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羅針盤戦争〜『一の王笏』、秘めたる黒と~

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●とある島、『一の王笏』との会合


 そこはあらゆるものに黒き結晶がある島。
 地上にも、樹木にも、島にあらゆるものへと黒曜石に似た鉱石が宿っている。
 さながら黒い水晶に覆われた森の島。
 光を受けてきらりと輝く色彩は黒ばかり。それがまるで、影が踊るような景色を見せている。
 音も無く揺れ動くは木漏れ日に似て。
 美しく幻想的でありながら、何処か不可思議なのは夢の裡さながら。
 この鉱石と島の存在はある種の共存なのか、それとも、島が育む奇跡なのか。
 もしくは、吸血鬼さながらに、この島で育つものの生命を奪い、黒き結晶へと変じさせているのか。
 事実は分からない。真実は不明。
 あらゆる世界から、あらゆるものが降り注ぐこの世界ならば。
 ダークセイヴァーの寄生ともいえるし。
 まるでサクラエンパイアの羅刹の角のようだともいえてしまえ。
 はたまた、星を渡る世界からもたらされた技術なのか。邪神の瘴気が地中深くに埋まっているからなのか。

 けれど、何か理由をつければ、『それまで』なのだ。

「理由は判らない。道理は消えている。故に不思議と思い、敬い、美しいと口にする」

 男の言葉は、ある種の奇跡や幻想を詠うもの。
 理由や条件など、判ってしまえばそれが当然で当たり前となるのだ。
 故に、美しき奇跡は秘めるもの。語らい、暴けば、この不可思議な輝きをただの石としてしまうと男は口にして。

「貴様に猟兵のする事はそういう事だ。未知の海を切り裂き、秘密を暴いて、秘めたる花の美しさを散らすものと心得よ」
 
 
 そういいながら、黒いマントを翻して見せるのは、黒百合の紋章。
 ダークセイヴァーにしかない、『紋章』が何故かその身に宿されているのだ。
 どうして。なぜ。
 困惑など知らぬ。いいや、それでいいと、男が引き抜くのは黒き長剣。

「知りたいという欲求は認めるがね、それは貴石を石ころへと貶めると心得てくれよ」

 なんとも傲慢で、上から物言うような言葉だろうか。
 ただ、それを口に出来るだけの格というものを、男は身に纏っている。
 彼は『一の王笏』――オブリビオン・フォーミュラであるカルロス・グリードの分身体であるのだから。
 例え分身といえど、その存在と強さは確か。
 構えた剣には僅かな隙もなく、出会ったからには斬り捨てるのみだとその瞳が雄弁に語っている。

「そう、お前達、猟兵は過去を斬り裂き、隠した秘宝たる真実を暴くものだからこそ……この島を、この世界を、麗しき姫を、渡さぬよ」

 ここは、全て私のものだ。
 私が隠し、秘めし、あらゆる異世界から流れ着いたものも。
 やはり私のものなのだとカルロス・グリード、『一の王笏』は笑ってみせる。
 とても冷たく、艶やかに。
 海と戦乱の世界を統べる、怪物の美として。



●グリモアベース


「あくまで分身体ですが……カルロス・グリード、かのグリードオーシャンのオブリビオン・フォーミュラの存在を感知しました」
 口にするのは秋穂・紗織(木花吐息・f18825)だ。
 ゆったりとした口調ながら緊張を滲ませているのは、こんなにも早く……例え分身体だとしても、フォーミュラの存在を感じ取ってしまったからだろう。
 早くも、いいや、この羅針盤戦争が始まる前から、島の奪い合いが続いていた世界。
 これ以上はと前線にまでカルロスが自らの力を向けたのか、それとも、既にそこまで迫る事が出来たのか。
 謎は海を駆け抜け、制すれば判る事なれど。
「今いるのはこの島です。あらゆるものに、黒曜石に似た鉱石が付着し、共に育つ島」
 その理由を解明する余裕などはないだろう。
 少なくとも、そこにいる存在は、猟兵の一切を認めない。
「そして、何故か、このカルロスの分身体には、ダークセイヴァーの紋章……寄生する事でその相手の能力を引き上げるものが見受けられています」
 世界を跨いで手に入れている力。それに困惑し、どうしてと問いただす余裕などある訳はなく。
 猟兵を見れば排除すべくと、必ずや紋章を用いての攻撃を仕掛けてくる。
「それを用いての攻撃は苛烈で、隙がなくとも必ずや先制される事となるでしょう。まずは一撃を凌ぐ。少なくともそこから始めなければなりません」
 重ねて、凌いだとしても問いただした先に、応えるかといえば先の予兆の通り。秘めるが花の美しさと、何も応えない事が予想される。
 ならば、秘められた花とやら。その強さを散らし、戦を終わらせる事こそ猟兵の務めであり、戦いなのでしょうと紗織は口にする。。
「それでは、ご武運を。この海の世界の中に、何が埋もれているのかは、皆様次第なのですから」
 ふわりとお辞儀をして、紗織は皆を見送るのだった。


遙月
 MSの遥月です。
 今回もどうぞ、宜しくお願い致しますね。
 
 こちらは純戦系のシナリオとなっています。
 心情は勿論、拾えるだけ拾いつつも、純粋に戦って頂ければ、そして、その有り様をかっこよく描写できればと思っております。
 ただ元より心情派のMSですので、心情などを込めて頂ければ、よりいっそう戦闘が映えることにはなるかと。

 ただ注意点は「敵は必ず先制攻撃」を行うこと。
 ユーベルコード以外の方法でこれを凌ぎ、そこから繋いで撃破へと、そしてこの先の戦争の勝利へと向かってください。
 ひとつの勝利が、カルロス本体への、七大海嘯への一歩となる筈です。


 また、戦争シナリオとなり、成功完結したシナリオ数が今後と新しい敵へと繋がっていきますので、スピード勝負のシナリオ、採用人数に限りがあるとさせて頂くことはご了承くださいませ(公開開始から即座に受付開始し、出来る限りは採用致しますが、全てはというと無理となりますので、そこはと)


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プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
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※この先制ユーベルコードに対処は、猟兵のユーベルコード以外でとなります
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第1章 ボス戦 『七大海嘯『一の王笏』カルロス・グリード』

POW   :    闇霧の紋章
【紋章の力】に覚醒して【触れた者の生命力を奪う黒き霧の体】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    紅き月の紋章
【無数の三日月型の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    黒百合の紋章
自身の装備武器を無数の【触れたものを呪詛で侵す黒百合】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:hoi

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リーヴァルディ・カーライル
…本当に、何故お前が吸血鬼共と同じ紋章を持っているのかしらね

…理由は分からないけど、今は猟兵としてこの場にいるの

…お前を討ち果たして世界を救う。それが私の使命よ

事前に第六感に干渉する"写し身の呪詛"を用いて、
殺気を放つ残像を突撃させて敵のUCを受け流し、
自身は存在感を消して死角から切り込みUCを発動

…来たれ。この世界の欠片に宿りし大いなる闇よ
我が手に宿りて、過去を撃ち砕く力となれ…!

大鎌の刃に限界突破した闇属性攻撃の魔力を溜め怪力任せになぎ払い、
生命力を吸収する闇のオーラで防御を無視する"闇の奔流"を放つ

…紋章の持ち主との戦いには慣れているもの
異世界の良く分からない物に比べれば…ね



 黒き煌めきが舞い散るこの場所は。
 まるで闇夜の世界。
 常夜たるダークセイヴァーだと言われれば、成る程と頷いてしまう程に。
 その中に足を踏み入れたのは、さらりと波打つ銀の髪を靡かせる少女。
 紫の眸は、うっすらと意思を滲ませて。
「……本当に、何故お前が吸血鬼共と同じ紋章を持っているのかしらね」
 唇から繊細なる声を零すのは、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。
 眼前、漆黒の衣装に身を包んで剣を構えるカルロスは、まさしく吸血鬼の貴族めいていて。
 どうして。なぜ。
 問いかける思いは止め処なく溢れるけれど。
 いいえ、と首を振るい、死者の想念を吸い上げる黒き大鎌を構えるリーヴァルディ。
 その美貌に、表情らしきいろはなくとも。
「……理由は分からないけど、今は猟兵としてこの場にいるの」
 淡々と、けれどメトロノームのように精緻でリズムで。
 紡がれるのは、敵対の宣言。
「……お前を討ち果たして世界を救う。それが私の使命よ」
 私は猟兵で、あなたはオブリビオン。
 それ以外など不要でしょう。ただそれだけで、大鎌の黒刃に魔力を滾らせるに十分。
 対するカルロスもまた、ゆらりと切っ先を泳がせる。
「そう、それだけでいい。単純にして明快。他の意味など全て無為な程に、純粋であればいいだけのこと」
 秘めるものも。
 宿すものも。
 全てはただ、無常なる時の流れに在る泡沫なれば。
「さて、行かせて貰おう」
 揺れるはカルロスが手にする長剣。
 一振りと翻した瞬間、それは無数の黒百合の花びらの嵐と化して、リーヴァルディを覆い尽くそうとする。
 それは触れたものを侵す呪詛の花。
 美しい黒など、ただの見た目だけ。
「……本当に、まるで吸血鬼」
 故に、その黒百合の花びら達へと自ら突き進むリーヴァルディは、呪詛の黒に染められてしまうのか。
 そのような愚直な姿こそ、リーヴァルディなのか。
真実は、数瞬の後に明らかとなる。
「おや?」
 目を細めるカルロス。
眼前のリーヴァルディの放つ殺気は本物。だが、黒百合が肉体と魂を侵食する手応えがない。
 ならば避けたか、或いは防御したかと身構える。
 事実、黒百合の花びらへと突進して見せたのは、呪術にて編まれた残像の分身。あくまで囮であり、カルロスはそれめがけて全力の先制攻撃を撃ち込んだだけだ。
 今や携える武器は花と化して舞うばかり。
 故に、木々の間を縫って死角より強襲するリーヴァルディの本体への防御など間に合う筈がない。
「………来たれ。この世界の欠片に宿りし大いなる闇よ」
 周囲に集う鉱石、黒き色彩と、影と闇が凝縮し、大鎌の刃へと宿らせる。
 黒く、黒く、それは闇よりもなお黒く。
 風切る刃の音さえ、纏う闇は喰らい尽くすが故に、死神の触れる指先のように静かに。
「我が手に宿りて、過去を撃ち砕く力となれ……!」
 けれど、瞬きより早く。
 担い手であるリーヴァルディの限界を突破する程、闇の魔力を秘めた大鎌がカルロス目掛けて一閃される。
 それは魂をも吸い尽くす、闇の奔流。
 静謐なる漆黒の刃がカロルスの身を斬り裂き、噴き出した血をも闇の色彩に溺れて染め抜く。
 闇を防ぐ術はただひとつ、光だけ。
 ならば、それを受けたカルロスがとろうとした防御など無意味。
「……ええ、あなたは、この黒い島の中で眠りなさい」
 負傷した身体を押さえるカルロスだが、その傷口は刃に斬られたというより、闇という獣の顎にて貪れたかのように悲惨。
「流石は猟兵、この海を踏破して来たものということか」
 苦しげな声を漏らし、後方へと飛び退くカルロス。
 その姿を静かに、微かに揺れる事もない紫の眸で見つめるリーヴァルディ。
 一歩、一歩と踏み出して追撃へと移りながら。
「……紋章の持ち主との戦いには慣れているもの」
 大鎌に宿り渦巻き続ける闇の魔力。
 これは吸血鬼を屠るが為の死神の鎌なのだから。
 過去を刻み、未来を閉ざすのだ――闇夜に生きる者達に静かなる幕引きをもたらすべく。
 そして、新しい世界の息吹として、消費された「過去」を外へと導くべく。
「異世界の良く分からない物に比べれば……ね」
 その為に、ヴァンパイアを狩る為にいるリーヴァルディ。
 まさしく『一の王笏』の分身体の天敵として、銀の髪を靡かせ、遊ばせ。
「……さあ、往きましょう。闇の中へ、沈みましょう」
 疾走する銀の吸血鬼狩り。
 その鎌刃は、闇の魂を葬るまで止まる事はない。
 何故、此処に吸血鬼の紋章があるかは判らなくとも。
 その元凶は吸血鬼たちへと繋がるものなれば、必ずや断つと、死神の鎌が闇の色彩を揺らめかせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィヴ・クロックロック
玉葱…。あ、違う、王笏?
危ない危ない…玉葱がフォーミュラーだと思ってた。まあどっちでもやることは一緒か。

実体が無くなるのなら話が早い。【オロチ】はそういう相手を相手するために作った縄分銅。先制で霧に変ずるというならばUC発動と感と勘で合わせて変じたところをコイツで逆に奇襲する。
そしてメインは召喚した黄金のスケルトン軍団。呪いによって実体がなくても確実にとらえ、その身を使った築城によって私は身を守ろう。

ダークセイバーは一応地元で大嫌いだ。だが、だからこそ、だ。対策は万全で盤石、本体ならまだしも分身のニワカ吸血玉葱くらいはどうにかしないとな。

(※連携アドリブ歓迎です)



 王笏、いや、大笏なのだ。
 玉葱とは違うとヴィヴ・クロックロック(世界を救う音(自称)・f04080)は自らを諫める。
「危ない、危ない……玉葱がフォーミュラだと思っていた」
 まあ、やる事はどちらでも一緒かと頷いた先、カルロスが言葉を零す。
「フォーミュラが玉葱だというのなら、猫にとって真の災厄だ」
「いや、猫にとっての災厄とは犬の誕生だという説があって」
 まるで戯曲で笑いを取るような言葉の応酬。
 けれど、それは瞬間の隙を奪い合う為のものだとヴィヴも理解するからこそ。
 瞬きの瞬間、黒き霧へと身を変じさせたカルロスへの動揺は微かにもない。
「知っているかな? 音楽は世界だ。そのリズムが、全てのモノを知らせる」
 如何に不意討とうとも体内には体内の、呼吸には呼吸の。
 そして身体の動きには、動きのリズムがあり、急激な変調は不可能。
 故に、この不意打ちじみた霧への変貌も音楽を生きがいとするヴィヴィの感と勘で読み取れるというもの。
 音痴というどうしようもない穴は、それこそ、実体亡き者を相手する為に用意された縄分銅【オロチ】が補って余り在る。
「多少のズレは、長さでフォローさせて貰うよ」 
 霧へと変じた身へと撃ち込まれる【オロチ】の一撃。
 それだけでは決定的とはならずとも、不意打ちを狙った所に、逆に奇襲されたカルロス。
 霧の流れが鈍り、一瞬でも止まれば、そこに流れるりはヴィヴィの詠唱。
『虚飾の栄華に腕を伸ばして黄金郷』
 育った故郷で、地元のダークセイバーは大嫌いだ。
 理不尽な夜が支配するそこを好む事なんて出来はしない。
『虚飾の栄華に腕を伸ばして黄金郷』
 だからこそ、ヴィヴィの今がある。
 そこで蹂躙する吸血鬼に対する備えた力を呼び起こすのだ。
『輝く骸骨、仕事だ起きろ。後は屋となれ城になれ』
 言霊に従い、召喚されたのは金色に輝く巨大なスケルトンの軍団達。
 纏う黄金の呪いは実体がなくとも確実に敵の身を捉え、ヴィヴィに迫る攻撃を遮る城壁となる。
 それこそ、霧となって隠れ、闇に紛れて顕れる吸血鬼に対する為の黄金の呪術。
「ああ、本当に嫌いだ。嫌いなんだよ。だからこそ、対策は万全で盤石」
 例え一撃、一撃の効果が薄くとも、黄金の呪いを帯びた骸骨の攻撃が黒い霧となったカロルスの存在を削っていく。
 触れれば吸い上げる筈の生命力など、亡者であるスケルトンが持つ筈はなく。
「本体ならまだしも、分身のニワカ吸血玉葱くらいは、どうにしかないとな」
 いいや、してみせるとより激しく攻撃を仕掛けさせるヴィヴ。
 すり抜けた黒霧がヴィヴィの身に迫ろうとも、瞬時に城壁の如く積み上げられた黄金の骸骨が盾となって、攻撃を阻む。
「さあ、消耗戦。けれど、吸い上げる生命力のない状態で、何処まで持つかな?」
 ヴィヴィの指摘通り、毎秒ごとに削れていくカルロスの存在。
 呪われた骸骨たちに殴打され、鈍い剣で切られ、刺され、その生命力は次第に枯れていくから。
「なんとも――相手のしにくい方か」
 するりと身を翻し、霧への変身を解除するカルロス。
 外見上、目立った負傷など一切なくとも、疲弊しているのは目に見えている。
「当たり前だね。私はあの夜の世界を越え、この海を渡ってきたのだから」
 黄金の骸骨を率い、守られた中で、再び【オロチ】を構えるヴィヴィが告げる。
「この程度で終わるとは思わないで欲しいよ」
 揺れる気配と空気。
 この島を巡る攻防は、いまだ激しさを増すばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎

確かに俺達は未知を踏み荒らすだろう
だが、真実を知らなければ前へ進めない
この世界はお前だけの物じゃない、生きて前へ進む者達の物だ

SPDで判定
先制攻撃は腕のメガリスで防ぐ
銀腕を【武器改造】で盾にし【盾受け】しながら【ダッシュ】や【悪路走破】で肉薄する
その時にも飛んでくる攻撃は【見切り】【地形の利用】をしながら避ける
多少の攻撃は受けるだろうが【勇気】と【覚悟】を持って挑む
近づけば地面の砂を蹴り上げ【目潰し】し背後に回った後、盾から剣へ【武器改造】して指定UCを叩きこむ



 未知と不可思議。
 つまりは幻想の黒き煌めきの宿る場所に、踏み入る者。
 ああ、カルロスの言葉には一理ある。
 だがその全てを認める必要などないのだと、ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は銀の瞳に鋭い光を宿す。
「確かに、俺たちは未知を踏み荒らすだろう」
 言葉を口にしながら、メガリスである義腕を盾へと変じさせるルイス。
「だが、真実を知らなければ前へ進めない」
 それは当然のこと。
 先へ、未来へと進む為には、そこに至る道を踏む必要があるのだから。
 花を踏み散らすかもしれない?
 だが、そんな恐ればかりで、何も出来ない停滞など御免被るのだと。
「この世界はお前だけの物じゃない、生きて前へと進む者達の物だ」
 故に、お前のように過去の存在。
 未来を喰らい潰す停滞を消すのだと、ルイスは言葉の刃を向ける。
「酷い言われようだ。が、認めよう」
 もっとも、と言葉を紡ぐの姿が揺らぐ。
「生きて、この島を出られたのならばな」
 それは一瞬の為。紅き月の紋章が輝いたかと思った瞬間、四方八方へと放たれる無数の三日月型の刃。
 紅月が生み出し、世界を蹂躙する暴虐の牙たち。
 このカルロスの分身体がダークセイヴァーの力を持つというのなら、まさに吸血鬼の技だ。
 ルイスが流体金属である銀腕を盾と広げても、それを無傷で凌ぐ事などできはしない。
 吹き出る鮮血。激しい痛み。
 身体の何処を負傷したのか判らず、全身を斬り裂かれたのではないかと思う程だ。
 そう、少なくともルイスは負傷の程度など捨て置いている。
 何処をどれ程、深く斬り裂かれたかなど、その眼中にはない。
 ただ魂を突き動かす衝動に従って、カロルスへと一直線へと肉薄するのみ。
 刃で轍の刻まれた悪路であれ関係ない、再び紅月の紋章が煌めくというのなら、それを前兆と見切り、樹木を盾にして回避しながら一気に迫る。
「この島の不思議を傷付けるのは、カルロス、お前の方だろう」
「さて、それは果たしてどうか。猟兵の貪欲さは底知れない」
 間合いへと踏み込んだ瞬間、カルロスの携える長剣が翻り、ルイスの脇腹を斬り裂く。
 だが、その程度では止まらない。
 一度は死んだ身。その躯を動かすルイスの魂の衝動は。
 誰かの未来に手を差し伸べようとする、その憧れは。
「ああ、何処まで貪欲に――今、お前の存在で、お前の起こした戦争で苦しむ人を助ける事を望むだけだ」
 蹴り上げたのは地面の砂。
 目眩ましとしては一瞬、視界を奪えたかも定かではない。
 だが、負傷をわぬ勇気と覚悟は、そのまま疾走の勢いとなり、カルロスの背を取る。
 瞬間、銀腕が変形するのは盾から剣へ。
 カルロスという戦の元凶を討つべく銀の輝きが奔る。
「さあ、俺と踊って貰おうか。どちらかが倒れるまでな!」
 連続するのは武器へと変形させた銀腕。
 瞬きより早く、瞬間に十、二十と銀光が奔り、刻まれたカルロスの肉体から鮮血が飛び散る。
 そして、なお止まらぬ超高速連続の剣戟。
「面白い、その財宝の如き銀の輝き、なお見せて貰おうか!」
 斬り刻まれながらも長剣を構え、ルイスの銀武の舞へと応じるカルロス。 
 負傷を互いに度外視し、どちらの望みが叶うのかと競うように刃が激突し、火花と血を散らして。
「未来を、掴ませて貰うぞ……!」
 更に深く踏み込んだルイスの銀剣が、すれ違い様に深々とカルロスの腹部を斬り裂く。
「見事。これが猟兵、これが貪欲な海を渡るもの」
 僅かな笑みの気配と共に、飛び退くカルロス。
 負傷が甚大なのは互いにだ。
 流石のルイスも息をつく。
 その銀腕で斬り裂いた、確かな手応えを――海を踏破する未来への感触を感じながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
回点号に搭乗、操縦。
瞬間思考力、及び動体視力でもって、刃を回避。
避けきれない物をオーラ防御、シールドを展開、
刃の軌道を逸らし避ける。

自分は兵士なれば…未知など知らない、道理など知らない!
避けきれずに、回点号へ刃が突き刺さる。
機体を貫いて自分に届くかもしれない。だが、そんな事では止まらない!

美しさなど知らない!!
自分はただ、目の前の敵を破壊するのみ!!
『戦火応報』発動。
撃ち返せ!応報せよ!!
刃を無効化し、カルロス・グリードへと三日月型の刃を放つ。

動け、行け!行けぇええええ!!
継戦能力、機体を動かし、
機械戦鎌を敵へ向け、推力移動。ランスチャージ!!穿つ!!!



 黒き結晶に覆われた島に降り立つ、戦塵の巨人。
 それは朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)が駆るクロムキャバリア、回点号だ。
 鈍い鋼の駆動音を響かせながら、カルロスの頭上から見下ろす小枝子。
「やれやれ、風情を知らぬものが来たか」
嘆息するカロルスはキャバリアの存在を知っているのか、肩を竦めながら、ただ前進する為に薙ぎ倒された木々と、砕け散った黒水晶を眺めている。
「自分は兵士だ。風情というものを理解は出来ないし、そもそも、それを感じて敗北へと近づくつもりはない」
「成る程。あくまで己は思想を持たない一兵卒――ポーンか。理想の兵だよ。故に、油断などしない」
 だからとカルロスは長剣を構え、紅月の紋章を輝かせる。
「この未知なる美と、海の謎を守る為に」
 言葉ともに放たれるは、縦横無尽に放たれる三日月の刃たち。
 吸血鬼の暴虐の顕現として回点丸へと襲いかかり、その装甲を斬り砕いていく。
 操縦席の小枝子まで届く鋼鉄の断末魔と衝撃。
 危険を知らせるアラートが鳴り響き、機体の機能の半分が一瞬にして停止している。
 腕は動くか。脚部はどうだ。
 そう確かめる間もなく、バランサーが崩れて膝を付く回点丸。こうなれば、頑強ではあれ、身を縛る程に鈍重な大鎧に他ならない。
 けれど、血の変わりに火花を舞い散らせながら。
 回点丸を動かす小枝子の戦意は揺るがず、衰えず、銃口をカルロスの身へと向ける。
「そうだ、自分は兵士なれば…未知など知らない、道理など知らない!」
避けきれずに、刃が突き刺さる事なんて判っている。
 俊敏なる先制攻撃は確実で、この機体はもはや大破寸前。それでも動くというのならば、戦うまでと。
 次にあの紅月の紋章が輝けば、次は機体を貫いて刃が小枝子の身に届くだろう。だが、それを恐れて戦場に立つ事など、ありはしないのだ。
「私は止まらない。そんな言われで、そんな事で、そして、こんな状態だしても……!」
「ならば、確実に、速やかにその息の根を止めねばならない」
 輝く紅月の紋章は凶兆の色彩。
 瞬時に四方八方へと放たれる三日月の刃は、回点丸と、それを操る小枝子を斬り裂くかに見えたが。
「撃ち返せ、応報せよ。――戦火応報!」
 理想を持たない一兵卒こそが怖いとは、他ならぬカルロスの言葉。
 ほぼ瀕死といって状態から、ユーベルコードを受けるというのは並ならぬ覚悟と勇気、死線へと更に深く踏み込む戦意が不可欠。
 僅かでも恐れや躊躇いを抱けば、小枝子が発動させるユーベルコードが間に合わないかもしれない。
 だが、死をも厭わず、勝利へと飛翔せんとするからこそ、この技はなるのだ。
 撃たれから、撃ち返す。
 それが戦場の掟であり、繰り返される続ける闘争そのものだと。
 三日月の刃を受けた回天丸の装甲が、カルロスのユーベルコードを無効化し、なかつ同等の効果をもって周囲に放つ。
「ほう……」
 カルロスから零れる感嘆の声。
 トドメを刺す為に全力を注いだ一撃。故に守りなどなく、返された無数の三日月の刃で身を切り刻まれ、鮮血を周囲に散らす。
「動け」
 鼓動のように。
 或いは、魂のにように。
「動け、動け!」
 燃える思いに答えるが如く、強引な駆動で更に破損しながらも回点丸がスラスターを噴かせる。
 まだ動ける、まだ行ける、まだ戦えるのだ。
「動いて、行け! 突き進め!」
 カルロスが予想外の負傷で態勢を崩した今こそ、唯一の好機。
 戦場を駆け抜け、一撃を見舞い、届けるは今。
「勝利へと、ただ突き進め!」
 ただ勝利への渇望を機械戦鎌『アスプロス・コラキ』の切っ先に宿して、推進力となった爆炎を置き去りに突き進む回点丸。
 必ず穿つと、音速を超える切っ先がカルロスへと突き進む。
 それは必勝を願い、命を賭けて奔る鋼の騎兵に他ならない。
 寸前でカルロスが長剣を構えるが既に遅く、そしてクロムキャバリエの放つ一閃は余りにも強烈にして苛烈。
 鋼の巨人、その全力を燃やして放った刺突一閃。
 いわば、城壁を破壊する為の大槌の一撃をその身で受けたのだ。まともである筈がない。
 樹木をへし折りながら、遥か遠くまで吹き飛ばされたカルロスの身体。そして、砕けた骨の感触。
 確かな深手を負わせたという実感と共に、機能を停止させる回点丸。
 ぼろぼろと崩れ落ちる装甲とパーツ。
 過剰な熱を蒸気として外に排出し、強引な駆動で弾けた電気系統が電流の火花を散らす。
 けれど、勝利へ至る道を突き進んだのだと鋼の身が誇るが如く、激震に機体が揺れる。
「まだ――行ける! そうだろう」
 操縦手たる小枝子の声へと、回天丸が僅かに、緩やかに。
 鋼の駆動する激震を以て応えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夷洞・みさき
うん、確かに綺麗だね。
君達に暴く権利が無いのも道理だ。
なにせ、未知を過去に踏み落とすのは生きる人の権利だ。
でも、僕も未知を眺める楽しみは分かるし、壊すのも勿体よね。
だから、

過去に沈んだ別の島に招待しよう。

【WIZ】

僕を狙うと風景も壊れるんじゃないかな?

その花びらは見えない相手でも当たるのかな?
僕は届かない所まで下がらせてもらうけど。
この街に住む人、皆、狙う事ができるかな。

退避までの攻撃は【呪詛耐性】【地形の利用】で軽減する。
UCにより、諸共に街に閉じ込める。
自身は勝手知ったる街【地形の利用】により、効果範囲から離れる。
攻撃は街の住人に任せる。

さぁ、故郷の皆。ここに咎人が現れた。
【恐怖を与える】



 そうねと応えるのは、人魚の聲。
 美しくも、何処か禍々しい、海の底より浮かぶもの。
 少なくともそれはひとりのものではない。
 六人の同胞に補われた躯と声帯。
 壊れた心もまた六の同胞が繕って。
ならば七つの思いと声を、ひとつ束ねて揺らすがみさきという存在。
 その青褪めた様相に、楽観の笑みを浮かべて、カルロスの分身体へと望む。
「うん、確かに綺麗だね」
 その通り。
 黒曜石に似た煌めきは、躍る影のよう。
「君達に暴く権利がないのも道理だ」
 あくまで肯定しながら、みさきの聲は何処までも不吉のいろを孕んでいる。
 ぷくり、ふわりと深海から浮かぶ泡のように。
「なにせ、未知を過去に踏み落とすのは生きる人の権利だ」
 そう、今を生きる人間の権利だというのならば。
 過去の残滓たるカルロスに出来る事は、未だ見ぬモノを守る事なのだろう。
 けれど。
「でも、僕も未知を眺める楽しみは分かるし、ここで戦って、壊すのも勿体よね」
 だから、そう。
 過去は過去として、過去同士に。

「過去に沈んだ別の島に招待しよう」

 揺れる視界。
 作り変えられる世界。
 反射的に黒百合の紋章を瞬かせ、長剣を黒百合の花びらと化すカルロスだが、それを制するみさきの聲。
「僕を狙うと、この風景や景色、美しい黒の水晶を壊して、穢してしまんじゃないかな?」
 何故なら、カルロスの舞い散らせる黒百合の花びらは、触れたものを全て侵すのだから。
 一切の区別がつかないからこそ躊躇う数瞬。
 その間に戦場へと顕れたのは、咎人への刑場でもある無数の牢獄塔だ。
 出口はひとつ。確かにあれど、かなりの硬度を持ち、自らの足で出向かなければならない。
「その花びらは、見えない相手にも届くのかな」
 何処からか聞こえるみさきの声。
 発動と共にこの牢獄塔の迷宮の何処か。
 恐らくは出口へと転移したのだろう。ならば、見つけなければカルロスに手出しは出来ない。
 そして。
「この街に住む人、皆、狙う事が出来るかな」
 ここは咎人殺しの街。
 故に、そこに棲まう者、皆がオビリビオンたるカルロスを狙うのだ。
 みさきにとっては勝手知ったる街にして、カルロスにとっては、自らのみで踏破し、その住民を相手取らねばならない処刑場。
「いいだろう。確かに、過去に沈んだこの刑場を歩もうか」
 一歩を踏み出すカルロス。
 その足音に、ぴくりと街の『みんな』が反応して。
 刃を引き抜き。
 鈍器を取って。
 拷問器具を引き摺り出す。

「さあ、故郷の皆。ここに咎人が現れた」

 恐怖の影を、ゆらり、ゆらりと水底の海藻のように揺らして。
 処刑の場へと、カルロスを誘うみさきの、七つの人魚の聲。
 例え踏破し、抜け出たとしても、その身、その心が、まともであるとは言い切れない。
 海の底に沈んだ過去は、悪夢と共に浮かび上がるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◆SPD
この世界の戦いにも紋章が絡んでくるとはな
あの紋章は危険だ、放置は出来ない

周囲の木の陰に退避して、敵の放つ三日月形の刃を防ぐ
鉱石へと変化している木なら頑丈だろう、盾として使える筈だ

刃を凌いだら、別の鉱石の木へフック付きワイヤーを射出し引っ掛け、巻き取る力に合わせて跳躍
瞬時に別の木の陰へと移動する
何度か繰り返し、敵がこちらの行動になれたら、今度は敵本体へ『フェイント』でワイヤーを射出
腕や脚等、体の一部を捕縛して隙を作り、ユーベルコードで反撃を試みる

未知を暴く事は無粋、それも分からないでもないが
そうする事で救われる者が居るのなら、いくらでも暴いてやる
あんた達の企みを暴いて潰す事も、その範疇だ



 世界という一つの境界を潜り抜ける、闇のひとしずく。
 或いは、カルロスという存在が呼び寄せたのか。
 だが、カルロスが口にする通りなのだ。
 どうして。なぜ。
 理由などより、今ある状況と現実こそが大事。
「あの紋章は危険だ、放置は出来ない」
 あらゆるものが降り注ぐ、このグリードオーシャンの中でも、一際に危険なのだと、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は青い瞳でカルロスを睨み付ける。
 その身に宿す紋章は元はダークセイヴァーのもの。
 危険性はもはや災厄というべきものであり、吸血鬼を更なる化け物へと変成させるものなのだ。
「この世界の戦いにも紋章が絡んでくるとはな」
「さて、それは私に問うているのか。それとも、自らに問いただしているのか」
 ゆらりと泳ぐカルロスの長剣。
 問答は無用。真実は全て昏き海底の中に沈めと、紅き月の紋章を輝かせる。
「――この海を渡れば、お前も真実を知れるだろう」
 故に、これを凌ぎ、我を踏破してみせろと放たれるは三日月の刃たち。
 戦場となった一帯を縦横無尽に駆け巡る無数の刃。
 吸血鬼の渇きと、カルロスの貪欲さの合わさったような斬閃による蹂躙だ。間合いにある全て、悉くを斬り伏せると斬撃の後が響き渡る。
「ちっ、早いな」
 寸前でシキが回避できたのは、周囲の木々の陰へと隠れたからだ。
 少なくとも鉱石へと変化しているものならば頑丈と見たが、刃はそれさえも滑らかに斬り裂いている。
 腹部に走る裂傷は、ただ受けに回ればすり潰されるという現実の示唆。
「ああ、あの紋章を使う奴にいい顔などさせられないさ」
 少なくとも深手ではないと半田市、別の鉱石の来へと、腕輪型の射出機構よりフック付きのワイヤーを放ち、引っかければ巻き取る力を合わせて上に跳躍。
 的を絞らせない為にも、瞬時の別の樹木の陰へと移動する。
「この鉱石が美しいんだろう? なら、無差別の連打は出来ないな」
「それがどうしたというのだ。隠れ続けるだけなら、無駄だぞ」
 言葉の応酬は、シキの言う通り、幾ら威力が高くとも無差別の攻撃を連続して放てないというカルロスの心情を射貫いている。
 少なくとも、あれの存在は傲慢で、強欲なのだ。
 本体がどうなのかは判らずとも、分身体であるあれは、特に吸血鬼じみたそれを強く滲ませている。
 ならばと木と木の間を疾風の如く駆け抜け、カルロスを翻弄しようとするシキ。
 時に跳躍して木の枝の上へ。
 或いは、滑り込んで根と地面の間へ。
 樹木の裡を駆け抜ける俊敏さに、カルロスの反応は僅かに遅れている。
 だが、それも時間の問題。
「逃げ続けるだけが能、という訳ではないだろう?」
 ついにカルロスの瞳が、木々の間を跳ねるシキの姿を捉える。
 苦し紛れのように放たれるフックワイヤー。
 だが、紙一重でカルロスが避け、後の先を狙うかのように剣を構え、紅月の紋章をカガヤセカル。
 故に放たれる、三日月の刃が成す暴虐。
 かと思われた瞬間、長剣を構えたカルロスの脚がいきなり崩れ落ちる。
「何……!?」
 見ればシキの射出したワイヤーがカルロスの足首へと巻き付き、三日月の刃を放とうと力を溜めた瞬間、その態勢を崩させたのだ。
「力だけでねじ伏せようとするのは、止めた方がいいってことさ」
 先の本体狙いと見せたのはあくまでフェンイト。カルロスの躯の一部を捕縛して隙を作る事こそ、シキの狙いなのだ。
「それは獣のやる事だ。ああ、貪欲なのは、確かに獣じみているだろうがね」
 樹木を飛び跳ねて、シキ自身への索敵へと真剣を集中させたのも。
 あえて見つかり、攻撃を誘ったのも。
 ただ一瞬、反撃へと転じる隙を作るが為に。
「さあ、大人しくしていてもらおうか」
 故にと放たれる、神速の銃撃。
 三連の速射は剣を握る腕、片足へと着弾し、最後の一発は頭部を掠めて過ぎ行く。
 シキ程の者が、狙いを外したというのか。
 いいや、違うのだ。
「なる、ほど……これは厄介」
 頭部への一撃外れると見たからこそ、避ける事を意識から外し、腕と脚の急所に弾丸が突き刺さる事を避けたカルロス。
 だが、掠める事こそシキの狙い。三発の銃弾が引き起こすのは、ユーベルコード封じ。
「直撃して命を奪う必要はない相手もいる、ってな」
 そして、同時に封じられた災厄の種たる紋章の力。
 一時とはいえ、それが止められたのは大きく。
「未知を暴く事は無粋、それも分からないでもないが」
 剣の間合いではなく、銃の間合いにて立つシキ。
 だが、同情などする筈もない。
 ならばこの戦争を起こした理由に納得出来るのか。
 世界を破滅に導く理由へと、同意など出来る筈がないのだから。
「そうする事で救われる者が居るのなら、いくらでも暴いてやる」
 この世界に生き、この海で過ごす者達の為に。
 穏やかなる波風と共に、日常を過ごして欲しいから。
 かちゃりと撃鉄を起こされるハンドガン・シロガネ。
「あんた達の企みを暴いて潰す事も、その範疇だ」
 故に、必中となる銃弾を放つのに躊躇いなどない。
「ならば、海の果てで待とう。お前のいう、放置出来ぬ紋章がある秘密と共に」
 故に暴いてみせよと、弾丸を受けながらも樹木の陰へと身を隠すカルロス。
 一見逃げたかにも見えるが、ユーベルコード封じは完全ではない。
 時間が経てば、再びあの紋章の力と共に湧き上がる筈で。
「ああ、まずはお前を撃ち抜いてみせるさ」
 新しい弾丸をシロガネの中へと叩き込み、シキは鉱石の木々へと駆け抜ける。
 決して認められぬ、あの紋章を打ち砕くべく。
 凪いだ世界を思い浮かべて、銀の疾風が黒き森を駆け抜ける。

――それを果たす事が、シキが自らの心にて請けた仕事なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・日明
【アドリブ連携歓迎】
無差別攻撃は諸刃の剣、それを用いるということはそれだけ勝つことに自信があるということ。
……その鼻っ柱、へし折ってやりますか。

敵UCを【見切り】で回避。
被弾しそうなら【なぎ払い】相殺を試みますが、無理なら【激痛耐性・継戦能力】で戦闘を続行。
同時に地形を【情報収集】、衝撃を与えれば崩れそうな障害物を把握し【乱れ打ち】で反撃に見せかけ【地形破壊】。
遮蔽物ができ【地形の利用】が可能になったところで【指定UC】を発動、挟み撃ちになるよう僕が敵を【おびき寄せ】てからレムレスに【砲撃】させた後【零距離射撃】。

『数撃てば当たると思った?』
この程度で止まると見くびらないでもらいたいものだな。



 貪欲にして傲慢。
それがこのカルロス・グリードの分身体の在り方だ。
 或いは『一の王笏』としての影響があるのかもしれずとも。
 終夜・日明(終わりの夜明けの先導者・f28722)は思い馳せる。
 討つべき敵、その存在と力を。
「無差別攻撃は諸刃の剣」
 周囲一帯を斬り払う、無数の三日月の刃こそカルロスを表すに相応しいだろう。
 敵も味方も、障害物も何かも斬り裂いて。
 ただ残るは瓦礫と破片のみ。
 いいや、そんな力を持つから単身で挑んでいるのかもしれないが。
「それを用いるということはそれだけ勝つことに自身があるということ」
 ああ、成る程。
 この海のように強欲でありながら。
 吸血鬼のように傲慢でもあるのだ。
 黒い水晶たちは、さながらダークセイヴァーの破片なのか。
「……その鼻っ柱、へし折ってやりますか」
 身を隠していた樹木の陰から離れ、カルロスの眼前に立つ。
 それが意味することはただ一つ。
 紅い月の紋章が輝き、無数の三日月の刃が縦横無尽に駆け巡る。
 斬り裂くのは悉く。
 あらゆるものは、全て我が剣の元にひれ伏せと告げるかのように。
「誰がそんなものに従うとでも?」
 だが、それに真っ向から対峙し、抗うのが終夜という青年。
 蒼い雷を纏いながら、戦意に燃える瞳で真っ向から刃を睨み付ける。
 迫り来る刃の群れを見切り、避けるつもりなのだ。
 そうして示さなければ、カルロスという男の傲慢な心に一撃を、その鼻をへし折る事など出来ないのだから。
「ちっ、流石に僕でも無理か……っ!」
 だが、全てを躱すなど到底不可能。身を旋回させる勢いを乗せ、ライフルスピアでなぎ払って相殺を試みるも、次から次へと続く刃が途切れる事はない。
 ならば残るはその躯を斬り裂くのみ。
 鮮血が溢れ、激痛が身と心を苛む。常人ならばそこで膝を折り、地を転がるような有り様でも、なお迫る刃を迎撃し続けるのは終夜の精神力が成せる技。
「正面から凌いだか」
「ええ、逃げも隠れもせずに、カルロスも貴様の刃を恐れることなく」
「面白い。ならば、続けてみせるがいい」
 負傷を抱えながら、なお衰える事のない終夜の眼光に薄く笑うカルロス。
 その笑みを掻き消すべく、瞬時に地形を見渡す終夜の瞳。
 ただ敵がいて、それを討ち倒すだけが戦いではないのだ。
 この戦場となった島全体を利用する事も戦術の一つ。
「そこです!」
 故にと放たれる銃撃の乱れ撃ち。
 端から見れば命中精度より手数を重視したかのような乱射だ。
 事実、カルロスはそう見ていたし、僅かに横手へと跳躍して回避してみせる。
 だが、本命はそれより先――五月雨のような銃撃を浴びた巨大な樹木がカルロス目掛けて倒れ込む。
 しかもそれは鉱石で覆われているのだ。
 ただの樹木というには余り在る頑丈さ。当たればただではすまない威力と重さ。
 思わずカルロスが後方へと跳び退いた瞬間、発動させるは《蠱毒》の顕現。
 終夜の生命力を代償に、蠱毒の具現体たるレムレスが現れ、カルロスの後方へと回り込む。
「さあ、こっちだ。来い!」
 一方の終夜は銃撃を繰り出しながら前へと躍り出る。
 無論、誘われればそちらへと出向くがカルロス。傲慢にして強欲、故に、敵手との遊びもまた全力で。
 疾走と共に長剣を構え、再び紅月の紋章を輝かせようとした瞬間、後方より飛来するのは強烈な砲撃だ。
 轟音と爆炎が渦巻き、戦場を赤く、赤く、火の色に染め上げる。
 直撃したカルロスが健在なのは頑丈に過ぎるといえるが、流石に膝をついて態勢を崩している。
 その瞬間へと、蒼い光を伴って流星の如く迫る終夜の姿。
『数撃てば当たると思った?』
 刃も、技も、強さも。
 ただ戦術の欠片もなく、振るうだけでは終夜を仕留める事など出来はしない。
 むしろこの通り。膝をついたカルロスの胸部へと、銃口を押しつける。
「あの程度の刃たちで止まると、見くびらないで欲しいものだな」
 止め処なく流れ落ちる鮮血は、終夜のもので。
 身に受けた負傷は軽いものとは言えないけれど。
 その心を斬るには決して至らないのだと、カルロスの胸を穿つ銃声が告げるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
現在と未来を塗り潰して未知の美しい物を全て滅ぼそうとしているオブリビオンには言われたくないですね。

それに独占欲の塊みたいな醜い心のお前にはそういうの相応しくないですよ。

アマービレでねこさんをたくさん呼び出し、【多重詠唱】【全力魔法】【呪詛耐性】【浄化】【属性】【オーラ防御】【結界術】を展開。

装備を黒百合に変えているなら多少防御が手薄になっているはず。
相手がユーベルコードを解除しないうちに【果実変性・ウィッシーズガーディアン】を発動し、結界を維持したまま素早く接近。
敵の迎撃準備が整う前に【第六感】と【野生の勘】で敵の行動を【見切り】スタッカートやオラトリオの【早業】で紋章を貫き終わらせましょう。



 さらりと流れる銀の髪と。
 幼き少女の声が、貪欲なるカルロスの言葉を否定する。
 何処か大人びたそれは、感情のいろを滲ませながら。
「現在と過去を塗りつぶして」
 それこそ、今あり、未来にある尊きもの。
 蕾の姿は、明日に花開く色彩なのだから。
「未知の美しい物を全て滅ぼそうとしている、オブリビオンには言われたくないですね」
 人に未だ見ぬ美しく、綺麗で、見果てぬ夢があるのだ。
 それをたかが夢、ありもしないモノだと笑う事など許さないのだと、幼さを残した七那原・望(封印されし果実・f04836)の声がカルロスへと突きつけられる。
「それに、独占欲の塊みたいな、醜い心のお前にはそういうの相応しくないですよ」
「なんともまた、珍しいお嬢さんだ」
 望の両目は目隠しによって覆われ、視覚は閉ざされている。
 だが残る五感の全てをもって感じ取るのだ。
 カルロスという存在、その心は醜悪。
 秘めるなど独占欲の現れで、決して美しいものに相応しくなどありはしない。
「ええ、見えずとも、あなたには愚者の黄金程度が相応しいのは判ります」
「鍍金で十分と」
「それすら過ぎるのでは?」
 果実のような望の声が突きつける、毒舌めいた鋭さ。
 それに笑うカルロスは、果たして何を思うのか。いいや、それを察せようとしているのだろうと思うから。
「敵対の言葉として、十分です」
 瞬間、カルロスの手にする剣が無数の黒百合の花びらと化す。
 舞い散る黒き色は、魂さえも浸食する呪詛。
 見えずとも肌で感じ取れる程のその気配に、望は鈴の付いた白いタクト、アマービレを振るう。
 呼び出されるのは沢山の魔法猫。
 友達のいる場所こそ、例え、戦場だとしても私のいるせかいなのだと、望に信じさせてくれるから。
「全力で凌ぎますよ」
 魔法猫という友達たちの助けを借り、全力で浄化をもたらす多重結界を構築する。
 真白に輝くは、月のように清らかに。
 けれど、黒百合に触れられた場所から黒ずみ、侵され、呪われていく。
 呪詛耐性と浄化という二つを軸にしている以上、呪詛の蝕みには特効の筈。だが、ただ鬩ぎ合うだけでは勝利は得られないと、拮抗と鬩ぎ合いが続く中で望は決断する。
 そう、少なくとも――この黒百合が襲い続ける限り、カルロスは武器を持っていないのだから。
 その守りは薄く、望の祈りにて切り裂ける筈だと。
『わたしは望む……ウィッシーズガーディアン!』
 変性するは高速戦闘を可能にする姿。
携えるは対を成す黒き妖刀と、白き聖剣。新たなるせかいの夜明けを切り拓くべく、その刃へと紅き雷光を纏う。
 そして、黒百合と真白の結界が鬩ぎ合う状態を維持したまま、一気に接近。
 無理な動きに望の結界が崩れるが、もはやカルロスの姿は目前。
 迎撃の準備よりも早くと飛翔し、敵の動きを勘で見切るや否や、双剣たるスタッカートを迅く振るう。
 その姿、まさしく稲妻のように。
 狙った紋章へと届いて貫く、白と黒の切っ先。
 だが、砕ける手応えはない。刀身に纏わせる紅き雷光を弾けさせ、感電による更なるダメージを与えつつ、後方へと跳ぶ望。
 その首元を紙一重で撫でるは、カルロスの長剣。
「私が醜いとしよう。鍍金で十分としよう。だが――私の本体にさえ届かないのであれば、全ては戯れ言」
「この状態で、まだ痴れ言を言いますか!」
 紋章の破壊はならずとも、雷光を纏う双剣は確かにカルロスの身を貫き、灼いたのだ。
 ならばいうまでもなく、負傷は甚大。今に至るまでの戦闘の蓄積があるにも関わらず。
「さて、まだ生きている身。ならば、幾らでも囀り、海の過去で溺れさせるとしましょう」
 その身が果てるまで、カルロスはこの島を、海を、世界の何一つをも渡さない。
 望が指摘した通り、独占欲の塊であるのだから。
 或いは、この戦いさえ楽しんでいるのかもしれないから。
「必ずや、討ちます」
 望の宣言は、双剣が纏う紅き稲妻の瞬きと共にカルロスへと放たれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイグレー・ブルー
アドリブ歓迎

わたくし自身を見失ってしまいそうな美しく黒い島。
迷いなき杓の一振りをこの透き通った槍で貫き払う事はできるでしょうか……否、貫いてみせます…!
彼の方にはとても申し訳はないですが、わたくしは皆様のこれからを護る為に戦うであります……!た

敵の先制攻撃はこの身体を盾とし、受け切る【盾受け】でありますっ
次なる手の時、紋章をわたくしたちの前に見せる時がきっと来ます。一瞬の隙を槍で突き、怯ませてみせます…!

そして星で包み込むように【使用UC】で動きを止めるでありますっ



 黒き色彩の裡に、星のような煌めきが訪れる。
 ふわりと降り立つはは柔らかな漆黒の姿。
 流れる髪もまた夜闇のようで、その奥にある瞳のみが翡翠の色を宿す。「そうですね、とても勿体ないのでしょう」
 周囲を見渡し、声を震わせるはアイグレー・ブルー(星の煌めきを身に宿す・f20814)。
 黒き水晶に包まれたこの島の景色に思いを馳せて。
 確かにこの秘境を暴かれ、人の手に委ねるは悲しい事かもしれない。
 黙すればこそ、輝くのは星のように。
「わたしく自身を、見失ってしいそうな美しく黒い島」
 それを抱く、この黒々と燦めく島ならば。
「けれど、だからと誰の瞳に映らないのは、なんとも悲しく、虚しい事ではありませんか?」
 長剣を構えるカルロスへと言葉を紡ぎながら、アイグレーが構えるは透き通る一振りの槍。
 蛍袋が宿るカルサイトの穂先は『宝石花』。
 護る意思を貫く故に重く、けれど輝きを携えるその刃を翳して。
 強欲なるままに振るわれる故に迷いなき王笏の一振り、打ち払いて、貫いてみるのだと心に誓う。
「どちらが悲しく、虚しいか。美しく、または無惨かは主観の問題でしかあるまい」
 応えるカルロス。アイグレーの問いかけに揺れる事なく、瞬時に長剣を黒百合の花びらへと変じさせる。
 舞い散る更なる黒の色彩。
 風にざわめく音を伴い、アイグレーの身体ーと殺到する。
「だからこそ、退けないのではないでしょうか?」
 だが、それに怯む事なく前進するアイグレー。
 我が身こそが盾であると黒き流体の身体で、花びらが孕む呪詛を受け止める。
 触れたあらゆるものを浸食する呪詛。
 それは血の通わぬ身も、生命も、そしてアイグレーの心と魂をも抉っていく。
「……っ」
 我が身を盾とするなど、この呪いの花びらを前にしては無謀に過ぎた。
 数瞬で身体に宿る力が枯れ果て、視界が霞む。それでも前へ、前へと進むアイグレー。
 元より、この身は護る為に。
 ひとつの宇宙船から、この世界へと飛び立てど、その意思は変わらない。
「ええ、臆しません。立ち止まりません。どんな痛みがあろうとも」
 待つのは黒百合の紋章を見せる瞬間。
 一瞬でいい。それを見せる時が来ればと、透明な穂先を向けて。
 終わりのない黒百合の舞踏。
 その中を踏み越え、アイグレーが駆け抜ける。
「今です……!」
 カルロスが携える長剣は黒百合の花びらと化して、何も無い。
 あるのは、不吉な輝きを見せる黒百合の紋章だけだから。
 ただ渾身の力をもって、その紋章へと刺突を放つ。
 透き通る刃は、それこそ周囲の黒き景色に溶け込みながら、するりと百合の紋章へと突き刺さる。
 何事も貫けぬものはなし。
 想いを宿した、この『宝石花』たる槍には。
「だから、必ず……!」
 流石に力の源でもある紋章を貫かれたカルロスが怯んだ瞬間、周囲へと飛び交うのは星のような飛礫たち。
 ひとつひとつは小さな欠片でも、数えきれない程の輝きとなればカルロスとて瞠目する。
 幾何学模様を描く軌跡は、それこそ、巡り往く星の道筋めいて。
「さあ、その動きを止めるでありますっ」
 花びらへと化した長剣を元に戻し、防御しようとしてももう遅い。
 カルロス目掛けて降り注ぐ星屑たちが、黒く美しい島にて、無尽の流星の如く、強欲なる男の身を貫いて斬り裂き、射止めてみせる。
 見事、とカルロスの唇から零れる言葉と血潮。
 だが、互いにそこで力を使い果たしたように、距離を取る両者。
 ざわめく島と、黒い光。
 どれだけ美しくとも、誰もみた事がない故に。
 その輝きを知られぬ島で、静かに戦いの決着が付こうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
全く傲岸であることよ
暴かねばならん真実を秘して、得られるものは自己満足のみ
これでも目利きに自信はあるんだ
貴様より余程、貴石の価値を分かっていると思うがな

致命のみを見切る
蛇竜の黒槍で受け流し、氷の盾を生み出すことで弾き
後は敢えてこの身で受けよう
蝕む呪詛も私にとってはただの糧、致命に至らねば全て無視してくれる
そのいけ好かない面を張り倒してやろう

――起動術式、【暗渠の荒野】
この身の負傷も貴様の呪詛も、全て乗せて叩き付ける全力の重量攻撃だ
少しばかりの傷くらいはつけられようさ
さァ、その傲慢に任せたツケを払うが良い

分からんものを愛するのは結構だが
奇跡など偶然の言い換えだ
物事は、理由があるからこそ美しいのさ



 黒き色彩を、灰燼色に塗り替えるように。
 身に纏う呪詛を揺らめかせ、黄金の瞳を冷たく燃やす男の姿。
 死者の怨嗟、生者の情念。それら悉くの全て、我が呪焔の糧であると。
「全く傲岸であることよ」
 口にして告げるはニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)。
 いいや、傲岸にして貪欲なるはどちらかなのか。
 ただ、両者は互いに引かず、そして他者に有無を言わせぬ威厳がある。
「暴かねばならん真実を秘して、得られるものは自己満足のみ」
 それこそ、死者の怨嗟の声を聞くものとして。
 墓所の底からでも、真実は引き摺り出すべきなのだ。
 例えそれで傷つくものがいても、それで自らが呪われたとしても。
 今に在りしものを、無視する事など許されない。
「だが、暴いたが最後、秘密という輝きは失われる」
 が、引かぬがカルロス。
 長剣を無数の黒百合の花びらへと変えて自らの周囲を漂わせる。
 この両者に共通する点は、その威厳のみではなく、もうひとつ。
 相手に全ての思いを言わせた上で、それらを踏み潰すという尊大なる傲岸さにあるのだから。
「これでも目利きに自信はあるんだ」
 冷たく笑い、蛇竜の黒槍を変えるニルズヘッグ。
 手の内を隠すは三流とばかりに、呪詛から編み出した氷盾を周囲に張り巡らせながら。
「貴様より余程、貴石の価値を分かっていると思うがな」
「なら、この場に最後に立っているものが、貴石の価値と輝きを決めるとしようか」
 そして殺到する、呪詛の花びら。
 だが、それらが氷盾の壁に弾かれ、旋回される黒槍に撃ち払われ、その殆どがニルズヘッグの身へと届かない。
 呪詛を操ることこそニルズヘッグの本領。その鬩ぎ合いで負ける道理はありはしないと、無尽の自負をもって黄金の瞳を燃えるように揺らめかせる。
 身に触れた呪詛など、ただの糧。
 確かに肌と肉が裂かれて血を流し、生命力と、精神魂を蝕まれたが、それは所詮は多少。鳥に啄まれた程度ならば、意に介する必要などありはしない。
 致命に至らないのならば、そも、呪いの意味などありはしないと教えて、蹂躙すべく。
「そのいけ好かない面を張り倒しておろう」
 起動する術式は、ニルズヘッグから流れる血を燃やして現れるしろがねの呪詛焔。
 よくも傷付けてくれたなと、怨嗟のざわめきが周囲に満ちる。
 ならば返礼をしなければならない。
 これこそが呪詛なのだと、知らしめ、踏み躙らねばならない。
「呪詛で殺せるものなら、殺してみせろ」
 灰燼の忌み子に声に従うように、黒百合の花びらがしろがねの呪詛焔と共に舞い踊る。
「この身の負傷も貴様の呪詛も、全てはただの糧だ」
 全てはニルズヘッグが紡ぐ術式が為にあるのだと。
 自らの呪詛の花びらを奪われた事に驚愕するカルロスだが、呪詛という一点での鬩ぎ合いでニルズヘッグを凌駕する事など出来る筈がない。
 ただそれだけに研ぎ澄まされた存在なのだから。
「ああ、いいぞ。やっと私好みの、殴りつけたくなる顔になったな?」
 しろがねの焔を、黒百合の花びらを蛇竜の槍へと纏わせて。
「どうした? 黙し、秘めて、自らの言葉が美しいと讃えるか? ただの沈黙を美しいなどと囀りはするまいよな?」
 だから、さあ。さあ。
「さァ、その傲慢に任せたツケを払うがいい」
 強欲にして傲慢だというのなら。
 この呪詛をも受けきって、嗤ってみせろとニルズヘッグの呪詛の槍が叩き込まれる。
 もはや超重の質量を纏うような槍撃は、隻眼の戦争と死を司る神の放つ死滅の一閃の如く。
 全ては死に逝くものだと、怨嗟の唸りを上げてカルロスの身へと突き刺さる。内部より弾けるは、しろがねと黒の呪詛。
 血に濡れた花びらが肉と共に弾けて、その骨を焔が灼いていく。
 それこそ、カルロスという存在を憎み、呪う魂が集ったかのように。
「どうした、笑えよ。美しいだろう。誰も見た事がない、知る事のない、未知の貴様の死に様だ。……ああ、いや、その価値と美しさを決めるのは私か」
 呪詛の焔に灼かれて声など出る筈がないカルロスの変わり、傲岸に笑うはニルズヘッグ。
 灰燼色の髪をさらりと揺らして。
 勝者として敗者への祈り(ノロイ)を授ける。
「ならば、なんと無様で醜い。忘れんよ、忘れられんよ、私に呪詛で挑んだ愚か者として、決して、なァ」
 例え骸の海に還ったとしても、この呪詛焔、このニルズヘッグの姿、忘れさせないとするのはまるで悪魔のようで。
「そうだ。分からんだろう、貴様に私は」
 故に、愛せるか。否だろう。
「分からんものを愛するのは結構だが、貴石だと偶然の言い換えだ」
 だからと、カルロスの尊んだ黒き水晶を踏み砕いて、燃えるその身体へと飛礫として投げつける。
「物事は、理由があるから美しいのさ」
 それはまるでひとの想いのように。
 或いは、そこから産まれる呪いのように、祈りのように。
 尊ばれる美しさとは、生まれる理由と経緯があってこそなのだと。
「覚えておくがいい。決して、決して忘れるな。その呪詛を、お前の魂に灼き刻んでやる」
 再び振り翳される、竜の黒槍。
 逃げるカルロスの瞳には、それこそ呪い殺さんばかりのニルズヘッグへの憎悪が滾っていて。
「最初からそんな顔をしていればいいのに、なァ?」
 呪いの焔と花びらが、黒き水晶を撃ち壊して焼き払い、カルロスという存在を追い詰める。
 一度、呪われた者は逃れる事など出来はしない。
 理由と因縁ありし想いから産まれたものこそ、美しいのだと唇が軽やかに零して。
 真の貴石たりえる想いの価値を教えてやると、ニルズヘッグの穂先が唸りを上げた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
【聖影】WIZ
ここにもまた、かの紋章を持つ者が出るのですね。
…それ以前に、哀れな魂であることに変わりはないようですが。
でしたら、使徒としてやるべきことは何も変わりません。

紋章持ち、しかも先手を取るのですか。
【オーラ防御】で初撃を耐え、機を伺いましょう。
ティノさんが眷属を呼び、私の傷がかなり重なったときが導きの時でしょう。
それまでの傷をすべて癒し、光を以て彼の者の闇を祓いましょう。
紋章の力を封じ、天使達を呼び速攻をかけます。
天使の数は味方の数に依存しますから、眷属を多く呼んだこの状況では天使もまた数多く現れるでしょう。
90秒程度しか封印の効果は持ちませんから、それまでに一気に攻勢をかけましょう。


ティノ・ミラーリア
【聖影】
あの世界にあった紋章と同じもの、どうして持っているのかな?
とは言え…ここで情報を手に入れるのは難しそうか……

先制攻撃を「纏影」の【拠点防御】と【呪詛耐性】で耐えながら、
適宜「眷属」と「影狼」で【かばう】ようにして凌ごう。
初撃を凌いだら≪夜魔の宴≫で防御強化。夥しい眷属の群れで攻撃に回る準備は完了。
ナターシャのUCで敵の力を削いだら「影槍」で【串刺し】に拘束し群れと共に襲い掛かり、
【捕食、吸血】した血を基に【生命力吸収】で傷を癒しながら戦力増強。
後は召喚された天使と合わせて短期決戦に、【蹂躙】するように畳みかける。

本拠地までで何か見つかるかもしれないし…今はただ討ちはらっていこう。



 
 銀の色彩を纏う影がふたつ。
 夜のように黒い水晶に覆われた場に、軽やかに立つ。
 それこそふたりのよく知るダークセイヴァーの世界の、常なる夜のような色を漂わせる場で。
 いいや、それだけではない。 
「あの世界にあった紋章と同じもの、どうして持っているのかな?」
 冷ややかな表情を変えることなく、口にするのはティノ・ミラーリア(夜闇を伴い・f01828)だ。
 常闇にして吸血鬼の支配する、あの世界。
 そこで凶災を放つ、吸血鬼たちの紋章。
 ええと、隣で頷くナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)はその脅威を同じく、よく知るからこそ。
「ここにもまた、かの紋章を持つ者が出るのですね」
 看過など出ないと藍色の瞳を、傲然と立つカルロスへと向けるのだ。
 負傷は激しく、けれど、その顔に浮かべるものは変わらない。
 貪欲にして強欲。傲慢なる吸血鬼の如く。
「……それ以前に、哀れな魂であることに変わりはないようですが」
果てなき、満たされる事なき魂の渇きを感じて、ナターシャは憐れなるる魂を楽園へと導く光を湛える聖祓杖「アルカディア」を握りなおす。
 それこそこの海の世界を全ても満たされ、救われる事はないのだ。
 世界のひとつを破滅に導いても、なお、カルロスという存在に救済などありはしないから。
「でしたら、使徒としてやるべきことは何も変わりません」
「とは言え……ここで情報を手に入れるのは難しそうか……」
 狂信の熱を滲ませるナターシャの声と、淡々と冷たく続くティノの声色。
 何処か噛み合わないのは、ティノの金銀妖瞳たる双眸と同じく。二つのいろと想いを乗せ、戦場が今また巡りて回る。
 決して相容れないから、戦うのだと。
 目の前のカルロスが、全ての戦意を受け止め、同量の敵意を跳ね返す。
「知りたければ、そう。海を越えてみせるがいい。此処ではない何処か、未知を暴き、斬り裂き、既知で穢して。無論、それを認めも許しもしないがね」
 故にと放たれるは長剣の一振り。
 緩やかな仕草ながら、紋章の煌めきと共に無数の黒百合の花びらと化したそれは、触れたものを浸食する呪詛の塊だ。
 紋章持ち、それも条理を覆すかの如く先手を取るのかとナターシャが身構え、オーラ防御を張り巡らせる。同様、傍らのティノも無尽蔵に湧き出して形を変える影、【纏影】へと呪詛への耐性乗せ、幾重もの障壁へとして張り巡らせる。
 同じく影から生成した狼と蝙蝠も出現させて庇わせるが、触れたものを悉く蝕む
がこの呪詛の花びら。
 影が腐るように朽ち果て、ナターシャのオーラも濁りて消えていく。
 だが、初撃の一瞬は無傷で凌げたと、反撃へと移るティノとナターシャ。
 まずは一撃、楔をこの場に撃ち込むべく紡がれるティノの術式。
『宴を始めよう』
 ティノの全身を覆う纏影。
 そして戦場全体を夥しい数の眷属で覆い尽くせば、もうここはティノが為の夜の領域。
 無数の眷属がひしめき、揺れ、主の命を待ちながら牙を向ける。
 これこそ夜魔の宴。己ではなく、支配した闇夜の存在で戦況を支配し、敵を蹂躙することこそ半魔半人の業。
「さあ、貪る血はあそこだよ。貪欲だというのなら、こちらも何処までもその血を吸わせて貰おう」
 命令に従い、飛び立つは眷属の群れ。
「ほう、吸血鬼――いや、ダンピールか」
 四方を囲まれ、けれど僅かに臆す事もないカルロス。
 剣士としての腕がどれ程なのか分からないが、僅かな隙も見せないのは流石と言えるだろう。が、カルロス自らが攻める程の余裕はない。
 少なくとも、黒百合の紋章が再び輝かない限りはと。
「「流石はティノさん。なら、私も続きましょう」
 蝕む呪詛に疲弊しながらも、続いたのはナターシャだ。
 歌うような声で紡ぐのは祈りの聖歌。
 少なくとも狂信をもって編み出される奇跡の一端は、例えカルロスの呪詛の前でも衰える事はない。
 いいや、例え本物の神を前にしても、信じる楽園が全てだと微笑むのがナターシャなのだから。
『仇成すものへ、その罪を祓う光を。同胞を導く前に、まずは祓い清めましょう』
 受けた攻撃を全て回復し、かつその倍の威を乗せて返すはまるで不可侵の楽園の権能。赦されざる者の足を決して踏み入れさせる事などないのだと。
 続く聖なる光は天使を呼び込み、カルロスの能力を掻き消す――に見えたが。
「笑えないな、その手のものは」
 何故かその無力化が届かない。そも、紋章とは、格上の存在とは、掴みて封じる事の出来ないものだのだから。
 言ってしまえば霊格そのものの差。高望みをした翼は、不発の代償して膝をつく。
「いや、十分だよ。ナターシャ」
 では効果が一切ないかといえばそうではない。
 現に、輝きを放とうとした黒百合の紋章が止まっている。
 故にティノは労いの言葉を残し、眷属と共に影槍を携えてカルロスへと疾走する。 
 ティノの赤と青、左右で異なる瞳を睨みつけながら、長剣を振るうカルロス。閃く切っ先が、カルロスを覆い尽くそうとする眷属たちを斬り払う。
 だが、無尽とも言える数の全てを斬れる訳がない。
 幾つかの牙が突き立てば血を啜り、痛みで切っ先が鈍れば更に殺到する影の眷属たち。
 その吸血をもって呪詛のもたらした負傷を癒やすティノ。攻防一体、略奪の性質こそティノの身体を巡る血が宿す宿業にして力なのだから。
 そして――一度、膝を折った程度で、狂信者が止まる筈はないのだから。

 聖なる灯火を称えた杖が、疾走の勢いを乗せてカルロスを撃ち据える。 

「完全にとはいかずとも、黒百合の呪詛がないのならば」
 返される刃はナターシャの身体を刻むが、浮かべる微笑みさえ揺るがない。
「後は一気呵成と攻勢を仕掛けましょう」 
「ああ、勿論……狙うは短期決戦」
 召喚された天使がナターシャへの追撃を庇い、消滅するのを見て応じるティノ。少なくとも、長期戦となれば、再びあの蝕みの黒百合が咲き誇るのだから。
 空を滑る影の刺突は、静かなる侭にカルロスの胸を穿ち。
 灯火を光刃と変えたナターシャが、続いてその腹部を斬り裂く。
 続く天使と眷属の波状攻撃は二人の隙を埋め、カルロスの反撃を抑えていく。
 それこそ蹂躙するかのような絶える事のない連続攻撃。
 影と光が踊り、『一の王笏』たる者を追い詰め、その剣を鈍らせていく。
 だが、瞬間。
「貪欲なるは、お互い様だな」
 再び巻き起こるは黒百合の花びら。
 接近しきっていたティノとナターシャは防御もも叶わず直撃し、その呪詛を全身に浴びる。
 これは呪い。怪我ではないのだ。
 血や肉を裂かれた分はどうとでもなる。だが、精神を、生命を、魔力と魂そのものを侵すものは吸血でも聖なる光でも対処出来ない。
「何故なら、こうも傷を負っても、互いに勝利を譲らない」
 だが、それを言うならば全身に傷を負うカルロスのほうが負傷は甚大。短期決戦と畳み掛けた攻勢は、確実にその存在自体を削っている。
「まだ本拠地、本戦までは遠い」
 だからこそここで退く訳にも、怯む訳にもいかないと、影を武具として操るティノは立つ。
「……今はただ、討ちはらっていこう」
 ティノが見つめるのは、この勝利の先。
 海の果てにある、カルロスの本体の座す島なれば。
 ここで負ける筈がないと、穏やかなままに強烈な自負をもって、異なる色彩の瞳がカルロスを見据える。
「ええ、お互い様なのは――あと一息という事ですから」
 故にと武器を構え直し、周囲を飛び交う眷属と、残った数少ない天使たちを見つめる。
「この海と世界の先を得るのはどちらか。暴かれる秘密は何か」
 さあ、教えて頂きましょう。
 そして、導いてさしあげましょうと。
「――全ては、楽園へと至るが為に」
 その祈りは、黒き結晶が放つ光の中で、なお白く、過ぎた純白をもって流れる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

空桐・清導
アンタの言いてえことは分かるよ
けど、それは世界を侵略する理由にも、
ましてやお前が独占する理由にもなりはしねえ!
拳を握り締め、迫りくるカルロスと向き合う

爆発的な戦闘能力の向上と
触れた相手の生命力を奪う黒い霧
オレには最悪な組み合わせと言えるだろうな
だが、それは引き下がる理由にはならねえ!
[勇気]と[覚悟]、[気合い]を同じく爆発させ、
光焔をより熱く纏って正面から迎撃
吸われるよりも多く溢れる生命力と意思でもって
黒霧を相殺して殴り飛ばす

UCを発動して光焔と生成した炎を収束
金色の剣を創造
相手の戦闘能力が増大しているならば、[限界突破]する
これからもオレ達は未知なる明日を歩み続けていく!
全力の一閃を放つ!



 黒の色彩を斬り裂いて現れるは、深紅の輝き。
 纏う機械鎧は斜陽よりなお鮮烈に。
 宿す想いと勇気、覚悟と共に光を放って、空桐・清導(ブレイザイン・f28542)はこの戦場に立つ。
 そして、誰かの為に戦うからこそ。
 空桐の口にする言葉は、決して全てを否定するものではないのだ。
「アンタの言いてえことは分かるよ」
 秘密にしておきたい、大切な思い出。
 それこそ大事だから、もっとも大切なひととだけ語らいたい記憶のひとかけら。
 暴かれるなんて嫌だ。
 白日の元に照らされ、それが尊きいろを失うなんて悲しすぎる。
 想いに例えればこういうもの。恋人や恩師との大切にひとときを、誰もが知れる記録になどしたくないと。
「けど、それは世界を侵略する理由にも、ましてやお前が占領する理由にもなりはしねえ!」
 カルロスの言葉を受け、けれど、真っ正面から応じる空桐。
 ただ否定するのではなく、抱く熱い思いをぶつけて。
 握り絞める拳の硬さは、それこそ胸に宿した覚悟のように。
「だが、他の者が支配するよりは多少はマシだろう。少なくとも、譲る木は更々にない」
「だから、さあ!」
 なんで分からない。判ってくれない。
 こんなに綺麗な島があるなら、共に、美しいと喜びを共にする事だって出来るだろう。
 どうして出来ない、他人を思いやる気持ちを持つ事が。
 こんなに簡単な事なのに。ただ、その心へと手を差し伸べるというだけなのに。
 迫り来るカルロスから滾る戦意。
 けれど、鬼気のように恐れるものは一切ないからこそ。
 せめて届けと、握った拳を構える空桐。
 だが、それを嘲笑うかのように黒い霧へ変じるカルロス。
 実体なく、けれど触れた者の生命力を奪う黒霧の体。まともな物理攻撃など通じないそれは、まさに空桐への天敵そのものだ。
「オレには最悪な組み合わせと言えるだろうな」
 それでもと深紅の機械鎧から滾らせるのは勇気と覚悟。
 まるで空気が熱を帯びたように揺らぐは、蜃気楼めいて。
「だが、それは引き下がる理由にはならねえ!」
 気合いをもって爆発させ、虚空に生み出すのは光焔だ。
 より熱く、より激しくと身に纏って正面から迎え撃つ空桐。
 それが闇のように黒霧というのならば、太陽のような輝きをもって討ち払うのみだと。
 それを蛮勇だと笑ったりなどできはしない。
 真に覚悟を定めた者の決意は、決して衰えることのない烈火なのだから。
「判らなねえ奴に、はい、そうですかと引き下がれるかよ!」
 決意の重さと熱さならば決して負けないと吼える空桐。
 生命力は奪われ、気力ごと尽きるような脱力感。
 呼吸さえ苦しく重くなれど、踏みしめた足へと力を込める。
「ああ、頑固さなら、道を譲らない気持ちなら負けはしねえよ!」
 纏う光焔を腕へと集めて、自らに纏わり付く黒霧へと真っ向から殴りかかる。
 相殺される生命と吸収。
 過剰に生命力と光焔を吸い込んだ黒霧は、文字通り殴り飛ばされて、カルロスをただの肉体の体へと引き戻す。
 無論、言うまでもなく空桐の疲労も著しい。
 視界が霞み、呼吸は荒く、握り絞めている筈の指の感覚も怪しくて。
「けど、けどな!」
 腕部に集束させた光焔が流れ、その手に黄金の剣を形作る。
「オレは"ブレイザイン"、正義の味方で、決して独りじゃねえんだよ!」
 だから負けられない。
 たったひとり、強欲の座に座る王になど。
 例え自らの生命力を奪われ、強化されていたとしても。
 それならば空桐自身も限界を突破し、更なる光焔を燃やすだけだ。
 後に続く攻撃と防御など考えない。
 いいや、考える必要などありはしないのだと、光焔にて煌めく黄金の剣が告げている。
「これからもオレ達は未知なる明日を歩み続けていく!」
 故にと全身全霊を燃やして放たれる、劫火の如き一閃。
 煌めく光は、刹那、黒き水晶の色をも赤く染め抜いて。
カルロスの身体を深く、何処までも強烈に斬り裂いて、灼き払うのだ。
 燃え盛る炎は、空桐の心の熱さに応じて。
 だからこそ、その火炎が尽きる事はなく、カルロスという貪欲なる存在を焼き尽くしていく。
 これを羅針戦争の標、海を渡る灯台の篝火とすべく。
 空桐の燃える想いは潰える事などありはしないのだと、その焔は激しく揺らめき続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
知らない方が幸せな事もあるけれど
一歩踏み込まないとそこが地雷か判らないでしょう
僕は鵜飼章…絵本作家であり冒険家なんだ
怖がりのきみとは相容れないらしい

【言いくるめ/恐怖を与える/催眠術】
【早業】の【逃げ足】で無差別攻撃を避けながら
敵に僕へ対する恐怖を植えつけていく
被弾しても【激痛耐性】と【落ち着き】で感情を見せず
恐怖で攻撃が乱雑になるよう誘導するね
【読心術】で軽くかわせる位になれば上々

そうだね
理屈は理不尽な位が丁度いい
きみはきみ自身の美学に殺されるのだから
UC【ヘンペルのカラス】

『その石は何?』
訊くのはそれだけで充分
判らないのは残念だけれど

秘めるが花
真実など応えない
どんなに痛くても約束は守ってね



 近寄る、その一歩を躊躇うのがひとの心。
 触れていいのか。届けていいのか。
 相手を想うが故に戸惑い、揺れて、そこへと至る事を躊躇わせる。
 或いは、そう。
 目の前の相手の心の裡が、どうなのか。
 判らないままのほうが、きっと。
「知らない方が幸せな事もあけれど」
 穏やかに口にするは鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)。
 繊細なる様相に、浮世離れした軽やかな雰囲気。
 決して戦いに似合うような姿ではない彼が、困ったように肩を竦めて、長剣を構えるカルロスへと微笑みかける。
「一歩踏み込まないとそこが地雷か判らないでしょう」
 あくまで優しげ。
 何処までも和やか。
 だからこそ、激戦繰り広げれ続ける戦場に、この鵜飼の貌と表情、そして声は似合わない。
 いいや、合わせる気など更々無いのか。
 人らしくありたいと願いながら、では、人とは何かと、鵜飼は答えを持っているのか。
 きっと悩んだ事もないだろう。
 紫の眸が纏うミステリアスさは、今の自分への絶対の信頼があってこそ。
「僕は鵜飼章……絵本作家であり冒険家なんだ」
 揺るがぬその声色と、姿をそのままに。
 眉を潜めるカルロスへと、鵜飼は自己紹介を述べていく。
「怖がりきみとは相容れないらしい」
 まるでこれから戦う相手にするようなものではない、その仕草に。
「相容れない――それは、鵜飼とやら。お前と人と、世界ではないのか?」
 カルロスより切っ先のように鋭い言葉が向けられても、なお微笑む鵜飼。
 それこそ情動というものが真っ当に機能しているのか怪しく、温もりと冷たさが、優しさと冷酷さが同居しているような。
 表と裏がねじ曲がってひとつになった、トランプのように。
「いや、いい。お前のような者と論ずれば――狂気の海に囚われる」
 故にと紅月の紋章を瞬かせ、縦横無尽に三日月の刃を走らせるカルロス。
 だが、先ほどまでの親しさを滲ませる程の仕草と打って変わって、見るも素早き逃げ足で刃の届く間合いから離脱する鵜飼。
 真っ向から声をかけ。
 それでいて、真っ正面から向き合うつもりがないように。
「痛いなぁ」
 腹部や肩を掠めた刃が傷口を作り、ぽたりぽたりと赤い滴を零し続ける。
 だが、その表情は何だ。
 まるで感情の見えない、穏やかなる貌はと。
 カルロスが問いかけようとして、堪える。決して、これと関わってはいけない。
 一種の不思議の国へ誘い込むウサギなのだ。
 その穴へと落ちれば、二度と戻ってくる事など出来ないだろうから。
「ねぇ、その刃は何処まで届くの? 三日月だけで、他の月の形は描けないなら、不自由だね」
「……お前は、何だ?」
ひととは思えぬ、その精神、その心、その声。
 続く鵜飼の問いかけに背筋が震えど、再び前へと踏み込みながら無数の三日月の刃を繰り出すカルロス。
 元より激戦を経て負傷は著しく、カルロスの体力と気力も尽きかけている。
 だというのに、その語る舌を切り取らねばならないと、半ば脅迫概念に襲われる程、鵜飼へと注がれた意識。
 連発される三日月の刃がその証拠。
「ね、怖いでしょう。怖いと認めるのが、もっと怖いでしょう?」
 鵜飼とて次第に傷を増やしていくが、どんどん早く、連続して、変わりに乱雑になっていく三日月の刃の動きを読んでいく。
 もはや、何時、どのタイミングでカルロスが放つかその心が読める程に。
 鵜飼の言葉を止めるべく放つ斬撃。ならば逆に、鵜飼が喋った時に来る、それ以外は溜めと心を冷静にさせる時間に使っているのだと。
「そうなるぐらいに、怖いんだね」
 ついにひらりと三日月の刃を避ける鵜飼。
 疾走する速度、身体能力ではない、相手の心を読んで、先んじて動いているから。
 そうなればもう大丈夫。
 何も心配なく、恐れる事などないと、柔らかな声を零すのだ。
「そうだね、理屈は理不尽な程が丁度いい」
 だってと、迫る刃を避けながら、鵜飼は呪いの如く、心の底へと蝕む言ノ葉を送り込む。
 だって、彼は童話作家。
 描くのは、夢にして夢の話。
 ならば、忘れられぬ悪夢として鵜飼の手で紡がれるのだから。
「きみはきみ自身の美学に殺されるのだから」
 刃を避けて、肩が触れ合う程の距離。
 互いの吐息を感じながら視線を交差させて、問いかけるは死に至らせる鵜飼の聲。
『その石は何?』
 それはヘンペルのカラスによる質問。
 放たれた白い鴉がカルロスの肩へと止まり、真実の解答を求めて、その瞳を覗き込む。
 訊くのはただそれだけで十分。白黒をつける為の、ただ一言。
 秘するが花、それが己が美学であり、奇跡の為だというのなら。
 カルロスには決して、答えられないこと。
「…………」
 己を否定する事など出来はしないから、簡単に過ぎる事にさえ、カルロス沈黙を保つしか出来なくて。
「秘めるが花、真実など応えない」
 判っているよと囁いて、距離をとって笑う鵜飼。
 真実が判らないのは残念だけれど。
「どんなに痛くても約束は守ってね」
 約束なんて、勝手に結ばれた呪いだというのに。
 訪れる拷問の激痛が、カルロスの魂を絶叫させ震わせる。
 それでも口にせず、応えないのは。
「そう、きみははみの美学に殺されるんだよ」
 重ねて告げる鵜飼の悪夢の童話が、現実へとなる。
 その光景を微笑んで眺める姿は何処までも柔和で、穏やかで、優しいから。
 まるで、自ら綴った物語を反芻し、推敲し、その出来に満足するように。
 けれど、何処か一抹の寂しさを微笑みにそえるのは。
 このカルロスという存在の結末を、鵜飼が自ら描けないから。 
 そう、今はまだ。
 くすりと零れる笑い声は、何処かチシャ猫のように不確かで、頼りなく。
 鵜飼がどこに居るのか、忘れてしまいそうになる。
 
ほら、こんなにも近く、目の前にいるというのに――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
秘した方が幸いで、美しき事象もある…
その点に関しては認めましょう、王よ
人の英知の光と、流血の歴史の結実たるこの身で口にするのは皮肉に過ぎますが

他世界への侵略、騎士として僅かでも阻ませて頂きます

センサーでの●情報収集と瞬間思考力で見切るは霧の体の温度変化による分布図
そこから接近ルートを逆算し脚部スラスターの●推力移動で回避

その力は些か不得手
此方の領域に来て頂きます

霧の身体にUCスナイパー射撃し炸裂
妨害粒子で実体化

(この弾丸も猟兵だからこそ
過去に堕ちた同型機や同胞と私の差異
世界に選ばれてしまった理由は…

造物主殺し?)

…如何な醜き真実でも
この瞬間、騎士として力振るうに躊躇いは無し!

剣戟交わし大盾殴打



 黒き色彩に包まれた王たるカルロスの前と。
 礼節を尽くす騎士のように清く、厳かなる雰囲気を持って、白い姿が歩み出る。
 少なくとも、御伽のような騎士でありたいから。
 例えこれの身が、闘争の権化たる戦機の身であれど。
 理想は胸に。夢は心に。在るかも判らぬ魂を、それでもと信じてトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は進み出る。
「秘した方が幸いで、美しき事象もある……」
 そう、例えば奇跡という麗しき言葉で飾るならば。
 どのような条理を覆す混沌さえ、光に溢れる美しさに包まれよう。
 理由に原因、基因と経緯がそれこそ悪夢に他ならぬものは数多にありすぎる世なればこそ。
「その点に関しては認めましょう、王よ」
「ほう……ただの機械の傀儡、ではないか。その身もまた、至宝かな」
 自らの論、美学と、この海の世界を統べる王である事を認められ。
 満身創痍に近くとも、背筋を正してスルロスはトリテレイアの前に立つ。
 少なくとも王と認めるならば、この騎士たろうとする者の論も聞き置こう。
 そう、だがと続けども。
「人の叡智の光と、流血の歴史の結実たるこの身で口にするには皮肉に過ぎますが……故にこそ思うのです。秘めた侭であれ、暴かれたとて、そこに本当の意義と美しさはないのだと」
 長剣を地面に突き刺し、黙して聞き入るカルロス。
白き装甲に、紫の花の意匠の凝らされたトリテレイアの姿、その裡に抱える思いと懊悩を。
 カルロスは、海の王は全てを貪欲に求めるが故に。
「どのような状態であれど、目指す先にこそ美はあると。未来を求めて、先へと進む光こそ美しいのだと」
 草花の生長であり、生物の変化。
 島と大陸の変動であり、宇宙を星の巡り。
 その全てを、人は心の裡に抱えるからこそ。
「未来へと進むは、人が棲まう世界だからこそ。他世界への侵略、騎士として僅かでも阻ませて頂きます」
「それがお前の騎士の誇りか」
 頷き、肯定の意を込めて儀礼用の長剣を引き抜くトリテレイア。
 盾と共に掲げるは、せめもの王への手向け。
 例え狂王に属すものだとしても、王とは輝かしき王冠を戴くものなればこそ。
「いいえ、王の凶行を止めるのが騎士の務めならば」
 特定の誰かに仕える訳では無いトリテレイア。
 だが、故にこそ世界の全て、無辜たる民へと忠誠を誓うのだ。
 その在り方はカルロスの貪欲さとは程遠い、清廉なるもの。うっすらと笑うのは、その差に思うものがあったから。
 如何に海の底のような尽きせぬ欲望を持てど、献身という祈りは己以外が抱けばよいと思うからこそ。
「面白い」
 その言葉と共に、黒い霧へと変じるカルロスの身体。
 触れたものの生命力を奪う呪いの姿。
 さながら血を求める吸血鬼。
 紋章の力を借りて、揺れ動く霧の力は機械の身だからと避けられるものではない。
「その力の類いは些か不得手」
 剣で斬れず、盾で殴れず、銃火で穿てぬ。
 脚部のスラスターを噴出させ、一気に距離を取ったトリテレイアがセンサーで周囲の温度変化を感知し、周囲に紛れて消えた黒霧を探し出す。
 例え霧であれ、身体は身体。不可能な挙動は出来ないと、変化する温度を捉え、瞬間思考で予測するは霧の分布図と進行ルート。
 見えない程に薄く広がっても、その存在が消えた訳ではないのだと、腕部に格納されていた機銃が黒霧の動きを見切って手甲榴弾弾を撃ち出す。
「無作法かもしれませんが、此方の領域へと来て頂きます」
 霧は裂けず、撃てず、穿てない。
 だがトリテレイアの放ったのは任意で炸裂し、周囲へとその効果を散布するもの。
 一種の電磁ジャミングに似ているが、もっと深いて昏い根幹を持つ何か。それこそ忘れても拭い去れぬ、泥沼の奇跡のような。
 ああ、と思考にノイズが走る。
 
――これはまるで、自分が猟兵として世界の加護を受けたのではなく
 世界の加護を受けて、果たすべく作られたかのような――


 瞬間、高速の惑い。けれど、その僅かな愛でに散布された妨害粒子で黒霧から人間の形へと戻ったカルロスが、すぐ目の前に。
「ほう、まるで私たちを殺す為に作られた武具、いいや、兵器だな」
 振るわれる長剣の一閃。
 鋭く、早くともこのカルロスの技量は一流の剣士の域を出ない。
 あくまで異能に長けた分身体なのだ。ならばとトリテレイアの大盾で迎え撃ち、剣どころかカルロスの身体を弾き飛ばす。
 戦機の怪力は健全。身体に至る所に深手を負うカルロスでは、力勝負をして叶う筈もない。
 だからこそ、後方へと転がり距離を取るカロルスは隙だらけで、戦機としての冷徹な判断を持つトリテレイアが追撃しない理由はない。
 ない、ないのだ。
 だが先のカルロスの言葉がかちりと、嵌めてはいけないピースをトリテレイアの思考に埋め込んでしまう。
(あの弾丸も猟兵だからこそ持つもの……)
 そう、そのような弾丸、機能を用意されていたという事実に、今まで目をそらしてきた。
 過去にオブリビオンと墜ちた同型機や、同胞とトリテレイアの差。
 あくまで機械は機械。同型の型番、構造を持つ機体は、同じようにしかならない鋼鉄と電子演算の論理がある。
 そう、1+1は2で、他へと変わらりはしない。
 変わるという事はつまり、1+1に他の式が混じったということ。
 世界から、猟兵として選ばれた理由。
 今、目の前の海の王を討とうとする、騎士の姿。

――まるで私達を殺す為に作られた武技、いいや、兵器だな。

 トリテレイアという戦機は、それこそオブリビオンを滅ぼす為に作られ、改造されたかのような機体。
 それが示す事実はただひとつ。
「私は――」
 暴かず、秘めるが花の美しさ。
 それを無惨に斬り刻み、取り出した真実は、醜く、余りにも凄惨で目を背けたくなるのだから。
「――創造主殺し?」
 問いかけは、一体誰に向けてなのか。
 認めたくないから、心の裡からその言葉を切り出して、外へと零したのか。
 トリテレイアらしくない、いいや、ある意味でとてもらしい思考の空白。その僅かな隙へとカルロスが長剣を携えて踏み込む。
 振るった刃はトリテレイアの装甲を斬り裂き、その裡にある電子回路を斬り裂く程に深く届いている。
 先の動きの冴えは何処にと、トリテレイアはまさに戸惑うかのような姿を見せて。
「ああ、だとしても」
 けれど、それは一瞬の出来事。
 翻えるカルロスの長剣を、今度は確かにトリテレイアの剛剣が迎え撃つ。
 周囲に響き渡る轟音は、それこそ鋼の絶叫。
 迷うのか。戦の最中で。
 それが目指す騎士の姿だというのか。
 例え毒の杯を呷れど、無辜なる民の為に戦うのが、目指した最初の夢だから。
「……如何な醜き真実でも」
 ぎりりと悲鳴をあげるは剣の柄か、それともトリテレイアの指そのものか。
 迷妄は振り切り、毒となる演算結果と記憶は白熱する思考回路の奥底へ。
 今は握り絞める剣と盾が全て。
目の前に、他なる世界を侵す者がいるというのならば。
「この瞬間、騎士として力振るうに躊躇いは無し!」
 己がオブリビオンという創造主から作られた、創造主殺しだとしても。
 それが何だという。
 それが事実であるか、確かめる方法はまだないのだ。
 ならば迷うより早く剣を振るい、打ち寄せる災禍を盾で討ち払おう。
 振るう腕から火花を散らしながらも白く瞬く剣は、トリテレイアの限界を凌駕して駆動した証。
 殴打と叩き込む大盾は、頑強さだけが取り柄の装甲に罅が刻まれる程。
 振るった剣が樹木を斬り裂き、盾が大槌となって鉱石を粉砕する。
 まさに苦悩を振り切るべく渦巻く鋼の嵐。
 自壊を厭わずに高速で回転するその渦に触れれば、何もかもが打ち砕かれ、斬り砕かれるのみ。
「素晴らしい。確かに、貴様は至宝といえる兵器だ。メガリスをも上回るだろう」
「それがどうしました。私は、私は……ただの御伽の騎士なれば!」
 鮮血を散らし、血を吐き、満身創痍でなお刃を振るうカルロスが戦機の騎士を賞賛する。
 だが、それを受けるトリテレイアは絶叫するような声を震わせ、剣戟へと身を投じる。
 優勢は明らかにトリテレイア。
 カルロスが手にする長剣は罅割れ、もはや次の一撃にさえ耐えられないだろう。
 それでも笑うはカルロス。鬼気迫り、清冽たらんと懸命に、祈るかのように刃を辿るがトリテレイア。
 そりは自らの罪へと、鞭振るう信者に似ていて。
「海の果てで待っているぞ――創造主殺しの至宝よ」
 トリテレイアの大盾の殴打を払った筈の長剣が砕けた瞬間、カルロスが口にする。
 そう、これはあくまで分身体。
 これで勝利などではなく、いまだ羅針盤の示す戦争は続くのだから。
「ええ」
 立ち止まれない。ここで剣を捨て置くなどありえない。
 越えていく。例え、どのように作られたとしても。
 産まれた理由など、意味はなく。
 秘められた真実が凄惨なるものだとしても。
「私は、私の夢と理想を、騎士たらんとするお伽噺をもって」
 この海を越えるのだと、稲妻の如き剛剣がカルロスの首を跳ね飛ばす。
 笑う顔は、それこそ至宝を見つけたと貪欲なる色を乗せるから。
「カルロス、貴方を討ちにいきましょう。真実より貴き、理想の剣を携えて」
 絶命と共に掻き消えるカルロスの身体は、まさに影。
 そのようなものに、胸に抱く想いを揺らされた未熟さに、心と身体を軋ませながら。
「まずはこの島を戴きましょう。ええ……秘した方が幸いなれど、越えるが人の道。災禍たる過去をも越えるが、人の歩みなれば」
 余熱を蒸気として噴出させるトリテレイアの身体。
 その鋼鉄の身体は、けれど、ただ戦い、殺す為にあるのではないと。
 今は信じて、言えるのだ。
「それを助くが、騎士たるものでしょう」
 トリテレイアを信じるものと、今まで歩んできた道程が。
 如何なる過去の闇をねじ伏せる輝きになる筈なのだから。
 打ち砕かれた黒き水晶の粉末が風に乗り。
 きらきらと、まるで黒い星屑の輝きのように周囲に舞う。
 さながら、それは宇宙から眺める星の海のように。
 美しくて、悲しくて、そして何処までも遠い。
 理想と真実の狭間で苦しみながら、世の果てまでを追い求める者の景色だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月03日


挿絵イラスト