アリス・イン・ザ・リベリオン―Fifth Noble
●ダークセイヴァー・人類砦『ヴェリーナ』
――四方に草原が広がる、石壁に囲まれた夜明け前の砦にて。
薄闇に覆われた空の下、松明が砦内を煌々と照らし出す中、砦の住人たちは手分けして倉庫に蓄えられていた防具を取り出して身に着け、武器を携えていた。
武具をつけ集まった住人たちの瞳には、吸血鬼への憎悪と、奴らを討ち取らんとする意志が強く宿っている。
憎悪と決意、高揚感が渦巻く中、この砦を纏める『闇の救済者』の指導者のひとりである緑髪の少年が、集まった住人らを緑の瞳で見回した後、厳かに告げた。
「皆、ついに吸血鬼たちに一矢報いる時が来た……今こそ積年の恨みを晴らす時だ!」
『オオオオオオオッ!!』
住人たちが地鳴りのような歓声をとどろかせる中、緑髪の少年は高らかに掲げた剣で黒々と広がる森を指し示した。
「まずはあの森にいる小領主を討ちとり、この地を解放しよう!!」
『オオオオオオオオッ!!』
緑髪の少年の檄に応えるように銘々の武器を高らかに掲げた住人たちの歓声が、再度砦内に轟いた。
かくして、『闇の救済者』たる砦の住人たちは、整然と進軍を開始した。
――必ずや小領主を討ち取る、との固い決意を胸に秘めて。
●ダークセイヴァー・???
――小領主の館の裏手に広がる、黒々とした森の中で。
「動き出したか……闇の救済者とやら」
右手に紅き刀を、左手に深緑の槍を手にし、黒きコートを身に纏った女吸血鬼は、舌なめずりひとつしながら森の外を凝視する。
紅の視線が捉えたのは――館に進軍中の『闇の救済者』達。
「『第五の貴族』は見逃さぬ。彼奴等を最高のタイミングで血祭りにあげて、忌々しい反逆者どもへの見せしめとしてやろう」
女吸血鬼は、闘争と殺戮に飢えた獣のような獰猛な笑みを浮かべながら、獲物が罠に食いつくのをじっと待っていた。
――その胸元に、「殺戮者の紋章」をキラリと輝かせながら。
●グリモアベース
「ダークセイヴァー各所の人類砦から、吸血鬼どもへの反撃の狼煙が上がり始めている」
集まった猟兵たちを前に、グリモア猟兵館野・敬輔は淡々と告げる。
「そして今、人類砦『ヴェリーナ』からも『闇の救済者』率いる解放軍が立ち上がった」
砦の名を耳にした数名の猟兵から、ほう、と感嘆のため息が漏れた。
――彼の砦は、5人の少年少女の『闇の救済者』が立ち上げた人類砦。
アリスラビリンスからの帰還者の合流を期に猟兵達の庇護を受けた人類砦は、地下都市や吸血鬼に滅ぼされた村等からの難民を積極的に受け入れ、急速にその規模を拡大。
ダンピールやオラトリオなどの人間以外の種族とも融和し、優れた黒騎士や咎人殺し達も数多く集結した砦の戦力は、今や地方の一領主の兵力であれば圧倒できる程。
――十分な戦力を整えた今がまさに、蹶起の時。
「そこで皆には、人類砦『ヴェリーナ』の反攻作戦に同行し、彼らが彼の地を取り戻す手助けをしてほしい。頼めるか」
頭を下げる敬輔に、猟兵達は其々の想いを胸に頷いた。
『闇の救済者』達が目指すのは、黒々とした森の前にぽつんと佇む、小領主が住まう洋館。
「まずは館を護るオラトリオの亡霊たちの壁を破り、館への道を開いてもらいたい」
館の前にて待ち受ける護衛の亡霊たちの数は大軍に匹敵するため、猟兵達だけではとても倒しきれないが、『闇の救済者』の指導者たちと共に猟兵達が最前線で戦い、亡霊たちを次々と駆逐すれば、後に続く頼もしい猛者達が続き、大軍の撃破も夢物語ではなくなるはず。
「館になだれ込んだら、そのまま小領主との決戦だ」
猟兵達と共になだれ込んだ『闇の救済者』が護衛達を抑えている間に、猟兵が小領主を討ち取り、雌雄を決することになる。
「小領主を討てば、彼の地は解放されるが……それだけでは終わらない」
突然妙に歯切れが悪くなった敬輔の言の葉に、猟兵達が首を傾げた。
――小領主を倒せば、終わるのではないか?
そう、言いたげな猟兵達の視線を真っ向から受け止めながら。
敬輔は重く、重苦しく口を開く。
「……皆にはもうひとつ、闇の救済者達に気取られぬよう成してほしいことがある」
そう前置きした敬輔が重苦しく猟兵達に告げたのは――『第五の貴族』直属の刺客への対応。
「勝利に沸き立つ闇の救済者達に待っている未来は……人族鏖(じんぞくみなごろし)の指令を受け、殺戮者の紋章を宿した刺客に奇襲され蹂躙、惨殺される凄惨なものだ」
それは、人々の反抗心を挫くための見せしめとする一方、刺客自身の我欲の儘に人々を弄び、絶望に叩き落とし、人類を嘲笑う、悪魔の所業。
息を呑む猟兵達に、敬輔は怒りを言の葉の端々に乗せ、告げる。
「だから皆は、『闇の救済者』に気取られぬ様こっそり館を抜け出し、刺客として派遣された吸血鬼を迎え撃ってくれ」
――それこそが、闇の世界に輝く反撃の灯を絶やさぬ、唯一の方法だから。
「漸く芽吹いた希望を摘み取らせないために……皆の力が必要だ」
だから頼んだぞ、と猟兵達に頭を再度下げた敬輔は、丸盾のグリモアを大きく展開。転送ゲートを形成し。
――猟兵達を、人類砦『ヴェリーナ』の近くに誘った。
北瀬沙希
北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
よろしくお願い致します。
ダークセイヴァーの人類砦『ヴェリーナ』から、ついに反撃の狼煙が上がりました。
猟兵の皆様、『闇の救済者』たちと共に小領主たる吸血鬼を討った後、『第五の貴族』直属の吸血鬼をも討ち取って下さい。
なお、本シナリオの拠点となる人類砦『ヴェリーナ』は、拙作「アリス・イン・ザ・フォートレス―DarkSavior」の舞台となった砦ですが、未読でも全く支障ございません。
●本シナリオの構造
集団戦→ボス戦→ボス戦となります。
第1章は「オラトリオの亡霊」たちとの集団戦。
闇の救済者を鼓舞し、道を切り開くために、猟兵の皆様に先陣を切っていただきます。
この章は『闇の救済者』の指導者5名、およびアリスラビリンスからの帰還者と共闘可能です。詳細は第1章断章にて。
第2章はこの地を治める小領主こと「老獪なヴァンパイア」とのボス戦。
配下たちの横槍は気にせず、全力で小領主を討って下さい。
第3章は紋章持つ『第五の貴族』直属の刺客とのボス戦ですが、現時点で開示できる情報はオープニングに記してある内容のみです。
詳細は第3章断章にて説明いたしますが、猟兵側が敗北、ないしは撤退した場合、人類砦『ヴェリーナ』は全滅する……とだけ、先にお伝えしておきます。
●プレイング受付について
全章、冒頭の断章を追加した後からプレイング受付を開始。
締め切りはマスターページとTwitterで告知致します。
なお、本シナリオはMS事情により、ゆっくりと運営致します。
もし、リプレイ返却前にプレイングが失効しましたら、再送いただけますと幸いです。
全章通しての参加も、気になる章だけの参加も大歓迎です。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『オラトリオの亡霊』
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POW : おぞましき呪い
【凄まじき苦痛を伴う呪いを流し込まれ狂戦士】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 苦悶もたらす魔焔
【全身の傷から噴く魔焔 】が命中した対象を燃やす。放たれた【主すら焼き苦痛をもたらす、血の如く赤黒い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ : 汚染されし光条
【指先】を向けた対象に、【汚染され変質した邪悪なる光】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●反撃の狼煙を高くあげよ
転送された猟兵達の視界に入ったのは、緑髪の少年と銀髪の少女を先頭に館へ進軍する『闇の救済者』たち。
種族や職業の垣根を超えて手を取り合い、共通の目標に向けて進軍する人々の数は、優に千を超えるだろうか。
軍の先頭を歩く緑髪の少年――クレイが、突然現れた猟兵達を一目見るなり足を止める。
「あ、あなたたちは……まさか!」
驚くクレイに猟兵達が事情を説明すると、クレイの横を歩いていた銀髪の少女――ライナが、猟兵達を懐かしそうに眺めつつ軽くため息をついた。
「驚いたわ……本当にあなたたちは何もかもお見通しなのね」
「かつて砦を救ってくれたあなたたちがいれば心強い。良ければ、僕たちに力を貸してくれないだろうか」
礼儀正しく頭を下げるクレイに、猟兵達は迷わず頷いていた。
クレイたちとしばらく歩くと、小領主の館がその姿を露わにする。
遠目にも豪勢な館の前にひしめき、一歩も通さぬと壁になっているのは、死して吸血鬼たちに呪いをかけられ、望まぬ戦いを強いられているオラトリオの亡霊たち。
「ああ、ああ……ここは通さない……」
「領主様の下へは……いかせ……ウアァァァァ!!」
傷口から魔焔を噴き出し、呪いで狂戦士化する亡霊たちを見て動揺したか、住人たちが息を呑む音がまばらに響く。
だが、クレイは静かに住人たちを諭し、落ち着かせた。
「彼女たちは最早吸血鬼の眷属だ……倒すしかない」
「私達と猟兵さんたちで道を切り開き突入するから、皆は打ち合わせ通り、護衛達を倒していって」
ライナが住人たちに告げると、住人たちも気を取り直したのか得物を抜き、戦闘態勢を取った。
クレイの目配せを受けた『闇の救済者』の指導者たる少年少女……リーア、ミルズ、アイラ、ヴォルの4人が最前列に集まる。
猟兵たちもクレイたちと共に最前列に陣取り。
「行くぞ! 突撃!!」
『おおおおおーっ!!』
クレイの合図と共に、猟兵と『闇の救済者』の混成軍は、館の入り口向けて駆け出し、激突した。
さあ、猟兵達よ。
『闇の救済者』達と力を合わせ、目の前の護衛たるオラトリオの亡霊の壁を破り、館への突破口を開け。
――健闘を、祈る。
※マスターより補足
第1章は小領主の護衛たる「オラトリオの亡霊」の大軍の壁を突破し、館へ向かってもらいます。
護衛は1体1体もそこそこ強く、大軍に相応しい数が配置されておりますので、全滅狙いはほぼ不可能です。
数体程度倒して道を開けたら、『闇の救済者』達に後を任せ、館に突入してください。
この章では、拙作「アリス・イン・ザ・フォートレス―DarkSavior」に登場し、現在は人類砦の指導者となっている5名の少年少女たち、及び拙作「アリス・イン~」シリーズに登場した元『アリス』の少女・ライナと共闘可能となっております。
ただし、共闘は任意となりますので、猟兵のみで戦っていただいても構いません。
共闘を希望する場合は、プレイングの1行目に共闘したい方の名前を記入願います。
彼らは基本的に猟兵達の邪魔をせぬ様行動しますが、もし取ってほしい行動がございましたら、プレイングに記載お願いします。
少年少女たち、及びライナのデータは以下の通り。
(ライナはレベル10、リーダー格5名はレベル9相当として扱います)
ライナ:銀髪黒瞳の少女。元『アリス』。【九死殺戮刃】※特記ない限り味方は斬りません。
リーア:金髪碧眼の少女。【鈴蘭の嵐】
クレイ:緑髪緑眼の少年。『ヴェリーナ』の実質的リーダー。【ミゼリコルディア・スパーダ】
ミルズ:黒髪黒眼の少年。【絶望の福音】
アイラ:茶髪蒼眼の少女。【生まれながらの光】
ヴォル:銀髪銀瞳の少年。【人狼咆哮】
――それでは、良き突破戦を。
真宮・響
【真宮家】で参加
そうか、ヴェリーナ砦の皆が立ち上がったか。ライナを無事仲間の元へ送り届けて、砦が生活出来るように整えて・・・良くここまで鍛え上げた。ここまで関わったからには本願が果たせるまで力を貸すよ。
敵は速く動くものを狙うんだね?炎の戦乙女にも動いてもらい、【ダッシュ】で敢えて動き回る。敵の攻撃を引き付けてから【オーラ防御】【残像】【見切り】で敵の攻撃を回避、【戦闘知識】で敵の攻撃の軌道を読み、【カウンター】気味に【気合い】【怪力】【重量攻撃】【不意討ち】を併せた【範囲攻撃】で薙ぎ払う。
アンタ達も犠牲者なんだろう。でも今を生きる人達の為に道を空けて貰うよ!!
真宮・奏
【真宮家】で参加
ライナさんと仲間達がこの世界の為に立ち上がる時が来たんですね。ここまで強くなったのは皆さんの強い意志と信念故です。その信念に私達家族3人も加勢しましょう。
その汚れた光は浄化の炎で祓いましょう。光での攻撃に物理的防御は効かないと思うので【オーラ防御】【呪詛耐性】【毒耐性】【激痛耐性】で耐えます。闇の救済者の皆さんに攻撃がいきそうなら【かばう】します。
攻撃は【範囲攻撃】を併せた煌めく神炎で!!この炎は闇を照らす光!!呪われた生を歩む敵達を祓う炎です!!
ヴェリーナ砦の皆さんはここまで来るまで凄く苦労して、努力してきたんです!!その道行きを阻むものは許しません!!
神城・瞬
【真宮家】で参加
ああ、とうとう蜂起する所まで来たのですね。この時を迎えたのを見るとライナさんとヴェリーナ砦の方達を護れて良かったと思います。さあ、本懐が果たされるよう全力で尽力しますよ。
敵の攻撃は厄介なので動きを止めます。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を仕込んだ【結界術】を【範囲攻撃】化して敵集団に展開。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。
後は氷晶の矢で敵集団を纏めて撃ち抜くまでです。ヴェリーナ砦の皆さんは立ち上がるに至るまで危険と試練を乗り越えてきたんです。皆さんの邪魔する敵は許しません!!これで意志が挫けると思わないでください!!
●万感の思いと共に、道を切り開く
「そうか、ヴェリーナ砦の皆が立ち上がったか」
人類砦『ヴェリーナ』に集まり、種族や思想の垣根を越えて一致団結し、ヴァンパイアへ反旗を翻すために立ち上がった人々を見て、真宮・響(赫灼の炎・f00434)は胸中に去来する想いを素直に口に出していた。
「ライナを無事仲間の元へ送り届けて、砦が生活出来るように整えて来たけど……あれから良くここまで鍛え上げた」
吸血鬼の小領主が住まう館に進軍する砦の住人らを見つめる響の視線と声音には、親元から巣立つ我が子に向けるような慈しみが籠められている。
そもそも、響たちが最初に人類砦『ヴェリーナ』を訪れたのは、かつて対吸血鬼の組織に属していたらしい『闇の救済者』の少年少女たちが、わずかな避難民とともに必死に砦を守り抜いていた頃。
それが今や、千を超える住人が軍団へと成長し、吸血鬼を討つために立ち上がった。
「ああ、とうとう蜂起する所まで来たのですね。」
「ライナさんと仲間たちが、この世界の為に立ち上がる時が来たんですね」
吸血鬼に対する諦念と畏怖ではなく、憤怒と決意に満ちた光を宿す人々を見て、真宮・奏(絢爛の星・f03210)と神城・瞬(清光の月・f06558)もまた、感慨深い想いを隠さない。
今や『闇の救済者』の指導者となったクレイに先導され、館に向かう人々の目に灯る光は、吸血鬼への怒りと、この地をひとの手に取り戻さんと願う強い意志。
特に砦を築き上げ、人々を受け入れ、鍛え上げてきたクレイたち6人の想いはひとしおだろう。
「ここまで強くなったのは皆さんの強い意志と信念故です。その信念に私達家族3人も加勢しましょう」
「さあ、本懐が果たされるよう全力で尽力しますよ」
「皆さん、よろしくお願い致します」
今や『闇の救済者』の実質的指導者となったクレイは、奏と瞬の本意に感謝の意を捧げながら立ち上がった。
――猟兵達がついているなら、この蹶起は成功するだろうとの想いを胸に秘めて。
「行くぞ! 突撃!!」
『おおおおおーっ!!』
クレイの号令と共に駆け出す一団の前に立ちはだかるのは、館への通路を塞ぐように陣取るオラトリオの亡霊たち。
「主に仇なさんとする者達よ、去れ……」
「ここは通さない……」
オラトリオの亡霊たちは、虚ろな声で警告しつつ光を失った虚ろな瞳で『闇の救済者』たちを睨みつけ、行く手を遮っていた。
吸血鬼に施された呪詛により、死してなお吸血鬼の思う儘に操られている亡霊たちの瞳に、自我は見られない。
「アンタたちも犠牲者なんだろう」
何処からか命じられるままに一糸乱れぬ動きで進路を塞ぎ、狼藉者を駆逐しようとするオラトリオの亡霊に、響はほんの一瞬だけ、同情を寄せてしまう。
……吸血鬼は人類を踏み躙り、己が欲に忠実に自儘にし、駒として使い捨てる。
それは、闇に覆われし世界で夫の命を奪った仇を探す過程で、響たち真宮家が何度も何度も目にしてきた光景。
目の前の亡霊たちは、小領主との戦いに敗れたことで、呪詛を施され望まぬ戦いを強いられ、おそらく死ぬまで解放されることはない。
従属を強いられている、という点では、亡霊たちもまた、吸血鬼の犠牲者。
だからこそ、響は同情を覚えつつも、一方で亡霊たちを呪詛から解き放とうとは考えなかった。
――ライナたち『闇の救済者』が本懐を遂げるまで、力を貸す。
家族全員でそう誓い合い、そして亡霊たちが『闇の救済者』たちの行く手を遮る以上、響も奏も、そして瞬も亡霊に対し容赦はしないし、できない。
だから響は、心を鬼にしながらブレイズランスを構え、亡霊たちを睨みつけた。
「でも、今を生きる人達の為に、道を空けて貰うよ!!」
「母さん、敵の攻撃は厄介なので、まず動きを止めます。それからで」
「任せたよ、瞬」
先に突撃しようとした母を制しながら、瞬が六花の杖を一振りし、薄い銀がヴェールのように揺らめく結界を広範囲に展開する。
「皆殺しにせよ……!」
「人々を許すな、見せしめになぶれ……!」
薄銀の結界が徐々に広がるのも構わず、亡霊たちが一斉に『闇の救済者』達向けて突撃。
しかし、亡霊たちが薄銀の結界に触れた瞬間、フラッシュのような強烈な銀光が結界から発せられた。
――カッ!!
――ギィンッ!!
強烈な銀光に続き、金属がぶつかり合ったかのような音が周囲に響くと、亡霊たちの足並みが千々に乱れ始めた。
「ああああっ、目が……!」
「から、だ、が……ギギギ」
至近距離からの強烈な銀光は亡霊たちの目を潰し、揺らめく結界に施された麻痺の術式は亡霊たちを銀糸で縛り上げたかのように身体の自由を奪う。
それでも亡霊たちは呪詛に突き動かされているのか、見えぬ目で狼藉者を探し、緩慢な動きで彷徨い始める。
「さっさと道を空けるんだね!!」
統制が乱れた亡霊の集団に、穂先が焔に包まれたブレイズランスを手にした響が召喚した炎の戦乙女と共に切りこみ、一気に撹乱する。
「狼藉者が……アァァァァァァ!!」
響の気配を察した亡霊たちの顔にさっと苦痛の色が浮かぶと、言語にならない叫びと共に紅き瞳に狂気と隷属の昏い光が宿った。
……おそらく、亡霊たちに施された呪詛が、彼女らの理性を奪ったのだろう。
命令と戦闘本能のみに思考を縛られ、狂戦士と化した亡霊たちが、紅く燃え盛る響のブレイズランスを目印に殺到。それぞれが大振りの拳を響に振り上げながらも、同時に脚を掬おうとする。
だが、響は冷静に拳や脚の軌道を見切って避けながら、わざと子供達や亡霊たちから離れるようにダッシュし始めた。
突然方向転換し離れる響を、理性を奪われた亡霊たちが数体、追いかけていく。
――苦痛を伴う呪詛は、超攻撃力や超耐久力と引き換えに理性を奪い、判断力を鈍らせる。
響を追う亡霊たちは、狂気に澱んだ瞳で響のみを見据え、素早く動く響と戦乙女以外の存在は一切気に留めない。
狂気に侵された亡霊たちを響が引きつけている分、住人を狙う亡霊の数が減ったが、残った亡霊たちは緩慢な動作で住人たちに襲い掛かる。
「ひ、ひぃっ!!」
運悪く響を追う亡霊がすぐ近くを通り過ぎ、その狂気に触れた住人たちが、本能的な恐怖に囚われ、目の前に他の亡霊がいるにもかかわらず腰を抜かした。
亡霊は虚ろな瞳で住人を見下ろし、指先に邪悪なる光を灯す。
「主を狙う不届き者よ……焼かれろ……」
「させません!!」
住人を光で一気に焼き尽くさんとする亡霊を見た奏が、住人たちを守るように割り込みながら、翠のオーラを展開。
邪悪なる光をエレメンタル・シールドで受け止められないと判断した奏は、可能な限り広範囲かつ濃密に翠のオーラを展開し、近くで戦う住人たちを翠のカーテンの様なオーラで覆い尽くす。
闇に汚染され邪に反転した光は、周囲を禍々しく輝かせながら奏や住人たちから抵抗の意志を奪い、従属の呪詛を刻み込もうとするが、人々を護る翠のカーテンがそれを遮り、邪な光を和らげた。
遮られたことに気づいた亡霊が、構わず2発目の光を放とうとするが。
「ぐっ……!!」
突然心臓から刃を生やしつつ全身を硬直させ、そのまま頽れた。
「大丈夫か!」
背後から黒剣で亡霊の心臓を一突きした『闇の救済者』たる黒騎士が、腰を抜かした住人に手を貸し、起き上がらせる。
「あ、はい!」
「慌てなくていい。実戦は初めてなのだろう?」
黒騎士に問われた住人は、情けなさと恥ずかしさが綯い交ぜになった表情で頷く。
……彼らに足りないものは、覚悟ではなく、実戦経験そのもの。
それは砦内での訓練や鍛錬だけでは鍛えることは難しく、何度も戦場の空気を体感し、経験することでしか得られない。
だから瞬は、彼らに経験を蓄積させるため、あえて後方支援に徹し続けた。
「援護しましょう……さて、これを見切れますか?」
瞬が小さな声で呪を口ずさみながら六花の杖を高く掲げると、杖の周囲の気温が急速に下がり凍り付き始め、500本を超える氷の矢が生成される。
「皆さんの邪魔する敵は許しません!! これで意志が挫けると思わないでください!!」
瞬の意志で住人らを避けるように撃ち出された氷晶の矢は、亡霊の一団に降り注ぐ。
絶対零度の氷の矢に翼や四肢を貫かれた亡霊たちの動きが、さらに鈍った。
「今だ、いけー!!」
「えいっ!!」
すかさず住人たちが剣や鉈を振り下ろし、咎人殺しが背後に回り拘束し、亡霊たちを無力化して行く。
それでも、運よく氷晶の矢を逃れた亡霊たちが、再度指先に邪悪なる光を灯すが。
「ヴェリーナ砦の皆さんはここまで来るまで凄く苦労して、努力してきたんです!! その道行きを阻むものは許しません!!」
奏がブレイズセイバーを抜き放ち、一振りすると、109個に分裂した白き炎が現れ、亡霊たちに降り注ぐ。
神聖な霊気が籠められたことで白熱の煌きを帯びた炎は、亡霊たちの邪な光を相殺しながら首筋や四肢だけを覆い、その部位だけを焼き尽くした。
奇しくも白炎に覆われた場所にあったのは……小領主が施したであろう呪詛の烙印。
「グガ、アアアアア……!!」
「この炎は闇を照らす光!! 呪われた生を歩む敵達を祓う炎です!!」
奏の覚悟と優しさが宿った白炎は、亡霊たちの呪詛を浄化しながら、在りえざる存在と化した亡霊たちそのものをも浄化するかのように激しく燃え盛っていた。
――まるで亡霊たちを煉獄の軛から解き放ち、魂を在るべき場へ還すかのように。
「アアァ……」
呪詛を焼き切られ白炎に包まれた亡霊たちは、己が魂の束縛から解放されそのまま消滅する。
奏がほっと安堵の息をつきながら周囲を見渡すと、周囲は既に亡霊と『闇の救済者』たちによる大乱戦の場と化していた。
走り回る響と炎の戦乙女に撹乱され、瞬の結界と氷晶の矢で総じて弱っているとはいえ、ここまで敵味方が入り交じる状況を掻い潜りながら亡霊のみを駆逐するのは、たとえ家族で力を合わせても至難の業だろう。
しかし、今回の響たち猟兵の目的は、小領主を、そして今だ存在を見せぬ刺客を討つこと。
……ここで時間をかけているわけには、いかないのだ。
「皆さん、ここは私達が押さえますから先へ!!」
瞬たちに向けて、住人の一人が叫ぶ。
「そうだね……奏! 瞬! そろそろ行くよ!!」
頷いた響が眼前の亡霊目がけてブレイズランスを横薙ぎに振ると、穂先に宿りし焔が亡霊たちを地面に打ち倒し、重力を宿した炎の網となって全身に広がり、焼き尽くした。
炎に包まれ斃れた亡霊の奥に見えるのは――館の扉。
すかさず、戦乙女を伴った響が、亡霊の間を縫うように走り出した。
「皆さん、後はお願いします!」
「どうかご無事で!」
奏と瞬もいったん得物を納めると、響に続いて亡霊の大軍の間に開いた僅かな道を強引に駆け抜けた。
かくして、3人は小領主の館へと突入した。
――今なお背後で戦う人類砦『ヴェリーナ』の住人らの無事を祈りながら。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
サフィリア・ラズワルド
POWを選択
ライナさんと共闘を希望。
第五の貴族の刺客、今も何処かで私達を見ているのかな……いや、今は目の前の敵をどうにかしなきゃ!
『敵に突っ込みますので後からお願いします』
【白銀竜の解放】で四つ足の飛竜になり吠えながら突撃して手足と尻尾で敵へ攻撃します、出来るだけ速く大袈裟に動きます、そうすれば敵は私を見てライナさんを見ないはず。
懐かしいですね、あの世界にいた時もこんな感じで戦いましたっけ、彼女に言う言葉もあの時と同じ。
『ライナさん!どうぞ遠慮なく斬ってください!』
倒しきれなかった敵はライナさんに任せて攻撃しつつ突き進みます。
アドリブ協力歓迎です。
●信頼できる友達との共同戦線
「ライナさん、久しぶり!」
サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は、転送されるなり銀髪の少女――ライナの姿を探しあて、駆け寄った。
「サフィリア、来てくれたのね!」
「ええ!!」
お互い手を握りあって再会を喜びながらも、サフィリアの意識は戦場の周囲に向けられていた。
(「第五の貴族の刺客、今も何処かで私達を見ているのかな……」)
人類による蹶起の成功を嘲笑い、蹂躙せんと狙っている『第五の貴族』の刺客の気配は、今はない。
上手く気配を隠しているのか、あるいは戦場の熱気に紛れて察知できないかは不明だが、それなら今やることは自然と定まる。
(「いや、今は目の前の敵をどうにかしなきゃ!」)
とにもかくにも、この蹶起を成功させねば、事態は動かない。
サフィリアは首を軽く振って一時的に刺客の存在を振り払い、目の前に立ちふさがるオラトリオの亡霊の群れに目をやった。
「私の竜よ、私の人間を喰らって完全な者となるがいい」
ライナと亡霊たちの目の前で四つ足の完全なる白銀竜に変じたサフィリアは、大きく息を吸い込み、吼える。
――グオオオオオオオ!!
「アアアアアアア!!」
「ぐ、ぐぐぐががが……っ!!」
サフィリアの咆哮に反応した亡霊たちは、瞳を呪詛が齎す苦痛と狂気、隷属に澱ませながら理性を失った。
「敵に突っ込みますので後からお願いします!」
「わかった……わ!」
ライナの返答を聞いたサフィリアは、わざと速く大げさに動きつつ突撃。
理性を失った亡霊たちは、白銀竜姿のサフィリアの速さに気を取られ、サフィリアに殺到し始めていた。
もともとサフィリアは咆哮と白銀竜姿で亡霊の気を引き、ライナから意識を逸らすつもりだったが、予想以上に多くの亡霊の注目を集めている。
ならば好都合とばかりに、サフィリアは尻尾で容赦なく亡霊の足を掬い、四肢で踏み潰し、次々と撃破していった。
一方、サフィリアの後に続くライナは、愛用の銀のナイフを取り出しつつも、若干迷いを見せていた。
――彼女の異能は、味方を斬らねば己が寿命を縮める諸刃の刃。
それを知るクレイたち指導者は近くにおらず、かといってサフィリアを斬るには久しぶり過ぎて少々躊躇ってしまう。
なかなか動かぬライナをそっと横目で見つめながら、サフィリアは懐かしさすら覚えていた。
(「あの世界……アリスラビリンスに居た時も、こんな感じで戦いましたっけ」)
あの頃のライナは、無意識に味方たる猟兵達を斬ってしまう己の行動の意味が解らず、戸惑っていた。
駆けつけた猟兵達に異能の意義を知らされたことで、ある程度制御できるようにはなったものの、それでも誰かを斬らねば寿命が縮むことに変わりはない。
(「ライナさん、寿命を護るために斬っても良いのか、悩んでいるのかな」)
ならば、サフィリアがライナにかける言葉は、自然とあの時と同じになる。
「ライナさん! どうぞ遠慮なく斬って下さい!!」
迷えるライナの背中を押すようなサフィリアの言の葉に、ライナは弾かれたように顔をあげながら銀のナイフを構えた。
「ええ、サフィリア、そうさせてもらうわ!」
サフィリアの呼びかけで一時の迷いを吹っ切ったか、ライナはサフィリアに駆け寄りながら、躊躇なく鱗をナイフで掬い上げるように斬りつける。
「!?」
ライナが味方に斬りつけた瞬間を目にした亡霊が、驚きのあまり手を止めた。
――おそらく、呪詛が齎す苦痛すら一時的に忘れる程、衝撃的な出来事だったのだろう。
その隙を逃さず、サフィリアを斬った勢いのまま一気に踏み込んだライナの神速の九振りのナイフが亡霊を滅多斬りにし、地に沈めた。
斬られたサフィリアは、鱗に深く刻まれた傷を全く気にすることなく、前進しながら尻尾を大きく旋回させ、狼狽える亡霊たちを吹き飛ばした。
それでも、サフィリアの死角を狙い、狂気に澱んだ亡霊の拳が放たれるが。
「サフィリアはやらせないわよ!」
気が付いたライナが素早く接近し、亡霊の側面から九の銀光を閃かせ、その拳ごと地に沈めた。
その後もサフィリアが亡霊を薙ぎ倒しながら道を開き、ライナが襲い来る亡霊を撃退しながら、ひたすら前進する。
やがて、後を追う住人たちが、押し寄せる亡霊たちの波と真正面からぶつかったところで、頃合いと見たライナが叫んだ。
「サフィリア、そろそろ行くわよ!」
「ええ、いきましょう!」
サフィリアとライナは顔を見合わせ、頷き合うと、住人たちに後を託し館へと突入した。
大成功
🔵🔵🔵
カツミ・イセ(サポート)
「僕の神様は言ったよ。郷に入りては郷に従えと」
「僕に出来ることだからね」
神様に作られたミレナリィドール、勝ち気で大人びた僕娘。イメージは水。
口癖が「僕の神様は言ったよ」
『偽装皮膚』の影響で、球体関節が普通の関節に見えるよ。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用。加護で治るから、大怪我しようと厭わず積極的に行動するよ。
遠距離は『水流燕刃刀』を伸ばすよ。
近接戦では『偽装皮膚』を水のような刃にして、咄嗟の一撃を放つことがあるよ。このときは球体関節が見えるんだ。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしないよ。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしないんだ。
あとはおまかせするから、よろしくね!
北条・優希斗(サポート)
『敵か』
『アンタの言う事は理う解できる。だから俺は、殺してでも、アンタを止めるよ』
『遅いな』
左手に『蒼月』、右手に『月下美人』と言う二刀流を好んで戦う剣士です。
自らの過去を夢に見ることがあり、それを自身の罪の証と考えているため、過去に拘りと敬意を持っております。その為オブリビオンに思想や理想があればそれを聞き、自分なりの回答をしてから斬ります。
又、『夕顔』と呼ばれる糸で敵の同士討ちを誘ったり『月桂樹』による騙し討ちを行なったりと絡め手も使います。
一人称は『俺』、口調は年上には『敬語』、それ以外は『男性口調』です。
見切り、残像、ダッシュ等の機動性重視の回避型の戦い方をします。
琶咲・真琴(サポート)
灼滅者の両親を持つ7歳の男の娘
母親に憧れて女装している
膝上15cmのスカートは正義
普段の一人称はボク
二人称はあなた、呼び捨て
口調は敬語が基本
大切な人とや本音で話す時は素に戻り
一人称がオレになったり男口調になる
familia pupa(2体の男女の片翼人形)をお祖父ちゃん、お祖母ちゃんと呼び
いつも連れ歩いている(目立つ場合は肩掛け鞄の中にいる
戦闘
指定したUCを状況に合わせて使う
例え依頼の成功の為でも、迷惑行為はせず、公序良俗に反する行動はしない
アドリブ・連携大歓迎
●膠着せし盤面を返すは、新たな戦力
先陣を切った猟兵達が、小領主たる吸血鬼が棲まう館に突入した後。
人類砦「ヴェリーナ」の『闇の救済者』達と、彼の地を人類に明け渡すまいと抗戦する吸血鬼に操られしオラトリオの亡霊たちとの乱戦は、熾烈を極めていた。
――キィンッ!!
――ガスッ! ドスッ!!
――ガガガガッ!!
戦場の至る所で響く戦の音を耳にしながら、実質的なリーダーであるクレイは焦りを覚え始めていた。
(「眷属の抵抗が予想以上に激しい……いや、数が多いのか」)
『闇の救済者』たちは、ある程度道が切り開かれたら、クレイたち指導者が館に突入し首級をあげる手はずだったが、亡霊たちの妨害がクレイたちの予想を遥かに上回り、苛烈になっていたのだ。
――一体、どれだけのオラトリオの戦士が彼の吸血鬼に挑み、そして敗れたのだろうか?
ふと、クレイの脳裏に奇妙な感傷が過るが、亡霊たちの苛烈な攻撃の前では浸っている余裕は与えてもらえない。
癒しの力が使えるアイラは、どうやら戦線の後方で傷病者の手当てに従事しているらしく、前線に駆けつける様子はない。
ライナの姿が見えないが、友人たる白銀竜の猟兵と共に先んじて館に突入できたらしい。
だからクレイたちも住人たちを指揮しつつ、ライナに続くために館への道を切り開こうとするも、吸血鬼の命に逆らえぬ亡霊たちによってその場に延々と足止めされていた。
鈴蘭の花びらで亡霊たちを振り払おうとするリーアや、数秒先の未来を見ながら的確に死角に潜り込むミルズ、激しい咆哮で亡霊たちを怯えさせるヴォルもまた、亡霊たちに執拗に纏わりつかれ、振り払えていない。
そして、銀の短剣を念力で操りながら応戦するクレイもまた、亡霊の壁を突破する糸口を見いだせていなかった。
戦線が膠着状態に陥りかけたその時、不意に館の手前に蒼穹の丸盾が現れる。
館の扉を覆うように大きく展開された蒼穹の中から現れたのは、援軍として駆けつけた3人の猟兵だった。
「僕にできることがありそうだから、お手伝いにきたよ」
援軍のひとり、カツミ・イセ(神の子機たる人形・f31368)が、立てた右人差し指にくるくると渦巻く水を宿しながらクレイに告げる。
「ボク達も手伝います」
カツミに続いて現れた琶咲・真琴(1つの真実に惑う継承者・f08611)の紫の瞳は、真琴を守るように佇む2体の男女の片翼人形・familia pupaとともに、真っ直ぐオラトリオの亡霊たちに向けられていた。
「……今はあなたたちのために道を開くよ」
漆黒の瞳を真琴にちらりと向けながら静かに告げる北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)は、武器を手にしていない。
突然現れた3人の猟兵に、クレイは一瞬息を呑むが。
「……わかった! 頼む!!」
銀の短剣を目の前の亡霊に突き立てながら、反射的に叫んでいた。
――新たに現れた猟兵が、この膠着状態を僅かにでも揺り動かしてくれると信じて。
●必要なのは、時間稼ぎと戦況の好転
「さて、と……」
渦巻く水を指先に宿らせたまま、カツミは奮戦する『闇の救済者』たちを見渡し、口端をほころばせた。
かつて人であったカツミの創造神は、人が清濁併せ持つ存在であることをよく知っていた。
だから、カツミも己が創造神と同様、人を愛し、猟兵として人を救う。
それは、遥か宇宙からの加護を存分に得られる宇宙船で旅する人々であっても、空からの加護が届かないであろう闇の世界に住まう人々であっても、変わることは無い。
「僕の神様は言ったよ。――館への道を塞げ、ってね」
自信に満ちた表情を見せるカツミの指先でくるくる渦巻く水が徐々にその体積を増し、97個の水球に分裂。
「僕の神様から賜りし水の権能、その一つ。僕と似た者たちをここに」
渦巻く水から分かたれた水球は、地に落ちながら徐々に球体関節人形へと変形し、立ち上がった。
その容姿は、カツミそっくりでありながらも、関節部の球体を露わにした水の球体人形そのもの。
ずらりと並ぶ己が現身を前に、カツミは己が神から預かりし言葉を諳んじる。
「僕の神様は言ったよ。――少しでも亡霊たちを遠ざけよ、って」
その言の葉に応えるように、カツミそっくりの水分身たちは、その半数が亡霊に歩みより、掌から湧き出した浄化の水を亡霊に撒き始めた。
「ああああぁぁぁ……!」
「熱い、あつい……!!」
水分身から湧き出した浄化の水を浴びた亡霊たちは、皮膚が焼けただれる痛みに呻きながら後退した。
一方、水分身の残り半数は館の入り口を塞ぐように立ちはだかり、その場で水の壁を築き始める。
壁が完成すれば、館へ突入した猟兵や『闇の救済者』達を追う亡霊たちを足止めできるが、築き上げるためには十分な時間が必要になる。
「優希斗さん、水の壁が出来るまで時間を稼いでくれないかな?」
「わかった」
優希斗はカツミに軽く頷くと、クレイたちに迫る亡霊たちの群れに向かいながら、そっと言の葉を紡いだ。
――例え刃が使えなくとも。蒼き月の舞は絶えること無く。
言の葉で呼び覚まされた蒼月の加護が優希斗に宿ると、その足取りは羽根が生えたかのように軽くなった。
そのまま優希斗は亡霊たちの群れに突っ込み、暴風のように群れをかき回し始める。
「うぐっ……ウガアアアアアアアアア!!」
優希斗が纏う加護に中てられた亡霊の一部が、呪詛から齎される凄まじい苦痛に理性を奪われ、狂戦士と化しながら優希斗を追い始めた。
狂戦士化した亡霊たちを拳で迎撃しようとした優希斗の背後に宿る気配が、狂乱する亡霊に怯えるかのように激しく蠢く。
――それは、彼が背負う業であり、贖罪の証たる死者。
普段は優希斗と心通わす死者たちだが、骸の海から蘇ってなお、呪詛に縛られ使役される亡霊たちを目の当たりにすると、流石に怯えと戸惑いを隠せないのだろう。
だが、それでも優希斗は、あえて亡霊たちに拳をふるい、追い払おうとする。
本来ならば、目の前の亡霊たちの思想や目的を問うた上で対峙したいが、呪詛に囚われ理性を失っている今、おそらく解は得られない。
――だから優希斗は、解を得て刀で斬る代わりに、解を得ることを諦め拳で払う。
水壁が築き上げられるまでの時間稼ぎが優先と割り切り、拳と足で亡霊たちの攻撃をいなし、不意討ちのように傷口から噴き出す魔焔を見切って避けながら、優希斗は亡霊たちの間を踊るように、隙間を縫うように駆け抜け続けた。
狂戦士化し速く動く物体に反応する亡霊たちの視線が、この中で最も速く動く優希斗に集中する。
相対的に、現身を指揮するカツミ達猟兵やクレイら『闇の救済者』達から、亡霊たちの注意が逸れることになった。
(「今がチャンスです!」)
カツミと同じく亡霊たちから注意を逸らされた真琴は、好機とばかりに全身に畏れを発する白炎を纏い、膝上15cmのスカートを翻しながら空へと舞い上がる。
空中から戦場のほぼすべてを視界に収めつつ、真琴は持ち上げた両腕に闘気の弾たる白銀の鷹を数羽止まらせ、亡霊たちに語り掛けた。
「あなたは逃げられますか?―――神羅畏楼・天鷹氣弾」
語り掛けた瞬間、真琴の両腕に止まっていた白銀の鷹が語り掛けに応じて一斉に飛び立ち、亡霊たちに殺到。
亡霊たちも鷹に籠められた闘気を察し、避けようとするが、鷹はまるでその動きすら読んでいるかのように追いすがった。
――おそらく、白炎を纏う真琴には、亡霊たちの動きが手に取るようにわかるのだろう。
闘気が籠った鷹の嘴は狙った部位に吸い込まれ、亡霊たちの翼をズタズタに裂き、首筋を深く啄み、呪詛の烙印を抉り取る。
白銀の鷹が真琴の両腕に戻る頃には、館の入り口付近にいた亡霊たちは全て消滅していた。
――館への道が、開けたのだ。
「道が開いた!」
「クレイさんたち、今のうちだよ!」
カツミがクレイたちに呼びかける間も、カツミそっくりの水分身たちは、水壁を築きつつ浄化の水を撒いて亡霊たちを遠ざけ、真琴の鷹が切り開いた道を塞がれない様守り続けた。
「クレイ、皆、行ってくれ!」
「後は私達で!!」
クレイに従っていた住人たちも、棍棒や斧を振り回し、少しでも亡霊を遠ざけながら、彼らの背を押すように叫んでいた。
真琴の白銀の鷹やカツミの浄化の水で戦力や呪詛を削がれた今、亡霊たちの動きはやや鈍りつつある。
住人たちだけに任せておいても、いずれ全て掃討できるだろう。
「……わかった。皆、この場は頼む!」
クレイたち4人は得物を納め、異能を解除し、全力で館に走り出す。
その背に反応したか、クレイの背に理性失いし亡霊が迫るが。
「行かせない」
優希斗が風のように正面に回り込み、がっぷり四つに組んで行く手を阻み、カツミの水分身が亡霊に浄化の水をかけて追い払った。
猟兵達が亡霊を足止めしている間に、クレイたち4人は全員、館内へ突入していた。
「これで指導者たちは全員中に入ったかな?」
カツミが空中の真琴に聞くと、真琴は戦場を改めて見回し、首を横に振る。
真琴の紫の瞳は、戦場の外れで人々の傷を癒し続けているアイラの姿をとらえていた。
「まだ癒し手が残っているようです」
「じゃあ、水の壁が完成するまでもう少し頑張ろう!」
「ああ、そうだな……もう少し」
カツミの水分身たちが構築している水壁も、完成までにはもう少し時間を要する。
残されたアイラの動向を空中の真琴が伺いながら、カツミの水分身と優希斗は三度亡霊たちを撹乱し、更なる援軍が来るまでの時間を稼ぎ始めた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ミーナ・ヴァンスタイン
アイラ
避難民を保護する町の守護者で、ミステリアスな女領主。
外道には容赦しないダンピールの聖女。
戦いを前に同じ聖者の力を持つ少女へ優しく話しかける
「こんにちは。わたしはミーナよ」
「あなたも聖者なのね。なら、力を貸してあげられるわ」
「ちょっと我慢して頂戴」
【血の盟約】魔力の光を右手を通して彼女へ送り込む。
「これで暫くの間、聖なる光を使っても疲れないと思うわ」
「戦場では、癒し手は文字通り生命線よ。一緒に頑張りましょうね」
戦闘では攻撃を見切り残像で避け、アイラたち『闇の救済者』を狙った攻撃を聖銀の剣で弾き、カウンターで切り裂く。
「魂を解放しましょう」
『主よ、永遠の安息を――せめて、これからは安らかに』
●聖者は生者のために力を尽くし
――時は少し、遡る。
人類砦「ヴェリーナ」の『闇の救済者』たちと、館を守護せしオラトリオの亡霊たちが至る所で衝突している戦場の真っただ中で、ミーナ・ヴァンスタイン(救済の聖女・f00319)はある人を探していた。
もともとミーナ自身も、吸血鬼の迫害から逃れた避難民を保護する町の守護者であり、『闇の救済者』に対し支援を行うことがある。
ゆえに、『闇の救済者』の蜂起に手を貸すべく、此の地を訪れたのだが……。
(「さて、あの子はどこにいるのかしら?」)
ミーナが探し人を求めて戦場を歩き回っていると、やがて傷ついた人類砦『ヴェリーナ』の住人たちを治療して回る茶髪蒼瞳の少女の姿が目に入った。
……おそらく、彼女が探し人たるアイラだろう。
「アイラさん、この人も頼みます」
「わかりました!」
住人に呼び寄せられたアイラが、深手を負った住人の傷口に手をかざすと、温かい光が傷を癒して行くが、それに反比例するようにアイラ自身の表情に疲労の色が濃くなる。
無理に癒し続けていれば、そのうちアイラが倒れるであろうことは、想像に難くない。
アイラに手を貸すべく、ミーナはアイラに近づいた。
「こんにちは」
「あなたは……猟兵さん、ですか?」
ミーナに声をかけられたアイラは、異能の使い過ぎでかなり疲れているのか、肩を大きく上下させながら荒い呼吸を繰り返していた。
「ええ、わたしはミーナよ。あなたも聖者なのね」
「聖者、と言っていいのかどうかはわからないけど……」
己が異能のルーツを知らぬ少女の瞳が不安げに揺れたその直後、アイラの身体が大きく傾いだ。
とっさにミーナが左腕を差し出しアイラを受け止めたが、疲れ果てたアイラはミーナに抱えられたまま動けなくなっていた。
「ちょっと我慢して頂戴――あなたを助けてあげる」
ミーナはアイラの首筋に右手を当て、己が魔力の光をアイラの体内へと注ぎ込む。
暫くミーナがそのまま待っていると、アイラの荒かった呼吸が少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。
「これ、は……?」
「どうやら疲れがたまりすぎていたようね」
アイラをその場に座らせながら、ミーナは妖艶な笑顔を向ける。
「私の魔力を分けたから、これでしばらくの間、聖なる光を使っても疲れないと思うわ」
「あ……ありがとうございます!」
「戦場では、癒し手は文字通り生命線よ。一緒に頑張りましょうね」
ミーナに優しく声をかけられたアイラは、笑顔で大きく頷いていた。
アイラが休息をとっている間、ミーナは改めて戦場に目をやる。
既にアイラ以外の指導者たちは館に突入したらしく、館の外に姿は見えない。
一方、館の扉前には水の壁が大きくそびえ立ち、全身水で構成された球体関節人形が浄化の水を撒いて亡霊たちを追い払っていた。
追い払われた亡霊たちは、武器を手にした住人や黒剣を手にした黒騎士たちが背後から奇襲し、次々と討ち取っていく。
「アイラさん! 館に行ってあげてください!!」
「クレイさんたちにはあなたの癒やしの力が必要です!!」
アイラを館に行かせようと声を張り上げる住人の声に、ミーナは思わず口元をほころばせていた。
――住人たちに後を任せても、大丈夫だと確信が持てたから。
「この場は皆さんに任せてもよさそうね」
「じゃあ、先に行きましょう……?」
完全に魔力が回復したアイラが立ち上がった、その時。
「癒し手はこの先に行かせない……!」
アイラとミーナの前に、浄化の水から逃れた亡霊が1体、行く手を遮るように立ちはだかった。
呪詛の齎す苦痛に抗いながらも右掌をアイラに向ける亡霊を見て、ミーナはそっと目を伏せる。
外道には容赦せぬミーナだが、呪詛に束縛されている亡霊たちのことは、心根まで外道とは思っていない。
――真に外道なのは、呪詛で束縛している館の主たる吸血鬼のはず。
一方、亡霊たちをいつまでも呪詛でこの地に留めておくわけにもいかない。
だから――。
「――先に彼女たちの魂を解放しましょう」
亡霊の右掌から邪悪なる光がアイラを狙い放たれるが、割り込んだミーナが聖銀の剣を一振りし、光を切り裂くように全て散らした。
「この先には、行かせ……!」
「主よ、永遠の安息を――せめて、これからは安らかに」
亡霊が再び邪悪なる光を放つ前に踏み込んだミーナが、右手の聖銀の剣を閃かせる。
呪いすら切り裂く銀の剣は、亡霊の首筋を呪詛ごと切り裂いていた。
ミーナはアイラの手を引きながら斃れる亡霊の脇を走り抜け、館の目前にそびえる水の壁を通り抜ける。
一見薄そうに見えた水の壁は、2人が通り抜けた直後、一気に厚みを増し、亡霊すら通さない鉄壁へと変貌した。
(「これなら、外から援軍が来られる心配はなさそうね」)
「行きましょう」
「はい!」
ミーナとアイラは頷き合うと、館の扉を開け、館内へ突入した。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『老獪なヴァンパイア』
|
POW : 変わりなさい、我が短剣よ
【自身の血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【真紅の長剣】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : 護りなさい、我が命の源よ
全身を【自身の血液】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ : 立ち上がりなさい、我が僕よ
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【レッサーヴァンパイア】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠館野・敬輔」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●【重要】第2章プレイング受付開始日変更のお知らせ
第2章のプレイングは、【7月28日(水)8:31~】から受付いたします。
受付開始以前にお預かりしたプレイングは、いったんお返ししますので、受付開始後に再送をお願いします。
※マスターコメントから変更となっております。ご注意願います。
●彼の地を解放すべく、老獪な小領主を討て
館内に突入した猟兵達とライナやクレイたち『闇の救済者』の指導者5名が目にしたのは、大理石が敷き詰められた床に紅の絨毯が敷かれたエントランスホールだった。
天井には巨大なシャンデリアが吊り下げられているが、シャンデリアに灯された光が柔らかくホール全体に降り注いでいるため、明かりの心配はないだろう。
「あの領主……どこまで人類を食いつぶせば気が済む!」
領民から搾取した財産で建てられたであろうこの館に、クレイたちが怒りを覚えていると。
――カツン、カツン。
紅いイブニングドレスに身を包み、狡猾さを瞳に宿した1体の女吸血鬼が、ピンヒールの踵を打ち鳴らしながら現れる。
――おそらく、この吸血鬼こそが、館の主であり、彼の地を支配する小領主だろう。
「あらあら、お呼びでないのになぜ来たのかしら? 取るに足らない人間どもが」
女吸血鬼は、右手に持つ精緻な細工が施された銀のナイフで無造作にクレイたちを差しながら、傲慢に呼びかける。
「『闇の救済者』とかたいそうな名を名乗っているけど、所詮あなたたちは我々ヴァンパイアに可愛がられないと生きていられない身。叛逆など許されない大罪」
だがそうね……と少し考えこむふりをした女吸血鬼は、妖艶な紅を引いた口から交換条件を紡ぎ出す。
――あなたたちが我が下僕になれば、今回の叛逆は許してあげてもいいわ?
それは、人類砦「ヴェリーナ」の人々にとっては、決して受け入れられない条件。
「断る!」
即座に提案を斬って捨てたクレイを見て、女吸血鬼はうっすらと嗜虐的な笑みを浮かべる。
「あら残念。なら……」
――私に逆らう無謀さを噛みしめながら、絶望の果てを覗いて死になさい。
小領主がパチン! と指を鳴らすと、猟兵達がくぐった扉に鍵がかけられ、ホール内に5体のオラトリオの亡霊が現れる。
亡霊たちは猟兵等に手を向け、汚染された光条にて焼き尽くそうとするが。
「させないわ!!」
即応したライナが風のように飛び出し亡霊の懐に入り、ナイフを九分割させたかのような連撃で光条ごと腕を斬り刻む。
すかさずクレイが召喚した複数の短剣が、至近距離から一斉に亡霊の身体に突きたち、勢いよく吹き飛ばした。
吹き飛ばされた亡霊は、背中から小領主に激突するが、既に虫の息。
「あらあら……情けない事」
小領主が左掌で顔面をひと撫ですると、たちまち亡霊の顔色が青ざめ、瞳の紅は血の鮮やかさを宿し、開いた口から犬歯が伸び始めた。
「さ、奴らを徹底的に蹂躙しなさい」
「ウアァァァァァアアアアアアアアア……!!」
小領主の手でレッサーヴァンパイアへと変えられた亡霊は、口からだらだらと涎を垂らしながら、さらなる闇に汚染された光条を打ち出すべく、掌に澱んだ光を溜め始めた。
「これではきりがないわよ!」
「この亡霊は僕たちで押さえます。皆さんは早くあの領主を!!」
短剣でレッサーヴァンパイア化した亡霊を押し返しながら叫ぶクレイに、猟兵達はひとつうなずいて亡霊の脇を駆け抜け、女吸血鬼の前に立ちはだかった。
「あらあら、猟兵が私の邪魔をするのかしら」
まるで百年以上生きて来たかのような老獪さを露わにしながらも、憎々し気に猟兵達を睨みつける女吸血鬼。
「それなら……先に猟兵を八つ裂きにして、あなたたちの心を折ってからたっぷり可愛がってあげるわね? そうすれば叛逆なんて考えなくなるでしょう?」
わざと猟兵達を無視し、カラコロと笑いながらクレイたちに告げる女吸血鬼の瞳に宿る澱んだ光は、嗜虐に満ちていた。
「死出の道への手土産に教えてあげるわ。我が名はモーラ」
――彼の地の人間は、全て我が財産であり、下僕なり。
「さあ、八つ裂きにされてくださいな?」
土地と財産を掌握し、人民を虐げる吸血鬼『モーラ』は、酷く薄く笑いながら猟兵達にナイフを向けた。
さあ、猟兵達よ。
目の前にいるのは、彼の地を治め、人類を虐げる吸血鬼『モーラ』。
『闇の救済者』が見届ける中で彼の吸血鬼を討ち取り、彼の地を解放せよ。
――健闘を、祈る。
※マスターより補足
第2章の成功条件は【『老獪なヴァンパイア』モーラの撃破】となります。
この章からの参加者、もしくは1章にサポートで採用された方は、戦闘直前にホールに転送されたものとします。
ホール内に現れた5体のオラトリオの亡霊は、『闇の救済者』に任せておけば勝手に倒してくれますが、モーラがすぐにWIZ【立ち上がりなさい、我が僕よ】にてレッサーヴァンパイアに変え、蘇らせます。
レッサーヴァンパイア化された亡霊は、モーラを倒さない限り無限に蘇りますので、長期戦は危険です。猟兵の全力を尽くし、素早く討ち取って下さい。
また、ライナと『闇の救済者』たちは亡霊対応で手いっぱいとなるため、猟兵との共闘はできません。(回復支援も不可)
亡霊は基本的に『闇の救済者』を優先して狙いますが、WIZのユーベルコードを指定した猟兵がいた場合に限り、モーラは亡霊をレッサーヴァンパイアに変えて猟兵に差し向けます。
レッサーヴァンパイア化した亡霊の使用ユーベルコードは、WIZ【汚染されし光条】で固定となります。(POW・SPDは使いません)
1章の判定の結果、『闇の救済者』の癒し手たるアイラの能力が強化され、ある程度までなら疲れることなくまとめて回復できるようになったため、『闇の救済者』全体の経戦能力が上がっておりますが、彼らだけで最後まで亡霊を抑えきるのは至難の業です。
よって、この章で得た🔵が必要成功数に到達した時点で🔴が7個以下の場合、館内の『闇の救済者』は全員生存した状態で戦闘を終えることができます。
ただし、🔴が8個を超えた場合、以後🔴が1個増えるごとに1人死亡しますので、ご注意ください。
ちなみに、敵味方問わずこれ以上の増援はありませんが、扉に鍵がかかっているため、不利になっても外に撤退することはできません。
――それでは、最善の決着を。
※補足(7/28)
少々わかりづらい点がございましたので、補足致します。
『闇の救済者』が全員生存するか否かは、🔵が必要成功数の11個に到達した時点で獲得している🔴の数で判定致します。
つまり、🔵が必要成功数に到達した後に獲得した🔴は、一切カウントいたしません。
全員一括で採用した場合に限り、判定結果次第で「🔵の必要成功数到達」と「🔴の9個以上蓄積」が同時に起こり得ますが、この場合は全員生存とします。
以上、よろしくお願い致します。
真宮・響
【真宮家】で参加
ああ、典型的なヴァンパイアの領主だね。ムカつく程の過剰な自信も相変わらずというか。まあ、大口叩くぐらいの力はあるんだろうから油断は出来ないね。気を引き締めていこう。
レッサーヴァンパイアの数が多すぎるね。闇の救済者の皆に行かせる訳には行かないからモーラの抑えは奏に任せて、【オーラ防御】【見切り】【残像】敵集団の攻撃を凌ぎながら光焔の槍で攻撃。【追撃】で【気合い】【怪力】【ぶん回し】を併せた攻撃を【ダッシュ】で敵の群れに飛び込んで【範囲攻撃】で一気に敵の群れを薙ぎ払う。闇の救済者の方に敵が接近するなら【衝撃波】で吹き飛ばしてやるか。
人間は意外と底力があるんでね。思い知りな!!
真宮・奏
【真宮家】で参加
随分長い事君臨してきたものですから頭が固くなってますかね?目の前の軍勢の勢いを判断も出来ないんですね。でも、強大な力を持つ敵、全力を尽くさねば敵の思う通りになってしまいますね。覚悟して望みましょう。
母さんと瞬兄さんがレッサーヴァンパイアの抑えに回りますので、モーラの抑えを引き受けましょう。トリニティ・エンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で敵の攻撃を受け、敵の注意をこちらに向けます。敵が配下に加勢しないように【怪力】で【シールドバッシュ】で思い切り押し返し、【衝撃波】で吹き飛ばします。
神城・瞬
【真宮家】で参加
僕の故郷はヴァンパイアと人間が共存してたんですが、このモーラの態度がこの世界で普通のヴァンパイアでどんなに僕の故郷が特殊だったか思い知らされますね。でもモーラの思う通りにさせる訳にはいきませんので。
僕は母さんと一緒にレッサーヴァンパイアの相手をします。闇の救済者の皆様の護衛も兼ねて月読の同胞を発動。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を仕込んだ【結界術】を【範囲攻撃】化して展開。【追撃】で【衝撃波】を使います。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。
忍耐して力を蓄えてきた人の力を侮らないでください。案外、貴女を越えるかもしれませんよ?
●典型的な小領主を討つために
「ああ、典型的なヴァンパイアの領主だね。ムカつく程の過剰な自信も相変わらずというか」
これまで多数のヴァンパイアを見て来たからこそ、口から漏れだした真宮・響の想いを、『老獪なヴァンパイア』モーラは鼻で笑い飛ばす。
「自信ではなく事実ですわ。新参者はお黙りなさい」
「随分長い事君臨してきたものですから頭が固くなってますかね? 目の前の軍勢の勢いを判断も出来ないんですね」
母に続いた真宮・奏の怒りと挑発交じりの言も、やはりモーラは微かな笑みと共に一蹴。
「ああら、勢いのよいお嬢さんだこと」
――軍勢の勢いを判断した上で、申し上げているのですわ。
「数は力、とはよく人間どもは口にしますわね」
「それはどうかしましたか?」
「しかし、それは此方とて同じことですわよ?」
「……っ!?」
嘲笑を含みながらのモーラの指摘に唇を噛みしめたのは、奏ではなく、『闇の救済者』の指導者たるクレイ。
……大量の亡霊が待ち構えていた理由を、察してしまったから。
「同じくらいの数でねじ伏せ叩き潰せば、人間どもが我々ヴァンパイアに敵う道理はありませんわ……あはははは」
クレイを嘲笑うモーラを見て、神城・瞬は胸の裡で大きくため息をついていた。
(「僕の故郷はヴァンパイアと人間が共存してたんですが、このモーラの態度がこの世界で普通のヴァンパイアでどんなに僕の故郷が特殊だったか思い知らされますね」)
ヒトとヴァンパイアが共存していた傭兵団で生を受けたダンピールの瞬は、疎ましがった他の吸血鬼に故郷が滅ぼされるまでは、故郷の在り方が普通だと思っていた。
しかし故郷壊滅後、真宮母子とともに世界中を回り、ヴァンパイアの高慢さと傲慢さを目にするたびに、如何に故郷のヴァンパイアの考え方が異端だったかを思い知らされ続けてきたのだ。
もっとも、瞬の故郷の在り方は、故郷に住まうヴァンパイア自身が選んだひとつの道であり、何物にも否定される在り方ではないのも事実だろう。
……それもまた、ひとつの世界としての在り方なのだから。
だが、今対峙しているヴァンパイアは、典型的なヴァンパイア。
ゆえに瞬は首を軽く振り過去の記憶を振り払い、改めてモーラを睨みつける。
「生憎ですが、モーラの思う通りにさせる訳にはいきませんので」
「まあ、大口叩くぐらいの力はあるんだろうから油断は出来ないね。気を引き締めていこう」
「でも、強大な力を持つ敵、全力を尽くさねば敵の思う通りになってしまいますね。覚悟して望みましょう」
響も奏も改めて己が心に喝を入れ、気を引き締め直す。
もし、モーラが力なきヴァンパイアであれば、長期間彼の地を支配することすら叶わぬのだから。
――強敵であることは、疑う余地がない。
ゆえに響はブレイズランスを、瞬は六花の杖を。
そして奏はエレメンタル・シールドを構え。
三者三様の想いを以て、油断なくモーラを睨みつけた。
●配下の足止めは善手か悪手か
「しかし、レッサーヴァンパイア……亡霊の数が多いね」
待ち受けていた配下たる亡霊を見渡し、響は少し考える。
亡霊の数はたった5体だが、『闇の救済者』たちにはそれだけでも荷が重いのではないか?
それ故に響は、『闇の救済者の皆に行かせる訳には行かない』と判断し、子供たちに指示を出した。
「奏、モーラの抑えは任せたよ」
「はい!」
炎と水、風の魔力を全身に宿し、防御を高めた奏は、響に元気に返事をする。
「瞬、亡霊とレッサーヴァンパイアはアタシたち2人で抑えるよ!」
「ええ、あとは『闇の救済者』の皆さんの護衛も兼ねて……月読の同胞、力を借ります!!」
瞬は護衛として剣と弓を手にした月読の同胞を召喚し、癒し手たるアイラの側を離れぬよう厳命。
そして、瞬自身は六花の杖を片手に、麻痺毒と目潰しの術式を織り込んだ結界を張るための呪を唱え、亡霊たちを巻き込むよう展開した。
しかし、奏が動くより早く、モーラが動く。
その足はなぜか、亡霊に向いていた。
「では早速……立ち上がりなさい、我が僕よ」
モーラが呪らしきものを唱えながら、突然銀のナイフで亡霊の心臓を一突き。
「えっ!?」
唖然とするライナや奏たちの前で、モーラは倒れ込んだ亡霊の肩に噛みつく。
噛みつかれた亡霊は、激しく身体をけいれんさせながら、肌を青白く変貌させ、眼光は澱んだ真紅に染まる。
「ウグアァァガァァァァ!!」
やがて、レッサーヴァンパイアへと変貌した亡霊が、響と瞬に狂気と共に右掌を向け、汚染されし光条を打ち出した。
「っ……こっちに来るなら望むところだよ!」
響はレッサーヴァンパイアの光条を見切り避けつつ、ブレイズランスをぶん回しながら発射直後のレッサーヴァンパイアの懐へと飛び込み、一太刀で斬り捨てる。
麻痺毒と目潰しの結界内にいたレッサーヴァンパイアは、響の燃え盛る槍の軌道を見切れないまま、あっさり斬り捨てられ、床に伏した。
(「……手ごたえが薄い?」)
あまりの手ごたえの無さに、一瞬呆気にとられる響。
レッサーヴァンパイア化して間もないからか、と考えた次の瞬間。
「ウウウウゥウ……ガアアア!」
響に斬られたはずのレッサーヴァンパイアが、咆哮とともに立ち上がった。
致命傷となった深い槍傷は、響の目の前で見る見るうちにふさがっていった。
自己治癒したレッサーヴァンパイアは、右腕をあげながら右掌に汚染されし光を集め、周囲に光条として照射する。
驚く響は、蘇生したレッサーヴァンパイアの掌から光条が放たれるのをただ見ているだけ。
「まさか、蘇生したのですか!?」
咄嗟に瞬が杖を振りかざし、響を狙うレッサーヴァンパイアを銀の衝撃波で吹き飛ばし、壁に叩きつけた。
「ウウウゥゥアァァァァ!!」
その間にも別の亡霊が瞬に接近し、至近距離から光条で結界ごと灼き尽くそうとするが、結界に阻まれ目に見えて動きを鈍らせた。
――否、瞬に迫ったのは亡霊ではない。
「亡霊ではない……レッサーヴァンパイア!」
いつの間にモーラは別の亡霊をレッサーヴァンパイアに変えていたのか。
驚きのあまり言葉を失い足を止めた瞬をカバーするかのようにクレイが接近し、短剣を至近距離から一斉射して止めを刺すも、レッサーヴァンパイアはすぐに刺傷を塞ぎながら蘇り、クレイの前に立ちはだかっていた。
●小領主撃破を「託された」ことの意味を知れ
一方、奏はエレメンタル・シールドを片手に、執拗にモーラに食らいついていた。
亡霊たちに向かわせぬためにシールドを叩きつけ吹き飛ばし、モーラが亡霊らに加勢せぬ様妨害するが、時折真紅の長剣を打ち込まれ、後退した隙に亡霊に向かわれ、レッサーヴァンパイア化を許してしまう。
……やはり、格上のヴァンパイアをひとりで妨害し続けるのは荷が重かったのだろうか。
奏がそれでも、とエレメンタル・シールドを強く構え直した瞬間。
「あはははははっ」
「何を笑っているのですか!?」
突然笑いだすモーラに奏が怒声をぶつけるも、モーラは嘲笑を止めない。
「愚かな猟兵達、そこな『闇の救済者』を守るとか大言を吐いておいて、実際は見下しているのではないですか?」
紅の剣先を突き出し、奏を護る三属性の魔力を中和しながら、モーラは奏に辛辣な言葉を浴びせる。
「なぜそんなこと……っ」
心外とばかりに叫ぶ奏の言葉尻を奪うように、モーラは決定的な一言を突き付ける。
「そもそもあなたたち――」
――亡霊たちは押さえるから、全力で私を討ち取れと言われたのでは?
「っ!?」
その指摘を耳にし、言葉を失ったのは、響。
「もし、猟兵3人がかりで私を押さえていれば、私は亡霊たちの下へは辿り着けていませんわよ?」
あなたたちの連携はお見事ですから、と一見称賛しつつ。
己が血と魔力で練り上げた真紅の長剣を執拗に突き出し、逆に奏の動きを制約しながら、モーラは毒が含まれた言の葉の刃を以て、奏だけでなく、瞬や響をも追い詰める。
――それは破れかぶれではなく、厳然たる真実を指摘する、言の葉の刃。
「あなたたちの行動は、取るに足らない人間たちを護るどころか、逆に窮地に追い込んでいますわ? なぜそれに気づかないのかしら?」
「くっ……!!」
モーラからの毒舌含む鋭い指摘に、響は言い返す言葉を持てなかった。
――己が認識の甘さを、突き付けられたから。
そもそも、モーラと邂逅した際、クレイははっきりと『ここは僕たちが押さえるから、全力で領主を討ち取れ』と猟兵達に告げている。
これは、クレイたちが猟兵を信頼しており、そのほうが確実に討ち取れると判断したことを意味していた。
ましてや、モーラひとりに対し、猟兵は3人がかりで相手できるのだ。
人数差を生かすような戦略を立てていれば、レッサーヴァンパイア化する亡霊の数を抑え込んだ上でモーラに十分な痛手を与えられただろう。
しかし、響と瞬は『闇の救済者』達を護るためと称して亡霊たちを斬り捨て妨害する一方、モーラには手を出さず。
モーラの抑えと妨害を一手に引き受けることになった奏は、モーラに対して積極的に攻勢に出なかったのが災いし、完全に意識を引きつけるには至らない。
結果、響と瞬、月読の同胞やクレイたちが倒した亡霊は、その都度モーラが奏の妨害を振り払って駆けつけ、『モーラを討ち取らない限り、無限に蘇る』存在、レッサーヴァンパイアへと変貌させられていた。
モーラの血を分け与えられヴァンパイア化した亡霊たちが放つ光条は、苛烈の一言を伴い、『闇の救済者』たちを焼き尽くそうとする。
事実、ヴォルたちが協力してレッサーヴァンパイアを1体撃破するも、すぐに蘇り、より苛烈な光条をヴォルやアイラに降り注がせていた。
アイラは月読の同胞がかばうため無傷だったが、他の『闇の救済者』たちは自前で身を護るしかなく、徐々に深手を負うようになってきていた。
館外の亡霊たちは時間をかければ殲滅可能だが、館内の亡霊たちはモーラにレッサーヴァンパイアへと変えられた今、倒されても無限に蘇生し『闇の救済者』たちを苦しめる。
目に見える程の負傷が増えてきた『闇の救済者』たちを、アイラの癒やしの光が包み込むが、モーラを倒すまでアイラの体力が持つかどうかは未知数だった。
――状況は、完全に後手後手に回っていた。
●それでも、最後まであきらめず
(「足りなかった……最初から彼らを信じてモーラに集中攻撃していれば!」)
己が行動の結果、突き付けられた辛辣な事実に完全な失策を悟った瞬は、強く唇を噛みしめる。
……だが、それでも。
「それでも今、あなたを討つためにできることをするだけです……!」
奏が諦めぬとばかりにエレメンタル・シールドでモーラの真紅の長剣を真正面から受け止めつつ、シルフィード・セイバーを横薙ぎに振るい翠の衝撃波を放つ。
衝撃波はモーラにわずかにたたらを踏ませるにとどまったが、どこまでも真っ直ぐな奏の叫びは、瞬と響の心に強心剤のように撃ち込まれ、活力を与えていた。
「……忍耐して力を蓄えてきた人の力を侮らないでください。案外、貴女を越えるかもしれませんよ?」
瞬がモーラに六花の杖を突きつけ、目潰しと麻痺の術式を織り込んだ結界を再度展開。
今度はレッサーヴァンパイアだけでなく、モーラをも巻き込むよう広範囲に展開した。
「これ、は……あああああっ!」
結界に触れたモーラは、両目を手で押さえながら絶叫。
「アンタが侮った人間の力、たっぷり味わいな!」
「ええ、私達はまだ……諦めてはいないわ!」
響が一喝しつつレッサーヴァンパイアの光条を回避し、500本を超える光の槍で牽制している間に、レッサーヴァンパイアに接近したライナが、九振りのナイフで縦横無尽に切り裂き、止めを刺す。
切り裂かれたレッサーヴァンパイアはすぐ蘇生するが、流石に何度もズタズタに裂かれては再生に時間がかかるのか、すぐに攻撃してくる気配はない。
そのわずかな時間を利用し、響は光の槍で他のレッサーヴァンパイアを牽制しつつ、選りすぐった100本ほどに更なる魔力を籠め、モーラに向かって投げつけた。
「たかが光の槍で……!!」
「人間は意外と底力があるんでね。思い知りな!!」
モーラは咄嗟に真紅の長剣で光槍を払おうとするも、響の気合が籠った憤怒の光は憎悪の剣で払うことはできない。
――グサグサグサッ!!
「ぐぅぅぅぅっ……!」
100本の光槍は、吸い込まれるようにモーラの全身を貫き、壁に縫い留めながらじわじわと体内から焼き始める。
「がああああ人間めえええええ!!」
憤怒の光槍で内側から全身を焼かれる激痛に苛まれながらのモーラの怨嗟の声が、館内に響き渡っていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ミーナ・ヴァンスタイン
「いま、楽にしてあげるからね」
魔導水晶のナイフを右手で抜き、左手で魔眼封じの眼鏡を外す。
真の姿である真紅の魔眼と漆黒の翼をもつ吸血鬼へ変わる。
UCを使用。強化された動体視力と第六感で攻撃を見切り、舞うように敵の間をすり抜けながら麻痺毒の刃で切り裂いていく。
「竜の血から作られた麻痺毒よ。暫く動けないわ」
「殺しても蘇生するのなら、動けなくするまでよ」
「あとは、貴女を殺せば彼らも解放されるわ」
残像で攻撃を避けながら接近し、敵のナイフにはナイフで、敵が長剣なら武器改造でナイフを長剣へ変形させて怪力で斬り合う。
「吸血鬼はすべて私が殺す」
「形状変化、竜爪剣」
左手で聖剣を抜刀し、魔剣と二刀流
「全力で行くわ」
●吸血鬼はこの手で全て討つ
「こ、の……取るに足らない猟兵達が……」
他の猟兵が穿った光槍を全て引き抜きながら毒づく『老獪なヴァンパイア』モーラを無視し、ミーナ・ヴァンスタインはホール全体を見渡した。
ミーナが観察する限りでは、『闇の救済者』たちは、レッサーヴァンパイアと化した亡霊たちを確りと押し返していた。
ミーナと共に館に突入したアイラは、汚れた光条で深手を負わされた『闇の救済者』たちの手当てに専念していた。
だが、この場にいる全ての亡霊がレッサーヴァンパイアと化しているようで、いつまで彼らだけで抑えられるかは不透明な状況。
アイラはミーナが分け与えた魔力のおかげでまだ疲れ知らずだが、それも魔力が尽きるまでだろう。
アイラが魔力切れかつ疲労困憊で倒れそのまま押し切られるより早く、ミーナ含む猟兵たちが小領主を討たねばならない。
そのためには、少しでも早くモーラに引導を渡す必要があった。
「今、楽にしてあげるからね」
ミーナは魔導水晶のナイフを右手で抜いて逆手で持ちながら、右手で魔眼封じのメガネを外し、露わになった真紅の魔眼でじろり、とモーラを睨みつける。
ああら、と声をあげたモーラの眼光が、鋭くなった。
「まさかあなた、半端者だったとはね」
――なら、遠慮なく殺してあげるわ。
モーラが憎悪露わに、しかし嗜虐的な笑みを浮かべるのを横目に。
ちら、とアイラと視線をかわしたミーナはあえてモーラを無視し、レッサーヴァンパイアに吶喊。
他の猟兵から麻痺毒や目潰しを仕込まれたのか、レッサーヴァンパイアの動きは総じて鈍くなってはいるが、レッサーヴァンパイア化で身体能力が向上したためか、ライナたち『闇の救済者』は苦戦を強いられている。
「先に倒しても無意味ですわよ?」
モーラの嘲笑を黙殺したミーナは、強化された動体視力でレッサーヴァンパイアの光条を見切りながら躱し、懐に飛び込み、魔導水晶のナイフを一閃。
――ザクッ!
わき腹に一閃入れた後、すぐさま別のレッサーヴァンパイアの懐に飛び込み、再び一閃。
流れるように、踊るように、透明な水晶の刃をシャンデリアの光にきらめかせながら繰り広げられる美麗な暗殺の秘儀は、さながら緩慢な死へと導く優雅なダンスを躍るかのよう。
レッサーヴァンパイアたちは踊りに見惚れたのか、殺気を放たぬ魔導水晶のナイフを全く見切れない。
――ザシュッ!!
死の舞踏に彩りを添えるように閃いたナイフの演舞は、全てのレッサーヴァンパイアのわき腹を裂いた後、最後にモーラのわき腹を深々と切り裂き、カーテンコールを迎えた。
「くっ……!」
わき腹を押さえ、二、三歩交代するモーラの足取りは、徐々に緩慢になりつつある。
「殺しても蘇生するのであれば、動けなくするだけよ」
冷淡に言い捨てるミーナの背後で、レッサーヴァンパイアの動きが、まるでエネルギー切れ寸前のロボットのようにぎこちないそれに変化していた。
「竜の血から作られた麻痺毒よ。暫く動けないわ」
あとは、貴女を殺せば彼らも解放されるわ、と冷淡に告げるミーナに、それでも強気を隠さぬモーラ。
「あぁら、吸血鬼殺しでも気取っているのかしら? 半端者?」
「吸血鬼は全て、私が殺す」
ミーナはモーラの言の葉の刃を黙殺しながら、魔導水晶のナイフを深々とモーラの肩に突き立てる。
透明な水晶のナイフはモーラの血液と魔力を吸収し、刃を真紅に変化させながらモーラの体内で細く長く伸び。
「――形状変化、竜爪剣」
――ズブッ!!
モーラの背中から皮膚を突き破るように真紅の刀身が現れ、即座に引き抜かれる。
引き抜かれたナイフは、真紅の刃を持つ長剣へと変貌していた。
長剣を引き抜かれよろめいたモーラの右手には、銀のナイフの代わりにミーナと同じような長剣が握られているが、構わずミーナはすらり、と左手で聖銀の剣を抜き、握りしめた。
「全力で行くわ」
左手の聖銀の剣と右手の真紅の長剣と化した魔導水晶のナイフとの二刀流で、ミーナはモーラを押し込むように苛烈に攻めるが、モーラも意地を見せたのか、麻痺毒を受けているとは思えぬ動きで応戦する。
やがて、双方の真紅の長剣同士が激突し、膠着状態に陥るが。
「この、半端者、が……!」
「言ったはずよ。全て殺すって」
ミーナの左手の聖銀の剣が、モーラの悪態すら一刀両断するかのように逆袈裟に振り上げられた。
――ザクッ!!
「ぎゃあああああっ!!」
凡そ淑女に似つかわしくない悲鳴をあげながら、真紅の長剣を取り落とし、後退するモーラ。
その胴には、ミーナの聖なる剣で切り裂かれた傷が、深々と広がっていた。
大成功
🔵🔵🔵
サフィリア・ラズワルド
POWを選択
四つ足の飛竜のまま敵へ立ち向かいます。
念のため炎は吐かない様にしておきましょう、引き続き手足や尻尾で攻撃します、チャンスがあれば牙に青い炎を纏わせて噛みつきます、これくらいの炎なら燃え移っても簡単に消せますしね。
何も驚く事はないでしょう?貴女が獲物になる順番が回ってきただけです、あ、もしかして攻撃をあまり避けなかった事に驚いたんですか?すみません、私お腹が空いてるとその事で頭が一杯になるので、気にしてませんでした。
安心してください、私に獲物をわざと怖がらせる趣味はありませんから……食べられるなら食べますけどね!
アドリブ協力歓迎です。
北条・優希斗
連携可
援護のために足を踏み入れればこれか
こう論旨が一貫した相手だと本質は理解出来るが、故に殺し合うしか道がないのは致し方ないか
闇の救済者達は他猟兵に任せ、俺はアンタを斬るのに専念しよう
UC+先制攻撃+情報知識+戦闘知識+第六感
第5の貴族は紋章が弱点だったか
飛翔し上記技能で弱点探りつつ
見切り+残像+ダッシュ+オーラ防御+地形の利用+第六感+軽業
攻撃回避と接近
2回攻撃+斬撃波+薙ぎ払い+鎧無視攻撃+属性攻撃:蒼で攻撃
弱点あれば串刺しで狙う
敵の回復速度を読む所までフェイント
回復速度を読んだら更に
早業+騙し討ち+傷口を抉る+追撃
刀速を上げ回復速度よりも速く斬る
…悪いな
俺は正義の味方じゃ無い
只の剣士だ
●支配者の矜持と、猟兵の矜持
「こ、の……取るに足らない人間どもや猟兵どもにここまで追い詰められるとは」
穿たれた胴の刃傷を護るように自身の血液で覆い隠しながら、『老獪なヴァンパイア』モーラは姿を消した猟兵に毒づく。
現状、配下たる亡霊は全てレッサーヴァンパイアと化し、強化された体力と膂力を以て『闇の救済者』たちと対峙しているが、モーラ自身は胴に刃傷を刻み込んだ猟兵から強力な麻痺毒を注ぎ込まれたせいで、万全に動けない。
ならばこの隙に、とドレスの裾を翻し撤退しようとして。
――ズシーン!!
「……っ!!」
突然、目の前に現れた四つ足の白銀竜に行く手を遮られ、脚を止めた。
「何も驚く事はないでしょう? 貴女が獲物になる順番が回ってきただけです」
「人語を話す竜……!」
白銀竜姿のサフィリア・ラズワルドを見て、目を大きく見開くモーラ。
この状況で現れるのは猟兵以外に考えられないが、一方、モーラの脳裏には支配者たる悪しき考えが浮かんでいた。
――人語を話す竜を下僕に組み込めれば、今後効率よい支配ができるのでは?
この竜を手懐けられればどれだけ良いか、とモーラが密かに舌なめずりをした、その時。
入り口の扉付近に突如透明な蒼穹の盾が現れ、中から新たに転送されてきた猟兵が足を踏み出した。
「……援護のために足を踏み入れればこれか」
新たに現れたのは、腰に三刀を佩いた青年、北条・優希斗。
彼はついさきほどまで外でクレイたちの突入支援をしていたのだが、思うところがあり、グリモア猟兵に館内に転送してもらっていた。
「……死霊に憑かれた猟兵ですか」
優希斗の背に微かに蠢く気配を察したか、モーラが軽く眉を顰めるが、当の優希斗はそれには答えない。
「念のために聞こう。アンタはなぜ、この地にこだわる?」
「もともとこの地と人民はわたしの下僕。それだけですわ」
迷いなく言い切るモーラに、優希斗は軽く眉を顰める。
おそらく、目の前のヴァンパイアは100年近く彼の地に君臨し続け、人民を苦しめ続けてきたのだろう。
時には真綿で首を絞めるよう、少しずつ。
時には苛烈な弾圧を以て、恐怖と従属を人民の心に植え付けて。
――長年にわたり、人類を家畜のように虐げ、搾取してきたのだろう。
『最初から下僕だから自儘に扱って構わない』との思想が言葉の端々からちらりと姿を現すのを見て、優希斗は大きく嘆息した。
「こう論旨が一貫した相手だと本質は理解出来るが――」
――故に殺し合うしか道がないのは致し方ないか。
言の葉の後半はあえて己が心の裡に呑み込み。
優希斗は腰から透き通る美しい刀身を持つ蒼月・零式を抜き、正眼に構えた。
●託された想いを受け止めて
サフィリアも優希斗も、狙いは最初からモーラ、ただひとり。
レッサーヴァンパイアと化した亡霊たちを『闇の救済者』に任せつつ、サフィリアは四肢でモーラの行く手を遮りながら、尻尾を振り回し空間を薙ぎ払う。
炎を吐けばもっと効率的にモーラの妨害ができそうだったが、あえて控えた。
もし炎を吐いていれば、あっという間に絨毯に燃え移り、館内に燃え広がり、モーラより先にライナ達『闇の救済者』の命が危うくなっていたため、これは良判断だっただろう。
炎に頼らずとも、サフィリアの白銀竜姿は「人語を話す竜の猟兵」と誤解しているモーラの興味を強く惹いている。
必然的に、優希斗への注意が逸れた。
「其は、空を舞う、蒼き月の舞」
ふわりと宙に舞い上がった優希斗は、モーラの注意がサフィリアに逸れている間にしっかりと観察し、弱点を見出そうとする。
(「第五の貴族は紋章が弱点だったか」)
目を凝らし、己が感やこれまで蓄積した戦闘経験をもとに紋章を探すが、それらしき紋様や意匠は見つからなかった。
もっとも、モーラは第五の貴族ではなく、長年彼の地を支配するヴァンパイアに過ぎないため、最初から紋章は持っていないのだが。
弱点がないと判断した優希斗は、飛翔しながら急接近し、蒼き斬撃波を織り交ぜながら、淡い蒼穹の光を纏った蒼月・零式でモーラに斬りつける。
蒼月の斬撃波と刀筋はモーラの背に二筋の刃傷を刻み込んでいたが、モーラはその傷を塞ぐように全身を血液で覆った。
紅に染まりながら嗤うモーラの姿は、サフィリアや優希斗に、ヴァンパイアが相容れぬ異形の存在であることを実感させるに十分な姿。
「ふふふ、愚かな猟兵たち……その生命、奪ってあげますわ」
モーラは真紅の長剣にも己が血液を纏わせ、サフィリアに斬りつける。
だが、サフィリアはモーラの長剣をあえて避けず、斬られ突かれるままに任せながら、尻尾で獲物を狩るためのリズムをとり、巨大な足でモーラに死を齎すワルツを奏でてモーラを踏み潰さんと迫り続けた。
「サフィリアさん! その長剣はサフィリアさんの生命を吸収する!」
纏った血液の本質に気づいた優希斗が警告を発するも、サフィリアは構わず四肢を振り下ろし続ける。
「警告されているのに辞めないとは、愚直ですね」
「あ、もしかして攻撃をあまり避けなかった事に驚いたんですか?」
サフィリアを嘲笑うモーラに、サフィリアはさも驚くようなことかと言わんばかりに、あっさりと告げた。
「すみません、私お腹が空いてるとその事で頭が一杯になるので、気にしてませんでした」
それは本当にお腹を空かせているのか。
もしくは、友達たるライナを護りたいとの想いからか。
あるいは……真紅の長剣では白銀の鱗を貫かれない自信があるからか。
いずれにしても、サフィリアは真紅の長剣を全く意に介していなかったのだが、それを知らぬモーラと優希斗は一瞬呆気に取られてしまう。
「でしたら、無理やりにでもその鱗を裂いて見せますわ」
軽く首を振ったモーラは、一層苛烈にサフィリアの四肢を狙い、真紅の長剣を突き立てるが、サフィリアは何度突き立てられても全く動じず、むしろ思う儘に四肢でモーラを蹴り上げていた。
飛翔しながら眺める優希斗の目にも、モーラの真紅の長剣は、サフィリアの白銀の鱗に傷をつけこそすれど、全く貫けていないように見える。
事実、自身の血液を代償とし殺傷力を増しているにも関わらず、鋼鉄以上の硬さを持つサフィリアの鱗は、真紅の長剣でも貫けていなかった。
モーラも目を凝らし隙間を探すが、鱗を貫けるほどの隙間は全く見当たらない。
……否。
サフィリアが目を凝らすほどの隙を与えぬよう、断続的に四肢で踏み潰し、蹴り、尻尾で叩いているため、モーラは真紅の長剣を無理やりねじ込む隙すら見いだせていなかった。
モーラが明らかに焦っていると見た優希斗は、サフィリアの四肢と尻尾を避け、モーラの真紅の長剣を見切りつつ、再度蒼の残像を引きながらモーラに迫る。
初撃の蒼き斬撃波で斬り裂いた背中の傷が癒える時間から回復速度を読み取った優希斗は、ある方針を導き出していた。
(「回復するのであれば、回復速度よりも速く斬る」)
生命を断つまで止まることのない刀舞であれば、決して不可能な業ではない。
優希斗は風のように舞いつつ、疾風の如く走り抜け、モーラの四肢を無数の斬撃で斬り刻む。
「くぅぅぅぅっ……!!」
回復速度を大幅に上回る速さで四肢を激しく斬り刻まれた痛みで、モーラの表情は激しく歪んでいた。
●絶対的支配者の最後
――幾度目かの刀舞が、モーラの背を激しく斬り裂く。
回復速度を上回る勢いで斬られ続け、たまらずサフィリアと優希斗から距離をとったモーラは、優希斗に叫ぶように問いかけた。
「そこの猟兵、私の本質を理解しているのであれば、なぜ私を殺そうとするのでしょう?」
その問いは優希斗に斬られた傷が癒えるまでの時間稼ぎのつもりだったが、優希斗はそれには答えず、さらに速く、深く、蒼月・零式で斬りつける。
「ここで正義の味方を気取っても、あなたは正義の味方にはなれませんわよ?」
続けざまの言の葉は、優希斗を揺さぶるためにモーラが仕掛けた駆け引き。
だが、過去と未来を繋ぐ刀をあえて抜き、支配という名の過去から彼の地を解き放ち、人類に明るい未来を齎そうとしている優希斗には、一切の駆け引きは通用しない。
「……悪いな。俺は正義の味方じゃ無い。只の剣士だ」
己が身を一振りの刀とし、さらに刀速を上げ斬り刻み続ける優希斗には、迷いは一切見られなかった。
――吸血鬼への従属を強いられ続けた過去を断ち切り。
――吸血鬼のいない未来を求める人類の手に取り戻す。
それこそが、猟兵や『闇の救済者』たちが願う未来であり、サフィリアの大切な友達とその仲間たちが求める結果。
一見空腹を満たすため、竜の本能のまま振る舞っているように見えるサフィリアも、胸に秘める願いは同じだろう。
「……いくら支配に抗っても、無駄ですわよ」
モーラが吐き出すようにサフィリアに投げつけた言の葉は、彼女の本音か、長年支配者として君臨した矜持か。
だが、サフィリアには、モーラがいかなる矜持を持とうが関係ない。
……なぜなら、既に獲物と認定しているのだから。
「安心してください、私に獲物をわざと怖がらせる趣味はありませんから……食べられるなら食べますけどね!」
サフィリアは大きく口を開け、牙を見せつけながら青い炎を纏いつかせ、モーラの矜持と生命、双方を焼き尽くした上で食らい尽くすとの覚悟を露わに、頭上から噛みつこうとする。
反射的にモーラは後方に下がろうとするも、優希斗が素早く背後に回り込み超高速の刀舞で押し返し、それを許さない。
下がることすら許されぬモーラの頭上から、サフィリアの巨大な口と青い牙が迫る。
「ひっ……!」
竜の咢を前に、初めて「狩られる」恐怖を味わうモーラの、小さな悲鳴が響いた直後。
――ガツッ!!
モーラの上半身は、噛みついたサフィリアの咢に食いちぎられ。
残った下半身は青き炎に包まれるとともに、優希斗の刀舞で細切れにされ散らされた。
モーラが討たれた直後、レッサーヴァンパイア化していた亡霊たちが一斉に動きを止める。
「ア、ガァ……」
主を失った亡霊たちは、そのまま足元から少しずつ砂となり崩壊した。
かくして、彼の地を支配せしヴァンパイア・モーラは、猟兵の手で討たれた。
――それは、猟兵達にとって、悪しき殺戮者との戦いが迫っていることを意味していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『狂笑戦姫ダエナ』
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POW : 不死者殺しのクルースニクと絶死槍バルドル
【どちらか片方の武器による必殺の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【もう片方の武器による致命の一撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 追想の果て
戦闘用の、自身と同じ強さの【嘗て共に戦った灼滅者】と【嘗て戦ったダークネス】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ : 夢の狭間
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【無数の光の鎖】が出現してそれを180秒封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠白石・明日香」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●【重要】第3章プレイング受付開始日変更のお知らせ
第3章のプレイングは、【8月6日(金)8:31~】から受付いたします。
受付開始以前にお預かりしたプレイングは、いったんお返ししますので、受付開始後に再送をお願いします。
※マスターコメントから変更となっております。ご注意願います。
なお、MSの都合で再送をお願いする場合がございます。
再送をお願いする場合は、MSページとタグ、Twitterで告知致しますので、ご確認いただけますと幸いです。
●全てを壊す『第五の貴族』からの刺客を討て
彼の地の支配者『老獪なヴァンパイア』モーラの消滅を、クレイたち『闇の救済者』の指導者グループは全員で確りと見届けていた。
ふと一息ついて館外に気を向けてみると、館外からの戦闘音はほぼ聞こえなくなっている。
クレイたちはお互い目配せし合い、館の入口の扉を勢いよく開け放って外へ出た。
猟兵達がクレイの後を追おうとすると、ライナが入口を遮るように立ち止まり、猟兵等を促した。
「ここは私たちがなんとかするわ。行って」
恐らく、ライナは猟兵達の真の目的を朧げに察しているのだろう。
猟兵達は頷き合い、館の裏口からそっと抜け出し、黒々と広がる森へと足を踏み入れた。
――小領主討伐を知った『闇の救済者』たちの割れんばかりの歓声を背に受けながら。
●待ち受けしは闘争を求めし刺客
猟兵達が明かりの乏しい森を歩いていると、やがて目の前から殺気が吹き付ける。
「ほう……我の存在に気づく骨のある輩がいたようだ」
猟兵が足を止めると、殺気と共に、右手に紅き刀を、左手に深緑の槍を手にし、黒きコートを身に纏った女吸血鬼――『狂笑戦姫ダエナ』が現れた。
その胸元に光る十字のペンダントの下には、『殺戮者の紋章』が刻まれている。
……おそらく、目の前の吸血鬼が「第五の貴族」の刺客だろう。
突然、ゆらり、とダエナの背後の空間が揺らめくと、一組の男女が姿を現す。
ひとりは、両手に鋼糸を構え、足首までのフレアスカートをなびかせている短めのポニーテールの女性。
もうひとりは、紅の双刀を手にし、同じいろの瞳で神経質に猟兵達を睨む、白マント姿の男性。
「おお……汝らも助太刀してくれるか」
さも懐かしそうに、嬉しそうにつぶやくダエナに、男女はそろって頷いた。
この男女とダエナの関係はわからないが、おそらく彼らは、ダエナの代わりに手にした鋼糸と双刀で攻撃して来るだろう。
もし男女の力を借りなくとも、ダエナは手にした紅の刀や深緑の槍で苛烈に攻め立ててくるであろうことは、想像に難くない。
ダエナは舌で軽く唇を湿らせながら、猟兵達を紅の瞳で確りと見つめる。
先程の男女はいつの間にか姿を消していたが、ダエナは意に介する様子もない。
その青白い肌に張り付いている表情は――さながら闘争と殺戮に飢えた獣。
「我が主『第五の貴族』どもの命で、傲慢にも彼の地を解放しようとする『闇の救済者』とやらを血祭りにあげてやろうと思ったが……汝ら、骨がありそうだな」
紅の瞳をぎらつかせ、口端に狂笑を浮かべたダエナは、にたぁ、と笑みを深めながら、猟兵達に紅の刀先を突き付けた。
「汝ら、我を討ち取るつもりだろう? ならば心の底から果て無き闘争を求め、我に挑んでくるが良い」
笑みを浮かべたダエナの言の葉は、猟兵達にある種の警戒心を抱かせた。
――この吸血鬼の本性は、闘争を求め、血みどろを求める戦闘狂である、と。
「さあ、汝らの戦を求めし本能を存分に曝け出せ! 我と汝ら、何れかが死ぬまで死合おうぞ!!」
その叫びは、心の底から血みどろの闘争を渇望する、ダエナの本心。
あまりにも危険な叫びに呼応するように、猟兵達は其々の得物を構えていた。
『殺戮者の紋章』を授けられたダエナは、おそらくモーラより強い。
だがもし、ここで猟兵達が敗れれば、ライナやクレイたちが苦労の末に築き上げてきた人類砦『ヴェリーナ』は吸血鬼に徹底的に蹂躙され、二度と立ち上がれなくなってしまうだろう。
……それだけは、何としてでも避けなければならない。
さあ、猟兵達よ。
人類砦『ヴェリーナ』を、そして彼の砦にて蹶起した人々を護るために。
そして何より……高らかに立ち昇った反撃の篝火を絶やさぬために。
目の前にて狂笑を浮かべし戦闘狂の刺客を討ち果たし、解放せし彼の地を護れ。
――健闘を、祈る。
※マスターより補足
第3章は「第五の貴族」からの刺客こと『狂笑戦姫ダエナ』との戦闘となります。
『狂笑戦姫ダエナ』は、「第五の貴族」から『殺戮者の紋章』を授かっているため、大幅にパワーアップしておりますが、紋章を攻撃されると弱体化します。
従って、紋章を直接狙うような攻撃を行うと、プレイングボーナスが付与されます。
(ちなみに、ダエナに紋章を与えた「第五の貴族」は、このシナリオには登場致しません)
SPD『追想の果て』で召喚される増援、及びその攻撃手段は以下の通りです。
増援は必ず2名セットで登場しますが、この2名との会話はできません。
【嘗て共に戦った灼滅者】→短めのポニーテールとフレアスカートの女性
手にした鋼糸を猟兵に巻き付け、徹底的に妨害しようとします。
(時間稼ぎ、武器落とし、鎧無視攻撃、捕縛)
【嘗て戦ったダークネス】→紅の双刀を持つ神経質な男性
二刀を光速で振り下ろし、十字型の紅の斬撃波を撃ち出します。
(2回攻撃、斬撃波、鎧砕き、制圧射撃)
ちなみに、もし猟兵達が撤退、ないしは敗北した場合、『狂笑戦姫ダエナ』はその勢いで勝利に酔いしれるライナ達人類砦『ヴェリーナ』の住民を奇襲し、皆殺しにしますのでご注意ください。
――それでは、反撃の狼煙を護るための、悔いなき死闘を。
※追記(8/3)
第2章の判定結果の書き漏らしがありましたので、追記いたします。
第2章の判定の結果、『闇の救済者』指導者たち、およびライナは全員生存となりました。
クレイたち5人は猟兵の動きを知りませんが、人類砦『ヴェリーナ』の皆とともに、彼の地を人類の手に取り戻したことを喜びあっています。
ライナは猟兵達とのかかわりが深いため、猟兵達が別の目的を持って訪れたことを朧げに察しておりますが、それをクレイたちに知らせることはありません。
従いまして、この戦場に『闇の救済者』たちが駆け付けることはございませんので、ご安心ください。
以上、よろしくお願い致します。
北条・優希斗
連携可
―脳裏の片隅を走る記憶
…あの時の奴とは別個体か
しかし鮮血の双刀遣いに、鋼糸を操る少女か…
(朧気に脳裏に走る別の記憶に苦笑)
…これは、俺の罪だ
灼滅者に六六六(ダークネス)
どちらの言の葉も俺が背負い続けると決めた罪の象徴
死にたくなければ―退け
お前達を骸の海に還す事
それが俺に出来る贖罪だからな
先制攻撃+UC
情報収集+戦闘知識+見切りで3体の動きを探り
UC+見切り+残像+ダッシュ+地形の利用+第六感+オーラ防御+軽業
で攻撃回避し肉薄
2回攻撃+薙ぎ払い+範囲攻撃+早業+属性攻撃:蒼+傷口を抉る+鎧無視攻撃
で纏めて敵を一閃
…何度でも言おう
俺は、お前達の追想の果てを知っている
俺は、お前達の類同だからな
●追想の果ての「先」にある世界
闘争の空気に酔い、嗤う『狂笑戦姫ダエナ』を見た北条・優希斗の脳裏に、在る記憶が過る。
――それは数か月前、ある『第五の貴族』を食い破るように現れた、紋章持つ吸血鬼の記憶。
あの時対峙し、斬り捨てた吸血鬼と目の前のダエナは極めてよく似ているため、一瞬同一個体であると錯覚しかけたが、すぐに別個体であると判断した。
なぜなら、優希斗の姿を認識したダエナがニタァと嗤いながら召喚した男女は、あの時対峙した吸血鬼が召喚したそれとは明確に異なったからだ。
ダエナに召喚された、六六六(ダークネス)らしき鮮血の双刀使いは、空間すら威圧する程の威厳を以てダエナの盾となるべく立ち塞がり、灼滅者らしき鋼糸を操る少女は、そのクールな眼差しを優希斗に向けながらも敵意を隠さない。
だが、その男女の姿を認めた優希斗の脳裏に、突然ある記憶が過った。
――世界に重圧かけ荒らそうとした、威厳と神経質を併せ持つ双刀の男性。
――重圧かかりし世界にて男性と相対した、ポニーテールの少女。
(「まさかここで、『彼』と『彼女』に遭うことになろうとはな」)
朧げに脳裏を走り抜ける何処とも知れぬ記憶に、思わず優希斗は苦笑を零す。
「汝、何がおかしい?」
「いや……これは、俺の罪だからな」
『灼滅者』に『六六六(ダークネス)』。
そのふたつの言の葉は、優希斗がずっと背負い続けると決めた、『彼』自身の罪の象徴。
無意識に懐の古びたタロットに手が伸びるが、指先に軽くカードが触れたところで、首を振りタロットから指を離した。
今は朧げな感傷に浸るより、目の前の脅威を排除するほうが先だから。
「そこのふたり、死にたくなければ――退け」
優希斗が漆黒の瞳で見据えるも、ふたりは動かない。
ならば、やることは……。
「……お前たちを骸の海に還す」
――それこそが、俺に出来る贖罪だからな。
優希斗の言の葉を宣戦布告と受け取ったのだろうか。
「ならば汝の贖罪とやらを果たすが良い!」
ダエナが叫び、男女が前に出ると同時に、優希斗の瞳が蒼穹に染まる。
「その瞳……そうか!」
なぜか感嘆の声をあげるダエナをよそに、優希斗は月下美人と蒼月・零式を抜き、一気に男女に肉薄した。
少女が優希斗の行く手を遮りながら、二刀を絡め取るべく鋼糸の先端を放ち。
「――――!!」
男性が何かを叫びながら双刀を十字に構え一息に振り下ろし、十字型の紅の斬撃波を優希斗に放つ。
だが優希斗は、蒼穹の瞳でその行動を先読みしたかのように身体を捻って斬撃波を躱し、月下美人で鋼糸の先端を斬り捨てた。
男性が双刀を振り下ろした一瞬、叫んだ言の葉が記憶の片隅に引っ掛かるが、優希斗は気にせず一気に双刀使いと鋼糸を操る少女に迫り、蒼月・零式でふたりの手前の空間を鋭く薙いだ。
――斬ッ!!!!
「…………!!」
空気だけでなく空間すら横に断ち切られるかのような鋭い一閃を、双刀使いは真正面から双刀で受け止めつつ後退し、女性はバックステップで後ろに下がる。
ふたりが距離を置いた隙に、優希斗は一気に男女の間を駆け抜け、ダエナに接敵した。
「なかなかやりおるな!」
盾代わりとなっていたふたりを突破されたにも関わらず、感嘆の声をあげるダエナ。
ダエナの胸元の十字のペンダントを間近に見た優希斗は、一瞬、息を呑むが、背後から追いかけてくる気配を察知するとすぐに意識を切り替え、蒼月・零式でその下の紋章ごと一息に斬り裂いた。
――斬ッッッッ!!
「ぐっ……ハハハ……アハハハ!」
『殺戮者の紋章』ごと斬り裂かれた胸を押さえながら、ダエナは後ろにフラリと下がりつつ、突然笑いだす。
優希斗を追いかけてきたふたりは、ダエナが斬り裂かれると同時に姿を消していた。
「ハハハハハ! 汝、とうとう闇に身を委ねたか!」
傷口を押さえつつ高笑いを止めないダエナは、その視線を蒼穹に変化した優希斗の双眸へと向けつつ、楽し気に語り始める。
「その目を見ているとあ奴を思い出すぞ! あ奴が闇に近づいた今の汝を見たらどう思うだろうなあ?」
「……何度でも言おう。俺は、お前たちの追想の果てを知っている」
「そうだろうそうだろう。汝は我の……我らの同類だからな!!」
静かに告げる優希斗に対し、楽し気なダエナの言の葉の端々には、尊大さを崩さぬ一方、何処か懐かしむような雰囲気が漂っていた。
おそらく、ダエナにもどこか記憶に引っ掛かるところがあるのだろうか。
それとも……優希斗が抱える底知れぬ闇を感じ取ったのだろうか。
だが、優希斗は首を軽く横に振りながら、ダエナにはっきりと告げた。
「俺は、お前たちの類同だからな」
……と。
――ダエナと己とは、似て非なる存在であると明確に突き付けるかのように。
大成功
🔵🔵🔵
真宮・響
【真宮家】で参加
コイツ、物凄く強いね。不遜とも言える言葉は絶大な実力を兼ね備えているからこそ言える事。纏うオーラも構えも隙が無い。
これは奴の言う通り本気で闘争を望んで死ぬ気でやらないと勝てないね。ヴェリーナ砦の未来の為に、本気でやってやるさ(真の姿解放。黒髪になり金目になる)
まず奴の初撃を避ける事に専念する。【残像】【見切り】を併用して【戦闘知識】で奴の攻撃の軌道を見切る。回避しきれなかった分は【オーラ防御】で補う。回避成功不成功に関わらず、【フェイント】を掛けて【カウンター】気味に胸の紋章に直接【怪力】【気合い】【重量攻撃】で渾身の炎の拳を突き入れる。更に【追撃】で蹴っ飛ばしてやるか。
真宮・奏
【真宮家】で参加
この人、強いですね。挑発ともいえる言葉は自分の力に絶対な自信を持っているからこそですし、どこをみても隙が見当たらない。
無闇な闘争は望みません。でもヴェリーナ砦の未来を護る為なら本気の闘争に身を投じましょう(真の姿解放。黒髪になり金目に変化)
敵の初撃は風の妖精騎士に受けて貰います。私も油断せず【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で万全の防御体勢を。母さんの方に向く攻撃は【かばう】でなるべく私が引き受けます。
恐らく防御で精一杯になるでしょうが、攻撃する余裕が出来たら【怪力】【グラップル】で胸の紋章を直接攻撃します。
神城・瞬
【真宮家】で参加
確かにコイツは強いでしょうね。確かな実力を兼ね備えている故の言葉、纏うオーラ、隙の無い構え。
敵の言う通り本気の闘争をするつもりで戦わないとこの敵には勝てない。本気の闘争、受けて立ちましょう。(真の姿解放。銀髪になり、両目が赤くなる)
【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を仕込んだ【結界術】を【高速詠唱】して【範囲攻撃】化して2人に向かって展開。更に裂帛の束縛を使用。女性は接近戦が主な分、近づく前に対処すればなんとかなりそうですが、男性の遠距離攻撃は【オーラ防御】【第六感】【仙術】を駆使して凌ぎたいですね。更に【追撃】で【衝撃波】を叩き込めれば。
●傲慢不遜ゆえの実力は
双刀の剣士が撤退した後、入れ替わるように『狂笑戦姫ダエナ』と対峙した【真宮家】の3人の意見は、声に出さずとも『この刺客は間違いなく強い』と一致していた。
「コイツ、もの凄く強いね」
これまで数多くのオブリビオンを相手取って来た真宮・響も、ダエナの纏うオーラと構えの隙の無さを目の当たりにすれば、その呟きは歯の隙間から絞り出すような声になってしまう。
「ええ、どこをみても隙が見当たらない」
「確かな実力を兼ね備えている故の言葉、纏うオーラ、隙の無い構え……どこをとっても強い」
母に同意するかのように頷いた真宮・奏と神城・瞬の声も、ダエナのオーラに威圧されたのか、やはり呻くようなそれになっていた。
たとえ傲慢不遜であったとしても、それ相応の実力がなければ、『第五の貴族』から「殺戮者の紋章」を授けられた刺客にはなり得ないだろうから。
――つまり、『紋章』を授けられた時点で、かなり強い吸血鬼ということになる。
「これは奴の言う通り、本気で闘争を望んで死ぬ気でやらないと勝てないね」
「同感です。敵の言う通り……本気の闘争をするつもりで戦わないと勝てない」
響と瞬の背筋に、緊張と恐怖からか、大粒の冷汗が伝い落ちる。
ダエナが求めているのは、本気かつ全力の闘争。
刺客が闘争を求めるのも妙な話ではあるが、闘争の果てに『第五の貴族』が不快感を抱く不遜な輩を討ち取ることに繋がるのであれば、それは無謀でも無茶でもない、妥当な選択。
相手がそれを求めているのであれば、無闇な闘争は望まぬ奏も拒否はできない。
……何より、自分たちの背後には、守るべき人々がいるのだ。
「ヴェリーナ砦の未来を護る為なら、本気の闘争に身を投じましょう」
「ならば僕も、本気の闘争、受けて立ちましょう」
奏の茶髪が漆黒に染まり、紫の瞳が金に染まると同時に、瞬の金髪も銀に染まり、金の瞳が血のような紅に染まる。
「ああ、ヴェリーナ砦の未来の為に、本気でやってやるさ」
真の姿を解放した子供たちを見て、響も黒髪金瞳の真の姿を解放し。
「本気になったようだな。さあ幕を上げようか! 果て無き闘争の幕をな!!」
ダエナも右手の紅の刀「不死者殺しのクルースニク」と、左手の深緑の槍「絶死槍バルドル」を構え。
――刺客が求める激しい闘争の幕が上がった。
●闘争とは間断なき攻撃か
先手を取ったのは、ダエナ。
「準備は終わったか? ならば我から行くぞ!」
絶死槍バルドルを構え、無造作に突撃するダエナの狙いは、響。
(「奏や瞬じゃなくてアタシか!」)
おそらく、ダエナは最も年上に見える響が、この3人の中で最も戦の経験が豊富だと見て取ったのだろう。
ダエナが間を詰めてから初撃で絶死槍バルドルを突き出すと見た響は、絶死槍バルドルの穂先を目で追い続けていたのだが。
――突然、ゾワリと背筋に奇妙な寒気が走り抜けた。
「!?」
不安に駆られた響は、両足で地面を力強く蹴り、ダエナの突撃を避けるように残像を引きながら右側へ飛んでいた。
直後、響の残像を頭からかち割るように、ダエナの右手の不死者殺しのクルースニクが大上段から振り下ろされる。
不死者だけでなく生者のいのちすら啜る刀は、あえなく残像の身を斬り裂き、地を叩いていた。
かろうじて初撃を躱した響は、すぐさま再度地面を蹴って残像を引きながら右に飛ぶ。
直後、今度は絶死槍バルドルの強烈な突きが、響の残像を吹き散らした。
――ダエナの二刀流は、その性質上、初撃を躱せば次撃は当たらない。
しかし、不死者殺しのクルースニクと絶死槍バルドル、どちらが初撃に使われるかは、寸前までわからない。
響はダエナが絶死槍バルドルを構えていたため、そちらが初撃だと思い込んでいたが、戦士としての勘で実際は不死者殺しのクルースニクが初撃と気づき、寸前で飛び退いて回避していた。
もし気づかなければ、今頃不死者殺しのクルースニクで頭を割られていたか、それとも絶死槍バルドルで心臓を貫かれていたか。
(「強い……!」)
改めて、傲慢不遜な発言が、強さを過大評価させるためのハッタリでも何でもなく、実力相応の発言であったことを思い知らされる、響。
初撃の回避と同時にフェイントをかけ、そのまま真正面から拳を叩き込んでやるつもりだったのだが、相手が先にフェイントをかけたのであれば、果たして真っ当にそれができたかどうか。
奏が割り込む隙すら与えぬ連撃に、響だけでなく、奏の背筋にも冷汗がつたう。
母を守るつもりではあったのだが、その母を欺くような連撃を平然と繰り出すような相手から、母を守り切る事はできるのか?
だが、ここで怯んだら、ヴェリーナ砦の皆を守ることなどできるはずもない。
「風の妖精さん、力を貸して下さい!!」
己が心を奮い立たせた奏は、魔力の籠められた魔法石を代償に風の妖精騎士を召喚し、並び立たせる。
「汝には守る者がいるのだろう? ならば闘争の果てから守って見せよ!」
体制を立て直したダエナが、奏に絶死槍バルドルの穂先を向け、突撃する。
先ほどは槍がフェイク、本命の初撃が刀だったが、次は……?
「風の妖精さん、槍を止めて下さい!」
ダエナの腕のわずかな動きから槍が本命だと予想した奏は、風の妖精騎士に願い、絶死槍バルドルの動きを警戒させる。
直後、絶死槍バルドルが奏の心臓を狙って突き出されるが、割り込んだ風の妖精騎士が槍と剣を交差させ受け止めた。
そのまま絶死槍バルドルの穂先を絡め取り、地面に落とそうとした、その時。
「その程度で我が槍が止まると思うたか!!」
ダエナが絡め取られようとしていた絶死槍バルドルを勢いよく押し込み、風の妖精騎士が手にしていた槍と剣を弾き飛ばした。
大きく体勢を崩した風の妖精騎士の胸を一気に押し込まれた深緑の槍が貫くとともに、不死者殺しのクルースニクが逆袈裟に振り上げられた。
「――――!!」
紅の刀で胴を深々と斬り裂かれた風の妖精騎士は、あっけなく消滅。
余りのあっけなさに、奏が顔面蒼白になった。
己が魔力をかなりつぎ込んだ魔法石を代償にしたにもかかわらず、瞬殺に近い速さで妖精騎士を消滅させられては、全く動くこともかなわない。
だが、それでも。
(「今度母さんが狙われるようなら、私が……!」)
守り手としての決意で己が心を奮い立たせた奏は、改めてダエナの挙動に目を光らせていた。
●後衛あってこその前衛
響を軽くいなし、奏の妖精騎士を二撃で消滅させたダエナの視線が、ゆっくりと瞬に向く。
「そこな男よ、後ろで見ているだけか!?」
ならばこちらから、とダエナがより一層狂笑を深めるとともに、ゆらりと空間が歪む。
やがて、空間の歪みから、鋼糸を手にした短いポニーテールの女性と、紅の双刀を手にした神経質そうな男性が現れた。
「真に恐ろしいのは前線に立つ者に非ず……特に汝はよく知っているはずだな?」
女性は一つ頷くと、鋼糸を手に、響のすぐ横をすり抜けるように走り抜ける。
恐らく、彼女の狙いは、響や奏ではなく……瞬。
「瞬!!」」
「瞬兄さんの下には行かせません!」
咄嗟に奏が女性の行く手を遮ろうとするが、もともと響への攻撃を想定して防御態勢を整えていたため、反応が一瞬だけ遅れる。
その隙に、女性は奏の脇を風のようにすり抜けながら、鋼糸の先端を瞬に投げつけていた。
「!!」
驚く瞬の目の前で、鋼糸は狙い違わず、瞬が手にする六花の杖に巻き付く。
瞬も決して油断していたわけではないのだが、目潰しと麻痺毒の結界を展開する前に攻め込まれては、結界の展開が間に合わない。
(「少々甘く見ていましたか……!」)
鋼糸を手にする女性は、一見するとさほど強そうには見えない。
だが、ダエナが追想の果てから召喚した存在は……ダエナと同等の強さを持つ。
実際、女性はあまり運動が得意そうに見えないにもかかわらず、響や奏を容易にすり抜けたことから、その身のこなしと判断力はダエナとほぼ同程度あると見て良いだろう。
そして、動きを見せぬ神経質な紅の双刀の男性の強さも、おそらくほぼ同じ。
現状は……実質、ダエナを2体同時に相手しているに等しい状態だった。
六花の杖を鋼糸で絡め取った女性は、そのまま両手で勢いよく鋼糸を引く。
「くっ……!」
瞬も両手で杖を握りしめ、女性に奪い取られぬ様必死に抵抗するが、その間に男性が口端に歪んだ笑みを浮かべながら紅の双刀を十字に振り下ろし、十字型の紅の斬撃波を瞬に放った。
「ダメです!!」
急ぎ割り込んだ奏が翠のオーラをエレメンタル・シールドに集中させ、全力で紅の斬撃波を受け止めるが、それでもなお、斬撃波の圧力にエレメンタル・シールドが押し込まれ、徐々に後退する。
(「せめて瞬兄さんが結界を張れれば……!」)
奏が願っても、肝心の瞬が手を離せないのでは、結界を張ることもかなわない。
女性と瞬が、男性と奏が、それぞれ一進一退の攻防を繰り広げていた、その時。
――ドゴォッ!!
――ベキベキベキ……ッ!!
「ぐふッ……!!」
突然、ダエナのくぐもった呻き声が響いた。
敵方の呻き声に驚いた瞬と奏が目にしたのは、胸骨や肋骨が折れる音を黒き森に響かせつつ、派手に吹っ飛ばされるダエナの姿。
直後、瞬と奏を追い込んでいた男性と女性は、最初からいなかったかのように消滅した。
そして、ダエナを吹っ飛ばしたのは……。
「瞬、こういう時は杖に拘るな!! 奪われたら取り返せばいい!!」
「母さん!」
致命的な二撃を回避してから、その姿を見なかった、響。
強き母の拳は、いつの間にか高らかと燃え盛る赤熱の炎に覆われていた。
●闘争と守護は両立せり
大火力かつ致命的な一撃を必死に回避した後、響はダエナの動きを観察し、気が付いていた。
――男女が現れている間、ダエナ自身は一切攻撃する素振りを見せていないと。
そこで響は、男女が奏と瞬を翻弄している間にお得意の隠密でこっそりダエナに接近。至近距離から炎を纏った拳を直接『殺戮者の紋章』に叩き込んでいた。
かつて共闘した女性とかつて対峙した敵とを従え、愉悦に浸っていたダエナに、それをかわす術はほぼなく。
……結果、響の拳を真っ向から受け、吹き飛ばされた。
「奏!」
「これまでのお返しです!」
母の鋭い声に反応し奏がシルフィード・セイバーを縦に振り下ろし、翠の衝撃波を放ち、さらに『殺戮者の紋章』を穿とうとする。
「甘い甘い甘い!」
ダエナがそれに応じ、不死者殺しのクルースニクで衝撃波を叩き割ろうとするが。
――ギンッ!!
直後、甲高い金属音とともにダエナの周囲の空気が重苦しく変質した。
「結界か……!」
突然水に満たされた水槽に放り込まれたかのように全身の動きが鈍り、紅の刀を振り下ろす速度も目に見えて落ちる。
結果、翠の衝撃波は紅の刀に叩き割られることなく、『殺戮者の紋章』を直撃した。
「おおお……おおおおおおお!!」
「動きを縛らせて貰います!! 覚悟!!」
ようやく麻痺毒と目潰しの結界を展開した瞬が六花の杖を地面に突き立てると、ダエナの足元からアイヴィーの蔓とヤドリギの枝、藤の蔓が地面を突き破り急速に成長、ダエナに纏わりつく。
硬さもしなやかさも異なる3種の蔓は、ダエナの武器と全身を一気に縛り上げ、その動きを封じた。
「くっ……それが汝の闘争か……!」
「ふたつの光に寄り添う事が、僕の役目であり……僕の闘争ですから!」
再度振りかざされた六花の杖から放たれた銀の衝撃波が、ダエナの胸元に命中、さらに『殺戮者の紋章』を深く抉り取る。
「ぐあああああああああ汝らああああああ!!」
「アタシたちの闘争は、誰かを守るための闘争でもあるんだよ!!」
蔓を引きちぎらんと藻掻くダエナの前に立った響の三度赤熱した拳が、完全に動きを封じられているダエナの胸に穿たれた。
――ドゴォッ!!
「が、がああああ!! 汝らは、汝らはあああ!!」
再び炎の拳で『殺戮者の紋章』を焼かれたダエナは、徐々に『殺戮者の紋章』で得ていた力が抜けるのを感じながらも、なす術なく絶叫するしかできなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
サフィリア・ラズワルド
POWを選択
キリのない戦い、時々、ちょっとだけ考える、本当に私達がすることは正しいのか私達の戦いに意味はあるのか、命を削ってまですることなのかって、本当に一瞬だけだけど答えはいつもすぐに出る、YESだ、私達が負けて世界が滅ぶならそれがその世界の運命だ、でも誰か一人でも諦めず全力で戦ってる内は滅ぶ運命にない
だから戦いましょう、私達は世界の一部なんですから、これが正しい猟兵と過去の在り方なんだから
四つ足の飛竜になって青い炎で戦います…あれ?なんかいつもと姿が違う様な?…まぁいっか、行きますよ!
なんか不思議な感じ、闘争本能が渦巻いてるのに頭はすっきりしてる、負ける気がしません!!
アドリブ協力歓迎です
ミーナ・ヴァンスタイン
魔導水晶のナイフを右逆手、左手の聖銀の剣を正面に構える。
「吸血鬼はこの手で殺すだけよ」
真の姿である真紅の魔眼と漆黒の翼をもつ吸血鬼の姿に変化し、敵の攻撃を魔眼の動体視力強化と第六感で見切り、最小限の動きで回避しながら接敵する。
「手加減できる相手じゃないわね」
もし、回避しきれないなら残像を囮に敵の正面か真上に瞬間移動し、紋章を狙い怪力で刺突を放つ。
「そこよ」
光の鎖が襲ってきた瞬間、魔導水晶の刃で鎖を受け止めUCを発動。カウンターで鎖を相手へ反射する。
「貴女の夢はここで終わりよ」
光の鎖で動けない隙に、今度こそ自分のロザリオと同じ十字架のペンダント、その下の紋章めがけて聖剣を突き刺す。
「さようなら」
●闇の世界における「正しさ」とは
「汝、ら、よくも……」
『第五の貴族』の刺客『狂笑戦姫ダエナ』は、猟兵達に斬り裂かれ、穿たれ、炎で焼かれ力を失いつつある『殺戮者の紋章』を右手で押さえながらも、なお闘争心に突き動かされていた。
その姿を目撃したのは、いったん竜から人型に戻り、先の猟兵と交代するように黒き森の真っただ中に駆けつけたサフィリア・ラズワルド。
(「このヴァンパイアが、ライナさんたちを、砦の皆を虐殺しようとした刺客?」)
「だがこれよ……これこそが我が求めし闘争よ……」
左手の深緑の槍――絶死槍バルドルを杖代わりに立ち上がり、駆け付けたサフィリアに突き付けようとするダエナを見て、サフィリアの脳裏にふと、ある考えが過る。
(「これじゃキリのない戦い……でも時々、ちょっとだけ考える」)
「サフィリア、何を考えているの?」
共に駆けつけたミーナ・ヴァンスタインが、すらりと得物を抜く気配を察しながら、サフィリアは脳裏に時々澱む想いを吐き出し始める。
「本当に私達がすることは正しいのか、私達の戦いに意味はあるのか、命を削ってまですることなのかって……一瞬だけだけど」
それは普段、命を削り、理性を削り、竜の姿をとって戦う事が多いサフィリアだからこその疑問であり、不安。
なるほど、とミーナは一つ頷き、自分なりの解を淀みなく紡いだ。
「私は吸血鬼はこの手で殺すだけだから」
魔導水晶のナイフを右逆手、左手の聖銀の剣を正面に構えながら、迷いなく答えるミーナの姿を見て、サフィリアは僅かに表情を緩める。
「サフィリアも、本当はもう、答えは出ているのよね?」
「大丈夫。答えはいつもすぐに出るから」
――YESだ、と。
ミーナも僅かに表情を緩め、耳を傾けるのをそれとなく察しつつ、サフィリアは想いを吐き出すように紡ぎ続ける。
「私達が負けて世界が滅ぶなら、それがその世界の運命」
骸の海に浮かびし世界は、猟兵がオブリビオン・フォーミュラを討ち取れねば、いずれ滅ぶ運命に支配されし世界。
それは、このダークセイヴァーも例外ではない。
だが……それでも。
「誰か一人でも諦めず全力で戦っている内は、滅ぶ運命にない」
徐々に力強さを取り戻すサフィリアの言の葉に、ミーアはそうね、と同意しつつ。
「私の街の人々も、ライナやアイラたちも、諦めることは決してないわね」
「ええ、だから戦いましょう、私達は世界の一部なんですから」
――これが、正しい猟兵と過去の在り方なんだから。
サフィリアとミーナが頷き合うのを見て、黙って耳を傾けていたダエナが口を開く。
「……その理屈なら、我らが我らの支配を保つために、汝ら猟兵を踏み躙ることもまた、正しい世界の在り方ということになるぞ」
ダエナの言に、サフィリアとミーナは僅かに息を呑む。
ほんのひと時、闘争心を抑えて「刺客」としての立場で発するダエナの言もまた、正しい世界の真理ではあるのだから。
――支配に抗うために戦う、人類と猟兵。
――支配を維持するために戦う、ヴァンパイア等オブリビオン。
そのいずれもが正しく、いずれもが誤りとも言うのであれば。
結局最後に辿り着く結末は……お互いの意地と信念のぶつかり合い。
「私は貴女がどう言おうが、信念は変わらないから」
「ええ、今は戦うだけです」
サフィリアとミーナの意は、決して変わらぬ。
そう悟ったダエナは、紅の刀――不死者殺しのクルースニクを大きく振り上げながら、高らかに宣告した。
「ならば……最後に思う存分信念とやらをぶつけるが良い。闘争の果てまで突き進もうぞ!」
――人類砦『ヴェリーナ』の命運がかかった、最後の戦いの始まりを。
●竜神たる資格をもちし竜人
(「共に行こう私の竜よ、私の人と共に夜明けと成ろう」)
無意識に普段と異なる言の葉を紡ぎ、再び竜の姿をとったサフィリアだが、早々に違和感に気づく。
(「あれ? なんかいつもと違う姿の様な?」)
先ほど、ある剣士とともにモーラと戦ったときは、白みがかった白銀竜の姿をとっていたはず。
だが今は……高貴な銀の輝きを纏った、銀白竜の姿をとっていた。
しかも白銀竜の姿をとっている時と異なり、寿命や理性が削れる気配が全くなく、闘争本能は渦巻いているのに頭の中はスッキリしている。
――彼の姿の正体は、将来竜神になる可能性を秘めた、サフィリアの新たな真の姿。
自分が正しいと思える戦に臨もうとしているからこそ、取れるようになった新たな姿ではあるけれど、己がルーツを知らぬサフィリアには銀白竜が示す意味は悟れない。
だが今は、確りと理性を保ちながら、友達の為に戦えれば、それでよい。
「まぁいっか……いきますよ!」
ダエナが得物を手に迫るより早く、サフィリアは無造作に息を吸い込み、思いっきり炎を吐き出す。
その炎を見たサフィリアは、二度驚いた。
先ほどまで灼熱の炎だったが、今吐いたのはそれよりさらに高温の、青き炎。
「ぐうっ!?」
本能的な危機を察し、咄嗟に回避するダエナに、サフィリアは再度頭を向け、炎を吐き出す。
白銀竜の姿で戦う時と似て非なる不思議な感覚がサフィリアを包み込んでいたが、それでも負ける気はしなかった。
――この戦いは、友達を、砦を守るための『正しいと思える』戦いなのだから。
●吸血皇女が絡め取るのは夢の狭間に揺蕩う光
一方、ミーナは魔導水晶のナイフと聖銀の剣の二刀流で、ダエナの不死者殺しのクルースニクと絶死槍バルドルの二刀流に対抗する。
先に対峙した猟兵達が『殺戮者の紋章』の力をかなり削いだとはいえ、もともと戦には長けているのだろう。
真紅の魔眼で不死者殺しのクルースニクや絶死槍バルドルの軌道を見切りつつ、最小限の動きのみで回避し、時に残像を囮に用いながらダエナの目を惑わせ、聖銀の剣で『殺戮者の紋章』を穿つ機会を伺うが、なかなか隙を見いだせていない。
「ククク……その力、惜しい、惜しすぎる」
袈裟に振り下ろされた聖銀の剣を絶死槍バルドルの鍔で受け止めながら、ダエナは嗤う。
「汝が『こちら側』の存在だとしたら、さぞかし優秀な先兵となっただろうに」
それは、ダエナにとっては精一杯の褒め言葉であるのだが、ミーナは答えない。
そもそも自身の親たる吸血鬼も、ミーナ自身の手で討っている。
――吸血鬼は嫌悪の対象であり、許せない存在。
ゆえに、ミーナがダエナの言う『こちら側』……吸血鬼側に与することは、ない。
「吸血鬼は、全てこの手で殺す」
「ならばその手を、その反逆の証たる水晶を我が鎖で奪わせてもらおう!」
ダエナが夢の狭間を見るかのように焦点合わぬ瞳を地に向けると。
――ザアアアアアアアッ!!
突如、ミーナの足元の地面を突き破り、無数の光の鎖が現れた。
けして辿り着けぬ夢の狭間から召喚された、意志を持つかのように自らうねる光の鎖は、ミーナが手にする魔導水晶のナイフと聖銀の剣に巻き付き、ミーナの動きすら封じんと自らの身を伸ばす。
もし、鎖に武器を取り上げられ、全身を拘束されてしまえば、ミーナは一気に窮地に陥りかねない。
たとえ真紅の魔眼を持つ身であっても、無数の光の鎖の動きを全て見切り、回避するのは至難の業。
だが、光の鎖が迫るミーナの口元には、微かな笑みが浮かんでいた。
「無数であることこそが弱点……数があれば良い、というものではないわ」
「汝、何を戯言を……」
ダエナの言を遮るように、ミーナは魔導水晶のナイフを自ら光の鎖に差し出すよう、突き付ける。
(「阿呆か? ナイフを封じる事こそが我が狙いなのだぞ?」)
「自ら得物を手放すか。よかろう!」
ダエナの嘲笑と同時に、差し出されたナイフの刃先に光の鎖が巻き付いた瞬間。
「貴女の夢はここで終わり――貴女の魔力、頂くわよ?」
冷ややかな死の宣告と共に、突然ダエナの足元の地面がうねり始めた。
「何?」
――ザアアアアアアアッ!!
突如地面を突き破るように現れた「無数の光の鎖」は、瞬く間にダエナの紅の刀と深緑の槍を奪い取り、全身を拘束。
「鎖、だと……っ!!」
己が召喚した鎖と似て非なる魔力を持つ光の鎖は、ダエナと異なる意思の下で、強くきつくダエナを縛り上げ、締め上げ始めていた。
●狂笑浮かべし刺客の最期
「ぐ、あ……っ!!」
全身を光の鎖で縛りあげられ呻くダエナの目の前で、別の鎖が奪い取った不死者殺しのクルースニクと絶死槍バルドルが遥か遠くに放り投げられる。
(「我を縛る鎖は……まさか、あの聖女の!!」)
「この鎖は、汝が……よくも奪いおって!!」
「気づいたところで遅いわね」
カラクリに気づかれても冷ややかな口調は崩さぬまま、ミーナは光の鎖に差し出した魔導水晶のナイフを地面に突き立てる。
ナイフに吸収された魔力が解放され地に浸透し、ダエナを拘束する光の鎖に注ぎ込まれると、鎖はより一層光り輝き、ダエナの全身をより強く絞め上げた。
「っがああああああああああ!!」
全身に走る激痛から逃れようと、ダエナも必死に身をよじるが、ミーナの魔力に加え、ダエナが召喚した鎖の魔力が注ぎ込まれた光の鎖に固く縛り上げられた身体はびくともしない。
身動きとれぬダエナに近づいたミーナは、胸元に露出する『殺戮者の紋章』に、毒や呪い、魔術すら断ち切る聖銀の剣の剣先を突き付ける。
――己が胸に煌めくロザリオと同じ、十字のペンダントの下に隠れた紋章に。
「さようなら」
――グサッ!!
一息に押し込まれた聖銀の剣は『殺戮者の紋章』ごと胸を貫き、背にその刃先を露出させる。
「ぐっ……ぐぅぅぅぅぅぅ!!」
だが、それでもダエナはまだ、呻きながらも身をよじっていた。
「サフィリアさん、後は任せたわ」
「はい! ライナさんを、ヴェリーナ砦のみんなを闇討ちしようとしたあなたは、許さないから!」
ミーナに代わり前に進み出たサフィリアを見て、ダエナは何かに駆られるかのように叫ぶ。
「この、竜が……リュウジンが!!」
銀白色に神々しく輝くサフィリアを見て、吐き捨てるかのように発せられたダエナの声は、僅かに裏返っている。
その声に宿っていたのは……ダエナすら気づかぬほどの、わずかな畏怖だった。
――彼の竜は、果たして竜神なのだろうか?
――それとも、神に至る資格持つ竜人なのだろうか?
神々しく見える銀白竜の姿に、ダエナが恐れ戦くのを見つめながら、サフィリアは大きく息を吸い込む。
「あなたのような刺客に、ライナさんは、砦のみんなは殺させない!!」
――ゴウウウウッ!!
サフィリアが一気に吐き出した高温の青き炎は、あっという間にダエナの全身を包み込んだ。
「がああああああ!! 第五の貴族を甘く見るな、いつか貴様らは無惨にも蹂躙される……!!」
呪詛とも断末魔ともとれる言の葉を吐き出したダエナの身体は、青き炎に蹂躙され、あっという間に焼き尽くされた。
ダエナが欠片ひとつ残さず消滅するのを見届け、サフィリアは銀白竜の姿のまま、ミーナと共に館のほうへ視線を向ける。
館の方角から届く彼の地の解放を喜ぶ人々の歓声は、いつしか黒き森に木霊し始めていた。
かくしてこの日、人類砦『ヴェリーナ』にて力を蓄えていた『闇の救済者』たちの手によって、彼の地はヴァンパイアの支配から解放された。
大成功
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