羅針盤戦争〜エンシェントデイ
波濤が呼ぶ。
風がうねる。
或は山の如き何かが、とある島に漂着した。
いつから、どのようにして。島の誰もが疑問に思いながらも、見覚えはなかったという。
もしかしたら、どこかから落ちてきたのか。しかし、それにしても誰も気づかない事などあるのか。
山の様に積み上がったそれが、人工的な建造物であるらしいことに気が付いた島民たちは、それが神かそれに連なる何かの施しであるかのように思う者もいたが、小さな島の3割ほどにもなろうかという不気味な建造物を遺跡と呼称した島民たちは、多くの謎を抱きつつも、興味を抱かずにはいられなかった。
何しろ島に住まう者たちは、いずれも屈強な海の男たち。
船を駆って海に出れば荒くれ、もしくは海賊とも称される猛者であった。
遺跡と呼ぶほどの古きものならば、お宝が眠っていてもおかしくはない。
期待に胸膨らむのも、その建造物が自発的に動き出すまでであった。
亀裂を呼び、割れて砕けたかのように変形する遺跡が、両の足を海底に突き立て人を模した姿で立ち上がる。
おお、これは巨人であろうか。
いや、立ち上がる巨峰の如き双肩に乗る頭が灯台のように輝く。
あれは命の息吹を持つもののそれではない。
何らかの防衛機構だろうか。
二の足を踏む海賊たちの目の前で、巨人がその手を振り下ろせば、その身から根を張るがごとく島が遺跡と同じ建材に変化していくではないか。
もしや、こいつは島を食うつもりでは?
島を建材へと作り替え、自身へと組み込む巨人の有様を目の当たりにし、海賊たちは戦慄する。
しかし、恐怖は次には怒り、奮起へと繋がった。
俺たちゃ海賊。生き様を刻むべく奪いこそすれ、奪われるのはごめんだ。
海賊の上前を撥ねようなんざ、ふてぇやろうだ!
その巨大な古きものに、『七大海嘯』の旗が立っていようが、彼等には関係ない。
俺たちの島を奪われてなるものか。
「グリードオーシャンで戦争の兆しを見たのも束の間のことだったな。
もう戦いが始まってしまった」
グリモアベースはその一角で、青灰色の板金コートとファーハットがトレードマークのリリィ・リリウムは、居並ぶ猟兵たちの前で軽く息をつく。
異なる世界から欠片として落ちてくる大地が島となるグリードオーシャンに於いて、おオブリビオンフォーミュラを含む『七大海嘯』がいよいよ攻勢を強めてきた。
今回、リリィが見た予知もまた、その麾下に並ぶ精鋭の一人がとある島へと侵攻するものであるという。
『南洋島の古神』と称されるオブリビオンは、巨大な遺跡のような姿をしている。
「自分自身を神と称するらしいが、今や忘れ去られ、海賊の手先となって、領土を広げるべく島を襲っているようだ。
同情する要素はないが、巨大であると言う事は、それだけで十分に脅威だ」
『七大海嘯』の精鋭というだけあって、その戦闘力は高く、猟兵のみで討伐するのは難しいかもしれない。
「そこでだ。もっとも迷惑を被っているであろう地元の島民である海賊たちに、協力を求めてみてはどうだろうか。
彼等もグリードオーシャンで生き抜く程度には屈強な連中だ。簡単に遅れは取らんだろう」
猟兵ほどではないにしろ、彼らの土地勘や機転、島に残っているであろう秘密のあれこれ、海賊船からの艦砲射撃など、何よりも手数を稼ぐには彼らほど心強い存在はないだろう。
「巨神は、海岸から島にかけて侵攻している。海側からでも、陸側からでも攻撃は仕掛けられるだろうが、無論奴もただただ攻撃されるばかりではないだろう。
得意な分野で挑むのが最良だろうな」
そうして一通りの説明が終わると、リリィは改めて猟兵たちを見回し、帽子を取ると一礼する。
「激しい戦闘には違いあるまいが、これは前哨戦だ。根幹を叩かない限り、いくらでもこのような連中が出てくる。
しかし、島を救うことは、『七大海嘯』の根城に迫る足掛かりになるだろう。幸運を祈るよ」
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文書書き、みろりじと申します。
さぁ、戦争シナリオです。海図に島を書き込んで、幹部の拠点を見つけようという今回の戦争様式では、やはりやはり、数を重ねよというお話ですね。
というわけで、流れてきた大きな遺跡の神を倒しに行きましょう。
ジモティーと協力すると、いいことがあるかもしれません。
せっかくなので、色々無茶振りしちゃった方が、色々奮闘するシーンが見られるかもしれません。
もちろん、てめぇらの手はかりねぇ! とガチンコ決めてしまうのも、男の子かもしれません。
舞台は特に言及してませんが、南海の孤島的な島なんじゃないでしょうか。
パインとかバナナが自生してるイメージ。だって、南洋島の神ですよ!
というわけで、まだまだ寒い季節ですが、常夏のアバンチュール(死語)と参りましょう。
それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
第1章 ボス戦
『南洋島の古神』
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POW : 崩れ得ぬ神嶺
【巨大な拳】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【地盤を自らへ取り込み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 神体宝玉の瞳
【視線】を向けた対象に、【頭部へ納められた宝玉より放たれる魔力】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : 島ハ我也、我ハ世界也
自身からレベルm半径内の無機物を【自身を構築する遺跡建材】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:伊瀬井セイ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ユエイン・リュンコイス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ゲニウス・サガレン
広義の故郷を守ろうと来たのだけれど、困った
でかくて強そう
こういう相手と戦うときは、中心核のようなものを破壊する、または罠にはめて行動の自由を奪うのがセオリーだけど……
よし、派手な罠にしよう
ジモッティを説き伏せて協力を求める
「諸君、戦と書いて≪まつり≫。派手にやろう」
UC「眠れる力を呼び起こせ」
海賊の行動を支援する
南国の島は石灰岩質が多い
海岸部には洞窟ができているはずだ
そこにありったけの火薬をため込む
古神は、海賊が海上から大砲を打ち込んで挑発、洞窟へと誘導する
古神が、洞窟が存在する岩盤ごと、自分の体に取りこんだらそこを狙って砲撃
取りこまない場合は、洞窟の上に来た時点で火薬を爆破
散華してもらおうか
トリテレイア・ゼロナイン
海賊と共闘と言うのは騎士として不可思議な感慨がありますが…
この世界の安寧の為ならばともに戦う同士
全力を尽くさせていただきます
やって頂きたいのは巨神の足止め
体躯が頑丈でもそれが踏みしめる大地はそうで無し
ありたけの爆薬で移動を一時でも止めましょう
囮は私が努めます
(脚部スラスターでの●推力移動で大地を滑走)
それと…士気高揚の為に一つ案があるのですが
足が止まり、大地を吸収する前に反撃開始
ワイヤーアンカーを体躯に射出し●ロープワークで巻き取りつつ疾走
センサーでの情報収集と瞬間思考力で挙動を見切り頭部の宝玉目指し駆け上がり
宝玉覆う頭部をUCの大盾殴打で粉砕
剣で斬りつけると共に海賊達から託された旗を突き立て
朱鷺透・小枝子
陸側から登場する。
海賊に手を貸すのはいささか抵抗がある。が、
敵がオブリビオンならば、そんな事どうだって良い!!
ディスポーザブル03を遠隔操縦。エネルギー充填しつつ、
誘導弾、一斉発射!敵を海側へ吹き飛ばし、おびき寄せ。
回点号を操縦、オーラ防御、シールドを展開し、魔力攻撃を受け止め、
海賊達や03を守る。
…領地を奪われる、それはとても悔しい事だ。悲しい事だ。
自分は、奪わせない。オブリビオンなどに、この地を奪わせない!
絶対にだ!!
瞬間思考力、03からのビーム砲攻撃で攻撃、
『劫火戦塵』おおお!!尽くを、押し返せ!!
推力移動、シールドバッシュ。回点号で魔力を押し返し、
瞳へ向かって手刀を突き入れる!
ごうごうと、何か巨大な質量同士がこすれ合って軋む音が、潮風に混じって飛んでくる。
南海の孤島を思わせる海賊の根城。それは人のいなかった島であった。
どこかからまろび出てきただけなのか、それとも元居た者たちが絶滅したのか。
それは定かではないが、人が住むに易く、同時に人が住まっている様子もなかったので、海の上でやんちゃを行う者たちが立ち寄る。
それが高じて、人が集う様になれば、いつの間にか小さな集落になっていた。
人は生活が潤えば嫌でも礼節を学び、礼節を知れば謙虚にもなる。
船と見れば襲い掛かっていた海賊たちは、いつしか仁義を立ち上げて、悪行三昧は鳴りを潜めつつあった。
そう、この海賊島を牛耳る元締めは、チンピラまがいに悪さばかりする海賊から金品を奪い取る、スキマ産業的な海賊狩りの海賊なのである。
「うーむ、流石の海の荒くれたちも、陸に女を残したとあっては、身持ちも固くなるのかねぇ」
鉄甲船はその船首の近くで顎に手をやり、訳知り顔で独り言のようにべらべらと講釈を垂れるのは、ゲニウス・サガレン(探検家を気取る駆け出し学者・f30902)。
やや渋みを感じさせるカーキ色の探検家の装いをしているが、実家が商人だったらしく、同世界の事情には妙に耳ざとい。
その話を、へー、ほー、と聞いているのかどうかよくわからない感じでボーっと体育座りで待機していた二人の猟兵は、
「しかし、海賊に手を貸すのは、いささか抵抗が……」
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は、シンプルな思考である。
海賊は奪うもの。奪う奴は大体悪い奴だ。共闘するのも手ではあるという話だったが、そんなものなくたって、戦えるじゃないか。
オブリビオンを倒す目的を優先するだけだ。
「確かに。海賊と共闘と言うのは騎士として不可思議な感慨があります。
が、この世界の安寧の為ならばともに戦う同士」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が、その甲冑のバイザーの奥でアイセンサーを明滅させる。
絵本の騎士のような、理想像を体現するかのような振舞いは、何かと血の気の多い小枝子をちょっとだけクールダウンさせる。
彼らとて、この地に住まう者。むやみに糾弾する時ではない。
もっとシンプルでいい。
「敵がオブリビオンならば、海賊だなんだ、どうだって良い……!!」
「物騒だな、君たち。まずは作戦だよ」
既に戦う気満々といった小枝子を制するかのように、ゲニウスは白い布を潮風になびかせる。
ようやく現場に到着し、付近の海賊船に敵でない事をアピールし、乗船するのであった。
そうして、海賊船に渡ってから、改めて現場を見てみれば、遠巻きからでもオブリビオンの威容が目に入る。
「いや、困った。予想よりでかくて強そうだぞ、こりゃあ」
ははっと乾いた笑みを漏らし、潮風にすっかりがさがさの髪をくしゃっと撫でつける。
ゲニウスとしてはちょっと場を和ませようとしたつもりだったが、海賊たちの殺気立った視線を向けられて苦笑いしながら肩をすくめる。
そりゃあ、彼らにとってみれば家を襲われている訳である。さすがにむっと来たのかもしれない。
だが、掴みはオーケーだ。
「それでまぁ、作戦というか……その前に確認なんだが、この辺りは南洋の気候のはずだね?」
「お、おう、そんなこと聞いてどうすんだ? ていうか、勝てるんだろうな!?」
強面の海賊の一人が焦った様子でゲニウスに言い寄ろうとするも、それを指を立てて制する。
「岩盤の中には石灰岩質のものも多いはずだ。そういった層が海岸部に露出していれば、そこだけ早く波に削られ洞窟になりやすい……どうかな?」
「た、確かに……そういう洞窟ならいくつか……小舟を隠すのにもってこいのところもあるな」
さすがに探検家を自称するだけあって博識である事に加え、生活に根付いたことを言い当てるゲニウスの言葉はなかなかに巧みであり、他人を言いくるめる技術こそ持たぬものの、考古学の授業もできそうな具合である。
だが彼もまた猟兵。ちょっぴり考え方は過激である。
「よし、作戦はこうだ。その洞窟に爆薬を仕込んで、奴を誘い込み、ドカンだ」
「簡単に言うな、お前!?」
簡潔な作戦説明に、海賊は素っ頓狂な声を上げて思わずツッコミを入れてしまう。
誰がそんな危険なことをやるというのか。
命知らずな海賊とて、たらふく爆薬を抱え込んだ状態であの巨神の目の前を横切ろうなどと、それこそ猟兵の、それもかなり頑丈な者でなければ勤まるまい。
ここぞとばかり、トリテレイアが前に出るが、
「なるほど。ではその役目、私が」
「いやいや、ここは言い出しっぺの私がやるべきだろう。水中を潜っていけば案外、気づかれないだろうさ」
ゲニウスが潜水作業服を片手に、ニッと笑って見せる。
頭脳労働担当かと思ったが、なかなかどうして行動的である。いや、だからこそ探検家なのかもしれないが。
「……では、仕掛けが成るまで、私と朱鷺透様とで、囮を務めましょう」
止めるべきか。とも考えたトリテレイアだったが、熱っぽく弁を弄するゲニウスに当てられたのだろうか。
いいや、彼もまた浪漫が好きなのである。
「諸君、戦と書いて≪まつり≫。派手にやろう」
ゲニウスの言葉に、いつしか海賊たちは拳をそろえ、声を上げるのであった。
そうして、作戦は開始された。
唯一鉄甲船から海賊船に渡らなかった小枝子は、事のあらましをトリテレイアを共有。
なぜかといえば、小枝子はキャバリア乗り。個人としてはかなり大きめの所有物を幾つか同期して運んでいるため、作戦開始まで船から移動できなかったのである。
ウォーマシンであるトリテレイアと情報共有できるのもそのためである。
ちなみにどうでもいいが、かなりの重量を誇るキャバリアを二機ほど搭載しているためか、鉄甲船はいっぱいいっぱいだったりする。
「朱鷺透様、ご同輩の具合は?」
「いつでも行動可能であります」
「しばらくは、遅滞戦術のようになります。とっておきは、とっておきましょう」
「心得ました……時に、トリテレイア殿、その背中のお召し物は?」
海賊船から戻ったトリテレイアが巨神に向かって出撃するところで、小枝子はさっきまでもっていなかった長細いものに気が付いた。
「ええ、士気高揚の一つの案として、拝借してきました」
「なるほど……あ、自分も続きます!」
それもとっておきなのだろうか。と深くは考えず、トリテレイアに続いて小枝子も僚機と共に鉄甲船からキャバリアを発進させる。
発進などと、御大層なことを言っても、普通に鉄板を張った船にぎゅうぎゅうに押し込めて積んだだけなので、転覆しないよう慎重にだが。
船が航行可能な海域から島までの距離は、決して近くはないが、島に取り付く巨神の威容からすれば、この海域は既に戦闘区域だ。
小枝子の機体は、いずれも機体制御のスラスター程度があれど、特にこの世界では長く空戦ができるわけではない。
早々に移動し、得意な陸地から取り掛かるべきだろう。
トリテレイアが率先して、囮を買って出る。
脚部スラスターによる推力移動は、海上でもその機動性を大きく削がれない。
《ヴォン……》
ぐりん、と巨人の大きな肩に乗った頭部の宝玉が陸地に到着した3体を捉える。
どうやら敵性勢力とみなされたらしい。
小枝子の僚機、ディスポーザブル03は、重武装。多分に積み込んだミサイルと両腕のビーム砲で次々と直接支援を仕掛ける。
それに呼応するように海賊船からも艦砲射撃が浴びせかけられる。
巨大な遺跡でできた巨躯が、それら火砲によって激しい爆炎を帯びる。
押しているのか? そう思った刹那に、撒き上がった粉塵を切り裂くような光線が放たれる。
宝玉を抱く頭部は、そのまま光線を放つ銃座だ。
「くうっ!」
白いキャバリア回点号に乗り込んだ小枝子が、直前に敢えて光線の射線上に移動する。
シールドとエネルギーフィールドを展開し、それを受け止める。
その射線の先には、海賊船があった。
なんだかんだと言いつつも、小枝子は考える間もなく、守るべき何かの前に身を晒す。
たとえその根底に闘争しかなくとも、猟兵の本質は失われてはいないようだ。
「陸地から引き剥がして……洞窟側へ!」
コクピットの中で歯を食いしばる小枝子の鼻先がぬるりと濡れる。
遠隔操作に頭の容量を使い過ぎたのか、小枝子の鼻から口元顎下まで生温かいものがこぼれ落ちる。
だが、今はそんなことに構っている暇はない。
一方で、トリテレイアもまた、海賊船に注意が向き過ぎないよう、かく乱しつつも、ワイヤーアンカーを射出して取り付こうと試み、あるいはワイヤーけん引のテンションを利用してトリッキーな移動を組み込んで、巨神の狙いを分散し続ける。
その間にも、直接火力支援を続けていながらも、巨神の耐久性はすさまじく、じわじわと後退はしても、なかなか反撃の手を休めてはくれない。
そろそろ、海賊たちも焦れ始める頃になって、ようやっと、少し離れた海域から、南海の大戦中の様相からすれば小さな水しぶきが上がった。
「よぉし、もういいぞぉ! 【眠れる力を呼び起こせ!】」
潜水メットを乱暴に取っ払って叫び声をあげるゲニウスの号令に合わせて、海賊船の艦砲が巨神にではなく、その足元の洞窟に仕掛けられた爆薬へと浴びせられる。
《ヴォン!!?》
突如、地面がめくれ上がり、足場を大きく崩された巨神はバランスを崩す。
「散華……しないなあ。やっぱり、思った以上にでかい」
うーんと頭を掻きながらぼやくゲニウスだったが、それでも好機は好機。
体勢を崩された巨神は、崩れたボディを修復すべく、周囲の物質を取り込もうとするが、そこにはトリテレイアも小枝子もいる。
身をかがめたところへ、ワイヤーフックが線を引いて巨神の体表へと食らいついた。
「攻勢に出ます」
「了解ッ!」
巨神の体表を駆け上がるトリテレイアと、小枝子の回点号に向けて、視線を向けるかのように宝玉の銃座が二体を捉える。
とっさの判断で、小枝子がキャバリアを前に出し、盾を構えてフィールドを展開する。
光線に集約された魔力の奔流が、機体を焼かんとする。危険を知らせるアラートが耳に響く。
「領地を奪われる、それはとても悔しい事だ。悲しい事だ。
自分は、奪わせない。オブリビオンなどに、この地を奪わせない!
絶対にだ!!」
だがそれでも、回点号の性能を信じて、その命運をかけて、ユーベルコードと共に小枝子は前進する。
「おおお!! 尽くを、押し返せ!!」
【劫火戦塵】火のように戦う心は、運命を切り開くか。
フィールドが損耗し、盾が焼き切れはじめ、自身のサイキック能力で機体性能を引き出し続ける小枝子には負荷がかかり、鼻から漏れる血も失神を誘発しかねない。
しかしだからこそ、灯のように燃料とするかのように、代償を力に変え続ける小枝子は、ついに魔力の奔流を防ぎ切った。
その影から飛び出したトリテレイアが盾を振りかぶる。
【戦場の騎士】は、使えれば何でもいいとばかりに、ひたすら頑丈さに重きを置いた盾を鈍器と化す。
「ふん、ふん」
ひたすら頑丈なだけのシールドで殴打し続けた宝玉の頭部は、やがてヒビが入り、ついには回点号の手刀を突き入れたところで、完全に機能を失ったらしく、輝きを失った宝玉が頭部ごとずるりと外れて零れ落ちるようだった。
「これで勝……」
崩れ落ちる頭部と共に降下する二体。小枝子も肩の力を抜きかけたが、直後に、今しがた破壊した頭部と同様の頭が形成され、それが光を帯びる。
「ふむ、どうやら、一度頭を潰せばそれで解決というわけではないようですね」
落下した頭部の残骸に剣を突き立て、海賊船から拝借した海賊旗を立てるトリテレイアは、既に復活した巨神を見上げていた。
これからが戦い。
しかし、この旗は大きな一歩だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
片桐・公明
【SPD】
「巨人狩りって苦手なのよね。まぁ、戦うにはやるけど。」
海賊たちには大砲の有効射程から砲撃をしてもらうことで協力してもらう
自身は巨人にクライミングの要領で取りつきUCを使って敵の弱点を探る
弱点を見つけたら発行信号を出して注目を集めたうえで
ペイント弾でマーキングしておく
砲撃で脆くなったところには妖刀を突き立てることで与ダメージを試みる
出来るのであれば頭部の宝玉を優先的に狙うが
無理をせずに巨人から離れないことに全力を注ぐ
(絡み、アドリブ歓迎です。)
才堂・紅葉
「これは壮観ね! いいじゃない……ちょっと楽しくなって来たわ」
巨人を見上げ、真の姿の【封印を解く】
方針は一発勝負
「海賊の皆さん! 今からあのデカブツに目に物見せるわ! 追撃よろしく!!」
奴の進行方向に立ち塞がり、【存在感】を発揮して仁王立ちする
狙い目は【巨大な拳】だ
「まぁ……気合よねっ!!」
自身と一帯に重力【属性攻撃】をかけて楔とし、巨大な拳を【グラップル、ジャストディフェンス、オーラ防御】
完璧な型で衝撃を地面に【受け流し】、大地の力の反動で【カウンター】の超重力飛び膝蹴り
「絶ッ!!」
顔面に輝く宝石に【部位破壊、重量攻撃】を敢行
奴を【吹き飛ばし、体勢を崩す】と、海賊さん達の出番だ
「追撃!!」
メフィス・フェイスレス
全く物怖じしないとかこの島の男たちも剛毅なもんね 嫌いじゃないわ
島を喰おうってんなら陸地に食い込まれるまえに仕留めたいわね
島民に艦砲で足を止め目くらましをするよう要請
私の事は気にしなくていいから、上半身目がけて面を制圧するように言っておく
陸地から海面すれすれを【宵闇】による「ダッシュ」「滑空」で接近
「野生の勘」「オーラ防御」で宝玉の瞳を回避
接近中に【微塵】を海中に潜行させ敵の足元に取り付かせ「爆撃」で「体勢を崩す」
転倒し無防備になった胴体にUCを「貫通攻撃」を乗せ叩き込む
使いっ走りにされるザマじゃ神様のありがたみもあったもんじゃないわね
アンタの醜態に付き合ってられる程この島も私達も暇じゃないの
ぎぎぎぎ、ごりごりごり、と、大質量の岩塊同士が組み合わさって軋みを上げる。
島中に響き渡るそれが、今まさに島を食らわんとする怪物の駆動音であった。
潮風に混じって細かく砕ける巨神のあちらこちらが粉塵となって舞う。
「あー……めちゃくちゃでかいじゃない」
島の砂浜に立つ猟兵たちの一人、片桐・公明(Mathemの名を継ぐ者・f03969)が見上げんばかりの巨神の姿にうんざりした様子で首後ろに手を回す。
本当に首が痛くなるほど見上げる相手というのはいるものなのだ。
今までにそんな相手が居なかったわけではないが、いやしかし、海賊が隆盛を誇るような世界で、まさか海賊を味方につけて大怪獣じみた怪物を相手にすることになるとは。
グリードオーシャンには巨人族というのもいるにはいる。しかし、ものには限度というものがある。
「これは壮観ね! いいじゃない……ちょっと楽しくなってきたわ」
才堂・紅葉(お嬢・f08859)は、おおよそ手持ちの近代兵器がほとんど役を成さないであろうと判断したのか、拳に宿るハイペリアの紋章を背中に浮き上がらせる。
偶然にも、今回は背中の大きく開いたドレスである。偶然にも!
それにしても、外野がうるさい。
目の前の巨神が轟音を放つのはまぁ仕方がないとして、この島に住まう海賊の身内や、遠巻きに海賊船からヤジを飛ばす連中は、お世辞にもお行儀がいいとは言い難かった。
だが、そのいずれもが、巨神の背に掲げる『七大海嘯』の海賊旗を目にしても恐れる様子がない事には、少なからず驚きはあった。
「全く物怖じしないとか、この島の男たちも剛毅なもんね。
嫌いじゃないわ」
メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)は、そんな喧騒、たとえば口汚い罵り声であっても、巨大な敵にも意気を見せる海の男たちの怖いもの知らず……いや、底なしの気概が、嫌いになれない。
生き汚い。諦めが悪い。大変結構だ。人間そうでなきゃ、生きてる実感がないというものだ。
尤も、メフィス自身は死肉を継ぎ接ぎされた末に、もはやどこまでが自分か、自分がどんなだったかもよく覚えていないのだが。
だからこそ、生きのいい連中は、ちょっぴり憧れもあるが、素敵だと思うのだ。
「……それで、どうする? 巨人狩りって苦手なのよね。まぁ、戦うにはやるけど」
眼鏡のブリッジを押し上げ、公明は改めて敵を観察する。
本人には不本意ながら殺人鬼の適性を持つ公明は、人の壊し方を知っている。
あの巨神を人に見立てるのは土台無理がありそうなものだが、人に近しい見た目をしているからには、概念から言って壊せる手段もそれに似る。
知勇兼備の公明には、それが巨人であるという認識があり、それに似通う壊し方、殺し方を冷静に算出する。
しかしながら、圧倒的な体格差は如何ともしがたい。
「島を喰おうってんなら陸地に食い込まれるまえに仕留めたいわね」
メフィスの言葉に、一同はうむと目配せだけで肯定する。
これ以上でかくなられたら、いよいよ巨大ロボットかミサイルの出番になる。
しかしながら、そうなってくると、三人がかりでもいよいよ手数が足りなくなる。
となれば、三人の意見は合致する。
「ポイントはアタシがペイント弾で補完するとして、才堂ちゃんとメフィスちゃんは何をする?」
「手持ちの火器じゃ足りないって言うんなら、もうぶん殴るしかないと思うの」
「マジアルカ……」
ぷらぷらと手首を回す紅葉のあっけらかんとした物言いに、思わず胡散臭い中華訛りが出てしまう公明。
そして二人をそっちのけで、メフィスは背中からばきばきと生々しい音を立てて骨身を伸ばしつつ、身体の継ぎ目から黒くて目やら歯やら生えてるなんかやばそうな眷属を生み出し始めていた。
「なにしてんの……」
「足元にこいつらを仕込んで、破裂させる。たぶん、転ぶわ」
「マジアルカ……」
ひょっとして殺人鬼程度は、可愛い部類なのだろうか。
一緒に行動する猟兵のぶっ飛び具合にちょっと自分を見失いそうになる公明だったが、それだけぶっ飛んでいなければ、猟兵など勤まらないともいえる。
もしかしたら本人は気づいていないかもしれないが、人の身で平然と島の3割に届きそうな巨人に対抗しようとしている時点で、公明も同じようなものである。
その証拠に、巨神に向き直る頃には平常心を取り戻して、冷静に相手を倒す手段を考えていた。
自分たちは恐らく問題なかろう。ただ、巨神の攻撃が海賊たちに向いたら、それはひとたまりもないだろう。
いや、屈強な男たちだ。なんとか生き残るかもしれない。
一抹の不安を抱いたのも束の間、それぞれが行動に移る段階で、唐突に紅葉が息を大きく吸い、後ろを振り向く。
「海賊の皆さん! 今からあのデカブツに目に物見せるわ! 追撃よろしく!!」
島中に響くような、よく通る大声だった。
なんてことを。と公明は心中で毒づく。
自ら目立つ真似をするなんて、紅葉は敢えて矢面に立とうとしているのだ。
ゴッドハンドでもある紅葉が、絶望的な体格差を前に肉弾戦を挑もうとするからには、それは無理からぬこと。
その横顔があまりにも勝気に微笑んでいたので、つられて公明も笑みを浮かべてしまう。
馬鹿だなぁ。そんな顔をされては、乗らざるを得ない。
「また後で!」
銃把を握る手と、紅葉の無手、やばそうな眷属を抱えるメフィスの手が、ガッと重なると、それぞれに行動を開始する。
仁王立ちする紅葉の存在感に、巨神は反応し、それを射程に収めんと顔を向ける。
その脇で、メフィスは地を蹴り、広げた骨身の翼「宵闇」でグライダーのように海面すれすれを滑空しながら、眷属たちを海中にぼとぼとと落っことしていく。
それは水中をぬるりと移動し、徐々に体質を変化させ、いつでも破裂爆散できる武器へと変じる。
そして公明は、目立たぬように巨神に近づき、拳銃をそのばかでかい図体へと向ける。
「忌々しい。忌々しいけど、美しい」
その目が映すのは、暗い闇の中に落ちた近しい誰かの面影にも似た何かが得意とした技術。
知識と技術。それが絡み合い、【殺人鬼の最適解】が組み上がると、武骨な岩肌に脆い人の壊れやすい箇所が浮かび上がる。
挙動を見切って殺戮に最適な経路を導き出す、本来は回避の為の技術だが、その経路をたどれば、実際に人は死ぬ。
それがわかるのは、あの誰かが使う技術が、本質的に自分と同一とわかるから。
だからこそ、忌々しく、しかし体に染みつくほどに自然に、それができてしまう。
湧き上がる憎悪は、どこへ向かうのか。
公明の瞳は冷静の輝きを湛えたまま、ペイント弾を放つ。
付着したポイントを、恐らくは海賊船のカルバリン砲の精度では正確無比に狙うことは難しいだろう。
だが、狙うポイントと数が揃えば、命中精度の問題はある程度意味をなさなくなる。
攻撃目標ができたとあっては、我先にと砲弾が嵐のように一斉射をお見舞いする。
これまでにも散発的に巨神への砲撃は行われていたが、それが効果を表すことはほぼなかった。
だが、ポイントを絞った一斉射は、巨神の装甲を一気に削り取り、ひるませる。
だからこそ、有効打となってしまえば、それはすなわち脅威とみなされる。
持ち上がる巨神の眼光が、周囲の海賊船へと向こうとするのだが、
「ヘイ、こっちだ! このウスノロォ!」
張りのある罵倒語が、仁王立ちに腕組みの紅葉の口から発せられる。
高貴な血が入っていて、気品がある……というらしいが、傭兵隊育ちという環境が言葉選びにエスプリを利かせてしまう。
上品なドレス姿に過激な言葉遣いが、異様に様になってしまう。
その存在感が、あろうことか、巨神を血迷わせ、振り上げた拳が局地的な隕石降下の如く振り下ろされた。
岩石などというのは生易しい。掠めただけでもそれは血肉を削ぎ飛ばすであろう大質量の拳が、紅葉を覆いつぶさんとする。
「まぁ……気合よねっ!!」
その身には、既に莫大な重力を課していた。属性魔法によって、自重を重くすることにより、砂浜のすぐ下の地盤へと重心を落とし込む。
これは格闘術であり、柔術でもある。
今や、紅葉の小柄は大地とを繋ぐ楔である。
それでも関節はしなやかに、胸の前で立てた両の腕は、振り下ろされる拳を柔らかく受け止め、その力を大地へと流す。
その負担は大きい。
空へ流すでなく、大地で受けるのと同じ事だ。
「ぐ、が、あああっ!!」
受け止める拳の質量差、実に50倍以上。気功、魔術、体術を以て受け止めたとて、両の腕が爆ぜ返るような衝撃が骨身を伝わり、それが反転するのを感じる。
タイミングをミスれば、大質量の拳の力の反動をその身に受けてはじけ飛ぶ。
【ハイペリア重殺術・乾坤】。ゆらりと、一瞬の合間に挟まる脱力が、岩塊の拳を逸れて、大地の反動をその身にエネルギーとして蓄えた紅葉の肉体を、まるで弾丸のように弾き飛ばした。
さながらそれは、クロスカウンターを完璧に極めたかのように巨神の腕の内側をすり抜けて一直線に飛び上がる。
目標は巨神の顔面、そこに輝く宝玉。
「絶ッ!!」
背中に輝く紋章が軌跡を描き、巨神の顔面には紅葉の渾身の飛び膝が突き刺さっていた。
その瞬間、この場に居合わせる者たちは、そのいずれもがぎょっとする。
巨神の拳と同等のパワーを乗せたユーベルコードの膝蹴りが、ただの少女一人の飛び膝が、巨体をのけ反らせたのだ。
ちなみに、飛び膝蹴りだったのは、両腕が痛くて使えなかったからなのは秘密だ。
「天地の型だっけ……細かくは覚えてないわね……追撃!!」
時間が止まったかのような一瞬の静寂。そして、降り注ぐ砲弾。
そしてタイミングを同じくして、巨神の足元でも、メフィスの眷属が破裂爆散し、足元を崩す。
それにより、のけ反ってバランスを崩していた巨神はついにその体を海上に横たえる。
無防備に仰向けに倒れた巨神は、顔を潰されて尚、起き上がらんとしていた。
そこへ、撒き上がった波飛沫に乗って飛び上がったメフィスが手を振り上げていた。
「使いっ走りにされるザマじゃ神様のありがたみもあったもんじゃないわね」
その手が、拳の骨が肉を突き破って伸び、金属の光沢を帯びたスパイク付きの鉄球に変形する。
【鎚】と名付けたそれは、相手が堅牢であればあるほど、効果を発揮する。
となれば、狙うは、最も頑丈そうな胴体部だ。
力任せに振り下ろされた鉄球は、そのスパイクを深々とえぐり込ませ、その一撃は、砲弾でも揺るがなかった巨神の岩肌に亀裂を生じさせる。
命中した相手の内部にまで伝播する衝撃波が、功を奏した。
だがそれでも、巨神の動きは止まらない。
持ち上がる岩塊のような腕が、体表の紅葉とメフィスを圧し潰さんとするが、
「はああっ!」
真紅の残光を引く妖刀の一閃が、巨神の腕の肘の部分を粉砕せしめた。
公明手にする刀による技術も然ることながら、それを可能にしたのは、巨神の腕に撃ち込まれた砲弾を破壊の起点としたからこそであった。
何も無計画に援護をさせていたわけではない。
とはいえ、相手がタフすぎる。
「まったく、まだ動くわけ?」
砕けて落ちた巨神の腕も、紅葉が叩き壊した頭部も、ゆっくりとだが修復しつつあるようだった。
驚異的なタフネスである。
しかし、突き刺さったまま外れなかったため泣く泣く切除するしかなかったメフィスの鉄球がめり込んだ胴体部の亀裂は、修復が遅いようだった。
不死身なわけではないらしい。
ならば、確実に倒せてはいるはずだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ビスマス・テルマール
わたしの故郷を思い出すので
懐かしい事この上ないのですが
だから尚の事
頬っては置けませんよね。
●POW
海賊の皆さんに高台や高い地形、海賊船等から『集団戦術』で『一斉発射』の支援をお願いし
その隙に『早業』で
〈宇宙南国コロニー産ハワイアンなめろう〉を使い媒介の大地の結晶を生成しUC発動
皆さんが援護しやすい様
立ち位置に気を付けつつ
『オーラ防御&激痛耐性』で備え
『第六感』で『見切り』回避しつつ
敵の腕を『部位破壊』の『カウンター』を〈なめろうフォースセイバー〉で『怪力&鎧無視攻撃』で『2回攻撃』の『切り込み』一閃
『早業』で〈ジュリンプル・グレネドフォート〉の『一斉発射』に繋げます
※アドリブ絡み掛け合い大歓迎
ユリウス・リウィウス
神を名乗るだけあって、しぶといようだな。
ならば、こちらは手数で行こう。
亡霊騎士団、喚起。悪魔召喚「ガミギン」。お前も出来る限りの亡者を呼び覚ませ。
ここからが本番だ。荒ぶる亡者の効果を亡者達に浸透させ、巨大化した亡者の群をオブリビオンに叩き付ける。
大きさではまだ劣るかもしれんが、流石に無視出来る大きさじゃなかろう。なあ、おい。
ついでに視線の魔力も、亡者達の陰に隠れてやり過ごさせてもらうさ。
さあ、削り合いだ。俺(とガミギン)の召喚速度が勝つか、オブリビオンが亡者を削りきるのが早いか、勝負といこう。
捨て身以前に身を守るという観念を持たぬ連中だ。頭を落とされても再生する怪物の相手には丁度いいだろうよ。
ざらざらと砂が流れるのは、今しがた転倒した巨神の影響で波が生じたから、だけではないだろう。
海賊島の砂が、大地が、波にさらわれるのとは別問題に、それこそ今しがた転倒した巨神に向かって流れ込んでいく。
猟兵たちの攻勢によって、巨神は追い詰められつつある。しかしながら、追い詰めれば追い詰めるほど、巨神は壊れた部品を補うように島を取り込んでいく。
さながら、茫漠と広がる水平線の青の底に、島が飲まれていくかのように。
それはおぞましい光景に見えた。
「神を名乗るだけあって、しぶといようだな」
はっと息をつき、これが神の所業かとユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)は吐き捨てるように言い放ち、両の剣を抜き放つ。
尤も、その剣が届くような相手とも言い難いが、これは指揮棒でもある。
戦いにあって、騎士が剣を抜かぬ訳にはいくまい。
人同士で戦うときであれば、剣を抜かないで事が済めば最良だ。
しかし──、白い飛沫を上げながら山の如き図体を立ち上がらせる巨神を見上げる。
確か、先陣を切った者たちの戦いぶりを見る限り、顔面を砕いて破壊し、首を落とし、腕を落とし、胴体部に激しい損傷を与えたはずだが……。
それらは、一部を除いてほぼ修復している。
「泥沼だな……そういうのは、不本意だが慣れてるんでな」
宝玉の瞳と、やややつれたユリウスの目とが合った。
急速に光を帯びるそれが、光線の前兆であることには気づいたが、魔力が形を成すよりも前に、周囲から激しい砲撃の破裂音が響いた。
島の高台、海賊船などあらゆる場所からの砲撃が、何者かの指揮のもとで発せられたのだ。
岩塊のような巨神の体表に着弾した砲弾が、もうもうと煙を上げ、いくらかたじろがせる。
「わたしの故郷を思い出すので懐かしい事この上ないのですが」
青い海と強い日差し。そして青々と茂る南国の植物。それらは、ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)の故郷とよく似ていた。
文明こそ違えど、穏やかな潮風は郷愁を思わせる。
「だから尚の事、放ってはおけませんね」
透き通るクリスタリアン特有の肌膚に陽光を浴び、立ちはだかる巨神を見据えると、高台にて海賊島の島民を扇動して一斉射撃を敢行したビスマスは、一瞬だけたじろいだ巨神を見やるや、次の一斉射の指示を出し、自らは高台からとおっ! っと飛び降りた。
その手に輝くは〈宇宙南国コロニー産ハワイアンなめろう〉……。
なめろう?
何を隠そう、ビスマスはなめろうの伝道師。
ただの魚と香味野菜と味噌を包丁で叩き交ぜただけのなめろうだけではない。
バナナやアボカドなどをミックスした南国ハワイアンなめろうなど、変わったものまで何でもなめろうにできてしまう、いやむしろやれという、可能性の伝道師である。
そんな彼女が最も愛するものを掲げる時、それは大地の結晶を呼び起こす奇跡を呼ぶ。
手中のハワイアンなめろうが光の粒子となり果て、結晶化した大地の結晶へと変ずると、それを腰に巻いたポシェット型ベルトドライバーに装填することで、エネルギーの伝達が可能となる。
『Hyper Bismuth!』
ハイパーモード、すなわち、【ハイパービスマス】へと変身するに至り、淡いビスマスの体表には、オーラ鎧装、なめろうの材料となったマグロ、バナナ、アボカド……あと調味料少々の特徴が浮き出た装備が纏い、その体格は実に3倍に巨大化する。
「……なめろう。なめろう? 酒の当てなら間に合っているが……しかし、考えることは同じようなことか」
砲撃に混じって巨大変身を遂げるビスマスを見やり、既に晩酌のことをちらと考えてしまったユリウスは、苦笑を漏らし、自身もまた戦術を展開する。
彼はいつも一人。配偶者はいるが、戦場で傍に置くことは稀だ。
できる事なら巻き込みたくはないし、それに、たとえ受け入れられるとしても、この戦い方は愛しい誰かにはあまり見せられない。
「ならば、こちらは手数で行こう……いくぞ、亡霊騎士団。そして、列を曳け悪魔の群将「ガミギン」よ!」
その歴戦の記憶を宿す具足の、足跡の、あとからあとから黒い靄が立ち上がり、亡者どもが手に手に武器を、悪魔が率いてやってくる。
お前もできる限り呼び寄せろとあらん限りの亡者たちを呼び寄せる。
手数で勝負をすると言った。ならば、出来得る限りの数を用意しよう。
泥沼の戦場ならばホームだ。
彼はいつも一人。なぜならば、亡者どもなら使い減りしてもまた呼び起こせばいい。
そうして、絶望的な烏合の衆。いや、圧倒的指導権を持っている悪魔が率いるおぞましい亡者の戦士たちをそろえたユリウスは、更にユーベルコードで彼らに力を分け与える。
「生命奪われし哀れな亡者よ。虐げられた怨み、使い捨てられた憎悪を糧に、この世界に瑕(きず)を刻み込め」
【荒ぶる亡者】によって、ネクロマンシーの術を施された亡者たちは、その体を膨れ上がらせ、数倍に巨大化する。
「う、な、なんだあ、ありゃあ!?」
それは、島民の皆さんですら震え上がるほどの凄惨なバイオハザードであった。
「大きさではまだ劣るかもしれんが、流石に無視出来る大きさじゃなかろう。なあ、おい」
ぞろぞろと巨神の身体に群がり、数に任せた攻撃を仕掛ける中に、ユリウスは完全に埋もれてしまう。
それ故に、視線は通らない。
アンデッドたちの群れの中で見つけようもない召喚者をあぶり出そうと、巨神はその瞳から光線を発して地表を薙ぎ払うも、吹き飛ぶは哀れな亡者ばかり。
「うわ、みんなやられちゃわないかな……」
その凄惨な光景に独り言を漏らすビスマスだが、ユリウスは損害を度外視で戦っているようだった。
恐らくは、身を挺して、あるいは、最初から損耗覚悟で召喚し続けている。
その隙を、逃すべきではない。
「行きます! 皆さんも、砲撃を続けて!」
マグロカラーのスラスターを展開し、まとわりつくゾンビ相手にまごつく巨神に急速接近する。
この足止めがなければ、迎撃のパンチか、あるいは瞳からのレーザーを貰っていたかもしれない。
感謝せねば。ユリウス(と亡者召喚を手伝っている悪魔のガミギンさん)、そして今なおぶっ飛ばされている名もなき亡者たちに。
「うわぁーーっ!!」
裂帛の気合と共に、ビスマスはなめろうフォースセイバーを一閃させる。
トロピカルななめろうのオーラをエネルギーとする、どことなく魚っぽいフォースが巨神を捉える。
「更に!」
切り込んだ胸部の亀裂、そこへ追撃のエビ型プラズマグレネード射出装置をお見舞いする。
焦点温度10万度を超えるプラズマ加熱炸裂球が激しく爆発し、亡者ともども岩塊を弾き飛ばす。
「やったか……いや」
遠目に見るユリウスは、爆炎の向こうではなく、足元へと視線を落として眉を顰める。
ざらざらと、砂が引き寄せられている。
だとするなら、まだなのだ。
望むところだ。多くの死を見てきた騎士は、とてもしぶとい。ひょっとしたら神よりも。
「さあ、削り合いだ。俺たちの召喚速度が勝つか、オブリビオンが亡者を削りきるのが早いか、勝負といこう」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ネフラ・ノーヴァ
ほう、これは大きい。駆け上がるのも一苦労しそうだ。
そうだな、海賊達を焚きつけて囮にしよう。従わない奴はハイヒールの下敷きにする。
海賊に巨人の目が向かっている間にUCを発動し宝玉の瞳に接近、超電磁砲を放とう。いくらかでも削れれば良し。飛び散る破片はさぞ美しかろう。
アリッサ・ノーティア
なるほど、今回は彼らに無茶ぶりしても良いと。
という事でパプンを引きずりながら島の海賊達と接触。
相手はえーと、何か周囲の物を操ります。しかしどうにか隙を作って下されば、私が強烈な一撃を叩き込めます。どうか手伝えください。
やばくなったら?頑張って(はーと)
よし、行きましたね。
では彼らが引き付けてくださっている間、詠唱開始。
出来るだけ彼らの被害が少なくなるよう詠唱を早め、剣を召喚。
とはいえそのままでは頼りない。なので纏めます。
圧縮され太陽光の剣を更に圧縮、超スーパー熱量を放ち続ける大剣の完成です。
という事で、後は巨人に向かってゴー。
上手くいけば倒れます、ダメでも吸収した分は削れるでしょう。きっと。
春乃・結希
チカラこそパワー、火力こそ正義、当たればロマン、です!…あれだけ大きいと狙わなくても当たりそうやけど
海賊のみなさんにはとにかく大砲を撃って撃って撃ちまくれして貰います
わはー!映画で見た光景が目の前に!派手ですねぇ……
あ、弾ですねっ?すぐ持ってきます!(【怪力】でたくさん運ぶ)
……それにしてもその大砲というのは、毎回そうやって弾を込めないといけないんですか?めんどくさいですね……
もう私自分で投げます!ひとつ貰いますね!
春乃選手、振りかぶって……おりゃあー!
【怪力】で大砲の弾を火の玉ストレートです
あははっ、これめっちゃ楽しいやないですかっ
これなら私にもお手伝い出来ます
もっと弾持ってこーい♪
戦いを見守る海賊たちの船は、決して数が多いわけではない。
よその船を襲うときは、複数の船で退路を塞ぐように囲い、降伏を勧告する。そのため、少なくとも海賊は二隻以上の船を持っているのが望ましい。
単機で勇名を馳せるのは、よほど操船に自信があるか、白兵戦に強いかというところだろう。
ちなみに、海賊船自体に、他の船を沈めるほどの火力は、あまり求められない。
なぜなら、先に船を沈めてしまったら、物資が奪えないからだ。
普通の商船ならば重たい砲台などは積まず、物資を詰め込むものなので、より平和的に海賊行為に勤しむには、複数の船で囲ってしまうのが安全なのである。
とはいえ、船と言えばひと財産である。そうそうぽんぽんと作れるものではないのである。
じゃあ奪えばいいじゃんという話になるが、武装船というものは、それこそ無傷でとらえるのが難しいのである。
それを考えれば、海賊島を根城にする海賊たちの船の数は、むしろ多い方なのだろう。
「おお、なかなかいい船ですね」
そんな海から流れてきた巨神と絶賛喧嘩中の、大忙しの海賊船の一つに、呑気な声が響く。
船員の潮枯れ声とは明らかに違う、船上では聞きなれぬ少女の声に、船員たちは甲板の方へと目を向ける。
いつの間にか甲板に降り立った猟兵たち。
第一声を発したアリッサ・ノーティア(旅する雲に憧れて・f26737)の、その水しぶきを思わせる透き通った髪には、なんかでっかいクラゲがへばりつき、その手足をふよふよと宙に浮かしていた。
グリードオーシャンの海洋生物は、メガリスを体に取り込んで浮遊する個体が稀によくいる。どうやら彼女たちを運んだのは、そのミズクラゲらしい。
「な、なんだ、てめぇら。どこから来やがった!?」
「パプンといいます。かわいいでしょう」
「い、いや、そうじゃねぇ!」
三人もの猟兵を運んですっかりお疲れなのか、ぷしゅーっと甲板でへばるミズクラゲをずるずると引きずって、アリッサは無表情ながら目を光らせる。
そのマイペースさに、早くも海賊はペースを乱される。
「ふむ……船員は汚らしいが、船自体は悪くない趣味だな。こういうクラシックなのも割合、いいものだ」
クラゲの遊覧飛行に相乗りしてきた猟兵の一人、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)もまた、船員の視線など気にも留めず、つかつかと年季の入った木製の甲板を踏み鳴らす。
ただの機能美のみに留まらず、木造船特有の丸みを帯びた質感と、摩耗防止と腐食対策を施されたところどころに精緻さすら伺わせる船のフォルムに思わず目を奪われそうになる。
しかし、この場で最も目を引くのはやはり船の外。
「ほう、これは大きい。駆けあがるのにも一苦労しそうだ」
これまでにいくつもの猟兵の攻撃を受け続けて尚、海賊島に食らいつこうと立ち上がる遺跡、あるいは意思ある岩塊、……神。
何らかの意思が遺跡の建材を人型となして、神と信奉されたこともある。
それが今や、海賊の使い走りで版図を広げる手伝いをしている。
哀れと思わなくはないが、見上げる姿は、なるほど神と言われてもおかしくはない程度には威容と言える。
巨大なモノならば、それだけで意味はなくともそれを尊く感じることもある。
真偽がどうであっても、それは今のところ、敵でしかない。
「うーん、チカラこそパワー、火力こそ正義、当たればロマン、です!」
クラゲ運送に同乗していた最後の一人、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)もネフラにつづいて、手をひさし替わりに件の巨神を見据える。
どういうわけか、この船に乗り込んだ猟兵は、マイペース揃いである。
相手が巨大であろうが、物怖じも侮りもせず、どうやって壊すかを次の瞬間には感がている。
そのために、ちょい悪な海賊の皆さんがどれほど奮戦してくれるのかを、彼女たちは冷静に、見ようによっては冷徹に分析する。
ところが、海賊たちからすれば、この珍妙な闖入者は遺物に過ぎず、とりわけ海賊船というものは得てして女人を乗せることをよしとしない。
「やいやい、お嬢さん方、こんなヤクザな船に乗っちゃあいけねぇな。御覧の通り、こちとら今や鉄火場だ。女子供の出る幕じゃあ、とっくにねぇのさ」
三人を咎めたのは、いかにもいかつい船乗りの一人だった。
頼りがいのあるしっかりとした体格に濃い口髭と生傷。船の上だから身一つというわけではないだろうが、それでも過酷な船旅を生き抜いてきた屈強さを思わせるからこそ、見た目には華やかな猟兵三人を、そうとは知らず咎めるのだろう。
だが、相手が悪い。次の瞬間には、
「ほう、流石、いい度胸をしているな」
こーんっ、とノーモーションで振り抜かれるネフラの長い足が男の側頭を捉え、
「はひゅんっ」
その場に崩れ落ちた男を、振り抜いたヒールで踏みつける。
「その意気に免じてご褒美をくれてやった。あの石くれに挑む以上の勇を示したのだから、当たり前だな?
海賊ならそれくらい無鉄砲で正しい。だろう?」
ぐっと乗り上げた足膝に肘を乗せ前のめりになりながら、ネフラは不敵に口の端を吊り上げて船員たちを見回す。
「お、おう、そうだな……そうなのか?」
「え、いや、だって、こわいぞ、あのお嬢」
「ちょっといいかも……」
棘のある美貌をいかんなく発揮したネフラの所業を前に、屈強な海賊たちは引いていた。
「おお、かっこいい」
「いや、これって褒めてるように見せかけて、恐喝やないですかね」
無表情なまま目を輝かせるアリッサと、にこやかなまま歯に衣着せない結希だったが、変に口を挟まない方がうまく事が運びそうだったので、傍観する事にした。
「よしよし、聞き分けのいいのは好ましい。というわけで、お前たちは、引き続きあれを攻撃し続け、まあ平たく言えば囮になってもらう。構わんだろ?」
念を押すようにぐりっと足元に力を入れれば、ネフラの足の下敷きになっている船員の男が甲高い声を上げる。
それで焚き付けられたかどうかはわからないが、海賊たちはネフラの要望に応えることを約束してくれた。
というか、最初からそうしている。
説得はあくまでも説得。
「相手はえーと、何か周囲の物を操ります。しかしどうにか隙を作って下されば、私が強烈な一撃を叩き込めます。どうか手伝えください。
やばくなったら? 頑張って」
さすがにネフラのやり方だけでは大雑把に感じたのか、アリッサも可能限り、健気を装いつつ、無表情で拳を握りしめて語尾にハートマークを付随させる。
読書家であるらしい彼女にしては、これもかなりいい加減なアドバイスであるが、少なくとも助力を求める形としては、最低限のすり合わせとして成り立ったことだろう。
成り立ったのか?
そうしてざざっと船から飛び降りていくネフラとアリッサを見送る海賊たちは、一抹の不安を覚えつつも、我らが拠点とする島を食らわんとする悪しき神を討伐する手立てを捻出するのであった。
「よぉし、逆舷からの砲も運び込んだな。射線を空けろぉ!」
「予備のカルバリン砲も引っ張り出してきやした! こいつら撃ち切ったら看板ですぜ」
「反動と転覆に気を付けろ。ブームを撃て。海の男が庭で転ぶんじゃねぇぞ!」
どたばたと人人が入り乱れる甲板に、車輪付きの砲台が運び出された。
通常、船に積む大砲は、雨風に晒さないよう、甲板よりも下に設置される。
今回の巨大な敵は船速が無いので、取り囲んで射撃するには、敵に向いていない側の大砲が無駄になってしまう。
それらを甲板にまで引っ張り出して船上からも射撃できるよう手数を増やしたというわけである。
「なるほど、あれほど大きい相手なら、こういう風に戦うんですね」
一人船に残った結希は、洗練された船員の動きと機転に感心していた。
「おう姉ちゃん。黙って突っ立ってても邪魔だからよ。ちょいと運ぶのを手伝ってくんな!」
「ああ、弾ですねっ? わかりました」
半裸の男たちが汗だくで運ぶ木桶の中には、黒い砲丸がいっぱい積んであった。
この時代の砲弾は、近年のスポーツなどにも用いられる砲丸投げのあれによく似た、要するにまぁ鉄のボールである。
それが木の箱にぎっしりである。そりゃあ重い。
屈強な男たちですら、猫の手も借りたくなるほど重たいそれを、小柄な女性ともいうべき結希は、ひょいっと抱え上げる。
休日の食材買い出しに、紙袋からフランスパンが飛び出すような、そんな気軽さであった。
ただし、それを持ち上げた結希の足元、その木製の甲板が大げさに軋みを上げたりもしたが。
「きみぃ、うちの水夫にならない?」
「いやぁ、潮風は髪にちょっと悪いので」
おいおい、女を乗せない矜持はどこへ行ったのだ。
どっすんと大砲の脇に砲弾の積んだ木箱を置くと、改めて海賊船の大砲を観察する。
「わはー! 映画で見た光景が目の前に! 派手ですねぇ……」
黒塗りの長い砲身が、火を入れた傍から黒い煙と火炎を噴いて鉄球を吐き出す。
白黒フィルムくらいでしか見ないような古めかしい光景が、目の前で輝かんばかりの活躍をしている。
それを花火でも見る感覚で観察する。
とはいえ、その構造はシンプルで、効率的とは言い難い。
言ってしまえば、古く戦国時代に到来した火縄銃とほぼ同じメカニズムなのだ。
「毎回そうやって弾を込めないといけないんですか? めんどくさいですね……」
小首を傾げる結希の言い様は、オートマチック拳銃が広く知られる文明を知るからこそだが、先込め式の兵器が金属の実包になるまでには、いくつものブレイクスルーが必要だ。
そしてその古臭い武装を定期的に全身に浴び続ける巨神もまた、それをただただ受けるばかりではない。
距離はある筈なのに、振り抜いた巨神の腕が、その指先の岩塊を飛ばしてきた。
まあ当たり前と言えば当たり前だが、たかが岩塊といえど、サイズが違い過ぎる。
そのまま命中すれば甲板が破損するよう岩塊である。
「はは、残ってて正解でしたね、っと!」
それを、結希は背負っていた大剣を力任せに振り抜き、殴り壊したことで、被害は最小限に抑える。
最小限とはいえ、砕けた岩塊が甲板上の大砲を破損させる。
なんて威力。というよりかは、サイズ差だろうか。
だからこそ、奮い立たねばならない。
結希のユーベルコード【グローウィングゾーン】が威力を発揮する。
激しい絶望の中にあって、壊れた大砲を持ち前の怪力でどかせる結希の姿は、海賊たちには希望に見えただろう。
その傍らに大剣をおろし、結希は砲丸を手に取る。
「見ていてくださいね……。カルバリン選手に代わりまして、ここからは、自分が投げます。
春乃選手、振りかぶって……おりゃあー!」
まさかり投法であった。
間違えても金属の塊でやるようなものではないが、振り上げた足の振り子と、上半身を振り下ろすような体重移動から繰り出される火の玉ストレートは、カルバリン砲にも遜色ないスピードで巨神へと放られる。
どぉん! と、激しい激突とともに岩塊を削る砲弾に、思わずホームランと呟く。
野球のルールを知らないではないが、打球にも匹敵する好投であった。
「あははっ、これめっちゃ楽しいやないですかっ。もっと、弾持ってこ~い♪」
存在しないキャップのつばを直し、存在しないロージンで手を整えつつ、結希は次の球を手にするのだった。
一方のネフラとアリッサは、海賊たちの援護をもらいつつも、今一歩というところで、巨神への接近を阻まれていた。
とにもかくにも、巨神の頭の宝玉。そこから放たれるレーザーが厄介であった。
「あれを潰さん限りは、どれも致命打にはなるまいな」
「しかし、足を止めて、大きい一撃を狙うにも、こちらが狙い撃ちされてしまいます」
持ち前の機動力で回避するネフラと、海賊たちの援護で稼いだ時間で生み出した魔法の剣で相殺する形でやり過ごすアリッサだったが、有効な攻撃に転じるには、今一歩隙が足りない状態であった。
援護は足りているはずだった。しかし、巨神もどんどん、ダメージを気にしなくなっているようだった。
つまりは、なりふりを構わなくなってきている。
ダメージ覚悟で目の前の敵を排除する選択をしたといことか。
しかし、ある瞬間から、正確には、結希が登板してからは、風向きが変わった。
驚くべきことに、どうということはないはずの砲丸の火の玉ストレートは、それまでの散発的な砲撃よりも明らかに激しく巨神の体表を抉り、巨神の動きを鈍らせる。
「驚きの大暴投ですね」
「うむ、ある意味で猛打賞といえる。しかしこれで……決められるな」
そうして二人は、改めて攻勢に転じるに至る。
足を止め、ぱぱんと手を打ち鳴らし、アリッサは力ある言葉を紡ぐと、水面の様な髪が煮え立つように粟立ち、周囲を浮かぶ光の剣が輝きを帯びて一つに収束する。
「雨降りて花を彩り、雲流れ世界を調和し、空晴れて貴方を照らす。万事幸不幸に成れども、その顔に幸福へと至る結末を掴まんと手を伸ばせ」
【ダウン・アット・ナイト】。書籍の一節のような言葉が、力強い太陽の輝きを想起させ、まるで幾何学を描く光の剣が太陽そのものであるかのように輝きを増していく。それはまるで、夜の終わりに仰ぎ見る朝日の輝き。
「……まぶしっ」
伸ばした白い手の先にほとんど柄尻しかみえない太陽光の剣。
そんなものが目立たない筈がない。
じろりと巨神の宝玉の目がこちらを向いたような気がした。
その巨神の肩の上に、クリームの混じったような緑の長髪が揺れる。
視線を奪われるということは、視界から外れると言う事である。
それがたとえ一瞬であろうとも、タイミングを完璧に合わせれば、超スピードでそこまで到達可能なのである。
ネフラのヒールが、その岩塊の巨大な肩部にうずもれた砲丸を掘り当て、つま先で蹴り上げる。
「ほう、玉鋼というやつか。技術もつたないだろうに、なかなかの品質だ」
とはいえ、その目を貫くかのようにネフラの細剣が砲丸を突き刺す。
ばちん、とその全身が雷光を迸らせるのと、思った以上に近づかれていたことに今更気づいた巨神が巨大な頭部を向けるのとは、ほぼ同時。
【電激血壊】。それは血流や魔力の流れすらも超電導に置き換える術法。鉱物であるクリスタリアンならば、自らを超伝導体と仮定することも不可能ではない。
その身が自家発電、形成する磁界が電磁レールをその細剣の周辺に作り出す。
「飛び散る破片はさぞ美しかろう」
超電磁砲の弾丸は、その剣の切っ先に設けた砲丸が用を成してくれることだろう。
爆ぜるように撃ちだされた砲丸が、空気中ではじけるイオン光を燃焼させて尾を引き、そして巨神の頭部を粉砕する。
そしてそのタイミングを逃さず、収束したアリッサの太陽光の剣が、
「という事で、後は巨人に向かってゴー」
岩塊に過ぎないそのボディに、太陽光を収束したスーパー熱量の刃は、頑健な大質量を融解せしめんと食らいつく。
そして胴体から弾道を逸れる形で腰部にまで到達した光の剣が股関節を溶断せしめ、巨大な体が崩れ落ちるように倒れた。
激しい波が上がり、それでも、また両の腕で体を支える巨神はもうすでに頭部を修復し始めていた。
が、しかし、
「ふん……どうやら、修復にもたついているようじゃないか。往生際が悪いぞ」
再構築する巨神の頭部は、ノイズかモザイクでもかかっているかのように、ぼろぼろと治っては壊れてを繰り返していた。
度重なるダメージで、再現に齟齬が生まれ始めているのだろうか。
ともあれ、完全なる討伐には、もう一手必要そうだ。
大成功
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緋翠・華乃音
別に矜持も拘りも無い。
勝率を上げるためなら海賊だろうと何だろうと使えるものなら使うさ。
それが最も合理的な選択だろう?
――狙撃だ。
海賊船上から狙撃を行って猟兵を援護する。
船はちゃんと動くものなら何でもいい。
なにせ敵はあれだけの大きさの的だ。
気配を感じることが出来れば眼を瞑っていても必中は約束されている。
砲撃するかどうかは海賊の判断に任せる。
命中に不安があるのなら止めておけ。
無駄に敵の注意を引きたくはないからな。
弱点らしき場所は瞳の宝玉だろうか。
有効打が与えられそうなら積極的に狙撃する。
敵の攻撃タイミングは俺が見切る。
舵取りは任せた。
……海賊なら操舵は得意だろう?
エメラ・アーヴェスピア
終わりの見えない戦争…というのは中々に厳しいものね
兎に角一つ一つこなして行くしかないかしら…頑張りましょうか
さて、ここの相手は…大きいわね
まぁ、私にはあまり関係のない事だけれど、ね
ここの海賊達には好きに援護してもらいましょうか
特にこれをお願い、と言う事はないのよ…貴方達の考えを実行しなさい
そして私は…『焼き尽くすは我が灼熱の巨人』
巨人兵を上空より投下、相手と近接戦闘を行わせましょう
その炎を纏った拳で正面から殴り合いよ
相手の侵攻を止め、そのボディに風穴を開けてやりなさい
さぁ、派手に行きましょう!
※アドリブ・絡み歓迎
日の出のような眩い魔法が、真昼間の南海の孤島を激しく照らしたかと思えば、巨神は膝をつき、続けざまに受けたダメージに修復が間に合っていないようであった。
攻め切るなら、今しかない。
とはいえ、海賊たちの攻撃の手立ても、そろそろ尽きようとしていた。
この広大なグリードオーシャンに於いて、大砲の砲丸とて只ではない。
勢いに任せてバカスカと撃つのはいかにも威勢があっていいものかもしれない。
ところが、相手は十数発撃って沈むような武装船などとは比較にならない、文字通り山のような巨神である。
砲火で島を沈めた海賊など、稀であろう。
「船長、弾がねぇ! これ以上は白兵戦になっちまいますぜ!」
「えー、嘘だろお前。あともうちょいだぜ!? あんなのにサーベルとピストルで挑めってのか? フェルナンド、てめぇ昼間っから飲んでんじゃねぇだろうなぁ!」
「そんなぁ! ほんのちょいだけですぜ! いやいや、もう火薬も砲弾もすっからかんで、大砲はカンバンで、あとは石くらいしか……」
「やっぱ飲んでんじゃねぇか、てめぇ! こうなりゃ、石でも縄でもブン投げて畳みかけんぞ!」
島に住まう海賊の、ここはその一隻。
もともと船速を優先したスリムなデザインの船であるためか、これからが正念場というところで、弾薬が尽きてしまったのであった。
舌を巻いて泡を飛ばす船長は、血気盛んではあるが、それはまた自分たちの島を大切に思うが故の熱情ともいえる。
「どうやら、大変な時に来てしまったみたいだわ」
「どこだろうと、構わないさ。仕事をするだけだ」
エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は、ちゃっかり乗り付けた海賊船が、どうやらピンチであるらしいことを早々に感じ取り、潮風に嬲られる長い金髪を手で押さえつつ嘆息する。
同行していた緋翠・華乃音(終奏の蝶・f03169)は、無表情に標的である巨神を遠くに見たまま、揺れる船の上でも微動だにしない。
武骨で骨ばった男たちの中に於いて、儚げな小さな少女の姿をしているエメラと、線の細い印象を与える華乃音は、異質な存在であった。
「うわぁ、あんたらいつの間に船に乗ったんだぁ!? 密航者か?」
異質すぎて、しばらく突っ立っていても、なかなか気づかれないほどだった。
「確かに、許可は取ってないけど……まぁ、お手伝いかしらね。協力して倒すつもりで来たのだけど、まあ邪魔にはならないわ」
いつかは見とがめられるだろうと思っていたら、思った以上にスルーされていたことに半ば呆れつつも、ちらっと華乃音に視線を送ると肩をすくめるだけだったので、エメラが上品さを装ってカーテシーをして見せる。
事故が原因で体が幼体固定のままその大半を機械で補っているサイボーグのエメラは、実年齢と外見が一致しない。
西洋人形のような可憐な容貌は、こういう時に箔が付かないのが困りものだ。
「いや、まぁ、手伝ってくれるってのはいいんだが……俺たちもそろそろやる事なくなっちまってなぁ……」
「見たところ、それほど武装を積めるような船ではないものね」
困ったようにぼりぼり頭を掻く船長に、エメラはでもと、わずかに視線をさまよわせる。
「それでも、貴方たちならではの戦い方があるのでしょう。……貴方たちの考えを実行なさいな」
と、そこまで言ったところで、猟兵二人ははっと巨神のほうへと視線を向ける。
どうやら話しているうちに、ダメージをある程度回復したらしい。
膝をついていた巨神が再び立ち上がる。
「どうするの?」
「──狙撃だ」
言葉少なに問えば、言葉少なに華乃音は答え、マストの上を見上げる。
メインマストの見張り台。『しょう楼員』と呼ばれる、普通の船員より階級が高い者しか登れないらしいが、海賊船ではそのような取り決めはあるのだろうか。
ともあれ、高所から狙撃というのなら、華乃音が背負っている釣り具のバッグのようなものには狙撃銃が入っているのだろう。
「なら、そうね……走ってもらう方がいいかもね。目を引きつけるのは、こちらがやりましょう」
そうしてわずかばかりに言葉を交わすと、エメラと華乃音は、それぞれに戦う手法に適した位置へと移動する。
「お、おいおい、俺たちはもう、逃げ回るか乗り込むしかないんだぜ?」
明確に戦う意志を見せる猟兵たちに対し、もはや砲撃する資材がない船長は戸惑う。
「動けばいい。操舵は任せる。……海賊なら、逃げ回るのも得意だろう?」
しょう楼に上りつつ、華乃音は冷静なままの声を浴びせる。
焦りも逸りもない、ただ行うべき事を成すだけの、ある意味で実直さを思わせる態度に、船長はいよいよ覚悟を固める。
「しゃあねぇ! 逃げるぞ!」
「えぇ、この海域から?」
「馬鹿野郎、そうじゃねぇ。うちの船のすばしっこさを見せてやんだよぉ! 各帆番は、指示を待て。海賊の足回りをみせてやろうぜ!」
「あ、あいさー!」
きっと助っ人がなんとかしてくれる。
あの少年少女たちは、そんな顔で自分たちを疑いもしていないようであった。
尤も、少年や少女という年齢ではないのだが。
ぐんっと体に受ける風が強さを増したの受けて、エメラはどう戦うかを考える。
この広いグリードオーシャンの島を一つ一つ見つけていき、今回の戦争を引き起こしたオブリビオンフォーミュラ、及びそれを含む『七大海嘯』の本拠地を見つけなくてはならない。
途方もない事だ。終わりの見えない戦争かもしれい。
しかし、目の前の巨神は、手がかりの一つでもある。これらを一つ一つ倒して、その痕跡を辿るしかない。
「……頑張りましょうか」
とはいえ、今回の敵は大きい。生半可なことでは、こちらの手の内を無用に減らしてしまいかねない。
まあ、ただの巨大な敵なら、問題ない。
エメラの戦闘力は、その手の内に依るところが大きい。
電脳魔術とメカニック。半ば趣味に走ったと揶揄されるかもしれないが、超兵器を戦場に投入することさえできれば、手の広さは類を見ない、はずだ。
そして相手が大きいなら、同じように大きい駒をぶつけるだけだ。
動き出す巨神の近く、その上空に召喚陣がうかぶ。
「魔導蒸気巨人兵、投下準備完了……灰になる覚悟はできたかしら?」
そこから呼び出されるのは、20メートル級の巨人兵。
【焼き尽くすは我が灼熱の巨人】。魔導蒸気による機械兵は、各所から蒸気を放ちつつ、両の手に搭載した炎熱兵器から炎を放って拳を覆う。
「さぁ、派手に行きましょう!」
ぎぎぎ、と両の拳を持ち上げて構える巨人兵は、エメラの意思のもとで、巨神に正対し、島への侵攻を防ぐべく立ちはだかる。
巨神はもはや全盛の状態ではない。岩塊と遺跡で構成されたそのボディは、あちこちが激しい損傷の形跡を残したままで、そのリソースの多くを戦闘に回しているらしい。
さすがに体格差はあるものの、今の巨神相手ならば、その差を十分に埋めて渡り合うことも可能だろう。
巨人兵の拳が、炎を纏って繰り出され、巨神の腕を破壊する。
その衝撃波は、エメラたちの船にも伝わるほどだった。
激しい巨人同士の格闘は、長引けば周囲に被害が及ぶかもしれない。
が、この調子でいけば、もうそろそろ巨神を討伐できるのではないだろうか。
ただ、致命的なダメージに至るには、やはり弱点を探るべきなのだろう。
やがてはそれに至るだろうが、エメラの巨人兵が戦いながら行うには難しいだろう。
その体のどこを壊しても、驚異的な回復力で、巨神は何度も立ち上がってきた。
致命的な一撃を加えるなら、もっとよく観察すべきなのだ。
文明が進んでいる世界ならば、ハッキングでもなんでも行うところだが、今回はよりその手の勘の鋭い方に任せることにした。
「すー、すー、ふー……」
激しい衝突音を遠くに聞きながら、海賊船のマストの上。
華乃音は組み上げた狙撃銃を構え、一人の世界に入っていた。
敵は見る必要もないくらい、巨大な岩塊。あるいは遺跡と言うべきなのだろうか。
海の上はすなわち波の上。たえず揺れる波の更に上に建てた棒の上だ。揺れはひどい。
人の理の外れた異能。理の違う慮外の血統。それを研ぎ澄ますことを強いられた怪物は、その程度の悪条件で揺らぎはしない。
戦うために作られたその名残。それは最早、合理性から成る計算式に過ぎないのかもしれない。
そこには矜持も拘りもない。
勝率を上げるためなら、海賊だろうが何だろうが、使えるものは使う。
この船を背負うあの男は、海賊にしてはなかなかの好漢だと思う。いや、雑念は捨てよう。
強い者は、存在からして強い。大きい者は、その気配から大きい。
狙う必要もないほどの大きな存在。
はたしてそうか。
合理性とは、思考を放棄する事ではない。
今の巨神は弱っている。
その上でおあつらえ向きに、エメラの巨人兵が足止めをしていてくれるお陰で、その姿をよくよく見ることができる。
ライフル越しに見る巨神のあちらこちらには、修復しきれていないダメージが見て取れる。
修復に至るに障害が生じるどこかを、これまでの戦いで傷つけたのかもしれない。
見るのではなく視るのだ。
今は陽光が降り注ぐ昼間。それでも蒼穹の向こうには星がある。それを視るほどの観察眼があって、初めて合理性に至る。視るのだ。そう、
「――白昼の星すらも」
【星辰の瞳】で捉えるものは、距離だけだ。
障害とはすなわち距離なのだ。
厚さ10センチの合板も、運動エネルギーを吸収するポリエチレン繊維でもいい。
対象に至るための障害は、必要な推進力は違えど、距離に他ならない。
目に見えなくても、そこにある距離。
目に映らなくても、そこに在る違和。
巨神の顔は、修復しようとしては崩れを繰り返す、ノイズのようなモザイクのような状態を繰り返していた。
あれを狙うべきか。きっと、もっと奥を。
届くだろうか。距離は十分だろうか。
光線を放つ頭部の宝玉。その宝玉の中に宝玉があるのを視認し、スコープを覗く華乃音の瞳が、光彩が鋭く窄む。
引き金を引いたのは、一瞬。
撃ちだされた銃弾がマズルフラッシュを引いて、狙いと寸分違わず巨神の頭部を撃ち抜くのと、
エメラの巨人兵が、渾身の拳で以て巨神の胴体に風穴をあけたのは、ほぼ同時であった。
致命的な何かを貫いた手応えが、二人の猟兵にはあった。
或は、本当に破壊すべき核が複数あってもおかしくはないだろうが……。
それももはや調べる必要がないほどに、それは致命的な手応えだった。
《オ、オオ……》
エメラとその巨人兵とを繋ぐ伝信管が、崩れ落ちていく巨神の激しい崩落音に混じって、奇妙なものを拾う。
《我が姿を見よ……これが、かつて神と信奉された者の末路よ……》
それは、巨神の声なのだろうか。
いまさら、それを聞いたところでもはやどうにもならないが、そこに意思が残っていたとしても、彼もまた誰かに語り掛けているつもりはないのかもしれない。
《……我が滅びようと、我が領土は消えず……願わくば……今度は、静かに……》
それきり、遺跡は人型を成し得ず。瓦礫の山は本来がそうであったかのように、沈黙する。
長い。それはちょっとばかし長い、しばらくは波の音しか聞こえないような沈黙だった。
やがてそれは、海賊たちの歓声にかき消されてしまう。
「うおー、勝った! 勝ったんだぁー! 俺たち、生きてるぞぉ! フェルナンド、酒もってこぉい!」
「すいやせん、船長ォ! もうおしまいだと思って、飲んじゃいましたぁ!」
「馬鹿野郎ォ! 俺の酒まで飲みやがったのか!」
仕事を終えた華乃音は、潮風に長い時間銃を晒さないよう、てきぱきと得物をしまい終えると、そのままマストの上で瞑目する。
合理的ではないかもしれない。ただ、少しの間、時間をずらした方がいいと思ったのだ。
今降りたら、お祭り状態の屈強な男たちにもみくちゃにされることだろう。
そういう空気に居づらいというわけではないが、そのうちにエメラ辺りに助けを求められるかもしれない。
それは仕事には入らない。
「合理的さ……」
穏やかに吹き抜ける風に銀髪を泳がせつつ、にぎやかさの中で、さてどうやって安全に変えるべきか。
華乃音はのんびりと考えるのであった。
大成功
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