4
羅針盤戦争〜たとえば海風に揺れるように

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #メロディア・グリード #桜花島

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#グリードオーシャン
🔒
#羅針盤戦争
🔒
#七大海嘯
🔒
#メロディア・グリード
🔒
#桜花島


0




 むせかえるような甘い香りが、その島からは漂っていた。
 それが、島中に咲き乱れる桜の花によるものなのか、その島の主たる竜王……メロディア・グリードの無限に再生し続ける肉体の、その残滓によるものなのか。
 もはや判別は難しかった。
 或は、彼女の元の肉体がどこまでそうなのか。高級スイーツにも近い分身体は、美しい筈のその容貌を、不可解で気色の悪い何かへと飾り立てていた。
 普通の美しい女は、顔が無限に増えたりはしない。身体が無限に生まれたりはしない。
 甘い芳香を放ちながら生まれ続ける自分の残滓を抱きしめつつ、常に常に満たされている筈のメロディアの表情は、悲しみを滲ませる。
「嗚呼、こんな、私など……」
 愁いを帯びた言葉は、さざ波に消える。
 沖から吹き付ける波の音と風が、嵐の気配を匂わせる。
 今度の嵐はきっと強い。猟兵という名の嵐がやってくる。
 その気配を感じ取ると、悲しみに浸る一輪の花に過ぎなかった女の顔はなりを潜め、海の荒くれを一まとめに束ねる賊の持つ、美しくも苛烈な『桜花』のメロディアへと変じていく。
 求めてやまなかった大天使の肉も、間に合うまい。
 若しくは、ここにやってくる猟兵たちが、この無限に等しい肉体を蹂躙し尽くすのかもしれない。
 それもいいだろう。
 だが、ただでくれてやるほど、安上がりのつもりはない。
 若しくは、ここにやってくる猟兵たちを、この無限に等しい肉体が蹂躙し尽くすのかもしれない。
 それもいいだろう。
 夢を見る時間は御終い。
 夢見る世界を掴んで、目の前に引き摺り下ろすのが海賊という性分でしょう。
「甘やかな夢幻。苦い苦い無限……そのどちらがお好みでしょうかね?」
 美しく凄絶に、さながら花びらを押し合いへし合って咲き乱れる八重桜の如く、海賊は笑う。

「戦争も、波乱の様相といったところでしょうか。噂に聞こえる七大海嘯の根城も、続々と発見されているようです」
 グリモアベースはその一角、桜柄の着物がトレードマークの猟兵、刹羅沢サクラは、淡々と予知の内容を説明する。
 多くの姿をもつというフォーミュラ、カルロス・グリードの娶った姫君である『桜花』メロディア・グリードの居場所が判明したのだという。
「皆さんの中にも、彼の者の予兆を見た方が居るでしょう。
 どうやら、夫のカルロス・グリードとは特殊な利害関係があるようですが、ふむ、大天使の肉とは……ああ、いえ、今はその話ではありませんでしたね」
 『桜花島』はその名の通り、桜の咲き乱れる島であるという。
 その頭目、メロディア・グリードもまたコンキスタドールであり、その肉体はどういうわけか無限に再生し続け、自身と同じ肉体が花のように咲いては残滓となるという。
 それらはお菓子のような甘い匂いを放ち、眠りに誘うこともあるとか。
「無限にお菓子が出てくるというのは魅力的ですが、彼女自身はそう甘い相手ではないでしょう。
 特筆すべきは、なによりその再生能力。
 まさに不死身といって差し障りない。それほどに「死なない」のが特徴です」
 ただの一度殺すだけでは、無限に近い再生能力があっという間に再生させてしまう。
 ザンギャバス大帝のように無敵というわけではないが、こちらは不死身というわけだ。
「しかしながら、殺して死ななくとも、殺し続けて死なない筈はありません。
 無限に再生し続けるならば、無限に殺し続けるほどに、苛烈な攻撃を加え続ければいいのです。
 幸いと言っていいのか、我々猟兵は、こと壊したり殺したりだのが得意な者が多い筈ですね?」
 にこり、と作った笑みに、猟兵たちもまたつられたように笑みを浮かべたり、もしくは息を呑み、ある者はむっとしたりもする。
「とにかく、生き返る間もなく、殺し続けることです。
 そして、言うまでもないことですが彼女もまた、単体で凄まじい戦闘力を有しています。
 まして『桜花島』は彼女の領域です。こちらが苛烈な攻撃を加える以上に、彼女も苛烈な出迎えをしてくる筈です。
 その対処法も、ある程度は考えておかねば、殺すどころではないでしょう。
 十分に気を付けて。
 それでは、ご案内いたします」


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 オブリビオンフォーミュラの嫁さんを倒しに行くお話となっております。
 例によって、敵ボスの一人なので、相手が先制してきます。
 その対処法、そして、彼女をぶっ殺し続ける策があれば、いいことがあるかもしれません。
 どうでもいいお話ですが、ネタバレにならない範囲のお話、シナリオフレームの解説にやたら物騒な文言が並んでいて、華やかな相手なだけにビックリしました。
 自分のキャラには花モチーフが多いので、なんだか親近感です。
 今更のお話になってしまいますが、このシナリオは戦争シナリオとなっておりますので、一章構成となっております。すぐに終わるとは思います。たぶん。きっと。
 ボス戦だから判定次第で、ちょっぴり苦戦する描写もあるかもです。
 そういうのがちょっと男子ーってなる方は、覚悟する準備をしておいてください。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
135




第1章 ボス戦 『七大海嘯『桜花』メロディア・グリード』

POW   :    スイート・フュージョン
【残滓達(スイート・メロディア)】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[残滓達(スイート・メロディア)]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD   :    スイート・レイン
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【肉体】から【スイーツで出来た分身の群れ】を放つ。
WIZ   :    スイート・パフューム
【甘いスイーツの香り】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。

イラスト:hina

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

尾守・夜野
「…ひゃは!
ぶっ壊し甲斐のある奴じゃねぇか!
どっちかが完全にぶっ壊れるまで…お相手願おうか!」
戦闘狂もとい破壊衝動の塊の俺様がいくぜ
言葉通り壊せりゃいいから自分のダメージとかも気にしねぇ

一方的な破壊も良いが壊すか壊されるかも好きだぜ

無限に回復し続けるってサイコーじゃね?

初撃は黒纏を格子状にし俺様とこいつを内部に隔離して時間を稼ぐ

形変えれば通れるだろうが触れれば生命力やら血吸われるからな

「夫共々地獄に送ってやるよ!先に行ってろ!」
ひたすら切る
ダメージは吸った生命力でカバー
集まる残滓達だろうと関係なく全て切る
回復特化同士の泥沼?
いや切った奴に呪詛混ぜて内面からも破壊させる
狂気って伝播するらしいな?


マリア・ルート
徹底的に殺しつくす。
この私、ワイルドハントの【殲滅担当】が来たからには。
蹂躙はお得意のものよ。

先制攻撃のキーは残滓が集まること。なら残滓が集まりだしたところを本体ごとまとめて遠距離から【指定UC】で攻撃すればいい。
徹底的に殺す。白兵武器でも、銃撃系でも、魔法系でも。とにかく目の前に立つ「桜花」をすべて殺しつくす。復活しても何度でも。こういうのは得意よ。搦め手とか考えなくていい分逆にやりやすくはあるわ。

耐久し続ければいつかは尽きるのが尋常なら、武器が無限に出てくればどうなるかしらね。
万が一足りなくなって補充にもう一度同じコード発動しても結局残滓ごとまとめて蹂躙すれば同じことよ。


ニィエン・バハムート
・先制対策
全身から放つ【衝撃波】で香りを散らし、【オーラ防御】で以降の香りを遮断し効果を軽減。自分に気つけするように電撃【属性攻撃】しつつガントレットで自傷。痛みで眠気に堪える。自傷ダメージは【激痛耐性】で耐える。
四肢を切り落とした時に比べれば…!

対処したらUC発動。何かたちを突撃させ雷による【マヒ攻撃】と【継続ダメージ】を与えながら私自身も【部位破壊】【切断】【グラップル】で自分の身を考えずに【限界突破】して連続攻撃。何かはたくさんいますが、全てを処理しきられるまで敵を殺し続けます。

あなたが何回死んでも!もしくは私が死んでも!それでも私はあなたを最期まで殺し尽くしますわ!
竜王は!私ですの!



 桜花島の周辺は、異様なほど静かであった。
 猟兵たちを乗せた鉄甲船以外は、それこそ、七大海嘯の頭目の一人が拠点にしているにしては、護衛や巡回の海賊船の一隻すら見当たらなかった。
 それだけメロディア・グリードには、敵を脅威と思わぬ自信があるのか。
 それとも、ただの諦め、もしくは、気まぐれなのであろうか。
 気味の悪いものを覚えつつ、しかし、確かに桜の咲き乱れる島には、巨大な存在を感じるままに、猟兵たちは無人の船着き場へと船を寄せ、上陸する。
 異質というなら、島に近づいた時から鼻先に感じ取れる、空気の甘ったるさだろうか。
 潮の香りがかき消されるほど濃密なそれは、上陸するとより濃くなり、ややもすれば、打ち付ける波が酒でできているのではないかと思うほど甘ったるく、頭痛を覚えるほどだった。
「肌にまとわりつくような潮風が、ここまで嫌な気分になるなんて、思いませんでしたわ」
 深海人であるニィエン・バハムート(竜王のドラゴニアン(自称)・f26511)にとって、潮風とは気にするほどのものではなかった。
 日常にあるものが、何かの拍子に気持ち悪く感じてしまうのは、嫌な発見であった。
 べたつく潮風が、砂糖菓子か何かのように感じる錯覚というのは、初めての経験だ。
「確かに、これはちょっとやりすぎたニオイだわ……」
 顔をしかめるマリア・ルート(千年の王国から堕ちのびた姫・f15057)は、何か思い当たるものでもあったようだが、それを口にするのをやめた。
「俺にゃ馴染みのニオイだぜ。こりゃあ、まるで、墓場だ」
 尾守・夜野(墓守・f05352)は、涼しい顔である。まるでこの匂いを日常的に知っているかのようである。
「それも、クッソ雑に処理された奴な。死体ってのは、腐ると甘い匂いもするんだぜ」
 ふっと笑う声は、どこか吐き捨てるような嫌なものを感じさせる。
 似ているというだけなのか、果たしてそれが当たりなのか。
 うげぇ、と眉根を寄せるニィエンを横目に、マリアはやれやれと言った様子で嘆息する。
 敢えて口にしなかったことを、夜野がさらっと言ってしまったことに抗議するでもないが、デリカシーというものも考えたらいいのに。
 とはいえ、この場にそんなものが必要かと言われれば、べつにそうでもない。
 これから行うことを考えれば、そんなものは些細なものになり下がる。
「せっかくお呼ばれされてるみてぇなんだしよ。ちゃっちゃといって、殴り合いして来ようぜ。っはは」
 夜野の足取りは軽い。
 或は物理的にそうであろうか。
 狂信者の里で贄とされた過去を持つ夜野は、そのいざこざで体のあちこちを欠損し、それを刻印で補っている。
 いいや、物理的にそうであろうとも、夜野の生き様というべきなのか。死生観というべきなのか。
 外見から感じるそれは、刹那的なものであった。
 だからだろうか。
「戦うときは、少し離れましょう。間違って斬ってしまうかもしれない」
 マリアは、そのある種の軽薄さにも感じる足取りに危うさを見ていた。
 それでなくとも、マリアの戦い方は徹底している。こと蹂躙する事にかけては、そうそう右に出る者は居まい。
 だからこその、自分なりの正直な懸念でもあった。
「ひゃは、いいぜ。別に恨まねぇさ」
「そちらは気にしなくても、私は気にするっていうの。気兼ねなんてしたくないわけ」
「しなけりゃいい」
「あんたねぇ」
「二人とも、いい加減になさいませ」
 なんだか険悪になりそうな雰囲気に、見かねたニィエンが仲裁に入る。
 無論、二人にそう言うつもりなど無い筈だが、これから一緒に戦いに向かう中で、わずかでもしこりがあるのは危険だ。
「我々が居合わせたのは、ほんの偶然。仲よくせよとは言いませんわ。連携できても、それは奇跡の産物でしょう。
 わかっているとしても、目的は擦り合わせておくべきですわ」
 この場に於いて、ニィエンは冷静であった。
 敵と相対すれば、真っ先に気が立つであろうことは自覚していたので、それまで情熱を取っておこうという、彼女なりの気構えであった。
 そんな彼女の言葉は、作戦でも何でもないものであったが、もとより連携を必要としない二人の素養を見越してのだとすれば、それはそれは冷静なものだろうか。
「わかってるよ。死なねぇ海賊を、ぶっ飛ばしに行くんだろ?」
「メロディア・グリードね。わかってる。敵が誰だか、見間違えることは無い筈よ」
「上出来ですわ。それでは、参りましょう」
 一応は、足並みが揃ったことにニィエンは満足そうに先を歩く。
 その立ち姿を見やり、
「あんた。そうか、あんたもけっこう、継ぎ接ぎだな」
「ちょっと、あんた」
 ニィエンの装備に気づいた夜野は、思わずそれを口にしてしまう。
 今度こそ、マリアは掴み掛りそうな視線を向けるが、振り向くニィエンはにやりと笑う。
「お気に入りですわ」
「っへ、そうかい」
 そう微笑まれては、夜野も笑うしかない。
 ニィエンは深海人。しかし、海の生物らしい体のあちこちは、敢えて自分で切除し、メガリスを身に纏うことで欠損を補っている。
 経緯は違えど、自分以外の何かで自分を補っている身からすれば、それは十分に共感を得るものとなり得た。
 成り立ちも結果も違うが、
「褒められましたわ」
「はぁ。別にいいけどね……」
 嘆息するマリアは、取り越し苦労といった様子だった。
 もとより他に深く干渉するつもりなどない。
 自由を削がれる可能性のあるものならば、それはそれで気を遣う必要があったのだが。
 どうやら、身の持ちようが気の持ちようではない。
 それらが彼女や彼の自由を支えているのなら、もはや何を言う必要もない。
 そうして、たいして有益な会話をするでもなく、やがて三人はそれにいきつく。
 それは小高い丘。鬱蒼とした桜の木々の中で迷わなかったのは、そこへ至るまでご丁寧に石レンガで舗装されていたからだ。
 踏みつける足場に確かなものを感じるのは、これからここが戦場になることが明確だったからだ。
 つまりは、丘の向こうに広がる崖越しに、桜の花弁舞い散る海を背負い、佇むそれは、ただ一人の女性にしては、やけに大きく見えた。
「……ごきげんよう、猟兵の皆様。御用件は……まぁ、わたくしでしょうね」
 つめたく微笑を浮かべる淑女、メロディア・グリードのその姿が思ったよりも大きく見えたためだろうか。
 吹き上がる気配が、猛烈な臭気となって一同を包む。
 ひどく、腐乱したような甘い匂い。
「うぐ……」
 その匂いが脳髄を突き抜ける瞬間、感じるのは冷たさ。すなわち、危機感だった。
 うっかりういろうを一気食いしたかのような、猛烈な眠気。
 糖分を短時間で過剰摂取した時、人間の身体は血糖値の上昇に伴い、それを素早く消耗しようとして、まさかの低血糖を起こす。
 そうなると、人は昏倒してしまう。
 猛烈な臭気は、脳を錯覚させてしまうほどのものであった。
 これはまずい。
「ど、っせぇぇぇぇい!!」
 膝を折るニィエンが、自身を再び立たせるかの如く、ガントレットで石畳を打つ。
 張り上げた気勢と、メガリスのガントレットが地を打った拍子に衝撃波が生まれ、猛烈な臭気を散らしていく。
 この匂いは危険だ。そう察知したが故の咄嗟の行動だったが、それでも瞬時に眠気は払えない。
「起きろぉ!」
 ならばと、拳骨を作ったままのガントレットで自らの側頭部を殴りつけ、雷を迸らせると、目の前に火花が散って、甘やかな眠気がうっすらと晴れてくる。
 非常時なので加減は利かなかったが、それでも四肢を切り落とした時の苦痛に比べれば、それは無いに等しい。だから痛くない!
「いーちちち……っへへ、目が醒めたぜ。フランケンになった気分だ」
「あっつつ、ひどい目覚まし」
 ニィエンの発した電気が、他の二人の眠気も一緒に吹き飛ばし、完全に先制された状態から復帰する。
 そして、その間にすっかり囲まれていた。
 どこから現れたのかと聞かれれば、それは、メロディア自身からというほかない、甘く腐ったような匂いをさせる、彼女自身の残滓。スイートメロディアが、わらわらと迫っていた。
「……ひゃは! ぶっ壊し甲斐のある奴じゃねぇか!
 どっちかが完全にぶっ壊れるまで……お相手願おうか!」
 真っ先に矢面に立つ夜野が、まず真っ先にその応酬をもらうのだが、いくら数限りない殴打を貰っても、その攻撃は夜野まで届かない。
 身に纏っていた彼の服が、まるで生物のように形を変え、格子状に爪を立てることでその侵入を阻んでいた。
 更に、それに触れたスイートメロディアたちの身体が、ボロボロと崩れていく。
「触れたら吸い取られるぜ。気を付けな」
 乾燥したマジパンの如くボロボロと崩れていくスイートメロディアが、格子を回り込もうとする動きに合わせ、夜野もまた攻勢に転じる。
 手にした黒剣には、様々な呪詛が込められている。あるいは、里の者たちはその恨みつらみの中でも生きているのかもしれない。
 それを振るい、スイートメロディアたちを次々と斬り倒していく。
 その無謀にも見える突撃は、数での不利をものともしないものであり、夜野自身も攻撃を貰うのだが、多少のダメージなど意に介すこともなく突き進む。
「一方的な破壊も良いが壊すか壊されるかも好きだぜ」
「あら、意見の合わない事。やるなら、一方的な蹂躙。これに尽きるわ」
 銃弾がスイートメロディアを薙ぎ払い、斧が、剣が、槍が次々と敵を打倒す。
 マリアは、スイートメロディアたちが寄り集まると強力になることを看破していた。
 そうはさせじと、次々と武器を切り替えて、多数の数を相手にしながらも各個撃破していた。
 その身に纏う服のどこにそんなに仕舞いこんでいるのか、疑問に思うところだが、そんな細かいところにツッコミを入れていたらきりがない。
 いや、その不条理を可能にするものがある。
 【血見猛猟・百器野行】そのユーベルコードの力を信じる限り、マリアの手には常に何かしらの武器が握られる。
 彼女を支える信念、『殲滅担当』に防具は不要。必要なのは、純粋な力と、それを正しく使える心。
 それが折れない限り、彼女は武器を手に敵をなぎ倒し続ける。
「耐久し続ければいつかは尽きるのが尋常なら、武器が無限に出てくればどうなるかしらね」
「いいねぇ、無限に回復し続けるってサイコーじゃね?」
 一方的に敵をなぎ倒すマリアと違い、夜野はダメージを厭わず戦っているはずだった。
 だというのに、無限に増殖し続けるスイートメロディアを相手に、消耗する気配がない。
 それは、彼が手にする怨剣村斬丸が、無限に生まれるスイートメロディア達を切るごとに、その生命力を吸い上げ、手傷を修復しているからである。
 敵はすなわち、無限に増え続ける餌というわけだ。
 しかしそれではいたちごっこではないか?
 いや、夜野に斬りつけられ崩れたスイートメロディア達は、なかなか収束しようとしない。
 残滓となり果てても、身体の一部として他を強化しようというそれらが寄り集まらなくなったのは、夜野の手にする剣が呪いをかけているからだった。
 それを好機とみるや、夜野もユーベルコード【強化式【累】】で自身に埋め込まれた刻印に術式を過装填、吸収した生命力を吐き出すように更に暴れまわる。
「夫共々地獄に送ってやるよ! 先に行ってろ!」
 残念、本体と思しきそれは、そっくりな残滓だった。メロディア自身が増殖し続けて残滓となっていきつづけるのだから、似ているのはしょうがないとはいえ、このまま増え続ければ本体を見失いかねない。
「現れよ! 雷纏いし竜王の眷属! サンダー・バハムート・レギオォォォン!」
 周囲を照らすような雷。いや、雷というか、雷でできた鮫のようなナマズのような何かが、周囲を囲うスイートメロディア達を蹴散らした。
 ニィエンの【ナマズ流鮫魔術奥義・ビリビリナマズ航空ジョーズ】が飛び交い、派手な爆風でスイートメロディアの一団を吹き飛ばすと、ようやく本体と思しきメロディアと、ニィエンが対峙する。
「竜王、羨ましい。何度その名に憧れたことか」
 口中で呟くその言葉は、メロディアには届いてはいまい。
 だからこそ、恨めしくもある。そして、その存在を認められるわけもない。
 勢い勇んで、その手足を振るう。
 ナマズの眷属とも言われるニィエンの、おおよそそれとは思えない美しい装飾のようにも見える手足が剛力と俊足でもって、手刀が、足刀が、あるいはその身から生じる電撃が、増え続け、壁となる敵を打ち払い、掴んでは投げ、切り裂く。
「あなたが何回死んでも! もしくは私が死んでも! それでも私はあなたを最期まで殺し尽くしますわ!」
 その身に降りかかる手傷など、どうでもいい。前に進んで敵を討つ。
 目の前の敵が竜王と呼ばれたから。それもあるだろう。
 そうでなければ、どうしてこの手足をメガリスに挿げ替えて、憧れを抱いたろうか。
 そうだ、自分こそが本物だ。
「竜王は! 私ですの!」
 まっすぐ伸ばした貫手が、確かにメロディアの胸の間を貫いた。
 そのはずだった。
 だが、その手応えは、奇妙だった。
 突き破った肌も、へし折った肋骨も、貫いた臓腑も、手応えとして十分だったというのに。
 直後にそれらがずるりと動いて、ぼろっと砕けた。
 貫いた本体が、次の瞬間には残滓となり果てていた。
「竜王、そうですか。竜王は、まだ健在ですよ?」
 肩をすくめる姿勢で露になった胸元からは、おびただしい数のメロディアの残滓が今も生まれ続けているのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ビスマス・テルマール
チョコレートの使い手と考えると
ご当地感的に親近感沸かなくもないですけど

企ては、阻止させて貰います

●POW(対策込み)
『オーラ防御&激痛耐性』で備え

『先制攻撃』で『空中戦&推力移動』で敵の攻撃を『第六感』で『見切り』『残像』で回避しつつ『制圧射撃』を取り巻きの残滓達に蒔き

本体上空まで

『属性攻撃(重力)&誘導弾』の『範囲攻撃』の『一斉射撃』を残滓達と本体を分断する様
撃ち『早業』UC発動

残滓達と本体の間に割り入り
残滓達ごと【なめろうフォースセイバー】で『範囲攻撃』を『怪力&衝撃波&属性攻撃(鎌鼬)』込めふるい『継続戦&限界突破』で本体を味方と連携しつつ『切り込み』続けます

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


トリテレイア・ゼロナイン
かの王…カルロス・グリードの奥方様であらせられますね
今を生きる人々の安寧の為、討ち取らせて頂きます

迫りくる残滓達を●瞬間思考力とセンサーでの●情報収集でマルチロック
全身の格納銃器による乱れ撃ちスナイパー射撃で無駄弾を使わず一掃

残滓の再生産が始まる前に脚部スラスターの●推力移動で接近
物資収納スペースから6本のUCを取り出し2本は両手に
4本は3本目以降の腕として●操縦するワイヤーアンカーで保持

ウォーマシンの構造活かし手首関節を360度高速回転
グラインダーのように回転させた光刃で切り刻みつつ、ワイヤーの光刃で再生残滓破壊

(…御伽の騎士は男女の仲を守護する者も大勢いましたね…)

…ここは戦場、御覚悟を!


朱鷺透・小枝子
壊れぬなら壊れるまで壊し続ける。解りやすい!

ディスポーザブル03に搭乗、操縦
誘導弾の弾幕でメロディアの放つ分身の群れを吹き飛ばし続ける!
瞬間思考力と動体視力で飛翔するメロディアを捉え
『マルチプル・キャバリア』発動

透明化迷彩でメロディアの機動先に02を召喚配置。奇襲する。
メロディアとぶつかる前に、重量攻撃。超過重で地面へたたきつける。

壊し続けろ。
亡国の主、フレイムランチャーで属性攻撃、メロディアを焼却。
燃料交換の隙を回点号がパルスマシンガンで撃ち壊し続け、
その次は02はグラビティガンで押し潰し、そのまた次は03がビーム砲を照射する。

自分は、自分が生きているのは、きっとその為だ。
だから、壊せ。



 それは、混沌という言葉が、花に形容するよりも似合っているかのようであった。
 生魚が地上を跳ねるような、ホースに繋いだ水道の蛇口を思い切り捻ったかのような、猥雑な音とともに、歪みを帯びた残滓が生れ落ちる音であった。
 わずか、瞬きをする程度の時間で、メロディア・グリードのドレスの内側からは、何倍にも膨張したかのようにスイートメロディアが生れ落ちては起き上がる。
 そして、そのたびに甘ったるく、胸元が沸き立つような芳香がビロードのような質感を伴って生温かさを振り撒いてくるのだ。
「外気遮断、循環最大」
 重装キャバリア、ディスポーザブル03に搭乗して桜花島に乗り込んだ朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は、その様相を遠巻きから見て、空調を切り替える。
 島に乗り込んだ段階でとっくに捕捉されているかもしれないが、仕掛けるタイミングは、味方と合わせる算段を立て、小枝子は奥の手を忍ばせつつ、静かに接近する。
 しかし、あまり悠長に構えてもいられない。
 あの勢いで増殖をし続けたら、きっと一時間もすればこの島を埋め尽くす勢いだろう。
 無限に再生し続けるという話だったが、それどころか無限に増え続けるのではないだろうか。
 戦う事以外はとんと物覚えのよろしくない小枝子であったが、凄まじい勢いで失敗作のような複製を増やし続けるメロディアの姿は、何かとても都合の悪いものを思い出しそうになる。
 胸が焼けるような思いがするのは、きっと、この甘ったるい匂いのせいだけではないだろう。
 早く時がくればいいのに。戦う時間になれば、自分はきっと、それ以外は何も考えなくて済むのに。
 考えの深みにはまれば、きっと踏み込んではならない部分まで考えてしまう。
 それが何なのかわからないし、わかってはいけないのかもしれない。
 自分でなくなってしまうのなら、自分の使命を敢行するための自分を維持できなくなるなら、そんなものは必要ない。
 そんな折、無限に再生し続けるメロディアの元へ、無造作に歩み寄る人影。
 背の高い甲冑騎士のような姿は、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
 ある程度近づくと言っても、あと数歩という辺りで、スイートメロディアに取り囲まれてしまう。
 いくら屈強なウォーマシンといえど、七大海嘯の一角、それに相当する複製に囲まれたとあっては、無傷では済むまい。
 しかし鋼の心臓どころか、鋼より頑丈な装甲の持ち主であるトリテレイアは、その場で恭しく腰を折り、膝をついて見せる。
 騎士としての矜持だろうか。
 そして、そんなわざとらしい仕草を、メロディアもまたただ見下ろしていた。
「かの王……カルロス・グリードの奥方様であらせられますね。
 今を生きる人々の安寧の為、討ち取らせて頂きます」
「よくできた騎士ですこと。此の様な時世ですもの。誰かの味方に付けば、誰かの敵に為るのは必定。お互いに、悔い無き様……」
「お心遣い、感謝に堪えません」
 再び立ち上がるトリテレイアを待ち、トリテレイアもまた、メロディアがカーテシーを解くのを待った。
 その時間は、ほんの数秒。だが、お互いに待っていたことを不思議に思いながらも、戦う準備をするのには十分な間だった。
 ざわっと、メロディアの周囲に立ち並んでいた残滓たち、そしてメロディアのスカートやあちこちが開いて、そこから無数のスイートメロディアが溢れ出してくる。
 人海、塵芥、人外。
 驚くべきことに、それら全てに人と同じ程度の体温があり、人と同じような機関があり、ティプシーケーキのような匂いがした。
 それはともかくとして、とくに慌てることのないトリテレイアは、事前に全ての視界内の敵をマルチロックしていた。
 そして騎士甲冑のような姿をしていても、銀河帝国時代に作成された彼は、戦うための兵器、ウォーマシンとしての本質を失っていない。
 兜の口蓋が開いて機銃が飛び出し、両肩、腕甲の装甲が開いて銃口が現れ、ロックした全ての敵へ向けて一斉射撃で応じる。
「あらあら、お下劣ですこと」
 その体に銃弾を浴びながら、メロディアは、騎士としてはあられもない姿のトリテレイアを揶揄する。
「……」
 果たしてそれは、トリテレイアにとって気に留める必要のない雑音に過ぎぬ筈だったが、なぜだか気の利いた言葉の一つも出てこない。
 戦いにパフォーマンスを割くべきなので、この状況では応じぬことが正解なのだろう。
 さてもさても、反撃に転じようにも、ややスイートメロディアの数が多い。
 これから更に、メロディアのいうお下劣な奥の手を用意しているのだが、一拍ほど足りないのである。
 だが、トリテレイアは一人ではない。
 やや離れた位置には小枝子が、そして援軍はもう一人。
「ここですね!」
 どぉん! と周囲を取り囲むスイートメロディアへと、上空からプラズマグレネードが撃ち込まれる。
 石畳がはじけ飛び、粉塵に混じって三人目の猟兵、ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)が着地する。
 トリテレイアが場をかく乱したのを合図に、上空で控えていたところを奇襲をかけて本体とスイートメロディアとを分断せんと急降下してきたのである。
 重力魔法と合わせた砲撃の範囲攻撃は、取り囲んでいたスイートメロディアを蹴散らし、当たらなかったものも動きを封じる。
 そして、その瞬間を狙い、ビスマスとトリテレイアはユーベルコードを使用する。
 特性のハワイアンなめろうを掲げると、それが大地の結晶へと還元され、結晶をベルトのバックルに挿入すれば、膨大なエネルギーがビスマスの身体に纏い、鎧装へと至る……【ハイパービスマス】の完成だ。
 一方のトリテレイアは、そんな幻想的なプロセスなど別にいいやというかのように、物資収納スペースからパーツの予備を引っ張り出す。
 それがどうしたと言われそうなものだが、正確には【大出力可変式/足部隠蔽収納式擬似フォースセイバー】というそれは、名称の通りただの脚部パーツの予備などではない。
 それを合計で六本取り出し、格納されたセイバー部分のみ二本は両手に、残りの4本は、両肩からワイヤーアンカーを伸ばして接続、保持する。
 ハッキング用接続端子も兼ねるアンカーは、それらを疑似的な腕としてフォースセイバーを真似た光線剣を出力する。
 六本腕で光の刃を構える姿は、さながら阿修羅のそれである。
「まあまあ! ご立派な騎士様ですこと。そして、もう一人も騎士様なのでしょうか?」
「なめろうの伝道師……敢えて名乗るのならば、蒼鉛竜騎士ロードビスマスです!」
 トロピカルな魚状の光刃をもつフォースセイバーを抜き放ち、鎧装したビスマスは並み居るスイートメロディアによって阻まれながらも、本体であるメロディアへ迫らんと斬りかかる。
 剣術、というよりかは、純粋なパワーと膂力で振るわれるそれは、陣風、衝撃波を生み出して、次々とスイートメロディア達を薙ぎ払う。
 トリテレイアも、同じようにフォースセイバー、のような光剣を振るうかと思えば、そこはウォーマシンらしく、セイバーを握る手首足首を高速で回転させ、蛇の目のような光跡を残しながら全方位をカバーしながら、並み居る残滓たちを文字通り蹴散らしていく。
「くっ、それでも騎士ですか……!」
 その言葉に思うことが無いではないが、戦場に作法を持ち込むのは戦う前までだ。
 ひとたび戦いが始まってしまえば、ルールなんてあってないようなものになってしまう。
 戦いに勝つために、ひたすらに効率的に。儀礼用に作られたボディで可能な範囲の改造を施し、常に勝率を上げるための戦い方をしてきた。
 騎士として正しいのか。そんなものは、関係ない。関係ない筈である。
 そういえば、彼のバイブルでもあるお伽噺の中では、騎士とは男女の仲を取り持ち守るものもたくさんいた。
 思うことが無いではないが、データ演算と参照の合間の揺らぎに、ひどく空虚なものを感じずにはいられない。
 機械である自身には、当たり前のはずだというのに。
「……ここは戦場。御覚悟を!」
 或ははじけるセイバーの光跡か、バイザーの奥のアイカメラが力強く光る。
「追い詰めましたよ!」
 それと、ビスマスの突貫が重なり、メロディアの逃げ道も限定される。
「これで追い詰めたとでも?」
 地を蹴るメロディアのそのスカートから大量の残滓が吐き出され、その反動で空を切るかのようにその身が舞う。
 空に逃げられる!?
 その懸念が浮かぶよりも前に、
「その瞬間を待っていたんだ」
 飛び上がる瞬間、じりじりと距離を詰めていた小枝子が搭乗するディスポーザブル03が放つマイクロミサイルが空中で炸裂し、飽和攻撃と化した爆炎がメロディアを撃ち落す。
 直後、唯一と言っていい退路を塞ぐように桜の林から無限軌道の足を穿いたキャバリアが茂みを踏みしめて到着する。
 再び飛び上がろうとするメロディアだったが、今度は不可視の何かに引き摺り下ろされ、組み敷かれる。
 不可視迷彩で隠れていたそれは、【マルチプル・キャバリア】によって遠隔操作されていた小枝子の僚機の一つ、透明化と六本腕を備えた軽量高速機のディスポーザブル02。
 地面へ引き摺り下ろし、その重量でもって叩きつけると、今度は別のキャバリア、亡国の王がその頭部から灼熱のフレイムランチャーを吹き付け焼却。
 その燃料が尽きれば、弾倉交換の合間に、もう一機のキャバリア、回点号がパルスマシンガンで攻撃し続け、02の重力砲で抑え込みつつ、03のビーム砲を、
「壊せ、壊し続けろ。壊れるまで壊し続ける。解りやすい!
 自分は、自分が生きているのは、きっとその為だ」
 コクピットの中で、小枝子は、身体がだるさを感じていた。
 キャバリアの多重起動は、小枝子の脳に深刻なダメージを与える。容量を割き過ぎたのだ。
 そのダメージは、主に鼻からの出血という形で表に出やすい。
 だからボーっとするのだ。だるく感じるのだ。
 それでも薬品でブーストした頭は、戦うことをやめない。
 たぶんおそらくきっと、それがじぶんのそんざいするりゆうだから。
「だから、壊せ」
 恐らくは歓喜に打ち震えながら、小枝子は操縦桿を握り続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユリウス・リウィウス
降ってくる分身か。面倒だな。「環境耐性」を重ねた「結界術」で、オブリビオンの侵入を防ぐ領域を作ろう。

ああ、まったく、何でこんな面倒くさそうな女を相手にしなきゃならんのだか。早く帰って、女房の顔が見たいもんだ。

敵の特筆すべき点は、数の暴力と不死身性か。それでこそ殺し甲斐がある。

亡霊騎士団を喚起。数でそうそう負けるつもりはないぞ。行け、この地で朽ちた亡者共。お前達の仇はすぐそこだ。
数が減ったら補充しつつ、本体を探す。
いたな。

見つけたぞ、『桜花』。この双剣で、鋏のように首を刈ってやろう。頭と身体、どちらから再生してくるかな?
どちらにしろ、それで一瞬の隙が出来るだろう。同じように刈り取ってやるよ。


メフィス・フェイスレス
【対策】
毒・詛耐性を使用しつつ、全身の「禁忌」を弾き飛ばし装備から外す事で自身の飢餓衝動を解放、「空腹・狂気耐性」を総動員し辛うじて理性を保ちつつ睡眠欲を飢餓感で塗り潰して気付けする

羞恥心?フォーミュラ相手にそんな悠長な事言ってられないわよ!
ていうか味方ばっかジロジロみてたら死ぬわよ?

【滑空】で「滑空」し体から噴出させた「飢渇」の霧の「闇に紛れる」で視界を潰し、「捨て身の一撃」で残滓の群れの中央に突っ込み
「微塵」で霧を吹き晴らして注意を集めた瞬間に外套を脱ぎ捨て
封印を解いた飢餓感を上乗せしたUCを発動

意志が統一されていて、多く集まってる程力が増すのよね
ならその力で無限に互いを喰いあってなさい



 ざわざわと木々の梢が囀るのと同じように、戦闘が始まってからというもの、メロディアの肉体はその過剰回復分の肉体の残滓を増やし続けている。
「うふふふふ……この程度のものですか? わたくしはわたくしは、まだまだまだまだ、雑多に猥雑に増え続けるだけ。美しく醜く……どうしてこんな女が愛されましょうか」
 ひどく甘ったるい匂いが充満する中で、メロディア・グリードはわめき散らすように両手を広げ、その服の隙間のあちこちから、次々と残滓を溢れ出させる。
 戦いに高揚した肉体がそうさせるのか。常から作っては零れ落ちる残滓が、今や湧き出る水のようにぼこぼこと増えていっている。
「この匂いは、きついな」
 まるで死体が腐敗して蝋化する頃のような墓場の匂いだ。
 死へ誘う甘い匂いは、脳髄を侵して眠りを呼ぶかのようだった。
 それにある程度慣れているユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)は、冷静に気付け代わりにと無精ひげを乱暴に何本か引き千切る。
 ひどく安らかな眠りにおちようとせがむ頭を痛みで無理矢理起こして、迫りくる残滓たち、スイートメロディアの軍勢を結界魔術で押しとどめる。
「うう、身体がだるい……」
 死んでいるような生きているような、曖昧な体が不調を訴えている。死にたがっているのか、休みたがっているのか。そこに口と脳みそがあるなら聞いてみたいところだが、メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)の脳は幸いに一つしかない。
 死肉を縒り合わせたデッドマンの彼女は、たぶん腐ってないから生きている。
 どうして意志を持って動き続けていられるか、そんなことはわからないが、生きている脳に働きかけてくるこの甘ったるい失敗したお菓子みたいな匂いは、猛烈な眠気を誘ってくる。
 よそからの要因で体が不調をきたすのは、なかなか珍しい。
 お隣がカレーだった時にお腹がすく程度には珍しい。
 お隣ってなんだ。
 だがそれが衝動と掻き立てるというなら、メフィスにも対抗策があった。
 継いで接いだ肉体を覆う外套を脱ぎ、その体を縛るベルトを引き剥がす。
「があ、う……」
 喉が乾いた音を鳴らす。乾きが衝動を誘発する。
 睡眠欲にも勝る飢餓が、心を塗りつぶそうとする。
 ついでに言えば、外套とベルト以外はほぼ何も身に着けていないため、あられもない姿になっているが、この渇きは羞恥心以上にやばい。
 ベルトは、飢餓衝動を押さえつけるためのものだ。これがないと、色々とまずいのだが、
「お前は、なんちゅう格好を」
「強敵相手に、悠長なことは言ってられないわよ! ていうか、ジロジロ見てたら死ぬわよ」
 猛烈な眠気と飢餓が拮抗しているのだろうか。メフィスは意外にも冷静だ。
 ツッコミを入れるユリウス相手にも、脳を支配しようとするあらゆる欲求を弾き飛ばすかのように叫ぶ。
「見くびるな。俺は……女房一筋だ!」
 紳士らしくメフィスの肌色部分からは目をそらしつつ、ユリウスは両腰に下げた黒剣を引き抜き、飛来するスイートメロディアを迎え撃つ。
 正面からやってくるスイートメロディアを結界で押しとどめれば、ならば上からとメロディア本体が飛翔して残滓をばら撒いてくる。
 それらを剣で切り払い、その手数の前に舌を巻くととともに、己の領分であるとも感じ取る。
 敵の特筆すべき点は、数の暴力と不死身性か。
「なるほどな。それでこそ、殺し甲斐がある。数でそうそう負けるつもりはないぞ」
 そうしてユリウスは【亡霊騎士団】を呼び寄せる。
 甘ったるい匂いを帯びて迫るスイートメロディアたちを、剣や槍で武装したアンデッドが迎え撃つ。
「行け、この地で朽ちた亡者共。お前達の仇はすぐそこだ」
 無限に増え続ける敵を前に、亡霊たちはわずかに数で劣るが、それなら逐一再召喚すればいい。
 最終的には気力勝負になるところだろう。
 だが、肝心の本体であるメロディアは、飛翔した先に見失ってしまった。
 こうも同じ顔だらけでは、なかなか見分けがつかない。
 闇雲に探しながらスイートメロディア達を切り伏せるか。それもまた不毛な気がする。
 と、思考をさまよわせるユリウスの脇を、黒い外套を羽織り直したメフィスが通り抜ける。
 骨の翼をバキバキと生やして滑空するように残滓たちを飛び越える姿に迷いはないようだった。
「本体を見つけたのか?」
「いや、キリがないから、ちょっと派手にぶっ飛ばすわ!」
 その体から湧き出るドロドロの目やら口やらが生えた気味悪いようなちょっとかわいいような眷属は、黒い霧を吹き出し、メフィスの姿を隠す。
 そうして残滓の目に留まらぬままその集団の中に飛び込むと、眷属がぼとぼとと地面に落ちて、それらがぎゅうっと凝縮し始め、次々に破裂。
 歯やら骨やら肉片を飛び散らせて、黒い霧も残滓ごと吹き飛ばすと、中央に降り立ったメフィスだけが衆目を集める形となる。
 注目を集めたメフィスのその、忌まわしき吸血鬼の魔眼がギラリと光る。
「意志が統一されていて、多く集まってる程力が増すのよね」
 【餓】は、その瞳の向けられた対象へと飢餓を植え付ける。
 飢えのフィードバックは、本人の飢えにもよる。なればこそ、先ほどベルトを引き剥がした事により、メフィスの飢えは今もなお耐え難い乾きを与え続けている。
「──なら、その力で無限にお互いを喰いあっていなさい」
 苦痛の悦び、肉を食む悦び。お互いが壊れるまで食らい合うがいい。
 その命令を浴びたスイートメロディア達は、もはや敵味方関係なく食らい合う。
 当然、術者でもあるメフィスも狙われる対象になってしまっているが、この中で最も飢えているのはメフィスである。
「うぐえ……甘い」
 スイーツでできているらしいスイートメロディア達残滓は、マジパンのように甘い。
「無茶をするな……だが、おかげで、見つけたぞ、『桜花』!」
 残滓たちの動きが変わったのを見逃さなかったユリウスは、その中で動きが変わらなかった者を目ざとく見つけた。
 メフィスの隷属に従わなかった高位の存在。それこそが、本体、メロディア・グリードに違いない。
 死肉を、残滓を踏み越え、交差した二本の黒剣の切っ先が、鋏のようにメロディアの首を捉える。
 その首を落とせば、どちらが本体になるのか見ものであるが、
 ちぎり取った首はそのまま残滓となり、残った肉体からは更に複数の顔が腕が、足が生まれては零れ落ちてくる。
 どこが生まれ、どこが既に残滓なのか。
「構うものか。殺し尽くすまで、何度でも刈り取ってやるよ」
 死ぬまで何度でも、殺しきるまで何度でも、ユリウスは剣を振るい、そのたびに女の手足や首、臓腑が散る。
 まったく、何て面倒な女だ。好き好んで女を切り刻む趣味はないというのに。
 早く帰って、女房に会いたいものだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

オリヴィア・ローゼンタール
大天使の肉でいったい何を……いいや、いい
ここで貴様も関係も、諸共に滅ぼし尽くしてしまえば問題ない

白き中華服の姿に変身
無限も不死身も関係ない
端的に言えば、死ぬまで殺す

四肢に白い稲妻を纏い(属性攻撃)、襲い来る菓子の群れに放つ
チョコやクリームで構成されたものを電熱で焼き融かす(焼却)

迸る稲妻で飛翔の方向を制限し、【おびき寄せ】る
高く跳び上がり(ジャンプ)、落雷が如きかかと落とし(踏みつけ)で地に叩き落とす

メロディアが体勢を立て直すよりも速く、【怪力】【全力魔法】による【天霆雷迅脚】で蹴り砕く
蹴って蹴って蹴り続け、反動で身を焼く稲妻は【激痛耐性】と【気合い】で耐える


緋翠・華乃音
不死者を殺すには死ぬまで殺し続ければ良い、か。
……力業はあまり得意じゃないんだけどな。

――肝要なのは、よく視ること。

如何に速かろうと狙撃手の意識と観察眼からは逃げられない。
分身が放たれた端から拳銃で迎撃していく。

遠距離攻撃の手段も持たず、スイーツで作られた脆弱な分身ならば対処は容易いものだ。

君の強さはその不死性と分身の群体だな。
もう見切っているよ。

死に囚われない強力な不死性を有する君は、
技術と経験によって洗練された戦士のようには振る舞えない。

拳銃、抜銃。
ダガーナイフ、抜刃。

無拍子の歩み、無形の位。
水が流れる自然で、眼前、後背、真横、直上。
研ぎ澄まされた合理性が、至るところから急所を的確に狙う。



 みしりみしりと木々が悲鳴を上げるのが聞こえる。
 それはまるで、この島そのものが危機を感じているかのようでもあった。
 これまでに投入された猟兵たちが、それこそ数限りなく殺し続けたメロディア・グリードの亡骸、崩れて起き上がらなくなったその残滓たちが、島を覆い尽くさん限りに溢れ出ているのだ。
 増え続ける死体は島に咲く桜を押しやり、その枝にかかった死体の重みで幾つかの樹木が倒れる。
 甘美とは程遠い、発酵して酒のように香る血煙が、胸を焼くような甘い匂いが肺腑を溶かすようであった。
「此れだけ死んでも、未だに生まれ続ける。癒え続ける。わたくしは本当に、死ぬるものなのでしょうか。
 嗚呼、この身が恨めしい。大天使の肉さえあれば、この醜いわたくしとて、何れは……」
 掲げるメロディアの手が、その次の瞬間には剥がれ落ちるように二本に増え、浅黒い残滓として生れ落ちる。
 無限に回復し続ける肉体は、常に過剰に回復する。肉体を過剰に回復し続ければ、自分の複製のような残滓が生れ落ちて、
 戦いという高揚の中にいれば、それはさらにおかしなレベルで回復していく。
「大天使の肉……と言いましたか。それで何を……いいや、いい」
 愁いを帯びたメロディアの言葉に何かを感じ取るオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は、シスターらしい清楚な口調、その佇まいを改める。
 眼鏡の奥の金の双眸を細め、修道服を勢いのままに引き剥がすと、輝かんばかりの白い中華服に身を包んだ姿に変じていた。
 いつの間にか髪まで結っているが、細かいことは、まぁ、その、気にするな。
 相手は竜王。なれど、常から持ち歩く大身の槍よりかは手数を優先し、徒手による討伐を決めたとき、それに相応しい服装になるのである。
 そんなに露出して大丈夫かシスター。
「ここで貴様も関係も、諸共に滅ぼし尽くしてしまえば問題ない。
 無限も不死身も関係ない。
 端的に言えば、死ぬまで殺す」
 肺腑から下腹に呼気を溜めた無呼吸の乱打が、すぐ目の前に迫る残滓たちを打ち据える。
 四肢に纏う白雷が拳を伝い、打拳を、貫手を、掌を、それぞれに食らった残滓がその身を歪ませ、お菓子でできたそれらは過剰な熱を与えられて融解、あるいは焼き焦げる。
 だがそれは、あくまでも手の届く範囲。
 すぐにおかわりがやってくるのだが、それらの急所が、次の瞬間には尽く撃ち抜かれていた。
「不死者を殺すには死ぬまで殺し続ければ良い、か。
 ……力業はあまり得意じゃないんだけどな」
 静かな足取りで、硝煙を燻らせる緋翠・華乃音(終奏の蝶・f03169)は、油断なくメロディアを見据えながら、さり気なく周囲にも気を配り、今しがた撃ち抜いた残滓の耐久性や生命力などを観察する。
 オリヴィアをわざわざ援護する必要などなかった。倒し損ねても、彼女の体術ならば、難なく切り抜けただろう。
 しかしだからこそ、敵の能力を見極めるのに十分だったというわけだ。
「お礼を言うべきですね」
「いいや、必要に駆られたのさ」
「ならば、続きは後程」
 短い言葉を交わし、同じ銀髪同士、同じようなタイミングでメロディアに向き直る二人だが、その様相は対照的であった。
 どの方向からでも最小の動きで対処できるよう、常に構えを変えて備えるオリヴィアと、
 銃すらホルスターにしまい、無手のまましかし正中はずらさず無造作に歩く華乃音。
 最善のきまった型で対処する堅実さと、無形ゆえに自然に対処する柔軟さの対比である。
 そんな中で、
「もう少し見たい。しばらく任せても?」
「ええ、おびき寄せましょう。視たいというのは、私もですか?」
「……世辞でいいなら、目のやり場に困るかな」
「お世辞なんですね」
 ひどく無感動な、氷のような雰囲気を漂わせながら、大真面目に軽口を叩く。
 そんな本気かどうかよくわからないやり取りを交わして、オリヴィアはわずかに口の端を緩めるのも一瞬。
 敢えて目立つように雷光を迸らせて、オリヴィアはメロディアへと突撃する。
「簡単に、わたくしの前に立てるとでも?」
 メロディアの身体が、まるで質量を持たぬかのように浮き上がり、膨らんだ服のあちこちから残滓をばら撒きながら飛翔する。
 それらを華乃音は最小限のみ撃ち落し、オリヴィアは両腕から稲妻を発して、メロディアの飛翔する方向を制限する。
 高速で飛び回ると言っても、飛ぶ方向が分かっていれば、先読みは十分だ。
「はぁっ!」
「し、しまっ!」
 稲妻を回避しようと方向転換したメロディアの視界に、飛び上がって踵を振り上げるオリヴィアの姿が映った。
 雷鳴のような踵落としが炸裂し、叩き落されたメロディアが石畳に打ち付けられる。
 さらに追い打ちをかけるように、オリヴィアは踏みつけにかかる。
 ──やはり。
 不快感を掻き立てる甘ったるい匂いと、その不死性と増殖力には目を見張るものがあるものの、彼女自身は達人というほどではない。
 圧倒的な物量こそが何よりも脅威であることには違いないが、華乃音はあくまでも静かなまま、歩みを進める。
 周囲にはまだスイートメロディアが大量に存在し、オリヴィアや華乃音に追い縋ってくるが、それでももはや脅威に感じるものではなかった。
「君の強さはその不死性と分身の群体だな。
 もう見切っているよ」
 淀みなく銃を抜き、音もなくダガーナイフを抜き、
 花を手折るかのように気安く、一つ一つ、歩みの邪魔になるものから殺していく。
 彼女たちに、死の概念が希薄であるがゆえに、彼女たちは脆弱だ。
 それはその身がお菓子でできているからというだけではない。
「天に轟く雷霆よ! 我が脚に宿り、邪悪を焼き尽くせ!」
 叩きつけられ、踏みつけられたメロディアが体勢を整えるよりも前に、オリヴィアの足が眩いばかりの雷光を放つ。
 【天霆雷迅脚】は、一撃が必殺。しかしその本領は、その必殺を幾重にも放つことだ。
 初撃、雷霆の轟が石畳を砕き、メロディアの身体をバウンドさせ浮かせる。
 その目が一瞬だけ、華乃音とかち合い、刹那の合間で意気を交わす。
「気は使いますが、巻き込みますよ」
「見惚れない限りは、見切る」
 目を焼かんばかりの蹴りの応酬が周囲に稲妻を散らし、そんな中でも、華乃音は無造作に歩み寄り、蹴られ続けるメロディアに正確に切り込む。
 構えも拍子も関係なく。攻撃の兆候も隙すらもない。
 【終の静寂】は、研ぎ澄まされた身体操作、能力はもとより、人知を超えた先読み、予知にも似た予測の先を見ることにより、完成に至る。
 最少と最速、それを最短で辿り着けるなら、そこに隙など無く、兆候すら見せない。
 ここにオリヴィアがおらず、メロディアが華乃音の姿を正確に捉えていたのなら、さぞ奇妙なものが見えていたろう。
 手先だけが伸びて首を刈っているようにも、何もない空間から銃弾が発射されているようにも。
 目の前に、真上に、後ろに、真横に、そこら中にいるように見え、実際にそこにいても、ただ佇んでいるようにしか見えない。
 見えていても見えない。隙や兆候が消えるというのは、たとえ見えていても、認識できない。
 そこに閃光のような蹴りの連撃が重なり、おびただしい数の死が、メロディアに重なっていく。
 幾度となく首が刈られ、心臓がえぐられ、あるいは叩き潰され、ちぎり取られた。
「死に囚われない強力な不死性を有する君は、
 技術と経験によって洗練された戦士のようには振る舞えない」
「だあああああっ!!」
 咆哮を上げ一心不乱に蹴りを放つオリヴィアに混じって、華乃音の静かな声が間隙を縫うように響く。
 一つの命しか持たない者は死を間近に感じ、命の危機のない者は死の気配に鈍くなる。
 こうすれば死ぬ。というのに鈍くなれば、死を与えることも死に抗うことも、無頓着になる。
 今の今も、死を与え続けられているメロディアでさえ、その身がいくら傷つこうとも、苦痛の最中に居ようとも、諦観にも似た感傷が、錆びついた心をいっそうに苦くするだけだった。
 それが本当に、致命的な一撃を経ても。
 どぉん! と、最後の蹴りが雷の余韻と共にメロディアを吹き飛ばす。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 上気したオリヴィアの身体のあちこちは、自身の雷で火傷を負い、服も焦げ付き始めていた。
 だが、まだ倒れるわけにはいかないと、気合と精いっぱいの強がりで痛みに耐える。
 しかし、懸念の必要はどうやらなく、更に追撃に歩み出そうとしたその機先を、華乃音が手を上げて制する。
「これで終わりだ」
 吹き飛び、石畳を転がったメロディアは、あれだけの連撃を受けて尚、身体の形状を保っていた。
 懸念は抱くものの、華乃音がさっさと踵を返すものだから、恐らくもう終わりなのだろう。
 開けた丘の向こうには、海が広がっており、メロディアは海鳴りを聞いていた。
 起き上がるのか。
 その懸念を捨てきれないオリヴィアが見守る中で、コンキスタドールの姫君は、仰向けの姿勢から体を反転させ、波音に誘われるように手を伸ばす。
 よく考えれば、その体はもう再生する気配がなく、生まれ続けていた筈の残滓が新たに生まれる気配もない。
「嗚呼、風の音が聞こえる……何故だか、とても懐かしい……」
 さしものオリヴィアとて、察するものがあった。
 海風に吹かれるごとに、その指先が崩れていくのだから。
「やっと、わたくしは一人きり……やっと……」
 たとえば、と。その先の言葉を聞く前に、オリヴィアもまた踵を返し、痛む身体に鞭打って去っていく。
 何のことはない。七大海嘯『桜花』の頭目メロディア・グリードはもう倒れたのだから、この場に長く留まることはない。
 彼女が、一人になれたことに対する気遣いでは、決してない。

 たとえば……海風に揺れる、ただの一輪の花のようになれたのなら、あの人にもう一度……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月21日


挿絵イラスト