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時過ぎた詩は都となり

#アックス&ウィザーズ #戦後

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#アックス&ウィザーズ
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#戦後


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 浮かぶ群竜大陸から落ちて、海を流れて、その果てに船の墓場と呼ばれる一帯があった。
 船の残骸だけではなく、たくさんの物が流れ着く場所だ。
 これらが活きたのは既に過去となり、ただ今を揺蕩うだけの残骸たちの上に異質な鳥居が現われた。
 その鳥居をくぐれば奥に広がるのは滅んだと言われる『都』があった。否、言われようとしている『都』なのかもしれない。
 夢幻か、過去の幻想か、死者か。いや、少なくとも自身は死者だと『彼』や『彼女』は思った。自覚はあった。
 ――そこはドラゴンに滅ぼされた故郷だった。
 ――そこは戦火を生き抜き、自身を勇者として送り出してくれた村だった。
 ――記憶にある森は、集落は、まだ在るだろうか、それとも焼け落ちてしまっただろうか。
 どこからか故郷の音楽が流れてくる。
 帰りたい、還りたいな、と『彼』や『彼女』は思った。

 長い旅路だったね、と冒険を助ける「旅の導き手」フェアリーが魂の音を奏でた。
 溜め続けてきたけれども壊れてしまったリュートの魔力を解放して、勇者の魂――宮処へと語りかけた。
 残骸となったアイテムに依存した勇者の魂や、帰り道を忘れた勇者の魂が鳥居の中へと入っていく。


「今回はアックス&ウィザーズへと向かって貰いたいの」
 グリモアベースに入った猟兵たちを迎え、ポノ・エトランゼ(ウルのリコ・f00385)が説明を始めた。
 帝竜が倒されたとはいえ、モンスターたちの脅威がなくなるわけではない世界での依頼だ。
「酒場の情報を集めてみたんだけど、どこからか黒龍細胞片が排出されているみたいなの。その原因となる場所を探ってみたらいわゆる『船の墓場』ってところに行き当たったんだけど……なんでか朽ちかけた鳥居が現われててね……」
 海の残骸が流れ着く一帯なのだとポノは言った。
「何て言ったらいいんだろう。鳥居の向こうは過去の幻想が広がっているみたい」
「……? 骸の海ではなく?」
 過去といえば骸の海へと行くものだ。けれどもポノは首を振った。
「骸の海では無いみたい。でも誰かの過去から造られた幻想。私は群竜大陸に挑んだ勇者たちの、時間の幻想、かなぁって思うんだけど。
 ともかくその後を追って、黒龍細胞片が入って行ったの。鳥居の中を通じて、アックス&ウィザーズの各地へ行こうとしているみたいよ」
 その各地で排出された細胞片は、現地の冒険者たちでまだ対応が出来るくらいだが、大量に押し寄せて来たら壊滅の可能性がある。
「えーと、その各地って……」
「勇者の伝承が残る土地。――納得でしょう?」
 行きつく先は幻想から現実の時へ。
「勇者には会えたり会えなかったりするけど、鳥居の中の世界で黒龍細胞片を撃破していって欲しいの。戦いの余波で、少しずつ鳥居自体は朽ちてしまうのだけど、朽ち果てれば元の場所へと帰ることができるわ」
「……それって船の墓場?」
「ううん、鳥居の世界の元となった場所」
 それは勇者の伝承が残る土地であったり、きっかけとなった武器や防具が造られた場所かもしれない。
「正直、どこに出るかは皆さんが鳥居で過ごした縁によるんだけど、無事に皆さんが現実に戻ってきたら、私が探しに行くしそのまましばらく旅を楽しんでてもいいし」
「ええ……」
 アフターケアがふわっとしてるが、まあしばらくのんびり過ごすのもアリだろう。
 楽しく遺跡観光でもしたらどうだろうか?
「鳥居の中は幻想の世界だけども、町があれば鍛冶のドワーフさんもいるかもしれない。
 群竜大陸の財宝を、武器防具として加工してもらったりするのも良いんじゃないかしら」
 それじゃあ不思議な旅路を楽しんでね。
 そう言ってポノは猟兵たちを送り出すのだった。


ねこあじ
 ねこあじです。
 いつも以上にふわっとしてます。やれる範囲で好きなことをしていきましょう。

 プレイング受付期間が発生します。
 章開始から2~3日の時を置いての受付になるかと。
 お手数ですが、
 シナリオタグ、マスターページ、Twitterなどでご確認の程よろしくお願い致します。

(注)前提として、ねこあじが担当した以外の勇者シリーズは扱えません(勇者の性格は後述)。
 ですが、勇者を祖先に持つキャラクターさんや、勇者の故郷に生まれたりと深い縁を持つキャラクターさんもいると思いますので、プレイングで文字数死するかと思いますが設定つめこんだりは出来るんじゃないかと思います。

 第一章は「失われた都」・・・心の記憶で構築された世界です。
 あなたが失った場所かもしれません。
 勇者の魂が刻む故郷かもしれません。勇者もいるかもしれません。
 そこが集落であれば鍛冶のドワーフさんもいるかもしれないので、群竜大陸の財宝を加工することが出来るかもしれません。
 アイテム発行はありませんので、それぞれの任意で。
 財宝一覧はこちらに。
(https://tw6.jp/html/world/event/012war/012_dragonlord.htm )

 第二章は「黒龍細胞片」との戦いです。

 第三章は鳥居から出て「楽しい遺跡観光」
 出る場所は任意またはおまかせ。
 帝竜倒したよ、って墓の前で報告するのも良いですし、何かアイテムを供えたりするのもありですよね。心ゆくまで探検してください。
 私がやった勇者の伝承地であれば、
『勇者たちの余薫』:出る場所は山の上のハーブ園またはチーズの美味しい町。
 勇者は魔女ヘンティル。良い香りのする優しいお姉さん。癒し魔法使い。

『勇者が祀りし護り』:出る場所は山頂のカルデラまたは町。
 勇者はヤトゥ。頑固なおじさんクレリック。毒攻&耐が強い。癒し魔法使い。

『コイ謳う旅路』:出る場所は焼けた森を手入れ途中の集落付近。
 勇者は木(杖)の精霊。ピエリスと呼ばれることが多い。ヤンキー青年の人型を取る。ヤンデレ。ウィニアおばあちゃんを抱っこしてる。

『帝竜戦役⑤~ふるさとのうた』:出る場所は大樹を中心とした森の集落。
 勇者はカナカナ。今は樹の根元で沢山の譜面を思い出しながら音を奏でてる。

 それでは心赴くままに良い感じに料理してあげてください。
 よろしくお願い致します。
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第1章 冒険 『失われた都』

POW   :    何かを拾った

SPD   :    何かが起きた

WIZ   :    誰かに会った

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 帰ろう、還ろう。
 既に帰路を辿った魂もいる。直接、故郷へ魂晶石を届けてくれた者がいる。
 大陸で眠りにつくことを選んだ魂もいる。
 思い思いの時が流れて、けれども何処かへ流されてしまった魂もいる。
『カナカナ、貴方の献身に感謝します』
『ううん、あたしはフェアリーとしての導きを全うしているだけ。ヘンティルさんもお手伝いしてくれてありがとう』
 音と花の香りが迷子の魂を導いている。
 流れ着いた魂晶石の欠片を見つけては鳥居の中へと放っていく。この不思議な異界は帰り道。今を生きる人が行き着いた現地で拾ってくれるといいなとカナカナは思った。
『それではそろそろ私も出立します』
『うんっ』
 またね、とも、元気でね、とも言わずに笑顔で手を振って別れた。
 鳥居の中に入ったヘンティルは草原にいた。風が吹けば緑が波と流れ――ああ、高原の匂いだ。
 美味しいチーズを特産品とした町が見える。
 向こうの連なる山岳にはヘンティルの故郷がある。出立と共に、ほとんど封じた園だ。荒れてしまってもう無いだろうが。
 町で騎乗用の大蜥蜴を手に入れてあの集落へと帰ろう。


 信仰者ヤトゥは、すぐに目を瞑り、山頂のカルデラにて赤の映る泉に祈りを捧げた。
「ああ、火蜥蜴の神ナール・ニバリスよ。貴方への信仰はまだ生きているでしょうか――」
 帰りたい、けれども帰るのが怖い。
 小さなトカゲたちが息絶えていたら。
 植えた樹の解毒が花では間に合わずに、その地を更なる毒へと侵していたら。
 祈りに組んだ、長年毒と共にあった自身の手は変色している。
 この地は生きているだろうか、死んでいるだろうか。
 この山頂の、窪んだ場を上がれば大地は一望できる。
 町はまだあるだろうか。それとも無いだろうか。
「……臆病な私をお許しください」
 何か一つでも絶えれば、この地の信仰は死ぬ。
 既に火山としての機能は死んでいる。
 トカゲを生かそうと毒の樹を植えた。大地を生かそうと毒を吸う花を植えた。
 樹の神殿は神の住まう場所で、ヤトゥが帰りたいのは慣れ親しんだ毒の町だ。
 目を開かぬままに彼は立つ。


「森、結構焼けていた気がするわね」
 老女ウィニアの言葉に、人の姿をとる木の精霊(ドリュアス)と呼ばれるピエリスは「…………は?」と返した。
 ぐるりと周囲を見回した。幻想の世界だと分かってはいるが、相変わらず海の町はやかましい。
 ウィニアが死んだ時、共に沈もうと思っていたのに説得洗脳してきた鯨がいる海は、思わず睨んでしまう。遠くに見える森は、視界にある限りは健在だがちょっと遠い目になってしまった。
「焼けたってどれくらいの規模だろうか……長年尽くしてきた結界とか無事なのか……」
「帰ってみないと分からないわねぇ」
 のほほんとウィニアが言う。そうか、とピエリスは頷いた。
「君がいれば俺は帰らなくても良いんだが。このまま隠すし」
「帰りたいです」
 精霊界に渡る力は片道分くらいあるだろうと提言すれば即答で拒否された。
「うちにくれば永く在れたのになぁ」
「人として生きたかったのよ」
 長年交わしてきた問答は健在だった。


 幻想の地はずっと浸っていたいほどに懐かしく――けれども黒龍の細胞片が、過去現在に在る故郷を知らず知らずのうちに侵食し始めていた。
箒星・仄々
色々な勇者さんの記憶を巡る旅路
楽しみです

鳥居を潜ると
大きな蜥蜴さんがお出迎え

遠慮なく背に乗せていただいて
勇者巡りに出発です

背で旋律奏でる間に
蜥蜴さんは
森や草原を駆け
木や山に登り
雲や虹を歩き
海中や空を泳ぎ
様々な幻想を巡ります

そこにおられる勇者さんたち
ヘンティルさん
ヤトゥさん
ピエリスさん
ウィニアさん
カナカナさん
等々沢山の勇者さんの記憶

群竜大陸での出来事
家族や故郷への思い
等々をしっかりと見て聞いて感じて
心に刻み込みます

お話できる方がおられれば
インタビューも

勇者さんたちの記憶を叙事詩として
それぞれの故郷へとお届けしたいです

旅路の最後に蜥蜴さんへ
お礼として火の魔力玉を
飴玉替りに楽しんでくださいね♪



「色々な勇者さんの記憶を巡る旅路……楽しみですねぇ♪」
 船の墓場は沢山の音がした。ぎしぎしと瓦解したものが擦れ合い揺れる音、海の音。
 仄暗い海の果てで、鳥居を見上げた箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)が先の世界へ刹那に思いを馳せてくぐり抜ければ。
 瞬間、海から草地の匂いへと変わって仄々の猫のヒゲがぴくんと揺れた。
 目の前に現れた大きな蜥蜴の独特な有鱗目がキョロっと動いて、仄々をじっと見る。
 その背には鞍が装着されており、人を乗せる大蜥蜴なのだと分かった。
「こんにちは、蜥蜴さん」
 にこやかに挨拶をすれば「きゅっ」と蜥蜴が鳴く。たしたしと四脚を動かす様はまるで「乗って」と言っているかのよう。
「乗せて頂いても宜しいのですか? それでは、失礼しますね」
 そう言って仄々が大蜥蜴の鞍へと飛び乗れば、風が吹いてサアッと視界が変化していく。
「――! ここは……」
 岩場と砂地、けれども柵に囲われた放牧地のようなそこには、いま仄々が騎乗するものに似た大蜥蜴たちがいる。たしたしたし、と岩場を登って大蜥蜴が柵の方へと仄々を連れて行けばそこには長い髪を背に垂らした女性と、飼育員らしき男がいた。
「あら? 貴方は猟兵さん、でしょうか?」
 誰何した女性に仄々は頷き応じる。
「はい、そうです。貴女は……勇者ヘンティルさんでしょうか?」
「ええ、群竜大陸――帝竜戦役ではお疲れ様でした」
 勇者の墓場にいたというヘンティルは、事の成り行きを覚えているようだ。労う彼女に仄々もまた労いの言葉を返す。
 大蜥蜴に乗って故郷へ帰ると言う彼女に、仄々は少しだけ同行することにした。

 チーズの美味しい町でお昼ご飯を買って、雑貨屋をついでとばかりに覗いてみれば女性の絵を意匠とした物が目に付いた。薬草を束ねる紐の留め具に、お守りに。
「ヘンティルさん、これは?」
「……ああ、恥ずかしながら「私」なのだそうです。魔女と呼ばれる生業をしていまして、里で育った薬草を周辺の町に卸しているのです」
 その中で特別に配合されたお香が在る。魔女の特効薬「勇者の余薫」は病を治すものとしてヘンティルの名を売った。
 彼女の持ち物からその香を嗅がせてもらった仄々。
「良い香りですねぇ。落ち着きます。ほんの少し癒しの効果もあるような気がしますが」
「はい、薬効はありますね。旅に疲労はつきものです。群竜大陸へと向かう人々のための治療師であろうと思い、彼の地へと私も同道しました」
 旅の途中の休憩時、少しでも疲れを癒そうとヘンティルは香を焚いたのだと言う。持っていた薬草の知識は土壌が変わっても治療の役に立った。
「よろしければ旅のお話を聞かせて頂けますか?」
 大蜥蜴に乗って仄々がカッツェンリートを奏でれば、ふわりと旅の情景が広がった。
 大海原をゆく船のなかで、手を尽くしたけれども亡くしてしまった。一人の老婆が虹の橋を渡り、光る鯨が葬送の歌を紡ぐ光景は精霊ピエリスの旅立ち。
 大蜥蜴と仄々がその虹を渡るように進めば、眼下には新たな光景。
 毒の手を持つ勇者・ヤトゥを癒そうと思い行動を起こせば、それは護りであり信仰であり、彼の勇気の証だと知って、何もできなかった――そう思い空を仰いだヘンティル。
 大樹となったとある竜のふもとで暮らすフェアリーの音楽が仄々の奏でに重なって、数多の勇者の旅立ちを見せてくれた。

 大蜥蜴と一緒に森や草原を駆け、木や山に登り、雲や虹を歩き、海中や空を泳ぐ――都度現れるのはたくさんの勇者に、関わった人とモンスターたちの、たくさんの光景。

 ひとつひとつを心に刻みこめば、仄々の中にそのたくさんの叙事詩が出来上がっていく。
 帰った勇者もいれば、群竜大陸で散ってしまった勇者もいる。
 彼らを案じ、無事を願った故郷へと、仄々はその叙事詩を届けたかった。
 伝承として彼らを覚えている人がいる。
 彼らのおかげで永きに渡って今も無事に在る大地が勇者の還りを待っている。
 猟兵が帝竜ヴァルギリオスを滅し、平穏が訪れたアックス&ウィザーズに勇者の想いを還す。
 とても時間はかかるだろうが、少しずつ音を奏でて届けていこう。そう仄々は決めたのだろう。
 遠く離れてしまった時の次元を通じて、確かな詩を。

 けれども旅には終焉がある。
 黒い細胞片を見かけはじめて、仄々は大蜥蜴の背を降りた。
「ここでお別れをしましょう、蜥蜴さん。危険な場所となりますので離れてくださいね」
「キュウ」
 手を伸ばせば大蜥蜴が頭を下げる。眉間と鼻先を撫でてやり、それと、と大蜥蜴の口の中へ火の魔力玉を放り込む。
「キュ?」
 ほこほこと温かな魔力玉は、中心が熱く、火属性の大蜥蜴も楽しめる代物だ。
「ここまで乗せて下さったお礼です。飴玉替りに楽しんでくださいね♪」
 手を振って、仄々は大蜥蜴と別れた。
「――さて、次は戦いですね。ここは抜かせませんよ」
 増え続ける黒龍細胞片を見据えて、仄々は言うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
惚気てない?

目の前のやり取りに
そんな事を思いながら見渡せば
ピエリスとウィニアの故郷と三つの町

焼けてたけど、大丈夫だと思うぜ

受け継がれて、守られてたあの場所に住まう
彼らを思い出して、そんな風に声を掛け

指先をひらりとウィニアへ
あ、物凄い『お前誰だ』オーラ出てンですけど、ピエリス

……病んでるヤンキーって
俺見てるみたいで、嫌になっちゃうな
だって、判るもん
自分の領域に連れて帰って隠しちゃいたいの
すげぇ判るもん

でも出来ねぇんだよなぁ
嫌われたくないから

ま、とりあえず、帰って自分の目で確かめなよ
今もちゃんと続いてるから

にしても
『人として生きたかった』か……
俺は逆に一緒に居られるなら
人辞められるタイプだもんなぁ



 鳥居をくぐったその先には、海の町が広がっていた。
 仄暗い海原から突如変化した目を刺すような海辺の陽射しに篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は手を翳し目を瞬かせた。
 海の町と花の町、山の町とトライアングルとなった路の中心には森の町があるアックス&ウィザーズの地。
 かつて訪れた土地は少し時間を遡っていて、倫太郎が見た実際のあの景色とは少し違う景色。勇者たちが生きた時の幻想世。
 その一体である精霊と老婆のやり取りが耳に入ってきて、倫太郎はそちらを向いた。
(「……惚気てない?」)
 なんてことを思いながら近づいて、ウィニアの肩を指先でちょんとつつけば「あら」と老婆はぱちぱちと目を瞬かせて倫太郎を見た。
「森、焼けてたけど、大丈夫だと思うぜ」
 受け継がれて、守られてたあの場所――あのとき森の中心で顕現した老婆に、町々から感じたたくさんの「ありがとう」を倫太郎たちは伝えた。
 事件の後も森の町に少しだけ滞在したが、皆、森の回復に向けて一丸となっていた。彼らを思い出してそう声を掛けた。
「そうね。あの頃の子供たちが伝え遺してくれたこと、たくさんのことを教えて貰ったわね……お久しぶりねぇ、猟兵さん。倫太郎さんだったかしら?」
「へへ、そう。ウィニア、久しぶり」
 勇者の墓場でもありがとうねとウィニアが言ったので、「どーいたしまして」と倫太郎が応えながら視線をふと上げれば胡散臭そうにこっちを見る青年と目が合った。
 ちょっとばかり後退りされ、近かったウィニアが遠のく。
 老婆を抱え直したその態勢は防御姿勢だ。
「うわ、物凄い『お前誰だ』オーラ出てンですけど、ピエリス」
「実際にお前誰だだが。近い。なれなれしいぞ」
「呪骨竜倒した時に会ってるだろ」
 戦場で、猟兵の声に応じていたのを倫太郎は見ていた。その後の顛末も。
「? ウィニアと少女と、他に少しいたような……?」
「俺合わせて二十人くらいいましたけどね???」
「………………人間って、大体同じに見えるんだよな」
「いやそれ嘘だろ間が長い目が泳いでンぞ」
 ウィニアを召喚した猟兵ははっきりと覚えているようだ。
 あーあ、と頭の後で手を組む倫太郎。
(「……病んでるヤンキーって俺見てるみたいで、嫌になっちゃうな」)
 相手は精霊、自分は人間だが――はあ、と息を吐いて二人に背を向ける。
 表情が拗ねたようなやるせないものになっている自覚があった。
(「だって、判るもん。自分の領域に連れて帰って隠しちゃいたいの」)
「……すげぇ判るもん……」
 しくしくと胸が痛み、暴発しそうなそれを呟きとして吐き出した。
「でも出来ねぇんだよなぁ――嫌われたくないから」
 実際に嫌われた。
 そんな感情が幻想世に流れ、びくっとする倫太郎。彼の目前にウィニアが幼かった頃の光景が、ふと虚空に朧のように浮かんだ。
 泣かれてしまった。彼女の声は自身でなく、家族を呼ぶ。
「隠したことを後悔して、挽回するまで幾年月かかったことか――それが成せたとは今も言い難い」
 ピエリスが言う。樹木の精霊は幼き少女からの信頼が折れ、枯れたことを悟った。
 そこから再び種を植えて育つのを待ち続けている。
「チョット、ぞっとした」
 朧の記憶を消すように、倫太郎がぱぱっと手を払う。
「まあ慎重にな」
 余計な世話だと精霊に返した倫太郎はウィニアへと目を遣った。にこやかに微笑むウィニアの瞳は成長を続けた女性のもので、既に精霊の懸念を置き去りにしていることが分かる。
(「え、ここでようやく両片思い?」)
「……ま、とりあえず、帰って自分の目で確かめなよ。今もちゃんと続いてるから」
 幻想世では健在な森の方角を指差して、ひらりと手を振った。
「あら、倫太郎さんは何処へ行くの?」
「羽耳兎と遊んでくるー」
 そう告げて花の町のある方へと向かっていった。


「にしても……『人として生きたかった』か……」
 刹那に交差する道と、永く添う道。
 ウィニアが選んだのは前者で。
「俺は逆に一緒に居られるなら、人辞められるタイプだもんなぁ」
 倫太郎が選びたいのは後者。
 過去と現在の時を次元で繋ぐ幻想世。
 そのなかで未来へと繋がる自身の時を行く倫太郎は、少しずつ過去世が乖離していくのを背で感じながら歩くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

まつりん、会いに行こう
トカゲの勇者に
一緒に大地を見に行こう

鳥居を抜けて
こんにちは、と声をかけ
…貴方がヤトゥ。知ってる、だって、と赤い石の指輪を指差し
ナール様から頂いた大切なものって聞いた
そしてわたしのお守り袋、その中のリアルトカゲの像を見せて
何処で入手したか、それは自分の目で確かめて?
さあ、行こう

窪みに着くまでヤトゥと色々お話したい
ヤトゥから見たナール様とか
町での思い出とか
好きな場所とか

ヤトゥは勇者で
町の為に、ナール様の為に、世界の為に頑張った
それは、確かに実を結んでる
貴方の想いはこの大地に咲き誇っている
もう大丈夫。貴方は守り抜いた

さあ帰ろう、貴方の町へ


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と。

勇者さん?
あ。白トカゲさんちの?
えーと、ニバリスだっけ。
そうそう、毒消しの村だね。
沁みるとイタイやつ!(記憶が混ざってる)

わー、鳥居だ。
どこに出るのかな?(ひょいっと)

あ、お花が白斑だ。高いトコに出たね。
ナオスの木が近くに見えてる。
じゃあ、あそこにいるおじさんが勇者さんかな?

こんにちは、白トカゲの勇者さん!
え、だってニバリス白いし。
神様も白トカゲなんじゃないの?
毒でいっぱいの神様!

そうだ、また村で毒消し買おうかなー。
キレイな石も売ってたよ♪
(ジャスパーの指輪を取り出し)
あれ、お揃い?

店のおいちゃんがいい人でね、トカゲの飴くれるんだ。
紫のお芋も美味しいよ♪
さ、いこ!



 アックス&ウィザーズの海原にある船の墓場は、寄せる波のせいでぎしぎしと足場が揺れる。
 その不安定な場所に立つ鳥居を見上げた木元・杏(メイド大戦・f16565)はこくんと頷いてみせた。
「まつりん、会いに行こう」
 そう双子の兄へと言えば、きょとんとした表情が返ってくる。
 杏は首に下げた御守り袋を手で包むように、祈るように。
「トカゲの勇者に――。
 一緒に、大地を見に行こう」
「あ。白トカゲさんちの勇者さん?」
 白トカゲのおうちを作ったんだよね! と木元・祭莉(まつりんではない別の何か・f16554)は山を登った場所にあった「家」を思い出す。
「えっと、毒消しの村があってー、毒がいっぱいあってー、そうそう、沁みるとイタイやつ!」
 指を折り数えていけば連鎖してどんどんと記憶がぽんぽん出てきた。色々と混ざっているようだ。
「アンちゃん、鳥居ってくぐるまえにおじぎするんだっけ?」
「ん、そう」
 ぺこりとお辞儀をした双子は、手を繋いで鳥居を一緒にくぐった。

 瞬く間に場が変化し、ごうっと乾いた風が祭莉と杏の髪を乱す。湿度のある海場から一気に荒野に似た空気にケホンと咳が出た。
「お~、久しぶり? じゃないや、大昔なんだっけココ」
 ぐるりと周囲を見回した祭莉が、あ、と声を上げてあちこちに咲く花へと駆け寄った。
「お花が白斑だ。けっこー高いトコに出たね」
 ガランサス・ニバリスに真白の斑模様。場所によって色も変わる花をちょんとつつく。
 祭莉と杏が訪れた時は群生していた花だったが、咲く場所はまだまばらだ。月日をかけて勇者はこの花の種を山に蒔いてきたのだろう。それでもナオスの木がある場所にはたくさんの花が咲いている。
「木、ちっちゃいね」
「きっと、まだ育っている途中――」
 木が育つ岩場を前に、祈るように佇む男がいた。言葉半ばに杏は彼を目指して駆け寄っていく。
 ひと気のない場所に人がいる。そして彼は勇者だった。しばらくここにいた彼は二人の存在に気付いていたのか、ゆっくりと振り向いた。灰色の髪に灰色の瞳。痩せた壮年の男だった。
「君たちは……」
 こんにちは、と二人の声が合わさった。もっとも一緒だったのは最初の挨拶だけで、すぐに祭莉が声のトーンを上げて手を振る。
「白トカゲの勇者さん!」
「こ、こんにちは。ええと、白トカゲの勇者というのは……?」
「えっ、だってニバリス白いし。神様も白トカゲなんじゃないの?」
 祭莉の言葉に、男は僅かに驚きの表情となる。
「君は、君たちはナール様を知っているのか」
「うん、毒でいっぱいの神様だよね!」
「……そして、貴方がヤトゥ。私たちは知ってる」
 だって、と杏はヤトゥの手を指差した。そこには赤い指輪が嵌まっている。
「ナール様の瞳の色。ナール様から頂いた大切なものって聞いた」
「おいらのとお揃いだねっ♪」
 杏の言葉に祭莉が続く。ほら! と手を挙げてひっくり返せば、そこにはジャズパーの指輪。
「――そうか。君たちは群竜大陸に来ていた、猟兵さんたちだね」
 勇者の墓場から見ていたよ、とヤトゥが言う。
 杏はこくりと頷いた。
「ん、ヤトゥたちを追った。大陸の端っこにあったお花、きっとここの」
 大陸の橋頭保を築くために魂喰らいの森へと入る前、見つけた花の群生を思い出しながら杏が言う。
「あそこに到達するまで長かっただろう? 頑張ったね」
 そう言って身を屈めたヤトゥが労うように二人の肩を叩いた。
「頑張った!」
「ん、頑張った。追いかけて、戦って、ヤトゥを迎えに来たよ」
「そうそう!」
 杏が言えば祭莉はにぱっと笑い、そしてヤトゥの手を握った。すごく冷たくてピリピリとした。祭莉が握った手を見る。
「少年、私の手は毒に侵されている。直に触れると危ない」
「あー、おいらの名前、祭莉ね。こっちはアンちゃん! 毒耐性あるし、だいじょうぶだよ。村にいけば毒消しもあるし?」
 ぎゅっと握って引っ張れば、「おっと」と呟きながらヤトゥも一歩を進む。
「ね、帰ろう」
 杏も袖をくいっと引っ張って、勇者を見上げる。強張りのとけない表情だ。
「しかし……」
「ヤトゥ」
 迷った素振りの彼をぴしゃりと呼んで、杏はお守り袋からある物を取り出す。
 掌に乗せたそれは、リアルトカゲの像だった。
「何処で入手したか、それは自分の目で確かめて?」
 ころりと掌で転がして像を立たせる。
 それを見た瞬間、ヤトゥの目からぽろりと涙が零れ落ちた。
 火山が枯れた後の火蜥蜴への信仰はどうなったのか。
 植えた毒樹は、眷属のトカゲたちは、住まう人々はどうなったのか。
 時代の果ては予知では見えなくて、かといって自身が見届けることもできない。
 けれどもこの時。
 示唆され、彼は未来への道が見えたような、そんな気がしたのだ。
 予知でなく、確実なものとして。

 さあ、行こう。と杏が言えば、ヤトゥはゆるりと頷いた。

「おいら覚えてるよ! 村ってあっちだよね!」
 なるべく勾配の緩い場所を選び、山を下って行く。先導するのは身軽な祭莉だ。
 その後を杏とヤトゥが追う。口数の多くない二人がぽつりぽつりと声を交わす。
 夢で見たナール様は夜空を映した大トカゲの身体で、まさに伝わる星座のようなものだったとか。
 天体観測が趣味で、よく空の赤星に祈っていたとか。
 普段は町で子供たちに物書きなどを教えているのだとか。
 そんな会話をしていると、駆け戻ってきた祭莉が話に加わったり。
「へーせんせーしてるんだー。へー、おいらたちも寺子屋? ってトコでねー」
 と、双子の暮らし振りを話したり。
 歩き進んでいると――故郷へ帰ってきた――その実感を少しずつ覚えたのだろう。どこか強張っていた勇者の立ち居振る舞いはリラックスしてきたようだ。
 杏は微笑み、勇者の名を呼ぶ。
「ヤトゥは勇者で、町の為に、ナール様の為に、世界の為に頑張った。それは、確かに実を結んでる」
 駆けた祭莉を追って、杏も早歩き。くるっと振り向いて両腕を広げた。
 見て、と。
「貴方の想いはこの大地に咲き誇っている」
 風が吹いて景色が変わる――そこは、杏と祭莉が実際に見た、勇者が祀りし護りに満ちた世界。
 山頂に実を結んだ大きな木があって、群生する銀色の花には雪が散ったかのような真白、ニバリスが実をくわえて花の影へと入る。
 毒の町では煌々と火が焚かれていて、火の信仰は忘れることなく。
「もう大丈夫。貴方は守り抜いた」
「あれっ、もう着いたの? おじさん、お腹空いたでしょ? あそこの店のおいちゃんがいい人でね、トカゲの形の飴くれるんだ。紫のお芋も美味しかったよ♪」
 一度歩いた夜市の、篝火に照らされる天幕は、色とりどり。祭莉は覚えている場所へと向かおうとした。
「さ、いこ!」
 再びヤトゥの手を握って少年が誘い歩く。
「さあ帰ろう、貴方の町へ」
 少女も声を掛ければ、ヤトゥはするりと抵抗なく歩んだ。
「ありがとう、子供たち」
 双子だけでなく、この狭間の時に歩み重なった猟兵に、そして長い年月伝え続けただろう子らにも向けて。
 ただいま、と。
 勇者が言って旅の終わりを迎える。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

心の記憶で構成された世界ね。ある意味思い出が残る大事な土地ともいえる。不気味で物騒な侵入者は排除しないとね。

広がった世界は灼熱の砂漠。砂漠には珍しい花畑。その花畑に見たような面影がある。人の良さそうな顔。白銀の鎧。間違いない、あの竪穴の戦場で出会った勇者だ(帝竜戦役⑤~朽ちた墓標に花は無く参照)

もしかして、この花畑が彼の生きて会おうという約束の白い花が咲く花畑かい?またアンタに会えて嬉しいよ。この約束の花は戦場で生きるアタシ達家族の為にも摘んで行きたいが・・・現実世界に持ち込むのは無理だろう。

約束するよ、勇者、アンタの思いが残るこの場所を、侵入者から護ってみせるよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

ふむ、骸の海とは違うんですね。魂が辿り着く思い出の地。そんな大事な所を不気味な侵入者に荒らさせる訳にはいきません。何とかしましょう。

辿り着いた場所はこの世界に普通に存在しているような集落。鍛冶屋もあるようでハンマーの音も聞こえますね。そこにいるのは忘れた事なんてない勇者アイリス(帝竜戦役⑤〜Be a hero)ここが貴方の生まれた場所、貴方が護ると決めた原点。

アイリス、貴方と出会った日から月日は経ちました。でも私はまだ貴方の域には達していません。せめてこの集落を護らせて下さい。憧れである貴女の何より大切な場所を。


神城・瞬
【真宮家】で参加

オブリビオンが還るのは骸の海ならば、死した魂が最後の還る場所も存在するという訳ですか。この大切な場所を不気味な存在に荒らされるのは防がないと。

出た場所は見たような竪穴。そこには無数の精霊が漂っていて。そこにいるのは覚えのある優しい瞳の青年。間違いない、同じ精霊使いで兄同士である同志のエレボスさんですね(帝竜戦役⑤〜僕の妹がこんなに鬼畜なわけがない)
どうやら精霊を無事全部見つけられたようで。再会を喜びたいですが、ここに不気味な侵入者が迫っているようで。大丈夫、前のように力を貸しますよ。このように精霊が安心していられる場所は貴重です。お友達も一緒に護ってみせますよ。



「オブリビオンが還るのが骸の海ならば、死した魂が最後の還る場所も存在するという訳ですか」
 アックス&ウィザーズの海原にて。
 様々なものが流れ着き、折り重なった不安定な足場に突如として立った鳥居は異様な空気を醸し出しながらも懐かしいものを抱え、何者かを誘う。
 そんな鳥居を見上げてふと言った神城・瞬(清光の月・f06558)と、真宮・奏(絢爛の星・f03210)が彼に倣うように同じ動作を。
 怪しい鳥居だ。
 ふぅむと吐息を零すようにして奏が言葉を続ける。
「骸の海とは違うんですね。魂が辿り着く思い出の地。……誰かの、そんな大事な場所を不気味な侵入者に荒らさせる訳にはいきませんね」
 誰しも大事な思い出を持っている。心の故郷を持っている。過去へと流れて行く時の狭間のようなものだろうか。とある世界では鳥居から鳥居へ、死者の魂は抜けて行く。
 娘である奏の言葉に頷くのは、真宮・響(赫灼の炎・f00434)。肩を竦めて、次に鳥居の向こうを覗こうとする。
「心の記憶で構成された世界ね。ある意味思い出が残る大事な土地ともいえる。――だからこそ、不気味で物騒な侵入者は排除しないとね
 今は未だ見えぬ敵――黒龍細胞片は既にこの中へと入って行ったのだろうか。
「さて、ここをくぐればしばらく離れ離れとなりそうだが――心の準備はいいかい?」
「ええ、大丈夫です。それに中は幻想世。心の強さが力になるはずです」
 母の言葉に、奏が力強く頷いた。
 そんな二人を見て「では」と瞬が促す。
「またあとで会いましょう」
 そう告げて、真宮家の三人は同時に鳥居をくぐったのだった。


 カン、カン、カン、と鉄を叩く音が鳴り響く。
 はっと我に返った奏は周囲を見回そうとする。
 カン、カン、カン。
 音の方へとまず向いた奏は鍛冶屋を見つけた。誰の剣を造っているのだろう――そう思って改めて、この世界でよく見かける普通の集落を眺めた。
 何かに超越したものなどなく。
 普通の暮らしを営む、時。
 ああ、と奏は想う。皆、普通を望んでいたのだ……この勇者も。平穏な暮らしを。
「アイリス」
 そう呼びかければ、その魂が奏の方へと意識を向けた。
(「ここが貴方の生まれた場所、貴方が護ると決めた原点なんですね」)
 微笑みを浮かべて大丈夫だと告げるように。
「貴方と出会った日から月日は経ちました。でも私はまだ貴方の域には達していません。せめてこの集落を護らせて下さい――憧れである貴女の何より大切な場所を」
 ここで、私が敵を喰い止めてみせます、と奏が言う。
 ひたり、ひたりと。少しずつ雨が降り始めたかのように地面の色が濃くなっていく。


「どうやら精霊を無事に見つけられたようで安心しました」
 僅かに安堵をこめた声で、瞬は覚えのある優しい瞳の青年に声をかけた。
 薄らと、存在はぼんやりとしていて――竪穴だからだろうか、目を瞬かせる。
 けれども瞬にとって彼はとても馴染みのある勇者だった。同じ精霊使いで、そして兄という同志でもある。妹にはどうしても甘くなる。
 ふんわりとした心優しき勇者が精霊たちを紹介するように、一歩下がった。
 ああ、と瞬は微笑む。
「申し訳ありません。ゆっくりと再会を喜びたいところですが、ここに不気味な侵入者が迫っているようで」
 少し怯えたかのような気配に、瞬は大丈夫と言って頷いて見せた。
「以前のように力を貸しますよ。このように精霊が安心していられる場所は貴重です。お友達も一緒に護ってみせます」
 ですから、と告げた時、腐敗した匂いが辺りを漂い始めた。
「どうぞ安全な場所へと下がっていてください――僕が敵を引きつけますから」
 そう言ってたんっと跳躍する瞬。
 ぼこり、ぼこりと土を舞わせて何かが出現しようとしていた。


 響が辿り着いたのは灼熱の砂漠だった。
 とはいえ、赫灼の焔を魂に刻む響にとっては涼しい方なのかもしれない。
 この砂漠には珍しくも花畑があり、その場所にはいつか目にした人がいる。人の良さそうな顔だった。
 あっ、と思い出す。
 そう。白銀の鎧――。
「間違いない、あの戦場で出会った勇者だ……」
 ふっと笑み、響は歩み寄っていく。久しぶりと声をかけて。
「もしかして、この花畑が彼の生きて会おうという約束の白い花が咲く花畑かい? ――またアンタに会えて嬉しいよ」
 約束の花。
 言葉に、心にと種を植えて咲き誇ったかのような花。真摯な白は清らかで、響は優しい微笑みを浮かべた。
「この約束の花は戦場で生きるアタシ達家族のためにも摘んで行きたいが――現実世界に持ち込むのは無理だろうな……」
 この時に咲いてこそ。過去と今を繋ぐ幻想世の次元にあってこそだろう――約束は、未来へと続くものだ。
 けれども断ち切ろうとする気配が忍び寄ってくる。否、忍ぶつもりもないようだ。
「約束するよ、勇者、アンタの思いが残るこの場所を、侵入者から護ってみせるよ」
 だから、今は逃げるんだ。
 そう告げれば響の意志が幻想世に映りこみ、刹那の今が遠ざかる。白い花畑も勇者も。
 現世からやってきた敵は現世の者が相手取るのだ。
「さあ、来な!」
 声を張れば砂漠の地から黒き水が噴きあがった。

 脆い脆い、過去を映す世界にオブリビオンが蔓延しはじめる――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鈍・小太刀
ウィニアとピエリスの所へ

この石垣見覚えがある
鯨さんは声がちょっと若いかも?
海の街の賑わいはやっぱりどこか懐かしい
市場に並ぶ品々にも
確かに生きていた人々の息遣いを感じるよ
あ、このスカーフめっちゃ可愛い!(衝動買い

ウィニアとピエリスは…相変わらずのラブラブね
折角だし、二人の思い出話とか聞きたいな

二人の出会い、二人の旅
託した想いと、成し遂げた使命
種族や寿命が違っても
同じ時を生き寄り添った二人の物語
英雄譚というより惚気話?
それはそれで気になるし!

お互いの好きな所を沢山
いつか話したかった事を沢山

成程夫婦漫才
カナカナの苦労が偲ばれる?
幸せそうに笑い合う二人の様子が嬉しくて
ふふふ、ごちそうさま

※アドリブ歓迎



 ぎしぎしと、壊れた船や何かが重なる海の揺れから一変して安定した大地。人々の喧騒が耳へと届いた。
 鳥居をくぐった鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)を迎えたのはどこか懐かしい景色だった。
 石畳は人の歩みや馬車で賑やかな音を奏でている。
 海の町独特の香りと色彩。あちこちに大小様々な浮き玉が飾られていて、道沿いに並ぶ露店は釣り具が多く、わあ、と小太刀は周囲を見回した。
 海が近い。
 青く輝く海原はすぐそこだった。
 朝早い漁から帰ってきた船たちが停泊する港。遠く、鯨の歌声が聴こえてくる。
「ふふ、鯨さんの声はちょっと若く聴こえるね」
 あの時の歌とは違う響き。軽やかな鯨の声は、町を進み始めた小太刀の足取りも軽くしてくれた。
「あっ、この石垣は見覚えがある」
 ここは過去の世界だという。訪れた時と同じ石垣は意外と変わりなくそのままで、褪せぬ月日に小太刀は想いを馳せた。
「ここが勇者たちが生きた世界なんだね」
 井戸端会議をしている商人の近くを通れば、群竜大陸の噂話が聞こえてきた。
 『今頃』は世界のあちこちに、旅立つたくさんの勇者たちがいることだろう。
 市場に並ぶ品々へと目を遣れば確かに生きていた人々の息遣いを感じるものだ。その中で女性が好きそうな小間物屋を見つけて思わず足を止める。
 貝に入った紅や装飾品、組紐、刺繍がたくさん入った布。
「お嬢さん、何か買っていくかい? 安くしておくよ」
「そうだなぁ……――あ、このスカーフめっちゃ可愛い! おばちゃん、これいくら?」
 と、衝動買いもしてしまう小太刀だった。

 そんな彼女が向かったのは海の町の入り口で、そこにはあちこちを見ながら歩く二人がいた。――いや、一人が歩き、そして一人を抱えているという出で立ちだったが。
「………相変わらず、ラブラブね」
 勇者の墓場での二人を思い出す小太刀。
 そんな彼女に、あら、と抱っこされていた老婆が気付く。
「まあまあ、小太刀さんじゃないの。お久しぶりね」
 初めて聞くウィニアの声に、小太刀は微笑み駆け寄った。
「えへへ、久しぶり、ウィニア! ピエリスも元気そうだね」
「あの時は世話になったな」
 呼び、召喚した小太刀を二人は微笑みと共に迎える。
「今から森の町に帰るの?」
「ええ。けれど少ぅし周りを巡ってから向かいましょうと話していたところなの」
 と、ウィニアが花の町と山の町の方を順番に見ていく。
「私も少しだけ付き合っていい?」
「大歓迎よ。小太刀さんから見た、この世界のことを教えて頂戴。美味しかったものは何かしら? 羽耳兎たちとは遊んでみた?」
「あっ、羽耳兎とは、森の町に行く時にちょっとだけ遊んだよ。めっちゃ可愛かった~。私もね、二人に聞きたいこと、たくさんあるんだ」
 それは二人の出会い、二人の旅。託した想いと、成し遂げた使命。
 そうねえ、と遠く思い馳せるように呟いたウィニアが語り始める。
「物心ついた時にはもう彼が傍にいたわね」
「ウィニアが赤子の頃から通い詰めてたからな」
「……そーなんだ」
 胸を張った青年を見上げる小太刀の目はちょっと胡乱げだ。
「そしていきなり精霊界へと連れていかれちゃったでしょう? その時、私はもう辛くて寂しくて悲しくて泣いてしまったわ」
「…………」
「すごく駄目出しされてない? 大丈夫? でも攫うのは駄目だよ」
 容赦なく精霊を抉っていくウィニアの言葉に、思わず小太刀はピエリスへ励ますように声をかけてしまう。
 故に精霊術士としての力を増したウィニアは精霊たちに愛されながら、この地を守る術を手に入れた。
 寄ってくる虫(精霊)を追い払うのが大変だったとか、守る術(自分)を使ってくれるのは嬉しかったとか、ウィニアの語りにちょいちょいピエリスの呟きが入ってくる。
「色々あったけれど、この地を守らなくちゃって二人で決めたのよね――あの時は言わなかったけれど、私はもう無理のきかない年齢だったから、彼を送り出さなきゃ、誰かに託さなきゃと思っていて」
 そうしてフェアリーの少女に会ったのだ。
「寂しかった?」
「ええ、ずっと一緒にいたのだもの。それは、もう。
 だからありがとうね、小太刀さん。私と彼は再び巡り会えたわ」
 孫の頭を撫でるように、手を伸ばしたウィニアが小太刀の頭を撫でる。
 貴女の声は心地よいわね。ついつい、飛び出してきちゃったわ、と言い添えて。
 ね、とウィニアがピエリスの方を向けば、青年も頷いていた。
「カナカナさんとも上手くやっていたようだし」
「あいつはピヨピヨと口煩いからな。黙らせる親鳥が必要だ」
 ピエリスはしょうがないという顔をして言った。
「カナカナとは兄妹みたいな、親子みたいな関係だったんだね」
 そう言いながら小太刀は微笑む。幸せそうに笑い合う二人の様子が嬉しかったのだ。
(「ふふふ、ごちそうさま、だね」)

 話は尽きることなく、だが時は迫ってくる。

「――もっと話、聞いてたいけど、私、そろそろ行かなくちゃ」
 猟兵の本能がオブリビオンの接近を告げてくる。
 小太刀を見た二人は何かを察しているのか、どこか心配そうにしながらも頷いた。
「気を付けるんだぞ」
「うん、ありがと。二人とも、またね!」
 手を振れば振り返してくれたウィニアと見送るピエリスに、笑顔を向けて。
 小太刀は駆ける。
 幻想世の出口は分からない――だが、抜ける一手となるであろう存在は確かに蠢き始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
勇者達…
辿った伝説を想い
鳥居を潜れば…

まずは草原
覚えてる、香りと…白と黄色の花
初めまして、ヘンティル
…現実のハーブ園に、また草花は芽吹いたでしょうか
今は、彼女の集落を、共に見に行きましょう

気付けば、山頂のカルデラへ
ニバリスにも、ご挨拶
…あの植えた実も、元気でしょうか
初めまして、ヤトゥ
怯えずに…どうか目を開いて、と
ニバリス達にとっては
貴方も祖先、なのだそうですよ

続けて出た森は…
お久し振り、ピエリスとウィニア
羽根耳兎達も
…森が焼けるのは、悲しく…怖いけれど…
手入れの様子に、安堵

着くのは、森の集落
お疲れ様、カナカナ
暫し、見て来た勇者達の話をして…
また一緒に演奏し、歌いましょう

では一仕事
…行ってきます



 アックス&ウィザーズではちょっとした瞬間に勇者の息吹を感じることがある。
 どこかの古い街で精霊たちと出会った時、雑貨屋などで旅用のお守りを見た時、古びたレリーフを目にした時、古から続く子守唄。
(「勇者達……」)
 泉宮・瑠碧(月白・f04280)は今までに出会い、辿った伝説に想いを馳せた。そのどれもが心に残ったものばかりで、群竜大陸で知った勇者のことも記憶に新しく――懐かしく。
 鳥居をくぐれば、見知った場所へと出た。
 海の香りから高原の爽やかな香りに。青い海原から緑の草原へ。
 胸いっぱいに空気を吸い込んで、とある香りを思い出した。一歩を踏み出せば強い花香に誘われて、見晴らしの良い丘のような場所に出る。
 そこには白い花と囲うように樹木が植えられていた。
「レガロの花畑と、シエンプレの木……」
 白と、木々のふわふわとした黄色の花はあたたかな陽射しの中、時折吹く風に柔らかく踊る。大蜥蜴の好む花は、まさに今、大蜥蜴が食べているところだ。傍に誰かが一人。
 その誰かが気付いたように紅色の長い髪が舞わせ、瑠碧の方を向く。
「初めまして、ヘンティル」
「……貴方は……あの墓場で戦ってくれた、猟兵さんね」
 瑠碧が歩み寄り微笑めば、ヘンティルもまた微笑みを返す。こくりと瑠碧は頷いた。
「あの町から貴女を追って――ずっと先の以前ですが、ここにも訪れました」
「ふふふ、ずっと先の以前。そうね、そう表現するしかないわよね」
 ヘンティルの知る時間からずっと先の時間、そこで生きる猟兵。
「旅立てば、いつかここも果てるだろうと思っていたの。私たちのハーブ園はどうなったのかしら」
 そう呟いたヘンティルが周囲を見回せば、ハーブ園にぽつりぽつりと人影が立った。集落に住んでいた女性たちだ。
(「……現実のハーブ園に、また草花は芽吹いたでしょうか」)
 段々畑となった下段からオブリビオンが襲撃を始めたあの戦いを思い出す。
 猟兵が辿り着けないままだったら、きっとシエンプレンの木は枯らされ、共にレガロの花も絶滅していたことだろう。

 絶滅といえば、と、次に瑠碧が思い出したのは白い蜥蜴のこと。
 気付けば瑠碧は緑溢れる地から一転、荒野のような場所に立っていた――いや、ここは――……まだ群生とまではいかない、スノウドロップのような花。ガランサス・ニバリス。
その花の影から小さなトカゲが姿を現わせた。
「こんにちは」
 ふっと微笑んで瑠碧。指先を差し出せば、小さなトカゲがちょろちょろと登ってくる。ここは「神様のおうち」がある山頂のカルデラのなか。
「――初めまして、ヤトゥ」
 そこで立ち上がったところの男へと瑠碧は声を掛けた。灰色の髪をした勇者・ヤトゥがぴくりと反応する。
「怯えずに……ヤトゥ、どうか目を開いてください」
「この目は臆病なのです。先を視ることも、恐ろしく」
 変色の垣間見える指先を目元に当て、ヤトゥが目を開いた。
 髪と同じ、灰色の目に瑠碧が映る。
「ですが、オーラのある者は好く見えます。貴女と、眷属のニバリス」
 そう言った彼の掌にトカゲを乗せてやろうとしながら、ふと、瑠碧は以前訪れた時のことを思いだした。
「ニバリス達にとっては貴方も祖先、なのだそうですよ」
「えっ……」
「大丈夫、ヤトゥのことは人々にも、ニバリスたちの間でも語り継がれていました」
 トカゲが瑠碧の指先から勇者の掌へと伝っていく。
 しなやかな体に虹の輝きが差し、次の瞬間には花畑で瑠碧は立っていた。
 森の町へと続く道。羽耳兎たちがぴょーんと跳ぶ景色のなかに、見覚えのある老婆の姿。
「ウィニア」
「まあ、瑠碧さんじゃないの。お久しぶりね」
 手を振って呼べば、初めて聞くウィニアの声が返ってくる。
「お久し振りです、ピエリスも。今から森へ?」
「ええ、帰って――還って、少しでも森の力になれたらと思っているの」
 瑠碧の問いに頷くウィニアとピエリス。
「そうですか」
(「……森が焼けるのは、悲しく……怖いけれど……」)
 樹木の爆ぜる音や、まわる火の音は今だ生々しく瑠碧のなかに在る。
「また、祈りに――遊びに行きます」
 祈りの声が、音が、一弦となり瑠碧の世界は導かれるように森の中へと入った。

 柔らかな音色が紡がれている。
 そこにいたのは、リュートを奏でるフェアリーだった。

「瑠碧さぁん」
 演奏を止め、カナカナの手を振る姿に瑠碧の表情は明るくなる。
「お疲れ様、カナカナ」
「うんっ、ありがとう! ね、みんなには会えた?」
 カナカナの声に頷きを返し、隣へと座る瑠碧。大樹の根は座りやすくどこか温かい。
 出会ってきた勇者たちの話をする。
「ヤトゥさんは歌が上手いんだよね。祝詞を紡ぐのに慣れているからかな?」
「それは……是非聴いてみたかったような気が、しますね」
 面白がってポロンポロンとリュートを奏でているフェアリーを見ていると、瑠碧の指先もうずうずとし始めた。
 ふわりと瑠碧の周囲に風が吹いて次の瞬間に小型のリラが現われる。弦を弾けば、小さく、高く澄んだ音色。
「カナカナ。一緒に演奏して、歌いませんか?」
「うん! じゃあ、まずはこれから!」
 月の夜の踊り歌!
 勇者の墓場で共に奏でた音楽が、調和する澄んだ声が世界に渡る。
 永遠のような刹那のような時の中で、カナカナから曲を教わる瑠碧。子守唄があり、情熱的な曲もあり、穏やかな音も。それは旅の中でカナカナが出会った勇者たちが教えてくれた曲だった。
「この音、みんなに届けばいいねぇ」
 のんびりと呟いて、ティンと最後に一音を出してリュートの弦を止めるカナカナ。
「でも変なのもくっついてきちゃったみたい? ごめんね、瑠碧さん。――ありがとう」
 さらりさらりと、波にさらわれる砂のように。光粒となりながらカナカナの姿が解けていく。
「いいえ、カナカナ。私の方こそ、ありがとうございます。たくさんの「家族」の元に行って……ただいまと言ってあげて」
 ウィニアのいる森へと、カナカナの生まれた大樹の森へと。きっと樹々を通じて少女は還っていく。
「小さな世界樹たちを護るエルフが、あなたのいのちを迎えてくれることでしょう。
 私は……もう少し――ひと仕事です……行ってきますね」
 幻想世と現実が繋がる、その瞬間、黒龍細胞片たちが現われ始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノネ・ェメ
 ワンチャン、エイヤやウィニアさんと会えたらいーな……直に話せたなら、言霊が宿る声や癒しの力も習いたいし、世界の調和についてや戦わず・戦わせないわたしの信条なんかについてもお話伺ってみたいし……。

 ぁ、約束の花……お花だしと思って、貰ってきちゃってたんだった。この世界の鍛冶屋さんになら加工も可能みたいだけど、わたし武器とかは持たないし、これこそ何に使うべきか、あるいは処分?すべきなのか、アドバイス頂けたら嬉しーな。

 わたしも森を守ってた猟兵の一人だったんですけど、エイヤ達も翼を貸してくれてたんですけど、守りきれなかった木々も少なくなくって、、ごめんなさい。一言伝えれたらってずっと思ってたから。



(「エイヤにも、会えたりするのかな?」)
 アックス&ウィザーズの海原にて。船の墓場へとやってきたノネ・ェメ(ο・f15208)は、少し不気味な雰囲気を持つ鳥居を見上げた。
 とととっと駆け寄ってそのままするりとくぐり抜ける。
 瞬間、彼女の目の前に広がった世界――そこは見覚えのある竜の巣だった。
 首の回りにふわふわとした毛を備えた竜が、ノネを見て「クルルル」と鳴いた。
「――エイヤ!」
 ふわふわとした真白の竜毛に頬をうずめてノネはエイヤに抱きつく。
 きょとんとしたエイヤの目が「どうしてここにいるの?」とノネに訊ねた。
「あれ? よく見たらちょっと世界が二重? でも本当のエイヤだね。ねえ、わたしの声は届いてる?」
「クルルゥ」
「ん、良かった。もっかいぎゅー」
 もふもふの首に腕を回せば、エイヤは頭を下げてノネの背にくっついた。
 その時、ふふふ、と柔らかな声が聞こえて、エイヤを驚かせないようにノネは振り向く。
「森のところでお会いした猟兵さんね。お名前はノネさんだったかしら?」
 あの時はお話できなかったけれど、と、老婆が言って、「あ」とノネは呟いてお辞儀をする。
「こんにちは、ウィニアさん」
「こんにちは。貴女のおかげで、ちょっとだけ、私からしたら「未来」が見えているわ。
 この子、エイヤっていうのね。おりこうさんね」
 精霊に抱えられたウィニアが手を伸ばしてエイヤを撫でる。
「この地の竜とお友達になってくれて、ありがとう」
 とても嬉しいわ、とウィニアはノネに言った。撫でても? と問われてノネは頷いた。
 しわくちゃなおばあちゃんの手は優しくてあたたかかった。
「えと、あの、わたし、あの時森を守りに行ったんですけど、エイヤ達もたくさん、翼を貸してくれてたんですけど、守りきれなかった木々も少なくなくって……」
 魔術の火はあっという間にあちこちに放たれて、猟兵たちが駆け回り、竜も飛び回ったあの日がノネの脳裏に甦る。
「ごめんなさい。一言、伝えれたらってずっと思ってたから」
「いいえ、ノネさん、木は焼けてしまったけれど、森は強いもの。きっと大丈夫」
 優しい子ね、ありがとう、とウィニアはノネへと礼を言った。
「戦いの中でや、あのあと、回復するための力をたくさん注いでくれたでしょう? 綺麗な音楽で水が澄むように、森の命も、今はより清廉に育まれているはずだわ」
 ずっとつらかったでしょう、こちらこそごめんなさいね。そう言う老婆にノネは頭を緩く振る。
「ふふ、それじゃあこれでおあいこね」

 少し座ってお話しましょう、と促したウィニア。
 ノネには聞きたいこともあった。
「ウィニアさんは、世界の調和ってどういう風にしてたの?」
「そうね……『みんな』のお話を聞いたり、基本的には、お願いの言葉を届けたのよ。人間が精霊に願ったこと、精霊が人間に願ったこと、物言えぬ動物や自然の言葉を届けるの。そうしたら暮らしやすい世界になるかと思って」
「争いのない世界にもなるかな?」
 戦わず・戦わせないノネの信条の根底は、そこにあるのかもしれない。
「想いがあれば、ね。私は戦ったことがないのだけれど……争い事が苦手だから……」
「戦わず、戦わせないのならそれこそ結界域の出番かなとは思うが」
 二人の会話に口を挟んでくるのはピエリスだ。
 魔除けと隠密の結界に包まれたこの地方は、モンスターの襲撃が長年無かった。
 結界の役割をしていたのはピエリスという木だ。その花を持っていたノネは、二人に見せるように手のひらに乗せた。
「二人でたくさんの約束を重ねて、強くなったの?」
「……そう、だな。少しずつ人寄りの精霊となっていったな」
 ピエリスは精霊だ。言霊は強く響くのだろう。
「お願いを叶え合って、約束し合って、強くなってきたんだ」
 ノネの言葉に、ちょっと照れた様子でウィニアは頷いた。少女のような挙動である。
「そうね。ちょっと恥ずかしいけれど、想いが深ければ言葉の力も強くなっていた気がするわね……」
「ナルホドこれが愛」
「ノネさん、照れちゃうからやめてちょうだい……」

 そういえば、と手のひらにある鈴のような花を改めて見たノネが二人に訊く。
「……お花だしと思って、貰ってきちゃってたんだった。この世界の鍛冶屋さんになら加工も可能みたいだけど、わたし武器とかは持たないし、これこそ何に使うべき? 処分したほーがいい?」
「これは――そうだ、ピエリス。Pierisの詞を歌ってあげなさいな」
 ノネの問いかけにポンと手を打ったウィニアは、ピエリスへと声を掛けた。
「ええ? 恥ずいんだが…………」
 一瞬渋い顔をしてみせたピエリスが歌い始め、「わ」とノネはやや前のめりにその音を聴きとっていく。
 Pierisの名は音楽と文芸の女神たちにちなんでもいて、添うようにノネが音を紡げば、女神たちが歓び力を貸してくれる――そんな感覚。

 破邪の澄んだ鈴音を、花が奏でた。

「わあ」
「あなたの世界を守ってくれる、魔除けのお守りね」
 破邪の力にも、結界にも、猟兵としての力にも。
「あなたが使いやすいようにね」
 そう言って微笑んだウィニアに、ノネもまた「ありがとう」微笑みを返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
鳥居の向こうに広がるのは、縁がある場所。そんな気がします。
深呼吸して、いざ出陣。

やっぱり見覚えのある場所でした。
私がこの世界に初めて降り立った地。毒の町近くの山頂です。
過去の幻想だったでしょうか……ならば今とは少し違う景色が広がっているのでしょう。

今思い返しても、ヤトゥの措置は延命としては理想的です。
この箱庭をどうやって考えついたものでしょう。
……。神の思し召しなどは、私にはよくわかりません。
ただ、あの虫たちは全てを台無しにする存在でした。
倒せて良かったです。はい。

わ、ニバリスです。可愛いですよね。トカゲ。
跪きましょう。山頂の居心地とか、そんな他愛無い話をするために。



「この鳥居の向こうは……どんな場所に繋がっているのでしょう……」
 何かの集合体のような、不気味な気配を放つ鳥居を見上げて呟くクララ・リンドヴァル(白魔女・f17817)。
 けれども、きっと縁がある場所。そんな気がした。
 ぎしぎし、ぎしぎしと海の揺れで動く船の墓場付近は足元が不安定だ。
 周囲を見回して、クララは深呼吸。――いざ、と決意して鳥居をくぐり抜けた。

 海の色、海の音、海の香りが一変した先にあったのは、乾いた土と硫黄の匂い、ガランサス・ニバリスが育つ山頂のカルデラの中。
「ここは私がこの世界に初めて降り立った地――毒の町の近くの……山の『神殿』……いえ、ニバリスの、家」
 懐かしそうに場を見渡すクララだが、記憶にある場所とはほんの少し違っていた。
 ナオスの木はまだ小さい。そしてまだ群生するには至っていない花、ガランサス・ニバリス。
「過去……ここはまだ建てたばかりの神殿なのでしょうね」
 まばらに育つ花を見ていると、種を蒔いたのだということが分かる。
 木の強い毒が拡がらないように。
 けれどもその木は護られている。実を好む薬効ある小さなトカゲが乱獲され、絶滅しないように。
 まだ小さな木の側へと近付くクララ。植木鉢のようになっている岩場はまるで祭壇のようである。いや、意図としてはまさしくそれなのだろうと、改めて訪れて分かった。
 あの時は根が張って分からなかった石壇の仔細が読み取れる。
(「……今思い返しても、ヤトゥの措置は延命としては理想的です。この箱庭をどうやって考えついたものでしょう」)
 ヤトゥは植物に精通していたのだろう。毒の町は研究者が多かった覚えがある。植物と、毒と薬に長けた町。
 そこでクララは聞いたのだ。
 町に伝わる物語。
 町の人が教えてくれた、教え。
 旅立つ前に「神様は彼の家にて永遠にこの地を見守ってくださることだろう」と言ったヤトゥ。
 人々の先祖は、彼のその言葉があったから神と共にこの過酷な大地で生きることを決めた。
 ヤトゥの元にナールが夢見として現われたのは、予知の一種だったのだろうか。信仰篤き彼はどちらでも同じことだと思っただろう。
「……。神の思し召しなどは、私にはよくわかりません。ただ、あの虫たちは全てを台無しにする存在でした」
 この場を食べつくそうとした虫を思い出し、クララは頷く。
「倒せて良かったです。はい」
 ナオスの木に向かって呟けば、火蜥蜴神であるナールがそこにいるような気がした。
 その時、舌を鳴らすような声が聞こえてクララは足元を見る。
「わ、ニバリス」
 ささささっと花の影から現れたニバリスが石壇を登っていく。ふと、立ち止まった白トカゲはクララをじっと観察しているかのように。
「こんにちは。えっと、お元気ですか?」
「キュッ」
 と小さな声。クララが指先を伸ばせば、ちょろちょろと体をくねらせて歩んだニバリスがクララの指に止まる。
 驚かせないようにそっと跪き、膝の上に乗せたクララは白トカゲへと話しかける。
「山頂の、このおうちの居心地はどうですか?」
 強い風も吹かず、ほんのりと地面は温かく、実はおいしくて、大きなトカゲはいなくなってしまったけれど、と、ニバリスの喜びの声がクララには届く。
「大きなトカゲ……? あ、そういえば、勇者ヤトゥをそう認識していましたね」
 あの時、猟兵とお喋りをしたトカゲが教えてくれたこと。
 たまにここから出て付近を冒険することや、美味しいごはんの在り処や、夜は空にナールさまが現われるので時々じっと見たり、などニバリスはクララにたくさんのことを話してくれた。
「ナールさま、は、ニバリスたちと同じ色ではないのですか?」
 夜空を映してたまにキラッキラ。
 赤いおめめが遠くを見てる。
「そうなんですね」
 クララとニバリスが話していると、同じ眷属たちがちょこちょこと近寄ってくる。
 大きなとかげ?
 そう。
 トカゲたちのそんな会話が聞こえてきた。
「…………私も、大きなトカゲ認定されてしまいました、ね」
 こんな風に、花の様子を見に来たヤトゥも穏やかな時間を過ごしていたのだろう。
 ――ふと、幻想世がほんの少し揺れる。
 胡坐をかいたヤトゥが膝の上でトカゲたちを遊ばせていた――そんな過去視。
「可愛いですよね。トカゲ」
 ゆっくりと頷き、クララは言うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】

アドリブ歓迎

差し出された手に一瞬だけ驚いたような顔をして
すぐに満面の笑みを返し
そうだネ
お手をどうぞレディどこへなりとお供しましょう
芝居めかして一礼
どんな所だろうとソヨゴと一緒ならなんとかなるよ
そう言って鳥居を潜る

ここは、アルプスの牧草地みたいな?
チーズだって?
ぷっ
と軽く吹き出し
さすがソヨゴ食べ物には敏感だネ

それだ、来たことがある気がするわけだ
勇者ヘンティルの街か
蜥蜴とかにも会えたりするだろうか?
そわそわ周りを見渡す

もちろん目的は忘れていないとも
お楽しみは後に取っておこう

UC発動
浮遊する戦闘機械達に電脳ゴーグルを接続
状況を偵察するよ


城島・冬青
【橙翠】

アドリブ歓迎

アヤネさん
はぐれるといけません
手を繋いで鳥居をくぐりましょう
あはは、茶化さないで下さいよ
(しっかりと手を握りしめ)
しかし一体どこに出るんでしょうね
いきなり深海とかマグマの上に…とかは流石に無いよね??

鳥居の先は
どこかで見覚えがある街が広がっている
ここには来た覚えがある…ような?
どこだろう
あと何かいい匂いがしますね
これは…くんくん
チーズですよ
とろとろのチーズの匂い!
ソーセージやジャガイモにかけて食べたいなぁ

そうそう
ヘンティルさんの街です!
なんだか懐かしいですね

おっといけないいけない
私達は黒龍細胞片を探しているんだった
チーズや大蜥蜴も捜索の後!ですね



 ぎしぎし、ぎしぎしと海の揺れで動く船の墓場付近は足元が不安定だった。
 それでいてこんな海原の真っ只中に、鳥居が立っているなんて、と城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)が見上げるのだがどこか不気味な印象は拭えない。UDCアースの鳥居とは全く違う。
「アヤネさん」
 一度深呼吸をした冬青はアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)へと手を差し出した。
「はぐれるといけませんから、手を繋いで鳥居をくぐりましょう」
 緊張がうかがえる声に、アヤネは一瞬だけ驚いたような顔となり直ぐに満面の笑みを返した。
「そうだネ。手を繋いで――お手をどうぞレディ、どこへなりとお供しましょう」
 そう言って芝居めかして一礼したアヤネも手を差し出せば、引き合うようにするりと指先が重なった。
「あはは、茶化さないで下さいよ」
 言いながらもしっかりと手を握る冬青。少しほっとした声だった。
「しかし一体どこに出るんでしょうね。いきなり深海とかマグマの上に……とかは、流石に無いですよね??」
「それはそれでワーワーキャーキャーできそうだけど」
「アヤネさん~」
「冗談、冗談。どんな所だろうとソヨゴと一緒ならなんとかなるよ」
 大丈夫。そう言って二人は鳥居をくぐる。

 青から緑。
 海原の景色から、草原の広がる景色。空は少し薄い青。清涼な空気を胸いっぱいに吸い込みながら、冬青は周囲を見回した。
「あれ? ここ、どこかで見たような……」
 遠く、連なる山々と高い風車があるのが見えて。
「んん? ここって来たことがあります、か?」
「そうだね、この高原に既視感はあるけれど――ソヨゴ、あっちに町がある」
「本当だ。ちょっと行ってみましょう」
 風が吹き、柔らかな牧草の感触を脚に覚えながら、緩やかな傾斜を行く。
 こちらが風下なのか、とあるものに気付く冬青。
「ちょっと良い匂いがしてきました――これは……チーズですね」
「えっ、チーズなの!?」
 くんくんと匂って、違いないというやや真顔な表情で言った冬青にアヤネはびっくり顔だ。
「はい、とろとろのチーズの匂い! です!」
 その勢いたるや。ぷっと思わず吹き出してしまうアヤネ。
「さすがソヨゴ、食べ物には敏感だネ」
「ええっでも、食べたくなるような匂いですよ? とろとろなチーズを熱々なソーセージやほくほくなジャガイモにかけてですね、ソーセージはパリッとしてるし、ジャガイモは塩が利いてちょっと甘味も感じてですね、そこをチーズの包容力が――」
「あっ、うん、食べたい! コレはお腹が空いてくる案件だ」
 冬青の語りにアヤネもまたちょっぴり真顔で言うのだった。

 薬草や瓶が立ち並ぶ店。魔女の意匠が施されたものには見覚えがあった。
 アヤネが気付く。
「そうか、ここ勇者の――来たことがある気がするわけだ。勇者・ヘンティルの故郷か」
「! そうそう、ヘンティルさんの伝承があった場所! ちょっと町並みは違うところもあるような? 気がしますが……ああでも雰囲気は変わっていなくて、なんだか懐かしいなぁ」
 山岳地のなか草原が点在する地域だったことを覚えている。
 牛や山羊などの酪農が中心となっていて、緑があり、それでいて植生の少ないむき出しの岩山が混在する地は、運搬に大蜥蜴が活躍していた一帯だ。
 この町から大蜥蜴に乗って旅立って、たくさんの景色を見た。
 あの時から二人の関係も変化して、より仲良くなった。
「蜥蜴、会えたりするだろうか? ね、ソヨゴ、大蜥蜴の放牧地に行ってみない?」
 確かあっちだったよネ? と町の向こうを見るアヤネ。
 行ってみると丁度誰かが大蜥蜴を借りようとしているところだった。長い髪の女性、ヘンティルだ。
「猟兵さん、こんにちは」
「「こんにちは!」」
 あなたたちも大蜥蜴を借りに来たの? とヘンティルが言う。
「いえ、僕たちは見に来ただけで……」
「そう、オブリビオンを探しにいくところなんですけど、ちょっと大蜥蜴さんにも会いたいね、ってなったんです」
 アヤネ、冬青と続いた言葉に「あぁ」とすまなそうな表情を浮かべるヘンティル。
「ごめんなさい。苦労を掛けるわね……」
「いえ! 追ってくる黒龍細胞片が悪いんですよ」
「ありがとう、猟兵さんたち。そうだ、お礼といってはなんだけど、私のオススメの場所を教えますね」
 是非、事が終わったら訪れてみて頂戴。
 と、ヘンティルが大蜥蜴で行く、とある場所を教えてくれた。
 そこは高原の中にある遺跡群らしい。お昼ご飯を持ってピクニックに適していて、花畑もある場所。
「まあ、良かったらですけど」
「はいっ。覚えておきます」
「気を付けて帰ってネ」
 冬青がそう言って、二人で手を振って勇者を見送る。
 彼女が旅立ってからアヤネはエレクトロレギオンを発動し、浮遊する戦闘機械たちを偵察へと飛ばした。
 黒龍細胞片は勇者の後を追っていくはずだ。
 戦闘機械たちに接続した電脳ゴーグルからたくさんの視野が流れてくる。
「行こう、ソヨゴ」
「はいっ。たくさん運動して、美味しいもの、食べましょうね!」
 ご褒美はとろとろチーズとその仲間たち(美味しい)だ。
 張り切って二人は黒龍細胞片の元へと駆けて行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シリン・カービン
猟師として修業を始めた頃。
猟の師匠と暮らしていた集落には、
腕の良いドワーフ鍛冶が工房を構えていました。
多くを語りませんでしたが、
勇者の武器を研究していたことがあるとか。

もうその集落は無く、彼も落命しているのですが。
私の目の前には、懐かしい光景が。

「お久しぶりです」
ドアを開けると目に入る偏屈を絵に描いたようなその背中。
「これを、お願いします」
群竜大陸で手に入れた『古竜の骨』
UCを弱める力を持つこの宝物を素材に、新たな武器を頼みます。
自分では作れませんでしたが、彼ならきっと出来る。
一時的にでもボスクラスのUCを封じる弾丸『古竜封弾』が。

師匠のこと、修行のこと。一時の感傷に浸りながら完成を待ちます。



 どこか強く意志を含む瞳をさせて、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)は鳥居をくぐった。
 ざざんざざんと海音を絶え間なく拾っていた長いエルフの耳は、今度は風に擦れ合う葉の音を拾う。
 場所が変われば精霊たちも変わり、土と草木の精霊が満ちた場所へとシリンは出ていた。
 ふっ、と眩いものでも映したかのようにシリンは目を細める。
「懐かしい……」
 そこは、彼女が猟師として修業を始めた頃に暮らしていた集落だった。
 木造りの家が多く、けれども鍛冶場や共用台所など火を扱う場所は石造り。週に一度、皆が集まって大きな竈でパンを焼く。
 そのための粉挽きをする水車が少し向こうにあったのを覚えている。
 混ぜるものは色々だ。滋養あるもの、木の実、乾燥させた果実、深い森と生き添うように在った集落地。川を目印に様々な場所へと辿っていける森。
 シリンが猟の師匠と暮らしていた集落だった。
 ここは過去の幻想だという。きっと、この時間軸のシリンと師匠がどこかいるかもしれない。
 ――けれども、シリンが向かった先は工房だった。
(「腕の良いドワーフ鍛冶が工房を構えていたはず――」)
 とても見覚えのある扉を開ける。
 中は薄暗く、だが煌々とした焔が灯っていた。
 鉄を打つ音をリズムよく響かせる、偏屈を絵に描いたような背中が見えた。シリンの気配にはとうに気付いているだろうに、自身のやるべきことを優先させている。
 使いこまれたハンマーが精緻に鉄を打つ。
 屋内の隅に積む山となった鋼塊を眺め、鋳造の板を見つけて、とシリンが視線を巡らせていれば、そこでようやく音が終わった。
「お久しぶりです」
「……シリンか?」
 それには応えず、シリンは荷物として背負っていた旅袋からとある物を取り出した。
「これを、お願いします」
「これは――」
「群竜大陸で手に入れた『古竜の骨』です」
 ほう、とも、ああ、とも言わずに無言でドワーフの親父は古竜の骨を手に取った。
 かつて一体の帝竜によって絶滅させられた、叡智ある種族「古竜」の骨だ。小さな骨片で金貨八十四枚相当の代物。
 ドワーフの親父は多くを語る者ではなかったが、勇者の武器を研究していたことがあると聞いた覚えがあった。

 シリンの生きる時間において――もうこの集落は無く、彼もまた落命した者であったが――。

「何を作ればいいんだ?」
「弾丸を」
 シリンの背にある猟銃へと目を向けて、ドワーフの親父は頷いた。
「ここにおけ」
「分かりました」
 猟銃を腰の弾を台に置けば、ドワーフの親父は銃口を覗き、次に弾を精査する。
 ユーベルコードを弱める効果を持つこの宝物を素材にすれば、きっと新しい武器ができるだろう。
 いくつか問うてきた親父に答えるシリン。
「弾をひとつ借りる……しばらく待っていなさい」
 そう言ってドワーフの親父が鋳造の型を持ち、竈へと近付いていった。
 試作で弾丸を一つ、銃へと装填し密度を試したドワーフは何かが分かったのか頷きを落として、古竜の骨を手にした。
(「自分では作れませんでしたが、彼ならきっと出来る」)
 一時的にでも、ボスクラスのユーベルコードを封じる弾丸『古竜封弾』が。

 言われた通りにしばらく待つべく椅子を借りる。猟銃を膝に乗せ、窓から差し込む光へとシリンは目を遣った。
 とても、懐かしい。
 昔、この時間帯は狩りに出かけていた。
 師匠のこと、修行のこと。
 背を思い出す、初めて仕留めた獲物のことを思い出す、そして今のシリンが狩る獲物が脳裏を過る。
(「――懐かしい」)
 幾度となく、想う。
 今だけはこの一時の感傷に浸っていても良いだろうか。
 ふと足元を見れば、床に自身の影が映っている。
(「私がいた世界、いる世界」)
 足を床から浮かせて緩やかに遊ばせた。
 決して穏やかな日々とは言え無かったけれども、ここは確かに懐かしいシリンの世界だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『黒龍細胞片』

POW   :    過食
戦闘中に食べた【有機物や生き物】の量と質に応じて【細胞分裂の速度が増して肥大化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    飽食
攻撃が命中した対象に【自身の細胞の一つ】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【付着した箇所から細胞が増殖、取り込み】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    食物連鎖
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【侵食し、細胞群で覆わせ眷属】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 アックス&ウィザーズの幻想の世界に滞在していた猟兵たちの前に、再び鳥居が現われた。
 ふわふわとした時間から、猟兵が生きる時間へと戻るための鳥居だろう。
 目の前の鳥居を見上げようとすると、背後でぼこぼこと音がした。
 振り返れば黒く蠢くもの――きっと黒龍細胞片だ。
 草むらからぴょこんと飛び出した虫を飲みこみ、土も草も食べて徐々に肥大化していくそれは大きな獲物を見つけた。猟兵たちのことだ。
 どこか嬉しそうに楽しそうに身を躍らせて迫ってくる黒龍細胞片。
 この幻想世を抜ければ、敵にとってのたくさんの『餌』があることだろう。
 世界に生きる自然はもちろん、人間も動物も、微生物も黒龍細胞片の餌だった。
 ここが戦場となればきっと黒龍細胞片はより獰猛なものへと変化する。
 過食と飽食。そして食物連鎖は虫や草を眷属として操ることだろう。

 彼らの進撃をここで阻止するべく、猟兵たちは動き始める――。
真宮・響
出て来たか。油断するとこちらも取り込まれそうだね。(白銀の鎧の騎士に)下がっていてくれ。アレの相手はアタシがする。大丈夫、大事な花畑が背にあるんだ、何とか喰いとめてみせるさ。別の所で戦っているであろう子供達は心配だが、自慢の子供たちだ。何とか切り抜けるだろう。

敵が周りの物を食べて力を増す前に勝負を付けたいね。【ダッシュ】で敵の群れに飛び込み、【オーラ防御】【残像】【見切り】で敵の攻撃を凌ぎながら召喚した赫灼の戦乙女と共に【範囲攻撃】【衝撃波】で敵の群れを薙ぎ払う。この大切な地に不気味な侵入者は不要だ!!とっとと消し飛びな!!



 砂漠の砂、一粒一粒の間から染み広がるように黒き異形が沸いてくる――ブレイズフレイムを抜剣し、真宮・響は黒龍細胞片を見据えた。
「出て来たか。油断するとこちらも取り込まれそうだね」
 そう呟いて一歩前に出る。白銀の騎士を背に庇うように。
 自分も、というように前へ出ようとする勇者に気付いた響は「いや」と声を掛けた。
「アンタは下がっていてくれ。アレの相手はアタシがする」
 けれども勇者の墓場では共に戦った――心優しき騎士は響を見つめた。
「大丈夫、大事な花畑が背にあるんだ、何とか喰いとめてみせるさ」
 そう言って微笑んで見せた響が敵へと駆ける。
 サソリ、花畑から零れたらしき草花を黒龍細胞片が取り込み始めていた。
 細胞が増殖し、肥大化していく敵を赤く光る光剣で斬る。
 手応えはぶよぶよとしていたが響の冴えわたる剣技に斬れぬものはなく、本体から切り離された細胞片は虚空で消失する。
 響に向かって細胞片が伸び、突きのような攻撃を仕掛けてくる。
 けれどもよく敵の動きを見ていれば容易く回避できるそれは、響の阻害にはならない。
「さあ、行くよ、燃え盛る炎の如く!!」
 響が手にした魔法石が赤く輝く。放った魔法石から顕現したのは炎の戦乙女だ。灼熱の鎧を纏い、焔が風に踊るようにスカートを舞わせて敵へと突撃していく。
 戦乙女の赤熱した槍が黒龍細胞片を大きくなぎ払い、対角、そして交差するように響の斬撃が細胞片を襲う。
(「別の所で戦っているであろう子供達は心配だが、自慢の子供たちだ。何とか切り抜けるだろう」)
 奏も瞬も、頼れる子たちだ。判断は確りとしているだろう。
 そう育ててきた自信がある。だから響も安心して戦える。
 戦場となっている砂漠は立ち回りが重くもなったが、それが好機となる。
 強い踏み込みを砂地は受け入れ、安定した姿勢から振るう響の剣は加速した。
「この大切な地に不気味な侵入者は不要だ!! とっとと消し飛びな!!」
 戦乙女が突き貫いた槍から焔が噴出し、熱された細胞片を響が横一文字に斬れば、敵は散り散りに炭と化していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・奏
本当に取り込む物体そのもの、って感じですね。こんなものに人々が平和に暮らす集落を荒らさせてはいけません。アイリス、貴方の大事な場所、護り抜いてみせます。別の所で母さんと瞬兄さんも奮闘してるはずですから!!

トリニティエンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で防御を固めた上で村の出入り口に布陣、【激痛耐性】も併用して出入り口を死守します。攻撃は【属性攻撃】で炎属性を付与した【衝撃波】【範囲攻撃】で。分裂して広がる前に一気に焼き払います。ここは通しません、骸の海に還ってください!!



 この幻想世のなかで、勇者が育った場所を見て回った真宮・奏。畑は綺麗に整えられていて、川を辿れば水車小屋がある。共用台所となる場所には大きな竈があり、村の皆でたくさんのパンを焼く時に使ったりするのだと勇者は教えてくれた。練り込むものは木の実だったり、ハーブだったり。
 そんな平穏な時を過ごしていた勇者と奏だったが、終わりの時は突然と――否、必然と来た。
 村の入り口にある大きな櫓を見ていた時だった。
 蠢く気配にハッと振り返る奏。
「本当に取り込む物体そのもの、って感じですね」
 視線の先には黒龍細胞片が現われていて、奏の方へと向かってくる。強いものから取り込むつもりなのだろう。
 「こんなものに人々が平和に暮らす集落を荒らさせてはいけません。アイリス、貴方の大事な場所、護り抜いてみせます。貴方は村の方々を護っていてください!」
 そう言って魔力を纏う奏。
 エレメンタル・シールドを掲げれば瑞々しい水の魔力と、世界を行き渡る風が村を護るように満ちていく。
 ここを護れるのは奏しかいない。深呼吸を一つ、そして敵を見つめる。
「別の所で母さんと瞬兄さんも奮闘してるはずですから!!」

 怒涛の勢いで、駆けるように突撃してきた黒龍細胞片がぶわりと拡がった。
 村の入り口とそこに立つ奏を飲みこむような攻撃は、しかし広範に渡る護りの布陣に遮られる。
『!! !? ??』
 一度引くように細胞片が集束していく――その瞬間を奏は逃さなかった。
 シルフィード・セイバーを振るえば発生した風が焔を乗せ陣を描いていく。
「分裂して広がる前に一気に焼き払います」
 それには集束した今が好機だ。
「ここは通しません、骸の海に還ってください!!」
 剣を一閃すれば滞空していた風が敵へと一斉に向かっていく。
 翔けた炎は敵を貫いて延焼を招き、更に体内を風が巡る。
 ぶよぶよとした敵体はぼろぼろと炭化して地へ落ちていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神城・瞬
この敵、油断すれば僕も取り込まれますね。(精霊術士の同志に)精霊と共に下っていてくれませんか。このままでは精霊も危険です。何とかしてここで喰いとめませんと。

地面を移動するのが習性なら、結界術は有効なはず。ただ、単細胞なぶん、仕込める術は限定されますが・・・【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】を仕込んだ【結界術】を【範囲攻撃】化して敵集団に展開、敵の不意の襲撃に備えて【オーラ防御】【第六感】で防御出来るようにしときましょう。上手く敵の集団の動きを制限出来たら、【高速詠唱】【全力魔法】で凍てつく炎を使用。細胞片を一気に焼き払います。ここは思い出が残る大事な場所。浸食なんてさせません!!



 仄かに――光の精霊のおかげだろう――明るい竪穴が陰る。
 ちらちらと炎の前に何者かが現われたような影の動きに、神城・瞬はその目を強めた。
 ざわざわとした精霊たちの気配に、精霊術士である勇者もまた落ち着かない様子だった。
「……この敵、油断すれば僕も取り込まれますね」
 竪穴内を見回して、冷静な判断を下した瞬はひらりと手を振るう。その手は場を護るように振るったものだ――少しずつ、瞬の術式が竪穴内を渡っていく。
「エレボスさん、もう少し話をしていたかったのですが、精霊と共に下がっていてくれませんか。このままでは精霊も危険です。何とかしてここで喰いとめませんと」
 守るべき存在は数多に。
 勇者も、仲良くなった精霊たちも瞬が大丈夫だろうかと心配そうにしていたが、このままでは動きを阻害してしまうと悟る部分もあったようだ。
 少しずつ、彼らの気配が遠ざかっていく。
 気配の行った方向へ結界術を強めに施して、かつ瞬の前方は緩めに――敵を誘導する。
 ――オオォオオオォォ……。
 過去喰らった者がいたのだろうか、細胞片は風のような唸り声を上げて現れた。
 広範に渡ろうとしていた細胞片は既に構築した瞬の結界術により、その行く手を阻まれている。
(「上手く動きを制限出来ましたね」)
 飛び散り、分裂し、その肥大な身を更に拡げられる敵挙動を見極めた作戦は大成功ともいえるだろう。
 後は一気に畳みかけるだけ。
「ここは思い出が残る大事な場所。浸食なんてさせません!!」
 青白の炎が駆け、凍てつく炎が黒龍細胞片を飲みこんだ。
 ギイイィィイィッ!!
 金切り声が発生し、敵はその身を凍らせながらも炎が駆ける。ぶよぶよとした細胞片は固まり、キラキラと輝き入った筋は凍てつく炎が通った痕。
 バキン、バキンと黒龍細胞片は瓦解していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
こいつはここから出す訳には行かないよな
ウィニアとピエリスは大丈夫……だよな
まぁ、ピエリスはあれだし
ウィニア絶対守るマンだもんな

さてと……さっさと倒して帰ろーっと
多分、きっと、待ってるから

斎火使用
纏うのは焔の神力
炎には浄化の力があるっていうしな
細胞レベルならまぁ殺菌除菌的な効果も期待!

神力纏うと同時にダッシュで接近
華焔刀でのなぎ払いの先制攻撃
刃先返して吹き飛ばしの2回攻撃で範囲攻撃

鳥居の向こうに逃さないよう
立ち位置は常に注意して立ち回り

逃がすかよ!

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御でジャストガード
負傷は激痛耐性で耐える

口もない奴に言うのもアレだけどサ

さっさと骸の海に還れよ、お前ら



 羽耳兎をもふっていた篝・倫太郎は、風に混じる腐臭に気付いた。
 花畑の広がる場所に似つかわしくない匂いに、「もう行きな」と羽耳兎を放し避難させる。
「……こいつはここから出す訳には行かないよな」
 振り向けば花畑を侵食しながら倫太郎へと近付いてくる黒龍細胞片がいた。
 ぶよぶよとした動きに、うへぇと呟きが零れてしまう。
「ウィニアとピエリスは大丈夫……だよな。いや絶対大丈夫だな。ピエリスはあれだしな。ウィニア絶対守るマンだもんな。――まー俺も絶対守るマンだけど」
 敢えて軽くした声だったが、それでも夜彦のことを想えば会いたくなってくる。
「さってと……さっさと倒して帰ろーっと!」
 多分、きっと、待ってるから――唯一無二の隣は、倫太郎が帰る場所なのだ。二本の柱が想いの家を支えて家族を守る。あたたかさも幸せも、二人で作っていける場所へと。

「砕き、祓い、喰らう、カミの力」
 倫太郎が音を紡げば、彼の身を神力が覆った。
 清らかな焔は場の空気を一変させた。腐臭を払い、その場に在るだけで――見えるモノには煌々と輝くのが分かるだろう。
 一気に彼我の距離を詰めた倫太郎が華焔刀を振るう。
 駆けながらのなぎ払いは逆袈裟に。入りは浅くけれども直ぐに深部へとするりと入った刃が大きな細胞片を斬り払った。
 長柄を握りこみ手の内で半回転させ、空へ上がった刃先は直ぐに黒龍細胞片へと落とされた。
 地を穿つ一刀は斬り払ったばかりの敵を散り散りに吹き飛ばすもの。厚い風が起こっていた。
『!! !? !!』
 倫太郎が纏う神気に黒龍細胞片の挙動が不審となる。仰け反るように後退し始めたのだ。
 倫太郎の力が渡る世界で、逃げられる場所といえば鳥居の向こうしかない。
 ずりずりと蠢く細胞片は倫太郎を避け、鳥居へと向かうように動く。孤を描くように伸びた敵ではあるが、観察していた倫太郎は当然気付く。
「逃がすかよ!」
 立ち向かわなければ敵も倫太郎から逃れることはできない。
 にゅにゅっと細胞を伸ばし打撃を繰り出す。
 ガガッと打ち据えた倫太郎が忽然と消える――残像だ。けれどもただの細胞であるだろう黒龍細胞片は知能がなく、それに気づかない。
 取り込んだと思ったのだろう、急に身体を弛緩させ動きはゆっくりに。
 その後方から薙刀の刃先が滑りこんだ。狙いは精緻だ。突き刺した刃は冴え冴えと、細胞片の中でも揺るがない力。
「口もない奴に言うのもアレだけどサ」
 とん、と長柄を押し込み倫太郎が囁く。
 言葉ののち凪は鋭く薙がれ、その瞬間まで座していた焔は黒塗りの上で駆け踊るように。
「さっさと骸の海に還れよ、お前ら」
 刃紋から通った神気が黒龍を下し征した。
 倫太郎が華焔刀を空切れば、敵の残滓が大地へと飛沫し消失していく。
 ぼろぼろと朽ちるように、黒龍細胞片は瓦解していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
勇者さん方が守り抜いた世界を
命の営みを
むざむざやらせるものですか

細胞片さんには海へとお還りいただきましょう

自身や刃をぺろ
摩擦抵抗操作でスケータの如く
或いは更に風の魔力で疾風を纏い
摩擦0の飛行

高速滑走や高速機動で躱します

万が一の時もつるっとして
付着できませんよ♪

少々気色悪いですけれども
すれ違いざま
細胞片さんをぺろっとすれば
摩擦抵抗を失い
動きがままならなくなり
勿論、有機物を取り込めなくなるでしょう

剣に三属性を込め
濡れ刃で斬れ味を
疾風で速さを増し
摩擦減で速く鋭い刺突
刀身から放つ火炎で消滅させます

終幕に鎮魂曲を奏で
静かな眠りを願います



 消えて行く大蜥蜴を見送った箒星・仄々が振り返る頃には、周囲はぼこりぼこりと緩やかに湧いてくる黒龍細胞片。
 鳥居は遠く、敵は仄々の方へ意識を向けているようだ。
 ざわざわとした殺気を感じ、仄々の夜色の毛が立つ。
「勇者さん方が守り抜いた世界を、命の営みを、むざむざやらせるものですか」
 今は骸の月の侵攻を受けているアックス&ウィザーズの世界は、ふとした弾みで再び混沌へと向かっていくだろう。黒龍細胞片の行動は、群竜大陸を征した猟兵の一人、仄々にとっても到底許すことのできない行為であった。
 ぐねぐねとした粘度のある細胞片を見た仄々は、自身とカッツェンナーゲルの刃をぺろぺろと舐めた。ピンクの舌がざりりと刃を研ぐように。
 グリュリュリュッ! と摩擦音を鳴らし襲ってくる黒龍細胞片をするりと滑るように回避した。
 くっつこうとする敵が仄々からするりと流れていく。
 盛り上がった細胞片から滑り降りながら仄々は敵を『毛づくろい』してやった。
(「少々気色悪いですけれども――うう、生臭いです……」)
 骸の海から甦り、色々なものを取り込んできたであろう黒龍細胞片はあまり舐めたいものではなかった。
 粘度のあるぐねぐねとした動きは出来なくなったのだろう、ずるりずるりとスライムのように動き始めた細胞片は形を保てなくなった証拠だ。
「今です!」
 魔法剣を振って黒龍細胞片を刺突する仄々。
 疾風を纏った剣は発生する空気の抵抗を流し、真っ直ぐに、鋭く。
 その刀身は冴え冴えとした水の魔力を内包していて、玲瓏な月光の如き刺しとなった。
 瞬間、うねうねと蠢いた黒龍細胞片の動きは止まった。
 ぼろりぼろりと内部から炭化し崩れ落ちていく。仄々が両刃の剣を抜けばそこには炎の残滓が。
 さらに離れた場所へと突き刺して延焼を起こせば、広範に渡っていた敵の体は焼け、やがて消えていった。

 ほんのりとあたたかさの残る大地に立ち、竪琴で鎮魂曲を奏でる仄々。
 骸の海へと還った黒龍の細胞たちが静かに眠れるようにと願いながら。
 音を重ねていると、少しずつ景色が変化し始める。
「――ただいま戻りました」
 幻想世とは違う、新たな風吹く時の世界が仄々を迎え入れたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノネ・ェメ
連携、アドリブ歓迎


 なんか、動いてる。お世辞にも、虫さんとかも得意とは言いがたいけど……これはまた、直視するのもちょっとあれかなって……ぁ。
 目で把握する事の大体は、音で聴いても判る事。ムリして見ずとも耳で視ればいーや。

 周辺の“それ”達を、わたしをエサに【おびき寄せ】てみたり、あるいは素早く立ち塞がってみせる【早業】で、とりま一ヵ所には集めとく?
 病は気からともゆーし、爽やかなメロディラインに乗せてUCを【歌唱】することで、わたし自身もテン下げのないよーに。

 あとは、くっつく先も解らないトカゲの尻尾として、そのままうねうねしてるだけならそれでいーかもってゆか。その方がベターかベストってゆか。



 ぐぎゅぎゅぐぎゅと、ムチムチとした何かが擦れ合う音をノネ・ェメが拾う。
「……なんか、いる? 動いてる」
 そろりと音の方を、少しだけ振り向くようにしてみれば視界の端に映る蠢くもの。
「ぁ、これムリっぽい?」
 ノネは数多の青を映す瞳を瞼の奥へと隠した。
(「目で把握することのほとんどは、音で聴いても判ること。ムリして見なくとも耳で視ればいーや……」)
 閉じた世界にたくさんの音。
 擦れる音に地面を這う音、時々虚ろな穴に轟くような音は鳴き声だろうか、泣き声だろうか。
 音だけの世界に五線譜を描き、音と音を繋げていけば蜘蛛の巣のような譜面が出来上がった。
 彼我の距離は徐々に詰められていることに気付いたノネは音のしない方向を探す。
 後退していけば着いてくる蠢く音。それを利用して広がった譜を集めるようにノネが動く。
 けれどもそわっとし始めた自身の足に、いけないいけない、と思い直した。
(「こーいうときは」)
 ―― prάpɚ stəkάːṭoʊ ――
 ノネが発する音は、声は、耀であり、護りであり、凪となる。
 音楽は感情を左右させる。
 知能無きものもまたその細胞一つ一つに音が染みこんでいき、持って生まれた破壊の意志に響く。
 破壊する、呑みこむといった細胞の単純な本能が失われてしまえば、ソレは世界での存在意義を失うも同然であった。
 けれども共鳴へと至った黒龍細胞片は邪悪なるもののまま海へと還るわけではない。
 万物に差異なく破壊の意志に疑念や理解を持たせる、爽やかなメロディラインに乗せた音楔はゆく先に希望を宿す。
 幻想世が瓦解し、時を封じられた黒龍細胞片は新たな概念を抱くものとして骸の海へと還っていく。

 ――けれどもそれはまだ先のこと。
 音符をひとつに集めるように、黒龍細胞片を纏めたノネは歌う。
 蠢いていた彼らは今、とても大人しい。
 ざらつく音もなく、ただただ静かにノネの声を聴いているようだ。
「おやすみなさい? なのかな。わたしはそろそろ行かなくちゃ」
 歌うようにそう告げて、ノネは黒龍細胞片を置いて鳥居をくぐり抜けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と!

おいちゃん、嬉しそうだったねー。
よかったよかった♪

あ、黒ようかんみたいなヤツが出た!
コイツ、やっつければいいんだね?

ニバリスたちはアンちゃんがガードしてくれるから。
久しぶりに、本気で暴れるぞっと!

如意な棒を右手に、綾帯を左手に。
近付いてきたら、綾帯を絡めて、距離を保ち。
棒を振るって、衝撃波で粉微塵にしながら、ガンガン進むよ!
うさみん☆、後のお掃除お願いねー♪

ココは、おいちゃんの大事な場所。
黒いのは骸に戻りなさい?(ニコ)

いっくよー、耳がなくても聞いてね!
ぼええぇぇーー!!(人狼少年のワンマンオンステージ)

うんうん、聞いてくれてありがとー♪
じゃあ、もういっちょー♪


木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

あ、鳥居…
ヤトゥも帰る事が出来たし、わたし達も帰ろう、まつりん
でもその前に、この巨大海ぶどうを倒さないと(黒龍細胞片をきっと見据え)

【あたたかな光】
灯る陽光から溢れるオーラは拠点防御も兼ねて、皆だけでなく地上の虫やトカゲ達、土や草をも守る

何でもよく食べることはいい事だけど
ここは勇者の世界、大切な想いが溢れる場所
貴方達が喰らっていい物は何一つ存在しない

うさみん☆、まつりんと一緒にに駆けてサポート
まつりんの肩を借りジャンプ、そして思い切り黒龍細胞片をキック
攻撃は見切り、逃げ足で回避しつつ細胞片の注意を引いて?

細胞になってもなお残る龍の力
貴方も骸の海にお帰り?



 勇者・ヤトゥとしばらく共に過ごした木元・杏と木元・祭莉は、ふと、場に合わないものを見つけた。
「あ、鳥居……」
 この幻想世を訪れる時にくぐった鳥居を見つけて、杏は名残惜しそうに呟いた。
 振り返れば触れたたくさんの思い出があったのに、今は再び山頂付近の景色が広がっている。丁度鳥居から出た場所に着いていた。
「ヤトゥも帰る事が出来たし、わたし達も帰ろう、まつりん」
 そう言って杏が祭莉の手を引っ張る。
「おいちゃん、嬉しそうだったねー。よかったよかった♪」
 にぱっと笑顔で喜ぶ祭莉。でも、と直ぐに不思議そうな表情に。
「アンちゃん、鳥居くぐるんじゃないの?」
「ん。でも――あれ」
 杏が引っ張った方角にぐぎゅぐぎゅと体を擦り合わせて蠢くもの。
「うわなにこれー! 黒ようかんみたいなヤツが出た! コイツ、やっつければいいんだね?」
 祭莉がパッと向かい合ったので杏は兄の手を離した。こくんと頷く。
「そう、巨大海ぶどうを倒さないと」
 黒龍細胞片を見た二人がそれぞれ連想したものを言うのだったが、でも、と眉を顰める。
「「美味しくなさそう」」
 だね。と同時に言って祭莉の語尾が残る。
「じゃー、おいら前行くね!」
「おっけ」
 祭莉は如意みたいな棒を伸ばし、右手に。
 腰に巻く赤の綾帯は左手にいつでも投げられるように持って。
 ぐじゅぐじゅと蠢く黒龍細胞片は周囲の草や土、そこに住む虫たちをも飲みこむが如くずるずると這い寄ってくるのだがその接地面は光が遮っている。
「光よ、皆を守れ」
 祈るような杏の声とあたたかな光が世界を包みこんだ。灯る陽光が差した世界に、はらりはらりと暖陽の彩が落ちてくる。
「何でもよく食べることはいいこと」
 ……だけど、と杏は黒龍細胞片をキッと見据えた。
「ここは勇者の世界、大切な想いが溢れる場所。貴方達が喰らっていい物は何一つ存在しない」
 黒龍細胞片の気配をも一掃しそうなあたたかな光は、家に注ぐ穏やかな陽射し。
 舞う花弁のような光をぱくりと小さなトカゲがくわえようとしたのだが、首を傾げた。すすっと花の陰へと行く。
 取り込めないのなら猟兵を喰らうまで、という風に一気に距離を詰めてくる黒龍細胞片に向かって白銀が駆けた。
 祭莉の綾帯の両端を飾る玉だ。
 帯を手に巻きつけ、遠心を利用した投擲と殴打の攻撃は分銅鎖のように活用するもの。
 ひと回し、ふた回しと続けば加速した白銀の玉が黒龍細胞片の部位を吹っ飛ばす――ぐぎゅぎゅぎゅと削がれた場所を補う細胞片。
 広範に拡がろうとする細胞片を打つのは如意みたいな棒だ。
 ノッてきた綾帯の遠心力に自身を乗せて祭莉が鋭く回れば、棒も細胞片をなぎ払い、起こった衝撃波が敵を粉砕した。
 粉微塵となった細胞片が粉塵のように空を舞い消えていく。
「うさみん☆、後のお掃除お願いねー♪」
 まかせて! という風に杏の操るうさみん☆が祭莉の肩をジャンプ台にして跳躍した。
 うさみん☆の回転をくわえたドロップキックが細胞片をへこませる。
「ココは、おいちゃんの大事な場所。――黒いのは骸に戻りなさい?」
 白銀の玉を戻し、付け根のところを持った祭莉がニコッと笑う。
「いっくよー、耳がなくても聞いてね!」
 綾帯の玉をマイクのようにして、すうっと大きく息を吸った祭莉が――歌い始める!
 ぼええぇぇーー!
 覚えてる歌詞に沿って歌っている祭莉であったが、その『音』は咆哮そのものだ。
 ぼぉうぅぉぉえぇぇ~~!!
 と、音として捉えられる範疇がこれであった。
 細胞というものは結構音に揺るがされるところがあり、黒龍細胞片もそれは同じなのだろう。
 例えば綺麗な音で細胞が活性化するように。
 けれども実際には祭莉の歌の力で黒龍細胞片はびしりと固まり瓦解していく。
 父直伝の兄の歌にはそれなりに慣れているのか、杏はうさみん☆で固まり瓦解していく黒龍細胞片を踏みつけていった。
「うんうん、聞いてくれてありがとー♪」
 崩れていく細胞片にぶんぶんと手を振る祭莉。
 アンコール! という風にうさみん☆がぴょんぴょんと跳ねる。
「はぁい! じゃあ、もういっちょー♪」
 ぼぅんえぃえぃおぉぉー!
 パンパンパンと拍手代わりにうさみん☆が黒龍細胞片を叩き、祭莉を鼓舞する。
「お掃除、お掃除」
 こくんと頷く杏。
「細胞になってもなお残る龍の力……貴方も骸の海にお帰り?」
 群竜大陸とそれに関わる戦いでは、たくさんのドラゴンが骸の海へと還っていった。
 どんな姿の黒龍だったのだろう、と杏は想う。残滓に近い存在、黒龍細胞片を双子たちは倒していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・小太刀
オーラ防御展開し、刀を構え
先ずは相手の出方を見る

食物連鎖ね
……オジサン、行ける?(虚空へ呼びかけ

サモニングガイストで鎧武者のオジサン召喚
細胞片が死体や気絶者を操るとしても
実体のないオジサンなら操られる事は無い
食べたってお腹も膨れない
オジサンもそれが分かってるのかな
珍しくやる気になってる?

刀に破魔の力と炎の属性攻撃を宿し
背中合わせでオジサンと連携
増殖する細胞の動きを見切り
刀で斬り、炎で燃やす

やるじゃないオジサン
そうね、頼りにしてるよ

黒龍の細胞片
どれだけ食べてもきっと
満足なんてしないんだろうね
黒龍、貴方の食べるものはもう無いよ
ここにも、この先にも
貴方の旅はここでお仕舞い
骸の海へ、還れ

※アドリブ歓迎



 海の町を出て再び現れた鳥居を前に、ゆっくりと鈍・小太刀は振り返った。
 腰に佩いた日本刀・片時雨を抜刀し、煙る雨景色のような、僅かな鈍銀を伴うオーラを纏う。
 切り込むにもまずは観察から。
 ぐりゅぐりゅりゅと蠢く黒龍細胞片は大きな個体、小さな個体と様々いて、大地から湧き出すように出てくるものもいる。
 草や虫は勿論、土も喰らう細胞片は次第に肥大化していく。
 きっと放っておけば世界を食べ尽くしてしまう敵だ。際限なく肥大化し、海も、そのうちは雲も平らげてしまうだろう。
 物を取り込み広がっていくその姿は、成長したと言うよりも――、
「食物連鎖ね。……オジサン、行ける?」
 小太刀が虚空へと呼びかければ、鎧武者のオジサンが現われた。
 任せろという風に頷いて見せたオジサンは刀を抜く。
 物怖じする様子もなく、堂々と切り込む姿勢だ。
(「実体のないオジサンなら操られることは無いし、食べたってお腹も膨れない」)
 オジサンもそれが分かってるのかな、と小太刀はオジサンの隣に並ぶ。
「珍しくやる気になってるね、オジサン!」
 言葉裏の号令に小太刀と鎧武者の霊が駆けた。
 鳥居前から、右をオジサンが。
 そして左へと切り込む小太刀。
 踏み込みは刹那に確りと、弾むように勢いをつけ上段からの一刀。
 続き、片脚を軸に片足を滑らせるとともに刃を返し横一文字に斬撃を放つ。
 破魔と炎の力を宿した一閃は、本来ならば補うように出てくるであろう細胞を焼き切った。
 オジサンもまた刀を振るう。霊という身軽さを活用し、低い位置から飛ぶように高く斬り上げて、大きな細胞を割る。
「やるじゃないオジサン」
 刹那に背中を合わせて次なる敵へと向かい合う小太刀とオジサン。
 一瞬だけ小太刀が親指を立ててみせれば、オジサンもサムズアップを返してきた。
「そうね、頼りにしてるよ」

 長く、刀を振るった気がする。
 けれども大地から湧き出てくる細胞片が少なくなり始めれば、あとはあっという間だった。
 幻想世の地面は爛れるような有様と化していたが、鳥居は抜けさせない。
 この先には勇者たちが護った、小太刀が生きる『時』があるのだ。
「黒龍の細胞片……どれだけ食べても、きっと満足なんてしないんだろうね」
 底なしの食欲――否、食欲とも言えない、本能による侵食活動。
「黒龍、貴方の食べるものはもう無いよ。ここにも、この先にも」
 ぐりゅ、りゅ。接近して戦っていると蠢く細胞のなかで虚ろな声も聴こえた気が、小太刀にはした。食べてきたものの残滓なのだろうか。
 ドラゴンの時は永かった。黒龍もまた永く、時の果てを行く。潰えた時の果てへ。
 これまでたくさんのドラゴンを海へと還した。
「貴方の旅はここでお仕舞い」
 するりと細胞片へ入った刃が黒龍を斬る。
 刀身が、火竜鍔が、焔の色を映し、細胞片はぼろぼろと炭化し朽ちていった。
「骸の海へ、還れ」
 消滅してく声無き黒龍細胞片へ、小太刀は導くように、送るように、そう告げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
細胞片達は
取り込む事が、食事なのでしょうか…
でも、それが、彼らの本能でも
此処が幻想世であっても…
大切な記憶の欠片達を、壊す訳にはいきません
…ごめんなさい

私は弓を手に浄化を籠めて森域水陣
まず自分の足元に一矢放ち、結界を張ってから
以降は射った矢を分散させて雨の様に
眷属と細胞片を巻き込む形で範囲攻撃
眷属なら、覆った細胞群から逃れられる様に

地に落ちた雨の矢は結界として
周囲の侵食阻止を含め、細胞片自体も浄化出来るよう

黒龍細胞片自体が、悪いとは思いません
彼らは、悪意なくそういう在り方、ですから
ただ、相容れないだけで
…ね、カナカナ
謝らなくて大丈夫、ずっとお疲れ様

残る細胞片には矢を放ち
…君達も、おやすみなさい



 大樹の前に鳥居が立った。
 来たるべき時が来たことを悟った泉宮・瑠碧は気配を探るように周囲を見回した。
 ぐりゅりゅりゅ、ぎゅぎゅ、と細胞体を擦り合わせて音をたてる黒龍細胞片たちが大地から湧き出るように出現する。
 リラの姿をあるべき精霊の姿へと戻し、精霊弓を手にした瑠碧が弦を摘めば水矢が生成された。浄化に満ちた森の気を織り込んだ水の矢は清廉な気を纏っている。
「全てを浄めし木々の息吹よ……我が存在を導に、緑の加護を此処へ」
 自身の足元へと矢を放てば、籠めた浄化の力が森域水陣となり、瑠碧と周囲、大樹と鳥居を護るように結界が張られた。
 深く、瑞々しい森の気配が場に満ちる。
 黒龍細胞片たちは何かを感じることもなく、ただひたすらに土や草、そして瑠碧を喰らおうと這い進んでいた。取り込まれた大地が爛れ、痕が残る。
「細胞片達は取り込むことが、食事なのでしょうか……」
 けれどもそれは命を繋がない。ゆるりと瑠碧は首を振った。
(「でも、それが、彼らの本能でも、此処が幻想世であっても……」)
 過去と現在を繋ぐ世界の刹那に、共に在った。対話した。
 勇者たちの声を知り、今さっきまで隣にいた勇者と音を奏でた。
 ここは彼らの記憶の中の故郷だ。
「――大切な記憶の欠片達を、壊す訳にはいきません」
 ……ごめんなさい、と瑠碧は黒龍細胞片たちに告げる。
 耳はなくとも、音は吸収する細胞片たちに。
 これ以上の侵食を防ごうと、瑠碧は水矢を射た。
 空に向けて放った一の矢、二の矢、三の矢が分散し雨のように黒龍細胞片へと降り注ぐ。
 矢が細胞群のひとつを貫けばそれは破裂し、一時的に取り込まれていた小動物が逃げ出していく。寸前ではあったが、まだ生きていたことに瑠碧は安堵した。
 外れ、地に落ちた矢はその場で結界を構築する。
 浄めし力が黒龍細胞片との接地点から大地を護り始める。
 ――ぐゆぐゆぐゆ、と蠢く黒龍細胞片に矢が突き刺さった部分、そして端々が浄化され始め、ぼろぼろと壊死していく。
 さわさわと大樹の葉が擦れ合い、楽を奏でた。――瑠碧は誰かに話しかけるように声を紡いだ。何故、と問われた気がしたのだ。
「黒龍細胞片自体が、悪いとは思いません。彼らは、悪意なくそういう在り方、ですから」
 ただ、相容れないだけで、と。
 本能赴くままに世界を喰らい尽くそうとする黒龍細胞片。お腹が空いたという欲はなく、ただそこにあるから取り込もうとする。ある意味、純粋な行動。
「私が還しますから――……ね、カナカナ。謝らなくて大丈夫、ずっとお疲れ様」
 ごめんね、と言った少女の声が耳に残っている。背負ったものはもう降ろしても大丈夫だからと瑠碧は思う。
 矢を番え、真っ直ぐに射放つ。
 残った細胞片を射貫いた水矢が浄化の力を発揮した。黒龍細胞片が骸の海に還されていく。
「……君達も、おやすみなさい」
 あなたたちに穏やかな眠りを。
 目を瞑り、オブリビオンに、勇者に、彼らの記憶の故郷である世界にそう祈る――その時閉ざされた視界の空気が一変し、瑠碧は、瑠碧が生きる時代に戻ったことを知るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】

僕はこの手合いはUDCで見慣れているから
カエルの卵もタピオカみたいでかわいいと思うネ
嫌そうなソヨゴの様子に悪戯っぽく笑いかけ
僕なら平気で飲めるかな

どうやら食事の時間と勘違いしているネ?
狩られるのはキミたちの方さ!

おしゃべりしつつ戦闘はいつも通りの呼吸で
基本はソヨゴのやや後方からアサルトライフルで援護
ソヨゴに向かう攻撃は前に出て触手で遮り守る

死体を操って攻撃されたら
アーメンと唱えつつ
触手で拘束しライフルで撃ち抜く

スカシバちゃんの吸血を見て
タピオカミルクティーのストローって太いよネ
と話を蒸し返す

え?キャビアの方がぶつぶつしてて気持ち悪くない?
まあでも色は似てるかもネ


城島・冬青
【橙翠】

げげー!気持ち悪っ!!
これが黒龍細胞片?
なんかカエルの卵のような形してますね…
ちょっ!
アヤネさん、変なこと言わないでくださいよ
タピオカドリンク飲めなくなっちゃうじゃないですかー

嬉しそうに動き回る姿にゾワゾウする
よし!片っ端からプチっと潰しますよ!!
刀を抜き
黒い塊に向かい衝撃波を放つ
えいえい!
うう、やはり数が多い…
となるとこちらも物量で攻めるしか!
カモン、スカシバちゃーん!
吸血蛾の群れで攻めます
正直アレを吸血するのは気がひけるのだけれど
このままどんどん肥大化されるのも困る
…ってアヤネさん
タピオカの話はもういいので!
せめてキャビアにしません?

おしゃべりをしつつも殲滅の手は緩めませんけどね



「げげー! 気持ち悪っ!! これが黒龍細胞片?!」
 索敵し、オブリビオンを見つけた城島・冬青がぞわぞわとした両腕を擦る。
 ぐりゅりゅ、ぎゅっぎゅっと細胞同士を擦り合わせて音を立てる蠢くもの――黒龍細胞片はぐねぐねと動き、冬青とアヤネ・ラグランジェに向かって這い寄ってくる。
 よくよく見れば、草地からぼこぼこと湧き出してくる個体もいた。
「な、な、なんか……カエルの卵のような形してますね……」
 うわあとドン引きながら冬青が呟けば、うん? とアヤネ。
「僕はこの手合いはUDCで見慣れているから。カエルの卵もタピオカみたいでかわいいと思うけどネ」
 嫌がる冬青の様子に、アヤネは悪戯めいた笑みを向けた。
「ちょっ! アヤネさん、変なこと言わないでくださいよ、タピオカドリンクが飲めなくなっちゃうじゃないですかぁぁ……!」
「え。僕は平気で飲めるかな」
「アヤネさんー」
 そんな二人の会話は活きの良い獲物に思えたのだろう。ぐねぐねと動く黒龍細胞片は、ぐねっぐねねっ! という動きになった。
「うっわーなんだか元気? になっちゃってません?」
「どうやら食事の時間と勘違いしているネ? 狩られるのはキミたちの方さ! 行こう、ソヨゴ!」
「はいっ! 片っ端からプチっと潰しますよ!!」
 花髑髏を抜刀した冬青はそのまま一閃を放ち、衝撃波を放つ。
 縦横に駆けた波状攻撃が黒龍細胞片を斬り刻んでいく。――なるべく近寄らずに仕留めたい冬青であった。
 鋭さを保つ衝撃波は振りは二回、仕切り直しで刀を戻す冬青の間を補うのはアヤネだ。
 中距離制圧用アサルトライフルの小気味よい射撃音がリズムに乗っているかのように繰り返された。
 そのとき細胞群の塊が弾きだされ、蠢き寄ってくる。ここへ来る前に取り込んだモノだろうか――。
「正体が何であれ倒すのみ――アーメン」
 彼我の距離があるうちに、と二重螺旋のウロボロスが行く手を阻み足止めをしたところでアヤネが眷属を撃ち抜く。
 その間にも「えいえいっ!」と黒龍細胞片たちが近寄ってこないように衝撃波を放ちまくっている冬青であったが、細胞の端々や新たに湧き出し低く近寄ってくる個体は上手く衝撃波から逃れている様子。
「ううっ、やはり数が多いですね。……となるとこちらも物量で攻めるしか!」
 改めて花髑髏を構えれば、刀の持つ魔力が発露され花弁を舞わせ始めた。
「カモン、スカシバちゃーん!」
 はらりはらりと落ちていく最中だった花弁は途端に弧を描き、舞い上がる。
 魔力の花弁は、透明な翅を懸命に動かし、ふわふわと可愛らしいオオスカシバへと変化していた。オオスカシバたちは黒龍細胞片たちに纏わりつき、鋭い吸収管を刺しこむ。
「正直アレを、可愛いスカシバちゃんたちに吸血させるのは気がひけるのだけれど」
 このままどんどん肥大化されるのも困るしなぁと冬青が呟けば、そういえば、とアヤネも呟いた。
「スカシバちゃんの吸血を見て思ったことがあるんだけど」
「?」
「タピオカミルクティーのストローって太いよネ」
「うう……、……ってアヤネさん、タピオカの話はもういいので! せめてキャビアにしません?」
 ぶんっ! と冬青が刀を振るえば衝撃波が黒龍細胞片を襲う。広範に分厚い攻撃は、思わず力が入った故だろう。
「え? キャビアの方がぶつぶつしてて気持ち悪くない? ――まあでも色は似てるかもネ」
 そう言って狙い定めたアヤネが敵を撃つ。
「キャビアの方がまだダメージ少ないんで!」
 ぶん! ぶん! と続けて刀を振る勢いは上書きするかのような思いが込められている。
 軽やかな応酬をしながらも攻撃の手を止めない二人。
 彼女たちの攻撃を受け、黒龍細胞片は徐々にその物量を減らしていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シリン・カービン
食物連鎖は真理です。
ですが、貪るだけで生命を繋がないあれは屠らなくてはならない。

鳥居の前に陣取り複製した精霊猟銃をずらりと並べ、
最終防衛線を引きます。
他の猟兵が見逃すとは思いませんが、
細胞一つたりとも鳥居の向こうへやってはいけない以上、
念には念を入れるべきでしょう。

監視に集中し戦場に注意を払います。
援護が必要な猟兵には複製猟銃を差し向け、
抜け出して来た黒龍細胞には集中砲火を浴びせます。
敵は鳥居を目指してくるので、
距離のあるうちに発見できれば攻撃は受けないでしょう。

万が一の時には身を盾にします。
勇者たちが紡いだ未来を壊させはしない。

会いたいですね、あの子たちにも。
(トーガとアイリイを思い浮かべ)


クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
鳥居の外には、私達の世界があります
思うようには……させません
オープン・セサミ。さぁ、ご飯の時間ですよ

持久戦へと持ち込みます
370体の蜘蛛に鳥居を囲ませて、
私も鳥居を背に戦います

黒龍細胞片一体につき、蜘蛛数体を嗾けます
やられる度に、何度でも、です
稼ぎ出した時間を使い、
私が後ろから【呪詛】等で遠距離攻撃を仕掛けます

私を直接襲った敵は『奴僕』に命じて
【重量攻撃】で叩き潰したり【吹き飛ばし】で距離を取らせたりします

この子達は淘汰の申し子
食べられて強くなった彼等が
食べてばかりだった貴方達に、今日、牙を剥くのです

蜘蛛が文字通り樟脳のように消滅するなら
《食物連鎖》も通用しない……と思います



 虫は当然、土も草も飲みこむ黒龍細胞片をシリン・カービンはじっと見つめた。
 観察は猟師の基本だ。
 獲物がどんな動きをし、何に惹かれ、伴って出来た隙を見極める。
 少しずつ移動し、鳥居の前にシリンは立った。
「食物連鎖は真理です。――ですが、貪るだけで生命を繋がないあれは屠らなくてはならない」
 食べるのは命繋ぐだめだ。次世代へと繋ぐためだ。
 けれども黒龍細胞片は本能赴くままに喰い荒らし、自身の糧として、そして新たな侵食域として肥大化している。
「大地も喰らう……それこそ世界は滅びてしまう」
 放っておけば増殖し、手に負えなくなるものだ。すべてがなくなった世界はきっと骸の海と化す。そんな気がした。
 シリンの声にこくりと頷いたのはクララ・リンドヴァル。
「鳥居の外には、私達の世界があります。思うようには……させません」
 魔女の腕がすると動く。上向けた片掌と、何かを捲るようなもう片方の指先。橙色の邪眼が、力を紡ぐ。
「オープン・セサミ。さぁ、ご飯の時間ですよ」
 世界の扉を開いて召喚したのは370体の蜘蛛たちだ。
 現れた黒龍細胞片は、奇妙なほどに存在感がある。
 となれば――。
「私は徹底的な防衛にあたります」
 周囲の気配を探りながら、ピクシー・シューターを発動させたシリンが複製した90もの精霊猟銃をずらりと縦横に並べ、最終防衛線を敷いた。
「敵は鳥居を目指してくるので、距離のあるうちに発見できれば攻撃は受けないでしょう」
「わかりました」
 クララが頷く。地面の隙間を補うのは蜘蛛たちだ。素早く動く彼らを数体場に残し、数多の蜘蛛のうち半分を存在感の強い黒龍細胞片へと嗾けた。広範に陣を敷く敵に向かって更に数を小分けした蜘蛛が向かっていく。
 ぐりゅりゅりゅりゅと身を擦り合わせて音を立てる細胞片に飲みこまれる蜘蛛、糸吐き、噛み付きと攻撃する蜘蛛たちが波状に仕掛けていく。
 数体というチームを組んで索敵に向かった蜘蛛があちこちで黒龍細胞片の飲みこまれ、視認したシリンがすかさず猟銃を放った。
 近く、地面から湧き出る敵を迎え撃つのは魔女の奴僕であった。
 クララに付き従う、不可視の何かが一本の足で細胞片を叩き潰し、もう一本が蹴れば敵は粉微塵と吹き飛ばされる。
「……この子達は淘汰の申し子」
 蜘蛛たちが黒龍細胞片の飲みこまれ、数が減っていく――そんななか、クララが呟いた。
 飛ばした呪詛が細胞奥深くへと入りこみ、取りこまれた蜘蛛たちに届く。
「食べられて強くなった彼等が、食べてばかりだった貴方達に、今日、牙を剥くのです」
 細胞片に内包されれば蜘蛛は消滅してしまったが、樟脳の如く爪痕を残していった。
 消滅寸前、細胞の一つを付与された蜘蛛たちの痕が黒龍細胞片を侵食する。
 にくにくしい細胞は変貌し、どろりと横たわるように。そして更にのたうち回るような動きで大地から排出されてくる黒龍細胞片たち。
「今です」
 クララの声に応じ、二人と鳥居を囲う敵群に精霊猟銃が一斉掃射を行った。
 排莢と射音が連弾し、その衝撃に跳ねた細胞片の残骸が黒靄のように虚空を舞う。
「勇者たちが紡いだ未来を壊させはしない――」
 残響が支配する幻想世にて、シリンの呟きがクララの耳に届いた。

 念には念を。
 蜘蛛たちを索敵に出し、二人もまた周囲の気配を探り、完全に黒龍細胞片たちを滅したことを確認する。
「この鳥居をくぐれば……、………、……何処に出るのでしょう?」
 思い描いた場所だろうか、とクララが鳥居を見上げて思案する。
「私は――会いたい子たちがいますね」
 シリンが言いながら思い浮かべたのは、短い期間ではあったが一緒に旅をした大蜥蜴や竜の姿だった。
「どちらかに会えると良いのですが」
 懐かしそうな眸で鳥居の向こうを見るシリンに、クララは頷く。
「会いに行きましょう。――それでは」
 良い旅を。
 そう言って二人は鳥居をくぐった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『楽しい遺跡観光』

POW   :    心ゆくまで中を探検する。

SPD   :    風景を楽しむ。

WIZ   :    歴史や伝説に思いを馳せる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 幻想世を抜け、再び自身が生きる時の中へと戻ってきた猟兵たち。
 そこは緑豊かな大地が広がるアックス&ウィザーズ。

 勇者を助けた生き物たちは元気だろうか? と見知った場所に出た猟兵。
 お疲れさま、と仲間と手を取り合う場所に出ることが叶った猟兵。
 伝承の地や、はたまた楽しそうな町へと出た猟兵もいるかもしれない。

 町で祭りがあればそれを楽しみ、またはちょっとした旅を楽しみ、または静かな遺跡で今巡る時を想う――過ごし方はそれぞれだ。

 ひと時の休息を、どうぞゆっくりと楽しんで。
箒星・仄々
各地を回り
その地に縁のある勇者さんを中心に
旅路や戦いの逸話や故郷や家族、友への思いなど
叙事詩として歌い奏でます

勇者と呼ばれる方々の一人の人間としての思い
祈りや願い、葛藤、後悔等を歌いましょう

一人ひとりの思いが
命の積み重ねが未来への道を作っていること
命の営みが綿々と繋がり今に至っていることを
改めてお伝えしたいです
それはきっと過去からの侵略に負けない力になりますよね


最初はヘンティルさんの故郷へ

歌の合間にはグルメも堪能
ハーブ&チーズのピザをいただきましょう♪

そしてランさんに跨り
空から次の目的地へ

この目でしっかりと見て感じた各地の風景や人々を
勇者さん達へお伝えできる機会が
いつの日かあるかもしれませんね



 勇者ヘンティルの故郷。
 晴れの日の今日は草原で豊穣の祭が開催されている。
 高原の特産品であるたくさんのチーズが振る舞われていて、牛や羊の肉はもちろん、窯焼きのパンが市場で売られている。
 その祭りの広場では歌や踊りで賑わっていて、箒星・仄々は臨時楽団の一人として演奏を提供していた。
 竪琴を爪弾いて添える彩りはふるさとの曲。
 止まぬ喝采の合間に挟まれる休憩時間には、仄々の持つ『お話』を聞きつけた子供たちが近寄ってきた。
「ねえ、ケットシーのおにいさん、勇者ってたくさんいたんだよね?」
「ヘンティル様の仲間のお話、してほしいなぁ」
「ええ、お安い御用ですよ。勇者と呼ばれる方々の一人の人間としての思い、祈りや願い、葛藤、後悔などを歌いましょう」
 まずは誰から行きましょうか、と仄々は考えながら弦を爪先で弾いた。
 ぽろん、ぽろん、とあたたかな音色はあたたかな歌声を思い出させるように。
 光る鯨が歌ってくれた海辺の恋――聖女と勇者の物語。
「それでは、まずは聖女と、のちに勇者となった精霊のお話を。彼らは故郷が家族そのものでした」
 故郷の人たち、動物たち、大地は二人の家族のような存在だった。
 大切なたくさんの『家族』を護るために旅立った二人の話だ。
「勇者ヘンティルさんもまた、二人と同じ旅路を共にしました」
 けれども聖女は船路の途中に倒れてしまい、看取ったヘンティルは己の無力さを嘆いた。
「悲しみにくれるヘンティルさんと精霊、仲間の勇者を励まし元気付けてくれたのは鯨たちの歌でした」
 仄々の歌う叙事詩は長い。一人の生が籠められた歌には、生きることの大切さが宿っている。
(「一人ひとりの思いが、命の積み重ねが、未来への道を作っていること」)
 今の平穏へと至るまでにたくさんの人たちの歩みがあった。
(「命の営みが綿々と繋がり今に至っていることを」)
 それを改めて、人々に伝えるのは今なお想いを受け取り続けている仄々の役目だ。
 心をこめて歌い上げ、それが誰かの心に響けば、その誰かは誰かの希望となるだろう。ちょっとした勇気が誰かの救いとなるだろう。
 ヘンティルが看取った聖女と、聖女に背を押された精霊の愛は、皆の未来となったのだから。
「聖女さま、かわいそう」
 一人の子供が言い、仄々はそうですねと呟いた。
「家族を護るために聖女は勇者を送りだし、聖女と別れた勇者さんたちは戦い続けました。その家族というのは皆さんのことなんですよ。あなたのおとうさんや、おかあさん、お友だち、お世話をしている牛や山羊、みんなが家族なんです」
 悲しみを抱いてもなお残る愛。
 あなたもかぞくをだいじにしてあげてくださいね。
 仄々は子供たちにそう言った。
(「勇者たちの想い。それは、きっと過去からの侵略に負けない力になるはずですから――」)

 歌の合間には、焼きたてのパンにとろとろのチーズ。
 ハーブ&チーズのピザ。ハチミツを垂らしたミルクに舌鼓を打ち、仄々は豊穣祭を存分に楽しむ。
 夜は星空の下で町の者たちに群竜大陸での戦いを語り、鎮魂の曲を奏でた。
 皆がヘンティルが作った薬のレシピをほめたたえる。昔からある魔除けの香を焚き火にくべて、勇者たちの話をしてその余薫を楽しんだ。
 就寝は遅く――朝がくれば、仄々は目旗魚のランさんに跨って空へと上がった。
 朝日を横に、次の目的地へと向かうのだ。
 山岳から覗くおひさまは、高原の色を染めていき、夜の色を光でさらっていく。
「明けない夜はなし、ですね。……この目でしっかりと見て感じた各地の風景や人々を、勇者さんたちへお伝えできる機会がいつの日かあるかもしれませんね」
 これから行く先々の人々へ勇者の想いを伝えるように。
 これから出会う人々の想いを勇者に伝えられる日がくるかもしれない。
「楽しみですねぇ、ランさん♪」
 明るくそう言った仄々は微笑みを浮かべ、夢見る未来を目指して空をいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

鳥居をくぐったら子供達が待っていた。やれやれ、アタシが最後か。ここは・・・群竜大陸?勇者達が戦って、駆け抜けた地だね。勇者達の足跡を辿って、歩いてみるか。

まあ、まだ危険が多い地だから用心して進む必要はあるが、家族3人がいれば大丈夫。歩き回ってみれば、彼の名も無き勇者達の墓標が多く建てられている地に足を踏み入れる。まあ、猟書家とか物騒な奴がうろついてるが、アンタ達の悲願だった帝竜は討ち果たした。後はアタシ達現在に生きて戦う者達に任せてくれ。墓前に誓うよ。勇者達が愛したこの世界はかならず護り抜くよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

鳥居を潜ったら瞬兄さんが待ってました。流石瞬兄さん、範囲殲滅はお手の物ですものね。母さんは?あ、来た来た。全員無事ですねっ!!ここは群竜大陸?勇者さん達の足跡が残る地ならここですよね。

まあ、群竜大陸ですから気を付けて進む必要がありますが、三人揃った今なら大丈夫!!暫く歩き回ったら名も無き勇者達の墓標が多く建てられた地が。勇者さん達が悲願であった帝竜は討ち果たしました!!なんか侵略者が来てますが、勇者さん達が託してくれた世界を護る使命、必ず果たしますっ。天から見守っててくださいね!!誓いを新たにして、黙祷。


神城・瞬
【真宮家】で参加

鳥居を潜ったら見覚えのある地が目の前に広がります。おそらく、群竜大陸ですね。勇者に縁がある土地といったらここですよね。後から鳥居から出て来た母さんと奏の無事な姿。やはり家族だから同じ場所に出ますよね。

余計な侵入者がいますので、群竜大陸は気を付けて進まねばなりませんが、三人揃えば安心感が違いますね。しばらく歩くと無き勇者達の墓標が多く建てられた土地に。墓標に眠る勇者達に帝竜を討伐したことを報告し、これからも勇者達の愛した世界を護ることを誓い、魂晶石を備えます。さあ、行きましょうか。これからこの世界を護る戦いが待ってます。



「ここは……」
 鳥居を潜りぬけた先――広がる光景に、神城・瞬は周囲を見回した。
「見覚えのある場所ですね……群竜大陸の皆殺しの平野でしょうか」
 後ろには魂喰らいの森が広がっている。
「あっ、瞬兄さんだ。瞬兄さーん!」
「奏」
 呼ばれて振り返ってみれば、少し向こうから真宮・奏が駆けてくる。茶色の髪を揺らして、瞬の前で止まった奏は上がった息を整えた。
「瞬兄さん、無事合流できて良かったです」
「奏、怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫ですよ」
 場所は違えど義兄と同じく黒龍細胞片と戦ったであろう義妹は、瞬に無事を証明してみせるかのようにその場でくるんと回った。
「ところで、母さんは? ――あ、噂? をすればですね、来た来た」
 母さーん! と奏が手を振った先に、大きく振り返す真宮・響の姿がそこにあった。駆け寄ってきた奏とは違い、どこかゆったりとした動きで二人の元へとやってくる。
「――やれやれ、アタシが最後か。ここは……群竜大陸だね?」
「そうですね、皆殺しの平野にあたる場所かと」
 応えながら森を指差し、更に逆側を向く瞬。響は頷いた。
「勇者たちが戦って、駆け抜けた地だね。アタシたちも勇者達の足跡を辿って、歩いてみるか」
 瞬と響が向いた先には勇者の墓標がある。
 行きましょう、と奏が軽やかな一歩を踏み出した。

 群竜大陸には今だたくさんのモンスターがいて、時々猟兵たちが撃破しに来ている。
 まだまだ危険が多い場所ではあったが、家族が揃っていれば怖いものなどない。
 十分に警戒をして進めば、かつて群竜大陸に渡った数千人の「勇者」たちが生前のヴァルギリオスと相討ちになり全滅した場所――勇者の残留思念が漂う大きな竪穴、勇者の墓標に辿り着く。
 そこは、たくさんの墓標が建てられていた。
 大昔に生き残った勇者たちが大陸を去る前に建てたもの、訪れた猟兵たちが戦いの後に建てたもの。名も無き勇者たちの墓標。
 三人は黙祷を捧げた。
 群竜大陸に漂う異様な気配は僅かに薄らいでいて、ここに眠る勇者たちが少しでも安らかにあることを願う。
「勇者さんたちの悲願であった帝竜は討ち果たしました!」
 黙祷ののち、勇者へと報告する奏。
 彼らの決意が叶ったことを伝えたかった。
「本当は、もっともっとたくさんのことを勇者さんたちとお話したかったです」
 奏は少し寂しそうに微笑み言う。そんな娘の肩へ、手を添える響。
「まあ、今は猟書家とかいう物騒な奴らがうろついてるが、アンタ達の悲願だった帝竜は討ち果たした。――後はアタシたち、現在に生きて戦う者たちに任せてくれ」
 しっかりとした響の声に同調し頷く瞬。
「これからも勇者たちの愛した世界を護ることを、誓いましょう」
 言霊として声をこの地に残す。
 高純度の魔力結晶体である転晶石をそなえて。
 数多の墓標は、ひとつひとつが一人の生を編んだものだ。至った未来である『現在』は彼らが護り、愛したもの。
 一人の戦いが終わり、新たな戦いを一人が歩む。勇者から猟兵へと繋がれた時。
「さあ、行きましょうか」
 これからこの世界を護る戦いが待ってます――そう瞬が言えば、響と奏は力強く頷いた。
(「勇者さん達が託してくれた世界を護る使命、必ず果たしますっ」)
 天から見守っててくださいね!! 奏は凛々しく想い新たに誓って。
(「この世界はかならず護り抜くよ」)
 響は誓いを心に刻む。

 明けない夜はないという。
 地平に差した光を、今だ夜抱く時間へと届けるのは真宮家の使命となるだろう。
 暗き過去を切り払い、世界を光で満たす――三人で力を合わせて、満たし続けていくのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
この子達が倫太郎と触れ合っていた羽耳兎なのですね
では私も点呼のお手伝いをしましょう

となれば、うちの新しく来た子達の出番ですね
ましゅまろ、羽耳兎だそうです
種族は違いますが仲間と思うかもしれません
本来の騎乗できる大きさになれば驚かれてしまいそうですが
二羽とも友好的ですから、すぐに仲良くなりそうです

……それぞれの兎が戯れている様子、癒されますね
やはり動物と触れ合うのは良いものです
倫太郎、呼んでくださりありがとうございます

倫太郎は何か考えているようではありますが
彼が話さないのならば踏み込みません
貴方が最善だと思う選択は私にとってもそうなのかもしれない
そう思えるのは、貴方を信じているからこそ


篝・倫太郎
【華禱】
うん、さっきも戯れてたけどな
全員無事だったな?なぁんて点呼取りたい気分

合流した夜彦にそう笑えば
羽耳兎と戯れる兎型の幻獣達の姿に微笑んでいて

二羽共すっかり馴染んでるな
羽根があるから仲間だと思われてるんだろか?
まぁ、羽根の位置は違うし……
そもそも、生粋の兎でもねぇけど

そういえば……最初に羽耳兎と戯れた時に思ったのが
『夜彦も誘えば良かった』
だったから目的果たせて良かった
どういたしまして?

っと、ピエリスの少しばかり病んでる部分に共感したのは内緒にしとこ

ん、ありがとな……前にも話したろ?
あんたを閉じ込めて隠したいって思う時があるって
でも、こうして一緒に色々なものを見たいから
思うだけにってな?



 白や桃色、水色や赤といった虹のような彩り広がる花畑に、藍が風に揺れていた。凛然とした様でありながら、たおやかな時を残す。
「夜彦!」
 緑溢れるアックス&ウィザーズの世界に立つ月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)を見つけ、呼んだ篝・倫太郎は同時に駆けた。
「倫太郎、おかえりなさい」
「ただいま」
 当然のように迎えてくれた彼に、嬉しくなった倫太郎が笑み応える。
「おっ、お前らも無事かー?」
 そんな二人の周囲に集まってくる羽耳兎たちに声を掛ける倫太郎。耳が羽のようになっていて高く飛ぶようにいく彼らを夜彦は不思議そうに眺めていた。
「この子達が倫太郎と触れ合っていた羽耳兎なのですね」
「そーそー、もふもふしてるぜ。全員いるか点呼でも取りたい気分だな?」
 な、と羽耳兎に言う倫太郎は無邪気なものだ。しゃがんで羽耳兎を撫でる。
「では私も点呼のお手伝いをしましょうか」
 そう言ってくれた夜彦を見上げれば、彼はラビットグリフォンへと微笑みかけているところであった。
「ましゅまろ、羽耳兎だそうです」
 夜彦の手からぴょんと跳ねて花畑を駆けていく白兎。
 それを見た倫太郎も黒兎を野に放った。
「そうだそうだ、しょこら~、お前も行って来い」
 のんびり屋な白いラビットグリフォンはましゅまろ。
 好奇心旺盛で活発な黒いラビットグリフォンはしょこら。
 兎の外見を持つ二羽は、戦闘時には翼が生え大きくなる幻獣たちだ。けれど今はのびのびと花畑を駆け、羽耳兎たちの中へ。
 高く飛ぶ彼らを見て、二羽も翼を生やし空を翔けのぼっていく。
 人が騎乗できるくらいに大きくなったましゅまろとしょこらであったが、姿形が似ているせいか羽耳兎たちは気にしていないようだ。寧ろ大きな体へと突っこんではバウンドするという遊びを始めている。
「二羽共すっかり馴染んでるな」
 羽根があるから仲間だと思われてるんだろか? と倫太郎が遊ぶ彼らを眺め呟いた。
「や、まぁ、羽根の位置は違うし……そもそも、生粋の兎でもねぇけど……羽耳兎も兎って言われれば違うような……兎って……なんだっけ?」
 深く考えていくとゲシュタルト崩壊的なものが襲ってくる。
「……それぞれの兎が戯れている様子、癒されますね」
 にこにこと微笑みながら夜彦が言った。長い耳を垂らした羽耳兎を抱っこしてもふもふしている。
 グリフォンたちに突っこんではバウンドする羽耳兎たちであったが、そのうちましゅまろもしょこらも彼らの突進に合わせてぐるんと一回転をし始めた。弾き飛ばしては戻ってくる彼らと遊んでいる。
「ましゅまろもしょこらも楽しそうですね。――やはり動物と触れ合うのは良いものです。倫太郎、呼んでくださり、ありがとうございます」
「どういたしまして? 以前こいつらと遊んだ時に、夜彦も誘えば良かった、って思ったし? それで俺としては目的も果たせたし――うん、まーめでたしめでたしってコトで」
 少しばかり饒舌に、何かを隠すように倫太郎が答えた。
(「っと、ピエリスの少しばかり病んでる部分に共感したのは内緒にしとこ」)
 共に過ごす時間と、共に生きる時間は比例しているわけではない。だからこそ相手の生きる『時間』に踏みこみたいと願ってしまう。
(「けどなぁ、夜彦がどう思うかっつーと……」)
 声にはしないが、つい彼の方を見る倫太郎。
 すると夜彦の微笑みが返ってきて、そこには彼なりの優しさを感じた。
 踏み込まない優しさだ。
 信頼を重ねての今がある。
 重ねたからこそ生じた憂いは、夜彦が触れれば凪となるものなのかもしれない。
「ん、ありがとな……」
 優しさに礼を返し、ほんの少しの躊躇いののち、倫太郎は言葉を続けた。
「――あんたを閉じ込めて隠したいって思う時があるって、前にも話したことがあったよな」
 でも。と、映る世界に意識を向けて。
「こうして一緒に色々なものを見たいから――たくさんのことを一緒に知りたいから――」
 思うだけに留めておく。
 最後、倫太郎は呟くように。
 匣庭で想いを降り積もらせるよりも、広い世界で、陽の当たる場所で想いを咲かせる方がより良い気がした。この花畑のように。
 幸せが花開き続けるように。
 夜彦は凪の声でそんな彼を呼んだ。
「貴方が、最善だと思う選択は私にとってもそうなのかもしれません。そう思えるのは、倫太郎、貴方を信じているからこそなのですよ」
 するすると紡がれる声には迷いがない。
 倫太郎がふと見れば、夜彦は穏やかな笑みを湛えている。彼のために応えるとするのなら――やはり笑顔だろう。

 二人で共に触れたい世界は数多に。
 また一つ、花が咲いた気がしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノネ・ェメ
連携、アドリブ歓迎


 リアルエイヤ達のもふもふも健在、、じゃなくって、ちゃんと元気そーか竜の巣を耳で把握して、と。距離はだいぶあるけど、問題なく視えるかと。

 あの時以来になる森は、この目にも見ておかないと。
 たまたまお花屋さんや妖精さんとのご縁にも恵まれてて、草花やその心への関心も高いつもり、だけど。さすがに植物との対話はわたしが話しかけてるつもり、どまりかな。ウィニアさんのレベルには遠く険しー?

 ううん。さっきまでと違う。
 風の色み。樹々の揺れ……。
 今はまだ一方通行同士かもしれないけど。そーだと捉えるなら尚更、どっちかが止めちゃったらそこで試合終了だしね。

 ――聴いててね、歌い続けるから――



(「エイヤたちは元気かな」)
 アックス&ウィザーズの世界、トライアングルの地の中心部にある森の町に降り立ったノネ・ェメは、山岳の方を向いた。
 以前訪れた広大な森は、あの時に焼けてしまって空やその下にある山の連なりがよく見える。
 事件の後でノネの癒しの音楽や、仲間の猟兵たちの癒しの力が与えられた森の回復は速く、焼けた葉たちは今、青々とした新しい葉を揺らしていた。
 そのことにほっとして。
 ノネは山の町へと意識を向ける。
 あの時一緒に翔けた風を捉えて、風を叩く竜の皮膜の音を捉えて、ノネが一度訪れ過ごした土地の音が世界を構築しノネを竜の巣へと導いた。
(「エイヤのもふもふ……じゃなくって、ちゃんと元気そーかどーか――、――ぁ」)
 エイヤはクルル、クルルと歌っていた。
 竜の本能が、同じ青の者がいることを悟ったのだろう。
 尻尾がぱたんぱたんと忙しなく動く音。
「よかった。元気そう」
 ふふふ、と微笑んだノネは軽やかにステップしながら森の中を行く。
 熱されて変色した切り株から新たな木の芽が出ている。地面はふかふかな草が生えていて、まだ柔らかい。あの時、怯えて逃げ惑っていたウサギや小鳥、リスなどの小動物たちはのびのびとした様子で森中を駆けていた。
 穏やかな陽射しの波長に、自身の身から奏でる音を合わせて乗せて。

 こんにちは、ひさしぶり、もう『からだ』は大丈夫?
 いたいのならゆっくりを『しんこきゅう』をして。
 ほら、土のなかの水の音がきこえる?

 ノネは植物たちに話しかけるように。
(「たまたまお花屋さんや妖精さんとのご縁にも恵まれてて、草花やその心への関心も高いつもり、だけど」)
 育てる植物はノネによく共感してくれる。
 仲間とは楽しい音を奏で響き合うようにお喋りをする。
「でも。さすがに植物との対話はわたしが話しかけてるつもり、どまりかな」
 ウィニアさんのレベルには遠く険しーかも?? とノネ。

 ―― óʊp(ə)n híɚ ――

 ノネが『尋ね』ればしゃらしゃらと葉の擦れ合う音がした。
 その時、遠く、空に青い鱗の竜が飛んでいるのが見えた。ノネが手を振れば応じるようにゆるりと竜は旋回する。
 ふわりとした風が大地へと落とされて、新たな風が草地を抜けていく。
 綿々とした命の繋がりを、その時ノネは感じた。
(「さっきまでと違う――」)
「風の色み。樹々の揺れ……」
 落ちてくる陽の色。
 それは弾き出した音が空に溶けるとともに変化していく、僅かな捉え。
「うん」
 ノネの青髪を揺らした風が、森へと入っていく。
「今はまだ一方通行同士かもしれないけど。そーだと捉えるなら尚更、どっちかが止めちゃったらそこで試合終了だよね」
 しっとりとした森の音色。
 軽やかに弾む動物たちの奏楽。
 異種の歩み寄りに慣れたこの地は、数多の音色を刹那に同調させる。
 音聴を奏でるうちに、ノネの音の世界が明瞭なものへと変化していった。
(「――聴いててね、歌い続けるから――」)
 いのちといのちをつなぐ、音を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
遺跡群か
場所は教えてもらったけどどんな場所なんだろうネ?

お昼ご飯のチョイスはソヨゴにお任せ
ここに来た途端チーズって言ってたからきっとそれ

大蜥蜴を借りていざ出発
ってソヨゴ
その掛け声は大昔のアメリカのドラマと記憶してるけど
よく知ってるネ?
くすりと笑いつつ
じゃあ僕の蜥蜴はゴールドと呼ぼうかな

遠目に分からないけど猛禽類だネ
きっと上昇気流があるんだろう

鹿の親子は刺激しないようにそっと見守ろう

見晴らしの良い場所で風景を眺めながらお昼ご飯を食べる
ソヨゴの作ってくれるものはどれも美味しい

その後は花畑に行く
僕は座って花冠を編むよ
ソヨゴの頭に乗せる
さあ姫よ
冠を戴く時だ
なんて演技しながら

ふふ
ありがとうソヨゴ


城島・冬青
【橙翠】

ヘンティルさんが教えてくれた
高原の中にある遺跡群にいきましょう
ピクニックですよ!ピクニック
近くの町で食べ物を買って
移動の大蜥蜴を借ります
はいよー
シルバー!
まぁこの子の名前はシルバーではないんですが…つい
あはは!金と銀ですね

見て下さい
大きな鳥が飛んでます
アレはなんて種類なんでしょうね?
鹿の親子がこっちを見てます
小鹿がかわいい
目に写る景色はどれも美しく眩しい

到着した遺跡でお昼ご飯
買った食材で簡単なサンドイッチを作ります
パンを切ってチーズとハムを挟んだ簡単なものですが
あ、野菜も忘れずに食べましょうね

ふふふ、アヤネさん様になってますね
王子様みたいです
では私からは花で編んだブローチを贈りますね



「食材も買いましたし♪ 次は移動の大蜥蜴ですねっ」
 勇者の余薫が伝わる町にて、折角だからヘンティルさんが推した遺跡群へ行ってみましょうと言った城島・冬青にアヤネ・ラグランジェはもちろんと頷く。
 幻想世の過去から少し移動していた大蜥蜴の牧場らしき場所は、商隊や旅人で賑わっていた。
 前回訪れた時より拡張されたようだ。
「ああ、お嬢さん方は――乗り方は覚えているかね?」
「うん、大丈夫」
 貸出の案内人は、二人のことを覚えているようだった。鞍の乗った大蜥蜴を連れてきて、手綱を受け取りながらアヤネは頷く。
「勇者さんの場所を探すために移動したり、事件が解決してからも大蜥蜴を返しに移動したり、子供たちに教えたり結構乗ってますよね~」
 町から出て、慣れたように騎乗する冬青。
 太腿に僅かに力を入れれば、たしたしと大蜥蜴が進み始める。
「はいよー、シルバー!」
「キュ!」
 冬青の掛け声にノって大蜥蜴も鳴く。
「ってソヨゴ、それ、前にも言ってたネ? その掛け声は大昔のアメリカのドラマと記憶してるけど……」
 よく知ってるネ? と流すような視線を寄越したアヤネがくすりと笑う。
「まぁこの子の名前はシルバーではないんですが……つい」
 照れたように笑った冬青に、じゃあ、とアヤネは言葉を続ける。
「僕の蜥蜴はゴールドと呼ぼうかな」
「あはは! 金と銀ですね」
「キュッ」
「キュウ」
 いいよ、という風に大蜥蜴たちが泣く。
 風吹く高原をたしたしたしと大蜥蜴が駆けて、二人は空を目指すように緩やかな勾配を進んでいった。
 空は青く、遮るもののない陽射しが燦々と降り注ぎ、青々とした草原が吹きぬける風に波打てば、艶やかな草葉が光を反射した。
「アヤネさん、見てください。大きな鳥が飛んでます」
 高らかな笛を吹くような声が空を渡り、冬青が大空の鳥を指差した。緩やかな旋回。
「アレはなんていう種類なんでしょうね?」
「遠目に分からないけど猛禽類だネ。きっと上昇気流があるんだろう」
 風を捉えて翼を広げて、大きな鳥が行く。
 へえ、と感心の声を上げて冬青はじっと鳥を見つめている。
「凄く気持ち良さそうに飛んでいますねぇ」
 大蜥蜴の動きにゆるりと身を預けて、岩場を見つければそわそわとした彼らを向かわせて、遊ばせるかのように進む。
 弧を描き、軽やかな跳躍でやってくる鹿たち。大きな鹿についていく小鹿が、ふと『旅人』に気付いて止まる。
「小鹿がこっちを見てますね。あ、親も気付いたかな?」
 小鹿の様子に気付いた親鹿が、やはりこっちを見てくる。
「刺激しないようにそっと見守ろう」
「はい」
 いきなり動いて驚かせてもいけない。大蜥蜴を止めてじっとするアヤネに倣う冬青。
「かわいいですね、小鹿」
「そうだね」
 ほわわんとした冬青の声は陽だまりのようで、アヤネもついついという風に緩やかな頷きを返した。

「わ、石の中に緑の……鉱石?」
 辿り着いた遺跡群は、石の連なる遺跡でその中には緑の輝石。
「ソヨゴ! ここだと見晴らしが良さそうだ」
 食事にうってつけな場所を探し当てたアヤネが石を見ていた彼女を呼び、冬青は早速準備に取り掛かる。
 大きな円形のパンをナイフで切って、チーズとハムを挟んだサンドイッチを作る。
「簡単なものですけど」
「ううん、ソヨゴの作ってくれるものはどれも美味しいよ」
「そ、そうですか? あっ、野菜も忘れずに食べましょうね」
 当然! というようにアヤネが言えば、照れたのか冬青はちょっと慌てたように野菜も挟んで。
 濃いチーズと、やや甘めに味付けされたハム、そしてサッパリシャキッとした野菜のサンドイッチ。買った時は焼きたてだったパンは冷めてしまっていたが、しっとりとやわらかい。
 お腹も満ちる幸せ時間を過ごし、二人は遺跡群の中にある花畑へと向かった。
「進めば進むほど、輝石の緑部分が多くなっていきますね」
「うん、ここはどういった遺跡なんだろうね?」
 周囲を見回しながら進めば、花畑。咲いている花は真白のものが多く群生しているようだ。
 故に、赤やピンク、水色などの花々は純白を敷くような光景に。
「はー、のんびり~。アヤネさん、何して遊びます?」
「そうだなぁ……」
 座って花々をつついて、その滑らかさを堪能していたアヤネは、少し考えたのちに花を摘み始めた。
(「何か作るのかな? それじゃあ私も、っと」)
 出来上がるまでは秘密が暗黙の了解だ。静かに過ごしていると、風に揺れるシャラシャラとした花の音が聞こえた。
「出来た」
 そう言ってアヤネが立ち上がる。
 冬青が振り向けば、花冠を添え持つアヤネの姿。
「さあ姫よ。冠を戴く時だ」
 清楚な花冠から垂らしたつるし花がヴェールのように揺れた。
 僅かに頭を下に傾けて、花冠を戴く冬青。
「――ふふふ、アヤネさん、様になってますね。王子様みたいです」
 顔を上げて微笑む冬青は、似合ってますか? と、ふんわり問いかけながら立ち上がった。
「では私からは花で編んだブローチを贈りますね」
 大輪の花をメインに茎を編んで小花を散らしたブローチをアヤネの胸へと飾る冬青。
「ふふ、ありがとうソヨゴ」
 素敵なブローチだね。
 そっと指を添えてアヤネが言う。
「――さて、それじゃあ座ろう、姫。語らう時には限りがある」
「はい、王子、様」
 にこっと微笑んだアヤネに冬青は応えるのだが、頬は熱くなったり、胸がそわそわしたり――やがて耐え切れなくなって二人ともくすくすと、ついつい笑い始めてしまうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と!

わーい、戻ってきたね。
おいちゃん一緒じゃないケド、仕方ないね!
おいらたちが代わりに楽しんであげようー♪(駆け出す)

こないだのおっちゃんたち、いるかな?
へへへ、おいらね、強くなったよ。背も伸びたし!(ちょっと背伸びして)
今度、一緒に冒険行こうー♪

アンちゃんと合流ー♪
なになに、絵本?
あ、神様とおいちゃんのお話だ!

うんうん、似てる。ずーっと、真面目な顔してたし。
でも、最後には笑ってたよね。
じーちゃんみたいな顔で、町を見てたよね!

トカゲもう一匹買って、アンちゃんのお守り袋に入れて。
串焼き持って、広場へ。

ジャスパー色の星が、ナール様の目。
ヤトゥ、帰って来られてよかったね!


木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

出てきた場所は…、毒の町・ディリティリオ
まつりん、ヤトゥの町

この間みたいに夜店出てるかな?
根菜ごろごろのスープ、豪快なお料理
串肉に、毒料理定食の紫芋のポテトサラダ
絵本を手に取り、ぺらり捲れば…、これがナール様。そして、ヤトゥ
知ってから読む物語はまた少し違う趣き
この感情に名前は付けられない
嬉しくて楽しくて、切ない

まつりん、こっちにとかげのアクセサリー
ふふ、かわいいね

広場にあの時の子供達、いるかな
知った顔がいればこんにちはとご挨拶
夜になれば星のとかげもやって来る

ヤトゥの守りたかった場所はここにある
足りなかったものは、ヤトゥの魂
でももう大丈夫

おかえりなさい



 黒龍細胞片たちを倒し、鳥居をくぐりぬけた木元家の双子は見覚えのある町、ディリティリオへと出た。
 空は刻一刻と夜が迫る夕暮れに染まっていて、市は前回訪れた時よりも小規模であったが開かれているようだ。ここは毒の町。古来、毒薬と癒薬と共に歩んできた歴史は闇によく馴染む。来訪する客は、良かれ悪かれと絶えないのだろう。
 朱に染まったような世界を煌々とした篝火が照らし、幕飾りのガラス工芸がきらきらと光を反射する。
 今見れば判る。火蜥蜴の神を盛大に祀る町なのだ。
「まつりん、ヤトゥの町」
「わーい、戻ってきたね。おいちゃん一緒じゃないケド、仕方ないね!」
 木元・杏の言葉に、にぱっと木元・祭莉は笑顔を返して。
 双子の妹の手を取って町の中を軽やかに歩む。
「おいらたちが代わりに楽しんであげようー♪」
「うん」
 杏が頷けば、阿吽の呼吸で二人は同時に駆け出した。

「あっ、冒険者のおっちゃんだー♪」
 知った顔を見つけて、祭莉が走りながら「おーい」と手を振った。丁度、食堂兼酒場へと入って行こうとする冒険者が数人。
「あっ、いつかのボウズじゃねぇか」
「覚えてたんだ!?」
 そりゃあなぁ、と冒険者のおじさんがぐわっと目を吊り上げた。「?」と祭莉は不思議そうな顔。
「手合わせで組んだ賭け勝負で、ダークホース化したボウズのこと忘れるわけがない。あン時はすっからかんに財布がハゲちまったじゃねぇか」
 子供である祭莉に賭けたのは懐に余裕のあった少人数のみで、手合わせの数本勝負が終わった後は賭博に参加した大人が死屍累々となっていた。
「へへへ、もっかい手合わせする? おいらね、強くなったよ。背も伸びたし!」
 尻尾をぱたんぱたんと振り、ちょっと背伸びをしながら祭莉が言う。
 冒険者のおじさんも髪がちょっと薄くなっているという成長をしていたが、財布がハゲたと聞いた心優しき祭莉は言わないでおいた。
「で、財布のハゲは治ったの?」
「――意外とこの町、依頼がわんさかあるんでな」
 ほら、と冒険者が指差した先には、採取依頼やモンスターの討伐依頼、暗号めいたぱっと見では分からない依頼などが出された掲示板。
「いろいろあるんだね。今度、一緒に冒険に行こうよー♪」
 人懐っこい祭莉に「いいぜ」と冒険者たちは快諾する。
「ボウズも入れれば、大討伐もこなせそうな気がするな」

 杏が夜店を赴くままに歩み進めば、外国の客向けに開かれた屋台の本屋さん。
 石板のあった店とはまた違う雰囲気だ。
 革表紙の施されてない中身そのままの綴本や、巻物、独特の文字に惹かれて杏は一冊の本を手に取った。

 戦いの後のお楽しみご飯のじかんも忘れずに。
 毒料理定食のウリである紫芋のポテトサラダはとても毒々しい色をしていたが、ほんのりちょっと甘い。
 ジューシーなタレたっぷりの串肉とよく合っているし、ポテトに味が染みこんでいくのもまた良し。
 口の中いっぱいに広がった脂を、口に含んだ根菜ゴロゴロのスープがさらっていく。
 ハーブをほんのりと使っているのだろう、爽やかなあとくち。
「おいしい」
 ほわほわとした笑みを浮かべて再度串肉へと手を伸ばす杏。
 たくさんのご飯を買って、野外テーブルに着いて食べていると祭莉が「アンちゃんいたー」と駆けてくる。
「えへへ、冒険者のおっちゃんがいたよー。って、おいしそーだねそれ」
「ん、おいしい。おじさんたちに会えてよかったね、まつりん。はい、あーん」
 色んな話題を間に挟みながら、杏は手にした串肉を祭莉の口に運んでやり、そのまま手渡した。

 ぱちぱちと鳴く篝火を見て夜市を見て回る二人。
 すっかり空は黒に染まっていて、広場には遊具を片付ける子供たち。
「こんばんは」
「こんばんはー? あっ、おねえちゃん?」
 見覚えがあるような、という少女に「ひさしぶり」と杏は声を掛けた。
「あの時は星座の話をありがとう」
「おねえちゃん、覚えたんだ!」
「ん、覚えてる。ほら」
 すいっと夜空を指して星のトカゲをなぞっていく杏。
「ジャスパー色の星が、ナール様の目!」
 おいらも覚えてるよ、と祭莉。
 空のトカゲをなぞった杏の指先は胸に提げたお守り袋へ。中には祭莉が新しく買ってくれた、夜空色のリアルトカゲな石。
「お話を知って、ちゃんと覚えていく」
 これ、と杏は先程購入した絵本を町の子供たちに見せた。「なになに?」と、祭莉ものぞき込んでくる。
「あ、神様とおいちゃんのお話だ!」
 兄の言葉に頷く杏。
 鉱石を砕いて色付けされた絵本は、トカゲのイラスト。ぺらりと捲れば――夜空色のトカゲの瞳は赤く、傍には一人の人物。
「これがナール様。そして……ヤトゥ」
 触れれば躍動を感じるような、ごつごつとしたインク。
『ナールは、ヤトゥの夢へと訪れました。
 そしてお願いをするのです。
 ヤトゥ、どうか、僕たちのおうちをつくってください。と』
 赤い実を手にしたヤトゥの絵がそこにはあった。
「アンちゃん、ここ、神様の目なくなってるね」
 そう言って絵を差した祭莉の手には赤碧玉の指輪。
 杏が空を見上げれば落とし与えたはずの赤は空で輝いている。
「まつりん。絵本のヤトゥ、似てるね」
「うんうん、似てる。ずーっと、真面目な顔してたし。でも、最後には笑ってたよね」
 絵本の中のヤトゥに笑顔はない。けれど、
「じーちゃんみたいな顔で、町を見てたよね!」
 兄の声に、勇者の顔を思い浮かべながら杏は頷いた。
 双子が話をしていると子供たちが興味津々という顔をし始める。
「ヤトゥ様、帰ってきたの?」
「ぐんりゅーたいりく? に行ったんでしょ?」
「でも、このまえだいじけんがあった、ってぼうけんしゃのおじさんが言ってたね」
 わいわいとした子供たちの声――きっとヤトゥもこんな風に子供たちに囲まれて、たくさんのことを教えていたのだろう。
 そんな光景を杏は思い描いて、絵本に視線を落とした。
 ――知ってから読む物語はまた少し違う趣きだ。この感情に名前は付けられない……と杏は思う。
 ヤトゥの葛藤を知って、おうちの意味を知って。
(「嬉しくて楽しくて、切ない」)
 一人のたくさんの不安とほんの少しの勇気が、たくさんの優しさを咲かせた。
(「ヤトゥの守りたかった場所はここにある。足りなかったものは、ヤトゥの魂。……でももう大丈夫」)
「ヤトゥ、帰って来られてよかったね!」
 祭莉の声が夜の空気に、静かに浸透するように。
 篝火がぱちぱちと弾け鳴く。子供たちと、杏と、祭莉の影から更に伸びた影。
「おかえりなさい」
 杏の声に篝火の影は刹那に揺れて、石畳に溶けるように消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シリン・カービン
「そう、出かけているのですか」
訪れたのは『勇者の余薫』の街。
かつて旅を共にした大蜥蜴、
トーガとの再会を楽しみにしていたのですが、
仕事で遠方に出ているとのこと。

思えば先に訪れた山の街でも、
飛竜のアイリイは探索に同行中で留守でした。

「…巡り合わせが悪い時もあるのですね」

肩を落とし。
ため息をつき。
小石を蹴り。

そんな私を見かねたのか、
飼育場の案内人が声をかけてくれました。

「トーガの子供が生まれたのですか?」
是非と案内を頼めば、飼育場の一角に
孵化後間もない子蜥蜴のスペースが。

「名前をつけて、良いのですか?」
思案の末につけた名は。

「カーナ」

出会った勇者の一人からいただいたこの名は、
勇者達が繋いだ未来の証。



「ここは……」
 鳥居をくぐりぬけたシリン・カービンの前に広がった地は、見覚えのある高原。遠くには山岳、近くにはチーズを特産とした牧歌的な町。
「勇者の余薫が伝わる――トーガたちは元気でしょうか」
 呟き、僅かに弾んだ足取りで町へと入っていくシリン。
 正しく『勇者の余薫』が伝わり、製造が行なわれ、交易が活性化したのだろう。町は少し大きくなっていた。
 ハーブチーズは勿論、薬草が抽出された品々、郊外にあった製造場への案内板。
 大蜥蜴たちの飼育場や放牧地も拡張されたようだ。道々は商隊と旅人で賑わっている。
 キュッ。
 キュ、キュ!
 大蜥蜴たちの可愛らしい鳴き声が届き、シリンはどこかわくわくとした気持ちで窓口を訪ねた。

「そう、出かけているのですか」
「すまないねぇ、シリンさん」
 かつて案内をしてくれた男がシリンに謝る。
 旅を共にした大蜥蜴のトーガとの再会を楽しみにしていたシリンだったが、トーガたちは今、仕事で遠方に出ているらしい。
 表情には出ないし姿勢も凛としたままだが、雰囲気はしょんぼりと。エルフの耳も動きはしないのだが、垂れてしまったような幻すら漂っている。
「ええぇ、ちょ、どうしよう。リリーちゃん」
 案内人が途方に暮れたように、近寄ってきた大蜥蜴に囁く。
(「思えば、先に訪れた山の街でも、飛竜のアイリイは探索に同行中で留守でした」)
 訓練された飛竜の警邏隊は、広く大地を見て回るもの。バリバリに忙しそうだった。
 ここでようやく肩を落としたシリンは、はあ、と溜息をつく。
「……巡り合わせが悪い時もあるのですね」
 力ない呟きに、しょんぼり感が増した。
 会いたいものは会いたく、けれど当人(大蜥蜴や飛竜)はいない。
 待ちぼうけをくらった気持ちになったシリンは、拗ねたように小石を蹴った。
 ぱしん、と案内人の腰を大蜥蜴の尾が軽く打つ。
「えっ? ああ、そうか。――シリンさん、良かったらトーガの子供でも見ていくかい?」
 案内人の言葉に、ぱっと顔を上げるシリン。清廉な緑の眸が、ぱちぱちと瞼に見え隠れした。
「トーガの子供が生まれたのですか?」
 是非。会いたいです。
 と、案内を頼むシリン。
「あっちの飼育場にいるんだが――ちょうど孵ったばかりでな、割れた卵殻もそのままで」
 案内人が喋りながらシリンを案内する。ふかふかの藁が敷かれた一角は、岩場を小屋のように組んでいて、なるべく自然であろうとした場所だった。
 ギュー、と潰れたような掠れ声。
 たしたしと歩くトーガたち大蜥蜴たちとは違い、子供の蜥蜴はよちよち歩きだ。震える尻尾の先はまだ青い。
「キュッ」
「! ――こんにちは、ククリ」
 母親である大蜥蜴のククリが現われ、シリンへと頭を下げた。鼻先から額へと鱗の間を掻くように撫でてやる。彼女もまた、シリンたち猟兵と旅した仲間だった。
「子供の名前は何というのですか?」
「いや、まだ無いんだ。生まれた子蜥蜴が多くてな、まだそこまで手が回ってないんだよ」
 ほらあっちからも子供の声が聞こえるだろう? と案内人が言った矢先に、「きゅー」と鳴き声。
「そうなのですか……トーガの子、ククリの子……」
 何度か口ずさむように呼んでみるのだが、ぱっとしない。シリンが指を差し出せば、前脚を掛ける子蜥蜴。
「シリンさん、良かったらこの子に名前を与えてみるかい?」
「名前をつけて、良いのですか?」
 いいとも、と案内人が朗らかな頷きを返した。
「なまえ……」
 子蜥蜴の額をすりすりと撫でながら、シリンはしばらく考える。
 思案の末につけた名は――。

「カーナ」

「カーナか。良い名だな」
「はい。私もそう思います。一人の勇者の名前なのです」
 出会った勇者の一人からいただいたこの名は、勇者たちが繋いだ未来の証。
 彼らの余薫は世界のあちこちに。
 それは見えないものだけれど、彼らが手を取り合った絆、猟兵たちと手を取り合った絆。
 繋げてくれた未来への絆。
「カーナ、元気に育つんですよ」
「ぎゅぅー」
 シリンが話しかければ、応えるように大蜥蜴の子は元気に鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
黒龍片細胞、凄かったですね
私の群れもだいぶ消耗しました
彼等を休ませて、今度は私が動く番です……ね

鳥居から出た場所は、荒野の町・ディリティリオ
時期的に夜市はやってないでしょうけど
なら時間帯はいつであれ、少しは歩き易くなっているでしょうか

町を散策します。
毒とか、薬とか、本とか
猟兵として役に立つもの立たないもの関係なく
好きに物色してみます

毒耐性って地味ですけど、便利ですよね
修得するにはどうすればいいのでしょう
ここの毒を薄めて摂取し続けるとかでしょうか……

トカゲの絵ですね……
私と似ているのか、にらめっこしてみます

他にも勇者の伝承に関わるものも含め
興味を示したものには何でも目を留めます



 鳥居をくぐりぬけて何処かの路地裏へと出たクララ・リンドヴァルは、軽く周囲を見回して息を漏らした。
 ふぅ、と詰めていた息は緊張し強張っていた身体を解す。
「私の群れもだいぶ消耗しましたね……」
 お疲れさま、と魔界蜘蛛たちに言葉と魔力を送り、休ませてやる。
「ここは――勇者ヤトゥの暮らしていたディリティリオですね」
 あの時のように盛大な夜市は開かれていないが、元々、外国からの客人が多いこの町は小規模の市を開いているようだ。訳ありの店が多いここは、毒の町。毒薬と癒薬と共に歩んできた歴史は闇によく馴染み、来訪する客は、治療師もいれば暗殺者もいる。
(「時期的にも、観光客は少なくて歩きやすいですね」)
 夕暮れを迎える前の時間帯。
 開きたての夜店には、客もいなくて前の道をぱらぱらと人が行き交うのみ。
 それは散策がしやすいということでもあった。
 屋台として開かれた本屋には革表紙のない中身だけを綴じた本、巻物、石板などが置かれている。
「これは……本というよりは、研究メモのような?」
「いらっしゃい、お嬢さん。まあこの町は研究者も多いからね、ちょっとでも金になるならと写本して売ったりもするのさ。あたしみたいにね」
 呟きに軽快な声が返ってきて、はっとしたクララはちょっと恥ずかしそうに挨拶をした。
「売り子さんは、研究者さんでもあるのですね」
「そうそう。まあ、好きに見てっておくれ」
「は、はい。ありがとうございます……」
 毒草、薬草のスケッチが描かれたもの、毒薬と療薬の調合法、それに関する装備の作り方、などなど。たくさんのノウハウがここにはあった。
「毒耐性って、修得するにはどうすればいいのでしょう……ここの毒を薄めて摂取し続けるとかでしょうか……」
「一番の方法は、お嬢さんが言った通り、毒を薄めて飲み続けることだねぇ」
 毒慣らしが手っ取り早いと売り子が答える。
「生物毒では耐性効果も得られるが、蓄積する鉱物毒は止めといた方がいいんじゃないかな。あとは素質によるけれど、神や精霊の加護を得たりとか」
「ああ……毒にも、種類がありますしね……。加護、ですか」
 毒を相殺する魔術はあっただろうか、と思考を巡らせるクララ。鉱物毒は魔力に変換させて排出できないだろうかとか、エトセトラ。
 気になった幾つかの本を購入して、丁寧に礼を述べて屋台本屋から離れる。
 夜はどんどんと迫り始めていて、あちこちで篝火が煌々と輝いていた。
 飾られ、吊るされたレリーフがくるくると回れば、鉱物絵具がキラキラと光を反射する。
 惹かれるように立ち寄ってみれば、様々な絵皿が売られていた。
「これは……勇者ヤトゥとナール様のお話ですね」
 ヤトゥの夢に現れた火蜥蜴の神が、二つの赤を零す場面。
 夜空色の蜥蜴を模した陶器の皿。その可愛さに思わず微笑んだクララは、あ、と思い出す。
(「本当に、私と似ているのでしょうか……」)
 ニバリスに大きなトカゲ認定されたクララは、トカゲの絵とにらめっこ。
 町を歩いていると、あの時、共に伝承を探した猟兵の子供たちを見つけたり。
 オススメされた食堂を覗いてみれば、毒料理定食なるものが――。
「紫芋のポテトサラダですか……この黒いのは?」
「胡麻団子だよ」
「ごまだんご……こちらのナンは普通ですね」
「赤、黒、緑の三色スープに浸して食べてね!」
 朗らかに店員のお兄さんが、席に着いたクララに食べ方を説明していく。
「このスープ、今は綺麗に色が分かれてますが、混ぜたら……」
「黒になるね!」
「ですよね……」
 名前こそはインパクト大だが食べたら普通に美味しかった。小サイズの定食に、ごちそうさまするクララ。
 おまけの毒消しの飴玉なるものを貰って、店を出た。
「意外と……色々とあるものですね……」
 空にはナール様と言われているトカゲの星座。
 火蜥蜴への信仰は変わらず、平和に暮らす人々。ニバリスの絶滅は回避された。少しずつ、時の流れと共に変わってきた毒の町。
「ここが、勇者ヤトゥが護りたかった世界、なのですね」
 歩けば新しい発見があり、新たな考えに巡り合う。
 彼の手で繋がれたいのちと時間は、可能性という名の道をたくさん作ってくれている。
 ふらり、と再び町の中を行くクララだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈍・小太刀
カナカナの故郷、どんな所かな

集落で音楽に誘われ入った先は…楽器屋さん?
折角だしお勧めを一つ購入
演奏の仕方も教わって…むむ、結構難しい
でも初心者的には綺麗な音が出るだけで感動だよ

勇者の話も聞いてみたいな
カナカナは旅の楽団の一員だったらしいけど
勇者となった事は故郷にも伝わっているのかな
もし伝わっていないなら
カナカナ達の英雄譚を
旅で聞いた物語の一つとして話すよ

その後大樹の下へ
大きな樹…
そっと触れてご挨拶
カナカナいるかな?
ふふふ、遊びに来ちゃった♪
言ったでしょ、カナカナの故郷も見てみたいって
いい所だね、森も人も

演奏披露
笑わないでよ?(笑

長旅お疲れ様
漸くゆっくりできるのかな
おやすみなさい
また遊びに来るね


泉宮・瑠碧
鳥居が朽ちて
辿り着いたのは…
大樹の森、その集落

勇者達の故郷にも、傷痕はあって…
治す手伝いも、出来るのですが…
きっと、手は足りているから
…私は、話に聞いた、カナカナの故郷へ

まず
空を渡る風の精霊へ頼み、ポノに伝言を
私は無事で、此処に居る事
己の世界なので、心配は無いです、とも

同族が居る筈なので、尋ねてみます
初めまして、冒険者で…旅の者です
一度フードを外し、長耳で同族と示せば
またフードを被ります

導き手…勇者カナカナのお話を、聞きたくて
旅の楽団の奏者で…森を、出ていかれたのですか?
…あまり聞くと
カナカナが羞恥で、やめてと言いそうです

一つの樹の根元で
月の夜の踊り歌を奏でます
…届くと良いなと、おかえりなさい



(「カナカナの故郷に行けたらいいなぁ」)
 鳥居をくぐる前にそう願った鈍・小太刀が降り立った場所は、緑豊かな森が広がっていた。
「どこだろう、ここ」
 木造りの家と、大きな樹を利用したツリーハウスにはそれぞれに吊り橋が架けられている。
 道は整備されておらず、轍もないことから、交易は盛んではないようだ。
 けれども工房のような家がいくつか――職人の多い森の集落なのだろう。
「綺麗な音色が聴こえてくる……楽器屋さん?」
 音楽に誘われて、ふらふらと入った店にはリュートや小さな太鼓のネイカー、手回し風琴や綺麗な模様の入ったオカリナが並んでいる。
 試奏していた店の主人が風琴を止めて「いらっしゃい」と小太刀に声を掛けてきた。
「こんにちは。えと、エルフのおじさん、何かお勧めの楽器ってある?」
 初心者でもできそうなもの、と小太刀。
「それならオカリナなどは、どうでしょうか。可愛らしいものもありますし」
「あ、ほんとだ、かわいー」
 高音も低音も出るオカリナは、息の吹き方にコツがある。真面目に習う小太刀は、むむむ、と唸った。
「結構難しい――でも初心者的には綺麗な音が出るだけでも感動だね」
 音専用の息遣いは、高低に合わせるのではなく、剣豪として彼我の距離をイメージすれば掴めそうな気がした。

 一方。
 同じ森の集落に導かれ着いた泉宮・瑠碧は何処か懐かしそうに目を細めて、深呼吸。
 ここは陽射しに恵まれた森のようだ。棒状のものにたくさんの羽根を付けた風車が高台に並びくるくると回っている。
「ここがカナカナの故郷なのですね」
(「勇者達の故郷にも、傷痕はあって……治す手伝いも、出来るのですが……」)
 きっと、手は足りているから――。猟兵たちはいつも復興の兆しを見つけて、その地を離れてきた。
 けれど勇者の墓標で会ったカナカナの伝承は知らないまま。勇者として意識したのは杖を受け継いだ時。その時はもう既に彼女は旅中に在った。
「風の精霊よ――どうか、この伝言を届けて」
 案内人である猟兵へ。
「私は無事で、此処に居ることを」
 ここは自身の住まう世界だから心配は無い。
 同じ精霊術士であるエルフの少女はこの伝言を受け取り、笑顔で頷き応えることだろう。
 風の精霊を見送って集落の中を行けば、澄んだ音色が聴こえてくる。曲にはなっていないが、幼子が懸命に吹くような純粋な音。オカリナだ。
 音の主が気になって、ふと顔を上げれば開いた窓越しに見知った顔を見つける。目が合った。
「瑠碧だ!」
「小太刀も来ていたのですね」
 何度か戦場を共にした仲間に微笑みを向ければ、ぱっと笑顔になった小太刀が手招きをするので瑠碧は楽器店へと入った。
 そこには同族であるエルフの店主。
「おや……こんなに外からのお客さんがいらっしゃるとは、珍しい日ですね」
「初めまして、冒険者で……旅の者です」
 被っていたフードを外し、長耳を見せるように。軽く頭を下げた瑠碧は再びフードを被った。
 店内を見回せば、様々な種族に合わせて作られただろう楽器の品々。
「これは――」
 その中の一つ、ロゼッタの刻まれたフェアリー用のリュートを見つけた瑠碧が呟けば、ああ、それは、と店主。
「カナカナさまと同じリュートですよ。これを知ってらっしゃるということは、勇者の伝承をお探しに?」
「エルフのおじさん、勇者カナカナを知ってるの?」
 もちろん、と笑顔になった店主に「よかったぁ」と小太刀は呟いた。ちゃんと彼女が伝わっていた。
「私たち、勇者のことを知りたくてここまで来たんだよ」
「ええ、導き手……勇者カナカナのお話を、聞きたくて。旅の楽団の奏者で……森を、出ていかれたのですか?」
「はい。誰かの助けとなるために、導き手として、旅の楽団に入られたのだとか。……勇者として、カナカナさまのことが伝わったのは、既に帰らぬ人となってからだったのですが――」
 群竜大陸から生きて帰った勇者の一人が、カナカナが記した多くの曲を持ち帰ってきたのだと店主は言った。
「それはそれは、長い巻物でしたよ。途中で羊皮紙を縫って繋げたのでしょうね。途中から、とある勇者から継がれた杖に巻き付けて運んだりもしてたのだとか」
「……うわ、それはピエリスが怒ってそう」
 ぽそっと呟いた小太刀に、思わず想像してしまって笑みを零す瑠碧。
「その楽譜は、今もあったり……するのでしょうか」
 瑠碧の問いに、ええと頷いた店主は、カナカナのために作られた石造りの家へと案内してくれた。
「巻物は保管されて、決まった日にしか出せないのですが」
 その家の名は――、石板に書き写された譜面が数多にある『カナカナ音楽館』だ。
 彼女が書き損じた跡もしっかりと再現されている。
「これは……カナカナが羞恥で真っ赤になっていそうな……伝承ですね」
「ふふふ、想像できるね♪」
 やめてー! と言ってそうだ。
「でも、帝竜との戦いを終えてから伝わったってことは、冒険とか、カナカナたちの英雄譚があまり伝わってないってことだよね」
 ねえ、瑠碧、と小太刀が仲間を呼ぶ。
「私たちが話していこうよ。カナカナが勇者たちを助けて、勇気づけて、ずっとずっと彼らのふるさとを奏でてくれていたことを」
 どんなに帰りたかったことだろう。
 一歩前へと行く勇気は、無限ではない。
 魂削る旅を支えたのは、根底にある勇者自身の願い。
 すべてが『強い』勇者ではない。そんな彼らを励まし続けた、一人の勇者。

 ゆったりと時の流れる集落で話を終えて。
 集落の中心部にある大樹へと二人はやってきた。
 そっと大樹に触れて、小太刀はこんにちはと挨拶。
「カナカナ、いるかな?」
「きっと……います」
 さらりさらりと、波にさらわれる砂のように。幻想世の大樹の下で光粒となったカナカナを瑠碧は見送った。
「大樹から、大地から、故郷の音楽を通じて……見守っているかと……」
「そっか。ふふふ、遊びに来ちゃった♪」
 とん、と小太刀が大樹に背を預ければ、瑠碧も同じように。耳を当てれば生命の流れるごうごうとした音。
「言ったでしょ、カナカナの故郷も見てみたいって。――いいところだね、森も人も」
 そうでしょう? と小太刀に応えるカナカナの声が聞こえるようだ。
 リラを手に、月の夜の踊り歌を瑠碧が奏でる。
(「……届くと良いのですが――」)
 高い精神的素養を持つ小太刀は、とくとく、とくんと歌うような魂の声を確かに聴いた。
「小太刀も、奏でてみますか?」
「しょ、初心者だけどー、瑠碧は笑わないって知ってるけどー、カナカナも笑っちゃだめだよ?」
 呟くように言って、幼子のような音色のオカリナをリラに合わせて吹き奏でる。

 そうして一曲を終えて。
「カナカナ」
 小太刀が呼ぶ。
 精霊たちが囁き伝播するのを、瑠碧は聴いた。
「長旅お疲れ様。しばらく、ゆっくりできるのかな」
 おかえりなさい。
 おやすみなさい。
 二人の『声』に、とくり、とくりと大樹の息吹。燦々とした陽射しを大樹の葉が遮り、斑の光粒を落とした。風が吹けば光の踊り子が数多に。
 ただいま、と帰り着いた魂をあたためるかのように。
「また遊びに来るね」
 変わらず、小太刀の声を伝播する風の精霊たち――そのなかの『ひとり』が、うん、と声を落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月24日


挿絵イラスト