●堕天學園校歌
昨日を越えて、黒歴史。
今日も語るよ、口上を。
明日も学ぶよ、邪悪心。
悪行に不義、悪徳と不正。極道凶悪、堕天の罪を。
La~LaLaLa~ La~(※この辺は決まっていないのでハミング)
嗚呼、我らが堕天學園! ~フォーリン・エンジェル・スクール~
Lu~LuLuLu~ Ah~(※ハミング)
●学園マンション
「らー、らららー、らー」
「校長先生、また校歌うたってる~!」
「ねえ、それいつ完成するの?」
度重なる増築で迷宮のように入り組んだ高層マンション――もとい、全寮制の悪魔学校という名目の建物の中で、ひとりの堕天使が歌っていた。
その声を聞いていた悪魔達は『校長先生』と呼ばれる堕天使に問う。
すると彼女、ルビー・ジュエルシードは静かに呟いた。
「今度、皆さんに校歌を作る宿題を出し、ます。きっと、そのときに決まりますよ」
「わーい、たのしみー!」
「みんなで歌いたいなっ」
無邪気な悪魔たちに頷きを返し、堕天使はもう行きなさいと軽く手を振る。もうすぐ学校マンション内での授業が始まる時間だ。
「チャイム、です。皆さん。今日も悪事を胸に、黒歴史を紡ぎましょう」
「はーい!」
「ばいばい校長先生~!」
此処は全寮制の悪魔学校、『使立堕天學園』。
――という名の校舎型マンションだ。学校施設としては不認可ではあるが、このデビルキングワールドではそれもまた悪いものだとして持て囃され、学園型違法マンションは今日も堂々と聳え立っている。
何とも不思議な場所だが、近頃は妙な異変が起こっている。
突如として校長と名乗る者が現れ、マンション内に住む生徒という名目の住民達が本来の大家に家賃を払わなくなった。そして、彼らの外出が禁止されてしまったうえに、派遣された家賃取り立てギャングも内部から出て来れず終い。なんと校長の意向により、卒業できなければ永遠に外には出られないということになってしまったのだ。
●違法学園SOS
「学内に入るのは入学者しか認められず、卒業資格は『校長を倒すこと』だそうじゃ」
此度の世界はデビルキングワールド。
或る地域に建っている学校型違法建築マンションにて、事件が起こっている。
鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は事態を語り、現在の生徒達や内部に入った家賃取り立てギャングはどうあっても卒業など出来ないのだと話した。
何故なら、堕天使の少女が恐ろしく強いからだ。
「固有結界のようなものなのかのう。校長を倒すまでは、一度入ってしまえば誰も出られぬ。それゆえに皆が新入生になって潜入して、堕天使を倒して来て欲しいのじゃ!」
頼むぞ、と告げたエチカは内情を語りはじめる。
入学手続き、もとい入居は簡単。
入口で入学したいと申し出れば入れて貰えるので其処は気にしないでいい。
「まずは誰であっても学校マンションの下層、初等部からスタートじゃ。そこでは自由に過ごしていいが、入学した以上は簡単な悪事をせねばならぬ」
入り組んだ建物内には様々な部屋がある。
教室に体育館、理科実験室、長い廊下や音楽室。食堂に購買、会議室。
庭園や飼育小屋、ティールームに寮室など、現代日本風やまたはその他の外国風の学校など、常識にとらわれない其々の様式が広がっている。
「悪事は、たとえば――」
ブギーモンスターの布めくり。何故かチャイムがついている部屋や教室のピンポンダッシュ。壁や校舎への落書き。購買のパンをツケで買う。食堂メニューを嫌いなものだけ残す。四天王の結成、悪巧み会議などなど。
初等部の悪魔は無邪気な子供が多いので、一緒に悪の団を結成するのもいいだろう。
下層では軽度の悪事が推奨されている。あまり大掛かりで本気の犯罪を行うのはいけないので、あくまで悪戯程度がいいだろう。
「はじめての悪事が認められれば、中等部から高等部扱いの上層に行けるようになるようじゃ。そこでは卒業試験に近付ける、高等授業を受けられるらしいぞ」
第二段階は話術教団の先生による授業だ。
そこで良い成績を出したものが一人でもいれば、校長先生への挑戦――つまりは卒業という解放試験に挑むことが出来る。
「授業もまた少し変わっておるが、危険なことはないからのう。思いきり楽しんで……ううむ、悪に染まってくるといいのじゃ!」
皆ならば心配ないと告げ、エチカは使立堕天學園への道を示した。
犬塚ひなこ
今回の世界は『デビルキングワールド』
学園風に改築された違法高層マンションでの仮の学校生活をして、黒幕との戦いに向かうのが今回の目的です。
プレイング募集状況などはタグやマスターページにてご案内します。
お手数ですがご確認いただけると幸いです。
●第一章
冒険『はじめてのあくじ』
使立堕天學園(しりつだてんがくえん)で過ごすあなたの一幕を描写します。
既に入学を終え、学内で活動しはじめるシーンからリプレイが始まります。
主にOPやフラグメント指標に明記されている程度が軽い悪事です。
それ以外にもぜひ、あなたが思うちいさな悪を披露していってください。悪いことをしていると先生がチェックしてくれ、自動的に進級できます。
悪事がひとつでも行えていれば、少し変わった学園生活を謳歌して頂くこともできます。私服通学は勿論、セーラー服、ブレザーなど制服着用も可。どうぞご自由に!
●第二章
集団戦『黒光輪秘密話術教団』
中~高等部に進級した扱い。話術教団の先生による授業タイムです。
この章では、皆様が設定したUCの属性によってクラス分けがされます。
POW教室【黒歴史トークバトル!】
SPD教室【名乗り口上作成講座】
WIZ教室【必殺技に名前を付けよう】
戦いではなく授業として行われ、ちゃんとミッションをこなして先生に認められるとクリアという形式になります。
可能な限り、同じ授業を受けている方の同時描写を行います。学園授業のわいわい感をお楽しみください。(プレイング失効日や人数の関係でおひとり様や少数描写になる可能性もあります)
家賃取り立てギャングもこの階層に居ますが気にしなくて大丈夫です。
また、全クラス共通で『校歌を考えよう!』という宿題があります。
授業と宿題について、詳しくは二章冒頭にてお知らせします。
いずれも版権作品を連想させるものはご遠慮ください。全てを網羅できているわけではありませんが、明らかに似ていると判断される事柄については、なかったものとして描写させて頂くことがございます。
●第一章
ボス戦『ルビー・ジュエルシード』
卒業課題は、校長先生として君臨する堕天使を倒すこと。
彼女自身はローテンションな堕天使の少女。真面目でツッコミ体質なのですが、現時点でどうして校長になったのかは謎のままです。ノリと勢いかもしれませんね。
とても強いので全員で掛かりましょう!
第1章 冒険
『はじめてのあくじ』
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POW : やっぱスカートめくりでしょ
SPD : 華麗にピンポンダッーシュ!
WIZ : 芸術的に落書きなんていかが?
👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●いざ、入学
天高く聳え立つ高層マンション、『使立堕天學園』。
校門を模した入り口の看板には十字のマークで囲われた建物名が刻まれている。
入居、もとい入学は入口にある願書に名前を書いてポストに投函するだけ。
何とも簡単だが、それは条件を満たさない限り、二度とこの建物から出られぬという堕天使の契約だ。しかい、唯一の脱出方法は既に分かっている。
これからはじまるのは潜入学園生活。
手続きを終えた猟兵達には一人一室、または相部屋で寮室が与えられる。
暫くは其処で寝起きをして、自由に学校生活を送るといい。
学内では定期的にチャイムが鳴り響く。
それに合わせて行われるほぼ自習的な授業に参加してもよし。或いは悪事の第一歩として授業をサボり、別の悪いことをしてもいい。
猟兵達の生活態度や様子は悪魔教師によって適当にチェックされ、良い感じ、または悪い感じであれば適度な頃合いで上層への案内が送られてくるだろう。
学園はどんな者でも受け入れる。
悪魔的な場所ではあるが、思いきり青春を謳歌していっても構わない。
また、普段からデビルキングを目指して悪を志す者もいるだろうが、初心に戻ってみるのも良い――ではなく、悪いはず。悪事の道も一歩からだ。
猟兵達が此処でどのような学園生活を送るのか。
それはまだ、誰も知らない。
エドガー・ブライトマン
いけない、遅刻遅刻~!
入学以来毎日遅刻ギリギリさ
決まった時間に起きるのはニガテなんだ
白馬を駆り、校門を飛び越え
馬での登校は認められていたっけ?
ダメでもいいや。今日の私はちょっと悪い学生なんだ
黒い学生服を身に纏う
私はやはり、どんな衣装でも着こなしてしまうみたい
白も良いけれど、黒も似合うよねえ
どこか小悪魔的で。レディもオスカーもそうおもうでしょ?
すれ違う女生徒と女性教師にウインクを振りまき教室へ
その間もレディに怒られているけれど、必要なコトだから仕方ない
いろんな女性に気を持たせるのも悪いコトなんでしょ
よく解らないけれど
とりあえず腹が減ったから授業中に弁当を食べるね
ウーン、学生ってなかなか楽しいなあ
●白馬の王子と悪魔達
由緒正しくない悪魔のマンション、もとい学校にて。
悪事の温床、モラルの崩壊。世界を揺るがさないめくるめく悪戯の学び舎。
呼び方や謳い文句は兎も角、此処では今日も謎の魔王育成堕天授業が行われたり、行われなかったりしている。
――ぴーんぽーんぱーん。パカラッパカラッ。
気の抜けたチャイムに重なるように響いてきたのは馬が駆ける足音。そして、キラキラと輝きながら、閉まっていく内部校門に飛び込んでくる人影が見える。
「いけない、遅刻遅刻~!」
白馬と共に今日も余裕の遅刻ギリギリセーフをかましているのは、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)だ。
入学してから毎日、予鈴のチャイムと同時に駆け込んでくる白馬とエドガー。今日も廊下に馬ごと到着するという破天荒なワルさが光っている。
「エドガーくん、また遅刻寸前~?」
「どうにも決まった時間に起きるのはニガテなんだ」
廊下の途中で彼を迎えたのは、少し前に友達になった角の悪魔の少年。エドガー達の登校姿にはもう慣れたらしく、今日は用意してきた人参を白馬にあげている。
そして、少年ことマーくんはエドガーに笑いかける。
「馬の登校は校則違反なのに! でも、それがかっこいー!」
「ダメなことを行うのが悪の模範だからね。ん? 模範生徒は良いことになるから、悪いことではないのかなあ」
言葉の矛盾に気付いたエドガーは不思議な感覚をおぼえた。しかし突き詰めることではないと気付き、黒の詰め襟を片手で軽く直す。
この学園にいる間のエドガーはちょっと悪い男だ。それゆえに今回は王族の装束ではなく、学生服を崩して着用している。
ボタンは掛けず前を開いているが、それすらもよく似合っていた。
「白も良いけれど、黒も似合うよねえ」
緩く着こなした学生服の合間から覗く首元。どこか小悪魔的な雰囲気を醸し出すエドガーが微笑むと、オスカーが彼の頭の上でこてりと首を傾げた。
彼の左腕に宿るレディはというと、もう少し露出してもいいかもしれないという意思を見せているが、誰にもエドガーを見せたくないという思いもあるらしく、静かに葛藤しているようだ。多分。
「エドガーくん、一時間目の授業サボろ!」
「いいねえ、行こうか」
マーくんに誘われ、エドガーは承諾した。
ちなみにサボるときはちゃっかり白馬に代理出席を頼んでいるので、初等部の悪魔先生の中ではエドガーは馬に変身できるという認識になっている。
そうして、エドガーはマーくんと一緒に廊下を散歩していく。
初等部の授業はほぼ自習。そのため、エドガー達のようにのんびりと過ごす者も多いようだ。チャイムが鳴った後も廊下の往来はそれなりに賑わっている。
「おはよう、キミたち」
「みんな、おはよー!」
エドガーとマーくんはすれ違う女生徒や女性教師にウインクを振りまく。はわぁ、という声が聞こえたかと思うとエドガーの魅力にやられた悪魔の少女達が床にへたり込む。その顔は真っ赤で、王子様に声を掛けられた、という嬉しさに打ち震えていた。
「魅惑の王子様、これで十人抜きだね!」
マーくんはエドガーに惚れた女生徒を逐一チェックしているらしく、まるで自分のことのように喜んでいる。
「いろんな女性に気を持たせるのも悪いコトなんでしょ」
「うんうん!」
よく解らないけれど、と微笑むエドガーの今の表情こそ小悪魔。その間も左腕が痛み、レディが怒っているようだったが、今はこれが必要なこと。仕方ないんだよ、とレディに言い聞かせながら、エドガーは一時間目の時間を学内散策をして過ごした。
「先生、今日も綺麗だね」
「えっ……あの、ありがとう……」
「やあ、今度一緒にお茶会でもどう?」
「は、はいぃ……」
そうやって声を掛け続けるエドガー。その様子をメモしていくマーくん。そんなこんなで、王子様に惚れ込む生徒が更に増えたことは語らずともご理解頂けるだろう。
なんやかんやで二時間目。
教室に戻ったエドガー達は早々に早弁を決めていた。
購買で入手した焼きそばパンだ。デビルキングワールドには割と何でもあるらしい。
「今日のパン、ふわっふわー! エドガーくん、そっちも一口ちょうだい!」
「いいよ、キミのデビルメロンパンと交換しよう」
腹が減っては悪事は出来ぬ。
「ウーン、学生ってなかなか楽しいなあ」
マイペースに仲良く楽しく、ついでに悪く過ごすエドガーは素直な感想を零した。少し暑くなったらしく、優雅な動作で上着を脱いだ彼の姿にまた女生徒が魅了されていく。
蠱惑の悪事完了だ。
そんな彼の様子を評価役の教師がじっと見つめていて――。
そうして、学園生活はもう暫し続いていく。
大成功
🔵🔵🔵
水桐・或
◎
女子ブレザー服で潜入
……いや、この体の内側にいる妹の代わりに学園生活を感じようと思ってね
応化躰の【肉体変化】による【化術】があれば体つきもそれっぽく変えられるし
女子グループに混ざって学園生活を送る
授業中に手紙を回したり、ガールズトークをしたり、ネイルを教えてもらったり
……あっ、更衣室は避けます
見た目は女性に変えられても、本質は男のままだからそういうのは、ね(顔が赤い)
さて、悪事をしないといけないのか
なら一般の女子生徒と別れ際、正体を明かして驚かそう
じゃあね、もう会うことはないだろうけど、悪くない学園生活だったよ
妹も生きていたら楽しめただろうって生活を体験できた
……僕もまあ、今日は楽しかったさ
●妹として、悪魔として
首元には瞳と同じ色の藍色のリボン。
シックで落ち着いた配色のチェックスカートがあしらわれたスクールブレザー。
水桐・或(剥奪と獲得・f31627)は今、女子として学園に潜入していた。
しかし、ただ女装しているというわけではない。ちゃんとした理由があり、化術による肉体変化で女性らしい身体つきになっている。
(少しでも、学園生活を楽しめれば――)
これは自分のためではない。
内側にいる妹の代わりに、学校で過ごす時間を体験してみようと思ってのことだ。少し、否、かなり変わった校風ではあるが基本的には学校らしい体裁を保っている場所なので、きっと丁度良いはず。
そんなわけで或はスカートの裾を翻し、予鈴のチャイムが響く校内へ向かう。
「アルちゃん、おはようです!」
「やっほー! もうすぐ本鈴がなるよ」
「おはようございます」
割り当てられた教室に入ると、入学後すぐに友人になった堕天使とラスボス女子が手を振って挨拶をしてくれた。
乱雑に並べられた教室机の後方に陣取り、三人組は今日も一緒に過ごす予定だ。
ちなみに堕天使はルカ、ラスボスはディアという名前なので、三人揃ってアルカディア隊という通称が女子達によって名付けられていた。
「今日は何して悪いことしよっか」
「授業をサボります? それとも約束のアレをやりましょうか」
「アレですか。そうですね、教えて欲しいです」
ディアが下半身部位を蠢かせながら問うと、ルカがメイクボックスを取り出した。実は先日、趣味のネイルやお化粧を教えてもらいたいと或が願っていたのだ。
「りょうかーい、です!」
既に授業開始のチャイムは鳴っているが、誰も気にはしない。
机の上に並べられたネイルの小瓶は色とりどりで、堕天使の少女は或に似合う色を見繕っていく。やっぱり髪の色と合わせたりするのがいいかなぁ、と悩んでいるルカに手を差し出し、或は爪に塗られていく色を見下ろしていた。
「綺麗……」
「ふふ、もーっと可愛くなりますからね。アルちゃん!」
「わたしもネイルするーっ!」
或とルカのやりとりが羨ましかったのか、ディアは半身にある鋭い爪に真っ黒なネイルを塗っていった。或もディアからネイルのコツを教わり、教室で堂々と授業をサボるというガールズタイムが流れていく。
ときおり行われる抜き打ちテスト時はこっそりと友達と手紙を回しあったり、昼休みに恋バナなどをしたりと、学園生活は実に充実している。
そうして、或が入学してから初めての体育の時間が訪れた。
「アルちゃん、着替えにいこ!」
ルカとディアは体育館傍にある更衣室に向かうため、鞄を持って教室から出ようとしている。しかし、或は浮かない顔をしていた。
「どうしました? 体操服もってくるの忘れちゃいました?」
「……あっ、いえ。それはちょっと」
或としては更衣室に行くのは避けたかった。
そう、見た目は女性に変えられても心の本質は男のまま。それゆえにそういった行為はたとえ合法であってもいけない。悪事だとしても越えてはいけない一線だ。
「顔が赤いぞー、アルちゃん」
「ふふ、恥ずかしいのかな。じゃあ空き教室で着替えるといいですよ!」
ディアはからかい気味に、ルカは個人の事情も大事だと判断して更衣室に行かない選択肢を示してくれた。悪が持て囃される世界だが、基本的にみんな優しいようだ。
何より、ラスボスのディアは下半身の見た目がおどろおどろしい。されどそれは心の綺麗さに反して恐ろしくなるものだ。
(優しいから、初等部から進級できないのかな)
或は友人達を思う。
そうして、ひとりで空き教室で着替えることになった或は事なきを得た。
そんなこんなで日々は過ぎ、そろそろこのマンション解放の為の進級を考える頃。
「さて、悪事をしないといけないのか」
女子として学園に馴染んでいた或は、自分の中で最大の悪を犯そうと決めた。
放課後、ルカとディアを校舎裏(という名のマンション内の中庭)に呼び出した或は、あることを告げる。
「黙っていてごめん。――僕は、男だ」
「え?」
「ふえっ!?」
正体を明かした或は化術を解いて元の姿に戻った。変わらぬブレザー姿ではあるが、実によく似合っているままだ。
驚いて言葉が出ないらしい二人に背を向け、或は歩き出す。
アルカディア隊は此処で解散。略奪の悪魔の名のもとに、彼は彼女達から友人を奪ったのだ。こうして騙していたことが悪事なのだと伝えた或は歩き出す。
「もう会うことはないだろうけど、悪くない学園生活だったよ」
「そんなあ……」
「もうお別れなのですか?」
「そうだね」
ショックを受けているらしいディアとルカを、或は敢えて突き放す。心が痛むがこれも必要なこと。或は振り返らず、別れの言葉を彼女達に告げた。
「じゃあね」
もし妹が生きていたならば楽しめただろう生活。それを体験できたことは或にとっても悪いことではなかった。
共に過ごした時間はほんの僅かな日々。それでも――。
「……僕もまあ、毎日が楽しかったさ」
ひとりになった後、誰にも聞こえないように呟いた或。
その爪には、皆で過ごした教室で塗って貰った紫のネイルが静かに輝いていた。
大成功
🔵🔵🔵
三上・桧
学校生活、懐かしいですね
学校といえば長い廊下
早速、UCで巨大化した火車さんに騎乗して廊下を爆走しましょうか
という訳で、火車さんお願いします。はいGO!
学校の廊下は走る為にあるのですよ
あ、左側通行はしっかり守ります
逆走は危ないですからね。絶対事故なんて起こしません(UDCアース民的感覚)
階段は当然、手すりを滑り降ります
これ楽しいですよね。テンション上がってきた
滑り降りる途中でジャンプ
からの華麗に着地!
『三十路手前の女子がお前……小学生か』
何を仰るのです火車さん、今の自分は初等部の学生ですよ
嗣條・マリア
……こういう世界もあるのですね
自分の世界しか知らなかったもので、なかなか楽しそうです
学生生活なら任せてください
小学校を卒業したのは、割と最近ですから……悪事、悪事?
…………ええと。わかりました。そういうことでしたら、私も覚悟を決めましょう。風紀委員長として知りうる悪事を働いて見せます
(スカートの丈を短くする)
(胸元のボタンをはずして制服をだらしなく着る)
……よし。あれ、足りませんか?
(黒板消しをドアのうえの方に挟む)
(頭に当たるといたそうだ……)
(胸ぐらいの高さに下げる)
……完璧です(どやぁぁぁか)
●大暴走廊下ダッシュ
違法マンション内に広がる不思議な学校。
其処に潜入した三上・桧(虫捕り王子・f19736)は懐かしさを感じていた。この歳になって送ることになる学校生活はどんなものだろうか。
少しの期待と、悪魔や魔王の学校だということへの僅かな懸念。
そういったものを抱いていた桧だったが、そんな思いはいつしか消えていた。
「という訳で、今朝も火車さんお願いします。はいGO!」
悪魔達で賑わう校内を歩き――もとい、爆走する桧は今日も教室に向かう。
その声を聞きつけた初等部の面々が騒ぎはじめた。
「わー、暴走ヒノキがでたぞー!」
「にげろー! 轢かれちゃうー!」
長い廊下を逃げ惑う悪魔達は危険を知らせあっている。何故なら、桧が毎日登校する度に巨大化した火車さん(野良猫又)が廊下を突っ走るからだ。
「ああっ! マーくんがやられた!」
「む、無念……」
今朝は廊下を歩いていた角の悪魔少年が火車に轢かれた。だが、悪魔はかなり丈夫であり轢殺事件にはなっていないので安心だ。
火車の背の上から振り返った桧は轢かれた少年、マーくんにひらひらと手を振る。
「学校の廊下は走る為にあるのですよ」
「ひゅー! 悪くてかっこいい!」
桧が颯爽と廊下を駆けていく様を見守っていた別の悪魔は、悪さに対する歓声をあげていた。そのまま曲がり角を見事なコーナリングで攻めていく猫又。
だが、廊下の真ん中からはみ出しそうになった火車に桧がそっと注意する。
「あ、左側通行はしっかり守りましょうね」
火車は少し気怠そうに分かったと答え、目的の教室に向かっていった。
UDCアースの感覚を持っている桧にとってはこれが交通ルール。そもそもこの道が道路ではなく、走るということ自体の度が越えているのだが、デビルキングワールドでは悪こそが法であり正義。
「逆走は危ないですからね。絶対事故なんて起こしませんよ」
学内を駆け回る桧は一応のモラルを持ちながら、今日も爆走を続けていく。
●校則違反は悪の道
目の前を猫又に乗った人が走っていった。
疾風のような動きで一瞬で姿を消した影を見送り、嗣條・マリア(アストレア・f30051)は幾度も瞼を瞬かせる。
「……こういう世界もあるのですね」
悪魔がいることが当たり前で、魔王や四天王が存在する世界。
其処にある危機を救うためにこうして潜入しているのだが、マリアにとってはどれもが不思議で珍しいことばかり。
たとえば今のように廊下を走ることはいけないことだが、この学校や世界では悪こそが善いことだとされている。自分の世界しか知らなかったマリアには常識が違うことも新鮮であり、なかなか楽しそうだと思えた。
悪事を競う学園ではあるが、此処でなら跡取り争いも関係はない。
少しだけのびのびすることが出来て悪いことをしても褒められる。そんな場所があることが嬉しくもあった。
まずは学内を把握することから始めようと決めたマリアは、ひとりで校内散策に出ることにする。すると其処に角の悪魔の教師が通り掛かった。
「ん? 君は随分と良い子そうだな。新入生かい?」
迷子か何かだと思われたのだろう。
大丈夫かな、と心配そうに問いかける青年教師は此方を見つめる。対するマリアはこくりと頷き、問題はないと答えた。
「はい! 学生としての振る舞いなら任せてください」
「ここに来る前に別の学校にいたのかな」
「そうです。小学校を卒業したのは、割と最近ですから……」
「じゃあどんな悪いことをしてきたんだい」
「悪いこと……悪事?」
教師に確りと挨拶をしたマリアだが、彼からの質問に上手く答えられないでいた。それに今の彼女の姿はきっちりとした制服姿。おそらく良い子そうだと最初に判断された理由は優等生風の着こなしだったからだ。
「そう、悪事だ」
教師は何かを見定めるような視線を向けてきた。僅かに緊張してしまったマリアだったが、意を決して制服に触れる。
「…………ええと。わかりました」
「出来なくても良いんだよ。学園で教えてもらえるから」
悪魔教師も根は良い人らしく、にこやかに告げた。
しかしマリアは既に決意している。
「いいえ。そういうことでしたら、私も覚悟を決めましょう。風紀委員長として知りうる悪事を働いて見せます!」
「?」
教師が首を傾げる中、マリアはスカートの上側を折り込むことで丈を短くしていく。
わ、と驚いた悪魔にも構わずに少女は胸元のボタンをはずし、わざとだらしなく見えるように服を着崩していった。そう、これがマリアの中での悪い着こなしだ。
「……よし」
「よし、じゃなくって! わーっ!」
驚いた青年悪魔は短くなったスカートから視線を逸らす。その反応を見たマリアはきょとんとしていた。
「あれ、足りませんか?」
「いやいや、それ以上はアウトだよ! 十分にワルいから!」
どうやら彼は破廉恥だと感じてしまったらしく、頬を赤くしていた。断じて少女趣味ではないからねと弁明する悪魔の内心には気付かぬまま、マリアはほっとする。
無論、マリアもそんなに露出をしたわけではない。ただ元は善人である青年が初心だったという話だ。
しかし、これで一時的に不良の仲間入りが出来た。
「ありがとうございました。私は校内散策の続きに行きますね」
「あ、ああ……!」
スカートを翻したマリアはぱたぱたと駆けていく。先程の爆走している生徒には敵わないが、これもまた学校での悪いことだ。
その背を見送った悪魔教師は、気を付けて、と告げてから手を振り――そして、持っていたノートに『見込みのある新入生あり』と書き込んだ。
●初等部のわるいこと
学内ですれ違った桧とマリア。
期待の新星とも呼べる新入生達はそれぞれに思う悪いことを行っていった。
「火車さん、GOGO!」
『転がり落ちないように気をつけること』
教室移動の時も火車と一緒に駆け回る桧は、階段に差し掛かったことではっとする。其処には手摺があった。火車から下りた桧は勢いのまま、手摺に飛び乗る。
磨かれた手摺はまさに滑り台。危ない、と声を掛けた火車の声も聞かずに桧は素早く階段を滑り降りていく。
「これ楽しいですよね!」
テンション上がってきた、と語った彼女は次の手摺に向かった。
次はこのまま滑り降りる途中でジャンプをする予定だ。そして、鋭い跳躍からの華麗な着地。まさに百点満点!
まるで何かの競技後のようにポーズを決めた桧は得意気だ。
その後に付いてきていた火車は呆れたような視線を向け、ふわふわの尾を揺らす。
『三十路手前の女子がお前……小学生か』
「何を仰るのです火車さん、今の自分は初等部の学生ですよ」
『…………』
当たり前のように言い返す桧に対し、火車はもう何も言わなかった。こうして、なんやかんやでいい感じに学校生活は進んでいく。
●黒板消しは転がっただけ
一方、マリアはというと――。
「少し危なさそうでしたけれど、あんな階段の降り方があったなんて……」
桧の様子を再び目撃したマリアは感心していた。自分も一度やってみようかと思ったが、短いスカートとは相性がよくなさそうだ。
それゆえに代わりになる悪事を働こうと考え、ある教室の前に訪れていた。
「こうでしょうか」
第一歩として、黒板消しをドアの上部に挟んでみる。だが、高いところから落ちたそれが頭に当たるとなると痛そうだ。
悪事は行うが、誰かに傷付いて欲しいわけではない。
考え込んだマリアは黒板消しを胸ほどの高さに下げる。これなら痛くないはずだと判断したマリアは自信満々の表情を浮かべた。
「……完璧です」
一体、何が完璧なのだろうか。
悲しいことに突っ込む人員が彼女の傍にいなかった。悪戯にもなっていない謎の罠になってしまったことを少女は未だ知らぬまま。
後に教室に訪れた悪魔の生徒達にトラップの何たるかの手解きをされることになるのだが、それはまた別の話。
そうして、各々の学園生活が過ぎていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アウレリア・ウィスタリア
学園?マンション?…良くわかりませんけど
こういう所には静かにしないといけない場所、
図書室とかがあるはずです
着なれない
というかきっちりした袖がある時点で苦手な部類の
制服を裂いて着崩して
図書室に楽器を手に佇みましょう
【幻想ノ歌姫】
声を高らかに
楽器は最大音量
学園中に響き渡る歌を奏でましょう
深夜にモーニングコール
そんなノリです
ここまでやって良いのかボクには判断が難しいのですが
眠っているところを蹴り起こされるとかではないので
きっと大丈夫ですよね
噂では『校歌を考えよう』なんて話も出ていますし
みんなで演奏したり歌ったりできれば楽しいでしょうね
同じようなことを考えてる人とは協力して音楽を奏でましょう
アドリブ◎
●響かせよ、悪の歌を
歌姫の朝は早い。
まだ深夜とも呼べる時間に鳴り響くのは高らかな歌声。
幻想ノ歌姫――此処では、地獄のモーニングコールとも呼ばれている歌によって学生寮の朝、もとい夜は始まる。
「ふわぁ……またアウレリアちゃんだ」
「綺麗な声だけど早すぎるよぉ」
「むにゃ、あと五分……いやあと五時間」
マンション内のアウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)にあてがわれた寮室の近くに部屋を持つ悪魔は深夜に目が覚める。
眠い目を擦りながら起き、また登校時間前まで寝るのがここ最近の悪魔達の日課のようなものになっているようだ。そして、今日も深夜の悪コールを終えてもう一眠りしたアウレリアは、今日も彼女らしく初等部に登校していく。
何度見てもマンション型学校というものは奇妙そのものであり、新たな一角を見つける度に不思議な気分になってしまう。
「学園? マンション? ……やはりよくわかりません」
けれどもこの学園はいつも賑やかだ。
深夜に起こされている悪魔達もそれを受け入れ、クラスメイトでもあるアウレリアに気さくに話しかけてくれている。
「アウレリアちゃん、おはよーう!」
「昨日の歌も気合いはいってたね」
「ねえねえ、早弁しよう!」
そういって仲良くしてくれる悪魔達は良い子ばかりだ。しかし、だからこそなかなか進級できずに初等部にいるのだろう。
「今日は図書室に行こうと思っているんです。早弁はまた今度させてください」
「はーい、いってらっしゃい!」
クラスメイトに見送られ、アウレリアは学内を移動していく。もちろん授業はサボって向かうという小さな悪いこと付き。
そのうえ、着なれない――というよりもきっちりした袖がある服は苦手なので、制服は裂いて着崩すという不良スタイルだ。
同じく授業をサボって廊下にいる悪魔達はアウレリアの着こなしに憧れている。
あんなに大胆に、すげーかっこいい、などの噂話が聞こえてくるが、アウレリア本人は特に気にしていない。
「袖を破いただけなのに……?」
やがて、アウレリアは図書室に到着した。しんと静まり返った場所であることを確かめた彼女は手にした楽器をそっと掲げた。
本を読んでいる学生達によく届くように、敢えて室内の中央に佇む。
そして――。
声を高らかに、楽器は最大音量で。アウレリアの最大限の歌声と演奏が学園中に響き渡る勢いで響きはじめた。
「!!??」
悪魔達は飛び上がるほどに吃驚してしまい、中には思わず翼で飛んでしまって天井に頭を打つ者もいた。すぐにアウレリアが介抱したが、やはり驚きは隠せないでいる。
「すごいです! あんなに悪いことをやるなんて!」
「そうですか? 眠っているところを蹴り起こすというわけではないので、初歩的なことだと思ったのですが」
「そんなことまで考えてたんですか? お姉様と呼ばせてください!」
アウレリアに感心する悪魔達は平伏していた。
しかし、何となく実感が持てないアウレリアは首を傾げている。悪魔達は根が優しいゆえに大胆な悪事ができないのだろう。初等部に多くの学生が留まっており、進級出来ていないのもそれが原因かもしれない。
良いのか悪いのか、この世界のアンバランスさを感じたアウレリアは静かに頷く。
これで悪事を働けたが、それだけでは終わらせられない。
「そういえば、噂では『校歌を考えよう』なんて話も出ていますね」
「ああ、聞きました!」
「でしたら、みんなで演奏したり歌ったりしませんか?」
「図書室で?」
「はい、この場所で」
静かにするべき部屋で歌うという悪事に誘うアウレリアに対し、悪魔少女達は恐れ慄いた。本人にとってはよくわからないままだったが、アウレリアはあっという間に人気者になったようだ。
お姉様と呼びたいと申し出た少女はすっかりアウレリアに懐いており、それから何処に行くのにも一緒に付いてくるようになったのは、もう少し後のお話。
そうして、図書室に楽器の音色と皆の歌声が響き渡っていく。悪魔とアウレリアは音楽で心を交わし、図書室で騒いで歌うというはじめての悪事を果たした。
きっと進級も間もなくだ。
「みんなで歌うと楽しいですし、すっきりしますね」
悪いことも出来ましたから、と話すアウレリアはどこか満足気。
進級通知が来るまではこの生活を続けるべきだと考えたアウレリアは静かに決意した。
どうやらまだまだ、深夜のモーニングコールは続くらしい。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
◎
【WIZ】
この世界の崩壊を防ごうとする度に私の立ち位置が崩壊していく様な気がしますが頑張ります…
(以前に別世界の依頼で使用したセーラー服を着用)
神代から生きてきたとはいえ、外見は18歳ですからギリギリセーフですよね<汗>。
(尚、誰かにアウト等のツッコミが入ると、地面にしゃがみこんで『の』の字書いていじけます。)
軽い悪事…ワルぶった言動でも心の負担が大きいのに、実際にするとなると大変です<汗>。
悩んだ結果、校舎に綺麗な『富士山、空飛ぶ鷹、麓に広がる茄子畑』の絵を(アート&パフォーマンスで)浮世絵風に描き上げた後、「ふぅ…」と校舎に落書きした罪悪感に苛まれつつ、額に浮かんだ冷や汗を拭うのでした。
●不思議な学園生活
世界を救うために悪事を行う。
言葉にするとどうにも不思議であり、やってはいけないことのように感じられた。
「ここが学校……賃貸物件なのに、学校ですか?」
大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)は入学した学園を見渡し、思ったままの感想を言葉にする。周囲には悪事を志す悪魔やブギーモンスター、ラスボス達が見えた。
年齢は様々だが、初等部なので幼い者も多く賑やかな雰囲気だ。
そんな中に自分が入っていっていいのかとも感じたが、詩乃は意を決して輪に入りに行くことにした。郷に入っては郷に従えの精神だ。
しかし、やはり思うこともある。
「この世界の崩壊を防ごうとする度に私の立ち位置が崩壊していくような気がしますが、頑張ります……」
まさに詩乃にとっては初めての悪事。
詩乃はぐっと拳を握って決意した。そんな彼女の様相は以前に別世界で使用したこともあるセーラー服だ。
ひとまずは教室に行くことからだろうか。
案内に書いてあった道順をたどり、詩乃は自分の教室に足を踏み入れる。
「新入生だ! こんにちはー!」
「こっちの席があいてるよ。ねえねえ、お姉さんは何歳なの?」
すると詩乃に興味を持ったらしい初等部の悪魔が声を掛けてきた。人懐っこい悪魔達は詩乃を机に導き、質問を投げかけてくる。
「ええと、年齢ですか。十八歳……です」
外見は、という言葉は飲み込んだ詩乃は自己紹介を終えた。
神代から生きてきたので年齢は相当だが、見た目は変わらないのできっとギリギリセーフだ。冷や汗が流れそうになったが、詩乃は次に聞いた言葉に驚いた。
「あたしは九十六歳!」
「え? そんなお年なんですか。でしたら、実は……」
少女の見た目でしかないラスボスの実年齢を聞き、詩乃は本当の歳を告げる。セーフでしょうか、と改めて問う詩乃だったが――。
「ええっ、じゃあ詩乃ちゃん先輩って呼ばないとだね」
「セーフ? アウト? どっちか選ぶなら、アウトー!」
「アウト……?」
悪魔達は無邪気に好きなことを言っている。悪魔的にはアウトという言葉に意味は込めなかったのだろうが、真に受けてしまった詩乃はショックを受けていた。
「うう……」
「あれ? 詩乃ちゃん先輩どーしたの?」
地面にしゃがみこみ、『の』という文字を書いた詩乃がいじけている。これはいけないと感じた悪魔少女達は学校を案内するといって詩乃の手を引いた。
そうして詩乃が友達になったのは角の悪魔のノノ。獣のような牙の大口がついた下半身を持つラスボスのスゥという少女達だ。
「それでね、ここが食堂。向こうには売店もあるよ!」
「詩乃ちゃん先輩は、パン派? ご飯派?」
「そうですね、どちらかと言うならばご飯でしょうか」
「じゃあ巨大デビル丼がおすすめ! あたしの半身の大好物でねー」
「でびるどん……?」
そんな遣り取りを交わしながら、詩乃は徐々に学園の生活に馴染んでいく。不思議で驚くものばかりではあるが、友達がいてくれるので悪くはなかった。
そうして、すっかり慣れた頃。
真面目に授業を受けていた詩乃は或る日に思い出した。
「悪事……。そうです、軽い悪事をしなければいけないんですね」
ワルぶった言動でも心の負担が大きかったというのに、実際に行動するとなると大変であることを詩乃は実感している。
だが、悩んでいても何も始まらないのは分かっていた。
「詩乃ちゃん先輩、今日は何するの?」
「はい、この辺りの壁に絵を描こうと思っています」
「わあー! いいね!」
スゥとノノに見守られ、詩乃はアートの力を巡らせていく。
考えに考え抜いた結果。壁に描かれていくのは富士山と空飛ぶ鷹、更には麓に広がる茄子畑の浮世絵風の絵だった。
「ふぅ……」
「すごーい、よくわかんないけどおめでたそう!」
「詩乃ちゃん先輩、やるなぁ!」
やり遂げた詩乃を褒め称える友人達はとても嬉しそうだ。落書きをした罪悪感に苛まれていた詩乃だが、二人が喜んでくれたことで少し救われた。
額に浮かんだ冷や汗を拭い、詩乃はほっとする。
これで悪事として認めて貰えるだろうか。彼女の心配と懸念には気付かぬまま悪魔とラスボスは詩乃を学食に誘った。
「それじゃ今日のご飯にいこー。お腹ぺこぺこだ」
「おいてくぞー、詩乃ちゃん先輩!」
「はい、待ってください」
いま行きます、と告げて二人の後を追っていく詩乃。
まだほんの少しだけ、詩乃の不思議な学園生活は続いていくようだ。
大成功
🔵🔵🔵
ミュゲット・ストロベリー
ミュゲは正義…正しいことのために戦うの。でも今回は違うのね。仕事なら仕方ないわ。
…ん、やるならとことん楽しんであげる。
がくせいせいかつ?…ん、何もかも初めてのことだらけね。(長い廊下をぱたぱたと走ってみる)
ほかにもいろんな子がいるのね。…ん、あそこで売ってるのってイチゴジャムのパンかしら? イチゴはミュゲの大好物よ。
…ん、ジャムパン10個もらえる? …お金は持ってないからツケといてちょうだい。(とんずら)
(もっもっもっもっ。廊下で食べ歩き)…ん、お腹いっぱいになったら眠くなってきたわ。ミュゲはお昼寝してくるわ。おやすみなさい。(適当な教室に入り、勝手に寝始める)
●ふわふわストロベリー
正義は悪で、悪が正義。
文字にすれば混乱してしまいそうな常識こそが、この世界では当たり前。
「ミュゲは正義だけど……」
学校型マンションという謎の施設への入学を終え、ミュゲット・ストロベリー(ふわふわわたあめ・f32048)は今回の任務について改めて考えを巡らせる。
ミュゲットは正しいことのために戦う。
擬似神装の術式を抱き、霊剣ミストルティンと共にこれまで世界を渡ってきた。
「でも今回は違うのね」
この世界では悪こそが正しいこと。
彼女自身が抱く正義とは正反対の場所だが、仕事ならば仕方ない。そのように考えて割り切り、ミュゲットは堕天學園の内部へ踏み込んでいく。
「……ん、やるならとことん楽しんであげる」
決意と思いを言葉にして、ミュゲットは案内された教室の扉に手を掛けた。
だが、そのとき。
ぽふっと足元に何かが落ちた。不思議に思って下を見やると、扉の間に挟んであったらしい黒板消しが転がっている。挟み方が甘かったらしく、誰にも当たることなく落ちただけのようだ。
「これって、いたずら?」
きょろきょろと辺りを見渡してみると、悪魔の子達が楽しげに笑っている。悪戯成功! とガッツポーズをしている少年がいたため、ミュゲットは事態を把握した。
しかし、頭に当たらなくても成功なのだろうか。
少しの疑問も浮かんだが、本人が喜んでいるならそれ以上は求めないでいい。
きっと、この初等部の悪事はこのくらいで良いのだろうと判断して、ミュゲットはこれから過ごすことになる教室の様子を確かめた。
授業は既に始まっているらしいが、今日はずっと自習のようだ。
幼い悪魔、少し年上であろうラスボス、ぱたぱたと走り回るブギーモンスター。クラスの面々は個性豊かであり、それぞれが自由に過ごしていた。
あいている席に歩み寄ったミュゲットは、ひとまず鞄を机の横にかける。
賑わしい教室は活気に満ちており、廊下の外からもはしゃぐ声や驚きの悲鳴が聞こえてきていた。
「これが、がくせいせいかつ?」
「そうだよ! もしかして学校ははじめて?」
「……ん、むかしのことは覚えてないから」
「わ、それはたいへん! じゃあ私が色々教えてあげるね」
ミュゲットが軽く首を傾げると、教室内にいた悪魔の少女が近寄ってくる。人懐っこそうな角の悪魔はシプシという名前らしい。挨拶を返したミュゲットは自己紹介を伝え、シプシによろしくと告げた。
少女はミュゲットの隣の席に座り、この学校が何たるかを話してくれる。
「――それでね、教室移動のときは曲がり角に気をつけてね。誰かに驚かされるから! それから、学食は知ってる?」
「食堂があるのかしら。そうね、学校内のものは見たことがないわ」
「うん! じゃあ早速いっしょに行こうよ!」
何もかも初めてのことだらけだと語るミュゲットの手を取り、シプシは教室の外に出ようと提案した。まだ授業時間ではあるが、出入りはかなり自由らしい。
「じゃあ走っていきましょう」
「わわっ、ミュゲちゃんってば悪い子だ。すごいねー!」
ミュゲットの提案にシプシは驚き、にこにこと笑った。そして、二人は学食に続く長い廊下をぱたぱたと走っていく。
通路には『廊下は走らない』という張り紙があるので、これが悪事の第一歩目だ。
廊下には様々な生徒が行き交っている。
六つ足の獣の下半身を持つラスボスや布を引き摺って歩く魔物。どれもがミュゲットにとっては珍しい存在だ。
「シプシみたいな悪魔のほかにもいろんな子がいるのね」
「そうそう、みーんな面白くて優し……あっ、違う。悪い子を目指してるんだよ」
「……ん」
「どうかしたの、ミュゲちゃん」
辿り着いたのは学食。此処は食堂の横に購買がある構造だ。
店頭に並んでいるパンを見つけ、歩み寄ったミュゲットはその中のひとつを手に取る。
「ここで売ってるのってイチゴジャムのパンかしら?」
「ジャムパンって書いてあるからそうだよ!」
「イチゴはミュゲの大好物よ」
「ふふ、だったら買っていこうか。お昼前にパンを食べちゃうのも悪いことだよね」
シプシが見守る中、ミュゲットは購買の悪魔に声を掛ける。
「……ん、ジャムパン十個もらえる?」
「はいよ、十……じゅっこも!? 構わないけど大丈夫かい」
「平気よ。でもお金は持ってないからツケといてちょうだい」
「ツケって……ああっ!」
驚く悪魔がパンを渡した途端、ミュゲットはシプシを連れてとんずらした。それはもう物凄い速さで。
そうして現在、ミュゲットはジャムパンを食べ歩いている。
もっもっもっもっとまるで小動物のようにパンを食べる彼女を、シプシは可笑しそうに見つめて笑っている。
「登校初日でこんなに悪いことをするなんて。私も見習わなきゃ!」
「……ん、お腹いっぱいになったら眠くなってきたわ。ミュゲはお昼寝してくるわ」
「ふえ? ミュゲちゃん、マイペースで本当にすごいなぁ」
呆気に取られるシプシを置いて、ミュゲットは最初の教室に入っていく。余ったパンは友人になった少女に譲り、彼女は机を上手く使って眠り始める。
「おやすみなさい」
やがて、すぅすぅと小さな寝息が響いていった。
悪魔の少女は隣の机でパンを食べながら、その様子を見守っている。こうして彼女の学園生活はスタートしていき――。
期待の新星。ジャムパンの女王。
後にミュゲットに名付けられたのは、そんな可愛らしいあだ名だった。
大成功
🔵🔵🔵
吉備・狐珀
【狐扇】
わぁ、前にも一度着たことがありますけど、やっぱり制服って可愛いですね。
この制服もすごく可愛いです!(嬉しくて思わずくるくる)
これで楽しく授業が受けるだけなら良かったのですけれど…。
悪事を働くのは抵抗がありますがこれも校長先生を倒すため。
気合?を入れて悪事を働きます!
学校に動物を連れてきてはいけない、と聞いたことがあります。
ということは龍や狐を連れてくるのはもっての外のはず!
しかも月代は遊びたい盛りで悪戯描きを最近よくしますし、初めて見るチャイムにも興味津々!
そして外を歩いてきたウカとウケが廊下を歩けば足跡が!
これは悪事です!悪事…ですよね?(ちらっと大丈夫かな?という視線を送ってみる)
落浜・語
【狐扇】
……うん。そうだね(狐珀が着ているから可愛い、とははっきり口に出しにくい)
にしても、本当不思議な世界だよなここ。
まぁ、笑って許されるような悪事ってか悪戯?していこうか。
すごく初歩的なことではあるけれど、非常ベルとか火災報知機のスイッチを片っ端から押していこうか。
ついでにピンポンダッシュも。なんだかんだノリノリで押して回る。
いや、別に一度ぐらいやってみたかったとか、そう言うわけじゃないけれどな。でもほら、一度ぐらいやってみたいじゃん?
普通やったら怒られることだけれど、今はそれをむしろ推奨されているなら、なおの事。
月代は落書きしているのか……。仔龍も一緒にやっておいで。今日だけだからな。
●可愛い悪戯にご用心
何とも不思議な学園マンション。
揃って無事に入学という名の入居を終えた二人は、制服に袖を通していた。
「わぁ……!」
空き教室扱いの部屋の中、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)はその場でくるりと回ってみる。スカートがふわりと翻り、快い気持ちが浮かんできた。
「前にも一度着たことがありますけど、やっぱり制服って可愛いですね」
「……うん。そうだね」
彼女の隣に立っている落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)は、双眸を緩く細めている。制服が可愛いという言葉に同意したように思わせているが、内心では狐珀が着ているからこそ最高に可愛らしいと考えている。
しかし、其処は複雑な男心。
はっきりとは口に出さず、可愛いね、とだけ伝えた語。主語をなくすことで何となく雰囲気で誤魔化す作戦だ。
嬉しそうに微笑んだ狐珀ははしゃいでおり、もう一度くるくると回ってみた。
「この制服もすごく可愛いです!」
いつか違う雰囲気の服も着てみたいと考えつつ、今は此の学園に似合う様相で向かう予定だ。狐珀に合わせた制服を着用した語は廊下の方を見遣った。
「にしても、本当に不思議な世界だよなここ」
先程から気になっていたのだが此処はかなり自由だ。ブレザーや学ラン、セーラー服にはじまり、ほとんど布ではないかという服装をしたもの。統一感もなく、ばらばらな装いをした悪魔の生徒達が楽しげに過ごしている。
廊下を行き交う学生達の年齢も様々であり、初等部という呼び名が不釣り合いに感じられるほどだ。
狐珀は語の言葉に頷きを返し、一緒に外の廊下を見つめた。賑わう生徒達の声を聞いているだけなら一風変わった学校という印象しか受けない。
だが、此処はオブリビオンになったものに支配されている場所だ。そのために今、狐珀と語はこの学園に潜入している。
「これで楽しく授業が受けるだけなら良かったのですけれど……」
「まさか悪いことをしないといけないなんてね」
「悪事を働くのは抵抗がありますが、これも校長先生を倒すためです」
二人は視線を交わし、これから始まる学校生活を思う。オブリビオンである堕天使を倒すことが卒業になるなら全力で立ち向かうのみ。
「気合い……と言っていいかわかりませんが、力いっぱい悪事を働きます!」
狐珀が意気込む姿も可愛く思い、語も同意を示す。
「まぁ、笑って許されるような悪事ってか悪戯をしていこうか」
「はい!」
狐珀の返事はまるで優等生。悪いことを行うようには思えずに、少し可笑しく感じられた。されど語はそれも言葉にしないまま、学園生活への思いを馳せていく。
そうして、二人の悪事大作戦が始まった。
登校初日、狐珀はひとつの悪事を思いついていた。
「今日は何をしようか」
「学校に動物を連れてきてはいけない、と聞いたことがあります」
語が問うと、狐珀は以前に聞いた話を思い返しながら説明を始める。ペット同伴禁止を破るのが悪ではないかと考えたのだ。
「ということは龍や狐を連れてくるのはもっての外のはず!」
びし、と軽く宙を示した狐珀。
やる気はかなりのものらしく、狐珀は傍に月白色の仔竜を呼び寄せる。
月代は周囲をきょろきょろと見渡しており、堕天学園に興味津々だ。続けて狐珀倉稲魂命のウカと、保食神のウケも連れていく。
「いいね、じゃあこっちは……校内を歩きながらやっていこうか」
語は月代を伴い、教室に続く廊下を歩いていった。狐珀もその後に続き、これから行う悪戯について考えていく。
「月代は遊びたい盛りですし、悪戯描きも最近よくします」
それに初めて聞くチャイムにも興味津々な月代も狐珀にとっての期待の星だ。更には学園に来る前に外を歩いてきたウカとウケが廊下を歩けば、なんと足跡がぺたぺたとついていくというおまけ付き。
狐珀の作戦が実に良いと褒めつつ、語は別の悪事に手を染めていく。
なんと、それは――。
「すごく初歩的なことではあるけれど、こういうのはどうかな?」
そういって語は廊下の非常ベルを探す。まずはひとつ。そして次は火災報知機のスイッチを探し当て、それらを片っ端から押していった。
「わー! 誰かがベル押してる!」
「またか!? 次は誰がやったんだ!」
ジリリリ、と騒がしい音が鳴り響く校内はパニックだ。悪魔やラスボス達が慌てて犯人探しをする中、狐珀の手を引いた語は駆け出していく。
「こ、こんなことをしていいのでしょうか」
「いいんだよ。皆慣れっこみたいだから。ついでにピンポンダッシュもしていこう」
二人で逃避行をしているような感覚をおぼえ、語はなんだかんだ乗り気だ。そうして、目についたボタンというボタンを押して回った。
やがて、響き続けていた学内の音がすっかり止んだ頃。
「月代も色々と落書きをしてきたようですね」
いつしか二人から離れていた仔竜が戻ってきた。廊下の所々には悪戯描きがあり、月代は満足気だ。すると語の傍にいた仔龍も興味を示した。
どうやら月代はまだまだ頑張るつもりらしく、次の落書き場所を探している。
「月代と一緒に仔龍もやっておいで」
今日だけだからな、と語が告げると仔龍と仔竜は二匹揃って駆けていった。
その背を見送った狐珀はウカとウケと一緒に更なる足跡を付けて回っていく。ふ、と語が笑った気配に気付き、狐珀ばしっかりと宣言する。
「これは悪事です! 悪事……ですよね?」
しかし途中で少し不安になったのか、ちらっと「大丈夫かな?」という視線を語に送ってみる。彼は勿論だと答え、狐珀に視線を向ける。
「二人でやったのは紛れもない悪いことだよ」
「よかったです……。それにしても、ベルの音もすごかったですね」
「確かに学校中に響き渡ってたな。いや、別に一度ぐらいやってみたかったとか、そう言うわけじゃないけれどな。でもほら、一度ぐらいやってみたいじゃん?」
「なんですか、それ」
彼の物言いがおかしく思えてしまい、狐珀はくすくすと笑った。
「普通やったら怒られることだけれど、今はそれをむしろ推奨されているからさ」
それならば尚の事。
そうのように話した語はやはりノリノリで――。
こうして、二人と竜と狐達の悪戯、もとい悪事はもう暫し続いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミフェット・マザーグース
◎悪いことニガテなミフェットは、良い子で悪い子なデビキンワールドの空気がつかめない。ちょっとモヤモヤしてる感じ
それならこれ!って大親友が持ってきたのがこのお仕事!
ティエル(f01244)と一緒に入学するね
WIZで判定
制服いいな、かわいいな、って学校の中を見ていたら、ひゅーんと飛んでいくティエル。悪事でも、思い立ったが吉日? 向かった先は音楽室!
わぁ!この世界にも、歌も楽器もあるんだ!
あ、でも先に、あくじ、あくじ……あっ
かってに楽器を演奏しちゃうのって、悪事だよね!
うにょーんと伸ばした髪の毛の、触手に変えたその先で、だれも使ってないピアノを演奏すれば、無人のピアノ演奏会!こんなイタズラどうかな?
ティエル・ティエリエル
◎ミフェット(f09867)と一緒だよ♪
デビキンワールドはいたずらしても怒られないからね♪
ミフェットも一緒にいたずらを楽しもうとやってきたよ使立堕天學園♪
校舎を見て回って、ぴーんときたのはあそこだ☆
ひゅーんと飛び出して音楽室に飛び込むよ♪
ふふーん、やっぱりあったよ音楽室の肖像画!
立派なおひげやメガネ、角とかを生やしてあげちゃうよ♪
えっ、そんなことして大丈夫かって? 大丈夫! 使うのはすいせーペンだよ♪(大丈夫じゃない)
ミフェットが隠れてピアノを弾きだしたら、
ボクも肖像画の後ろに隠れて誰か様子を見に来るのを待ち伏せるね♪
犠牲者がやってきたらガタガタガタと肖像画も揺らしてドッキリ大作戦だ!
●悪戯大成功
此処はデビルキングワールド。
魔界とも呼ばれるこの世界は悪魔を自称する良い子な種族が住むところ。
しかし、良い子すぎるという理由から逆に悪事を行うことが正しいとされ、法として制定されてしまうほどの世界。
そんな場所で今、本当の悪事を行うオブリビオンが現れた。
マンション型学校という不可思議で妙な建物は奇妙な力で封鎖され、生徒として住んでいる住人達が外に出られなくなっている。
其処に駆けつけ、学校解放の為に力を尽くそうとしてるのはミフェット・マザーグース(沼の歌声・f09867)とティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)だ。
「やってきたよ使立堕天學園♪」
「うん、頑張ろうね」
大親友と共に皆を助けるべく、二人はそれぞれに意気込んでいる。
だが――。
「でも、悪いこと……いけないことかぁ」
あくまで良い悪魔が行う悪事ではあるが、元から悪いことが苦手なミフェットは少しだけモヤモヤとした気持ちを抱えていた。無事に入学を終え、一学生として認められた今も何だか落ち着かない。どうやら良い子で悪い子なデビルキングワールドの空気が掴めないままでいるようだ。
そんなミフェットの様子を感じ取り、ティエルは翅を大きく羽ばたかせる。
「大丈夫だよ、ここではいたずらしても怒られないからね♪」
寧ろ褒められて尊敬されてしまうのだから悩むよりも行動してみる方がいいはず。ミフェットはそっと一歩を踏み出し、学園内を見渡してみた。
周囲からは賑やかな声が聞こえている。
大きな角を持つ悪魔に、蛸のような下半身を持つラスボス、ふんわりとした布を被ったモンスターなど生徒は多い。
廊下を走っている学生もいれば、黒板消しを扉に挟んでいる者も見えた。
中には可愛いデザインの制服を着こなしている悪魔もいるようで、ミフェットの視線はそちらに注がれている。
(制服いいな、かわいいな)
自分達も制服を用意してきても良かったかもしれない。
そんなことを考えていると、不意にティエルが勢いよく飛んでいった。
「ミフェットも一緒にいたずらを楽しもう!」
「あっ、ティエル」
ひゅーんと素早く飛んでいくティエル。その背を追い、ミフェットはぱたぱたと廊下を走っていった。彼女は気付かなかったが、通路には『廊下は走らない』という張り紙があったので、これがミフェットの悪いこと第一弾。
「はやくはやく! ぴーんときたのはあそこだ☆」
「待って……! ここって、音楽室?」
ティエルが飛び込んでいったのは他とは少し違った教室だ。前方には大きなピアノがあり、壁には肖像画がたくさん並んでいる。
「わぁ! この世界にも、歌も楽器もあるんだ!」
「何をしようか。悪事でも、思い立ったが吉日?」
喜ぶティエルはふわふわと飛び回り、室内に置いてあるものを確かめる。こっちこっち、とトロンボーンを指差したティエルは実に楽しそうだ。
暫し見学の時間が続き、ミフェットも興味深く色んなものを眺めていった。
「あ、でも先に、あくじ、あくじ……あっ」
「どうしたの、ミフェット」
「かってに楽器を演奏しちゃうのって、悪事だよね!」
「ほんとだ! 先生の許可もとってないもんね。やっちゃおー!」
ミフェットが思いついた悪いことに賛成を示し、ティエルは木琴の上に立つ。ぴょんぴょんとその上で飛び跳ねると可愛らしい音が鳴り響いた。
視線を交わした二人はそれぞれに好きな楽器の演奏を始めていく。
「これでどうかな……?」
木琴でめちゃくちゃな音楽を奏でていくティエルに続き、ミフェットは髪を長く伸ばしてピアノに向けていく。触手に変えた髪の先は鍵盤。
ぽろん、と鳴らされたピアノから美しい音色が響いていく。
「だれも使ってないようにみえるから、無人のピアノ演奏会! ティエル、こんなイタズラどうかな?」
「うん! 何だかおばけピアノみたい♪」
それじゃあね、と思い立ったティエルは演奏を止めて壁の肖像画に向かう。
「ティエルは何をするの?」
「ふふーん、この絵に立派なおひげやメガネ、角とかを生やしてあげちゃうよ♪」
「それってやっても平気なこと?」
「大丈夫! 使うのはすいせーペンだよ♪」
少し不安そうなミフェットに対して、ティエルは自信満々にまったくもて大丈夫ではないことを語った。そして、暫し後。
ティエルはおどろおどろしい雰囲気の落描きをした肖像画の後ろへ。ミフェットは入り口から死角になっている机の下に隠れた。
これから始まるのは、どっきりホラーな音楽室の怪。
(きたきた♪)
(ちょっとドキドキ、するね……)
悪魔の学生が扉を開いたことでミフェットとティエルは合図を交わしあった。
「次の授業には早いけど、一番乗り!」
「あれ、壁の肖像画が何か変じゃない?」
学生が異変に気付いた瞬間、二人は一気に行動に移る。
ぽろん、ぽろん。
ピアノが急に鳴り出したことで驚いた生徒達に追い打ちをかけるようにして、肖像画がひとりでにガタガタと揺れ始める。
「ひえ!?」
「なになに? オバケ? 逃げろー!」
生徒達は一目散に逃げていき、後に聞こえたのは遠ざかっていく悲鳴だけ。
これでどっきり作戦は大成功。
隠れていたティエルとミフェットは姿をあらわし、軽いハイタッチを交わした。
「これで、悪いことができたかな?」
「ばっちりだよ! きっと明日は音楽室の噂でもちきりだね」
二人はもうすっかり初等部レベルの悪事に慣れていた。この調子で行こう、と明るく笑ったティエルは勝利のピースサインを決める。
そうして次の日。
ティエルの予想通り、学内は音楽室のオバケの噂でいっぱいになっていた。
そんなこんなで少女達の学園生活は続いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
美咲・るい
雨野さんと/f22865
・セーラー服着用
んふふ!ウェ~ブ!ハラハラするねっ
見つかっちゃったなら次は私
いたずらは、仕込みが大事。
なるほど、お料理とおなじだね。
それならいいこと思いついちゃった
私の仕込みは前日から!
文房具みたいなお菓子だよ
クレヨン…実はクッキー
鉛筆…実はチョコ
水のり…実は蜂蜜
消しゴム…実はチーズ
これを皆で食べて、先生をびっくりさせるの!
突然文房具を食べ始める生徒たち…コワいでしょ?
先生には内緒で、みんなに文房具お菓子を配っておいたよ
クレヨンに水のりをつけたら~~~甘くておいしい!
いたずら完了、ハイタッチ!
雨野・雲珠
美咲さんと/f26908
・黒の学ラン着用
バイト先のマスター曰く――いたずらは、仕込みが大事。
というわけで、休み時間中にクラスの皆様に計画をお話して…
授業始まってしばらくはいつも通りに。
半ばを越えたあたりで、まずは俺主導による悪事第一波。
①先生が板書きをする間、横一列の皆様に目で合図
②ささっと横一列で手を繋いで掲げ
③右端から左端へ無言でウエーブ
④何食わぬ顔で勉学に戻ります!
うまくいくと皆満足気でちょっと面白いです
先生が黒板に向かうたび繰り返しますが
とうとう見つかっ…――第二波!
後列、よろしくお願いします!
…あっ、すごい。クレヨンがおいしい…!
ふふふ、教師を困らせるのもワルなのです!(ハイタッチ)
●ビクトリーウェーブ
今は授業の真っ最中。
此処は割と真面目な部類に入る悪魔生徒達が集まる教室。
その中で黒のセーラー服と学ランにそれぞれ身を包む二人は、教師が板書していく後ろ姿を見つめていた。
「雨野さん、その学生帽とっても似合ってるね」
「そうですか? 美咲さんの方こそ可愛らしいです」
そのリボンなんて特に、と互いに示すのは美咲・るい(金糸雀・f26908)と雨野・雲珠(慚愧・f22865)だ。
るいは胸元に結んだリボンを指先で弄り、そうかなあ、と微笑む。学生帽を被り直した雲珠もまんざらではない様子で、首元に御洒落として飾った桜ピンズに触れた。
前後同士の席でひそひそとお喋りをする二人は一見、普通の学生に見える。
彼らも他の生徒と同じく、これまた真面目にノートを取っている――と思いきや、彼らは或る計画を進めていた。
実は授業が始まる前にクラスメイト達に計画を周知済み。
チョークが黒板を走る音に耳を澄ませながら、雲珠は周囲の生徒達に視線を巡らせた。
「――というわけで、悪事の道も一歩からです」
そのとき、先生が生徒達の方に振り返る。雲珠はさっと眼差しを黒板に戻し、るいもノートに何かを書くふりをする。
そうすれば教師はまた黒板に向き直った。
(……今です!)
刹那、雲珠が生徒達に合図を送る。
それを受けた悪魔達は横一列で手を繋いで掲げた。何を隠そう、この教室の生徒らは別に優等生というわけではないのだ。他と比べてまだマシな方というだけであって悪戯や悪事も大歓迎の部類。
雲珠を中心にして、生徒は右端から左端へ無言でウェーブを作った。
(んふふ! ウェ~ブ!)
(まだ気付かれていませんね。もう一度です)
(ハラハラするねっ)
るいと雲珠と生徒達は教師に見つからぬよう、何度もそれを繰り返す。
波のように。或いは心電図のように。
はたまた景気グラフのように上がり下がりするウェーブ具合。
「ん?」
教師が振り返れば、生徒達は手を離して勉学に戻る。るいと雲珠は何とか堪えたが、周りの悪魔はくすくすと笑ってしまっていた。
教師も違和に気が付きはじめ、暫しだるまさんが転んだのような攻防が続く。
されど、やがて悪事の第一波はばれてしまった。
「こら! 真面目に聞きなさ……いや、不真面目の方がいいのか。参ったな」
「は~い、先生ごめんね」
悪魔教師は頬を掻き、大きな溜め息を吐く。彼が少し可哀想に思えてしまったるいは微笑んだまま謝り、授業を続けて欲しいと願った。
まったくもう、と呟いた先生は黒板に書かれていた文字を消しに掛かる。
しかし、これでるい達の悪戯が終わったわけではない。
(見つかっちゃったから、次は私!)
(あの作戦ですね。よろしくお願いします、美咲さん)
教師に聞こえないように小声で話しながら雲珠は口許を押さえた。皆が満足気な表情をしているので更におかしくなってしまったが、此処で笑ってしまえば第二波が失敗に終わってしまうかもしれない。
平常心を保った雲珠は、普段から聞いていたあの言葉を思い出す。
(バイト先のマスター曰く――いたずらは、仕込みが大事)
事前にその話を聞いていたるいは、この授業とは別に家庭科室に寄っていた。其処で雲珠とは別の準備を行っていたのだ。
仕込みが大事と聞いて、お料理とおなじだと感じていた。
それゆえに盛大なる仕込みに入ったのが昨日の話。前日から用意され、練りに練られた一大作戦が此処から始まっていく。
「……であるからして、デビルキングは皆の目指すところとして――」
(後列、よろしくお願いします!)
教師が歴史の解説をしている間に、るいを含む後列の面々が文房具を取り出した。教師は此方を見ているが、生徒の動きとしては普通なので何も疑問に思っていない。
だが、其処から異変が起こる。
かりかりという鉛筆の音が響き始めた。ノートに字を書く音ではなく、誰かが鉛筆をそのものを齧っている音だ。
別の悪魔は水糊を取り出して舐めていき、雲珠はクレヨンを口に運ぶ。るいは消しゴムを口に放り込み、違う子も鉛筆を完食していく。
「なっ……やめなさい! お腹を壊すよ!」
教師は慌てて生徒達を止めようとする。悪事といってもやって良いことといけないことがある。食べられないものを口にして自分を傷つける悪いことはデビルキング法に則っているわけではない。そんな風に語りながら教師は生徒に近付いてくるが、その前にみんなすべてを食べ終えていた。
「あっ、すごい。クレヨンがおいしい……!」
「クレヨンに水のりをつけたら~~~、ほら甘くておいしい!」
「君達、気が触れたのか……?」
雲珠とるいの様子に恐れ慄く先生は立ち尽くしてしまっている。しかしこれもまた仕込みだ。実はそれらは文房具に似せて作ったお菓子である。
クレヨンはクッキー、鉛筆はチョコレート。水糊は蜂蜜で消しゴムはチーズ。
「僕はどうしたら……。そうだ、保健室の先生を呼ぼう!」
教師は文房具がお菓子だとは知らず、生徒の安否を案じながらおろおろしていた。悪魔とはいってもこの世界の面々は基本的に良い人だ。あまりにも可哀想になった雲珠とるいは、そんなこんなで種明かしをした。
「突然文房具を食べ始める生徒たち、コワかったでしょ?」
「ウェーブも文房具食い事件も仕込んでおいたんです」
「仕込み?」
「先生には内緒で、みんなに文房具のお菓子を配っておいたの」
事実を知り、教師は呆気に取られる。
鉛筆の芯が心臓に刺さって死ぬ子はいなかったんだ、と呟いた彼は安堵の息をついて項垂れた。どうやら本当に心配していたらしい。
るいと雲珠は生徒と一緒に先生を慰め、明るい視線を交わしあった。
「いたずら完了!」
「ふふふ、教師を困らせるのもワルなのです!」
二人はハイタッチを重ねる。他の生徒達も大掛かりな悪戯を仕掛けた雲珠達に称賛を送り、教室は祝福に包まれた。
温かい拍手と悪魔達による一列の波。それはまさに勝利のウェーブ。
そうして、二人の学園生活は華々しく幕あけた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
砂羽風・きよ
【暁】
悪いこと?!いやいや、得意じゃねーよ!
綾華にはいいことしかしてないだろ!
だよな?!(肩組もうと)
なんでだよ!
悪いこと…
ははーん、いいこと思い付いちまったぜ
悪と言えばこうだろ!
一時間目から早弁!
しかもカレー!やべーだろ!
嘘だろ?!これじゃダメなのか
って、ピンポンダッシュ出来ねーよ!
無理無理!てか、その間綾華は何してるんだ?
もっと悪いこと?なんだなんだ教えろ!
いてー!蹴るなんて悪だな!
マジか…これ押すのか?
い、いや押すしかねぇ!俺は押すぞ!(ぽち)
やべー!バレるバレる!廊下をダッシュしようとしたら
おいおい、きよし参上ってなんだよ!きよだわ!
たこ焼きは旨そうだな!
綾華ー!これ描いたの綾華だろ!
浮世・綾華
【暁】
きよし、悪いことすんだって
得意だろ
は?いつも俺に悪いことしてんじゃん
してるよ
お前のやること為すこと俺の嫌なことばっか
気づいてないところがまた悪い
悪きよし
まあいいや
お前の本領を発揮して悪いことしてみ
うわ、カレーくさっ
学園でのきよしのあだ名はカレー野郎決定だな
でもこのくらいじゃ全然悪くねぇ
ただくせーだけだ
いつものお前は何処いった
しょうがねー、俺が考えてやるよ
そうだな…よし、ピンポンダッシュしてこい
俺?俺はその間にもっと悪いことをする
まあみてろって
はやく行ってこい(蹴る
きよしが部屋に向かう間に廊下の壁に
きよし参上(たこやきマーク)とらくがき
逃げてくる前にちゃんと隠れておく
おわ、俺の名前呼ぶな
●カレーと落書き
或る日のこと、使立堕天學園に昼休みがやってきた。
購買でパンを買ってくる者、学食で日替わりランチを注文する者。教室で机を並べて弁当を食べている生徒。それぞれに好きな時間を過ごすひとときだ。
その中で、教室の窓辺で頬杖を付いて外を眺めている生徒がひとり。
「きよしは良いよな、悪いことが得意で」
浮世・綾華(千日紅・f01194)は前の席に視線を向ける。其処には焼きそばパンを頬張っている砂羽風・きよ(ナマケきよし・f21482)がいた。
急いで残りのパンを飲み込んだきよは、綾華に向けて首を横に振ってみせる。
「悪いこと?! いやいや、得意じゃねーよ!」
「は? いつも俺に悪いことしてんじゃん」
「綾華にはいいことしかしてないだろ! だよな?!」
腕を伸ばしたきよは綾華と肩を組もうとしたが、その手は触れる前に避けられた。
「ほら、悪いことしてるよ」
「なんでだよ!」
友愛の証だろうが、と反論するきよ。
しかし、綾華はわかってないなと言わんばかりに肩を竦めた。
「お前のやること為すこと俺の嫌なことばっか。気づいてないところがまた悪い」
悪きよし。略してワルし。
綾華は困った顔をしながら溜息をつき、再び窓の外を眺めた。
「何も原型が残ってねーだろ! きよしだ、きよし!」
「きよし……」
「……あ。きよだ! きよ!」
いつものことだが、自分でもきよしだと言ってしまうのがきよらしさだ。そうやって普段と変わらないやりとりをしていると、教室に悪魔達の少年が入ってきた。
「わーい、綾華だ。タコヤキカレーもいる!」
「おいっすー。カレー達はもう飯食ったの?」
気さくに話しかけてきた少年達はクラスメイトだ。角の悪魔の双子であるリリンとラランは綾華達の席の近くに歩いてきた。
「リリンとラランは遅刻組? 俺達はもう食べたよ」
綾華は新しい友人に軽く手を振り、きよに向けるものとは違う笑みを浮かべた。
ちなみにタコヤキカレーとはきよのことだ。なんとこのきよ、入学初日から一時間目にカレーを早弁するという悪事をこともなげに行った。
それで付いたあだ名がカレー野郎。しかしそれでは可愛くないという女子の意見があったうえ、きよがそのときにたこ焼き柄のTシャツを着ていたということもあり、呼び名がタコヤキカレーとなった経緯がある。
そういえば遅刻常習犯のワルである双子達にはあの件の感想を聞いていなかったと思い出し、きよは問いかけた。
「俺の悪事、なかなかだっただろ?」
「えー、早弁くらいみんなするよ」
「ただカレーの匂いがヤバかっただけだもんな。ね、綾華」
「確かにしょぼかったな。カレー臭さもまぁ、すぐに消えたし」
「嘘だろ?! あれじゃダメなのか」
双子悪魔と綾華はすっかり仲良しだ。
きよは冷静な悪事分析を聞き、少しばかりショックを受けている。綾華は二度目の溜息をつき、昼休みの間に何かをしようと誘った。
「まだまだ駄目だな。お前の本領を発揮して悪いことしてみ」
「発揮できねーよ! いや、するけど! 悪の道、悪事……」
悩み始めるきよは真剣だ。
その様子を見ていたリリンとラランは快い笑みを二人に向けてくれた。
「綾華とタコヤキカレー、何かするんだ。ふぁいとー!」
「頑張れよー。俺達は昼寝する!」
双子悪魔はきよ達にエールを送った後、後ろの席に移動していく。言葉通りに眠りはじめた彼らと別れ、綾華ときよは教室の外に出た。
悪魔やラスボスが行き交う廊下を歩きながら、きよはふと思い立つ。
「ははーん、いいこと思い付いちまったぜ。カレーパンを買い占めるとか!」
「無理だ。今の時間じゃ売り切れてる」
「う……」
「またカレー臭くなるだけだろ。食べ物ネタくらいじゃ全然悪くねぇ」
いつものお前は何処いった、いつもも悪くねーよ、なんていう言葉を交わしつつ二人は校内を散策していく。しかしなかなかきよが次の悪事を思いつかないので、代わりに綾華が考えてやることになった。
「しょうがねーな。そうだな……よし、ピンポンダッシュしてこい」
「よっしゃ! って、ピンポンダッシュ出来ねーよ! 無理無理!」
「きよしなら出来るだろ」
無責任かつ適当に言い放った綾華は職員室に向かっていく。実は教師達が集まる部屋の前に何故かボタンがついているのだ。
「てか、その間の綾華は何してるんだ?」
「俺? 俺はその間にもっと悪いことをする」
「なんだなんだ教えろ!」
「まあみてろって。はやく行ってこい」
綾華はきよを急かし、思いっきり蹴り飛ばした。もちろん手加減はしているが、これも立派な悪事のひとつだ。
「いてー! 蹴るなんて悪だな! 流石は綾華!」
「そういうのいいから」
はよ、ときよを促した綾華は何処かに去っていく。残されたきよはチャイムボタンの前に立ち、ゆっくりと腕を伸ばした。
「マジか……これ押すのか?」
心臓が高鳴る。本当に悪いことをしてしまう気分だ。
されど進級のためにはこれも必要不可欠なこと。きよは意を決し、指先をボタンに触れさせた。そして――。
「い、いや、やるしかねぇ! 俺は押すぞ!」
ぽちっと押されるボタン。
ぴんぽーん。ぴんぽん、ぴんぽーん。ぴんぽーん。
念入りに素早く四回もチャイムを鳴らしたきよは一目散に駆け出した。職員室の扉の前に誰かが出てきたことに気付き、きよは速度を上げる。
「やべー! バレるバレる!」
そのまま廊下をダッシュで駆け抜けるきよだったが、思わず立ち止まった。
何故なら、廊下の壁には『きよし参上』という文字と一緒にたこ焼きの落書きが描いてあったからだ。
「おいおい、旨そうなたこ焼き……じゃなくてきよし参上ってなんだよ! きよだわ!」
盛大に突っ込むきよし。否、きよ。
綾華は物陰に隠れてその様子を窺っており、したり顔をしていた。しかし、其処で終わるきよではない。
「綾華ー! これ描いたの綾華だろ!」
遠慮なしに大声を出すきよに気付き、綾華は少しばかり慌ててしまう。
「おわ、俺の名前呼ぶな」
「こらー! さっきピンポンダッシュしたのは綾華くんですか!? それともタコヤキカレーくんかしら? 名乗り出なさーい!」
そのとき、怒ると怖いと噂されている悪魔教師の声が聞こえた。
やべ、逃げろ、と互いに告げあったきよと綾華は一気に階段を駆け下りていく。
「悪戯はまぁまぁ成功だな」
「なあ綾華、先生に捕まったらどうなるんだろうな」
「さぁな、試しに生贄になってみるか?」
「ならねーわ!」
全力で逃げる二人は、やっぱりいつも通り。
その後に繰り広げられた追走劇は物凄かった。双子の悪魔に匿われたり、裏切りを経験したり、たこ焼きの落書きが品評会に出品されたりと実に破茶滅茶で騒がしい時間が流れていき――二人の悪名は初等部中に轟いたという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・紅
【花束】
机に教科書を立て
包を出す
お弁当である
悪い事、しちゃうですよぅ
かわゆき弁当からたこさんウィンナーをパクリ
した所で手紙が届き思わず喉に
あぶない
わぁねこさん上手
中にもねこさん
これはきっと
オズさんと目があえばやっぱりってお手々振る
ゲーセンで寄り道に一票
🐰を描き添えて
肉球クリップで重さをつけ悪い顔する
とーぅ、アニー様にダイレクトあたーっく
手裏剣みたいに机へ投げたつもり
ってアニー様!?
僕たちを売るだなんて
なんてダイタンな悪事っ(きゅん
オズさんも大勢を巻き込む大がかりの悪事バッチシでしたね👍
へへ
こんなに信用ならぬ友は初めてなのですよ
本当に…最高のオトモダチです
(青春っぽくコツンと拳合わせたい
オズ・ケストナー
【花束】
◎
わるいこと、わるいこと
授業を聞きながらうーん
そうだ
ノートにお手紙
『ほうかごなにしてあそぶ?』
ねこさんの絵をかいて
ノートをぺりぺり破ってねこさんの形に折る
あてさきは
アニーとクレナイへ
これ、まわしてっ
前の席の子にひそひそ
回っていくのをわくわく目で追って
こっちを向いたらにこにこ手を振る
クレナイがかくしてたおいしそうなものが見えてるっ
あっ
先生にぶつかったのを見て
わたしがまわしたんだよって立ち上がろうとしたけど
タイミング逃し
うんうんと元気よく頷いて告発を聞く
クレナイのおべんとうもおいしそうだったし
アニーもすごいコントロールだったよっ
自信満々にふたりの悪事を称えて
いえーい、おともだちっ(コツン)
アニー・ピュニシオン
【花束】◎
このままだと
私の最終学歴が幼卒で終わってしまう
そんな未来は何としても避けたいので
教科書を開き、真剣に授業を…。
後ろから美味しそうな匂いがする?
気になって振り向けば
何故か紅ちゃんがお弁当を食べていて
オズ君はクラスに
手紙回しを広める場面が見えてしまい…
……見なかった事にしましょう
私は良い感じに卒業出来れば…っと
投げられた手紙付きの肉球クリップを弾けば
先生にぶつかって…… あ。
……こんなものすら避けられないなんて、
先生も注意不足ではなくて?
そう言いながら、私の罪を軽くする為
小さな悪事を行っていた友達二人を
告発して売りましょう
赤信号を皆で渡れば何も怖くないはず
……そう。私達、トモダチだからね
●猫さんレター事件
黒板にチョークが走っていく音。
少しだけ開かれた窓から吹き抜けていく風が音と合わさって心地よい。薄い日差しが窓辺から差し込む中、学園の授業時間はゆったりと進んでいた。
「――であるからして、悪事の成功率は大切なものです」
板書をしていく教師の後ろ姿を瞳に映しながら、新入生であるアニー・ピュニシオン(小さな継ぎ接ぎの国・f20021)は真面目に授業を聞いている。
それには理由がある。
(このままだと私の最終学歴が幼卒で終わってしまうから……)
たとえ此処が悪魔の学校であったとしても、卒業という名目が得られるならそれで構わない。やはり幼稚園卒という学歴だけで社会に出ることになるのは厳しい。
おそろしい未来は何としても避けたいと願ったアニーは、教科書とノートをひらき、真剣に授業を受けていた。
その隣の席では、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が何事かを考え込んでいる。今、授業でも語られているように悪事の道は此処から始まったばかり。
(わるいこと、わるいこと……うーん)
オズもアニーと同様に真面目に授業を受け、この世界での優等生らしい姿勢を取っていた。こうやって授業を真剣に受けているのは良いことなので、この殻を破らねば悪事には近付けないだろう。
そうだ、とふと思い立ったオズはノートに何かを書き始める。
そんなオズとアニーの後ろの席。
朧・紅(朧と紅・f01176)は机に教科書を立てていた。最後尾の机であることをいいことに、紅はごそごそと包みを出す。そう、弁当だ。
「悪い事、しちゃうですよぅ」
誰にも聞こえない声で呟き、ふやりと笑った紅は早弁を始めた。
可愛く彩られたお弁当からたこさんウィンナーを取り出し、ぱくりと一口。何かいい匂いが漂ってきている気がしたが、この時点でアニーは何も気付いていない。
その間にオズはノートに猫の絵を描いていた。
『ほうかごなにしてあそぶ? >🐈🐾』
猫の隣に吹き出しを書き、台詞として記した文字は可愛らしい。そして、オズはノートの一頁をぺりぺりと破ってから、ねこさん型の手紙のかたちに折っていく。
宛先はもちろん、アニーと紅。
「これ、まわしてっ」
オズはまず後ろの席にいる紅を示し、近くの席の悪魔にひそひそと告げた。いいよ、と答えた悪魔は机越しに猫さん手紙を回してくれている。
紅はというとハートの卵焼きを口にしていた。
そのとき、前から手紙が届く。
思わず喉に詰まりそうになったが何とか堪え、紅は弁当を仕舞い込んだ。
「あぶなかったです。なになに……わぁ、ねこさん上手」
開いた猫手紙の中にも可愛い猫が居たので紅は嬉しくなった。これはきっと、と前に視線を向けると振り向いたオズと目があった。
オズと軽く手を振りあった紅は、続けて筆箱からペンを取り出す。
『🐰👍< ゲーセンで寄り道に一票!』
紅は紙面の猫の横にウサギを描き添え、次はアニーの方に手紙を回した。生徒達を伝って猫さんが移動していく様をわくわくした様子で見守る紅。
オズは紅が早弁をしていたことに気付いており、くすりと笑った。
何やら後ろで何かが起こっていると知り、アニーも振り向く。何故か紅はお弁当を食べていて、オズはクラスに手紙を回すように広めている。
更に紅は手紙を肉球クリップで挟み、重さをつけながら悪い顔をした。
「とーぅ、アニー様にダイレクトあたーっく」
紡いだ言葉は小声だ。
手裏剣のように机へ投げたそれが、こつんとアニーに当たる。
(見なかった事にしましょう。私は良い感じに卒業出来れば――っと)
投げられた手紙を何とか受け取り、アニーは肩を竦める。まったくもう、とそれを指先で弾けば、クリップがくるんと回って飛んだ。
更に間の悪いことに、後ろを向いていた先生に手紙がぶつかってしまう。
「……あ」
「うん? 何だいこれは。かわいい猫さんが飛んできたぞ」
「あっ」
アニーが声をあげ、オズも慌てて立ち上がろうとする。しかし、その前にアニーが挑戦的な言葉を教師に向けた。
「こんなものすら避けられないなんて、先生も注意不足ではなくて?」
「何だって。君がやったのか?」
「いいえ、あの二人よ」
そうしてアニーはオズと紅を指差して猫さんアタック事件の真相を語った。自分の罪を軽くする為に小さな悪事を行っていた友達二人を告発して売ったのだ。
「ってアニー様!? 僕たちを売るだなんて!」
「うんうんっ わたしたちだよ」
「ふふ、なんてダイタンな悪事っ」
きゅんとした紅と、素直に罪を認めるオズ。
教師は少しだけ複雑そうな顔をした後、三人を廊下に立たせた。悪い子なのか良い子なのか難しいところだったが、三人の悪事は何となくいい感じに巡ったようだ。
「バケツはもたなくていいのかなっ」
「そういうのは旧時代的なあれそれらしいです」
「廊下に立たせるのも授業が聞けなくなるから、教師としての悪いことよね」
そんなことを語りながらオズ達は不思議な学校生活を楽しむ。どうやら彼らにとっては廊下に立たされていることも面白いことのひとつらしい。
やがて授業の終わりを示すチャイムが鳴り、三人は廊下を歩いていた。
これから昼休みが始まる。
みんなで学食に行こうとしているようだ。その間の話題は悪事について。
「赤信号を皆で渡れば何も怖くないはず」
「オズさんも大勢を巻き込む大がかりの悪事バッチシでしたね」
「クレナイのおべんとうもおいしそうだったし、アニーもすごいコントロールだったよ。みんなびっくりしてたねっ」
それぞれの思いを語り合う三人は視線を交わす。
何とも不思議な悪魔学校だが、ちいさな悪いことは何だか楽しかった。するとアニーがそっと思いを言葉にした。
「……そう。私達、トモダチだからね」
「へへ、こんなに信用ならぬ友は初めてなのですよ。本当に最高のオトモダチです」
「いえーい、おともだちっ」
紅は明るい笑みを浮かべ、オズが片手を掲げる。
アニーと紅も倣って腕を上げたことで三人の拳がコツンと重なった。それはまさに青春の一頁のような、思い出のひとつとなる。
重ねた拳を離したオズと紅、アニーは駆け出していった。
その途中の廊下の壁に何故かたこ焼きの落書きがしてあり、それを見つけた三人は可笑しそうに笑う。
それから次に三人が挑むのは、熾烈なる購買のパン争いという難関だ。
こうして悪の学園生活は暫し続いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キャンディ・ジャック
【飴】
われらキャンディサーカス団は悪いサーカス団だ!
優樹!今日はボクらの恐ろしさを見せ付けよう!
えいえいおー!
手始めにカラフルなカラースプレーで
「キャンディサーカス団参上!」って書く!
優樹!そっちにカボチャの絵を描いてくれ!
ボクはお菓子の絵を描く。
次は文房具とお菓子をすり替えるぞ!
こっそり教室に忍び込んで消しゴムを風船ガムに!
こっちの筆箱はお菓子の箱に変えちゃおう!
集めた文房具はボクのお菓子ボックスの中に入れるぞ!
まさか誰もお菓子ボックス(ダンボール箱)の中に文房具が入っているとは思わないはずだ!
たぶん!きっと!
優樹も上手く隠せたか?!
ボクもカンペキ!
これがキャンディサーカス団だ!
萌庭・優樹
【飴】
えいえいおーと倣って号令
でっかく名前を知らしめるためにも
人の集まるトコ攻めてくのは大事!ですよねっ
うけたまわりました!
デッカくかわいく、しかしちょっと怖く!を目指し
壁にスプレーでカボチャをえがきます
ハロウィンを楽しみに待つがよい!なんて言葉添え
団長さんのお菓子の絵もステキだなぁっ
きっとみんな注目しますよ
お次は教室でのイタズラ
この鉛筆…棒付き飴に変えましょう
黒板消しもパウンドケーキとすり替えちゃえ
ふふふ、ちゃんと包装してるから開けて食べられちゃいます
文房具はお菓子ボックスへそそくさ保管!
バッチリですよ、団長さん!
おれたち、さいこーにわるいサーカス団な上に
きっとこの学校でもわるい優等生です!
●われらキャンディサーカス団
始業を報せるチャイムが鳴り響き、学園内が賑わいはじめる。
学園とはいっても此処は違法マンション。それぞれに宛てがわれた寮室としての部屋から出てきた悪魔達は好き好きに教室の部屋に登校したり、いきなり学食に行ったり、何処か違う場所に向かって遅刻したりと自由に過ごしていた。
廊下や教室から聞こえてくる賑わしい声を聞きながら、キャンディ・ジャック(は怖い!・f31493)と萌庭・優樹(はるごころ・f00028)は意気込んでいた。
「われらは悪いサーカス団だ!」
「わるいことをしますっ」
今日は二人にとっての入学初日。つまりは学園生活の始まりの日だ。
キャンディはこれから始まる悪の道に思いを巡らせ、優樹を呼ぶ。この世界、そしてこの学園で悪が推奨されるのならば全力で乗っかるのみ。それこそがサーカス団としての正しい在り方である。
「優樹! 今日はボクらの恐ろしさを見せ付けよう!」
えいえいおー。
彼女から号令が掛かれば優樹も声を重ねる。
「サーカス団の名前をでっかく知らしめるためにも、人の集まるトコを攻めてくのは大事! ですよねっ」
「その通り! それじゃあ行こうか!」
意気揚々と進むキャンディに続き、優樹も廊下を走っていった。まずは走ってはいけないところを堂々と駆けていくという悪事の第一歩目だ。
そして、二人が向かったのは教室――ではなく、一番長い廊下の端っこ。
手始めにカラフルなカラースプレーを取り出したキャンディは、自由気ままに文字を壁に描いていく。
「優樹! そっちにカボチャの絵を描いてくれ!」
「うけたまわりました!」
「頼んだよ、ボクはお菓子の絵を描く」
そんな遣り取りをしていった二人はてきぱきと、教師に見つかる前に落書きという名のサインを記していく。
🍭 🍬 🍩 🍦 🍰 🍫 🍮 🍭
キャンディサーカス団参上!
🎃 🎃 🎃 🎃 🎃 🎃 🎃 👻
様々な絵と共に大きく書かれた文字は派手に目立っている。
たくさんのお菓子を描くキャンディに合わせて、優樹は大きくて可愛いカボチャをどんどん描いていった。こっそり、ひとつだけ隅にオバケを描いた優樹は満足気だ。
「どうですか。デッカくかわいく、しかしちょっと怖く!」
「いいぞ! これでわれらの名前も大きく轟くはず!」
「やりましたっ」
優樹は『ハロウィンを楽しみに待つがよい!』という随分と気の早い言葉を落書きに添え、綺麗に彩られた文字を眺めた。
「団長さんのお菓子の絵もステキだなぁっ。きっとみんな注目しますよ」
「ふふ、そうなると良いな。それじゃあ次だ!」
キャンディはふわふわと布を揺らし、次の悪事に挑むために駆けていく。はーい、と素直に返事をした優樹も楽しそうに笑っていた。
二人が去っていった後、なんだなんだと集まってきた悪魔達は壁に描かれたお菓子やカボチャに注目していた。
「これは可愛いな! 落書き品評会をするか」
「賛成! 美術部の子達も呼んでこよう!」
そのようなやりとりがあったことはキャンディも優樹も知らぬままだったが、どうやら悪事はいい感じに認められたようだ。
そして、次は文房具とお菓子をすり替える悪戯が始まる。
移動教室で誰もいなくなった教室に忍び込んだ二人は、机に置かれたままだった文房具を回収していく。
「この鉛筆……棒付き飴に変えましょう」
「こっちの消しゴムを風船ガム! 筆箱はお菓子の箱に変えちゃおう!」
「黒板消しもパウンドケーキとすり替えて――」
「いいぞ、その調子だ優樹!」
「ふふふ、ちゃんと包装してるから開けて食べられちゃいます。びっくりさせちゃいますけれど美味しいので問題なしですね」
教室にはふたりきり。
悪戯はやり放題だ。キャンディと優樹は集めた文房具をお菓子ボックスという名のダンボール箱の中に入れていき、得意気に胸を張る。
「まさか誰もお菓子ボックスの中に文房具が入っているとは思わないはずだ!」
たぶん。きっと。
自信満々ながらもそう付け加えたキャンディに頷き、優樹は箱の蓋を閉じた。
「優樹も上手く隠せたか?!」
「バッチリですよ、団長さん!」
「ボクもカンペキ!」
やりきった気持ちでいっぱいになった二人は記念すべき第一日目の悪事を終えた。
もうすぐ今日の授業時間も終わる頃合いだが、そんなものはサボって当然。そろそろ寮室に戻ることを決めた二人は、明日も頑張ろうと意気込む。
ちなみに優樹とキャンディは同じ寮室で相部屋だ。
夜更しをするという悪いことも行えるおまけつき。此処から暫し不思議な学園と寮生活を送ることになるのだが、二人の心は躍っていた。
「おれたち、さいこーにわるいサーカス団です! その上にきっと、この学校でもわるい優等生になれますよ」
「ああ、これがキャンディサーカス団だ!」
快い視線を笑みを交わしあった二人は意気揚々と廊下を進む。
されどこれは序章に過ぎない。これからのサーカス団もきっと、破茶滅茶に楽しくて甘い悪事を重ねていくはず。
彼女達の活躍と快進撃はまだまだ、ここから――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百鳥・円
【まる】
おにーさん似合ってるー!
んふふ、ステキですよう
ほんの少しの学生生活ですもの
たーんと謳歌してみせましょ
でしょでしょ?まどかちゃんですもの
けして着崩すことはせず
あくまでアレンジで着こなすんですよう
とても似合ってるでしょ?知ってまーす
おや、よーく分かってるじゃあないですか
大事起こして捕まるのは勘弁です
そーいうのはそーいったところで、ね
どどーんっと落書きといきましょーか
まーる描いてちょん
おにーさんの黒髪は波のように
包帯ぐーるぐる……はい、完成しましたよう
ぷ、おにーさんもお上手ですね?
バッチリ悪さ出来てるんじゃあないですかね
楽しくなって来ましたよう
ささ、次行きましょ
次のことは走りながら考えます!
ゼロ・クローフィ
【まる】
まさかこの歳で制服を着るなんてな
お前さんは……
あーー、可愛い可愛い
拗ねてたら
悪い悪い、良く似合ってるよ
頭をぽんぽんとして笑う
悪戯ねぇ
お前さんと俺はどちらかというと大きな犯罪めいた方が簡単そうだが
まぁ、ヘマして捕まりはしないけどな
この壁に落書きでもするか?
おい!お前さんの俺のイメージはそれかよ!
彼女が描いた横に彼女の似顔絵を描いて
まる参上!!と書き足して
良く似てるだろ?とくくっと喉を鳴らして
お前さん滅茶苦茶楽しんでるだろ?
悪巧みな顔してるぞ
さて次は何をする?
ちょっ、走るのかよ
まぁお前さんが楽しいならいいか
●駆けゆく先は悪戯三昧
使立堕天學園。
何とも怪しい響きの学園マンションに入居、もとい入学した初日のこと。
配属された教室で落ち合った百鳥・円(華回帰・f10932)とゼロ・クローフィ(黒狼ノ影・f03934)は今、普段とは違う服装に身を包んでいた。
「おにーさん似合ってるー!」
「まさかこの歳で制服を着るなんてな」
褒め言葉を上手く受け取れず、ゼロは頬を掻く。改めて見下ろしてみたが学生服に着られてしまっているような気がしてならない。
しかしゼロの思いなど他所に、円は実に似合うと褒めてくれている。
「んふふ、ステキですよう」
「お前さんは……あーー、可愛い可愛い」
円はというと制服姿が本当に似合っていた。思わず適当に答えてしまったので、円はほんの少し頬を膨らませる。
「ちゃんと見ていってますか? 相槌だけで感想とはいわないですからねー?」
膨れた様子だが、その言葉には少しの余裕もみえる。どうやら円はゼロの本当の意見と言葉を待っているようだ。
「悪い悪い、良く似合ってるよ」
頭をぽんぽんと撫でてゼロが笑えば、円は満足そうに口元を緩めた。
「でしょでしょ? まどかちゃんですもの」
決して着崩すことはせず、あくまでアレンジで着こなす円は自信ありげだ。似合っているという言葉には、知ってまーす、なんて軽口を返す。
互いの学生服姿を確かめた二人は教室の席についた。既に予鈴は鳴っており、後は授業開始を待つだけだ。
二人が選んだのは窓際の後ろ側の席。
一番後ろの机には円。そのひとつ前にはゼロ。前後の席同士で並ぶ二人はのんびりと窓の外を眺めた。
入学した以上、卒業するまでは外の世界に出られない。
籠の鳥や牢獄のようなものかと思っていたが、内部の悪魔達は意外と受け入れて過ごしているようだ。
「さて、初日か。どうなることやら」
「ほんの少しの学園生活ですもの。たーんと謳歌してみせましょ」
ゼロが呟いた声を聞き、円は明るく笑ってみせる。
そして、此処から二人が堕天学園で過ごす日々が始まっていった。
「……自習ばっかりでしたねえ」
「そうだな、教師も授業をサボるという悪事をしてるってことか」
四時間目の終わり頃。
円とゼロは四時間目が始まった時には既に教室を抜け出しており、それからずっと校内の散策をしていた。今しがた話した通りに授業は自習が多かった。
それならば教室にいる理由もないということで二人はサボりの結論を出したのだ。
「しかし、悪戯ねぇ」
「さっそく何かやっちゃいます?」
「お前さんと俺はどちらかというと大きな犯罪めいた方が簡単そうだが……。まぁ、ヘマして捕まりはしないけどな」
「おや、よーく分かってるじゃあないですか。大事起こして捕まるのは勘弁です」
本気の悪事は二人にとっては簡単なことだ。
しかし、ゼロも円も初等部と呼ばれる場所でそんなことを行うつもりはない。
「そういうのは此処じゃちょっとな」
「そーいうのはそーいったところで、ね」
はからずも声が重なったことで二人は顔を見合わせ、薄い笑みを浮かべた。そうして、ゼロは通り掛かった廊下の壁を指差す。
「この壁に落書きでもするか?」
「はい、どどーんっと落書きといきましょーか!」
「決まりだな」
ゼロと円は頷きあい、近くの空き教室からチョークやペンなどを調達してきた。
壁は白いのできっと落書きは目立つ。
何を書こうかとゼロが考える中、円は何も迷わずにチョークを壁に走らせた。
「まーる描いてちょん」
「ん?」
「おにーさんの黒髪は波のように、包帯ぐーるぐる。……はい、完成しましたよう」
みてください、と告げて壁を示す円。
その絵が自分の似顔絵だと察したゼロは思わず突っ込みめいた声を出してしまう。
「おい! お前さんの俺のイメージはそれかよ!」
「可愛いでしょ?」
「……ノーコメント。お返しだ」
ゼロはそういって彼女が描いた横に似顔絵を書き足し、『まる参上!!』という文字を添えた。円はその様子を余裕の雰囲気で見守っている。
「ぷ、おにーさんもお上手ですね?」
「良く似てるだろ?」
くくっと喉を鳴らしてゼロが笑うと、円も双眸を細めた。
「バッチリ悪さ出来てるんじゃあないですかね。楽しくなって来ましたよう」
「お前さん、言葉以上に滅茶苦茶楽しんでるだろ? 悪巧みな顔してるぞ」
「ふふ、そーですか?」
見事な落書き似顔絵の前で二人は視線を交わす。
何だか良い調子だと感じた円は壁に背を向けて落書きを終え、ゼロも次の一手は何にするかの考えを巡らせていった。
「さて次は何をする?」
「ささ、次行きましょ」
駆け出した円はゼロの腕を引き、走ってはいけないとされる廊下を進んでいく。
「ちょっ、走るのかよ」
「次のことは走りながら考えます!」
「また適当な。まぁ、お前さんが楽しいならいいか」
二人は童心に戻ったかのように笑いあいながら学園を駆け抜けていった。其処から彼らがどのような悪戯を行っていったのか。
それは、きっと――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コッペリウス・ソムヌス
同行:ロキ(f25190)
学生らしくブレザー制服
着崩したり装飾沢山つけられるのも良いよね
すごい長い学ランてのもあるらしいけど
ワルっぽさ上がったりするんだろうか
悪事の大小ってよくわからないまま
早速イタズラ規模で積み重ねていこう
授業時間の廊下にてカラースプレーで
参上!とか夜露四苦とかラクガキを
七色にしたらワルとしても目立ちそうじゃない?
大遅刻して入った教室でも黒板にアートだね
オレ絵心あんまりないんだけど
描くなら悪っぽいのが良いかなぁ…ドラゴンとか
よく退治されてるからワルの象徴だよ多分
赤眼な翼に角に長い身体に……
見た目で強さが分かれば良いのにね
遊ぶのも学生の学びなんだよ、きっと
ロキ・バロックヒート
コッペくん(f30787)と
学校って行ったことないけど制服着れば良いのかな
学ラン着て裸足のまま
うーん前を開けてたらワルだよね
コッペくんには可愛いブローチ付けてあげるよ
三日月とキラキラしてるやつ
たぶん二人して神様モラルだから
微妙に悪事ってよくわかってなさそうだけど
スプレーでラクガキは楽しいよね
夜露四苦って書けるの?すごいじゃーん(漢字に弱い
七色お花とか描いちゃおう
終了のチャイムが鳴る頃に教室に入って堂々と大遅刻
誰もいなくなった教室で黒板にもラクガキしよ
ドラゴンってワルかな
俺様もコッペくんのの向かい合わせに
ゴツゴツした黒い眼のドラゴンを描く
こっちのが強いもんねーなんて
あれ?ワルってより遊んでない?
●アートな神々
極道、凶悪、堕天の罪を。
何処かから物騒な歌詞を並べた歌声が聞こえた。その声の主を探して辺りを見渡してみたが、廊下には生徒が行き交うだけであり該当する人物は見つからない。
「今、何か聞こえた?」
「確かに歌だったけど、もう聞こえないね」
コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)とロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は顔を見合わせ、何だったのだろうと首を傾げた。
しかし、すぐに二人の意識は別の方に向かう。
「おはよー」
「おはよう」
「ロッキとコッペだ。おはようございます!」
ぱたぱたと駆けてきたのは二人をあだ名で呼ぶようになった悪魔の少年。クラスは違うが、入学初日に知り合ってから朝の挨拶を交わす仲だ。
コッペリウスはブレザー、ロキは学ラン。共に入学した二人の服装はバラバラ。しかもロキの方は裸足という目立つ様相だったので、少年悪魔も最初に彼らを見かけてからすぐに興味を持ったらしい。
「ククアくん、今日はサボり?」
「ううん、たまには授業もいいかと思って」
ロキが少年の名を呼んで問うと、彼は教室に向かっているのだと話した。
「そうなんだ、偉いな。いや、悪くないから偉くはない?」
「あはは! むずかしーよね、そこんところ。じゃあまたねー!」
コッペリウスは上着のボタンを軽く弄りながら考える。少年も良い事と悪い事の境目を不思議に思ったらしいが、特に深く考えることなく教室に駆けていった。
すると別の悪魔が廊下を走ってくる。
「おっはよー! ふたりとも今日も制服似合ってるねえ!」
「ありがとう、またねぇ」
手を振って学友を見送ったロキ。その胸元のボタンは全て外されており、不良めいた雰囲気が醸し出されている。コッペリウスの方はというとロキから貰った三日月のブローチを胸元に飾っていた。
「みんな褒めてくれるけど、制服が好きなのかな」
「そうみたいだね」
「そういえば、すごい長い学ランてのもあるらしいけどロキが着れば更にワルっぽさ上がったりするんだろうか」
「うーん、長ランだっけ。あれは髪型も変えないといけなさそうだね」
そんな話をしながら、彼らは今日も授業には出ずに悪戯三昧を行う予定らしい。
とはいっても二人は神様だ。
「悪事って……」
「うん、どれくらいが丁度良いのか悩むよね」
コッペリウスもロキも人が宿す善悪の感覚はあいにく持ち合わせていない。人と接するようになってからは少し近付いたが、時代によって道徳や常識なども変化する。
悪事の大小がよくわからないままであるが、今日の二人はそれなりにやる気だ。
昨日は廊下を走るのが悪ということで何となく初等部の通路すべてをマラソンしてしまったが、本日の予定は別のこと。
何処からか手に入れてきたカラースプレーを持つコッペリウスは、いい感じの廊下の壁を見繕っていた。そして、真っ白な部分を見つけて歩み寄っていく。
「これをこうして、と」
スプレーから噴き出す色が壁を軽やかに滑る。
それから、あっという間にコッペリウスによる不良風の落書きが完成していった。
「そんな難しい字が書けるの? すごいじゃーん」
「ちょっと歪んだけどね」
ロキは彼に笑いかけながら、漢字のまわりにキラキラマークや星の絵を気が向くままに描いていった。コッペリウスもロキの絵を見遣り、なかなかだと褒める。
「スプレーでラクガキは楽しいよね」
「七色にしたらワルとしても目立ちそうじゃない?」
「いいね、七色。ついでにお花とかも描いちゃおう」
二人はいつしか落書きに夢中になっていた。其処から神様アートはうまい具合に進んでいき、そんなこんなで出来上がったのがこれだ。
✨ ✨ 神参上! ✨ ✨
🌷 🌟 夜露四苦 🌟 🌷
「うんうん、可愛い」
「可愛くてよかったんだろうか」
ロキは満足そうに頷き、コッペリウスも改めて壁を眺める。しかしそのとき、廊下の曲がり角から教師がやってきた。
やばい、逃げよう、と言い合った二人は見つかる前に退散してゆく。
そうして余裕の大遅刻をかました彼らは教室に入っていった。既に授業は始まっているが、幸いにもこの時間は自習だ。
コッペリウスとロキは連れ立って黒板の前に行き、視線を交わした。
言葉で伝えずとも分かっている。次のターゲットはこの教室の黒板だ。悪魔の生徒達は廊下に出たり、机に突っ伏して寝ている。先生も居ないので今の時間はコッペリウス達の独壇場のようなもの。
「オレ、絵心あんまりないんだけど……どうしようかな」
「上手じゃない方が雰囲気もでるよきっと」
「じゃあ、描くなら悪っぽいのが良いかなぁ。ドラゴンとか?」
コッペリウスはピンクのチョークを手に取り、ロキは黄色のチョークを選ぶ。少しばかり考えてみたが、他に思いつく悪事もなさそうだ。
「ドラゴンってワルかな」
「よく退治されてるからワルの象徴だよ多分」
これで描くものは決まった。
コッペリウスは赤い眼と翼を描き、其処から白い角を付け加える。更には長い身体を足していくという独特な書き順でドラゴンを描いた。
対するロキはコッペリウスの向かい側に黄金の竜を記していく。瞳は黒で鋭い爪と牙が生えている。二足歩行タイプの竜を描いたロキは挑戦的な笑みを浮かべた。
「こっちのが強いもんねー」
「それはどうかな。見た目で強さが分かれば良いのにね」
なんてね、と冗談めかすロキとちいさく笑うコッペリウス。二人は大いに黒板アートを楽しんでいるようだ。
そんな中でロキは不意に気付く。
先程の壁への落書きは兎も角、今はただお絵描きをしているだけではないか、と。
「あれ? ワルってより遊んでない?」
されどコッペリウスは事も無げにチョークを手の中で回し、さらりと答えた。
「遊ぶのも学生の学びなんだよ、きっと」
「そっかぁ。それなら、もっと遊ぼうか」
ロキは納得しつつコッペリウスの真似をしてみる。勢い余ってチョークがぺきっと音を立てて割れてしまったが、これもまた楽しいことのひとつ。
二人の神は笑いあう。
こんな学園生活もまた、悪くはないものだと感じながら――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
【彩夜】
ちいさな悪事、と聞いて
こんなことを思いついたのだけれど
……如何かしら
身に纏うのは所謂ブレザー制服
あら、もう始まっているのだったわね
こほんとひとつ、咳払い
此度は“俺”として生活をしなくては
――往こうか。
館での茶会も良いが
このような場所で憩うのも良いだろう
今日は俺が、饗そう
茶器の用意をしようか
調理室から拝借しよう
見附からなければ平気さ
一つや二つ、危険がある方が愉しいだろう
香り高い紅茶を注ぎ入れて
角砂糖をひとつ、欠かさぬように
彼の給仕には劣るがーー茶を淹れるのは好きだよ
さて、如何かな
各々準備を整え終えたのならば
このひと時に乾杯をしよう
嗚呼、手にした甘味も美味だとも
うさぎ、の動作も忘れぬように
メリル・チェコット
【彩夜】
ちゃんとできるかな、緊張しちゃう
でも、みんなと一緒ならそんなスリルさえも楽しめそう
男子用の制服に袖を通して髪を纏め
声のトーンを下げて、話し方も控えめに
男の子のフリしてるってバレてない、よね?
…うん、きっと大丈夫
ふふ、良いね
皆ならきっと此処でも茶会をすると思って
僕も、ホラ
チョコレートたっぷりのマフィン
購買の人気商品らしいよ
一人一個までって書いてたのに、何度も並んで沢山買ってきちゃった
少し悪すぎたかな
紅茶にクッキーに金平糖、それにケーキまで
ふふ、ケーキだなんて一体何処から?
見慣れた光景なのに
見慣れない装いの皆
紅茶もお菓子も、いつもより新鮮に感じる
写真に残せばきっと素敵な一枚になるね
うさぎ!
ルーチェ・ムート
【彩夜】
ふふ、いいね!
楽しそう!
わたしも…ううん、わたしじゃなかった
纏う黒のブレザーの制服
イメージするのは格好いい“男の人”
ボクは男、男
言い聞かせるよう胸のうちで唱えて
―――嗚呼、往こう
ありがとう、七結
ボクはくっきーを持って来よう
これから調達して来るのさ
調理室にならきっと美味しい物がある
悪事かもしれないけれど、今はきっとその方が良い
悪い男を演じるのはなんだが楽しくて
いつもと違うみんながなんだかおかしくて
小さくくすりと笑みを溢す
角砂糖をひいふうみい
美しいカップを傾けて乾杯
こくりと喉を鳴らしたなら
広がる甘味に舌鼓
紅茶も金平糖もケーキも美味しいよ
くっきーはどう?
うさぎ?とはこうで合っているかな
ルーシー・ブルーベル
【彩夜】
まあ、ふふ
面白そうね?
ウィッグを被り
身に纏うは男子用のブレザー
親友のぬいぐるみも今日はお留守番
さあて、行こうか
ル、……いや「ボク」
紅茶にクッキー
マフィンにケーキ
へえ!豪華なお茶会だ
皆何処から持ってきたの?
おや、悪い子
だが少しの悪事がスパイスとなって
傾けたカップの中の紅茶を
より香り立たせている
うん、どれもおいしいよ
ボクも良いものがある
給食に出ていた金平糖だ
食べたとウソをついたけれど隠していたんだ
皆の分もあるよ
余りをコッソリ拝借してきたもので
大丈夫、誰も見てやしないさ
勿論いいとも
はい、うさぎ
これはお芝居
これはお仕事
解っているけれど
少しいつもと違う時間
どうしてこんなにワクワクするのかしら!
歌獣・苺
【彩夜】
さすがなゆ!面白いこと思いつくねぇ!
それじゃさっそく…!
男の子の服なんて
ワクワクしちゃうなぁ♪
よーし!格好良くキメちゃうよ!
やっほー!お待たせー♪
七結にルチェにメーくんルーくん!
今日もキマってるぅ!
わ!いい匂いがすると思ったら
美味しそうなお菓子とお茶が
こんなに沢山!
俺が持ってきたホールケーキ置いたら超マイスタ映えしそ~♪(スマホを構え)
?ケーキ?確か『校長室』?
って書いてるところに置いてあったから貰ってきた!
……え?マズかった?
いーじゃんいーじゃん!
悪いことするのが今日のメインでしょ?
ほら、ケーキ置いて
他のお菓子と
カップも綺麗に並べて…
みんな集合~!
はい、うさぎー♪(みんなで自撮り)
●装い新たに
この学園の初等部で行うのは、ちいさな悪事。
「そう聞いて、こんなことを思いついたのだけれど……如何かしら」
蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は集った面々にそっと耳打ちをする。メリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)は頷き、ドキドキした気持ちを覚えた。
「ちゃんとできるかな、緊張しちゃう。でも、みんなと一緒ならそんなスリルさえも楽しめそうだね!」
「ふふ、いいね! 楽しそう!」
「まあ、ふふ。面白そうね?」
ルーチェ・ムート(十六夜リーリエ・f10134)とルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)も同意を示し、歌獣・苺(苺一会・f16654)も明るく笑う。
「さすがなゆ! 面白いこと思いつくねぇ! それじゃさっそく……!」
そうして、可憐な少女達は或る変身を遂げる。
それは――。
「男の子の服なんてワクワクしちゃうなぁ♪ よーし! 格好良くキメちゃうよ!」
はしゃぐ苺は男装していた。
彼女、もとい彼だけではない。七結達が身に纏うのは所謂ブレザー制服だ。
メリルも男子用の制服に袖を通して髪を纏めている。
「男の子のフリしてるってバレない、よね? ……うん、きっと大丈夫」
声のトーンを下げて話し方も控えめに。
少し不安そうなメリルに向け、ルーチェは大丈夫だと答えて笑む。
「わたしも……ううん、わたしじゃなかった。ボク、ボクだね」
纏うは黒のブレザーの制服を着て、イメージするのは格好いい男の人。
自分は男だと言い聞かせるよう胸のうちで唱えるルーチェの隣では、ルーシーが短髪のウィッグを被り直している。
親友のぬいぐるみも今日はお留守番。
「さあて、行こうか。ル、……いや『ボク』だね」
口調を改めているルーシーを見て静かに笑み、七結もふわりと双眸を細めた。しかし今日はいつもの嫋やかさはなく、凛とした眼差しだ。
「あら、もう始まっているのだったわね。此度は“俺”として生活をしなくては」
七結はこほんとひとつ、咳払いをして皆を見渡した。
「――往こうか」
「――嗚呼、往こう」
ルーチェも凛々しく答え、五人の男子生徒としての生活が始まる。
自習気味な授業はもちろんサボり決定。
空き教室の一室を自分達専用のサロンに改造した七結達は自由気儘に過ごしていた。
館での茶会も良いが、このような場所で憩うのも良いだろう。
「今日は俺が、饗そう」
七結は談話室の主として振る舞い、まずは茶器の用意をしようと決めた。皆に持ち寄りを願った七結は暫し解散だと告げ、校内を散策していた。
皆がそれぞれに好きな所に向かったことを確かめ、七結はふと思い立つ。
「そうだ、調理室から拝借しよう。見附からなければ平気さ」
誰かにバレてしまう可能性もあったが、ひとつやふたつ、危険がある方が愉しいだろうと判断して敢えて大胆に行く予定だ。
そうして難なく茶器を手に入れてきた七結は其処に香り高い紅茶を注ぎ淹れる。
角砂糖をひとつ、欠かさぬように。
「彼の給仕には劣るが――茶を淹れるのは好きだよ」
「ふふ、良いね」
メリルも部屋に戻ってきており、用意してきたものをテーブルに広げていった。
「皆ならきっと此処でも茶会をすると思って僕も、ホラ」
並べられたのはチョコレートたっぷりのマフィン。
購買の人気商品らしいこれは一人一個までの限定品。だが、ひとりで向かったはずのメリルはちゃんと人数分のマフィンを持ってきていた。
どうしてかと仲間が問うと、メリルは片目を閉じて悪戯っぽく答える。
「何度も並んで沢山買ってきちゃった。少し悪すぎたかな」
「ありがとう、七結。メリル。ボクはくっきーを持って来たよ」
ルーチェが先程に調達して来たというのは調理室で作られていたものだ。彼処にならきっと美味しい物があると読んで向かった先では調理実習を行っていた。
きっと今頃、クッキーが少なくなっていることに気付いた生徒が慌てているだろう。たいへんな悪事かもしれないが、今はきっとその方が良いはず。
ふふ、と笑ったルーチェは悪い男を演じることがなんだが楽しくなってきた。それにいつもと違うみんながなんだかおかしくて、くすりと笑みを溢す。
「やっほー! お待たせー♪」
其処にやってきたのは苺。後ろの方からルーシーもついてきている。
「七結にルチェにメーくんルーくん! 今日もキマってるぅ! いい匂いがすると思ったら、美味しそうなお菓子とお茶がこんなに沢山!」
「紅茶にクッキー、マフィンに、そっちはケーキ? へえ! 豪華なお茶会だ」
ルーシーは興味深そうにテーブルを眺める。
七結は人数分の紅茶を入れ、それぞれの席に並べていく。苺は楽しげに机へとスマートフォンを向けていた。
「俺が持ってきたホールケーキ置いたら超マイスタ映えしそ~♪」
「何処から持ってきたの?」
「ふふ、ケーキだなんて一体何処から?」
事も無げにケーキを持ち込んだ苺はメリルやルーシーから不思議そうな視線を向けられていた。何故なら購買や学食にホールケーキなどはない。普通はそんなものは用意できないのだが――。
「ケーキ? 確か『校長室Ⅱ』って書いてるところに置いてあったから貰ってきた!」
どうやら苺は初等部階層にある第二の校長室に忍び込んだようだ。その部屋の主はいなかったが、なんと其処にケーキが置いてあったという。
「おや、悪い子」
ルーシーはくすくすと笑み、ルーチェも可笑しそうに笑った。
そうして、ルーチェは紅茶に角砂糖を入れる。くるくるとティースプーンで紅茶をかき混ぜれば、お茶会の準備は万端。
美しいカップを傾けて、さあ――いざ。
「さて、如何かな。各々準備を整え終えたようだから、このひと時に乾杯をしよう」
――乾杯。
七結の声と共に男子生徒達のカップがそっと掲げられた。
こくりと喉を鳴らしたならば、広がる甘味。舌鼓を打ったルーチェは静かに笑む。
「紅茶も金平糖もケーキも美味しいよ。くっきーはどう?」
「いただきます」
「嗚呼、どの甘味も美味だとも」
「うん、どれも素晴らしいね」
メリルと七結、そしてルーシーはそれぞれに紅茶や菓子を味わい、優雅に始まった時間を楽しむ。見慣れた光景なのに見慣れない装いの皆がいる。何故か紅茶もお菓子も、いつもより新鮮に感じてしまう。
それに少しの悪事がスパイスとなって、傾けたカップの中の紅茶をより香り立たせている気がした。それからルーシーはお茶請けを取り出す。
「ボクも良いものがある。給食に出ていた金平糖だ。食べたとウソをついたけれど隠していたんだ。皆の分もあるよ」
実はそれは余りをこっそりと拝借してきたものでもある。
「貰ってもいいものなのかな?」
「大丈夫、誰も見てやしないさ。少なくともそっちのケーキよりはね」
メリルが首を傾げるとルーシーはクールに答えた。すると苺がきょろきょろと辺りを見渡し、きょとんとする。
「……え? マズかった? いーじゃんいーじゃん! 悪いことするのが今日のメインでしょ? ほら、それよりも!」
からからと軽い調子で笑った苺は他のお菓子とカップを綺麗に並べ直した。何をするのかと思っていると、苺は皆に呼びかける。
「みんな集合~!」
どうやら先程のスマートフォンで集合写真を撮りたいらしい。勿論いいとも、と答えたルーシーを始めとして皆が近くの集まっていく。
「はい、うさぎー♪」
「うさぎ」
「うさぎ?」
「うさぎ!」
「はい、うさぎ」
シャッター音が響き、自撮りの形でみんな一緒のポーズをした写真が撮れた。
何ともへんてこな時間だが、写真に残せばきっと素敵な一枚になる。メリルが嬉しさを噛み締めている仲、七結もそっと頷きをみせた。
ルーチェも楽しげに目を細め、苺も写真をスタンプなどでデコりはじめる。
これはお芝居でお仕事。
解ってはいるけれど、ルーシーはときめきを覚えていた。いつもと違う時間は面白い。
(どうしてこんなにワクワクするのかしら!)
心の中に宿った不思議な想いを確かめながら、少女は仲間を見つめる。
流れていくひとときは少しだけ悪くて、けれどもとびきり優雅で良きものだった。
そして、少女――もとい少年達の時間は巡っていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
宵雛花・十雉
【蛇十雉】
よし、頑張って悪いことをするぞー…!
もちろん授業をサボって別の場所へ
なつめは得意そうだね、こういうの
オレはあんまりやったことないや
どんな風にしたらいいかお手本見せてよ
って、いきなり何してるの…!
慌てて手で目を覆って
一緒に逃げる
な、なるほど…
じゃあオレもやってみる
生き物相手にするのは心が痛むから
物に悪戯してみよう
ふと見ると長い廊下の一部に肖像画があった
もしかしてこの人が校長先生かな?
なら落書きするしかないよね
肖像画の顔に立派なヒゲを書いて眉毛は極太に
マジックはもちろん油性
うん、悪いことするのってちょっと楽しいかも
その気持ちは分かりたくないけど
そうだ、次は食堂に行こうよ
唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】
悪い事するのに頑張る必要あるかァ?
…まぁ、お前真面目そうだもんな
お手本だァ?そーだなぁ……
言いながら横切ろうとしたブギーモンスターの布をスカートめくりの如く盛大に捲りあげてやる
そォら逃げろ!ククク!(言って十雉の手を掴み走り出す)
…とまぁこんな感じだ。
おう。じゃあ何か物にやってみなァ
ってお前それ校長の肖像画……!
それは流石にヤバくねーか…?
と思いつつも、楽しそうに悪事を働くときじに何も言えなくなり
…まいっか。
おい、俺も混ぜろォ
ばっかお前
ここはこーするほーが
落書きっぽく見えンだよ
そーだろ?俺がお前に
悪戯したくなる気持ち
分かったかァ?
お、食堂いーな!
丁度腹も減ってきてたとこだァ!
●めくりめくられ大騒動
「よし、頑張って悪いことをするぞー……!」
学園への入学を終え、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)は意気込んでいた。
もちろん今は授業をサボって別の場所へ向かう途中だ。これもまた悪の始めの一歩なのだと自分に言い聞かせ、十雉は拳を握る。
そんな彼を見て、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)は両腕を頭の後ろに組んだ。
「悪い事するのに頑張る必要あるかァ?」
「なつめは得意そうだね、こういうの」
「……まぁ、お前真面目そうだもんな」
「オレはあんまりやったことないや。どんな風にしたらいいかお手本見せてよ」
「お手本だァ? そーだなぁ……」
十雉と言葉を交わしつつ廊下を歩くなつめは、ふと曲がり角を見遣った。何やらぱたぱたと駆けてくる足音が聞こえる。
にっと笑ったなつめは、みてろよ、と十雉に告げて準備にかかる。
「わー、遅刻遅刻っ」
そういって駆けてきたのはブギーモンスターの女の子だ。二人の近くを横切ろうとしたブギーモンスターの布めがけ、なつめは手を伸ばした。
そして、スカートめくりの如く盛大に布を捲りあげてやる。
「キャー! えっちー!」
途端に響く悲鳴。あまりの一瞬の出来事に驚く十雉。
「って、いきなり何してるの……!」
「そォら逃げろ! ククク!」
十雉は慌てて手で目を覆ったが、その腕を掴んだなつめが一気に走り出した。ブギーモンスターは物々しい様子で追いかけてくる。
「莠コ縺ョ陦」譛阪r繧√¥繧九↑繧薙※髱槫クク隴俶・オ縺セ繧翫↑縺?〒縺吶?縲ゆク?菴薙←縺ョ繧医≧縺ェ謨呵ご繧貞女縺代※譚・繧峨l縺溘?縺ァ縺吶°」
彼女は布を被っている間のみ意思疎通できる魔界の怪物。めくられた知恵の布は勢い余って剥がれてしまったので言葉は完全に通じなくなっており、彼女は不可解な言葉を喋りはじめた。
「譁?ュ怜喧縺大、画鋤縺励◆蜷帙?ゅ◎縺?□繧医?√≠縺ェ縺滂シ√??繧医¥縺薙s縺ェ縺ョ繧貞、画鋤縺吶k豌励↓縺ェ縺」縺溘?縲ゅ☆縺斐>繧」
本当に何を言っているかわからないことが恐ろしい。
ひえ、とかなり震えた声を上げて怯えた十雉はなつめと一緒に必死に逃げた。だが、ブギーモンスターの少女も追い縋る。
やべ、となつめが冷や汗を書き、十雉がはぐれないようにしっかりと手を握った。
階段を駆け下り、廊下をものすごい勢いで駆け――。
やがて、二人は何とかブギーモンスターを何とか撒くことに成功した。
哀れ、名も知らぬ少女。布を被り直した彼女はきっとショックだっただろう。彼女の純情と引き換えに悪戯は成功となったわけだ。
「とまぁこんな感じだ」
「な、なるほど……じゃあオレもやってみる」
「おう。じゃあ何か物にやってみなァ」
「そうだね、生き物相手にするのは心が痛むから物に悪戯してみよう」
そういって十雉は近くを見渡してみる。
ふと見ると、長い廊下の一部に肖像画があった。カイゼル髭をたたえた年老いた男性は何だか威厳がある。十雉は何となく彼の予想して、よし、と決意を固めた。
「もしかしてこの人は偉い先生かな? なら落書きするしかないよね」
「ってお前それ、なんか高級そうな肖像画……!」
彼らは知らないが、これはこの学校マンションを立てた初代の大家だ。或る意味で旧校長先生とも呼べるものだろう。オブリビオンに学校を乗っ取られたうえ、落書きまでされるという哀れな大家だ。
十雉は老人悪魔の肖像画の顔に立派な顎ヒゲを書き足し、眉毛は極太にしていく。ペンはもちろん油性だ。
「それは流石にヤバくねーか……?」
「そうかな?」
首を傾げた十雉は少し楽しげだ。乗りに乗ってきた様子で悪事を働く彼を見たら何も言えなくなり、なつめは黙り込んだ。
「……まいっか。おい、俺も混ぜろォ」
「他に何か書けるものある?」
「ばっかお前、ここはこーするほーが落書きっぽく見えンだよ」
そうこうしながら二人は盛大な落書きを行っていく。
「うん、悪いことするのってちょっと楽しいかも」
「そーだろ? 俺がお前に悪戯したくなる気持ち分かったかァ?」
「その気持ちは分かりたくないけど……」
そうして思う存分に悪戯書きをした十雉となつめは満足気に頷きあった。次は何をしようかと考えているなつめの隣で、十雉が時計を示して告げる。
「そうだ、次は食堂に行こうよ」
「お、食堂いーな! 丁度腹も減ってきてたとこだァ!」
時間は既に昼食前。
学食では何が待ち受けているのかと思いを巡らせ、二人は意気揚々と進んでいく。
そんな中、廊下で黒髪の少女とすれ違った。「私のケーキ、一体どこに……」と呟いている少女の存在には気付けぬまま、彼らは食堂に向かっていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎
_
「……似合うな、ルーファス」
彼が高校生だったらまさしくこんな感じなのだろう。
共に学園生活を送れたら楽しいだろうななんて思う俺は、いつもの制服とパーカー。
…普段の学校生活、
と言われても面白いことは話せない。
普通に授業を受けてやることやって、部活をやって…の繰り返しだ。
「悪の道…」
普段ならさして惹かれもしない言葉だが、何故かルーファスに言われるとどうしてかワクワクしている自分もいる。
……まあ、たまにはいいか。
フ、と笑ってルーファスの手を握り返し
授業をサボって屋上で駄弁りながら、
…小さな悪事は、ルーファスをこちょこちょしてやった。俺は悪い奴だ。
ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と
まずは形からだろ?
白ワイシャツを腕捲りして
ついでに裾出しもしてやろうか
久々に耳へピアスも着けたし
ネクタイも緩めた
完璧に見た目は不良だろ!
学園生活したことねえから
すげえ、わくわくしてるけど
なあ、マコ、
お前、普段どんな学生なの?
授業中に早弁したり、
扉に黒板消し挟んだり、
教師の後頭部に紙飛行機飛ばしたりしねえの?
まーじで。クソ真面目じゃん
今日は俺と一緒に悪の道を進もうか
まずは授業サボって屋上だよな!
おら、マコ、行くぞ
彼の手を掴み教室を抜け出した
こちょこちょは、さしてダメージねえけど
本人が満足気で思わず噴き出した
こんなときくらい我儘言えば叶えてやるのに
本当、マコは欲がねえなあ
●屋上のひととき
此処から始まるのは学園マンション潜入任務。
学生は仮の姿とはいえ、まずは形から入るのが定石というもの。
「……似合うな、ルーファス」
学内の廊下にて、明日知・理(月影・f13813)は隣を歩くルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)の様相を眺めた。
「完璧に見た目は不良だろ!」
ルーファスは白いワイシャツを腕捲りしており、ネクタイを緩めたうえに裾を出している。久々に装着した耳のピアスもきらりと光っていた。
無理に着崩しているのではなく、自然体でこうなっているという外見だ。
彼が高校生だったらまさしくこのような生徒なのだろう。そう感じた理は、ふと自分の裡に浮かんだ思いを確かめる。
(共に学園生活を送れたら楽しいだろうな――)
そう思っている理はいつもの制服とパーカーを合わせた姿だ。
行こうぜ、と理を誘ったルーファスは廊下を進んでいく。ちなみに現在行われている授業は自習だったので思いっきりサボっていた。
他にもそういった生徒は多いらしく、学内はざわめいている。
流石は悪魔の学園だと感じながら二人はのんびりと校内を散策していった。
ルーファスはこういった学校生活をしたことはない。わくわくした気持ちを抱きながら、彼は理に問いかけた。
「なあ、マコ。お前、普段どんな学生なの?」
「……普段の学校生活か」
「そ、何か悪事の参考になるかと思って」
「と言われても面白いことは話せないな」
ルーファスに軽く視線を向け、理は首を傾げる。彼が語ったのは、普通に授業を受けていることやいつも通りに昼食を食べること。掃除当番や日直などのやるべきことを行い、放課後は部活に向かって――という模範的な繰り返し。
「それだけなのか?」
「普通の学生だからな、学校では」
「たとえば授業中に早弁したり、扉に黒板消し挟んだり、教師の後頭部に紙飛行機を飛ばしたりしねえの?」
ルーファスからの具体的な内容に対して、理は首を横に振った。
「しないな……。一度もしたことがない」
「まーじで。クソ真面目じゃん」
「いくつも悪事を思いつくルーファスの方がこの学園に向いていそうだ」
知識上の悪戯としては知っていたが、先程の例には言われるまで思い至らなかった。元の世界での普通を体現する理はそういって肩を竦める。するとルーファスが薄く笑って手を伸ばしてきた。
「今日は俺と一緒に悪の道を進もうか」
「悪の道……」
普段なら誰かに言われても、さして惹かれもしない言葉だ。しかし何故かルーファスに言われると、どうしてか胸が高鳴る。こんな自分もいるのだと知り、フ、と笑った理は双眸を細めた。
「で、返事は?」
「……まあ、たまにはいいか」
ルーファスの視線を受け止め、理はその手を握り返す。
そうと決まれば定番の悪事を行うしかない。普通に授業をばっくれるだけではなく、立入禁止の屋上に向かうというものだ。
しかし、まだ肝心の屋上への道程を見つけられていない。
何故なら此処は下層の初等部。
上層部にあたる屋上は中高等部に進級しなければ入ることすら出来ない。上部に行けたとしても屋上の鍵という問題もあった。
ルーファスと理はまず何をすべきかと考えていく。
「どうすっかな」
「真面目に授業を受けにいくか?」
「それだといつまで経っても進級できないだろ」
「……そうか。屋上への道は険しいな」
二人が廊下の片隅で話し合っていると、其処にひとりの悪魔の教師が通り掛かった。屋上、という言葉が聞こえたことではっとした青年教師は二人に近付いてくる。
「君達! いま屋上と言ったね!!」
「……っ」
「うお。言ったが、何だ?」
いきなりの接近に理はびくっと身体を震わせ、さっと彼を庇うように前に出たルーファスが問い返す。
「ふふふ……ちょうど屋上への転移術式が出来上がったところでね!」
使ってみないか、と教師は誘う。
渡りに船だと感じて承諾しようとしたルーファスだが、理が疑問を言葉にする。
「屋上は立入禁止じゃないのか?」
「ああ! そうだとも! 禁止区域に生徒をこっそり招く教師も悪だろう?」
「なるほど」
疑問への答えが示され、ルーファス達は納得した。何も生徒だけに悪が推奨されているのではない。世界そのものにデビルキング法があるのだから、教師もまた悪いことを行おうと狙っているらしい。
「おら、マコ、行くぞ」
転送陣があるという場所に向かい、ルーファスは理の手を引いて駆け出す。
と、いうことで。
学園型マンションの屋上に転送された二人は大いにサボりを楽しんでいた。
フェンスに背中を預け、隣り合って座る彼らはのんびりと駄弁っている。ちゃっかり購買で調達していたパンを齧り、魔界の空を見上げる時間は何だか不思議だ。
「そういえば……」
「ん?」
理はちいさな悪事を行うことを思い出し、体勢を変えて手を伸ばす。二人の距離が近付いた。理の顔が近付いてきたことに気付いたルーファスは目を丸くする。
「ちょ、待て。マコ、何を……?」
そして――。
こちょこちょ。理の指先はルーファスの脇腹に向けられ、くすぐり攻撃が始まった。
くすぐったさを感じた彼は口許を押さえ、ストップ、と願う。素直に言うことを聞いた理は満足気に笑んだ。
「どうだ、俺は悪い奴だ」
「……っ」
思わず身構えてしまったがくすぐりはノーダメージ。
ルーファスは寧ろ満足そうな理の姿に思わず噴き出してしまっていた。どうやら悪戯が成功したと感じているらしい理は妙に可愛らしく思える。
「こんなときくらい我儘言えば叶えてやるのに」
「我儘……それが悪いことになるのか?」
きょとんとした理はルーファスの言葉の真意に気付いていないらしい。だが、それもまた彼らしい反応だ。
「本当、マコは欲がねえなあ」
両腕を頭の後ろで組み、ルーファスは空を振り仰いだ。
魔界の空は高く、ゆっくりと流れていく雲が見える。理もルーファスの隣で同じように天を振り仰いだ。
そうして、時間は過ぎていき――。
ルーファスが理の隙を突いてくすぐりのお返しをするのは、もう少しだけ後のこと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩迎櫻
此処が学校……之が制服なるもの
同じ服を着たサヨとカグラは双子のようで心が和むよ
リル、とても豪華であるね
実に似合うし何処にいても目立つだろう
私はサヨと同じものにしてみたよ
ぶれざーというのかい?
何だか擽ったい心地だけど似合うかな?
巫女と同志に褒められれば嬉しくて頬が緩む
鳥籠庭園での会議
2人の楽しげな様子が微笑ましい
之の時が悪だなんて信じられないくらい
サヨには私の教科書を見せるよ
カグラ…昼ご飯前のヨルにおやつをあげすぎるという悪事を働いているのかい?
ヨルはお絵描きが上手だ
リルは眠姫のようだった
起こすのに難儀した
カラス?
飼育小屋にいれてきたよ
きみの傍にいきたがっていたからね
サヨ、其れを渡しなさい
リル・ルリ
🐟迎櫻
僕、学校好きだよ!
ふふー!似合う?僕も桜鼠色のブレザー制服着たんだから!
僕はワルだからね、改造してひらひらするようにしたよ
ボタンも光るぞ!
ヨルは黄色の帽子にらんどせる
おされな悪の会議だね
僕も頑張るんだから
悪…て奥が深いな
何を持って悪とするのか
僕もきっと、誰かの悪なんだから
櫻、教科書ないの?勉強する気ないね
カムイに感謝するんだぞ!
あー!ヨル!目を離した隙にそんなお菓子食べて!
お昼ご飯食べられなくなる!
はっ!こんな所に落書きまで…何かいたの?
僕そんなに寝坊してないんだから!
ち、ちゃんと起きてたよ?カムイに担がれて登校してないよ?
……カムイ…それは嫉妬…
櫻ぁ!
悪だぞ!
そんなの許さないんだから
誘名・櫻宵
🌸迎櫻
学園生活、寮暮らし…ときめくわ
似合う?
白のブレザー…偶には男物の制服も着なきゃね
カグラとお揃いだと双子みたい
リル!お姫様みたいでかぁいい!
…ボタン光ってるわ
カムイすごい…モテるわ格好良いわ
神々しすぎてどっからみても神よ
朝から授業をサボって、鳥籠の様な洒落た中庭でティータイムならぬ悪の生徒会円卓会議
まぁ、私は教科書全部忘れてきたから授業出ようもないんだけど
今日の議題は明るい悪事
悪とは何かしら?
リル、毎日お寝坊常連だからなかなかよ
ヨルったらそんな所に落描きして!
悪よ
カムイ、カラスは?
え?!なんて事をっ……迎えいかなきゃ!
私の悪事?そうねぇ
あなた達というものがありながら
恋文を受け取る、とか?
●ドキドキ🐧ラブレター事件
入居することが入学という不思議な学園。
違法改造されたマンション型の学校という奇妙な場所に訪れた誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)達は、まず自分達に宛てがわれた寮室に訪れていた。
二段ベッドが左右の壁側に置かれた四人部屋。
それが彼らが暫し寝起きをすることになる寮室だ。
「学園生活、寮暮らし。ときめくわね」
「僕、学校好きだよ!」
櫻宵が微笑むと、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)も明るく笑む。以前にも学園に潜入したときのことを思い出したのだろう。
対する朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は学校自体が初めてだ。
「此処が学校……之が制服なるもの……」
袖を通した制服は白のブレザー。カムイと櫻宵、そしてカグラも同じ装いだ。櫻宵は悪ぶってボタンを軽く外し、カムイに問う。
「似合う?」
「噫、サヨとカグラは双子のようで心が和むよ」
すると其処にリルがふわふわと泳いでくる。僕も着替え終わったよ、と話すリルは少し違った色合いの制服だ。
「ふふー! 僕も似合う?」
「リル、とても豪華であるね。何処にいても目立つだろう」
リルが着ているのは桜鼠色のブレザー制服。ワルだからという理由で改造した制服はひらひらとした作りになっており、まるで舞台衣装だ。
「ボタンも光るぞ!」
「きゅっきゅきゅー!」
そんなリルの傍に居る式神ペンギンのヨルは、黄色の帽子にランドセル姿。
「リル! お姫様みたいでかぁいい!」
櫻宵は光るボタンについては敢えて突っ込まないでおいた。おそらく暴走族的なぴかぴかワルを表現したかったのだろう。カグラはヨルのあまりの可愛さに心を奪われているらしく、動かなくなっている。
「何だか擽ったい心地だけど私も似合っているかな?」
「カムイすごい……モテるわ、格好良いわ。神々しすぎてどっからみても神よ」
「百点満点だよ、カムイ」
巫女と同志に褒められ、嬉しくなったカムイの頬が緩む。それから彼らはどのベッドを使うかを相談して決めた。ちなみにカムイは右側の下段、リルは上段。櫻宵は左側の下段で、カグラとカラスとヨルがその上段だ。
そんなこんなで、一行の学園生活は始まりを迎える。
優雅に遅刻登校した櫻宵達は今、朝から授業をサボっていた。
彼らが腰を落ち着けているのは鳥籠めいた東屋がある洒落た中庭。今からこの鳥籠庭園で悪の相談を行うのだ。
ティータイムならぬ、悪の生徒会円卓会議が開始していく。
「サヨ、授業に出なくて良かったの?」
「まぁ私は教科書を全部忘れてきたから授業に出ようもないのよ」
「教科書ないの? 勉強する気ないな、櫻!」
「では、サヨ。授業に出るときは私の教科書を見せるよ」
「それはいいね。櫻、カムイに感謝するんだぞ!」
まず巡ったのは他愛ない話。
以前は教師役だったり生徒会長だったりした櫻宵だが、今は悪の学校にいるので不良学生まっしぐらだ。
「ということで、今日の議題は明るい悪事よ!」
「おされな悪の会議だね。僕も頑張るんだから!」
やがて櫻宵は話題を変え、リルも会議に向けて意気込みを見せた。
二人の楽しげな様子を微笑ましく思いながら、カムイはこのひとときへの思いを馳せる。これが悪だなんて信じられないくらいに庭園は穏やかだ。
「さて、議題よ。悪とは何かしら?」
「悪……て奥が深いな。何をもって悪とするのかだよね」
櫻宵が出した議題についてリルは考える。
自分もきっと、誰かの悪だ。自然に脳裏に過ぎったのはグランギニョルのこと。正しいと教えられてきたことやあの歌は悪いことだった。しかし、そのときのリルにとっては座長こそが正義だった。
カムイは考え込んでいたリルに気付き、名を呼ぶ。
「リル?」
「ううん、むつかしいと思って」
「悪事って難しいわ。でもリル、毎日お寝坊常連だからなかなかに悪い子よ」
「ええっ、僕そんなに寝坊してないんだから! ち、ちゃんと起きてたよね? カムイに担がれて登校してないよ?」
「……担いで登校してきたよ」
思えば同じ部屋で寝起きするリルは眠り姫のようだった。起こすのに難儀したね、と思い出し笑いをしたカムイは楽しげであり、櫻宵も首肯する。
「ええ、米俵のようにね」
「むー……」
夢だと思ってたのに、とリルは頬を膨らませる。それによって先程に考えていた悪への思いも何処かに消えていった。
そんな中で櫻宵は或ることに気付く。
「まあ、ヨルったらそんな所に落描きして!」
気付けば、いつの間にか鳥籠を囲む壁にヨルがクレヨンで色を塗っていた。
それも悪よ、と櫻宵が示すとカグラがヨルを抱き上げる。そして、ヨルにたっぷりとおやつをあげはじめた。
「カグラ……昼ご飯前のヨルにおやつをあげすぎるという悪事を働いているのかい?」
カムイが視線を向けると、カグラはそうだと頷く。
「あー! ヨル! そんなお菓子食べて!」
お昼ご飯が食べられなくなるよ、とリルが注意するとヨルはぶんぶんと首を振った。どうやら、たべられるもん、と反論しているようだ。
「それに落書きまで……何をかいたの?」
「きゅ!」
ヨルが得意気に示したのはカラスの絵だ。いいこいいこ、とカグラが頭を撫でてくれたことで仔ペンギンは更に調子に乗っていく。意外に悪いことが得意らしい。
仕方ないなぁ、とリルが語る中で、櫻宵はふと疑問を浮かべた。カラスの絵を見たことで彼が居ないと気付いたのだ。
「カムイ、カラスは?」
「カラスは飼育小屋にいれてきたよ。きみの傍にいきたがっていたからね」
「え?! なんて事をっ……迎えいかなきゃ!」
立ち上がろうとした櫻宵だが、大丈夫だよ、と笑顔で語るカムイに止められてしまったことで飼育小屋行きは断念された。
すると次はリルが、そういえば、と思い立つ。
「櫻は何の悪いことをしたの?」
「私の悪事? そうねぇ……」
櫻宵は意味深に笑み、上着のポケットから白い封筒を取り出した。その裏にはハートのシールが貼られている。
「あなた達というものがありながら、恋文を受け取る、とか?」
その途端、ガタッと音がした。
机を両手で叩く勢いで立ち上がったカムイの表情から笑みが消えている。
「サヨ、其れを渡しなさい」
「ひっ」
カムイの声が有無を言わさぬ冷たいものだったことで櫻宵が思わず驚いた。リルは彼がそうなった理由を悟り、こくりと頷く。
「……カムイ、それは嫉妬――。はっ! 櫻ぁ! それは悪だぞ!」
しかしすぐにリルも同じ感情を抱いた。
そんなの許さないんだから、と語ったリルは尾鰭でぺちぺちと櫻宵を叩く。その勢いで手紙がひらりと飛んでいった。
わあわあと騒がしくなった鳥籠庭園。
飛んでいく手紙を拾いに行ったカグラは、その宛名を見て驚いたような仕草をする。
『カグラさまへ』
なんと、その手紙の宛先は櫻宵ではなくカグラだったのだ。カグラが鳥籠を見遣ると、三人がぎゅうぎゅうと押し合いへし合いをしていた。
「サヨは私の巫女なんだ。それをどこの馬の骨とも分からぬ者に――」
「僕も櫻を離さないぞ! ラブレターは受け取り禁止だ!」
「待って二人とも、これには事情があって……!」
そんな三人を見てカグラは肩を竦め、ヨルもきゅっと鳴いた。
櫻宵は手紙を渡しておいて欲しいと頼まれただけであることを言いすタイミングを掴めず、暫し二人にくっつかれていた。
ちなみにだが、後にヨルはお昼ご飯を食べられなくなって泣いたという。カグラは手紙をくれた女生徒に自分は妻子持ちだということを告げに行き、丁重にお断りするという甘酸っぱい青春の一頁を作った。
櫻宵とリル、カムイはというと――此処でも割といつも通りだった。
こうして、彼らのちょっぴり悪い学園生活は続いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
庵野・紫
【幽楽】
なになに?楽しそうじゃん!
ワルならアンに任せてよ!
飛び級しちゃうよー。
アンはねー、お菓子パーティーがしたい!
学校ってお菓子とかー、持ち込み禁止っしょ?
校門で堂々とお菓子を食べちゃおうよ!
アンが持ってきたお菓子はねー
これ!じゃじゃーん、ポテチ!
ポテチはうまいぞー!
おん?アンのポテチが食えないって?
ポテチで脅しちゃうよー
お菓子パーティーを終えたら教室にのりこめー!
きゃー!ミアのビー玉最っ高!
かくりの念力もやばい!誰も通れない!ってりゅうこナイス!
アンのべたべたの手でビー玉を触ったらさー
みんな滑っちゃわない?楽しくね?
よーし、やるぞ!
小さな悪事は大きな一歩!
とびっきりのワルになっちゃうよー!
ミア・レイシッド
【幽楽】
お菓子パーティーなのだわ。
わたくしは目玉の飴を持ってきたのよ。
きらきらしていて綺麗でしょう。
これを見て驚く方もいらっしゃるかしら。
通る方々に目玉の飴を見せるのだわ。
教室に向かうのね。
わたくしのビー玉の出番なのよ。
廊下に転がしてしまうの。楽に歩行できるのだわ。
りゅうこは随分と勢いが良いのね。
りゅうこを見習いたいのだわ。
わたくしもりゅうこを見習って滑るのよ。
アン。勢いが増したのだわ。転びそうなのよ。
かくり。わたくしが転んだらビー玉と一緒に投げてほしいのよ。
わたくしが怪我をすると王様に遣える者がいなくなるのよ。
揺・かくり
【幽楽】
此れが彼の有名な菓子ぱーてぃかい
悪事と在らば任せ給えよ。
念力にて置物の定位置を変えて仕舞おう。
先程よりも見栄えが良いだろう?
私は此れを持ち込んだよ。
ココア味のシガレット。知って居るかい?
此の様にして持てば、葉巻の様だろう。
未だ足りないのだろうか。
学び舎の一室を占拠しよう。
正確には捉えられないのだが
其の硝子玉たちは美しいのだろう。
ならば聢と捉えられる様に浮かべておこう。
私の念力にて宙へと浮かべて置くよ
此れならば先へと往けぬだろう。
ああ、任させたとも。
ミアが怪我をしてはならないからね。
りゅうこもアンも気を付けるのだよ。
此度は如何なる喫驚を得られるだろうね
周囲の反応が楽しみだと感じるのだよ。
片稲禾・りゅうこ
【幽楽】
菓子ぱあてぃだあ~~~~!!!
ふふん、このりゅうこさん、悪いことと言われて思いつくものは全然なかったが菓子となれば話は違うぜ
そりゃ!駄菓子をた~くさん用意したぞ!
ふっふっふ……お菓子は300円までと聞いたことがあるがこれは合計でその………何倍か忘れたな………
腹が膨れたら運動と決まっているからなあ!
よっしゃあ乗り込め~~~~!!
『廊下は走ってはいけません』……なら、滑ったらもっといけないことだな!?せ~のっ!
ひゅ~~!これ楽しいぞ~~……ってうおっ!?
ん?転んだらそのまま滑れば良くないか?滑りも良くなってほらほらあ!
うっははは!!悪いことをするのも楽しいもんだなあ!!!
●お菓子とビー玉と妖怪達
邪悪と悪戯が満ちる悪魔の学校。
その名も使立堕天學園。其処に入学した一行は現在、内部の校門に立っていた。
「此れが彼の有名な菓子ぱーてぃかい」
「菓子ぱあてぃだあ~~~~!!!」
揺・かくり(うつり・f28103)に続き、元気よく宣言したのは片稲禾・りゅうこ(りゅうこさん・f28178)だ。此処に集った四人は今、各々でお菓子を持ち寄っていた。
――遡ること数時間前。
「悪いことって、何をすればいいのかしら?」
入学してみたはいいものの、ミア・レイシッド(Good night・f28010)が悪事について悩んでいる中、いい感じにそれなりに悪いことを熟知している庵野・紫(鋼の脚・f27974)が飛び込んできた。
「なになに? 楽しそうじゃん! ワルならアンに任せてよ!」
一気に飛び級しちゃうよ、と自信満々に語った紫は胸を張った。同じく悩んでいたりゅうこも紫に興味津々の視線を向ける。
「ワルってどうすればいいんだ?」
「ふふーん。学校ってお菓子とかー、持ち込み禁止っしょ?」
「そうらしいと聞いているわ」
「そうか、校則の決まりだったね」
紫が語ると、ミアとかくりがそれぞれに頷いた。
「だからね、まずは校門で堂々とお菓子を食べちゃおうよ! アンはねー、お菓子パーティーがしたい!」
その一言によって開催されることになったのが、この催しだ。
「お菓子パーティーなのだわ」
「ふふん、このりゅうこさん、悪いことと言われて思いつくものは全然なかったが菓子となれば話は違うぜ」
「ただぱーてぃをするだけでは何だからね」
悪事と在らば自信あり。かくりの念力によって門の装いも変わっていた。
「先程よりも見栄えが良いだろう?」
「うんうん、いい感じ!」
紫は明るく答え、みんなにどんなお菓子を持ってきたのか聞く。ただ問うだけではなく、自分が持ってきたものを示す。
「アンが持ってきたお菓子はねー。これ! じゃじゃーん、ポテチ!」
「わたくしは目玉の飴を持ってきたのよ。きらきらしていて綺麗でしょう」
もしかすればこれを見て驚く者もいるかもしれない。ちょっとした悪戯心がミアの中に生まれており、彼女は通っていく学生に目玉の飴を見せていく。
かくりはというと、既に持ち込んだものを口に咥えていた。それを二本の指で挟んで示した彼女は、ふう、と息を吐く仕草をする。
「私は此れだよ。ココア味のシガレット。知って居るかい?」
こうして持てば葉巻のように見える。
おお、と感心したりゅうこはココアシガレットを一本受け取って真似をした。だが、すぐにガリガリと噛んで味を楽しむ方向に転換する。
「りゅうこさんは、駄菓子をた~くさん用意したぞ! ふっふっふ……お菓子は三百円までと聞いたことがあるがこれは合計でその……何倍か忘れたな……」
「まあ、たいへん。兎に角たくさんなのだわ」
「いいじゃん! それじゃお菓子パーティー開始! ポテチはうまいぞー! おん? アンのポテチが食えないって?」
ミアは頷き、紫はからりと笑って生徒に詰め寄る。
校門を通る学生達は何事かと驚き、目玉の飴にびくっとしたり、紫の勢いに押されたりといろいろ大変だったようだ。
そんなこんなでお菓子テロ、もといパーティーは大成功をおさめた。
されど彼女達の悪はまだまだ終わらない。
「教室にのりこめー!」
「未だ足りないのだろうからね。あの学び舎の一室を占拠しよう」
「腹が膨れたら運動と決まっているからなあ! よっしゃあ乗り込め~~~~!!」
紫を先頭にしてかくりが続き、その後にりゅうことミアが走っていく。その目的は授業妨害という名の教室占拠だ。
だが、その途中でも悪戯をすることは忘れない。
「わたくしのビー玉の出番なのよ」
ミアは廊下にたくさんのビー玉を転がしていった。これで楽に歩行できるのだわ、というのがミアの言い分だが、後に多くの学生が転ぶことになる悪事だ。
「きゃー! ミアのビー玉最っ高!」
「なるほど。悪くないね」
きらきらだね、と紫が歓声をあげる中でかくりは双眸を緩めた。その瞳では正確には捉えられないのだが、紫の声からすると硝子玉が美しいことがわかる。
「ならば聢と捉えられる様に浮かべておこうか。此れならば先へと往けぬだろう」
「おお~~~~!!!」
念力を使ってビー玉の半分を宙に浮かべたかくり。りゅうこが瞳を輝かせ、紫もぱちぱちと拍手を送った。
そうするとりゅうこがはっとして、新たな悪事を思いつく。
「そうだ、『廊下は走ってはいけません』……なら、滑ったらもっといけないことだな!? せ~のっ!」
全力でダッシュするりゅうこの勢いは物凄い。
すごいわ、と口にしたミアが感心の瞳を向け、紫も更に笑って褒め湛える。
「りゅうこは随分と勢いが良いのね。見習いたいのだわ」
「かくりの念力もやばい! 誰も通れない! ってりゅうこナイス!」
「ひゅ~~! これ楽しいぞ~~……ってうおっ!?」
そのとき、りゅうこが勢い余って転んでしまった。その様子からヒントを得た紫は妙案を思いついたらしい。
「アンのべたべたの手でビー玉を触ったらさー。みんな滑っちゃわない? 楽しくね?」
「妖怪と同じく、悪魔も丈夫だというからね。危険だが安全だろう」
かくりは同意を示しながら、少し矛盾したことを語った。何だか常識の概念が覆される状況だが、これもまた悪の道のひとつだ。
転んでいたりゅうこもこの状況を楽しんでいく。
「ん? 転んだらそのまま滑れば良くないか? 滑りも良くなってほらほらあ!」
「わたくしもりゅうこを見習って滑るのよ」
ミアも彼女なりに意気込み、廊下は妙な賑わいに包まれていった。
「よーし、やるぞ! 小さな悪事は大きな一歩!」
意気込みをみせる紫はぐっと拳を握っている。ミアとかくりも廊下を見つめ、教室占拠の前のひと仕事を始めていく。
「かくり。わたくしが転んだらビー玉と一緒に投げてほしいのよ」
わたくしが怪我をすると王様に遣える者がいなくなるから、と語ったミアは転がるビー玉を追いかけていく。
「ああ、任されたとも。こんな場所でミアが怪我をしてはならないからね。りゅうこもアンも気を付け――ああ、心配はいらないか」
かくりが振り向くと、既にりゅうこはすっかり慣れきった様子で廊下を走り、全力で楽しみながら滑っていた。
きっとこの様子が他者に見られるだけで喫驚を得られるだろう。騒ぎを聞き付けて集まる周囲の反応が楽しみだと感じ、かくりは力を巡らせていった。
「うっははは!! 悪いことをするのも楽しいもんだなあ!!!」
「とびっきりのワルになっちゃうよー!」
「何だか楽しいのだわ」
「あの辺りも念力で弄っておこうか」
りゅうこと紫は元気に笑い、ミアとかくりは静かに悪事を重ねる。
そうして、彼女達の学園生活は上々に巡っていく。やがて、四人組の悪名は広まっていき――恐怖の妖怪シスターズとして、一躍有名になっていったという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リトルリドル・ブラックモア
◎
ワーハハハ!
オレサマは使立堕天學園イチのワル!
まおーリトルリドルサマだぞ!
すげーコエーヤツがいっぱい来てそうだけど…
オ、オレサマがデビルキングなんだもん!
ワルだから制服着ないし
まおーサマメカ(チャリ型)に乗って教室まで登校するんだぞ!
ククク…廊下に違法駐輪してやるぜ
すげージャマだろう!
うぐ…オレサマ算数キライ…
国語も理科も社会もぜんぶキライ…
勉強なんかもうヤダー!
オマエら!黒板にラクガキするぞー!
ククク…普通のワルはチョークを使うケド
オレサマはヤバいマジック(油性・黒)を使うぞ!
でっかく「まおーサマ参上!」ってかく
てかコイツ…
黒板なのに黒くないとかワルすぎだぜ…
真っ黒になるまでやってやるー!
●魔王と四天王と堕天使
使立堕天學園。
何とも不思議で奇妙な学校型マンションで行われているのは悪事の数々だ。
「ワーハハハ!」
初等部の或る教室に響くのは高笑い。
休み時間の最中、リトルリドル・ブラックモア(お願いマイヴィラン・f10993)は悪魔の子供達に囲まれ、積み上がった机の上で踏ん反り返っていた。
「オレサマは使立堕天學園イチのワル! まおーリトルリドルサマだぞ!」
「わー! まおーさまー!」
「ちっちゃいけど魔王様はすごい!」
「わるーい」
「すごーい」
幼い悪魔達は既にリトルリドルの配下になっていた。一人目は角の悪魔少年ノーツ、次はおませな魔女のジーマ。最後は木霊の悪魔の双子、リフとレイン。
彼らが魔王リトルリドルの四天王だ。
自ら進んで友達、もとい配下になった四人は拍手をしている。いい気分になったリトルリドルはこうして毎日みんなと遊んで――ではなく、悪の道を進んでいる。
今日も休み時間に高い所に登る孤高の魔王ごっこをしていたリトルリドル達は、楽しそうに遊んでいた。
そんな中、どしん、という音が廊下から響いてくる。
驚いたリトルリドルが視線をそちらに向けると、どう見ても布のサイズが合っていない巨体のブギーモンスターが歩いていくところが見えた。
知恵の布からはみだした足はトゲトゲしており、歩く度に轟音が鳴る。
「すげーコエーヤツが……」
「まおーさま、ビビってんのか?」
「えー、怖がりな男子ってダサくない?」
「こわーい」
「ださーい」
リトルリドルが少し怯んでいると四天王達が口々に好きなことを言い始めた。違う、と弁明したリトルリドルは奮い立ち、大きく胸を張ってみせる。
「オ、オレサマがデビルキングなんだもん!」
彼は語る。
ワルだから制服は着ないし、魔王様メカこと自転車に乗って教室まで乗り付けて登校するという悪さを毎回行っているのだ、と。
「まおーさまメカ、すっごい目立つもんね」
「ククク……。そうだ、廊下に違法駐輪してあるぜ」
「いほーう」
「ちゅーしゃ」
「どうだ、すげージャマだろう!」
ノーツと双子達にワルさ自慢していくリトルリドル。だが、廊下を眺めていたジーマが驚いた声をあげた。
「あれ? 魔王様のチャリがないよ!」
「メカ(チャリ)が!? オレサマのメカ(チャリ)が!! 違法駐車取り締まりでもしてるのか!? 待て、ああっ……さっきのコエーモンスターが!」
自転車が盗られていったという事態に気付き、リトルリドルは机から飛び降りた。しかしなんと、先程のモンスターが引き摺っていったらしい。
「布以上にサイズが合ってないぞ! 乗るな、やめろ! わあああー!」
廊下に飛び出したリトルリドルは悲鳴をあげた。
悲痛な叫び声と共に巡った結末がどうなったのかは、ご想像にお任せしよう。
そんなこんなで授業時間が始まった。
リトルリドルが配属された教室は割と真面目な授業を行うところだったらしく、様々な科目授業が行われている。
「うぐ……オレサマ算数キライ……。国語も理科も社会もぜんぶキライ……」
「せーんぶ」
「きらーい」
鉛筆を握っているリトルリドルの後ろの席で双子悪魔達も暇そうにしている。ちなみにジーマとノーツは二人揃って授業をサボっていた。どうやらおませな二人は付き合っているらしいのでリトルリドルは空気を読んでついていかなかったという一幕もある。
授業がつまらなくなったリトルリドルは鉛筆を投げ出した。
「勉強なんかもうヤダー! オマエら! 逃げて黒板にラクガキするぞー!」
「やだー!」
「するぞー!」
リフとレインを引き連れたリトルリドルは教室を飛び出し、授業が行われていない教室に向かっていった。元の教室でやると真面目な皆に迷惑を掛けるので、隣の部屋を選ぶという気遣いっぷりを発揮した結果だ。
そうして、魔王と悪魔達は空き教室に到着した。
「ククク……普通のワルはチョークを使うケド、オレサマはヤバいぞ」
「ちょーく」
「やばーい」
「なんと油性の黒ペンだ」
取り出したのは黒板では使ってはいけないもの。リトルリドルは意気揚々と、でっかく『まおーサマ参上!』と黒板に記していく。
リフとレインはチョークを使い、その周囲にお花や星を描いていった。二人が楽しげに落書きをしていく中、リトルリドルはふと気付く。
「てかコイツ、黒板なのに黒くないとかワルすぎだぜ……」
そう、黒い板と書くというのに黒板は緑色だ。名称詐欺だと感じたリトルリドルは名実ともに黒板を黒くするために動き出した。
「真っ黒になるまでやってやるー!」
きゅ、きゅきゅ、とペンが走っていく音が空き教室に響く。そんな中で不意に四天王の誰のものでもない少女の声が聞こえてきた。
「確かに、そうですね。黒くすることに賛成、です」
「ん?」
振り向いたリトルリドルだったが、その人物の顔は見えなかった。声の主は廊下から教室を覗いていただけであり、すぐに身を翻して行ってしまったらしい。黒髪を揺らしていく少女の後ろ姿が教室から遠ざかっていく。
「アイツも真っ黒だなあ」
堕天使なのだろうか。その背に生えている赤い翼はとても印象的で――。
ちいさな魔王が堕天使の正体に気付くことになるのは、もう暫し後のことになる。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『黒光輪秘密話術教団』
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POW : 私のダークネスクロニクルに触れさせてやろう
自身が【当人にしか意味の通じない日常話をして】いる間、レベルm半径内の対象全てに【理解しようとすること】によるダメージか【雑な相槌で受け流して休憩すること】による治癒を与え続ける。
SPD : 良くお聞きなさい、わたくしこそは~
【自身の考えたできるだけ難解な名乗り口上の】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
WIZ : 我々の崇高なる言葉はわからぬだろう……多分
【ごく普通の辞書や辞典】から、対象の【聞いた者を困惑させたい】という願いを叶える【謎用語】を創造する。[謎用語]をうまく使わないと願いは叶わない。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●上層部・高等授業
初等部の進級条件をクリアした猟兵達。
それによって、これまで出入りが出来なかった上層部に通されることとなった。
此処では高度な授業が行われており、出席して良い成績を出すことで卒業資格でもある校長との戦いに挑むことが出来る。
中~高等クラスは多くあるが、猟兵達が参加できるのは以下の三教室だ。
🔴教室P『黒歴史トークバトル!』
はーい、みなさーん。
この教室を担当する、黒光輪秘密話術教団のエーコと申します。
ここでは貴方達の暗黒なる歴史を語り、その鮮烈さと深さを競って頂きます。
お手本として最初に私の歴史をお聞かせしましょう。ですが、この話を語ると前世の人格が……うっ、頭が――。
『くっくっく……私のダークネスクロニクルに触れさせてやろう……。
そう、これは我が右手に宿りし封印の物語だ。それはこの私、聖邪竜アブドミナルペインが宿敵である業天使デセスペラシオンとの百年にも渡る激闘において刻まれた傷痕であり、転生した私に課された宿命と運命の梯を繋ぐ刻印は、輪廻の――(以下略)』
※要約。
創作でも実体験でもいいので貴方の黒歴史を披露してください。
良い感じに先生が語りに脚色指導をする事もあります。派手さが大事ですからね。
🟢教室S『名乗り口上作成講座』
さあ、授業を始めましょう。
わたくしがこの講座の教師、黒光輪秘密話術教団のビートです。お見知りおきを。
皆様はお決まりの名乗りを持っていらっしゃる? 持ってないでしょう? でしたらこの講座がおすすめですわ。なんと言っても口上は格好いいのですわ!
たとえば、わたくしの名乗り口上は――。
『良くお聞きなさい、わたくしこそは……。
名を語れば天が揺らぎ、地が割れる! 黒輪が輝き出せば、悪の心も叫び出す! 悪徳上等、歴史に名を刻む崇高なる黒光輪秘密話術教団――ブラックハローシークレットストーリィカルトのビートですわ! ディアボリックなリズムに乗って、此処に推参!!』
※要約。
貴方らしい決め台詞、名乗り口上を考えましょう。
難しい場合は先生と一緒に考えるお任せ方式でも大丈夫です。まずはどんな方針が良いか貴方の好みを教えてくださいね。
授業の終わりには全員必ず、口上を述べて貰います。
🔵教室W『必殺技に名前を付けよう』
フフ……我々教団が重視するのは崇高なる言葉……。
おっと、すまない。私はこの教室を担当するシータだ。よろしく頼む。
まだ学びの途中であるお前達にはわからぬだろうが、言葉とは様々な意味を宿す。我らは其処に込められた物を大切に扱っているのだ。
そんなわけで皆には必殺技に素晴らしい名前を付けて貰う。
既に付いている? ならばその技の二つ名や詠唱でもいい。お前達の名付けた技の名を叫び、その力を教室内で解き放ってみろ。
いいか、名付けの実例を黒板に書いていくぞ。
『デビルズ・ディール』の場合。
我召喚せし邪心の角 ~戦場に現れし崇高なる悪夢と絶望の魂~(ディアブル・シカトリス・コシュマール・デゼスプワール)
新規必殺技の場合。
・反逆なる拷問処罰(トライゾン・トルチュール・ピュニシオン)
・絶対絶望絶縁絶滅波動(トコトンミナゴロシビーム)
・オランジェンザフト・グレンツェ(オレンジジュースムゲンニワクリョウイキ)
※要約。
難しい漢字や格好いいカタカナを並べた必殺技や詠唱を考えましょう。
決まった後は技名を唱えながら、教室内で格好良く力を解き放ってください。
† † † † † † † † † † † † † † † †
【共通宿題プリント】
🎵 校歌の歌詞を募集しています 🎶
こんにちは、校長先生です。
堕天學園の校歌がまだ完成していないのは皆さんご存知、ですね。
そこで今回は皆さんに宿題、です。
學園校歌の歌詞を皆さんから公募します。参加不参加は自由、です。
集まった歌詞を集めて繋ぎ合わせて、先生が校歌を完成させます。
以下に応募方法を明記します。どしどし、提出お待ちしています。
■歌詞応募について
《 》
上記の空欄に『二文字~十文字まで』の任意の言葉を記入して、
次の授業時に、教室の先生にプリントを提出してください。
※完全オリジナルにしたいので他の曲の歌詞を真似しては駄目です。
よろしくお願いします。
校長 ルビー・ジュエルシード
† † † † † † † † † † † † † † † †
エドガー・ブライトマン
マー君は進級しているかなあ
いたら一緒に授業を受けたいけれど、いなければ仕方ない
さて、私がこれから受ける授業は…
黒歴史ってなんだろうね
私の人生ずっと煌びやかなんだけれど、大丈夫かな
じゃあ語ってあげよう
私はある国の第一王子なんだ
赤い薔薇の咲き誇る、美しい国であるコトが誇りさ
先祖は国を拓いた勇者でね、バラの女神と恋に落ちて結ばれたと聞く
まるでおとぎ話のような話だろう
私は神の血を引いている…と言ってもいいのかもね(ウインク)
おや、どうしたんだいそんな表情
私は本当のコトを言ったまでなのに…(フッみたいな仕草)
ああ、出し忘れるトコロだった
はい先生。宿題ちゃんとやってきたよ
《世界の果てまで落書きは続くのさ》
浮世・綾華
【暁】
きよしの話を遮るように
黒歴史か。忘れたい過去ってことだよな
それなら思い浮かぶことがひとつある
あれは常春の大地で科せられた罰
繋がれし掌の熱に――俺は虚無と成り果てた…
嗚呼、今思い出しても忌々しい
命に代えても…?
ちょっと言ってることが分からない
絶対楽しくないししたくない
だってきよしの手しめってんだもん
湿ってなくてもしたくねーケド
つーか次はきよしの番だぞ、はよ
この流れで左手が疼くのは怖すぎじゃネ?
距離を置く。距離を置きたい
具体的に言えば50メートルくらい
そっか、黒歴史って言ったらきよしの人生そのものになっちまうもんな
暗黒の緑宝…あー、なる
おうち帰ったらその封印、解いてやろうか
《タコヤキカレー》
砂羽風・きよ
【暁】
ふ、俺が引き起こした抹消されし過去を聞きたいか
そうあの時は鮮血の如く――
っておいおい!
あれはこの命に代えても守るべき思い出だぞ!
そんなこと言うんじゃねー!
なんだったらもう一度恋人繋ぎするか?!
もしかしたら、楽しいかもしれねーぞ!
湿ってねーよ!ほら!湿ってない!
俺か?そーだなぁ(やべぇ!セリフが思いつかねぇ!)
く、左手が疼く!い、いやいや!ほんとに左手が疼くんだ…!
なんでそんなこと言うんだよ!寂しいじゃねーか!
黒歴史っていうほど、俺にはねーかも
そんなことねーよ!俺の人生は素晴らしいぞ!
強いて言うなら暗黒の緑宝を父親に食わされて
封印が解かれそうになったこととか
やめてくれ!
《我らの名を轟かせ》
明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎
_
黒歴史…なあ…。
苦く笑って、けれど口にはせず。
…過去の話は、あまり気が進まなくて。
いつかルーファスには話さなくてはと思いながらも
今もこうして彼の懐の深さに甘えている。
自分のことは話せない癖に、彼の過去は知りたいと思った
なんと我儘で強欲か。これこそ悪だろうと心の奥底で罪悪感に苦しみながらも興味深く耳を傾ける。
……彼が死ななくて良かった。笑い事ではないが、こうして笑い話になって。
全くと溜息を吐きながら釣られて笑い
…俺の黒歴史は、料理中に砂糖と塩を間違えたことかなあなんて口にしながら
彼の唇を読んで、フと柔く笑む。
──そう、いつか。
……俺も。
ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と
黒歴史なあ
そんなのあったか?
首を傾げて隣のマコを見る
コイツの過去は気になるけど
話したくないことを聞く気もないし
徐に手を伸ばし彼の髪を掻き乱す
作り話で良いからな、と薄く笑って
あ゛、脚色指導はしてくれよ
で、オレの過去か
黒竜を見れば欠伸され
くくく、と喉を震わせる
アイツと一緒に
好き勝手馬鹿な事したよ
戦争中に喧嘩して
オレに炎向けてきた事もあったな
その原因で死にかけたのなんて
片手じゃ足りねえくらいある
そんなのもう黒歴史でしかねえだろ
他の黒歴史?
だから、ねえんだって
これで許してくれよ、センセ
おどけて笑ってみせた後、君を見る
口を開きパクパクと動かした
《いつか》
お前にだけは深く教えてやるよ
コッペリウス・ソムヌス
同行:ロキ(f25190)
教室P
黒歴史を学ぶ授業かぁ
ここでも匙加減は難しそうだけど
歴史は振り返れて何を思うか、だろうし
無さそうで有りそうで
波乱万丈な人生なら物語のようで
楽しいものかもしれないね
(半分くらいの創作)
実はオレ、二千年前の神ソールの生まれ変わりである記憶をもっているんだけど物心ついた頃から何か欠けているような思いを持ち続けていて調べてみたところ半身マーニも転生している事実と地下帝国に囚われていることを知り、神だった頃の知人たちの協力を得て無事救出した。
……という出来事って黒歴史としては如何だろうか
ロキのも昔話あるあるだよねぇ
格好良くそして誰も居なくなるやつ
《終演を告げる》
ロキ・バロックヒート
コッペくん(f30787)と
教室P
黒歴史って学ぶんだ
後から思い出すと恥ずかしくなって転がっちゃうやつとかって聞いたよ
俺様皆が転がってるところ見たいなぁ
コッペくんの黒歴史を聞いて
どうしよう、神様だと神話あるある~って言いそうになっちゃうやつ
悪魔たちの反応を見つつ
ウケてはいるんじゃない?たぶん
俺様のは悪魔たちには刺激が強すぎるものが多い気が
あ、これはどうだろ
天上から堕天した神は竜と兄弟の契りを交わし
世界の王となるべく太古より運命付けられた竜は世界征服を目論み
追い詰められ兄弟たる神の血肉を喰らい神となった竜は
英雄に最後の戦いを挑み神力の暴走によって散る―
どう?頑張って盛ったよ
《混沌(カオス)を抱き》
●一時間目の黒歴史
使立堕天學園内、高等学部と呼ばれる上層にて。
進級のお知らせを受け取り、それを承諾した猟兵達は黒光輪秘密話術教団のエーコ先生が担当する教室に訪れている。
予鈴が鳴った今、教室の席にはそれぞれに猟兵が座っていた。
中央の一番前の席にはエドガー。
同じく中央の真ん中にはロキとコッペリウスが隣同士で陣取っている。廊下側の前辺りには綾華ときよが前後で座っており、真反対にあたる窓際の最後尾に並んで座っているのは理とルーファスの二人だ。
男ばっかりだな、と笑うルーファスに理が頷き、それも気楽で良いと答えた。男子校みたいだと喜ぶきよに対しては綾華が軽く肩を竦め、ロキとコッペリウスは初等部の悪魔に教えて貰った暇潰しである、あやとりをしている。
何とも自由な面々を見渡した後、エドガーは初等部の級友を思った。
「キミの犠牲は忘れないよ、マーくん」
マーくん・エクスペリメンタル(本名)はずっと一緒に過ごしてきた友人だ。しかし彼はなんと、エドガーと離れているときに暴走猫又に轢かれてしまった。それによって大怪我を負った、という大嘘でズル休みをしている彼は進級ができなかったのだ。
きよと綾華も初等部を思い返す。
「そういや、リリンとラランはあっちに居残りか。残念だよな」
「昼寝してる方が良いってさ。あいつら、わざと進級しないらしい」
二人は出会った悪魔達の話をしていた。リリンとラランという双子の悪魔も進級の知らせを受け取っていたが、破いて捨てていたという。
賑やかだった初等部とは違い、上層部は割と静かな雰囲気だ。
その理由は殆どの者が進級できていないか、そもそも希望していないからだそうだ。
ロキとコッペリウスも、いつも挨拶をしてくれた悪魔達を思う。
「あの子達、見送ってくれてたねぇ」
「先輩って呼んでくれたの、何だか不思議だったね」
猟兵達は進級したことで彼らの先輩になった。上でも頑張ってね、と告げてくれた悪魔達はとても良い子だ。やはり、だからこそ進級できずに初等部にいるのだろう。
この世界の矛盾について考えつつ、コッペリウス達はあやとりの続きをはじめる。
あやとりは良いサボりになる。
すると、それに興味を示したエドガーは後ろに振り返った。おいで、と誘ったロキにあやとり箒の作り方を教えてもらいながら、エドガーは授業についての話題を出す。
「さて、私達がこれから受ける授業だけど……黒歴史ってなんだろうね」
「それを学ぶ授業ってすごいよね」
手の中で糸の流れ星を作りながら、コッペリウスはこれから始まる時間を思う。
「そもそも黒歴史って学ぶものなんだ?」
首を傾げたロキがちょうちょを形作った。エドガーの指に絡まった糸を取ってやりながら、コッペリウスは頷く。
「ここでも匙加減は難しそうだけど、歴史は振り返って何を思うか、だろうし」
無さそうで有りそうで波乱万丈な人生。
そういったものならば物語のようで楽しいものかもしれない。そんな風に語ったコッペリウスに対し、ロキとエドガーはちいさく笑ってみせる。
「それは言い得て妙だね」
「後から思い出すと恥ずかしくなって転がっちゃうやつとかって聞いたよ。俺様、皆が転がってるところ見たいなぁ」
悪戯っぽく語るロキは、ちらりと綾華ときよの方を眺めた。
「ん?」
その視線に気付いた綾華は軽い眼差しを返す。きよはあやとりをしている三人の様子を見て目を輝かせた。
「お、いいな! あやとりか。俺らも何かしようぜ、綾華!」
「めんどくさい。それにもうすぐ授業だろ」
「指相撲なら良いだろ! 先生が来てもすぐにやめられるぜ」
「嫌だ」
「じゃあ腕相撲か!?」
「きよし、何で接触面積を増やそうとしてるんだ」
コッペリウス達が羨ましくなったのか、きよが綾華の手を握ろうとする。それを躱して振り払った綾華はきよの完全無視を決めた。
だが、それもまた仲が良い証だ。
そんな中、皆を眺めていたルーファスがちいさな欠伸をする。
「眠いな……」
「寝不足か? そういえばベッドサイドのランプが夜遅くまでついてたな」
理は昨晩のことを思い出す。理とルーファスは二人部屋の寮室をあてがわれており、ルームメイトとしても過ごしていた。
先に眠っていた理が寝返りを打ったとき、反対側にあるルーファスのベッドから光が漏れていた。昨晩の理はそのまま眠ってしまったが、あの明かりこそがが夜更しの証だったのだろう。
ルーファスは欠伸のせいで目尻に浮かんだ涙を指先で拭い、理由を語る。
「ちょっとな。ナイトが図書室で見つけた本を読みたいってせがんできたんだ」
「成程な」
今朝も理がルーファスを起こして登校してきたという流れがあった。ちなみに黒竜のナイトは窓際でぽかぽかと日向ぼっこをしている。
そうして、各々が自由に過ごしていると――教室の扉が開いた。
「皆さん集まっていますね。授業を始めますよー」
「起立。礼、着席」
エーコ先生の登場と共に理が授業開始の号令をかける。成り行きで日直になった理だが、普段から学生をしているだけあって慣れていた。
「はーい、ではこの教室では黒歴史を語り、他者の生き様を学んで貰います」
そんな話から始まったのはダークネスクロニクルの話。
お手本でエーコ先生が喋り始めたときはあまりの人格の豹変っぷりに生徒一同が笑い、もとい感心するのを堪えたが、授業は恙無く進んでいく。
そして、黒歴史語りの一番手はエドガーだ。
立ち上がった彼は先生を見遣り、実は、と話し出した。
「私の人生ずっと煌びやかなんだけれど、大丈夫かな」
「ふふ、問題ない。我が聖邪竜アブドミナルペインと業天使デセスペラシオンの話も煌めいていただろう!」
エーコ先生の人格はまだ戻っていないようだが、さておき。
「じゃあ語ってあげよう」
静かに笑み、彼は自分の生い立ちを言葉にしていく。
エドガー・ブライトマンはとある国の第一王子として生を受けた。
祖国は赤い薔薇が咲き誇る美しい国。それが誇りなのだと語るエドガーは優雅な笑みを浮かべた。それはこの話が真実だということを如実に物語っている。
「先祖は国を拓いた勇者でね、バラの女神と恋に落ちて結ばれたと聞く」
――アルブライト。
彼は王の名を言葉にした。名前の如くエドガーが纏う輝く気品は、嘗て国を築いた先祖から引き継がれているのかもしれない。
「まるでおとぎ話のような話だろう」
ふふ、と微笑むエドガーの瞳は真っ直ぐだ。
そして、彼は片目を瞑る。初等部で多くの女性を落とした王子様ウインクだ。
「私は神の血を引いている、と言ってもいいのかもしれないね」
そう続けたエドガーは自分の話は終わりだと示し、最後に片腕を胸の前に回してから華麗かつ恭しく一礼した。
「ふむ、神か。なかなかのものだな」
「おや、どうしたんだいそんな表情。私は本当のコトを言ったまでなのに」
対するエーコ先生は少し考え込み、手にしていたノートに評価を記していく。顔を上げた先生とエドガーの視線が重なり、二人はフッと笑みを交わしあった。
エドガーが着席した後、二番手はきよ。
さぁ話せ、ときよを促したエーコ先生の人格はまだまだダークネスクロニクルモードのようだ。きよは無駄に格好良いポーズを取り、片手で右目を隠しながら語り出す。
「ふ、俺が引き起こした抹消されし過去を聞きたいか。そうあの時は鮮血の如く――」
しかし、そのとき。
「黒歴史か。忘れたい過去ってことだよな」
綾華がきよの話を遮る形で立ち上がり、ゆっくりと黒板の方に歩き出す。
おい、と呼ぶきよの声は聞こえないふりをした綾華は、それなら思い浮かぶことがひとつあるのだと言って黒板の前で語っていく。
「――あれは常春の大地で科せられた罰」
春を告げる花が目覚めはじめたときのこと。そういった語り出しを聞き、きよは呆気にとられていた。あまりにも綾華の語りが流暢だったからだ。
「繋がれし掌の熱に、俺は虚無と成り果てた……」
「ふむふむ、お前に暗黒時代が訪れたというわけか」
エーコ先生は頷き、綾華の話の続きを願う。すっかりきよのことは忘れ去られているので可哀想だが、今は皆が彼の話に聞き入っていた。
「嗚呼、今思い出しても忌々しい」
綾華は物憂げな顔をする。まるでそれは空から落ちてきた堕天使のように儚く、苦しみと業を背負ったかの如き表情だった。
エーコ先生が空気を読み、彼に周りにキラキラ光る魔法をかけてくれている。
だが、その思い出とはただ単に恋の魔法に掛けられてきよと手を繋いだという話だ。しかも恋人繋ぎで。
はっと気付いたきよは綾華が語る日のことを思い出す。そして、格好良いポーズを決めたままだった彼はびしりと突っ込みをした。
「っておいおい! あれはこの命に代えても守るべき思い出だぞ!」
「命に代えても……?」
ちょっと言ってることが分からないですね、と急に他人行儀になる綾華。されど、きよだって負けてはいない。
「そんなこと言うんじゃねー! なんだったらもう一度恋人繋ぎするか?! もしかしたら、楽しいかもしれねーぞ!」
勢い余って黒板の前まで駆けたきよは綾華に手を差し出す。
綾華は首を横に振った。
「絶対楽しくないししたくない。だってきよしの手、湿ってんだもん」
「湿ってねーよ! ほら! 湿ってない!」
「確かめるために握らせようとする魂胆か? どっちにしろしたくねーケド」
急に騒がしくなる教室。
ロキとコッペリウスはそれを和やかに見守り、理とルーファスは顔を見合わせて可笑しそうに笑った。エドガーは痴話喧嘩かなあ、と首を傾げている。
「痴話じゃない」
「痴話ではねぇ!」
そのとき、綾華ときよの声が重なった。くすくすと笑ったエーコはいつの間にか元の人格に戻っており、二人に声を掛ける。
「はいはーい、仲良し喧嘩はそこまでにしてくださいねー」
「つーか次はきよしの番だぞ、はよ」
先生と綾華からの視線を受け、きよは気を取り直した。これで先程の続きを語ることが出来る時間が訪れたわけだが――。
「やべぇ! セリフが思いつかねぇ!」
(俺か? そーだなぁ)
「また本音と建前が逆になってるぞ」
きよの台詞にいつかのことを思い出す綾華は微かに笑っている。慌てたきよは左手を胸の前に当て、一か八かの黒歴史演出に入った。
「く、左手が疼く!」
「この流れで左手が疼くのは怖すぎじゃネ?」
「い、いやいや! ほんとに左手が疼くんだ……!」
「距離を置きたい。具体的に言えば五十メートルくらい」
「ごじゅう!? なんでそんなこと言うんだよ! 寂しいじゃねーか!」
きよが騒ぎ、綾華が冷静に席をあけてエドガー達の方に移動する。ガタガタと机を掻き分けて追ってくるきよはロキ達の傍に座った。
「黒歴史っていうほど、俺にはねーかも」
「そっか、黒歴史って言ったらきよしの人生そのものになっちまうもんな」
「そんなことねーよ! 俺の人生は素晴らしいぞ! 強いて言うなら暗黒の緑宝を父親に食わされて封印が解かれそうになったこととか……」
いつの間にかきよと綾華の黒歴史発表は終わりになっていた。
「暗黒の緑宝……あー、あれか。おうち帰ったらその封印、解いてやろうか」
「やめてくれ!」
次はコッペリウスくんの番ですよ、とエーコ先生が告げ、皆が準備していく中できよと綾華の漫才は暫し続いていった。
小休憩を挟んで、次はコッペリウスの番だ。
これは半分くらいは創作だけど、ときちんと前置きをした彼は語り出す。
「実はオレ、二千年前の神ソールの――」
そのような始まりから紡がれていくのは神話の物語。
ソールの生まれ変わりであるコッペリウスは過去の記憶を宿しているという。
コッペリウスは遠い目をしてから教室の窓の外を眺めた。硝子越しに見える世界を瞳に映し、彼は静かな声を落とす。
「記憶は確かにあるんだけどね、でも……」
物心ついた頃から何かが欠けているような思いがあった。そんな言い知れぬ感情を持ち続けていたコッペリウスは或る日、神話を調べてみた。
するとソールの半身であるマーニも転生している事実がわかった。更にはマーニが地下帝国に囚われていることを知ったのだ。
それからコッペリウスは神だった頃の知人たちを頼った。
そして、彼らの協力を得て無事に半身を救出した。
「……という出来事って、黒歴史としては如何だろうか。真面目に語ると割と痛いんだよね。ロキと先生、どう思う?」
「どうしよう、神様だと神話あるある~」
「感動しました……」
「ほら、先生にもウケてはいるんじゃない?」
コッペリウスが問うと、ロキは軽く笑って答え、エーコ先生は涙ながらに花丸を黒板に書いた。聖邪竜アブドミナルペインとしての感性が働き、心に響いたらしい。
大合格です、と伝えたエーコ先生は次にロキを指名した。
いいよ、と答えたロキは暫し考える。
「俺様のはみんなには刺激が強すぎるものが多い気が……あ、これはどうだろ」
ふと思い立ったロキは或ることを思いついた。
そして、真面目な表情になる。
「あれは――天上から堕天した神が竜と兄弟の契りを交わした頃」
ロキがちらりと周囲を見渡せば、エーコ先生がそわそわしている。どうやら掴みはとても良いようだ。
世界の王となるべく太古より運命付けられた竜。
竜は世界征服を目論むが、神によって阻まれることとなる。追い詰められ、兄弟たる神の血肉を喰らい神となった竜は最後の戦いを挑んだ。
英雄に立ち向かった竜は、神力の暴走によって散る――。
「どう? 頑張って盛ったよ」
「ううむ、その後に世界の在り方がどうなったのか気になる話ですね」
「ロキのも昔話あるあるだよねぇ。格好良く、そして誰も居なくなる、ってやつ」
エーコは興味深そうにしており、コッペリウスは首肯する。
堕天使の先生は妙に二人に感銘を受けていた。それはもしかすれば、彼女が堕天使ゆえに神話に興味があるからかもしれない。
そうして神様達のダークネスクロニクル語りは終わっていく。
次は最後、理とルーファスの番だ。
「黒歴史……なあ……」
苦笑いをした理は、隣に軽く視線を送る。過去の話はあまり気が進まないという話は、皆があやとりをしている間にルーファスにしていた。
その話を知っているルーファスは言い淀む理を見遣り、わざと首を傾げてみせる。
「黒歴史なあ、そんなのあったか?」
「…………」
いつか、ルーファスには話さなくてはいけない。そう思いながらも、聞かないでいてくれる彼に甘えてしまう。
ルーファスとしても彼の過去は気になるが、話したくないことを聞く気もなかった。
徐に手を伸ばしたルーファスは理の髪をくしゃりと撫でた。重く考えてしまっているらしい彼の髪を掻き乱して、敢えて落ち着かせる。
「作り話で良いからな」
薄く笑って告げてくれるルーファスの懐の深さを感じつつ、理はどうしても壮大な嘘をつく気にはなれずにぽつりと呟いた。
「……俺の黒歴史は、料理中に砂糖と塩を間違えたことかなあ」
「ん。それじゃ次はオレな」
あまりにも短かった語りに先生が何かを言う前にルーファスが前に出る。まだ窓際でのんびりしている黒竜を見れば、くぁ、と欠伸をされた。
それからルーファスは、くくく、と喉を震わせる。
「オレはアイツと一緒にこれまで、好き勝手に馬鹿な事をしてきてな」
たとえば、と彼は語り始めた。
出会ったのは戦場。それから共に戦いを渡り歩き、戦争中に喧嘩をしたこともあった。なんと敵の攻撃が迫って来ているというのに、黒竜のナイトはあろうことかルーファスに炎を向けたのだ。
敵と相棒の両方から攻撃されることになり、それが原因で死にかけたこともある。
強敵に立ち向かっていったはいいものの勢い余ったことだってあった。
「そういったことが片手じゃ足りねえくらいある」
指折り数えたルーファスはその仕草を途中で止め、軽く笑む。
そんなのもう黒歴史でしかねえだろ、と笑ったのは戦歴めいたものだ。ナイトに歩み寄り、こしょこしょと撫でていたエーコ先生はルーファスに問う。
「うーむ、暗黒成分が足りませんね。他は?」
「他の黒歴史? だから、ねえんだって。これで許してくれよ、センセ」
理の分も、と片目を瞑って話したルーファスはとびきりの笑顔を浮かべていた。うっかりとキュンとしてしまったエーコ先生は、こほんと咳払いをする。
良いでしょう、と頷いた彼女は教壇の方に戻っていく。
そして、エーコは皆の黒歴史に評価をつけ始めた。暫し自習です、という言葉を聞いたロキとコッペリウスはあやとりに戻り、きよはえどがーと指相撲を始める。綾華はナイトが気になったらしく、ひらひらと手を振っていた。
理は少し俯き、息を吐く。
自分のことは話せないというのにルーファスの過去は知りたいと思った。
(これこそ悪だろう)
自分はなんと我儘で強欲なのだろうか。
浮かぶ思いに心の奥底が軋む。罪悪感に苦しみながらも理は安堵もしていた。
彼が死ななくて良かった。何故なら、もし何処かで死していたら自分とルーファスが出会えなかったからだ。相棒竜との喧嘩も危機も当時は笑い事ではなかったのだろうが、ルーファスがこうして笑って話せるのは良いことのはず。
「全く、無茶をしてきたんだな」
「まぁな」
理の溜息に続き、ルーファスはおどけて笑ってみせる。そうして、彼は『いつか』という言葉を耳打ちしてから静かな笑みを浮かべた。お前にだけは深く教えてやるよ、という言葉を形作ったルーファスを見て、理も柔く笑む。
そして――。
一時間目の終わりを報せるチャイムが鳴り響く。
休み時間が始まっていく中、生徒達のダークネスクロニクルを纏めた先生はノートを抱え、教室を出る前に皆に呼び駆けた。
「そうでした。宿題を持ってきた人は先生に出してくださいね」
「あー……そんなのもあったか」
「自由宿題だったからな」
ルーファスは頬を掻き、理がそっと頷く。
皆すっかり提出を忘れていたようで、まずエドガーがプリントを渡しにいった。
「ああ、出し忘れるトコロだった。はい先生」
エドガーに続き、綾華達も持ってきた宿題を取り出す。
「きよ、プリント貸せ。出してくる」
「頼むぜ綾華。そっちは何書いたんだ?」
「きよしのこと」
「俺の? 待て、出す前に見せろって!」
「はい、エーコセンセ」
やはりきよを無視してプリントを出す綾華。コッペリウスとロキも提出物のことを思い出し、さらさらとペンを走らせて宿題を書き上げた。
「オレが提出してくるよ、ロキ」
「ありがとー。どんな校歌になるか楽しみだねぇ」
即興で記した神達の詩がどのような歌に変わってお披露目されるのか。それはまだ誰も、校長先生すら分からぬこと。
こうして一時間目の授業は無事に終わった。
あとは休み時間という名の自由なひとときが巡っていく。
刻まれた黒歴史。
即ちダークネスクロニクルは彼らの新たなる未来の門出に――なるのかもしれないし、ならないのかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミュゲット・ストロベリー
【教室S】
(アドリブ等大歓迎)
…ん、こうじょう? ミュゲにはよく分からないわ。でも、やってみる。(きりっ)
先生みたいにクールにキメてあげるわ。
「菓子あるところにミュゲあり。ふわふわピンクの神器使い、またの名を『ジャムパンの女王』ミュゲット・ストロベリー。……ん、なんだっけ…(あわあわ)じゃなくって、スイートでソフトな香りと共に見参!(きりっ)」
…ん、少し噛んじゃったわ。やっぱり先生の助言をもらった方がいかしら? …え、可愛すぎる? …そんなはずないわ。(きっぱり)
大町・詩乃
【SPD】
先生やノノさんやスゥさん達の口上を聞き、自分がやる事を考えると、恥ずかしいやら難しいやらで頭を抱えます…<汗>。
恥ずかしさ克服の為に日本人?らしく形から入り、ネット通販で購入した邪神様なりきりセット(魔王笏&漆黒のドレス)と天冠で、威厳ある外見になった上で、「我はこの世全ての悪を敷く者。魔王を超越し、悪魔を生み出す存在、即ち大いなる邪神!我に跪き、我を崇めよ。」と悪のカリスマ全開で言い切ります。
UCで過去に戦ったオブリビオンマシンを(外見だけ)創造して配下っぽく見せる演出付。
…こんなので如何でしょうか(*ノωノ)
宿題は《漆黒の輝き》。
矛盾してる表現ですが、だからこそウケるかな~<汗>
●二時間目の名乗り
チャイムと共に現れたのは黒光輪秘密話術教団の教師のひとり。
「此処に集まった皆様方は、きっとわたくしことビートの崇高な口上を……あら?」
颯爽と扉を開いて登場した先生は華麗なポーズを決める。だが、閉じていた瞼を開いた彼女が見たのは、ほとんど空っぽの教室。
誰もいないわけではないが、二人の生徒が前方の席に座っているだけだ。
「……ん、こうじょう?」
「ノノさんもスゥさんも進級できなかったなんて……」
首を傾げるミュゲット。
そして、初等部で一緒に過ごした級友と離れてしまったことを悲しむ詩乃の二人。
教室はがらんとしているのは高等部には生徒が少ないからのようだ。それも初等部の悪魔達が進級できていないのが原因だろう。
ミュゲットと共に過ごしたシプシもまだまだ下層にいる。どうやら、下層で猟兵達と交流を深めた子達は例外なく進級しなかったらしい。
このマンションの取り立てに送られたギャング悪魔達は上層部にいるらしいが、授業など受けていられないといった様子でサボり中。
そんなわけで今日の選択教室はミュゲットと詩乃のみ。だが、それもまた授業をしっかりと受けられて良いことだ。
「こほん、気を取り直して……本日はお二人をびしばしと指導いたしますわ!」
ビート先生は詩乃とミュゲットに情熱が籠もった眼差しを向けた。
対するミュゲットは暫し首を傾げたまま。
「ミュゲにはよく分からないわ。でも、やってみる」
されど、きりっと気を引き締めた少女は真っ直ぐに先生を見つめ返す。詩乃もクラスメイトがいないことから立ち直り、気合いを入れた。
二人の生徒が真面目そうだったことで、ビート先生も満足そうだ。
そして、彼女はまずお手本を見せると語ってからポーズを決めた。
「よくお聞きなさい、わたくしこそは……」
呼吸を整えたビートはカッと目を見開き、口上を巡らせていく。
「誰が呼んだか、黒の鼓動! 其の名を語れば天が揺らぎ、地が割れる! 黒輪が輝き出せば、悪の心も叫び出す! 我らが黒光輪秘密話術教団は止まらない! キュートでファイトなビート! ディアボリックなリズムに乗って、此処に推参!!」
――といった形ですわ、とビート先生は微笑んだ。
ミュゲットが楽しそうに口上を聞く反面、詩乃は圧倒されていた。
「こういったことを私が……」
あのような名乗りを自分がやるのだと考えると、恥ずかしいやら難しいやらで頭を抱えてしまう詩乃。しかし、逃げていはいけない。
ミュゲットはやる気いっぱいに立ち上がり、まずは自分がやりたいと手を上げた。
「先生みたいにクールにキメてあげるわ」
「はい、ではどうぞ」
教壇に上がるように促されたミュゲットは大きく頷く。
そして、名乗りを上げていった。
「菓子あるところにミュゲあり。ふわふわピンクの神器使い、またの名を『ジャムパンの女王』ミュゲット・ストロベリー!」
されど口上が途中で止まってしまう。ええと、と戸惑ったミュゲットはどうやら何を言うべきが迷ってしまったようだ。
あわあわと慌てるミュゲット。だが、すぐに立ち直る。
「なんだっけ……。じゃなくって――スイートでソフトな香りと共に見参!」
きりりと真剣な表情になる少女。
その姿を確りと見つめる詩乃はビート先生と一緒に拍手を送った。
「はあい、よくできましたわね」
「……ん、少し噛んじゃったわ。やっぱり先生の助言をもらった方がいかしら?」
「そうですわね、初めてにしては上出来ですことよ。けれども、あと少しくらい格好良くしてみるのはいかが?」
「え、可愛すぎる? ……そんなはずないわ」
ミュゲットだが、これでいいのだときっぱりと宣言する。助言を求めたというのに断るというちいさな悪事を行うことも忘れていないワルの徹底ぶりだ。
「では次は貴女ですわ」
次にビート先生が示したのは詩乃。
鼓動が高鳴っていくことを感じながら、詩乃も教壇に上がった。
「準備がありますので少し待っていてくださいね」
教卓の後ろに隠れた詩乃はごそごそと準備を始める。まずは恥ずかしさ克服のために形から入るらしい。
詩乃は邪神様なりきりセット――魔王笏と漆黒のドレスを纏い、天冠を着用する。威厳のある外見になった上で教壇に立ち直した詩乃は呼吸を整えた。
まあ、というビート先生から感心の声あがる中で、詩乃は身構える。
「我はこの世全ての悪を敷く者。魔王を超越し、悪魔を生み出す存在、即ち大いなる邪神! 我に跪き、我を崇めよ」
然と言い切った詩乃。その口上は悪のカリスマ全開。
同時に神意具象の力を巡らせ、過去に戦ったオブリビオンマシンを外見だけ創造して配下っぽく見せる演出付きだ。
「こんなので如何でしょうか」
詩乃が照れながら問うと、それまでの威厳は消える。
対するビート先生はわなわなと震えていた。どうやら感動しているらしい。
「素晴らしいですわ! なんて才能のある生徒が現れましたの!?」
「……ん、すごいの」
「おふたりとも合格ですわ~~!!」
「先生、落ち着いて欲しいの」
ミュゲットも詩乃に拍手を送り返し、興奮するビート先生を宥める。詩乃はというとあまりの褒められっぷりに顔が真っ赤になってしまい、思い出しては恥ずかしくなっていた。おそらくこの三人、割と相性が良いようだ。
その後は先生による更なる口上講座が開かれ、授業は恙無く進んだ。チャイムが鳴る少し前、ビート先生が早めに授業を切り上げる。
「それでは宿題を持ってきた人は提出してください。校長先生が待っていますからね」
「はい、持ってきました」
先生が校歌の宿題のことを話すと、詩乃がプリントを出しにいく。自由参加なのでミュゲットは書いてきていないのだが、詩乃の書いた内容がふと気になった。
「……ん、宿題。何を書いたの?」
「秘密です。矛盾してる表現ですが、だからこそウケるかな~と思いました」
「内緒なのも悪くないわ。だって、楽しみが増すもの」
二人が笑みと視線を交わした時、二時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
三上・桧
◎
必殺技ですか……さて、どうしましょうね
そうだ、火車さんを召喚する呪文でも考えましょうか
『呪文要らぬのに態々詠唱するのか……?』
そういう授業だそうですので。唸れ、自分の厨二魂
(なんかそれっぽく印を組む)
新月の闇より生まれ出でし者よ……
封印されし力、目覚めよ……
無限なる深淵より、今ここに一時の復活を!
妖猫召喚(サモン・キャスパリーグ)!
(右隣から左隣へ召喚される火車さん)
『ノリノリじゃな、お前』
こういうのは全力でやらないと、かえって恥ずかしいものですよ
《サンクチュアリ》
ミフェット・マザーグース
◎ティエル(f01244)と一緒に教室W(WIZで判定)
ミフェットは、自分で戦えない=必殺技が使えない!
やっぱり教室変えなくちゃ、オロオロするミフェットに親友の一言!
そんなときは、合体技だよ!
ミフェットの髪の毛、触手みたいにウネウネで、よーく伸びるそれを、輪にして固く横に伸ばして、パチンコみたいにピーンと張って
妖精のティエルがパチンコの弾になって、敵に向かって自ら射出される合体技!
「ミフェットのかみのけ、げんかいまでふんばるよ……!
限界伸長射出機構(リミテッドエクステンド・カタパルト)!!」
→ここからティエルちゃんの必殺技名に移ります
あっ宿題!忘れるとこだった!えーと…《オヤツ時間を守らずに》
ティエル・ティエリエル
◎ミフェット(f09867)と一緒に授業を受けるよ♪
今日は教室Wの授業だって♪
ようし、かっこいい詠唱作っちゃうぞー☆
今日は何に詠唱つけようかなーと考えてたらミフェットが困ってるみたいだね!
ようし、それじゃあ今日はミフェットとの合体技を作っちゃうよ♪
ミフェットとの合体技はボク自身が弾丸になってどかーんと飛び出すよ!
必殺技の名前は……そうだ、逆から読んだらなんかそれっぽくなるよね♪
命名!トーシュ・ルデビト・マサメーヒ!!
んー、何かかっこいい詠唱も欲しいなー?先生に相談してみよっと♪
宿題も忘れずに提出しちゃうね!
《いたずら1日1時間♪》
リトルリドル・ブラックモア
◎
ワーハハハ!超絶激ワルのオレサマが進級するのはトーゼンだな
いくぞまおー四天王!
ココがオレサマの新天地、教室W…グ、グワー!
むずかしい漢字がイッパイかいてある!
グヌヌヌ…先生の話もムズいぜ
オレサマ落第のピンチ!
こういう時ワルがする裏ワザをみせてやる!
カンニングだ!
まわりのワルそーなヤツらからアイデアをパクるのだ
ソレで…先手で発表する!
くらえ!
終天に響めく哄笑の黒き孤毒ーチョーツエーマオウガオマエニヤベーラクインヲツケルゾー
【エンデ・シュヴァルツ・ギフト】!
ククク…いつものPOISONがスゲーカッコよくキマったぜ
エッ…しゅくだい?
…(やってない)
ハッ…オレサマでもかける漢字あるぞ!
《夜露死苦》!
●三時間目の必殺技
使立堕天學園の上層部。
高等部の教室が集うエリートコース的な学内。賑やかな初等部と比べると随分と静かな廊下には現在、高笑いが響いていた。
「ワーハハハ! 超絶激ワルのオレサマが進級するのはトーゼンだな!」
意気揚々と歩いていくのはリトルリドル。
目的の教室はもう少し先。初等部で過ごしてきたこれまでのように、後ろを振り返った少年魔王は片手を高く突き上げる。
「いくぞ、まおー四天王!」
だが、周囲には誰もいない。つい癖で呼び掛けてしまったようだ。
「そっか、もうアイツらは……」
思わずセンチメンタルになる魔王だったが、何のことはない。
四人の友達こと四天王達は進級できなかった。厳密にいうならばリフとレインが進級を逃したので、ジーマとノーツが世話役として居残ったという形だ。
そのとき、リトルリドルは別の猟兵を見つけた。桧もリトルリドルが近付いてくることに気付いたらしく手を振ってくる。その隣には猫又の火車も一緒にいた。
「あなたも必殺技の授業を選んだ人ですか?」
「そうだ! じゃあオマエもだな」
一緒に行こうと誘い合った桧とリトルリドルは件の教室に急ぐ。チャイムが鳴ると同時に教室に飛び込むと、二人の猟兵が桧達を迎えた。
「やっほー☆」
「こんにちは。あのね、まだ先生は来てないよ」
妖精の翅をぱたぱたと動かして桧とリトルリドルの周りを飛んでいるのはティエル。そして、中央の席からそっとお辞儀をしたのはミフェットだ。
「先生が遅刻か。ワルだな!」
「授業を受ける人はこれだけみたいですね。固まって座りましょうか」
「いいね! じゃあこっちこっち!」
流石は高等部の教師だと称賛したリトルリドルに桧が提案する。ティエルは二人を導いて飛び、ミフェットが座る席に案内していく。
ミフェットとティエルは一番前の席。
リトルリドルは二人のすぐ後ろの机に陣取り、桧は更にその後方に猫又の火車と一緒に座る。先生まだかな、来ないね、という話をしていると暫くして教室の扉が開いた。
「すまない、遅れた……」
息を切らしながら訪れたのは黒光輪秘密話術教団の教師、シータ。
どうやら彼女は寝坊したらしい。もう三時間目なのでかなりの大遅刻だ。遅れてしまった授業を補うために、彼女が後でフル稼働することになるのは、また別の話。
「では、授業を始めよう」
こほん、と咳払いをしたシータ先生は黒板に必殺技について記していく。
それらをノートに取りながら桧は考える。
「必殺技ですか……さて、どうしましょうね」
『自由にするといい』
桧が首を傾げていると、隣で丸まって眠っていた火車が顔を上げた。
「そうだ、火車さんを召喚する呪文でも考えましょうか」
『呪文など要らぬのに態々詠唱するのか……?』
「そういう授業だそうですので」
横からの突っ込みはさらりと流し、桧はノートと黒板を見比べながら意気込む。
唸れ、僕の魂。
桧が案を練りに練っている間、ミフェットも悩んでいた。黒板の文字をひとつずつしっかり読みながらミフェットは迷い続けている。
「どうしようかな」
「ようし、かっこいい詠唱作っちゃうぞー☆」
反対にティエルは乗り気だ。今日は何に詠唱つけようかな、と幾つか候補を考えている彼女は楽しげだ。そんな親友を見ていたミフェットは俯く。
「ミフェット、やっぱり教室を変えなくちゃいけないかな……」
彼女は自分で戦えない。つまりは必殺技が使えないということになってしまう。おろおろする親友に気付いたティエルはそちらに飛ぶ。ミフェットの肩にちょこんと乗ったティエルは笑顔で語りかける。
「ミフェット、困ってるみたいだね!」
「何にも思いつかないし、出来ないから……」
しょんぼりしているミフェットの頬をてしてしと撫でてから、ティエルは心配ないというように両手を広げた。
「ようし、それじゃあ今日はミフェットとの合体技を作っちゃおうか♪」
「合体技? うん、作ろう!」
ティエルの明るさがミフェットに笑みを宿す。
仲良し二人組がやる気を出している様子に和ましさを覚え、リトルリドルも合体技に憧れを覚えた。
「まおー四天王がいればオレサマも派手にできたかもしれないな!」
しかし、今はひとりで技をやりきるとき。
無事に卒業できた暁には彼らを本当の四天王として迎える約束もしており、四人も承諾している。彼らとの未来を思うと、授業への意気込みも強まるというもの。だが――。
「……グ、グワー!」
「どうかしましたか、リトルリドルさん」
少年魔王は急に叫び声をあげた。桧が問いかけるとリトルリドルは机に突っ伏しながら頭を抱える。
「むずかしい字がイッパイかいてある! グヌヌヌ……オレサマ落第のピンチ!」
「ボクも読めないけど気合いだよ!」
「ミフェットも、がんばるね……!」
リトルリドルの苦悩を知り、ティエルとミフェットが応援してくれた。
するとシータ先生がこれみよがしに胸を張る。
「フフ……やはり崇高な言葉を理解するのは艱難辛苦なもの。進退は両ながら難し。窮地に立つこともまた、千辛万苦の道程であり――」
「先生の話もムズいぜ!」
「まあまあ、皆で考えていきましょう。そっちの二人も一緒にどうですか?」
「はーい☆」
「ありがとう、桧さん。心強いよ」
リトルリドルは更に悩むばかり。桧は年少者達に字の読み方やコツを教えていき、わいわいと賑わう授業が進んでいく。
それから暫し後。猟兵達はそれぞれの必殺技を考え出した。
「――それでは、発表の時間だ。一番手は……」
「オレサマ! 絶対にオレサマがやるぞ!」
シータ先生が別の生徒を指名しそうになったので、慌てたリトルリドルが勢いよく挙手する。その理由はワルい裏ワザを行いたかったからだ。
その名もカンニング。
アイディアをそっと盗み見て自分のものにする。そして、先手で発表するという或る意味での必殺技だ。カンニングという名の桧の助言だったということは、さておいて。
リトルリドルは両手をクロスさせながら構えた。
「くらえ!」
そして、いつもとは違う超かっこいい詠唱を紡いでいった。
終天に響めく哄笑の黒き孤毒――チョーツエーマオウガオマエニヤベーラクインヲツケルゾーこと、エンデ・シュヴァルツ・ギフト!
「ククク……」
交差させていた腕を突き出し、完璧に決めたリトルリドルは得意気だ。その姿を見守っていた桧も、第一候補だった詠唱ポーズを彼に託せたので何となく満足そうだった。
そんなこんなで先手必勝のリトルリドルの発表は上手くいった。
シータ先生は評価を手元のボードに書き込んでいく。
「次は桧だ。行けるか?」
「はい、任せてください」
シータ先生に促され、桧は教壇に上がった。
真剣な表情になった桧は身構え、それっぽく印を組み始める。
「新月の闇より生まれ出でし者よ……」
静かな詠唱が紡がれていき、其処に力が渦巻いていく。瞼を閉じた桧はむにゃむにゃとこれまたそれっぽい呪文を唱えた。
「封印されし力、目覚めよ……無限なる深淵より、今ここに一時の復活を!」
妖猫召喚――サモン・キャスパリーグ!
そして、桧が閉じていた瞼をひらいた次の瞬間。
『…………』
桧の右隣にいた猫又の火車が左隣に移動した。否、召喚される。桧は先生と生徒達に視線を巡らせ、得意気に問いかけてみた。
「どうですか?」
『ノリノリじゃな、お前』
「こういうのは全力でやらないと、かえって恥ずかしいものですよ」
「うむ、それでこそだ」
謎の自信を持って挑んだ桧を見つめ、シータ先生は嬉しそうに頷いていた。
そうして次はミフェットとティエルの番。
「さて、お前達は合体技だったな」
やってみろ、とシータ先生が二人を見遣る。
一緒に教壇に向かった少女達は頷きあい、皆が見守る中で技の披露をはじめた。
「いくよ、ミフェット!」
「うん……!」
ティエルの掛け声に応えたミフェットが髪に力を込めていく。
その髪は触手のようにうねり、よく伸びる。ミフェットはそれを輪にして固く横に伸ばすことで、まるでパチンコのように髪をピンと張り詰めさせた。
「ミフェットとの合体技はこれだよ!」
ティエルは其処に乗り、勢いをつけるために構える。
そう、それは妖精のティエルを全力で撃ち出す技。少女自身が弾丸になって敵に向かって自ら射出されるものだ。
「ボク自身が弾丸になってどかーんといくよ!」
「ミフェットのかみのけ、げんかいまでふんばるよ……!」
めいっぱいの力を溜めた二人の意思が強く連なる。刹那、ミフェットとティエルの声が重なった。
限界伸長射出機構――リミテッドエクステンド・カタパルト!
全力姫君流星弾丸――トーシュ・ルデビト・マサメーヒ!
すべての力を出し切ったミフェット。
同時に勢いよく飛び出すティエル。
懸命に考え、先生の助言を得て編み出した逆読み必殺技は見事に決まった。
「やったね、ティエル」
「ボクたちの必殺技はさいきょー!」
少女達は笑みを浮かべ、やりきった証のハイタッチを交わす。
「これで発表は終わりだ。皆、よく頑張ったな」
シータ先生は生徒達を労い、もうすぐ終わりのチャイムが鳴ることを確かめる。
「楽しかったねー♪」
「ミフェットも、ちゃんと格好良くできたかな……?」
「キマってたぜ。オレサマが一番だけどな!」
「はい、とても良かったです」
ティエルとミフェットが笑いあい、リトルリドルは誇らしげにしている。桧は火車と一緒にノートを片付けていた。するとシータ先生が皆に呼びかける。
「さて、宿題を持ってきた者は提出しろ」
「あっ宿題! 忘れるとこだった!」
「エッ……しゅくだい?」
その言葉にはっとしたのはミフェットとリトルリドルだ。桧は最初から出さない予定だったが、二人はすっかり忘れてしまっていた。
「えーと……」
ミフェットが一生懸命に考えていると、ティエルは一番に提出に向かう。
「いったずらいっちにちーいちじかーん♪」
「できた!」
陽気に自分の歌詞をうたうティエルに続いてミフェットも宿題を出した。慌てたリトルリドルはペンを取り出し、急いでプリントに記入していく。
「何かカッコイイ言葉は……ハッ! オレサマでもかける字あるぞ!」
そうして、猟兵達の授業は終わりを迎えた。
リトルリドルとミフェットが教室の外に駆けていき、その間にティエルが飛ぶ。その後ろ姿を見守る桧と火車も廊下を歩き出した。
校歌がどのようなものに仕上がるのかは、まだまだ先のお楽しみ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キャンディ・ジャック
【飴】
いっきに本格的になったな!
ボクだって負けないんだからね!
恐怖のキャンディサーカス団なら登場もかっこよくしなきゃだ!
あーあー、ゴホン!
ここは団長のボクが先にやろう!
どーん!と登場をして、お化けのポーズ!
やあやあ、われこそは泣く子も黙る恐怖のキャンディサーカス団だ。
見よ!この真っ白ボディ!
閻魔大王の布団だ!
見よ!このツギハギ!
戦いの勲章だ!
そうだ!われこそはキャンディサーカス団団長!
キャンディ・ジャック!
ばばーん!
起夜N・D・邪ッ九!
ばばばばーん!とここでキャンディをかかげてポーズをとる!
どうだ?!かっこよかっただろう!
ゴホン。次は優樹の番だ!ボクよりもすごいやつを見せてやれ!
萌庭・優樹
【飴】
こんなに頭を使う授業が待ってたなんて
難易度の高さに怖気付きそう…になったけど
団長さんのお手本に心を照らされた気分っ
ま、まぶしいです、輝いてます…!
さすが団長さん、偉大さを知らしめるお見事な口上
これは、おれもサーカス団の名に恥じぬ名乗りを上げねば
やあやあ、聞いて驚け!
おれこそは、つよくてこわーいシーフのエルフっ
長い耳でどんな小さな音も拾い上げ
狙った獲物はこの瞬足が逃がさない
キャンディサーカス団団員!萌庭優樹!
おまえもお菓子まみれにしてやるー!
…ここでびしぃっと正面指さして決めポーズです!
ふたり揃ってこんなクールな推参をしたら
きっと先生も褒めてくれる…はず!
得意な顔で評価を待ちましょうっ
唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】
どかっと椅子に座れば
センセーの話を聞く
口上作成講座、ねェ…
ときじはなンか思いついたかァ?
ンー、やっぱ難しーよなァ。
ハーイセンセー、ちょっと難しーから手伝ってくンね?
どんなのがいいって?
ンー、そりゃあカッケー感じで、
竜神とかも入ってっといーな
……おー!さすがセンセー!
じゃあ早速。
おほんと咳き込んで
考えてもらった口上を大声で叫べば
最後に決めポーズ
どーだ!キマったろ!
ときじはどんなの出来た?
聞かせろよ!
恥ずかしがんなよ!
大丈夫だって!
クク、やりゃあ出来んじゃねーか
頑張ったから飴、やるよ
そーだ、センセー宿題。
渡しとくなァ
ただ《ひかり》と淡白に
書かれた紙を手渡した
宵雛花・十雉
【蛇十雉】
行儀良く席につく
はっ…ワルにならないと
荒々しく脚を広げて座り直し
へぇ、口上かぁ
ヒーローや悪役がよくやるあれだよね
うーん、難しい…
はい先生、オレもお願いします
やっぱり男らしくてカッコいいのがいいなって
ちょっとダークさも加えたいから…
「闇」とか「死神」とか、そういう言葉も入れたいです
成る程、こうしたらいいんだ
有難うございます、先生
いいじゃん、なつめ
今のカッコよかったよ
…え、やっぱりオレもやるの?
うん、じゃあ行ってくる
深呼吸して恥じらいを捨てて
ノリノリで口上を叫ぶ
勿論ポーズも忘れずに
どうだった?カッコよかった?
そうだ、オレも宿題
《気高き深紅の煌星》
どうかな、ちょっとワルっぽくない?
雨野・雲珠
美咲さんと/f26908
🟢脚色改変歓迎
名乗り口上は戦の華!
荒事はてんで苦手ですがそこはそれ(置いといて、のポーズ)
ビート先生、よろしくお願いします!
殺意高めの直球もよいものですが、
「俺たちを放っておくと厄介だぜ」という方向性もよいのではと。
目指すはラブリーチャーミーなカタキ役。
相手にとっての敵を、治しては連れて逃げるお邪魔コンビ…
想像するだけでとてもワルです!
(※認知されたらいちばんに潰されそうという意味で)
「三十六計、逃げるに如かず」
「苦痛の声あるところ我らあり」
「治して逃がすはお任せあれ、我ら…」
われら…
(ポーズを決めつつ美咲さんを見て)
…コンビ名はいかがしましょう?
《爆☆散》
嗣條・マリア
《どれ程夢を食らおうと》
>名乗り口上作成講座
>全面的にお任せします
>とても生真面目に、ノリノリで参加していますが少しずれているかもしれません
ユースティティア・インダストリー代表兼テストパイロットを務めております
新世界学園所属、風紀委員会委員長、嗣條・マリアと申し――――
こういうのではない?
ではその、名乗り方を教えて頂いてもよろしいでしょうか
任せてください。委員長ですから。必ずものにして見せます
風紀委員長と社長を前面に
それから、はい正義。正義ですね。正義を前に出したいです!
乗機である暴君、タイラント――それから私のコードネーム“アストレア”も使って行きたいところですが……如何でしょうか?
美咲・るい
雨野さんと/f22865
🟢脚色改変歓迎
悪事もだんだん板についてきたね!
ふふ!よくないことだけど、褒められるのは気分がいいかも。
先生、私もよろしくお願いしま~す!
なるほど、ここでは正義の味方よりもスマートな悪役の方がウケそうだもんね。
そういうの憧れるなあ。
かっこいいワルを目指そっか!
背中合わせでかっこいいポーズするの、どうかな?
「皆様ご覧じろ!」
「世に善あれば善を断つ」
「冠る花は餞」
先生、こういうのがいいです!
悪戯桜花爛漫サーバント!…なんてどうかな?桜花と謳歌をかけてみたよ!
✣宿題
《悪事花咲く学び舎》
ゼロ・クローフィ
【まる】
(決め台詞を加えたり変更したりアレンジ可です)
はぁ?決め台詞?
あぁ?何が楽しくてこんな事しなきゃいけないだよ
ってお前さんは楽しそうだな
はぁと一つ溜息をついて
嗚呼、お前さんが決め台詞決めろ
……夢幻の支配者って
悪というより怪盗みたいだな
はいはい、可憐に出来てたよ
やはり出来なくて教師と彼女に見てもらいつつ
眉間に皺を寄せつつ棒読みで
闇より深く
悪魔よりも悪魔らしい
悪魔の力を目覚めさせ神を堕とす
独眼のこの碧瞳が貴様の心臓を貫く
孤独な黒キ狼、ゼロ・クローフィ
……にこにこ笑う彼女の所へ戻り
いいか?さっきのは忘れろ?
何も聴いてない、観てない、いいな?
宿題?あぁ、
【悪魔より悪魔らしい】かな?
百鳥・円
【まる】
ははー、なんとも可笑しな授業
まあまあ悪役には口上が大事ですからね
これもまた必要な教育ってことです
おにーさんは相変わらず不服って顔ですね
寡黙なヴィランってカンジしますよう
えー?わたしがですか?
センセーに指導していただいたらどーです?
まあいいでしょう
お手本見せてあげます
おにーさんはそれを学んでくださーい
望むのはその心
真夜中の空を
夢の彼方へと翔け抜けて
あなたの元へと華麗に登場!
甘美な声音に誘惑乗せて
心の宝石、いただきます
夢幻の支配者、もとりまどかちゃーん!
です。如何です?
ほらほらおにーさんもがんばって
んふふ!お上手じゃあないですか
いいカンジですよう
宿題やりました?
わたしは《夢幻の深淵》です!
●四時間目の口上講座
上層部に集う猟兵達は今、或る教室にいた。
其処は黒光輪秘密話術教団のビート先生が担当する名乗りの講座が行われる場所。
三時間目の休み時間前になり、口上への期待とそれぞれの思いを抱いた猟兵達は各々に自由な席に座っている。
まずは一番前の中央に座っているマリア。
「少し早く来過ぎたかと思いましたが、皆さんが来てくださって良かったです」
マリアは少しばかりほっとした様子だ。実は一番乗りに教室に来たのだが、誰もいなかったので場所か時間を間違えたかと思っていたらしい。
その後に訪れ、窓際の席を取ったのはキャンディと優樹。
心配していたマリアに笑顔を向けた二人は、これから始まる授業を思う。
「いっきに本格的になったな!」
「口上……すごく頭を使う授業が待ってるなんて――」
「難しそうだけど、ボクは負けないんだからね! 恐怖のキャンディサーカス団なら登場もかっこよくしなきゃだ!」
優樹はこの授業のあまりの難易度の高さに怖気付きそうになっていた。だが、キャンディがびしっとポーズを決めて宣言したことで勇気を貰えた気がした。彼女の明るさに心を照らされた気分だ。
「団長さん、頑張りましょうっ」
「えいえい、おー!」
「おー」
片腕を振り上げたキャンディ達に倣い、マリアもそっと腕を上げる。
その賑やかな様子を眺めているのは廊下側の席に座っていた雲珠とるいだ。気合いが入っている少女達を微笑ましく思い、二人も合わせて片手をあげた。
「名乗り口上は戦の華! 荒事はてんで苦手ですが、そこはそれ!」
置いといて、のポーズに移行した雲珠に視線を向け、るいはくすくすと笑う。
「悪事もだんだん板についてきたね!」
「もうすぐ終わりなのが惜しいくらいです」
この授業をクリアすれば卒業試験が待っているという。もちろん雲珠達は試験という名の解放戦に進むつもりであり、その後には学園生活の終わりが訪れる。
そうだね、と頷くるいも学校での時間を思い返した。
「ふふ! よくないことだけど、褒められるのは気分が良かったよね」
初等部での息のあったおふざけは実に楽しかった。
進級する雲珠とるいを見送ってくれた元クラスメイト達も応援してくれている。各々に意気込みを見せる二人は、もうすぐチャイムが鳴る時間であることを確かめた。
そして、扉が開く。
其処から入ってきたのは窓際の後ろの席に向かうなつめと十雉だ。
「口上作成講座、ねェ……」
どかっと椅子に座ったなつめの隣に、十雉が行儀良く席につく。しかし、すぐにはっとした彼はなつめを見遣った。
「はっ……ワルにならないと」
「はは! 無理すンなよ」
荒々しく脚を広げて座り直した十雉は咳払いをしたことでなつめが笑う。更に悪ぶった十雉はふいとそっぽを向いたが、元の良い人感は消しきれていなかった。
「それにしても口上かぁ。ヒーローや悪役がよくやるあれだよね」
「どうすっかなァ」
窓辺に肘をついたなつめと同じ方向を眺め、十雉もちいさな溜息をつく。
同じくして、席中央の後方。
溜息をついていたのはゼロもだった。そのひとつ前の座席には円が座っている。
「ははー、なんとも可笑しな授業ですね」
「はぁ? 決め台詞?」
「まあまあ悪役には口上が大事ですからね。これもまた必要な教育ってことです」
「あぁ? 何が楽しくてこんな事しなきゃいけないんだよ」
ゼロは軽く項垂れ、お前さんは楽しそうだな、と口にした。円は否定はせずに瞼を幾度か瞬かせ、静かに笑む。
「おにーさんは相変わらず不服って顔ですね。寡黙なヴィランってカンジしますよう」
「そりゃどうも。……と、教師が来たか」
円とゼロが話していると、廊下から先生が訪れた。丁度そこでチャイムが鳴り、講座授業が幕開けていく。
「――と、いうわけですわ」
黒光輪秘密話術教団の教師、ビート先生は名乗り口上が何たるものかを話した。
件のお手本を見せた先生は生徒達をひとりずつ確認する。まずは己で考えることからだと語り、自由時間を言い渡した。
「難しければ先生を呼んでくださいまし。ご相談にはばっちり乗りますわ!」
ウインクをしてみせたビート先生はそう告げてから、鼻歌を口ずさみはじめる。
らーらららーらー。
まだメロディと一部の歌詞しか決まっていない使立堕天學園の校歌をバックミュージックにしながら、口上を考える時間が巡っていく。
●少女の名乗り
「先生、出来ました」
「マリアさんでしたわね。早いですわね。さあ、どうぞ!」
授業内、最初に名乗りを上げたのはマリアだ。
ビート先生に促されたマリアは礼儀正しく立ち上がり、淡々と言葉を紡ぐ。
「ユースティティア・インダストリー代表兼テストパイロットを務めております。新世界学園所属、風紀委員会委員長、嗣條・マリアと申し――」
だが、その声は途中で止められた。
「お待ちなさい。それはただの自己紹介ですわ!」
「違うのですか?」
「ええ、勢いと外連味が足りません。それでは合格は与えられませんわ」
「ではその、名乗り方を教えて頂いてもよろしいでしょうか」
ビート先生に申し出たマリアは真剣な表情をしている。先生は其処に何らかの覚悟を感じ取ったらしくしかと頷いた。
「わたくしの指導は厳しくてよ?」
「任せてください。委員長ですから。必ずものにして見せます」
マリアは元の世界での風紀委員長である。そして、巨大財閥の跡取り娘であるということを前面に出して行きたいと伝えた。
「他に希望はありますか?」
「それから、はい正義。正義ですね。正義を前に出したいです!」
次に搭乗機である暴君、タイラントのこと。
更にはコードネームである“アストレア”という名を告げたマリア。ビート先生は成程と答え、二人は素晴らしい名乗りに仕上げるために試行錯誤を重ねた。
そして、出来上がったのがこれだ。
「正義を胸に、希望を天へ。
虚数と次元の果てから声を聞き、壊れゆく世界に救いの手を伸ばす。我らは闇を引き裂く赤き影。“アストレア”――嗣條・マリア、愛機タイラントと共に見参」
「良い仕上がりですわ!」
「そうでしょうか。後は何か、言うべきことは……?」
「状況に応じて『この私が取り締まります!』と仰るといいですわよ。これは風紀委員と代表取締役社長に掛けていまして――」
それから暫し、マリアとビートの名乗りについての語りは止まらなかった。
●闇と死神と竜神
「ときじはなンか思いついたかァ?」
「うーん、難しい……」
「ンー、やっぱ難しーよなァ」
机を合わせ、二人で口上を考えているなつめと十雉。しかしなかなかいい案が思いつかずに苦戦しているようだ。
其処に通り掛かったビート先生はちらちらと二人を見ている。どうやら助言をしたくてたまらないようだ。その様子に気付いたなつめは片手を上げて彼女を呼ぶ。
「ハーイセンセー、ちょっと難しーから手伝ってくンね?」
「はい先生、オレもお願いします」
十雉もビート先生に指導を願い、其処から名乗りの希望を聞く時間がはじまる。
「貴方達はどのような路線が良いのですか?」
先生が問うと二人は其々に答えていく。
「ンー、そりゃあカッケー感じで、竜神とかも入ってっといーな」
「やっぱり男らしくてカッコいいのがいいな。ちょっとダークさも加えたいから……」
なつめが竜神の希望を入れたことで、十雉も恥ずかしそうに先生に耳打ちをする。ふむふむ、と頷いたビート先生はやる気満々だ。どうやら十雉から希望された言葉によって、大いに燃え始めたらしい。
「よろしいでしょう。わたくしがとっておきの指導をして差し上げますわ!」
そうして暫く、二人は先生と一緒に口上を考えた。
「おー! さすがセンセー!」
「成る程、こういう風にしたらいいんだ。有難うございます、先生」
「では実践のときですわよ!」
教師に促され、まず名乗りをあげるのはなつめだ。おほん、と咳払いをしたなつめは息を吸い込み、一気に口上を述べていく。
「夏は過ぎ行き、生はまた廻る。
唄が響けば夜に舞う。我は流転する世界に堕とされし竜神――なつめ!」
大声で叫び、最後に決めポーズをするなつめ。
おお、と感心する十雉に視線を送り、彼はからからと笑ってみせた。
「どーだ! キマったろ!」
「敢えて長くしないことでわかりやすさを追求してみましたの」
「いいじゃん、なつめ。今のカッコよかったよ」
ビート先生の解説を聞きながら、十雉はそっと頷く。なつめは次は十雉だと促し、教壇に上がれと告げた。
「ときじはどんなの出来た? 聞かせろよ!」
「……え、やっぱりオレもやるの?」
「恥ずかしがんなよ! 大丈夫だって!」
「うん、じゃあ行ってくる」
そんな遣り取りをした二人をビートはにこやかに見守っていた。青春ですわねえ、と双眸を細めた彼女は嬉しそうだ。
十雉は深呼吸をして恥じらいを捨てていく。そして――。
「コインを弾けば、さあさお立ち会い。裏が出るか表が出るか、世界は表裏一体!
闇に歩けば花を咲かせ、この身に纏う死神の力は空舞う鳥すら地に落とす。根無しの草と侮るなかれ、我が名は十雉。奇々傀々に全てを解決してやりまさァ!」
ノリノリで口上を叫んだ十雉もまた、なつめを真似たポーズを取った。ビート先生曰く、死神と闇を入れ込むのが難しかった、とのことだ。
「クク、やりゃあ出来んじゃねーか」
「どうだった? カッコよかった?」
「頑張ったから飴、やるよ」
なつめが褒めてくれたことを嬉しく思い、十雉は穏やかに双眸を細めた。
●サーカス団はどこまでも
一方、キャンディと優樹は自分達の口上をしっかりと考えて固めていた。
「あーあー、ゴホン! ここは団長のボクが先にやろう!」
優樹に手本を示そうと決め、キャンディは準備を整えていく。教壇にあがった彼女は教卓の後ろに隠れ、カウントダウンを刻んだ。
三、二、一。
心の中で数えていた数字が零になった瞬間、彼女はどーんと飛び出す。
「やあやあ、われこそは泣く子も黙る恐怖のキャンディサーカス団だ!」
びしっと決めたのはお化けのポーズ。
其処から彼女は自分を示しながら、くるりと華麗に回ってみせた。
「見よ! この真っ白ボディ! 閻魔大王の布団だ! 見よ! このツギハギ! 戦いの勲章だ!」
周囲の注目を引けていると感じたキャンディは高らかに宣言する。
「そうだ! われこそはキャンディサーカス団団長! キャンディ・ジャック!」
(――キャンディ・ジャック!)
すかさず優樹が合いの手を入れてくれたことで、キャンディは誇らしげに胸を張る。そして其処から最後の決めポーズへと移った。
「起夜N・D・邪ッ九!」
ばばーん! ばばばばーん!
と、そんな効果音が入る勢いで彼女はキャンディを掲げた。威風堂々とした姿は凛々しく可愛く格好良く、ビート先生からも拍手が送られた。
「まあ、素晴らしいですわ!」
「どうだ?! かっこよかっただろう!」
「ま、まぶしいです、輝いてます……! さすが団長さん!」
優樹も先生に倣ってぱちぱちと両手を叩く。その偉大さを知らしめる見事な口上だという感想を述べ、優樹は笑みを浮かべた。
するとキャンディが優樹の手を引き、教壇の前にいざなった。
「ゴホン。次は優樹の番だ! ボクよりもすごいやつを見せてやれ!」
「すごいやつですか? これは責任重大ですね。おれもサーカス団の名に恥じぬ名乗りを上げねば……!」
優樹は意気込み、キャンディに続いて名乗りを上げていく。
「やあやあ、聞いて驚け!」
両手を懸命に広げてみせた優樹はきりりと表情を引き締めた。少しだけ恥ずかしい気もしたがそんな思いは振り払い、彼女は語る。
「おれこそは、つよくてこわーいシーフのエルフっ! 長い耳でどんな小さな音も拾い上げ、狙った獲物はこの瞬足が逃がさない。キャンディサーカス団団員! 萌庭優樹!」
指先を突きつけるポーズを取り、優樹は更に言葉を続けた。
「おまえもお菓子まみれにしてやるー!」
宣言の後、優樹は明るい笑みを浮かべる。こわいと言ってしまったので必要以上に誰も怖がらせないためのささやかな配慮だ。
「やったぞ優樹! 完璧だ!」
「やりましたっ! ふたり揃ってこんなクールな推参をしたら、先生だけじゃなくてみんなが褒めてくれる……はず!」
キャンディがぱたぱたと駆け寄ってきたので、優樹も嬉しくなって軽く飛び跳ねる。
そして、二人は得意気な瞳をビート先生に向けた。くすくすと笑った先生は二人をそっと見つめ、頷いてみせる。
「ええ、団長と団員の絆が伝わってきましたわ。今度は二人一緒にやってみては?」
「そうだ、そうしよう!」
「はいっ」
先生からの助言を素直に聞き、キャンディと優樹は大きく頷いた。
そうして少し後、次は二人が同時に名乗る合わせ技口上が盛大に披露されたという。
●ラブリーでチャーミーに學園謳歌
「ビート先生、よろしくお願いします!」
「先生、私もよろしくお願いしま~す!」
元気で勢いのある挨拶を先生に向け、雲珠とるいは口上に挑んでいく。
まずはどのような方針にするか。そして、どんな言葉を並べていくか。考えることは多く、悩ましいことばかり。
るいは机に軽く肘をつき、案を書いたノートをにらめっこしている。
「どうしよっか?」
「そうですね、殺意高めの直球もよいものですが、『俺たちを放っておくと厄介だぜ』という方向性もよいのでは」
雲珠はるいのノートにふたつの棒人間を描き、それらにポーズを決めさせた。
たとえば相手にとっての敵を、治しては連れて逃げるお邪魔コンビ。
「なるほど、ここでは正義の味方よりもスマートな悪役の方がウケそうだもんね。そういうの憧れるなあ」
頷いたるいはノート上の棒人間に可愛いリボンをつけていく。チャーミングさが必要だと感じたのだろう。
「想像するだけでとてもワルです!」
主に認知されたらいちばんに潰されそうだという意味で。雲珠もラブリーなハートを周囲に描き加えつつ、実際の動きや台詞について考えていく。
「よーし、かっこいいワルを目指そっか!」
「となると、決め手はお互いの位置取りでしょうか」
「背中合わせでかっこいいポーズするの、どうかな?」
「いいですね。それじゃあまず最初はこうして、次は――」
「うんうん!」
二人はノートを覗き込み、思いつく限りのことを記していった。
そして――るいと雲珠は現在、発表のために教壇に登っていた。
背中合わせで立ち、静かに目を閉じた雲珠とるいは呼吸とタイミングを合わせ、一気に瞼を開いた。次の瞬間、高らかな声が教室に響き渡る。
「さあさあ皆様、ご覧じろ!」
「三十六計、逃げるに如かず」
交互に語りながら左右対称で腕を掲げる二人。更に視線を巡らせ、それぞれに笑みを浮かべたるいと雲珠は次の言葉を紡いでいく。
「世に善あれば善を断つ」
「苦痛の声あるところ我らあり」
「冠る花は餞」
「治して逃がすはお任せあれ、我ら……われら……」
「われら……」
だが、その続きは語られなかった。ポーズを決めながらぴたりと止まってしまった二人は顔を見合わせ、きょとんとする。
「……コンビ名はいかがしましょう?」
「えっと……」
雲珠からの問いかけに、るいは暫し悩む。見守っていたビート先生が一歩を踏み出したことでこのまま中断かと思いきや、るいは笑顔でコンビ名を口にした。
「悪戯桜花爛漫サーバント!」
「我ら在るところに咲く花あり!」
その宣言に頷き、雲珠はそのまま口上を続ける。持ち直した名乗りに先生もほっとした様子を見せ、二人を止めずに見つめた。
「謳歌するのは青春と人生!」
「さあ、此処から刻みゆく軌跡を信じて――いざ!」
びし、と二人が同じポーズを取る。
見事に繋いだ名乗り口上は無事に終わりを迎え、生徒達からも拍手があがった。
●求めるは心
クラスメイトの名乗りが次々と完成していく最中。
はぁ、と溜息をついたのはゼロ。残るは自分達だけ。考える時間をめいっぱいに使ったのでおおまかな流れは決まったが、一番の見せ場はこれから詰めるところだ。
「嗚呼、お前さんが決め台詞決めろ」
「えー? わたしがですか? センセーに指導していただいたらどーです?」
「物凄いのが出来そうだからな……」
乗り気ではないゼロに対し、円はくるくるとペンを回しながら答える。しかし、先生は別の生徒の指導に入っていた。
ペンをノートの上に置いた円はそっと立ち上がり、ちいさく笑む。
「まあいいでしょう。お手本見せてあげます」
「頼んだ」
「おにーさんはそれを学んでくださーい」
こほん、と可愛らしく咳払いをした円はまず真っ直ぐに前を見つめた。それから彼女はゼロの姿を瞳に映す。
「――望むのはその心」
紡がれていく口上は穏やかな流れから始まっていく。やがてその声は徐々に明るく軽やかなものになっていった。
「真夜中の空を、夢の彼方へと翔け抜けて。あなたの元へと華麗に登場!
甘美な声音に誘惑乗せて、心の宝石、いただきます。夢幻の支配者、もとりまどかちゃーん!」
人差し指を天に向け、腕を掲げた円は片目を閉じる。
ばっちり決まったウインクは実に愛らしい。
「如何です?」
出来栄えを問う円に向け、ゼロは成程と答えた。参考になった部分をノートに書き記すゼロも割と真面目だ。だが、やはり肝心の決め台詞に詰まっているらしい。
「……夢幻の支配者って悪というより怪盗みたいだな」
「そうじゃなくて、もっと別の感想があるはずです」
「はいはい、可憐に出来てたよ」
彼女は望む感想を引き出すのもお手の物。円を褒めたゼロは一度だけ瞼を閉じ、口上へのそれなりの覚悟を決めたようだ。それを察した円はビート先生を呼んだ。
「ほらほらおにーさんもがんばって。先生も興味津々ですよう」
「ええ! わたくしも是非お手伝いしたいですわ!」
「……」
ゼロは眉間に皺を寄せる。結局は教師と円に見てもらうことで名乗りは完成した。
彼は不服そうに、棒読みで口上を語っていく。
「闇より深く、悪魔よりも悪魔らしい、悪魔の力を目覚めさせ神を堕とす。
独眼のこの碧瞳が貴様の心臓を貫く。――孤独な黒キ狼、ゼロ・クローフィ」
短くもあるが、端的に上手く纏まっている名乗り。
淡々とした語りもそれに合っており、ビート先生の先生も満足そうだ。
「素敵でしたわ」
「んふふ! お上手じゃあないですか」
ゼロは先生に会釈をしてから、にこにこと笑っている円の元に戻る。いいカンジですよう、と褒めてくれた円に対してゼロは頭を振った。
「いいか? さっきのは忘れろ?」
「えー?」
「何も聴いてない、観てない、いいな?」
「どうしましょうねえ」
しかし、円は笑みを絶やさずに曖昧な答えを返すのみ。誂われているのだろうかと感じながら、ゼロはもう何度目かも分からない溜息をついた。
●授業の終わり
そうして、時間は過ぎていく。
「これで各自の発表は終わりですわね。皆さんの結果ですが……」
授業の終了が迫る中、ビート先生は席についた生徒達を見渡す。どうやらこれから評価が下されるようだ。
キャンディと優樹は期待を抱きながら結果発表を待つ。
「恐怖のキャンディサーカス団なら絶対合格だ!」
「団長さんと頑張りましたからっ」
ぐっと掌を握る二人の横で、雲珠とるいも先生が記していた評価ノートの方に視線を向けた。そわそわするのはビート先生が神妙な顔をしているからだ。
「誰かが不合格になるのでしょうか」
「ううん、みんな凄かったからきっと大丈夫!」
雲珠が祈るように目を伏せると、るいが明るく笑った。マリアは両手をそっと重ね、ビート先生を見つめた。
「名乗りには力を込めましたから、きっと――」
「だなァ、心配はしてねェ」
「オレだけ駄目だとか言われないかな……」
なつめが不安げな十雉を宥めていると、ふ、とビート先生が笑う。その笑みにはどのような意味が込められているのか。生徒達が固唾を飲んで見守る中、先生が口を開く。
「……全員合格! 皆様、素晴らしかったですわ!」
どん、と効果音がつくほどに合格宣言をした先生は感動に打ち震えていた。
その様子を見ていた円は可笑しげに口許を緩め、ゼロは呆れたように再び溜息をつく。
「予想通りでしたねえ」
「アレでいいのか……ま、手間も省けていいか」
円とゼロは視線を交わしたとき、授業の終わりの証であるチャイムが鳴り響いた。
ビート先生はにこやかに微笑み、皆に手を振る。
「宿題も回収いたしましたから、これにて授業はおしまいですわ」
御機嫌よう。
恭しい礼と共に講座の時間は閉じられ、皆それぞれの口上を得た。この名乗りや台詞を後の生活や戦いに使うかどうか。それは、各々の自由だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミア・レイシッド
わたくしたちは恐怖の妖怪シスターズなのよ。
このような授業も全く怖くないのだわ。
王様もわたくしに必殺技を披露しなさいと仰っていたの。
わたくしのとっておきの必殺技を見せてあげるのだわ。
茨で眠りし姫よ、わたくしの前に平伏しなさい。
幾千の棘を抱えし魔女よ、わたくしに力を与えなさい。
茨の魔女から祝福を授けましょう。
~眠りし姫の鮮血と茨の魔女の祝福~(スリーピング・フォレスト・ディア・カラボス)
幾何学に囲う茨に平伏しなさい。
わたくしたち恐怖の妖怪シスターズは如何だったかしら。
王様も大満足なのよ。
わたくしたちの恐ろしさはまだまだ見せつけなければならないのだわ。
庵野・紫
【幽楽】
ヤッバ。カッコイイ必殺技だってー。
えー、何にしよっかなー。
アンってば考えるよりも感じる派なんだよねー。
難っかしいなー。
ミアのやばくね?本格的じゃん。
かくりとりゅうこは?
えーーーー、むりむりむりむり!
感じて叫ぶとかじゃダメ?
えー、ゴホン。いっきまーす。
アンの必殺技、やっちゃうよー。
アン様に頭を下げろ!
吼えろ!
唸る竜巻、大蛇の群れ!〜エキセントリック・ミズチ〜
刀の蛟を抜いて水飛沫をあげるよー。
は?!むりむりむりむり分かんない!
アンには無理だって!!
妖怪シスターズだけどさー、こういうのは無理!
みんながやっちゃうよ!
アンの代わりに頑張っちゃって!
揺・かくり
【幽楽】
成程、言葉を重んじて居るのだね。
良き計らいであると思うよ。
必殺技の一つや二つ
考える事は容易いと思っていたが……
思う様にいかないものだね。
死霊諸君に助力願おうか。出て来給えよ。
……成程。我々の力を一つに。
何、構わないとも。
常と同じ様に息を合わせてお呉れよ。
私の呪詛に君たちの呪詛を重ねよう。
諸君、夜宴の時間だ。好きに暴れ給えよ。
〜災禍凶兆、奇々怪々〜 (サイヤクノヨルヲハジメヨウ)
呪いの黒環が視えるかい?
君を死の夜へと誘う招待状なのだよ。
全てを棄てて往くと良い。
私の死霊諸君の御馳走と成るだろう。
まるで悪役の様だろう?
喫驚の感情を味わえるのだろうか。
君たちの必殺技とやらも楽しみにしておこう。
片稲禾・りゅうこ
【幽楽】
うははは!我ら恐怖の妖怪しすたあず!
恐れ戦け~~~!!
必殺技?あるともあるとも!りゅうこさんを舐めて貰っちゃあ困るぜ!
そら!りゅうこさ~~~ん………え?違う?いやでも……
ひょっとしてりゅうこさんもアンと同じなやつなのか!?
いやでも同じなのは嬉しいな!いえ~い!
う~~~ん真面目に、真面目にかあ……
りゅうこさんは至極真っ当に真面目なつもりなんだが……
ああ!そうかみんなを真似すればいいのか!そういうことなら……
咲らう春時雨
しとどに瑞雨
染まれよ秋霖
哭き降るは凍雨
天雷轟々、慈雨を裂くは竜神ぞ~りゅうこさんキック~
あっ!?つい!
いや~~~~駄目だ!りゅうこさんには難しい!
オズ・ケストナー
【花束】
◎
ひっさつわざっ
あれ?
みてみて、アニーの名前がある
黒板指し
ケストナーもなにか意味があるのかな
辞書を開きながら
いっぱいつないで長くすればかっこうよくなるかな?
あっ、これ長いよ
ふろくしろーしない、ぴりぴり?
はやくちことばみたい
おぼろはヘイジーっていうの?かっこういいっ
わ、すごい
わたしたちの名前が入ったひっさつわざっ
目を輝かせ
ポーズもかんがえちゃおうっ
こう?(ばばーん)
こっちかな?(どーん)
そのポーズいいねっ
ね、アニーもやろうよっ
絶対攻撃無効浄化光
(アブソリュート・カタルシス・フロクシノーシナイヒリピリフィケイション)
言えたっ
拍手にピース
アニーのわざだってとってもすてきだよっ
《ピースピース》
朧・紅
【花束】
ぅやホント
アニー様の名が必殺技として世界に轟いてるです!(キラキラすごいの目
ケストナー……きっとオズさんみたいにほわほわ素敵な意味ですよ
…お名前の、技っ
長いの魔法のえーしょうみたいで素敵!
僕も辞書みせてー
えとえと朧は……ヘイジー?
ぅやそのポーズかこいい!
UCでボーンでこんなのとかっ
アニー様もやるですやるですっ♪
ぅやぁ、アブシュ…(噛んだ)……ケイションかっこいい!(はしょった
言えるのがもうとってもすごい、強い、です!(ぐぐ
アニー様の簡潔なる存在感すごい
紅キ創生ハ朧ノ罰ヲ伽澄ます(クオア・ケストナー・ヘイジー・ピュニシオン・クリムゾン)
UCで僕ら彩の演出ばーん
クオアは僕らの頭文字
《花束》
アニー・ピュニシオン
【花束】◎
…本当だわ
私の名前が必殺技になってる
このままでは
私の事を『必殺技の一部の人』と、
校内で噂される事が確定されてしまうわ
…これは絶対に許されない事よ
賠償金として、このプリント達を先生に
≪未来に芽吹けよ惡の華≫
早急に受け取ってもらう必要があるわね
紅ちゃんのは…
皆の名前が合体した必殺技というのは浪漫があるよね
それにしっかりポーズもついてるのね
…え、私もやるのか
今の私はこういうキャラじゃないのだけれど
…とりあえず、こんな感じで(ちゃらん)
オズ君の必殺技は良く言えたわね
長い技も味があって良いモノよ
軽く拍手を送りながら
私のは
壊華宣言(ブロッサム・ハザード)で良いかな
二人に勢いが劣るのが悔しい所ね。
●崇高たる五時間目
お昼休みも終わり、眠気が襲ってくる五時間目。
「フフ……我々教団が重視するのは崇高なる言葉。ようこそ、我が教室へ」
生徒達を迎えたのは、本日の朝に大遅刻をしたというシータ先生。黒光輪秘密話術教団の何たるか、必殺技の名付けがどれだけ大事かを語り、黒板に技名を記していった先生は集った生徒を確かめていく。
まず、ごきげんよう、と先生に挨拶をしたのはミア。
「わたくしたちは恐怖の妖怪シスターズなのよ。このような授業も全く怖くないのだわ」
「うははは! 我ら無敵のしすたあず! 恐れ戦け~~~!!」
ミアに続いてりゅうこも自己紹介代わりの名乗りを上げた。賑わしいりゅうことは反対に、かくりはとても落ち着いている。
「成程、言葉を重んじて居るのだね。良き計らいであると思うよ」
「ヤッバ。カッコイイ必殺技だってー。えー、何にしよっかなー」
かくりの隣に座っている紫はこれから始まる授業への思いを抱いていた。妖怪シスターズの四人がいるのは教室の廊下側。
ミアとりゅうこが一番前、かくりと紫が二番目の席に並んでいるという形だ。
「王様もわたくしに必殺技を披露しなさいと仰っていたの。見ていて、わたくしのとっておきの必殺技を見せてあげるのだわ」
「ミア、やる気だね。アンってば考えるよりも感じる派なんだよねー」
難しいなぁ、と首を傾げる紫。
かくりも考えを巡らせ、どうしようかと悩み始める。
「必殺技の一つや二つ、考える事は容易いと思っていたが……すぐには出来ないか。思う様にいかないものだね」
二人が黒板を眺める中、りゅうこは自信満々に笑った。
「必殺技? あるともあるとも! りゅうこさんを舐めて貰っちゃあ困るぜ!」
「ふむ、もうあるものは駄目だぞ」
「そら! りゅうこさ~~~ん………え? 違う? いやでも……ひょっとしてりゅうこさんもアンと同じなやつなのか!?」
即座に技を披露しようとするりゅうこだが、先生から指導が入ってしまう。
となると悩む紫と同じ。考えるより感覚派なりゅうこは一瞬だけ神妙な顔をした。
「大丈夫なのだわ、皆で考えましょう」
「そうだな! いやでも同じなのは嬉しいな! いえ~い!」
ミアが声を掛けてくれたことでりゅうこは笑顔になり、嬉しさを言葉にした。
「イエーイ!」
「いえい、だね」
紫とかくりもりゅうこに倣い、授業への意気込みを見せていく。
一方、中央列の真ん中。
特別に三つの机を並べて最前列に座っているのはオズと紅とアニーだ。
「ひっさつわざっ」
「必殺! なのです!」
「かならずころすわざ……」
それぞれの感想を口にした三人はシータ先生が書いた黒板の文字を見つめる。そんな中でふとオズがひとつの文字列に気付いた。
――反逆なる拷問処罰(トライゾン・トルチュール・ピュニシオン)
「あれ? みてみて、アニーの名前がある」
「ぅやホント」
「本当だわ。私の名前が必殺技になってる」
オズが指を差した箇所を見て、紅とアニー本人も少し驚いていた。するとシータ先生が興味深そうに声を掛けてくる。
「成程、お前はなかなかに罪な名を持っているようだな」
先生曰く、この必殺技は元から教材用に用意していたものだという。偶然の一致は運命だと語るシータ先生は何だか嬉しそうだ。
しかし、アニーは内心で焦っている。
「このままでは私が『必殺技の一部の人』と、校内で噂されることが確定されてしまいそうだわ。……これは絶対に許されないことね」
どうすべきかとアニーが考えている中、紅は瞳を輝かせていた。
「アニー様の名が必殺技として世界に轟いてるです!」
「駄目よ、轟かせない」
はたとしたアニーはふるふると首を振る。
「いいとおもうよっ もしかしたら、ケストナーもなにか意味があるのかな?」
「きっとオズさんみたいにほわほわ素敵な意味ですよ」
格好良いよ、と伝えたオズは辞書を開いた。紅も彼の手元を興味津々に覗き込み、アニーは別のことに頭を悩ませ――授業は進んでいく。
●それゆけ、妖怪シスターズ
妖怪四人組はそれぞれに技の構成を考えていた。
悩む紫とりゅうこ、さっと考え終えたミアに、ゆるりと頷くかくり。其処にシータ先生が現れてミアを呼ぶ。
「まずは決まったものから披露していくといい」
「わかったのだわ」
教壇に導かれたミアは目を閉じ、一番手として発表を始める。
片手を胸の前に掲げたミアはゆっくりと瞼をひらいた。其処に魔力が渦巻いていく。
「茨で眠りし姫よ、わたくしの前に平伏しなさい」
幾何学模様を描く茨がミアの周囲に広がった。
そして、ミアは言い放つ。
「幾千の棘を抱えし魔女よ、わたくしに力を与えなさい。茨の魔女から祝福を授けましょう。さあ――」
~眠りし姫の鮮血と茨の魔女の祝福~
スリーピング・フォレスト・ディア・カラボス。
「幾何学に囲う茨に平伏しなさい」
決め台詞と共に静かに茨を散らせたミアは見事に必殺技を終えた。
シータ先生は手にしているボードの紙にペンを走らせ、何やら評価を書き込んでいるようだ。そうして、かくりはミアに続くために準備を整えていった。
「死霊諸君、助力を願うよ」
出て来給えよ、とかくりが声を掛けるとその周囲に死霊達が現れる。かれらはかくりに何やら案を伝えていった。
「……成程。我々の力を一つに。何、構わないとも」
死霊達には常と同じように息を合わせて欲しいと告げ、かくりも教壇にあがる。シータ先生もかくりと死霊に注目していった。
「私の呪詛に君たちの呪詛を重ねよう。諸君、夜宴の時間だ。好きに暴れ給えよ」
~災禍凶兆、奇々怪々~
サイヤクノヨルヲハジメヨウ。
「これが視えるかい?」
呪いの黒環が誓いの指から廻り、かくりはよくは見えぬ眼を細めてみせた。
「これこそが君を死の夜へと誘う招待状なのだよ。全てを棄てて往くと良い。死霊諸君の御馳走と成るだろう」
死霊が地獄の底から響くような声をあげ、かくりもまるで悪役のように振る舞う。
こうすればきっと喫驚の感情を味わえる。口の端を緩めたかくりは最後に軽く一礼をすると、席に戻っていった。
「ミアのやばくね? かくりも本格的じゃん」
「おお、流石!」
「君たちの必殺技とやらも楽しみにしておこう」
「さあ、次はどちら?」
紫とりゅうこが惜しみない拍手を送り、かくりとミアは二人に期待を向ける。三番手に指名されたのはりゅうこだ。
「そこの賑やかなお前、ふざけずに真面目にやってみるといい」
「う~~~ん。真面目に、真面目にかあ……。りゅうこさんは至極真っ当に真面目なつもりなんだが……」
「参考になるものがあったはずだぞ」
シータ先生に促されたりゅうこはひらめきを覚えた。
「ああ! そうかみんなを真似すればいいのか! そういうことなら……」
其処からりゅうこの技の披露が始まる。
呼吸を整えた彼女は凛とした声で詠唱めいた言葉を並べていった。
「咲らう春時雨、しとどに瑞雨、染まれよ秋霖、哭き降るは凍雨。天雷轟々、慈雨を裂くは竜神ぞ――!」
~りゅうこさんキック~
次の瞬間、どごーんと音がして教卓が吹き飛んだ。
「あっ!? つい!」
「……いたた」
こともあろうか飛んでいった教卓がシータ先生にぶつかってしまう始末。頭を押さえる先生に謝りながら、りゅうこはさっと教壇から退いた。
「いや~~~~駄目だ! りゅうこさんには難しい! 次はアン!」
「えーーーー、むりむりむりむり! 感じて叫ぶとかじゃダメ?」
りゅうこに指名された紫は慌てふためく。
しかし、やらないわけにはいかないので覚悟を決めた。
「えー、ゴホン。いっきまーす。アンの必殺技、やっちゃうよー」
咳払いをしてから身構えた紫。その表情は真剣なものに変わり、凛々しい声が教室内に響き渡ってゆく。
「アン様に頭を下げろ! 吼えろ! 唸る竜巻、大蛇の群れ!」
~エキセントリック・ミズチ~
刀の蛟を抜いて水飛沫をあげ、紫は力を巡らせていく。されど其処へ、シータ先生が思いついた助言を告げる。
「もう少し派手に……そうだな、恐怖と闇を司る女王っぽく出来るか?」
「は?! むりむりむりむり分かんない! アンには無理だって!! 妖怪シスターズだけどさー、こういうのは無理!」
「そうか……」
何だか妙に残念そうにするシータ先生だが、どうやら紫の秘められた才能に期待していたらしい。丁重にお断りした紫は皆の元に戻り、或る提案をする。
「みんな、次は一斉にやろ! アンの代わり……じゃなくって、一緒に頑張ろ!」
「それも素敵なのだわ」
「いいだろう、合体技というものだね」
「りゅうこさんも本気でいくぞ!」
四人の視線と意思が重なり、妖怪シスターズの力が教室内を彩った。
それから暫し後。
「わたくしたち恐怖の妖怪シスターズは如何だったかしら」
王様も大満足なのよ、と付け加えたミアは先生にお辞儀をする。後は評価と授業の終わりを待つだけとなった彼女達だが、まだ満足はしていない。
「アン、何だか楽しくなってきたかも!」
「もう一回やってもいいぞ! りゅうこさん~~~ふぁいと~~~!」
「死霊諸君も乗り気らしい」
「そうね、わたくしたちの恐ろしさはまだまだ見せつけなければならないのだわ」
そんなわけで、もう少しだけ四人の技の切磋琢磨は続くようだ。
●すすめ、クオアトリオ
「ひっさつわざっ ひっさーつわーざっ」
「わーざーっ ざわざわーです!」
一方、オズ達のグループには和やかな雰囲気が満ちていた。楽しそうに歌うオズに合わせて紅も辞書をぱらぱらと捲っていく。
「文字をいっぱいつないで長くすればかっこうよくなるかな?」
「長いの魔法のえーしょうみたいで素敵! えとえと朧は……ヘイジー?」
「おぼろはヘイジーっていうの? かっこういいっ」
「紅ちゃんのは……。皆の名前が合体した必殺技というのは浪漫があるよね」
アニーは指先で髪をくるくると巻取りながらのんびりしていた。どうやら名前が広まる懸念については諦めたらしい。なるようになれ精神だ。
すると、オズが辞書から良い文字を見つけた。
「わたしたちの名前が入ったひっさつわざっ。あっ、これ長いよ。ふろくしろーしない、ぴりぴり?」
はやくちことばみたい、と覚束ない声で繰り返したオズはにこにこと笑う。
そうやって名前は順調に決まっていき、次はポーズを考える番。
「ポーズはね、こう?」
「ぅやそのポーズかこいい!」
ばばーん、と良い感じに身構えるオズに倣って紅もびしっと両手をクロスさせる。
「そのポーズいいねっ こっちかな?」
「こんなのとかっ」
オズと紅は次々と新しいポーズを考えていく。その横でアニーは黒板の文字をノートに写し取っていた。
一応は高等部に進学できたということで、最終学歴への心配はもうない。
「二人共、しっかりポーズもついてるのね」
「ね、アニーもやろうよっ」
「アニー様もやるですやるですっ♪」
「……え、私もやるのか」
オズと紅が当たり前のように誘ってきたのでアニーは思わず身を引いてしまう。だが、ここでひとりだけ仲間外れになるのも寂しい気がした。
「今の私はこういうキャラじゃないのだけれど……とりあえず、こんな感じで」
ちゃらん、と効果音が鳴るような可愛らしいポーズを決めるアニー。
「アニーすごいっ」
「かわゆきポーズです!」
その姿を見たオズは更に笑顔になり、紅もはしゃぐ。そして、三人は其々の必殺技を披露するために教壇に上がっていった。
まずは紅。
紅キ創生ハ朧ノ罰ヲ伽澄ます。
――クオア・ケストナー・ヘイジー・ピュニシオン・クリムゾン。
続いてオズ。
絶対攻撃無効浄化光。
――アブソリュート・カタルシス・フロクシノーシナイヒリピリフィケイション。
最後はアニー。
壊華宣言。
――ブロッサム・ハザード。
順番に技を出していく三人の周囲には紅の空想領域の力が巡った。各々が宿す髪や瞳の彩の演出がばばーんと飛び出し、教室を賑やかに飾っていく。
「言えたっ」
「オズ君の必殺技は良く言えたわね。長い技も味があって良いモノよ」
「ぅやぁ、アブシュ……なんとか……ケイションかっこいい!」
アニーと紅が拍手を送ってくれたのでオズは両手でピースサインを作った。紅は皆の技がばっちり上手くいったことに喜び、ぐっと掌を握る。
「言えるのがもうとってもすごい、強い、です! アニー様の簡潔なる存在感もっ!」
「二人に勢いが劣るのが悔しい所ね」
「そんなことないよ、アニーのわざだってとってもすてきだよっ」
仲良しな三人がじゃれあう光景。
その姿を眺めていたシータ先生は、フッと笑った。そうして、彼女が持つボードの紙面に記されていく評価は――合格。
妖怪シスターズとクオアトリオ。
彼女や彼は存分に持ち味を出し切り、結果を得ることとなった。それから授業が終わるまで、教室内には賑やかで楽しげな声が響き続けていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーチェ・ムート
【彩夜】
これきりの大芝居
みんなとしてると思うと楽しくて浮き足立つ
開かれた扉に気を引き締めて
ふふ、必殺技かー
やっぱり心が躍ってしまう
緩んだ顔を晒しながら
うーん
ボクは歌を添えようかな
咲けや咲かせ
黒に白に百合が狂い咲き
高らかに涼やかに天が如く歌ってみせよう
みんなの彩を取り入れるって素敵だね
決め台詞は格好良くいくのがいい、ってどこかで聞いたような
よーし、胸を張って行こう
常夜の彩月華獣兎
エバーラスティングナイト・クインテット!
う…慣れてないからちょっと恥ずかしい、かも
ううん、恥ずかしくない!
みんながそれぞれに可愛くて格好良くて
惚れ惚れしちゃう
ボクも片目を瞑ったりして格好付け
どうだろう?きまったかな?
蘭・七結
【彩夜】
さて、次なる舞台だよ
芝居は継続のままで良いかい?
此度きりの戯れだ。悔いなく往こうか
我々が向かう教室は何処かな
嗚呼、此処の扉を開こう
此処では必殺技とやらを仕立てる必要があるらしい
こうして五人が集まっているのだから
五人で一つの技を仕立てるのは如何かな
了承有難う。愉しく往こうか
俺が添えるのは、留め針とあかい花の嵐さ
うつくしき乱舞に棘を仕込もう
刺し留まらぬ様に、気をつけるといい
名前は……嗚呼、惑ってしまうね
それぞれの彩を重ね合う
ひとつ思いついたよ
五彩を添えようか
常夜の彩月華獣兎
エバーラスティングナイト・クインテット
俺の、そして共にする者たちと
夜に咲かす彩を手向けようか
お気に召していただけたかい
ルーシー・ブルーベル
【彩夜】
ボクはボクのままで構わないよ
おや此度きりなの?
それはちょっと残念だな、なーんて
開かれた扉、教室へ踏み入る
へえ、必殺技
5人での合体技だなんて面白そうじゃない
ボクは賛成だよ
……こういうの、
テンション上がるのはオトコノコって聞いていたけれど
「ボク」も十分ワクワクしているよ、ふふ
皆の必殺技はどれも華やかでうつくしい
ならボクが添える技はコレだ
青の花弁をお届けしよう
合体技なら相応しい名が必要だね
何だい七結
ほう!ステキ…えと、気に入ったよ
我らの彩り
ボクも高らかに告げよう
常夜の彩月華獣兎
エバーラスティングナイト・クインテット!
クールに決めてみせる
青ってそんな役割だって
何処かの文献で読んだ事があるんだよ
歌獣・苺
【彩夜】
お芝居なんて
思ってる様じゃ
まだまだだね、皆!
これが素ってくらいやり切ろうよ!
皆に混ざって並べば
七結の肩に肘置いて
スっと悪い顔に早変わり
……あれ、
正義になるんだっけ、まいっか。
いっちょやってやろうぜ?
ーーー蘭ボス
そう告げればまわりに
ガーベラの花弁が舞う
正義の味方って
こうやって
変身しちゃうんでしょ?
さぁ!俺を取り巻く花弁!
俺を超カッコよくしちゃってよ!
…うんうん!いい感じー!
いくよ!兎だって
爪も牙も隠してるんだから!
油断してちゃ、即堕ちだよっ!
くらえ!
『常夜の彩月華獣兎
えばーらすてぃんぐないと・
くいんてっと』!!!
えっ、ちょっと発音が変?
う、うるさーい!
長いカタカナは
ちょっと苦手なのー!!
メリル・チェコット
【彩夜】
僕も、勿論
楽しい時間はいくら続いたって良いもの
この戯れだって、今回だけじゃなくても良いくらい
必殺技、なるほど
皆の力を合わせれば凄い技が出来上がりそう
五人でざっと肩を並べて
ふふ、こういうの、日曜朝方のテレビで観たことがあるような
僕が出来る事
愛しの彼ら――羊達の力を借りる事
彼らにも少しいつもと違う様子で出てきてもらおうかな
今は可愛いだけの羊じゃないよ
さあ、きみ達の凛々しい姿を見せて
常夜の彩月華獣兎(エバーラスティングナイト・クインテット)
舌で転がすだけで楽しくって、頼もしい響き
針に花弁に旋律に
皆の彩りに溢れたとびきりの一撃
技名に恥じぬよう、堂々とした立ち振舞いで
ここはビシッとキメちゃうよ!
リル・ルリ
🐟迎櫻
《森羅万象、悪逆の都》とド下手な文字で書きキリッと
櫻…カムイ…僕ら3人のすぺしるな必殺技を考える時がきたようだよ
ふふー!カッコイイ必殺技を考えるんだから!
僕?僕の歌は…とうさんが創った歌が殆どだけど
最近はね僕自身で歌を考えたり
カムイも櫻も魂の記憶から引き出しているの?カッコイイね!
三人の合わせ技なんだから!
じゃ、僕は「水想の歌」を
櫻、僕は魔法少女には変身しない
ヨルはやる気だけど僕はならない!
…ヨル、僕の代わりに頼むぞ!
(カグラとカラスまで巻き込んでる…)
よーし!やるぞ!桜の舞台に美しい僕らの愛を紡ぐんだ
どんな呪縛も解けそうだよ
戀歌櫻沫、永劫ノ罸戀─神櫻愛華!
(櫻の次にのりのりで)らぶ!
朱赫七・カムイ
⛩迎櫻
《悪華絢爛、悪逍遥》と悩みながら書き二人へ視線を向ける
成程…必殺技
私達を象徴するものをというのは良い案だ
まるで絆のようだ
二人は斯様に技を考えているんだい?
私は…「思い出した」ものを最適化しているよ
だからまるきり新しいものを考えるのは楽しみだ
では私は願いをむすびあわせ一つと成すように
冀魂ノ祈誓を元にしようか
サヨの桜にリルの歌
之は美しいものになる
サヨ、私が魔法少女など…厄災だろう?
カラスが珍しくいけないと主張をしている
カグラ
授業中に逃亡は悪である
とても強い愛と紲を感じる
どんな呪も祝と変わるよう結ぼう
戀歌櫻沫、永劫ノ罸戀─神櫻愛華!
(二人の後、顔を真っ赤にして照れながら)
と、とりにてぃ……ッ!
誘名・櫻宵
🌸迎櫻
宿題に《春夏秋冬、悪役道中》と書きながら頷く
スペシャルな必殺技ね
思いっきり美しくしたいわ
三人が揃わないと発動しない、技なのよう!
私?私は…魂の裡から咲き綻んだものを具現化しているわ
三つの技が折り重なり一つを象るの
私は艷華を元にしましょ
リルが音楽で
カムイが束ね結んでくれるのね!
完璧だわ
そしてキラキラっと魔法少女に変身し
え?!ダメ?…カラスがそう云うなら
皆絶対かぁいいのに
ヨルはやる気なの
じゃ
ヨル・カグラ・カラスがここでプリティな感じに変身し私達を彩るのよ
掛け声は3人で一言ずつ
赫の閃光と祝福の歌、桜吹雪を合わせ
祝言と成すの
いくわよ!
戀歌櫻沫、永劫ノ罸戀─神櫻愛華!
(初めは私から)エターナル!
●六時間目の合体必殺
いよいよその日の最後の授業が始まる。
夕暮れも近くなった六時間目の少し前。廊下を歩いて教室を目指していくのは五人の少女――ではなく、美少年達。
「さて、次なる舞台だよ。芝居は継続のままで良いかい?」
七結が問うと、ルーチェが確りと頷く。
男性生徒としての大芝居。みんなとこうして過ごしてきた日々と思うと楽しくて仕方がなく、進む足も浮き立つかのよう。
「ああ。これきりなのが惜しいくらいだね」
「ボクはボクのままで構わないよ」
「此度きりの戯れだ。悔いなく往こうか」
ルーシーも七結に頷き、此度だけであると言われたことを少し残念に思う。何故なら少しずつこの心地にも慣れてきていたからだ。
「僕も、勿論。楽しい時間はいくら続いたって良いもの」
メリルもルーシーと同じく、戯れが今回だけじゃなくても良いくらいだと答えた。しかし、終わりがあるからこそ美しいこともある。
たとえば卒業という終わり。
学園生活も永遠に続いてしまえばメリハリがなくなってしまう。
其処に駆けてきた苺は、しんみりしているメリル達を追い越してから七結の傍に行く。
「お芝居なんて思ってるようじゃまだまだだね、皆! 寧ろこういう風にこれが素ってくらいやりきろうよ!」
七結の肩に肘を置いた苺は、スっと悪い顔に早変わりした。
そうだね、と答えた七結は先に進み、件の授業が行われる教室の扉に手を掛ける。
「我々が向かう教室だ。嗚呼、此処の扉を開こう」
「行こう!」
苺が答えると、他の皆も頷きを返した。
七結が開いた扉の向こうへ、少年達は踏み出していく。窓硝子の外から差し込む柔い光が見えた先、其処には――。
櫻宵にカムイ、リル。初等部に居たときと同じ用に制服を着こなしている三人がいた。
五人の到来に気付いたリルはひらりと宙を游いで振り返る。櫻宵とカムイも凛々しい美少年の姿をした子達に視線を向け、穏やかに微笑んだ。
窓際の後ろの方に座っていた三人に対して、七結達も笑みを返す。
「こんにちは! みんなも必殺技を作りに来たの?」
「嗚呼、こんにちは。奇遇だね」
リルと七結の視線が重なり、少し不思議な気持ちが交差した。
メリルとルーシーが櫻宵に会釈をして、苺とルーチェにカムイも手を振った。
女性に間違われる、或いは性別不詳の者達と、少年に扮している少女達。正反対の彼や彼女達が同じ教室に集まったのも何かの縁かもしれない。
ふふ、と笑ったリルは櫻宵達に向き直り、尾鰭を楽しげに揺らす。
「櫻、カムイ! 僕ら三人のすぺしるな必殺技を考える時がきたようだよ!」
これから始まる授業を思い、リルは意気込んでいた。
「成程……必殺技」
「スペシャルな必殺技ね。思いっきり美しくしたいわ」
二人に連れてこられた状態のカムイは、講義の内容を改めて知って納得する。櫻宵は三人が揃わないと発動しない技がいいと語って理想を描き、首肯したリルもチャイムが鳴るのを心待ちにしていた。
「ふふー! カッコイイ必殺技を考えるんだから!」
「私達を象徴するものか。まるで絆のようだ」
少年のように燥ぐ二人を優しく見つめ、カムイは良い案だと頷く。そうして彼は気になったことを問いかけていく。二人は斯様に技を考えているのか、それからどのように力を紡ぐのか、といったことだ。
「私は……魂の裡から咲き綻んだものを具現化しているわ」
「僕の歌はとうさんが創った歌が殆どだよ。最近はね僕自身で歌を考えたりしてる」
「そうか……。私は『思い出した』ものを最適化しているよ」
「カムイも櫻も魂の記憶から引き出しているの? カッコイイね!」
だからまるきり新しいものを考えるのは楽しみなのだとカムイが語れば、リルはわくわくした感覚をおぼえた。
話し出す二人を見た櫻宵は静かに笑み、次に七結達の方に目を向けた。七結も櫻宵達を気にしていたらしく、再び視線が重なる。
猟兵達が暫し歓談を楽しんでいると、其処にチャイムが鳴った。
同時に教室の前の扉がひらき、黒光輪秘密話術教団のシータ先生が入ってくる。
「はあ……連続での授業は厳しいな……と、こっちの話だ」
どうやら複数の教室で講座を担当しているらしく、先生は少し疲れていた。されど彼女も教師の端くれ。教壇に立ったシータ先生は集った生徒を見渡し、話し始める。
「では授業を始める」
凛とした声が紡がれ、其処から黒板にチョークが走る音が響いていった。
●夜に彩めく
必殺技の例が板書されていく中、ルーチェは頬が緩んでいることを感じていた。
「ふふ、必殺技かー」
その理由はやっぱり心が躍ってしまうから。楽しそうなルーチェを見遣り、七結は考えていたことを皆に問う。
「こうして集まっているのだから、五人で一つの技を仕立てるのは如何かな」
「合体技だなんて面白そうじゃない。ボクは賛成だよ」
「皆の力を合わせれば凄い技が出来上がりそう」
ルーシーとメリルが同意を示し、苺とルーチェも首を縦に振った。五人はそれから机を合わせ、七結をお誕生日席と呼ばれる場所に据えての必殺技会議をはじめる。
「ありがとう、愉しく往こうか」
議題は五つの彩を如何にして、どのように技に添えるかどうか。
先ずは提案者である七結が考えていた案を言葉にした。
「俺が添えるのは、留め針とあかい花の嵐さ」
うつくしき乱舞に棘を仕込めばきっと彩りに刺激も与えられる。刺し留まらぬ様に気をつけるといい、と七結はちいさく笑む。
ルーシーはその話を聞きながら、僅かに目を輝かせていた。
「……こういうの、テンション上がるのはオトコノコって聞いていたけれど『ボク』も十分ワクワクしているよ、ふふ」
続けてルーチェとメリルも何の力を使おうか決めていく。
「うーん、ボクは歌を添えようかな」
「僕が出来る事か。愛しの彼ら――羊達の力を借りる事かな」
高らかに涼やかに天が如く歌ってみせて、羊にも少しいつもと違う様子で出てきてもらえば、きっと合わせ技になるはず。其処へ、ふと気付いたルーシーが言葉を挟む。
「合体技なら相応しい名が必要だね」
「名前は……惑ってしまうね。けれども、ひとつ思いついたよ」
「何だい七結」
「なになに?」
ルーシーと七結が語り合う中、苺も興味深い表情をしている。そして、七結は皆にそうっと案を伝えた。
「それぞれの彩を重ね合う。つまり――五彩を添えるに相応しい名前だよ」
「ほう! ステキ……えと、気に入ったよ」
「みんなの彩を取り入れるって素敵だね。決め台詞は格好良くいくのがいい、ってどこかで聞いたから、めいっぱい胸を張って行こう」
ルーチェは凛々しく笑み、苺も頷いて立ち上がった。そうと決まれば善は急げ。
五人は一番目立つ教壇に登る。此処からが合体技の見せ場だ。
「いっちょやってやろうぜ? ――蘭ボス」
苺がそういうやいなや、まわりにガーベラの花弁が舞った。正義の味方はこうして変身するものなのだろうと示した苺は揚々と笑った。
「さぁ! 俺を取り巻く花弁! 俺を超カッコよくしちゃってよ!」
「俺の、そして共にする者たちと夜に咲かす彩を手向けようか」
七結も宣言通りに紅の花の嵐を散らした。
其処に続いて青の花弁を解き放っていくのはルーシーだ。
「これが我らの彩りだよ」
高らかに告げ、クールに決めるルーシーはまさに青担当。
(ふふ、こういうの、日曜朝方のテレビで観たことがあるような)
メリルも五人で肩を並べている今を思い、声に出さずに感想を巡らせる。そうして羊達を前に配置したメリルは、彼らに願った。
「今は可愛いだけの羊じゃないよ。さあ、きみ達の凛々しい姿を見せて!」
「うんうん! いい感じー! いくよ! 兎だって爪も牙も隠してるんだから! 油断してちゃ、即堕ちだよっ!」
苺が賑わしく語り、最後にルーチェが詩を紡ぐ。片目を瞑ったルーチェの声は教室中に美しく響き渡り、まるで色彩を包み込むように巡る。
咲けや咲かせ。
黒に白に百合が狂い咲き、彩はひとつに重なりゆく。
常夜の彩月華獣兎――エバーラスティングナイト・クインテット!
其処に広がったのは文字通りの常世の彩。
そして、舌で転がすだけで楽しくて頼もしい響きの力。
針に花弁に旋律に皆の彩りに溢れたとびきりの一撃だと感じたメリルは満面の笑みを浮かべていた。
四人の声が綺麗に重なる中、ひとりだけ遅れて技の名前を紡いだものがいる。
「えばーらすてぃんぐないと・くいんてっと!!!」
苺だ。
誰かに何かを言われてしまう前に、苺は慌てて弁明をしはじめる。
「えっ、ちょっと遅くて発音が変? う、うるさーい! 長いカタカナはちょっと苦手なのー!!」
「フッ……賑やかな子だ」
その様子を見たシータ先生が可笑しそうに口許を緩めて笑ったことで、ルーシーもくすくすと楽しげに笑いはじめた。
その中でルーチェは少し恥ずかしそうにしている。
「う……慣れてないからちょっと恥ずかしかった、かも。ううん、恥ずかしくない!」
思わず元のルーチェに戻りそうだったが、首を振って何とか留めた。みんながそれぞれに可愛くて格好良くて惚れ惚れしてしまう気持ちの方が今は大きい。
「どうだろう? きまったかな?」
「ビシッとキメられてたよね!」
「お気に召していただけたかい」
ルーチェの後にメリルと七結がシータ先生に視線を向けた。彼女は手にしているボードに何やら評価を書き込みながら、一度だけ頷く。
「ああ、良かったぞ」
きっと最終的な合否が発表されるのは授業の最後。
そうして、五人は優雅に教壇をおりていき――穏やかに微笑みあった。
●桜を想ふ
五人の技が披露される少し前、リル達も必殺技について語り合っていた。
「三人の合わせ技なんだから、いっぱい力を込めるぞ!」
「三つの技が折り重なり一つを象るの。それぞれの得意な力を出すのがいいわね」
ひとつのノートを囲み、ああでもないこうでもないと相談しあう三人は学祭の催しを考えている学生のようにも見えた。
もしも生まれた世界が皆同じで、それぞれの人生が今とは違っていたらこうなったのだろうか。ありもしない想像を巡らせながら、カムイは技を決めていく。
「では私は……願いをむすびあわせ一つと成すように祈誓を元にしようか」
「じゃ、僕は水想の歌を!」
「私は艷華を元にしましょ」
主になるのは桜の舞。リルが音を紡ぎ、カムイがそれを束ねて結ぶ。
きっとこれは美しいものになる。
カムイがそう考えていると、櫻宵が急にキラキラっと魔法少女になっていく。本当に唐突だったのでカグラが二度見するような仕草をした。
「これで完璧だわ」
「櫻、僕は魔法少女には変身しないぞ。ヨルはやる気だけど僕はならないからな!」
リルがぶんぶんと首を振ると、櫻宵はカムイに視線を向ける。
「カムイ……」
「サヨ、私が魔法少女など……厄災だろう?」
流石のカムイも櫻宵を甘やかせなかった。カラスが珍しくいけないと主張をしていることもあり、静かに否定する。まだ櫻宵が何も願っていないというのにだ。
「え?! ダメ? 皆絶対かぁいいのに」
「ヨル、僕の代わりに頼むぞ!」
そして、リルは自分やカムイの代わりにヨルを生贄に差し出した。されどヨルはやる気いっぱいなので大丈夫らしい。
ヨルを手招いた櫻宵は必殺技の手順を考えていく。
「じゃヨルとカグラ、カラスがここでプリティな感じに変身して私達を彩るのよ」
(カグラとカラスまで巻き込んでる……)
「……カグラ、授業中に逃亡は悪である」
リルはもう何も言えず、カムイはヨルを連れて教室を出ようとするカグラを何とか引き止める。が、カラスの協力もあって、カグラはヨルを抱えて逃げ出した。
きゅっきゅうー、というヨルの叫び声が廊下に木霊する。
「あら、プリティ隊は?」
振り付けをノートに記すことに夢中だった櫻宵は首を傾げた。リルとカムイは何もなかったことにしようと決め、静かな思いを重ね合う。
「気を取り直そう」
「そうだね、カムイ」
それから暫し後。
なんやかんやでいい感じに色々がそれなりに決まった。
七結達、五人の技がしっかりと披露されたことで教室内には良い雰囲気が満ちている。
「よーし! やるぞ! 桜の舞台に美しい僕らの愛を紡ぐんだ」
どんな呪縛も解けそうだよ、と意気込むリル。
カムイも息を整え、三人で共に立つ教壇で力を巡らせ始めた。
「とても強い愛と紲を感じるね。どんな呪も祝と変わるよう結ぼうか」
「いくわよ!」
其処に櫻宵の掛け声が響いた。
戀歌櫻沫、永劫ノ罸戀――神櫻愛華!
「エターナル!」
「らぶ!」
「と、とりにてぃ……ッ!」
初めは花が咲くような笑みを湛える櫻宵。次にノリノリのリルが続き、二人の後に顔を真っ赤にしたカムイが照れながら決めの台詞を言葉にした。
其処から赫の閃光と祝福の歌。更には桜吹雪が重なっていく。
三人の力は祝言と成り、神々しさと美しさが広がっていった。ひらりと舞う桜、揺らめく水面を思わせる聲。それを紡ぐ神の力。
見事な三重奏となった力を前に、先生は拍手も忘れて立ち尽くしていた。
「……呪いを解く為の力か」
堕天使として何かを感じたのか、シータ先生が呟いた言葉は誰にも聞かれることはなかったが――その後、彼らに花丸と合格の証が贈られた。
●すべてを終えて
こうしてすべての授業は無事に終了した。
ダークネスクロニクルに触れた者、名乗り口上を得た者、崇高なる思いと意思を重ねて力を解き放った者。
それぞれに過ごした時間も日々もきっと無駄ではない。多分、おそらく。
放課後のチャイムが鳴り響く学内には、次第に静けさが満ちていき――。
やがて、卒業への道がひらかれる。
●校歌完成
「……できました」
上層部の校長室にて、堕天使の少女はひと仕事を終えた。
生徒達から集まった公募の歌詞を繋ぎ合わせたのだ。ふう、と息を吐いた校長先生ことルビー・ジュエルシードは出来上がった歌詞カードを見下ろす。
「なにこれ……」
何とも言えぬ表情をしたルビーは深く考えることをやめた。
そうして、堕天使は新しい校歌をうたいはじめる。
🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵
†† 堕天學園校歌・改 ††
昨日を越えて、黒歴史。
今日も語るよ、口上を。
明日も学ぶよ、邪悪心。
悪華絢爛、悪逍遥。春夏秋冬、悪役道中。森羅万象、悪逆の都。
夢幻の深淵と漆黒の輝き。
どれほど夢を食らおうと、気高き深紅の煌星。
いつか終演を告げる、混沌《カオス》を抱き、
オヤツ時間を守らずに、いたずら一日一時間♪
ひかりの花束、爆☆散!(ピースピース)
世界の果てまで落書きは続くのさ。(夜露死苦!)
我らの名を轟かせ、未来に芽吹けよ惡の華。
悪魔より悪魔らしい、悪事花咲く学び舎。
嗚呼、我らが堕天學園! ~タコヤキカレー・サンクチュアリ~
🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵 🎵
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ルビー・ジュエルシード』
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POW : 弱きを挫く三叉槍
敵より【強い】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
SPD : バッドアップルエリクシル
対象の【身体】に【『赤き宝石』を核とする茨】を生やし、戦闘能力を増加する。また、効果発動中は対象の[身体]を自在に操作できる。
WIZ : フォールダウン・アセンション
【重力を反転させ、空へと万物】を降らせる事で、戦場全体が【空中】と同じ環境に変化する。[空中]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠祭夜・晴也」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●堕天學園の卒業試験
高等部の課題をクリアした猟兵達に卒業試験の知らせが届いた。
試験会場として指定されていたのは上層部の中にある、とても大きな空間。通称、漆黒と暗黒の体育館と呼ばれる場所だった。
其処で猟兵を迎えたのは堕天使の少女。
校長として、この學園に君臨するルビー・ジュエルシードだ。
「悪事と難関を越えて、よくここまで来れましたね。校長としても誇らしい、です」
途切れがちな独特な口調で、ルビーは語る。
この空間ではいくら暴れても構わない。彼女がそういうと、体育館だった場所は漆黒の空間に変化していった。巨大なラスボスの最終形態や悪の秘密ロボットなどでも戦えるフィールドにしてくれたようだ。
ルビーは赤黒の翼をはためかせ、空間の中央に浮かんでいく。
「この漆黒の闇の中で、私を倒してみて、ください」
堕天使は卒業試験のクリア条件を皆に告げた。見た目はただの少女ではあるが、彼女はオブリビオン。一説によるとデビルキング法がまだ無かった時代の生まれらしいが、それは定かではない。
「全員まとめて、かかってきてください。私はとても強いので皆一緒に……いえ、空間が詰まるといけないので、そこそこは個別に戦いますが、とにかく。あなた達が全員で戦って、やっと私と互角、です」
己の強さを示したルビーは三叉槍を構えた。
其処に感じられる静かな気迫は、言葉よりも如実に彼女の実力を物語っている。
それから、ルビーは思い出したように口を開いた。
「そう、でした。この卒業試験は、下層の視聴覚室に集まった生徒達が見て、います」
どうやら不思議なデビルパワーで中継をしているらしい。
無様な姿を生徒に見せたくなければ、格好良く戦えと言われているかのようだ。
猟兵達は感じていた。
校長先生には本気で立ち向かわなければ勝てない。
これから始まる試験という名の戦いは、純粋な力と力のぶつかりあいとなるだろう。
それゆえに慣れぬ悪事は無理にしなくてもいい。何故なら、正義も悪も戦いとなれば等しく格好良いものだからだ。
「……始めましょうか、皆さん。行きます、ね」
堕天使が赤き宝石を核とする茨を巡らせた瞬間、重力を反転させる能力が発動する。
そして――。
漆黒の闇が広がる異空間にて、戦いの幕があがっていく。
エドガー・ブライトマン
卒業試験というのは、これまでの力を全て発揮するやつだろう
なら私も学生として、王子として、真剣に戦おう
この学園の外に私の旅路が続いているんだから!
黒い学生服をバッと取り払って、いつもの白い衣装へ
こちらの方が慣れていて全力を出せるからね
それにホラ…マントが付いていて、かっこいいだろう
悪事はしないさ。元々得意なコトではないし
私の学びは、この学園よりも故郷にあるんだ
“Hの叡智” 攻撃力を重視しよう
剣をかわされないよう、《早業》で間合いを詰めて
相手の攻撃は《激痛耐性》で凌ぐ
ところで
かっこよさって、瞬間に全力を投じるトコロにもあるとおもうんだよね
好機は逃さず《捨て身の一撃》
ほら、校長先生もそうおもわない?
●校長と王子様
初等部からの進級を経て上層部へ。
ちいさな悪を極め、高等授業を受けて――いざ、學園の卒業試験に挑むとき。
「なるほど、これは今までの力を全て発揮するやつだね」
元は体育館のバスケとゴール下だった場所から、エドガーは校長先生ことルビー・ジュエルシードを見つめた。周囲は暗黒空間に変わり果てているので足場が覚束ない。
だが、エドガーは闇を蹴って跳躍した。
「かかってきて、ください」
「分かったよ。私も学生として、王子として、真剣に戦おう。この学園の外に私の旅路が続いているんだから!」
ルビーから呼び掛けられたことに頷いたエドガーは爽やかな笑みを浮かべる。そのまま彼は黒い学生服を一気に取り払い、いつもの白い衣装に戻った。
刹那、暗い景色の中に一陣の白が翔ける。
「あなたは……。噂になっていた魅惑の王子様、でしたか」
「噂?」
「女生徒や、たまに男子生徒までも誑していたそうですね。ワルさレベルが随分と高いと、聞いていました、から」
学生服も似合っていたのに、とルビーが語るとエドガーは軽く片目を瞑る。校長先生は無表情のまま、弱きを挫く三叉槍を掲げた。其処から攻撃が繰り出されるのだと気付いたエドガーは何とか三叉槍の軌道を読む。
「こちらの方が慣れていて全力を出せるからね。それに、ホラ……」
「――?」
「マントが付いていて、かっこいいだろう」
ひらりと身を躱したエドガーは笑みを浮かべる。そうですか、とだけ答えたルビーは三叉槍を構え直した。尚も笑っているエドガーだが、あの槍に当たったときの危うさも感じ取っている。
「次は当てます。ズルでもします、か?」
「悪事はしないさ。元々得意なコトではないからね」
実戦ではあるが、あくまで試験だということも忘れていないらしく、ルビーは一呼吸を置いてから宣言した。どうやら相手は攻撃力を重視しているようだ。
エドガーはレイピアの切っ先を校長先生に差し向けた。
「私の学びは、この学園よりも故郷にあるんだ」
そのことを示す形で彼は深呼吸をする。ルビーが瞬き、エドガーも瞬き返した。そして、校歌の一節を口ずさんだ校長に対して、エドガーは祖国と王の名を心の内で唱える。
――アルブライト。
その名は授業でも披露していた。
教師と生徒として、対照かつ対称的な二人は其々の武器を相手に向ける。ルビーが暗黒の空中を駆け、エドガーが闇の足場を強く蹴った。
槍と剣が交差する。
三叉の槍が一瞬だけ早くエドガーを貫いたが、痛みなど耐えてみせると決めていた。レイピアを鋭く振るった彼はルビーの腕を貫き返した。
「……っ、やり、ますね。でも――」
私の方が強い。
そのように語ったルビーは突き刺していた槍を引き抜く。其処からもう一撃が振るわれようとしており、エドガーは更なる痛みを覚悟した。
しかし、そのとき。
『エドガーくん、右! 右に身体を捻って~!』
何処かから中継されたらしい悪魔のマーくんの声が聞こえた。はっとしたエドガーは無意識のまま言葉の通りに動く。それによって攻撃を避けられたと気付いた彼は静かに笑った。この戦いが終わったら友人に礼を言わねばならないようだ。
「友情のアドバイスといったもの、でしょうか」
「そうだね、ありがたいよ。ところで――かっこよさって、瞬間に全力を投じるトコロにもあるとおもうんだよね」
ルビーが感心しているとエドガーが不敵に笑む。
其処に生まれた好機は逃さず、彼は捨て身の勢いで校長先生の前に飛び込んだ。刺突剣が彼女の身を捉えていき、僅かな血が散った。
「ほら、校長先生もそうおもわない?」
「なかなか、ですね。ですが、まだまだです。もっと遠慮なく行き、ます」
エドガーとルビーの視線が再び重なる。
そして此処から、激しい卒業試験の戦いが巡っていく。
大成功
🔵🔵🔵
ミュゲット・ストロベリー
◎
…ん、この気迫…たしかに只者じゃないわね。だけどミュゲたちは一人じゃないから、みんなと力を合わせてここを出させてもらうわ。覚悟はいい?
…ん、下のクラスに置いてきた子達にカッコ悪い所は見せられないわ。貴方の全力をミュゲの全力を以て倒したい。だから、初めから出し惜しみはなしよ。…ん、一気にいく。
相手のUCには【空中浮遊】と【空中戦】の技能で対応できるわ。第陸術式【神域の叡智】を発動して、自身の封印型魔術回路を解放して【全力魔法】よ。
UCの活動限界が来るまで主武装霊剣ミストルティンによる【衝撃波】攻撃で距離をとって戦うわ。
●叡智は此処に
暗黒に染まった異空間。
元は体育館だった場所の重力は現在、反転している。
「……ん、この気迫と能力……」
ミュゲットは空中でくるりと回ることで平衡感覚を保った。相手は重力を操るとはいっても、問答無用の行動不能にしてくるわけではないようだ。
あくまでこれは試験。そのような姿勢でいるルビー・ジュエルシードは、空中に見えない足場を作ってくれているらしい。
其処に素早く着地したミュゲットは身を翻し、ルビーに視線を向けた。
「さあ、あなたも戦ってください、ね」
校長先生は他の生徒と戦いながら、ミュゲットにも声を掛けてくる。
「たしかに只者じゃないわね」
彼女が扱うのは弱きを挫く三叉槍。王子様らしき猟兵へと向けた槍捌きを見ていたミュゲットは、相手の実力を改めて知った。
されど、それで怖気付くようなミュゲットではない。
「だけどミュゲたちは一人じゃないから、怖くなんてないわ。みんなと力を合わせてここを出させてもらうわ。覚悟はいい?」
「その言葉をそっくりそのままお返し、します。覚悟はいい、ですか?」
双方の眼差しが交錯した瞬間、更に重力が反転した。正確に示すならば斜め四十五度だけ傾いたようだ。術者本人であるルビーは難なく重力の変化に乗ったが、突然に世界の中心を揺らがされたミュゲットはよろめいてしまう。
それでも彼女は何とか均衡を保つために見えない足場を探す。
(あそこに降り立つの……!)
とん、と短い音が空間に響いたかと思うとミュゲットは着地した。
用いたのは浮遊の力と空中戦の技。その近くには下層部の初等部と繋がっているらしき中継画面が見える。どんな原理かはわからないが、映像がいい感じでうまい具合に下層に繋がっているらしい。
体勢を立て直したミュゲットは双眸を細め、決意を抱いた。
「……ん、下のクラスに置いてきた子達にカッコ悪い所は見せられないわ」
ミュゲットは強く誓う。
相手がどれだけ強いとしても、彼女の全力を自分の全力を以て倒したい。先程にちらりと見えた下層の映像の中には友人になったシプシの姿もあった。きっと彼女はミュゲットを応援してくれているはずだ。
「だから、初めから出し惜しみはなしよ。……ん、一気にいく」
――第陸術式、神域の叡智。
脳に施された術式を展開したミュゲットはそれを起動していき、演算速度を強めた。
「術式解放……殲滅モードに移行するわ」
自身の封印型魔術回路を解放されていき、全ての魔力を一気に放つ。
「これ、は……」
神域に達した力を受けたルビーは後ずさった。普段の六倍の力を発揮したミュゲットは遠慮なく校長先生へと力をぶつけていく。
いずれは活動限界が来るだろう。それでも、時間切れが訪れるまでは霊剣ミストルティンによる衝撃波を解き放ち続けるだけだ。距離を取り、真剣に戦いを進めていくミュゲットは少しずつ近付いてくる刻限を数えていく。
そのとき――。
『ミュゲちゃん、校長先生、どっちもがんばれー!』
『ボクはジャムパンの女王を応援する!』
『あたしは校長先生を……ううん、やっぱりストロベリーちゃん!』
シプシの声が響き、続いて別の悪魔達の応援が耳に届いた。その声を聞いたミュゲットは明るく笑み、全力で立ち向かい続ける。
ルビーはそんなミュゲットを赤い瞳に捉えていた。様々な猟兵が一緒に戦ってくれていることを感じながら、少女はミストルティンの力を三叉槍に向ける。
「負けない……!」
やがてミュゲットはユーベルコードの制約である昏睡状態に陥ることになる。だが、意識を失う瞬間に誰かの声が聞こえた気がした。
合格、です。
その声は、きっと――。
裡に浮かんでいく思いを巡らせる前に、ミュゲットの意識は心地良い闇に沈んだ。
成功
🔵🔵🔴
大町・詩乃
校長先生、いえルビーちゃん(自分より年下かなと思うのでちゃん付け)。
それでは行きますよ!
と生徒から猟兵に戻ってUC発動、セーラー服から戦巫女の姿に変身。
UCの飛翔能力で自在に飛び、頭の天冠から(弱めの)光の属性攻撃・範囲攻撃で周囲を広く照らして視界確保。
ルビーちゃんの攻撃は第六感で読み、空中戦・見切りで華麗に回避したり、光のオーラ防御を纏った天耀鏡の盾受けで派手に防いで観客に魅せます。
神罰・破魔の力を宿して眩く輝く煌月を振るいつつ高速移動し、残像を残して幻惑。
煌月を念動力で加速しての、なぎ払い・貫通攻撃で衝撃波を放ち、ルビーちゃんの予測を超える速度と間合いで斬ります。
これで皆さんも卒業です。
●友の応援
体育館から暗黒空間に変わってしまい、重力が反転した領域。
その揺らぎの中で抵抗しながら、詩乃は足元の方に浮かんでいるという状況のルビー・ジュエルシードを見つめた。
「校長先生、いえルビーちゃん」
「はい。ルビー、です」
詩乃が呼びかけると、彼女は背の翼を広げてふわりと移動する。
この学園内では校長先生という目上の存在だが、詩乃は彼女が自分より年下だろうと感じたのでちゃん付けをしたという。
双方の眼差しが重なり、二人は頷きあった。
その瞬間、詩乃とルビーの交戦がはじまる。
「それでは行きますよ!」
「ええ、どうぞ」
もう今は生徒という立場ではない。ひとりの猟兵という存在として立ち向かうことを心に決め、詩乃はその場でくるりと回った。
刹那、セーラー服だった服装が普段と同じ戦巫女の姿に戻る。
これが自分の意思の証だと示し、詩乃は暗闇を蹴った。どうやらこの空間には、見えないだけで足場もある。其処を起点にしてユーベルコードを発動した詩乃は飛翔能力で自在に空間を飛び交っていく。
「この場所に適応、しましたか。いいでしょう」
三叉槍を構えたルビーは詩乃を目で追った。その動きは緩慢に見えるが、必要最低限の動きだけで此方に対応しようとしていることが分かる。
詩乃は相手に捉えられないように暗黒空間を飛び回っていく。その際に頭の天冠から弱めの光を放ち、広範囲に広げていった。
そうすることで自分だけではなく、周囲の仲間の視界も確保する狙いだ。
戦闘空間が広く照らされたことで互いの動きもよく見えるようになった。だが――。
(……速い!)
詩乃はハッとして身を翻す。ルビーが瞬時に自分の隣に現れ、槍を振るったからだ。
既の所で槍撃を躱した詩乃は下方に飛ぶ。
「逃しません」
それを追ってルビーが追走してきた。赤い翼を広げた少女の軌道を読み、詩乃は弧を描いて飛翔し続ける。
巡るのは鋭い一陣の風が吹き抜けたかのような空中戦。
見切って華麗に回避して、逆に躱されるという攻防が激しく続く。直撃しそうになったものは光のオーラでは時期、天耀鏡の盾受けで以て派手に防ぐ。
初等部の教室でこの光景を見ている観客に魅せる為、詩乃は真剣に立ち回った。
そのとき、ふと聞き覚えのある声が耳に届く。
『詩乃ちゃん先輩、いっちゃえー!』
『まだまだここからだよー!』
ノノとスゥの声だとすぐに分かった。彼女達が詩乃と一緒に高等部に進級できなかったことは寂しかったが、今は違う。ひとりきりで戦っているわけではないことがはっきりと理解できている。
それに今は周囲に猟兵の仲間もいるので負ける気などない。
神罰と破魔の力を宿した詩乃は眩く輝く煌月を振るった。三叉槍と薙刀がぶつかりあい、二人は残像を残しながら幻惑の軌跡を描く。
きっとこの姿をノノとスゥも見守ってくれている。故に更に鋭く、疾く――。
「これで皆さんも卒業させます!」
更に煌月を念動力で加速させた詩乃は、一気にルビーに斬りかかる。一閃が堕天使を切り裂き、体勢を揺らがせる。されどルビーはすぐに持ち直した。
「まだ、まだです……」
「ルビーちゃんも流石ですね。ですが、こちらも貴女の予測を超える速度で翔けます!」
「それは楽しみ、ですね」
生徒と校長ではない、オブリビオンと猟兵としての視線が重なる。
薙ぎ払い、打ち据え、衝撃波が巡っていき――そして、戦いは更に続いてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
浮世・綾華
【暁】
まぁ、そーネ
リリンとララン、みてるかしら
きよしの言葉のあとに軽く手を振る
今から俺ときよ…タコヤキカレーがたたか――
(ねじりはちまき……あー、料理か……)
料理をはじめたきよしの傍ら
鍵刀をUCで操って攻撃をはじく
カレー作ってんの?タコヤキ?
うわ、タコヤキカレーだ
校長センセー
校歌にもあるタコヤキカレーだよ
こりゃ食べるしかないっしょ
さんくちゅありだし(適当)
言いつつ自分も遅くならんよにひとつ頂く
変……?
いいじゃん
ねじりはちまき似合ってるよ
変で似合ってる
はいはい、りょーかい
しょうがないからきよしの動きに合わせてやろう
鍵刀を構え駆け、遅くなった隙を狙って攻撃するか
たこ焼きを食べて油断している間に攻撃
砂羽風・きよ
【暁】
卒業試験か…
校長に勝てば卒業出来るんだな!
よっしゃ、綾華!
いっちょアイツらに格好良いとこ見せようぜ!
多分俺達が映っているであろう場所で指差す
リリン、ララン!俺の本気を見やがれ!!
頭にねじり鉢巻き、たこ焼きピックを手に持つ
黄金に光り輝く球をころころと転がし
ふはは、普通のたこ焼きに見えるだろ?
子供も大人も大好物のカレー風味だぜ!!
うわってなんだうわって!旨そうだろ!
こりゃ食べるしかねーよな!
――お、おいおい!俺も映せ!!
くそ!綾華はこんなに格好良いのになんで俺は変なんだ?!
ちくしょー!やってやる!
のぼり旗を構え槍の攻撃を受ける
へへ、俺と綾華の連携だぜ!
綾華ー!今だー!
俺もそのまま攻撃するぞ!
●タコヤキカレーの聖域
堕天使が作りあげた漆黒の闇。
体育館だった場所に広がった無限の空間の中に、モニター画面めいた映像が浮かびあがった。どうやらそれは下層の視聴覚室とリンクしているようだ。
「卒業試験か……。校長に勝てば卒業出来るんだな!」
「随分と力技だよな。悪魔の世界だから別にこれでいいのか」
意気込むきよの隣で、綾華は足場を確かめていた。見えない足場や、体育館の備品らしきものが浮遊しているので移動は困難ではないはずだ。
「よっしゃ、綾華! いっちょアイツらに格好良いとこ見せようぜ!」
「まぁ、そーネ。リリンとララン、みてるかしら」
二人は画面の方を見遣り、其処に映っている生徒達を確かめる。すると丁度いい場面で双子の悪魔達が映った。
「リリン、ララン! 俺の本気を見やがれ!!」
『おー……頑張れー』
『俺達はどっちが勝っても負けてもいーよー』
悪魔達は、ふぁ、と欠伸をして答える。熱烈な応援をしない辺りが二人らしいと感じながら、綾華は軽く手を振った。
「そこは応援しろよ!」
きよは悪魔達のマイペースっぷりを改めて知り、突っ込みながら笑う。
そして、交戦が始まった空間できよは頭にねじり鉢巻きをつけた。それに加えて、たこ焼きピックを手に持つ。
「今から俺ときよ…タコヤキカレーがたたか――」
(ねじりはちまき……あー、料理か……)
ルビー・ジュエルシードに向けて宣言しようとした綾華だが、きよの動きに気づいて言葉を止めた。見る間に漆黒の闇の最中に屋台が建ち、きよは黄金に光り輝く球をころころと転がしていく。
「……この匂い、は――」
ルビーが屋台を見下ろしたことに気付き、きよは二刀流の如く両手に持ったピックを格好良く構えてみせた。
「ふはは、普通のたこ焼きに見えるだろ?」
「カレー作ってんの? タコヤキ?」
横から綾華が屋台を覗き込む。彼にとってはもうお馴染みの光景だ。
「子供も大人も大好物のカレー風味だぜ!!」
「うわ、タコヤキカレーだ」
「わあ……」
「うわってなんだうわって! 旨そうだろ! こりゃ食べるしかねーよな!」
綾華に混じってルビーまでもがちいさな声をあげた。
きよはタコヤキカレーを下層の生徒達にもアピールするが如く、空中の画面に向けて屋台の鉄板を示す。おそらく視聴覚室ではアップになったたこ焼きが映されたはずだ。
「校長センセー、これが校歌にもあるタコヤキカレーだよ」
「……それが、あなた達の戦い方、ですか」
何かを納得したらしいルビーは三叉槍を構える。
綾華は自分までもが屋台の一員だと思われていることに気付いた。俺は店員じゃないとだけ宣言した綾華は、料理をはじめたきよの傍らで鍵刀を構える。
複製した刀を屋台の周囲に巡らせた綾華は、それで以て攻撃を弾く所存だ。
「こりゃ食べるしかないっしょ。さんくちゅありだし」
「ほらよ、第一弾完成だ!」
適当なことを言いながら、綾華は出来上がったばかりのカレーたこ焼きをきよから受け取った。自分も遅くならないようにひとつを口に放り込み、綾華はルビーにもたこ焼きを勧めてみる。
だが、ルビーはふるふると首を横に振った。
「今の私は、甘いものが食べたい気分なので……」
たこ焼きを受け取らなかったルビーは、自分の速度が遅くなることも理解していただろう。だが、それ以上に自分の力に自信があるようだった。
「発動――バッドアップルエリクシル」
たこ焼きよりも林檎をどうぞ、と少し冗談交じりに告げたルビー。其処から解き放たれた赤い宝石の茨がきよと綾華を包み込もうとする。
茨は此方の動きを自由に操る力を持っているらしい。もしきよがあの茨に捕らえられれば、甘いたこ焼きとカレーを作らされるかもしれない。
「させないよ、校長センセー」
されど即座に綾華が鍵刀で茨を斬り裂いた。
屋台の中にあった調味料を見遣り、練乳タコヤキカレーなど御免だと呟いた綾華。刀を絡繰る凛々しい姿は大写しになって中継されているようだ。
『綾華さんってかっこいい……!』
『ファンになっちゃいそう!』
そのとき、画面の方から女子生徒の黄色い声が響いてきた。
「――お、おいおい! 俺も映せ!!」
綾華ばかりがクローズアップされていると知ったきよはピックを大きく振る。
茨を切り裂き続ける綾華と、タコヤキカレーを作り続けるきよ。何処からどう見ても綾華の方が格好良い。
「くそ! 綾華はこんなに格好良いのになんで俺は変なんだ?!」
「変……? いいじゃん。ねじりはちまき似合ってるよ」
「そうです、ね。屋台の店員さんとしてはばっちりではない、かと」
「そーね、変で似合ってる」
「はい、変ですが、初等部の子達は食べたそう、です」
友人との落差に悩むきよに向け、綾華とルビーがフォローを入れる。あくまで戦いの事として触れないのは二人のささやかな優しさだ。
しかし校長の言う通り、リリンやラランをはじめとした悪魔の生徒達は屋台が映されることを心待ちにしているようだ。
『あれ、食べてみたいね』
『いいなー。校長先生もひとつ貰えばいいのに』
『試験が終わったら、タコヤキカレーにたこ焼き作ってもらおうよ!』
『賛成!』
『わたしもさんせーい!』
悪魔達がわいわいと話す声が中継越しに聞こえてきた。されどそれらはきよ自身ではなく、たこ焼きへの感想だ。
「ちくしょー! やってやる!」
屋台の横に飛び出したきよはのぼり旗を構えた。
其処に降下してきたルビーの槍の攻撃を受け止め、きよは得意気に笑む。その動きに合わせて綾華が鍵刀を巡らせ、それを避けたルビーを後ろに下がらせた。
「なるほど……タコヤキカレーだけが能ではないようですね」
「へへ、これから始まるのは俺と綾華の連携だぜ!」
ルビーへと真っ直ぐな視線を向け、きよは旗をくるくると素早く回した後に決めポーズを取る。必殺技講座に出ても良かったかもな、と自負するきよは乗りに乗っていた。
そのうえ、ルビーの動きは通常よりも遅くなっている。
「綾華ー! 今だー!」
「はいはい、りょーかい」
合図を送ってきたきよに頷き、綾華は手にした鍵刀を構えて駆けた。遅くなった隙を狙って一閃。身を翻そうとしたルビーの翼を斬り裂いた刃は、まるで辺りの闇ごと祓っていくかのような見事な動きだった。
其処に続いて、きよがのぼり旗を横薙ぎに振り払う。
「……!」
「どうだ、校長!」
「どーかな、センセー」
二人の連撃をまともに受けたルビーが空中でよろめいた。鍵と旗を交互に見遣った彼女は双眸を薄く細める。
「ああ、わかりました。これこそが――」
タコヤキカレー・サンクチュアリ。
校歌の一節にもなった言葉を紡いだ校長先生は二人の実力を認めたらしい。その証として、ルビーはやむを得なくたこ焼きを口にすることになった。
「本当は甘いものが良かったのです、けれど……」
「甘口のカレーだから大丈夫だ!」
「センセー、美味い?」
「……はい」
暫しの休戦。その後に身構え直す三人。
そうして此処から、更なる戦いとタコヤキカレーの攻防が巡っていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
三上・桧
◎
宿題? 提出しましたよ。マーくんさんに
校長先生、校歌作りお疲れさまです
とても良い校歌ですね
校長先生の能力が諸々3倍になるのでしたら、こちらはロケットランチャーを多連装ロケットランチャー(自走式)に変形し、攻撃回数を5倍にしましょう
代わりに射程を半分に
元々射程はkm単位ですので、半減しても大して問題ありません
後は結界術で結界を張って身を守りつつ、ロケランで攻撃です
校長先生の気遣いのおかげで、体育館は吹き飛ばさずに済みそうですね
ところで、卒業したら卒業証書などはいただけるのでしょうか?
あのワニ革風の筒に入ってるタイプ
『心の底からどうでもいい』
●卒業証書は後日発送します
「タコヤキカレー・サンクチュアリ……」
他の生徒、もとい猟兵と戦うルビーがふとした瞬間に校歌の一節を口にした。
「校長先生、校歌作りお疲れさまです。とても良い校歌ですね」
おそらく先に戦っていた者の影響だろうと感じながら、桧は静かに頷いてみせる。
自分が角の悪魔のマーくんに提出を託した宿題が、見事な校歌の最後を飾る歌詞になったことが何だか不思議だ。
ちなみに桧がマーくんと仲良しになったのは、爆走猫又で彼を轢いてしまったことで交流が出来ていたからだ。後に彼に会いに行ったとき、「師匠と呼ばせてください!」という願い出が桧に向けられた。
そして、勝手に弟子になったマーくんは、桧が提出しようとしていた宿題をかわりに出すという小間使いや舎弟的な役を買って出たのだ。
そんなわけで、堕天學園の校歌はサンクチュアリで締め括られることとなった。
という話はさておいて。
校長先生はひとりずつの力を確かめるためなのか、これまで戦っていた猟兵をひらりと躱して桧の元まで飛んできた。
「ちゃんとした校歌斉唱は、まだ先です。さあ――かかってきて、ください」
ルビー・ジュエルシードは桧に視線を向けた。
紅と黒が混じる翼を広げ、赤い瞳に桧を映したルビーは三叉槍を構えている。対する桧は漆黒の闇の中で身構え、視線を受け止めた。
先程から様子をうかがっていたが、ルビーの力は何倍にも跳ね上がるようだ。
その攻撃に対抗するために桧が考えたのは――。
「校長先生の能力が諸々倍になるのでしたら、こちらも考えがあります」
そういって桧はロケットランチャーを自走式かつ多連装に変形させ、攻撃回数を五倍にする戦法を取っていく。
どう見ても変形というレベルではない、と突っ込む役割の火車さんは現在、闇の端っこでのんびり寛いでいる。猟兵と堕天使の戦いを観戦する特等席だ。
火車が安全な場所にいることを確かめ、桧はロケットランチャーを相手に向ける。
代わりに射程を半分にしたが問題はない。
「それで、いいのですか?」
「大丈夫です。元々射程はキロ単位ですので、半減しても大して問題ありません」
特にこの元体育館でならば余るくらいだ。
桧は心配は無用だとルビーに答えながら、自分のまわりに結界を張り巡らせた。身を守りつつ、桧はロケットランチャーによる攻撃を解き放っていく。
本来ならばこの建物ごと破壊するような威力のものだが、異空間となった此処でならば遠慮なく力を振るうことが出来るだろう。
「校長先生の気遣いのおかげで、体育館は吹き飛ばさずに済みそうですね」
「おもいきり戦えないことは、不便ですから、ね」
其処から戦いは巡る。
ルビーの三叉槍が迫って危ういときもあったが、桧も果敢に立ち向かった。そんな中で桧は気になったことを問いかけてみた。
「ところで、卒業したら卒業証書などはいただけるのでしょうか?」
あのワニ革風の筒に入ってるタイプ、と身振り手振りで形を示した桧。対するルビーはこてりと首を傾げ、いま気付いたという仕草をした。
「ごめんなさい、すっかり忘れていました」
「そうですか。残念です」
僅かにしょんぼりとしたルビーを見るに、どうやら証書は用意されていないらしい。
『心の底からどうでもいい。早く決着を付けてしまえ』
すると火車が後方から声を掛けてきた。
わかりました、と答えた桧は更にロケットランチャーを走らせていく。激しい轟音と爆発音、そして――立ち上る煙。それも五倍。
次第に激しくなる戦い。その様子を眺めながら、猫又はぱたぱたと尾を振っていた。
大成功
🔵🔵🔵
百鳥・円
【まる】
あっはは、おかしな歌詞の校歌!
おにーさん口ずさんでみたらどーです?
ちゃあんとわたし達の歌詞も反映されてますよう
なーに言ってるんだか
まどかちゃんだって大真面目じゃあないですか
なかなか楽しいひと時だったと思うんですけどねえ
残念ながらおにーさんは違うよーです
……ぷ。恥ずかしいだなんて
なかなか可愛いところもあるんですねえ
校内は煙草禁止でーーす
まあ、怒られるも何もってカンジですけど
面倒ならちゃっちゃと終わらせてくださーい
こちらもサクッと済ませますので
よろしくどーぞですよう
と、いうことでルビー校長先生
とびきりの卒業証書くださいね?
ぱきっと氷蝶で足元を固めて
おにーさんが動きやすいよーにしますよーっと
ゼロ・クローフィ
【まる】
最後は校長のお出ましか
お前さんと違って真面目そうな校長だなぁ
もう悪戯も変な台詞や校歌もいいだよな?
ったく面倒くさいし恥ずいし何で俺が
わーらーうーな
イライラとタバコの吸う数が増える
あぁ?ここは悪の学校だろ?
タバコなんて可愛いもんだ
全力で戦えねぇ
いいじゃねぇか俺はそっちの方が性に合ってる
お前さんも…まぁ、お前さんはどちらでも全力でやりそうだけどな
はいはい、さっさと終わらせるよ
お前さんも手加減無しでやれよ
終わったら甘いもん付き合え
黒狼煙
吸ったタバコの数だけケルベロスは敵に牙をむく
●蝶と番犬
「最後は校長のお出ましか」
「あっはは、それにしてもおかしな歌詞の校歌!」
発表された校歌・改を思い出した円はゼロの隣でころころと笑っていた。暗黒の空間となった体育館の中でも円のペースは変わらず、自由に過ごしている。
「ほらほら、おにーさん口ずさんでみたらどーです? ちゃあんとわたし達の歌詞も反映されてますよう」
「もう悪戯も変な台詞や校歌もいいんだよな? ったく面倒くさいし恥ずいし何で俺が」
円からからかい混じりの言葉が向けられ、ゼロは軽く項垂れた。
「……ぷ。恥ずかしいだなんてなかなか可愛いところもあるんですねえ」
「わーらーうーな。それよりも、お前さんと違って真面目そうな校長だなぁ」
「なーに言ってるんだか。まどかちゃんだって大真面目じゃあないですか」
それから、円は空間の上を見上げた。其処には別の猟兵と交戦するルビー・ジュエルシードの姿がある。
どうやら各生徒の実力をみるために、ある程度は個別に戦うつもりのようだ。
「これまでも、なかなか楽しいひと時だったと思うんですけどねえ、残念ながらおにーさんは違うよーですね」
「…………」
苛立ちをあらわにしたゼロは煙草を手にした。こうなると自然に吸う数が増えるとは彼の談だ。そのことに気付いた円は軽く双眸を細める。
「校内は煙草禁止でーーす」
「あぁ? ここは悪の学校だろ? タバコなんて可愛いもんだ」
「まあ、怒られるも何もってカンジですけど」
「めんどくせぇな」
ゼロが気怠そうに煙草を吸っていると、ルビー・ジュエルシードが二人の方に目を向けた。これは卒業試験なのだから戦って欲しい、という意思を見せている。
「試験が面倒なら、辞退しますか?」
「このままじゃ全力で戦えねぇ。ま、俺はそっちの方が性に合ってるが」
「そうですか」
ルビーは淡々と問いかけ、静かに納得した。
次は自分達に攻撃が向くと察した円はくるりとその場で身を翻し、身構える。
「面倒ならちゃっちゃと終わらせてくださーい」
ほら、とゼロを呼んだ円は、自分は辞退などしないとルビーに告げてから獄双蝶の力を紡いでいく。漆黒の闇に包まれた周囲に火炎と氷結の彩を宿す蝶が浮かびあがった。
「貴女の方はやる気のよう、ですね」
「こちらもサクッと済ませますので、よろしくどーぞですよう」
「はいはい、さっさと終わらせるよ」
ルビーと円、ゼロの意思が其々に交錯する。
「ええ、よろしくお願いします」
「と、いうことでルビー校長先生。とびきりの卒業証書くださいね?」
校長と生徒。否、オブリビオンと猟兵としての意思と視線が重なった。ルビーははたとして、首を緩く横に振る。
「実は、卒業証書を用意するのを忘れて、いて……」
「あーあ、残念ですねえ」
「卒業なんて、今までも誰もしていませんでした、から」
ルビーと円が言葉を交わす間も蝶は戦場に舞っていく。どうやら校長が証書の存在を忘れていたのは、誰も自分を倒すことなど出来ないと考えていたからのようだ。
「それはどーでしょーか?」
不敵に笑む円は挑戦的な眼差しを校長先生に向けた。
その間にゼロは煙草を吸い続け、黒狼煙を呼び起こしていく。
「お前さんも……まぁ、お前さんはどちらでも全力でやりそうだけどな。お前さんも手加減無しでやれよ」
「はいはーい、わかってます。そちらもお気をつけくださいねえ」
ゼロからの呼び掛けに答えた円は、氷蝶の力を空間に集わせた。周辺には見えない足場があるらしく、其処に氷を宿すことで指標を作る。
氷の上に立ったゼロがしかと体勢を整えたことを確かめ、円は次に炎の蝶をルビーに向けていった。
「赤い瞳に炎の色、きっとお似合いですね」
「それは、どうも。ですが……血の色の方があなた達には似合います、よ」
抑揚のない声で返すルビーは三叉槍を振るってくる。それを受け止め、身体に響く痛みに耐えた円はゼロに合図を送った。
「おにーさん、今です!」
「終わったら甘いもん付き合え」
「わかりましたよう」
円は更にぱきっと氷蝶で足元を固め、ゼロが動きやすいように道を作っていく。
すると其処へ、ゼロが口から吐く煙から獄黒炎や狂牙の術を操る悪魔・黒狼ケルベロスが現れた。円が作ってくれた氷の足場を伝って駆けていった黒狼煙は、ゼロが吸った煙草の数だけ敵に牙を向く。
一本目を吸い終われば一体。二本目を終えれば二体となる。
「地獄の犬がお前の首を噛み殺す」
――ベーゼ・ケルベロス。
ルビーに向かっていく地獄の番犬は容赦なく飛びかかった。
其処に幾重もの蝶々が飛び交い、戦場は鮮やかに煌めくひかりで満たされていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティエル・ティエリエル
◎ミフェット(f09867)と一緒に卒業試験だ!
卒業試験でこーちょー先生をやっつける!?
あわわっ、これがこーないぼーりょく! 卒業に相応しい特大のワルだよ、ミフェット!
とりゃーと背中の翅で羽ばたいて空中から襲いかかるけど、こーちょー先生強い!
レイピアを構えて全速力で突っ込むけど躱されちゃった!
むむむー、もっと早く飛ばなきゃだね☆
それじゃあ、ミフェットと一緒に練習した合体技でいくよ♪
びよーんと伸びたミフェットの髪の毛に掴まって……
全力姫君流星弾丸――トーシュ・ルデビト・マサメーヒ!
どかーんと飛び出してそのまま捨て身の【妖精の一刺し】でこーちょー先生に体当たりだ♪
ミフェット・マザーグース
◎ティエル(f01244)と一緒に
オブリビオン!……うぅん、これは卒業試験
お世話になった学校へのお返しに、せいいっぱい倒して卒業しよう!
この学園で学んだことで倒すのが、この学園と先生たちへのお礼の気持ち!
校長先生にとびかかるティエルにアイコンタクト、必殺技の準備をするよ
全速力で突っ込んだティエルが校長先生に躱されたら、髪ですかさずキャッチ!
校長が体制を整える前に、ドーン!するよ
UC【バウンドボディ】
髪の毛をのびーる触手に変えてパチンコ弾みたいにティエルを射出する必殺技!
ミフェットのかみのけ、げんかいまでふんばって……いくよティエル!
限界伸長射出機構(リミテッドエクステンド・カタパルト)!!
●合体☆全力必殺技
漆黒と暗黒の体育館にて。
その名の通りの空間に変異した闇の中でティエルとミフェットはそれぞれの反応を見せ、空間に適応しようとしている。今、この場所ではルビー・ジュエルシードこと校長先生の力によって重力が反転していた。
「卒業試験でこーちょー先生をやっつける!?」
「オブリビオン! ……うぅん、これは卒業試験」
翅を羽ばたかせながら重力に従っていくティエルと、見えない足場に着地して何とか均衡を保つミフェット。二人ははぐれてしまわないように寄り添いながら、暗黒空間を飛び交う校長先生の気配を探っていく。
「あわわっ、これがこーないぼーりょく!」
「ぼ、暴力?」
「だいじょうぶ! 卒業に相応しい特大のワルだよ、ミフェット!」
ティエルの発言に少し驚いてしまったミフェットだったが、すぐに続けられた言葉にはっとした。今は自分達だけのための戦いではない。下層の生徒達に戦いが中継されているとも聞いたので、怖気づいてはいられない。
「お世話になった学校へのお返しに、せいいっぱい倒して卒業しよう!」
「うん! いっくよー!」
ミフェットが次の足場にジャンプすると同時に、ティエルがレイピアを抜き放つ。二人の存在に気付いたルビーは翼を広げ、迎え撃つ体勢を取った。
「次はあなた達、ですか」
来なさい、と短く告げたルビーは力を紡ぎ始める。
――バッドアップルエリクシル。
空中に現れた赤い宝石が輝いたかと思うと、突如としてミフェットとティエルの身体に茨が生やされていった。
「わあっ、なにこれ!? 茨が翅に……!」
「ティエル!」
動きを制限されたティエルが闇に落下していくことに気付き、ミフェットが身体を伸ばした。自分を捉える茨からするりと抜け出したミフェットはティエルをキャッチする。
「危なかった……。ありがとう、ミフェット!」
「平気? 操られる前に茨を取ろう」
「この赤い核を砕けばいいのかな? えいっ!」
ミフェットに支えられながら、赤い宝石を剣で真っ二つにしたティエルは再び飛べるようになった。そして、少女達は校長先生を見据える。
今度はこっちの番だと宣言したティエルはレイピアを鋭く構えた。
「とりゃー!」
「真正面から来ますか。いいでしょう」
勢いに任せて一気に空中から襲いかかったティエルだが、ルビーは三叉槍で刃を受け止める。自分で強いと言っていた通りに彼女は強いようだ。二撃目を叩き込もうとするティエルだが、次はひらりと躱されてしまった。
「こーちょー先生強い!」
「それが全速力、でしたか?」
「そうだけど……むむむー、もっと早く飛ばなきゃだね☆」
ティエルはふと気付き、ミフェットの元に素早く戻っていく。親友が何を考えているのかが分かり、ミフェットも身構えた。
その様子を中継越しに見ていた悪魔の生徒達がざわつく。
『あの子達、何かするのかな?』
『きっとすごい技だよ! わくわくするね!』
その声は今、戦場にいる猟兵達にも伝わってきている。あの期待に応えたいと考えたミフェットは強い気持ちを抱いた。
「この学園で学んだことで倒すのが、この学園と先生たちへのお礼の気持ち!」
「そうだよ! ボクたちの学園生活は学びでいっぱいだったからね☆」
ミフェットとティエルは頷きあう。
そして、再び校長先生に飛び掛かろうと狙うティエルにミフェットがアイコンタクトを取る。先程に全速力で突っ込んだティエルは既に校長先生に躱され、勢いを殺さぬままミフェットに近付いてきていた。
ミフェットは髪ですかさず彼女をキャッチして、校長が体勢を整える前に動く。
「それじゃあ、ミフェットと一緒に練習した合体技でいくよ♪」
「うん、ドーン! ってするよ」
ティエルはびよーんと伸びたミフェットの髪の毛に掴まり、あの教室で行った必殺技を発動していく。今こそ実戦での実践のときだ。
「ミフェットのかみのけ、げんかいまでふんばって……いくよティエル!」
「任せて!」
全力姫君流星弾丸――トーシュ・ルデビト・マサメーヒ!
限界伸長射出機構――リミテッドエクステンド・カタパルト!
それはあの時と寸分違わぬ二人の必殺技。
ミフェットが射出したティエルはスピードに乗ってどかーんと飛び出していく。そのまま捨て身の勢いで、妖精の一刺しを放ったティエル。
「……!」
「やった、命中!」
「どうだ、こーちょー先生♪」
見事な合体技をまともにくらったルビーがよろめく。苦しそうな様子を見せた校長先生は、すごいですね、と褒めてくれた。
中継されている視聴覚室からも拍手が響き、少女達は微笑みを交わす。
これできっと合格のはず。
二人は各々に身構え直し、此処から更に続く戦いへの思いを抱いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水桐・或
空中戦か、やりづらい……っ
体育館なら色々な道具があるだろう
略奪の腕の吸着力で宙に降っていく跳び箱なんかの道具に張り付き、移動の基点にする
しかし、片腕が塞がっている状態じゃまともに闘えない
窮地の助けになるのは友達から"奪った"力
学校で塗って貰ったネイル
そこから"固まり"、爪に"貼り付く"性質をUCで獲得
これで空に落ちる道具でも、壁でも、今は天井になっている床にでも貼り付いて移動できる
身体の操作を奪われるなら固める性質で自分の動きを止めて防ぐ
ありがとう、ルカさん、ディアさん
僕は奪うだけで何も返せなかったけど、せめてオブリビオンという驚異だけはここから奪っていく!
隙をついて紫爪の一撃を突き立てる
●確かな友情
空間の重力が反転する。
揺らぐ世界の最中、或は身を翻した。対する校長ことルビー・ジュエルシードは堕天使の翼を広げて悠々と空間を舞っている。
「空中戦か、やりづらい……っ」
或は周囲を見渡し、何か手立てはないかと考えた。
今は見えない足場に何とか乗っている。辺りには同様に幾つかそういった足場があり、ある程度は戦えるようになっているらしい。
だが、もし何もないところに踏み出してしまえば闇に落下することになる。
(そうだ、体育館なら――)
きっと色々な道具があるはず。先ず浮遊している跳び箱を見つけた或は、略奪の腕の吸着力で宙に降っていくそれらに張り付いた。
これで移動の基点は出来た。
されど片腕が塞がっている状態ではまともに闘えないとも感じている。
幸いにもルビーは他の猟兵に気を取られていた。その隙を使って、或はどうすれば上手く戦えるかを考察していく。
そのとき、或の中に初等部で過ごしたときのことが浮かんだ。
この窮地の助けになるのは友達から“奪った”力だ。教室で塗って貰ったネイルの色彩はまだ彼の爪に宿っている。
或はそこから、固まる性質と貼り付く性質をユーベルコードで獲得した。
彼は頷き、これで良いと感じた。
空に落ちる道具でも壁でも、今は天井になっている床――そういったところにあたる闇の空間にでも貼り付いて移動できるはずだ。
しかし、その瞬間。
「そちらにもいましたか。さあ、力試しをしてあげます」
ルビーの声が響いたかと思うと、解き放たれた赤い宝石から茨が生み出された。それは或の身体を絡め取り、操ろうとしてくるものだ。
「身体の操作を奪われるなら――」
固める性質で自分の動きを止めて防ぐだけ。
或は果敢に抵抗する。それでもルビーの力は強く、気を抜けば操られてしまいそうになった。だが、其処に聞き覚えのある声が響く。
『アルちゃん! 負けないで!』
『最初はびっくりしましたが、性別なんて関係ないです!』
『そうだよ、わたしたちは友達だからっ!』
デビルパワーで下層の視聴覚室と繋がっているという画面から、悪魔の少女達の応援が届いたのだ。或は押し負けそうになっていたが、その声から力を貰えた。
気を取り直した或は茨に爪を突き立てる。
それによって細い茨が砕け散り、操作の力は打ち払われた。
「ありがとう、ルカさん、ディアさん」
『どういたしまして!』
『アルちゃん、格好良いところ見せてね!』
中継越しにアルカディア隊の言葉が交わされていく。
画面の向こう側には、あの日々に見たものと同じ少女達の笑顔があった。
「僕は奪うだけで何も返せなかったけど、せめてオブリビオンという驚異だけはここから奪っていく!」
奪うという言葉には悪い意味だけが込められているわけではないのだから。
或は決意を抱き、ルビーへと向かっていった。
そして――次は茨ではなく相手に紫爪を突き立てる。その一撃は堕天使の身を深く貫く。それは戦いの終わりを導く一手として、確かなものとなって巡っていった。
大成功
🔵🔵🔵
コッペリウス・ソムヌス
同行:ロキ(f25190)
これから最後の試験かぁ
小さな悪事でラクガキしたり
授業で黒歴史を作ってみたり
学園生活ってのをしてみたけれど
今の状況も何かに似てるような気がして
……あぁ、卒業式ってやつかな
校歌斉唱は気分が乗れば
UCで召喚した黒蛇の獣を嗾けながら
校長先生には聞きたい事があってねぇ
どうして学園なんか作ったんだろう、って
キングを目指すなら普通に悪事はするだろうし
その次には高等授業を教えて
最後にはこうやって挑む機会まで与えてる
成長していくのを見届けたかったのか、
いつかは越えられたかった、とか?
本当のところは何でもいいけど
似たようなもの同士で戯れあって
……案外、学生ごっこも悪くはなかったのかも
ロキ・バロックヒート
コッペくん(f30787)と
卒業式?あれだよね校歌斉唱したり?
よーし出来立ての校歌うたっちゃう?
ほんとにノリノリで歌いつつ
身体は操られてえーいってコッペくんに殴りかかりながら
【魂砕き】の狼のような獣が校長先生に不意打ちに行く
不意打ちもワルなら同士討ちもワルじゃない?なんて
在校生たちに身体を張ったワルを見せ付けつつ
ふーんコッペくんはその辺気になるんだ
俺様むしろあの授業で卒業試験受かるかっていったら
一生受からない気がしてるんだけど
最後は実力試験だもんね
ワルには強さも必要ってことかな
でも初等部は入り浸る子がいるぐらい
居心地良さそうだし…
まぁいい子ばっかだったし楽しかったよ
もうちょっと遊んでも良いかも
●校歌斉唱は少しだけ
漆黒の闇が揺らめいては反転する。
コッペリウスとロキは見えない足場に飛び乗り、空間内に難なく適応しながら堕天使と猟兵が戦う様子を眺めていた。高みの見物ならぬ神の見物だ。
ロキは足場に屈んで座り込み、コッペリウスは立ったまま頭上を振り仰ぐ。
「これから最後の試験かぁ」
ブレザーと学ランを着てみたり、小さな悪事としてラクガキをしてみたり、授業で黒歴史を作ってみたりと様々なことをした。ついでにロキとコッペリウスは宛てがわれた寮室での同室生活も経験していた。
ある程度のそれらしい学園生活をした感想は、何だか不思議だというもの。
今の状況も何かに似てるような気がしてコッペリウスが首を傾げると、ロキが思い付いた言葉を口にした。
「卒業式? あれだよね校歌斉唱したり?」
「……あぁ、卒業式ってやつかな」
「よーし出来立ての校歌うたっちゃう?」
「気分が乗ればね」
コッペリウスは控えめだったが、ロキは歌詞カードを取り出して口ずさみはじめる。
「ふふんふーん、爆☆散!」
「……ピースピース」
ロキが適当に歌い、コッペリウスが合いの手代わりのコーラスを入れた。その声を聞き付けたのか、ルビー・ジュエルシードの意識が二人に向く。
「校歌斉唱にはまだ早い、です」
ルビーは赤い翼をはためかせ、その場で三叉槍を振るった。
その途端、コッペリウスとロキの周囲に赤き宝石が現れ、それを核とする茨が絡みついていった。情念の獣を召喚したコッペリウスは即座に茨を避けたが、ロキは特に抵抗せず、茨に操られるままに立ち上がる。
「あーあ、操られちゃった。頑張ってねコッペくん」
えーい、なんていう軽い掛け声と共にロキはコッペリウスに殴り掛かった。だが、それも彼が軽く躱してくれると分かっていたからだ。
コッペリウスは軽く頷きながら身を翻し、ロキがいる足場から跳躍した。
「校長先生には聞きたい事があってねぇ」
それと同時に黒蛇の獣を嗾けたコッペリウスはルビーを見つめる。なんですか、と答えた彼女に向けてコッペリウスは問いかけた。
「どうして学園なんか作ったんだろう」
「ここは、最初から学園マンションとしてあった場所、でした。名前がなかったので、私が名付けました、が」
ルビー・ジュエルシードは語る。
この場所は元より違法学園だった。大家という名の校長もどきはいたが、悪魔は自由に暮らしているだけだったらしい。悪事も行わず、入学したという事実だけで悪いと思っている生ぬるい生徒ばかり。
この場所を見つけたルビーは自分が校長を買って出ることでこの場所をもっと学園らしくしたかったという。
「キングを目指すなら普通に悪事はするだろうし、効率が悪くない?」
「私はデビルキング法が出来る前の生まれ、ですから」
コッペリウスが更に問うと、ルビーはふるふると首を振った。悪事らしいことは推奨するが固執するつもりはなく、いずれはそうなればいいという考えらしい。
ルビーはロキを見遣り、茨で操っていく。殴り掛からせることは止めたルビーはロキに拳法の格好良い構えを取らせたり、流行りのアイドル的なダンスを踊らせていた。どうやら彼女なりの悪い事がそれらしい。
「へー、面白いね」
ロキは校長先生が語ったことに感心する。もちろん操られても抵抗はしていない。ロキの自由さに軽く肩を竦め、コッペリウスはもうひとつの疑問を言葉にしていく。
「次に高等授業を教えて、最後にはこうやって挑む機会まで与えてる。どうして?」
成長していくのを見届けたかったのか。
それとも、いつかは越えられたかったのか。
彼が問う言葉にも耳を傾けたロキは、成程ね、と頷く。
「ふーん、コッペくんはその辺が気になるんだ。俺様、むしろあの授業で卒業試験受かるかっていったら一生受からない気がしてるんだけど」
そうして最後は実力試験。
荒唐無稽だが、ワルには強さも必要だということだと認識している。それに初等部も入り浸る子がいるぐらいに居心地が良さそうだ。悪いところもあるが良くもある。これも彼女がデビルキング法が出来る前に生まれたという所以なのだろうか。
すると、ルビーは口許に人差し指を当てて答える。
「その方が面白いから、です」
「そっか。まぁオレも本当のところは何でもいいけど」
ルビーとコッペリウスは視線で語りあった。
ロキはその瞬間を狙い、魂砕きの力を巡らせる。これまで茨に抵抗しなかったのは狼めいた獣を不意打ちで解き放つためだ。
黒蛇と狼。二人が繰り出す獣の一撃がルビーを貫く。
「……っ! いつの間に」
「校長先生、油断してたでしょ?」
ロキは茨を引き裂き、相手の支配下から逃れた。
それを中継で見ていた初等部の悪魔達が、わあっと歓声をあげる。
『ロッキとコッペ、いいぞー!』
『がーんばーれっ! ふぁいとー、おーっ!』
声援は毎日挨拶を交わす仲だったククアのものから始まり、クラスメイトだったり知らない悪魔だったりと様々だ。
在校生達に身体を張ったワルを見せ付けたロキは軽く歌う。
「ピースピース」
「……夜露死苦」
コッペリウスも校歌の一節で以て返事をしていき、悪魔達がどっと笑った。其処から更に戦いは続くが、二人とも負ける心配などはしていない。
跳躍したロキは闇の最中の足場に移動する。其処で互いに背を預けあった神は、其々の獣と共に迫りくる茨を散らしていった。
「似たようなもの同士で戯れあって……案外、学生ごっこも悪くはなかったのかも」
「まぁいい子ばっかだったし楽しかったよ。もうちょっと遊んでも良いかも」
ひとまず、色々と考えるのは試験をクリアしてから。
二人の神は翼を広げた校長先生を真っ直ぐに見つめ、微かな笑みを浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
【花束】
◎
めんきょかいでんっ
したいしたいっ
せんせい、よろしくおねがいしまーす
わたしもクッキーたべたい
あーん
ふふ、アニーもたべてる
おそろいだ
わあ、クレナイきれいっ
みんなを思わせる花に綻ぶ
わたしも、さっき作ったひっさつわざっ
――は、こうげきじゃないからええと
クレナイが必殺技につけてくれた
わたしたちの頭文字
たんぽぽに守られてわたしも続く
クオアスペシャルサンダーアターックっ
天高く腕を伸ばしUC使用
花で飾られた巨大な円錐の紐引けば舞うのはリボン
しゅるり巻き付くリボンが生命力吸収しながら動きを阻害
そして花をリボンで彩れば花束に
前祝いだね
アニーっ
燃え上がる刃と呪詛に
すごい
3人でいっしょにそつぎょうするんだっ
朧・紅
【花束】◎
倒すって先生をです?
はっこれバトル漫画で読んだ事あるヤツ
師を倒す事でメンキョカイデンして卒業できるの
多分たぶん
もう悪い事しなくて良きです?
学校にクッキーを持ち込むとっておきの悪事がー(もぐ
オズさんあーん♪
アニー様もあー…レ?もう食べてる
今こそ必殺のぉ!
紅キ創生ハ朧ノ罰ヲ伽澄マス(クオア・ケストナー・ヘイジー・ピュニシオン・クリムゾン
UC発動
このお花お日様や炎みたいに明るいっ
僕たちを写す耀けるお花、贈るですね
乱舞する彼岸花は赤い核を斬り裂いて
たんぽぽはみんなを守るの
オズさんっ!
クオア連携~♪
呪詛と火花に触れゴジアオイが燃え上がり
…ぅや凶刃がパワーアップ!
先生ありがとーございましたです!
アニー・ピュニシオン
【花束】◎
先生に廊下に立たされるわ
何故か、教材に私の名前が載っていたりと
自虐ネタに困らない楽しい学校生活だったわね
…緩い感じね、二人共
気持ち的には分からなくは無いけども
卒業式にお菓子は十分悪い事してるわ
(クッキーを盗んで齧り)
…、最後の大悪事が残っているわ
この学校という名の監獄から
皆で大脱走しなくちゃね
…素敵な花をありがと、紅ちゃん
これを先生方に向ける花として
送らせてもらいましょう
オズ君も良いクラッカーを使うじゃない
悪くな…いえ、とっても素敵に悪いわね
…っと、我が身に呪詛と火花が纏われば
卒業生三人、クオアトリオ
我らが不格好な継ぎ接ぎ唄と共に
私からは、皆で紡いだこの凶刃
授与させてもらいましょうか
●羽ばたけ、卒業生
訪れた卒業試験の時間。
暗黒と漆黒の体育館内に浮かぶ堕天使を見上げ、紅は瞳を瞬かせた。
「倒すって先生をです?」
「そうみたいね」
アニーはもはや体育館とは呼べない暗黒空間を見渡し、その辺に浮かんでいた跳び箱の上に腰掛ける。思えば学園生活はあっという間だった。
先生に廊下に立たされたり、何故か教材にアニーの名前が載っていたりと自虐ネタ、もとい思い出には困らない楽しい時間だった。
アニーが感傷めいた何かに浸っていると、紅も跳び箱によじ登ってくる。
「はっこれバトル漫画で読んだ事あるヤツ! 師を倒す事でメンキョカイデンして卒業できるのですよ。多分……たぶんですけれど!」
「めんきょかいでんっ」
すると、浮遊している大きなバスケットボール入れに掴まっていたオズが楽しげな声をあげた。紅が手招きをすると、オズも跳び箱の方に移ってくる。
「したいしたいっ せんせい、よろしくおねがいしまーす」
「はい、もう少し後でそちらにも行きます」
オズがルビー・ジュエルシードに挨拶をすると、別の猟兵を相手取っていた彼女はひらりと手を振った。先程の宣言通りにそこそこ個別に相手をしてくれるようだ。
ぅやー、と可愛く手を振り返した紅は戦いを見守る。
「じゃあもう悪い事しなくて良きです?」
学校にクッキーを持ち込むとっておきの悪事が、と語った紅はお菓子の包みを取り出した。それから暫し、跳び箱おやつタイムが巡っていく。
もぐ、と紅がクッキーを食べていると、オズが雛鳥のように口をあけた。
「わたしもクッキーたべたい」
「オズさんあーん♪」
「あーん」
おいしい、という言葉が続いた後に紅はアニーにもお裾分けをしていく。
「アニー様もあー…レ? もう食べてるです」
「そこにクッキーがあったから。……緩い感じね、二人共」
しかし、アニーは既にクッキーを盗み食いしていた。きっと三人の中でさりげない悪事が一番うまいのは彼女だろう。
「ふふ、アニーもたべてる。おそろいだ」
オズは微笑み、紅も更にもう一枚を自分の口に運ぶ。アニーはちゃっかり用意していた水筒からお茶を注ぎ、のんびりとおやつ時間を楽しんだ。
「気持ち的には分からなくは無いけども、卒業試験にお菓子は十分悪い事してるわ」
アニーはちらりと頭上に目を遣る。
そうすると他の猟兵を躱してきたルビーが、此方にやってくる姿が見えた。
「お待たせしました」
「せんせい、大丈夫? 疲れてない?」
「……少し。ちょっと大人数だった、もので」
疲弊した様子のルビーに対してオズが思わず問う。だが、彼女は律儀に全員の相手をしてくれるようだ。そんなこんなで三人と校長先生の戦いが始まる。
三人は跳び箱から、見えない暗黒の足場に移動していた。
「さて……、最後の大悪事が残っているわ」
この学校という名の監獄からの大脱走だ。下層に留まっている生徒達がそれを望んでいるかはさておいて、この学園に巡らされている結界はどうにかしなければならない。
アニーが身構えると、紅もぐっと拳を握りしめる。
校長先生は三叉槍を構えていた。
出し惜しみをしてはいけないと感じた紅は、そのまま力を紡いでいく。
「今こそ必殺のぉ!」
空想造血。
紅キ創生ハ朧ノ罰ヲ伽澄マス。
――クオア・ケストナー・ヘイジー・ピュニシオン・クリムゾン!
授業を受けて合格した証である、高らかな詠唱が紡がれた。
「このお花やお日様や炎みたいに明るいっ、僕たちを写す耀けるお花、贈るですね!」
それとほぼ同時にルビーが放った赤い核が紅達に迫る。
想造から生まれた乱舞する彼岸花が、茨の核を斬り裂きながら迸った。ゴジアオイに加え、揺らめくたんぽぽはみんなを守りながら華麗に舞う。
「わあ、クレナイきれいっ」
オズは紅が放った花に向け、手を伸ばしてみる。
みんなを思わせる花に綻んだオズは其処から勇気を貰えた気がした。
「わたしも、さっき作ったひっさつわざっ――は、こうげきじゃないからええと、」
オズはふと思い立つ。
紅が必殺技につけてくれた自分達の頭文字がある。たんぽぽに守られながら、オズも校長先生への攻勢に移った。
「クオアスペシャルサンダーアターックっ」
天高く腕を思いっきり伸ばしたオズはガジェットを呼び出す。
その手に落ちてきたのは花で飾られた巨大な円錐の紐。それを引けば、ふわふわと舞うリボンがしゅるりと相手に巻き付いていく。
「これは……?」
ルビーに絡みついたリボンは、生命力を吸収しながら動きを阻害していった。そうして、紅の花をリボンで彩れば花束になっていく。
「ほらっ、前祝いだね」
「素敵な花をありがと、紅ちゃん。オズ君も良いクラッカーを使うじゃない。悪くな……いえ、とっても素敵に悪いわね」
これを先生方に向ける花として送らせてもらいたいと語り、アニーも動き出す。そっと言い直したのは友達に向ける思いをちゃんと表したかったからだ。
「……っと、我が身に呪詛と火花が纏われば」
――灰になって消えるだけ。
アニーも二人に続き、己の力を紡ぎあげていった。
卒業生予定の三人、クオアトリオ。我らが不格好な継ぎ接ぎ唄と共に。
流麗な詠唱と宣言と同時にアニーが纏った無敵のドレスが揺れ、舞い散る火花に混じって炎と呪詛が迸っていった。
「オズさんっ!」
「アニーっ」
「ええ、紅ちゃん」
紅とオズは更に力を合わせていき、其々に名を呼び合う。
「クオア連携~♪」
「私からは、皆で紡いだこの凶刃。授与させてもらいましょうか」
「ぅや凶刃がパワーアップ!」
呪詛と火花に触れたことでゴジアオイが燃え上がり、力は更に強くなった。すごい、と瞳を輝かせたオズもリボンをくるり、ふわりと戦場に舞わせてゆく。
彼女達の連携攻撃を受けたルビーは大きく揺らいだ。
「まさか……卒業試験をクリアするかもしれない、子達が……」
どうやら校長先生は誰も卒業できないと思っていたらしい。オズは首を振り、自分達は卒業式に出るつもりで来たのだと宣言していく。
「三人でいっしょにそつぎょうするんだっ」
「先生ありがとーございましたです!」
「まだ少し、早いみたいだけど」
紅がぺこりとお辞儀をした横で、気が早かったことに気付いたアニーがちいさな溜息をついた。されど、卒業式はきっと間もなく訪れる。
此処に集った者達はこれから、未来への希望を抱いて羽ばたくのだから――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キャンディ・ジャック
【飴】
ボクらの活動もついに大詰めだ!
優樹!準備は良いか?!
ボクらサーカス団の名を轟かせるぞ!
まずはバシッと登場!
それから決めポーズをして名乗る!
ボクはキャンディサーカス団の団長
キャンディジャックだ!
校長、覚悟!ボクらの怖さを見せてやる!
ショウ・マスト・ゴー・オン!
ボクの歌を聞かせてやる!恐怖の歌だ!
こう見えてもボクは歌うことか好きなんだ!
団長だから大きな声も出さなきゃいけないからね!
ボクが歌で惹きつけている間に優樹!やってくれ!
キャンディサーカス団は強くて怖いってことを知らしめるんだ!
わあ!すごい!よくやった!
我ら、恐怖のキャンディサーカス団!
ボクらの怖さを思い知ったか!
萌庭・優樹
【飴】
この大勝負に打ち勝ってこその
キャンディサーカス団というものですっ!
おれはいつでも行けますよ、団長さん
おれたちの力、知らしめてやりましょー!
まずはさっき考えた名乗りを早速披露
指差し決めポーズも忘れずにっ
キャンディサーカス団団員の萌庭優樹!ここに参上!
おれたちの前にひれふすが良いですよっ
拳銃構えて、ようく狙って
…と見せかけて、自慢の足で駆け出して
本命武器のダガー振り翳して攻撃!
シーブズ・ギャンビットで斬りかかります
団長さんが動きを止めてくれているから
おれの刃も通りやすくって
やっぱり歌の力ってすごい!
どうだ思い知ったか、校長先生めっ
おれたちの恐怖が、おまえを逃がさないんだからなー!
●不滅のキャンディサーカス団
卒業試験。それは最後の難関であり、乗り越えるべきもの。
「この大勝負に打ち勝ってこそのキャンディサーカス団というものですっ!」
「ボクらの活動もついに大詰めだ! 優樹! 準備は良いか?!」
「おれはいつでも行けますよ、団長さん。おれたちの力、知らしめてやりましょー!」
意気込むのはキャンディサーカス団の二人。
最初から最後まで全力で駆け抜けてきた学園生活。その終止符が今、猟兵の手によって打たれようとしている。
「ボクらサーカス団の名を轟かせるぞ!」
キャンディはまず、バシッと登場することが先決だとして身構えた。あの授業でやったように決めポーズと名乗りを披露する狙いだ。
――見よ、この真っ白ボディ!
――やあやあ、聞いて驚け!
団長の名乗りに合わせ、優樹もしっかりと声を張った。二人は授業よりも少し進歩したアレンジ口上を紡いでいき、最後にばっちりと決めてみせる。
「ボクはキャンディサーカス団の団長、キャンディジャックだ!」
「キャンディサーカス団団員の萌庭優樹! ここに参上!」
「校長、覚悟! ボクらの怖さを見せてやる!」
「おれたちの前にひれふすが良いですよっ」
優樹はキャンディに続けて指差しの決めポーズをあわせ、暗黒空間と化した体育館の頭上を振り仰いだ。
其処には翼を広げて舞う堕天使がいる。
名乗りが終わるのを待ってくれていたらしい校長先生こと、ルビー・ジュエルシードはパチパチと拍手を送った。
「授業の成果が出ているようです、ね。花丸です」
そして、彼女は小脇に抱えていた三叉槍を構える。その切っ先が二人に向けられたことで周囲に敵意が満ちていった。
「強そうですね……!」
「いいえ。強いの、です」
優樹も拳銃を構えたが、静かな覇気に気圧されそうでもあった。対するルビーがはっきりと宣言する。勝てるのだろうかという思いが優樹の中に巡った。
だが、そんな懸念などキャンディが打ち払ってくれる。
「優樹! 我らキャンディサーカス団の辞書に敗北の文字はあるか?」
「いいえ! ないですっ」
はっとした優樹は拳銃を握り直し、勝利だけしか見ていないのだと答えた。知恵の布を揺らして頷いたキャンディは満足気だ。
そして、彼女達は一気に攻勢に移っていく。
――ショウ・マスト・ゴー・オン!
「ボクの歌を聞かせてやる! これが恐怖の歌だ!」
キャンディがユーベルコードとして放ったのは大きな声で紡ぐ歌声。こう見えてもボクは歌うことか好きなんだ、と語った彼女は戦場全体に轟く声で恐ろしい歌を響かせた。
「その声でぜひ校歌をうたって頂きたい、です」
ルビーは暫しキャンディの歌を聞いていく。
その間に優樹は構えた銃で、ようく敵を狙って――と見せかけて、自慢の足で駆け出していった。闇の中にある見えない足場を辿っていき、駆ける、駈ける。
銃ではなく、本命の武器であるダガーを抜き放った優樹。
「優樹! やってくれ!」
「はいっ!」
交わされる二人の言葉と声。
その動きにルビーが気付いた時には、既に刃は振り下ろされていた。鋭い一閃がルビーを切り裂き、その翼がひとつだけ欠ける。
いたい、と呟いたルビーは身を翻して後方に下がった。
「連携攻撃ですか」
「わあ! すごい! よくやった!」
「団長さんが動きを止めてくれていましたからね。やっぱり歌の力ってすごい!」
普通ならば届かなかったはずの刃。
それはキャンディが相手を惹きつけていたからこそ、通りやすくなった。自分は歌を紡ぎ続けると決め、キャンディは更に優樹に呼びかける。
「キャンディサーカス団は強くて怖いってことを知らしめるんだ!」
「まだまだ止まりません!」
優樹は大きく頷き、更なる一閃を繰り出すために跳躍した。重力が反転しようとも、茨が此方を操ろうとしても二人は抵抗する。
歌は響き、刃が漆黒の闇を切り裂いていく。
やがて戦いは巡り、様々な猟兵達の攻撃がルビーを追い詰めていっていた。
「我ら、恐怖のキャンディサーカス団!」
「どうだ思い知ったか、校長先生めっ」
二人がルビーに言い放つと、彼女は再び三叉槍を構えていく。おそらくまだまだだと言っているのだろう。無言ではあるが、その瞳はまだ戦意を宿していた。
それならば、此処から先もずっと戦い続けるだけだ。
キャンディと優樹は指先をもう一度、校長先生に差し向けてポーズを決める。
「ボクらの怖さを思い知ったか!」
「おれたちの恐怖が、おまえを逃がさないんだからなー!」
見事に重なった宣言はとても高らかで快く、戦場に熱く響き渡っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミア・レイシッド
【幽楽】
えいえいおー。なのだわ。
わたくしたちなら卒業試験もすぐに終わってしまうのよ。
妖怪シスターズはワルなのだわ。
アンの足に王様を乗せましょう。
王様を乗せて羽撃いたなら目眩ましにもなるのではないのかしら
王様の強さを見せつけて下さい
わたくしは王様の勇姿を見届けるのよ。
りゅうこも高く飛び上がったのだわ。
かくり、あれが竜の神なのよ。立派だわ。
……名乗りをあげるのね。
わたくしは王様の名乗りを考えてみたのだわ。
黒い稲妻、黒曜の翼を持つ怪鳥。
気高き嘴で突き刺す我らが王。
慈悲深い王の前に平伏しなさい。
わたくしは王の右腕。
いかがかしら?
わたくしは先程考えた~眠りし姫の鮮血と茨の魔女の祝福~を食らわせるのだわ。
庵野・紫
【幽楽】
卒業試験だよー!気張ってこー!
さっきは全員の力を見せつけたっしょ。
次も全員の力を見せつけたら、さっさと卒業出来るんじゃね?
よーっしゃ、それじゃ合体技をお披露目しようよ!
せーの、がったーい!
まずはアンの鋼の靴で地面を割ってみせるよー。
アンの足に誰か乗ってみる?
そこから校長にどかーんってやっちゃうのも良くね?
王様にりゅうこ!乗っちゃいなよ!
かくりも乗っちゃう?
あ!名乗りをあげなきゃ!
アン様はアン様!
カクリヨの竜神様だよー!
UDCで培った人間どもの技術をここで披露する!
妖怪シスターズは永久不滅!最強姉妹!
そりゃっ!ぶち当たれー!
揺・かくり
【幽楽】
姉妹と称された者たちの声が重なる
拳を突き上げる代わりに袖口を揺すろう
ああ、真に愉快な事なのだよ。
瞬く間に終わりを迎えるひと時が惜しいと感じるね。
最終試験と名が着くのならば
最上の合わせ技にて終幕と往こうか。
君の環指を拝借し
私からは呪詛が齎す繋がりを付与しよう。
災禍凶兆、奇々怪々〜サイヤクノヨルヲハジメヨウ〜
私はかくり。唯の幽世の者さ。
呪詛を孕み情念を宿した生ける屍
其れ以上でも以下でも無いのだよ。
終いとしよう。
悪く無い時間で在ったよ。
我々らしい學園生活を送れたのでは無いだろうか。
幽世へと戻る前に喫驚を頂きたいものだ。
此の世界の住人の感情は美味なのだろうか。
片稲禾・りゅうこ
【幽楽】
えい、えい、お~~~!!!
もっと遊びたい気持ちはあるが……まあ終わりがあるからこそ楽しいものだからな!
綺麗に格好良く!締めようぜ!
あっ!じゃあじゃあ!王様が飛んだ後にりゅうこさんが乗りたいなあ!
天高~~~く飛ばしてくれよ!
そこからはな───ごにょごにょごにょ
音に聞け、天に聞け、我に聞け~~~!!
天雷轟々、慈雨を裂くは竜神ぞ ~りゅうこさんキック~ !!!
そ~~~らっっ!!どっかーーーーーーーん!!!!
ど~~だ!ビックリしただろう!?だろうとも!!
そう、我こそは妖怪しすたあずの一柱!竜神のりゅうこさんだぜ!!
うっはははは!!楽しいなあ~~~!!!
●最強不滅の四姉妹
「卒業試験だよー! 気張ってこー!」
「えい、えい、お~~~!!!」
「えいえいおー。なのだわ」
紫にりゅうこ、ミアの声が重なり、卒業試験の時間が始まっていく。かくりは姉妹と称された者たちの重なる声を聞き、拳を突き上げる代わりに袖口を揺らした。
「ああ、真に愉快な事なのだよ」
「わたくしたちなら卒業試験もすぐに終わってしまうのよ」
「瞬く間に終わりを迎えるひと時が惜しいと感じるね」
かくりとミアが学園生活の終わりが近付いていることについて語り合っていると、りゅうこもこくこくと頷く。
「もっと遊びたい気持ちはあるが……まあ終わりがあるからこそ楽しいものだからな! 綺麗に格好良く! 締めようぜ!」
「ええ、妖怪シスターズは最後までワルなのだわ」
りゅうこが語る言葉に同意を示し、ミアもそれがいいと告げた。
そんな中で紫が名案を思いつく。
「さっきは全員の力を見せつけたっしょ。次も全員の力を見せつけたら、さっさと卒業出来るんじゃね?」
「あっ! じゃあじゃあ! 王様が飛んだ後にりゅうこさんが乗りたいなあ! 天高~~~く飛ばしてくれよ! そこからはな――」
ごにょごにょごにょ、とりゅうこが皆に耳打ちをしていく。
首肯した紫も意気込み、周囲の空間を見渡した。他の猟兵が戦っている間に準備を整えていく狙いだ。
「よーっしゃ、それじゃ合体技をお披露目しようよ!」
「ああ。最終試験と名が着くのならば最上の合わせ技にて終幕と往こうか」
「アンの足に誰か乗ってみる?」
かくりも堕天使が作り上げた暗黒空間の気配を探っていき、ミアは紫の足に王様を乗せていく。こうやって王様を乗せて羽撃いたなら目眩ましにもなるのではないのか、という考えのようだ。
「王様の強さを見せつけて下さい。わたくしは王様の勇姿を見届けるのよ」
「せーの、がったーい!」
そうして紫が鋼の靴で地面を割るように動く。王様に加えて「りゅうこも乗っちゃいなよ!」という紫の誘いを聞いて、りゅうこも其処に続く。
「音に聞け、天に聞け、我に聞け~~~!!」
「いいね! ここから校長にどかーんってやっちゃうのも良くね?」
格好良く決めるために声を轟かせたりゅうこ。此処からの動きを皆に告げていく紫に、王様達の軌道を見据えるミア。
「りゅうこも高く飛び上がったのだわ。かくり、あれが竜の神なのよ。立派だわ」
呼び掛けられたかくりは環指を拝借していき、皆の元に力を集わせる。
「私からは呪詛が齎す繋がりを付与しよう」
――災禍凶兆、奇々怪々~サイヤクノヨルヲハジメヨウ~。
かくりが紡ぐ力を纏い、紫と王様、りゅうこは堕天使のルビー・ジュエルシードの元へと近付いていく。
「天雷轟々、慈雨を裂くは竜神ぞ りゅうこさんキック~!!!」
「纏めて、来ましたか。いいでしょう」
「そ~~~らっっ!! どっかーーーーーーーん!!!!」
迎え撃つ体勢を取ったルビーに向け、りゅうこが突撃していった。鋼の靴で敵を穿つ紫はその際にはっとする。
「あ! 名乗りをあげなきゃ!」
「……名乗りをあげるのね。わたくしは王様の名乗りを考えてみたのだわ」
ミアもふと気付き、其処から四人の口上めいた台詞がはじまった。
「アン様はアン様! カクリヨの竜神様だよー! UDCで培った人間どもの技術をここで披露するよ!」
勢いのある紫の名乗りに続き、かくりがゆるりと言葉を続けていく。
「私はかくり。唯の幽世の者さ。呪詛を孕み情念を宿した生ける屍」
其れ以上でも以下でも無いのだよ、とかくりが語れば、次はりゅうこの番だ。
「ど~~だ! ビックリしただろう!? だろうとも!! そう、我こそは妖怪しすたあずの一柱! 竜神のりゅうこさんだぜ!!」
りゅうこは元気よく、誰よりも大きな声で宣言した。
更に其処へ、ミアの王様語りが繋がる。
「黒い稲妻、黒曜の翼を持つ怪鳥。気高き嘴で突き刺す我らが王。慈悲深い王の前に平伏しなさい。わたくしは王の右腕」
いかがかしら? と問いかけたミアは攻勢に入った。
眠りし姫の鮮血と茨の魔女の祝福――という名を付けた力を一気に解き放つ。ルビーは名乗りと技を受け、こくりと頷いた。
「赤き翼、夜を裂く堕天の礎。ルビー・ジュエルシード、です」
どうやら四人に対抗してそれっぽい名乗りを考えてくれたようだ。されど其処からは容赦のない攻撃が巡った。
弱きを挫く三叉槍が鋭く振るわれ、宝石から巡る茨が妖怪姉妹達を操ろうとする。
それでも彼女達は共に抵抗していき、時には庇いあい、時には回避しながら校長先生の苛烈な攻撃を切り抜けていった。
「終いとしよう」
「ええ、終わらせるのだわ」
かくりが呼びかけると、ミアが静かにが拳を振り上げて答える。
「そりゃっ! ぶち当たれー!」
「うっはははは!! 楽しいなあ~~~!!!」
其処に攻撃を仕掛けていく紫の声が重なり、りゅうこも楽しげな声をあげた。かくりはその声を聞きながら、虚空に視線を向ける。
見え辛くはあるが空間内は初等部の視聴覚室に中継されているらしい。ときおり、応援の声が響いてきているのも心強いものだ。
かくりはこの調子で戦い続けようと決め、思うままの言葉を落とす。
「悪く無い時間で在ったよ。我々らしい學園生活を送れたのでは無いだろうか」
この戦いが終わればこの世界とも暫しお別れ。
幽世へと戻る前に、喫驚を頂きたい。此の世界の住人の感情は美味なのだろうかと考えながら、かくりは仲間達に意識を向けた。
そして、戦場に紫の堂々とした声が響き渡っていく。
「――妖怪シスターズは永久不滅! 最強姉妹!」
その言葉通り、不滅の力を。
巡りゆく戦いは凛とした声と楽しげな笑い声に満ち、終幕に向かっていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
【彩夜】
放課の時間に勉学、此度は卒業試験のようだよ
最後に相応しい景色だね
このひと時が終わってしまうのは惜しい
紅茶のひと時も、授業も
常とは異なる装いと口調も
無意識のうちに笑みが溢るるようだ
応じてくれた四人には感謝が尽きないね
さて、最後の授業だ
先ほど仕立てた技を扱うのは如何かな
魅了のあか、刺し穿つ針
何方も仕込んでみせようか
皆々、ご一緒に
常夜の彩月華獣兎
エバーラスティングナイト・クインテット
後ろ髪を引かれるような思いではあるが
常と同じ君たちも恋しくなるようだよ
嗚呼、最後にもう一度
記念撮影とやらは如何だろうか
うさぎのポーズも完璧にこなしてみせよう
……ふふ、いけない
つい元通りの姿にて微笑が溢れてしまうわ
ルーチェ・ムート
【彩夜】
卒業試験かあ
なんだかどきどきしてわくわくする響きだね!
一緒に頑張ろう!
楽しい時間はあっという間に過ぎてゆく
普段と違う装い
普段と違う口調
当たり前が遠いことが、こんなに心躍るなんて
初めて知ったこと
なんだか悪い子になった気分で、それすら心地が良い
ふふ、ボクもみんなと一緒にこの場所に来られて良かった!
最後って聞くと気合が入るね!
ボクの歌で魅了して、蕩かしてみせるよ!
さあ、元気良く!
常夜の彩月華獣兎
エバーラスティングナイト・クインテット!
そろそろいつものみんなが恋しくなるかも
いいね!記念撮影しよう!
手をぴょんと伸ばして頭の上に
うさぎのぽーず!
みんな、準備はいい?
せーの!
はい、ちーず!
メリル・チェコット
【彩夜】
この気迫……
さすが校長先生を名乗るだけあるね
(苺ちゃんはこんな人からケーキを……)
ともかく卒業試験、みんなで頑張ろう!
みんなとのお芝居ともこれでおしまい
なんて思うと少し寂しい
けど、ううん、最後まで――この五人でやり遂げたい!
今一度、襟を正して
きりりと表情を整える
僕からも皆に、とびきりの感謝を
ふわふわとした羊達が相手の周りをぐるり囲んで
少しでも彼女の隙が突けたなら
さっきよりもずうっと大きな声で!
常夜の彩月華獣兎
エバーラスティングナイト・クインテット!
皆揃ってカメラの前に向かって
ついつい溢れる笑顔はいつものそれに戻ってしまう
最後にもういっかい、うさぎ!
えへへ、たのしかったぁ
帰ろう、日常へ!
歌獣・苺
【彩夜】
校長室……
校長先生……
あのケーキは校長先生のだったのか……!
あっ!いや!
ナンデモナイヨー!
タベテナイヨー!
オイシカッタナー!はっ!
うわー!
ごめんなさーい!!(追い回される)
ふぅ、ふぅ
校長先生試験!試験!
俺なんか
追い回してる場合じゃないって!
またあの長い呪文を唱えるのか…
ええーい!どうにでもなれ!
自分の足元から周りの皆へ
希望の花を舞わせ、贈る。
みんなが
どんな絶望にも負けない希望を
胸に持ち続けていられますように
じゃ!バシッと決めて帰ろう!
俺たちの夜へ!
常夜の彩月華獣兎
エバーラスティングナイト・クインテット
……あ、言えた!
やったー!やったー!
それじゃ、
楽しかった記念に1枚!
はい、うさぎー♪♪
ルーシー・ブルーベル
【彩夜】
校長先生、とっても強そうだ……!
ここは言葉に甘えさせてもらって、
全身全霊でぶつかるのみ、だ
卒業試験、がんばろうね
おしばい、楽しかったな
いつもならしない様な事もたくさんしたし
終わってしまうのが惜しいけれど……
ううん、
学校は館に帰るまでが学校だものね
最後まで気を引き締めなくちゃ
ああ、ボクも皆と貴重な時間を過ごせて良かったよ
心より感謝申し上げる
オーケイ
何時でも行ける
飛び切りの青をお魅せしようか
常夜の彩月華獣兎
エバーラスティングナイト・クインテット!
ふふ!そうね
結局はいつものみんなが一番すき
……でも、
たまに思い返す位は良いよね?
記念撮影、モチロン!
ぴょんと頭に両手をのせて
はい、うさぎポーズ!
●うさぎクインテットの日常
「校長室……校長先生……あのケーキは校長先生のだったのか……!」
堕天使が巡らせた暗黒空間にて、苺の声が響く。
校長先生、と呼ばれたルビー・ジュエルシードは首を傾げた。
「?」
「あっ! いや! ナンデモナイヨー! タベテナイヨー! オイシカッタナー!」
「そうですか、私のケーキを盗んだのはあなたでした、か」
「はっ! うわー! ごめんなさーい!!」
静かな声がルビーから落とされたことで、追い回されると思った苺は脱兎の如く逃げていく。その背を見つめる校長先生は、悲しそうに呟いていた。
「とっておき、でしたのに……」
そんな騒動を眺めながら、メリルは末恐ろしさを感じていた。
悲しげでありながらも、あの気迫。さすが校長先生を名乗るだけあると思いながらも、メリルは別のことを考えている。
(苺ちゃんはこんな人からケーキを……)
ケーキを校長先生にも食べさせてあげたかったと思いつつ、メリルは気を取り直す。
「ともかく卒業試験、みんなで頑張ろう!」
メリルの意気込みを聞き、七結は残る仲間達に呼び掛けた。
「放課の時間に勉学、此度は卒業試験のようだよ。最後に相応しい景色だね」
「卒業試験かあ。なんだかどきどきしてわくわくする響きだね! 一緒に頑張ろう!」
「校長先生、とっても強そうだ……!」
ルーチェとルーシーはこれから始まる戦いを思い、ルビーを見つめる。空中に浮遊している堕天使は其々の力を見てくれるという。
「ここは言葉に甘えさせてもらって、全身全霊でぶつかるのみ、だ」
ルーシーは卒業試験への思いを強めながら、皆で過ごした日々を思い返していった。
男子生徒としての芝居は楽しかった。
いつもならしない様な事もたくさんして、いつもなら感じないような新鮮な思いもいっぱい貰えた。終わってしまうのが惜しい。けれど――ううん、と首を振ったルーシーは、学校は館に帰るまでが学校なのだと思い立つ。
最後まで気を引き締めなくちゃ、と気合いを入れたルーシーはやる気だ。
七結とて、このひと時が終わってしまうのは惜しかった。
紅茶のひと時も、授業も、常とは異なる装いと口調も。それらを考えると無意識のうちに笑みが溢るる。
七結が微笑んだことに気付き、ルーチェもこくりと頷いた。
「楽しい時間はあっという間に過ぎちゃったね」
普段と違う装い、普段と違う口調。ルーチェも皆と同じ思いでいっぱいだ。
当たり前が遠いことが、こんなに心躍るなんて初めて知ったこと。世界の決まりに則ってみたら何だか悪い子になった気分で、それすら心地が良い。
メリルは皆が同じ気持ちであることを感じ取りながら、思いを言葉にした。
「みんなとのお芝居ともこれでおしまい。なんて思うと少し寂しい……けど、ううん、最後まで――この五人でやり遂げたい!」
あの時間を紡げたことが嬉しかったから。
メリルの思いを受け取り、七結とルーチェ、そしてルーシーも皆を想う。
「応じてくれた四人には感謝が尽きないね」
「ふふ、ボクもみんなと一緒にこの場所に来られて良かった!」
「ボクも皆と貴重な時間を過ごせて良かったよ。心より感謝申し上げるね」
だから最後まで皆で。
一行が結束を深めている姿を見つめ、ルビーは何度かこくこくと頷いていた。きっと友情の美しさを感じ取っているのだろう。
しかし、試験は真剣勝負。
「参り、ます」
「望むところだよ、校長先生」
ルビーの宣言に対して七結が身構え、メリルとルーシー、ルーチェも布陣する。
――フォールダウン・アセンション。
堕天使が再び力を紡ぐと、周囲の重力が揺らめく。その最中、苺はよろめきながらも暗黒空間と化した体育館を走り続けていた。
「ふぅ、ふぅ……校長先生、試験! 俺なんか追い回してる場合じゃな……あれ?」
「別に怒っていません、よ」
もう試験は始まっています、と告げたルビーは苺をすり抜けて七結達の元に攻撃を仕掛けにいっていた。
弱きを挫く三叉槍が差し向けられ、七結達は身構える。
「さて、最後の授業だ。先ほど仕立てた技を扱うのは如何かな」
「最後って聞くと気合が入るね! ボクの歌で魅了して、蕩かしてみせるよ!」
ルーチェが息を吸い、メリルも準備を整えていく。
「僕からも皆に、とびきりの感謝を」
メリルが今一度、襟を正してきりりと表情を整えれば、ルーシーも薄く笑んだ。
「オーケイ。何時でも行ける飛び切りの青をお魅せしようか」
「魅了のあか、刺し穿つ針。何方も仕込んでみせようか」
ルーシーが語る青に対し、七結があかを示す。其処に戻ってきた苺が肩を竦め、力を紡いでいく皆の横に並んだ。
「またあの長い呪文を唱えるのか……ええーい! どうにでもなれ! じゃ!バシッと決めて帰ろう! 俺たちの夜へ!」
苺は自分の足元から周りの皆へ希望の花を舞わせて贈る。
――みんながどんな絶望にも負けない希望を胸に持ち続けていられますように、と。
其処に七結とルーチェの声が響き、皆の力が巡っていく。
「皆々、ご一緒に」
「さあ、元気良く!」
常夜の彩月華獣兎。
エバーラスティングナイト・クインテット!
メリルはさっきよりもずうっと大きな声で叫ぶ。
そうすればふわふわとした羊達がルビーの周りをぐるりと囲んでいった。
「なんですか、これは……」
「今だよ、みんな!」
一瞬ではあるが、彼女の隙が突けたと感じたメリルは仲間を呼ぶ。其処に七結のゆるし紅の訊究が繋がれ、ルーチェの蠱惑的な甘い歌声が響いた。ルーシーが放つ妖精花の舞が周囲を彩り、ルビー・ジュエルシードを穿っていく。
「なかなか、やりますね」
そうすることで校長が後退していった。どうやら最初の宣言通りに、他の猟兵の相手をしにいくようだ。
「……あ、言えた! やったー! やったー!」
その姿を見送りながら、苺は詠唱をちゃんと紡げたことを喜んでいる。
これできっと合格だろうと感じた一行はほっと一息。この後には学園とお芝居とのお別れが待っている。
「後ろ髪を引かれるような思いではあるが、常と同じ君たちも恋しくなるようだよ」
「うん、そろそろいつものみんなが恋しくなるかも」
七結とルーチェは普段の生活に思いを巡らせていった。今の自分達よりも、普通でいられる自分も良いものだ。
「ふふ! そうね結局はいつものみんなが一番すき」
でも、たまに思い返す位は良いよね、とルーシーは微笑む。すると七結がこの学園生活の最後を彩るための提案をした。
「嗚呼、最後にもう一度、記念撮影とやらは如何だろうか」
「記念撮影、モチロン!」
「いいね! 記念撮影しよう!」
「賛成!」
「それじゃ、楽しかった記念に一枚!」
ルーシーにルーチェ、メリルと続いて苺。皆で揃ってカメラの前に向かって、手をぴょんと伸ばして頭の上へ。
「うさぎのぽーず!」
「完璧にこなしてみせよう」
「はい、うさぎー♪♪」
「最後にもういっかい、うさぎ!」
「はい、うさぎポーズ!」
既に卒業式が終わった後の雰囲気の五人は兎に角、可愛い。厳密に言えば戦いはまだ続いていたりするのだが、それはそれ。これはこれ。
「みんな、準備はいい? せーの!」
――はい、ちーず!
そうして、ルーチェの掛け声でシャッターが切られていく。
七結の表情は緩み、メリルも最後の思い出を綺麗に飾れたことを嬉しく思う。
「……ふふ、いけない。つい元通りの姿にて微笑が溢れてしまうわ」
「えへへ、たのしかったぁ。帰ろう、日常へ!」
この戦いを越えて――皆で進む、未来の先へ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リトルリドル・ブラックモア
◎
フフーン、ちょーぜつイケてる校歌ができたぜ!(歌う
ン?
ンンン??
…アアーッ!!
オ、オマエ、廊下でみたヤツ!校長!?
ていうか…ガチじゃん!!
…オレサマ、ワルだから試験サボるぜ!あばよ!
ここここわくなんかないんだからな!(逃げ足)
…ン~…
オレサマホントにコレでいいのか?
また怖がりな男子はダセーって
四天王のヤツらにガッカリされちまう…
…
ワーハハハ!
このまおーサマがただ逃げてるだけだと思ったか!
UC【ESCAPE】で爆弾を投げつつ逃げまくって
悪目立ちして校長をおびき寄せる作戦だ…!
オレサマ、ブラックタールだし
ちょっとぐらいオシオキされても
な、なかないぜ…まおーだもん!
仲間が攻撃するスキを作ってやる!
●まおーサマ、立つ
「フフーン、フフー、フフフフーン、夜露死苦!」
未来の最強魔王に相応しくも思える暗黒と漆黒の体育館は今、文字通りの闇の空間になっている。そんな中で超絶格好良い校歌をうたうリトルリドルは上機嫌だ。
しかし、ふと或ることに気付く。
「ン? ンンン??」
校長先生と名乗るルビー・ジュエルシードをまじまじと見たリトルリドルは指先をびしりと突きつけ、驚いた様子を見せた。
「……アアーッ!! オ、オマエ、廊下でみたヤツ! 校長!?」
「そういえば……。黒板を黒く塗っていた、魔王くん、でしたか」
ルビーも初等部で一度会っていることを思い出したらしく、こんにちは、と改めて挨拶をしてくれた。だが、その手に握られているのは弱きを挫く三叉槍だ。
「ていうかガチじゃん!!」
「はい。ガチ、ですよ」
明らかに自分より向こうの方が強い。正直を言えば、とても怖い。
「……オレサマ、ワルだから試験サボるぜ! あばよ!」
「私には都合がいい、ですけど。貴方はそれでいいの、です?」
「ここここわくなんかないんだからな!」
首を傾げて問う堕天使に捨て台詞を残し、見事に逃げ切ったリトルリドル。
そんなことがあって、現在――。
「……ン~」
暗黒空間の隅っこに隠れている少年魔王は体育座りをしていた。
視線を頭上に向けると、ルビーと猟兵が激しく戦っている様子が見える。試験すらサボる自分は最強の悪だと言い聞かせ、リトルリドルは戦闘から目を逸した。
だが、浮かぶ思いは全くもって清々しくない。
「オレサマホントにコレでいいのか?」
怖くないと嘘の宣言してきたが、また怖がりな男子は格好悪いと言われて四天王の皆にがっかりされてしまうかもしれない。すると、そのとき。
『デビル中継、これで繋がってるかな』
『あーあー、てすとてすとー。魔王様、いる?』
『ちゅうけーい』
『まおーさまー』
リトルリドルの前に小さな画面が現れ、聞き覚えのある声が響いてきた。ノーツとジーマ、リフとレイン。初等部で仲良しだった悪魔達が下層と体育館の中継を繋いだらしい。
「四天王達!?」
驚くリトルリドルは慌てて格好いいポーズを取り、何か用かと問い返す。
『心配しなくても分かってるって。またビビってるんだろ』
『やっぱダサくない? ふふっ』
ノーツとジーマは笑っていたが、其処には親しみが感じられた。そして、次に双子の悪魔のリフとレインが画面に映る。普段は誰かの言葉を繰り返すだけの二人だが――。
『りとるりどる様、ぼくたち、おーえんしてるよ』
『まおーさま、がんばって。またあそぼー』
双子は其処ではじめて自分だけの意思を紡いだ。
その言葉を聞いたとき、リトルリドルの心が奮い立った。此処で頑張らずに何が魔王だろうか。逸していた視線を校長に向けた彼は画面を背にして、両腕を組んでみせた。
「ワーハハハ! このまおーサマがただ逃げてるだけだと思ったか!」
『良かった、もう大丈夫そうだ』
『それでこそ私達のまおーさま!』
『よかったー』
『まおーさまー!』
四天王達の見送る声を聞きながら、リトルリドルは戦場へと駆け出す。正攻法では押し負けるだろう。それならば、と爆弾を投げつつ逃げまくる作戦に出たのだ。
「これこそ、悪目立ちして校長をおびき寄せる作戦だ……!」
怖がりだからこそ取れる戦法がある。
リトルリドルはちょっとぐらいオシオキされても泣かないと決めた。何故なら、自分を慕ってくれる四天王と過ごす未来が、すぐ其処にあるのだから――!
大成功
🔵🔵🔵
ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と
無事に校歌も完成したのか
良いじゃん、格好良いな
くく、と肩を震わせ褒め称えた
背中は信頼する彼に預けて
見据えるのは、たったひとり
真面目すぎるお前に
悪事は似合わねえけど
こういう分野なら得意だろ
──なあ、マコ?
揶揄するように笑いながら
緩んだネクタイを完全に解けば
それは、ひらひらと宙を舞う
学生のフリはもう必要ない
さあ、此処から卒業しようか
肩から飛び立つ黒竜の名を呼び
手許でくるくると得物を回す
先端をルビーへ向けて
この未来に芽吹かせてやるよ
…──オレたちの絆を
彼の力強い言葉に口角が上がる
槍を持つ手に力が入った
ああ、決めるぜ、マコ
そして自らの手で
未来を切り開いていく
明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎
_
背は触れずともわかる彼の温度に瞳を細め
背の彼の言葉に口端は微か上がる
視線は真っ直ぐ彼女へと
……ああ、力仕事は得意だ。
女性を力任せにねじ伏せる趣味は無いが、
彼女の纏う空気や言葉に、そういった考えは今は失礼に値するのだろう。
ただものでは無いこの雰囲気に眼光は鋭さを増し、闘争心に火がつく。
ルーファスを最優先に庇い、攻撃を出来るだけ受け流しつつ
然るべきタイミングにてユーベルコードを発動
ルーファスと呼吸を意識して合わせるまでもなく
一挙一動己のことのように掴んでいるから
「さあ、いこうか──ルーファス」
──刹那、剣閃が吹き荒ぶ。
●進み往く路の先
校歌を歌うちいさな魔王の声が聞こえた。
その声は次第に遠くなっていったが、ルーファスは妙に快い気持ちを覚えている。
「無事に校歌も完成したし、後は卒業か」
格好良いよな、と話すルーファスは、くく、と肩を震わせた。笑いながらも褒め称えた理由はあれが此処に集う皆で作り上げたものだからだ。
彼らが立っているのは暗黒の最中にある見えない足場。
背中は信頼する理に預け、見据えるのはたったひとりだけ。彼の視線の先には、暗黒空間に浮かぶルビー・ジュエルシードの姿がある。
「次は、貴方達です」
此方に気が付いた校長先生は理とルーファスを見下ろした。
理は頷き、自分達の力を見せると示す。背は触れずともわかる彼の温度。そのぬくもりに瞳を細めた理は力を巡らせていった。
「真面目すぎるお前に悪事は似合わねえけど、こういう分野なら得意だろ」
――なあ、マコ?
そういって揶揄するように笑いながらも、しっかりと名を呼んでくれるルーファスの声は頼もしい。その言葉を聞いた理の口端が微かに上がり、返答が紡がれる。
「……ああ、力仕事は得意だ。」
視線は真っ直ぐルビーに向け、理は呼吸を整えた。
ルーファスも緩んだネクタイを指先で引き、完全に解く。ひらひらと宙を舞っていったタイが表すのは学生のフリはもう必要ないということ。
「さあ、此処から卒業しようか」
ルーファスが跳躍する。その先にある、もうひとつの足場に向かうためだ。同時に肩に止まっていた黒炎竜のナイトが槍の姿に変わった。
「――ナイト!」
その名を言葉にしながら、手許で得物を回すルーファス。彼は先端をルビーへ向けて強い戦意を向けた。
彼の後に続いて駆けた理も狙いを定めていく。
理には女性を力任せにねじ伏せる趣味など無い。だが、相手も真剣だ。違法学園の校長という不思議な立場ではあるが、彼女とて巫山戯ているわけではないと分かった。
ルビーの纏う空気や言葉に、そういった考えは今は失礼に値する。
そのように感じた理もまた、真剣そのものだ。
「貴方達の力、見せてください」
ルビーはそういうやいなや、三叉槍をルーファスに向けて振るった。されど、その一撃は前に飛び出して来た理が受け止める。
「――!」
「マコ!」
鋭く深い痛みが理を襲い、ルーファスがその名を再び呼んだ。
大丈夫だと答えた理は無理などしていないのだと視線で示す。それに一撃を受けて分かったこともある。やはりルビーはただものではない。その雰囲気に対して理の眼光は鋭さを増し、闘争心に火がついた。
本当に平気そうだと感じたルーファスは、ふっと笑む。
それならば次は此方から。
最初から全力で向かうべきだと感じ取ったルーファスは、一気に堕天使との距離を縮めた。卒業とは所謂、ひとつの終わり。
即ち、終焉を与えるために戦うのが今という時だ。
「この未来に芽吹かせてやるよ……――オレたちの絆を」
「負ける気なんてひとつもないからな」
理の力強い言葉を聞き、ルーファスの口角が上がった。槍を持つ手に力を込めた彼はルビーの三叉槍と黒竜槍とで、真っ向勝負を挑みにかかる。
刹那、双方の槍が正面から衝突した。
火花が散り、激しい衝撃の音が戦場に短く響いてゆく。理も其処に続き、横薙ぎに花驟雨を振るった。はたとしたルビーはルーファスに向けていた槍で刃を弾き、赤い翼を広げて身を翻す。
「それが、お二人の……。そうですか。仲良しさん、なのですね」
理とルーファスを見たルビーは、素直な評価を下したようだ。
二人はアイコンタクトすらしていなかった。それは理とルーファスの呼吸が既に意識して合わせるまでもなくぴったりと合っているからだ。
一挙一動、一挙手一投足。それは己のことのように互いの思いを知り、動きを掴んでいるからこそ出来ること。
校長と生徒。否、オブリビオンとイェーガー。双方の視線は真っ直ぐに重なる。
確かに学園生活は楽しかった。
だが、ルーファスも理も、学生として過ごしていく中でずっと感じていた。今でこそ在校生の悪魔達は自由奔放で楽しんでいるようだが、この状態ではいずれ支配ばかりが目立つ在り方になってしまう。
そんな未来を訪れさせないために、猟兵達は此処に訪れていた。それゆえにこの戦いに負けるわけにはいかない。
何より大切なのは、自らの手で未来を切り拓いていくこと。
「さあ、いこうか――ルーファス」
「ああ、決めるぜ、マコ」
その一歩目を自分達が刻むのだと決め、二人はひといきに闇を蹴りあげた。
刹那、剣閃が吹き荒び、槍撃が迸る。
広がり続ける漆黒を彼ら自身の色で塗り替えていくかのように深く、鋭く――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
嗣條・マリア
正義を胸に、希望を天へ
虚数と次元の果てから声を聞き、壊れゆく世界に救いの手を伸ばす
我らは闇を引き裂く赤き影
“アストレア”――嗣條・マリア、タイラントが相手を務めます
(決まりました)(どやぁ……)
大きさの差はありますが……まあ、問題はないでしょう
遠慮なく胸を借りに行かせて頂きます
右腕のパイルバンカー――ヴォイドバンカーをアクティベート
空間に孔を開け、虚空への扉とする黒い稲妻を纏ったその一撃で勝負を決めにかかります
強者はやはり、正々堂々と正面から一撃で――に限ります
――――無限の闇に呑まれて消えなさい
●暗黒と闇の狭間
堕天使は闇を纏い、空間の重力が歪む。
暗黒と漆黒に染まった世界を見渡しながら、マリアは決意を固めた。
今こそ猟兵としての力を十二分に発揮するときだ。これまでは少しだけ悪い真面目な学生として振る舞っていたが、全力を賭すべき時が訪れた。
「――正義を胸に、希望を天へ」
キャバリアに搭乗しているマリアの凛とした声が響きはじめる。
それはあの授業で会得した名乗り口上だ。マリアは瞼を閉じ、自分なりの思いを込めてひとつずつ言葉を並べていく。
「虚数と次元の果てから声を聞き、壊れゆく世界に救いの手を伸ばす」
その声と同時に腕を前に伸ばすマリア。
瞼をひらき、空中に舞う校長先生ことルビー・ジュエルシードを見据える。そして、最後の言葉が紡がれていく。
「我らは闇を引き裂く赤き影。
“アストレア”――嗣條・マリア、タイラントが貴女の相手を務めます」
名乗りが最高潮に達した瞬間、マリアは決めポーズを取った。
それはまさに闇を裂く声。
(決まりました)
タイラントの内部で得意気に胸を張っているマリアは、ひと仕事を終えたような気持ちを抱いていた。しかし、まだ終わっていないことも理解している。
見据えるのは空中に浮かぶ堕天使。
此方はキャバリアであり、大きさの差はあるが相手はそれをものともしないだろう。
「全力で行っても……まあ、問題はないでしょう」
「どんなに大きなラスボスでも、ロボットが相手でも、私の方が強い、です」
するとルビーが淡々と答えた。
おそらくは言葉通りにラスボスを倒したこともあるのだろう。ロボット相手は初めてですが、とちいさく告げたルビーはキャバリアを見つめ返した。
「では遠慮なく胸を借りに行かせて頂きます」
強く宣言したマリアはひといきにルビーへと接近していく。
――JRX-21Y-A.
同時に右腕のヴォイドバンカーをアクティベートしていき、暗黒空間に孔を開けた。虚空への扉とする黒い稲妻を纏ったタイラントは空間を裂きながら飛ぶ。
相手が此方の実力をみるというならば出し惜しみはしない。
この一撃で勝負を決めにかかるのが吉。そう感じたマリアは強く前を見つめた。
「強者はやはり、正々堂々と正面から一撃で――という戦法に限ります」
「いいですね。素敵です。ですが……」
「何か問題でも?」
「私が本気を出すと、そのタイラントさんも、一瞬で潰れてしまいます、から」
対するルビーは当たり前のように語ってくる。マリアはそれも嘘ではないのだと感じながら、タイラントも自分もそれほど弱くはないと告げた。
「いいえ、そんなことにはなりません」
何故なら、この力は。
着弾地点を中心にあらゆるものを時空の狭間へ強制転送し、破壊するもの。
「――――無限の闇に呑まれて消えなさい」
マリアの声が響き渡った、刹那。
黒髪を揺らした堕天使の姿が消え、激しい轟音が鳴り響いた。
大成功
🔵🔵🔵
唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】
なるほど、卒業試験かァ……ンなら
これを使わねェとなぁ…!
スゥ、と大きく息を吸えば大声で
夏は過ぎ行き、生はまた廻る。
唄が響けば夜に舞う。
我は流転する世界に堕とされし竜神――なつめ!
ドヤ顔と仁王立ちで教わった口上を言えば
お前の番だと言わんばかりにときじに目配せ
あったりめーだろ!
100点満点で卒業してやんよ!!!
俺とお前なら出来る
行くぜェ、覚悟しなァ!
ときじの撹乱の蒼の炎に紛れて隙を伺う
一気に決めっぞ……!
ーーー『終焉らせてやる』!
宵雛花・十雉
【蛇十雉】
か、勝てるかなぁ…
ううん、ここまで上ってきたオレたちなんだから
きっと卒業できるよね
校長先生、覚悟…!
相棒から目配せがあれば、意を決して前に出て
さっき授業で考えた口上をカッコよく披露しながら薙刀を構える
ちょっと気持ちいいね、これ
今なら何だってできちゃいそうな気がする
行こう、なつめ
息を合わせて攻撃しよう
強い相手ほど燃えるって言うし
…ちょ、ちょっと怖いけど
蒼の炎で相手を撹乱
相手の目を引き付けて攻撃の隙を作るんだ
なつめ、今だよ…!
カッコよく決めてね
なつめに攻撃が向けばすかさず結界術で防御
サポートに回るよ
オレの大事な相棒なんだ
絶対に傷付けさせないから
●守る意思と卒業への道筋
堕天使と猟兵の交戦は続いていく。
それまでの戦いにおいて、時空の狭間に落とされたルビー・ジュエルシードは一瞬だけ姿を消した。だが、闇の中から姿を現した彼女はまだ余力を残しているらしい。
十雉となつめはルビーを見つめ、その強さを実感する。
「か、勝てるかなぁ……」
「なるほど、卒業試験かァ……ま、大丈夫だろ」
「ううん、ここまで上ってきたオレたちなんだからきっと卒業できるよね」
一度は弱気な発言をしてしまった十雉だが、なつめの声を聞いて安堵する。堕天使の方は体勢を立て直しているらしく、少しの弱体化が見えた。
あれなら大丈夫だろうと感じた十雉は身構え、決意を言葉にしていく。
「校長先生、覚悟……!」
「ンなら、これを使わねェとなぁ!」
十雉の言葉に続けて、笑みを深めたなつめ。彼はそのまま、スゥ、と大きく息を吸ってから大声を張り上げていく。
「夏は過ぎ行き、生はまた廻る。唄が響けば夜に舞う。
我は流転する世界に堕とされし竜神――なつめ!」
ドヤ顔と仁王立ち。
以前の授業で教わった口上を語ったなつめは満足気だ。そうして彼は次はお前の番だと言わんばかりに十雉に目配せをした。
「オレが名乗って良いのかな。場違いじゃない?」
「あったりめーだろ! 良いに決まってる。二人で百点満点で卒業してやんよ!!」
ほんの少しだけ遠慮してしまった十雉に向け、なつめは力強く語る。
俺とお前なら出来る。
そのように伝えてくれたなつめに首肯した十雉は、彼が信じてくれる自分を信じようと思った。意を決して前に出た十雉は、授業で考えた口上を紡いでいく。
「コインを弾けば、さあさお立ち会い。裏が出るか表が出るか、世界は表裏一体!
闇に歩けば花を咲かせ、この身に纏う死神の力は空舞う鳥すら地に落とす。根無しの草と侮るなかれ、我が名は十雉。奇々傀々に全てを解決してやりまさァ!」
カッコよく披露しながら薙刀を構えた十雉。
その表情は嬉しげで、すっきりしたものになっている。
「ちょっと気持ちいいね、これ」
「だろ? 場違いでも何でもねぇって」
「うん、今なら何だってできちゃいそうな気がする」
「それなら行くぜェ、覚悟しなァ!」
二人は言葉を重ねあい、ルビー・ジュエルシードへと挑んでいく。其処から戦いは巡り、両者の攻防が激しく続いていった。
そんな中、ルビーがふと思い立つ。
「そういえば……貴方達、飾ってあった絵に落書きをしていた、でしょう」
「おっと、バレてたかァ」
「う、うん……したけど。駄目だった?」
ルビーは彼らが行った悪事に気付いていたらしい。別に駄目ではないですが、と続けたルビーはちいさな溜息を零した。
「私の肖像画を置いていなくて、助かりました。まだ、現役で良かった、です」
現役教師の肖像画など普通は用意されていない。だが、その予定もなきにしもあらずだったので早まって自分の肖像画を作らなくてよかったとルビーは安堵していた。
そんなこんなで、二人と校長の戦いは更に続く。
「行こう、なつめ」
「よっしゃ!」
十雉はなつめと息を合わせて攻撃してった。強い相手ほど燃えるというが、やはり少しは怖い。それでも隣になつめがいるので心配などなかった。
蒼の炎で相手を撹乱した十雉は、目を引き付けていくことで攻撃の隙を作る。
「なつめ、今だよ! カッコよく決めてね」
「一気に決めっぞ……!」
――『終焉らせてやる』!
強く宣言したなつめ。彼は完全竜体に変身していき、夏雨と共に、激しい雷や稲光を放ち続けていった。
其処に合わせて、十雉はすかさず彼を守護する結界術を張り巡らせた。最後まで補助に回り続けると心に決めた十雉は、薙刀を強く握る。
「オレの大事な相棒なんだ。絶対に傷付けさせないから」
その言葉は控えめながらも強く、確かな思いとなって戦場に落とされた。
轟く稲光。蒼の炎。
重なりあう二人の力は、卒業への路を繋げていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩迎櫻
遂にこの時がきたね
大丈夫
私達ならば越えられるだろう
学園生活、良きものだった
寝ながら朝餉を食べるリルは不思議であったし、授業中の巫女もまた常に麗しかった
誰かから何かを学ぶという楽しみをしれたよ
カグラはヨルとよく悪さをしていたのにね
サヨの左右は私とリルで固めているから仕方ない
…カラスは気にしなくていいよ
噫、私達の力をみせよう
カグラ、結界で皆を守ってくれ
先ずは先制攻撃、早業で駆け切り込む
サヨやリルに幸を約して、サヨの太刀筋に合わせながらなぎ払い、校長先生に不運の神罰を振らせ巡らせて
第六感で技を察し、見切り攻撃に転じて切断する
大丈夫だよ
信じよう
私達ならば越えられる
卒業というものもしてみたいからね
リル・ルリ
🐟迎櫻
くっ、強い!
櫻、カムイ!僕らが学んだ全てを示すときが来た!
カムイに米俵の様に抱えられて登校
ヨルと競いあう学食
何故かモテるカグラにギリッてする櫻
気がつくと飼育小屋に入れられてるカラス
夜更かしして朝やる宿題
2段べっどの上でガタガタする楽しみ
悪いことは何かって考えたら意外と僕は悪いこだと気がついた
学園生活を忘れない
全力を示してかっこいいとこをみせるぞ
ヨルは応援よろしく!
泡沫の守りで櫻とカムイを守る
反転する重力は水中のよう
渾身の歌唱で奏でる「薇の歌」
校長先生の力を《何も無かった》と巻戻す
二人が戦いやすいよう歌い惑わす
もどかしいけど
僕にできることをする
諦めない!
全力で卒業への道をこじ開けるんだ!
誘名・櫻宵
🌸迎櫻
流石、校長を張ってるだけの事はあるわ!
リル、カムイ
校長に私達の力を示し卒業証書を掴むのよ!
そうね…数多の想い出を重ねたわ
リルは最後までお寝坊であるし
米俵抱きのカムイは朝の光景によく馴染んだわ
何でカグラばっかり青春を十頁位刻んでるの?!
顔は同じなのに!
夜更かしして語り合うのも楽しかったわ
…怖い夢見て眠れなくなった時、カラスが降りてきてくれたのも
素敵な学園生活の締め括り
カムイ、往くわよ
リルの歌が守ってくれる
この想いに応えるの!
私は強くならなきゃ
どんな呪縛も破れるように
2人を皆を守れるように
息を合わせ攻撃を見切り躱して
桜化の神罰を衝撃波に重ね薙ぎ払う
負けない、私は
美しく
咲いて咲かせて魅せるわ
●泡沫に咲く約花
空間の重力が反転していき、全てのものが空に堕ちる。
鮮烈なる赤と漆黒を纏う堕天使らしい能力を用いて、此方を撹乱する校長先生ことルビー・ジュエルシード。
リルは彼女の強さを実感しながら、よろめいてしまった櫻宵を空中で抱きとめた。
「くっ、強い!」
「ありがとう、リル」
「大丈夫かい、二人共」
見えない足場に櫻宵を下ろしたリルに続き、同じ場所に跳躍してきたカムイも巫女を支える。三人が見据えるのは空中に浮かび、三叉槍を構えるルビーの姿。彼女を倒さなければ卒業への道は開かれない。
「流石、校長を張ってるだけの事はあるわ!」
櫻宵は体勢を整え、自由自在に闇を飛び回るルビーを目で追った。
「遂にこの時がきたね。私達ならば越えられるだろう」
「そうだよ、櫻、カムイ! 僕らが学んだ全てを示すときが来たんだ!」
カムイは櫻宵を守る布陣につき、リルもヨルに応援を頼む。頷いた櫻宵も二人の名を呼び返し、決意を声にしていく。
「リル、カムイ。校長に私達の力を示して、卒業証書を掴むのよ!」
「きゅー!」
ヨルが元気よく返事をして、最近の定位置であるカグラの腕の中に収まった。
周囲は常に重力が揺れ動いている。
三人は辺りにある見えない足場を見極めながら立ち回った。ルビーが他の猟兵の相手をしている最中、彼らはこれまでの学園生活を思い返していった。
「学園生活、良きものだったね」
カムイの口許は自然に緩んでいる。寝ながら朝餉を食べるリルの姿は不思議であり、同時に面白かった。それに授業中の櫻宵というなかなか見られないシチュエーションかつ、隣の席に座って麗しい横顔を眺めるという時間もかけがえないものだった。
「そうね……数多の想い出を重ねたわ」
お寝坊リルは今日も変わらなかったし、と櫻宵も笑う。
米俵のように人魚を抱いて登校するカムイの姿は恒例になっていた。朝の光景によく馴染んだのだ櫻宵が語れば、リルは視線を逸らす。
「うん、すごく楽しかった!」
「そういえば、何でカグラばっかり青春を十頁位刻んでるの?! 顔は同じなのに!」
「きゅきゅ?」
リルと櫻宵がカグラの方を見るとヨルが違うよと言いたげに鳴いた。
「ヨルとは学食でも競い合ったよね。もう何だか懐かしいなぁ」
ふふっと笑ったリルにカムイが頷く。
「カグラはヨルとよく悪さをしていたのにね。サヨの左右は私とリルで固めているから仕方ないよ。それに――」
もし自分達以外の誰かが櫻宵を好いたなら。
カムイは瞳を伏せ、浮かびかけた思いを裡に沈めた。
戦いの最中ではあるが、思い出は次々と溢れてくる。それも間もなくこの学園で過ごす時間が終わってしまうからだ。
「誰かから何かを学ぶという楽しみをしれたよ」
「夜更かしして語り合うのも楽しかったわね」
怖い夢を見て眠れなくなった時、カラスが降りてきてくれたこともあった。櫻宵がそう語ると、先程にようやく飼育小屋から出されたカラスがカムイの肩に止まる。
「……カラス」
援護を頼むよ、と告げたカムイは自分の中にあった揺らぐ思いを振り払った。リルは神の心の動きにほんの少しだけ気付いていたが、言及はしない。
「夜更かしして朝やる宿題は大忙しだったね。二段べっどの上でガタガタするのも、悪いことを考えるのも――」
意外と自分が悪い子だと気がついたのも、リルなりの発見だ。
そういった生活も終幕が近付いている。
櫻宵は気を取り直し、改めてルビーを見つめた。
「この戦いが素敵な学園生活の締め括りね。カムイ、往くわよ!」
「噫、私達の力をみせよう」
「僕もいつものように歌うね」
同時に跳躍して、次の足場に向かった櫻宵とカムイ。その背を見送りながら、ふわふわと泳ぐリルは詩を紡ぎはじめた。
リルの歌が守ってくれる。
あの想いに応えるのだと誓い、櫻宵達は堕天使との距離を一気に詰めた。
「次は貴方達、ですね。少し疲れてきましたが……いいでしょう」
ルビーは三叉槍を構え直し、カムイ達を迎え撃つ。カグラは結界を張り、リルも泡沫の守りで以て二人を守っていく。
「僕は学園生活を忘れないよ。先生にも全力を示してかっこいいとこをみせるぞ!」
「それは喜ばしいこと、ですね」
ルビーはさらりと答えて重力を反転させた。それは水中のような感覚を齎しているが、リルは決して負けはしない。
渾身の思いを込めて、リルが奏でゆくのは薇の歌。
校長先生の力を何も無かったものとして巻き戻せば、櫻宵とカムイが素早く左右に散開した。右からは櫻宵が、左からはカムイが回り込み、対の刀を振り上げる。
カムイは櫻宵とリルに幸を約していく。
そして、巫女の太刀筋に合わせながら相手を薙ぎ払った。同時に不運の神罰を振らせて巡らせれば、校長先生が体勢を崩す。
「くっ……」
「私達の刃の味はどうかしら?」
「そうですね。良いもの、です」
ルビーと言葉を交わす櫻宵は斬り込みながらも、自分への思いを胸に抱いた。
強くなりたい。強くならなきゃ。
目の前にいる彼女のように、自分が強いと宣言できるほどに。そうすればきっと、どんな呪縛も破れるはず。
櫻宵は桜化の神罰を紡ぎ、其処から放った衝撃波に力を重ねていった。
彼の思いは太刀筋に現れている。流麗で見事な剣閃ではあるが、リルには櫻宵が少しだけ焦っていることが分かった。
すぐ傍にいることは叶っても、直接の力になれないことがもどかしい。けれどもリルは自分に出来ることをしたいと願っていた。
「諦めない! 全力で卒業への道をこじ開けるんだ!」
カムイもリルの思いを感じ取り、卒業というものをしてみたいのだと宣言した。
「大丈夫だよ、信じよう。私達ならば越えられる」
「ええ、負けない。私は美しく咲いて咲かせて魅せるわ」
其処から歌と幸の花が咲く。
卒業への路を繋いで、そして――この先に続く未来への花道となるように。
想いを宿した桜は、廻る。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
美咲・るい
雨野さんと/f22865
◎
ついに卒業試験だね。
悪事は楽しかったけど、私たちの仕事をしなくちゃね。
傷ついた仲間を癒す優しい天使の歌
UC【シンフォニック・キュア】
もう大丈夫、そばにいるよ
いたいのいたいの飛んでいけ!
*
「我ら悪戯桜花爛漫サーバント!」
先生、ほんとに強い…!
近接戦は…う~んっ…あんまり得意じゃない。
"治して逃がすはお任せあれ"だもんね
私たちは他の猟兵さんたちのサポートをしよう。
飛ぶのは得意じゃないけど、雨野さんが助けてくれるなら大丈夫、怖くないよ。
私にできることをしよう。
一人でも多くの人に届くように歌う!
…うん。誰かがいるって心強いね。
それを教えてくれてありがとうございます、先生!
雨野・雲珠
美咲さんと/f26908
◎:【羽音】に着替え済
姿より先に闇の中響く、涼やかな鈴の歌声
痛みを和らげ傷を癒す神秘の御業を間近で聞きながら
「治して逃がすはお任せあれ!」
(謎の逆光)
(ポーズ付き)
箱から【四之宮】、腕からは【枝絡み】を操り
妨害と防御・空中移動の補助に徹します
彼女が歌い続けられるよう、枝を重ねて視界を遮り盾を作り
槍や足を絡めとろうとし…
…!お怪我は!
よかった…距離を詰められないよう気を付けましょう
速い、強い 瞬きもできない
恩師や友に恥じぬ戦い方をしろ、
強敵を討ち果たし未来へ進めとその身でもって教えてくださる…(※主観)
ル…いえ、校長先生。胸お借りします
──このまま参りましょう、美咲さん!
●卒業は桜花爛漫に
戦いは巡りゆき、終幕が近付いていることが分かった。
暗黒空間の端々が綻んできていることに気が付き、るいは傍らの雲珠を見遣る。
「ついに卒業試験も終わるんだね」
「そうですね。何だか寂しい気もしますが、これが役目です」
答えた雲珠はもう学生服ではなく、るいも元の服に着替えていた。これは猟兵としての意思を示すためであり、同時に学生からの卒業を表した決意のあらわれだ。
「悪事は楽しかったけど、私たちの仕事をしなくちゃね」
「はい、このまま続けていきましょう。俺達のすべきことを!」
るいはゆっくりと息を吸い、雲珠も彼女を守るために立ち回っていく。るいはこれまで、癒やしの力を込めた歌声を体育館に響かせてきた。
雲珠は背中の箱宮から桜の根を放つことで彼女が闇の底に落ちぬようにしている。時折、茨を生やす赤い宝石が此方に離れたれたが、それすらも阻止する勢いだ。
校長先生こと、ルビー・ジュエルシードは強い。それゆえに直接に相対した何人かは深いを傷を負っていた。
るいは傷ついた仲間を探して、優しい天使の歌を紡ぎ続ける。
「もう大丈夫、そばにいるよ。いたいのいたいの飛んでいけ!」
闇の中に響く涼やかな鈴のようなるいの歌声は、雲珠の身も包み込んでいた。痛みを和らげていく神秘の御業を間近で聴けること。これも、今まで彼女の友人として共に学園生活を送ってきた約得だろうか。
雲珠はそんなことを考えながら桜の根を解き放っていく。そうして補助に回っていた彼らの動きはいつしかルビーにも知られることとなった。
「成程。誰も倒せないのは、縁の下の力持ちさんがいたから、ですね」
ルビーは二人の元に訪れ、やられました、と呟く。
るいの癒やしがなければ、誰かが倒れていたかもしれない。それほどにルビーは強いのだが、猟兵達とて負けてはいなかった。
雲珠はるいに目配せを送り、今こそのあの台詞と動きを披露するときだと示す。その瞬間、謎の逆光が雲珠達の背に現れた。
それを合図にした二人は授業で考えた名乗り口上を語っていく。
「世に善あれば善を断つ」
「苦痛の声あるところ我らあり」
「冠る花は餞」
まるでスポットライトのように二人を照らす輝き。これこそが自分達の舞台であり見せ場だと感じたるいと雲珠は、凛とした声でしっかりと宣言する。
「治して逃がすはお任せあれ!」
「我ら悪戯桜花爛漫サーバント!」
謎の光が幾度も輝き、二人の姿を印象的かつ美しく彩った。
わぁ、と思わず素の声をあげたルビーは三叉槍を小脇に抱え直してから、ぱちぱちと拍手を送ってくれる。すると、次第に拍手の音が大きくなった。
『素晴らしいですわー!!』
同時にビート先生の涙混じりの声が視聴覚室に中継されているという画面から響いてくる。拍手の音も先生や生徒達が送ってくれたものらしい。ビート先生は周囲の生徒に、あの子達は自分の教え子なのですわ、とはしゃぎながら自慢している。
『ビート先生、涙拭いて! 二人がこっち見てるよ!』
『るいるい、うずくん、がんばれー!』
『君たちとクラスメイトだったこと、誇りに思ってるよ!』
続いて聞こえたのは初等部で同じ教室にいた悪魔の生徒達の声。ウェーブで一緒に先生を苦しませ、文房具型のお菓子をを貪り食った仲の子達だ。
その声を耳にしたるいと雲珠は、これまでの学園生活は無駄ではなかったと知る。
何故なら、これまで以上に勇気が湧いてきたからだ。
されどルビーは三叉槍を構え直し、雲珠を排除しようとしてきた。更に重力を操った校長先生はるいまで巻き込む心算だ。
鋭い一閃が雲珠を掠め、その余波がるいにまで及ぶ。
「……! お怪我は!」
「大丈夫! 先生、ほんとに強い……! でも……!」
怖くない。
雨野さんが助けてくれるから、と伝えたるいは明るい笑みを浮かべた。頷いた雲珠は彼女が歌い続けられるよう、枝を重ねて視界を遮り盾を作り、距離を詰められないように注意を払っていく。
校長先生は強い。疾くて瞬きもできないほどだ。
それでも、るいも雲珠も戦い続けた。仲間の猟兵の一閃がルビーを貫いていく中で、るいは声を響かせていく。
一人でも多くの人に届くように。懸命な歌声が戦場に広がる。
同様に、雲珠もあることを感じていた。恩師や友に恥じぬ戦い方をしろ、強敵を討ち果たし未来へ進め――と、ルビーはその身でもって教えてくれているのだろう。
「仲間の大切さを改めて知りました」
「……うん。誰かがいるって心強いね」
並び立つ雲珠とるい。
二人は最後まで立ち続けることを心に決め、自分達の全力を揮っていった。
「ル……いえ、校長先生。胸お借りします」
「此処まで導いてくれて、教えてくれてありがとうございます、先生!」
「――このまま参りましょう、美咲さん!」
「うん! 雨野さんと私と、それから……ここにいる皆の力を合わせて!」
卒業への道筋を示すに相応しい二人の声が、高らかに巡ってゆく。
そして――。
思いを乗せた桜の枝が空に腕を伸ばすように広がる。まるでそれは、桜の花がこれから芽吹いていくことを表すかの如き、見事な一閃だった。
●校長と學園
戦いは終わりを迎え、ルビー・ジュエルシードが膝をつく。
それと同時に彼女が展開していた暗黒空間が消え去った。そのことは猟兵達の勝利を示しており、辺りが一瞬だけ静まりかえる。
視聴覚室に中継されている映像は校長を大写しにしているようだ。
「……私の、負けです」
ルビーは顔を上げ、画面に向けて宣言した。
それと同時に学園を包み込んでいた結界が崩れ落ち、出入りを禁じられていた校門が開く音が学園中に響き渡る。
堕天使の少女はゆっくりと息を吐き、何処か満足そうに語っていく。
「本当は、負けそうになったら悪役っぽく、とんずらする気でしたが……あなた達との戦いに何かを見出せそうで、戦い続けてしまい、ました」
ルビーは三叉槍を支えにして立ち上がり、猟兵と生徒達を見つめた。
赤い瞳にひとりずつの姿を映した後、ルビーはそっと伝える。
「おめでとうございます。――合格、です」
その言葉の後、ルビー・ジュエルシードの姿は徐々に薄れていった。
「校長としての生活は、なかなか楽しかったです。今回の私はここまでですが、いずれ第二、第三の校長先生が……」
不穏なことを語り始めたルビーは静かに双眸を細める。
「と、でも言うと思いましたか?」
冗談だと告げた彼女の翼は静かに下ろされた。どうやら校長ジョークらしい。だが、ルビーは最後にもっと不穏なことを語る。
「それでは、後は頼みました、よ。――『生徒会長』さん」
彼女の口から零れ落ちたのは、誰もその存在を知らなかった生徒会のこと。
その呼び掛けに答える者はいない。
だが、もしかすればこの学園にはまだ何かあるのだろうか。オブリビオンとして滅され、消えゆく彼女から謎を聞き出す時間はなかった。
「さようなら、皆さん。またいつか、どこかで。違う私に会う日まで」
別れを告げた少女は目を閉じる。
そして――体育館の中心で、堕天使の少女は跡形もなく消え去った。
●いざ、さらば
賑わう体育館。涙する在校生と送られる卒業生。
なんやかんやで猟兵を送る卒業式はうまい具合でいい感じに終わりを迎えた。式の中でどんな破茶滅茶があったかは、それぞれの心の中に刻まれていることだろう。
「みなさん、こうして巣立っていくのですね……」
「とても素晴らしい式でしたわ!」
「フフ、彼や彼女達の未来がどう続いていくか楽しみだな」
エーコにビート、シータ。
高等授業を取り仕切っていた先生達も、猟兵という卒業生を誇らしく思っている。
悪魔にラスボス、ブギーモンスターなどの生徒達。彼らは自由に外に行き来できるようになった學園の状態を喜び、猟兵を称えている。
生徒の多くは在校生でいることを選び、これからもこの学園で過ごしていくようだ。
「卒業おめでとー!」
「また遊びにきてね。お外でも遊んでね!」
「あっ! マーくんがまた轢かれてるー!?」
「どうか、皆さんが進むみちゆきが素晴らしいものでありますように!」
悪魔達はわいわいと騒ぎ、思い思いの言葉を向けてくれる。
お祝いの花が舞い散る学園を背にした猟兵は、卒業を経て未来に進む。その背を見送る生徒達はいつまでも、いつまでも手を振っていた。
使立堕天學園。
デビルキングワールドの最中に建つ違法学園は、まだまだ青春と悪事の真っ只中!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵