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化蓮睡恋ブラック・ロータス

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●さよならにさよならを
 ――なぁ、お前は今どこにいる? 私はもうずっと此処にいるような気がしているよ。
 ――お前との思い出は何時だって蘇る。夢に出る。あの頃に戻れたら、なんて夢物語を考えたりする。
 ――また会いたいなぁ。話したいなぁ。笑って、手を繋いで、あの蓮と睡蓮で満ちた池を散歩したのが懐かしい。
 ――そして最後にはいつも、天に輝くお月様に向かって手を翳したっけ。遠すぎて掴めないもどかしさも、お前とだったら愛おしかったよ。

『……れん、……花蓮』
「? この聲は――」
『花蓮、行こう。また二人で、世界を歩こう』
「あ、嗚呼……お前。どうして、どうして……!」
『花蓮が呼んだから。さぁ、手を取って』

 花蓮、と呼ばれた妖怪は、一人あの時と同じように天へ向けて手をのばした。掴んだのは『あの人』、幸せに生きた最後の最期を看取ったこと、はっきり覚えてる。『あの人』とは永遠に別れたのだと、頭では理解している。でも、またあの頃に戻れるのなら――世界が滅んでも構わない。花蓮はそっと呟いた。

「そちらに、連れて行ってくれ」
『往こう――じゃあまずは、いつもの池から巡ろうか』

 瞬間、花蓮の居場所は朽ち往く屋敷から美しく手入れされた庭と大邸宅に変わり、眼前には広がる池。あの頃『あの人』とよく散歩した、花咲く池。赤い橋がところどころに掛かり、小さな庵に繋がっている。嗚呼、そこでよく家人の目を盗んで抜け出しては、夜食を食べたり夜通し語り合ったっけ。
 手を繋いで、橋の上で睡蓮と蓮を眺める。たまに鯉がちゃぷんと跳ねて、この世界が本物だと錯覚させる。いや、もう花蓮にとっては『本物』だった。あれほど望んだ『あの人』が隣にいて、思い出のままを過ごす。繋いだ手の暖かさは嘘じゃない。
 いい気分だと言えば、『あの人』は池の端に行って、睡蓮を一輪詰んで花蓮の耳上に挿した。それは本来ありえない、黒い睡蓮。流れる髪に、凛と咲いた睡蓮は美しくも儚い。でも、花蓮も『あの人』も知っている。

「信頼、だなんて気障だこと」
『さぁ? 愛情かもしれないよ』
「……揶揄わないでおくれ」

 花言葉なんて幾つもあるのに、それを選ぶなんて卑怯だと、花蓮は『あの人』の胸を軽く叩いた。それにからからと笑い返す『あの人』は、思い出の中のままで。この時が永遠に続けば良い、世界なんてどうだっていい、私から『あの人』をとらないで――!

 池に咲く色鮮やかな蓮と睡蓮。この世界はこんなにも美しい、お前がこんなにも近くにいる。それが嬉しい。花蓮はお返しとばかりに黒い蓮を摘んで『あの人』の胸にそっと挿して……そのまま身を預けた。

 世界が端から崩壊する。その音は『あの人』の声でかき消され、花蓮に届くことはない――。

●グリモアベースにて
「睡蓮の花言葉を知っているか」
 至極真面目な顔で、集まった猟兵たちに向けて天帝峰・クーラカンリ(哀を背にして・f27935)は問い掛けた。花言葉に興味などない者もいれば、多少の知識がある者もいるだろう。そんな猟兵を前に、クーラカンリは話を続けた。
「花蓮、という妖怪が遠い昔の友人である人間を想っていた。それはもう、気が遠くなる程の長い年月をな。そしてその執念とも言える感情が幽世の骸魂を呼び寄せた……。花蓮を唆し、カタストロフを引き起こす為にな」
 舞台は夜、蓮と睡蓮の咲く大きな池。其処は花蓮が思い出の人との記憶で一番思い入れのある場所。赤くて小さな橋が随所にあり、そこから庵に繋がっている。池には錦鯉をはじめとした魚が泳いでいるし、水草も浮いている。澄み渡った湖面は、満月を鏡のように映し出していた。
 この思い出の中で何をすれば良いか。簡単だとクーラカンリは微笑んだ。
「お前たちの『思い出』を摘むのさ。蓮も睡蓮も、そこら中に咲いている。お前たちが摘んだところで、此処は所詮夢の世界、何の影響もない。――摘むと、お前たちが思い描く『最高の思い出』が描かれる」
 例えば、友や恋人と過ごす日常。結婚や生誕といった人生の節目。復讐を果たした日。自由を手にした日。誰かに認められた日。……人によって咲く思い出はそれぞれだろうが、どれもまるで『昨日のことのように鮮明に』思い出すことができ、その風景が脳裏に広がる。
 猟兵はその思い出に浸るだけで良い。拒絶も否定もしなくて良い。ただその思い出と向き合うことで決意を新たにすることが大切なのだとクーラカンリは続ける。
「お前たちの決意が揺るがぬものになった時、骸魂に憑かれた花蓮は姿を現す。奴はお前たちの意思を削ぎ、忘却を与えようとするだろう。しかし、お前たちは既に覚悟を持っているはずだ。負けることなどないだろう」
 上手く戦って『あの人』の骸魂だけを倒すことが出来れば花蓮を救い出せるが、無理に狙う必要はない。花蓮にとって今が至福の時、それを奪い現実を見せるか、幸福のまま逝かせてやるかはあなた次第だ。倒したあともしばらくは『あの人』との思い出の光景は残り続ける。まるで『あの人』が本当にそこにいるかのように。
 もし花蓮を救い出すことが出来たのなら、何か声をかけてやってもいいだろう。最後の別れを遂げさせるでも、思い残したことがあるなら遂げさせてやっても。
「長い時、ずっと想い続けていたのだ。花蓮もそう簡単に割り切ることは出来ないだろうが……明けない夜は無いように、月に手をのばしてばかりはいられない。そのことを教えてやってくれ」
 そう言いながら転送準備を開始するクーラカンリは、思い出したように猟兵へ告げた。
「嗚呼そう――睡蓮の花言葉は、『滅亡』という意味もあるそうだ。蓮は何だったかな……そう」
 救済、と。なんとも含みのある僅かな笑みを浮かべ、カクリヨファンタズムへと猟兵を送り出していくのだった――。


まなづる牡丹
 オープニングをご覧いただきありがとうございます。まなづる牡丹です。
 今回の舞台はカクリヨファンタズムにて、骸魂に憑りつかれた妖怪と戦って頂きます。
 なんか同じようなネタが続くなぁとは思っても秘密。

●第一章
 まずは池に咲く蓮か睡蓮を摘み取ってください。それに祈りを込めれば、あなたにとって『最高の思い出』が蘇ります。蓮や睡蓮の色は何でも大丈夫、あなたが探せば必ずその色があります。
 内容はどんなものでも構いません。通常なら犯罪であることや、非道徳的なことでも、あなたにとって最高な思い出ならば大丈夫です。その思い出が鮮明に蘇ったことで、あなたの決意・やる気・意地・理想はより強固なものとなるでしょう。
 摘み取った花はそのまま身につけていても良いですし、池に流しても良いです。ひょっとしたら持っていると次章で良いことがあるかもしれません(予知時点では不明です)。

●第二章
 『VS花蓮(に憑りついた骸魂)』
 あなたの思い出に対して攻撃する技が多いようです。しかし、強い意思があれば大した痛手にはなりません。元々花蓮が戦闘向きの妖怪ではないこともあり、倒すだけなら容易です。骸魂から助けるには、少し工夫が必要になる可能性もあります。

●第三章
 折角満月の夜ですし、月見でも楽しんでは如何ですか?

●プレイング送信タイミングについて
 各章ごとに断章を執筆します。第一章の受付は4月5日(月)の8時31分以降です。
 2章以降はMSページとタグにてプレイング受付期間を告知いたしますので、お手数ですがご確認お願いします。
 (申し訳ありませんが受付以前に送られたプレイングは返金とさせていただきますのでご了承ください)

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
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第1章 冒険 『蓮華と月の池』

POW   :    勢いのままに通っていく

SPD   :    周囲を探りながら通る

WIZ   :    敢えてゆっくり進んでいく

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●記憶の水底・壱
 赤い橋の上で、二人並んで池を眺めている。身長差は殆どない。いや、妖のほうが少し高いくらいか。橋を境目にして、種類の違うようで似ている花が咲いているのを、まじまじと観察していた。
「花が咲いてるな。綺麗で……でも、あっちとこっちは同じ花じゃないな?」
『睡蓮と蓮の違いだね。睡蓮は水に浮く様に、蓮は茎をのばして上に咲くんだ』
「へぇ、そんな知識、お前が持ってるなんて驚きだよ」
『そりゃあ、此処は僕の庭で、池だもの。逆に、花蓮の方がこういうのに詳しいと思った』
 ぱちくりと瞬く。詳しいことなんて、何も。いつも花蓮は教わってばかりだった。ひとの子の成長も、感情も、苦悩も、希望も、未来を楽しみにする心も。
「それって、名前が『花蓮』だからかい?」
『それもあるし、僕よりずっと長生きだから』
「長生きでも興味のない事は知らないよ。でも、お前のおかげで少しは興味が湧いたかな』
『じゃあ今度は、花蓮の知ってることを教えてよ』
 うぅん、と唸った花蓮は、天に輝く月に向かい手を掲げる。そして指の隙間から零れる月光を浴びながら囁いた。
「太陽も良いけどね。私みたいなのはお月様が好きなのさ。太陽はひとのもの、月は妖のもの。住む世界が違う。でも――」
『――でも、なに?』
「お前みたいな好奇心旺盛なやつが、ひとと妖の垣根を取っ払うのかもしれないね。なんて、知ってることじゃなくてこれじゃあ願いか」
 あの人は首を振って、花蓮と同じように月に手をのばした。目一杯掌を広げ、ぐっと掴んでみるけれど、握られるのは夜の冷たい空気だけ。それにからからと笑う花蓮。太陽の元で生きながら、月まで手に入れようなんて、本当にひとというのは強欲で飽きない。
『花蓮の為に、いつか月へ届く橋でも掛けようかな』
「いいよ。お前がいつもの通り、お月様の下へ来てくれれば満足さ」
 へらりと笑う花蓮に、あの人は少しむくれて。そんな日が長く、当たり前に続いた――。

●記憶の水底・弐
『結婚することになった』
「ほう、目出度いじゃないか。おめでとう」
『花蓮は、それで良いの?』
「ひとの子は大抵結婚するものだからなぁ。それとも、結婚したらもう此処には来ないのかい?」
『……頻度は、減ると思う』
 悔しそうなあの人は、食いこむ程に橋を握りしめた。花蓮だって何も思うところがないわけではないけれど、お気に入りの人間が幸せになることに不満はない。力む筋ばった手に、己の白魚のような手を重ねた。
「お前は結婚相手を愛し、子供を育むのがひととしての責務なんだろう。だけどね、ひとつだけ我儘を言わせて貰えるなら――」
『――なに? 何でも叶えるよ』
「蓮の季節だけは、私といてくれ。実りの秋も、長い冬も、たまには来てくれたら嬉しいけれど……蓮の季節だけは、私におくれ」
『……花蓮ッ』
 あの人は花蓮を強く抱きしめた。嗚呼、いつの間にかこんなに背が高くなって、肩幅も広くなって。ひとの子は変わっていくね。それが嬉しいような、寂しいような。こんな感情、お前のせいで知ってしまった。全く、ひとっていうのは本当に罪深い。
 初めての抱擁に、花蓮は逞しい背中に腕を回した。そのまま背中を摩る。あの人はぎゅうっと抱きしめて声を押し殺して泣いた。泣いて、泣いて、もう涙が出なくなった頃には月も傾いて。
「ほら、お行き。お天道様が昇るよ」
『花蓮……また明日』
「ああ」
 手を振ってあの人を見送る。結婚、人生の節目だ。自分のような妖がひとの営みを邪魔してはいけないと思うけど……この感情は、花蓮自身もう止めようがなかった――。

●記憶の水底・参
 あれから何十年と時が過ぎた。あの人はもうよぼよぼで皺くちゃで、杖もなきゃ歩けないっていうのに、時間があれば池に来て、花蓮の隣に立っていた。嗚呼、あの頃みたいに、また似たような背丈になったなぁなんて思うと少し笑ってしまう。
『花蓮……僕はもう、長くない』
「そうみたいだね」
『約束、叶えられなかった』
「約束?」
『月に掛ける橋のこと』
「なんだい、お前本気だったの」
 お道化てみればしわしわの顔をほんのり赤らめて、曲がった背が更に縮こまる。可笑しいの、幾つになっても夢見てるんだから。でも、そんな昔の口約束を覚えてくれていたことが嬉しくて、いつかみたいに背を摩った。
『花蓮……逝く時は、傍にいてくれないか』
「家族の輪には入れないよ」
『花蓮が導いてくれ。夜なら誰もいないから』
「やれやれ、引導を渡すようなモンじゃないのだけどね、私は」
『だめか?』
 しょぼしょぼの目で見つめられたら断り切れない。いや、最初から断る心算はなかった。お前がそう願うなら、昔馴染みとして叶えてやるさ、と。

 ――そして、刻は来た。
 真夜中、しんと静まり返った満月の夜。いつもはあの人から池に向かうけど、今日だけは花蓮が屋敷に入り込んだ。この屋敷に入ったことは数えるほどしかない。恐らく、これが最後になるだろう。
「おい、まだ生きてるかい」
『――』
 花蓮の声に目を開けたあの人は、首を動かして声の方に視線を向けた。交わる視線に挨拶したいのに、声が出ないのがもどかしいのか、口ははくはくと息だけ抜けていく。
「嗚呼、生きてるなら返事は良い。……約束通り迎えに来たよ」
 布団に横たわるあの人が手を伸ばす。花蓮はしゃがみ込んでその枯れ枝のような腕を掴んだ。そして懐から、いつぞや見た黒い蓮をあの人の胸に置く。あの人が目を閉じた瞬間、ぐいっと腕を引っ張ったなら、肉体はそのままにあの人の魂が抜き取られた。若々しい、ひどく楽しかった毎日を過ごしたあの頃の姿で。
『花蓮、ありがとう』
「どういたしまして。最後に池でも散歩するかい?」
『いや――名残惜しくなってしまうからね。このまま逝くよ。最後に会えて良かった』
「……私も」
『……花蓮? 泣いてるの?』
「……嬉し泣きだよ、馬鹿たれ。最後まで看取った達成感さ」
『ふふ、そう。――じゃあね、花蓮。いつかまた会う時があれば、また池を歩こう』
「――じゃあな」
 別れはあっけなかった。そこには唯々、あの人だった肉の塊が残る。腕を元通り布団に仕舞いこんで……でも黒い睡蓮はそのままに、花蓮は屋敷を去った。

 ――お前と歩んだ人生、楽しかったよ。次があるなんて信じちゃいないけど、万が一にもあったらいいねぇ――。



 ※PSWは気にせず、好きな色の睡蓮か蓮を手に摘んで下さい。それに想いを込めれば、一番幸せだった頃の思い出が蘇ります。ただ享受するだけで、何も心配いりません。あなたが思い出の力で心が強くなれば、自ずと敵は姿を現します。
真宮・響
【真宮家】で参加。

幸せな思い出ねえ。思い出は色々あるが。(足元にある真紅の睡蓮を摘み取る)

アタシの最高の思い出。それは奏がこの世に生まれて初めてこの手に抱いたときだ。駆け落ちで夫と結ばれたアタシは旅を続ける間に奏を身籠った。旅生活で無事に奏がお腹で育つとは限らない。でも旅先でたどり着いた町の人々の好意で無事に奏が生まれた時は至上の幸せを感じた。奏が大きくなってもその気持ちは変わらない。

さて、折角手にしたので、睡蓮の花は腰に付けておいて、件のお嬢さんの元へ向かうか。奏と瞬が一緒にいれば、何があっても乗り越えれられるさ。


真宮・奏
【真宮家】で参加。

大事な友人を思う方ですか。お気持ちは良く分かるんですが、世界崩壊に繋がるとなると。あ、この睡蓮綺麗ですね。水色です。

私の最高の思い出。2年前の桜の下で兄さんと大事な約束をした事です。兄さんに長年胸に秘めていた恋心を告白しました。兄さんは今は妹としてみるけど、きっと迎えに行くと約束してくれました。その約束は、今の私を支える縁です。

この水色の睡蓮は大事な思い出の結晶です。大事に胸に飾って、先に進みます。さあ、行きましょう。家族手携えて。


神城・瞬
【真宮家】で参加。

大事な方と一緒にいたい。気持ちは良く分かるんですが。ままなりませんね。まずは、と。(白い睡蓮を摘む)

僕にとって最高の思い出。それは2年前。桜の下で奏と大事な約束をしました。恋心を告白してくれた奏にいつかその心を受け入れると。奏を丸ごと支えてやれる強い男になる。その約束は今の僕の進むべき道を指し示す光です。

この睡蓮は大事な約束の証。大事に胸に付けて先に進みます。何が待ってるか不安ではありますが、家族でいれば怖くありませんとも。




 何をもって幸せと呼ぶのか。大事な友人を想い続けることもまた尊いとは思うけれど、それが世界崩壊に繋がるとあれば見過ごすわけにはいかない。真宮・響(赫灼の炎・f00434)にとっても思い出は色々あるが、さて何が最高に当てはまるのか。若干楽しみにしながら足元にある真紅の睡蓮を摘み取る。

 ――すぅっと真紅の睡蓮を吸ってみれば、脳裏に広がるのは簡素な部屋だ。しかし、人口密度は高い。響と、最愛の夫、医師、助産婦、薬師……そして今しがた新しく増えた最愛、おぎゃあおぎゃあと産声をあげる真宮・奏(絢爛の星・f03210)。
 響は駆け落ちで夫と結ばれた。そうして二人で旅を続けていく間に奏を身籠る。勿論嬉しかったし、喜びでいっぱいだったけど、同時に襲い掛かる不安。旅生活で無事に赤ん坊が生まれてくるとは限らない。激しい運動をすることや、ロクに宿もとれず寒空の下で野宿することだってある。
 それでも旅先で辿り着いた町の人々の好意で、膨れた腹に身を案じて貰った響は、病院というには少々心許ない診療所に併設された宿を借り出産に挑んだ。それは響にとって初めての経験であり、緊張と外傷とは違う内側からの痛みに苛まれたが……奏はこの世に生を受けた。
 お湯に浸した布巾で綺麗にしてもらった奏を、響はぐったりしながらも優しく抱く。小さくて、柔らかくて、この世の酸いも甘いも知らない無垢な存在。それが愛おしくて、自然と笑みが零れた。夫が響の腕に自身の手を重ねる。
 ありがとう、なんてこっちの台詞。家族が増える喜びを教えてくれたのは、夫なのだから。これ以上の幸せ、この先あるだろうか。どんな冒険や財宝にも勝る、至上の幸福を今二人は手に入れた。それは奏が大きくなった今でも変わらない。

 ふわっと再び池に視界が戻る。嗚呼、懐かしいのに、あんなに鮮明に思い出せるなんて。夫の声も、奏の産声も、痛みすら再現してみせるとは。
「アタシの最高の思い出……。あの人と出会った時も、結ばれた時も嬉しかったけど、やっぱりそうなるか。や、いいモンを見せて貰ったね」
「何を見たの?」
 奏が無邪気に聞いてくる。苦笑してから指を口に当て「秘密」とだけ答えた。少しむくれる奏の髪を撫でてやれば、少しは機嫌が直ったのか、神城・瞬(清光の月・f06558)と共に水辺に向かっていった。
「あ、この睡蓮綺麗ですね。水色です」
 奏が摘む隣で、瞬は白い睡蓮を摘んだ。二人、せーので花に想いを込める。

 ――奏と瞬は義理の兄妹。血の繋がりはない。でも、確かな絆がある。それは家族としてだけじゃなく、もっと暖かで、時に激しい感情。
 二年前、桜の樹の下で奏と瞬は大事な約束をした。奏にとっては一世一代の大決心の末、覚悟を決めて瞬に向き合う。瞬は何を言われるのか、大体察していたが奏が言い出すまで黙っていた。しばらく沈黙して二人で桜を眺め……奏からぽつりと、しかしはっきりと、瞬への想いを告白した。
「兄さんは、私じゃだめ?」
「……奏。いや、僕は今嬉しい。でも……」
「でも?」
「まだ、だめなんだ」
「まだ……?」
 瞬も奏もまだ若い。とても一人前とは言い難く、なんだかんだ母・響の世話になっている身。そうではなく奏を丸ごと支えてやれる強い男になった時、奏の気持ちを受け取ると伝えると、奏は少し俯いて……でも、次に顔をあげた時は満面の笑みだった。
「待ってるね。私も母さんみたいに、兄さんに見合う女になる」
「母さんみたいになるのはちょっと……。……きっと、迎えに行くから。それまでその心は預かっていて欲しい」
「うん」
 この約束は奏を支える縁。決して潰えることのない希望。瞬に拒絶されなかったことにホっとして、次いで未来まで予約されて。こんなに嬉しいことはない。今はまだ妹として見るけれど、その日は絶対に来ると信じて。
 同じように、瞬にとってもこれは今進むべき道を指し示す光となっていた。明確な目標が出来たことでより一層修練に身が入るようになったし、何より早く迎えに行きたいから。大事な奏を失望させないように、これ以上待たせないように。

 思い出から還ってきた二人は、清々しいような気分だった。あの時は上手く言えなかったけど、改めて思い出すと拙いなぁなんて笑ってしまいそう。でも、その気持ちに嘘はない。二人の絆はとっくに兄妹を越えている。
「兄さんは何を見た?」
「――多分、奏と一緒です」
「えぇ……? 兄さん、はぐらかしてない?」
「こらこら奏、こういうのは言わないのが乙なものさ。思い出はその人だけのものだよ」
「はーい」
 響は真紅の睡蓮を腰につけて、奏と瞬は水色と白の睡蓮を胸に飾り先へと進む。何が待っているか不安もあるが、家族でいれば怖い事など何もない。三人一緒なら、何があっても乗り越えられる。今までだってそうだったのだから。
「さぁ、行きましょう」
 家族で手を携えて、いざ妖のもとへ――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草野・千秋
蓮の花言葉は清らかな心、神聖、私を救ってください、など
人ならざる者も罪を重ねし者も善行を積めば救われるのですかね
過去のことですか、色々あります
祝ってもらった誕生日だとか
憎き家族の仇の宿敵の邪神のこととか

(薄紅色の蓮の花を取る)

思い出したのは妹のこと
14歳の祝いの日の近く
あの子の誕生日の前日はごちそうを作ってケーキを買って祝って
母と離婚で別れた父からもメールが来て、妹とちょっと苦笑しながら見たり
誕生日当日はみんなで遊園地に行ってめいいっぱい遊んで
……その帰り道には邪神の使徒が現れて、家族は殺されて

嫌なことは思い出したくなかったのに
できればいいことばかり思い出したかったのに
……千鳥(妹の名前を呼ぶ




 花言葉とはひとつではない。無論、蓮もそうである。草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)の記憶によれば、『清らかな心』『神聖』『私を救ってください』などがあったはず。人ならざる者も罪を重ねし者も、善行を積めば救われるのですかね。なんて誰にでもなく心の裡で問い掛けた。当然、誰からも答えは返ってこない。
 過去のことと言えば、思い出されるのは色々ある。祝ってもらった誕生日だとか、憎き家族の仇の宿敵である邪神のこととか。一体何が最高の思い出なのか……千秋は薄紅色の蓮を摘み取り、目を閉じて口付けた。

 ――思い出したのは妹のこと。14歳の祝いの日の近く。あの子の誕生日の前日はご馳走を作って、ケーキを買ってお祝いして。歌が終わったらふぅっとケーキに立てられた蝋燭の炎を吹き消し、拍手が上がる。切り分けられた六等分のケーキを美味しく味わった。
 それから、母と離婚した別れた父からもお祝いのメールが届いていて、妹とちょっと苦笑しながら見た。覚えていてくれたことと、こういうマメなところ、今でも嫌いじゃない。多分、母に知られたら良い顔はしないだろうから、これは千秋と妹二人だけの秘密にしておく。
 誕生日当日はみんなで遊園地に行って目一杯遊んだ。アトラクションなんて全部制覇する勢いで回ったし、美味しいスナックを買い食いして食べたり……とても楽しい時間だった。でも、その時間は永遠じゃない。閉園という終わりの後……『本当の終わり』が来た。
 遊園地の帰り道、邪神の使徒が現れ、家族は殺された。惨い殺され方だった。転がった死体の潰れた顔や、引き摺り出された内臓だとか、こんなところまで鮮明に思い出さなくても良いのに、幸福と表裏一体だなんて。

 ぱっと目を開ければ、先程までいた池の岸。驚くほどリアルな幻に、若干冷や汗が出る。嫌なことは思い出したくなかったのに。出来ればいいことばかり思い出したかったのに。でも、千秋にとって最高の思い出は最悪の思い出と同義なのだ。
 あの日が来なければ、今も三人で暮らしていたかもしれない。でも、あの日があったから妹と二人楽しんで、母の笑顔を見られて、遊園地で思い切りはしゃいで……とてもとても、有意義な時間を過ごせた。今更どうこう言う気はないけれど、誕生日に浮かれる妹の顔を思い出してまた目を閉じる。
「……千鳥」
 そっと妹の名を呼んだ。もう誰からも呼ばれることの無い名前。せめて千秋だけは忘れないように。あの子の名前も、笑顔も、泣き顔も、全部ぜんぶ、千秋が覚えておかなくては。それが最早唯一の、千鳥がこの世にいた証明になる。
「行きましょうか」
 思い出の中に生きる妹を想いながら、歩みは止めない。立ち止まってなどいられないから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
燦・f04448


青の蓮を摘み見る思い出は
依頼『邪教徒の陰謀 ~踏み荒らされる純潔の花々~』で
燦と一緒に生徒会長を救命した事

あの状況で堅実なのは…
敵の撃破に専念する事

胸を刺されただけとはいえ
呪いで即死した可能性もあった

でも
諦められなかった

ただ
敵に背を向けての救命は命取り
運良く蘇生できても私はUCの代償で瀕死は確実

この救命方法に協力者は必要不可欠

けど
無謀な賭けに付き合ってくれそうな友人は居ない

以前別の依頼で
初対面の猟兵に協力を打診し迷惑をかけた苦い記憶が過る

でも
諦めきれず近くにいた燦に声をかけた

断られる前提だったけど
燦は力を貸してくれた

これが私達の始まりにして最高の思い出

ありがとう
蓮は燦の髪に挿す


四王天・燦
シホ・f03442

寄り添う青と金の蓮に目を止め
アタシ達みたいだねと金を摘むよ

共に見るは初めて共同戦線を張った女学校の戦いだ

心臓を貫かれた無辜の少女がいた
アタシは仇討ちを考えた
だがシホは救うべく手助けを求めてきたんだ
魂が抜けるまで人は生きている―

無理と思った
協力した理由はやり遂げて納得してもらう為

でも致命傷を肩代わりしてシホは救いを為した
尊敬と心地よい敗北感を覚えたぜ
諦めていたアタシの情けなさよ

シホに尊敬を伝える
もっと奇跡を起こそう
二人なら何でもできる
この最高以上の想い出も作ろう
でも痛いのは程々にだぜ

そっとシホの髪に金の蓮を挿すよ
ありがとう
あの日、漫然と生きてきたアタシの運命が鮮烈に色づいたんだ




 寄り添うように咲く青と金の蓮が目にとまる。透き通るような青は宝石のようで、月に照らされて輝く金はまるで月そのもの。
「アタシ達みたいだね」
 なんて、ニッと笑って四王天・燦(月夜の翼・f04448)は金の蓮を手にした。隣のシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は合わせるように青い方を摘み取って、二人で蓮に想いを込める。共に見るのは同じ思い出。

 ――あれはもう二年以上前のことだ。女学校に現れた邪神から、少女を救う為に張った共同戦線。燦とシホの運命の出会い。
 心臓を貫かれた無辜の少女がいた。もう助からないだろうと、燦は仇討ちを考えた。実際、あの状況・場面で堅実なのは敵の撃破に専念することであり、断じて救命活動ではない。胸を刺されただけとはいえ呪いで即死している可能性だってあった。
 それでもシホは諦められなかった。ただ、敵に背を向けての救命は命取り。自分が死んでは誰かを助けることなんて出来やしない。そもそも運良く蘇生できたとしてもシホはユーベルコードの代償で瀕死は確実。この救命方法には協力者が必要不可欠だった。
 けれど、無謀な賭けに付き合ってくれそうな友人はいない。以前、別の任務で初対面の猟兵に協力を打診し迷惑をかけた苦い思い出が過る。誰かに迷惑はかけたくない、でも、目の前の命を諦めることはもっとしたくない!
 思い切って近くにいた燦に声をかけた。断られる前提だったけど、燦は力を貸した。正直な話、燦は無理だと思った。救うべく手助けを求めることはとても尊いことだし、悪ではないけれど。だから、協力した理由はやり遂げて納得してもらう為。
 しかし、シホは少女の致命傷を肩代わりして救いを為した。尊敬と心地よい敗北感が燦の裡に広がる。この感覚は良い気分だ、ずっと覚えていられるほどに。最初から諦めていた燦は、自分が情けなくなったくらいだ。気恥ずかしさなんてどこにもなく、唯ただシホに尊敬の言葉を伝えた。
「お前、すごいな」
「え……?」
「あの状況で、命を諦めない強靭な精神。誰かに助けを求める勇気。その為に身を捧げる覚悟。すげぇよ」
「私は、ただ……無心だっただけです。あなたこそ、急な応援助かりました」
「ははっ、お互い様。なぁ、名前教えてくれよ。アタシは燦」
「私はシホ・エーデルワイスと申します」
 シホ、と一度その名を反芻した燦は、八重歯を見せて笑う。心底信頼して、安堵して、これからよろしくの意を込めて。
「もっと奇跡を起こそう。二人なら何でも出来る」
「私、また迷惑をかけるかもしれませんが……」
「良いんだよ。ああでも、痛いのは程々にだぜ」

 ふと意識は元の池まで戻っていた。先程までの思い出が、まるでこの前の事みたいに思い出せた。それはシホも燦も同じだったようで、二人して、どちらからともなく顔を見合わせ微笑む。これが二人の、始まりにして最高の思い出。
「この最高以上の想い出も作ろうぜ」
「はい、一緒に」
 そっとシホの髪に金の蓮を挿す。ありがとう、とお返しにシホは青の蓮を燦の髪に挿した。お互いの色を冠した絆は、ちょっとやそっとじゃ散ることはない。
「ありがとう。……あの日、漫然と生きてきたアタシの運命が鮮烈に色付いたんだ」
「お礼を言うのは私の方です。燦が居てくれるなら、恐れることは何もありません」
 歩き出した二人を待ち受ける妖は、果たして彼女らに何を見せるのか……。それは二人の運命を試すものかもしれないと、今はまだ分からぬまま――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

零雨・一
アドリブ、改変可能

燼に抱えられて池を見渡す。
初めて見た光景に感動して、近くで見たくて花を指差す。
「ねぇ、燼その花とって」

貰った花は白い蓮の花。聞いていた通り『思い出』が蘇る。

燼と初めて会った時。辺りは一面の赤と肉の山。聞こる音は悲鳴と怒号。
けれど、そんな事どうでも良くて。
燼が一の名前を読んで、手を握ってくれた事が嬉しかった。

蓮の花言葉に【離れゆく愛】なんてあるけれど、絶対に離さない。

「一と燼は一蓮托生、絶対に離れないで」

蓮の花と燼の服を握りしめ、誰かが隣にいる幸せを享受する。

●燼の胸中
小さな体に余る執着心、独占欲。なんと心地よいものか。
『仰せのままに』
俺こそこの小さなアリスを離してなるものか。




 燼に抱えられた零雨・一(約束・f27533)は、ぐるっと池を見渡した。美しく咲き誇る水の花たちが歓迎する。初めて見た光景に感動して、近くで見たいと一は花を指さす。
「ねぇ、燼その花とって」
 ぷちっと摘み取られたのは白い蓮。燼はそれを一に渡すと、優しく胸に抱いた。同じ様に一も、蓮を胸に当て想いを込めてみる。すると聞いていた通り、『思い出』が蘇る。これは、燼と初めて会った時のことだとすぐに分かった。

 ――当たりは一面の赤と肉の山。赤い、紅い、赫い、朱い、緋い、視界を埋め尽くす『あか』がいっそ美しくて眩暈がする。聞こえるのは悲鳴と怒号、そして僅かな祈り。誰にも届かないそれを聞いているのは一だけ。けれど、そんなことは些末なこと。どうでも良くて。
『一』
 名を呼ばれて見上げれば、己の身の丈の倍もあるような男が手を差し出していた。おずおずと手を伸ばせば、しっかりと握りしめられる。それがこの上なく嬉しくて、一も男の名を呼びたいと思った。
「名前……教えて」
『燼』
「――燼」
 握られた手はそのままに、ぎゅっと抱き着く。燼は一を受け止めて、お姫様抱っこで赤の海を闊歩してゆく。その名前の意味さえ知らぬまま、一は燼に為されるがまま。蓮の花言葉には【離れゆく愛】なんてあるけれど、絶対に離さない。無骨な手を握る力は儚くとも力強く。
「一と燼は一蓮托生、絶対に離れないで」
 蓮の花と燼の服を握りしめ、誰かが隣にいる幸せを享受する。こんな幸福なこと、他にあるのか、皆目見当もつかない。だって燼は一の全てで、一は燼の運命で。小さな体に余る執着心と独占欲がなんとも心地よいと、燼は満足気に一を抱いた。
『仰せのままに』
 燼こそ想う。俺こそこの小さなアリスを離してなるものかと。斯様に脆く、曖昧で、朧気な一は、全て俺のものだと本能が叫ぶ。一の隣は常に自分で無ければ気が済まない。

 意識が浮上した時、辺りは月灯り差す池に戻っていた。懐かしくも鮮明な記憶に、少し胸がドキドキする。一は燼を見上げて一言。
「燼。燼……ずっと一緒だよ」
『勿論』
 燼はそのまま胸に白の蓮を握ったままの一を抱いて歩き出す。向けられる感情が愛おしく、壊してしまいたくなるほど可愛いだなんて、とても口にはしないまま――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレイル・ソーンフォード
とても綺麗な所ですね
さて、思い出を摘んでみますか

白い蓮の花
月明かりで真珠の様に虹色に輝いて
魚の鱗の様

ずっと昔
僕は一匹の大きな魚でした
湖の汚れを食べて浄化する
自然界に組み込まれた機関でした

ある日
穢れを食べました
僕の体はみるみる腐り落ちて
美しかった湖は毒の沼地に成り果てた

僕は悲しくてなんとか湖から上がりました
守り神と呼ばれた僕が
大地を這えば草木を枯らし
土地を穢していく
やがて怒った人間達に退治されました

この時
僕は「終わり」があると知りました
永遠ともいえる長い時間を与えられた妖でも
悲しみには終わりがあるのだと安堵して

終わりは希望だと
希望があるからヒトは生きられるのだと知る事が出来て
僕は嬉しかったんです




「とても綺麗なところですね」
 まるで自分には似合わないな、なんて思ったんだかどうなのか。クレイル・ソーンフォード(荊棘の湖面・f28024)は白い蓮を思い出として手にした。月明かりで真珠のように虹色に輝いて、魚の鱗のよう。一体何が思い起こされるのか……心当たりは幾つかあるけれど、多分。

 ――ずっと昔、クレイルは一匹の大きな魚だった。透き通った鰭と、虹に光る鱗、全てを見通す宝石のような眼。彼は湖の汚れを食べて浄化する、自然界に組み込まれた機関で、そこに存在するだけで意味のあるモノだった。
 ところがある日、淀んだ穢れを食べた。途端にクレイルの体はみるみる腐り落ちて、美しかった湖は毒の沼地に成り果てた。魚たちをはじめとする水に生きるものは死に絶え、沼水に触れれば全身に苦痛を伴ってやがてクレイルと同じように身が腐り落ちてゆく。
 クレイルは悲しくて、なんとか湖から上がってみる。でも、それがいけなかった。守り神と呼ばれたクレイルが地を這えば草木を枯らし、土地を穢してゆく。森からは動物がいなくなった。稔りは毒の果実となり、這いずった後には死が満ちていく。
 やがて怒った人間たちに、クレイルは退治されてしまう。でも、その時思ったのだ。これでこの嘆かわしい身に『終わり』が訪れると。永遠ともいえる長い時間を与えられた妖でも、悲しみには終わりがあるのだと安堵して。
 終わりは希望だと。希望があるからヒトは生きられるのだと知ることが出来て、クレイルは嬉しかった。それはもう、唯の自然の中の無機質な機構ではなく、まるでヒトのような感情だった。そこではたと、クレイルは思い出す。
「僕はいつから魚だったんでしたっけ?」
 人間であったひとつが終わり、そこからまた妖生が終わって、今クレイルはここにいる。終わりという希望に向かって突き進んでいく様は、まさに悪霊。屹度またクレイルは何かを、誰かを不幸にする。でも、それにも絶対終わりがあるのだから、悲しむことなんてないのだ。

 眼鏡の奥の瞳が現実を映し出す。月に揺れる水面と、ゆれる花が美しい。この光景にも、いつか終わりが来るのだろう。それが悲しいことじゃないと、教えに行かなければ。希望がある限り生きられる、例えそれがどんな結末だろうと、人生という物語にはお終いがあるのだ。
 嗚呼でも、今すぐ終わるのは少し惜しいな……なんて考えるクレイルもいる。だって希望があるということは、『希望を見出している何か』がいるということだから。腐って溶け堕ちるのは、最後は自分だけで良い。恨みも呪いも憎しみも、なにもかも道連れにして、いつかまた沼底に沈む日まで……。
「希望を差し上げに行きましょうか」
 赤い橋を渡り、妖の元へ向かう。再びの終わりを与える為に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春田・木蓮
なんとなく、親近感……みたいな
名前が似てるからかな?なーんて

白い蓮を摘んじゃおうか
支えてくれる茎はキールで、花のところはクーラみたいで可愛い!

――ああ、すごいね。思い出がどんどん溢れるみたい。
人間の男の子「はるた」の思い出
木蓮って名前ははるたがつけてくれたんだ
縁側で一緒に日向ぼっこするの、大好きだったなぁ

次は先輩の思い出
こっちに来てからは、先輩と一緒に住んでて……春田が寂しがるから毎日一緒に寝てくれたんだよ
一人で眠れなくなったのは先輩のせいだよね

……ああ、でもやっぱり、一番鮮明に見えるのは……今。
大好きな二人と一緒にいる時が一番幸せなんだよね

この花持って帰ったら二人とも喜ぶかも!見せてあげよー




 蓮の広がる池を眺めて、春田・木蓮(忘れじの春と萌ゆる想い・f28137)はくすりと笑った。なんとなく、親近感……みたいなものが込み上げる。名前が似ているからかもしれない。実際に『木蓮』とは蓮に花が似ているからついた名前だ。
 蛇を器用に操り、白い蓮を摘む。支える茎はキールで、花のところはクーラみたいで可愛い! なんて、本人たちの預かり知らぬところでキャッキャと喜ぶ。その花に思い切り顔を突っ込んで、大きく息を吸ってみた。現れたのは、なんとも懐かしい。

 ――ああ、すごいね。思い出がどんどん溢れるみたい。人間の男の子「はるた」の思い出。木蓮という名前ははるたが付けてくれたものだった。
『名前がないの? じゃあ、紫色が木蓮みたいだから、木蓮!』
 癖ッ毛をモフモフしながら、妖怪である身を恐れることなく純粋に懐いてくるはるたは、とても可愛かった。縁側で一緒に日向ぼっこするのが大好きだった。おやつはいつも大きい方の取り合いだったのに、いつの間にかはるたは大きい方を譲ってくれるようになったっけ。
 ――次は先輩の思い出。こっち……幽世に来てからは、先輩と一緒に住んでいた。木蓮が寂しがるからと、毎日一緒に寝てくれた。ぎゅっと抱きしめて、頭を撫でて、木蓮が眠るまでずっと傍にいてくれた。そのくせ木蓮より早起きだから、いつもすごいなぁと尊敬していて。
「一人で眠れなくなったのは、先輩のせいだよね」
 なぁんて言ってみるけど、別に気にしていない。だってもう、一人で眠る夜はないのだから。……何も心配いらないよ、先輩。蛇くんもいるしね。
 ――……ああ、ほら。やっぱり。一番鮮明に見えるのは……今。大好きな二人と一緒にいる時が、一番幸せ。厳しくも甘い神様と、甘いくせに激しい悪霊と。三人仲良く、連れ立って歩む今が最高の幸せで、どれもこれもが愛おしい思い出。辛いことや悲しいことを話す機会もあった。でも、三人は互いを離さなかった。
 いつの間にこんなに思い出が増えていたのかな、と振り返ってみる。はるたや先輩と過ごした時間の方が長いのに、今が最高だなんてちょっと薄情? と思いつつ、自分の心に嘘は吐けない。大事なのは共に過ごした時間ではなく、幸福を共有し想い合う相手がいるかどうかだ。それは友でも恋人でも、何でも良い。

 はぁ~、と吸った分だけ息を吐いた木蓮は、思い出に浸る。どれもこれも良い思い出だったけど、やっぱり過ぎ去ったことはもう戻らない。ならば今を最大限楽しむのが、一番の思い出作り!
「この花持って帰ったら二人とも喜ぶかも! 見せてあげよー」
 摘んだ白い蓮を優しく手にして、赤い橋を渡る。二人の喜ぶ顔が楽しみで、つい自分も笑顔になってしまうのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
*アドリブ歓迎

己の剣の道を見失ってしまった
縋る様に、そっと薄紫の蓮の花を手に取る

霞から浮かび上がるのは
腰に風車
ぼさぼさ頭の着流し姿
……弥吉あに様

習えば習う程解ってしまう
人を斬る為に研ぎ上げた剣術の業

人斬りになんてなりたくないと泣く私を
面倒くさそうに諭すあに様
『お師様の言葉忘れたのか?』
『"剣に善悪無し、人の心を映す鏡なれば"』
『"殺人刀にあらず、活人剣であれ"ってさぁ』
その目は幼い私でなく、私を見ているよう

はっとする
お師様は骸の海の者だったけど
教わった剣が悪だった事は一度も無い

そうね
過ぎ去りて尚、私の背をそっと押してくれる思い出を
骸の海と一緒にするだなんて失礼千万

大丈夫
もう私の道を見失わないよ




 標が、光差す路が無ければ、人はどこへ向かえば良いのか。迷って、彷徨って、気付いた時には此処に居た。己の剣の道を見失ってしまったクロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)は、縋るようにそっと薄紫の蓮を手に取る。『最高の思い出』が自分を導いてくれると信じて。

 ――霞から浮かび上がるのは、腰に風車・ぼさぼさ頭の着流し姿。忘れた事は無い、ぶっきらぼうでありがならちょぴり優しく、確かな実力を持つ彼は。
「……弥吉あに様」
 剣の修行は厳しかった、苦しかった、辛かった。習えば習う程解かってしまうから……これが人を斬る為に研き上げた剣術の業であることに。人斬りになんてなりたくないと泣くクロムを、面倒くさそうにしながらもなんだかんだ放っておかないのだ、弥吉あに様は。目線を同じに腰を折り、諭す。
『お師様の言葉忘れたのか?』
「言葉……」
『"剣に善悪無し、人の心を映す鏡なれば"』
 視線が浮く。その目は幼いクロムではなく、今この思い出を見ている猟兵のクロムに向けられているような錯覚を覚えた。
『"殺人刀にあらず、活人剣であれ"ってさぁ』
「覚えてる、覚えてるよ。でもあに様、誰かを活かす為なら誰かを殺して良いの?」
『殺す、じゃあねぇさ。クロム、考え方の問題だ。より多くを活かすのが活人剣。もしお前が悪を斬らなきゃ、死体が増える。剣が人の心を映す鏡、ってんなら、お前が悪だと思った者だけ斬れば良い。剣はお前の想いに応えるはず。――ってぇ、説教くさくなったなぁ。ほら、飴やるから好きなだけ悩んどけ』
 幼いクロムは貰った飴をその場で口にした。甘露が口に広がって、とても安心したのを覚えてる。

 気付けば霞は消え去り、周りはもうあの修練場ではない。あに様はどこにもいないのに――口の中に甘い味が残っているような気がした。
 あに様の言葉にはっとする。そうだ、お師様は骸の海の者だったけど、教わった剣が悪だった事は一度もない。即ち、善悪とは己の中に存在しているのだと。見極めるのは他人ではなく自分自身だと習った。クロムの剣は人殺しの道具ではなく、人に仇為す敵――お師様を討つ為の剣であると。
「そうね……ありがとう、あに様。大丈夫、もう私の道を見失わないよ」
 過ぎ去りて尚、クロムの背中をそっと押してくれる思い出を骸の海と一緒にするだなんて失礼千万。あに様には見えていたのかもしれない。クロムがいつか揺らめくことを……それでも剣を捨てずにはいられないことを。だから屹度。
「仇はとるよ、あに様」
 走り出したクロムの背中を、風がびゅうっと後押しした。それは本当にただの風だったのか、誰も知らない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

比良坂・彷
信仰ねぇ
教祖様として色んな人の欲には関与したし
中には都合悪くて手を下した人もいたけど
それでも縋る人の幸せは祈ってた
俺は虚っぽ
欲望を詰め込んで叶ったら幸いに染まる匣
紫の睡蓮を掬い上げる
誰の幸せが見えんのかなぁ


同じ顔の小さな男の子が泣いてる
俺は…俺も哀しくなって同じ泣き方をする
哀しみが伝染する
「…にぃちゃ…おれ、かなしいよ」
「…し、おれ、かなしいよ」
同じ言葉で
額を寄せ合って泣いた
哀しみはんぶんこ
―お前が哀しいと俺も哀しいからお前を幸せにする
これは
“感情を奪うな”と拒絶を突きつけられる前の幸い

俺、双子の弟なんていないんだけど
でも叶えたかったよ、ねぇ?

※本人が気づけぬ前世の記憶、その上でのアドリブ歓迎




「信仰ねぇ……」
 己に幸せなどあるのだろうかと誰かに問いたくなる。教祖様として色んな人の欲に関与してきた比良坂・彷(冥酊・f32708)、中には都合が悪くて手を下した人もいたけれど、それでも縋る人の幸せはいつだって祈ってきた。
 他者に与えるのは慣れている。けれど、彷は? 虚っぽで伽藍堂、中身はすっからかん。欲望を詰め込んで叶ったら幸いに染まる匣。あまりにも周囲に影響を与える彷は、自身もその分影響を受けやすいのかもしれない。
 紫色の睡蓮を掬い上げる。誰の幸せが見れるのか、少し、震える手。

 ――同じ貌の小さな男の子が泣いている。ぐすぐすと、大粒の雫が瞳から溢れていた。彷は哀しくなって、同じ泣き方をする。哀しみが伝染する。二人分の哀しみがその場に木霊した。
「……にぃちゃ……おれ、かなしいよ」
「……し、おれ、かなしいよ」
 同じ言葉を交わす。ぐすぐす、えんえん。この男の子ならともかく、大の大人の彷も涙が止まらない。せめて哀しみがはんぶんこになるように、額を寄せ合って泣いた。男の子はもっと泣いた。でも、さっきとは違う泣き方だ。どうしてか、肌を通して伝わってくるような気がした。
「にぃちゃ……なかないで」
 小さな手が彷の頬に触れる。その上から自分の手を重ねて、またひとしずく、ぽろり。
「――お前が哀しいと俺も哀しいから、お前を幸せにする」
 他の誰でもない、お前と俺の為に、俺達は幸せにならなくちゃいけないんだと、ぎゅっと目を閉じればもういつも通り。いや、少し違うか。これは“感情を奪うな”と拒絶を突きつけられる前の幸いだ。祭り上げられ、飾り立てられ、彩り全てが錆色に見えるような世界じゃない。
 だったらこの胸に湧き上がる『色』は何だろう。紫、夕焼けの色? それとも春の花? 分からないけど……一等美しく思えた。お前が俺に、彩をくれた。

 微笑みかけようと思った時には、景色は既に池の淵へと戻っていた。――嗚呼、可笑しいの。俺、双子の弟なんていないんだけど。……でも叶えたかったよ、ねぇ? 幸せ色を思い出したはずなのに、あんなにはっきり見えて、まるで現実と相違なかったものが、今はもう朧げで夢でも見ていたような気分だ。
「哀しいなんて、嘘。俺は幸せを運ぶ禽。天秤はこっちにしか傾かないんだ」
 なんて嗤える話だろう! 死にたいのに死ねなくて、心だけが死に体で。じゃあ屹度これも虚構、あの涙も雨かなにかの間違いだろう。じゃあそれを確かめに行かないとね。
 歩き出した彷を待ち受けるものは――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『悪因悪華』

POW   :    因果応報
【自身に武器】を向けた対象に、【忘却】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    身口意断ち
【慈悲】を籠めた【装備】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【意志】のみを攻撃する。
WIZ   :    授け三毒
攻撃が命中した対象に【過剰な癒し】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【自壊】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠納・正純です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●かつて通った心は既に亡霊
『客人ではなさそうだな』
 橋を幾つか渡った先の庵に、ゆったりと腰掛けていた骸魂――『あの人』は、猟兵を見るなり一言。あんなに花蓮が願ってくれて、漸く共になれたのに、どうして邪魔をするのか。全く以て理解できない。世界の崩壊なんて些末なこと。むしろ崩れれば今が永遠になる。
『花蓮は渡さないよ。僕は待った、花蓮も待った。そうしてやっとまた巡り合えたんだ。僕たちを引き剥がそうというなら……消えてもらうしかないね』
 『あの人』は思い出の中でだけ生きているべきなのだ。それを本当は、花蓮だって理解している。でも、この積年の感情がそれを邪魔する。だからこそ『あの人』の骸魂に身を委ねた。だけど、同時に思う。『あの人』が誰かを傷付けるところなんて見たくないと。
 花を、花蓮を、ひとを愛した『あの人』には、そのまま無垢でいて欲しいと願う打ち寄せては引く心の岸辺。それでも『あの人』に会いたかった。だから今、幸せなのに……どうしてこんなに哀しい?

 ――なぁ、思い出ってのは、思い出だから美しいのかい?

 花蓮の声が直接あなたの頭に響いた。あなたは花蓮を骸魂の呪縛から救い出しても良いし、共に逝かせてあげても良い。どちらが幸せかなんて、当人たちにしか分からないのだから。


 ※花蓮を救う場合
 敵の攻撃に耐えつつ、『思い出』の素晴らしさや尊さを語る。骸魂の中に取り込まれた花蓮の心にそれが響けば、戦闘終了後も花蓮は消滅しません。
 反撃(ユーベルコードによる攻撃)を行っても大丈夫ですが、肉体は花蓮のものなので、救えた場合でも相応に傷ついた状態になります。

 ※花蓮を骸魂と共に滅する
 普通に戦闘して下さって構いません。説得も不要です。

 プレイングで多かった方で結末が決まります。
六道・橘
反撃しない

こんばんは、花蓮さん
蓮の花を手にしてないの
わたしの思い出を視てしまったら本当に見たいものが消えてしまいそうで怖くて

此から夢みたいな話をするわね
わたしね
この姿の前に生きた時の事ばかり考えてしまうの
大切にしなくてはいけなかった兄を拒絶した挙げ句自ら命を絶った
…兄はわたしを誰よりも大切にしてくれたのにね
だからあなたがその方と想いを交わし合えたのが羨ましい

もし共に逝きたいと言うのなら引導を渡して差し上げる
でもひとつだけ言わせて
わたしは先に死んだから立場は『あの人』
わたしなら絶対にあなたを幽世へ連れ込んだりしないわ
…だって掛け替えのない人だもの

ねぇ
その人は本当に花蓮さんの『あの人』なのかしら?




 思い出が蘇ることが必ずしも良い事とは限らない。六道・橘(■害者・f22796)にとって、現状はまさにそうだった。あの池に咲き誇る『最高に幸せな思い出』が見れるという蓮を、橘は手にしていない。ゆっくりと花蓮に近寄り、ふっと――ほんの僅かに微笑む。
「こんばんは、花蓮さん。蓮は手にしなかったわ……わたしの思い出を視てしまったら、本当に見たいものが消えてしまいそうで怖くて」
『ふん。その程度の思い出など、消えてしまえば良い』
 ――お前、そんな言い草はないだろう。
『花蓮は少し、黙ってて』
 ひとつの躰にふたつの魂。彼らの掛け合いを見ながら、橘は敵意がないことを示すように両手をあげる。その様子に『あの人』は訝しんだ。じぃっと睨みつけるが、手は出してこない。裡にいる花蓮が止めているのだろうか。
「此から夢みたいな話をするわね。……わたしね、この姿の前に生きた時の事ばかり考えてしまうの」
 ――前世、ってやつかい?
「そうね、屹度、多分。大切にしなくてはいけなかった兄を拒絶した挙句、自ら命を絶った。……兄はわたしを誰より大切にしてくれたのにね。だから、あなたがその方と想いを交わし合えたのが羨ましい」
『僕と花蓮には――深い絆があった。お前は何故想われたことを自覚していながら拒絶したんだ?』
「さぁ……どうかしら。思い出を視たなら、分かったかもね」
 曖昧な返答に苛々したのか、花蓮の肉体で『あの人』は橘に向けて意志そのものに攻撃する。精神に関与する技、しかしどこか感じる虚しさと希望。嗚呼、花蓮は本当は『あの人』にこんなことをさせたくないのだとすぐに理解した。
「花蓮さん、もし共に逝きたいと言うのなら引導を渡して差し上げる。でもひとつだけ言わせて。わたしは先に死んだから立場は『あの人』、わたしなら絶対にあなたを幽世へ連れ込んだりしないわ。……だって、掛け替えのない人だもの」
 ――……でも、私は……。
「ねぇ、その人は本当に花蓮さんの『あの人』なのかしら?」
『そんなのは戯言だ! 僕は僕だ! 信じてくれるよね、花蓮?』
 花蓮は答えなかった。いや、答えられなかった。橘の言う事に納得してしまいそうな自分がいる。でも『あの人』だと信じたい気持ちも本当で。何が真実で、正解なんて分からなくて。
 そんな花蓮のこころに、橘は胸が締め付けられる。もしこの骸魂が本当に『あの人』なら残酷すぎるし、『あの人』でないなら悪趣味が過ぎる。どちらにせよ滅さねばならない。その時に花蓮のこころが壊れてしまわないよう、せめて寄り添いたい。
 橘はあえて、攻撃された意志の力で言い放った。
「花蓮さん。あなたの思い出は、美しいわ」
 断言された言の葉が、花蓮のこころの湖面に響く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

アタシ達家族は花蓮を救う方を選ぶ。思い出に浸り、留まる選択もあるだろうが、様々な事を体験し、それを糧に生きてきたアタシ達家族は受け入れられない。言葉が届くか分からないが、やってみるか。

シンフォニック・キュアで自壊による攻撃を癒しながら話しかける。

アンタたちが共に過ごしてきた日々がどんなに尊いかは分かる。アタシ達も色んな経験をしてきた。そしてその経験を元に歩んできた。花蓮、アンタには未来がある。大事な人の分まで生きるんだ。先があるアンタに足を止めて欲しくない。

ここはアンタ達だけの世界ではない。暮らしている他の妖怪達もいるんだ。個人の勝手で世界崩壊は許せないねえ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

やっと会えた方とずっと一緒に居たいというお気持ちも分かります。私もお父さんとずっと一緒に居たかった。でも世界崩壊と共に心中となるとまた話は変わります。思い出を糧にして生きてきた私たちには受け入れられません。

絢爛のクレドを踊り、人は思い出と共に幾らでも立ち上がり、進んでいけると身を持って示します。大切な人を大事にしたいなら、共に消滅する事を選ぶのではなく、大切な人の思い出を残す花蓮さんが生き延びるべきです。貴女までが消えたら、大切な人が居た証を残せる方がいなくなります。

私はお父さんが家族を命を懸けて護ったように、大切な人を護れる騎士を目指してます。こんな生き方もあるんですよ。


神城・瞬
【真宮家】で参加

大切な人とずっと一緒に居たい。お気持ちは凄く良く分かります。でも世界崩壊も構わないというなら、それは歪んだ執着です。大切な人に酷い事をさせたくない。そう思うのもあり得るんです。

月光の騎士で攻撃力を犠牲に防御力を上げ、攻撃はせずに説得を。忘却の呪いは睡蓮の助けと目の前にいる二人を護らねばならないという意志で耐えます。

確かに僕は多くの物を失いました。生まれ故郷の皆、実の両親。でも失った命の分まで、皆の生きた証を示す為生きるのが僕の生きる道。思い出に留まるだけが生き方ではない。花蓮さん、大切な方の生きた証を残す為、生きるのが残された者の使命。そう思いませんか?




 ずぅっと焦がれて、やっと会えた大切な人と今度こそ一緒に居たいという気持ちは、奏も瞬もよく理解出来た。奏だって父とずっと一緒に居たかったし、瞬だって生まれ故郷の皆や両親を失った。それはもう覆らない事実で、覆してはいけないこと。
 世界を崩壊させてまでも心中したいというなら、それは最早歪んだ執着だ。思い出に浸り、留まる選択もあるだろう。しかし様々な事を経験し、それを糧に生きてきた響達家族にとって、世界崩壊も花蓮を骸魂に渡すのも到底受け入れられない。
「言葉が届くか分からないが、やってみるか」
「――私は信じる。ひとは何度でも立ち上がれると。花蓮さんだって、絶対に!」
『ほう、ではやってみればいい。僕と花蓮の契りは、お前たちなどの言葉に揺らぎはしない』
「それを判断するのはあなたではなく、花蓮さんではありませんか?」
 溢れかえる過剰な生命力で肉体が崩壊するのを、響の歌声が抑え込む。思い出を蝕まんとする忘却による攻撃は、全て瞬が受け持った。防御力を上げていなければ瞬の大切な想いが失われていたかもしれない。しかし、絶対に攻撃しないという信念と二人を守らねばならないという決意、そして睡蓮による加護で底上げされた鉄壁のこころに、その技は届かない!
 軽やかな踊りを披露しながら、奏はひとは思い出と共に幾らでも立ち上がり、進んでいけると身を以って示す。それは『あの人』の骸魂に隠れた花蓮に贈る舞。
「大切な人を大事にしたいなら、共に消滅する事を選ぶのではなく、大切な人の思い出を残す花蓮さんが生き延びるべきです! 貴女まで消えたら、大切な人が居た証を残せる方がいなくなります」
 ――お前が居た、証を……私が?
『花蓮! 僕は存在証明が欲しいんじゃない! 君と居たいだけなんだ!』
「……僕も多くのものを失いました。でも、失った命の分まで、皆の生きた証を示す為生きるのが僕の生きる道。思い出に留まるだけが生き方ではない」
「アンタたちが共に過ごしてきた日々がどんなに尊いかは分かる。アタシ達も色んな経験をしてきた。出会い、別れ、旅立ち、見送り……その経験と共に歩んできた。花蓮、アンタには未来がある。大事な人の分まで生きるんだ」
 ――でも……彼をまた一人にしてしまう……。
 確実に花蓮のこころに三人の声は届いている。だが積年の想いが吹っ切れることを邪魔する。花蓮は『あの人』と一緒にいたい。その為なら世界など崩壊しようと知った事じゃない。でも、そうなったらこの思い出まで消えてしまうとしたら?
 『あの人』の骸魂は響らの意志に対して徹底的に武器を振るった。だのに、誰も崩れない。誰も挫けない。何故、と骸魂は混乱した。ひとは意志を、思い出を忘れることを恐れるはずなのに。
「花蓮さん、大切な方の生きた証を残す為、生きるのが残された者の使命。そう思いませんか?」
「私はお父さんが家族を命を懸けて護ったように、大切な人を護れる騎士を目指してます。こんな生き方もあるんですよ」
 ――私だけのうのうと、これからも生きろと? こいつを置いて、また一人で……。
「先があるアンタに足を止めて欲しくない。なぁ、アンタが覚えてる限り、もう居ない『あの人』はアンタだけのもんだよ」
 ――……。私、は。どうすれば……。
『耳を貸さないで、花蓮。大丈夫だよ、僕がついてる。世界の終わりなんて関係ない、ふたり一緒ならね』
 ――お前……。
 花蓮は動揺した。生前の『あの人』は、こんなことを言う人間だっただろうか。ひとを、自然を、世界を……花蓮を愛した『あの人』は、こんなにあっさりと全てを捨てることが出来る奴だっただろうか? 何かが引っ掛かるけど、でも、『あの人』の言うことに頷いてしまいたくなる。だって、漸く会えたのだもの。
「それにね、ここはアンタ達だけの世界ではない。暮らしている他の妖怪達もいるんだ。個人の勝手な都合で世界崩壊は許せないねぇ」
「皆さん、思い出を抱えて生きています。貴女たちと変わらない。そんな思いまで、消えて良いと言うんですか? 誰かの思い出を消し去ってまで一緒に居たい、それは本当に花蓮さんの望みなんですか?」
 ――違う! 違う……私は、ただ、こいつと居たいだけ……。それすら世界は許してくれないのかい?
「生きる事は、背負うこと。思い出も、罪も、愛も、願いも。今の『あの人』は、花蓮さんの思い出まで消し去ろうとしています。……貴女には、生きる理由があるはずです。世界の法則は、誰であろうと乱せない」
 響も奏も瞬も、其々の言葉と想いの丈をぶつける。それが酷く腹立たしいのは『あの人』の骸魂。僕の花蓮に余計なことを吹き込み、再会を阻む邪魔な奴等。到底生かしておけない。だが哀しいかな、躰は花蓮のもの。戦う為に生きてこなかった……ただひとを愛し、『あの人』を思い続けた身では、三人には敵わない。
 それだけの長い刻、花蓮は想い願い続けていた。だからこそ踏ん切りがつかないけれど、響たちの言葉に納得出来る部分もあって。『あの人』はいい、と言ったけど、『あの人』との思い出は失いたくない。『あの人』が確かに存在したことを、せめて自分だけでも覚えていたい。
「花蓮さん、思い出して下さい。貴女が想った『あの人』は、いつも貴女を想っていたんじゃありませんか?」
 ――……!!
 そうだ、『あの人』はいつだって、花蓮を想っていた。花蓮の為に色んなことをしてくれた。無茶もしたし、苦労をかけたりもした。でも確かに、花蓮の笑顔と幸福の為に行動していた。こんな風に悩ませる為じゃなかった。
 ――あ、あ……私……。
『花蓮!』
 渦巻く花蓮のこころに、『あの人』の叫びが木霊する――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クレイル・ソーンフォード
Ipupiaraに護衛を頼み
説得します
自壊には慣れていますから

「僕は待った」などと…
待たせているのはあなたでしょう
花蓮さんと共に生きていれば、終わる道もあったでしょうに
「待つこと」に慣れさせてしまった

花蓮さん
思い出と心中したいなら一人でもできます
この骸魂と世界を滅ぼす必要はありません
あなたの大切な思い出の「あの人」はそれを望みますか?

正直な所
終わる権利もあると思っています
ですが罪のない人を葬るのは獄卒にあるまじき行為でしょう

生きていれば「待つ」以外の選択肢を選べるはずです
思い出と心中する事も
輪廻に「あの人」を探しに行く事も
あなたと添い遂げてくれる人に出会う事も

「待つ」事を終わりにしましょう




「さて……説得といきましょうか。僕の言葉がどこまで響くか分かりませんが」
 瞬間、敵意ありとみなした花蓮の躰を借りた『あの人』が攻撃を仕掛けてくる。効果は過剰な癒しによる肉体の自壊。どんな強力な薬も過ぎたれば毒になるのと同じ、だが生憎とクレイルは自壊には慣れている。だってほら、本性はぐちゃぐちゃのどろどろの化け物だから。穢れと不浄を纏う、悪霊故に。
 とは言え痛いのは嫌だし、最低限のことはIpupiaraを呼んで護衛を頼む。その間にクレイルは『あの人』に語り掛けた。
「『僕は待った』などと……待たせているのはあなたでしょう。花蓮さんと共に生きていれば終わる道もあったでしょうに、「待つこと」に慣れさせてしまった」
『僕と花蓮は想いが通じていた。互いを望み続けていたから今がある。慣れさせる心算などなかった』
「詭弁ですね、そんなものは。事実としてあなたは花蓮さんの思い出を利用してるだけじゃありませんか」
『貴様……!』
 ――落ち着け、なぁ。まずは話を聞こうじゃないか。
『花蓮……でも』
 ――私は、この者はまだ言い足りないのではないかと思う。どうだ? 名も知らぬ猟兵よ。
 こころに直接響く花蓮の声に、クレイルは安堵した。嗚呼、まだ完全に己を見失ってはいないのだと。骸魂に魅かれていながら、どこか罪悪感を感じているのだと確信して、慎重に言葉を紡ぐ。それは優しさからではなく、先人としての忠告だ。
「花蓮さん、思い出と心中したいなら一人でもできます。この骸魂と世界を滅ぼす必要はありません。あなたの大切な思い出の『あの人』は、それを望みますか?」
 ――……。わから、ない。こいつは、たしかにあいつで……。
 正直なところ、終わる権利もあるとクレイルは思っている。しかし、罪のない人を葬るのは獄卒としてあるまじき行為。到底見過ごすことは出来ない。責任と義務、そして己の大切なものの為に、ここで折れるわけにはいかないのだ。
「生きていれば『待つ』以外の選択肢を選べるはずです。思い出と心中する事も、輪廻に『あの人』を探しに行く事も、あなたと添い遂げてくれる人に出会うことも」
『僕には花蓮しかいない! 花蓮、きみもそうだよね?』
 ――……お前は死んだ。それは事実だ。ひとはみないつか死ぬ……。でも、それでも私はお前を……!
 池に浮かぶ蓮の様に、花蓮は揺れていた。事実と理想がぶつかり合う。今この時は確かに幸せなはずなのに、どうしてだろう。『あの人』をここに、花蓮が束縛しているような気がして。ひととして見送った思い出が蘇る。
「さぁ、もう『待つ』事を終わりにしましょう。あなたは十分待った、その結末がこれでは何も、誰も報われませんよ」
 さざめくこころに生前の『あの人』の最期の姿が浮かぶ。お前に贈ったのは、黒い睡蓮だったなと。花言葉は色々あれど、言い伝えによれば水の精霊の加護があるとか言い合ったっけ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

草野・千秋
花蓮を傷つけず向かってくる攻撃は専守防衛
激痛耐性で攻撃を耐え抜く


最高にして最低の思い出から僕は決意したんです、夢に縋らず現実と向き合うんだって

でも信頼と愛情の元に成り立った、甘い記憶から逃れるのは苦しい事
長い間想い合っていたのなら尚の事

明けない夜はないといいますが
明けたら明けたで朝という現実が待っているのは辛いですよね
そこにたどり着くのもちょっと辛い事も多いんですけど
でも、今は痛みと悲しみと喜びを分かち合える
かけがえのない仲間や愛する人がいます
そして思い出は想う人の心が滅びぬ限り永遠に生き続けるのですから

せめてもの魂の導きになれればと願い、UCと歌唱で見送る




 思い出した。いや、ずっと胸の奥に仕舞いこんで、向き合うことを恐れていた『最高の思い出』。それには必ず『最低の思い出』も付き纏うと知っていたから。どうせ最低で塗りつぶされるなら、思い出さない方が良いとすら思ってた。でも、千秋は漸く決意した。夢に縋らず、現実と向き合うと。
 とは言え信頼と愛情の元に成り立った、甘い記憶から逃れるのは苦しいこと。長い、永い、気が遠くなるような間想いあっていたのなら猶更に。どう言葉を掛けるべきか、少し悩む。半端な言葉は逆効果、『あの人』の執着と花蓮の願いを強くしてしまう。
「……明けない夜はないと言いますが。明けたら明けたで、朝という現実が待っているのは辛いですよね。そこに辿り着くのもちょっと辛い事も多いんですけど……でも、今は痛みと悲しみと喜びを分かち合えるかけがえのない仲間や愛する人がいます」
『だから何だと? 僕には花蓮しかいない。花蓮しかいらない! お前と一緒にするな』
 ――おい、こいつの言いたいことはそう言うことじゃ……。
『花蓮だってそうでしょう? 僕を想ってくれたから、また会えたんだよね? 夜なんて明けなくていい。ずっと月の下、二人で居られれば良い。違う?』
 ――……お前は、死んだ。人間に、ずっとなんてない。
 二人のやりとりを見て、千秋は確信した。花蓮は再会を望んだけれど、こんな形ではないと。世界が滅びようと構わないが、思い出と『あの人』を失いたくはないのだと。なら、必ず止めなければならない。こんな悲劇は、満月が見守る今晩でお終いにしよう。
 狼狽える花蓮に、『あの人』の骸魂は動揺した。花蓮は自分と同じ気持ちだと思っていたのに、肯定の言葉が返ってこなかったから。嗚呼、どいつもこいつも僕と花蓮の邪魔をする……! 忘却を千秋に与えるも、そのこころの痛みには耐性がある。なんてったってこっちは、最低な思い出を潜り抜けてきたのだ。
「思い出は想う人の心が滅びぬ限り、永遠に生き続けます。花蓮さん、『あの人』を思い出の中で生かし続けて下さい。それは花蓮さんにしか出来ないことです」
 ――私が、生かす……思い出の中で……?
『惑わされないで、花蓮! こいつの言うことは僕たちを引き裂く為の甘言だ! 花蓮の為に言ってるんじゃない!』
「それはあなたの方じゃないですか? 花蓮さんを想うなら、あなたは過去になるべきです」
『貴様……』
 怒りを隠しきれない骸魂に向けて、千秋は歌いだす。切ない気持ちを込めた歌声が、邪心――即ち骸魂だけを攻撃する! 歌声の中に隠された感情に、『あの人』も思い出す。花蓮が笑ってくれる為に、なんだってしてやりたいと思ったこと。花蓮を悲しませる奴は、自分でも許さないと。だったら今、この状況は……。
「さぁ、今日は良い夜ですよ」
 戦場に響く歌声は、なにを動かしたのか――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
《華恋》

何故邪魔を?ですか…
貴女の想い人との思い出を守る為です

燦…誤解された時の事を話して良いかしら?

私は…燦に誤解された事があります

切欠は私が根拠の無い一方的な非難を受けた事でしたが
燦は真に受けました
悲しかった…いっそ何もせず悪者に仕立て上げられ
抹殺されるのも良いかもと思いました

でも
それは燦との絆を裏切り思い出を捨てる事だとも思いました

だから私は燦との思い出と絆を守る為
勇気を出して
燦と話し誤解を解きました

花蓮さん!貴女の想い人は世界を滅ぼす様な方で良いのですか?

貴女だけが知る想い人との思い出は
貴女が想い続けなければ守れません!


花蓮さんの思い出を守る覚悟を胸に
捨て身の一撃で優しく【祓符】を貼る


四王天・燦
《華恋》

妖狐の寿命を考えるとアタシも花蓮同様になるかもと思案…
シホの言葉に我に返りしばし考えて首を縦に振るぜ

耳に届く言葉がちと痛い
あの時、何もかもリセットして交流を続ける選択肢もあったね
でもその選択は採らなかった
それをすると思い出も、これから紡ぐ物語も、シホの笑顔も全部偽りになっちゃう
それが抹殺なのかもね

難しいね、と花蓮に呼びかけるよ
思い出を裏切ると偽りの大好きしか見えなくなるんじゃね?
遺された者も大変だ
ま、しばし二人で相談なさい

アタシもシホと話すよ
あのとき勇気出してくれて、ありがとう

時が来たら慈悲の聖剣を抜く
シホと手を繋ぎ心を強く持つ

花蓮と骸魂の接点を断つぜ
ほんと…残酷なまでに美しき世界だわ




 少し――ほんの少しだけ、燦は考えた。妖狐の寿命を考えると、燦も花蓮と同じ立場になるのではないかと。シホを見送ることになるのかもしれない、そう考えて震えた。精を貪ればいつまでも若いままでいられる妖狐と違い、シホはオラトリオ。いずれ終わりが訪れる。
 そんな微妙な顔の燦を見て、骸魂は鼻で嗤った。嘲るそんな脆弱な意志で、自分達の絆を断ち切ろうなどとちゃんちゃら可笑しいと。
『何故そこまでして邪魔をする? この世界が崩壊しようと、お前たちに何の影響もないだろう』
「それは、花蓮さん。貴女の想い人との思い出を守る為です」
 ――思い出。お前にもあるのかい、守りたい思い出が……。
 花蓮の言葉に、シホは相変わらず何とも言えない表情をしている燦に向かい語り掛ける。本来戦場で敵に隙を見せるなどもっての他だが……聞いて欲しかった。花蓮にも、何より燦に。
「燦……誤解された時の話をして良いかしら」
「誤解?」
「私は……燦に誤解された事があります。切欠は私が根拠のない一方的な非難を受けた事でしたが、燦は真に受けました。――悲しかった……いっそ何もせず悪者に仕立て上げられ、抹殺されるのも良いかもと思いました」
 耳に届くシホの言葉がちと痛い。あの時、何もかもリセットして交流を続ける選択肢もあった。でもその選択は採らなかった。それをしたら共に紡いだ思い出も、これから始まる物語も、シホの笑顔も、全部偽りになってしまうから。屹度それが、抹殺するということなのだ。
「でも、それは燦との絆を裏切り、思い出を捨てる事だとも思いました。だから私は燦との思い出と絆を守る為に、勇気を出して誤解を解いたんです。それで良かったと、正解だと、今なら自信を持って言えます!」
「シホ……アンタ……」
 ――そう、か。絆への裏切り、か……。
『……花蓮も彼女たちと同じ考えなの?』
 ――分からない。私は……お前との絆を裏切りたくない。思い出を捨てたくない。
 ぐらぐらと不安定な花蓮を、『あの人』の骸魂は逃がすまいと必死に繋ぎとめる。漸く会えた。待って、待ち焦がれて、ついに至ったのに。手放すなんて、そんなことはとても出来ない。それは最早花蓮ではなく、骸魂の執着だった。
「難しいね。思い出を裏切ると偽りの大好きしか見えなくなるんじゃね? 遺された者も大変だ。ま、しばし二人で相談なさい」
 促されるまま、『あの人』と花蓮は放置される。話す事なんて沢山あるけれど、相談とは。これまでのこと、これからのこと、色々ある。戸惑う彼らを横目に、燦も改めてシホに向き合った。
「なぁシホ。あのとき勇気を出してくれてありがとう。じゃなきゃ、アタシは大切なモンを失ってた」
「燦……こちらこそ。信じてくれて、嬉しかった」
「じゃあ、win-winで結果オーライってやつだね」
「そうですね」
 一方の『あの人』の骸魂と花蓮はといえば。口には出さず唯々思い出に浸っていた。懐かしい記憶、それなのに、嗚呼この蓮たちのせいだろうか、色鮮やかに蘇って。どうするのが正しいのかなんて、とっくに分かってた。ただ、認める勇気がなかっただけ。それを後押しするように、シホは叫んだ!
「花蓮さん! 貴女の想い人は、世界を滅ぼす様な方で良いのですか? 貴女だけが知る想い人との思い出は、貴女が想い続けなければ守れません!」
 ――……。なぁ、私は、お前を……。
『? 花蓮』
 ――お前を悪者にしたくないよ。
『…… ……』
 黙りこくる骸魂。もう、花蓮の心は半分決意が決まっている。ならばあとはその楔を断つのみ。今がその時とばかりに、燦は聖剣を引き抜いた。隣に立つシホと手を繋ぎ、こころを強く持つ。掌から伝わる熱が、二人を強くする。花蓮の思い出を守る覚悟を胸に、二人で一気に駆け寄った!
 破魔の力を籠めた霊力によって形成された光の非実体剣が、骸魂と花蓮の接点を引き剥がす!! 朧気に見えたのは、二人手を伸ばす姿。それでもこの世界の為に、思い出の為に、骸魂はあの海へと還さねばならない! シホも燦の力を借りて、救われて欲しいという願いの破邪の護符を花蓮の躰に張り付けた!
『ぐっ……ああああ!!』
 ――っ、あ……逝かないで……。
「花蓮さん! 貴女の役目を忘れないで!」
「アンタの想い人は、アンタだけは失っちゃいけないんだ!」
 ――ッ!!
 ふっ、と。水面に花弁が落ちた。ほんの些細な事だけど、その黒い蓮は花蓮たちにとって最期の思い出。それが散るということは、つまり――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
*アドリブ歓迎
[SPD]
攻撃無し

かの、御前と青年も
花蓮と、この想い人も
元は何も悪く無いのに
唯々、絆を穢す骸の海が赦せない
間違った再会を終わらせたい

少し、歩きませんか
嘗て花蓮さんと過ごした池の周りを

歪みを[浄化]し、当時の心境に戻る[催眠術]を織り込んだ[結界術]を秘かに拡げつつ
花蓮さんとの思い出を聞きながら、自分も思い出を語る
正しい時を刻んでいないお師様の事
死した兄弟子たちの事
優しかったあの時間

ね、骸魂さん
もし生前、花蓮さんを骸魂の災禍が襲ったのなら
貴方はそれを「些末なこと」と見捨てるの?

介錯を求められれば、[浄化][切断]
貴方が無事に転生を果たして
花蓮さんと清らかな再会を果たせますように




「少し、歩きませんか。嘗て花蓮さんと過ごした池の周りを」
『…… ……』
 ――いいじゃないか、お前だって久しぶりなんだから。
『……花蓮がそう言うなら』
 既に分断された『あの人』の骸魂と、花蓮。二人を引き連れて、クロムは歩き出した。かの、御前と青年も。花蓮と、この想い人も。元は何も、誰も悪くないのに、道から外れてしまえばあとは堕ちていくばかり。唯々、絆を穢す骸の海が赦せない。この間違った再会に終わりを齎す為、クロムは此処にいる。
 赤い橋、蓮と睡蓮の咲く池。たまに鯉が跳ねて水面を揺らし、鏡写しの満月を滲ませる。クロムもただ歩こうというわけではない。歪みを浄化し、当時の心境に戻る催眠術を織り込んだ結界を密かに展開しながら、ゆっくりと進む。聞かずとも花蓮は口を開いた。
 ――懐かしいね。お前、此処で一度だけ泣いたことがあったろう。覚えてるか?
『恥ずかしい話はやめてよ。僕だって泣きたい時くらいある……花蓮が、そうさせたんだ』
 ――あはは、私の所為かい? いや、図体だけ大きくてもひとだなと思ったよ、あの時は。
 花蓮たちの思い出を聞くと、二人が本当に想いあっていたのだと分かる。掛け替えのない思い出、それはクロムにもあって。
「……私にもある、よ。大事な思い出。もういない……正しい時の枠から外れてしまった刻の逆賊であるお師様、でも習った剣は本物だった。死んでしまった兄弟子のみんな、苦楽を分かち合った。……優しいあの時間が愛しい」
『……お前は会いたくないのか。そのお師様と。死んだ兄弟子たちと』
「会いたい。けど、世界と天秤には掛けられない」
 ――……。私たちは、間違っていたのかな。互いを望んではいけなかったのかな。
 そうじゃない、と首を振るクロム。願うのも、望むのも、欲するのも、求めるのも、誰だって自由だ。でもそこには責任がある。自分たちだけ良ければいい、だなんて、全ての者がそう考えたら秩序が崩壊してしまう。守らなければならない、世界も……彼らだけの思い出も。
「ね、骸魂さん。もし生前、花蓮さんを骸魂の災禍が襲ったのなら、貴方はそれを「些末なこと」と見捨てるの?」
『そんなわけ……!』
「だったら、もう答えは出てるはずだよ。今の貴方は、骸魂。世界と花蓮さんを破滅に導くもの」
『…… ……僕は……』
 ――なぁ、聞いてくれ。私はお前をずっと想っていたよ、会いたいとも願った。けど、お前を悪者にしてまで共にいたいとは思わない。
『花蓮……』
 ――私の思い出の中で、生きていてくれないか。これ以上お前が傷つくところを見たくないよ。
 『あの人』の骸魂は、透けた身体でもはや分離した花蓮を抱きしめようとした。しかしすり抜ける手が、この世のものではないと示している。そこでやっと、骸魂は花蓮の言葉を理解した。同時に自分のせいで、花蓮まで犠牲には出来ないとこころが叫んでいるのに気付く。
 触れられなかったけれど、形だけの抱擁を交わして……二人は離れた。骸魂はクロムに願う。
『……逝くよ。介錯をお願い出来るかな』
「もう、大丈夫ですか?」
『ああ。僕は――花蓮を傷付ける奴は、誰であっても許さないからね』
 例えそれが自分であっても。クロムは言外の意を汲み、浄化を籠めた一閃で『あの人』の骸魂を断ち切った。ふわっと消えた骸魂、その場には黒い蓮が落ちていて、花蓮はそっと拾い上げていつかみたいに月に向かって手を上げて掲げた。
「無事に転生を果たして、貴女と清らかな再会が出来ますように」
「――そうだなぁ。そんな日もまた、楽しみだな」
 翳した手と黒い蓮の向こうに満月を見る花蓮の目から、透明な雫が流れて頬を伝う。クロムはそっと花蓮から視線を外し、同じように天を見上げた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『幽世の月見』

POW   :    郷愁に浸りつつ、月を愛でる

SPD   :    旅愁を覚えつつ、月を愛でる

WIZ   :    哀愁を感じつつ、月を愛でる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 満月が照らす大池。点在する庵に、揺れる水面と蓮の花。色とりどりの蓮が咲き誇る。白、桃、青、黄、紫、紅、緑……黒。
 『あの人』の骸魂が去ったあとも、しばらくこの幻想的な風景が広がっている。花蓮は赤い橋の上でじっと思い出に耽っていた。
 あなたは満月と蓮池に何を思うのか、どう過ごすかは自由だ。


 ※花蓮もそこに居ますので、声をかければ反応します。ご用がある方はどうぞ。
真宮・響
【真宮家】で参加

花蓮は無事に助けれたようだね。今は辛いだろうが、花蓮は強い子だから、時間はかかるだろうがきっと立ち直れるさ。大事な人の思い出に支えられて。

さあ、家族3人で月見だ。アタシが取ったのは赤の蓮の花だが、色とりどりの花があるねえ。見るだけでも楽しめる。

瞬は生まれ故郷が月読の紋章を頂いてるだけあって、瞬は月に思い入れが深いようだねえ。そうだね、3人で旅してた時も野営しながらこうして月を眺めた。月が瞬を守護してくれるように、アタシ達家族の道行きもこうして見守ってくれるといい。また家族で月を眺めよう。約束だよ。(二人の子供達を愛を込めて抱き締める)


真宮・奏
【真宮家】で参加

歪んだ形とはいえ、花蓮さんと大事な方の絆は確かでした。花蓮さん、今は辛いでしょうが、大事な方の絆の思い出を胸に、立ち直って欲しい。そう祈ります。

自分の分の蓮を取るのに夢中ですが、こうして眺めてみると色鮮やかな蓮が綺麗ですね・・・瞬兄さんは月読の一族の生まれですし、月に思い入れが深いですよね。穏やかに照らしてくれる月は兄さんそのもののような気がします。

家族で野営してた時も月が綺麗でしたね。いつまでも家族で月を眺めていたいなあ。ええ、きっとまた三人で月を見ましょう。母さん、苦しいです~。嬉しいですけど。(母の強い抱擁にジダバタしながら笑顔)


神城・瞬
【真宮家】で参加

花蓮さんと大事な人はお互いが傷つくことを嫌った結果、離別を選びましたが、思い出は永遠に残ると信じます。花蓮さんもいずれ立ち直れるといいですね。

改めてみると、色鮮やかな蓮が綺麗ですね。ああ、月が綺麗だ。生まれ故郷も月が綺麗だった。月はいつも僕を護ってくれる。野営中の僕らを照らしていた月のように、僕も母さんと奏を照らす穏やかな月でいたい。

こうして家族で月を眺められて幸運でした。また三人で月を見ましょう。・・・母さん、力入りすぎです。苦しい。・・・嬉しいですが。(全力の母の抱擁に苦笑しながら満更でもなさそう)




 満月が煌々と照らす中、岸辺に寄ってみれば、鮮やかな色の蓮が出迎えてくれた。響がとったのは赤の蓮だったが、こうも色とりどりだと見てるだけでも楽しめる。奏は自分の分の蓮を取るのに夢中だが、ゆらゆらと風に吹かれて漂う蓮を眺めると綺麗で魅入ってしまいそう。
 ぼぅっとしている花蓮に三人は声を掛けてみた。其処には骸魂と別離を果たし、いっそ振り切れたように微笑む妖がいるのみ。
「無事助かったようだね。今は辛いだろうが、花蓮は強い子だから、時間はかかるだろうがきっと立ち直れるさ。大事な人の思い出に支えられてね」
「私もそう思います。歪んだ形とはいえ、花蓮さんと大事な方の絆は確かでした」
「花蓮さんと大事な人は、お互いが傷つくことを嫌った結果、離別を選びましたが……思い出は永遠に残ります」
『……永遠、か。果てしないなぁ……』
 困ったように笑う花蓮だったが、そこに嫌悪や諦めは浮かんでいない。どちらかと言えば、楽しそうな雰囲気すら纏っている。そんな花蓮に安堵した奏と瞬は、其々花蓮に祈りと願いをおくる。
「花蓮さん、今は辛いでしょうが、大事な方の絆の思い出を胸に、立ち直って欲しい。そう祈っています」
「貴方には『思い出』という強い味方がついています。それを忘れないでください」
『そうさなぁ。ふふ、人の子の癖に年長者に説教かい? ……いや、お陰で立ち直れそうだ。ありがとよ』
 花蓮はそのまま橋の上で、また月を見上げた。金の月は太陽程明るくはないけれど、その優しい明りは心に染みわたる。響たちもそのまま月見と洒落込んだ。月の下の池で遊ぶ蓮はどれも個を主張するように咲き誇り、ひとつとして同じものは無いように見える。
 月と言えば、この中で因縁深いのは瞬だ。瞬は月読の一族の生まれであるし、思い入れも深い。穏やかに照らしてくれる月は瞬そのもののような気がする……だなんて、奏は少々乙女チックなことを想ったりして。響は母親目線で、月読の紋章を頂いている瞬がどこぞの御伽噺みたいにいつか月に帰ってしまうのではと考えたり。
「ああ、月が綺麗だ。生まれ故郷も月が綺麗だったんです。月はいつも僕を護ってくれる」
「皆で野営してた時も月が綺麗でしたね。いつまでも家族で月を眺めていたいなぁ」
「そうだね、三人で旅してた時もこうして月を眺めたっけ。月が瞬を守護してくれるように、アタシ達家族の道行きもこうして見守ってくれるといい」
「月もそうですけど、僕も母さんと奏を照らす穏やかな月でいたい。二人とも、何かと突っ込みがちだから」
「ほっとけない性分なんだよ。それに、瞬がいるからって安心感があるしね」
「はい。兄さんがいれば、私たちが暴走しても止めてくれるなって思います」
「はぁ……とりあえず無茶しなければ良しとします」
 溜息を吐く瞬だったが、口で言う程嫌な気をしている風もなく。むしろこれが三人の日常だった。響と奏の豪快で真っ直ぐなところを、一歩違う視点で見守り支える瞬。それでいて瞬は前線に立って、二人に危険が及ばないように護る。いざという時頼りになる、とは瞬に相応しい言葉だろう。
「今日の月も良いけどね、また家族で月を眺めよう。何処の世界でも、月ってのはあるモンだろ?」
 ニっと笑って、響は奏と瞬をぎゅぎゅっと抱きしめる。無限の愛を込めて、この幸せがいつまでも続く様に。その力が思ったより強くて、二人してじたばた。嬉しいけれど、ちょっと苦しい。でも伝わってくる愛しさが本物で、こころが暖かくなる。
「母さん、苦しいです~」
「力入り過ぎです……」
 何だかんだ言いつつ満更でもなさそうな二人を離した後、響は二人の頭をくしゃくしゃと撫でる。風よりも強いから髪型が乱れたけど、そんなのはお構いなし! 母の愛はどこまでも深く、遠く、子供の幸せを願うものだから。
「約束だよ。誰が欠けてもいけない……嗚呼でも、イイ人でも出来たら駆け落ちするくらいの豪胆さはあっても良いけどね」
「「かっ、母さん……!」」
 思わずダブる奏と瞬の声。それにくすくすと笑う響の心の内や如何に。嗚呼、こんな月の日が、あの人ともあったなぁと響は月を見上げて思う。彼はいなくなったけど、今はこうして愛おしい二人がいる。アンタの代わりにはならないけれど、アタシは今幸せだよ……と、伝わっただろうか。
「こうして家族で月を眺められて幸運でした」
「ええ、きっとまた三人で月を見ましょう」
「当たり前だよ。そんな夜が幾重にも続く様に……これからも精進しないとね」
 響の言葉に頷く奏と瞬。三人の絆は果て無く、今後どんな障害にぶち当たろうとも崩れはしないのだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草野・千秋
月を見上げてふと想う
邪神とその配下によって手折られた命
妹、母、母方祖父母のこと
あの子に誓った
「生まれ変わったらまた会いたいな」って言葉
振り返ってばかりも良くないですけど
ついつい考えてしまいますね

花蓮さん、おられましたか
想い合う魂はきっと輪廻転生を経て、また巡り会う時がくるでしょう
僕もね、大切な人を喪ったことはあるので転生してでもまたその人に巡り会いたい気持ちはなおのこと

これはUDCアースでの伝承なのですが、亡くなった方の残された人が亡くなった方を想うたび、天国のその方の上には花びらの雨が注いだり輪廻転生の旅の途中で休憩のための泉が生まれるそうです

僕もあなた方の幸せを願っています




 天に輝く月を見上げて、ふと想う。邪神とその配下によって手折られた命……千秋の妹、母、母方の祖父母のこと。あの子に誓った「生まれ変わったらまた会いたいな」って言葉。すぅっと澄み渡った空気を吸い込んで、ゆっくりと息を吐く。瞬く間も月はずっと其処に居て。
「振り返ってばかりも良くないですけど、ついつい考えてしまいますね」
 あの時どうすれば良かったのか、今でも答えは見つからない。どうせなら一緒に逝きたかった、でも自分のようなあの想像を絶する痛みを与えられるなら、あのまま手折られた方が良かったのか。どこにも、誰も、答えようのない思いがぐるぐると腹の中で渦巻く。
 月から視線を外して池を歩いてみると、先程まで戦っていた花蓮の姿があった。橋に寄りかかり、月灯りを浴びる姿は、妖艶ながら文字通り憑き物が落ちたように爽やかでもある。千秋はすっと近寄り、挨拶をして語り掛ける。
「花蓮さん、想い合う魂はきっと輪廻転生を経て、また巡り会う時がくるでしょう」
『輪廻転生ね……そういう宗教には属さない私だけど、信じてもいいのかな』
「想うことは自由です。……僕もね、大切な人を喪ったことはあるので転生してでもまたその人に巡り会いたい気持ちは尚のこと」
『……あんたの大切な人は、あんたを大切にしてくれた?』
「はい、それはもう。僕には余りあるくらいに」
 千秋の返答に花蓮はくつくつと笑った。そんなに大切な人なら、肉体は離れても魂の繋がりは消えないのかな、なんて信じたくなる。例え眉唾な話だろうが、細い糸だろうが、そんな話が出るくらいには人間たちもそう考えているのだなと。――嗚呼、なんだろうね。アイツに考え方が似てきたかな。こんな人間の妄言に祈るだなんて。
「これはUDCアースでの伝承なのですが、亡くなった方の残された人が亡くなった方を想うたび、天国のその方の上には花びらの雨が注いだり、輪廻転生の旅の途中で休憩のための泉が生まれるそうです」
『ふふ、じゃあアイツのところには蓮が降り注ぐね。私たちの花だ。泉はこんな池かな、いやここまで立派じゃなくても良いけど……旅の疲れをとるに寝転がれる庵でもあったら良いな』
「花蓮さんはいつでも、あの方のことを想っているんですね。だったら、屹度大丈夫です。皆、そして勿論僕も、あなた方の幸せを願っています」
『ありがとよ。――なぁおまえ。その薄紅色の蓮の花言葉を知ってるか?』
 千秋の中では摘み取る時に幾つかの花言葉を思い浮かべたが、色別に意味があるのなら折角だし聞いておこう。千秋は首を振って続きを促した。
『信頼、だってさ。おまえと、お前の大切な人は……今も互いを信じているんだな』
「……そうですね。そうでありたいと思います」
 薄紅色の蓮が風に吹かれふわっと宙に昇った。二人でそれを眺めて、一片落ちた花弁を拾い上げ、千秋はその場を後にした。輪廻転生があってほしいのは、本当は自分なんだと心の裡に秘めて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
*アドリブ歓迎

思い出を見せてくれた薄紫の蓮の花に感謝の念を篭め
池にふわりと浮かべる
水鏡に揺れる月を見ながら自問する
他に、手は無かったのだろうか
ゆるゆると首を振る
哀しい過去たちを斬る度、同じ事を思っては
最後は斬って眠らせる事しか出来ないのだと
自分の裡から返る冷たい答に失意を抱いて来た

視界が滲むのを、きつく唇を噛んで堪える
介錯の太刀だった
相手は骸魂だった
そんなの関係ない
直接手を下したのは私
花蓮さんの目の前で涙を落とすなど赦されない

水面に浮かぶ沢山の蓮の花と
花蓮さんの姿をしっかりと記憶に残す
彼等の哀しみを最後まで背負って征く
改めて覚悟を胸裡に刻み、踵を返そう

愛し君を思うその背に、佳い風が吹きますよう




 思い出を見せてくれた薄紫の蓮の花に感謝の念を篭め、池にふわりと浮かべる。風に乗ってすぅーっと滑る様に移動する様はまるで未練なんてないみたいで。唯の風の悪戯か、それとも蓮の気持ちが行動に現れたかは知らないけれど、ほんの少し感傷に浸ってしまいたくなる。
 水鏡に揺れる満月を見ながら自らに問う。他に、手は無かったのだろうかと。ゆるゆると首を振る。哀しい過去たちを斬る度、同じ事を思ってしまう。可哀想だから? もう誰も傷つかないで欲しいから? 違う、クロムに出来る決着の付け方が、最後は斬って眠らせることだから。……今のクロムには、それしか出来ない。
 自分の裡から返る冷たい答えに、失意を抱いてきた。もっと何か、優しい手があるならそれに越したことはない。しかしクロムに考え付くのは断ち斬ることばかり。肉体も、魂も、其々が抱える思い出も。
「……これが、私の剣」
 視界が滲むのを、きつく唇を噛んで堪える。介錯の太刀だった、相手は骸魂だった。――そんなのは関係ない。直接手を下したのはクロム、『あの人』と花蓮を再び別れさせたのは間違いなく己で。だから、花蓮の前で涙を落とすなど赦されない。
 けど、一方の花蓮は穏やかな気持ちで満たされていた。最後の最期まで、『あの人』は花蓮を想っていたことを思い知ったから。花蓮が思うよりずっと深く、太い絆が、ひと時の逢瀬と心残りを振り払ってくれた。そこは本当に、猟兵たちに感謝している。
 水面に浮かぶ沢山の蓮の花と、花蓮の姿をしっかりと記憶に残す。彼等の哀しみを最後まで背負って往く……改めて覚悟を胸裡に刻み、クロムは踵を返した。月明かりが帰り道を示してくれる、迷う要素はどこにも無いのに、クロムのこころは彷徨う。
「……剣に善悪なし、刃はこころの写し鏡……なら、私の剣は――」
 悪を断つものか、善を裁くものか。未だに分からない。花蓮も『あの人』も、誰も悪くなかった。悪いのは状況で、しかし時を斬り刻めるほどにはクロムの剣はまだ至らない。起こってしまった出来事をなかったことにすることは出来ない。そんなのクロムが一番分かってる。
 そこでカチ、カチ……と響く音にハっとする。「時間凍結城」で拾った懐中時計、今は正常な時を刻んでいるけれど、あそこでは刻が歪んでいた。もしそのままにしておいたなら、今回も同じように世界が崩壊してしまっていた。
 懐から取り出した時計、さっきは確かに秒針の音が聞こえたのに、今は動いていない。此処は花蓮と『あの人』の思い出が作り出した場所。本来どの時間、空間にも存在しない。では先程の秒針の音は、クロムに何か伝える為? じっと懐中時計を見つめるクロムの背から、びゅうっと風が吹く。蓮を摘んだ時もだったけど、嗚呼、きっとこれはあに様だね。
「愛し君を思うその背に、佳い風が吹きますよう」
 追い風を受け、時計を仕舞ったクロムは現実へと戻っていく。二度と戻らない時に別れを告げて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレイル・ソーンフォード
花蓮さんに声の届く位置まで歩み寄って話しかけます

世界を滅ぼすくらいなら
ひとりで思い出と心中しろなどと酷い事を言ってしまいましたね
言い方が違っても、同じ意味ですから

あなたにはこれからも
恐れず『あの人』思い続けて欲しいと願ってしまう
そして幸せでいて欲しい
俺のよく知る人にあなたは似ているから

もしあの子があなたと同じ様に骸魂と一つになったら
そんなにも寂しがった気持ちを思って
一緒に泣いてしまうかもしれません

だからこそ幸せになって欲しい
大切な思い出に影を落とさない様に
どうか

今回の事件を通して
終わる事だけが救いではないと知りました

未来の事はわかりませんが
この結末には支部長も満足してくれるでしょう




 じぃっと月と池を交互に見遣る花蓮に、クレイルは声を掛けた。どんな顔をして話しかければ良いか迷ったけれど、伝えたいことがあったから。声の届く位置まで近寄れば、その並々ならぬ邪な気配に花蓮も気付いてこちらを向いた。
『なんぞ、用かな。お若いの』
「あなたに言っておかなければならないと思いまして。……世界を滅ぼすくらいならひとりで思い出と心中しろ、などと酷い事を言ってしまいましたね。言い方が違っても、同じ意味ですから」
『ああ、確かにそんなこと言ってたね。揺れたよ、その言葉にはさ』
 苦笑してみる花蓮は、言う程辛辣でもなければいっそ清々しい本来の気性を取り戻していて。それに少し安堵しながら、クレイルは続ける。
「あなたにはこれからも、恐れず『あの人』を思い続けて欲しいと願ってしまう。そして幸せでいて欲しい。俺のよく知る人に、あなたは似ているから」
『……おまえの知人は、おまえと骸魂を天秤にかけて、骸魂を選ぶのかい。本来の枠組みから逸脱したものにさ』
 これは自嘲の意味もあるのだろう。先程とは少し違う、困ったような顔で花蓮はクレイルに尋ねた。どうだろうか、クレイルは少し考えてみる。あの子は過去を大切にしているし、忘れまいとしているけれど、同時に今も大事にしてくれている。天秤なんて放り棄てて、こちらにじゃれついてくると思う。思いたい。
「……もしあの子があなたと同じ様に骸魂と一つになったら、そんなにも寂しがった気持ちを思って、一緒に泣いてしまうかもしれません」
『そんなに好きなんだ、そいつのこと』
「はい。あの子の幸せが、俺の幸せですから。だからこそあなたには幸せになって欲しい。大切な思い出に影を落とさない様に、どうか」
『――そうさなぁ。思い出、多いから。影が差す事もあるかもよ。でも……いつかお天道様が昇るさ』
 からからと袖口で口元を隠して笑う姿が、あの子とダブって見えた。いつの間にかこんなにも、思い出に執着している自分がいることに、クレイル自身驚いた。そこに嫌悪はないけれど、この身にそんなことを思う資格があるのかと悩みが産まれる。
 今回の事件を通して、終わる事だけが救いではないと知った。終わるもの、終わらないもの。変わるもの、変わらないもの。忘れること、忘れないこと。それらが複雑に絡み合い、ひとも妖も『生きて』いるのだと実感する。仮に終わり、変わり、忘れてしまっても……事実は蓄積していくのだ。思い出だって、屹度そう。
 未来のことは分からないが、この結末には支部長も満足してくれるだろう。なんだかんだ言ってあの支部長も今回の件にあの子のことを重ねていたようだし、何よりクレイルがこの結末に携わったことを喜んでくれるはず。さぁ帰ろう、未来へ――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
《華恋》


燦の悩みを聞き

どちらが長寿かは分からないけど
私の寿命は見当がつきます

今の私はオブリビオンの脅威から主である世界を守る為に蘇らされ
魔力等を供給され死ねない体にされています

逆にオブリビオンとの戦いが終わったら?
…主が私に魔力等を供給する理由は…無くなります…

狡兎死して走狗烹らる

猟兵の力が無くなるだけで済むかもしれませんが
…すぐ消滅しても不思議ではありません


心配しないで
燦が私を必要としてくれるなら対策はあります
でも
それを話すのはもっと私達の仲が進展するまで待って欲しい

だから…

燦と手を繋ぎ

今は自分の身を大切にして欲しいです

大声出さないでよ
恥ずかしい…


花蓮さん…
悔いの無い選択が出来ると良いですね


四王天・燦
《華恋》

遠目に花蓮を眺めて思索に耽る
妖狐であるアタシが天寿を全うする場合、シホが先に逝ってしまうのかな

ねえ、シホ
死が―どうしようもない命の制約が二人を別ってしまうのが怖い
アタシは花蓮ほど強くない
世界を壊すことが悪なら、せめて共に逝くことを選ぶかもしれない

何が狡兎死して走狗烹らるだ
シホは道具じゃねえ、人間だ!
主さんにナメられてたまるかっての

方法あるんだ?
アタシは死に別たれない術があるなら模索していきたい!
ああ、簡単には死なないよ

仲が進展ってそれはやっぱり…けけけけ、けこーん(結婚)!?
繋いだ手が一気に熱くなり声も上擦っちゃうよ

花蓮はどうするんだろ
人生の先輩として見させて欲しいわな
選択は尊重するよ




 橋の上でぼんやりと池にうつる月を見ている花蓮を遠目に、燦は思索に耽る。ひとには寿命がある。オラトリオであるシホも、多少の差はあれど自らの身を呈してまで戦っていてはひとより短い可能性だってあると考え……俯く。妖狐である燦が天寿を全うする場合、シホが先に逝ってしまうのかと。
 小さな庵に二人ぼっち、隣同士でぽつりぽつり。
「ねえ、シホ」
「はい」
「死が――どうしようもない命の制約が二人を別ってしまうのが怖い。アタシは花蓮ほど強くない、世界を壊すことが悪なら、せめて共に逝くことを選ぶかもしれない」
 少なからず燦の悩みには勘付いていた。いずれ話題に出ることだと思っていたけど、今かと困り顔になってしまう。真実を伝えるのは躊躇われたが、燦が誠実に悩みを話してくれた以上、シホもそれに応えなければ。それが対等ってコトだから。
「……どちらが長寿かはわからないけど、私の寿命は見当がつきます」
「どういうことだ?」
「今の私はオブリビオンの脅威から、主である世界を守る為に蘇らされ、魔力等を供給され死ねない体にされています。逆にオブリビオンとの戦いが終わり、世界に安寧と平和が訪れたら? ……主が私に魔力等を供給する理由は……なくなります……狡兎死して走狗烹らる、です。猟兵の力が無くなるだけで済むかもしれませんが……すぐ消滅しても不思議ではありません」
 燦はカァっと熱くなるのを感じた。頭も、胸も、目頭も、頬も、震える手も。そんな、シホは見たこともない主とやらにとって都合のイイだけの存在じゃない! シホの瞳をしっかり捉え、燦は向かい合った。大きく息を吸い込む。
「何が狡兎死して走狗烹らるだ。シホは道具じゃねえ、人間だ! 主さんにナメられてたまるかっての。それにもう……シホの……心も体、も、シホだけのモンじゃない。アタシだって……」
「心配しないで。燦が私を必要としてくれるなら対策はあります」
「方法はあるんだ? アタシは死に別たれない術があるなら模索していきたい!」
「――でも、それを話すのはもっと私達の仲が進展するまで待って欲しい。だから……」
 燦の手にそっと、シホは己の手を重ねた。そのまま手の甲から指の隙間に入り込み、ぎゅっと繋ぐ。今更なにを、こんなにドキドキしているのか自分でも分からないけれど、とても暖かくて安心する。
「燦は、今は自分の身を大切にして欲しいです」
「ああ、簡単には死なないよ」
 ニッと笑って見せる燦だが、ふと気付く。仲が進展するというのは、つまり、いやまさか、そんな。でも、でも! そうであったら……!
「そ、それって、けけけけ、けこーん!?」
 結婚、と言いたかったのに声が上擦ってしまった。むしろ此処で動揺しない方がおかしい。恋人にそんなことを示唆されて、喜ばないわけがない。
「大声出さないでよ、恥ずかしい……」
「ご、ごめん。でも、アタシの勘違いじゃない、思い込みじゃないってことで、良いんだよな?」
「…… ……」
 無言のまま頬を朱に染めてぷいと視線を逸らすシホ。それが答えだった。あんまりにも可愛くて抱きしめてしまいたくなるけど、そのままでは済みそうにないのでここは我慢。そして一旦こころを落ち着かせる為に、花蓮へと視線を向けた。
「……花蓮はどうするんだろ。人生の先輩として見させて欲しいわな」
「悔いの無い選択が出来ると良いですね」
「選択は尊重するよ」
「それなら燦、一緒に祈って下さい。花蓮さんが望むのなら、奇跡を引き起こせるように」
「勿論」
 花蓮からお互いに視線を戻し、ふたりは額をくっつけて祈った。世界中の人々へ、移ろう世界へ、そしてあの人へ……花蓮の幸福を。それが実現するかどうかは、屹度誰も知らないお話――。


『ねぇ、花蓮。黒い蓮の花言葉を知ってる?』
「生憎」
『滅亡、だって。不吉だよね』
「縁起でもない」
『でもね、救って下さいって意味もあるんだ』
「ふぅん。まさか死が救済、なんて言うんじゃないだろうね?」
『分からないけど。でも……花蓮』
「なに」
『僕が逝く時は……花蓮が救ってほしいな』
「――……その時まで覚えてたらね」
 満月は何もかも照らし、覚えている。あの夜も、そして今夜も――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月20日


挿絵イラスト