝石のような色とりどりのお弁当
これ作るのにいったいどれだけ時間かかったんだろう…?
梓も実はお花見すっごく楽しみにしていたのかもね

梓ってばまた腕上げたね~
特にこのからあげ、時間が経ってもサクサクで絶品
褒め称えながら次々と美味しく頂いていく

美味しいご飯のあとにはデザートだよね
桃源郷内に実っている果実を2つ取り
はいどーぞ、と1つは梓に
なんだろう、特別すごい味がするわけじゃないんだけど
不思議と身体中が満たされていく感じ
力が湧いてくるってこういう感覚なんだね


乱獅子・梓
【不死蝶】
そんなに慌てなくても弁当は逃げないから落ち着け
綾に急かされてはいはいと弁当を用意

三段重ねの弁当箱には和洋折衷のメニューがぎっしり
主食は米とパンどちらが良いだろうかと悩んだ挙げ句
おにぎりとサンドイッチ両方作ってみた
おかずは肉、野菜、海鮮どれも満遍なく楽しめるようにと
あれもこれもとメニューを増やしていったら
少々作りすぎた気がしないでもないが…
まぁうちには食い意地が張っている奴が
一人と二匹居るからこれくらい余裕だろう

おい綾、肉ばっかり取ってないで野菜もちゃんと食えよ
オカンみたいなことを言いながら
焔と零にも弁当を食わせてやる

綾に差し出された果実をひとかじり
ん、優しい味がするな



『桃源郷』に楽しげな声が響く。
 それはオブリビオンが打倒されたが故の光景であったことだろう。
 陽気が周囲を包み込み、暖かな風が頬を撫でる。
「さぁ梓、早く早くっ」
 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は楽しげにレジャーシートを広げ、お楽しみであったお弁当タイムへの期待に胸を膨らませていた。

 彼の瞳にあるのは乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が手に持ったお弁当箱である。
 そんな綾の様子に梓は苦笑いというでもなく穏やかな笑みを浮かべていた。
「そんなに慌てなくても弁当は逃げないから落ち着け」
 急かされながらも梓は広げられたレジャーシートの上にお弁当箱を置く。
 早く早くとワクワクした顔をしている綾を微笑ましく思いながら、お弁当箱の蓋を開ける。

 その瞬間はいつだって、まるで宝石箱を開けるような感動があるものだ。
 無論、作ってもらった側の綾であれば尚更のことであろう。
「わあ……」
 そんな無邪気な声が聞こえるほどに綾の瞳に映るお弁当箱の色とりどりな具材は、輝いているようにさえ思えたのだ。
 これだけ作るのにどれだけの時間と手間暇があったことだろう。
 梓もまたお花見を楽しみにしていたことを綾は知っている。

 だからこそ、気合の入ったお弁当箱なのだ。
「まだまだ三段重ねだからな」
 そういって梓が重ねられた箱を横にどける。すると現れるのは、おにぎりとサンドイッチ。
 主食は米とパンどちらがいいかと考えた挙げ句、結局2つともいれてしまったのだ。欲張りセットである。
 さらにその舌からは肉と野菜、そして海鮮などまんべんなく楽しめるように梓が気を配ったおかずが並んでいるではないか。

「梓ってばまた腕を上げたね~」
 からかうようでありながら、褒めそやす綾。
 そういわれて悪い気がしないのだから、梓も大概であろう。あれもこれもとメニューを増やしていったものだから、少々作りすぎた気がしないでもないが気にはならなかった。
 なぜなら、此処には食い意地がハッている者が一人と二匹いるのだから。
 むしろ、これくらい用意しなければならないとさえ思えてくる。そう、これで良いのだ。夏の思い出も、春の思い出も。どれもこれもが今に続いているのだから。

「特にこのからあげ、時間が経ってもサクサクで一品だよ」
 次々とおかずをくちに放り込んでいく綾を梓はたしなめる。
「おい綾、肉ばっかり取ってないで野菜もちゃんと食えよ」
 もう二人のやり取りは大きな子供と母親のやり取りそのものだ。それもまた微笑ましい。
 せがむように二匹の竜がすり寄ってくる。まあ、慌てるなと梓が手ずから彼らに食べさせてやるのを綾は微笑ましげに思うのだろう。

 彼らとともに過ごす時間は緩やかだった。
 戦いの後とも知れぬ『桃源郷』に流れる陽気は心地よくて、うっかり眠りこけてしまいそうだった。
「さ、美味しいご飯の後にはデザートだよね」
 綾は腹ごなしに樹木に生る果実を2つもいで、梓に一つ手渡す。
 はいどーぞ、となんとなしに手渡されたものだから、梓も面食らう。なんという果物だろうかと見つめてしまうのは、主夫スキルが高まってきた証拠であろうか。

 小刻み良い音を聞いたと思えば、綾はすぐにかじりついていた。
「なんだろう、特別すごい味がするわけじゃないんだけど、不思議と体中が満たされていく感じ。力が湧いてくるってこういう感覚なんだね」
 けれど、天上の甘味も梓の手料理には敵わないようだ。
 それをあえて言うまでもない。
 二人はもうわかっているだろうから。

「ん、優しい味がするな」
 食べた後にもこれだけ入るのだ。滋味といわれれば、確かにそうなのかも知れない。力が湧いてくるし、なんなら二匹の竜たちとじゃれることだってできるだろう。
 穏やかな時間が流れていく。
 それはかけがえのない思い出として、彼らの心に刻まれる。
 いつかまた、この地を訪れることだってあるかもしれない。その時はまた、この果実をかじって、この日のことを思い出すことだろう。

 それを楽しみに。
 けれど、いつでも来れるようにと二人は穏やかな時間に己の思いを刻むのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf02586と

はい、お兄さんお疲れさま
え、もう一回パンダ見に行くんじゃなかったの?
お兄さんが戦ってるところ、もうちょっと見たかったんだけど

わかったわかった。お花見だね
じゃあいっぱい取って。しばらくそれで食いつなぐから、100個くらいね
俺は見ている。高身長のお兄さんならきっと余裕なはずだよ。高身長のお兄さんなら

うん、なんだかんだで花は賑やかで腹は膨れるしいいんじゃない
俺は風情は解さないけれども明るいのはいいと思う
実も、結構甘味が強いけど、これも美味しいっていうんだろう
美味しいのことはちょっとよくわからないけど、お花見は美味しいって記憶した

焼肉?いいけど。お兄さんは本当によく食べるね…


夏目・晴夜
リュカさんf02586と

いやはやお疲れ様でした
ところでリュカさん、春といえば?そう、花見ですよね
という事で花…
いやもうパンダは沢山見たからいいではないですか!
なので次は花を見ましょう、春らしく

それでは果実で乾杯しますか
あ、手届きます?食べたいのを取ってあげますよ、このハレルヤが!
はい100個…100個?100個は、100個…
…10個くらいで勘弁して下さい

何はともあれ、無事に終わって花見もできて良かったですねえ
花は綺麗、果実は絶品、花見とは素晴らしいです!

じゃ、帰りは焼肉食べに行きますか
私がよく食べるのではなくリュカさんが少食なんだと思います
美味しいのことがよくわかるようになるまで連れ回しますよ



 戦いの終わった『桃源郷』に陽気が流れ込んでくる。
 その暖かな風は、ゆるりとしていて肌に心地よいものであった。戦いは激しいものであったが、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)と夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は互いが無事であることを確かめ、息を吐いていた。
「いやはやお疲れさまでした」
 そんな風に晴夜が衣服についた塵を払って、リュカと合流する。

 二人は互いに役割を決めてオブリビオンと戦っていた。
 必然と戦いが終わった後は、中間点によりあい声を描けるのだった。
「はい、お兄さんお疲れ様」
「ところでリュカさん、春といえば?そう、花見ですよねという事で花……」
「え、もう一回パンダ見にくいんじゃなかったの? お兄さんが戦ってる所、もうちょっと見たかったんだけど」
 しれっと、竹林に戻って熊猫たちとの激闘を再戦させられるところであった。
 慌てたように晴夜が手を降って制する。
「いやもうパンダはたくさん見たからいいではないですか! なので次は花を見ましょう、春らしく!」

 そんなふうに力説されてはしかたないと言うようにリュカはうなずく。
「わかったわかった。お花見だね」
 けれど、彼の視線は『桃源郷』の樹木に生る果実であった。
 事前に聞いていた話であれば、天上の甘味といわれるほど美味しいのだという。これはたくさん取っておいて、しばらくそれで食いつなごうとリュカは考えていたが、己の身長と晴夜の身長を見比べてうなずく。
「それでは果実で乾杯しますか……あ、手届きます?」
 届かないのならば食べたいのを取ってあげますよ、このハレルヤが! と得意満面に言うのをリュカはさり気なく待っていたようでもあった。

 無駄なエネルギーは極力使わないように。
 旅を続ける彼にとって、食べ物とは貴重だ。だから、それを取ってくれるというのならば、それに甘えるのもいいだろう。
「じゃあいっぱい取って。100個くらいね。俺は見ている。高身長のお兄さんならきっと余裕なはずだよ。高身長のお兄さんなら」
 そんなふうにリュカが言うものだから、晴夜は奮起……する所でちょっと考え直した。
 どう聞いても100個と聞こえた。
 え、100?

「はい100個……100個? 100個は、100個……10個くらいで勘弁してください」
 幾ら身長が高いと言っても体力まで同じようにたくさんあるわけではないのだ。
 というか、そんなに取って抱えることができるのだろうか。
 けれど、期待の眼差しを受けては晴夜もやるしかないのだ。体力の限界まで果実をもいで、もいで、もぎたてフレッシュな果実をかじる。
 甘い香りが鼻孔をくすぐり、甘味が口の中に広がる。
 甘ったるくなく、それでいてさっぱりしすぎていない。口の中が幸せになるような味を二人は味わいながら、花弁が舞い散る空を見上げる。

 桃の花は咲き乱れている。
 その光景は『桃源郷』の名に恥じぬものであったことだろう。
「何はともあれ、無事に終わって花見もできてよかったですねえ。花はきれい、果実は絶品、花見とは素晴らしいです!」
「うん、なんだかんだで花はにぎやかで腹は膨れるしいいんじゃない」
 リュカは風情を解さない。
 けれど、花弁が舞い散り陽光が降り注ぐ明るい光景が続くのは良いと思った。
 味の善し悪しというのもいまいちピンと来ない。
 美味しいということもちょっとよくわからない。

 けれど、記憶に残っている。
 二人で見あげた光景。
 花見の光景は、『美味しい』ものだと。それを記憶しているから、きっと桃の花をこれから見る度に今日のことを思い出すだろう。
 それはとても素晴らしいことのように思えたかも知れない。
 そうであってほしいと願うのは、晴夜のワガママであろうか。もっと、そういった記憶を持ってほしいと願うからだろうか。
 晴夜が立ち上がる。
 リュカが見上げ、何事だろうかとぼんやりした瞳で彼を見つめるのだ。

「じゃ、帰りは焼き肉食べに行きますか」
「焼き肉? いいけど。お兄さんは本当によく食べるね……」
 だから、そんなに背が高いのかなと思わないでもない。
 そんなリュカに晴夜は笑っていうのだ。
「私がよく食べるのではなくリュカさんが少食なんだと思います。美味しいのことがよくわかるようになるまで連れ回しますよ」
 まだわからないというのならば、これから何度だって。
 そんな思いを抱えながら、二人は連れ立って『桃源郷』を後にする。

 きっといつかまた思い出す。
 あの日、あの時、あの場所で。
 そんなふうに思い出す。それを楽しみにする。そう、これはきっと時限式の思い出の箱。
 ああ、こんなこともあったと懐かしさと共に思い出す、その時を楽しみにしながら、桃の花が二人を送るように芽吹くのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒髪・名捨
なるほど、確かに桃源郷だな。
だが、オレ好みじゃねーな。
力をもたらす土地と甘味なんぞ、『功夫』の邪魔だな。
いや、誘惑としては気力の修行にはもってこいなのか?

んじゃ、帰るぞ寧々…
寧々「いや、待て旦那様。せっかくの機会じゃ。ここの果物を使ったおいしい料理を堪能してはいかがかの?」(『化術』で人型に変身した寧々が笑顔で作った料理を名捨に渡す。それはサイケデリック色のスープの中に桃を始めとした果物が丸ごと浮かんでいる謎鍋。)
い、いつの間に…相変わらず見た目以外はいいんだよな。…見た目は…。

大いなる力というのがあるなら…寧々の料理技術を向上してほしいわ…
そんでこの見た目でおいしいから困る…



 桃の香弁が吹き荒れるように渦を巻いている。
 それは決して厳しさを持ったものではなく、まるで歓迎するような雰囲気さえあった。
 けれど、黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)は別段興味が在った様子ではなかった。
「なるほど、確かに『桃源郷』だな」
 彼の視界に映る光景は、伝え聞く通りの陽気に満ちた『桃源郷』そのものであった。
 けれど、何が気に入らないのだろう。
 そこまではしゃぐ様子もなければ、目元が緩む様子もない。

「だが、オレ好みじゃねーな」
 そう小さく呟いた。
 ここは霊場『桃源郷』。この地に滞在するだけで霊力が増していく。そのためにオブリビオンはこの地を乗っ取ろうとしていたのだ。
 けれど、名捨にとって、それは重要なことではなかった。
 力を齎す土地と甘味は彼にとって意味はない。
 己の力だけで『功夫』を積み重ねる邪魔にしかならないのだ。

「いや、誘惑としては気力の修行にはもってこいなのか?」
 そんなふうにポジティブに考えることもできないこともないのだが、それでも名捨は踵を返して『桃源郷』をさろうとする。
 けれど、いつのまにか頭の上で昼寝をしていた喋る蛙『寧々』が人の姿に変じて、袖を引く。
「いや、待て旦那様。せっかくの機会じゃ。ここの果物を使ったおいしい料理を堪能してはいかがかの?」
 え、と思わず名捨はたじろぐ。

 じゃ、と足早にさろうとする彼の袖を掴んで離さない寧々。
 そのにこやかな笑顔が彼にとっては、末恐ろしい。まさか、と名捨が呻く。
「ふふ、流石は旦那様。よい勘をしておる」
 そう言って彼女が差し出すのは、病鍋(ヤミナベ)の如きサイケデリック色のスープの中に桃を始めとした果物がまるごと浮かんでいる鍋であった。

 見た目が。
 そう、見た目がよろしくなさすぎる。なんだこれ。
 思わず、そう尋ねたくなるほどの見た目なのだ。正直言って、食べ物と言っていいのかすら危うい見た目なのである。
「い、いつの間に……」
 ごくりと生唾を飲み込んでしまう。
 これはいつものことであるのだが、寧々の手料理は何故か見た目が悪い割には、味は素晴らしいと名捨は感じるのだ。

 そう言葉を選んだのは、彼以外に寧々の手料理を味わった者がいないからである。
 少なくとも、名捨にとっては絶品なのだ。
 深い、深い、ため息を吐き出し名捨は諦める。どうせ食すまで帰れないだろう。
 それを理解して名捨は差し出されたサイケデリックなスープに口をつける。
「……」
 どう? どうじゃ? と寧々が覗き込んでくる。
 よほど自信作なのだろう。
 その表情に違わぬ味が口の中に広がる。それはもう絶品というほかない。本当に見た目以外は素晴らしいのだ。
 そう、見た目以外は。

「……美味い」
 かろうじてそう言うほか無い。だって、それが一番素直で、無難な感想だからだ。
 けれど、こうも思うのだ。
 この天上の甘味の如き『桃源郷』の果実。大いなる力があるというのならば、寧々の料理技術を向上してほしいと願ってしまうのだ。

 だが、きっと彼女の料理技能はカンストしているであろう。
 見た目だが、ちょっとアレなだけで、他は素晴らしいのだから。
「そんでこの見た目でおいしいから困る……ほんと困る……」
 名捨はなんとも言えない表情で、愛妻の手料理を残らず平らげるまで、『桃源郷』から戻ることはなかった。

 けれど、たまにはこんな日もあっていい。
 いや、そうでもないけれど。なんて思いながら名捨はサイケデリック色のスープを飲み干すのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

聖・華蓮
萎れかけた花々も木々も、すっかり蘇って…何よりです。
これこそ、正しく桃源郷…ですね。

これ程の陽気さえ、彼を温めること叶わなかった…と思えば、悲しくもなりますけれども。
今は一先ず、この景色を守れたことに、安堵を。

果実を一つもぎ取り、手近な木の下に腰掛けて、頂くと致しましょう。
暖かな風の中、滋味と甘味に溢れる果実を食べながら、思うのです。
何ら戦う力持たぬ私が、今や猟兵となっている。それは何故か。
少しばかりの慰めばかりで、何を守れるというのか。

…或いは、それでも。
私にできること、その限りを尽くして。守るべきものを守るよう努めよという天命――なのでしょうか。



 オブリビオンの齎した陰気は、それだけで『桃源郷』に冷気と共に生気すらも奪い去っていた。
 けれど、オブリビオンを打倒したことに寄って陰気は取り払われ陽気が流れ込む。
 それは宛ら、冬から春に季節が移り変わったかのように桃の花が咲き乱れ、その雅なる光景を猟兵達に齎したことだろう。
 喜ばしいことである。
 けれど、僅かに聖・華蓮(傾界幻嬢・f32675)の中に湧き上がった思いは、それとは異なる趣きのものであったことだろう。

「これこそ、正しく『桃源郷』……ですね」
 萎れかけた花々も木々もすっかり蘇っている。
 それを何よりと思う心があれど、相反する思いもまた浮かんでくるのだ。
 これだけの陽気が本来『桃源郷』には満ち溢れていたのだろう。
 けれど、オブリビオン『星鬼・魅陰』に満ちた陰気には届かなかった。
 彼の躯体を温めることは叶わなかったのだ。
 それを思えば、悲しみが浮かんでくるのも無理なからぬことであった。ひとまず、この景色を守れたことは安堵に値する。

 けれども、とどうしても思ってしまうのだ。
 心優しきだけでは救えないものがあると知ってしまった。目の前に実る果実を一つもぎり、華蓮は独り言ちる。
「……少しばかりの慰めで、何を護れるというのか」
 それは疑問であり、確認でもあった。
 己は寵姫である。
 戦う力は一切持たず、けれど今自分が猟兵であると自覚はできる。何故か。何故と問いかける己の心を覗き見るように華蓮は樹木の影に座り、果実をかじる。

 天上の甘味といわれた味わいは、そんな彼女の沈んだ心を慰めるようであった。
 しっかりとした甘さ。
 けれど、口当たりの優しい味。滋味と言ってもいいだろう。自分が結局の所何ができたのかと自問自答した所で答えはでない。

 何を守り、何を護れるのか。
 果たして自分にそれができたと言えるのだろうか。崩れていくオブリビオンの顔を見た。
 そこにあったのは如何なる感情であったことだろう。
「或いは、それでも」
 そう、それでもといわなければならない。

 例え、何の戦う力もない己であったとしても。
 できることがあるのだと、誰かが肯定してくれているのかもしれない。なぜなら、猟兵とは世界の悲鳴を聞く存在である。
 であればこそ、華蓮は戦う力持たずとも求めに応じたのだ。
 それを人は偽善とも欺瞞とも言うのかも知れない。
 独りよがりとも言うかも知れない。

 けれど、それでも。
「私にできること、その限りを尽くして。守るべきものを守るよう努めよという天命――なのでしょうか」
 その呟きに答えはない。
 けれど、その頬を撫でる陽気の風は暖かく、優しかった。

 それさえも寵姫としての天命である。
 それでいいのだ。
 在るということだけで世界が傾く。彼女が猟兵として誰かを守りたいと願う時、世界すらも応えてくれるだろう。
 きっといつか、誰かのためになるとわかるときが来るのだ。
「……なれば、征きましょう」
 華蓮は果実を飲み込み、立ち上がる。
 彼女の瞳の先に見据える未来を掴むため、彼女が天命と感じる誰かのためにという祈りのために――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎

桃源郷、本とかで見た事はあったが実物はこんなに綺麗なのか
ここが無事で良かった、俺もさっき思いっきり炎を使ったから心配だったんだ

SPDで判定
まずは戦った場所で木に問題がないかを調べてから桃源郷をのんびり歩いて散策する
傷の回復速度を速める果実があればもぎ取り、その場に座って食べる
他の場所も狙われているのなら助けないといけないと改めて決意し、静か桃源郷での時間を過ごす



『桃源郷』――それは封神武侠界においては、霊場である。
 そこに滞在しているだけで霊力が増大していく、不可思議な土地であるが、そこに至るための道程は険しいものである。
 ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は、その道程の険しさを身を持って体感した猟兵である。

 一から思い返してみればわかる。
 本で読んだ、見た記憶があれど、それとは異なる『桃源郷』であったことを。ましてや、ユートピアとも違う。
 望めば決してたどり着くことのできない『桃源郷』とは違う。
 けれど、目の前に広がる光景は、ルイスにとっての真実だ。
「こんなに綺麗なのか……」
 彼の瞳に映る『桃源郷』は、桃の花が咲き乱れ、花弁が舞い散る光景であった。
 雅というのがしっくり来る光景。
 甘やかな香りは、樹木に生る果実から漂ってくるのだろうか。

 それはそれとして、ルイスは気がかりなことがあった。
「此処が無事で良かった……」
 オブリビオンとの戦いに際して、彼は陰気に対抗するために炎の力を使った。その火の粉が『桃源郷』に累を及ぼすことがあたのではないだろうかと気にかけていたのだ。
 あちこち見て回るが、彼が心配するようなことは何一つなかった。
 それはオブリビオンの放つ陰気が強力であったからに他ならない。あの陰気がなければ、一つや二つ、樹木が燃えていてもおかしくないほどの戦いであったのだから。

 調べる足取りは、徐々に軽やかな散策のペースに変わっていく。
 心配事が減ったがためであろう。
 のんびりとした歩調でルイスは『桃源郷』の中を見て回る。美味しそうな果実が成っているのを見つけると、食べごろであろうと判断しルイスは手にとって眺める。
「これが、『桃源郷』の果実……傷の回復速度が上がればいいんだけど……」
 ルイスはデッドマンである。
 故に傷に頓着しなくていいという利点はあれど、すぐに治るのならば、すぐに治った方がいいだろう。

 手にした果実から甘い香りが漂う。
 これがどんな効果を齎したって構わない。それほどまでにルイスの食欲を刺激する香りなのだ。
「それじゃあ、頂きます……」
 果実をかじると途端に広がるのは、甘い香り。
 それは芳醇でいて爽やかな香りだった。舌に乗る甘味はしびれるくらいに甘く、けれど蕩けるような美味。
 これはすごいな、とつぶやくことも忘れてルイスは果実を頬張る。
 噛みしめる度に果汁が口の中に広がっていく。

 腰を落ち着けるように座って食べていく内に、ルイスの目の前に枝が傾いでくるのだ。
 まるで食べられることを望むように果実が重みで枝を曲げたようでもあった。
「身体から活力が湧いてくる……ありがたく頂戴しよう」
 果実をもぎると枝はまた空へと伸びていく。
 その光景を見やりながら、ルイスは戦いの日々を僅かに忘れるように穏やかな時間を過ごしていく。

 このような場所が封神武侠界にはまだまだたくさんあるのだろう。
 これを狙うオブリビオンがいるのならば、助けなければならない。そう改めて決意したルイスは、果実を飲み込み立ち上がる。
 もうすっかり身体よくなっている。
「……行こう」
 その義眼のメガリスが輝く。
 どこへ言っても戦いの火種は起こる。
 ならば、それを消し止めるのが己の宿命であると信じるように、ルイスは見果てぬ戦いへと、その身を投じるように『桃源郷』を後にするのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
陰気が消え去っていく。彼は還っていったのだな。
では、俺は此れにて……は少々勿体ない。
時間が許すまで散策でもしてみよう。
■行
【SPD】
この果物からは、【野生の勘】を使わずとも力を感じ取れる。
「頭の回転が速くなる果実」とかもあるかな?
(しかし無意識に【奇詞】を発動させていたため、それらしき
果物が清綱の頭上にゴチン!)
あ痛っ!俺の頭に鳥が数匹……って、果物が丁度落ちたのか。
折角なので食べてみるか。

うむ、美味いな。だが。
この木に『コレが欲しかったんだろ?この莫迦野郎が』と
言われた気がするのはなぜか(するとまた果物が頭上に)
あ痛っ!今度は『黙って喰えこの莫迦が!』と言われた気が。

※アドリブ歓迎・不採用可



「陰気が消え去っていく。彼は……」
 還っていったのだな、と愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)は『桃源郷』に陽気が流れ込んで、花開く桃の実を見つめていた。
 戦いは終わった。
 オブリビオンの脅威は、もうこの『桃源郷』には訪れないだろう。
 霊場であれば再びオブリビオンが狙うこともあるかもしれないが、その時はまた再び己達が立ち上がるだけだる。

「では、俺は此れにて……は少々もったいない」
 そう思わせる程度には、『桃源郷』の風光明媚な光景に清綱は心惹かれていたのだ。
 転移の準備が整うまでの僅かな時間であるが、許される限りは散策でもしてみようと彼は思い立ったのだ。
 ゆっくりと『桃源郷』を歩く。
 ただ、それだけでも雅やかな景色に心が現れるようであった。

 同時に樹木に生る果実にも目が行く。
 目端が利く、というにはあまりにも野生の勘であったが、清綱はなんとなしにもぎった果実から力を感じ取ることができた。
「ふむ……『頭の回転が早くなる果実』とかもあるのだろうか」
 果実をかじると甘やかな香りが漂ってくる。
 口内いっぱいに広がる甘味は、確かにずっとこれだけを食していたと願いたくなるには十分な味と質であった。

 けれど、彼が願うような効果が得られるものではなかった。
 期待通りにはいかぬな、と思った瞬間ごちん、と頭の上に星が明滅するように果実が振ってくるのだ。
 無意識で奇詞(キシ)の力を発現させていた清綱にとって、それはあまりにも唐突な出来事であった。
「あ痛っ! ……俺の頭に鳥が数匹……って、果物がちょうど落ちたのか」
 ひりひりする頭を撫でさすりながら、落ちてきた果実を拾う。

 まったくもっての偶然のように思えたのだが、己の頭上に落ちてきたのならば食さぬわけにはいくまい。
「うむ、美味いな。だが」
 んん? と清綱は小首をかしげる。
 何故か、目の前の樹木に『コレが欲しかったんだろ? この莫迦野郎が』といわれたような気がしたのだ。
 けれど、それは気のせいでもなく。
 ユーベルコードの効果が発現していたためであるのだが、無意識である故に清綱は、その可能性に失念していたのだ。

 うまいうまい、と食べていると再び頭上に果物が鈍い音を立てて落ちてくるのだ。二度目ともなるともう今度は偶然とは思えない。
「あ痛っ! な、なんなのだ一体……」
 痛いなぁと思いつつも、堕ちてきた実を食べる。
 甘い、美味しいとわかっているのに、何故か釈然としない気がするのだ。またもや『黙って喰えこの莫迦が!』と罵られたような気がする。

「……もしや、これは本当に頭の回転が早くなる果実なのでは……!」
 聞こえぬものが聞こえ、見えぬものが見えてくるような消えする。 
 これが『桃源郷』に生る果実。
 その効能を清綱は身を持って体験しながら、良い経験をしたな、と思った瞬間再び、まるでお約束のように頭上に果実が落ちてきて、本日三度目の星が目の前に明滅する。

 それは穏やかな春の午睡のようで。
 けれど、少しばかりにぎやかな。
 何処にでも在って、誰にでも在る。そんな当たり前のような光景。それを守り通すことこそが猟兵の勤め。
 その責務を果たせたことを嬉しく思いながら、清綱は頭上に落ちてくる果実を頬張りながら、『桃源郷』の光景を楽しむのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月04日
宿敵 『星鬼・魅陰』 を撃破!


挿絵イラスト