22
紛い物八方街にて、流血沙汰

#サクラミラージュ #逢魔が辻 #敵の損傷は幕間にも記載しております

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
🔒
#逢魔が辻
#敵の損傷は幕間にも記載しております


0




●八方街
 ――嗚呼、ここは紛い物の街『八方街』
 浅草十二階が民衆の喝采を受けた、ならばうちは十三階だ!
 かつて鹿鳴館にて西洋歓待、華族会館として落ちぶれた夢よもう一度と馬走館を竣工を決める。
 浅草六区の演劇場にオペラとくるならうちはキネマを中心に添えてより大きな芸能街となろう!
 格子の向こうより手を振る遊女、吉原なんざ湿っぽい。煌びやかに新しく、しかし殿方の欲望果てしなく満たす娼館街も作りましょう?
 ――全てが借り物、何処かで見た発想。
 人の欲は尽きぬとは謂いますが、同じモノを喰わされたって満足なんぞしやしない。新しもの好きの民衆は見向きしない。だから資本家も金の払いが渋くなる。
 そうしたら当然、彼方此方で半端に放られた未完成の建物が有象無象。

 五階までは作られた八方塔、
 先に運び込まれた西洋賭博のルーレット台にビリヤードが目に鮮やかな、大きなだけのあばら洋館、
 看板に描かれたスタア哀しの劇場モドキ、
 等々。
 ――歓楽に足る見かけ倒しは概ねある。見かけ倒しだけどね?
 いつしか『八方街』は、金だけ喰った黒歴史として、誰の唇にものぼらなくなっちまう。
 そもそもが、円タクが渋る辺鄙な立地、傷浅く済んだがあながち嘘でもない。
 通った電氣も金払いが悪くなりゃあ所々つかなくなっていくし、発展を夢見て暮らした労働者も徐々に目減りする。

 そんな紛い物の街に夜の帳が、堕ちる。

『朝になったら、千回は斬られたお偉いさんと愛人さんの死体が出たんだってね』
『ありゃあ……人の死体かい? デタラメに捻られて匣みてぇなにされてたぜ?』
『帝都桜學府の学生さんが入った後は、ずっと硝煙の臭いに満ちていたよ』
『でも誰ひとり帰ってこなかった』

 帝都桜學府は八方街を認定す――逢魔が辻、と。
 あの紛い物の街を見て見ぬ振りして、人の記憶から消えるのを座して待つしか、ない。


●グリモアベースにて
「夜の先に行ってくれないかい?」
 帝都の地図を背にして、着崩した学生服の碌でなし大学生という風体の男、比良坂・彷(冥酊・f32708)は酒と煙草の混ざった息で語る。
「帝都桜學府の学生さんじゃァ手に負えないの。俺も行きたかったんだけどさぁ」
 死にに。
 死と、死と、死ばかりを望む学生崩れは、夢見るように暴力にて殺されることを話すのだ。それはそれは羨ましげに。
「失敬、話がそれちゃったね」
 地図へもたれかかり続ける。
「俺は一介の学生さんとして行きたかったんだけど、視えちゃった。そしたら学校のえらいさんから、あんたらに話通せって頼まれちゃってね」
 埒外の存在ならば、夜の帳の向こうの逢魔が辻でも対等に戦える。願わくば、巣くいし影朧を全て挽きつぶして欲しいとの甘い期待。
 ここで一服と煙草を咥えりゃ手元に火がつく。マッチの薬剤が漂い煙が空間を白くそしてぼやかした。
「結構な数がいる、でもって純粋に強い。あんたらなら死にゃァしねぇでしょって、それぐらいしか楽観できる情報はねぇかな。ああ? どんな奴がいるって?」
 左手に煙草を持ち、彷は視線を上に彷徨わせる。
「まず出てくんのは仕込み杖振り回す時代遅れのオッサン達。
 人が斬りたくってしょうがねぇ奴らね? 武士らしく生きて散りたいって……後ろ側は俺と気が合いそうだわ。でもこの人達は通り魔で相手選ばずだから、やっぱ違うか」
 賭場にくる奴らは一攫千金浅はかに夢見るだけで無辜の人とは大違い……なァんてこの博徒は話が逸れがちだ。
「ごめんごめん、俺からの話はこれで終わり。じゃあ存分に殺して殺して満たされといで」

 猟兵ですら無傷では済まないこと請け合い。
 体内の血を棄てるように流して、えぐり出された肉を地面に躙って、逢魔が辻に巣くう奴らを殺せ。


一縷野望
 オープニングご覧いただきありがとうございます
 流血沙汰はお好きですか? 私は大好きです

>このシナリオに向いてる人
・ダメージ喰らって血みどろになりたい、死にかけたい
・自キャラ瀕死じゃないと発動しないUCを使いたい
・学生さんや娼婦の死体も転がってるので、UCで屍使いをしたい
・どさくさに紛れて一緒に来た人と殺し合いしたい(死ぬまではいきませんが)
・赤丸溜めてラストに真の姿やりたい
・大正建造物(の出来損ない)を利用して戦いたい
・味方の傷を回復して戦線維持をしたい

>章の敵テイスト
1章目:斬り合い
2章目:ぐちゃあ
3章目:銃撃と銃剣、強い

>採用人数
 出来るだけ流さずにがんばりたいですが蓋をあけないとわかりません
 プレイングをいただいて書きやすそうな方から書いていきます
 募集開始はタグと雑記にてお知らせします

>同行
 3名様までOK。それぞれプレイング冒頭に【チーム名】お願いします
 1章目と2章目に同行でいらした場合のみ「どさくさに紛れての殺し合い」が可能です(冒頭に『殺』の文字、双方に記載がある場合のみ受理します。また敵も襲いかかってきます)

>注意点
 辛勝前提です、無傷では済みません
 2章、3章と継続して参加される方は、継続ダメージありの描写が入ることもあります
 見知らぬ方と同じ戦場になりやすいです、どうしても単独描写がいい方は冒頭に『単』の文字をお願いします
 ないとは思いますがエロ系全般は流します

>プレイングについて(各章共通)
 大正の有名な建造物モドキは大抵あります、死体も転がっています(どんなのかはお好きに指定してください)……それぞれ好きに利用してください

描写結果の指定が可能です
・辛勝(基本)
・敗北(冒頭に記号×)

>冒頭記号まとめ
・単独リプレイ希望 →単
・敗北描写希望 →×
・同行者との殺し合い希望 →殺

(×と殺の方は『苦戦』判定が出る場合があります。シナリオ失敗とならぬようにはするので判定も愉しんでいただければ幸いです)

 それでは、血と肉爆ぜる戦場へご案内致します
290




第1章 集団戦 『帝都斬奸隊』

POW   :    風巻(しまき)
【仕込み杖を振り回して四方八方に衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    神立(かんだち)
【仕込み杖】による素早い一撃を放つ。また、【インバネスと山高帽を脱ぐ】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    幻日(げんじつ)
自身の【瞳】が輝く間、【仕込み杖】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

備傘・剱
殺し殺され、死に死なれ、何がそんなに楽しいやら、か
ここにいる俺も、同類って奴なんだろうが、な

死体が転がっているのなら、これを使うか
傀儡子、発動
攻撃のかなめではなく、敵を誘い出す囮として使うとするか
動く奴を見かけたら殺しにくる奴も少なからずいるだろうしよ

そうやって、誘い出された奴を、静かに暗殺する
気配を消して、結界術で動きを封じた瞬間に後ろから首にナイフを突き刺し、空気を入れれば、声も立てずに死んでいくだろうぜ

…ただ、よ、俺と同じ事を考える奴もいそうだよな
それと、助けを呼ぶフリをして誘い出す奴とかな
トラップに、不意打ち、特に、敵を仕留めた瞬間を狙われる事もあるだろうな

アドリブ、好きにしてくれ




 もはや元の色がわからぬ程に穢れた羽織袴の娘が薙刀を構え立った。そそけた肌からはすっかり血の気が失せている。
 だが帝都桜學府の名に恥じてはならぬ。気取られまいと呼吸音すらたてず、八方塔を背に待ち構えるのだ。
『――嗚呼、命の燃え尽きる刹那は美しや』
 一。
 き……と、木と鉄の擦れる音が響いたかと思いきや、學徒兵の上半身に袈裟が記された。
『帝都斬奸隊』と称された通り魔の武士崩れは、振り抜いた刃を留めず返し続ける。
 二、
 三、
 四、
 闇色の外套が翻る度に、學徒兵はぐちゃぐちゃの糸に絡まったようにビクリビクリと震え褪せ色の肉塊を産むのみ。
「五」
 と、突き出された刀は、塔の上から飛び降りてきた同類を串刺し計算通りの同士討ち。それごと學徒兵へ叩きつけるから殺傷力も増して行幸。
『――』
 影朧を抱かされて斃れた娘の腕が衝撃でちぎれ飛ぶ。
「おっと」
 薙刀を避けんと躰を捻ったら半端な所で固まった。違和に対応をする前に武士崩れの首筋に浅黒い指が絡みつく。
 ずぐり。
 備傘・剱(絶路・f01759)の持つOrthrusの光が頸椎を掠め埋没した。血に濡れた手首を返せば獲物は眼球を裏返しで震える。
 動きを止める前に男を放り捨て、剱は囮に使った娘の死骸へ目を向けた。
 正義に燃えて命を賭した結果がこれだ、殺し殺され……果たして彼女は一体でも葬り本懐を遂げられたのだろうか。
「……ッ」
 肺の痛みと口中を染める鉄の味がほぼ同時にもたらされた。眼前に堂々と晒されるは、自らの血を纏いし仕込み刃。
 ぐちゃぐちゃと小刻みに揺すられ痛みが増す。堪えた唇から自然と漏れてしまう呻きを、後ろの奴は愉しんでやがる。
 剱は大きく息を吐くと崩れるように頭を前に倒した。
 襲撃者がまた一人殺(と)れたと歓喜するは刹那の祭り。猛スピードで引きずり寄せられた男性學徒兵の銃剣が敵の背中を刺し貫いた。二体目の仕込みだが、此処で使うしかあるまい。
 痙攣する敵を刺された刃ごと肘で押しのける。下敷きになった傀儡の學徒兵は重みに絶えきれず、致命傷となった胸の刀傷から裂け斜めに二分割。
「……は」
 殺し殺され自分を含め皆同類、か。
 剱は胸の血を塞き止めるように押さえると次なる戦場へ向かう。

成功 🔵​🔵​🔴​

五百崎・零
※戦闘中はハイテンション

オレ死にたくないし、殺しあいとか別に好きじゃないんだけど、あんたらがオレを殺すつもりならオレも本気でいかせてもらう

死にたくない
などと言いつつも、銃を片手に敵の間合いに突っ込んでいく
攻撃は無理にかわすことなく
敵を捉えたら近距離で射撃
「ヒヒ、痛ってーなァ。死んだらどうしてくれんのさっ!」
笑いながら【制圧射撃】

まだまだ暴れたりないとばかりにUC【第三悪魔式「嫉妬司りし蛇」】発動
オレだけ楽しんでたら嫉妬するだろ?一緒に遊ぼうぜ

はは、ぐちゃぐちゃしてんな。ウケる
これだから死にたくない




 五百崎・零(デッドマンの死霊術士・f28909)という男は死にたくない。
 死にたくない男は上着のポケットに手を突っ込みさしかかった十字路にて――斬られた。
 感じ取れたのは、まず風。
 長めの前髪が持ち上げられたかと思うと、裏側が赤で染色を受けた。それが首の右横に刻まれた刀傷によるものだと認識した時には、敵は芝居小屋のもぎりの位置。仕込み杖をつきすまし顔。
 それに対し、
「ヒヒ」
 穏和な作りの容を口元から壊し、零は地面を蹴った。まさかの接近に敵は慌てて杖を抜くも、遅い!
「痛ってーなァ。死んだらどうしてくれんのさっ!」
 もぎりの男へ一足飛び、首より血潮を滴らせる儘にして零はポケットから指を引き抜いた。
『莫迦め、武士に丸腰で近づきおって』
 胴体を薙ぎ斬らんとす衝撃からは逃れずに、零はますます歪みを深め嗤った。ヒヒ、ヒヒ、と耳障りな音を消さんと三撃目、振りかぶった武士の手首が、

 ぽろり、
 千切れて堕ちた。

 硝煙漂う銃口、一発目で利き腕を潰し武器を遠ざける。
 しかし此は単なる呼び水。相手の腰に足元に銃弾を敷き、チビチビと足の先指の先袖から出た皮膚を削り取るのがこれまた楽しい。
 致命傷には到らせない。だって、死んだら戦えないから。
『この……ん?』
 手首の先が握る愛刀を回収せんとする敵は不意に銃撃音が消え訝しんだ。その一瞬の遅れが命取り。
 伸ばした左手が瞬間で凍てつき、薄い飴がけめいた音をたて砕けてしまった! 痛みと共に巨大な影に覆われ敵の足元が暗くなる。
「オレだけ楽しんでるとすぐ嫉妬するし……わーってるって、一緒に遊ぼうぜ」
 それが此度の交渉材料、如何?
 獅子の銃弾を起点に現れし巨大なる蛇は零への答え代わりと、敵の足を薙いでわざわざダルマにした後で尾にて圧殺。
 ぷちり。
 たのしい。
 人のひらきと言えばマイルドだが、皮膚の内側の肉が豆腐のように粉々にされて、辛うじて形を保つ骨が浮き出る様は、直視躊躇う無残さだ。
 だがレヴィアタンの頭に乗る零は、それを指さし腹を抱えて笑い転げるのみ。
「はは、ぐちゃぐちゃしてんな。ウケる」
 笑う度斬られた首より滴る血が腕を伝い銃身を赤に塗り替える。命が抜け落ち虚脱を塗り変えんと、零は熱っぽくも荒い息を吐き続ける。
 おもしろい、これだから死にたくない。
 ――死にたくないのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

藤・美雨
紛い物の街で殺し合い!
いいねぇ、浪漫があるねぇ
無関係の人達が殺され続けるのは寝覚めが悪いし、ちょっと楽しんでこようかな!

最初の相手はお兄さん達か
自分の腕に自信がある感じだねぇ
私はちゃんと武術を学んでいる訳じゃないから、使えるものは何でも使わせてもらうよ

野生の勘で周囲を探り、出来損ないの建物を利用しつつ立ち回る
中途半端な建物は登って飛び降りるのに丁度いい
洋館だって中身を壊しやすくて助かるよ
放置されてる看板も殺人鬼退治に使われた方がいいんじゃない?

おどけるように、踊るように立ち回り
チャンスを見つけて匕首で切り裂いてやろう
ヴォルテックエンジンが起動する限り私は死なない
好きなだけ斬り合おうじゃないか!




 田畑連なる牧歌的な中に突如現るデタラメ建造物は、華族の坊ちゃんが欲しがるままに与えられた玩具めいている。そこに藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)は強い浪漫を感じるのだ。
 半端建造物に跳ねた血が殺し殺されを愉しむ奴らなら良い、が、無辜の人々や退治に命を散らした學徒兵とあっちゃァさすがに目覚めが悪すぎる。
「ん?」
 頬を掠めた物体に美雨は瞬く、ひらり錐もみで飛んだのは黒い外套とあれは山高帽であろうか?
「!」
 被害者の遺品かそれとも敵の……。
 後者と判断直後、上半身を捻り辛うじて致命傷を免れる。だが、腰から右脇へ抜けた背中の傷は深く、屍ながら僅かに持つ体液が地面を汚す。 
 仕込み杖での居合斬り、二回目が来る前に、美雨は後ろ宙返りで砕けた硝子窓の向こうへと身を投げ逃れた。
(「なるほど、これは厄介さんだ」)
 日よけをおろし視線を遮って寸借稼ぎ。
 ふむ、逃げ込んだのは撞球(ビリヤード)で遊べる遊技場らしい。
 目についた長い棒に千切れた上着をかけ、緑の台の上を転がる球を握り込めば準備は万端。
「そおれ!」
 まずは撞球の弾をぶん投げ硝子を破る。足音がそちらに向かったと同時に上着つきの棒も投げ飛ばした。そうして美雨本人は遊戯室を出てすぐの階段を駆け上がる。
 窓をあければ聞こえる毒づく声。その真上を優雅に跳躍、隣に立つ薬屋の屋根へ華麗に着地。
「鬼さんこっちらー」
 ひらひらと手を振りべろべろばー。そんな挑発に動じず、敵は仕込み杖を掬い振り空間に衝撃の刃を孕ませた。
 対する美雨は、力任せに引き抜いた“りすく”の看板に飛び乗る。そうして波乗りの要領で攻撃を散らしつつ突貫、攻撃は最大の防御なのであーる!
『なぁ?!』
 がしゃんと、瞠目男を看板ごと踏みつぶし着地。一人目討伐完了と一息つく間もなく、半ば叩きつけられた同然の衝撃に震える美雨の腹を別の刃が刺し貫いた。
『相手がひとりじゃあなくて残念だったなァ』
 ぎぎぎぎ、くるり。
 ぎくしゃくとした動きで振り返る美雨はにぃと唇を歪めた。そうして素早く拾った薬瓶を投げつける。
 驚愕で後ずさる男の額へ匕首を突き刺しチャックをおろすように下へ、下へ。
 お前の中身はなんだ? 私の中身は――。
「ヴォルテックエンジンが起動する限り私は死なない」

成功 🔵​🔵​🔴​

ディアナ・ロドクルーン

【狼天狗】

斬り合い殺し合い、とても良い夜…素敵ね、ミコトさん
さて、どちらが屍の山を高く積み上げることが出来るかやってみましょうか

噎せ返るほどの血の臭気、知らずうちに暗い笑みが浮かんでしまう
嗚呼、ああ…。血に飢えた獣が目を覚ます

襲い掛かる者はUCでただただ切り払おう

斬られる?構わない
返り血に塗れ 己の血にも塗れ 
斬る 切る きる

周囲に動く者がいなくなるまでひたすら剣を振るい

(刃を受け止められたと思ったら)
ああ、誰かと思ったらミコトさん?
鈍い動きをしているから雑魚と間違えちゃったわ

ははっ!殺るっていうなら相手になってあげる
その口、その言葉まんま返してやるわ
血と土の味を味合わせてあげましょう


ミコト・イザナギ

【狼天狗】

ええ、紛い物が溢れる今宵は
血と肉と骨相食んで狂奔するに良い

いいですよ、ひと勝負行きましょう
こういう喧嘩も趣向があっていいですね

――血を頭から被り、千切れた肉が頬に張り付き
UCと妖刀で骨ごと断ち切って絶命させる

斬って斬られて殴って斬られ
痛みに悶え悦に震え乍ら命を踏み躙る
嗚呼、なんと心地良い
命で凌ぎ合う事のなんと甘美な事か
笑みが止まらな――(指間に挟むように狂刃を受けとめて)

はッ、ハハハ!
雑魚を食い散らかすしか能がない野犬に吠えられるとは
アナタを躾けた碌でもない飼い主に陳情するしかありませんね

殺りたいの間違いでしょう?
おいで駄犬、似た貉のよしみです
オレが相手になってさしあげましょう




 ぐちゃり、ぶぢり。
 月見草にて心臓のある場所を裂かれ、赫爪により首を掻き千切られた、哀れな輩が倒れ伏すのを前に、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)とミコト・イザナギ(語り音の天狗・f23042)は、お相子ねと笑いあう。
「斬り合い殺し合い、とても良い夜……」
 素敵ね。
「血と肉と骨相食んで狂奔するに良い」
 ええ。
 所詮、
 この街全て紛い物。
 此奴の命も紛い物。
 あなたの記憶とアナタの記憶、其れらどちらも――。
「ねぇ、ミコトさん」
 まだ一回目、八回斬らせてと、血に惹かれた輩を水平に斬り祓った。
「どちらが屍の山を高く積み上げることが出来るかやってみましょうか」
 闇に頬紅、血煙の向こうでディアナは三人目の男の頭蓋を兜割り。
「いいですよ、ひと勝負行きましょう」
 仕込み杖を抜き踏み込んだ男が地雷を踏みつけたかの如く霧散する。元より無産なる紛い物、何も残らぬ其れが良い。
「こういう喧嘩も趣向があっていいですね」
 否、残した。
 仮面が覆てないミコトの頬には粘ついた血潮が確かにへばりついている。
「ふ、ふ、ふ……なんて都合の良い事でしょう。玩具は尽きぬようですよ」
 つ……と、頬を伝うは、九回全てを敵へと打ち付けた代償、自壊の血潮。
「日頃の行いが良いからでしょうね」
 頬骨の部分に左右の爪をたて皮膚にめり込む感触を愉しむ羅刹は、後ろより無数に斬りつけられても他人事。自らが吹いた血なぞ、引き裂いた輩の血を浴びれば足し引き零でとんとんだ。
「まぁま、死んでもらっては困りますよ。これは遊戯なんですから」
 斜め下からの太刀を祓うディアナは、別からの突に囚われた。だが痛みよりまず、たちこめる血の臭気に心地よく酔う。
 嗚呼、ああ……血に飢えた獣が目を覚ます。
「お言葉は、そのままお返しいたしますよ」
 妖刀の角度を九十度変えて、ミコトはしつこくディアナを突き刺す男を叩き祓った。ディアナの脇腹の肉ごと輩を踏みにじり、ひょいと面に指をひっかけた。
「見せて下さるの?」
「見えるかもしれませんね」
 一歩下がりの向こうの此奴を、今宵は全て放出する所存!

 八方塔の五階より舞い降りる奴を、天に翳した刃で串刺しにするディアナ。ぶんと祓い落とすついでに刀身の真ん中に輩の首筋を巻き込む。
 ぎ、
 骨で止まるも高揚の儘に振り抜いた。げちゃりと壁に叩きつけられたのは何体目か、勝負というのに数えちゃいなかった。
「上ですか、そう、上、上」
 何本もの手首つき刃を突き刺された儘で、ミコトは腕を広げ八方塔の壁を駆け上る。
『……ひ、ひぃ』
 五階。
 エレベーターに隠れていた男を蹴り込み、更に腹這いや頭を下を伺っていた奴らもまとめて蛇腹扉の向こうに浚い込んだ。
「嗚呼、動くのか。これはいいですね」
 夜の帳、エレベーターの中にてミコトは腹の底から嗤う。
 狭い匣の中、目視できぬ速度を借りて頭を壁に押しつけた。後ろ手の妖刀は弧を描き輩の胸を綺麗な形に抉りとる。
 ガン、ドン、と大槌打つような音をたてて降下するエレベーターを振り仰ぎ、ディアナは退屈げにあふりと欠伸、玩具が尽きてしまったのだ。
 チン……。
 エレベーターの合図と同時に襲いかかられた、玩具が残っていたことに寿ぎ応じるディアナは縦横無尽に八回刻む。
 夜に沈まぬ筈の澄んだ光は既に夥しい血黒に穢れ、遠目には無骨なる棍棒にしか見える。
 良い。
 元より今宵はは存分に獣を起こす所存であった。
「……あら?」
 九回目で目減りする命の感触が此度はなかった。更に更に肉を喰んだが重く鈍い。
「ああ、誰かと思ったらミコトさん?」
 手の甲で刃を受け止め満身創痍で息を荒がせるミコトへ、ディアナは笑みを深くする。
「鈍い動きをしているから雑魚と間違えちゃったわ」
 ハハハ、と流し尽くした血潮の如く乾いた笑いが夜を割った。
「雑魚を食い散らかすしか能がない野犬に吠えられるとは、アナタを躾けた碌でもない飼い主に陳情するしかありませんね」
 悪鬼羅刹は、反対の腕を美しき狗へめり込ませ輪郭に沿って爪を立てる。
 影朧らが与えてくれなかった鮮烈なる痛みに、女は裏返った喉で笑い声を男へ重ねた。
「ははっ! 殺るっていうなら相手になってあげる」
 くぐもった声でご返杯、握り持った刃を男の腹へ思う様ぶっさす。
「殺りたいの間違いでしょう?」
 ぼたぼたと溢るるままの血が熱く、まるで逆さま蘇るよう。
「おいで駄犬」
「その口、その言葉まんま返してやるわ」
 腕と脚で違いを遠ざけ刀を構える。
「似た貉のよしみです、オレが相手になってさしあげましょう」
「血と土の味を味合わせてあげましょう」
 嗚呼、なんて都合の良い理由をくれる夜でしょう――!

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

子犬丸・陽菜
×

人を斬りたくてしょうがないとか大迷惑だよ!
手加減なんかしなくてもいい相手だね、する気もないけど
斬り合いがしたいなら相手になってあげるよ

剣の動力を得るために宝珠を起動
内臓がかき回される嫌な音が響く…
苦痛に体が痙攣するけれど出力を上げるよ
黒いオーラが漆黒の剣を包み込んでいく

老若男女関係なく斬り殺してる
腕がなかったりお腹の中身がはみ出してたり…許せない!
怒りも力に変えて戦うよ!
痛みを知らずして相手を殺すあなたはもはや武士じゃない
ただの殺人者

力が足りないなら宝珠でさらに力を引き出す
ただ臓器に負担がかかるけど…

筋力体力に関しては大人の男性には勝てないからしょうがない
悔しいけど斬り合いの腕は向こうが上…




 螺旋に抉られ捩れた臓物、その臭気は吐き気を催す程に非道い。
 道しるべの上には赤子の生首。千切られた手足はまだ幼い兄の口に無理矢理に押し込まれていた。
 寒さをしのぐ為にこの街に入り込んだのが運の尽き。余りな有様に子犬丸・陽菜(倒錯の聖女・f24580)の心臓がゾクリと脈打った。
「……人を斬りたくてしょうがないとか大迷……けはッ」
 己を奮い立たせるもここまで、娘は腹から刃を生やして喀血する。
 刃を抜かれた弾みで膝が折れて地面が近づいた。そのまま突っ伏した陽菜は腹に手のひらを宛がう。
 ――宝珠、起動。
「……ッか、はぁっ」
 とたんに鉄砲水が如く傷口と唇より吹き出す鮮血。体内の宝珠が蠢き裂傷を得た腸を巻き込み旋回するそれは、さながら針が無数に生えた珠が転がり蹂躙するが如し。
「あ、あぁ、あ、あああ……ッ」
 制御できない痙攣が陽菜の全身を襲う。
『ちっ病気持ちか』
 唾を吐き捨てた男が陽菜のうなじをめがけて刀を振り下ろした。
「あうッ」
 悲鳴は刀で斬られたからでは、ない。
 陽菜の腕が無茶に折れ曲がり、握った拷問剣が男の刃を阻んだのだ。しかし、ぺきりと儚く折れた腕の骨がますますの痛みを陽菜へと与える。
「……痛み、を、くぅ……知らずして相手を殺す、あなたは……」
 急速な痛みが重なり熱が跳ね上がり、視界が霞んだ。
 ボタボタと嫌な臭いのする血が喋る度に唇から吹きこぼれ、ああ、最初の臭気となんて似ているの。
 壊れ続ける躰。その分の力が高まる実感を得て、陽菜は屈する足を殴りつけ立たせた。
「あなたは、もはや武士じゃない……ただの、殺人者」
 振り向きざまに旋回する黒剣が堕ちたる武士の上半身を薙ぎ祓う。
「斬り合いがしたいなら相手になってあげるよ」
 まだ動く方の手で握りしめた剣で畳みかけ。苦痛を最大限に吸った拷問具は筋力の差を凌駕し男を壁へと追い込む。
「これでトドメ……きゃあっ」
『嬢ちゃん、威勢がイイなぁ』
 別の男が後ろから引き倒し少女へ馬乗りになる。
 さァ、下卑た笑みで握りしめた刃で貫かれるのが先か、更なる苦痛を吸った拷問剣が窮地を覆すのか、それとも――宝珠に絶えきれず陽菜の内臓が粉々に砕けるのが、先か。

 ……響いたのは、悲鳴すら塗りつぶす肉が割られ弾ける、音。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】
(死体達に目を向け)
私、とっくに、死んでいるはずの、人間、かも、しれない
だから、死ばかり、望む、よく、分からない
生きてる、だけでも、儲け物……な、気がする
(頷く。今より己は雛鳥ではない)

(鈴鹿御前を手に、居合による先制攻撃や早業の斬撃で応戦)
あ、ぐっ……
(オーラ防御を貫通する攻撃。咄嗟に激痛耐性で痛覚は遮断できたが、出血量は死んでいてもおかしくないレベル。このままでは任務続行は不可能。だが退路はない。なら)

……ごめんね、源次
私、今だけ、貴方の望みに、反することを、する
(発動するのはImaginary Heaven。周囲の敵へ、生命力吸収と捕食の力、闇の属性攻撃を帯びた黒い念動力を放つ)


叢雲・源次
【煉鴉】
(『生きているだけで儲けもの』と生きている事そのものに感謝を示したグウェンに対し、これまで剣を教えてきた甲斐があった。と感慨深いものを感じつつ)
その気概良し。なればこそ、ただの殺し合いに愉悦を見出している有象無象に負けるわけにもいくまい。
今よりしばし、俺はお前を弟子とは思わん。隣に立って見せろ。

(アナライザーによる見切り、攻勢防壁展開機構による防御、インターセプターによる状況把握を駆使し、抜刀術で応戦)
…是非もあるまい。生命を維持する事を最優先としろ。その上で、これらを殲滅する。加減は不要だ。
(自身も炎獄機関をフル稼働させ高速機動開始、一瞬七閃の斬撃を放つ)




 足跡は濁った血の色、柔らかな肉塊を避けて歩くことを二人はとうに諦めた。
 女子どもが喜びそうな飾り屋より道を挟んで向かいはカフェ……そんな華やかな通りの真ん中では、刀を突き出し力尽きた學徒兵らしき若者多数。
 闇に溶けこむように馴染むグウェンドリン・グレンジャー(Blue Heaven・f00712)は、その中で煌々とした光を亡くさぬ双眸で骸を捉えた。
 死者たる彼らと己の境界線は曖昧。否、本来ならば線自体が引かれることがなかったかもしれぬ。
「私、とっくに、死んでいるはずの、人間、かも、しれない」
 一歩先行く蒼い焔を吹き出す師、叢雲・源次(DEAD SET・f14403)が柄に手をかけ振り返った。
 無言のまま周囲への警戒は寸分も削らずに、グウェンドリンからの先を待つ。
「だから、死ばかり、望む、よく、分からない」
 源次の口元の皮膚が引きつる。表情を動かすことが不得手な彼を厭わずに娘は更に重ねる。
「生きてる、だけでも、儲け物……な、気がする」
 儲けとして得た出逢いのひとつと知らせてくる黄金へ、源次の口元は先程より柔らかくほぐれた。
 命あることへの感謝と肯定は、己が示してやれる剣の道が娘の糧となっていた証に他ならない。
「その気概良し。なればこそ、ただの殺し合いに愉悦を見出している有象無象に負けるわけにもいくまい」
 半身を傾け招くように隣をあけた。
「今よりしばし、俺はお前を弟子とは思わん。隣に立って見せろ」
 頷いて踏み込んだグウェンドリンの手元が、かすかに鳴る。
 チ……ッ。
 揺るぎない太刀筋。直後、男の首と別の男の半身がそれぞれ血を引いて滑り飛ぶ。奴等の唇には獲物をいたぶる確信に綻ぶ下衆の笑み。
「あ、ぐっ……」
 一方で、影よりの殴打からは逃れられなかった。腑が千切れる痛みは堪えるも、蒼く爛れ腫れた腹部と衝撃で裂けた腰の出血が留まらない。
「……」
 グウェンドリンを害した攻撃だが、源次の電子の眼差しで見切れてはいた。しかし、彼女の前に攻勢防壁を敢えてはらなかった。弟子ではなく同志と認めた、巣立ちを覚悟した気概を何より尊重したが故だ。
「大丈夫か、グウェン」
 神速で二体を斬り捨て、グウェンドリンを襲った輩を三、四体目の血潮に還し、源次は傍らを見やる。
「……問題、ない」
「そうか」
 相づちが産む音の波紋は名残。
 源次の体躯は、茶屋の屋根から飛び降りる敵をすれ違いざまになぎ払い。屋根に着地と同時に肩掴む輩へは防壁のせた裏拳を見舞う。
 前より源次に被さる複数体が倒れる度に、鋼と柄の擦れる音と蒼い焔が虚空に産み落とされる。
 蒼い燐光の残滓を目で追い、グウェンドリンはよく似た色の耳飾りの羽根をなぞった。師匠の無茶な交戦は手負いの自分を庇う為だ。悔しい。
「後ろ……っ」
 同時に地面を蹴り源次の元へ縋り飛ぶ。ぼたりと堕ちた肉の欠片が踏みしめた死者と混じる。
「構うな、己の生命の維持を最優先しろ」
 後ろ手に翳した源次の刃から緑の電子光が吹き出す。前へは手のひらを翳し迎えやはり防壁で撃つ。しかし相手の刃が一瞬早かった。手のひらをずぐりと貫いて、更に胸へとめり込んだ刃が源次の心の臓を僅かに触った。
「……っ」
 源次を貫く奴をたたき切ろうとしたグウェンドリンは、彼の口元が釣り上がっているのに気付き手を止めた。
 敵の刀をつかみ指の血で染めながら至近よりの一突きで確殺。その間にグウェンドリンは源次の眼前の奴等を斬り伏せた。
 しかしキリが無い。
 高みにのぼってしまったから見通せる先、刀を手に瞳をぎらつかせる有象無象。互いに浅くない損傷を喰らった身にはちと荷が勝ちすぎるか。
「これらを殲滅する。加減は不要だ」
 鈴鹿御前を持つ手から緊張が抜ける。だらりとと垂れ下がった両の手は、一見すると戦意喪失と見まごう風体。
「私、今だけ、貴方の望みに、反することを、する」
 叱られる前の子供のように俯き唇を噛むグウェンドリンへ、源次は「是非もあるまい」と返す。
 その声音は、彼女を認め尊重する響きであり、血液の滲む口元はこの戦場で見せた中では一番ほぐれた微笑みなのだ。
「これらを殲滅する。加減は不要だ」
「……うん」
 首肯と同時、グウェンドリンの躰よりかつて命を繋いだ異形が顕現。
 先程ふれた蝶めいたモノどもの羽ばたきが空間を打った。ただし美しさも幻想もなく、ただただ捕食の欲望に塗れた蟲が群れを為す狂気と恐怖だけだ。
「生命を維持する事を最優先としろ」
 もう一度繰り返す命令と同時、源次より吹き上がる蒼焔が彼の赤い瞳すらをも塗りつぶした。そうして敵の連なる西側へ。
 七度打つまでは決して止まれぬ、むしろ、敵が七に足りぬなら一打で斬り捨ててはならぬとすら。
 後を追う蝶達は、源次の道を穢すなという単純な命令のみを携えて一帯を虚ろに変えていく。
「…………生きる、こと」
 生きる、ために。
「生還こそが正道」
 命知らずでも、命を棄てるは愚の骨頂――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロキ・バロックヒート
わぁわぁ、やってるねぇ
鋭く鳴る剣戟も怒号も祭囃子かなにかみたい
そうだよきっとお祭りなんだ
斜めに傾いだ洋館の屋根の上で高見の見物

紛い物だらけの街で血飛沫は本物
景気よく上がれば拍手し口笛吹いて笑う
そんなことしてたらきっと見付かるけど
なぁに私とも遊びたい?
良いよ、見てるだけじゃ退屈だもの

眼下に見える大勢へ無防備にひょいと飛び込めば
影から飛び出す【鳥葬】が蹂躙
憐れみ覚えた死体も啄む
ほらほら一緒に踊ろうよ
今宵は血煙るお祭りだ
日々の感謝に供物を捧げて
かみさまぐらい殺してみせなよ

既に数え切れないぐらい死した身だから
どこが傷付き欠けようと気にしない
此度だってべつに死んでも良いけれど
お楽しみはこれからでしょう?




 彼方で此方でお祭り騒ぎ。
 しゃん、しゃんとあわされる鈍色刃の煌めきが、時に己を鼓舞し時に断末の絶望に色づいた怒号、それぞれがまるで祭り囃子だ。
「あ、こっちきた」
 暖炉の煙突に腰掛け高みの見物をしゃれ込むロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は、洋館の壁に追い込まれた輩に視線を向けた。
『貴様……はッ』
 上からの興味に気付いたか悔しやと唇を歪めた。その顔面がたたき切られ紅が屋根まで昇る。
 ヒューと指笛、惜しみない賞賛の拍手を贈る指先には赤い残滓がへばりついている。
「あれ、死体は?」
 ――ゴ、ゴゴご、んッ。
 何者かがトタンを踏む。と、同時に、ぱちりと拍手を止めたロキの脇腹を震える刃が掠めた。
『……ッ、愚弄……するな……』
 穿たれた穴より腑を引きずり現れた死に体天晴れと、ロキの中に愉悦が満ちた。それに応じてまずは一羽、翳した指先から黒鳥の翼が現れる。
「良いよ、見てるだけで退屈だったもの」
 羽根が歪み飛べるのか怪しい形の其れは、仕込み杖の鞘で屋根をつつき立ち上がろうとする敵の元へと舞い降りる。
「追いかけっこする余裕はないか」
 ――じゃあね。
 臓物を嘴で引き出して遊ぶ黒鳥と憐れなる死骸に手を振って、かみさまは虚空に身を躍らせた。
 着地予定地は敵の目の前。まだ無傷の奴は驚きもせずに堕ちてくるロキの腕を串刺し、そのまま鋳鉄柵へ叩きつけた。
「貼りつけとは洒落が効いてるね」
 柵の槍に貫かれた所へ六回の連斬。霧散する己の血煙と体から千切れそうな手首、死とよく踊った神様からすれば、懐かしき日常茶飯事だ。
「じゃあそろそろ一緒に踊ろうよ」
 逃れるついでの踵落とし。くるんと宙返りと糸描く血の筋。傍らを黒鳥たちが千鳥模様のように規則的で美しく飛ぶ。
「日々の感謝に供物を捧げ――」
 皮一枚でつながる手首を掴む背後で断末魔。ぶぢりと肉が爆ぜ、足元にはねばたい液体をまとった目玉が転がってきた。
「お供えものを粗末にしちゃダメだよ」
 手首より溢れる血を止めんと唇宛がい、前方に駆け込んできた気配へは喜色満面。影に向けて人差し指をつきつけて、あちらへいけと弧を描く。
 群がっていた黒鳥達は仰せの儘にと、武士から崩れたごろつきどもを迎え撃つ。
「かみさまぐらい殺してみせなよ」
 服を破き無理矢理しばった左手を掲げ艶然と、
「お楽しみはこれからでしょう?」
 ――嗤う。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーリア・ブラッドスノー
【血みどろ負傷歓迎です】

死にたければ一人で死ねばいいのに。
言い訳を言って凶刃を振るっているのは単にその勇気がないからでしょう?
愚かな…死よりも地獄を見たこともないくせに。
見せてあげますよ。

UC起動のために武器はメス。
リーチ差をカバーするために負傷は気にせず突撃。

むしろ負傷しても気にせず襲いかかることで不気味さを与えましょうか。


引きずり出された臓物を見て泣き叫ぶとでも思いましたか?
見飽きてますよ、自分のはらわたなんて。
(身体は反射や激痛で痙攣したりするかも)

貴方方もそうじゃないの?

あぁ、自分のは見たことないんですね。
それなら丁度いい。

地獄を見なさい。
狂ってしまえば楽になれるわ。

本当に、ね…。




 欄干に連なる西洋飾り文字の綴るのは『原金』で丸太橋の向こう側は偽物武家屋敷。チグハグで品のない光景の中、銀色髪の娘が首からの鎖を揺らし項垂れた。
 血だまりは、この華奢な躰のどこに流れていたのかと驚く程の夥しい量だ。
『これで仕舞いだ』
 武士崩れは、九回目の刃をリーリア・ブラッドスノー(うつろなる幻想・f27329)の首をめがけ振り下ろす。
「……ッ」
 鎖に当り逸れた太刀に対しリーリアは嘲り露わに唇を歪めた。実験室で精密なるいたぶりを受けた続けた娘からすれば、なんだこのおままごとは。
「……死にたければ一人で死ねばいいのに」
『知った口を利くな、死への覚悟なんぞとうに出来ておるわ!』
 今の剣技が己の命を費やす如何に崇高なものか云々と長回し台詞の間、メスを逆手に男の元へと転がった。
『くどい!』
 杖のままで華奢な体躯を打ち祓う。
「……ッ」
 背中をしこたま打ち付けたリーリアの耳に、骨が砕ける厭な音が張り付いた。
「愚か、な……死よりも地獄を見たこともないくせに」
 背骨がイッたか立ち上がれぬ。しかし笛めいた呼吸音に相反して娘の声はあくまで一定だ。
『減らず口もいい加減にしろ』
 ぞぶり。
 力任せに突き刺し裂いた横腹から臓物を引きずり出す、そうして男は見せつけるように刀にかけてぶら下げた。
 びくりびくり、ぱたぱたと、陸に上がった金魚のように痙攣する四肢。
「……自分の、臓物を見て泣き叫ぶと……でも? ……ッ、見飽きてるわよ、こんなもの」
 しかし虐待の基準が壊れきったリーリアからすると、精神を損するには値しない。急速に整う精神につられ口調は端正に。
「貴方もそうじゃないの? あぁ、自分のは見たことないんですね」
 ――それなら丁度いい。
 リーリアのメスが男の親指の爪をついた。もはや血を失いすぎた手では傷を負わすこと叶わぬが……これで、充分。
 地獄の記憶を分けてあげる。
 生きたままに解体される、臓物を見せつけられて、無理矢理に脳波を辿られ、全てを曝かれる。
 痛い、イタいいたい痛い……でも、殺してもらえないの。
『が……はぁ、あ、あぁぁ』
 男が口から吐いた泡がやがて赤く染まる。二度と復旧しない脳の損傷に悶える男へ注がれるリーリアの眼差しは羨望に充ち満ちていた。
「狂ってしまえば楽になれるわ」
 本当に、ね……。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ルネ・プロスト
ルネはただパチモノ街の観光に来ただけなのだけど
それとあれ。野晒しになってる骸達を然るべき場所に葬るための、屍拾いに
そういうわけで見逃してくれない? ……ダメ? ダメかぁ
うん、それなら仕方ないね

ルネ周辺は森の友達に索敵させて死角からの急襲防止
攻撃は可能な限りルーク2体の盾受けで防御
抜けるならビショップ2体のオーラ防御で結界生成
どちらかで止まればポーン8体の一斉射撃で〆
止まらなければキングの斧槍で武器受け、流してカウンター
群れてきたらクイーンの高速詠唱&全力魔法で周囲を爆撃し一掃
傷を負ったらUC、喰らった生命力を元に損傷部を塞ぎ応急処置

……さて
屍拾って逃げ回るより全員黙らせた方が楽かな、これは




 ルネ・プロスト(人形王国・f21741)は、夜の帳の薄暗がりの中でも、チグハグに異彩を放つパチモノ街をそぞろ歩く。
 さぁこの街が作られた意味は、なんだろう……? まぁ己についてもわからぬのだから詮索は捨て置くこととする。
 さしかかった娼館前、丸太橋には夥しい血痕。橋の手前には地獄を見たような煩悶に舌をだし白目を剥いた武士がひとり。
「……誰かが戦ったのかしら」
 橋を渡り血を避け進む。
 娼館を覗き込めば、籠城し抗った學徒兵と背後に庇われた親子の遺骸が合計三体。野晒しはあんまりだ、然るべき場所への埋葬を、と騎士団に命じようとしたら……。
 ――!
 獣めいた警笛が耳を打つ。同時に体を右へ、一歩遅れてはらり斬られ落ちる髪と頬に奔る一筋の傷。
『あんだそりゃ、どっから出した』
 刀を下段に構え毒づく男の眼前では、無骨な甲冑が蒼く輝く石の輝く盾を構え、ルネを庇い立っている。
「ルネは骸達を弔いたいだけ、あとは観光? そういうわけで見逃してくれない?」
 答える代わりと、男はルーク達の隙間から刃を差し込み突斬り。
「あ、ぶない」
 仰け反るルネの急所前、ビショップからの魔的防御壁がはられる。それでもドレスを破き到達した切っ先、体液を吐き出す醜さはなくとも痛いは痛い。
「……ダメ? ダメかぁ」
 かったん、と。
 ルネは糸が切れた人形めいた動きで膝を折り、人ならばおよそ不可能であるのけぞりで距離を取った。手をついて宙返り。スカートの中身が見えぬようすかさずルークが割り入りカバー。
「うん、それなら仕方ないね」
 ぱたぱたとスカートを祓い立ち上がるルネの眼前、ずらり現れた歩兵が槍を突き出し牽制開始。
『次から次へとしゃらくせぇ!』
 横薙ぎにポーンを払い飛ばすと、男はルークの盾を踏みつけ飛びあがった。
『人形遊びは終わりだ、クソガキァ!』
 振り下ろされた刃は突如現れた四つ足の騎兵がランスにガシャリとはめ殺し、持ち上がった前脚が身動き取れぬ武士くずれを容赦なく蹴飛ばした。
『……ぐ、がはぁ』
 腹を砕かれ喉より太い血柱を迸らせての絶命。しかし敵は此奴だけではない。
「……さて、屍拾って逃げ回るより全員黙らせた方が楽かな、これは」
 ルネが女王へ命令を下すと同時、武家屋敷は魔法の閃光で煌めき輩どもを巻き込んで半壊するのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

北条・優希斗
アドリブ○
…無傷では済まない、か
何、少数の人数で多くの人々と仲間達の命を救えるのならば、安い話だ
ならば、最初から全開で行かせて貰おうか
先制攻撃+UC発動
流血しながら敵の仕込み杖による一閃を見切り+残像+地形の利用(人屍など含む)+戦闘知識
で、ギリギリまで引き付ける
引き付けてその速い一撃を受けたならば
蒼穹のオーラ防御で少しでも負傷を抑えつつ、カウンター+2回攻撃+薙ぎ払い+範囲攻撃で反撃
何時殺されるのか、殺せるのか分からない、紙一重を楽しみつつ
早業で刀速を上げてより強烈な痛撃を与える
まあ、普通の帝都桜學府生には、これだけの相手は荷が重いだろうな
その為の俺達…超弩級戦力、だろ?
帝都桜學府さん達よ?




 帝都桜學府の学生が無為に命を堕とす予知なぞ、吐いて棄てる程に視た。そんな北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)は學徒と猟兵の間に横たわる超えられぬ壁を熟知している。
 このカフェの店内は何度か死闘の場となったのであろう。割れたサイフォンやティカップが歩く度に啼いた。
 店内にて倒るる若人は果敢に闘い命尽きた、その有様に胸を痛め――。
 はたり、と、
 優希斗は額より血を落した。双眸は鴉羽から蒼穹へと変じている。
 同時に、納め損ねた刀を手にした武士崩れが二人、どぉっと左右に横倒し。
 彼らには、刺し傷と斬撃が浴びせられていて、辞世の句は不可視の刃への喫驚、そんな無様。
「確かに、普通の帝都桜學府生には、これだけの相手は荷が重いだろうな」
 肉厚してからの瞬速の居合い。剣王の力を行使しての開戦となった。代償の血を拭い、じゃりじゃりと、わざと踏みしめ敵を誘う。
「……そこにいるのか」
 カウンターの向こうへ投げた声、対して空気がぬるりと動いたのは――背後。
 躊躇いなく優希斗はセーラー服姿の學徒兵を盾にする。腹を割かれぶらさがる骸をふりまわし、左よりの敵へと投げつけた。
 死体損壊との誹りは後で幾らでも受けよう。今は此よりの被害を食い止めることが何よりの優先事項だ。
(「その為の俺達……超弩級戦力、だろ?」)
 もう哀れな骸は増やさない。
 かたり。
 カウンター側からの物音が耳たぶを振るわせた。わざと気付かぬふりで至近まで寄せた所で、抜刀。
 優希斗による右での一閃は翻るインバネスコートを切り裂くに留まる。左の柄に指を掛けたなら、脇腹にじわりとした熱と差し込む痛みを感じた。オーラで阻み致命傷は免れたものの、深い。
 先程より、はやい。
 今度こそと闇に閃く敵の刃は異物が挟まるように止った。完全に見切った優希斗が手首を掴み止めたのだ。勿論それで終わるわけもなく、あいた手が逆手の刃で此奴を起点に取り囲む三体を薙ぎ割った。
 辛うじて命拾いした奴が振り下ろした先に優希斗はいない。テーブルを踏み舞い上がる剣鬼は、見事頭頂より股ぐらまでを一気に斬り進めるのである。
 命の削りあい、なんという愉悦。
 はたりはたりと堕ち続ける血液を啜り心で騒ぐ魂へ、優希斗は囁きかける――さぁ剣王よ、共に愉しまん!

成功 🔵​🔵​🔴​

杜鬼・クロウ
【兄妹】アドリブ歓迎
和服に帽子

純粋な斬り合い、か
最後まで立ってたヤツこそが絶対
至って単純、悪かねェよ
…今は、余計なコトは何も考えたくねェ(特に血桜は見たくない
只管に嬲って殺り合おうぜ
足引っ張ンなよ(弟へ

意識を敵全体に集中
服の釦を代償に【無彩録の奔流】使用
建物の障害物利用
階段滑り降り勢いよく飛ぶ
一周して敵薙ぎ倒す

カイト、退け!

一か所に敵集めてシャンデリアを落とし一網打尽
返り血を厭そうに拭う

賭博場へ移動
椅子や賭博台を盾に圧し潰しながら二連撃
コインの音が煩い

ちィ…拉致があかねェッ!(消耗が思いの外激しい…
オイ、しっかりしろ…!お前、待…

弟の動きが尋常じゃない
敵の来襲に一旦は放置
敵の数減ったら弟の元へ


杜鬼・カイト
【兄妹】
刀で斬って回避。基本はそれだけ
ええ、兄さまの足は引っ張りません。任せてください

兄の動きに合わせて敵を斬り
息をあわせて命を屠る
斬っても斬っても敵の数が減らない
体力がもたず、攻撃も回避の精度も落ちていく
「はは……やば」
徐々に赤く染まる視界
おかしくもないけど笑えてくる

このままじゃ埒があかないかな
奥の手【その身に映るは紫苑】を使用
あまり使いたくなかったけど…
兄さま、オレが暴走したら後でちゃんと止めてくださいね?

自分の内から感情を排除
何も考えない
ただ目の前の敵を排除するモノになる
……「敵」って誰だ?
いいや、目の前のモノを壊そう




 重厚な馬走館の扉を押して、敢えて正面から踏み込む杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の背を、杜鬼・カイト(アイビーの蔦・f12063)はいつも通りに凍てついた赫と熱情の蒼で追いすがる。
「純粋な斬り合い、か。最後まで立ってたヤツこそが絶対……」
 こんな所で礼儀もあったものじゃぁないが、帽子を外した。
「お好きでしょう?」
「ああ。至って単純、悪かねェよ」
 ところで、桜は今頃何処で咲くのか、血で穢されるのは御免被るが……。
「兄さま」
 カイトから発せられる情の澱も櫻のことも今は余計と頭を振った。そうしてわざと豪快に嗤い誘う。
「只管に嬲って殺り合おうぜ。足引っ張ンなよ」
 ええ、応じる声が傍らを飛び立ち、階段の手すりをつかの間の足場に二階にいた男の前へ到る。息つく間もなく首を跳ねる。
「兄さまの足は引っ張りません。任せてください」
 魁。
 頸動脈を狙い噴水めいた血を被り、カイトは冴え冴えとした微笑みで階段をあがり来る兄を出迎える。
 兄の背後、ゾロゾロと土砂が崩れるように詰めてくる輩達。芸が無いと呆れ気味のクロウは釦を千切り虚空へと滑らせた。
「赤……それ程に人を斬ったか、外道どもが」
 無数の赤で構築された大剣を叩きつけるは階段の手すり。不意のことで対応できぬ数名が足を踏み外しホールへと投げ出された。
 躊躇いなく後追い心中、身を投げたカイトは翼のように広げた刀で大立ち回り。
 羽ばたく度に吹きあがる血飛沫と武士崩れの悲鳴。
「追加がお出ましか!」
 玄関よりなだれ込んだ新たなる集団を確認するや否やクロウは無事な手すりを滑り降りる。
 残した上階の敵が射出する四方八方に散らかる空の刃に薄く深くと皮膚を裂かれても、クロウは一向に構う様子もない。
「兄さまに疵をつけるな!」
 だが激高したカイトが上階へ。先程までの相手よりの追撃が背に刺さり肉を抉りにくるが構うものか!
「カイト、無茶はすんな」
 気遣うクロウの動作自体は荒々しい。顔面に蹴りをかまし大剣で打ち付け、絶命を狙ったわけではないが、臓物めいたもんを口から吐き出し倒れた敵も幾人か。
「平気ですよ、これぐらい」
 始末を済まし疵も増やして飛び降りる。着地予定点は兄が集めた敵のど真ん中だ。
「カイト、退け!」
「でも、まだ奴等は生きてます」
「ああ、だからよッ」
 伸ばした左腕でだだっ子めいた弟を抱きかかえると同時に、反対の手で床に落ちた刀をつかみ天井へ投げ上げた。
 ふつり、と、吊るし鎖が千切れ落下。
 多数の影朧が砕け、夥しい血が周囲にぶちまけられた。それを疎ましげに拭うクロウと、荒い息をつきながら陶然と浴びるカイト。
 そこから休む間もなく通路へと走り、賭博場のドアを押し開けた。
 錯綜する足音は余りに多い。クロウは入り口から対角線にある壁をぶち破ると、そちらよりの流入を誘う。
 足音が急激に明瞭になったのが入室の合図だ。渾身の力でルーレット台を蹴飛ばし圧殺すると天井を向くディーラー席にあがって上からなぎ払い。
「ちィ……拉致があかねェッ! カイト、そっちはどう……」
「はは……」
 やばい。
 大丈夫と返せなかった。それどころか兄の声が遠く姿も見えない。握力を佚した指が震え、ずぐりと太ももの肉を抉りとりながら刀が落ちた。
「オイ、しっかりしろ……! 今行く」
 赤い。
 赤が過ぎる。
「はは、ははは……」
 啜り泣きめいた笑い声に、クロウは掴んだコインを投げつけて瞬間の目くらまし。そして一心にカイトの元へ。
「このままじゃ埒があかないかな」
 命脈が尽きかけんとす刹那というのに、兄と同じ台詞を吐いた自分に対して嬉しいという感情が本物になった。
 おそろい、嬉しいな。
 でも、感情(これ)を代償にしなくっちゃ。
「兄さま、オレが暴走したら後でちゃんと止めてくださいね?」
「お前、待……」
 赫と蒼、完全に変容してしまうから、混ぜてはならない――なのに嗚呼、紫苑が咲く。咲いてしまう……。
 魂を生成した根源よりの爆砕。カイトに集っていた奴等だけでなく、クロウを追う敵までをも命通わぬ肉片に、変えた。
 一方のカイトは先程落した刀を落ち着いた所作で拾いあげ構える。
「……『敵』って誰だ?」
 甚く減った血が廻らず白く輝く頬。平坦な眼差しが唾を飲み込み硬直する敵どもを捕らえる。
「いいや、目の前のモノを壊そう」
 先程までの流麗さを失い手当たり次第に叩き刻む。ためも間もなく、斬りつけるシーンだけを集めたフィルムの如き動きにクロウは息を詰めた。
「カイト、よせッ。もう敵はいねェ、全部すんだんだ」
 これじゃァ壊れちまうと、後ろから羽交い締めにすれば、二の腕をすっぱりと斬られてしまう。
「痛ェ」
 でも離さない。
「……ッ」
 背を引きつらせカイトが振り返った、面には例えようもない怯え。
「兄……さま?」
「ははッ……おかえり、カイト」
 安堵の吐息、クロウはくしゃっと顔面を崩し不器用に笑った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

血に死に穢れに溢れている
いけない
サヨの…私の巫女の障りになる

サヨ!攻撃からサヨを庇い返しの刃で見切り切断
捕縛の結界を巡らせて巫女を守る

踏み込みすぎてはいけない

見切り躱しながら早業でかけ先制攻撃
広範囲になぎ払い切り込んでいく
狂い咲く桜を纏い、熱に浮かされるように笑うきみは恐ろしい程に美しくて見蕩れてしまう

早鐘打つ胸の鼓動を隠して刀を振るい切断していく

私のいとしい櫻を散らせはしない
触れるな

─祝災ノ厄倖

私の巫女を傷つけるもの全て
厄災を神罰と降して塵と成す

私自身の負傷など気にならない
一番はサヨを治すこと

きみは私が守るよ
サヨはうつくしいままだ
私の愛するきみのまま
きみに屠られるものの幸福なことだね


誘名・櫻宵
🌸神櫻

私を庇う美しい赫
血よりも美しい赫
私を守ってくれる神様
美しい清らな私の災愛

高鳴る鼓動が駆け出し
駆け巡る衝動が身を焦がす
這い上がる甘美な震えは何
あつくて蕩けてしまいそう

きっと
噫きっとこれは戀

忘れた筈の熱に脳が痺れる

乞い請い戀──殺し尽くしてやる

この刀は守るためのものなのに
カムイの前世たる私の師が教えてくれたのに

どうして
奪い尽くしたくてたまらない

あなたを
カムイを殺さぬよう
代外品の他を斬り殺す
桜化の神罰巡らせ衝撃波と共になぎはらって
美しい桜を咲かせましょう
花吹雪の如き斬撃で蹂躙し─『喰華』
喰らいころしてあげる

カムイ
こんな私をみてまだ
美しいと思う?

神の言葉は甘く震える
噫、あぁ
ころしてしまいたい




 櫻が美しいのは、死体の血肉を啜ったからと記したのはどこぞの作家先生である。
 そのままでも優美で優しく心を包むから、狂ヒなぞ不要と願う者は数多。そう、それだけ櫻が想われ慕われている証に他ならない。
 ああだけど、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)自身が狂ヒ咲きを請うてしまったならば?
「噫……」
 願いの先に咲く花は、どっぶりと血が染みた太刀の下敷きで絶命する輩に対して熱い吐息を漏らす。
『……たの、む。ひと思いに……』
 腑をついたなら、ぎゃ、醜い悲鳴が返った。
 熱く篤い高ぶりは、背より斬りつけられ痛みを浴びても止むことなし。振り向き様に首を跳ねたらこんころり、またひとつ死を増やし、弾けた血飛沫は櫻宵を浄妙に飾り付ける。
「いけない」
 五人に集られ黒紅の刃を翻し応戦する朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は、今し方の香りに櫻宵の血が混ざったと気取り、ぎり、と奥歯を擦り噛んだ。
 サヨが、私の巫女が傷ついた。それは勿論赦せぬが、なにより恐れたのは……“障り”だ。
「縛」
 眼前よりの剣戟を敢えて受け、櫻宵の後ろで仕込み杖に手をやる輩の動きを止めた。そうして一人を突き刺し道をあけたなら、巫女の元へはせ参じた所で返し刀。
 中空を散るカムイからの赫に、櫻宵は陶然とした面持ちで頬に手をあてた。
 私を庇う美しい赫。
 血よりも美しい赫。
 私を守ってくれる神様。
 美しい清らな私の災愛。
「……」
 縛った輩も、追いかけてくる輩も、振りかぶりがら空きの脇が目についた。だからカムイは一切の焦りなく刀を奔らせる。
 悲鳴と共に円舞の形に散る血は甚く臭くって、櫻宵は鼻の頭に皺を寄せた。
「この赫じゃない」
 神様の赫を吸いたいと、懸想。
 そうして屠る櫻を掲げ刃を返した。血の隙を抜け映る横顔は、蕩ける甘さ。熱くも震える此は、戀。
「踏み込みすぎてはいけない」
 神は、矢面に立ち腕で抱いて巫女を庇う。
 然れどこの台詞はきっと別の意味もある――余りに余りに、狂い咲く櫻が美しいのだ。見蕩れてしまうこの瞳、突かれても供物となりて満たされる事請け合い。
 この者ども、既に眼前の敵なぞ見てはおらぬ。互いの瞳に互いのみを納め、耽り、堕ちる。

 ……いけない。

 まずは桜宵。
 脳に打ち付けられた熱と柄を握り震える手が、カムイを滅せんと疼く。其れを留めるのはやはりカムイ……の、前世。守りの刀と技を授けてくれた師の面影。
 ならぬ、奪っては。
 カムイが留めんと呼ぶ声を翼に、櫻宵は有象無象の前へと躍り出た。
「代用品よ、役に立って魅せよ」
 お前達はカムイと比べれば、美しくもなく気高くもなく甘くもなく清らかでもない――せめて屠られて、咲け。
 刃すら不要。
 翳した手のひらに、櫻咲く。
『な……ん、え』
『ま……』
 グズグズとつま先から崩れ土に還る、同時に櫻宵の翳した指と握りしめる太刀に見まごうばかりの花が咲いた。
「咲き損ねとは、見苦しい」
 仲間の影で喰華を免れたモノを脳天からの串刺しにて葬り去るのも忘れない。
 ぱさり!
 頭頂より呑まされた刃を糧に、輩の体は儚い薄紅と果てて散った。
 立ちこめる花びらの中、すらり立つ櫻宵はこの殺戮の場に置いて安寧もたらす破顔を浮かべた。
(「私のいとしい櫻」)
 斯様に、血をどれだけ浴びようが何人たりとも侵すこと叶わぬ。その傲慢さとあどけなさと美しさに、心が根こそぎ奪われる。
 カムイの胸で壊れる程にはやく叩かれる心の音、これは誰にも知られてはならぬ。
「触れるな」
 隠蔽すべくの大声に振り返る櫻宵の瞳が濡れた。災い為す愛を一心に受けたから。
 奴等の放つ衝撃波に身をさらし、全面を裂かれまた血を溢れさせる。痛みも、躰から抜け堕ちる熱も、些事。なによりも大切なのは。
「私のいとしい櫻を散らせはしない」
 此ひとつ。
 額で合わせた手のひらをの向こう視界が霞むも構わずに、カムイは敵へ絶望の宣告をおろす。

 ――神罰。
 黒き花よりの厄災下す先は、私の巫女を傷つけるもの全て。
 ――祝倖。
 朱桜が齎すは苛み祓う祝福。その先は唯一、私の巫女へのみ。

 禍々しき黒の花びらが残りの全てへと張り付く。それはあたかも蝗害に為す術なく食い荒らされる惨めなる米俵。
 一方、桜花の巫女は朱にくるまれて背に頬に負うた疵を全てなくしていく。
 それでも、乞うて請うて戀の先たる神への殺意を抱いたこと――身代わりに影朧らを残酷に滅した事実は消えぬ、絶対に。
「カムイ、こんな私をみてまだ美しいと思う?」
 熱がそげ落ちた幼子めいた問いかけへ
「サヨはうつくしいままだ、私の愛するきみのまま」
 きみは私が守るよ。
「私は――」
 零してしまいそう、この■意。
「きみに屠られるものの幸福なことだね」
 神はそんなことなぞとっくに見抜いている。
 だから噫、あぁ、と甘い熱に震えた――ころしてしまいたい、って。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

宵鍔・千鶴
【千宵桜】

紛い物、偽りで覆う街か
転がる死体を一瞥し
動かなくなった人形の様な其れ
噫、浅ましい
ちのにおい、まっかな、彩

無意味に奪うならば
俺もお前たちを奪って良いんだよね?
責めはしないさ
俺だって似たようなもの
でも今は、隣に
千織が居るから

結界術と足止めで
獲物を捕え靜かに首に切っ先を
自身の傷は厭わず、接近戦を中心に
返る飛沫の赫すら高揚する

…千織
もし俺が赫に狂ったなら
きみへ牙を剥いたなら
そのときは
俺を遠慮なく葬ってくれる?

重すぎる業をきみに背負わせるのに、それでも希わずには

そっときみの赫を指先で拭い
ならば共に、獣に成ろうか
そうしたら、屹度もう怖くないね

唯一の耳飾りが血溜まりへと沈みゆけば堕ちていくだけ


橙樹・千織
【千宵桜】

随分と好き放題…
横たわる亡骸
街を覆う匂い

空気
顔をしかめ無意識に唸る
低く、低く威嚇するよう

お前達か彼らを屠ったのは
そんなに血を見たくばお前自身の物を見せてやる
常より犬歯、爪は鋭く
瞳孔が縦に裂ける
大丈夫、まだ、千鶴が隣にいる
獣性に飲み込まれる訳には…
敵を見据え、二人に糸桜のオーラを

お前にもう首はいらないだろう?
刃でなぎ払い
麻痺の呪詛を含む衝撃波を放つ
間合いを詰め切断
この手が身が血に塗れようと構わない

…?
それは、どうかしら

なら、逆も
赫に狂い獣に堕ちたなら同じように

希いをきくなら対価を、なんて
叶えた後、どの道を行くかは…

それもいいかも
うっそり笑んで

華衣の香りが血に薄れるほど赫に堕ちてゆく




「紛い物、偽りで覆う街か」
 顔だけ執拗に刀で刻まれた若い娘や、屋根に投げ上げられた老人……それらを一瞥し宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は嘆息を漏らす。
 己が手がける人形よりも何もかもが欠け落ちてしまった其れら。
 噫、浅ましい。
 ちのにおい、まっかな、彩――。
 隣の橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)も同じく、街を覆う臭気と彼らの無念を思い馳せて顔を顰める。
「随分と好き放題……」
 礼儀のない獣が食い残したようになすられた腑や骨を見るに到っては、怒号めいた唸り声が堪えきれぬ。
「……」
 ぬたり、と、乾ききらぬ遺骸を踏みにじる足音に、千鶴の手元で鞘が僅かにブレる。
「お前達か彼らを屠ったのは」
 千織の姿は相も変わらず純美ながらも人間より乖離していく。ぎりと、噛んだ唇よりはみ出す牙は日頃より鋭く、瞳孔が瞳を縦に割る。
「無意味に奪うならば、俺もお前たちを奪って良いんだよね?」
 刀を握る手首がごろり、地面に転がるのに輩が目を剥く。同時に千鶴は、そぞろ現れた奴らの足元に術式を放った。
「そんなに血を見たくばお前自身の物を見せてやる」
 猛った獣めいた疾走が千鶴の脇を駆け抜ける。
 闇夜に柄の金細工だけが像を編むのを赦される。黒刃は翻り、瞬く間に三人の上体下肢構わずに斬り砕く、故に藍側もあっさりと血に染まり闇に沈んだ。
 一人、二人、三人、塵と還した人数だけ、捕食者の動きは研ぎ澄まされていく。
『な……』
『こいつら、おかしいぞ』
 怯む気配を気にも掛けず、千鶴は進み出て寂なる動作にて奴等の首を跳ねた。つい今し方までお喋りしていた男達を顧みもせずに、千織の行く先の敵を縛る。
「責めはしないさ、俺だって似たようなもの」
 赫を求め浸り耽る。
 でも今は/まだ――隣に、千織/千鶴が、居るから。
 大丈夫。
 千織の指先からの細く淡い糸が、千鶴の指に結ばれる。
 ……嗚呼どうか薄紅桜、二人を人に留めておいて。

 此処までなんとか我を保っては来たけれど――輝く耳飾りを無意識に覆っていた手を千鶴は下げた。手の甲には返り血が無数に重ねられてもう肌の色を探す方が難しい。
「……千織」
 トビの翼を血色を変え八方街を食い荒らす奴等を狩る人の名を呼ぶ。
 離れぬと桜でつなぎあったのに、輩達に押されいつしか声を張らねば届かぬ距離となってしまった。
「……?」
「もし俺が赫に狂ったなら、きみへ牙を剥いたなら、そのときは…………」
「そのとき、は?」
 追加で現れる敵どもの鬨の声を聞きながら、千織は盾に裂けた瞳孔を収縮させて返り血を舐め取る。
「俺を遠慮なく葬ってくれる?」
 重すぎる業をきみに背負わせるのに、それでも希わずにはいられない。還れない道ならば、その手で絶って欲しい。
「なら、逆も」
 刃と共に腕を祓った。千鶴から希まれて、千織の心はうわつき微笑みが深まった。
「赫に狂い獣に堕ちたなら同じように。希いをきくなら対価を、なんて。叶えた後、どの道を行くかは……」
 旅は道連れ世は――? 地獄が顎門を開いていようが、二人ならば。
「……」
 はしり、と、千鶴は藍の名を冠された刃握る手をとった。
 そうして頬に跳ねた血飛沫へ指を伸ばす。高揚からか、小刻みに震え、砂糖菓子に触れるように繊細な指つきで、拭う。
「ならば共に、獣に成ろうか。そうしたら、屹度もう怖くないね」
「それもいいかも」
 ふ、ふ、ふ。
 うっそりとした破顔はあどけなくも箍の外れた其れである。奇声を上げて斬りかかってくる影朧達の方が傍目には人の領域。
 邪魔をするなと無造作な祓いで斬り捨てて、続く輩の頭へは伸びた爪で食らいつき潰した。
 肉々しい湿った音と同時に吹き出した脳漿と血が、千鶴の耳で揺れる飾りへと跳ねた。
 千鶴の光なき瞳に濃密な赫が射し込まれる。それが、普段は決して持たぬ情感と熱を容、否、彼という存在自体に付与する。
 へばりついた血肉の向こうで朱華が輝きを放つ、同時に千織が肩口を喰らっていた男の胴体へ刀の太さからは考えられぬ大きな風穴を穿った。
 空洞から腰の肉を引きちぎり抜いた刃は止らずに、周囲に群がる輩どもを血花へ返す。
 嗚呼、かぐやが泣いている。
 もう、もう、止らぬ。
 三、
 四、五、
 六、
 七、八
                   九。
「――………………な」
 九回目の苛烈な刃を受け止めているのは、夥しい血で穢れたトビの翼の根元だ。深い、生死に関わるやもしれぬ疵。
「駄目よ」
 埒外の娘は振り返った口元に荒い息を纏わせながら哀しみに震える千鶴をかき抱く。
「……千織、私を斬らないと、死んでしまうわ」
 今宵、どれだけの寿命を削って仕舞ったのか、それが気に掛かっていた。
「…………ッ、千鶴……」
 互いを想い合い庇い合いながら堕ちていく、赫の獣たち。
 二人なら、往きはよいよい、帰りは――……?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ウルマリカ・ラム
(さ行がカタカナ。血の代わりに水が出る。いくら斬られても笑顔)
まあ、こんなに亡くなった方がいるなんて……
なんて勿体な――胸の痛むことでシょう

周囲で特に大きく、重いものへ向けて、召喚銃を撃ちまス
喚び出したビル(悪魔)の武器にシまシょう
ビル、仕事の時間よ
好きなように暴れてきなサい

ワタシは此方への刃をコインで【盾受け】シつつ、
ご遺体から遺品を回収シまス
当然受けきれない攻撃もあるでシょうけど、ソれで足は止めまセん
遺品は、ご遺族がお求めになることも少なくありまセんから
商売の信頼関係に、きっと役立ちまス!

あら貴方、此方を見ていていいのでス?
ねえビル?

ふふふ。ビルも皆様も楽シソうでスね!
ワタシも楽シいでス!




 襲ってくれと言わんばかりに八方街に足を踏み入れた乙女あり。
 蒼い髪に抜けるように白い頬のウルマリカ・ラム(よくばりメイルストロム・f30328)は、軍人さんに抱かれ絶命したハイカラさんスタイルのご令嬢に微笑みを向けた。
「まあ、未来ある若き二人まで……なんて勿体な――胸の痛むことでシょう」
 娘のまとめ髪を飾る宝飾品は大層高価、軍人の懐中時計はさほどでもないが遺族からすれば価値が違ってくる。
 回収に移る前にウルマリカは、突然腕を真横にピンと張った。
「ビル、仕事の時間よ」
 指の先からの、銃声。
 闇に融ける中、銃口だけが一瞬赤く照めき出逢い茶屋の看板を貫く。
「好きなように暴れてきなサい」
 ガンと跳ねるトタン板を掴んだ悪魔は、ウルマリカの首を跳ねんと刃を振り抜く武士崩れを力任せに打ち払った。
 土壁をぶちぬいて転がる仲間を踏みつけて、斬りかかってくる奴の奇声が五月蠅い。
「やれやれ、騒がしい街でスね。鑑定は持ち帰ってからにシ……」
 ぞぶり、と、コインが地面に落ちる音は同時だった。
 肩口からせり出した刃。半分斬れた腕からは粘りを伴った水が溢れ堕ちる。金貨を間に噛まさなければ今頃腕は胴体とおさらばしていたことだろう。
『なんだこりゃァ』
 一方の武士崩れは、吹き出したのが期待した血ではなくてただの水ということに、不気味さ露わ。
「ビル。玩具でスよ」
 スの抜けたような発音は、圧殺の悲鳴で潰された。それに構わずに、ウルマリカは娘の指に光る指輪を外して矯めつ眇めつ笑みを深める。
「これは……結構な値打ちものでスが、ご家族はいらないでシょうかね?」
 駆け落ちの挙げ句怪異に殺された一家の恥知らず、その愛の絆なんぞ忌むべきものにしかならぬだろう。
 商売には元手も必要だ。
 皮算用に心躍らせ懐に仕舞う、そんな商人は背に刺さる視線に振り返らずに、
「あら貴方、此方を見ていていいのでス?」
 ねえビル? と、悪魔に請う。
 背中で広がるコインは一時の黄金の灯りをウルマリカにもたらした。娘の背を薄く裂くに留まる武士崩れは、三三七拍子の悲鳴を叫ぶ。
「ふふふ。ビルも皆様も楽シソうでスね! ワタシも楽シいでス!」
 ――ところでこの女、八方街に足を踏み入れてから終始笑い続けている、と、これ以上の説明なぞいらぬ筈だ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『『廃棄物』あるいは『人間モドキ』』

POW   :    タノシイナァ!アハはハハはハハハハハハハハハ!!
【のたうつような悍ましい動き 】から【変異した身体の一部を用いた攻撃】を放ち、【不気味に蠢き絡み付く四肢】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    ミてイルヨ、ズットズットズットズットズット……!
自身の【粘つくタールが如き何かが詰まった眼窩の奥】が輝く間、【歪んだ出来損ないの四肢】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    アソボうヨ!ネエ、ネエ、ネエ、ネエ、ネエ……!
【嫌悪や憐れみ 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身と同じ存在達】から、高命中力の【執拗な触腕による攻撃】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間
 夜の帳は未だ辺りを包み込んだままである。
 何処に潜んでいたのか、夥しい数の和装の輩達がそこいら中に折り重なり息絶えている。
 中には幸いにも霧散し消失した者もいはするが、全てが終焉るまでは、彼らもこの紛い物の街に留め置かれてしまうのだろう。
 八方街に押し入った猟兵達は、それぞれが帯びた痛みを噛みしめながらも、更なる敵の来訪を待ち続ける。
 心待ちにする者、もう沢山だと厭気がさす者……更にはこの乱痴気騒ぎめいた殺し合いに新たに参入する者もいるやもしれぬ。
 そんな彼らが一様に耳にしたのは、重みのあるなにかが地面を這いずり近づいてくる、音。
 不快、とにかく不快だ。
 現れた姿は更に不愉快やら憐憫やら、大凡負の感情をたきつけるだけの憐れな“異形”
 のっぺりとした肌色に、底の見えぬ穴が上にふたつと歪んで舌にひとつ。直視するのもおぞましいがさらに真ん中にふたつ――眼と、口と、鼻だと認識してしまうのもおぞましい。
 蟲めいた胴体で絡まり合い、歩く度に後ろの個体を引きずり打ち付ける。なのに皆、笑っているのだ。
『アハはハハはハハハハハ……』
 ずるりべたり、とうつぶせに倒れる『帝都斬奸隊』の一人に、それは肌色の枝めいた腕を伸ばした。
『アソボうヨ!』
 ネエ、ネエ、とだだっ子のように繰り返し絡みつく。既に命を堕とした物体はされるが儘にカタカタと揺れた。
『ネエ、ネエ、ネエ、ズット、ズット、ズットズット』
 いっしょだよ。
 地の底より響き合う声、刹那、何が起ったか知覚が出来たのは、埒外の猟兵だからである。
 奴等の肌色の器官が刃物や鈍器のように変化し、武士崩れの骸を斬り刻み挽きつぶし、己に同化させたのだ。
 奴等……『廃棄物』あるいは『人間モドキ』の顔が、一斉に猟兵達を捉える。
「あははハハハは……アソボうヨ!」
 ネエ。


*******
【マスターより】
※最初の「マスターより」から一部ルールを変更しました
※2章よりの方はこちらだけお読みいただければ大丈夫です

>このシナリオに向いてる人
・ダメージ喰らって血みどろになりたい、死にかけたい
・自キャラ瀕死じゃないと発動しないUCを使いたい
・学生さんや娼婦の死体も転がってるので、UCで屍使いをしたい
・どさくさに紛れて一緒に来た人と殺し合いしたい(死ぬまではいきませんが)
・赤丸溜めてラストに真の姿やりたい
・大正建造物(の出来損ない)を利用して戦いたい


>プレイングについて
 辛勝前提です、無傷では済みません
 大正の有名な建造物モドキは大抵あります、死体も転がっています(どんなのかはお好きに指定してください)……それぞれ好きに利用してください

 描写結果の指定が可能です
・辛勝(基本)
・敗北(冒頭に記号×)


>受付期間
【9日の8:31~11日の8:31】まで、2章目からの参加歓迎します!

※再送をお願いする可能性が高いのでご協力願います
(極力2回までに抑えます)


>採用人数
40名までは全員を、それ以上は力の及ぶ限り採用します
ただし、以下の方は流します

・受付期間以外の参加
・文字数が少ないプレイング
・一切負けない無敵ムーブ
・エロ
・相方さんのいらっしゃらないグループ参加
・その他、扱いきれないと判断したもの
(基準に悩まれた場合は、1章目採用のプレイングをご覧いただければと!)


>リプレイ
 お一人様ずつ、グループごとでの描写となります


>同行
 2名様までOK。それぞれプレイング冒頭に【チーム名】お願いします
 同行でいらした場合のみ「どさくさに紛れての殺し合い」が可能です
(冒頭に『殺』と、双方にある場合のみ受理します。敵も襲いかかってきます)


>継続参加の方のダメージ
 マスター側は「連続した闘いなので全快していない」イメージで描写の予定です
 プレイングにて「負傷の状況」や「応急手当をした」などがあれば拾って書かせていただきます
「1章目参加して負傷しているので失敗」とはならないので、それはご安心ください


>冒頭記号まとめ
・敗北描写希望 →×
・同行者との殺し合い希望 →殺

(×と殺、あと継続参加の方は『苦戦』判定が出る場合があります。シナリオ失敗とならぬようにはするので判定も愉しんでいただければ幸いです)
備傘・剱
…おいおい、スプラッタの次はグロテスクってか?
刃の痛みが、まだ正気だってのを保証してくれるだなんぞ、皮肉なもんだな

こんなもん、まともに相手してられるか
デビルダイスロール、発動、おい、一足りない達、相手してやれ

俺も、戦いには参加するが、数が数、だからな
それに、応急処置をしたとはいえ、手負いだ
下手すれば、命を落としかねねぇ、か?

衝撃波、呪殺弾、誘導弾、ブレス攻撃を仕掛け、弾幕を張るが…
無数の触手にとらえられ、傷口をさらに広げられかねないな

ある意味よ、こいつら相手にしてると、噴き出る血の温かさが、正気を保つ唯一の手段になってるからなぁ…
恐ろしい、もんだぜ

アドリブ、絡み、好きにしてくれ




 うねる肌色の競演に備傘・剱(絶路・f01759)口元が柔らに笑いの形をとった。笑っている場合じゃないのはちゃんと理解している、だが躰の反応が乖離するぐらいには、窮地。
「……おいおい、スプラッタの次はグロテスクってか?」
 芝居小屋の影で胸部はじめ大きな傷への応急処置は済ませたが、こんな有象無象に絡みつかれたらひとたまりもない。
 耳障りな嗤い声が連なる前に、剱は人差し指と中指を立てて口元に翳す。
『アハ、ハハハはは、何してあソぶ』
 彼らの背後に【妖怪一足りない】の一団を招聘。
 肌色の中からまろびでた一体の眼窩は、とっておきの玩具を見つけたと上体でのしかかった。数体が潰されるも懸命に剱の前に城壁を築こうと連なり押し返す【妖怪一足りない】
『イジワルしないデよ。いれてヨいレテよ』
 作る傍から潰される。それはさながら砂場で城を築く子供をからかう波のように理不尽ですらある。
 剱は身を翻すと【妖怪一足りない】の集う場所へ魔弾を投げ入れた。
 漆黒は正確なる動きで膨れあがった頭へ着弾、砕けた肉から得も言われぬコータールの粘液が広がり周囲を汚染する。
 しかし嗤い声は止まない。
 なくした頭はすぐに別のがせり出し成り代わり、剱へと這いずり近づいてくる。
「くそっ」
 嫌悪感からか魔弾を何度も打ち出してしまう。
「ダメだ、消耗するばかりだ」
 スモークをまいてありったけの【妖怪一足りない】を向かわせ立て直しを試みる。
「……!」
 自分と同じ体温のなにかが背中を這いずっている!
「しまっ……」
『アハはハ!!』
 ぎゅるん。
 ゼンマイめいたしなやかさで、背中のソレは剱の全身へと絡む。そうして触れあう皮膚からジクジクと境界を無に替え取り込もうと試みる。
 苦痛で顎が持ち上がり宙を喰む。
 ボタボタと流れ出した先程の傷の痛みと血潮の熱が辛うじて拒絶を永らえてくれる。
 恐怖に、呑まれる。
 だが一度呑まれたら、あらゆる苦悩は去るのだろう。
 なら――。
『いっシょイっしょ』
「ッ」
 怖気が生存本能に火を放った。剱は咄嗟に頭突きをかまし緩んだ四肢から逃れる。狙いを定めず即座に魔弾射出。
『ぎゃああアァ』
 地面の埃と汚臭が血に混じり痛みが加速する、が、それでも今爆砕したアレと同化するより遙かにマシだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

子犬丸・陽菜
x

はっ、はっ、うぐっ…
痛みで目がくらむ…んっぅ!?

う、ぐ…血が止まらない…すごい血の匂い
それに腕も折れて、こっちは使えないね
それに…お腹が割られちゃってるから腸が…
はは…宝珠でいつもかき回しているのこれかぁ…
気持ち悪い…

ここは何、まがい物なりにお化け屋敷は頑張りましたってこと?
笑えない、その一部になろうとしているあたしも笑えないよ

…もっと笑えないのが出てきた
話なんて通じそうもないねあれは

宝珠を起動したいけどこの状態じゃ起動したらスプラッタ一直線
このまま起動しないでいけるか…?

遊びは終わりだよ!
今のあたしは壊れかけたおもちゃ、面白くないでしょ?

効くかわからないけど枷
威力が足りないなら宝珠

代償が…




 血の海をたゆたう。
 生ぐさい臭いに鼻を塞がれ粘液に浮く夢心地――だが、子犬丸・陽菜(倒錯の聖女・f24580)の意識は現世へと浮上してしまった。
「はっ、はっ、うぐっ……ぎゃっ! ……あ、ぁ……あれ?」
 立ち上がろうとついた腕からの激痛で一気に覚醒度合いがあがる。逆さまに折れた右腕は治療せねば使い物にならないか。
 お腹がやけに重たくて生暖かいものがぬちゃりと太ももを打つ。
 スッパリと縦に割られた刀傷から、血にまみれ所々破れた臓物がぞろりと分け出で様に、思わず口を覆った。
「あ……あぁ、はぁ……んっぅ!?」
 これでは歩行もままならない。宝珠由来のケロイドだらけの臓物を押し込もうとするも、激痛で手が引きつった。
「……っ、は……」
 たらんとぶら下がる臓物。その奥にはいつも“あたし”を荒らす宝珠がある。
 ごくり。
 指を差し入れ掻きだし宝珠に触れたい、そんな倒錯が一瞬だけ横切るも……。
 がたん!
 落ちた看板のろくろ首により正気に引き戻された。
「ここは何、まがい物なりに、っ……お化け屋敷は頑張りましたって、こと?」
 けったい化け物の看板に話しかけるしかないなんて、情けなくて笑えない。
『ネエ、ネエ、ネエ……おネエちゃん、こっちニオいでヨ!』
 もっと笑えないのがでてきた。
 陽菜を同類の褥にと希求する肌色お化けが、膝から腰へとねたつく肌でせせりあがってくる。
「今のあたしは壊れかけたおもちゃ、面白くない……うぐっ」
 刀で払い斬ろうとしたら、チリチリと臓物が螺旋を演じ一気に意識が遠のく、なけなし残った躰の防御反応である。
「あ、遊びは……終わりだよ! っ痛……う」
 取り落とした刀と陽菜が力なく横倒し倒しになる。
 嬉々として絡みつかんとする『人間モドキ』は、濁りかけた瞳と目があった。

 ――死ぬよりもおぞましいこの痛み、あなた達にも分けてあげる。

『き、ききキキキキキキきキ、ややヤヤ、やっ、やややぁあああ!』
 ひたん、ひたん、ひたん、と、陽菜の顔を打つ彼らの感情が直接的に陽菜の脳裏に届く。
 ――殺シて、殺シテ。こんなノ、痛くテ、耐えられなイ……。
 涙を零す化け物達を震える手で拾った刀で斬り飛ばし全て絶命。
「あ、たしの、痛みは……まだっ……くぁうう…………」
 まだ、続くままなのに。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

藤・美雨
損傷は背中に腹部かぁ
手足と心臓は動いてるからまだ平気!
……たぶん

次の相手は分かりやすい化物だねぇ
うんうん、あそぼ
でもお前達と一緒になるのはやだな
私の身体は私のものだからね

のたうつ動きに合わせるように、死体を踏み越え駆けていく
どこから攻撃が飛んでくるか分かんないからね
警戒しておくしかないや!

相手から目を逸らさず、注意深く観察してー……
そしたら予想外の所から攻撃が飛んできちゃったよ
ああ、腕が動かない
こういうのあるあるだよねぇ
余裕ぶってみるけど内心焦ってる
このまま取り込まれるなんて絶対嫌だ

だから爆発させるね!
絡みつかれた腕を代償にUCを
そのままの勢いで内側から爆ぜちまえ!
言っただろ
私は私のものだよ!




 屍娘は瓦の剥がれた屋根の上で、とん、ととんと自身の躰を確かめるように叩く。手足よし、何より心臓よしで「まだ平気!」が空元気か本当かはこれから次第。
『あははハハハは……アソボうヨ!』
 ところてんが押し出されるが如く、地上がぐねんぐねんと由来で肌色で染められるのに、藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)の瞳が糸となる。そう、傍目には笑顔。
「うんうん、あそぼ」
 すとん、と着地し出迎える様は、近所のおねーさん。
「でもお前達と一緒になるのはやだな」
 例え属するが既に冥府であろうとも、
「私の身体は私のものだからね」
 つま先まで迫った頭でっかちがうねり下を向くタイミングで、美雨は一歩を踏み出した。
 ぐにょれり。
 柔らかく足首まで容易く沈みヤスリがけめいた痛み、だがそれが傷になる前に彼女はテンポ良く赤子の頭を踏み前へ。
 最初は歩き、その内疾走。
 艶やかな黒髪と御札飾りを靡かせて、時折しゅるりと伸びる肉体へは現地調達の瓦や木ぎれで殴ったり払ったり。
 積極的に倒すより、ここを如何にして切り抜けるかしか考えられない、窮地。しかも激しく動いたせいか腹部の傷が疼きだした。まずい!
「ふぅ……わっ?!」
 同胞を踏み台にして立ち上がった肌色が『ちょうダい、ちョうだい』と、刀を握った手首ごとしがみつき駄々をこねるように震えた。
 ブジリブジリと朽ちる手首、コールタールの穴が歪んで笑顔を象った。
「こういうのあるあるだよねぇ」
 下から伸びる抱擁は、まさに美雨と同化したいと我儘謳う。歌声は、十字路一体に蔓延る肌色全てよりの不気味な輪唱。同じ顔して同じ声で同じよに――混ざってしまえば誰もがこうなる。
 ――このまま取り込まれるなんて絶対嫌だ。
 怖気が覚悟を裏打ちする。
「…………ッ、つぁっ、あぁああ!」
 美雨は手の甲を乱暴に掴むと肉骨全てを巻き込み渾身の力で引きちぎった。
 痛い、痛い……嗚呼、痛いさ!!! だが彼女の唇の端は持ち上がり流麗なる弧を描くのだ。
「そのままの勢いで内側から爆ぜちまえ!」
 夜の帳なぞ電光雷轟なる輝きの前では薄布。真昼のような明るさを伴い爆ぜた電流は、肉体すりあわせ群がる人間モドキを回路とし全てに到達、果たして美雨の言葉通りに灼き焦がした。
「言っただろ…………」
 荒らぐ息と、失った左腕のあった辺りの宙をかいて、美雨は黒ずみ動きを止めた奴等へと言い放つ。
「私は私のものだよ!」

成功 🔵​🔵​🔴​

北条・優希斗
アドリブ○
全身から流血しつつ瞳は蒼穹の儘
やれやれ
斬奸隊の次は化物か(脇腹に早業+医術で包帯巻き)
今宵はとことん『殺し合う』事になりそうだ
死者達の魂を慰める為にもな
先制攻撃+早業+UC
眼窩の奥の輝きを視るよりも速く、見切り+地形の利用(屍含)+残像+ジャンプ+ダッシュにて四肢による攻撃の被害抑え
躱せぬものは全身に纏ったオーラ防御+第六感で軽減
特に負傷箇所…脇腹の傷への致命の追撃だけは避ける
それからカウンター+騙し討ちの要領で血と死体の上を滑って懐に飛び込み2回攻撃+鎧無視攻撃+早業+属性攻撃:炎+範囲攻撃+薙ぎ払い+傷口を抉る
悪いが…まだ殺されてやる訳には行かないよ
これ以上の犠牲を出さぬ為にもね



 飾り戸をくぐりカフェ店内より出でた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)を迎えるは、肌色の蠢き。夜の帳の中でなお、沈み込まずに明瞭にして奇々怪々。
「やれやれ」
 髪かき上げた元には厭気露わな蒼穹の瞳、今宵はとことん『殺し合う』事になりそうだ、死者達の魂を慰める為にも。
 次の刹那、優希斗の指からの包帯が長く伸びて虚空にて弧を描く。仄白い頬も煌々と輝く蒼穹の双眸も、既にドア元には、ない。
『ネエ、ネエ、ネエ……どこ、どコ……??』
 ひゅるり。
 風切り音に気付いた数体がカフェの屋根を見たが、遅い。
「――」
 屋根から横転めいた飛翔、刀は長く真っ直ぐに持ち、捉えに来た眼窩へ刺し入れる。玩具が壊れる悲鳴、構わず地面を擦り描いた円の元に連なる奴等を裂き刻んだ。
 ひらひらと幼子が伸ばした手が優希斗の姿を絡め取った――かに見えて、残像。
 荒ぐ息づかい。
 包帯の下から滲んだ血が匂うのか、ずるりぺたりと粘液質の這いずりが指向性を持ち迫る。
 惹きつけ、彼らの頭上を跨ぎ大股で跳躍。
『アれ、あレレれ? かくれんボじょウずだ……ぐぎゃっ!』
 飛びすさった方へ首をぐんにゃりと傾ける者どもを踏み台に、優希斗は何処かへと飛んだ。素早い動きが生み出す残像に囚われた奴等が殆ど、隙だらけの彼らは業炎にて焼きはらわれる。
 だが。
「く……ッ」
 血の臭いを辿る賢しさを持つ個体が、にたり歪んだ眼窩に看板の元に潜む彼を納めた。
『みィつケたぁ、アハ、アハハハハは! 九回イっくよー』
 はしゃぎ声からの水平に尖った腕の連続斬。オーラで深傷を避け、脇腹へは柄を宛がい先程の傷を庇う。
 ぎ、と。
 柄にめり込んだ腕をつかみ蹴り飛ばした。
 後から押し寄せる軍勢を疎ましげに見据え、防ぎきれなかった裂傷を抱えた優希斗は再び闇へと融けた。
『もう、ミつけかたしっテるヨーだ』
 血の臭い、人の形……それらを辿り、新鮮な血液の溜まる地点へとなだれ込む人間モドキ。しかし残念だ、それは死体と優希斗の血にまみれた包帯である。
「悪いが……まだ殺されてやる訳には行かないよ」
 死体と生きる肌色の上を滑り懐にて斬る。確実なる絶命をもたらす為に二回。
 包帯がなくなり再び血を吹き出した身をそのままに、優希斗は背中越しに炎を放つ。
「これ以上の犠牲を出さぬ為にもね」

成功 🔵​🔵​🔴​

ウルマリカ・ラム
傷は処置セズ、ソのままでス
うぅん、商談はできなサソうな方々でスね

シャチ姿の悪魔・ヒレが刃の熱帯魚姿の悪魔群を召喚し、戦ってもらいまス
コインは【盾受け】で遺品の防御

自分は守りまセん
この体は悪魔の強化に使うので!
景気よく傷を負い、UCを使っていきまス

ワタシが死に瀕シ再構成スれば、ワタシの力は強まる
でも戦いはからきシなので、自分で太刀打ちはできまセん
けれどワタシの力で召喚スる悪魔もまた強くなる
勿論、体の水は攻撃で飛び散ったりで減るため、無限にとはいきまセんが

ああ痛い、痛い。なんて痛いのでシょう!
けれど、あはは、商人が商売の前に死ぬとでも?
ええ、存分に遊んでサシあげまス!
きちんとお代は頂きまスけどね!




「うぅん、商談はできなサソうな方々でス……ッ」
“ね”
 ……を象ったウルマリカ・ラム(よくばりメイルストロム・f30328)唇から、大量の水が吐き出された。
『アハは!! つーかマえた!』
 短い腕と腕をドリルに伸ばし人間モドキはニタニタ笑い。一方のウルマリカは、自らの命の水に倒れ込み頬をしとどに濡らす。
 白黒ツートンカラーの悪魔が鼻先でつつき押し返すも、新たな人間モドキが倒れた女の胴体に絡みついた。
「ああ痛い、痛い。なんて痛いのでシょう!」
 主の死が目前だと言うに、カラフルな熱帯魚の刃は遺品の周囲の肌色を刻むばかりだ。
「け、れど……」
『アハ、アハハハハは! そレー!』
 ぷじんっ!
 傷追いの胴体だからか、いともあっさりねじ切られてしまうウルマリカ。
 水をたたえた瞳は虚ろに濡れ光を失った。視線の端で、遺品を奪わせぬと広がったコインが煌めくとは、なんて皮肉な話でしょう。
 ところで、悪魔たちは遺棄物との交戦を続けている、否、続けられて、いる。
『アハはははは……』
“あはは”
 人間モドキは笑いに異物が混ざったとは気付かない。
「……商人が商売の前に死ぬとでも?」
 水たまりが上と下を同時に引き寄せる。流れのままに一方にしか向かえぬ水では不可能な動き、だが生憎とこの水はウルマリカという商人の娘である。
「ええ、存分に遊んでサシあげまス!」
 かき集められる全ての水で再度構築を果たしたウルマリカは、無防備に両手を広げる。ねとりと垂れ下がる水が召喚した悪魔たちへと吸われていく。
「きちんとお代は頂きまスけどね!」
『!! ぴぎゃっ! や、やダやだ、イタイいたいよ!』
 先程まで互角であった天秤が、悪魔へ著しく傾いた。
 シャチは群れへ飛び込みビチビチと揺するだけで周辺を屍畑に替えるし、熱帯魚の刃は拡大分散し起こした風で肌色たちを切り裂き飛ばす。
 殺された人間モドキから跳ねる血を、咄嗟に放った布に吸わせ、
「……あー混ジってシまうのは、まズいでスね」
 一番の困り顔を晒す。だって、水だから血とは馴染むわけで。
『おとモだちのカたキだー!』
 とおっ、と子供めいたかけ声と共に心臓部分を刺されたウルマリカは、ぐるりんと首を180度捻って攻撃者を目に納めた。どうせ弾け落ちる躰だ、今更首ひとつなんぞ、安い。
「いいんでスか?」
 ――地獄が続くだけでスよ?

成功 🔵​🔵​🔴​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

サヨ、櫻宵
私の愛しいきみよ
きみの慾も愛も戀すらも
凡てを受けとめる

何と酷い─人でなくなった命に憐憫を覚える
哀しくて心が悼むけれど
私はサヨとだけずっと共に生きたいのだ

─桜守ノ契

サヨは傷つけさせない
私ならばいくら傷つこうと構わない
きみを守る
私はきみの神なんだ

結界を張り巫女を庇い守り
見切り躱し切り込んで、伸びるモノを切断する
私の巫女に触れるな
広範囲になぎ切り
巡らせる神罰は枯死の劇毒の呪縛

サヨになら幾らでも食べられても良いんだ
私を喰らえば喰らう程に
きみは私のものになっていくのだから
滴る血をきみの唇にぬる
ならば今はここまでに
戀(殺)意が心地よい

神らしからぬこの熱を
痛みで覚ませておくれ

できるものならね


誘名・櫻宵
🌸神櫻

カムイ

私の愛しい神様
ころしたい
愛(ころ)したい

この身を癒した神の愛と傷付く神に囀る魂動がやまない
カムイは私が守るの

遊んであげる
ずっと一緒にいたいのはゴミ屑ではなく
カムイよ

「鶱華」

─真赫な神の愛を啜り

生きる証の鼓動に身を任せ、なぎ払い
這い寄る肉片を蹂躙して斬り潰す

─甘い甘い愛を喰い契りたい

浄化と破魔を腐る程注ぎ傷口抉り削ぎ殺す
癒えた傍から傷付く痛みすらこの熱を覚ませない
寧ろ熱を煽ってくれる

私の戀を受け止めてくれるいっとうの神様
ころしたい
ころしても死なないで
あなたに死んで欲しくない─故に耐え

桜化の神罰巡らせ
醜いあなたも美しく咲かせてあげる
咲いて贄になれ

殺(愛)しあうなら
思い切り甘いのがいい




「私の愛しい神様、ころしたい」
 愛(ころ)したい。
 武士崩れを肉塊にかえた誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は、興奮冷めやらぬ蕩けた眼差しで朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)を見つめる。
 だが、
 二人だけを残して屠ったというに、再び世界を穢す者どもが足元に渦を巻いた。櫻宵は玉容を顰めるも、傍らより零れた溜息に再び怒気を緩める。
「何と酷い――」
 赤子だろうか子供だろうか、その命を弄くり仕立てられた破棄物の群れへ、カムイは傷ましやと瞼をおろす。
「カムイ」
 あなたが斬れないのならと柄に手をやる愛しき巫女を、神は手を翳し留めた。
「サヨ、櫻宵」
 櫻宵と繰り返す。一度たりとも使い回しなき常に溢るる感情にて、名を呼び頷く。
 元より、彼女の慾も愛も戀すらも、凡てを受けとめる、所存。
 唯其れは、二人だけで封をした世でこそ叶えたい願いだ。哀しくて悼む心を此以上傾けてやるわけにはいかぬ。
「――」
 カムイの誓いは一瞬、効能は命尽きるまで。ぱぁと散った肉体は髪色の花弁となりて、櫻宵を包んだ。傍らに櫻宵がある限り無限とも思える守護の力。
「サヨは傷つけさせない」
 花が神の像を結ぶ。
 廃棄物が救いを求めるように縋り付く。己のくるぶしを焦がし這いずりあがるのを歯牙にも掛けず、カムイは大振りにて櫻宵のそば異形ども薙ぎ払う。
 再び花びらと変じ飛び去った痕には夥しい血だまり。流された命の分だけの傾倒を前に、櫻宵は熱っぽい息を吐いた。
 ――この身を癒した神の愛と傷付く神に囀る魂動がやまない。しかし斯様に護られるばかりでもない。
「カムイは私が守るの」
 其れもまた所有の欲望、何人たりとも愛しき神を傷つけることは赦されぬ。
「遊んであげる」
 ゴミ屑。
 そう斬って捨てる己は神の慈悲深さとはなくと逆さま。然れどそれが櫻宵だ。
「ずっと一緒にいたいのはゴミ屑ではなくカムイよ」
 だから、肌色には指一本触れずに刃にて巻き上げ叩き落とし、跳ねた血肉を間違っても吸わぬように口元は袖で覆う。
「鶱華」
 さぁ、頂戴。
 傍らに来た神の花びらの色が薄紅に塗り替えられる。染められしカムイはより櫻宵を包まんと紅色を薄く広げた。
 食べ過ぎてしまうわと柔和に笑んで、櫻宵は薄紅に変じた其れを――真赫な神の愛を、啜った。
 甘く。
 優しく。
 心に注がれる熱は相手を決して傷めぬ安寧の温度。斯くして櫻宵の中にカムイが満ちる。さァ果たして、どちらがどちらを浸蝕しているのやら。
 侵し遇う狂乱の儘に、櫻宵は肌色が段だらに集う最中に躍り込む。虚ろな眼窩がにたりと笑んで、九回の蹴打を震われようとも意に介さない。
 神が治してくれた傷がひらき、更に深くされるのが、まるで二人を祝福しているとすら錯覚する。
 ぶんっ、と。
 風がなり五体の頭が千切れ飛んだ最中へ、紅色桜が入り込むと両手を広げるカムイの形を象った。
「何という事を――」
 血だらけで喘ぐように息をつく櫻宵を背に庇い、カムイの容からは今完全に慈悲が消えた。代わりに浮かぶ怒気は人間モドキへの憎悪と己自身の不甲斐なさへだ。
「私の巫女に触れるな」
 喰われ欠けた指に無理矢理力を込めて赤色の太刀を振るう。円の形に遣わされたるは、神罰。
『や、ヤヤや……』
『タじげでえェ』
 逃げられぬ花の戒め、花びらが肉を伝い注ぐは枯死――ひからび縮む、からりからりの死者の群れ。
「私の戀を受け止めてくれるいっとうの神様」
 乾いた音にあわせ花嘔。流麗さへ振り返るカムイの瞳へ手のひら宛がい、櫻宵は己の傷口に纏う呪を破き浄化する。
 ぼたぼたと落ちる血肉の音に、カムイの容は瞳を隠されていてもわかる、哀しみに歪むのだ。
「ころしたい」
 其れは、大事ないという意思表示。
「ころしても死なないで、あなたに死んで欲しくない――」
 全てに勝る願い故に耐えられるのだと。
 刀を掬い起こした力で風殺。邪魔者は遠ざける。
「サヨになら幾らでも食べられても良いんだ」
 欠けた傷口に震える指を宛がって、背中からの攻撃は全て身を盾にしカムイが受け入れる。
「私を喰らえば喰らう程に、きみは私のものになっていくのだから」
 嗚呼、神もまた強欲だ。
 にぃと、口元が裂けあがる程に禍々しく笑み愛おうが、二人の優麗は欠片も曇りはしない。
 カムイの血に濡れた指が櫻宵の口元に、るりるりと紅を広げ色づける。指と熱と血の臭いに、櫻宵はかぷりと歯を立てより鮮烈なる血を零す。
 また、ごぉと櫻宵の内側を嵐が廻る――戀(殺)意が心地よい。
「ならば今はここまでに」
 解き放てとカムイが振り上げた太刀にあわせ櫻宵も屠桜を掲げあげた。
「醜いあなたも美しく咲かせてあげる」
 破棄される程に使い道のない憐れなる軍団よ、せめて二人を寿ぐがよい。
「咲いて贄になれ」
 神が枯らし、巫女が咲かせる。

 遺棄物が咲かせた一面の花びら、その元で神と巫女は互いへと撓垂れかかり息を荒がせる。
「神らしからぬこの熱を痛みで覚ませておくれ」
「ええ、殺(愛)しあうなら、思い切り甘いのがいい」
 互いの刃が重なりあうも、其れは一瞬。
「できるものならね」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーリア・ブラッドスノー
下半身に力が入らない、背骨をやられていますしね。
それ以上に出血で意識が…。
引きずり出された臓物も麻酔なしでは激痛と腹圧で戻せないですね…。
それどころかゆっくり押し出されて、んぐ…。
せめて掌で押さえましょう、嫌な感触…。

気力はあっても身体がついてこないのはもどかしいです。
この状態であれの相手は厳しそうですが。

どう見ても正気じゃないですね。
元から狂っているのか…ある意味哀れ、いや幸せでしょうか。
まともに日常を過ごせる物じゃないでしょうし。

UCが効くようには思えませんが試して見ます。
効けば儲けもの、何より動こうにも上半身しか動けませんし。

動けば腹の中身が出てきて。

今のあたしもモドキみたい?
遊ぼうか?




 腹からまろびでて太ももを撫でる腑は腹圧で外にあふれ続ける重篤な有様。
 ありとあらゆる責め苦に慣れきり“恐れ”や“哀しみ”が枯渇したリーリア・ブラッドスノー(うつろなる幻想・f27329)の欠点が、今、余すところなく晒されている。
 精神は難攻不落、だが幾ら理不尽なる強化を重ねられたとはいえ身体は人間である。そのギャップを埋められず度々生命の危機に陥る。
「……っ」
 意識を明滅の明に寄せると、だらりと人形めいた下半身と連なる背骨の激痛に気絶しそうな矛盾。気力はあっても身体がついてこないのがもどかしい。
『アハ、アハハハハは……はは、は!』
 新たなる敵の襲来か。怖ましい輪唱の主を確認すべく、金時計の鎖を揺らし視線を斜め上へ。
『ネエネエネエ、アソボうヨ!』
『ズット、ズット、ズットズット』
 まるで肌色の粘土遊び。デタラメに腰に腕をくっつけたり、頭を三つ生やしたり……リーリアの乾いた認識は“どこかで見た”と自動的に記憶の襞を探る。
「……かっ、はぁ!」
 のしり。
 歪な胴体がのしかかり、無邪気で禍々しいコールタールの眼窩がリーリアをじぃと見据えてくる。
『きゃ、キゃ、きャきゃ……』
 とすとすとす、と腹部に重みをかける度、リーリアの手足が無茶苦茶に踊る様がいたく気に入ったご様子。
 白目を向き宙に舌を出しながらもリーリアの脳は何より冷静である。
(「どう見ても正気じゃないですね。元から狂っているのか……ある意味哀れ、いや幸せでしょうか」)
 そもそも最初が発狂で日常なんぞなかったのか、何にしてもまともに生きられる物ではない。
「……う、くぅうう……」
 憐れんだ刹那、数倍にも膨張した奴等より射出された触手がリーリアの全身を這いずり締め付けを強めた。
 みしりみしりと更に砕けた背骨に追い打ちがかけられる。
 ゆーべるこーど?
 痛みで茫洋とした意識は、利くかどうかわからぬけれど、とまた鎮静へと向かう。
「あ、ああ……あぅ、あ、遊ぼう、か?」
 僅かに持ち上がったメスを見せたなら、精神崩壊と共に眼窩のコールタールが全身に広がりぐちゃりぐちゃりと肉体も崩壊していく。
 そんなに恐ろしいのか、この経験はと自問自答。
「……今のあたしもモドキみたい?」
 いっそ暴くのを諦めて混ざれれば――なんて、砂糖が掛かりすぎた菓子より甘すぎる。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

五百崎・零
※戦闘中はハイテンション

デッドマンだし、死にたくないって気持ちがあるから、例え体が傷ついても放っておけばいずれ元に戻ると思うけど
「ハハ、…あーあ、さっきやりすぎちまったかなァ?」
痛いのがひかない。この痛みが「自分は今生きているのだ」と実感する。
あっは、楽しすぎんだけど。

「で?次はお前らが相手してくれんの?」
人間モドキに銃をむける。
ヒャハ…、そう急かすなよ。お望みどおり遊んでやるからさァ!
UC【第一悪魔式「傲慢なる翼獣」】を発動し、敵を蹂躙。
敵に絡みつかれたら、自分の身体ごと銃で撃って引き剥がす。

敵が動かなくなっても関係ない。死にたくない。戦いたい。
「キヒヒヒ、もっともっと遊ぼうぜ」




 駆け抜けた先にあるのは、静寂。
 五百崎・零(死にたくない死人・f28909)は、寂寞と言う名の冷水をぶっかけられて俯いた。だが、脳内麻薬が切れ方々から痛みが芽吹き出したなら再び口元は笑いを象った。
「ハハ、……あーあ、さっきやりすぎちまったかなァ?」
 デッドマンであるから、気持ちが死を望まねば肉体は継続する。裏を返すと痛みは『自分は今生きているのだ』という証でもある。
「あっは、楽しすぎんだけど」
 なにより、お次の相手が通りに充満しているのが歓喜を呼び覚ます。
「で? 次はお前らが相手してくれんの?」
 片目を閉じて狙いを澄ます、その銃が触手につつかれ宙でくるり。好機と胴体に絡みつき、コールタールの眼窩で零を捉える人間モドキ。
「ばぁん」
 そう銃を象った指はただの指。
『ひゃぁあ』
 人間モドキは喉を鳴らし悦に入ると九回の連弾へと入る、が。
 パァン!
 本物の銃声は零の声より余程軽はずみ。
 落下した銃を受け止め下方からの射撃が腕と片目を貫いた。
 抱擁が緩んでも容赦なく引き金を引く。ひとつ撃つ度、熱狂が注がれダイヤルを切り替えるように口が裂け瞳が狂乱の歪みが強くなる。
 同時に肌色の赤子は血肉を散らして顕現を保てなくなっていく。
 これが、生と死だ。
 零は、生きている、まだ。
 相手を殺め、命を堕としかねぬ場に身を置かねば生を自覚できぬ、此は悲劇ではなくて享楽に塗れた喜劇だ。
『ぼくモぼクもアソんでヨ!』
「ヒャハ……、そう急かすなよ。お望みどおりお前らとも遊んでやるからさァ!」
 足元より豊かな翼が盛り上がり羽ばたくように開いた。跳ね飛ばされ尻餅をつく頭蓋にはもれなく銃弾が穿たれる。
 遊びたいと強請る奴には、更なる傲慢がお似合いだ!
『やダいたいのはヤめて』
「だーめ!」
 逃げ惑う肌色たちをプチプチを潰すようにぞんざいに踏み壊す。後には変質した骨と内臓とおぼしき肉片が残るのみ。
 必死の抗いで叩きつけられる人間モドキの腕は撃って蹴って、たまに腕や足に絡まり肌を融かされ、零の身体もまた朽ちていく。
「いてェだろ、この野郎」
 罵声の裏には謝辞すら滲む。
 空の弾倉は奴等の瞳よりなお昏い、小さな欠片が通りを埋める程に使い捨てられる。それは廃棄物の名にふさわしい墓標である。添えられるは、零の肺から吹き出す血液の赫。
「キヒヒヒ、もっともっと遊ぼうぜ」
 もう終わりなんて、つれねェこと言うなよ、なぁ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ディアナ・ロドクルーン


【狼天狗】
敵の来訪を待つこともなくミコトと斬り合い続け
足場を埋め尽くす屍を踏みつけ、妖刀を向けられれば盾がわり
投げつけついでに一緒に斬り捨てようか

嗚呼、楽しい。愉しい

…ナニよこれ、邪魔くさいわね
せっかく良い所だったのに興覚めよ

私と遊ぼうと言うには役不足

さっさと片を付けて、続きをしましょ?
(ねえ?と艶やかな唇は傍らの男に笑みを向け)

UCでぐずぐずになった四肢を踏み潰し刃を突き刺そうか
何度も 何度も 動いている限り

ほら、遊びたいのではなかったの?ふふ―…もう、聞こえないわね

…気づいていたし
余計な事をしないで、私の楽しみが減ったじゃない
(軽口には軽口を返し、礼を言う様にひらり。手を振る)


ミコト・イザナギ

【狼天狗】
ディアナ以外が瞳に映らない程
血みどろの闘争劇に酔いしれて
屍を手刀で貫き、裂いて
迫る肉袋を蹴り飛ばす

嗚呼、このひととき
何物にも代えがたい
愛おしいね
狂おしい程に


まあ、遊びたがってる童子には優しく、です

(不貞腐れる彼女を宥めながら、仮面を外す
爛々と輝く緋色の瞳、白貌を晒して、ええ、と頷きと微笑を返す)

うん、もちろん
早くアナタと喧嘩したくて堪らない

さあ、坊や達
悪いけど死んでもらうよ

UCにて宙高く跳躍、空を蹴って急転直下
敵の肉片を飛び散らせながら暴れ回ろう

後ろ、お留守だよ
長期戦で鈍った?
(彼女に飛び掛かろうとした敵に妖刀を投げつけ軽口叩き)

ははっ、オレはアナタとの時間が近づいて上機嫌だよ




 帳は段だら。八方塔の歪な瓦礫を半端な月が照らす傍ら、四尺はあろうかという細長い太刀が世界を上と下に裁った。
 つぷり。
 その切っ先を胸に吸い込み受けた辻斬りはびくともしない。
「……ばぁ! ふふふ、引っ掛かった」
 遺骸の肩を掴んで盾がわり、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)はかくれんぼ中の幼女の如く無邪気に破顔。その頬にはべったりと血が張り付いていて、己からか他者からかは既にわからないが、所詮は些事だ。
「無粋だね。ディアナ以外をこの瞳には映したくないのに」
 そう嘯くミコト・イザナギ(語り音の天狗・f23042)の声は仮面越しにこもるも愉楽が隠せない。
「あらあら、ごめんあそばせ?」
 無造作に屍をぶん投げ即座にディアナは疾走に入る。地と同化した屍どもを踏みつけて、そぉれと大きく振り抜いた切っ先。ミコトの腹も巻き込んで赫を爆ぜ咲かせた。
「嗚呼、楽しい。愉しい」
「嗚呼、このひととき、何物にも代えがたい」
 ミコトとてやられっぱなしではない。深傷を避ける為に下がり後ろ手に掴んだ遺骸を蹴り出し手刀で貫いた。
 弾ける腑に瞳を丸くしてはしゃぐディアナ、だが笑い声は突如の衝撃にて強制終了。
 蹴り飛ばされて向かうは八方塔の玄関硝子。細かく砕けた欠片に血が混ざり、そこにしゃがみ込む娘が添えられたなら異界の美を顕わす絵画の出来上がり。
 なんて愛しい、狂おしい程に。
 悠然と近づくミコトは反撃を心待ちにしている。期待に応えるべく娘は硝子を握りしめる。しかし、後方に現れし群れが目に入り不貞腐れ頬が腫れた。
「……ナニよあれ、邪魔くさいわね」
 モゴモゴと蠢く肌色は、群れを為さねばならぬ程に幼稚で弱いということ。
『アハはハハはハハハハハ』
『ネエ、ネエネエ、アソボうヨ』
 はしゃぐ赤子の規則性のない振れは眺め続けると厭気を催すこと請け合いだ。
「せっかく良い所だったのに興覚めよ」
 ガシャン、と駄々をこね硝子を放るディアナを闘いの最中からずっと寛厚を保つ声が宥める。
「まあ、遊びたがってる童子には優しく、です」
「私と遊ぼうと言うには役不足」
「ええ」
 仮面に手を宛がい外す最中に呟かれた同意の声がくぐもった。
「さっさと片を付けて、続きをしましょ?」
 ねえ? と艶やかに、夜に沈まぬ白貌に爛々と輝く緋色の瞳を晒す男へ、すらりと寄り添い立った獣の女が笑みかける。
「うん、もちろん。早くアナタと喧嘩したくて堪らない」
 返事の代わりにディアナの腕から砂塵が崩れ風に散る。砂の意味を知るミコトは気の毒そうに赤色の瞳を眇めた。
『きゃ?』
 砂を浴び吸った肌色頭はぐんと引きつる、そして一気に腐敗する手足への喫驚に眼窩を広げる。
「ほら、遊びたいのではなかったの?」
 ぐじ。
『けぽ……』
「ふふ―……もう、聞こえないわね」
 震え持ち上がる後頭部には即座の刃を突き刺して、ディアナはあっさりと恍惚に到る。
 足掻き絡む腕が痛めつける部位は、既に目の前の男が傷をつけている。嗚呼、憎らしい。
 その男だが、一振りごとに勢いを増す肌色の斬撃を、野太刀でいなし遊んでいた。正確には手傷も負わされてはいるのだが、やはりディアナからの痛みの上書きに過ぎぬ。
「さあ、坊や達、気が済んだかい? ……悪いけど死んでもらうよ」
 口元の笑みを虚空に残し、羽ばたきの音なぞ立てもせずに遙か上方へと跳躍。
 エレベーターが動き出した刹那の時で四階までひとっ飛び、眼下では艶を喪った人間モドキが腐れもげた四肢でたちいかぬ様が見える。
 えげつないやり口だ、嗚呼なんておあつらえ向き。
 斬、断。
 左右振り上げた手刀にて唐竹に割る。五体を引きつれた輩を右でひとつ、四体仲良しの輩を左でひとつ。
 四肢を喪った奴等へは致命の割入り。
 頭蓋を割られ血を吹き上げる人間モドキの胴体を掴んで持ち上げると、紙でも引き裂くように容易く割った。
 びたびたと降り注ぐ臓物に瞬時目を奪われるも、ディアナは切っ先に既に潰し殺した四匹を串刺しにして見せびらかすことで対抗する。
 這いずり集積する人間モドキより傷をもたらされながらも、二人は殺し自慢を止めない。
 心は既にじれている。嗚呼今にも全てを放棄してまた二人だけの抉り合いに耽りたい――!
 ひゅ。
 不意に、ミコトが妖刀を投げ飛ばすのに、ディアナはぱちりと瞬いた。
『うぎゃ』
 とたんとなにかが倒れる音に胡乱げに寄る秀麗なる眉。
「後ろ、お留守だよ」
「……気づいていたし」
 膨れ顔は奴等めが現れた時に見せたものと寸分と変わりない。
「長期戦で鈍った?」
「余計な事をしないで、私の楽しみが減ったじゃない」
 ひらひらと蝶のようにゆれた手のひらが示す謝辞に肩を竦め、ミコトは懐より面を出す。
「ははっ、オレはアナタとの時間が近づいて上機嫌だよ」
「……あら、つけちゃうの?」
 毒で炙り速攻で首を跳ねる。ネチネチと刺すのには飽いた女はそう問うた。
「さぁ、どうしようかね?」
 再び廻るお楽しみの時間、面を手にした男と牙をむき出す女が笑い嗤う。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】
(敵から生命力を収奪しても尚止まらぬ出血。無表情だが、内心ではしかめっ面)
廃棄物……の、人間、モドキ……
……私は、失敗作、の、ひとでなし、か

(あの武士崩れから吸った生命力を代償にUC発動。身を包むのは漆黒の虚数物質、形作るのは黒鳥のドレス。真の姿一歩手前の姿)

素早く、飛んで、敵の四肢、回避
鳥の、脚、みたいに、変化した、手に、怪力を乗せて、切り裂く

……!!
(油断した瞬間、持って行かれる片腕。激痛耐性で瞬時に痛覚を遮断。氷の属性攻撃で腕をもがれた肩を凍らせて止血し。幸い、自己再生が出来る身体だ。時間はかかるが)
源次、そっちは、大丈夫?

腕、使えなくても、念動力が……ある
お返し、して、あげる


叢雲・源次
【煉鴉】
(胸部を貫かれたが致命傷ではない…五体も健在。あの手練れにこの程度で済んだのはむしろ幸運か…しかし…とグウェンを見る)そう自分を卑下するものではない。いいか『グウェンドリン・グレンジャー』…最も重要な事は、自分の価値は自分で定める事だ。何を以てして成功とするかなぞ他人に委ねる事ではない。(対神太刀、抜刀)

(グウェンの自己再生の時間を稼ぐため前衛へ。代償に右義眼を抉られる)…ッ!!
(眼窩より煉獄の蒼炎が溢れ、周囲に展開。意志を持ったように廃棄物へ襲い掛かる)
やはり、一筋縄ではいかんか…スリルに身を任せる程酔狂では無いが、こういう展開も『良し』とする。
行くぞグウェン、後退の選択肢は無い。




 屍の群れを築いて下がる。
 その道筋はまるで、ハーメルンの笛吹きが子供を死へと誘った有様に同じ。
「……ッ、はぁ、はぁ……」
 背中を預けた筈の壁より殴り返されている、そんな錯覚に陥る程にグウェンドリン・グレンジャー(Blue Heaven・f00712)の痛みは深い。
 収奪し宛がっても武士崩れにつけられた脇腹を含め疵を消すには間に合わないと、切り結んだ唇に焦燥を封ず。
「胸部を貫かれたが致命傷ではない……五体も健在。あの手練れにこの程度で済んだのはむしろ幸運か……」
 確認するように敢えて損傷を数え上げる叢雲・源次(DEAD SET・f14403)は、傍らの娘を見て眉を曇らせた。
 いつも通りの感情がわかりづらい容だが、よくよく見れば頬に額に汗が浮き出ているではないか。
 だが、休息は仕舞いだ。
 二人の視界を肌色に染め尽くす者どもが、いる。辻斬りや學徒兵らの遺骸の上を這いずり巻き込み同化し膨張する群れが。
「廃棄物……の、人間、モドキ……」
 群がり手を伸ばす。遊ぼうと一緒になろうと無邪気に無垢に、それしか考えられない『人のなりそこない』へ、グウェンドリンは熱帯びた吐息を吐き、複雑な心中を零す。
「……私は、失敗作、の、ひとでなし、か」
 己は“ありきたりに生きて死ねる、常識的な寿命”を持たずに生まれた娘であり、それを哀れんだ両親が作り出した成れの果てだ。
 根元にあるのが親の愛情か、新たなる力を生み出す邪悪な知的好奇心か、己と肌色の違いは、ただそれだけ。
「いいか『グウェンドリン・グレンジャー』」
 琥珀に映し出された己への憐憫を気取り、源次は画然とした口ぶりで彼女の名を呼ぶ。
「最も重要な事は、自分の価値は自分で定める事だ」
 すらり抜かれた刃が焔を纏い俯く娘の眼前を照らしだした。
「何を以てして成功とするかなぞ他人に委ねる事ではない」
 その刃は、かつて娘の命を編んだ“ソレ”と同種のもので出来ている。源次は敢えてこの刃にて道を示す、それが一人の先人としての矜持だ。
 彼は、グウェンドリンが止める間もなく異形が連なる場へ身を躍らせた。
 着地と同時に半円描いてそこに居た者どもを無に帰すが、背後から伸びた腕にまでの対応は叶わなかった。
『ちょうダい、きれいなノ』
『いっしょじゃないから、いらなイね』
「……ッ!!」
 指先が絡まり突如尖りて右目を抉る。赤色の義眼が弾け飛ぶのを、人としての習性的か、源次は虚ろな眼窩で流し追った。
「! 源次」
 そうだ、俯いて自己憐憫に浸る時間なんて一刻もない。
 奮い立てたならグウェンドリンの行動は速い。先程の屍どもから吸い尽くした命を手当ではなく異貌の発現へとまわす。
 生きろと言ってくれたから、最善手を尽くすのみ。
「やはり、一筋縄ではいかんか……」
 宙に進み出たグウェンドリンを前にして、源次は慌てて右目を手のひらで押さえつけ何かを堪えた。
『あはははハハはは、チョウチョチョウチョ』
『つかまエたぁああ……!』
 次々に伸ばされる手はさながらススキ、それでいて早回しフィルムの蔦の如く乱暴で強欲だ。グウェンドリンはそれらをつま先で一蹴し、反動を利用し腹這いでの滑空に移行する。
 今や、人の形をした娘はおらず鳥とも蝶とも獣とも名状しがたき存在が、畏怖をばらまきたゆたっている。
「源次、行って」
 鷲爪めいた指にて『人間モドキ』の頭を掴み個体ごと投げつけた。
 弾けた血肉は虚数の先へ。転生すら叶わぬ虚ろへ葬り去る事に胸が痛まぬわけではないが、言い訳などしない。
 ただただ逢魔を消すという使命を果たす為、グウェンドリンは力任せに葬り続ける。
「源次、そっちは、大丈……あぅっ!」
 グウェドリンの襲撃の勢いを利用し宙まで飛んだ個体が一気に膨張すると、グウェンドリンの腕に絡みつき締め上げ千切った。
『たかラもの、もらった。アハは、あははハハハハハはははぁ』
 はゃいで捩れる奴は虚空で蒼い焔に包まれて、彼女の腕ごと消え去る。
 源次の右目から手のひらが離れている。漆黒の眼窩を煌々と照らすは、際限なく広がる蒼い焔。意思を得たかの如く、娘を襲う輩を中心に炎舌を伸ばし焦がしだす。
「大丈夫か」
 こくり。
「腕、使えなくても、念動力が……ある」
 頷く弟子がもがれた肩を中心に氷柱を築き応急処置を済ますのに、源次は安堵した。
 ……スリルに身を任せる程酔狂では無いが、こういう展開も『良し』とする。それは弟子が無事であるから言えること。
「行くぞグウェン、後退の選択肢は無い」
 荒い息で頷くグウェンドリン。彼女が浮かせた人間モドキは、余すことなく蒼炎が包み全てをこの世から消滅させる。
 自らが抉られ剥がされた血肉も同時に焼きはらい、立ちこめる白煙と異臭が通り一帯を染め尽くした。
 ――今この場所で動けるものは、源次とグウェンドリンのただ二人。それに間違いは、ない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルネ・プロスト
さて、ルネの目的を御浚いするとしよう
観光は後回しで結構。更地になってなければ、だけど
メインは屍拾い。うん、屍拾いだ
……回収予定の遺体を傷つけるのやめてもらえないかなぁ、もう!
逃げ回るだけなら兎も角この数相手に遺体守りながら戦えとか
さっきの辻斬り相手の方がずっとずっと楽だったよ、全く

初手UC
ビショップ2体は焔の結界(属性攻撃&オーラ防御&焼却)でルネ達や遺体への接近を牽制する
強引に越えようとするならポーン8体の銃剣による乱れ撃ち&制圧射撃&弾幕で面攻撃
それも越えるならルーク2体の盾受けで守りつつキングの斧槍でなぎ払う
一番機動力のあるナイト2体は結界外の遺体退避
※本気で余裕ない為敵以上の感情はなし




「さて、ルネの目的を御浚いするとしよう」
 観光は後回しと割り切った……更地になっていなければ、だけど。
「メインは屍拾い。うん、屍拾いだ」
 遺骸は七体。先の娼館の三体、あとは通りすがりに見いだした者達だ。
 順調に進めば蹉跌をきたすが世の常とは言え、ルネ・プロスト(人形王国・f21741)ため息をつかざるを得ない。
 華族令嬢と使用人の遺骸をほじくったりのしかかったりの肌色連隊。はしゃぐ声に釣られ四方八方からのぞろりぞろりには、ただただ頭が痛い。
「……回収予定の遺体を傷つけるのやめてもらえないかなぁ、もう!」
 ルネの一声を合図に、騎士団らは遺骸を1箇所に集め落す。
「――君の楔を解くよ、僧正人形(ビショップ)」
 刹那、ビショップ二体は燃えさかる。蕩ける鉄が豪奢な翼と形為し飛翔、広げた両腕よりの焔の糸が見事な籠を編み上げる。
(「あの二人もなんとか回収はしたいところだが……」)
 のたくった痕は黒ずみ割れた肉が腐臭をまき散らす。それを前にしては諦めざるを得ない。
 何にしても、ビショップの存在が尽きる前に片をつけねばならない。
 焔の格子の向こう側、廃棄された彼らを片時見据えてから瞼を落す。ああ、彼らも回収し葬ってやりたい、だがそれで身を滅ぼしては元も子もない。
「!」
『つかまえタ。アハ、アハハハハハハ!』
 焔を突き抜けた消し炭がルネの腰に押しつけられた、焔籠にてほぼ害する力を佚したそれはキングの斧槍でなぎ払われた。
 連戦見越すなら、織天使を酷使するわけにはいかない。そんなルネの慈悲で緩んだ籠を一気に押し抜ける肌色たち。即座に乱れない動きのルークが割り入って押し返した。
「頼む」
 ナイトが遺骸背負いて去るのを確認したルネは、キングへは全力攻撃、ビショップへは属性攻撃への転化を命ずる。
 ルネの前後には盾を掲げたルーク達。べちゃぬちゃという粘液質の音が非常に耳障りだ。
「…………」
 盾を抜けて喰らう痛みに構える余裕がない。ルネは人形騎士団の制御に精神の全てを振り分けるという最善を尽くすのみだ。
 じゅ、と、蝋燭が水に投げ入れられるような音を境に喧噪は去った。
 直立不動の警戒態勢に移行した騎士団を横目にルネは戦場を確認する。
 ああ、駄目だ。既に死骸と呼べる形あるものはすり切れきっている――。
「さっきの辻斬り相手の方がずっとずっと楽だったよ、全く」

成功 🔵​🔵​🔴​

橙樹・千織
【千宵桜】

……。
痛みと共に少しの理性を取り戻し
獣性を見せてしまったと少しの後悔と
恐れられるのではという怯えを抱く

傷は最低限の止血
激痛耐性で紛らわす
千鶴さんには秘密で自身に痛みを誤魔化す催眠術を

…善処はしますねぇ
私は大丈夫、と柔く笑み
彼の手をそっと握り、涙を拭う

何をどうしたらそうなる…
オーラ防御と破魔を二人に付与
敵の外見に顔を顰める

アソブ?冗談じゃない
私はお前と遊ばない
海底に還すだけ

諄いっ!!
その五月蠅い口を永遠に閉じてろ
破魔と浄化を付与した刃を振るい切断

…千鶴に触れるな
再び赫に塗れれば唸り、吼え
少しの独占欲と共に紋が咲き広がる
伸びてくるソレは全てなぎ払う

千鶴を護れるならば
赫に染まり獣に堕ちても


宵鍔・千鶴
【千宵桜】

貫いた感覚、止めどなく噴き出す鮮血
きれいでおそろしかった
震える手は赫滴る刃を落とさぬ様にが精一杯

千織、御願い、俺のために傷付くのは―、
俺なんか、と言葉は呑み込んで
どうか此れで最後に
ぼやける視界の中でそっと触れ
きみに出来る限りの医術を施し

地を這う音、不快な嗤い声
惨い、醜い、
遊ぶ?其れはお前たちのように
命を弄び蹂躙することか?
良いよ、俺も擦り潰して切り刻んで
気が済むまで酷くしてあげる

結界術で千織を護るように
歪な四肢が伸びて捕われるなら
華を舞わせて千切れてしまえと
何度も何度も抉って
千織に触れるのは赦さない
傍らの咆哮は安堵さえ感じる
きみの中の獣も、
俺の中の歪と狂気も

どれ程赫に塗れて沈もうとも




 熱が、去った。
「……っ、はぁ」
 橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)は刀を下げ肩で大きく息をついた。
 背中合わせの宵鍔・千鶴(nyx・f00683)の眼差しは常と変わらず涼やかで、己との差にますます恥じ入った。
 けだもの。
 あろうことか獣への道を誘ってしまった。人の道を外れたとの誹り……否、それならまだよい。境界線を引かれ恐怖の対象として見られるとしたら耐えがたい。今躰を廻る痛みなぞと比べものにならぬ程。
「…………」
 大丈夫、と、覚醒と引き替えに痛みを殺す。
 大丈夫、と、騙すのは物理的にな痛みだけじゃない、むしろジクジクと膿む心の方だ。
「――」
 此の期に及んで千鶴が波紋すらない水面の如く穏やかである。そのことこそが異常である証明に他ならないのだが。
 刀を伝い幾つも幾つも割り貫いた肉の感覚と止めどなく噴き出す鮮血が、安定せしめし紫瞳の内側を震わせる。
 きれいでおそろしかった。
 奴等の血肉も、自分の血肉も…………千織の血肉、も。
「だめだ」
 己を律するよう声にした。それだけは踏み越えては、ならぬ。
 震える手に力を込めて、思い切り刀を鞘へと収めた。そうして背中合わせの彼女へと改めて視線を向ける。
 嗚呼、嗚呼、なんて非道い。立つのが精一杯だろう、こんな疵。
「千織、御願い、俺のために傷付くのは――」
 俺なんか、と言葉は呑み込んで、無理矢理に抑えたであろう傷口へ白布を宛がい巻いた。
「千鶴」
 優しい指先が触れ癒やす。それは、己を騙す催眠より遙かに千織の痛みを取り去った。
「俺のために傷付くのは、どうか此れで最後に」
「……善処はしますねぇ」
 優しき手のひらを包み込み頬に押し当てる。零れそうな涙は血潮に隠した。そもそもが明瞭な視力を失った千鶴からはぼやけてわからない。
 そんな二人が、蝉が一斉に鳴き出すかの如くの耳障りな戦慄きに顔を持ち上げた。

『ネエ、ネエ、ネエ』
『ズット、ズット、ズットズット』
『アソボうヨ!』

「何をどうしたらそうなる……」
 あらんばかりの気を破魔へと傾けて、片時も交わりたくないという千織の嫌悪がそのまま守護となる。
「惨い、醜い」
 誰が作ったのか、何の為に生じたのか――思いを馳せるもそれは一瞬。千鶴は頭を振ると再び刀を抜いて構える。
「遊ぶ? 其れはお前たちのように命を弄び蹂躙することか?」
 返るは『アソボうヨ』という輪唱のみ。
「アソブ? 冗談じゃない。私はお前と遊ばない」
 秀麗なる眉をしこたまに顰め千織は溜まらずに進み出た。
「海底に還すだけ」
 千鶴のつま先へと伸びた手を斬り祓い、宙へ持ち上がった刃にて叩き払う。
 衣類なく直接肉に到達する刃は柔らかに滑り、赤子めいた姿を切り裂き肉塊へ堕した。ぴしゃりと、頬に跳ね、渇き黒ずんだ血潮を再び鮮やかに上書きしてしまう。
「良いよ」
 俺は遊んであげるとでも言いたげに、口元だけは柔和な笑みで千織の前へと進み出る。
「俺も擦り潰して切り刻んで気が済むまで酷くしてあげる」
 振り向きざま、千織へむしゃぶりつかんとしていた不敬なる輩をなぎ払った。穢れた血で彼女を汚さぬよう、刀の角度を僅かに傾け自身へと浴びせるのも忘れない。
 同時に、地面に向けて人差し指と中指を伸ばし叩き振れば、千織を包むは結界の守護。
 ぶぢり。
 奴等が伸ばした指が結界にて潰されて、同時に守護も花びらの形に欠片を散らし削れた。あくまで補助かと冷静に、千鶴は歪な四肢を斬り捨てる。
「嗚呼……」
 千鶴の生み出すものは、斬り捨てる異形すら異界の美へと替えてしまう。なのに彼奴らは、相も変わらず『ちょうイいチょうだい』と強請るのみだ。
「諄いっ!! その五月蠅い口を永遠に閉じてろ」
 ぶんっ、と、千織は力任せに振り下ろして歪に大きい首を絶った。ごんと跳ねた頭部は二人へと顔を向けるとコールタールの口元に弧を描いたままで、浄化。
「……千鶴に」
 跳ねた赫を口中に浴び、味わい獣性が目覚める。
「千鶴に触れるな!」
 咆吼。
 赦さない、彼に触れること何人たりとも。一匙の独占欲を孕んだそれは紋を咲かせ、肌色たちをも花へと裂かせてやった。
「触れるな、触れるな。その怖ましい手も足も頭も、全て全て――」
 無心に斬り、祓い、叩きつける。周辺では一掃するよう、咲くは山吹と八重桜。
「……千織」
 呼べば返る咆吼に、千鶴は心からの安堵を感じそれを笑みへと昇華した。
「千織に触れるな」
 赦さない、彼女に触れること何人足りとも。同じだけの独占欲にて狼藉者の首を掬い跳ねた。休む間もなく抉り、掻いて、この場で動く者を二人だけに近づける。
 山吹が桜に重なり、桜は八重桜に覆われた。その度に、女は獣へ、男は狂気へ、ひらりふらりと花びらめいた速度で到る。
 嗚呼、あなたを護れるならば、
 赫に染まり獣に堕ちても、正気がどれ程赫に塗れて沈もうとも、
 ――後悔など、ひとひらもあるわけなし。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロキ・バロックヒート
×

この腕引っ張ったら千切れちゃうかなぁ?
傷付いても“元に戻る”身体に対しては
己のものであっても玩具みたいな感覚
さっきのやつらは物足りなかったなぁ
だってこの腕ばかりに夢中だったもの

柔らかい胴が裂かれて
裡が引き潰されるのが好きなんだよね
そうそう、そんな感じ
肉塊に向ける感想は可哀想ないい子
撫でてあげようか
なんてね

苦痛を感じてないわけじゃない
生から逃れられないなら
より強い刺激を楽しみ享受するようになっただけ
でももういいよ
その内飽きちゃって
肉塊を壊すことにする

あれ?
ちょっと遊び過ぎたかも
相変わらずこの身体は脆いなぁ
意識だけは保って
黒槍が肉塊を貫く

はやく、はやく、ぜんぶ、なにもかも
壊してしまえればいいのに




 再生を繰り返す。そう、再生が出来る程の損壊なのだ、所詮は。
 皮一枚でつながる手首を前に欠伸があふり。辻斬りらはこれに夢中でロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)が瀕死に陥る事態にはしてくれなかった。
 退屈に殺されそうなかみさまは、ぽとりと手首が落ちた先のコールタールの眼差しと目が合う。
『アハ、アはハ!』
 知性を欠いた片言で見上げてくるのが微笑ましくてロキは口元を緩めた。
「……ん?」
 手首だったものを地面に押し転がして神経がぱたりぱたり。肉塊赤子はロキの指も畳み匣へと変えていく。
 だくだくともがれた手首から血を落とし脳に到達する恢々たる痛みを味わいつつも、ロキの黄金の眼差しは憐れみを大いに含んだ優しさで溢れている。
『ネエネエ、タリナい。モットモット』
 刹那、肩に尻に足元に八体の頭と腕が肉塊に殖えてそれぞれがそれぞれの方向に、撓りだす。
「へぇ」
 面白そうと、くつり、と鳴る喉。
 柔らかな脇腹が、ふつり、と裂かれる。
 てろてろと零れ落ちる裡は人と神の差なぞない。しかし、人は喪えばそのままであるが、神の身は傷付いても“元に戻る”
 幾らでも買ってもらえる玩具なぞ、誰が大切に遊ぶ?
 そんな思索の間も九回の斬撃がロキの皮膚を破き、中央の赤子がてらり輝く臓物を夢中になって手繰り寄せる。
「……つぅっ」
 荒ぐ息、苦痛に寄る眉根、制御できぬ油汗……しかし心は高揚し好ましさにて塗りつぶされる。
 絶対に死なないとわかっているからこそ、絶命に到るような刺激に耽る。先の辻斬りは期待外れで、この子は――。
「あぁ……い、い子」
 一所懸命こねて、臓物の形を匣の形に近づけていく。裡が引き攣れ減じていく感触にロキの唇が震え視界に靄がかかりだす。
 肺が溺れる程に血で満ちているのに、腑はどんどんなくなっていく。
「いい子、だね」
 でも、同じことの繰り返しは飽きちゃうよ。
“壊しちゃお”
 想ったが最期、肉塊は漆黒に貫かれて消失、後には丹念に四角にした匣を残して。興味がない、でもまだ己につながっている疎ましさ。ひとまずと手を伸ばしたら、がくりと上から押しつけられるようにロキは突っ伏す。
 あれ? ちょっと遊び過ぎたか、も?
 躰の脆さに呆れ伏しながらも、新たに這いずり来る肉塊へは黒槍を。
 はやく、はやく、ぜんぶ、なにもかも、壊してしまえればいいのに。
「あ」
 肉塊は全部刺し潰したのに、影から無数に出でる歪な黒槍が――…………。

苦戦 🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『『殺人者』退役軍人』

POW   :    終わらぬ戦争、終わらせぬ戦争~エターナルウォー~
【自身に【戦闘継続(戦闘不能時、異常を無効】【化して全回復する)】×800回を付与する】【。又、【戦闘継続】が消費される度に副効果】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    戦争の亡霊~我ガ大隊ハ今ダ戦争中ナリ~
自身が戦闘で瀕死になると【負傷が全回復する。又、大隊規模の戦友の霊】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ   :    アサルトバタリオン~大隊、突撃!突撃!突撃!~
【自身の小銃・銃剣から、自身に敵意】を向けた対象に、【攻撃回数を800回に増やした、弾丸や銃剣】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ――夜の帳に囲まれた此処は籠、あるいは檻だ。
 お國の為に人を殺し。
 敵兵を悪鬼と称し脳漿をぶちまけ銃剣で腑刻み。死者の血と体液の臭いがこびりつく身で、唯ひたすらに敵兵を土へと返し月日を超えた。
 しかし、嗚呼しかし、凱旋した祖国では人殺しは人でなしの大罪人。
 と、斯様に世間様の正義と悪はくるりんくるりん入れ替わる。だが人の心とはそのように簡単なものではないのだ。
 簡単ではないから、まずは出生前に腹に宿り再開時には三歳になっていた子の腹を銃剣で割いた。小さくか細い腑は、其れすらも愛しくて……敵兵などとは全くもって違うのだと心得た。
 不幸にも悪漢に子を奪われた妻は心を病み臥せることが多くなった。譫言で子に逢いたい逢いたい逢いたいとばかり囁くので、愛銃でもって親子再会の路行きの門を開いてやった。
 布団に散った脳漿は淡いながらも鮮やかで、頬をつけ浸れば出生前に身を任せてくれた夜を、腹に子を宿した夜が蘇った。其れから何日も、俺はお前に抱かれて眠ったのだ。
 ……この時までは、俺は殺人鬼ではなかったのだよ。
 だが、不躾なる近所住まいの誰某が騒ぎ、官憲に家を荒らされるに到っては、俺も平静では居られなかったのだ。

 嗚呼、敵対者を殺すのは、正(たの)しいなァ。

 夜の帳がおりた先、不用意だろうが用意周到に構えていようが、踏み込んだ時点で自己責任。
 この場所ならば遊び相手に事欠かないと腰を据えた。
 実際に帝都を正すなんてお題目で人を斬り続けた時代遅れの辻斬りや、軍が秘匿した失敗作の肉塊どもは、俺にとってのいい退屈しのぎであったよ。
 彼奴ら、撃っても刺しても刻んでも、いっくらでも出てきやがる。
「……はは。煙草の方が先に尽きちまうや」
 空の箱を握って放り捨てる。残りはあと一箱になっちまったわ。辻斬りが殺した奴から拝借したから色々吸ったなァ。
 そろそろ俺は、武士崩れも失敗作も相手するのに飽きてもいたのだろう。もし殺し尽くしてなんぞ新しいのが出てくるなら其れもよし、ぐらい考えてはいた。
 けれど、
 俺より先に其れらを殲滅した奴等がいる、らしい。
「さて」
 封を剥がして一本、咥えて火を入れる。すぅと肺を汚したならば、何処まで行っても夜しかない空の彼方へ、白い煙が細く儚く散っていく。
「この箱の中身がなくなるぐらいまでは、愉しませてくれっといいなァ」

 長銃を肩に掛け軍帽を直し、軍人は戦場へと歩を進める。瞳はに煌々と煙草の先めいた赫を灯して。


***
【マスターより】
※最初の「マスターより」から一部ルールを変更しました
※3章よりの方はこちらだけお読みいただければ大丈夫です

>このシナリオに向いてる人
・強い敵に叩きのめされつつも一矢報いたい←NEW!

・ダメージ喰らって血みどろになりたい、死にかけたい
・自キャラ瀕死じゃないと発動しないUCを使いたい
・学生さんや娼婦の死体も転がってるので、UCで屍使いをしたい
・どさくさに紛れて一緒に来た人と殺し合いしたい(死ぬまではいきませんが)
・大正建造物(の出来損ない)を利用して戦いたい


>プレイングについて
 ラスボスは強敵です、今まで以上に無傷ではすみません
 あとそこそこ喋りたがりです(プレイング次第ですが)

・指定がない場合は叩きのめされつつ一矢報いる描写になりやすいです
・2章までのテイスト希望の方は【冒頭に○】をお願いします。敵の言動控えめで仕上げます
・同行者と殺し合いの場合は、ラスボスも嬉々として混ざります

・戦術に工夫を凝らし敵からのアドバンテージを奪い返すチャレンジも歓迎です
 既存作の「やや難戦闘」な感じで判定します
 うまくいけば通常より押し返しした描写、戦術が嵌まらないと窮地に陥るかもです(【冒頭に◆】をお願いします)

※どのプレイングに偏っても「シナリオクリア失敗」にはしないので、その点はお気になさらずにご自由にどうぞ


>記号まとめ
・強敵に叩きのめされつつ一矢報いる(記号不要)
・同行者と殺し合い(冒頭に殺)
・敗北(冒頭に×)
・2章までのテイスト希望(冒頭に○)←NEW!
・戦術凝らして敵とやりあう(冒頭に◆)←NEW!


>敵の情報
 敵は一人
 熟知した八方街の地形を利用し射撃メイン、銃剣での接近戦もこなします
 ユーベルコード以外の攻撃がメインとなりますが、油断なさらぬように
 P0Wユーベルコードは『攻撃力』に全振りです
 煙草吸います

 大正の有名な建造物モドキは大抵あります、死体も転がっています(どんなのかはお好きに指定してください)……それぞれ好きに利用してください


>継続参加の方のダメージ
 マスター側は「連続した闘いなので全快していない」イメージで描写の予定です
 プレイングにて「負傷の状況」や「応急手当をした」などがあれば拾って書かせていただきます
「過去章目参加して負傷しているので失敗」とはならないので、それはご安心ください


>受付期間
【24日の8:31~26日の8:31】まで、三章目からの参加も歓迎です

※再送をお願いする可能性が高いのでご協力願います


>採用人数
期間中にいらした方は全員採用の予定。ただし以下は流します

・受付期間以外の参加
・文字数が少ないプレイング
・一切負けない無敵ムーブ
・エロ
・相方さんのいらっしゃらないグループ参加
・その他、扱いきれないと判断したもの
(基準に悩まれた場合は、過去章の採用プレイングをご覧いただければと!)


>リプレイ
 お一人様ずつ、グループごとでの描写となります


>同行
 2名様までOK。それぞれプレイング冒頭に【チーム名】お願いします
 
 
※『2章目までのテイスト(冒頭に◆)』の捕捉です
・主に、敵にきつく負かされる、敵が言葉や行動で煽る…などの描写を控えます
・同行者ありでいらして、過去章のように『PCさん同志のやりとり』を重視される方はこちらをオススメします
(敗北描写控えめでも判定自体が有利なわけではないので、その点はご了承下さい)
↑ 上記修正です、すみません

※『2章目までのテイスト(冒頭に◆)』→『2章目までのテイスト(冒頭に○)』
>記号まとめ再掲
・強敵に叩きのめされつつ一矢報いる(記号不要)
・同行者と殺し合い(冒頭に殺)
・敗北(冒頭に×)
・2章までのテイスト希望(冒頭に○)←NEW!
・戦術凝らして敵とやりあう(冒頭に◆)←NEW!

です
混乱をきたす間違いをしてしまい、本当に申し訳ないです
北条・優希斗

アド○
真の姿:UC秘密の設定
流血継続
既にこの身は限界故に
可視化出来る死戦の様だな

先制攻撃+UC
双刀抜刀、屍の脳漿見て呟く
貴様の其の想いは
影朧化の影響か
祖国に大罪人の烙印を押された為か
どちらが原因なのだろうな
まあ、貴様を理解する努力はしよう
殺し合う事実は変わらんがな
情報収集+戦闘知識+地形の利用で八方街の狙撃点を算出
煙草の匂いで位置推測
見切り+残像+ダッシュ+軽業+第六感+UCで寸前回避
「如何した? 貴様は隠れてしか撃てぬ腑抜けか? 己が手で肉を切る事こそ愉悦だろう?」
と挑発、斬撃波+範囲攻撃
近接してきたらオーラ防御でダメを軽減し
2回攻撃+騙し討ち+早業+薙ぎ払い+傷口を抉る+カウンターで攻撃




 出血をそのままに踏み出す度に、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)の瞳は蒼穹深まる。
 優秀な狙撃手故に、絶大なる力を持とうが潜む狙撃点は最適解、だから却って読みやすい。
「方向はあっているか」
 強まる煙草の臭いに踵の下で躙られた脳漿に頷いた。
 其の想いは影朧化の影響か祖国に大罪人の烙印を押された為か、どちらが原因なのだろう――伺い知ろうとは努めるが情で緩める云われはない。

 敵襲。
 バラック小屋の壁に背を預け即、軍人は肩越しに銃口を向け躊躇いなく撃った。ざんばらと、壁は×の形に斬り崩されて、その隙間を銃弾がいく。
 心臓打たれし若人は、残像。実際は脇をかすったに過ぎない。
「如何した? 貴様は隠れてしか撃てぬ腑抜けか?」
 敵が無事な壁側へと逃れるのに対し、優希斗は敢えて隠れず声を張る。
「頭がいいと言ってくれ」
 壁と地面の隙間からばら蒔かれる銃弾。巧みに避けようがふくらはぎを削ぎ機動力を奪う。
 ガシャンとボルトが引かれ、澄んだ音で転げ出る薬莢。場所を露わにしている時点で狙いは同じカウンター。
「己が手で肉を切る事こそ愉悦だろう?」
 答えはない、ならば手荒に追い出すまで。
 クロスした腕を勢いよく広げ生み出した衝動波、安普請の壁なぞひとたまりもない。
 同時に守護のオーラを纏い、近づいた煙草臭へ刃を振り下ろ……さず、無茶に身体を捻り、全ての動きを止めた。
 てん、と、刀が振り堕ろされる筈の地点に、一本の白が転がった。
 ――第六感が告げたのだ、罠であると。お陰で急所は避けたが肩を貫かれた。対面に現れていた男は血まみれの銃剣を引く。
「煙草、無駄にしちまったや」
 息もつく間もない銃剣での薙ぎ払い。飛び下がり避けると、先程止めた一と二を続け様、左の白刃に盡力のせ斬り進む。
「げっほ……」
 男は銃で止めた、が、勢いは殺しきれず咳き込む。荒ぐ息の敵へと更に詰め寄り刀を止めた……優希斗の誘い。
 かかるかよ、と男は嗤うのみ。
 次は斬る、銃身で止める。
 騙しを絡めカウンター狙う。その攻防は互いの身体の底にある体力を減じ続けた。
「チッ、キリがねぇや」
 やがて、軍人は忌々しげに舌打ちすると背を向ける。
「――待て、ッ」
 追いすがり斬りつけるのを優希斗は堪えた。正しい判断である。これこそが軍人の仕掛けたカウンター狙いの布石。優希斗がのらなければ逃走できる。
「……ッ」
 精神の糸が切れ優希斗はその場にて膝を折った。真の姿ですら賄えぬ程、既に活動の限界を超えている……。
 これは、そういう闘いだったのだ。
 無尽蔵に見える男の力の源を削りとり、優希斗は先を仲間へと托す。

成功 🔵​🔵​🔴​

備傘・剱
戦と殺しの業に飲まれた、か…
煙草が慰みとは、哀れな奴だ
ま、俺も同じだがな(スキットルの酒を飲み)

全兵装、完全起動!
誘導弾、呪殺弾、衝撃波、斬撃波、ブレスを弾幕に、接近戦を仕掛けるぞ
こんなもんで、止まるとは思わないが、オーラ防御は全力展開、結界術で動きを縛るぞ
切り裂かれようが、心臓と脳、そして、片腕が生きていれば、何とかなる
俺の体が動けなくなってからが勝負だ
空中浮遊で首に噛みついて、生き残った方腕ごと、黒魔弾を叩き込む

戦争って大義名分を剝がされれば、やってきた事は、人殺しだからな
ただ、それをそれでも、やる覚悟があれば、お前のようには、ならんはずだ
お前は、自分に負けたんだよ

アドリブ、すきにしてくれ




 銀色スキットルの胴体に黒い洞が穿たれる。
 ヤニとアルコールの濃密な臭いは脳みそを狂わせるが、備傘・剱(絶路・f01759)の動きは俊敏にて秀逸であった。
「みっけ」
 軍帽の下の瞳は歪み笑みを象るも、それは剱の蒔いたもうもうと立ちこめる弾幕に沈んだ。
「ほぅ、逃げんのかよ」
 否。
 剱が試みたのは、地面を叩き壁をぶち抜くけたたましい音に足音を紛れさせた接近戦だ。
 ガキリ、と、不可思議なる色を宿すOrthrusは銃身にて阻まれた。同時に腹への蹴打に剱の内臓に断裂が生じる。壁ぶつかり天を向く顎。自分の吐いた血反吐が視界を遮る。しかし痛打に浸る暇なぞない。剱は即座に心臓にガントレット頭部にOrthrusを宛がった。直後、銃弾が右目と足首に刺さる。庇わねば急所を貫かれ戦線離脱だったろう。
 剱の吐く荒れた息づかいと、悠然とボルトを引き薬莢を落す音が交差する。
 まったく酒臭いし煙草臭い空間この上ない。過去を紛らわすのを己はアルコールで奴は煙草。哀れとの嘲りはお互いに対してだ。
 片目で潰れた視界の側に潜んだと読み、剱も転がり追った。ついでに目先のスキットルを蹴飛ばし気を惹いてみた。
(「さすがに掛からないか」)
「酒が勿体ねぇ」
 銃声はないが声はやけに近い。剱は即座に衝撃波で範囲を広げた呪殺弾を放つ。しかし気配は目の前にあり続け、代わりに剱の片腕が斬り千切られた。
「消毒に痛み止め、なにより酔える」
 呪殺弾を浴びせられながらも平然、銃剣を突き立て鮫のように歯を見せ嗤った。
「……戦争では一思いに殺したんだろ」
「そうして欲しいか?」
 下腹部に銃口が当たった刹那、大砲でも喰らったかの如く吹き飛ばされた。たった一発であるというに幾重にもまとめたようなデタラメな威力だ。
「まだ死なねぇのか」
 此が埒外かと軍人もまた感嘆を口にし、ちびた煙草を外して煙りを横に吹く。
「戦争って大義名分を剝がされれば、やってきた事は、人殺し……ただ、やる覚悟があれば、お前のようには、ならんはずだ」
「説教は聞き飽きた」
 響けばいいのになぁと自嘲の哀愁漂わす男の眼前、褐色の上半身が浮きあがる。敵は粛々と心臓への零距離射撃で対処するが、剱の執念が勝った。
 首筋を噛む直前、囁く。
「――お前は、自分に負けたんだよ」
 そして、黒く腫れた閃光が剱の身を火種に爆発した。数多の影朧にとっては必殺となり得る破壊力に晒されてなお、軍人は上体を揺らすにも到らなず。
「お國は勝ったんだよ」
 男は、銃を盾にした胸ポケットの煙草の無事を確認してから、頬の左右や手の甲より滲む血を拭う。
「それでいいんだよ」
 夥しい血を片目と首より流す剱の頭はビタ一文動かない。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャト・フランチェスカ
この種族だからか帝都に詳しく見られがちでさ
そんなに興味ないし知らないんだよね

ただ、紛い物の街は気に入った
僕も偽物なの
きみはどう?
きみは誰?
僕は桜の樹の根本に埋められた死体
その娘の未練が創ったお人形

死体から適当な刀を拝借した
鋭ければなんでもいい
だって斬りかかっても敵わないでしょ
僕が斬るのは、こっち

視界に入っていてくれれば
派手に燃やしてあげられる
僕の血が涸れるまで、だけど

痛いのは好きさ
あは、沢山殺したんでしょ
案外少なくなかったんじゃない?
痛みは生きてる証だって
気付いて死んでく人

きみは殺す間
生の実感を得るのかな
悪だなんて思わないよ

でも難しい生き方かも
麻薬のようなものだろ
もっと沢山殺さなきゃね、ほら。




 帝都には興味がないが、この街が紛い物ならば話は別だ。
 猟兵の肉体消失にはじめて相まみえ惑う敵を見つけたシャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)は運がいい。勿論そのまま声をかける。
「僕も偽物なの。きみはどう?」
 振り返り様の銃剣に薙ぎ払われて腹が割れた。違う、ここじゃあないんだ、やはり屍より一振り拝借して置いてよかった。
「きみは誰?」
「ははぁ」
 煙草を一本噛み取り火をつける。どうやらつきあってくれるらしい。ずっと目の前に居てくれるだなんて、ありがたい。
「そういうお前は?」
「僕は桜の樹の根本に埋められた死体、その娘の未練が創ったお人形」
 耳を劈く銃声が響き、シャトの右脇腹がごっそりと吹き飛んだ。
「嘘つきめ」
 散らかる肉塊を前に煙に塗れる唇がありありと退屈を宿す。
「……そう、転生を信じてないから、囚われたんだ」
 転生へと導く筈が咲き誇れぬ徒桜は、にぃと唇を吊り上げた。
 また銃声、身体の質量が減って嬉しげに喉を鳴らす。男の動揺もそれを隠す暴力も、なんと好ましい。
「痛いのは好きさ」
「俺は嫌いだね」
 人間ならば致命の位置を撃貫くも、顔を吹き飛ばさぬのは話がしたいから。
「あは、沢山殺したんでしょ。案外少なくなかったんじゃない? 痛みは生きてる証だって、気付いて死んでく人」
「……そうだな」
 長い息は白に塗れている。肺腑を汚す毒を吐き出しながら男は銃を攻撃態勢から支え持ちに変えた。まだ話をしたいってことだ。
「きみは殺す間、生の実感を得るのかな」
「戦場にゃ、天秤があるんだ。自分の命と釣り合うだけの人を殺さねぇとなんねぇの」
 もはや胴体の殆どを佚した桜人形は、答えが少し違ったことすら満足げである。
 血湧き肉躍る殺し合いなんぞ此処にはなくて、己の心を仕舞った匣をあけて見せ合う静かな暴露だけ。

 ――燃やすのが、惜しい。
 
「でも難しい生き方かも」
 憐れみも憎しみもなく、敢えて分類するなら乾いた声は友を労る親愛に近い。
「麻薬のようなものだろ」
「これと同じだな」
 すっかりちびた煙草をつまみ翳してみせる。
「当たった」
 自分で貫くのが難しくなるまで歓談に興じたのは計算違いだった。だから覚束ない手つきで握った刀を彼へ向け煽る。
「もっと沢山殺さなきゃね、ほら。まずは手から千切って、全部台無しにして」
 とどめをさして。
 刃を落とし力なくぱたりと落ちた腕には目印めいた傷跡がある。シャトはこの男が存外素直で、故に心を病んだのだと見抜いていた。
 重く固い銃声が響き、傷跡が貫かれる。さすれば散り続ける桜花が虚空を焦がすのだ。
「ひどい奴だな、お前は」
 熱にもがいた男の指から煙草が投げ捨てられた。
「まだ吸えたのに」
 なんてぼやきを最後にシャトの意識はこの場より消え失せる。

成功 🔵​🔵​🔴​

子犬丸・陽菜
×

は、ぁ、あ、あぅ…
なかなか死ねないのも、つらいのかな…
意識がかすむ…溢れた内臓に刺激を受けるたびに意識がはっきりする

ひどい悪寒がするのは死に瀕してるだけじゃないよね
一番やばいのが来る気配がする

この状態じゃ遊ばれるのがオチかな…
でも、あがかせてもらうよ

周りの死体のように倒れて擬態して奇襲を狙う
臓物もはみ出しているから信憑性は増すはず
ただ、臓物が蠢いているのでばれるかは賭けかな

奇襲時は自分の傷はもう顧みない
倒さなきゃやられるだけだし、無理に体を動かすよ
はらわたがさらに…

いまさら何が正しいかは問わないけれど
せいぜい最後を楽しんだらいいよ

あたしも大概だけどね、こんな状態で
乱暴に触られる臓物が熱い…




 雪が降り出したと思ったら、なんのことはない自分の瞳が濁っているだけだ。
 腑を垂れ流し横たわる子犬丸・陽菜(倒錯の聖女・f24580)は凍死が一番楽な死に方なんて逸話を浮かべた。
 幻想の雪は既に陽菜の躰の外側を覆い積もっていて、寒気に震える。否、これは悪寒だ。一番やばいのがひたりひたりと近づいてく気配がする。
(「この状態じゃ遊ばれるのがオチかな……」)
 架空の雪に身を任せ全てを投げ出しかけたが、
「は、ぁ、あ、あぅ……」
 呼吸のごとに訪れる剥き出しの腸が擦れる激痛がそれを赦してくれない。皮肉にもこの痛みが彼女の命を永らえてすら、いる。
(「……あがかせてもらうよ」)
 まだ戦えると、全てへ示す。
 その直後、誓いとは相反するように陽菜はぐったりと四肢から力を抜いた。地面に押しつけた耳で軍靴の音にて距離を測り、闘志を内で燃やす。
(「あ……おなか、どうしよ……」)
 臓物がはみ出ているのは屍らしさが増し僥倖、しかし呼吸の度に蠢くのは気取られる材料となる。
 もはや悩む猶予は、ない。
 ピリピリと肌にヤスリがけするような厭な緊張。刹那、覚悟を決めて濁った瞳を見開いた。瞬きはせず敵をこの瞳に捉えるのだ、不意打ち、勝機はそこにしかない。
「ひどい目にあったわ」
 未だ止らぬ頬の血に舌打ちする男がすぐ傍で足を止めた。
「――」
 屍に擬態した陽菜の横目に軍服の袖が映る。
 火傷と頬の傷からの血で赤く掠れた手の甲は、陽菜の隣で斬られて尽きた男の傍に転がシケモクをつまみあげた。
 はぁと溜息がつかれてマッチが擦れる音を合図に陽菜は跳ね起きた。瞳が赤く爆ぜ先程異形や武士崩れになぶられた少女の姿はそこには、ない。
 ぎゃあ、という悲鳴と、覚悟、という叫びと、やはり悲鳴と悲鳴と悲鳴が、陽菜の口から迸る。
 同時につきだした刀にマッチが突き飛ばされる。マッチ棒をつまんだ指先を僅かに傷つけて。
「……あぁ?」
 シケモクを咥えた男は、泥の底めいた瞳で娘を一瞥すると垂れ下がる腸を思うさま蹴飛ばした。
「ッ……!!!!!」
 意味不明の叫喚と共に地面を滑りお化け屋敷の玄関口に投げ出される。もはや腑を抱え背を丸めることしか出来ぬ陽菜へ、軍人はシケモクを吐き棄てて悠然と近付いていく。
「……いまさ……、何が正し……は問わ……いけれ……ど」
 せいぜい最後を楽しんだらいいよ、とまで続ける体力はもはやない。
「虫みてぇになっても生きてんのな、そういう奴いたわ。同じことしてやるよ」
 鮮やかに嗤って、男は銃剣で陽菜の柔らかな腹を、刺した。
「ぎゃ」
 と、
 ざくり、ざくりと、肉が割られ腸が斬り裂かれる湿った音が交互に場を満たした。
 ああ、熱い――と、陽菜は恍惚に解けた唇から赤い涎垂らしもたらされる蹂躙に身を預ける。
 味覚なんぞとおに果てたはずなのに、この激痛はなんて甘いのでしょうか。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

藤・美雨
残った右手で『お弁当』を飲み干す
これで背中とお腹の傷は多少マシになったはず
左腕はどうしようもない
……やろう

戦場については相手の方が熟知してる
射程も向こうが上
インチキ能力目白押し
そして何より……頭のネジが飛んでやがる
やだなぁ

心臓と右腕を守り少しずつ接近するしかない
遮蔽物を利用して、怪力を籠めた拳で色んなものを崩して盾にする
接近するだけでも一苦労だろう
ヴォルテックエンジンと野生の勘も滾らせ全力だ

攻撃出来る距離までついたら刺し違えを覚悟
これが最後の一発、最大限のデッドマンズ・スパークを
右腕を犠牲に捨て身の一撃を叩き込んでやろう
これで私は動けなくなるけど……
あんたのムカつく顔、一発でも殴れれば充分さ!




 爆ぜて消えた左側、肩の露わな肉や骨や筋から灼けるような痛み廻る。痛みを堪える術を持たなかったら……屍じゃなかったら、藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)はここに立ってはいない。
 紅をひいた形よい唇は輸血パックの色を赤から透明に変える作業に没頭中。
 すすり上げる度に、赤く開いた傷が消される屍の脅威。だがさすがに左腕はどうしようもない。
「どうしたもんかな……」
 戦場については相手の方が熟知してる、
 射程も向こうが上、
 インチキ能力目白押し。
 やだなぁと切れ長の瞳が窄まった時、機械めいた悲鳴が耳を劈く。
 ――見つけた。
 十死一生状態で銃剣にていたぶられているのは仲間だ。カッと美雨の体内に怒りが廻るも、すぐに意図を察した。
 通常、落命前にグリモア猟兵が戦場から取り除く、だからまだ嬲られているのは彼女の意思の可能性がある。
 1回こっきり、仲間に居場所を知らせる為に。不意打ちとならなかった好機、無駄にはしない。
 美雨が崩れた八方塔の時計盤に手をかけたのと、奴が振り返りトリガーを引いたのはほぼ同時。
「でぃ、やぁあああ!」
 気合いと共に引き剥がした時計盤を掲げたら着弾で全壊。衝撃に仰け反りながらも即エレベーターの扉をガンッと前面に置く。そうして自分は干上がった人工池に飛び込んだ。
 扉が砕ける瞬間だけが思考の赦される時間だ。
 ……潜んで躱せる相手か? 否!
 だから不細工な犬の像を掴んで引き抜くと即座にぶん投げる。
「見世物小屋かよ、馬鹿力め」
 火傷で手袋を外した側の手はマッチを擦り、反対の手で無造作に翳した銃にて犬は爆発霧散。
「これが取り柄でね!」
 石膏の粉が駆け抜ける美雨の背中と艶やかな黒髪を染めた。老婆めいた色彩に貶められてなお、屍娘は瑞々しさに充ちる。
 それは、諦めちゃいないからだ。
 目の前の腐った沼めいた目の男とは大違いだ!
 頭のネジが飛んだイカサマ野郎を、何人もの命を奪った輩に一矢報いたい。この一打が礎となり後につながればそれで、勝ち。
 デタラメな銃弾の雨に、肩が腹が頬がくりぬかれ削られる。咄嗟に手が届いた看板や遺体やらで心臓と腕を護ることに徹し、もはや脚は止めない。
「こんのぉおお!」
 意気衝天にて頬に拳を叩きつける。
「は、なんだこりゃ。蚊が刺したか」
 嘲りで憎さ百倍増し、だが取り合う暇なぞない。
 かちり、と、合ってはいけない歯車が噛み合うような、音。刹那、美雨は閃光でますます白く染まる中、凄絶なる笑みを浮かべた。
「あんたのムカつく顔、一発でも殴れれば充分さ!」
 これが最後で最大限の屍雷光撃(デッドマンズ・スパーク)
 煙が晴れた後、両腕を失った美雨がぼたりと支えなく地面に叩きつけられる。果たして軍人は最初と変わらず立っている。
 だが、最初に命を賭した一撃での疵が深まり血が流れ出す――まるで、ただの人のように。

成功 🔵​🔵​🔴​


 
●幕間1
 長銃をぶら下げた男は、やけに息が上がる違和に首を傾ける。
 こんな息苦しさは、戦場以来か。
 臓腑が飛びでそうな程に走った、息をするのが苦しいが止った時は即ち死だ。苦しい、怖い……哀しい。
 …………想い出したくない感情(こんなもの)
 はたり、はたりと、子守歌のようにゆっくりとした拍子で落ちる血の起点は額から。忌々しげに強引に拳を宛がい止血する。
 爛れた火傷跡に視線を落し懐から引き出した新たな黒手袋を嵌めて隠す。
「さて。あとどれぐらいいるんだかなぁ」
 匣の底を叩いてだした煙草は16本。
 銃を担いだ男は、シケモク合われて6本目の白を唇に引っ掛けて、次の戦場へと歩き出す。
 既に出血は止っている。
 この男もまた、埒の外に置かれているから。
 
 命を賭した攻撃は、一であり無数の八百を使い凌ぐ――だから平然としていられた、其れこそが己の埒外の、利点。
 だが、最初に減じられた底の力を起点に重ねられた攻撃により、男の無尽を思わせる復活は、粛々と輝きを鈍らされている。
 
五百崎・零
※戦闘中はハイテンション

銃を撃ち、威嚇しながら敵と距離をとる。

連続で戦うのはヤバい。前の戦いで自分の身体ごと敵を撃ちすぎた。
痛い…はは、死にそう。
死にたくない死にたくない。……いや、もう死んでるんだっけ?
一瞬、自問自答

……はは。あはははは!!
どうでもいいか、そんなこと。
オレは目の前の敵と戦えればそれでいい。

敵との距離を詰める。その際、攻撃はできるだけ避けておく。
ゼロ距離まで詰めれたら、UCを使用。自分の片腕吹っ飛ばして、敵に攻撃。
「くらえッ!」

あー……ひひ、痛い痛い。
なあ、オレは別に人殺しをしたいわけじゃないんだよ。
だから、もう終わりなんて言うなよ?
まだ戦えるよな?あは、ひゃはははは!




 連戦の熱が去ったなら、五百崎・零(死にたくない死人・f28909)の胸に一時の理性が充ちる。
 最後の敵は射撃手でしかも頗る強いという。
「……ッ」
 足裏を刺し返した武士崩れの刀傷が、同化を望む肌色から剥がされた皮膚が、吹き出すように痛みだし咳き込んだ。
「痛い……はは、死にそう」
 嗚咽めいた声にますます頭が高揚を忘れていく。死にたくない死にたくないとの繰り言は弱々しい。
 でも――……。
「……いや、もう死んでるんだっけ?」
 はたりとみた指はやけに土気色じゃないか? つねった肌は戻りが悪くはないか? ……そもそも。
 気づいてはいけない、己を騙セ。
 死にたくないっておまじないを口にするんだ、さぁはやく。
 タァンと、長く響いた銃声と共にうなじから喉仏にかけて銃弾が貫通していった。
 壁に刺さり焦げた弾痕と、吹き出す血潮と身をかき混ぜるような痛みが、零の心に魔法をかける。
「……はは。あはははは!!」
 どうでもいいか、そんなこと。
 目の前の敵と戦えればそれでいい。
「どーこだ?」
 振り向きざま、道連れのアインの引き金を我武者羅に何度も何度も引いた。
 無限の銃弾を、賑わい商店街になり損ねた建物へプレゼント。壁は抉り抜かれ、硝子は砕け、瓦が落ちたりと無軌道極まりない。
 ガシャン……。
 一方で、長銃のボルトが引かれる音に耳を澄ます。
(「上か?」)
 茶屋の軒下に入ったなら確実なる軌跡の弾丸が零の肩を砕いた。
 丁度いいやと唇が釣り上がり、糸のように尖った瞳孔の瞳は愉悦に曲がる。
 位置がわかった、ならばやるこたぁ決まってる。
 背中から倒れで店内に侵入、身をかがめ足音を殺し階段をのぼる。敵は果たして降りてくるだろうか、それとも外に出ちまうか。
 自分ならどうする? いや考えが違い過ぎるか、なにしろ身を晒し的にしつつ殺り合うのが性分だから。
「……」
 二階に顔が出る直前、冷たくて固いものが額に当てられた。零は即座に無事な方の指を銃口に突っ込む。
「やっぱ暴発すんの?」
「……」
 煙草を噛んだ隙間から紫煙を漏らすだけで、軍人の引き金にかかった指は動かない。
「なあ、俺は別に人殺しをしたいわけじゃないんだよ」
「俺は自殺につきあう気はねぇなあ」
「ははは、気が合うな……ッと」
 役立たずの左腕で軍人の肩をつかみ、他方の腕で敵の銃身を抱き込みしゃがむ。僅かな筋でつながるに過ぎなかった左腕は千切れ、刹那、
「くらえッ!」
 雷光爆砕――男は銃を手放し零から身を引いた。
「……ひひ、痛い痛い」
 傾ぎ床へと倒れ伏す零を見下す男。その頬には滲む程度だった傷が深まったようで床に血潮を垂らした。長銃を拾う手を踏みしめようとしたが、もう動かない。
「だから、もう終わりなんて言うなよ? まだ戦えるよな? あは、ひゃはははは!」
 お前はどうなんだ、と問われ上体に銃弾の雨が降るまでは、零はずっと笑い続けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻


大丈夫だ
心配しないで
私はサヨの神なのだから
きみの前で膝を着く訳にはいかない

サヨを守る

朽ち果てろ
巡る神罰は生を奪い枯らし厄災を齎す不運

不運など実力でひっくり返せる
口惜しや
私が定まった強い神なら
大事な巫女が傷付くことも…

─再約ノ縁結

其れは約されていないと事象を否定し
第六感で察してサヨを守る為の結界を張る

見切り、念動力で銃弾を逸らす
邪魔な建造物は広範囲になぎ払い切断してしまえ

サヨの剣戟に合わせ早業で駆け
隙を作るべく切り込み斬る

サヨ!
何故私を庇って
舞う黒桜

過去の私

神斬

不甲斐ないことだ
巫女も守れぬとは
言葉が突き刺さる

私よりずっと強い過去

あの神には負けられない
私がサヨの神だ
一閃だって多く食らわせる


誘名・櫻宵
🌸神櫻

🔴半龍半人の櫻龍

所詮は屑や死体
生命を喰らい治癒にあててもまだ足らない
心配なのはカムイの方
あの子は私を庇って相当傷ついている

銃、
余り好きではないけれど
あなたからは血と殺戮の佳い香り
痛みすらも媚薬のようで
ゾクリと粟立つ
殺し愛ましょう!

地形の理はあちらにある
銃弾は四方八方から─たのし
見切りきれぬなら
生命喰らいに神罰を重ね飛交う銃弾を桜へ変えて

衝撃波と共に桜嵐を吹雪かせ弾くよう
なぎ払う
防ぎいなしてカウンター、斬り崩し

咄嗟、カムイを庇う
カムイを殺していいのは私だけ
渡さない

いけない
血を喪いすぎ

神華

揺れる視界に懐かしい厄神の黒が瞬く
神斬、師匠…?
きてくれた
神さま

いつも私をまもってくれる、わたしの




 咲き誇る。
 誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の全身より赫を纏いし桜がひらき、下肢は同じ色した龍に変じた。そうして屠桜を押し抱き夜の帳が未だ濃い天蓋を仰ぐ。
 埒外の力を解放したならば天変地異めいた変貌が現れるは道理。足元で渦を巻くように尽きていた赤子と辻斬りの群れが捩れ溶け合い、櫻宵へと吸われていく。
 喰らう度に花は咲き誇るも、櫻宵の眉目秀麗なる容は浮かない。
 足りぬ、なによりカムイが……あの子が身を捨て庇いに殉じすぎた。
「大丈夫だ、心配しないで」
 燃えるように赤い髪を垂らした朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は、咲き誇る花へうっすらと笑んだ。まるで赤子をあやすような安寧の面差しで身を廻る痛みを隠蔽し。
「私はサヨの神なのだから」
 無様に膝なぞつく訳にはいかない。
 互いに守護の意思を翳し合った刹那、全てを壊す銃声が耳を劈く。咄嗟にカムイを押して櫻宵の枝が幾つか砕け落ちた。
 嗚呼なんと、銃とは無粋。
 正直言えば、櫻宵は余り好みではない。
 だが一方で、一発で三割の枝を爆ぜ折った痛みをもたらす其れは甘い疼きをくれるのだ。
「サヨ……」
 苦渋を通り越して怒気を孕む口元の神。それを目にした櫻宵の頬はますます陶酔に染まる。
「あなたからは血と殺戮の佳い香り」
 眼差し向けた方角には細い紫煙が漂っている。ちゃんと場所を当てられた!
「殺し愛ましょう!」
 宣言。
 咳ききったように無邪気に駆け出す巫女へ向け、四方八方よりの銃弾が射かけられる。
「朽ち果てろ」
 カムイは罰をおろして対抗する。嗚呼先程までなら此でも充分であった。が、不運で弾が逸れたなら更に数を重ねればいつかは到達すると向こうは歯牙にも掛けぬよう。
 超常にして気高き御方への不敬上等と嘲笑うが如く再びぶちまけられた鈍色の群れへとさんざめく。櫻宵は遊びめいた指つきで触れ花へ変え祓い落した。
 それでも尾に櫻に肩にと銃痕を増やしていく。痛みを数える度に、カムイは己の不甲斐なさにうちひしがれて鬱怏に囚われるばかり。
(「口惜しや、私が定まった強い神なら――大事な巫女が傷付くことも……」)
 災厄への偏重を厭い、然りとて再生と約束は大事な巫女が血に伏すことで揺らいでいるではないか!
「カムイを殺していいのは私だけ」
 私の神に何人たりとも触れてはならぬ。
 先程もその前も、血に猛る己を包み微笑み……盾となりて傷付いた。此以上は我慢ならぬ、と、何度目かわからぬ銃弾を桜に変えてご返杯。
 屠る。
 風切り振るわれた血色の刃は、八百に己を増やす最中に介入し阻害する。彼方此方で呻く声の中より本物を探すのはさすがに無理か。
 敵陣へ踏み込まんとした櫻龍は、いつの間にか後ろに立つ男の銃口がカムイの頭頂に向けられているのを気取った。
「渡さない」
 身を割り込ませ、はらりはらりと爆ぜ散る花びら。
「……なんという」
 庇えたと笑み崩れる容は余りに無邪気。だが痛みに耽る色香も噎せ返るようだ。相反する魅を纏う巫女を抱き留めて、声にならぬ嗟歎を吐く神。
 愛してる(ころしたい)と■意を纏いなお巫女は穢れなぞあろう筈もなし。だからなにを置いても護らねばならぬと云うのに。
 そんな二人を視界に納めても、軍人は感慨顕わさず弾丸を籠めるべくボルトを引いた。からりからり、澄んだ音の薬莢が方々から転げ出る刹那、不甲斐なさに臍をかむ神の瞳が、すと怜悧なる理知を浮かべる。
「……いけない」
 囁き血の筋が口元より彩を添える、流血の多さに炙られ櫻の意識が昏く堕ちかけた。

 ……助けを請うのは何時でも、そう……かみ、さま。

 カムイに抱かれながら虚空に伸ばした腕の先、厄災の黒が翻る。赤き組紐が瞳と同じ鮮やかさを描き、闇を征く。
 櫻宵の願いにより顕現したのは、かつての、厄災たるカムイ『硃赫神斬』
「神斬、師匠……? きてくれた」
 あどけなく口元を綻ばせる様に、カムイの胸が引っかき回される。
 なんという、なんという不甲斐なさだ! 今の己よりずっと強い過去。其れを信じ縋る巫女、光栄の至りだ、しかし何より口惜しい……。
 もう何度目かわからぬ銃弾の雨も構わず、勇ましく厄を連れ振る舞うかつての己。其れで退けられるは余りに今の自分が惰弱ではないか。
 あの神には、負けられない。
 ――再約ノ縁結。
 災厄ではなく再約でありたいと願う、今現在のカムイでなければ為せぬ神罰を執行する。その銃弾の軌跡は全て視ていた。もう此に私の巫女を苛ませるものか。
 撃たれた鴉が堕ちるように、銃弾は全て、唐突に、落ちた。
「何度やろうと同じこと」
 櫻宵を花びらの上に丁重に横たえると、カムイは朱砂の太刀を振りかざしかつての己を追いすがり、抜いて、先に到達し、銃を携えた男を兜割に処した。
「私がサヨの神だ」
 振りおろしの勢いの儘に横への薙ぎ払い、一閃だって多く食らわせる――硃赫神斬よりも。八百になぞ到らせてなるものか。
 咲き散る赤色を浴び踊る神を遠目に、櫻宵は茫洋とした中で譫言を謳った。
「神様……いつも私をまもってくれる、わたしの…………」
 暗転する意識の中、鋭い銃声が八方街全体を叩いた。
 直後、残るのは、地面に放り捨てられた二本の煙草。一本は未だ燻るも、其れを吹かしていた軍服の男は撤退を選び、もう、いない――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロキ・バロックヒート
ふと眼を醒ますのは血溜まりのなか
死ぬにはあとちょっとだけ足りないし
このまま再生を待つのも退屈
だって戦争がやって来たんだもの
ねぇ?

ひとの成すことで一等面白いのは戦争だ
正義ぶって大儀を掲げて
矛盾だらけの欺瞞だらけ
お國の為だったのにねぇ
可哀想と憐れんで慈悲をあげようか?
いやいやそれじゃ面白くないよね

もう生きられまいなんて云われそうな死に体だけど
私はこの痛みに微睡みながら動かない
影から創り出すは【影法師】
数多もの武器や獣を呼び出して
今から始めるのは戦争だ
おまえを八百回殺すぐらい
かみさまならやってのけないとね

さぁさぁ
銃剣がかみさまの首に達するが先か
天使がおまえを壊すが先か
紛い物の命をもって賭けてみようか




 自らとあの子たちの内側をぶちまけた最高のベッドに横たわるロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は、絶命間近にかかわらず思索に耽る。
 死ぬにはあとちょっとだけ足りないし、このまま再生を待つのも退屈。
 最初から超越した場所にいる、なにしろかみさまだから。
 人の子の辿る道は盤面に広げられたチェスだ。己を盤面に置いた所で、駒を眺める“かみさま”が再生を保障してくれる。
 ……ああ漸く来たか、戦争め。
 地面を叩く軍靴の音に口元を綻ばせたら、まだ残っていた血液がこぽりと泉のように溢れた。
「お國の為だったのにねぇ」
 銃口が刹那の緋化粧。ロキは匣をつかみあげて相殺する。
 軍人は悠々とした所作で煙草を咥えると、マッチを滑らせた。もはや死に体のロキがなにもしてこないとタカをくくっているのか、それとも――。
「……ひとの成すことで一等面白いのは戦争だ」
「戦場にいる方はたまったもんじゃァねえけどな」
 それともが、当たり。
 対話か己を探しているのか、渇望に応えロキは話続ける。
「正義ぶって大儀を掲げて矛盾だらけの欺瞞だらけ」
「……」
 僅かに顰められた眉は白の穂先が燻るのよく似ている。憐れみで包み投げつけて道を示すのも悪くない、が、それじゃ面白くない。
 ロキの体躯が身じろぎ、背中に敷いた赤と裡の下側より影が滲み出る。得体の知れない所だけはあの子らの眼窩に似た、漆黒。
 飛び出す絵本が開かれるが如く、古今東西の刃物や銃の影絵が浮かんで踊り、傍らでは禍々しい獣が咆吼をあげる。
「言ったよね、一等面白いのは戦争だって」
 一斉に火を噴く銃口をずらり背中に招聘した無数の銃にて射出された弾で相殺し、
「ひとりじゃァ荷が重いな」
 迫り来る大蛇の喉を銃剣で跳ね飛ばし男は遮蔽物の向こうへ身を躍らせる。
「ひとりじゃないくせに」
 いっぱいになってしまったんでしょう?
 なんて見つめる琥珀の眼差しは、何処か同病相憐れむ気配が滲む。
「おまえを八百回殺すぐらい、かみさまならやってのけないとね」
 何様だ、というぼやきは双方の銃声にかき消えた。射手の居ない銃がどんどん弾を吐き出す様はさながらラッパ。余所様のお話ではあるが破滅の黙示録めいている。
「さぁさぁ、銃剣がかみさまの首に達するが先か、天使がおまえを壊すが先か」
 報酬のかみさま自体はなぁんにも出来ないからね、せいぜい護ってもらわないと。
 くるくると銃口がまわり軍人の居場所を探す。時折響く銃声は一つだが、ごそりと影法師を無に変えていく。
「まだまだ」
 尽きぬ玩具、紛い物の命。お互いにそれらを賭けて、ロキは今宵最後の遊びに興じる。
 ロキの狼が彼方の銃を手首ごと喰らった。軍人は焦りを浮かべて咥えた煙草を放り捨てる、と、同時に狼の顎門から銃も男の腕も霧散した。
 直後、一軒向こうの塀の影からの銃声、狼の頭を潰し貫いた弾丸はトタン屋根に当たり角度を変えてロキの額へ一直線。
「チェックメイト」
 そう囁いた唇は、果たして誰の物? 頭が石榴と化したならさすがに今宵のお祭りは、嗚呼お仕舞い。

成功 🔵​🔵​🔴​


 
 
●幕間2
 ――あと何度やり直せるんだろうか。
 戦場であれほど焦がれた不死身の躰。其処に至れたのだという高揚が、今夜は訪れてくれない。
 一は無数、其れは八百。八百とはつまり限りがあるのだ。無数は上っ面だと、猟兵達があらゆる手管で爪を引っ掛けて剥がしていった。

 知りたくないことを、俺の目の前に曝け出さんでくれよ。

 煙草まだ半分以上の12本もある。だから問題など如何ほどもあるものか。
 壁に凭れて空を見上げた。
 此処は夜の帳がおりるからか、いつも不定形のぼんやりが覆っていて星がちっとも見えやしない。
「生きて生きて、その分天秤にのせた向こうを潰して……其れだけで良かったんだがなぁ」
 顔も知らぬ赤子は確かに俺の胤だ、妻は不貞を働くような女ではない。新兵に託された手紙には、出兵を讃える中にそっと臨月の喜びが添えられていた。
 無事に戻れとはとても言えぬが、願っていたと窺い知れた。
 なのに――何故、息子は俺に染みついた臭いを厭い怯えるのか。何故、お前はそんな目で――…………。
「冷たいなんて、言わないでくれ」
 掲げた煙草には火が灯り熱いのに、己の体温は冷えすさぶ雪のようだ。
 まだ吸えるのに投げ棄てて、立て続けに咥えたもう1本に火をつける。大丈夫、まだ半分ある。
グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】◆
(氷で止血しても、もがれた傷口からポタポタと流れる血。目の前の敵を見やって)
真の姿、更に、上。ならなくちゃ、勝てない……かな
(片腕で左胸に触れる。その下には、HEAVEN'S DRIVE……刻印そのものと化した心臓)

源次、ちょっとだけ、気をつけて。吹っ飛ばしちゃう、かも
(発動、Metamorphose。戦場の大鴉、勇士に祝福与える女神の似姿)

念動力の風圧、と、炎の属性攻撃、羽ばたきに乗せて、軍人、へ、打ち付ける
(飛び散る羽毛が黒炎と化し敵へ向かう)
空中戦、で、素早く接近して、怪力で、力一杯の蹴爪キック。体勢崩しから、源次の攻撃、繋げる

戦い、続けた、人の、末路。私達も……うん


叢雲・源次
【煉鴉】◆

>inferno_cylinder...limiter_removal.
>inferno_bringer...Reboot_start.
(右目から溢れる蒼炎が全身を包み、体組織の再構成を行う。炎獄を齎し神をも殺す…その為の肉体へと)

グウェン、アレはあり得たかもしれん俺達の可能性の一つだ
力を行使し続けた者の末路の一つだ
故に…斬らねばなるまい
(自身が持ち得る技術と力の全てを駆使する。刃に蒼炎を宿し、斬り口を焼き、蒼炎を放ち、再生を阻み、斬る。一刀の元、斬り爆ぜさせんと太刀を振るう)

…根比べに付き合う程酔狂では無い
(跳躍、蒼炎一刀。地形破壊によって生じた穴に、瓦礫ごと蒼炎を叩き込む)




 壁に凭れた叢雲・源次(DEAD SET・f14403)はため込んだ息を振るわせた。

>inferno_cylinder...limiter_removal.
>inferno_bringer...Reboot_start.

 かちゃりとブリッジが鼻から離れる際にたてた音が合図だ。抉られた虚ろに赤いインクが落されたように瞳が再生。湧き出た蒼炎は疵を舐め悉く灼き癒やしてゆく。
 いや、癒やし戻したのではない。体組織が書替えられる、炎獄を齎し神をも殺す……その為の肉体へと。
「グウェン」
 気遣わしげに弟子の名を呼べば、フラットな眼差しに苦を宿し上半身の片側をほぼ髪色の氷に変えたグウェンドリン・グレンジャー(Blue Heaven・f00712)は精一杯の微笑みで応えた。
「だいじょう……ぶ」
 言葉とは裏腹に、凍らしてなお冷えすさぶ血液がグウェンドリンの体内より抜け落ちている。
 だが、撤退は出来ない。
 根源たる輩に手傷ひとつつけずに下がるなんぞ己が赦せぬ、その意地は師弟でお揃い似たもの同士。
「…………来た、ね」
「ああ」
 曲がり角から漂う紫煙に、源次は未だ治癒も儘ならぬ弟子を庇い進み出た。
「アレはあり得たかもしれん俺達の可能性の一つだ」
 戒めを胸に刻み、構え持つ漆黒の刃に火を移す。蒼の炎が吐き出される毎に、源次の肌より生命の赤は欠け落ちていく。
 心臓に地獄を宿してまで死に抗った男は、戦場で生き延びる為に己の精神を壊し禍々しい奇跡を宿した影朧を今一度指し示す。
「力を行使し続けた者の末路の一つだ」
「それでも……」
 やはりかつて親の手ではあるが異形を宿し命を繋いだ娘が、男の警句に眉をしかめる。
「真の姿、更に、上。ならなくちゃ、勝てない……かな」
 躊躇い命を堕とすよりは、可能性に指をかける。グウェンドリンはそうやって奇跡を重ね、あらゆる代償に心身を痛めつけられながらも此処まで生きてきた。
 何処か影朧の軍人と重なる弟子へ視線を送り、
「そうだな。もう蛇足かもしれんが」
「うん……」
 聞くよと頷くグウェンドリンは残った方の指先を胸元に差し入れる。
“Metamorphose”
 太陽は勇士に祝福を与える――私には、生命をくれたもの。
「故に……」
 瞳を眇め数を増やし出す輩を睨み据える源次へ、
「あ、待って。源次、ちょっとだけ、気をつけて。吹っ飛ばしちゃう、かも」
 そう留める。
 出鼻をくじかれた。こんな時なのにと呆れ肩から力が抜けた源次は存外嬉しげだ。
「斬らねばなるまい」
 応えたのは、グウェドリンの静謐なる囁きではなくて鴉の嘶き。
 刻印そのものと化した心臓“HEAVEN'S DRIVE”を伝いもたらされる異形の力は、触れた指先を羽根で包み、三倍はあろうかという大鴉へと変えた。
 既に駆けだした源次の背を押すように片羽根の鴉が大きく羽ばたいた。
「おおおおおッ!」
 力任せに振り下ろす刃を迎え撃つ軍人は銃剣で受け止める。即座に源次を蹴り飛ばし発砲。しかし酷使した傷負いの指のせいか生じた遅れを逃すグウェドリンではない。斜め上から素早く頬から脇へと蹴爪を打ち下ろす。溜まらず体勢を崩す軍人へ、源次の蒼い刃が翻った。
「このやろう」
 辛うじて長銃で止めた。
 同時に、天井向けて引かれたトリガー。轟雷めいた銃声が場を打ち建物の右半分を吹き飛ばした。
 衝撃の勢いを借り後ろ倒しそのまま転がり半壊した反物屋の中へと軍人は消えた。
 古びた見目は塗料の見せかけ、上辺だけの八方街に似合いの仕立屋。どうせ反物も紛い物。目くらましと広げ放ち、追いすがる澄んだ蒼炎としつこく纏いつく黒羽の炎に灼かれた外套を脱ぎ捨て、一心に階段を駆け上がる。
 ――もう、限界だった。
 下拵えで減じられた体力に要の指を灼かれ斬られた。重ねられた決死の攻撃が三つに無数の八百の札を切らされはじめる。
 更に、切る、切る。
 厄介な輩との遊びから一息つく間もなく、真剣必殺を繰り出す2人の武人相手は骨が折れる。
(「時間を稼がねぇと……」)
 気取られると煙草を捨てる。だがなにかで押さえねば吐血に到りそうだと火のない白を咥え、疾走。
 見せかけの八百は、煙草も吸えずの傀儡友軍だったら幾らでもくれてやる。しかし此は使ってはならぬ。
「源次」
 高々2階建て、今のグウェンドリンにとっては鷲づかんで壊すなぞ容易い。羽ばたきが産む風に瞳より溢れる蒼炎を揺らし、屋根の瓦が崩れ降るのを見据える。
 崩壊する刹那、命を繋ぐ為“永遠の戦場”へと再び身を投じた男の弾丸が鴉の翼と源次の肩を串刺しにした。
「ふー……ふーっ…………」
 血走らせた瞳に火のない煙草で銃を構える男には苦渋が浮かぶ。もう二度と戦場には戻りたくなかった……それが紛れもない本音だ。
 流れ落ちる瓦礫に男が紛れぬよう、グウェンドリンは痛みを堪えて翼に夜の空気を孕ませ押し出した。
 好機を逃しはしない。落ちる瓦礫を足場に跳躍した源次は“修復”と“増加”を行う軍人へ刃を食い込ませる。
「させぬよ」
 肌に触れた瞬間に燃え上がる蒼い炎。此処で爆ぜ飛ばすと渾身の力を籠めたなら骨に当たり止った。
「はは……」
 ……このまま果てれば、戦場から帰れるのだろう。
「骨になって帰るなんざァごめんだわ」
 源次の腹を撃ち飛ばし、瓦礫に紛れて闇へと消える。慌てて追いすがる満身創痍の鴉を源次は留めた。
「無理はするな……布石は打った」
 末路に到ってはならないと瞼をおろす源次だが、達成感と悔しさを同居させた複雑な表情をしている。
「戦い、続けた、人の、末路」
 人の姿に解けたグウェンドリンは片腕なしのバランスに蹌踉け、軍人が消えた彼方へ淡い眼差しを向けた。
「私達も……うん」
 今宵は超える時ではない、それだけはわかっている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ウルマリカ・ラム
御機嫌よう、Sir!
お煙草がご入用ならお売り致シまスよ
ソれとも戦いの方をお求め?

戦闘はシャチ型と熱帯魚型の悪魔任セ
シャチの方が危険と思わセるため、熱帯魚はあえて攻撃力抑えめに。何匹か散らシ追跡も担当
自身は死なない程度にコインで防御

どんどん攻撃シてくだサると嬉しいでスね
己の弱さがよく分かるので

お強い貴方は大変素晴らシい!
なので、ソの力、くだサいな
弱い熱帯魚に油断シた隙に、紛れ込まセたUCの悪魔達で弱体化の一手

ええ、ワタシ自身は"弱い"
ソんな己の手で、相手に一杯食わセた時の楽シサと来たら……!
斃スまでいけば最高なのでスが、贅沢は言いまセん
誰かが貴方を斃シた時、此方に利益が出ればいいのでス。あはは!




「御機嫌よう、Sir!」
 銃声。
 コインを散らすも堪えきれぬ衝撃に、ウルマリカ・ラム(よくばりメイルストロム・f30328)の頬から肩からぴちゃりとぴちゃりと水が垂れる。
 腰掛けていた木箱から降りて、転がる薬莢をつまみお代はこちらで、なんて感じで商談を続ける。
「お煙草がご入用ならお売り致シまスよ」
 白の先の焔を指してから、ぱたんと鞄を上下にあけ異国の葉巻を披露した。
 再び、銃声。
 今度はコインが間に合わず熱帯魚たちが必死に庇う。きゃあきゃあと悲鳴のような音で爆ぜる数匹。脇に控えていた巨大なシャチが流線の軌跡で軍人に突進する。
「ソうでスか、戦いの方をお求めでスか」
 ボールを叩くように突きつけたシャチの鼻先は、銃剣にてあっさり迎撃。尻尾で叩くも、即座の射撃にて撃ち抜かれて半壊。鮮やかな魚の群れがシャチの援護に向かう様は健気だが脅威にはほど遠い。
 ウルマリカは貼りつけたような笑顔の儘だ。
「粗悪品だねぇ、あんたの戦いは」
 男はのたうつ巨体と啄む小物には目もくれず、銃身をウルマリカに向け引き金を引いた。
 果たして、商人の娘は腹を貫かれ千切れそうな上下半身より水を溢れさせながら崩れる。僅かに残ったコインが床に散らかった、これのお陰で辛うじて絶命は免れた。
「ああ、一撃でこれでスか。たまらないでスね……」
 己の弱さを測りたくて猛攻は求むるところ。やはり、まだ自分は弱い。
「お強い貴方は大変素晴らシい!」
 横たわるウルマリカの頬は波打つ水面、そこに映る男の姿が徐々に大きくなる。
 追いすがるシャチは肩越しの一発で水と爆ぜた、数を減らした熱帯魚が懸命に纏いつくも男は構いもしない。
 ――その様に、水の娘の口元が激しい角度の弧を描く。
「なので、ソの力、くだサいな」
 つん、
 つつん。
 熱帯魚のつつきの度に、
 じゃら、
 じゃらり。
 と、小銭が落ちる。
「あぁ……?」
 ポケットを叩く男だが、すぐに銃を持つ指が先程より力を佚していることに気がついた。
「てめぇ……」
 今更銃剣で熱帯魚を薙ぎ払っても後の祭り。男が先程の復活で得た力は、全て全てウルマリカの可愛い悪魔が金に換えた。随分と安いものだとの嘆息は内側に隠して、小気味よいこの瞬間を享受し商人の娘は喉を揺らす。
「ええ、ワタシ自身は"弱い"」
 ソんな己の手で、相手に一杯食わセた時の楽シサと来たら……! 足元を見てくる顧客に喉から手が出る程欲しいものを見せつけてやるのと同等か、其れ以上の悦楽だ!
「お前、それで勝ったつもりか? 動けぬ奴を殺るなんて容易いぜ?」
 会話する余裕があるのだとの誇示すら、ウルマリカにとっちゃ笑い話だ。
「誰かが貴方を斃シた時、此方に利益が出ればいいのでス。あはは!」
 着弾が先か、この場からウルマリカが姿を消せたのが先か――生きているなら後者であろう。
 …………。
「ち……上前跳ねやがって」
 忌々しげに残された葉巻をつかみ取って乱暴に咥えて火をつけた。しかしすぐに地面に投げてつま先で躙る。
「不味い、吸えたもんじゃァねえや」
 なにもかも、してやられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーリア・ブラッドスノー
なんとか動けるくらい応急処置はしましたが。
化けの皮はすぐ剥がれそうですね、まったく。

人殺しも突き抜けたら英雄になれるそうですが、あなたはどうです?
まぁそんなことは建前ですね。
獣になったんでしょう、楽しかったですか?

悪いとは言いませんよ、ただ…。
やりたい放題でどうなるかわからないわけでもないでしょう?

そのためにここにあたしがいるわけですから。

使えるものは何でも使います。
簡易治療では一撃放つだけでボロボロですからね。

組み付いて距離を潰す、血を飛ばして目潰し。
露出した自らの臓物も使えるなら使いますよ。

これくらいしないとあなたには勝てないでしょう?
でも、体がついてこないかもしれない。

なら、狂え。




 浅草六区を真似た芝居小屋に入り込み、リーリア・ブラッドスノー(うつろなる幻想・f27329)は強くきつく包帯で腰から上半身を締め上げる。血が食道をせりあがり喉が詰まろうが構わずに。真っ赤な血をビニールに出し切り気道確保。
 相変わらず駆け巡る痛みは幼い頃から馴染みのものではある、が。これより圧倒的なる敵を相手取らねばならないのだけは、違う。
「なんとか動けるくらい応急処置はしましたが、化けの皮はすぐ剥がれそうですね、まったく」
 どうせほぼ動けないのなら、奴が獲物と狙撃点を求めて辿りつくのを待つしか無い。ほら案の定、煙草の香りが漂ってくる。
 直後、一とは思えぬ夥しい質量が叩きつけられる。色あせた宣伝ポスタアの壁は砕け、伝い立ちする満身創痍のリーリアを白日の下にさらした。
「人殺しも突き抜けたら英雄になれるそうですが、あなたはどうです?」
 手負いの娘の声は、やけに芯があり確りしている。
 かしゃん、とボルトを引いて薬莢を落す軍人。先程存分に奪われた力のせいか、やけに気怠い。
「まぁそんなことは建前ですね」
 竦める肩もない、もはや無駄な動きは命取りだ。リーリアが口を動かし続けるのは、無理矢理に背骨の代わりをさせた包帯が躰に馴染む時間を稼ぐためだ。
「獣になったんでしょう、楽しかったですか?」
「そうだな……」
 もはや死に体の娘につきあう酔狂か、それとも感情を取り戻してしまったからか、軍人は長銃を一旦下ろすと煙草を外して煙りを流す。
「“何時”のことを聞いている」
「……戦場から戻ってからのことです」
「其れならば、愉しかったよ」
 くくと喉を鳴らして再び煙草で唇を塞ぐ。
「悪いとは言いませんよ、ただ……」
 気と期が充ちた。
「やりたい放題でどうなるかわからないわけでもないでしょう?」

 ――そのためにここにあたしがいるわけですから。

 壁をついて突進、即座にビニールにくるんだ真っ赤な吐瀉物を男の目元めがけて投げつける。当たらずとも一瞬の隙があれば良い。
 華奢な腕が一尺以上の身長差のある男に絡みつく。体重も軽く、ましてや全身の身体機能を悉く損なっていた娘に彼を押し倒すことなぞ叶わない。
 それでもいい。
 報いを受けろと赤と体液で顔半分を汚した男に向けて銀色のメスを突きつける。それで何が出来るとせせら笑う男の容が、直後、くしゃりと中央に集められるように歪んだ。

 次は腕をもいでみようか。
 ほう、腸の八割が壊死しても生命反応ありか。
 ×××で▲はどうだ?
 すごい! ●で××……。

 莫迦な奴等だ好奇心に耽り倫理を売り渡して自らを滅ぼす“あたし”を産み出して――。
 リーリアは嗤っていた。
 軍人は、片目から一筋の涙を零す。
 リーリアを透かした向こう側、介錯が最大の慈悲であるぐらいに負傷した何人もの仲間の姿を見いだしているのだ。
 更には………………嗚呼、此は、ダメだ。此は……。

 もう俺が死んでる、だなんて。
 嘘、だ。

 咥えた煙草から灰が崩れて落ちた。無為に燃えるが儘にされたそれに己が重なる。振り払うように大きく息を吸い込む、まるで嗚咽を漏らすように。
「殺してやるよ」
 引き金は2回。
 こんなに至近で外す程に動揺が隠せない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
【千宵桜】

燻らせる紫煙が
硝煙の匂いが、血の匂いが
…最悪だね、アンタ

数多の赫を浴びてきた下種の其れだ
相棒刀を手に血塗れた己が云えたことでは無いけど
喩え圧倒的な強者であろうとも
そうして殺すことを愉しむお前を
地に、血に沈めることが、俺は愉しい

銃口定め狙いは俺より隣のきみだ
接近戦なれど、距離を詰める前に
弾は身体にめり込み貫く
大量の真っ赫な雫が肩や腹、口から溢れ出て
「死」が視える

千織、千織
きみの身体に銃槍などつけるものか
ならば俺が肉盾になることに何の躊躇いも無いよ
…ごめんな、
きみから嫌だと言われても
これは屹度、やめられない
退けないよ

未だだ、まだ、諦めてない
かぐやは綻ぶ、もう一度、薄紅の刃へと


橙樹・千織
【千宵桜】

どれだけ浴びれば…。
血に塗れていようと匂う
酷いにおいに顔を顰める



これまでの奴らと違う
千鶴、気をつけて
藍焔華を握り直し、薙刀を散らせた
冷えた金灯る瞳で睨め付ける
その匂い、色、気配に獣性がざわめき
無意識に口の端が上がる

銃口が此方を向こうと関係無い
自分の血が舞おうとも
間合いを詰めなぎ払う
千鶴じゃないなら
私なら構わない

千鶴を傷付ける者は許さない
欠片も残さず斬捨て屠る

何故…何故前に出た!?
眼前で舞う彼の血、その姿にふるえ叫び
私の代わりに傷付くなんて
私が耐えられない

嫌、いや…
失いたくない

だから今は

怒り
悲しみ
恐怖
綯交ぜになった感情を刃に載せ

…汝の魂を散らす
二度咲くことは叶わぬと思え!!




 くんと、先に鳴ったのは橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)の鼻。しかし寸分で隣の宵鍔・千鶴(nyx・f00683)も気取る。
 鋭い感覚は折り重ねられた血の臭いを逃しはしない。彼と彼女が此の地で刻み続けた影朧からの夥しい血を浴びてなお、新たなる香は禍々しい。
 強くしなやかに引かれた毛筆の如く美しい眉を寄せ千織は嫌悪を顕わした。藍焔華握る指に自然と力が籠もる。
「千鶴、気をつけて」
 まぶされた紫煙を二人が感知した直後、銃弾は素早く身をかがめた千鶴の肩を撃ち貫いた。
「お前……ッ」
 怒気を置き土産。
 猛禽類の翼を猛々しく広げ紫煙漂う木陰へ疾走。獣に寄りつつある口元が釣り上がっていた、むしろそれが千鶴の胸をざわつかせる。
「千織、千織……」
 彼女を守護すると決めた身にすれば、痛みなぞ蟻の噛み傷。発条のように立ち上がり様に踏み切り、千鶴は即座に千織の傍らに並んだ。
 カシャン、と……ボルトを引く音が妙に緩慢で、まるで二人の有様を観察しているようだ。
 夜の帳の元、すいっと黒金の銃口が千織へ向いた。だが千織にとっては些事。頭にあるのはこれ以上千鶴を撃たせない、ただそれだけ。
 的になる。
 確固たる意思と共に、千織は花びらがしっとり冷たく覆う地面を蹴った。上段に藍焔華を振りかぶり、叫びをあげて斬りかかる。
 果たして無慈悲な銃声は後方の千鶴を捉えた。
 一に見えて八百という無限、否、やはり一。弾を喰らった千鶴に浮かぶは納得と安堵である。
「……最悪だね、アンタ。数多の赫を浴びてきた下種の其れだ」
 だから此方を撃ったのだろうと、血液をしとらせる唇が小さく弧を描く。千鶴とて相棒の刀を手に数多の死合いを超えてきた。だから既に理解している。喩え圧倒に有利であろうが手負いから。殺すことを愉しむ下衆――其れが男の正体だ、と。
「ッ……ぐ、ぅう」
 一方で、かづりと軍人の脇の土を削るしかできなかった千織は口中を噛みしめる。膨張し続ける怒りは、短くした煙草を放り捨てる余裕のある男を前に臨界点に達した。
 莫迦にするなと連撃の薙ぎを見舞う。気怠げに掲げた銃剣を合わされ全てを弾かれた。
「……ッ、私なら構わない。私ならッ……」
「へぇ……お前ら、夫婦か?」
 答える必要なぞ、無い。
 引き絞った瞳孔を丸く腫らして撃てと叫ぶ獣。その要求に応じて、男は零距離の銃口を千織の胸に宛がう。
「千織」
 突然、銃口を掴み自分へと捻ったのは半歩後ろから腕を伸ばした千鶴だ。耳を劈く銃声と同時に、千鶴の鎖骨に穴が増える。宙に逃すには刻が足りなかった。
 端正な面差しは歪まぬ儘で、ふつりと、閉じた唇から三筋の血が零れ落ちた。元より光の入らぬ双眸は、今「死」を視据えている。
 囚われるではなく自ら絶命へ向き合う様に、男は淡く嗤うてから煙草を新たに噛み取った。
「く、何故……」
 何故前に出た!? 問いただすのは後だ。今は漫然と過ごす時ではない。僅かに生じた隙へと切っ先を無理強いし、千鶴が弾を喰らった同じ場所へ渾身の一撃を見舞うべし。
 はぁっと血なまぐさい息と紫煙を吐く男だが、貫通揺るさじと柄を掴かみ止める。
 だが、血の目立たぬ赤褐色軍服の向こう、刃の半分を刺さる。既に最期の八百の札を切らされてから、悠然と躱す力はなくしていた。
 続けざま千鶴が燿夜を横に薙ぎ男の胴体を捉えた。虚空に舞う血玉。ただこの男に臓物と云う物があるのかは甚だ不明ではあるが、其処への到達は叶わなかった。
 藍焔華の柄を乱暴に振り払い、片手で長銃のトリガーを何度も引き絞る。ガンガンと続けざまの弾丸をばらまき、男は距離を取った。
 其れすらも精密に、今度は千織を捉えるものだから、千鶴は進んで銃弾の雨へと身を投げだすのだ。
「千鶴……ッ、嫌、いや…………」
 悲痛なる嗟歎、煌々と輝く金の瞳は涙で覆われている。宥めるように励ますように、表情を変えることが不得手な千鶴が懸命に口元を綻ばせた。
 元より、肉の盾となることに躊躇いなんぞない。
「きみの身体に銃槍などつけるものか」
 一度だけ振り向いた後、両手を広げて赤い珠を無数に産み出す千鶴を前にして、千織は頬を抑え全身を震わせる。
 己の身が一向に痛まぬことが耐えられない。何故、彼が自分の代わりに傷付いているのだ。
「いや……」
 幼子めいた懇願に、
「……ごめんな」
 やはり返る声も背伸びした子供のものに過ぎない。
 膝を折り手をついて、辛うじて倒れぬよう堪える千鶴の前で、カシャンと一区切りのボルトが引かれる。
 くすんだ薬莢が千鶴のつくった血だまりの上を転がる。混ざり合う硝煙の臭いに野生の翼が憤懣やるかたないと畳まれ震えた。
「失いたくない」
 だから慟哭は、ここまで。
「……汝の魂を散らす」
 再び翼は羽ばたき、威嚇の広がりを見せる。
「おっと……」
 先程とは明らかに変じた猛攻へ軍人は余裕をうち捨て遮蔽に飛び込んだ。
「ち……おり……」
 未だ千鶴という花は、散らない。
 かぐやは今一度綻び、居場所を記すように無数の花びらがある一点へと集積する。血花を咲かせた獣の娘は細かな血飛沫へ追従し、振りかざした刃を山吹へ変え――つらぬいた。
「チッ」
 鎖骨の傷を今度は完全に刺しきられた。地面に縫い止められた男は、煙草を引っ掛けた唇を歪める。
「銃槍、つけてやらぁ。数えきれん程な」
 男の身から無数に見えて八百の軍霊があふれ出て、一斉に引き金に指をかける。
 八方街を撃ち揺らす銃声の塊は、刹那。一分のずれもなく重なり全ての弾丸を千織へと撃ち尽くす。
 はたり、と、血にまみれ落ちた娘を前に、男はくわえ煙草のままで息を緩めた。
「はぁ……」
 生き残れたという安堵がこれでもかと滲む。嗚呼、とうとう“恐れ”を完全に想い出してしまった。
「死にたくねぇ……」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ディアナ・ロドクルーン
殺 【天狗狼】

罪悪感なく、のびのびと暴虐の限りを尽くせるとは

なんという解放感
なんという幸せ
自分はなんて良き友に恵まれたものよ

肉塊を片した後は幼子の様に燥ぎ
八方街を駆け回り、幾度刃も交えていく

最期まで立っていられるのはどちらかしら
ねえ?ふふ、最後はどっちであろうと楽しめればいい


あら、あらあら。貴方も遊びたいの?
さっきのよりは楽しめそうね

ふふ、ほんと数えきれない程たくさんいるわね
これ全部殺しちゃってもいいのよね?

やりましょう殺りましょう

刃も爪も、牙も全て使って潰しましょう
血に塗れ、血に溺れ、全て流れ出てしまおうとも

乱戦、上等。―今宵は共に駆け抜けましょう


ミコト・イザナギ

【天狗狼】


戦って戦って喰って寝ては戦う羅刹の死生観
それが遺憾なく振る舞う事の幸福感

加えて、良い喧嘩相手に恵まれ
オレはなんと幸せなんだろう

記憶を失くした事も
記憶が苛む事も
何もかも詮無く感じる

そうです
最後まで立っている必要はない
最後まで愉しんで逝けばよいのですから

ははっ、見てくださいよディアナさん!
こんなにうじゃうじゃと兵隊さんが並んでますっ
これはもう根切に皆殺しにしてさしあげないと
木っ端のように遣い潰してあげましょうよ、ねえ!?

天狗面を剥がされようとお構いなし
オレはこの自慢の拳と脚と妖刀で場を荒らし
肉を千切って腸を刮ぎ出し
傷を抉って温かい血で真っ赤に染まろう

ええ、共に夜駆けに耽りましょう




 互いの首に血にどっぷりとまみれた刃を添えて、いち、にのさん、で切り落とし! そんな絵面はこの夜に無数にあった。
 だが華麗に裾を翻し廻り避けるディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)と、柄を握り首より血を零しながらも苛烈な膝蹴りを繰り出すミコト・イザナギ(語り音の天狗・f23042)……等々、互いが致命に到らぬ有様。
 死合いの勝敗がつかない。
 戦って戦って喰って寝ては戦う、なんと羅刹の死生観に合致するのかとミコトは仮面の元の唇が笑みを忘れるぐらいの歓喜に浸る。
 世を生きるなら隠蔽せねばならぬ業を遺憾なく振る舞えるこの幸福感。
 其れはディアナもまたお揃い同類、この感情に名前をつけるなら解放感、であろうか。
 教養と常識を学び“人”に為れたこと自体には心からの感謝を持つ。が、この女の内側には暴虐が眠る。なんの後ろめたさもなく刃を振るい全てを殺せる。この夜はなんと清々しさに充ちたことか!
「ねえ」
「嗚呼」
「ねえねえ」
「嗚呼、どうしたんだい?」
 武士崩れと肉塊を絨毯に、つばぜり合いの二人はもはや肌色の面積が少ない真っ赤な顔で唇に弧を描く。
「私、とっても幸せよ。本当に良き友に恵まれたわ」
「同じことを想っていた。良い喧嘩相手に恵まれ、オレはなんと幸せなんだろう」
 引き下がり宙返り、八方塔の壁に着地したディアナは落下を打ち消す疾走で駆け上る。追従するミコトは一足飛びで脇に追いつくと女の行き先に刀を突き立ててぶら下がり。
 男からかぎ爪が、女からは刀が――此処まで不安定な足場ならば相打ち出来るとほくそ笑む所を、重苦しい銃声が鳴り幕が落ちた。
 否、落ちぬ。互いにつきだした二の腕部分を貫通しエレベーターを吊す鋼を断ち切った。散々舞台にして遊んだ匣ともとうとうおさらば。
 ごぉ……と匣が落ちる音を耳にしながら、羅刹と獣は煌々と輝く瞳で射撃手を探す。
 嗚呼、彼らこそは正義の執行人たる猟兵なのに! などと歯がかゆくなる上辺は結構!
 エレベーターの砕けるけたたましい音に負けず劣らず、ミコトは大声疾呼。
「ははっ、見てくださいよディアナさん!」
 撃たれたのは一、しかし影は無数にして八百。眼窩を埋める兵隊の群れの中、今し方撃った長銃を構える男だけが煙草を燻らせている。
「こんなにうじゃうじゃと兵隊さんが並んでますっ」
 しかし、ミコトの興味を惹いたのは“数”だ。
「あら、あらあら。貴方も遊びたいの? さっきのよりは楽しめそうね」
 一方で、ディアナは関心は一の軍人へ、しかし其れも一時。
「ふふ、ほんと数えきれない程たくさんいるわね。これ全部殺しちゃってもいいのよね?」
「それはもう根切に皆殺しにしてさしあげないと」
 ミコトの脚が壁に収縮するのを目ざとく見取り、抜け駆けは駄目よとディアナが身を宙に躍らせた。
「やりましょう殺りましょう」
 一斉に向けられた銃弾は喝采の拍手のよう。ほら、パァンと八百。勿論避ける術もなく、女の躰は無数の銃痕を刻まれ墜落。
 追従のミコトが背を掴み留めると、再びの一斉砲火。仮面を押さえて無数の弾丸を此方も喰ろうた。
 仲間達の攻撃を食らっていない軍人ならば、これで二人はひとたまりも無く終焉であったことだろう。
 しかし軍人は全てにおいて精彩を欠いている。
 恐れという感情を取り戻し、かつ最初に削られた体力、何人もの猟兵が身を潰してもたらした許多なる爆裂斬撃他を受け続ければ然もありなん。
 其れは其れとして、だ。
「木っ端のように遣い潰してあげましょうよ、ねえ!?
 無数なる八百に仮面を掴まれたミコトは、引き上げる力すら利用して起き上がると両腕を左右広大に広げて軌道上の全てを掻き殺した。
 仮面を奪い取った者の躰は腕だけを残してぽとりと惨めに落ちる。
「ええ、刃も爪も、牙も全て使って潰しましょう」
 舞い散る臓物。被害者の血を浴びた女は跳ね起きると、さんざめく心の儘に無軌道に駆け出した。ジグザグに縫い止めるよに進路上にいる全てに剣と腕を突き刺して引きずり回す。
 その腸を千切りこれ見よがしに大口あけて食もうとするミコト。
「あら、悪食ね」
「おひとつ如何です? なんて」
 くるり。
 珈琲とミルクが混じり合う軌跡か遊園地のコーヒーカップか、俊足と優雅なステップにてふれあい背中合わせとなる二人は、呵々と笑いあった。
「……正気の沙汰じゃァない」
 そう呟いた軍人は仲間を二人の方に突き飛ばしその影を疾走する。
 時たま聞こえるボルトを引く音。きん、と跳ねる薬莢の音はなんと澄んでいることか。
 ぐちゃ、だの、ざぐ、だの、ぬめり、など……大凡濁った音を立てながら八百を零にせんと踊る二人とは大違いだ。
 二人が屠るのはユーベルコヲドの産み出した虚ろであり、軍人自体に手傷を負わせていない。だがそんなことはなんら二人の後ろめたさにはつながらない。
 愉しむだけだ。
 最期まで立っていられるのがどちらでもいいし、そもそも最後まで立っている必要もない。
「最後まで愉しんで逝けばよいのですから」
「――今宵は共に駆け抜けましょう」
 度々響く銃声、突き出される銃剣、其れにより血に塗れ、血に溺れ、全て流れ出てしまおうとも、なんら問題はない。
 温かなる血に浸り、祝祭の高揚ではしゃぎ廻る二人を消したくて軍人は二回撃った。
 今度こそ、漸く、趣味の悪い地獄舞台の幕が落ちる。
 向かい合わせの瞬間に精密に撃ち貫かれた二人は、互いを抱き合う……なんてことなくすれ違いに斃れた。
「……正気の沙汰じゃァない」
 もう一度同じ言葉を、漸く吸えた煙草の煙と共に吐き棄てる。此じゃあ、どっちが怪異かわかりゃァしない。
「死んでもいいだなんてさぁ……」

“俺はその境地にゃァ至れなかったんだ”

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルネ・プロスト

一応聞くけど見逃してくれたりしない?
屍拾いに来ただけなのだけど
……やはりダメか。誰も彼も血気盛んで素敵な街ですね、全く

接近戦はルーク、キングに一任
射撃戦はビショップの結界で弾き射撃音のした方向へクイーンの高速詠唱&爆撃
敵の利用する地形ごと敵を吹き飛ばす

敵UC発動後は此方もUC発動、複製含め死霊憑依&自律行動
前衛はポーン784+8体で前線構築、弾幕&乱れ撃ちで攻撃兼ねた牽制
中衛はルークとキング、計294+3体で固め敵の後逸を阻む
後衛はビショップとクイーン、計294+3体の雷撃と爆撃の魔術で敵の射撃手及び障害物を掃討

ナイトを欠く以上街への被害を案じる余力なし
未回収の亡骸ごとまっさらか
しくじったな




「一応聞くけど見逃してくれたりしない? 屍拾いに来ただけなのだけど」
 頬から肩から鎖骨から血を流すが儘の影朧へ、悪くない話だろうと持ちかけるのはルネ・プロスト(人形王国・f21741)である。
 返事は銃声。
 くるりと髪で弧をかき身を返すルネに変わり進み出たのはルークにキング。
「……やはりダメか。誰も彼も血気盛んで素敵な街ですね、全く」
「屍を拾って何すんだよ。こういう遊びかい?」
 ラスト二本の内一本の煙草を咥え火を放つ男の背後に、無記名の存在たる無数の……いや、もうそれは相応しくない、唯の八百の兵隊が現れ銃を向ける。勿論、ルークは即座に盾を掲げ防御を固める。
「笑えねえな」
 友軍の半分には満たぬ堅牢なる盾を前に片眉を持ち上げると、男は煙草を持つ指をあげた。
 世界を打ち据えるような一斉の銃声に対して、
「護って、僧正人形(ビショップ)!」
 守護の籠が構築される。だがルネはそれで終わらせない。男が消えた側を指さして、
「女帝人形(ママ)徹底的に追い詰めて!」
 地の利が向こうにあるのなら、攻勢により盤面を書き直す。ビショップと分け合い推定150体弱、それぞれが翳した腕に魔弾を産み出し射出!
 ルネは一体のルークの腕に飛び乗る。盾の影から翻る操り糸は念纏うて千を越えた。それぞれが相応しく的確に配置され、敵を殲滅する。
「軽装歩兵(ポーン)銃弾換装、散弾装填……あいつらより先手を打って」
「ははは、新兵に負けるかよ」
 友軍と遮蔽はもみくちゃに吹き飛ばされ、なおも嗤う。散らされた紫煙の先で男は即座に引き金を引いた。果敢にマスケットを構えるポーンが爆撃に手足を千切られ幾つも吹き飛ぶ。
「ああ、ああ、これが最期の戦争だぁっ!」
 もう――終わらせてくれ。誰が決めたんだ、闘争が永遠だなんて。
「そうしてもらいたいものだな」
 ルネが右腕を引き上げれば、削られていくポーンを厭わず無事なルークとキングが男の後ろ側へ物々しい音をたてて走り込んでいく。阻むように立ち向かう友軍の銃剣や弾丸での殺し合い。
「……」
 だが、闘争に耽っていた筈の軍人――影朧は、一歩引いて煙草を燻らせるのみ。
 いや、もう動けないのだ。
「三文芝居は終わりだな」
 手袋に包まれた黒い指で煙草を探り敵勢国帰りの軍人さんは苦い笑いを浮かべた。
 297の雷撃を浴びせられた躰は真っ黒焦げで手袋と境目がないし、背中の面積に釣り合わぬ297本の槍が刺され、胸から腹にはポーンが散らした弾丸が……これは数え切れない。
 全部足したら800なぞ軽く凌駕する、それは確かだ。
「……お前、俺のことを見てなかったもんな」
 真っ黒で目鼻も何もない男の口元にくっついた煙草の白だけがやけに鮮やかだ。マッチを擦る音に「まぁ仕方ないか」とぼやきが紛れる。
「……はぁ」
 軍人には答えずに、ルネは大きな嘆息で眉を寄せた。
 八方街はもはや存在しない。まるで空襲に遭ったかの如くの焼け野原、当然のことながら転がっていた遺骸も焦げたり躙られたりで何がなにやら。
 ナイトが庇い下げた七体の遺骸、それだけ回収できたので良しとするしかないか。しかしルネの唇は不満でグイと下がっている。
「しくじったな」
 まぁ、と続ける男の台詞はルネとは全く噛み合わない。
「やっと現実に追いついたんだ、俺は」
 そもそも彼は戦場で敵兵の爆弾突撃により命尽きていた。
「だから帰国後の悪行は罪ではないと?」
「……なんで、殺しちまったんだろうか、坊やとあいつを。ちゃんと死んでおけばよかったなぁ…………」
 悔いても遅いだなんて責めも赦しも口にするメンタリティを生憎とルネは持ち合わせてはいない。
「は」
 何時から影朧だったのか自分にタネ明かし、その時点で命脈は完全に尽き果てる。焔が灯る煙草は虚空に投げ出されあとは落ちるだけ。
 地面を転がり、じじじと断末に喘ぐ蝉の如く震える煙草を前にルネは今一度大きな溜息をつく。
「屍すら残さないんだな」
 夜の帳が去り全てを朝焼け色の青紫に変えていく――紛い物の街は完膚なきまでに砕け散り、もう二度と誰かが迷い込むことは、ない。

―終―

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月08日


挿絵イラスト