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とりかえシ

#UDCアース

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#UDCアース


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 ――間違えてしまった。
 目を背けていた事柄を否が応にも認識させられたのは、彼女の葬儀に参列した時。
 形ばかり頭を下げる両親の年齢は若く喪服の着こなしも雑。それはまるで生前の娘への扱いそのものだ。
 まともに養育されていない……そこまでわかっていたのに、自分は何もできなかった。
 もっとやれたことがあったろうにという悔悟と、所詮自分は部外者であるという言い訳の狭間で心が揺れ続けていた。
 無為に過ごす間に、彼女は小さな躰を病に明け渡し逝った。

 葬儀から1年近く経つのに、救えなかった後悔と、抑えがちだった彼女の些細な笑顔が、落ち葉のように積み重なり層を増していく。
 哀しい。
 辛い。
 悔しい。
 ……本当に、ごめんなさい。
 取り返しのつかない過ち。いつしか未来永劫自分は何も為せぬと自分の力不足を憂い、抜けられぬ無気力に陥ってしまった。
 突破口なぞ求める気力も失せた。
 きっと当時の彼女もこんな気持ちだったのだろう想いを馳せたら、その時だけは気力が息を吹き返し、ますます無為に生き続ける自分を責め苛む。
 そうしてまた、しにたくなる。
 そんないつもの夜に――脳に直接、ぺたりと声が張り付いた。

“…、…、…、死、から永劫に救う”
“全ての人類を”

 そうか、救われるのか。
 その為に、夥しい死を捧げねばならない。
 なに問題はない、その死とて“髏淵様”は覆してくださるのだから。
 むしろ同じように誰かを亡くして苦しんでいる者を誘うのは善行ですらあろう。
 ……救われた彼女に逢えたなら、ようやく謝罪できる。赦しの扉はすぐそこだ。


 助力に駆けつけてくれた仲間へ黙礼後、久礼・紫草(死草・f02788)は乾いた口ぶりでこう切り出した――取り返しがつかぬことなんぞ生きていれば山程ある。例えば人の死、と。
「それでも、指の隙間を零れ落ちた命が特別に大切であれば、諦めるのは苦難の道じゃ。生きてる内には歩き切れぬかもしれぬ」
 傍らにある寂寞や悔悟に苛まれ未練に苦悩する。それを弱いと蔑むつもりは毛頭無い。
「じゃがな、その弱さが更なる死を招くのあれば話はまた別じゃ。他人の縁を理不尽な死をもって永遠に引き裂くは赦しがたき愚行」
 渇き節くれ立った指は、傍机に置いた地図をなぞり示す。
『真神学園』
 都内にある、なんの変哲もない小中高一貫の私立学校だ。しかし既に禍々しきモノで侵され変貌をはじめている。
「この学び舎におる何者かが邪な神を頼り、己が亡くした大切な誰かを黄泉より呼び戻そうとしておる。儀式には何人もの生け贄が必要なようじゃ」
 首謀者は、自分と同じように大切な人に死なれた者達数名へ声をかけ、計画を進めている。
 また儀式当日に生け贄を集める為に、某かの仕込みをしている可能性も高い。いかがわしい儀式の準備だ生徒達の目についているかもしれない。
「儀式の日は近い。早急に学び舎に潜入し、邪神がもたらす犠牲を少しでも減じてはくれまいか」
 学校に溶け込めそうな身分であれば、UDC組織がうまく潜入させてくれる。
 聞き込みに際しては多少の無茶――「警察の方から来ました」などの詐称も利く。個人情報にはうるさい昨今だ、主に教師相手に使いどころがあるかもしれない。

 話の〆にもう一度、最初の台詞を翁は述べた――取り返しがつかぬことなんぞ生きていれば山程ある、と。
 つまりは、邪神が哀れな弱き“誰か”の願いを聞き入れて、黄泉より連れ戻してくれる奇跡は絶対に起らないのだ。


一縷野望
※オープニング公開時より募集を開始しております

 首謀者死亡前提のシナリオです。後味の悪さもお含みおき下さい
 それ以外の被害を食い止められるかは、皆さんの1章での行動次第です
(隠し選択肢を見いだし貫ければ、首謀者救済ルートに入れるかもしれません)

>今回のシナリオについて
・1章目:調査(6~9名)
・2章目:死者やもう逢えない人との邂逅(10名。再送とならないなら追加募集するかもしれません)
・3章目:戦闘(1章と同数)

 2章目のみ先着順の採用です。タイミング次第で1章からの継続参加が叶わぬ場合も御座います、ご了承ください

>1章目
【採用人数】
 9名以下
 挑戦者数と採用数あわせて9名を上回っていても、しめきりまでは受付けます

【プレイングについて】
 男女共学の小中高一貫の学校への潜入をお願いします
 転校生、新任教師、教育実習生、用務員さん等、学校であることを活かした潜入は、プレイングボーナスが入ります!
 学校の偏差値は中程。文化系体育系問わず部活動は活発で、大抵の部は存在しています

>流れ
1.『儀式に関わりそうな候補者』や『その他の情報収集(なんでもどうぞ)』:方法はお任せ(採用1~3名)
2.上記リプレイ返却後に『候補者へ接触し情報収集(望むなら)儀式不参加の説得』が可能となります。また『その他の情報収集』は引き続き可能です


>2章目
 黄昏時、あなたは【既に死んでしまった大切な人】や【某かの理由で逢えない大切な人】と遭遇します
 お二人様までなら同時描写が可能。対象の【誰か】は共通でもそれぞれ違ってもOK
(冒頭に【グループ名】をお願いします)

【プレイング】
・【誰か】の名前と呼び方・話し方・性格・あなたとの関係、等々お好きな書き方で教えてください
・章の最後で「自分に逢いたいか?」という問いかけが必ず入ります。どう返すかお願いします(以上、シナリオクリア難易度には影響しないのでご自由にどうぞ)
・相手の反応は【台詞・返答内容を指定】か【マスターお任せアドリブ】を選んで下さい

記号:×アドリブなし か ○アドリブあり/★トラウマ抉り希望
文字数節約の記号ですご希望ありましたら、プレイング冒頭にご記載ください
ない場合はプレイングを見て判断します
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第1章 冒険 『UDC召喚阻止』

POW   :    UDCの発生原因となりそうなものを取り除く

SPD   :    校内をくまなく調べ、怪しげな物品や痕跡がないか探す

WIZ   :    生徒達に聞き込みを行い、UDCの出現条件を推理する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

レナ・ヴァレンタイン
「記録」と「記憶」は残るのが現代社会の利点であり欠点だな
正式に葬儀が開かれたとなれば猶更

という訳で事前にUDCにこの学校の生徒、教師等の職員における過去1~2年ほどの死者の記録を漁ってもらう
死者蘇生を餌にされたなら、その死者と繋がりのあった人間を探せばいい
この学校内で儀式の準備をしているなら在学中の人間か

潜入にはユーベルコード使用
好きな姿にいつでも変幻自在は重宝する
この学校で人気のない場所を重点的に探索するとともに、最近急に明るくなっただの、逆に誰とも交流しなくなっただの、不審な行為が目立つようになった人間がいないかも含めて時に生徒に、時に教師に化けて聞き込み調査

探偵はいつだって足で稼ぐものさ




 予知の断片より、探偵レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は以下の推測をたてる。
 ――首謀者のトリガーとなったのは、1年前に亡くなった女性、恐らくは未成年。
「『記録』と『記憶』は残るのが現代社会の利点であり欠点だな」
 葬式まで出されたとあれば、否応なく痕跡は刻まれている筈だ。
 ――死者蘇生を餌にされたなら、その死者と繋がりのあった人間を探せばいい。
「過去1年~2年、全校生徒の関係者となるとさすがに膨大過ぎるか……現在勤める教師だけなら辿りやすいな」
 先に潜入して足場を作る仲間達へ有益な情報が欲しい。熟考の末、レナは下記の条件での調査をUDCに依頼した――。

・過去2年において亡くなったこの学校の生徒・教職員
・教職員が出席した葬式の死者名

 時間を潰す間、レナは真神学園の必要そうな情報を整理する。
 小学2クラス、中学4クラス、高校4クラス――高校は中学からの100%持ち上がり。以前は高校受験も行っていたが、少子化の煽りを受けて数年前になくなった。
 部活に力を入れており、ブラスバンドと演劇部の受賞歴が華々しい。体育会系は陸上やアーチェリーなど個人競技での受賞者がたまに出る。
「勉学よりはそちら側に憧れ入る子が多い、と。いじめはなし……まぁ対外的にはそう言うだろうな」
 なんてことを独りごち更に待っていた所、早々ともたらされたのは死亡した生徒の名簿だ。
「ふむ。過去2年においてはいじめで死まで追い込まれた子はいなかったようだな」
 病死、事故死という自然な理由での死者が、小学校に1名、中学校に2名、高校に1名。
「教職員の洗い出しは、もう少しお待ちいただけますか?」
「なら私は学校に潜入する。わかり次第まわしてくれ」
「了解です」

 あらゆる世代へと肉体変化可能なレナである。長く騙し続けるには演じる下準備が必要だが、その場に馴染み話を引き出すぐらいは朝飯前だ。
 朝から中学生2名の周辺人物に成り代わり友人達を洗ったが、深く傷つき思い詰めている様子はないと判断した。
 昼休み、UDCから届いた教職員のリストを仲間へと転送しつつ小学生と接触。こちらも今回の件には関わりなさそうだ。
 そして放課後――本命と睨んでいる高校生の教室へ向かう。
 2ヶ月前に交通事故で亡くなったのは神崎健吾、高校2年。
 眼鏡をかけた真面目そうな外見だが、同じクラスの備前あゆという女生徒と交際していた。
「あぁ~、だっる」
 あけた胸元から派手な下着をチラ見せ、金髪……わかりやすいカテゴリーは“ギャル”
「ねえ、あゆ。カラオケ行こうよ」
「あーしパス」
「最近つきあい悪いー。放課後よくいなくなるしー」
 誘うのを諦めて教室を出て行く友人達。その中の一人に変じてレナはあゆの前に戻る。
「新しい男できたって本当? だからウチらとつきあい悪いンしょ?」
「はぁああああ?! ざけんなッ、殺すぞ」
 ド直球でカマをかける。
 顔を真っ赤にして机を蹴飛ばすあゆ。まだ健吾へ気持ちが残っているのは明白だ。放課後のつきあいが悪いのは邪神絡みかもしれない……。
「あんたに何がわかるっての! 健吾を殺したのはあーしなんだよっ!」
「でもぉ、SNSのレス遅いのはアイツが悪いじゃん」
 先程引き出した話を打ち返したら、ますますあゆは怒り狂う。勿論それが狙いだ。
「悪くねぇよ! あーしなんかとつきあって、成績落ちて親にも叱られて……」
「だから、別れようって言われたの?」
「言われてねぇし! ……いっそ別れたいって言えばよかったんだよっ」

 ――健吾は、あゆの家に行く途中、信号無視の車に跳ねられて即死した。

「だからってさーあ、死んだ人にはもう逢えないんだよ」
 わかってる、と返るべき台詞は一向に聞こえてこない、あゆにはより深い聴取が必要そうだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

備傘・剱

大切な人を生き返らせたい、ねぇ…

季節が季節だ、教科書納入業者として、潜入させてもらおう
これなら、各教科の先生に接触する為、校内を歩き回っていても、不自然ではないだろうな
先生個人の本の注文を取っているって感じなら、接触も、な
小中高一貫ならば、道に迷ったという体で、生徒にも接触可能だろう
それでも侵入が難しい所は、兎にでもなって、体を小さくして、せんにゅうするさ

こういった環境だと、生徒よりも、むしろ、様子が変だと、はっきりわかるのは先生だろうな
生徒に対しては絶対的存在、その気になれば、実験や資料運びといった事で手伝わせる事もできるだろうしよ

同じ記憶を持つ人を生き返らせるなんざ、不可能なんだがなぁ…




 同じ記憶を持つ人を生き返らせるのは神様が逆立ちしたって不可能だ。理性が働いていればそんなことは自明の理。だから、備傘・剱(絶路・f01759)は、理性が働かぬ者を見逃さぬと心に留める。
 教科書販売者として授業の空き時間の教師達の元へ赴く。
 酒場マスターである剱の話術に掛かれば、輪に加わり世間話に興ずるなんぞは朝飯前である。
 昨日のおかずから生徒の愚痴、果ては夫婦喧嘩のお悩み相談まで……教職者でも、中身は酒場でクダ巻く客と何も変わらない。
 さて、そんな沢山の話を聞いた中で、剱のセンサーに引っ掛かったのはこちらである。
 ――。
「演劇部の中等部卒業公演も近いね」
「チケットも結構出たんでしょ? 楽しみだなあ」
 賞賛に照れて頭を掻くのは演劇部顧問の教師だ。
「へぇ、そんなに大がかりなんすか?」
「そりゃもう」
 役者のなんたらがこの学校の演劇部出身で~なんて話がしばし。寸志のチケット代を払って芸能プロ関係者が見に来たりもする。それほどに盛況らしい。
(「人が集まる……儀式の仕込み、か……」)
 心のざわつきを隠し剱は卒業公演について更に水を向ける。
 卒業公演は明後日の午後1時から、普段は使われない旧体育館にて執り行われる、とのこと。
「面白そうすね。パンフレットあります?」
「ああ、ちょっと待ってね、チケットもいります?」
 手渡されたチラシとチケットを前にして剱は驚きを漏らすのを辛うじて堪えた。
『其は神か悪魔か~ヨミおかえり』
 星空色の背景に魔方陣でかでか、CGを使った凝った絵面である。
(「……ベタ過ぎるだろ」)
 だが、侮れない集客力があり、舞台装置と称して儀式の準備も出来る。これが大当たりなら非常にまずい。
「本格的すね! 監督・脚本は榊原武彦さん……3年生ですか?」
「そうそう、榊原は多才なんですよ。舞台美術も彼です。役者以外はなんでもやりますね」
「榊原さんが倒れたら演劇部がなりたたない感じすかね?」
「そう! 実は危なかったんですよね……年末に終わったアニメのキャラが死んで、一時期は学校にもこれなかったんですよ」
「……」
 アニメのキャラの死もアリなんだろうか……。
 剱の内心をよそに話は続く、情報が集まるのはありがたい、うん。

 普通の女の子達が変身して戦う『ズギュッと・ぷれしゃす』
 寝返って新戦士としての加入が期待された敵の女幹部ミッチェルが、最終回で死亡した。
 ミッチェルは虐げられた身の上から一度は殺され綺麗なゾンビとして敵組織の手で復活。
 世界征服が実れば復活できる筈だったが、説得に応じ死亡。最終決戦で主人公達の勝利の鍵となった。

「カウンセリングの先生に行って頂いたりで大変でしたよ。2月頭に学校に戻った時には脚本が仕上がってて、後はとんとん拍子でしたけどね」
 ……アニメもアリなんだろうか(2回目)
 何にしても卒業公演の舞台を儀式に利用される可能性がある以上、演劇部の榊原武彦(中学3年)に接触する必要はありそうだ。

 ――気を取り直して。
 昼休みにはレナより身近な人を亡くした教員のリストが届いた。亡くしたのが配偶者や親族なのは、短期間で調べがつきやすかったからだろう。
 もし演劇部の公演が儀式の舞台だとしたら、調査や説得は今日と明日しかない。極力早く精査して深掘りを仲間に頼まなければ……。

 結論から言うと――職員室に詰める教員達で儀式に荷担している者はいないと剱は判断した。そしてそれは正しい情報である。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧鵺・アギト
過ぎたことを後悔するのは誰にでもあることだが…過去に捕われすぎたか…。

学校に潜入…そうだな、せっかく普段から白衣を着ていることだし、ここは一つ、心療内科医という体で紛れ込もう。
生徒、保護者、教師も含めて悩みを聞くスクールカウンセラーだ。
本人からの相談は勿論だが、診療が必要そうな人が身近にいる場合も紹介して欲しいと提案してみよう。
儀式に関係しそうな人物を割り出せると良いのだが…。

後は…多くの人が悩みを打ち明けるといえば…保健室かな?
保険の先生にも協力を頼もう。
特に身近な人を亡くした時には取り返しのつかないことになる前に、専門家による心のケアが必要だ!と熱弁して説得し、情報を引き出したいな。




「こちらです。スクールカウンセラーの方に常駐いただけると助かります」
 霧鵺・アギト(叡智を求めし者・f32015)は一階の空き教室へと案内された。
 窓際に置かれたソファをはじめ、圧迫感を極力控えた色使い。急場作りではない調度品の数々に感心を示す。
「とても話しやすそうな雰囲気ですね」
「良かった、放課後を中心に私が使っていたんです」
 案内役の女性は、加古川沙苗という。30前の控えめな印象の養護教諭だ。
「そんな場所に僕が居座っていいんですか?」
「普段は霧鵺先生がお使い下さい。約束している子もいるので、週に何度か放課後に使わせて頂ければ……」
「そちらに同席していいですか? 加古川先生から引き継がせていただくにしても、本人達と顔合わせをして信頼関係を築きたいので」
 丁寧だが有無を言わさぬ口ぶりに沙苗は俯きごにょごにょ、どうやら押しに弱いタイプの様子。
「……本人から、許可がとれれば」
「そこは、加古川先生がうまくお話してくれないか」
 初対面の丁寧語が、徐々にアギト本来の物言いに解けいく。
「保健室で見た印象だが……かなり仕事を回されていて、あれじゃあ加古川先生が体を壊してしまう」
 小中高一貫なので広めの保健室は3名体制だが、面倒な仕事は全て彼女に押しつけられているのが見て取れた。
 沙苗が生徒達のカウンセリングも行っているとしたら、仕事量は相当なものとなる。
「……私が一番新参なので。この学校では1年経たないんです」
 始業のチャイムが響いたので話はそこで一旦区切りとなる。

 休み時間の度に、挨拶と相談歓迎のアピールで各教室をまわった。
 悩みを持つ本人だけでなく、診察が必要そうな人が身近にいる場合も紹介して欲しいと添える。
 それが功を奏したか、放課後早々に高校生が訪れた。自己紹介の後、話の糸口を探すのも急かさずに待つ。
「……従姉妹のことなんですけど」
「従姉妹さんもこの学校なのか?」
「はい、小学校の3年1組で井関のあ、っていいます」
 目の前の少女は井関瑞樹。父の弟の娘がのあで、家は離れているし学年も違うから逢うのは年末年始や長い休みの年数回だと言い置いた後、
「最近は月1回は逢ってました。入院していた祖父のお見舞いでです。
 その祖父が先月に亡くなりまして……のあちゃんは一番ちっちゃくて、特に可愛がられてたから、ショックが大きかったようです」
「悲しかっただろうね」
「はい。祖父が買ってくれた大きなうさぎのぬいぐるみを学校に持ってくるようになって、少し問題にもなってました」
「のあちゃんのことを連れてきてはもらえないか? 是非一度話してみたい」
 瑞樹の視線が言葉を探すように彷徨った。逡巡の後、彼女はスマートフォンのSNSの画面を見せる。

 みずきちゃん、おじいちゃんにまたあえるんだって!

 瑞樹が「どうやって?」「誰にそう言われたの?」と問いかけているが全て『ひみつ』と返されている。
「この後、直接学校で逢ったんですが、すごく元気になってました。祖父に再会できるって心から信じてるみたいで……パパママには言わないでって口止めもされました」
 明らかに何者かがのあを唆し儀式に巻き込もうとしている――アギトからは一目瞭然だ。
 その後、のあのことは安心するようにと瑞樹を宥めて教室に返した。
「さて」
 のあの元に行きたい所だが、先程レナよりまわってきた“肉親以外の葬式に出た教職員”リストの中には、沙苗を含む3名の養護教諭の名前がある。
 身内を亡くした教師は剱が調べるとの連絡を受けているので、アギトは養護教諭達へあたることにした。
 沙苗は離席中だったので残りの2人から話しを聞く。結論から言うと、2人が儀式へ関連していることはなさそうだと、アギトは判断した。
 養護教諭故に病弱な子と関わりを持つ事は多く、葬儀への出席はその流れ。
「一々、想い入れていられないですからね」
 ドライだが現実的でもある返答に納得するアギトは「お疲れ様です」と言われ振り返る。
「加古川先生、お疲れ様」
 同じ質問を沙苗にも向けたなら、彼女もまた2人の教諭と同じくこう答えた。
「一々、想い入れていられないですからね」
 と。

成功 🔵​🔵​🔴​


 
 
【マスターコメント】
 マスターより提示する接触できる人物は、以下の3名です
 人物はリプレイ登場順です

 接触場所は好きに指定してください
 潜入の身分は既に返却したPCの方とかぶっても大丈夫です

・備前あゆ(高校2年)
 ギャル
 恋人である健吾を2ヶ月前に交通事故で亡くした
 自分に会いに来た為に事故に遭ったのであゆは自分を責めている

・榊原武彦(中学3年)
 演劇部のエース
 3ヶ月前、女児向けアニメの『ズギュッと・ぷれしゃす』の敵幹部ミッシェルが最終回で死んでしまった為に甚く落ち込んだ
 芸術家気質の繊細なヲタク男子
(『ズギュッと・ぷれしゃす』の設定はPCさん側で盛って頂いてOKですよ)

・井関のあ(小学3年)
 年齢より幼い感じの女の子
 独特の感性をしているせいかクラスでも浮いていたが、周囲の心配をよそに本人は友達がいなくても平気な様子
 1ヶ月前に大好きな祖父が亡くなり落ち込んでいたが、最近「おじいちゃんに逢える」とか言い出した

 その他に調査したいこと、話しに行きたい人物がいればどうぞ

 それではプレイングをお待ちしております
 
 
忠海・雷火
首謀者は「身内を失った人」の詳細を得られる立場で
該当者は随分絞られてそうだけれど、さて。切っ掛け自体はこの学校には無かったのかも

そこまでUDC組織に追ってもらう事は難しいだろうけれど、一応頼んで
私自身は用務員として潜入するわ

まだ確定ではないにせよ、掃除名目で旧体育館へ
建物構造は事前に把握し、舞台裏や控え室まで魔力の痕跡含めて目視でチェック
怪しい所も何も無ければそれで良い、何かあれば手を加えるなり壊すなり、とにかく儀式が始まってしまっても被害が減るよう相応の対応を
場所が重要なら相手の接触があるかもしれないし、それも判断材料になる


取り返しのつかない事は、だからこそ重く苦しい
当然だけど、大事な事よ


コノハ・ライゼ
教育実習生か新任教師なカンジで
真面目を装って身なり言動には気を付けるねぇ

養護教諭の加古川先生に会いに
情報から気になってネ
カマかけってトコ

相談って、生徒じゃなくてもいいですか
と相談の体で
生徒の間で、死んだ人に会えるって話す子が……噂にも満たない話なんですが
そういった話に流されて、危険な事が流行らなければいいと心配で
何かご存知ですか、と
のあちゃんの件を仔細は伏せそれとなく

そんな話があるなら自分だって……いえ失言でした
だってそういった話には代償がつきものでしょう
なのに自分だけ夢を見て、自分だけ許されようだなんて
誰も保障など……
でももし噂が本当でも、生徒を止める自信がない
どうしたらいいでしょう




 潜入1日目を終えた猟兵達は、組織UDCへ報告を通す。
 その後、忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)とコノハ・ライゼ(空々・f03130)は明日の潜入についての打ち合わせを行う。
「首謀者は『身内を失った人』の詳細を得られる立場で、該当者は随分絞られてそうだけれど、さて」
 切っ掛け自体はこの学校に以外にあったことかもしれぬが、さすがにUDCの調査を待つと後手がすぎる。
「詳細まで追う時間はなさそうね。まぁ、そこはカマかけに行くつもり」
 加古川沙苗の名をなぞるコノハへ雷火も同意と頷いた。他にも加古川の関与を疑う猟兵はいる。より的確な揺さぶりをかけられるよう、足がかりを集めたい。
 なにぶん時間がない。
 万が一、加古川が外れてしまったら、他の養護教諭など多数の洗い直しにまで戻される。
 その為にも、常にリカバリーが出来るようにしておきたい。


 翌朝。
 職員との顔合わせから雷火が解放されたのは、2時間目終了のチャイムと同時であった。
 用務員のIDカード入りストラップを首から下げて、雷火は旧体育館へと歩を進める。少子化と老朽化が重なり使われていないが、今は明日のイベントに向けて随分と賑やかな風体だ。
「さてさて、まだ確定ではないけれど……」
 白いテントの元にセットされた長椅子と机、チケット回収箱を横目に、雷火は錠前に鍵をさしこみまわした。
 土足厳禁のため上履きに履き替える。明日は観客はスリッパ持参だそうな。
(「思ったよりお金が掛かってないというか、カジュアルなイベントなのね」)
 黄金色の床は、古びてはいるが観客を迎えるために磨き上げられていた。既にパイプ椅子が数百セットされており、真正面には舞台。
「ふーん、左右に非常口が3つずつ、典型的な古い体育館ね」
 ゴチャゴチャと置かれたパイプ椅子が逃げるに厄介そうで、証拠を掴んで芝居を取りやめたいところだ。
 放送設備は舞台側、照明その他の2階へあがる階段もそちら側。舞台にはえんじ色の幕が下りている。
「当然だけど、覗かせてもらいましょ」
 身軽に一足飛びで舞台に飛び乗ると、重たい幕を持ち上げ覗き込む。暗闇の中、凹凸の陰影が床にボンヤリと浮かぶのを見るに、既に大道具が配置されているようだ。
 ペンライトのか細い光でスイッチを探り当てるとカチンと押し込む。
 パラパラ、と瞬きついた灯りの下、目に入ってきたのは教室を模した舞台装置、ただし床はグレーの大きな布で覆われている。
「……」
 雷火は今一度周囲に気を払い誰もいないことを確認すると、しゃがみ込みぺらりとめくる。
 すると蛍光塗料で描かれた直径3メートルはある魔方陣が現れた。同時に雷火の腕につけた根黒オーブが反発するように痛みを与えてくる。
「……気持ち悪い術式ね」
 死者に触れることができる雷火ならわかる――術式は「死を受け入れないために死ね」と矛盾した我儘をひたすらに喚いている。
 あともうひとつ、彼女が全てを失った“場”と同じ彩が辺りを取り巻いている。
 忌々しいと靴で踏みにじるが生憎消えない。
「…………」
 しばし考えると雷火は一旦旧体育館を後にした。


 2時間目が終わり休み時間が半分過ぎた頃――。
 コノハはカウンセリングルームで加古川と向き合っていた。
 仕事を理由に逃げを打つ加古川だが、カウンセラーを騙る仲間が仕事は引き受けるとナイスサポート。
「相談でしたら専門のカウンセラーの先生の方が……」
「でも、昨日いらしたばかりですよね。実は生徒の中で流れている噂……いえ、噂にもも満たない話なんですが……そういうのはずっといらっしゃった加古川先生の方がいいと思うんです」
 ドアを背にして身を乗り出す。逃げ道は塞いだ。
「……噂ですか。どんな?」
「死んだ人に会えるって」
「良くある話ですね」
 その打ちきり方は、むしろとても不自然だ。あからさまに話を止めたがっている。
「そういった話に流されて、危険な事が流行らなければいいと心配で」
 しかしコノハは完全に無理をして話をねじ込み続ける。
「何か、ご存知ですか」
「…………ま、まぁ。そういう話は、児童から聞いてますけど」
「何年生でしょうか? 自分が聞いたのは小学3年生の子からなんですが」
「そうね」
 泳ぐ視線を追いかけつつも、コノハは不意に喋るのを止めた。急に追求が止まり戸惑う加古川へ、
「そんな話があるなら自分だって……」
 ぼそり、と。
 思い詰めた暗がり色の声音を響かせる。
「…………コノハ先生」
 加古川は、マジマジとコノハを見据えてくる。品定めの目つきには大きな迷いが揺らめいた。
 コノハからは引き込むかどうか悩んでる、それで充分だ。
「いえ失言でした」
 取り繕うように軽々と笑った。勿論演技だ。
「だってそういった話には代償がつきものでしょう? なのに自分だけ夢を見て、自分だけ許されようだなんて。誰も保障など……」
 死んだ人が好意的な形で蘇るなんて虫が良すぎる。
「――そ、そうですね」
 うわずる声とおろおろと彷徨う視線。コーヒーを淹れましょうかなんて、とにかくコノハの視界から逃げたいとわざとらしい。
 随分とメンタルが弱い、加古川にはその実覚悟なんざ出来ていない気がする。
 わざと疑いを浮かべ睨んでみた。
「ど、どうぞ」
 震える指が紙コップを倒しかける。なんという狼狽。
(「余りプレッシャーをかけすぎるのも不味いわね」)
 コノハは紙コップを両手で包み込むと、最初の生真面目な教育実習生の仮面を被り直す。
「でももし噂が本当でも、生徒を止める自信がないんです。どうしたらいいでしょう……?」
「それは……」
 ことり。
 紙コップをテーブルに置いた加古川に、コノハは小さな驚きを覚えた。
 瞳がスッと落ち着き、迷いが消えたのだ。
「その子の抱える哀しみに真剣に向き合って、あなたの手に余るならしかるべき専門家につないでください」
 取り返しがつかなくなる前に。

 カウンセリングルームを出たコノハは、待機していた猟兵へ目配せする。
「彼女に絞ってOKよ、後は任せるわ」


 旧体育館に戻った雷火の手には、美術室から調達してきたペンキがある。
「そぉれっと」
 景気よく魔方陣の上にぶちまけた。
 生け贄の観客を入れない、魔方陣を物理的に潰す……邪神が降臨する条件を地道に潰す。完全阻止が難しくとも、顕現した際の力を少しでも削げば猟兵の勝利に天秤が傾く。
「取り返しのつかない事は、だからこそ重く苦しい」
 家族を失い、力を宿した自分。
 二度と戻らない笑顔。
 頬に跳ねたペンキが平坦な雷火の口元を飾る。
「当然だけど、大事な事よ」
 わかりすぎている、そんなこと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナイトメア・ブラックローズ

潜入?なにそれ楽しそう!
ボクも長いこと生きてるけど、UDCアースの学校って行ったことなかったんだよね

いつもの格好(10歳前後の姿)で転校生として潜入して、のあちゃんに接触したいな(放課後)
偽名で「黒夢・夜斗(くろゆめ・ないと)」って名乗っておこう
あと、最近両親が死んじゃって親戚の家に預けられたってことにしておくね
(以下演技)
のあちゃんはおじいちゃんが死んじゃったんだね
じゃあそのうさぎさんはおじいちゃんから貰った大切なものなんだ
ボクもパパとママが死んじゃったんだよ
逢えるんだったら、逢いたいなぁ
のあちゃんはどうやっておじいちゃんに逢うのかな?
……さすがに初対面のボクには教えてくれないよね?




「黒夢・夜斗(くろゆめ・ないと)です! ずっとガイコクにいたからこっちの学校ははじめなんだ。わかんないこと一杯だけどよろしくお願いします」
 2日目の朝、ナイトメア・ブラックローズ(黒薔薇の悪夢・f31437)は、井関のあのクラスに無事潜入を果たしていた。
 UDCアースでの初めての学校生活、その期待は明るさにつながる。魔法ネタもエッセンスにして、不思議な話も知ってる興味をそそる転校生の立ち位置をキープ。
「ねえねえ、黒夢くんはまほうがつかえるの?」
 昼休み、うさぎを抱えたのあが興味津々に話しかけてきた。夜斗をとりかこんでいた生徒達はのあの扱いをどうしたものか戸惑っている。
「まほうなんてアニメだけだよ」
「使えるって言ったら、どうする?」
 リーダー格の子が邪魔するなと排除にかかったので天真爛漫な笑みで阻止。
 うさぎを抱えるツインテールの少女は、にぃっと歯を見せて笑うと夜斗の前にずい身を乗り出した。
「どんなまほう?」
「そうだね、魔法のほうきに乗って空を飛んじゃう!」
 実際に出来るわけだがさすがに内緒。
「豆粒みたいにちっちゃな屋根がずらってねー、ジェリービーンズみたいでおいしそうなんだよ♪」
「じゃあ、のあもいっしょにつれてって」
 のあと話が弾むのを見て、リーダーの子はふくれっ面で離れていった。
 こんなに幼くても嫉妬や羨望から自由になれない。人の業とは面白くも継続した関係を築く足かせにもなり得る……のだが。
(「今はのあちゃんとだけ話したいから都合がいいや」)
 夜斗は隣の椅子を引き寄せてのあを招く。
「いいよ。ボクはすごい大魔法使いだからね」
「ふうん」
「……信じてない?」
「そんなことないよ。だって、死んじゃった人をもどすまほうだってあるんだから!」
 無邪気なえび茶の瞳には、のあを慮る夜斗の面差しが映る。
「のあちゃんも誰かが死んじゃったの? ボクは……パパとママが死んじゃったんだ。だからこの国に戻ってきたんだ……」
「夜斗くんは“死をなかったことにする”まほうは使えないんだね」
 この物言い、のあにとって“奇跡をおこす魔法は存在する”が前提だとわかる。なんて奇異な反応。
「のあちゃんは、死んじゃったをなかったことにする魔法が使えるの?」
「ううん。のあじゃなくて……」
 話が弾みかけたところでのあは慌てて手のひらを口元にあてがった。
「どうしたの?」
「……言ったらおじいちゃんと逢わせてもらえなくなっちゃう」
 険しく寄った眉根を後押しするように、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
「あ、おそうじの時間だ」
 逃げるように外に出る少女を夜斗は追いかけて階段の陰に引っ張り込んだ。直後、虚空に手のひらを翳す。
「!」
 喫驚に目を見張る少女の前で、銀色の空間より林檎が1つころりと落ちる。夜斗は片手で掴むと目の前につきつけた。
「この林檎はね、のあちゃんの先生が知ってる魔法の逆さまの悲しい願いしか叶えられないんだ。魔法ってね、イジワルなんだよ」
「イジワル?」
「大きなことをしようとしたら、必ずなにかを差し出さないといけないんだよ」
 のあが林檎に触れる前に鏡へ還すと、夜斗は少女の手のひらをうさぎさんへ托すよう覆った。
「このうさぎさんは、おじいさんからもらったんだよね」
「うん、たいせつなおともだち……」
「そっか。のあちゃんがおじいちゃんに逢えたとしても、のあちゃんが死んじゃったら、うさぎさんは勿論、おじいちゃんだって死んじゃうよりもっともっと悲しいんじゃないかな」
「………………のあ、死んじゃうの?」
 キッカリと頷く夜斗へ、少女はぎゅうとうさぎのぬいぐるみにしがみつく。
「明日、行かない方がいいの……? お芝居の時に、おうたを歌うように先生に言われたのよ、お姉さんと一緒に。それで魔法が完成するって……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

セツ・イサリビ

接触:榊原武彦
舞台芸術に音楽は必須だ
臨時の音楽教諭の真似事でも

音楽室のピアノで『ズギュ・ぷれ』のサウンドトラックから
『ミッチェル、さよなら』を奏でてみよう
彼がどこにいても届くだろう

(以下彼の様子を観察しつつ)
愛と友情、あきらめない気持ちをまっすぐに伝えてくる
人の奏でる物語は奥が深いものだ

第19話のミッチェル黒猫変身潜入回
あの時、ぷれレッドがその猫をポウと名付けたろう
俺の猫もポウというんだ。驚いたよ

現実でも、物語の世界でも死は一度きりだ
「たとえ『続編』があったとしても、喪った事実が消える訳ではない」
君は『続編』で生き返ったものを、本物として受けいれられる方かい?
俺は、残念ながら難しい方だ


文月・統哉
転校生で潜入
武彦一人の時接触

『ズギュッと・ぷれしゃす』は履修済み
アルダワに無い作風は衝撃だった
めっちゃ泣いたし
名作だってマジで!

『助けたいと君が願うなら、僕も力になるよ』
無駄に高い演技力の作中名台詞で声かけ
マニアックな話で盛り上がり
読心術コミュ力活かし仲間意識深める

そしてミッチェル推し仲間だからこそ言いたい事がある
彼女は誰かの犠牲なんて望んでないと

首謀者が加古川先生なら
蘇らせたいのは前任校生徒だろうか
身の上がミッチェルに重なるなら尚の事
殺戮の罪なんて背負わせちゃいけない

誰かを助けたいと願い組織に反旗を翻した彼女の覚悟を
君は誰より知ってる筈

儀式を壊そう
彼女の遺した想いの為に
俺達には君の力が必要だ




“そうか、こんなに醜い僕の命でも、みんなと変わらずにプレシャスなんだな”
 はじけ飛んだ眼帯の奥は腐り落ちていた筈なのに、プレシャスガールのように七色に輝いている。
“これは……ぷれしゃす・ミッチェル?!”
 派手なエフェクトを引き連れた変身シーン、なのに、流れる曲は叩きつけギターの嘶き。
 胸を抉る泣かせのメロディラインはミッチェルの最初で最期の笑顔と共にこびりついて離れない。
 曲名は『ミッチェル、さよなら』
 セツ・イサリビ(Chat noir・f16632)は昼休みの音楽室で黒鍵を叩く。彼女の存在を抱く人の胸に刹那蘇らせんと。
 カン、と、ワンオクターブ上のシを叩き、最初に戻る。
 がん、と、シに重なるのはドアがあけられた音。
「ミッチェル様」
 長い前髪に瞳が隠れようとも震える口元は感情の揺らめきを鷹揚に物語る。

『プレシャスな命達を守りたいとお前達の願い、僕の輝きで叶えてくれ』

 セツのメロディがクライマックスに到るタイミングで、文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)はミッチェルの最期の台詞を演じあげる。
「『ミッチェル、あなたもたった今からぷれしゃす・ガールよ! あなたのプレシャスで死臭界への鍵をひら、ひら……』うぅ……ミッチェル…………」
 アニメ放送の通りにぷれしゃす・レッドの台詞で応えようとした武彦だが、最後まで言えずにべそをかく。
「……やっぱ、胸にクるよな。ミッチェルの最期」
 DVD一気見で履修、今朝まで泣きはらした統哉の頬はやや赤い。アルダワにはない作風に揺さぶられたハートは嘘じゃない。もうミッチェルガチ推し。
「なんであそこで死んじゃうんだよぅ……悪についてる理由だってすごく切実だったし、死臭将軍の命令で作戦実行しても絶対命だけは取らずにいたから、絶対に第六の戦士として覚醒してくれるって思っでだのに゛ぃいいいいい……」
 ぽん……。
 音は控えめに絞りながらもメロディは乱さずにセツも会話に混ざる。
「愛と友情、あきらめない気持ちをまっすぐに伝えてくる。人の奏でる物語は奥が深いものだ」
「諦めない気持ち……あれ、ミッチェルは諦めてるっすよね、自分の命」
 言葉こそ反論だが棘はない。
「プレシャスな命を踏みにじってしまった瞬間から自分はプレシャスじゃなくなる、ミッチェルはそれがわかったからあの選択したんだ」
「でも、でも……ミッチェルは生き返ってやりたいことが一杯あった筈なんだ……」
 武彦は床に座り、涙をボタボタと落とす瞳を手の甲で押さえ込んだ。
「名作と名高い19話の日常回を、死んじゃってから何度も見てるよ。黒猫に変身してぷれしゃす・レッドと出逢って……」
「ポウと名付けた黒猫だろう? 俺の猫もポウというんだ。驚いたよ」
 セツはメロディを急に変えた――『ポウと大脱線』弾むメロディラインに、たまに仔猫の声がまざる愉快な曲だ。
 音楽に釣られてか、武彦はにぱっと唇の端をつりあげる。
「そう。ポウの姿でぷれしゃす・ガールズといっぱい遊んだんだよね!
 原宿でクレープを食べて(猫ちゃんに人間の食べ物はあげないでね、のテロップつき)
 ゲーセンで『ドラムの名人』(メーカータイアップ、オリジナルソング実装済み)で競ったり、その時の写真をずっと記憶システムに残してたんだ……」
 うんうんと、肩を抱いて頷く統哉。
「そうだな。あの後も、写真を見て苦しんでいて心理描写にグッと掴まれたよ。消そうとしてとうとうできなかったんだよな」
「そうだよ。ミッチェルにだって、普通の女の子としての未来があるべきだったんだ。だから僕は……ッ」
 きん……。
 セツはわざと間違った高音を弾いたところで指を止める。音楽室に残ったのは武彦が鼻をすすり上げる音だけだ。
「たとえ『続編』があったとしても、喪った事実が消える訳ではない」
 現実でも、物語の世界でも死は一度きりだ。
 今こうしてセツと統哉が武彦と過ごしている時も、ミッチェルが画面の向こうで命を費やしてみんなの笑顔を護ったのも、全て書き換えできない尊重されるべき軌跡。
「『続編』なんか赦さないぞ……そんなの、ミッチェルじゃない……」
「ああ、君も俺と同じだ。『続編』で生き返ったものを、本物として受けいれるのは難しいな」
「…………そうだよ『続編』なんてダメだ! 僕の手で、あのままのミッチェルを蘇らせるんだ!」

 ――それのどこが『続編』と違うんだい?

 セツは熱い叫びを、冷涼なる物言いで突き離す。
「ミッチェルの物語は幕を閉じたんだ」
 再びセツは『ミッチェル、さよなら』を奏ではじめる。だがそれは最初のただただ哀しいだけではない、まるでぷれしゃす・ガールズ達が強敵に立ち向かう時に流れる挿入歌のように、強く気高い。
 視聴者の心を揺さぶる哀しみのメロディではない、本当意味でミッチェルのラストシーンに似合う曲だ。
「なぁ、武彦はさ、本当は『やっちゃいけない』ってわかってるんじゃないか?」
「……っ」
「ミッチェルを蘇らせるのに、犠牲がいるんだろう? アニメのストーリーだってそうだったもんな」
「…………」
「武彦が監督している演劇の魔方陣、あれは本物なんだろう? 誰に教えられたんだ?」
 加古川先生だろうと統哉は予想を立てている。
 武彦が学校を休んでいた時にカウンセリングが行われている。そして猟兵が潜入するまでは、余所で雇ったカウンセラーはおらず彼女が兼任していた。
「………………」
 無言で黙秘を貫き通そうとするも、震える肩と爪が刺さるぐらいに握りしめた拳がそれを拒絶している。
「儀式を壊そう。彼女の遺した想いの為に、俺達には君の力が必要だ」
 ミッチェルを再び蘇らせたい欲望と倫理の間で揺らぐ武彦。
 ぽろん。
 もう何度も叩いたラストのシと共に、セツは柔らかな声音で揺るぎなく諭す。
「彼女は納得をしてあの選択肢を手に取った、その尊い晩節を汚してはいけないよ」
 自分の命を犠牲にしてでも沢山の人のプレシャスな命を守り通したあの矜持、哀しくも最大限に魂は輝きやりきった。
「そうだ。誰かを助けたいと願い組織に反旗を翻した彼女の覚悟を君は誰より知ってる筈。そんなミッチェルに殺戮の罪なんて背負わせちゃいけない」
「…………ッ、うわぁあああああああああああああ、みっちぇるうううううううう……」
 濁流のように涙を流し音楽室を割れんばかりの慟哭が覆った。気が済むまで泣けるよう、セツと統哉の2人は無言で待つのであった。

 泣き尽くした後のしわがれ声で、武彦はボソボソと明日の儀式の流れを明かしてくれた。
「劇のクライマックスに、女の子が2人来て歌をうたうんだ。それが“髏淵様”を完全顕現させるトリガーになってる」
 恐らく井関のあと備前あゆだ。彼女たちも儀式に近づけないようにしないと。
「武彦。明日の劇を止めて欲しい」
「え、ええ、え……ど、どうやって」
「責任は俺が持つ。演劇部全員に明日学校に来させないように連絡するんだ。勿論、君も来てはいけないよ」
 狼狽しながらも武彦は指示通りに部員達へと連絡をはじめる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
取り返しのつかない事、か
死は死で塗り替えられない

踏み止まって貰いたいですが

養護教諭の教育実習生として潜入し
加古川先生へ接触します
面倒事が押し付けられがちなら
私のことも任される筈

実習の合間の世間話に混ぜ
上手く話を引き出しましょう
公演のことだとか
相談の約束をしている子達についてだとか
不足している情報があれば聞き出します

……、
核心に近づくため必要であれば
私の過去をちらつかせてもいい

私は間違った
だからより多くの人に寄り添いたい
それは嘘ではないですから

ついて回るのが不自然であれば
わたしを『剥離』し追跡させ
少しでも多く情報を拾いましょう

一々、想い入れていられない
果たして本当にそうでしょうか


南雲・海莉


加古川沙苗先生と放課後に制服で接触
医療関係の進路を選ぶので話を聞きたいと切り出す
「理由は…忘れない為に」
最大で本当の理由は演技に隠す
でも両親の事も嘘じゃない

幼い頃、庇われるまま両親を目の前で亡くした
「その原因への憎しみも」
邪神への怒りも
「時間では埋まらない喪失も、無力な自分の悔しさもきっと無くならない
なら足掻きます」
先生にもそんな感情はありますか?

相手が黒で勧誘されたなら
「疑いません
だって両親は超常現象に殺されたもの」
両親の命を犠牲に生き延びる事も贄で蘇るも同じ
そこに赦しなんて無い
あるのならば先生の胸中
「会いたい人を覚えてるでしょう?
他の誰も知らない想いを、託された言葉を先生ごと消さないで」




 3時間目半ばの現時点でわかっているのは――。
 加古川が首謀者であるのが濃厚であるということ。
 旧体育館で邪神召喚の術式が敷かれていたのは確定。

 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)と南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)は、不慣れな教育実習生と転校生が行き場所に迷っている雰囲気を漂わせつつ、小声で打ち合わせる。
「昼休みにみなさん大きく動くのだと思います」

(蜜の言う通り、少し未来の昼休みには、
 武彦が明日の演劇公演で儀式魔法を発動させる手筈だったと告白し、のあはトリガーである歌い手であったと判明する)

「まずは私が接触します。南雲さんは昼休みまで仲間の情報を集約していただけますか?」
「わかったわ。放課後にって考えていたから」
「はやければ昼休みにでも、私が紹介する形で引き合わせます。あと……」
 蜜は新しいスマホとイヤホンを海莉へと渡すと、白衣の胸ポケットをなぞる。
「私の端末と通話状態にしてあります。彼女のパーソナリティがわかった方がやりやすいと思うので」
「ありがとう。じゃあしばらく授業をサボってくるわ」
 口にしたら後ろめたいのは生真面目な学生の性分か。
 海莉を見送った蜜は、カウンセリングルームから出てきた加古川を呼び止める。
「すみません。大学の関係でこんな中途半端な時間になってしまいました。教育実習の冴木です……加古川先生、ですよね? 保健室の先生方に聞いたらここに行くようにって」
「ああ、そうでしたっけ」
「すみません、遅れた理由は話せば長くなるのですが、生徒さんと……」
「……いいわ。明日からの実務についての説明とか色々、お昼まで掛からないから」
 掛けたくない、が本音だろう。蜜を招き入れると、加古川は通り一遍の説明を開始する。
 真面目さを示すためメモを取る。養護教諭の実習なので質問をそちら側に寄せ下ごしらえ。昼休みの昼食を共にしながら蜜は世間話に相づちを打つ。
(「公演が儀式なのは確定だからいいとして……」)
「このカウンセリングルームは落ち着けますね。加古川先生が作られたんですよね」
「今の主は昨日からいらしてるカウンセラーの先生ですけどね」
「あぁ、休み時間に相談に乗ると教室の輪に自然にまざってらして、すごいです」
「ええ、やはり専門の方に任せた方がいいのよ」
 横顔に憂いが陰を落す。
「……なにか、あったんですか。相談にのってらした子と」
「…………」
 気まずげに黙りこくり視線が彷徨い出すのを咎めずに、蜜は淡々と話を続ける。
「ここからは私の独り言です。聞いて頂けますか?」
「…………」
 無言に否定の意図はない。いや、例え否定されても話すつもりではあったが。
「私は間違った」
「……!」
 淡く開いた唇が戦慄いた、図星なのだ。
「だからより多くの人に寄り添いたい」
 それは嘘ではない。
「でも……冴木先生」
 明らかに異質なぬるりとした動きで、加古川沙苗は顔を向ける。だが視線は合わない、そのまま虚空へと持ち上げられた容は妙に平たく、まるでなにかを受信するようだ。
「死なれてしまったら、その人の人生は停止します。救いは死を消すしかないんです」
 死、死から、え、永劫に、すくう。
「加古川先生」
 今明らかに、外界を漂う邪なる存在からの干渉を受けていた。
 猟兵が彼女に接触し召喚を止めさせることを気取り焦っているのだ。彼女という要を失うことを。彼女の意識を、現実に置かねば。
「実は――」
 明瞭に伝わるように端末をテーブルに置いた。
「加古川先生に相談したいという生徒さんがいまして、そろそろ来る時間なんです」
 狙い澄ましたタイミングでドアをあけて踏み込んできたのは、真っ直ぐな眼差しの海莉だ。
「失礼します。南雲海莉と言います。加古川先生、医療系の学校に進みたいので、進路相談にのっていただけますか」
 蜜は沙苗の真正面を譲り海莉を座らせる、否応なく向き合わせる。
 海莉は手短に、急な転校で進路に不安を感じていること、はじめは白衣を着ている蜜が教育実習生だと知らずに話しかけて、その流れから加古川沙苗を紹介されたまでを説明する。
 気圧されている沙苗から邪神の干渉が去った。用心深く観察する蜜は、海莉へ目配せを送り更に話すよう促した。
「先生。私は、絶対に医療系の仕事に就きたいんです」
 それは嘘だ。
 でも、
「目の前で亡くなった両親を忘れないために……私の力が足りなかったから、私は庇われることしかできなかった……」
 これは嘘じゃない。
「弱さを、何より両親を奪った理不尽を、私は憎みます」
 勢いに呑まれたか、沙苗の呼吸が荒くなる。蜜は気遣わしげな眼差しで、紙コップで淹れたコーヒーをコトリと置く。
「人は誰しも大なり小なり疵を持ちます。中には、どうやっても元には戻せぬ欠損となる疵もある――だけど、痛みも己です」
 こくりと頷いて蜜の続きを海莉が紡ぎ語る。
「時間では埋まらない喪失も、無力な自分の悔しさもきっと無くならない……なら足掻きます」
 蜜も海莉も、痛みを伴い生きてきた。
 痛みは大きく小さく苛み、彼らが死ぬまで共にある。
 引きちぎって棄てたくても無理だ。絶対に治癒しない類いの疵だから。
「先生にも、そんな感情はありますか?」
「取り返しがつかなくても痛みしかない、けれど、背中を押してくれる……そう、思わないとやっていられないのだとしても」
 前に行きませんか? 蜜は淡い藤色の瞳で沙苗を諭す。これは自分を癒やす行為だ、然れど偽善と自虐は貪らない。

「もう逢えないのよ。茜ちゃんは病気で死んでしまったわ……。
 痣だらけなのに、全てを諦めた顔で“助けて”って言わなかった……」

 前になんて行けない! 顔を覆う女の嗟歎が大きく空間を引き裂いた。
 そうして彼女は自分の罪を数え出す。
“私は見て見ぬ振りをした”
“非正規のカウンセラーだから”
“本命である養護教諭の試験が近かったから”
“面倒事に関わって経歴に疵をつけたくなかったから”
“茜ちゃんの父親は過去担任教師を乱暴して病院送りにしたという噂があったから”

「……怖かった、都合が悪かった、私の人生の大切な時だった…………怖かった。でも、茜ちゃんはもっと怖かったのよ。ウサギのゲージに閉じ込められたり酷い虐待を受けていたんだもの……」
 すぅと、沙苗の瞳孔が色を失う。
 海莉は呼び戻すように手首を掴み引き寄せた。
「だめ、それに頼らないで! あいつらは赦しなんてくれない、誰も赦してくれないんです――赦しがあるならば先生の胸の中」
 そこにすら赦しはないのかもしれない。
「…………」
 蜜は小さく息を吐く。
 もしかしたら、その少女は自分が知る子かもしれない、でも確証がないから語るには躊躇いがある。
「一々、想い入れていられない。そんなことはありませんでしたね。加古川沙苗さん、あなたはお優しい方です。だからあのようなモノを喚び寄せてしまった」
「でも、まだ今なら戻れます。邪神は赦してくれない」

 疵を抱えるふたりの声が重なる――己を赦せる日に辿りつくまで、歩くしかないんです、と。

「どうか、これ以上の罪を重ねないで下さい」
「誰かを巻き込めば、それだけ自分を赦せなくなるわ」
 あぁ、と沙苗のまなじりから透明な水が伝った。
 難しいことはわからない、けれど、ただただこれ以上の罪を重ねたくはないと、一番の欲求がそちらへ向いた。
 見えない領域でなにかが弾き飛ばされた。波紋のように広がる衝撃を伴いソレの声が学内の全ての耳を汚染する。

“――残念。では、我を求めるモノを、殖やそう”

 誰かの死を想い出せ。
 喪失を、受け入れるなくとも、善い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『黄昏』

POW   :    【常時発動UC】逢魔ヶ時
自身の【黄昏時が進み、その終わりに自身が消える事】を代償に、【影から、影の犬などの有象無象が現れ、それ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【影の姿に応じた攻撃方法と無限湧きの数の力】で戦う。
SPD   :    【常時発動UC】誰そ彼時
【破壊されても一瞬でも視線を外す、瞬きを】【した瞬間に元通りに修復されている理。】【他者から干渉を受けない強固な時間の流れ】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    【常時発動UC】黄昏時
小さな【懐古などの物思いにより自らの心の内】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【黄昏の世界で、黄昏時の終わりを向かえる事】で、いつでも外に出られる。

イラスト:猫背

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●だれかれ
 大いなる声が響いた刹那“黄昏”がもたらされた。
 白昼の青空を吸い込んでいた窓は全て、溶鉱炉でドロドロにとかされた鉄の色に染まる。
 ぐちゃぐちゃに融ける形がなくなるまで。
 黄昏は誰彼。
 曖昧な世界なら、時間が逆行するようなデタラメな夢すら覧れる。
 黄昏の中で、現実よりも遙かに尊き誰かの死を想い出せ。
 喪失を、受け入れなくとも、善いのだ。

*****
>マスターより
募集日時:3月22日(月)朝8時31分~ 10名に達するまで
・2章目は先着順です
・再送とならず書けそうなら、24日辺りに追加募集をするかもしれません
・下記のルールに外れるプレイングは先着順に入れても流します、申し訳ないです

(以下、再掲)
 黄昏時、あなたは【既に死んでしまった大切な人】や【某かの理由で逢えない大切な人】と遭遇します
 お二人様までなら同時描写が可能。対象の【誰か】は共通でもそれぞれ違ってもOK。
(冒頭に【グループ名】をお願いします)

【プレイング】
・【誰か】の名前と呼び方・話し方・性格・あなたとの関係、等々お好きな書き方で教えてください
・章の最後で「自分に逢いたいか?」という問いかけが必ず入ります。どう返すかお願いします(以上、シナリオクリア難易度には影響しないのでご自由にどうぞ)
・相手の反応は【台詞・返答内容を指定】か【マスターお任せアドリブ】を選んで下さい

記号:×アドリブなし か ○アドリブあり/★トラウマ抉り希望
文字数節約の記号ですご希望ありましたら、プレイング冒頭にご記載ください
ない場合はプレイングを見て判断します

それではプレイングをお待ちしております。
 

【追記】
2章目は、一般人の救出についてのプレイングは不要です
(書かなくてもこの時点で誰かが死んだりしません。猟兵達が“黄昏”と対峙することで、ネームドNPCを含む一般人が取り込まれることがなくなります)

一般人が助かるか否かは、3章目の行動にて決まります
 
※戦闘プレイングは不要です
(↑ 2章目についてです)
備傘・剱
〇/★

…会いたい奴、ね…
いるさ、路が絶える前の、親父と、妹が、な

おーおー、機械の操作ミスで、沢山の幼子の命を奪った親父に、その親父が無理心中をかましてそれに巻き込まれた妹まで、ひでぇ有様で、蘇ってきやがったな…

一度、ぶん殴りたいと思ってたんだ
全部、俺に押し付けて、それが一夜で全部、責任も、義務も、何もかもなくなったんだぜ?
全部、お前のせいでな…

それに、妹…、これからって時に、苦しかったろうに、な
せめて、死に顔ぐらい、見たいと思ってたが…
あぁ…、やっぱ、死んだときの、ぐちゃぐちゃのまま、会いに来た、か…

自分に逢いたいか、だって?
逢いたくないわけがない、が、逢えないだろ
二人とも、死んだんだから、な



●絶路
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――。
 備傘・剱(絶路・f01759)が心の奥に折り込んでいる彼らは、黄昏の向こうの夜にいる。あの、全てが絶えた一夜に。
「にぃ……ん」
 てん。
 膝に縋り付く手首がもげて剱の足元で跳ねた。荒い、獣めいた嗚咽はやや幼い娘のもの。
 剱に似た面差しは頬から額にかけケロイド状に爛れ、無残きわまりない。
「……これからって時に、苦しかったろうに、な」
 死に目に逢えなかった。
 何の罪も無い妹は愚かなる父親の罪悪感の暴走に巻き込まれた。
 轟音の中、業火にまかれ、骨を砕く衝撃を数えきれぬ程に受けて――そう、墜落する飛行機の中、為す術もなく亡くなる乗客のように――彼女の肉体は損壊を受け、命は絶たれた。
「……」
 妹の名を呼び、剱は寄り添うようにしゃがんだ。黄昏の産む疑似体験だとしても、死に際の無念を心に刻まんと。
 だが、
「よか……た……」
 身を焦がす焔からまだ辛うじて逃れている唇は、安堵の笑みを描く。
「……たし……ど、なて……る?」
 兄が、来てくれた。
 これで助かる、大丈夫。
 失われかけた未来がこの手に戻るのだと確信し瞳の輝きが増した。それは鴉羽よりなお昏い男の瞳孔には決して灯らぬ光だ。
 妹は、希望を見いだした。

 もう、死んでいるのに。

「…………ッ」
 逢いに来たと、過去の匣を開いたつもりであった剱だが、再現されたのは“まだ死にきれぬ妹”だ。だから助けを求める、兄ならきっとなんとかしてくれる。

 たすかったんだ、よかった……。

「……」
 何を言ってやればいいのだ。悪戯に震えるだけの唇は言葉を編んでくれない。
“大丈夫だ”――嘘つき。
“ごめんな”――罪の意識から逃げたい自己満足。

『いっそ罵ってくれ』

 浮かべかけた気持ちが、ぶん殴りたいとの■悪を向ける父親の声と重なったのに、剱は顔を顰める。
 罵れば父が楽になる、握った拳を振り下ろせばなお、この男は救いを見いだすのだろう。
「……お前のせいで」
 背後に現れた存在へ、剱は吐く。
 悪意はなかった。
 しかし父親のミスは数多の幼子の命を灰燼に帰した。大罪を犯した自分を棄てる為、今度は故意に機械が生み出す暴虐を血のつながる者達を含めた己に、向けた。
「……に、さ……やぁ、おとう…………」
 妹は、焦げ果てた肌の中で輝く瞳は怯えを纏い父を見ると、ひっくり返された虫のように無様な動作で兄へ助けを求めた。
 獣めいた嗚咽が激しくなる度、妹の口から赤い液体がにじみ出る。怖い、助けて、いや、お願い――。
「全部、お前のせいだ……」
 例え赦しになるのだとしても、握りしめた拳を叩きつけずにいられない。
 ――全部、俺に押し付けて、それが一夜で全部、責任も、義務も、何もかもなくなった。
 念が無いと書いて、無念。
 然れど、路行き途中で命を絶たれた妹や幼子達に比べたら、この無念なぞ、無に等しい。
 無の先の、更なる無は、拳に父の感触を得てもますます底なしになるだけだ。
 殴られ床を滑る父は、糸にて引かれるように身を起こす。
 もがき続けて炭化した肉体をほぼほぼ失った妹も、辛うじて残る右の目玉で兄を見た。

『……逢いたい?』

「逢いたくないわけがない」
 だから黄昏がぐちゃぐちゃの中から引きずり出して逢わせた。
 剱は諦観を無表情で抑えこみ、それでいて、どうしようもない時に人が浮かべる“嗤い”でかつての肉親を見下ろした。
「が、逢えないだろ」
 二人とも、死んだんだから、な。

大成功 🔵​🔵​🔵​

文月・統哉

誰か:ルーク(当時12歳男
呼び方:ボク、キミor統哉
猟兵となる前の統哉が学園で出会った親友

金髪に青い瞳
明るく穏やかで人懐こい喋り方
華奢な割に怪力だけど
魔法の才能はからっきし
一緒に魔法学の補習受けたっけ
あの頃の成績はさておいて
君が誰より頑張ってた事俺は知ってる
君と過ごした時間は大切な宝物

でもこれは幻
君の命を絶ったのは俺自身

人が好きで
人に憧れ
人になりたかった優しい災魔

殺したくないと
殺して欲しいと
救って欲しいと願った君

そうだね
後悔なんて出来ない

問う声に頬伝う涙と
視界に滲むいつか見た夢

何処か遠い遠い世界で
君はもう君では無いのかも知れないけれど
桜舞う穏やかな景色の中で
君とただ笑い合う
そんな夢を見たんだ



●いつかの黄昏
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――。
「統哉、ぼんやりして……ボクの話聞いてた?」
 注がれる蒼碧は茜の中でも昼の日だまり。感情の豊かさにあわせてふわふわ動く金の髪は……。
「ルーク」
 大事な親友。
 もういない筈の人がここにいる。
 ああそうかと、文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)は自分の置かれた状況を理解してしまった。
 先程の武彦がミッチェルに逢いたいと請うたのと同じく、胸からえぐり出され構築されたのだ、と。
「あー……今日の補習はきつかったよなー」
 魔法学は居眠りの時間、魔法はからっきし――先生に雷落されて膨れると、どう願っても初歩魔法すら使えぬルークと、仲良くなるのに時間は必要なかった。
「ルークはがんばってるのに、あのイヤミはないよなー」
「だからって統哉、わざと悪戯して怒らせなくてもいいんだよ」
 統哉は優しいからとはにかみ笑い。
「優しいのはルークだろ?」
 教室中の机を抱えあげて「先生、怖いのは止めて」と教師のお仕置きを止めてくれた。

 誰よりも人が好きで、自分を愛さない世界を精一杯に愛した。
 生まれながらに叶わぬ願いを諦めず、学園に現れた。
 何処までも人という存在に憧れた――優しい災魔。

 12歳の統哉は知らない。
 この後、親友が災魔としての己へ収束していくことを。在り方は終ぞ変えられず、ルークの人になりたいという願いは叶わなかった。
 その運命を知る17歳の統哉は、ルークの手をあの日のようにすぐにとることが出来なかった。
「………………」
 ルークの顔が、ノイズで揺らされて、ブレる。留めようと手を取ったなら、彼の姿はあの日の災魔が重なり瞬いて。
「ルーク、ルーク!」
 どうすれば良かったんだろう。
 殺さずに済む方法はなかったんだろうか……。
 ――ルークの命を絶ったのは俺なのに?

“学園に紛れ込むなんて恐ろしい災魔だ、厄介な! 何を企んでいたんだ、良かった被害を未然に防げて…………”
「違う!」
 何も知らない大人達へどんなにルークの潔白を語っても信じてもらえなかった。
「ルーク、ルークは誰よりも優しい奴なんだ、俺は知ってる」
 人を殺したくないと、ルークは願った。
 だから殺して欲しいと、統哉に請うた。
 ……罪を背負わせてしまうことごめんねと、これから命を奪う統哉への思いやりにも満ちてすらいた。
 大人達の誤解をとけず名誉を守れなかった。こみ上げる悔しさが、いつしか膝をつき肩をふるわせる。
「統哉」
 そこに注ぐ声は、あの日のようにあたたかい。
「ありがとう。ボクを救ってくれて」
 あの日も、ここでも、柔らかな蒼碧は最期まで哀しみの色に染まらずただただ穏やかだ。
「そうだね……後悔なんて出来ない」
「また、逢おうよって言っても……困らない?」
 黄昏が作る問いかけ。
 逢いたい、でも邪なる力に縋り叶えてはならない。だからって願いを堪える必要も、ない。
「困るもんか! そうだな、また逢おう」
 迷わずに握った指が桜の花びらと果て、風に巻かれて舞い上がる。
 ――もう、君では無いのかも知れないけれど、咲いた花びらの咲きにルークがいることを願って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

忠海・雷火

父と母と弟
誕生日の準備で、先に家にいた皆が生贄。後から帰った私が依代に
再現されたのは中途半端なあの日、あった死となかった生の混ざり物


過ぎる時の中で忘れかけていた声で、聞けなかった筈のお帰りが紡がれる
すっかり嗅ぎ慣れた血と臓物、それに僅かに紛れた甘味の匂い拡がる中で、彼らが立って笑っている
プレゼント、そうね、知ってる。中身は左腕に着けているのよ
直接手渡される事は無かったし、後付けの赤黒い石があるけれどね

皆と交わす言葉は無いわ
何を言われても、聞かれても。過去は一つだけ
救いも赦しもなく、彼らの死の上に立つ私達があるだけだもの

逢いたいか、なんて。当然よ
けれど、それが叶う世界に命の重さはないでしょう?



●あらゆる者が生まれた日
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――。
 元々すれ違う他人に気を払ったりはしなかったけど、今日はより両親と弟の顔で頭がいっぱいなのだ。
 あの日の忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)は弾む足取りで帰路を急いでいた。
 今日は自分の誕生日。
 数日前からなにやらコソコソしている家族を見て、サプライズがあるのだとは察している。
 母は自分の好きなメニューを作ってくれるのかしら?
 父は何色が好きかとか唐突に聞いてきて笑いを堪えるのがやっとだった。弟が後ろから服を引っ張って下がられるのも含めて。
 何処にでもある平凡な家族だ。
 でも、雷火にとっては替えの効かない大切な人達だ。
「ただいま」

 ――あの日は「お帰り」がなかった。
 ドライフラワーや雑貨で飾られたささやかなパーティ会場の中で、誰が誰やらわからぬ程に肉体も精神も蹂躙され混ざり合った3人が口を利けるわけもない――。

 なのに。
『お帰りー』
 最近は生意気が過ぎる弟が玄関まで駆け出してくる足音。
『お帰りなさい』
 キッチンからは甘い洋菓子の香りと共に母の声がした。
『ああ、はやかったなぁ。お帰り』
 トイレのドアがあき、父が新聞紙を畳む音がかさりと響いた。
「た――……」
 ただいま、を噛みしめて、雷火は目を逸らさずに立つ。
 みんな、祝福の笑顔に充ち満ちている“お帰り、誕生日おめでとう”って。でも、それは幻なのだ。
 もはや嗅ぎ慣れてしまった血と臓物の臭いは濃密で、彼らが肌に覆われ人の形を保っているなんて嘘だと如実に伝えてくる。
『プレゼントがあるんだよ!』
 そうね、知ってる。
 声にはせずに手首に巻いたブレスレットを指で包む。ごづりと違和を産むネクロオーブを飛び越して、家族が選んでくれた石だけをなで続けて。
『どうしたんだ、そんな顔をして……』
 父が気遣うように眉を寄せた。こんな風に気付く人だったかしら……でも、どうでもいいのか。皆は幻想に過ぎない。
 謝罪も哀しみも悔しさもその他の感情全てが雷火の中から何一つ形にならない。
 彼らは邪神への供物として捧げられた。何故自分たち家族が選ばれてしまったのか、問うても糸は巻き戻らない。

 あの日は訪れた邪神が、ここには顕現しない。
 あの日は浸食された雷火が、今は雷火のままだ。
 ――いや、もう浸食され混ざってしまった雷火だから、なのか。

 弟ははやくと促すように雷火の手を引く。
 母はケーキを手にいそいそとリビングに向かう。
 父がケーキの蝋燭に火をつけた。
 触れられた感触がある。
 甘い香りと蝋が溶ける臭いが鼻を擽る。
 無言の雷火へ、家族は口々に問いかける――皆と一緒にこのパーティをしたくはないのか、と
「何を言われても、聞かれても。過去は一つだけ」
 家族へではなくこの黄昏から自分をくりぬくために雷火は声を発した。。
『そんなの、やだよ。どうして? 逢いたくないの? 忘れちゃったの?』
 弟の家族の哀しみが加速し嘆きの問いが叩きつけられる。然れど、何を言ったところで――救いも赦しもなく、彼らの死の上に立つ私達があるだけだ。
 死を抹消したフリする世界には、命の重さは、ない。

「逢いたいか、なんて。当然よ」

 黄昏が消えるのは、蝋燭の炎が一斉にかき消されるのに似ている。もう雷火の周囲には、家族はいない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉

【事件当時に遠足で一緒にいた義両親に幼稚園の皆】

パパ、ママ、先生、カズくん、トモちゃんに…
(霞む人影は南雲の実父母?)

(「カイリちゃん」と親しげな幼児達
「元気にしていたかい」「綺麗になったわ」義父と義母が優しく笑む)

多すぎるでしょ、私(震える声で苦笑し

元気よ
…忘れた事なんてない
寂しくて苦しくてどうしようもない時もあった
でもね
愛されていた事こそ忘れちゃいけないって
最期の時に胸を張って逢うために全力で生きなきゃダメだって
傍で教えてくれた人がいるの
だから私はこれからも皆を忘れないまま、絶対に幸せになる(笑む

そう教えてくれた義兄さんの事も
今度は私が助け返さなきゃ

本物の皆に逢うのは未だ先
だから、またね



●コーリングユウ
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――。
 逢いたい人を数える前に、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)は、ごぉとした耳鳴りに瞳を瞬かせる。
 黄昏かと思ったのはトンネルの黄色い灯り。バスの中、人影は数も顔も判然としない。だが、トンネルを抜けたら隣の補助席と、座席ごしに振り返る2つの顔がハッキリした。
『海莉ちゃん?』
『お姉さんだけど、海莉ちゃんだよね』
「カズくん、トモちゃん……」
 幼稚園の頃の仲良しだった男の子と女の子。
 カズくんは椅子を乗り越えて海莉の隣に座った。そんな様子を先生も義父さんも義母さんも微笑ましく見てくれてる。
『海莉、元気にしていたかい?』
『綺麗になったわねぇ。ねえ……あなたにそっくり』
 と、義母が振り仰ぐ視線の先は最後部座席。逆光で顔立ちが判然とせぬが、若い夫婦の表情は優しい。
「え……お父さんとお母さん」
 生まれてすぐに殺された。生前の伝聞をかき集めても終ぞ形に出来ず、諦めた人までいるの?
「……多すぎるでしょ、私」
 皆、既に彼岸。
 カズくんとトモちゃん、そしてバスに乗っている友達と大人達は、辿りついた先でUDCに命を奪われた。
 生まれてすぐの悲劇の繰り返し。
 あの日も、この日も、海莉だけが生者側に取り残されたのだ。
 ……どうして私だけ? 私も連れて逝ってと、挫ける前に手を伸ばして包み込んでくれた人がいる。
 その人は、ここにいない。
 その事実が海莉の中に一瞬の寂寞を産むも、裏を返せば彼は生きているって言う証明だ。
『本当に強く育ったね』
 顔をあげたなら、顔の見えない父が誇らしげに口元を崩した。
『でも、ちゃんと泣けてる?』
 心配ねと僅かに首を傾げたのは母だ。
『ねぇ、海莉ちゃんは我慢しちゃう子だから……』
 気遣いは義母で、頭を撫でてくれたのは義父の大きな手のひら。
『こわい話しても泣かないしさ』
『カズくんがこわいーって逃げちゃったよね』
 膨れるカズくんとおしゃまなトモちゃん。いつも3人で遊んでた。
 生まれながらに両親を亡くした疵に愛情という包帯を巻いてくれた義父と義母。幼稚園で屈託のない日々を過ごせたのは友達と先生のお陰。
「……忘れた事なんてない」
 元気よと、にぃっと笑う。それはいつもより子供じみた破顔。
 寂しくて苦しくてどうしようもない時もあった。だから潰されないようにとで前を向くことを自分に強いた。
 我武者羅でしかなかった自分なら、このバスの邂逅を疑うか泣き崩れるかのどちらかに陥っただろう。
 でも、でもね――。
「愛されていた事こそ忘れちゃいけないって」
 思い出は取り戻せなくても亡くならない。
 1人1人を抱きしめる。ひんやりとした体温だけど、自分がやりきって冥府に赴く時にはあたたく感じるのだろう、きっと。
「最期の時に胸を張って逢うために全力で生きなきゃダメだって、傍で教えてくれた人がいるの」
 その人を探し続けている。
 まだ黄昏が連れてくることができぬ彼へ、俯かずに思い出の綺羅を大切にできるようになった自分を見てもらいたい。
 ……もし絶望で歩けないのなら立ち上がれるまでそばにいたい。その時、このバスの皆が支えになる筈だから。
「だから私はこれからも皆を忘れないまま、絶対に幸せになる」
 ――また逢いたくないの? への答えを受け止めて、皆は笑い返してくれた。

 バスは走り抜け黄昏色のトンネルに吸い込まれていく、海莉だけを現実に残して。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
○★
救えなかった人々や茜さん
皆、私の中では大切だけど

その中で特別なのは
長く私と研究を共にし
救おうと尽力した貴方
月代朔さん

月代さんは優秀でしたが
何より優しすぎた

死毒故に疎まれていた私を
使ってしまえば良かったのに
彼は私を友人と言った
ボクと苦しむ人々を救おうと言ってくれました

私を使わずに済む術を探して
どうにもならなくて
苦悩し続けた貴方に
気付けなくて

優しすぎた彼は
邪神の囁きに耳を傾けてしまった
『だからキミには誰も救えないんだ』
貴方の最期の言葉を聞いて
私はそこで間違えてしまったと思った
何も救えなかった、と

逢いたいか、なんて
そんなの
当たり前でしょう

私/死毒で人を救い続ける
壊れてしまった貴方に
逢わなくては



●救い
 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)の歩んできた足元には、沢山の“死”が存在している。今回沙苗から零れ出た茜も含め、哀悼で綴じられた彼らは全て大切だ。
 けれども、一際でも特別な人がいる。
 人を、そして蜜を、知で救おうと身も心も傾けてくれた人。
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――その中で確固たる存在を伴い現れた姿へ、蜜は笑み色のため息を零した。
「月代さん」
 月代朔という人は疎まれ遠ざけられていた蜜と、まずは友達になろうとしてくれた。
 人を害するだけの死毒、そんな己の有り様を受け入れ卑屈に俯く瞳を、同じ高さまでしゃがんで覗き込んできた。
 どうして友達に、と問えば、何故だろうと返った。
 穏和な微笑みには恐らく答えがあった、だから正確には「キミにも知って欲しい」だったのかもしれない。
 斯様に優しくて、己を削ってしまう人だった。
『キミもだろう?』
 蜜の思考を見透かす朔は、白衣の下を流動する黒に手を添える。
「いつだって自分を犠牲に身を捨てて誰かを庇おうとする」
「私は……ボクは…………」
 救えなかった、貴方を。
「月代さん、貴方はどうしてボクを使わなかったのですか?」
『望んで友達になったのだから』
 添えられた手を握り返せない、蜜の中では常に劣等感が満ちている――なにより“ボクが出逢わなければ月代さんは壊れずに済んだ”と後悔が渦巻く。
 アスファルトを赤く塗り替える黄昏の中で、朔は困ったようにため息をついて塀にもたれかかった。
 ああ、この期に及んでまた苦しめ困らせたのか。
「……私は、気づけませんでした。貴方の苦悩に。貴方の優しさを貪って、自分を廻る毒がまるで甘露であるんじゃないかと自分を騙してすらいました」
 結果がでない。
 でも、絶対に希望に満ちた結果に辿り着けると夢をみた。
 だから、本当は疲れていたかもしれない貴方に向けて、あきらめたくない気持ちを滲ませてしまった。
『……』
「嬉しかったんです、研究に誘われて。尊敬していました。貴方の優しさが既に救いだったんです」
 感情の放散に呼応して、顔を覆う指が黒と果てて流れ落ちていく。彼の足元に溜まりを作りながらも形保つ唇は繰り言を吐いた。
「使われることで貴方が救われるのなら……」
『それでどうして』
 朔は自らを示すように胸元に手を宛がい続ける。
『……救われると思ったんだ? 当時、友達を犠牲にして何が得られたと思う?』
 知を重ねても、終ぞ出口は見えなかった。
 救えない、救えない、救えない、と、堂々巡りに閉じ込められた彼は、とうとう邪神の囁きに耳を傾けてしまった。
 邪神が何をもたらすか、蜜は嫌な程にわかっている。だからこそ事件に関わり、挽きつぶされる筈の人を1人でも多く現世へ留めんと足掻く。
 そんなことをしても、あの日の月代さんは救えないというのに、ね……?

『だからキミには誰も救えないんだ』

 あの日と同じ湿度の声でもち最期を再び繰り返す。救われ損ねた蜜を置き去りに、蜜が救いたかった月代朔が、奈落へと呑み込まれていく。
『救えないキミのままなのに、それでも再び逢いたいかい?』
「そんなの当たり前でしょう」
 漸く沸いた突き動かすぐらいの激情、蜜は既に黄昏が始末をはじめた幻影へと追いすがる。
 救えない、救えない、救えなかった。そしてまた救えない、救えない。
「私は」
 死毒たる液体が朔のいた場所にパシャリと染みた。
「私は死毒で人を救い続ける。そうやって手繰って、いつか――壊れてしまった貴方に逢わなくては」
 逢いたい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧鵺・アギト

「お兄様?そちらにいらしたのですか?」
突然懐かしい声を思い出す。
前触れなく突然居なくなった妹。
生死は…分からない。

真面目でしっかり者の思いやりのある性格だった。
「お兄様はどうしていつもこう散らかしてしまうのかしら?まったく…片付ける方の身にもなって下さい!」
なんていつも叱られていたかな?

何故いなくなったのか、そこだけは記憶が曖昧で…。
黄昏時を走り回って探したが結局見つからなかった。

僕はあれから何年もお前をずっと探して……
勿論…会いたいに決まっているだろう?



●求めし者
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――。
 先触れなどなかった。
 当たり前の日常が瓦解するのは唐突であり一瞬でもあった。
 霧鵺・アギト(叡智を求めし者・f32015)は、あの日も今みたいな黄昏の中を駆け回り探していた。
 最初は、どこかに出かけているのだろうと思った。
 だが、いつまで経っても連絡ひとつなく、時間だけが過ぎていく。
 夜になる前に探さねばと焦った。だが既に黄昏。誰彼と見失いやすく、もうどうしようもなかったのかも、しれない。
「……どこだ」
 良く知る近所から妹が行きそうな場所まで、いつまでも落ちない赫い陽の中を走る、奔る、はしる。
 走行は探索となりて、数年の時を費やしアギトは妹を求め続けている、無論今も。
 世界を知る毎に、妹を隠したのは禍々しくも手が届かぬ存在ではないかと、刻印の如く焦りが増える。
 一矢報いること叶う猟兵となった後は「既に手遅れである」事件にばかり遭遇する始末。
「……どこだ。どこにいる?!」
 あの日のように探す。曲がり角は何度折れた、相変わらず妹はいなくて――。

「お兄様? そちらにいらしたのですか?」

 探しましたわと腰に手をあて見据えてくる姿に、アギトはあっけにとられるしか、なかった。
 あの日のままだ。
 いやそれはおかしいんじゃないか? だってあれから何年経ったと思っているんだ??
 不意に、アギトが惑うだけ、妹の作る影が伸びた気がした。
 大人びた表情の作り方、最後の日から同じだけ年を足した姿は、黄昏の逆光で曖昧になる。
「……いや。違う」
 そうじゃないと覆った口元で呟いたなら、アギトの記憶に刻まれている頃の妹が確固たる輪郭を伴い再び現れた。
「もう、探しましたのよ? さぁ、帰りましょ」
 華奢な手がぐいっと突き出された、つなげと言いたいらしい。求められるままに結んだら、妹は誠に彼女らしい笑い方で胸を反らす。
「お兄様は、妹がいないと何も出来ないんですから」
「ああ……」
 真面目でしっかり者の思いやりのある性格だった。当時から物事に没頭しがちな兄を目を配り、細やかに気遣ってくれた。
「お兄様、おおかたまた散らかしすぎて困って探しにこられたのでしょう?」
 何処をどう歩いたか、妹が開いた扉の向こうは茜に染まる見慣れた書斎であった。
 読み捨てた資料は床に机に散らかり放題だし、生理的欲求に応じて採った飲食物の残骸は辛うじて1カ所にまとめたに過ぎない。
「どうしていつもこう散らかしてしまうのかしら? まったく……片付ける方の身にもなって下さい!」
 文句と同時に動く手が瞬く間に床のアレコレを分類し整理する。
 叱りつける声に安堵を覚えつつも、ならばどうしてこの声が聞こえなくなったのかとアギトは自問自答に耽りだした。
「もう、また考えごとですか」
 パフリとまとめ置いた書類がめくれまた沈み収まった。斯様に、妹も自分のそばに居るはずだったのに――何故、いなくなったのだ?
 ああ、ちゃんと確認しないと。お前は何処にいるのだ? と。
「僕はあれから何年もお前をずっと探して……」
「お兄様」
 ゴミをまとめ縛った袋から手を離し、妹は床にしゃがみ込む。1枚1枚書類をつまみ上げ、ぽつり。
「私に逢いたいですか?」
「勿論……会いたいに決まっているだろう?」
 応じ存在を確認すべく伸ばした腕は虚を掴む。

“……だめですよ? 望むと掴まってしまいますから”

 幻想の中でも、妹はしっかり者だ。それが……なんだか悔しくて、苦しい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナイトメア・ブラックローズ
○/★
【誰か】:大切なボクの唯一の理解者だった人間
逢いたい人、大切な、大切なボクの……
もうずっと昔のことなのに、忘れられない、忘れちゃいけないボクの、私の罪(いつの間にか青年の魔女の姿に)

ああ、これは夢なのかな
悪夢を使うはずの私が、悪夢に魅入られるなんて、アリエナイ
目の前に君が、ディノがいてくれるなんて

私はずっと君に謝らないといけないと
暴走した力を封じられる私を君が守ろうとしてくれたというのに
結果的にそのせいで君を死なせることになってしまって
すまない、本当に

吹き出す悪夢をとどめておくことができない
君にずっとアイタイと思っていたのに
これではまた君を殺してしまう
それでもまた君は私を許してくれるかな



●黒薔薇の悪夢
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――。
“もうずっと昔のことなのに、忘れられない、忘れちゃいけないボクの、私の罪”
 ナイトメア・ブラックローズ(黒薔薇の悪夢・f31437)から少年の衣は剥がれ、魔女の本来の姿が露わになった。魔力が留める箍が外れたのだ。
(「いけない……」)
 でも、傍らに少女がいないと安堵する。禍々しい黄昏から咄嗟に庇ったのは無駄ではなかった。
 悪夢を産む魔女は、誰からも理解されなかった。
 だから魔力を塞き止めるために少年の姿を取るに到った。
 苦痛ではなかった。愛らしい己が心地よいし、人より「ナイト」と呼ばれ、無邪気に人生を謳歌できた。
 でも、その起点にいたのは、唯一無二の大切な“あの人”だ。
 そう、逢いたい人と言われれば、ディノしかいない。
『ナイト』
 懐かしい声にナイトメアの口元が震えて崩れる。
 先程、魔法には代償が必要だとのあへと脅し諭したのに、今はしきりにただひとりを求め口にしてしまう。
「……ディノ」
 と。
 悪夢使いが悪夢に魅入られるなんて……アリエナイ。そう否定しても、魂魄の根元に記されたかの人への想いが止らない。
「ディノ、ディノなんだね」
 倒れ伏すナイトは伸ばされた手を取った。ああ、悪夢だろうに暖かい、しっかりとした感触もある。
 手を借り立ち上がったなら、変わらない眼差しと大丈夫かと気遣う柔らかな声音が近づいた。
「大丈夫だ」
 いつもの用に談笑に浸りたいという気持ちは、一瞬で打ち消される。
「……ディノは、大丈夫なわけない、な……」
 だって、私が……。
 いつも明るく自身に満ちた容は、沈痛な重りをつけられ俯く。大切な人に逢えたのに直視できない。
「私はずっと君に謝らないといけないと……」
 どうして、と怪訝に傾げられた首が、ナイトメアの視界に入る。あの日、彼は鮮血に染まり命を堕とした。
「暴走した力を封じられる私を君が守ろうとしてくれたというのに、結果的にそのせいで君を死なせることになってしまった」
 唯一理解してそばにいてくれたディノを、自ら手に掛けてしまった。
 周囲全てから後ろ指がさされた。
 魔女になぞ関わるからだ、自業自得だ、と。
「私は悔しかったよ。ディノが蔑まれたことが」
 ようやく持ち上がった顔は苦渋に満ちた。そんなナイトメアに対して“逢いたかったか”と問いが振る。
「勿論だ。すまない、本当に。ずっと謝りたかった」
 謝罪を紡ぎ面をあげたなら、ナイトメアは自身のおぞましい程に強い力を呪うことになる。
 このディノは黄昏の幻想が作ったモノだ。
 彼にナイトメアから溢れる“悪夢”がまとわりつく、あの日のように。
「これではまた君を殺してしまう。それでもまた君は私を許してくれるかな」
 逃げて、と言えなかった。これもまた、あの日と同じ。

 悪夢に囚われていて。
 ずっとずっとそばにいて。
 いなくなった君にずっとアイタイと思っていた。
 だから、悪夢に囚われていて。

「――」
 嘲笑うように揺らめく黄昏の赫が、悪夢の闇色を受け入れはじめた。
 ディノはその狭間でブリキのおもちゃのように躰をデタラメに振るわせて――膝を折った。
 横たわるディノの姿が、悪夢に蝕まれて欠け落ちていく。自身で止められないから暴走と言うのだ、だから――ナイトメアにはどうすることも、できない。
 なのに。
“赦す……”
 なんて、言わないで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
○★【反応お任せ】

気付けばあの人の頸に手を添えていた
裂けた肉、夥しい血
それがまるで逆再生のように身体へ戻り消えてゆく銀の髪が揺れる側で自分を覗きこむ薄氷の瞳

――、呼ぼうとした声は出ない
なのにあの人は柔らかく笑んで呼ぶ
コノハ
違う、ソレはオレの名前じゃない
だってオレはあなたを騙って、けれどあなたの代わりにはなれなくて

屈託なく笑う優しい人
沢山の事を教えてくれた人
血は繋がらずとも家族の絆は持てると、愛情をくれた人
そうやって育ったから自分もそうしたいとあなたが言ったから
オレも、オレは……

どうしてあなたの名前を呼べないの
どうして、同じ顔で笑うの

逢いたいに決まってる
逢ってもどうにも出来ないと分かっていても



●好きを詰めた『 』
 この『 』の中に、自分の好きなモノを詰め込めるだけ詰めていいよ。例えばなくしたくない大切な人の有り様とかね?
    ・   (空々・f03130)は虚ろで際限がない、だから望みの儘。

 ――……………………。
 無残に裂かれた皮膚に弾けた肉は石榴のよう。
 己が為した所行を   ただただ眼窩に納めていた。喪失を心が受け付けない……此処までは、一緒。
「……」
 瞳に映る姿の記憶が逆回し。
 疵が消える、砕け離れた四肢がはめこまれ戻る、銀髪を濡らす血は去りふわり風で持ち上がり、その刺激で薄氷の瞳があいた。
「――」
    は名を呼べなかった。
「コノハ」
 代わりに柔らかな面差しで愛おしむようにあの人が   を呼んだ。
「違う、ソレはオレの名前じゃない」
 突き返されても、かの人は微笑みを崩さずに   の言葉に耳を澄ます。無下にせず常に慮ってくれた。そんな慈しみを享受してはならぬ。何故なら、
「オレはあなたを騙って、けれどあなたの代わりにはなれなくて」
 屈託なく笑う優しい人。
 沢山の事を教えてくれた人。
 血は繋がらずとも家族の絆は持てると、愛情をくれた人。
 そうやって育ったから自分もそうしたいとあなたが言ったから。
「オレも、オレは……」
 惜しみなく愛されて、幸せになれた。
 満たされたから、いなくなる『さみしい』を恐れた。
「――ッ」
 名が、呼べない。
「コノハ、どうしたの。泣かないで……ね?」
 白魚のように華奢な指が零れる涙を掬い取る。子供をあやすように。
「違う、ソレはオレの名前じゃない」
 のっとったくせに、だだっ子のように喚いた。困惑し下がる眉に申し訳なさが胸をせり上がる。
「コノハ」
「…………ちが、う」
 あなたにずっといて欲しかった。
 あなたの存在がなくなるのなら、自分という『 』にあなたの全てを詰め込んで道理に逆らう。だって――。
    なんていらない。
    なんてあなたよりもなんの価値もない。
    は――。
「名前を、呼んで…………」
 ぐちゃぐちゃだ。
 ――あの人を殺めた自分なんてモノは無くてイイ、と始まりに刻んだのに、あなたに名前を呼ばれたい。
 コノハは、あなだだ。
    は、
「だぁれ?」
 ワンオクターブ下がった声は、この人からじゃない。自分からだ、そうだ、そうに違いない。だってこの人は今だって過去と何一つ変わらずに穏やかに微笑んでいる。
「コノハ」
 頷きたくもないけれど、他人になったらこの人との刹那の糸が切れてしまう。
 じゃあ、此方からこの人を呼べばいい――コノハ、と。
「……できない、のに。どうして……」
「コノハ、さみしいの? そんなにぽろぽろと泣いて、なにかかなしいことでもあった?」

 どうして、同じ顔で笑うの。

 さみしいは憶えていて、かなしいは忘れ…………。
「逢いたい」
「逢えないから、かなしい? それとも、さみしい?」
 答えられないのが不甲斐なくて、折れる程に奥歯を噛みしめる。
 オレは、この人を殺してしまった。
「コノハ……」
 すぅ、と目の前の胸元が大きく膨らんだ刹那、生暖かい赤が   の頬にへばりつく。
 握りしめていた手が折れて骨が飛び出た。爆ぜた胴体、夥しい血肉の香り……。
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――。
「痛い」
 なんで……?
 黄昏の光の中では無色に見える血痕から、あの人のままの声がそう問いかけた。
「オレが、殺したから……だ」
 どうしようも、できなかったし、これからも、どうしようも、できない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナ・ヴァレンタイン


私の記憶か、それとも適当に捏造してるのか
なのに昔と変わらず、無駄に理屈っぽく哲学めいた口調ですね“博士”
ドロレスはもう捨てた名です。今はレナで

黄昏時の海岸で「人間と機械の境目」がどうの、「人形の美しさ」がどうのと思索しておいでで?
本当に変わりませんね。私はすっかり変わりました
拳銃、ナイフ、人殺しも大分上手になりました、貴方の想定通りに
『自由を通すには力がいる、世界は無慈悲であるが故に』
どこまで先を見ていたんですか、と聞いても煙に巻くでしょうから一言だけ

ありがとう
貴方のおかげで今、私は戦える



また逢いたいか?
『空と海が交わる先、その彼方でまた逢おう』
死に際にそんなことを言ったのは貴方でしょうに



●タイプ・ドロレス
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――。
 レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は海辺に立っている。
 竹籠に小豆を入れて傾けたなら、よせてはかえす海の音。そんな無駄知識のせいで目の前の光景は嘘くさく落ちぶれた。
 記憶を具現化したのか、それともつまみ食いして捏造しているのか――その疑問は理論武装の現れだよ、とでも言い出しそうな“博士”は、海の彼方を見据えている。
 いや、言われたな、今。
『ドロレスか』
「ドロレスはもう捨てた名です。今はレナで」
 くすんだ金色の髪をなびかせる人形は、人に愛されるよう可憐な造形に仕上げられた。だが唇を歪めたレナの笑い方はハードボイルドめいた男のそれだ。
 物体に強い意思があるのなら、沸き上がる“憎悪”や“怒り”は自分のものじゃあないと知らぬフリができたろう。
 人形に意思などないのなら、植え付けられた記憶と人格の再演に身を任せられただろう。
 だが、そのどちらでもなくどちらでもあるのがレナである。複雑な彼女?彼? を思索のネタにし耽溺する“博士”がそのように制作した。
『その様子だと、相変わらず“人間と機械の境目”なく存在している』
「本当に変わりませんね」
『ドロレスも変わらぬ美しさだ。人形は永遠に衰えず制作された瞬間の美を保ち続ける。それは老いに逆らえず常に変化する人間とは対照的だ』
 はぁ、とレナはあけすけのないため息で隣に座り込んだ。じわじわと海が満ちた砂は湿っていて気持ちが悪い。
「本当に相手のことを見ても聞いても何一つ理解しようとしない所が変わりませんね。私はすっかり変わりました」
 気持ち悪いからすぐに立ち上がる。ズボンについた湿った砂を払う素振りで、隠匿していた鉄の塊を密かに握りしめて。
『随分と巧みなったようだ』
 満足げに鳴った喉に突きつけられた刃も、こめかみに押し当てられた銃口も“博士”にとっては想定通り。
「こんな風に、人殺しも大分上手になりました」
 殺意を籠めるより速く、首を絶ち脳漿を吹き飛ばすなんて朝飯前。

「『自由を通すには力がいる、世界は無慈悲であるが故に』」

 綺麗に重なる台詞に唇が緩んだ。
 黄昏は“博士”を顕わすのが上手だ、それでもって、もうお腹がいっぱいで胸焼けがしている。
「――どこまで先を見ていたんですか」
 答える代わりに赫が沈む地平線を指さす。そちらへ向けてレナが目を凝らしても何何もわかせない。そうやってなにかと煙に巻くのは日常茶飯事。
「変わりませんね」
 黒い帽子に手をかけた。これは自らが選び取った“最初の選択”だ、ドロレスを捨ててレナとなった栄えある第一歩。
 未だに“博士”の手の中で踊っているのだろうが、構わない。
 だから、言いたいことはたったひとつ。

「ありがとう
 貴方のおかげで今、私は戦える」

 漸く“博士”はレナへと振り返った。だが都合良く射した黄昏の赫が顔を塗りつぶして、どんな表情をしているのやら。
 帽子押さえると、肩に垂れ下がる金髪を海風に預けて流し払う。男性とも女性とも取れる所作を前に“博士”は問いかけを紡ぐ。
「また逢いたいか?」
 はは、と気の抜けた笑いが漏れる。
「『空と海が交わる先、その彼方でまた逢おう』――死に際にそんなことを言ったのは貴方でしょうに」
 なんて風に黄昏の“博士”へ応じたならば、ただ「レナ」とだけ呼ばれた。それで仕舞いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セツ・イサリビ

※召喚:加古川沙苗の真実の本
読まずとも見えた
ああ、やはり神など碌なものではない
『してはならない』ことばかりだ

【橋本・茜】
茜、ちいさく優しい戦乙女
君は勇敢に試練に立ち向かい、勝利した
愛には恵まれなかったが、最期は施設の皆と沢山の猫に愛されて逝った
こんな黄昏の光の中、俺は茜を看取ったよ

俺たちを受けいれるまで、時間はかからなかった
人の子には荒唐無稽な存在を、そのまま理解した
賢い子だった、哀しい理由からであろうとも

覚えているかい? 初めて会った中庭で
君はポウを優しく撫でてくれたね

俺と(俺たちかな)逢ってくれるかい?
逢ってくれるなら使いを出そう
白い猫が君の所へ行く、撫でてやってほしい



●神なればこそ
 読むまでもない。
 セツ・イサリビ(Chat noir・f16632)は召喚した“加古川沙苗の真実”が綴られた書物を即座に無に帰した。
 神とは碌なものではない……『してはならない』ことばかりだ。
 神は既に知っている。沙苗が見ている少女の像は、呆れる程に真実からはほど遠いのだ、と。
 そして神ならば、邪神などという輩が起こす禍々しい“奇跡”を反転し、本来の働きをさせることなどわけもない。
 目を灼く赫が、全ての輪郭を曖昧にしていく――? いいや、あの日も今も、セツは明確なる姿をもって存在している茜と共にいる。
『ポウは元気? 神様』
「憶えていてくれたんだね、嬉しいよ」
 茜、ちいさく優しい戦乙女。
 君は勇敢に試練に立ち向かい、勝利した。
 愛には恵まれなかったが、最期は施設の皆と沢山の猫に愛されて逝った。
「久しいね。元気だよ。ほら」
「にぃ」
 セツの肩でしっぽをたてて、黒猫はきゅうと目を閉じる。友人との再会を寿ぐように。
『よかった。本当は知ってたけどね、ポウが元気なことは』
 ふっふっふ、と袖口を口元に宛がい得意げな茜は、生前より顔色も良くネコミミふっかりのパーカーがよく似合っている。
 邪な神の支配する病院へ親に売られた。茜はとにかく聡くて、全てをわかっていた。だからこそ、そこに現れたセツら猟兵をすぐに受け入れて、僅かなる希望に賭けられたのだ。
 人の子には荒唐無稽な存在――ああそうか、ともセツは肩の力を抜いて吹き出した。
「茜も“そう”なったんだね」
 初めて会った中庭で優しく撫でてくれた手のひらへ、ポウが頭をこすりつける。猫を愛し、猫を愛する心優しき戦乙女。
『そう、なのかな? ……うん、猫さんを見てるよ。生まれる子、死んじゃう子……わたしにできることはちょっとだけ。猫さんを、好きな人にむすぶの』
 パーカーを引っ張って俯く唇は『いじめられている子すべてを助けてあけられない』と悔しそうに尖った。
「そんなものだよ、神なんて」
 万能に見せかけて叶えられるのは一匙に満たない。
『そっか、現実はきびしいね』
「厳しいと思えるぐらいになったのだね、純粋に嬉しいよ」
 親の虐待、不治の病、短い寿命――その全てを受け入れざるを得なかった、それしか選ばせてもらえなかった哀しい少女。
 だが今の茜は叶わぬことへ異を唱える。
『よしよし。ポウ、いいこいいこ』
 顎の下をさりさり、口元にそって指ですりすり、猫のツボを心得た撫で方は生前のふれあいから得た。
 本当に猫に愛され、病院内の職員やボランティアスタッフも彼女を好んだ。短い終末の時間は常に笑顔がそばにあった。
 ……黄昏の赫の縁が、ポロポロとビスケットのように崩れはじめた、刻限か。
「茜、俺と……俺たちかな、と、逢ってくれるかい?」
『もうあってる』
 ついっと、顎の先まで撫であげたところで茜は指を離す。ポウの喉がくるると名残惜しげに鳴った。
『……じゃなくて?』
 ああ、やはりこの子は聡い。
 セツの意図がわかったのだろう。おいでと言わんばかりに腕を広げた。
「この子は使いだよ」
 元からそこにいたようにセツの手のひらで丸まり眠っている白猫を、起こさぬように気をつけて華奢な腕に托す。
「撫でてやってほしい」
「わ、ふわふわ……ね、名前は?」
 セツが某かを口にした時には、既に黄昏は去っていた。果たして声は届いたかどうか……それでも、使いの白猫が茜と共にいるのは確かであるし、今はそれで充分だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『救済を謳う終末の龍『髏淵』』

POW   :    魂魄乖離咆哮
【UCを無効化し、精神と肉体を引き裂く咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    贄貌苦面龍鱗
戦闘中に食べた【ことがある生きた人類の血肉】の量と質に応じて【状態異常を無効化する人の顔の鱗を生成し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    人類救済説話
【全ての人類を生・老・病・死から永劫に救う】という願いを【人類の心の深層】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。

イラスト:塚原脱兎

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は神樹・桜花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●無様な顕現
“死者との再会”を願う女を起点に、同じ願いを持つ者を集めた。
 その上で、そもそもが人類とは深層に死への忌避を抱いているものだから、死が消滅すると語ればココロを捧げる者は幾らでも現れる筈だった。
 しかし実際はどうだ?
 起点の女は自らの愚に気付かされて、髏淵への信心を手放した。
 彼女に随する人間も、1人を除き死を受け入れた。
 多数を集めて行う儀式も、術式は破壊され明日の実行は絶望的である。故に、鱗が剥がれ落ち赤い目も半分以上潰れた無様な有様で顕現せざるを得なかった。
 体育館の天井をぶち抜いた髏淵は憂いに満ちている、これでは人類を『生・老・病・死』の苦しみから解放出来ないではないか。

 生きるのが辛いなら、此処に来れば、良い。
 老いが恐ろしいのなら、そのままの姿で留めてやろう。
 病に望みを絶たれたのも案ずるな、全てを削り落とした魂は健康である。
 死は訪れない――髏淵の内側では、永劫に存在を続けられる。

 髏淵は、何処までも悪意のない龍である。
 だが、人々の理解へは終ぞ辿り着けなかった。
 一体誰が望むのか――寿命が尽きてもなお、髏淵の中に無理矢理に封じられることを。ただただ無為に何も為せず漠然と在れとの強要を。
 魂が感情を持つのなら、いずれは解放を願う。だがそこに閉じ込められたが最期、与えられる筈だった終わりが消失する。成仏も昇天も、永劫に訪れない。
 悪意はない。
 しかし人からすると邪でしかない。

 髏淵は今、唯一“黄昏”に捉えることが出来た少女をわしづかみにしていた。
「……健吾、健吾、ごめん。今から、別れよ? ……そしたらさ、健吾は死ななくて済むんだよ……けんごぉ…………」
 金色に抜いたバサバサの髪は乱れ、覆い被さる容についた眼窩は“黄昏”色。彼女は未だあの“黄昏”の中にいる。
 猟兵達が飛び込み他の被害は免れたものの、元より髏淵への信仰を深めていたあゆだけは“黄昏”から逃れることが出来なかった。
「健吾に逢わせて、健吾に逢わせて、健吾を取らないで、健吾行かないで、健吾、健吾健吾健吾……」
 針が飛んだレコードめいた音を垂れ流す少女を、今まさに開いた顎門で喰らわんとした刹那、絹を裂く声が響き渡る。
「駄目よ、備前さん、目を覚まして! やめてやめて、備前さんを離してぇええ!」
 髪を振り乱し現れたのは加古川沙苗。
 言えた義理ではない、自分があゆを洗脳し巻き込んだのだから。
 でも、もう間違えたく、ない――。

 悲痛な叫びをあげる沙苗も、今まさに取り込まれんとすあゆも、本来ならば決して助からない。
 だが、何者にも侵されぬ埒外の存在“猟兵”がいる。この瞬間より、彼らの介入は開始される。
 さぁ、取り返しがつかなくなる前に、為すべきことを為せ。


【マスターより】
 最終決戦です。
 2章までご参加いただいた方は採用確定、他の飛び入りさんは余力があれば採用します(サポートさんは完結しない場合のみ採用)

>プレイング受付
【3月30日(火)の朝8時31分~31日(水)午前中一杯】
31日午後から執筆に入ります
上記を過ぎて来たプレイングは【タイミング的に書けそう】なら採用します


>NPCの状況
・一般生徒と教師、榊原武彦と井関のあ
 UDC組織の誘導で避難が完了しています
 戦闘に巻き込まれることはありません

・備前あゆ
 断章の通り、今まさに喰われようとしています。救出には某かのアクションが必須です
 現状、彼女は一時的な狂気状態ですので説得は通じません
 猟兵が髏淵を倒せば狂気から解放されます、後遺症も残りません

・加古川沙苗
 自らの行動を悔いて我武者羅な気持ちで助けに来た状態です
 放置すると髏淵に喰われる危険性が高いです
 猟兵からの話は通じます

※体育館から出せばUDC職員に保護を引き継げます
※勿論、他の方法で保護していただいてもOKです


>救出プレイングについて
 加点方式で判定しますので、やりたいことをどうぞ
 細かな連携相談は難しいと思うので、行動が被ったり矛盾したりしてもお気になさらずに
(重なったら、助けるという意思にのっとったアドリブが入るPCさんも出るかも)
 勿論、連携していただくのも歓迎ですよ

※「NPCを積極的に殺す」というプレイングは、参加者がひとりでも「助ける行動をしている」時点で採用されません


>事後
 プレイングにあればさらりと触れる程度です
【追記】
・術式の物理的破壊
・本来の儀式(演劇公演)の阻止
・信仰者、特に首謀者の説得成功
・“黄昏”に囚われた殆どが耐性のある猟兵であった

以上の猟兵の行動により、髏淵の能力は著しく低下しています
具体的には
・魂魄乖離咆哮(POW)の攻撃範囲が旧体育館内に限定&UC無効化能力が不能化
・人類救済説話(WIZ)の呼びかけ範囲が旧体育館内に限定
です
(特別な対策をせずとも旧体育館にいるNPC以外には被害が出ない、殴って倒せる、との認識でOKです)

全てが阻止出来ていないと、広範囲を殺して復活させて「贄貌苦面龍鱗(SPD)」で喰らうという阿鼻叫喚もあり得ました
(上の「復活させて」削除です、すみません)
備傘・剱
死を受け入れられないほどの自責か
俺も、ああなれていたら、もっと、違う人生を歩んでいたのか、な

デビルダイスロール、発動、一足りない達、加古川を守り、備前を庇って、安全圏まで無理矢理でもいい、連れていけ

残りは、蛇狩りだ、俺に続け
誘導弾、呪殺弾、衝撃波、斬撃波、ブレス攻撃を浴びせつつ、鎧砕きと鎧無視攻撃を二回攻撃で食らわせる
動きは、結界術で封じ、式神を纏わせた一足りない達を死角から襲わせる
オーラ防御は、常に張り続けておく

…髏淵とかいう蛇野郎、一つ言っておく
お前は、人の命をもてあそんで、傷つけちゃならない思いを傷つけた
それがどれだけの怒りを買うか、キッチリその身に刻んで逝け!

アドリブ、好きにしてくれ


冴木・蜜
死なせはしない
誰にも間違えさせはしない
絶対に

身体を液状化しつつ
一般人の安全を最優先
彼女らを『盲愛』
傍を離れず
あらゆる攻撃から護りましょう

加古川先生
私が彼女を連れてきますから
そこを動きませんよう
どうか彼女を助けるのを手伝って下さい

腕を引き延ばし最短距離で
備前さんと邪神の間に割り入り
顎門から庇います
そのまま鷲掴みにする指を融かし抉じ開け
引き剥がしましょう
必要であれば腕を囮にしてもいい

大丈夫
痛みはありますが
私は死なない
彼のために死ぬわけにはいきませんから

戻ったら加古川先生と共に
彼女を担いででも
旧体育館外へ避難させます
その際、飛んでくる攻撃があれば
身体を捻じ込んででも全て庇います


霧鵺・アギト
一人…捕まってしまったのか。
これは一刻を争うな、急がなければ…!
まずは備前あゆの救出を優先。
【属性攻撃】で風の刃の魔法を放ち、鷲掴みにしている敵の手を切断し解放を試みよう。

無事に保護できたら加古川先生に備前君を引き渡し、体育館から連れて出てもらうように頼もう。
贖罪も命あってのこと。
我々の強さは見ただろう?
ここは僕達に任せて君達は生き延びる事を優先しろ。

髏淵、と言ったか、その救済はただの現実逃避ではないのか?
苦しみ悩み後悔する、それも人生の醍醐味であり人間の強さだと思う。
さあ、今から永劫を終わらせてやろう。
【全力魔法】でUC発動。
限りのある命の尊さ、これで貴様も感じることができるかもな。


南雲・海莉
UCで呼び出したバイクで真っ先に飛び出すわ

その手を離して!

剣で呼び起こした雷の魔力を刀に移して腕を切り落とす
まゆさんの体を奪うように抱き抱え
庇いつつバイクで脱出する

抵抗されても絶対に離さない
相手の手を上から、力付けるように握る
敵の攻撃は見切って回避
難しいなら自分の体で庇う
絶対に彼女には当てさせない!

先生も早く外へ!
後は任せて
昔の私は無力でも…今なら理不尽と戦える
歩き続けた先にできることは生まれるから

(鱗に表情を強張らせ、深層に呼びかける声に抗う)
生きる事も死ぬ事もできないことを救いだとは言わせない
あんたは歩き出せない哀しみと苦しみを与えているだけよ!

輪廻を、再び巡り会う奇跡を、皆に返しなさい!


ナイトメア・ブラックローズ
○ 二人称:キミ→お前

嗚呼、吹き出す悪夢が止まらないのはお前のせいか
お前を殺せばこの悪夢を終わらせることができるのか

いいや、悪夢は終わらない
私が「黒薔薇の悪夢」である限り、悪夢が終わることはない
そのことは私が一番わかっていることだ
……ここに彼女(のあ)がいなくて本当に良かった
彼女に見せるのは「ボク」の可愛い姿だけでいい

ここにいる人間が邪魔だが、救出は他の猟兵がやってくれるだろう
私は元凶たる髏淵の相手をする
オブリビオン相手ならばいくら悪夢を生み出しても問題ない

悪夢をこの体育館内で収める理性くらいは残っている
外にいる人間達には影響は出ないように気をつけなければな


セツ・イサリビ

【備前あゆ・加古川沙苗の確保】
攻撃の手は足りている
俺は二人の救助と保護に専念しよう

風を吹かせて大人しくなったところで
戦闘の隙を狙って確保、戦場の外へ
幸せな春の夢を見て眠るといい

全ての救済などできないよ
巡る魂の流れを乱し、生者が過去に囚われる
世界の理を乱すことは何であっても許されない
『できることでも、してはならない』事ばかりだ
口先の救済より、ずっとね

※加古川沙苗と茜へ
これは内緒の話だが
茜は最期に秘密の場所で、周囲の者に心から愛されたよ
今は神様の見習いをしている
胡散臭いにも程があるが、本当の話だ

俺の使い猫は世界をつなぐ
茜、言葉があれば届けられるが、どうする?
君の思うようにしてほしい


コノハ・ライゼ
動き見切り敵の視界遮るよう【天片】の花弁を放つヨ
隙見せず2回攻撃で花弁に呪詛耐性合わせたオーラ防御を乗せ
範囲攻撃で加古川センセを中心に広く展開
黄昏を打ち消す真っ青な空色で、呼びかけをも打ち消す盾としセンセを庇うわ

残念ながらあのコに声は届かない、今はネ
コレはオレらの領分……『しかるべき専門家』に任せ隠れてンのをお勧めするケド……
その目で、自分の起こした事の顛末を見届けたいのなら
守るわ
……アナタは居なくちゃいけないヒトだと思う、子供たちの為に
ソレにあのコのケアも頼まないとだしネ

攻撃のカウンター狙い花弁を傷口へ潜りこませ抉って生命力を喰らうねぇ
救いナンて笑わせる
ソレは、自分自身があってこそでしょうが


レナ・ヴァレンタイン
――私は「神様」の類が大嫌いでね。詐欺師まがいのクソ野郎は特にな
お前の言う“救い”など人には必要ない
余計なお世話だ引っ込んでろ

ユーベルコード起動
“今”の私は陽の光が天敵なんのでな、まずは時間を弄ろう
黄昏時が終われば次に来るのは夜。蒼褪めた月の下は私の王国だ

試作三号破城剛剣に乗って接近、それまでの敵の攻撃は「なかったこと」に現実を書き換え対応
『お前の叫びは届かない』
『お前の苦悶は届かない』
『お前の願いは届かない』
それでも届いた攻撃は防御力10倍と欠損再生能力ゴリ押しで耐える
近づければ怪力任せに剛剣を振り回して可能な限り滅多打ちにする
眼は全て叩き潰す勢いで

お前の言葉は、二度と誰にも届かない


忠海・雷火
人格は交代
さあ、終わりにしよう


先ずは救出。短刀を開いた龍の口内に投擲、痛みがあるかは不明だが一瞬でも時間を稼げれば良し
同時にあゆを掴む手に向かい刀で龍の指を切断。先に其方へ向かう猟兵がいれば、追撃があった際に間に入れるよう観察と準備
一般人2名が保護される迄は、庇う・武器受け・カウンターで意識を此方に向けさせる等の行動を主とする

無差別咆哮には、可能な限り多くの死霊を喚びドーム状に展開し盾とする
音が少しでも遮断されれば威力も多少は落ちる筈
救済は先程の通り。そんなものには賛同しない
頃合を見てUC使用。狙いは目や口内、鱗の剥げた箇所
防御に回り受けた傷の分、黄昏で見た光景に対する心の痛みの分。受けて貰う


文月・統哉
即座にUCとオーラ防御発動
高速で飛び込みあゆ庇う
髏淵から引き離し
あゆと先生抱え体育館外へ
或は髏淵抑え安全確保の時間稼ぐ
絶対誰も死なせない!

生老病死
そうだね人生を全うするのは楽じゃない
でも幸せもまたその中にある
生きてこそ
大切な誰かと出会う事も出来るから
これまでも
これからも

誰の生も誰の死も奪わせない
歩むのは其々の道
失った者への想いと共に今を生き
旅立った者達もまた廻る輪のその先へ
結ばれた縁は巡る
いつかまた出会うために

揺らがぬ意志を胸に
大鎌で斬る
龍よ骸の海へ還れ

あゆ
好きな人の幸せを願う
それはきっと彼も同じ
自分自身も大切にだよ

先生に動画見せたい
あの笑顔を
な、神様?

武彦は演劇続けるんだろ
次の公演が楽しみだ




 黄昏の赫に背を押され旧体育館に駆け込んだ猟兵達は、眼前の光景に心乱すより先に行動に移る。悲劇を確定させてはならない!
 一方で、髏淵は歓喜に打ち震え陶酔の域にあった。まさに今、讃え縋り付く人の子と相対しているからだ。
 案ずるなと先割れの舌で頬をしゃぶり愛でる。その時、ちくりとした鋭痛が舌の裏にもたらされる。痛みとしては微細であるが、あゆの頭部をかみ砕くのに遅れが生じた。
 痛みの元となる短刀を投げ入れたのは忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)……いや、カイラだ。
 カイラが作り出した暇を、ありとあらゆる飛び道具にて継いだのは備傘・剱(絶路・f01759)である。同時に招いた『妖怪一足りない』へ、あゆ達の守護と救助を命ずる。
 彼らの脇を一陣の銀桃色の風が駆け抜けた、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)の駆る宇宙バイクだ。
 電光石火の状況変化、だが喫驚すら沙苗の無謀な我武者羅を止めるに到らない。
「加古川先生」
 同じ白衣の手に腕を掴まれつんのめる彼女へ、声は重ねて掛けられる。
「加古川先生。私が、私達が彼女を連れてきますから」
 仲間達の生み出す風が吹き抜ける中、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)は穏やかながら明瞭なる声で留まるよう言い聞かせる。
「どうか彼女を助けるのを手伝って下さい」
「大丈夫だ」
 傍らのセツ・イサリビ(Chat noir・f16632)も落ち着くように促す。彼女に伝えてやりたいことは沢山あるが、さすがに今はそれどころではない。
「センセは任せて、行って」
 髏淵の赤目を覆うは無数の青空。黄昏色の禍々しい瞳を無数の花びらで隠し、コノハ・ライゼ(空々・f03130)が沙苗を庇い出る。
 花びらの隙間よりの光景は、虚ろな瞳のあゆと救出にしのぎを削る猟兵達が見え隠れ。
「残念ながらあのコに声は届かない、今はネ」
「私が備前さんのことを巻き込んでしまった……どうすれば……」
「コレはオレらの領分……『しかるべき専門家』に任せ隠れてンのをお勧めするケド……」
 花びらで衝撃波を押し返しコノハ横目で割り切れない風情の沙苗を見やる。
「蛇狩りだ、俺に続け」
 剱がはった声の通り、舞台の上では命がけの救出劇が同時進行している。
 一人捕まった憂いが浮いたと同時に、霧鵺・アギト(叡智を求めし者・f32015)の指先は風の術式を編み上げを完了、精密さに比重を置いて射出する。
 アギトの魔法は 剱の物量を重視した魔弾の群れに紛れ征く。髏淵が認識する前に手首に着弾しスッパリと綺麗に両断。
『オォヲヲヲ……!』
 虚空に投げ出されて円を描く自分の腕だったモノと、未だ掴み続ける敬虔なる娘を、髏淵は反対の手を伸ばして掴みとった。
「しつこい、その手を離して!」
 疾風迅雷、雷孕む刀で下から海莉が突き上げて二本目の切断も試みる。
 半分ほど千切れ後ろに揺れたあゆと牙の間に文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)躰をねじ込んだ。
「……ぐっ、あゆは、殺させ……なぃ」
 今まさに喰らおうとしていた顎は、統哉の頭部と上半身へ。食い込む牙、ぬるい液体が頬から肩を伝うも、統哉は奥歯を噛みしめ痛みを堪えんとす……が、痛みはいつまでたっても訪れなかった。
「……大丈夫、ですか」
 したたり落ちる液体は黒い。
 蜜が伸ばした腕は蹈鞴折りの液体。あゆと勇敢なる仲間を庇い代わりに喰らわせたのだ。
 その間に旋回し再びあゆとの接触を狙う海莉。彼女の行く道の障害物を吹き払い背を押すのは、絶え間なく撃ち続けられる剱の衝動波である。
 カイラが青白い鱗を駆け上がり跳ねた。裏拳を当てる要領で渾身の力でもって指に向け切りつける。
 骨折音を数百まとめたかのような轟音が耳を劈く中で、
「行け……」
 叫ぶようなカイラの合図に合わせバイクを寄せた海莉があゆへと腕を伸ばす。
 統哉は両腕を振り下ろしてあゆの躰をそちらへ押しやり、盾のように広がる蜜が統哉の背に滑り込み髏淵から引きはがす。
 そうはさせじと爪先があゆの頭部に振り下ろされる。
「!」
 海莉は必死にあゆを抱き寄せた。至近の猟兵二人もここで散る覚悟を固めせせり出た刹那、二本目の腕がぶづり、と本体から千切られた。
「……誰も、殺させはしないよ」
 アギトの手元で渦巻く魔力の残滓が、如何に無理をして精密さと素早さを共存させた二発目を精製したかを物語る。
 がんっ。
 乱暴に床に着地したバイクの振動で、あゆが再び髏淵へと腕を伸ばして暴れ出す。
『健吾、健吾ぉ……』
「お願い、今は大人しくして」
 海莉の頬をなでつけていた風向きが変わった。突如四肢から力を抜いたあゆの傍らには、いつの間にか跪くセツがいる。
「少し眠ってもらったよ。今のうちに……」
 と、茫然自失の沙苗へと振り返った。
 此度の首謀者であり、心弱くも悔い改めた女の頬を黄昏の赫が染める。その色が、まるで緞帳を堕ろすように蒼い闇へと、変じた。
「これで漸く思い切りやれるな」
 お色直し――レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は、相も変わらず冷静な儘で帽子に当てた指で整える。
「そうだ……嗚呼、吹き出す悪夢が止まらないのはお前のせいか……」
 対照的に顔を覆うナイトメア・ブラックローズの声は情感強く震え、普段より覆う明朗なる少年のペルソナが剥がれつつある。
「……お前を殺せばこの悪夢を終わらせることができるのか」
「悪夢か。奇遇だな、私もずいぶんと夢見が悪い」
 金髪人形の立つ向こう側、遠近法で小さく見える体育館の開かれた扉には“蒼褪めた月”が一杯に満ち全てを塞いでいる。
 月の領分は夜だ。そして夢は、悪夢も含め本来は夜に随するもの――ナイトメアの腕を急速に伸びた茨が伝い絡まる。漆黒の薔薇を思わせる髪が豊かに伸び、悪戯めいたあどけない唇は魔女の艶然たる笑みで歪んだ。
「私が『黒薔薇の悪夢』である限り、悪夢が終わることはない」
 さぁ、夜を往け。


 蒼い夜の中を、埒から外れた猟兵達が命を燃やして踊る。この舞踏会は、寿命という概念に対して歪んだ結論で思考停止している古の龍はお呼びではない。
「さぁ、お前が隠しておきたい根源の恐怖を曝いてやろう」
 右翼より髏淵に沿って這い上がるのは、ナイトメアより溢れて止らぬ悪夢の奔流である。未だ場内に留まるあゆと沙苗、そして仲間を巻き込まぬ理性はある。ディノを巻き込みもたらしてしまった悲劇は繰り返しは、しない。
「抑えろ」
 悪夢に身もだえする巨体が斃れる側へ、剱は召喚済みの『妖怪一足りない』を駈けさせた。わぁと懸命に走り仲間を足がかりにして出来るだけ高く高く登り手を伸ばす。
「起動。動くな、下衆龍」
 そうして稼いだ時間にて踵に仕込んだ墨が描いた陣を起動、斃れる事すら赦さぬと虚空に縛り付ける。
「――私は「神様」の類が大嫌いでね。詐欺師まがいのクソ野郎は特にな」
 淡々とした中にまぶされる怒り、それは体育館の左翼、二階通路より。
「お前の言う“救い”など人には必要ない、余計なお世話だ引っ込んでろ」
 柵を踏み越え重力任せの大剣殴打。首にフックを刺し留まって、毒舌を浴びせるのも忘れない。

 体育館の壁に焦げ痕をつける程の急ターンにて海莉は沙苗の傍に寄った。
「先生も乗って、早く外へ!」
「ああ。ここに一緒に乗って今の内に逃げてくれ」
 エンジン音の合間に声をあげるアギトの眼前、統哉が髏淵の赤い瞳を左右からなぎ払い、痛みで暴れる龍に振り落とされた。『一本足りない』が落下点でクッションの役割を果たす一方、カイラが向かい刀で追撃を阻止。
「贖罪も命あってのこと」
 ぐっと唇を噛みしめて沙苗は眠るあゆを見つめる。
「安心したまえ。今は幸せな春の夢を見ているよ」
 剱の結界術にあわせ風を送り補助するセツが退出を促す。
「我々の強さは見ただろう? ここは僕達に任せて君達は生き延びる事を優先しろ」
 それでもまだ決断できぬ様子の沙苗へ、アギトは画然とした口ぶりで強く言い放った。
「――私は」
「頭を下げてください」
 崩れた天井の壁を見て取り覆い被さる蜜。躰が解けて大きな布状となり沙苗を完全に包み込んだ。
 同時にコノハは人差し指のタクトを振って無数の花びらで落下物を破壊する。欠片が彼らを害さぬよう花びらの一部を護りへ分けもする。
 確かに、危険な戦場である、でも。
「このまま退場は納得いかないって感じネ」
 逃げるよう促す仲間が正解なのはわかった上で、コノハの容は受容を浮かべる。
「その目で、自分の起こした事の顛末を見届けたいのなら、守るわ」
 ほうと瞠目するアギトは、沙苗の表情を確認するよう目を向ける。
「それが先生の選んだ戦い方ね、わかった。備前さんは任せて」
 海莉はエンジンを吹かすと、後は振り返りもせずに体育館入り口へとタイヤを回す。
「我々は強いからな」
 最善手に見えなかろうとも沙苗がそう選ぶならそこ含みで尽力するまで。風に煽られた鮮やか色の髪をなびかせて、アギトもまた振り返らずに舞台へ走る。
「わかりました。護ります」
 だって、と蜜は不器用に、だが何処か子供のように口元を綻ばせた。
「私はより多くの人に寄り添いたいんです。加古川先生の想いへも寄り添いたい」
「決まりネ。じゃあひとつ約束して、学校を止めて責任から逃げないって」
 ハッとする顔に、図星でしょと苦笑い。
 蜜が傍らにつき、セツが頷くのを確認しコノハは腕を天井に伸ばした。舞い散る花びらを招き寄せ、花で飾るは戦化粧。
「……アナタは居なくちゃいけないヒトだと思う、子供たちの為に。ソレにあのコのケアも頼まないとだしネ」
 護ると決めたから、後は前へ。


 手首を奪われた無残な髏淵は、憤懣やるかたないと言いたげに躰を捻り震えると大きく口を開け大気を吸った。
『ぐぉ、アアァ……死を、消したい救済をもたらしたいだけだ……何故、邪魔をするのだ』
「全ての救済などできないよ」
 靡く髪が頬を撫でる儘に、セツは風を与える。
「巡る魂の流れを乱し、生者が過去に囚われる。世界の理を乱すことは何であっても許されない」
 仲間が防御の準備を整える暇を稼ぐのが主目的だとしても、この風が髏淵に対しても安寧もたらすよう願ってやまないのは事実だ。
「『できることでも、してはならない』事ばかりだ。口先の救済より、ずっとね」
 口先で済まさなかったから邪へと仕分けられたモノへ、神はただただ憂いを注ぐ。
 他者から縋られるしか求めぬ髏淵が駄々のように喚き出すのを見て、カイラは腕をまくる。
「集え」
 死霊とのゲートを繋ぐブレスレットを掲げ命ず。
 くるり。
 彼女の手首を中心に巻いた白い渦は、倍々ゲームの如く質量を増やしていく。彼らは、胴体から下に粘着し足場を得るものと体育館全体を覆うドームを形成するものに別れる。
『我の元へ、こい……永劫の救いを与えたもう……』
「彼らも死者だ、救うか?」
 そんなものは救いではないと今は眠る筈の雷火が心で吐くのに、カイラも賛成だ。
 処理の限界を超えた状況に戦慄く沙苗の唇。
 カイラの死霊がその殆どを相殺してくれたとはいえ、人の身である沙苗には残り滓すら危険だ。蜜は彼女の双眸を覆い劈く叫び聞かせぬようにと耳も塞いだ。
 裂けて零れる蜜の黒の下よりは「ごめんなさい」と震える謝罪。
「大丈夫、私は死なないです」
 痛みはある。けれど、彼のために死ぬわけにはいきません、と、瓦礫を塞き止める。
 邪龍の囁きは甘く香しい。死ぬぐらいならばと願う人はいるだろう。然れど、もし目の前の誰かが髏淵により永劫に封じ込められたなら、蜜は後悔に心を切り刻まれる。だから、やはり、死なせない――。
『生・老・病・死……全て人を苛む哀しき重荷だ。其処から逃れたい筈だ、人の子よ』
 外側に悪しき声が漏れぬよう入り口を閉ざすと、海莉は腹の底からの声で抵抗を叫ぶ。
「生きる事も死ぬ事もできないことを救いだとは言わせない」
「……生老病死、そうだね人生を全うするのは楽じゃない」
 統哉が気遣わしげに振り返った後方、沙苗は蜜の腕とコノハの花びらに護られて確りと腰を据えて立っていた、良かった。
「でも幸せもまたその中にある。生きてこそ、大切な誰かと出会う事も出来るから」
 これまでも。
 これからも。
 ルークの浮かぶ胸元を押さえれば死闘の中でも暖かさと安らぎが心を廻る。
「あんたは歩き出せない哀しみと苦しみを与えているだけよ!」
「失った者への想いと共に今を生き、歩むのは其々の道。だから誰の生も誰の死も奪わせない」
「輪廻を、再び巡り会う奇跡を、皆に返しなさい!」
 ドアを押さえるに精一杯の海莉の想いも背負い、統哉は大鎌を振りかぶる。いつもの慈悲ある太刀筋ではない。
「旅立った者達もまた廻る輪のその先へ、結ばれた縁は巡る、いつかまた出会うために」
 反駁を受け付けずひたすらに『救済、救済、救済……』と繰り返す様に、アギトは肩口で編まれはじめた陣を横目に嘆息。頑ななる無知性の存在への呆れと諦めだ。
「髏淵、と言ったか、その救済はただの現実逃避ではないのか?」
 それでもまだ説いてやりたいが叡智求める者の性分だ。
「苦しみ悩み後悔する、それも人生の醍醐味であり人間の強さだと思う」
『認めぬ』
 拒絶。
 アギトは口元だけの冷笑と共に終焉の鐘を鳴らす――さあ、今から永劫を終わらせてやろう。渾身の魔法によって。
 審判の刻を示す針がアギトの頭上に残像を残し、統哉が穿った裂傷に向けて射出される。
 ぺりぺりと飴のように剥がれる二階の手すり、着弾の衝撃に絶えきれず空間が揺れた。
「限りのある命の尊さ、これで貴様も感じることができるかもな」
『おお……おお…………なんというコトダ。命が、内側で護りし人の子が、溢れてしまう』
 この期に及んで、ダクダクと人の形すら為さぬ青白い物体に向けて髏淵が嘆くのに、剱の腸が裏返る程に煮えくりかえった。
「……髏淵とかいう蛇野郎、一つ言っておく。お前は、人の命をもてあそんで、傷つけちゃならない思いを傷つけた」
 この学園で巡り会った彼らも、それより過去に連なる存在全てに命をもって、詫びろ。
 床を蹴り数メートルを跳躍する剱に沿う黒の奔流は、ナイトメアが無限にもたらし続ける悪夢。
「それがどれだけの怒りを買うか、キッチリその身に刻んで逝け!」
 剱が突き立てた頭頂の傷より夥しい悪夢も吸い込まれていく。
『! が、がぁあ、あ、ああ、やめ……ろ……我は、救いたいだけ』
 赤い瞳が濁りだらしなく開いた口から溢れる涎。髏淵は邪神とは思えぬ程無様に赦しを請うている。
 その様を、美しき魔女の姿をしたナイトメアが淡々とした見据えていた。
「……ここに彼女がいなくて本当に良かった」
 ウサギのぬいぐるみを抱えたあどけない少女のあ。今頃誰かに保護されている。出来れば年上の従姉妹や彼女を愛する人のそばがよい。
 のあに悪い夢なぞ見せたくはないし、悪夢に壊れ悶える髏淵は言わんや。
 だから、悪夢の権化である今の黒薔薇の姿は決してのあへ晒してはならないのだ。また逢うのなら可愛らしい“ボク”と、だ。
 無邪気な少女の望みを啄もうとした邪なる神へ、ナイトメアはかの者が苦悩するであろう悪夢を与える。
『我を恐れるな……我は救済……ウゥ、グアアアァァ!』
 ぐんと逸らしあがった首が体育館の天井をぶち抜いた。瞳に刺さる木材なぞ此奴にはなんの傷でもなかろうに、嘶きは湿っぽくまるで涙で濡れたようだ。
 魂を引き剥がす咆吼で猟兵達をも喰らい、起死回生を狙う髏淵。割れんばかりの嘶きと降り注ぐ鉄柱や瓦礫をかいくぐるのは大剣。レナは猛スピードで髏淵へと追いすがる試作三号破城剛剣の刀身の上に立ち上がった。
『忌々しき脆弱なる肉体より抜け出てよォ!』
 ――お前の叫びは届かない。
『我を恐れるな……我を受け入れよ……我を厭うな、拒絶をするなァ……』
 ――お前の苦悶は届かない。
『我を信じよ……我に手を伸ばせ、我に…………』
 ――お前の願いは届かない。
 人形の奥に息づく魂へ攻撃を招き寄せ、削られる傍から再生を繰り返し耐える。手すりを足場に三号破城剛剣を握り直すと鼻先へ、しこたまに叩きつけた。
『讐鮪◆輯雫髏×永……■…………』
 完全に潰されてもげた頭部が床に落ちる前に霧散した。
 石榴めいた肉を晒す首が理解不能の言語を垂れ流しながら、沙苗のいる方角へ斃れていく。
 その場所に、儚い風蝶草の花束がパァッと投げ入れられた。
「ハッ……」
 花より現れたコノハは無様な死に損ないへ口元を歪める。嘲り、蒼に染めた柘榴を突き立てた。すると、懐くように渦を巻く花びらが全て、髏淵の傷跡に吸われ張り付いていく。
「救いナンて笑わせる」
 床には吸われて意思を失った魂がほろりほろりと崩れゆく。のっぺらぼうの彼らはだぁれ? そして   は――……。
「ソレは、自分自身があってこそでしょうが」
 なんて皮肉なことでしょう。
 石榴を納めたならば、純粋が過ぎて邪へと堕ちた龍の姿は完全に消え去った――。

 疲れ切り崩れ落ちた沙苗の元に統哉が駆けつけた。満身創痍の蜜に変わり支え、今はいないあゆへの思いをまず告げる。
「……あゆの恋人は、あゆの幸せを願ってる筈。自分自身を大切にするように伝えて欲しい」
「…………」
 自らの罪と責任の果たし方で揺れる沙苗を前に、統哉はスマートフォンを取り出す。
「これを見て欲しいんだ」
「……ああ、懐かしいね。加古川先生、秘密の場所だから、内密に頼むよ」
 微笑むセツも覗き込む。画面では一人の少女が病院のベッドに腰掛けて、足元にいる猫たちへ微笑みかけていた。
『…………ど、わたしは猫さんの世話をしてます』
「ああ、茜ちゃん……」
 涙ぐむ教諭の耳元へセツは唇を寄せた。
「猫と人に愛されて旅立った茜は、今は神様の見習いをしている――胡散臭いにも程があるが、本当の話だ」
 ポウはととっと肩を降りると一度だけ沙苗の甲に頭をすりつけた――“嫌いじゃない”なんて、本当に茜らしい振る舞いだとセツは瞳を眇めた。
「皆さん」
 よろける足で立ち上がり沙苗は猟兵達へ深々と頭を下げる。
「本当にありがとうございました。命を賭けて救ってくださったことに、とうていお返しできるものは私にはありません……」
 彼らと比べたらなんて無力で意気地なしなのだろう。けれど、ここで後ろを向いてはまた同じ事の繰り返しだ。
「だからせめて今回傷つけてしまった人達に寄り添い償います。そして、これから出逢う大切な人を亡くした人達を私の出来ることで少しでも支えるよう尽力します」
 人は弱い。
 弱さを知り過ちを犯したからこそ、道を謝りそうな人を見いだし手を引いて止められる。
 猟兵達は加古川沙苗だけではない、これより先に躓き過ちを犯す人々をも救ったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月02日
宿敵 『救済を謳う終末の龍『髏淵』』 を撃破!


挿絵イラスト