羅針盤戦争〜Lover's day
●酸の泡島
ひらり。ある日は桜のような白い花弁が舞っていた。
誰もその花の名を知らない。
花のように見えてあれは"酸"の属性が強く、触れた相手は湯煎されたチョコのようにどろりと溶ける。生き物だろうと、鋼鉄だろうと――そう、なんでも。
出処は――島自体。
島に人影らしいものはなく、いつかどこかで朽ち果てた体高5mの人型兵器「キャバリア」が転がり重なるばかり。
最後に大地を踏みしめたのは、恐らく近年の話ではないだろう。機体は横たわり、コックピットも割れて砕けて苔生している。此処は領海と定めた領域内に陸地も海でも空でも、どこまでもふわり、と泡を飛ばす泡島だ。
きれいなものにはなんとやら。
ただ――佇む女の姿は、ひとつあった。
「嗚呼、何時迄も殖え続ける此の肉体……」
溜息を零すように息を吐き、すぅ、と七大海嘯『桜花』メロディア・グリートと瓜二つの顔が、ふふふ、と笑う。
「またひとつ殖えてしまって……。では増殖する私の残滓達(スイート・メロディア)よ、仕事を一つ与えましょう」
竜王たる私を娶い、姫君とした、あの男を、死なせる訳にはいかないのです。
代償はありますが、私の成すべき事はひとつだけ。
「カルロスの助けとなりなさい。それ故のスイートメロディアです」
殖えた顔は一様に笑う。
「海の水全てはあの男のために」
狂ったように持て成しましょう。
いつか訪れるだろう蕩けるような甘い日の夢をこの身に感じて。
●チョコレートバブル島
「ある海域がチョコになッたそうだ、とかどういう顔で報告すればいいのか教えてくれ」
フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は至って真面目た。
「報告に寄ればクロムキャバリアの系譜を辿る島だという。島はわりと大きくて、朽ちて放棄された未整備のキャバリアがそこら中に倒れてて、ヒトらしいものはいない……まァヒトが居た痕跡のある、ほぼ無人島のようだな」
ほぼ、と誇張していうには理由がある。
「既に小耳に挟んでる奴もいると思うんだが、七大海嘯『桜花』メロディア・グリードが動き出しているらしい。ソイツが島で、何かをしたらしくてなァ……」
どう説明しようか、と悩むように資料を渡して。
とりあえずそれを見ろ、とフィッダは言う。
「『桜花』本人はその島にいないよ。だた『増殖する私の残滓(スイートメロディア)』が香る程度に残されている。残された残滓は……殆どがチョコレートでその身を構成していて、キャンディなどのすいーつが体の主成分、なわけ。どういう分身体なのかを俺様に聞くんじャない。称号を持つモンがやることだ、"意味"があるのさ」
増殖する私の残滓。欠片を残して『桜花』は早々に立ち去った。
残滓のはじまりは、ひとつがふたつに、ふたつがよっつに。
ゆっくりだが少しずつ増える、小規模のものだった。
七大海嘯『王笏』カルロス・グリードの為、チョコレート主体の個体は次々に海へと沈み、溶け染み渡ることでその領海を"チョコへと変貌させた"。
「そう。今やその島周辺の海域は、完全にチョコの濃度だ。海らしい塩分なんてねェ」
何百体・何千体。膨大な数まで増殖し、島に居られる数を制限して。
猟兵に気づかれるようにあまいあまーい罠を張り巡らせたのだ。
「分身体スイートメロディアに、耐久力というものは殆どない。だが、一度戦闘を始めれば他の七大海嘯と相違ない戦闘能力を見せつけられる」
一人見たら尋常ではない数が集まる事に危機感を感じて欲しい。
「……『桜花』本人はいないのでな?残された分身体たちは自由にその"個性"で、島の姿から一変させた」
チョコレート個体のチョコ属性が島隅々まで行き渡ったならどうなるだろう。
酸の属性もチョコへと変わり、どこもかしこも甘い匂いで満たされる。
「考えただけで胸焼けするんだけど。草木も放棄キャバリアも全部チョコになってしまッてると考えてくれたらいいよ」
信じられないことも平然とやってのける。それが七大海嘯。
「どこもかしこもチョコにして、準備完了のスイートメロディアはお前たちに"お持て成し"をする気だ」
何故することがもてなしなのか、という問いにフィッダは平然と"待機時間暇だったから"と答えた。
「なので、お前らは島に上がッてメロディアに見つかった時点で"チョコレートや給餌"的もてなしを受けるだろう」
裏表なく、チョコレートの日を楽しませようと押し売りしてくるので注意するように。
「嫌なら行動で示せばいいんだよ。無人だろうと"島を不法占拠すんな出ていけ"ッてよ」
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
この依頼は、この依頼は【一章で完結する】戦争系のシナリオです。
島の中のなにもかもから島の外の海域まで広範囲チョコ化現象。
島は一応クロムキャバリアの系譜ですが。
生産施設なども朽ちた後だいぶ時間が立っていて稼働できる要素がありません。キャバリア要素も、道路も大体チョコレートやスイーツ化してしまっているようです。
プレイングボーナスは。
『一斉攻撃を受ける前に可能な限り多くの「増殖する私の残滓達」を倒す』。
此のシナリオでは、一斉攻撃のタイミング=メロディアのおもてなし時間です。
『甘い時間を過ごしましょう』『甘いお話を聞かせて』と話しかけてくる言葉は様々。まるで同席希望のカフェ店員のように、押しが強めに接待しようとしてきます。押しが強いので、接待人数をわらわらと同じ顔で増やしますし。わりと圧があります。
チョコレート(またはスイーツ)をたくさん食べてくれる『あの男(カルロス)』を幻視でもしているんでしょう。
無慈悲に倒し尽くすでも構いませんが、チョコレートは、チョコレートですので現在の島の雰囲気を楽しむ、ちょっと策略に乗って接待されて戦争中だということを忘れてみる、でも構いません。
メロディア・グリードは殺気を見せなければそこまで攻撃的姿勢をだしません。
これはいわゆるバレンタイン的ムーブ。
誰かがたくさんのメロディアを一掃することを信じて、チョコレートパニックの中でただ浸るのもまあ、いいのではありませんか?たくさんの歩く『増殖する私の残滓達』を可能な限り多く、結果的に斃せば、タテガミ的にはアリです。
上記のように可能な範囲で運用しますので、日常な感じでご一考頂けますと幸いです。尚、全採用は難しく、もしかしたら少なめの採用で返却を行う可能性があります。その事をご留意いただけますと、幸いです。
第1章 集団戦
『増殖する私の残滓『スイート・メロディア』』
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POW : スイート・エンブレイス
【甘い香りと共に抱きしめること】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : キャンディ・ラプソディ
【肉体を切り離して作った毒入りキャンディ】を給仕している間、戦場にいる肉体を切り離して作った毒入りキャンディを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : チョコレート・ローズ
対象の攻撃を軽減する【融解体】に変身しつつ、【毒を帯びた薔薇の花型チョコレート】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:hina
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アーデルトラウト・ローゼンハイム
ふふふ、優雅で高貴なわたくしのティーパーティにお洒落な洋菓子は大変よろしくってよ。御相伴に預かり…などというと思いましたか?猟兵の方々がデビルキングワールドにいらっしゃって平和に近づきましたが領民を惑わすチョコレートなるお菓子まで持ち込んだのは寝耳に水でしたわ。他の菓子ならわたくしを惑わすこともできてたでしょうが、ただ一つの地雷を踏み抜くなどつくづく運の悪いお方。神妙にお覚悟なさいな。
というわけでおもてなしを受けるふりをしてびったんびったんにて集まった給仕たちをちぎっては投げし無慈悲に叩き潰します。
無限に増えてくれるおかげで弾には困らなさそうでいいですね。
●悪夢の残響
――ふふふ、ふふふ――――。
どこをみても豪奢な造形美に支配されたチョコレート色。
草も木も、チョコレートに包まれて、異様な島へと変質した島で、ある貴族が降り立った。島に足を踏み入れてから、いや踏み込む前からか。アーデルトラウト・ローゼンハイム(デビル貴族・f32183)は何者かの気配を感じている。
どこかにいて、話しかけてくるのを待っているかのような控えめな笑い声。
島へと訪れた事自体が、誰かの策略の内なのだろう。
「どこかに隠れておいでなの?ふふふ、わたくしは逃げも隠れも致しませんの。デビル貴族たるもの、優雅でなくては」
長い髪をふわ、と払って優雅に務めるアーデルトラウトは、気配の犯人を探す。
「優雅で高貴なわたくしのティーパーティにお洒落な洋菓子は大変よろしくってよ?」
気分を良くしてふと目を留めたのは薔薇のように細かな造形。細かく形を定められた薔薇の茎や葉。元は野生の本物の花だったかもしれないもの。
そっと手を伸ばして触れようとすればパキりと折れて、溢れる。
まるで牡丹の花のように密度の高いチョコレートだった。
拾い上げてみてもしっかりとしていて形は崩れる様子がない。
『お褒めいただきましたか?』
それは七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの残滓たる私(スイートメロディア)。見た目はとても穏やかな仕草を見せるものの、きし、きしとその身が揺れる度に何かがこぼれ落ちる。僅かに見えた気がするのはそう、チョコレートの粉末だ。
『嬉しいことです。それでは"もっと"用意しますね』
はじめに見たのは一人だった。はにかむように笑う仕草をするたった一人。ぞ、ぞ、ぞと『増殖する私の残滓』が異様な速度で膨れ上がって頭数を増やしていく。
『チョコレートとそれからそれから。たくさんおもてなしをさせてください』
言葉の通り人数を殖やし、微笑む同じ顔の集団は揃いも揃って給餌に勤しみたいのかチョコレート質のカップやポットを手に添えて、大量のチョコの薔薇を花束に、アーデルトラウトのもとへ、駆け寄ってくるものまで。
「わたくしの手元にはこの一つ。されど小柄なこの一つ。御相伴に預かり……などというと思いましたか?」
『おや、……違うのですか?』
ずらありと周囲をスイートメロディアに囲まれて。ふんわりとした気配が一気に攻撃的な気配に色づいて、張り詰めた空気が漂い出す。
その間にも給餌の手は殖え続けていて、異様な光景だ――。
――猟兵の方々がデビルキングワールドにいらっしゃって。
――平和に近づきましたが。
「領民を惑わすチョコレートなるお菓子まで持ち込んだのは寝耳に水でしたわ?」
メロディアの知らないことではあるが、アーデルトラウトにとって、"チョコレート"との出会いは苦いココアを飲むようで――甘ければ甘いほど、苦味を増して感じられる。領民たちは"チョコレートの魔力"に取り憑かれて、ふわふわと目に見えて"甘さ"に目覚めて浮かれ出してしまった。
ああ、――なんということか。
「他の菓子ならわたくしを惑わすこともできてたでしょうが」
――ただ一つの地雷を踏み抜くなどつくづく運の悪いお方。
「給餌出来ると思うのならば、わたくしを捕らえて椅子に座らせて御覧なさい?」
――神妙に、お覚悟なさいな。
背中のエネルギー質の翼を大きく広げ、堂々たる振る舞いは小柄な方の彼女の精一杯の見栄だと笑い声が殖えていく。
『そう。そう。お嬢様は、礼儀と作法から給餌の世話になりたいのですね』
『良いでしょう。まずはお行儀の良いレディの嗜みを……』
竜王の号を戴く者の分身体は、アーデルトラウトを捕獲しようと腕を広げて駆けてくる。不思議なことがあるとすれば、彼女たちの気配は殺意というより足止めに重点を置いた単なる慈愛のようにも映ったことだ。
「もてなしを受けとらない事にお詫びを。近くまでその腕を伸ばして来てくれて、感謝の言葉しかありませんね」
『!?』
それは渾身のスイート・エンブレイス。
甘い香りを引き連れたスイートメロディアがアーデルトラウトを抱きしめることはできなかった。
それどころか、腕を掴まれてぐっと持ち上げられた一体をぶぉんぶぉんと勢いよく他の残滓たちへとぶつけて投げる。
ぶつり、と腕が折れてぶつけられた方もばらばらと崩れていく。
「ちぎっては投げられる、をされることはありまして?」
天性のセンスを遺憾無く発揮するナチュラルボーンゴッドハンド。
「無限に増えてくれるおかげで弾には困らなさそうでいいですね」
――これはいつか大勢を苦しませるだろう悪夢の残滓。
――腕力に限らず弱者を守る力は必要ですが。
――この場合は例外であるべきでしょう。
抱きしめようとする個体は無限のように殖えていて、掴む残弾は尽きそうにない。
デビル貴族に無理強いを迫ったことだけを僅かばかりに後悔して――崩れて消えるといいのだ。
大成功
🔵🔵🔵
エヴァンジェリ・マクダウェル
私は
おやつを食べに来た!!
地面もお菓子?街灯もお菓子?窓は飴細工?甘い物は良いな!脳に糖分をブチこめぇ
おや?メロディアの群れ……あ、どうも。色々美味しいな?カロリーを気にしなくて良い体だしとことん楽しんでしまえ
え゛
自分の体切り離して出してくるの?(ドン引き)
美味しいじゃん(真顔)
甘苦めなぴりっとした感じがこうなんと言うかあれだよそう、大人の味的なさむしんぐ
さむしんぐって何だっけな
……食べすぎかな、なんか気分悪くなってきた。体とろけそう
おうちかえるよ……ごちそうさま
まぁうん、メロディアの体積減ったし?仕事完遂だよな?
むしろ頑張り過ぎまであるよな!!
●黒き傍若無人
「私は!」
島へ上陸して周囲を眺めてから、大きく大きく息を吸って。
黒きブラックタールの第一声(ファーストコンタクト)。
「おやつを食べに来たーーー!!」
チョコレートパンデミックが起こる島で、そう叫ぶのはエヴァンジェリ・マクダウェル(f02663)。
何故かドヤ顔で。ふんぞり返るように、満足げに叫んでいた。
――私は今、素晴らしい一言を言ったはずだ。
カッ、と踏みならす地面もお菓子。近場で明かりの付き方を忘れた街頭もキャンディーの光沢を得ている。
壊れた地形の中にある家らしきものの窓も水飴を固めたような偽ガラスに。
基本はチョコレートばかりだが、点在する甘い要素に鼻が莫迦になりそうだ。
足元を飾る学生時代から使っているらしいローファーも流動的な溶けたチョコで汚れている。
あまり気にしていないようなのは、特定人物に執着心はあるものの物への頓着は無いらしい様子の現れ。
「甘い物は良いな!どうやら人の気配はないし、脳に糖分をブチこめぇ」
島の装飾品と化したチョコレートを掴んで、もぐり。もちもち。
「んまい」
『お気に、召しましたか?』
『甘いものはいいですね。スイートメロディアも肯定できます』
まともな人が居ない場所に現れるとしたら、唯一の敵影のみ。
だがどうにも、一人の声で留まらない。
七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの分身体、"増殖する私達の残滓(スイートメロディア)"。甘い匂いの元凶であり、殖え続けるチョコレートの中心で微笑む女性――らしきもの。
――おや、メロディアの群れ……。
一人を見つけられたと思ったら、次々に殖えていく。ああ、数えていては彼女たちに埋もれる。
「……あ、どうも。色々美味しいな?」
過去、ある実験と結果の過程で人ではなくなったというエヴァンジェリ。
カロリーを気にしなくて良い体をそこそこ有効的に使っている。ポジティブに言えば、――そこそこに楽しみながら今を怠惰に過ごしているのであるが。
『あちらこちらのチョコレート、お気に召したのならこちらはいかがでしょう?』
いかが、と示してくるのはスイートメロディアの一体が別の個体の腕を掴んでいる様子。息つくまもなく――ばきん、と硬いものが壊れる音がして。
腕だったものは『本物のメロディア』の皮が剥がれてキャンディー質を顕にする。
「え”」
『なにか?ここを、こうして――』
懐から取り出した薬物を、鼻歌を唄うように優しく塗りたくるスイートメロディア。バゲットにバターでも塗るように、たっぷりとだ。
『はい、こちらもお楽しみ頂けるのではないかと』
にっこり、と笑いながら渡してくる元腕として機能していた気がするキャンディ。
「増殖した体を切り離して差し出してくる神経ってどうなってるの?」
狂気属性に思考がよく流れるエヴァンジェリでさえ、その行動にドン引き。
だが、一瞬こそ固まったが――。
「差し出されたら、食べるしか無いじゃん」
美味しいじゃん、絶対。そんな真顔で受け取って。
ぺろり、と舐める。
「甘苦めなぴりっとした感じがこうなんと言うかあれだよそう、大人の味的なさむしんぐ。さむしんぐりょくたけえなあオイ」
飴との出会い方こそ最高に意味がわからないが、飴は飴だったと認識した。
――さむしんぐって、何だっけな。
毒入りキャンディを普通に舐めて、その毒が回れば思考が緩く言葉を忘れる。
苦しいとかではなく、ただ言葉の正しい意味を思い出せなくなった。
『サムシング。そう。そうなのですね?あら、あら困りました。これは給餌のしがいが――』
さあさあ私達(スイートメロディア)よ集まって。
一人の言葉でバキバキと、量産される飴の山。
『さあどんどんお食べなさって下さい。さあ、遠慮なさらず』
エヴァンジェリの眼前に高く積まれた飴(腕だったもの)。時々色が異なるので同じ味ではないようだが。
飴というものは一度に一気に食べるものではない。
食べれるだけ食べて、ぴたり、とエヴァンジェリの手は停まった。
「……そろそろ、食べ過ぎかなってお腹と頭が言ってる気がする。なんか視界とかぐるぐるするし、メロなんとかさんたちの名前とかよくわかんないし」
人型に固定したタールの体がどろ、と固定化がとけるように泡立つ。
「おうちかえるよ……ごちそうさまでした」
とぼとぼと、メロディアの接待を盛大に受けて食べるだけ食べて帰っていくエヴァンジェリ。見送るスイートメロディアはなんとなく、満足げな気配だったというのは後の彼女の自己申告だ。
――まあうん。メロディアの体積は結果的に減ったし。
――仕事としてはぱーふぇくとだろう。
「むしろ、体張って頑張りすぎまであるよな!」
この狂気さがある意味救える世界もあるのだから――個性というのは馬鹿にはできない。
大成功
🔵🔵🔵
亘理・ニイメ
イッセイ【f31301】と
チョコの海に揺蕩うのも、楽しいもの、ね?
甘い香りに、満ち溢れていて。
不思議で、楽しい、気分になれるわ。
チョコ。
ひとつ食べて、ひとつ攻撃するの。
あら、毒入りもあったの?
素敵な薔薇のかたちね?
いろんな味を試してみたいから、いただくわ。
イッセイが止めても、むだなの。
美味しいの、だけど、たくさん、食べてたら。
おなかいっぱいに、なりそう、よ?
チョコレートドリンクの、グラスを、片手に一休み。
同じ顔、のスイートメロディアさん、に。
いっぱい、おすすめされても、困るから。
そうね、味を、変えましょう!
焼きチョコにしてしまいましょう!
溶かして、固めなおしましょう!
…あらあら、誰もいないわ。
与田・壱成
ニイメ【f31242】と
たくさんのチョコをニイメが面白がるのはわかるけど。
毒の薔薇まで食べることないだろ……!
ニイメが倒れるところを見たくないから、
守りながら回復ができたら!
そう思ったら今。
なぜだか、この術式を思い出したよ…。
……こんなことをしても、ニイメは感謝なんかしない。
わかってる。
俺の勝手だからね。
スイートメロディアが増えてきたら、
殺戮刀の衝撃波で個体数を減らす。
楽しんでいるニイメの横で、無粋なことはしたくないから、
できる限り殺気を抑えてチョコの山を崩すつもりで。
俺は特にチョコが好きってわけじゃない。
ニイメがくれたら、って思う……。
……。
せめて焼きチョコの味見くらいは、させてくれよな?
●美味しい悪夢
ふわりと漂う甘い香り。それは少量ならば人の心を誘うもの。
ただし、暴力的な密度と成ればそれは人の心を酔わすもの。
「チョコの海に揺蕩うのも楽しいもの、ね?」
全部の景色が甘い色。そんな悪夢のような光景が、こんな形で存在しているなんて。どこまでもずっと甘い香りに満ち溢れていて。亘理・ニイメ(結界崩壊・f31242)の雰囲気も、幾分か普段より穏やかそうだった。
「不思議で、楽しい、気分になれるわ?」
『あら、あら。心から楽しんでいらっしゃるのですね』
ニイメが声に気がついて、振り向く先にチョコ色の麗人。
七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの分身体。
誰かは確かにこういった――増殖する私の残滓達(スイート・メロディア)と。
『チョコレートはお好きなのかしら。そうですね……素敵な時間のお供にこちらなど、お口にあうのではないかと』
話しかけてきたメロディア個体の手が、融解してドロリと溶け出す。脆い体という話に嘘はなく、両手を合わせるようにして差し出してきたのは見事な薔薇の花。
今此処で作られたチョコレート・ローズ。
しっかりとした質量があって。そこら中を彩る茶色ではなく、赤みのある色。
毒の分だけ色を強められた不思議のチョコレートである。
『ルビーチョコレート、ともいうのです。さあ、おひとつ?』
「チョコ」
差し出されたチョコレートの花弁をひとつ手に取り、ニイメはひょいと口に運ぶ。
ミルクでもたっぷりふくまれているようなあまいちょこれーと。
毒の味は内側からじわじわと悪夢を生み出す甘い毒。
ひとつがふたつ、ふたつがよっつ。メロディアの顔が殖えて見えた。
『さあさ、どうぞ。そちらの貴方もご一緒に』
「夢のような、甘さ」
――面白い。
「たくさんのチョコをニイメが面白がるのはわかるけど」
――この光景を面白がらないなんて、勿体ない。
与田・壱成(殺人鬼?・f31301)は普通の観点から言える、平凡が此処には必要だと思った。
「今のチョコレートは絶対に、毒っぽい色をしてたじゃないか。毒の薔薇まで食べることないだろ……!」
もぐ、もぐとニイメが壱成の主張を右から左へ。
「あら、毒入りもあったの?素敵な薔薇のかたちね?」
妖艶な微笑みを浮かべるメロディアの手に広げた薔薇全てがチョコレートで形作られた毒の花。
なのに毒物の可能性を全く気にしておらず、ニイメはやりたいことをやりたいようにしただけだ。不思議で、面白いことが起こっているから。ただ渦中で興じているだけなのである。
「いろんな味を試してみたいから、いただくわ。そちらの花弁も、赤も青もそれから黒も」
着色された色にしてはどのメロディアが差し出す薔薇も異様なほどに毒々しい。
そう、見るからに"毒物"にしかみえないのだ、壱成には。
「イッセイが止めても、むだなの」
「ニイメ……!」
壱成の無意識はぎゅ、と右手で左手を握り込んで胸の前に。
彼女が自由に振る舞うのは壱成も何度もみてきた光景だ。ニイメの考えを曲げる事は殆ど不可能――つまり彼女は毒を口に運び続け、止められない。
――ニイメが倒れるところを見たくない。
もしも守れる力があったなら。毒が和らげられたら。回復手段を扱えたなら。
想い、願うは力はゆるりと紡がれる。
「……考えていたら、今。なぜだかこの術式を思い出したよ」
どこかで蓋をしたままだった記憶の海から思い出したのは"術式・散"。
このちからは、望めば刃にも、傷を癒やす助けにもなる。
なんという、タイミング。此処で使えといわんばかりだ。
「"……それでは"、俺も勝手をするからね」
ニイメが幾つ目の毒を口に運んだかはわからない。
だから、閃いた力はニイメを対象に解き放つ。
ほわあ、と黒い輝きがニイメを包み込み蝕まれる毒から症状を軽くする。
――……こんなことをしても、ニイメは感謝なんかしない。
壱成にも判っている。ただ、壱成がそんな姿を見たくなかったのだ。
「美味しいの、だけど、たくさん、食べてたら。おなかいっぱいに、なりそう、よ?」
ふう、と息を吐きながらニイメは給餌に勤しむメロディアに、伝える。
給餌するならば、"食べさせる"だけではなく"飲み物"も。
『休み休み楽しむのもまた、いいのです。ええ、お持ちしましょう』
流れるようにチョコレートドリンクを手渡され、ニイメは食休みを開始した。
そんな中、壱成はもちろん気がついている。
対応速度が――早すぎる。
どこからともなく殖えたメロディアが誰かの要望に答えて、楽しそうに食べさせ続ける。悪夢のような終わらない給餌時間。
「……」
壱成は殺戮刀に静かに手を伸ばし、身を低くニイメからやや離れるようにメロディアたちの群れの中に入り込む。
――楽しんでいるニイメの横で無粋なことはしたくないからね。
――殖えに殖えた存在感を隠れ蓑にさせてもらうよ。
抑えているとはいえ、出来る限り殺気を隠すのなら凶器(殺人衝動)は狂気(スイートメロディア)の中へ。
『どちらへ行かれるのですか?』
『お連れ様はあちらで休憩中なのですよ?』
口々に、ニイメの話をする彼女たち。
「判っている……けれどね」
振るって放つ蒼く輝く残光が乗る衝撃波。その波動は全力だ。
チョコレートな体な個体など、ばらばらと崩れてただのモノに成り果てる。
崩れ落ちたチョコは山となり、地形に一つ新しいチョコの山を作り出した。
彼女たちに無慈悲だと言われても構わない。きっとニイメは見ていないから。
「聞く耳は、持ってあげないよ」
『チョコレートが、お嫌いなのですか?』
「……。俺は特にチョコが好きってわけじゃない」
――ニイメがくれたら、って思う、けど……。
「同じ顔、のスイートメロディア、さん。そろそろ、おんなじ味の、エスコートは、結構よ」
一休みから気持ちを戻したニイメは、"もういらない"と宣言する。
「いっぱい、おすすめされても、困るから――そうね、そうね。味を、変えましょう!」
気分の色が、顔がくるりと変わる。
ニイメの楽しもうとする内容が、ガラッと変わる。
「焼きチョコにしてしまいましょう!」
ぼ、ぼ、ぼ。ニイメの後方に展開される炎の矢。
最大数を並べて。チョコレートな彼女たちに向けて発射の手は、とても迅速。
「溶かして、固めなおしましょう!」
注ぎ込む全力の魔法力で一気に加熱されたスイートメロディアは悲鳴をあげる隙がないままに溶かされていく。
どろどろと、意識も溶かしてどろどろに。全部溶かして、少し固まるのを待って――ほらご覧なさい、周囲は皆焼きチョコに。
「……あらあら、もう誰もいないわ」
「せめて焼きチョコの味見くらいは、させてくれよな?」
火の手の中から戻ってきた壱成。
あれならば、毒の要素はないだろう。加熱処理はバッチリだ。
「大量に、ありますから。おひとつ、いかがでしょう?」
「……!」
大雑把な大きさの焼きチョコを、確かに渡された壱成がいたとか。
どんな味だったのかは――想像に、おまかせするとしよう。
きっと、あまいあまい、ゆめのようなあじであることだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
樹神・桜雪
【WIZ】絡み、アドリブ等はご自由に。
チョコだ……チョコだよ相棒。
ねえ、せっかく色々お勧めしてくれるみたいだし、楽しんじゃお……いたっ!?
気が緩みっぱなしじゃないかって、じゃあいいよ。ボク一人で楽しんでくるから。相棒は留守番してなよ。
……結局くるんじゃないか。
しかし、すごい圧だね。チョコも沢山。
ヤシの木までチョコなんだね。
いろんなチョコを勧められては片っ端から相棒と楽しもう。
しかし、たくさんだね。まだ増えてるし、圧もすごいや……。
処理が大変だし他の相棒も呼ぼうか。
タダだし。無料だし。
さ、皆。オヤツの時間だよ
ところでさ、相棒。
キミが一番、楽しんでない?
シマエナガってチョコ食べたっけ。まあいいか。
●チョコレートフェザー
海の色も、陸地も視界に広がる色んなものが甘い匂いを立ち上らせている。
ふわ、ふわと揺蕩う泡もチョコの色。
「チョコだ……チョコだよ、相棒」
少し離れた状態の鉄甲船からその島を見た時、樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)の関心のバロメーターはとても揺れた。いざ島へ上陸してみれば、そのおかしいな光景はきっと目を焼く程染み付いてくるだろう。
桜雪より先に上陸して戻ってきた猟兵話を結び合わせると見えてくるのは、七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの分身体の話。"増殖する私の残滓達(スイート・メロディア)"は何故かとても給餌に勤しんで楽しそうだった、という。
「ねえ、せっかく色々お勧めしてくれるみたいだし、楽しんじゃお……いたっ!?」
相棒のシマエナガによる高速乱れ突きが頭を叩いてくる。
少々お怒りのご様子。ツリリリリリリ、ととても警戒を促しているようだ。
「"気が緩みっぱなしじゃないか"って?まあ、敵意がなさそうでも敵は敵……相棒の言うことは確かに正しいよ?でもね、うーん。じゃあいいよ。ボク一人で楽しんでくるから。相棒は留守番してなよ」
すす、と相棒を甲板に残して上陸していく桜雪。
「ジュリリ、リ……リ?」
流れるように首を傾げて。桜雪を見送る事自体もおかしいのではないか。
相棒の判断の切り替えは早かった。ぱたっ、と尾羽根を揺らして飛び立つ先は桜雪の肩(特等席)。
「……結局くるんじゃないか」
自分が居ないとダメでしょ、という雰囲気がもふっとしたまんまるから感じられる。先程のやり取りが嘘のように、トーゼン、という毅然とした態度がなんだか微笑ましい。
『二名様をご案内、で宜しいのですか?』
ざり、と音を立てることもなく。桜雪の前に立っていた控えめな女性――のような存在。スイートメロディアはニコニコと、来島祝いと称してチョコレート・ローズを手に現していた。
島と周辺、それらをチョコに変えた元凶のわりに、ふわふわとした気配。
「二名、うん。二名でいいよ。相棒もちゃんと頭数。当然だよ」
「ジュリリ」
桜雪は薔薇の花形チョコレートを見て楽しんで、メロディアの横を通り抜けてサクサクと島の奥の方へ進んでいく。
メロディアは笑顔だけで何も言わなかった。ぞ、ぞ、ぞと背後や足元にもこもこ生えた何かが恐ろしい速度で殖えていたような気がするけれど。
「相棒。みた?さっきの」
メロディア一体と話した。その足元からぞぞぞと沸いて現れたのは、同じ顔の"増殖する私の残滓達"。
島自体がメロディアのせいでこうなった、というのはあながち間違いではないのだろう。どこにでもあわれてどこにでも補充が効くからこそ、"本体"が居なくともどこまでも殖えていくのである。
"無限再生能力(しなない)"を体現しているような悪夢のような、光景だった。
「ボクが瞬間的に数えられただけでも一ダースは超えてたよ……?」
後ろからゆっくりとついてくる気配があるのだが、おかしなことに先程みた人数の倍以上の気配へと殖えている気がして。
振り向くのが少し――怖い気がした。
なにしろ、全てが同じ顔。もしかしなくても、今もニコニコと微笑みを讃えているかもしれない。敵意だしたら大量の個体から攻撃を受ける可能性が高いのだから――怒らせない方が良いだろう。
「それにしても、すごい圧だよね。ばしばし視線を感じて痛いくらい。チョコも本当にたくさんだし」
視線を振ると立派なヤシの木でさえ、幹から葉先、ヤシの実までチョコレートになっている。
試しに木の皮を捲ってみたが、当然のように中までたっーーーぷりだった。
樹の密などではない。なにしろ、溶けたチョコにしか、みえない。
『切り株のようなチョコレートはいかがでしょう?』
『それともこちら、お連れ様によく似た形のオーダーメイド"フェザー"でも』
「ん?」
どうやら毒物ではないらしいチョコレートたちに軽く舌鼓を打ちつつ、チョコの日を楽しむ。付け込まれない一定の線を引いて、当たり障りなくメロディアたちの給餌を受ける桜雪。
ぱたぱたと飛び回る相棒も、なんだかんだ上機嫌の様子。
その中でも桜雪が気になったのは、たくさんのチョコを勧めてくる中で一際異色の鳥型チョコ(一分の一スケール)。花でもなく、桜雪が目を向けた小型のミニチュアでもなく――シマエナガ型の細かい装飾すらあるチョコレート。
「相棒、颯爽と突かないで!ともぐい!」
「チ?」
ちょこっと欠けたチョコエナガ。
『ご安心下さい。このようにどこまでも殖えますので。それ故のスイートメロディアです』
意匠の想像図が共通しているのか、チョコエナガは即座に増産される。
「……わあ、すごい。はやーい」
メロディアの圧は、もう直視してなくても傍に感じられる。振り向けばそこに、横を向けばそこに。相棒越しに、相棒の上に。どこにでもいる気配。
「ほんとうに、たくさんだね。まだ殖えてるし……圧がホント、さあ」
等身大チョコレートの群れにしても、コレは流石に多すぎである。
「在庫処分するにも、人手がいるよね。ボクと相棒だけじゃ処理が大変だし……」
――他の相棒たちもよぼうか。
「おいで、相棒。さ、皆、オヤツの時間だよ」
散らばるように飛んでいく白のもふもふした弾丸。
シマエナガの大群の強襲。突かれたり蹴られたり、一度では破壊できないものの数が集まればまるでそれは鷹のよう。
襲ったチョコ(敵)は必ず斃す猛禽類が如し。
「タダだし。無料だし。どこまでも殖えて倒しきれそうにないし、シマエナガたちにもご馳走させてね」
たくさんのさえずりが、楽しそうにチョコと戯れる光景。
茶色だらけの光景に、動く白の翼。
そう、ホワイトチョコみた――と意識までチョコに染まりかけていることに気づき慌てて首を振る桜雪。
「ところでさ、相棒」
ん?と一番身近のお馴染みの相棒が、首を傾げて話を聞く姿勢に。
「キミが一番楽しんでない?」
白の毛並みはチョコまみれ。たくさんのチョコを突いて液体チョコをちょちょいと触ってみたりして。
ピンクや黒、普段の羽毛よりも見事にコーティングされてしまっていた。
「……シマエナガってチョコ食べたっけ?」
まあいいか。チョコ相手に、皆遊んでるだけかもしれないし。
みんなも平和的に自由に遊びたいだろうからね、なんて。
「あ。さっきのチョコエナガはお土産に貰っていくね」
大成功
🔵🔵🔵
久遠寺・遥翔
アドリブ歓迎
こいつは色々とヤバい空間だ
チョコと化した【地形の利用】
溶かしてアーマーに塗りたくり迷彩にして
さらにその地形に姿を隠しながらチョコの島を見回り
【第六感】を駆使して周囲に気づかれないタイミングを見計らい
発見した残滓を背後から狩って回る
他の連中がもし楽しんでいるのならそれも敵の気を引くのに利用しよう
うーん、アサシン染みてきたなぁ
発見されたら仕方ない
とりあえず言葉を聞くが悪いが俺はカルロスじゃないし、甘い時間はここにはない
甘い話ならまぁ…いやいや、帰りを待ってくれている人のためにここは突っ切るぜ
チョコもその人の分で間に合ってるんでな!
UC起動からの【範囲攻撃】で一気に薙ぎ払い離脱だ!
●迷彩チョコをその身に
チョコレートまみれの島に潜入し、その男は息を殺して進む。
――こいつは色々とヤバイ空間だ。
久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー/『黒鋼』の騎士・f01190)の視界にあるものはどれもこれもがチョコへと変質したものばかり。むしろ、それしかない。やや離れたところで横たわったキャバリアも現実味が薄い。
まるで悪夢の中にいるように、クロムキャバリアとしての要素は損なわれていた。
チョコで作成したレプリカと言われてはそうなのだろう、と思ってしまいそうなほど。今はまだ、七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの"増殖する私の残滓達(スイートメロディア)"にも出くわしていない。
このままでは気付かれるのも時間の問題。
――そうだ、いっそ……!
チョコとなってしまった以上、島は本質的に"ただのチョコ"であるともいえるのだ。地形の利用をして、更に奥深くまで人知れず踏み込むためには。
――おお、溶ける溶ける。
焔黒剣イグニスの焔の熱量に溶かされて液体化していくチョコレート。
甘い香りが間近にあり続けることになるが、此処は我慢。塗りたくればアーマーはチョコの隠れ蓑に隠せる。チョコを隠すならチョコの中、だ。
『本当に、たくさんの人が訪れるのですね』
『ええ。とても嬉しいことです。あの男も、こうしてただ引きつけるだけのモノが欲しかったのでしょうし……』
殖え続けながら同じ顔同士が会話している。
どこか楽しげで、儚げで。何故か憂うような声色の談笑。あれこそがスイートメロディア。持て成すための客が見つからなくては手持ち無沙汰。
同じ考え方をする残滓達相手に、トーク力でも維持しようというのだろう。
自分が不快にならないように努めて会話を続けるので、何の成果を生み出さない大変意味のない行いだ。
――自分たちしかいない、というのを判ってないと出来ないな。あれは。
――周囲に気付かれてる様子はいまのところ、無し。
殖えながら談笑されていては、見つかる。
そこで遥翔が考えたのは、元は石だったものだろうチョコの投擲。
なるべく今いる場所からは少し離れた場所に狙い定めて――全力で投げる!
ゴッ――ころころ。
想像以上に、チョコレートは石のような音を立てた。
ぶつかったのは全壊しているチョコキャバリアの頭部。
見事に粉砕し、こぼれ落ちるように石チョコは転がっていったのだが――。
『あら?誰かいらっしゃるのですか?』
スイートメロディアたちが一斉に顔を気配をそちらに研ぎ澄ました瞬間を狙い、遥翔は最後尾に殖えた彼女たちを神剣で狩って回る。殖えた先から少しずつ、チョコの成れの果てへと変じさせていけば個体数はおおよそ減る。
ばぎり、と砕ける音を聞かれないよう砕くではなく。
焔の熱で溶けて液体化させるように努めているので、まるで音がない。
――他の連中も楽しそうに巻き込まれているようだな。
――本当に、悪意はないのか?
悪夢のよう光景に、悪意がないとは言い切れない。
甘味嫌いなら真実ただの悪意だからだ。
――うーん。人知れず狩り続けてるモンだからアサシン染みてきたなぁ。
すこし気がそれていたのがいけなかったのか。
スイートメロディアを溶かす威力に甘みが出てしまった。
『あら、あらあら。そちらからいらっしゃったのすね。ごきげんようチョコはいかが?』
『それとも私の抱擁をご挨拶代わりに差し上げましょうか』
――あ、発見されたか仕方がない。
挨拶一つと、両手を広げてウェルカムと主張するスイート・エンブレイスの構え。
『あの男と同じように、たくさん食べるといいのです。たくさん用意しましたからね』
『ご遠慮なさらず、カルロス』
幻視でもしているように突然居ないものの名前を上げて、メロディアはフフフと笑うのだ。
もてなしたいのは本当に猟兵か?
「話はわかった。わかったが……俺はカルロスじゃないし、甘い時間はここにはない」
抱きしめようとしてくる個体をすれ違いざまに溶かし、溜息のようなものを付く。
「甘い話ならまぁ……」
『してくださるの。それともスイートメロディアのお話を聞きたいのでしょうか。ふふふ、時間はたっぷりとありますよ』
それから私達(分身体)の人数も。
「……いやいや、帰りを待ってくれている人のためにここは突っ切るぜ?」
――天焔解放(オーバーフロウ)。
全身を漆黒と黄金の焔で覆い、チョコレートメロディアの抱擁を断固拒否する。
手を出そうものならその手からどろどろと溶けるのだ。
愛を語ろうとするならば、溶けて消えることなど容易いだろう?
「チョコもその人の分で間に合ってるんでな!――フレアライザー・ヘヴンッ!」
焔黒剣に宿した焔は大量の人型チョコレートを、コレでもかと溶かし尽くして通り過ぎていく。
あとに残ったモノは、大量の形を失った甘い残滓達。
殖える彼女たちでも、流石に形を亡くしては――容易く殖える事はないだろう。
追手の手は、遅れて現れるが遥翔の逃走は完全に独走のそれとなった。
酷い目に遭っても給餌しようとする姿勢は、少しを超えて――狂気の沙汰だった。
大成功
🔵🔵🔵
ユニ・バンディッド
アドリブ歓迎
ありがとー!ん~!メロディアさんの味だね♪ボクからもお返し!一緒に食べない?楽しいよ♪
メロディア達を対象に【デモン・フェイカー】手品の様に精巧なる贋作武器、毒スイーツをボクの手に生やして操れる様に[武器改造]、[存在感]見せつつ[誘惑]。デビキンにも魔女さん御用達の毒スイーツがあるからね。慣れたモノだよ♪
ボクに向けられた毒は、ユーベルコードで[盗み]出した操作権を使って毒操作し無害化しつつ[騙し討ち]の下準備に贋作スイーツを大量配布。
みんなに行き渡ったら[咄嗟の一撃]に[武器改造]。あ、ごめんね?手がすべっちゃった![投擲]や全てのスイーツを操作して[範囲攻撃]しちゃえ。
政木・朱鞠
なるほど…無粋な圧迫接客ってことね。
甘いお話に花を咲かせたい所だけど、今は戦争中で苦い状況だからね。
ゴリ押しして来るのなら、それを利用して近接した所を溶かして行動を封じてみたらどうかな?
悪徳セールスお断りって事で、世を騒がせた咎で一旦退いて貰わないとね。
戦闘【WIZ】
私の狐火製の分身達がどれだけメロディアを溶かせるか不安は有るけど『忍法・火煙写身の術』を使用して彼女たちのお持て成しを迎え撃つよ。
武器は一撃必殺より距離を取り手数の多い攻撃を優先して忍者手裏剣『鳳仙花』をチョイス、【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使いつつ【傷口をえぐる】で露出した部分を狙ってダメージを与えたいね。
アドリブ連帯歓迎
●忍び忍ばせ忍れば
内心、驚いたのはある猟兵。
「なるほど……無粋な圧迫接客ってことね?」
聞いただけではあまりピンと来ていなかった政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)も、その様相を遠巻きに目撃したら理解する。
猟兵相手に、七大海嘯『桜花』メロディア・グリートが分身体"増殖する私の残滓達(スイートメロディア)"はにこやかに攻め立てている。
『甘い時間のお供にチョコレートはいかが?』
『それでは少ないのです。もっともっと、たくさんいかが?』
ぐいぐいと迫るメロディアは、殖えながらその質量を物理的に増していく。
どれなら貰ってくださるの、どれなら食べてくださるの。
押しの強さはまさに"強欲"。
桜が舞うような優雅さで、花咲くように可憐な彼女はチョコレート属性。
どこまでも甘く相手を手の内で転がそうとする秘めやかなる魔性の女(チョコレート)。でもほら、あの押しの中に巻き込まれてる猟兵の姿も――。
取り囲まれた猟兵は、大人しくその給餌を受ける他無かった。
ぱきん。腕を折り、チョコレートのコーティングを剥がし。
チョコレート体として殖えた身の中――その内側に収まっていたキャンディ質を顕にしてスイートメロディアは何事もなかったようにユニ・バンディッド(贋作の悪魔・f31473)へと給餌する。
『こちらが、自慢の"ラプソディ"。どうぞ』
「わーい、ありがとー!」
彼女たちが給餌してきたキャンディは不思議と妙な光沢を持っていた。
シーフの感が告げるのは、あれは致死量の毒素ではない、ということ。
ほんの少しの隠し味(ポイズン)。口に含めばあら不思議。
ひとつでは物足りなくて、もっともっと欲しく――。
「ん~!メロディアさんの味だね♪」
――なんてね。ボク、毒まで食べてないんだけどさ?
味について、彼女たちは感想を求めてはいなかったのだろうが――"自分味(メロディア味)"と言われてはぎょっとする。
「お菓子は皆で食べようよ、ボクからもお返し!一緒に食べない?楽しいよ♪」
見えている範囲のメロディアたちを対象に、ユニが行うことは、まるでマジックのようだった。
――我が意のままに、あらゆるものを模り生み出す。
目視したキャンディ生成を、そっくりそのまま贋作を手に作り上げることで提示する。もちろん、ユニの体から生み出されたものではない。
あくまで実際に食べて経験した味の記憶と見た目、現れ方を再現した"贋作"だ。
最も、ユニが口に運んだキャンディの毒は、ユーベルコードで盗み出した真贋の境目を揺らがせて、無効化してしまっている。
無害な毒を口に運んでも、効果はなく。味のスパイスにもなり得ない。
操作権を奪われてたと夢にも思わないメロディアたちが、楽しい給餌に勤しみ続けようとしているのが良い証拠だろう。
――精巧なる贋作。揺らぐ真実。
――偽りの財貨にかき乱されて、崩れし真作が悪魔の手に堕ちる。
『給餌するばかりで、味を知らないというのは確かにそのとおりなのですが』
『"増殖する私の残滓達(スイートメロディア)"は、どれもこれも結果的に自分自身。その方にはしたないことは……』
自分たちの"味"を彼女たちは知らなかった。
その身がチョコで、島と周囲をチョコに変質させはしたが――味を、彼女たちは認知していない。
「じゃあはじめての味を体験するんだね?じゃあ皆で食べよ?」
給餌するのはユニの番。
そんなふうににっこり笑えば、メロディアたちの手は"贋作"へと手が伸びる。
――掛かった。
――デビキンにも魔女さん御用達の毒スイーツがあるからね。慣れたモノだよ♪
『これ、が……私達の作り出したモノと同質の"ラプソディ"……』
「皆が盛ろうとした毒の味でしょ?ふふふ、どんな味?」
テキパキと、殖えたメロディアにもその場はじめから居たメロディアにもキャンディを手渡して。
「あ、ごめんね。言い忘れてたんだけど……」
可能な範囲に渡し終わったユニが言い残した、気を引く一言。
これに気を引かれたが最後、飴を口にしたメロディアたちは悶絶して崩れていく。
魅惑のキャンディに抗えなかった女の分身達は、皆一様に膝をついては溶けていく。毒の力加減を急激に逆転させて、致死量を超えた猛毒へと仕立てられた毒がぞぞぞと体を駆け巡って内側から破壊する。
たった一口。されど一口。甘味は人(メロディア)を簡単に壊すのだ。
「手が滑っちゃってたんだった!えへへ」
全てのスイーツが毒となり、武器となる。
そんなふうに滅ぼしても、メロディアたちの殖え方はとても迅速で――。
「毒を食べさせる。なかなかの不意打ちだけど……同じ作戦は、きっとダメだよね」
殖えたメロディア達が記憶を共有してるか、などはわからない。
だが同じ方法で倒し尽くせても彼女たちはすぐに殖えて来ようとするはずだ。
ほら、大量の猛毒チョコ液かしたメロディアの残骸を後の個体がすくい上げて薔薇の花型チョコレートに作り直してる!
全てが"私達(スイートメロディア)"。女の執着とは、なかなかに甘く重く、そして色濃いもの。
「甘いお話に花を咲かせたい所だけど」
『甘くて甘くて、溶けてしまいそうなお話をしましょう?』
『時間ならたくさんあるのです。さあ。さあ』
「今は戦争中で苦い状況だからね……甘い話は求めたい処、だけどさ」
本当に彼女たちはゴリ推してくる。
斃された分身体がいようとお構いなし。もてなしてもてなして、悪夢のような世界に滞在させようとしている。
まるでどこにも行かせない罠のよう。迷い込んだモノを逃さない魔女のよう。
――どの顔も笑っていて、自信がありふれているのがわかるけど。
忍者軍団の出身としては、全く同一の表情は特に気になる。
裏表はたしかに無いかもしれないが、それにしては"統率されすぎている"。
「悪徳セールスお断りって事で!」
言葉は強気に、ただし朱鞠の考えていることは少しばかり、弱気に染まる。
――私の狐火製の分身達がどれだけメロディアを溶かせるか不安は有るけど。
言霊はぼ、ぼ、ぼと背景を溶かすほどの高熱で朱鞠の周囲に現れる。煙火に暫しの魂魄を。一撃で消えてしまうが、それでも数がいる。数には数を、だ。
「世を騒がせた咎で一旦退いて貰わないとね!」
『騒がせた?このスイートメロディアが?ふふふ、騒がれているのですね?』
『甘い咎。私らしい甘美なフレーズだとは思いませんか?』
給餌を続けようとするメロディアは、動じない。
「それ以上近づくなら忍流の持て成し返しで迎え撃つからね。さあ、さあ!――疾く攻めよ!」
迎え、と宣言すると狐火製の分身達が彼女たちの接近を拒むようにぶつかって行って燃え溶ける。
一撃で消えてしまう分身だが、メロディアを複数巻き込んで燃やして消えるのだ。
それほどまでに彼女たちの耐久力は低い。数だけが揃う殖え続ける彼女たち。
朱鞠も指示を出すだけではない。狐火製の分身に紛れて、投げ放つのは距離を取れて、それでいて多い攻撃を可能とする
忍者手裏剣『鳳仙花』。四方八方囲まれるなら、どこに投げでも必ず当たる。
纏うチョコの鎧を削いだ個体を破壊し、薄い防御を投擲したクナイが貫き壊す。
投擲するクナイを、最も接近した個体に突き立てて、ぐりり、と抉れば。
メロディアは――何も言わなかった。
やせ我慢、ではない。痛み、というものがそもそも無いような表情だ。
「傷口を曝け出して、恥じらう事のない分身体の女に"本当の色気"が解るとは思わないけど?」
本来あるべき心の臓。その部位を刳りきって朱鞠の手は貫通した。ばらばらと崩れ落ちるチョコの体。ああ、まだ殖える。少し減らしてもすぐ殖える。
食べても減らない甘い罠。砕き散らしても、すぐに殖えていこうとする。
これが――彼女たちスイートメロディアの"甘い罠"。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
龍・雨豪
あー、恋愛話とかってこと?
そうねぇ。故郷に許婚が居たけれど、今はどうしてるかしら。
別に仲が良かったわけじゃないわ。けど、早く帰らないと少し心配ね。
あいつ鈍くさいうえに頼りないし、何より貧弱だから……。
あ、でも悪いとこばっかじゃないのよ?
頭は良いし、魔力とかは私より優秀。それに――。
まぁ、度胸はあるわ。
私が他の長候補といがみ合いしてる時に、間に入ってくるのよ?
あいつの方が遥かに弱っちいのにね……。
ああもう、何か調子狂うわね。
変な話させないでよ、このバカ!
八つ当たりで目の前の奴を殴っとくわ。
そもそも、海を汚してるコイツを掃除しに来たんだったわね。
島内を飛び回って、衝撃波でバラバラにしてやりましょ。
●甘い甘い語
甘い甘いに包まれた島で。ふふふ、と笑う七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの分身体たちは優しくて招く。
"増殖する私の残滓達(スイートメロディア)"。
それが本体から殖えて置き去りにされた、チョコレートなスイーツたちの"名"。
分かれたとはいえ、『桜花』ではある。
分身ではなく、殖えたものたちだからこそ。
同じ顔で、同じように誘い、手招いて。あの男(カルロス)と過ごしたある日のように、龍・雨豪(虚像の龍人・f26969)に接する。
『私の持て成しはお気に召すでしょうか、何を用意しましょう』
『甘い時間を過ごしましょう。ええ、どうかお話を聞かせて下さいませ』
チョコレートなカフェテリア。その椅子も机も当たり前のようにチョコレート質。
だがメロディアたちはハンカチを椅子に敷いて、雨豪をすとんと座らせる。数に物を言わせて取り囲むようにされては、まあ、座ってみてもいいかなと思うので抵抗こそ、しなかった。
話に花を咲かせたいのだと言う気持ちだけはよく、わかったから。
「甘い話……あー、恋愛話とかってこと?」
『はい。チョコレートより甘く、甘く人に染み渡るものですから』
「そうねぇ……」
話せる事があったかしら。
雨豪は目を瞑り、無くもない話を話してみることにした。
「故郷に許婚が居たけれど、今はどうしてるかしら」
『まあ、許嫁?』
『とても仲のよい殿方でいらっしゃるのかしら』
話す速度はゆっくり、あなたのペースで。そんな穏やかそうな微笑みを浮かべて。
机にストローの刺さったチョコレートドリンクを滑らせる。これはお話分のスイートメロディア流サービスです。いくらでも補充可能ですお客様。
恋の話に釣られたメロディアたちが殖えながら、話の続きに耳をそばだてる。
「別に仲が良かったわけじゃないわ」
そう話す雨豪の表情は少しだけ曇る。
「けど……早く帰らないと少し心配ね。鈍くさいうえに頼りないし、何より貧弱だから…………」
雨豪の方が、実力として上を取るらしい。鈍くさくて頼りない、貧弱な――まで聞いて、メロディア達が穏やかそうな気配を出し始める。
ああ、甘くて愛おしい話ね抱きしめてたくなるわ、とまで口走る分身体までいるほど。ぞろぞろと殖えているメロディア個体の多さで、雨豪まで手が届かず惜しいと溜息を漏らしているので、おかしな被害は出ないで済んでいる。
「あ、でも悪いとこばっかじゃないのよ?」
『幾つか例えて下さる?愛おしい部分を、沢山。ね?』
「頭は良いし、魔力とかは私より優秀。――それに――――」
指折り数えながら、あれも、これもと挙げて。
まだいい足りない。でも、これだけは認めてるという事柄を自信満々に。
「まあ、度胸はあるわ」
『武勇伝でもあるのでしょうか』
さり気なく滑らせてくるチョコレートドリンクが合計数十と並んだ頃、机の上はグラスでいっぱいになった。どれも毒などありはしないだろう。ただの甘い話のご馳走代に提供されているだけだ。
「私が他の長候補といがみ合いしてる時に、間に入ってくるのよ?あいつの方が遥かに弱っちいのにね……」
思わず広角があがる。良いところは、在るのだ許嫁にも。
こんな匂いに当てられてたからか、少し普段より多めに思い出してしまった。
「あああああもう!なにか調子狂うわね!変な話させないでよ、この――バカ!」
ガタッ、と椅子を達、ぐいっとドリンクを飲み干す。
案の定のあまいあまい優しいチョコレート味。
まずいわけではなかった。むしろ、喋った分の癒やし分くらいには、なった。
八つ当たりのように、目の前に居たスイートメロディアに空になったグラスを投げつけて。命中した個体はどろりと溶けて甘い夢の終わりをその身で示す。
「そもそもよ?海を汚してるコイツを掃除しにきたんだったわね?」
何か言いたげにした他の個体を殴って破壊して、雨豪を留めておく時間は終わったのだと島内部を飛び回り始める。全身を黄金のオーラで覆った雨豪の意志の力は、はじめからずっとブレてなどいないのだ。
「――ごちそうさま、とは言っておくけれどね?」
全員に言うなんて無理よ。だから衝撃波で夢の終わりを提供してあげる。広範囲にぶつける衝撃波で、バラバラに吹き飛ぶ笑うだけのあなた。
"本物"は本当に、"幸せな時間"を過ごしていたのかしら?
大成功
🔵🔵🔵
ハルア・ガーラント
泡沫、うたかた、過去の栄光
そんな言葉を連想させる島ですね――チョコになる前は!
あの、接待されてみても?
あまーい香りと雰囲気に包まれて彼女達の惚気話、聞きましょう!
チョコは本日のみ量より質を最重要視するので厳選したものをお願いします
こう前置きして彼女達の惚れた腫れたを聞きますね
相容れない関係であるわたし達
だけど共通・共感する想いは確かにある
不思議な気持ちです
焼餅エピソード、聞きましょう
素敵なところ、はいどうぞ
最近の悩み、あるんですかね
思い出の場所、何処でしょうか
残滓さんが集まったところでこちらからも
わたしの話も聞いて貰えますか?
お腹いっぱいです、御馳走様でした!
UCで一網打尽にしてしまいましょう
●恋バナ
泡沫、泡沫、過去の栄光。
元々も島の生い立ちは、覗き込んでも殆どチョコに埋もれてしまっている。
クロムキャバリア要素は、無造作なキャバリアだけがその証拠。
この島の生産施設"プラント"も名すら亡くした小国のものであったことだろう。
いつクロムキャバリアから零れ落ち、強欲の海に沈んだか。
その記録さえ、この島はもうチョコに塗り替えられて覚えていまい。
「そんな言葉を連想させる島ですね――チョコになる前は!」
ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)はそこまでクロムキャバリアを知らないのだが。でもこの島は。ひっそりと終わった島だとしても生きようとしていたはずだ。
バイオテロとしか言いようがない酸属性はその成れの果てでは――などと考えてしまい、チクリと胸が痛むよう。
『この景色がどうかしたのですか?』
『スイートメロディアが紹介しましょうか』
七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの分身体であり、彼女本人から殖えて分かれた"増殖する私の残滓達"。
スイートメロディアが集まると、余計にふわりとした甘い匂いはハルアの鼻をくすぐった。
まるでチョコ菓子を扱う専門店に迷い込んだよう。
「あの、接待されてみても?」
『まあ。なんて素敵なお客様。立ち話でもなんですので少し歩きましょうか』
ハルアの周囲にぞろぞろとメロディアたち。
それもどんどん殖えていく。異様な光景だ。
チョコの人形にでも囲まれているよう。どれもが妖艶に微笑んでいて、とても悪夢のような光景だ。
『どんなチョコがお好きなのですか?なんなりとお教えくださいませ。それ故のスイートメロディアですから』
メロディアたちは手を融解させてふつふつと何かを形作ろうとする。
「量より質を最重要視するので厳選したものをお願いしますね」
チョコに毒成分を仕組む気なのですか? そんな視線を向けたならメロディアたちは、首を振る。
『毒物などお客様の口に入るものにいれたりはしません。量よりも質、と仰ってくださいましたから』
『その願いを聞き届けないスイートメロディアではありません』
融解させた体から作り上げたのは、"毒素のない"薔薇の花形チョコレート。
赤、青、黄色に黒。チョコレート一色にしては多彩な花束を彼女たちは提示した。
――こう前置きしておけば、彼女たちから攻撃的意識も反らせるでしょう。
「そうなのですね?ではもう一つお願いを――"グリード"の名を名乗るということは……そういうことなのでしょう?惚れた腫れたなお話を、お聞かせいただいても?」
カルロス・グリードという男がいるこの海に。
グリードを名乗る女(分身体)がいるのだ、つまり、これは、そういう二人なのではないか。
ハルアの予想は大幅に的中し、メロディアたちは視線を泳がせた。
『あらあらまぁ……』
『まぁ……そういうことに、なります、ね?』
照れるように逸らされた顔。あ、いくつかのメロディアが自動的に溶けた。
あまりの照れの衝撃に、瓦解したようだ。
逃げるように溶けていった彼女たちを、ハルアは少し微笑ましい気がした。
――相容れない関係であるわたし達。
――だけど共通・共感する想いは確かにある。
感情に溶けた彼女たちは、口にできないほど想うところがあったはずだから。
――不思議な気持ちです。
ひょい、とチョコレートを口に運んで。
甘い気持ちになりながら、ハルアはまだまだ話を彼女たちに振ることにする。
こういう場では先に言った方が、主導権を得てしまうのだ――メロディアたちは一歩遅かった。
「"ヤキモチ"エピソードなどもありそうですね?」
話を振られた個体以外も、メロディアたちは大いに視線を反らした。
どうやら話をする側になると思っていなかったらしく、照れが勝っているらしい。
『ヤキモチ……あの男は、よく私を置いていくのです』
『酷い男でしょう?すぐにそうやって別行動させるんですから』
信じてのことだとは想いますがね、とメロディアは言う。
「(その調子でいっぱい聞きましょう)素敵なところ、はいどうぞ?」
『そうですね、行動力があるところでしょうか。何左右されてもメガリスを得ようとする気持ちは誰よりも強いと思います』
『財宝を溜め込んだ島もあるくらいですからね』
その呪われた秘宝や財宝と、私は関係が無いけれど。
どこか憂うようにするスイートメロディア。
「最近の悩みや、思い出の場所はどこでしょう?」
ずんずんと、沢山の話を聞いて微笑ましい気持ちを加速させるハルア。
手元にチョコレートがたくさんあることで、話に花が咲いてしまう。
なにしろ相手のチョコレートメロディア達が面白いくらい――照れるから。
『そうですね……あの男はメガリス"さまよえる舵輪"の力で、目的地をよく見失うのです』
『名前の通り最短ルートで目的の地までいけなくなる、メガリスですから』
『例えどんなに船が挫傷しても、船の形状を留めていなくてもあの男を留めて置くことは不可能』
『ありとあらゆるものを操作し、突き進むのがあの男。カルロスですから』
話しながらでもメロディアは殖え続ける。
照れて溶けていなくなっても、話し続ける度に彼女たちは殖え続ける。
――信頼が、あるんですね。一応。
ハルアが一応、と思ったのは女の勘である。
「少しだけわたしの話も聞いて貰えますか?」
『お聞かせ願いましょう、甘い甘いお話を』
「モモちゃんが先日戦闘中に大変寝過ごしてしまって。……相馬が…………」
在るアクシデントの話。
本当に存在したかはハルアのみぞ知るものだが、メロディアたちもなんだか目元を細めている。
この場の誰もが、"微笑ましい"気分になってきているようだ。
『成程、その話をもっと……』
「あーー!お腹いっぱいです、御馳走様でした!」
胸いっぱいのお話を、自分の口で語ってみて溶け出したメロディアの気持ちが解らなくもない。
そんな気持ちになりながら、今の話を聞いていた個体。
全ての耳を、塞がせたい気分。
「今のは全部きかなかったことにしてくださーい!」
吹き荒れる刃鳥花。有無を云わさず羽ばたく刃はそのフィールド全体に吹き荒れる。そうだ今の話をした個体たちも、自分の話を聞いた個体たちも一網打尽にしてしまえ。いやそうするべき。
そうすれば、ちょっぴりでも胸に渦巻いた照れくさくて恥ずかしいことは――外に漏れようがないのだ。
大成功
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バルタン・ノーヴェ
アドリブOK
何て素晴らしい生産ライン……と思いマシタガ、何でもかんでもチョコに変貌させるのはよくないデース!
チョコにはチョコの、海産物には海産物の、それぞれ良さがあるのデース!
食材をダメにする真似は見過ごせマセーン!(※キャバリア? うん)
それでは料理を開始しマース!
はい、並んでくだサイ、メロディア!
食べて欲しい人がいるなら、ワタシが協力してあげマース!
抵抗しないメロディアは美味しく綺麗なケーキに加工して冷凍庫へ。
抵抗するメロディアはUC《鉄拳制裁》で潰して土台などの材料に加工しマス!
後日カルロスに届けてあげマスカラ、協力してくだサーイ!
(※実際に渡すか、受け取られるかは、定かではありません)
●黙ってケーキを贈りなサーイ!
まず、チョコレートまみれに変わってしまった島を見て。
ある猟兵は、胸が踊るようだった。
「なんて素晴らしい生産ライン……と思いマシタガ、コレはイケマッセーン!」
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は叫びだす。
七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの残していった分子体。
"増殖する私の残滓達(スイートメロディア)"の殖える様を見て、断じて許してはいけない悪徳業者だと怒る!
止まる様子がない、残された残滓達も行い続ける無限再生能力(死なない)。
「その力でチョコを広げたというのデショーウ?何でもかんでもチョコに変貌させるのはよくないデース!」
土地も海も、このまま放っておけば空までもチョコレートが侵食するのは間違いない。
チョコレートに侵食されたクロムキャバリアの面影がとても物寂しい。
「チョコにはチョコの、海産物には海産物の!それぞれ良さがあるのデース!」
これを見なサーイと、バルタンが手にしたのは小さめだがマグロのような魚。だが、その海産物はチョコレート化しており、魚が魚としての体裁を保てていない。自ら上がったばかりだと、バルタンは主張するが、どろどろと溶け出していく。
まるで深海魚が崩壊していくよう。
回遊しているはずの魚が、海から出てすぐに腐敗するわけはないのだ。
「これでは良さが台無しデース!食材をダメにする真似は見過ごせマセーン!」
この宣言を聞いていたメロディアたち。スイートメロディアたちは、背後に転がるキャバリアを見て、首を傾げた。
これは食べられないもの。誰が、どうみても。
『食べられないものが変質するくらいなら誰の迷惑でもないのでは?』
「黙らっシャイ!」
歴戦兵から黙らせる会心の一言。
ぴしゃりと言われては、メロディアたちも黙ってしまう。
口答えさえ許さないその雰囲気は、甘いフィールドを支配する。
「分かれば宜しいのデース。――それでは料理を開始しマース!」
『料理、でしょうか』
「利口な子は好きですよ、メロディア。はい、並んで下サーイ」
たくさんいるメロディアを、バルタンは整列させる。
彼女の圧力に屈したようで、言われた通りに並んでいく。
「食べて欲しい人がいるなら、ワタシが協力してあげマース」
にっこり。バルタンは笑って、抵抗しないメロディアを内蔵式火炎放射器に焚べる。遠距離、広範囲渡って焼却を行うものではあるが。溶けるまで留めてしまえばこちらのもの。
格納型メイド用キッチンの必需品それはボールとおタマ。わくわくと溶けたばかりのチョコをすすいとすくい取って、冷蔵庫に収納!
あとは、固まったらチョコレート100%ケーキが即座に完成。
材料は半ば無尽蔵。なんてお手軽クッキング。材料に抵抗させなければ子供にもおすすめできます(真似しないで下さい)。
『あ、悪魔ですね……!?』
『悪夢のようです……!?』
「抵抗、するのデスね?」
抵抗するように、列から離れたメロディアへ訪れるのは"鉄拳制裁"。
大きく振りかぶった拳は、容易くその体を砕き、潰して土台などの材料へと加工される
悲鳴はない。あげる時間は彼女たちにないのだ。壊れたらそれで終わり。まるで悪魔。彼女たちの認識に、間違いはなかった。
「後日カルロスに届けてあげマスカラ、協力してくだサーイ!」
カルロスの元へ、チョコケーキが大量に届く未来を想像したメロディアは。一体何体居たことだろう。
バトルサイボーグメイドの戦い(料理)はまだ終わるようには見えない。
太陽が在る限り、殖えるメロディアが居なくなるまで続くのだ。
一番最初に冷蔵庫へ入れたケーキが固まる頃。
「まあ、実際に渡すか、受け取られるかは、定かではないデスケドネ」
それもそうだろう。カルロスが、見ず知らずのメイドから。
突然大量のケーキが贈られて、誰が受け取るというのだろう。
ケーキの材料は見渡す限り底をついた。
チョコレート化してしまった海域からも、幾分か掬い取り環境改善に努めたたが半日足らずでもとに戻るはずもなかった。
まあ気温があがれば、そのうち――チョコの呪縛から逃れた島が、顔を覗かせることだろう。
誰も居ない――廃墟なのだけれど。
大成功
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